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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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Japan Society for Digital Archive
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# Consider building a data of New Media Arts \begin{abstract} 抄録:本稿は、メディア芸術データベースがメディアアート作品等の情報を扱うためのデー夕構築に関連し、作品のドキュメン テーションやデータベースに求められる作品情報について考える。はじめにドキュメンテーションの観点から海外で開発されてい るミュージアム向けガイドラインの概略を紹介し、その後には作品情報を公開する海外組織のウェブサイトを中心にどのような情報を公開しているのか、メタデータ内容の調査結果を報告する。そして、今後のメディアアート作品のデータ構築に向けて、検討 が必要な課題やメディア芸術データベースの役割について述べる。 Abstract: This article discusses documentation of new media artworks and information elements required for the Media Arts Database. Mainly, we introduce guidelines for new media art to describe artwork information from the perspective of museums documentation. It also reports what type of metadata was used for artwork information on several websites. In the end, we consider the issues and roles of the Media Art Database in constructing artworks data in the future. \end{abstract} キーワード : メディア芸術データベース、メディアアート、ドキュメンテーション Keywords: New Media Arts, Documentation, Media Arts Database, Digital Archive ## 1. はじめに メディアアート作品は、ミュージアムが取り扱う美術品の一つとして扱われるが、より一般的な絵画や彫刻等の作品とは性質が異なるため作品の取扱いが難しいとされている。とくに、昨今のメディアアート作品は、表現のためのツールや装置として、科学技術をはじめとする情報、生物、工学、機械など様々な分野の要素が複雑に絡む作品が数多く出現している。一方、日々進化する作品形態や技術等に対して、それらの作品を収集・管理するための目録化方法やドキュメンテーション、情報管理のための基盤整備が追い付いていない現状がある。そのため、国内外を参照しても広く知られたメディアアート作品向けの標準的なメ夕データスキーマやデータモデルは見られず、ドキュメンテーションやデータ構築・管理等は、作品を保有するそれぞれの組織が行っている。 本稿は、メデイア芸術データベース (以下、MADB) がメディアアート作品の情報を扱うためのデータ構築に関連し、海外の事例等を参考に作品のドキュメンテーションやデータベースに求められる作品情報打よびメタデータについて考える。はじめに、メディア アート作品にはどのような情報を記述すべきなのか、 ドキュメンテーションの観点から海外で開発されているミュージアム向けガイドラインの概略を紹介する。次に、メデイアアート作品を公開する海外組織のウェブサイトを中心にどのような情報を公開しているのか、メタデータ内容の調査結果を報告する。そして、今後のメディアアート作品のデータ構築に向けて、取り組むべき課題および MADB の役割について述べる。 ## 2. メディアアート作品のドキュメンテーション メディアアート作品の保存や収集にあたっては、ど のような情報を記述すべきか、またはどのような関連資料が必要とされるのか、その問いに対する回答の一 つにドキュメンテーションガイドラインの開発を行う Matters in Media Art プロジェクト ${ }^{[1]}$ があげられる。 Matters in Media Art プロジェクトは、主要メンバー に TATE や MoMA 等のメディアアートの扱いに長けているミュージアムといくつかの研究組織が連携し、 メディアアート作品の取扱いや情報化に関するドキュメンテーションガイドラインの開発を行っている。ガイドラインは、ドキュメンテーションの他に作品のデ ジタル保存や修復、取得時の手続きに関するプロセスからコレクション管理システムの評価などいくつかの種類がある。本稿では、メディアアート作品のデータ構築に関連する内容として、Matters in Media Art プロジェクトが公開するガイドラインの一つ Cataloging Media Artを紹介する。Cataloging Media Art は、主にミュージアムにおける目録作成やドキュメンテーション業務を想定して作られており、扱うべき情報を9つのカテゴリに分類している。以下にそれぞれの概略を示す。 ## (1)作品情報(Artwork) 作品情報は、メデイアアート作品そのものに関する内容を扱い、作者やグループ名、タイトルなどの他に、台帳の管理番号、アクセス番号、映像作品の尺、必要な展示空間サイズ等の情報が含まれる。 ## (2)取得と登録(Acquisition and registration) 作品を取得した際の受入れ業務に関する情報や資料を扱う。購入時の領収書や壳渡請求書、売買・寄贈証明書、評価額など金銭や著作に関わる証書内容のほか、取得時の媒体や構成物を記したコンポーネントの目録などが含まれる。 ## (3)作品構成情報(Dedicated component information)作品を構成する要素等の情報。作品がどのように作 られたのか、どのような物で構成され、何が使われてい るのかを示す具体的な部品や装置等に関する図やリス ト。作品の組み立てや設置に関するマニュアルを含む。 ## (4)展示仕様書(Display specifications) 展示仕様書は、(3)に含まれる手順書や指示書に関連して、実際の展示空間で作品を展示するための仕様や展示会場の間取り図、配線図に関するもの。 ## (5)展示履歴(Display history) 展示履歴は、過去の作品展示の写真や異なるエディションに関する情報、展示で使用した機器類、展示中に報告された軽微な問題の記録など。その他には展示中のメンテナンス手順、展示予算、設置計画、展示方法のメモなど多様な種類の情報を含む。また、展覧会等の開催に際して発生した助成金や出資等の融資関係情報も本項目に含まれる。 ## (6)作家情報(Artist information) 作家情報は、作家の基本的なプロフィールの他に作品を扱う上で行ったインタビュー、作家自身のコメントや作家が推奖する技術的な仕様の情報等が含まれる。 ## (7)美術史研究およびコンテキスト ## (Art historical research/context) 美術史研究及びコンテキストは、一般的な美術作品と同様に美術史の観点から記録および収集された関連資料や作品制作に関する背景、展覧会における講評、同一作品の別エディションに関する内容が含まれる。 ## (8)構造と状態評価 ## (Structure and condition assessments) 構造と状態評価は、作品と作品を構成する構造の状態に関する内容を扱う。評価内容には作品を扱う上でのリスク評価や保存計画等の内容が含まれる。 ## (9)維持・管理 (Ongoing Care) 維持管理は、映像作品やデジタルデータ等を保存している記録媒体のマイグレーションと作品の保存・修復に関するカルテ、科学的分析レポート、修理履歴、災害時対応計画、移動時の相包ガイドラインなど作品の維持管理や保全に関する内容が含まれる。 9つのカテゴリから構成されるガイドラインは、実際に利用する際はドキュメンテーションのテンプレー トを用いる。例えば、TATE では記述すべき情報項目のほかに作家等へのヒアリング内容や確認事項等を含めた文書テンプレートを利用している ${ }^{[2]}$ 。メディアアートに類するドキュメンテーションやアーカイブ研究は、Matters in Media Art の他にもデジタル作品を社会や文化的背景と共にアーカイブを試みた研究[3] やメディア史・美術史にはじまり、ドキュメンテーション、アーカイビング理論、技術論に至るまで広く扱つた研究 ${ }^{[4]}$ などがあるが、メディアアート作品の記述や扱い、保存・修復等に関する情報の標準化には至つてない。 ## 3. メディアアート作品のウェブ公開情報の現状 メディアアート作品情報のデータ構造化は、複雑に絡み合う情報の要素をどのように整理すべきかという課題がある一方、作品が展示されたならばそれらの情報をウェブ公開して人びとに知ってもらうことも必要とされている。本章ではメディアアート作品をウェブ公開している海外組織を中心に、どのような情報を揭載しているのか、作品ぺージに表示された内容と表記を収集して出現頻度が高いメタデータ(属性情報)の傾向を調べた。今回の調査は、一定件数以上のメディ アアート作品を公開している下記 10 サイトを対象に行った。 (1) THE METS: https://www.metmuseum.org/ (参照 2021-11-21). (2) GUGGENHEIM: https://www.guggenheim.org/ (参照 2021-11-21). (3) SFMOMA: https://www.sfmoma.org/ (参照 2021-11-21). (4) MOMA: https://www.moma.org (参照 2021-11-21). (5) TATE: https://www.tate.org.uk (参照 2021-9-8). (6) ZKM: https://zkm.de/en (参照 2021-9-8). (7) Art Gallery of NSW: https://artgallery.nsw.gov.au/ (参照 2021-10-26). (8) Europeana: https://www.europeana.eu/en/ (参照 2021-10-26). (Subject が New media art を含卷作品情報に限定) (9) Griffith University Art Museum: https://artworkscatalogue.griffith.edu.au/ (参照 2021-10-30). (10) Archive of Digital Art: https://www.digitalartarchive.at/ (参照 2021-10-30). 各サイトのメタデータに相当する項目の取得は、それぞれ 10 数件程度の作品ページを参照し、そこに揭載されていた内容を取得した。この時、ページに具体的な属性項目の表示はないが他サイトと同等の情報が存在した場合は、内容に応じたメタデータがあるものとしてカウントした。例えば、Description として明示された項目はないが、明らかに作品解説のテキストが掲載されていた場合は「解説文」の項目ありとカウントした。その結果、本調査では 10 件のウェブサイトから 44 種類のメタデータを確認できた。本稿では 44 種類のメタデータのうち5サイト以上で確認できたメタデータを表 1 に示す。 次に、各サイトが用いていた表記を表 2 に示す。表内の「レ」は、具体的な項目名の表示はないが情報項目に相当する内容が含まれていたことを意味する。本調査の結果、メディアアート作品を掲載する各サイトの内容は、概ね一般的なアート作品と類似する内容であることがわかった。特殊な項目例では、作品情報ページに再制作を依頼できるリンクや指示書などの詳細なドキュメント資料へのリンクを掲載している組織があった。 ## 4. 作品情報とデータ構造化の課題 メディアアートの作品情報は、2 章で示してきたドキュメンテーションの過程で作成される。作品や作品に関連する情報は、ドキュメンテーションガイドラインが示す (1)~(9)のうち一つを取ってもそれぞれが多様な要素を有すると共に要素同士が複雑に絡む。そのため、メディアアート作品はデータの構造化が難しいとされている。本章では、メディアアート作品のデー 夕構築に取り組む上で数ある課題のうち、とくに検討が必要と考える 4 点を取り上げる。 ## (1)作品情報の記述範囲とデータ化の課題 メディアアート作品の具体的な内容や構成をあらわす情報は、2 章のガイドラインに示される (1) 作品情報と (3) 作品構成情報を合わせて扱われることが多く見られる。 これは、メディアアート作品が性質上、複数のモノ・コトあるいは作品から構成されることが多いため、作品情報にはどのような構造物や装置が使われているのか、あるいはイベントが発生したのか等の内容 表15サイト以上で確認できたメタデータ内容 \\ 表2 出現数 5 件以上の作品情報項目 が求められる。例えば、ICC が所蔵する作品「仮想通貨奉納祭(作者:市原えつこ)」[5] は、祭りというイベントそのものを作品としているが、この作品には 「サーバー御輿」や「天狗ロボット」と題する別の物理的な作品が登場する。つまり、一つの作品が複数の作品から構成されており、それらが入れ子または関係構造を持つ。このような情報をデータで扱う場合、作品毎にIDを付与してそれぞれの関係を記述することで情報の構造化を実現できるが、このときに記述する情報の粒度をどこまで追究するのかという課題がある。 メディアアート作品の情報を知るためには、作品がどのような要素で構成されているのか情報が求められる場合がある。先の「サーバー御舆」揭載ページ[G]御輿に搭載されている電子基盤やファン類の画像を見ることはできるが、御奥がどのような要素で制作されたものなのかを伺う情報は見当たらない。先のガイドラインに従うならば、作品情報には使われている個々の部品や配線等の構成を記述することが考えられるが、これらの内容を逐一データ化した場合、1つの作品に付けられるメタデータ数が某大になることやデー 夕間の関係構造が非常に複雑になる。メディアアート作品の構成要素は、どこまでの範囲を記述・データ化し、それらの公開が求められるのか、改めて検討が必要である。 ## (2)作品情報の公開と情報利用者の課題 メディアアート作品の情報は、追究するほど多様な情報を記述できるが、それらをデータ化して公開した場合には誰がどのように使うのかという需要の問題がある。作品の歴史研究を目的に利用するならば、作品を構成する情報の他に制作年や展示歴、来歴情報が求められる。一方、作品を保存・修復または再現を行うような立場にある利用者の場合は、作品の保存状態や指示書などの情報が提供されていれば保存や修復、再制作へのアプローチが容易くなる。そして、芸術家については過去にどのような作品があったのか、制作背景や素材や技法に関する情報、実際の展示・実演の映像があれば、新たな作品制作の参考になるだうう。メディアアート作品は、多様な情報を持つことができるが、MADBをはじめとする作品情報を公開するいくつかのウェブサービスでは、それらの情報がどのような対象に向けて整備され、公開されているのか、情報を利用するターゲット層の把握に躊躇があるように感じられる。MADBに関しては、開発版から $\beta$ 版移行後にメディア芸術祭出展作品の情報量は増えたものの、一般的な検索方法では特定の材質や技法あるいは ジャンルに限定した検索やデータ利用が難しい。例えば、素材に含まれる内容から、作品の傾向を調べるような研究目的で使用したい場合は、SPARQLクエリとテキスト処理を組み合わせてデー夕処理する必要があるため、現行のデータベースを活用するためにはこのようなスキルを持った利用者に限られる。 ## (3)専門用語の扱いの課題 メディアアート作品は、絵画や彫刻等作品の材質や技法に相当する情報を記述する場合、その内容や表記の多様性から冗長的になることが多い。例えば、複数の物理的なモノやデバイスで構成されているインタラクティブ作品は、使用しているデバイス種類からプログラムを動作させるための OS、OS バージョン、プログラミング言語、プログラミング言語のバージョン等、細かく情報を記述することがある。次の例は、ある作品の材質・技法に相当する内容の抜粋である(表3)。 表3 メディアアート作品の材質・技法等の表記例 ラック (金属、アクリルガラス、化粧フィルム合板)、コン ピュータ(Power Mac G4、Mac OS9、特注ソフトウェア、 ビデオカード:Formac Pro TV)、ビデオカメラ、MIDI ンターフェイス、シンセサイザーモジュール、スピーカー ×2、プロジェクター 表 3 の例のように、メデイアアート作品は独特な用語や表記を用いるため、単語每にデータベース管理することや既存の統制語彙や辞書等による制御が難しく、内容をまとめて平文テキストで記述されることが多い。また、表記は作者によって様々であり、ビデオやヴィデオなどの摇れも多様である。そのため、このような情報をデータで管理することを考えた場合、メディアアート作品に特化した専門辞書や表記の意味を包含して扱えるようなシソーラスまたはオントロジー の構築が必要になる。専門辞書データの開発は、検索精度の向上や他のデータ基盤との連携など幅広いデー 夕活用に期待が持てる。 ## (4)変化する作品情報に対するデータ構造化の課題 ゴッホやモネなどの絵画作品は、展示場所が変わった場合でも、作品そのものに対する属性情報や評価などの内容が大きく変わるものではない。しかし、メディアアート作品は同一作品であっても展示場所が異なれば、メタデータの内容が大きく変わることがある。展示時期が十数年単位で異なれば、当初使用していた機材やシステムが調達できずに、代替機器を使用した展示を余儀なくされることもある。また、メディアアート作品は音楽コンサートが開催毎に演奏者が異な ることがあるように、展覧会毎に設置や調整等に携わった関係者を重要な情報として扱うため、作品タイトルや作者は同一でも展示毎に変化する情報への対応が必要である。このような性質を持つ情報の扱いは、 ソフトウェアのバージョン管理のように元々のデータに対して変更があった部分を差分として扱う、またはイベント毎に新たな作品情報を作成して扱うなどいくつかの方法が考えられる。しかし、この課題解決にはオリジナル作品情報とその後に発生した作品情報の関係を同一に扱うことが良いのか、または異なる作品として扱うべきなのか、オリジナルと複製、そして再現の作品関係をどのように捉えるべきなのか、分野における議論が求められる。 ## 5. MADB のこれからを考える 最後に、現在公開されている MADB のウェブサイト及びメタデータスキーマ[7] から今後に向けて求めたい改善点や役割について述べる。 ## (1) 現行システムに求める改善点 現行システムには不具合や問題が多数あるが、その中でも特に改善を求めたい点は以下の通りである。 (1) 表示デー夕内容の件数制御 例えば、現在登録されているキーワード・タグは無制限に付与されているため、作品を体現するための情報として明確にするためにも夕グの件数を制御した方が良いと考える。 (2) 辞書デー夕開発の検討 キーワード・タグは全文検索に使われているが、一般的な利用者はメデイアアート作品が使用する検索語を想像することは難しい。そのため、メディアアート分野で使われるキーワードやジャンル、素材、技法などを選択して情報を探せるようシソーラスや辞書デー 夕に基づいたデータ管理が必要と考える。これは、メディアアート作品を構成する要素は何か、メディアアートとはどのような素材や技法を使われたものなのか明らかにすることを意味し、時代ごとに異なる要素からメディアアート作品そのものを解釈することにもつながる。 (3) 作品画像・映像の表示 メディアアート作品を公開する海外のウェブサイトの9割は、作品画像もしくは映像の掲載が確認できた。 MADB では他の 3 分野も同様に、少なくともサムネイル画像の掲載を必須とし、メデイアアート作品においては複数の高精細画像や映像データの埋达リンク等の掲載、そしてこれらのリソースをメタデータで扱え ることが望まれる。 (4) 作者に関する外部情報の提供 既存のシステムは、作家個人の情報を示すぺージに外部リンクを掲載できる機能がある。しかし、個人の Web サイトを有する著名な作家であっても揭載がみられないなど、データ内容の充実化が求められる。また、作家の情報源を表す IDは「個人名」の他に「[参加作家]個人名」という IDがあるなど、同一作家名にもかかわらずID の重複がみられるため作家そのものに関する情報を示す場合と他者の作品に参加作家として関わった場合に定義する作者としての役割に関するデータ管理方法の検討が必要である。 (5) ユーザー参加型の仕組み 例えば、ユーザーによる任意の夕グ付けや分類ができる機能(Japan Searchのキュレーション機能に類する)の他、デー夕の不具合や不足情報をユーザーが提案できるような仕組みを持つことで、運営側が逐次データを修正するのではなく、コミュニティ主導で整備可能な方法を検討する余地がある。 ## (2)データ収集対象・範囲の拡大化 MADB は、マンガ、アニメ、ゲーム、メディアアー トの 4 分野で構成されており、デー夕件数はそれぞれ 495,506 件、136,768 件、48,118 件、14,335 件とメディアアートが最も少ない (2021 年 11 月 1 日時点)。メディアアート分野のデータ件数が少なく感じることについては、他の分野が商業作品を中心にデータ収集と整理が行われていること対し、メディアアート作品は展示または実演が行われた作品のみを対象にしているため、収集対象の作品件数が限られていることが要因として考えられる。今後、デー夕件数を充実させていくためにも、収集元を美術館等における発表・展示に限らず、芸術系学部・研究科を持つ大学等の卒業制作作品や各地で行われているアートイベント出展作品等も収集・揭載対象に加えることで、国内で発表・展示されたメディアアート作品を俯瞰できるような体制に拡充していくことが望まれる。また、昨今は非代替性トークンアート(NFT:Non-Fungible Token)をはじめとするウェブやデジタル技術で表現されるメディアアートに類する作品が数多く出現しているため、このような作品の情報収集やデータ構築のあり方も検討が必要である。 ## (3)分野におけるニーズの把握 現在の MADB が扱う作品情報やデータ構造は、どのようなデータ利用者を想定しているのか把握が難し いと感じる部分がある。そのため、メディアアート作品を制作、流通、保管、管理、修復、再現に至るあらゆる関係者に対して、メディアアート作品のデータベースに求められる情報は何かという要件定義が改めて必要だうう。その結果、メディアアート作品に求められるドキュメンテーションや公開すべき情報等がより詳細に明らかになる。ただし、MADB は国内のメディアアート作品とその他 3 分野の作品情報を横断検索ならびにデータ活用できる基盤システムであって、美術館が使用するようなコレクション管理システムではないという点を認識する必要がある。つまり、作品の詳細情報や関連資料(ドキュメンテーション)の整理は作品を直接扱うまたは所蔵する組織が行うことでありMADB にはその役割はない。そのため、MADB はコレクション管理システムでは実現できないこととは何かを追究していく必要がある。 ## 6. おわりに 2020 年に発生した世界的な COVID-19 の問題以降、 アートの表現や発表の場にはデジタルデータや仮想空間が積極的に使われるようになった。メディアアート並びにメディア芸術はまさに変革の時代の中で最も注目されている表現形式の一つと言える。MADBは、 これからの社会におけるアートの表現に対して、メディアアート分野についてどのように貢献できるのか を模索しつつ取り組んでいく必要があるだろう。現在の $\beta$ 版は不具合や改善すべき課題が多くあるが、これらは作品を制作する作家をはじめ、メディアアートに関わるすべての人々とのコミュニケーションによって解決していくことが求められる。そして、その先には各々の時代の中でどのような社会的背景や要因からそれら作品が誕生または表現が行われたのかを知ることができる唯一無二の情報基盤になるだうう。 ## 註・参考文献 [1] Matters in Media Art, "Guidelines for the care of media artworks" http://mattersinmediaart.org/ (参照 2021-10-10). [2] TATE, “Documentation Tool: Performance Specification", published as part of Documentation and Conservation of Performance (March 2016 - March 2021), a Time-based Media Conservation project at Tate, https://www.tate.org.uk/about-us/projects/ documentation-conservation-performance (参照 2021-09-08). [3] Florian Wiencek, "Digital Mediation of Art and Culture. A Database Approach", Jacobs Univ, 2019, 386p. [4] Julia Noordegraaf, Vinzenz Hediger, Barbara Le Maitre, "Preserving and Exhibiting Media Art: Challenges and Perspectives”, Amsterdam University Press, 2013, 42z8p. [5] ICC, “仮想通貨奉納祭”, https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/ works/virtual-currency-offering-festival/ (参照 2021-10-30). [6] ICC, “サーバー御舆”, https://www.ntticc.or.jp/ja/archive/works/ server-mikoshi/ (参照 2021-10-30). [7] MADBメタデータスキーマ仕様書 (Ver1.0), https://github. com/mediaarts-db/dataset/tree/main/doc (参照 2021-10-14).
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# アニメ作品の集約的なデータ整備に おける課題 The past, present, and future of the animation work ledger \begin{abstract} 抄録:現在日本においてアニメ作品は日々大量に制作されていることは異論がないが、しかし、どのような作品が公開されたり、過去にどのようなパッケージが販売されていたのかは十分に明らかではない。また、それら作品制作/製作に関わったスタッフ等 については、公開されている情報の中でも内容の信憑性が保証されたものは限られている。現在公開されている情報のうち、どこ までが信用できるのか、それはなにに依拠しているのか、現在進行形で対処している事はなにか、問題解消を阻む障壁はなにかに ついて明らかにする。 Abstract: A large number of anime works are produced in Japan every day, but it is not sufficiently clear what kind of works have been released or what kind of packages have been sold in the past. In addition, there is only a limited amount of publicly available and reliable information about the staff people involved in the producing these works. We will discuss how much of the information that is currently available can be trusted, what it is based on, what is currently being dealt with, and what are the barriers that prevent the problem from being resolved. \end{abstract} キーワード : アニメ、採録、データベース、スタッフ Keywords: anime, database, compilation, production staff ## 1. はじめに 日本では非常に多く(2020 年はテレビ 278 作品、劇場 66 作品)のアニメ作品が制作・公開されている[1]。その大部分がテレビ番組としての放送や、映画館での上映により提供されており、日々多くの作品を目にすることができるが、他方、公開されたすべての作品を把握することは困難である。現在ではそのように提供されるアニメ作品であっても映像パッケージ化され一般に流通・販売されるものも少なくないが、販売されないものも依然相当数存在し、今後はデジタル配信の一層の浸透によりパッケージ化されない作品の割合が増える可能性もある。さらには、アニメにおけるパッケージビジネスが成立する以前の作品についてはそうしたパッケージが存在せず、記録物の入手が困難なものが多数を占めている。また、宣伝目的で開示されたタイトルやあらすじ、主要スタッフなどの部分的な情報は Web 上で入手可能なテキストとして存在する。しかし、実制作に関する情報は「オープニングやエンディングなど映像に焼き达まれた文字」であり、 この情報を再利用するためには文字起こしをするなどの作業が必要で、テキストやデータの二次利用には極 めて障壁が高い。 筆者は文化庁の「メディア芸術データベース」[2]の構築に参画し、アニメ作品のデータ整備に取り組んでいるが、アニメは同じくメディア芸術の一翼として挙げられるマンガやゲームに比して公共・産業・学術コミュニティにおいて情報を集約する体制が十分ではなく、基礎的な情報の整備そのものが難しい状況にある。本稿ではこうしたアニメ作品の集約的なデータ整備における課題について述べる。 ## 2. アニメ作品のデータ整備における特徴的な問題 ## 2.1 有形物に留まらない作品の提供 過去から現在、未来に渡ってのアニメ作品のデータベースを構築するにあたり、そのデータモデルは「有形物」だけではなく「無形概念」についても扱う必要がある。 巷で流通している「ブルーレイや DVD、LD、VHS などのアニメーションパッケージ」は「有形物」であり、本の管理と同様の「書誌」や「所蔵」というモデルでの記述が容易である。しかし、テレビ放送や劇場 作品は視聴を目的に放送・上映され、テレビ放送は辛うじてコピーは手元に残すことができるものの、現物を手元に残すことができない。これらの映像作品がパッケージ化されても微細なリテイクの内容の差異が生じることがあり、厳密には全く同一のものとして扱うべきではない。またこれらの映像上の変更があっても明示されることは少なく、ある視聴者が視聴した作品が他地域等で視聴したものと同じであるかを第三者が客観的に確認することも困難である。放送局における番組基準(考查)の違いをクリアして放送することを目的とした映像編集として「謎の光」や「湯煙の増量」、「不自然なトリミング」などがある、再放送時の異編集版としては「エンディングクレジットの除去」「初回放送時のリテイク」「再放送時はパッケージ版を使用」などがある。フィルム上映時代の異編集版としては「当時の制作スケジュールの都合で封切り時には初号素材を使用した上映」や「プリント方式の違い」 などが存在する。有形物を伴わない流通・提供は、視聴契約方法や物理的な受信地域による視聴不能だけでなく、それぞれの事情により多様なバリエーションが生まれ、その同一性を保証するのは本質的に困難であると言える。な扒、放送する映像テープ/ファイル冒頭に収録されている(放送されない)クレジット表記で、映像素材の差違や映像編集された日付を確認することができるが、こうした資料を製作関係者以外が入手できるケースは非常に限られる。 加えて、作品の提供メディアたけではなくメディアに収録された内容もデータとして扱われる無形概念である。テレビ作品は複数話で構成され、その内の数話が混載されてパッケージ化されることが多い。こうした場合には「バッケージとしての情報粒度」と「話としての情報粒度」の2つの異なる粒度の情報を記述できる必要がある。 ## 2.2 多様な作品展開 視聴者側の立場では、2.1 節で述べた有形物と無形概念の混在によってアニメの作品展開には次のような要素の違いが生じている。まず、(1)流通メディアに関する視点では「テレビ」「劇場」「パッケージ」「その他」 がある。(2)作品の構成話数の視点では「単話」複数話」 (例:スペシャル番組とシリーズ番組、単話で完結する OVA と複数話で構成される OVAシリーズ等)がある。(3)実際の視聴機会での視点では「単話」「複数話 (異作品含む)」(例:通常の劇場作品と、同時上映での複数の作品群)、(4)入手形態では「現物入手」と「視聴・体感」(例:パッケージ入手と、パッケージ以外 の視聴)などが考えられる。さらに(5)上位の概念として同一世界観を有する作品群(例:「機動戦士ガンダム 00」と「劇場版機動戦士ガンダム 00-A wakening of the Trailblazer-」等)や、(6)複数の作品群を統合する一般名称化した作品群(例:ガンダム、マクロス、ヤマ卜等)がある。アニメの作品展開はこれらの要素の組み合わせによって行われると見なすことができるが、 その組み合わせ方は作品展開の手法や公開される時代によって千差万別である。 次に、製作者側の立場で考えると、日本におけるアニメ作品はビジネス活動を目的として制作されるものである。そのため収入機会の増加を目的として、テレビ放送からパッケージ販売を経て再放送したり、劇場上映後にバッケージ販売を行い、さらにある程度の期間を経て地上波でテレビ放送したりするなど、同じ映像を複数のウィンドウ(媒体)にて中長期の時間軸での展開を行うことが一般的である。また、他メディアの作品の販売促進目的で、それらを原作として製作されるアニメ作品も多く、原作も含んた時間軸での作品展開が存在する。その他、「放送前特番」「総集編」「イ ケージ特典小説/マンガ」のような映像外作品の派生作品が度々発生しており、利用者の視点ではこれらも含めて作品を受容している。パッケージに添付されるスタッフコメンタリーやライナーノーツのインタビューなども制作当時の貴重な情報として関心が高い。過去から未来の全ての作品について、こうした多様な展開のあり方やその時系列を適切に記述することができるデータモデルの設計においては、要求の分析とそれに基づく要件の設定が問われる。 ## 2.3 製作委員会制度 以前はテレビ局が主導してアニメ作品の制作を行つていたが、バブル崩壊後の 1995 年を境に複数企業が共同で出資を行う製作委員会を組成してアニメ製作を行うようになった。この製作委員会体制においては、 アニメ作品の製作(出資、映像使用)と制作体制は必ずしも一対一対応するわけではない。これは、製作委員会は比較的長期間・広範囲であるものの、個々の作品映像制作では、その時点において対応可能なスタッフにて制作現場が組織されるためである。長期的な視点では視聴者側は同じ作品として認識していても元請け制作スタジオや監督が異なる場合や、短期的には個々の話数での作画監督や原画などのスタッフが異なるということである。 制作物のモデル化の観点では、製作委員会単位の情 報は繰り返し同じ情報が参照され、制作現場単位の情報では各話毎に関与したスタッフやキャストの情報が記述されるべきである。両者ともに OPや EDのクレジットとして画面に表記されるが、前者についてはデータ化された項目を有識者が集約(収斂/共通化) する必要がある。 また製作委員会は映像利用することを目的として、 その都度組織されるが、ビジネスとして利用することを最優先とした全会一致制の匿名組合のため、事前の宣伝などのために情報を適宜展開することはあっても、映像制作を行った記録を残すことについてはその目的から外れた作業であり、関心は低い。加えて製作委員会はアニメ業界外部から見て担当空口が不明膫なため、第三者が情報の利用許諾手続きを行うための調查・事務コストは極めて高く、データ整備の障壁となる。 ## 2.4 製作・流通者が提供する統一的な作品目録の不存在 テレビ放送に関して、放送前の事前情報ではあるが作品情報として EPG(電子番組表)を収集することは技術的に可能ではあるが、あらすじの蓄積や利活用については著作権への配慮が必要となる。EPG 上の番組名は、各放送局の EPG 担当者によって記載粒度や精度が異なっており、統一した作品情報として利用するのは容易ではない。番組名から作品や話数を一意に識別するためには、「作品名」「話数表記」「サブタイトル(各話タイトル)」が表記されていることが最善だが、不完全な表記が多いことに加え、データ放送などの補助情報や宣伝情報が付加される場合もあるためデータをそのまま転用することは難しく、有識者の手作業での選別やデータ加工が必要となる。 ## 3. アニメ作品に関する既存の情報資源 ## 3.1 識者・関係者により整備されているデータ 有体物のアニメ資料を収集・管理する手法として、各地の図書館において映像資料として「パッケージ」 が所蔵されていることを示す情報がある。国内の最も大規模な蓄積例は国立国会図書館が所蔵する映像資料以外には見当たらない。 無形概念に関心を置いたデータについては、原口正宏氏が主宰する任意団体の「リスト制作委員会」が私的に蓄積した「リスト DB」は最も網羅性が高いものとして評価されている[3]。「リスト DB」は作品初回公開日や主要スタッフだけでなく、クレジットで表記された人名の位置や文字配列にも注意を払って記録が続けられている。「リスト DB」の収録データは、「月刊アニメージュ」にて「パーフェクトデータ・オン・ スタッフ」として毎月連載(1985~2015 年)され[4]、同誌の毎年 3 月号には年間の集大成として「アニメ全作品年間パーフェクト・データ」として揭載されていた。単独の書籍の形式では「劇場アニメ 70 年史」[5]「TVアニメ 25 年史 ${ }^{[6]}$ 「Animage アニメポケットデー 夕2000」[7] などの形で刊行された。2015 年からは一般社団法人日本動画協会から刊行された「アニメ産業レポート」[1]の別冊付録にて「アニメ全作品年間パー フェクト・データ」が揭載され、「アニメ全作品年間パーフェクト・データ」をほぼ踏襲する形で採録されている。また「メデイア芸術データベース (開発版)」 の情報源としても「リスト $\mathrm{DB}$ から派生して揭載された雑誌等の情報が採用されている。 ## 3.2 その他の事例 ## 3.2.1 日本国内の事例 「リスト制作委員会」以外にも、「作画@wiki $\rfloor^{[8]}\lceil ア$ ニメスタッフデータベース」[9]「しょぼいカレンダー」[10]など、各所で有志による作品やクレジット情報のデータ作成が迅速にかつ精力的に行われている。しかし、対象作品、時期、情報の正確さなどのデー 夕作成の基準が明確ではないために、情報を十分には信頼できない。 またビジネスサイドでは、雑誌出版社や映像配信会社等には宣伝に使用したテキストや画像、映像情報が蓄積しているものの、こうしたデー夕の流用は商習慣上忌避感が強い。加えてアニメ専門雑誌には、こうしたビジネスサイドから提供される情報をまとめた継続的な掲載はあるものの、その多くは揭載時点では放送前の予定情報であり、公開後の確定情報ではない。また掲載の対象も全ての作品という網羅性を持っているわけではなく、人気のある作品、広報予算がある作品に限られる。 雑誌の他、作品公式 Web サイトでは「作品(シリー ズ)のあらすじ」などの各話単位の情報とは異なる作品単位での情報が提供されている。これらも公開の夕イミングによって情報が流動的である。放送前や放送中の作品の場合は、今後のネタバレを避けるために抑制的な記載であり、放送後はこの制約が外れるために本来的な記載となる。 パッケージについては、アニメに限らないが、小売り企業の在庫管理システムに商品情報が蓄積されている。こうしたデータは自社内の業務使用を目的としているため自社以外への情報共有は行われることは通常ない。しかし、商品カタログや ECサイトには掲載さ れるため、この情報をサイトが提供する Web API やスクレイピングなどを用いて収集することは技術的には可能である。 ## 3.2.2 海外の事例 日本産のアニメ作品の世界的な興味関心の高まりによって、海外のファンサイト「MyAnimeList ${ }^{[11]}$ $\lceil\mathrm{IMDb}]^{[14]}$ などをコミュニティのハブとしてデータ蓄積も進んでいる。これらのWeb サイトでは最新のデータモデルに準拠した記述や複数言語への対応など特筆すべき点がある。しかし、日本と米国の言語と文化の相違に起因して、氏名の誤読や役職表記のズレなどもある。 ## 4. アニメ作品の集約的なデータ整備における 実務面での課題 4.1 アニメ作品流通の特徴と実情の 2 つを踏まえたデータ整備の在り方 2 章で述べたアニメ作品の特徵を踏まえ、無形で所有することができないコンテンツが多数を占める状況のため、アニメ作品では「書誌」モデルをべースとして拡張したデータモデルに基づいたデー夕整備が最も現実的と目してメディア芸術データベースの構築を進めている。このデー夕整備を進めるに当たって「識別・同定の基準」「判断を行う有識者」「現実的なデー 夕整備手法」を用意することが課題となっている。 2.1 節で述べた特徴に基づき各話毎にデー夕の作成を試みる場合には話を識別する基準が問題となる。基本的な考え方としては「(エンディング)クレジットが表記される単位」毎に1話とみなすことができるが、例外も存在する。また単話構成の作品との整合も検討すべき論点のひとつである。劇場作品やパッケージの特典新作映像などは単話構成にもかかわらず、害質的には同質の情報を全体・部分の 2 種に分けてデータが作成されることになり艺長である。また 1 つのパッケージで 1 つの映像作品が完結するような場合では、有体物のパッケージと無形概念の話が一体視できるにもかかわらず別々にデータを作成することになり煩雑である。これらはデータモデルの整合性や利用者の要求を保証するためには必要ではあるが、デー夕整備の実務を進める妨けにになっている。 また、アニメという分野に則したデータやデータモデルの標準が整備されていないため、データ整備における対象の識別・同定はデー夕作成者の判断に委ねられる部分が大きくなる。媒体や視聴機会に囚われない有識者の判断が求められるが、現実的には判断が必要な例外的な事例の発生頻度が少ないとは言元、多様な個別事例に対してこれを行うには作業上のボトルネックになる。特に網羅的なデー夕整備の観点では、日々製作・流通するアニメ作品の物量を処理していくことに直面する。テレビ放送を考えてもネット受局(実際の県域数)分だけ観測することができ、劇場作品も上映館数分だけ観測ができる(実際に全ての地域、施設での観測は極めて困難)一方で、それぞれに差違が発生するケースは非常に稀である。 これらの問題について、データモデルとの整合性と現実的なデータ作成のスケーラビリティのトレードオフを勘案して現実的なデータ整備を検討していく必要があるが、過去のメディア芸術データベース(同(開発版))ではこの点に対して腐心していた形跡が見受けられる。業界で広く標準的に用いられるようなデー 夕の整備を念頭に置けば、こうしたデー夕整備にかかる判断は事業の一担当者によって専ら担われるべきではなく学術的な研鑽を積んだ複数の者によって批判的な検証プロセスを経るのが妥当と考えるが、現状はこうしたデータ整備の観点からアニメを扱う学術的なコミュニティの基盤が充分ではない。 ## 4.2 持続的なデータ整備体制の確立 3 章で述べた「リスト制作委員会」に代表されるアニメに関する既存のデー夕は、それらの私的な活動の成果に依拠するところが大きい。これら私的な活動には人的体制や運営資金などでの問題を含んでおり、極めて脆弱な体制と言わざるを得ない。特に「リスト制作委員会」の日々の活動は約 40 年前の当時のアナログ放送受信設備やコンピュータ技術を基準とした体制である。昨今のデジタル放送やコンピュータ技術の進展に合わせた体制や機材への変容が望まれる一方で、 デジタルデータは利便性の高さと表裏一体で不用意な操作によるデータ消失などのリスクもあるため堅牢性や復旧性も兼ね備えた仕組みも合わせで導入される必要がある。こうした体制構築や変容を私的な活動に十全に期待するのは難しく、より一層の支援や同等の機能を有する公的な存在が求められる。 またアニメ作品のデータ作成には作品のリアルタイムの視㯖に基づく作業だけではなく、記録された映像に基づく作業とそのためのパッケージの収集も求められる。アニメ作品のパッケージは図書に比べ比較的高価なため、年間で多数製作される全ての作品に対して購入予算を確保することは容易ではない。映像パッケージも国立国会図書館における納本制度対象ではあ るが、収集されていないものが大多数であると推察される。納本制度の活用や、国立国会図書館を補完するアニメ作品のパッケージ・収集を積極的に行う体制・組織の構築が望ましい。 ## 5. おわりに アニメ作品の「書誌」でも「所蔵」でもない「視聴体験」をどのように採録するのかは未知の分野である。 アニメ作品は「文化」と「産業」の二面性があり、特に後者は事前確認を要する「商慣行」と、近年では 1 作品毎に組成される「製作委員会」という特殊性がデー夕整備を困難にしている。商業的理由から宣伝情報は展開されるものの、広く永続的に用いることができるデータ、アーカイブとして整備することに対して、製作者自身の記録を残すことへの意識が希薄であり、制作者の実務的な情報を提供する取り組みはない。放送・上映・販売に関わる流通情報を集約する団体や仕組みがなく、視聴者や収蔵施設でのルールや体制も充分ではないため、一層の議論の醇成と支援が求められる。 ## 註・参考文献 [1] 一般社団法人日本動画協会. アニメ産業レポート2021.2021. [2] 文化庁.メディア芸術データベース. https://mediaarts-db.bunka.go.jp/ (参照 2021-12-01). [3] 特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構. アニメ制作従事者に関する記録の調査及び活用の為の準備作業実施報告書. https://mediag.bunka.go.jp/mediag_wp/wp-content/ uploads/2018/05/e12720dd082ede4ca99b52c4bef16481.pdf (参照 2021-12-01). [4] 月刊アニメージュ.徳間書店. 1985-2015年 [5] 徳間書店.劇場アニメ70年史. 1989 . [6] 徳間書店.TVアニメ25年史. 1988. [7] リスト制作委員会. Animage アニメポケットデータ 2000 . 徳間書店. 2000. [8]作画@wiki. https://w.atwiki.jp/sakuga/ (参照 2021-12-01). [9] アニメスタッフデータベース. https://seesaawiki.jp/w/radioi_34/ (参照 2021-12-01). [10] しょぼいカレンダー. https://cal.syoboi.jp/ (参照 2021-12-01). [11] MyAnimeList. https://myanimelist.net/ (参照 2021-12-01). [12] AniDB. https://anidb.net/ (参照 2021-12-01). [13] AnimeNewsNetwork (Encyclopedia). https://www.animenewsnetwork.com/encyclopedia/ (参照 2021-12-01). [14] IMDb. https://www.imdb.com/ (参照 2021-12-01).
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# # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部:2021年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部: 2021 年 10 月 15 日 (金) ~16日 (土)会場 : 東北大学災害科学国際研究所 ( 〒 980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 オンラインとのハイブリッドで実施 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ $\checkmark$ 協賛 $ \text { デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) } $ 一般財団法人デジタル文化財創出機構 $\Delta$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、 情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 2 部プログラム ・メイン・プログラム ## $\cdot$ 2021 年 10 月 15 日 (金) ・開会プログラム 13:00 13:30 開会あいさつ 吉見俊哉 (デジタルアーカイブ学会会長) 今村文彦 (研究大会実行委員長) (J-STAGE Data【講演 1】) ・東日本大震災アーカイブシンポジウム - リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来 - 司会 : 加藤諭 (東北大学学術資源研究公開センター史料館) 【伝承館事例報告】各 20 分 岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤修氏)(J-STAGE Data【講演 2-1】) みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代浩一氏)(J-STAGE Data【講演 2-2】) 福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸真之氏)(J-STAGE Data【講演 2-3】) 【デジタルアーカイブ事例報告】 岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉大祐氏)(J-STAGE Data【講演 2-4】) 宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤奈津江氏)(J-STAGE Data【講演 2-5】) ・パネルディスカッション 国立国会図書館(中川透氏)(J-STAGE Data【講演 2-6】) 東北大学(柴山明寛、コーディネーター) - 2021 年 10 月 16 日 (土) ・企画セッション (1) デジタルアーキビストの在り方 福島幸宏.デジタルアーキビストのミッションとは (J-STAGE Data【講演 3-1】) 江添誠. 3 次元デジタルアーカイブ時代に向けたデータ収集 (J-STAGE Data【講演 3-2】) 中村覚. 分野横断型統合ポータルへの視線 (J-STAGE Data【講演 3-3】) 藤森純.権利処理の視点から見るデジタルアーキビスト (J-STAGE Data【講演 3-4】) 坂井知志. 自治体とデジタルアーカイブ (J-STAGE Data【講演 3-5】) 久永一郎.デジタルアーカイブのマネタイズとアーキビストの役割 (J-STAGE Data【講演 3-6】) 徳原直子.ジャパンサーチが支えたいもの(J-STAGE Data【講演 3-7】) 田山健二 . 公共図書館の現状と課題 (J-STAGE Data【講演 3-8】) 山川道子. デジタルアアーキビストが意識するベきビジネスの可能性と求める人材像 (J-STAGE Data 【講演 3-9】) 井上透.デジタルアーカイブマネジメント (J-STAGE Data【講演 3-10】) ・企画セッション (2) 多様な担い手たちによる地域資料継承セッション 堀井洋.地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-1】) 後藤真 . 地域歴史資料への新たなアプローチ (J-STAGE Data【講演 4-2】) 堀井美里. 奥州市における資料調査活動〜産学官連携の「産」の立場から~(J-STAGE Data【講演 4-3】) 高橋和孝 . 奥州市域の資料の紹介と連携事業への期待 (J-STAGE Data【講演 4-4】) ・企画セッション (3) アーカイブをメディアとして読み解く ・サテライト・プログラム (1) デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレートを考える $(2021 / 10 / 11$ ( 月 ) ) (2) ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン (2021/10/12 (火) 中村覚.カルチュラル・ジャパンを使ってもらう (J-STAGE Data【講演 5-1】) 神崎正英. カルチュラル・ジャパンのあつめかた (J-STAGE Data【講演 5-2】) https://www.kanzaki.com/works/2021/pub/1012cjc ・宮城半日ツアー ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授 副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所,助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環,高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授
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# 円卓会議「デジタルアーカイブの時代 のMLAM連携 沖縄・復帰50年に 向けて〜」 報告 [学会活動] 円卓会議「デジタルアーカイブの時代の MLAM 連携〜沖縄・復帰 50 年に向けて〜」報告 ## [会議概要 $]$ ○時:2021年 12 月 12 日(日)14:00~16:30 場所 : 沖縄県立図書館ホール/オンライン (音声配信予定:アクセス方法は後日) 主催 : デジタルアーカイブ学会地域アーカイブ部会内容 ・パネリスト:(敬称略) 上原明香、原裕昭(沖縄県立図書館)大城博光、小野百合子((公財)沖縄県文化振興会:沖縄県公文書館) 真喜屋力(沖縄アーカイブ研究所) 加治工尚子(岐阜女子大学沖縄サテライト校) 外間政明(那覇市歴史博物館) 山里孫存(沖縄テレビ放送) 平良斗星(沖縄デジタルアーカイブ協議会) ・コメンテータ:宮本聖二(立教大学、Yahoo!Japan、 デジタルアーカイブ学会地域アーカイブ部会長・理事) ・進行:水島久光(東海大学、デジタルアーカイブ学会理事) パネリスト:左から平良斗星、山里孫存、外間政明、小野百合子、大城博光、後ろは司会の水島久光氏 パネリスト:左から上原明香、原裕昭、加治工尚子、真喜屋力、宮本聖二各氏 ## [報告 1] ## (1) 復帰 50 年と沖縄特有の凝縮された課題 本研究会は、2021 年4月にコミュニティアーカイブ部会から改称した「地域アーカイブ部会」の第一回の研究会かつ、翌年の大会開催候補地としての調査を兼ねて企画された。 復帰 50 年を前に、折しも二年連続で学会賞受賞者が沖縄から選ばれた。第二回の沖縄県公文書館((公財)沖縄県文化振興会と第三回の沖縄アーカイブ研究所。それ以外にも沖縄には特筆すべき取り組みが多い。本土とは異なる独自の歴史 - 自然 - 文化、激しい地上戦の経験とそれによる資料の喪失、 27 年続いた米軍政府・民政府による統治、そして今日に続く様々な社会課題。これらを記録・保全し、利活用していこうという高い意識を、官民いずれもが有している。しかし一方で残念ながらそれぞれの機関・団体が零細で、目の前の課題に追われ、十分に情報を共有できず、連携協力関係が築けていないという悩みを抱えている一事前取材においてそうした声を多く耳にした。 その意見を踏まえ、この研究会は「円卓会議(ラウンドテーブル)」という形式をとり、可能な限り多くの人に登壇していただき、フラットで開かれたディスカッションの場として構成しようと考えた。当初、10 月開催を目指していたが、コロナ禍で準備が遅れたため 12 月 12 日(日)となったが、会場の沖縄県立図書館、沖縄デジタルアーカイブ協議会の運営協力を得、会場には約 30 名、オンラインで全国から約 70 名が参加する、活気のある意見交換会となった。14:00~16:30 と限られた時間の中で多くの事例や課題を拾い上げられるように、パネリストには以下のアンケートを行い、事前に共有した。 (1) 所属機関・団体のデジタルアーカイブ/取扱い資料のデジタル化の取組み概要 (2) 収集・保全 ・管理・公開・利活用の各局面において感じている課題 (3) デジタルアーカイブ/資料のデジタル化に関する県内機関・団体連携への期待 (4) 復帰 50 年に関して用意している企画 (5) 2022 年に学会大会を沖縄県で開催することへの意見 ## (2)パネリスト報告とディスカッション 柳与志夫総務担当理事のあいさつと学会活動の紹介を皮切りに、各パネリストが 10 分ずつ報告を行い、 その内容をグラフィックレコーディング(協力:ちょ こ)で視覚的に共有を図った。各機関・団体のデジタルアーカイブ/資料のデジタル化の対象、目的の違いが鮮明になるとおもに、その限定性ゆえに生じる課題とその解決に向けての協力・連携の必要性が次第に明確になっていった。 後半は、報告に対する相互質疑を軸に、論点の整理を行った。まずはっきりと印象づけられたことは、資料やデジタル化に関わる立場によって関心・問題意識が大きくことなること——その中でも「資料を残す」 ことがミッションとなっている立場においては、なかなか利活用環境の整備にまで手が回らない一方、「利用者の立場」からはなかなか資料保存管理の実態が見えてこない、その壁の存在を今回認識できた意味は大きかった。そこにまず連携のきっかけがあることに加え、共通の課題としての「予算確保」が浮かび上がった一一特に沖縄の場合、一括交付金が財源となっているケースが多く、何をもって事業の重要性を評価する グラフィックレコーディングの一部(協力:ちょこ) か、その指標の共有も問題になった。 会場では前日(11日)開催された「南城市デジタルアーカイブ活用円卓会議」(協力:地域アーカイブ部会)のメンバーも参加し、活発な議論が展開した。 しかしながら時間の限りもあり、今回はあくまで「問題の拾い出し」に留まった感も強い。「何をどこまでデジタル化するか」、その際の共通の「ルール」「手続き」「体制」の必要性、そのベースとなる「将来的な利活用イメージやリテラシーの共有」については、 2022 年 11 月開催の大会をはじめ今後の議論の場に委ねられたといってよい。 (東海大学水島久光) ## [報告 2] 沖縄の復帰 50 年を迎えるにあたって、その特異な近代史や積み上げてきた独自の文化を、沖縄でも本土でもさらに社会で共有しやすい形にするためアーカイブに関わる機関と広く対話をしたい、それをねらいに地域アーカイブ部会で今回の円卓会議を実施した。 筆者は、1990 年から94 年まで 4 年余りを沖縄に住まいを移して報道取材とドキュメンタリー制作にあたり、沖縄戦、アメリカによる占領期間から施政権の返還、首里城復元を主な取材テーマとした。しかし、占領期間中の文書や資料は、公文書館も存在せず、当時の那覇市内の病院や図書館の倉庫に納められていて、手作業で探し出すしかなかった。新聞紙面は図書館のマイクロフィルムで検索、沖縄戦の映像は当時市民グループで収集していた「1フィート運動の会」事務局に借用をお願いするなどでしか得られなかった。いず れも、詳細なメタデータなどは整備されておらず、各種資料を収集して研究する、或いは新たなコンテンツを制作するには大変な手間と時間がかかったものだった。そもそも首里城は沖縄戦で完全に破壊し尽くされ、資料も焼失するという困難な状況の中で復元が進められていた。それだけに、アーカイブ(それが整備されていること)というものがいかに貴重なのかを肌身をもって知ったのだった。それから 30 年、図書館や公文書館は新しくなり、今では各機関がデジタル化にそれぞれの役割に応じて取り組まれている。琉球政府や米軍、民政府の文書、資料、屋良朝苗氏の日記、さらに沖縄戦や戦後占領期の映像や写真、これらは全て沖縄県公文書館でデジタル化が進み、公開され、入手可能になっている。県立博物館では、常設展示と同時に、意欲的な企画展が数多く行われている。 デジタルの時代のその先は、それらの資料を横に繋いで研究者やユーザーが利活用して学び、知り、さらに新たなコンテンツを容易に生み出せるような仕組みの構築ではないか。そうであるなら、各館の枠を越えた横連携の可能性はどうなのか、あるいは成り立ちの異なる組織や機関がどのような取り組みをしているのか、何を課題としているのかを共有することが必要なのだと思う。円卓会議に集まった方々からは課題を積極的に出していただき、同時に同じ場で語り合うことの意義を感じていただいたと手応えを感じている。 11 月の沖縄での研究大会では、この円卓会議で共有した課題や連携の可能性を助走として、議論を深めてさらに前に進めることができればと考えている。 (立教大学大学院宮本聖二)
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# 第 1 回「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」 日時:2022 年 8 月 3 日(水) 18:00 20:30 形式 : ZOOM ウェビナーによるオンラインでの実施 [プログラム] 本会議の趣旨と進行:数藤雅彦 (司会、弁護士、法制度部会副部会長) 憲章で実現したいこと : 吉見俊哉 (東京大学教授、本学会会長) デジタルアーカイブ憲章(案)の概要:福井健策 (弁護士、法制度部会長) 登壇者から憲章案へのコメント ラウンドテーブル 視聴者からの質問・意見 # # [登壇者] 石橋映里(一般社団法人日本脚本アーカイブズ推進コ ンソーシアム常務理事) 生貝直人 (一橋大学准教授) 井上 透 (岐阜女子大学教授) 植野淳子(株式会社アーイメージ代表取締役、一般社団法人日本動画協会『アニメ NEXT_100』プロジェ クト事務局長) 大西 亘(神奈川県立生命の星・地球博物館 動物・植物グループ主任学芸員) 岡本 真(アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役) 川口雅子(国立アートリサーチセンター(仮称)設置準備室 情報資料グループリーダ(学芸担当課長))五味大輔(株式会社 IMAGICA GROUP グループ事業戦略推進部 副部長) 重田勝介(北海道大学情報基盤センター准教授) ルドン・ジョゼフ(NPO 法人ゲーム保存協会理事長)田中茂明(内閣府知的財産戦略推進事務局長)徳原直子(国立国会図書館電子情報部主任司書) 三浦文夫(関西大学教授、一般社団法人アーティスト コモンズ理事長) ## 1. はじめに デジタルアーカイブ(以下、DA)の現場にとっての指針となる「デジタルアーカイブ憲章」の試案が公開された[1]。試案では DA の定義や価値、目的が提示され、最後に目的を実現するための行動指針が述べられている。第 1 回「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」は、DAに関する各界の有識者と参加者が試案についてオープンな場で議論することを目的に開催された。 会議の冒頭では吉見会長と福井氏から DA 憲章の狙いと要点について説明がなされ、次いで多様なバックグラウンドを有する登壇者から試案に対して各人の経験や関心を踏まえたコメントが寄せられた。ラウンドテーブルでは登壇者の間で議論が交わされ、試案に関する論点の整理や掘り下げが行われた。会議を通して参加者からはコメントや質問が寄せられており、会議の最後には登壇者から質問への応答がなされた。 ## 2. DA 憲章の役割と記憶する権利 円卓会議ではいくつもの重要な論点が提起された。 そのうち、ここでは章題にある 2 点について述べる。 ラウンドテーブルでは、特に DA 憲章の役割について議論が交わされた。一般に、憲章とは基本的な方針や規則を定めるものであり、何らかの主体により批准される必要がある。このとき、DA 憲章は上記の意味での「憲章」に該当するのか、するのであれば批准の主体は誰になるのかということが問題となる。 この点に関して、吉見会長によると、DA 憲章は最終的には「憲章」として批准されることを目指すべきであるという。ただし、現時点での DA 憲章の主な狙いは、DAに関する理念を皆が賛同・共有できるような抽象度の高い形でまとめること、及びその過程で広くDAの関係者間で議論を呼び起こすことにあり、批准の手続きを検討するのはさらに次の段階として想定されるとのことであった。議論の中では、DA 憲章の主体について試案では主にDA の提供者が想定されているが、利用者も含める必要があるのではという点も提起された。これについては、Europeanaにおける利 用者サイドのガイドライン ${ }^{[2]}$ が事例として紹介されたほか、提供者と利用者の区別は困難であるとの指摘もあり、今後も引き続き議論が行われる点となるであろう。 DA 憲章の中身に目を向けると、その柱となるのは記憶する権利であるという。試案の前文からは、個人や地域社会、公的組織等が生み出す情報を社会の記憶として蓄積していくことが社会にとっての記憶する権利であると捉えられており、DA はこの権利を実現するための仕組みとして位置付けられていることが伺える。記憶する権利についても、その主体が誰であるのかという点が重要となる。吉見会長によると、記憶を操作することが技術的に可能となっている現在では、記憶する権利は特定のアーカイブ機関のものではなく、 すべての国民が有するものであることが基本であり、 アーカイブ機関はその代行に過ざないことを前提とする必要があるという。ラウンドテーブルではこのことを指して、社会の記憶は私人や国家ではなく、共有あるいは「コモンズ」に属すると表現されていた。 資源の管理に関する実証的な研究の文脈において、「コモンズ」とは、あるコミュニティが共有する資源もしくはそうした共的な資源の管理制度自体を指す概念として使われることが多い。このとき、コミュニティの境界線をどう設定するかということは資源を持続的に管理するための重要な要素であるとされる。 $\mathrm{DA}$ 憲章という理念のレべルに打いても、また将来的に個々のDA において憲章で示される行動指針を具体化する際も、コモンズの範囲をどう想定するかという点は興味深くかつ重要な課題であると考えられる。 ## 3. おわりに 円卓会議では、DAの教育利用や忘れられる権利など、以上で取り上げた他にも重要な論点が示されていたが、本稿では紙幅と著者の知識に制約があるためすべてを取り上げることはできなかった。本稿の他にも参加報告が公表されるとのことなので、円卓会議の全容に関心のある万はそちらもあわせてご参照いただきたい。 すでに本稿執筆時点(2022 年 9 月)で、第 2 回および第 3 回円卓会議の開催が、それぞれ本年 10 月と 11 月に予定されている。上述のように DA 憲章の当座の意義は DA に関する議論を広げることにあると説明されていた。今回公表された試案は非常に多様な論点を内包しているため、議論に関わるものの専門や経験が多様であるほど、実りの多い議論がなされることになるだ万う。今後も円卓会議ひいては DA 憲章に注視していきたい。 (科学技術・学術政策研究所西川開) ## 註・参考文献 [1] デジタルアーカイブ学会. デジタルアーカイブ憲章(案)第 1 回「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」 (2022年 8 月 3 日)版. 2022. http://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/08/DACharter-ver-20220803.pdf (参照 2022-08-31). [2] Europeana. Public Domain Usage Guidelines. https://www.europeana.eu/en/rights/public-domain-usage-guidelines (参照 2022-08-31).
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# 各座長の方に、特に良かったと感じた発表を挙げていただいた。(カッコ内は推薦した座長、敬称略) # # セッション 1 [15] コミュニティ・アーカイブとその多様性 :福島県大沼郡金山町〈かねやま「村の肖像」 プロジェクト〉の実践を例に(榎本千賀子、新潟大学人文学部) セッション 1 では、アーカイブについてコミュニ テイ、技術、経済波及公開といった多様な視点からの 研究発表があった。その中で、本発表は福島県大沼郡金山町の「かねやま「村の肖像」プロジェクト」を例 に上げ、活動内容の紹介とともに、コミュニティ・ アーカイブに取り入れる「多様な観点」について考察 している。「村の肖像」は 2016 年より発表者が町教育委員会や市民とともに企画・運営しており、新潟大学人文学部との連携協定も締結されている。本発表では、今までのコミュニティ・アーカイブにおける「多様な 観点」が市民と外部の二分法的な構図で捉えられてき た一方、「村の肖像」ではむしろ内部の多様性の把握 が不十分であるという点を指摘している。「村の肖像」 に限らない他のコミュニティ・アーカイブに共通する 課題を提起しており、コミュニティ・アーカイブの持続性を考えるうえでも重要な視点であると考える。今後の研究の進展が期待される。(小川歩美、合同会社 AMANE) 既存CA的活動(民具保存活動・伝統技術継承・温泉管理)関係者 ra 若年町外転出者・孫ターン者らによる協働 ## セッション 2 [22] メタバース内のワールド検索用メタデータスキーマの提案 : VR閲覧環境のアーカイビングシステム構築に向けて(廣瀬陸、中部大学) インターネット上の仮想的な $3 \mathrm{D}$ 空間で、参加者がアバターを操作して他の参加者と交流できる「メタバース」は、近年プレイヤーの数も増加して、注目されるようになってきた。今後はこのメタバースが次第に普及していくと考えられるが、仮想空間のコンテンツを将来にわたって再利用するためのアーカイビングシステムは存在していない。現存する仮想空間は、個人で制作されているものが多く、技術的にも、創作物としても規格化が困難であることなどが問題点として考えられる。 本報告は、仮想空間アーカイビングシステムのうち、 ワールドに付与するメタデータとその検索手法につい て提案と解説を行ったものである。 検索項目として、森や海といった空間、オブジェクトのテクスチャのヒストグラム、ジャンル、時代、音響といった項目が提案されている。また、既存のメ夕バースに詳しいユーザと、新規ユーザに即した検索方法を検討するなど、仮想空間のアーカイビングに対する様々な検討が行われており、興味深い。今後の研究の進展に期待し、ベスト発表としたい。(山下ユミ、京都府立図書館) セッション 3 [36] 絣のデジタルアーカイブ構築に向けた取り組みに関する報告:現状に至る取り組みと構想(江口久美、九州オープンユニバーシティ) 比較的長期に存在するメゾンブランドでは、プレタボルテ、オートクチュールに拠らず、コレクションを発表する上で、過去のアーカイブにインスパイアされた衣装を提示することがしばしばみられ、過去のファッションやリバイバルといった括りで現代のファッションに再生産されていく。一方、テキスタイルやアパレルメーカーでは、伝統工芸としての継承性の困難さや、その生産規模の縮小などから、そのデザインや意匠が十分利活用されている状況とはいえない。本報告では、国際的には 8 世紀以降、日本においては 15 世紀以降に伝播され、使用されてきた世界的な伝統工芸である『絣』の紋様に着目し、それらをデジタルアーカイブとして収集公開していく試みを紹介するものであり、研究だけでなく、教育、産業、また広く伝統工芸に関心のある層に広がりを持つデジタルアーカイブの構築という点で、大変興味深いものであった。アーカイブ化された絣デザインの AIへの応用も想定される、ということで、今後の研究のさらなる進展が期待される。(加藤諭、東北大学学術資源研究公開センター史料館)
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# デジタルアーカイブの長期的な継続性を図るために、何をするべきか、 5 つの観点による提言 Recommendations from five perspectives on what needs to be done to ensure the long-term sustainability of digital archive 抄録:近年、様々な機関や企業でデジタルアーカイブが構築されるようになってきた。しかし、十分にその継続性を図るための検討が行われず、アクセスの減少や費用をかけてデジタルデータ化やデジタルアーカイブシステムを再構築するケースもある。本稿 ではこの課題をどのようにして対処するかについて、デジタルアーカイブの準備段階から構築後も含め、デジタルデータ、メタデー タ、デジタルアーカイブシステム、運用、広報・人材育成の 5 つの観点から具体的な提言を行う。 Abstract: In recent years, digital archives have been compiled at various institutions and companies. However, there are cases without sufficient consideration for its continuity, so that the amount of access have beed decreased, or reconstruction may be needed. This paper provides specific recommendations on how to address this issue from the preparatory stage of digital archiving to post-construction, from the five perspectives, i.e., metadata, digital archiving systems, operation, and public relations and human resource development. キーワード : デジタルアーカイブ、継続性、デジタルデータ、メタデータ、デジタルアーカイブシステム Keywords: digital archive, continuity, digital data, metadata, digital archive system ## 1. はじめに 近年、多くの機関や企業がデジタルアーカイブを積極的に構築、公開している。一方でデジタルアーカイブの継続性について様々な課題があることも判明してきた。筆者が地域情報化アドバイザーとして全国の自治体を訪問し始めてから、10 年程になるが、その間に相談された課題をあげてみる。 「マスターデータを作成していない」「データが陳腐化して現在レベルに合わない」「データの追加がされていない」「維持費用が負担となっている」「アクセス件数が大きく減ってしまった」「特殊なシステムでデータ移行ができない」 既に原本を裁断した、廃棄した等、タイムマシンでもない限り解決できないケースもあり、当初の検討不足がデジタルアーカイブの消滅や停止に及ぶこともある。 筆者は平成 15 年度から国立国会図書館関西館電子図書館課(以下、NDL)にレファレンス協同デー夕 ベース事業構築のために秋田県から出向したが、NDL では平成 14 年度から電子情報の長期的な保存の調査研究を進めており、副担当として携わることができた。当時、米、豪、ヨーロッパ等ではデー夕保存の研究が進められていた。日本国内ではこれらの認識は高くなく、デジタルアーカイブの継続的な運用に問題が生じ、消滅可能性がある事例がないとは言えない。NDLや内閣府知財戦略本部等で指針やガイドラインが公開されており、本稿では、デジタルアーカイブの継続性を担保するための具体策を提案することとした。なお、本稿では以下の言葉を定義しておく。 ・デジタルアーカイブ:資料(物=紙資料・フィル么資料、美術品、工芸品、博物資料等) を保存と利活用に耐えられるようにデジタル化したデジタルデータ及びデジタルデータをインターネット等で介して広く公開し、利活用を促すための運用・管理を行うデジタルアーカイブシステムから構成 される。 ## 2. デジタルアーカイブの継続性の要素 デジタルアーカイブを継続させていくためには、 5 つの観点から検討する必要がある。 ## 2.1 デジタルデータの作成(品質、フォーマット) デジタルデータは、デジタルアーカイブのベースになるものである。システムと違い更新予算の確保が難しく、将来を考えた仕様、適切な機器、外製する場合には経験のある業者に依頼することが必要となる。 ## (1)デジタルデータ解像度 より高い解像度(dpi 値)が望ましいがデータハンドリング、運用費用を考えると資料の内容に応じた適切な解像度を設定する必要がある。ここ数十年は対象サイズにもよるが $400 \mathrm{dpi}$ 程度の解像度が設定されてきたが、ディスプレイやスマホの高解像度化やコンピュータやスマホの CPU 処理速度の高速化・スキャナ等の撮像機器の高性能化が進み、見直しが必要となってきた。今後は予算が許す限りA4 サイズ/フルカラーで 600dpi 以上の解像度が必要であろう。 ## (2)データフォーマット デジタルデータの作成あたっては保存用のマスター データと公開用(運用用)データの 2 種類を決めておく必要がある。例えば静止画像の場合、マスターデー 夕として可逆圧縮方式の画像フォーマットとして TIFF (Tagged Image File Format)、JPEG 2000 があり、どちらかを選択する。マスターデータは可逆圧縮かつ低圧縮率となるため、ファイルサイズが大きく、データ保存のためのメディアが大きくなるとともに、運用のための資源を必要とする。なお、JPEG 2000 は ISO の規格(ISO/IECの規格書 15444)として制定されたフォーマットである。マスターデータから相手環境に応じ、動的にJPEG、PDF 等に変換し生成することで、公開用データとして送信ができる。 公開用データとしては JPEG 等の非可逆圧縮形式や PDF 等が想定される。非可逆圧縮は配信時の負荷をさげるため目立たない情報を捨てファイルサイズを小さくする技術である。ただし、JPEG 等の圧縮によっては、データ品質が極端に悪化することになるので注意が必要である。また、一定の圧縮率で圧縮した場合でも、画像によって画質が異なることがある。そのため画像品質を一定化するために、SSIM(原本との類似性 $=$ 主観的評価)やPSNR(ノイズ割合 $=$ 客観的評価)による評価を行うことで、運用データの品質を保つ方法がとられている。 ## (3)デジタルデータ撮像機器 撮像機器が RGB 各色 256 階調を確保されているか、 ダイナミックレンジが狭くないか、必要な光学解像度が設定可能か、色被り、色ズレがないか等をチェックする。デジタルアーカイブの対象とする資料は貴重なものが多く、何度もスキャンすることは原資料の劣化を進めることになる。 ## (4)デジタルデータの保存 最終的に作成されたデジタルデータを長期的に保存するため、デジタルアーカイブシステムとは切り離し、再現可能な状態で光ディスク、LTOテープ、HDDに保存する。これらを定期的に新しいメディアに移行しておくことになる。特に HDD のデータ移行期間は数年レベル程度となる。 ## 2.2 メタデータの作成 ## (1) メタデータ要素と記述 メタデータは、2003 年に国際規約となった DCMES (Dublin Core Metadata Element Set ISO15836)をべースとして作成されることが一般的となっている。DCMES は15のメタデータ要素(タイトル、作成者、主題、内容記述、公開者、寄与者、日付、資源タイプ、フォー マット、識別子、出処、言語、関係、時空間範囲、権利情報)となっている。国立国会図書館では、これをベースに拡張、整理したDC-NDLを公開しているので参考とすることができる。DCMES の 15 の基本要素及び必要に応じて加えた要素で構成する。特にデジタルデータの作成者、作成日、権利情報は重要である。 これらは時間経過によって失われがちである。さらに実際の作成にはこれらの記述方式・記述形式(シンタックス)が必要となる。連携型のアーカイブシステムを構築する場合には、連携機関のメタデータを調査し、横刺しで検索するためのマッピングを行う必要もある(表 1)。 ## (2)識別子 長期間にわたりデータを保存・管理するために、個別のデータを判別し認識できる識別子 (一意の管理番号等)を決める。管理番号は管理機関名、ファイル種別、フィル番号等を一定のルールで定め数字等で表現したものである。識別子の付与には他に URI(Uniform Resource Identifier:統一識別子)がある。これは外部 表1メタデータのマッピング例 } & タイトル1 & \multirow{11}{*}{} & タイトル & タイトル & 資料名 & 資料名 & 遺構名 & \\ & & 受取よみ & & & \\ からデジタルアーカイブのデジタルデータに直接参照できる仕組みである。普段目にするURL は URI の一部と考えていい。また国際的な識別別子として DOI (Digital Object Identifier) があり、学術論文等国際的な利用を促進する際には検討を行う。 ## (3)解題・解説の記述 一般的に解題、解説が不十分となっているケースが見受けられる。解題、解説の作成は手間がかかり、資料の知識も必要となるが、この記述が不十分となれば、利用は研究者が中心となり、地域住民、団体や学校教育への活用が進まなくなる。デジタルアーカイブ公開後も地域ボランティアや研究者と協力し、データを充実していくことは、デジタルアーカイブの継続に寄与することになる。 ## 2.3 デジタルアーカイブシステム デジタルアーカイブシステムの構築には、通常、機関側で構築目的や基本的な必要要件が定められた要求仕様書の作成が前提となる。この要求仕様書に基づきベンダー側で要件定義書が作成される。要求仕様書には技術的な知識も必要なので、専門家がいない中小機関の場合は外部有識者やベンダーの協力を求めることもある。この際の注意点を記載する。 (1) ベンダーロックイン デジタルアーカイブシステムは標準仕様書で作成される必要がある。ベンダーの独自システムに依存した場合、デジタルアーカイブシステムの移行や他機関との連携が困難になることがある。 ## (2) 機能 標準仕様を求めるあまり、国際規約で定められている機能や、ベンダー側も技術力がないため実装できない機能等、デジタルアーカイブの継続性に危惧が生じる。継続性に必要と考えられる機能について記述しておく。 ・クラウド オンプレミスはデータを自機関に設置されたサー バーに保管するのに対し、クラウドではクラウドサービス提供事業者のデータセンターでデータが管理される。データの保存性とセキュリティとサービス品質保証としてはクラウドサービスの方が通常は優れている。 - API (Application Programming Interface) システム上に API という空口を作り、他のアプリ ケーションとやり取りができるようにすることである。自機関内の他のシステムやジャパンサーチ等の統合型デジタルアーカイブと連携すること で、自機関のデジタルアーカイブの継続性に寄与できる。ただし、API は利用が突然できなくなるケースもあるため、定期的なチェックを行う。 - IIIF (International Image Interoperability Framework) デジタルアーカイブに収録されている画像を中心とするデジタル化資料を相互運用かつアクセス可能とするための国際的な枠組みである。アプリケーションを超えた画像交換を図る等、デジタルアーカイブには必須の機能となっている。 固定リンク 固定リンク(パーマリンク、パーマネントリンクとも呼ばれる)は WEB ページの個別のコンテンツに対して割り振られたURLである。検索エンジンのクローラーよって個々のコンテンツがチェックされ、アクセスの増加が見达まれる。 ・デジタルデータの可視化 通常の検索に加え Google map ・国土地理院地図情報等の地図、年表からデジタルデータにリンクされれば、学校教材や観光支援への活用が進み、そのことがデジタルアーカイブの有効性を示すことになる。 著作権表示 クリエティブコモンズライセンスに代表される著作権表示は必須となっている。メタデータに記載するのは当然であるが、デジタルデータ自体に透かしとして付与できれば権利者のコンテンツの提供のハードルを下げ、再利用性が高まる。また $\mathrm{PD}$ (パブリックドメイン)、CC0 等のオープンデータの割合を増やすことは企業や個人での利用促進につながる。 ・デジタルアーカイブの他機関利用での共同利用 例えば同一自治体内でデジタルアーカイブシステムを共同運用すれば統合型アーカイブへの「つなぎ役」としての機能を持ち、利用者にとってもいくつものデジタルアーカイブを検索する手間を省くことができる。単独機関での運用と比較し、 トータルで運用経費軽減に繋がる。 ## 2.4 運用 ## (1) デジタルデータの追加 開設時に登録したコンテンッのみで利用を維持することは、非常に困難である。デジタルアーカイブへの定期的なコンテンツの追加は、リアルの資料の購入や企画展示と同じ意味を持つ。コンテンツの追加について、機関内で中長期的な計画を立てる必要がある。 ## (2) 運用経費 上述のデジタルデータの追加は運用経費の増加に直結する。例えば一般的にオンプレミスよりクラウドの方が、クラウドサービスでは、一般的に PaaS はカスタマイズ度が高く、SaaS は運用経費が軽減される傾向がある。危険が増す外部攻撃からセキュリティを担保するためには経費が下がれば良いというわけではないが、提供機能や提供内容に応じて負担の軽減を図ることも必要になる。 ## (3) マイグレーション デジタルフォーマットが永続性を持っていないと定期的にデジタルフォーマットの変換をするマイグレー ションが必要となる。筆者が勤務していた秋田県立図書館では、平成 8 年にデジタルアーカイブの運用を始めた。当初はマスターデータをTIFFとしていたが、 その後、公開画像の解像度・データ容量のアップに伴 $い$ LizardTech 社の MrSID (Multiresolution Seamless Image Database)に変換、最終的に継続性を担保するため ISO 規格である JPEG 2000 に変換している。 ## (4) 利用分析 アクセス件数等の数值は必ず求められる。加えてデジタルアーカイブの利用時間や利用者層の分析、利用度の高いコンテンッの確認も必要となってくる。この場合 Google アナリティクスのように無料で分析できるアプリケーションも利用できる。 ## 2.5 広報及び人材育成 デジタルアーカイブを公開するには大きな努力が必要なため、公開することで仕事が終わったと感じてしまうことがある。ネット上で公開しただけでは、利用は限定され、アクセスは低下する。筆者は、デジタルアーカイブをプロジェクターで表示し解説を交え紹介するセミナー、ポスターサイズでパネル化し機関内外でリアル展示等のイベントを行ってきた。このことからデジタルアーカイブを見るためにタブレットを購入された高齢者の方もおり、継続的な広報活動はデジタルアーカイブの継続に必要なこととなる。 中小レベルの機関であれば、デジタルアーカイブの専任担当者を置くことは難しい。専門家を確保できたとしても人事異動でデジタルアーカイブの運用ができなくなることも多い。そう考えると複数の人材の育成が必要であり、どのレベルまで学ぶかが大事となる。求められるサービスの想定ができること、基礎的な技術用語の理解が最低限に必要なレベルとなる。筆者の ## デジタルアーカカフブ講䀠会一图書館を対象として一 ## 1日目: 2021年12月19日(日) 10:00 18:00 2日目: 2021年12月20日(月) 10:00 17:30 $\cdot$主催 : NPO法人知的資源イニシアティブ(IRI) $\cdot$協賛 : ビジネス支援図書館推進協議会(BL) $\cdot$講習 : オンラインライブ配信及び復習用録画配信 対象 : 自治体図書館員、図書館関係者自治体職員、図書館関連企業職員 定員 : 10名以上で20名を予定 㖟講料:12,000円(BL会員は、10,000円)一受講後、修了証を発行します一 ※一部の講義のみを受講されたい方は事務局までメールにてお申し込みください。 ・申し込み方法:IRI HPの申しし込みフォームにて講習会開催趣旨 近年、資料をデシ多ル化し、インターネNトを通じて広〈国内外に提供することを、図書館は求められています。 方て、、図書館職員や関連する方のデジタルアーカイフについての知識之経験が不足しており、適切な推進がてむはい 術的、政策面を、基管から力らわかりゆすく講義していきたしと考えております。今後デジルアーカイ゙の導入を予定さへている方、基礎的な知識を学んでみたこ方等、意欲的な方々の参加をお待ちしています。 IRI代表理事 : 山崎博樹 & 担当拥師 \\ $ (75分) \end{aligned} & \\ (45分) \end{aligned} & 原田隆史 \\ (75分) \end{aligned} & \\ ■講師紹介 山崎博樹: IRI代表理事、内閣府デジタルアーカイ゙実務者会議委員、総務省地域情報化アドハイザーー 国立国会図書館電子情報部非常勤調相員、IRI理事 ■お問い合わせ IRI事務局担当 : 黑 $x-\mu$ 地 図12021年開催IRIデジタルアーカイブ講習会 団体(知的資源イニシアティブ)では昨年度からこの基礎レベルの理解を図るための 2 日間の講習を開始したので、必要があれば受講をお揿めする(図 1)。 ## 3. おわりに 今後、デジタルアーカイブの構築が進み、日常的かつ有効な存在になるだろう。その際、費用や手間をかけてきたデジタルアーカイブの継続性を図ることは社会にとっても大事なこととなる。そのために、構築前、構築後も様々な面から検討をすることが必要であることを本稿で少しでも理解いただけたとしたら幸いである。 ## 註・参考文献 [1] 国立国会図書館. 国立国会図書館デジタル資料長期保存基本計画 2021-2025 電子情報の長期利用保証に関する調査研究 https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/dlib/research.html (参照 2022-08-01) [2] 岡本明. 失敗に学ぶデジタルアーカイブ〜アーカイブの運営のノウハウを共有する〜 2016. 専門図書館NO. 275. p.2-8. [3] デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会.デジタルアーカイブのための長期保存ガイドライン 2020 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_ suisiniinkai/pdf/guideline2020.pdf (参照 2022-08-01). [4] 知的資源イニシアティブ.デジタルアーカイブ講習会 https://www.iri-net.org/wp-content/uploads/f59e644eee21812 fc046941db089adec.pdf (参照 2022-08-01).
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# 持続可能性という観点でADEACを ## 考える ## Thinking about ADEAC in terms of sustainability ## 田山 健二 TAYAMA Kenji \\ TRC-ADEAC株式会社 \begin{abstract} 抄録:本稿では、デジタルアーカイブの持続可能性において重要である「共同」「人材」「更新」「利活用」という $4 つの$ 視点について、ADEAC の業務に基づいて述べる。「共同」では ADEAC の基本コンセプトと関係者全員が一体となり取り組むことの重要性、「人材」では当社が行うデジタルアーキビストの養成講座や情報リテラシーの大切さ、「更新」ではその有効性を示す事例と ADEAC 新バージョンの機能向上で生じる好循環への期待、「利活用」では学校での教材化実践によりデジタルアーカイブが地域に必要不可欠な知の基盤となることを述べる。こうした活動の継続により、デジタルアーカイブの持続可能性が高まり消滅回避に繋がると考える。 Abstract: This paper describes the four perspectives of 'Collaboration', 'Human resources', 'Update' and 'Utilization', which are important for the sustainability of digital archives, based on ADEAC's work. The 'Collaboration' describes ADEAC's concept and the importance of working together as one. 'Human Resources' describes our training courses for digital archivists and the importance of information literacy. 'Update' describes cases that demonstrate its effectiveness and expectations for the virtuous circle created by the new improved version of ADEAC. 'Utilization' describes how the digital archive will become an essential knowledge base for the region through the practical use of digital archives as learning materials in schools. The sustainability of digital archives will be enhanced by the continuation of these activities, which will lead to the avoidance of their disappearance. \end{abstract} キーワード : デジタルアーカイブ、持続性、デジタルアーキビスト、利活用、教材 Keywords: Digital archive, Sustainability, Digital archivist, Utilization, Teaching materials ## 1. はじめに 本稿では、デジタルアーカイブを持続させるという観点で、筆者が関わってきたデジタルアーカイブシステム ADEAC(アデアック)および利用機関の取り組みを捉えてみることにする。 ADEAC (A System of Digitalization and Exhibition for Archive Collections)は、2013年 3 月から、TRC-ADEAC 株式会社において運用を開始したクラウド型プラットフォームシステムです。このシステムの詳細については、2018 年本学会誌の特集:コミュニティ・アーカイブに「ADEACの取り組み」[1] と題して紹介しているので、今回はその後の変更箇所などを取り上げつつ、持続可能性という観点で考察する。 ## 2. ADEAC の現状 2022 年 7 月現在、利用機関数は 135 機関(2018 年本誌掲載時の 1.5 倍)、目録件数 152,303 件 (同 2.6 倍)、画像デー夕件数 89,158 件 (同 3.7 倍)。採用機関数に比して、画像データの数がこの 4 年で飛躍的に伸びている。また 2021 年度の月平均アクセス件数は 565 万回 (PV) と、こちらも 4 年で 3.3 倍という高い伸び率を示している。 4 年前の記事をあらためて読み返してみると、「各利用機関 (発信者) と相談しながら、インターネット利用者に楽しく効果的に活用いたたけるデジタルアー カイブを構築し、ネット上に便利な地域資料のデータベースが出来上がりつつある。と記述しており、当時も利用機関との共同構築を強く志向していたことが分かる。この考えがさらに発展して、現在ADEACは、地域のデジタルコンテンツを創作して発信するためのプラットフォームであるという認識を強く持つに至っている。 デジタル技術の進展により、情報資源を発信する表現方法が飛躍的に増えている。高精細画像はもとより、 とめて最適な方法を駆使し、しかもいつでも容易に見つけ出せるようデータベース化する。こうした一連のノウハウと機能を提供できるのが ADEAC の特徴であると自負している。 ## 3. デジタルアーカイブを持続させるための 4 つの視点 ADEAC の業務経験を通じて、デジタルアーカイブを持続させるという観点で、「共同」「人材」「更新」「利活用」という4つのキーワードをピックアップしてみた。 ## 3.1 共同 前段でも記したとおり、共同は ADEAC の基本コンセプトである。一つの高性能なシステムを構築し、それを皆でシェアすれば、安くていいものが使えるはずだという発想から生まれたシステムである。 デジタルアーカイブを維持する際の課題について、中村覚氏は、(1)サーバーマシンの維持、(2)システムの継続的開発、(3)技術変化への対応・多機能システムの維持、という 3 点を挙げ、その解決手法を提示している[2]。さてこれを図書館や博物館などのアーカイブ機関が単独で実行できるかというと、非常にハードルが高いと言わざるを得ない。OMEKA(オンラインデジタルコレクションで多く用いられているオープンソー ス) $[3]$ 等を使いこなせる技術レベルの人材がアーカイブ機関にいるのが理想だが、現実はそうはなっていない。ADEACはこの部分を補完していると言えるかと思う。 刻々と変わる WEB の技術を追いかけるのは至難の業である。ADEAC は社内の SE のみならず、外部のさまざまな知見を集め、日々陳腐化を防いでいる。これができるのはまさに “共同” の恩恵である。135 の利用機関から得られる資金があって初めてできることである。 デジタルアーカイブを構築・維持するには、システ么面に限らず多岐にわたる技術が必要である。例えば、 デジタル化作業一つ取っても、冊子の単純なスキャンから大型絵図のような大規模な撮影装置を扱う必要があるものもある。近年では $3 \mathrm{D}$ 計測やドローンによるパノラマ撮影、さらにはメタバースなどの空間デザインの知識も必要となってきた。また技術以外でも権利処理に絡む法的知識、それに並行して、資料自体に対する知識や地域文化への見識が必要となる。 デジタルアーカイブは、多くの知識や技術を結集しないと完成しないという特殊性がある。一つのデジタルアーカイブを立ち上げるにしても、常に付きまとう課題であり、ADEAC はこの取りまとめを担っている。 ADEAC の利用機関で成功を収めているデジタルアーカイブは、図書館と博物館、その他関係機関との共同構築である場合が多い。自治体内の各機関が連携することで、市域全体の大きなデジタルアーカイブの構築が可能になる。図書館は情報検索、博物館はキュレーション等々、得意分野は異なっている。さらに足りない部分は地域の大学との連携により補うこともできる。それぞれが予算と人材を持ち寄り、一緒にアー カイブを構築していくことがポイントで、こうした自治体を挙げて取り組まれたデジタルアーカイブは持続性に優れているのは言うまでもない。一般市民も含め、関係者が一体となり相補って進めていく共同=協働は、きわめて重要なキーワードである。 ## 3.2 人材 この協働を担うための人材養成が大きな課題であると考元、当社では 2016 年より NPO 日本デジタルアー キビスト認定機構と連携して、デジタルアーキビストの講習事業を行ってきた。現在では養成機関としての認定を受け、2021 年度は準デジタルアーキビスト講習 6 回、デジタルアーキビスト講習 2 回をオンラインで行い、それぞれ 212 名と 43 名が認定機構より資格を取得している。 準デジタルアーキビスト講習は、1 日(現在はオンデマンドの事前学習の方式となっている) で受講できるコースであることからもわかるように、デジタルアーカイブについて、法と倫理・文化・技術のそ㖫れの基礎のキを学ぶコースで、このライセンスを取得したからと言ってもすぐに実践の役に立つわけではない。デジタルアーカイブを始めるにあたっての心がけ、昔ネチケットと言ったような類を学んでもらうのたが、受講者には思いのほか好評で、「初めて知った」 とか「こういうことを学びたかった」というような感想が返ってくる。これは考えてみれば実に深刻な問題で、アーカイブ機関の職員のみならず、子供の頃から教わり、交通ルール並みの国民の常識となっている必要性を感じる。 例えば、ネットへの揭載の際は資料提供者に敬意を表し必ずクレジットを表示する等の常識が浸透していないので、アーカイブ機関はパブリックドメイン系ツールの CC0 や PDM の表示を敬遠する傾向にある。 また揭載の許諾を得る際、このことを資料提供者が理解していれば現在費やしている膨大な権利処理の手間が省け、デジタル公開のハードルが一気に下がるであ万う。「ジャパンサーチ・アクションプラン20212025」13. (5に「アーカイブ機関が安心してオープン化できるよう、CC0、PDM 等のオープンデータであってもデジタルコンテンッの利用に当たっては必ず出典を記載するなど、活用者の情報リテラシーを高める活動を行います。」とある[4]。専門職の養成と並行して ネット社会の底上げがデジタルアーカイブの維持にとってどれだけ重要だろうか。この遠大な取り組みに大いに期待したい。 ## 3.3 更新 デジタルアーカイブを維持するための方策として、継続して“作り続ける”ことの有効性を挙げたい。補助金等で一度大きな予算を取ってそれっきりというところが、ADEAC の利用機関の中でも相当数ある。新たなコンテンツを追加しないと確実に利用率は下降していく。もち万ん出来上がったものをうまくキュレー ションし、アピールしていく手はあるが、そのことは次項の利活用に回し、ここでは更新がいかに有効かということについて述べる。 ADEACでもっとも更新頻度が高いのは、豊島区 (東京都)「としまひすとりい」である[5]。トップページの「おしらせ」を見ると、ほぼ月 1 回の更新を行っていることが分かる。こちらは「豊島区史」の平成編を WEB 上に構築するという方針により長期計画で進めており、その PRサイトを兼ねている。区史が出来上がるまでに、さまざまな市民目線の企画を立てて、デジタルアーカイブを構築している。この取り組みについては『デジタルアーカイブ・ベーシックス 5 新しい産業創造へ』に弊社太田亮子が詳しく記述しているので参照されたい $[6]$ 。 2 番目は、日本ラグビー・フットボール協会の「日本ラグビーミュージアム」である ${ }^{[7]}$ 。こちらは日本協会主催試合や国際試合があるたびに更新が掛けられている。アクセス数がその都度跳ね上がり、年間を通して安定成長しており、理想のモデルと言えよう。 2022 年 11 月に全面稼働予定の ADEAC 新バージョンでは、利用機関側でデータの登録と更新ができるようになる。これにより各機関の更新頻度が飛躍的に上がり、アクセス数の増加につながるものと期待している。さらにはこうして日々作られたデータが、OAIPMH により毎週、NDLサーチを経由してジャパンサーチに供給されていく。世界中の人目に晒されることで、より一層需要が高まり、デジタルアーカイブの好循環が生まれる。 このように登録と更新業務を日々の仕事とすることでジャパンサーチが謳っている「デジタルアーカイブを日常にする」 $[8]$ ということがアーカイブ機関側に浸透したら、消滅とはまったく縁遠いものとなるであ万う。 ## 3.4 利活用 自治体でも企業でも、活用されていないものの予算 は削減され、消滅の危機に瀕するのは必至である。「デジタルアーカイブをいかに活用するのか」というテーマは、アーカイブ機関のみならず、多くの関係者から注目されている。特に学校での利活用は誰もが思いつく、もっともポピュラーな出口(解)なのだが、実践できている例はまだまだ少ない。 昨年この問題を本格的に研究している東京大学大学院の大井将生氏を弊社の研究員に迎元、大井の企画. デザイン・ファシリテートのもと、教材化ワークショップ事業として本腰を入れて取り組んできた。教員とアー カイブ機関の面々が小人数で話し合い、アーカイブ機関側が資料を紹介し、教員側がその資料なら「こんな授業展開に使える」とか「こんな問いが生まれるかも」等々議論を重ねることで、両者間で新しい気づきが生まれ、単なる資料から教材に生まれ変わっていくという取り組みである。この成果を「 $S \times$ UKILAM:Primary Source Sets/スキラム連携:多様な資料を活用した教材アーカイブ」として ADEAC サイトで公開している ${ }^{[9]}$ 。現在 62 点の教材が出来上がっているが、これを見ると、デジタルアーカイブは教育現場にとっては素材でしかなく、日々の授業に使うためにはそれを少し加工する必要があるということがよく分かる。卑近な例で言うと、アーカイブ機関側は一生懸命おいしいコメを提供しているが、先生が必要としているのは “すぐに食べられるご飯”なのである。ここにミスマッチが生じていることに気が付いている人は案外少なく、このワークショップによる実践は、参加者にこのことに気づいてもらう機会となっている。 大井は研究論文の中で、デジタルアーカイブの現状として以下 3 点を指摘している ${ }^{[10]}$ 。1.デジタル資料に利活用を促進するための機能や工夫が十分になされていない。2.デジタル資料の二次利用条件が厳しい、 あるいは不明膫である。3. 情報が溢れる中で、ユーザが求める適切な資料にアクセスしづらい。 したがってアーカイブ機関は、この指摘を受け止め 「作ったデジタルアーカイブをいかにして学校で使ってもらえるか」という従来の発想から、「学校で使ってもらうために、どう作ればいいか」という発想に変える必要がある。例えば二次利用条件であるが、授業で使うためには、その都度許諾を取ることは非現実的なので、CC0 P CCBY など一目でわかる表示が必須であるということが実感としてわかるだろう。 アーカイブ機関として大切なのは、教員に対しての情報発信とコミュニケーション、そして加工しやすい素材提供であろう。こうした地道な活動により、地域になくてはならない存在、すなわち消滅しては困るも のになるはずである。実際にデジタルアーカイブを使った授業の例として、昨年伊賀市で行われた「地域のデジタルアーカイブ資料を活用した授業実践 : 公立小学校 1 年生から 6 年生までを対象とした、発達段階に応じた資料活用学習の様子〜GIGAスクール構想における ICT 活用の新しい形〜」を、ADEAC YouTube チャンネルで公開したところ、4,000回を超える再生回数を記録している[11]。これを見るとデジタルアーカイブと学校の授業の親和性が高いことが一目瞭然であり、大いに勇気づけられる。 また大網白里市デジタル博物館を構築・運用している武田剛朗学芸員は、「地方史研究」で、「小学校の総合学習や社会科の授業で活用できるように教職員向けの活用法の研修会を実施したところ、「デジタル博物館を使って、大網白里市の歴史・文化を調べて新聞にしよう」というテーマの課題が出され、小学生にも活用されている」と述べている[12]。このほか、浜松市教育研究会小学校社会科研究部の教材研究部では、今年度デジタルアーカイブを使った学習が取り上げられ、本格的な教材研究としての取り組みが始まっている。徐々にではあるが、デジタルアーカイブを使った授業が実現しており、いつか燎原の火のごとく全国に然え広がることを期待している。デジタルアーカイブ不要論など消滅するに違いない。 ## 4. おわりに ADEAC の業務を通じて、持続可能性ということを 4 の視点から捉えてみた。日々悩みながら試行錯誤で進めている一端が多少なりとも伝えられたかと思う。縷々述べてきたようにデジタルアーカイブは、多くの人の知識や技術の結集によって完成するという特殊性がある。ADEAC では共同という理念で、人と人、組織と組織をつなぐことで様々な課題を乗り越えてき た。デジタルアーカイブの消滅は我々にとって文字通りの死活問題である。これからも多くの方々の知恵を借りながら、デジタルアーカイブの維持・発展に貢献したいと思っている。 ## 註・参考文献 [1] 田山健二. 特集:コミユニティ・アーカイブ「ADEACの取り組み」. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, 2(4), p.324-329. doi.org/10.24506/jsda.2.4_324 [2] 中村覚, 高嶋朋子. 持続性と利活用を考慮したデジタルアー カイブ構築手法の提案. デジタルアーカイブ学会誌. 2021, 5(1), p.57-60. [3] Omeka. https://omeka.org/ (参照 2022-07-31). [4] ジャパンサーチ・アクションプラン2021-2025. https://jpsearch.go.jp/about/actionplan2021-2025 (参照 2022-07-31). [5] としまひすとりい. https://adeac.jp/toshima-history/top/ (参照 2022-09-10). [6] 太田亮子.“デジタルアーカイブを活用した自治体史編さん事業の提案”. 新しい産業創造へ (デジタルアーカイブベー シックス5).勉誠出版, 2021, p.174-196. [7] 日本ラグビーデジタルミュージアム. https://adeac.jp/jrfu/top/ (参照 2022-09-10). [8] ジャパンサーチ戦略方針 2021-2025. https://jpsearch.go.jp/about/strategy2021-2025 (参照 2022-07-31). [9] S $\times$ UKILAM:Primary Source Sets/スキラム連携:多様な資料を活用した教材アーカイブ. https://adeac.jp/adeac-lab/top/SxUKILAM/index.html (参照 2022-10-07). [10] 大井将生. デジタルアーカイブの教育活用をめぐる可能性と課題一実践を例に一. カレントアウェアネス. No. 352, CA2018, 2022年06月20日. https://current.ndl.go.jp/ca2018 (参照 2022-07-31). [11] YouTube. 2021-11-04. https://www.youtube.com/watch?v=g8HprVP1TGU (参照 2022-08-05). [12] 武田剛朗. デジタルミュージアムと地方史研究の関係性一大網白里市デジタル博物館の事例より一. 地方史研究. 地方史研究協議会, 2020年10月, 407号, 70(5), p. 86 .
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# 生物多様性情報の長期保管と長期利用 Long term exploitation of biological diversity data and assurance for the storage 抄録 ・自然央データの代表として生物多桻性情報をとりあげ、その基般となる標本情報の集積・利用上の課題を議論した。国立科学博物館においては、館内のデー夕管理には「標本・資料統合データベース」が、国内の自然史博物館のデータの集積を目的とし て「サイエンスミュージアムネット (S-Net)」がある。両者のシステム導入とデータの長期保管・長期利用における課題をスペック、仕様書、長期の維持と保証、データフォーマットとデータ移行の点から比較した。これらの観点に加え、今後は外部連携・セキュ リティなどが評価できる人材の育成や、システム構築のノウハウ共有が大切である。 Abstract: Biodiversity information represents natural history data. We discussed issues related to the accumulation and long-term use of basic information associated with specimens. The National Museum of Nature and Science has the "Collection Databases of Specimens and Materials" for in-house data management and the "Science Museum Net (S-Net)" for the accumulation of data from other domestic natural history museums. We compared these two systems in terms of implementation, issues involved in long-term storage and use of data, specifications, long-term maintenance and assurance of the systems, and data format and data transfer. In the future, it will be important to have trained personnel who can evaluate external collaboration, security, etc., and share know-how on system construction in addition to these perspectives. キーワード:Infolib、サイエンスミュージアムネット(S-Net)、仕様、ダーウィンコア、データ集積、標本・資料統合データベース、 Musetheque、連携 Keywords: Infolib, Science museum net, specification, Darwin core, data accumulation, Collection databases of specimens and materials, Musetheque, engagement ## 1. はじめに 本稿では、自然史データの代表的なものとして生物多様性情報の長期保存・長期利用を取り上げる。生物多様性情報とは、端的に言えば生物名など、生物多様性に関わるさまざまなデータを指す。その根幹をなすのは、「いつ、どこに、どんな生物がいたか。そのデー 夕は何によって担保されるか(時間・空間・生物名$\cdot$証拠)」を表す複合的なデータで、オカレンス・デー 夕と呼ばれる。いつ、どこでという情報は、特定の時刻や長さをもった期間で表される。どんな生物が、という情報は、和名や学名で与えられる。最後の「証拠」 には、証拠標本 (標本番号) 、肉眼や機械により取得された写真等の情報、文献上の情報などが該当する。 生物多様性情報のデー夕は、多数集まってこそ価値を発揮する。たとえば、ある場所での植物 A の生育記録は、1つのデータポイント(オカレンス・データ) として意味がある。しかし、同じ時期に異なる場所から得られたもっと多くのオカレンスは分布を議論するデータとなるし、期間をもって得られたデータは、開花や結実など季節性の参考データとなる。このように、生物多様性情報は、生物分類学、季節性(フェノロ ジー)研究、種の絶滅や固有種、侵入種などの保全生態学、種の分布モデル化など、さまざまな学問分野でますます利用されるようになってきている。さらに、 いわゆる人新世時代にもたらされた生物多様性への脅威や世界的な気候変動のために著しく関心が高まっている $[1-8]$ 。 では、デジタルデータとして蓄積された生物多様性情報を長期的に利用可能な形で公開・共有するにはどうしたらよいだろうか。「FAIR の原則」に従うことが重要である ${ }^{[9]}$ 。これは Findable (見つけられる)、 Accessible (アクセスできる)、Interoperable(相互運用可能)、Reusable (再利用可能) の頭文字を取ったもので、科学的データ公開にあたっての重要な方針を示している。データベースとして公開する場合、“Findable”、 “Accessible”を前提としているので、これらは大きな問題にはならないであろう。“Reusable” については、生物多様性情報の公開にあたっても、政府系組織を中心にいわゆるオープンライセンスの普及が進んできているため[10][11]、問題が解決しつつある。“Interoperable" については、非常に多数のデータを集めて利用するのであるから、デー夕は共通の形式であることが重要で ある。その一方で、限られた分野では、その分野だけに通用する習慣があり、無理に標準化することに抵抗がある場合もあろう。そのため、デー夕の管理上は、分野や現場の実情にあった柔軟性も必要となる。 国立科学博物館(科博)は、約 400 万件の自然史理工系標本を有し、その情報をデジタル化して公開するととともに、日本各地の地方博物館や研究所・大学などからデータの提供を受け、それらを集積したデー タベースとして公開してきた。以下、本稿では、これらの活動を通じて得られた経験をもとに、データの長期保存・長期利用に関して議論する。 ## 2. 科博で管理されている生物多様性情報 ## 2.1 標本・資料統合データベース ${ ^{[12]}$} 標本・資料統合データベースは科博の 5 研究部 (動物 ・植物 ・地学 - 人類 - 理工学) に保存されている標本・資料データ、および附属自然教育園などの生物データ(生物季節・毎木調査)を統一のプラットフォームで管理・公開可能としたデータベースシステムで、2022 年 7 月 16 日現在 $2,391,352$ 件のデータが公開されており、その約 70 \%が生物標本に由来する (図1、左上の部分)。本システムは、富士通(株)社の Musetheque というパッケージソフトウェア(以下、 パッケージ)を利用して稼働している。Musetheque は多様な標本・資料を含む収蔵品とそのデー夕を柔軟かつ統合的に管理できるパッケージであり、データ公開機能も持っている。本パッケージは 2008 年に導入され、およそ 4 年に 1 回の大きな更新を続けながら維持されている。本システムは、研究者が日常の標本管理に使用することが前提とされたため、各分野から要求される、非常に多様な情報管理上の習慣に対応する必要があった。カバーしているデータベースの項目も標本群によって異なるため、当初の使用者のニーズの汲み取りと設計などは困難を極めた。また、機能はパッケージに強く依存するため、必要なニーズの実現が難しい場合もあった。 ## 2.2 サイエンスミュージアムネット $(\text { S-Net )^{[13]}$} 本データベースシステムでは、2022 年7月 16 日現在、日本全国の 108 機関から提供を受けた 452 のデー タベース (データセット)に由来する 6,606,253 件のデータが維持されている(図19左下および右側)。本システムは、当初、統合データベースと同じく Musethequeを用いて構築された。S-Net は統一された形式でデータを収集しているため、統合データベースとくらべて、データベースの構造は均一・単純である。一方で、利用者は大量のデータを横断的に検索するため、提供元からのデータセットを統合し、非常に多くのデータを効率よく検索できるような、高度な検索機能と使いやすいユーザーインターフェースが求められた。多様な収蔵品の保存・管理という Musetheque の方向性はこれに対してミスマッチであり、パッケージによる機能の制約も問題であった。そのため、2018 年に、パッケージをより汎用なデジタルアーカイブ公開システムであるインフォコム社の InfoLibに切り替えた。あわせて、標本データ項目の追加、機関情報やデータセット情報を充実させたほか、検索インター フェース見直し、パーマネントリンクやウェブ API など、ユーザ体験やシステム連携に重要な機能の追加も行い、システムの機能自体を大きく刷新させた。 S-Net システムも 4 年に 1 回の大きな更新を続けながら維持されており、システム入れ替え後も 2022 年に大規模更新をして現在に至っている。 なお、標本・資料統合データベースから公開されている自然史標本データも、データ形式を変換して S-Net に提供されている。さらに、S-Net のデータは、世界的な生物多様性データ共有プラットホームである地球規模生物多様性情報機構(GBIF:Global Biodiversity Information Facility)に提供されており、GBIF に存在する 20 億を超える(2022 年 7 月 16 日現在)デー夕の一部となり、世界的なスケールでの利用に供されている[14]。また、全国の自然史標本データの「つなぎ役」 としてジャパンサーチにもデータを提供している[15]。 図1科博およびデータ提供機関からのデータ収集とS-Netへの提供を示す概念図。個々のデータベースの共通部分 (着色された四角)をS-Netに提供している。 ## 3. 課題 上述のシステム導入・維持で経験した課題を議論する。 1)スペック:上述のいずれのシステムにおいても、大量デー夕の適切な保存・管理が求められる。これに対応できる体制は館内にないため、外部調達が必要で ある。ここで問題になるのは、ニーズとの不一致、 パッケージ機能の限界、極端なオーバースペックによるコスト増大などである。大規模データベース用のパッケージの選択肢は狭い一方で、複数パッケージを比較する情報はそしく、ニーズとマッチする適切な製品を最初の段階で選ぶのは非常に困難であった。また、 パッケージと業務との間のギャップを埋めるには、業務をパッケージに合わせる形に近づけつつも、必要に応じ追加開発を依頼することになる。さらに、館の方針にあわせ、使いながらデータベースの修正を繰り返すことも多い。これらの開発をべンダーに外注すると、高コストにならざるを得ない。事前算出はほぼ不可能な状態で十分な予算の確保はしばしば難しく、優先順位の高い希望以外は実現できないことが多い。 2)仕様書:導入にあたっては、かなり高額な買い物となるので、競争入札が必要な案件となる。そのため、導入する側は仕様書を策定する必要がある。しかし、事前のニーズ汲み取りはかなり難しく、仕様書を書いているのも研究者であって、発注に慣れた専門職ではない。民間企業だと、事前の相談も自由にでき、共同で開発・設計できるのだが、現状の体制ではそのようなことはできず、極めて手探りの状態で仕様書を作成也ざるをえない。これは研究者にとって非常に大きな負担である。さらに、時代とともに変化するセキュリティやデータ管理方針への対応といった非機能的要件については、本来は研究者ではなく専門職が要件を設定すべきである。費用対効果を高めるためにも、設計の適切性をきちんとチェックできるような体制も必要である。 3)長期の維持と保証:いったん特定のパッケージを導入すると、できることはそのパッケージに依存したものとなる。また、一般のソフトと同様に大型システムにも製品寿命があり、OS などの基幹ソフトウェアを含めた更新が定期的に必要となる。後継パッケー ジで機能の改善や追加が行われることで、業務の問題を解決できることも多いが、館のデータベースの運営方針、セキュリティやデータ管理方針の強化に対応できていないと、後継パッケージの利用ができなくなるおそれもある。また、後継パッケージが出るという保証はないため、システムに高度に依存していわゆるべンダーロックイン(特定のベンダーのパッケージに依存してしまい、他のパッケージへの乗り換えが困難になる状態)になっていると、サポートが打ち切られた場合にデータベースの運営が立ち行かなくなる可能性もある。さまざまな外的変化は、発注側にはどうにもならないことが多く、対応できることを祈るしかない。 4) データフォーマットとデータ移行:パッケージ を切り替える際に最も重要なのは、データを新旧のシステム間で漏れなく移行できるかどうかである。 S-Netでは大量データを扱いやすいようデータ形式が統一されていたことで作業量を抑えられた。また、長期的なパッケージの利用にあたっては、汎用データベースのバックアップファイル(ダンプファイル)や $\mathrm{CSV}$ 等のテキストファイルなど、一般的に利用可能な形でのデータのエクスポートやインポートをする機能があることを確認しておくことが必要である。 な扮、生物多様性情報に関しては、ダーウインコア (Darwin Core, DwC)という国際的な語彙の規格があり、データの項目名やフォーマットが決められているため、S-Netのデータ形式もこれを元に設計されている[13]。もちろん、このフォーマットに従わないという自由もあるが、相互利用性を考えた場合、やはり 「長いものには巻かれ」た方が賢明といえる。このフォーマットが普及し定着するにも時間がかかったが、現在ではほぼかなりの普及率で受け入れられ、最初のデータからこの形式が意識されていることが多い。 ## 4. おわりに いままでの経験を通じて、パッケージの選択にあたっては、区切りの良いタイミングで振り返りを行い、 ニーズをできるだけ明確にするのが有効な手段であると考えられる。実際、S-Net システムはベンダーの変更によって、新たな制約や問題など今後に課題も残るものの、多くの問題が解決できた。一方、標本・資料統合データベースについては、ユーザからのニーズを踏まえたパッケージのバージョンアップによる利便性向上や機能追加もあり、当初のパッケージで大きな問題なく運営できている。 GBIF が 2012 年に行った有識者会議をもとにして作成した報告書「地球規模生物多様性情報概況(Global Biodiversity Informatics Outlook:GBIO)では、生物多様性情報を利用する基盤の課題の一つとして長期保存が挙げられている[16][17]。特に、運用終了したレガシーなシステムでのデー夕消失を避けるため、安定的かつ永続的なデータアーカイブを国や世界レベルで構築すること、組織においては安定的な識別子や長期的なアクセス担保への構築が提言されている。標本・資料統合データベースは組織内な取り組み、S-Net は、二次的ではあるが国の自然史標本データを集約・公開していると言う意味では、組織的なものと国のデー夕アーカイブの中間と位置づけられる。 今後、生物多様性情報を含む自然史情報は、画像動画・音声・遺伝子情報など関連情報とリンクするこ 図2 GBIOで図式化された生物多様性情報学の枠組み ([16]より引用、CC BY) 「永続的利用とアーカイブ」はもつとも基盤となる“文化”のカテゴリーに位置している。また、それぞれのピクトグラムの下に記された棒の数は、進展状況を示し、当該分野があまり進んでいないことを示している。 とが進められ、管理が複雑化することが予想される[18]。デジタルアーカイブという観点からも、画像をはじめとするマルチメディアデータの公開と共有は重要である。また、蓄積のスピードが極めて早く、 データ数が多いことも課題となる。これらの課題に対応するには、ハードウェア、ソフトウェア両面について、スペックの向上が必要となる。また、国も推奖するクラウドの利用は、機関にサーバを設置するいわゆるオンプレミス環境に比べて、機関内でのサーバの維持管理に関するコストダウンや、安定したデータやシステムのバックアップが期待できる点は大きな利点であろう。一方で、現時点ではオンプレミス環境と比較して高額になるため導入しづらいという課題がある。本稿で紹介した国立科学博物館が運営している生物多様性情報に関する 2 つの大規模データベースは、その性格の違いもあり、利用パッケージ等を工夫しながら現在まで運営してきた。現在、データベースは単なるデータ検索システムだけではなく、データの長期保存や外部連携などの機能面、クラウドを含むサーバ構成やセキュリティなどの非機能面を含め、多角的な検討の上で設計・実装することが求められる。そのため、 デジタルアーキビストのような専門的知識を持った人材の重要性は今後大きく増すと考える。組織を越えてシステム構築のノウハウを共有するような取り組みも今後検討する必要があるだろう。 ## 註・参考文献 [1] Page, L.M.; MacFadden, B.J.; Fortes, J.A.; Soltis, P.S.; Riccardi, G. Digitization of biodiversity collections reveals biggest data on biodiversity. BioScience 2015, 65, p.841-842. [2] Willis, C.G.; Ellwood, E.R.; Primack, R.B.; Davis, C.C.; Pearson, K.D.; Gallinat, A.S.; Yost, J.M.; Nelson, G.; Mazer, S.J.; Rossington, N.L.; Sparks, T.H.; Soltis, P.S. Old Plants, New Tricks: Phenological Research Using Herbarium Specimens. Trends in Ecology \& Evolution 2017, 32, 7, p.531-546. [3] Hedrick, B.P.; Heberling, J.M.; Meineke, E.K.; Turner, K.G.; Grassa, C.J.; Park, D.S.; Kennedy, J.; Clarke, J.A.; Cook, J.A.; Blackburn, D.C.; Edwards, S.V.; Davis, C.C. Digitization and the Future of Natural History Collections. BioScience 2020, 70, 3, p.243-251. [4] Andrew, C.; Diez, J.; James, T.Y.; Kåuserud, H. Fungarium specimens: a largely untapped source in global change biology and beyond. Phil. Trans. R. Soc. B. 2019, 374, 1763, 20170392. [5] Heberling, J.M.; Prather, L.A.; Tonsor, S.J. The Changing Uses of Herbarium Data in an Era of Global Change: An Overview Using Automated Content Analysis. BioScience. 2019, 69, 10, p.812-822. [6] Canteiro, C.; Barcelos, L.; Filardi, F.; Forzza, R.; Green, L.; Lanna, J.; Leitman, P.; Milliken, W.; Morim, M.P.; Patmore, K.; Phillips, S.; Walker, B.; Weech, M.H.; Lughadha, E.N. Enhancement of conservation knowledge through increased access to botanical information. Conserv. Biol. 2019, 33(3), p.523-533. [7] 細矢剛. 博物館の生物多様性情報の利用〜世界の潮流と日本の現状〜.金属. 90(9), p.29-34. [8] 細矢剛. 自然史情報のデジタルアーカイブと社会的問題への利用. デジタルアーカイブベーシックス3: 自然史・理工系研究データの活用井上透, 中村覚(編), pp.112-132. [9] データ共有の基準としてのFAIR原則. https://biosciencedbc.jp/ about-us/report/fair-principle/ (参照 2022-07-17). [10] 大澤剛士, 神保宇嗣, 岩崎亘典.「オープンデータ」という考え方と、生物多様性分野への適用に向けた課題. 日本生態学会誌. 2014, 64, p.153-162. [11] 大澤剛士, 三橋弘宗, 細矢剛, 神保宇嗣, 渡辺恭平, 持田誠. GBIF日本ノードJBIFの歩みとこれから:日本における生物多様性情報の進むべき方向. 保全生態学研究. 2021, 26, p.345-359. [12] 大野理恵, 細矢剛, 真鍋真. 科博の統合データベース:科学系博物館のデータベースの一例として. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4(2), p.211-213. https://doi.org/10.24506/jsda.4.2_211 および http://db.kahaku.go.jp/webmuseum/ (参照 2022-07-17). [13] 細矢剛, 神保宇嗣, 中江雅典, 海老原淳, 水沼登志恵. 自然史標本データベース「サイエンス・ミュージアムネット」の現状と課題. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, 2(2), p.60-63. https://doi.org/10.24506/jsda.2.2_60 および https://science-net. kahaku.go.jp/ (参照 2022-07-17). [14] 細矢剛. 地球規模生物多様性情報機構GBIFの働きと役割.日本生態学会誌. 2016, 66, p.209-214. [15] 向井紀子, 高橋良平, 中川紗央里. ジャパンサーチの連携コンテンツの概況及び連携拡充に向けて. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4(4), p.333-337. https://doi.org/10.24506/jsda.4.4_333 [16] 地球規模生物多様性情報概況(意訳・拡大版) https://www.gbif.jp/v2/pdf/2251ja.pdf (参照 2022-07-17). [17] 大澤剛士, 細矢剛, 伊藤元己, 神保宇嗣, 山野博哉. 日本における生物多様性情報概況一生物多様性情報概況GBIO 9 和訳公開と国内動向一. 日本生態学会誌. 2016, 66, p.215-220. [18] 長太伸章, 細矢剛. 博物館の生物標本の意義とさらなる活用. Milsil. 2019, 12(2), p.3-5.
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# 東日本大震災アーカイブの閉鎖: ひなぎくによる承継の試み The closing of archives related to the Great East Japan Earthquake disaster and the acquisition of archival content by the National Diet Library Great East Japan Earthquake Archive (HINAGIKU) 井上 佐知子 INOUE Sachiko 国立国会図書館電子情報部 } \begin{abstract} 抄録 : 東日本大震災を契機に、震災記録を収集保存するために多様な組織により多くの震災アーカイブが立ち上げられ、国立国会図書館はそれらのポータルとなる東日本大震災アーカイブを公開した。しかし、これらの震災アーカイブの維持運営には様々な課題があり、震災から 10 年以上が経過した現在、維持困難となって閉鎖された事例も出てきている。国立国会図書館は、閉鎖され た一部の震災アーカイブの資料を承継して公開を続けており、承継に伴う権利処理など様々な課題に取り組んでいる。本稿ではそ の経験に基づきアーカイブの閉鎖とそれに伴う課題について述べる。 Abstract: In the aftermath of the Great East Japan Earthquake, any number of archives were established to preserve records of the disaster. Now, more than 10 years since the disaster struck, difficulties related to maintenance and operation have caused many of these archives to close. In order to ensure that this content remains available to the public, the National Diet Library has taken over materials from many closed archives, but in doing so has had to deal with a variety of issues, such as handling the rights associated with the content. This paper discusses the closure of these archives and the challenges associated with acquiring their content. \end{abstract} キーワード : アーカイブ閉鎖、アーカイブ承継、権利処理 Keywords: closure of archives, acquisition of archival content, handling rights ## 1. はじめに 2011 年 3 月 11 日の東日本大震災を契機として多くの震災アーカイブが立ち上げられた。国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(愛称:ひなぎく)(以下、「ひなぎく」という)はそれらアーカイブのポータルサイトとして公開され、間もなく 10 年の節目を迎える。震災後 12 年近くが経過する中で既に閉鎖されたアーカイブも存在し、またいくつかの震災アーカイブは事業の終了を検討する段階にある。貴重な震㷋記録を後世に引き継ぐために、国立国会図書館は閉鎖された震災アーカイブを承継し、ひなぎくで公開している。本稿ではその経験に基づきアーカイブの閉鎖とそれに伴う課題について述べる。 2. 東日本大震災アーカイブとひなぎく 2.1 震災を機にしたアーカイブの普及 平成 23 年 7 月の「東日本大震災からの復興の基本方針」[1] は、大震災の教訓を踏まえた国づくりの一環として、「地震・津波災害、原子力災害の記録・教訓の収集・保存・公開体制の整備を図る」こと、及び 「記録等について、国内外を問わず、誰もがアクセ久可能な一元的に保存・活用できる仕組みを構築」することを揭げた。 これを受けた総務省の「東日本大震災アーカイブ」基盤構築プロジェクト ${ }^{[2]} により 、 「$ 震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン」[3](以下、「総務省ガイドライン」という)の作成及びデジタルアーカイブの運用モデルの実証事業が行われた。実証事業は被災地 3 県と青森県の 4 地域で自治体、学術機関、報道機関等が関与する 5 件が実施され、最終的に5つのアーカイブ[4] が公開された。この他にも官民問わず多様な団体よるアーカイブが順次公開され、その数は 2019 年の時点で 50 を超え[5]ている。多様な組織が地域や組織の得意分野など各々の特徵を 生かして震災関連資料の収集を行ったことで、記録の蓄積が順調に進み貴重な資料の散逸は避けられた。 ## 2.2 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ (ひなぎく) 国立国会図書館は、総務省と連携して各地の震災アーカイブの資料を一元的に検索できるポータルサイトとしてひなぎくを開発し、平成 25 年 3 月に公開した。他機関アーカイブとの具体的な連携方法などを含めたひなぎくの概要については、デジタルアーカイブ学会誌上で既に報告 ${ }^{[6]}$ されているため、本稿では割愛する。 ひなぎくは、一元的検索機能によって多くの震災アーカイブの資料を利用者に繋ぐことで、全体として国の震災アーカイブとして機能することを目指してきた。ひなぎく構築時の基本方針 ${ }^{[7]}$ では「機関が、それぞれの強みを活かし分担・連携・協力し、全体として国の震災アーカイブとして機能すること」を基本理念の一つとしている。記録等の保存に関しても「保存の意義の周知を行い、国全体として保存が進むように努める」としており、各機関のアーカイブが安定的に維持されることを前提としたものであった。 ## 2.3 アーカイブの持続可能性 短期間に急増した震災アーカイブの持続可能性について、懸念がなかったわけではない。総務省ガイドラインでは、データの長期保存等アーカイブの運営に関わる記述の中でひなぎくに言及し、「アーカイブ活動が維持困難となった場合、他に適切な引き受け機関が見つからないときには、国立国会図書館がその記録等を受け入れる、記録保管のラストリゾート機能として ひなぎくの資料収集等について定めた実施計画 $[9]$ でも、「アーカイブ活動が維持困難となり、かつ後継となる機関等が存在しない場合には、当館は当該ア一カイブ機関が収集した記録等を受け入れるものとする」と定めており、将来的なアーカイブの閉鎖とその承継を視野に入れている。たたし、伝統的な図書館類縁機関によるデジタルアーカイブが事業を終了して資料が失われる例は少ないこともあり、ひなぎくによる承継が必要となる機会は限定的だと考えられていた。 ## 3. 震災アーカイブの維持運営の難しさ 3.1 震災アーカイブに特徴的な課題頻繁なシステム更新、資料のインターネット公開に 必要な権利処理等、デジタルアーカイブの運営に関す る課題は既によく知られている。 それに加えて、震熧アーカイブの特色がその維持運営を一層困難にしている面がある。 ## (1)新規に収集される資料の減少 震災関連記録は、その多くが震災直後に作成され、 アーカイブの構築前後に収集されており、震災から時間が経過すれば新たに公開できる資料は自然に減少する。防災教育等のアーカイブ利活用によって新たな資料が追加される好循環があっても、震災前後に生み出された澎大な資料に比べて質・量の面で同等と言える規模にはなり得ない。 アーカイブがより多く利用されるためには新規コンテンツの追加が極めて重要であり、時間経過による震災への関心の低下も加われば、アクセス数の維持も困難となる。 ## (2)権利処理の負担 東日本大震災等直近の震災をテーマとするアーカイブが提供する資料は、多くが震災の前後に作成されたものであり基本的に著作権の保護期間内である。資料には存命者の個人情報や写真・映像資料では肖像が含まれ、利用に際して配慮が必要となる。商業出版物ではなく、作成時に公開を想定していないものであれば、関係する権利者の情報が適切に管理されているとも限らない。権利処理の負担は震災アーカイブに限定される問題ではないが、震災アーカイブにおいては、事務を困難にする条件が重なっていると言える。総務省ガイドライン、デジタルアーカイブ学会の肖像権ガイドライン $[10]$ 等を参考に、収集時に確実に権利処理を行い、公開及び二次利用も含めた提供判断の方針を策定できれば公開後の負担は軽減されるが、 アーカイブの構築時期は震災後の繁忙期でもあり、実現は簡単ではない。 ## (3)運営主体の多様性 震災アーカイブを公開した機関は多様であり、資料や記録の保存と利用提供を中心的なミッションとはしていない組織によるアーカイブも少なくない。結果として、アーカイブの維持が難しい状況になれば、事業の優先度等を勘案して、アーカイブの閉鎖を視野に入れざるを得ないことは容易に想像できる。また、復興期に時限的に設けられた組織であれば、組織廃止の段階でアーカイブの維持が困難となる。 ## 3.2 閉鎖と承継 運営主体がアーカイブ事業の終了を決定した際には、それまで収集した震災記録の扱いが課題となる。 資料の利用希望者が直接運営主体を訪孔るような事態を避け、運営主体にとって負担の少ない形で資料へのアクセスを確保するためには、他機関によるアーカイブの承継が現実的である。 ひなぎくがこれまでに連携した 55 の機関の中だけでも令和 3 年度までに 5 つの震災アーカイブが閉鎖しており、その資料はひなぎくや他の震焱アーカイブに引き継がれた。これにより、アーカイブの閉鎖後も収集された資料は引き続きインターネット上で利用可能となっている。 ## 4. アーカイブ承継の実務と課題 ## 4.1 承継作業の実務 ## (1) 承継先の調整 閉鎖予定のアーカイブから相談を受けた場合、まず国立国会図書館が承継先となることが妥当か検討する。閉鎖アーカイブの承継が可能な機関はひなぎくだけではなく、特に特定地域の資料が中心のアーカイブであれば、同地域の大規模アーカイブ等による承継の可能性を探る。地域内での承継が行われた例としては 「あ打もりデジタルアーカイブシステム」があり、県域のアーカイブである「青森震災アーカイブ」がそのデータを承継した。 ## (2) 承継に伴う権利処理 ひなぎくが承継するのは、原則として以下の条件を満たしたコンテンツである。 (1)承継するコンテンツを当館が利用することについて、承継元が著作権者より許諾を得ていること。 (2)承継するコンテンツを当館が利用することについて、承継元が、コンテンツに記録されている者及びその関係者その他のコンテンツに直接の利害関係を有する者から許諾を得ていること。 (3)承継するメタデータの著作権を当館が利用することについて、著作権その他の権利等の問題がないことを確認済みであること。 既にひなぎくと連携し検索対象となっている震災アーカイブであっても、改めて閉鎖アーカイブの運営主体にこの条件を満たしていることを確認し、承継対象となるデータを特定する。 ## (3)アーカイブデータの取得 閉鎖アーカイブの承継に当たっては、可能な限り、承継するアーカイブの元の情報が残る形で承継されることが望ましい。 そのため、閉鎖予定のアーカイブ上にあるデータの収集は、基本的には国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(Web Archiving Project:WARP)を通じて行われる。日本国内のウェブサイトを保存するこの事業では、震災アーカイブのような検索データベー スは保存されていない場合もあるが、閉鎖が決まったデジタルアーカイブについては、コンテンツの更新の終了後に改めて収集を行い、最新のデータを取得する。 閉鎖予定アーカイブのシステム構成上 WARPでの収集に対応できない、あるいは一部の情報しか取得できない場合は、別途何らかの手段でデー夕の提供を受け、国立国会図書館の電子書庫にそのコンテンツをメタデータと合わせて保存する。 ## (4)ひなぎくでの公開 ひなぎくへのデータ投入テストを行い、表示等を確認の上必要に応じてメタデータを修正して公開用のデータを整える。ここまでの過程に相当の時間を要するため、アーカイブの閉鎖について相談を受けた時点から 1 年以上かかることも珍しくない。 最終的な承継データのひなぎくでの公開時期は、 アーカイブの閉鎖時とする場合もあれば、承継元と調整の上先行して公開する場合もある。 ## 4.2 閉鎖アーカイブ承継の課題 最後に、実際に閉鎖アーカイブを承継した経験から課題と考えられる点を述べる。 ## (1)誰が承継すべきか 震災アーカイブでは、県や研究機関が運営する大規模アーカイブに小規模なアーカイブが連なる形の連携関係がよく見られ、閉鎖予定のアーカイブも他機関と連携済であることが多い。既に連携済のアーカイブや、 その地域のより規模の大きな震災アーカイブなどへの承継によって、地域の震災資料をその地域内で保存していくことができれば、国全体の震災記録の保存の観点からより望ましい。 地域には承継が可能なアーカイブ機関がない場合、資料に地域性がなく引き受け先となりうる自治体のアーカイブに向かない場合、さらに県域のアーカイブ自体が閉鎖に至る場合には、ひなぎくによる承継が選択肢となりうる。 ## (2)承継できる資料とその権利処理 総務省ガイドラインでは、アーカイブを継続できるか不明な機関は権利者からの利用許諾取得時に他機関への移管に対しての同意も得ることが重要 ${ }^{[11]}$ だとし ている。この同意がない場合は閉鎖承継に際して再度許諾を得る手続きが発生し、大規模なアーカイブであれば承継の大きな障害となる。 ひなぎくが承継を行ったのは、平成 26 年 11 月 30 日に閉鎖された陸前高田震焱アーカイブ NAVI の資料を大槌町と分担して収集したのが初めてであるが、この際には国立国会図書館が 7 団体 11 名の著作権者から、新たにひなぎくにて資料を公開することに対する許諾を取得した。権利者数が限定的であったからこそ可能であったことで、その後は 4.1 (2)で述べたとおり、既に同意を得ている資料のみを承継することとしている。 また、閉鎖予定のアーカイブで収集したものの公開に至らなかった記録の取扱いについて相談を受けることもあるが、元々何らかの理由で公開できなかった資料について承継時に問題を解決できる可能性は低い。貴重な震災記録を確実に未来に引き継ぐためにも、資料のデジタル化と承継まで含めた権利処理までは、震災記録を収集した運営主体の手で完了していることを期待したい。 ## (3) 承継後の震災記録の取り扱い 4.1(2)で述べた通り、ひなぎくは関係者から許諾又は同意を得た資料のみを承継するが、それでも、同意の撤回等何らかの原因によって、承継済の資料について公開の中止等の要請を受ける可能性は残る。閉鎖アーカイブの運営主体が地方公共団体等であり、組織解散の可能性が極めて低く承継後も連絡調整が維持される場合は、許諾を受ける際にこのような場合の対応についても確認を行う。 問題となるのは承継後に閉鎖アーカイブの運営主体が解散するなどして問合せも不可能となる場合であるが、国立国会図書館では、平成 29 年に「東日本大震災関係電子情報提供等契約に基づく電子情報の利用制限措置に関する事務取扱要領」[12]を定め、事務手続きを明文化した。幸いこれまでに本手続が必要とされたことはないが、今後も必要に応じて適切な対応を行うことが求められる。 ## 5. おわりに デジタルアーカイブは本来長期にわたり資料へのアクセスを提供するものであり、その閉鎖は安易に選択 されるべきものではない。著作権法改正によりアーカイブ関連の権利制限規定の整備が進められ研究目的のデータ利活用の可能性も広がる中で、それでもアーカイブが維持困難ならば、せめて一度公開された資料を永続的に利用可能とするよう努めることになろう。震災アーカイブとひなぎくの経験がこれについて考える一助になれば幸いである。 ## 註・参考文献 [1] 東日本大震災復興対策本部. 東日本大震災からの復興の基本方針. 平成23年 7 月29日. https://www.reconstruction.go.jp/topics/doc/20110729houshin.pdf (参照 2022-08-10). [2]「デジタルアーカイブ」の普及促進. https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/ 02ryutsu02_03000092.html (参照 2022-08-10). [3] 総務省. 震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン. 2013年 3 月. https://www.soumu.go.jp/main_content/000225069.pdf (参照 2022-08-10). [4]「あおもりデジタルアーカイブシステム」(閉鎖),「陸前高田震災アーカイブNAVI」(閉鎖),「みちのく震録伝」https:// www.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/,「河北新報震災アーカイブ」https://kahoku-archive.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/ kahokuweb/?0, 「東日本大震災アーカイブFukushima」http:// fukushima.archive-disasters.jp/docl (参照は全て 2022-08-10). [5] 柴山明寛「震災・災害アーカイブの役割と歴史的変遷と現状」『災害記録を未来に生かす』2019.8. p. 30 . [6] 伊東敦子「国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく):~東日本大震災の記録を一元的に検索するポータルサイト〜」デジタルアーカイブ学会誌. 2018, vol. 2, no. 4, p.353-358. [7] 国立国会図書館. 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ構築プロジェクトの基本的な方針. 平成24年 5 月 1 日. https://kn2.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8556385 (参照 2022-08-10). [8] 総務省. 震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン. 2013年 3 月. p. 102. [9] 国立国会図書館. 東日本大震災アーカイブ収集等実施計画.平成 24 年 7 月 6 日. https://kn2.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8556386 (参照 2022-08-10). [10] デジタルアーカイブ学会. 肖像権ガイドライン. http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal/shozoken-guideline/ (参照 2022-08-10). [11] 総務省. 震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン.2013年 3 月. p. 148. [12] 国立国会図書館. 東日本大震災関係電子情報提供等契約に基づく電子情報の利用制限措置に関する事務取扱要領. 平成29年 3 月 15 日. https://kn2.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11052066 (参照 2022-08-10).
