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# COVID-19で図書館が直面した 課題と可能性 Challenges and possibilities for libraries under COVID-19 岡本 真 OKAMOTO Makoto アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg) } 抄録:COVID-19を受け、その多くが施設としての休閉館に追い込まれた図書館の実情を整理するとともに、その結果、露になっ た図書館の課題を説明する。それらを受けて、これから図書館に求められる役割を論じる。特に課題として日本の図書館は来館利用型のサービスに偏してきた点を、脆弱性と片面性としてとらえ、従来からすでに存在した潜在的な課題が顕在化したことを指摘 する。こうした課題に対する対処として、saveMLAKや、「図書館」(仮称)リ・デザイン会議の活動を紹介したうえで、さらに図書館として取り組むべき活動として COVID-19のアーカイブ活動への貢献を挙げる。 Abstract: To address COVID-19, many libraries in Japan were forced to close to the public. We clarify the situation for libraries under COVID-19 and describe the challenges that the situation revealed. Then, we discuss the roles that libraries are expected to play to deal with the challenges. In particular, we point out the problems of vulnerability and unbalance of libraries in Japan, which have placed unbalanced emphasis on services for onsite users. These pre-existing problems are now brought to light by COVID-19. We report the activities of saveMLAK and "Library" (tentative name) Redesign Conference as solutions to the challenges. In addition, we propose archiving of various materials regarding COVID-19 as the crucial role that libraries should play. キーワード : COVID-19、MLAK、saveMLAK Keywords: COVID-19, MLAK, saveMLAK ## 1. COVI-19 による図書館の一斉休閉館 2020 年 4 月上旬、COVID-19 の拡大を受け、日本国内の図書館が目に見えて影響を受けだした。具体的な影響の最たるものは、緊急事態宣言の発令や自治体等の図書館設置者の判断を受けた施設としての休閉館の措置である。同年 4 月 8 日(水)から9日(木)にかけての 24 時間でカーリルが行った調査では、「カー リルの検索対象となっている全国の公立図書館・公民館図書室など 1409 館」のうち、「休館になることを発表している図書館は 650 館(自治体)」であった ${ }^{[1]}$ 。 その後、この調査は東日本大震災をきっかけに 2011 年に発足し、以後、各種災害によって被害を受けた博物館・美術館 (Museum: M)、図書館 (Library: L)、文書館(Archives:A)、公民館(Kominkan:K)の情報支援・中間支援を行う saveMLAKに引き継がれた ${ }^{[2]}$ 。 この調査は調査対象を拡大しながら続いており、本稿執筆時点では、公共図書館、国立大学図書館、専門図書館の各分野において、複数回に渡って継続的に結果が発表されている[3]。 この一連の調査のなかでも衝撃的だったのは、 5 月上旬に行ったカーリルによる初回から連続して数えて 4 回目にあたる「COVID-19の影響による図書館の動向調査(2020/05/06)について」の結果だった。この調查では、5月上旬の調查時点で公共図書館の実に $92 \%$ が施設としては休閉館していることを明らかにした[4]。 90 \%を超えるこの衝撃的な数値は大きな反響を呼び、各種メディアに打け報道、特に大手新聞である朝日新聞(2020 年 6 月 21 日)、読売新聞(2020 年 7 月 19 日)、毎日新聞(2020 年 9 月 28 日)の社説で図書館の施設としての休閉館による機能不全が言及される事態となったのである。 ## 2. COVID-19 が露にした図書館の脆弱性と片面性 このように施設としての休閉館に追い込まれる図書館の状況は、公共図書館だけのものではない。国立大学図書館も同様の状況に置かれたことは調査結果から 明らかであり、おそらく私立大学も同様の状況であっ ただろう。実際、国公私立を問わず、ほとんどの大学 はキャンパスそのものへの学生の入構を禁ずる事態に 陥っていたことを考えると、大学図書館のほぼすべて が施設としてはサービス提供できる状態ではなかった ことは想像に難くない。 さて、このような事態になってあらためて明らかになったのが、少なくとも日本の図書館は館種(公共図書館、大学図書館、専門図書館、学校図書館、国立図書館という種別)の違いに関係なく、来館利用型のサービスに重点が置かれてきたという事実である。逆に言えば、来館せずに自宅等の遠隔地から利用できる非来館利用型のサービスには、来館利用型のそれに比せば、注力されてこなかったという事実である。 その結果、大学図書館の機能に大きく依存する調查・研究に大きな影響が出ていることが「図書館休館対策プロジェクト」の調查によって明らかにされている[5]。また従来、国立国会図書館や都道府県立図書館、一部の大都市の図書館の機能に拠ってきていた著述業や調査業、出版社や編集者らの活動に大きな支障が出ていることもソーシャルメディアを中心に悲鳴とともに指摘されている。 もち万ん、図書館がまったく無力だったわけではない。電子図書館システムを導入している公共図書館等では、その利用が過去最高を記録したというニュースで湧いてもいる。また、大ブームとなった妖怪「アマビエ」の元画像は京都大学附属図書館がかねてよりデジタル公開してきたものである。これらの電子サービスがまったく無力であったわけではない。しかし、それらの効果効用はあくまで相対的なものであり、図書館に向けられた絶対的なニーズを満たすものではなかったことは疑いようがないだ万う。COVID-19によって、日本の図書館は来館利用型のサービスに偏してきたという脆弱性と片面性を露呈することになったのだ。 ## 3. COVID-19を機に期待される図書館の役割 日本の図書館の脆弱性と片面性があらためて明らかになったわけだが、これ自体はもともとあった課題があらためて脚光を浴びたに過ぎない。真の課題はこの先の未来に向けて、どのようなリカバリーをしていくかである。上述のように図書館の施設としての休閉館が大手紙の社説で言及されるほど、社会的な注目を集めたことを重く考える必要があるだ万う。 「奇貨居くべし」とまでは言わないが、COVID-19 がもたらした生活様式の変化の不可避さは、図書館という社会制度を再設計する最適な頃合いでもあろう。実際、このような議論はすでに始まっている。筆者自身も関わっている事例にならざるを得ないが、たとえ ば saveMLAKが初案を公開した呼びかけ「災害への 『しなやかな強さ』を持つ MLAK 機関をつくる」[6]「図書館」(仮称)リ・デザイン会議はその代表例として差し支えないだろう $[7]$ 。 特にこの事態を受けて図書館に求められる変化としては、前者の呼びかけに示された「非来館利用の促進:同時に情報・知識のデジタル化・ウェブ化・オー プンアクセス化をさらに進めましょう。MLAK 機関を来館・非来館のいずれでも、常に同等の利用が可能な機関へと進化させていきましょう」と「2 分法を超える融合:来館・非来館という 2 分法ではなく、実空間と情報空間が融合した未来の MLAK 機関の理想を追求していきましょう」という 2 つ見解によくまとまっている。 さらに図書館には、他の MLAK 機関と連携しての現在の状況のアーカイブ活動への参画も求められる。 COVID-19にさまざまなコミュニティーがどう対応したのかという記録を残すことは、地域資料や郷土資料、行政資料の収集・保存そのものであり、特に公共図書館にはその役割の強い自覚を求めたい。設置数においては他の文化機関を圧倒する存在である図書館にこそ果たせるという使命感を抱いて、この危機に立ち向かうことが望まれよう。 ## 註・参考文献 [1] カーリル.COVID-19:多くの図書館が閉館しています. https://blog.calil.jp/2020/04/stay-at-home.html (参照 2020-09-20). [2] saveMLAK. https://savemlak.jp/ (参照 2020-09-20). [3] saveMLAK. covid-19-survey. https://savemlak.jp/wiki/covid-19-survey (参照 2020-09-20). [4] saveMLAK. COVID-19の影響による図書館の動向調査 (2020/ 05/06) について. https://savemlak.jp/wiki/saveMLAK:\%E3\%83\%97\%E3\%83\%AC \%Е3\%82\%B9/20200507 (参照 2020-09-20). [5] 図書館休館対策プロジェクト. https://closedlibrarycovid.wixsite.com/website (参照 2020-09-20). [6] saveMLAK.「災害への『しなやかな強さ』を持つMLAK機関をつくる」. https://savemlak.jp/wiki/CallForResilience (参照 2020-09-20). [7]「図書館」(仮称) リ・デザイン会議. https://library-redesign.main.jp/ (参照 2020-09-20).
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# 文化施設とCOVID-19アーカイブ COVID-19 Archives in cultural institutions 福島 幸宏 FUKUSIMA Yukihiro } 東京大学大学院情報学環 抄録:コロナ禍は図書館や博物館にも、他の分野と同様に大きな打撃を与えた。その影響をどのように対処し、さらにそれをどの ように受け止め、また次の段階にどのようにつなげていくか、デジタルアーカイブの観点からその動向を紹介した。コロナ禍への 直接の対処、日常活動をコロナ状況下でどのように行うか、このコロナ禍事態をどう記録するか、という諸段階を設定して検討し た結果、この状況に即座に対応できたのは、地域資料・情報の収集に日常から積極的であった文化施設である、という推論に到達 した。一方で、この間に収集した資料や作成したコンテンツを今後どのように扱うのか、今後の大きな課題となる。 Abstract: The Corona disaster hit libraries and museums as hard as other fields. This article presents trends in digital archiving in terms of how to cope with the impact of the disaster, how to respond to it and how to take it to the next stage. As a result of the various stages of the study - direct response to the corona disaster, how to carry on daily activities under the corona situation, and how to record the corona disaster - the inference was reached that the cultural institutions that were able to respond immediately to the situation were those that were active in collecting local materials and information on a daily activities. On the other hand, how to handle the materials and contents collected and created during this period is a major issue for the future. キーワード : COVID-19、コロナ禍、文化施設、図書館、博物館、アーカイブ Keywords: COVID-19, corona disaster, cultural institutions, libraries, museums, archives ## 1. はじめに 本稿では、「文化施設と COVID-19アーカイブ」と題して、このコロナ禍の状況における、図書館や博物館の動向を紹介し、少しく考察を加える。 コロナ禍は図書館や博物館にも、他の分野と同様に大きな打撃を与えた。その影響にどのように対処し、 さらにそれをどのように受け止め、また次の段階にどのようにつなげていくか、デジタルアーカイブの観点から検討したい。 ## 2. コロナ禍と図書館・博物館の対処 2.1 図書館の困惑 ここでは、コロナ禍に図書館や博物館がまずはどのように対処したかを述べる。図書館界が最初に直面したのは入館者をどのように管理するか、という問題であった。 日本図書館協会は情報と考え方をまとめて「COVID-19 論点となっているのは、来館記録の収集の是非である。 緊急事態宣言の解除を見越して政府が 2020 年 5 月 4 日に改定した「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に応じて「図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」が作成された。 それに対応することで各図書館は再開館が可能となったが、そのなかで来館者の記録を取ることが定められていた。この点が大きな議論を呼び、当初はこの対応を巡って議論が錯綜した。このスタートのつまづきが、本稿の 3 以降に述べるようなコロナ禍の受け止めという展開まで届かなかった要因になっている可能性がある。 ## 2.2 コロナ禍での図書館・博物館の活動 上記のような課題に直面しつつも、図書館においては館内利用を限定しつつ、来館による貸出や郵送による貸出を積極的に行った事例を多数確認できる $[2]$ 。また、電子書籍の緊急導入などの事例もあり、ともかく読書環境の確保という点での努力が多く見られた。 一方、博物館においては、これまでweb 展開に積極的でなかった各施設が、「\#エア博物館」というハッシュタグなどを利用しつつ、所蔵資料や展示室を流すという動きがあり、また、日本博物館協会も「新型コロナウイルスに関する博物館の新たな取組」[3] として国内のみならず海外の事例までも紹介している。特に北海道博物館を中心とする「おうちミュージアム」[4] には、小規模館を中心に全国で 200 施設以上が参加しており、注目に値する。 ## 3. コロナ禍での図書館・博物館の受け止め 3. 1 博物館の活動 本章では、前章のようなコロナ禍で如何に活動を行うか、から一歩踏み达んた、コロナ禍をどう受け止めて対応したか、という観点から状況を整理する。 まず、活発に行われたのは博物館の活動であろう。北海道の浦幌町立博物館が「“コロナ”な世相を語り継ぐために」と題して、資料収集とほぼ同時並行で 5 月 20 日にミニ展示を開始したのが展示としては最初期の動きであろう $[5]$ 。さらにそれに先行する形で、東京都文京区の野球殿堂博物館が、「COVID-19 野球ア一カイブ」を展開していることも見落としてはならない。 スポーツ新聞、雑誌、書籍の収集がその内容となっている $[6]$ 。 また、愛知県の豊田市郷土資料館では、7月から 11 月まで開催した企画展「スペイン風邪とコロナウイルス」と連動して、「コロナの中の暮らしの記憶 $2020 \Rightarrow 2120$ プロジェクト」を実施した[7]。ここでは、 100 年前の 1920 年前後に流行したスペイン風邪を振り返り、2020 年現在われわれが経験しているコロナ禍を記録し、100 年後の 2120 年に伝えよう、という地域の博物館としての務恃を感じる時間意識に貫かれていることに注目される。な扒、収集対象も地域のあらゆる記憶となっている。 なお本稿では、7月18日から約一ヶ月間、「ミニ展示新型コロナと生きる社会〜私たちは何を託されたのか〜」を開催した大阪府の吹田市立博物館の活動に注目したい。展示は担当学芸員が収集した、コロナ禍に関わる地域の写真・配布されたチラシや市の広報紙・飲食店の揭示物などから構成されている。ここまでだと貴重な展示事例ではあるとはい宇、他の事例と大きな差はない。しかし「Black Lives Matter 運動」の関西におけるデモ写真やプラカードの展示がごく小規模ではあるが行われたことを高く評価したい。日本ではまだまだ注目されていないが、コロナ禍は人種間の分断を顕在化させており、「Black Lives Matter 運動」の日本での展開は、その部分に対応したものでもあった。 これを専門博物館ではなく、地域博物館で展開することによって、地域の社会状況の変化と世界的動向とをわずかでも結ぶことができたと言えよう。コロナ禍の課題を複眼的に把握する視座が獲得されようとしているのである。また、その「展示主旨」に「 100 年後の人々の情報源として、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)に関連する地域資料の収集を本年 3 月中旬から開始しました。(中略)今は当たり前のものであったり、役割が終わったらごみ箱に捨てられる運命のものであったりしても、100 年後には現在の新型コロナウイルス感染拡大の実態を知る情報源として貴重な歴史資料となります」との問題意識は前記の豊田市のものと重なる。まさに現状を記録しながら、後世に引き継ぐ新たなコンテンツをどう作っていくか、がこれらの活動と言えよう。 ## 3.2 図書館界での動向 図書館界で、コロナ禍を受け止める活動はあまり目立ったものはない。書籍を扱うという観念が前提に立つ以上、現在進行形の事態に対しては事後的にならざるを得ない。しかし、海外の各図書館では上記の博物館と同様に積極的に情報収集を行っている事例が多数確認される。アメリカ議会図書館では、まずは Flickr と協力して写真の投稿サイトを開設し、その他の情報についても収集を行っているようである ${ }^{[8]}$ そのなかで、公立図書館のデジタルアーカイブのプラットフォームを提供している TRC-ADEAC 株式会社が「新型コロナウイルス感染症対策アーカイブ」を公開したことは注目される[9]。図書館での新型コロナウィルス感染症(COVID-19)対策の記録をアーカイブ化することによって、今後同様の事態が発生した際の参考となることを願い作成する」とした同サイトには、写真のほかに揭示物や文書も収集されており、今後、この段階での対応を検討する素材となることがまさに目指されている。さらに、「株式会社図書館流通センター(TRC)が指定管理者として受託している図書館の協力」によって地域に偏らず、全国から資料を収集している点が指摘できる。指定管理による一種のネットワーク化の効果として今後の検討の対象となろう。 また、岡山県の瀬戸内市立図書館が 6 月 18 日に、新型コロナウイルス感染症に関する資料と写真を収集することを発表した ${ }^{[10]}$ 。関連資料の図書館への寄贈を依頼するとともに、すでに「瀬戸内市内で撮影した、 とっておきの一枚を投稿していただき、写真や撮影場所など情報を共有するサイト」として設置していた、「せとうちデジタルフォトマップ」への写真の投稿を呼びかけている。これは図書館単体のコロナアーカイブの活動としては珍しい事例と言えよう。 総じてコロナ禍を受け止めてその状況をアーカイブするという局面では、地域の博物館の活動が目立ち、図書館などでは、これから、という側面が強い。社会的機能の分担の結果そうなっていると判断すべきか、職員や組織の現段階の指向性として現象しているのか、現段階では筆者には判断がつかない。今後も継続 ## して検討したい。 ## 4. おわりに 取り上げた各施設の活動を思い合わせると、この状況に即座に対応できたのは、実は「今の」地域資料・情報の収集に日常から積極的であったから、という推論が導き出せそうである。結局、その視座を日頃からどこに向けているか、という課題に収斂すると考えられる。 しかし、一方では紹介した諸活動は、デジタルアー カイブを見据えたものばかりではない。地域博物館などで収集した資料を今後どのように扱うのか、またこの状況で多数作成されたコンテンツをどのように活かして行くのか、また議論ははじまっていない。この点が今後の大きな課題となっている。さらに行政内部にこの間蓄積された大量の文書と情報をどうするか、という課題もある。コロナ禍は一種の災害であり、阪神淡路大震災や東日本大震災に準じた保存方策が行われるべきであろう。 この状況下の 2020 年 8 月 25 日にジャパンサーチが公開された。コロナ禍が起きなくても、2020 年は、 この間積み重ねてきた文化施設のデジタル化を巡る議論の大きな結実を迎える年となったはずである。そして、コロナ禍は期せずしてその後押しとなっていくことになろう。 ## 註・参考文献 [1] COVID-19に向き合う (日本図書館協会図書館の自由委員会). 2020/8/26. http://www.jla.or.jp/committees/jiyu/tabid/854/Default.aspx (参照2020-10-06). [2]【期間限定】府立図書館図書無料打届けサービスについて (京都府立図書館). 2020/4/24. https://www.library.pref.kyoto.jp/?p=22697 (参照 2020-10-06). [3]新型コロナウイルスと博物館(日本博物館協会)。 https://www.j-muse.or.jp/02program/projects.php?cat=13 (参照 2020-10-06). [4] 打うちミュージアム (北海道博物館). http://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/ouchi-museum/ (参照 2020-10-06). [5] 浦幌町立博物館. 浦幌町立博物館だより. 令和2年5月号. [6] COVID-19野球アーカイブ (野球殿堂博物館). 2020/3/1. https://bml.opac.jp/opac/Notice/detail/7 (参照 2020-10-06). [7] コロナの中の暮らしの記憶 $2020 \Rightarrow 2120$ プロジェクト(豊田 市立郷土資料館). 2020/7/13. https://korona-kioku.net/ (参照2020-10-06). [8] Library Seeks Pictures of Pandemic Experiences (Library of Congress Blog). 2020/9/9. https://blogs.loc.gov/loc/2020/09/library-seeks-pictures-ofpandemic-experiences/ (参照2020-10-06). [9] 新型コロナウィルス感染症対策アーカイブ (TRC-ADEAC). 2020/8/3. https://trc-adeac.trc.co.jp/Html/Home/9900000010/topg/ 901 corona-arch/index.html (参照 2020-10-06). [10] 新型コロナウイルス感染症に関する資料と写真を募集しています (瀬戸内市民図書館). 2020/6/18. https://lib.city.setouchi.lg.jp/opw/OPW/OPWNEWS.CSP?PID= OPWMESS \&DB $=$ LIB \&MODE $=1 \& \mathrm{LIB}=\& \mathrm{TKAN}=\mathrm{ALL} \&$ CLASS $=10 \& \mathrm{IDNO}=100269$ (参照2020-10-06). ※本稿は2020年10月初旬までの動向をまとめたものである。
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# 受賞のことば ## $\Delta$ 功労賞 ## 松浦啓一氏(国立科学博物館 名誉研究員) この度はデジタルアーカイブ学会第 2 回功労賞に選んで頂きありがとうございました。私は日本の自然史系博物館の標本データや画像データのデータベース構築及び活用のために活動すると同時に様々な国際プロジェクトに関わってきました。その中でも日本の自然史系博物館の協力によって構築されたサイエンスミュージアムネット(S-Net)や市民参加型の魚類写真資料データベースは多くの人々に活用されるデータベースとなりました。さらに、地球規模生物多様性情報機構(GBIF: Global Biodiversity Information Facility)は文字通り全世界の自然史系博物館や大学、研究機関さらには NGO が参加した大規模プロジェクトであり、強く印象に残っている活動です。GBIF は 21 世紀初頭から開始され、多くの人々の協力によって、現在では 10 億件以上の生物多様性情報を発信するようになっています。今後もこれらのデータベースを発展させるために力を尽くして行きたいと考えております。 ## 実践賞 ## 国立公文書館アジア歴史資料センター 2001 年に開設されたアジア歴史資料センター(通称、アジ歴)は、今年 (2021年)20 周年を迎えます。この節目のときに実践賞を受賞できたことを、大変嬉しく思います。 アジ歴は、常にユーザー目線で工夫を重ねています。資料の冒頭 300 文字のテキスト化、辞書機能、グロッサリー、目録の英訳など、特に検索機能の充実に力を入れてきました。近年は戦後資料の公開やリンク方式による提供資料の拡大とともに、「インターネット特別展」などのコンテンツの充実に努めています。教育など幅広い分野への活用も模索しています。 ユーザーの皆様の積極的な意見や助言が、アジ歴の利便性をさらに高めるための原動力です。皆様の一層のご支援をお願い申し上げる次第です。 ## 沖縄県及び(公財)沖縄県文化振興会 (沖縄県公文書)  ゆたさるぐとううにげーさびら。いっぺーにふえーでーびたん。 沖縄県知事玉城デニー ## 小城藩日記データベース 小城藩日記データベースは、江戸期の小城藩(佐賀県)で起きた日々の業務日誌をデータベース化したものです。本データベースは、単に記録を保存し、検索するという使命を超えて、全ての人が、古文書の漢字で埋まった当時の出来事を、大まかにでも把握し、愉しめることを目的にしています。もちろん、膨大な資料から興味のあるデータをできるだけ楽に抜き出し、客観的な資料から、先人の動向を洞察するという、歴史文化の専門家にとって最も大切な使命を「支援」するということを最重要の目的としています。これまで、佐賀大学地域学歴史文化研究センター、附属図書館、小城市歴史資料館、地元市民の方々をはじめとして、様々な立場の方々からご協力を賜り、IT 技術を積極的に取り入れ、組み合わせることで、本データベースを成立させることができました。今後は、局地的なものでなく、様々な歴史系データベースに応用し、発展させることができればと考えています。また、本データベースを取り巻く別の組織で作られた歴史データを積極的に取り入れ、利便性、信頼度を高めていきたいと思います。この度の「実践賞」授与に大変感謝いたします。 ## 神崎正英氏(ゼノン・リミテッド・パートナーズ代表) このたびのデジタルアーカイブ学会実践賞は、セマンティック・ウェブ界隈への激励として頂いたものと受け止め、僣越ながら代表して打礼を申し上げます。2020年は、この分野の先がけであるFOAFコミュニティのメーリングリスト開設 20 周年でした。RDF や SPARQL といった技術はようやく一定の認知を得られるようになり、これらを提供するサービスが増えてきたのは関係各位の努力の賜物だと思います。 とはいえその利活用はまだ今後の課題であり、そこが進まないとサービスが縮小してしまう危惧も拭えません。データ提供と利用の両面から、その有効性を分かりやすく示す「実践」に取り組んでまいります。 ありがとうございました。 ## 日本ラグビーフットボール協会 このたびデジタルアーカイブ学会の第 2 回学会賞・実践賞を打授けいただきましたこと、大変光栄であり、心より感謝申し上げます。日本ラグビーフットボール協会は 1926 年創立で 90 年超の歴史があり、諸先輩の残してくれた資料、写真類が多数保管されてはいたものの、それらをまとめる作業が成されぬままになっておりました。2019 年日本でラグビーワールドカップの開催が決まり、それまでに日本ラグビーの歴史、実績を世界に発信しようと決意し、貴重な資料、写真類のデジタルアーカイブ化を 1 年半かけ実践した次第でございます。ワールドカップ日本大会の大成功と共に、忘れえぬ作業対応であり、今後も継続して磨き上げてまいります。 日本ラグビーフットボール協会広報部門アーカイブ担当富岡英輔 ## $\checkmark$ 学術賞(研究論文) ## 東日本大震災の事例から見えてくる震災ア一 カイブの現状と課題 柴山明寛,北村美和子,ボレーセバスチャン,今村文彦 デジタルアーカイブ学会誌, 2018 年 2 巻 3 号, p. 282-286 この度は、誉あるデジタルアーカイブ学会第 2 回学会賞として学術賞 (研究論文) を頂きましたこと、誠にありがとうございました。学術賞は、第 2 回学会賞から新たに創設され,その 1 回目に選んでいただいたことは、とても名誉なことであります。そして,今後の震災デジタルアーカイブ研究を発展させていく上で、数多くの震災記録が収集・保存され、ウェブ上に公開されました。本論文の知見は、今後起こるかもしれない大規模自然災害や過去の自然災害に対して寄与できると考えております。今後も更なるデジタルアーカイブ研究を進めていく所存であります。 ## くずし字認識のための Kaggle 機械学習コン ペティションの経過と成果 北本朝展, カラーヌワットタリン, Alex Lamb, Mikel Bober-Irizar じんもんこん 2019 論文集,2019,223-230 このたびは、デジタルアーカイブ学会第 2 回学会賞(学術賞)にお選びいただき、 ありがとうございます。受賞対象論文は「くずし字認識のための Kaggle 機械学習コンペティションの経過と成果」で、我々の研究グループが 2019 年夏に開催した国際的な機械学習コンペティション「Kaggleくずし字認識」に関して、コンペの主催者となって見えてくるコンぺの強みと課題をまとめた論文です。世界中から優れたアイデアをオープンに集める仕組み(オープンイノベーション)の一つとして、 コンペ型の研究スタイルはデジタルアーカイブの世界でもこれから活用されていくことと思います。これからコンぺの開催を打考えの方に、本論文が参考になれば幸いです。 KuroNet Kuzushiji Recognition Viewer 徒然草 (Character List) ## 学術賞 (著書) \\ 【最優秀賞】『コミュニティ・アーカイブをつくろう!: せんだいメディアテーク「3 がつ 11 にちをわすれない ためにセンター」奮闘記』 佐藤知久,甲斐賢治,北野央著.晶文社,2018.1 このたびはデジタルアーカイブ学会第 2 回学会賞・学術賞(著書)に選んでいただき、心より感謝いたします。本書は、東日本大震災を受けたせんだいメディアテークが、市民やアーティストとともに取り組んだプロジェクト「3がつ 11 にちをわすれないためにセンター」に抽る意図、考え方、活動の内容やその成果を、市民による「メディア実践」の現場としての立場からまとめなおしたものです。わたしたちのおかれる社会状況はいずれなんらか「歴史」と称されるものに組みこまれていくのですが、そこからこぼれ落ちるものも含めたさまざまな史実や出来事とのかかわり方における集団的な技術のひとつとして、デジタルメディアを用いた文化活動としてのアーカイビングを紹介したく、「コミュニティ・アーカイブ」という考え方を用いました。今回の受賞は、すでに全国に見られる同様の諸活動を応援することとなるとともに、その実践におけるさまざまな課題解決への道筋のひとつとなるように思われます。研究者のみなさまの知恵や視点が、それらの活動とあわさり、より豊かな状況となることを心より願っております。ありがとうございました。(甲斐賢治・佐藤知久・北野央) ## 『権利処理と法の実務』 福井健策監修、数藤雅彦責任編集 ( デジタルアーカイブ・ベー シックス, 1). 勉誠出版, 2019.3 この度は栄えある学術賞に選出いただき、誠にありがとうございました。 本書にご知見を投入してくださった著者の皆様、監修の福井健策弁護士、そして編集チームの皆様に、この場を借りて改めて御礼を申し上げます。 本書の刊行から 1 年、新型コロナウイルスの影響をふまえ、デジタルアーカイブを通じたデジタル知識基盤の構築はより差し迫った課題になっています。このような中、本書の筆者らも、肖像権ガイドラインの取り組みのように、様々な形で「権利処理と法の実務」に関するアプローチを進めているところです。 今回の受賞を励みとし、デジタルアーカイブの構築・公開を円滑に行うための活動に、引き続き取り組んで参りたいと思います。(数藤雅彦) ## 『ネット文化資源の読み方・作り方 : 図書館・自治体・研究者必携ガイド』 岡田一祐著. 文学通信, 2019.8 このたび拙著が栄誉に与ることとなり、お選びくださった諸先生方、また連載の場を与えていただいた『人文学情報学月報』編集長の永崎研宣先生、出版を持ちかけてくださった文学通信・岡田圭介氏や日々支えてくれる家族にお礼申し上げる。 拙著そのものはとりたてて取るところもなく、連載を続けるうえで時評というかたちに自然と収ったことが、たまたま長く続けられたことと時評が珍しいということと相俟って、思わぬ個性になったものかと思う。連載はまだまだ続いている。本書がさまざまな取り組みの批評や記述の交換の起点となって、本書がさして珍しいものでなくなることとなれば、著者としてはこのうえない幸いである。 ## 『日本の文化をデジタル世界に伝える』京都大学人文科学研究所・共同研究班「人文学研究資料にとっての Web の可能性を再探する」編; 永㟝研宣著. 樹村房,2019.9 このたびは本書を選定していただき、まことにありがとうございます。京都大学人文科学研究所の共同研究班の活動として、人文学における Web の意義を再検討する会を 3 年間実施させていただき、 その成果のうちで、特にデジタルアーカイビングに関わる部分を筆者がまとめたのが本書です。したがいまして、この研究班に参加して議論した皆でいただいた賞として受け止めております。日本の文化をデジタル世界に伝え、そこで見えるようにすること、それがデジタルアーカイブを構築し運用することであり、それなくしては世界からも未来からも我々の文化が見えなくなってしまいます。では具体的にはどうすればよいのか、どうした方がよいのか、本書では技術面のみならず様々な角度から検討しています。この学会の皆様に打役に立つことがありましたら幸いです。 つくる、つかう、かんがえる!地域をみんなの手て活性化する、あたらしい映像记錤の方法餄。市民の市民による市民のための、草の根型アーカイフス入門! ・…… ## 学会賞選考委員および作業部会委員学会賞選考委員会 (50 音順) 青柳正規 (東京大学名誉教授・デジタルアーカイブ推進コンソーシアム会長) 長尾真 (デジタルアーカイブ学会会長: 委員長) 御厨貴 (東京大学名誉教授・ひょうご震災記念2 1 世紀研究機構研究戦略センター長) 吉羽治 (講談社取締役 (IT 戦略企画室担当)) 吉見俊哉 (東京大学情報学環教授・デジタルアーカイブ学会会長代行:作業部会長) ## 学会賞選考委員会作業部会 (50 音順) 生貝直人 (理事、法制度副部会長) 井上透 (理事、人材養成部会長) 嘉村哲郎 亀田卉宙 北本朝展(評議員) 坂井知志 (理事、コミュニティアーカイブ部会長) 高野明彦 (理事、技術部会長) 時実象一 (理事、学会誌副編集長) 永崎研宣 長丁光則(デジタルアーカイブ推進コンソーシアム事務局長、評議員) 原田隆史(理事、関西支部長) 福島幸宏 (評議員) 宮本聖二 (理事) 柳与志夫(理事、総務担当) 吉見俊哉 (東京大学情報学環教授・デジタルアーカイブ学会会長代行 : 作業部会長) ## 学会賞の創設及び選考委員会の設置について (2018/8/6) ## 1. 趣旨 デジタルアーカイブ及び学会活動に寄与した活動を称揚することによって、デジタルアーカイブ及びデジタルアーカイブ学会 (JSDA)への社会的関心を高めるとともに、学会活動の発展に資する。 各年度で選考し、研究大会開催時に発表・授賞式を行う(第3回大会からの実施を想定)。 ## 2. 学会賞の種類 学術賞:前年度に発表されたデジタルアーカイブに関する優れた著書、論文(DA 学会誌掲載の有無は問わない)等を対象とする。対象は学会員とし、複数の選定可。 実践賞 : デジタルアーカイブの構築・運用・普及・継続発展等に優れた貢献をした個人・機関・団体を対象とする。選考対象とする期間は過去 5 年以内を目途とする。複数選出可。対象は学会員であることを要しない。 一功労賞 : デジタルアーカイブ及び JSDA の発展に大きく寄与した個人または団体を対象とする。複数選出可。学会員であることを要しない。 受賞者には記念品を授与する。合わせて最優秀学術賞に対しては賞金を付与する。 ## 3. 選考方法 学会内に選考委員会を設置する。選考委員長は学会長とする。選考委員は若干名とし、学会員以外の外部有識者も可とする。 選考委員会のもとに作業部会を置き、候補となる個人・団体の調査・リストアップを行う。 ## 4. 当面の取り組み 早急に選考委員会及び作業部会を立ち上げる。 2018 年度は実践賞と功労賞の授与を先行し、学術賞を含めた 3 賞すべての選考は、2019 年度に行う。 2018 年度の授賞式は第 3 回研究大会で行う。
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# 世界のCOVID-19(新型コロナウィルス 感染症) 関連デジタルアーカイブ COVID-19 Digital Archive in the World 時実 象一 TOKIZANE Soichi } 東京大学大学院 情報学環 抄録:世界および日本の COVID-19(新型コロナウィルス感染症)による外出禁止や学校閉鎖の中での生活を収集するデジタルアー カイブについて、収集対象ごとに事例を紹介する。 Abstract: Presents various cases of digital archive activities collecting materials and experiences under quarantine and school closure caused by COVID-19 in the world. キーワード : 新型コロナウイルス感染症、生活、外出禁止、ステイホーム、学校閉鎖 Keywords: COVID-19, New Corona virus, quarantine, lockdown, school closure ## 1. はじめに 今回の新型コロナ感染症のように、アジア・アフリカ・アメリカ・オセアニアなど地球上のすべての国と地域に影響をおよぼした事件は世界史的に見ても稀有である。この例をみない事件を記録しようとさまざまな試みがおこなわれている。 米国を中心とした世界の事例集としては、IFPH-FIHP. が作成した Mapping Public History Projects about COVID 19 がある[1]。アーカイブを行っている機関を地図にマップしている。また欧州を中心とした事例集としては Archives Portal Europe Blog が作成した Memories of the pandemic がある ${ }^{[2]}$ 。わが国の事例はデジタルアーカイブ学会 SIG「新型コロナウィルス感染症に関するデジタルアーカイブ研究会」が作成した「新型コロナウィルス(COVID-19)感染についてのデジタルアーカイブ (国内 $) 」$ がある[3]。なお日本以外の各国では新型コロナウィルスと呼げず、COVID-19 と呼ぶのが普通である。 今回 IFPH-FIHP のデータを中心とし、ウェブ検索結果を加え、約 400 件のアーカイブサイトを調査したので、その結果の一部を紹介する。 ## 2. アーカイブの種類 アーカイブの種類には次のようにさまざまなものがある。 (1) 写真・動画 (2) 日記 $\cdot$ 記録 (3) オーラル・ヒストリー (4) ブログや SNS (5) 各種文書 (6) アンケート (7)創作物(絵、音楽、パーフォーマンス、手芸など) (8) 物体 ここでは主として地域や大学におけるデジタルアー カイブの事例を紹介する。 ## 2.1 写真・動画 新型コロナウイルス感染拡大下の生活を写真や動画にとることは広く行われている。人の入っていないレストラン、立入禁止のサインなど、ステイホーム中の自撮りなど、さまざまな写真や動画がアーカイブされている(図1)。 変わったコレクションとしては、マスクの写真ばかり集めている博物館がある(図 2)。 また、ニューヨーク市立博物館では Instagramを利用して、そこに写真を収集している[6] ## 2.2 日記 ・記録 米国の歴史博物館などのアーカイブでは、地域住民に自分たちの体験記(Story)を日記などに記録し、提供するように呼び掛けている。日記がつけやすいようにフォームを提供しているところも多い(図 3)。 図1 写真アーカイブの例 ${ }^{[4]}$ 図2 マスク写真のコレクション ${ }^{[5]}$ 図3 体験記 (Story) アーカイブの例 ${ }^{[7]}$ Touched By Tragedy Twice: Father, Who Later Died from COVID, Remembers Losing Son on 9/11 図4 オーラル・ヒストリーの例 ${ }^{[11]}$ 大阪大学大学院文学研究科の宮前教員の授業では、文集「阪大生の新型コロナウイルス生活記録〜パンデミックを歩く」を作成し電子書籍で公開している ${ }^{[8]}$ 2.3 オーラル・ヒストリー 米国では直接経験を書いてもらうのでなく、電話で自由に録音してもらったり、あるいは担当者がインタビューしてオーラル・ヒストリーとしてアーカイブしているところも多い。こうしたオーラル・ヒストリー には Story Corps ${ }^{[9][10]}$ という専門のアーカイブに保存されている例もある。 図 4 の例は9/11 航空機テロ事件で息子を失った人が、今度は新型コロナに感染して死去したが、亡くなる前に息子の思い出を語った録音である。 ## Location Saskatoon SK and Neepawa MB Date(s) 2020-03-23 2020-04-01 2020-04-09 2020-04-12 File Upload (Advanced) 図5 チャットの画面コピーの例 ${ }^{[12]}$ ## 2.4 ブログや SNS 新型コロナ下の生活をTwitter、Facebook、YouTube など SNS に投稿している人も多い。アーカイブでは、 それらをそのまま画面キャプチャで集めたり、URL を提供してもらったりしている(図5)。 ## 2.5 各種文書 地域の役所から住民への通知、大学であれば学生への通知、各種ビラ、などデジタルに限らず集められている(図6)。 ## ACCEPTED MATERIALS \\ - Official university records: meeting minutes, memos, decisions and statements, correspondence, surveys, reports, publications. Trinity publications, video announcements and broadcasts 図6 大学の各種文書を集めている例 ${ }^{[13]}$ ## 2.6 アンケート 地域住民の生活や学生の生活を知るためにアンケー トもしばしばおこなわれている(図7)。 図7新型コロナウィルス下の生活アンケート例 ${ }^{[14]}$ ## 2.7 創作物 ロックダウン (外出禁止) 中に自宅で絵を描いたり、音楽を演奏するなどの創作活動の投稿も行われている。特に子供の絵(図 8)や詩などが集められている。 図8 創作物の例。リッチモンドのジョイ・B・幼稚園の子どもの絵日記 ${ }^{[15]}$ ## 2.8 物体 ウィルス感染下の生活に関係する物を集めることも行われている。ピッツバーグの Heinz History Center では、テイクアウトのメニュー、店のポスター、ロックアウト下の宿題課題表、買い物リスト、などなんでも収集するとしている(図 9)。 図9 Heinz History Centerの収集案内 ${ }^{[16]}$ もちろんマスク収集しているところも多い(図 10)。 Example of what we wish to collect - cotton masks made locally during coronavirus pandemic. 図10 マスクの収集例 ${ }^{[17]}$ わが国でも浦幌町立博物館 ${ }^{[18]}$ や吹田市立博物館 ${ }^{[19]}$ がマスクやチラシなどを収集してマスコミにも取り上げられた。 ## 3. 「現在」をアーカイブする これら新型コロナウィルス感染症関連のアーカイブを行っている機関は、米国では主として博物館と歴史資料館である。これらは以前から地域の資料の収集とアーカイブを行っており、その延長でコロナのアーカイブに取り組んでいる。たたし、従来の収集資料が古い写真や古文書、家具や食器など、骨董的なものが主であったのに対し、「現在」をアーカイブする経験は初めてのところが多いように見受ける。「現在」をどのようにアーカイブするか、はわれわれにとっても重要な課題と考えられる。 ## 註・参考文献 [1] IFPH-FIHP. Mapping Public History Projects about COVID 19. https://ifph.hypotheses.org/3225 (参照 2020-09-23). [2] Archives Portal Europe Blog. Memories of the pandemic. https://archivesportaleurope.blog/2020/04/20/national-archivesmalta-collecting-testimonies-on-lockdown/ (参照 2020-09-23). [3] 新型コロナウィルス(COVID-19)感染についてのデジタルアーカイブ(国内). http://stokizane.sakura.ne.jp/tokizane2/covid-19-domestic/ (参照 2020-09-23). [4] Ontario Jewish Archives. COVID-19 Documentation Project. http://ontariojewisharchives.org/Programs/Current-Projects/ COVID-19-Collection (参照 2020-09-23). [5] Alpinarium Galtür. Schutzmaske Alpinarium. https://www.alpinarium.at/en/erlebnismuseum/schutzmaskealpinarium (参照 2020-09-23). [6] Museum of the City of New York. \#CovidStoriesNYC. https://www.mcny.org/covidstoriesnyc (参照 2020-09-23). [7] Idaho Historical Society. Idaho History at Home. https://history.idaho.gov/historyathome/ (参照 2020-09-23). [8] 学問への扉(エスノグラフィを書く)受講生. パンデミックを歩く。 https://r.binb.jp/epm/e1_158115_03092020105328/ (参照 2020-09-23). [9] Story Corps. https://storycorps.org/ (参照 2020-09-23). [10] 米国の非営利団体StoryCorps、コロナ禍の感謝祭におけるオンラインでの会話を記録・保存するGreat Thanksgiving Listenへの参加を呼びかけ:Google CloudのAI技術を用いて会話をテキスト化. カレントアウェアネス・ポータル. 202011-26, https://current.ndl.go.jp/node/42621 (参照 2020-12-06). [11] Story Corps. Touched By Tragedy Twice: Father, Who Later Died from COVID, Remembers Losing Son on 9/11. https://storycorps.org/stories/touched-by-tragedy-twice-fatherwho-later-died-from-covid-remembers-losing-son-on-9-11/ (参照 2020-09-23). [12] University of Saskatchewan. COVID-19 Community Archive. https://covid19archive.usask.ca/node/62 (参照 2020-09-23). [13] Trinity University. Response and Impact: Perspectives from Trinity University on COVID-19. https://libguides.trinity.edu/covid19-collecting-project/what-togive (参照 2020-09-23). [14] Village of Montgomery. The Coronavirus Pandemic - Share Your Story for the Future. https://www.villageofmontgomery.org/village-history/thecoronavirus-pandemic-share-your-story-for-the-future.html (参照 2020-09-23). [15] The Valentine. Richmond Stories from Richmond Kids. https://thevalentine.org/studentstorygallery/ (参照 2020-09-23). [16] Heinz History Center. Experiencing History: Collecting Materials Related to the Coronavirus and COVID-19 Response. https://www.heinzhistorycenter.org/collections/collectingmaterials-related-to-the-coronavirus-covid-19-response (参照 2020-09-23). [17] Cape Fear Museum. Donate to the Collections. https://www.capefearmuseum.com/donate-collections/ (参照 2020-09-23). [18] コロナで激変の「日常」後世にマスク、チラシ…浦幌町博物館が資料収集企画展開催差別の記録も. 北海道新聞. 2020-08-05. https://www.hokkaido-np.co.jp/article/447539 (参照 2020-09-23). [19] 今の「当たり前」もコロナ禍を伝える「歴史資料」に吹田市立博物館でチラシやマスク展示. まいどなニュース. 2020-07-25. https://maidonanews.jp/article/13574493 (参照 2020-12-06).