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# 柴山 明寛 SHIBAYAMA Akihiro 東北大学 災害科学国際研究所 \begin{abstract} 抄録:1990 年頃から国内外でデジタルアーカイブ構想が活発化しはじめ、現在、博物館や図書館、教育機関などで数多くのデジ夕 ルアーカイブが構築されている。その一方で様々な理由によりデジタルアーカイブが消滅している現状がある。デジタルアーカイ ブが消滅する理由としては、デジタルアーカイブを運営する組織的な課題とデジタルアーカイブのシステム的な課題があると考え る。そこで本総論では、デジタルアーカイブが消滅する理由について「組織的な課題」と「システム的な課題」を概説するとともに、救済方法についても概説する。 Abstract: From around the 1990s, the concept of digital archives became increasingly popular both in Japan and overseas, and many digital archives are currently being built in museums, libraries, or educational institutions. At the same time, digital archives are facing various challenges, that lead to many not being sustainable and disappearing after a while. This paper outlines "organizational issues" and "systemic issues" which are commonly regarded as major reasons for the disappearance of digital archives and discusses ways to make counteract these problems and make digital archives more sustainable. \end{abstract} キーワード:デジタルアーカイブ、デジタルアーカイブの消滅、デジタルアーカイブの救済 Keywords: Digital Archive, Disappearing the Digital Archives, Rescuing the Digital Archive ## 1. はじめに デジタルアーカイブという言葉は、ここ数年、数多くのメディアに取り上げられている。つい最近見聞きした方には、「デジタルアーカイブの消滅と救済」の特集テーマに驚いている方もいるかもしれない。さらに、本誌の発行元であるデジタルアーカイブ学会も 2017 年 5 月に設立されたことからも、これからの技術だと思われている方も多いかもしれない。しかし、 デジタルアーカイブの技術や構築は、つい最近生まれたものではなく、1990 年代から EU や米国で活動が開始されており、既に 30 年以上の歴史がある ${ }^{[1]}$ 。日本国内においても、1996 年からデジタルアーカイブ 後、日本国内において、徐々にデジタルアーカイブを構築されはじめ、2010 年以降に自然災害関連のデジタルアーカイブが数年の間に数多く構築され、50を超えるウェブサイトが公開された[ $[4]$ 。 30 年以上の歴史があるデジタルアーカイブではあるが、様々な理由により消滅している。その理由は、 いくつもあると考えるが、著者の経験から大きく分けて2つがあると考える。まず 1 つとしては「組織的な課題」もう1つは「システム的な課題」と考えられる。「組織的な課題」とは、運営組織の問題や担当者の異動、方針の転換などの理由により、維持が困難になる課題である。次に「システム的な課題」については、 ハードウェアの耐用年数等によるリプレイスの課題やセキュリティ等に起因するソフトウェアの更新の課題、コンテンツデータのマイグレーションの課題などで、維持が困難になる課題がある。また、どちらも共通する課題として、維持管理のための人件費やシステムの費用などの課題があると言える。 そこで本総論では、デジタルアーカイブが消滅する理由について「組織的な課題」と「システム的な課題」 の2つについてする。 ## 2. デジタルアーカイブの消滅についての組織的な課題 デジタルアーカイブは、デジタル化の技術の発展や 安価なクラウドコンピューティングの存在により、個人でもデジタルアーカイブが構築できる時代となって いる。しかしながら、膨大なコンテンツを保有もしく は一から収集する場合には、個人では限界があると言 える。例えば、コンテンツの収集から著作権処理、デ ジタル化、分類整理、メタデータの作成、保存、デジ タルアーカイブの構築などの膨大な作業時間がかか り、また、人件費や維持管理費など、費用も膨大にか かる[4]。そのため、大規模なデジタルアーカイブの構 築には、組織的に行われていることがほとんどである。 しかし、運営母体がしっかりした組織だとしても、様々な理由によりデジタルアーカイブの廃止などが起こる。 ## 2.1 組織的な課題 組織的な課題として、東日本大震災の震災デジタルアーカイブの構築団体の事例を示したいと思う。2011 年東日本大震災が発生した以降、50を超えるデジタルアーカイブが構築されているが、わかっているだけで5つの団体のサイトが閉鎖している。閉鎖した団体は、コンソーシアム 2 団体、法人 1 団体、企業 1 団体、自治体 1 団体となっている。コンソーシアムは、組織が解散ともにサイトを閉鎖している。その他の団体は、東日本大震災から 10 年を契機に閉鎖している。また、 その他の団体についてもサイト自体の閉鎖はしていないもののコンテンッの追加・更新していないサイトも数多く存在する。 アーカイブの閉鎖やコンテンツの更新等がなされていない原因としては、担当者の異動や担当部署の変更、方針の転換、構築当初に揭げた目的や意義の達成もしくは目的や意義が薄れたことによるものと考えられる。特に、構築当時の担当者から複数の代替わりがあり、現在の担当者に構築当時の思いや目的、意義などが伝わっていないことである。多くの組織では、人事異動などが $2 \sim 3$ 年単位で行われている。さらに震災デジタルアーカイブの構築している団体の多くは、既に 3 代目や 4 代目の担当者になっていることが多い。 また、年月が経過すると組織の長も交代することもあり、組織全体の方針の転換などでも起こり、当時の目的や意義などがその方針に反映されないこともある。 これは、震災デジタルアーカイブのことだけではなく、様々なデジタルアーカイブを構築している組織や団体に言えることだと考える。また、震災デジタルアーカイブに関しては、震災復興が一段落もしくは終了することで、目的や意義が達成したと考えてしまい、コンテンツの収集や更新を止めるなどが起きている。これは、収集することが目的化してしまい、その後の活用まで目が向けられていないことたと言える。 ## 2.2 維持管理費用の課題 デジタルアーカイブを構築する上で、初期構築費用の確保以上に維持管理費用の確保が重要と言える。もち万ん、初期構築費用が潤沢でなければ、目的の量のコンテンッのデジタル化や大量のメタデータの付与などが実現できない。しかしながら、維持管理経費を考 えた場合、データ容量が多くなれば、システムやサー バ機器、長期保存体制等の規模も大きくなり、維持管理経費が増大することなる。また、その管理に見合つた人件費の確保も必要となる。 震災デジタルアーカイブの構築では、国等から多くの初期構築費用の予算が配分され、当初は、それに見合う維持管理経費が計上することができたが、上述の組織的な課題もあり、徐々に費用が削減される団体もある。さらに、ハードウェアのリプレイス時期に予算確保できない課題なども発生している。 ## 3. デジタルアーカイブの消滅のシステム的な 課題 デジタルアーカイブの消滅の理由として、ハードウェアの耐用年数等によるリプレイスの課題やセキュリティ等に起因するソフトウェアの更新の課題、コンテンツデータのマイグレーションなどの長期保存の課題などのシステム的な課題がある。 本課題は、担当者が十分理解している必要性はあるが、もっとも重要なのは、その上長や予算を管理している担当者が知っておく必要な事項である。現在、インターネット上の多くの情報は、インターネットに接続する環境があれば無料で閲覧できる。そのため、 ウェブページの構築に携わったことがなければ、構築や運用にどの程度の費用がかかっているかわからないことが多い。さらに、構築や運用費用だけでなく、 ウェブシステムやハードウェアのトラブル、セキュリティのインシデントが発生した場合、それを対処するための費用も必要となる。大規模かつ複雑なシステムほどトラブルが発生した場合、一筋縄で解決が難しく、多くの時間と費用を要してしまう。担当者はもち万んのこと、意思決定を行う上長が、十分な IT リテラシを持っていなければ、システムの運用維持ができなくなることや長期運用のための課題を見過ごしてしまうことにもなる。 ## 3.1 ハードウェアの課題 デジタルアーカイブを構築する上で、サーバ機器の存在は欠かせない。サーバの運用方法としては、大きく分けて2つの方法が存在し、サーバやネットワーク機器を自社で保有し運用するオンプレミス (OnPremise)の方法とサーバを自社でサーバを保有せず、 クラウドコンピューティング(以下、クラウド)での管理する万法がある。 オンプレミスでサーバを管理する場合、ハードウェアの初期導入費用や耐用年数が課題として挙げられ る。その点、クラウドの場合は、月々の運用費用が高い課題はあるが、上記に挙げたオンプレミスのようなハードウェアの課題は発生しない。しかしながら、クラウド上の契約するデイスク容量が数テラバイトを超えるようになるとオンプレミスの初期導入費用や数年間の電気代や保守費用などを合算した額より、クラウドの費用の方が高くなることがある。ただし、これは、 ハードウェアのみの費用に限ったことであり、サーバの管理運用のための人件費を含むとさらに複雑な計算が必要となる。 現状、オンプレミスとクラウドのどちらの運用が良いとも悪いとも言えないが、重要なのは長期運用を考えた計画を立てることである。当初目標を高く持つことは、重要なことではあるが、サーバ等のハードウェアまで当初から高い性能が必要であるかということである。特にディスク容量については、年々単価は下がっており、数年経てば半額になることもある。クラウドの場合には、ディスク容量などの変更も可能なサービスも出てきており、また、オンプレミスについてもディスク容量を見达んだサーバ設計も考えられる。 ## 3.2 ソフトウェアの課題 ソフトウェアの課題は、デジタルアーカイブのアプリケーションだけはなく、それらを動かすためのオぺレーティングシステム(以下、OS)やミドルウェア等のアップデートに起因する互換性の課題である。さらに、安全に運用するためには常にセキュリティの課題もある。まず、OS は、Windows OS や Mac OS、Linux などのハードウェアを動かすための基本的なシステム、ミドルウェアは、データベース管理やウェブ管理などのシステムである。OS は、機能向上やセキュリティの向上のために、数年単位でメジャーバージョンアップ(機能追加や大規模な仕様変更)が行われる。 それに関連してミドルウェアもメジャーやマイナー バージョンアップ(不具合修正や小規模改変)なども行われる。この OS やミドルウェアのバージョンアップによって、デジタルアーカイブで使用していた機能の廃止や仕様変更などが起こることがある。そのため、 アプリケーションの変更が必要となる。ただし、バー ジョンアップせずに古いまま使用する方法もあるが、 その問題を先送りするだけでなく、セキュリティホー ルともなり得ることもある。OS やミドルウェアのバージョンアップは、年に数回も行われることがあり、 その都度の対応が必要となる場合もある。これは、才ンプレミスやクラウドでも同じ課題があるが、オンプレミスの場合、OS やミドルウェアのアップデートを サーバ管理者や請負業者が行わなくてはならず、労力と費用の増大に繋がる。 これからデジタルアーカイブシステムを構築することを考えている団体に対して注意点がある。過去の実績や安定性を重視するあまり、新しいシステムや機能を採用しないことがあるかもしれない。その場合、新しいシステムや機能で苦労するよりも、古いシステムや機能でさらなる苦労があるかもしれないことを常に考えておくことが必要である。また、国内の事例だけに目を向けるのではなく、世界の流れを見ながら、システム設計を考えていただきたい。 ## 3.3 運用費用の課題 インターネットの大手ウェブサイトは、 1 年間 365 日停止せず運用がなされている。デジタルアーカイブサイトも同じように 365 日の連続稼働させることを考えてしまうかもしれない。しかし、365日の連続稼働には、多くの運用費用がかかることを理解する必要がある。サーバを稼働させながらメンテナンスをすることは、技術的に難しい作業になることも多く、時間も多く要してしまう可能性があることや、稼働を停止させなくては作業ができない場合などもある。また、軽微なシステム変更もテストを繰り返し、不具合が無いかなどの確認が必要となる。そのため、365日の連続稼働をするためには、ハードウェアの冗長化やステー ジングサーバ(テストを行うためのサーバ)を用意するなどの対応が必要となり、運用費用の増大に繋がる。 ただし、1-2日程度のメンテナンスを行う日を設けるだけで、運用費用が格段に下がることもある。その点も勘案しながら稼働時間とそれにかかる費用を計算することも重要である。 ## 3.4 データのマイグレーションの課題 デジタルで一般的に用いられる画像や動画、音声などのファイル形式は、今現在でも数百種類が存在する。 これらのファイル形式が未来永劫、使用できる環境が存在するかは不明確である。ただし、ISO(国際標準化機構)や IEC(国際電気標準会議)、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)、W3C (World Wide Web Consortium)などで国際標準化されている規格であれば、ある程度の長期利用できる可能性はある。しかしながら、特定のアプリケーションに依存しているコンテンツやハードウェアに依存したコンテンツもあり得るかもしれない。例えば、古い OS でしか動作しないアプリケーションや家庭用ゲーム機のソフトなどである。著作権などの問題がなければ、エミレーター などで動作させることは可能ではあるが、前述のようにバージョンアップなどの対応も必要となる。記録媒体についても課題があり、パンチカードや磁気テープ、磁気ディスク、光ディスクなどの記録媒体が存在する。つい最近まで一般的だったハードディスクについても、ソリッドステートドライブ(SSD)に置き換わりつつある。これらは、デジタル記録として残されているにも関わらず、読み出し可能なハードウェアが存在しなければ、データを閲覧することすらできない。また、記録媒体の劣化もあることから、常にデー夕を新しい記録媒体に移行する費用も考えておく必要がある。 ## 4. デジタルアーカイブの長期運用と救済 デジタルアーカイブの消滅を防ぐためには、上述に示したとおり、構築前の運用計画策定や運用中の計画見直しが重要となる。また上述に示した以外にも数多くの課題はあり、デジタルアーカイブのための長期保存ガイドライン[5]を参照していただければと思う。 しかしながら、いくら計画をしていても不測の事態なども起きる可能性がある。その場合は、多くの団体と事前から連携していることが重要となる。また、救済される側、救済する側についてもデータの移行ができやすい体制を整えていくことが重要と考える。 ## 5. おわりに 本総論では、デジタルアーカイブが消滅する理由について、事例を含めながら「組織的な課題」と「システム的な課題」について概説した。 本特集では、4名の方からデジタルアーカイブの消滅と救済について貴重な知見を述べられている。本特集を参考にしていただき、デジタルアーカイブの構築と長期運用についてあらためて考えていただければと思う。 ## 註・参考文献 [1] 特定非営利活動法人映像産業振興機構. デジタルアーカイブに関する諸外国における政策調査, 2018.11 [2] 読売新聞. 文化財の国際赤十字構想座談会注目のデジタル保存術=特集. 1996.03.11 [3] 毎日新聞. [創世期の現場] マルチメディア社会 $/ 29$ 文化保存に最適=谷口泰三<編集委員>. 1996.04.21 [4] A. Shibayama, S. Boret. Transforming the Archives of the Great East Japan Earthquake into Global Natural Disaster Archives. IOP Conference Series: Earth \& Environment Science. June 2019, 10.1088/1755-1315/273/1/012039 [5] デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会 : デジタルアーカイブのための長期保存ガイドライン (2020年版), https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/ index.html (参照 2022-08-15).
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# メディア芸術に関する行政施策の 展開とデジタルアーカイブ Administrative Measures for Media Arts and Its Relation to Digital Archives ## 三原 鉄也 \\ MIHARA Tetsuya ITコンサルタント/(一社)コネクテッド社会研究機構 抄録 : 本特集のテーマである「メディア芸術」という言葉は我が国の文化政策を示す言葉として生み出されたものである。メディア芸術はその政策の進展と共にデジタルアーカイブ・デジタルアーカイブ政策との接点を増している。そこで本稿では、本特集の各論に通底する基本的な背景として、メディア芸術の政策・施策面での展開とそのデジタルアーカイブの関わりについて解説する。 メディア芸術という概念が作られた経緯や行政施策の変遷に加えて、現在のメディア芸術に関するデジタルアーカイブについて紹介する。 Abstract: The term "Media Arts" was produced to represent a policy for culture in Japan. Administrative Measures for Media Arts becomes to have close relation to the concept and administrative measures digital archives by their progress. This paper gives their overview as the basic background of each feature article. This paper also introduces the current digital archives for Media Arts. キーワード:メディア芸術、メディアアート、ポップカルチャー、クールジャパン、メディア芸術データベース、文化庁 Keywords: Media Arts, media art, pop culture, Cool Japan, Media Arts Database, Agency for Cultural Affairs ## 1. はじめに 本特集のテーマである「メディア芸術」という言葉が我が国の文化政策のひとつを示すものとして誕生してまもなく 25 年を迎えようとしている。この 25 年弱の間にメディア芸術に関する資源を扱うアーカイブ機関は急増し、メディア芸術をテーマとした作品展・作家展も一般化している。メディア芸術という言葉の認知と共通認識、文化的に保護すべきであるという認識は日本社会において浸透したと言えるだ万う。しかし、 メディア芸術は他の文化的ドメインに比べて歴史が浅い概念であることに加えて、元来大衆的に受け入れられてきた対象であるが故に、そのイメージは未だ漠としている印象も拭えない。メデイア芸術と挙げられるもの同士、またメディア芸術とそれ以外のものとの構造的関係が曖昧で、コミュニティや資源の接続が充分ではない。加えてメディア芸術の外側からはこのドメインでの実際の取組が分かりづらい懸念もある。 本稿では、本特集の各論に通底する基本的な背景として、メディア芸術の政策・施策面での展開とそのデジタルアーカイブの関わりについて、主に文化庁・文部科学省より公刊ないしオープンに提供されている資料を基に概観する。 ## 2. メディア芸術の定義とその対象、範囲 メディア芸術の語の定義は、メディア芸術祭の根拠法であると同時に我が国の文化芸術の振興政策の根拠法である文化芸術基本法によって「映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術」(同法第九条) と定義されている。この定義はメディア/芸術という単語から想起するものとしてはかなり具体的な印象を受けるが、松永 ${ }^{[1]}$ や吉岡[2] の指摘にあるように、この語が政策のキャッチフレーズとして作られた語であるからだろう。「メディア」「芸術」の語がそれぞれ用いられた含意や芸術全体、及び定義に列挙されている各分野の関係からメディア芸術の概念を捉えようとする議論もある [3][4] が、ここではこの定義の背景について整理する。 同法が 2001 年に公布・施行される(当時の名称は 「文化芸術振興基本法」)より先に、文化庁が主催する優れたメディア芸術作品の顕彰及びその作品展である 「メディア芸術祭」が 1997 年に開催されている(以来毎年実施)。従ってメディア芸術という言葉のルーツ に当たるには、メディア芸術祭開催当時の状況を知る必要がある。メデイア芸術祭は文化政策推進会議マルチメディア映像・音響芸術剆談会の議論によって検討された施策である ${ }^{[5]}$ 。その議論をまとめた報告「21 世紀に向けた新しいメディア芸術の振興について」[6] では、メディア芸術は「技術革新とともに、メディアの多様化が進み、映画、マンガ、アニメーション、コンピュータ・グラフィックス、ゲームソフト等、様々な映像・音響芸術」とされ、より広範な対象を意識させる文言になっている。この文言に加え、同報告におけるメディア芸術の対象について注目すべき点が 2 点ある。まず一つは、同報告では、剆親会の名称や先の定義にも見られるように、マルチメディア、マルチメディア時代という単語が頻出し、コンテンツという単語も目立つ点である。これは 1990 年代に当時の日本の大きな政策の方向性のひとつとしてハード型の産業からソフト型への産業への転換が模索されていた中で、文化芸術政策に関しても同様の文脈での成長投資を図る対象としてメデイア芸術が意識されていたことの表れと見られる。もう一つは先の報告で挙げられた各分野は実質的にメデイア芸術祭の応募部門の設定にリンクしている点である。メディア芸術祭は先行する文化庁芸術祭に範を取ったものであるとされている[7]。第 1 回メディア芸術祭では、映画を除いて、デジタルアート(インタラクティブ/ノンインタラクティブ)・アニメーション・マンガの4部門たが、メディア文化の一角であるテレビや音楽(レコード)が含まれないのはそれらがすでに文化庁芸術祭の部門に含まれていたからだろう。文化庁の広報誌「文化庁月報」における当時の(そして最初の)メデイア芸術に関する特集においても、その領域に関する言及は専らメデイア芸術祭の応募部門に即したものである ${ }^{[8]}$ これらを踏まえると、メディア芸術は評価の体系が存在する伝統的な芸術作品以外の新規的な芸術の総称であり、不確定な将来の存在も視野に入れた開集合として捉えるべきであろう。メディア芸術がエンターテイメントや大衆性を含意する指摘 ${ }^{[1][9]}$ は、伝統的な芸術が対象としなかったドメインを包含する意味でこの捉え方と同質と言える。 ## 3. メディア芸術関連の施策とデジタルアーカ イブ ## 3.1 前夜 : メディア芸術プラザ 先の報告「21世紀に向けた〜」では、作品の保存$\cdot$活用のための技術や体制、所在情報のデータベース化についての調査研究が提言されている。この提案に対応する施策が「メディア芸術プラザ」である。メディア芸術プラザは、同報告で提言された、インターネットでの優れた作品の公開・マルチメディアに関する講座・創作活動に役立つ優れた素材や各種文献資料、コンテスト等の情報提供を目的に 1999 年より開設された Webサイトである。メディア芸術祭同様に、同時期に提供されていた地方公共団体・文化施設・芸術家の情報共有と交流を目的とした芸術情報プラザ(人的支援組織) ${ }^{[10]}$ 及び芸術情報プラザネット(パソコン通信サービス) ${ }^{[11]}$ 範を取ったものと推察される。開設当初は会員制サイトであったが、2005年頃のリニューアル以降はメディア芸術祭の情報を中心にする公開Webサイトとして提供されていた (2012年閉鎖)。 メディア芸術プラザのコンテンツはニュースや企画記事が中心で、リニューアル後は主としてメディア芸術祭に関する情報の発信が主な役割となっていったようである。デジタルアーカイブが扱うメタデータやコンテンツデータのインフラ的な側面は充実しているとは言えず、また他の文化芸術のIT インフラとも接続していなかった。これは当時の Web 技術やデジタルアー カイブ技術が充分でなかった状況に加えて、当時の振興施策が作品や活動の PRを主眼に置いており、メディア芸術の情報資源の保存や流通は主たる政策目標に含まれていなかったことも大きな要因だろう。 ## 3.2 勃興 : メディア芸術の拠点形成 メディア芸術の保存について、映画については東京国立近代美術館フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)による保存活動があったが、メディア芸術全体を対象にした具体的な施策はメディア芸術祭開始当初は見られなかった。2008 年に関連施策が「メデイア芸術振興総合プログラム」として再編・拡充されるとデータベースの構築や作品データのデジタル化が盛り达まれ[12][13]、2009年にはメディア芸術プラザが再度リニューアルされ作品データベースやマンガ原画のデジタルデータの公開などが行われた ${ }^{[14]}$ こうした既存施策の発展的施策以上にメディア芸術の保存とデジタルアーカイブに影響を与えたのはメディア芸術の拠点形成に関する施策であった。当初は既存の複数拠点を連携・支援する趣旨の施策たと認められるが[15]、2008 年、2009年に相次いで行われた検討会・委員会を経て、メディア芸術全般を対象に作品の常時展示と保存を行うための一大拠点を整備する計 拠点をインターネット上のものとする意見を挙げた上で、観光への寄与や施策としてのメッセージ性の弱さ から否定し、あくまで情報発信のツールとする認識に留めている[16]。このように、当時の方針はデジタルアー カイブの立場からは後退したと取れるものであった。 しかしながら、この計画は 2009 年の平成 21 年度第 1 次補正予算にて予算措置が行われるも、マスメディアの批判的な報道や反対意見により最終的には予算執行が停止され事業の見直しを余儀なくされる。この批判の主因は「ハコモノ行政」即ちハードに対する過剩投資の懸念であった。従って、事業の見直しは施策のソフト化を志向するものとなり、優れたメディア芸術作品を保存する対策としてデジタルアーカイブ化と作品の収集・保存・所在情報整理などを行い、作品の活用機会の提供を目的とした「メディア芸術デジタルアーカイブ事業」とメディア芸術の拠点機能を果たすコンソーシアムを構築し連携共同事業を推進する「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」の 2 事業が新規開始された[18]。事業内容は資源の保存と情報基盤の整備というデジタルアーカイブらしい側面が強調され、メディア芸術プラザの 4,700万円に加えて新たにデジタルアーカイブ事業単体で 2 億 3,600 万円の予算措置が行われ[19][20]、共通データベース(後のメディア芸術データベース、後述)の構築と当時のメデイア芸術祭の応募部門にほぼ対応するマンガ・アニメ・ゲーム・メディアアートの分野ごとの取組が進められた[21]。 ## 3.3 現在 : デジタルアーカイブによるコミュニティ連携 2015 年にはデジタルアーカイブ事業がメディア芸術データベースの整備・運用に関する「メディア芸術所蔵情報等整備事業」と作品・資料のアーカイブ構築を公募する補助金事業「メディア芸術アーカイブ推進支援事業」に発展すると共に、情報拠点・コンソーシアム構築事業を発展させた「メディア芸術連携促進事業」を加えた「メディア芸術連携促進等事業」として再編された ${ }^{[22]}$ 。2020 年に「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」に更に再編されるも、基本的には 2015 年時点の朹組みを基礎として現在に至っている[23]。この時期の事業は、単一の拠点を核とするいわば中央集権型ではなくメディア芸術のアーカイブの担い手が相互に繋がる分散ネットワーク型の在り方をより明確に標榜している。一大拠点設立の是非はともかく、その対象が広範でかつ広がり続けるメディア芸術のアーカイブにおいてネットワーキングを手段の核に据えたことは現実的で合理的な選択であろう。こうして、デジタルアーカイブの連携が事業を体現する存在に位置付けられるに至った。 また同時期には、各省庁の所管を超えた政策においてもメディア芸術に関する取り組みが数えられるようになる。デジタルアーカイブ政策に影響が深い知的財産戦略本部「知的財産推進計画」においては 2004 年 ${ }^{[24]}$ に、また、日本のブランド力・ソフトパワーを海外に発信するクールジャパン戦略においては 2015 年の「クールジャパン戦略官民協働イニシアティブ」[25] から戦略の主要なトピックのひとつとして挙げられている。このようにメディア芸術が文化振興の側面だけでなく知的財産の活用の観点からデジタルアーカイブ政策と接続していくこととなる。 ## 4. メディア芸術に関する我が国のデジタル アーカイブ ## 4.1 メディア芸術データベース メディア芸術デジタルアーカイブ事業での共通デー タベース整備の成果として 2015 年に「メディア芸術データベース (開発版)」が公開された。その後、分野連携機能の強化などを目的にメタデータスキーマが見直され、2019年に「メディア芸術データベースベー 夕版」[26]とてリニューアルされた。名称の「開発版」「べータ版」が示すように、メディア芸術データベー スは未だ整備の途上にある。 2019 年のリニューアルでは分野横断的なデータモデルとそれに基づいたメタデータスキーマが設計されると共に、URIをユニークな識別子に用いてシステムを構築し、メタデータスキーマの公開と Linked Open Dataデータセットの提供 ${ }^{[27]}$ 開始した ${ }^{[28]}$ 。更に 2021 年 10 月には SPARQL エンドポイントの提供も開始した。これらの改修は現在のデジタルアーカイブに求められているように、連携におけるデータの利活用性の向上を目的としたもので、人的コミュニティと共にデータインフラとしてもハブの役割を果たすことが期待される。 ## 4.2 アーカイブ機関による主なデジタルアーカイブ 本節では、メディア芸術に関する我が国の主なデジタルアーカイブについてメディア芸術アーカイブ推進支援事業及びメディア芸術データベースと連携している、 または連携が企図されているものを中心に紹介する。 マンガについては、国立国会図書館が提供する国立国会図書館デジタルコレクションに収録されているプランゲ文庫坚童書コレクションと国立国会図書館の資料デジタル化により作成された雑誌のデジタルアーカイブや川崎市民ミュージアムの漫画資料コレクション[29]、大分県立歴史博物館の麻生豊マンガ資料コレ クション ${ }^{[30]}$ がある。また、非公開のコンテンッではあるが大阪府立中央図書館坚童文学館、京都国際マンガミュージアム、横手増田まんが美術館が戦前の児童雑誌やマンガ原画などの貴重資料のデジタル化に取り組んでいる[31]。アニメについては、国立映画アーカイブの日本アニメーション映画クラシックス ${ }^{[32] \text { や神 }}$戸映画資料館の所蔵フィルムのデジタル化事業[33] がある。また、日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアムのアニメ脚本と脚本家のデータベース ${ }^{[34]}$ がある。 ゲームについては、立命館大学ゲーム研究センターの所蔵資料のオンライン目録 RCGS コレクション[35] ゃゲーム保存協会のゲームデータベースプロジェクト[36] がある。メディアアートについてはメディアアートを主に扱う機関が提供する所蔵資料目録やコンテンツが中心である。NTTインターコミュニケーション・センター[37]、山口情報芸術センターが提供するコンテンツ $[38]$ や東京都現代美術館の収蔵資料デー 夕 [39]、慶應義塾大学アート・センターの資料目録 [40] などがある。 ## 5. おわりに メディア芸術のデジタルアーカイブ実現において本質的に困難な点は、現在進行形のコンテンツを扱う必然にある。今なお新たなコンテンツが日々生み出されている事に加えて、メディア芸術が開集合である以上、 その対象は常に膨張する。デジタルアーカイブの方法論の観点からは、その膨張する対象に対して文化的特徵や背景を担保しつつどのように連携を進めていくかは興味深い問題である。メディア芸術の増大の相当の部分を占めるボーンデジタル・on the Web の対象をどのように補足し、アーカイブ化していくかがその鍵を握っているだ万う。 ## 謝辞 本稿の執筆にあたり文化庁参事官(芸術文化担当)付メデイア芸術発信係及び同係研究補佐員の牛嶋興平氏から資料の提供や調査における多大なるご支援を頂いた。ここに深謝の意を評する。 ## 註・参考文献 [1] 松永伸司.「メディア芸術」の「メディア」って何ですか. 9bit. 2020. http://9bit.99ing.net/Entry/104/ (参照 2021-10-18). [2]吉岡洋「「メディア芸術」—それは、そもそも問題なのだろうか?「メディア芸術」の地域性と普遍性—“クールジャパン”を越えて.文化庁, 2011, p.10-15. [3] メディア芸術カレントコンテンツ.メディア芸術オープントー ク記事一覧. 2011. https://mediag.bunka.go.jp/article_category/ opentalk (参照 2021-10-18). [4] 文化庁.「メディア芸術」の地域性と普遍性一“クールジャパン”を越えて. 2011. [5] 文化庁.「日本映画・映像」振興プランの推進等. (国立国会図書館インターネット資料収集保存事業 (WARP) より参照). https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/283152/www. bunka.go.jp/1bungei/frame.asp\%7B0fl=list\&id=1000002607\&clc $=1000002599 \% 7 B 9 . h t m l$ (参照 2021-10-18). [6] 文化政策推進会議マルチメディア映像・音響芸術懇談会.「21世紀に向けた新しいメディア芸術の振興について」(報告). 1997. 国立国会図書館インターネット資料収集保存事.業(WARP)より参照). https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/ 242347/www.bunka.go.jp/1bungei/main.asp\%7B0fl=show\&id=10 $00002628 \& \mathrm{clc}=1000011173 \& \mathrm{cmc}=1000011542 \& \mathrm{rli}=100001154$ $4 \& \mathrm{cmi}=1000011274 \% 7 B 9 . h t m l$ (参照 2021-10-18). [7] 三越伊勢丹.メディア芸術の歩み I【前編】〜公的な機関で行われてきたメディア芸術の捉え方の変遷〜. https://www.mistore.jp/shopping/feature/living_art_f2/media_ arts1_l.html (参照 2021-10-18). [8] 特集メディア芸術の現状と可能性. 文化庁月報. 1999, vol. 370, p.4-19. [9] 土佐信道 (明和電機). 国立メディア芸術センターアイディア提案. 国立メディア芸術総合センター(仮称)設立準備委員会(第 4 回)土佐信道氏発表資料. 2009. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/ media_art/pdf/4_doc05.pdf (参照 2021-10-18). [10] 文化庁. 芸術情報プラザ.(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)より参照). https://warp.da.ndl. go.jp/info:ndljp/pid/8744958/kodomo.bunka.go.jp/geijutsu_ bunka/02jouhou_plaza/index.html (参照 2021-10-20). [11] 文部科学省通達「地域文化フォーラム」への参加について. 1996.(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業 (WARP)より参照). https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/ 6021721/www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19960925001/ t19960925001.html (参照 2021-10-20). [12] 文部科学省. 文部科学省事業評価書 - 平成19年度新規 ・拡充等89メディア芸術振興総合プログラム(新規)。 https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/ afieldfile/2015/04/13/1356771_089.pdf (参照 2021-10-20). [13] 文部科学省. 文部科学省事業評価書 - 平成 20 年度新規 ・拡充等 96 メディア芸術振興総合プログラム (拡充). https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/ afieldfile/2015/04/14/1356818_096_1.pdf (参照 2021-10-20). [14] INTERNET Watch. アートサイト「文化庁メディア芸術プラザ」刷新、作品検索を強化. 2009. https://internet.watch. impress.co.jp/docs/news/296548.html (参照 2021-10-20). [15] 清水明. メディア芸術振興に向けた取組. 文化庁月報. 2008, vol. 472, p.12-13. [16] 文化庁.メディア芸術の国際的な拠点の整備に関する検討会. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/ madiageijutsu/ (参照 2021-10-20). [17] 文化庁. 国立メディア芸術総合センター(仮称)設立準備委員会. https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/ kondankaito/media_art/ (参照 2021-10-20). [18] 文化庁文化部芸術文化課. メディア芸術振興に関する具体的な取組. 文化庁月報. 2010, vol. 505, p.18-21. [19] 文部科学省. 平成22年行政事業レビューシート 0453 メディア芸術振興総合プログラム. 2010. https://www.mext.go.jp/ component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/ 2010/08/27/1295371_5.pdf (参照 2021-10-21). [20] 文部科学省. 平成 23 年行政事業レビューシート 0377 メディア芸術の創造・発信. 2021. https://www.mext.go.jp/component/a_ menu/other/detail/_icsFiles/afieldfile/2011/10/06/1310821_11. pdf (参照 2021-10-21). [21] 凸版印刷株式会社, 一般社団法人日本動画協会, 株式会社寿限無. 平成 22 年度メディア芸術デジタルアーカイブ事業業務成果報告書. 2011. [22] 文部科学省. 平成28年行政事業レビューシート 0338 メディア芸術の創造・発信. 2016. https://www.mext.go.jp/component/ a_menu/other/detail/_icsFiles/afieldfile/2016/09/06/1375230_8. xlsx (参照 2021-10-21). [23] 文部科学省. 令和 3 年行政事業レビューシート 0372 メディア芸術の創造・発信プラン. 2021. https://www.mext.go.jp/ content/20210924-mxt_kaikesou02-000010580_0372.xlsx (参照 2021-10-21). [24] 知的財産戦略本部. 知的財産推進計画2004. 2004. https:// www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/040527f.html (参照 2021-10-21). [25] クールジャパン戦略推進会議. クールジャパン戦略官民協働イニシアティブ. 2015. https://www.cao.go.jp/cool_japan/kaigi/ senryakusuishin/pdf/20150617_initiative_honbun.pdf (参照 2021-10-21). [26] 文化庁. メディア芸術データベース. https://mediaarts-db. bunka.go.jp/ (参照 2021-10-22). [27] GitHub一メディア芸術データベース (ベータ版) データセット. https://github.com/mediaarts-db/dataset (参照 2021-10-22). [28] マンガ・アニメーション・ゲーム・メディアアート産学官民コンソーシアム他. 文化庁 2019 年度メディア芸術所蔵情報等整備事業「メディア芸術データベースの機能拡充に関する調査・改修作業」実施報告書. 2020.3. [29] 川崎市市民ミュージアム. 漫画資料コレクション. https://kawasaki.iri-project.org/ (参照 2021-10-22). [30] 大分県立歴史博物館. 麻生豊マンガ資料コレクション. https://opmh.iri-project.org/ (参照 2021-10-22). [31] 文化庁. 令和 3 年度文化芸術振興費補助金メディア芸術アーカイブ推進支援事業について. https://www.bunka.go.jp/ shinsei_boshu/kobo/92797101.html (参照 2021-10-22). [32] 東京国立近代美術館フィルムセンター. 日本アニメーション映画クラシックス. https://animation.filmarchives.jp/index.html (参照 2021-10-22). [33] 神戸映画資料館. 調査研究事業. https://kobe-eiga.net/kfpnet/ (参照 2021-10-22). [34] 日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム.アニメ脚本と脚本家のデータベース. http://animedb.nkac.or.jp/ (参照 2021-10-22). [35] 立命館大学ゲーム研究センター. RCGSコレクション. https://collection.rcgs.jp/ (参照 2021-10-22). [36] ゲーム保存協会. 文化庁メディア芸術アーカイブ推進支援事業. https://www.gamepres.org/media/hojokin/ (参照 2021-10-22). [37] NTTインターコミュニケーション・センター.アーカイヴ. https://www.ntticc.or.jp/ja/archivel (参照 2021-10-22). [38] 山口情報芸術センター.アーカイブ. https://www.ycam.jp/archive/ (参照 2021-10-22). [39] 東京都現代美術館. 収蔵作品検索. https://www.mot-artmuseum.jp/collection/search/ (参照 2021-10-22). [40] 資料目録. 慶應義塾大学アート・センター. http://www.art-c. keio.ac.jp/archives/catalogues/ (参照 2021-10-22).
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# 序論:「メディア芸術」のアーカイブ Introduction: Archive of "Media Arts" ## 三原 鉄也 MIHARA Tetsuya \\ ITコンサルタント/ コネクテッド社会研究機構 一輝 OHMUKAI Ikki 東京大学 大阪国際工科専門職大学 マンガやアニメーションなど、現代の文化芸術作品は接触機会が極めて多く、また時代性が表象されていることから、これらを対象としたデジタルアーカイブの構築は社会の期待が大きい領域のひとつであろう。一方、アーカイブを組織的かつ継続的に機能させるためには制度面の整備や情報の定型化が必要不可欠だが、作品の形態自体がさまざまであるとともに、制作や流通のデジタル化の影響によって状況は複雑化の一途を辿っている。 このような背景の下、マンガ・アニメーション・ ゲーム・メディアアートの 4 分野で構成される「メディア芸術」のアーカイブが進められてきた。施策はメタデータの整備とデータベースの公開から、現物の保存と利活用、教育普及や人材育成まで多岐に渡る。 それぞれの分野の内外でステイクホルダーや産業構造、そして抱えている課題が大きく異なるため、支援のあり方は一様ではない。他方で、分野間の連携によって新たな価値を生み出す土滾となるよう、各分野の固有性と共通性を明らかにしつつ目指すべきアーカイブの方向性を定める必要がある。本特集では「メディア芸術」が内包する多様な観点の中からいくつかを取り上げ、今後の議論の一助としたい。構成は下記 の通りである。 まず、総論として、政策的に定義された「メディア芸術」の経緯とアーカイブの現状について三原氏に報告いただいた。次に、メタデータやデータベースの構造を規定する各分野の作品の形態や内実について、大坪氏からはアニメーション分野の、嘉村氏からはメディアアート分野の現況を詳説いただいた。ロート氏ならびにプフェファー氏の論考では、分野の朹を超えたデータの相互リンクと横断的な情報アクセスを実現するための知識グラフについて紹介いただた。伊藤氏からは、マンガ原画に焦点を当て、中間制作物のアーカイブの可能性と課題について論じていただいた。高見澤氏ならびに福田氏からは、デジタルコンテンツでありながら物理的媒体として流通してきたビデオゲームの保存の現場を紹介いただいた。坂倉氏には、「メディア芸術」の各分野とも関連性が強い現代文化の代表例として、ライトノベルを対象とした民間べー スのアーカイブについて報告いただいた。 本特集を通じて、現在進行形の事象としての「メディア芸術」の多面性とアーカイブの困難さ、そして課題解決に向けたコミュニティの努力を打伝えできれば幸いである。
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# 第5部: ‘新しい本」のつくりかた 〜ポトムアップとバックキャステイング〜 Part 5: How To Make The "New Books": Bottom-Up And Back-Casting 東京大学大学院情報学環 \begin{abstract} 抄録 : ここまでに解説してきた「Beyond Book」は、2017 年から 2021 年に掛けて活動した、東京大学大学院情報学環における「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」の成果である。この講座は、2022 年度より「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」として リブートした。新講座では、これまでに得られた成果を活かしつつ、未来社会における“新たな読書体験”を提供する「新しい本」 を開発し、社会実装することを目指す。そこで、「SFプロトタイピング」「アート思考」「デザイン思考」「ロジックモデル」「セン スメイキング」など、ボトムアップかつバックキャスティング的な手法を取り入れた活動を開始している。本稿では「新しい本」 プロジェクトの狙いと取り入れる手法・現在の状況について説明する。 Abstract: The "Beyond Book" project is the result of the "DNP Endowed Chair for Academic Electronic Content Research," which ran from 2017 to 2021. This chair was rebooted as the "KODANSHA \& MEDIA DO New Books Endowed Chair" from the fiscal year 2022. The new chair aims to develop and socially implement "New Books" that provide new reading experiences in the future society, while utilizing the achievements of the former chair. Therefore, we have begun activities that incorporate bottom-up and back-casting methods such as "Sci-Fi Prototyping," "Art Thinking," "Design Thinking," "Logic Models," and "Sense-Making." This part describes the aims of the "New Books" project, the methods used, and the current status of the project. \end{abstract} キーワード : 電子書籍、新しい本、Sプロトタイピング、アート思考、デザイン思考、ロジックモデル、センスメイキング Keywords: E-books, New Books, Sci-Fi Prototyping, Art Thinking, Design Thinking, Logic Models, Sense-Making ここまでに解説してきた「Beyond Book」は、2017 年から 2021 年に掛けて活動した、東京大学大学院情報学環における「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」の成果である。この講座は、2022 年度より「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」としてリブー トした。新講座では、これまでに得られた成果を活か しつつ、未来社会における“新たな読書体験”を提供 する「新しい本」を開発し、社会実装することを目指 す。そこで、「SFプロトタイピング」「アート思考」「デ ザイン思考」「ロジックモデル」「センスメイキング」 など、ボトムアップかつバックキャステイング的な手法を取り入れた活動を開始している。本稿では「新し い本」プロジェクトの狙いと取り入れる手法・現在の 状況について説明する。 ## 1. はじめに 「Beyond Book」は、2017 年から 2021 年に掛けて活動した、東京大学大学院情報学環における「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」の成果である。この講座は、2022 年度より「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」としてリブートした。新講座では、これまでに得られた成果を活かしつつ、未来社会における“新たな読書体験”を提供する「新しい本」を開発し、社会実装することを目指す。そこで、「SFプロトタイピング[1]」「アート思考[2]」「デザイン思考[3]」「ロジックモデル[4]」「センスメイキング[4][5]」など、ボトムアップかつバックキャスティング的な手法を取り入れた活動を開始している。本稿では「新しい本」プロジェクトの狙いと取り入れる手法・現在の状況について説明する。 ## 2.「新しい本」プロジェクトの手法 私たちは、未来が見通せない予測不能のVUCA (Volatility (変動性)、Uncertainty (不確実性)、Complexity (複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の時代を生きていると言われる。また、テクノロジーの急速な発達・普及によって、人々が意識する暇もなく、社会構造が急激に変化しつつある。こうした状況に際して、これまで 一般的に用いられてきた「仮説検証型」の手法は、徐々に通用しなくなっていくおそれがある。例えば、調査中においても社会状況が激変することがあるため、現状から演繹的に進めていく「フォアキャスティング」的な手法を、そのまま適用できるとは限らないからである。 そこで「新しい本」プロジェクトでは、「SFプロトタイピング」「アート思考」「デザイン思考」「ロジックモデル」「センスメイキング」など、ボトムアップかつ「バックキャスティング (未来逆算)」的な手法を導入する。これまでに得られた「BB」プロジェク卜の成果を活かしつつ、未来像からバックキャスティングして開発を進めることにより、VUCA の時代に対応しながら、未来の社会によい変化を起こしていくことができるだろう。 まず本章で「アート思考」「デザイン思考」と「ロジックモデル」「センスメイキング」について概説し、次いで第 3 章で「SF プロトタイピング」について述べる。 ## 2-1 アート思考・デザイン思考 「アート思考」「デザイン思考」はすでに、ビジネス活用においてポピュラーになっている手法である。簡潔に表現するならば「アート思考」は、既成概念や固定観念にとらわれず、自分自身の思考や感情から新たな課題を見つけるための思考法、「デザイン思考」は、人々が気づいていない本質的なニーズを見つけ、変革を起こす思考法である。 「アート思考」は、各々が抱く自由な発想を起点とする。現状からすぐにイメージできない、突飛・奇抜な発想も許容され、フォアキャスティング的な手法からは生まれないアイデアが創発し得る[2]。一方、「デザイン思考」の基盤となるのは、ボトムアップなユー ザのニーズであり、既存の製品やサービスの潜在的な価値・課題を見つけ出し、進化させるために有用である[3]。これらの手法を組み合わせることにより、ボトムアップかつバックキャスティング的な戦略を立てることができる。 ## 2-2 ロジックモデル・センスメイキング 馬田 ${ }^{[4]}$ は、既存事例のサーベイを踏まえ、“テクノロジーの社会実装の 4 原則”として「インパクト」「リスク」「ガバナンス」「センスメイキング」を挙げてい る(図1)。「インパクト」は最終的に目指すべきゴー ルとなる社会経済的変化であり、これを示すことによって、社会にデマンドが醸成されることにつながる。 さらに「インパクト」に到達するための道筋を図解したものが「ロジックモデル」(図 2) であり、未来社会のビジョンからバックキャスティングして、短期的な活動を進めていくための手法といえる。 図1 テクノロジーの社会実装における4原則文献[4]より引用 : 筆者加筆 なお、「ロジックモデル」は仮説の集まりであり、各々の要素が常に影響し合いながら進化していく動的なモデルである。未来へと至るプロセスの動的な変化が織り込まれていることから、VUCA 時代に適合したプロダクト開発を志向する「新しい本」プロジェクトに馿染みがよいと考える。 また「センスメイキング」は、組織全体における多義的な解釈の足並みを揃え、事象の意味について組織のメンバーとステークホルダーが「腹落ちする $=$ 納得する」ストーリーを導き出し、集約するためのモデルである $\left.{ }^{4}\right][5]$ (図 3)。 1. 環境から情報を感知し 2.チーム内で解釈と意味付けを行ない 3. 行動して環境に働きかける の各プロセスが、常に変化しつつ繰り返されていく。「センスメイキング」の例として、雪山の遭難隊が、偶然「(現地のものではない) 地図」を見つけたことをきっかけとして 1 ~3のプロセスを繰り返し、無事生還するエピソードが良く知られている。一枚の地図が、それ自体では役に立たないにも関わらず、プロと 図3 センスメイキングのモデル文献[5]より引用 : 筆者加筆 しての自覚と生還につながる「腹落ち」をもたらした、 というストーリーである。 このように「センスメイキング」の手法にも、ボトムアップで動的な変化が織り达まれていることから、「ロジックモデル」と同様に「新しい本」プロジェクトにとって有用なものとなり得る。 ## 3. SF プロトタイピング 「新しい本」プロジェクトでは、未来社会における “新たな読書体験”を提供することを目指す。未来社会のビジョンをプロトタイピングし、そこからバックキャスティングする「SFプロトタイピング」の手法を、特に重視している。 ## 3-1 SF プロトタイピングの概要 SF(サイエンス・フィクション)を活用して未来のビジョンを描き、そこから新たな価値創造を行なう 「SF プロトタイピング」は、インテルのフューチャリスト、ブライアン・デビッド・ジョンソンが 2010 年代に導入した手法である[1]。 宮本は、ジュール・ヴェルヌ『月世界へ行く』(1865) で描かれたビジョンが科学者たちを触発してロケット工学が発展したこと・Alexa・KindleなどのガジェットのアイデアにSF 作品が影響を及ぼしていることなどを、「SFプロトタイピング」の事例として示している[6]。これらの例においては、未来社会のビジョンがまず描かれ、そこからバックキャスティングして、現実の製品が開発されていったということになる。 実は筆者も、幼少期からのSF 愛読者である。筆者が体験した、SF 作品のビジョンの具現化の例を図 4 に示す。新種の病原体による人類滅亡を描いた小松左 “「すみません、ワクチン接種は、これでおわります。 ワクチンが切れたので——とは三日後でないとはいりません。すみません......」遠くの方で、整理員が声をからしてどなっている。だれか、待っていたものの中でどなりかえしているものがいる"一一小松左京「復活の日」より。 Translate Tweet 9:55 PM $\cdot$ Jul 6, 2021 $\cdot$ Twitter for iPhone II View Tweet analytics 1,586 Retweets 62 Quote Tweets 2,369 Likes 図4「復活の日」の一節を引用したツイート 京「復活の日」(1964) の一節を、2021 年 6 月に引用し、 ツイートしたものである。 2021 年中ごろ、国内における COVID-19 ワクチン接種が始まったものの予約が殺到し、接種の見込みが立ちづらい状況にあった。この状況と、出版から 60 年近くが経過した SF 作品におけるパンデミック下の社会の描写が重なり合ったことにより、多くのユーザの共感を呼び、1500 リツイート・2300イイネを超える大きな反響があった。 この例のように、SF 作品の描写が現実の社会の状況を予見していたことが、事後的に明らかになるケー スはしばしばある。こうしたSF ならではの想像力と説得力を活かして、プロダクト開発などを進めていく手法が「SFプロトタイピング」である。 ## 3-2 SF プロトタイピングの手法 宮本は、SFプロトタイピングのワークショップにおける4段階の手順を示している[6]。 ## (ここから引用) ## (1)「未来の言葉」を造語する 最初の世界観の核となる「ちょっとおかしな未来の言葉」を造語する。「未来にどんなことをやりたいか」 といったことを話してもらい、自分の趣味に関連する言葉を組み合わせていくことでつくる。そこから、その造語がどんな意味であるかを考える。 ## (2)造語を基に未来のイメージを具体化する 造語プロセスで生まれたモノやサービス、制度、概念などを“未来のガジェット”として、未来社会でど のように使われているのか、自分たちがユーザや当事者になったつもりで議論を進めて、具体性を高めていく。同時に造語したものが成立する条件、そこから派生するビジネスを考えながら未来の社会をイメージしていく。 ## (3)想像したキャラクターを動かす 架空のキャラクターをつくって、未来社会にはどのような人がどのような暮らしをしているのか、自分たちが未来社会の住人になったつもりでセリフを口に出していく。「なぜこのような社会になったのか」「“未来のガジェット”がもたらした良い影響、悪い影響は何か」などを考える。 ## (4)未来社会の課題を考える 未来社会で人々はどんなことに困ったり、苦しんたりしているのかを考える。それはどのようにしたら救われるのか、“未来のガジェット”がそこに果たす役割は一一。起承転結なども考えながら“物語”を構成していく。 (引用ここまで) このワークショップにおいて、未来社会の具体的なビジョンが描かれ=プロトタイピングされ、参加者間で共有される。このプロトタイプをもとに議論を重ね、有り得べき方策を模索していくことになる。 ただし「SFプロトタイピング」じたいが未だ発展中の概念であることから、ここに示された手順はあくまで一例といえ、他にもさまざまな手法が提案されている[1]。さらには、それらの手法もまた、必ずしも確定的なものではない。従って、ワークショップの進行中に手法そのものをアレンジし、進化させていくこともできるだろう。こうした変化・進化を許容するコンセプトは、2 章で説明した各手法とも共通する。 さらに「SFプロトタイピング」と他の手法を、相互補完的に組み合わせて用いることも考えられる。例えば、「SF プロトタイピング」で描かれた未来社会のビジョンを、2 章で説明した「ロジックモデル」における「インパクト」あるいは「アート思考」の源泉として活かすこともできるだろう。特に「SFプロトタイピング」と「ロジックモデル」は、ともに「未来社会のビジョン」と「インパクト」という“未来像”を重視する点が共通しており、組み合わせやすいと考え られる。そこで「新しい本」プロジェクトにおいては、 これらの手法を組み合わせて実践していく。 ## 3-3 SF プロトタイピングの実践 「新しい本」プロジェクトでは、これまでに二度の 「SF プロトタイピング」の試行を行なった。社会人から览童までを含む多様なメンバーによるワークショップと、研究者・クリエイターによるパネルディスカッション(図 5)である。ワークにおいては、試行的に 「SF プロトタイピング」と「ロジックモデル」の手法を組み合わせて用いた。また、ともに筆者がファシリテータを務めた。 図5研究者とクリエイターによるパネルディスカッション ## 実施日 - 参加者 $\cdot$ 形式 -2021年 12 月 2 日、社会人 (大学・出版業)、学生肾童の混成グループによるワークショップ - 2022 年 5 月 19 日、研究者とクリエイターによるパネルディスカッション ## 手順 1. 各自の「2030 年」における社会状況のビジョンを共有 2.1.の社会における「読書体験」について議論 3. 2. に至るために「2022 年」に実践すること・起きることについて議論 ワークショップ・パネルデイスカッションに打いては、 —書籍とネットワーク上の知識の融合 -書籍の非接触メディア化と、情報摂取行動の遍在化 ・物理的なメディアとしての紙の書籍の希少価値の高まり など、多様かつ魅力的な未来像が、参加者によって自由に描かれた。特に、览童たちが描いた「本は仕事として読むものになる」という未来像、あるいはパネル ディスカッションにおいて提案された「デジタルアー カイブに支えられた書籍」季節とともに巡りくる書籍」「ともに旅する書籍」といったコンセプトが印象的であった。それぞれの詳細な内容については、また稿を改めて論じることとしたい。 全体的な傾向として、学生・児童は、それほど躊躇せずに未来像を自由に思い描き、発言していた。一方で社会人、特に管理職など、一定程度エスタブリッシュされた立場にある参加者は、現状から演繹して未来像を描いていくようすがみられた。社会人のなかでも、とくに筆者を含む研究者は一般に、エビデンス・先行事例をべースとした演繹的思考に慣れており、 “根拠なしに”未来像を描き、発言することについてためらいがちである。これはパネルディスカッションにおいても同様であった。そこでファシリテーションにおいては、フォアキャスティング的な発言を、バックキャスティング的な言い回しに翻訳することを心がけた。今後の実践においては、手法のよさを損なわないために、同様の「未来から語ってもらう」ための工夫が必要になるだろう。 ## 4. おわりに 「Beyond Book」は、2017 年から 2021 年に掛けて活動した、東京大学大学院情報学環における「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」の成果であった。この講座は、2022 年度より「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」としてリブートした。新講座では、 これまでに得られた成果を活かしつつ、未来社会における“新たな読書体験”を提供する「新しい本」を開発・社会実装することを目指し、「SFプロトタイピング」「アート思考」「デザイン思考」「ロジックモデル」「センスメイキング」など、ボトムアップかつバックキャスティング的な手法を取り入れた活動を開始している。「SFプロトタイピング」と「ロジックモデル」 の組み合わせを試行したワークショップとパネルディスカッションにおいては、書籍とネットワーク上の知識の融合、書籍の非接触メディア化と情報摂取行動の遍在化、物理的なメディアとしての紙の書籍の希少価値の高まりなど、多様で魅力的な未来像が参加者によって描かれた。本プロジェクトは 2025 年まで継続する予定である。引き続き、今後の展開に期待されたい。 ## 参考文献 [1] 宮本道人, 難波優輝, 大澤博隆. SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略, 早川書房, 2021年. [2] 秋元雄史, アート思考——ビジスと芸術で人々の幸福を高める方法, プレジデント社, 2019年 [3] Tim Brown, Change by Design: How Design Thinking Transforms Organizations and Inspires Innovation, HarperCollins e-books, 2009. [4] 馬田隆明, 未来を実装する——テクノロジーで社会を変革する4つの原則, 英治出版, 2021. [5] 入山章栄, 世界標準の経営理論, ダイヤモンド社, 2020. [6] 日経BP,「SFプロトタイピング」でまちづくり大胆な発想が呼び込む未来へのビジョン, 2022. https://project.nikkeibp. co.jp/hitomachi/atcl/study/00092/ (参照 2022-05-30).
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# 第 4 部:ビヨンドブックのプロト タイプ制作 Part 4: Prototyping the Beyond Book 野見山 真人 NOMIYAMA Masato Design Engineer } 谷川 智洋 TANIKAWA Tomohiro 東京大学 \begin{abstract} 抄録:書籍や Web コンテンッの膨大なデータをもとにユーザの好奇心をサポートする知識体験プラットフォーム BB のプロトタイ プをUI/UX 設計を重視して制作した。BB のUI/UX 設計では、「知りたいことから体系的に学べる」「遊び感覚で好奇心を育める」「書籍と Webコンテンツを横断できる」という3つの知識体験を設計して、新しい知識体験の形態を模索した。BB のユーザは知りた いことをモバイルアプリで調ベることで、書籍や Web コンテンツに裏付けされた知識を体系的に学びながら徐々に好奇心を育てる ことができる。このような知識体験の UI/UX 設計は、デジタルアーカイブの利用形態全般に応用可能であり、デジタルアーカイブ に含まれる知識コンテンツを楽しみながら系統的に学ぶことをサポートする。 Abstract: Based on the enormous amount of data of books and Web contents, we produced a prototype of BB, a knowledge experience platform that supports user curiosity, with an emphasis on UI/UX design. In the UI/UX design of BB, we designed three knowledge experiences: "You can systematically learn from what you want to know," "You can cultivate curiosity with a sense of play," and "You can cross between books and Web content," and explored new forms of knowledge experiences. By researching what they want to know on a mobile app, BB users can gradually develop curiosity while systematically learning knowledge backed up by books and web content. The UI/UX design of such knowledge experiences can be applied to all forms of use of digital archives, and supports the systematic learning of the knowledge content contained in digital archives while having fun. \end{abstract} キーワード:BBプロトタイプ、画面設計、UI/UX設計、新しい知識体験、ゲーミフィケーション、BBマップ、星座 Keywords: BB Prototype, Screen Design, UI/UX Design, New Knowledge Experience, Gamification, BB Maps, Constellations ## はじめに $\mathrm{BB}$ 開発の意義と目的、その機能と利用形態、それを支える要素技術等の検討を重ねながら、BB のプロダクト機能要件(表 1)を洗い出し、プロトタイピングを通じて新規性や UI (User Interface)/UX (User eXperience)設計について具体的な検討を重ねた。本稿では UI/UX 設計を中心にプロトタイプの概要について紹介する (第 2 部図 1 制作フロー図内 (8) ${ }^{[1]}$ 。 ## 1. 目的とアプローチ BB のコンセプトをもとに具体的なサービスの形を検討するため、サービスの UI/UX 設計を行なった。 ここまで検討してきた BB の機能要件や要素技術を取りまとめてサービスを作るとき、ユーザにとって価値ある体験を本当に提供できるかどうかは具体性を高めないと見えてこない。そこでサービスのUI デザインやアプリケーションの実装を実際に進めながらユーザ体験の理想形を模索した。 BB のUI はサービス利用者(以下ユーザ)が継続的に利用することを前提にモバイルアプリとして設計し表1 プロダクトの機能要件 \\ た。もしモバイルアプリではなく Web としてサービスを提供した場合、ユーザが能動的に利用する意志を持たない限り継続的な利用を望めない。スマートフォンから継続的にアクセスしやすいモバイルアプリとして BB を設計することで、利便性の高いサービスの構築を目指した(図1)。 図1 サービスのイメージ BB の UI/UX 設計では、静的な画面制作と動的なプロトタイプ制作を並行して進めた。静的な画面設計と動的なプロトタイプ制作の目的はそれぞれ、サービスの全体像を構築することとサービスの主要な体験を詳細化することである。これら 2 つのアプローチを同時に行うことで、全体と詳細の整合性を保ちながらサー ビスの具体化を進めることができた。静的な画面設計では、UIデザインツールの Figma ${ }^{[2]}$ を用いた。サー ビスのいくつかの主要画面について、要素技術や機能要件を踏まえながら Figma でUIコンポーネントをレイアウトして、サービスの全体像を構築した。レイアウトがひと通り完了した後は、Figmaのプロトタイピング機能を用いて簡易的な画面遷移を作りサービスの動作を確認した。Figmaのワークスペースは常にタスクフォースメンバーに公開することで、いつでもメンバー からのフィードバックを受けられる環境を準備した。動的なプロトタイプ制作では、Web 技術を用いてサービスの主要画面を開発した。開発した主要画面は、 ユーザが体系化された知識を探索して読み込む箇所である。インタラクションやUXを詳細に作り込むことで、ユーザにとって価値あるサービスとは何かを模索した。なお動的なプロトタイプ制作で Web 技術を用いた理由は 2つある。1つは開発中のプロトタイプを Web 経由でタスクフォースメンバーと共有して、いつでもフイードバックを受けられる環境を作るためである。もう 1 つの理由は、ビルド速度やライブラリ数など、開発のイテレーションを早く回すための環境が Web 技術周辺に揃っていたためである。 ## 2. 設計の概要 BB は書籍や Webコンテンツの膨大なデータをもとにユーザの好奇心をサポートする知識体験プラット フォームである。BB で知りたいことを調べると、書籍や Webコンテンツに裏付けされた知識が体系的に可視化される。ユーザの知識レベルに合わせてコンテンツを深堀りすることができるため、ユーザは好奇心に任せて遊ぶように楽しく学ぶことができる。 もともと書籍や Web コンテンツを用いた知識体験にはそれぞれ短所がある。書籍はあるトピックについてパッケージ化されているため、ちょっと知りたいというユーザの小さな好奇心に応えることができない。一方で Webコンテンツは検索方法によって結果が一意に決まるため、少しずつ成長するユーザの知識レべルに寄り添うことができず、体系立てた理解を促すことができない。 そこで書籍や Webコンテンツでは理想的な知識体験を得られなかった人たちに向けて、「知りたいことから体系的に学べる」遊び感覚で好奇心を育める」書籍と Webコンテンツを横断できる」という3つの知識体験を設計した。書籍と Webコンテンツをひとつのプロダクトに統合して、どちらか片方だけでは得られない新しい知識体験の形態を模索した。 ## 3. 知識体験の設計 1 「知りたいことから体系的に学べる」 知りたいことから体系的に学ぶ体験を作るため、書籍をマイクロコンテンツ化してその関連性を求める技術をサービス設計の前提とした。各書籍をマイクロコンテンツ化する目的は、手軽に短時間で学べる環境や複数の書籍にまたがって横断的に知識を学べる環境を作るためである。ユーザは目的の知識をすばやく学び、関連する知識をまとめて習得することで好奇心を育むことができる。このことは、大量かつ様々な分野の知識コンテンツを蓄積しているデジタルアーカイブの意義ある利用にもつながる。 書籍のマイクロコンテンツ化やマイクロコンテンツ間の関連性導出は、第 3 部で述べたように研究途中の技術である。今回は簡易的に処理して手作業で修正したデータを用いてサービスを設計した。まず書籍の各節や各カラムの内容をマイクロコンテンツとして定義して、マイクロコンテンツに登場する単語のうち、表 2 の条件に従うものを、マイクロコンテンツを束ねるトピックとして選定した。 続いて選定した各トピックについて簡易的に TF-IDF (term frequency - inverse document frequency) を求めた (図 2)。 この TF-IDF の値をトピック順に並べたものを各マイクロコンテンツの特徴ベクトルと定義して、次元削 減することでマイクロコンテンツを 2 次元上にマッピングした。最後にマッピングしたデータを理想形に近づけるため、手作業でマイクロコンテンツの位置関係を修正して関連性の高いマイクロコンテンツ間にリンクを追加することで、体系化された知識コンテンツのデータベースを構築した。 表 2 のようにトピック所属数を設定した目的は、トピック間でコンテンツ数に大きな格差を作らないためである。またトピック共起確率の設定は、意味の近い トピックを乱立させないことが目的である。そしてトピック利用率の設定は、コンテンツ総数を十分確保することが目的である。これら 3 点の選定条件を設けることで、マイクロコンテンツを可視化したときに各トピックが意味的なまとまりを持つことを目指した。 「お酒の科学」4 冊(第 2 部参考文献 [2] 参照)のデー 夕をもとに生成した知識のデータベースが図 3 である。各マイクロコンテンツのタイトルが TF-IDF の最も高いトピックで色分けされて記載されている。この知表2トピックとなる単語の選定条件 & & 15 以上 \\ $ \begin{gathered} t f=\frac{\text { マイクロコンテンツAにおけるトピックxの出現頻度 }}{\text { マイクロコンテンツAにおける全単語の出現頻度の和 }} \\ i d f=\log \left(\frac{\text { 全マイクロコンテンツの数 }}{\text { トピック } x を \text { 含むマイクロコンテンツの数 }}\right) \\ t f i d f=t f * i d f \end{gathered} $ 数式 5.3(1). TF-IDF 9 定義 図2 TF-IDFの定義 識のデータベース自体を「BBマップ」、トピック毎のまとまりを「BB カテゴリ」、各マイクロコンテンツを 「BBコンテンツ」と定義した。なお今回選定したトピックは「料理」「香り成分」「栽培」「地域」「市場」「酒蔵」の 6 件で、トピック所属数・トピック共起確率・ トピック利用率は表 3 のようになった。 表3 選定したトピックの所属数・利用率・共起率 & 栽培 & 地域 & 市場 & 酒蔵 \\ & 栽培 & 地域 & 市場 & 酒蔵 \\ BB マップとはテーマごとに体系化された知識の地図のことで、あるテーマに関心を持ったユーザがテー マに関連する知識の全体像を俯瞰するためのものである。ユーザは知識の全体像を俯瞰しながら知りたいことを探索することで、学びの経路を意識しながら少しずつ関心を広げることができる。Web の検索結果のように一次元に並べられたリストと異なり、テーマに関連する情報が体系化された状態で点在するため、直感的かつ偶発的に知識を探索できるのが特徴である。 BB カテゴリとはトピックごとにまとめられた知識の群のことで、広大に広がる知識を束ねて体系的な理解を促すためのものである。ユーザは各知識コンテンツの意味的な距離を視覚で感じながら知識を探索することができる。BB カテゴリというランドマークがあることで、漠然とテーマに関する知識を眺めるたけでは得られない知識の土地勘を得られるのが特徴である。 BB コンテンツとは人が理解できる程度に知識の文脈を維持したコンテンツの最小単位のことで、ユーザが短い時間で気になる知識を学ぶためのものである。従来の書籍による知識体験と異なり、知りたいことに直接アクセスして短い時間で読破できるため、ユーザは途中で飽きることなく知識を学ぶことができる。もし理解や読解の難しいBB コンテンツに出会った場合も、隣接した BBコンテンツから外堀を埋めるように知識を広げられるため、モチベーション低下による離脱を防ぐことができる。 なお、ここでの BBマップ、BB カテゴリ、および $\mathrm{BB}$ コンテンツ間の関連性は、将来的には、第 3 部第 1 章で説明した機能群のさらなる開発により自動的に構築されるものとなる。 ## 4. 知識体験の設計 2 ## 「遊び感覚で好奇心を育める」 遊び感覚で好奇心を育む体験を作るため、ゲーミフィケーション要素や認知負荷の少ない情報デザインの導入を試みた。ユーザがちょっとした好奇心から新しい知識を学ぼうとしたとき、認知負荷を過度に与えてしまうとモチベーションの低下に繋がる。そこで努力して学んでいる感覚にユーザがならないように、 ゲーミフィケーション要素と認知負荷の少ない情報デザインをサービスに取り达むことで、身近で親しみのある知識体験を目指した。 先ずゲーミフィケーション要素をサービスに取り入れるにあたり、BBマップを夜空に見立ててサービス画面を設計した。天体を占める星座は BB カテゴリ、星座を構成する星は BBコンテンツに該当する。星座や星といった夜空のメタファーをデザインに導入することで、身近に感じられる知識体験の基盤を構築した。 具体的にゲーミフィケーション要素として導入したのは、星座や星のメタファーを活かしたクエストとコレクションである。クエストは新しい星を解放して達成するというもので、新しい知識に積極的に取り組んでもらうために導入した。一方コレクションは星座を辿って集めるというもので、長期的に学び続けてもらうために導入した。どちらも外的報酬に頼らず内発的動機づけを誘発することを意図した仕掛けである。 新しい星を解放して達成するクエストでは、「ロック」「アンロック」「コンプリート」という3つの BBコンテンツの状態を作り、それぞれの状態を視覚的に異なる星として設計した(図4)。各状態の星はユーザによるインタラクションに応じてアニメーションする。初期の BB マップでは、各 BB カテゴリの始点となる $\mathrm{BB}$ コンテンツ 1 点のみがアンロック状態で、それ以外はロックされている (図4左)。アンロックされた BB コンテンツを読破するとコンプリート状態になり、隣接する BBコンテンツがアンロックされて読める状態になる(図 4 中央)。ユーザは少しずつ新しい星を解放して達成することで、知識レベルに合わせて無理なくテーマに関する学習を進めることができる (図 4右)。星座を辿って集めるコレクションでは、BBコンテンッ間のリンクを星座に見立てて、踏破したリンクを強調表示することで徐々に星座が完成する様子を設計 図4 BBコンテンツの3つの状態 図5 星座が完成する様子 図6 BBマップが発展する様子 した(図 5)。これによりユーザは星座を完成して集めるという具体的な中間目標を設定して学習を進めることができる。漠然とした学習ではなく目標を持った学習にすることで、長期間モチベーションを維持できるようにした。 続いて認知負荷の少ない情報デザインを実現するため、情報量の制御と情報のシームレスな接続に取り組んだ。情報量の制御では、BBマップ内にある BBコ ンテンツの情報を提示する際に、アンロック状態の BB コンテンツのみタイトル表示することで BB マップの認知負荷を抑えた(図 6)。ユーザは限られた情報に集中して新しい学習に踏み出すことができる。また情報のシームレスな接続では、情報を俯瞰するための BB マップと情報を学習するための BB コンテンッを1タップで行き来できるように画面設計した(図7)。特定のテーマについて学習する際に、各知識の繋がり 図7 情報のシームレスな接続 を意識しながら個別の知識を体系的かつ具体的に学習できる。 ## 5. 知識体験の設計 3 ## 「書籍と Web コンテンツを横断できる」 書籍と Webコンテンツを横断する体験を作るため、 $\mathrm{BB}$ コンテンツを起点に出版社・Web サービス・その他関連サービスとどのように連携するべきか検討した。出版社や Web サービスと連携することで、書籍やWebコンテンツを統合した新しい知識体験を作る。 また書籍や Webコンテンッ以外にも、特定の知識と関連するサービスにユーザを誘導することで、メディアを超えて開かれた知識体験をユーザに提供できる。 先ず出版社との連携では、ユーザの小さな知的好奇心をきっかけに新しい書籍と出会えるように、BBコンテンツで引用された書籍情報にすぐアクセスできる導線を用意した。ユーザは引用元の書籍情報を確認できるだけでなく、BB サービスのアカウントと連携して1タップで書籍を購入できる(図8)。BBコンテンツの知識をもっと深く掘り下げたいというユーザのニーズに応えることを目指した。 次に Web サービスとの連携では、ユーザがメディアを横断したときも知識体験に集中できるように、知識と関連する Webコンテンツにすぐアクセスできる導線を用意した。ユーザは $\mathrm{BB}$ コンテンツで青くハイライトされたテクストをタップすると、外部サイトに飛ぶことなくひと続きの体験としてWebコンテンツにアクセスできる(図9)。なお図9では Web サービスの一例として Wikipedia ${ }^{[3]}$ の情報が揭載されている。 図8 引用元の書籍情報の表示と購入 最後にその他関連サービスとの連携では、ユーザが五感で知識体験を楽しめるように、知識と関連するサービスにすぐアクセスできる導線を用意した。Web コンテンツのときと同様、ユーザは青くハイライトされたテクストをタップすると関連サービスのページにアクセスできる(図9)。図9では関連サービスの一例として、ワインの通販サービスの特集記事が掲載されている。特集記事に書かれたワインの知識を学ぶだけでなく、BBのアカウントと連携してその場でワインを購入することで、ユーザは五感で知識を楽しむことができる。このように書籍や Webコンテンツというメディアを超えた新しい知識体験を設計した。 ## 6. まとめ 書籍や Webコンテンツの膨大なデータをもとにユーザの好奇心をサポートする知識体験プラットフォーム BB の UI/UX を設計した。BB の UI/UX 設計では「知りたいことから体系的に学べる」「遊び感覚で好奇心を育める」「書籍と Webコンテンツを横断できる」という 3 つの知識体験を設計して、新しい知識体験の形態を模索した。BB のユーザは知りたいことをモバイルアプリで調べることで、書籍や Webコンテンツに裏付けされた知識を体系的に学びながら徐々に好奇心を育てることができる。このような知識体験のUI/UX 設計は、デジタルアーカイブの利用形態全般に応用可能であり、デジタルアーカイブに含まれる知識コンテンツを楽しみながら系統的に学ぶことをサポートしてくれるだろう。 図9 関連サービスの表示と購入 ## 註・参考文献 [1] エンジニアリングとデザインを専門領域とする野見山真人とインタフェース研究に取り組む谷川智洋が中心になって行なった。 [2] Figma. https://www.figma.com/ (参照 2021-08-28). [3] Wikipedia カベルネ・ソーヴィニヨン. https://ja.wikipedia.org/wiki/\%E3\%82\%AB\%E3\%83\%99\%E3\% 83\%AB\%Е3\%83\%8D\%E3\%83\%BB\%E3\%82\%BD\%E3\%83\% ВС\%Е3\%83\%В4\%Е3\%82\%A3\%Е3\%83\%8B\%Е3\%83\%A8\%Е 3\%83\%B3 (参照 2021-08-28).
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# 第 6 回研究大会後の半日石巻市内 ツアー \author{ ゲルスタ・ユリア \\ GESTER Julia } 東北大学 災害科学国際研究所 開催日:2021年 10 月 16 日(土) 案内:ゲルスタ・ユリア;ボレー・セバスチャン (東北大学 災害科学国際研究所) 東北大学災害科学国際研究所で実施した第 6 回研究大会第 2 部の終了後に、大会参加者 19 名で宮城県石巻市内の伝承施設や復興を見学した。 本ツアーは、東北大及びハーバード大、プリンスト ン大の共同研究「災害デジタルアーカイブの利用方法 の共同研究プロジェクト」に参加者全員が協力してい ただくというかたちで実施された。また、ツアー費の 一部は、共同研究費から負担をさせていただいた。参加者には、事前に日本災害デジタルアーカイブ(以下、JDA)で、訪問先の震災状況や復興の歩みについ て調べていただき、JDAの「マイ・コレクション」機能でコレクションを作成していただいた。また、当日 は、現地で撮影した写真をコレクションに追加すると ともに、自分の感想を書き加えてもらい、最後に使用方法や課題点についてアンケートを実施させていたた だいた。 ツアーは、「いしのまき元気いちば」「石ノ森漫画館」「みやぎ東日本大震災津波伝承館」の順で見学等を 行った。 「いしのまき元気いちば」は、石巻市の中心市街地 に位置し、旧北上川のほとりにある。2017年にオー プンした本施設は、鮮魚や水産加工品から、農産品、地元の物産品、三陸地域や震竾復興応援地域の特産品 などが販売され、旅行客だけでなく、地元住民を元気 づけるための施設である。参加者は、石巻の旬を堪能 できる 2 階のレストランで昼食をし、 1 階で復興関連 のお土産等を見学していただいた。その後、旧北上川 の中州に位置する「石ノ森萬画館」で見学を行った。本施設は、石ノ森章太郎氏の過去から現在までの作品 を見ることができるだけでなく、3階には、当時の津波による被災の様子や中州に孤立し避難所になった様子なども写真で見ることもできた。 最後は、研究大会のシンポジウムで宮城県から報告 していただいた石巻南浜津波復興祈念公園内「みやぎ 東日本大震災津波伝承館」に訪問した。宮城県内の東日本大震災の被災状況の映像や語り部の映像などを見学していただいた。同時間帯に岸田総理大臣も来訪さ れていた。 帰りのバスでは、参加者の多くがツアーで撮った写真を JDA に投稿したり、感想を書くなどしていた。 コロナ禍が続く中、塈親会等はまだまだできないもの の、久しぶりに仲間と出かけ、東日本大震災から 10 年が経過した復興しつつある石巻を自分の目で確かめ ることを大事にした参加者の様子は印象的だった。コ ロナ禍が収まり、また多くの方々が現地を訪れること を期待している。
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# 美馬 秀樹 MIMA Hideki 京都大学学術情報メディアセンター 中村 覚 NAKAMURA Satoru 東京大学 # # 中澤 毎明 NAKAZAWA Toshiaki 東京大学 抄録: 本稿では、ビョンドブック(以下、BB と略)機能を支える要素技術の設計と開発について述べる。BB のプロトタイプ制作 にあたっては、必要な要素技術について検討を行い、実験、評価を目的として可能なものの実装を進めた。具体的には、1)コレ クション機能、2)カテゴライズ機能、3)テーマ抽出機能、4)マイクロコンテンッの最適配置機能、5)コンテンツ間のリンク推定機能、6)インターネット情報の取り达み機能、7)翻訳/著者と読者の共同編集機能、及び8)ユーザーアクションからの自動知識獲得機能、が挙げられる。これらの技術はいずれもデジタルアーカイブ全体の機能向上に役立つことを念頭において設計し、開発を進めたものである。 Abstract: In this paper, the design and development of the elemental technologies that support functionaly of the Beyond Book (BB) are described. Specifically, the following functions were implemented: 1) collection, 2) categorization, 3) theme extraction, 4) optimal placement of micro-contents, 5) link estimation among contents, 6) Internet information linkage, 7) translation / collaborative editing, and 8) automatic knowledge acquisition based on user actions. All of these technologies were designed and implemented with the intention of improvement to the overall functionality of digital archives. キーワード : マイクロコンテンツ、クラスタリング、テーマ抽出、TEI、機械翻訳、共同編集、知識獲得 Keywords: Microcontent, clustering, theme extraction, TEI, machine translation, collaborative editing, knowledge acquisition ## 1. デジタルコンテンツのテーマ生成とテーマ に応じたクラスターの生成 本節では、BB の機能要件(2)オープン化・ネットワーク化・インタラクティブ性(第 2 部第 1 章参照) の実現において、これを支える要素技術として実装を行った機能群 (第2部の図 1 内、制作フロー図の (4)、(6)、 (7)に相当)について述べる。これらはすべて今回のプロトタイプ制作のために新たに設計、開発したものである。 本要件に対する具体的な機能として以下を考える。 コレクション機能 —読書のモチベーションを向上するキーワードや用語 (例:日本酒)、著者、タイトル、分類等の属性に対し、関連するマイクロコンテンツを選択する。 ・シソーラス等の利用により同義語や類義語、表記摇れに対する処理(形態的なゆれ、意味的なゆれ、同義性、類義性を吸収し、同じ対象を検索可能とする処理)が行われていることが望ましい。 カテゴライズ機能 $\cdot$コレクションにより選択されたコンテンツ群に対し、内容テクストを分析することで、さらに意味の関連のあるコンテンツにカテゴライズする機能 ## テーマ抽出機能 —カテゴライズと合わせて意味を補完するキーワードや用語(例:日本酒×ペアリング)を抽出する機能 -コレクション機能と同様に、同義語、類義語、表記摇れに対する処理が行われること、またテーマに対する曖昧性の解消(テーマが同じコレクションに対して、追加で異なるテーマを抽出することで、それらの差異を明確にする機能)ができることが望ましい。 マイクロコンテンツの最適配置機能 —関連性の高いコンテンツ、同じカテゴリーのコンテンツが近くに配置されるよう、座標を決定する機能 コンテンツ間のリンク推定機能 -一本道と分岐路の割合が $7: 3$ 程度になることが望ましい。 $\cdot$コレクション内のすべてのページがつながっていること(ほかのカテゴリーに渡ることができる) 上記の機能要件に対し、これらを実現するシステムとその構成を図 1 に示す。 図1 システム構成 以下に、それぞれの機能に関し詳述する。 自動用語抽出エンジン(TermEngine) 入力となるテクストに対し、概念の包含性を基に用語としての妥当性を判断する C/NC-value 手法を行い、専門用語を自動抽出する機能である。C/NC-value 手法 ${ }^{[1]}$ の特徴は分野依存性が低く、様々な分野のテクストから高精度に用語の抽出が可能となることにある。本システムは日英両言語のテクストの解析に辞書の切り替えなしに対応できる。 類似度計算エンジン(SimEngine) TermEngine により抽出された用語とその頻度の情報を用いて、コンテンツ間の関連性を定量的に計算するためのモジュールである。本エンジンは、高度な拡張性を有し、計算手法を独自に定義、プラグインすることで容易に拡張が行える機構を備えている。過去の研究では、関連度の計算にVSM(Vector Space Model)に おけるコサイン内積や平均相互情報量を利用した階層化クラスタリング、クラスター間の関連度計算に WARD 法 - 重心法 ・群平均法 - 最短 (長) 距離法等の一般的手法、また、クラスターの認識に BronKerboschによる最大クリーク探索を用いるもの等、様々な手法を実装し、実験評価したが、現状では、計算速度と精度とのバランスを取り、階層化クラスタリング及び関連度の計算にVSM におけるコサイン内積を利用したものを採用した。任意に指定されたクラスター階層の情報により、その階層でのカテゴリを抽出し、カテゴリに属するコンテンツの情報と共に出力を行うことを可能としている。なお,各コンテンツのべクトル化に関しては、word2vec、dos2vec 等の手法により処理を行う方向でさらに研究を進めている。可視化関連エンジン(VizEngine) SimEngine により得られたコンテンツ間の関連性を基に、コンテンツの全体像を可視化し、俯瞰可能とする機能である。本可視化における座標計算では、グラフ理論を基に、各コンテンツをノード(点)に割り当て、またノード間の関連性の大きさをリンク重みとしたグラフ構造で表現し、このグラフ構造に対するバネモデルを利用することで、それぞれのノードの最適配置の計算を行う。加えて、SimEngineにより抽出された各カテゴリ内のコンテンツに含まれる用語をTermEngine の結果から抽出し、DF (Document Frequency; 各用語を含むコンテンツの数)を基としたスコア付けを行うことで、各カテゴリのテーマを抽出する。また、カテゴリのテーマに同じものが存在する場合は、次スコアの用語をサブテーマとして加えることで、カテゴリのテーマの曖昧性解消を行う。 全文検索エンジン(IREngine): キーワードや、属性-值対の入力に対し、関連するコンテンツを高速で検索し、検索結果として出力する。現在のシステムでの標準全文検索エンジン (IR Engine) としては、Solrを採用し、シソーラスを利用した類似検索にも対応する[2][3]。 本システムに対し、いくつかの書籍データを基にマイクロコンテンツを作成し、予備的に実験、評価を行なった。実験の結果として、概ね良好なカテゴリ抽出及びテーマ抽出が行えることが確認できたが、利用目的により、テーマの選定の難しさや配置の難しさがあることも浮き彫りになった。これは、本システムが用語の頻度統計を基にした機構であることより、基本的には、データ数がその精度に大きく影響していると考えられる。また、テクストの言語統計のような、コンテンツとしての基本的な統計情報に加えて、利用者側 のコンテンツ利用目的の情報などをいかに読書支援に反映させるか、つまり「アダプテーション」の枠組みをいかに実現するかも考える必要がある。具体的には、利用者の趣味嗜好等の情報や既有知識、過去のコレクションに指定されたキーワードや利用履歷等のデータをいかに取得し、新たなコレクションやカテゴライズまたテーマ抽出に反映させるか等に対し、さらに研究開発を進める必要がある。これらに関しては、第 4 節で詳述する。加えて、実際に「どのように読書を進めているか」、それに対し「どのようにグラフを生成するのが最適か」など、実際にグラフを眺めながらシミュレーションや評価ができる環境を用意することも今後の分析手法のさらなる向上や、読書支援の新たなアイディアを検討しやすくするためには重要な要素となる。 他方、テーマ抽出や関連性の抽出の精度に関し、深層学習を利用した分析の実験評価も並行して進めているが、深層学習においては、さらに学習のためのデー 夕量が問題になる。また、学習内容の全貌が掴みにくい深層学習による予測のみでは、利用者への直感的な分かりやすさ(例えば、どうしてこのテーマが選ばれたのか等)に問題が生じる。やはり「〜繋がり」のようなわかりやすいテーマ選択やその可視化も重要であろう。また、コンテンツ間の関連のわかりやすさに関しては、実際の AI 系サービスでよく利用される「おすすめ度」や、協調性フィルタリングによる「この商品を買った人が他にチェックしている商品」等、利用者の認識しやすい形態に変換し、可視化を行うことで理解を促す工夫も必要である。さらに、つながりの形成に寄与したキーワードをハイライトするなど、UX (User eXperience) の観点からも解決できる部分が多くあると考えられる。 ## 2. インターネット情報の取り込み BB のデジタルコンテンッの利活用に向けて、外部サイトとの関連付けを行なった。具体的には、人文学向けのテクストの構造化ルールを定める TEI(Text Encoding Initiative)を利用し、テクスト中に登場するキーワードの構造化を行なった。キーワードの選定にあたっては、書籍の巻末にまとめられていた索引情報を利用した。 これらの各キーワードに関する情報や関連サイトへのリンクをRDF(Resource Description Framework)を用いて記述した。具体的には、Wikipedia、Twitter および Google ショッピングに対して、当該キーワードで検索するリンクを付与した。 これらのデータを利用したプロトタイプ(図2)の開発に当たっては、OSSである TEI Publisher ${ }^{[4]}$ と Virtuoso ${ }^{[5]}$ 利用した。TEI Publisher はTEIファイルの管理や公開を行うためのアプリケーション、Virtuoso は DBpedia や Japan Search でも導入実績のある RDF ストアである。 ## 3. 翻訳/著者と読者の共同編集機能 $\mathrm{BB}$ のマイクロコンテンツのさらなる活用方法の検討を目的として、日英テクストの並列表示と、Google ドキュメントを用いた共同編集環境の試作を行なった (図3)。 日英テクストの並列表では、機械翻訳を用いて作成した英文テクストについて、TEIを用いて元テクストとの対応づけを行なった。また上述した TEI Publisher を用いて、日英の対応箇所がハイライトされるテクストの閲覧環境を合わせて構築した。 共同編集環境の構築にあたっては、Google Docs API を用いて、XMLファイルで構造化されたコンテンッをドキュメントの形で再構成した。Google ドキュメ 図2 TElとRDFを用いた外部サイトとの関連付け 図3 翻訳/共同編集環境 ントとして作成することにより、複数人によるリアルタイムの共同作業や、コメントの共有などによる編集が可能となった。これらの機能を発展させることにより、本取り組みを通じた新たなコンテンツの拡充等にもつなげていきたい。 ## 4. ユーザーアクションからの自動知識獲得 BB 利用者の学習体験をより充実したものにするためには、利用者が読んでいるコンテンツに関連したコンテンツを提案する機能が必須となる。このような機能の実現のためには、コンテンッ中に存在するさまざまな概念や用語の間の関係が記述されたシソーラス (類義関係や上位下位関係が記述された辞書)やタクソノミー (分類体系) などの知識体系を用意しておく必要がある。このような知識があるとコンテンツ推薦だけでなく、検索キーワードの推薦、コンテンツの構造化・体系化などが行える。 しかしこのような言語資源はあらかじめ完全なものを人手で構築しておくことはほぼ不可能である。特に専門用語などは次々と新しいものが出現し、一般用語であっても時代の流れとともにその使われ方が徐々に変化するため、これらすべてを言語資源として整備することが難しいためである。そこで自動的にこれらの知識を獲得することを考える。 自動獲得の情報源として利用可能なものとして、「利用者からの検索キーワード入力」や「提示したコンテンツに対する利用者の反応」などがある。例えば検索キーワードとして複数のキーワードが入力された場合、それらにはなんらかの関係が存在するはずである。具体的にどのような関係なのかは、コンテンツを解析すればある程度判定可能と考えられる。またキー ワードの入力順序も情報源となる可能性がある。 提示したコンテンツに対する利用者の反応も有用な情報源である。例えば検索キーワードに対して提示したコンテンツを読者が時間をかけて読んたととると、 そのコンテンツと検索キーワードは関係が深い(検索キーワードがコンテンツの内容をよく表している)と考えることができ、コンテンツに検索キーワードを夕グとして付与することなどが可能である。これにより、別の人が検索をしたときに優先的にタグが振られたコンテンツを表示したり、コンテンツのグループ化といったことが可能となる。 このように知識の自動獲得とユーザーアクションの解析のサイクル化によって次第に高精度で網羅的な知識が構築できると考えられるが、今回の試作ではその具体的な手法を適用するまでには至らなかった。 (第 1 章を美馬秀樹、第 2 章・第 3 章を中村覚、第 4 章を中澤敏明が分担執筆した。) ## 註・参考文献 [1] H. Mima, S. Ananiadou, An application and evaluation of the C/ $\mathrm{NC}$-value approach for the automatic term recognition of multiword units in Japanese, Int. J. on Terminology 6/2, 2001, pp.175194. [2] H. Mima, S. Ananiadou, K. Matsushima, Terminology-based Knowledge Mining for New Knowledge Discovery, ACM Transactions on Asian Language Information Processing (TALIP), 2006, Vol. 5 (1), pp.74-88. [3] 美馬秀樹. 自然言語処理と可視化を利用した履修選択支援システムの実用化. 情報処理学会論文誌(コンピュータと教育. vol. 6, no. 2, p.38-51 (JUNE 2020)). [4] TEI Publisher. https://teipublisher.com/ (参照 2021-07-25). [5] Virtuoso. https://virtuoso.openlinksw.com/ (参照 2021-07-25).
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# 第 2 部:ビヨンドブックの機能要件 と構成 ## Part 2: Functional Requirements and Content of Beyond Book \author{ 久永 \\ 一郎 \\ HISANAGA Ichiro \\ 大日本印刷株式会社 } \author{ 前沢克俊 \\ MAEZAWA Katsutoshi \\ 大日本印刷株式会社 } 抄録:ビヨンドブック(BB)の機能として、デジタル文化資源のもつオープン化・ネットワーク化・インタラクティブ性、マイクロコンテンツ化など 5 の要件を可能な限り取り入れた。利用形態としては自分の専門外で仕事・趣味・生活上の有用な知識を得る手段となること、利用者としては新しい知的潮流に関心のある若いビジネスパーソンを想定した。BBの利用継続性を担保するための収益モデルの可能性についても検討した。これらの要因を満たすためのコンテンツとして講談社ブルーバックスシリーズの 「お酒の科学」4 冊をテキストデータ化した。最後に BB プロトタイプ制作のための制作フローを設定した。 As a function of beyond book, five requirements such as openness, networking, interactivity, and micro-content of digital cultural resources are incorporated as much as possible. As a form of use, it is assumed that it would be a means to obtain useful knowledge in work, hobbies and life outside of user's specialty, and as a user, a young businessperson who is interested in a new intellectual trend is assumed. The possibilities of the profit model to ensure the continuity of the use of BB was also examined. As content to satisfy these factors, four books of "Science about Sake" of the Kodansha Blueback's series were converted into text data. Finally, the production flow for BB prototype production was set. キーワード:BB機能要件、利用者像、利用形態、BBコンテンツ、BBプロトタイプ制作 Keywords: BB functional requirements, user image, usage modes, BB content, BB prototype production ## はじめに $ \text { ビョンドブック(以下、BB と略)にどのような機 } $ 能を盛り込むかは、書籍・電子書籍やインターネット情報源を超えた新たな知識構成体を開発しようとするビヨンドブック・プロジェクトの根幹に関わることである。書籍・ネット情報の利点を引き継ぎながら、それぞれの弱点をどのように乗り越え、新しい価値を提示できるかが、BB の成否の鍵を握っている。本プロジェクトは BB の概念モデルの単なる構築・提示ではなく、最終的には商品化・サービス化することによる社会的普及をめざすものであり、日本の技術開発にありがちなオーバースペックな機能ではなく、利用者と利用目的、使いやすさ等利用形態との整合性を重視した。 ## 1. 機能要件 デジタル文化資源の特性として、(1)マルチメディア性、(2)オープン化・ネットワーク化・インタラクティブ性、(3)テクストの可変性、(4)マイクロコンテンツ化と蓄積性、(5)編集性、の五つが挙げられるが[1]、それらはすべて紙の書籍では機能させることが困難である。こうした機能をどのような形で BB 上に実現できるだろうか。先ずは最大限盛り込みたい機能を想定した。 (1) マルチメディア性については、文字だけでなく、写真等の静止画はもち万ん、音声、動画をテクストに埋め込む。 (2) テクストのオープン性を確保するために、ネットワークを通じた外部テクストの取り込みや各 種デジタルアーカイブからのコンテンツ利用が考えられるが、現時点では著作権法上の制約等があり、関連情報源のリンクづけに限った。リンクはテクスト間の関係だけでなく、企業や専門団体のホームページにつながることで、関係する商品購入やイベント参加まで機能を拡げることができる。また、著者のテクストを基に読者やそのテーマに関する専門家等による書き込み共有・意見交換の機能が期待される。 (3) 著者・読者間等のインタラクティブによるテクストの改変性だけでなく、著者による随時の修正・加筆によってテクストが常に更新されることを保障する。 (4) 章節単位でリニアに(最初から順番に)読む必要はなく、興味がある・調べる必要のあるテクストだけを複数抜き出して読むことができ、それらを個人ファイルに蓄積して随時利用することを可能にする。マイクロコンテンツの単位としてはセンテンスが望ましいが、とりあえずはパラグラフ単位を想定する。 (5) 利用者は単なる読者としてではなく、利用した $\mathrm{BB}$ のテクストや外部リンク、蓄積したファイル等を利用して新しいテクストを生み出していくための編集ができる場とツール(専門家等によるコンサルティング機能も含まれる)が、 BBの中で確保される。 こうしたデジタル文化資源の特徴を活かしつつ、書籍がもっていた提供コンテンツへの信頼性・安定性や体系性を担保することに BB の新規性がある。 さらに、BB が商品として流通していくためには、広告やサブスクリプション、決済などのビジネス機能の付加が不可欠である。 ## 2. 利用形態 このような機能を誰にどのように使ってもらうのか、逆に言えば使ってもらえるようにするにはどのような機能・動作・操作性が必要なのかについて検討した。 趣味や研究のための時間をかけた読書や、とりあえず何か調べるあるいは広範に蓄積されたデータを利用するためのネット検索では満たされない情報ニーズがあるか、そこから議論を始めた。 BB 利用の動機として、自分の専門外のテーマで、仕事・学習・生活上の必要から、そのテーマに関する「信頼できる」概要的知識と新しい情報を短時間で得ることができ、仮に喫緊の仕事の必要から求めたものであっても、それを きっかけに趣味や生活の場面にも展開することで、より深い知識に体系的・効率的にアクセスしたいというニーズを想定した。利用者像としては、仕事・趣味・生活スタイルに自分流の好み・テーマがあり、新しい知的潮流に敏感な $20 \sim 30$ 歳代のビジネスパーソンがそのニーズに合致するように思われた。 また、テーマに関する知識だけでなく、関連する人物、組織、商品、イベント等へのワンストップアクセスができ、さらに自分が調べた結果(知識)が自動的に整理され、新しい関連情報がネットを通じて自動的に追加される、それを同じ関心を持つ他の利用者と情報共有できると面白いのではないかと考えた。 こうした利用形態の想定具体例として、普段は居酒屋でビールやハイボールを飲むことが多い 30 歳代の会社員が、上司と顧客との懇親会がワインバーで行われることになり、慌ててワインの基本的知識を BB で得てその場に臨み、それがきっかけでワインに関心を持ち、関連知識だけでなく、自宅で飲むワインを注文したり、別のワインバーに行く、そして同好の士と $\mathrm{BB}$ 上で情報交換をして、さらに詳しいことを元のテクストを書いた専門家に問い合わせる、そしてうような展開をイメージした。そしてこのイメージが結局プロトタイプに用いる実験用コンテンツの選択にも影響を与えることになった。 BB を読むためのディヴァイスは専用の機器開発は行わず、スマートフォン、タブレット、PCなどから利用場面にふさわしいものを選択して読めることを想定している。 ## 3. ビジネスモデルの検討 デジタル時代の「知識構成体」に合わせて、新しいビジネスモデル構築を検討した。書籍など知識のパッケージ販売は一冊ずつ購入する従量制が基本だった。 デジタル時代は様々なビジネスモデルがあり、BB のコンセプトがビジネスとして成立する可能性を探った。 サブスクリプション:一定額を支払えば、アクセス制限がなく使い放題。ユーザにとっては初動に割高感を感じる場合があるものの、支払額が決まっているという安心感もあり、ネット映像配信事業を中心に拡大している。 —購買アフィリエイト:情報発信者がクリックをトレース可能な記事あるいは広告を掲載し、それをきっかけに購買につながった場合に広告主から成功報酬を受け取る。ユーザは情報閲覧に対して費用を支払う必要がないのが基本。雑誌のデジタル版・人気ブログなどで行われている。 $\cdot$アプリ内課金:サブスクリプションあるいは無料のアプリのサービス内で、追加サービスやコンテンツ利用に対して課金する。ユーザはアプリの価値を十分に理解(あるいは抜けられない状況に) したうえで、追加の支払いを行う。 —検定モデル:知識を実践する場(テストやコンテスト、級や段、資格)を提供し、受験対策の教科書の販売と受験料等を求める。ユーザはサービスに支払いをしている意識はなく、自身のステータスを証明する必要コストと捉えている場合が多い。 -履歴広告モデル:購買履歷や閲覧履歷によって広告を表示する。ユーザは情報閲覧に対して費用を支払う必要がないのが基本。企業側もターゲット設定で効果が高いとされている。 —情報銀行等データ取引:まだ具体的サービスが実現しているわけではないが、政府が進めるデジタル社会の個人情報ビジネス。行動履歴や個人情報の使用許諾を結び、第三者にデータを販売する。 以上ですべてのビジネスモデルを網羅できているわけではないが、BB はそれらの全部または一部を組み合わせることになると思われる。ダイナミックにマイクロコンテンツを組み合わせていく以上、そのコンテンツの使用履歴を管理し、それぞれのコンテンツが一つの知識を構成するうえでどれくらいの価値があるのか、文字数なのか利用される頻度なのか、テーマ提案が重要なのか、まとめに組み込まれているのが重要なのか、適正に価値を測定し収益を分配する仕組みが実装される必要がある。 書籍・雑誌が社会に提供しながらもマネタイズが難しかった領域として「目標」がある。例えば「夢の海外生活完全攻略マニュアル」というタイトルを店頭で見つけて購入し、一所懸命読み达み、様々な努力を重ねて本当に海外移住を果たす。このように、ユーザが日常生活では出会えない目標(気づき)を提示し、その目標に向かって購買やサービス利用する原動力になる場合がある。書籍・雑誌は長らく「目標」を実質的に提供してきているが、これまではマネタイズが難しかった。BB は上記検定モデル・アフィリエイトモデルを組み入れた目標のマネタイズを意識して、様々なビジネスモデルを統合した初めての組み合わせモデルになりうると予想される。 ## 4. コンテンツの選択と編成 BB の核となるコンテンツについては、特定分野。 テーマに関する知識が得られるオリジナルテクスト を、研究者を含めた専門家に創作してもらうことを想定した。また内容のレべルは、書籍でいえば一般書と専門書の中間、新書あるいは選書レベルの記述である。但し、書籍や論文のように順番に読んでいかないと理解できない一貫した流れをもった構成ではなく、事典やマニュアル本のように、必要な部分(マイクロコンテンツ)を取り出して読め、一人の著者ではなく、 テーマに関連する複数の著者のテクストが同時に読めることが望ましい。その意味で、膨大な知識コンテンツを蓄積したデジタルアーカイブの活用が本来の機能を果たすためには必要だろう。今回のプロトタイプ制作では検索対象になる一定量のテクストを用意する必要があり、オリジナル創作はあきらめ、上記コンテンツイメージに合致する既存の新書・選書のテクストを利用することにした。 記述の明確性、専門分野の細分化と関連分野への広がり、著者の専門性、テクスト更新の必要性等様々な観点から考えて、人文学や社会科学系ではなく、理数系のシリーズがふさわしいということになり、講談社のブルーバックスを選択した。問題はその中からどのようなテーマの本を選ぶかだった。統計、鉱物、ビジネススキル、人工知能、発酵、宇宙、食物の科学、金属など多くの候補の中から「お酒の科学」4 冊[2] が選ばれたのは、テーマのわかりやすさや一般性、異なる著者・テクストではあるが、発酵、原料、蒸留、食事、健康等共通の要素が多いこと、テクストにとどまらずヒト (醇造家など)、モノ (販売品)、コト (イベント) への展開があることなどによるが、第 2 節でイメージしたように、仕事、趣味、生活などの様々な場面での利用が想像できることも大きな理由となった。なお、 マルチメディア性という観点からは、それに関連する画像、音声、動画などを取り达むことも考えられたが、労力・時間等の制約により断念した。 選ばれた 4 冊について、講談社から実験用に提供を受け、テクスト全文をデータ構造化し、テキストデー 夕(XML)と図版画像デー夕(JPEG)を切り分けて、 タグ付けを行なった。 ## 5. 制作フローの作成 以上の機能要件やコンテンツ特性を最大限実現するためのプロトタイプを制作するにあたり、制作フロー を図 1 に定義した。 図中のデータ構造化 (2)') では書籍のPDF デー夕から見出し、本文、図版など文書構造を $\mathrm{AI}$ で自動認識してマイクロコンテンツ化する技術(大日本印刷株式会社提供)を利用し、データ構造化作業の効率化を ## (1)コンテンツ使用許諾 図った。シソーラス/タクソノミー (4) では、クラスター化(6)での精度向上や外部リンク(7))での効果的な活用を期待し、書籍 4 冊の索引に掲載されている索引情報から実験的に一部、索引語分類を作成した。まず第 1 階層を 6 分類(1. ラベル意味 $/ 2$. 製造方法 /3. 種類 $/ 4$. 飲み方 $/ 5$. 健康との関係 / 6. 歴史・制度)定義し、「2. 製造方法」についてのみ 3 階層まで分類名を付与した(表 1)。たたし時間の制約上、今回のプロトタイプ制作では議論までとし、実装化は次のフェーズで実施検討することとした。 (第 1 〜 3 章を柳、第 4 章を久永、第 5 章を前沢が分担執筆した。)表1 分類階層 & 211 主原料 \\ ## 註・参考文献 [1] 柳与志夫. デジタルアーカイブの理論と政策. 勁草書房. 2020, p.52-53. [2] 具体的には、古賀邦正『ウイスキーの科学』(2018年)、渡淳二『ビールの科学』(2018年)、清水健一『ワインの科学』 (1999年)、和田美代子著・高橋俊成監修『日本酒の科学』 (2015年)の 4 冊である。この場を借りて改めて著作のデー 夕化・実験利用をお認めいたたいた著者の方々と講談社に感謝を申し上げます。
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# 第 1 部: 新しい本の可能性を考える一「ビヨンドブック」プロジェクトの試み Part 1: Suggestions for the New Book: An Attempt at the Beyond Book Project 抄録:書籍とインターネット情報源のメリットを最大限生かし、そのデメリットを最小化した、デジタル時代にふさわしい新しい 知識構成体「ビヨンドブック (BB)」の開発に取り組んだ。そのために先ず過去の開発事例及びその問題点をレビューした。また それを実施するための研究チームを、多様な分野からの人材で編成した。図書や資料が図書館やアーカイブの中核をなすように、 デジタルアーカイブにとって、将来 BB がコンテンツの中核を担うことが期待される。 Abstract: Taking full advantages of books and Internet information resources, we worked on the development of Beyond Book (BB), a new integrated knowledge structures suitable for the digital age that minimizes their disadvantages. For that purpose, past R\&D cases and their problems were reviewed first. In addition, a research team to implement it was organized by human resources from various fields. Just as books and materials form the core content of libraries and archives, it is expected that BB will play a central role in digital content for digital archives in the future. キーワード : ビヨンドブック、デジタルコンテンツ、デジタルアーカイブ Keywords: Beyond Book, digital content, digital archive ## 1.「ビヨンドブック」プロジェクトの意義 デジタル環境の進展は社会のあらゆる分野に及んで おり、出版物もその例外ではない。デジタルブックや デジタルライブラリーへの取組としては、ヴァネ ヴァー・ブッシュの Memex やテッド・ネルソンの Xanadu 計画まで遡らないにしても、1990 年代以降、印刷物としての書籍に代わる、デジタル時代に対応し た新しい「デジタル」書籍の開発に様々な分野・立場 からの試みがなされてきた。そして昨今のリモート ワーク、リモート授業の進展という追い風を受けて、 2020 年の電子書籍売り上げは前年比 $28.0 \%$ 増の 3931 億円となり ${ }^{[1]}$ 、近年の書籍全体の売上高長期低落傾向 に歯止めをかける大きな要因となっている。しかしそ れは本来のデジタル書籍開発が目指していたことの実現と言えるのだろうか。 またその一方で、「ググる」という言葉の一般化が象徴するように、以前は書籍を調べたり、読んだりすることによって得ていた情報・知識をインターネット検索によって代替することが普通になっている。そもそもネット上でしか得ることができない情報が飛躍的に増えていることも確かである。しかしフェイク ニュースやリンク切れが頻出する中、信頼して利用できる情報を膨大なネット情報の中からどのように選り分けたらいいのだ万うか。 ビヨンドブック・プロジェクトは、知識が固定化され・パッケージ化された従来の書籍や既存の電子書籍では実現できなかった、しかし断片的で玉石混淆のインターネット情報の寄せ集めでもない、デジタル時代にふさわしい新しい「知識構成体 $]^{[2]}$ を開発することを目的として構想された。それが、新しいデジタル 「ブック」の開発ではなく、本を超える「ビヨンド」 ブックとプロジェクトに名付けた理由である。 ビヨンドブック(Beyond Book 以下、BB と略)開発の意義は、書籍・電子書籍の弱点:テーマとそれに基づくテクストの固定化 (情報が更新されない)、関連知識を得るためには他の書籍等への参照が必要、著者から読者への一方的な知識伝達、関心あるコンテンツへのランダムアクセスが難しい(順を追って読んでいくことを前提にしている)等と、グーグル等インター ネット情報源の弱点 : 知識レベルがバラバラ、どこまで信用していいのかわからない情報源が少なくない、 リンク切れ等により永続性の担保がない、系統的知識 を得にくい等、の両面を克服した、デジタル文化資源としてのメリット[3]を活かしたネットワーク型のデジタル知識構成体を制作し、現実の製品・サービス化への道筋をつけることによって、デジタル時代にふさわしい新しい知識創造・知識獲得の在り方を探求することにある。そのことは、書籍のデジタル化コンテンツや様々なデータセット、インターネット情報源等をその主要コンテンツとしている現在のデジタルアーカイブに、信頼できる新たなコンテンツ供給源を提供することになり、デジタルアーカイブにおけるこれからのデジタルコレクションの形成と活用を考えるうえでも大きな示唆を与えるだろう。また一方で、デジタルアーカイブの活用促進の観点から見れば、信頼できる大量のコンテンツを体系的に保有するデジタルアーカイブ本来の強みを活かした、デジタルコンテンツ提供サービスとして BB を位置づけることもできる。 ## 2. 先行研究開発事例とその問題点 デジタルブック開発に関わる歴史的経緯については、すでに別の機会にレビューしているので[4]、ここでは BB 開発に関わる範囲で簡単に触れるにとどめたい。 「ネットワーク型デジタル知識構成体」のアイディアは、古くはライプニッツの普遍学まで遡ることができるかもしれないが、コンピュータを利用したデジタル文化資源としてのメリットを最大限生かそうとした構想としては、Memex (1945 年) ${ }^{[5]}$ や Xanadu 計画 (1960 年) ${ }^{[6]}$ がその嚆矢と言える。しかしそれらの構想は、 その後の情報科学や情報サービスに多大の影響を与えたが、コンピュータの性能やネットワーク基盤整備が不十分だったため、現実に利用可能なサービスや製品としてすぐには具現化されなかった。しばらく時を置いて、1980 年代以降に電子ジャーナルやデジタルアー カイブという形でようやく部分的に具体化されてきたと言えるだろう。 一方、代表的な知識パッケージとして社会的機能を果たしてきた書籍を発展させ、デジタル時代に対応すべく、構想レベルではなく、市場で提供できるサービスや製品として開発されたのが電子出版であった。 日本電子出版協会が設立された 1986 年、電子出版の中心は、CD-ROMを使った辞書・事典やマルチメディア系コンテンツだった。それまでの書籍ではできなかった効率的検索や音声・動画を取り达むという意味でのデジタル対応であったが、いったん取り込まれたコンテンツが固定されてしまう点では書籍同様に閉じた知識構成体であり、本に代わるというよりは、それを補う役割が期待されていたと言えよう。 それに対して、デジタルネットワーク本来の強みである、複数のテクストを取り达み、常に改変可能で、著者と読者がインタラクティブに関与し、外部の情報源とリンクされた、一言でいえばテクストのオープン化やハイパーテクスト化の方向で新しい「電子ブック」 の意義を見出そうとする試みや議論が、1990 年代に活発化してきた。そこでの話題の中心は、本の「次に来るもの」(ビョンド・ブック)であり、「デジタル化された本」ではなかった。現在では電子書籍の 1 フォーマットとみなされているボイジャー社のエキスパンドブックも、1993 年の発表時にはそのような方向を目指していたように思われる。しかしそうした論議の拠点となっていた雑誌『季刊本とコンピュータ』 の終刊(2005 年)に象徴されるように、その後の出版界における取組は、様々なデジタル知識構成体の可能性の中から、まさに「デジタル化書籍=電子書籍」 に収斂されて 2010 年の電子書籍元年を迎えることになった。その後、新しい「読書」のあり方探究やハイパーテクスト化の試みもあったが[7]、デジタルブックの主流となることはなかった。 その理由は社会的・心理的・技術的その他様々な要因が考えられるが、パッケージとしての電子書籍の流通・販売は、従来の書籍流通モデルの延長線上で収益モデルが作りやすかったこと、逆に販売の単位が何であるかということすらもわからないオープンテクストのビジネスモデルを描くことが難しかったことが大きな原因になっているように思われる。したがって、 $\mathrm{BB}$ は、単に技術的な実現可能性だけではなく、収益化が可能なビジネスモデルをセットにしない限り、現実のサービス・製品としていくことは難しいと考えられる。 また、一方のインターネット情報源を対象とする知識構成体構築とそれに基づくサービス化・商品化についても、電子書籍の動きを凌駕するような大きな進展はこれまでないように見える。まとめサイトやキュレーションサイト構築も、情報源の収集方法の一貫性やそれらの品質レベル・信頼性の保証、編集方法等の面で解決すべき課題は多い。 ## 3. プロジェクトの経緯と研究体制 旧来の書籍・電子書籍に続いて、情報・知識のデジタル化・ネットワーク化・オープンテクスト化のメリットを取り込んだ新たなデジタルブックの研究開発を目的として、東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座の下に「次世代デジタルブック開発プロジェクト」を立ち上げ(2017年 4 月)、 検討会を発足させた。これまでの書籍機能の延長線上ではなく、デジタルコンテンツの様々な特性を反映させた機能を取り入れる観点から、検討会委員には、出版界・学術界の範囲にとどまらない、様々な分野の専門家の参加を得た ${ }^{[8]}$ 。検討会の目標としては、(1)新しいデジタルブックのプロダクトデザインの制作、(2)その制作・流通を継続的にビジネスとして成立させるためのビジネスモデルの構築、の 2 点を掲げた。 検討会では先ず、新デジタルブック開発の必要性、想定する新たな読者層、提供すべきコンテンツ・機能・メデイアの特性、読書を超えた知識獲得体験の可能性、制作者の属性、商品性 - 収益性、社会的価値、新たな技術開発の必要性等多方面にわたる観点から議論を行ない、これまでの書籍・電子書籍とはまったく異なるプロダクトイメージを固めることを優先した。 イメージ作りにとって重要な、開発対象の名称を定めるための論議も意見百出であったが、前田委員の提案した「ビョンドブック」に決定した。このプロジェクトが、「古いコンテンツの新しい見せ方」を検討するのではなく、コンテンツとメディア一体の新しい知識構成体制作をめざしていることを示したいと考えたからである。 こうした論議を重ねながら、利用者層の措定、マイクロコンテンツを前提とするコンテンツ編成、既存の要素技術の応用と組合せ、ユーザーインタフェースの重視等を柱とする BB のプロダクトコンセプトが決まり(2018 年 2 月)、次の段階:プロダクトデザインとなるプロトタイプの制作に進むことになった。 プロトタイプの制作上、どのような内容・レベルのコンテンツを核にするかは、BB の可能性を考えるうえで極めて重大な要因となるため、それを検討するためのワーキンググループを検討会内に設置した (2018 年 6 月 11 月) [9]。本来はオリジナルのテクストを想定していたが、実験的なプロトタイプに合わせて創作する時間がないため、既存の書籍コンテンツから BB の概念にふさわしいものを利用することになった。利用者層、利用目的、商品性、テクスト提供の持続性、機能要件、UI 等多様な観点からの検討にかなりの時間を要したが、結果として、講談社のブルーバックスシリーズから「酒」という共通のテーマをもつ 4 冊を選び、データ化した。 さらに次の段階として、技術系専門家を中心とする タスクフォースを新たに編成し[10]、BB のコンテンツ、 それを載せるためのシステム、機能要件を支える技術要素、UIなどを統合したプロダクトデザインを構成した(2019年9月~2020 年 6 月)。今回の特集は、そのプロダクトデザインに基づくプロトタイプ制作の約 1 年にわたる検討(2020 年 9 月 2021 年 4 月)の成果をまとめたものである。 ## 註・参考文献 [1] 2020年紙+電子出版市場は 1 兆6168億円で 2 年連続プラス成長~出版科学研究所調べ | HON.jp News Blog. https://hon. $\mathrm{jp} /$ news/1.0/0/32230 (参照 2021-07-23). [2] 日本語としてこなれていない言葉であるが、「特定のテー マに沿って収集した情報・知識を、一定の編集方針の下で編成し、社会的に利用できるようにしたもの(有形$\cdot$無形を問わない)」と定義しておく。言うまでもなく、その代表は書籍であろう。 [3] (1)マルチメディア性、(2)オープン化・ネットワーク化・インタラクティブ性、(3)テクストの可変性、(4)マイクロコンテンツ化と蓄積性、(5)編集性の五つを挙げておきたい。柳与志夫. デジタルアーカイブの理論と政策. 勁草書房. 2020, p.52-53. [4] 柳与志夫. デジタルアーカイブの理論と政策. 勁草書房. 2020, p.129-134. [5] MEMEX https://en.wikipedia.org/wiki/Memex (参照 2021-07-28). [6] What is Xanadu? https://xanadu.com.au/ (参照 2021-07-28). [7] 例えば東大新図書館計画(2012年~2019年)に際して試みられた各種の実験があるが、これも新図書館機能に実際に取り込まれることはなかった。谷島貫太・阿部卓也. デジタルアーカイブ時代の大学における「読書」の可能性一東京大学新図書館計画における三つの実証実験の紹介. 情報の科学と技術. 2016, vol. 66, no. 10, p.518-524. [8] 検討会メンバーは以下のとおり。(敬称略、50音順、所属は当時)大向一輝(東京大学)、木村尚貴 (朝日新聞)、草野剧(草野剛デザイン事務所)、佐藤美佳(ヤフー)、島裕 (日本経済研究所) 、谷川智洋 (東京大学)、玉置泰紀 (KADOKAWA)、中澤敏明 (科学技術振興機構)、長丁光則 (東京大学)、廣瀬哲一郎・蛯名結花 (辰巳出版)、前田俊秀 (三修社)、丸山信人 (インプレスHD)、久永一郎・柳与志夫 (座長) (東京大学DNP講座) [9] 蛯名 $\cdot$ 大向 - 谷川 - 長丁 ・ 久永 ・柳の検討会委員に加元て、倉田卓史 (講談社)、藤澤太郎 (ヤフー)、前沢克俊 (東京大学DNP講座)の各氏が加わった。 [10] タスクフォースメンバーは以下のとおり。(敬称略、50音順、所属は当時) 谷川智洋 (東京大学)、中澤敏明 (東京大学)、長丁光則 (東京大学)、中村覚 (東京大学)、美馬秀樹 (東京大学)、久永一郎・前沢克俊・柳与志夫 (座長) (東京大学DNP講座)。その後プロトタイプ制作の段階で新たに野見山真人 (Creative Technologist/Technical Artist) が加わった。
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# サテライト・セッション報告 (2)「ジャパンサーチの活用例としての カルチュラル・ジャパン」報告 時実 象一 TOKIZANE Soichi 東京大学大学院情報学環 } 開催日:2021 年 10 月 12 日(火) 18:00 19:30 (オンライン) 話題提供 : 2020 年 8 月 25 日に正式版が公開されたジャパン サーチは、その後順調に連携データベースが増加し、 またコンテンツも増えている。2021 年 11 月末時点で それぞれ 145 データベース、2,300万件のデータがあ り、ウェブで公開されているコンテンツ数は 380 万件 に及んでいる。 ジャパンサーチは日本のデジタル化された文化資産 を探す主要な密口といえるが、当然のことながら日本発祥の文化資産は世界各地に広がっており、欧米の博物館・美術館にも多く所蔵されている。したがって、 これらに広くアクセスするには、ジャパンサーチだけ ではなく、Europeana、DPLA、あるいはその他の博物館・美術館のサイトにもアクセスしなくてはならな い。これを可能とするのが国立情報学研究所の高野明彦教授を中心としたチームが開発し、ジャパンサーチ 正式版に先立って(2020 年 8 月 1 日)公開されたカ ルチュラル・ジャパンである。 このセッションではジャパンサーチの活用の入口、世界に散らばる日本文化資産の窓口としてのカルチュ ラル・ジャパンについて、その開発チームに解説いた たき、議論することとした。 まず、中村覚氏からカルチュラル・ジャパンのコン セプトと概要の説明があった。カルチュラル・ジャパ ンはジャパンサーチや Europeana、DPLA その他の公開サイトからメタデータや IIIF データを収集し、RDF ストアに蓄積して検索できるようにしている。その際、人物名・地名などの翻訳や統一をおこなって検索しや すいようにしている。IIIF を活用して、複数の機関に 保有されている文化財コンテンツの比較もできる。さ らに自分が見つけたコンテンツを集めて展示する「セ ルフ・ミュージアム」の機能も開発した。 また神崎正英氏からはまず各機関が公開しているコ ンテンツから日本文化資産であるものを抽出し、各機関で異なっているデータ構造をカルチュラル・ジャパ ンの利活用スキーマ RDF にマッピングし、統一的に 検索を可能とする仕組みの説明があった。そこでは マッピング定義と正規化の辞書の開発が必要となる。一貫したモデルを用いURI でつながる LOD とするこ とで、関連する情報をあとから柔軟に追加できる仕組 みになっている。 チームリーダーの高野氏からフォローがあった後、大向氏からデモを交えて、利用者側からみたカルチュ ラル・ジャパンの魅力について話があった。 Europeana どでは、そのAPIを活用することでさ まざまなアプリや応用例が報告されている。今のとこ 万、日本ではカルチュラル・ジャパンが事実上唯一の 活用例であるが、これをきっかけにジャパンサーチそ の他のデジタルアーカイブ・ポータルの活用例が増え ることが期待される。 ## 註・参考文献 ジャパンサーチ https://jpsearch.go.jp/ カルチュラル・ジャパン https://cultural.jp/
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# 「Beyond Book (BB)」 プロジェクトの概要 Overview of the Beyond Book (BB) Project ## 渡邊 英徳 WATANAVE Hidenori 東京大学大学院情報学環 \begin{abstract} 抄録:本特集では、デジタル環境の利点を活かして「電子書籍」を越えることを目指した「Beyond Book (BB)」プロジェクトについて解説する。1990 年代から開発が開始されたeBookは「電子書籍」として普及しているとはいえ、デジタル化・ネットワーク化の利点を十分に活かすことができていない。そこで本プロジェクトでは、電子書籍の先にある新しい知識形態のプロダクトとして $\lceil\mathrm{BB} 」$ の開発を目指した。本特集は 5 部で構成される。第 1 ~ 4 部においては、BB プロジェクトのコンセプト・要素技術について解説する。第 5 部では、BB プロジェクトの後継となる「新しい本」プロジェクトの方針と現状について述べる。 Abstract: This special feature describes the "Beyond Book (BB)" project, which aims to go beyond "e-books" by taking advantage of the digital environment. "eBooks", which began to be developed in the 1990s, have become popular as "E-books," but they have not fully taken advantage of the benefits of digitization and networking. Therefore, our "BB" project aimed to develop products of a new form of knowledge beyond the E-books. This special issue consists of five parts. Parts 1-4 describe the concept and elemental technologies of the "BB" project. Part 5 describes the concept and current status of the "New Book" project, the successor to the "BB" project. \end{abstract} キーワード : 電子書籍、ビヨンドブック、Beyond Book、デジタル、ネットワーク、書籍 Keywords: E-books, Beyond Book, Digital, Network, Book 本特集では、デジタル化やネットワーク化の利点を活かして「電子書籍」を越えることを目指した「Beyond Book (BB)」プロジェクト(以降、本プロジェクト) について解説する。 本プロジェクトは、2017 年から 2021 年に掛けて活動した、東京大学大学院情報学環における「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」における検討の成果である。2022 年度からは「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」としてリブートし、デザイン思考・ アート思考・SFプロトタイピングなどの最先端の手法を取り入れつつ、BBの後継たる「新しい本」の試作と製品化、社会実装を目指し、活動を始めている。 1990 年代には社会のデジタル化の進展に伴い、インターネットから利用可能な eBookの開発が着手された。その後 eBook は従来の流通・販売モデルに収まるかたちで「電子書籍」として普及したとはいえ、デジタル化やネットワーク化の利点を十分に反映しているとはいえないまま、現在に至っている。そこで本プロジェクトでは、電子書籍の先にある新しい知識形態の プロダクトとして「BB」の開発を目指した。 従来の書籍においては、あるトピックについて信憑性のある情報を順序立てて知ることができるという長所がある一方、知りたいことになかなかたどり着かない・丸一冊を読みきれずに途中で挫折してしまうという弱点がある。そこでデジタル化・ネットワーク化の特徴であるアクセシビリティ・インタラクティビティ・計算可能性を活かし、ユーザの好奇心オリエンテッドで「知りたいこと」からスタートし、なおかつ体系的に学ぶことができる、新しい知識形態のプロダクトの開発を企図した。このデザインにより、知識のネットワークが意識に自然に侵み込んでいくため、知識体系の全容をユーザに提示する必要がなくなる。利用者の好奇心に沿って徐々に知識が拡がっていき、最終的には知識の獲得を超えて「コト・モノ・ヒト」とつながりあうことができる仕組みとなり得る。 BB は、従来のいわゆる「読書」層にとらわれないユーザを前提として設計した。具体的には、知識欲・情報リテラシーのある 20-30 代のビジネスパーソンの うち、忙しくて時間を確保できない層、あるいは知識獲得を恒常的に続けることのできない層である。また、 プロダクトの対象の変化に併せて、コンテンッにも、専門性の高さ・書籍だけに閉じることのない知識の拡がりが要求される。本プロジェクトでは、専門性のある理工系分野を対象とする「講談社ブルーバックス」 の現行書籍をべースとして、複数のインターネット情報を組み合わせた複合的なコンテンツを形成した。 $\mathrm{BB}$ のプロトタイプ制作は、今回の寄稿者である柳 ・ 前沢 - 久永 - 谷川 ・野見山の 5 名が中心となって進めてきた。まずコンテンツの編成と利用者像の検討を行い、プロトタイプ制作に向けて地盤を固めた。続いて機能要件を設定して、各機能を統合・実現するための全体スキームを設定した。最後に上記のコンテンツや機能をもとに、UIの設計・開発とビジネスモデルの検討を進めた。 プロトタイプに盛り达むべき要素技術に関する研究は、美馬・中村・中澤の3 名が中心になって進めた。特に、デジタルコンテンッの収集・構造化・可視化の各要素技術に焦点を当てて取り組んだ。美馬はデジタルコンテンツのテーマ生成とテーマに応じたクラスターの生成について、中村はインターネット情報の取り达みや、著者と読者の共同編集機能について、中澤は読者の知識獲得体験の可視化や獲得知識の体系化について、それぞれ研究を進めた。 本特集は 5 部で構成される。第 $1 \sim 4$ 部においては、 $\mathrm{BB}$ プロジェクトのコンセプト・要素技術について解説する。第 5 部では、 $\mathrm{BB}$ プロジェクトの後継となる 「新しい本」プロジェクトの方針と現状について述べる。 以降に各部の概要を示す。 ## 第 1 部:新しい本の可能性を考える一「ビヨン ドブック」プロジェクトの試み (柳与志夫) 本プロジェクトでは、書籍とインターネット情報源のメリットを最大限生かし、そのデメリットを最小化した、デジタル時代にふさわしい新しい知識構成体の開発に取り組んだ。そのためにまず過去の開発事例及びその問題点をレビューした。またそれを実施するための研究チームを、多様な分野からの人材で編成した。図書や資料が図書館やアーカイブの中核をなすように、デジタルアーカイブにとって、将来 BB がコンテ ンツの中核を担うことが期待される。 ## 第 2 部 : ビヨンドブックの機能要件と構成 (柳与志夫・久永一郎・前沢克俊) BB の機能として、デジタル文化資源のもつオープン化・ネットワーク化・インタラクティブ性、マイクロコンテンツ化など 5 の要件を可能な限り取り入れた。利用形態としては自分の専門外で仕事・趣味・生活上の有用な知識を得る手段となること、利用者としては新しい知的潮流に関心のある若いビジネスパーソンを想定した。BBの利用継続性を担保するための収益モデルの可能性についても検討した。これらの要因を満たすためのコンテンツとして講談社「ブルーバックス」シリーズの「お酒の科学」4 冊をテキストデー タ化した。最後に BB プロトタイプ制作のための制作フローを設定した。 ## 第 3 部 : ビヨンドブック機能を支える要素技術 の開発と実装化設計と開発 (美馬秀樹・中村覚・中澤敏明) $\mathrm{BB}$ の機能を支える要素技術の設計と開発について述べる。BB のプロトタイプ制作にあたっては、必要な要素技術について検討を行い、実験、評価を目的として可能なものの実装を進めた。具体的には、1)コレクション機能、2)カテゴライズ機能、3)テーマ抽出機能、4)マイクロコンテンツの最適配置機能、5) コンテンッ間のリンク推定機能、6)インターネット情報の取り达み機能、7)翻訳/著者と読者の共同編集機能、及び 8)ユーザーアクションからの自動知識獲得機能、が挙げられる。これらの技術はいずれもデジタルアーカイブ全体の機能向上に役立つことを念頭において設計し、開発を進めたものである。 ## 第 4 部 : ビヨンドブックのプロトタイプ制作 (野見山真人・谷川智洋)知識体験プラットフォームとしての BB の UI/UXを設計した。このプラットフォームでは、書籍や Web コンテンツの膨大なデータをもとにして、ユーザの好奇心をサポートすることができる。設計においては 「知りたいことから体系的に学べる」「遊び感覚で好奇心を育める」「書籍と Web コンテンツを横断できる」 という 3 つの知識体験を設定し、新しい知識体験の形態を模索した。ユーザは知りたいことをモバイルアプリで調ベることにより、書籍や Webコンテンツに裏付けされた知識を体系的に学びながら徐々に好奇心を育てることができるようになる。このような知識体験 の UI/UX 設計は、デジタルアーカイブの利用形態全般に応用可能であり、デジタルアーカイブに含まれる知識コンテンツを楽しみながら系統的に学ぶことをサポートしてくれるはずである。 ## 第 5 部:「新しい本」のつくりかた〜ボトム アップとバックキャスティング〜 (渡邊英徳) ここまでに解説してきた「Beyond Book」は、2017 年から 2021 年に掛けて活動した、東京大学大学院情報学環における「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」の成果である。この講座は、2022 年度より「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」としてリブー トした。新講座では、これまでに得られた成果を活かしつつ、未来社会における “新たな読書体験”を提供 する「新しい本」を開発し、社会実装することを目指す。そこで、「SFプロトタイピング」「アート思考」「デザイン思考」「ロジックモデル」「センスメイキング」 など、ボトムアップかつ「バックキャスティング」的な手法を取り入れた活動を開始している。第 5 部では 「新しい本」プロジェクトの狙いと取り入れる手法・現在の状況について説明する。 ## 参考文献 [1] 東京大学大学院情報学環. DNP学術電子コンテンツ研究寄付講座ウェブサイト. 2017年. http://dnp-da.jp/ (参照 2022-05-30). [2] 東京大学大学院情報学環.講談社・メディアドウ新しい本寄付講座. 2022年. https://www.new-book-project.jp/ (参照 2022-05-30).