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# デジタルパブリックヒストリーの 実践としての「コロナアーカイブ @関西大学」 "Corona Archive@Kansai University" as a Practice of Digital Public History 抄録 : 本稿は、筆者を含め、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター(以下、KU-ORCAS)の研究者を中心とした学内の共同プロジェクトとして実施している「コロナアーカイブ@関西大学」について論じている。コロナアーカイブ@関西大学は、ユー ザ参加型のコミュニティアーカイブの手法を用いて、COVID-19の流行という歴史的転換期における関西大学の関係者の記録と記憶を収集している、デジタルパブリックヒストリーの実践プロジェクトである。本稿では、パブリックヒストリーという研究動向 の紹介を踏まえたうえで、世界的な動向におけるコロナアーカイブ@関西大学の位置付けやその特徴、そして収集している資料の 性格等について論じる。 Abstract: This article discusses the "Corona Archive@Kansai University", a joint project by researchers at the Kansai University Open Research Center for Asian Studies (KU-ORCAS) and others. "Corona Archive@Kansai University" is a digital public history project that adopts a userparticipatory community archiving method to collect records and memories of Kansai University's stakeholders at a historical turning point in the COVID-19 epidemic. This paper introduces the research field of public history and discusses the position of the "Corona Archive@Kansai University" in the global context, its characteristics, and the features of the materials it collects. キーワード:デジタルパブリックヒストリー、コミュニティアーカイブ、デジタルヒストリー Keywords: Digital Public History, Community Archive, Digital History ## 1. はじめに 本稿は、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター(以下、KU-ORCAS)の研究者を中心とた関西大学内の共同プロジェクトとして実施している「コロ る。コロナアーカイブ@関西大学は、ユーザ参加型のコミュニティアーカイブの手法を用いて、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の流行という歴史的転換期における関西大学の関係者の記録と記憶を収集するデジタルパブリックヒストリーの実践プロジェクトである。デジタルパブリックヒストリーは、本学会誌ではなじみの薄いキーワードかもしれない。 そこでまずはデジタルパブリックヒストリーの定義を踏まえた上で、世界各国で行われているコロナ関係資料のアーカイブ活動の中でのコロナアーカイブ@関西大学の位置付けやその特徴、収集している資料の性格 等について論じていきたい。 な掠、本稿は、デジタルアーカイブ学会第 5 回研究大会に提出した同名の予稿原稿をもとに、加筆修正を加えたものである。 ## 2. デジタルパブリックヒストリーとはなにか デジタルパブリックヒストリーとはなにかを説明するためには、まずはパブリックヒストリーの説明から始めなければならない。 近年『パブリック・ヒストリー入門』(勉誠出版、 2019)を著した編者の一人である菅によると、「パブリックヒストリーとは、専門的な歴史学者が非専門的な普通の人びと、すなわち『公衆 (the public)』と交わり、その歴史や歴史の考え方に意識的、能動的に関与する研究や実践」だという。端的に言えば、パブリックヒストリーとは歴史学のオープン化であって、歴史学の実践を大学や研究機関の中だけに留めず、また、歴史学の担い手を職業歴史家たけに限定せず、そして、歴史学が伝統的に重視してきた文字資料たけでなく音声や映像等の多様なメディアを史料として扱うという特徴がある ${ }^{[2]}$ 。このオープンな特徴のためにパブリックヒストリーの研究や実践は極めて多岐の領域に渡るが、なかでもデジタル技術を活用するのがデジタルパブリックヒストリーである。 パブリックヒストリーはコミュニティアーカイブとも無縁ではない。パブリックヒストリーが盛んな国の一つであるイギリスでは、1960 年代後半以降のヒストリーワークショップ運動において、「下からの歴史」 や民衆史を揭げ、社会における周縁的存在を歴史学の研究対象として積極的に取り上げる動きが盛んになり、これがパブリックヒストリーの成立基盤となった。 この歴史学の動きと並行して、そのような社会階層やグループにあった人々自身が、自らのために自分たちの史料——それらは従来のアーカイブ機関による資料収集対象から外れていた—ののアーカイブを手掛けるようになった。これがコミュニティアーカイブである。 そして、90 年代以降のデジタルアーカイブの進展と相まって、コミュニティアーカイブはデジタル技術を活用し、大きく飛躍することになった ${ }^{[3]}$ 。したがって、 パブリックヒストリーもコミュニティアーカイブもいわば同根と言える。 一方で、筆者らがコロナアーカイブ@関西大学をデジタルパブリックヒストリーの実践として位置付けているのは、「アーカイブ」という言葉が想起させる収集結果としてのコレクションだけでなく、収集過程としての歴史実践にも等しく意義を見いだしているから である。それはつまり、将来のために史料を主体的に残すという行為を「公䝦」に求めることで歴史意識の涵養を意図しているわけである。しかし、この意図は本稿執筆時点では成功しているとはおよそ言い難い。 このことは後で再び述べることにする。 ## 3. 先行研究・事例とコロナアーカイブ@関西大学の意義 コロナ関係資料の保存プロジェクトは世界中で行われている。国際パブリックヒストリー連盟(以下、 IFPH)らがその情報の集約を行っており、集まった約 500 件の情報をGoogle Map 上で可視化している (2020 年 9 月 17 日現在)[図 1] [4]。 図1 Google Map これら世界のアーカイブの動きについては本号の時実論文に譲ることとして、ここではコロナアーカイブ 1関西大学の開発で参考にした 2 つのデジタルアーカイブプロジェクトに焦点を当てたい。 1 つ目が、2020 年 3 月 26 日に公開された、ドイツのハンブルク大学ら 3 大学共同による “coronarchiv" ${ }^{\text {[5] }}$ である。宮川も指摘するように、サイトデザイン自体は凡庸というべきだが、ドイツ外からも誰でも投稿可能であり、間口が広いのが特徴である ${ }^{[6]}$ 。また、子どもや青少年を対象にした参加キャンペーンを行うなど、広報活動にも力を入れた結果、2020 年 9 月 17 日現在、約 3,200 件もの資料が収録されている。もう一つが、2020 年4月 10 日に公開された、ルクセンブルク大学現代史およびデジタルヒストリーセンター (C2DH) による “COVID-19 memories" [7] である [図 2]。 ルクセンブルク在住あるいはルクセンブルクで勤務する誰もが参加可能なプラットフォームである。また、投稿された「記憶」は、トップ画面上で水玉状のサムネイルで一覧表示させたり、Open Street Map 上に時間経過とともに可視化させたりする等、coronarchiv とは異なる高いデザイン性を備えている。公開メタデー夕はタイトルと内容記述、ファイルと地図上へのマッピングだけというシンプルな構成で、9月17日現在、 図2 COVID-19 memoriesトップ画面 274 件が登録されている。 以上のように、諸外国では様々なデジタルアーカイブプロジェクトが進められている一方で、IFPHらの可視化マップが示すように、国内での実施例は数点にとどまっている。特にユーザ参加によるコレクション構築は、国内では執筆時点では認められない。したがって、コロナアーカイブ@関西大学は、将来起こりうる危機的状況下における同種のプロジェクトの実践に際しては、重要な参照事例になりうるものと言えよう。 ## 4. コロナアーカイブ@関西大学の概要とその 特徵 コロナアーカイブ@関西大学[図 3]を構築するにあたって特に検討を行ったのは、次節以下の 4 項目である。これらを取り上げることで、コロナアーカイブ @関西大学の概要と特徴を明らかにしたい。 ## 4.1 ユーザ参加型の採用と投稿資格 コロナ関係資料の収集方法を考えた当初は、非常事態宣言下で\#StayHome が叫ばれていたため、外出して資料を集めるということが困難であった。また、デジタルパブリックヒストリーとしてユーザの自発的な参加を意図したことからも、ユーザ参加型のコミュニティアーカイブという手法を選択した。前章で参照した2つの事例はいずれも一般市民に広く投稿資格を与えていたが、投稿数の予測が困難ななかでは管理運用が難しいと判断した。そのため、コロナアーカイブ @)関西大学の投稿資格を、関西大学の関係者(留学生を含む学生、教職員、校友会会員、併設校関係者とその家族)のみとした。 ## 4.2 システム構築と収集対象資料 コロナアーカイブ@関西大学の開発は、すでに COVID-19が流行している最中に行ったので、簡易かつ早急に構築できることをシステムの要件とした。この要件に合致するものとしてOmeka Classicを選択し[8]、これにより約 1 週間という短い開発期間で公開することができた。また、参照した二事例のように、 ユーザがテキストデータだけでなく、画像・音声・動画等の各種ファイルも投稿できるようにすること、投稿する情報を地図上にマッピングできるようにする必要があることから、Omeka Classic のプラグインを利用し、これらの機能を実装している。 ## 4.3 権利処理のための規約と体制 著作権処理のために、一律、クリエイティブコモンズライセンス CC BY-NC 4.0 を付与している。これについては、投稿に際して同条件での公開に同意することを利用規約上で求めている。 また、人物が写りこむ可能性を考慮し、肖像権やプライバシー権への配慮も必要である。投稿者に対しては、人物が写っている場合にはその人物から投稿許可を得たものかどうかの確認を利用規約で求めており、投稿された写真はその許諾を得たものとして扱っている。加えて、デジタルアーカイブ学会法制度部会の 「肖像権ガイドライン(案)(第 3版)」[9] の実証実験に参加して、判断に迷うものに対しては、そのガイドライン(案)をもとに処理を進めた。その他、ユーザ自身も投稿データを非公開で投稿する意思表示ができるようにしている。 ## 4.4 長期保存体制の確保 KU-ORCAS は 2021 年度で終了するプロジェクトであるため、収集した資料データの長期保存は、関西大学博物館および年史編纂室が担うことで合意している。 ## 5. コロナアーカイブ@関西大学による資料収集の状況 コロナアーカイブ@関西大学は、2020 年 4 月 17 日に公開し、ユーザの投稿受付を開始した。対面での広報活動が憚られるなか、広報は KU-ORCAS のウェブサイトおよびSNS、インフォメーションシステムと呼ばれる学内サイトで行った。しかし、9月17日現在の資料点数は 62 点であり、この状況は決して芳しいものとは言えない。 投稿されている資料は、ほぼすべてが写真データである。ユーザは投稿時に資料に対して 1 つ以上のタグ <t'th, mars. (COND-19) under the tite of "Corona Arctive of Kansai University. We would like you to contribute your stories, education, etc, or the stuation around you. Only members and persons involved of Kansil and their families are accepted for submission. を付与することができる。調査を行った 2020 年 8 月 7 日現在で 81 件のタグがあり、重複分を数えると全 145 件となり、一資料あたり 2、3 件のタグが付与されていることになる [表 1])。 タグ全体を見ると、収集資料の特徴が見えてくる。 タグは「コロナ対策に関するもの」、「行事に関するもの」が多く、その他に「学内・キャンパス周辺の様子」 や「家族の様子」に打打よそ大別することができる。 これまでのコミュニティアーカイブの事例では「地域」 に焦点をあてた収集が専らであった ${ }^{[10]}$ 。コロナアー カイブ@関西大学は「大学コミュニティ」を対象にしていることから、国内のコミュニティアーカイブの先行事例とは性格の異なる資料群が構築されつつあると評価できる。一方で、コロナアーカイブ@関西大学の資料には、COVID-19 の罹患者や医療従事者に関するものが登録されていない。後者は関西大学に医学部が存在しないためであるが、前者は、広報不足や罹患者がさほど多くはないという事実のほか、罹患者に対する差別が生じている現状を逆説的に反映した結果とも考えられる。 ## 6. おわりに:課題と今後の展開 コロナアーカイブ@関西大学の抱える課題は多いが、とりわけ資料点数の少なさが問題であると認識している。この理由は、なにより投稿資格を関大の関係者に限定していることであり、またソーシャルディスタンスが求められている中で、パブリックヒストリー の実践として求められる「公衆」への関与が難しいということも挙げられるだろう。 この課題への対応として、現在、同じくコロナ関連資料の収集展示を手掛ける吹田市立博物館との連携を通じて、投稿資格の拡大を検討している。本号刊行時にはおおよそのイベントは終了しているはずだが、今後、全国の図書館職員等の GLAM 関係者を対象に才ンラインで投稿を呼び掛ける「アーカイバソン」[11] や、各家庭に眠るスペイン・インフルエンザに関する資料を持参してもらいその場でデジタル化するイベントも企画している。これらの取り組みを進めることで、「公衆 (the public)」がパンデミックの記録と記憶をアーカイブするという行為を通じて、現在を歴史的に捉えるきっかけとなることを目指していきたい。 ## 謝辞 本研究は、関西大学による 2020 年度「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の克服に関する研究課題 (教育研究緊急支援経費)」に採択された「『コロナ表1コロナアーカイブ@関西大学のタグとその件数 アーカイブ@関西大学』を核とした新型コロナウイル入感染症打よびスペイン風邪の記録と記憶の収集発信プロジェクト」の研究成果の一部である。 ## 註・参考文献 [1] コロナアーカイブ@関西大学. https://www.annex.ku-orcas.kansai-u.ac.jp/s/covid19archive/page/ covidmemory (参照 2020-09-17). [2] 菅豊. パブリック・ヒストリーとはなにか?.菅豊, 北條勝貴編著. パブリック・ヒストリー入門:開かれた歴史学への挑戦. 勉誠出版. 2019. pp.3-68. [3] Simon Popple, Daniel H. Mutibwa and Andrew Prescott. "Community archives and the creation of living knowledge”. Simon Popple, Andrew Prescott and Daniel Mutibwa ed. Communities, Archives and New Collaborative Practices (Connected Communities). Policy Press. Kindle版. 2020. [4] “Mapping Public History Projects about COVID 19”. IFPH. https://ifph.hypotheses.org/3225 (参照 2020-09-17). [5] coronarchiv. https://coronarchiv.geschichte.uni-hamburg.de/projector/s/ coronarchiv/page/willkommen (参照 2020-09-01). [6] 宮川創. ドイツにおけるデジタル・パブリック・ヒストリーとしてのコロナ・アーカイブの発展. 人文情報学月報. 2020年6月30日, (107)。 [7] COVID-19 memories. https://covidmemory.lu/ (参照 2020-09-17). [8] Omeka Classic. https://omeka.org/classic/ (参照 2020-09-17). なお、coronarchivやCOVID-19 memoriesは同じシリーズのOmeka Sを利用している。 [9] 肖像権ガイドライン (案) (第3 版).デジタルアーカイブ学会. http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal/shozoken-guideline (参照 2020-09-17). [10] 例えば以下がある。 佐藤知久, 甲斐賢治, 北野央. コミュニティ・アーカイブをつくろう!-せんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」奮闘記. 晶文社. 2018. 真鍋陸太郎, 水越伸, 宮田雅子, 田中克明, 溝尻真也, 栗原大介. 参加型コミュニティ・アーカイブのデザイン:デジタル・ストーリーテリングや参加型まちづくりの融合. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, vol. 4, no. 2, p.113-116.中村覚, 宮本隆史, 片桐由希子. コミュニティ・アーカイブの方法論の構築に向けて:千代田区におけるデジタルアー カイブ・ワークショップの事例より.デジタルアーカイブ学会誌. 2020, vol. 4, no. 2, p.109-112. [11] Wikipediaのエディッタソンに倣い、「アーカイブ」と「マラソン」で作った造語である。
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# 『アーカイブズとアーキビスト』 大阪大学アーカイブズ:編、高橋明男:著、菅 真城:著、三阪佳弘:著、矢切 努:著、三輪宗弘:著、飯塚一幸:著、廣田 誠:著、古賀 崇:著出版社 : 一般社団法人大学出版部協会 2021年4月 234ページ 四六判 ISBN 978-4-87259-644-1 本体 2,090 円 + 税 本書は、2021 年度から大学院に「アーキビスト養成・アーカイブズ学研究コース」を開設した、大阪大学アーカイブズによるアーカイブズ学の入門書であ る。同コースは、20 年度より開始された「認証アー キビスト」資格を取得するための基本的な知識・技能等を学ぶことができる課程で、本書はその教科書的位置づけにある。 これまでアーカイブズや公文書管理の入門書は、海外文献の訳書か、一般市民や行政職員向けのものが多 かったが、本書は日本でアーキビストを目指す人たち を念頭において編集されている点で、大きな独自性が ある。以下、簡単に内容を紹介したい。 第 1 講「アーカイブズ学事始め」(菅真城)は、専門職としてのアーキビストをとりまく現状と課題がま とめられている。資格取得のための要件や、養成課程 の一覧(21 年 3 月現在)なども揭載されており、学 びのプロセスを具体的にイメージしやすい。 第 2 講「公文書管理の保存を法律からみると」(高橋明男)は、公文書管理法と情報公開制度の解説であ る。なかでも重点は現用文書を扱う後者にあり、公文書館移管以前の公文書の公開原則を知ることができる。 第 3 講「公文書管理制度の形成」(三阪佳弘)は、現代日本において、意思決定過程に関わる文書が残さ れにくい背景について、フランスとの対比で歴史的に 検証している。アーカイブズ先進国である同国も、実効性をもつ制度が定着するまで、2世紀にわたる格闘 が必要であったことを跡付けた力作である。 第 4 講「地方公文書館の現状と課題」(矢切努)は、地方公文書館の設立が進まない背景として、欧米のよ うな「アーカイブズ文化」の不在を説く。やや理念が 先行しがちの印象を受けるが、私文書を含めた地域の文化的遺産を積極的に収集する「市民に身近なアーカ イブズ」の提言は、傾聴に值する。 第 5 講「何を残すべきなのか」(三輪宗弘)は、著者が熊本県の評価(廃棄)選別に、第三者の立場で携 わった貴重な記録である。必ずしもどの自治体にも当 てはまる基準が体系的に提示されているわけではない が、これから選別に携わる者にとっては、イメージを 膨らませる上で大きな参考となるだろう。 第 6 講「自治体史編纂から見た公文書保存」(飯塚一幸)は、京都府・滋賀県を中心に、市町村・郡役所・府県における公文書の保存・公開状況を紹介して いる。文書が失われる要因は、戦災・火災とともに、行政区画の変化にともなう廃棄が大きいことから、 アーキビストは現用文書の管理状況にも、常に目を光 らせておく必要があることがわかる。 第 7 講「企業アーカイブズ」(廣田誠) は、評者の ように自治体所属のアーキビストには馴染みの薄い、企業アーカイブズの現状と課題が詳述されている。公文書では「自明」の資料の公共性をめぐって、私的企業ならではの評価の摇れが興味深い。 第 8 講「デジタル時代のアーカイブズとアーキビス ト」(古賀崇) は、これからの専門職には必須であろう、 デジタル記録を取り扱うための国際標準等が提示され ている。初学者にとってはやや難解な内容たが、仕様書作成に直面することになる多くのアーキビストに とって、大きな助けとなるだろう。 以上のように、本書は日本のアーカイブズをとりま く現状と課題について、具体的かつコンパクトにまと められている。これからアーキビストを目指す多くの 方々に、最初の 1 冊としてぜひ手に取っていただきたい。 (滋賀県立公文書館大月 英雄)
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# 『アーカイブの思想言葉を知に変える仕組み』 \author{ 根本 彰 著 \\ 出版社:みすず書房 \\ 2021年1月 320 ページ A5判 \\ ISBN 978-4-622-08970-4 \\ 本体 3,600 円 + 税 } 我が国の図書館情報学の泰斗である著者は近年、『場所としての図書館・空間としての図書館』(学文社、 2015)、『情報リテラシーのための図書館』(みすず書房、 2017)、『教育改革のための学校図書館』(東京大学出版会、2019)と、精力的に単著を発表しており、その 1 つの到達点というべき著作が本書である。あとがき によれば元々「図書館の思想」として慶應義塾大学に おけるオンライン授業のために構想されたが、執筆過程で現在の書名に変更されたという。 なぜ「アーカイブ」なのか。著者によれば、アーカ イブとは「後から振り返るために知を蓄積して利用で きるようにする仕組みないしはそうしてできた利用可能な知の蓄積」であり「どんな社会においても必要な 仕組み」であるとする。この包括的な定義が本書の特徵であり、議論の大前提でもある。すなわち、知の生産 - 保存 - 組織化 - 再利用 - 再解釈 - 再生産等に関わ る一連の営為全体を射程に収める本書はまさしくこの 意味におけるアーカイブ論に他ならず、図書館やアー カイブズ(記録資料、文書館)はあくまでその要素と して位置づけられる。 本書は以下の 11 章からなる。「第 1 講 方法的前提」「第 2 講 西洋思想の言語論的系譜」「第 3 講 書き言葉 と書物のテクノロジー」「第 4 講 図書館と人文主義的伝統」「第 5 講 記憶と記録の操作術」「第 6 講 知の公共性と協同性」「第 7 講 カリキュラムと学び」「第 8 講 書誌コントロールとレファレンスの思想」「第9 講 日本のアーカイブ思想」「第 10 講 ネット社会の アーカイブ戦略」「エピローグ」。著者は、これらの広大な主題群(ぜひ版元ウェブサイトで節レベルの詳細目次を参照いただきたい)の全体に対してアーカイブ という投網をかけ、まず西洋社会が知の制度を整備し ていった過程を概ね時系列順に辿り、それを踏まえて 日本の特殊事情および現代の課題について検討を行 う。そしてこれら主題群の連関が分析される際に主要 な観点となる 2 つ概念が、古代ギリシアに淵源を持 つ「ロゴス」(言語、論理、理性) と「パイデイア」(善 き市民としての人間形成、教育、教養) である。 端的に言えば、著者の問題意識の根本にあるのは、人間の知の最も基本的なメデイウムである「言葉」と いう装置である。著者は、プラトン以降、二千数百年間の言葉と知を巡る実践の様々な局面にロゴスとパイ デイアという光を当てることで、総体としてのアーカ イブという営みを描き出すことに成功している。 本書は前述のとおり、互いに緩やかに関連を持ちつ つも独立性の比較的高いトピックが並ぶ構成をとって おり、必ずしも単線的に論理が進む叙述とはなってい ない。ここは人文科学の様々な領域を自在に逍遥する 著者の思索の歩みに寄り添いつつ、場所ごとに風景を 玩味するのが適切な読み方なのかもしれない(なお、特に第 8 講は著者の長年の研究に裏打ちされた密度の 濃い内容になっており、とりわけ書誌コントロールと レファレンスが地続きであることを示す手さばきは鮮 やかである)。ただ、本書で展開される各論の中に は、特定の文献のみを論拠としているように見受けら れる記述が散見され、また、細部における事実確認等 で若干の詰めの甘さが残る点は、白璧の微瑕と言える かもしれない。 実践論を超えたデジタルアーカイブの基礎理論につ いて本格的に検討が開始されている現在、本書を貫く アーカイブへの広い視座は、今後の議論にあたって共有すべき 1 つの基盤となるだろう。関係者必読の一書 である。(国立国会図書館 大沼太兵衛)
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# 『デジタルアーカイブ・ベーシックス5 新しい産業創造へ』 時実象一 監修/久永一郎 責任編集 出版社 : 勉誠出版 2021 年5月 288ページ A5判 ISBN 978-4-585-20285-1 本体2,500円+税 本書は、全部で 3 部に分かれる。第 1 部がデジタル アーカイブの活用、第 2 部がデジタルアーカイブ産業 を支える技術革新、第 3 部がデジタルアーカイブ産業 の兆し、と題されている。一言で述べるなら、それぞ れ(1)活用、(2)技術、(3)将来となるたろうう。 筆者は業務としてアニメーション企業でアーカイブ を行っている。現物を収めた箱は約 4300 箱、画像と 動画を中心としたデータ量は 1 ペタバイトとなってい る。それなりに多様な種類を管理しているという自負 があったのだが、本書を読み、不足している部分が明確な言葉となって現れたように感じる。 確かに、管理者は私かもしれない。しかし、現物保管は倉庫会社に任せ、会社の記録や権利情報は総務や 法務の管理である。私に見える範囲は、作品作りの中 で発生した業務資料に限られているのた。 改めて考えてみると、一担当者としては活用の出口 まで距離があるのが現状であった。 では、本書に書かれたような利用を増やすためには どうしたらいいのか、ヒントとなると感じた記述を、本文から抜き書きしてみる。 第 6 章「座談会 デジタルアーカイブ技術開発の動向」で岡本真氏は「デジタルアーカイブの発展におい ては、アーカイブを作る側の企業だけではなく、利活用を促進するユーティリティ企業がどの程度出てくる のか、それと同時に、業界としてどのように育てられ るのか、発展していける環境と整えていかなくてはな らないと思うんですよ。(P131)」と述べている。 アニメ業界には、ダークアーカイブ化していること で利活用を促進するような企業を育てきれていない現実があるが、まさにそこを突く指摘だった。 これに応えるのが第 3 章の國谷泰道氏「美術と歴史 の分野における画像ライセンスビジネス」には、「美術の分野では、欧米を中心に 1 つの国に 1 つの著作権管理団体が存在し、それぞれが自国の作家やその著作権継承者の権利を集中管理している。(P77)」だ。日本 では音楽分野に JASRAC があるが、他分野でも同様の管理団体が生まれ、それが互いに手を結ぶようになるなら ば、権利許諾のコストを下げる方法の一つとなるだう。 デジタルデータ活用の出口の一つを示すのが、第 7 章の太田圭亮氏「アートの世界を変えるブロック チェーン」だ。無限にコピーが可能なデータに真正性 を担保できるようになったことでNFT ビジネスが盛 り上がりを見せている。 本書を通読することで、自社のコンテンツとして利活用できそうな資料のデジタル化について、出口まで の道筋が見えて来たように思う。いまだに難しさを感 じているのは、第 1 章の松崎裕子氏「世界のビジネ ス・アーカイブズ概観」で紹介されているような、企業資料の保管についてである。ここで指摘されている ように「アナログ時代の企業アーカイブズは利益に直接結びつく要素を欠いていた(P38)」ことは反省材料であり、金銭によらない理由付けも必要だ考える。 この点、第 2 章の川上博子氏「ポーラ文化研究所にお ける文化資源の展開一「化粧文化データベース」を中心 に」は、企業による社会貢献に意識が向いた例と言える。 自社のみで解決できずとも、組織間で連携していく ことで幅広い可能性が出てくると感じる。学会など、分野を超えて集まれる場づくりが求められているのも そのためかもしれない。 4 度目の緊急事態宣言が発令され、現実空間で繋が れない状況下で、デジタル化と利用の将来についてこ れまで以上に考える。本書からは大きな手がかりを得 ることができた。 (株式会社 プロダクション・アイジー 山川 道子)
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# 産業とデータ・コンテンツ部会 キックオフ連続フォーラム 第 1 回「デジタルアーカイブ産業の スコープ」参加記 日時: 2021 年 8 月 11 日(水) 16:00 18:00 [テーマ] デジタルアーカイブ産業のスコープ [内容 $]$ (1)ご挨拶と趣旨説明:黒橋禎夫京都大学教授・デジ タルアーカイブ学会産業とデータ・コンテンツ 部会長 (2) 基調報告「デジタルアーカイブ産業の現状と可能性」寻屋早百合氏(野村総合研究所主任コンサルタント) (3) 事例報告「自治体によるデジタルアーカイブ事業 の拡大・深化:公共図書館からの広がり」太田亮子氏(TRC-ADEAC 自治体史編さん支援 チーム) (4) 事例報告「デジタルアーカイブ技術の世界展開へ」長谷部旭陽氏 (NTTデータ社会基盤ソリューショ ン事業本部ソーシャルイノベーション事業部デジ タルソリューション統括部営業企画担当課長) (5) 参加者からのコメントと報告者を交えた討論司会:黒橋部会長 ## 1. はじめに デジタルアーカイブ振興に関わる産学連携の在り方を検討するため本年 4 月にデジタルアーカイブ学会 (JSDA)「産業とデータ・コンテンツ部会」が設置された。本部会の今後の具体的な取組課題を明らかにするため、学会・産業界その他の関係者が集まり意見交換をすることによって、その方向性に対する共通認識を得る機会として、以下のテーマによる連続 3 回のフォーラムを開催することとした。 (1) デジタルアーカイブ産業のスコープをどう捉えるか (2) デジタルアーカイブ産業振興の要因と方策は何か (3) 産学連携の具体策を考える この度、第 1 回のフォーラムを開催し、まず近刊デジタルアーカイブ・ベーシックス 5 「新しい産業創造 へ」[1]の著者の方々から報告を頂き、これを基に広く議論を行った。 ## 2. 基調報告と事例報告 2.1 基調報告「デジタルアーカイブ産業の現状と可能性」 デジタルアーカイブの「広がり」、「潮流」、「産業の領域の変化」、「成長領域のビジネスモデル」、「産業の発展に向けて」、という内容で発表頂いた。その中で、今後の成長領域である二次利用に当たり、権利処理の煩雑さや収益配分の仕組みが未整備であるなどの課題が示された。 2.2 事例報告「自治体によるデジタルアーカイブ事業の拡大・深化:公共図書館からの広がり」 事例紹介では、「浜松市文化遺産デジタルアーカイブ」、「とくしまデジタルアーカイブ」、「としまひすとりい」について紹介頂き、まとめの中でメタデータ、権利処理、活用方法などの課題が示された。 2.3 事例報告「デジタルアーカイブ技術の世界展開へ」 「ASEAN 統合デジタルアーカイブ」を題材に「魅せる」「活用する」という課題や取り組みなどを紹介頂いた。 ## 3. 参加者による討論 多くの意見が交わされ、主な論点としては以下のような内容であったが、産業化に当たってはコストと収益やコスト回収といった課題が大きいとの認識が示された。 (1) 企業でのデジタルアーカイブの活用について、 inB の観点では、「工場での事故事例の教育と生産性向上」、「熟練技術者のノウハウの伝承」といった事例および「緊急事態を想定した訓練の共 有」。B2Cとして、製品アーカイブで製品とファンをつなぐなどのアイディア。また、B2Bとしては、業界の協調領域で失敗事例の共有などが挙げられた。 (2) 教育への利用として、地方のアーカイブの教育活用について社会科副読本にリンクする事例が紹介された。また、この領域については地域アーカイブ部会と共同で検討を進めるのが良いのではといった意見があった。 (3) 技術的視点としては、長期間に渡るコンテンツの見読性の担保のために、ファイル形式を含めたデータの作り方、コンテンツ維持の技術の検討。 システムの継続性を担保するため、移行やコスト課題への対応の必要性についても意見が交わされた。また、各種ガイドラインなども出ているが浸透していないとの意見もあった。その他、既存の検索技術以外の新たなコンテンツ検索やコンテン ツの表現の仕方を工夫することでユーザーエクスペリエンスの向上が必要といった意見も出た。 (4) またコンテンツの活用の観点では、権利処理やマネタイズの仕組みが必要との認識も示された。 ## 4. おわりに 今回の基調報告と事例報告と参加者による討論により、デジタルアーカイブの産業化の課題や今後の取り組むべき内容などが示された。次回以降のフォーラムでそれらを整理し部会の活動の方向性を決定していきたい。 (長野県企画振興部 DX 推進課荒木純隆) ## 註・参考文献 [1] 時実象一 (監修),久永一郎 (責任編集).新しい産業創造へ.勉誠出版. 2021.238p. (デジタルアーカイブ・ベーシックス5). ISBN:978-4-585-20285-1
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# 第9回定例研究会「デジタルアーカイブを 議論するための基盤形成に向けて」参加記 \author{ 日時:2021 年 6 月 24 日(木) 18:30 20:00 \\ 開催方法:遠隔開催(Zoom 利用) \\ プログラム 「デジタルアーカイブを議論するための基盤形成に 向けて」と題された本研究会は、文化資料のデジタル 化と応用の研究・支援活動を長年行っている永崎研宣氏が問題提起し、日本語学・文献学の立場からデジタ ル空間を論じる岡田一祐氏と知識コモンズ・学術情報流通・科学計量学・科学技術政策を研究する西川開氏 の22名がコメンテーターを、オープンデータ・オープ ンサイエンス・デジタルヒューマニティーズ (DH) における研究開発が専門の大向一輝氏が司会を務めた。 デジタルアーカイブ (DA) 学会では、分野・専門・現場の多様性ゆえ議論の擦れ違いが多い。情報のデジ タル化は共有できるが、立肚するDAが異なると論点 が擦れ、公開方法やインターネット使用の有無などで 議論が分岐していく。DAに関しては隣接学会でも発表できるが、本学会は分野を越えた対話が魅力である。永崎氏は、そのような魅力的な対話の場を形成するた めに、対象のDAについて 6 項目の明確化を提案した。 1. 参照性(永続可能か)、2. オープン性(無料/有料、公開/会員制)、3.アーカイビング技術 (大規模コモ ディティ技術 / 一点物高度アーカイビング)、4. デー 夕内容・量(一点物/複製物/活きているデータ/セ ンサーデータ)、5.ユーザー向け技術・インター フェース(一般/マニア/専門家向け)、6.コンテン ツの性質(オブジェクト/メタデータだけなど)、そ の他の要素。この項目化は、DHでよく引用される、 デジタル技術を介して人文学の様々な分野・手法を横断的に議論するための方法論の共有地である Methodological Commons、および、論点の明確化のた め、発見・注釈・比較・参照・サンプリング・例示・表現など思考の基礎となる要素を抽出するScholarly Primitivesから着想を得たものである。 この提案を受け、岡田氏からは、通常議論の最終地点である項目別評価が出発点になって良いのかと指摘 があったが、永崎氏は、6項目は自己評価の指標であ り、最終地点となる他者評価ではないと答えた。一方、西川氏は、6 項目は DA の作成者・運営者・利用者の 立場から作られ議論の具体化に活用でき、実践的であ ると評した。その上でポータルからプラットフォーム に変化する際にコモンズ研究を理論的支柱とした Europeanaを例示し、メ夕的視点も含めることを提言 した。メ夕的研究は実践と両輪であり、社会的役割や 価値などメ夕的評価は事業の面で重要である。 議論が中盤に差し掛かったところで、大向氏が Miro アプリを導入し、参加者とともに論点を整理し た。大向氏はその他の項目に、分野単位での議論も可能な「DAの範囲」を入れた。すると、西川氏は、他 にも合法/非合法などの項目もあり得るし、オープン 性にはコンテンツやメタデータだけでなく、コミュニ ティーのオープン性もあることを指摘。大向氏ととも に項目による類型化には多様な観点の捨象が生じるこ とを示した。 永崎氏は、屯しろコンテンツや対象の多様さに拘ら ず共通要素を議論できる場が形成される重要性を強調 する。分野が似た DA 作成者同士なら議題を共有しや すいが、分野を超えた共通点もある。災害アーカイブ とコミュニティーアーカイブは分野が異なるが、DA と して共通点が多い。分野を越境した共通点を発見する ためにも6項目のような指標が必要である。西川氏は 分野の非明示化の重要性を指摘し、岡田氏も賛成した。 DA 学会は、SIGのデジタルアーカイブ理論研究会 でDAの類型や、DA と非 DA との判断基準の議論を 蓄積してきた。西川氏はこの蓄積を基に議論の出発点 に 6 項目を据えると、DAの多様性の可視化が容易に なる利点を指摘した。最後に永崎氏は、項目化が業界団体との情報共有にも利することに言及し、DA 学会 は 6 項目のような効果的な情報共有の方法を考えてい くべきだと締め括った。 (京都大学 文学研究科 宮川創)
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# 瀬尾太一さんの思いで 瀬尾太一の追悼文を書くという、辛い仕事をしなけ ればならない。 最初の出会いは 15 年前の文化庁の某会議だった。「カタギとは思えないいでたちの、えらいディベート の強い写真家がいるな」が第一印象だ。以後、AI 知財から海賊版対策まで、数えきれない会議で論じ合い、一緒にシンポをしかけ、お酒を飲んできた。下町育ち。集まり好き。おしゃべり。 写真家としては、大正元年から続く柴又の写真店「尾崎堂」の四代目。子供を撮らせたら随一だという。 それだけに、デジカメと加工技術で、一億人がそこそ この写真を量産できてしまう時代のインパクトを誰よ りも感じ取ったのであろう。 当初は保護期間延長問題など、むしろ彼は延長賛成派で論敵だった。しかし、社会の根本的変革という直感的な認識に従って、しだいに、そして大胆に、創作者・権利者の立場から作品利用の円滑化を唱えるよう になって行く。 何より、その実行力だ。言葉での説得力と周囲を巻 き込んで実現に移して行く類まれなスピードでは、比肩できる者はいなかった。文化審議会のメンバーを長 く勤め、特に写真をはじめ著作権の集中管理の推進、権利者不明作品の利用裁定の活性化、何より著作物の 教育利用の拡大は実行組織(SARTRAS)の顔として、時に軋䡚も辞さず、関係者を説得し、文字通り命を 削ってまとめ上げた。 デジタルアーカイブ学会では当初から法制度部会に 加わって下さり、評議員。「肖像権ガイドライン」に ついてはクリエイターの立場から貴重な助言を続けて くれた。彼の「デジタルアーカイブにおける肖像権の 諸問題」(学会誌 2020 年 4 巻 1 号)などで、議論の一端を見ることができる。 数年前から闘病があったというが、死ぬまで病気の ことは周囲に話さず、SARTRAS の船出を見届けるよ うにして、卒然として行ってしまった。政府もこの数年で、「権利保護をはかりつつ、利用の円滑化を大胆 に進める方向」に完全に舵を切った。間違いなく、そ のお膳立てをした一人だ。一緒に取り組んできた富田倫生(青空文庫呼びかけ人)を見送り、その追悼シン ポに京都から駆けつけて下さった長尾真先生を見送 り、そして瀬尾太一も去った。面白くなるのはこれか らという時に、面白いねと笑いあえる人が一人ずつ 去って行く。 今年 5 月、最後に論じ合った文化庁の非公開勉強会 で、瀬尾さんはその取りまとめ案を「まだ日本の進む 道を示せていない」と酷評し、私は何も知らぬまま、「それでも画期的では」と事務局をかばった。文化庁矢野次長は今年の文化審議会の冒頭で、「あの時の発言を瀬尾さんの宿題だと思っている」と述べた。 みじかい人間の歴史の中で、我々が舞台に登場する ことを許される時間は更にほんの一刹那。そのことを 肝に銘じて、彼の遺した宿題を進めて行きたい。そし て先に行った人々の分まで、「面白くなった」と笑わ なければ。 さいごにひとつ。瀬尾さんが死ぬ前にバトンを託し た人物がいる。文化庁著作権課の課長補佐時代に彼の 薫陶を受けた壹貫田(いっかんだ)剛史さんだ。後事 を託したいと彼から相談を受けた壹貫田さんは悩んだ 末、文部科学省を去ることを決断。写真著作権協会の 緊急理事会で彼が後任に選ばれるのを見届けた瀬尾さ んは、その 2 日後に死去したという。 壹貫田さん、わがデジタルアーカイブ学会、法制度部会にも加わってくれた。その活躍に、どうか期待し て頂きたい。 (法制度部会長福井 健策)瀬尾太一 写真家。日本写真著作権協会常務理事。日本複製権センター代表理事。SARTRAS 常務理事。デ ジタルアーカイブ学会評議員。個展「異譚」(1992 年)、「下町往来 1984-1988」(2021 年)ほか。2021 年 7 月 14 日死去。享年 60 歳。 両写真とも、「INTERNET Watch」2013年7月24日付記事 『著作権「死後70年」「非親告罪化」TPP米国要求に日本はどう対応すべきか 弁護士の福井健策氏と写真家の瀬尾太一氏が対談』より許諾を得て転載 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/608794.html (参照 2021-09-09).
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# 新型コロナウィルスとメディア The Coronaviruses Infection and the Media 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科/ヤフー株式会社 \begin{abstract} 抄録:新型コロナウィルスによって社会は混乱し、私たちは大きく行動を変容させた。それは日々触れるメディアが発するニュー スや様々な情報がきっかけになっているはずだ。では、その内容は正しいものだったのか、その伝え方はどうだったであろうか。感染者や集団感染を出した医療施設などが誹謗中傷を受けるようになり、さらに真偽不明の情報がマスメディアで伝えられたこと でトイレットペーパーの買いだめに走る人々も出た。メディアがコロナ禍にどう向き合ったのかを振り返ることで、今後起こりう るエピデミックの際の情報の伝え方の最適解を探ることはできるのではないか。そのためにメディアの記録を収集、蓄積して分析 ができる環境を整え、その答えを探る仕組みを社会実装することを考えたい。 Abstract: COVID19, the new coronavirus infection, has thrown society into turmoil and has drastically altered our behavior. Were such changes, however, mainly triggered by the news and other information which we receive every day from the media. Was this information correct, and how was it communicated? Infected people and medical facilities that had been exposed to the outbreaks of the disease began to be vilified, and more dubious information was reported in the mass media, leading some people to hoard toilet paper. By looking back at how the media confronted the COVID-19 pandemic, it may be possible to find the best way to communicate information in the event of a possible epidemic in the future. For this purpose, we would like to consider implementing a system for collecting, accumulating and analyzing media records as a mechanism for finding the optimal solution to the problem. \end{abstract} キーワード:新型コロナウイルス、COVID19、感染症、エピデミック、インフォデミック、メデイア、報道、SNS、誹謗中傷 Keywords: Novel coronavirus, infection, COVID-19, epidemic, infodemic, media, news, social networking sites, SNS, defamation ## 1. はじめに 新型コロナウィルス感染拡大について私たちが知る情報のほぼ全てがメディアを通して得られていると言って良い。 そのメデイアとは、レガシーメディア (従来型のテレビ、ラジオ、新聞、雑誌など)に加えてネットポー タル、SNS である。今回は、SNS 時代に迎えた初めてのエピデミックと言える。私たちは、メディアを通してこの感染症の、世界への蔓延から高齢者や基礎疾患を持っている人ほど重症化しやすいなどを知り、日々感染者や重症患者の都道府県別の数を把握する。そして、感染拡大を防ぐためにマスクを着用し、他者と距離をとり、外出や旅行を控えるなど、これまでの行動を大きく変容させた。新型コロナウイルスという感染症ではあるが、言い換えるとこれほどメディアによる情報で私たちがここまで大きく行動を変化させた事例は初めてだろう。しかしその意識や行動の変容は適切であったろうか。特に感染への恐怖から他者への差別的、攻撃的な言動や実際に暴力的な行為が行使されたなどネガティブな事例も少なくない。これも、新型コロナウイルスという感染症そのものから発するというより、その情報の伝わり方、メディアの伝え方で起きたとは言えないだろうか。日本国内で新型コロナウィルスについて初めて報じられたのがまさに元旦であった。そして 2020 年 12 月現在では第三波の流行という進行形ではあるがメディアがこれまでどのように伝えたのかを記録した上で詳細に分析することが必要だろう。今からでも伝え方を修正する、あるいは次に同様の感染症拡大が発生した時の対応を最初から適切なものにしていくためにだ。 ここでは、メディアがニュースや情報を通してこの 「エピデミック」をどのように伝えたのかを未来のために集積、記録することの重要性を提起したい。 ## 2.「新型コロナウィルスと新聞」 ## 2.1 新聞は何を伝えてきたか〜博物館の挑戦〜 新聞が新型コロナウィルスとどのように向き合ってきたのか。横浜市のニュースパーク (日本新聞博物館) で7月 18 日から9月 27 日まで開催されていた「新型コロナウィルスと情報とわたしたち」という展示から見ていきたい。 意欲的な展示であった。まず、収束の行方が見えない進行中に企画し、開催したこと。さらに新聞にとどまらず SNS も含めた様々な質の情報が殺到する「インフォデミック(インフォメーション+エピデミック)」に目を向けたからである。 展示は 3 部に分かれていて、第 1 部が、時系列での各社(地方紙、スポーツ紙を含む)の紙面やパネルの展示。第 2 部は、コレラ、スペイン風邪、ペスト、 SARS といった過去に起きた感染症拡大を当時どう伝えていたのかを所蔵資料をもとに展示した。第3部は、 SNS などに真偽不明の情報が現れ、拡散されて人々を惑わすインフォデミックの時代とどう向き合うかで構成されていた。この展示構成も素晴らしかった。新聞紙面ではなくネットポータルでニュースを見る、あるいはSNS でプッシュされてきた情報がニュースであると考える人々が増えてきたこの時代に、新聞の役割とニュースとは何かを考えさせられた。 図1「新型コロナウィルスと情報とわたしたち」ニュースパーク(日本新聞博物館) 第 1 部の展示を順路に従って見ていくと、2019年末に中国・武漢で新型肺炎患者が発生したことを報じる元旦の紙面から始まり、ダイヤモンド・プリンセス号での船内感染、国内第一号の感染・死者の発生、政府の一斉休校要請 (号外)、欧州での流行、緊急事態宣言の発表 (号外)、そして北米南米へとパンデミックに拡大して行ったことを確認できる。さらに、その中でも著名人の感染と死が、私たちのこのウイルス感染への恐怖感、危機感を一気に高めたことを思い出させる。展示された紙面を読み進めていくと、新聞が速報性と正確性、ユーザーにとっての有用性を追求してきたことがわかる。また、記事単体ではなく紙面をそのまま見ることで、あらためて編集(見出しや紙面の割り付け)による価値づけに大きな意味があることを確認できる。あたり前のことなのだが、新聞社が最も重要なニュースと判断したものは一面で最も大きなスペー スと見出しで伝える。近年、私たちはネットポータルで並んだ見出しをクリックすること、あるいはSNS でプッシュされてきたことでニュースを見るようになっている。ということは、新聞を読まなくなった世代は、社会的に重要なニュースもエンターテインメントの話題もフラットに受け取っているということた。今回の展示は、あらためて情報が価値づけられて提示されることの意味を噛みしめた。 ニュースパーク館長の尾高泉氏は、新聞がどれだけファクトを伝えることに注力して取材、編集をしていても真偽不確かな情報が溢れるインフォデミックの時代への問題提起を今こそやらねばならないと思ったという。 ## 2.2 博物館という場の力 さらに、デジタルではなくリアルな空間でキュレー ションされた展示を見ることで、博物館の役割が明快になった。学びや知に触れる営みの多くがオンラインになった時、博物館の展示ならば、俯瞰しながらその空間で思考、内省することができるということだ[1]。 館長の尾高泉氏は、緊急事態宣言が出されて博物館を閉じている間に、これは収束を待つことなくエピデミックの進行中にやらねばならないと思ったという。 さらに、尾高氏はこう語った。 「リモートというかニューノーマルな時代に、ちゃんと記録をしていく仕事をしている人がいて、こういう空間でそれを見せていく仕事もあり、そこに社会的教育施設の役割がある。ややもすると全部 VR とか AR でいいじゃないかとか、あと全部デジタルアーカイブでいいじゃないかと言う方はいるんですけれども、そこはどうなのかなという問題提起も今回は入っています。」 2ケ月にわたる休館期間が、博物館の持つ空間や記憶を呼び覚まし確認させる力を浮かび上がらせたのではないたろうか。また、こうして時系列の展示で一覧したことで、そこには新聞紙面の持つ「記録性」が確かにあった。 今回の展示は、9月 27 日で終了したが、尾高氏は今回の展示の簡易記録集を作るとともに、感染収束後に改めて展示をしたいとしている。 ## 3. メディアはリスクを適正に評価できたのか 3.1 感染症への恐怖、不安はどのように醸成されたのか新型コロナウィルスの感染拡大の中で、感染者本人 やその家族、感染者の出た機関や組織が非難されたり、攻撃を受けたりすることが大きな問題になっている。感染者でなくとも、都市部から地方への訪問者、自粛 すべきとされた時期に営業を続けた店舗へも誹謗中傷 の言葉が投げかけられたり、黑倒するような張り紙を されたりする事態が起きている。しかし、こうした行為は、社会に混乱と分断をもたらすことになり、感染 を抑え込みバランスをとりながら経済活動を再開させて少しでも社会をノーマルな状態に戻していくという課題解決を遠ざけることになる。 これらネガティブな行動の背景に何があるのだろうか。それは、感染症に対する恐怖感、不安が高まるなか、感染の危険から少しでも距離を取り自らの安寧を確保したいという本能的な感覚が私たちの中に生まれたからではないか。感染者やクラスターを発生させた施設は、感染予防をないがしろにした非難すべき対象であるという意識につながったと考えられる。自分は感染予防を徹底しているのに、自らの周囲に感染に対して意識の低いと感じられる人間がいることは許せないという感情である。 こうした気持ちはどのように醸成されているだろうか。これまで記述したように、私たちは、新型コロナウィルスに関する情報の多くをメディアから得ている。メディアで触れた情報やニュースを自らの中に蓄積していくことで意識の醸成が起きていると考えて良い。そうであるならば、メディアそれぞれの感染発生時のニュースや伝え方は果たして適正なのかを検証し、そうでなければ修正をはかっていく必要がある。 そのために、新聞がどのように伝えたのか、テレビのニュースやワイドショーではどのような映像を使い、何を語ったのか、ネットポータルではどうだったのか、これらの紙面や記事、放送を集積して一覧できる仕組みが必要なのではないか。それらを分析し、視聴者・読者・ユーザーのアンケートとインタビューを行うことで、新型コロナウィルスをめぐるメディアの伝え方が社会にどのような影響を及ぼしてきたのかを知ることができると考えられる。 例えば、3月から 4 月に大規模なクラスターが発生した病院をめぐる報道で見る。ある新聞はクラスター の発生した原因について「ずさんな」という表現を使った。感染症専門病院ではなく、総合病院で高齢者の入院患者が多かった。ゾーニングの不備や動線の重なりの回避、防護服が足りなかったなどの問題が確かにあった。しかし、感染拡大の初期の段階で、新型コロナに関する感染防止策の情報が共有できていない上に感染症の専門家がいない状況での発生に対して、メディアの報道は適切だったろうか。その後、この病院には激しい非難の言葉が寄せられた。そのため、転院が必要な患者を受け入れる医療機関がほとんどなくなり医療従事者にも感染が広がりさらに体制が貧弱になったこの病院に留め置かれる事態が起きた。 また、家族が出勤を拒まれたり、保育園から子どもの受け入れを拒否されたりした医療従事者もいた。 ## 3.2 リスクコミュニケーションとメディア 上述したように複数の感染者が医療施設などで発生する「クラスター」が大きな問題になった。新型コロナウィルスの特性が徐々にわかってくるにつれて、各施設は厚労省や保健所からの通達・情報をもとに対策や体制を整備していく。その中でも、感染リスクの対策に 100\%はありえないし、完全な防止はできないことは早期にわかっていた。施設としては、その要員や設備、かけられるコストの中で出来る限りの対策を行う。そして、それでもリスクは残る、こうした残余リスクから発現する感染は容認されなければならないはずだ。もち万ん、そこには社会的相当性が必要だが、 こうしたリスクに関する社会的な合意が形成されていなければ感染したこと、感染者を出したことに非難が寄せられるのは目に見えている。メディアはそうした残余リスクやそこから発生する感染拡大可能性について科学的知見を持って報道できただうか。 ## 3.3 “謝罪”を伝え続けたメディア 今回の新型コロナウィルスに感染すると、その感染者本人の責任が問われる事態が度々起きている。国内で長く感染者が報告されていなかった岩手県で、7月 29 日に初の感染者二人が報告された。そのうちの一人が所属する企業がホームページで感染者発生を告知したところ、その企業に誹謗中傷の電話やメールが押し寄せた。中には、その「社員をクビにしたのか」などの理不尽なものあった。 感染防止ができなかったことは非難に値するとの意識はどのように生まれるのだろうか。感染者本人や感染者を出した組織の対応とメディアによる伝え方でも検証できるのではないかと考えている。 まず、サッカーJ1の選手が3月に感染を発表したときのスポーツ紙の記事を見てみる。新聞(ネット配信)は、感染の経緯を伝えた記事の最後に当該選手の談話を付け加えている。「多くの方々にご不安やご迷惑をかけてしまっていること、全ての皆様に心からおわび申し上げます。大変申し訳ありません。」と謝罪で記事を締めくくっている。この後に論評は特にない。 7 月、台東区の感染者を積極的に受け入れていた総合病院で入院患者と医療従事者あわせて 180 人のクラスターが発生した事例では院長が謝罪した。テレビでは、その謝罪の記者会見を放送した。院長はこう発言した、「院内感染の拡大により、最も大きな被害を受け苦しまれたのは、患者様であり、そのご家族です。病院の責任者として重ねて深くお詫び申し上げます」。 この事実を伝える記事を検索してみると、多くは謝 罪したことを伝えるだけでやはりそのことへの何らかの評価の記述はない。 同じく 7 月、宮城県の大学で 11 人の学生が感染するクラスターが発生した。これは地元紙の記事からの抜粋、「学長が『在学生や保護者に多大な心配と迷惑を掛け、おわびする』と謝罪した」としている。 視聴者や読者、ユーザーはこうした謝罪会見を繰り返し見て読むこととなった。同時にニュースコメントの書き込みやSNSでは、定量的な調查はこれからだが、筆者が見るところ、不注意だった、感染防止が不十分だったなどの書き达み、投稿の方が圧倒的に多く、感染者が不運であった、避けようがないはずだなどの同情的な内容は少ない。 さらに、ニュースの街頭インタビューでは、「感染すれば他人に迷惑をかける」、「Go To トラベル」に関連して都市部の人は「もう故郷の御両親と半年以上あっていない」、接待を伴う飲食店での感染拡大を受けて「不要不朽ならば休業すべきだ」などの発言が何度も編集されて繰り返し放送された。 こうした放送の積み重ねに触れることで、その行動や不注意が原因なのだから、感染した人が悪い、東京から来るのは無神経だ、あるいは、クラスターが発生すれば、その機関、組織への怒りが視聴者や読者に生まれていくことになる。謝罪するということは、何らかの過ちがあったと認めることになるからだ。 マスクなど感染防止対策は、飛沫を広めないことには有効でも、自らの感染を完全に防ぐことはできない。感染したとしても多くはその個人の過失でないのは明らかである。それでも、謝罪する姿や感染した人を非難したりする言説がメディアで流れ続ければ、社会全体への「感染=悪」のメッセージとなり、誹謗中傷の悪循環を生む。 ## 3.4 謝罪報道への違和感 こうした謝罪報道は自制的であるべきで、もし個人や組織の謝罪を伝えるなら何らかの論評が必要なはずだ。その中で、東北のブロック紙の「河北新報」は記者がこう記した。取材の中で記者が思いを綴る「記者ログ」というネット記事だ。 ある介護施設でクラスターが発生、その後に管理責任者が頭を下げて謝罪したのを目の当たりにした時の思いである。 「管理者に落ち度がないとは言わない。たた、世間におわびしなければならないほどの悪行だろうか。介護職の友人いわく『高齢の利用者が長時間、マスクを我慢できると思う? 職員が感染させたいはずがな い』。同感だった。コロナを犯罪視する近頃の空気が、 あの謝罪を強いた気がしてならない。患者や関係者を責めて留飲を下げるのでなく、感染拡大を防ぐ知見を冷静に共有できる社会でありたい。」[2] メディアは、「ファクト」を重視する。謝罪の会見や談話が出れば、確かにそうした事実があるのだから伝えるのは当然かもしれない。しかし、立ち止まってこの謝罪するということにどのような意味があって、何をもたらしうるのかを考えた上で論評を付け加えるなどして伝えるべきではないか。 ## 4. 感染者情報の公開と報道 ## 4.1 どこまで感染者の情報を公開し、報じるのか 感染拡大が国内で懸念されるようになった 2 月 27 日、厚生労働省は感染者に関する情報の公開に関して指針を出した。感染者個人の特定がなされないことを主な目的にしたものである。この指針において感染者に関する情報として「公開しても良い」としたのは、感染者の居住都道府県、年代、性別、発症日時、居住国である。反対に氏名、国籍、基礎疾患、職業、居住市町村は公表すべきでないとしている。ただし、医療機関での発生で不特定多数に注意喚起をする必要がある場合は公表もありうるとしている。 ただ、厚労省のこの指針は、都道府県 (保健所設置市、特別区もふくむ)に向けたものであり、民間企業やその他の機関を縛るものでもない。また、あくまで指針であって、市町村は独自に判断する余地がある。 したがって、これまで都道府県も市町村も対応はまちまちである。市町村や特別区は感染者が出ると独自の判断でその市町村や区で発生したことを発表している。都道府県のなかで最後に感染発生が確認された岩手県盛岡市では、クラスターの発生した飲食店の名称やその住所も発表している。さらに、企業や大学なども感染者が出ると公表に踏み切るところが少なくない。市町村の記者会見では、メディアが感染者に関するさらに細かい情報を出すよう詰め寄ることもあった。 自治体などから感染者に関する情報が公開された場合、それはそのまま新聞、テレビなどメディアで広く伝えられる。その情報をもとにSNS 上などでその個人を特定する動きがしばしば加速した。 ## 4.2 公開、報道と感染者への誹謗中傷 5 月 2 日山梨県は、県内出身の 20 代女性の陽性を伝えた。行動履歴として高速バスで勤務先のある東京から山梨県内に帰郷したほか、その前にバーベキュー やゴルフをした、整骨院に行ったなどを発表した[3]。 図2 厚生労働省から都道府県などへ通達された感染者情報の公表基準 この事実はすぐに新聞やテレビで報じられた。あるテレビ局は「都内と山梨の実家を往復した 20 代女性(中略)ゴルフの練習したことが判明」と伝えた。ある大手紙は「山梨県女性整骨院 $\rightarrow$ PCR 検査 $\rightarrow$ ゴルフ練習 $\rightarrow$ 男性と会う」という見出しの記事を出した。ワイドショーではコメンテーターが「公共交通機関を使ったのは問題、罰則のある法律を作って、そういうふうなことを罰することが必要だと思う」とまで発言した。 さらにこの発言がスポーツ紙によってテキスト化されネット記事になって配信された。県の公表と報道がきっかけに、「コロナ女」、「逮捕しろ」などの書き込みや、この女性だとする SNS アカウントや真偽不明の写真、卒業アルバムなどがネット上に流出した。実家には嫌がらせの電話がかかってきた。公表、報道、 SNS と展開拡散、さらにSNS での炎上をマスメディアが取り上げて個人攻撃の連鎖、拡大が長期に渡った。 さらに、メディアが緊急事態宣言中の著名人の旅行を追跡してその行動履歴を詳細に報じるできごともあった。玉城沖縄県知事が県外からの沖縄入りを自粛するよう呼びかけた時期に、俳優の山田孝之らが沖縄に旅行したことを週刊誌が数多くの写真とともに伝えた。このできごとは、週刊誌報道によってSNS のトレンドワードトップになったが、投稿の多くはその行動を非難するものであった。「バカ芸能人」、「ファンをやめる」、「皆が我慢しているのにふざけるな」などの書き込みだ。しかし、隠し撮りした写真を見る限りでは、週刊誌側も自粛要請を無視して複数のカメラマンや記者に沖縄に派遣して追跡させたたろうし、個人旅行である以上は肖像権やプライバシーの侵害になりうる。社会の耳目を集める著名人の行動とはいえ、こうした尾行の末に非難を煽る取材・報道は、社会に対して旅行することを悪行とする意識を広めたと言える。 ## 4.3 それでも公表に踏み出す企業や大学 4 月 18 日 NHKが踏み込んだ発表を行った。鳥取放送局の職員が感染したことを発表した。その際の広報局が配布した広報資料では、「男性、20 代、鳥取市在住」 と属性まで伝えた。さらに鳥取県での初の感染者発生ということで記者会見も行われて、その場ではディレクター職であることも発表された[4]。その条件ならばおそらく 1 人か 2 人に絞られてしまう。これでは、個人が特定される可能性が高い。では、なぜここまでの情報を発表したのか。NHKに問い合わせたところ、「新型インフルエンザ対策特別措置法」の「指定公共機関」なので必要と判断した、という回答だった。この法律には、指定公共機関で感染者が発生した場合は発表すべきという規定は何もない。たた NHKからは、 これ以上の回答は得られなかった。筆者としては、公表に向けて組織内でどのような議論を行い、上記の都道府県向けの国の指針などについて考慮したのか、本人に発表することの承諾を得たのかなどを明らかにして欲しかった。 帝国データバンクによると、全国の一部上場企業の 377 社が、自社で感染者が出たことを発表している (2020 年 6 月 15 日)。 国の指針で「職業」に関しては公表をしない情報と している中で、企業が自社に感染者が発生したことを発表すれば、それは同時に「職業」を公表したことになる。今回の感染拡大では、どこで感染者が出たかを求める「圧力」は極めて強い。もちろん、社会が感染経路を確認し、リスクを避けるなどの意味において、感染者がどこで出たのかを広く知らせる意義はある。一方でこれは、感染者個人の特定やその先に起こりうる差別や誹謗中傷の危険を孕んでいる。だからこそ、厚労省の指針は、個人が特定される情報として職業や居住市町村を発表から除外すべきではとしているのだ。 特に企業のリスクマネジメントなどのコンサルでは、企業が社員の感染を発表しないまま外部からその情報が出た場合に「感染者発生を隠した」と非難されることを防ぐべきでそのためにも積極的に公表すべきだとアドバイスしているケースが見られる。とはいえ、企業イメージを守りレピュテーションリスクを回避するためとはいえ、個人情報の保護をおざなりにすべきではないのではないか。 自治体や企業がどういう判断で感染者発生を公表し、感染者の情報をどこまで公開することにしたのか、 そこに至るまでの議論や葛藤を共有することは今後再び起こりうる感染症拡大時の向き合い方を考える上で大いに参考になる。それだけに自治体、企業や大学などでの公表の仕方やその考え方を共有し、最適解を探ることに資するような仕組みはできないだろうか。 ## 5. テレビの影響力 ## 5.1 問われるワイドショーの制作手法 民放キー局のワイドショーでは、専門家と位置付けられた人物を中心に、コメンテーターに意見や感想を語らせる演出が繰り返されている。新聞から通信社まで様々な質の異なるメディアのニュースを集めて、それをもとに出演者が語る形式が多い。したがって、出演者の談話はたびたび事実確認がなされないまま流される。単なる感想ならばともかく、もっともらしい断定口調のミスリード発言も目立つ。 ワイドショーは、放送時間は長いものの報道取材経験の少ないスタッフで制作チームが構成されていることなどから、報道局系に比べて事実確認や放送するコンテンツの視聴者への影響や人権などへの配慮に疑問を感じるものが少なくないし、事実これまでも多くの問題を引き起こしている。 あるキー局の朝のワイドショーの4月28日の放送で、「東京都の PCR 検査での陽性患者が 39 人」という発表に対してコメンテーターが「土日は行政機関の(検査所は)休みになるので、実は(陽性数の)39という件数は全部民間の検査の件 (でしかない)」と発言した。 この発言は、その日のうちに東京都管轄の機関も土日に検査を行なっていることが確認されて否定された。 ワイドショーは放送時間が長い。したがって、新型コロナに割く時間も長くなる。私たちが、コロナの情報に触れる時間が増えるということ。だする、その放送時間は果たして適正なのか、コメンテーターといえども事実確認をした内容を語っているのか、その談話が医学的、社会的に適切なのかを問わなければならない。 ## 5.2 何が “買いだめ”を起こしたのか 国民のテレビ視聴時間が減っていると言われているが、特に中高年齢層の主たる情報摂取の手段は今もテレビのリアルタイム視聴である。2018 年の NHK 放送文化研究所の調査では 50 代 60 代では $60 \%$ が毎日テレビで情報を摂取しているという ${ }^{[5]}$ 。テレビの社会に対する影響力はまだ強いと言える。 NHK 放送文化研究所は、2020 年 3 月に起きた「トイレットペーパー」の買いだめ行動は、SNS の投稿をテレビが取り上げた後に加速したとしている $[6] 。 4,000$人を対象にしたインターネットでのアンケートでは、「トイレットペーパーの不足」という「流言」を最初に見聞きしたメディアは、Twitterが 5\%に対して、テ の報道ではトイレットペーパー不足は事実ではないと報じつつスーパーの空の棚を繰り返し伝えていた。この調査でも「自分は信じていないが、他の人が買いだめに走るのではないか」、「テレビで売り切れの様子を見て不安になった」という人が多かったと報告している。この NHK 放送文化研究所では、買いだめ行動が 2 月 27 日・28日の在京キー局と NHKのニュース番組・ワイドショーを分析している。どの番組で「トイレットペーパー」についてどのように伝えたかである。 NHKを除くほぼすべてのニュース、ワイドショーで 「空の棚」を見せて、字幕には「不足」、「品薄」、「売り切孔続出」、「ない?」といったトイレットペーパー が入手しにくくなっていることを表現する字幕をそのコーナーの間中出し続けていた。また、「トイレットペーパー不足」などのキーワードを含むツイート数はこの二日間にピークとなり、テレビ報道がSNS に影響を与えていることが推測される。 新型コロナウィルスに関する報道は、その伝え方、 あるいはコメンテーターの発言、街頭インタビューの一言、テレビの字幕、感染者やクラスターを出した施設への評価の言葉などが、私たちの意識と行動に影響を与えている。たとするならば、新聞社にしてもテレ ビ局にしても、あるいは Yahoo! ニュースやSmart ニュースといったネットポータルにしても、主題から言葉の選び方、文脈に関して一つ一つ精査した上で伝えられなければならない。ここまで起きていることを考えると、どんなに困難だとしても求められていることだと思う。 ## 6. 終わりに ## 6.1 細心の注意が求められる “コロナ報道” メディアが新型コロナウイルス感染拡大というエピデミックにどう向き合ってきたのかを、筆者が取り組むネットニュースの中で、あるいはテレビ局の元報道ディレクターとして気付いたこと、感じたことを記してきた。とはいえ、ここで記述したのは私自身が触れた記事(新聞・ネット)やテレビニュース、ワイドショーなどの範囲にとどまる。新型コロナウィルスが伝えられるようになったこの9ケ月間に莫大なニュー スと情報が奔流となって私たちに押し寄せてきた。それでもその記事や情報、ニュース映像を集積、整理分類して、そこで語られた言葉やコンテキストを分析すれば、私たちがどのような考えを抱き、どのように振る舞ったかがわかるはずだ。特に、新型コロナウィルスに関するニュース、情報は、感染すれば自分や家族の命に関わるもの、つまり当事者意識を誰もが強く抱くもので、社会への影響力をこれまでにないほど持ったといえる。 そうであるなら、記事に使われる表現、それは時に形容詞一つでも、そしてテレビで語られた言葉、編集されるインタビュー、文脈まで、新型コロナウィルスに関する記事、情報は緻密な精査、検討ののちに紡ぎ出されるべきだろう。感染防止のために家に帰らず泊まり达みで治療に取り組む医療従事者や休みを返上して対応にあたる保健所職員もいる。そうした人々と向き合うならメディアにも同様に伝える上での厳しさが求められる。したがって、メディア側は、記者や番組制作者自身が専門知識を常に学び続ける必要がある。今回は全体像がなかなかつかめない、様々なデータも時間経過で変遷するなど専門家も判断しづらい事象が次から次に起きていった。メディアと専門家の連携が一層求められる事態だ。 ## 6.2 専門家との “深い対話” 政府の新型コロナウィルス感染症対策本部に設置された「新型コロナウイルス感染症対策本部専門家会議」 の構成員だった武藤香織東京大学医科学研究所公共政策分野教授は、メディアと向き合う中で、専門家と報道する側の意識の「ズレ」を指摘して、一層の対話の必要性を訴えている。5月29日に行われた緊急事態宣言解除後の専門家会議の記者会見の時にそのズレの深刻さを感じたという。 「記者会見も回を重ねてくると、報道機関の役割と専門家の役割の相いれなさについて思うことが増えてきた」 「専門家会議側が感染防止の観点からぜひ伝えたい内容や注目してほしい事項と、報道各社が関心を寄せる内容が一致していないことが少なくなかった」 「5月29日の記者会見では、専門家会議としては緊急事態宣言解除後のビジョンを示したつもりであったが、寄せられた質問の多くが専門家会議の議事録の扱いに集中したことには落胆した」と「新聞研究」に寄稿している[7]。 その上で武藤氏は、「再び感染拡大の兆候が見える中、感染症の流行と社会の混乱や分断を真に収束させたいと願っている報道関係者との連携は引き続き必要だとし、専門家と報道機関が深い対話を経て、感染症を乗り越える『新しい報道様式』をともに創る必要がある」と提言している。 筆者も、「新しい報道様式」創造のためにこれまでのメディアの伝え方を細部に至るまで検証する必要があり、新聞、テレビ報道、ネット、SNSでのニュースや言説を収集・集積し、分析する仕組みの実装を提言したい。 ## 註・参考文献 [1] ニュースパーク(日本新聞博物館)尾高泉館長への聞き取り (2020年9月17日). [2] 河北新報.「記者ログ」. https://www.kahoku.co.jp/column/kishalog/20200811_01.html (参照 2020-10-04). [3] 山梨県発表.「新型コロナウィルス感染症患者の発生について」(2020年10月4日閲覧). https://www.pref.yamanashi.jp/koucho/coronavirus/documents/ 200504_case55_2.pdf (参照 2020-10-04). [4] NHK広報局広報資料.「NHK鳥取放送局職員の新型コロナウィルス感染について」. https://www.nhk.or.jp/info/otherpress/pdf/2020/20200418.pdf (参照 2020-10-04). [5] NHK放送文化研究所.「情報過多時代の人々のメディア選択〜『情報とメディア利用』世論調査の結果から〜」. 2018. [6] NHK放送文化研究所.「新型コロナウィルス感染拡大と流言・トイレットペーパー買いだめ」. 2020. [7] 日本新聞協会新聞研究. 「新型コロナウィルスと報道第 3 回」. 2020.