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# サテライト・セッション報告(1)「デジタ ルアーカイブのための『デジタル化承諾書・契約書』テンプレートを考える」 開催日:2021 年 10 月 11 日(月)(オンライン) 企画メンバー: 足立 昌聰(并護士知財ネット) 加藤真由美 (岐阜女子大学) 嘉村 哲郎(東京藝術大学 芸術情報センター) 時実 象一 (東京大学大学院 情報学環) 矢野 陽子(防災専門図書館) セッション構成 : 1. 企画趣旨説明(嘉村 哲郎) 2.デジタル化承諾書・契約書ドラフトの説明 (足立 昌聰) 3. 簡易版の作成試行(嘉村 哲郎、時実 象一) 4.ディスカッション ## O企画趣旨 デジタルアーカイブのための「デジタル化承諾書・契約書」テンプレート開発グループでは、文化財等資料のデジタル化を行う際に必要となる「文化財等のデジタルアーカイブ化に関する承諾書」の検討を進めてきた。本企画セッションでは、承諾書・契約書のドラフトを作成したことから、これの紹介を行った。ドラフトは、研究機関や企業等の組織が利用可能なテンプレートに対応するよう、詳細な項目や内容が含まれている。そのため、デジタルアーカイブに取り組む小規模組織やプロジェクトベースで活動する団体等の規模においては、これの簡易版の開発が必要と考えている。 ## ○参加者の意見・反応 本セッションの参加者からは、フルバージョンの承諾書については概ね参考になるなどの意見を頂くことができた。一方で、法令文書のような強制力があるように感じるという意見もあった。以下、いくつかの意見を紹介する。 (1)デジタルアーカイブに特化した契約内容を扱うサンプルは見たことがないので、参考になった。 (2)デジタル化を行うにあたっての、考慮すべき事項を一通りまとめてあり、自社の事情に照らして実用化を検討していきたい。 (3)二次利用の条件表示の部分は、必要な項目を選択すると利用条件を作成できるシステムがあればよい。 (4)いくつかの条文においては、強い制約を課すような内容にあり、寄贈者と同じ目線で考えられておらず違和感を感じた。 今後の展開について 今回のドラフトは資料や作品等のデジタル化、デー 夕収集及び公開に際して必要と考えられる事項を含む、フルバージョンの承諾・契約書の内容であったが、今後はより平易な内容で記載した文章のテンプレート作成やデジタル化の対象に応じて必要事項を限定したテンプレート作成を進めたいと考えている。 また、必要事項を選択することで動的に添付ケートを生成できるような仕組みも合わせて検討をしていきたい。
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# 国際カンファレンス Digital Entertainment Conference 2022: Advancing Digital Game Research Beyond COVID-19 「コロナ禍を超えて進展する世界のゲーム&インタラ クティヴ・ナラティヴ研究」 日時:2022 年 3 月 5 日 (8:30 12:30) $ 3 \text { 月 } 6 \text { 日(9:30 12:30) } $ 形式 : オンライン (開催後に YouTube 配信あり) 主催:立命館大学ゲーム研究センター (RCGS) 共催:ITコンソーシアム京都(クロスメディア部会) デジタルアーカイブ学会 (JSDA)「関西支部」日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan) 後援: KYOTO Cross Media Experience (KYOTO CMEX)実行委員会 # # 登壇者: 【招聘者】 T.L. テイラー (マサチューセッツエ科大学)、ヘン リー・ローウッド (スタンフォード大学)、ジン・ ハ・リー(ワシントン大学)、ステファノ・グァ レーニ (マルタ大学)、ポール・マーティン (ノッ ティングガム大学)、エリック・カルトマン (カリ フォルニア州立大学)、吉村和真(京都精華大学) ## 【主催者】 マーティン・ロート、福田一史、井上明人、川﨑寧生、毛利仁美、細井浩一、中村彰憲(モデレーター)【参加総数】 5 日 43 人、 6 日 37 人 【参加国】日本、アメリカ、イタリア、韓国、中国の 5 か国。 スケジュール詳細: 【DAY ONE(3 月 5 日)】 08:30~09:30 パネルディスカッション 「ゲーム引用(citation): なぜ重要なのか?] 09:30~10:10 キーノート(1):コロナ禍におけるデ $ \begin{array}{cl} & \text { ジタルゲーム保存とその展開 } \\ \text { 10:15 10:55 } & \text { キーノート(2): ゲーム開発資料の保 } \\ & \text { 存とその意義 } \\ \text { 11:00 12:30 } & \text { パネルディスカッション } \\ & \text { 「ウィズコロナ期におけるデジタル } \\ & \text { ゲーム保存において KYOTO は世界 } \\ & \text { でどのような役割を果たせるか」 } \end{array} $ 【DAY TWO ( 3 月 6 日)】 09:30 10:10 キーノート (3): Playing Disney: Experience and Expression in the Land of Curation 10:15 10:55 経過報告:日本におけるテーマパーク体験:半構造化面接調査 11:00 12:30 未開拓領域:テーマパークで探るプレイカルチャーとその展望 デジタルアーカイブ学会関西支部は、立命館大学ゲーム研究センター(RCGS)が、2022 年 3 月 5 日と 6日の両日、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、ワシントン大学、京都精華大学と協働して実施した、コロナ禍におけるゲームとナラティブ研究の最前線をテーマとしたオンラインの学術カンファレンスを共催した。本カンファレンスの主旨は、 コロナ禍において、デジタルゲームは「巣ごもり」消費の代表格として非常に重要な役割を果たしてきたゲームに関し、この期間中、世界で如何なる研究が推進されてきたかを、明らかにするものである。 発表内容はテーマごとに分けられ、1 日目である 3 月 5 日は「ゲームや関連文化資源に関する保存とその利活用」をテーマに、1998 年に京都府および京都リサーチパークとの産学公連携によって発足したゲームアーカイブ・プロジェクトを嚆矢とした立命館大学におけるゲーム保存活動や、京都精華大学が京都市と進めてきた京都国際マンガミュージアムによるマンガの 保存や活用に関する取組みについての紹介がおこなわれた。また、北米で同様の活動を亜引しているスタンフォード大学のヘンリー・ローウッド博士とワシントン大学のジン・ハ・リー准教授が如何なる取り組みを進めているかについて解説した。 2 日目である 3 月 6 日には、ゲーム研究とともに発展したインタラクティヴ・ナラティヴという概念が、現在、テーマパークなどへ応用されるようになった状況を踏まえ、サイバースペース、eスポーツの次の領域として「スペーシャル・ナラティヴ (spatial narrative)」 の研究を進めている第一人者であるマサチューセッツ工科大学の T.L.テイラー教授から、この新しいテー マの意義と概要、そして研究の最先端について解説がおこなわれた。両日の議論を通じて、本学会の会員を含むパネラーとウェビナー参加者がメディア芸術分野のアーカイブ構築や、それらを活用した新しい文化都市としての京都、関西の未来について、活発な意見交換を行った。 (立命館大学映像学部細井浩一、中村彰憲) パネリストによる討論の様子(上:3月5日、下:3月6日)
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# 産業とデータ・コンテンツ部会 キックオフ連続フォーラム 第 3 回「デジタルアーカイブを基盤 とする産業振骩政策 海外動向と ジャパンサーチの可能性」 【開催概要】 日時:2022 年 1 月 26 日(水) 16:00 17:45 司会 : 柴野京子副部会長(上智大学) 議事進行サポート:太田亮子氏(TRC-ADEAC(株)) プログラム 開催趣旨黒橋禎夫部会長(京都大学) 事例報告(1「巨U のデータ戦略とデジタルアーカイブ」 生貝直人氏(一橋大学大学院法学研究科准教授.東京大学情報学環客員准教授) 事例報告(2)「ジャパンサーチと産業界:相乗効果の 可能性」 神崎正英氏(ゼノン・リミテッド・パートナーズ 代表) ディスカッション・質疑応答 当日参加者 約 50 名 【事例報告・ディスカッション】 1.「EU のデータ戦略とデジタルアーカイブ」前半では、2021 年 11 月 10 日に出された、共通欧州データスペースに向けた勧告の概要と背景について 、 (1)総論、(2)産業的側面の重視、(3)先端技術の活用 (3D など)、(4)グリーンディールとのかかわりから説明が なされた。とくに重要な論点として、EUにおける文化遺産のデジタルアーカイブ (Digital Cultural Heritage) が、Europeanaを基盤としながら、包括的なデジタル 政策の中に位置づけられようとしている点が指摘され た。後半では、こうしたありかたと比較して、日本 のデジタル政策(たとえば 2021 年 12 月 24 日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」) が行政サービスの ICT 化等に限られていることに言及、産業や技術の活用を含めた、文化政策としてデジ タルアーカイブを位置づける枓組みが示唆された。 2.「ジャパンサーチと産業界 : 相乗効果の可能性」最初に、企業アーカイブの方向性を、商品的一文化的、組織的一社会的の二軸から4つのモデルに整理し た上で、それぞれのフェイズにおいてジャパンサーチ がいかに活用しうるか、実装されているしくみとあわ せた具体的プランが紹介された。さらに、こうした利活用における支援として、独自ギャラリーをつくるた めのカスタマイズツール開発、API や SPARQL など高度な機能のサポート、コスト分散と相乗効果をねらっ た企業・コンテンッのとりまとめ、およびつなぎ役 など、 デジタルアーカイブ産業に期待される役割の提案が あった。 ## 3. ディスカッションとまとめ 登壇者および部会メンバー、参加者によるディスカッションでは、下記のような論点について議論された。欧州動向 デジタルに関わるルール化が進行している背景 (GAFA 問題などを参照して) データ戦略とデジタル文化遺産の関係性(先行するシステムとしてのデジタル文化遺産、および品質への評価) 推進組織のメンバーや産業界からのアプローチの状況(当事者であるステイクホルダーからの提言・発信の必要性) ジャパンサーチと産業 企業の取り組み事例、3D や動画コンテンツについて企業データ・コンテンツを可視化するしくみ・企業 がライトにアプローチしたい場合の空ロづくり教育利用の可能性 最後に黒橋部会長より、3回のキックオフフォーラ ムを終え、多くの課題が提出されたので、参加者アンケートもあわせて内容を整理し、優先順位をつけてテーマを検討していく旨まとめがあり、閉会した。 (上智大学柴野京子)
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# 【開催概要】 日時:2021 年 11 月 4 日(木)15:00 17:00 [テーマ] 商業アートコンテンツ展開のための基盤と 見取り図 司会:柴野京子氏(上智大学) 議事進行サポート:太田亮子氏(TRC-ADEAC(株)) [内容] (1) ご挨拶と趣旨説明: 黒橋禎夫氏(京都大学教授・デジタルアーカイブ学会 産業とデータ・ コンテンツ部会長) (2) 事例報告「集英社 Comics Digital Archives の 事業展開」 岡本正史氏(集英社デジタル事業部) (3) 事例報告「アートコンテンツ活用の問題点」太下義之氏(文化政策研究者/同志社大学) (4) コメント 山川道子氏((株)プロダクション・アイジーノ JSDA 理事) (5) 参加者からのコメントと報告者を交えた討論 # # 1. はじめに デジタルアーカイブ振興に関わる産学連携の在り方 を検討するため本年 4 月に設置されたデジタルアーカ イブ学会(JSDA)「産業とデータ・コンテンツ部会」 の今後の具体的な取組課題を明らかにするため、学会・産業界その他の関係者が集まり意見交換をするこ とによって、その方向性に対する共通認識を得る機会 として、連続 3 回のフォーラムを開催することが決定 されている。 第 1 回はデジタルアーカイブ産業のスコープをテー マに 2021 年 8 月 11 日に開催された。今回は 2 回目と して、デジタルアーカイブ産業振興の要因と方策や産学連携の具体策にむけて「商業アートコンテンツ展開 のための基盤と見取り図」と題して産業界と学術界か らアートコンテンツの展開に知見のある方々をお招き して事例の報告を頂き、これを基に参加者も交えて広 く議論を行った。 2. 事例報告「集英社 Comics Digital Archives の事業展開」 集英社における comics digital archives や Manga Factory の取組みが紹介された。さらにその取り組みから、世界の美術品市場と日本における美術品市場の比較、日本におけるデジタルコミック市場の変遷と、今後の獲得すべき市場領域がしめされた。報告全体を通じて、 マンガの原画の保存・再生によってマンガアートとし て利活用し、さらに市場を開拓していくというバラン スのとれた事業展開をご紹介頂いた。 ## 3. 事例報告「アートコンテンツ活用の問題点」 アートコンテンツのデジタルアーカイブ化の意義を確認し、しかしながら日本におけるアーツコンテンツの公開が進んでいない現状を、所有者の各種リソース、 ステークホルダーの認識、民間セクターからのクリエイティブなビジネススキーム提案のそれぞれが不足していることに集約されるという問題提起がなされた。 また、デジタルアーカイブを活用した新しい鑑賞体験を提供できるような新しいマーケット創造(ブロックチェーン活用、地方創生など)へ向けた提案が示された。 報告全体を通じて、アート活用愍談会での議論などを踏まえ、アートコンテンツのアーカイブ化に関わる論点と方向性の整理がなされた。 4. コメント:山川道子氏((株)プロダクション・アイジー/JSDA 理事) 自身の活動における情報・コンテンツデータの管理だけではなく、多様なマテリアルの管理の経験を踏まえ、 集英社の岡本氏の様々な障害を克服し、利活用可能な状況を構築した取組みの困難さを改めて共有された。 また、同志社大学の太下氏の報告であった、ジャパンデジタルミュージアムを構築し、それを中核にすべきという指摘については、当学会においても「国立デジタルアーカイブ・センター」の設立について話題が出るなどしていたが、期待通りの進渉は見られない状況であったことから、改めて中核組織の必要性を訴えた。二氏の報告から次の討論のセクションでは、商業的な現代のコンテンツと歴史的なアートコンテンツを集約、活用がされ、さらにブロックチェーンなどを活用した収益の再配分など幅広い議論を期待したい旨のコメントがあった。 ## 5. 参加者からのコメントと報告者を交えた討論 まずは報告者を中心にマンガを取り巻く現物とデジタルコンテンツのアーカイブの問題点や課題について、さらにその周辺の取組事例、携わったプロジェクトについての情報交換などが行われた。 参加者からのチャットを取り上げつつ、バーチャルなコンテンツやリアルな拠点の融合、政府、自治体、官公庁を巻き込んでマンガを始めとしたコンテンツの利活用をはかっていくのが今後の取組として重要ではないか、という認識がしめされた。 今後、リアルな場でもっと深堀りした議論ができたら良い。近々に3回目の部会を開くことが宣言され閉会となった。 (寺田倉庫株式会社緒方靖弘)
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# 企画セッション(3)「アーカイブを メディアとして読み解く」 \author{ 加藤 諭 \\ KATO Satoshi } 東北大学 史料館 開催日:2021 年 10 月 16 日(土)(ハイブリッド) 構成 \&登壇者: 司会・趣旨説明「アーカイブをメディアとして読 み解く」 宮本 隆史 (大阪大学) 報告 1 「日系カナダ人のデジタルアーカイブ「不正義の景観」のメデイア生態系」 稲葉あや香(東京大学大学院 学際情報学府) 報告 2 「デジタルヘリテージの視覚表現分析」 谷川 智洋(東京大学大学院 情報理工学系研究科) コメント 1 「アーカイブをメディアとして読み解く 発表へのコメント」 水島 久光 (東海大学) コメント 2 「アーカイブをメディアとして読み解く」加藤 諭 (東北大学) 2019 年 4 月から活動しているデジタルアーカイブ 学会理論研究会 (SIG) では、若手・中堅の研究者ら が中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論構築の枠組みに向け研究会活動を 続けている。これまで、デジタル時代のアーカイブの 系譜を読み解く試みを継続してきており、その成果の 一部はこれまでのデジタルアーカイブ学会の大会でも 発表してきた。本セッションでは、デジタルアーカイ ブのメディア効果をテーマとし、議論を行った。 はじめに、司会進行の宮本隆史から、本企画の前提 となる趣旨説明が以下のようになされた。デジタル技術が社会基盤となった現代に打いて、「アーカイブ」 と呼ばれる制度や営みが生活に浸透してきた。現代人 の生活のさまざまな局面で、「アーカイブ」が語られ るようになってきている。しかし、この「アーカイブ」 なるものは、自明の実体などでは決してなく、歴史的・社会的に構築されてきたものである。次いで、こ の「アーカイブ」と呼ばれるものの系譜・概念・社会 への作用を理論的に考察していく上での視座を提供す ベく、セッションでは稲葉、谷川より報告があった。稲葉報告では、コミュニティとアーカイブの関係を テーマとした。具体的な事例として、日系カナダ人に よる歴史アーカイブをめぐる実践を分析し、アーカイ ブがどのような動機で作られたのか、そしてそれがど のように流用されてきたのかを示した上で、デジタル アーカイブによって、「コミュニティ」が如何に読み 替えられるのかについて発表がなされた。 続いて、谷川報告では、デジタルヘリテージの視覚表現分析をテーマとした。ネットワーク上の多様な再生環境において、視覚情報がどのようなインターフェイ ス上にいかに配置されるのか。アーキテクチヤはどの ようにアーカイブの制約条件となるのかが論じられた。両報告の議論を踏まえた上で水島からは、メディア 論の視点から、デジタル社会以前と以後の変化だけで なく、そもそもデジタルの中に生まれてきた人の 「ヒューマニティーズ」を思考することの重要性に関 しコメントがなされた。加藤からは、カナダの事例と オーストラリアの先住民のレコードキーピングとの比較、リアルな場としてのミュージアムの系譜との接合 について、コメントがなされた。 対面による質疑応答も展開され、ハイブリッドでの 開催の意義が十分感じられるセッションとなった。今回のセッションを踏まえ、成果を論集として提示して いくなど、今後も議論の機会を広げていきたい。
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# 第 6 回研究大会第 1 部 ## 企画セッション譜演スライド (スライドは J-STAGE Data に登載されます) ## 1.都市における文化資源の アーカイビング \\ O企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国に打いては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆえ、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)においては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使つた文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の 3 つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 ## 登壇者 中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 真鍋陸太郎(東京文化資源会議・地図ファブ PT / 東京大学) 鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT / ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター) 栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 文京建築会ユース代表) 三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 PT / 東京大学大学院) 松尾遼(東京ヶーブルネットワーク) ## 2.ビヨンドブックの可能性 :書籍、電子書籍を超える 企画趣旨 現在東京大学情報学環 DNP 寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB) の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザインがまとまったところです。本セッションでは、その成果を披露し、パネリスト、会場からのご意見をいただき、今後の改善 の参考にしたいと考えています。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍の制作・流通の中で、BBがどのような新たな役割を果たせるか、社会的側面の議論も行いたいと思います。 ## 登壇者および司会 吉羽治講談社取締役 BB 制作タスクフォース https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122a (J-STAGE Data あり [ 講演 2-1] ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122b (J-STAGE Data あり [ 動画 2-2]) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122c (J-STAGE Data あり [ 動画 2-3]) 報告者、コメンテータを交えた討論:30 分 司会:柳与志夫(東京大学情報学環) 3.ハンズオンワークショップジャパンサーチの可能性を引き出す 企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実際に 使って見るワークショップ ## 登壇者 大井将生 (東京大学大学院情報学環) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122d (J-STAGE Data あり [ 講演 3-1]) 大西亘 (神奈川県立生命の星・地球博物館 ) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122e (J-STAGE Data あり [ 講演 3-2]) 伊達深雪(京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122f (J-STAGE Data あり [ 講演 3-3]) ファシリテータ : 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) ## 4.アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタル アーカイブ \\ 企画趣旨 SIG「戦争関連資料に関する研究会」の活動の中間報告と浮かび上がった課題について討議します。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、さまざまな「記録」 にアクセスすることによって認識を深める「共有の時代」へ一戦後 75 年は、「戦争」に向ける歴史的眼差しにとって、大きな節目となるメモリアルイヤーでした。語り手の不在、資料の散逸、一つひとつの出来事に目線を合わせることの難しさが、私たちの前には立ちはだかっています。戦争資料館や記憶・記録の伝承を掲げた組織・施設・活動、図書館や郷土資料館といった地域に根差した文化施設は、この「節目」 をどう越えていこうとしているのでしょうか。戦後 76 年目の国内各地の動きを俯瞰しながら、未来にむけて「平和」を創造しつづけていくための条件について、考えてみたいと思います。 (1)プレリサーチから見えてきた課題と事例報告 (2)メタデータ・スキーマの共有による情報連携の構想登壇者 水島久光(東海大学) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122g (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1]) 富田三紗子(大磯町郷土資料館) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122h (J-STAGE Data あり [ 講演 4-2] ) 小山元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所) https://doi.org/10.24506/jsda.5.s1_s122i (J-STAGE Data あり [ 講演 4-3] ) 椋本輔(学習院大)上松大輝(国立情報学研究所) ## 5.「肖像権ガイドライン」の 正式公開と今後の展望 \\ 企画趣旨 デジタルアーカイブ学会では、2021 年 4 月、「肖像権ガイドライン」の学会公認バージョンを公開します。本セッションでは、当学会会長、ガイドライン策定メンバー、その他肖像の利用に関するステークホルダーが登壇し、肖像権ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論します。 ## 登壇者および司会 吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井健策(弁護士、法制度部会長) 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 内田朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学 (ゲッティイメージズジャパン)
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# [55] アメリカ$\cdot$アーキビスト協会ミュージアム$\cdot$アーカイブズ$\cdot$ セクションの新ガイドライン案について ○筒井 弥生 ${ }^{1)}$ 1) アーキビスト E-mail: [email protected] ## Draft of Updated Museum Archives Guidelines by Museum Archives Section of the Society of American Archivists \\ TSUTSUI Yayoi ${ ^{1)}$} 1) Certified Archivist by Academy of Certified Archivists ## 【発表概要】 アメリカ・アーキビスト協会ミュージアム・アーカイブズ・セクションは、2003 年に承認されたミュージアム・アーカイブズ・ガイドラインについて、ここ $2 , 3$ 年改訂を検討してきた。 2021 年 1 月、最終案を公表、協会全体から意見を募集している。最終案の内容を紹介し、現ガイドラインとの比較によってアーカイブズ界の変化を捉えたい。 ## 1. はじめに 本報告は、2021 年 1 月に公表されたばかりのアメリカ・アーキビスト協会ミュージアム・アーカイブズ・セクション[1]の新ミュー ジアム・アーカイブズ・ガイドラインの最終案[2]を紹介し、現ガイドライン[3]から何を改訂しようとし、そこからみえるアーカイブズ界の変化の考察を試みたい。 ## 2. 新ガイドライン案仮訳 【注意 : Draftであり修正の可能性がある】 アメリカ・アーキビスト協会(SAA)のミュ ージアム・アーカイブズ・セクションは、ミュージアム内のアーカイブズのコレクションの組織化と管理に責任を持つ人々を代表している。このガイドラインは、あらゆる種類のミュージアムがアーカイブズのプログラムの開発と管理を行う際に役立つよう、セクションによって作成されたものである。それは、 ミュージアム・アーカイブズのプログラムを成功させるための構成要素を概説しており、 SAA や他の専門的な情報源から入手できるア一カイブズの管理に関する詳細な情報と合わせて活用されるべきである。ミュージアム・ アーカイブズのドキュメンテーションの具体的な例、特に方針に関するものは、ミュージアム・アーカイブズの標準とべストプラクテ イスワーキンググループ[4]のリソースガイド[5几に掲載されている。 ## 1. 序文と使命声明書 序文 すべてのミュージアムは、永続的な価値を持つ組織体の記録や、個人やグループおよびミュージアムに関連する話題の記録を体系的に収集、組織化、保存、そしてアクセスを提供する活発で専門のアーカイブズを維持しなければならない。アーカイブズ・プログラムは、過去の行動と現在の決定、両方のための証拠、説明、正当化を提供する。すべての形式で現在のミュージアムの記録の作成、維持、最終的な保存または処分のための方針と手順を推奨すること、また外部で生成された特別コレクションの取得とスチュワードシップを引き受けることが、ミュージアム・アーキビストの役割である。アーカイブズ・プログラムを支持することにより、ミュージアムは自らの歴史を推進するだけでなく、その記録が保存され、職員の仕事を支援し、学者や一般市民の研究ニーズを満たすための情報資源が容易に利用可能であることを保証する。 使命声明書 アーカイブズは、ミュージアムの管理者によって承認され、適切な統括機関によって裁可された使命声明書を持つべきであり、その声明書はミュージアム内でのアーキビストの 権限とアーカイブズのプログラムの範囲を定義するものである。声明書は、ミュージアムにおけるアーキビストの役割とミュージアムの記録管理プログラムとの関係を明確に認めるべきものである。可能であれば、使命声明書は、親機関の使命の主たる側面を反映し、展開されるべきである。 ## 2. 収集の範囲 ミュージアム・アーカイブズは、形式にかかわらず、長期的かつ恒久的な研究価値のある記録を特定し、収集する。ミュージアム・ アーカイブズの収集範囲は、親機関の包括的なコレクション声明書の中に明確に概説されているか、アーカイブズ部門で別途保持されていなければならない。アーカイブズの収集範囲に記述された資料は、ミュージアムのコレクションと展示プログラムに価値を付加し、 ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)へのコミットメントを反映したものでなければならない。 ミュージアム・アーカイブズのコレクションには以下のものが含まれる。 1. 組織体の記録機関の歴史を記録し、モノ資料コレクションのコンテクストを提供する。これには、プログラム作成、学芸部門、管理、法律、財務の活動に関連する記録が含まれるが、これに限定されない。 2. モノ資料、標本、あるいは修復保存のフアイルなどのコレクション記録これらは、 ミュージアム・アーカイブズのコレクションの一部であるか、現用記録であれば、学芸、 登録、あるいはコレクション・マネジメントのオフィスに保管されている。ミュージアム・アーキビストは、これらの記録のスチュワードシップを提唱し、適切な場合にはアー カイブズへの移管の可能性を含めて支援を提供しなければならない。 3. 特別コレクション特別コレクションには、外部あるいは提携している個人や組織の記録や、ミュージアム全体の使命に沿った関連する話題性のあるコレクションが含まれる。 ## 3. 組織上の配置 管理上の配置、構造、ガバナンスは機関の違いや文化を反映しているが、ミュージアム・アーカイブズは、他のすべてのコレクション部門と同じレベルでミュージアムの組織構造内に配置されるべきであり、ミュージアム・アーキビストはミュージアムの館長、理事会、または親機関から委譲された、同等の保管とそれに関連する権限を持つ。ただし、 ミュージアム・アーカイブズは、ミュージアムがより大きな大学の一部である場合のように、親機関のアーカイブズの管理に属する場合もある。 ## 4. 専門職アーキビストとアーカイブズの職員 ミュージアムは、専門的な訓練を受けたア ーキビストを雇うべきである。専門的な訓練を受けたアーキビストを雇用することが機関の資源の問題でできない場合は、ミュージアム・アーカイブズの管理に関しては専門家の助言を求め、アーカイブズの責任者となった職員にアーカイブズの訓練を提供すべきである。 ミュージアム・アーキビストの責務は、ミュージアムの記録とミュージアムの外部から取得した関連資料のコレクションを評価選別、取得、編成、記述、保存、そしてアクセスを容易にすることである。これらの責務は、複数のアーカイブズの職員間で分担されることもある。また、ミュージアム・アーキビストはその機関の内部または外部の関係者に、一次資料の活用方法についてのアーカイブズ教育や訓練を提供することもある。アウトリー チを行うことや、アーカイブズ・プログラムを提唱することは、ミュージアム・アーカイブズの価値を伝えることになる。 ミュージアム・アーキビストは、ミュージアム・アーカイブズの策略的企画を立案し、 その資源の必要性を評価し、専門家としてのベスト・プラクティスと倫理に従った方針と手順を作成する権限を与えられるべきである。 ミュージアム・アーキビストは、アーカイブズの職員の雇用にも責任を持つべきである。 アーカイブズの職員の配置レベルは、ミュー ジアムの他部門の職員の配置レベルと一致していなければならない。雇用は、非差別で機 会均等の方針に従わなければならず、雇用活動は文化的に要求にかなう方法で実施されねばならない。 ## 5. 方針と標蕉 ミュージアム・アーカイブズは、可能な限り、ミュージアムに既存の機関の方針と標準を採用し、アーカイブズの実践に合わせて練り上げるべきである。適切でない場合には、 アーキビストが、専門職のアーカイブズの標準と実践に基づいて、自らの収蔵施設のために独立した方針を作成すべきである。 ## 6. 記録管理 ミュージアム・アーカイブズは、記録の同定やリテンション・スケジュールを含め、ミユージアムの記録管理プログラムに責任を負うか、積極的な役割を維持しなければならない。永久保存の基準は以下の通りである。 1. ミュージアムの機構、発展、使命、機能の長期にわたる証拠 2. ミュージアムの行動、決定、方針、財政的法的権利と責任の文書化 3. 研究および情報的価値 これらの基準は、すべての形式とすべてのプラットフォーム上の記録に適用される。 ミュージアム・アーキビストは、記録の重複と非永久的な記録の保持を回避することを目的として、ミュージアムのすべての記録の維持、処分、保存に関する方針、ガイドライン、リテンション・スケジュールの策定に関与しなければならない。ミュージアム・アー キビストは記録の作成者や該当する場合は法務担当者同様、財政上または法律上の目的のために一時的に保存されなければならない記録の適切な処分を承認しなければならない。 ミュージアム・アーカイブズは、その保存管理下にはない、レジストラー、コレクション・マネージャー、キュレーター、コンサバター(保存修復家)が管理するコレクションのモノ資料や受入の記録、情報技術スタッフが管理するコンピュータ・ネットワーク・バックアップといった恒久的に現用のアーカイバルな価値のある記録の維持に関する推奨事項について、相談に応じることもある。 ## 7. インフラストラクチャー ミュージアム・アーカイブズ内のあらゆる形式の記録を管理するためには、十分にサポ一トされ、維持されている物質面とデジタルのインフラストラクチャー (基盤) が必要である。ミュージアム・アーカイブズの物的設備、収蔵区域、研究室、デジタルシステムの構築、実施、維持には、ミュージアムの他の部門との協力と同様に、確固とした制度的なコミットメントが必要である。 ## 8. アクセスと利用 ミュージアム・アーカイブズは、研究利用のために公開可能なすべての記録へのアクセスを提供すべきである。厳選された所蔵資料は、プライバシー、守秘義務、著作権法、文化的センシティビティ、文化財の権利、道徳的権利、その他の目的に関連した合理的な制限によってのみ限定されるべきである。ミュ ージアム・アーカイブズは、利用者の地位、所属、使用目的にかかわらず、アーカイブズ資料への平等な研究利用を提供すべきであるが、特定の資料へのアクセスは、機関の職員によるものが増加するのが通例である。また、 ミュージアム・アーカイブズは、可能な限り、対面とオンラインの両方で、アーカイブズの記述と資料の提供を通じて、知的・物的なアクセスを提供するよう努力すべきである。 ## 9. アウトリーチ ミュージアム・アーカイブズは、展示、ワ一クショップ、出版物、プレゼンテーション、教育、見学、その他のプログラムを企画し、 コレクションとサービスを宣伝し、協力関係を促進し、知識を共有して構築し、財政的支援と資源の擁護を行える。ミュージアム・ア ーキビストは、個人的に、また同僚と協力して活動して、構成員にとって意味のあるプログラムを作成し、ミュージアムの機関の使命と具体的な目標を支援する。 ## 10. 返還 ミュージアム・アーカイブズには、返還の進行を支援する倫理的責任があり、問題のある来歴や出所が不明瞭なアーカイブズやミュ ージアムの所蔵資料に対して、協力、関与、 提携の方法を開発することが期待されている。 アーキビストは、自分の管理下にあるコレクションとミュージアムの管理下にあるコレクションの出所について、可能な限り多くの情報を調査し、記録し、アクセスできるように努力すべきである。情報公開に関する一貫した実践を確保するために、機関のガイドラインを確立することが推奨される。ミュージアム・アーキビストは、影響を受けるコミュニティが文化遺産に対してもっている本来の主権を認める権利と責任を支持することを目指すべきである。 ## 3. 現ガイドラインと比較して 現ガイドラインは、1999 年に初稿が作成され、2003 年に評議員会で承認された。この当時セクションではマニュアルの作成にも取り組んでいた。項目だけあげておくと、序/1。定義と範囲 $/ 2$ 使命声明書/3.アーカイブズの地位 $/ 4$. 専門職アーキビスト $/ 5$.ミュージアムの記録と個人文書/6. 収集資料のための受入方針 $/ 7$. ミュージアム記録のリテンションについての基準/8.現用記録/9.場所と条件/10.記録の編成、記述、保存/11.アクセスである。 新しい案を提示したミュージアム・アーカイブズ・セクションの標準とべストプラクテイス作業部会は 2011 年の設立以来、標準とべストプラクティスのリソースを充実させてきた。また、2012 年から 2013 年にかけて、各機関のボーンデジタル資料の取り扱いについてインタビュー調查を行い、2014 年の電子記録についてのシンポジウムを皮切りに毎年、 SAA 年次大会の折にシンポジウムを開催している。ワーキンググループの改訂の過程は会合やニューズレターで報告されていて、新ガイドライン案の提案と意見募集は SAA 全体のメーリングリストで告知された。 2000 年前後の頃と比べて、アーカイブズを取り巻く環境の大きな変化は電子記録の登場 とその扱いである。ワーキンググループは電子記録とくにボーンデジタル資料の扱いに取り組んできたので、記録管理に重点が置かれている。また SAA 全体がそうであるようにアドボカシーの重要性やダイバーシティとインクルージョンが唱えられている。デジタルは、 7 でデジタルシステムが言及され、リソース 8 のボーンデジタルとデジタル化が増強された。 ## 4. おわりに ワーキンググループの活動の関心は当初デジタル保存にあった。シンポジウムのテーマとするばかりでなく、報告書も充実している。 それらを踏まえたガイドラインの改訂であるが、デジタルを取り巻く環境の変化を見越して汎用的な表現となっている。決定までの透明なプロセスとあわせて、学ぶことが多い。 ## 参考文献 [1] The Society of American Archivist Museum Archives Section, https://www2.archivists.org/groups/museum -archives-section/mas-wg-invites-commentson-updated-draft-of-museum-archivesguidelines (参照 2021-02-26). 尚、『アート・ ドキュメンテーション研究』 $28 \cdot 29$ 号, 2020 年 5 月に筆者による活動紹介がある。 [2]https://www2.archivists.org/groups/muse um-archives-section/mas-wg-invitescomments-on-updated-draft-of-museumarchives-guidelines から PDFファイルへ (参照 2021-02-26). [3]https://www2.archivists.org/groups/muse um-archives-section/museum-archivesguidelines (参照 2021-02-26). [4]https://www2.archivists.org/groups/muse um-archives-section/museum-archivessection-standards-and-best-practicesworking-group (参照 2021-02-26). [5]https://www2.archivists.org/groups/muse um-archives-section/standards-bestpractices-resource-guide (参照 2021-02-26). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [54] 大学の授業における電子教科書サブスクリプション モデルの試み ○井関貴博 1 ) 1) 東京大学大学院情報学環, $\bar{\top} 113-0033$ 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: [email protected] ## A trial of the e-textbook subscription model for university classes ISEKI Takahiro1) 1) The University of Tokyo Interfaculty Initiative in Information Studies, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033 Japan ## 【発表概要】 教育コンテンツはデジタルアーカイブにとって重要な領域であり、COVID-19禍による遠隔授業の拡大で、その重要性はさらに増したと言える。一方、大学の授業では、教員は教科書を利用せず、学術・専門書など商業出版物のコピーや、図表類再利用による自作スライドを教材とする傾向が強まっている。これは、教員・研究者にとって良きパートナーと言える商業出版界の収益基盤悪化を招きかるず、大学として憂慮すべき状況と考える。本稿はこの課題解決の一助としての可能性を探るべく、教科書・参考書(電子版)をサブスクリプション方式で利用を試みた実験授業の報告である。 ## 1. はじめに 昨今、社会の多様な場面でサブスクリプションモデルが試みられているが、動画や音楽配信サービスは、大学の受講者世代に完全に定着した感がある。本稿の目的は、大学の授業で利用される教科書や参考書においても、当方式導入の可能性を探るものである。またデジタルアーカイブとしても、充実した教育コンテンツ環境と利活用方式の試行例として意義があると考える。今回は、実際の授業において、課題やニーズを顕在化すべく実験を試みた。 大学の授業では、これまで商業出版社発行の学術・専門書を教科書として利用するのが一般的であった。しかし近年は、教員による教科書指定は漸減傾向である。受講者の経済的負担回避や軽減が主要因と考えられる[1]。 一方で、教員は良書を多数利活用の願望もあり、関連書籍の一部複製や図表類再利用による自作スライドを教材とするケースが多い。 この傾向は、教員・研究者にとって良きパー トナーといえる商業出版界の収益基盤悪化を招きかねず、優れたエディターシップ逸失や学術・専門書のさらなる高騰など、結果的に大学側に負の効果として跳ね返る悪循環に陷 りかねない。この流れを修正し、同業界と Win-Win の関係を築く必要性があるのではないだろうか。その方策案として、教科書・参考書(電子版)のサブスクリプションモデルは有力な手法と考えられる。 ## 2. ステークホルダー 3 者に対するポイント 大学の教員や出版関係者に事前ヒアリングの結果、意味のある実験とするためには以下ステークホルダー 3 者のニーズを踏まえた仕組みと運用が必要であることが判った。 (1)教員: 求める書籍(電子版)による授業 (2)受講者 : (想定) 極力安価な利用料 (3)出版社 : 既存市場を考慮した運用モデル さらに、これら 3 者が好循環を生み出す有機的な連携も重要と考えられる(図 1)。 図 13 者の好循環イメージ ## 2. 1 教員:「カスタムメイド型」サブスク方式 大学向け教科書(学術・専門書)のサブスクサービスは、欧米では既に一部の大学で始まったが[2][3]、我が国では、 2 年前より資格試験や受験生向け参考書においてリリースされた[4][5]。ただし欧米含め、いずれも事業者側があらかじめ用意したコンテンツ構成であり、いわゆる「レディメイド型」である。 これに対し、筆者の事前調査では教員はこのタイプは受け入れ難いようで、教員が求める書籍群を揃えた「カスタムメイド型」としない限り実現は難しいと考える。 ## 2.2 受講者:リーズナブルな利用料 まず、今回の実験で最も確認したき事項として、受講者がリーズナブルと感じる利用料がある。前例が無いこともあり、教員へヒアリング結果から、科目毎に、利用書籍点数に関係なく、「開講期間利用料」として受講者一人あたり 550 円(税込)に設定した。 ## 2. 3 出版社: サブスクは商売になるのか? 商業出版界はビジネス視点が前提となることは言うまでもないが、当モデル案は総じて前向き反応が得られた。大学市場の規模縮小が顕著であるからであろう。教科書販売事業者によると、10 年単位で実績をみると明らかに減少傾向のようだ。少子化等根本的問題もあるが、教員の教科書指定減少に加え、指定されても購入しない受講者が増えているからだ。学部 2 年以上では 5 割程度とのこと。 また、どの大学もシラバスを公開しているが、【教科書】と【参考書】欄の内容を俯瞰するとその一端が見える。【教科書】は利用書籍の記載自体が少ないが、【参考書】では、大半の科目で実に多数の書籍が挙げられている。 この状況を出版社側からすると、「指定教科書ですら購入減のなか、参考書にお金を払う受講者はいない。」となる。おそらく間違いないであろう。 筆者はこの点に着目し、売上見込の無い 【参考書】を少額ながら利用料というかたちの収益化を説明、協力を要請した(図 2)。 ただし懸念も指摘された。【教科書】として採用済み書籍が、当モデル登場で「定価商売」 から「利用料商売」へ移行される危惧である。 例えば、【教科書】として受講者一人あたり 3,000 円の $\mathrm{A}$ 書籍(冊子)が、当モデルでは $\mathrm{A}$書籍含め 6 点で 500 円の商売となる。この 「定価商売」 $\Rightarrow$ 「利用料商売」への雪崩現象懸念はもっともであろう。よって回避策として、今回の実験では教科書(冊子)購入を前提とし、その冊子含めた複数の参考書(電子版)によるサブスク方式を採ることとした。 図 2 大学市場における商業出版物の販売先 ## 3. 実験授業について ## 3. 1 主な検証$\cdot$確認ポイント 本実験は、複数書籍(電子版)利用による教育・学習効果と、「有償利用」に対する受講者の反応調査が主目的である。 (1)教育・学習効果の定量的確認 【方法】教科書 (冊子) 利用の従来型授業 ( 2019 年度) と成績比較 (2)サブスク利用に関わる受講者の反応 ## 【方法】アンケート調查 しかし、COVID-19 禍で遠隔授業を余儀なくされ、(1)で予定した「対面による電子コンテンツの多様な利活用」や「定期試験」も中止せざるを得ない結果となった。よって、(1) は一部授業に限られたことをお断りしておく。 ## 3.2 授業の概要 実験授業は名古屋大学の教員 4 名の協力を得て、2020 年度の春学期に 2 科目、秋学期に 2 科目、計 4 科目で実施した(表 1)。 表 1 実験授業の概要 & & 備考 \\ $\cdot$利用書籍提供出版社(各 50 音順) *1: 南雲堂 *2: 弘文堂、ナカニシヤ出版、ミネルヴァ書房、有斐閣 *3: 講談社、マイナビ出版、森北出版 $\cdot$利用書籍は、シラバスにおける【教科書】と【参考書】の区別は無く、すべて【教科書】扱いとした。 ・書籍コンテンツは、DRM で保護のうえ大学生協の電子書籍配信サーバに登録、受講者は各自端末にダウンロードし専用ビューワで利用。 $\cdot$受講者の電子コンテンツ利用状況(ログ)をビューワで取得し、定期的にサーバにアップロード管理(例:学習時間等)。 $\cdot$設定料金(サブスク利用料)は、利用書籍点数に関係なく受講者一人あたり一律 550 円(税込)とした。 ## 4. 実験結果 ## 4. 1 教育$\cdot$学習効果(授業 $\mathrm{C$ の成果)} 4 授業のらち、唯一 C だけが例年通り学内教室における定期試験が実施できたため、この授業について説明する。 グラフ(図 3) は、過去 4 年分(2015〜 2019 年度、2018 年度は集計無し) と 2020 年度分を併せた成績分布である。 $\cdot S: 100 \sim 90$ 点、 $A: 89 \sim 80$ 点、 $B: 79 \sim 70$ 点、 $\mathrm{C}: 69 \sim 60$ 点、 $\mathrm{F}: 59$ 点以下(不合格) ・年度によりクラス人数が異なるためタテ軸は割合とした。 これを見る限り、20 年度の実験授業は全体の底上げが顕著である。複数書籍(電子版)利用が奏功したと考えたいところだが、全面遠隔授業による他の要因も影響しているようだ。以下担当教員の主なコメントである。 - 予習・復習用に別途スライド教材も配布。 - 受講者の独習時間増加 (COVID-19 の影響で通学やアルバイト等に要する時間減)。 ・出席確認に替えた小テストを毎回実施。 その他もあるだろうが、遠隔環境による学習時間増加が影響した点は間違いなさそうだ。 一方、他の 3 授業は定量的検証ができなかったが、毎回授業で課す演習問題や次週までのレポート課題において、論考の深さや回答の充実度、視点の独自性など、例年に比して全体として質が高まったとの評価であった。 その他、以下のようなコメントが挙げられた。 - 電子書籍により教員と受講者、受講者同士でメモやマーカー共有が可能な点は議論が焦点化し易く、教育の質の向上が図れる。 ・利用書籍は内容面で相互につながっており、必要部分の参照指示が容易である。 また、 4 教員から特に大きな問題点やデメリットの指摘はなく、その他要望点など受講者の次項にて併せて触れる。 ## 4. 2 サブスク利用料など (受講者の回答) まず利用料に関わるアンケートの回答だが、「抵抗なく払える価格」としては、8 割の受講者が「1,000 円以下」であった(表 2)。 その主な理由は以下 2 点に集約される(複 数回答可)。 - 自分の所有物にならない(61 人)。 ・開講期間しか利用できない(76 人)。 表 2 料金に関するアンケート結果 (4 授業合計) $\cdot$全授業終了後に自由回答(記名式) -回答率: $64 \%$ (134 人/全 211 人) $「 1,000$ 円以下」の結果は調査前からおおよそ推測できたが、一部教員からは今回の質的成果をもとに、よりコンテンツ活用が図れれば 1,000 円以上も可能との回答も得られた。 その他、料金以外に関わる主な意見・要望は以下である(一部教員回答含む)。 ## 【利点】 ・キーワード検索可能な点はメリット大。 ・かさ張らず(スマホで)複数文献が携行可。 ・時間と場所を選ばず多読が可能。 【課題、弱点】 ・じっくり学習するには冊子がベター。 - 電子書籍に記入したメモやマーカー、付箋が手元に残らないのは残念。追加料金を払うことで、所有物(買い取り)にしたい。 ・開講期間のみの利用ではなく、サブスクで 1 年間ないし 4 年間のメニューが欲しい。 ## 5. 考察 今回の実験授業は、COVID-19 禍で当初計画通りには実施できなかったが、おおよその課題とニーズ掘り起こしはできたと考える。最終的ねらいは図 1 に示した好循環生成だが、筆者は、その重要なポイントは「サブスク利用料」と考える。よって一律 550 円ではなく、利用書籍点数と受講者数の組み合わせで料金プランを柔軟に変えられるモデルで試すべく、 2021 年度の授業を計画中である。 ## 6. おわりに 実際の授業現場では、教科書・参考書以外にも学術論文・雑誌、新聞やコミック、映像や音楽コンテンツ等々、実に多種多様の著作物が利活用されている。この場合、本稿では取り上げなかった著作権の問題も大きく横たわっており、デジタルアーカイブとして今後「教育コンテンツ利活用のあり方」をどうすべきか、検討が急務と考える。 ## 謝辞 本実験授業に協力頂いた名古屋大学の山里敬也教授、上原早苗教授、中島英博准教授、古泉隆講師に感謝する。 ## 参考文献 [1]井関貴博. 大学におけるデジタル教材の構造的問題. 名古屋高等教育研究. 2020 , 第 20 号, p.61-76. [2] Perlego. https://www.perlego.com/ (参照 2021-02-08). [3] FLORIDA VIRTUAL CAMPUS. 2018 Student Textbook and Course Materials Survey. https://dlss.flvc.org/ (参照 2021-02-08). [4] ポルト. https://porto-book.jp (参照 2021-02-10). [5] BUSINESS LAWYERS LIBRARY. https://www.businesslawyers.jp/ (参照 2021-02-10) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [53] そろそろ拡大集中許諾制度の議論を始めませんか ○城所岩生 ${ }^{1)}$ 1)国際大学グローバルコミュニケーションセンター,〒106-0032 東京都港区六本木 6-15-21 E-mail: [email protected] ## Let's Start a Discussion on Extended Collective Licensing System \\ KIDOKORO Iwao1) 1) Center for Global Communications, International University of Japan, 6-15-21 Roppongi, Minato-ku Tokyo 106-0032, Japan ## 【発表概要】 EU は 2019 年に「デジタル単一市場における著作権指令」を施行。デジタルコンテンツが域内で自由に流通するデジタル単一市場をめざした指令は、拡大集中許諾制度を採用。集中管理団体が著作権者に代わって著作権を管理する集中許諾制度はメンバーのみが対象だが、これをノンメンバーにも拡大するのが拡大集中許諾制度。利用者は権利者を探し出す手間が省けるため権利者不明の孤肾著作物問題の有効な解決策になる。米国でも導入の動きはあったが、グーグルの書籍検索サービスに対する訴訟でフェアユースが認められたため、フェアユースで対応可能とする意見が多く見送られた。欧米とも日本の裁定制度が採用する強制許諾制度については、要件が厳しいためデジタルアーカイブのような大規模デジタル化計画には向かないとして採用せず。韓国では ECL の導入を含む著作権法大改正の動きが具体化している。こうした状況から日本も ECL の導入を早急に検討すべきである。 ## 1. はじめに デジタル化の進展がもたらす著作権法上の課題の一つに博物館・美術館・図書館などが所蔵する資料のデジタルアーカイブ化の問題がある。デジタルアーカイブ化する際の大きな障害が孤坚著作物 (Orphan Works) 問題。 デジタル化するには著作権者の許諾を得なければならないが、著作権者がわからなくては許諾も取れない。年月とともに劣化する収蔵品をデジタル化によって保存できないと、貴重な文化資産が消滅する危機に瀕することになる。 著作権はベルヌ条約により、権利の発生に登録などの様式行為を必要としない無方式主義を採用している。長らく方式主義を貫いた米国も 1989 年のベルヌ条約加盟時に無方式主義に転換した。1998 年には保護期間を著作権者の死後 50 年から欧州並みの死後 70 年に延長した。この二つの法改正が孤坚著作物を大幅に増やした反省から、2000 年代に二度にわたって、孤览著作物を利用しやすくする法案が議会に提案したが陽の目を見なかった。 その間隙をついたのが私企業のグーグルだった。2004 年、グーグルは図書館や出版社か ら提供してもらった書籍をデジタル化し、全文を検索して、利用者の興味にあった書籍を見つけ出すサービスを開始した。グーグルブックス」とよばれるこのサービスに対しては早速訴訟も提起されたが、後記 3 のとおりフエアユースが認められた。 ## 2. グーグルに対抗した欧州 ## 2. 1 ヨーロピアーナ 米国の一民間企業が立ち上げた電子図書館構想は、グーグルショックとよばれたように全世界の著作権者を震撼とさせた。フランス国立図書館長のジャンーノエル・ジャンヌネ一氏は、2005 年 1 月、ルモンド紙に寄稿し、 グーグルブックスが持つ公共財の商業的利用や英語資料優先の電子化が行われることに対する懸念を表明。これが当時のシラク仏大統領の目にとまり、大統領は文化相とジャンヌネー氏に、フランスを含むヨーロッパの図書館蔵書が、より広くかつより迅速にネットで公開できるようにする施策の検討を命じた。 これを受けて欧州委員会は 2005 年、各国の文化遺産をオンラインで提供する欧州デジタル図書館計画を発表、2008 年には書籍だけで なく新聞・雑誌の記事、写真、博物館の所蔵品やアーカイブ文書、録音物まで含む壮大なデジタル図書館プロジェクト、ヨーロピアー ナを発表。グーグルブックスと異なり、書籍以外の膨大な歴史的資産をデジタル化し、ネットを通じてアクセス可能にしている。それ自体がアーカイブではなく、ヨーロッパ中のデシタルアーカイブをネットワーク化したポ ータルサイトに過ぎないが、すでに欧州 35 ケ国、3,700 以上の図書館 - 美術館 - 博物館文書館等が参加、 5,800 万点以上の文化資源デジタルアーカイブが一括で横断検索できる。 ## 2. 2 欧州孤坚著作物指令 2008 年、EU は孤览著作物指令を発表した。図書館などの文化施設が所蔵する書籍などについて、権利者を探す入念な調査を行っても所在が確認できない場合には利用できるようにした。この指令によって、それまでパブリックドメインのものがほとんどだったヨーロピアーナの公開コンテンツに、孤児著作物も加わることになった。 ## 2. 3 デジタル単一市場における著作権指令 ## 2. 3.1 目的 2019 年、EU はデジタル単一市場における著作権指令を公布、施行した。デジタルコンテンツが域内で国境を越えて自由に流通する 「デジタル単一市場 (Digital Single Market、以下、“DSM”)」をめざして、加盟国間の著作権制度の差異をなくし、オンラインコンテンツへのより広いアクセスを可能にする指令。 ## 2. 3. 2 デジタルアーカイブ関連条文 DSM 著作権指令はデジタルアーカイブ関連条文で、加盟国に以下を義務づけた。(1)文化遺産機関が保存目的で複製するための権利制限規定を設けること(第 6 条)、文化遺産機関がライセンスを得やすくするための制度や権利制限規定を設けること (第 8 条)。加盟国が拡大集中許諾制度 (Extended Collective Licensing System、以下、見出しを除き ”ECL”)を活用しやすくするための仕組みづくりについても定めた(第 12 条)。 ## 2.3.3 拡大集中許諾制度 集中許諾制度は日本では、「著作権に関する仲介業務に関する法律」によって設立された権利集中管理団体が、著作権者に代わって著作権を管理する、具体的には著作権使用料を利用者から徴収し、著作権者に分配する制度。集中許諾制度は日本音楽著作権協会 (JASRAC)が管理する音楽のように著作物の分野ごとに設立された集中管理団体のメンバーのみが対象だが、これをノンメンバーにも拡大するのが $\mathrm{ECL}^{2}$ ノンメンバーには当然、集中管理を望まない著作権者もいるはず、そういう権利者には対象から外してもらうオプトアウトの道を用意する。その代わりにオプトアウトしない作品の利用を集中管理団体が利用者に認める。 第三者機関が権利者に代わって利用を認める制度としては、ECL のほかに強制許諾制度もある。日本の裁定制度も採用している強制許諾制度の ECL との相違は、使用料や使用条件を決めるのは強制許諾制度では政府だが、 ECL では利用者と集中管理団体である点。利用者は ECLによって権利者を探し出す手間が省けるので、権利者の身元あるいは所在が不明な孤肾著作物問題の有効な解決策にもなる。 ECL は表 1 のとおり、北欧諸国が 1960 年代から採用していたが、グーグルブックス訴訟をきっかけに有力な孤览著作物対策である点に注目が集まり、仏、独、英も相次いで導入。 \\ ## 3. フェアユースで対応した米国 グーグルブックスに対する訴訟の過程では一時和解が試みられた。和解案は裁判所が認めなかったため陽の目を見なかったが、ECL の考え方にヒントを得ていた。和解案が裁判所に認められなかったため、復活した裁判ではグーグルのフェアユースが認められた。フ エアユースは公正な目的であれば、著作権者の許諾なしに著作物の利用を認める米著作権法の規定。 和解案が採用した ECLには議会図書館著作権局も着目した。孤坚著作物対策でグーグルに先行され、「官の失敗」という批判まで浴びた著作権局が、2015 年に「孤览著作物と大規模デジタル化」と題する報告書を発表した。報告書は ECL を創設するパイロットプログラムを提案し、パブコメを募集。結果は、反対 (42 件)が賛成(9 件)の 5 倍近くに上り、反対の半数(21 件)がフェアユースで対応できることなどを理由にあげたため、著作権局は立法を断念した。 ## 4. 拡大集中許諾制度の導入を含む著作権法の全面改正案が提案された韓国 制定当時、日本法の影響を受けたとされる著作権法を持つ韓国は、デジタル化への対応に関しては日本に先行していて、以前からデジタル著作権取引所で孤览著作物の著作権者探しと法定利用許諾等を行っている。2011 年の改正ではフェアユース規定を導入した。 2021 年 1 月には拡大集中許諾制度の導入を含む著作権法の全面改正案が国会に提案された。 ## 5. 周回遅れの日本 ## 5.1 裁定制度 わが国が孤览著作物対策として採用する裁定制度は強制許諾制度である。裁定制度は 1970 年の現行著作権法制定時に規定されたが、 2009 年度までの 38 年間の裁定件数は年間平均 1 件強にすぎない。 1 件で複数の作品を申請するケースが多いが、それでも年間平均 2,389 作品にすぎない(表 2 参照)。このため、 2009 年度と 2018 年度に使い勝手をよくするための改正が行われ、2010 年度から 2018 年度までの 9 年間の平均で、裁定件数、作品数とも急増したが、累計でも約 36 万点にすぎず、 5800 万点を超えるヨーロピアーナのような大規模デジタル化対策には向かない制度であることが判明する。表 2 裁定制度の利用実績 注:かっこ内は年平均の数字 出典: 岸本織江「著作権行政をめぐる最新の動向について」『コピライト』2019年 11 月号、図 14 もとに筆者作成。 米国の「孤览著作物および大規模デジタル化報告書」も強制許諾制度について検討。著作権局は 2006 年にもこの制度を検討したが、高度に非効率であると結論づけた。今回もこの結論を踏襲。強制許諾制度を採用している 5 力国で今日までに下りた許諾は 1000 件に満たないことも、この結論の正しさを裏付けているとした。 欧州も 2008 年の孤览著作物指令採択時に強制許諾制度についても検討。政府がお墨付きを与える制度なので、法的安定性は高いが非効率であるとして採用しなかった。 ## 5.2 ジャパンサーチ 2020 年 8 月に公開されたジャパンサーチもメタデータ数は 2128 万点に上るが、オンライン公開は 327 万点にすぎず、 5800 万点以上のヨーロピアーナ、米国の図書館アーカイブを統合した米国デジタル図書館(DPLA)の 4000 万点以上の 10 分 1 以下である。 グーグルブックスで筆者の名前を検索すると、国会図書館の蔵書検索データベース NDL-OPAC で検索した場合の数十倍の件数がヒットする。日本語の書籍ですら母国語の国立図書館の検索サービスが、米国の一民間企業のサービスに劣るという事態は国の文化政策上も問題である。 ## 6. 対応策 ## 6.1 日本版フェアュース 米国にならったフェアユース規定の導入はコロナ禍でダウンした経済立て直しにも貢献するという大きなメリットがある。フェアユ ースは米国ではベンチャー企業の資本金ともよばれるぐらいグーグルをはじめとした IT 企業の躍進に貢献した。このため、今世紀に入ってから導入する国が相次いでおり、これら諸国の経済成長率はいずれも日本より高いか らである。 日本でも「知的財推進計画」の 2 度にわたる提案を受けて、日本版フェアユースが検討された。米国のフェアユース規定が権利制限規定の最初に登場するのと異なり、日本版フェアユースは権利制限規定の最後に「以上の他、やむを得ないと認める場合は許諾なしの利用を認める」という受け皿規定を置く方式。 この規定の導入を検討した末、 2 度にわたる著作権法改正が行われたが、2012 年と 2018 年の改正を経ても、未だに実現していない (参考文献[3]第 5 章参照)。 日本の孤览著作物対策や大規模デジタル化計画の周回遅れをこれ以上拡大させないためには、実現にまだ時間のかかりそうな日本版フェアユースの導入を待ってはいられない。 となると、欧州が導入し、韓国も導入を検討中の ECL に期待がかかる。韓国はフェアユー スも導入ずみなので、日本版フェアユースの導入も検討しつつ、並行して ECL の導入を急ぐべきである。 ## 6.2 「日本版拡大集中許諾制度」試論 上記 5.2 で指摘した国会図書館の日本語の書籍検索サービスが、米国の一民間企業のサ一ビスに劣るという国の文化政策上の問題は、解決の方向が見えた。山田太郎参議院議員 (自民党)の尽力により 5 年間で 200 億円の国会図書館資料デジタル化予算(うち 60 億円は 2020 年度第 3 次補正予算)がついた。これにより 2000 年以前に出版された図書等の電子化が可能になる。山田議員は 2001 年以降に出版された図書等についても、2026 年までに広く実現化の手段を探るとしている。 国内で発行されたすべての出版物は、国会図書館に納入することが義務づけられている (国立国会図書館法第 25 条)。山田議員が示唆しているのは、2001 年以降に出版されたボ ーンデジタルの本を紙で納本してもらい再度デジタル化する無駄を省く、デジタル納本で ある。これが実現すれば国会図書館のデジタル化資料が着実に増える。 コロナ禍で国会図書館をはじめ図書館が閉鎖され、教育・研究活動に支障をもたらした問題について、文化庁が 2021 年の通常国会に提案する予定の改正案をまとめた。 これまで国会図書館においてデジタル化された「絶版等資料」のデータを国会図書館が他の図書館等に対してインターネット送信し、送信先の図書館で館内閲覧に供するとともに、一部分を複製して利用者に提供できたが、利用者は図書館まで出向く必要があった。改正案では国会図書館が一定の条件のもとに「絶版等資料」のデータを各家庭にインターネッ卜送信可能になる。 こうしたアドバンテージを持つ国会図書館のデジタル化資料を拡大集中許諾によって利用できるようにするのが、筆者の考える日本版 ECL の試論である。今後の議論を進める上でのたたき台になれば幸いである ## 参考文献 [1] 今村哲也,拡大集中許諾鮮度導入論の是非.しなやかな著作権制度に向けて, 第 7 章, 信山社, 2017. [2] 城所岩生,フェアユースは経済を救う. インプレス R\&D, 2016. [3] 城所岩生編著, 山田太郎,福井健策ほか著, 著作権法 50 周年に諸外国に学ぶデジタル時代への対応, インプレス R\&D, 2021. [4] 鈴木雄一, 孤肾著作問題の解決策としての拡大集中許諾, Nextcom, 2015 Spring, p1429. [5] ソフトウェア情報センター, 拡大集中許諾制度に係る諸外国基礎調查報告書,2016. [6] 玉井克哉, 権利制限と拡大集中許諾〜権利者不明作品問題の二つの解決策〜,コピライ卜, 2017 年 5 月号, $\mathrm{p} 2-17$. [7] 濱野恵, EU デジタル単一市場における著作権指令, 外国の立法, 2019 年 11 月号, p10-13. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [13] 写真撮影地点同定方法一般化の試み:占領期のパーソナル写真を事例として ○佐藤洋一 ${ }^{11}$, 衣川太一 ${ }^{2}$ ) 1)早稲田大学, $\bar{\top} 169-8050$ 新宿区西早稲田 1-6-1 2) NPO 法人プラネット映画保存ネットワーク E-mail: [email protected] ## An Attempt to Generalize the Method of Identifying Photographic Locations: \\ A Case Study on Personal Photography during the Occupation Era SATO Yoichi1), KINUGAWA Taichi²) 1) Waseda University, 1-6-1 Nishiwaseda, Shinjuku-ku, Tokyo 169-8050 Japan 2) Planet Film Preservation Network ## 【発表概要】 占領期のパーソナル写真は、アメリカ人など外国人が撮影された写真がデジタルアーカイブと して紹介されているが、撮影場所などの明確なキャプションがないものが大半である。また戦災による被災箇所を写した都市部の写真も一定数存在し、都市史的にも貴重だが、撮影地点が同定されず、写真史料としての限界を作っている。こうした限界を打開する方法はないか。本稿では占領期のパーソナル写真を事例として、写真撮影地点の同定作業を進めるための一般的な方法的枠組みを提示することを試みる。 ## 1. 本稿の背景$\cdot$目的 占領期の日本における外国人による写真は、貴重な視覚的資料である。しかし、詳細なキヤプションがないために撮影場所が不明なまま、資料価値を見出されず、活用へと導かれない写真も国内外に数多く存在している[1]。 撮影場所の同定は、デジタルアーカイブを介することで、以下の 3 点で容易になる。 〈画像の細部分析〉: 画面上で写真の細部を検証し、情報の読み取りがしやすくなること 〈多様な素材の相互比較〉: 複数コレクションの素材を相互検証し、俯瞰的に把握すること 〈作業プロセスの共有〉: オンライン上で様々な人々が検証のプロセスに関わることで多角的な検証が可能となること、である。 撮影場所同定は各地で行われているが[2]、 そのプロセスについての先行研究は少ない[3]。 本稿は、占領期のパーソナル写真を題材として、〈画像の細部分析〉〈多様な素材の相互比較〉〈作業プロセスの共有〉という条件を踏まえ、写真撮影場所同定の方法論に関わる論点を整理して示すことを目的とする。 ## 2. 前提 ## 2. 1 ミクロな連鎖とマクロな連鎖 撮影場所同定とは、撮影場所がわからない写真についての事実確認を行うことである[4]。詳細が不明に見える写真も、当事者や関連情報に詳しい人には、撮影場所同定プロセス (以下、同定プロセス)は不要ではある。とはいえ、同定プロセスは単なる事実確認に止まらず、写真情報を知らない人間にとっては、状況の正確な理解、歴史的認識の深化、誤謬への気づきなど認識の変容を伴う。 同定プロセスは、直接的には単一の写真が対象だが、一旦撮影場所が確定された写真は、新たなエビデンスを提供し、新たな仮説の提示を促す。一つの写真の同定が別の同定へと連鎖することは複数のコレクション間でもたびたび見受けられる。つまり同定プロセスは波及性、連鎖性をもつ。 同定プロセスとは、コレクション内部での写真に関する〈ミクロな連鎖〉だけをもたらすのではなく、その背後で複数のコレクション間を往還する〈マクロな連鎖〉を生むことで、認識の変容をもたらす。 ## 2. 2 写真が含む情報 撮影場所の同定は、写真からどのような情報を読みとることができるかに左右される。写真に含まれる情報は多層的である。 写真はフレーム内に写る撮影時における空間的な事物や現象が 2 次元的に記録される。 これを時空間記録と呼ぶ。写っているものを細かく確認していき〈画像の細部分析〉を行うのは、通常この水準の情報に対してである。 さらに以下の情報も写真には含まれている。 行為記録: 写真のフレームは撮影者がいることで確定され、生み出される。したがって写真とは、撮影者の行為の記録でもある。 メディア記録:どのようなメディアで撮影され、どのような鑑賞の媒体(プリントかデータかなど)に収められたのか。 経緯記録 : 撮影後、どのように扱われ、どのような経緯で鑑賞者の眼前にあるのか。 ## 2. 3 成分分析と文脈への理解 前項でしめした時空間記録とは、画像内に何が写されているのかを読み取る、いわば 〈成分分析〉である。それに対して、行為記録、メディア記録、経緯記録とは、写真の背後にある文脈についての情報である。例えば 「米軍人は焼け野原の東京でどのような観光をしていたか?」「1952 年当時のカラーフィルムの普及度は?」「写真プリントの裏の書き込みにはどのような意味があるか?」といった問いへの認識である。写真の背後の〈文脈への理解〉は、同定プロセスに先立って十分になされているわけではなく、プロセスに関わる中で深化する。深化した〈文脈への理解〉はその写真が環境をどのようにフレーミングしたのかというくフレーミングへの理解〉を促していく。 ## 3. 事例分析 〈文脈への理解〉が不可欠であった例として、1945 年冬の東京・銀座、1952 年の京都で夜間に撮影された 2 枚の写真を取り上げる。 占領初期の日本の都市空間は、戦時下の空襲により多くの構造物が失われ、焼失した町 には看板などの文字情報も少ない。また夜間撮影も、画像から読み取れる情報も少ない。 つまり、ここで取り上げる 2 つ写真は 〈成分分析〉のみで場所を判読するには情報が少なかったものであり、〈文脈への理解〉に関する資料や方法を併用した事例である。 事例 1 は 1945 年の東京・銀座で撮影された写真に関する検証[5]で、事例 2 は占領期京都におけるカラー写真に関する「京都〈カラー 写真〉研究会」での検証の過程[6]で取り扱ったものである。詳細を次ページに示す。 ## 4. 考察 同定方法の一般化にむけて 本稿での検討に基づく同定プロセスを図 3 に示す。ある程度の撮影エリアの〈見当〉がついているものに関して、〈成分分析〉〈文脈の検討〉を経て、(1)撮影場所についての仮説提示、(2)仮説に対するフィードバックとエビデンスに基づく検証、(3)場所の確定へと進む。仮説提示後はプロセスの共有段階とし、その前までを準備段階としている。 ## 4. 1 準備段階 事例 1 の場合、準備段階で、撮影された都市が東京であると見当をつけられたが、占領期パーソナルコレクションにはそれすらも難しい写真も多数存在する。〈見当をつける〉ことは、一方で経験や土地勘へ依存し、思い込みによる誤読も引き起こすのも事実である。 こうした誤読は同定プロセスを他者と共有することで回避できる。 1)成分分析: 既報 [7] の通り、写真の時空間情報に関しては、画面内に写された(1)都市の構造的要素、(2)街路の観察、(3)文字情報の判読、(4)消え物要素に着目することから、読み取れる内容は多い。(1)都市の構造的要素は撮影エリアの絞り込み上、特に有効である。2)文脈の理解:撮影された都市や場所に対する知識や理解、撮影者の職業などのバックグラウントや行動パターン、使用されたフィルムやカメラなどの情報は、撮影の背後にある文脈であり、それらを理解することで、仮説を導き出しやすくなる。 ## 事例 1 : テッド・ギリアン・コレクションより 1945 年 12 月・銀座 テッド・ギリアン (Ted Gillen; 1914-1967) は従軍画家として 1945 年 12 月に日本に滞在、 その間に東京を本拠として、長崎、フィリピンにも赴いている。ギリアンのコレクションはモノクロ写真のプリントで、カリフォルニア大学ロサンゼルス校チャールズ・E・ヤンク研究図書館が所藏している。終戦直後の焼け跡で撮られた写真が多く、東京都心部で撮影されたと見られるものが複数枚見出された。〈準備過程〉オリジナルは地域別・被写体別に12のフォルダに分けて所藏されているが、分類基準は曖昧で、別類型の写真が混在していた。そこで、写真裏に記された整理番号を元に分類し直し、整理番号に同じ記号が付された写真のうち 6 枚が、写された人物や金庫、背後の建物などから同一地点をさまざまな角度て撮影したものであるように思われた。 〈合成による広い画の作成〉6枚のうち背景が明確な 5 枚を photoshop で合成し横長の画像を作成した (写真 1 )。その結果写真間の連続が確認され、背後の建物の位置関係が把握可能となり、撮影された空間の状況が認識できるようになった。 〈仮説〉合成に使わなかった 1 枚に写された金庫には「鈴木機械商店」の文字があり(写真 2)、1942 年の電話番号簿から同名の会社が銀座にあることが見いだ出され、1919年の官 (報)には、同名の商店の広告で住所が銀座 1 丁目 22 番地と記載されていた。これを仮説地点として、以下の検証を重ねた。 〈検证1〉1945 年 10 月に撮影された空撮写真(参考写真 1)を当たると、銀座 1 丁目から低層の建築物が並ぶ風景が撮影可能なのは東に位置する三十間堀方面を望んだ一方向に限られ、改めて写真を検討したところ、人物の背後に堀の石積み構造物と見られるものと橋らしきものが確認できた。仮説地点から撮影されたとすればこの橋は水谷橋に該当することになる。その先には京橋小学校に相当しそうな建物も見受けられた。 〈検証 $2 \rightarrow$ 確定〉並行してほかの写真の収集調査を進めるうちに、菊池俊吉が 1945 年 11 月に撮影した銀座 1 丁目およびその付近の写真に行き当たった (参考写真 2 )。ギリアンの 写真15枚の写真を合成。テッド・ギリアンコレクションより。同一地点から撮影されたものではないために写真間でズレが生じ、手前に位置する同一被写体が二度画面上に現れることになったが、位置の手がかりを得ることを目的として作成したためにこの点は考慮せずに、作業を進めた。 (所藏カリフォルニア大学ロサンゼルス校チャールス・E・ヤンク研究図書館) ## 事例 2 :レノックス・ティアニー・コレクションより 1952 年・京都 ティアニー (Patrick Lennox Themey : 1914-2015) は美術教育の専門家で、1949 年から 52 年まで日本に滞在、その間京都に何度も訪れ、膨大な写真を残している。彼のコレクションは、彼自身の手によりユタ大学マリオット図書館に寄贈されている。彼のコレクション約 9 万枚のほとんどがカラースライドである。〈準備過程〉彼は教育者でもあり。京都で撮影した写真は寺社や工芸品など、いわゆる日本に固有の文化を代表するような題材が多い が、市内でのスナップショットも一定数存在している。中でも夜間の盛り場の一角を撮影したカラー写真 (写真4) は、当時のカラー フィルムの感度の低さを鑑みると、希少なイメージだといえる。 〈仮説〉両側に並ぶ看板などから店名などを探した結果、画面右側にあつたクリーニング店を手掛かりにすることができた。当時の市街地の詳細な地図である『京都市明細図』(以下、明細図)から、京都の盛り場である木屋 町通と河原町通間を精査したところ、六角通りにクリーニング店があることを見出した(図1)。〈検证 1〉画面中央奥の三階建ての建物 A にはネオンサインとともに二階部分にドラムセットらしきシルエットが見出された。 この建物は河原町通に位置し、 キャバレーかダンスホールと仮定した。占領期の河原町通は沿道に米軍が接収した映画館(京都宝塚劇場)があり、米軍関係者によって近隣で撮影された写真が多い。flickr 上のパーソナル写真と同時期であるこの一枚でギリアンの写真に写っている建物の多くを確認することができ、当初の見当通りに現在の銀座 1 丁目 9 番地付近から三十間堀に向かって撮影されたことを確定することができた (図1)。 写真 2 テッド・ギリアンコレクションより (所藏カリフォルニア大学ロサンゼルス校チャールス・E・ヤング研究図書館) 图 1 写真群の撮影位置(䄍数の写真から筆者作成建物の位置を示している。 参考写真 1 Aerial views of bombing damage to Tokyo, Japan in October 1945" 194 陸軍通信隊撮影第二次世界大戦博物館所藏 https:/wuwn.ww2online.org/image/ae 参考写真 2 所収: 山辺昌彦$\cdot$井上祐子編『東京得興写真集』勉誠出版.2016.P8 写真コレクション中にある河原町通の写真 (参考写真3)と照合し、建物 A と同じ形状だと思われる建物を確認できた。 〈検証 $2 \rightarrow$ 確定〉しかし明細図の表記では六角通の突き当たりは建物 $A$ の北㴹の建物になる (参考写真 3 )。北隣の建物は屋根の形状が特徵的であり、当時の航空写真で検証したところ、六角通の突き当たりには建物 $\mathrm{A}$ が確かにあり、撮影場所が確定された。 ダンスホール」の表記がある 図2 京都市明細图より 京都市明細脐は「近代京都オーバーレイマップ」及ひ京都府立京都学・摩彩館「京の疎憶アーカイフ」」 て閲筧可能てある。 参考写真 3 は flickr のアカウント 「m20wc51」の中の一枚 URL は以下の通り。 https://www.flickr.com/photos/5845115 H16ZdgACCLrkkmUmxWFKCSWEBOGA B8jdq6zRtPlerJhKiyQkg ## 4. 2 共有段階 前項で指摘した通り、誤読を避けるためには作業の共有を前提にしたい。フローは(1)撮影場所についての仮説提示、(2)仮説に対するフィードバックとエビデンスに基づく検証、 (3)場所の確定と進んでいく。 この段階では撮影位置を確定するための正確なエビデンスが必要である。とりわけ写真フレーム自体の位置の特定のためには、航空写真、市街地の詳細地図のほか、事例 1 で合成を試みたパノラマ写真のように、周囲の環境の広がりを把握できる大きな画を提供してくれるイメージは有用である。 ## 5. 今後の課題 共同で同定プロセスを進めるための基盤を考えることである。例えば、画像の〈成分分析〉のために、多様な素材から細部を抽出して相互比較し、共同で利用できるような場が必要であろう。また、同定は認識の変容をもたらす効果があり、その視点から共同作業の女り方を検証・デザインすることもデジタルアーカイブの活用を考える上で必要である。 ## 注$\cdot$参考文献 [1] 佐藤洋一. 米国における占領期日本の写真資料をどう捉えるのか:現状・全体像・日本一の還元における課題. カレントアウェアネス. 2021 . NO. 347 (印刷中)。また場所が分か れば撮影時期の特定も可能になる場合があり、著作権保護期間が満了していれば写真の利用も容易になることがある。 [2] たとえば仙台を中心に活動をつづける「どこコレ?」など。「昔に撮影されて、その場所が特定できないために資料として活用しにくい写真を、地元の人ならではの経験と知恵によって確定していく展示」である。 https://www.smt.jp/projects/doko/2020/12/po st-88.html (参照 2021-02-26). [3] 清水祐介. 定点撮影から分かること-一写真資料読み解きのコツ (第 6 回謎解き多摩ニュ一タウン-蔵出し資料を読む). 多摩ニュータウン研究. 2010. 12.178-183. [4] 佐藤洋一.インディペンデントで自発的な調査体 : 鳥類学者オリヴァー・L・オーステインコレクションの写真調查, デジタルアーカイブ学会誌, 2020, 4 巻, s1 号, p. s5-s8, [5] 佐藤洋一. 衣川太一. 占領期写真の複合的活用に関する試み:一九四五年東京・銀座のケーススタディ. 昭和のくらし研究. 2021. 19 (印刷中) [6] 以下に掲載されている。佐藤洋一. カラー で写された占領期の京都 4 米国のアーカイブ.京都新聞 2021 年 2 月 6 日朝刊. 24 面 [7] 佐藤洋一. 古写真の空間的視点: 撮影位置同定について. GIS day in 関西 2019 年 3 月 14 日. 以下からダウンロード可能。 https://researchmap.jp/read0206467/present ations/24600911/attachment_file.pdf (参照 2021-02-26).