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Japan Society for Digital Archive
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# 日 時: 2020 年 7 月 3 日(金) 10 時 12 時 場 所:東京都中央区 聞き手:生貝直人、稲葉あや香、福島幸宏、宮本隆史、柳与志夫 (オンライン参加) 阿部卓也、加藤諭、谷川智洋 デジタルアーカイブ学会の SIG デジタルアーカイ ブ理論研究会では、現在「デジタルアーカイブの系譜学」をテーマとする議論を進め、共同執筆による出版 を準備しているが、その活動の一環として、「デジタ ルアーカイブ」の名付け親とされる月尾嘉男東大名誉教授のインタビューを実施した。分量の制約があり、 その記録すべてを収録できないが、学会員にとって興味深い、あるいは今後の研究にとって欠かせない内容 を中心に抜粋・掲載することとした。 一本日はデジタルアーカイブ学会の下で研究を行なつ ているデジタルアーカイブ理論研究会の企画としてイ ンタビューをさせていただきます。 1990 年代に月尾先生が「デジタルアーカイブ」と いう用語を作られたと言われていますが、その経緯と 背景、それから効果について、どのようにお考えですか。 ○月尾 僕が用語を作ったと言われるようになったの は、影山幸一さんがインタビューに来られ、僕が「デ ジタルアーカイブ」という言葉を国内で初めて作った と書かれた[1] ので、そのようなことになっているの ですが、自分では意図的に作ったという記憶はありま せん。 僕は東京大学の建築学科を卒業して建築家になろう と思い、丹下健三先生の研究室に入りました。ところ が、その頃、日立製作所の HITAC5020という日本最初の大型コンピュータが東京大学に設置され、 1 年間 は無料で使うことのできる機会がありました。それを 使って人口予測や道路交通のシミュレーションをして いたら、建築より面白いと思うようになりました。 しかし建築学科の大学院に在籍しているので、建築 に関係した研究をしなければまずいと思い、最初は集合住宅の最適設計というプログラムをつくっていまし た。例えば 200 戸の集合住宅を造るとすると、どの住戸も日当たりがよく、アクセスも均等というような建物を造るにはどのように住戸を組み立てたらいいかと いうプログラムを作っていました。 博士課程になったときに大学紛争が発生し、都市工学科が入っていた工学部 8 号館は封鎖されて研究室に 入れなくなりました。そのような時期に、丹下先生や 門下の磯崎新さんなど多くの建築家が 1970 年開催の 大阪万国博覧会の計画に参加されることになりまし た。それで丹下先生に手伝うように言われ、先輩の山田学 (後に東京大学教授) さんと一緒に博覧会の会場 の中を観客がどのように移動するかを予測するプログ ラムを作りました。例えば朝9時に6か所の入口が開 くと、観客がどのように移動するかというシミュレー ションをしていました。 それから、お祭り広場の演出装置の設計を磯崎さん が担当され、その制御システムを設計するように頼ま れ、広場の照明、音響、ロボットなどの装置をコン ピュータで制御するシステムを設計しました。そのシ ステムの制御室には常時、責任者がいないといけない ということで、設計した僕が常駐することになり、大学もロックアウされて研究室に入室できなかったの で、会期中は博覧会場の制御室で仕事をしていました。 それでコンピュータに詳しくなり、建築に関心がなく なっていったのです。 その後、機械工学科の石井威望先生たちが取り組ま れた全自動交通システム(コンピュータ・コントロー ルド・ヴィークル・システム:CVS)を開発するプロ ジェクトの手伝いをしていました。 1976 年に名古屋大学建築学科の助教授になったの ですが、コンピュータを使って人工知能で建物を設計 する研究をしていました。 そのような経歴から、1991 年に東京大学に戻った ときには建築学科ではなく産業機械工学科の教授にな りました。また 1993 年からは電気通信審議会の委員 になったのですが、当時の通信政策の最大の課題は 1985年に民営化されたNTTを数社に分割することで、 その小委員会の委員長になってしまい、 1 年間に 50 回以上の会議が開かれ、随分と時間を使いましたが、通信産業の構造には詳しくなりました。 一その時代の NTT の研究所は、世界的にも高い水準 だったので、それをどうするかという議論があったか と思います。 ○月尾 それは重要な課題でした。世界の先頭にいた アメリカのベル研究所が AT\&T から切り離されて研究能力が低下したという実例があったので、NTT も そうなると困るという話になり、結局、研究所は持ち 株会社に帰属することになりました。 NTT は存在感を高めるために、1985 年頃からマル チメディア戦略を打ち出し、さらに 1990 年には VI\&P(ビジュアル・インテリジェント・アンド・ パーソナル)計画が作成されました。この3 分野をマ ルチメディアで実現するという政策です。 インターネットはアメリカで 1988 年に商用利用が 始まりますが、日本では十分に知られていない時期で あったため、NTTが VI\&P 計画を発表した時はイン ターネットを想定せず、通信回線を高速デジタル回線 にし、音声だけではなくデー夕通信や画像通信が利用 できるようにする目標がビジュアルやインテリジェン トでした。パーソナルは 80 年代に登場していた携帯電話が重要な役割を果たすシステムをつくるという構想でした。 アメリカはVI\&P 計画に危機感を持ち、クリント ン・ゴア政権が情報スーパーハイウェイ計画を発表 し、インターネットを無償で世界に開放して主導権を 取ろうと画策しました。ところが、日本はインター ネットが現在のような手段になることを予想できず、通信技術の権威であった学者でさえ、インターネット のような多数の通信会社の回線が相互に接続され、全体に責任を持つ組織が運営しない通信システムは危険 だという考えでした。 そのような時期の 1994 年にアメリカ議会図書館が 「アメリカン・メモリー」というプロジェクトを発表 しました。インターネットが十分に普及していなかっ た時期なので、アメリカの歴史を示す価値のある情報 をCD-ROM で公開したのです。それによってデジタ ルアーカイブという概念が注目されることになりまし た。膨大なアメリカ議会図書館の所蔵する資料の中か ら、アメリカに都合のいい情報を選択して編集し、ア メリカを代表する歴史をつくることだと思いました。 さらに社会を大きく変えると思った技術は、1996 年に始まったグーグルのサービスです。グーグルを初 めて使ったときは驚きました。当時はキーワードを入力して検索すると $\Gamma 0 \cdot 0$ 何秒で検索しました」と画面に表示されたのです。膨大なデータから一瞬で必要 な情報が検索できるというシステムに感動しました。 そのような時期に大学では柏キャンパス問題が出て きました。各学科の一部を柏キャンパスに移動すると いう構想です。僕は産業機械工学科に所属していまし たが、機械系出身ではないので、僕が行くべきではな いかという雾囲気になってきたので移動することに し、その条件として助教授の選定と研究分野の決定を 任せて欲しいと要求したところ了承され、浜野保樹さ んと武邑光裕さんを助教授に採用しました。 その共同作業として、情報の歴史を通覧できる紙製 のアーカイブをつくろうと企画し、 1851 年以降の主要な情報関係の文献が網羅された『原典メディア環境 1851-2000』という大部の書籍を編集し、東京大学出版会から出版しました。 一これはアーカイブという意識で作られたものですか。 ○月尾 アーカイブという名前は使いませんでした が、情報文化の重要な資料の集成を作成するという目的です。アメリカ関係を浜野さん、ヨーロッパ関係を 武邑さん、僕が日本関係の資料を集め、解説を付けた 本にしました。 そのような時期の 2002 年に小泉内閣が中央省庁に 民間登用を積極的に進めるという政策を発表し、その 一環として総務省に行くことになりました。 予定は 3 年任期で、情報通信政策を所管する総務審議官(次官に次ぐポスト:編者注)になりました。担 当は国際関係が中心で、外国との通信関係の交涉をす る立場ですが、実務は課長クラスが進めるので、あま り役に立たないと思い、 1 年で辞任しました。 一ここまでの打話だと、データベースのほうから来る 話と通信のほうから来る話を一緒にしたのがデジタル アーカイブということでしょうか。 ○月尾 アーカイブの本質は資料を保管することで す。古代ギリシャ時代にアレキサンドリア図書館に、当時の世界の様々な地図が集められていました。アレ キサンドリアの港に外国の船が入港すると、所有して いる地図を提出させ、複写して返却するという制度が あり、世界最大の地図のアーカイブを作っていました が、公開はしませんでした。15世紀のポルトガルの 王室のエンリケ王子は当時の世界地図を収集していま したが、ここでも地図は極秘情報として公開されませ んでした。しかしグーテンベルクが 15 世紀に印刷技術を発明してから、紙製の書籍として情報が流通する ようになりました。20世紀になって媒体が CD-ROM になって情報自体はデジタル情報になりましたが、流通は依然として物流に依存していました。20世紀末 にインターネットが登場し、ようやくデジタル情報に アクセスできるアーカイブが登場し、社会が変わった と思います。 一これまでお書きになったものや、今日の打話を伺っ ていると、研究者をされながら、政治や行政との距離 も近い感じがしますが、そのきっかけはやはり丹下さ んの万博のときからの流れですか。 ○月尾もともと研究に向いていないという性格もあ りますが、名古屋大学に行ったときに、都市計画を専門にしていたので名古屋市や愛知県の委員会の委員に なり、一般社会との付き合いが多くなりました。そう いう関係で国の役所とも関係ができ、電気通信審議会 の委員になったりしました。しかし研究はデジタル アーカイブの論文が 1 編しかないというように業績は ゼロで、大学教授としては完全に失格です。 一アメリカの場合は、民間も行政もデータベースに力 を入れてきた。それでいざインターネットになったと きに流すコンテンツがあったわけですが、日本の場合、 お話を伺っていても、データベース産業とか、特に通産省(現経産省)のコンテンツ政策的な影が薄いし、郵政省(現総務省)系の通信の流れの中に流れる情報 の話があまり出てこない気がするのですが、政策とし てどうだったのでしょう。 ○月尾 これは日本の大きな問題です。省庁再編の後 も、総務省には通信に関係する 3 局があり、経産省に はコンピュータなど情報機器を所管する 3 課があり、統合されずに分散していました。これを統合すべきだ という意見は以前からありましたが、実現しませんで した。ところが、1994 年だったと思いますが、韓国 が一気に情報通信部に統合したのです。 今回のコロナウイルス騒動で明らかになりました が、韓国ではコロナウイルス関係の情報対応が上手く いきましたが、日本は各省の情報処理が独立していて 混乱しました。ようやくデジタル庁が実現することに なりましたが、大幅な出遅れです。 ーコンテンツ政策・知財政策の文脈で語られることが 多いデジタルアーカイブ政策的なものが、森内閣の 2000 年の IT 戦略の中ではどういう位置づけだったの でしょうか。デジタルアーカイブ政策は IT 戦略とは 考えられていないようですが。 ○月尾 森内閣のときに高速インターネットネット ワークを整備するという情報戦略が打ち出され、小泉内閣になって IT 戦略本部が内閣府に設置されました が、中心はコンピュータなどの情報処理機械とイン ターネット回線などの通信基盤を整備するという産業政策です。コンテンツ産業を育成するのではなく、い かにコンピューター産業や通信産業を育てるかという 視点からの議論で、それを利用して、どのような社会 を作るかという議論は活発ではなかったと思います。 一月尾先生御自身は、もともとアメリカのデジタルラ イブラリーからインスピレーションを受けたというお 話がありましたが、産業政策というよりもコンテンツ のほうに関心があったということですか。 ○月尾 国家の発信能力として重要だ思っていまし た。第一次クリントン政権の国防次官補をしていた ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が国家の力とは 何かということを提言していました。古代は武力で あったが、十七世紀以後、資本主義が登場して経済力 が国家の力になったという歴史を踏まえ、これからは アトラクティブネス (魅力) が国力になると提言して います。自国に人・物・金・情報を引きつけることが できる国が強いという意味です。 その後、ブレジンスキーというカーター大統領の安全保障補佐官だった人が、アメリカがなぜり連を崩壊 させて世界唯一の霸権国に成り得たかということを議論していますが、アメリカは軍事力、経済力、技術力、 そして文化力という 4 つ力万で世界一になったからた と説明しています。粗野ではあるが、世界の若者を魅了してやまない文化力を持ったアメリカがり連を崩壊 させたのだという見解です。 例えば、大谷翔平や田中将大など日本のプロ野球に 飽き足らない若者はメジャーリーグへ行くし、学者も 能力があればアメリカの大学へ行く。野球でいえばバ ントなどしない粗野な野球に魅力を感じ、研究者も年功序列ではなく若くても優秀な人間が出世していく。一見、粗野だけれども世界中から優秀な人間を引きつ ける力を持ったアメリカが強いという意味です。 日本文化は海外の観光客を引きつけているけれど も、人口当たりの観光客数は世界の数十番目です。つ まり引きつける力が弱いのです。デジタルアーカイブ の大きな役割は、貴重な記録を保存するという本質は あるにしても、それが世界に魅力を発信することに役立てなけれげいけない。そういうことを浜野さんたち と議論している時期に、アメリカン・メモリーが登場 し、その中身を調べるとアメリカは魅力的な国だとい うことを世界に発信するために資料を集めているわけ です。デジタルアーカイブは、そのように視野を広げ るべきだと思います。 一政策や政治との関わりはお話しいただいたのです が、例えば学会との関わりでは何か先生としてお考え はありますか。 ○月尾 学会に対しては 2 つ意見があります。最近、日本の学術評価の順位が世界で低くなっています。論文の被引用回数の順位が毎年発表されますが、日本は 21 世紀になってから順位が毎年落ちていっている一方、2005 年頃から中国が急速にアメリカを抜き始め ています。アメリカはあらゆる分野で 1 位でしたが、 2020 年頃の統計では主要な 8 分野の 5 分野で中国が 1 位になっています。すべての分野で日本は5位以下で、頑張らないといけないというのが1つの意見です。 もう 1 つは社会全体のリテラシーの向上への貢献で す。一部の人は非常に高いリテラシーがあるけれども、新しいものを創り出すリテラシーは残念ながら低いと 思います。作られたサービスを器用に使うという若い 人は多数いるが、フェイスブックやッイッターのよう な新しいサービスを創り出す能力は非常に低いと思い ます。研究水準も低下しているけれども、社会として の広い意味でのリテラシーを高めることに学会も頑張っていただきたいと思います。 一なぜアーカイブという立論をされたのかというとこ 万に立ち戻って確認させていただきたいと思います。 お話を少し振り返ってまとめさせていただくと、基本的に情報通信政策の側面が非常に強くて、文書館とか 図書館の系譜とはほとんど無縁だったというふうに理解しました。 そうするとそれは一般にイメージされるアーカイブ というものとややニュアンスが違うようにも感じられ るのですが、そのような中でどうして月尾先生がアー カイブというキーワードを前面に押し出されたので しょうか。 そのことと多分関係すると思いますが、デジタル アーカイブに関わる一連の動きに月尾先生御自身が関 わったからこうなったという部分はどの辺りにあると 感じていらっしゃいますか。 ○月尾 アーカイブの基本的な役割は情報が散逸しな いように保存するということだと思います。国立公文書館も一般の人には関心がないような文書も保存して いるわけです。国会図書館も多くの人がつまらないと 思うような書籍もすべて集めています。この集めて保存することが基本だと思いますが、何のために保存さ れているかということを考えると、それを使って社会 にフィードバックさせることが重要です。 かつての文書で保存されてきた時代には、索引や図書カードでしか情報を引き出すことができませんでし たが、デジタル情報になって内容を容易に検索できる ことになりました。その 2 のアーカイブの重要な側面のうち、これまで劣っていた、多くの人がアクセス して利用するという分野が、現在の情報技術によって 大きく変わった。そこにデジタルアーカイブ学会など が貢献していただく必要があると思います。 そのためには基盤整備が大事だと思っています。も ち万んアーカイブをつくる技術や検索するための技術 は重要たけけれども、社会として利用できる基盤をつく ることが大事だと思います。森内閣が 2000 年 1 月に 発表した政策は高速通信回線を短期間で日本全体に整備するという情報社会の基盤を作ることでしたが、そ の利用については明確な政策を打ち出していません。 一例えばデジタルライブラリーではなくて、デジタル アーカイブという言葉を使われた、選択された、その 経緯はどういうことだったんですか。 ○月尾 ライブラリーというのは利用するということ が大きな目的で書籍を集めて保存しています。そうい う側面では国民が情報にアクセスする機能を果たして います。 アーカイブはライブラリーが集めないような記録も 集めるということが重要です。アメリカ議会図書館は 歴史的な写真を大量に収集していますし、広大な倉庫 の中に整理もしないまま集めている記録が大量にある と言われています。それがアーカイブの目的を表して いる光景だと思います。 例えばアマゾンはオレゴン州に巨大なデータセン ターを作って 1995 年の創業以来のすべての取引の記録を保存しており、それを分析して新しいビジネスの 構想を作っています。 一方、日本のある大規模なコンビニエンスストアに 売買データを何年間保存しているのか質問したら 1 年 で抹消しているという答えでした。それはサーバーの 値段が高いとともに、蓄積した情報を何に利用するか が明確ではないからです。発生してから当分の期間は 需要のなかった情報でも蓄えてアクセスできる仕組み にしていくと、それが国力や企業の力になっていく側面があります。かつては手段がなく保存費用も高かつ たけれども、現在はできるようになっているから、そ の視点が重要だと思います。 一影山さんの文書の中では、1994 年頃にデジタルアー カイブという言葉ができたと言われていますが、なぜ この 94 年という時期に日本の中でこの言葉ができて きたか、もう少し具体的なインスパイアの要件という のがあれば伺いたいのですが。 ○月尾 それはワールドワイドウェブ(World Wide Web)の効果だと思います。1988 年からインターネッ トの商業利用が可能になり、ヨーロッパの CERN (Conseil Européen pour la Reche-rche Nucléaire:欧州原子核研究機構)にいたティム・バーナーズ=リーによっ て1989年に世界最初のウェブサイトが作成され、 1993 年にウェブサイトの一般公開が始まりました。当初は通信の手段であったインターネットが、ワール ドワイドウェブによって情報を公開し検索する手段に 変化したのですが、それを反映してデジタルアーカイ ブが登場してきたのだと思います。 浜野さんや武邑さんと毎日大学で議論していたので すが、そのときにアメリカン・メモリーのことも話題 になりました。そこで情報検索というのは政策的に国力と関係するということに気付いたのです。デジタル アーカイブという言葉を思いついた経緯は覚えていま せんが、情報を膨大に蓄積しておいて検索できる仕組 みは社会に必要で、かつ国力になるということを議論 していた時に、アーカイブという言葉を思いついたと いう程度です。 —1990 年代半ばぐらいになってくると、デジタルアー カイブ推進協議会では平山郁夫先生が会長になられた り、東大総合研究博物館の青柳正規先生中心にデジタ ルミュージアム構想が出たりと、月尾先生の周辺では マルチメディアとかデジタルアーカイブという中での ミュージアムの流れの人脈が強くなってくると思いま すが、今日のお話だと図書館との関連が強いように思 えました。月尾先生の中でデジタルアーカイブという 言葉を推進していくときに、90 年代の半ばぐらいに 出会った博物館系の方々との関係がどういう影響を 持っていたのでしょうか。 ○月尾博物館を新しい方向に変えようというのが青柳先生や坂村健先生の御意向だと思いますが、従来の 博物館の延長には関心がありませんでした。 一ここまでのお話をまとめると、1988 年あたりから、月尾先生が打仲間との議論を継続的にされていて、そ の過程でアメリカン・メモリーが出てきて、さらに バーナーズ=リーのワールドワイドウェブの構想が出 て、そしてグーグルの検索が出てきてという流れが あって、その中から生まれたものがこのデジタルアー カイブということでしょうか。 ○月尾 大体そうです。背景にあるのは国力をどう高 めるかということが大きかったと思います。「魅力」 という新しい情報の力が国力になるという考えが根底 にあったと思います。 一アメリカン・メモリー自身がアメリカに都合のいい 情報を提供する、アメリカの文化力を高めるという機能を持たされているという括があったのですが、最初にデジタルアーカイブを思いつかれたときに、そう いう機能自体はデジタルアーカイブという言葉の中に 含まれたのか、もしくはデジタルアーカイブに付随す る機能なのか、どの辺までがデジタルアーカイブの機能というか役割だと思われていたのですか。 ○月尾 多くの機能があると思いますが、関心があっ たのは、国が発信力を持つことが重要だと考えていた ので、その 1 つとしてデジタルアーカイブを考えるべ きだというのが基本的な背景です。 もち万ん収集することは必要だけれども、収集した だけで使われなければ役に立たないということです。以前は貴重な古文書などは簡単には図書館で閲覧でき なかったけれども、デジタル情報にすれば誰でも簡単 に、しかも世界からアクセスできるというのが、社会 を変える力になるだろうという考えはありました。 一デジタルアーカイブ推進協議会の初期に、デジタル アーカイブにお金を出したり、政策として関与すると きの国側の受け血になった省庁といえばどこですか。 ○月尾 通産省です、文化庁は出遅れていました。 一通産省としては、それを産業として捉えていたんで すね。 ○月尾 通産省の情報関係の部署には他の省庁との人事交流があり、その人たちが外部の視点から情報自体 を産業育成の対象にしたいと考えていたという側面も あります。総務省の旧郵政省の部署は基盤整備が重要 な業務ですから、アーカイブに強い関心はなかったと 思います。 一 90 年代には、月尾先生はデジタルアーカイブとマ ルチメディアという言葉を併用して使われているよう なイメージがあるのですが、月尾先生の中でマルチメ ディアといったときと、デジタルアーカイブというふ うに使うときというのはどういうふうに使い分けをさ れていたのですか。 ○月尾NTTが会社全体の基本政策をマルチメディ アという言葉で統合していたので、日本はマルチメ ディアという言葉が主流だったと思います。 マルチメディア時代に通信会社は何をやるべきかと いう将来戦略の中で、NTTは音声だけではなく画像 も信号も伝えるという役割の重要性は技術として注目 していましたが、そのコンテンツ自体には関心が薄 かったと思います。実際、NTT は通信回線を使用し てデジタルコンテンツを放送する会社も設立しました が、経済規模が小さくて本格的に取り組まなかったと 思います。 一お伺いしたいことは尽きないのですが、お時間かと 思いますので、今日はありがとうございました。 (文責:柳与志夫) # # 註・参考文献 [1] DNP Museum Information Japan Artscape ;影山幸一.デジタルアーカイブという言葉を生んた「月尾嘉男」. https://artscape.jp/artscape/artreport/it/k_0401.html (参照 2021-08-22).
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# オーラル・ヒストリーとは何か ## Introduction to Japanese Oral History 抄録:オーラル・ヒストリーは、「敵性型」から「共生型」へと変わり、話し手と聞き手との相互理解が進んだ。かつての後藤田正晴、渡辺恒雄、鈴木俊一のように、オーラル・ヒストリーの現場の主導権を握ろうとする猛者(もさ)は少なくなった。「逃げの名人」「人たらしの達人」たる堤清二=辻井喬の如き、専門を異にする話し手三人で攻める強者も、今は昔だ。文化人オーラルのように作品として「成熟化」するオーラル・ヒストリーが出てくると同時に、人間誰でも一人は聞きたい人がいるという。「おひとり様オーラル・ヒストリー」は、広くオーラル・ヒストリーを「大衆化」する方向にある。 Abstract: Oral history in Japan has shifted from 'confrontation' to 'mutualism,' thanks to both interviewer and interviewees' cultivated understanding of the process. Interviewees in the past included various 'worriers' like Masaharu Gotoda (former Commissioner General), Tsuneo Watanabe (Editorin-Chief of Yomiuri) and Shunichi Suzuki (former Governor of Tokyo) who intended to take full control of the conversation. Seiji Tsutsumi - former executive of Seibu group with nick-names 'the dodger (nige-no-meijin)' or 'slick talker (bito-tarashi)' - was another protagonist. Tsutsumi answered interviews as if he was accompanied with two different specialists from each field, including a novelist with his pen-name Takashi Tsujii. We are moving away from such past patterns and are now facing oral history and its 'mature,' alike those by creators and intellectuals. We all have a specific choice of one's next favorite interviewee. Such 'only-one oral (ohitori-sama oral)' widely directs Japanese oral history towards massification. キーワード : 共生型、敵性型、成熟化、作品化、おひとり様オーラル・ヒストリー、大衆化 Keywords: oral history, confrontative mature of only-one as creation, mutualism, massification ## 1.「エリート」オーラル・ヒストリー 私がこの三十年間に携わったオーラル・ヒストリー の中から、印象に残ったものを紹介したい。これからオーラル・ヒストリーを手がけたいと思っている学会会員への参考になればと思う。最近の若いオーラル・ ヒストリーアンは、実に明るくて素直であると感じる。話し手と聞き手が、和気譪々なのである。話し手は聞き手と同じ側にいて、当然にオーラル・ヒストリーに応じてくれると思っている。その上でオーラル・ヒストリーの精度を上げるためにはどうしたらよいかという議論になっている。開拓者である私から見ると、ついに聞き手と話し手との「共生型」のオーラル・ヒストリーの段階に入ったのかという感想を禁じ得ない。私の場合は、まちがいなくオーラル・ヒストリーの話し手は向こう側にいて、聞き手との緊張関係を崩さない存在だった。話し手は本当にしゃべるのか、途中で打ち切るんじゃないか、難癖をつけて進行を止めるんじゃないか、それから徹頭徹尾ウソをつくか、白を切り通すんじゃないか、要はきわめて「敵性型」のオ一ラル・ヒストリーを展開した覚えがある。そもそも 「オーラル・ヒストリーとは何か」を説明に行ってもなかなか納得してくれない。何回か日にちをかけるのが普通だったし、その上で理解はしたものの「やはりあなた方の手のひら上で踊らされたくはない」という理由で断られたケースもあった。数回やったあげくに、「どうしてもウソをつくようになるのが苦しい」と心理的喝藤から中止にせざるをえないケースも出て来た。 今や質問票をめぐっての争いなどは考えられないだろう。後藤田正晴(官房長官・副総理)は、当時明確に質問票の聞き手による作成を断った。提出するのは、四〜五項目の箇条書きでよい。あとは、自分が霞が関に連絡して資料を取り寄せるからと、つき放して完全に主導権は話し手にあることを宣言した。だから後藤田が持参する分厚い資料は絶対に我々には見せてくれなかった。そうすると我々は、簡単な質問項目作成の段階から工夫せざるをえない。五つの項目に思わぬものを入れ、これはと思う物は抜いておき現場で突然口にしてみる。「いやだ」と話し手には断られぬ程度に質問項目には工夫を施した。 ともかく後藤田にせよ、渡辺恒雄(読売新聞主筆兼会長)にせよ、はたまた鈴木俊一(東京都知事)にせよ、あの頃の個性的なエリートは、おしゃべり好きたっった。だから絶対に自分の好きにしゃべりたい、要するに聞き手は多少交通整理をしてくれる存在にすぎず、絶対に主導権をとらせない、だから聞き手は常に面従腹背の挙に出る。しゃべりはおまかせのスタイルをとりながら、少しずつひっかけては、聞き手の聞きたいことを話し手に思わず知らずしゃべらせる。まさ に現場は駆け引きそのもので技の掛け合いになった。 ## 2. 「成熟型」オーラル・ヒストリー さて次に堤清二 $=$ 辻井喬 (文化人経営者、セゾン代表)のオーラル・ヒストリーのケースを見ておこう。 これは 2015 年に中央公論新社から商業出版された (『わが記憶、わが記録』)。聞き手は私と、経営学者の橋本寿朗と哲学者の熟田清一の三人である。なぜ専門の異なる三人が聞き手となったのか。それは堤清二が 「逃げの名人」であり、「人たらしの達人」だったからだ。聞き手一人ではとても攻略できない。政治の話をしていると経済に逃げ、経済の話に移ったかと思うと文化に飛ぶ、文化に落ち着くかと言うといつのまにやら政治帰りする。とにかく「逃げの名人」だから、各分野のプロを語り手において備えを万全にしたのだ。おまけに堤清二は初対面であなたたけにという関係性を築き上げ、その人にとっておきに見える話をかます「人たらしの達人」だから、その術中にはまら女よう聞き手も一休みして一度は我に返り、次に備える時間が必要なのだ。だから三人はいる。 この形で 2000 年から 2 年ほど合計 13 回(1 回 2 時間余)、堤清二と三人とで相見えたのであった。堤清二にとっても、まだ経営から完全に引いてはおらず、 また経営責任がらみで訴訟問題の当事者でもあった。最もシンドイ時期に、いやだからこそ他流試合のつもりもあって、オーラル・ヒストリーに臨んだのかもしれない。それから本にするまでの十数年間、堤清二は絶対に手を入れて完成させてはくれなかった。いつもいつも逃げられていた。もうダメかなとあきらめかけた時に、堤清二は亡くなってしまった。万事休す。ただそれでも奇跡的に本にできたのは、遺族の方のご好意があったればこそであった。 かくて堤清二オーラル本の出版で、オーラル・ヒストリーは「成熟化」のプロセスをたどり、一つの作品として読んでもらえるに至った。多くの新聞書評は、「堤清二を描くのにオーラル・ヒストリーは最良の方法であった。」「いや単に方法のレベルを超えて、一つの作品として評価できるコンテンツをもっている」と、好評であった。そこまで来たかと感慨深いものがあった。ついでに言えば、これに次ぐ文化人・山崎正和を対象としたオーラル・ヒストリー本(『舞台をまわす、舞台がまわる』中央公論新社)を出版した時に、同様の「成熟化」の文脈での作品としての評価をえた。「成熟化」がオーラル・ヒストリーの一つの成果であるとするならば、今一つの方向性は、誰でもやれるという意味での「大衆化」の文脈がある。プロによるプロの ための仕事と小むずかしく考える必要はない。人は誰でもこの人にこんなことを聞いてみたいという存在が一人はいるはずだ。だったら「おひとり様オーラル。 ヒストリー」をやってみたら、というおさそいである。 ## 3.「大衆型」オーラル・ヒストリー 実例を二人あげよう。一人は先端研の博士課程の若い学生である。もともとは理系で生物物理の専攻だから、当初は無理かなと思った。無口だし、説明しても質問しないし…でも「おひとり様オーラル」だと思い直し、誰を対象にするかと聞いた時、思いもよらぬ回答が返ってきた。自分は山岳部にいたから、登山家のオーラル・ヒストリーをやりたいと言うのだ。そこそこ有名な登山家の名前をあげたので、どうやってアプローチするのかと聞いたら、あたってみますの一言。玉砕する可能性が高いとみていたが、何ぞはからん山岳関連の雑誌に問合せ本人のアポをとって来た。これだから素人の執念というのは恐ろしい。むこうは面白い奴だと思って会ってくれたらしい。報告書も面白かった。しかし本人は満足しない。もう一回やると言う。登山家のオーラルは一緒に登山をしなくてはわからない。だから山を登りゆくオーラルをとるという話で、心底驚いた。でも結局、ある登山家とともに山を歩き、臨場感あふれるものを彼なりにこなしたメモを見せてもらった。すばらしいの一言である。 もう一人は高齢の会社 $\mathrm{OB}$ 。放送大学の博士課程の学生であった。彼は自分が勤めていたある政府系金融機関の統合問題をやりたい。かつての上司に聞きたいとのこと。正統派オーラルに近い趣であるが、問題はここでもアプローチの仕方だ。しかし会社人間には、 $\mathrm{OB}$ 会、同期会という今も生きる組織がある。彼の場合、 $\mathrm{OB}$ 会の席上での出会いから、オーラル・ヒストリーの話になった。当の本人も一度はしゃべりおきたいという気分だったらしい。一回こっきりの筈が興にのって数回に及んだと聞く。なんと、その記録が出来上がってまもなく上司のひとは急逝された。「おひとり様オーラル・ヒストリー」は、それ自身が意味をもつのだということを、つくづく感じたものだ。 ## 4. くめどもつきせぬ「人生の泉」 オーラル・ヒストリーを語ることは、結局人を語ることなのだ。「敵性型」から「共生型」へ、エリート・ オーラルのしかつめらしさから、「おひとり様オーラル・ヒストリー」における思わぬ人生との出会い。今や私にとって、オーラル・ヒストリーは、くめどもつきせぬ「人生の泉」になったようだ。
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# 抄録:アジア太平洋戦争は、国家総動員の掛け声のもとで行われ、その戦争を人々が受け入れるにあたっては教育やメディアなど を通して様々な共通意識が醸成されていったと言える。そして、戦争体験者の言葉を読み解くことで、その意識とはどのようなも のだったのかを浮かび上がらせることができないだろうか。デジタルアーカイブ化で公開されている戦争体験者の証言からキー ワードを取り出して、その言葉がどのような文脈とともに紡ぎ出されたのかを見ていき、人々の戦争との向き合い方を探るオーラ ルヒストリーの実践を試みる。 Abstract: The Asia-Pacific War is carried out under the shout of the Landsturm, and it may be said that various common consciousness was bred through education and the media when people accept the war. And can we let you rise by reading, and deciphering the words of the war experients what the consciousness was? Digital archive picks up a keyword from the testimonies of the war experients released in becoming it and sees what kind of context the words were begun to spin with and tries practice of the oral history which faces you, and investigates with the war of people. キーワード:戦争、オーラルヒストリー、捕虜、玉砕、集団自死 Keywords: War, Oral history, Prisoner of War, Death Rather Than Surrender, Die-off # # 1. はじめに アジア太平洋戦争は、日本人 310 万人、アジア・太平洋地域では 2000 万人もの犠牲者を出し、生き残っ た人々は過酷な体験を潜り抜けた。その記憶は様々な 形で記録されてきている。自ら書き残した手記、戦友会や研究者などによる聞き書き、自治体や公民館によ る収集、メディアによる取材などで数多くの口述記録・オーラルヒストリーが生まれている。 筆者は、NHKで 30 年以上にわたってアジア太平洋戦争に関する報道番組を制作してきた。その取材は、体験者に向き合って記憶を映像で記録する作業にほか ならない。 また、NHKでは体験者の高齢化を見据えて 2008 年 に「戦争証言プロジェクト」を立ち上げて戦争体験者 のインタビューを収録して番組を作った上で、そのイ ンタビューの映像をアーカイブ化する取り組みを始め た。それが「NHK 戦争証言アーカイブス」で、2009 年配信開始後、映像を数多く積み上げてきた。2021 年 7 月現在打よそ 1,300 人の戦争体験者の証言を見る ことができる[1]。 こうして千人以上の証言を積み上げたことで戦時を 生きた人々の意識や思考が集合的記憶として浮かび上 がり、オーラルヒストリーとなると言えるのではない だろうか。そこで、当時の社会のどのような面が見え てくるのか、人々の語りの中に在る意識の共通項で 探ってみたい。 ここでは、数多くの戦争体験者が口にした “捕虜” という言葉がどのような文脈から語られたのかを見て 図1「NHK戦争証言アーカイブス」 いく。捕虏を含む語りから、兵も民も戦争を受け入れ、殉じていくことにつながる当時の社会規範や共通意識 が読み取れるのではないかと考えるからだ。 捕虏とは、狭義では戦争状態にある時に敵の権力の 手中に落ちた将兵や軍属などであるとされる。しかし、 ここでは広く、戦場で巻き达まれた一般住民も含めて、敵に捕らわれるということと、そのことへの恐怖感や 忌避感から生じた事象から読み解いてみたい。 ## 2. メディアによる戦争体験の収集と公開 「NHK 戦争証言アーカイブス」では、北はアリュー シャン列島最北端占守島から、南はガダルカナルやニューギニア、西はビルマ・インパールまで、陸海軍将兵など日本軍が戦った様々な戦場の体験を映像で収めている。市民に関しては、空襲、疎開、勤労動員、引き揚げ、あるいは集団自死などの証言を集めている。 また証言者は、日本人のみならず、朝鮮半島、フィリピン、台湾、米国、英国の人々にまで及ぶ。こうした地域とできごとの語りに丹念に耳を傾けることで「アジア太平洋戦争」とはどのような戦争だったのか、何が起きたのか、あるいは、戦争を強く支持した当時の社会構造や一般市民の意識を知ることができるのではないか。プロジェクト発足当時から、証言を積み重ねていけば、こうしたことが可能になると考えていた。 さらに、デジタルアーカイブ化によって、証言を文字に起こしたテキスト全文をメタデータとして入力したことで、様々なキーワードでコンテンツを検索できるようになっている。 ## 2.1 日本人将兵と捕虜になるということ 検索密に「捕虜」を入力して検索した結果、 437 人が捕虜を口にしていた。全体のほぼ 3 人に 1 人である。太平洋戦争初期の 1942 年 8 月、旭川で編成された一木支隊が米軍の反攻で飛行場を奪われたガダルカナル島に上陸、激しい戦闘でたちまち半数以上の将兵が戦死した。負傷して身動きが取れなくなり取り残された、一木支隊の原田昌治さんの証言をまず見てみる。日本軍は組織的に降伏・投降することはなかったので、捕虜になった人の多くは単独で負傷したところを捕われている。 僕はあおむけになって頭向こうで、そのままになって、ええい、もう、きょう死のうと思った、「弾に当たってもいい」と。(中略)。捕虜になるということは、これは軍人としての聍だと。 「殺される、むごく殺されるんなら、あっさり殺し てもらったほうがいい」という、まして捕虏だから生きて帰るわけにいかないというか。それはあるから。うん。そういう考え方だと思いますね。「虜囚の辱めを受けるなかれ」という戦陣訓のひとつだからね。 収容所に入った原田さんは、捕虏になった以上もはや日本に生きて帰れないと考え、殺してほしいと思ったと言う。ここでもまた、“戦陣訓”に言及している。 ## 2.2 捕虜をタブーとした「戦陣訓」 戦陣訓は日中戦争での軍紀の乱れから、太平洋戦争の始まる年の 1941 年の 1 月に東条英機陸軍大臣名で将兵への規範として示達されたものである[2]。この戦陣訓の中に「生きて虜囚の䎵ずかしめを受けず、死して罪科の污名を残す事なかれ」という一節がある。この前には、「耽を知るものは強し。常に郷党家門の面目を思い」とある。つまり捕虜にならずに死ぬ、捕虜は罪である。さらに故郷や家族の面目に関わる、ということを謳っている。この戦陣訓に従えば原田さんはもはや日本に帰れない、それならば殺されたいと思ったわけだ。 ## 2.3 すべてに対する恥という意識 1942 年 6 月、アリューシャン列島のアッツ島守備隊が全滅する。このとき新聞は初めて「玉砕」という言葉を使い、最後の一兵まで戦い抜いたと美化した。 この玉砕した山崎部隊の将兵は「軍神」とたたえられが、負傷して人事不省に陥った兵士 27 人が捕虜になつていた。その一人、加藤重男さんは 60 年以上たっても、生き残って捕虜になったことを「恥」として語る。戦後は、タクシー運転手を長年勤めた。 結局生きて恥をかいているっていう事ですね。だけど、これはね、何でも上官の命令は天皇陛下の命令。何があっても天皇陛下の命令に従えって事ですね。 だから、わたしら天皇坒下の命令に、上官どころか天皇陛下の命令に従わなかった。(中略) わたしがしゃべるの、これは生きて虜囚の恥をかいているんですから。あんたに恥をかいている。お客さんに恥をかいているんですから。 同じく、アッツ島守備隊の高橋富松さんは生き残ったことを「運が悪かった」と語った。 運が悪いから生きて出て来たんだなあという事、ま たそったら事は言えないから。あとの人たちは帰ってきて良かったなあという事を言っている人もあるけれど、わたしはそったら事はか兑って良いという事は、気持ちは良くないさ。せっかく、本当に昔から戦争さ行った人は、帰ってきた人は一人もないんだということを聞かされたから、そういう事を思い出すと、あまりいい感じはしないです。 このアッツ島で捕虜になった二人は、生き残ったことを戦後もずっと否定的に捉えている。特に加藤重男さんが、タクシーの運転手として乗客に対してまで 「耽をかいている」と語ったことに驚かされる。戦陣訓を起点に捕虏になることが恥であるという意識を、終戦を超えて数十年も抱え続けてきたのだ。 ## 2.4 「捕虜」になることを学ばなかった日本軍将兵 この戦陣訓は、大きな矛盾をもたらした。捕虜になることをタブーにしたことで捕われた兵士は、捕虜としての振る舞い方を全く身につけていなかったのだ。米陸軍情報部で捕虜の尋問から日本軍についての分析にあたっていた日系二世のウォーレン・ツネイシさんの証言から読み取れる。 情報を得るために暴力や拷問を使う必要はなかったようです。なぜなら日本兵は捕虜になったらどうす当べきか、まったく訓練を受けていなかったからです。私たちは、ジュネーブ条約では、捕虜になったら敵に教える必要があるのは、自分の名前、階級、識別番号だけだという訓練を受けていました。(中略)私はその理由をこう考えています。旦本では、捕虜になるということは、本人だけでなく家族や、部隊や、陸軍、さらには国家にとっての不名誉ということですよね。辱めを受けたら死んだ方がましだと。捕虜になった日本兵が何でも話すのは、恐らく、必要以外のことは話さなくてもよいという訓練を受けていないことが原因のように思えます。 こうして、連合軍は捕虜から数多くの有用な情報を得て行ったのである。 ## 2.5 捕虜タブー視が生んだ BC 級戦犯 さらに、捕虏をタブー視したことは、連合軍将兵捕虜の扱いに大きな影響を与えた。捕虏収容所での過酷な扱いにつながったのである。愛媛・新居浜捕虜収容所では、英軍、オランダ軍の将兵がいた。ここで炊事を担当していた岡内俊一さんは捕虏が激しい虐待を受 けるのを目の当たりにしていた。炊事場から失われた砂糖を持っていた兵士が拷問を受けたのだ。 「誰からも万うたんだ?」言うてね。それ、言わないんです。それで曹長の人がね、竹刀持ってきて、 (中略)それでわたしらに、「一つ、お前たちもやらんか」という指示を出したけども、誰も返答しなかったと。拒否したと。それで彼がしかたなしに、竹刀がもうボロボロになるまで頭吹て。それから、 なんか、コテのようなものを火につけ、入れて先が赤うなったのを見て、それをお尻のほうへ近づけたと。それから、最後に千枚通しでやった。 戦後、新居浜捕虜収容所の所長は絞首刑になった。岡内さんも BC 級戦犯として有罪判決を受け巣鴨プリズンに収監され、釈放されたのは、サンフランシスコ条約が発効したあとの 1953 年のことだった。 日本の捕虏収容所での連合軍将兵の死亡率は、虐待と給養の乏しさによっておよそ3割にも上った。そのために戦後の級戦犯裁判では捕虜の管理に当たった 5,000人を超える元日本軍将兵や軍属が罪に問われている。 ## 3. 市民の意識にもあつた捕虜への忌避感 太平洋戦争では、マリアナ諸島、そして沖縄で住民が激しい戦闘に巻き达まれた。ここでも、日本軍は降伏も投降することなく玉砕するまで戦った。そのため、住民は逃げ場のないまま戦場の中を逃げ惑うことになり、砲弾や銃撃で命を奪われた。一般住民は、捕まれば残虐に殺される、特に婦女子は性的な暴行を受けるという妿迫的な観念を持っていたため、自ら死ぬことを選ぶ、あるいはなぶり殺しにされるくらいなら、自らの手で身内を死なせたほうがよいという思いがもたらした悲劇が数多く起きている。 ## 3.1 テニアン島 1944 年 7 月 24 日、マリアナ諸島のテニアン島に米軍が上陸、激戦が始まった。 日本の委任統治領だったテニアン島は、国策会社の南洋興発が大規模なサトウキビ栽培と製糖を行っており、米軍上陸直前には 1 万 6,000 人の日本人住民がいたとされる。現地で生まれ育った佐藤照男さんは、日本軍将校から米軍が侵攻したときの心構えについて聞いていた。 学校に何百人かの人たちが集まって海軍の中佐の方 が来て、「日本は絶対勝つけど、もしか敵がこっちに攻めてきて上陸したら、皆さん死んでください」 と。これが日本人なんだというんですよね。(中略) つかまったら残虐な行為で、目玉取られたり、お兄ちゃんだってチンポもがれたり、大変なことをして殺されるよと、こう言うんですよね。みんな本気にするでしょうよ。そこで 1 時間ぐらいい万い万なことをしゃべってね。しまいに「海叻かば」という歌があるでしょう。あれを歌うとね、何百の人で、体がもうジーンと金䋠りにあったようなすごい気持ちになるのね。あれだけは不思議ですよ。だから本当に、死奴が日本人なんだなという、そういう気持ちになっちゃったね。 軍幹部から捕まれば残虐に殺されることを教えられたことが示唆されている。 1944 年 7 月、米軍がテニアン島に上陸すると軍の指示で南部へ移動、壕の中に潜んでいた。食料もないまま、小さな子供の多かった佐藤さん一家は、父親が佐藤さんの弟 3 人を射殺したという。佐藤さんは涙を流しながら語った。 子どもら殺してからね、間もなくです。うちのおじいさんが捕虜になってて、探しに来たんです。殺した何日か後ですよ。うちのじいさんが、うちのおふくろはハルヨっていうんだけど、「ハルヨ、ハルヨ」 と呼んでるんですよね。(中略) おじいさん下りてきて。うちのおふくろはギャンギャン泣いたんですね。「何でもっと早く迎えに来てくれなかったんだ。殺しちゃったよ」って。捕虜になれば虐殺されるって、そういうとんでもないことを信じていたんですよね。うちのじいさん迎えに来たとき「おまえはバ力だな。何千人という人が、みんな捕虜になって元気に生きてるから」と言って。 ## 3.2 戦場と女性 ## 3.2.1 従軍看護婦 戦場に赴いた女性も数多くいた。主に日赤の従軍看護婦である。また、住民を巻き达んだ激しい地上戦となった沖縄では、女学校生や主婦までもが軍隊と行動を共にしていた。まず、日赤の従軍看護婦だった村山三千子さんの言葉を辿ってみる。 村山さんは、男兄弟や周りの男性が出征していくのを見て、自らも戦場に赴くため日赤の看護婦養成所に進んだ。出征の赤紙(召集令状)が来たときに死を覚悟したという。日赤の看護婦(養成所)に入った自体がもうね、死奴ということを全然怖くなかった。怖くないしね、 もう当たり前に死んで、戦地へ行って死奴ということは最高の栄誉だしね。お国のため。「お国のためは天皇陛下のためだ」っていう考えがあるからね。 それ以外のことは考えないの。 中国東北部(満州)の病院に配属された村山さんは、 ある日二人の中国人捕虜が連れてこられて生体解剖される場面に立ち会った。 こういう人がいるからね、平和が壊されるんだ、と。 だから全然かわいそうだとも何とも思わない。とにかくこういう人がいるから戦争になるから、こういう人は何されても構わないんだ、という頭だよ。いわゆる徹底して『軍国乙女』というのは、そういうことなのよ。 この出来事はずっと村山さんを苦しめたという。 一生涯、私のこの、悔いとして残るって。私も今は結婚してね、一男一女の子どもの母親になっているって。 その事を思えばね、慚愧(ざんき)の思いでもう、眠れない時は必ず思う。ふたりが出てくる。それはもう、忘れない。同じような顔だったの。いがぐり頭で、同じ服装しているから。兄弟だったわけよ。 村山さんは、戦後中国共産党軍に捕われて留用され国共内戦に帯同した。帰国したのは終戦から 8 年もたった 1953 年のことだった。 ## 3.2.2 沖縄戦と女学校生 沖縄戦で少年少女が戦場に駆り出されていたことはよく知られている。沖縄県立第二高等女学校の生徒だった中山きくさんは、看護助手として陸軍病院で過酷な仕事をさせられた後、米軍がせまり病院は解散となり放り出された。そして沖縄本島南部を彷徨していた時故郷の佐敷村に捕虜収容所があることを知って驚いたという。 佐敷が避難民収容所になっていると。まさかと思いました。日本人が捕虜になるのか?と。(中略) 捕まってですね、そして殺されるんだ万うと思ったら、 そうじゃなくって、あっちこっちに、その辺は墓地もありましたから、大きなテントを張って、食べ物 やら水やら、いっぱいあるんですよ。そこに、連れていかれましてね。水とチョコレートを勧められて、「誰が敵のものを食べるか」という感じですね。(中略)もうこんな恥ずかしいことはないと。日本の女性でね、捕虜になんかなってと思って、本当にふさぎ达んで、毎日毎日、家の中に閉じこもってたんですね。 女学校生も捕虜への忌避感を強く持っていたことが中山さんの言葉からわかる。当時の女学校生たちの中には、病院解散時に重傷で動けない将兵たちが米軍に捕われて情報を暴露することを避けるために薬殺される場面に立ち会っていた人もいた。こうした事態が起きたのは、撤退の際の重傷者は「万難ヲ拝シ敵手に委せざる如く勉む」とされた方針による[3]。 ## 3.2.3 市民に浸透した「戦陣訓」 「生きて虜囚の恥ずかしめを受けず」の一節を含む 「戦陣訓」は告示以降、民間の出版社から競うように解説本が出版された(図 2)。写真はそのごく一部で、子供向けの本も数多く出されている。売れ行きはよく、一般の人々にその内容はかなり浸透していたと考えられる。 図2 出版社各社から発刊された「戦陣訓」関連本 ## 4. あってはならなかった集団投降事件 4.1 ニューギニア戦線・「竹永事件」 終戦時を除いて日本軍では、部隊単位の組織的な降伏、投降はほとんどなかった。欧州戦線ではスターリングラードなどをはじめ、一度の戦闘で数万人単位の投降があったことに比べると、日本軍の戦い方はそれだけ特異だったといえる。その中で、極めて珍しい部隊単位の投降が 1945 年 5 月、東部ニューギニアで発生している。指揮官の名前から「竹永事件」と呼ばれ ている。 1945 年 5 月というのは、第十八軍が最後の決戦として連合軍に挑んだアイタぺ作戦が失敗に終わり、制海制空権、補給もない日本軍はまもなく食料もつき、対峙している豪州軍と玉砕戦を戦わなければならなくなると考えていた時期であった。 守備位置から離脱した竹永正治中佐率いる歩兵 239 連隊第二大隊は豪州軍に投降した。記録ではその数 42 人とある。大隊とは言いながら、損耗して小隊規模もない。この投降は、大隊長である竹永中佐が主導したものだった。NHK戦争証言プロジェクトではこのとき投降した兵士、同じ 239 連隊の兵士、それに上級部隊である十八軍の元参謀からこの事件に関する証言、豪州軍による尋問調書など各種資料を得ている。 ## 4.2 大騒ぎになった軍幹部 まず、同じ 239 連隊で別の大隊の兵士だった山川勝男さんが竹永大隊が姿を消したことに気づいた。 敵などは「早く降伏しろ、降优しろ」って年中宣伝ビラまいて来たんだから。隊長以下 40 名ぐらいだと思ったね、降伏してって。その後、また宣伝ビラで「友達は我々の方へ来て、うまいもの食べて、のどかに暮らしてる」とかなんとかって。「捕まるならば、自分から死ね」ってさ。「捕まって捕虜になる、 そんな惨めな、辱めを受けたらあかんべ」と。「そういう辱めを受けんならば、自分から自決しろ」と。 そういう教育受けて来たんだもの。 豪州軍は投降者を増やそうと竹永大隊が投降したことを記載したビラを大量に撒き、行方不明の大隊が投降したことを十八軍の将兵は知ったのだ。 竹永中佐は陸軍士官学校を出て少尉に任官して以来 20 年にもなる職業軍人であり、軍幹部は大騷ぎになつた(図3)。 図3 竹永正治中佐 当時、十八軍の司令部にいた陸軍大尉、星野一雄さんはそのときの様子をよく覚えていた。 敵がビラまいたらしいんだ。「士官学校出のこれこれ」なんて書いてあるからね、さあ、びっくりした。軍司令官以下、日本の本当の将校は。こんなことありうるかって。士官学校ができて以来、こんな不祥事はないって。これは大憤慨してましたね。(中略)食べ物はなければ、補給はなし。さあどうすんだったら、僕らだったらね。やっぱしね、捕虜になっちゃうかね、手を挙げてね。(中略)そのころはね、例の東条 (英機) さんが「捕虜になるくらいなら死んじまえ」っていう命令出したんだからな。だからね、普通ならダメなんだ。 星野さんは師団司令部付大尉だったが、陸士出身ではなく、大学を卒業して幹部候補生学校を経た将校で、陸士出身者や陸軍大学校出身者とは、別の価値観を持っていたことだろう。この証言にも職業軍人に対して客観視している様子がうかがえる。 ## 4.3 オーストラリアでアーカイブされていた竹永中佐 の言葉 竹永中佐に対する尋問調書がオーストラリアのアー カイブに残されていた(図4)。 図4 豪州軍の「第二大隊」尋問調書 この調書では竹永中佐が降伏した理由を以下のように述べたとしている。 Lt Col Takenaga gave the perfectly logical answer (yet so strange to hear from a Japanese) that they had no hope of winning, had no food, and that if they did not surrender they would soon be all dead. (竹永中佐は、日本人からこう聞くのは奇妙なこと なのだが、勝利の望みはなく、食べる物もなくもし降伏しなけれげ全員すぐにも死んでしまうと、理路整然と答えた。) 同時に、この尋問の中で、竹永中佐は安達二十三第十八軍司令官がアイタぺ作戦を強行したことを批判している。 He was a strict disciplinarian, proud and stubborn, but with no idea of tactics - his doctrine was bull-headed attack at all costs. His subordinate commanders did not want to attack there but he forced them into it and caused the destruction of over 10,000 men - greater part of 18 Army. (安達二十三司令官は非常に厳格で、誇り高く、頑固た、とはいえ戦略は何もない。彼の作戦方針はすべてを犠牲にしてがむしゃらに突撃することだけたっった。配下の司令官たちたちはみな攻撃(アイタぺ作戦)を望んでいなかったが、突撃を強行させ、第十八軍の大半に当たる 1 万人もの犠牲を出すことになったのだ) 無謀だと感じていた作戦が強行されたこと、いずれ飢え死にもしくは玉砕するしかないという時期が迫っていた、このことが竹永中佐にタブーを犯させたのだ。 とはいえ、竹永中佐の決断はきわめて例外的であり、特に職業軍人にとっては受け入れがたい行動であった。 ## 4.4 今も許せない「集団投降」 当時、竹永大隊の上級部隊である第十八軍の参謀少佐だった堀江正夫さんにプロジェクトのディレクター がこの事件について話を聞いている。堀江さんは陸軍士官学校出身でさらに陸軍大学校を卒業した、いわばエリート中のエリート。戦後は、陸上自衛隊の西部方面総監をつとめた(図 5)。 当時の軍人の気持ちから言ってですね、捕虜になることはもう絶対に耿ですから。自ら捕虜になることはですから。人事不省でなる。これはやっぱり不幸。本人にとっては運命。不幸な運命を負わされた。というふうに思ってますからわたしは。今も当時のことを考えるとね、そういう進んでね、そのしかるべき指揮官がですね、投降したということは本当に残念ですね。わたしは残念です。東部ニューギニアの 13 万人の亡くなった人たちを思うと本当に残念です。みんな生きたいですよ。苦しみから逃れたいですよ。しかし軍人として、そういう環境に置かれて、 そういう使命を帯びてやっとったならば、あるときは、心を鬼にして、やっぱり大義に生きなきゃいけないと僕は思いますね。 だから、情に厚い人だったんでしょ。情に負けたんだと思いますね。部下の苦しみに耐えかねた。自分自身の苦しみに耐えかねた、とは思いたくありませんけどね。 図5 参謀飾緒を付けた堀江正夫少佐(当時) 堀江さんとしては戦後 64 年が経ってもあってはならなかったこととしてこの事件を捉えている。そして、「軍人は大義に生きる」のがつとめであるという考え方を披瀝し、この事件が起きたことに対して悔しさをにじませた。 防衛庁が編纂した戦史叢書にこの事件について記述がある。「3月 23 日頃、239連隊の第二大隊の消息がわからなくなり、師団をあげて捜索したが、部隊の計画的戦場逃避が疑われるようになり、終戦後、捕虏の送還で投降したことがわかった」とあり、竹永中佐の名は伏せられているが、特に評価はなにも記されていない $[4]$ 。 一方、竹永中佐は、帰国後この事件については一切語ることはなかった。 ## 5. 捕虜への忌避感と戦死者 「NHK 戦争証言アーカイブス」の証言から、「捕虜」 をキーワードにアジア太平洋戦争における人々の意識を見つめてみる「オーラルヒストリー」の営みに取り組んでみた。 証言から、日本軍内部では捕虜になることを厳しく禁じていたことが明らかになった。「戦陣訓」のように成文化もされ、捕虏になることは恥であるという感覚が将兵の心に浸透していたことも分かった。個々の兵士だけでなく指揮官にとっても大勢が決しても、降伏をするという選択肢がなかった。それゆえに負ける ことが分かっていても、最後の一兵まで戦い抜くとい う「玉砕」が繰り返された。 また、捕虏をタブー視することから連合軍の捕虏の扱いも過酷になった。そのため、戦後 $\mathrm{BC}$ 級戦犯で処刑されたり処罰されたりした将兵や軍属の多くは捕虏に関わったものであった。 住民を巻き込んだ戦場となったサイパンやテニアン、沖縄では住民も捕虜になることをタブーとしたために多くの集団自死が発生していた。 日本人の戦死者がおびただしい数になった原因の一つがこの捕虏になることのタブー・忌避感にあることがこれら証言から読及取れる。 ## 6. オーラルヒストリーとデジタルアーカイブ 戦争体験者の言葉に耳を傾け続けてきて浮かび上がるのは、当時の日本は戦争を徹底的に純化させて、行き着くところまで行ってしまったということである。戦争を、思想から普段の暮らしの最前面に押し出していき、ほかのすべてをその後景に退かせた、そうした姿が浮かび上がってくる(図6、7)。 図6銀座の街頭で(1942年) 図7 勤労動員の日々(1944年) 戦争を目の当たりにした人が語る言葉に直接触れることができるのもあとわずかになった。あの戦争ではあまりに残酷で悲惨な出来事があふれるほど起き、直接体験した人にその記憶は強く刻まれ、戦争への忌避感と平和を希求する強い思いを抱かせてきた。そうした体験者の集合的記憶によって、戦争をしない、武力行使で誰かを殺さない、誰も殺されないという時間が 76 年にわたって日本では続いてきたのだろう。だからこそ、戦争体験は私たちの社会や意識への、戦争は絶対覀とするなにか規範の役割を果たしてきたと言える。では、戦争体験者がいなくなる時代にその集合的記憶を効果ある形で継承することはできるのか。その解の一つがデジタルアーカイブ化とそれを活かすオー ラルヒストリーの営みではないだううか。 ## 註・参考文献 [1] NHK戦争証言アーカイブス. https://www2.nhk.or.jp/archives/sensou/ (参照 2021-09-01). [2]戦陣訓の音声データおよびテキスト. https://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/sp/movie.cgi?das_ id=D0001400140_00000 (参照 2021-09-01). [3] 「作戦要務令第三部」.1940年制定 [4] 防衛庁防衛研修所戦史室.『南太平洋陸軍作戦 (5)』 ## 参考資料 「日本人捕虜」. (秦郁彦原書房、1998年)
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# オーラルヒストリーによる アートプロジェクトの可能性 The possibility of art projects using oral history 梅崎 UMEZAKI Osamu } 法政大学 キャリアデザイン学部 \begin{abstract} 抄録 : 本稿の目的は、2020 年に釜石市内で開催した社会的記憶をテーマとしたアートプロジェクトを紹介し、オーラルヒストリー を利用したアートプロジェクトの可能性について考察することである。多くのオーラルヒストリーは歴史研究や歴史資料の作成・保存という目的のために行われるが、オーラヒストリーの可能性はもっと大きいと考えられる。オーラルヒストリーによるアート プロジェクトとは、人々が歴史に触れる歴史実践であり、多様な歷史意識を形成するものであった。このような歴史実践が、歴史資料に対する見方を変えることで歴史研究や歴史資料のアーカイブを支えていくと考えられる。 Abstract: This paper assesses the possibility of art projects using oral history by introducing an art project on social memory held in Kamaishi City in 2020. An oral history art project was a historical practice that exposed people to history and formed diverse historical consciousness. Many oral histories are conducted for the purpose of historical research or the creation and preservation of historical materials; however, the potential is much greater. This kind of historical practice is thought to support historical research and archiving of historical materials by changing the way people look at historical materials. \end{abstract} キーワード:オーラルヒストリー、アートプロジェクト、歴史実践 Keywords: Oral history, Art project, Historical practice ## 1. はじめに 本稿の目的は、2020 年 2 月に釜石市内で開催したアートプロジェクトである「記憶の社会的チカラ一釜石に打けるアートと展示イベント」を振り返りつつ、 オーラルヒストリーによるアートプロジェクトの可能性について考察することである。 私が企画した釜石におけるアートと展示のイベントは、東京大学社会科学研究所の「危機対応学プロジェクト(2016-2019 年)」の特別イベントである。このプロジェクトは、2005-2008年に実施された希望の社会科学 (希望学) プロジェクトの釜石調查を引き継いでいる。このプロジェクトは、さまざまな調査チー ムに分かれているが、私は、希望学では釜石製鉄所オーラルヒストリー調查班に参加し、危機対応学においては岩手大学の竹村祥子教授 (現浦和大学) 、岩手県立大学の吉野英岐教授と一緒に釜石の記憶をテーマにオーラルヒストリー調査班を結成した。 この調査チームは、釜石地域の多層的な集合的記憶を語りのかたちで顕在化し、その意味を読み解くことを目的としており、梅崎修・竹村祥子・吉野英岐「第 12 章記憶の社会的チカラ一記憶と共に生きるための歷史実践」東大社研 - 中村尚史 $\cdot$ 玄田有史編『地域の危機・釜石の対応一多層化する構造』(東京大学出版会, 2020)をまとめた。 釜石でのアートプロジェクトが論文タイトルと同じ名称であることからわかるように、これらは「対」になっている。一つの地域で共通のテーマを設定し、実証研究とアートがそれぞれ別のやり方でその本質に迫ったのである。オーラルヒストリーは、歴史研究の手法であるが、アートプロジェクトや地域ワークショップの中で利用されることがある。たとえば梅崎 (2014)[1] では、英国におけるワークショップやアー トイベントでオーラルヒストリーが利用されている事例を紹介した (An Oral History of Speaker's Corner の事例など)。日本でも福岡市美術館では、オーストラリアで先住民アボリジニのオーラルヒストリーを行った保荻実の著作の中の Doing History というコンセプトを使って(保荻, 2004=2018) [2]、アート企画展「歴史する! Doing History!」を開催している。 この釜石アートプロジェクトの全体像については、梅崎・岩井 (2020)[3] で説明している。プロジェクトは、2020年 2 月9-16日の 8 日間で開催した註1]。企画された展示とアート作品は、全て記憶をテーマにしている6つであり、釜石市の3力所で開催された。本 稿では、その中でも筆者が作品づくりから係わった 「震災の記憶、記憶の未来一語りの底力」と「記憶のブリコラージュ (Bricolage)一危機対応学・地域社会班調查報告」の二つを取り上げて狭義のオーラルヒストリーを越えた、もう一つのオーラルヒストリーの可能性を提示したい。 ## 2. 記憶のアート作品紹介 ## 2.1 「震災の記憶、記憶の未来一語りの底力」 「震災の記憶、記憶の未来一語りの底力」は、私が論文執筆のために行ったインタビューを日本大学芸術学部の鳥山正晴氏と増田治宏氏が撮影・編集した映像作品である。その上映会を釜石市民ホール TETTO ギャラリーで行った。イベントの初日9日と最終日前日の 15 日に 20 分バージョンの上映会を行い、その他の時間は、10分バージョンをリピート上映した(図1)。語り手の活動内容はそれぞれ違うが、悩みながら記憶の共有・継承活動に取り組んでいる。津波の直接的な被害を受けた人、親族を亡くされた人もいる一方で自宅が海岸から離れていたので、直接的な被害を受けていない人や震災後にこの土地に来た人もいる。 撮影された 11名のインタビューは、論文作成のためにその発言の一部分が引用され、その語りの意味が解釈されている。ただし、これは、語りそのものではなく、起こされた文章(書かれた言葉)である。 一方、映像作品には、歴史や制度にかんする説明は少ないが、語り方、本人の表情などを知ることができる。さらにこの映像作品では、一人語り終わった後に、 図1 上映会 (筆者撮影)次の一人が語るという順番ではなく、語り手が次々に入れ替わる。その意味では、情報提供だけならばわかりにくいとも言えるが、作品としては語り手の現前性を強く意識する作品になっており、見た人の想像力を強く刺激する作品になっている。 ここでの想像力とは、まず語り手の経験に対する想像である。その一方で語り手自身が、他者又は死者の経験を語れないという戸惑いを抱えながら、他人の経験に耳を傾け、語り継ぐことを続けていた。そのような語りの不完全性に直面しながら、聴き、語ることに向かう人々の語りに触れることが、この作品を見る人にここにいない人々へと想像を向かわせているといえよう。 ## 2.2 「記憶のブリコラージュ(Bricolage)」 「記憶のブリコラージュ (Bricolage)」は、調査で集めた資料、写真、インタビュー記録などを一力所に集め、住民の方々と記憶を共有しながら一緒に展示を作り上げていくワークショップ型の作品である。作品のタイトルにあるブリコラージュは、フランス語で「繕う」「ごまかす」を意味するフランス語の動詞 bricoler に由来する。「寄せ集めて自分で作る」ことを意味し、「器用仕事」とも訳される。 まず、会場の入口に記憶に関わる研究書や釜石の歴史に関する書籍が並べた「想起の本棚」をつくった。 そして、中央のテーブル席には、想起を促すモノやオーラルヒストリーの語りの抜き書きをおいてお茶を飲みながら雑談ができる「聞き書きの井戸端」をつくった(図 2)。 さらに、市役所に保存されていた過去の街中写真を 「迷子の写真」と名付けて張り付けた(図3)。いつ、 どこかわからないという写真を前に思い出を話してもらい、セリフ・コメント・カードをボードに張り付けた。 図2 聞き書きの井戸端資料 (筆者撮影) 図3 迷子の写真(筆者撮影) 図4 完成した作品資料 (筆者撮影) 展示中、ロコミで来てくれた人たち、毎日来て長居してくれる人たちがいた。写真を持ってきてくれたり、 この場所を見ておくべきだだと勧めてくれたりする人もいた。また、市内を車で案内してくれた人もいた。過去と現在の写真もそのまま展示ボードに張り付けていった。 最終日 3 日前に、我々は、ボードに写真、コメントカード、オーラルヒストリーの語りなどを「寄せ集める」「織りなす」という感覚でグループにまとめつつ、貼りな打していった。ただし、平面のグループ分けには限界がある。関連するキーワードを紐でつなぎ、その紐にさらに共通する「身体の記憶」「誇り(pride) ローカルアイデンティティ」「仮初 (カリソメ) の記憶」 などのキーワードを括り付けた(図 4、5)。 この作品に集まってきた記憶の断片の集合は、もちろん釜石の集合的記憶の全体ではないし、展示期間が終了とともに解体されるものである。我々はアーカイブに対してすべてを集めて保存したいという(隠された)欲望を持っているが、この作品は正反対である。一方、このようなワークショップ型の作品だからこそ、記憶は生き生きとしたものとして我々の目の前に現れたともいえる。私がこの作品の中に現れたと思うものは、バラバラな個人の記憶でもなく、又は唯一共 図5 完成した作品の一部資料 (筆者撮影) 有されるべき集合的記憶でもない。分有されているかもしれない釜石のネットワーク的記憶、その生成過程の一瞬のイメージなのである。 ## 3. 記憶の語りの場をつくる オーラルヒストリーは、他者の記憶を聴き、記録に残すことであるが、資料のための記憶の採取が目的となると、「聴くこと」自体が薄っぺらになる。この批判は、アートイベントを体験した後の私による自分が行なってきたオーラルヒストリーに対する自己反省でもある。研究のためであっても、アーカイブ構築のためであっても他人の頭の中の記憶を「歴史資料」として見てしまっている。結果として資料になることがあっても、まずは相手の語りに耳を傾け、一緒に「記憶」を作っていく作業が必要なのではないか。語りの場を作るにあたって気が付いたことをあげる。 ## 3.1 「聞く」よりも「居る」が大事 私がふだん行っている歴史研究のためのオーラルヒストリーは、調査前に知りたいことがおおよそ決まっている。研究のテーマに合わせて仮説までは固まっていないが、半構造化された質問項目を用意し、焦点を絞りながら質問していく。当然、聴き手は語り手の記憶を採取するという気持ちになる。 一方、「記憶のブリコラージュ (Bricolage)」で行った聴き取りは、こちらから相手を訪ねていくのではなく、たた約 1 週間座っていただけである。お茶を飲むだけ、写真を見るだけ、ふと足を止めただけの人々を待っていることには、それまでの研究目的はカッコに入れられ、聴く行為そのものが目的になり、聴く過程そのものを楽しむようになる。 ## 3.2 長く付き合う人と、観光客と アートプロジェクトには、長く釜石で調査を続けて きた研究者と、短期ながら釜石を事前訪問しながら作品を制作したアーティストが参加している。釜石の住民たちがその作品を見るために参加してくれただけでなく、さらに、今回のアートプロジェクトを見るために初めて釜石にやってきた人たちもいた。アートプロジェクトは、地元の中に閉じたイベントではなく、地元発信でありながら外部からの観光客も受けれるものとなっている。 もち万ん、はじめて釜石を訪れた人は、釜石の歴史について深い知識はない。しかし私は、歴史学者だが「歷史」を独占すべきではないと考える。アート作品を見て歴史を感じることも歴史学なのだと考える。我々は、釜石記憶の地図を作成し、6 作品・展示だけでなく、釜石の記憶を感じることができる場所を図示した。郷土資料館、図書館、津波の慰霊碑・石碑などは、地元住民にも知られていない場所もあるかもしれない。また、釜石の外から来た人のための釜石まちあるきイベントも地元の方の協力を得て企画できた。つまり、外からの目線が、地域内の記憶と記録の再発見につながったのである。 ## 4. 歴史実践によってつくられる歴史感覚 本稿では、釜石におけるオーラルヒストリーによるアートプロジェクトを紹介した。ここでのオーラルヒストリーは、記録の保存としては、イベント期間を過ぎれば、論文や映像作品は残るが、ワークショップ形式の作品は物理的に消えてしまう。しかし私は、たた記録され、保存されるだけがオーラルヒストリーの価値ではないと考える。そこにあるのは、歴史研究とは異なる歴史実践の価値である。 保荻 $(2004=2018 ) は 、$ 歴史実践を「日常的実践において歴史とのかかわりをもつ諸行為」と定義し、歴史研究や学校の歴史教育よりもはるかに多様な、人々が歴史に触れる広範囲な諸行為と考えた。歴史実践は、 われわれに歴史感覚を取り戻してくれる。 歴史感覚とは、過去の人々の経験に向けて関心であり、さまざまな形で現れる過去への想像力であろう。 それは、実証歴史学のような史実そのものを突き止めるだけの研究とも違う。しかし、これらは対立ではない。歴史資料は見る側、読む側、聴く側の行為によって価値を付与されるのならば、さまざまな歴史感覚が歴史学や歴史資料のアーカイブを生きたものに変えるのだと、私は考えている。 ## 註・参考文献 [註1] 運営費は、危機対応学の予算の他に、梅崎の研究費 (公益社団法人教育文化協会による調査研究事業費の助成金)、居間theaterのイベントに対しては、東京藝大「ILOVE YOU」プロジェクト2020の助成も受けている。 [1]梅崎修. 英国に扔けるオーラルヒストリー(1) フリーランスのオーラルヒストリアンたちとの出会い. 生涯学習とキャリアデザイン. 2014, 12(1), 123-130. [2]保苻実、『ラディカル・オーラル・ヒストリー:オーストラリア先住民アボリジニの歷史実践』岩波書店 2018. [3] 梅崎修, 岩井桃子. <研究ノート>記憶の社会的チカラ:釜石におけるアートと展示イベントの報告. 生涯学習とキャリアデザイン.2020, 18(1), 197-214.
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# 3.11アーカイブにおける福島の人々 の声の記録「Voice of Fukushima」 の意義と今後の可能性に関する考察 ## A Study on the Significance and Future Possibilities of "Voice of Fukushima," a Record of People's Voices in the 3.11 Archive \author{ 久保田彩乃 \\ KUBOTA Ayano } 東北大学情報科学研究科人間社会情報科学專攻 抄録 : 本稿では福島に打ける 3.11 アーカイブの現状とその課題を整理する。そして、それに対して“福島をキーワードに持つ人々” の声を収録したラジオ番組「Voice of Fukushima」の活動事例を取り上げ、この取り組みが3.11アーカイブの中で現在どのような立ち位置にあるか、さらにその意義と今後の可能性について考察する。 Abstract: This paper summarizes the current status of the 3.11 archive in Fukushima and its issues. In response to this, a case study of the radio program "Voice of Fukushima," which records the voices of "people with Fukushima as a keyword," is discussed, and its current position in the 3.11 archive, as well as its significance and future possibilities, are discussed. The significance and future possibilities of this program will be discussed. キーワード:3.11、福島、アーカイブ、記憶の継承、オーラルヒストリー Keywords: Great East Japan Earthquake and Nuclear Power Plant Accident, Archives, oral history, Fukushima, Inheritance of Memory ## 1. はじめに 東日本大震災、東京電力福島第一 - 第二原子力発電所の事故(以下、総称して「3.11」とする)発生から丸 10 年となった 2021 年。 3.11 により特に甚大な被害を受けた福島県沿岸部 12 市町村に出された避難指示はほとんどの自治体で解除され、人々は避難元地域への帰還を許されているが、その地域の「常態への復帰」[1]がかなっているとは言い難く、これらの地域の人々は 3.11 からの地平を歩み続けている。そこでは、現在進行形で帰還政策に則した生活環境整備が行われ、第一・第二原子力発電所の廃炉作業、それらに関連した “事故処理”作業も続けられている。さらにはこの地域を今後さらに発展させていくための産業誘致などの “復興施策”が展開されている。ここから明らかなのは、かつて 3.11 により避難を経験した地域は、 この 10 年の間に地域住民だけではなく、さまざまな立場から語られ、その視点で切り取り発信される場所となったということである。語る人の立場が変わればその視点も、発信されるメッセージも変わる。そしてこのことは、福島における3.11アーカイブにも如実に表れている。本来、震災アーカイブは「災害体験の継承や将来の防災教育に生かすことを主たる目的として行われる」[2]ものである。3.11 による他の被災自治体である岩手・宮城などでは、東日本大震災による地震や津波被害の経験の語り継ぎやアーカイブ施設における震災遺構の展示がその被害を受けた当事者らの手によって積極的に記録され、後世に語り継ごうと活動が展開されている。他方で、この 10 年の間に福島で構築されてきた 3.11 に関するアーカイブは、「災害体験の継承や防災教育に生かす」ことだけを目的としたものではない、それぞれの立場からの視点で作られたアーカイブとその情報発信が見られてきた。そしてそれは、福島が 3.11 によって受けた被害やその後の影響、 そうなるに至った歴史的背景を含めた地域構造までも反映している。 本稿ではこの地域構造についてまで語ることは避けるが、福島における3.11アーカイブの現状からその課題を明らかにする。そしてそれに対し、現在筆者が代表を務める NPO 団体によって継続されている“福島をキーワードに持つ人々”の声を収録したラジオ番組「Voice of Fukushima」を取り上げ、この取り組みが 3.11 アーカイブの中で現在どのような立ち位置にある か、さらにその意義と今後の可能性について考察するものである。 ## 2. 課題とその背景 ## 2.1 3.11アーカイブの現状とその主体 3.11 発生後から今日に至るまで、福島県内ではさまざまなアーカイブ活動が展開され、その展示施設などが設置されてきた。それは特に浜通り[3] と呼ばれる太平洋側沿いのエリアに集中しており、福島における 3.11 アーカイブの大きな特徴の1つと言えるだろう。 その要因としては、原発事故により避難指示対象となった 12 市町村がこの浜通りに属する自治体であり、地震・津波によっても大きな被害を受けた地域であることが挙げられる。以下に挙げるのは、この 10 年間で作られた 3.11 アーカイブとそれを活用した web サイトや展示・情報発信施設の主なものである。なお、並びは活動開始時期・施設設置年の順とし、目的概要は各 WEB サイトに揭載されている概要説明ページから抜粋したものである。 目的概要:「当社は、発電所周辺地域をはじめとした福島県の皆さま、そして多くの皆さまが、福島原子力事故の事実と廃炉事業の現状等をご確認いただける場として、『東京電力廃炉資料館』を開館いたしました。」[6]  & \\ (1)は県内研究機関が主体となり、他に先駆けて行われたアーカイブ活動である。現在活動は終了しているもののウェブサイトは残されており、いわゆる“震災アーカイブ”として、研究者視点で保存された浜通りの被災記録を閲覧することが可能となっている。(2)国が主体となっており、3.11 発生当時の状況が時系列にわかるアーカイブの展示なども見られるが、それ以上に放射線に関する知識の啓発・教育に力を入れた施設となっていることが特徴的である。福島の原発事故後の除染作業等を含む事故処理事業については環境省がリーダーシップを図り進めているところが大きく、 3.11 の記憶継承を含め、放射線に関する知識啓発・教育活動も契緊の課題であると捉え、この施設が作られたと考えられる。(3)の特徴は、原発事故の加害者が施設設置の主体であるという点である。この施設は福島第二原発立地町である双葉郡富岡町に設置されており、震災前は交流館として町民らに利用されていた場所でもあった。その場所を利用して加害会社自らが 「反省や教訓」、そして現場の事故処理進持状況等を発信しているという現状は、福島県双葉郡が東京電力と共に原発政策の歴史を歩んできたことを如実に表していると言える。(4)の特徴は、実施主体が福島県でありながら、アーカイブ記録・情報発信の内容が浜通りにおける地震・津波・原発事故の記録に特化していることである。上述した「3つの基本理念」と、施設設置場所が福島第一原発立地町である双葉郡双葉町であることからも、「3.11における福島の記憶=浜通りの甚大な被害の記憶」として記録・発信することに重きを置いていることがわかる。(5については執筆段階でまだ開館前であるため内容詳述は避けるが、(3)の加害者主体の施設に対し、(4)同様に被害者自治体による施設と分類することができる。そして(6)ついては、すべてを把握することは困難であるため詳述は避けるが、筆者がこれまで関わりを持ってきた双葉郡富岡町では 3.11 避難の経験やその後の体験を語り継ぐ語り部活動や被災地ガイド活動などを行う団体がある ${ }^{[9]}$ ほか、強制避難対象となった自治体の住民らによる経験談の継承活動は避難先各地で行われている。以上の一覧からだけでも、福島における3.11アーカイブは、他のいわゆる“震災アーカイブ”とは違い、3.11をめぐるそれぞれの立場から切り取られた記録とそれを活用し たメッセージの発信が行われている状況が見て取れる。 ## 2.2 現在の福島 3.11アーカイブにおける課題 上記一覧から見える福島における 3.11 アーカイブの課題は以下の 3 つである。 1 つ目は、「個人的記憶」 と「集合的記憶」 ${ }^{[10]}$ のバランスの悪さである。吉原 (2021)は記憶を「過去のできごとの『思い出』」ではなく、「複数の『思い出』がある文脈のもとで組織化されたもの」であるとし、その記憶主体について「『私』 の連続性に根ざすもの」を「個人的記憶」、『集団』 の連続性に根ざすもの」を「集合的記憶」としている。自治体などの行政が作るアーカイブはこの「集合的記憶」であり、語り部活動などによって語られる個人の証言は「個人的記憶」となる。現在の福島においける 3.11 アーカイブは、この「集団的記憶」が圧倒的に多く、「個人記憶」が表出される場が非常に少ない印象を受ける。一方で「集団的記憶」である行政などの組織が作り上げたアーカイブとその施設は、個人よりも発信力が強く、多くの人々に比較的リーチしやすい。 そしてそれが吉原の言う「記憶の場」としてメッセー ジを発することで、やがてその「集合的記憶」が地域の記憶として継承されていくのである。行政主体で作られたアーカイブが地域全体の記憶として継承されていくことは重要なことであるのだが、それに対し「個人的記憶」の表出の場が少ないことで起きるのが、被災・避難者の現状とのギャップである。特に原発事故による避難状況やその後の生活、原発事故問題に対する捉え方は人それぞれであるため、地域全体の記憶として発信されるアーカイブによるメッセージに対して 「これは私の経験ではない」と捉えられ、地域全体の記憶と「個人的記憶」の間に溝が生まれてしまうのである。 2つ目は、福島の 3.11 アーカイブにおける「集団的記憶」が「『支配的物語(マスターナラティブ)』を編み出している権力や資本のありよう」 ${ }^{[11]}$ を表出していることである。これは 1 つ目の課題とも絡み合っているものだが、行政などが作るアーカイブの「集合的記憶」は「ローカル権力の意思」が強く反映され、結果的に「個人的記憶」よりも「集合的記憶」に「オー センシティ (真正性)を与える立場」[12] となっている。 とかく個人の意見として語りにくい原発問題を含んだ 3.11 における福島の記憶は、マスターナラティブが主流となり、個人的語りは記録されにくい現状にある。強制避難対象とされた地域の人々は特に、長年その問題を抱えた地域構造の中で暮らしてきたが故に語りにくくなってしまっている。したがって福島における 3.11 アーカイブ全体を通して個人的語りが不足し、記録され発信される記憶の多くが福島を取り巻く政治的、権力的、支配的なものをメインストリームにしてしまっていると考えられる。 3つ目は、被害の記憶における「特権性」「13] の課題である。上述の通り、福島における3.11アーカイブは、 そのほとんどが浜通りの記録となっている。中通りや会津地方でも地震の被害や原発事故による放射能被害の影響は受けているにも関わらず、その記録が地域外に発信される機会はほとんどない(地域内での共有の機会はあるが)。このことは、3.11アーカイブにおいて浜通りが受けた圧倒的被害の記憶が「特権性」を強めてしまっていることを表していると言えるのではないだろうか。