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# [52] デジタルアーカイブの内実はどう表現されるべきか? : DAに関する議論の基盤構築に向けて ○永崎研宣 ${ }^{11}$ 1) 一般財団法人人文情報学研究所,〒113-0033 東京都文京区本郷 5-26-4-11F E-mail: [email protected] ## How Digital Archives should be discussed?: Toward establishing a basement of the discussion NAGASAKI Kiyonori1) 1) International Institute for Digital Humanities ## 【発表概要】 デジタルアーカイブの議論の場においては、前提となるデジタルアーカイブのあり方が相互に共有されていないために発展的な議論や合意形成に達することが難しいという状況が散見される。現在のところ、解決策は議論に参画する人々同士の相互理解に委ねられており、議論への新規参入が難しいという状況にもつながっているように思われる。 このような状況は、議論に参加する人々の負担に配慮しつつ改善する必要がであり、そのためには議論の基盤を何らかの形で形成していく必要がある。本発表では、デジタル・ヒューマニテイーズでの関連する議論を参照しつつ、議論の基盤形成のための方策について提案する。 ## 1. はじめに デジタルアーカイブ(以下、DA)の議論の場においては、前提となる DA のあり方が共有されていないことがしばしば見受けられる。 このことはより幅広い議論や相互の意識の刺激と拡張のためには好ましいことだが、具体的な議論を適切に展開することが時として難しく、相違について確認するだけで議論の時間が終わってしまい、発展的な議論や合意形成に達することが難しいという状況が散見される。現在のところ、解決策は議論に参画する人々の相互理解に委ねられるところが大きく、結果として、議論への新規参入が難しいという状況ももたらしているように思われる。 そこで、本稿では、この状況を解決するための議論の基盤形成について検討したい。 ## 2. 共通の議論の基盤に向けて:デジタ ル・ヒューマニティーズでの先例 筆者はかつて、それまでの日本のDA の動向に参与的に観察した結果として、「デジタルアーカイブ」という和製の概念は MALUI (Museum, Archives, Library, University, and Industry)をはじめとする各種文化関連機関 (の資料)をデジタル情報基盤で連携させる とがある。これに拠るまでもなく、DA学会に参加しているだけでも、DAがコンテンツやユ一ザ層によって限定されているものではないことは実感できるだろう。そうであるならば、 DAについての議論は、必然的に、コンテンツに拠らない、デジタルコンテンツを共有するための技術的社会的解釈的仕組みについての議論ということになるだろう。このような議論の仕方について参考になるものとして、ここでは、デジタル・ヒューマニティーズ(以下、DH)の理念的基礎とされてきた「方法論の共有地 (Methodological Commons)」と Scholarly primitives 、そして、DH の研究活動に関わる語彙である TaDiRAH (Taxonomy of Digital Research Activities in the Humanities) について、DAの現状との関連も含めて検討してみたい。というのは、DHとは、人文学というまったく内実の異なる様々な分野と、研究者だけでなく、図書館員、学芸員、アーキビスト、 エンジニア、法律家、研究費助成機関職員など、様々なタイプの関係者を内包しながら、 そのような多様なコンテクストとステイクホルダーの間で、デジタルというあり方がもたらす共通部分を議論の基盤として形成・共有することに成功したことで、世界的な議論の基盤と政策的裏付けを強固に有しており、DA がここから学び得ることは少なくないように思われるからである。 ## 2.1 方法論の共有地 ここでまず見ておきたいのは、「方法論の共有地」である。これは DH という言葉が登場する直前の 2002 年、その前身となる人文情報工学 (Humanities Computing) の代表的な研究者であったキングスカレッジ・ロンドンの Willard McCarty と Harold Short は、人文情報工学における方法論の共有地を提唱した ${ }^{[2]}$ 。これは、人文学の様々な手法と分野を横断的に接続する「雲」の絵でよく知られるものであり、人文情報学において国際的に広く支持される理念的背景となった。すなわち、人文学では、そこに含まれるそれぞれの分野において、様々な研究手法が提供されている。それらを共通の議論の場に引き出し、共有の知としてしまおうというのである。 方法論の共有地において手法として挙げられているのは、たとえば、歴史学なら歴史編纂や民族誌、科学史と技術、言語学ならコー パス言語学やコンピュータ言語学、社会学からは観察法や知識の構築などであり、一方で、情報科学からはプログラミングとデザイン、 インターフェイス、コンピュータ言語学が挙げられ、図書館情報学からは分類体系やメタデータ、デジタル図書館研究等が挙げられている。こうした様々な手法は、いずれもなんらかの形でデジタル技術と結びつけることが可能であり、その段階では各分野の様々な手法を横断的に検討・利用可能である。たとえば、コンピュータ上での画像の比較は、いくつかの手法で可能であり、そこでの方法論を共有することは有用である。それが方法論の共有地、ということになる。同様に、何かを分類しようとする手法であれば、分類に関わるデジタル技術を共通して利用可能であり、 その扱い方を検討し共有することもまた、方法論の共有地の役割である。そうした共有地を踏まえることで様々な研究成果がよりよい形で産み出されていくとしたら、その役割は現在重要であるというだけでなく、情報技術の長足の進歩を考慮するなら、今後はより一層重要になっていくことだろう。 さらに、DHにおける議論の中では、参加す る人文学各分野での方法論的反省につなげるところにまで意義が見出されるが、DAでの議論がそれほどの外部との深い関係を志向するかどうかは筆者にとっては今のところ定かではなく、いったん留保しておきたい。 なお、方法論の共有地はあくまでも理念なものであり、それを現実の場としているのは、 DHに関する各種研究集会や論文誌等の各種刊行物である。さらにコミュニティ Web サイトやブログ、SNS 等も含めた緩やかなつながりがそれを補強している。 では、DAにおける方法論の共有地について検討してみよう。DAは必ずしも研究を志向しているわけではないにせよ、扱うのは人間文化に関わるデジタル化資料であり、それを扱おうとする担当者との間には何らかの手法が介在する。そして、その手法を共有し相互に建設的な影響を与えあうことは可能である。 そうであれば、DHにおける方法論の共有地の議論は DA においてもある程度は援用可能と考えることもできるだろう。 それでは、そのような様々なタイプの人々が集まる場でどのような議論をすればよいのか。ここで DH においてしばしば用いられるのが Scholarly primitives である。 ## 2. 2 Scholarly primitives 2000 年、キングスカレッジ・ロンドンでの人文情報工学に関する研究集会において、 John Unsworth (現ヴァージニア大学図書館長) は、人文学全般のためのデジタルツールの開発を理念的に基礎づけるべく、人文学の様々な分野において共通して観察される要素を抽出してみせた ${ }^{[3]}$ 。それが Scholarly primitives であり、この時は以下の 7 要素が挙げられた。 1.発見 (Discovering) 2. 注釈 (Annotating) 3.比較 (Comparing) 4.参照 (Referring) 5.サンプリング (Sampling) 6.例示 (Illustrating)7.表現(Representing) 人文学における重要な要素は思考の部分だが、思考の内容そのものは分野毎としても個々の研究者としても固有性が高い。しかしながら、このようにして共通してみられる要素に着目することで、その思考が生じる基礎 となる要素や、思考の結果を表し出す要素としての 7 つの Scholarly primitivesを見出し得るというのである。 Unsworth がこれを提起したのは、多岐にわたる人文学各分野を横断する全般のためのデジタルツールの開発を基礎付けるためである。一方、DAは人文学に限らず様々なアプローチを期待するものだが、このようにして primitives を導出することで基礎づけるという考え方自体は、まずなにより、DAのツール開発において適用可能なものだろう。これは、 いわば DA ツール primitives と言うべきものだが、これについては、上述の人文学のための Scholarly primitives とそれほど遠いものではないだろう。とすれば、DAのツールや、それを用いたサービスについて検討・評価しようとする場合は、上述の 7 項目をそのまま利用することもできるだろう。 1.発見は、DA の検索機能、2.注釈は、DA のメタデータもあれば、IIIF Curation viewer や Miradorによる IIIFアノテーションによる注釈等もあり得るだろう。3.比較は、単に二つの DAのページを開いて比較するだけでも十分に可能だが、ツールとして考えてみた場合、近年は IIIF ビューワの Miradorによって提供されるものが徐々に広まりつつある。さらに、複数画像を透過しつつ重ねて比較することも Mirador の機能としては提供されており、DA においては今後有用な機能の一つになっていくだろう。4.参照は、他の関連資料への参照ということで、関連画像や参考論文への参照だけでなく、SAT 大蔵経データベースやデジタル源氏物語のように、現代語訳への文章単位での対応づけという参照もあるだろう。 5 . サンプリングは、何らかの基準に拠る選択であり、例えば検索語によって表示された結果もそれにあたるだろう。6.例示は、何らかの例を持ってきて説明することであり、DAにおいては、任意に取り出された内容の説明、たとえば利用説明における例示がここに含まれるだろう。7. 表現は、そのようにしてあらわれてくる様々なものを表現するということになる。DAの場合、インターフェイスをこれに含んでもよいだろう。 これらはいずれも、ツールについての議論、 すなわち、ユーザレベルでの使い勝手についての議論ということになる。本稿が提示しようとする DA のための議論の基盤を構築するにあたり、特にユーザレベルでの技術的な側面について議論するのであれば、「DA ツール primitives」をどのように実現しているか、ということを検討することで、建設的な議論を行うことができるだろう。あるいはまた、この 7 項目が不適切であると思われるなら、同様に primitives を提起した上で議論を展開すれば、議論の場を形成しやすくなるだろう。 一方、DAの運営や長期保存について議論しようとするならば、DA ツール primitives とは異なるものが必要になる。この場合、それぞれの観点から primitives について検討することになるだろうが、それぞれに挙げてみることは有用だろう。そして、この primitivesは、 DAのアセスメントを検討する場合にも基礎付けになるだろう。 ## 2. 3 機械可読な語彙体系 TaDiRAH DH では、研究という行為について、活動 (Activities) ・対象(Objects) ・技術(Techniques)の三つの観点から分析した語彙体系 TaDiRAH がコミュニティ活動により作成され、徐々に利用が広まってきている ${ }^{[4]}$ 。TaDiRAH を介することで、研究成果、副産物としての研究デー タセットなど、様々なものの流通が体系的に行えることになり、EUによる研究データインフラ ERIC 及びその傘下である DARIAH-ERIC やCLARIN-ERIC を通じて DH の研究データや研究用デジタルツール、手法等が広まりつつある欧州では今後有用性が発揮される見通しである。 これもまた、DA との共通部分が多く、DA の研究向け利活用まで視野に入れるならほとんど重なってしまう。本稿の目的である議論の基盤形成という観点からも、「何について議論しているか」を整理する上で有用であり、 DAでもこの種の語彙体系を整備することは有用だろう。あるいは、日本の DA 界として独 自で作るよりもむしろ、TaDiRAH を借用したり、さらに拡張したりすることも有用かもしれない。そのまま借用すれば、海外でこれを採用する人文系研究データとの互換性を持たせることができ、さらに、もしそれを拡張した場合にはその内容を本家にフィードバックすることができれば、日本からグローバルな文化への貢献の一つにもなるだろう。 ## 3. DAと DH:今後の方向性として ここまで、方法論の共有地・Scholarly primitives、TaDiRAH をみてきた。方法論の共有地についてはそのまま DA に援用して考えるとして、後の二者については、その有用性には大いに期待されるものの、今後少し時間をかけて検討する必要があるだろう。 しかし一方で、DAの議論への参入障壁を下げることを考える場合、そのような体系を知ってからでなければ議論に参加できないというのはやや本末転倒であるようにも思われる。議論を建設的なものにするためには議論のポイントを事前に絞り込むことが有用であり、参入障壁を下げようとするなら、前提知識がそれほど多くなくとも絞り込めるようにしておくことが有効である。そこで、2019 年 9 月 24 日の DA 学会研究例会で提起した以下の 6 項目を改めて提案したい。 ## 1. 参照性 - 永続性 $\Leftrightarrow$ 消去可能性 ## 2. オープン性 - 再利用再配布可能なオープン $\Leftrightarrow$ Web 閲覧のみ可 $\Leftrightarrow$ 有料でもオープン $\Leftrightarrow$ 公開不可 ## 3. アーカイビング技術 ・大規模コモディティ化技術度アーカイビング技術 ## 4. データの内容・量 - 文化資料 1 点物 $\Leftrightarrow$ 複製物 $\Leftrightarrow$ 活きているデ 5. ユーザ向け技術・インターフェイス ## 6. コンテンツの性質 ・単体で成立するデジタルオブジェクト の集積 ここでは、DAにおいて議論の振れ幅が大きい項目を列挙しており、その範囲も記載している。DA の議論に参加する際に、図 1 のように、それぞれの項目についてどの範囲のことを前提としているのかをお互いに共有しておけば、建設的な議論を組み立てやすくなるだろう。より高度な議論のためには Scholarly primitives やTaDiRAH のようなものをDA の文脈で検討する必要があるが、一方で、参入障壁を下げて幅広く議論を喚起し、この貴重な共有地をよりよいものにしていくには、まずはこのような簡易なものに具体的に取り組んでみることも有用ではないだろうか。 ## 例:国立国会図書館デジタルコレクション 図 1 DA 議論用シートの例 ## 参考文献 [1] Facebook 投稿 2019 年 4 月 22 日, https://www.facebook.com/nagasaki.kiyonori/posts/23268988140 38940. ( 参照 2021-03-25) [2] Willard, McCarty, Short Harold. Methodologies. EADH - The European Association for Digital Humanities, 2002 年 4 月, https://eadh.org/methodologies. ( 参照 2021-03-25) . [3] Unsworth, John. Scholarly Primitives https://johnunsworth.name/Kings.5-00/primitives.html. Humanities Computing, King’s College, London. 2000 年 5 月. ( 参照 2021-03-25) [4] TaDiRAH https://github.com/dhtaxonomy/TaDiRAH. ( 参照 2021-03-25) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [51] デジタル時代の研究者アーカイブとその系譜 ○加藤諭 ${ }^{11}$ ,福島幸宏 ${ }^{2}$ ,宮本隆史 ${ }^{3}$ 1) 東北大学史料館, $\bar{\top} 980-0812$ 宮城県仙台市青葉区片平 2 丁目 1-1 2) 慶應義塾大学文学部, 3) 大阪大学言語文化研究科 E-mail: [email protected] ## Genealogy of Scholars' Collections in the Digital Age KATO Satoshi ${ }^{1}$, FUKUSIMA Yukihiro $^{2}$, MIYAMOTO Takashi ${ }^{3}$ 1) Tohoku University Archives, 1-1-2 Katahira, Aoba-ku, 980-0812, Sendai, Miyagi, Japan 2) Keio University, 3) Osaka University ## 【発表概要】 本報告は、デジタル時代において研究者の蔵書や資料が「アーカイブ化」されるという事態の意味を、それらの資料の蓄積自体の系譜に着目し、歴史的文脈に位置付けることを目的とするものである。近代以降、日本では様々な経緯から、研究者資料の収集保存が進められ、アーカイブされてきた。一方で、近代以降、現在までの間に、在野、アカデミアそれぞれの分野において研究者の資料群が如何なる要因で保存され、それがデジタル化されることになったのか、そのインセンティブや背景を比較することはこれまで十分検討されてこなかった。そこで、本報告では、図書館、博物館、アーカイブズ等、様々な機関で取り扱われてきた研究者の資料群の保存の経緯、 および 21 世紀以降デジタルアーカイブとして公開されるに至る過程を複数の事例から分析し、 デジタル時代において「アーカイブ化」されることの意味を、その歴史的系譜を踏まえて考察する。 ## 1. はじめに 本報告は、デジタル時代において研究者の蔵書や資料が「アーカイブ化」されるという事態の意味を、それらの資料の蓄積自体の系譜に着目し、歴史的文脈に位置付けることを目的とするものである。 近代において日本では大学図書館等で、研究者の旧蔵書が「文庫」として寄贈され、研究者がどのような知の情報を背景に研究成果をあげてきたのか、その背景について蔵書を通じて現在も確認することが出来る。また大学や学会等の周年事業や年史編纂は、研究者資料の収集保存の一つの契機となってきた。 さらに在野の研究者の資料も公共機関や民間団体を通じて、アーカイブされてきた。 こうして過去に収集保存されてきた研究者資料は 20 世紀後半以降デジタル化され、デジタルアーカイブとして公開される事例も増えてきている。一方で、近代以降、現在までの間に、在野、アカデミアそれぞれの分野において研究者の資料群が如何なる要因で保存され、それがデジタル化されることになったのか、そのインセンティブや背景を比較することはこれまで十分検討されてこなかった。 そこで、本報告では、夏目漱石や矢内原忠雄など、時期や地域、立場の異なる複数の研究者の蔵書や資料群の収集・保存・公開の系譜を、デジタル化される事例までを通して検討する。研究者の蔵書や資料群がどのような経緯でどのような保存機関に集積されてきたのか、また保存されてきた研究者資料は如何なる要因によってデジタルアーカイブとして利活用されるに至っているのか、図書館、博物館、アーカイブズ等、様々な機関で取り扱われてきた研究者の資料群が、デジタル時代において「アーカイブ化」されることの意味を、その歴史的系譜を踏まえて考察する。 ## 2. 大学図書館、文書館に収蔵された事例 本章では、夏目漱石 $(1867 \sim 1916)$ 、矢内原忠雄(1893~1961)を対象とする。漱石文庫は大学図書館で保存された研究者資料である。旧蔵書、日記・ノート・試験問題・原稿等の自筆資料、その他漱石関係資料等から構成されており、漱石旧蔵書の大部分がコレクションされている。 これらは漱石の弟子であった小宮豊隆の尽力で東北大学附属図書館に 1943 年 1944 年 にかけて漱石山房等から搬入された。文庫誕生の経緯は戦時下における資料の疎開の文脈から位置づけることが出来る。東北大学附属図書館新館建設に伴い、1971 年には『漱石文庫目録』が作成され、さらに仙台文学館開館に伴い、仙台市と共同でマイクロフィルム化が進められ 1997 度末に完了した。その後、原資料の劣化(酸性紙、鉛筆書きの自筆の消失・見えづらくなってきつつある)、大学経営における外部資金比率向上目標から 2019 年 2020 年度にかけてクラウドファンディングによるデジタルアーカイブが行われた。 矢内原忠雄は戦後、東京大学総長も務めた経済学者であるが、その研究者資料は漱石文庫とは異なり、複数に分散保存されている。 1 つは学生問題研究所資料である。これは 1958 〜1963 年まで矢内原によって設立された、学生問題についての研究所の資料群であり、研究所解散後は「矢内原文庫」と名付けられ教育学部管理となった後、東京大学百年史編纂、東京大学史史料室を経て東京大学文書館が引き継いだ。その後、2013~2018 年までに吉見俊哉東京大学文書館副館長(当時)により資料群のデジタル化が進められた。2つめは矢内原忠雄関係資料である。東京大学文書館発足後の 2016 年から 2019 年にかけて、 3 度にわたり、矢内原家から資料の寄贈を受けたもので、デジタル化はなされていない。 3 つめは琉球大学附属図書館の矢内原忠雄文庫である。矢内原忠雄の子息であった、矢内原勝によって矢内原忠雄の南洋群島調查資料を主体とし、図書と直筆原稿等が 1987 年および 1995 年にかけて寄贈されたものである。これらは酸性紙による資料の劣化、原資料の利用制限の問題から、2005 年度親川兼勇らによってデジタル化と画像データベース構築がなされた。 ## 3. 公立博物館に収蔵された事例 本章では、アーカイブ資料の主な収蔵先が博物館となった事例として、牧野富太郎 (1862~1957)、末永雅雄(1897~1991)を取り上げる。生涯を在野の植物学者としてすごし、『牧野日本植物図鑑』によって現在も大きな影響を与えている牧野富太郎の資料は、現在、高知県立牧野植物園牧野富太郎記念館牧野文庫 (高知県高知市) 、牧野富太郎資料展示室(高知県佐川町) 、練馬区立牧野記念庭園、東京都立大学牧野標本館、東京大学総合博物館、東京大学植物標本室などに分散して保存されている。それぞれの施設に収蔵されている資料は様々で、牧野文庫に蔵書・原稿・写生画などの紙資料が、出身地である高知県佐川町の資料展示室には地元とのやりとりに関わる資料が、自宅の跡地を中心にしている牧野記念庭園には遺族の寄贈品が、東京都立大学や東京大学には、牧野自身が活動の場としたり、教え子がいたために受け継がれた標本資料が、 それぞれ納められている。資料は分散しているが、それぞれが収蔵の強い由縁と動機を持っている。 牧野の諸活動は、牧野文庫収蔵資料を中心に、跡づけることができるが、その研究成果については標本類の検討も特に重要であることから、両面からの把握が必要となろう。 末永雅雄は考古学者として、大正末期から平成まで、長期にわたり活動を行った。その資料の多くは、自らが設立に関わり、長年にわたって館長を務めた奈良県立橿原考古学研究所 (奈良県橿原市) に収蔵されており、『末永雅雄先生旧蔵資料集』(全 4 集) も刊行されている。書籍や書簡類、関係する発掘資料のほかに、地域の名望家として中世文書の収集も行っている。また、教鞭をとり、教え子を育成した関西大学にも関係資料が収蔵されている。一方、出身地であり、生涯を過ごした大阪狭山市にも残されている資料があると推測される。 牧野に比して、末永の場合の特徴は、教え子たちが、その資料の整理と収蔵に預かって大きな力を発揮したことであろう。これは、多くの資料が橿原考古学研究所にまとまりよく収蔵された要因となったと考えられる。 もつとも、牧野が全国を採取旅行を全国に渡って行ったという点、末永にしても近畿を 中心としつつ考古学的調査の指導を各地で行った関係から、関連資料は全国に広がる。この点は、分野分野のハブになった他の研究者と同様の傾向を示すと言えよう。また、いわゆる広義の文献資料に留まらず、植物標本や考古資料などが研究者のアーカイブとして重要な地位を占めている点に留意される。 ## 4. 社会運動との関わり 本章では、社会運動との関わりの中で研究者の資料が「アーカイブ」として認識され、資料保存の制度に組み込まれた事例に注目する。社会運動に関わった研究者の資料が「ア一カイブ化」されるということ自体は珍しいことではない。そうした資料を収集している組織として大原社会問題研究所や大阪産業労働資料館などがあり、同様の資料が地域の公立図書館などに収蔵されることは少なくない。 ここでは、立教大学共生社会研究センターに収蔵される、鶴見良行文庫を取り上げたい。鶴見良行文庫は、その成立の時期から「アー カイブ化」と「デジタル化」が不可分の要素として考えられていた点においても特徴的である。 鶴見良行は、その著作活動と社会運動を通じて、膨大な資料を遺した。彼の資料を整理・保存するという構想は、みすず書房から 1999 年から 2004 年にかけて刊行された著作集の編纂が契機となった。著作集刊行の完結後、2004 年に鶴見良行文庫委員会が立ち上げられた。2005 年度はじめ、鶴見の蔵書・資料は、埼玉大学共生社会研究センターに寄贈され、「鶴見良行文庫」として一般公開されることになった。同センターは、1997 年に経済学部社会動態資料センターとして開設され (2001 年に共生社会研究センターに改組)、 アジア太平洋資料センターの資料寄贈を受け入れはじめていた。平野によれば、鶴見と縁の深かった藤林泰が共生社会研究センターの助手であったことが、資料受け入れにつながった。 平野は、受け入れが行なわれた 2005-2006 年のあいだに、「4 万枚を超える写真のデジタ ル化、デジタルアーカイブの構築、フィールドノートのデジタル化などの様々な作業が行われた」としている [平野 2018: 30]。 この後、2009 年に立教大学と埼玉大学の間で資料の共同利用についての覚書が交わされ、翌 2010 年に住民図書館・アジア太平洋資料資料センターのコレクション約 23 万点が立教大学に移管、2012 年に鶴見良行文庫が引き継がれた。2016 年には、鶴見の自宅に残されていた資料を追加受け入れしている。 ## 5. おわりに 漱石文庫の事例にみられるように、図書館に蔵書も含めた自筆資料や個人文書が網羅的に大学図書館が収蔵可能であった時期を経て、戦後の大学は大規模な大学史編纂事業が展開されるようになり、大学史編纂に必要な研究者資料が収集され、その後大学アーカイブズにそうした研究者資料がアーカイブされる系譜がみられるようになる。一方蔵書はアーカイブズ機関の所掌外とされ、大学図書館に収蔵される文庫として保存され、研究者資料群は分化していくこととなる。いずれにおいても 21 世紀に入ると研究者資料の劣化が問題視されるようになる。しかし既存機関独自の運営資金では対応が難しく、大学が所蔵する研究者資料群は主として関係者による外部資金を通じたデジタル化が進展していくことになる。 牧野と末永は、学界の中心的な地位であったかはともかく、長年にわたり分野構築に力を尽くした人物である。最終的にそのアーカイブ資料は公立博物館に収蔵されたが、その収蔵の論理については、それぞれに差違が認められる。また、「市井の研究者」としての全国的な痕跡を把握しきるのは難しい。また多様な資料が入っている関係から、全面的なデジタルアーカイブ化には困難が伴う。 世紀転換期に「アーカイブ化」された鶴見良行文庫は、著作集の編纂という紙メディア時代に特徴的ともいえるプロジェクトを出発点とし、社会運動の人脈を通じて大学という制度の中に組み込まれることになった。大学 に属した研究者の資料が権威ある文庫として形成されるものとは出自が異なる。また、「ア一カイブ化」の過程の中で、当初より「デジタル化」が前提とされていたことも特徴的である。 これらの事例を通じて本発表では、研究者資料のメディア的な特質が、デジタル化されるかどうかに関わるという点について議論を深める。そして、デジタルアーカイブ構築のための資金は、デジタル化と親和性の高い資料に資金がつきやすい点について視座を提供する。そしてその結果として、デジタルアー カイブとして構築される研究者資料と、デジタル化が進展しない研究者資料が選別されることを論じる。 ## 参考文献 [1] 漱石文庫について.東北大学附属図書館夏目漱石ライブラリ http://www.library.tohoku.ac.jp/collection/co llection/soseki/about.html (参照 2021-02-25). [2] 学生問題研究所資料. 東京大学文書館 https://uta.u- tokyo.ac.jp/uta/s/da/document/47fc7610ae4e 91a962203154851cbdac (参照 2021-02-25). [3] 矢内原忠雄関係資料.東京大学文書館 https://uta.u- tokyo.ac.jp/uta/s/da/document/ca5b620ad08 (参照 2021-02-25). [4] 垣花豊順「『矢内原忠雄文庫』に学ぶ大学教育の理念」.『琉球大学附属図書館報びぶりお』28,(3),1995. [5] 奈良県立橿原考古学研究所編.末永雅雄先生旧蔵資料集(全 4 集),橿原考古学協会, 2005-2011. [6] 向谷進.考古の巨星-末永雅雄と橿原考古学研究所,文藝春秋社,1994. [7] 特集:池の文化香るまち大阪狭山-末永雅雄博士没後 25 年,大阪春秋 44(1), 2016. [8]高知県立牧野植物園編.牧野富太郎蔵書の世界: 牧野文庫貴重書解, 高知県立牧野植物園, 2002 . [9] 高知新聞社編.MAKINO-牧野富太郎生誕 150 年記念出版-,北隆館, 2014. [10] 平野泉「『研究者アーカイブズ』を考える : 歩き、読み、書いた二人の事例」。 『Musa:博物館学芸員課程年報』 32,2018 , pp. 27-36. [11] 鶴見良行文庫委員会「「鶴見良行文庫」 が誕生します。応援してください」.2004-1223 http://www.jca.apc.org/ yyoffice/goannnai14 6TsurumiYoshiyuki-Bunko.htm (参照 2021-02-25). [12] 高木恒一「大学アーカイブズの意義と課題: 立教大学共生社会研究センターの経験か ら」. 『立命館生存学研究』3, 2019, pp. 6980 . 01501e65831a8bfa63abe この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [45] COVID-19 流行下におけるジャパンサーチを活用した オンライン実習の試み: ## 東京農エ大学科学博物館学芸員実習を事例として ○齊藤有里加 ${ }^{1)}$, 堀井洋 2), 堀井美里 ${ }^{2}$, 小川歩美 2) 1)東京農工大学科学博物館東京都小金井市中町 1 2-2 4-16 2)合同会社 AMANE,〒923-1241 石川県能美市山田町口 8 E-mail: [email protected] ## Online practice using Japan Search under the COVID-19 epidemic: \\ A case study of curatorial training at Tokyo University of Agriculture and Technology \\ SAITO Yurika1), HORII Hiroshi2), HORII Misato ${ ^{2)}$, OGAWA Ayumi ${ }^{2}$ \\ 1) Tokyo University of Agriculture and Technology, 12-24-16, Naka-cho, Koganei, Tokyo Japan, 184-8865 Japan \\ 2) AMANE.LLC, Ro8, Yamada, Nomi, Ishikawa Japan 923-1241} ## 【発表概要】 東京農工大学学芸員課程では、所蔵学術資料を用いたキュレーション教育の実践開発を行っている。今回実習生を対象とし、COVID-19 流行下での新たな視点での実習として、ジャパンサー チ内の新機能「「ワークスペース機能」を活用した演習を行なった。授業は(1)学生への操作手法のレクチャー、(2)各自のテーマに基づく仮想ギャラリー構築、(3)ギャラリー発表とディスカッションを行った。その結果、画像の検索と共有作業おいてデジタル化資料活用における手順についての理解が深まり、従来の博物館実習中では十分に取扱えなかった点の補完的効果を示した。以上からオープンリソースを活用する上での資料の引用、公開手法に関する理解を深め、デジタルと実物への活用展開の議論を深める事を可能にしたと言える。本実践は新たなキュレーシヨン教育モデル事例として有効であり、今後の遠隔授業における参考事例となるものである。 ## 1. はじめに 本研究は「収集・保管・展示」の体得を目的 とした学芸員課程の実習のなかで、ジャパンサ ーチワークスペース機能を活用し、デジタルデ 一夕「活用」の視点での実習を試みた実践報告である。2021 年 3 月からの COVID-19 世界流行拡大に伴う影響により、すべての大学授業がオンライン化、社会的距離を確保した上での授業実施へ転換した。全国の学芸員課程も大きく影響を受け、特に『学芸員実習ガイドライン』 (2009)において活用が推奨される大学附属博物館施設の多くはキャンパス内に立地していることなどから、臨時閉館・限定開館を余儀なくされる館が多く、従来の学芸員実習の提供は長期的に困難な状況が予測された。そこで本研究では、これまでの実習では取り扱いにくかったデジタルデータの「活用」に視点をあてた カリキュラムを実施し、オンライン学会の参加、半オープンでのオンライン発表会等、外部リソ一スを活用した演習による、次世代の学芸員に必要なスキルの習得を試みた。本稿では、実施カリキュラムのうちジャパンサーチワークスペース機能を用いた演習の実践を報告する。 ## 2. 背景 2. 1 COVID-19による学芸員実習への遠隔授業の需要 学芸員実習は学芸員資格取得に伴う科目であり、登録博物館又は博物館相当施設(大学においてこれに準ずると認めた施設を含む。)における実習により修得するものとされ 1 . 学内実習 2 単位相当以上、館園実習 1 単位相当以上 図 1.本実習の構成・フロー とされている。2009(平成 21 年)文部科学省による『学芸員実習ガイドライン』では、学内実習の目的は、博物館における館園実習の準備と他の科目との関係性を踏まえて実施することとし、(1)多様な博物館の姿を観察する 「見学実習」、(2)資料を実際に取り扱う「実務実習」、(3) 初回と最終回に実施する「事前・事後指導」から構成することが望ましい。としている。また、館園実習の目的は博物館資料の収集、保管、展示、整理、調查研究、教育普及等の学芸員の業務と博物館運営の実態を、実務を体験することによって理解する。・博物館園での実務体験によって、大学で学んできた博物館像を確認する。と記載されている。これを踏まえ、各大学はガイドラインを踏まえ専門領域、受講数の規模などを勘案し各館でのカリキュラムを実施している。 東京農工大学学芸員課程は、農学系・理工分野の学生が多い。学生の関心の幅は自然史、カビ、微生物、物質材料、情報工学、農業文化史、 サイエンスコミュニケーション等分野が幅広い。実習は博物館施設を活用し、通年で学内実習・館園実習を統合した形で行われる。これまで前期では大学博物館を活かした科学コミュニケーションプログラムの開発、後期では所蔵学術資料を用いた実習を行ってきたが、本課程においても COVID-19 の影響は大きく、博物館は 2021 年 3 月から臨時休館が継続され、一般見学は実施できなくなり、多くの対面活動を変更した一方、対応の長期化に備えた実習の改変、対応が求められた。 ## 2. 2 遠隔教材としての「ジャパンサーチ」への着目 東京農工大学科学博物館は、デジタルアーカイブ「虫系学術コレクション」を 2020 年 10 月より公開した。本アーカイブでは、蚕織錦絵資料など約 400 点をデジタル化・IIIF 規格での画像を公開するとともに、ジャパンサーチへの連携を実施している。ジャパンサーチへの資料情報の提供により、他機関を含む横断的な資料検索の対象となることやジャパンサーチ上でのギャラリー構築など、広く学外へのアピールと本資料群の活用を推進することが可能となった。正式版が公開となったジャパンサーチには、ワークスペース機能が追加され、連携機関 (本ケースでは当館)がページを自由に作成・公開することができるようになった。本学の博物館実習では、本機能を活用したデジタルアー カイブの理解と資料情報のキュレーションおよびギャラリー制作の疑似体験を想定した演習を計画することとなった。 ## 3. ジャパンサーチのワークスペース機能活用した実習 2020 年度の実習生は 9 名(農学部 8 名、工学部 1 名) であった。 本実習の構成およびフローを図 1 に示す。本実習では、はじめに本国の学術分野における中心的な分野横断型統合ポータルとなるジャパンサーチについて、構築の背景・概要や既存ギヤラリーや他機関の取り組み、および今回使用するワークスペース機能について理解を深めた。受講者への機能の説明については、学生向けのマニュアル等が開講時点で存在しなかつたことや、実際の操作を行いながら理解・習熟することを重視する観点から、講師が事前に事例となるギャラリーを作成し、その中で各モー ドや画像・テキスト領域・検索部分の設定・ライセンスの表示などについて、説明を行った。 次に、ギャラリー展示に関する企画の立案や、展示する資料画像の収集・解説の作成など、受講者各自がデジタル展示の制作を行った。本プロセスでは、受講者は事前に学習した学術資料展示に関する基礎的な考え方や方法を活かし、 ギャラリーのコンセプトや具体的な構成を発想し、それに基づきジャパンサーチ上で横断検索を行い、資料情報を収集した。資料情報の収集・利用に関しては、本学疍糸学術コレクション掲載資料の利用を必須としなかったが、複数の学生が本コレクションから錦絵資料を選択した。 その後、制作したギャラリーについて、受講者全員と外部からの参加者を招いた発表会を実施し、評価と意見交換を実施した。これらの流れは図中の実線部分に対応しているが、得られた評価に基づいた改善・追加修正のプロセスについては、実習期間の都合上割愛した。 ここで、受講者が制作したギャラリーについて紹介する。図 2 に、受講者が作成した鳥類を題材としたギャラリーの外観を示す。本ギャラリーを制作した受講者は、生物科学を専攻する学生であり、錦絵や絵画においてどのように日本の野鳥が描かれているのかに関心を有する。東京国立博物館や東京富士美術館など国内の主要な美術館が公開している花鳥図を紹介するとともに、生物学的な視点から「コウライウグイス。日本には稀に飛来する鳥です。インドから東南アジアにかけて分布しています。」のような解説を付与している。さらに、より直接 図 2. 受講者が制作したギャラリー例 (上)ギャラリー外観 (下)資料画像へのアノテーション 的に解説するために、資料画像に対するアノテ ーション付与機能を使用した。このように、ギヤラリーのテーマ選択のみではなく、資料解説やアノテーションなどにおいても、受講者の知識背景や興味関心が強く反映される結果となったことは興味深い。 ## 4. ワークスペース機能を用いた学生の反応 本実習終了後。実習生からの実施感想を『東京農工大学科学博物館ニュース速報 No4』に掲載した。学生からのコメントはいずれも博物館企画展制作を意識したコメントが読み取れた。掲載分から、学生が体感したジャパンサーチのワークスペース機能の良い点、改善点、システム機能に関する印象や意見を抜粋した。 1)ワークスペース機能を使用した良い点 ・豊富な編集機能を用いて自習度の高いギャラリーを製作できる ・博物館における実際の展示設計にも応用可能なテーマ設定やシナリオ作成を実践することができた。 - 国内の膨大な量のデジタルアーカイブを検索できる点が良かった ・理系の学生である私たちが普段の関わりの薄い美術品が多かったので新鮮だった - 資料を探す過程で普段見る機会のない仕様も色々見ることができた。 ・資料借用の複雑な過程がなく、気になったデ一夕をまとめる手軽さが良い。 ・一つの企画展の構成を考えているような感覚でいかにストーリー性を持たせて資料を組み合わせるかという部分を考えた。 2)ワークスペース機能を使用した際の改善点 - 製作者の個性が反映されるため楽しく実習できた一方、発信者としての責任も感じた。 ・調べたい内容に対して、どのようなワードで検索するかはかなり重要。コツの表記があつたら。 ・求める情報にたどり着くまでが困難。これから利便性が高くなると良い ・ジャパンサーチと連携していない機関の資料を使用したかった場合が多々あった。 3)ワークスペース機能に対する感想・意見 ・データベース上の資料間に新たなつながり を見せる点に意義がある ・空間的な制約なしに並べることができるのがデジタルアーカイブの長所 -一般の人も利用できるようになったら楽しい - 現在実施中の企画展作品の一部をギャラリ一で展示すればどうか特に小さな博物館に有効 ・他分野の議論を加速する存在 ## 5. おわりに 本実践を通して、ジャパンサーチのワークスペース機能によるデジタルアーカイブコンテンツを活用した博物館実習は、博物館資料の理解を促進する可能性が明らかになった。 今回学生が新たなシステムを体験したことは、社会に出る前の学生にとって大きな糧となったであろう。外部リソースを用いた博物館実習の展開も今後もさらに発展させ、実習の中での新たな視点を植え付ける内容としたい。 ## 参考文献 [1]文部科学省.学芸員実習ガイドライン.文部科学省. 2009, 23p. [2]ジャパンサーチ, https://jpsearch.go.jp (参照 2021-0227). [3] 齊藤有里加, 堀井洋, 堀井美里, 小川歩美.ジャパンサーチを利用した大学博物館所蔵の学術資料公開:~蛋系学術資料「掻織錦絵コレクション」を事例として〜. デジタルアーカイブ学会誌 2020 , vol4, no.1, pp. 77 79. [4]国立大学法人東京農工大学科学博物館ニュ一ス速報第 45 号.東京農工大学科学博物館. 2020 . この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [44] ウィキメディア$\cdot$コモンズを介したオープンアクセス画像 の二次利用: オープンデータとして公開された画像の活用事例の紹介 ○東修作 1) 1)合同会社 Georepublic Japan,〒 100-0013 千代田区霞ヶ関 1-4-1 E-mail: [email protected] ## Reuse of open access imageries via Wikimedia Commons: Introduction of examples of the use of imageries released as open data HIGASHI Shusaku ${ }^{1}$ 1) Georepublic Japan LLC., 1-4-1 Kasumigaseki, Chiyoda Ward, 100-0013 Tokyo, JAPAN ## 【発表概要】 博物館や図書館等の機関が所蔵作品のデジタルコピーを公開するオープンアクセスの動きを後押しする上で、二次利用の状況や効果を把握することが重要である。本稿では、公開されたコンテンツをウィキメディア・コモンズにインポートして二次利用をしやすくし、実際にこれを利用した例やアクセス数の調查結果を報告する。 ## 1. はじめに ウィキメディア・コモンズ[1](以下コモンズとする)は誰でも自由にオープンなメディアファイルを登録、利用できる仕組みであり、 デジタルアーカイブの利活用と相性の良い枠組みであるが、日本ではまだあまり活用されているとは言い難い。ここではその利活用の事例を紹介する。 ## 2. 画像のインポート ## 2.1 インポートの必要性 ジャパンサーチを始めとして国内外のコンテンツを広く連携して一括検索できるようにしたサービスは複数提供されているが、オリジナル画像の提供は基本的に提供元に委衩られているため、なかなか一括したハンドリングが難しい面がある。 他方、コモンズにオリジナルコンテンツの電子的な複製を集めた場合、一括した形式で全てオープンデータとして提供されるため、集合的な操作がしやすく利用条件もわかりやすいというメリットがある。 ## 2. 2 Pattypan コモンズへのメディアのアップロードは通常はアップロードウィザードと呼ばれる、対話的な方法で行われる。これは少数のメディ アをアップロードするのには分かりやすく使いやすいが、多様なメタデータを持つ大量义ディアのアップロードには適していない。 これに対してメタデータをエクセル上で編集しながら一括してアップロードできるツー ルが Pattypan[2]であり、GLAM 機関が公開した大量画像のインポートに適している。 2021 年 2 月現在で約 78 万件のメディアがこのツールを使ってアップロードされている。 ## pattypan 図 1.Pattypan の画面 3. 画像へのメタデータ付与 ## 3. 1 コモンズのカテゴリ コモンズではメディアが場所、年代、対象物などのカテゴリで階層的に分類されている。 これを手がかりに、カテゴリ単位で構造化されたメタデータを付与することで、SPARQL 言語などで多様な検索が可能となる。 ## 3. $2 \mathrm{AC / \mathrm{DC}$} $\mathrm{AC} / \mathrm{DC}[3]$ はカテゴリ単位に構造化データを一括して登録できるツールである。以下は 「Ichikawa Danjūrō VII」というカテゴリにある画像ファイルに対して「題材」が「七代目市川團十郎」という文(triple)を登録している画面である。 図 2. $\mathrm{AC} / \mathrm{DC}$ の画面 ## 3. 3 メタデータの統計情報 2021 年 2 月 26 日現在、全体での主なメタデータ登録状況は以下の通りである。 ファイル総数 : $68,886,271$ 題材が登録済のファイル数 : $4,588,385$ 所蔵機関が登録済のファイル数 : 411,822 ジャンルが登録済のファイル数 : 47,159 ## 4. 二次利用方法 ## 4. 1 ウィキペディア コモンズと最も親和性が高く、アクセス数も多いのがウィキペディアである。何らかの事象をネットで調べる際にはたいてい上位に表示されるため、ウィキペディアの記事内に組み込まれた画像はアクセス数が伸びやすい。 それぞれの記事に適した画像であれば、ウィ 図 3. ウィキペディア「名古屋城」 キペディア側にとっても記事の充実につながるというメリットがある。 上記は国立国会図書館デジタルコレクションからコモンズにインポートした川瀬巴水作 「名古屋城」の画像を 2020 年 11 月にウィキペディア記事「名古屋城」に追加したものである。 ページビューは下記 BaGLAMa2[4]の統計によれば 2021 年 1 月末現在で 1 万 5 千件弱となっている。このように適切なウィキぺディア記事に、その内容を補完するような画像を追加することで、二次利用の状況を具体的に計測することができる。 図 4. ページビュー統計画面 ## 4. 2 調査$\cdot$研究 構造化されたメタデータが自由に再利用できる状態になると誰でもその成果を利用できるようになる。つまり調査・研究を各自がゼロから行わなくてもよくなる可能性がある。 浮世絵を例にとると、歌舞伎役者は名跡を継承するため個人を特定するにはその何代目かを知る必要があるが、浮世絵自体に何代目か記載されているケースは少ない。そのため研究者や好事家などが作品の歌舞伎演目、製作年代、作者等を考証しつつ何代目かを特定することになるが、そうした作品に直接的に明記されていない情報がまとまった形でオー プンに共有されるケースは稀であり、同じような調査を何度も一からやり直すことになる。 これに対して、コモンズにある構造化デー 夕を利用すれば、例えば「七代目市川團十郎」 が描かれている浮世絵を直ちに一覧表示でき、 その結果を起点として調查・研究を深めることができる。 図 5. 構造化データによる検索例 ## 5. おわりに ## 5. 1 今後の課題 各分野の専門家から見るとまず懸念されるのはデータの品質の問題であろう。実際、コモンズには誰でもデータを登録できるため、全くの素人の判断でメタデータが付加されるケースも多い。他方で、分野ごとに興味関心の高い人が世界中から集まり多くの目で見ているため、間違いがあればそれを指摘するコメントが適宜付けられ、品質は漸次向上する傾向にある。 もうひとつの大きな課題は網羅性である。 コモンズには海外のオープンアクセスを推進している GLAM 機関のメディアファイルはかなりインポートされているが、国内の機関については、公開するところが増えているにも関わらずコモンズへのインポートはまだあまり行われていない。浮世絵でいえば、揃物がどこまで揃っているかはコレクターが大いに関心のあるところだが、今後コモンズへのインポート作品が増えるにつれてそこに欠けているミッシングリングを国内の機関による公開作品が補う可能性がある。 さらに、構造化データのスキーマもまだ試行錯誤の段階であり、ある程度合意が得られたスキーマが確立するまでいましばらく時間が掛かりそうではある。 ## 参考文献 [1] ウィキメディア・コモンズ https://commons.wikimedia.org/wiki/\%E3\%83\%A $1 \%$ Е $3 \% 82 \% A 4 \%$ Е $\% 83 \%$ В3\%Е3\%83\%9A\%Е3 $\% 83 \% \mathrm{BC} \% \mathrm{E} 3 \% 82 \% \mathrm{~B} 8$ (参照 2021-02-25). [2] Commons:Pattypan/ja https://commons.wikimedia.org/wiki/Commons:Pa ttypan/ja (参照 2021-02-25). [3] AC/DC https://commons.wikimedia.org/wiki/Help:GadgetACDC (参照 2021-02-25). [4] BaGLAMa2 https://glamtools.toolforge.org/baglama2/ (参照 2021-02-25). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [43] オープンサイエンスパラダイムに向けた公共文書$\cdot$デー タの利活用: ## 一方向の伝達と監視から双方向性のある協働へ ○林和弘 ${ }^{1}$ 1)文部科学省科学技術・学術政策研究所, $\overline{\mathrm{T}} 100-0013$ 東京都千代田区霞が関 3-2-2 E-mail:[email protected] ## Utilization of Public Documents and Data for the Open Science Paradigm: \\ From One-way Communication and Monitoring to Interactive Collaboration HAYASHI Kazuhiro ${ }^{11}$ 1) National Institute of Science and Technology Policy, 3-2-2 Kasumigaseki, Chiyoda Tokyo, 100-0013 Japan ## 【発表概要】 本発表では、ラウンドテーブル「デジタル公共文書を考える一公文書・団体文書を真に公共財にするために一」の開催(2021/1/12 オンライン開催)の登壇内容とその後の議論をもとに、公共文書を含む公共データの利活用に関して、知識生産を中心とした観点から議論する。具体的には、社会科学のデジタルトランスフォーメーション、シビックテック、シチズンサイエンスの取り組みを用いて議論し、デジタルアーカイブ活動が今後目指すべき方向性について考察する。特に、オープンサイエンス政策における議論と、その一つのテーマであるシチズンサイエンスの変容で起きている現象を引き合いに社会的に影響のある公共データの利活用においては情報の非対称性から生じていたアウトリーチと監視の関係から一定の緊張関係を維持した双方向性の協働への変容が予察されることを述べる。 ## 1. はじめに デジタル化とインターネットによる情報流通基盤の変革とその流通基盤を前提とした社会変革は 21 世紀になって本格的に進展してきたが、COVID-19 によってさらに加速している。様々な社会変革の取り組みの中で、行政や公共文書の取り扱い等に関しても、日々大量に産出されるデジタル情報の保存と活用をどうするかは喫緊の課題であり、デジタル庁の設置に象徵される今後のデジタル環境の整備を見越して、また、これまで行政や企業・団体で行われてきた資料や情報の「保存と廃棄、デジタル化活用」の問題と合わせてデジタルアーカイブの観点からも大変重要なテー マとなる。特に、利用者(市民、企業人、研究者等)の視点から、公共的に利活用可能な形で蓄積されるべき「デジタル公共文書」を、新しい知識や社会生活、産業を生み出す源泉とするための方策を考え、また、実践する必要がある。 本発表は、先の問題意識とともに、デジタルアーカイブ論の視点から「デジタル公共文書 (digital public document)」という概念の意義とその展開の可能性を議論する出発点として開催されたラウンドテーブル「デジタル公共文書を考える一公文書・団体文書を真に公共財にするために一」[1]のパネル登壇 (“デジタル公共文書は従来の公文書と対比しながら、最大限社会的に利活用できる仕組みをどのように保障するか”)の内容を発展させたものである。そして、そのラウンドテーブルでの議論も参考に、デジタル公共文書を含む公共データの利活用に関して議論し、その展望を述べる。特に、オープンサイエンス政策における議論と知識生産を中心とした観点から議論する。 ## 2. 公共文書を含む公共データの可能性 ## 2. 1 社会科学のデジタルトランスフォーメーショ ンとアカデミアの変容 デジタル公共データは、社会科学のデジタルトランスフォーメーションを促す駆動要因 た技術の活用を踏まえ、大規模社会データを情報技術によって取得・処理し、分析・モデル化して、人間行動や社会現象を定量的・理論的に理解しようとする学問として「計算社会科学」(Computational Social Science)が立ち上がっている[2]。あるいは、日本学術振興会の支援で、人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラム[3]が立ち上がっており、人文学・社会科学研究に係るデ一夕を分野や国を超えて共有・利活用する総合的な基盤を構築することにより、研究者がともにデータを共有しあい、国内外の共同研究等を促進することを目指している。これらのデータの重要な要素として、デジタル公共データは、政府、行政発出の信頼性のある情報として活用されることが見込まれる。 ## 2. 2 シビックテックと社会課題解決の手法の変容 技術、知識、知恵を持った市民(プロボノ) が、行政サービスを中心に社会課題を解決するシビックテックの動きが日本でも広まっており、特に、郷土災害情報やゴミ収集情報など地方行政サービスの改善に役立っているだけでなく、行政内部のデジタル化に大きな影響を与えている[4]。これらの活動の中に公共データは重要な役割をすでに果たしており、信頼のおける公共文書、データが公開されていることが前提となる。 ## 2. 3 シチズンサイエンスと市民の変容 情報のデジタル化およびオープン化は、社会への関心、知的好奇心に基づいて、知る、考える機会を大幅に拡大し、シチズンサイエンスとして新たな可能性が模索されている。 [5]科学の世界では、大学等の研究機関に務める職業科学者ではない者による科学研究がさらに進展し、才能発見の新たなパスをも生み出そうとしている。ここで公共データを基軸 に置いた場合、そのデータやデータが生まれた文脈から生まれる好奇心、知的欲求を満たす形での知識生産活動をデジタル公共文書はより容易にすることになり、それは、先のアカデミア側からの社会学的なアプローチに加えて、市民からのより自由で多様なアプロー チも可能にする。すなわち、デジタル公共デ一夕は、知識生産、情報リテラシー向上の新たなスタイル生み出す可能性を有しており、市民の変容を促してもいる。 ## 3. 利活用促進における課題と展望 ここではオープンサイエンス政策で議論さ れている内容を援用して、利活用促進におけ る課題と展望を述べる。 ## 3. 1 データ(文書)を作る側の課題 データを作る側が今現在求められているのは、透明性が高く、再利用がしやすく、また、典拠が追いやすいデータの作成である。 これは、概ね研究データにおける FAIR 原則 (Findable, Accessible, Interoperable, Reusable)[6]に準拠することと一致する。 また、データ作成側の中立性・バイアス排除も重要な課題である。完全にバイアスを排除することは原理的に難しいことが多いので、 そのためにも、そのデータ取得条件等のメ夕データが重要となり、先の FAIR 原則に通ずる。 さらに、それらのデータの一定の信頼性を確保した上で、データを提供するプラットフオームの開発・運用と、永続的なデータ提供サービスを含む事業継続性の担保も重要な課題である。 ## 3. 2 データ(文書)を使う側の課題 データを使う側の課題としては、データ作成側の意図や利用の限界などをできるだけ正しく把握し、データ利用側の中立性・バイアスを排除する必要がある。 また、データ提供者へのインセンティブをいかに与えるかが重要であり、利活用促進の一番の課題といっても過言ではなく、G7 科学技術大臣会合のオープンサイエンスワーキンググループにおいても、インフラの整備と共 にテーマとして取り上げられている $[7]$ 。デー 夕作成者への敬意はもちろんのこと、引用による明示的な貢献の提示、あるいは、研究機関や研究コミュニティからの積極的な評価も求められる。産業利用に資する場合や、学術目的でも、その事業の持続性担保のためには、適切な報酬を与える仕組みが必要となる場合もある。 ## 3. 3 データ仲介の重要性 以上の課題に通底するのはデータの信頼性と持続可能性をいかに担保するかであり、より平易に表現すれば、作成者、利用者に安心して利用してもらう仕掛け(インフラとサー ビス)づくりが重要となる。 その信頼性の担保としては、先に述べた、 データを仲介するメディア/プラットフォーム (システム)の開発や維持が重要であるが、 それに加えて、慣習・制度・法律の変更を含む社会制度のあり方を論じ、適切なタイミングで改訂するなどし、データの流通を促進しつつ次世代に仲介することも重要である。そして、これらの変化を理解し、研究者や関連する者の行動変容を促す、仲介人材の発掘や育成が重要でもある。 ## 3. 4 シチズンサイエンスの変容から見られるデ ジタル公共文書の取り扱いの展望 オープンサイエンスを支える情報流通基盤の変革の重要な要素は、情報のデジタル化とネットワーク化による情報の開放と相互通用であり、このことは情報の生産者と利用者における情報の非対称性を緩和している[5]。例えば、科学においては、圧倒的に知識と情報を有する科学に対する監視の文脈から“市民科学”が生まれ、科学と社会の関係性を議論してきたが、これらも、背景にあるのは、紙の上の情報を郵送による伝達するという、一方向で時差のある、限られた情報流通基盤を前提としたものである。これがインターネット以降のシチズンサイエンスにおいては、開かれた情報の双方向の即時コミュニケーションによる共創的な文脈での活動が拡がっている。 したがって、デジタル公共文書の取り扱いにおいても、一方的な伝達と監視というこれ までの朹組みから、適度な緊張関係を保った協働に変容することが予察される。そして、 デジタル公共文書を前提とし、その成り立ちと信頼性に基づいた、行政と市民の関係が再構築されることになる。 ## 4. おわりに 2018 年に開かれたデジタルアーカイブ学会の研究大会において、これまでの恒久保存の意味合いが強いストックとしてのアーカイブの重要性を踏まえつつも、フローとしてのデジタルアーカイブやシームレスなプラットフオームの可能性について論じた[8]。デジタル公共文書を含む公共データのあり方においても同様に、溜めることだけを目的とするのではなく、今使える、そして将来に渡ってべストエフォートで使われやすいデータのメデイア化と保存が求められ、その活動自体が、 まずは、その事業の継続性を担保することになり、デジタルアーカイブの利活用を含む、研究活動や研究者自体、そして利用者、あるいはパートナーとしての変容を促すことになる。 ## 参考文献 [1] ラウンドテーブル「デジタル公共文書を考える一公文書・団体文書を真に公共財にするために一」の開催 (2021/1/12) http://dnpda.jp/events-and-news/20201120/ (参照 2021-02-26). [2] 計算社会科学会 https://css-japan.com/ (参照 2021-02-26). [3] 人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラム https://www.jsps.go.jp/data_infrastructure/ (参照 2021-02-26). [4] 白川展之, シビックテックの時代: 行政少 ービスの共創とスマート化(1)シビックテックによる市民発の新行政サービス: オープンなデータ共有による社会課題の解決, 地方行政 (11012), 2-5, 2020-12-03. [5] 林和弘, オープンサイエンスの進展とシチズンサイエンスから共創型研究への発展, 学術の動向, Vol.23, No.11, pp.12-29, 2018. https://doi.org/10.5363/tits.23.11_12 (参照 2021-02-26). [6] データ共有の基準としての FAIR 原則 https://doi.org/10.18908/a.2018041901 (参照 2021-02-26). [7] G7 Open Science Working Group (2019 Paris)(OSWG) https://www.enseignementsup- recherche.gouv.fr/cid141355/registrationopen-science-working-group-18th-19th-june2019.html (参照 2021-02-26). [8] 林和弘, [A31] オープンサイエンス政策と研究データ同盟 (RDA)が進める研究データ共有と,デジタルアーカイブの接点に関する一考察 : 新しい研究パラダイムの構築に向けて, デジタルアーカイブ学会誌, 2018,2 巻, 2 号, p. 40-43, 公開日 2018/05/18, Online ISSN 2432-9770, Print ISSN 2432-9762, https://doi.org/10.24506/jsda.2.2_40 (参照 2021-02-26). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [42] ジャパンサーチのワークスペース機能を活用した協働 キュレーション授業: 「問い」と資料を接続するデジタルアーカイブの活用法 ○井将生 ${ }^{1)}$ ,渡邊英徳 2) 1)東京大学大学院学際情報学府, 〒 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 2) 東京大学大学院情報学環 E-mail : [email protected] ## Collaborative Curation Class using the Workspace function of JAPAN SEARCH: How to use digital archives to connect "questions" and materials OI Masao ${ }^{1)}$, WATANAVE Hidenori ${ }^{2)}$ 1) The University of Tokyo Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033 Japan 2) The University of Tokyo Interfaculty Initiative in Information Studies ## 【発表概要】 本研究の目的は、探究学習における児童生徒の「問い」とデジタルアーカイブ資料を接続・構造化することである。そのための手法として本研究では、览童生徒の「問い」に則して主体的に資料を収集するキュレーション授業と、クラスメイトとの協働的なキュレーションを支援する機能を設計した。次いで小学校及び中学校において長期的な授業実践を行い、学習指導要領に則した評価基準に基づいて手法の妥当性を検証した。本稿ではとりわけ、本研究が提案する協働キュレーション授業を支援するジャパンサーチの「ワークスペース機能」の活用法について述べる。 ## 1. 背景 国内外におけるデジタル文化資源をめぐる動向は「保存から活用へ」と主眼がシフトし、資料の教育活用への期待が高まっている $[1,2]$ 。 また、情報化が進展する中で、膨大な情報から重要なことを主体的に判断し、新たな価値を生み出す力の育成が求められている[3]。新しい学習指導要領でも、図書館や博物館等の資料活用の充実が示され、多様な情報を主体的に収集・活用する力の育成が教科を越えた文脈で繰り返し求められている[4]。 このように「多様な資料」を活用した「探究的な学び」の必要性が高まっており、両者を具体的に繋ぐ議論・手法が求められている。 ## 2. 先行研究 ## 2. 1 探究学習における「問い」と資料の活用 教科教育学においては、「問い」を構造化すること [5]や、「問い」に対して適切な資料を考えること [6]が重要であるとされてきた。 しかしながら、「問い」及び資料が、教員から一方向的に与えられたものである点や、「問い」 に則した資料収集を実際には伴わない学習が多い点に先行研究の課題がある。 また、GIGA スクール構想における「1 人 1 台端末」計画では学習の「個別最適化」が目指されている[7]。しかしながら、学校教育における探究学習では、「他者との協同/協働的な学び」であることが重要であるとされてきたことにも留意することが望まれる $[8,9]$ 。 ## 2. 2 デジタルアーカイブの教育活用 デジタルアーカイブの教育活用に関して、「新潟地域映像アーカイブ」や「信州デジタルコモンズ」など、地域のデジタルアーカイブを活用した実践 $[10,11]$ が行われ、地域学習の新たな形が示されてきた。しかしながら、複合的な情報収集環境において多様な資料を主体的に活用する学びのあり方については、十分に検討されてこなかった。そこで本研究ではジャパンサーチを活用した「キュレーシヨン授業」を開発し、対面及び遠隔での実践を行なってきた[12,13]。しかしながら、ジャパンサーチ正式版公開前に仮実装された機能は、「問い」と資料の接続・構造化に際して自 由度に欠ける点に課題があった。 ## 3. 協働キュレーション授業の実践 ## 3. 1 本研究の提案 ここまでの議論より、探究学習におけるデジタルアーカイブの活用を検討する際には、以下の点に留意した授業・教材(デジタルア ーカイブ)を開発する必要がある。 ○児童生徒の「問い」と資料の接続・構造化を支援すること ○協働的な探究学習を支援すること 本研究ではこれらを実現するための手法として「ジャパンサーチ」を活用し、多様な資料を協働してキュレーションする授業と、それを支援する「協働キュレーション機能」を設計し、小学校及び中学校において通年カリキュラムに則した長期的な授業実践を行った。 ## 3. 2 ワークスペース機能の特徴と活用事例 ジャパンサーチ正式版が公開された 2020 年 8 月より実装された協働キュレーション機能「ワークスペース」は、児童生徒の「問い」 とデジタルアーカイブ資料の接続・構造化を支援する機能が向上した。本研究の長期実践から出たフィードバックも適宜機能改善に反映され、学校教育におけるデジタルアーカイブ利活用の幅を広げる機能へと進化した。 以下では、ワークスペース機能の特徴と活用例について、本研究の実践における児童生徒の学びを通して述べる。 ## 特徴 $1:$ 「問い」と資料の接続$\cdot$構造化 ワークスペース機能では、ジャパンサーチ上の資料をワンクリックでメタデータごとキユレーションすることができる。また、収集した資料を「問い」と接続させ、それを構造化することができる[図 1]。構造化した「問い」 と資料は自由に並べ替えることも可能である。特徴 2:協働キュレーションと集合知の形成 ワークスペース機能では、タイムラグなしに複数人で作業を行うことができる。また、協㗢キュレーション・スペースである「ギャラリー」は複数制作でき、各ギャラリーには任意の「タグ」を設定可能である[図 2]。 図 1.ワークスペース機能の特徴 1 :「問い」と資料を接続し、構造化することができる。 ## 図 2. ワークスペース機能の特徴 2 : デフォルト及び任意の「タグ」を設定することが可能。学年やクラス、年度や学期、単元毎に管理ができる。 これにより、キュレーション学習の蓄積が一つのアーカイブ群/集合知となり、「問い」 と資料が紐づいた過去の学びを、横断的に検索することが可能となった。 ## 特徴 3 : 画像データの利活用 キュレーションした資料の画像データは、 ギャラリー内の構造化に合わせて任意の場所に表示することができ、その際トリミングや任意のページを指定して表示することも可能である[図 3]。また、資料へのアノテーション機能を活用すれば、画像の上に注釈枠をオー バーレイ表示することもできる。これらにより、テキストデータを対象とする際とは異な 図3.ワークスペース機能の特徴 3 : 画像はページ指定やトリンミング、アノテーションも可能 った視点での考察が創発すると考えられる。 こうした活用を促進するためにも、より多くの画像資料が相互運用性の高い国際規格で公開されることが望まれる。 特徵 $4:$ 資料のマッピング 位置情報のメタデータを持つ資料であれば、 ワンクリックで地図上にマッピングすることができる[図 4]。また、拡大表示により、マッピングした資料の出典や解説などのメタデー 夕の詳細を表示することも可能である[図 5]。 これにより、教育学で重要視される歴史的思考と地理的思考の横断を視覚的に支援することができるようになった。 図 4、ワークスペース機能の特徵 4-1 「問い」と「資料」と「地図」を接続させることができる。 図 5.ワークスペース機能の特徴 4-2 地図はズームし、出典や解説のオーバーレイ表示も可能。 ## 特徴 $5:$ 年表の作成 「問い」と資料を構造化する上で、年表を作成することもできる[図 6]。これにより、キユレーションした複数の資料を時間軸に沿つて構造化・考察することが容易になった。 ## 3. 3 カリキュラムに則した授業フロー 本研究では、デジタルアーカイブの利活用の持続可能性と汎用性を高めるため、年間力リキュラムに則した実践を行なった。具体的 には、次のようなフローで授業を展開した。 (1)通常の講義授業 $\rightarrow$ (2)教科書をもとに (3)自由に「問い」を立て $\rightarrow$ (4)「問い」を構造化 $\rightarrow$ (5)協㗢キュレーション (6)議論 $\rightarrow$ (7)発表というサイクルを単元ごとに繰り返した[図 7]。 図6.年表は複数の年表を並列表示することや入れ子構造で表示することも可能。 図 7. 教科書、講義型授業を活かしつつ、年間カリキュラムに則ってキュレーション授業を実施。 ## 3. 4 児童生徒の具体的な学び 児童生徒が設定する「問い」は、大人の想像を超えるユニークで多様なものであった。天正遣欧使節団の少年の気持ちに注目して同年代の視点から「問い」を立てる者もいれば、数学、出版社、交通、都市論、農産業について調べる者もおり、同じ教科書を起点とした学びが多様な広がりを見せた。 また、キュレーションした資料の読解のために人文学オープンデータ共同利用センター の「くずし字データセット」を活用して分析を行う生徒もおり、主体的に高度な学習が創発する場面も認められた。 児童生徒らがキュレーションした資料の特徴としては、サムネイル画像が整備されているものや、全文がデジタル化されており内容が閲覧できるものが多く活用されていた。また、県をあげてデジタルアーカイブ化を推進している三重県の資料が東京の児童生徒に数多く活用されていたことも印象的であった。 「見返り美人図」から美意識の変遷について「問い」を立てた生徒は、古今東西の美に関する資料を収集し、年表機能を独自の切りロで資料分析ツールとして活用した。その結果この生徒は、資料収集を通して行なった考察を昨今のSNS における誹謗中傷問題に接続させ、自分ごととして学びを深めた[図 8]。 図 8. 時代・国を横断して資料を収集した生徒のワークスペース。欧州 Europeana の資料も活用した。 江戸時代の教育内容について「問い」を立てた生徒は、『和俗童子訓』には当時の男尊女卑の構造が表象していると解釈し、教科書の記載事項に批判的な分析を行った。その過程で同生徒の「問い」は江戸時代における男女差別に関するものへと変遷し、資料収集を通して行なった考察を SDGs など現代のジェンダー問題と接続させて学びを深めた[図 9]。 図 9. 全文デジタル化された資料を読み込んだ生徒のワークスペース。資料のデジタル化に際しては、内容を閲覧可能にすることが望まれる。 また、この生徒のように、学習後に新たな 「問い」が生まれたとする者も多く、探究学習において重要な連続的な学びが実現した。 ## 4. おわりに 本稿ではキュレーション授業とそれを支援する協働キュレーション機能の活用により、探究学習における监童生徒の「問い」とデジタルアーカイブ資料の接続・構造化を支援する一例を示した。 本研究の手法は、デジタルアーカイブ資料に「子どもたちの学び」という新たな価値を紐づけ、再びアーカイブに還元することで、 「知の循環」に貢献し得ると考える。 ## 参考文献 [1] UNESCO. ミュージアムとコレクションの保存活用、その多様性と社会における役割に関する勧告. 2015, p.3-6. [2] 内閣府知的財産戦略推進事務局. 我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性. 2017, p.1-3. [3] 文部科学省教育課程企画特別部会. 論点整理. 2015. [4] 文部科学省. 平成 $29 \cdot 30$ 年改訂学習指導要領、解説等. 2017/2018. [5] 渡部竜也,井手口泰典. 社会科授業づくりの理論と方法. 明治図書. 2020. [6] 大島泰文. 社会科における「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法の開発.社会科教育研究, 2020 , No.139, p.1-12. [7] 文部科学省. GIGA スクール構想の実現へ. 2020. [8] Azmitia M. Peer interactive minds. Life-Span Perspectives on the Social Foundation of Cognition. Cambridge University Press. 1996, p.133-162. [9] 名古屋大学教育学部附属中・高等学校編. 協同と探究で「学び」が変わる.学事出版. 2013. [10] 北村順生. 地域デジタル映像アーカイブの教育活用に関する実践的研究. デジタルアーカイブ学会誌, 2018, Vol.2, No.2, p.83-86. [11] 前川道博. 地域学習を遍く支援する分散型デジタルコモンズの概念. デジタルアーカイブ学会誌, 2018, Vol.2, No.2, p.107-110. [12] 大井将生,渡邊英徳.ジャパンサーチを活用した小中高でのキュレーション授業デザイン.デジタルアー カイブ学会誌, 2020, Vol.4, No.4, p.352-359. [13] 大井将生, 渡邊英徳.ジャパンサーチを活用したハイブリッド型キュレーション授業.デジタルアーカイブ学会誌, 2020, Vol.4, s1, p.s69-s72. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [41] 災害アーカイブぎふを活用したオンラインワークショップ O小山真紀 1),荒川宏 2),伊藤三枝子 ${ }^{2}$ ,平岡祐子 2),柴山明宽 ${ }^{3)}$ ,井上透 4) 1) 岐阜大学流域圈科学研究センター, 〒 $501-1193$ 岐阜市柳戸 1-1 2) 災害アーカイブぎふ, 3) 東北大学災害科学国際研究所, 4) 岐阜女子大学文化情報研究センター E-mail: [email protected] ## Development of an Online Workshop Using Disaster Archives Gifu KOYAMA Maki ${ }^{11}$, ARAKAWA Hiroshi2), ITO Miekon', HIRAOKA Yuko²), SHIBAYAMA Akihiro ${ }^{3}$, INOUE Toru ${ }^{4}$ ) 1) River Basin Research Center, Gifu University, 1-1, Yanagido, Gifu, 501-1193 Japan 2) Disaster Archive Gifu, 3) International Research Institute of Disaster Science, Tohoku University, 4) Gifu Women's University ## 【発表概要】 災害アーカイブぎふは、地域で起きた災害の写真や記録などの資料をデジタル化して格納することで、資料の逸散を防ぐこと、そして、格納した資料を活用したワークショップを提案することで、地域の記録と記憶の継承を促す取り組みを進めてきている。これまでは、対面型ワークシヨップが主体であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、オンラインワークショップの提案と試行を行った。提案したオンラインワークショップは、災害アーカイブぎふのホー ムページ上で運用している簡易的な GIS を用いて、当該地域の地図とハザードマップ、災害時と現在の写真を確認し、当時の状況を振り返り、参加者全員で共有し、現在同様の水害が起きたらどの時点で何をすべきか。について検討する事で、マイタイムラインを作成することをゴールとした。試行は 2 回行っており、1976 年 9.12 豪雨災害について実施したものと、 2000 年東海豪雨について実施したものである。 ## 1. はじめに 地域防災において、他地域で発生した大災害から学ぶ事も重要であるが、たとえ中小規模の災害であっても、その地域で発生した災害から学べることは大きい。なぜなら、その地域の地形や地域特性などを踏まえて、その地域における危険箇所の認知であったり、災害の進展のパターンであったり、地域での対応の仕方などを考えることができるからである。また、地域の中小災害では、経験者がいたり、写真などが残っていたりする一方で、 その経験を話す機会がなかったり、写真を活用する機会がなかったりして、地域での災害の記録や記憶の継承が進んでいないという面もある。本研究では、地域の災害記録を保存するための災害アーカイブの運用と、それを活用するワークショップをパッケージにすることで、地域内での災害記録の保存と次世代への語り継ぎ、災害対策の検討をまとめて実現できる仕組みを提案してきている。 前報[1]では、データベース構築と、対面型 のワークショップの開発と試行について述べた。本報では、災害アーカイブワークショップのオンラインへの拡張とその試行について報告する。なお、災害アーカイブのシステムは、eコミマップを活用している。 ## 2. オンラインワークショップの開発 オンラインワークショップの構成は、対面ワークショップと同様、準備段階として、次の 4 つを行っておく。 (1)参加者自身から対象災害の写真(同一場所における被災当時のものと現時点のもの) などのデータを提供してもらう(参加者自身のものでなくても、別の方から提供いただく形でも良い)。 (2)提供データを災害アーカイブに格納し、地図上に、被災当時の写真と現在の写真デー タ表示できるようにする。 (3)対象地域の浸水図やハザードマップを災害アーカイブの地図上に重ねて表示できるようにする。 (4)オンラインのスプレッドシートに、当時のタイムライン(注意報・警報、避難情報、人の動きなど)を整理しておく。 ワークショップそのものは、以下の 4 つのセッションで構成される。全体として 2 時間程度を想定しており、各セッション 30 分程度の時間配分で実施する。 (5) 全体セッション 1 対象災害について解説する(風水害の場合は、降雨の状況、水位の状況、浸水範囲、土砂災害の範囲、被害状況、当時のタイムラインを解説し、大まかに災害イメージの共有を図る)。 (6)グループセッション 1 当時の災害の経験者から、当時の状況や経験についてお話しいただき、ハザードマップ、地形 ( https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/Laser_ map.html )、今昔マップ (http://ktgis.net/kjmapw/)などを活用しながら、参加者の中で災害イメージをさらに明確にする。このとき、現在の写真と当時の写真や(4)で準備したオンラインのスプレッドシ一トを活用しながら、現在起きるとどうなるかというイメージを醸成する。そして、ここで語られた当時の状況や体験をスプレッドシ ートに追記する。 (7)グループセッション 2 グループワーク 1 で書き出された、当時の状況とタイムラインを参考に、「次に同じような災害が起きたらどうするか」について話し合い、(6)で当時の状況を追記したオンラインのスプレッドシートに、それぞれの避難計画を追記する。このとき、ハザードマップ、川の水位情報(https://k.river.go.jp/)や気象庁の危険度分布 (https://www.jma.go.jp/bosai/risk/)の情報などを示しながら、避難について考えるための情報や考え方についても解説する。 (8) 全体セッション 2 振り返り(グループワークの内容について、各班から発表してもらい、それぞれの班の対話内容を共有する) オンラインワークショップでは、全体参加者が多くても、少人数でグループ対話を行えるよう、ブレイクアウトルームの機能がついているサービスを利用する。グループセッシヨンは、進行役のファシリテーター1 名、オンラインのスプレッドシートに記録する係 1 名とし、それ以外の参加者数は $4 \sim 6$ 名程度とする。 図 1. ワークショップのフロー ## 3. オンラインワークショップの試行 これまでにオンラインワークショップを 1 回試行しており、2020 年度中にあと 2 回試行を予定している。既に試行したワークショップの概要は以下の通りである。既に実施した大垣のワークショップの様子を図 2 に示す。 ・災害アーカイブワークショップ in 大垣開催日時 : 2020 年 6 月 27 日 10:00-12:00 開催形式 : Zoom によるオンライン開催対象災害 : 9.12 豪雨災害(1976 年)主催者 : 清流の国ぎふ女性防災士会参加人数 : 9 名 今後予定しているワークショップは以下の通りである。 - 第 7 回三陸\&東海防災フォーラム“伝”開催日時:2021年 2 月 27 日 10:00-12:00 (災害アーカイブワークショップ部分) 開催形式 : Zoom によるオンライン開催対象災害 : 2000 年東海豪雨 主催者 : 三陸\&東海防災フォーラム“伝”実行委員会 参加人数 : 31 名(予定) ・災害アーカイブワークショップ in 高山開催日時 : 2021 年 3 月 24 日 19:00-21:00 開催形式 : Zoom によるオンライン開催対象災害 : 2004 年台風 23 号主催者 : 高山市民防災研究会参加人数 : 15 名(予定) 図 2.オンラインワークショップの様子 ## 4. アンケートによる評価 現在までに試行したオンラインワークショップの参加者アンケートの結果を対面型のワ ークショップの結果と比較する。 年齢分布を比較したものを図 3 に示す。対面では 70 代以上が約 40\%であったのに対して、オンラインでは 70 代以上の年齢の参加がなかった。 図 3. 年齢分布 DIG(災害図上訓練)の経験者に対して、 ハザードマップの浸水危険区域・土砂災害警戒区域が実際の場所としてイメージしやすいのは、DIG と災害アーカイブワークショップのどちらかを聞いたところ、オンラインでは DIG と答えた人がわずかに多かったのに対して、対面では災害アーカイブ WS と答えた人が 70\%近くであった(図 4)。また、実際の被害状況をイメージしやすいのはどちらか聞いたところ、対面、オンラインとも $80 \%$ 以上が災害アーカイブワークショップと回答した (龱 5)。 災害アーカイブワークショップをまたやりたいと思うかどうかについては、対面、オンラインとも $80 \%$ 以上が「はい」と回答した (図 6) 現在までに試行したオンラインワークショップが 1 回だけであるため、この結果がオンラインによる災害アーカイブワークショップの参加者傾向を代表するものであるとはいえないものの、参加年齢層はオンラインの方が低くなることについては、高齢者の方がオンラインツールの利用が難しいという現状とも合致した結果である。ハザードを実際の場所としてイメージするという点についてオンラインでは DIG の方がイメージしやすいとのことであったが、それ以外については、総じて対面とオンラインで大きな差は見られなかった。 図 4. ハザードを実際の場所としてイメージ 図 5. 被害状況のイメージ 図 6.またやりたいか 良かった点・改善点に関する自由回答では、対面でもオンラインでも、いろんな意見を聞けたことや、災害の記憶が呼び起こされることが指摘された。オンラインワークショップでは、1 班の人数が少ない事、一人一人の居住地について、対策をみんなで検討したこと などから、具体的な対策について考えられたこと、自分の思っていた対策では想定できていないことを知ったなど、具体的な対策につながる意見が多く見られた。 これらの傾向が普遍的なものと言えるかどうかについては、今後のワークショップにおけるアンケートによって確認していく予定である。 ## 5. おわりに 地域の災害の記録の収集と、それを用いた災害アーカイブワークショップを通じて、地域の災害の記録と記憶を継承し、将来の災害に向けた対策につながるワークショップの開発を行ってきた。今回は、対面形式に加えてオンライン形式でのワークショップを開発し、試行を行った結果について報告した。現時点では、オンラインワークショップはまだ 1 回のみの試行であるため、アンケート回答数が少なく、今回の結果がオンラインワークショップの普遍的な結果を示しているとはいえないものの、記憶と記録を継承する効果、災害をイメージする効果、また参加したいという傾向はオンラインでも変わらずみられた。また、オンラインでは、対面よりも対策について丁寧に検討できるため、具体の対策検討が行いやすいという傾向も確認された。今後、回数を重ねることで、これらの結果が普遍的なものかどうかを確認する予定である。 ## 参考文献 [1] 小山真紀. 柴山明寛. 平岡守. 荒川宏. 伊藤三枝子. 井上透. 村岡治道. 防災ワークショップを活用した災害写真の収集とデータベース化 : 災害アーカイブぎふの取り組みから.デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4 巻, 2 号, p.136-139, https://doi.org/10.24506/jsda.4.2_136. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [35] 複製技術の発展とアーカイブの歴史的系譜:日本における文書複製$\cdot$保存技術の発展と普及をめぐって 阿部卓也 1) 1)愛知淑徳大学創造表現学部, 〒 480-1197 愛知県長久手市片平二丁目 9 E-mail: [email protected] ## Mechanical Reproduction and Archive: Historical Research on Japanese Media Conversion Technology and Document Preservation ABE Takuya1) 1) Aichi Shukutoku University, 2-9 Katahira, Nagakute, Aichi, Gifu, 480-1197 Japan ## 【発表概要】 アーカイブ構築に関する構想力は、常にその時代ごとの技術水準に規定されている。本報告の目的は、アーカイブの歴史を、テクノロジーからの影響や相互作用という視点で読み直すことである。特にアナログ的な「複製技術」の進展が、近代以降の日本で、文書資料を中心とするアー カイブ構築活動をいかに支えてきたかを考察する。漢字仮名まじりで必要文字数が多い日本語文書の複製においては、明治以降、ゼリーグラフや謄写版など「イメージを複製するテクノロジ一」が主流になるという、世界的に特異な展開があった。そこから青写真、青焼き、PPC、マイクロフィルムなどへと至る 20 世紀末までの技術の変遷が、文書館や図書館でのアーカイブ構築活動とどう響き合ってきたかという問題を整理する。その上でデジタルアーカイブの現状を、そうした過去の文脈から断絶・飛躍したものではなく、連続したものとして捉えることを目指す。 ## 1. はじめに(動機$\cdot$背景$\cdot$対象$\cdot$方法) デジタルの登場以前から、アーカイブという概念や、その成立可能性は、常に技術の次元に強く規定され、変化し続けてきた。本発表の目的は、そうしたアーカイブと技術の関係を、通時的に俯瞰し、そこに存在する力学を考察することである。デジタル以前と以後のアーカイブの間に見られる連続性や差異についても、その中で一定の見取り図を示す。 本発表では、特にアナログ的な複製技術の進展を中心に検討する。文書や資料を保存し管理する活動の成立と持続にとって、複製可能性は根本的な問題だからである。考察対象としては、日本 (語) の文書・図書資料を扱う。検討する期間は、メディア論の分野でアナログ・メディア革命とも呼ばれる時代、近代の始まり(1872 年、明治元年前後)から、 マイクロフィルムのニーズが無くなっていく 2010 年頃までとする。 写真や映画など、ビジュアルやイメージの技術的革命と、活字からデジタルテキストへという文字の革命は、メディア論では、別の系譜として整理されることが多い。だが漢字仮名まじりで必要文字数の多い日本の言語体系では、タイプライターや鋳植機など 1900 年頃に普及した革命的な印字技術が、アルファベット圏ほど社会的インパクトを生み出さず、代わって「イメージ複製のテクノロジー」が文書用途で無視し難い普及を見せる展開があった。ほぼ明治の始まりに端を発するこの状況が、日本のアーカイブにいかなる影響を与えてきたのかを検討する。 研究の方法としては、印刷技術分野とアー カイブズ学や図書館情報学分野の文献の比較を行う。資料を組織的に作成・管理・保存し、時間を隔てた再利用にひらきうるような一定以上大規模な活動から、技術との関わりで状況の変遷や系譜が見えるような事例を取り上げ、次章以降、年代順に論じていく。網羅的ではないので、本発表で言及できない重要な技術も多くある (カーボン紙、本文専用写植機、ワープロ等)。 なお本発表は、アーカイブの定義には踏み込まない。多義的な側面を論じたい場合以外はアーカイブという語は使用せず、参照元が使用していた語彙をそのまま用いる(「永年保存」「公文書管理」「アーカイブズ」「デジタルアーカイブ」等)。 ## 2. 近世の終わり〜戦前 ## 2. 1 近世から近代へのシフトと公文書の複製 近世から近代への移行期である 1872(明治 3)年頃まで、日本における公文書の伝達は、回覧と写本が中心だった。和紙、墨、筆書きという、複製コストも経年耐久性も高い技術が使われた。複製された文書は、デフォルトでは保存された。文書の様式は藩ごとに大きく異なるが (御家流)、起草担当レベルで世代的に再生産され、公と家を横断した統一性が維持された。しかし明治政府による中央集権化が進むと、複製すべき文書が増大し、書体の楷書化など様式の全国的な統一が進んだ[1]。画一的な公文書と、(しばしば判読不能な崩し字の)私文書の分離も生じた。 1885(明治 18)年、明治政府が太政官制度から内閣制度に移行すると同時に、文書管理の体制は「内閣記録局」として再編された。 この時、人員が合理化されつつ、記録書類の要不要の選別、保存年数の設定といった方法が導入された $[2]$ 。つまり永年保存するべき文書は廃棄するべき文書と同時に概念化した。 ## 2.2 ゼリーグラフ、謄写版、タイプ孔版 日本での公文書への技術的な複製の導入は、前述の状況と同時期である。明治初期にヨー ロッパから伝来したゼリーグラフ(蒟芴版) は、1883(明治 16)年頃から公文書への使用が確認されている。背景には、訓令通牒のように中央から地方一一斉伝達する文書の増大があった[3]。技術の主流は、1915(大正 4)年頃に謄写版 (ガリ版)、1928 年 (昭和 3) 年頃にタイプ孔版へと変遷しているが、どの複製方法も現用文書としての利用が主眼で、保存性は副次的であるか重視されていない。特にゼリーグラフのメチルバイオレット染料は、極端に紫外線に弱く、経年退色するため長期保存できない記録材料だった。 これらは、いずれも欧米に起源を持ちながら、日本のみで独特の発展を遂げた印刷技術である。背景には、序論で述べた日本語文字体系由来のタイプライター普及の困難があつた。技術が公的機関に採用され、法的有効性 が根拠付けられると、市場規模が確約され、機能改善も進んだ。技術が安定・低廉になることで、採用例は官民問わず広がった。謄写版等の普及は書類に手書きが残りやすい環境、文字と図やイメージとの距離が近い文化の持続に寄与したと考えられる。 ## 2. 3 洋紙 紙メディアの問題、特に近代における印刷情報用紙としての洋紙の重要性も確認しておきたい。洋紙は、和紙との比較において大量・高速に生産でき、平滑・高密度で、ペン描き適正と印刷適性が高く、安価である。業務文書の増大に対応するには、洋紙の社会的普及が不可欠だった。たとえばゼリーグラフは洋紙とぺアでなければ運用できない。 明治初期は、国内製紙業の勃興期でもある。 1872(明治 3)年、洋紙はその名の通り $100 \%$ が西洋からの輸入だった。だが明治 5 年から 8 年にかけて近代的製紙企業が創設され、 1900 (明治 33)年までには、 $62 \%$ が国内製になるほどの成長を遂げる。国内における和紙と洋紙の生産量は、1912(大正元)年頃に逆転しており [4]、以降、和紙の文化は日本社会で急速に減衰していく。 そしてこの洋紙が、いわゆる酸性紙である。酸性紙は概ね 50 年程度で硫酸アルミニウムのイオン化が進み、セルロースが劣化、徐々に崩壊していく。つまり日本が近代化する場面では、記録材料と記録媒体の双方で、資料の水平的増大と時間的抵抗力の減退はトレードオフになっていた。そしてこの酸性紙問題が、 1980 年代に「メディア変換」等の資料保存の動機を形成することになる。 ## 3. 戦後 ## 3. 1 ジアゾ式複写、PPC 戦前から設計図面等に使われたサイアノタイプ(青写真)は、湿式で像がネガ-ポジ反転するため、文書用途にはさほど広がらなかった。だが戦後に確立したジアゾ式複写(青焼) は、乾式かつポジーポジなので、文書複製の分野にも普及した。特に 1951 年にジアゾ乾式の実用機が登場し、法務省が戸籍謄本・抄本類 への使用を認定したことで、市場が確保され社会全体への普及が促進された[5]。この青焼きも経年退色しやすく、後に資料保存分野でのアジェンダを生み出す。 いっぽう電子的な複写機は、段階的な改良や機能向上を経て、1970年代に PPC(普通紙複写機)として本格普及が進む。1971 年に、 Xerox 社のセレンドラム感光体特許が満了し他の企業が追従可能になるという、知財環境の変化がこの状況を生み出した。 ## 3. 2 マイクロフィルム ## 3. 2.1 日本のマイクロフィルムの導入と普及 ここまで述べてきた複製技術は、主として現用段階で使われる。それに対してマイクロフィルム/フィッシュ(以下、マイクロ)は、保存専用の複製技術という点で、やや別の位置を持つ。もつともマイクロも最初から保管用途限定だったわけではない。例えば米軍が 1942 年から開始した V-Mail は、戦場の兵士と故郷との書簡往復にマイクロ技術を利用した [6]。しかし日本に導入された時点では、保存主体という文脈に収敛している。1950 年に日本の図書館関係者がマイクロを取り上げた記事では、原本より小さくポータブルという点に加え、数百年保存可能で、オリジナルを傷付けず利用できることなどを特徴として挙げている[7]。国内初の導入例は、1953年にロックフェラー財団から国立国会図書館 (NDL) への機材の寄付で、新聞の縮刷事業を端緒に、国立大学図書館などに導入が広がった [8]。 1958 年、国立文書館建設をめぐって日本歴史学協会と日本学術会議が対立した、国立文書館問題が起こる。近世的な文書と近代的な公文書との認識的ギャップを背景として起きたこの論争に、一定の幕引きを意図した 1963 年の総理府試案「国立公文書館(仮称)設置についての要綱」では、短い文中に 9 回、(マイクロ)フィルムの語が登場する[9]。 1970 年代に創設/改組された国文学研究資料館や民族学博物館等は、原本での収集が困難な時代性と向き合い、その中でマイクロによる集書も大規模に進められた[10]。またこの時代に特徵的なこととして、マイクロは保存だけでなく利活用や検索性のニーズに答える技術という位置も与えられている[11]。 1982(昭和 57)年に大蔵省が税法帳簿類をマイクロ保存することを認めると、日本中の銀行等がマイクロの顧客になりえる状況が生まれ、文書のマイクロ化は、さらに社会全体に広がった[12]。 ## 3. 2.2 スローファイアとマイクロフィルム 80 年代後半は、 2.3 節で述べた洋紙普及の帰結としての酸性紙問題、いわゆるスローフアイアが資料保存分野の大きな主題になった。 この時期に酸性紙問題を論じた資料では、ほぼ共通して「対策として、マイクロ化の促進が急務」という結論が語られている[13]。「焼け落ちる」資料の緊急性が複製技術的なアー カイブの構築を推進し、消失していくオリジナルよりも永久的な代替物たるフィルムに救世主としての位置が与えられた。 ## 3. 2.3 マイクロフィルムと「知のデジタルシフト」 80 年代末から 90 年代半ばは、すでにデジタル技術が急速に伸長している時代でもあった。1995 年頃に日本に登場したデジタルアー カイブという語は、発案者の月尾嘉男の証言からも明らかなように[14]、情報ネットワー ク技術の覇権をめぐる日米の技術・政策競争の中で、デジタル技術の理論的な応用可能性や、未来の成長分野を社会にアピールする言語的ゲームとして生まれた。ゆえに従来の文書館・図書館文脈とは、本質的に無関係だった。ここでデジタルが担保しているのは検索と利用である。この時期になると、マイクロが利用にも有益な技術だとする 70 年代のトー ンは低下し、デジタルとの対比で、画質や保存性を担保するものに位置が変わっていく。 だがそれ以降も、図書館や文書館の領域でマイクロが一定のプレゼンスを持ち続けた期間は、一般的イメージより長い。NDL の媒体変換計画がデジタルに一本化されるのは 2009 年からである [15]。デジタルを永年保存目的で使うことの問題は、処理能力や解像度の不足だけでなく、媒体の物理的寿命の短さ、デ一夕規格の流動性、技術革新や企業の収益サイクルによる過剩な陳腐化など、いわゆるマ イグレーションにあるとされ、不安視する声は根強かった。その論調が、概ね 2000 年以降の 10 年ほどで変化していく。同時に「マイク口の永久保存の条件はかなり厳しい」という言説も前景化していく[16]。 ## 4. おわりに 以上、デジタル以前からの複製技術が日本でどのようにアーカイブの成立や構想可能性のベースになってきたのかを素描した。日本の文字体系の特徴は、文書資料とアーカイブの在り方に多大な影響を与えてきた。また、技術がアーカイブの様態を規定するだけでなく、社会での使用が技術の発展を方向づける流れも観察された。技術が担保するものの含意は歴史的に一定ではなく、他の技術との関係や、誰にとっての技術であるかに応じて変化し続けており、デジタルテクノジーもその流れの中にあるということを確認した。 ## 典拠-主要参考文献 [1] 青山由起子. 明治維新における公文書書体の転換一藩士が見た「布達」類の書体と記録した「控」類の書体. 書学書道史研究. 2005, (15), p. 71-87. [2] 渡邊佳子. 内閣制創設期における記録局設置についての一考察. GCAS report. 2013, (2), p. 36-56. [3] 新田和幸.わが国における「站葱版」印写法の発生と「蒟蒻版」公文書の存在意義-教育史料 (とりわけ行政文書) 調査と保存によせて.教育史 ・比較教育論考. 1990,14, p. 41-50. [4] 中嶋隆吉. “コラム(9) わが国における洋紙の進展明治初期からの進化”. 紙一の道. 200306-01. https://dtp-bbs.com/road-to-thepaper/column/column-009.html (参照 202102-25). [5] 日下田茂.ジアゾ作像技術.日本画像学会誌. 2012, 51(1) p. 81-91. [6]"Victory Mail". The Smithsonian's National Postal Museum. 2011-07-06. https://postalmuseum.si.edu/exhibition/victo ry-mail (参照 2021-02-25). [7] 村尾成允. マイクロフィルムの話. 読書春秋. 1950, 1(1), p. 14-16. [8]“国立国会図書館で古い新聞をマイクロ化来月から 20 年計画 700 万ページ分”. 朝日新聞東京朝刊. 1965-08-05, p. 15. [9] 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会編. “欧米アーカイブズの紹介イギリスの古文書保存制度とわが国の公文書館問題”.日本のア一カイブズ論. 岩田書院, 2003, p. 121-129. [10] 田辺広,山田義人. マイクロ資料の現状と未来. 現代の図書館. 1977, 15(2) p. 1-6. [11] “文芸雑誌もマイクロ化まず「新潮」四百余冊日本近代文学館”. 朝日新聞東京朝刊. 1975-09-29, p. 3. [12] 小川千代子, 高橋実,大西愛編著. “マイクロフィルムとデジタルアーカイブ”.アーカイブ事典. 大阪大学出版会, 2003, p. 239-260. [13] “「明治時代」をマイクロ化 50 万種類をフィルムに早大図書館”. 朝日新聞東京夕刊. 1988-05-28, p. 14. “明治期の 16 万冊全面マイクロ化国会図書館 5 年計画”. 朝日新聞東京朝刊. 1989-0928, p. 30. [14] 影山幸一.“デジタルアーカイブという言葉を生んだ「月尾嘉男」”. artscape. https://artscape.jp/artscape/artreport/it/k_04 01.html (参照 2021-02-25). [15] “平成 21 年度以降の当館所蔵資料の媒体変換基本計画”. 国立国会図書館. 2009-03-27. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/999198 (参照 2021-02-25). [16] “国立公文書館所蔵資料保存対策マニュアル”. 国立公文書館. 2002-03. http://www.archives.go.jp/about/report/pdf/h ourei3_09.pdf (参照 2021-02-25).
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# [34] 電子メール長期保存の課題: ePADD の有用性と問題点 ○堀内暢行 ${ }^{1)}$ ,橋本陽 ${ }^{2}$ 1)国文学研究資料館研究部, $\bar{\top} 190-0014$ 立川市緑町 10-3 2) 京都大学大学文書館, 〒 606-8305 京都市左京区吉田河原町 15-9 E-mail: [email protected]; [email protected] ## The Challenges of Long-Term Email Preservation: The Usefulness and Problems of ePADD \\ HORIUCHI Nobuyuki1), HASHIMOTO Yo ${ ^{2}$} 1) Research Department at National Institute of Japanese Literature, 10-3 Midori-cho, Tachikawa, 190-0014 Japan 2) Kyoto University Archives, 15-9 Yoshidakawara-cho, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8305 Japan ## 【発表概要】 本報告では、日本で実践事例が見られない電子メールの長期保存対策について、ePADDを利用する方法を解説し、その有用性を明らかにする。ePADD はスタンフォード大学によって開発された Open Source Software(OSS)である。独自の自然言語処理(NLP)機能が備っており、電子メールの評価選別、整理、検索、提供という 4 つのモジュールから構成されている。電子メールは、ISO 15489 に漼拠した Electronic Document and Records Management System (電子文書・記録管理システム、EDRMS)から独立したシステムで作成され、そのまま保管される場合がほとんどである。その結果、記録管理のライフ・サイクルから外れ、秘匿すべき情報、メタデータおよびフォーマットの管理が行き届かず、将来の保存と利用が危ぶまれることになる。この対策として、ePADD の4つのモジュールが有効であることを示すとともに、日本語の環境での使用が難しい現状を課題として挙げ、その解決の道筋を論じる。 ## 1. はじめに 電子メールが組織の業務や個人の活動に必要不可欠な存在となって久しい。ISO 15489 などの国際標準において、記録は業務や活動の証拠となる文書と定義されるが、これと対照すれば、電子メールは記録というカテゴリ一の中に分類される。したがって、記録の長期保存を請け負らアーカイブズが電子メールの移管を受け、永続的な保管を行うことが求められる。 しかし、国内のアーキビストがこの点を取り上げることは稀である。電子メールの保管については、プリントアウトしてファイリングするという方式がよく見られるが、これでは、電子システム上でのみ残されるメタデー タが全て消失し、記録の存在要件である証拠能力が失われてしまう。実際に、アメリカの法廷ではそのように評価した判例が存在して いる。一方で、電子メール特有の問題も存在する。記録管理の標準に準拠し、メタデータを付与しながら証拠能力を維持する電子記録専用の管理システムを構築したとしても、電子メールを作成・管理するアプリケーションは、そうしたシステムから独立している事例が数多い。そのため、電子メールを適切に保管するには、別の対応策が必要となる。 このような問題を解決するために作られたソフトウェアがスタンフォード大学で開発された ePADD である。ePADD には独自の自然言語処理 (NLP) 機能が備えられ、電子メー ルの評価選別、整理、検索、提供という 4 つのモジュールで構成されている。本報告では、日本で実践事例が見られない電子メールの長期保存対策について、ePADD の各モジュールを利用する方法を説明し、その有用性を明らかにする。同時に、英語圈で作られたソフト ウェアであるため、日本語の環境での利用が難しいことを課題として挙げ、その解決に至る道筋について論じる。 ## 2. 電子メール保存の障害 ## 2. 1 記録管理システム 電子記録の長期保存を実現するための理論的基盤の一つに、ライフ・サイクル・モデルがある。これは、現用段階において記録の作成と管理を行う Electronic Document and Records Management System(電子文書・記録管理システム、EDRMS)を利用し、非現用段階では、歴史的価値をもつと判断される記録のみをアーカイブズの電子保存システムに移管し保管することで成立する。EDRMS は記録管理の国際標準である ISO 15489、電子保存システムは電子データ長期保存の国際標準である ISO 14721 にそれぞれ準拠していることが必須となる。 他の種類の記録と同様、電子メールも、このライフ・サイクルに則れば適切に管理されるはずである。しかし、現実はそうなっていない。電子メールの大半は EDRMS と異なるアプリケーションで作成され、そのまま管理される。電子メールをライフ・サイクルに加えるには、システムの利用者が保管すべきものを選択し EDRMS に取り込まなければならない。このような選択の判断と取り込みの作業が利用者の負担となるため、多くの電子メ一ルはライフ・サイクルから漏れ落ちる事態が生じている。アメリカ国立公文書館は、この状況を鑑み、Capstone という方式を採用し、重要な役職のアカウントにあるメール全体を永年保存する試みに着手している[1]。 個人の電子メールとなると、EDRMS で管理されることはほとんどなく、より一層ライフ・サイクルから乘離する形で保管されることなる。そのため、Capstone のようにアカウント単位で捕捉していく手法は、個人の電子メールについても試行する価值があると言える。 ## 2. 2 電子メール固有の問題 電子メールをアカウント単位で扱う場合、考慮しなければならない特有の問題がある。1 つ目は、個人情報や機密情報などの秘匿事項である。EDRMS を運用していれば、現用段階でそれらを管理し、アーカイブズに移管後の非現用段階でも、その管理情報を引き継いだ上で公開と非公開の判断が可能となる。しかし、組織であれ個人であれ、電子メールのアプリケーションを使用する場合、一貫した秘匿設定がなされた状態でアーカイブズに移管されることは到底望めない。さらに電子义一ルが膨大な数になることを考えれば、移管を受けた後に、アーキビストが内容を読んで秘匿事項を把握することも現実的ではない。 したがって、アーカイブズの方で秘匿すべき情報を自動的に処理するための技術的な対策を準備しなければならない。2つ目は、アー カイブズにおける保存の問題である。既存の電子データ長期保存のアプリケーションは、 ライフ・サイクル・モデルを基礎として開発されており、そこから外れた電子メールには対応できないところがある。返信および転送メールを紐づけるスレッド表示や添付ファイルを一括して維持するために、電子データ長期保存のアプリケーションに加え、別の技術的対策が必要となる。最後に現用段階からのアプローチである。非公開基準の設置や長期保存すべきメールの選別などは、作成者と連絡が取れなくなった後では、処理が極めて難しくなる。作成者との共同作業を可能とする技術的対策が望まれる。 以上にあげた技術的対策は、どのように実装することができるだろうか。近年開発されたアプリケーションである ePADD を通じて検討する。 ## 3. ePADD の機能と特徴 ## 3. 1 基本的特徵 ePADD の最大の特徴は、開発者であるスタンフォード大学図書館が Open Source Software(OSS)として公開している点にある。これにより、ユーザーは無料で利用できることはもちろん、プログラミングの知識があれば、ニーズに合わせて容易に改変が可能 となる。また、本 OSS は Windows・MacOS (他に Ubuntu16.04)に対応し、操作は汎用 Web ブラウザー (Google Chrome・Mozilla Firefox 等)のインターフェース上で行うことができることから、通常業務との親和性が高い。したがって、同 OSS の導入は容易である。 ePADD が汎用の電子メール管理ソフトウエアより優れているのは、後述するように電子メールの評価選別・整理・検索・提供といったアーカイブズの業務を単一の OSS で処理することが可能な点にある。また、独自に開発した NLP を採用し、固有名詞や特定項目表現の抽出・処理が実行できるシステムとなっている。保存については、処置データを“MBOX”形式(電子メールの保存ファイルフォーマット)でエクスポート可能な仕様となっている。 この機能を介し、ISO 14721 で示される長期保存の要件を満たしながら、大量の電子メー ルを保存できる。 例えば、著名な国際機関や大学などでは、電子記録の長期保存に、OSS ・ Archivematica(Artifactual Systems 社)を用いる事例が散見される[2]が、ePADD で整理と処理を経た後のデータを用いて Arvhivematica 上で対応している[3]。 以下では、その機能を具体的に確認することとしたい。 ## 3.2 各種モジュール$\cdot$他の利便性 ePADD を構成する 4 つのモジュールは、 同 OSS の機能の根幹といえる。それぞれのモジュールは、次のような特徼をもっている。 - 評価選別(Appraisal): 保存処置を行う前に寄贈者・アーキビストともにデータの内容を確認し、評価選別作業を行うことができる。 - 整理(Processing):メールデータを整理し、 アーカイブズに必要な記述を付すことができる。 - 検索(Discovery) : 制限下のユーザーがメー ルの事項群などを検索することができる。 ・提供(Delivery) : 閲覧室などでユーザーがメ ールコレクション情報にアクセスすることができる。 図 1 評価選別モジュール立上時 以上のモジュールは、評価選別段階から、 メールの返信・受信、さらに添付ファイルにいたるまで一括で対応している。よって、前記「2.2」で示した問題に対応することができる。 評価選別の際に、寄贈者の協力は必須である。図 1 に示したとおり、評価選別モジュー ルでは処理結果が可視化され、その際に寄贈者の負担を減らすことができる。具体的には、評価選別時に“NLP” ・ “Lexicon”によって個人情報等が専用の項目に振り分けられる。 それを基に、寄贈者の協力を得ながら選別を進めることが可能となる。電子メールは書簡と異なり、膨大且つ複雑な体系が一括データとなっていることから、こうした機能は整理遂行上、大変有効となる。 その他にも、電子メールをコレクションとして提供するまでの過程を web ブラウザー上で一貫して処理できるため、PC に関する特別な知識を必要としない。これも大きなアドバンテージであろう。 ## 4. 多言語対応 以上のように、電子メールをアーカイブズで処置するための機能を有している ePADD だが、日本で導入するには大きなハードルを越える必要がある。現状(Ver.7.3.4)では日本語(多言語)に対応させるためには、コードを改変する必要がある。 ## 4.1 日本語化-Lexicon まず、Lexicon だが、評価選別モジュールにおいてデフォルトで設定されている “Lexicon Search”で編集可能である。しか し、運用の利便性から ePADD を立ち上げた際に作成されるディレクトリ“epaddappraisal”内“user”>"data”の"lexicons”ディレクトリで、各テキストファイルを編集することが推奨される。評価選別モジュールの動作時にファイル( .lex.txt)に設定したキーワードが Lexicon に反映される仕様となっている。日本語に対応させるためには、“lexicons”ディレクトリに新規テキストファイル (ここでは “test.japanese.lex.txt”) を作成し、再度メー ルデータをインポートすることで、可能となる。 図 2 test.japanese.lex.txt 反映図 ## 4.2 日本語化 $-\mathrm{NLP$} 上記のように Lexicon は容易に日本語へ対応させることが出来るが、NLP の対応はハー ドルが高い。ePADD は Wilipedia や DBpedia などの外部データセットを活用した Apache OpenNLPを基に開発されている。この点を日本語対応させる必要がある。多言語対応について“EnglishDictionary.java”には 「“util” ・“class”に辞書を作成することで、簡単に他の言語に展開することができる」と記されているが[4]、実際はその対象は広範囲であり、且つ、プログラムコードの知識が必須である。また、管理者のニーズに合わせて NLP を反映させるためには、事前に必要なクラスとプロパティ・マッピングを計画的に構築することが求められる。このようにコードを書き換えることができれば、日本語で語句・区切りを認識させることが可能であり、多言語でのアーカイブズ整理はもちろん、ユ一ザーにも大きな利点となる。 ## 5. おわりに ここまで電子メール保存に関する諸問題を提示し、その解決策となり得る ePADD の機能とその問題について確認してきた。 電子メールは我々が社会生活を行ううえで必須であるが、その多くは、EDRMS の管理を受けていないのが現状である。電子メールのような記録を長期的に保存するには、 EDRMS のような組織統制の枠組みを超えたものをも包含して処置を施す必要がある。保存の対象となるメールの量は膨大であるのに加え、メールそのものだけに完結せず、返信や転送、添付ファイルなどもケアしなければならず、独自の問題を抱えている。ePADD はそうした問題解決に現時点で有効である。 とはいえ、本報告では ePADD が全てを解決するといったことまで提唱する意図はない。同 OSS の肝といえる NLP の多言語対応の必要性とその方策が容易ではないためである。 そもそも日本では、電子メールの長期保存システムの運用が進んでいない。本報告がその進展への契機となることを願う。 ## 参考文献 [1] James Lappin, Tom Jackson, Graham Matthews and Ejovwoke Onojeharho. "The Defensible Deletion of Government Email." Records Management Journal. Vol. 29, No. 1/2. 2019. pp. 42-56. [2] Artifactual Systems 社 web サイトを参照のこと。https://www.archivematica.org/en/ (参照 2021-02-28). [3] 例えば Canadian Center for Architecture. CCA Digital Archives Processing Manual (参照 2021-02-28). [4] src $>$ java $>$ edu $>$ Stanford $>$ muse $>$ ner $>$ dictionary> ( https://qr.paps.jp/eCDNU) (参照 2021-02-28). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [12] 人エ知能技術の活用によるメタデータ付与効率化の検証: 画像認識とテキスト分類 ○山本純子 1),濱田陽人 2),新名佐知子 3),中里正行 1) 1)凸版印刷株式会社,〒112-8531 東京都文京区水道 1-3-3 2) スポーッ庁 オリンピック・パラリンピック課, 〒100-8959 東京都千代田区霞が関 3 丁目 2 番 2 号 3)秩父宮記念スポーツ博物館,〒120-0005 東京都足立区綾瀬 6-11-17 E-mail: [email protected] ## Verification of efficiency of metadata assignment by utilizing artificial intelligence technology: Image recognition and text classification YAMAMOTO Sumiko ${ }^{1}$, HAMADA Akito $^{2}$, NIINA Sachiko ${ }^{3}$, NAKAZATO Masayuki ${ }^{1 \text { ) }}$ 1) Toppan Printing CO., LTD., 1-3-3 Suido, Bunkyo-ku, Tokyo,112-8531, Japan 2) Japan Sports Agency, Kasumigaseki 3-2-2, Chiyoda-ku, Tokyo,100-8959 Japan. 3) Chichibu Memorial Sports Museum, 6-11-17 Ayase, Adachi-ku, Tokyo,120-0005 Japan. ## 【発表概要】 デジタル・アーカイブで画像データを公開する有用性は高いが、画像に有用なメタデータを付与するために、発信者は多大な労力を要している。しかし、近年、人工知能技術による画像認識の進化が目覚ましく、さまざまな成果も報告されていることから、すでに流通している画像認識技術と、ブラックリストとホワイトリストを掛け合わせることで、画像データに対するメタデー 夕付与の省力化の実現性を調查した結果を報告する。検証手法として、スポーツに関連する画像データを先に 50 枚選定し、人工知能技術による流通ソフトに対象画像を認識させ、そこで認識されたラベルから、人手によりスポーツ分野の「ホワイトリスト」「ブラックリスト」を定める。その後、スポーツ関連画像データを読み込ませ、それをブラックリストとホワイトリストの内容に応じて自動振り分けした結果と、今後の発展性を報告する。 ## 1. はじめに デジタル・アーカイブで公開する画像に有用なメタデータを付与することの有用性は高いが、発信者はそのために多大な労力を要している。スポーツ庁が実施するスポーツ・デジタルアーカイブ事業において、近年、幅広く利用されている複数種類の人工知能技術を用いて付与されるタグに対し、ブラックリストによる不採用処理やホワイトリストによるタグ適正分類を設定した自動処理を行い、その結果をもとに今後の画像データにおけるデ一夕付与作業の省力化の可能性を探る。 【検証対象】スポーツ関連画像データ 50 件 ## 2. 検証手法 ## 2. 1 画像データとタグリストの準備 スポーツ・デジタルアーカイブ事業にて貸与された、50 種類のスポーツ関連の画像デー タからタグを抽出する。 利用した API は下記の 3 種類である。 - Amazon Rekognition - Google Vision API (label) - Google Vision API (webentity) 検証対象とする画像データを、写真に写っているものの傾向に応じて、「著名写真」「収蔵品」「文字列」および「カラーとモノクロ」 としてパターン分けし、それぞれのパターンに応じてどのような傾向のタグが付与されるかを確認した。これらの作業により抽出され たタグリストの例を以下に示す。 表 1.タグリスト例 ## 2. 2 ホワイトリスト:ブラックリストの設定 2. 1 で抽出されたタグに対し、ホワイトリストとブラックリストを設定した。 スポーツに関連する可能性のあるタグをピックアップし、スポーツ分野で特に求められる「競技」「イベント」「人名」「チーム名」と、 それ以外である可能性の高い「備考」の 5 項目のどの項目に当てはまるか、人手により予め判定・振り分けた「ホワイトリスト」を設定した。それ以外のスポーツ資料として付与する関連が薄いと思われるタグは「ブラックリスト」として選定した。判定基準としてこれら「ホワイトリスト」「ブラックリスト」を用いて画像データへのメタデータの自動付与を試み、メタデータの項目にどこまでタグが自動置換えできるか検証した。 表2.ホワイトリスト(スポーツ関連)例 表 3.ブラックリスト(スポーツ関連外)例 ## 3. 検証結果 ## 3. 1 付与タグの傾向 (「文字列」無効時) 対象とするスポーツ関連写真 50 枚を、「(1)著名写真」「(2)収蔵品」「(3)文字列」および 「カラーとモノクロ」のパターンに分け、 API で文字列読み取りを無効としたときに、 それぞれ例としてサンプル画像に付与されたタグ例を下記に示す。 (1) 著名写真 (例) 図 1. 第 18 回オリンピック競技大会(東京)_開会式_空に描かれた五輪 <引用>フォート・キシモト 例として提示した上記の著名写真においては、各 API とも東京オリンピック、2020 年夏季オリンピックといった「イベント名」や、国旗、シンボル、コンサート、ロックコンサ ート、フレアーといった、正誤入り混じった 「備考」の值が抽出された。しかし、「競技名」「人名」等の項目へは、当てはまるラベルなしとして付与されず、比較的、人間と近い認識結果となったといえる。著名写真は公開情報が多いことから、固有の「イベント名」な どが抽出できる可能性がある。 (2) 収蔵品としての物体(例) 図 2. 東京オリンピックバレーボール <引用 $>$ 秩父宮記念スポーツ博物館 続いて、博物館で収蔵されていることの多い、ボールのような「物品」の場合、「名称」 のラベルは的確に付与される可能性があるという結果となった。特に「競技名」ラベルに該当するタグが多く付与されたが、例で提示した上記写真においても、「サッカー」等の夕グも出現し、誤認識も多く含む結果となった。 ## 3.2 付与タグの傾向 (「文字列」有効時) 文字読み取りを有効とした場合の結果を示す。Google VisionAI を利用し、文字列読取を有効として 5 パターンの画像への付与結果を検証すると、図 4 や図 5 で示したような不定形資料における読取りも、精度は不十分ながら、ある程度文字認識可能との傾向が見られた。読取テキストも合わせて示す。 図 3. 賞状 $<$ 引用 $>$ 秩父宮スポーツ博物館 $\begin{array}{lllll}77 & 0 & 1 & 0 & 1\end{array}$ $\begin{array}{llll}6 & 6 & 1 & 8\end{array}$ 賞? 種目走高跳 壹等, 須田博二 右者本團主催第三回體育 競技會二於優勝也 $\mathrm{y}$ 依 テ之賞ス 昭和五年八月三十日 小鹿野 町青年團長高橋義雄 図 4. 色紙 $<$ 引用 $>$ 秩父宮スポーツ博物館 コオリンピック大会ウェイト リフティングレー 島 す ねえ そら C a s e 海 ム一 日 p 1 六 $889-108$ $2251-8$ ## 3. 3 データ精度の違いによる付与タグ傾向 続いて、競技場を撮影した「モノクロ」「劣化データ」「通常データ」データについて、それぞれ 3 種類の API による画像認識検証を行い、その結果を比較した。 いずれの API も、モノクロデータになると 顕著な抽出タグの減少や認識内容の一般化 (スポーツ以外の値)となる傾向が見られる。 カラーのほうが、効率的な自動メタデータ付与ができると言えるであろう。 サンプル写真の例では、モノクロデータは 「アリーナ、モノクローム」等のシンプルなタグが付与されたが、カラーになると、プレ一ヤー、競技大会、サッカー、大会イベントといったもっと幅広い情報のタグが付与された。 図 5. モノクロ 図 6. 通常データ 図7. 劣化データ(画質低) ## 4. おわりに 既存の人工知能技術画像認識技術において、画像からのタグ識別は高度化している。既存人工知能技術を効果的に活用し、画像認識と タグ付与に対して、 ・ブラックリスト ・ホワイトリスト といった情報をあらかじめ設定してデータを選別し一次情報として自動識別させ、二次的に人がメンテナンスすることで、画像デー タに対するメタデータ作成までの省力化は成し得るであろう。しかし、上記の識別データとなる「ホワイトリスト」「ブラックリスト」 については、いまだオープンデータとして実現されておらず、それが実現したときに、メタデータ付与の省力化にむけて大きく踏み出すことが期待できる。画像種類によって複数のホワイトリストやブラックリストを使い分け、自動的かつ選択的に適応する処理が実現できれば、付与されるタグの高度化や適正化も期待できる。それらの実現を待ちたい。 現時点では、画像から人工知能が付与できるタグで、即時、活用に資する物語のような情報をすぐに付与することは難しく、抽出されたタグを見ながら、人間が情報をまとめ、活用していくことが現実的である。しかし、 テキスト情報からの人工知能技術による物語の制作取組は始まっており、今後に大きく発展する可能性もある。 人工知能技術等の寄与による資料へのメタデータ付与省力化が実現し、スポーツ関連資料の情報公開や連携が促進され、スポーツ分野の活用、発展の一助となることを期待する。 ## 参考文献 [1] スポーツ庁オリンピック・パラリンピック課. スポーツ・デジタルアーカイブ・ネットワ一ク構想事業(平成 30 年度)業務実績報告書 2019-03-31. https://www.mext.go.jp/sports/content/20200 110-spt_oripara-300000892_03.pdf (参照日 2021-02-26). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [32] ワードクラウドの時系列による映画レビューの可視化感染症をテーマとした映画『コンテイジョン』を例に ○岑天霞 1 1), 渡邊英徳 11 1) 東京大学情報学環. 学際情報学府学際情報学専攻 文化 $\cdot$ 人間情報学コース 渡邊研究室 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 福武ホール ROOM3 E-mail: [email protected] ## Visualizing trends of movie review by word clouds Taking the movie "Contagion" as an example CEN Tianxia ${ }^{1)}$, WATANAVE Hidenori ${ }^{11}$ 1) The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo113-0033 Japan ## 【発表概要】 本研究の目的は,社会環境の変化によって,災害をテーマとしたフィクション映画のレビュー の変化を捉えることである。そこで本研究は,ネットから感染症・災害をテーマとした映画のレビューを収集し,テキストマイニングによって可視化分析する。例として,2011 年のアメリカ映画『コンテイジョン(Contagion)』のレビューを対象に, ワードの出現頻度の比較する関数に基づいた色付けを導入してワードクラウドの可視化分析下. この上で,「COVID-19」の感染拡大の状況と重なって比較分析を行い,手法の有用性が確かめられた。 ## 1. はじめに 現在,「COVID-19」の流行によって, パンデミックをテーマにしたフィクション作品を改めて見直すようなことが起きている。また, ネットの普及によって,誰でも簡単に発信・受信できるようになって, 作品に関する議論から,大衆の意見が読み取れる. そこで災害テーマとしたフィクションの作品は過去の起きたことを記念すると共に,大衆に向けて警鐘を鳴らす役割を担いている.このような作品のレビューの分析によって, 過去の経験してなかったことについて, フィクション作品のレビューの変化を読み取れる。 ## 2. 先行研究$\cdot$事例 ## 2. 1 レビュ一情報抽出 商品やサービスのレビュー情報を始め, レビューを分析対象としたテキストマイニングによる評価情報の抽出・要約に関する研究・開発が多く行われている。小林ら(2005)は, デジタル製品のレビューから「意見をその根拠とともに抽出する」ために, 文書を分析対象にしている[1]. 山西ら(2015)は, 自由記述形式で書かれたレビューの構造を俯瞰するための評価視点 $(\mathrm{Ep})$ の抽出手法を提案している [2]. また, 抽出された情報を直感的にわかりに くく伝えるために, 抽出結果の可視化研究が行われている. その中で, テキストの可視化手法としてよく使われているのは, ワードクラウドである. ## 2. 2 レビュ一情報可視化 Heimerl ら(2014)は,「ユーザーはワードクラウドをざっと読むことで, テキストの用語空間の大まかなアイデアをすばやく得る. 頻繁な用語とトピックはすぐに伝えられ, 分析の良い出発点を提供する[3]」と述べっている. ワードクラウドの機能拡張が行われている。 Heimerl ら(2014)とLohmann ら(2015)は, キ ーワードと共に出現する共起語を可視化するツールを開発している[3][4]. $\mathrm{Xu}$ ら(2016)は, 意味的類似性に基づいてワ ードクラウドのレイアウトを決定している.映画『インターステラー(Interstellar)』 (2014)のレビューを対象に実験をおこなった結果, ワードクラウドには話題による区切りが明確している[5]。さらに, Lohmann ら (2012)は,SNS 投稿のタグの時間によるトレンドと共起のトレンドを単語の後ろで小さい棒グラフで可視化している[6]. こうした既存研究は, 情報を要約・可視化することを目的としている. 既存の手法を踏まえて, 本研究は, 映画レビューの「時間」 というメタなデータを利活用して,ワードク ラウドでレビューの変化を可視化する. ## 3. 映画『コンテイジョン』の例 ## 3. 1 レビューの俯瞰 『コンテイジョン』は,スティーブン・ソダーバーグ監督による高い死亡率をもつ感染症の务威とパニックを描く映画である。 「COVID-19」が流行している現実に酷似しているため、予言映画と言われている。本研究では,「Filmarks 映画」[7]における『コンテイジョン』のレビューデータ (2021 年 02 月 22 日まで)を取得し, 時系列によるレビュー 可視化分析を行う. まず,レビュー取得の手法としては, 「Python で「Filmarks 映画」から映画レビユーを全件取得する」[8]のブログ記事を参照する. また,「ワードクラウドで「トーゴーの日シンポジウム」のキーワードを可視化する方法」[9]のブログ記事を参照して, 二つの文書において, 単語の出現頻度を比較する関数を導入寸る. $\mathrm{f}=$ (文書 $\mathrm{A}$ での頻度-文書 $\mathrm{B}$ での頻度)/(文書 A での頻度+文書 B での頻度)となる. ここでは,文書Aは2020年以降のレビュー,文書Bは 2020 年前のレビューとなる。また,文書 A での頻度は, ワードの出現回数/レビュ一件数の平均値とある. $\mathrm{f}$ の範囲は 0.5 から 0.5 まで, $\mathrm{f}>0$ の時は 2020 年以降の頻度が高い, $\mathrm{f}<0$ の時は 2020 年前の頻度が高いとなる. この $\mathrm{f}$ の值の大きければ,字の色を濃く表示する. すなわち,文字の大きさは一般のワー ドクラウドと同じく, 単語の全体における出現回数の多少を表している. 文字の色の濃さは, 他の文書と比較するときの単語の頻度が高さを表している。コロナ前後のレビューを比較するために, レビューデータを 2020 年 1 月以前と以降二つの文書に分けて,比較する.図 1 に示すのはこの比較のワードクラウドの可視化結果である. ここの例から説明すると,文字が濃いほど, 2020 年以降のレビューにおいてワードの出現頻度が明らかに多くなっている。 図 1 から以下のことがいえる. コロナの前は,「ウィルス」「感染」のようなテーマに関する話題以外, 「キャスト」「豪華」などの制作陣や,「ラスト」「シーン」などの印象的なシーンに関する話題に集中している。コロナ以降は, 明らかに現実の 「COVID-19」に関する話題と繋がっている. 図 1.『コンテイジョン』レビューのコロナ前後の比較ワードクラウド 「今」「現実」「状況」「世界」「新型」「コロナ」などのワード以前より頻繁に出現し, レビューを書く鑑賞者は,映画を見る時に,今現在世界に蔓延している新型コロナに繋がって考えていると推測できる. さらに,「暴動」「デマ」「情報」「医療」のワードが「COVID-19」の流行以降に頻繁に出現することから, 感染症の爆発的な拡大がさまざまな問題をもたらしていることにより実感できていると推測できる. ## 3. 2 時系列による可視化分析 また, コロナ禍の中で, 各時期における鑑賞者の態度の変化を捉えるために,2020 年以降の各月のレビューを比較元として,他のレビューにおけるワードの出現頻度を可視化する(図 2). 図 2 の上部には, 2020 年 1 月から各月の特徴的なワードを濃く表示されているワードクラウドである. 下は比較用の日本の新規感染者数の推移図[10]である. 日本国内における感染の第 2 波のピックは 2020 年 8 月, 第 2 波のピックは 2021 年 1 月であるため, その後の 2020 年 9 月と 2021 年 2 月のワードクラウド (図 3 , 図 4)を例に比較してみる. 図 3 と図 4 から以下のことがいえる. コロナ禍の中の他の時期と比べて, 「ワクチン」は, 2020 年 9 月と 2021 年 2 月のレビユーにおける共通的な特徴語である。 以下は代表的なレビューの原文[11]である. $\cdot$ 2020 年 9 月「ワクチン」の文脈 「店で限定提供することになったワクチンを巡る 人々の争いも怖い。」 「今後の参考になったのはワクチンの接種順。」 「コロナのワクチンも完成したら、こんな風に抽選になるんかな。」 図 2. 『コンテイジョン』レビューのワードクラウドの変化と日本の新規感染者数の推移の比較 図 3.『コンテイジョン』の 2020 年 9 月のレビューワードクラウド - 2021 年 2 月「ワクチン」の文脈 「ワクチンが製造されはしたものの、いつ手に入るか分からない。」 「感染症よりワクチンを求める群衆や権力の恐ろしさ」 「ほぼ現在を的中させてる驚愕の内容だが中国のワクチン製造能力と WHO の機能不全 $\cdots 」$ また,ピックである 2020 年 8 月と 2021 年 1 月も同じく「ワクチン」が濃い色で表示されている。以上からわかるように,他の時期と比べて, 感染の拡大のピックとそのすぐ後は,人々がワクチンの生産・提供に関して, いつもより不安を抱えていると考えられる. 一方,他の特徴的なキーワードの例として, 2020 年 9 月には「人間」というワードが比較的に高頻度で, 2021 年 2 月には,「自分」というキーワードが比較的に高頻度である.前者は,感染症に対する不安を持ち,映画に描く人間の悪を見ると, 感染拡大の厳しい現状の中で,人間不信になる傾向がある。しかし, 図 4.『コンテイジョン』の 2021 年 2 月のレビューワードクラウド 2021 年 2 月になると,「自分」というワードが多く使われている。原文の文脈からわかるように,他の時期と比べて,この時期の関連文脈は, ウィルスと共生していくような強い当事者意識が表している. $\cdot$ 2020 年 9 月「人間」の文脈 「リアルでこわい。人間の悪い部分もガンガン見 「人間によるデマや陰謀論の拡散、暴動を起こしてまで買い占めに走る情報弱者」 「やっぱりウイルスより人間の方がタチが悪いという認識は世界共通なんだな」 - 2021 年 2 月 「自分」の文脈 「自分」しかし、他の時期と比べて、2021 年 2 月のレビューの原文には、 「自分が感染源になり得ること、誰かの命を奪つてしまう可能性があることを改めて考えさせられた。」 「自分の周りの愛すべき人々のことを想い行動しようと思いました。」 ## 4. おわりに 本研究は, 時系列による映画レビューの変化を捉えるために,ワードの出現頻度の比較する関数に基づいた色付けを導入した,ワー ドクラウドの可視化分析を行った. 映画レビユーの投稿時間に従って,レビューをワードクラウドで特徴的なワードを可視化することで, 各時期の特徴を捉えた。本研究を発展することで,災害をテーマとした映画のレビュ一の分析から, 社会環境の変化によるフィクション作品のメッセージの受容の変化を読み取ることを期待できる。 しかしながら, Heimerl ら(2014)が述べるように, ワードクラウドは「分析の良い出発点を提供する[3]」ものである. より深い分析を行うためには,ここから得た「出発点」に基づいて, 原文やもしくは他のテキスト分析手法が必要である. ## 註 ・参考文献 [1] 小林のぞみ, 乾健太郎, 松本裕治, 立石健二, 福島俊一, "意見抽出のための評価表現の収集," 自然言語処理, Vol.12, No.2, pp. $203-222,2005$. [2] 山西良典, 古田周史, 福本淳一, 西原陽子 (2015), "出現頻度と構文特徴を用いたレビュー構造の俯瞰のための評価視点の抽出," 知能と情報(日本知能情報ファジィ学会誌), Vol.27, No.1, pp.501-511, 2015. [3] F. Heimerl, S. Lohmann, S. Lange and T. Ertl, "Word Cloud Explorer: Text Analytics Based on Word Clouds," 2014 47th Hawaii International Conference on System Sciences, Waikoloa, HI, USA, 2014, pp. 1833-1842, doi: 10.1109/HICSS.2014.231. [4] S. Lohmann, F. Heimerl, F. Bopp, M. Burch and T. Ertl, "Concentri Cloud: Word Cloud Visualization for Multiple Text Documents," 2015 19th International Conference on Information Visualisation, Barcelona, Spain, 2015, pp. 114-120, doi: 10.1109/iV.2015.30.B. [5] J. Xu, Y. Tao and H. Lin, "Semantic word cloud generation based on word embeddings," 2016 IEEE Pacific Visualization Symposium (PacificVis), Taipei, Taiwan, 2016, pp. 239-243, doi: 10.1109/PACIFICVIS.2016.7465278. [6] S. Lohmann, M. Burch, H. Schmauder, and D. Weiskopf. Visual analysis of microblog content using time-varying co-occurrence highlighting in tag clouds. In Proc. Int. Work. Conf. Advanced Visual Interfaces, AVI. 12, pages 753-756. ACM, 2012. [7] 日本国内最大級の映画レビュー数を誇る映画情報サービス. https://filmarks.com [8] 2019 年 8 月 Python で「Filmarks 映画」から映画レビューを全件取得する(@天乃あまね)。 https://crimnut.hateblo.jp/entry/2018/08/30/120000 [9] ワードクラウドで「トーゴーの日シンポジウム」 のキーワードを可視化する方法(建石由佳 NBDC). https://biosciencedbc.jp/blog/20181220-01.html [10] 朝日新聞より日本の新規感染者数の推移 https://www.asahi.com/special/corona/ [11]「Filmarks 映画」における『コンテイジョン (Contagion)』のレビューを引用. https://filmarks.com/movies/11336 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [31] 新型コロナウィルス感染症 (COVID-19) 下の社会を記録するデジタルアーカイブの現状調査結果 $\bigcirc$ 時実象一 1 ) 1) 東京大学大学院情報学環, 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: [email protected] ## Survey on Digital Archives documenting the society under COVID-19 TOKIZANE Soichi ${ }^{1}$ 1) Interfaculty Institute in Information Studies, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, 113-0033 Japan ## 【発表概要】 COVID-19によって引き起こされた様々な事象をデジタルアーカイブとして記録する試みが世界中でおこなわれている。これらについてウェブ調査を行った結果を報告する。 ## 1. はじめに 今回の新型コロナ感染症のように、アジア・アフリカ・アメリカ・オセアニアなど地球上のすべての国と地域に影響をおよぼした事件は世界史的に見ても稀有である。この例をみない事件を記録しようとさまざまな試みがおこなわれている。 米国を中心とした世界の事例集としては、 IFPH-FIHP. が作成した Mapping Public History Projects about COVID-19がある[1]。 アーカイブを行っている機関を地図にマップ 図1. Mapping Public History Projects about COVID-19[1] している。 また欧州を中心とした事例集としては Archives Portal Europe Blog が作成した Memories of the pandemic がある[2]。わが国の事例はデジタルアーカイブ学会 SIG「新型コロナウィルス感染症に関するデジタルアー カイブ研究会」が作成した「新型コロナウィルス (COVID-19) 感染についてのデジタルア一カイブ (国内)」がある[3]。 これらの事例集と、ウェブ検索の結果の事例合計 332 件のウェブサイトを個別に調查したので報告する。なお日本以外の各国では新型コロナウィルスと呼げず、Covid-19 と呼ぶのが普通である。また外出禁止については lockdown または quarantine と呼ばれている。 ## 2. 調查結果 2. 1 国別分布 図2. Covid-19デジタルアーカイブの国別分布 COVID-19 に関するデジタルアーカイブの国別分布は図 2 のとおりである。 ## 2. 2 機関種別 アーカイブを行っている機関の種別は図 3 のとおりである。ここで「歴史協会」と分類しているのは、米国で Historical Society と呼ばれるもので、日本では郷土資料館に近いと思われ、各地に存在する。Covid-19 のアーカイブでは、この機関の活躍が目立っている。 図3. Covid-19デジタルアーカイブの機関別分布 ## 2. 3 アーカイブの対象 デジタルアーカイブの対象の分布は図 4 のとおりである。 図4. Covid-19デジタルアーカイブの対象 (1)資料・物体 ここには、感染防止用のマスク、店舗のポスター、ビラ、などが含まれる。 (2) 文書 文書資料、たとえば役所や学校の通知、新聞記事の切り抜き、などである。 (3) 写真・動画 Covid-19 に関連する、風景、自撮り、各種資料などの写真や動画である。 (4)体験談・日記、オーラル・ヒストリー 市民が Covid-19に関連して経験した体験談をテキスト、音声、動画で提供したもので、 多くは写真とともに投稿されている。 (5) アンケート アーカイブ機関が細かい入力フォームを用意して、そこに市民が記入する方式である。 (6) ブログや SNS 市民が Twitter,Facebook,Instagram, YouTube などに投稿した URL を収集してア一カイブに代替しているところがある。 (7)創作物 ロックダウン下でのさまざまな創作活動を収集している。絵、音楽、パーフォーマンス、手芸などがある。 ## 2. 4 収集コンテンツ公開状況 収集した写真等を公開しているところはそんなに多くなかった。集めたのはいいが整理に手間取っている可能性がある。公開している例としては表 1 のようである(100 以上のもの)。一番多いニューヨーク公共図書館の \#CovidStoriesNYC は Instagram を利用して写真等を集めている。この他収集数が 100 に満たないアーカイブは 24 件見つかった。 ## 3. 考察 Covid-19 のデジタルアーカイブ活動は世界各地で行われており、アーカイブの新しい形を示しているといえる。オーラル・ヒストリ一や創作活動のコレクションなどこれまでも存在していたものの、この機会に注目された。 もっとも収集されているコンテンツの数ははっきりいって多くなく、Instagram, YouTube などのコレクションにははるかに及ばない。 それにもかかわらず地域で収集努力をすることに意味があるのだろうか。Instagram や YouTube のような巨大なアーカイブでは、地 表 1. COVID-19 関連収集結果を公開しているデジタルアーカイブ (100 件以上)(2020.9.24 現在) & https://www.mcny.org/covidstoriesnyc \\ 域の投稿は世界中の投稿の海に埋没してしまう。その地域が Covid-19にどのように対応したかは、地域のアーカイブでないとわからない。今回の経験はそのことを改めて明らかにしたと考える。 なお収集データの詳細は J-STAGE Data で公開する。 ## 参考文献 [1] IFPH-FIHP. Mapping Public History Projects about COVID-19. https://ifph.hypotheses.org/3225 (参照 2021-02$08)$. [2] Archives Portal Europe Blog. Memories of the pandemic. https://archivesportaleurope.blog/2020/04/20/natio nal-archives-malta-collecting-testimonies-on- lockdown/ (参照 2021-02-08). [3] 新型コロナウィルス (COVID-19) 感染についてのデジタルアーカイブ (国内). http://stokizane.sakura.ne.jp/tokizane2/covid-19domestic/ (参照 2021-02-08). センスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [25] ジャパンサーチにおける二次利用条件整備の取組 ○高橋良平 1 ), 中川紗央里 ${ }^{1)}$, 徳原直子 1) 1)国立国会図書館電子情報部, 〒 100-8924 千代田区永田町 1-10-1 E-mail:[email protected] ## Organizations of the secondary use conditions of content in Japan Search TAKAHASHI Ryouhei ${ }^{1)}$, NAKAGAWA Saori1), TOKUHARA Naoko ${ }^{1)}$ 1) National Diet Library, 1-10-1 Nagata-cho, Chiyoda-ku, Tokyo, 100-8924 Japan ## 【発表概要】 国の分野横断型統合ポータル「ジャパンサーチ」は、我が国の幅広い分野のデジタルアーカイブのメタデータを集約し、多様なコンテンツをまとめて検索・閲覧・活用できるプラットフォー ムである。ジャパンサーチでは、コンテンツの二次利用を促進するため、分かりやすい利用条件の表示等に取り組んできた。本発表は、ジャパンサーチの活用事例と機能について紹介した上で、ジャパンサーチ上の二次利用条件整備の取組を解説するとともに、データのオープン化に向けた課題及び事例について報告するものである。 ## 1. はじめに 2020 年 8 月に正式公開された「ジャパンサ一チ」は、書籍等分野、文化財分野など、我が国の幅広い分野のデジタルアーカイブと連携し、多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索できる分野横断型統合ポータルである。ジャパンサーチの運営主体は「デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会」(庶務:内閣府知的財産戦略推進事務局)で、国立国会図書館も委員として参加しており、ジャパンサーチのシステム運用及び連携調整の実務を担当している。 ## 2. 活用事例と機能 ## 2. 1 ジャパンサーチの目的 ジャパンサーチは、デジタルアーカイブが日常的に活用され、多様な創作活動を支える社会・学術・文化の基盤となる「デジタルア一カイブ社会」の実現に向けた施策の一環として構築された。ジャパンサーチには、様々な分野や地域の情報とその活用者をつなぐプラットフォームとしての役割が期待されている[1](図 1)。 ## 2.2 主な活用事例と機能 ジャパンサーチ正式版公開以降、その活用事例として、初等 - 中等教育における調べ学習[2]や大学の博物館学芸員課程におけるギヤラリー制作の演習[3]、地域課題解決のための 図 1. デジタルアーカイブ社会のイメージ イベントでの地域情報の収集・発信[4]などが複数報告されている。これらの事例では、ジヤパンサーチのマイノート及びワークスペー スという機能を利用している。 マイノートとは、ジャパンサーチの連携コンテンツをブラウザに保存・編集できる機能であり、ユーザ登録等を要さず誰でも利用することができる。一方、正式版で実装されたワークスペースとは、マイノートを複数人で同時に編集することができる機能である。ワ ークスペースは連携機関向けの機能であるが、 ジャパンサーチお問合せフォーム[5]から申請いただければ、実務者検討委員会の了承のもと、連携機関でなくとも利用可能である。 ## 3. 二次利用条件表示 3. 1 ガイドラインの策定 活用促進のためには、各コンテンツの利用 条件が分かりやすく示されていることが重要である。実務者検討委員会は、2019 年に「デジタルアーカイブにおける望ましい二次利用条件表示の在り方について(2019 年版)」[6] (以下「2019 ガイドライン」という。)を公表した。これは、クリエイティブコモンズや Rights Statements [7]等の国際的な利用条件表示の状況を踏まえつつ、我が国のデジタルアーカイブにおける望ましい利用条件表示の在り方を示したものである。 ## 3. 2 ジャパンサーチの利用条件の設定方法 ジャパンサーチの利用条件設定の仕組みは、 2019 ガイドラインの考え方を踏まえて用意した。 ジャパンサーチでは、データ登録に当たつて、メタデータ、サムネイル、デジタルコンテンツそれぞれの利用条件表示を設定できる。 メタデータとサムネイルの利用条件は、 データベース単位で自由記述により設定でき、利用規約サイトにリンクを張ることもできる。 デジタルコンテンツについては、2019 ガイドラインに基づく 15 種類の「権利区分」から該当するものを1つ選択できる(表 1)。 表 1. 権利区分 権利区分は、データベース単位での一括設定も可能であるし、メタデータ内にデジタルコンテンツの権利に関する情報があれば、コンテンツ単位での設定も可能である。権利区分の位置付けは、あくまでデジタルコンテンツの利用条件を簡潔に要約した目安(マーク) という扱いである。権利区分のほかにデータベース単位で詳細な利用条件や利用規約サイトへのリンクを自由記述することもできる。 ## 3. 3 ジャパンサーチでの利用条件の表示 3.2 で設定した利用条件は各データベースの紹介ページに表示される(図 2)。また、デジタルコンテンツについては各コンテンツの詳細ページでも表示される。これらのページでは、設定した権利区分に加えて、早見表として「教育利用」「非商用利用」「商用利用」の目的ごとに○ $\Delta \times$ が表示される。自由記述で設定した内容は、早見表の下の「資料固有の条件」に表示される(図3)。 図 2. 二次利用条件表示例 (データベース紹介ページ) クレジット长記をすれは利用可 [ $\mathrm{Cc}$ Gr(高示) 図 3. 二次利用条件表示例(詳細ページ) ## 3. 4 利用に当たってのお願い ジャパンサーチでは、 $\mathrm{CC} 0 ・ \mathrm{PDM}$ 等の自由利用が可能なデータであっても、二次利用に際しては出典を明記するなどの配慮をサイトポリシーで利用者にお願いしている[8]。これは、コンテンツの著作者やデータを整備している連携機関に対して敬意を払い、オープン化の推進を後押しすることを目的としている。 コンテンツの引用・出典の記載例は、各コンテンツの詳細ページにある引用アイコン又は権利区分のボタンをクリックして簡単にコピ 一することができる(図 4)。 図 4.引用・出典記載例 ## 4. データのオープン化に向けて ## 4. 1 推奨している権利表記 コンテンツの利活用促進のためには、分かりやすい二次利用条件表示に加え、自由な利用を可能とするオープンな利用条件が設定されていることが望ましい。デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会の前身にあたる「デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会及び実務者協議会」 は、2017 年に「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」[9] を公表し、メタデータ、サムネイル、デジタルコンテンツそれぞれについて望ましい二次利用条件を示している。特に、公的機関のデータ又は公的助成により生成されたデータについては、メタデータは $\mathrm{CC0}$ 、サムネイル/プレビュー及びデジタルコンテンツは $\mathrm{CC} 0 、 \mathrm{CC} \mathrm{BY}$ 又は PDM を推奨している(表 2)。 表 2. 公的機関のデータ又は公的助成により生成されたデータの二次利用条件 ## 4. 2 連携コンテンツの現状 2021 年 1 月末現在、ジャパンサーチは 25 連携(つなぎ役)機関、118 データベース、約 2,200 万件のメタデータと連携している。連携機関には、できる限りオープンな利用条件の設定をお願いしているものの、ジャパンサーチの連携コンテンツのらち、 $\mathrm{CC} 0 、 \mathrm{PDM} 、$ CC BY 又は CC BY-SA といったオープンな条件設定がされているコンテンツは、 $4 \%$ 程度にとどまっている。また、権利区分の設定には機関内及び権利者等との調整が必要である等の理由で、「該当なし」を選択している機関も多い(表 3)。 コンテンツの著作権保護期間が満了しているにもかかわらずオープンな二次利用条件が設定できない理由は様々であるが、その一つに、肖像権、プライバシー権等がクリアされていないため、オープン化に踏み切ることに慎重な機関が複数あるようである。 第二の理由として、ジャパンサーチと連携することについて、原資料の所有者の理解が得られないという課題も聞いている。 また、第三の理由として、デジタルコンテンツを一定のコントロール下に置きたい、どのように活用されているのかを把握したいという要望もあり、データのオープン化は組織内での理解が得られなかったという声も聞かれる。 ## 4. 3 オープン化の事例 データのオープン化に消極的な連携機関がいる一方で、オープン化に積極的に取り組む連携機関も複数存在する。 国立国会図書館は、オープン化の推進のため、2020 年 11 月に第 22 回図書館総合展フォ ーラム「ジャパンサーチ正式版公開〜書籍等分野の連携及び利活用拡大に向けて〜」を開催した[10]。登壇した福井県文書館・福井県立図書館からは、「デジタルアーカイブ福井」 をオープンな条件(PDM、CC BY)に設定したところ、博物館での展示活用、海外メディアでの掲載やコンテンツの商品化、「みんなの翻刻」との連携等が実現したとの報告があつた。また、同じく登壇した青森県立図書館からは、「青森県立図書館デジタルアーカイブ」 を PDM 又は CC BY で公開したところ、利用申請の事前手続きがなくなり、業務軽減につながったとの報告があった。 また、2020 年 10 月、Europeana 主催の GIF アニメ作成コンテスト GIF IT UP [11]にジャパンサーチから「ColBase」(CC BY)、 「愛知県美術館コレクション」(PDM)、「東京富士美術館収蔵品データベース」 (CC0)、 「国立国会図書館デジタルコレクション」 (PDM)のデジタルコンテンツを素材として提供したところ、海外を含む多数のユーザから GIF アニメ作品の応募があり、GIPHY Backdrop Category Winner 賞の受賞作品も生まれた[12]。海外でのジャパンサーチの認知度も向上したと考えられる。 ## 5. 終わりに ジャパンサーチとの連携調整を進めている機関の中には、ジャパンサーチとの連携を機に、二次利用条件の検討を開始したという機関も多い。新型コロナウイルスの感染拡大により、デジタルアーカイブの重要性が改めて認識されている今、ジャパンサーチとの連携における二次利用条件整備の働きかけ、オー プン化の意義を改めて周知していく必要があると考えている。同時に、データのオープン化に向けた環境を醸成するためには、多くのユーザが実際にデータを活用し、成果をフィ ードバックすることが不可欠である。各位の積極的な活用をお願いする次第である。 ## 参考文献 [1] 実務者検討委員会. 3 か年総括報告書 : 我が国が目指すデジタルアーカイブ社会の実現に向けて. 2020/8, 108 p. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchi ve_suisiniinkai/pdf/r0208_3kanen_houkoku_honbu n.pdf (参照 2021-02-18). [2] 大井将生, 渡邊英徳. ジャパンサーチを活用した八イブリッド型キュレーション授業:遠隔教育の課題を解決するデジタルアーカイブの活用. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4, p.69-72. https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s69 (参照 2021-02-18). [3] 齊藤有里加. 五か年計画デジタル化: 蚌織錦絵ウェブ公開とジャパンサーチへの接続. 東京農工大学科学博物館ニュース速報. 2020,45, p.2-4. https://www.tuat-museum.org/wpcontent/uploads/2020/12/fb4808c4fe32f46232856f60 9f7176cf.pdf (参照 2021-02-18). [4] 2020 アーバンデータチャレンジ京都:ジャパンサ一チ・タウン. https://lab.ndl.go.jp/event/udc2020/ (参照 2021-02-18). [5] (ジャパンサーチ) お問合せ. https://jpsearch.go.jp/contact. (参照 2021-02-18). [6] 実務者検討委員会. デジタルアーカイブにおける 望ましい二次利用条件表示の在り方について(2019 年版). $2019 / 4,18$ p. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchi ve_suisiniinkai/jitumusya/2018/nijiriyou2019.pdf (参照 2021-02-18) [7] Rights Statements. https://rightsstatements.org/page/1.0/?language=en (参照 2021-02-18). [8] (ジャパンサーチ) サイトポリシー. https://jpsearch.go.jp/policy\#185tphq1umpons (参照 2021-02-18). [9] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会.デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン. 2017/4, 43p. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchi ve_kyougikai/guideline.pdf (参照 2021-02-18). [10] 第 22 回図書館総合展フォーラム「ジャパンサー チ正式版公開〜書籍等分野の連携及び利活用拡大に向けて〜」. https://jpsearch.go.jp/event/libraryfair2020/ (参照 2021-02-18). [11] GIF IT UP. https://gifitup.net/ (参照 2021-02-18). [12] GIF IT UP 2020 について. https://jpsearch.go.jp/event/gifitup2020 (参照 2021-02-18). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [24] 鑑賞者参加型展示による地域写真の調査手法写真展『どこコレ?——教えてください昭和のセンダイ』の事例 ○川直人 1) 1)せんだいメディアテーク,〒980-0821 宮城県仙台市青葉区春日町 2-1 E-mail:[email protected] ## A method for surveying local photographs thorough an exhibition with viewer participation : Case study of an exhibition DOKOKORE ? \\ OGAWA Naoto ${ ^{1}$} 1) Sendai mediatheque, 2-1 kasuga-machi, Aoba-ku, Sendai 980-0821 Japan ## 【発表概要】 宮城県仙台市にある複合文化施設せんだいメディアテークで、特定非営利活動法人 20 世紀ア一カイブ仙台と協働して 2013 年から実施している展覧会『どこコレ?——教えてください昭和のセンダイ』は、場所・年代等が不明の写真を展示し、鑑賞者の記憶をもとに複数の証言を集めることによって特定していく参加型の展示、あるいは、調查手法とも言える取り組みである。これは現実空間での集合知の活用例と捉えることができ、その簡便さとは裏腹に、従来活用できなかった写真・映像を特定していく有効な手法である。また、さまざまな世代・属性の来場者間のコミュニケーションを促す機会ともなっている。 ## 1. はじめに せんだいメディアテークは 2021 年で開館 20 年を迎えた宮城県仙台市にある複合文化施設である。図書館、ギャラリー、スタジオと呼ばれる上映設備や活動スペースを備えたフロアで構成されている。図書の貸し出しはもちろん、ギャラリー等の貸館が日常的な運用ではあるが、企画部門を持ち、展覧会や上映会を主催するほか、市民との協働によるアー カイブ活動や発信活動などのメディア文化活動が行われている。特に市民との協働による地域映像アーカイブ活動は、開館以来試行錯誤をしながら取り組んできたせんだいメディアテークの事業のひとつの柱である。近年の具体的な例としては、市民協働による東日本大震災の記録活動プラットフォーム「3 がつ 11 にちをわすれないためにセンター」がある。本稿で取り上げるプロジェクト「どこコレ?——おえてください昭和のセンダイ」も市民協働によるメディア文化活動のひとつで、特定非営利活動法人 20 世紀アーカイブ仙台 (2008年に任意団体として活動開始し、2009 年に法人化)とともにおこなってきた。 20 世紀アーカイブ仙台は、仙台地域の古い写真や映像を収集・保存し、それらを展示や上映、出版を通じて活用することを目的とした団体である。せんだいメディアテークとの協働は任意団体のころからあったが、2011 年の東日本大震災後からは、震災アーカイブ活動でも密接な関係を築いている。 ## 2. 実施の経緯 「どこコレ?」の着想は、東日本大震災から 1 年後の 2012 年度、せんだいメディアテークとしては震災アーカイブ事業を中心に進めるかたわらで生まれた。震災前からの市民協働によるメディア文化活動事業を組み立て直すため筆者がその業務を担当することになった際に、20 世紀アーカイブ仙台・副理事長の佐藤正実氏から「写っている内容がわからなくて公開できない写真や映像をなんとかできないか?」という問いかけがあったことに始まる。たしかに、従来のアーカイブ、あるいは、 ミュージアムの発想では、それらの写真群はいわば資料化されていない状態のため展示等には使えないものである。せんだいメディア テークは学芸員を配置しているものの郷土資料の専門家というわけではなく、またミュー ジアム施設ではありがちな悩みだが、寄贈資料をくまなく調査していくだけの人員を割くことも当然できない。何度かの意見交換を経てたどり着いたのは「わからないなら、見に来て人に教えてもらえば良い」という逆転の発想であった。幸いなことにせんだいメディアテークは 1 日 3000 人程度が利用する人の行き来の多い施設であり、往来があるところに無料展示すれば一定の反応があるだろうと予想した。「“どこ”なのかわからないものの“コレ”クション」と「どこはどこ?」をかけて 「どこコレ?」と命名した。(図 1) 前年度から予定されていた事業ではないため、会場も予算も確保されていなかったこともあり、展示はごく簡素なものを考えた。施設の余剩空間を会場に(これもまた幸いなことにせんだいメディアテークは壁での仕切りが少ないフレキシブルか空間利用ができる建築である)、おおよそ仙台であることは推測されるが詳細はわからない昭和期の街並みの写真を中心として展示し、会場を訪れた人々に教えてもらう設えである。当然解説は一切なく、番号と大きめの余白をとった A3 版の紙に写真を拡大印刷した。会場に付箋紙とぺンをおいて、気が付いたことを書いて貼ってもらうことにした。会場スタッフは展示監視のためではなく、訪れた人の話をさらに聞くために配置した。 図1. どこコレ?の写真例第 1 回目の「どこコレ?——しえてください昭和のセンダイ」は、2013 年 1 月 19 日から 3 月 3 日まで、せんだいメディアテーク 7 階ラウンジにておこなわれた。展示した写真は 85 点、そのうち 48 点が確定。ついた付箋は 365 枚であった。会期中 1538 名が来場した。主催者としては予想外に来場者の反応があり、場所の特定も進んだことが驚きであった。 以降、この企画は毎年恒例のものとして継続してせんだいメディアテークで行われている。直近となる 2020 年 5 月には、新型コロナウイルス禍の影響のため会場での開催を中止しつつ、インターネット上で写真を公開し SNS 等で情報を募るオンライン開催をしたり、地元テレビ局の番組と連携してもいる。それにより、これまで会場に来られなかった人々からの情報を集められる利点も見えている。 ところで、近年はせんだいメディアテークのほか、仙台市内の市民センター等生涯学習施設でも行われるようになってもいる。2019 年 4 月には、小樽図書館 (北海道)、お茶ナビゲート (東京都)、新宿区立四谷図書館(東京都)、県立長野図書館 (長野県) 、伊那市立図書館(長野県)、情報通信交流館 e-とぴあ・かがわ (香川県)、くまもと森都心プラザ図書館 (熊本県)、赤井仮設団地みんなの家(熊本県) で、それぞれの地域の写真をもとに開催された。 ## 3. 手法の特徵 来場者にも好評な企画として事業が継続されていることだけではなく、実際に写真の特定が進んでいること、他の施設でも実施の拡がりがあることから、一定の効果がある手法と見なせるが、具体的には下記の特徴を挙げることができるだろう ## (1) 簡単な設えで可能なこと そもそもの成立経緯からして特別な装置やソフトウェアを使うことなく、簡便に取り組めるものとして発想されたこともあるが、来場者のコメントの引き出しやすさやその反映のしやすさを考えて極めて簡単な設えとなっ ている。また、2020 年には「どこコレ?の作り方」[1]を文書にまとめて公開し、他でも同様のことができるよう広めてもいる。 (2)ゲーム性があること これは展覧会であるわけだが、何度かおこなうらちに、来場者からすれば、ある種の 「謎解きゲーム」であることが明らかになってきた。