八木は、広島・長崎の原爆による被爆体験の語り継ぎにおいて「他者に言葉で『あの時の光景』 を伝えることの限界に関しては、長い時間をかけて語ったとしてもどうにも克服することが困難」であるとし、被爆体験者と非体験者の間にある「体験した者でないとわからない」という溝を埋めることの難しさを示している。八木のこの事例は、時間の経過による体験者と非体験者の溝について述べたものだが、3.11 発生から現在までの時間を等しく過ごしてきた人々の間にも、この問題は起こっている。 3.11 において浜通りに起こった出来事、それを体験した人々の記憶は誰の目から見ても記録に残すべきものと捉えられる。それがあまりにも強烈で、メッセージ性が強いが故に、被災状況が軽微だった(とされる)地域や個人は、圧倒的な被災経験の記録を前にして「私には残すべきことがない」と感じてしまったり、当時福島にいなかった人は「語るべきではない」と考えてしまう状況が起きている。浜通りの人々に起きた圧倒的な被害を前に、 それを経験していない人々が自分自身でその経験を語りにくくし、結果として浜通りでの記憶が「特権性」 を持ってしまうという構図になっているのではないか。 ## 3. “福島” をキーワードに持つ人々の声の記録 現在、筆者が代表を務める一般社団法人ヴオイスオブ・フクシマ[14] では、 3.11 後の福島で生きる人々、福島に関係する人々に対しインタビューを行い、ラジ才番組「Voice of Fukushima」(以下、「VOF」と略す) を制作し、全国 8 局のコミュニティラジオ局に配信している。2012 年からスタートし、そのアーカイブは 2021 年 7 月 1 日現在、放送回数は 400 回を越えている。制作活動を行っているのは、筆者を含めたラジオ番組制作者 2 名である。 2 名とも福島県の中通り在住であり、3.11 後は県内のコミュニティラジオ局や臨時災害 放送局で番組制作やパーソナリティーを行ってきた者である。この活動を始めた目的は、3.11 以降の「福島に生きる人々の多様な声を世界に発信していくこと」。 この目的は現在まで変えられていない。VOFの特徴は大きく2つある。1つは、インタビュー対象者を幅広く設定していることである。全県を網羅し、福島出身・在住に関わらず、また 3.11 後の支援者等、福島関係者も含んでいるため、3.11 経験の有無にもよらない。2つ目は、個人の “声”つまり語りによる記録としている点である。ラジオ番組として県外に発信するため、収録はインタビュー形式で行われ、番組は最低限のナレーションとインタビューイーの語りのみの構成となっている。 ここで改めて上述した福島における 3.11 アーカイブの課題と照らしながら、この 10 年を福島の人々の声で記録してきたことの意義を考えると、2つが挙げられる。1つは、メディアで取り上げられにくく記録に残されにくい“普通の人”の声を記録していることにあるのだ万う。2013 年頃に会津若松市でインタビューをした当時 80 才くらいの女性は「自分のとこ万は地震も何も被害がなかった。でもうちのすぐ下に 図1インタビュー収録風景 は仮設住宅が建てられて、原発事故で避難してきた人たちが暮らしている。その姿を見て、自分ばかりなんにも起こらなくて申し訳ない」と涙を浮かべながら話したことが印象に残っている。メディアによる震災報道では「自分のところは何も被害がなかった」という人が取材対象になることはなかなかない状況の中で、 この語りはその当時の福島県内の被災状況の地域差や、被災者を受け入れる側となった地域の状況、そしてそれを体験した人の複雑な心情が記録された貴重なものとなった。これはインタビューイーを被災・避難経験有無等に関わらず選定するとしたスタンスによって「特権性」が排除されたことによるものと捉えることができるだ万う。2つ目は、個人の声を 10 年記録し続けてきたことにより 3.11 後の福島における状況や人々の思想の経年変化も感じ取れるようになってきたことである。これまで、浜通り、中通り、会津それぞれの人々の声を網羅的に記録してきたことによって、3.11や復興に対する思想の違いが感じられてきた。 また、 3.11 後、 3 地方はそれぞれに特有の地域課題を抱えてきており、個人のインタビューにもそれが感じられることは多々あった。しかし 10 年という大きな期間で捉えた時、 3.11 やその後の地域課題に対する人々の向き合い方の移り変わりも読み取れるようになってきている。例えば、浜通りの避難経験者の語りからは 10 年が経過しても「常態への復帰」がかなっていない現状が聞き取れる一方で、中通りでは数年前まで子育て世代から多く聞かれていた放射能污染に対する不安の声が少なくなっていたりする。これと同様に、「福島は復興したと思うか」といった質問に対し、誰一人同じ回答をしたことはなく、同じ人に質問してもインタビューするごとに変化している。この変化が感じ取れるようになってきたのは、やはり 10 年という期間、継続して個人の声を記録し続けてきたことが大きい。 福島の思い様各、150回分の訴元 図3 放送150回が取り上げられた朝日新聞県内版、2016年 6 月 1 日 $^{[\text {註1] }}$ ## 4. おわりに 3.11 アーカイブにおける VOF の今後の可能性を述ベる上で言及しておくべきは、上述した福島の 3.11 アーカイブとこの取り組みを二項対立的に語ることは避けるべきだということである。確かに現在の福島の 3.11 アーカイブは「集合的記憶」によるものが主流となっているが、VOFはその補完的あるいは対立的位置にあるものではない。 3.11 発生から 10 年が経過した現時点において、復興の形すら定まっていない、あるいは「常態の復帰」が人によってかなっていない中にあっては、アーカイブも多種多様であるべきであり、 3.11 を過去のものにせず、現状も記録していく必要があるのではと考えるものである。「集合的記憶」のアー カイブをつくる側が、きれいに筋道立てたストーリー にまとめあげようとすればするほど、「個人的記憶」 との間に溝が生まれてしまう。「個人的記憶」による語りは、そのストーリーを補完する必要はないし、そうあるべきではない。どちらもそれぞれに存在し、その両方を照らし合わせてみた時に生まれる矛盾や不整合性も含めて、 3.11 後の福島を作り上げている要素なのである。例えて言うならば、「集合的記憶」による 3.11 アーカイブは福島全体を覆う空気であり、VOF は地層のようなものなのかもしれない。“あの日、あの時” に起きた出来事を大局的に捉え継承していこうとする試みと、個人の語り 1 つ 1 つが蓄積され、次第に集まって固まり、やがて語りが重層的な集合体となってきた現在のVOF、そのどちらにも価値がある。最後に事業主体者として考えるVOFの課題は、現時点まで蓄積されている 400 以上のアーカイブ音源の活用方法が見出せていないということ、またその他に あることも課題であると考えている。今後、これをより広く一般的に見聞きできる環境をつくること、そしてこれまで語られたことやこの事業の意義をより深く分析していくことが必要であると考える。 ## 註・参考文献 [註1]朝日新聞社に無断でこの記事を転載することを禁じる。 [1] 吕原直樹. 震災復興の地域社会学:大熊町の 10 年. 白水社, 2021, p. 191. [2] 川副早央理. 震災アーカイブの社会的意義に関する考察-東日本大震災アーカイブ写真展の事例から一. 災害・復興と資料. 2016, (7), p.21-29. [3]福島県は、阿武隈高地と奥羽山脈によって3つのエリアに分けられており、東から浜通り、中通り、会津地方と呼ばれている。福島県県のすがた。 https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/ken-no-sugata/ (参照 2021-07-05). [4] はまどおりのきおくー未来へ伝える震焱アーカイブー. http://hamadoori-kioku.revive-iwaki.net/aboutsite/ (参照日 2021-07-05). [5] コミュタン福島福島県環境創造センター交流棟. https://com-fukushima.jp/about_us/comutan.html (参照 2021-07-05). [6] 東京電力廃炉資料館. https://www.tepco.co.jp/fukushima_hq/decommissioning_ac/ (参照 2021-07-05). [7] 東日本大震災 ・原子力災害伝承館. https://www.fipo.or.jp/lore/about (参照 2021-07-05). [8] とみおかアーカイブ・ミュージアム Facebook. https://www.facebook.com/TheHistoricalArchiveMuseumOfTomioka (参照 2021-07-05). [9] 富岡町3.11を語る会. http://tomioka311.com/ (参照 2021-07-05). [10] 吉原直樹. 震災復興の地域社会学 : 大熊町の 10 年. 白水社, 2021, p. 198. [11] 吕原直樹. 震災復興の地域社会学:大熊町の 10 年. 白水社, 2021, p. 200. [12] 吕原直樹. 震災復興の地域社会学:大熊町の 10 年. 白水社, 2021, p. 202. [13] 八木良広. 体験者と非体験者の間の境界線一原爆被害者研究を事例に一. 哲学. 2007, 117, p.37-63. [14] 一般社団法人ヴォイス・オブ・フクシマ. http://www.voice-of-fukushima.com/index.html (参照 2021-07-05). [15] 金山智子. 災後・災間におけるコミュニティ放送による記憶の継承. 社会情報学. 2019, (9), p.19-35. [16] 浜日出夫, 有末賢, 竹村英樹編著. 被爆者調査を読むヒロシマ・ナガサキの継承. 慶応義塾大学出版会, 2013. [17] 八木良広. 現在を生きる原爆被害者被爆体験を語るという実践を手がかりに. 日本オーラルヒストリー研究. 2006, (創刊号), p.98-117. [18] 好井裕明, 筑波大学社会学研究室.「ヒロシマ」映画を読む.社会学ジャーナル. 2004, (29), p.97-117. も、この事業の主体者として見えていない課題が多く
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# \author{佐藤 翔輔 \\ SATO Shosuke \\ 東北大学 災害科学国際研究所 } 抄録 : 災害研究・災害科学の領域では、「災害を語る」ことの意味や効果について、真に検証されていなかった。本稿では、これ まで筆者が「災害対応経験を語ること」の意味や効果について実証的に検証してきた内容を紹介する。1つめは、宮城県庁職員に おける東日本大震災発生以前の災害対応経験の継承事例をもとに、語り合いの効果を定性的に検証した事例を示す。2つめは、震災語り部の語りを受けた聞き手におよぼす生理反応・心理反応・記憶量の変化を実証した実験研究の事例を示す。最後に、これら のエビデンスにもとづいて実践されている東日本大震災発生後の宮城県庁職員における継承の実装事例を紹介する。 Abstract: This paper introduces an example in which the author has empirically verified the significance and effectiveness of "Disaster Storytelling". First, the significance was qualitatively verified based on the case of inheriting the disaster response experience of Miyagi Prefectural Government staffs before the 2011 Great East Japan Earthquake disaster. Second, experimental study have demonstrated changes in physiological, psychological, and memory levels that affect listeners who are told by the disaster storyteller. Finally, a social implementation of inheritance by Miyagi Prefectural Government office after the Great East Japan Earthquake, which is practiced based on these evidences, is shown. キーワード : 災害の語り(災害の語り継ぎ)、科学的エビデンス、災害伝承、災害対応、経験の継承、長期的記憶 Keywords: Disaster Storytelling, Scientific Evidence, Disaster Tradition, Disaster Response, Experience Inheritance, Long-term memory # # 1. はじめに 一人の人が災害を何度も経験することは決して多く ない。時間の経過とともに、災害対応を経験した個人・地域が世代交代することや、組織の人員が更新さ れることを念頭におけば、効果的な災害対応を行うた めには、過去の災害における経験を家庭・地域や組織 の中で継承し、活かすことが重要である[1]。 2011 年東日本大震災の被災地では、語り部(震災語 り部)や被災地ガイドと呼ばれるヒトによる口承が盛 んに行われている ${ }^{[2]}$ 。東北ブロック紙と全国紙を併せ た 5 紙を調査した結果にもとづけば、紙面に掲載され た東日本大震災の震災語り部と被災地ガイドは、2019 年 3 月時点で男性が 183 名、女性が 210 名と、述べ 393 名存在していたことが分かっている ${ }^{[3]}$ 。この人数 はあくまで紙面に掲載された人物の人数であり、活動 している語り部やガイドの人数はこれを上回る。組織 が災害対応の経験を継承する手段として、問わず語り のインタビュー調査によって、災害対応従事者のあり ままの経験・認識を形式知化する方法が開発されてい る ${ }^{[4]}$ 。2004 年新潟県中越地震で被災した新潟県小千谷市では、この手法に基づいた記録誌 ${ }^{[5]}$ が作成された。 このように、「語ること」、それを記録として残すこ とは、これまで盛んに行われている。挄らら、災害 の経験を継承するという観点からは、このような活動 は多くの人とって肯定的に捉えられるだうう。一方で、 その意味や効果につて、災害研究・災害科学の領域で は真に検証されていなかった。言い換えれば、科学的 なエビデンスが示されてこなかった。本稿では、これ まで筆者が「災害対応経験を語ること」の意味や効果 について実証的に検証してきた内容を紹介したい。 ## 2. 定性的な検証:語ることによって災害対応 が効果的に行えるのか 表 1 に、2019年 4 月における宮城県庁職員数を示す[6]。 宮城県庁の職員数は、同時点で 4,678 人であり、そのうち 2011 年 4 月以降に採用された職員は 1,455 人と、東日本大震災が発生した 2011 年 3 月 11 日時点に勤めていなかった職員が3 割以上を占めている。東日本大震災が発生してからの 10 年以上の経過のなかで、体 表12019年4月における宮城県庁職員数 & 1,455 人 \\ 図1災害対応の経験を組織内で効果的に継承する方法の体系 [7][8] 験した職員そのものが減少しており、そのままにしておけば災害対応の過程そのものや、そこで学んだこと庁内に残らなくなってしまう。 筆者は、宮城県より 2016 年度~2017 年度に「東日本大震災記憶伝承・検証調査事業」を受託し、兵庫県、新潟県、南海トラフ地震想定範囲の自治体、宮城県職員、宮城県内の基礎自治体などへの聞き取り調査やアンケート調査、さらには災害対応の記憶継承に関する先行研究の整理を通して、宮城県庁内で東日本大震災の記憶を効果的に伝承する方法について検討を行い、 それをとりまとめた[7]。災害対応の経験を組織内で効果的に継承する方法の体系として提案したものを図 1 に示す $[7][8]$ 。 本稿では、図 1 中の「手記・物語」と「経験の語り合い」について詳しく述べる (それ以外の部分につ 成果物のかたちとしての手記・物語は、「翔べフェニックス」[9] にヒントを得ている。「翔ベフェニックス」は、1995 年阪神・共通の復旧・復興に取り組んだ兵庫県職員が直面した課題や、どう解決していったのか、復興の対応に当たった県職員の自らの経験をふりかえった物語形式の記録である。聞き取り調査からは、東日本大震災の発生を受けて、「その晚」にこれを読み、災害の時系列過程をイメージしたという証言が得られた ${ }^{[8]}$ 。戦略決定層においては、高次レベルの対応の過程を物語形式(ストーリー)でインプットすることが有効であり、このような位置づけ・形式の媒体が災害対応に有効であると言える。同様の観点から事例・実例のエピソード本人映像も効果的と思われ る。災害対応の時系列的な過程を記述した読み物としての災害エスノグラフィー[4] もこれに該当する。なお、人間による現象の理解においては、物語形式が有効であることは既に明らかにされている[10][11]。 聞き取り調査の中では、一部の部局(財政課)の中では、1978 年宮城県沖地震が発生してから東日本大震災が発生するまでの間に「インフォーマルな語り合い」が行われたいたことが明らかになった(図 2 ${ }^{[8]}$ 。 そこでは、1978 年宮城県沖地震での対応業務の経験を受けて、初動体制を整えることが、最も重要であることから、当時から「どうやったか」「どうするか」 などを常々話し合っていたという。宮城県沖地震を財政課で経験した職員 (112)、図左)が、その後異動があったものの、再び財政課に配置になったときに、宮城県沖地震を経験していない職員 (3)(4)、図中央)に当時の体験を頻繁に語っていたという。 東日本大震災においては、それらの職員が上層部となっていたために、迅速に連携を図ることができたという証言が得られている $[8]$ 。なお、経験の継続的な語り合いという学習活動が問題解決の場面において重要であることは、認知心理学における人材育成に関する研究で既に指摘されている ${ }^{[12]}$ 。 ## 3. 定量的な検証:語ることは「残る」のか 体験者による語りは、体験者の命の限り、もしくはそれよりも早い時期に終焉せざるを得ない。1933年昭和三陸地震津波と東日本大震焱を経験し、紙芝居「つなみ」の作者で、語り部活動されていた岩手県宮古市田老出身の田畑ヨシ氏は、2018 年 2 月に 93 歳で亡くなっている $[13]$ 。災害伝承とは異なるが、戦争・空襲体験の語り部活動の中には、自身の体調を踏まえて自主的に引退する事例 $[14]$ も見られる。 災害体験の語りが有効であることを踏まえれば、当事者の語りを何らかの媒体に複製し、それを再生でき るようにしておくという、バックアップを確保することが方策として考えられる ${ }^{[15]}$ 。記憶を複製する媒体には、語り部が語っている様子を撮影した「映像」、 そこから音だけを抽出した「音声」、そこからトランスクリプト化した「文字 (テキスト)」、語り部本人ではない人物が当事者を模倣することによって再生する 「ヒト」が挙げられる。 他方、複製・再生する媒体の違いが、当事者による語りに比べて、それを聞いた・読んだ受け手にどのような影響を及ぼすのかについては明らかにされていなかった。複製した媒体による再生が、当事者本人の語りとどれだけ同等な効果をもたらすのか・もたらさないのかは客観的には明らかにするために、筆者らは、災害体験の「語り」が再生されることによる受け手の影響について、媒体ごとの差を明らかにすることを目的とし、震災を体験した当事者による生の語り (生語り (本人))、体験した本人とは異なる人物(生語り(弟子))、本人の語りの映像 (映像)、その音声 (映像)、 その文字 (テキスト)を再生媒体として、生理反応、心理変化、記憶量の視点から比較実験を行った (図 3) ${ }^{[15]}$ 。 ある語り部に協力いただき、語り部の体験談を、1)本人の語り、2)本人の語りを身近で聞きつづけてきた支援者の語り、3)本人の声付きの映像、4)本人の音声のみ、5)テキストの5つの方法で伝えた場合に、受け手の記憶にどの程度残るかなどを比較した。20 代~60 代の男女を5つのグループに分けて、それぞれ違う5つの方法で体験談を聞いたり、読んたりした。直後に、聞いた・読んだ体験談の内容を参加者にできるたけ書き留めてもらい、その質・量を記憶量として数値化した。実験中は、リアルタイムで心拍数を測定した。実験の前後には、心理状態を問う質問紙を用意 図4 再生量の群間比較(直後、8ヶ月後) ※凡例内のかっこは、分散分析の結果のp値 $(* \mathrm{p}<0.05 、 * * \mathrm{p}<0.01)^{[15]}$ し、その状態を評価した。8ケ月後に抜き打ちで再度書き出してもらった(図3)。 結論として、心拍数も感情変化も、媒体による差は認められず、語りをどの媒体から再生しても生理反応も心理反応には大きな違いはあらわれないことが分かった[15]。 記憶量については、それとは異なる結果が得られた。実験直後はほとんど差がなかったが、8ヶ月後になると、本人の語りを聞いた参加者が最も詳しい内容を覚えていた(図 4) [15]。次いで、弟子、映像、音声、文章の順で記憶に残りやすいことが分かった。経験したヒトの生の声は、臨場感や重み・深みが大きく異なる。音楽やスポーツを生で観戦したい気持ちと一致する。 この実験で分かったことのもう一つは、本人でなくても、直接ヒトから聞いた方が記憶に残りやすいということである。広島や長崎では、直接被爆を経験していないヒトが、被爆者からの経験を引き継ぎ、体験談を語る取組みがすでに行われている ${ }^{[16]}$ ## 4. まとめに代えて:エビデンスにもとづく実装 ここまでに見えてきた、災害対応を経験した当事者 が直接語ることの意味・効果のエビデンスにもとづい て、宮城県庁では、東日本大震災の記憶伝承を実現す ることを目的に、2019年 8 月から東日本大震災にお ける災害対応業務を経験した職員に対するインタ ビュ一調査事業(宮城県「復興 10 年総括検証」事業) を実施している ${ }^{[1]}$ 。これは、東日本大震災からの復旧・復興過程で得られた職員の経験や学んたことを次世代の職員に伝えるために実施することを目的として おり、3力年(2019 年度 2021 年度で、62テーマ (応急仮設住宅の整備・運営、災害廃棄物の処理、公共施設の復旧、被災者の心のケアなど)について、のべ 600 名以上の職員に対してインタビューを実施する大規模事業である。 宮城県におけるインタビュー調査事業の様子を図 5 に示す。インタビュー調査で得た証言(音声)のトランスクリプト(生データ)を作成する。また、本人の 「語り」を研修等で活用するために、映像撮影も行っている。インタビュー調査では、話し手、聞き手、同席者 (聴講者) 、事業担当課 (復興支援 - 伝承課)、外部アドバイザー(著者)が、図 5 のような配置となつて実施する。本調查事業の最大の工夫は、東日本大震災の対応業務を経験していない若手の職員や、震災発生当初は担当ではなかった現在の担当職員が同席・聴講し、「直接的な職員間伝承」を行っている点である。若手職員や現担当職員が「聴く」のは、もちろんのこと、インタビュー終盤では感想や質問(「訊く」)を発言してもらうことで、話し手 (災害対応業務の体験者) と未経験者の語り合いの場を実現している(図 6)。 参加した同席者からは、「こういった機会にしか聞けない内容だった (2016 年入庁、男性) 」、「職員同士が会話している形式(グループ形式)だったので当時の状況や雾囲気がよく分かりました(2011 年入庁、 図5 宮城県庁における東日本大震災における災害対応業務を経験した職員に対するインタビュ一調査の様子 (会場全体) ${ }^{[1]}$ 図6 宮城県庁における東日本大震災における災害対応業務を経験した職員に対するインタビュー調査に参加する業務未経駩職員や現担当職員の様子 ${ }^{[1]}$男性)」、「インタビューを受けている方々が、時々絞り出すように当時のことを語ってくださるのを見て、今も当時のことがつらい記憶として残っているのだろうと思うと、涙が出そうになりました(2016 年入庁、女性)」「令和元年台風 19 号の災害対応の前に聞けていればよかったと思う話が多かったです。もちろん事後となった今でも聞いて無駅ではありません(1996 年入庁、女性)」などの感想が得られている。 津波(津波災害)の再現期間は、複数の世代をまたぐことから、家庭、地域、組織における記憶伝承における役割が大きい。どうすれば効果的に持続的に災害伝承が行われるかを問いつづけ、明らかになったことを踏まえた実践が重要である。特に、ここでの議論を見て上く分かるように、災害伝承の要は「ひと」である。その災害伝承を担う「ひと」づくり (人材育成) の方法を明らかにし、実践することこそが、今後の最も重要なミッションである。 ## 註・参考文献 [1] Shosuke Sato; Fumihiko Imamura. Evaluation of Listeners Reaction on the Storytelling of Disaster Response Experience: The Case of Service Continuity at Miyagi Prefectural Office After Experiencing the Great East Japan Earthquake. Journal of Disaster Research. 2121, vol. 16, no. 2, p.263-273. doi: https://doi.org/10.20965/jdr.2021.p0263 [2]佐藤翔輔.「災害を伝える」活動の最新動向一「災害かたりつぎ研究塾」の合宿活動をもとにして一. 口承文芸研究. 2015, no. 38, p.42-51. [3]佐藤翔輔. 東日本大震災の被災地における震災語り部・被災地ガイドの年代・性別・空間分布. 地域安全学会東日本大震災特別論文集. 2020, no. 9, p.73-76. [4] 林春男; 田中聡:重川希志依. “防災の決め手「災害エスノグラフィー」一阪神・淡路大震災秘められた証言”. NHK出版. 2009, 242p. [5] 新潟県小千谷市. “新潟県中越大震災小千谷市の記録”, 2010 . [6] 吉田美穗. 東日本大震災からの復旧・復興過程で得られた職員の経験を伝える〜次世代の職員に伝え、今後の判断材料のひとつに〜.広島に学ぶ「伝承者を育てる」3.11メモリアルネットワーク・まなびあい交流プロジェクト企画シンポジウム発表資料. 2019. [7] 東北大学災害科学国際研究所. 平成29年度東日本大震災記憶伝承・検証調査事業調査報告書. 2018. [8] 佐藤翔輔;今村文彦. 過去の災害対応の経験は継承されたのか・活かされたのか?:東日本大震災で対応した宮城県職員を対象にした質的調査結果と提案. 地域安全学会論文集. 2018, no. 33, p.105-114. [9] 阪神・淡路大震災記念協会. 阪神・淡路大震災 10 年翔心フェニックス一創造的復興への群像. 阪神・淡路大震災記念協会. 2005, 779p. [10] 例えば, Orr, J. Talking About Machines: An Ethnography of Modern Job. Cornell University Press., 1996. [11] 佐藤翔輔. 災害対応の知識共有に関する理論的考察:「語 り」に着目して. 地域安全学会梗概集. 2018, no. 42, p.165168. [12] 中原淳;長岡健. ダイアローグ対話する組織. ダイヤモンド社. 2009, 224p. [13] 岩手日報.「津波の語り部」田畑ヨシさん死去宮古・田老出身. 2018.3.1. [14] 神戸新聞. 姫路空襲の語り部活動 20 年田路さんが3日最後の講演. 2018.11.2. [15] 佐藤翔輔; 邑本俊亮; 新国佳祐; 今村文彦. 震災体験の 「語り」が生理・心理・記憶に及ぼす影響:語り部本人・弟子・映像・音声・テキストの違いに着目した実験的研究. 地域安全学会論文集. 2019, no. 35, p.115-124. [16] 佐藤翔輔; 岩崎雅宏. 広島市における被爆体験伝承者・被爆体験証言者養成研修の実態把握 : 災害体験伝承者の養成を見据えて. 地域安全学会梗概集. 2020, no. 46, p.61-64.
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# 特集:オーラルヒストリー ## オーラルヒストリー ## Oral History 抄録:オーラルヒストリーは、何らかの体験をした人に聞き取りをした口述記録である。体験者の一人語りではなく、聞き手との共同作業で生まれ、その記録はアーカイブとして未来に伝えられる。また、それらは様々に使われる。オーラルヒストリーという概念は、口述記録そのものにとどまらず、利活用も含むと考えて良いだらう。聞き取りによる口述記録は古くから作られてきたが、 デジタルアーカイブとして整備が進めば、誰もがどこからでもアクセスでき利活用の幅は一気に広がる。今回の特集ではオーラルヒストリーの様々な可能性とデジタルアーカイブとの関わりで見ていく。 Abstract: The oral history is the record that we interviewed people who had some special kind of experiences. Not the one of the experients talk, we are informed birth, the record as an archive by the collaboration with the interviewer in the future. In addition, they are used variously. The concept called the oral history does not remain in oral record itself and may think that inflecting includes a profit. The oral records by the hearing has been made for a long time, but anyone can access it from anywhere, and a profit spreads through the width of utilizing it at a stretch if maintenance advances as digital archive. We review it in a relation with various possibility and digital archive of the oral history by this special feature. キーワード : オーラルヒストリー、口述記録、東日本大震災、戦争体験 Keywords: Oral histry, Oral records, Great East Japan earthquake, War experiences ## 1. はじめに オーラルヒストリーとは、何らかの体験をした証言者の語りを聞き手によって記録されたもので口述記録とも言われる。様々な手法で長きにわたって、研究者だけでなく各種団体、ジャーナリズム、自治体から個人によって取り組まれてきた。特に日本では政治学の分野に取り入れられて大きな成果を上げている。政策決定に関わるような政治家や官僚へのオーラルヒストリーによって、それまでは表に出ることがなかった事実や意思決定の過程が明らかになり記録・公開されてきた。特に、御厨貴氏を中心にした研究は、一般書籍で刊行され、中にはベストセラーになったものもあり、 オーラルヒストリーという手法が広く知られるようになった。その後、オーラルヒストリーの営みは多様になり、政治・経済などにおける政治家や企業経営者以外にも、様々な事象やジャンルで人々の体験が収集されて記録されるようになった。今では、社会的な広がりを持ってよりダイナミックに、詳細な口述記録が日々なされていると言って良い。 ## 2. オーラルヒストリーの利活用 2.1 デジタルアーカイブとオーラルヒストリー オーラルヒストリーの可能性はデジタルの時代を迎えて一層広がった。デジタルアーカイブ化によって大量のデータが保管され、実装されるインターフェースによってアーカイブされた映像や音声、テキストなど多様なコンテンツに容易にアクセスできるようになるからだ。それらアーカイブコンテンツを研究や学びに使う、さらにノンフィクション、ドキュメンタリー制作などの素材として活用、新たな知やコンテンツを生み出すことにつながる。インタビューの収録などの時には、その後の二次利用に関しての許諾を合わせて得るような取り組みをできる限り広げることも求められる。 ## 2.2 東日本大震災とオーラルヒストリー 2011 年に発生した東日本大震災では、被災者から救助、支援、防災、復興にあたった人々のオーラルヒストリーを記録する営みが積極的に行われており、口述記録がコンテンツ化(テキスト、映像、音声)され様々な場でアーカイブされている。それらは、どのように地震や津波を生き延びたのか、あるいは、なぜ津波の発生や規模を予測、覚知できないまま巻き込まれたのか、どのようにして命が失われたのか、避難指示や支援がほとんどないままどのように原発事故時警戒区域などから避難をしたのかなどの体験の記録である。そうした口述記録がデジタルアーカイブ化されることで、防災や減災を学ぶための教材になりうる。東日本大震災は広域、大規模たったことから様々なシ チュエーションが現出しあらゆる立場の被災者がいたことで、その口述記録は今後起こりうる南海トラフを震源とする大地震や首都直下地震などに備えるために多くの人の役立つはずだ。 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ・ひなぎくは、60あまりの機関のデジタルアーカイブとの API 連携などによってメタデータやコンテンツそのものを収集して震災アーカイブのポータルの機能を果たしている ${ }^{[1]}$ 。ここを入り口に、映像を中心にした NHK 東日本大震災アーカイブス ${ }^{[2]}$ などをはじめ被災地域の県や市町村のアーカイブにある体験談のコンテンツ (映像や音声、テキスト)を検索して閲覧することができる。これらコンテンツを活用した震災体験の継承や防災の学びの取り組みが被災地のみならず全国各地で始まっている。 ## 3. 本特集の内容 ## 3.1 オーラルヒストリーの現在地と未来 最初に、30 年間にわたって日本におけるオーラルヒストリー研究を牽引してきた御厨貴氏に報告いただく。御厨氏が中心になった研究チームは、政治家や官僚への聞き取りによって、政策の立案や決定の過程で見えなかった動きや隠れていた権力の意思などが可視化されてきた。それらの成果を一般の書籍に刊行することでオーラルヒストリーの持つ力を社会が認知したと言える。また、この営みを継続する中でオーラルヒストリーの手法を研ぎ澄ましていった。ここでは、御厨氏に 30 年に及ぶ研究を総括していただきながら、その経験を踏まえてこれからオーラルヒストリーに取り組もうという若き研究者へのアドバイスも記述いたたいた。 ## 3.2 東日本大震災とオーラルヒストリー 三人の研究者・実践者から東日本大震災の被災体験に関わるオーラル・ヒストリーの取り組みを報告していたたく。 ## 3.2.1 福島におけるコミュニティラジオとアーカイブ 実践者である久保田彩乃氏は、福島の様々な立場の人々の震災体験をインターネットラジオ番組として全国に伝える「ヴオイス・オブ・フクシマ」を主宰している[3]。まず、久保田氏は福島県内における震災体験のアーカイブは、その発信力がアーカイブの運営機関の性質、成り立ちによって異なることを指摘している。 また、「ヴォイス・オブ・フクシマ」の実践において、 これらの体験の音声は放送と同時にアーカイブされて長く届け続ける営みが行われている。震災から 10 年、 ヴォイス・オブ・フクシマの意義と現在地について述べていただ。 ## 3.2.2「災害を語ること」の意味と効果 東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は発災直後から被災者の体験証言の収集、その語りについての分析にあたってきた(図1)。また、被災した自治体における職員のオーラルヒストリーの収集にも取り組んできている。日本全国で大规模災害に備えるに当たって、その体験の共有は不可欠である。行政において今後も発災があれば多くの職員にとっては初めて出来事になる以上、体験者の知識から学ぶ必要がある。 図1フィールドワークで聞き取りにあたる佐藤翔輔氏 佐藤氏は、「災害体験の語り」の意味から、体験を誰からどのようにして聞けば良いのかその有効性を量的、質的の両面から研究を続けている。体験者から直接聞くこと、間接的に聞くこと、映像や音声など媒体の違いでどれだけ聞き手の心に残るのか、伝わるのかという研究を報告していただくここの研究は、戦争体験の継承、伝承にも大いに参考になる。体験者の高齢化に伴って、次世代や若者が語り部に代わって伝える事業が沖縄や広島、長崎など各地で始まっている。同時に、デジタルアーカイブの映像や音声で伝えていこうという取り組みもあるからだ。 ## 3.2.3アートプロジェクトが開くとオーラルヒストリー の新しい世界 アートとオーラルヒストリーをつなぐという、新たな可能性を開く取り組みが、2020 年岩手県釜石市で行われている。オーラルヒストリーは歴史研究としてその記録性が重視される。その中で、あえて限定された期間の中で、震災に関する写真、資料、インタビュー記録を展示し、釜石に暮らす人、被災体験を持 つ人あるいは持たない人、さらに域外から訪ねてきた人なども含めてその場で生まれる対話をオーラルヒストリーとして位置付けるチャレンジングなイベントが、法政大学の梅崎修教授を中心に行われた。会場の中心に設けられた「聞き書きの井戸端」と名付けたテーブル席でこの場を訪れた人々が様々に語る(図 2)。 そこで語られることに耳を傾ける行為も、歴史に触れる実践なのだという筆者の言葉にオーラルヒストリー の新たな可能性を感じる。 図2「記憶の社会的チカラー釜石におけるアートと展示イベント」会場 ## 4. オーラルヒストリーと戦争体験 日本国内でオーラル・ヒストリーとして最も盛んに行われてきているジャンルの一つは、戦争体験であろう。戦場や空襲を始め、勤労動員などの体験の口述記録が様々な手法で数多くなされてきた。そして、現在は体験者の高齢化に伴って収集の最後の段階に入ったと言える。戦場を体験した人たちの団体である「戦友会」などから、原爆や沖縄戦、空襲などでは県や市、 あるいは各地の資料館や公民館、平和団体などが聞き書きを行なってきている。また、新聞やテレビなどジャーナリズムの取り組みも長期にわたって進められている。手法としては、初期は聞き書きが中心だったが、その後音声の録音が行われるようになり、近年は映像による記録も行われている。今回の特集では、デジタルアーカイブによって集積、公開された映像証言群を分析することで何が見えてくるのかというオーラルヒストリーの実践において、「日本人の戦争と捕虜」 というテーマで筆者が報告する。そして、日本人特有の捕虜への忌避感が死者を増大させたのではないかという問いを立ててオーラルヒストリーの取り組みをしてみる。 ここでは、素材として放送局でのドキュメンタリー 制作の過程で収集したインタビューを使う。ドキュメンタリー制作者によるインタビューは社会調査法における構造化でも半構造化でもない独自のものである。番組の主題や切り口に沿って制作者が意図的に言葉を集めることがある。番組に必要なキーワードや視聴者の心を引きつけるような感情的で搾り出すような言葉を引き出そうというテクニックを使うことがある。 オーラル・ヒストリーは、それぞれの研究ジャンルによって手法が確立されてきていて、放送局(メディア)による口述記録はその定義や手法に果たして合致するのか、“正しい”手法で行われているのかは議論があるかもしれない。 ## 註・参考文献 [1] ひなぎく. 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ https://kn.ndl.go.jp/\#/ (参照 2021-08-10). [2] NHK東日本大震災アーカイブス https://www2.nhk.or.jp/archives/shinsai/ (参照 2021-08-10). [3] ヴォイス・オブ・フクシマ https://www.voice-of-fukushima.com/ (参照 2021-08-10).
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# 毎日メディアカフェ「危機の時代とデジタル アーカイブ〜『肖像権ガイドライン』の必要性と可能性を考える〜」に参加して Attending Mainichi Media Cafe Talk Show "Crisis Times and Digital Archives" [会議概要 $]$ 主催 : 毎日新聞社 協力:デジタルアーカイブ学会法制度部会 日時:2021年 3 月 11 日(木) 場所 : 毎日新聞社 毎日ホール (YouTube でも配信) 東日本大震災から 10 年となる 2021 年 3 月 11 日、標題のシンポジウムの会場に赴いた。緊急事態宣言下、感染防止のため来場者数を制限し、議論の模様をライ ブ配信するハイブリッド方式である。 「危機」とは何か。あの震災の癒えない記憶。今後 の大災害への怖れ。未だ収束しないコロナ禍。まさに 危機の時代だ。しかし、数多の「危機」に対して、デ ジタルアーカイブ、そして肖像権ガイドラインはどう 関係し、どのような役割を担えるのか。主催者があえ て標題に示した「危機の時代」は何を意図したものな のか。ガイドラインの作成メンバーで、報道機関の一員でもある筆者は、議論の行方を注視した。 ガイドラインの内容や策定過程での検討・議論につ いては、当学会誌等で幾度も紹介されているのでここ では言及しない $[1]$ 。シンポジウムでは、多数のアーカ イブ写真を例示し、来場者にもそれぞ犯公開の適否を 問い、ガイドラインでの点数計算結果も紹介しつつ、肖像権の捉え方とアーカイブの意義などが議論された。筆者にとって痛烈だったのは、議論の中盤でデジタ ルアーカイブ学会会長代行(当時)の吉見俊哉氏が発 した「メディアは使命を果たせているか」という厳し い問いかけだった。吉見氏はガイドラインの有効性を 強調しつつ、次のように訴えた。 いま、日本社会全体は“なんとなくマズい”が蔓延 し“内側にこもり過ぎた”状態で、分断が進んでいる。 この社会状況にメディアが倣って“なんとなく”アー カイブ公開を控えているのなら、公共を育むべきメ ディアの使命は果たせるはずもない—。 「危機」とは、社会の言論空間への危機であり、そ れに対して有効な手が打てないメディアの危機だと、 この時、筆者は気づかされた。 司会を務めた共同通信社の内田朋子氏は、吉見氏の 指摘を“臆病になっている自分への叱咤激励”だと受 け止め、朝日放送テレビの木戸崇之氏は、若い記者さ え「人が写っている映像は使えない」と考えることに 疑問を抱かない現状への危機感を語り、東洋大学准教授(当時)の生貝直人氏は、“えもいわれ萎縮” は避 けるべきだと表明した。そして、学会の法制度部会長 の福井健策氏は、ガイドラインは写真の公開に積極的 な人、慎重な人のいずれにとっても“羅針盤”であり、 それぞれが自らの考え方を問い直すべきだと訴えた。 ガイドラインは、アーカイブの公開判断の拠り所と して期待されるが、肖像権問題への思考を停止させる 便利な道具ではない。萎縮と分断が進む社会の危機を 知りながら、この危機への直視を “なんとなく”回避 したがる私自身の内なる危機と、自らに課せられた使命を再認識させる重要な機会となった。メディア人た ちが、危機と対峙し乗り越えるために、ガイドライン が広く普及することを願う。 (NHK 放送文化研究所/デジタルアーカイブ学会法制度部会員大高 崇) 註・参考文献 [1] 数藤雅彦. 肖像権処理ガイドライン(案)の概要. デジタル アーカイブ学会誌. 2020, vol. 4, no. 1, p.44-61など.