図書館をふくむ公共施設のフリースペースでの展示のためか、なにかの用事ついでと称して繰り返し訪れる来場者も見受けられ、徐々に情報が集まっていく様を面白がったり、さまざまな見解が飛び交う写真が日を追う事に特定されていく醍醐味を楽しむことができる。また、必ずしも写真の情報を知っている人だけが楽しめるものではなく、現在と照らし合わせて鑑賞したり、異なる世代の来場者の語りに耳を傾けるなど交流も促された。 (3)現実空間での集合知を活用できること 今日「集合知」とはウィキペディアのようなネット上のものを想像しがちであるが、上述のように人が行き交う公共施設のなかである程度長期にわたって展示しているため、そうしたメディアにアクセスしにくい高齢者の知見が生かされやすく、また、直接の知見はなくとも、写真相互の関係からの類推や、図書館の資料を参照したりする来場者が現れ、現実空間での集合知が実現されやすい。 ## 4. 課題と可能性 これまで述べたとおり、「どこコレ?」は簡便かつ効果的なメディア文化活動の実践であると言えるが、いくつかの課題もある。第一には、集合知による特定のため、最終的な結論の担保を誰がどの程度するのか明確ではない。これまで数は少ないが展示期間中に意見が割れ、証拠となる資料を積み上げながら結論に到ったケースもある。それ自体が市民活動としてのメディア実践の好例と捉えることもできるが、郷土史関係の専門施設や専門家との協力体制が望まれるところである。第二には、この手法による得意分野はやはり多くの人の記憶に残っている場所(いわゆる「街なか」)の写真・映像であることは事実で、郊外や自然風景は苦手と言わざるを得ない。この点は、ある程度地域を限定できる小さなコミュニティから写真・映像を収集し、そのコミュニティで展示をおこない、その場所を知っている可能性が高い来場者を想定した企画づくりによって、ある程度克服できると考えられる。また、第三には、写真の特定には適しているのに比べると映像においては十分に効果が出ているとは言い難い。動いている特定の場面に対してコメントを付けるのが難しいためと思われ、提示方法の工夫の余地がある。 そのような課題はあるものの、現状ではイベントとしてのやりやすさ、成果の見えやすさもあり、継続・拡散している取り組みである。近年では、過去に場所が特定された写真を展示し、そこに当時の社会風俗や個人的な感想を書き入れてもらい、新たなコミュニケ ーションが生まれるようにもなっている。また、これまでの取り組みの成果は、20 世紀ア一カイブ仙台による新聞連載や出版物に活かされているほか、せんだいメディアテークでは、同事業のウェブサイト(ブログ)[2]で特定できた写真を公開している。今後、展示により集められた情報群をつなぎ、地図などとも連動したデジタルアーカイブ化も可能性があるだろう。 ## 註$\cdot$参考文献 [1] PDF で公開している。 https://www.smt.jp/projects/doko/5a76c9c70 844443c9e8882abc5a55887a4a33d25.pdf [2] https://www.smt.jp/projects/doko/ この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [23] RGB-D カメラシステムを用いた展示会場の 3D 記録と 活用 ○中川源洋 1),中嶋謙一 1),平野和弘 1) 1) 株式会社ニコン次世代プロジェクト本部第 3 開発部, $\bar{\top} 108-6290$ 東京都港区港南 2-15-3 品川 インターシティ C 棟 E-mail: [email protected] ## Three-dimensional data recording and utilization of the exhibition using RGB-D camera system NAKAGAWA Yoshihiro ${ }^{1}$, NAKAJIMA Kenichi' ${ }^{1)}$, HIRANO Kazuhiro ${ }^{1)}$ 1) NIKON CORPORATION, Shinagawa Intercity Tower C, 2-15-3, Konan Minato-ku, Tokyo 108-6290 ## 【発表概要】 RGB-Depth(深度)カメラシステムは、カラー情報とカメラからの距離情報を同時に取得する技術である。本システムを用いれば、舞踊などの無形文化財や美術展の空間そのものを 3 次元デー タとして記録することができる。 従来技術では、再現できる鑑賞視点に制限があったり、立体物の表示に制限があるといった課題があった。本技術は、少ない視点から撮影しそのデータをツールに入力することだけで 3 次元データを作成するものである。取得した $3 \mathrm{D}$ データは自由視点で映像再現するので、実際の展覧会場で作品鑑賞に近い体験の提供が可能となる。また取得デー夕は空間のもつ情報をすべて包含していることから、作品そのものの映像情報だけではなく、作品の展示順番や作品同士の距離など情報を含み、展覧会場のアーカイブに適している。 本発表では、山形ビエンナーレ 2020 での展覧会場の 3 次元データ化実験事例を中心に 3 次元データの活用可能性に関して報告する。 ## 1. はじめに 美術展などは作品を実際に鑑賞できる貴重な場であったが、感染症等の影響で展覧会が中止になってしまうと鑑賞の機会が減少する。 バーチャル開催での補完が実施されているが、観客が見たい方向から鑑賞できないなど多くの課題があつた 近年は展覧会の記録に $360^{\circ}$ カメラを用いた広角画像[1]を用いられるようになっている。 $360^{\circ}$ カメラで取得した画像は、撮影場所から視線の方向を自由に選べる。また、複数台の $360^{\circ}$ カメラのデータを統合し、ウォークスル一映像を作成寸る技術[2]が提案されている。本手法により 2 点の撮影場所の間をウォークスルーするように移動ができるようになる。 しかしながらいずれも鑑賞地点に制限があり、 また空間を球体や平面に投影しているため、立体物の再現はできない。 そこで 3 次元空間のデータ化も可能な RGBD カメラシステムを用いた空間のモデリング技術の活用を提案する。本技術は空間を 3 次元的するもので、任意の視点での映像を再構築でき、実際の展覧会場に近い鑑賞体験の提供が可能である。データ取得においても、撮影行為は一般的なデジタルカメラでの撮影と類似しており専門的な知識を必要とせず、少ない視点からの撮影で大規模な空間の 3 次元データを取得できる。 ## 2. RGB-D システムを用いた記録 ## 2. 1 山形ビエンナーレ 2020 山形ビエンナーレは東北芸術工科大学が主催の現代美術の芸術祭で、2014 年から隔年で開催され、2020 年 9 月に第 4 回を迎えた。本来であれば文翔館などを会場に実際に作品を展示し公開する予定であったが、COVID-19 の影響でオンライン開催 $[3,4]$ に変更となった。 しかし、単にオンラインで開催するのではなく、芸工大のギャラリーに通常の展覧会と同じように作品を並べる形態をとっている。オンラインではあるものの、実体がそこにあるという状況を作り上げることを意図している。本実験は山形ビエンナーレに協力を受け、展 覧会場を 3 次元記録したものである。 図 1 山形ビエンナーレ展覧会場写真 ## 2. 2 RGB-D カメラシステム RGB-Depth(深度)カメラシステムは、カラ一情報とカメラからの距離情報を同時に取得する技術である。本システムを用いれば、舞踊などの無形文化財[5]や美術展の空間そのものを 3 次元データとして記録することができる。図 2 に RGB-D システムで取得されたデー タの例を示す。図 2(a)は取得システムからの距離情報を色相(赤; 近距離)のヒートマップとして表現したデプスマップ、(b)は RGB 画像である。撮影地点からの対象の形状と色彩の情報が取得できるので、視野内の空間の 3 次元化が可能となる。 ## 2. 3 RGB-D システムを用いた会場モデリング前節で説明したRGB-Dカメラシステムを用 いた展示空間のモデリング結果を示す。本実験は、山形ビエンナーレの作品展示中の東北芸術工科大学 7 階ギャラリーTHE TOP で実施した。図 3 に示したような 10 視点から撮影 を実施した。撮影に際し三脚等を用いることなく手持ち撮影によって実施しており、撮影自体に要した実質的時間は 10 分程度で、専門的技術も不要である。図 4 に空間のモデリング結果を示す。会場の壁面や作品の配置状況などが確認できる。展覧会企画者自らのデー 夕化が可能になるため、数多くの展覧会ア一カイブが生成されることを期待している。 (a)デブスマップ (b)RGB 画像 図 2 RGB-D システム取得データ例 図 3 データ取得視点 図 4 会場モデリング結果 ## 2. 4 RGB-D システムを用いた立体物モデリン グ また立体像など複雑な形状を持つ対象に関しては、空間取得とは別にデータを取得した。対象との距離を近づけることで、分解能を高めたり、計測誤差の低減による高精度化が可能である。また表面に模様があるような被写体の場合などは、RGB-D システムを用いずに複数の RGB 画像からデータを取得するフォトグラメタリを用いてもよい。図 5、6 にそれぞれに手法で取得したモデルの例を示す。 ## 3. バーチャルミュージアム 前章で説明した空間データと作品データを統合し、展覧会空間を仮想的に再現した結果を図 7 に示す。絵画や写真などの形状の単純な作品に関しては、テクスチャを高精細なデジタルカメラで取得した画像をテクスチャとして用いてており、再現性を向上させている。図 7 が示すように、本データを用いれば自由視点で鑑賞ができるので、実際の展覧会場での鑑賞体験に近づけるとこができる。 従来の記録では複数方向からの写真や代表的なサイズといった記録を取りまとめてアー カイブする必要があったが、本技術を用いれば一つのデータの中に情報が包含されているため管理が簡単になる。また作品の配置など記録が漏れがちな情報も残すことができるので、展覧会のアーカイブ手法として適していると考えている。 図 5 RGB-D システムを用いたモデル 図 6 フォトグラメタリを用いたモデル 図 7 仮想展覧会場 我々は本美術展に際し、無形民俗芸能やその関連施設なども記録している。その対象の性質から、展覧会場への設置は困難であるが、仮想空間内であれば、併設が容易にできる。図 8 は展覧会場に波除地蔵を仮想的に設置した例である。山形ビエンナーレは隔年で開催されるものであり、次回開催も計画されている。その際本データなどを活用し展示することで、直接鑑賞できなかった 2020 年の美術展を感じ、より深い鑑賞体験に繋げられるのではないだろうか。このように新しいデジタルアーカイブの活用事例になると考えている。 (a)共同墓地に仮設置された波除地蔵 (b)展覧空間に仮想的に地蔵を合成した例図 8 仮想合成結果 ## 4. おわりに 本報告では RGB-Dカメラシステムを用いた美術展の展示空間のデジタル化技術とその実証実験を示した。本手法を用いれば専門知識不要で、展示作品、作品の配置情報を含んだ展示空間のアーカイビングが可能である。またアーカイブデータにより自由視点のバーチヤルミュージアムなどへも活用もできる。 今後は $3 \mathrm{D}$ データに作品データをメタデータとして取り込んだり、本技術の実利用展開を推進させていく予定である。 本実験に当たり多大なるご協力をいただいた山形ビエンナーレのキュレーターの三瀬夏之介氏、宮本晶朗氏をはじめとしたビエンナ ーレ関係者に感謝いたします。 ## 参考文献 [1] 林知代. 梶原麻世. 360 度パノラマ画像を用いた書道展のデジタルアーカイブ化. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, vol4, No. S1, p. s57s60. [2] 田中美苗. 河合直樹. 近藤孝夫. $360^{\circ}$ ビュ一モーフィング : 2 枚のパノラマ写真によるウォークスルー可能な空間のアーカイブ. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, vol4, No. S1, p. s61-s64. [3] みちのおくの芸術祭山形ビエンナーレ. https://biennale.tuad.ac.jp/ (参照 2020-02-26). [4] 現代山形考藻が湖伝説. https://yamagatako.jp/mogaumi/ (参照 2020-02-26). [5] 江添誠. 豊田浩志. 海外博物館彫像資料の 3 次元デジタルアーカイブ化の試み : イタリア共和国オスティア・アンティカ遺跡博物館での取り組みを事例として. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, vol4, No. S1, p. s53-s56. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [22] 北海道の郷土資料デジタルデータの講義活用 皆川雅章 1 ) 1)札幌学院大学法学部, 〒069-8555 江別市文京台 11 E-mail: [email protected] ## Using Digital Data of Hokkaido's Folk Materials in a University Lecture \author{ MINAGAWA Masaaki ${ }^{1}$ } 1) Sapporo Gakuin University, 11 Bunkyodai, Ebetsu, 069-8555 Japan ## 【発表概要】 地域文化デジタルアーカイブ化の将来の担い手を養成する目的で,2020 年度から関連科目を開講している。専攻コースを持たず,人文系・社会科学系の履修者が混在している講義の中で地域文化やデジタルアーカイブへの関心を高めさせる工夫を試みた。本報告では, 2020 年度開講科目「デジタルアーカイブ論」において行った「地域文化に目を向けさせ,デジタルで記録を残すことの有用性を実感させる」取り組みについて記す。筆者がデジタルアーカイブ化を目的として撮影を行ってきた北海道郷土資料のデジタルデータに解説を付して「今週の画像」として履修者に毎回の講義で紹介した。使用したデジタルデータと履修者によるベスト 3 選定結果を記す。 ## 1. はじめに 北海道には,明治初期からの開拓者達の苦闘の痕跡や記録が各地に残っている。また,北海道の鉄道網は農業, 水産業, 林業, 鉱業などの産業とともに発展し, 人口変動や産業構造の変化の影響を受け衰退を余儀なくされた。各地の博物館・資料館に保存されている郷土資料は,人々の生活を通じて,そのような歴史を物語っている。報告者は, そのような資料のデジタルアーカイブ化を図り, 記録を残していくために, 2018 年から北海道内の博物館,資料館を訪問し,郷土資料を撮影・記録しデジタルデータを蓄積してきた。今年度は, そのデータを講義で活用する試みを行った。 報告者は, 地域文化のデジタルアーカイブ化の将来の担い手を養成する目的で, 2020 年度から関連科目を開講している。本学はデジタルアーキビスト養成などの専攻コースを持たないため, 関心の高い資格取得目的の履修者の存在を前提とした教育を実施できる状況にはない。加えて, 履修者は人文系, 社会科学系が混在しているため, 学習の動機付けとして講義の中で地域文化やデジタルアーカイブへの関心を高めさせる工夫も必要となる。 2020 年度開講科目「デジタルアーカイブ論」 において, デジタル化技術, 著作権, メタデ一タなどに関する講義内容と並行して, 履修者に「地域文化に目を向けさせ,デジタルで記録を残すことの有用性を実感させる」ため の取り組みを実施した。 具体的には, LMS のコース上で上述の蓄積デジタルデータに解説を付して「今週の画像」 として履修者に毎回の講義で紹介した。最終回では,履修者による「今週の画像ベスト 3$\rfloor$ の選定を行った。 ## 2. デジタルア一カイブ講義科目概要 2020 年度に「文化と情報」,「デジタルアー カイブ論」を開講し, 2021 年度に「デジタルアーカイブ演習」, 2022 年度に「地域情報ア ーカイブ実習」を順次開講する。本報告はデジタルアーカイブ論における取組である。 ## 2. 1 デジタルアーカイブ論の概要 この科目は, 「デジタルアーカイブ演習」を履修する上での基礎知識を学ぶことを目的としている。概要は次の通りである。『デジタルアーカイブの意義, 資料のデジタル化技術,著作権, プライバシー, メタデータ, 情報発信の方法などについての基礎知識を得る。文化財のみならず,地域の文化・歴史を後世に受け継いでいくための資料を対象としたデジタルアーカイブ化について例示しながら講義を行う。具体的には,地域に存在する種々の文化的 - 歴史的資料, 資料収集と権利処理,収集した資料の選定,資料の態様に応じたデジタル化の方法, 資料の保存・保管と管理, データベース構築とメタデータの設計, 社会におけるデジタルアーカイブの利用の促進, を話題とする。』 ## 2.2 「今週の画像」 LMS のコース上の「今週の画像」掲載例を図 1 に示す。PowerPoint スライドを PDF 化して掲載し,基本的な形式は次の通りである。 (1)施設名,外観または展示物画像 (2) 施設および展示物に関する概要解説 (3) 展示画像 (複数) 図 1.「今週の画像」の掲載例 図 2 に, 掲載・紹介した施設の地図上の分布を示す。続いてLMS のコース上における各週の紹介施設名と説明文(一部編集・省略) を示す。(施設番号の数字と,図 2 中の数字,参考 URL の番号が対応している。) 図 2 . 「今週の画像」掲載施設の位置 ## 【1】天塩川歴史資料館 (説明文なし) \\ 【2】旧檜山爾志郡役所(きゅうひやまにしぐんやく しょ) 北海道庁の出先機関である郡役所と警察署の業務を執り行なう建物として, 明治 20 年に建てられた。その後, 檜山支庁庁と江差警察署の合同庁舎, 江差警察署の単独庁舎, 江差町役場の分庁舎などに使用された。 ## 【3】国指定重要文化財旧花田家番屋(小平町) 建造物では最北端の国指定重要文化財。平成 13 年には北海道遺産にも認定されている。明治 38 年頃に建築され, 道内で現存する番屋では最大の規模を有し, 当時雇い人が 200 人を超えた大鰊漁家。 ## 【4】ふるさと館 JRY(湧別町) 屯田兵としてこの地に入植した先人たちが助け合いの精神で築いた町の歴史が貴重な資料とともに紹介されている。1 階には, 北海道遺産に認定されている屯田兵屋(明治 30 年造)の実物だけでなく,屯田兵の肖像画 (382人分)が展示されている。 ## 【5】太平洋炭礦炭鉱展示館 (釧路市) かつて釧路にあった太平洋炭鉱の跡地近くにあり, 釧路の炭鉱の歴史や石炭採掘の手法などを知ることができる。入口には太平洋炭鉱で採掘された約 $6 \mathrm{t}$ もある塊炭が展示されている。 ## 【6】旧下ヨイチ運上家(きゅうしもよいちうんじょう や) (余市町) 運上家は場所請負人によって設置された施設で,和人とアイヌとの交易の場所である。現存する運上家は旧下ヨイチ運上家一箇所のみである。松前藩の蝦夷地支配の遺構として昭和 46 年, 文化財保護法によって建物が重要文化財に指定された。 ## 【7】帯広百年記念館 晚成社による開拓の歴史 1883 年に, 現在の帯広市へ入植した依田勉三が率いる晚成社によって, 十勝内陸部の本格的な開拓が始まった。原生林を切り拓き,鍬を下ろし,款類や野菜類を栽培したが,その開墾生活は苦難に満ちたものだった。晚成社による開拓の歴史を見ることができる。 ## 【8】博物館網走監獄(網走市) 明治 23 年網走囚徒外役所が小さな漁村の網走に誕生した。歴史的背景や政情により犯罪者となった人々が未開の地, 北海道集治監に送られ北海道開拓という使命のもと北海道開拓に果たした功績と, 彼らが罪を償いながら暮らした証である明治の行刑建築物を文化財として保存公開している。 ## 【9】山の水族館 (北見市留辺檴 (るべしべ) 町温根湯(おんねゆ) 温泉) 北の大地の水族館とも呼称される。大雪山のふもとに建つ水族館で,淡水魚を展示している。巨大イトウを群れで飼育している。見どころは,「日本本初の滝つぼの水槽」,「世界初の冬に凍る四季の水槽」,「日本最大の $1 \mathrm{~m}$級のイトウ」である。 ## 【10】咸臨丸の錨(木古内町鄉土資料館) 咸臨丸は, 1857 年にオランダのキンデルダイクで産声をあげ,幕府海軍創成期の主力艦として配備され, 幕末の動乱期に日本近代化の歴史的象徴として活躍した。1871 年 9 月 20 日,木古内町のサラキ岬沖で座礁,咸臨丸はその数日後に破船沈没した。 ## 【11】空知集治監(そらちしゅうじかん)(三笠市立博物館) 明治 14 年に北海道で初めての集治監が月形町に(樺戸集治監),翌年二番目の集治監が空知集治監の名称で三笠に作られた。空知集治監は明治 34 年に廃止されるまで存続したが,気候風土の厳しい北海道での使役は, 囚人たちに数多くの犠牲者を出すことになった。 ## 【12】日本最初$\cdot$北海道最初物語(岩内町鄉土館)北海道最初の水力発電 野生ホップ発見の地 町費日本最初の漁港建設 日本のアスパラガス発祥の地 ## 【13】昆布の産地と緑化事業 (えりも町郷土資料館「ほろいずみ」$\cdot$水産の館) 襟裳岬周辺は, 明治時代の終わりから昭和初期にかけて木を切りつくし森が砂漠化し,砂漠から飛ぶ赤土が,襟裳岬の海を茶色に染め, 昆布を死滅させようとしていた。この砂漠化した大地を, 再び緑の森に復元させるための壮大な治山事業が昭和 28 年林野庁によって開始された。この事業は延々と続けられ,平成 15 年には実施 50 周年を迎えた。 ## 【14】三毛別罷事件 (さんけべつひぐまじけん) (苫前町郷土資料館) 大正 4 年 12 月 9 日から 12 月 14 日にかけて, 北海道苫前郡苫前村三毛別六線沢で発生した熊害。エゾヒグマが数度にわたり民家を襲い,開拓民 7 名が死亡, 3 名が重傷を負った。熊が人家を襲う様子が展示されている。 ## 【15】バター餉製造器 (八雲町郷土資料館) バターを使用して製造される飴菓子。北海道を代表する土産菒子でもある。北海道二海郡八雲町発祥の銘菒であり,考案者は榊原製飴工場の榊原安茂。八雲町郷土資料館ではバター飴製造器が展示されている。 ## 2.3 履修者の反応 当該科目と関連科目(文化と情報)の今年度履修者数は次の通りである。 & 6 & \\ 履修者による「今週の画像ベスト 3 」の選定を行った結果(回答者数 20)は表 1 の通りである。上位から「博物館網走監獄」,「山の水族館」(イトウの画像),「苫前町郷土資料館」 (図1の熊の画像)の順となっている。この結果は, 施設の知名度, 掲載した画像の「見た目」に影響されている可能性がある。他方で, 履修者にとって必ずしも既知ではない施設が幅広く選択されており, 当初の目的「地域文化に目を向けさせ,デジタルで記録を残すことの有用性を実感させる」に寄与する結果が得られていると推測する。 表 1.「ベスト 3」投票結果 ## 3. おわりに 地域文化デジタルアーカイブ化の将来の担い手を養成する目的で開講した科目において,地域文化に目を向けさせ,デジタルで記録を残すことの有用性を実感させる」ための取り組みの結果を報告した。効果については当該科目及び関連科目において引き続き検証を続ける。 ## 参考文献 [1] 天塩川歴史資料館 http://www.teshiotown.hokkaido.jp/?page_id=612 (参照 2021-02-28). [2]旧檜山爾志郡役所 https://www.hokkaido-esashi.jp/museum/top.htm (参照 2021-02-28). [3] 国指定重要文化財旧花田家番屋 http://www.town.obira.hokkaido.jp/kanko/detail/000 02502.html (参照 2021-02-28). [4] ふるさと館 JRY https://www.town.yubetsu.lg.jp/administration/cult ure/detail.html?content=177 (参照 2021-03-26). [5] 太平洋炭礦炭鉱展示館 https://www.city.kushiro.lg.jp/sangyou/san_shien/se kitann/00001_00001.html (参照 2021-02-28). [6] 旧下ヨイチ運上家(きゅうしもよいちうんじょう や) https://www.town.yoichi.hokkaido.jp/machi/syoukai/ yoichiunzyouya.html (参照 2021-02-28). [7] 帯広百年記念館 http://museum-obihiro.jp/occm/ (参照 2021-02-28). [8] 博物館網走監獄 https://www.kangoku.jp/ (参照 2021-02-28) [9]山の水族館 https://onneyu-aq.com/ (参照 2021-02-28) [10] 木古内町郷土資料館 http://www.town.kikonai.hokkaido.jp/kanko/annai/k yodoshiryokan.html (参照 2021-02-28) [11] 三笠市立博物館 https://www.city.mikasa.hokkaido.jp/museum/ (参照 2021-02-28) [12] 岩内町郷土館 http://www.iwanaikyoudokan.com/ (参照 2021-0228). [13] えりも町郷土資料館「ほろいずみ」・水産の館 https://www.town.erimo.lg.jp/horoizumi/index.html (参照 2021-02-28). [14] 苫前町郷土資料館 http://www.town.tomamae.lg.jp/section/kyoiku/shak aikyoiku/lg6iib0000000lu6.html (参照 2021-02-28). [15] 八雲町郷土資料館 https://www.town.yakumo.lg.jp/soshiki/kyoudo/ (参照 2021-02-28). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [21]デジタルアーカイブを活用した地域経済振興の現状と 展望: 映像アーカイブの性質と地域における効果の関係に注目した実証研究 ○宮田 悠史 1 1) 1)立命館大学大学院文学研究科, 〒 603-8577 京都市北区等持院北町 56-1 E-mail:[email protected] ## The Current status and prospects of regional economic promotion utilizing digital archives: Empirical research focusing on the relationship between the nature of digital archives and their effects in the region MIYATA Yuji 1 1) 1) RITSUMEIKAN UNIVERSITY Graduate School of Letters, 56-1 Tojiinkita-machi Kitaku Kyoto-city, 603-8577 Japan ## 【発表概要】 我が国の「デジタルアーカイブ」草創期において、文化資産のデジタル記録とアドバタイジングで「地域振興」を図る動きが自治体で進んだ。しかし、それら自治体によるデジタルアーカイブの全てが地域振興、とりわけ筆者が注目する「地域の経済振興」に関連するとはいいがたい。本研究では、自治体による映像アーカイブと地域における経済振興の関係に注目し、過去(草創期)に構築された自治体による映像に重点を置いたデジタルアーカイブ(上田市デジタルアー カイブ、石川新情報書府、Wonder 沖縄)の性質と、地域に与えた経済振興に関する効果について整理する。その後、それらの関係に関する分析をとおして、地域経済振興に資する自治体における映像アーカイブの性質について仮説を生成する。ただし、本発表は当該研究の前半部分を対象とし、事例の性質と地域に与えた効果について特徴的な事項を整理するものである。 ## 1. はじめに〜研究の立場 我が国における「デジタルアーカイブ」(以 下、DA)は、1990 年代前半のデジタル技術発展を背景としており、この草創期において 「文化資産のデジタル記録とアピールによって『地域振興』を」図る動きが地方公共団体 (以下、自治体)等で進んだ[1]。その中では、 いくつかの DA が構築されたが、現在ではその多くが稼働していないなど、それらの成果や現状には不透明な部分がある。 自治体における DA の対象は、地域の古文書や古地図、美術品、工芸品、映像など様々であり、DA の形態も Web サイトや専門施設など多様である。加えて、草創期から展望されている地域振興の概念にも地域ごとに相違があるため、自治体によって設置されている DAの「性質」自体には多様性がある。 筆者の研究は、「自治体における映像の DA」 (以下、自治体映像アーカイブ)による「地域の経済振興に関する効果」に注目したものであるが、経済振興に関する効果にも多様性が想定される。その中では、DA 構築における事業費などの直接的な効果や、DA によるアピールがもたらした観光客増加等の効果なごが考えられる。筆者は、地域の経済振興において地域事業者の発展に視点を置いており DA に関する諸活動が地域の他産業と連関して生じる経済波及効果に注目して研究を行っている。最初の重要な目標は、DA による経済波及効果を確認することにあるが、研究全体においては「地域に経済波及効果をもたらしうる性質の自治体映像アーカイブ」の構築を計画している。 本研究は、その初期段階のものであり、今後の研究におけるモデルとして、「過去(草創期)に自治体によって構築された映像に重点を置いたデジタルアーカイブ」(以下、草創期自治体アーカイブ)に注目したものである。 ## 2. 背景と目的 ## 2. 1 背景 国が設置した協議会の報告書では、我が国における DA について「文化の保存、継承、発展の基盤」としての重要性が示されており、自治体などの公的機関には、地域における DA 活動の中心として機能することが求められている[2]。そのため、自治体が所有する映像等の文化資産をデジタルアーカイブすることは、行政政策としても位置付けられてきた。設置者を自治体に限定しなければ、地域における映像の DA(以下、地域映像アーカイブ)はこれまでに様々な地域で構築されており、それらに関する研究もあわせて行われてきた。例えば、映像によって地域をアピールすることは、現在でも多くの自治体で行われている方法であるが、1950 年代における自治体が製作した観光映画などの研究をとおして、 それらの歴史が示されている[3]。また、個別の地域映像アーカイブ構築の実践をとおして、 その構築における課題として「人的・資金的コスト問題」なども示されている[4]。それらの研究は、個別の事例を対象としていながらも、様々な研究者によって全国津々浦々の地域映像アーカイブを対象としながら行われてきたことから、多様な地域映像アーカイブにおいて援用し得る知見といえる。 しかし、現状では筆者が注目している経済波及効果について直接的に視点を置いた研究は見当たらず、筆者の研究は地域映像アーカイブに関するこれらの先行研究における視点と方法とは異なるものである。また、先述のとおり自治体映像アーカイブ構築には一定の要求と意義があるものと考えられるが、それらを専門的に対象とした研究も少ない。そのため、当該分野の研究をより積極的に進める必要も十分にあるものといえる。 筆者は、自治体映像アーカイブによる地域の経済振興に関する研究を行っており、これまでに当該アーカイブの全体像を把握するための俯瞰的な調査を行った。結果として、 2020 年時点で 335 件の自治体映像アーカイブを確認したが(調查対象は、市以上の自治体 に限定している)、この全てが直截に地域の経済振興と関連するものとはいえない。また、 それらの性質と効果を調査するには対象の数が膨大であるため、その全てを最初から調查の対象とすることは合理性に欠ける[5]。 そこで、本研究では自治体映像アーカイブと類似した性質をもち、すでに一定期間運用されたことで地域における効果が幅広く検証可能な草創期自治体アーカイブに注目し、それらの性質と地域に与えた効果について調查分析することとしたい。 ## 2. 2 目的 本研究では、自治体映像アーカイブと地域経済振興の関連を念頭に置き、まずは草創期自治体アーカイブの性質と、当該 DA が地域に与えた経済振興に関する効果について整理する。また、その後それらの関係に関する俯瞰的な分析と考察をとおして、地域経済振興に資する自治体映像アーカイブの性質に関する仮説の生成までを計画している。 ただし、本稿はこの前半部分である草創期自治体アーカイブの性質と効果に関する特徴的事項を整理するまでにとどまるものである。 ## 3. 事例の調査と整理 3. 1 調査の対象 「上田市デジタルアーカイブ」(長野県上田市 : 1995 年設置)と「石川新情報書府」(石川県 : 1996 年設置)は、草創期自治体アーカイブの代表的な事例である。これらは、上田市デジタルアーカイブが当時から継続して存在している希少な事例であるとともに、石川新情報書府も、1996 年から 2015 年までの 20 年間にわたって長期間稼働した実績を持つ稀有な事例である。また、「Wonder 沖縄」(沖縄県 : 2002 年設置)は、国が沖縄振興施策として強力に支援して構築された草創期自治体アーカイブであり、本事例ほど国が積極的に支援した事例は見当たらない。以上から、これら三事例を研究の対象とする。 ## 3. 2 調査の方法 本研究は、事例ごとにおける DA としての 性質と効果の整理及びそれらの関係について俯瞰的に分析、考察するものであるため、各事例に共通した項目を調査する必要がある。 そこで、対象事例における様々な性質を可能な限り広く把握するため「5W1H」(時期、人物、モノ、形態・方法、場所、理由)に注目して調査を行う。また、その際にはDA の構想から閉鎖に至る時間軸に注目し、「構想・準備期」「内容作成 ・構築期」「設置期」「運用期」「閉鎖時期」の 5 期間におけるそれぞれの $5 \mathrm{~W} 1 \mathrm{H}$ を、文献及び政策資料の調査と関係者への聞き取りなどから整理する。 地域における経済振興に関する効果は、それらの受益者を想定して行うものである。現時点では、当該効果について幅広く調査するものであるが、本研究は地域の経済波及効果に視点を置いたものであるため、設置者である「自治体 (行政)」と、自治体による構築物の使用が想定されている「市民(住民)」に加え、地域における「事業者」に注目して調查を行う。なお、引き続き時間軸を調査の視点に設定するが、DA による効果は構築物の設置以降に発生するため、「設置期」「運用期」 「閉鎖後」の 3 期間に注目する。そして、それぞれの期間において受益者それぞれが得た効果を文献、政策資料及び統計資料等の調查と関係者への聞き取りなどから整理する。 ## 3. 3 調查の結果 ここでは、3.2で示した全ての調査項目における結果を示した上で、事例の性質と地域において確認された効果について整理するべきであるが、本稿では紙面が限定されているためそれらの全てを記載することは難しい。 そこで、本稿においては各事例の性質及び効果における特徴的な事項の報告にとどめ、詳細な調査結果は別稿に譲ることとする。 ## 3. 3.1 上田市デジタルアーカイブ 上田市デジタルアーカイブは、1995 年に長野県上田市によって設置された DA であり、三事例の中では唯一現在でも稼働している。本 DA は、同市の博物館等が所蔵する多様な文化資産などが収録されるとともに、映像を その中心としており、それらは Web 上において視聴することができる。ここで収録されている映像は既存のものにとどまらず、設立以来、市内業者とともに映像コンテンツの製作にも取り組んできた。これにより、産業振興の視点では、「人材育成と地域での起業について実績を残してきた」ことが示されている[6]。本 DA は、上田市マルチメディア情報センター(以下、情報センター)に併設されており、設立以来上田市が直営で運営している。 ただし、市職員が直接運用するのではなく、一般財団法人地域振興事業団が管理運用を市から受託してきたため、専門的なノウハウが人事異動等で損なわれることなく蓄積されている。近年は、多くの自治体において公共施設が指定管理者制度によって運営されているが、上田市デジタルアーカイブを含み情報センターの運営が業務委託で行われていることは、本事例の特徴的な性質といえる。 ## 3. 3.2 石川新情報書府 石川新情報書府は、1996 年に石川県によって設置された DA であり、同県における「有形無形の文化資産に関するデジタルアーカイブコンテンツ」が Web 上で公開されていたが、現在はすでに閉鎖されている。収録されていたコンテンツは、県内企業によって第 1 期 (1996 年から 1998 年)から第 5 期(2013 年から 2015 年)における各期のテーマに沿って製作されており、「各種コンテンツコンクールで入賞を果たす」など、地域企業の育成に効果があったことがわかる[7]。 本 DA の特徴的な性質は、先述のように期間を区切って構想を進めているところにあるが、第 1 期から第 3 期までは、石川県が直接的に事業として行っており、コンテンツの製作支援とデジタルコンテンツのアーカイブが並行して行われている。その後、第 4 期以降はコンテンツ産業の振興により視点を置いたことから、事業の実施主体が公益財団法人石川県産業創出支援機構に移り、石川県自体は同法人に事業費用を支出する役割に転じている。また、事業内容もよりデジタルコンテン ツの製作支援に注力したものとなっており、同時期からは石川新情報書府の Web サイトにおいてコンテンツの収録は行われていない。本事例は、DA の構築を出発点として、地域産業の育成に重点を絞り込んでいったところに特徴的な性質があるといえよう。 ## 3. 3. 3 Wonder 沖縄 Wonder 沖縄は、2002 年に沖縄県によって設置された DA であるが、その設立構想には国の施策が大きく影響している。国は、平成 14 年度(2002年)における新たな沖縄振興計画において、DA の構築を構想して予算化するとともに、オブザーバーとして事業に関与した。沖縄県は、当該予算を受けて Wonder 沖縄を構築したが、継続的な活動が行われることなく現在では閉鎖されている。 本 DA は、沖縄の歴史・風土等の文化資産に関するデジタルコンテンツを製作して収録したものであるが、コンテンツ製作には県外企業の参入が事業の当初から想定されている点が特徵である。その中では、大規模かつ実績のある県外企業が沖縄県内の企業とコンソ ーシアムを形成してコンテンツを制作することで、県内企業への技術移転が図られている。 ここでも、デジタルアーカイブによる地域産業の育成を念頭に地域の経済振興が目的とされていることを確認した [8]。ただし、その方法には他事例との相違が存在しており、国による積極的な関与を含めて本事例の特徴的な性質として整理したい。 ## 4. おわりに〜本研究の展望 本稿における事例の整理は、調査項目を網羅したものではなく、予備的な域にとどまるものであるため、これをもって DA の性質と地域に与えた効果の関係を考察するには至らない。また、本稿で取り上げた産業育成等の一部効果も政策資料で示されたものに過ぎな いため、それらについては今後の調査を踏まえて検証を行う必要がある。加えて、DA が地域に与える経済振興に関する効果は、地域の事業者等に広く波及することも想定されるため、政策資料等では示されなかった効果について調查することも重要な視点である。 そのため、今後は統計資料などにおける経済関連数値の変遷等を確認するとともに、関係事業者への聞き取りなど、調查と分析を深堀させていく。また、本稿では地域の経済振興に資する自治体映像アーカイブの性質に関する仮説生成には至っておらず、今後は仮説生成のフレームに関する検討も進めることとする。 ## 参考文献 [1] 笠羽晴夫. デジタルアーカイブの歴史的考察. 映像情報メディア学会誌: 一般社団法人映像情報メディア学会. 2007, 61(11), p1545- 1548. [2] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. 我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性 : 内閣府知的財産戦略推進事務局. 2018. [3] 水島久光. 地域映像アーカイブの構築と活用に関する課題:北海道-夕張市の事例から. デジタルアーカイブ学会誌 : デジタルアーカイブ学会. 2017, 1(Pre), p96-98. [4] 原田健一・石井仁志編. 懐かしさは未来とともにやってくる一地域映像アーカイブの理論と実際: 学文社. 2013, p88-109. [5] 宮田悠史. 地方自治体における映像ア一カイブの現状と課題-アーカイブの公開と活用による地域振興に向けて. 立命館映像学 : 立命館大学映像学会. 2021, 13/14, p7-30. [6] 上田市マルチメディア情報センター運営審議会. 答申書 : 上田市. 2017. [7] 石川県. 「石川新情報書府」第 3 期構想 : 石川県. 2005. [8] 琉球デジタルアーカイブ (仮称) 推進委員会. 琉球デジタルアーカイブ(仮称)構想 (案):沖縄県. 2002. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [16] 組織内映像アーカイブのためのメタデータ構築:中部大学放送研究会番組映像の保存と利活用 ○安永知加子 ${ }^{11}$ ,柊和佑 ${ }^{11}$ ,山本明 1),柳谷啓子 1) 1)中部大学, 〒487-8501 愛知県春日井市松本町 1200 E-mail: [email protected] ## Policy based Institutional Video Archiving System: An Example from Broadcasting Club In Chubu University YASUNAGA Chikako ${ }^{1)}$, HIIRAGI Wasuke ${ }^{1)}$, YAMAMOTO Akashi1), YANAGIYA Keiko ${ }^{11}$ 1) Chubu University, 1200 Matsumoto-cho, Aichi, 487-8501 Japan ## 【発表概要】 本研究は、中部大学の放送研究会が約 20 年にわたり大学や地域の情報を番組化した映像と付随する情報の組織化を行い、利活用しやすい映像アーカイブをつくることである。本システムは、これらの映像番組を地域情報資源と捉え、映像だけでなく関係する各種情報資源をも収集素材としている。実際にアーカイブ化を進めたところ、大学という組織単位で制作される番組は一定のゆるやかなポリシーに添いながらも、時期により種々の原因で変化していることがわかった。本発表では、カット単位で検索可能なメタデータスキーマとシステムの作成および検索手法の実装を進めつつ、その過程で得た大学組織及び放送研究会単位のポリシーの変化に関する知見を解説する。ポリシーの変化にはドキュメントから読み取れる場合と、読み取れない場合が存在する。今回は、ポリシーを利用するために、組織内動画アーカイブを作成する際に関係する 2 種類のポリシーについて解説を行う。 ## 1. はじめに 近年、インターネットの発展に伴い、デジタルアーカイブや機関リポジトリが様々な組織で構築されている。これらの情報収集システムは、運営組織ごとに収集対象を定めて収集し、メタデータを付与することで利活用できる土台を構築し、組織ごとの目的を達成するために運用されている。実際に東日本大震災においては、震災前と震災後の映像(静止画および動画)やインタビューを「地域の記憶」 と位置づけ、デジタルアーカイブとして構築・運用し注目された[1]。これは、特定の事件・地域・組織・素材を収集対象として、記憶を継続することを目的とした取り組みである。このように、対象を絞ることで利用しやすいアーカイブを作ることが近年増えてきている。昨今の新型コロナに関する情報も、ア一カイブ化することで今後の疾病対策に役立てることを意図したものが登場し始めている [2]。 しかし、アーカイブとする単位や粒度はいまだ手探な状態であり、大きすぎて維持管理が不可能になるもの、小さすぎて利用しにく いものが混在していると言える。 本研究の目的は、中部大学の公認クラブである放送研究会が制作する映像と付随する情報の組織化を行うことで、汎用的に使える利活用しやすい映像アーカイブをつくることである。しかし、映像アーカイブはそのデータの取り回しの悪さゆえに、最適な手法が確立されているとは言い難い。そこで、近々の目的として、カット単位で検索可能なメタデー タスキーマとシステムの作成および検索手法を研究している。 ## 2. 先行事例 International Image Interoperability Framework(IIIF)においては、2020 年 6 月に IIIF Presentation API 3.0 が公開され[3]、動画や音声にアノテーションをつけることが可能になる仕様となった。 神崎正英が作成した IIIF Image Annotator による動画への文字によるアノテーションの事例[4] や、東京大学人文情報学において、ビユーワのアプリケーションのパイロット版が開発されている[5]。 また、萩原ほか(2014)による、Web 上の情報資源からメタデータモデルの適用と Linked Open Data (LOD)データセットの作成について述べられている[6]。 他にも、動画アーカイブは様々な研究やサ ービスが存在する。しかし、カット (シーン) の概念を加えた、不特定多数の制作者が再利用することを指向した研究は見つからない。本研究は、IIIF の動画対応の状況を踏まえ、 カットの概念と制作者のための支援機能について研究を行っている。 ## 3. デジタル化対象の構造 現在は、人文学部スタジオ施設(旧メディア教育センター) および放送研究会が所持するカセットテープのデジタルデータ化を行っている。デジタル化対象のテープは、多くは miniDV と DVCAMであり、一部DVD、VHS、 B、U-MATIC が存在する。現在は、過去 19 年分の本放送を録画したテープのデジタル化を進めている。 デジタル化した動画は階層に分けてメタデ一タを付与する。本研究では「番組」は同一の番組名でまとめられる「単一番組」の集合体とし、階層構造を構成する。 「カット」は、単一番組おける画面の切り替わり間の映像をさす。複数のカットが組み合わさり「シーン」や「シーケンス」などとも呼ばれる概念も他の研究では存在するが、本研究では映像制作者支援の観点から特にメタデータなどでは区分を設けていない。一般的にテレビ放送ではサブリミナルを避けるに十分な長さの映像を流すため、カットもある程度の長さ以上と想定する。本研究ではカッ卜を映像と映像の切り替わった箇所で切ると定義している。しかし、ズームインアウトやパン、チルトといったカメラ移動によって撮影対象が変わる。さらに、音楽や音声、テロップなどの要素によって生じる放送内容の文脈上の切れ目、つまり「意味的なカット」と呼べるような映像部分も認められる。機械的に判断が難しい部分であるため、どのようにアーカイブや検索に組み込んでいくのか検討中である。以上、「番組」「単一番組」および 「カット」の 3 つの構造が、本研究の基本的な単位である。 この構造を推測するために、「テロップ」を分類し、テロップが表示される場所によって、 ある程度構造を推測することも可能である。 しかし、商用放送サービスのように長年で培われた慣例があるわけではない大学生による放送では、制作時期、指導者によってクセが変わり、不規則なテロップが多いことがわかった。そのため、本研究では現在は利用していない。 以上のように、制作者による意味的単位である「カット」を時間軸に合わせて関係性を持たせたものが「単一番組」であり、それら集合して、一連の「番組」を構成するという構造である。また、映像には、放送されたものを収録した同時録画(以下、同録)と呼ばれるものと、放送用に準備された VTR、そして VTR のもととなる素材が存在する。しかし、同録は放送後の別番組で再利用されることもある。未編集の映像だけではなく、すべての映像を素材とみなす。そのため、カットが 1 つの映像ファイルをさすことはなく、 1 つの映像ファイルと時間データを組み合わせたものとなる。なお、 1 つの映像ファイルが複数のカットとして使われることがある (図 1)。 図1.素材のカット ## 4. 組織の改組に伴うメタデータの変化 デジタル化のために人文学部スタジオ施設に保存されているカセットテープを整理していたところ、2020 年末に新たに 200 本ほどのテープが発見された。ほぼすべてのテープに ラベリングがしてあり、保存状態もほぼ良好である。一方で、収録時間がテープごとで異なっていたり、ある年から番組名がかわっていたり、という当時を知る人でしかわからないことも多くあった。 そこで、テープ以外からも情報を得るために、書類調査や聞き取り調査を行った。その結果、学生の活動を支援しつつ、放送内容を監修する大学の教職員らからなる団体(中部大学放送委員会のちに放送協議会) の議事録が紙で一部発見された。議事録のデジタル化と調查を進めると、組織内で名称および改組が行われた形跡があることがわかった。また、テ一プの議事録や企画会議など、残っているドキュメント資料をもとに過去の番組について解読することができた。確かに、2014 年頃の改組時期の番組は、番組単位で構成が異なつている。また、番組名が変更になっても、構成が変わらない場合も存在した (図 2)。 図 2. 関係する組織の変遷 そのため、過去の単一番組内のカットを、現在の組織下で再放送する際は、音声まで含めた再編集が必要となる。番組的には単一であっても、異なる組織内の映像アーカイブを作成する際は、全く違う映像として考える必要がある。本研究では、ドキュメント資料から読み取れる変更のうち、現在の制作時に関係するルールを「ポリシー」と定義した。以下に、今回定義したポリシー一覧を示す (表 1 )。放送時間や周期の情報は「番組」にメタデ一夕を付与する構造であるため、別の番組になる。また、テレビ番組でいうとプロデュー サやジェネラルマネージャーといえるような立場である指導者(主に顧問)によって番組のコンセプトや内容も変化していく。これらの情報は議事録から読み取ることが可能であり、 カットや特集の雾囲気や量的バランスなどに影響している。 表 1. ポリシー一覧 ## 5. 放送媒体の変化に伴うポリシーの変化 今回、デジタル化をすすめることで、内容が確認できた 2004 年から 2010 年の番組中に、多くの版権曲が使用されていた。版権曲は、著名な芸能事務所のものであり、時期的に当時発売の新譜であり、当時の議事録に許可を申請した記述が見当たらないため、使用許諾をとっていない曲であると考えられる。これは、ラジオのオンライン配信開始時に話題となった、インターネット等を使って後から視聴する形態を考えていなかったため、慣例的に使用許諾を無視していた番組制作現場問題と同じ問題である。 このように、時代によって、公開のための倫理規程や、著作権の範囲 - 保護期間、製作者・視聴者の意識は大きく変わる。特に、配信サービスの隆盛と著作権に関する意識の変化は、映像アーカイブにとって公開のルールが大きく変わる要因となる。動画は、写真や書物と異なり、複合的コンテンツである。ア一カイブの際にどのように法律や倫理規定に対応するのか、その内容が変化した場合にどのように追随するのか、そのためのシステム的支援方法はどうするのか、といった問題が残っている。 また、組織の立ち上げ時期特有の技術的未熟さからくる、映像と音が合っていない音ズレや放送事故、放送時間前後するなどの要素をどのようにアーカイブに反映するか検討する必要がある。これは、時代によるテレビ番組演出の流行などにも起因するため、ある程 度のフレキシブルさをもった支援システムで対応する必要がある。注意深く検討を進め、対応範囲の広い仕組みを検討したい (表 2)。 表 2. ポリシーの変化 これらは、前述したポリシー(表 1)とは異なり、ドキュメント資料の分析ではわからない変化である。今後は、これらのポリシーを判別するためにアーカイブにどのように記録、反映させるか検討する必要がある。 制作者にとって、番組を制作する際に発生するコンテンツへの調査は非常に煩雑なものである。そのため、同時に個人の持つ端末や法律、利用者のコンプライアンス意識の流行などを調査し、その都度判断することは困難であり、コストの増大を招く。特に、近年は端末の進化が早く、数年前の同番組制作者が作成した動画が、全く再利用できないこともある。 本システムに組織としてのポリシーというデータを、時系列に沿ってアーカイブし、各時代でどのように解釈されたか、情報を残すことは、行わなければならない作業である。 ## 4. おわりに 現在、IIIF を利用することで、ある程度構築するめどは立ったといえる。しかし、デジタル化した動画の内容を確認すると、単純にカットに分けて公開すればよい問題ではない ことが分かった。現在確認したデータは 19 年前のものが最も古いため大学内でも当時の状況を知っている人がいる。今後は並行して聞き取り調査を行ってポリシーに関わる改組内容をアーカイブするための仕組みを考えていきたい。 ## 謝辞 本研究は JSPS 科研費 $17 \mathrm{~K} 12793$ の助成を受けたものである。 ## 参考文献 [1] みちのく震録伝. 東北大学災害科学国際研究.http://www.shinrokuden.irides.tohoku.ac. jp (参照 2021-02-26). [2] 東京都新型コロナウイルス感染症最新情報アーカイブ. 東京都庁 https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.j p/information/corona-message-archive.html (参照 2021-02-26). [3] IIIF Presentation API 3.0. https://iiif.io/api/presentation/3.0/ (参照 2021-02-26). [4] Image Annotator plus IIIF Viewer. Masahide Kanzaki. https://www.kanzaki.com/works/2016/pub/i mage-annotator (参照 2021-02-26). [5] IIIF 動画アノテーション. 東京大学情報人文学. https://dh.l.u- tokyo.ac.jp/activity/iiif/video-annotation (参照 2021-02-26). [6] 萩原和樹,三原鉄也, 永森光晴, 杉本重雄. 放送コンテンツアーカイブのためのメタデータモデル構築. 研究報告情報基礎とアクセス技術. 2014, Vo.2014-IFAT-116, No.4, p.1-9. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [44] コンテンツ制作者のためのサウンドスケープアーカイブ 〜こまきこども未来館を例に〜 ○坂本堇 1 1), 柊和佑 1 1) 1) 中部大学人文学部コミュニケーション学科, 〒 487-8501 愛知県春日井市松本町 1200 E-mail: [email protected] ## Soundscape Digital Archive for Content Creators: An example of Komaki Kodomo Miraikan SAKAMOTO Sumire ${ }^{1)}$, HIIRAGI Wasuke ${ }^{1)}$ 1) CHUBU UNIVERSITY, 1200 Matsumoto-cho, Kasugai, Aichi 487-8501, JAPAN ## 【発表概要】 現在、BGM 付与されたコンテンツの数はとても多い。BGM は聴覚から取得するコンテンツの要素であるため、見える景色から継続的に音が聞こえない状況に違和感を覚える。また、人間は風景と違うニュアンスの音が流れることに対して違和感を覚える。筆者は愛知県小牧市の「こまきこども未来館」常設プロジェクションコンテンツの作成プロジェクトに学部 3 年時より関わっており、BGM のある映像コンテンツの企画制作を行なっている。BGM の選定・制作には大きなコストがかかるほか、失敗することも多い。BGM にサウンドスケープを利用することで、実際の世界の音から収音しているため低コストでコンテンツのリアリティや臨場感を高めることが可能になると筆者は考えている。 本発表では、実際に録音したサウンドスケープデータのメタデータと検索方法について解説を行い、構築中のコンテンツ制作者のためのデジタルアーカイブについて提案を行う。 ## 1. はじめに ## 1. 1 BGM 制作 現在、バックグランドミュージック(BGM) の存在しないコンテンツは少ない。BGM はコンテンツの要素として重要である。人間は聴覚と視覚を使って、景色や状況を認識することが多いため、見えている景色から継続的に音が聞こえない状況に対して違和感を覚える。 また、人間が眺めている風景と流れてくる音が違うニュアンスであることに対して無意識下に違和感を覚える。そのため、BGM を制作する場合は、制作すべきコンテンツがどのようなものであるかをきちんと把握したうえで他者に違和感のないような音を付加しなければならない。これを実現すること多くのコストがかかる。複数人でコンテンツを制作する際は、認識をすり合わせるコストもかかる。 ## 1. 2 こまきこども未来館とコンテンツ制作体制 中部大学では愛知県小牧市の「こまきこども未来館[1]」の常設プロジェクションコンテンツを 2020 年から作成している(図 1)。この制作活動は筆者が所属する中部大学人文学部が中心となって行っている。学生が主体となって制作活動を行っており、学生が決定したコンテンツ企画及び動画案を、本学教員とともに制作している(図 2)。本プロジェク 図 1.こまきこども未来館 ションでは、covid-19 による大学への活動制限でも円滑に作業を行うために制作を行う班をデザイン班、素材班、動画班、音声班、インタラクティブ班の 5 班とし、週 1 回の会議で情報共有を行いつつ、遠隔で作業を行ってきた[2]。 筆者は動画班に所属し、コンテンツの企画と、他班が制作したオブジェクトを利用した動画の制作を行なった。本プロジェクト用の映像コンテンツを制作する際、音を探すことはとてもコストのかかる作業であった。一般的なコンテンツ制作過程において、音楽は映像と合わせて比較的多い時間をかけて制作することが多いが、それに加えて本プロジェクトはコンテンツの制作期間の関係上、音声制 図 2. 上『だるまさんがころんだ』 中『泡』 下『鯉』 作について使用できる時間が少なかったからである。 本コンテンツ制作の制作過程では、学生が学生会議で制作コンテンツの題材を決めどのような方向性の動画とするかを決める。学生会議で決めたコンテンツの方向性や内容を全体会議で全員にプレゼンテーションを行い、 コンテンツの修正点を挙げる。多くの場合、修正点は全体会議中で議論し改善案を出すが、決まらない場合は学生会議で再議論する。その後、再度プレゼンテーションを行い修正点の確認を行う。全員の了承の後コンテンツの内容にそって素材班、映像班・音声班の作業を行った。この制作体制は、遠隔で作業が可能な反面、企画構想から決定までに多くの時間がかかる。実際、映像の方向性や内容が決まるまでに製作時間の半分以上を費やすことが多かった。また、コンテンツによっては使用する BGMに環境音が求められる場合もあつた。そのため、雾囲気に合致した環境音をサウンドスケープデータとして広く収集・蓄積する必要があると考えてきた。 本研究で扱うサウンドスケープは、1960 年代にカナダの作曲家マリー・シェーファーが提唱した「音にも風景がある」という概念を利用する。この概念は特定の音を指すのではなく、いま聞こえるノイズを含めた未編集の環境音すべてを指す。サウンドスケープは元々騒音調査に用いられるほか、自然環境の変化の調查や、人間にとって過ごしやすい環境を作るための BGMへの利用などに使われて いる。 ## 2. サウンドスケープデータのアーカイブ 2. 1 コンテンツ制作と BGM 筆者は、2020 年度から行なってきた「こまきこども未来館」の常設プロジェクションコンテンツ制作を行う際に一定量の蓄積されたサウンドスケープデータを活用できると、制作コストの削減になるのではないかと考えた。 まず、制作の際、BGM として雾囲気の合致したサウンドスケープデータをそのまま利用することで、ある程度のリアリティや臨場感を向上させることが可能になると考えられる。次に、コンテンツの制作の企画を練る段階の際に、サウンドスケープを共有することでコンテンツ制作時に重要となるイメージ共有が可能になる。これは、筆者が複数人でコンテンツを遠隔で制作してきた知見に基づいている。また、音声の担当者に資料として提示することも可能となる。意見を直接交わせない環境下では、いかにイメージを相手に伝えるかが重要になる。 学生会議時にどのような音であるか例を示すこともあるが、通常はコンテンツ企画時にデザイン班が提案するコンテンツ案だけでは BGM を想像できないため、動画がある程度できた段階で会議をして音声をつけることも多く、初期の段階からサンプルとしてサウンドスケープデータなどの資料の必要性を感じていた(図 3)。そのため、集音する際に以下の点に注意する必要がある。まず、音を集音する際に定位置で集音し無編集のデータにす 図 3. 企画書『だるまさんがころんだ』 る必要がある。 これは、映像制作経験の浅い学生が主体となって行う本プロジェクトでは、デザインの段階では完成時の音を決定することは困難で、求める条件を絞れないためである。そのため、本研究のような学生の制作者のためのサウンドスケープアーカイブを作るには、「学校」「池」といった条件の場所で 365 日決まった時間の音を記録し続ける必要がある。また、集音位置が定位置・無編集で収集時間を一定時間ごとにずらすことによって、昼夜がタイムラプスで入れ替わるタイプのコンテンツに対応できる。また、日付から季節、位置情報と日付から天気を使って検索できれば、より幅の広い検索が可能なアーカイブとなる。 ## 2. 2 検索方法の提案 また、検索するためには内容を言語する必要がある。本研究では、マンガのコマのオノマトぺを使った検索を検討している。現時点で各サウンドスケープデータにメタデータを付与する際に、内容を表す漫画のコマと紐付けを行うことで、内容が近いものを探すことができる。本システムのデータ収集者と利用者が学生であるため、コマから感じる感覚の世代的な差などは現状は考慮していない。 ## 3. サウンドデータ販売サイト例 本研究の選考事例としては、音楽などを販売するサービスが当てはまる。しかし、一般に音楽を販売するサービスは完成パッケージを販売するものであり、本研究のような編集を前提とした素材の販売サービスは多くない。 人が音声トラックを重ね編集し作成した BGM を取り扱うサイトは多く存在する。だが、上記の状況で求められるサウンドスケープを取り扱っている資料サイトは少なく、ひとつのサイト内で取り扱われるサウンドデータ数が限られやすい。サウンドスケープデータを取り扱っているサイトの一つに BBC Sound Effects[3]がある。このサイトは自然の多い場所で録音された音といったどのような音であるという区分はあるが、録音した日時や天気その場所の中でどのような環境で録音された情報といった詳細な情報は存在しない。また、 どの音声も 5 分程度であり、長時間の音デー タは存在しない。 また、前述のように複数の音を合わせて、雰囲気に合った音を作る必要がある。それらを埋めるレベルで幅の広い環境音を収集、蓄積しているサイト・サービスは現在、調査を進めているが見当たらない。 ## 4. 問題点の整理 本研究で考察している問題は以下の通りである。 (1) サウンドスケープデータの収集本研究では、収集するデータをサウンドスケープデータとし、日付、気象情報、位置情報、収録環境(屋内・屋外、イベン卜)、収録時間、許諾情報を含めて収集する。今回は、「こまきこども未来館」の映像制作コンテンツで利用することが目的であるため、5 分に合わせ録音したサウンドスケープデータを利用する。 5 分の番組を作る場合、映像は 1 時間撮影することが一般的(本学放送研究会より)であるため、本研究では 1 時間のサウンドスケープデー タを 1 単位とした。 (2) サウンドスケープデータとメタデータの蓄積 収集したサウンドスケープデータとメタデータ、内容(マンガのオノマトペ情報) をアーカイブサーバに蓄積する。検索条件は、日時・気象・位置・環境に加え、マンガ的オノマトペで利用者に選択させる。 (3) サウンドスケープデータの検索・提供収集したデータを日時(季節、日時、午前・午後)、気象(晴・雨・曇、風速)位置、環境(屋内・屋外、イベント)を使つて検索、ダウンロードできる Web サービスを構築する。 現在は、上記の問題に対応して研究を進めている。サウンドスケープの収集を行う場合、前述のように定点収集することが理想であるが、現在は市販の録音機を使って 1 時間単位で収集を行っている。現在、定点収集のための機械の選定を行っている。コマのオノマトペ画像については収集を行っている途中である。検索サービスについては、サーバの構築を行うための準備段階である。 ## 5. システム概要と実装状況 現在、構築を進めているサーバは以下の通りである。 サーバ : Mac mini M1 Web サーバ : Apach データベース : BaseX(XML データベース) システム概要は以下の通りである(図 4)。 図 4. システム概要図 提供サービスは以下のようなデザインにす 図 5. システムイメージ図 る予定である(図 5) $[4]$ 。 ## 6. まとめと今後 本研究は、 4 章のように(1)サウンドスケ ープデータの収集、(2)サウンドスケープデ ータとメタデータの蓄積、(3)サウンドスケー プデータの検索・提供を行う必要がある。現在、提供用の Web サービスは未実装だが、メタデータのスキーマの定義とオノマトペ用デ一タの収集、テストデータのアーカイブ化を行った、。今後、利用する際に長時間のサウンドスケープデータの蓄積・様々な位置でのサウンドスケープデータの収集を目指している。また、現在実施しているコンテンツ制作以外に利活用できる可能性も考慮して研究を進めている。 ## 参考文献 [1] 小牧市.こまきこども未来館. http://www. city.komaki.aichi.jp/admin/soshiki/kodomomirai/ta sedaipuraza/zigyousuisin/kodomomiraikan/31327. html (参照 2021-11-12). [2]柊和佑, 安永知加子, 佐藤雅也, 柳谷啓子, 廣瀬陸, 荒川杏菜, 坂本董, 高橋秀 “大型壁面プロジエクションによるこまきこども未来館常設コンテンツの制作,NICOGRAPH2021.2021/11/8 掲載・発表 [3] BBC. Sound Effets. https://soundeffects.bbcrewind.co.uk/ (参照 2021-11-12). [4]ドドドフォント. マンガ文字素材ドドド Fonts. https://dddfont.com/ (参照 2021-11-12). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [43] オブジェクトを交差させる場としてのデジタル$\cdot$ミュージ アム:Exhibition RoomX の設計思想と実装 ○本間 友 ${ }^{11}$, 宮北剛已 ${ }^{2}$ 1) 慶應義塾ミュージアム・コモンズ/慶應義塾大学アート・センター, 〒108-8345 東京都港区三田 2-15-45 2) 慶應義塾ミュージアム・コモンズ E-mail: [email protected] ## The digital museum as a place for the intersection of objects: the design and implementation of Exhibition RoomX HOMMA Yu ${ }^{1)}$, MIYAKITA Goki ${ }^{2}$ 1) Keio Museum Commons and Keio University Art Center, 2-15-45, Mita, Minato-ku, 108-8345, Japan ${ }^{2)}$ Keio Museum Commons ## 【発表概要】 慶應義塾ミュージアム・コモンズで 2020 年 10 月に開発した新しいデジタル・ミュージアム $「$ Exhibition RoomX(以下 RoomX)」の設計思想と実装について報告する。RoomX は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、デジタル・メディアでの開催に移行した展覧会「人間交際」のためのプラットフォームである。RoomX では、作品が出会い交流を生み出す展覧会を、 デジタル・メディアにのみ可能な表現によって実現するという狙いのもと、物理的な空間の䡉を外した展覧会表現を試みた。その成果として、作品を繋ぐナラティヴをアクセスの度に解体し繋ぎ直すことで、作品同士の思わぬ出会いを生み出すデジタル・ミュージアムが構築された。本稿では、「Exhibition RoomX」の実践を共有し、デジタルが可能にする展覧会の新しい表現について、ナラティヴとセレンディピティの共存に焦点を当てた報告を行う。 ## 1. はじめに 2020 年夏に、慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)は、慶應義塾大学三田キャンパスの 8 部署による合同展覧会「人間交際」 を準備していた。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、2020 年 5 月、現場ての設営を見送ることを決め、デジタル・メデイアによる展覧会に移行した。当時、多くのミュージアムが、デジタル・メディアによる展覧会のあり方を模索していたことはまだ記憶に新しいだろう。 360 度映像や VR 空間を活用したデジタルツインの制作など、さまざまな試みが展開する中で、 KeMCo では、新たなデジタル・ミュージアム「Exhibition RoomX」(以下 RoomX)を開発した。本発表では、RoomXの設計思想とその実装について共有しつつ、デジタルが可能にする展覧会の新しい表現について、ナラティヴとセレンデイピティの共存に焦点を当てて報告する。 ## 2. RoomX の設計 RoomX の設計にあたり重視したのは、「オブジェクト(作品)を中心に据え、作品同士の出会いを通じてその背後にある人々の交流を伝える」という、KeMCo と「人間交際」展に共通するコンセプトを表現すること、そして、フィジカルな展覧会の代替物を作るのではなく、デジタル・メディア上に構築された展覧会にしか生み出せない価値を探すことである。 KeMCo は、2019 年に発足し、2021 年 4 月にグランド・オープンを迎えた慶應義塾の新しいミュージアムであり、研究や教育の過程で形成され、大学のキャンパスや学部、研究科や研究所に受け継がれてきた様々な文化コレクションを、その背後にある活動と結びつけながら共有してゆくプラットフォームとしての役割を担っている[1]。KeMCo の活動は 3 つのコンセプト一「自律分散型であること」「交流を生み出すこと」「実験場であること」に根ざしている。「人間交際」展は、こ れらのコンセプトのうち「交流を生み出す」 ことを主眼に据えた展覧会で、グランド・オ ープンに先駆けて企画された。文化財を巡る活動を展開する三田キャンパスの 8 部署一文学部美学美術史学専攻、文学部民族学考古学専攻、文学部古文書室、三田メディアセンター、斯道文庫、福澤研究センター、アー ト・センター、そして KeMCoが、それぞれのコレクションを持ち寄り、福澤諭吉が 「Society」にあてた訳語、「人間交際」を表現するという内容を予定していた。 ## 2.1 デジタル・ミュージアムの様々な実践 デジタル展として再始動した展覧会の準備は、デジタル・ミュージアムの先行事例を改めて調査するところから始まった。デジタル・メディアを活用した展覧会は過去にも様々に試みられてきたが、2020 年初頭からの新型コロナウイルス感染症への対応の中で、急速に実践が増えていった。現実に設営された展覧会を前提とするものとしては、オンラインで参加できるコンテンツをまとめて搭載する特設サイトを作ったり [2]、また、かはく VRのように、館内を 360 度撮影したデータを用いて展覧会の空間を再現するコンテンツも多く試みられた[3]。また、現実の展示を前提としないものについては、Google Arts \& Culture に搭載された「Google Pocket Gallery」に加え、バーチャル武蔵美のようにメタバースプラットフォームを利用した展開も見られた[4]。さらに、Nintendo Switch のゲーム「あつまれどうぶつの森」も、作品を共有する場として注目を集め、どうぶつの森上にヴァーチャルミュージアムを作る美術館も現れた[5]。 しかし、ミュージアムの実務を担うものとして、また一人の来場者として感じたのは、 フィジカルな展覧会をデジタル・メディアで複製しても、その体験の強度は複製できないということだ。というのも、フィジカルな展覧会は、作品の持つ力を、現実の空間との関わりの中で最大限に引き出すよう設計されているからだ。 ## 2.2 デジタル・ミュージアムにおける空間とナラ ティヴ そうであれば、作品の力を引き出すために機能する、デジタル・メディアの特性とはなんだろうか。デジタル・ミュージアムの実践を調査する中でも、時間と空間の制約がないこと、対象に合わせた柔軟なコンテンツ設計が行えること、また、参加型の企画を作りやすいことなど、様々な特性が見いだされた。 しかし今回、RoomX のための検討においては、時間と、とりわけ空間の制約がないという特性に着目した。現実のミュージアムでの体験が、共時性と共空間性を前提としていることから、その前提を覆すことが、デジタル・ミュージアムの表現を考える上でのヒン卜になると考えたからである。 では、ミュージアムのフィジカルな—リアルな空間がもたらす制約とはなんだろうか。一つには、当然のことながら、空間に対する作品の数がある。また、仮に空間が十分にあったとしても、作品によって必要とする空気環境や安全性などが異なるため、一つの空間にすべての作品を並べられるとは限らない。 もう一つは、作品を繋ぐナラティヴが固定化されることだ。フィジカルな展覧会においては、一度展覧会のナラティヴに沿って陳列された作品の並び順は、公式な展示替えの機会を除いて、来場者はもちろん、展覧会を担当する学芸員であっても変更することはできない。ミュージアムの展示室は、基本的には一つのナラティヴによって固定された空間なのだ。 RoomXでは、これらのフィジカルな展覧会の特徴を逆転させること、つまり、一つの空間の中に作品をすべて集め、アクセスがあるたびに作品の陳列順(=表示位置)を変えてナラティヴを解体することを試みた。出品された作品が一堂に会し、さらに、会場に足を踏み入れる度に隣り合う作品が変わることで、作品同士が何度も出会い直すような展覧会だ。 ## 3. RoomX の実装 RoomX のプラットフォームとしては、 Cluster のようなメタバースプラットフォー ムや、STYLY のような VR プラットフォームの利用も検討したが[6]、最終的にはモバイルに対応した通常のウェブサイトとして構築し た。他の多くのミュージアムと同様、大学には、作品に関連するコンテンツや活動が様々なプラットフォームで生み出され、蓄積されている。KeMCoの「交流を生み出す」というコンセプトを表現するためにも、RoomX は、これらの既存のコンテンツと容易に繋がることができる接続性と、新たな活動に対応してゆける拡張性、そして誰でもまずは使ってみることができる間口の広さを備えたプラットフォームとして設計する必要があった。 RoomX の基本構造は[図 1]の通りである。 2020 年 10 月のリリース時は日本語のみの対応だったが、2021 年 4 月のアップデートで英語にも対応した。 主たるインターフェイスである「部屋」[図 2]には、そこかしこにアイコン化された作品が散りばめられ、その表示位置はアクセスの度に変化する。部屋をデザインするにあたっては、ミュージアムの前身の一つである「驚異の部屋」(Cabinet of Curiosities や Wunderkammer)、そして研究者の書斎のイメージを参照しながら、複数の空間が繋ぎあわさったような表現をとっている。全体として架空の場所であることを強調し、現実の空間から距離をとりつつも、大学キャンパスの様々な場所の要素を少しずつ混ぜていくことによって、親近感のある空間を作り出すことを試みた。部屋を歩く奇妙な生き物「ユニコン」も、架空の場所へのタッチポイントとして機能している。動き回る生き物を部屋に棲まわせることにより、ユーザーの視点を空間内に引き込み、一緒に部屋を探索して回るような体験を作り出すことはできないかと考えた。 カタログとその配下のセクションページ[図 3]では、展覧会の基本のナラティヴを示している。そのため、セクションページには、展覧会の会場を想起させるような、展示壁面を模したデザインを設定した。「部屋」とセクシヨンページから遷移する個別作品ページ[図 4] では、作品の基礎情報と解説に加え、IIIF ビユーア「Mirador」を利用して高精細画像を提供している。またセクションと個別ページの末尾には、参考文献やデータベースなど、様々な関連リソースへのリンクを繋ぎ込む領域を設け、既存のコンテンツとの接続を図っている。 各ページの更新のためには簡単な CMS が用意されており、セクションページおよび個 図 1. RoomX の構造 図 2. RoomX の「部屋」 図3. セクションページ 別作品ページの新規登録と編集、関連リソー スの追加などができるようになっている。一方で、「部屋」に表示する作品の変更や室内グラフィックの変更など、いわば「部屋」の模様替えに類する作業については、CMS から行うことはできない。 ## 4. おわりに:デジタル$\cdot$ミュージアムにおけ るセレンディピティ RoomXでは、作品が出会い交流を生み出す展覧会を、デジタル・メディアにのみ可能な表現で実現するという狙いのもと、物理的な空間の䡉を外した展覧会表現を試みた。その結果構築された「部屋」では、現実の展覧会 図 4. 個別ページ では同じ空間に陳列できない作品たちを一つの場所に集め、作品を繋ぐナラティヴをアクセスの度に解体し繋ぎ直すことで、作品同士の思わぬ出会いを生み出した。ここでは、一つのナラティヴが設定されたフィジカルな展覧会ではなし得ない、また、デジタル・メデイアによる情報提供においても課題とされている「セレンディピティ」の生成が、ごく小さな形だが実現されていると見なすことができる。 セレンディピティが生成される場としてフイジカルな展覧会を設えることは、展覧会の構成方法によっては不可能ではないが、その場合ナラティヴの設定が困難になる。一方で RoomXにおいては、セクションページで基本 のナラティヴを提示することによって、セレンディピティとナラティヴを併存させており、フィジカルな展覧会の代替物ではない、 デジタル・ミュージアム固有の価値の一端を示すことができたのではないかと考えている。 一方で、 $\mathrm{KeMCo}$ および「人間交際」展のコンセプトである「交流を生み出す」機能については、現行の RoomX で十分に実現できているとは言いがたい。今後、RoomX 上でのコミュニケーションを可能にする仕組みを導入することも考えているが、まずはミュージアムにおけるコミュニケーションのあり方について改めて検討してゆきたい。 ## 参考文献 [1] KeMCo 設立の経緯については、松田孝美のエッセイを参照: “慶應義塾ミュージアム・コモンズ一三田キャンパスの創造的「空き地」” . 三田評論. https: //www.mita-hyoron.keio.ac.jp/other/202003-1.html (参照 2021-11-12). [2] "Here' s How to Whitney From Home" . htt ps://whitney.org/whitney-from-home(参照 2021-1112). [3]おうちで体験!かはくVR -国立科学博物館-. http s://www.kahaku.go.jp/VR/ (参照 2021-11-12).他の博物館でも 360 度画像を使った試みは多く見られた。“名作を自宅で鑑賞。世界の主要美術館・ギャラリーが実施するオンラインビューイング\&バーチャルツアーまとめ” . 美術手帖. https://bijutsutecho.co $\mathrm{m} /$ magazine/insight/21582 (参照 2021-11-12). [4] "Discover a Virtual Gallery in Your Pocket" . Google Arts \& Culture. https://artsandculture.go ogle.com/story/discover-a-virtual-gallery-in-your-po cket/5QWhvYU1kBJfgw (参照 2021-11-12). “バーチャルムサビ展| バーチャル SNS cluster”. バーチャル SNS cluster. https://cluster.mu/w/58a2d 040-74c3-42b5-9f35-002263438fb0(参照 2021-11-1 2). [5]M WOODS. https://www.mwoods.org (参照 202 1-11-12). [6] バーチャル SNS cluster. https://cluster.mu (参照 2021-11-12). STYLY - VR/AR/MR creative platform. https://sty ly.cc/ja/ (参照 2021-11-12). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [42] デジタルアーカイブ経営論の必要性: 一デジタルアーカイブ開発へのヒト, モノ, カネ, 情報, 倫理観のマネジメントー ○井上透1) 1) 岐阜女子大学, $\bar{\top} 500-8813$ 岐阜市明徳町 10 E-mail: [email protected] ## Necessity of Digital Archive Management Theory: Management of human resources, resources, funds, information and ethics for digital archive development INOUE Toru1) 1) Gifu Women's University, 10 Meitoku-cho, Gifu, 500-8813 Japan ## 【発表概要】 デジタルアーカイブ開発には,全体のプロセスを統合する経営論からのマネジメントが求められる。デジタルアーカイブを企画,開発,運用するにあたり,人材・ディレクターとしてのデジタルアーキビストは, 国内外の動向把握, 組織のミッション、デジタル化の技術、権利処理手法の確立、他のデジタルアーカイブ提供機関との連携協力、組織のヒト、モノ、カネ、情報、倫理観醸成等をマネジメントし、継続的なデータ提供を実現しなければならない。本論考は、デジタルアーキビストに求められるデジタルアーカイブ経営論の必要性を考究することにある。 ## 1. はじめに ジャパンサーチが 2020 年 8 月に正式に運用が開始され、国内外で急速にデジタルアーカイブ開発が進んでいる。さらに、COVID-19 曼延により、非接触型情報活用手段としてのデジタルアーカイブ存在感が増し、社会の DX 進展とともに知識循環型社会の基盤としての重要性が高まっている。一方、デジタルアーカイブを開発する組織を運営・マネジメントするための手法・経営論は定まっていない。2006 年に日本デジタル・アーキビスト資格認定機構が設置され、人材育成が開始されている。しかし、養成の 3 つの柱は、対象としての文化・産業の理解、情報の記録と利用、法と倫理[2]であり、これら 3 要素を統合する経営論が存在しているとは言い難い。今後、 デジタルアーカイブを社会基盤として整備・促進していくためには、マネジメント・経営論の理論的構築が課題である。本論考は 2021 年 8 月日本教育情報学会年会で口頭発表した 「デジタルアーカイブ経営の構成要素研究」 [6]を再検討し、新たな視点を加えデジタルア一カイブ経営論の必要性を考究した。 ## 2. デジタルアーカイブ経営論の対象 デジタルアーカイブは、公的な博物館、図書館、文書館の収蔵資料だけでなく国、自治体、企業の文書・設計図・映像資料などを含め有形・無形の文化・科学・産業資源等をデジタル化により保存し、検索によって利用者の求めに応じたメディアを継続的に提供し、意思決定や創造的活動、リスクコントロールに活用するシステムといえる。 しかし、アーカイブは当初、国家や地域政治行政組織の立法、司法、行政など業務・活動の記録の蓄積「組織・機関アーカイブ」であった。やがて図書館、博物館、高等教育機関等の組織は、業務・活動だけでなく設置目的の収集資料を市民、学生が活用する「コレクションアーカイブ」が注目されるようになった。このことから、組織アーカイブだけでなく、市民サービスを主眼としたコレクションアーカイブを含めた広義の文化資源として、 つまり両義性持った対象としてデジタルアー カイブを把握し、経営論を考える必要がある。 ## 3. 博物館経営論の概要 デジタルアーカイブ経営論の検討にあたり、 デジタルアーカイブ機関である博物館の経営論を参考にする。 ## 3.1 博物館の経営論 博物館の人材養成過程において、1997 年 (平成 9 年)に「経営論」が学芸員取得関連科目のひとつとして設けられた。内容は欧米 の博物館で使用されている「ミュージアム・ マネジメント」を、ミュージアム=「博物館」、マネジメント=「経営」「管理」と置き換え整理したものと言える。換言すれば、博物館経営は、管理運営、経営資源、リスクマネジメント、マーケティングなど実践的な諸活動を通じて理解し、博物館の直面する課題の理解と対応策を検討する切り口として存在しているとも言える。したがって、ミュー ジアム・マネジメントの考え方は、博物館と利用者の関係性に着目し、博物館の運営を経営の視点・感覚で把握することでもある。 ## 3.2 ミュージアム・マネジメントの目的 大堀哲らは、「それぞれの博物館・ミュー ジアムが掲げる設置目的や使命(mission)を達成するために、ヒト、モノ、カネ等の経営資源をタイミングよく配分し、効率よく事業の展開を運営する手法」[3]としている。また、諸岡博熊は「産業文化施設の運営とは、ヒト、 モノ、カネ、情報の動きを中心として、どのような役割をそれぞれが果たして行くかを考え、観客に感動を与えることだ。」[4]として、社会環境の変化に対応して、博物館のもつ経営資源を組み合わせ、利用者の満足度の向上を重視した。石森秀三は、「日本の博物館はこれまでともすれば、『知の貯蔵庫』としての役割に力点を置き過ぎ、それを維持管理することを使命にしてきたきらいがある。」とし、「日本の博物館は今後、『知の貯蔵庫』 を最大限に活用して、利用者に最大の満足や感動を与えることを社会的使命とみなして、改革に全力を投入することが求められている。 そのような社会的使命を達成するために、ミユージアム・マネジメントの本格的な導入を行い、ヒトやモノやカネや情報などの博物館が有する多様な資源を有効に組み合わせることによって、利用者満足の創出や市民生活の豊かさへの貢献などを図らなければならない。」[5]として利用者・ユーザ中心の経営の必要性を指摘した。このことから、持続的な組織体としてのアーカイブはコレクションの収集だけでなく、市民の活用の視点を持つことが重要であり、そのための合理的な意思決定プロセスを実現する組織・業務の記録アー カイブを包含したものとして考える必要がある。 ## 4. デジタルアーカイブ経営論の構成要素 博物館経営論を参考に構成要素を検討する。 ## 4. 1 経営論の目的 デジタルアーカイブ経営論の目的は、高度情報化社会が進展しデジタル庁が設置されるなど急速に Digital Transformation (DX) デジタルトランスフォーメーションが進行している中、市民の意思決定や創造的活動に必要な過去、現在の多様な情報を、検索を通じ市民の求めに応じて継続的にデジタル化されたデータを提供するため、デジタルアーカイブ機関が有するヒト、モノ、カネ、情報等の経営資源を有効に組み合わせて、組織を運営・マネジメントし、市民の満足の創出や市民生活の豊かさへの貢献を図るとともに、文化・芸術・科学・教育・自治体・産業の各分野で活用を図ることではないだろうか。 \\ 図 1 デジタルアーカイブ経営論構成要素(案) ## 4.2 経営論が取り組む課題 デジタルアーカイブ経営論を大きく6 の構成要素から整理する。(1)行政にかかる政策課題、(2)デジタルアーカイブ機関の理念や目的を顕在化、(3)デジタルアーカイブ開発・提供・維持方針の策定、(4)組織と施設設備の構築と管理・運営、(5)デジタルアーキビスト等人材の育成、(6)財政的手当て・マネタイズなどの要素を検討し、運営・マネジメントを行わなければならない。図 1 はデジタルアーカイブ経営論構成概要(案)である。 ## 5. 経営論の具体的展開 ## 5.1 行政にかかる政策課題 「我が国が目指すデジタルアーカイブ社会の実現に向けて」2020 年 8 月 19 日デジタルア一カイブジャパン推進委員会・実務者検討委員会[1]や現在、超党派議員連盟で検討されている「デジタルアーカイブ整備推進法」(仮称)、2021年 6 月 1 日自由民主党政務調査会知的財産戦略会議の提言では「デジタルアー キビストの国家資格創設を検討する」のコメントがあり、政府の政策充実、著作権法等法整備、オープン化や知のシェア、人材・デジタルアーキビスト養成等、知識循環型社会の基盤としてデジタルアーカイブ開発・振興にかかる課題について、地方自治体を含めて把握し、対策を講じなければならない。 ## 5.2 機関の理念や目的の顕在化 デジタルアーカイブ機関は多様な設置目的がある。設置目的やミッションにデジタルア一カイブ開発・運営・継続的なデータ提供などを入れ組織の意思として顕在化させること、 または目標として経営方針に入れることが、持続可能なデジタルアーカイブ提供の前提になる。 ## 5.3 開発・提供・維持方針の策定 開発の理念や目的の実現に向かって、デジタルアーカイブ開発・提供・維持をどう展開するか等についての大方針を決定し、長期的な計画を策定することが必要である。 さらに、具体的な個別の項目を立てた中期的な計画を策定することが実現の鍵になる。 (戦略的な長期的方針 - 戦術的な短期的具体的方針の策定と実施) ## 5.4 組織と施設設備の構築と管理・運営 現在、デジタルアーカイブ関係機関においてコレクションの収集・保管・展示が主であ り、デジタルアーカイブの開発・運用・維持が主たる目的・業務とされている場合は少ない。今後、社会、特に教育で DX 化が進展すれば主たる目的・業務になる可能性が高まる。 デジタルアーカイブにかかる組織の整備・人材配置、インターネット回線、サーバ、デジタル化機器等施設設備・システムの整備、 デジタル化に関連する旅費、外注費用等の管理・運営にかかるロジスティクスな課題に取り組むことが必要になる。また、総合的な防災対策・災害時に対応した事業継続計画策定 (Business continuity planning, BCP) を通じて、継続的なデジタルアーカイブ提供体制を実現するレジリエンス・災害耐久力が自然災害の多い日本には求められる。 ## 5.5 デジタルアーキビスト等人材育成 スタッフに対する経営感覚の醸成、倫理研修、ソフト・ハードにかかるデジタル化技術取得教育、防災研修、ハラスメント研修の実施、関係デジタルアーカイブ機関とのネットワーキングに取り組まなければならない。 ## 5.6 財政的手当て・マネタイズ 開発・運営・維持するための財政的確保を行うことが、デジタルアーカイブ振興には必須である。そのため、内部の予算獲得だけでなく、クラウドファンディングや多様な競争的資金を獲得することが必要である。競争的資金はデジタルアーカイブ開発の名称で公募されることは少なく、情報システム整備、教育環境整備、地方創成補助金、コロナ関係補助金等の形態で提供されいるものを積極的に活用しなければならない。これらに柔軟に対応するための専門的な資金調達担当者や部署の設置を行うことが最重要案件として求められる。さらに、完璧を目指さず確保した資金に応じた開発を柔軟に進めることが開発者には求められる。 ## 6. 開発計画策定の視点 国内外の政策的課題に対応し、各デジタルアーカイブ提供機関の目的・ミッションにそった対象選定、開発計画、開発実践、評価の観点から実践的な課題を簡単に整理する。 6.1 知識基盤社会のベースとなるデジタルア一カイブ開発、特に地方創生を担う地域の 「知の拠点」としての対象の選定とオープンデータ化による 2 次利用を考慮した開発。 6.2 無形文化財 - 無形民俗文化財や文化財の保 存技術など他者・第 3 者によるデジタルアー カイブ化から、当事者や伝承者自身の行う内生的デジタルアーカイブ開発の実現。 6.3 市民参加型デジタルアーカイブの開発。対象によっては、大学や博物館、図書館の専門家だけでなく、多くの市民が 2 次利用を前提に提供したデータにより成立し、継続的に発展させるシステムが有効な場合がある。 6.4 利用者の求めるメディアを提供するデジタルアーカイブ開発。静止画、動画等の映像デ一タだけでなく音声データ、テキスト、印刷データの提供など利用者の求めるメディアを複合的・クロスメディアとして提供。 6.5 オープンデータ化を前提としたシステムとして開発。活用を前提としてダウンロードが可能、機械可読により修正可能、2 次利用が可能な権利処理と、それを利用者に伝えるライセンス表示が必要。 6.6 ユニバーサルデザインを前提としたデジタルアーカイブ提供、開発者は PCだけでなくスマートフォン・タブレット PCからの利用を想定したレスポンシブデザイン導入等ユーザー ファーストの姿勢と実践、開発段階から身体障害者や高齢者、外国人などの参画によるインクルーシブデザインの導入。 6.7 ユーザビリティを高めるためシステムを過度に作りこむことは、ソフトの陳腐化等経年・環境変化によりアクセシビリティの維持が困難になる可能性が高まることを考慮。 6.8 物理的劣化や技術発展に対応した媒体の変換などマイグレーションを定期的に実施。 6.9 デジタルアーカイブ活用に対応した保存・保管・提供。 6.10 評価をキーとした PDCA サイクルによるデジタルアーカイブの持続可能な開発と改善。 6.11 小規模デジタルアーカイブであれば、分野別統合ポータルへの Application Programming Interface (API)を通じたメタデータ提供、分野別統合ポータルであれば、ジャパンサーチへのAPI を通じたメタデータの提供により、活用のフィールドを広げることが重要。 6.12 特定の分野におけるデジタルアーカイブの振興には分野別ポータルを運用するアグリゲータの役割が大きい。技術サポートや資金援助だけでなく、品質の高いデータを提供するためのチェックとデータクリーニングの技法、関連情報の共有、デジタル撮影技法等の研修会を開催して人材を育成し、分野内の連携を強化する努力が必要。 なお、デジタルアーカイブ開発を担うデジタルアーキビストは、多様な視点から開発概要を明確にする必要があるが、別の論考で明らかにしたい。 ## 7. おわりに 多様なデジタルアーカイブ開発を、経営戦略に基づいて進めるため、デジタルアーカイブ経営論の必要性を関係者に提示するのが本論考の目的である。今後、デジタルアーカイブ開発の実践場面で適合性を検証し、デジタルアーカイブ経営論構築の可能性を継続的に考究したい。 ## 参考文献 [1]我が国が目指すデジタルアーカイブ社会の実現に向けて,デジタルアーカイブジャパン推進委員会・実務者検討委員会,2020(事務局:内閣府知的財産戦略本部) [2]岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所編,新版デジタルアーキビスト入門,樹村房, 2019, 12-13p. [3] 大堀哲, 水嶋栄治編著, 博物館III, 学文社, 2012, 103p. [4]諸岡博熊, ミュージアム・マネジメント,創元社, 1993, 298p. [5]石森秀三, 改訂版, 博物館経営 - 情報論,放送大学教育振興会, 2004, 3-5p. [6]デジタルアーカイブ経営の構成要素研究,井上透, 第 37 回日本教育情報学会年会論文集, 2021, 68-71p. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし, 複製, 改変はもちろん, 営利目的での二次利用も許可されています。
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# [41] デジタル$\cdot$アーカイブのメディア論: 文化資源をめぐるモラルエコミミ一 ○逢坂裕紀子 1) 1) 東京大学文書館,〒113-8654 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: [email protected] ## The Moral Economy of Digital Archives: \\ Based on the Digital Knowledge Production in Cultural Resources OSAKA Yukiko ${ }^{1)}$ 1) University of Tokyo Archives, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8654 Japan ## 【発表概要】 デジタル・アーカイブの登場は、1990 年代におけるインターネットの急速な発展を背景とした情報化社会と密接に絡み合っていたが、その確立のための重要な課題は技術的というよりも、 むしろ社会的および文化的であった。本報告では、これらのデジタル・アーカイブにおける概念や多様性に関する議論の変遷をたどり、横断型検索システム構築において、デジタル化されたコレクションデータの取り扱いに関する分野ごとの差異がオープンアクセス化の展開においてどのように働いたかを明らかにすることを目指す。 ## 1. はじめに 現在、さまざまなデジタル・アーカイブの公開がなされ、インターネットを介して文化・知的情報資源に関する情報を発信し、受容する環境が整いつつある。2020 年には書籍、文化財、メディア芸術など、さまざまな領域のデジタル・アーカイブと連携して、多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索できる国内最大の横断検索システムである $ \text { 「ジャパンサーチ」が正式公開した。 } $ 本稿は、これらのデジタル・アーカイブにおける概念、デジタル化されたコレクションデータの帰属および知的所有権といったデジタル・アーカイブにおける議論を取り上げ、文化資源をめぐって機能しているモラルエコノミ一の検証を試みることを目的とする。これにより、文化・知的情報資源におけるオ一プンアクセス化の展開についての展望を示すことを目指すものである。 ## 2. デジタル・アーカイブ概念に関する議論 ## 2. 1 デジタル・アーカイブの定義 デジタル・アーカイブの登場は、1990 年代におけるインターネットの急速な発展を背景とした情報化社会と密接に絡み合っていたが、 その確立のための重要な課題は技術的というよりも、むしろ社会的および文化的であった。「デジタルアーカイブ」という概念と用語を 1990 年代なかばに最初に提唱したのが月尾嘉男氏であることはすでに多く言及されている[1][2]。月尾氏を中心とした「デジタルアー カイブ構想」では、「有形・無形の文化資産をデジタル情報の形で記録し、その情報をデー タベース化して保管し、随時閲覧・鑑賞、情報ネットワークを利用して情報発信」[3] とした。そうした定義づけが、その後の政策提言においても、あらゆる資料のなかで文化的コンテンツをデジタル・アーカイブの主な対象とした「閲覧・鑑賞・情報発信」の機能の重視につながったことが指摘されている[4]。 その一方で、情報処理学会・人文科学とコンピュータ研究会において技術開発や人文科学研究のほかにデジタル・アーカイブの意義についての検討が継続されてきた。 デジタル・アーカイブ概念の出現から 25 年以上が経過し、現在では「様々なデジタル情報資源を収集・保存・提供する仕組みの総体」 [5]として、「デジタルデータの複製にメタデ一タを付与したもの(デジタル二次資料)」 [6]や「デジタル形式の資料・情報・データ- 契約による e-resource や記事索引などの二次的データも含む一などを蓄積・集積・保存しユーザに提供している仕組み全般」[7]など、 デジタル・アーカイブの定義は以前よりも幅広く捉えられるようになっている。 ## 2. 2 多様化するデジタル$\cdot$アーカイブ 2008 年に IFLA と OCLC から MLA (Museum, Library and Archives) 連携につ いての報告書が出されたのを契機として、日本国内においても MLA の機関の間で資料を デジタル化しネットワーク上で統合的に情報提供を行うための連携・協力が求められるよ うになった。そして MLA にとどまらず、「「デジタルアーカイブ」という和製の概念は MALUI (Museum, Archives, Library, University and Industry)をはじめとする各種文化関連機関(の資料)をデジタル情報基盤で 連携させるための枠組みである」 [8]という 指摘からも、今日では単なるリポジトリでは ない、さまざまな領域で蓄積されたデジタル データを連携して新たな知識や経験を生み出 すツールとして、デジタル・アーカイブが捉 えられている。こうした利用は科学データの アーカイブなどでは以前から見られたが [9][10]、人文科学分野においてもデジタルデ 一夕を活用したデジタル・ヒューマニティー ズなど研究の幅が広がりつつある[11]。 これらの枠組みの総体に対する呼称が “デジタルコレクション”や“デジタルミュージアム”、“デジタルライブラリ”でもなく、「デジタルアーカイブ」という用語で定着したことに関して、“記録資料のまとまり”と“文書館”を意味する伝統的な「アーカイブズ (学)」 が概念として社会に浸透する前に「デジタルアーカイブ」が流通したことにより「ねじれ」 が生じたという後藤の指摘[4]がある。後藤は、日本におけるデジタル・アーカイブが当初「優品主義」の立場を取ったことでコレクションの「鑑賞」は達成した部分がありながらも、「アーカイブの本来の目的であった長期的保存・活用」やアーカイブズの理念である 「評価・選別」や「出所原則」について十分な配慮が欠けていたことがアーカイブズ関係者や文化資源の保存に携わる人々に「情報技術へのある種の懷疑を抱かせ、シニカルなスタンスに立たせてしまった」とする。 古賀による論点整理[12]に詳しいが、アー キビストの立場からは、デジタル・アーカイブの可能性を認めつつも、一般的議論において「アーカイブズの総体が理解されていないのみならず、アーカイブズの本質という、久くべからざる視点が抜け落ちている」[2]という指摘や、デジタル・アーカイブに関わる人々が「記録作成過程が内に含む人間の行為や組織の活動のプロセスに無頓着であるように感じる」[13]といった懸念が示されてきた。 このようにデジタル・アーカイブの概念は、 ミュージアムやライブラリー、アーカイブズといった資料の保存や活用において共通性を持ちながらも、それぞれ独自の秩序や合理性といった「当事者の論理」をやや強引に包括するかたちで展開してきた。 ## 3. 分析に向けて ## 3. 1 ライブラリー主導のデジタル$\cdot$アーカイブ 当初は「優品主義」という批判も向けられたデジタル・アーカイブだが、関係者の努力によって様々なデジタル情報資源の収集・保存・提供のための仕組みづくりがすすみ、 2020 年には国内最大の横断検索システムである「ジャパンサーチ」も正式公開された。この日本における書籍・公文書・文化財・美術・人文学・自然史 $/$ 理工学・学術資産・放送番組・映画などの幅広い分野を横断する統合ポータルが、国立国会図書館を中心として進められてきたことの意義を考えたい。 柳は、図書館がコレクションの形成を通じて個々の蔵書が持つ知識の断片性を統合し、「人類の築き上げた知識総体」を反映させようとしてきたのに対し、特定の分野において構築される各種デジタル・アーカイブはネットワーク化されることで普遍性を担保されると述べ、「知識の普遍性の確保とそれに対する市民のアクセスを保障しようとする視点」から公共図書館とデジタル・アーカイブの共通性を見出している[14]。 個々のデジタル・アーカイブにとって、横断検索システムへの参加は利便性向上を低コストで実現するが、当然ながらそれと引き換えに所有データの提供が求められる。そのため、連携の主催者は参加機関やコミュニティが属している社会において広く認められた存在であると同時に、コンテンツを独占するのではなく最小コストで誰にでも提供することの担保が重要となる。日本の情報化社会の進展において、幅広いデジタル情報資源の連携を主導するのに特に適した立場にあったのが国立国会図書館であることは、「知識の普遍性の確保とそれに対する市民のアクセスを保障しよう」としてきた公共図書館の活動によってもたらされたものではないだろうか。 ## 3. 2 デジタル$\cdot$アーカイブにおけるアーカイブ ズ(学)とオープンアクセス 近年、「オープンサイエンス」という考え方の普及にともないデジタル・アーカイブにおけるオープン化が進められている。著作権をはじめとする権利問題の整備や、クリエイテイブ・コモンズなどの利活用促進にむけた取り組みも広まりつつある[11]。 $ \text { その一方で、アーカイブズ(学)における } $ オープンアクセスの取り組みとして、「アジア歴史資料センター」に着目したい。日本のデジタルアーカイブ史のなかでも「異色の存在」 [15] と評されることもある「アジア歴史資料センター」(以下「アジ歴」)は、戦後 50 周年を記念として 1994 年に発表された「平和友好交流計画」に関する村山総理の談話を契機として、2001 年に設立された。アジ歴では、国立公文書館 - 外務省外交史料館 - 防衛省防衛研究所の三機関が保管するアジア歴史資料の目録情報及び画像データを「いつでも、どこでも、だれでも、自由に、無料で」利用できるデジタルアーカイブとして開設当初から画像やメタデータの閲覧、ダウンロード可能なデジタルアーカイブとして運用してきた[16] アジ歴の設立の経緯については、1990 年代以降、近代日本の戦争や植民地統治に起因する「歴史問題」が顕在化し、外交問題へと発展したことが背景にあったことに加えて、日本における歴史資料の保存と公開のための取り組みやアーキビストの育成などの問題に関して、諸外国に遅れを取っており「歴史記録の保存と公開の遅れは日本の近現代史に対する研究と教育の遅れをもたらし、ひいては、歴史問題に関する近隣諸国との対話を妨げる大きな要因とみなされていた」ことがあったとされる[17]。 ## 3. 3 モラルエコノミ一の視点 資料の原本を所蔵せず、インターネット上で電子資料を提供する「国内屈指の先導的なデジタル・アーカイブ事例」として登場したのが公文書を公開するアジ歴だったことは、日本におけるオープンアクセスの展開においてどのような役割を果たしたのだろうか。 柳は日本の公共図書館におけるデジタル情報化が書誌情報の提供とそれに関わる付帯的サービスの充実に注力し、テクスト自体の提供に関心が向かなかったことを指摘しているが、その背景には公共図書館の蔵書が著作権処理を必要とすることがあっただろう。それに対して、公文書館の所蔵資料は原則として必要とされる保存期間を満了した文書であり権利処理のコストが低い(ただし「個人の秘密の保持その他の合理的な理由により一般の利用に供することが適当でない」ものはその限りではない)。 また博物館と文書館は、一点ものの資料を所有するという点ではたしかに共通するが、資料の収集そして提供に関して根本的に異なる姿勢を持つ。美術館が所蔵品の画像ライセンスビジネスとの歴史ある関係性[18]から画像データの無料配布にたいして配慮や各種権利処理の対応を要したのに対し、文書館は所蔵資料を無料で提供することに慣れていた。 ## 4. おわりに MALUI に象徵されるような様々な機関による多様なデジタル・アーカイブが提供される今日において、組織によってデジタル化をめぐる事情はさまざまであり一概に括ることはできない。しかし、デジタル・アーカイブの活動に多様なアクターが参画し連携や協力 がますます求められるなかで、それぞれの機関やコミュニティにおいて成立している秩序や合理性を細やかに捉えていく必要があると筆者は考える。そうした「当事者の論理」を明らかにすることでデジタル・アーカイブのよりよい関係の構築に貢献していきたい。 ## 参考文献 [1] 古賀崇.「デジタルアーカイブ」の多様化をめぐる動向:日本と海外の概念を比較して. アート・ドキュメンテーション研究, 2017, 24 号, p.70-84. [2] 森本祥子. (コメント 3) 伝統的アーカイブズとデジタルアーカイブ. アーカイブズ学研究. 2011, 15 号, p55-60. [3] 影山幸一.“デジタルアーカイブという言葉を生んだ「月尾嘉男」”. artscape. 2004-0115. https://artscape.jp/artscape/artreport/it/k_04 04.html (参照 2021-11-11). [4] 後藤真. “アーカイブズからデジタル・ア一カイブへ:「デジタルアーカイブ」とアーカイブズの邂逅”. アーカイブのつくりかた : 構築と活用入門. 勉誠出版, 2012, p.103-116. [5] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. "我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性". 2017. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digi talarchive_kyougikai/houkokusho.pdf (参照 2021-11-11). [6] 影山幸一.“忘れ得ぬ日本列島:国立デジタルアーカイブセンター創設に向けで. デジタルアーカイブとは何か:理論と実践. 勉誠出版, 2015, p.3-26. [7] 江上敏哲. “「誰でも」とは誰か:デジタル・アーカイブのユーザを考える”.デジタルアーカイブとは何か:理論と実践. 勉誠出版, 2015, p.27-48. [8] 永嵪研宣. デジタルアーカイブの内実はどう表現されるべきか?:DAに関する議論の基盤構築に向けて. デジタルアーカイブ学会誌. 2021, vol.5, s1, p.86-89. [9] 大澤剛士. “科学データのデジタルアーカイブにおける必須条件「オープンデータ」”。 デジタルアーカイブ・ベーシックス 3 自然史・理工系研究データの活用. 勉誠出版, 2020, p.33-51. [10] Bruno J. Strasser. "The Experimenter's Museum: GenBank, Natural History, and the Moral Economies of Biomedicine". Isis. 2011, Vol. 102, No. 1, p. 60-96. [11] 京都大学人文科学研究所 - 共同研究班「人文学研究資料にとっての Web の可能性を再探する」編. 永墒研宣著. 日本の文化をデジタル世界に伝える. 樹村房, 2019, 238p. [12] 古賀崇. “デジタル・アーカイブの可能性と課題”.デジタルアーカイブとは何か:理論と実践. 勉誠出版, 2015, p.49-70. [13] 松崎裕子. 岡本真・柳与志夫責任編集『デジタル・アーカイブとは何か:理論と実 践』(書評).レコード・マネジメント. 2016, No.70, p.95-103. [14] 柳与志夫. デジタルアーカイブの理論と政策:デジタル文化資源の活用に向けて. 勁草書房. 2020, 255p. [15] 後藤真. “世界に開かれたデジタル歴史資料がもたらす未来”.アジア歴史資料センタ一設立 20 周年記念シンポジウム https://www.youtube.com/watch?v=WD03 LWaQJ7M (参照 2021-11-11). [16] 八日市谷哲生. 国立公文書館におけるデジタルアーカイブの取組み. アーカイブズ学研究. 2011, No.15, p.4-15. [17] 独立行政法人国立公文書館アジア歴史資料センター編,アジア歴史資料センター 20 年の歩み. 2021. https://www.jacar.go.jp/news/doc/news04.pdf (参照 2021-11-07). [18] 國谷泰道. “美術と歴史の分野における画像ライセンスビジネス”. デジタルアーカイブ・ベーシックス 5 新しい産業創造へ. 勉誠出版, 2021, p.62-82. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [35] 新聞記事に見るデジタルアーカイブ:朝日新聞、読売新聞の記事件数変遷 ○時実象一 1) 1) 東京大学大学院情報学環, 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: [email protected] ## Digital Archive as reported in newspapers: Transition of numbers of articles in Asahi and Yomiuri newspapers TOKIZANE Soichi ${ }^{1}$ ${ }^{1)}$ Interfaculty Institute in Information Studies, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, 113-0033 Japan ## 【発表概要】 朝日、読売両全国紙を調査したところ、デジタルアーカイブということばの新聞記事での初出は 1996 年 3 月 11 日の読売の記事「文化財の国際赤十字構想座談会注目のデジタル保存術」 で、同年 4 月 10 日の読売の記事「デジタルアーカイブ推進協議会が発足文化遺産をデジタル映像で保存・活用」に先立つ。その後記事数は 2001 年から 2005 年まで毎年 20 数件で推移したが、その後停滞、2015 年以降再び増加して 2018 年以降は年 70 件以上掲載されている。デジタルアーカイブの新聞記事の扱いを分析した結果を報告する。 ## 1. はじめに よく知られているように、「デジタルアーカイブ」という日本語は東京大学工学部の月尾嘉男教授(当時)が 1990 年代半ばに初めて提唱したとされる[1]。「デジタルアーカイブ」 ということばの新聞記事での初出は 1996 年 3 月 11 日の読売の記事「文化財の国際赤十字構想座談会注目のデジタル保存術」で、画家の平山郁夫、月尾嘉男教授、東京芸術大学の内山昭太郎教授、富士通会長の山本卓眞氏が参加した座談会の概要を紹介しており、参加者全員が「デジタルアーカイブ」ということばを使っている。その直後の 1996 年 4 月 10 日には、同じ読売で「デジタルアーカイブ推進協議会が発足文化遺産をデジタル映像で保存・活用」との報道がある。朝日新聞での初出は翌年 1997 年 1 月 1 日の「永遠の色よ届けデジタル社会(新年特集・第 4 部)」で平山郁夫氏が同協議会を紹介した記事である。 その後今日にいたるまで、「デジタルアーカイブ」については広く取り上げられている。 これらを網羅的に調查することにより、社会での「デジタルアーカイブ」の実践動向や認識度を知ることができると考え、調査をおこなった。 ## 2. 新聞記事調査結果 調查は朝日新聞の「聞蔵 II」[2](1985 年〜 2021 年 10 月 25 日)、読売新聞の「ヨミダス歴史館」[3](1986 年 2021 年 10 月 24 日)で 「デジタル」「アーカイブ」の 2 つ検索語の AND でおこなった。検索ヒット数はそれぞれ 490 件、393 件であった。すべての記事について本文に目を通し、正しく「デジタルアー カイブ」に関する記事であることを確認した。典型的な記事の例を図 $1 \mathrm{a}, \mathrm{b}$ に示す。 これから、内容が単に既存のデジタルアー カイブからの引用であるもの「例:[大阪面影さがし](3 6 )生玉絵馬堂人気競った境内 (連載) $=$ 大阪(読売. 2020/11/4) や論評 図 $1 \mathrm{~b}$. 須崎新図書館計画の記事(朝日 2021-10-09)記事、インタビュー記事などを除いて、デジタルアーカイブの動向やイベントに絞った。 さらに同一記事が複数の地方版で掲載されている場合もあったので、これらも除去した。 また都道府県などの予算の記事でデジタルア一カイブが予算項目になっているものもあったが、これらも除いた。その結果それぞれ 401 件、315 件となった。これを経年的に示したのが図 2 である。 これから、1996 年から 2002 年にかけて記事数が徐々に増加し、その後漸減、2011 年からまた増加に転じ、2017 年以降は高い水準となっている。デジタルアーカイブ学会が発足 したのは 2017 年で、この後各方面でデジタルア ーカイブの活動が活発化したとも考えられる。 これをデジタルアーカイブの構築主体別にグラフにしたのが図 3 である。地方自治体と関連する NPO 等が構築主体となっているデジタルアーカイブの記事数は 2001 年にピークとなって、その後一時減少したが、 2014 年からは高い数值となっている。一方初期は大学の関与は目立たなかったが、2008 年頃から大学が中心 - 関与しているデジタルア一カイブの記事数が卜ップクラスとなっている。また美術館・博物館の関与も 2016 年ごろから非常に増加している。 また、デジタルアー カイブの対象別の記事の遷移をグラフにしたのが図 4 である。 2010 年以前には美術品や文 図 4. デジタルアーカイブの対象別の記事数遷移 図 5.「戦争」と「災害」をテそーマとするデジタルアーカイブ記事数遷移 化遺産が中心であったが、それ以降は写真、映画、テレビ、書籍などが多く話題になっていることがわかる。 デジタルアーカイブのテーマでは戦争と災害についてグラフにしたのが図 5 である。 2011 年の東日本大震災以降、災害のアーカイ ブ記事数が顕著に増加している。また戦争アーカイブもこの時期から目立つようになった。 ## 3. まとめ 新聞記事は歴史の記録として重要であると同時に、世間の関心を反映している面もある。デジタルアーカイブにおいては、初期は政府が後押しした 「デジタルアーカイブ推進協議会」関連記事、最近では東日本大震災をきっかけとする震災関連ア一カイブの記事が目立った。また、地域のアーカイブが地方の記者の興味を引いて取材されているケースも多い。いずれにせよ、デジタルアーカイブが世間で一定の関心を集めていることが明らかになった。 ## 参考文献 [1]「デジタルアーカイブ」に至る道一月尾嘉男先生インタビュー. デジタルアーカイブ学会誌. 2021, 5(4), 246-251. [2]朝日新聞記事データベース聞蔵 II. https://database.asahi.com/ (参照 2021-11-09). [3] 読売新聞ヨミダス. https://database.yomiuri.co.jp/ (参照 202111-09). を主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [15] キュレーションモデルによる地域資料のデジタルアーカ イブ化: ## MALUI 連携に向けた学習者中心のアプローチ ○前川道博 1 ) 1)長野大学企業情報学部,〒386-1298 長野県上田市下之郷 658-1 E-mail: [email protected] ## Digital Archiving of Regional Documents by Curation Model MAEKAWA Michihiro ${ ^{1}$} 1) Nagano University, 658-1 Shimonogo, Ueda, 386-1298 Japan ## 【発表概要】 地域資料のデジタルアーカイブ化は、知識循環型社会の進展において極めて重要な課題である。学習者が必要とする知識・情報源に思らがままにアクセスし、参照データを活用して学習成果を公開する学習をここでは「キュレーションモデル」と呼ぶことにする。MALUI 連携はその支援策として期待されるものであるが、制度的な壁、慣習的諸条件により連携にすら至れないのが実情である。本研究で提起するキュレーションモデルは、学習者が主体となり、MALUI が収蔵する一次資料などを調查に利用しつつデジタル化を進めることにより、デジタルコモンズ上に自らデジタルアーカイブ化した資料を蓄積公開するものである。講座「公文書利用で始める地域学講座」でその試行評価を行った。 ## 1. 知識循環型社会に適合した地域資料 のデジタルアーカイブ化 地域資料のデジタルアーカイブ化は、知識循環型社会の進展において極めて重要な課題である。筆者は、知識循環型社会の実現を支援するメディア環境のモデルとなる「分散型デジタルコモンズ」の概念を構築し[1]、その実装サービス d-commons.netを開発した $[2]$ 。 図 1.d-commons.net のサイト構成同サービスは既に「下諏訪町デジタルアルバム」等の各クラウドサービスに適用し、サ一ビスの評価改善を加えながら実用性の高いサービスに高める取り組みを続けている[3]。 分散型デジタルコモンズの大きなねらいは、社会を旧来の知識消費型レジームから人々が豊かに生きることのできる知識循環型社会への転換を後押ししていくことである。(1)アクセス側(学習者)の主体性[4]が支援される学習環境・学習支援モデルの構築、(2)地域資料のデジタル化と活用促進、(3)これらを遍く支援できる持続的で自律分散型のメディア環境の実現がその研究課題である。 本研究で着眼した社会的課題は、知識循環型社会の実現に向けて今後ますます重要度を増すMLA連携、MALUI 連携[5]が社会全体では依然として進んでいないことである。MLA 等は未だに知識循環への適合にはほど遠い状況にある。知識循環においては、それらの地域資料をデジタル化し多くの人々がそれらの資料にアクセスできる可能性を拡げることにより、自由度高く直接的に一次資料を活用することに道が拓かれる。 ## 2. 地域学講座「信州上田学」におけるキュ レーション学習の試行 (1) キュレーションを主軸とする講座の試行 2020 年度はコロナ禍の蔓延により社会全体で資料のデジタル化、オンライン学習への対応が求められる状況に直面した。筆者は $d-$ commons.net を担当科目「信州上田学」の講座運営に援用し、実際の地域学習に役立つ学習支援のモデル化、メディア環境のモデル構築に取り組んできた(図2)[6]。 図 2. 信州上田学の知識循環イメージ 信州上田学は、次の 3 パターンの授業形態で構成した。 (1)マイサイト(生涯学習ポートフォリオ)を利用したキュレーション型学習 各自地域探求テーマを設定し地域探検に取り組む。成果をマイサイトにキュレーションする。サイトは受講後も継続して使うことができる。 (2)オンデマンド講座(地域学の学び方、地域探検の進め方、知識資料の活用など) (3)オンラインスクーリング(ビデオ会議 Meet による学習者の学びあいと助言) (2)地域資料不足の課題 当該講座で直面した課題は、受講者が参照できる地域資料の不足であった。この点、努めて地域資料のデジタル化を試みた。既に著作権の保護期間を終了した『上田市史・前後編』(1940 年)、『信濃虫糸業史』(1937 年) 等をデジタル化し公開した。 ## 3. アクセス側の主体による MALUI 連携 知識循環に求められる社会的与件の一つはデジタルアーカイブの充実である。もう一つは知識を循環させる主体的な学習者を増やし、 その裾野を広げていくことである。地域の一次資料を使う地域史研究などの学習活動で顕著な傾向は、学習者 (研究者) は誰でも資料をデジタル化し研究のために持ち帰っている事実がある。一次資料の閲覧とは資料の撮影 (=デジタル化)、本来の閲覧はデジタル化した資料の閲覧に他ならない。資料が MLA 施設の所蔵か民間所蔵かを問わず、学習者は必要とする資料を涉猟し、それぞれの施設に赴いて資料を撮影する。学習者は自らの探求を主軸に、MLA を横断的に利用することになる。 この活動モデルを「分散的プロジェクトドリブンによるキュレーション」と呼ぶことにする(図 3)。 図 3. キュレーションによる MALUI 連携 従来のデジタルアーカイブ構築は、専任職員が業務的に対し、実作業は業者委託するケ ースが多い。これに対して分散型プロジェクトドリブンによるキュレーションは、学習者が自ら調査した資料のデジタルデータをネットにも公開して他者が再利用しやすいように対処するものである。アクセス側の主体性において、学習者の学習 (研究) プロジェクトごとに資料のデジタルアーカイブ化を行う。 学習者は他者 (MALUI) から与えられた地域資料をデジタルな形で受け取るだけでなく、自らも一次資料を用いたキュレーションを実践することができる。併せてデジタル化公開に関わり、知識循環に寄与することができる。 ## 4. キュレーション講座のモデル ## (1)学習者中心の MALUI 連携 分散プロジェクトドリブン型キュレーションは前例のない学習モデルである。MLA 連携 により、その意味合いは似て非なるものとなる。大学は学習者 (学生)を中心とした関わり方ができる点に役割の大きな相違点がある。学習者中心の MALUI 連携を実現していくためのキュレーション講座のモデルを「公文書利用で始める地域学講座」において構築し、受講可能な市民向け講座として開講した[7]。 (2) キュレーション講座モデル「公文書利用で始める地域学講座」 講座は全 4 回(各回 3 時間)の構成とした。講座プログラムを表 1 に示す。 表 1 地域学講座プログラム & \\ モデル構築には、アクセス側 (学習者側) の学習プロセス、被アクセス側 (MALUI 側) の条件を掛け合わせた合理的なモデル化の導出が必要である。当該講座は学習者が資料を涉猟したり、具体的資料を調べたり、調べた内容を探求テーマのもとに一元的に集約し、 それらの学習成果をマイサイトにネット展示するという形でモデル化した。そのキュレー ションフローを図 4 に示す。 本講座では、上田市公文書館の協力により同館所蔵の資料を受講者のリクエストに応じて資料閲覧を代行する方法を試行した。図 5 はある受講者のマイテーマ(上田の鉄道の未成線計画)に基づくネット展示例である。 図 4. キュレーションフロー 図 5. マイテーマのネット展示例 (3)キュレーション講座モデルの課題 上田市公文書館と連携したキュレーション講座を実施して以下の知見が得られた。 (1)マイサイトへのネット展示の有用性 本講座では、キュレーションの成果物を 「信州上田デジタルマップ」のマイサイトに一元的に蓄積し公開する運用をした。主体的学習、アクティブラーニングを支援するには、 データの蓄積・活用に加え、学習成果のアウトプット化を促す支援策が不可欠である。この点でマイサイトにマイテーマを機能追加し た対応は極めて有効であった。学習者自身にとってはそれらの蓄積がポートフォリオとなる。特に一次資料を用いたキュレーションは長いスパンで取り組んで成果が積みあがっていくものであるから、講座の実施においては、 そのスタート地点に立てること、その後の学習が継続的に支援できることが必要である。 ## (2)公文書活用に向けた改善課題 上田市公文書館は同市の公文書館条例により運営されており、公文書利用に当たってはその制約を受ける。条文等をよく読むと、資料のデジタルデータをオープンデータとして扱えないなどの課題がある。他公文書館の好例に従い、条例やガイドラインを改善して社会の実情に適合させていくことが望まれる。 なお、筆者がアドバイザリーに関わった長野県デジタルアーカイブ推進事業(2009 年度〜) においては、県所蔵の資料は支障ない限りパブリックドメインとして公開する方針を取った[8]。同アーカイブの後継サイト「信州デジタルコモンズ」[9]にはパブリックドメインの原則が継承されている。公立の文書館等においても見習っていただきたい課題である。 社会全体でデジタル化対応が求められている現在、条例や運用ガイドラインなどの前例にとらわれない合理的改正が必要である。 (3)デジタルデータのガイドライン 資料のデジタル化については、最低限の品質保証をガイドラインとすることを提唱する。「判読できればよい」という割り切りである。 (4)閲覧・申請代行の有用性 当該講座では受講者のリクエストに応じて講座スタッフ(講座担当教員と学生スタッフ) が資料撮影とデジタル化を代行処理する試みをした。こうした代行処理が公文書館収蔵資料を活用する上で最も現実的な対処法であることが確認できた。公文書館収蔵資料の閲覧・申請代行は受益者負担による有償サービスとして行うことが、公文書館利用促進の一助となることが期待できる。 ## 5. 最後に デジタルアーカイブは活用されるべきものであるとの通念がある。主体的学習の支援、知識循環の観点からはデジタルアーカイブは使いながら自らの学習成果の蓄積・公開先として捉えることが望ましい。自ら学習活動を行い、その成果物(アウトカム)がデジタルアーカイブとなり、社会の公共財となる。 キュレーション講座は、公文書館所蔵の一次資料を活用するケースで計画したものであるが、ネット展示をアウトプットとするキュレーションは、大学生や市民ばかりでなく、小学生から高齢者まで世代を超えてアクティブラーニング型の主体的学習、デジタルな手段による生涯学習に適用できる汎用的なモデルである。地域資料のデジタルアーカイブ化の参考になれば幸いである。 ## 参考文献 [1] 前川道博. 地域学習を遍く支援する分散型デジタルコモンズの概念. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, Vol.2, No.2, pp.107-111. [2]https://d-commons.net/ (参照 2021-02-20) [3]https://d-commons.net/shimosuwa/ 等(参照 2021-02-20) [4]端山貢明. ネット・ムセイオンを目指して I . 東北芸術工科大学紀要 No.7. 2000, pp.104-127. [5] MLA 連携は Museum,Library,Archives の連携、 MALUI 連携は Museum, Archives, Library, University, Industry $の$ 連携 [6]みんなでつくる信州上田デジタルマップ https://d-commons.net/uedagaku/(参照 2021-02-20) [7]公文書利用で始める地域学講座 2021 https://d- commons.net/uedagaku/category_top.php?cat=30(参照 2021-02-20) [8]前川道博. 地域の知の再編「地域デジタルコモン ズ」の実現に向けて. 手と足と眼と耳 2018, pp.1537. [9]信州デジタルコモンズ https://www.ro-da.jp/shinshu-dcommons/ (参照 2021-02-20) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [33]『日本美術年鑑』所載物故者記事データベースの活用 について ## 人名による検索と関連データの表示について ○小山田智寛 ${ }^{11}$ 1) 東京文化財研究所,〒110-8713 東京都台東区上野公園 13-43 E-mail: [email protected] ## On Utilization of the database of Obituaries published in Year book of Japanese Art: \\ Search by person's name and indicate related data \\ OYAMADA Tomohiro1) \\ 1) Tokyo National Research Institute for Cultural Properties, 13-43, Ueno Park, Taito-ku, \\ Tokyo 110-8713 Japan ## 【発表概要】 東京文化財研究所では、1936 年よりほぼ毎年、日本の美術界の動向をまとめた『日本美術年鑑』を刊行している。この『日本美術年鑑』に掲載された美術家や美術関係者の物故者記事をまとめたウェブデータベースは、多くのアクセスを集め活発に利用されている。しかし記事が没後間もなく執筆されるという性質上、後に判明した事実などが追加されないという課題がある。そこで物故者の人名を用いてデータベース内を検索し、記事中の人名にリンクを作成、また当該の人名が含まれている記事を自動でリスト化する機能を実装した。この機能によって他の人物の記事から、執筆時に判明していなかった情報が補足できる。しかし関連する人名が記事中に必ずしも含まれるわけではない。この問題に対して、階層を持つ関連性を視覚化できるグラフデータベ ースの活用を試み、人名をキーとすることの発展性を確認することができた。 ## 1. はじめに 東京文化財研究所(以下、当研究所)では、 1936 年より、日本の美術界の動向を一年ごとに総覧できるよう編集した『日本美術年鑑』 (以下、『年鑑』)を毎年刊行している[1]。『年鑑』では日本の美術に関する情報を次の四項目で整理している。 美術界年史 : その年の美術界の略年譜美術展覧会 : その年に開催された美術展覧会の一覧 美術文献目録:その年に公開された美術に関係する文献の目録 物故者記事: その年に亡くなった美術家や美術関係者の略歴 これらの情報は、美術に関する論文や新聞記事、博物館や美術館のチラシや展覧会図録などの収集資料から作成している。これらは『年鑑』刊行後に当研究所のウェブサイト [2] で公開されるが、特に 2014 年よりデータベー スとして公開した物故者記事データベース (以下、物故者記事 DB) [3]は多くのアクセスを集めている。 一般的な 人物事典に見えるこのデータベー スの特徴は、登録される情報が毎年刊行される 『年鑑』に掲載された数十人分ずつの記事で ある、という点である。そしてこの特徴に由来する課題がある。それは『年鑑』刊行時に明らかだった情報のみを元にして記述された数十年分の記事が一律に扱われている、という課題である。筆者は当研究所においてデー タベースの構築と運用に携わる立場であるが、本報告ではこの課題に対する対応とさらなる活用の可能性について報告する。 ## 2. 物故者記事データベースの課題 物故者記事を具体的に確認したい。評論家で画廊経営主の洲之内徹(1913-1987)の収集した作品は「洲之内コレクション」と呼ばれ、没後、宮城県美術館に一括収蔵された。物故者記事 DB には下記のように記述されている。 また、新人の発掘とともに、定評のある作家より世に知られない画家たちの優品を集めた “洲之内コレクション”でも有名であった。[4] 本文にはコレクションの収蔵先への言及はない。宮城県美術館への一括収蔵は没後間もない 1988 年に行われ、1989 年 2 月にお披露目となる展覧会が開催されている[5]。当該の物故者記事が掲載された『年鑑』が 1989 年 3 月の刊行であることを考慮すると、情報の掲載が難しかったと推測できる。 次に広島生まれの画家、䈠光 (1907-1946) を確認したい。靉光はシュルレアリスムの画家として近年、評価の高い画家であり、2007 年には東京国立近代美術館で生誕 100 年を記念した展覧会も開かれた画家であるが[6]、物故者記事は 240 字の短文に過ぎない[7]。記事が記述された 1940 年代後半の瞹光の評価についての検討は避けるが、若くして戦地で亡くなった画家の記事を執筆するにあたって、十分な資料を集めることができなかったことは想像に難くない。 情報の不備から、当時の記述対象をめぐる状況を推察することも可能ではある。しかし検索エンジンから記事に直接アクセスする利用者にとって、これらは情報の欠如に過ぎない。次節ではこの課題への対応について確認する。 ## 3. 人名による関連データの抽出 物故者記事 DB は『年鑑』に掲載された記事のデータベースであり、事実誤認や誤字の修正は随時行うが、情報の追加は行わない。 そのため前節で確認した課題の発生は不可避である。しかし物故者記事 DB で「䨗光」を検索すると本人の記事を含めて 17 件がヒットする。これらを参照先として提示することで記事を補足できるのではないか、と考え、本文中に文字列「靉光」が含まれる物故者記事をリストとして表示する機能を実装した。また本文中の人名が物故者記事 DB に登録されている人名であれば、その文字列に当該の記事へのリンクを貼る機能も合わせて実装した。 なお本論では触れないが当研究所で公開している他のデータベースに対しても同様の処理を行い、リンクをリストとして提示している。靉光であれば「本文に文字列 “雱光” が含まれる物故者記事のリスト」が作成されることになる。単なる文字列での抽出であるが、例えば、評論家ヨシダ・ヨシエ(1929-2016) の下記の記述は、䈠光について調べる際の手がかりとなると同時に、䨱光が没後四半世紀が過ぎて評論家が長期連載するような画家である、という評価を読み取ることもできる。 62 年「雲光伝」(『AVECART』、58 号から 9 回連載)は、ヨシダのこの頃の中心的なテーマ「戦争と美術」が展開される。靉光については、 77 年から 82 年まで 『デフォルマシオン』で「わたしの内部の䨗光」を長期連載する。[8] このように『年鑑』に掲載された記事をまとめる、という登録方法のもつ課題はあるが、人名をキーとして記事をリスト化することで、異なる年代の評価を確認することができる、 というメリットも物故者記事 DB には存在することがわかった。 しかし、人名をキーとすることの有効性は、文章の書き方に依存する。多くの美術家の場合、記事は主要な交際関係と作品名、展覧会名をつなぐように執筆される。一方、団体を主催したり、公的な委員だった人物の場合、記事には個々の人名があまり記載されないため、人名をキーとして情報を抽出することができない。 詩人で評論家の瀧口修造(1903-1979)は詩人としての著作活動を続ける一方、多くの若手の藝術家を助け、美術評論家連盟の会長でもあり、様々な美術界の情勢と関わった人物である。例えば下記で言及されている千円札事件とは、美術家で作家の赤瀬川原平 (1937-2014)の作品「模型千円札」に関する裁判のことである。 65 年千円札事件懇談会に加わり、翌年特別弁護人となり、また同年来日中のミロに初めて会う。[9] 瀧口の場合、様々な立場で関与した美術家の数が膨大であるため個々の人名を文中に出すことは難しく赤瀬川の名も記載されない。一方、詩人としての活動でかかわった人名は挙げられているので、美術界全体に対する活動と作家活動とで、意図的に記事の情報が選別されていることも推測できる。では、赤瀬川の記事で本件はどのように記述されているだろうか。 赤瀬川個人の作品としては、梱包作品や模型千円札がある。後者は、同時期に起きた偽札事件「チ一37 号事件」との関連で警察の目に留まり、65 年 11 月に「通貨及証券模造取締法違反」で起訴される。 このいわゆる「千円札裁判」は、芸術と法との関係を問う「芸術裁判」へと発展し、注目を集める。 70 年 4 月、上告が棄却され、懲役 3 月執行猶予 1 年の有罪が確定する。この時期には、「模型千円札」 を理論的に正当化することも含めて様々な文章を執筆しており、70 年に『オブジ エを持った無産者』としてまとめられる。 [10] 比較的詳細に記述されているが、瀧口への言及はない。このためこの両者に関しては人名での情報抽出が有効に機能しない。 もちろん人名だけで関連情報を抽出することが難しいことは明らかである。人名を単なる文字列として扱っている以上、表記ゆれにも左右される。また物故者記事が美術に関するテキストであることを考慮すれば、作品名などもキーワードとして設定することが望ましい。しかし、「千円札事件懇談会」、「模型千円札」、「千円札裁判」とそれぞれに記述されるこの事例のキーワードを「千円札」とするかどうかは、情報の抽出とは別の判断である。現代美術の場合、発表の後の論評などで呼称が定着する場合もある。したがって人名以外のキーワードを設定する場合、それ自体が歴史性を帯びてしまう危険性があることに注意が必要である。 ## 4. グラフ化 瀧口と赤瀬川の記事が、人名では直接関連付けられないことがわかった。しかし物故者記事 DB の各記事の人名を辿ることで、二つの記事の関連性を見出すことはできないだろうか。 データのネットワーク状の関連性を調査するには、グラフデータベースが適している。 そこで、物故者記事 DB のデータからキーとする人名がどの記事に文字列として登場しているかを調査したデータを作成し、グラフデ ータベースを利用して関係性を図示したところ、赤瀬川から二階層のところで瀧口を得ることができた。 図 2 はグラフデータベースによって得られた結果を簡略化したものである。赤瀬川からは造形作家の荒川修作 (1936-2010) やヨシダヨシエを介して瀧口を辿れることが分かる。 また佐谷画廊の代表者であった佐谷和彦 (1928-2008)からも瀧口を関係者として求めることができた。以上から、人名をキーと 図 2. 物故者記事データベースでの「赤瀬川原平」から「瀧口修造」への経路 することには限界があるが、グラフデータべ ースによる関連性の視覚化を利用することで、 その発展性が残っていることが確認できた。 したがってグラフデータベースを既存の物故者記事 DB に組み合わせることでさらなるデ一夕活用が見込まれるが、具体的な実装についてはセキュリティやパフォーマンスについて調査した上での今後の課題としたい。 ## 5. おわりに 物故者記事 DB の課題と、人名をキーとした関連情報の集約による対応の限界を論じ、 グラフ化による発展性を示唆することができた。本稿で提示したグラフ化は人名による情報抽出のリスト化の補足であるが、同時に物故者記事に見る人物関連図も得ることができた。この図を近代日本美術の人物関連図と言うこともできるが、関連性の意味が統一されていないという問題がある。先の赤瀬川から瀧口へ至る経路を例に取れば、ヨシダヨシエと赤瀬川、瀧口の関係は評論家と作家のそれである。赤瀬川と荒川は高校の学友であり、美術家としての関係もあった。佐谷と赤瀬川、荒川、瀧口の関係は画廊主と美術家のものであるが、佐谷は瀧口を顕彰する展覧会「オマ ージュ瀧口修造」展を 21 回も開催しており [11]、他の作家とは関係性を分けて考える必要がある。そして荒川は瀧口に見いだされた、 という関係である。今後、この関連図そのものの活用を行うには、これらの様々な関係性を整理した上で、再度グラフ化を行う必要があるが、これについては今後の課題としたい。 ## 参考文献 [1] https://www.tobunken.go.jp/joho/japanes e/publication/nenkan/nenkan.html (参照 20 21-11-10). [2] https://www.tobunken.go.jp/archives/ (参照 2021-11-10). [3] 現在 1935 年から 2017 年にかけて亡くなった美術家、美術関係者の物故者記事 3,013 件が登録されている https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko (参照 2021-11-10). [4] https://www.tobunken.go.jp/materials/bu kko/10272.html (参照 2021-11-10). [5] 展覧会図録『洲之内コレクション展気まぐれ美術館』宮城県美術館. 1989, 3p 展覧会図録『気まぐれ美術館洲之内コレクシヨン展 / 茨城県近代美術館編』茨城県近代美術館. 2005, 101p [6] 展覧会図録『生誕 100 年靉光展』毎日新聞社. 2007 [7] https://www.tobunken.go.jp/materials/bu kko/8682.html (参照 2021-11-10). [8] https://www.tobunken.go.jp/materials/bu kko/818646.html (参照 2021-11-10). [9] https://www.tobunken.go.jp/materials/bu kko/9776.html (参照 2021-11-10). [10] https://www.tobunken.go.jp/materials/b ukko/247380.html (参照 2021-11-10). [11] https://www.tobunken.go.jp/materials/b ukko/28424.html (参照 2021-11-10). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [32] チベット・ヒマラヤ牧畜農耕資源データベースの構築 フィールドデータと文献データをつなぐ ○星泉 ${ }^{11}$, 岩田啓介 ${ }^{2}$, 平田昌弘 ${ }^{3}$ ), 別所裕介 ${ }^{4)}$, 山口哲由 5), 海老原志穂 6 ) 1) 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所, 〒183-8534 東京都府中市朝日町 3-11-1 2) 筑波大学, 3) 帯広畜産大学, 4) 駒澤大学, 5) 京都大学, 6) 日本学術振興会/東京外国語大学 E-mail: [email protected] ## Constructing a Database for the Study of Tibeto-Himalayan Pastoral and Agricultural Resources HOSHI Izumi ${ }^{1)}$, IWATA Keisuke ${ }^{2}$, , HIRATA Masahiro ${ }^{3}$, BESSHO Yusuke ${ }^{4}$, , YAMAGUCHI Takayoshi5), EBIHARA Shiho ${ }^{6}$ ) 1) Tokyo University of Foreign Studies, 3-11-1 Asahi-cho, Fuchu-shi, Tokyo, 183-8534 Japan 2) University of Tsukuba, ${ }^{3}$ Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine, 4) Komazawa University, ${ }^{5)}$ Kyoto University, ${ }^{6}$ JSPS/Tokyo University of Foreign Studies ## 【発表概要】 チベット・ヒマラヤ地域の人々は、様々な文化圈の影響を受けながら、冷涼かつ乾燥した高地という環境を活かした伝統的な生業を発達させてきた。周辺地域との影響関係については平田がユ ーラシア各地の乳製品の加工プロセスを広く調查し、説得力のある説を提示している。本研究では、乳加工プロセスの比較研究の手法をその他の資源にも応用し、周辺地域との影響関係や地域ごとの独自発展の様相を、より多層的に考察することを目的とし、チベット・ヒマラヤ牧畜農耕資源データベースを共同で構築中である。様々な言語の文献から当該地域における各種牧畜農耕資源の加工プロセスに関して収集したデータを共有し、地理情報や年代情報、コメントとともに入力し、地域間比較研究のために活用している。本発表では、このデータベースを活用した、乳加工・乳製品の地域間比較研究の事例紹介と、今後のフィールド調査に向けた調查票の準備状況について報告する。 ## 1. はじめに チベット高原およびヒマラヤ地域(以下、 チベット・ヒマラヤ地域)では有史以前から西アジア、中央アジア、北アジア、東アジア、南アジアといった周辺の地域の影響を受けつつ、冷涼な高地乾燥地帯という特有の環境に適応した牧畜や農耕が行われ、そこで生産される資源の利用が行われてきた。チベット・ ヒマラヤ地域の資源利用の研究は、周辺地域との交流や地理的環境と資源利用の関係などを知る上で極めて重要な意味を持つ。 本研究は、対象を牧畜や農耕により生産される複数の資源に広げ、それらの加工プロセスについてチベット・ヒマラヤ地域で広くフイールド調查を行うとともに、研究者による現地調査の記録や、現地で出版された民俗文化に関する文献などからもデータを収集・蓄積して、それらをもとに地域間比較を行うという目的のもと構想された。 発表者らはチベット高原東北部の牧畜地区 で牧畜文化語彙の調査を行い、辞書[2]にまとめた経験があり、本研究では調査対象をさらに広げ、2020 年度から科研費基盤研究(B)「フィールド調査と文献調査に基づくチベッ卜語民俗語彙データベースの構築とその活用」 をスタートさせた。COVID-19 の世界的流行によりフィールド調查がかなわなくなったため、現在は文献からのデータ収集とデータベ一スの構築に力点を置いて研究を進めている。本発表ではデータベース構築の途中経過とともに、特にデータ収集の進んでいる乳文化 (乳製品と乳加工)に関するデータ収集・分析の成果について報告する。 ## 2. 研究方法 ## 2. 1 共同研究によるデータベース構築方針文献から資源利用に関する箇所を引用し、 それを各種メタデータとともに記録し、共同研究者間で共有することを基本方針とした。調查対象の文献は、旅行記、滞在記、地誌、 辞書、歴史史料、文学作品、現地調查の記録などを中心に、様々なものを取り上げた。用例収集に関しては特に方針は定めず、メンバ一の関心に合わせて生業や資源利用の一端が記されているものは何でも記録していくこととした。文献の言語も日本語、英語、チベッ卜語、中国語など、メンバーが読める言語であれば何でもよいとした。本研究では特に乳加工に関するデータに注目し、共同研究者でもある平田の研究[1]と、チベット人が現地の乳製品に関して詳細に記録した文献[3]や、インド北部のチベット文化圏にあたるシッキム州出身の研究者が発酵食品についてまとめた文献[4]などを多く参照した。 ## 2.2 データベースの構築 複数の共同研究者が遠隔からいつでも編集できるよう共同構築用データベース群(図 1 参照)を構想し、まず、用例収集用データベ一ス(以下、用例 $\mathrm{DB}$ )を用意した。入力画面では、文献から抜粋したテキスト原文、日本語以外のテキストに対する翻訳(現状では和訳に統一)、引用箇所に対するコメント、カテゴリー、入力者、出典、頁番号を入力するものとした。カテゴリーは、発表者らが 2020 年に刊行した『チベット牧畜文化辞典』[2]のために用意した牧畜文化にかかる項目分類「搾乳と乳加工」「屠畜・解体」「糞」「毛と皮革」 など 28 種類に「農業」「その他」を加えた 30 種類からの選択制とした。コメント欄には可能な限り地理情報、年代情報を入力するとともに、分析の視点なども盛り込むこととした。併せて単語収集用に単語 DB も用意した。複数の辞書の記述を比較対照できるよう、単語、語釈、和訳、コメント、カテゴリー(同上)、入力者、出典を入力するようにした。また、書籍や論文などのメタデータを記録できる出典 DB や、共同研究者がチベット・ヒマラヤ地域で過去に行ったフィールド調查の写真も活用することとし、地理情報と撮影日時とともに登録できる写真 DB も用意した。 入力したデータには全て DB ごとに固有のナンバリングに基づくID を持つようにした。 牧畜農耕資源から生活史・文化交流史を読み解く 図 1.データベース群の構成 ## 2.3 地理情報の同定 様々な資料から用例を収集したため、地名の表記が不統一であることが問題となった。対応策として KH-Coder を用いて地名を取り出し、それらを整理して名寄せを行うと同時に、英語表記、漢語表記をもとに地図上で対応関係を調查した。OpenStreetMapを利用し、 DB 群に表示された地名から、指定の地図ぺ ージヘリンクを張る仕組みを作成した。 ## 2.4 集積したデータの整理-分析 $\mathrm{DB}$ 群に集積したデータを分析し、乳加工の専門用語を始めとする各種メタデータを付与した。原語での表現と専門用語の対照表を Google スプレッドシート上に作成し、DB 群に集積した事例データと照合し、該当するものをIDで記載していった。この作業を繰り返すことにより、牧畜農耕資源や加工プロセスに関する事例データの分析の精度を高めていき、整理を進めた。 ## 3. 結果 ## 3. 1 データ収集状況 用例 DB に絞ってデータ収集状況を報告すると、2021 年 11 月 7 日現在、 177 種の文献から、1,107 件の用例が登録されている。言語別内訳は、日本語 579 件、英語 261 件、チベット語 209 件、中国語 58 件である。文献の種別内訳は、現地調査 73 点、旅行記 48 点、 文学作品 18 点、辞書・語彙集 10 点、歴史資料 5 点、その他 23 点である。カテゴリー別では、食文化 343 件、搾乳と乳加工 306 件、住文化 84 件、糞 79 件、毛と皮革 55 件、食肉と部位名称 51 件などとなっている(重複あり)。乳関連のデータは、食文化のカテゴリーも含めると現時点で最多である。なお、データべ 一スに入力された情報の中から同定できた地理情報は 148 箇所に及ぶ。 ## 3. 2 用例 DB を活用したチベット・ヒマラヤ地域における乳加エ$\cdot$乳製品の研究 文献に現れる乳加工・乳製品用語を、チベット語を中心に整理したところ、111 語が得られ、そのうちチーズに関する用語が 40 語と最も多かった。40 語の中には、地域ごとの表現の違いも含まれているので一概には言えないが、ヨーグルトやバターと比べてチーズの多様性が突出した結果となった。 平田[1]を参考に、チーズを表す 40 語を加エプロセスの観点から整理すると、(1)発酵乳系列(自然発酵乳からバターを作り、残ったバターミルクを加熱凝固・脱水させて作るチ一ズ)、(2)凝固剤使用系列(全乳を加熱し、凝固剤を加えて凝固・脱水させて作るチーズ)、 (3) クリーム分離系列(クリームまたはサワー クリームをとり、残った脱脂乳または自然発酵乳を加熱凝固させて作るチーズ)の 3 系列からなる 16 種類に集約されることが明らかになった。それぞれの内訳は以下の通りである。 (1) 発酵乳系列 12 a) 非熟成チーズ 5 b)熟成チーズ 5 c) ホエーチーズ 1 d)加熱濃縮チーズ 1 (2) 凝固剂使用系列 2 a)非熟成チーズ 1 b)熟成チーズ 1 (3)クリーム分離系列 2 a)分離後の脱脂乳使用 1 b)分離後の発酵乳使用 1 地理的な分布を見ると、チベット・ヒマラヤ地域全域で、バターをとった後のバターミルクを加熱凝固させ、脱水したものを天日乾燥させるタイプの非熟成チーズ(1a,2a,3a, 3b)が広くみとめられるが、ホエーチーズ (1c)や加熱濃縮チーズ(1d)は一部地域にのみ見られることがわかった。また、チベット高原南部や、ヒマラヤ南麓にあたるブータン、 シッキム、アルナーチャルなど、森林が多く湿潤な地帯を中心に、燻煙や密封保存などの技術を用いた熟成チーズ(1b,2b)が見られた。 チベット高原中央部のチャンタン高原と呼ばれる牧畜地帯には、燻煙処理やホエー漬け処理を施した熟成チーズも見られた(1b)。 チーズ以外の乳製品についても、クリームやヨーグルトの乾燥加工を行う地域があること、また、全乳を加熱濃縮した食品の存在など、従来知られていなかった乳製品が文献調查によって明らかになった。 ## 4. 考察 ## 4. 1 共有データにもとづく共同研究の効能 本研究では、2.で述べた通り、古今東西の各種言語で書かれた記録の中から、牧畜農耕資源に関する箇所を抜き出して、電子データ化し、各種メタデータを付与してデータベー スに蓄積し、共同研究の研究工具として活用している。今回は研究の比較的進んでいる乳加工・乳製品の調查のために蓄積したデータを活用して整理・分析を進めた。研究はまだ途中段階であるが、これまでの経験から、牧畜農耕資源データベースを用いた研究手法の利点についてまとめておきたい。 1 点目は、牧畜農耕資源に関するデータの中に、地域の習慣や生態環境、交易の状況、地理的特徵などの周辺情報が同時に含まれている点である。こうした付随情報が併せて確認できる状況は地域間比較の考察の精度を高めるために有効である。 2 点目は、外来者の視点による旅行記や現地調查の記録と、その土地の言語で書かれた記録を容易に照らし合わせることができる点である。異なる視点・時代の記録を見比べることが容易になり、フィールド調查のみでは得られない豊かな情報網を構築できる。 3 点目は、日本語以外の言語で書かれた用例を一旦全て日本語に翻訳することで、チー ム内の情報共有を図り、チベット・ヒマラヤ地域を対象とすることによる言語の壁が取り払われ、議論がしやすくなった点である。プロセスに着目して整理することで、地域間比較が可能になったこともよかった。今後他の資源に関する調査結果を重ね合わせた上で、 テキストマイニングを行うなど、さらなる分析に有効活用することが可能になる。 ## 4.2 用例データベースを用いた乳文化研究 従来、研究者によってチベット・ヒマラヤ地域には乳製品の種類が少ないと指摘され $[5]$ その後のフィールド調査でもその説を補強する事例が多く発表されてきた[1][2]が、現在実施中のチベット・ヒマラヤ地域を対象とした文献調查によって、実は多様な乳製品があること、特にチーズの種類が豊富であることが明らかになった。地理情報を重衩合わせることで、環境に合わせた乳製品の保存方法を発達させている状況を窥い知ることができた。 この結果は今後フィールド調査に使えるよう、調查票として活用予定である。現時点では、平田[1]の手法にならい、乳加工プロセスを明確化した上で、今回の調查を踏まえ、あり得るバリエーションを一覧表示した調查票 (表 1)を試作した。実際の調查に使うためには質問票なども合わせて用意する必要がある。 ## 4. 3 地理情報の付与に関する検討事項 現在非公開で構築を進めている本データベ一スは、様々な研究への応用可能性が想定されることから、いずれ公開したいと考えている。その際、収集した用例データと地理情報をどのように結びっけて提示するかについて は今後検討が必要である。例えば、現時点で付与している地理情報は、特定の地点に同定できる場合は少なく、多くは県、あるいはそれより大きい行政単位までしか判明していない。精度の異なる地理情報をどう扱うかについては今後取り組む必要があるだろう。 ## 5. おわりに 特定の文化の中で生成する事象は当該文化の中の意味のネットワークの中に存在するものである。牧畜農耕資源も、衣食住、宗教、人間関係、噈楽、冠婚葬祭、交易などといった人間の諸活動と密接に絡み合って存在している。従って、牧畜農耕資源に関する情報が言語データと地理情報、背景情報とともに格納された本データベースは、今後チベット・ ヒマラヤ地域の生活史や文化交流史を解明することに貢献する可能性を秘めている。現状では蓄積されたデータ件数は多くはなく、共同研究者の人数も多くはないことから、偏りがある点は否めないが、今後引き続きデータの蓄積と、活用研究を進めていくとともに、公開を目指して詳細な検討を行っていきたい。 ## 参考文献 [1] 平田昌弘. ユーラシア乳文化論. 岩波書店, 2013, 498p. [2] 星泉, 海老原志穂, 南太加, 別所裕介編. チベット牧畜文化辞典(チベット語-日本語).東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所, $2020, x l+448 p$. [3] Sog-ru, K. 'brog-las dkar-chu'i bstan-bcos (Milk Culture of Changthang), Mtsho-sngon mirigs dpe-skrun-khang, 2014, 217 p. [4] Tamang, J. P. Himalayan Fermented Foods Microbiology, Nutrition, and Ethnic Values, CRC Press. 2010, 316p. [5] 松原正毅. 青蔵高原. 中央公論社, 1992, 275 p. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [31] テレビ番組ナショナルアーカイブに向けたメタデータモ デル構築: ## 「番組」の階層構造に着目して ○関根禎嘉 1 ) 1)慶應義塾大学大学院文学研究科、 $\bar{T} 108-8345$ 東京都港区三田 2-15-45 E-mail: [email protected] ## Construction of the tv program metadata model for the national archive: Focusing on the hierarchical structure of bangumi SEKINE Sadayoshi1) 1) Keio University, 2-15-45 Mita, Minato-ku, Tokyo, 108-8345 Japan ## 【発表概要】 テレビ放送番組のアーカイブ利用のためのメタデータモデル構築を行う。「番組」は放送されるコンテンツを指す基礎的な用語でありながら、その範囲について明確な定義が存在しない。本研究では放送ライブラリー公開番組データベースを例にして、「番組」の階層構造や放送番組を特徵づける各実体を定義し、メタデータモデルを汎用的な記述言語である RDF を用いて構築する。 ## 1. 背景 映像配信サービスの普及により、放送されたテレビ番組をアーカイブ利用する機会が増えた。2020 年に正式公開されたジャパンサー チでも、放送ライブラリー公開番組データベ一ス(以下、放送ライブラリーDB)[1]の所蔵番組がウェブ上で検索可能であり、NHKア一カイブス所蔵の映像の一部も検索することができる。一方で、日本国内で放送されたテレビ番組の包括的なアーカイブは存在しない。 テレビ番組は、アーカイブとして広く用いられる情報資源とは捉えられていないのが現状といえる。数少ない公開アーカイブでも、各機関がどのような指針やメタデータモデルにしたがってメタデータを作成しているのか、 その詳細を公開している事例は見当たらない。本研究では、過去に放送されたテレビ番組のアーカイブ利用を前提としたメタデータモデルの構築を行う。アーカイブの対象は主に日本国内で放送されたテレビ番組とする。 ## 2. 研究方法 テレビ放送番組アーカイブから番組を記述する要素を抽出し、それらに適合するメタデ ータモデルを設計することを本研究の方法とする。 国内に存在する番組アーカイブは、メタデ一夕設計に際して採用したモデルを公開しているものはない。また、記述規則も公開されている例は見られない。したがって、公開されているデータベースの出力などから、採用されているモデルや記述規則を遡及的に推測する必要がある。この作業を、メタデータの要求分析・定義の一環として位置づけ、実行する。 他方、放送番組を対象としたメタデータモデルの事例をモデル構築のために参照する。 ## 3.「番組」の定義 テレビで放送されるコンテンツは一般に 「番組」と呼ばれる。ところが、単に番組と言った場合、図書 1 冊や DVD1 巻などに相当する明確な範囲を持たない。これは放送が時間で区切られたメディアであることに起因している。番組とは本来、演芸・映画・相撲などの演目・組み合わせや、その順序、またはそれを書いたものを指す。日本国内の放送草創期においては、1925 年 2 月のラジオの実験放送当初より、朝刊にその日の放送内容を掲載していた。当時の紙面からは、時間ごとに放送内容を記した記事自体を番組と呼んでいたことがわかる。 つまり、放送が普及し、その内容が豊かになるにつれ、放送スケジュールと内容を記し た記事が「番組表」と呼ばれるようになり、 その記載内容自体が番組と呼ばれるという、意味の転倒が起こったと考えられる。 今日では番組と言った場合、1 回の放送を指すこともあれば、新たな放送開始から最終回までの一連のまとまりを指すこともある。 また、テレビやラジオによって流通するコンテンツ全体を指したり、ネット配信サービスで視聴できる映像コンテンツを指したりすることもある。 ところで、テレビ番組にとって、時間編成は重要である。毎週、決まった曜日の決まった時間に放送することにより、視聴者に視聴習慣を身につけさせることは視聴者の獲得のために不可欠であった。そこから連続ドラマという形式が成立した。また、単発ドラマと呼ばれる形態もある。初放送時は他の作品との関係性を持たなくても、 3 か月や 1 年などの間隔をおいて続編が放送されれば、「シリー ズ」が形成される。放送番組のメタデータモデル構築には、このような編成上の特徴を表現できることが必要と考えられる。 ## 4.メタデータモデルの事例 英国放送協会(BBC)永開発した BBC Programmes Ontology(以下、BBC PO)は、 BBC が大量に制作してきた放送番組を整理しようとする試みである $[2]$ 。放送番組がインタ ーネットで利用されることを念頭に置いて設計され、2009 年に公開された。モデルの記述には RDF を採用し、RDF Turtle 形式の語彙が公開されている。このオントロジーは、放送の実体をContents、Medium、Publishing、 Temporal annotations の4つのドメインに整理したモデルを採用している。放送番組の内容を表現している Contents ドメインでは、 Programme クラスを中心に、Brand、Series、 ProgrammeItem を下位クラスとする構造になっている。ProgrammeItem にはさらに Episode と Clip が下位クラスとなる。この構造を図 1 で示す。 放送番組に限らず、映像コンテンツにユニ ークな ID を付番する体系である EIDR も、第 2 図に示すとおり類似の構造を持っている[3] 。大きく Collection、Abstraction 、 Edit、 Manifestation の4つのレコードタイプに大別し、これらが木構造を持つとしている。中心的な位置を占めるのは Abstraction であり、 図 $1 \mathrm{BBC} \mathrm{PO}$ におけるコンテンツの階層構造 実体 Episode を内包する。Collection はそうしたレコードの集合であり、Collection 内に Series、Seasonの階層関係がある。 これらの事例は、番組における各単位相互の関係をモデル化したものと考えられる。これらを参照しつつ、日本の放送番組に適した階層構造を導入したメタデータモデル構築を行う。 図 2 EIDR におけるコンテンツの階層構造 ## 5. メタデータモデルの構築 テレビ番組のメタデータモデルを構築するにあたり、既存のアーカイブから要素の抽出を試みる。 要素の抽出は先述した放送ライブラリーDB から行う。放送ライブラリーは公益財団法人「放送番組センター」が運営する、放送法に基づく国内唯一の放送番組専門のアーカイブ施設である。NHK、民間放送局のテレビ、ラジオ番組および CM を保管し、一般視聴者や研究者の利用に供している。放送ライブラリ一DB は所蔵番組の検索サービスをウェブ上 で提供している。この DB 検索によって出力されるデータ項目を以下に示す。 番組名種別番組放送日分数 ジャンル放送局製作者制作社 出演者スタッフ概要受賞歴 なお、これらの項目のうち、番組名と種別は項目名として明記されていないため便宜的に設定した。各項目の記述内容の定義は放送ライブラリーのウェブサイトでは説明されていない。出演者には人名が羅列されている。 スタッフには番組に関与した人物名が役割とともに列挙されている。概要には番組の内容説明、放送期間など雑多な内容が記述されている。 放送ライブラリーDB は番組名やキーワー ドでの検索が可能である。「土曜ドラマスペシヤル」をクエリとして検索した例を図 3 に挙げる。検索結果に表示された各レコードが、相互にどのように関係しているかをここからは捉えることができない。各レコードのタイトルは放送当時のタイトルから採録されたとみられ、何らかのグルーピングや関連づけがなされているわけではない。したがって、タイトル文字列に共通部分のあるレコードであっても、相互の関係は概要のテキストを参照するか、あるいは当該データベース外の知識 図 3. 放送ライブラリーDB の検索結果 (一部) を参照することによって把握することになる。放送ライブラリーDB では、放送された 1 話に対して番組 IDを付番し、視聴の単位としている。この放送された 1 話のことを「エピソ一ド」と呼ぶことにする。複数話が放送されて一連のシリーズやシーズンをなしていることが明らかな番組であっても、シリーズやシ ーズンに相当する単位があるわけではない。 図 3 で得た検索結果のうち、「土曜ドラマスペシャルとんび」は前後編の 2 話から構成されている。放送ライブラリーDB の記述内容に対して、第 1 図で示した BBC PO(接頭辞「po:」)の階層構造を適用し RDF グラフ化を図 4 に試みた。 図 4. 放送ライブラリーDB の「土曜ドラマスペシャルとんび」の RDF グラフ Programme クラスの「とんび(NHK 版)」 は操作的な実体である。同じ原作を持つ同名のドラマが他局に存在するために区別した名称としている。この Programme のサブクラスとして、Brand、Series、Episodeの各クラスがぶら下がる。放送ライブラリーDB の利用者が直接閲覧・視聴するのは Episode である。 ところで、放送ライブラリーDB は出演者やスタッフなどの関与者情報を厚く記述していることに特徴がある。また、放送局や放送日時の情報は、利用者にとって番組へのアクセスポイントとして機能する。適切なメタデ一タモデル化には、このようなデータの特性を考慮する必要がある。そこで、必要に応じて独自語彙を設定して構築したモデルを図 5 に示す。 このモデルでは、放送ライブラリーDB に収録されている番組を構成する要素を、コンテンツ (Contents)、エージェント (Agent)、放送イベント(Event)の3つのドメインに分けて捉える。コンテンツドメインの「番組」 クラスは基礎的な概念であり、「シリ ーズ」、「シーズン」、「エピソード」 を下位クラスとして持つ。「シーズン」を「シリーズ内のエピソードの一連」として「シリーズ」と区別する。「エピソード」の上位クラスである「シリーズ」「シーズン」は番組によっては存在しないこともある。 実際の放送では、特定のエピソー ドが特定の日時および放送局で放送される。この一回の放送をひとつの出来事(Event)と捉えて放送イベントドメインで表現する。放送局は関与者の一種としてエージェント (Agent)ドメイン内のクラスとして表現する。エージェントドメインに 図 5 放送ライブラリーDB データのメタデータモデルは、個人(自然人)である出演者やスタッフを含める。番組クラスと出演者クラスとはプロパティ「出演する」(「関与する」 のサブプロパティ)、スタッフクラスとはプロパティ「関与する」、放送局クラスとはプロパティ「放送する」(「関与する」のサブプロパティ)によって関連づける。出演者およびスタッフには役割の記述があるが、これらは統制されていないため、空白ノードを導入しリテラルで表現することとした。 「土曜ドラマスペシャルとんび」にこのモデルを適用すると、「土曜ドラマスペシャル」 は「ブランド」クラスのインスタンス、「とんび」はシリーズクラスのインスタンスとなる。 ブランドがコンテンツドメイン内の各クラスだけではなく、放送回とも「ブランドを持つ」 プロパティで関連するのは、ブランドは内容的には関連しない、ジャンルやテーマ、あるいは放送時間枠を示すことを正確に表現するためである。 ## 6. おわりに 本研究で構築したメタデータモデルは「番組」クラスを中心的な実体として設定した。 このクラスのインスタンスが最も基本的な探索の対象となることを想定している。放送ライブラリーDB ではすべてのエピソードが同一階層に存在するように見えるが、「番組」とそのサブクラスに構造化することにより、利用者が目的とするコンテンツの識別を容易にすることを目指す。提案したモデルのさらなる精䋊化に加えて、このメタデータモデルを用いることがテレビ番組アーカイブの可用性を高められるかについて、利用者タスクに鑑みた評価を行うことを今後の課題とする。 なお、本発表の一部は三田図書館・情報学会 2021 年度研究大会で発表した[4]。 ## 註$\cdot$参考文献 [1] 放送番組センター. 放送ライブラリー.htt ps://www.bpcj.or.jp/ (参照 2021-11-03). [2] 英国放送協会. "Programmes ontolog y" .Ontologies. 2009-02-20. https://ww w.bbc.co.uk/ontologies/po(参照 2021-1103). [3] Entertainment ID Registry Associatio n.Introduction to the EIDR Data Mode 1. https://www.eidr.org/documents/Introd uction $\% 20$ to\%20the\%20EIDR\%20Data\% 20Model.pdf (参照 2021-11-03). [4] 関根禎嘉. テレビ番組メタデータモデルの構築 :「番組」の階層構造に着目して. 三田図書館・情報学会 2021 年度研究大会予稿集, 2021.
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# [25] プロ・オーケストラ定期演奏会演奏記録データベース 作成の試み: ## 仙台フィルのデータベース作成を例として ○山口恭正 ${ }^{1)}$, 三田昌輝 1), 山下裕太郎 1) 1) 東北大学大学院情報科学研究科, $\bar{\top} 980-8579$ 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6 番 3 号 09 E-mail: [email protected] ## An Attempt to Create a Database of Professional Orchestra in Japan: The case of Sendai Philharmonic Orchestra YAMAGUCHI Yasumasa1), MITA Masaki1), YAMASITA Yutaro1) 1) Graduate School of Information Sciences, Tohoku University, Aramaki aza Aoba 6-3-09, Aoba-ku Sendai-city Miyagi-pref. 980-8579 Japan ## 【発表概要】 情報社会の発達に伴い、人々は好きな時に好きな曲を楽しめるようになった。クラシック音楽の世界では、音楽批評に代表されるような有力者の言説よりも、一人一人が主体的に多様な音楽を楽しむことができ、その様相を掴むことは難しくなりつつある。現代の世界の音楽研究はデー 夕分析を主軸にした「レパートリー研究」「実証研究」が台頭しつつあるが、日本は大きく遅れを取っている。本研究では演奏記録データベースの日本版として、演奏記録を構成する諸要素の関係従属性を踏襲した関係データベース構築・公開することで、実証的観点からの日本のクラシック音楽研究や議論の「ハブ」となるデータベースを作成を目指す。本発表では、最初の試みとして、仙台市市民文化事業団「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成金を受けて作成中している「仙台フィル定期演奏会演奏記録アーカイブ」について報告を行う。 ## 1. はじめに 音楽の持つ意味や役割は時代とともに変化し、オーケストラの演奏曲目も時代や社会とともに変化していると言われている。しかし、 それらを実証的に分析した研究というものは少ない。近年の文化事業に関する法律や制度の改正、情報通信技術の発展、音楽と聴衆の社会的な役割や性質の変化を背景として、ア一トマネジメントおよび社会学、データ科学の観点から、日本におけるオーケストラ作品の演奏記録およびその軌跡を見直すというのがこの研究の主軸である。本データベースはその先駆けとして、仙台フィルハーモニー管弦楽団(以下仙台フィル)の定期演奏会の演奏記録をデータベース化した。 ## 2. 問題関心 ## 2. 1 国内のオ一ケストラの状況 現在、日本の文化事業ならびにプロフェッショナルオーケストラは運営や活動の女り方 の模索・検討を迫られている。西洋の高級で知的なエリート文化として輸入され受容されてきた時代にターゲットであった年代は次第に演奏会に足を運ばなくなり、かつてオーケストラ文化の現状を分析する上でエリート文化や知的議論の出発点であった「音楽批評」 に代表される文献調查に基づく研究は難しくなった。また、日本では現在、クラシック音楽が内包していたエリート文化の知的な「教養」というものの重要性は薄れ、聴衆の嗜好の多様化が進んだ。それと関連し、情報通信社会の発達による動画公開サイトの展開によって、ユビキタス社会に代表されるような 「いつでも、どこでも、何でも」というシチユエーションが音楽鑑賞の世界にも広がることで、音楽鑑賞のあり方や価値観も変化し、 オーケストラに求められる役割も変わりつつある。 2.2 日本のオーケストラデータベース 2008 年以降の日本のプロオーケストラの演 奏会記録については、日本オーケストラ連盟によって刊行されている『日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑』[1]に定期公演の情報がまとまっている。また、それ以前の記録については、「一般財団法人民主音楽協会」の民主音楽協会資料館の資料である、小川昂による「新編日本の交響楽団 : 定期演奏会記録」とその追補による 1927 年から 2000 年までの公演記録 $[2]$ が利用することができる。 しかしながら、こうした紙媒体の資料では、検索やデータの可視化をすることができず、集計や考察が困難であるという課題があった。 また、日本のプロオーケストラの多くが、電子媒体での演奏記録データを保持しておらず、記念誌や記念プログラムの特集等で冊子の形での管理を行っていたことも明らかになった。 こうした背景から、ウェブ上で誰もが気軽に調べ、また、検索できるような定期演奏会演奏記録データベースを作成することの着想を得た。 ## 3. 仙台フィル定期演奏会演奏記録アーカ イブ 本稿では、仙台市市民文化事業団の「多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」 の助成を受けて制作した、仙台フィル定期演奏会演奏記録アーカイブに関して扱う。 データベースの作成にあたり、事前のヒヤリングとして、仙台フィル事務局との打ち合わせを行なった。当初は日本のプロオーケス トラの全体的なデータベースを作成することを念頭に置いていたため「表記ゆれ」や集計の関係上、データベースは作曲家名、作品名ともに英語表記としていた。しかしながら、事務局の担当者から「表記ゆれ」もアーカイブの大切な要素の一つであり、可能な限り演奏当時の日本語表記を使用したいという要望があったため、その意思に基づきデータベー スを作成した。データベース作成にあたっては、第 300 回定期演奏会記念プログラムとして刊行された、定期演奏会記録[3]を主なデー 夕資料として活用した。 ## 4. データベース 演奏記録データベースは先述の通り、日本語を基本言語として用いた。データベースでは、定期演奏会の回数、日付、曲順、作曲家名、作品名、指揮者名、演奏会場をデータとして採用した。データは図 1 のような一覧表示を基本的な構造とした。左上の検索欄だけでなく、作曲家と指揮者に関してはリンクが付与されており、図 2 のような形で、その作曲家が何年に何回演奏されたのかをグラフとして可視化できるように構成した。 ウェブサイトは、Amazon Web Services のシステムおよび、React のフレームワークを利用しローデータの TSV (Tab-Separated Values)を処理・可視化している。 図1.データの一覧表示 図 2. 作曲家の年毎の演奏回数 ## 5. おわりに 今回は、仙台フィルの演奏記録のみを扱つたが、今後の展開として日本全国のプロオー ケストラのデータベース構築を目指している。 また、将来的にデーターベースを管理運用するという点においてリレーショナルデータベ ースとして機能を念頭に置いた最適なデータ構造の検討や、作成が必要となる。 なお、本研究は、仙台市市民文化事業団の多様なメディアを活用した文化芸術創造支援事業」の助成を受けたものである。また、東北大学大学院情報化学生プロジェクトの成果の一部である。 ## 参考文献 [1] 日本オーケストラ連盟. 日本のプロフェッショナル・オーケストラ年鑑. 2008- [2] 小川昂. 新編日本の交響楽団 : 定期演奏会記録. 民主音楽協会. 1927-2000 [3] 公益財団法人仙台フィルハーモニー管弦楽団.仙台フィルハーモニー管弦楽団第 300 回定期演奏会記念プログラム. 2006. を主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [24] 滋賀県内の生活写真アーカイブの調査に基づく 新たなデジタルアーカイブ実践について: 地方の一小規模デジタルアーカイブの制作に関するデータ化手法と、 著作権/肖像権的同意関係の構築の現況報告 ○橋詰知輝 1 1) 1) 京都工芸繊維大学大学院, $\mathrm{\Upsilon 606-8585$ 京都府京都市左京区松ケ崎橋上町 E-mail:[email protected] ## A new digital archiving practice based on a survey of photo archives of daily life in Shiga Prefecture: \\ Digital archiving methods and the construction of relationships between copyright/portrait consent HASHIZUME Tomoki ${ }^{11}$ 1) Kyoto Institute of Technology, Matsugasaki Hashigami-cho, Kyoto, 606-8585 Japan ## 【発表概要】 祭りや信仰、日々の衣食住など、生活の中で繰り広げられる森羅万象について、ある地域ごとにまとめて写真で記録し、保存しておくことは、そこでの人々の生活についての可視化されたデ一タの集積(アーカイブ)となる。こうした写真を人知れず撮影し続けている人は少なくないが、日の目を見ることが少ないのが現状である。また、彼ら/彼女らの写真は、一般的な行政等の記録写真や、それ一点で作品となるようなアート寄りの写真、そしてハレの日の集合写真などに対して、写真の一枚一枚がより素朴に撮影され、かつ人々の生活に近ついていることから、肖像権といった形での問題が立ち現れることが多く、他とは切り分けて考えるべきだと考える。 そこで、本論ではそれらを「生活写真」と名付け、その利用の現状や保存手法などを特定地域 (県)に限定して調査したうえで、こうした問題に対応した、新たなアーカイブ実践を試みたものである。 ## 1. 滋賀県内の現状調査 まず、県内施設に対して事前アンケートを行った。アンケートを送付した施設数は 20 館で、返信を得ることが出来たのは 15 館であった。返信のあった館のうち、「生活写真」に類するものがあると回答したのは 8 館で、このうち、資料が 3 枚であると回答した館以外は、資料の数が膨大、または枚数を数えることができないことが分かった。 写真の活用に関しては、収蔵以外が現状で行われていない館以外においては、何らかの資料としての活用が見られた。撮影者との権利許諾に関しては、およそ半分程度の館が一部、またはすべての写真について、撮影者からの著作権的な同意を得ていたが、そうした同意を得ないまま活用を行っている館も多い。また、肖像権については、ほとんどの館で同意がとれていない。データ化に関しては、琵琶湖博物館と大津歴史博物館という県内で は 1,2 となる館においては行われている状況であり、その他館においてはできていない。 こうした状況になった経緯としては、やはり予算や館自体の余裕の問題が大きく、「データ化をしたいと考えるがめどはたっていない」 などの回答を得た。 今回は公的機関として、県内の美術館・資料館・博物館等にて基礎調查を行った[1]が、多数の個人写真がアーカイブという形として表出せずとも整理・保管されているケースが滋賀にもある。例えば、高島郡(現・高島市) の石井田勘二(いしいだかんじ)氏 (1888 1977)が郡内を撮影した写真の多くは、琵琶湖博物館内のアーカイブ化プロジェクトによってアーカイブ化がなされ、その一部が、海津・西浜・知内地域文化的景観まちづくり協議会による HP「水と石積みのまち」にて公開されている。このように、教育委員会や、個人蔵の写真アーカイブといった、一般的に検索しても出てこないような写真アーカイブ も存在しており、これらの動向にも注意を払う必要がある。[2] こうした滋賀県内外での調査と、先行事例や研究[3]等を見てもわかる通り、個人の写真をアーカイブ化する際には、(1)人員(2)予算 (3)アーカイブする撮影者の写真に対する価値観(プリント/ネガの扱い)(4)著作権的同意/肖像権的同意の取り扱い(5)登録する写真以外の文字データの収集難易度(6)公開やそれを活かした活動の検討、などが主に問題となるように思われる。しかしながら、小規模な人員によってアーカイブ化を志向する際、人員や予算は非常に少なく、著作権/肖像権の同意に関して時間を多く割くことは難しい。こうした前提条件の中で、小規模なデジタルアーカイブはどのように活動していけば、予算を抑えながらアーカイブとしての利用可能性を広げることが出来るだろうか。そうした点を次章でのアーカイブ実践にて述べていきたい。 ## 2. 新しい時代の小規模アーカイブに求め られる実際 ## 2. 1 写真撮影者との出会いと小規模アーカイ ブとしての旗揚げ 2020 年 12 月に、「県内の長浜市で市役所広報を勤めながら、長年に渡り湖北の写真を撮影している者(以下撮影者)を紹介したい」という話を受けた。話を伺うと、半世紀以上にわたる撮影枚数は 20 万枚以上に及ぶこと、ネガは一つの大きな鉄ダンスに丁寧に整理されており、別で保管されているコンタクトシー 卜と対応が可能であること、ネガケースに撮影地、日時といったデータが記入されていることがわかった。その後の話し合いの中で、写真のアーカイブ化とデータ化、そしてその利活用を行っていこう、ということが決まった。アーカイブの手順については一任されたため、先行事例を参考にしながら、データ化の際に必要な文字事項を挙げ、データ化の手法を提案した。文字事項としては、(1)通し番号(2)元ファイル名(ネガシートの通し番号と、 ネガシート内のコマ番号)(3)デジタル番号(4)作品タイトル(撮影地等)(5)撮影年月日をまずは必須とし、その他項目は以降の話し合いをもって制定するとした。 また、初めから 30 万枚すべてをデータ化するというのは非常に難しく、小規模な団体ではそうした予算はないことから、特定のテー マを決めたうえでデータ化を行い、そのテー マごとに企画を立ち上げることでアーカイブとしての重要性を打ち出し、社会に訴えかけていく、という形をとることとなった。そうした上で、今回のアーカイブにおいては、 1 テーマあたり約 1000 枚をデータ化する話となった。 ## 2.2 安価にフィルムをデータ化する手法 アーカイブにおけるアナログ資料からのデ一タ制作は、大規模なアーカイブであればあるほど、そのデータ化は業者に委託することが多く、手順があまり提供されていない。こうした中で、小規模な団体がアーカイブをする際に重要なのは、「ある程度データを自由に扱うことが出来、かつその利用に耐える情報量を有していること」だと考える。必須条件として、「予算は 10~15万円程度」「スキャン後、A4 でのプリントに耐えうること」「色味がマニュアルで調節できること」「後編集が可能なデータで取り込めること」を設定した。 また、推奨条件として、「スキャン後、A3 でのプリントに耐えうること」「設定が簡便であること」「利用が安易に行えること」と設定している。こうした設定にしたのは、A2 以上にデータを用いるとしても、現在の技術であればデータの超解像化やプリンタの設定により、 ある程度引き延ばしが可能なことと、出版・ Web での活用に支障がないことによる。 様々な機種を入手して検討した結果、セッティングや色調整を何度も行うことが難しいことや、ソフトが英語になると利用できる人間がかぎられること、2000 万画素程度で A3 A2 での印刷は十分に可能といえることから、デジタイズ(複写)+白黒反転処理を手法として取ることとした。手順と機材を簡略して書くと次ぺージのようになる。 手順: (1)撮影装置の準備をする (2) Excel にスキャンする画像に対するメモを書き込む (3)対象のネガをスキャンする (4)データの確認を行う (5)モノクロネガの反転処理とホコリ、傷等の除去を行い、データを完成させる。 機材リスト 作業に撮影者は必須ではないが、(2)の作業に同席してもらい、そのデータについての思い出話等を聞き出し、メモに記載することが望ましい。また、(5)の作業に関してのみ $\mathrm{PC}$内でデータを処理するために、PC(Lightroom Classic)に詳しい人間が作業するほうが作業は円滑になる。今回のアーカイブ作業においては、当事者にタイトルとメモを書いてもらいながら、2 名体制でスキャンと文字データの打ち込みを行い、1 名でモノクロネガの反転処理等のデータ処理を行った。総作業時間としては 200 時間程度であると思われる。 ## 2. 3 手順の要点と簡略化 ネガフィルムを複写する際は光源以外の光が入らないことが望ましいが、諸条件によって変化していく可能性があることを考え、撮影日ごとにグレーカードを撮影することにより、厳密に調整したいときの兄長性を持たせている。また、複写をスムーズに行い、光源の均一性と平面性を持たせるために、カメラ本体は複写台に固定し、下部に LED トレース台を配置した。LED トレース台は基本的には色温度が一定であるため、カメラ側の設定でホワイトバランスをマニュアルで設定しておけば、色の変化は劣化と環境光以外では起こらないようになっている。白黒反転プロセスは、Lightroom の外製プラグインとして、「Negative Lab Pro」を用いることによって、作業の簡略化を行った。カラ一フィルム・白黒フィルム両方のネガフィルムに対応したプラグインで、色味のネガポジ反転を一括で処理可能である。このプラグインを同系色のベースカラー(同一のフィルム) ごとに適用していくのみでネガポジ反転は完了である。[4] 以降の作業においては、デー タを使える状態にするために、ひたすらデー タのトリミングや回転等を行わなければならないため、迅速に作業するために「MIDI2LR」 という Lightroom 向け無料プラグインと MIDI コントローラを用いた。具体的には、回転ツマミに色温度と露光量、コントラスト、写真の角度といった微調整が必要なものを設定し、 ボタンにレンズプロファイルの適用(写真の歪みの解消)、90 度回転/逆回転)、次の写真/前の写真を配置しておき、ホコリ除去やカビの除去以外のすべてをマウスなしで完結するようにしたことで、作業の速度はマウスのみの 3 倍程度になり、早いものでは 1 枚 5 秒程度で作業を終えることが出来ている。 ## 3. 写真の活用と展開 今回のアーカイブにおいては、展示会と書籍発行への要望が撮影者から強くあったために、データ化後は、それらを限られた予算内で達成することを第一目標とした。そのために、助成を受けて展覧会を開催するべく、「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクトという滋賀県の助成金に応募することとした。結果的に「コミュニティ型」という形での採択を受けることが出来、 75 万円ほどの助成金を得ることが出来たため、開催に向けての事業資金の多くをそこから賄うことが出来るようになった。そのため、写真展は地元近くでの屋外/屋内展示に加え、滋賀県立美術館での開催も可能となり、アーカイブを周知し、写真を今後も活用していくうえでの大きな一歩となった。また、書籍はクラウドファンディングでの出版を目標にしており、現在クラウドフアンディングで 100 万円以上を集めている。 ## 3. 1 アーカイブを残す道標 文化的/教育的活動の中で恒久的に使われていくことを目標とするためには、アナログ資料とデジタルデータをただ保持すればいいだけではなく、アーカイブとして使える形で残 していく必要がある。具体的には、(1)撮影者に著作権的同意を得ておくこと (2)可能な限り多くの肖像権同意書を取得し、写真の利用可能度を上げること(3)アーカイブ公開の HP を整備すること (4)アナログ資料の適切な収蔵先を探すことである。 当アーカイブの(1)に関しては、著作権同意書を作成の上、撮影者と話し合いをもって締結することが出来るよう努めているが、作成者の死後の活用のされ方を検討する話を理解してもらうことは非常に難しく、時間をかけて向き合うことが望ましいと思われる。(2)に関しては、写真展を地元で開催するために、展覧会前に撮影者自身が肖像権同意書を一定数集めている。撮影者は数十年に及ぶ付き合いによって、今も地元の方々と面識を持っており、撮影者自身のコネクションによって肖像権同意書を書いてもらいやすい土台があり、 アーカイブにとっては非常にプラスに働いていると思われる。(3)に対しては、一般的な収蔵品管理ソフトを用いての公開には月に 3 万円程度の費用がかかってくることから、まずは一般的な HP 内でのギャラリーを作成しておき、いつでも公開できるようにしておくことが当初の目標となると思われる。(4)についても、すぐに収蔵先を見つけることは難しいが、滋賀県立美術館での公開や、今後の活動を通じて、収蔵してくれる場所を撮影者の希望に沿うかたちでみつけることが目標となっている。 ## 4. おわりに 現代は、著作権と肖像権が重要視され、人々の権利が守られたためであるとはいえ、生活写真を使うことにはハードルがあり、そこに気楽さはない時代であるといえる。小規模アーカイブは、そうした時代において、その小回りの良さから、権利的な問題をクリアしたうえで公開可能な可能性を秘めているといえ、今後ますます重要になってくると思わ れる。しかしながら、小規模さにつきものなのは、やはり予算的な問題と、アーカイブの全体の枠組みを考えることが難しいことが上げられるだろう。そうした中でも、少人数・低予算でデータ化を行える環境を整えることが出来れば、その後の展開を助成金等によって賄っていくことで、ある程度までは活動の場が広げられることを本論では述べたといえる。こうした後に待っている問題は、よりしっかりとした権利問題の解決と、継続して活動を行っていくための体力、最終的にアーカイブを収蔵してくれる公的施設を探す必要性が挙げられるが、これらに関しても研究で可能な限り関わりながら今後も追及していきたいと考えている。 ## 参考文献/注釈 [1] アンケート結果を踏まえたうえで、特に所蔵点数の多かった大津歴史博物館と琵琶湖博物館での聞き取り調查を行っている。 [2] 2021 年 9 月 27 日、嘉田由紀子氏への聞き取りから。嘉田氏は琵琶湖博物館の前身の琵琶湖研究所時代からアーカイブの構築と実践を行っており、琵琶湖博物館開館 1 周年企画展「私とあなたの琵琶湖アルバム」の撮影者紹介等にも関わっているため、滋賀の写真事情に詳しい。 [3] 個人写真家による写真アーカイブ化の事例として、宮本常一記念館や石元泰博フォトミュージアム、国立民族学博物館の取り組みを、先行研究としては、福島幸宏「地域の博物館や図書館などは「地方(じかた)写真」 の拠点たりえるか?」などを参考としている。 [4] Nikonの D780,D850というカメラは、カメラの純正機能でネガポジ反転が可能であるため、Negative Lab Proを用いずにデータを作成することが出来、更に PC での作業を簡略化できると思われるが、反転時の細かな色補正はできない。
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# [23] 東京都練馬区光が丘における地域資料のデジタルア 一カイブ:現状の取り組みと今後の構想 ○菅原みどり 1) 1)立教大学大学院 21 世紀社会デザイン研究科 修士 1 年, 光が丘歴史博物研究会 E-mail:[email protected] ## Digital archive of the local document in Hikarigaoka, Nerima, Tokyo: The present approach and future design SUGAHARA Midori1) ${ }^{1)}$ Rikkyo University Graduate School of Social Design Studies ## 【発表概要】 東京都練馬区光が丘は、戦時中は特攻隊の出撃基地となった「成増飛行場」であったが、戦後、米軍の家族宿舎(グラントハイツ)として利用され、1973 年に返還された後 1980~1990 年頃にかけて約 27,000 人が住む巨大な住宅団地群と公園のまちへ開発された。 住民のほとんどは地域外からの移住者のため地域の土地利用の変遷やまちづくりの歴史を知る機会はなく、また、開発前から同地域で生活し地域の歴史を知る住民も、時の経過により年々減少しつつある。 そうした背景の中で、地域の有志が 2021 年 5 月 18 日に同地域の歴史資料をアーカイブするサークルを設立し、デジタル博物館の構築を目指し、歴史資料の収集を開始した。現在、収集した歴史資料は「光が丘デジタルアーカイブ」として公開し、地域住民や地域活動団体にもアーカイブ活動への参加を呼びかけるとともに、学校教育や生涯学習、まちづくりと連携したアーカイブの利活用に取り組んでいる。本報告では現状の取り組みと今後の構想について報告する。 ## 1. はじめに 「光が丘デジタルアーカイブ」を作ろうと計画したのは、まず光が丘で生活する住民のなかに当地の歴史を知らない者が相当数いることを知り、また、歴史を知るきっかけがないというヒアリング結果を得たことによる。 個人や地域サークルが箱物の博物館類似施設を作るよりは、「デジタル博物館」と呼べるようなデジタルアーカイブサイトを構築・運営する方がまだ現実的であるが、これも容易ではない。しかし、市区町村よりも小さな範囲で、その地域の住人たちが「わがまち」の歴史資料を収集・保存・管理・公開する取り組みによって、地域資料の利活用が進み、教育やまちづくりに役立てることが可能になるのではないだろうかと考えた。 ## 2. 東京都練馬区光が丘の歴史と状況 東京都練馬区光が丘はこの 100 年で大きく三度の変化を経験した特異な土地である。戦前までは稲作・畑作を行なう農村であったが、 1942(昭和 17)年にアメリカ軍から初の本土空襲を受けたため、日本軍は首都防衛を目的に当地の土地を接収し、田柄川を暗渠化させ、突貫工事で特攻隊の出撃基地ともなる成増飛行場を建設した。戦後に当地は駐留米陸軍(の) ちに米空軍) に接収され、米軍家族宿舎「グラントハイツ (Grant Heights)」が建設された [1]。フェンスや有刺鉄線で囲まれたアメリカ人のまちに出入りするにはパスポートが必要となり、グラントハイツの周辺地域の住民は基本的にグラントハイツを迁回して生活することになった。実際にグラントハイツの敷地を通過して中学校へ通学するために、通学利用のパスポートを使っていたという聞き取り 調査結果(増田元治氏,2021 年 11 月 3 日)もある。 グラントハイツの遊休化や土地返還運動を経て、「グラントハイツ跡地開発計画」(1978 年策定)に基づき、1980 年代より広大な都立光が丘公園と巨大な団地群のまちがつくられた。 $1 \sim 7$ 丁目からなる「光が丘」にはいわゆる戸建住宅はなく、すべて集合住宅「光が丘パークタウン」(総称)であり、1980~1990 年頃にかけて約 3 万人が光が丘パークタウンに入居し、現在は約 2 万 7 千人が居住している。「光が丘」から都営地下鉄大江戸線「光が丘駅」へは横断歩道を通らずに到着できるようスロープ式の歩道橋が設けられているなど計画的に開発され、公共施設や総合病院、商業施設などをつくり「地域拠点」として練馬区都市計画マスタープランにおける位置づけがなされている[1] [2]。 ## 3.「光が丘デジタルアーカイブ」の取組 3. 1 住んでいても知らない歴史 光が丘パークタウンの入居開始より約 35 年が経過した現在、光が丘の歴史を知る者は減少する一方である。 これは、光が丘に住む者のほとんどが光が丘パークタウンの完成後に他の土地から入居した者であり、光が丘という名称がつく以前の光が丘地域の歴史をあまり知らないこと、当地域の歴史資料が散在し一力所にまとまっていないこと、一部の有志による同人誌・自費出版の資料でしか見られない資料があること、地域の学校の社会科など教育でも習うことがないというヒアリング結果(2020 年度小学 3 年生、1983 年生まれ元・光が丘居住者など)を得ていることなどから、実際に地域に住んでいるひとですら何かしらのきっかけがなければ「歴史を知らない」状況なのである。 その中で光が丘の歴史は戦前戦時中・戦後復興期における貴重な資料であり、点在している文字資料以外の画像等を含め収集し編集、アーカイブ化することは非常に有意義であると考え作られた地域サークルが「光が丘歴史博物研究会」である。光が丘は 1980 90 年代に一気に建設された団地群であり、数十年後には地域全体の団地建物が同時期に老朽化を迎える可能性がある (光が丘内の清掃工場や病院施設などは老朽化により改築・移築が既に進んでいる)。2021 年現在、まだ団地建物についての大規模改修や計画は未定であるが、現在の光が丘の姿がまた大きく変化する可能性があること、大規模改修工事の際には住人の合意形成を行なう必要があることが今後考えられる。こうした状況の中、地縁型組織の協力を得て、散在し消滅し続ける光が丘の歴史資料を収集・公開できないかと考えている。 ## 3. 2 「光が丘デジタルアーカイブ」をつくる 2021 年 5 月 18 日、「光が丘歴史博物研究会」 は練馬区光が丘地域の歴史資料を収集・公開するオンラインの場として「光が丘デジタルアーカイブ」を制作運営することを目的に、活動報告と PR の場として、SNS(Facebook、 Twitter)を開設した。現在は主として自治会等を通じて地域へ声掛けし、昭和〜平成の映像・画像収集を行ない、メタデータを付与したデータの整理を行なっているほか、光が丘地域およびその周囲の地域で長く暮らしている方へインタビュー協力を依頼してのオーラルヒストリー収集や、現在のコロナ禍の光が丘の姿を撮影した資料作成をしている。 SNS では Twitter で季節の出来事や光が丘で起きた出来事の節目に現在の光が丘地域の画像を掲載しつぶやく内容が、光が丘デジタルアーカイブの活動の認知・拡散につながり、他のツイートよりもインプレッション数が多い状態である。また、引用や返信で光が丘での思い出がつぶやかれることもままある。 ## 3.3 活動 PR 映像の制作 活動 PR のために最も効果的であったのが活動を紹介する映像制作と公開だった。4 分ほどの内容で、戦前、戦中、戦後から現在に至る光が丘地域の歴史や、その歴史が地域であまり知られていない現状、光が丘歴史博物研究会が地域資料を收集・公開する活動を行なっていることを伝える内容である。光が丘地域について詳しく知らない、立教大学大学 院 21 世紀社会デザイン研究科の院生 10 名を対象に制作中の映像を見せた結果、「光が丘がどのような地域かわかった」、「市区町村よりも小さな単位で地域の歴史を学ぶ機会がないと気づいた」、「なぜ光が丘の地域資料をデジタルアーカイブ化したいのか理解できた」等の感想・意見があった。また、指摘により日本語を母語としない層へ向けて、文字フォントを読みやすいものへ修正した。完成版は 2021 年 12 月までに公開予定である。 ## 4. 今後の取組と課題 まず、画像・映像やオーラルヒストリーの収集は今後も継続する。また、収集した資料を利活用した動画やテキスト形式での資料を制作・公開していく。具体的には収集したオ ーラルヒストリーからドキュメンタリー動画の制作を予定しているほか、学習教材となる資料の公開を行なう。資料は「小学校中学年の生徒が興味関心を持てる」内容の動画資料およびプリントアウトして使用できるテキストと画像を用いた資料を計画している。そのため、光が丘地域の小学生がどの程度同地の歴史や環境を知っているのかを調査予定である(練馬区立光が丘春の風小学校社会科担当教諭への聞き取り調查)。 ほかに、夏休み等の長期休暇に学童保育所を利用している児童へ、収集資料を活かして、歴史や地域に対し興味関心を持てる「地域博物館の出張ギャラリートーク」を行なえるか調整中である。また、 12 月上旬に光が丘地域の歴史の調查と学習に詳しく、2005 年には公開講座「光が丘学」を開講していた加藤竜吾氏(現・東京都立田柄高等学校長) ヘインタビユー調査を行ない、地域歴史を学ぶ公開講座の手ごたえや意義などを取材予定である。 「光が丘デジタルアーカイブ」としてデジ タルアーカイブ資料、コンテンツを公開する場については、現在の SNS プラットフォームとは別で設ける予定であるが、収集している資料が画像や映像を主としているため、どのように構築・維持していくかというコストや金銭面での課題がある。 ## 5. おわりに 「光が丘歴史博物研究会」の中心は筆者(菅原みどり)とその夫(菅原智史)である。個人や地域サークルで一からデジタルアーカイブサイトを制作・運営していくことは簡単ではない。しかし、活動を開始して約半年で、地域 (光が丘周辺地域を含む)住民をはじめとする多くの方に協力いただき、当地の歴史やその記録について聞き取り調査をした結果、公的資料では見ることのできない光が丘の歴史が見えはじめた。また、聞き取り調查では歴史を語る「場」ができたことで上書き的に歴史資料が深堀りされ、その精度が増していく様子も感じられる。 当地の歴史資料や現在の姿を記録保存・公開するデジタル博物館「光が丘デジタルアー カイブ」を地域の方々と協力しながら作り、教育や研究に活かせる場にすることがまず我々の目標である。そして地域への愛着や地域住民の連帯感の再強化、新たな価値の発見につなげたいと考えている。 ## 参考文献 [1] 練馬区史編さん協議会編. 練馬区史歴史編練馬区独立三十周年記念. 1982. [2] 練馬区ホームページ. 光が丘地区のまちづ $<$ り https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/mach i/kakuchiiki/hikarigaokachiku.html (参照 2021-11-11).
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# [22] 継続的に稼働するデジタルアーカイブをつくりたい 最弱の大学博物館の無謀な取り組み ○佐藤琴 1 ),小幡圭祐 1 ),堀井洋 2) 小川歩美 2) 1) 山形大学附属博物館, 〒990-8560 山形県山形市小白川町 1 丁目 4-12 2) 合同会社 AMANE,〒923-1241 石川県能美市山田町口 8 E-mail: [email protected] ## Postcard Database in Yamagata University Museum through Japan Search: Cheap and easy digital archives \\ SATO Koto ${ ^{1)}$, OBATA Keisuke ${ }^{1)}$, HORII Hiroshi2), OGAWA Ayumi ${ }^{2}$ ) \\ 1) Yamagata University Museum, 1-4-12 Kojirakawa-machi, Yamagata-shi, 990-8560 Japan \\ 2) AMANE.LLC, Ro8, Yamada, Nomi, Ishikawa 923-1241 Japan} ## 【発表概要】 山形大学附属博物館は、師範学校の郷土室(元を辿れば学寮の博品室)と、戦前の山形県教育会館につくられた郷土博物館がルーツであり、前史を入れれば 100 年以上の歴史がある。その性格上、地方文書を 3 万点以上収蔵しており、その中核の一つは三浦新七(1877-1947)が収集した三浦文庫文書(5614 点)である。本年、三浦がドイツ留学中(1903-12)に交わした絵葉書 (2119 点)が追加寄託となった。発表者は、今後の活用を考え、これらをデジタルアーカイブとして公開すべきと判断した。人員・予算ともに潤沢ではない最弱の大学博物館が、低廉かつ簡便なアーカイブ構築に挑戦する。 ## 1. はじめに 山形大学附属博物館(以下「当館」と略す) は前史を入れれば 90 年を超える、国立大学の博物館としては珍しい存在である。後段で述べる設立経緯を経ているため、収蔵資料の中核は 3 万点以上におよぶ地方文書である。この点も異色といえよう。当館の収蔵資料の中核の一つは、三浦新七(1877-1947)が収集した三浦文庫文書(5614 点)である。2021 年(令和 3)夏に本資料群の寄託更新手続きを行った際、三浦のドイツ留学中(1903-12) の絵葉書 (2119 点) が追加で寄託されることとなった。発表者は、これらの絵葉書を活用するためにはデジタルアーカイブとして公開すべきと判断し、ジャパンサーチと連携したアーカイブ構築に現在取り組んでいる。本発表では表題に掲げたとおり、小規模博物館が低予算かつ簡便な仕組みで継続的に稼働するデジタルアーカイブを構築するモデルを提示したい。 ## 2. 山形大学附属博物館と三浦新七博士 2.1 山形大学附属博物館 山形大学附属博物館は前史を含めると 100 年以上の歴史をもつ大学博物館である。山形大学は、1949 年 (昭和 24) 5 月に山形高等学校 - 山形師範学校 - 山形青年師範学校 - 米沢工業専門学校・山形県立農林専門学校を母体とし、文理学部・教育学部・工学部・農学部の 4 学部を有する国立大学として開学した。 その直後に当館(当時の名称は「山形大学附属郷土博物館」)も設置されたらしく、1952 年(昭和 27)に施行された博物館法にもとづき、博物館に相当する施設の指定を受けた。 大学だけでなく、当館にも複数の起源がある。その一つが、本学の地域教育文化学部の前身である山形県師範学校(開学 1878 年)に設置されていた郷土室(1929年(昭和4))であり、さらにその元を辿れば学寮の博品室である。博品室の存在は 1916 年(大正 5)には確認できる $[1]$ 。 当館のもう一つの起源は戦前の山形県教育会館につくられた郷土博物館である。1927 年 (昭和 2)に鉄筋コンクリート造 4 階の教育 会館が完成し、「山形県教育展覧会」が行われた。その展示風景写真に写る展示ケースと展示資料の一部は当館に伝存している。 この教育会館郷土博物館の運営に関与した人物こそ、同じく 1927 年(昭和 2) に発足した山形県郷土研究会の初代会長を務めた三浦新七である。 図 1 . 郷土博物館展示風景 (『山形県教育展覧会記念写真帳』1927 年山形大学附属博物館所蔵) ## 2. 2 三浦新七 三浦新七は 1877 年(明治 10)山形市生まれ。山形尋常中学校 (現 - 山形東高等学校) を飛び級かつ主席で卒業し、東京高等商業学校(現・一橋大学)に進学。卒業後、ドイツ・イギリスに留学(1903-1912)し、帰国後は母校の教授を務めた。1920 年(大正 9) の母校の大学昇格審查にも大いに貢献したという。山形県郷土研究会が設立された 1927 年 (昭和 2)は、家業復興のために三浦は山形に戻り、山形第八十一国立銀行(現 - 山形銀行)の頭取に就任し、山形県下の金融機関を立て直しに尽力した頃だった。三浦は会長として会員の研究を指導し、資料の調査および収集にかかる費用を惜しみなく援助したという。そして、三浦が収集した農政史料・古文書・古図類数千部は郷土博物館ではなく、師範学校の郷土室に寄託され、教員および生徒の利用に供された $[2]$ 。この資料群が、当館が現在も寄託を受けている三浦文庫文書にあたる。 図 2.三浦文庫文書 ## 3. 絵葉書アーカイブ構築 3. 1 山形大学附属博物館のデータベース 上記のとおり、当館の設立と深く関わっているだけでなく、山形ひいては日本の近代史に大いなる足跡を残した三浦新七に関する資料を収蔵し、広く公開することは当館の使命である。 だが、当館は人員・予算ともに潤沢ではない。極めて小規模な大学博物館である。設立以来、独立した施設を持たず、教育学部(旧山形師範学校)附属小学校体操場の一角や中央図書館(現小白川図書館)3階などを転々とし、2015 年(平成 27)にようやく現在地 (人文社会科学部 1 号館 1 階)に落ち着いた。実質的な博物館業務は非常勤職員 2 名があたり、本学教員が館長と学芸研究員を担ってきた。最低限の運営費をやりくりし、特別展と公開講座を年一回実施し、古文書史料目録をほぼ毎年発行し、本学の学芸員資格取得希望者に博物館実習も行っている。 一方、当館は大学博物館という特性から、資料のデジタル化にはかなり早い段階から取り組んでおり、2007 年には美術資料データベ ースを公開した。しかし、本データベースは操作マニュアルなどが一切残されていない。 このため、掲載している文字情報を修正することもできず、 14 年が経過してしまった。その間、Web サーバの移転を経験しているが、 ホームページを一新する経費もつかなかった ため、サーバ移転とは、全 Web データを新サ一バにまるごとコピーしただけである。それでも美術資料データベースはかろうじて動いている。 この状況を打破すべく、発表者は 2014 年には文化庁の補助金を活用して、独自のデータベースサーバをたてて、ホームページ上でのデータ公開を試みた。しかし、開発経費を抑えるためにデータ入力画面をカスタマイズせず、初期データの投入も発表者がやろうとしたところ、あまりにも煩雑な作業となってしまった。そのうえ、サーバメンテナンス費用を工面することができず、公開を断念した。 それから 6 年が経過した。2020 年にはジャパンサーチが正式に稼働し、日本各地のアー カイブ機関が構築したデジタルアーカイブの横断検索が可能となった。なかでも東京農工大学科学博物館は、所蔵の虫糸学術コレクシヨン群のうち、錦絵資料「虫織錦絵コレクシヨン」をジャパンサーチに公開した[3]。この先例を参考にすれば、当館においても三浦新七絵葉書アーカイブを構築し公開することが可能であるとの見通しを発表者はたて、それを実行することにした。 ## 3. 2 開発経費 ジャパンサーチを用いれば、検索画面や検索システムなどを構築する必要はなく、当館は IIIF 規格に基づいた画像公開環境(イメー ジサーバ)を準備するだけで済む。技術的な詳細を確認すると、当館が既に契約しているレンタルサーバの契約内容を変更すれば実現できそうなことがわかった。つまり、開発費はかなり安く抑えられる。 またデジタルアーカイブで経費が発生するものは資料のデジタル化であり、この場合、写真撮影である。幸いなことに、寄託された絵葉書の絵の面は全点デジタルカメラによる写真撮影が完了しており、データも全て提供いただいた。また、宛名面についても、寄託者が全点撮影する予定である。したがって、開発経費はイメージサーバの構築だけで済む。 その点を強調して、学長にデジタルアーカイブ構築の意義について説明したところ、学長裁量経費の充当が決定した。 また、デジタルアーカイブは継続性が重要である。レンタルサーバでイメージサーバを構築するため、年ごとのレンタル料や公開後のメンテナンス経費が発生する。その経費は本学校友会から支援を受ける予定である。 ## 3. 3 メタデータの作成 デジタルアーカイブを活かすも殺すもメタデータ次第である。その作成については、寄託者が全点を発信日順に整理したエクセルデ一タをもとに発表者と近現代史を専門とする小幡が、学生アルバイト共に手掛ける。本絵葉書群はドイツ留学中のものがほとんどであるため、宛名面がほぼドイツ語の筆記体で記されており、我々や学生アルバイトでは解読は困難である。しかし、大学にはドイツ人教員およびドイツ史を専門とする教員がいる。彼らの助力を仰ぎながら、メタデータを整えていく見通しが立っている。 ## 4. おわりに 発表者は各収蔵機関が一つでも多くの資料を公開することがデジタルアーカイブ全体の質の向上につながると考えている。 現在の社会において、技術的にもインフラ的にもデジタルアーカイブ構築は少し背伸びをすれば実現できる環境が整っている。ジャパンサーチの正式公開によって各アーカイブが人々の目に触れる機会も格段に増加している。しかし、アーカイブ機関がデジタルアー カイブに取り組むためには高いハードルがある。その一つは、アーカイブ機関だけで見栄えの良いデジタルアーカイブを作ろうとすることに一因があるのではないだろうか。そもそも人員も予算もない当館の本アーカイブの構築は、イメージサーバ以外はジャパンサー チに依存し、極力開発費を抑える。また、絵葉書 1 点ごとのメタデータと画像の表示も極カシンプルにする。見た目よりも、アーカイブとしての総量を増加することと、低コストに構築することにこだわりたい。最弱の大学博物館の無謀な取り組みについて各位のご叱正を賜りたい。 ## 参考文献 [1] 小幡圭祐. 山形大学附属博物館史序説. 東北史学会大会日本近世近代史研究部会予稿集. 2021-10-3. [2] 小幡圭祐編著, 佐藤琴編. 小白川キャンパスの 100 年旧制山形高等学校から山形大学 への歩み.2021-10-25. [3]齊藤有里加, 堀井洋, 堀井美里, 小川歩美. ジャパンサーチを利用した大学博物館所蔵の学術資料公開:~蚕系学術資料「虫織錦絵コレクション」を事例として〜. デジタルアー カイブ学会誌.2020,4 巻 1 号, p.77-p. 79.
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# [21] Web サイト上の地域史資料を活用した地域教材作成支援システムの構築: ○高橋奎太 ${ ^{1)}$, 奥野拓 ${ }^{2}$ 1)公立はこだて未来大学大学院,〒041-8655 函館市亀田中野町 116-2 2) 公立はこだて未来大学 E-mail: [email protected] ## Development of a Regional Learning Materials Making Support System Using Regional Historical Records on Websites: Targeting Regional Learning in Primary Education TAKAHASHI Keita1), OKUNO Taku) 1) Graduate School of Future University Hakodate, 116-2 Kamedanakano-cho, Hakodate, 0418655 Japan 2) Future University Hakodate ## 【発表概要】 地域学習は、その地域に関する地理や歴史、文化を幅広く学ぶことができる授業であり、児童の身近な地域の社会的事象についての興味・関心を広げることができる。地域学習では、教員が副読本や複数の Web サイト上で収集した地域史資料を用いて授業を行っている。しかし、教員にとって Web サイトを横断して資料の収集を行い、教材を作成することは負担が大きい。そのため本研究では、Webサイト上の地域史資料を活用し、地域学習に必要な資料の探索が容易なシステムの構築を目指す。現在は、人物名や歴史的な出来事などの検索ワードから地域史資料を探索できる資料検索画面と閲覧中の資料に記述されている歴史的な出来事が起きた場所を古地図上から探索できる資料詳細閲覧画面を開発中である。 ## 1. はじめに 近年、デジタルアーカイブを教育や防災、観光など様々な分野で活用する取り組みが多く見られる。特に、教育の分野においてはデジタルアーカイブ化された地域史資料を地域教材として用いる取り組みが見られる。本稿では、Web サイト上の地域史資料を活用する地域教材作成支援システムの構築について述べる。最初に初等教育における地域教材作成を述べ、次に歴史的な出来事が起きた場所の可視化、最後に地域教材作成支援システムについて述べる。 ## 2. 初等教育における地域教材作成 初等教育における地域学習では、一般的に教員が教科書とその地域の地理や歴史、文化などが掲載されている副読本を用いて授業を行っている。しかし、副読本に掲載されている歴史的な人物の情報や文化財の写真などの資料が十分とは言い難い。 近年地域史資料のデジタルアーカイブ化が進み、図書館に収録・保存されている多くの古文書や文化財などを Web サイト上でも閲覧することができる。そのため、多くの教員は Web サイト上でデジタルアーカイブ化された地域史資料を収集し、地域教材を作成している。道南地域でも地域史資料のデジタルアー カイブ化が進んでおり、様々な Web サイトがある。例えば、函館市史について公開している「函館市史デジタル版」や道南地域にゆかりのある歴史上の人物について紹介している 「函館ゆかりの人物伝」、道南地域に存在する文化財を紹介している「南北海道の文化財」、函館市中央図書館が所蔵している古写真や古 文書などをデジタル資料として公開している 「函館市中央図書館デジタル資料館」がある。 しかし、歴史上の人物や文化財などを調べるためには Web サイトを横断して調べる必要がある。そのため、教員にとって資料を収集し教材作成を行うことは負担が大きいと考えられる。そこで、教材作成の負担を軽減するために教員が調べたい資料を Web サイトを横断することなく容易に探すことができるシステムが必要である。 そのため本研究では、地域教材作成の負担を軽減することを目的として、Web サイト上の地域史資料を容易に探索できるシステムの構築を目指す。 ## 3. 歴史的な出来事が起きた場所の可視化 工藤は、最新の地図と古地図を比較し、街の変遷を学習できるシステムを構築している [1]。このシステムでは、最新の地図と古地図を並置し、それぞれの地図上に歴史的な建造物がある場所をマーカーで表示する。マーカ一を選択すると、現在の建物の写真とその建物の古写真が表示される。表示される写真を比較することで、建物の移り変わりから街の変遷について学習することができる。 本研究においても、歴史的な出来事が起きた場所を地図上に表示することで地域教材の作成支援が可能であると考えられる。例えば、函館の地域学習では、昔の函館で大火が多かったのはどうしてなのかを考えさせるために大火が起きた場所を地図上に描画することがある。したがって、歴史的な出来事が起きた場所を地図上に表示することで、教材作成の支援が可能であると考えられる。また、古地図上に歴史的な出来事が起きた場所を表示することで、出来事の関係性などの理解がより深まると考えられる。 そのため本研究では、古地図上に歴史的な出来事が起きた場所を表示することを目指す。 そのためには、歴史的な出来事が起きた場所を資料の説明文から抽出し、その場所の緯度経度を求め地図上にプロットする必要がある。 しかし、古地図は現在の測量技術と比べて精度が低いことや現在の街並みや地形が大きく異なるため古地図上に歴史的な出来事が起きた場所をプロットすることは困難である。そのため本研究では、古地図に対して幾何補正を行う。 ## 4. 地域教材作成支援システム 本研究で構築するシステムは、実際に教員に使用してもらうために Web アプリケーションとして開発する。現時点では二つの画面を実装している。一つ目の画面は、歴史的な人物や歴史的な出来事のような検索ワードから関連する資料を表示する資料検索画面である。二つ目の画面は、一つ目の資料検索画面で選択された資料の説明文を表示し、説明文に記述されている歴史的な出来事が起きた場所を古地図上に表示する資料詳細閲覧画面である。 システムに使用する地域史資料は、2 章で述べた道南地域で地域史資料を公開している 4 つの Web サイトに記述されているものを用いる。歴史的な出来事が起きた場所を古地図上に表示するための前処理として、文化財名と町名の収集、ジオコーディング、幾何補正を行う。どの年代の古地図上に表示するかについては、古地図の選定にて述べる。以下の節で具体的に説明する。 ## 4. 1 文化財名と町名の収集 システムで資料の画像や説明文を表示するために、2 章で述べた 4 つの Web サイトから地域史資料をスクレイピングする。また、資料に記述されている文化財と町の場所を古地図上に表示するために、文化財名と町名を収集する。文化財名を収集するために、2 章で述べた「南北海道の文化財」をスクレイピングした各文化財紹介ページのタイトルを用いる。町名のデータは、函館市のオープンデー タポータルで公開しているデータを用いる。 ## 4. 2 ジオコ一ディング 4.1 節で抽出した文化財名と町名から緯度経度を求めるためにジオコーディングを行う。各文化財の緯度経度は、「南北海道の文化財」 からスクレイピングしたデータに含まれてい る緯度経度を用いる。それぞれの町の緯度経度は、町の郵便番号をもとに HeartRails Geo API [2]を用いて求める。郵便番号の収集には、函館市のオープンデータポータルで公開しているデータを用いる。 ## 4. 3 古地図の選定 本研究では、古地図上に歴史的な出来事が起きた場所を表示する。表示する古地図として、当時の街並みや地形から歴史的な出来事についての理解をより深めるために、歴史的な出来事が起きた年代と最も近い年代のものを用いる。本研究で用いる古地図には、 2 章で述べた「函館市中央図書館デジタル資料館」 に収録されているものを複数用いる(表 1)。表 1 では、古地図の年代を和暦と西暦を用いて示している。また、年数の差は最も年代の近い古地図との年数の差を示している。表 1 の明治 11 年と明治 44 年における古地図の年代の差は 33 年あるため、歴史的な出来事が起きた場所の環境が大きく変化している可能性がある。この年数の差を縮小するために、今後は表 1 の年代と異なる年代の古地図について調查する。これらの古地図上に歴史的な出来事が起きた場所を表示するために、本研究では古地図に対して幾何補正を行う。 ## 4. 4 資料検索画面 資料検索画面では、検索対象とするWebサイトを選択し、人物名や歴史的な出来事のような検索ワードを入力することで、その検索結果として資料を表示する。図1は資料検索画面のプロトタイプである。この画面では、検索ワードを入力するための検索ボックス、検 表 1. システムに用いる古地図の年代 図 1. 資料検索画面 索対象のWebサイトを絞り込むためのチェックボックス、検索結果として地域史資料の夕イトル・説明文・画像を含んだリストを表示する。 検索結果として表示する資料は、資料の夕イトルに検索ワードを含む資料と検索ワードと一致する特徵語を含む資料である。特徴語は、以下の手順で求める。まず地域史資料の説明文から形態素解析によって名詞を抽出する。次にTF-IDF を用いて、抽出した名詞の重要度を算出する。そして重要度が高い上位 10個の名詞をその資料の特徴語とする。求めた特徴語を用いて、同じ特徴語を持つ地域史資料同士を関連付ける。以上の手順により、入力された検索ワードと一致する特徴語を含む資料を表示する。表示された資料を一つ選択すると、4.5節で述べる資料詳細閲覧画面に遷移する。 現時点での本システムにおける検索ワードによる検索は、検索ワードの類義語や表記摇れに対応していない。そこで本研究では、単語をべクトルとして扱うことで意味的に近い単語を求めることが可能であるWord2Vecを用いる予定である。 ## 4.5 資料詳細閲覧画面 資料詳細閲覧画面では、図 1 で選択された資料の説明文を表示し、資料に記述されている歴史的な出来事が起きた場所を古地図上に表示する。図 2 は、資料詳細閲覧画面のプロトタイプである。この画面左側には古地図、画面右側には資料の説明文を表示する。 画面左側には、Maplatを用いて古地図を表示する。Maplat とは、オープンソースの古地 図 2.資料詳細閲覧画面 図ビューアライブラリである。表示する古地図は、表 1 の中で資料に記述されている歴史的な出来事が起きた年代と最も近いものを用いる。 画面右側の説明文には、文化財名と町名が複数記述されている場合がある。その中で文化財や町の場所が分からない際に、インター ネットなどで調べる必要がある。そこで、 4.1 節で収集した文化財名と町名を用いて説明文に出現する文化財名と町名をハイライトする。 ハイライトされた文化財名または町名を選択すると古地図上にその場所をマーカーで表示する。 多くの資料には文化財名と町名が複数記述されているため、歴史的な出来事が起きた場所を特定することが困難である。そのため、資料に記述されている文化財名と町名を抽出し、文脈からどこで歴史的な出来事が起きたかを推定する必要がある。これを解決する方法として、松本らは、ブログ記事に記述されている複数の地名に対して位置情報と文章内の関連する単語を用い、その記事の主題となる地名を推定する手法を提案している[3]。主題となる地名の推定は、地名候補の抽出、位置情報の特定、関連語の抽出、主題となる地名の推定の順で行われている。本研究では、松本らの手法を参考に複数の文化財名と町名から資料の主題となる文化財名または町名を推定する。そして、推定した文化財名または町名を歴史的な出来事が起きた場所とする。 ## 5. おわりに 本稿では、Webサイト上の地域史資料を活用した地域教材作成支援システムの構築について述べた。今後は、44節で述べた類義語や表記摇孔に対応した検索方法、4.5節で述べた資料から歴史的な出来事が起きた場所を推定する方法を実装する。その後、評価実験を行う予定である。評価実験は、初等教育教員を対象に、本システムを用いた教材の作成と普段行っている教材の作成との比較実験を行う。評価方法にはアンケートを用い、システムの利便性などを評価する。評価実験後は、教員から得られた意見などをもとにシステムを改善する。 現在、函館市の副読本である「わたしたちの函館」のオープンデータ化が進んでいる。 これにより、副読本がデジタル化される。今後は、デジタル化した副読本と本システムを連係し、副読本上から関連する資料を検索可能なシステムの構築を目指していく予定である。 ## 参考文献 [1] 工藤彰他. Google マップと古地図を用いた地域学習支援システムの開発とその応用検討. 地理情報システム学会講演論文集. 2008, vol. 17, p. 599-602. [2] 株式会社ハートレイルズ. “HeartRails Geo API | 郵便番号/住所/緯度経度データ変換サービス (ジオコーディング)”. 202111-12. https://geoapi.heartrails.com/, (参照 2021-11-12). [3] 松本光弘, 二宮亜佐美, 長岡諒, 沼尾正行,栗原聡. WWW 上の文章に含まれるイベント情報からの地名の同定. 人工知能学会研究会資料. 2010, vol. 88, p. 33-38. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [15] ゲームにおけるアウトオブコマースの研究 オーファンまたはアウトオブコマースなゲームはプレイ可能に公開可能か ○松田真 1) 1)松田特許事務所,〒203-0012 東京都東久留米市浅間町3-25-3 E-mail:[email protected] ## Out of Commerce for Game: Can Orphan or Out-of-Commerce Games Be Playable? MATSUDA Shin ${ }^{1}$ ) 1) Matsuda Patent Office, 3-25-3 Higashikurume-shi, Tokyo, 203-0012 Japan ## 【発表概要】 販路が尽きたゲームもプレイ可能に公開できるような活用策を検討した。裁定によりオーファンなゲームを復刻できる。令和 3 年改正後の著作権法 31 条の活用により、アウトオブコマースのうち絶版等資料または特定絶版等資料に係るゲームを公開することが法律上可能であるが、運用上の論点がある。裁定や 31 条の活用は権利者の利益になり得るので、公開主体を柔軟化することでゲームをプレイ可能に公開し続けられるようなエコシステムの構築を行うのがよい。 ## 1. はじめに 日本の 2019 年におけるゲームの市場規模はおよそ 1 兆 6000 億円[1]と言われている。これは、紙十電子出版業界に匹敵し得る大きな市場である。ゲームの主要なアーカイブ機関として、国立国会図書館(以下、NDL)には約 6,600 件、立命館大学ゲーム研究センター (RCGS)には 7,680 件、ゲーム保存協会には 7,892 件のコレクションが存在するいずれも 2021 年 11 月 10 日時点)。一方、現在までにゲーム会社が公開したゲームタイトルはコンシューマだけで優に 20,000 件を超えており、 これにパソコンゲーム、スマートフォンアプリ、UGC としてのゲーム等も含めると、さらに膨大な件数となる。すなわち、アーカイブ機関によって未だアーカイブ化されていないゲームが多く存在し得る。そのようなゲームは販路が尽きた時点で一般にプレイできなくなる懸念がある。特に、ゲーム会社の倒産等の理由で権利者の所在が不明となったゲームは、利用者が再度の公開を望んだとしても、復刻できないまま散冕する可能性が高い。また、ゲーム機は代替わりするのが常であるため、ゲームのデータがアーカイブ化されていたとしても、時の経過と共にゲーム機そのものが稼動できなくなり、結局の所、そのゲー ムがプレイできなくなる。ゲームは日本における重要な文化であり、主要な産業の一つで もある。ゲームをプレイ可能にアーカイブできず散逸してしまうのは、好ましい状態ではない。そのため本稿では、オーファンまたはアウトオブコマースとなったゲームを、デジタルアーカイブを活用してプレイ可能に公開する方策について検討した。なお、本稿における定義として、「オーファン」なゲームとは、権利者の所在が不明となったゲームのことを言う。「アウトオブコマース」なゲームは、デジタル単一市場における著作権指令 8 条の 5 . の記載に基づき、「ゲームが公衆に利用可能かどうか決定するために合理的な努力がなされた後に、当該ゲームが、通常の商業流通経路を通じて公衆に利用可能ではないと善意で推定される」ゲームとする。 ## 2. 裁定制度 裁定制度とは、著作権者が不明の場合、相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け文化庁長官が定める額の補償金を供託することにより、著作物を利用することができる制度である(著作権法 67 条。以下、法律名の明記なき場合は著作権法を意味する)。 裁定制度を活用したゲームの販売につき実例が存在する。裁定申請者は東映アニメーション株式会社、著作権者等は株式会社ショウエイシステム(1999 年に倒産)、著作物等の題号は「北斗の拳」または「北斗の拳 3 新世 紀創造凄挙列伝」である。申請された著作物の種類は「映画」「プログラム」「言語」「音楽」 の 4 種類である。著作物の利用方法は「ゲー ム機に複製し、販売」である。上記の実例のように、ゲーム会社の倒産等に起因するオー ファンなゲームについては、裁定制度を活用した復刻の手筋が考えられる。ただし、ゲー ムは映画の著作物とされ得るものであり、過去のゲームについての著作権者の特定が難しい(15 条、16 条、29 条等)。上記の実例においては、発注側であった東映動画(現 : 東映アニメーション)が裁定の申請者となっている。例えば権利者情報を有しない状態からスタートして裁定申請を行うことには実務上困難が伴うと考えられる。この点は例えば、真正性のある権利者情報が蓄積されるようなデジタルアーカイブの運用が将来的に可能になれば、困難が軽減されるものと考えられる。 ## 3. 著作権法 31 条の令和 3 年改正 2021 年 5 月 26 日に成立し、同年 6 月 2 日に公布された「著作権法の一部を改正する法律」により、著作権法が改正されることとなった。この令和 3 年改正には、(a)NDLによる絶版等資料のインターネット送信(31 条 4 項等) と、(b)各図書館等による図書館資料のメー ル送信等(31 条 2 項等)とが含まれる。(a)は公布から 1 年以内、(b)は公布から 2 年以内に施行される。本稿では、上記(a)の適用後の著作権法 31 条に基づいたゲーム公開の可能性について検討する。検討内容を可能な限りシンプルにするため、主体を図書館等 (31 条 1 項参照)の中でも NDL のみに絞った。さらに、対象となるゲームを「絶版等資料に該当し得るゲーム」のみに絞った。なお、上記(b)に基づけば、絶版等資料以外の図書館資料についてもメール送信等が可能になるが、そのような図書館資料については本稿では考慮しないこととした。FD や CD-ROM 等に記憶されたゲ ームデータについての、「著作物の一部分」 (上記(b)適用後の 31 条 2 項)の観念が現時点では難しいと考えられるためである。上記(a)適用後の 31 条 3 項 国立国会図書館は、絶版等資料に係る著作物について、図書館等又はこれに類する外国の施設で政令で定めるものにおいて公衆に提示することを目的とする場合には、前項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて自動公衆送信を行うことができる。この場合において、当該図書館等においては、その営利を目的としない事業として、次に掲げる行為を行うことができる。 一当該図書館等の利用者の求めに応じ、当該利用者が自ら利用するために必要と認められる限度において、自動公衆送信された当該著作物の複製物を作成し、当該複製物を提供すること。 二自動公衆送信された当該著作物を受信装置を用いて公に伝達すること(当該著作物の伝達を受ける者から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。第五項第二号及び第三十八条において同じ。)を受けない場合に限る。)。 上記の 31 条 3 項にあてはめると、NDL は絶版等資料に係るゲームについて、31 条 2 項の規定により記録媒体に記録されたゲームの複製物を用いて自動公衆送信を行うことができる。受信側である図書館等は、当該図書館等の利用者が自ら利用するために必要と認められる限度において、自動公衆送信されたゲ一ムの複製物を作成し、当該複製物を提供することができる。また、図書館等は、料金を受けずに、受信装置を用いて公に伝達することもできる。なお、NDL から図書館等への、図書館資料を活用したゲームの配信は現時点では行われていない。そのような配信を仮に行う場合に、31 条 3 項 1 号における「自ら利用するために必要と認められる限度」とは具体的にはどの程度の限度となるかは、論点となり得る。 上記(a)適用後の 31 条 4 項 国立国会図書館は、次に掲げる要件を満たすときは、特定絶版等資料に係る著作物について、第二項の規定により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて、自動公衆送信(当該自動公衆送信を受信し 上記の 31 条 4 項にあてはめると、NDL は特定絶版等資料に係るゲームについて、31 条 2 項の規定により記録媒体に記録されたゲー ムの複製物を用いて自動公衆送信を行うことができる。ただし、(i)デジタル方式の複製を防止又は抑止するための措置を講じて行うものであること、(ii)事前登録者の用に供することを目的とするものであること、(iii)当該自動公衆送信を受信しようとする者が当該自動公衆送信を受信する際に事前登録者であることを識別するための措置を講じていることが条件となる。上記(i)の措置の具体的な内容は、本稿の記載時点(2021 年 11 月 12 日)には定まっていないようである。従って、そのような措置が講じられた後のゲームのデータを適切にロードして実行できるような実行環境(例えば端末装置やエミュレータ)も同様に、存在しないと考えられる。よって今後、上記(i) の措置の具体的な内容と実行環境の仕様とは、併せての検討が必要になると考えられる。特定絶版等資料とは、 31 条 2 項の規定により記録媒体に記録された著作物に係る絶版等資料のうち、著作権者若しくはその許諾を得た者又は 79 条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾若しくは公衆送信許諾を得た者の申出を受けて、NDL の館長が当該申出のあつた日から起算して三月以内に絶版等資料に該当しなくなる蓋然性が高いと認めた資料を除いたものをいう(31 条 6 項)。上記(a)適用後の 31 条 5 項 前項の規定による自動公衆送信を受信した者は、次に掲げる行為を行うことができる。 一自動公衆送信された当該著作物を自ら利用するために必要と認められる限度において複製すること。 二次のイ又はロに掲げる場合の区分に応 じ、当該イ又はロに定める要件に従つて、 自動公衆送信された当該著作物を受信装置を用いて公に伝達すること。 イ個人的に又は家庭内において当該著作物が閲覧される場合の表示の大きさと同等のものとして政令で定める大きさ以下の大きさで表示する場合営利を目的とせず、かつ、当該著作物の伝達を受ける者から料金を受けずに行うこと。 口(略) 上記(a)適用後の 31 条 4 項による自動公衆送信を受信した者を、本稿においてユーザと表記する。31 条 5 項にあてはめると、ユーザは、自動公衆送信されたゲームを自ら利用するために必要と認められる限度において複製することができる(31 条 5 項 1 号。必要と認められる限度の論点あり)。また、ユーザは、所定の条件に従って、自動公衆送信されたゲ ームを受信装置を用いて公に伝達することもできることになる(31 条 5 項 2 号イ)。 31 条 5 項の場合、ユーザが図書館等ではなく自宅等において自動公衆送信を受信することが想定される。そのため、自動公衆送信された特定絶版等資料に係るゲームの実行環境をどのように構築すべきかについては、今後多くの議論の余地がある。例えば、「ゲームの ROM データがユーザ端末に残らないように実装する」「ブラウザベースの実行環境にする」「クラウド形式でゲームを配信する」「安心して利用可能な、ホワイトエミュレータ (権利処理済のエミュレータ)を用意する」などである。 なお、エミュレータについては、2021 年 7 月に、NDL が調査報告書を公開している[2]。 ## 3.1 運用上の論点 上述のように、著作権法の観点からは、アウトオブコマースなゲームのうち絶版等資料または特定絶版等資料に係るゲームを、上記 (a)の適用後の 31 条に基づいてプレイ可能に公開可能であるように思われる。一方、運用レベルにおいてはいくつかの論点が存在する。第 1 の論点は、絶版等資料または特定絶版等資料に係るゲームデータの蓄積状態である。 NDL は 2021 年 3 月に「国立国会図書館デジタル資料長期保存基本計画 2021-2025」[3]を策定している。これによると、NDL は 2018 年度から 2020 年度にかけて、パッケージ系電子出版物のマイグレーション(媒体変換)作業を試行している。令和 3 年 9 月末時点でのマイグレーション済資料の実績(累積)は、FD 約 7,800 点、USB 約 450 点、光ディスク約 480 点等となっている(NDL 問い合わせ済)。 NDL が図書館等に向けて自動公衆送信可能なゲームデータの蓄積は、これからの課題ということになるだろう。 第 2 の論点は、関係者協議会の不在である。 NDL は、著作権者・出版者団体、大学、図書館など関係の団体や機関と、デジタル化(アナログ媒体をデジタル媒体に変換すること) した資料の利用提供方法などについて継続的に協議を行っており、原資料がアナログ媒体である媒体別の関係者協議会が 3 つ存在する [4]。一方、パッケージ系電子出版物のマイグレーション後データの利用提供に係る関係者協議会は、本稿の記載時点において存在しない。著作権法上は上記(a)の適用後の 31 条に基づいて可能であるようなゲームの公開行為のうち、どの程度までの公開が運用レベルでも許容され得るのかにつき、関係者間の協議が進むことが望まれる。 ## 4. おわりに デジタルアーカイブの観点では、現代人だけでなく例えば 100 年後の子孫がプレイ可能な状態でゲームを後世に残すことには、意義があると考える。ここで、権利者にとっての利益はどうかという重要な観点がある。裁定申請や 31 条の活用は権利者の利益になり得る。例えば、ゲームはゲーム機の代替わりが発生するのが常である。民間のゲーム会社がかつてのハード用のソフトを含めた全てのゲームをプレイ可能に公開し続ける事は、コストの観点からも難しいと考えられる。この場合、裁定申請者やNDL等が、アウトオブコマースなゲームの公開継続を肩代わりできるという側面がある。入手困難なゲームをプレイ可能に公開すれば、そのゲームに初めて接する者、 そのゲームの復刻を望む者、そのゲームから着想を得て新たなゲームを開発する者、そのゲームと関連する新発売のゲームに興味を持つ者などが新たに生じ得る。ここで、 31 条につきインコマースに戻ったゲームは絶版等資料ではなくなるので、そのゲームに関連する収益を再度得る機会はゲーム会社に生じることになる。権利者の利益を確保しつつ、公開主体を柔軟化することでゲームをプレイ可能に公開し続けられるようなエコシステムの構築(ゲームの永続化)を行うのがよいのではないかと考える。 ## 参考文献 [1] 総務省. “コンテンツ市場の動向”. 令和 3 年情報通信白書. https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/wh itepaper/ja/r03/html/nd241910.html, (参照 2021-11-12). [2] 国立国会図書館. “電子情報の長期利用保証に関する調査研究”. 国立国会図書館. http s://www.ndl.go.jp/jp/preservation/dlib/resear ch.html,(参照 2021-11-12). [3] 国立国会図書館. “E2401 - NDL, デジタル資料長期保存基本計画 2021-2025を策定”。カレントアウェアネス・ポータル. 202 1-7-8. https://current.ndl.go.jp/e2401,(参照 2021-11-12). [4] 国立国会図書館. “資料デジタル化に関する協議”. 国立国会図書館. https://www.ndl. go.jp/jp/preservation/digitization/consult.ht $\mathrm{ml}$,(参照 2021-11-12).
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# [14] デジタルアーカイブの活用と利用状況の把握について の課題と考察: 一「あつまれどうぶつの森」活用を事例に- ○小川歩美 ${ }^{1)}$, 堀井美里 ${ }^{1)}$, 堀井洋 1 ), 齋藤有里加 ${ }^{2}$, 金子敬一 $\left.{ }^{2}})$ 1) 合同会社 AMANE, 〒921-8147 石川県金沢市大額 2-44 N3 ビル 203 2) 東京農工大学科学博物館 E-mail: [email protected] ## Issues and considerations regarding the utilization of digital archives and understanding of usage status: In the case of utilization of Animal Crossing New Horizons OGAWA Ayumi ${ }^{11}$, HORII Misato ${ }^{11}$, HORII Hiroshi1), SAITO Yurika ${ }^{2)}$, KANEKO Keiichi2) 1) AMANE.LLC, \#203 N3, 2-44 Onuka, Kanazawa, Ishikawa, 921-8147 Japan 2) Nature and Science Museum, Tokyo University of Agriculture and Technology ## 【発表概要】 近年、博物館などの収蔵資料は、活用と発信が求められ、その手段としてデジタルアーカイブでの資料公開が進んでいる。また、デジタルアーカイブにおいて、研究だけでなく教育や、商用も含めた活用が進められている。今後、これらの公開や活用による成果からフィードバックを得ることでよりデジタルアーカイブや資料活用の新たな可能性を探ることができる。成果を分析する方法として、どのような資料がどのように検索されたかという利用状況の把握があげられ、その分析の手法や視点が課題となる。本発表では、合同会社 AMANE ・東京農工大学科学博物館が公開した Nintendo「あつまれどうぶつの森」の「マイデザイン」を事例とし、デジタルアーカイブとその活用を紹介しながら、利用状況の把握について課題と考察を行う。 ## 1. はじめに 近年、博物館では収蔵資料の調査・整理だけでなく、活用と発信が求められている。デジタルアーカイブでの資料の公開が進んでいる背景から、多様な活用・発信の方法が模索されている。また、デジタルアーカイブにおいて、研究だけでなく教育、商用も含めた幅広い活用が視野に進められている。今後、これらの公開や活用が、博物館や資料などへの関心に対しどのような効果をもたらしたのかという、成果を分析することで、デジタルア一カイブや資料活用の新たな可能性を探ることができる。成果を分析する方法として、どのような資料がどのように検索されたかなどの利用状況の把握があげられ、その分析の手法や視点が課題となる。 本稿では、合同会社 AMANE・東京農工大学科学博物館が公開した「あつまれどうぶつの森」の「マイデザイン」を事例とし、デジ タルアーカイブとその活用を紹介しながら、 アクセス数から見る利用状況の把握について課題と考察を行う。 ## 2. 東京農エ大学科学博物館の取組 ## 2.1 蚕糸学術コレクション ここではまず、東京農工大学科学博物館のデジタルアーカイブについて述べる。 東京農工大学科学博物館は明治 19 年 (1886)、東京農工大学工学部の前身である農商務省虫病試験場の「参考品陳列場」にはじまった。その後、繊維に特化した工学部附属繊維博物館をへて全学化された科学博物館となり、東京農工大学の農学・工学の研究成果を発信している。 近代蚕系・養虫にかかわる多様な資料を収蔵し、これらの資料は調査研究・整理のもとに「蚌糸学術コレクション」として昨年からデジタルアーカイブで一部が公開されている [1]。現在、公開している資料は「蚕織錦絵コ レクション」である。虫織錦絵コレクションは故鈴木三郎名誉教授より寄贈された 400 点余りの錦絵資料である。蚕織錦絵には、虫の孵化、採桑から製糸、製織、布選びなどの多くの工程が描かれている。デジタルアーカイブでは, IIIF 形式での画像公開を行っており、 2020 年 10 月よりジャパンサーチとの連携も開始した。ジャパンサーチは、博物館・美術館・自治体・大学などの機関が公開しているデジタルアーカイブと連携し、横断的に検索・閲覧ができるプラットフォームである $[2]$ 。本デジタルアーカイブの構築は、合同会社 AMANE との連携により実施された。 こういったデジタルアーカイブは、ジャパンサーチとの連携だけでなく、博物館教育課程での活用も行われている。 ## 2.2「あつまれどうぶつの森」への活用 前項で述べたデジタルアーカイブの活用として、「あつまれどうぶつの森」の「マイデザイン」公開について述べる。 「あつまれどうぶつの森」は、Nintendo より発売された無人島を舞台にキャンプ生活や村おこしなどを行うゲームである。ゲーム内では「マイデザイン」と呼ばれるドット絵を作成・ダウンロードでき、これらを衣装として身につけるほか、展示などを行うことができる。発売後、多くの博物館・美術館がマイデザインの作成・公開を行っている。デジタルアーカイブによる画像公開・IIIF 化が進んでおり、画像からのマイデザイン作成がスム ーズに行えたという背景がある。また、 Getty 財団による IIIF マニフェスト URL からマイデザインを作成する「Animal Crossing Art Generator」の公開も活用を促進させた[3]。あつまれどうぶつの森のマイデザインは、所蔵側が収蔵資料を公開・活用するだけでなく、着用や島への展示を通して利用者側が主体となって資料を活用することができるという点も特徴である。 東京農工大学科学博物館では、2021 年 7 月締結の合同会社 AMANE との包括的連携協定を記念してマイデザインを公開した。包括的連携協定では、学術デジタルアーカイブの構築および養蚕関連資料を対象とした調査・研究に関して連携・協働して行うものである。 マイデザイン公開では、虫織錦絵に描かれた人物が着ている着物を再現し、ゲーム内でキャラクターが着用できる。マイデザインは、 ゲーム操作者による手描きによる作成であるため、作成者の主観や改変が加わることとなる。現在は資料中で男性・女性が着ているもの各 2 つずつの合計 4 デザイン公開されている。資料は、国利・山村清介(歌川国利・楳樹邦年)作「富国養虫の図四」、桜斎房種 (歌川房種)作「蛋養草四」、国明(二代歌川国明・蜂須賀国明)作「東源氏蛋の養 3 枚綴」の 3 点である。合同会社 AMANE の Web ページに、作者 ID、作品 ID をのせることで、ゲーム内で ID から検索・ダウンロードができる [4] [5]。 さらに、同じようにマイデザインを公開・活用している女子美術大学美術館との連携イベント「あつ森で語らう!農工大 $\times$ AMANE ×女子美コラボイベント - 大学博物館・美術館所蔵コレクションの新たな活用の可能性 -」 を 2021 年 10 月 25 日(月)に行った。女子美術大学美術館には、服飾や絵画資料が多く収蔵されており、マイデザインの公開や、あつまれどうぶつの森を通しての他機関との共同イベントなどを行っている。イベントでは、 まず事前にお互いの「島」に「おでかけ」をし、段取りやマイデザインの確認、記念撮影を行った。本番のイベントでは、お互いの 「島」に「おでかけ」している画面をZoom で映し、その様子を YouTubeLive にて配信した。ゲーム画面を参加者に見せながらコレクションや、あつまれどうぶつの森における活動方法の説明を行い、Zoom ・ YouTubeLive 双方から質疑応答を受けながら進めた。 ## 2. 3 活用後のアクセス数 あつまれどうぶつの森では、マイデザインの検索数・ダウンロード数などは公開されていない。よってここでは、ジャパンサーチと東京農工大学科学博物館デジタルアーカイブ のアクセス数から影響を見ていく。 まず、ジャパンサーチから述べる。ジャパンサーチでは現在、「統計」機能からメタデー タ詳細、データベース、組織ページ、のアクセス数が見られる。「メタデータ詳細」は資料 1 点ごと、「データベース」は機関が公開しているデータベースの説明ページ、「組織ページ」 は機関の紹介ページである。統計機能は未ログインの利用者、つまり連携機関関係者以外のアクセスのみが計上される。それぞれ累積アクセス数、月ごとのアクセス数、累積/月ごとのメタデータ詳細・データベース・組織ページの上位アクセス数、が公開されている。図 1 は統計機能から、それぞれのアクセス数をグラフにしたものである。マイデザインを公開した 2021 年 7 月は、メタデータ詳細が 309、データベースが 53、組織ぺージが 15 となっている。公開前の 2021 年 6 月と比較するとメタデータ詳細が $+59 、$ データベースが+ 29、組織ぺージが-3 となっており、メタデー 夕詳細とデータベースへのアクセスが増加している。しかし、メタデータ詳細から上位アクセスを見ると、マイデザインのもととなる資料は「東源氏虫の養 3 枚綴」が 2021 年 7 月に 2 アクセス、2021 年 10 月に 4 アクセスのみであった。 図 1.ジャパンサーチのアクセス数 ジャパンサーチの統計機能からは、マイデザイン公開後のアクセス数の上昇は見られたが、資料自体へのアクセスはあまり見られな かった。背景としては、マイデザインの公開に際しては資料名と東京農工大学科学博物館のデータベースへのリンクを掲載しており、 ジャパンサーチへの直接のリンクがなかったためと思われる。 次に、東京農工大学科学博物館のデータベ ースへのアクセスについて見ていく。ここでは、(1)総アクセス数、(2)ジャパンサーチを経由したアクセス数、(3)固定リンクからのアクセス数、を用いる。図 2 は、(1)(3)のアクセス数を、2021年 6 月から日ごとで折れ線グラフにしたものである。マイデザインを公開した 7 月 1 日は、(1)が 687 (前日比 +509 )、(2) が 0 (前日比 0)、(3)が 69(前日比 + 23)となり、(1)の総アクセス数が大きく上昇している。 また、同じく(1)が大きく上昇する日が 7 月 6 日であり、マイデザイン公開付近のアクセスが活発なことがわかる。一方で、(2)のジャパンサーチを経由したアクセス数に変動はほぼない。また、(3)の固定リンクからのアクセス数は 7 月 2 日が 118 と、 7 月 1 日に比べて 49 増えていた。 図 2. 全アイテムページに対するアクセス数 (2021 年 6 月から) マイデザインのもととなる資料のうち、ジヤパンサーチにて 2021 年 7 月に 2 アクセスあった「東源氏蚕の養 3 枚経」についてアクセスを数見ていく。図 3 は、「東源氏蚕の養 3 枚経」について(1)~(3)のアクセス数を、 2021 年 6 月から日ごとで折れ線グラフにしたものである。 7 月 1 日は、(1)が 30(前日比十 27)、(2は 0(前日比 0)、(3)は 3(前日比 +3 ) となり、こちらでも(1)の総アクセス数が大きく上昇している。また、(3)について、7月 2 日が 16 (前日比 + 13)と、アクセス数の増加がマイデザイン公開の翌日となっている。(2)に ついては、変動がない。 図 3. 「東源氏蚕の養 3 枚経」に対するアクセス数 (2021 年 6 月から) ## 2.4 まとめ 東京農工大学科学博物館と合同会社 AMANE は、デジタルアーカイブの公開・ジヤパンサーチ連携ならびにあつまれどうぶつの森マイデザイン公開や関連するイベントの実施を行ってきた。マイデザインの公開によって、東京農工大学科学博物館のデータベー スへのアクセスは増加し、固定リンクから各資料へのアクセスも増加した。一方で、ジャパンサーチに関しては、全体のアクセス数の増加が見られたが、リンクを記載していないこともあり資料自体へのアクセスは大きな変化は見られなかった。 今回のデータベースの利用状況の把握では、 アクセス数を指標とした。今後、どのような利用者が、どのリンクを経由してデータベー スにたどり着いたか、といったアクセス方法をより詳細に分析してくことで、利用状況の正確な把握が可能になる。ジャパンサーチからはメタデータ詳細、データベース、組織ぺ一ジ、のアクセス数のみが提供されているため、より詳細なアクセスの把握はできない。 あつまれどうぶつの森内でも同様にダウンロ一ド数などが提供されていない。このように、外部での公開では、提供されていないデータについての分析ができない点は注意したい。自身のデータベースから分析することで、デ一夕の取得に課題のある外部との連携・活用 の効果の分析も期待できる。 ## 3. おわりに 本稿では、デジタルアーカイブの概要と、活用の事例としてあつまれどうぶつの森のマイデザイン公開を紹介し、公開後のアクセス数を比較した。 アクセス数からは、アーカイブの活用によって、活用に使用された資料自体だけでなくデータベース全体への関心が高まることがわかる。マイデザインの公開の際にリンクを記載しなかったジャパンサーチからのアクセスに変化が見られなかったことから、発信する情報が利用者のアクセスの方法に直接関わつていることもわかる。また、固定リンクの設定により、ジャパンサーチとの連携や発信のしやすさだけでなく、利用者が資料にアクセスしやすくなる。今後、利用者がアクセスする方法を詳細に分析することで、効果的な発信・活用が可能になるだろう。 ## 参考文献 [1] 東京農工大学科学博物館デジタルアーカ イブ虫系学術コレクション. https://archives.tuat-museum.org (参照 2021-11-08). [2] ジャパンサーチ. https://jpsearch.go.jp (参照 2021-11-09). [3] Animal Crossing Art Generator. https://experiments.getty.edu/ac-artgenerator (参照 2021-11-09). [4] AMANE あつもり紹介ページ. https://amane-project.jp/atsumori/ (参照 2021-11-09). [5] マイデザイン公開には、他に QR コードを公開することでゲーム内にダウンロードできる方法もある。その際、ゲーム内での検索には対応していない。
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# [13] オンライン開催における我が国の観光の変化と将来性:日本のアニメ$\cdot$特撮作品の現地イベントとオンラインイベントとの比較から 二重作昌満 1 ) 1) 東海大学大学院文学研究科文明研究専攻, 〒 259-1292 神奈川県平塚市北金目 4-1-1 E-mail: [email protected] ## Changes and Futures of Tourism in Japan in Online Events: Comparison between field events and online events of Japanese Anime and Tokusatsu films FUTAESAKU Masamitsu1) 1) Tokai University Graduate School of Letters, 4-1-1 Kitakaname Hiratsuka, Kanagawa, 259-1292 Japan ## 【発表概要】 2020 年以降の COVID-19 の世界的な感染拡大は、各国の観光産業にも多大な影響を及ぼした。観光において基板となる人の「移動」が制限された上、在宅を促す「ステイホーム」が推奨された結果、移動を伴わないイベントが定着するようになった。つまり、個人が所有する PC やスマートフォン等の電子機器を介して、観光を疑似体験する「オンラインイベント」が、新たな催事の開催様式として急速に我が国に浸透するようになった。当観光現象は成長を遂げつつある新たな観光の一形態であり、Web サイトやバーチャル空間の導入によって変化を遂げる観光の姿を、アフターコロナ時代にも対応できるようにアーカイブ化していくことに研究の社会的・学術的意義があると考えた。そこで本研究では、未だ研究事例の不足しているアニメ・特撮作品を活用したオンラインイベントに焦点を当て、既存の対面型イベントとの比較による利点と欠点について、実態調査による記録と整理を行なった。 ## 1. 研究の背景 2019 年に中国武漢で発生した新型コロナウイルス(COVID-19)は、2020 年以降に世界各地で爆発的な感染拡大を引き起こし、我が国においても感染症が曼延する事態となった。現在に至るまで、国内では度重なる緊急事態宣言の発令やワクチン供給の開始等が実施されてはいるが、感染症の終息は未だ不透明な現状にある。上述した世界的な感染拡大は、各国の観光産業をはじめ各関連産業にも多大な影響を及ぼした。大規模イベントは中止・延期を余儀なくされ、宿泊・航空産業等でも利用者数は激減した。その結果、各産業による Web サイト上にて擬似的な観光体験を行なう「オンラインイベント」が台頭するようになった。このオンラインイベントは映像配信サイトを通じたイベント会場からの LIVE 配信や、Web サイト上でのバーチャル空間の創出等の形で実施されており、特に前者はライブや演劇等の舞台芸術の他、観光ツアー等、開催内容も多岐に渡る。各観光局も上述した才ンラインツアーを既に導入しており、例えば八ワイ州観光局も、自社サイト“all hawaii”[1] において「リモートハワイ旅」を開始した。 このように世界的な感染症の流行に伴い、現地への移動を伴わずとも体験可能な観光が、気軽に利用できる状況となっている。イベン卜とは本来、観光者が現地に来訪しなければ催事内容を体験できないものであったが、オンラインイベントはスマートフォンや PC 等の身近な電子機器を通じて容易に体験できることに特徴がある。つまりオンラインイベントは、これまで国際機関や文献等で提唱されてきた観光の定義とは大きく異なる特徴を有しているといえる。世界観光機関 UNWTO[2]は Tourism について「継続して 1 年を超えない範井でレジャーやビジネス、あるいはその他の目的をもって日常生活圏の外に旅行したり、滞在したりする人びとの活動をさす。それは訪問地で報酬を得ない活動である」と定義した。また Leiper は“Tourists(観光者)”が日常生活圈である"Tourist generating region(生活地)”を飛び出し、“Tourist destination region (目的地)”几と訪れた後、当地に滞在し続けることなく生活地へと帰還する仕組みを提唱 表 1. 調査対象一覧 & https://w w w.ulfes.com /online/ \\ している[3]。 上述してきた観光の定義を総括すると、観光において基板となっているのは人の「移動」 であることが指摘されている。しかし感染症の拡大により人の移動の自肃及びステイホー ムが推奨された結果、移動を伴わないイベン卜が実践されるようになった。現在も感染症の終息に向けた見通しが不透明な中、オンラインを使った疑似体験を実施する観光現象は、今後も継続されていくことが予想される。つまりオンラインイベントとは台頭しつつある新たな観光の一形態であり、Web サイトやバ一チャル空間の導入によって変わりゆく観光の姿をアフターコロナ時代にも対応できるようにアーカイブ化していくことに研究の社会的・学術的意義があると考えた。そこで本研究では、これまで我が国で実践されてきた数ある「オンラインイベント」の中から、未だ研究事例が少ないアニメや特撮作品等を用い た開催事例に焦点を当て、既存の対面型イベントとの比較による利点と欠点を䌂めた実態調査の他、アフターコロナ時代における「オンラインイベント」の将来的な展望についても検証を実施した。 ## 2. 研究の目的-対象$\cdot$方法 本研究の目的は、アニメや特撮作品等のコンテンツを用いたオンラインイベントと従来の対面型イベントの比較を行ない、オンラインイベントの利点と欠点について記録と整理を実施することにある。筆者は、これまで特撮作品を誘致資源とした観光現象である「特撮ツーリズム」に対して包括的な研究[4]を実施してきたほか、特撮・アニメ作品を題材としたオンラインイベント[5]に焦点を当てた研究も複数実施している。そこでこれまでの研究成果も活用しながら、対面型イベントとオンラインイベントとの比較検証を行なった。 アニメや特撮作品等のオンラインイベント開催事例の収集は、後述する 3 種類の調査方法を活用した。まず 1 つ目はオンラインイベントサイトに直接アクセスを実施し、その催事内容を記録する「オンライン調査」を実施した。具体的には、調查対象を 2020 年 2 月から 2021 年 10 月まで実践されてきた全 37 のアニメ・特撮作品のオンラインイベントに設定し(表-1)、当イベントを実施している Web サイトーアクセスして開催内容を記録する作業を行なった。 その上で、上記の Web サイトでは網羅できなかった情報や、参加できなかった他のオンラインイベントについて記録した資料を補足的に活用する「資料調查」を実施した。当調查に使用した調查資料は、「1. 文献」、 「2.Web サイト」、「3.映像ソフト」の 3 種類に類型化できる。まず「1.文献」は、オンラインイベントの様子等について写真や文章で記録したものである。続いて「2.Web サイト」は、過去に開催されたオンラインイベントの様子を Web サイト上にて紹介したイベントレポート等を活用し、内容の把握を実施した。最後に「3. 映像ソフト」であるが、 COVID-19 感染状況下にオンラインイベントとして開催された催事を DVD あるいは Blu ray 等に記録した映像媒体を活用した。 上述した 3 種の資料については研究の信頼性を確保するために、各作品を制作した著作側が制作に携わり、公式に発行・発信された資料のみを活用した。 ## 3. 結果 上述した調査方法を実践した結果、特撮・ アニメに関するオンラインイベントは既存の対面型イベントと比較して、後述する開催上の利点と欠点を見出すことができた。 ## 3. 1 オンラインイベント開催上の利点 オンラインイベントは開催場所が Web サイ卜上であることから、個人が身近な電子機器を活用して気軽に参加が可能となることに特徵がある。これに伴い、現状下記 4 つの利点を纏めることができる。まず「(1)収容人数を意識する必要が無いため、集団感染が防げること」が挙げられる。従来の対面型イベントは、商業施設の 1 スペースや劇場等、特定の空間に来訪者を誘致する形でイベントが開催されてきた。対してオンラインイベントは「三密」を防ぐために、観覧者を 1 つのスペ一スに収容するのではなく、Web サイト上にてイベントを開催することで観覧者を分断し、個々の画面を通じてイベントの光景を共有する開催形式を採択しているため、1 つのイべント会場を拠点とした集団感染を防ぐ効果がある。「(2)視聴チケット代や開催記念商品の通販等、オンライン上での経済活動が可能であること」が挙げられる。例えば、2021 年 5 月 22 日に開催されたオンラインイベント(表一 1 の 25)では、視聴チケットの購入システムの導入の他、イベント開催記念商品を専用の通販サイト[6]にて購入可能なシステムが完備された。また、「(3)舞台上の情報が詳細に確認できること」が挙げられる。対面型イベントでは舞台上の演者の詳細な表情が見えにくい欠点があるが、オンラインイベントでは、演者の表情や小道具が画面上にてアップされることから、舞台上での情報を詳細に把握することが可能である。最後に、「(4)SNS アカウントを活用して、画面上の出演者に声を届けることができること」が挙げられる。作品出演者や制作者が一堂に会したオンライントー クショーを実施した際、観覧者が「Twitter」 での個人アカウントにアクセスして、出演者に対する質問やコメントを書き込み、イベン卜専用の「\# (ハッシュタグ)」をつけて投稿すると、司会者がこれらの質問やコメントを読み上げるシステムが導入されており、観覧者がよりスムーズに出演者に対して自身の声を届けやすい利点があった(表-1の35)。 ## 3. 2 オンラインイベント開催上の欠点 オンラインイベントには上述してきた利点が存在する一方、後述する 5 つの欠点も挙げられる。まず「(1五感を使った体験が困難であること」が挙げられる。オンラインイベントは Web サイト上での開催であるため、作品出演者への声かけや握手等が不可能となる。 続いて「(2著作権問題の発生」である。スマ一トフォンのスクリーンショット機能による画像保存や録画が行なわれる懸念があり、故意的な画像や映像の無断転載が発生するリスクが挙げられる。また「(3)観覧者が好む視点からイベントが視聴できないこと」も指摘できる。例えばオンライン公演にて、舞台上に複数の出演者が登壇した場合、映像を撮影するのは撮影者に実権が握られているために、観覧者が好む出演者を対面型イベントのよう に好きなタイミングで見ることができないという久点がある。さらに「(4)地域全体の消費活動に支障が発生すること」が挙げられる。対面型イベントに中には、市内でイベント[7] を開催すると共に、イベントを通じて市内各所へと誘致、消費活動を促す試みが確認できるが、オンラインイベントの台頭により、対面型イベントを通じた地域振興に少なからず影響を及ぼす懸念がある。最後に「(5)技術的な問題の発生」である。観覧者が当イベントに参加する必要条件には電子機器を所有していることと、観覧者とイベントの開催側の両者が受信・発信の通信環境を整備していることの 2 つが挙げられる。特に後者においては、開催側の通信環境のトラブルによりオンラインイベントそのものが一度開催延期となった事例も存在した(表-1の20)。 ## 4. 考察 本研究の対象であるオンラインイベントの最大の特徴は、オンラインイベント自体が 「場所性」を持たないことであり、これまで実施されてきた観光の定義とは根本的に異なる性質を有している。よって、オンライン開催によるコンサートや舞台を視聴したとしても、この行為が単にインターネット動画を視聴することとどう違うのか、またオンラインイベント会場にて商品を購入したとしても、従来のネットサイト通販サイトで購入することとどう違うのか、差別化を行なうことが未だ困難な状況ではある。しかし、観光現象としてオンラインイベントを捉えるならば、イベントである以上「開催期間」を有していることは事実であり、上述したような行為が行えるのもあくまで限られた時間のみである。 よって、オンラインイベントの象徴的な側面には、単にイベントを Web サイト上で開催したという事実だけでなく、その限られた時間性について焦点を当てた研究を実施する必要があることも今後の課題と考える。 ## 5. まとめと今後の展望 本研究では、アニメや特撮作品のオンライ ンイベントに焦点を当て、既存の対面型イベントとの比較による利点と欠点を纏めた実態調査による検証を実施した。オンラインイベント自体は現在も開催が継続されており、従来の動画配信サイトに加えて、会員向け動画配信サイトである「サブスクリプションサー ビス」[8]活用した開催も実施されるようになる等、今後も調查対象の拡大と急激な増加が予測されることから、より広域的な視点でその実態を整理・記録をしていく必要がある。 ## 参考文献 [1] “all hawaii ハワイを擬似体験できるオンラインツアー「リモートハワイ旅」開始”. all hawaii. https://www.allhawaii.jp/htjnews/4495/ (参照 2021-07-18). [2] "Tourism Satellite Account: Recommended Methodological Framework". UNWTO eLibrary. https://www.e-unwto.org/doi/book/10.18111/978 9284404377 (参照 2021-07-18). [3] Peter Mason. "TOURISM IMPACTS, PLA NNING AND MANAGEMENT THIRD EDITI ON”. Routledge, 2016, p.11. [4]二重作昌満, 田中伸彦.「特撮ツーリズム」 の発展と多様化に関する歴史的研究.レジャ一・レクリエーション研究.2017, vol.82, p.2130. [5]二重作昌満.COVID-19 の発生に伴う、国内での集客型イベントの対応と記録:特撮・アニメのオンラインイベントを対象とした事例研究.デジタルアーカイブ学会誌.2021, vol.5, n o.1, p.110-113. [6] “ゴジラ・ストア”. 株式会社東宝ステラ. https://godzilla.store/shop/default.aspx (参照 202 1-10-28). [7] “ウルトラファミリー大集合 IN すかがわ”.サークル「シュワッち」事務局. https://m-78.jp/ulfami/2018/?n289 (参照 2021-1027). [8] “TSUBURAYA IMAGINATION”.株式会社円谷プロダクション. https://imagination.m-78.j $\mathrm{p} /$ (参照 2021-10-27). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [14] 装着後の感情を考慮したアバターデータ蓄積$\cdot$検索$\cdot$装着手法の提案 ○佐藤雅也 ${ }^{1)}$ ,柊和佑 ${ }^{1)}$ ,山本明 1),柳谷啓子 1) 1)中部大学, 〒 $487-8501$ 愛知県春日井市松本町 1200 E-mail:[email protected] ## Proposal of a method for storing, retrieving, and wearing avatar data that takes into account the emotions of the wearer SATO Masaya1), HIIRAGI Wasuke1), YAMAMOTO Akashi¹), YANAGIYA Keiko1) 1) Chubu University, 1200 Matsumoto-cho, Kasugai, 487-8501 Japan ## 【発表概要】 近年ではヴァーチャル・リアリティ(以下 VR)技術の発展により容易に VR コンテンツに触れることが可能になった。現在流通する $3 \mathrm{D}$ モデルのアバター(以下アバター)現在流通するアバターの数は少なく、製作するか配布・販売しているものを利用する必要がある。将来的に個人の所有するアバターの数が増えることが予想できる。また、VR サービスが一般化することで、従来の“わかっている”利用者以外が経済圏に参入してくる。その際、アバターは洋服的な“着替える”対象になり、感情や気分、体調といった要因で選択されることが考えられる。そこで、今後の利用者及びアバター自体の増加に対応できるように、洋服を選ぶようにアバターを蓄積し、検索、装着などの広範な利用方法を検討する必要がある。 本稿では、ファッションの分類を参考に、価格や $3 \mathrm{D}$ モデル特有のポリゴン数などの要素を追加した、アバターのアーカイブ化について提案を行う。 ## 1. はじめに インターネットの発展に伴い、デジタルデ一タの収集、蓄積、提供を行うデジタルアー カイブサービスが、機関リポジトリや電子図書館といった名前で様々な組織によって研究、実践されている。ダブリンコアメタデータや IIIF といった規格の整備も行われ、比較的容易にそれらのデータを作成し、公開・提供する下地ができつつある。 また、ここ 10 年でスマートフォンの普及、 コンピュータの低廉化が進み、誰もがデジタルデータを作成する下地が整ってきた。近年は低価格なへッドマウントディスプレイ(以下 HMD)やモーションキャプチャ機器が登場し、従来とは大きく異なるデジタルデータ活用手法が整いつつある。 市販の一般向けコンピュータも、内蔵グラフィックボードの高性能化、高性能なグラフイックボードを搭載した機種が登場し、3D デ一夕の利活用が可能な製品が揃ってきた。そのため、携帯電話と SNS の普及によってデジタル写真が増加したように、デジタルデータ をコンピュータやスマートフォンを用いた $3 \mathrm{D}$空間を使って製作・利活用する利用者が爆発的に増加する下地が整ってきたと言える。 一方で、VR 技術の発展により容易に VR コンテンツに触れることが可能になった。VRを用いたコンテンツの中には、「VRChat」と呼ばれる本来の自分とは異なる外見のアバター になり、他ユーザと様々な交流をするサービスも存在する。また、VRChat を利用した展示即売会「Virtual Market」といった経済圈が構築され始めている。 ## 2. VR の利用 ## 2. 1 実例 VRを用いた訓練は軍事トレーニングや消防教育訓練[1]への導入が検討されている。また、医療分野では VR を用いた訓練は従来の訓練と比較した場合、正確性や効率性でまさることが示されている[2]。 2017 年ごろから VR 機器の普及やバーチャル Youtuber の登場によって、VRを用い自分とは異なる外見のアバターになりきる 図 1. VRを活用して消火の様子を疑似体験 VRChat というサービスが一種のブームとなった。その中には、自分と異なる性別のアバターを使ったときに言動がアバターの影響受けるという話が散見された。VRを用いて女の子のキャラクターになり実際に変化している実体験[3]の記録や「アバターの表情を操作して変えると、その表情に合わせて、自分の気持ちがすごく変わる印象があります。」[4] という指摘があった。 VRChat は VRChat Inc.が運営しているサ一ビスであり、自身で設定したアバターを使って他参加者と交流するサービスである。世界最大のソーシャル VR サービスであり、毎日 16000 人程度のユーザがサービスを利用している。同様のサービスは Cluster, Inc.の cluster など複数あり、コロナ禍の現在、そのユーザ数を増やし続けている。アバターの姿勢制御のためのセンサなどを組み合わせることもでき、利用者ごとにその表現力に差が存在していることが多い。 ## 2. 2 プロテウス効果 VR 心理学分野における研究では、ユーザの動きをアバターに反映させたとき、アバター 自体を自身の身体のように認知する「身体所有感の転移現象」が報告されている。また、 アバターの視覚的特徴や特性のステレオタイプに基づいて心理的状態・態度に影響を及ぼすことが示唆されている。この効果がプロテウス効果と名付けられた[5]。 身体所有感の転移によるプロテウス効果として、VR技術とドラゴンアバタを用いることで(ヒトアバタの場合と比較して)高所に対する態度及び恐怖、落下に対する不安、自身の頑強さに関して、抑制・改善することが可能であることを実証している[6]。 また、46 の定量的研究をもとにしたプロテウス効果のメタ分析を行った。それによれば、 プロテウス効果は信頼できる現象であり、中程度の効果量で存在することを示唆している [7]。 ## 3. 複数のアバターを使ったサービス 現在、アバターを使ったサービスが成熟しているとは言えない。利用者は少ない種類のアバターを使ってサービスを利用しており、 その外見を使った相互作用に関係する研究などはあまりみられない。一部、実験的に複数アバターを使ったイベントが存在するが、いまだ実験的な取り組みの域を出てはいない[3]。 図 2. ますきやっと義体実験 これらのイベントを踏まえて考えると、今後 VRChat 的なサービスが一般化や流通するアバターの増加が起こることが予想される。 その際、アバターは VR 空間内での単純な肉体ではなく洋服的な“着替える”対象になり、感情や気分、体調といった要因で選択されることが考えられる。そこで、今後の利用者及びアバター自体の増加に対応できるように、 “クローゼット”から洋服を選ぶようにアバタ一を蓄積し、検索、装着などの広範な利用方法を検討する必要がある。 アバターには、大きく分けて以下の要素が あると考えられる。 - 外見 - 種族 - 髮型 - 表情差分 ・モード系 ・ロック系 - お兄系 ・ ホスト系 ・ ギャル男系 ・・ップホップ系 ・ストリート系 ・ アジカン系 - 裏原系 ・メンノン系 ・プリティッシュトラッド系 ・、フレンチカジュアル系 ・ コンバサ系 ・ キャリア系 ・ ハイファッション系 ・ ベーシック系 ・フェミニン系 ・ガーリッシュ系 ・ キャラ設定 - 性別 . 性格 ・メタデータ ・ データサイズ ・ ポリゴン数 - 価格 etc. - 利用規約 ファッションの分類を参考に、価格や3Dモデル特有のポリゴン数、データサイズ、利用規約といったメタデータを追加した検索手法が必要になる。 ## 4. 複数アバターの検索手法の提案 アバターの検索、装着が可能な仕組みを構築することより、サービスに合わせたアバタ一の選択や、感情に合わせた検索、装着が可能になる。 また、このような検索システムによってアバターの統一的なメタデータが定義されることで、VRChat 的なサービスの開発や利用に用いるアバターの指定が容易になると考えられる。ポリゴン数やデータサイズの制限だけでなく、外見や利用規約を含めることによって一種のドレスコードのようなものをサービスに設定することが容易になると考えられる。 図3アバター検索(イメージ) 検索は前述の項目を VR 空間上に展開することで検索を行う。 $\mathrm{VR}$ 空間にアバター展開しアバターと同じポーズをすることで装着できる。 図 4. アバター選択(イメージ) ## 5. おわりに アバターの検索、装着が可能な仕組みを構築することより、サービスに合わせたアバタ一の選択や、感情に合わせた検索、装着が可能になる。また、アバターの統一的なメタデ 一タが定義されることで、サービスの開発支援として、一定の成果を得られるのではないかと考えている。 ## 参考文献 [1] “東京大と横浜市など、VRで消防訓練”. 日本経済新聞. 2020-03-19. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56 988630Z10C20A3L83000/ (参照 2020-12-18). [2] Blumstein, Gideon et al. Randomized Trial of a Virtual Reality Tool to Teach Surgical Technique for Tibial Shaft Fracture Intramedullary Nailing. Journal of surgical education.2020, vol. 77, no. 4, p. 969-977. [3] DJ-09. “実験 0 日目「現実、仮想、創作を漂う」”. note. 2020-07-12. https://note.com/laughingman2046/n/nebea2 95114b3 (参照 2020-12-18). [4] 丹治吉順. “おじさんを美少女化したテクノロジー 先端心理学が語る「VR の世界」”. withnews. 2018-04-01. https://withnews.jp/article/f0180401000qq00 0000000000000W00g10701qq000017020A (参照 2020-12-18). [5] Yee, Nick; Bailenson, Jeremy. The Proteus Effect: The Effect of Transformed Self-Representation on Behavior. Human Communication Research. 2007, vol. 33, no. 3, p. 271-290. [6] 小柳陽光, 鳴海拓志, Jean-Luc.Lugrin, 安藤英由樹, 大村廉. ドラゴンアバタを用いたプロテウス効果の生起による高所に対する恐怖の抑制. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 2020, vol. 25, no. 1, p. 2-11. [7] Rabindra,Ratan.; David,Beyea.; Benjamin,J. Li.; Luis Graciano. Avatar characteristics induce users' behavioral conformity with small-to-medium effect sizes: a meta-analysis of the proteus effect. Media Psychology. 2020, vol. 23, no. 5, p. 651-675. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [12] ジャパンサーチの利活用機能 ○高橋良平 1 ), 奥村牧人 1 ), 近藤かおり 1) 1) 国立国会図書館電子情報部, $\bar{T}$ 100-8924 千代田区永田町 1-10-1 E-mail: [email protected] ## Japan Search's functions promoting the use of digital resources TAKAHASHI Ryouhei ${ }^{1)}$, OKUMURA Makito ${ }^{1)}$, KONDO Kaori ${ }^{1)}$ 1) National Diet Library, 1-10-1 Nagata-cho, Chiyoda-ku, Tokyo, 100-8924 Japan ## 【発表概要】 本発表では、ジャパンサーチの利活用機能と活用事例について報告する。ジャパンサーチは、 お気に入りリスト等を作成できる「マイノート」、マイノートを複数人で同時に利用できる「ワ ークスペース」、そしてワークスペースの作成のほか、データベースの登録、ギャラリーの制作など、連携機関が利用可能な機能を一通り体験できる「プロジェクト」の3つの利活用機能を提供している。これらの機能は、これまで学校の授業や大学の博物館学芸員課程、地域課題解決等で活用事例が報告されている。また、国立国会図書館においても、イベントやワークショップなどでプロジェクト機能を活用した取組を試行している。 ## 1. はじめに ジャパンサーチは、様々な分野のデジタルアーカイブと連携し、多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索・閲覧・活用できるプラットフォームである。内閣府知的財産戦略推進事務局が庶務を務める「デジタルアー カイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会」の方針のもと、国立国会図書館は委員会のメンバーとしてシステムの構築・運用及び連携実務を担当している。 ## 2. ジャパンサーチ戦略方針 2021-2025 2021 年 9 月、ジャパンサーチ正式版の公開から 1 年が経つのを機に、デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会は「ジャパンサーチ戦略方針 2021-2025」(戦略方針)を策定した[1](図 1)。 戦略方針では、「デジタルアーカイブを日常にする」ことを今後 5 年間の目標に掲げ、デジタルアーカイブの大切な役割として、(1)記録・記憶の継承と再構築、(2) コミュニテイを支える共通知識基盤、及び(3)新たな社会ネットワークの形成、の「3 つの価値」を挙げている。「3 つの価値」では、コンテンツのキュレーションによって分野横断的に情報を結び付け、誰もが自分の発見や思想を表現し、それによって、異なる分野・地域の人やコンテンツが結び付き、交流が生まれることが期待されている。 ジャパンサーチは、これらのデジタルアー カイブの役割を最大化するために、「支える」 「伝える」「拡げる」「挑む」の 4 つのアクシヨンに取り組むとしている。ジャパンサーチの利活用機能であるワークスペースとプロジエクトは、デジタルコンテンツの様々なキュレーション活動を支え、幅広い分野・地域の機関のコンテンツや人をつなぐ一助になり得るものである。 図 1.ジャパンサーチ戦略方針 2021-2025 ## 3. ジャパンサーチの利活用機能 ジャパンサーチには、多様なコンテンツをキュレーションできる機能が実装されている。例えば、連携機関が作成・公開できるギャラリー[2]では、リストの作成やテキストの入力、画像へのアノテーション、検索結果の自動表示など様々な作業が可能なパーツが用意されている。 ## 3. 1 マイノート機能 ユーザ向けキュレーション機能の一つがマイノートである。マイノートでは、お気に入りのコンテンツやギャラリーを自由に保存して、メモを付すことができる。ジャパンサー チのコンテンツやギャラリーに表示されているハートマーク(○)をクリックすれば、画面右上にある「最初のノート」にそれらがブラウザ上で保存される仕組みである。作成したマイノートは、xlsx や json 形式でダウンロー ドできるほか、ウェブパーツとして出力し、外部のウェブサイトに埋め込み表示することもできる(図2)。 図 2. ウェブパーツの埋め込み例[3] ## 3. 2 ワークスペース機能 ワークスペースは、マイノートやギャラリ一を複数人で同時編集できるぺージである。 URL とパスワードを知っている人は誰でも、 ジャパンサーチへのアカウント登録等を行うことなくアクセスできる。ワークスペースには複数のギャラリーを設けることができ、マイノートに保存したデータのインポートもボタン一つで可能である(図3)。 ワークスペースはジャパンサーチ連携機関が管理画面から任意に複数作成することができる。 ## 3. 3 プロジェクト機能 プロジェクトは、ジャパンサーチ本体とは切り離された形で、データベースの登録・公開、ギャラリーの作成・公開、ワークスペー 図3.ワークスペース スの作成といった、連携機関がジャパンサー チ上で利用可能な機能を一通り行うことができる機能である。 プロジェクトも連携機関向けの機能であるが、作成したプロジェクト単位で連携機関以外のメンバーを設定することができるため、連携機関の枠組みに囚われることなく、任意のメンバーでプロジェクトの機能を試すことができる。ただし、プロジェクト上のデータはジャパンサーチ本体の横断検索や一覧表示の対象外となる。 ## 4. 利活用事例 ## 4. 1 教育分野の利活用事例 (1) 初等・中等教育における調心゙学習 初等・中等教育におけるワークスペースの活用については、大井将生氏によるキュレー ション授業の実践がある[4]。発表では、ジャパンサーチのワークスペースを使って、教科書だけでは実現不可能な「主体的・対話的で深い学び」を複数の児童生徒が行えたこと、 ワークスペースが発表ツールとしてそのまま活用できたことなどが報告された。また、コロナ禍においても、ワークスペースを用いることで、リモート・ハイブリッドのいずれの授業にも協働的な探究学習が行えたことが報告されている[5]。 (2) 博物館学芸員課程における学芸員実習 ジャパンサーチの連携機関である東京農工大学科学博物館の齊藤有里加氏からは、博物館学芸員課程でワークスペースを用いたキュレーション演習授業を実践した事例が紹介されている[6]。演習授業の感想として、様々なデータベースの資料間に新たなつながりを発 見できる、他分野の議論を加速させる存在であるとの報告があった。 詳しくは、ジャパンサーチの利活用事例のページを参照いただきたい[7]。 ## 4. 2 国立国会図書館の利活用事例 (1)イベントにおける利活用 2021 年 8 月、ジャパンサーチのワークスペ一ス機能を使って、実際に電子展示を作ってみる子ども向けのオンラインイベントを開催し、作品をプロジェクト上に公開した。イベント当日の制作手順のページも公開しており、 マニュアルは CC BY で掲載している[8]。 (2)電子展覧会としての利活用コロナ禍による入館制限を受けて、国立国会図書館東京本館で開催するギャラリー展示の閲覧ページを、プロジェクト機能を用いて作成・公開している[9]。 ## 5. おわりに ワークスペース/プロジェクトは、いずれも連携機関向けの機能であるが、ジャパンサー チ問合せフォーム[10]からの申請手続によって、連携機関以外のユーザに対しても時限的に提供している。しかしながら、コンテンツのキュレーションツールとして、より簡易にワークスペース機能を活用したいとのユーザの声が複数寄せられてきた。 そうした要望を受け、ジャパンサーチは 2021 年 11 月に、マイノートのうちギャラリー 作成と同等の編集機能を切り離し、24 時間限定のワークスペース機能を追加した「マイギヤラリー」をリリースする。ユーザは申請手続きやアカウント登録を行うことなく、自身が作成したマイギャラリーを他者と共有することができる。 今後は、マイギャラリー、ワークスペース/ プロジェクト機能の利用を促進するとともに、 よりよいキュレーションリコュニケーション ツールを模索したいと考えている。各位の積極的なフィードバックをお願いしたい。 ## 参考文献 [1] ジャパンサーチ戦略方針 2021-2025. https://jpsearch.go.jp/about/strategy2021- 2025 (参照 2021-11-01). [2] ギャラリー一覧. https://jpsearch.go.jp/gallery (参照 2021-1101). [3] 議会開設百三十年記念議会政治展示会. https://www.ndl.go.jp/jp/event/exhibitions/ex hibition2020.html (参照 2021-11-01). [4] 大井将生. 小学校 - 中学校における探究学習へのジャパンサーチ活用事例. 2021. https://jpsearch.go.jp/static/pdf/event/useeve nt2021/2.pdf (参照 2021-11-01). [5] 大井将生, 渡邊英徳. ジャパンサーチを活用したハイブリッド型キュレーション授業:遠隔教育の課題を解決するデジタルアーカイブの活用. デジタルアーカイブ学会誌. 2020,4 , p.69-72. https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_ s69 (参照 2021-11-01). [6] 齊藤有里加, 堀井洋. 博物館学芸員実習のキュレーション演習授業へのジャパンサーチ活用事例. 2021. https://jpsearch.go.jp/static/ pdf/event/useevent2021/3.pdf (参照 2021-11 -01 ). [7] ジャパンサーチの利活用事例. https://jps earch.go.jp/usecase (参照 2021-11-01). [8] こども霞が関見学デー「電子展示を作ってみよう!」. https://jpsearch.go.jp/gallery/j psutilization-kasumigasekiday2021 (参照 2 021-11-01). [9] 江戸から東京へ. https://jpsearch.go.jp/ga llery/tenjikikaku-n02311XPr7G(参照 202111-01). [10] ジャパンサーチお問合せフォーム. http s://jpsearch.go.jp/contact (参照 2021-11-01).