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# 毎日メディアカフェトークショー 危機の時代とデジタルアーカイブ」 イベント実施報告 Report on Mainichi Media Cafe Talk Show "Digital Archives in Times of Crisis" [会議概要 $]$ 主催:毎日新聞社 協力:デジタルアーカイブ学会法制度部会 日時:2021 年 3 月 11 日(木) 場所:毎日新聞社 毎日ホール(YouTubeでも配信) 参加者数:約 $40 \sim 50$ 名 登壇者: ・吉見俊哉 (東京大学大学院情報学環教授、デジタル アーカイブ学会会長代行) ・福井健策(弁護士、デジタルアーカイブ学会法制度部会長) ・生貝直人(東洋大学経済学部准教授、デジタルアー カイブ学会法制度部会副会長) $\cdot$ 数藤雅彦 (弁護士、デジタルアーカイブ学会法制度部会副会長) ・木戸崇之(朝日放送テレビ報道局情報番組デスク) - 内田朋子(共同通信社編集局ニュースセンター校閲部委員、デジタルアーカイブ学会法制度部会員) ## マトークショーの概要 東日本大震災から 10 年を迎えた 2021 年 3 月 11 日、「毎日メディアカフェトークショー「危機の時代とデジタルアーカイブ〜「肖像権ガイドライン」の必要性と可能性を考える」が開催された。「毎日メディアカフェ」は、大手全国紙の毎日新聞社の主催により、 メディア関係者を含む社会人、学生を主な観客として、 さまざまなテーマを掲げ不定期で開かれるイベントである。当トークショーはSNS による動画同時配信も実施され、3月 30 日付の毎日新聞本紙朝刊、同日付デジタル版にイベント内容記事、写真の掲載と配信が行われた。 今回はデジタルアーカイブ学会法制度部会の協力により、登壇者として吉見俊哉・東京大学教授、骨董通 り法律事務所代表パートナーの福井健策弁護士、生貝直人・東洋大准教授、五常総合法律事務所の数藤雅彦并護士、朝日放送テレビの木戸崇之氏、共同通信社からは筆書(内田)と、第一線の研究者と法律家、およびメディアの現場スタッフ計 6 人が会場である東京・竹橋の「毎日ホール」に参集。デジタルアーカイブ学会が作成した「肖像権ガイドライン案」を今春の正式公表に先駆けて紹介しながら、東日本大震災、阪神淡路大震災、コロナ禍などの時代を捉えた写真・映像の具体的な事例から「デジタルアーカイブの可能性」「肖像権のガイドラインの在り方」を、会場の観客らと共に学び探る貴重な機会となった。 スクリーンに大きく映し出された報道写真を巡る、登壇者と客席の 2 時間にわたる相互の意見交流は、緊急事態宣言下であったため一定の感染症対策を取りながらも実に活気に溢れるものであった。 危機の時代を生きる人々を写した「写真の力」、それらを歴史として記憶に刻むために、公開を提唱する 「肖像権ガイドラインの必然性」を、閉塞感漂う社会情勢の中、双方が「同じ空間」で認識、共有することができたことは、何より感慨深く、意義ある体験となった。 ## $\nabla$ 開催の狙いと目的 デジタルアーカイブ学会法制度部会は過去の裁判例を分析し、さまざまな実例を踏まえたオープンな議論を続けて、主に「公共性の高いアーカイブ現場」での判断の手助けとなるような「肖像権ガイドライン案」 を作成してきた。 3 月 11 日のトークショーでは、新たな視点としての「肖像権ガイドラインは報道写真・映像公開の指針となり得るか」をテーマに据え、ひいては「メディア現場、その先の SNS 発信でこのガイドラインを使用 できるか」ということを、会場の観客、動画配信の視聴者、更に新聞およびデジタル版記事の読者たちにも問うことを「最大の狙い」とした。 限られた時間の中で効果的に公開基準を観客と共に考えるため、数藤氏は、昭和史のアーカイブ公開に関わる「大阪万博のコンパニオン」「コギャル」の写真を、木戸氏は朝日放送「阪神淡路大震災 25 年激動の記録 1995 取材映像アーカイブ」から抜粋した当時の避難所や街中の人々を写した映像を 4 枚、筆者は「コロナ禍の時代の日常を生きる人々」を捉えた共同通信の報道写真 4 枚をそれぞれ厳選。朝日放送は学会法制度部会の「肖像権ガイドライン案」も参考として映像の公開を判断する一方、共同通信には社内ガイドラインはあるが、肖像の使用・不使用に関する精緻な「点数付け」という明確な指針は持っていない。この「スタンス」の違いを示すことで、ガイドライン案を観客たちと実践的に使ってみることも大きな目的であった。 ## $\nabla$ 記憶の原型「アーカイブ」、羅針盤「ガイド ライン」 「今日は東日本大震災から 10 年という特別な日である。その 10 年前は $9 \cdot 11$ 同時多発テロがあった。 1991 年にはソビエト連邦があり、100 年前はインフルエンザ流行があった。歴史は似たようなことを繰り返し変化していく。アーカイブは権力者の場所ともなり、公文書改ざんの問題を見ても権力との深いかかわりが分かる。一方で、それは夢の場所でもある。過去に失われた命やさまざまな地域との関係を結び直す『記憶の原型』それがアーカイブの重要な意義なのだ」 観客の中には「アーカイブ」「肖像権」に多くの知見を持ってはいない層もいたと思われる。しかし、吉見氏が冒頭の挨拶で述べたこの言葉で、「アーカイブ」 の本質的な役割を、どんな人でも瞬時に理解できたことが、会場の空気から感じられた。 続く福井氏の挨拶で、観客の「肖像権」への関心が高まり、その場の温度が上昇していくのが手に取るように伝わってきた。 「写真には著作権と肖像権がある。著作権法は存在するが、肖像権法は存在しない。東日本大震災のアー カイブをつくりたいが、肖像権でひっかかり公開できるか分からないという相談が増えた 2014 年頃から、 ガイドラインを作成したいと考えた。17年にデジタルアーカイブ学会を立ち上げ、判例を基に総合考慮するためのプラスマイナスの点数を付けたポイント制の案を3年かけてチームで練りあげていった。現在の学会の会員は 600 名。この数字にデジタルアーカイブを求める時代の要請が表れている。肖像権ガイドラインは、報道の現場だけではなく、SNS 発信の『羅針盤』 にもなり得る」 ## จ「コンパニオン」「コギャル」の点数付け 続いて数藤氏が「大阪万博のコンパニオン」「コギャル」の写真を事例に客席に問いかけながら「ガイドライン案」の具体的な紹介を始めた。「コンパニオン」写真は大半が公開できると挙手、「コギャル」には公開不可との意見がほとんどであった。 「肖像権はみだりに自分の顔や姿を撮影されたり公開されない権利。裁判所の考え方を参考に(1)被撮影者の社会的地位(2)活動内容(3)撮影場所(4)撮影態様(5)写真の出典(6)撮影時期一の考慮要素ごとにポイント計算を行う。総合点が 0 点以上であれば公開に適する、マイナス $1 \sim 15$ 点、 16 点〜30 点は公開範囲を限定するなどの条件であ札公開に適する、マイナス 31 点以下は公開のためマスキングが必要」などと説明。撮影時期(1970 年)により大きな加点が付く「コンパニオン」 は公開に適する、「コギャル」は私生活の場、撮られた意識のなさが考慮されてそのままでは公開に適さないという、観客の予測通りの点数付けとなった。数藤氏の解説が終わった後、会場からは大きな拍手が湧き起こった。 ## $\nabla$ 「思考停止」と「萎縮」から抜け出す 本題の「肖像権ガイドラインは報道写真公開の指針となり得るか」を考える時間にさしかかった。20 年に公開された朝日放送の「阪神淡路大震災 25 年」アー カイブは、木戸氏のメディアの現場に対する「危機感」 が実現させた力作である。 「このアーカイブを昨年公開した時、業界では『よくこんなことができた』と驚かれた。それ以前は朝日放送でも、震災の映像を周年の日にもほとんど公開できなかった。若い記者が『人が写っているから使えない』というのを聞いて、現場が『思考停止』に陥っている状況に危機感を覚え、上司に働きかけたが『肖像権』を理由に一蹴された。企画書を 19 年に再び提示してみたところ、震災アーカイブの公開があっという間に実現した」 木戸氏が紹介した「国道 2 号線の移動」「避難所で授乳する母親」の画像について、観客の意見が公開に対して非常にポジテイブなものであったことに、驚かされた。大移動の画像は、年数がたっていても中央に写る女性が誰であるかは判別できる。また避難所で授乳する母親は乳房が少し見えており、震災から 25 年 もたてば再許諾を取得できない限りお蔵入りではないだろうか? 肖像権ガイドライン案も参考にした上で公開に踏み切った理由として「歴史を風化させないことが報道機関の役割」であり、過去から現在を見つめることが未来の「震災への備えの参考にもなる」のたと話す木戸氏の言葉に、世に漂う「リスクを取ることを恐れる空気」に、知らないうちに影響、支配されているメディア人としての自分に、気が付かされた思いであった。 更に、筆者の「萎縮」感覚を、観客たちが見事に打ち砕いてくれた。共同通信の「コロナ医療現場の防護服の看護師」の真正面大写しの肖像写真、「初実施となる大学共通テストの受験生」「トーチを手に走る女優の石原さとみと沿道の見物客」を披露すると、こちらの予想以上に客席側は公開に積極的であり、「コロナ禍の渋谷スクランブル交差点」に関しては中央の笑顔の若い女性に配慮してか、半々の反応。デジタルアーカイブ学会法制度部会が独自にその場で計算してくれた公開基準は、なんと彼らの判断とぴったりと一致していた。 ## $\nabla$ 開かれた「公」の空間をつくりだす〜危機を 乗り越えていくために 当事者や民間で作られる「ソフトロー」を研究してきた生貝氏は「肖像権法はないほうがよいと思う。仮にできたとしたら更に『萎縮』する方向に進む。さまざまな人の意見を聞きながら一緒に育てていくのがソフトローであり、デジタルアーカイブ学会が記録を残すためにその方向性で、ルール作りをしているのはと ても良いことだと思う」と説明する。 また、福井氏は「人間の表情一『肖像』に時代と社会が写されている。映像・写真からは、多様な情報を知ることができる。一方、誰かを傷つけないために一人一人が考え、問い直していくことが大切であり、そのための指針としてガイドラインを使ってほしい」と語った。 吉見氏のメッセージは忘れることができないものとなった。「社会の分断が進んでいる危機の中、今のメディアからは『危ない橋は渡らない』という非常に内向きの印象を受ける。日本は『個人』が弱いため、『公』 の場が存在していない。この公共空間をつくっていくことがデジタルアーカイブの議論の根底にあり、その中での『ガイドライン』とは、なにかを規制するものではなく、開かれた公の場所に向かって進むためのサポート役となり得る。そのためにも、さまざまなメデイアで、ガイドラインの前向きな在り方を考えてほしい」 最後に会場に映し出された東日本大震災からの 10 年を乗り越えた、共同通信撮影の男女の写真。寂しそうな目をした避難所の少女は今、将来の夢に向けて 17 歳のはじけるような笑顔を見せ、がれきの中で不安気な様子で片付けをしていた少年は、希望に満ちた社会人となっていた。「危機の時代」を乗り越え、そしてこれからもさまざまな困難を克服していくであろう 2 人の「過去、現在」の表情に、私たちも未来へと背中を押され、勇気づけられた。 (共同通信社内田朋子) (毎日新聞社提供斗ヶ沢秀俊記者撮影)
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# 災害時に発信される災害・防災情報の収集の実践と課題: 2019年に発生した風水害を事例として Practice and Issues of Comprehensive Collection of Disaster Information Disseminated during a Disaster: A Case Study of Storm and Flood Damage in 2019 佐野 浩彬 1 SANO Hiroaki ${ }^{1}$ 三浦 伸也 ${ }^{2}$ 前田 佐知子 ${ }^{2}$ MAEDA Sachiko ${ }^{2}$ 千葉 洋平 2 MIURA Shinya ${ }^{2}$ CHIBA Yohei² ## 当田 裕一郎 \\ USUDA Yuichiro ${ ^{1}$} \\ 1 国立研究開発法人防災科学技術研究所 総合防災情報センター \\ Email: [email protected] \\ 2 国立研究開発法人防災科学技術研究所 総合防災情報センター 自然災害情報室 \\ 1 Center for Comprehensive Management of Disaster Information, National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience \\ 2 Disaster Information Library, Center for Comprehensive Management of Disaster Information, National Research Institute for Earth Science and \\ Disaster Resilience } (受付日 : 2021年3月3日、採択日:2021年3月26日) (Received: March 03, 2021, Accepted: March 26, 2021) \begin{abstract} 抄録: 災害発生時には様々な機関からインターネットを通じて数多くの災害・防災情報が発信されるとともに、時々刻々とその情報が変化し更新されていく。そのため、発信された災害・防災情報には Web サイト上での記載がなくなり、情報そのもの自体が消失するなど、タイミングを逃すと取得できないものが出てくる。こうした災害・防災情報のデジタルアーカイブを行うことは、災害の動向を時系列で把握する上で重要である。本研究では 2019 年に発生した風水害を対象として、インターネット上の災害・防災情報の網羅的収集に関する実践事例を紹介し、そこで浮かび上がった課題を述べる。 Abstract: In the event of a disaster, a variety of disaster information is transmitted from various organizations via the Internet. However, this information is constantly being changed and updated. Sometimes part of this crucial information is not described on the website or the information itself disappears, leaving some information unavailable if the timing is missed. It is necessary to implement a "digital archive" for disaster information in order to grasp the trends and progress of disasters. In this paper, we introduce a practical example of the comprehensive collection of disaster information on the Internet with "Storm and flood damage in 2019" and describe the issues that emerged. \end{abstract} キーワード : 災害・防災情報、Webリンク収集、デジタルアーカイブ、2019年風水害 Keywords: Disaster information, Web link collection, Digital Archive, Storm and Flood Damage in 2019 ## 1. はじめに 2000 年代以降、情報通信インフラ環境の整備に伴ってインターネットが一般社会に普及し、府省庁や都道府県、地方自治体においてはそれぞれ独自の Web サイトを有することが当然となった ${ }^{[1]}$ 。組織や個人の情報発信に Web サイトを用いることが一般的となった今日では、インターネットを通じた竾害・防災情報の発信が行われている $[2]$ 。特に災害発生後は、時々刻々と変化する被害把握や災害対応機関の状況に応じて、情報の内容が変化し更新されていく様子を様々な Web サイトから把握できる。 こうしたリアルタイムの災害・防災情報の発信に合わせて、災害・防災情報を含む「デジタルアーカイブ」 を行うことは、違う歴史や背景を持つ地域での相互理解を深めるとともに課題の認識や社会理解を促進させる効果があるとされている[3]。しかし、災害が落ち着いた段階では様々な組織から発信されていた贸害・防災情報が Web サイトから消失し、タイミングを逃すとのちに取得できないものが存在する。災害が刻々と変化する中で、発信されている災害・防災情報の網羅的な収集・整理を実践して成功した事例はもちろんあるが、短期的には専門性が求められ、長期的には人的.資金的・組織的な問題に直面していることが多い[4]。 そこで、本稿では 2019 年に発生した風水害を対象として、筆者らが実施したインターネット上で公開されている府省庁および都道府県等の災害・防災情報 (以下、Web 災害・防災情報)を収集・整理したリンクサイトの運用事例を紹介する。それは専門性を最小限に留めつつ、定常的な Web 災害・防災情報の収集・整理を実現するための方法論の提案でもある。そして、 その実践で浮かび上がった Web 災害・防災情報のデジタルアーカイブにかかる課題を提示し、今後の方向性を展望する。 ## 2. Web 災害・防災情報のアーカイブに関する 既往事例 一般的な Webサイト打よびWeb情報のデジタルアー カイブに関する事例としては、WayBack machine ${ }^{[5]}$ 、国立国会図書館の Web Archiving Project (WARP、インターネット資料収集保存事業) [6] が挙げられる。 WayBack machine は The Internet Archive が 1996 年から世界中のホームページ等を自由かつ網羅的に収集し、記録・公開しているサービスである。一方、WARP は国立国会図書館が日本国内の Web サイトを保存する取り組みである。当初は政府や公的機関のホームぺー ジを発信者の許諾を得た上で収集していたが、2009 年の著作権法改正に伴い、国の機関や地方公共団体、国公立大学、特殊法人等のホームページは国立国会図書館が発信者の許諾を得ず収集できるようになり、現在はそれらも収集対象に含まれている[7]。ただし、これらは Web サイトおよび Web 情報の定常的なアーカイブが目的であり、突発的に発信される Web 災害・防災情報を対象としているわけでない。 災害に関するアーカイブの取り組みは 2011 年東日本大震災以降、多岐にわたっている。主な取り組みとしては、東日本大震災等の被災地で撮影された写真や映像、紙媒体などで配布された広報資料など、災害資料の収集・整理が挙げられる ${ }^{[8]}[9]$ 。こうしたアーカイブはアナログ的(物理的)に資料を保存・整理していく取り組みが主であるが、近年は写真や映像、災害報道資料等を収集し、インターネットを通じてデジタル媒体で公開するデジタルアーカイブも東北大学 ${ }^{[10]}$ や国立国会図書館 ${ }^{[11]}$ 、公共放送 ${ }^{[12]}$ ~民間報道機関 ${ }^{[13]}$ によって行われている。いずれも専門性を駆使したデジタルアーカイブの特筆すべき取り組みであるが、発信される Web災害・防災情報の鮮度を活かし、デジタルアーカイブとしてのリアルタイム性を意識した簡易な方法での情報収集アプローチが必要ではないか、 ということが筆者らの見解である。 以下では、災害時に発信されるWeb 災害・防災情報のアーカイブに関する手法 (3 章)、2019 年風水害を事例に行った Web 災害・防災情報のアーカイブに関する取り組みを紹介し(4章)、今後の Web 災害$\cdot$防災情報に関するデジタルアーカイブの方向性を展望する (5 章)。 ## 3. Web 災害・防災情報のアーカイブに関する 手法 災害発生後に多くの機関から発信されるWeb災害・防災情報は泡のように現れては消えてゆく。その 図1 クライシスレスポンスWebサイト ため、「自然災害発生時におけるあらゆる災害情報の自動アーカイブと、それら情報を必要とする人や組織への即時的な資料の提供」[14] が Web 災害・防災情報のデジタルアーカイブの要件の 1 つとして求められる。筆者らはそれを踏まえて、2014年から開発している 「クライシスレスポンス Web サイト」(図1)を今回の実践で活用した。 このサイトは防災科学技術研究所が開発しソースコードを無償公開しているコンテンツ管理システム (Content Management System: CMS) の「e コミグルー 機関が発信している Web 災害・防災情報のURLリンクを一覧形式でまとめる機能を有する。このようなサイトは一般的に HTML で記述されることが多いが、本サイトではリンクの一覧リストを生成するために 「ブロックドキュメントパーツ」という機能を設け、編集画面に遷移するとリンクタイトルやURL、リンクの概要を記入するフレームが表示され、作業者が直感的かつ容易に操作することができるインターフェー 図2 クライシスレスポンスWebサイトの編集画面 図3クライシスレスポンスWebサイトの標準作業手順(SOP) ## スになっている(図 2)。 また、2016 年から府省庁等が発信する Web 災害・防災情報の収集について、RSS 等を利用しリンク情報のメタデータ(例えば、記事・ページのタイトル、 URL、発信日時)を自動的に収集する機能(以下、自動収集機能)を実装した。そして、ブロックドキュメントパーツや自動収集機能を活用し、Web災害・防災情報のデジタルアーカイブを行う標準作業手順 (Standard Operating Procedures: SOP) \&作成した。図 3 は筆者らが実践した Web 災害・防災情報のデジタルアーカイブの SOPを示したものである。 自動収集機能で集めた Web 災害・防災情報(1)) をもとに、対象とする災害関連の情報かどうかを作業者が目視で選別し(2)、該当する情報であった場合はクライシスレスポンス Web サイトに揭載・反映する (3)。また、RSS (Rich Site Summary) やXPath (XML Path Language)等の指定によるクローリングが困難な Web サイト情報等に関しては手作業で情報を収集し (4)、集まった Web 災害・防災情報を整理して一覧形式に整形する作業を行い (5)、一覧表として公開する (6)。この作業を複数人が交代で定期的に繰り返すことで、各機関から発信される Web 災害・防災情報を網羅的に収集・整理している。 ## 4. 2019 年風水害を対象とした Web 災害・防災情報のアーカイブの実践と課題 2019 年は多くの風水害に見舞われた年であった。以下では定常的に公開していた「令和元(2019)年梅雨期 - 台風期」[16] に加えて、災害発生後に構築した 「令和元年 8 月下旬の九州北部における大雨」[17]、「令和元年房総半島台風 (台風第 15 号) $]^{[18]}$ 、「令和元年東日本台風(台風第 19 号) 」[19] の 3 つの風水害でのクライシスレスポンス Web サイトの運用について紹介する。 図 4 は令和元年梅雨期・台風期クライシスレスポンス Web サイト $[16$ で定常的に発信されている Web 災害・防災情報リンク数の推移を示したものである。 図4 梅雨期・台風期で定常的に配信しているクライシスレスポンスWeb サイトの情報量推移 凡例の「災害情報」は梅雨・台風に関連する発信された情報を示し、「事前情報」は例えば、道路情報やインフラ情報など、平時から情報発信が行われているものを示している。第 18 報(2020 年 9 月 18 日 17:40 公開)において件数が減っている原因は、後述する令和元年房総半島台風の時に掲載していた情報を新たに作成したサイトへ転載したためである。基本的には右肩上がりで揭載される情報量が増えていき、第 32 報 では「災害情報」が 263 件を数える。この数字は、リンク自体が非公開もしくは消失したものを除いているため、実際の情報発信はより多い。 図 5 は 2019 年風水害で公開した 3 つのクライシスレスポンス Web サイトのリンク掲載情報量の推移を示している。 図52019年風水害クライシスレスポンスWebサイトの情報量推移 更新間隔が一定ではないため、それぞれの災害で情報の増え方を比較することは難しいが、災害直後は情報が右肩上がりで増えていき、日数を経るにしたがって掲載される情報の漸増傾向が見られた。この傾向から、災害発生直後は Web 災害・防災情報が非常に多く発信され、これらの情報をいかに網羅的に収集できるかが、デジタルアーカイブとして重要となると考えられる。 図6では 2019 年 7 月 3 日 12 月 20 日(最終更新日) に更新した4つのクライシスレスポンス Web サイトに関して、Web 災害・防災情報の取得手段を示した。 図6 各サイトにおける自動収集および手動取得のリンク件数 最初に公開した梅雨期 - 台風期クライシスレスポンス Webサイトは自動収集機能(図 3-1))と手動による方法 (図 3-4) は掠上そ半分ずつである。その後、 クライシスレスポンス Webサイトの運用を進めてい くと、自動収集したWeb災害・防災情報の量が優位となっている。自動収集機能では対象となる災害名称等が明確になるほど、設定改良によって情報の収集量が増え、手動により収集されたWeb災害・防災情報を大きく上回ることとなった。 最後に、これらの 2019 年風水害におけるクライシスレスポンス Web サイトの実践を通じて、2つの課題が抽出された。1つ目の課題は収集したWeb 災害・防災情報の精度の問題が挙げられる。収集した情報の精度をあらかじめ機械的に判別することは容易でなく、 まずは人間(作業者)による目視での確認および判断が必要となった。それと同時に、作業者の経験による潜在的な判断が作業に含まれていることが明らかになった。作業者が有する暗黙知をいかに形式知化して、機械的な方法へと顕在化していくかがデジタルアーカイブの容易性を高める上で重要となる。 2つ目の課題は、各機関により Web サイト情報の発信形式が異なるため、自動収集機能の設定が画一的に行えず、自動収集が困難な場合があることが挙げられる。発信方法や形式がフォーマット化されていれば、情報収集の効率化だけでなく、その先の横断的な統合化の実現 ${ }^{[20]}$ も可能となろう。情報発信の方法は発信者側の状況に応じて選択されるが、可能な限り、統一化された方法による発信が望ましい。それを実現するためには専門家による Web 情報発信の標準形式の提案や依拠する法制度等の整備が求められる。 ## 5. おわりに 自然災害の発生に伴い、各機関から発信される Web 災害・防災情報は種類・量ともに爆発的なスピードで増加していく。こうしたWeb災害・防災情報を網羅的にアーカイブしていくには、単に情報を集めるだけでは不十分である。本稿では 2019 年に発生した風水害を事例に、筆者らが実践したWeb 災害・防災情報のアーカイブ事例を紹介した。そして、浮かび上がった Web 災害・防災情報のアーカイブにかかる課題を 2 つ提示した。Web災害・防淐情報のデジタルアーカイブにとって、情報を自動収集する Web スクレイピング技術は必須である。同時に、発信者側が共通フォー マットに基づいて災害・防災情報を発信していくことが、デジタルアーカイブを容易かつ効果的に作成可能にすると考えられる。それには情報の専門家が情報発信の標準化について提言を行っていくことや法制度の整備も重要であろう。 なお、今後は収集したWeb 災害・防災情報を即時 にアーカイブしつつ、構造的に整理して再配信していくことを目指したい。北本は災害アーカイブを宝の持ち腐れにしないためにも、災害ビッグデータから手動又は自動で端的なストーリーを生成できるような、ストーリーテリングの技術が必要と述べている $\left.{ }^{4}\right]$ 。筆者らはその意見に同意する。収集した情報をタイムライン形式で整理することで、時系列で情報を閲覧・検索できるとともに、過去の情報にも容易にアクセスすることが可能な仕組みがあれば、Web 災害・防災情報のあり方や今後の災害情報発信を考える上で有益であると考えている。今後の展望については、改めて稿を示したい。 ## 謝辞 情報収集の実践では、国土防災技術株式会社の大沼乃里子氏、野村染里氏、松下芽衣氏に多大なご協力を頂いた。ブロックドキュメントパーツの開発では、株式会社エフ・ディー・シーの佐藤辰哉氏、武藤靖幸氏にご尽力頂いた。ここに記して厚く御礼申し上げる。 ## 参考文献 [1] 総務省. 地方自治情報管理概要(地方公共団体における行政情報化の推進状況調査結果). 平成22年 4 月 1 日現在(平成22年11月9日発表). https://www.soumu.go.jp/main_content/ 000087214.pdf (参照 2021-02-08). [2] 長坂俊成, 坪川博彰, 桑原真二. 自治体ホームページにおける雪リスク関連情報提供状況一平成18年豪雪と自治体の対応一. 防災科学技術研究所研究報告. 2007, 70, 29-40. [3] 今村文彦, 柴山明寛, 佐藤翔輔. 東日本大震災記録のアーカイブの現状と課題(特集:震災アーカイブ). 情報の科学と技術. 2014, 64(9), 338-342. https://doi.org/10.18919/jkg.64.9_338 [4] 北本朝展. 災害の非可逆性とアーカイブの精神一デジタル台風・東日本大震災デジタルアーカイブ・メモリーグラフの教訓一. 今村文彦監修・鈴木親彦責任編集『デジタルアーカイブベーシック 2 災害記録を未来に活かす』. 勉誠出版, 2019, 169-197. [5] The Internet archive. WayBack machine. https://archive.org/ (参照 2021-02-08). [6] 国立国会図書館. 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業 (WARP) について. https://warp.da.ndl.go.jp/info/WARP_ Intro.html (参照 2021-02-08). [7] 時実象一.デジタル・アーカイブの最前線一知識・文化・感性を消滅させないために一. 講談社ブルーバックス. 2015. [8] 鈴木比奈子. 防災科研の災害資料デジタルアーカイブ:災害記録のより広い収集と利用に向けて. 地理. 2018,63(4), $40-45$. [9] 入江さやか, 東山一郎, 三森登. 災害報道資料のアーカイブ化と活用の試み一NHK放送博物館特別展「東日本大震災伝え続けるために」の取り組みを中心に一. 放送研究と調查. 2018, 68(4), 2-15. [10] 東北大学災害科学国際研究所. みちのく震録伝東北大学アーカイブプロジェクト. http://www.shinrokuden.irides. tohoku.ac.jp/ (参照 2021-02-08). [11] 国立国会図書館. 東日本大震災震災アーカイブひなぎく. https://kn.ndl.go.jp/\#/ (参照 2021-02-08). [12] 日本放送協会. 東日本大震災震災アーカイブス〜証言WEB ドキュメント〜. https://www9.nhk.or.jp/archives/311shogen/ (参照 2020-02-08). [13] 朝日放送グループホールディングス株式会社. 阪神淡路大震災25年激震の記録 1995 取材映像アーカイブ. https:// www.asahi.co.jp/hanshin_awaji-1995/ (参照 2021-02-05). [14] 内山庄一郎ほか. 災害時における情報の統合と発信一防災科研クライシスレスポンスWebサイトの取り組み一. 2016 年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集. 2016, P017. https://doi.org/10.14866/ajg.2016s.0_100231. [15] 防災科学技術研究所. eコミグループウェア. https://ecomplat.jp/index.php?gid=10454 (参照 2021-02-08). [16] 防災科学技術研究所総合防災情報センター自然災害情報室.災害情報集約リンク集令和元(2019)年梅雨期・台風期に関する情報. https://ecom-plat.jp/nied-cr/index.php?gid=10328 (参照 2021-02-08). [17] 防災科学技術研究所総合防災情報センター自然災害情報室. 災害情報集約リンク集令和元(2019)年 8 月の前線に伴う大雨に関する情報. https://ecom-plat.jp/nied-cr/index.php? gid $=10330$ (参照 2021-02-08). [18] 防災科学技術研究所総合防災情報センター自然災害情報室. 災害情報集約リンク集令和元(2019)年台風15号に関する情報. https://ecom-plat.jp/nied-cr/index.php?gid=10332 (参照 2021-02-08). [19] 防災科学技術研究所総合防災情報センター自然災害情報室. 災害情報集約リンク集令和元(2019)年台風19号に関する情報. https://ecom-plat.jp/nied-cr/index.php?gid=10335 (参照 2021-02-08). [20] 吉見俊哉. 知識循環型社会とアーカイブ一知のデジタルターンとは何か. 社会学評論. 2014, 65(4), 557-573. https:// doi.org/10.4057/jsr.65.557.
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# "Discussion Summary" is not "Minutes" ## 松岡 資明 MATSUOKA Tadaaki \begin{abstract} 抄録:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止に関する国の対応が、公文書管理法に基づき初の「歴史的緊急事態」 に指定された(2020 年 3 月 10 日)。記録の作成・保存が義務づけられたが、医学的見地から政府に助言などを行う感染症対策専門家会議の議事録は作られていなかった。東日本大震災に関連して政府が主催した主要な会議で議事録が作られなかった事態の改善策として 2012 年 6 月、公文書管理ガイドラインを改正したことがそもそもの始まりだ。だが、その後に起きた政権交代、第二次安倍政権による特定秘密保護法制定など様々な政治的要因が作用した結果、発言者や発言内容を具体的に記した議事録ではなく議事概要にとどめる運用が横行することになった。 Abstract: The government's response to the prevention of the spread of the new coronavirus infection (COVID-19) was designated as a "Historic Emergency" for the first time under the Public Records Management Act (March 10, 2020). Although the creation and preservation of records was mandated, the minutes of the Expert Committee on Infectious Disease Control, which advised the government from a medical point of view, were not produced. This revision of the Public Management Act Guidelines was introduced all in June 2012 as a remedy for the failure to keep minutes of major government-sponsored meetings related to the Great East Japan Earthquake. However, the subsequent change of administration and the enactment of the Special Secrets Protection Law by the second Abe administration, among other political factors, led to the widespread use of discussion summaries rather than minutes which specifically should have described the speakers and content of their comments. \end{abstract} キーワード : 東日本大震災、公文書管理ガイドライン改正、政権交代、閣議、特定秘密保護法、議事概要 Keywords: Great East Japan Earthquake, revision of the Public Management Act Guidelines, change of administration, cabinet meeting, Special Secrets Protection Law, discussion summary ## 1. はじめに 世界全体で感染者数が累計 3000 万人を超し、死者も 100 万人近く(いずれも 2020 年 9 月 20 日現在)に達した新型コロナウイルス (COVID-19)。日本では感染者約 8 万人・死者 1500 人強 (同) と比較的少なく、今のところ落ち着いているようにみえるが、政府のコロナウイルス対策には、常に不透明さが漂う。どこを目指して政策が展開しているのか、皆目見当のつかない「方向性」のなさ。国民に対する情報開示を頑なに拒む姿勢が䫝える。それを象徵するのが、感染症専門家会議の議事録が作られなかった事実である。 ## 2. 議事録問題の発端は東日本大震災 2.1 重要会議で議事録末作成 東日本大震災から 10 か月後の 2012 年 1 月、政府が主宰する大震災関連の 10 の会議で議事録が作られていなかった事実が発覚した。首相が本部長を務める緊急災害対策本部と原子力災害対策本部、防災相が率いる被災者生活支援チームの会議の3 会議では議事概要 も作られていなかった。公文書管理法の施行直前に大地震が起きたとはい宇、事態を重視した民主党政権は岡田克也副総理の主導で調査を進め、第三者機関である公文書管理委員会の議論を経て同年 6 月、公文書管理ガイドラインを改正、「歴史的緊急事態に対応する会議等における記録の作成の確保」が追加となった。 個別の事態が歷史的緊急事態に該当するか否かについては、公文書管理を担当する大臣が閣議等の場で了解を得て判断することとし、会議を(1)政策の決定又は了解を行う会議等 (2) 政策の決定又は了解を行わない会議等、の二つに分けた。前者に該当する会議では「開催日時」、開催場所」「出席者」「議題」「発言者及び発言内容を記録した議事録または議事概要」、「決定又は了解を記録した文書、配布資料」などを作成すべき資料としたが、後者に該当する会議では個別の発言などには及ばないとした。 その後、政権は議事録作成を閣議などにも広げることを構想、岡田氏をトップに政府高官・学識経験者による閣議議事録等作成・公開制度検討チームができ た。内閣制度が発足した 1885 年(明治 18 年)以来、閣議の議事録は 130 年近く作られてこなかったとされる。閣議は行政権を担う内閣の最高かつ最終の意思決定の場だが、議事録作成に関して憲法上の規程はなく、時の内閣の自主性に任されてきた。 チームによる検討の結果、閣議と閣僚懇談会を対象に議事録、ないし議事概要を作成し、 10 年経過後に公文書館に移管・公開するとの案がまとまった。しかし、その年暮れの総選挙で民主党は敗退、そのままとなった。 ## 2.2 政権交代で議事録作成の意味合い変わる 復活した自公政権の一翼を担う公明党の山口那津男代表は 2013 年 10 月 18 日、参議院本会議の代表質問に立った。行政の透明化が必要であり、公文書管理法を改正して閣議、閣僚剆談会の議事録作成を義務付け、 30 年の保存期間を経て国立公文書館に移管した後、一般の利用に供する考えはないか、と安倍首相に質した[1]。 安倍首相は山口氏に応じ、「明治以来、議事録を作成してこなかった我が国の閣議の在り方ともかかわる問題であるため、政府部内で必要な調整、検討を行った上で提出することとしたい」と答弁。翌 2014 年 3 月の参院予算委員会では「改めて政府部内で真摰に検討を重ねた結果、現在の閣議の在り方を前提とすれば、法律改正により三十年後に国立公文書館に移管するよりも現行法の下で速やかに公表することとした方が、閣議に関する透明性の向上や情報公開、国民への説明責任という観点でより望ましいのではないかという結論に至った」[2]として、閣議の議事録を作成、公表することを閣議決定することで対応したいと答弁。そして4月から閣議、閣僚银談会の記録作成、公表を開始した。 閣議の 3 週間後に、議事録をホームページで公表する現在の手法がこうして始まった。代表質問から翌年 4月まで半年の間に、何があったのか。実は山口氏の代表質問には前段があった。前日の 10 月 17 日、公明党は常任役員会で特定秘密保護法案を了承する決定をしていた。国民の「知る権利」や「報道の自由」など取材活動を罰則の例外とする規定の明記などにより主張が受け入れられたと判断したためだ。代表質問から 4 日後の 22 日、特定秘密保護法案は閣議決定され、 11 月 7 日に国会審議入り。1 カ月に満たないうちに成立した。 民主党政権下で公文書管理法改正の案件として検討されたはずの議事録問題が、自公連立政権下になって「特定秘密保護法案の政局で、公文書管理法改正はその法案 (特定秘密保護法案) 成立のための取引材料として利用され、あげくの果てに閣議決定で決着された』[3] と青山英幸は指摘した。閣議の議事録作成を公明党が持ち出したのは、「野党になった民主党が推進していた政策を自民党に飲ませたという結果が欲しかった」[4]のかもしれないが、毎週発表される、わずか2、3ページしかないない「閣議の議事録」を見れば明らかな通り、透明性が高まったとはとても言えない。 ## 2.3 公文書管理委員が示した懸念 一方、内閣府は、公文書管理法で設置を規定する公文書管理委員会に対して、2014年 5 月 29 日の第 36 回委員会で行った説明で、「議事の記録」という新たな用語の採用を提示した。公文書管理ガイドラインで 「議事録」、議事概要」など様々に表現される「議事に関する記録」を統一し、「議事の記録」という表現に変えたいとした。「用語の統一といいますか、整理ということで、これまで『議事概要』『議事録』という言葉を使っておりましたが、今回、閣議の方にならって『議事の記録』とさせていただきたいと思っております」と笹川武公文書管理課長は説明した。さり気ない「閣議の方にならって」が曲者だ。 加藤陽子委員 (東大教授) は「閣議・閣僚䬶という、非常に特殊な形式的な会議を例として、その実際の公開された議事録なども想定した上で議論が進みますと、『議事の記録』という言葉に統一しても、余り違和感を覚えないのですけれども、議事録や議事概要という今までの概念から考えたときに、『議事の記録』といったようにトーンダウンさせてしまって大丈夫か、と私は感じる」[5] と指摘した。察するに、閣議という形式的で特殊な会議を例に引き、議事録や議事概要という従来の概念を破棄し、「議事の記録」という新しい概念に「再構成」すると、他の多くの会議もそれに倣って「低きに流れてしまう」のではないかと懸念したのだ。 また三宅弘委員 (并護士) は、(閣議には出席しない)内閣総務官が、記録作成の責任者で閣議にも出席している官房長官や、事務方の官房副長官に話を聞き、「作成補助者」として閣議記録の原案を作成、官房長官ないし副長官による確認を経て内容を確定するとした時、内閣総務官が作成する記録は「個人メモ」に当たるのかと質した。 これに対して、内閣府の箕浦参事官は「はい」と一言答えたのみ。加藤委員の疑問に対する笹川公文書管理課長の説明は「たとえ『議事録』と言おうと『議事概要』と言おうと『会議の記録』と言おうと、6 項目 (開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者、発言内容)を盛り込んで、かつ、公文書管理法第一条、第四条の趣旨を踏まえて、後々、意思決定の過程なり、事務事業の実績を跡付け検証できるようなものを作っていただく。そういう意味では決して後退ということではなくて、むしろマストのミニマムというか、厳しいルールといいますか、共通の基準をはっきり設けたという趣旨でございます」というものであった。 公文書管理法第一条は、公文書が健全な民主主義の根幹を支える「国民共有の知的資源」であり、主権者である国民が主体的に利用し得ることを謳う。また第四条は文書作成を規定した条文で、行政機関の意思決定過程を跡付け・検証できるように作成しなければならないとする。 公文書管理委員は容易には疑念を拭えなかった。6 月 26 日開催の第 37 回公文書管理委員会では、三宅委員が「議事録」「議事概要」をひとまとめにして「議事の記録」という表現に変えることの危惧を改めて指摘した。江上節子委員(武蔵大学教授)は「公文書をアーカイブにするということで、閣僚会議というものに国民が後々、どのような観点で検討された上で結論に至ったのかということを知る権利、そしてそれがやはり歴史を建設的なステージに繋げていくことであります。(中略)この公文書管理委員会で十分に『議事の記録』の在り様をフォローアップするということを責務として是非御検討いただきたい。(中略)議論の過程を追えるように作ること、追跡できる『議事の記録』このことが重要な定義を(課長が)今おっしゃったと思いますが、それを是非今日の議事録に明記していただきたい」と発言した。 また御厨貴委員長 (東大名誉教授) は「多分これからの委員会の席上でされていくというふうに私も期待したいと思いますので、今、大臣が言われたこと、それから江上委員が言われたことを含めて、そういうことを我々としては議論したということを今日明記して、次の委員会に送りたい」と言葉を結んだ。御厨委員長、江上委員はこの回限りで退任し、8月 1 日開催の第 38 回公文書管理委員会には二人に代わる新メンバーの姿があった。議題も特定秘密保護法に関するガイドライン改正などに移り、御厨氏、江上氏が期待した、「次の委員会」で議事録に関するフォローアップがなされることはなかった。 ## 3. 捻じ曲がる「公文書」管理 ## 3.1 情報開示に後ろ向きの政府 議事録という「公文書」がどのような経緯で現状の ような扱いに至ったかをみてきた。しかし、議事録に限らず、公文書はこれまで、政治的要因に絡んで、負う責務もないツケを支払わされるような仕打ちを幾度となく受けてきた、と言えるのではないか。ある時は政権が何としても成立させたい法案の取引材料にされ、またある時は都合の悪い事情に蓋をするために隠蔽、もしくは改竄されたりしてきた。コロナ対策で言えば、政治は科学とどのように役割分担するかを明確にしなかったため、社会に不安や混乱の夕ネをまき散らす結果を招いた。政治と科学がどのように連携したかが、「藪のなか」に隠され、国民は実態を知り得なかったからだ。「専門家会議は、初期には海外からのウイルス流入を防ぐ水際対策、4月には国民に『8 割の接触制限』を提言する一方、政府は、提言を取り入れることもあれば、 3 月に実施した全国一斉休校のように専門家会議に相談せずに決めたこともあった」[6] という記事は、政府のなかで、専門家会議の位置付けがいかに曖昧であったかを言い表している。 同様のことは 2011 年の東日本大震災の際の原発事故でも起きた。住民に対する避難勧告、土地の除染、農産物の出荷制限など様々な場面で科学の知見をどのように活用するかをめぐって混乱が起きたのである。主要な原因は、政府が情報公開に消極的であったことや情報伝達の悪さにあった。 ## 3.2 大事なことは「透明性」 「一般的に、緊急時には情報が混乱し、事態を正確に把握するのは、専門家といえども困難である。したがって、国は事実を伝え、専門家や県・市町村と対応を協議する必要がある。残念ながら、福島第一原発の事故では、様々な情報が混線する中で、国は把握した情報を十分伝えなかったばかりでなく、いきなり対策を発表して被災地に混乱を招き、信頼を失っていった」[7]。 安倍前首相が専門家会議に相談しないで全国一斉休校を実施したり、国民に評判の良くないアべノマスクを配布したりしたことと重なる。信頼の喪失感が安倍氏退陣の一因になったかどうかは知れないが、原発事故の場合は、科学技術振興機構 (JST) が震災の翌年、英米などを参考に科学的助言のあり方を「原則試案」 としてまとめた。そこには「政府は科学的知見を尊重し、科学的助言者は科学的知見が政府の意思決定の唯一の判断根拠ではないことを理解する」「政府は科学的助言者に政治的介入を加えてはならない」「政府は政策形成への信頼感を高めるため、助言のプロセスの透明性を確保する」「政策決定に助言がどう考慮され たかを説明する」などの文言が並んでいる。しかし、 そうした教訓は継承されなかった。 それにしても、ガイドラインには整合性に欠ける部分がある。専門家会議は政策決定や了解をする会議ではないから、個別の発言までは不要とする。しかし、菅前官房長官(現首相)は専門家会議を、「剆談会等」 であると認めている。ガイドラインの「留意事項」には「審議会等や䬶談会等については、法第 1 条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成するものとする」とある。平常時には個別発言を記録に残すのに、緊急時は不要ということか。どこかおかしくないか。 ## 3.3 「自由・率直な議論ができない」の常套句 また政府は、会議を非公開にしたり、議事概要にとどめたりする理由として、「自由かつ率直な議論が妨げられることがないように」を常套句のように使う。 しかし、専門家会議のメンバーから、発言者の記載がある議事録の作成を求める声があがっていた。6月 24 日に記者会見し、「あたかも専門家会議が政策を決定しているような印象を与えた」との見解を発表したのは、感染症に対する危機感が国民に十分に伝わらず前のめりになったことを反省する姿勢を示すと同時に、政府のなかでの位置づけを明確にする必要を訴えたかったからではないか。しかし、会見の最中に西村康稔経済再生担当相は専門家会議を廃止し、有識者会議と分科会の設置を発表した。 12 人のうち 8 人は専門家会議から分科会に移行したが、組織改編について丁寧な説明はなかった。だが、それにも増して問題なのは、COVID-19に関する多種多様な会議が重層的に設定され、分かりにくくなっていることである。 新型コロナウイルス対策に関連する会議と言っても、内閣官房が事務局を務める会議は、分科会に移行した専門家会議以外に3つある。「新型コロナウイル又感染症対策本部」「連絡会議」「基本的対処方針等諮問委員会」である。「対策本部」は内閣総理大臣を本部長とし、官房長官、厚生労働大臣、新型インフルエンザ対策特別措置法に関する事務を担当する国務大臣が副本部長を務める。本部長、副本部長以外のすべての国務大臣で本部員を構成している。 基本的対処方針等諮問委員会は、全閣僚でつくる新型インフルエンザ等対策閣僚会議の下部組織、新型イ ンフルエンザ等対策有識者会議に属する下部組織で、感染症研究者、経済学者、法律家、医療関係者など 19 人で構成、専門家会議の副座長を務めた尾身茂氏が会長を務める。3月26日に第 1 回の会議を開催、 13 人が出席し、全国知事会会長、経営者代表、労組代表がオブザーバーとして参加した。議事録も作成されており、「80\%の接触制限」がなぜ必要かを強く主張した委員がいたことも分かる。 しかし、政策決定で最も重要な役割を果たしているとみられる「連絡会議」についてはほとんど情報が明らかになっていない。安倍前首相、菅前官房長官、加藤前厚労相(現官房長官)はじめ関係閣僚が参加してほぼ每日開かれてきた。毎日新聞の報道によると「今年 1 3月の 40 回分の記録を毎日新聞が分析したところ、議事内容の記載は平均で 10 行しかなく、首相ら高官の発言の記載は一切なかった。(中略) 首相らの発言を残さない手法が定着していることが明確になった $]^{[8]}$ 。 公文書の隠蔽、改竄など民主国家の枠を逸脱する行為をためらいもなく実行した安倍政権だが、世界的な脅威 COVID-19 から本当に国民を守れるか否かの瀬戸際で、先頭に立つはずの政治指導者が、自らの口を閉ざしたに等しい。安倍政権を継承し、「国民の期待に応える」と強調する菅新首相が国民に対する情報開示に関し、どのような施策を打ち出すのか、大いに注目したい。 ## 4. 終わりに 制度を作り、運用するのは人間である。いくら優れた制度を整えても、それを運用する人間の資質が大きく影響する。その意味で、行政を監視する議会 (立法) の役割に改めて関心を向ける必要がある。 もう一つ重要なのは、技術的側面からの検討だ。なかでも、公文書管理のデジタル化は是が非でも達成する必要がある。2026 年度までに、公文書の原本をデジタルとすることが決まっているうえ、「国家公務員を含めた公務員数は先進国で最低水準にある ${ }^{[9]}$ なかで、記録(公文書)を残すための負担が公務員に大きくのしかかっているからだ。 2012 年に発覚した議事録未作成問題の際の原因分析では、時間や人材が限られるなかでの震災対応業務は多忙を極め、記録作成が物理的に困難だったことに加光、事後作成する場合、作成期限のルールがなく、事後作成した記録の確認体制が欠如していた一などが分かった。しかし今、IT 技術は飛躍的に進歩し、音声認識、人工知能などの技術を使った議事録作成シス テムも既に数多く実用化されている。積極的にこれらの技術を取り入れていく必要がある。 ## 註・参考文献 [1] 山口那津男. 第185回国会参議院本会議. 2013年10月18日. https://kokkai.ndl.go.jp/\#/detail?minId=118515254X0032013101 8\&spkNum=2\&single (参照 2020-09-11). [2] 安倍晋三. 第186国会参議院予算委員会. 2014年 3 月 4 日. [3] 青山英幸. 覚書公文書管理法における「行政文書」について.アーカイブズ学研究. 2015, no. 22, p.23-46. [4] 瀬畑源. 源清流清-瀬畑源ブログー https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/ (参照 2020-09-26). [5] 加藤陽子. 第36回公文書管理委員会議事録. 2014年 5 月29日. [6] 朝日新聞. 2020年 7 月 2 日. [7] 城山英明. 福島原発事故と複合リスク・ガバメント.大震災に学ぶ社会科学第 3 巻. p. 123. [8] 毎日新聞. 2020年9月10日. http://mainichi.jp/articles/20200911/ddm/041/010/119000c (参照 2020-09-26). [9] 前田健太郎.「小さな政府」と公文書管理. 現代思想. 2018, vol. 46, no. 10, p.62-67.