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# [11] 在外日本古写真資料について: 明治から大正にかけて写された日本をオンラインデータベースで探す ○筒井弥生 ${ }^{1)}$ 1) 筑波大学アーカイブズ Twitter: @artemismarch ## Old Japanese Photographs abroad: Search for Japan captured in Meiji and Taisho Eras using on-line Databases TSUTSUI Yayoi' ${ }^{1)}$ 1) University of Tsukuba Archives ## 【発表概要】 日本関連の明治時代から大正時代に撮影された古写真が海外の “アーカイブ機関”にも所蔵されている。これがデジタル化されてオンライン上に公開されるようになってきた。所在とその内容、その理由、デジタル化の経緯とオンライン・ソースへのアクセス、ポータル・サイトへつながっているかなど知っておきたい情報が多くある。さらにそれらはどんどん更新されていくものである。幕末・明治・大正期に撮影された古写真が注目され、書籍で出版されることも増えてきている。両方の情報から日本に関係する古写真資料について、調査の入り口にあたる報告を試みる。在外機関で実見した古写真資料と調査の必要があってオンラインで探索した経験を通して、 まだ悉皆的に調査できているわけではないし、何かの考察ができているわけでもないが、覚え書きとしてこれまで閲覧してきた海外機関所蔵の古写真について簡単にまとめてみる。また、 Cultural Japan の登場で変化した調査作業についての検討も試みたい。 ## 1. はじめに 日本を写した古写真が海外にも所在する。 それを実際に目にしたのは、2010 年のアメリカ・アーキビスト協会ワシントン DC 大会のフリーア美術館アーカイブズ[1]見学会だった。西太后、朝鮮国王・皇太子の肖像写真と共に明治天皇と昭憲皇太后の署名入り肖像写真やアルバムが並べられていた。これらは、セオドア・ルーズベルト大統領の長女アリス・ル ーズベルト・ロングワースの旧蔵で、その前年に孫が寄贈したものだ。中東の遺跡の写真はじめアーカイブズのハイライト資料がいくつか展示されていた。この体験とその後の調查研究については何度か報告している[2]。 先行研究として、『皇族元勲と明治人のアルバム写真師丸木利陽とその作品』[3]の著作があり、丸木利陽や小川一眞ら写真師についての研究もある研谷紀夫関西大学教授の「在英米日本関係古写真資料総目録の形成と写真資料情報課ガイドライン策定に関する研究」 [4]を挙げる。 ## 2. 海外所在の古写真 ## 2.1 古写真とは 古写真をどう定義するか、は今のところはつきりしないが、国立国会図書館では、幕末から明治と大正期から戦前までとしている[5]。英文では Early photograph と表記されるという [6] 。 2000 年前後において、写真資料や錦絵など版画は、いわゆるファイン・アーツに比してあまり重要視されていなかった。 国内のデジタルアーカイブに以前から古写真のデータベースを公開していた長崎大学があり、現在はライデン大学と協定している[7]。海外に所在する古写真としては、肖像写真などの交換で入手したであろうもの、写真師に撮影させたもの、旅行の場合は、撮影したアルバム、これには風景のほか、みやげものとして販売されていたアルバムなどがある。被写体は風景や建物に人物、風俗などで、当時の様子が記録されている貴重な歴史資料でもある。 ## 2.2 米国所在古写真の実見 最初に述べたフリーア美術館アーカイブズには、見学会のあと、修復予定の額をみせてもらうために再訪した。これにより様々な情報交換をおこない、翌 2011 年 4 月に国立公文書館等としての閲覧が可能になった宮内公文書館で関連資料を調查するなどし、交流することとなった。2014 年、2015 年、2016 年にも訪問して他の日本関係写真コレクションやフリッツ・ルンプフのノートなどの新規取得の特別コレクションを閲覧、デジタル化の過程を実際にみせてもらい、データも得た。それらはのちにスミソニアン協会のコレクション・サーチでオンラインでの閲覧が可能となり、デジタル・ボランティアのトランスクリプション・センターでテキスト化されている [8]。 この年のアメリカ・アーキビスト協会の見学会などではスミソニアン協会アーカイブズ、米国国立公文書記録管理局、米国議会図書館他も訪問することができた。議会図書館のプリント部門では、さまざまな媒体の資料を紹介されたが、そのなかにはいわゆるランタンスライド(ステレオ写真ともいう)もあった。 2011 年ハーバード大学のキャンパスを訪問した際には、燕京図書館にタフト・ミッションに同行した学生の写真コレクションがあることを知らされた。これは後にハーバード大学図書館群のデジタルコレクションで公開された[9]。 2017 年にマサチューセッツ州ケンブリッヂの国立公園史跡ロングフェロー邸とワシントン司令部を見学した。その際、ヘンリー・ロングフェローの長男であるチャールズ・ロングフェローの日本写真コレクションについて尋ね、閲覧を依頼した。後日実現し、ほぼ全容を把握、一部の撮影を行った。目録もあとで送っていただいた。現在はその一部がデジタル・アーカイブとしてホームページに掲載されている[10]。 ボストン美術館やセーラムのピーボディ博物館、ペンシルベニア大学博物館のように展示で見たものもある。 ## 3. オンラインデータベースの探索 海外所在の古写真をオンラインデータベー スで探した事例を述べる。古写真が実在するという情報を得ている場合とサーチ・エンジンでキーワード検索をする場合とがある。昨年調べてみたキーワードのひとつに、城郭ブ一ムということで、第二次世界大戦で失われた天守を入れてみた。これを後者の例としたい。 (1)スミソニアン協会コレクション・サー チ・センター Smithsonian Institute: Collection Search Center https://transcription.si.edu/ フリーア美術館アーカイブズのコレクションのほかに、国立自然史博物館の人類学部門の国立人類学アーカイブズ (National Anthropological Archives) が多数の日本関係古写真を所蔵している。このなかにエリザ・ シドモアの写真があることを中川利國が紹介している[11]。ここでの検索の方法として、 ホームページのトップ右側にあるカテゴリー によるブラウズを選び、アート\&デザインのレコードタイプから写真を選ぶと 57000 余りの件数があるが、これをカルチャーのところで日本のカルチャーを選ぶと 379 に絞られる。年代を 1940 年代までに絞り込むこともできる。収蔵機関で絞り込むこともできる。 フリーア美術館アーカイブズの”名前”にはフェリーチェ・ベアト、ロザムンド・スティルフリード、上野彦馬、日下部金兵衛、小川一眞がある[12]。 (2)米国議会図書館プリントと写真部門 Library of Congress, Prints \& Photographs Collection Reading Room ここのオンラインカタログ(PPOC)を検索する。https://www.loc.gov/pictures/search/ Japan のキーワード検索の結果には浮世絵など版画も含まれて 12000 件ほどある。 Castle も加えると数十件、名古屋城、姫路城、二条城などの写真がある。Travel views of Japan and Korea (Genthe Collection)には城の写真があり、この写真を Google 画像検索にかけると福山城であることがわかった。 (3)ハーバード大学図書館 ハーバード・デジタルコレクション https://library.harvard.edu/digitalcollections ここで日本、城を検索すると 120 件ほどがヒ ツト、名古屋城に加えて二条城、彦根城、姫路城の写真がある。1905 年アリスらに同行した学生スティルマンのコレクションは以下に特集され、またスティルマン旧蔵のほかの日本関係資料のデジタル化プロジェクトも進んでいる。Early Photograph of Japan https://library.harvard.edu/sites/default/files /static/collections/epj/index.html 53 枚の Nippon Fubutsu Eishu が含まれる。 またジョン・フェアバンクと E.O.ライシャワ一のランタンスライドのコレクションがある。 4450 点にのぼり、撮影者には日下部金兵衛、 アドルフォ・ファサーリ、鈴木真一、小川一眞、岡山城を撮影した高木庭次郎の名がある。日本風景風俗 100 選が含まれると考えられる [13]。 [John K. Fairbank and Edwin O. Reischauer Lantern slide collection] http://id.lib.harvard.edu/alma/99014631621 0203941/catalog ハーバード美術館でもローゼンフェルドコレクションを含めた日本の古写真についてのセミナーが開かれた(2018 年 9 月 29 日開催)。大学内の他機関にも日本関係の古写真の所蔵がある。 (4) ニューヨーク・パブリックライブラリー New York Public Library, Digital Collections https://digitalcollections.nypl.org/ 名古屋城の写真が数葉ある。 (5)英国ロイヤルコレクショントラスト Royal Collection Trust https://www.rct.uk/ 英国王室のコレクションなので、外交儀礼で交換した写真も所蔵している。目録に明治天皇の写真はあるが、デジタル化されていない。 ガーター勲章授与の錦絵がオンライン化されている。大阪城の写真がある。 Explore the Royal Collection Online (rct.uk) (6) 南フロリダ大学図書館 ランタンスライド写真コレクション https://dis.lib.usf.edu/aeon/eads/index.html?ead request=true\&ead_id=U29-00218-107 日本の写真も多数含まれているが、デジタル化されていない。 (7) Europeana Travel photography https://www.europeana.eu/en/collections/topic/1 713-travel-photography Museum Für Kust und Gewerebe Hamburgs 所蔵のものが多い。 https://sammlungonline.mkg-hamburg.de/en ## 4. おわりに インターネットになじむようになって最初に使った検索エンジンは Yahoo.co.jp それよりも Yahoo.com を使う方がヒット数が多いと言っていたのが 2001 年頃である。2000 年には既に Perseus Digital Library を使っていた。現在は通常、何かを検索するとき、関連機関や既知のデータベース、Google、DPLA、 Europeana という手順を踏むことが多い。 Europeana が出現したときには、驚きとともに活用した。名古屋城の画像が英国の戦争博物館の動画[14]に現れ、コンノート公アーサ一王子の訪問日程を宮内公文書館で調べた。昨年のこと、ジャパンサーチ正式公開直後に Cultural Japan がリリースされたときには、それ以上に驚くこととなった。というのも、Europeana と DPLA と議会図書館などなどを調べて提示してくれるのである。2021 年 10 月 12 日に開催された 「ジャパンサーチの活用例としてのカルチュラル・ジャパン」を聴いて、さらに活用できないかと考えた。いくつかの検索語を入れ、 サイドバーで絞り込むと、スミソニアン協会、 ハーバード美術館からも収集していることがわかるが、これまでみてきたデータに届くには筆者の力不足を感じる。さらに使いこなせるようになって、セルフミュージアムを構築できるようになれば、ここに記したことが一目瞭然になるだろう。皆様のご教示を得て、何らかの貢献ができるようでありたい。 ## 参考文献 [1] National Museum of Asian Art (The Freer Gallery of Art and Arthur M. Sackler Gallery), https://asia.si.edu/ (参照 2021-11-11). [2] The Alice Roosevelt Longworth Collection of Photographs from the 1905 Taft mission to Asia, 1905, https://sova.si.edu/record/FSA.A2009.02 (参照 2021-11-11). 2011 年 1 月の JADS デジタルアーカイブサロンでの報告などの詳細は Researchmap 筒井弥生.https://researchmap.jp/TSUTSUIYayoi (参照 2021-11-11).をご覧いただきたい。最近のものに以下がある。 筒井弥生.アリス・ルーズベルト旧蔵写真コレクションを通してみる日露炉戦争外交の一面.筑波大学アーカイブズ年報 4 号.2021, https://archives.tsukuba.ac.jp/wp- content/uploads/sites/16/2021/06/ac39fb249c0cbe9 e7af3df26c18830f.pdf (参照 2021-11-11). [3] 研谷紀夫皇族元勲と明治人のアルバム写真師丸木利陽とその作品.吉川弘文館.2015, 192 p. [4]「在英米日本関係古写真資料総目録の形成と写真資料情報化ガイドライン策定に関する研究.https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHIPROJECT-17K00470/ (参照 2021-11-11) [5]国立国会図書館リサーチ・ナビ.写真を探す https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/themehonbun-101116.php (参照 2021-11-11). [6]木下直之.古写真の中の日本. 2000 , http://www2.kokugakuin.ac.jp/frontier/publication/ sympo00/kinoshita.html (参照 2021-11-11). [7]長崎大学附属図書館幕末 - 明治期日本古写真データベース. http://oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/ (参照 2021-1111). 日本古写真グローバルデータベース http://oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/global/ (参照 2021-11-11). [8] SMITHSONIAN DIGITAL VOLUNTEERS: TRANSCRIPTION CENTER, https://transcription.si.edu/ (参照 2021-11-11). FRIEDRICH "FRITZ" RUMPF NOTEBOOKS - SET 1.ほか https://transcription.si.edu/project/9641 (参照 2021-11-11). CATALOGUE OF THE KIMBEI PHOTOGRAPHIC STUDIO 1880-1900 https://transcription.si.edu/project/8297 (参照 2021-11-11). [9]3 ページの本文で詳述. Stillman での検索結果(約 2000 件) https://digitalcollections.library.harvard.edu/catalo g?utf $8=\% \mathrm{E} 2 \% 9 \mathrm{C} \% 93 \&$ search_field $=$ all_fields\&q $=$ Stillman (参照 2021-11-11). [10] National Park Service Longfellow House - Washington's Headquarters National Historic Site. Charles Appleton Longfellow Papers. https://npgallery.nps.gov/LONG/SearchResults/45 e2c7dc534d4be38410fda876b759e9?page $=1 \&$ vie $\mathrm{w}=$ grid\&sort=default (参照 2021-11-11). [11]中川利國.〈史料解説〉エリザ・シドモア 「不朽の島」〜米国女性紀行作家が観た明治中期の厳島~.広島市公文書館紀要第 25 号(平成 24 年 6 月発行) https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachm ent/19657.pdf (参照 2021-11-11). [12] Henry and Nancy Rosin Collection of Early Photography of Japan https://collections.si.edu/search/record/ead_collecti on:sova-fsa-a1999-35 (参照 2021-11-11). にこれら写真師の写真が収集されている。 フリーア美術館アーカイブズの写真の作成者 https://collections.si.edu/search/results.htm?q=\%2 2 Photographs $\% 22 \& g f q=$ CSILP_4\&fq=object_type $\% 3 \mathrm{~A} \% 22$ Photographs $\% 22 \& \mathrm{fq}=$ data source: $\% 22 \mathrm{~F}$ reer + Gallery + of + Art + and + Arthur $+\bar{M} .+$ Sackler $+G$ allery+Archives $\% 22$ [13] 石田哲朗.高木庭次郎の幻灯写真一収蔵作品《日本風景風俗 100 選》について https://topmuseum.jp/contents/images/info/journal/ kiyou_14/11.pdf (参照 2021-11-11). https://museumcollection.tokyo/museums/topmuse $\mathrm{um} /$ (参照 2021-11-11). で一部画像検索可能。 [14] War Memorial Museum, The Visit of His Royal Highness Prince Arthur to Japan, https://www.iwm.org.uk/collections/item/object/10 60022917 (参照 2021-11-11). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [65] 資生堂サイバーギャラリーCyGnet で公開されたネット ワーク作品のアーカイブと復元について: メセナ事業におけるメディアアート展示のアーカイブ事業から ○関口 敦仁 ${ }^{1)}$, 河村陽介 2) 3) 1)愛知県立芸術大学、美術学部デザイン・工芸学科, 〒 180-1194 愛知県長久手市岩作三ヶ峯 1-1140 2) 名古屋産業大学, 3 )NODE-LAB E-mail: [email protected] ## About archiving and restoration of network works published at Shiseido Cyber Gallery CyGnet: From the media art exhibition archives in the Mesena SEKIGUCHI Atsuhito ${ }^{1)}$, KAWAMURA Yosuke ${ }^{2}{ }^{3}$ ) 1) Aichi University of the Arts, 1-114 Yasago-Sagamine, Nagakute,Aichi 180-1194 Japan 2) Nagoya Sangyo University, ${ }^{3}$ NODE-LAB. ## 【発表概要】 1998 年から 2003 年まで、建て替えのために資生堂ギャラリーが閉じられている間にネットワ一ク上でのサイバーギャラリーとして「資生堂 CyGnet」が開催され、 7 グループの作品が公開された。参加アーティストは EastEdge、朝岡あかね、エキソニモ、ミリッツァ・トミッチ、 JODI、doubleNegatives、近森基十下村知央など。当時の展示プログラムやデータは企業には現存しておらず、作家の持つデータやプレスリリースなどの公の資料のみとなってしまっている。 1990 年代に始まったネットワークによる様々な表示情報のアーカイブは、今後の社会研究においても重要度は増してくるだろう。本論では、「資生堂 CyGnet」の展示アーカイブ事業を通して行ったデータ収集や復元作業から、発生したネットワーク作品におけるアーカイブの課題や対応について、実例を交えながら検証を行い。2000 年前後のネットワーク作品アーカイブについての課題や今後のネットワーク作品やコンテンツに対する課題に対する提案を行う。 ## 1. はじめに 日本でのメセナ事業は公的には 1990 年に発足した企業メセナ協議会以降「メセナ」の名称で企業による文化支援を表す言葉として広がりを見せた。一方でフランスを起源とした 「メセナ」が企業に対する税制負担の免除の補助とセットになっている点について議論がおこなわれたが、日本では今のところ実現していない。メディアアート分野の活動において、制作や展示に使用するための映像・情報機器は必須であった。80 年代において、映像および情報機器市場の活況から、文化的活動への機器支援などがおこなわれ、自社製品の活用のための広報の一環としてすでに企業による文化支援は始まっていた。株式会社キヤノンは1991年にテクノロジーとアートを融合する文化支援活動としてキヤノンアートラボの運営を開始し、2002 年まで続いた。また、 NTT は 1990 年ごろより文化支援を開始し 1997 年に NTT インターコミュニケーションセンターを開館し、現在もメディアアートの展示とそのサポートを続けている。 ## 2. CyGnet について ## 2. 1 CyGnet が生まれた社会状況 日本では 1993 年の NSSA Mosaic の登場によりウェブブラウザーでのインターネットの普及がはじまった。 80 年代は UUCPによるテキストを中心としたインターネットが普及していたが、グラフィカルなインターフェイスが利用可能な環境が提供され、デザイナーなども積極的に活用を始めた。 1994 年に NetscapeNavigator, 1995 年に InternetExplorer が開発され、以降インター ネットの普及が加速し、それらのグラフィカルなコンテンツが多く制作されるようになった。 80 年代以降 CD コンテンツとしてインタラクティブな作品を制作していた作家やデザ イナーもウェブコンテンツへと移行してきた。 このような状況の中、株式会社資生堂は 1919 年から続けている資生堂ギャラリーのある本社家屋を改築するため一時的に閉じることとなった。そのため 1998 年からサイバーギャラリーとして開催することとなり、ギャラリー 運営を行なっている同社企業文化部(当時)樋口昌樹氏とキヤノンアートラボのディレクターでもある四方幸子氏がキュレーションを行い、Cyber Gallery on the Net の意味から 「CyGnet」をたちあげた。 ## 2. 2 「CygNet」のアーカイブ 「CyGnet」の資料については、キュレータ一の四方幸子の所有する展示に関する打ち合わせ記録やメール、Fax 等の通信記録の提供と作家本人への連絡によって、コーディングや画像の提供、使用したプラグインや API に関する情報などの提供を受けて、データのア一カイブとそれらをもとにした復元と、復元動作した動画キャプチャーなどによる記録を行った。 ## 3.「CygNet」作品の復元 ## 3. 1 EastEdge「tyrell.hungary」 復元にあたり、作家から提供されたデータは主に HTML ファイルと adobe flash $の$ swf ファイル、および画像データで構成されていた。ローカルで動作させる際に flash ムービー のリンクが動作しなかったため、ローカルサ一バーを立てる必要があり、基本的な動作が確認できた。検証後に作者から再現したウェブサイトの URL(http://tyrell.hu)が送られ、閲覧することができるようになっている。 2020 年末に Adobe flash のサポートが終了したことから、flash で作成されたコンテンツをどのようにアーカイブするのかが課題であるが、 tyrell.hu では flashをエミュレートする javascript の ruffles.js を用いてネイティブの flash プラグインなしでの稼働に成功している。Win、Mac ともに安定して動作するブラウザは chrome と firefox に限定されるものの、再現、閲覧は可能となっている。しかしながら ruffles.js などサードパーティのプラグイン はいつまでサポートが続くか不明であり、可能であれば flashコンテンツ自体を持続性のある javascript などに置き換えることも念頭に入れる必要がある。 図 1. tyrell.hungary ## 3. 2 朝岡あかね「銀座プラネタリウム」 写真作品「Constellation, Ginza,1998」をウェブ上のプラネタリウムで見せるサイトとして公開した。資生堂サイトを運営する宣伝部コンピュータデザイングループが Flash を利用する形態をとっていた。オープニング画面イメージと原本の写真のみが現存しており、 インタラクティブな操作インターフェイスの詳細は作家本人にも不明な状況である。 図 2. 銀座プラネタリウム画面 ## 3. 3 exonemo「DISCODER」 DISCODER (http://exonemo.com/discoder) は作者のウェブサイトにて現在でもアクセスすることができる。DISCODER は任意のウェブサイトの HTML ソースをユーザーがキー ボードの入力によって破壊する作品である。 この作品は JAVA で動作し、2019 年の検証時には Windows10 と InternetExplorer11 のブラウザで動作確認が取れた。しかしながらその後、どういうわけか動作確認が取れなくなった。2020年 10 月に行われた Windows10 の大型アップデート以降にこの現象が起きてい ることから原因は OS のセキュリティレベルが変更されたことだと考えられる。旧 OS、例えば Windows2000 においては問題なく動作した。Mac の場合においても最新の $\mathrm{MacOS}$ では動作せず、旧 OS である OSX10.10では動作確認できた。この検証時では Safari のバ ージョンが 8.0.8 であったが、現行の Safari では JAVA プラグインを許可する設定がなく、動作が不可となっている。また、JAVA のバ ージョンも最新では動作しないため 1.6 以前にする必要があった。Win、Mac ともに最新の環境では動作しないため、OS とブラウザ、 JAVA などの当時の環境を保存する必要がある。仮想 OS 上でも動作確認が取れているため、ハードウェアは現行のものでも問題はないと考えられる。 図3. DISCODER ## 3. 4 JODI $[\%$ WRONG Browser CO.JP」 この作品はアプリケーションを起動すると、指定されたトップレベルドメイン内のランダムなウェブサイトに自動的に接続し、ロードされたぺージのソースコードが画面全体に流れ、視覚化される。作品は作者のウェブサイ卜にて配布されており、Win、Mac の最新の OS に対応している。このアプリケーションは国ごとのドメインが用意されており、国内のドメインのみにアクセスできるようになっている。 現行の PC 環境で動作確認が取れているこ 図 4.\%WRONG Browser とから、作品の保存は比較的容易だと考えられる。 3. 5 doubleNegatives $\lceil$ plaNet Former 2.0」 この作品の動作検証では $\operatorname{macOS} 10.13$ と safari で確認を行なった。作品は Adobe Director で制作されており、動作には shockwave が必要である。すでにサポートが終了しているが、shockwave ver. 12 のみ Adobe のサイトで入手でき、動作が確認できた。作品は任意のURLを入力することで、さまざまなウェブページが、それぞれの意味やコンテンツに関わらずリンクによってつながることで、宇宙状の広大なヴァーチャル空間に 3D 状の球体 "plaNet"(惑星)が形成されていく。作品は shockwave プラグインを必要とすることから、プラグインと現行の動作するブラウザの保存が必要である。 図 5. plaNetFormer 2.0 ## 3.6 近森基十下村知央 $\lceil\bigcirc$ [én]] 作品はトップページが Director、コンテンツ本体は HTML と JAVA で構成されており、 ローカルでの検証時は、トップページと形状を生成するページが機能しなかった。作者がサーバーを保管していたため、再稼働してもらったことで、オンラインにて作品の再現が確認できた。なお、コンテンツは JAVA のバ ージョンの関係で Windows2000 が作者に推奨されており、トップページの表示には特定の shockwave のバージョンが必要だった。ブラウザは InternetExplorer6 を使用した。 Windows2000 が動作する旧型の PC 環境を保管することは難しいが、最新の PC に仮想 OS を構築したところ、再現ができた。 shockwave に関しては、今後手に入らなくな る可能性があるため、インストーラーのバックアップを行うか、もしくは継続性のある javascript などで再構築することも手段として考えられる。 ## 3. 7 milica tomić「I am milica tomić」 この作品は HTML ファイルと flash swf で構成されており、ローカル環境ではリンクが機能しなかったため、ローカルサーバーを構築することで再現を確認できた。HTML がべ一スとなっているため、保存は比較的容易だが、flash のサポートが 2020 年末で終了していることから、動作するブラウザ環境を保存する必要がある。 図 6. I am milica tomić ## 4. まとめ CyGnet の作品アーカイブとその復元において、それぞれの作品は動作が確認できており、当時もしくは現行の環境を保つことで再現は可能である。しかしながらブラウザやプラグインのサポート終了などの問題があり、完全に入手できなくなる前にバックアップを取っておくことが重要である。またハードウェアの劣化が考えられるが、仮想 OS での動作が確認できていることから、現行の PC でも十分再現が可能である。ハードウェアよりもソフトウェア環境の保存を優先的に行う必要があると考えられる。ウェブコンテンツのアーカイブの必要性は今後も増していくことは確かである。制作者が特定可能なものについては、その開発者とのコンタクトを取って、当時の環境構築を行えるが、制作者が特定できないタイプのコンテンツでは、アーカイブの必要性の評価を稼働時から行い、その動作を動画でキャプチャーし、操作性の特徴を保存するなどの措置は必須となる。その点も含め、アーカイブの方法を一般的な手段として確立して公開する必要はあるだろう。 今回の CyGnet の作品情報のアーカイブによって、2000 年前後でのウェブブラウザの環境一の理解とそれらを利用したメディアアー ト作家のバリエーションについて、具体的にはなったが、ネット上の作品の変化の速さや、情報が残らない点に対し、博物学的にどのように対処するべきなのかという点を、アーカイブポリシーとして持つ必要性も課題として残った。 本論でのアーカイブ調查は文化庁平成 30 年度メディア芸術連携促進事業「1985~2005年間の企業メセナによるメディアアート展示資料の調查研究事業」および文化庁令和元年度、令和 2 年度文化庁メディア芸術アーカイブ推進事業「1985 年 2005 年の企業メセナによるメディアアート展示資料の調査研究事業」愛知県立芸術大学の一環としておこなった。 ## 参考文献 [1] 愛知県立芸術大学「1985~2005 年間の企業メセナによるメディアアート展示資料の調査研究事業」実施報告書. 2019 , 文化庁平成 30 年度メディア芸術連携促進事業. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [64] 舞台芸術分野における公演情報のアーカイブの意義と 課題: ## 「Japan Digital Theatre Archives」を題材にして 中西智範 ${ }^{11}$ 1)早稲田大学坪内博士記念演劇博物館, $\overline{1}$ 169-8050 東京都新宿区西早稲田 1-6-1 E-mail: [email protected] ## Significance and Challenges of Archiving Information on Performing Arts: Japan Digital Theatre Archives \\ NAKANISHI Tomonori ${ ^{1}$ \\ 1)The Tsubouchi Memorial Theatre Museum, Waseda University, 1-6-1 Nishi-Waseda, Shinjuku-ku, Tokyo, 169-8050 Japan} ## 【発表概要】 早稲田大学演劇博物館は、舞台芸術分野の情報検索サイト「Japan Digital Theatre Archives」[1](以下 JDTA)を 2021 年 2 月 23 日に公開した。演劇・舞踊・伝統芸能分野を対象とし、公演記録映像と公演関連情報を収集・アーカイブ化し、その情報を検索できる Web サイトとして機能するものである。本発表では、JDTA の設計から制作、公開までの実践内容を報告するとともに、舞台芸術分野における情報検索の仕組みを提供することの意義や、実践により明らかになった課題や将来の展望等について考察する。 ## 1. はじめに 本発表にて取り上げる JDTA は、文化庁令和二年度戦略的芸術文化創造推進事業「文化芸術収益力強化事業」[2]として公募され、寺田倉庫株式会社および緊急事態舞台芸術ネットワークが「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(以下 EPAD 事業)」 として実施、その事業内容の一つである検索サイトの制作を早稲田大学が行ったものである。 ## 2. EPAD 事業について 新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、困難に陥っている舞台芸術分野を支援し、収益力の強化に寄与することを目的とした事業である[3]。さまざまな要素が複雑に関連する舞台芸術において、その権利処理は複雑であるが、当事業では専門の権利処理チームにより、権利処理作業のサポートが行われたことに特徵がある。権利処理された映像は、商用利用を目的として映像配信サイトでの公開も順次予定されている。当事業では、事業内で収集される映像・公演情報 - その他舞台資料などの作品群の提供に対し対価還元を行うという、即効性のある収益の向上に主眼を置きなが らも、持続的な収益効果を高める役割を果たすことにも貢献している。 ## 2. $1 \mathrm{JDTA の$ 目的} JDTA では EPAD 事業にて収集された作品群のうち、主に公演・映像情報を集約し検索可能にしている。劇場・カンパニーと配信事業者や新たなビジネスパートナー、そして観客との新たな出会いをもたらし、日英二か国語対応により、ポストコロナ社会における海外の舞台芸術マーケットにも日本の舞台をアピールする役割をもつ[4]。 権利者情報の掲載や、抜粋映像の紹介(権利処理が完了した映像のみ)など、アーカイブされた情報の再活用に繋げるための有機的な情報を掲載している。 ## 3. 舞台芸術分野でのアーカイブの状況 演劇博物館は 2014 年から 2 力年にわたり、劇団・劇場・ホール・文化施設に対し、舞台芸術・芸能関係映像資料の有無、数量、保存媒体、保存状況等についてのアンケート調査を行った。その結果は「舞台記録映像の保存状況に関するアンケート調査報告書」としてまとめられている。アンケートの結果では、公演の記録映像の多くが、記録されたそのま まの状態で保有されていることが判明した。 VHS などのアナログ媒体は経年劣化に晒されているものも多く、適切な保存が急務であることが明らかであった。[5]また、同調查研究事業において、舞台映像を中心とした著作権およびその他権利処理の複雑さと、権利処理の課題等について明らかにしており、その内容を「舞台記録映像保存・活用ハンドブック」 として公開し、関連のイベントを実施している[6][7]。 ## 4. JDTA について ## 4. 1 特徴と機能 舞台公演を 1 単位とし、公演日や会場、主催者情報、上演作品毎の出演者・スタッフ情報などのメタデータが掲載される。公演情報の検索を主な機能として提供するとともに、 アーカイブ化された映像資料や、舞台写真・ フライヤーなどの画像資料の検索に特化した機能も有する。 サイト制作にあたっては、UI/UX にも重点をおいた。トップページは舞台写真がタイル上に並ぶ特徴的なレイアウトを採用するとともに、詳細画面では文字の視認性を向上させるため、フォントの選択や段落の余白の使い方にも特徴がある。各劇団やカンパニーの Web サイトや、映像権利者へのアクセスの容易性は、アーカイブ化された資源の再利用を促すために重要であり、継続的な収益へ繋げるための重要な要素として捉えたためである。 ## 4. 2 制作上の制約事項 演劇博物館での制作期間は実質 4 ヶ月ほどに限られ、プロジェクトメンバの採用や製造委託先の決定、各種設計・製造などを行う必要があった。タイトなスケジュールの中で公開までたどりつけたことは、EPAD 事務局をはじめ各協力団体など関係者の多大な協力があったとともに、外部協力者を含む JDTA 制作チームの真摰な努力があったためであると実感している。舞台芸術分野への熱い思いが結実した結果であろう。 ## 4. 3 語彙-メタデータ設計 本サイトで取り扱う情報のため、専用の語彙を設計した。本サイトでは「公演」という抽象的な概念を情報の中心とする一方、同じく抽象的な概念であるスタッフや出演者などの人物情報や、それに対し具象的な概念である映像資料や画像情報などを統合して取り扱うため、設計に際してまず実施したことは、表 1 のエンティティの定義である。舞台芸術は様々な要素が複雑に関連するとともに、演劇・舞踊などの分野の特性も考慮する必要があった。その整理の過程では図 2 のような概念図を用いた。 Dublin Core を基礎として DCMI Metadata Terms 及び FOAF、BIBFRAME、RDF Schema などのメタデータスキーマや標準語彙を必要に応じて参照し、組み合わせを行い再利用した。クラス及びプロパティ定義については、Dublin Core の各プロパティの再利用の勘所を捉えるために「国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)」が参考となった。[8] 表 1. エンティティ定義(要約) アプリケーション開発においては 6 エンテイティのらち、「公演」および「上演作品」「関係資料」「寄与者」をクラスとして定義し実装を行った。 図 2. エンティティの整理に用いた図 ## 4. 4 アプリケーション開発 本サイトでは OmakaS を活用した。基本的な CMS の機能を有していることに加え、機能追加用モジュールがコミュニティにより提供されていることや、語彙定義ファイルの取り込みとマッピングが容易であることが主な選択理由である。語彙定義ファイルの作成にはオープンソースのオントロジー編集用エディタの「Protégé」が活用できた。以上のような OmekaS 活用の優位点はあるものの、今回の製造における検索機能および画面表示用のデ一タ取得の制御については OmekaS の標準機能を単純に利用することが困難であったため、標準の API を拡張することで機能を実現させる必要があった。 本サイトにおける情報構造のイメージは図 3 の通りである。項 4.3 に記載したように今回の開発では「由来する上演作品」と「上演」 エンティティの対応を見送った。初演や原作などを示す情報の表現は舞台芸術において重要な要素であるため、今後の対応が求められる部分であろう。また、「寄与者」については暫定対応を行った。寄与者情報については、典拠データの整備まで対応できず、人名や役割、配役名等の表記情報の表現に限定した。 ## 5. アーカイブのしくみ 本サイトで公開される映像資料および公演情報等は EPAD 事業で収集され、演劇博物館が受入とアーカイブを行った。演劇博物館では収蔵品管理システムを用い、目録データとして情報管理するとともに、受け入れたデジタルコンテンツについては、各目録の資料番号と紐付けることによりアクセスが可能な仕組みをとった。デジタルコンテンツについては、㔯長化対策としてハードディスクとオプティカルディスク・アーカイブの二種類のデジタル保存媒体に格納することで可用性を高める対策を行う計画である。 図 3. 情報構造のイメージ デジタルコンテンツについての長期保存の課題は本学会のみならず様々な場面で問題が提起されている。収集したデジタルコンテンツのフォーマット変換等を伴うマイグレーション対策や技術メタデータの収集など、永続的なアクセスの保証については多くの課題が残るため、継続した調查と対応が必要となる。 なお、収集された一部の映像資料については演劇博物館内の映像視聴ブースにて、事前予約制による閲覧の仕組みを提供する予定である。 ## 6. オープンデータの活用 本サイトのメタデータは、公演/作品概要、 カンパニー/興行主体紹介を除く情報はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス $\mathrm{CC0}$ 規定により利用できる。今回は未対応であるが、メタデータの活用には RDF スキーマの定義を経て、オープンデータの構築と公開が有効であると考える。 なお本稿執筆時、本サイトのデータセットについてはジャパンサーチ連携を視野に、インターフェースの設計と製造を進めている。本サイトでは公演情報を構造的にデータ処理しているが、ジャパンサーチ連携のためにはフラットな情報へと再成形が必要となる。ジヤパンサーチの「JPS 利活用スキーマ」[9]の今後の発展に期待したい。 ## 7. おわりに 本サイトが広く利用され、事業目的である持続的な収益基盤の役割の一つとして機能することの実感が得られれば、舞台芸術分野におけるアーカイブの重要度が今後更に増してゆくことだろう。舞台芸術を取り巻く様々な情報や資源を有機的に結びつけ、舞台芸術分野総体のアーカイブとして発展してゆくことが期待される。そのためには、舞台芸術分野全体としてのコミュニティのさらなる発展が重要度を増す。情報提供者や権利者を起点とした納入、受入、アーカイブ、利活用等の循環サイクルの構築が、その構造の簡略化とともに不可欠となるだろう。 ## 謝辞 本サイトの設計を進めるにあたり、筑波大学の杉本重雄名誉教授、東京大学史料編纂所の中村覚助教には、多大なご協力を賜りました。ここに感謝いたします。 ## 参考文献 ## [1] JAPAN DIGITAL THEATRE ARCHIVES https://www.enpaku-jdta.jp/ (参照 2021-02-26). [2] EPAD 事業 https://epad.terrada.co.jp/ (参照 2021-2-26). [3] 文化芸術収益力強化事業(委託事業)の募集 https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/kobo /92378001.html (参照 2021-02-26). [4] EPAD 事業ポータルサイト https://syueki5.bunka.go.jp/index.php/epad/ (参照 2021-02-26). [5] 舞台記録映像の保存状況に関するアンケート調査報告書 http://www.waseda.jp/prjstage- film/pdf/enpaku_houkoku_2017.pdf (参照 2021-02-26). [6] 舞台記録映像保存・活用ハンドブック http://www.waseda.jp/prj- stagefilm/pdf/enpaku_handbook_2017.pdf (参照 2021-02-26). [7]「舞台芸術における著作権の課題〜文化資源の有 効活用にむけた情報共有」 http://www.waseda.jp/prj- stagefilm/activity/2019_1202.html (参照 2021-02-26). [8] 国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述 (DC-NDL) https://www.ndl.go.jp/jp/dlib/standards/meta/2020/1 2/dendl.pdf (参照 2021-02-26). [9] SPARQL エンドポイントから取得できるデータについて一利活用スキーマ概説 https://jpsearch.go.jp/static/developer/introduction/ (参照 2021-02-26). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [63] COVID-19 の発生に伴う、国内での集客型イベントの 対応と記録:特撮$\cdot$アニメのオンラインイベントを対象とした 事例研究 二重作昌満 1) 1)東海大学, $\overline{\text { T }} 259-1292$ 神奈川県平塚市北金目 4-1-1 E-mail: [email protected] ## Correspondence and recording of domestic customer attraction type events due to the occurrence of COVID-19: Case study of Tokusatsu and Anime online events FUTAESAKU Masamitsu1) 1) Tokai University, 4-1-1 Kitakaname Hiratsuka, Kanagawa, 259-1292, Japan ## 【発表概要】 本研究では、2020 年初頭より我が国で「COVID-19」の感染が拡大したことに伴い中止された現地開催型イベントに代わって、国内にて台頭するようになったアニメ・特撮の「オンラインイベント」に焦点を当てた研究を行なった。具体的には、各映像制作会社によるオンラインイベントに参加する閲覧者の行動特性の類型化を実践した。その結果、特撮・アニメを誘致資源としたオンラインイベント閲覧者の行動特性は、現状では「(1)ショー観賞型」、「(2)展示型」、「(3)購入型」、「(4)その他」の 4 種類あることが確認できた。また、これらオンラインイベントは国内での「COVID-19」の感染収束後も、現地開催型イベントへの参加が叶わなかった希望者に向けた発信を継続することによって、イベント運営側も現地開催とオンラインの 2 つ媒体を通じたより多くの収益の回収が見込まれることから、今後も現地とオンライン開催を両立する形でのイベントの継続が見込まれることが考察できた。 ## 1. はじめに 2019 年に中国の武漢で発生した「COVID- 19」は、2020 年初頭より我が国にも蔓延した。 その結果、国内では密閉、密集、密接から成る「3 密」を避ける社会的な動向が、国内外から来訪する数多くの来場者を 1 つの開催地に収容する「イベント」にも多大な影響を及ぼした。コンサートや演劇をはじめとする舞台芸術をはじめ、子ども達を筆頭に幅広い世代を対象に開催されるアニメや特撮等の映像作品を題材とした展覧会や実演ショー等のイベントも中止を余儀なくされた。 例えばアニメのイベントでは、東映アニメ ーション制作の『ふたりはプリキュア (2004)』シリーズを題材とした室内型展示イベントが、東京都豊島区池袋の「池袋サンシャインシティ」内にて 2010 年から毎夏恒例開催されてきたが、2020年は中止[1]された。 また特撮のイベントでも、1971 年から東映制作の特撮ヒーロー番組の着ぐるみを使った実演ショーを半世紀近く公演を継続してき た後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティアトラクションズ)も、2020 年は初のウイルスによる開催中止[2]を余儀なくされた。 上述してきたとおり、国内での「COVID19」の曼延によって、数多くのアニメや特撮を誘致資源としたイベントが次々と中止される事態へと陥った。こうした状況の中で、アニメや特撮の著作・催事運営側である各映像制作会社は、イベントを人が密集する現地にて開催するのではなく、その代替としてインターネットサイト上にてイベントを開催し、閲覧者が在宅したままイベントを楽しむことができる「オンラインイベント」を開催する事例が数多く確認できるようになった。 つまり、新型コロナウイルスによる感染拡大によって外出が困難な状況において、オンラインイベントはニュー・ノーマル時代下でのイベント開催形式として定着しつつある。 これらオンラインイベントは現地開催型のイベントとは異なり、 $\mathrm{PC}$ やスマートフォンといった電子機器の画面の中で開催されている ことに特徴がある。よって、国内での 「COVID-19」発生以前のイベントのように、会場内にて金銭のやりとりを行い、現地でその金額に応じたアトラクションを楽しむといった消費活動ができない状況下で、オンラインイベントに参加する閲覧者がサイト内にて行なう動向は、現地での消費活動とは異なる特徴があることが哿見える。つまり「閲覧者が何を目的にオンラインイベントに参加するのか」、また「オンラインイベントに参加してどのような消費活動を行なうのか」等、サイト閲覧者がオンラインイベントを通じて実践する行動パターンも、現地で開催されるイベン卜と比較して大きく異なることが考えられる。 そこで本研究では、上述したオンラインイベントに参加するサイト閲覧者が実施する行動パターンを「行動特性」と呼称し、イベントの著作・運営側である映像制作会社がオンラインイベントで用意した開催プログラムに対して、サイト閲覧者がどのような消費活動を行なうのか、その行動特性を類型化する研究を実施した。 ## 2. 研究の目的 - 対象$\cdot$方法 本研究の目的は、各映像制作会社が開催する「オンラインイベント」に参加する閲覧者の行動特性を類型化することにある。しかし一概に「オンラインイベント」といっても、演劇やコンサート等の舞台芸術を筆頭に多種多様に存在する。そこで本研究では、未だ先行研究が乏しい現状にあるアニメや特撮の開催事例に焦点を当て、これらのイベントの開催プログラムを収集、分析による類型化を行なう。つまり従来の現地開催型イベントでは確認できなかった、異なる性質を明らかにできることに研究の新規性と学術的意義がある。調査方法は、まず 2020 年 1 月から 2021 年 2 月 24 日までの約 1 年間に開催された、特撮・アニメのオンラインイベント全 21 のサイトを対象にアクセスを実施した(表 1)。 これら 21 サイトにアクセスした後、後述する 3 つの手順を実践して、閲覧者の行動特性の類型化を行なった。はじめに「(1)各オン ラインイベントが実践していた、全ての開催プログラムの確認と記録」を行なった。表 -1 の全 21 のオンラインイベントサイトにアクセスを行い、サイト上にて実践されている開催内容全てを記録する作業を実施した。 続いて、「(2)各開催内容が閲覧者に向けて誘発する要素の抽出」を行なった。上述した全 21 のオンラインイベントサイトからリストアップした各開催プログラムが閲覧者に向けて誘発する行動パターンを抽出する作業を行なった。つまり、閲覧者が「なにを目的にオンラインイベントサイトにアクセスを行なうのか」という視点から、現状確認されうる最低限の行動パターンを抽出する作業を行なつた。具体的には「ショーを観る」、「展示を楽しむ」、「物を買う」等、他者から見ても共有可能な最低限のパターンのみを抽出した。 最後に「(3)各行動パターンの呼称の定義」 を行なった。これは、各オンラインイベントサイトの開催内容から抽出できた閲覧者の行動パターンに名称をつけ、その内容を明確化することで「行動特性」として定義した。定義の際は、 1 つのオンラインイベントサイトに導入された開催プログラムより抽出された行動パターンが、他のオンラインイベントサイトでも確認可能であるかを検証した。この背景には、各オンラインイベントサイトの事例から抽出した行動パターンが、 1 つの事例のみで確認できただけでは、一方的かつ客観性が欠落していると判断したためである。よって、同じ行動パターンが 2 サイト以上のオンラインイベントサイトにて確認できた場合、 これらのパターンを総合して「特性」として呼称し、象徴する名称を割り当てることで、 1 つの行動特性としての定義を行なった。 ## 3. 結果 上述してきた調查を実践した結果、特撮・ アニメを誘致資源とした「オンラインイベント」閲覧者の行動特性は、現時点では 4 種類あることが確認できた。また各行動特性は 1 つのオンラインイベントサイトにつき 1 つ確認できるのではなく、複数の行動特性が確認 できるイベントも存在した(表 1)。 ## 3. 1 ショ一観賞型 これはオンラインイベントサイトにアクセスした閲覧者が、PCあるいはスマートフォンといった電子機器の画面の中で、ショーを楽しむ行動特性である。その開催内容は多岐に をクリックし、マウスを動かすことによって 360 度画像でフィギュアを隅々まで目視することが可能なシステムとなっており、従来の現地開催型イベントでは実現が困難な展示方法として導入された。 & 2020キ8月23E & https://ultraman.spwn.jp/events/200822-talkish & (1) \\ 渡り、着ぐるみを活用して舞台上にて立ち回りを行なう実演ショーが開催されたほか、作品出演者や制作者が登壇するトークショー等がこれまで開催されてきた。また、この「シヨー観賞型」の特徴のひとつとして「アーカイブ配信(見逃し配信)」[3]が挙げられる。 この「アーカイブ配信」は、当初 LINE 生中継でイベント開催が予定されていたものの、機材トラブルの発生によって配信が急遽中止となったイベントの代替という形で実践された事例も存在していた[4]。 ## 3. 2 展示型 これは、オンラインイベントサイトにアクセスした閲覧者が、サイト上にて展示されている玩具等の物品を電子機器内で観賞する行動特性である。株式会社 BANDAI SPIRITS によるフィギュアブランド「TAMASHII NATIONS」が、2020 年内に開催した 3 つのオンラインイベント[5]が事例として該当する。 これら 3 つのイベントに共通して見出せる特徴は、オンライン上にて自社のフィギュアの展示を行なっていることにある。閲覧者は、 サイト上に表示されているフィギュアの画像 ## 3.3 購入型 これは、オンラインイベントサイトにアクセスした閲覧者が、サイト上にて商品を購入する行動特性である。当行動特性は、あくまでイベントサイト内にて商品を購入できることに特徴があり、「amazon」を筆頭とするオンラインショッピングサイトとは異なる性質を有していた[6]。 ## 3. 4 その他 本研究では、オンラインイベントサイトに直接アクセスし、全ての開催プログラムを確認した上での行動特性の類型化を行なっている。しかし、本調查でアクセスしたイベント以外にも、特撮・アニメを題材としたオンラインイベントは数多の開催事例があり、その内上述した 3 つの行動特性に該当しない開催形態もいくつか存在する。例えば、東京都多摩市にある室内型テーマパーク「サンリオピユーロランド」では、オンラインで八ローキティ等のキャラクターとビデオ通話ができる 『オンラインキャラクターグリーティング』 が実施された。当時休館中であった 6 月 14 日 に、アプリ『Talk port』にて、約 2 分間キャラクターと 1 対 1 で電子機器を介して交流することのできるプログラム[7]であった。 ## 4.考察 2020 年初頭から国内にて「COVID-19」感染が拡大した結果、特撮やアニメを題材としたイベントもオンライン開催での事例が一気に増加の一途を辿ることとなった。オンラインイベントの利点は、 $\mathrm{PC}$ やスマートフォン等の電子機器を介した視聴環境であれば、どの場所でも視聴可能なことにある。よって、現地開催型イベントの来訪が何らかの事情で叶わなかった人達の需要が見込めることが考えられる。よってコンサート参加希望者からより多くの経済的利益を享受可能という視点からオンラインイベントは「COVID-19」収束後も従来の現地開催型イベントと両立する形で今後も継続されることが考察できた。 ## 5.まとめ 本研究では、ニュー・ノーマル時代下に開催された特撮・アニメの「オンラインイベント」に焦点を当て、これらのイベントプログラムが閲覧者に向けて促す行動特性の類型化を行なった。しかしこれらオンラインイベン卜の起点である国内での「COVID-19」の感染拡大は 2020 年初頭からの新規の現象であるため、未だこれらの事象を記録した事例研究が不足している現状にある。そこで本研究の特撮やアニメだけに留まらず、各政府観光局が実践する「オンラインツアー」等、研究の範囲を拡大して「COVID-19」拡大下でのオンラインイベントがどのように進展を遂げてきたかについて各方面での継続的な研究を積み重ねていくことが急務である。 ## 註$\cdot$参考文献 [1]「ヒーリングっどヤプリキュアハートフル ふるフェスティバル 』」実行委員会.” 2020 年 8 月「ヒーリングっどヤプリキュアハートフルふるフェスティバル $\delta 、$ 池袋会場開催中止のお知らせ”. ヒーリングっど・プリキュアハー トフルふるフェスティバルภ.2020-0529.http://precure-event-ikebukuro.com/ (参照 2021-01-08). [2] ”東京ドームシティ PRESS INFORMATION ついにキラメイジャーがシアターGロッソに初登場!魔進戦隊キラメイジャーショーシリーズ第 2 弾「今こそ、みんなでキラメこうぜ!奇跡を起こすキラメンタル!!」」2020 年 8 月 1 日(土)スタート!”。株式会社東京ドーム.https://contents.xjstorage.jp/xcontents/AS01950/1cf1c28e/247c/ 4876/848e/b5585b99a55a/202007091646401 33 s.pdf (参照 2021-02-11). [3] ”『ウルトラ 6 兄弟 THE LIVE in 博品館劇場-ウルトラマン編-』チケット情報解禁! 10/10(土) 11 時より先行販売開始!”. TSUBURAYA STATION.2020-1006.https://m-78.jp/news/post-5661 (参照 2021-02-01). [4] "シリアルキー入力".eContent.2021-01- 24.https://econtent.jp/serial (参照 2021-02$05)$. [5] "TAMASHII Cyber Fes ABOUT".TAMASHII Cyber Fes.2020.202011-06. https://ccyberfe.net/?ga=2.195162789.82364 9615.1515882180-572888080.1479638539 (参照 2021-02-01). [6] "TOKYO COMIC CON OFFICIAL WEB STORE HOME".TOKYO COMIC CON OFFICIAL WEB STORE.2020-1203.https://tokyo-comic-con.com/ (参照 202102-01). [7]"サンリオキャラとオンライン握手会 ? 4 千円で 2 分間独り占め”.デイリー.2020-0604.https://www.daily.co.jp/leisure/kansai/202 0/06/04/0013397378.shtml (参照 2021-0211). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [62] 静岡県富士市伊達家所蔵資料のデジタルアーカイブに ついて ## 一市川團十郎の錦絵を中心として一 ○木村涼 1) 1) 岐阜女子大学, 〒 $501-2592$ 岐阜市太郎丸 80 E-mail: [email protected] ## About Digital Archive of Historical Material owned by the Date Family in the Fuji area of Shizuoka : Mainly on Nishiki-e of Ichikawa Danjuro \\ KIMURA Ryo ${ ^{1)}$} 1) Gifu Women's University,80 Taromaru,Gifu, 501-2592 Japan ## 【発表概要】 旅をしていた五代目市川海老蔵(=七代目市川團十郎)は目を患い、その治療のため、駿河国富士郡神谷村 (現静岡県富士市) の眼科医伊達本益の元を訪れた。これを契機に海老蔵と伊達家の交流は、やがて家族ぐるみへと発展していった。伊達家には、市川團十郎家から送られた資料や海老蔵、八代目が伊達家を訪れた時に使用していた資料が残されていることが、これまでの調查で判明している。これらの資料の内、市川家から伊達家に送られた 70 通余りの書状のデジタルアーカイブの現状についてはすでに紹介している。そこで本報告では、市川團十郎家から贈られた錦絵資料について注目し、それらがどのくらい残されていて、どのような状態で所蔵されているのかを述べ、調查状況及びデジタルアーカイブの進捗状況について報告する。 ## 1. はじめに 19 世紀、五代目市川海老蔵(=七代目團十郎)は旅の途中、目を患ったので、その治療のため、駿河国富士郡神谷村 (現静岡県富士市)の眼科医伊達本益の元を訪れた。当時の伊達本益は、伊達家六代目で、長崎にて蘭学を学び名眼科医として知られていた。これを機に始まった海老蔵と伊達家の交流は、次第に家族ぐるみへと発展していった。双方に篤い信頼関係が築かれていたことが示される市川家から送られた書状をはじめ、錦絵や火鉢、手あぶりなどの資料が残存している。また、海老蔵が伊達家に逗留した時に使用したとされるうがい茶碗や小血、八代目が逗留した時に使用したとされる市川團十郎家の模様の一つである六弥太格子の図柄の搔巻と掛布団等も残されていることが、これまでの調査で判明している。 五代目海老蔵は、「歌舞伎十八番」制定で知られ、荒事はもちろん、時代物、世話物、所作事まで卓抜した演技力を発揮していた江戸歌舞伎を代表する役者である。また、長男八代目も市川家の芸を継承し、絶大なる人気を誇った花の役者として知られている。 調査を継続している中で、市川家から送られた 70 通余りの書状のデジタルアーカイブの状況及び今後の課題については、すでに紹介している。 そこで今回は、伊達家現当主の許可を得て、伊達家に所蔵されている市川團十郎家から贈られた錦絵資料について紹介していく。 伊達家に残されている錦絵には、主に、五代目海老蔵や八代目團十郎、初代河原崎権十郎(のちの九代目市川團十郎)などが描かれている。特に、舞台で活躍する海老蔵、八代目の姿が描かれている錦絵が多い。こうした錦絵が、七代目や八代目及びその家族から贈られていたことは、市川家から伊達家に送られた書状によっても確認できる。 本報告では、これらの錦絵の内容及びそれがどのような状態で所蔵されているのかを述ベ、デジタルアーカイブの進捗状況について検討していく。 ## 2.市川團十郎関連の錦絵 ## 2. 1 錦絵の保管状態 錦絵は、伊達家の蔵の中に「先古七世團十郎初刷錦絵」と墨字で記された木箱に収められ、丁寧に保管されている。箱の裏には「昭和壬寅歳五月十一世團十郎題」とある。これは、昭和 37 年 (1962) 5 月、十一代目市川團十郎によって揮毫されたものである。 図 1.十一代目團十郎揮毫の木箱 十一代目が書したこの年月は、自身が歌舞伎座で團十郎を襲名した時期である。 4 月、 5 月と 2 ヶ月にわたって歌舞伎座において「十一代目市川團十郎襲名大興行」が開催されている。十一代目團十郎誕生時に、十一代目自ら書した木箱が伊達家に贈られ、伊達家ではその中にそれまで贈られた江戸時代からの錦絵を収め、保管していた。 錦絵の絵師は、 3 枚続きの構成で芝居の 1 場面を、あるいは 2 枚続きの構成で 1 場面を描くことが一般的である。錦絵は、 3 枚続きで 1 封筒、 2 枚続きで 1 封筒という保存形態ではなく、 1 枚ずつ中性紙封筒に収められている。 また錦絵の状態としては、上下や左右の一部が切断・破損しているものが多いが、色合いなどを含め全体的に良好な状態で保たれている。 伊達家における現状の保存・管理状態を考慮し、現当主の同意を得てすでに錦絵全てのデジタル撮影を完了させている。錦絵を撮影する順番は、木箱に保存されていた順に撮影 した。木箱に収められていた錦絵は、3 枚続き、 2 枚続き、 1 枚ものという順にまとめられていた。 ## 2. 2 錦絵の整理方法 錦絵を整理するための数え方として 3 枚続きのものは、錦絵は 3 枚だが芝居の 1 場面を描いているので、資料の点数としては 1 点とした。そこで、 3 枚続きの錦絵の整理・保管するための資料番号は、「0001-1~0001-3」 という形で付記した。 3 枚続きの錦絵は重ねられている順番の通り、左から「1」、真ん中が「2」、右が「3」とした。(図 2 0003-1〜 0003-3) 「0001-1~0001-3」までを 1 点とする。この形式が、「0051-1~0051-3」まで続く。ただし、「0008-1~0008-3」にあたる分は久である。したがって、計 50 点なので、 3 枚続きの錦絵は枚数にして 150 枚となる。 図 2.三代豊国画初代市川猿蔵の源の義経、五代目市川海老蔵の武蔵坊弁慶、八代目市川團十郎の富樫左衛門嘉永 5 年 (1852) 9 月河原崎座「勧進帳」 次に、2 枚続きの錦絵の資料番号は、 3 枚続きの資料番号の続きの「0052-1~0052-2」からとした。2 枚続きの錦絵は、3 枚続き同様の順に重ねられていたので、(図 3) では左が 「0052-1」、右が「0052-2」とした。2 枚続きは、「0072-1〜0072-2」まで続く。計 21 点なので、 2 枚続きの錦絵は枚数にして 42 枚となる。 伊達家において 1 枚ものと認識されている錦絵は、75 枚存在している。2 枚続きの資料番号の次の「0073」(図 4)から「0150」までを付した。その内、「0107」「0111」「0115」 は久である。それゆえ、 1 枚で 1 点の錦絵は 75 枚存在する。 図 3. 三代豊国画三代目岩井条三郎の赤間愛妾お富、初代河原崎権十郎の伊豆屋与三郎万延元年 (1860) 7 月市村座「八幡祭小望月賑」 図 4. 国芳画五代目海老蔵の仁木弾正、八代目團十郎の荒獅子男之助嘉永 6 年 (1853) 6 月「見立十二支の内」「子」「仁木弾正」「荒獅子男之助」 絵師は、三代目歌川豊国、歌川国芳、二代目歌川国貞、歌川芳艶、大坂の絵師五粽亭広貞等 5 人である。 判明した錦絵の年代をみると、嘉永元年 (1848) 3 月から文久 2 年(1862) 3 月までのおよそ 14 年間である。 錦絵の内容は、A:芝居関連のもの(芝居の一場面、登場人物、見立絵など)、B:芝居関連以外のもの、C:内容不明なものなどに分類した。なお、煩雑さを避けるため、以下、 $\mathrm{A} \sim \mathrm{C}$ の番号のみで記していくことを断っておく。また、 2 枚続きの錦絵に関しては本来なら 3 枚続きの構成になるもの、1枚の錦絵に関しては本来なら 2 枚続きないし 3 枚続きの構成になるはずのものもあるが、ここでは収められている通りに扱う。 ## 3. 絵師の内訳と内容 3 枚続き 50 点の錦絵の絵師をみていくと、三代目豊国が 45 点、国芳が 5 点である。また、 点という内訳になる。 次に、2 枚続き 21 点の絵師は、三代目豊国が 19 点、国芳が 1 点、二代目国貞が 1 点である。内容をみると、Aが 21 点、 $\mathrm{B}$ が 0 点、 $\mathrm{C}$ が 0 点である。また、描かれている内容から本来なら 3 枚続きの錦絵で構成されるはずのものが、10 点とおよそ半分程存在する。 最後に、 1 枚 1 点の 75 枚の錦絵の絵師は、三代目豊国が 63 点、国芳が 8 点、芳艶が 1 点、大坂の絵師五粽亭広貞が 1 点である。そして、絵師名および改印(江戸幕府の錦絵板行許可を示す)の部分が、切断或いは破損されたと思われ、確認できないものが 2 点存在する。内容をみると、 $\mathrm{A}$ が 72 点、 $\mathrm{B}$ が 2 点、 $\mathrm{C}$ が 1 点である。また、錦絵の内容から本来は 3 枚続きで構成されるはずのものが 9 点、本来は 2 枚続きの錦絵で構成されるはずのものが 8 点存在する。 以上が、現在確認できる錦絵の状況である。今後の調查の進展具合で、錦絵の内容などより詳細な分析が望めると思われる。 ## 4. おわりに 本報告で取り上げた錦絵資料群は、一部の破損はあるが、江戸時代より良好な状態で伊達家の蔵に保存されてきている。錦絵資料も、書状資料やその他の資料同様、伊達家現当主に進言、許可を得てデジタル撮影を進めた。 今回、錦絵に割り振った資料番号をもとにしてデジタル画像において錦絵の内容や構成、絵師について検討した。特定された錦絵は全部で 267 枚あり、構成別にみると、 3 枚続きが 50 点 $=150$ 枚、 2 枚続きが 21 点 $=42$ 枚、 1 枚で描かれているものが 75 点(枚)ということになる。 書状や錦絵をはじめ、伊達家に残されてい る市川團十郎家関連資料をデジタル化し社会に発信していくことは、コミュニティ(地域) アーカイブの一層の充実につながると考えている。 所蔵者との信頼関係をますます深めながら、詳細な錦絵目録の作成及び芝居興行と結びつけた具体的な内容分析を行い、今後は、その全貌を明らかにすることを目指していきたい。 ## 参考文献 [1] 木村涼「市川團十郎に関する伊達家所蔵資料について」(岐阜女子大学『岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所テクニカルレポー 卜』Vol3. No.2,2018 年) [2] 岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所編『地域文化とデジタルアーカイブ』 (樹村房,2017 年) [3] 木村涼『八代目市川團十郎』(吉川弘文館, 2017 年) [4] 早稲田大学文化資源データベース浮世絵データベース. https://archive.waseda.jp/archive/subDB- top.html?arg=\{"item_per_page":20,"sortby":[ "","ASC"],"view":"displaysimple","subDB_id":"52"\}\&lang=jp (参照 2020-02-12). [5]立命館大学アート・リサーチセンター 文化資源閲覧データベース浮世絵ポータルデータベース. https://www.dhjac.net/db/nishikie/search_portal.php (参照 2021-02-12) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [11] デジタルアーカイビングによるアナログ的「技巧」の採掘: 西北タイ歴史文化調査団蒐集 $8 \mathrm{~mm}$ 動的映像の再資料化を通じて ○藤岡洋 ${ }^{1)}$ 1)東京大学東洋文化研究所,〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: [email protected] ## Mining an analog technique by digital archiving: From the approach "Deep Indexing" of $8 \mathrm{~mm$ films collected by Northeast Thailand History and Culture Study Group} HUZIOKA Hirosi ${ }^{1)}$ 1) Institute for Advanced Studies on Asia, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo-3 Bunkyo-ku Tokyo, 113-0033 Japan ## 【発表概要】 編集を経ないが故にアーカイブの「原秩序尊重の原則」あるいは資料としてのリニア性が担保されている学術調查で記録される動的映像資料だが、編集を経る他の動的映像と比べ極めて壳長である。そのため「何のために記録されたか分らない」「無駄な部分が多い」と後生の研究者によって畏避されてこなかっただろうか。本稿は、㔯長と見なされる部分を含む動的映像がなぜ記録されたのか、その理由ないし目的を探る。するとこうした動的映像のて長性の一部は撮影者の 「技巧」によって生み出され、分析・活用に欠かせない「痕跡」であることがわかる。 ## 1. 本稿の背景と目的 学術調査で記録される動的映像[1](以下、調查映像)は、映画やドキュメンタリー作品などと比べで長で極めて扱いにくい。この指摘は大きく次の二点に向けられることが多い。一つは映写が完結するまでにかかる時間、もう一つが映像内容に対してである。 一方、調查映像は原則編集を排して記録されるため、アーカイブ三原則の一つである 「原秩序尊重の原則」が尊守された第一級の学術的価値をもつ。兄長であることで破棄されるのはおろか、映像の学術利用の観点から今後むしろ積極的に活用されるべきであろう。 本稿はちょうど半世紀前の 1971 年、123 日間に及ぶ学術調查で記録された「上智大学西北タイ歴史文化第二次調查団」蒐集 8 ミリ動的映像 (以下、本研究資料)計 139 本の分析過程から、㔯長性の原因を検証する。 ## 2. 分析法 物体としての 8 ミリフィルムには映像以外に二つの客観的ないし物理的情報が記録されている。一つはフィルム自体の長さとそれに対応するタイムコードである。本研究資料の場合、その記録時間は 7 時間強。もう一つは撮影者が記録の開始と停止のサインとして残した痕跡、ショット[2]である。これは映像ではなく、映像の切れ目として保存されている。 どちらの情報も分析に寄与することができる[3]が、本稿は後者を採用した。というのも、 もし前者を採用した場合、大雑把に秒単位で分析しても 25200 箇所の分析に取り組まねばならない。その場合、研究者が興味を引く箇所だけが抽出され、残りが見逃される可能性が大いにある。一方、ショット単位で解析した結果はおよそ 1640 ショット。タイムコードより粒度が大きくなることで、各ショットへのアクセス、映像同士あるいは他種資料との比較検討にもメリットを生む。 とはいえ、それでもショット数は 1000 以上ある。そこで次にこれらのショットを情報の粒度に応じてシーン、そしてそのまとまりとしてのシーケンスにまとめる手法を採った。 これはフィルムスタディーズでほぼ定型的に採用され[4]、デジタルアーカイブ分野の先行研究[5]でも提示されてきた分析法でもある。 ## 3. 冗長的な映像をどのように分析するか ただし、シーン統合やシーケンス統合は、 ショット分析と違い、意味領域に属している。 調查映像分析では、ショットハシーン・シーケンスは、物理単位/意味単位、としてまったく異なる領域に属している。 何をもってシーンとし、何をもってシーケンスとするか。それは調査対象によって自ずと異なる。本研究資料の場合、ヤ才、ミヤオ、 アカ、リスなど複数の山地民族の村を移動しながらの調査であった。このことから、最大粒度の情報塊としてシーケンスを調查地(複数村にまたがる場合は調查地域)、調査地で起きたイベントをシーンと設定し、分析を行った。 ## 3. 1 調査映像の意味的壳長性 ところが分析の実際は、調査映像の第二の壳長性、冒頭にも述べた映像内容自体の冗長性によって幾度も頓挫しかける。通常、映像は何かが記録されているという前提から分析される。しかし、壳長的な映像はピントが合っていないなどとは別の意味で、何が映されているのかが判別しにくい。 いくつか例を挙げれば、ただパンされる 「村の全景」(図 1)、「木々」にズームインして静止する映像、宴会と機織りの間に突如インサートされる「バケツに入れられた白い虫」 などである。これらの映像がミスショットでない証拠に、それなりの秒数記録されている。 だが、これらのショットは対象が明確な他のショットへの注意を散漫にさせる。結果、全体としで長な映像と評価されやすくなるのでないかと考えらえれる。 ## 3. 2 冗長性を解く鍵 こうした映像の意味を解く鍵は調查に関する背景知や文脈に隠されている可能性がある。 しかし、ショット間のアクセス利便性をどれほど高めてもそれらを精査するには限界があった。映像中心の分析だけでは調查映像は、他種映像と比べて不利な条件にある。とはいえ、学術調査には背景知や文脈を探るための既存情報、写真・実体・音声などへのアクセスが比較的容易に確保されていて、蒐集されたあらゆる資料が文脈確定に動員できる。裏を返せば、調查映像をインデクスとして他種蒐集資料をまとめることすら可能かもしれな い。とまれ、これらの情報と映像との照合が、冗長な映像の意味を解く鍵となる。 なかでも映像と日誌は相互補完的な関係にある。映像には文字化するのに作業コストのかかる情報が記録されている。例えば、楽器演奏の様子や食事風景、儀礼の所作などの情報を文字として書き起こそうとすれば、その場ではなく、日誌やフィールドノートから改めてデスクに向かう必要があろう。一方、日誌には調查映像が記録できない情報が記されている。そこには通常 $\cdot$日付 . 場所 - 天気(気温) などの項目、調查者の行動、観察の記録が記載されているが、これらの情報は映像の内容がどれほど豊かでも、つねにハプニングに見舞われているといってもよい学術調査ではよもやカチンコなどが使われるはずもなく、 それらの情報を残寸術がない。ところで、それゆえに、フィルム映像記録には独自のリテラシーが発展してきた。例えば、フィルムの箱などはその製造場所や年などの情報が残されているのでフィルム本体とセットにして保存するなどがその一例である。残念ながら、本研究資料の場合、そうした外部資料は破棄されてしまっている。アーカイブの際の、これらの情報の重要性はデジタルネイティブの時代にも引き継がれていくべきだろう。 ## 4. 採掘されたて長映像の意味 とまれ、本研究資料の場合、公式日誌[6] と撮影者の私蔵日誌[7]の2つが残されている。 日誌と映像を元にシーン・シーケンス確定を進めていくと、ごく稀に日誌の記述がそのまま記録されたショット群が見つかることがある。すると、そのイベントを中心に、同心円状にその前後の別のイベントの確定ができるようになってくる。とはいえ、この手法で確定できる事象や日時はせいぜい前後数箇所に過ぎない。その後の作業はまさに採掘となる。そして、その限界まで解釈を進めていくと、突き当るのはたいていて長なショットと ## Shot:189, Scn: 13, Seq:2 図 1 .几長な映像(1) なる。本研究も何度も日誌と冗長な映像を再帰的に見返し続ける必要があった。 ## 4. 1 パンする風景映像 しかし、採掘を繰り返していると、もはや 「フレーム内に何が」映っているかではなく、「フレームとして何を」映しているか、に着目できるようになる。明らかに映像への対峙姿勢が変わってくる。細馬宏通は現代人にとっては単調にしか見えないリュミエールの 『工場の入口』を何度も見るうちに笑いが起きる現象を指摘している[8]が、この経験はそれに近い感覚かもしれない。 一例を挙げれば、さきほど指摘した風景をただパンしながら数十秒ほど記録されたショットである。一定のカメラワークで風景が記録されている場合、その日の天候に注目し、日誌の天候、日付などから、㔯長なこれらシヨット一群がその日の朝を示し、撮影者が日付変更線を示そうとして記録したもの(図 2 .図 1 と比較)だということが判明する。この場合、㔯長な映像は日付変更を示す「痕跡」 だったわけである。 ## 4. 2 撮影者の技巧 動的映像に埋め込まれるこうした情報は、 ショットを静止画像化し拡大してどんなに分析しても、汲み取ることはできない。 図 2 . 冗長な映像(2) そしてそれら情報は、1)アナログフィルム自体に場所や日付といったメタ情報を付与することはできない、2)強力な光源を意図的に準備しない限り、風景映像は昼間に記録せざるを得ない、つまり記録装置の物理機構の限界・調查環境上の限界を越えるために記録者が編み出した一種の「技巧」であるといってよい。ここで取り上げたパターン化されたカメラワークによる風景映像を一種の日付変更線として記録したことは間違いなく、アナログ的技巧の一つであるともいえる。 こうした技巧は、現在でも実は有効な手段である。現在、映像プロファイルを見れば記録時刻はおろか GPS 情報までを確認することができる。だが最近、偶然にも友人の考古学者から、長期に及ぶ遺物整理で記録場面を変えたときには、自分の掌を映すといった決めごとをしていると聞いた。その方がより迅速に目的の映像を確認できるではないか、という指摘であった。 ## 5. まとめ: 今後の展開 今回取り上げたような技巧はこれまで調査資料化されてこなかった。そうする必要性が当時の撮影者になかったからであろう。 だが、デジタル化によって可逆的に映像とメタデータを行き来することに慣れてしまっている現代、映像とりわけ調查映像に技巧が 埋め込まれていることを強調しておくのは思いのほか重要である。それは、㔯長だからという理由で映像が破棄されることを防ぐばかりか、映像を活用した今後の他の分析研究にも寄与できる可能性があるからである。映像自体に組み込まれた技巧は、さきに触れた映像技術リテラシーの重要性とともに、 いま一度、保存継承していくことが検討されてもよい。技巧のカタログ化はすでにフィルムスタディーズに豊かな研究成果が蓄積されているが、調查映像に関する技巧の整理はデジタルアーカイビングの今後の調査映像の分析研究でも有効であろう。 ## 謝辞 本稿は JSPS 科研 $18 \mathrm{~K} 18537$ の助成を受け作成したものである。 ## 注$\cdot$参考文献 [1]「動的映像の保護及び保存に関する勧告」 (文部科学省による仮訳)に基づき"Moving Images”の訳として「動画」ではなく「動的映像」を使う.さらに本稿では特に断りを入れない場合、映像とは動的映像を指すこととする. 映画保存協会. http://filmpres.org/preservation/terminology / (参照 2021-02-23). [2] 本稿は記録時の一連の映像を扱うため、記録後に映像を切る「カット」ではなく「ショット」を用いる。(辻泰明,『映像メディア論』,和泉書院,2016,p.20) [3] 最近はシーンも設定可能であるものの、例えば YouTube は前者を利用している。 [4] ブランドフォード他, 『フィルム・スタデイーズ事典』,フィルムアート社,2004 [5] Hunter \& Iannella, "The Application of Metadata Standards to Video Indexing.", 1998. DOI: 10.1007/3-540-49653-X_9 (参照 2021-02-23). [6] 白鳥芳朗八幡一郎他, 『上智人類学第 3 号』,上智人類学研究会, 1974 . [7] 同調查団員の元東京大学文学部考古学研究室助手・鈴木昭夫氏の個人日誌(私蔵) [8] 細馬宏通,『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』,新潮社,2013,p. 354. センスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# ワークショップ(1)「8 mm動的映像のもつ資料価値を採掘する:その現状と展望」報告 \author{ 藤岡 洋 \\ HUZIOKA Hirosi \\ 東京大学 東洋文化研究所 } \author{ 開催日:2020年 10 月 17 日(土)(オンライン) \\ パネラー:黒澤 浩(南山大学) \\ 藤岡 洋 (東京大学、司会) \\ 石山友美(秋田公立美術大学) \\ コメンテーター:鈴木昭夫(元東京大学) \\ 村山英世(記録映画保存センター) } デジタルアーカイブ研究でも動的映像(以下、映像)は、映像そのものを対象とするフィルムスタディーズ、それ を積極的に活用する映像人類学などと協働しつつ、多様 な研究が芽生えつつある。2020 年現在の現場はどうであ ろうか。 まず黒澤浩氏から民族誌展示(=異文化展示)を特長 とする南山大学人類学博物館の歴史と現在の紹介があっ た。そして、博物館一般ではないと注意喚起しつつも、今回の研究素材である上智大学西北夕イ歴史・文化調査団蒐集資料について、映像資料としての有効性が長らく 認められながら、これまで活用されてこなかった現状が 報告された。とはいえ、映像活用には、記録されている ことがすべてだと受け取られかねない「民族誌的現在」 という問題もある。黒澤氏は以上を踏まえた上で、それ でも資料映像には映像人類学と同じく、民族集団あるい は家族の記憶を紡ぐこと、そしてそれが自分たちの未来 への選択肢として資源化されていく可能性はあると指摘 した。 次に埋もれつつあった上記調查団映像資料の分析を藤岡が取り上げた。こうした映像は未編集、それ故の艺長性という特徴がある。調査映像がフィルムスタディーズ の射程と完全に重ならないのはこうしたことも原因の一 つであると考えられる。藤岡はむしろこの特徵を積極的 に利用すべきであると主張した。映像を 1 本 2 本と数え るのではなく、 100 ショット 10 シーンと数え、それぞれ の「間」に他の埋没資料を再整理する可能性を見い出す ことはできないか。聞き取り調査と文献調査を行ないつ つ、調査映像を新しいタイプのインデックスとして活用 する試みが、デジタルフィールドワークとして紹介された。最後に地域家庭に眠る 8 ミリ映像を蒐集し活用する事例が石山友美氏から報告された。活動からまだ数年と日 が浅いにもかかわらず 1000 本以上の映像が蒐集され、な かには GHQが記録した映像が含まれるなど、目覚しい成果を上げている。石山氏のグループは単なる映像の蒐集活動としてではなく、一家庭ごとに丁寧な聞き取りを行 なっており、その活動状況もデジタル化された貴重な映像とともに紹介された。石山氏は今後、秋田という地域 を強く意識したアーカイブの構築を模索している。ここ には黒澤氏の報告にもあった、記憶を紡ぐこと、それを 資源化することと深くリンクしてくることは間違いない。 その後、コメンテータの村山英世氏からデジタル化が 急速に進められた現状でも、アナログ映像の技術的リテ ラシーは無視できないことが具体的な事例を挙げながら 指摘された。映像本体だけでなく、そのリテラシー培失 の危惧は、積極的に映像が学術研究に導入されていこう とする現在、無視できない重要な課題であることが提示 された。 本来パネラーたちは参加者からのフィードバックを強 く望んでおり、またセッション後のSNSでもそうした声 をいただいたが、司会者の不手際から今回それがかなわ ずどうかお許し願いたい。映像を介して異なる立ち位置 の者が有機的につながろうとする本セッションのアプ ローチはまだ着手して間もないものである。ぜひ今後も 学会からの叱咤激励を頂ければ幸いである。 謝辞:本企画は、JSPS 科研挑戦的研究(萌芽)「西北夕个歴史文化調查団蒐集 $8 \mathrm{~mm}$ 動的映像の「再資料化」と動的映像資料活用法の研究」(研究課題/領域番号 18K18537)、国際日本文化研究センター基幹研究プロジェクト「大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出」、京都大学東南アジア地域研究研究所 IPCR センター共同研究 R1 IV-4「人間の回復と地域社会の再生のための開発実践考」、ならびに「秋田フィルム・アンソロジー」の研究成果の一部である。
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# \begin{abstract} 抄録:歴史資料、特に紙資料のデジタルデータ作成とデジタルアーカイブ構築について、筆者が直接関わった、京都府行政文書と 東寺百合文書の事例を紹介しつつ、その課題を述べる。京都府行政文書は修理事業にともなってデジタルデータを作成し、東寺百合文書は従来の蓄積を活かしてデジタルデータとデジタルアーカイブを構築した。さらに、被災資料レスキューの議論や博物館・文化財保護・歴史学で論じられている、文化財修理の現在の動向も紹介し、それらからデジタルアーカイブが学ぶことが多いこと を論じる。 Abstract: The author will introduce the cases of Documents of Kyoto Prefectural Government and Toji Hyakugo Monjo, in which the author was directly involved, and describe the issues involved in the creation of digital data and digital archives of historical materials, especially paper materials. For Documents of Kyoto Prefectural Government, digital data was created as part of the repair project, and for the oji Hyakugo Monjo, digital data and digital archives were created by utilizing the accumulated data. In addition, I will introduce the current trends in the cultural property restoration discussed in the discussions on disaster materials rescue, museums, cultural property protection, and historiography, and argue that digital archives have much to learn from them. \end{abstract} キーワード : 歴史資料、デジタル化、京都府行政文書、東寺百合文書、被災資料レスキュー、文化財修理 Keywords: Historical documents, digitization, Documents of Kyoto Prefectural Government, Toji Hyakugo Monjo, Disaster Materials Rescue, Cultural Property Restoration # # 1. はじめに 本稿では、歴史資料、特に紙資料のデジタル化の課題について、いくつかの事例紹介とともに述べる。そ の際、被災資料レスキューや文化財修理とも関係させ て論じる。 なお、事例紹介部分の根拠について、2の京都府行政文書に関しては、京都府立総合資料館歴史資料課編 2008『京都府行政文書を中心とした近代行政文書につ いての史料学的研究 (科学研究補助費 (基盤研究 (B) 17320101)研究成果報告書)』や福島幸宏 2009「京都府行政文書の重要文化財指定と課題」『アーカイブズ』 36、3の東寺百合文書に関しては、福島幸宏 2014「京都府立総合資料館による東寺百合文書の WEB 公開と その反響」『カレントアウェアネス-E』259 ${ }^{[1]}$ や京都府立総合資料館歴史資料課 2015 「<業務報告>東寺百合文書のデジタル化とウェブ公開について」『資料館紀要』43、福島幸宏 2015「歴史資料のデジタル化 とオープンデータ化の実際と理念」『情報の科学と技術』65-12を参照されたい。 ## 2. 京都府行政文書の修理とデジタル化 ## 2.1 京都府行政文書の文化財的修理 京都府立京都学・歴彩館(旧京都府立総合資料館)所蔵の「京都府行政文書」のうち、1946 年度までの 15,407点が 2002 年に国の重要文化財に指定された。 これにより、はじめて 20 世紀中盤までの紙資料が重要文化財となった。特に、戦時中に作成され、紙質や綴り方の問題から保存が特に困難と考えられる 1940 年から 1946 年の簿冊だけでも約 2,500 点を数えている点が特徴となっている。 2005 年度から 2007 年度にかけて、近代行政文書について史料学・保存科学の両面からの本格的な研究をすすめるため、文部科学省科学研究費「京都府行政文書を中心とした近代行政文書についての史料学的研究」が実施された。この成果を基礎に、2009 年度からは文化庁補助金を受けた修理事業が開始され、現在まで継続して実施されている。 この修理事業の特徴は 2 点ある。ひとつは、対象資料の代替化を修理メニューに加えたことである。修理 過程でデジタル撮影を行って複製を作成し、それを閲覧に供することによって原資料の劣化を防ぐ。もう 1 点は、日常の閲覧によって生じる消耗箇所への手当を継続的に実施した点である。これらは、現在では特に文化庁補助金事業による近代資料の修理事業の標準义ニューとなりつつあるが、この事例が最初のものとなっている。 ## 2.2 京都府行政文書の修理とデジタル化の課題 科研費研究や修理事業立ち上げの段階から、そしていくつかの報告 ${ }^{[2]}$ 参照すると現在まで、大きく 2 つの課題が継続している。 ひとつは、近代行政文書自体の特異性に起因する。資料自体がこれまで文化財として取り扱われてこなかった多様で不安定な媒体と記録手段で構成されているのである。機械漉和紙・洋上質紙・ザラ紙・青焼・薄様等を媒体とし、墨・インク・鉛筆等で記録され、 また、現用文書として使用されていた関係上、 100 年以上前の資料であっても、ホワイト・マジック・スポンジ・ビニールなどの新素材によって形態変更が加えられている場合がままある。そして、紙数も多い。文化財指定分だけでも約 350 万枚の紙から構成されているという試算を行ったことがある。また行政文書という性格上、権利保障のためにも日々の閲覧に供することが前提となっている。膨大な量・「弱い」資料・日々の利用などが、資料自体の特異性として指摘できる。 この点に対応し、資料運用の観点を加味して必要最小限の補修とすること[3]、さらに、必要に応じて大胆な形態の変更を行う、という従来の文化財修理と大きく異なる方向が打ち出され、定着しつつある。 一方で、修理過程で作成されたデジタルデータが適正に扱われているかについては心許ない面がある。京都府行政文書の修理事業開始の段階から、複製化により原本の閲覧制御を行う、という目的もあって、あくまで修理作業の副産物という位置付けながら、閲覧目的に利用できるデジタルデータが作成されてきた。これらはデジタルアーカイブに投入されている場合は、公開されているという点で、最低限のデータ保存の動機付と担保がなされていると推測出来るが、制限情報の確認やデジタルアーカイブの整備状況によって、公開できないまま、大量のデータがハードデイスクなどで納品されたままの状態になっている場合も、京都府のみならず、各地であるやに聞する。せっかくのデジタルデータが滅失の危機に瀕している状況があるのである。 ## 3. 東寺百合文書のデジタル化 \\ 3.1 東寺百合文書のデジタルデータ化 続いて、東寺百合文書のデジタルデータ化と東寺百合文書 WEB の構築について述べる。こちらは長期にわたる修理作業が行われていたため、全点を短期間にデジタル化し、web サイト構築にこぎ着けることが出来た事例である。 対象となったのは、京都市南区の教王護国寺 (東寺) に伝えられた文書群で、現在は京都府が所蔵する、奈良時代から江戸時代初期までの約 1000 年間にわたる 24,147 点の文書である。1997 年に国宝となり、WEB 公開を経て、2015 年にはユネスコの世界記憶遺産(現「世界の記憶」) となった。巨大寺院かつ有数の荘園領主である東寺の運営のための事務書類の性格をもつものであるため、複数の資料を同時に検討することで、 より意味が出る資料群である。 これらの資料にたいして、2013年 1 月から 2014 年 2 月まで、休止期間を含むため実質 10 ケ月で、全資料を対象に約 84,000 カットのデジタル化作業を行った。資料の大きさに合わせて、A2 サイズのブックスキャナ 3 台と A1 サイズのブックスキャナ 1 台を、施設のなかの大型資料閲覧等を行うための部屋に持ち达んで、作業を行った。 その際、実際には撮影作業を進行させながらの工夫で最終的にたどり着いたものではあったが、以下の点に留意したことが特徴と言えよう。ひとつは、なるべく実用的な画像を作成するために、資料の背景に工夫を凝らしたことである。多くの原紙が古い和紙特有の紙色であったことから、それにあわせて薄いグレーの台紙、それも $1 \mathrm{~cm}$ 単位の方眼が入ったものとした。これは、カラーチャートが随所に入っているとはいえ、なるべく紙色をわかりやすく伝えるためと、直感的に資料のサイズを把握するため、さらに長時間にわたって資料を閲覧する際、閲覧者の負担を下げるためであった。次に、横に長い巻子仕立ての資料などを分割撮影する場合は、デジタル化に先行して 1990 年代までに行われていたマイクロ撮影の際のカット割りを参考に行った。 もち万ん裏面の墨付きなどを適宜確認しながらではあるが、これによって作業効率を大幅に上げることが出来た。この点、作業者が資料に触れる時間を減らすことにも繋がるため、資料保存のためにも重要であった。 つまり、貴重な文化財としての扱いを前提にしつつも歴史資料として扱うことを重視し、さらになるべく資料に負担をかけない方法を模索し、その際に従来の成果を活用して、効率的にデジタル化作業を行ったものである。 図1 東寺百合文書(京都府立京都学・歴彩館所蔵)足利直義裁許状案 (ウ函57-4、1349年) ## 3.2 東寺百合文書 WEB の構築 前記の作業によって作成されたデジタルデータを投入したのが、2013年 12 月から構築を開始し、2014年 3 月に公開した東寺百合文書 $\mathrm{WEB}^{[4]}$ であった。 このデジタルアーカイブの特徴としては、当時から各所で採用されていた、スクロールやページめくりなどの特殊な挙動をおこなわないこと、画像のダウンロードはブラウザに依存し、かつ制限しないこと、さらに画像の拡大縮小は「大中小」の3 段階のみの最小限の機能によったことなどであった。しかし、なるべく画質の良い画像の搭載と表示のスピードについては、限られた条件のなかで水準を維持することとし、 ベンダーの努力もあって概ね達成できた。特に工夫したのはライセンスであった。当時、文化資源への適用例が少なかった、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用して、利活用のルールを明示したのである[5]。様々な議論を呼んだが、Library of the Year 2014 大賞を受賞するなど、評価された点もあったと言えよう。 このデジタルアーカイブは、システムを作り达まない一方で画像の質などを重視し、ライセンスの明示を試みたことによって、大きな効果をあげたと総括できる。しかしこれが短期間で可能となったのは、まずは撮影可能な状態まで整理や修理がされてきたこと、何度か目録が作られてきていたこと、マイクロ撮影が行われていたこと、などの長年の蓄積を適切に活かせたからこそであろう。 ## 4. 歴史資料デジタル化のこれから 4.1 被災資料レスキューとデジタル化 1995 年の阪神淡路大震災以降行われるようになった被災資料レスキューでは、歴史資料についても大量 のデジタルデータが作成されてきている。しかし、これらの活動やデー夕運用に本来なら密接な関係を持つはずのデジタルアーカイブ関係者が実際にコミットする場面は限られてきた。 その問題意識から、2019年 3 月のデジタルアーカイブ学会第 3 回研究大会では、「災害資料保存とデジタルアーカイブ」という企画セッションを行った[G]。当日の討論では、若い世代にどのように課題を接続するか、という議論が深まった一方、デジタルアーカイブ側が、まだまだ被災地やレスキュー関係者からのニーズを把握仕切れず、要請にこたえる準備が十分でないことも明らかになった。 しかし、例えば全国歴史資料保存利用機関連絡協議会が岩手県陸前高田市で国文学研究資料館・法政大学・陸前高田市と連携して行ったレスキューと、その後の陸前高田市によって継続して行われた被災資料デジタル化の成果を考えると、被災資料のレスキューは、歴史資料のデジタル化作業を凝縮した側面があることも確認出来る[7]。すなわち、被災した資料を撮影可能な状態にまで整え、デジタルデータ化し、目録化するという一連の作業が、そこでは集中して行われているのである。 東日本大震災の発災から本年で 10 年ということもあり、様々な形で議論が打こるだろう。これらから学び取れることが多いはずである。まずは小規模な単位の限られた条件であっても、日常の営為としてのデジタルアーカイブ構築がどのように可能か、その作業構築について学びつつ、デジタルアーカイブの知見からの留意点を投げ返す議論が必要ではないだろうか。 ## 4.2 文化財修理への関心の高まりとデジタルアーカイブ また、文化財保護法の制定以来の大改訂が 2019 年に行われ、博物館法の改定も議論の鉏上に上るなか $[8]$ 、博物館・文化財行政・歴史学の分野で、文化財修理についての議論に改めて注目が集まっている[ ${ }^{2]}$ 。 博物館では、2011 年に九州国立博物館で開催された特別展「守り伝える日本の美よみがえる国宝」で文化財保存と修理に徹底して焦点があてられたこと、 そしてこの展示が大成功したことが嚆矢となったと考えられる。その後も各地で様々な展示が行われ、特に文化財修理のメッカである京都においては、京都府・京都府立大学・京都大学・国宝修理装㣴師連盟などが、2016年ごろから組み合わせを変えつつも連携して、保存と修理を主題とした展示を連続して行っている。非常に興味深く重要な動向であるが、修理作業を通じて蓄積されたデジタルデータは展示や図録に活か されているに留まるように見える。もち万ん内部で蓄積され修理等に活かされるものであるが、今後は様々な主体がより使いやすくデータ運用することが検討されてもよいのではないだろうか。 歴史学の分野では、歴史学研究会が 2020 年 11 月号と12月号で「特集文化財の危機と歴史学」を組んだ。 これは、修理の問題も含みつつ、文化政策の動向、遺構の保存活用、地域での資料保存活動、修理の用具・原材料・実技上の問題、公共性をめぐる議論、マイノリティの文化、博物館の危機、文化財保護行政の課題、 など非常に広範なものであった。デジタルデータ作成の手法の参考になるという点で、文化財修理について踏み込んだ紹介と議論が行われていることも注目される。しかし、デジタルデータを積極的に利活用して、状況に棹さしていくという積極的な議論は、一部を除きほとんど確認できなかった。実際に文化財を調査し、修復する場面では、デジタルデー夕抜きでは行えない状況になっているにもかかわらず。 これら文化財修理や文化財保護の議論にも、デジ夕ルアーカイブ分野がより積極的に参入していく必要がある。 ## 5. おわりに 以上、事例を紹介しながらるる述べてきた課題は、自治体史調查等によって大量に作成された歴史資料のデジタルデータの保存・活用の問題とも通底する。デジタルアーカイブの議論では、新たにデジタルデータやデジタルアーカイブを作成することに注目が集まりがちだが、紹介した事例からは、過去に蓄積されたデータや日常業務によって意図的に生成させたデータを、如何に確実に保存し活用するか、という議論も同時に進める必要があると痛感する。 あわせて、被災資料レスキュー・博物館・文化財行政・歴史学の関係者と議論するなかで、資料レスキューや文化財修理の論理と方法をデジタルアーカイ ブ関係者がより深く吸収し、文化財保護行政やアーカイブズとデジタルアーカイブズとの新たな関係が生じることであろう。 ## 註・参考文献 [1] https://current.ndl.go.jp/e1561 (参照 2020-01-15). [2] 例えば、以下は多様な資料写真とともに参考になる。地主智彦. 近年の歴史資料修理の成果と課題. 文化財修理の現状と諸問題に関する研究会報告書. 東京文化財研究所. 2020. [3] この点、図書館資料対象ではあるが、早い段階から以下で指摘があった。 木部徹. ゲタのはきかた、あずけかた. ネットワーク資料保存. 2001, 65, p.4-6. https://www.hozon.co.jp/report/post_8840 (参照 2021-01-15). [4] 東寺百合文書WEB. http://hyakugo.kyoto.jp/ (参照 2021-01-15). なお、公開当初と2021年1月段階では、ページの構成やコンテンツの内容が異なっている部分があるが、データベー ス自体やライセンスは大きな変更はなく、行論には影響しない。 [5] 館内調整の結果、「クリエイティブ・コモンズ表示 2.1 日本 資料館所蔵」の記載をどのように求めるかが焦点となったためである。もちろんこの方法が適切か、当時からも多くの声が寄せられた。たた、この事例があったからこそ、その後の展開があると考えたい。もっとも現在もライセンスは当初のままであり、今後も検討が行われるべきであろう。 [6] 福島幸宏. 企画セッション(4)「災害資料保存とデジタルアーカイブ」.デジタルアーカイブ学会誌. 2019, vol. 3, no. 3, p. 286 . [7] 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会東日本大震災臨時委員会編. 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会東日本大震災臨時委員会活動報告書2011-2012年度. 2014. [8] これらの動向を見越した提言として以下がある。日本学術会議史学委員会博物館・美術館等の組織運営に関する分科会. 博物館法改正へ向けての更なる提言~2017年提言を踏まえて〜.2020年 8 月27日 [9] また、現在の非常に高い水準にある歴史資料修理の技術を知るためには以下を参照のこと。 一般社団法人国宝修理装㣴師連盟. 装㣴文化財の保存修理東洋絵画・書跡修理の現在.一般社団法人国宝修理装㣴師連盟. 2015.
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# 文書資料のデジタル化 ## Tips for digitizing paper documents \author{ 嘉村哲郎 \\ KAMURA Tetsuro \\ 東京藝術大学芸術情報センター } 抄録:近年、文書類をはじめとした紙資料をデジタル化して、コンピュータ上で扱うことが増えてきた。本稿は、小規模組織や少人数プロジェクト等が保有する文書資料を、なるべく平易な方法でデジタル化して Web 公開するデジタルアーカイブの一例を紹介する。 Abstract: In recent years, a large amount of digitizing paper documents is growing handled on computers. Especially, digitizing paper documents are increasingly crucial in the Digital Archive field such as humanities and archives. This report provides tips for digitizing paper documents using a flatbed scanner for a small-scale digital archive project. キーワード : デジタル化、文書資料、スキャニング Keywords: Digitized, Scanning, Paper documents ## 1. はじめに 本稿は、小規模組織や少人数のプロジェクト等が保有する文書資料を、なるべく平易な方法でデジタル化して Web 公開するデジタルアーカイブの一例を紹介する。著者が所属する東京藝術大学アーカイブセンターでは、過去に附属図書館に所蔵されている藝術祭パンフレットのデジタル化を行ったが、一部の年代では現物が無く欠番となっていた。今回、デジタル化されていないパンフレットの現物を所有する卒業生より資料を借り受ける機会があったため、これをデジタル化することにした。デジタル化に際しては、データは大学側が所有し、現物のパンフレットは持ち主に返却する (図 1)。 図1今回デジタル化したパンフレットと正誤表 ## 2. デジタル化の工程と画像の公開 デジタルアーカイブの構築において、自前で資料のデジタル化する場合は、打打よそ以下の様な手順になる。本節では各工程について解説する。 (1) デジタル化対象の選定 (2) 資料状態の調査 (3) デジタル化方法の検討 (4) デジタルデータの仕様検討 (5) デジタル化作業 (6) 画像データの編集と変換 (7) デジタルデータの保存と公開 ## 2.1 デジタル化対象の選定 デジタル化対象は、保有する資料が劣化しているため早急にデジタル化したい、組織の PR のためにデジタルアーカイブを公開したい等、組織やプロジェクトの目的により対象が異なる。本稿では、以前からアー カイブセンターが行っていたデジタルアーカイブのひとつ、『藝祭パンフレット』を対象とした。Web 公開している『藝祭パンフレット』のコンテンッは、全ての年代のパンフレットが揃っておらず、欠番の資料が得られた際に都度デジタル化作業と Web 公開を行っている。 ## 2.2 資料状態の調査 2.1 で選定したデジタル化対象の資料状態を調査す る。資料をデジタル化する際は、資料に対して必ず何からの負担を与えることになるため、資料の劣化具合や形状等の状態に応じてデジタル化方法を検討する必要がある。 今回のパンフレットは、大きな破損や破れ等がなく、製本された A4サイズの冊子体であった。使用されていた紙は、光沢紙を使用したカラーページと単色のカラー用紙が混在していた。さらに、パンフレットに付随して、後から配布されたであろう、内容の正誤表が付属していた。表紙と裏表紙はやや污れと日焼けが見られたが、状態はよく一般的なスキャニング作業に耐えられるものと判断した。 ## 2.3 デジタル化方法の検討 対象資料を選定後、その資料をどのような方法でデジタル化するのか、手法を検討する。文書資料の場合、 フラットベッドスキャナを用いることが多いが、一般的に販売されているフラットベッドスキャナが扱えるサイズは A3 程度である。そのため、A3 サイズ超える様な資料体の場合、例えば折り畳まれた横長のパンフレットや原稿台に収まらない特殊形状の資料等は、フラットベッドスキャナが読み取り可能な範囲に設置して、複数回の分割スキャニングを行い、画像編集時に複数のスキャンデータを結合して1つの画像データにする。より大きいサイズの資料をデジタル化したい場合は、上方から撮影するオーバーヘッドスキャナ(図 2 右)やデジタルカメラ撮影を用いる方法がある。 図2 様々なデジタル化機器 製本された資料をデジタル化する場合、各ぺージを解体してぺージ毎にスキャニングする方法が最も平易で高品質なデータを作成できる。しかし、今回は貸出を受けた資料であるため、解体せずにデジタル化する必要がある。見開き資料の負担を抑えたデジタル化は、 $\mathrm{V}$ 字に資料を配置してデジタルカメラ撮影するブックスキャナ(図2左)と呼ばれる機器を使用する方法があるが、本体が高価かつ設置や設定にかなりの手間を要するため、一般的な利用は難しい(アーカイブセ ンターでも利用していたが、メンテナンスや調整が難しく、誰でも簡単に扱える物では無かった)。そのため、今回は資料の状態も良好だったことから、一般的なフラットベッドスキャナでスキャニングする方法を選択した(図3)。 フラットベッドスキャナを用いる場合、開いた状態の冊子にスキャナの原稿台カバーを上から押さえつけるため、資料に折り目やクセがついてしまうなど資料への負担大きい点に注意が必要である(資料に何らかの跡が付くようならば、あらかじめ資料の所有者に実施の可否を確認する)。 図3 今回使用したフラットベッドスキャナ (EPSON製 ES-G11000) ## 2.4 デジタルデータの仕様検討 次に、デジタルデータを作成するために、どの程度の品質で作成するのか、デジタルデータの用途に応じて、データの仕様(解像度、色、データ形式等)を検討する。 今回作成する画像データは、元々が A4 の冊子体のため、A4 程度の紙に出力することを想定した品質の解像度で作成することにした。一般的に、A4サイズで印刷する際に必要な画像解像度は $350 \mathrm{dpi}$ 以上が好ましいとされている。350dpi の品質でA4サイズ $(297 \mathrm{~mm} \times 210 \mathrm{~mm})$ 全面に印刷する場合に必要な画像 要ピクセル数を求められる。この場合、 $4092 \times 2893$ ピクセルの画像が必要である。そのほか、画像をWeb 公開する場合は、資料の権利状況や著作者への利用許諾等確認を行った上で、画像データのライセンスや利用方針を決めておくことが望ましい。今回検討した画像データの仕様は以下の通りである。 - 解像度 : $400 \mathrm{dpi}$ $\cdot$色:48bit カラースキャン ・保存データ形式:TIFF ・公開データ形式:JPEG と PDF $\cdot$利用ライセンス:(c) ## 2.5 デジタル化作業 フラットベッドスキャナを使用したデジタル化作業の基本は、原稿台に資料を配置し、スキャナ付属のソフトウェアを操作して画像の読み取りを行う。その際、後から色を調整する場合は資料と共に色情報の見本となるカラーパレットを配置して資料画像と共に取り达むことがある。カラーパレットは、色情報以外に寸法を記載している種類もあり、資料のサイズ感を把握する目安にもなる。図4のようなカラーパレットは、家電量販店等で購入可能だ。 図4 Kodak製カラーパレット スキャニングは、図5の様に資料を原稿台に配置し、原稿台カバーを閉じてスキャニングを行う。このとき、原稿台に埃や污れが付着しているとそれらがそのまま画像として取り达まれるため、注意したい点である。 図5 原稿台の配置 また、スキャンする紙面に写真や付箋などがのり付けされたスクラップブックのような資料は、原稿台と紙面が密着せず隙間が発生し、スキャニング時の光が原稿台カバーに反射してうまく取り込めないことがある。このような場合は、カバーの光が反射しないようカバーに黒い台紙を付ける等して光の反射を軽減してスキャニングする等の工夫が必要である。 画像の読み取りは、図 6 に示すようなスキャナに付属する専用のソフトウェアを使用する。EPSON 製スキャナのツールには、原稿の種類に応じてフォトまたはドキュメントモード機能を有し、前者は写真のような性質を持つ資料、後者は文字をはっきりと見せたいような資料に使用する。今回は、ページの内容によって2つのモードを使い分けた。 図6 スキャニングツール 本番スキャンの前には、簡易スキャニングを行い、 プレビュー表示を見ながら実際に取达む範囲指定や画質の設定を行う。これらの設定で、とくに注意したい点は画像解像度である。解像度の数値が高いほど高精細な画像を作成できるが、画像の取り迄みに要する時間とデータサイズが大きくなる。そのため、よほど細かい文字や図像を対象にしない限りはA4サイズの資料では 350 400dpi 程度で良いだ万う。参考までに、本機で A4 サイズ 48bit カラー720dpi の設定でスキャニングした場合は、1 ページあたり 10 分程度、600dpi の場合は 5 分程度かかった。 スキャニング時の色深度(bit)の設定。スキャナー が48bit の読み取りに対応している場合は、48bit 力ラーでスキャニングする。一般的な PC モニタが表現できる色は $24 \mathrm{bit}$ カラーのため、48bit カラーで取り达んだ画像を PC モニタ上で見ても違いを見ることはできないが、データとしては 2 倍の情報量を持つため、画像の編集や加工の際に高品質な画像データを作成できるという利点がある。 画像の保存形式は、非圧縮画像形式のTIFF を選択する。JPEGや PNG は、画像データが持つ情報を少な くすることで、データサイズを小さく(圧縮)する仕組みである。つまり、画像情報が失われているということはその分画質が低いと言うことである。画像を扱うデジタルアーカイブでは、基本的に保存用のデータをTIFF 作成L、Web 閲覧等のデータは TIFF から JPEG データを生成して使用する。 ## 2.6 画像データの編集と変換 スキャニング後は、画像編集ソフトウェアで画質や傾き等を調整する。使用するソフトウェアは Adobe 社の Photoshop が定番だが、最近では無償のソフトウェア (例えば、Photopea や GIMP 等) でも十分利用できる。 Adobe 製ソフトウェアの導入が難しい場合は、このような代替ソフトウェアの使用を検討しても良いだろう。編集した画像をWeb 等の閲覧用にしたい場合、 TIFF 画像から生成したデータサイズが小さい JPEG データを用いる(IIIF サーバを用いてピラミッド型 TIFF 画像を公開する場合はこの限りではない[1])。 JPEG に変換が必要な画像が大量にある場合は、 1 点毎にサイズ変更をするのではなく、サイズと画像形式を一括変換してくれるソフトウェアを利用すると良い (例えば、XnConvert や画像一括変換君など)。もし、 Photoshop が利用できる場合は、バッチ処理を設定することで画質の調整からトリミング、サイズ変換、他形式での画像書出し等の複数処理を自動化できる。 そして、画像データ編集後は、画像 1 点毎または画像セットに対してメタデータを付与する。メタデータの管理は、CSVデータで扱えるように Microsoft EXCEL やGoogle スプレッドシートを用いると良いだろう。 ## 2.7 デジタルデータの保存と公開 画像編集やメタデータの作成が完了したデー夕は、保存用、閲覧用共に作業用の PCに保存するのではなく、専用のネットワーク型ストレージやファイルサー バに保存する。加えて、恒久的な保存用データは、ブルーレイディスクや磁気テープなど、ハードディスクやソリッドステートドライブのような電気的な駆動軸を持たないデータ記録媒体に保管しておくことが望ましい(本学では保存用データにはLTO テープを使用している)。 作成した画像データの公開は、既に組織の Web サ イトや画像データベースがある場合は、それらを使用する。Webサイトはないが、画像デー夕を公開したい場合には、Wikimedia Commons等の無償の Webサー ビスの利用を検討してもいいだろう。Wikimedia Commonsを使用したデー夕の公開は別途、参考文献を参照いただきたい[2]。 ## 3. おわりに 本稿では、フラットベッドスキャナを使用して、なるべく平易な方法で文書資料をデジタル化し、Web 公開する例を紹介した。今回のパンフレットのデジタル化で要した時間は、スキャニング 90 分、画像編集 30 分、管理情報の作成 15 分、Web 公開 40 分であった。 スキャニングをより高速化、単純化したい場合は、才フィス向け複合機を利用する方法もあるが、品質上、対象資料やデータの利用目的が限られる(大量のメモやアンケート用紙、権利承諾書をデータ保存したい等の目的には効果的)。 文書資料のデジタル画像は、Webを介して現物に近い形で閲覧、情報を得られることに利点がある。倉庫の奥に保管されている資料も、デジタルアーカイブとして公開することで思わぬ利用方法の発見や資料の存在を世界的に知らしめることで価値の向上につながる可能性も考えられる。本記事が多少なりともデジタルアーカイブの活動に役立てば幸いである。 ## 註・参考文献 [1] 永崎研宣. 国際的な画像共有の朹組み IIIF の課題と展望. デジタルアーカイブ学会誌 2018, Vol. 2, No. 2, p.111-114. [2] 嘉村哲郎. Wikimedia Commonsを利用したデジタルアーカイブ公開の試み:東京藝術大学音楽学部大学史史料室所蔵史料を例に. デジタルアーカイブ学会誌, 2020, Vol. 4, No. 2, p.150-153. [3] 柳与志夫(編). 入門デジタルアーカイブまなぶ・つくる・つかう.勉誠出版, 2017, p. 200 [4] デジタル化をより本格的に行いたい場合や、専門企業へ外注する場合に求められる知識は下記文献を参照されたい。東京国立近代美術館フィルムセンター. 映画関連資料デジタル化の手引. https://www.nfaj.go.jp/wp-content/uploads/sites/ 5/2018/04/nfc_siryoudigital20171.pdf (参照 2021-02-10). [5] 本稿でスキャニングした画像は、下記のサイトで公開している(藝祭パンフレット1994年は項番48)。藝祭パンフレット:http://archive.geidai.ac.jp/7389 (参照 2021-02-10).
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# # # 第 4 回研究大会 第 4 回研究大会は 2020 年 4 月 25 日 (土) 〜 26 日 ( 日 )に一橋講堂にて開催を予定していたが、新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、実質的な延期となり、予定していたプログラムは第 5 回研究大会で実施することとなった。予定されていた一般発表については、予稿集 (「デジタ ルアーカイブ学会誌第 4 巻第 2 号、オンライン ) の発行をもって発表したものとみなすことと した。 ## ・スピンオフ研究発表会 第 4 回研究大会で発表を予定していた一般発表のうち、希望した 16 件について、2020 年 7 月 5 日オンライン (Zoom) による発表会を実施した。 ## 第 5 回研究大会 第 5 回研究大会は 2020 年 10 月 17 日 (土) 〜 18 日 (日) に東京大学において開催を予定していたが、新型コロナウィルス感染症が終息しないため、オンライン (Zoom) で下記のとおり実施した。特別講演とシンポジウムは中止となった。学会賞授賞式は第6回研究大会に延期された。 $\Delta$ 日時 2020 年 10 月 17 日 (土) - 18 日 ( 日) なお「サテライト・ワークショップ」を 2020 年 10 月 10 日、16 日、24 日に実施した。 $\Delta$ 開催方式 オンライン $($ Zoom) $\checkmark$ 主催 デジタルアーカイブ学会 協賛 デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) 一般財団法人デジタル文化財創出機構 株式会社 KADOKAWA 株式会社出版デジタル機構 一般財団法人日本児童教育振興財団 集英社 $\checkmark$ 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、情報知識学会、情報保存研究会、 情報メディア学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、東京文化資源会議、 日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、日本出版学会、 日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 $\cdot$プログラム ・ワークショップ (1) $8 \mathrm{~mm}$ 動的映像のもつ資料価値を採掘する: その現状と展望 $(2020 / 10 / 17)$ (2) 肖像権ガイドライン実証実験の報告と今後の展開 $(2020 / 10 / 18)$ (3) デジタルアーカイブ論構築 (2020/10/10) (4) アートシーンのデータ流通とコンテンツ活用 $(2020 / 10 / 16)$ (5) 自然史・理工系デジタルアーカイブの現状と課題 $(2020 / 10 / 16)$ (6) デジタルデータの保存・管理一現場視点からの共有課題を考える $(2020 / 10 / 24)$ ・一般発表 (予稿は「デジタルアーカイブ学会誌」第 4 巻 S1 号で公開 ) $(2020 / 10 / 17,18)$ ・製品・サービス紹介 $(2020 / 10 / 17,18)$ $\cdot$学会活動紹介と懇談 (2020/10/17) ## 実行委員会 委員長柳与志夫 (東京大学大学院情報学環) 委員 大向一輝 (東京大学大学院人文社会系研究科) 北本朝展 (国立情報学研究所) 柴野京子 (上智大学) 鈴木親彦 (国立情報学研究所) 高野明彦 (国立情報学研究所) 時実象一 (東京大学大学院情報学環) 中西智範 (早稲田大学坪内博士記念演劇博物館) 中村覚 (東京大学情報基盤センター) 橋本雄太 ( 国立歴史民俗博物館 ) 原田隆史 (同志社大学大学院総合政策科学研究科) 福島幸宏 (東京大学大学院情報学環) 製品・サービス紹介発表者 TRC-ADEAC 株式会社 ソニービジネスソリューション株式会社 株式会社堀内カラー ワイリー・パブリッシング・ジャパン株式会社 勉誠出版株式会社 チーム Cultural Japan 国立情報学研究所高野研究室 立命館大学アート・リサーチセンター 国際共同利用共同研究拠点 国立国会図書館
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# デジタル記録とオンラインを活用 した伝統技術の継承と復元製作 Restoration of traditional techniques using digital archive and online, and its inheritance 金城 弥生 KINJO Yayoi 日本織物文化サロン } 抄録:2001 年より 20 年近く、機道具や機織りに関する調査と復元製作、特に竹筬の製作と、苧麻や大麻などの繊維を糸にし、機 で織る活動を続けている。その中で、文献調査、実測調査、そして様々な職人や技術者から聞き取りを実施し、そのデータや映像 をアーカイブとして保存し、伝承する活動を行ってきた。2020 年には COVID19の影響のため、従来の伝達方法以外の仕方を考え る必要もでてきた。ここでは、今までに行ってきたデータ収集とアーカイブ製作、さらに蓄積してきたデータの管理および活用方法とオンラインを利用した技術伝承について、「伝統技術に携わる当事者」の視点より具体的な例をあげ、述べている。 Abstract: For nearly 20 years since 2001, we have been conducting research and restoring traditional weaving tools and looms, especially restoring bamboo reeds, spinning bast fibers of ramie and hemp, and weaving them. We have conducted literature surveys, measurement survey and interviews with traditional craftsmen to create digital archive of such data and images for next generations. In 2020, due to COVID-19, we started online lectures instead of face-to-face method. This paper discusses, with examples, collecting data, creating digital archive, managing and utilizing such archive via online, from the perspective of "the parties involved in traditional techniques". キーワード:技術の継承、民俗文化財、デジタルアーカイブ、竹筬、職人の技術、リモート、オンライン Keywords: digital archives, inheritance, restoration, techniques, craftsman, folklore, remote online ## 1. はじめに 伝統技術や地域芸能の継承には長く口伝や口承などの方法が取られてきたが、継承者の減少や継承する若い世代の生活の多様化などから、新しい手法やデジタル技術の活用が求められるようになった。この論考では、雇用されたアーキビストなど「第三者によるデジタル記録や活用」ではなく、職人や技術者といった 「技術継承の当事者」が、口伝と共に、デジタルデー 夕を活用しながら技術を継承する方法や課題について、3つの具体的な例を挙げ述べたい。 ## 2. 竹筬復元製作とアーカイブ製作の過程 ## 2.1 竹筬の役割と現状 䇘筬の復元製作やアーカイブ化にあたった手法や経緯についてはデジタルアーカイブ学会誌 2018, vol. 2, no. 2 に報告済みのため省略するが、竹筬とは、古来より織物の幅と経糸の密度を保持する重要な道具として使用されてきた[1]。近代に入り、竹筬に代わってステンレスやアルミ製の「金筬」が主流となっているが、「静電気が発生する」「織り上がった布帛の風合いが異 なる」などの理由から、特に伝統織物に携わる人の間では今でも竹筬が好まれ使用されている。 図1 復元製作した竹筬 ## 2.2 アーカイブ研究を始めた経緯 復元製作を開始するにあたって、主に(1)文献調査、 (2)実測調査、(3)聞き取り調査を実施した。これらの調查、特に高齢の職人の体験談や聞き取りを行ううちに、「貴重な技術や経験をもつ職人がいることを、その地域や公的機関、後世にも残寸必要があるのではないか、 そのためには質の高い記録が必要である」と感じるよ 図2 筬羽作りの記録風景 うになり、2011 年から本格的にデジタルアーカイブの研究を開始した。 ## 2.3 聞き取り調査の課題と工夫 聞き取りや映像記録を全て一人で行うことも多い。音声を録音し、三脚を立てて動画を記録し、写真を撮影しながら職人や家族と円滑にコミュニケーションをとることは慣孔ないと意外と難しい。事前に十分な準備を行い、何度か訪問して信頼関係を築くなど、丁寧なアプローチが必要である。方言がある東北や九州の高齢の職人を訪ねたときには、地元の博物館や資料館に相談し学芸員やボランティアの同行を戴き、聞き取りが円滑に進むように協力を得ることもあった。 ## 3. 高齢の機織り職人への聞き取りと作業の再現 ## 3.1 本名オマキ氏との出会い 2001 年から 20 年の間に多くの先輩方から様々な技術について学ぶ機会があったが、本名オマキ氏からは機織りの技術と心構えについて多くを教わった。福島県会津地方の昭和村は、古くから蒡棈(からむし)の産地として知られ、その繊維は越後上布など高級織物の原料として使われている。この村で長く機織りに携わる本名氏は若い頃から苧麻や大麻などの緎維植物を栽培して刈り取り、糸を作って機を織る一連の作業を続けてきた。90 歳を越える今も現役で糸を作り続けている。 ## 3.2 聞き取り作業と作業再現への経緯 筆者が本名氏と初めて出会った 2003 年以降、数年に一度はこの村を訪ね、機織りの技術や工程について教わってきた。本名氏によると、戦後は布を織ると飛ぶように売れたといい、生活のために機織りをしてきたという今では貴重な職人である。しかし 80 歳を過 ぎる頃から、機に座る機会が減り、作業場の道具も片付けられていたため、筆者が本名氏から直接学ぶのは糸作りにとどまり、他の工程については口頭伝承のみであった。しかし機織りの技術を口承だで理解することは容易ではない。そこで 2018 年夏、本名氏やご家族の了解を得て、長く使われていなかった作業場を片付け、織機や道具を準備して機織りの全工程を教わる機会を持つことにした。詳細は筆者が所属する日本織物文化研究会(現在は日本織物文化サロン)の会誌「はた」第 23 号を参照戴きたい[2]。 本名氏が長く携わってきた「地機 (癸科腰機)」を使用して麻を織る工程は、すでに筆者も経験していたため全体の流れは掴んでいた。しかしそれを「製品として仕上げる力」「まとめ上げる力」はまだまだ十分ではなく、高度な技術を習得する機会となった。 図3 筆者に指導する本名氏(動画より) ## 3.3 高齢の職人への調査の考慮点 高齢の職人からの聞き取りには、信頼関係と余裕を持った計画が必要である。そのため、準備期間を含め約 2ケ月間昭和村に滞在し、本名氏の体調に合わせて作業と記録を実施した。撮影は 1 日に $2 \sim 3$ 時間程度、本名氏の希望もあり、聞き取りと記録は 1 人で行った。若かった頃のようには身体が動かない本名氏の代わりに筆者が作業を行い、それを記録することもあった。撮影は三脚にデジタルカメラを設置し動画を記録すると共に、静止画も記録した。また音声の録音も行った。 ## 3.4 曖昧な情報を具体化する 本名氏に限らず職人の多くは「目分量」や「感覚」 で話をすることがある。「だいたいこのくらい」「この茶碗に一杯」などである。記録する際は具体的に数値化するなどして、映像の中に音声として情報を残すようにした。さらに機織りでは地域によって様々な単位が使われているため、例えば「1 尺」という寸法が曲 尺であるのか、䱎昆であるのか、「ひとヨミ」という数え方はいくつのことを指すのかなど、単位の情報を明確にすることも重要である。 ## 3.5 職人の作業リズムを尊重する 今回は 3 回撮影する機会があったため、 1 度目の撮影で全体像を把握し、2、3度目には撮影漏れがないようリストを作成して記録した。本名氏にとって 10 年以上ぶりに行う作業もあったが、身体が全ての工程を覚えているようで、淡々と進む作業ぺースに記録が追いつくのに必死であった。 本名氏が織機に座り、トントンとヨコ糸を打ち达み始めた時には、その音の軽さやテンポ、呼吸など、今まで話を聞かせて戴いていた何倍もの情報量と説得力を感じた。本名氏が機に座り、作業したのはほんの数分のことであったが、実際に職人の仕事を「体感する」大切さが身にしみた瞬間であった。 図4地機で布を織る本名氏(動画より) ## 3.6 機織り技術の次世代への継承 この調査では本人、そして家族の理解を得られたことも大きかった。「本気であること」「なぜ記録を残したいかを率直に伝えること」で、このような機会が実現することもあると知った。 2020 年暮れ、この論考を書くにあたり本名氏の承諾を得るべく電話で話をしたところ、「自分が伝えるべきことは全て(筆者に)伝えたつもりなので、是非、自分の技術を次の世代へ伝える役割を果たしてください」と快諾いただいた。筆者が記録した映像やデー夕を、昭和村または全国で機織りに従事する若い世代へ継承することが本名氏への恩返しであり、筆者の使命であるのかも知れない。 ## 4. オンラインを活用した技術の継承 \\ 4.1 糸作り技術の継承 昭和村で毎年 10 月から 6个月間行われる、昭和村からむし後継者育成協議会 (昭和村役場からむし振興室)主催の「系作り研修」の講師を 2019 年から担当している。昭和村の苧麻の繊維を手早く裂き、「营績み」 をして撚り繋ぐ作業である。昨年度は6ケ月の間に3 度、昭和村を訪問し、技術の伝達にあたった。 ところが 2020 年は状況が一変し、COVID19により県外からの入村に制限がされることとなり、オンラインにて研修を試みることになった。受講生は3人と多くはないが、手仕事の技術を画面越しにどれだけ正確に伝えられるのか、手探りの研修が始まった。 ## 4.2 環境作り まず、事務局の iPadを使用し、研修生全体の作業の様子を映して戴いた。しかし研修生の手元を確認するには各個人の斜め後万からの映像が必要であるため、カメラ用の三脚に iPad専用のホルダーを取り付け、角度を自在に変えることができるように準備戴いた。 $\mathrm{iPad} 1$ 台のみでは 3 人の研修生の細かい動作までは評価することができないため、研修生各自のスマートフォンを使って研修に参加してもらうことにした。筆者もiPad ホルダーやクリップ型のスタンドなどを準備し、用途によって使い分けている。また筆者は自宅からの参加であるため、家族の生活音が入らず、さらに両手を使いながら指導できるよう、ハンズフリーのヘッドセットも準備した。 ## 4.3 会議用アプリの利用 研修生が全員、研修室で受講できる場合は、全てが iOS の端末であるため、比較的通話が安定している FaceTimeを利用している。しかし自宅待機などで一部の研修生が自宅からの参加になる場合は、端末が Android の場合もあるので、その際はZoomを利用している。また自宅から参加する場合は Wi-Fi 環境がなく電話回線によることもあるため、その研修生の指導を先に行い長時間の接続を避けるよう配慮することもある。 ## 4.4 オンラインと動画の併用 職人が継承者に作業を見せる場合、説明をしながらゆっくりした動きで実演することがある。しかし、その職人が本来の早さで作業をしている姿を見せることも重要である。道具の準備や配置、姿勢、緊張感など、普段どおりの作業を伝達することにも大きな意味があ 図5 オンライン研修中のスクリーンショット る。研修中の画面越しでそれを見せることは容易ではないため、事前に最適のアングルで動画を撮影し、それを研修生たちに共有することもある。 また、研修生には定期的に自分の作業を録画し、自分の動きを確認することを勧めている。無駄に同じ作業を繰り返していないかなど、自分の姿を客観的に見て「気づき」を促す助けとなる。 ## 4.5 画面に映らない情報の共有 対面研修と違い、オンラインの場合は画面上で見ることができる情報と音声が全てである。ときには指導する側がカメラのアングルを変えるよう指示を出したり、どのように取り扱っているかを具体的に質問したりするなど、視野を広く指導にあたる必要がある。 ## 4.6 糸の品質チェック たとえ画面越しには順調に作業しているように見えても、研修生の成果品の品質チェックは不可欠である。基礎研修にあたる初めの2ケ月を終えた時点で受け取った糸の品質チェックを行い、その後も必要に応じて行っている。画面越しには見ることができなかった問題点や課題を見つけることができるため、それを具体的に伝えることで、研修生たちも理解が深まり、納得しやすいようである。 ## 4.7 コミュニケーションの重要性 対面指導の場合は、同じ部屋で作業をし、時には共に昼食を取り、話をすることでコミュニケーションをはかる機会がある。しかしオンラインの場合は、研修の時間が全てであるため、各研修生の経験や感性を感じ、その個人に合わせた指導や言葉使いが必要である。特にインターネット環境によっては、音声や映像が乱れることもあるので、質問や回答に誤解がないように丁寧な会話が求められる。また今回は、以前共に作業をしたことがある昭和村の友人が現場スタッフとして参加しているため、研修生には伝わりにくい达み入った内容は、彼女から伝達してもらうこともある。このスタッフの参加がなければ、今回のオンライン研修を実施すること自体にも躊著していたかも知れない。 ## 4.8 オンライン研修と対面研修の併用 オンラインのメリットも感じている。昨年度は6ケ月の間に 3 5 日間の対面研修を 3 度実施し、それ以外は研修生の日報を確認するに留まっていたが、現在は週に 1 度、 2 時間程度の研修を行っている。対面研修の場合、「その場を共有する」ことで伝えられる情報は沢山あるが、例えオンラインでも定期的に研修の機会をもつことは、より細やかな伝承が可能となる。予算の問題もあるが、来年度以降は対面とオンラインの併用で実施することも視野に入れたいと考え始めている。 ## 5. アーカイブの製作・活用とその課題 5.1 職人の技術の記録の意義 竹筬や機織りに限らず、職人や技術者はその技を 「見て覚える」よう弟子や後輩に指導することが多い。 しかし継承者が少なくなったいま、口伝や直接指導たけに頼ることには限界がある。一度途絶えてしまった技術を復活させることは容易ではない。積極的に記録を残しアーカイブ化することで、その技術が後世に残る可能性が高くなるように思う。 ## 5.2 データ管理と活用 現在はデー夕管理には Mac Book Proを使用し、プレゼンテーションや講座を行う際には、Keynote に情報をまとめ、iPad やiPhoneなどの端末と同期し利用している。技術者や職人にとってデータの管理や取り扱いに時間が掛かり過ぎることは、本来の仕事の時間が削られるという意味でもあるため、シンプルな環境作りがいいように思う。また、撮影した動画や静止画は記憶が新しいうちに整理し、撮影時の情報と共に外付けハードドライブに保管し、さらに別のハードドライブにもバックアップを作成している。特に重要なデータに関しては、調査ごとにDVDでも保管している。現在、静止画は RAW や JPEG などのファイルで保存しているが、今後は再現性が高い TIFF 形式での保存も検討している。 ## 5.3 歴史資料の活用 伝統的な技術の復元や再現を考えるとき、文献や絵図などの歴史資料を参考にすることも多くある。下の図は小千谷織物同業協同組合が所蔵する「縮布製造之真図」(明治 18 年帰山雲涯作) という絵巻物の一部のレプリカを筆者が撮影したもので、小千谷市総合産業会館サンプラザの展示室にパネル展示されていた (2019 年 3 月当時) [3]。苧麻を原料とする小千谷縮の製造工程の様子が詳細に描かれたこの絵図は、前章の糸作り研修の際、当時の製作環境や作業者の姿勢など、多くの情報を含む有効な資料として研修生に紹介した。近年では国立国会図書館や各研究機関のホームペー ジなどに様々な歴史資料がデジタルデータで公開されており、自宅に居ながらこれらの資料を入手することも容易になった。特に解像度が高いデジタル画像などは拡大して細部まで確認することができるため、当時の技術の理解に非常に効果的である。 図6「縮布製造之真図」苧績みの場面(展示パネルの写し) ## 5.4 技術者によるアーカイブの保管の課題 技術者または職人が製作、または公開したSNSの情報を含むデータを、誰が何処に保存するかは大きな課題である。博物館や資料館、図書館などの公共施設が保管する可能性はあるのか。第三者が見て理解できるレベルの技術的な記録とアーカイブ化を、技術者本人が作成することが可能であるのか。これらについては地域のアーキビストや学芸員などが積極的に支援する必要があるように思う。 ## 5.5 人から人へ(点と点を線に) これまで長く調査を続けることで、自分が必要とす る情報が少しずつ集まってきていることを実感している。そしてそれは人との繋がりによるものが大きい。 デジタルアーカイブの分野で取り扱うのは「データ」 であるが、これらは「人」によるものである。そのデー 夕が存在する背景や歴史を知り、収集した情報を責任感と情熱を持って取り扱うことで、いくつかの「点」 であった情報を「線」へと繋ぎ残していく可能性が出てくる。 ## 6. おわりに 国認定選定保存技術保持者(本瓦茸)、故山本清一氏の古代瓦の復元活動をきっかけに、筆者は機道具や機織りの活動に参加した。古代瓦の復元製作に使用する麻布の製織が目的であった。2018 年に山本氏が亡くなるまで、工房へ通って指導を仰ぎ、復元の可能性を探った。1932 年(昭和 7 年)生まれの山本氏は姫路城の屋根修復、唐招提寺金堂の鴟尾の復元など、様々な実績を遺した職人である。彼の著書「めざすは飛鳥の千年瓦」の最後に「一代欠けたら繋がるもんも繋がらんようになってしまう。いつでも余裕ができたときにすればいいでは間にあわんこともあるのや」「いまなら、まだ探せばそういうことを知っている人がおるんやから、わかるうちに教え、残さなあかんわけです。」と書いている[4]。分野は違っても、ものづくりに携わる職人の心構えと「覚悟」のようなものを教えて戴いた山本清一氏、そして機織りの師匠、本名オマキ氏のそれぞれの言葉を胸に、伝統技術の継承について、デジタルデータの活用も含め様々な角度から研究と精査を続け、後世に繋いで行きたい。 ## 参考文献 [1] 金城弥生, 伝統技術継承者によるデジタルアーカイブ化の実例と課題. デジタルアーカイブ学会誌 2018, vol. 2, no. 2, p.32-35. [2] 金城弥生,「からむしの里昭和村」にみる麻栽培と麻織りの技術ーデジタルアーキビストの視点から見た会津地方の麻文化とその記録一.日本織物文化研究会会誌「はた」第 23 号, 2018, p.46-54. [3] 帰山雲涯, 縮布製造之真図. 小千谷織物同業協同組合所蔵. 1885 (明治18) [4] 山本清一, めざすは飛鳥の千年瓦. 草思社. 2006, p.263-276.
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# 多様な分野からデジタル化を学ぶ ## Learn digitization from a variety of fields \begin{abstract} 抄録:デジタルアーカイブの対象は当初の博物館、図書館、文書館の文化遺産を中心とした資料から、大学、国・自治体の行政資料、企業の産業資源へと広がった。デジタルアーカイブが扱うメディアも、静止画、動画、音声、テキストから、数値、3D 計測デー 夕など $\mathrm{AI}$ やデータサイエンスに活用できるものに広がっている。一方、誰がデータを提供し、誰がデジタル化を行うか、デジタル化機器・技術の向上への対応など対象への多様なアプローチによるデジタル化が、データの質と利用価値の向上させる可能性がある。そのため、多様な分野からデジタル化を学ぶことは、デジタルアーカイブ開発と発展にとって極めて重要な要素になるではなかろうか。 Abstract: The scope of digital archives has expanded from the original materials centered on the cultural heritage of museums, libraries, and archives to the administrative materials of universities, national and local governments, and the industrial resources of companies. The media handled by digital archives are expanding from still images, videos, sounds, and texts to those that can be used for $\mathrm{AI}$ and data science, such as numerical values and 3D measurement data. On the other hand, digitization through various approaches to the target, such as who provides the data, who digitizes it, and how to respond to the improvement of digitizing equipment and technology, may improve the quality and utility value of the data. Therefore, learning digitization from various fields may be an extremely important factor for the development and development of digital archives. \end{abstract} キーワード : デジタルアーカイブ、デジタル化、メディア、分野横断型統合ポータル Keywords: Digital archive, digitization, media, cross-disciplinary integrated portal ## 1. はじめに デジタルアーカイブの対象分野は当初の博物館、図書館、文書館の対象とする有形・無形の文化遺産から、大学のアカデミックデータ、国・自治体の行政資料、企業の産業資源へと広がった。デジタルアーカイブが扱うメディアも、所蔵資料の撮影・スキャニング・ $3 \mathrm{D}$ 計測、無形の口頭伝承・証言・オーラルヒストリ、産業遺産、自然景観の取材、生物・鉱物・天文・気象の観察、過去のアナログ資料など静止画、動画、音声、 テキスト、数値、3D 計測データなどに広がっており、多様な分野で新たな知見のデジタル化が蓄積されている。それらの知見を共有し、新たなデジタル化によって生まれたデータから意思決定やイノベーションのヒントを得ることが可能では無からうか。 ## 2. 対象へのアプローチー誰がデータを提供し、誰がデジタル化を行うか? $?$ デジタルアーカイブ開発に伴うデジタル化は、これまで資料を所有する文書館、博物館、図書館、大学など専門職種、言わば第 3 者が担い、大量のデー夕提供を実現していた。しかし、神奈川県立生命の星地球博物館と国立科学博物館が運用している「魚類写真デー タベース」[1]は、博物館や大学だけでなく多くの市民 が提供した映像を核にしたデジタルアーカイブであり、シチズンサイエンスとして実現している。同様に、「みんなでつくる横濱写真アルバムー市民が記録した 150 年」[2] も市民からの写真提供によって構築されている。 一方、伝統的工芸や文化財修復、修復や産業技術分野で後継者を育成する小規模なデジタルアーカイブを開発するためには、匠の技による製造技術・プロセス管理などの暗黙知をデジタル化する、当事者、現場の技術者によるツボを押さえた撮影方法による記録が不可欠である。このアプローチについては、機織りに使用する竹筬の技術継承者である金城氏の論考を参照されたい。 さらに、COVID-19蔓延により、ロックダウンした博物館が教育機能を果すために、国立科学博物館など多くの博物館学芸員・研究者が骨格標本の作成方法、植物の観察方法、標本の樹脂封入方法などのコンテンツを大量に作り YouTube で公開している[3]。このコンテンツは、学校や一般だけでなく博物館関係者からも活用されていることは注目に値する。このような市民を主体としたデータ提供や小規模デジタルアーカイブの充実が、所在情報・概要を提供する分野横断型統合ポータルとしての大規模デジタルアーカイブと連携す ることによって、デジタルアーカイブ活用の拡大、質の向上をもたらすのではないだろうか。 ## 3. 対象とメディア ## 3.1 デジタルアーカイブの対象とする情報 1990 年代から始まったデジタルアーカイブ開発は、絵画、仏像、文献、標本など文化遺産、無形文化財等の現物の撮影、取材が主な対象であった。しかし、高度情報化社会がさらに進展しており、継承・活用すべき対象は多様化している。現状では、これまでの実物や体験だけでなく、証言、口承 (歴史証言、オーラルヒストリー・エスノグラフィー)、印刷物・紙資料 (古文書、写真を含め $2 \mathrm{D}$ 資料)、通信(インターネット、 テレビ、ラジオ)、ボーンデジタル資料の5つを対象とすべきであろう。これらの対象を情報源として、動画、静止画、テキスト、音声、数値などのメディアによりデジタルデータを作成し、統合的に蓄積し、検索により利用者の求めに応じて多様なメディアで提供することがデジタルアーカイブ特色といえる。古文書等の紙資料のデジタル化については福島氏の論考、大学に保存された紙資料のデジタル化については嘉村氏の論考を参照されたい。 ## 3.2 メディアの多様化 従来、資料(情報)は固定したメデイアで取り扱われてきた。例えば、図書は印刷メディアに固定され、画像はフィルムや印画紙に固定され、音は楽譜やテー プ・CD・DVDに固定される。そしてどのメディアに固定するかはもっぱら資料 (情報) 提供者が選んできた。 デジタルアーカイブにおいては、多様なメディアを統合的にハンドリングできることが可能であり、利用者の求めに応じて提供できる可能性がある。さらに、読み上げソフトや $3 \mathrm{D}$ データによる VR $3 \mathrm{D}$ プリンター出力など、入力メディアと出力メディアを独立に扱うことでアクセシビリティやユーザビリティを向上させ、障害者差別解消法 [4] に対応したユニバーサルデザインを実現することが必要である。 学習教材デジタルアーカイブの場合、学年、普通学級、特別支援学級に応じて授業の方法を検討し、学習者の状態、特性に適したメディア教材をデジタルアー カイブから選択・加工し提供できるようにすることができる。例えば、プロセス・流れを理解させるのであれば動画、詳細な状況を見せるのであれば静止画、プロセスを形式知として理解を深めるのであればテキスト、利用するデバイスに制限があればテキストをプリント、音声読み上げを実現するなど、教材を多様なメ ディアを組み合わせて提供することが求められる。 ## 4. デジタル化機器・技術の向上への対応 \\ 4.1 機器・ソフトウェア デジタル化機器の向上では、2000万画素以上の高精細撮影が可能なフルサイズミラーレスカメラ、文化財を傷つける可能性が低い非接触型スキャナーの利用が進んでいる。ソフトウェアの視点からは、マクロ撮影では全体にピントを合わせるのが不可能なため、被写界深度合成ソフトやPhotoshop による合成が広がっている。3D 化は、国土地理院が提供する $3 \mathrm{D}$ データによる 3D プリンター出力もあるが、VR のためのレー ザースキャナーによる高精度 3D 計測やより簡易な多数の写真から $3 \mathrm{D}$ を作成する簡易版のフォトグラメトリの活用も広がっている。3DF Zephyr(無料版有り) のフォトグラメトリソフトは静止画だけで無く、ドローンからの動画も取り达めることから今後、利用が進む可能性がある。VRであるかの疑義はあるが、 360 度 VRパノラマ撮影によるパノラマビューの提供なども、コロナ禍の展示場やイベント会場の雾囲気を伝えるため利用が進んでいる。 ## 4.2 メタデータの取得 画像ファイルのためのメタデータとして世界の多くの大手メディアが策定した International Press Telecommunications Council (IPTC) ヘッダーがある。一方、 Exchangeable image file format (Exif) ${ }^{[5]}$ は、撮影日時、位置情報(ジオタグ、GPS 付き)、撮影方向(電子コンパス付き)、撮影機器などメタデータを含む画像ファイルフォーマットである。デジタルカメラの画像の保存に一般的に使われており、特に、動植物などの生物多様性情報にあっては、標本採集、目撃時の撮影の際、自動的に獲得できる重要なメタデータである。博物館のデジタル化にあっては技術、特にメタデータの適切かつスムーズな獲得が求められる。さらに、内容分類など各分野内で利用されるメタデータを標準化しスムーズなインデキシングを可能すること、それをオープンデータ化し分野横断型統合ポータルで利用できるようにすることが、検索効率を向上させデータの活用を促進する。 ## 5. おわりに デジタルアーカイブの対象分野、対象メディアが広がっている。さらに、分野横断型統合ポータルの進展に伴い、分野を超えてメタデータを標準化し公開するとともに、多様な分野からデジタル化の技術を学び活 用することによって提供データの質、利用価值の向上を図ることが、デジタルアーカイブ開発と発展にとって極めて重要な要素になるではなかろうか。 ## 註・参考文献 [1] 魚類写真データベース. https://www.kahaku.go.jp/research/db/zoology/photoDB/ (参照 2020-12-23). [2] みんなでつくる横濱写真アルバム - 市民が記録した 150 年. http://www.yokohama-album.jp/ (参照 2020-12-23). [3] 国立科学博物館「かはくチャンネル」. https://www.youtube.com/user/NMNSTOKYO/featured (参照 2020-12-23). [4] 障害者差別解消法、正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、2016年(平成28年)4月1日から施行 [5] Exchangeable image file format(Exif)は、1994年に富士フィルムが開発し、当時の日本電子工業振興協会(JEIDA)で規格化された。
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# ラウンドテーブル「デジタル公共文書 を考える一公文書・団体文書を真に 公共財にするために一」参加報告(2) Report on the Round Table: Digital Public Documents (2) ## 1. はじめに 本企画は、デジタルアーカイブ論の視点から「デジタル公共文書」という概念の意義とその展開の可能性を考える出発点としての議論をするために開催された。はじめに柳与志夫氏(東京大学)から趣旨説明、次に御厨貴氏 (東京大学名誉教授) から基調講演があった。 ## 2. 話題提供 生貝直人氏(東洋大学)は、「デジタル公共文書はどのような要件として設定できるか」をテーマに、加藤諭氏(東北大学)は、「その明示的決定・管理プロセスは構築可能か」をテーマに、林和弘氏(科学技術・学術政策研究所)は、「それを最大限社会的に利活用できる仕組みをどのように保障するか」をテーマに、それぞれ話題提供を行った。その中で林氏が提起された『監視から協働へ』は、今後重要なキーワードとなろう。 ## 3. ラウンドテーブル 「社会インフラとしてのデジタル公共文書」をテー マに討議が行われた。 司会の吉見俊哉氏 (東京大学) からは「日本社会の中での権力をめぐる信頼・公開・統治の問題」、「巨大デジタルデータ社会の中で、公共文書の意味合いが変わってきているという問題」この二つを同時に考えねばならないとの意見が述べられた。 次に、長坂俊成氏(立教大学)から「災害記録の公共性」、福島幸宏氏(東京大学)から「MLA と公共文書」、三木由希子氏(情報公開クリアリングハウス) から「公文書問題の現在」山川道子氏(プロダクション IG)功「公文書問題の現在」、山本唯人氏(法政大学大原社会問題研究所)から「コミュニティと公共文書」をテーマに発言があった。 続いて「どこまでがデジタル公共文書か」「公と私の境界線」「政治過程のアカウンタビリティー」「どう補捉していくのか」「その持続可能性」「デジタル公共文書と名付けることによって可能になること」などの議論がなされたが、以下私が注目した意見を要約、引用し感想を述べたい。 「公共文書といった時には、かなり網かけを広くしなければ(御厨氏)」「公共に役に立つデー夕は基本的にデジタル公共文書である (生貝氏)」これらが基本的な考え方と捉える。また、「アクセス先が桁違いに増えたため、紙の文書時代よりリスクマネジメントがなされている(林氏)」ことは常に留意すべきだろう。 公文書管理や情報公開の議論では「政府自治体と有権者が健全な緊張関係を持つべき (三木氏)」という点に尽きるのかもしれないが、公共文書の議論の場合は、「その考え方から切り離して概念や定義を整理すべき(三木氏)」かもしれないし、「殊更に緊張関係をいうのではなく(御厨氏)」という視点は大事であろう。 そして、「文書を残した組織や公務員に一種の敬意や、社会としてプロテクトすること(福島氏)」も重要であり、「『協働』と言う言葉が今日の議論を貫くキーワードであろう(吉見氏)」にも大きく領ける。 具体論として、「『ログを取る』がデジタル時代の一つの論点(林氏)」という意見から、「情報を削除するコスト (山川氏)」と「公開のコスト (加藤氏)」へ繋がる議論は興味染かった。また、「デジタルなら社会の権威と良識が格付けしているセレクションなどを乗り越えられる」「利用ログが、メタデー夕になり、文脈を与えていく」という長坂氏の意見には、「公文書や私文書を使って我々は『歴史を作り文脈を作るのだ』」という御厨氏の締めの言葉と共に希望を感じた。 (株式会社世界文化ホールディングス佐藤竜一郎)
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# ラウンドテーブル「デジタル公共文書 を考える一公文書・団体文晝を真に 公共財にするために一」参加報告(1) Report on the Round Table: Digital Public Documents (1) $\begin{aligned} \text { 主催 }= & \text { 東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテ } \\ & \text { ンツ研究寄付講座 }\end{aligned}$ 社会の隅々にデジタルが浸透し、社会構造にも影響 が現れ始めた。公文書などの記録を根底から見直し、新たな意味合いを考える必要がある。本ラウンドテー ブルで御厨貴東京大学名誉教授は、「ガバナンスにお けるデジタル公文書の意義」と題して基調講演。ツ イッターなどを多用して独自に情報発信し、フェイク も厭わなかったトランプ政権、公文書の歪曲・ねつ 造・隠蔽で批判を浴びた安倍政権はともに、どんな記録を残せるのか大きな問題を抱えているとした。現在 のような官邸集中の政治的仕組みでは記録が残らな い。口述記録を含めて多様な形の記録を組み合わせて 残す必要がある。またデジタル情報は情報伝達には有用でも、書き換えが容易なため記録として残すには考慮すべき課題がある一などと指摘、総体としてどこま でを公文書と考えるべきかと問題提起した。 十全な公共政策には、公共性の高い民間のデー夕 (記録)の活用が欠かせない。対応に後れる日本では 今後、法的にどう規定していくかが重要と、池貝直人氏 (東洋大学) は指摘した。また加藤諭氏 (東北大学) は、日本の公文書管理は紙ベースがほとんどで、デジ タルで作成する管理簿との紐づけが想定されていない 問題を取り上げた。一方、ネットの普及で市民の側に 変容が起きており、技術・知識・知恵のある市民が公共デー夕を活用する機会が増えるなど「デー夕活用の 時代に入った」と、林和弘氏(科学技術・学術政策研究所)は表現した。 司会の吉見俊哉氏(東京大学)は、デジタル化で公文書の意味合いが変わっていくなか、ガバナンスの責任とともに、膨大なデータのなかで生活が営まれる状況を同時に考えていく必要があると指摘。防災研究の 長坂俊成氏(立教大学)は、救済作業においても引き 継ぎの概念が希薄な現状を問題視した。記録なくして 引き継ぎはできず、危機管理にも引き継ぎの発想が不可欠と説いた。公文書に対する意識が薄い日本で、デ ジタルをテコに意識変革を促すには、既存の文化施設、特に図書館がその役割を担えると福島幸宏氏(東京大学)は考える。三木由希子氏(情報公開クリアリング ハウス)は、公文書は政治プロセスの結果であり、政府活動の質、説明責任に対する基本姿勢を抜きに公文書問題だけを論じても無意味と断じた。山本唯人氏 (法政大学)は、環境など社会的な問題の政策決定に 民間文書が果たす役割はあると強調した。 「市民(有権者)は政治権力と健全な緊張関係を持 つべき」とする三木氏の指摘は、それを推し進めたも のと言える。人口が減少するなかで解決すべき社会的課題が高度化、複雑化する近未来では、国民と政府の 関係は、従来の敵対・監視する関係から緊張関係のあ る「協働の関係」へと変化していく可能性をパネリス トの多くが指摘した。その前提として、山川道子氏 (プロダクション IG)は大量の高速デー夕通信が可能 になる $5 \mathrm{G}$ の普及を背景に、コンピューターが動作す る度に必ず記録される $(\log$ とる) ことで記録の真正性は担保できるようになるとした。一方で市民の側 も、御厨氏が言う『公共政策や公文書を高みに置かな い』発想が必要なようだ。 吉見氏は、「公文書から公共文書という風に(思考 の枓を) 広げることによって協働の可能性を探るとい う方向に議論は収歛していったように思う」と締めく くった。その可能性に期待したい。 (松岡 資明)
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# 基調講演「ガバナンスにおける デジタル公共文書の意義」 ## The Significance of Digital Public Documents in Governance 本記事は東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座が 2021 年 1 月 12 日に開催したラウンドテーブル「デジタル公共文書を考えるー公文書・団体文書を真に公共財にするために一」の基調講演を文字起こししたものである。(デジタルアーカイブ学会誌編集部) ## 1.トランプ政治と安倍政治 御厨です。本日は 30 分、基調講演ということで、私が経験してきたことを含めてお話をしたいと思います。最初は、一つ表題に掲げるならば、トランプ政治と安倍政治ということで入口の打話をします。 トランプ政治とは何か。今や終わろうとしているのですが、私、これから大変だらうなと思っています。何が大変かといいますと、大統領は一般に辞めた後、 その期間にいろいろなことをやったその書類とか、当然そこに公共の文書が入るわけですが、そういうものをきちんと整理をして、大統領図書館を作ることになっています。時間はかかるのですが。トランプさんの場合、一体この大統領図書館というものが本当にできるのでしょうか。まだまだ彼はこれから第 2 回目、 つまり、もう一度大統領選に出るという話もしています。そもそもトランプ政治というのはフェイクの政治であった、つまり、いろい万なことを言っているのですがどうも嘘が多い、という中で、では嘘の公文書をどれたけ残していくのか。本当の公文書というのは一体何か。そこで嘘と本当というのを分けることができるのか。いや、フェイクなのだけどしかし実際にやったことなのだから、これはそのまま文書になりますよね、ということで入っていくのか。その辺の整理が、恐らく大変だろうなと思います。特にツイッターの問題があります。彼はずいぶん多くのツイートを流していますので、このツイッターをどのように残していくのか。何が残すに值するのかということが、かなり問題になるのではないかと考えられるわけです。 そして、このトランプ政治と対になるものとして、安倍政治というものがあります。この安倍政権も、一応去年(2020 年)の秋に終わったわけですが、そうすると安倍さんの 7 年 8 か月、そして安倍さんはその前もやっていますから合わせて 8 年 8 か月の政権のやったことをどうやって残していくのだ万うか。普通に考えれば、公文書館がありますから、公文書館に順次その時の資料が入っていくと考えられるわけですが、安倍政権の場合は、いわゆる公文書の偽造の問題というのが、政権の後半、ずっと問題になったわけです。前半に関しても、どれほどの公文書が残っているのか甚だ不安である、非常に問題であろうと思うわけです。ですからトランプ政治と安倍政治は、いずれも公文書自体の問題、そして公文書と私の文書をどのように分けるのかという難しい問題があり、それを含めてどういうふうに残していくのか。特に、最近の国立公文書館は、紙類のみならず、電子資料的なものも残そうとしていますし、さらに、私が推進しておりますオーラル・ヒストリーというのもできれば残したいということで、国立公文書館は首相のオーラルヒストリーを現実にやろうとかなり準備を進めて参りました。いろい万な事情で今ちょっと止まっていますが、 この後どうなっていくか。その時に一番問題になるのは、対象になる総理大臣は誰だうということです。当初は中曽根さんあたりから順次やっていくという話 になっていたのですが、中曽根さんはすでにお亡くなりになっていますし、その後の短命政権の総理大臣をやっていくのか、あるいは平成になってからの長期の総理大臣というのは小泉さん 5 年 5 か月と安倍さんの 8 年 8 か月しかないわけです。この 2 人に関してどうやってオーラル・ヒストリーをやるのか。オーラルヒストリーの記録と、公文書を残していくということはほぼイコールですから、これをどのようにやっていくかというのは、実は大変な問題になるわけです。特に公文書の問題で、モリカケ・桜の問題等々で、また解決していない要素を残していた安倍さんに、このオーラルをどのようにやってもらうのか、あるいは文書を残してもらうのか、ということが、恐らくかなり大きな問題になっていくと考えられるわけです。 本来ならば、日本でも首相図書館みたいなものが残ればいいと私は思っています。たとえば、私設ではありますが、中曽根さんの場合は中曽根平和研究所というのがあって、ここに中曽根さんのものは収まっています。それ以前でも、大平さんのものは大平さんの個人的な図書館に残っていますし、このように首相図書館的なものがないわけではありません。しかし、大平さんの場合は、実はもう中身がかなり失われつつあります。もちろん大平財団というのができて、大きな伝記ができたりして十分にカバーはしていますが、それ以外のものをやはり私設でやっていますとなくなってしまうケースが多いものですから、これをどう考えていくのかというのがかなり問題だろうと思います。 さて、安倍さんについて一言だけ言っておきますと、 かつて安倍さんはツイッターをやっているということで有名になりました。このツイッターを、本当に公文書として残していくことができるのかどうかという問題がもう一つございます。ツイッターを使っていることに私が気が付いたのが、公明党の山口代表と話をしたときです。山口さんが、今はそうではありませんが、安倍内閣ができた当時は、あまり安倍さんとの関係がよ万しくありませんでした。あまり相互に会ってないということを聞いていて、いざというときにどうされますかと山口さんに聞いたことがあります。そうしたら、山口さんは手に持っていた携帯を見せてくれて、「いや、これですよ」「なにがこれですか」「ツイッター ですよ」というわけです。「何か急用があった時にはツイッターでやっていますから」と。つまり本人がお互いに顔を合わせなくてもこれで大丈夫ですと。「しかしツイッターは文字が限られていますよね。こんなに少ない文字数で本当に大事なことについてのやり取りができるのですか」と僕が聞いたら、「いやいや、大体のことはわかっていますから」と言われました。 その後も山口さんがツイッターで本当に大事な用件を話しているのか、それは公共性のあるものとして残していくに值するものなのかどうかということを含めて、これはなかなか謎の多い問題だと思いました。 ## 2.「災後」の時代 そこで、二番目、いよいよ本論に入ります。その本論に入るところで、やはり最初に申し上げておきたいのは、東日本大震災があってからちょうど 10 年ですが、私は震災後の時代を震災の「災」をとりまして、「災後」、つまり震災の後の時代はどうなるのかということをずいぶん論じました。この「災後」の政治過程について少しお話をしたいと思います。それはなぜかと言いますと、私は東日本大震災の復興構想会議の議長代理になったのですが、この東日本大震災の復興の最初の手掛かりとして我々が考えたのは、もち万ん具体的な復興政策もその提言に入れましたが、やはり最初に「復興 (構想) 7 原則」を作ることでした。 10 年前の 5 月の段階で、記憶とそれから記録、これをアー カイブ化しなければいけない。つまり、何上りも今一番大事なのはアーカイブであると考えました。地震の記憶と、それから復興への記録というのをとにかく取っていかないと、必ずなくなると思ったからです。今までの経緯からいっても、これは残らない。だからこれをまず考えなけれげいけないということで挙げました。これを第一に挙げた時に私が印象的だったのは、当時の事務局の官僚たちはそれに賛成をしてくれたことです。これが一番大事です。画期的なことだと思いました。ですから、その後 10 年の間にいろいろな問題がありましたが、このアーカイブ化するということは、常に東日本大震災の「災後」の中では、皆の頭の中にあったということは一つ特筆されていいことだろうと思うわけです。その時にやはりわかりやすいものを残さなくてはいけない。特に津波の問題がすごかつたですから、これをどのように残していくのかというのはかなり問題でした。動画にしてどうやって残すのか。その場合、その動画が見られるようなものを形の上で残すのかということを含めて、ずいぶんいろい万な議論が出ました。私たちが一番驚いたのは、実は江戸時代、常に大地震がたくさんありましたから、津波の情報も十分に江戸時代に入っていて、それが津波の詩碑・碑文として神社みたいなところに残っているわけです。しかし問題は、それから何百年も経ってしまったものですから、その漢語で書かれた碑文がもう誰も読めないという状態になっていることです。ここまで津波が来ましたよということについて、後世に訴えようというので、当時の人たちはこれをアーカイブしようと思って碑文にしたのですが、その碑文が、東北に当時私が行った時には、もうゴロゴロとそのまま ひっくり返って道のわきにそのままになっているという状況がたくさんありました。ですから、やはり現代に通ずる、あるいはツールというものが変わっていったときに、きちんと残しておかないと、こういうものもだめになってしまう。ゴロゴロ転がっているのでは何の役にも立ちませんから、アーカイブというのは常に活性化していかなくてはいけないということです。 そうすると、デジタルという今の時代に、デジタルでこういうものを残していくというのは、どれほど現場で今後も役に立つのかという、これからの課題なのではないかと思います。特に津波の時の、皆が避難する、 あるいは津波の被害を受けている様子を、民間の人たちが撮った膨大な動画というものをどうやって残していくのか。残したもの、をどうやって今度は索引にかけて皆が利用できるようにするのかというのは、あの当時大きな問題でした。だいぶその問題は解決を見たような気がしますが、一体今どうなっているのか。これも、非常に興味深い問題の一つです。 それからもう一つ、震災勃発直後、実は官邸にいた人たちの会議をいろいろやったのですが、そういう会議の資料がほとんど残っていないことがあの当時話題になりました。字は同じですが現政権とは違う、あの時は菅(かん)政権だったわけです。菅(かん)民主党政権は比較的記録を残そうという立場でありましたから、たちどころにこれを問題にしました。当時、私は公文書管理委員会の初代の委員長でしたから、初代委員長として、いろいろな会議がありましたが、公共文書としてそれをきちんと残しているのかどうかということを実際に検討したことがあります。その時のことを一つ思い出したので申し上げたいと思います。この震災直後、官邸の地下に集められた人たちが、各省からやって来て、一種の会議体を設けたというのは事実でありました。ところが、記録がほとんど残っていませんでした。これが問題化したわけです。会議をやっているのに、一番大事な最初のところの記録がないのはどうしたことだと。そこでいろい万聞いてみましたら、当時は携帯がつながらない状況にあったり、 あるいは電気関係がショートして中が真っ暗であったり、そういう状況でありました。そういう状況の中で各省から来た連中は、一応机らしきものはあったけれども椅子もそんなにそろっていないところで、それぞれ各省別々にどうするべきかという会議を始めたと。 ところが会議なんてものではない。つまり、本省に行くのに携帯がつながりませんから、屈強の若い連中が常に走って行っては戻ってきてということをやっていると。そうするとほとんど皆が立った状態で、情報交換は確かにやったが、会議なんていうものになっていると自分たちは思わなかった。ですから、メモたけけで も残っていますかと聞いたら、メモもほとんどない。自分の頭の中にあることだけでワーッとやっていて、要するに何も、ほとんど残っていませんでした。後からいろいろとその当時配られた文書のようなものが断片的には出てきましたが、到底議事録のようなものはそこにないということがはっきりしました。いざという時に結局なかなか文書としては残らない。ところが、 それから少し経つと必要性が出てくるのです。つまり彼ら自身も何かそういうものがないと困るという状況になったので、それからは簡単な文書を残した人たちがいました。これは立派なもので、一枚紙に日付と、今日やるべきことと、やったことが書いてあるという極めて単純な紙なのですが、それがずっと毎日残っていく。それを見ることによって、その時に何をやったかということが大体わかります。そういうことをやったところもあるのですが、やらない部署もありました。 やったところは、本当にA4一枚です。A4一枚に書き达んでいくという仕組みになっていて、それを全員集まった時に見ます。昨日まではこういうのをやったね、 じゃあ今日はこれからこれをやるのだねということがわかって、現実に使われていったということです。そういうことがあって、やはり危機の政治状況の中ではいろい万なことを考えてやらなくてはいけないのだなと私は思いました。 その後も電子化あるいはアーカイブ化というのは進んでいったと思いますが、東日本大震災でやって、そういうものを残していくということを各省でやり、それが検索をかければ中央で見られるような仕組みにもなりました。東日本大震災が起こって実施したアーカイブ化というのは、次の熊本の震災、これが起きた時に実に参考になりました。ですから、熊本の震災の時のアーカイブ化の方が東日本よりはそんなに時間をとらない、あっという間に追いつく形になっています。 こうやって「災後」の時代というのは、公文書みたいなものの残り方というのも一つ形が決まっているのたなと思った次第です。 ## 3. 集中の政治過程 さて、三つ目にお話を移します。次は、集中の政治過程です。 この集中というのは、官邸集中、官房に集中するという、現在一番問題になっている問題です。それを少し歴史的に見てみたいと思います。 最初に申し上げたいのは、阪神・淡路復興委員会、 これが下河辺淳のもとでできた時に、私は彼に頼んで同時進行のオーラル・ヒストリーをかけました。どうせ議事録が残るでしょうという話はあったのですが、私は信用しませんでした。それまで、いかに官邸で やったものが捨てられてきているかというのを知っていましたから。これもやはり 10 年経たないうちになくなる、あるいは内閣が変わればなくなる。ですから絶対にその前に下河辺さんらからその状況を聞いておかないとなくなるだろうと思ったのです。案の定、議事録自体はほとんどありません。ですから今私たちがやったオーラルが一番残っているという結果になりました。同時オーラルで保管できたものが多いわけで、特に下河辺さんは晚年それをよくやってくれましたので、この後の沖縄問題、今問題になっていますが、この橋本内閣での沖縄問題で橋本龍太郎さんと大田昌秀さん(元沖縄県知事)をつないだところのさまざまな文書、それから彼自身のオーラルが残っているので、 そこをつなぐことができるということです。とにかく、官邸というのはものが残らないことをずっと私は見て参りました。ですから、石原信雄さんが官房副長官の時のオーラルもやりましたし、古川貞二郎さんのオー ラルもやりました。比較的この 2 人は 7 年 8 年と長い期間、官房副長官をやってくれましたので、文書自体も彼らは持っていましたし、もち万んその文書を我々が譲り受けたわけではありませんが、かなりきちんとした形で彼らが官邸の文書の一部、官房副長官としてのものは整理されているなと、この 2 人に関しては感じることができたわけです。したがって、オーラル・ ヒストリーと公共文書もデジタル化して、組み合わせて残していくという方法があると感じたわけです。四番目に今度は、各省について少し申し上げたいと思います。各省についても、私は各省のオーラルを多少手掛けたことがあります。各省のオーラルをやると何が見えてくるかというと、官僚の個人個人のしゃべりの癖ということのみならず、実は各省の組織文化、 あるいは決定様式のあり方というものがそこから見えてくるのです。今はファイルの仕方から指導していまして、こういう形に残しなさいとやっていますが、かつて公文書を残すときには、それがありません。つまり公文書の管理法がない時代の公文書の残し方というのは各省によってそれぞれまちまちです。大蔵省はこういう形で残すのか、あるいは経済産業省、当時は通産省ですが、こう残すのか、あるいは国土交通省はこうかというのがそれぞれの省によって本当に違う形で残っています。それを見ることによって決定の仕方が見えてきます。ファイリングの仕方によって各省の文化がわかってしまうようなところがあったわけです。今やファイルの一元化、デジタル化というのが進んでいますから、そういう点では無個性化しています。かつてはファイリングの仕方で、各省のものの残し方というのが見えてくるのですが、今は恐らくそういうことはあまりない。つまり、各省の持っている組織文化 やものの決め方の文化の匂い、香りというものが、電子化していくとどうも見えてこなくなる、匂わなくなるのです。どれも同じょうな形で残り、同じょうな形で残らないというのがその後起こっている事態なのではないでしょうか。これはこれからの課題としていいことだと思います。 先ごろ、ファイルの問題といえば、モリカケの問題でも、それからその後の問題でもいろいろ話題になりましたが、こちらの側が公文書を出せという要求をしても、なるべく中身がわからないように、ファイルの名前を付けるというのが今、霞が関ではよくやられていることです。ですから、ファイル名を見ただけでは中に何が入っているかはまったくわかりません。全然違うファイルの名前になっていて、なるべく請求されない上うなファイルの名前を付けていく。そうすると一体何のために公文書というのはあるのだ万うかという根本的な問題にまで実は戻ってきてしまうのです。 ファイルをなるべく残さないという点では各省皆一緒です。前は残すも残さないも各省別々にバーッと作ったものを公文書館に流していたので、その時の方がまだよかったのかもしれません。つまり、電子化することによって個性がなくなって、しかもなくなった分、 なるべくわからない名前で行こうという話になれば、一体これはどういうことになるのか。これも一つデジタル化していく時の、匂いがない、こんなこというと古い人間だと思われますけども、その問題は一体どのように解決してくのかというのは、恐らく今後重要な問題の一つになるのかもしれません。 それから、それとかなり似た問題ですけれども、公文書、残っているもので電子化される前のものを私が見た時に、やはりいろいろ問題だなと思うのは、たとえば新全総(新全国総合開発計画)、なんていうとずいぶん古いですが、これはまさに下河辺淳がやったことですけれども、その新全総のまだ創設のところを見てみると、箇所づけのあり方についても多少書いてあるのですが、これが日本語としては何を言っているかわからないのです。何を言っているかわからないように、官僚たちのジャーゴンで書いています。ですから歴史研究者でぽっと出で行ってみると、本当に文章の「てにをは」がそろっていないのです。ですが彼らはそれを見ればわかるという、そういう問題が一つあります。 それから東日本大震災のあの提言、復興税のあり方のところは、実は 30 時間近く、財務省と国土交通省などでやりあった結果、こういう文書にしましたというのを無理矢理はめました。ですから、何を言っているのかわからないのです、しかしこれも彼らが読むとわかるのです。彼らが読むと、この苦闘の跡が出ているからこうだと。数行で出ているこれは、まさに公文 書、公開されたものですが、日本語としてはなっていないというものが出てきてしまったりするというのが、大きな問題になるのではないでしょうか。これは今後とも恐らく問題として残っていく話だろうと思います。 ## 4. SNS と公文書 さて、最後です。 今後 SNS の問題、ツイッターとか LINE、今はとにかくLINEが多用されています。それからメール、 メッセンジャー等が多用されている時代で、これらを公文書だと言われて残さなければいけないということになっているわけで、段々電子化されたものを残していくようになります。ところが、これを具体的に、たとえばツイッターでもいいですが、先ほども山口さんと安倍さんがツイッターでやっていたと言いましたけれども、これを残していったときに、前に紙類で残したのとどう違うか。私はやはり違いがあるような気がします。どう違うのかというと、そのまま残せば感情面、情緒面がやや多くなります。私は先ほど個性がなくなるという話をしましたが、それは文書化したものとして残す場合であって、そうではなくてやり取りとしてそれが残っていく場合をみると、どうしてもやはり感情の面や情緒の面が、前に皆さんが残していた公文書に比べれば、多く出てくるのではないでしょうか。 ですから、公文書としての価値を本当に今までと同じような形で残せるのか。私文書的な匂いの方が強いのではないか。官僚に言わせれば、あれは電話と一緒たと言いますから。電話と一緒だったら、もっと感情的なものが入ってきます。そもそも公的な対象を議論する場合に、公文書・公共文書とそれから私文書というものをどこまで分けることができるのか。前は、そこは大いに分けました。個人的なメモであるとか、あるいは日記なんていうのは公文書ではないというので私文書にしたのですが、果たして本当にそうかどうかという問題も実は出て参ります。 今、一つだけ言っておきますと、細川護熙さんの日記が出ています。細川さんの日記とか、あるいは竹中平蔵さんの日記というのは、相当詳しく書いてあります。これは全部もち万んご本人たちが、その時代からその日記に、パソコンによって打ち达んでいる日記ですから、当然そうなるわけですが、パソコンによって打ち达んだ日記というのは、どこがどう改ざん、本人が変えるわけですから改ざんと言ってはいけません が、本人がどこをどう、最初に書いた時のものと違えて書いたのかというのがわかりません。かつての佐藤栄作日記のように筆や墨で書いた日記であ枕、そこを消したり継ぎ足したりしているとそれがわかるのですが、パソコンではそれがわからない。文書の問題も同じです。公共の文書でも電子で全部やれるようになってしまうと、一体どこをどう直したのかわからない。一緒に順番に直してくれているものが残っているならいいのですが、そうでないならそこはどうするのだろうという問題があるということを申し上げておきたいと思います。 最後に菅(すが)官邸の問題を申します。菅(すが)官邸がなぜあれだけ早く対応できたのか。菅(すが) さんが前の政権の官房長官になって割合早いころに官邸におけるものの処理の仕方というのを私は実際に見学したことがあります。すごいですよ。雑踏のように人がたくさん来ていて、その人たちが $2 、 3$ 人ずつグルーピングされていて、各省からきた連中はある課題についてやるのですね。それをほとんどわめくような形で進行状況を説明していて、そこに菅(すが)さんがいて、菅(すが)さんももう半立ちです。皆立っている。先ほど申し上げた震災の時の最初の状況と同じでした。会議をやっているのか、情報交換をしているのかわからないのですが、そういう状況の中で、ことがどんどん決められていく。その後役人は各省に皆戻りますから、戻った後は恐らくそれは全部ツイッター とかあるいはメールの交換、あるいは LINE でやって、 そうでない時はまたあそこに来て話をしているのでしょう。そのような中で、どれほどのものが公文書としてその後も残っていっただ万うか、というのは非常に気になるところなのです。その後も同じことをやっているとは思いません。ずいぶんやり方に慣れてきましたから、各省がそのやり方に慣れてくると、官邸に逆コントロールが効くような形でやっているかもしれません。ともかく、いわゆる文書の形で、つまり白い紙の形で残っていた時代と違って、そういうものが入ってきた時に、総体としての公文書・公共の文書というのは一体何なのだ万う、どこまでが形にきちんとなるのだろうか、というのがこれからの大きな課題の一つになるのではないかと思いました。 以上が、私からの問題提起ということです。 ご清聴ありがとうございました。
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# ラウンドテーブル「デジタル公共文書を考える一公文書・団体文書を真に 公共財にするために一」 東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座が 2021 年 1 月 12 日に開催したラウンドテーブル「デジタル公共文書を考える一公文書・団体文書を真に公共財にするために一」を開催した。本学会はこのイベントを後援したので、発表のう ち御厨貴東京大学名誉教授の基調講演「ガバナンスに打けるデジタル公共文書の意義」と、参加記 2 件を掲載する。以下はこのイ ベントの概要である。(デジタルアーカイブ学会誌編集部) ## <開催趣旨 $>$ 2019 年 6 月に開催された「アーカイブサミット 2018-2019」の第 2 分科会「『官』に独占された『公文書(official document)』概念を捉え直す」の議論を受け継ぎつつ、デジタル庁設置やオンライン教育の拡大などが打ち出されている社会状況を前提に、デジタルアーカイブ論の視点から「デジタル公共文書 (digital public document)」という概念の意義とその展開の可能性を考える出発点としての公共的議論の場を設定することにいたします。 その背景には、今後のデジタル環境の整備を見越して、これまで行政や企業・団体で行われてきた資料や情報の「保存と廃棄、 デジタル化活用」の問題があり、一方で日々大量に産出されるデジタル情報の保存と活用をどうするかという問題があります。この問いの対象は、立法府・司法府の記録、政策決定に至るまでの官僚のメモや与野党間の協議書類のみならず、企業や大学、またシンクタンクや NPO 等の民間セクターまで広がる、ガバナンスの公共性をデジタル環境下にどのように担保していくかです。利用者(市民、企業人、研究者等)の視点から、公共的に利活用可能な形で蓄積されるべき「デジタル公共文書」を、新しい知識や社会生活、産業を生み出す源泉とするための方策を考えることは喫緊の課題と思われます。 このような問題意識の下に、多様な価値観を前提としつつも、デジタル公共文書は従来の公文書と対比しながらどのような要件で設定できるか、その明示的決定プロセスは構築可能か、それを最大限社会的に利活用できる仕組みをどのように保障するかについて、関係者が一堂に会して議論することといたします。 $<$ 実施概要 $>$ 日時:2021 年 1 月 12 日(火) 15:00 17:30 主催 : 東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座 $\cdot$後援: デジタルアーカイブ学会 デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(DAPCON) 形式 : ラウンドテーブル 形式 : ラウンドテーブル 参加方式:オンライン視聴(無料、事前申し込み) フプログラム (1) 趣旨説明柳与志夫 (東京大学) : 5 分 (2)基調講演 「ガバナンスにおけるデジタル公共文書の意義」御厨貴(東京大学名誉教授):30 分 (3) 話題提供:各 5 分 (1)デジタル公共文書はどのような要件として設定できるか (2)その明示的決定・管理プロセスは構築可能か (3)それを最大限社会的に利活用できる仕組みをどのように保障するか (4) 討議:社会インフラとしてのデジタル公共文書:90 分 ## <登壇者> 生貝直人 (東洋大学):法的側面からみた公共文書 加藤諭 (東北大学) : 大学と公共文書 長坂俊成 (立教大学):災害記録の公共性 林和弘 (科学技術・学術政策研究所) : オープンデータと公共文書 福島幸宏 (東京大学):MLA と公共文書 三木由希子(情報公開クリアリングハウス):公文書問題の現在 山川道子(プロダクション IG):企業運営と公共文書 山本唯人(法政大学大原社会問題研究所):コミュニティと公共文書 司会 : 吉見俊哉 (東京大学)
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# 「正式公開となったジャパンサーチを 使ってみる」参加記 2020 年度図書館総合展フォーラム 「正式公開となったジャパンサーチを使ってみる」 主催 : デジタルアーカイブ学会 SIG $ \text { 「ジャパンサーチ研究会」 } $ 日時:2020 年 11 月 6 日(金)18:00 20:00 ## [構成 $]$ デジタルアーカイブ学会の提言とジャパンサーチ正式版:時実象一 (東京大学大学院情報学環) ジャパンサーチとカルチュラル・ジャパン:中村覚 (東京大学史料編纂所) ジャパンサーチ新機能の使い方:大井将生(東京大学大学院学際情報学府) ハンズオン・ワークショップ(グループに分かれて行います) [情報交換] ## 1. はじめに 本企画はワークショップを通じて、ジャパンサーチの活用の可能性を探ることを趣旨として開催された。筆者の勤務先は北海道の歴史・文化・自然を対象に博物館活動を行っている。今回は、博物館における活用シーンや収蔵資料情報のメタデータについてヒントを得たいという考えから、本企画に参加した。 ## 2. 概要 はじめに、時実象一氏よりSIG ジャパンサーチ研究会についての解説、次に中村覚氏よりジャパンサー チとカルチュラル・ジャパンについての解説がなされた。その後、大井将生氏より教育現場での活用事例を交えたジャパンサーチの機能紹介、以降の作業説明があった。 ワークショップでは 3 8 人の班に分かれて共同キュレーションを行った。今回の目標は 1 人 1 つはテーマに関する資料をキュレーションし、チームで 1 つのギャラリー作品を作る経験を楽しむことである。各班は 50 分間、猫、横浜、こたつなどのテーマでワー クスペース機能を使ったギャラリー(作品ページ)の作成に挑戦した。最後に、各班の作品発表と質疑応答が行われ、閉会となった。 ## 3. ワークショップでの体験内容 今回使用した機能では資料を集め、複数名で同時に作品ページを編集することができる。扱う資料デー夕はジャパンサーチ上のもののほか、外部サイトから情報を貼り付けることもできた。 作業は、各自が web ブラウザからジャパンサーチにアクセスして編集作業をしつつ、同時にZoomを使ったビデオチャットでコミュニケーションを取りながら作品を作っていった。操作画面は非常に見やすく、基本的には直感的に操作できた。画像を作品ぺージに揭載する場合、画像やコメント欄の配置やサイズは様々で、操作の簡便さと表現の自由度の高さが両立されていると感じた。中でも筆者が面白く感じたのは、画像の任意の部分を選択し、その箇所にアノテーションをつける機能で、閲覧者を編集者の視点へ誘うような仕掛けとなっている。他に年表や地図など、制限時間いっぱい機能を試して楽しんだ。 ## 4. おわりに 上記のとおり、本機能はワークショップ系のイベントで教育ツールとして使えると感じた。編集作業の際は、テーマから内容を膨らませるための基礎知識や資料の知識、適切に外部リソースを用いて資料探しをするなどの工夫も必要となる。この点は各館担当者の強みを活かすことができるだろう。一方で、博物館が来館者用の PC ルームを確保することは困難なため、環境面についてはまだ可能性を探る必要がありそうだ。 しばらくはジャパンサーチ連携機関限定の機能とのことだが、市民と密接に関わる都道府県や市町村の MLA にも機能が開放されることを願うとともに、さらなる盛り上がりに期待する。 (北海道博物館鈴木あすみ)
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# DAPCON Industry Award: "Records of the Great Hanshin-Awaji Earthquake 1995 Video Archive". One year after the release of the Archive. For the citizens of Kobe to see the images in 400 years' time \author{ 木戸 崇之 \\ KIDO Takayuki } 朝日放送テレビ株式会社報道局 抄録:朝日放送グループは阪神淡路大震災の取材映像、約 38 時間分 1980 クリップを公開して 1 年が経過した。公開直後から SNS 等で大きな反響があった一方、心配された肖像権者からのオプトアウトを求める申し出は、 2020 年 10 月 1 日現在で 1 件も寄せら れていない。「放送局がビジネスを直接的には考慮せず、社会課題に取り組んだ」ことが評価され、デジタルアーカイブ推進コンソー シアムの『2020デジタルアーカイブ産業賞 貢献賞』を受賞した。改めて、アーカイブの概要、公開した映像の一例を紹介し、長期にわたって継続するために着手している今後の展開を報告する。 Abstract: It has been almost a year since the Asahi Broadcasting Group released 38 hours of 1970 clips of footage of the Great Hanshin-Awaji Earthquake. While there was a huge response on social media immediately after the release, as of October 1,2020, not a single request for opt-out from concerned portrait rights holders has been received. It won the Digital Archive Promotion Consortium's 2020 Digital Archive Industry Award for Contribution for "addressing a social issue without direct consideration of business by the broadcaster. The following is an overview of the archive, an example of footage released to the public, and a report on future developments that are being undertaken to ensure its continuation over the long term. キーワード : 阪神淡路大震災、映像アーカイブ、肖像権 Keywords: Great Hanshin-Awaji Earthquake, video archive, portrait rights # # 1. はじめに 朝日放送グループホールディングスは、2020年 1 月、発生から 25 年を迎えた阪神淡路大震災の取材映像 アーカイブ(約 1980 クリップ・約 38 時間分)を WEB サイトで公開した。取材記録にある撮影場所を 改めて精査し、緯度・経度をつけて GoogleMAP 上に 配した。地図上のピンをクリックすると、その場所で 取材した映像を見ることができるというものである。 この活動に対してこのたび、デジタルアーカイブ推進コンソーシアムより『2020デジタルアーカイブ産業賞 貢献賞』をいただた。授賞理由は「放送局が ビジネスを直接的には考慮せず、社会課題に取り組ん だ意義ある仕事。放送法における電波特権の条件であ る災害報道の意義を広くとらえた仕事として、企業の 社会貢献事業的側面を評価したい」とのことである。 私たち放送局は、「報道の自由」の下、放送での自由な表現が認められている。たた、速報ではなく、25 年が経過してからの WEB サイトでの映像公開を、放送と同じように「報道」と捉えていいのか、「目的外使用」にならないのかということは、公開まで最も心 をくだいた部分だった。これを判断するのは私たちで はなく、私たちの活動が視聴者の「知る権利」を満た し、防災・減災に貢献できたかどうかで決まる。その 意味でも、授賞理由にある「災害報道の意義を広くと 写真1 アーカイブのトップページ らえた仕事」という言葉は、私たちへの評価として大変ありがたく、本アーカイブの維持継続・充実・普及 への大きな力となる。評価いただいたみなさまには、 この場を借りて感謝申し上げる。 ## 2. 取材映像は「嘘をつかない」 記憶は時間が経つほど薄れ、部分的に美化されたり、意図的に消し去られたりする。過剩な編集やナレー ションは、映像を「今の価値観」に縛り付け、「時代を超えて普遍的な教訓」を見えなくしてしまうおそれもある。このアーカイブの最大の特徴は、編集を最小限にとどめ、音楽やナレーションをつけない「素材」 であることだ。取材映像は、発生したその時を記録している。どんな時代に変わったとしても、被害を目の当たりにして発した言葉は「真実」であり、俳優が演じる「再現ドラマ」とも、被災者にその時を振り返ってもらう「証言集」とも違う、リアルな心の声である。 アーカイブを注意深く見ると、私たちが見過ごしがちな教訓が浮かびあがってくる。どのような映像が収録されているのか、その一例を次章で紹介する。 ## 3. アーカイブした取材映像の一例 ## 3.1 インタビューからわかる崩壊メカニズム 阪神淡路大震災の映像で記憶に残っているのは、交通インフラの致命的損傷である。横倒しになった阪神高速道路神戸線はもちろん、山陽新幹線の高架橋も 8 箇所で落ちた。しかし、この橋桁がどのように落ちたのか、そのメカニズムは、地震後の空撮映像をみるだけではわからない。現場の近くに住む住民は、地震直後のインタビューにこう答えている。 記者「高架が落ちる時は、どのような感じでしたか?」男性「ミシミシっていって、細かいのがバラバラと落ちてくる音が聞こえてきて、ゆっくりきて途中からドスンって感じで。その時に、縦に摇れたみたいな。そんな感じですけど。」記者「地震が起きて、外に飛び出されたわけですか?」男性「いや、地震がきて、外で変な音がしたから空開けて見たら、崩れてきてい家のほうに転けてきたらまともに来ますやん?それが布かったんですけど。『止まってくれ』って祈る気持ちで見てたら、ドスンと止まってくれた」 地震の衝撃によって橋桁が外れて激しく落下したのではなく、損傷した橋脚が橋桁の重みに耐えきれず、 ゆっくりと沈んでいったことが、この証言からわかる。 写真2 倒れてこなくてよかった ## 3.2 防災の「知恵」が垣間見える風景 防災・減災対策の意識付けに使えそうな映像も多い。神戸市長田区の御蔵小学校で地震の翌々日に撮影された映像もその一つだ。校庭で女性が打肉を焼きながら話している。 「これは冷蔵庫で冷凍してたやつを拾ってきた。みんな、身内どうしが固まって、今のうちに食べられるものは子どもに食べさせて、死ぬときはみんな一緒やから……開き直ってます」 3 日目になって、避難所で食料が少し配られるようになっても、冷たいおにぎりや打并当、パンなどが中心だった。避難した人たちからは、「温かいものがほしい」という声が多く聞かれる中、グラウンドで火をおこして調理している姿はひときわ目立っただろう。取材班にマイクを向けられ、少し「やけくそ」に答え 写真3食材は冷蔵庫にあったもの ている感じもするが、それだけに、災害時の率直な気持ちを嘘偽りなく表現したものといえるのではないか。 内閣府は、南海トラフ巨大地震など、非常に広い地域に甚大な被害が及ぶ大災害が発生した時、公的な支援物資がすぐに届かず、コンビニやスーパーの商品が売り切れてしまうことなどを想定して、「1 週間以上」 の備蓄を推奨している。冷蔵庫の中にある冷凍肉や冷凍食品、卵や牛乳、常備菜などはその中に含まれ、たとえ家が壊れていても、数日間、家族のおなかをある程度満たせる可能性がある。避難所で支給される食料がロに合わない場合にも、強い味方になるであろう。 ## 3.3 避難所内で「困っている人」はだれか 2017 年の熊本地震では、避難所の入り口をバックに生中継をしていたある放送局のクルーに、被災者が 「見世物じゃない」と強く苦情を言うシーンが全国に放送された。取材陣が被災地に押し寄せ、目にあまる立ち居振る舞いが指摘されることもあり、被災者にとって取材陣は迷惑な存在となっている。その結果、近年は避難所内部の取材は難しくなっている。 しかし、阪神淡路大震災の頃はそうではなかった。地震発生から 3 日が経過した 1 月 20 日。カメラは西宮市内の中学校の教室に入って取材をしている。教室のまん中では、女性がこどもにおっぱいをあげている。毛布等で乳児をくるんで見えないようにしてはいるが、授乳しているところを映されることを拒絶していない。そしてこの女性はインタビューに答える。 記者「赤ちゃんで一番大変なことはなんですか?」 女性「お風呂が入れないのでお尻がただれていた。毎日、打湯でお尻を洗ってたんですけど、今はそれができない。それがかわいそう。」 記者「よく泣きます?」 女性「泣くのはおっぱいのときに泣くくらい。お尻だけがかわいそうです。」 人前での授乳については、時代によってその見方が 写真4 避難所の真ん中で授乳大きく変わる。筆者が子供だった昭和の末ごろには、 また人前で授乳する女性がいたが、時代は進み、現代は「公共の場での授乳の是非」が問われる時代になつた。少子化が進み、子どもを持つ女性が少数派になったことが一因だが、命を育む大切な営みであることには変わりはない。対象者がたとえ少数でも、避難所に授乳室を備えるなどしっかりとしたケアが必要だ。カメラが立ち入りにくくなった避難所で、困っている人がいる可能性がある。この映像を見ることで思いやりの心が生まれることを期待する。 ## 3.4 災害時の病院内部 病院の中にもカメラは入った。地震直後の中央市民病院(神戸市中央区)の玄関、ストレッチャーに乗せられて、けが人が病院内に運び达まれていく。それについて中に入っていくと、ロビーは停電で真っ暗な状態であった。診療のために医師や看護師が持っている懐中電灯の明かりや、心電図モニターの光が目立つ。 そしてその暗闇の中で心臟マッサージが行われていた。ポートアイランドでは液状化が起こっていたとみられ、駐車場と病院玄関の間には $1 \mathrm{~m}$ ほどの段差ができ、停めていた車の前輪が持ち上がっていた。その車の脇でも心臟マッサージが行われている。暗闇でやるよりはまし、という判断だったのだ万うか。 野戦病院のような状態はここだけではない。西宮市立中央病院はロビーの電気こそ点いているが、待合のソファーに多くの診察待ちの患者が横たわっている壮絶な状態である。あちこちで医師が、骨折や出血の手当を行っているが、明らかに手が回っていない。急変の患者を病室に運び达むのだ万うか、狭い通路をからのベッドを押して看護師が急いでいる。記者が診療待ちの夫婦に話を聞いている。 記者「どうですか?」 男性「痛い。動けない。」 記者「どの辺りをケガなさったんですか?」 男性「鎖骨と頭を。鎖骨、骨折しとるんです。頭、右側。足のももの大たい骨、タンスがガーンと載ってしまって、それで、にっちもさっちも動けない。家内と 2人、並んだままで動けない。」 心配そうに奥さんが付き添っているが、診察まで時間がかかっているようだ。この状況を見ると、万一大きな地震が起こってもケガだけはしないよう、予め対策をとることが重要であることを思い知らされる。 写真5 地割れの玄関前で処置 ## 4. 公開までに考えたこと \\ 4.1 「古文書化」する取材映像 朝日放送テレビのライブラリーでは、こうした映像を 25 年間にわたって保管してきた。その量は膨大で、重複しているものもあって、実質何時間分存在するのかは把握できていない。震災直後のニュースでは使われたが、それ以降は使われていないものがほとんどで、中には一度も放送されないまま保管されているものもある。過酷なシーンも多く、被災者や視聴者が思い出して苦しくならないよう、その心情に配慮して使われなくなった結果、震災の後に入社した若い記者やディレクターには、「使わない方がいい素材」「使えない素材」という意識が芽生えはじめているようにも感じられた。 わが国では災害が起こると、先人らは悲しい経験を石碑に刻み、教訓を書物に書いて後世に伝えようとした。しかしその多くは時とともに忘れ去られ、子孫が同じような被害に遭う歷史を繰り返している。テレビも同じである。被災者が過酷な状況で取材を許し、カメラに向かって思いを語ることは、石碑や書物に記録を残すことと同じで、これを放送局の倉庫に押し达んでおいていいはずがない。一時的にお預かりした後世への“贈りもの”をいつ渡すべきか。首都直下地震などのリスクが伝えられるたび、焦りを感じていた。 ## 4.2 「肖像権」のハードルこえる「社会的意義」 最大の課題が「肖像権」であった。肖像権は法律として明文化されたものではなく、撮影や公開の目的、必要性等と、撮影された人の人格的利益の侵害の度合いを比較衡量して、“受忍限度”を超えるかどうかでその違法性が判断される。映っている方が公開を許諾してくれれば問題はないが、避難所にいた何百人もの被災者を探し出して許諾を取ることは現実的ではない。 肖像権者に公開を「受忍」してもらうには何が必要なのか。時の経過で心の傷がある程度癒えていること は言うまでもないが、より重要なのは、今この映像を公開することの「社会的意義」である。映像に多くの教訓が含まれていることを証明し、公開の考え方や姿勢が明確なら、多くの肖像権者は公開を「受忍」し「了承」してくださるに違いないと考えるに至った。 当学会で議論されている肖像権ガイドライン(案) を参考にポイントを試算し、そのうえで慎重に公開の可否を判断したことは、本誌で既に報告したとおりである ${ }^{[1]}$ 。社内で幾度も議論を行い、丁寧に手順を踏んで、公開の意義を確認したうえで公開に踏み切った。 幸いなことに、肖像権者からオプトアウト(映像の非公開化)を求めるお申し出は、2020 年 12 月 15 日現在一件も寄せられていない。公開直後からSNS 等で大きな反響があった。「改めて当時の映像をみると、知らなかったこと、忘れていたこともあった」というつぶやきもあった。発生直後の被災地は停電して、多くの被災者はテレビを見ることができず、初めて見る映像もあっただろう。「今になって生前の母の声を聴けるとは思っていなかった」という感想もいただいた。 あえてまだアーカイブ映像を見たくないと感じる方もいるだ万うが、視聴する心持ちになれた時には、防災への思いを新たにしていただければ幸いである。 ## 5. 映像を 400 年後の神戸の人々に 阪神淡路大震災が起こる前は、「神戸では大きい地震が起こらない」「地震の少ない関西」などと言って、市民は安心しきっていた。しかし古文書には1596 年に慶長伏見地震が発生し、豊臣秀吉が建てた伏見城が破壊されたとある。この地震は有馬高槻構造線が震源とされ、神戸周辺に激しい摇れがもたらされたと考えられる古文書や考古史料も残されている。多くの神戸市民は、400 年前に大きな地震があったことを知らずに、「神戸は地震が少ない」などという根拠のない安全神話を信じていたのである。 このアーカイブを公開することで、今、日本で暮らすすべての人に「都市型震災のリアル」を知っていただきたいのはもち万んである。ただ、「次の阪神淡路大震災」が 400 年後にあるとすれば、その時神戸に住む人々が、再びそのような安全神話を信じることがないよう、数百年のオーダーでアーカイブを継続しなければならない。このアーカイブを残し続けるために、紙媒体を入り口としてサイトに到達できるよう、 $\mathrm{QR}$ コードをつけた本「スマホで見る阪神淡路大震災」(西日本出版社刊)を刊行した。また、2021年度には、国立国会図書館の災害アーカイブ「ひなぎく」との連携を計画している。 せっかく公開したアーカイブを「WEB の藻屑」にしないよう、これからも微力を尽くす所存である。 ## 註・参考文献 [1] 木戸崇之. 「阪神淡路大震災取材映像アーカイブ」の取り組み:四半世紀を経てのアーカイブ公開その目的と課題. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, vol. 4, no. 2, p.181-184.
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# 2020 デジタルアーカイブ産業賞は 2020 年 7 月 31 日 に下記のとおり受賞者が発表されました。 # # 【受賞者】 技術賞 $\cdot$「RCGS Collection」 立命館大学ゲーム研究センター $\cdot$「KuroNet〈ずし字認識サービス/くずし字データ セット」 ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用セ ンター (北本朝展、カラーヌワットタリン)、KuroNet 共同研究チーム (Alex Lamb, Mikel Bober-Irizar)、国文学研究資料館 古典籍共同研究事業センター ## ビジネス賞 $\cdot$肥田康株式会社堀内カラーアーカイブサポートセンター 所長 $\cdot$「マンガ図書館 Z」株式会社 J コミックテラス ## 貢献賞 $\cdot$「東京藝術大学発ベンチャー」 株式会社 IKI ・「デジタルアーカイブシステム「ADEAC(アデアッ ク) $\rfloor$ TRC-ADEAC 株式会社 -「阪神淡路大震災 25 年激震の記録 1995 取材映像アーカイブ」 朝日放送グループホールディングス株式会社 ## 【受賞理由】 技術賞 受賞者:「RCGS Collection」立命館大学ゲーム研究センター ゲームという幅広く使われる分野のデータを、標準技術 JSON-LDによって記述し、デー夕の機械可読性と再利用性を向上させた。研究資料としてだけでなく、新規ゲームの開発や流通に寄与する可能性がある。まだ発展途上ではあるが、オープンデー夕を産業に結びつけるための方向性を示す例として、推薦したい。 、受賞者:「KuroNetくずし字認識サービスノくずし字データセット」 ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センター(北本朝展、カラーヌワット夕リン)、KuroNet 共同研究チーム (Alex Lamb, Mikel Bober-Irizar)、国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター くずし字で書かれた文書は膨大であり、それらのデジタル化・解読によって、歴史的に貴重なさまざまな情報を得ることができる。特に各地方に存在する古文書などを解読することで、地域の未知の情報を発掘し、新たな地域振興や情報発信、ビジネス創造に結び付けることが期待できる。 ## ビジネス賞 、受賞名:肥田康株式会社堀内カラーアーカイブサポートセンター 所長 永年にわたりデジタルアーカイブ分野で多くの先端画像処理技術を取り入れ開発し、多様な対象を多様な目的に沿ってデジタル化するというデジタルアーカイブ特有の困難なビジネスモデルに挑戦し継続してきた功績は極めて大きい。 また、貴重な資料を取り扱うための特殊なスキルを要する現場作業において、事故なく業務を完遂しうる人材育成に努めた意義は、今後のデジタルアーカイブ を支える意味でも重要である。 以下の実績の抜粋は、今日の日本のデジタルアーカ イブの基盤をなすものと言える。 $\cdot$ 京都大学附属図書館電子図書館事業 $\cdot$ 東京大学史料編纂所ガラス乾板デジタルアーカイブ事業 $\cdot$ 文化庁国宝高松塚古墳壁画デジタルアーカイブ事業 $\cdot$キトラ古墳壁画デジタルアーカイブ事業 $\cdot$その他公的機関企業など多くの実績有 $\cdot$受賞名:「マンガ図書館 Z」株式会社 J コミックテラス 他の電子書籍配信サービスと異なり、基本的にマンガ図書館 Zでは「絶版になったマンガ」や「単行本化されていないマンガ」を著作者の許可を得て公開している。これによって得られた広告収入を著作者に還元する、というのが基本システムであり、作品の配信による広告収入は著作権者に還元され、サービス側は手数料を取らないと言うモデルを構築した。そのスキームにより ・絶版を含むマンガ作品を生かす $\cdot$ 海賊版への対抗 $\cdot$ 著作者へ還元できるビジネスモデルの構築 $\cdot$日本にとっての重要な文化を守る、伝える と言う効果を生んでいる。 ## 貢献賞 受賞者:「東京藝術大学発ベンチャー」株式会社 IKI 文化外交、文化共有の推進、観光産業の発展支援、感性教育の推進を通じた社会貢献を目指して活動を開始。昨今のデジタルアーカイブは、文化財活用への政策転換の中でさらにその価値を高めようとしているが、 その情報の大むねの活用はデジタル情報の公開に留まっている場合が多い。 ジネス活用は、今後のデジタルアーカイブ技術の活用の一つの活路を示唆するものと言えよう。 実績抜粋:G7 伊勢サミット展示、ミヤンマー・バガン遺跡の複製壁画をミヤンマー文化省へ寄贈、敦煌莫高窟、バーミヤン天井壁画、アブダビ国際会議参加ほかデジタルアーカイブ分野へ貢献。 —受賞者:「デジタルアーカイブシステム「ADEAC (アデアック)」」 TRC-ADEAC 株式会社 以下の点が評価理由である。 (1)日本では自治体ごとに「点」で立ち上がってきたデジタルアーカイブだが、それを束ね、「面」で提供している点 (2)運用開始から 8 年あまりで、全国の図書館・大学等 101 機関のアーカイブを搭載してきており、 2020 年 1 月末時点で、メタデータ 78,208 件、画像 35,459 件、本文テキスト 85,304 件と、地道な努力だけでなく、搭載機関数で年間 $15 \%$ 増 $(88 \rightarrow 101$ 機関)と急成長を遂げている点 (3) 単に Web 上で公開、閲覧しているだけでなく、自治体での観光施策(浜松市)、リアルな展示との融合施策(船橋市)、地域学習支援(東京都瑞穂町、常総市)など、図書館が自治体や大学と連携した活動につなげており、今後のビジネス活用の可能性を開いたこと。 -受賞者:「阪神淡路大震災 25 年激震の記録 1995 取材映像アーカイブ」 朝日放送グループホールディングス株式会社 放送局がビジネスを直接的には考慮せず、社会課題に取り組んだ意義ある仕事。放送法における電波特権の条件である災害報道の意義を広くとらえた仕事として、企業の社会貢献事業的側面を評価したい。
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# 持続性と利活用性を考慮したデジタルアーカイブ構築手法 の提案 ## Proposal to develop Digital Archive System considering Sustainability and Reusability \author{ 中村覚 \\ NAKAMURA Satoru ${ }^{1}$ \\ 1 東京大学情報基盤センター Email: [email protected] \\ 2 東京大学大学院情報学環・学際情報学府 \\ 1 Information Technology Center, the University of Tokyo \\ 2 Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, the University of Tokyo } (受付日:2020年5月27日、採択日:2020年9月15日) (Received: May 27, 2020, Accepted: Septemper 15, 2020) 抄録:日本社会においても、文化的資産としてのデジタルコンテンツを整備し共有することの意義が着実に認知されつつあるなかで、デジタルな研究資源を生かしたデータベース等の継続が立ち行かなくなるケースが散見される。そこで本研究では、デジタルアーカイブをいかに存続させるかという課題に対して、持続性と更には利活用性までを考慮したデジタルアーカイブ構築について、技術面に特化した手法を提案する。また実際にデジタルアーカイブを構築および活用を行うことで、提案手法の有用性を検証する。 Abstract: It is still difficult to maintain digital archive systems that make use of digital research resources, while the significance of sharing digital contents as cultural assets is being steadily recognized in Japan. Therefore, we propose a technically specialized method for constructing a digital archive that considers sustainability and reusability, in order to solve the problem of how to keep the digital archive systems. We also verify the usefulness of the proposed method by actually constructing and utilizing a digital archive. キーワード:デジタルアーカイブ、持続性、利活用性、Omeka Keywords: Digital Archive, Sustainability, Reusability, Omeka ## 1. 序論 ## 1.1 背景 2017 年にまとめられたデジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会『我が国にお 国に比して日本のデジタルコンテンツの整備・公開等は未だ不十分で、データの提供についても活用する者のニーズに対応できていない場合が多いと指摘された。 その後、2019年には分野を横断したポータルであるジャパンサーチ(BETA)が公開されるなど、文化的資産としてのデジタルコンテンツを整備し共有することの意義は、日本社会においても着実に認知されつつある。 こうした流れをふまえ、本研究が注目するのは、デジタルな研究資源を生かしたデータベース等の継続が立ち行かなくなるケースが散見されることである。例えば、地域映像アーカイブ運営団体等を対象とした川上らの調査結果は、デジタルアーカイブの公開を開始した後に運営側が直面するのが、保守・メンテナンスの継続問題であることを示唆する[2]。そして、日本文化資源デジタルアーカイブ研究拠点である立命館大学アートリサーチセンターは、比較的早期からこの問題をとらえており、停止を余儀なくされたデジタルアー カイブの運用の受託、継承をも視野にいれた活動を行った[3]。このことからみても、どのようにデジタルアーカイブを維持するかという悩みは、それぞれの機関や組織が抱える個別ケースに留まらず、広く共有される問題であるといえるだ万う。デジタルアーカイブ存続の難しさは、技術環境が変わることに加え、プロジェクトの終了や組織改編等による大幅な予算縮小、短期間での担当者交代など、どのような組織にも起こり得る原因が想定されるからである。 ## 1.2 目的 本研究は、 1.1 で挙げたデジタルアーカイブをいかに存続させるかという課題に対して、持続性と更には利活用性までを考慮したデジタルアーカイブ構築について、技術面に特化した手法を提案する。具体的には、 デジタルアーカイブの維持と利活用の促進のための技術的な課題を整理し、その解決に向けた手法を提案する。さらに、東京大学大学院情報学環附属社会情報研究資料センター (以下、社会情報研究資料センター) におけるデジタルアーカイブ構築事例をケーススタディとして、提案手法の有用性を検証する。 ## 1.3 先行研究 デジタルアーカイブの持続性と利活用性を考慮した 研究として、福島らは「スリムモデル」を提案している ${ }^{[4]}$ 。福島は、小さな市町村など、大きな資金や労力を持たない主体でもデジタルアーカイブを構築し持続していくには、「これだけは」という要件を絞り达んだスリムなモデルが必要であるとし、その要件を、「利用規約の明示」、「機械可読性の担保」、「環境に依存しないデータ移行性の担保」、「アセシビリティの確保」 の4つであるとした。 このスリムモデルの実装例として、冨澤らは Flickr を用いたデジタルアーカイブの公開を行なっている[5]彼女らはFlickrのアルバム、コレクション機能を利用し、資料群の階層構造を実現した。FlickrのAPIを利用することで、外部システムと連携可能な機能も提供する。 サーバやソフトウェアのメンテナンスも不要なモデルであるため、デジタルアーカイブの長期的な運用、公開を意図したアプローチとして有用なモデルである。一方、商用サービスに依存している点が課題である。事実、Flickrのポリシーの変更に伴い、無料枠での公開可能画像の上限数が縮小した。この点が、商用サー ビスに依存した構築手法の注意点であると言える。 また、江草は静的ファイルのみを利用したデジタルアーカイブの構築手法を提案している $[6]$ 。彼女らはサーバ管理、データベース管理のコスト軽減を目的としている。この手法の利点としては、商用サービスを利用していない点があげられる。一方で、本手法はすでにコンテンツの追加が想定されていないコレクションの構築を目的としている。したがって定常的なコンテンツ (画像) の追加や、メタデータの修正は意図していない。 これらの課題に対して、本研究では定常的にコンテンツの追加やメタデータの修正作業が発生する組織を対象として、持続性と利活用性を考慮したデジタルアーカイブ構築の手法を提案する。これは福島らが提案する「スリムモデル」の一実装例を示すものであり、 サーバ環境の選択やオープンソースソフトウェアの利用、外部システムとの API 連携など、より実践的な手法の提案打よび具体的な成果に基づく考察を行う点に新規性がある。 ## 2. 提案手法 2.1 実例からみるデジタルアーカイブ維持における問題点 ここでは、社会情報研究資料センターを例として、 デジタルアーカイブの運用において発生する問題をまとめる。 当該センターは、2007-2011 年にかけて進めた大規模プロジェクトで、独自のデジタルアーカイブである Digital Cultural Heritage(以下 DCH)を構築した[7]。多様な検索機能を持った先駆的なシステムで注目を集めたが、2016 年にはシステムの一時休止を余儀なくされた。この一時休止に直面した DCH が抱えた問題を整理した結果、以下の 3 点が課題としてみえてきた。 ## 2.1.1 サーバマシンの維持の問題 DCH は、自前のサーバ上で運用されていた。開発当時の当該センターの運営体制を考慮すれば妥当な選択だったが、数年後に大規模プロジェクトが終了すると、サーバのメンテナンスに大きな費用を充てることは困難となった。 ## 2.1.2 システムの継続的開発の問題 スクラッチ開発で構築したDCH は、サーバマシン維持の問題と同様に、プロジェクト終了後もシステム開発を継続するだけの十分な費用を確保することは難しかった。システムが完全に独自のものであったことは、担当者の交代に際して学習コストを引き上げる結果にもなっていたと考えられる。 ## 2.1.3 技術変化への対応、多機能システムの維持の問題 トピックマップを導入するなど、ネットワーク性の高いデジタルアーカイブ・システムを指向した DCH は、当初から先端的なシステムを目指していた。しかし、その後の技術変化についていくことは残念ながら困難であった。これは、独自に開発された多機能システムを運用していたために、部分的な修正や開発が難しかったことに一因がある。 ## 2.2 提案手法 1.1 で述べたように、2.1で挙げた問題群は個別で特殊なものではなく、デジタルアーカイブシステムを運用する多くの組織に共有される課題であるといえよう。デジタルアーカイブの維持と利活用の促進を目指すために、これら 3 つ問題群を解決する手法を提案する。 提案手法の概要を図 1 に示す。具体的には、以下の 2つのシステムにより、上述の3つの課題に対応する。 ・長期的な運用を意図したデジタルアーカイブシステムの構築 ・データの利活用のための標準規格への準拠と API (Application Programming Interface) 提供、アプリケー ション開発 図1 提案手法 ## 2.2.1 サーバマシンの維持 サーバマシンの維持については、セキュリティ面のメンテナンスコスト等を軽減することが、小規模なプロジェクトにとって特に望まれる。そこで費用の面でも現実的な選択肢のひとつとして、レンタルサーバの利用を提案する。これにより、インフラストラクチャーの管理コストを軽減することができる。 一方、こうしたものを利用する場合は、利用できる言語や RDBMS の種類が限られるなど、技術的な制約がともなう点を考慮する必要がある。典型的には、いわゆる LAMP 環境 (Linux, Apache, MySQL, PHP) での運用となることが多い。 ## 2.2.2 システムの継続的開発の問題 システムの継続的開発の問題に関しては、スクラッチ開発を極力避け、既存のオープンソースソフトウェア(以下、OSS)を活用することで、開発にかかる費用をさげることができる。また、標準的で今後の技術変化が少ないと思われる「枯れた」技術を使い、長期的な安定的運用を目指すことができる。上述の LAMP 環境で動作し、かつデジタルアーカイブシステムとしての導入実績があるOSSとして、Omeka、Drupal、 WordPress などがある。 ## 2.2.3 技術変化への対応、多機能システムの維持の問題多機能システムの維持が困難であるという問題につ いては、ひとつのシステムで多くの機能を実現しよう とせず、機能ごとに切り分けるという解決策が考えら れる。具体的には、前述の情報を提供するための基本的なデジタルアーカイブシステムと、情報を活用する ためのアプリケーションを切り分けて考える。 このデータ活用において、標準規格への準拠と各種 API の提供が重要となる。標準規格としては、画像共有のための国際規格である IIIF (International Image Interoperability Framework)などが挙げられる。APIの例としては、メタデータ交換のための OAI-PMH (Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting)などの提供が挙げられる。 これにより、第三者による二次利用を促進する。また、デジタルアーカイブ運用側が担うべき機能を最小化し、付加的な機能は第三者によるデータ活用側で実現する。標準的な規格への準拠は、上述の二次利用の促進に加え、環境に依存しないデータを生成し、デー 夕の長期保存を実現するための方策でもある。 ## 2.2.4 まとめ 長期的に低コストで提供しつづけるためには、以上のようにデータ連携やデータ活用のための機能を切り分けて別システムとし、基本的な情報提供機能だけを維持することが現実的だと考えられる。旧 DCH では、目録データと画像データを提供する機能、異なる資料群の目録情報を連携させる機能、そして多様な検索機能が同じシステム上で動いていた。これらを別個のシステムとして切り分け、さらにこれらをAPIで連携させることにより、相互の弱点を補完し、より柔軟かつ長期的にメンテナンス可能な環境を構築する。 ## 3. ケーススタディ ## 3.1 背景 ここでは具体的なデジタルアーカイブ構築事例として、社会情報研究資料センターでの構築事例を取り挙げる。 2.1 で述べたように、社会情報研究資料センターは、過去に大型プロジェクトで構築されたデジタルアーカイブ、DCH を一時休止させていた。二次利用が多い貴重資料を公開していることからも再開が望まれており、小規模組織が無理なく運営するために最適なシステムのあり方を模索しつつ、リニューアル再公開のための計画を立ち上げた。 旧システムが公開休止に追い达まれた経緯から、単に旧システムを再稼働させてデータを再公開するのではなく、小規模な組織でも長期的に安定して運用可能なシステムの実現が焦点となった。 ## 3.2 Omeka 2 の提案手法を実現する手段として、我々は Omeka ${ }^{[8]}$ を選択した。Omekaとは、デジタルコレクションを構築するための OSS のコンテンツ管理システムであり、「テーマ」を用いて UI(ユーザインタフェース) を変更し、「プラグイン」を用いて機能を拡張することができる。2008 年に初版となるパブリック・ベー 夕版がリリースされ、その後コミュニティによる継続的な開発・改良が進められた。2017 年の 11 月には、 Omeka Sという新しいソフトウェアが正式に公開され、 これにより、従来の Omeka の名称が Omeka Classic に変更となった。 Omeka $S$ が提供する機能群のうち、特に特徴的な点は、Linked Dataへの標準対応である。Linked Dataとは、 Web 上のデータをつなぐことで、新しい価值を生み出そうとする取り組みであり、データを共有(公開)し、相互につなぐ仕組みを提供する。またプラグインを用いることで、IIIF に対応した画像配信、OAI-PMHを用いたメタデータ連携を実現できる。 ## 3.3 構築したデジタルアーカイブ システム構成を図 2 に示す。 ## 3.3.1 サーバマシン サーバとしては、東京大学が提供する「WEB PARK」[9] というレンタルサーバを用いた。本サービスは $200 \mathrm{~GB}$ に対して 2 万円/年度で利用することができ、LAMP 環境を標準で提供する。なお、WEB PARK はさくらインターネットのレンタルサーバを利用したウェブホスティングサービスであり、さくらインターネットと直接契約した場合のサービスとほぼ同等の機能を利用することができる。 ## 3.3.2 システム 本サーバ上に Omeka S を設置した。テーマについては、独自テーマの開発をシステム開発業者に依頼した。またプラグインとして、「OAI-PMH Repository」「IIIF Server」モジュールを追加した。これにより、一般利用者に向けた検索・閲覧用のユーザインタフェー ス(UI)を提供しつつ、API を介した外部システム連携(後述)を実現した。 UIについては独自テーマの利用により、資料同士の関係性に基づく資料検索を可能する階層検索画面等を提供する。また資料の閲覧画面では、IIIF対応の画像ビュー アである Universal Viewer を用いた画像表示を行う。 ## 3.3.3 デジタルアーカイブの活用例 構築したデジタルアーカイブの活用例として、OAI- PMH と IIIFを利用した連携事例について述べる。 OAI-PMH を用いることで、「東京大学学術資産等アーカイブズポータル」(東京大学内の学術資産を横断的に検索可能なポータルシステム) [10]、それを介した「Japan Search」との連携を実現した。 また中村らが開発・公開している日本国内の IIIF 準拠画像に対する横断検索システム「IIIF Discovery in Japan 」[11]に対して、IIIFマニフェストを介して DCH 上で公開されている画像を機械的に登録している。このように、公開システムである $\mathrm{DCH}$ とは異なるシステムにおいても、画像をシームレスに利用することができる点が、IIIF などの標準規格に準拠する利点の一つである。 ## 3.4 まとめ 2 で挙げた基本戦略に基づき、以下の要件を満たすデジタルアーカイブを構築することができた。 —サーバマシンの維持の問題:レンタルサーバを用いたシステムの運用 $\cdot$システムの継続的開発の問題:オープンソースソフトウェア「Omeka」を用いたシステム開発 —多機能システムの維持の問題:標準規格である IIIFへの準拠、OAI-PMH などのAPIを介した異種システムとのデー夕連携 ## 4. 考察 本稿では、 2 で提案した基本戦略について、3の構築事例に基づき、メリットやデメリットを含む考察を行う。 ## 4.1 サーバマシンの維持の問題 サーバマシンの維持の問題にあたっては、レンタルサーバを利用することで、サーバに関わるメンテナンスコストを大幅に下げることができた。 しかし、レンタルサーバも商用のサービスであるため、Flickr 等のサービスよりは持続性が高いと考えられるが、そのサービス自体の継続性に注意する必要がある。この点に対しては、江草も述べている通り[6] サーバマシンの変更時において移行が容易な環境 (LAMP 環境など)を用意しておくことが肝要である。 ## 4.2 システムの継続的開発の問題 システムの継続的開発への配慮として、OSS、特に本研究では Omeka の使用を提案した。画像やメタデー 夕の登録・編集といった基本的な機能は Omeka の標準機能を利用し、業者等に開発を依頼する範囲を画面 デザインに限定することで、開発コストを下げることにもつながった。さらに、当該デジタルアーカイブの開発中、および公開後にも Omeka 本体のアップデー トが行われた。例えば、当初はアイテム単位での公開 /非公開設定ができるのみであった機能が、アイテムに紐づくメタデータ単位(タイトルや作成者など)で切り替えることが可能になるなど、第三者の成果を活用できる点が OSS を使ったシステム開発の利点である。またマニュアル等も整備されているため、システ么構築および運用における属人化を防ぐこともできた。 な扮、OSSを利用することの一般的な注意点として、 ソフトウェアのアップデートを行う際などに、不具合が生じないか等を十分に検証する必要がある。この点については、組織每に対応することはコストの増加につながるため、不具合や改善策を共有可能なネットワーク構築が今後求められる。Omeka が公式に提供する forum(https://forum.omeka.org/)にこのような情報が掲載されているが、日本語による情報発信は少ないため、Omekaの日本語コミュニティの構築も望まれる。 ## 4.3 技術変化への対応、多機能システムの維持の問題 技術変化への対応の問題に対しては、API や機械可読データの提供を通じて、データとアプリケーションを疎結合にするアプローチを提案した。これにより、「東京大学学術資産等アーカイブズポータル」や 「Japan Search」などとの連携が実現した。これらはいずれも、DCH とは独立したアプリケーション・システムにおいてデータが利用された例である。第三者による利活用を支援する機械可読・国際標準規格に準拠したデータを作成・公開することにより、システム自体を複雑化することなく、様々な情報技術やツールを用いたデータ活用が可能となった。 一方、データとアプリケーションが密に結合した状態となっていることには注意が必要である。具体的には、現在の LOD や IIIF の提供は、Omeka が提供する機能に依存したものとなっていることから、アプリケーションの移行等に伴って、データが失われるリスクを抱えている。この課題に対して、Omekaが標準機能として提供する APIを通じて、システム内のデータを静的な(JSON-LD 形式の)ファイルに変換し、これらをデータセットとして GitHub 上で保存・公開している。これにより、Omekaが提供する各種機能を利用しつつ、データとアプリケーションを分離し、持続性と利活用性の両者を考慮した環境を実現している。 ## 5. 結言 本稿ではデジタルアーカイブの長期運用と高い利便性の両者を実現するための方法論を提示し、実際の構築事例と活用事例に基づく評価を行った。具体的には、 レンタルサーバ上の LAMP 環境と OSS である Omeka を用いてデジタルアーカイブを構築し、運用コストを低減しつつ、IIIF や OAI-PMH 等のデータ活用のための機能群を提供した。これらの活用例として、「東京大学学術資産等アーカイブズポータル」や「Japan Search」などとの連携を実現した。 一方、LAMP 環境や Omeka の運用にも一定のメンテナンスコストがかかる。今後は静的サイト (Jamstack: JavaScript、APIs and Markup)を使ったデジタルアーカイブ構築手法など、より長期的な運用と高い利便性を維持可能な方法論について検討する。 ## 註・参考文献 [1] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. 我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性. http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/ houkokusho.pdf (参照 2020-08-11). [2] 川上一貴, 岡部晋典, 鈴木誠一郎. Web上の地域映像アーカイブの調査と検証 : デジタルアーカイブズの持続性に着目して. 情報知識学会誌. 2011, vol. 21, no. 2, p.245-250. [3] 立命館大学アートリサーチセンター. 国際共同利用・共同研究拠点「日本文化資源デジタル・アーカイブ国際共同研究拠点」デジタル研究環境の提供データベースの受託・運用. https://www.arc.ritsumei.ac.jp/j/ijac/about_b.html (参照 2020-02-06). [4] 福島幸宏, 天野絵里子. アーカイブズ構築のスリムモデル. Code4Lib Japan 2019, 2019. [5] 冨澤かな, 木村拓, 成田健太郎, 永井正勝, 中村覚, 福島幸宏. デジタルアーカイブの「裾野のモデル」を求めてー東京大学附属図書館U-PARL「古典籍on flickr! 〜漢籍・法帖を写真サイトでオープンしてみると〜」報告. 情報の科学と技術. 2018, vol. 68, no. 3, p.129-134. [6] 江草由佳, 移行しやすく使いやすいデジタルアーカイブの構築:教育図書館貴重資料デジタルコレクションの経験から. 情報知識学会誌. 2019, vol. 28, no. 5, p.367-370. [7] 研谷紀夫. 高度アーカイブ化事業の概要と研究者資料のアーカイブズ. 社会情報研究資料センターニュース. 2012, no. 22, p.1-10. [8] Omeka. https://omeka.org (参照 2020-03-17). [9] WEB PARK. https://www.itc.u-tokyo.ac.jp/education/services/webpark/service/ (参照 2020-03-17). [10] 東京大学学術資産等アーカイブズポータル. https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/ (参照 2020-03-17). [11] 中村覚, 永崎研宣. 日本国内のIIIF準拠画像に対する横断検索システムの構築. 研究報告人文科学とコンピュータ $(\mathrm{CH})$. 2018, vol. 2018-CH-118, no. 8, p.1-6.
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# 吹田市立博物館における 新型コロナ資料の収集と展示 Collecting and Exhibiting COVID-19 Related Objects at the Suita City Museum in Osaka, Japan 五月女 賢司 SAOTOME Kenji 吹田市立博物館 } \begin{abstract} 抄録:吹田市立博物館では、新型コロナに関連する資料の収集を行っている。こうした資料は、次世代の人々が感染拡大の実態を 知る上で貴重な歴史資料となる。同館ではまた、新型コロナに関連したミニ展示を開催した。収集資料の一部を展示することで、次なる収集につなげることとともに、コロナ禍が日本や地域社会に何をもたらしたのか、また私たちに何を託したのか、来館者一人一人が、これからの日本のあり方、みずからの生き方を考えるきっかけとしてもらうことを目的としていた。モノからコトへ、 というように博物館の社会的役割が変化する時代の中で、モノとともに市民による新型コロナ体験の証言を収集・アーカイブする 活動が重要となろう。 Abstract: The Suita City Museum is collecting objects related to COVID-19. These objects will be valuable historical resources for future generations to learn about the current pandemic. The museum also held a small exhibition on COVID-19. By exhibiting some of the collected objects, the museum hoped to link them to the next collection and to help visitors to think about the future of Japan and the way people should live, what the pandemic has given to Japanese society and local communities, and what it means for us. In an era in which the social role of museums is changing from object-centered to people's narrative-centered, it is important to collect and archive the testimonies of citizens' experiences of COVID-19 along with objects. \end{abstract} キーワード : 新型コロナウイルス感染症、地域資料の収集、地域社会の課題解決、モノからコトへ、民主的な対話 Keywords: COVID-19, Collecting Community-based Objects, Facing the Challenges of the Community, From Objects to Narratives, Democratic Dialogue ## 1. はじめに 吹田市立博物館では、100 年後の人々の情報源とし て、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連する地域資料の収集を筆者が主導して 2020 年 3 月中旬から開始した。実は、約 100 年前に流行したスペインかぜに関連する吹田の地域資料は確認されていない。今は当たり前のものであったり、役割が終わったらごみ箱に捨てられる運命のものであったりしても、 100 年後には現在の新型コロナウイルス感染拡大の実態を知る情報源として貴重な歴史資料となる。 吹田市立博物館におけるミ二展示「新型コロナと生きる社会——私たちは何を託されたのか」(会期: 2020 年 7 月 18 日〜8月 23 日)では、ひとまずそれまでに収集できた資料の一部を展示することで、次なる収集につなげるということなど目的として開催した。 それと同時に、今回のコロナ禍が日本に、そして地域社会に、何をもたらしたのか、また私たちに何を託したのか、来館者一人一人が、過去数か月を振り返り、 これからの日本のあり方、みずからの生き方を考える きっかけとしてもらうことも目的とした。 2. なぜいま新型コロナ展か〜モノに宿るコト〜今、博物館の存在意義が問われている。こうした中で、博物館はこれまで以上に地域社会との関わりを持ち、その課題解決のために積極的に行動し発信することが求められている。そして、博物館が地域社会に対して積極的にアプローチする際に重要なのは、モノだけを重視する思考からコトをも重視する思考への転換であり、また民主的な対話を重視する姿勢である。 例えば、遠い場所の話になるが、15世紀から 19 世紀までの間に行われた大西洋奴隷貿易でカリブ海の島々へ連れて来られたアフリカの人々の末裔の中には、アフリカへの精神的回帰を願う人たちが多くいる。 そうした彼らの悲しみであったり、苦しみであったり、怒りであったり、アフリカへの渴望感であったりを表すモノの一例として、カリブ海の島の博物館で展示したり、アンティークショップで彼らが購入し家で飾ったりする、アフリカの仮面がある。博物館や博物館を 有する地域社会の役割として、単に後世にモノを残すというだけではなく、コト、すなわちモノに宿るストーリーを残し、それらをもとにした対話を住民に促すことが大切となっているといえる。 現在、新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの人たちが悲しみや苦しみを経験し、しかし、そうした中でも一筋の希望を見いだしつつある。本ミニ展示では、展示された新型コロナウイルス関連資料から、来館者一人一人が自分自身にとってのコトをふりかえり、これからの世の中に大切なコトを考えるきっかけにしてもらうことを重要な展示メッセージとしていた。以下、展示資料の中から、数点をご紹介する。 ## 3. 千里山・小さな食品庫 図1「千里山・小さな食品庫」ボックス(武田大信氏作成、2020年 4 月) 千里山にある千里寺副住職の武田大信氏は、2020 年3月下旬から5月31日まで「千里山・小さな食品庫」 を当寺院内に設置した。これは、給食と近所の子ども食堂が同時期に休止状態になったため、家庭でお腹を空かしている方がいるのではないか、近くの大学の学生はアルバイトが減少したうえ、実家に帰れず、不慣れな土地でお腹を空かしているのではないか、また、元々ぎりぎりで家計をやりくりしていた方々が、今回の騒動で一気に困窮状態に陥っているのではないか、 などといった懸念を抱いたことがきっかけであった。 また、2010 年と 2013 年に発生した飢餓事件のことが頭に浮かび、恐ろしさを感じたことから始めた活動という。 活動開始から数時間後にボックスの中身を確認すると、中身がほぼ空になっていたため、武田氏は活動を継続することにした。武田氏自身が用意した食品が底を尽きそうになってきた時、近所の住民が食料を寄付してくれたため、ビラと看板を設置し幅広く寄付を募るようにした。さらに、Amazonの「ほしいものリスト」 を公開して寄付を募る活動も同時に展開した。 本ミニ展示で展示されたボックスは、2020 年 4 月 15 日から 5 月 31 日まで実際に使用されていたものである。山門に設置し中身をいつでも必要なだけ自由に持ち帰ることができるようにしたという。 食品には印をつけて、透明のビニール袋に詰めた。 これはきちんと袋詰めされているものの方が、持ち帰る人が安心できると考えたためである。実際に多くの方々が利用したという。 ## 4. 民間事業者による新聞折り込みチラシ 図2 民間事業者による新聞折り込みチラシ 民間事業者によるチラシは、スーパーマーケットや飲食店、商業施設から不動産屋まで様々な業種のものがある。緊急事態宣言下では、チラシの数自体が減少傾向にあったようであるが、それでもコンスタントに配布された業種のチラシもあった。例えば、塾や葬儀屋である。塾のチラシからは、オンライン授業を併用していることがわかる。葬儀屋のチラシからは、どんな状況下でも人は新型コロナに限らず亡くなるものなのだと、至極当たり前のことをあらためて思い知らされるのである。全体として、万全の新型コロナ対策を行っていることを伝達するとともに、配布時期にもよるが、前向きなメッセージを発しているものが多いことがわかる。 ## 5. おわりに〜資料・証言提供のお願いについて〜 2020 年 3 月中旬から始めた新型コロナ関連資料の 収集も、地域住民の協力の成果もあって、ミニ展示開催直前現在で、モノ資料が約 750 点、デジタル写真等 のデータが約 400 点となっていた(2020 年 10 月9日現在では計 2,000 点を超える資料が集まっている)。吹田市立博物館では引き続き新型コロナ関連資料を収集しているため、展示会場では、自宅などにある、モ 図3 豊中市の居酒屋の店主から2020年 9 月18日に寄贈された自肃警察関連資料(2020年 4 月15日午前10時頃発見) ノ資料やデジタル写真などの寄贈を呼びかけた。また、新型コロナに関連する証言を集めていることも周知し、一部文書や口頭での提供を得た。 モノからコトへ、というように博物館が期待される社会的役割が変化する時代の中では、こういった証言の収集が極めて重要な要素になる。今後も、(1)自肃期間中の生活や、(2)感染が拡大する地域からの来訪を拒んだり、(3)営業自肃などに目を光らせる「自粛警察」 の動きが分かる体験談、(4)医療従事者らへの差別に関する体験談のほか、(5医療従事者に限らず「私が受けたコロナ差別」など、「あなたの新型コロナ体験」を収集・アーカイブしていく活動が重要となろう。
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# コロナ関係資料からみえてくるもの Consideration about the COVID-19 materials 持田 誠 MOCHIDA Makoto 浦幌町立博物館 } 抄録:新型コロナウイルス感染症が地域社会へ及ぼした影響を示す資料を「コロナ関係資料」と呼ぶ。コロナ関係資料の多くは、一過性の配付物や掲示物などのエフェメラであり、感染拡大の渦中にあるうちに収集しなければ、すぐに世の中から消え去ってし まう。これらは、感染症下で人々の暮らしを知る上で、有益な情報を与えてくれる歴史資料的な価値がある。いっぽう、コロナ社会を象徴する物としてマスクがある。浦幌町立博物館では、特に手づくりのマスクに着目した展覧会を開催した。コロナ関係資料 の収集は、パンデミック下における資料収集と地域の記録化という博物館の使命のひとつであり、博物館資料論上の新しい課題と もいえる。 Abstract: Materials depicting the impact of the novel coronavirus disease on local communities are called "COVID-19 Materials". Most of the COVID-19 Materials are ephemerals like temporary handouts and posters destined to disappear before long unless they are collected when the society is in the middle of the pandemic. These materials hold historical values, giving us useful insights into the life under the pandemic. Another item from the "with corona" society that would hold a symbolic value is the mask. The Historical Museum of Urahoro held an exhibition with a focus on handmade masks. Collection of the COVID-19 Materials forms part of the museum's mission to collect and record the community life during the pandemic. At the same time, it may also pose as a new challenge to the study of museum materials. キーワード : COVID-19、パンデミック、博物館、エフェメラ、マスク、浦幌町 Keywords: COVID-19, pandemic, museum, ephemera, face mask, Hokkaido, Urahoro ## 1. はじめに 新型コロナウイルス感染症によって、社会にどのような変化が起きたのか?を示す資料の収集に、さまざまな博物館や図書館、文書館が取り組んでいる[1]。浦幌町立博物館は、北海道の十勝地方にある人口 4,500 人の小さな町の郷土資料館だが、ここでも新型コロナウイルス感染症に関係する地域資料を「コロナ関係資料」と呼び、収集を進めている ${ }^{[2]}$ 。 収集している資料の大半は、コロナによって中止を余儀なくされたイベントなどの告知文やチラシ、貼り紙などである。こうした一過性の資料は「エフェメラ」 と呼ばれる。エフェメラについては、展覧会のフライヤーや案内ハガキなどを、美術館のアーカイヴで収集する事例が報告されている[3]。早稲田大学演劇博物館は、中止となったり延期された演劇の公演の調査と関連資料の収集に取り組んでいる ${ }^{[4]}$ 。一方で、地域博物館においても、社会の動きを知る資料として収集の対象となる場合があるが、今回は新型コロナウイルスが地域生活へ及ぼした影響を記録する資料として、特に重点的に収集を実施した。 また、感染拡大防止対策として、にわかに脚光を浴びた生活用品にマスクがある。マスクの普及と発展は、歴史的にもインフルエンザなどの感染症の流行が、大き な影響を与えている。そこで、当館ではコロナ関係資料のなかでもマスクに特に着目した企画展を開催した ${ }^{[5]}$ 。 収集しているエフェメラ資料が記録した「コロナな時代」の一端と、手づくりマスクを集めた企画展「コロナな時代のマスク美術館」について紹介する。 ## 2.「エフェメラ」が伝える社会の閉塞感 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、まず大きな影響を受けたのがイベント類の中止である。浦幌のような小さな町でも、町内会レべルの行事から、町の文化祭、政治家の講演会など、さまざまな行事が中止になっており、その告知がチラシやポスターといった形で広められている[図 1][図 2]。 裏を返せば、これらの資料は、こうした小さな町でも、日常的にさまざまな行事が開催されていることを示しているとも言えるだ万う。 地域行事以外にも、全国的に大きく注目されたのが、全国高校野球大会の中止である。特に、今年の春の選抜高校野球大会は、北海道十勝地方から 2 校 (北海道帯広農業高校、白樺学園高校)が出場するとあって、地域の盛り上がりはとても大きなものだった。支援団体は甲子園出場のための費用募金を集めていたが、大会が中止となり、支援者には幻の大会の公式記念夕才 図1政治家の国政報告会中止のビラ 図2町内の女性団体のイベント中止のお知らせ 図3中止となった第92回選抜高校野球大会の公式タオル (上)と支援者への礼状(下) ルが、礼状と共に送られた[図 3]。 支援者の一人が浦幌町内にも拍礼、送付されてきた当日にさっそく「博物館で役に立つのならば」と寄贈いただいた。新型コロナウイルスが、全国規模の行事を中止させ、その影響が地方町村にも波及していたことの、ひとつの事例といえるだ万う。 公共施設の休館も相次いだ [図 4]。 ゴールデンウィーク中の休館・休業は、商業施設 $\cdot$公共施設ともに大きな痛手だったはずである。当館自身が、緊急事態宣言の発令を受けて、断続的に 2 回、 図4 温泉の臨時休館の公告 図5 町立公共施設の臨時休館のお知らせ 図6郵便局の窓口営業時間を短縮するお知らせ 臨時休館を経験している[図 5]。 また、短縮営業もさまざまな場面でみられた。身近な公共施設である郵便局までもが、密口取扱時間を短くして対応した[図 6]。 スーパーでは、時間限定の特売などが「三密」を招くということで、相次いでとりやめとなった。また、折达広告そのものが激減し、ついには「チラシ広告の配布を自粛する」というチラシが発行されるに至った 図7 スーパーマッケットのチラシ広告自肃を告げるチラシ 図8 町内でテイクアウトが出来る店舖の一覧表 [図 7]。 また、外出の自肃とともに、外食を控えることが求められた。その結果、食堂での飲食に代わり、テイクアウトが推奖されるようになった。浦幌町では、もともとテイクアウトという文化が少なかったが、これを機会に食堂・居酒屋ともにテイクアウトメニューを創設[図 8]。利用を促進するためのクーポン券が配付された[図9]。 すると、こうしたクーポン券の印刷を請け負う町内の印刷業者が、これを支援。1 事業所 100 枚限定で、無料で印刷を請け負うと発表し、注目された[図 10]。営業自肃に苦しむ食堂の活性化を、地域全体で支えようとする取り組みがあったことを記録するものである。 いっぽう、2020 年は、1920 年に第 1 回メーデーが開かれてから 100 年という、労働界にとって記念すべき年であった。5月1日のメーデー前後には、各地でさまざまな行事が計画されていたが、感染拡大防止の観点から式典やデモ行進の中止が相次いだ。労働組合の機関紙には、式典を中止した今年のメーデーを学びの日にしょうと呼び掛ける記事が見られる [図 11]。 同時に、時間給や日給で働く臨時・非常勤職員の休暇の有給対応を求めている。さまざまな休業要請の陰 図9町内の飲食店の利用を促すためのクーポン券 図10クーポン券などの印刷を無料にすることで町内商業者の支援を申し出る印刷業者の広告 図11式典が中止となった100周年のメーデーを報じる自治労北海道の広報紙(右)。左の号では新型コロナウイルスに係る休暇を臨時$\cdot$非常勤職員も有給対応するよう求めている で、非正規雇用の労働者が、大変厳しい状況に直面していることがわかる。 影響は経済面だけではない。教育面では、学校が長期にわたって休校。在宅勤務や自宅学習について「おうち時間」という言葉が登場する[図 12]。 図12「おうち時間」の文字がみえる学習教材のチラシ 図13休校中の子どもたちを対象に町の若者達が開催したオンラインイベントのお知らせ 図14仕送りやアルバイトが停止し困窮する大学生を支援するため、同空会がカンパを呼び掛けるチラシ また、オンラインでの学習や会議が進み、必然的に ICT 化が加速するという現象も各地で起こっている [図 13]。 また、大学生についてはこれまで学費や生活費の源となっていたアルバイトもままならなくなり、困窮した学生達のために同密会が募金を集めるなどの取り組みも行われている[図 14]。 民俗や宗教への影響もみられる。深刻なのは葬儀で、通夜・告別式への人の密集を防ぐ為、会葬の自粛が求められるようになった[図 15]。家族葬を済ませて、のちに死亡公告を出す場合も多く見られるようになった。神社の春や秋の祭りは、神職等、関係者のみによる非公開の神事のみとなった[図 16]。 図15 町内の物故者を告げる回覧。感染拡大防止のため、一般会葬者は会場入口で焼香後、随時引き取りを願うとの一文がみえる 図16神社の秋季例大祭を神職等での非公開で開催する告知 図17 お盆期間中の納骨堂での「3 密」回避を呼び掛ける寺院のお知らせ 8 月中旬の盆時期に集中する寺院の納骨堂への参拝は、密室空間への人の密集が懸念される。各檀家に対して、お参りの日程を分散するよう求める注意などが出された[図 17]。 キリスト教会は毎日曜日の礼拝やミサを非公開に。 カトリック教会は、祈祷文「新型コロナウイルス感染症に苦しむ世界のための祈り」を制定し、現在もミサの度に日本中の教会で祈りが捧げられている[図 18]。 移動の自粛は、公共交通機関にも大きな打撃となった。 JR北海道は特急列車の減車・減便を実施した[図 19]。 ところがその後、一転して政府主導の「Go To トラベル」政策がとられるようになり、秋口には割引き対 図18日本のカトリック教会が毎日曜日のミサで捧げている「新型コロナウイルス感染症に苦しむ世界のための祈り」の祈䘠文 図19 移動制限により定期列車の減便・減車を告げるJR北海道の告知 象の旅行パンフレットが巷に溢れ、旅行時に使う地域クーポン券が発行されるようになる[図 20]。 感染症は、さまざまな偏見や差別も生みやすい。函館市に在住していながら、ナンバープレートが他都市名である車両に対する、嫌がらせなどが横行。これを防止するため、ナンバープレートの近くに「函館在住」 のステッカーを貼るという取り組みまで現れた[図 21]。 このように、巷に現れては消えていった無数の「コロナ関係資料」が示すものは、世界的感染症が市井の人々の暮らしに与えた変化の姿である。役割を終えたらすぐに廃棄されるエフェメラ資料は、実は生活の実相を事細かに伝えてくれる、またとない歴史資料にもなることがよくわかる。 ## 3. 企画展「コロナな時代のマスク美術館」 こうした「緊急事態」の世の中で、感染拡大を防ぐ為の必要性から、突如として生活必需品となったのがマスクである。店頭にはマスクを求める人々が殺到し、市販のマスクはたちまち品薄となり、入手困難となっ 図20 GoToトラベル事業により発行された地域共通クーポン券 図21居住地以外のナンバープレートで走行するオートバイや自動車への嫌がらせを防ぐために発売された「函館在住ステッカー」 図22 マスク等の品薄を告げる店舗内の貼り紙(上)と、マスク入荷を告げる幟旗を掲げる店舗(下) ## た[図 22]。 そこでマスクの自作が考えられる訳だが、いざ作ろうと思っても、作り方もわからなければ、ガーゼもゴ么紐も手に入らない。町内では、いつしか誰かが「手づくりマスクのつくり方」を描いたメモを作製して大 図23町内の誰かが描き無料配付していた「マスクのつくりかた」 量にコピーしたものが、郵便局の ATM 脇などにそっと置かれるようになり、たちまち流布した[図 23]。 そうした手探りの状態から、人々はそれぞれの力で独自にマスクを作り始めた。そして数ヶ月の間に、マスクを「公衆衛生のための道具」から、デザインも多様な、帽子やマフラーなどと同じ、一種の「服飾品」 へと成長させた。 そこで当館では、コロナ関係資料のなかからマスクだけに焦点をあてて、「コロナな時代のマスク美術館」 の名で展覧会を開催した[図 24]。 マスクの流行は、閉塞感のあふれるコロナな時代を、少しでも明るく楽しく生きていこうという人々のたくましさを感じさせる。いっぽうで、「マスクさえしていれば何も言われない」と、よくその意味を考えないまま、「みんながしているから」と流されてしまう「無言の同調圧力」のようなものが背景にあるとも感じられる。そうした面も含め、マスクは「コロナな時代」 のひとつの象徴と言って良い。 こうした、社会の微妙な空気感を、モノを媒体にして、 50 年後、 100 年後の世の中にどう伝えていくかが、地域博物館の課題ではないかと感じている。しかし、本展ではそうした、マスクの流行が示す影の部分への言及が弱かった面が否めない。展示面で言及できなかった分、博物館講座の際に、「マスク差別」の事例の新聞記事などをとりあげて解説したが、元来は展示で、マスクの流行が示す意味について、わかりやすく解説すべきたっったと思っている。 幸い、本展は多くのメディアに採り上げられた。北海道立旭川美術館の門馬仁史主任学芸員からは、「時代性を表象する展覧会として白眉だった」との感想に加え、「収集し、研究し、展示するという博物館が果たすべき使命にのっとりつつ、今日的な課題と真正面 図242020年8月 1 日〜 9 月27日まで開催した企画展「コロナな時代のマスク美術館」 から向き合う強い覚悟を示す模範的な姿勢」という、過分な評価もいただいた[5]。特に後段の部分の評価は、博物館活動の原点であり、今後も気を引き締めて取り組んでいきたいと考えているところである。 ## 5. おわりに 新型コロナウイルス感染症は、臨時休館や事業の縮小など、博物館経営そのものに大きな影響を及ぼした。佐久間(2020)は、「こうした通常ではない事態は様々な検討の良い機会である」として、「博物館の受けた損失」、「周辺の文化コミュニティに及ぶ影響」、「休館を機に考える博物館の多面的な価値」という 3 つの角度から、博物館の現状を考察している[6]。「コロナ関傒資料の収集」は、非常事態下における資料収集と地域の記録化という、またひとつ別な角度からの博物館の現状分析であり、博物館資料論上の課題ともいえる。 ひきつづき、多方面からの議論を期待したい。 ## 註・参考文献 [1] カレントアウェアネス・ポータル:新型コロナウイルス感染症に関するデジタルアーカイブ研究会、「COVID -19に関するアーカイブ活動の呼びかけ」を発表」. 2020-05-12. https://current.ndl.go.jp/node/40928 (参照 2020-10-01). [2] 持田誠. コロナ関係資料収集の意義と必要性. 2020. 博物館研究, vol. 55, no. 11, p.21-24. [3] 川口雅子. 美術館アーカイブズが守るべき記録とは何か: カナダ国立美術館の事例を中心に. 2012. 国文学研究資料館紀要.アーカイブズ研究篇, no. 8, p.83-104. [4] 後藤隆基. 演劇が失われた時間:コロナ禍による中止・延期公演の調査と資料収集. 2020. 博物館研究, vol. 55, no. 11, p.28-31. [5〕 門馬仁史. 季評 7-9月〔美術〕. 北海道新聞. 2020-10-28,夕刊, 5 面. [6] 佐久間大輔. コロナ禍で博物館の受けた影響、見えてきた価値. 2020. 文化経済学, vol. 17, no. 2, p.1-4.
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