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# 地方紙デジタルデータの教育利用:報道記事から見る 岐阜の偉人たち Educational Use of Digital Data from Local Newspaper Articles: The Greats of Gifu in the Press 三宅 茜巴 MIYAKE Akemi ${ }^{1}$ 1 岐阜女子大学 1 Gifu Women's University Email: [email protected] } (受付日:2020年9月11日、採択日:2021年2月25日) (Received: September 11, 2020, Accepted: February 25, 2021) \begin{abstract} 抄録:我が国においては、全国紙のみならず地方紙のデジタル化も徐々に進んでおり、こうした地方紙のデジタルデータの活用に おける課題として注目されているのが教育利用である。そこで本研究では岐阜の郷土紙を発行する岐阜新聞社と連携し、創刊以来 140 年にわたって蓄積されてきた岐阜新聞のデジタルデータを活用して地域学習のための教材を作成した。結果、岐阜新聞社には 記事以外にも地域学習の教材となる画像が数多く収蔵されていることが分かった。今後の課題は、岐阜新聞のデータべースを県内 すべての学校で利用できる仕組みを作り、教育利用を進めていくことである。 Abstract: In Japan, the digitalization of not only national newspapers but also local newspapers have been progressing gradually. In this study, we collaborated with the Gifu Shimbun, which publishes a local newspaper in Gifu. The digital data of the Gifu Shimbun, which has been accumulated for 140 years since its first issue, was used to create educational materials for regional learning. As a result, it was found that the Gifu Shimbun has a large collection of images other than articles that can be used as teaching materials for regional studies. Our future plan is to create a system to make the Gifu Shimbun database available to all schools in the prefecture, and to promote its educational use. \end{abstract} キーワード : デジタルアーカイブ、活用、教育、地方紙、新聞記事、地域学習、岐阜 Keywords: Digital Archive, Utilization, Education, Local Newspaper, Newspaper Article, Regional Learning, Gifu ## 1. はじめに 地方紙は地域情報の宝庫である。原紙の劣化が進む中、地方紙のデジタルアーカイブ化は、きわめて重要な課題である。そもそも地方紙における創刊以来の紙面の保存意識は高く、原紙での保存、マイクロフィルムでの保存が行われてきた。しかし、欧米と比較すると、我が国の地方新聞のデジタルデータは公開が進んでいない。幸い、筆者が住んでいる地域の代表的な地方紙である岐阜新聞は記事のデジタル化が進められており、データベースも公開されているため、記事の検索がある程度可能となっている。 一方で、こうした地方新聞のデジタルデータの利活用に関しては、あまり研究が進んでいない。2019年 7 月 31 日に開催された公開研究会「地方新聞の利活用にむけて一デジタルアーカイブ化と情報デザイン」において、福島は「地方新聞デジタル利活用の課題」として、地方紙には「非常に価値の高い地域情報が蓄積されているにも関わらず、その活用方法が限られてきた」ため、「地方新聞の利活用について、多様な側面から検討する」と述べ、その活用については、システムや法的視点以外に新聞社側のメリットについても考慮する必要があると述べている[1]。また東らは、「わ が国における地方紙のデジタル化状況に関する調查報告」において、オンライン公開を行っている紙数 (2016 年末日時点)を調査している[2]。これによると、 2016 年の段階では、回答 47 紙のうち、テキストデー 夕は 40 紙、イメージデータは 22 紙が公開という結果であった。 こうした状況を踏まえ、本研究では岐阜県において地方紙を発行している岐阜新聞社と連携し、過去の紙面のデジタルデータの具体的な活用事例を示すこととした。過去の紙面のデジタルデータの具体的な活用事例が増えてくれば、新聞社側のメリットも明らかになり、記事のデジタル化及び公開が進むと期待できる。 対象とする記事のテーマとして選んたのは、岐阜県にゆかりのある偉人たちである。岐阜県ゆかりの偉人といえば、ユダヤ難民にビザを発行して多くの人命を救った杉原千㽞、横浜市の財界リーダーとして活躍した原富太郎、多治見市出身で人間国宝になった荒川豊蔵、恵那郡岩村出身で女子教育の母といわれる下田歌子、戦国武将では斎藤道三、明智光秀など歴史の教科書にも名前を残した県ゆかりの偉人達が数多くいる。 こうした偉人達の中から、岐阜県や我が国の経済・文化の向上に寄与した 9 人を取り上げた。過去の報道記 事や写真からこれらの人たちの想いや人となりを調査し、文献やフィールドワークによって得られた知見を追加して地域学習教材『報道記事から見る岐阜の偉人たち』を作成したので報告する。 研究の実施にあたり、大学の研究者と企業の関係者が手を携えて共同研究をすることができたのは、有益なことだった。 ## 2. 学術的背景 時実によれば、欧州における新聞記事のデジタルデータ化は 12 か国が参加した Europeana Newspapers プロジェクト(2007-2013)によって大きく進んだ[3]。 これにより1800万頁の紙面がデジタル化された。欧州における新聞発刊の歴史は 1605 年にさかのぼるが、各国で刊行される新聞は、欧州の歴史と文化を記録する貴重な資料となっている。米国においては全米デジタル新聞プログラムにより 1020 万頁がデジタル化され、オーストラリアではオーストラリア国立図書館が中心となり新聞記事のデジタル化を進めている。 こうした新聞記事の利活用について、米国では Chronicling America Data Challenge というキャンペーンが行われている。これは、新聞データの創造的な活用に対して助成を行うもので、小学生も対象としている。教育現場での活用事例としては、ノース・テキサス大学が記事データを活用した教育用コンテンツを提供しており、月に 3000 のアクセスがあるコンテンツもある。アイオワ州では 2013 年に、中学・高校生を対象に Chronicling Americaを勉強のために使いこなすためのワークショップを開催している。ハワイ大学では、 ハワイの歴史についての iBookを作成して無料で公開している ${ }^{[4]}$ 。こうした地方紙のデジタルデータの活用における課題として筆者は教育利用に注目した。地方紙に揭載された豊富な地域情報は、览童の地域学習に最適な教材である。学校教育に新聞を教材として利用する事例は数多く存在する。が、岐阜新聞に限れば、創刊以来 140 年にわたって蓄積されてきた新聞社のデータベースを研究者が直接利用した事例はない。地方紙の活用に関しては、新聞社単独ではなく、地方人材育成や地域振興における役割を果たすことを求められている地方大学との連携も大きな課題である。 ## 3. 先行研究 本研究に関連の深い研究は以下の 2 例である。 1 例目は時実の「米国・オーストラリアにおける新聞記事デジタル・アーカイブ全米新聞デジタル化プログラム (National Digital Newspaper Program: NDNP) と Australian Newspapers Online - Trove」である。時実はこの研究において、米国及びオーストラリアにおける新聞記事デジタルアーカイブの現状を調查し、両国における記事データの活用について、教育現場での活用を含めて報告している[4]。 2 例目は平野らの「我が国における地方紙のデジタル化と活用の促進に向けた課題抽出: 法制度的・倫理的、社会的、技術的、経済的・制度的な課題について」 である。平野らは地方紙のコンテンッの活用方法として、歴史教育など教育利用について述べ、その際の課題として、新聞社と地方大学の連携が必要だと述べている[5]。 上記の先行研究から、筆者は以下の 2 課題に注目した。一つ目は新聞記事データの教育利用、二つ目は地方の新聞社と大学の連携である。そこで、時実が指摘した米国及びオーストラリアでの教育現場での活用事例を参考に、地方の新聞社と大学が連携し、地方紙デジタルデータの教育利用について実践的に研究することとした。 学校教育に新聞を教材として利用する事例としてまず挙げられるのは NIE(Newspaper in Education)である[6]。NIEは、新聞を学校に提供するだけでなく、新聞に載っている写真から物語をつくる、新聞で報道された「人」から人間としての生き方や努力を学ぶ、 テーマを決めて新聞記事を集め見出しや感想をつけて 「スクラップ新聞」を制作するといった取り組みを支援している。 また新聞社と大学の連携事例としては、神戸新聞社と神戸大学、中日新聞社と名古屋大学、北海道新聞社と北海道科学大学、信濃毎日新聞社と信州大学、岐阜新聞社と朝日大学などがあるが、いずれも新聞社が持つ情報発信力と大学が持つ研究・教育リソースを包括的に連携させて地域に貢献することを主たる目的としたものである[7-11]。 高知工科大学は高知新聞社と連携し、初年次教育の取り組みとして、文章の書き方の指導とともに新聞投稿の機会の提供を受けている ${ }^{[12]}$ 愛知教育大学では、教師の読解力・表現力を高めるために、教員免許更新講習に新聞社の協力を得て NIE 講座を開設した $[13]$ 。 静岡大学教育学部熊野研究室は、平成 18 年度より静岡新聞社・静岡放送が周年事業として行った「静岡かがく特捜隊」を連携プロジェクトとして参加した。 この事業は子どもたちに勉学や化学を好きになるきっかけを与えることを目的としている[14]。 これらの連携事例と本研究との違いは、新聞社が蓄 積してきた記事データベースを直接研究者が利用して教育に活用するという点である。岐阜新聞社のご好意で、新聞社内部のデータベースを利用することができたおかげで、記事の詳細検索、スタッフの助言、関連情報の入手が可能となった。 ## 4. 研究組織 新聞記事のデジタル化が進む中、費用対効果など新聞社の抱える課題は大きい。そこで、地方新聞記事のデジタルデータの利活用について、大学と企業、資料のデジタル化に詳しい研究者と報道に詳しい新聞社の関係者が手を携えて、共同研究をすることを筆者が提案した。それを受け、研究者及び研究協力者からなる実行委員会を立ち上げた。実行委員会のメンバーは以下の通りである。 【岐阜女子大学】 丸山幸太郎 (地域文化研究所長)、三宅茜巳、辻公子【岐阜新聞社】 谷重耕平 (営業局長)、一川哲志 (論説委員)、桑原克全 (プロモーション室長)、佐藤久美(プロモーション室)、渡辺芳久 (営業局管理制作部長待遇) 筆者は、2000 年頃より、科学研究費助成事業の支援を得て地域資料のデジタルアーカイブ化に関する研究を進めてきた ${ }^{[15]}$ 。共同研究者の丸山幸太郎は岐阜女子大学地域文化研究所所長として岐阜県の自然・歴史・民俗文化の調査研究及び地域出身の人物の業績調查と教材化に、辻公子は同所員として地域資料の調査・収集・整理・目録化に携わってきた ${ }^{[16]}$ 。岐阜新聞社の桑原克全は事業部長として出版に携わりその後名古屋支社長をつとめた。一川哲志は記者歷 40 年、報道部長及び論説委員をつとめた。谷重耕平は取締役営業局長として経営企画の中心的役割を担っている。 2019 年 7 月 18 日に、第一回実行委員会が開催され、研究計画の概要、具体的な研究対象者、データベース検索の概要、テキスト教材の開発案、今後の協力体制、役割分担などについて合意形成がなされた。主な役割分担は、研究者が調查・執筆、新聞社が資料の提供・取材協力・著作権処理である。その後は適宜必要に応じて必要なメンバーが集まり、合意を経て進めた。 ## 5. 研究方法 岐阜新聞社は、1881(明治 14)年の創刊以来、岐阜県に根ざした地域情報をきめ細やかに提供している。地域との絆を強めるために、小学生・中学生・高校生を対象としたフリーペーパーの発行も行っている。発行部数(日本 $A B C$ 協会調查)は 17 万 2896 部 (朝刊、2017年 9 月現在)であり、創刊以来現在に至るまでの記事はデジタル化されており、活用することができる状態にある。この様な地域に根差した新聞社と連携することは、岐阜独自の教育ツールを開発するうえで有用である。岐阜新聞は、岐阜県立図書館の新聞記事データベースを利用することにより、記事のタイトルなどのキーワード検索はインターネットを通して、一般的に検索することができる。一方、記事そのものへのアクセスは、2019年9月の時点で、岐阜新聞社内、岐阜県立図書館内、岐阜市立図書館内の 3 か所において許可されている。一般に利用できるデータベースは両図書館のものだが、これはキーワード検索と記事検索に対応しており、いずれも紙面の PDFを閲覧することができる。 予備調查として、岐阜新聞データベースを用い、岐阜の偉人たちに関しキーワード検索を行った。ただし、 キーワード検索が可能なのは 1980 年代の記事までである。それ以前の記事はキーワード検索ができない。 予備調查の対象としたのは以下の 37 名である。 ## 【予備調查対象者】 村国男依、武藤山治、兼氏・兼光・兼元、原富太郎、夢空疎石、川合玉堂、快川紹喜、高木貞治、加藤景延、牧野英一、春日局、熊谷守一、円空、森田草平、飛駢屋久兵衛、前田青邨、仙崖義梵、荒川豊蔵、梁川星厳、日比野五鳳、雪潭紹璞、明智光秀、谷口与鹿、斎藤道三、早矢仕有的、古田織部、山本芳翠、佐藤一斎、下田歌子、名和靖、坪内逍遥、津田左右吉、長瀬富郎、篠田桃紅、郷誠之助、矢橋亮吉、杉原千畒検索結果をもとに記事の多宣、記事の利活用の可否、文献資料の多宣、インタビューなど追加調查の可能性などを複合的に検討し、対象者を絞り达んだ。 次に主要な記事を選び記事に関連した場所や人物や事柄について文献調查、聞き取り調查を行い、画像や音声で記録した。調査項目は、業績、生い立ち、学校時代、就職、参考文献、関係性、人柄、影響、年表、 エビデンス、活躍した地域の現状などである。 筆者が執筆を担当した高木貞治の場合を例に上げる。記事データベースを用いて「高木貞治」をキー ワードに検索をかける。ヒットした記事を読み、イベントの告知などの表層的な記事でなく、高木貞治の業績、生い立ち、人柄などについてある程度読み応えのある記事を選択した。同時に高木貞治に関する文献を読み、高木貞治についての理解を深めた。 次に高木貞治に関するフィールド調査を行った。調查の対象としたのは高木貞治の故郷本巣にある高木貞治記念室と記念室を管理する本巣市教育委員会であ る。並行して高木貞治の関係者を探していたところ、姪孫に当たる高橋佳子さんが見つかった。高橋さんを訪問し、聞き取り調査を行い、動画と音声で記録した。高橋さんは子供の頃高木貞治と一緒に暮らしており、新聞には記載されていなかった高木貞治の日常生活、人柄、学問に対する生涯変わら女真摰な姿勢など、貴重な情報を得ることができた。 ## 6. 研究内容 ## 6.1 調査対象者 斎藤道三、明智光秀、古田織部、下田歌子、名和靖、原富太郎、高木貞治、荒川豊蔵、杉原千畒 ## 6.2 使用した記事一覧 & \\ 利用した記事の中で、最も古い記事は高木貞治に関 する記事「神童」で1886年 1 月 7 日に掲載された。最も新しい記事は明智光秀に関する記事「光秀を追って岐阜を知る」で 2020 年 1 月 3 日に揭載された。 2020 年の NHK 大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公が明智光秀であったため、各地で講演会などが開かれ、新聞記事が増えた。岐阜新聞も小和田哲男氏と岐阜新聞社矢島薫社長の光秀対談などを揭載した。 ## 7. まとめと課題 岐阜新聞社には創刊以来の新聞記事が保存されている。記事データベースも整備されており、記事の検索が可能である。記事のテキスト化は継続中であるため、 すべての記事がキーワード検索できるわけではない。 すべての記事がテキスト化され詳細検索が可能になることが望まれる。 岐阜新聞社は記事以外に、多数の画像を所蔵しており、今回の研究にこれらの画像を活用することができた。名和靖、高木貞治、荒川豊蔵に関する画像を使うことができたのは幸いであった。 岐阜新聞社所蔵以外の画像については、外部の組織などの協力を得て、収集しテキストに揭載した。協力いただいたのは、本巣市観光協会、常在寺、実践女子大学図書館等である。古田織部に関する画像は本巣市古田織部展示館にて筆者が撮影した。下田歌子に関する画像は実践女子大学図書館に依頼したところ快く許諾していただいた。原富太郎に関しては三渓園保勝会にご提供いただいた。すでにパブリックドメインとなっている画像については、これを活用した。一部有償で購入した画像もある。関係者が現地に赴き撮影した画像もある。当初使用に関して問題ないと思われていた一部の画像については、使用することができなかったので、岐阜新聞社に保管されている別の画像を使用した。 こうした画像については、粗野な画像でも良いのでネット上で検索可能となることが望ましい。所蔵機関、権利を持つ組織や個人が容易に特定できれば、権利処理に時間を取られずに研究を進めることができる。 本研究の成果に対する岐阜新聞社の評価だが、2020 年 2 月 11 日に開催された「文部科学省私立大学研究ブランディング事業・地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備事業成果報告会」 に社長自らが出席し講演した ${ }^{[17]}$ 。また谷重氏は、地方新聞社の会議「広告土曜会」で本報告書を配布した。地方の新聞社が大学などの研究機関と連携し、今回のような共同研究をおこなうことはあまり事例がない。 どうしたら自分たち地方新聞社も岐阜新聞社のような 連携による共同研究ができるかと参加者は興味深く報告書を見ていたということである[18]。 今後は、岐阜新聞記事データベースを岐阜県内全ての小学校・中学校・高等学校で教育利用できる仕組みを作り教育利用を進めて行きたい。 岐阜女子大学と岐阜新聞社が連携することによって成り立った研究となった。研究を進めるにあたり、両組織にコーディネーターとなる人材が存在することが重要だと感じた。また、組織が違えばルールや文化も違うので、互いの組織のルールや文化を双方が尊重しあうことが肝要である。 ## 8. 謝辞 本研究の推進および教材の執筆・編集・校正に多大なるご尽力をいたたきました岐阜女子大学丸山幸太郎教授、辻公子講師に感謝申し上げます。また、岐阜新聞社代表取締役社長の矢島薫氏、プロモーション室長の桑原克全氏をはじめ、岐阜新聞の関係者の方々に大変お世話になりました。調査と取材にご協力いただきました皆様に心よりお礼申し上げます。 作成した教材『報道記事から見る岐阜の偉人たち』 は、文部科学省私立大学研究ブランディング事業・地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備事業成果報告書 (2019, vol. 1, no. 1, 2020.2.11) として刊行しました ${ }^{[19]}$ ## 註・参考文献 [1] 福島幸宏, 2019年 7 月31日に開催された公開研究会「地方新聞の利活用にむけて—デジタルアーカイブ化と情報デザイン」(東京大学情報学環・福武ホール) [2] 東由美子, 他. 我が国における地方紙のデジタル化状況に関する調査報告. デジタルアーカイブ学会誌. 2019, 3(1), 35-40. [3] 時実象一. 欧州における新聞デジタル・アーカイブ Europeana Newspapers. 情報の科学と技術. 2017, 67(1), 34-37. https://doi.org/10.18919/jkg.67.1_34. [4] 時実象一. 米国・オーストラリアにおける新聞記事デジタ ル・アーカイブ全米新聞デジタル化プログラム(National Digital Newspaper Program: NDNP) とAustralian Newspapers Online-Trove. 情報の科学と技術. 2017, 67(4), 206-210. https:// doi.org/10.18919/jkg.67.4_206. [5] 平野桃子,他. 我が国における地方紙のデジタル化と活用の促進に向けた課題抽出:法制度的 - 倫理的、社会的、技術的、経済的・制度的な課題について. デジタルアーカイブ学会誌. 2019, 3(2), 115-118. [6] 教育に新聞を. https://nie.jp/about (参照 2021-01-23). [7] 神戸大学. https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/partner/daigaku.shtml (参照 2021-01-23). [8] 名古屋大学. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002. 000054100.html (参照 2021-01-23). [9] 北海道科学大学. https://www.hus.ac.jp/hit_topics/2019/08/ 201908223481.html (参照 2021-01-23). [10] 信州大学. http://www.shinshu-u.ac.jp/topics/archive_data/2012/ 08/post-479.html (参照 2021-01-23). [11] 朝日大学. https://www.asahi-u.ac.jp/topics/2014/3229/ (参照 2021-01-23). [12] 井形元彦, 岡花瞳. 初年次教育の実施と評価高知工科大学附属情報図書館, 高知新聞社との連携を生かした新たな形をめざして, 高知工科大学紀要. 13-1, 2016年 7 月29日, p.139-148. [13] 石原舞, 西尾敏正. 新聞社と大学が連令したNIE講座一愛知教育大学における免許更新講習を事例に一. 探究 (22), 2011, 39-45. [14] 岡田拓也, 渡邊治彦, 増田俊彦, 熊野善介. メディアを基盤としたインフォーマル科学教育に関する研究: 静岡新聞社静岡放送と静岡大学教育学部熊野研究室との連携プロジェクト日本科学教育学会研究会研究報告. 2007, 21(6), 13-16. [15]「地域学習資料のデジタルアーカイブ化に関する基礎研究」科学研究費補助事業, 12680227, 基盤研究C, 研究分担者. 2000-2001採択. [16]「長良川デジタル百科事典」. https://gakuen.gifu-net.ed.jp/ -contents/mizubunka/project.html (参照 2021-01-23). [17] 文部科学省私立大学研究ブランディング事業・地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備事業成果報告書. http://digitalarchiveproject.jp/result/result2020/ (参照 2021-01-23). [18] 会議名:広告土曜会. 2020年2月14日. [19] 作成した教材は、参考文献[17]のアドレスよりダウンロード可能です。また、資料請求は筆者 ([email protected]) までお願いします。
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# 企業デジタルアーカイブの動向と 可能性 ## Trends and possibilities of Digital archive in Enterprises 株式会社堀内カラー アーカイブサポートセンター 抄録 : 我が国のデジタルアーカイブは 1990 年代半ばに始まった。当初は美術館・博物館や図書館の収蔵品や有形・無形の文化資源が対象であったが、近年では企業が自社の歴史を対象とした、企業デジタルアーカイブも盛んになっている。本稿では、幾つかの企業の事例を紹介し、企業がデジタルアーカイブを構築する意義と今後の可能性について考える。 Abstract: Digital archiving in Japan was born in mid-1990s. In the early stage, it was targeted for collections of museums and libraries as well as tangible and intangible cultural properties. However, in recent years, enterprise digital archives have also become popular, targeting the history of corporations. In this paper, we introduce several corporate use cases and discuss the significance and future possibilities of building a digital archive for enterprises. キーワード:デジタルアーカイブ、社史、アイデンティティ、ブランディング Keywords: Digital Archive, Company history, Identity, Branding ## 1. はじめに 我が国のデジタルアーカイブは 1990 年代半ばに始まった。当初は美術館・博物館や図書館の収蔵品等の文化資源が対象であったが、近年では企業が自社の歴史を対象とした、企業デジタルアーカイブも盛んになっている。企業ごとに事情や体制は異なるが、その目的には通念するものがある。本稿では、幾つかの企業デジタルアーカイブの事例紹介を中心として、企業がデジタルアーカイブを構築する意義と今後の可能性について考察する。 ## 2. 企業デジタルアーカイブの目的と対象資料 2.1 企業デジタルアーカイブの目的 創業理念、経営理念、自社の歩み等の自社のDNA とも言える企業文化を整理し、ステークホルダーに対してアカウンタビリティを向上させることを通じて、社業を発展させることを目的として各企業がデジタルアーカイブに取り組んでいる。ここからは、5つの企業の事例を紹介する。 ## 2.2 企業デジタルアーカイブの実際 ## 2.2.1【事例紹介 1】花王株式会社 花王株式会社は、約 60 年前に 70 年史編纂のために作られた社史編纂室を社史刊行後も解散せずそのまま継続し、現在はコーポレート戦略部門企業文化部花王ミュージアム・資料室として、専従社員 7 名、派遣社員 3 名、ミュージアムのアテンド担当 3 名の体制でアーカイブズを運営している。2006 年 10 月に完成したミュージアム ${ }^{[1]}$ は、(1)清浄文化の伝統と歴史の公開、(2)花王グループ社員の求心力センター、(3)自社の今の姿を的確に伝えるコミュニケーションセンター、 を目的に設立され、今年で 15 周年を迎えた。企業ア一カイブとしては比較的早い 2007 年からデジタルアー カイブに着手し、これまで商品ポジフィルム、ポスター、新聞出稿広告、ニュースリリース、社内報、新製品紹介資料等をデジタル化してデータベースに登録し、社内外からの問い合わせに積極的に活用している。 この仕組みの構築によりアカウンタビリティが大幅に向上し、コロナ禍の在宅勤務下でも支障なく、データを即座に提供できる環境が整備されたため、社内での信頼関係作りにも大きく貢献している。資料の受け入れに関しては、新製品発表と同時にニュースリリースを取得し、データベースに登録する流れができており、営業部門の支援にも役立てられている。また社員教育の面では、新入社員の他、海外拠点で採用されたキャリア社員に向け、グループとしての一体感を醸成する ための社員研修にも有効に活用されている。ミュージアムはここ 1 年以上閉館しているため、見学はできない状況にあるが、これを新たなチャンスと捉え、Live 配信といったリモート通信手段で、国内のみならず今まで来られなかった海外の人への公開等、デジタルアーカイブの新たな活用方法を with コロナの戦略的課題として着目している。 今後、社内に向けては「自社の歴史に興味を持ってもらえる」ように、社外に対しては「花王グループのものづくりへの姿勢を知ってもらえる」よう、“好感度向上を狙う”様々な情報発信方法を検討している。 その一環として、同社の次世代教育支援では 90 年前から「手洗い教室」等の清浄運動を推進し、子供が手洗いについて学ぶ場を与える啓発活動を行ってきたが、コロナ禍の現在、こういった活動にもデジタルアーカイブを積極的に活用する考えだ。 図1花王ミュージアムの展示室 ## 2.2.2【事例紹介 2】キッコーマン株式会社 2017 年に創立 100 周年を迎えたキッコーマン株式会社は、1999 年、創立 80 周年事業の一環としてキッコーマン国際食文化研究センター[2] を設立し、アー カイブズとして現在は管理職を含む 8 名のスタッフで運営している。前身は、1987 年に総務部内に設置された社史資料室で、 20 年、 30 年、 50 年史編纂のために収集した資料を管理・保管することが当初の目的であった。センターの設立趣意は、同社の経営理念である「地球社会にとって存在意義のある企業をめざす」 ために「企業の社会活動促進の一環として位置付ける」 というもので、「外部情報の社内管理及び社史編纂業務の継承を行う」ことが業務分掌規程に明記されている。日々生まれる新しい資料を蓄積するだけでなく、社史に関わる古い資料の収集・保管も重要な使命であり、資料収集の流れとしては、春夏/秋冬の年 2 回の新商品ローンチの際、プロダクトマネージャー室からそのシーズンに出る新商品のサンプルが送られた後、 ニュースリリース、商品画像デー夕と共に紐づけして管理する仕組みができている。またグループ各社に対して、社業に関連する資料は処分前に一報を入れるよう依頼し、受け入れた資料の中から永久保存するものを選別している。これまで、商品ポジフイルム、イベント関連記録写真、施設の外観写真、セールスエイド (カタログ・販促物)、ニュースリリース、映像フィルム等の資料をデジタル化したが、センター内での内製と外部専門業者への委託とをうまく使い分けながら進めてきた。デジタル化したデータを順次データベースに登録することで、問い合わせに対してスムーズに画像デー夕等を提供できる環境が整備され、100 年史編纂に着手した 2013 年頃からは、アーカイブズとしての認知度が高まり、社内外からの問い合わせがさらに増加した。今後は、デジタル化したデータの積極的な利活用を課題として、著作権問題等クリアすべきハー ドルを見据えつつ、社業貢献に向け、デジタルアーカイブされた資産のより効果的な利活用の方法を模索している。現在コロナ禍でセンターが閉館し、外部から見学できない状況が続いているが、リアルとバーチャルを組み合わせたオープンな見せ方ができないか検討を始めている。また業界他社のアーカイブズとも連携し、歴史的背景や当時の生活様相を踏まえた商品分析・比較展示を行う等、新たな企業アーカイブの可能性にも着目している。 図2 国際食分研究センターの展示コーナー ## 2.2.3【事例紹介 3】キリンホールディングス株式会社 2007 年に創立 100 周年を迎えたキリンホールディ ングス株式会社では、1994 年に 90 年史のため作られ た社史編纂室が基になり、2010 年に「社史編纂のみ ならず恒久的にアーカイブズを残して行くこと」を目的としたキリングループアーカイブ室が単位組織とし て設置された。同室は、室長を含めた社員 4 名と時給社員 2 名の 6 名体制で構成される。そのミッションは 「キリングループの経営活動を継続的に正しく記録・保存し、将来へ引き継ぐとともに、それらを活用した 情報発信活動の支援を通して、キリンブランド価値向 上に貢献する」ことで、「アーカイブ資産の活用促進と提言を進め、歴史がブランド価値に結びつく姿をつくりだす」ことを役割として、「『企業イメージを醸成・曇りなく伝達していく』ために、歴史を紐解き、 お客様の人生とキリンをつなげる役割を持つ」ことを目標に掲げている。業務内容は、(1)「収集・保管」、 (2) 「問合せ対応」(3)「活用/発信」の3つに大別され、特に(3)ではこれまで、社外向けにッイッター投稿や Web サイト「キリン歴史ミュージアム[3]」の公開、地域連携等に力を入れてきた。現在はインターナルブランディングに注力し、新入社員のみならず、キャリア採用社員や多くのグループ会社の社員に対し、グルー プの一員としてのアイデンティテイ確立のための社員研修にもデジタルアーカイブを活用している。また、 2001 年から社内のイントラで「キリングループアー カイブズデータベース」を公開し、ニュースリリース、 ポスター、ラベル、CM 動画、需要の高い商品写真等をデジタル化、登録している。デジタルデータはアナログ資料と比較して利活用には有効である反面、安易に消されやすく、働きかけないと流れてこない特性があるため、データを保管しているマーケテイング部やお客様相談室等から積極的なデータ収集を行っている。コロナ禍の業務において、原資料に当たらずとも即座にデータを提供できるデジタルアーカイブの有用性はグループ内でより実感されており、こうした日々の業務の積み重ねは社内外からのアーカイブ室への信頼向上につながっている。昨今の大河ドラマの影響もあり、キリングループアーカイブズへの関心は益々高まっており、グループでは今後も引き続きデジタルアーカイブを活用した情報発信に積極的に取り組んでいく考えた。 図3 キリングループアーカイブズの画面 ## 2.2.4【事例紹介 4】株式会社ファンケル 創業 40 周年を迎えた株式会社ファンケルのアーカイブズはSDGs推進室に所属する資料室が担っている。設立のきっかけは 2005 年、「 25 年史」を編纂する際、「15 年史」に用いた資料を従業員から再度借りようとしたところ、既に捨てられてしまったことにある。簡単に歴史が消えてしまう」焦りから、「資料室」は、 ファンケルグループおよび創業者の資料を収集・保管・管理し、資料を通じて従業員への理念啓発を目的に、2006 年に開室された。創業理念「正義感を持って世の中の「不」を解消しょう」、企業理念「もっと何かできるはず」に立脚した事業展開を行うグループの足跡を記録・保存し公開することで、従業員が進むための道標となることを目指している。担当は、専任 6名、兼務 3 名の体制で運営している。デジタル化をした資料は、(1)日々各組織から送られてくる「商品」 や「パンフレット」類、(2)「創業時の手書きの売上表」等希少性が高い資料、(3)「朝礼集」等参照頻度が高い資料等である。資料は全て、2019年から稼働している「資料・記録検索システム」に登録している。本システムにより、即座に画像を取り出せるため各組織からの問い合わせに迅速に対応できるようになり、グループの事業活動に役立てられている。また社内の教育部門とも連携し、新入社員、中途入社社員、店長への社員研修を行っているが、コロナ禍でリモート研修が中心のため、デジタルアーカイブされたデータを活用している。また、各組織から資料を受け入れる仕組みについては、お客様に提供する「商品」や「情報誌」等の資料は提供ルートが構築されている。一方、社内資料の収集は課題となっているため、今後各部門に対して保存年限を過ぎた資料は廃棄する前にひと声かけるように働きかける予定だ。現在創業者が第一線を退き、朝礼や社内報を通じて生の声を聞くことができなくなった。徐々に、創業者を知らない従業員が増えていく中、創業理念としての DNAを残し、グループのアイデンティティを醸成するための「資料室」の役割は日に日に重要になってきている。 2020 年には約 1300 冊に及ぶ創業者等の写真アルバムの整理・デジタル化事業にも着手した。今後は、資料の収集方針・評価基準を設けて残すべき資料を確実に保管できるようにしていく。また、各組織が保有する資料の実態調查を行い、資料の受け入れルートの体制を強化していく。ファンケルグループは、 40 年の短い歴史ながらも、企業文化を大切にする企業風土が確立されている。資料室では、「より多くの従業員にアーカイブズの価値を知ってもらい、将来、資料をより積極的に活用する 方法を、会社全体で考えていければ面白い」と、より効果的な活用の余地があると考えている。 図4 資料記録検索システム画面 ## 2.2.5【事例紹介 5】株式会社サンケイビル 2021 年 6 月に創立 70 周年を迎える株式会社サンケイビルでは広報室がアーカイブズを担当し、管理職を含む 3 名で運営している。業務分掌規程では、(1)企業広報活動、(2)企業広告活動、(3)CSR活動となっており、会社案内、社史、Web サイト、パンフレットの制作や外部への情報開示等の業務で、資料をシームレスに収集できる環境にあることから、広報室がアーカイブズ担当の部署となった。資料の収集に関して、(1)元々所有していた土地に建物を建てた写真は永久保存、(2)開発後、売却した建物の写真は旧物件として継続保管、 (3) REIT ${ }^{[4]}$ 等不動産の証券化により結果売却してしまった物件の写真も継続保管、といったようにルール化されている。不動産業では物件の竣工写真等のビジュアルが非常に重要な資料になる。これらの写真は、従来はポジフィルムや紙焼き写真で記録されていたが、2002 年頃には完全にフルデジタルの画像データで記録されるようになり、現在ではすべてボーンデジタルデータとなっているが、2002 年より前に作成された過去のアナログ写真の経年劣化、利活用、次世代への継承等が数年前から課題になっていた。このため、 2020 年度にすべての過去の写真資料のデジタル化を完了し、2021 年度前半をゴールにしてデータベースの構築にも着手している。 4 年前の構想段階から、社内の各部署と検討を重ねた結果、70 周年にあたり「社史をきちんとまとめよう」とのコンセンサスを得て、 このタイミングで資料のデジタルアーカイブを行うこととなった。 今回のデジタルアーカイブ化により、(1)キーワード検索により誰でも簡単に必要な画像を取り出せる、(2)自社の歴史を整理することで社員のアイデンティティ醸成、(3)デジタル化後の資料は外部倉庫に預けることにより社内保管スペースの圧縮、等の効果が期待される。アーカイブズを社員教育に活用することにより、過去からの DNA を共通認識として理解してひとつのマインドを共有することが可能となる。さらに社外に積極的・戦略的に情報発信する際にデータベースを活用することで、新たなファンを発掘するための PR 活動への活用も目指している。 図5 ビジネスアーカイブの効果 ## 3. 企業デジタルアーカイブの対象資料 主にデジタル化される資料は、(1)フィルムや紙焼き写真等の写真資料、(2)社内報、ポスター、新聞出稿広告、ニュースリリース等の紙資料、(3)映像や音声などの視聴覚資料の3つに大別される。今回の事例を見ると、特に利用頻度が高く且つ経年劣化により画像消失の危険性がある写真資料は、優先的にデジタル化されており、各社に共通している傾向といえる。また、デジタル化したデータを即座にデータベースへ登録するという流れも共通しており、データをキーワード検索で簡単に取り出せるシステムの構築は、デー夕の利活用に必須であるということが改めて浮き彫りになった。 ## 4. 企業デジタルアーカイブの問題点 各企業のデジタルアーカイブが抱える問題は様々であるが、ここでは“ヒト”の問題を考える。企業アー カイブズでは、元々全く異なる部署から人事異動によりアーカイブズへの配置換えとなるケースが多く、保存・目録作成・デジタル化等の、アーキビストとして必要とされる専門的知識を有していないことから、人材の育成が課題となる。この点は、企業史料協議会 ${ }^{[5]}$ に参加して他の企業と情報交換を行ったり、毎年 11 月に開催されるビジネスアーキビスト研修講座 ${ }^{[6]}$ に参加したりする等して、基礎的な知識を習得するケー スが多いようだ。また、非常に短いタームでスタッフが変更される上に、充分な引き継ぎ期間を設けられない点も問題であるが、この点については、データベー スシステムを構築し、デジタル化したデータは即座にシステムに登録するという流れをルール化することに より、同じ資料を何度もデジタル化してしまうといったムダを排除している。 ## 5. 企業デジタルアーカイブの意義 専門のアーカイブズ部署のみならずミュージアムも併設していたり、他の部署がアーカイブズを兼務していたり、各企業によって組織の在り方や要員体制は様々である。しかしながら、自社のブランデイングのために企業デジタルアーカイブが有効であるという点は、各社に共通した認識であった。また、コロナ禍において、ヒトとヒトとの接触機会が減っているが、その様な場合にもデジタルアーカイブが構築されていれば支障なく問い合わせ対応ができたり、Webを通じての情報発信が容易になったりする有効性についても、共通理解されていた。 ## 6. おわりに 本稿では、筆者が所属する株式会社堀内カラーのデジタルアーカイブ支援事業に携わる中で知りえた、各社のデジタルアーカイブの取組について、その知見をまとめさせていただいた。貴重な時間を割いて取材にご協力いただいた各社のアーキビストの皆様に御礼申 し上げる。 自社がどの様な理念で創業し、どこから来て、どこに向かおうとしているのかといった企業文化を経営資源として捉元、これらの資源をデジタルアーカイブ化し、戦略的、積極的に情報を発信することにより、他社と差別化すると言う考えは共通した認識となっている。企業デジタルアーカイブは、歴史史料館(社員教育)、ショールーム (PR)、CSR 活動(ファン拡大)、 ブランディング (収益拡大) 等への効果が期待できる。今後、企業価值向上に向けた、企業デジタルアーカイブへの取り組みは、ますます盛んになっていくだろう。 ## 註・参考文献 [1] 花王ミュージアム。花王すみだ事業場内にある、花王の歴史と清浄文化をテーマとした展示施設 [2]「発酵調味料・しょうゆ」を基本とした研究活動、文化・社会活動、情報の収集・公開活動などを目的とした施設 [3] キリン歴史ミュージアム https://www.kirin.co.jp/entertainment/ museum/ (参照 2021-04-14). [4] real estate investment trust、不動産投資信託 [5] 企業史料協議会(Business Archives Association) https://www.baa.gr.jp/ (参照 2021-04-14). [6] 企業史料協議会が主催する我国唯一のビジネスアーキビス卜対象講座 https://www.baa.gr.jp/ (参照 2021-04-14).
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# ライオン株式会社におけるアーカ イブズのデジタル化の取り組み Digitization of Archives at Lion Corporation 松村 伸彦 MATSUMURA Nobuhiko 元ライオン株式会社社史資料室長、現企業史料協議会理事 } 抄録:ライオン株式会社は、1891 年(明治 24 年)10 月 30 日に小林富次郎商店として創業以来、2021 年で 130 年を迎える。その 歴史資料のデジタル化の経緯を振り返り、一般企業におけるアーカイブ業務にデジタルを活用する効果と意義を考察し、他の企業 のアーカイブ業務への参考となることを願う。今回改めてこれまでの活動を振り返る中で、シンプルな表ソフトを活用しながら、独自の考えを持ち、地に足の着いた活動を通じて経験値を重ね、次に繋いで行くことの重要性を再認識した。 Abstract: Lion Corporation will celebrate its 130 th anniversary in 2021 since it was founded as Tomijiro Kobayashi Shoten on October 30,1891. We hope that it will serve as a reference for the archiving business of companies, looking back on the history digitization of historical materials and significance of using digital for archiving business in general companies. Looking back on the activities so far, I reaffirmed the importance of connecting too much experience through activities that have their own ideas and set foot on the ground while utilizing simple table software. キーワード : ライオン(株)、デジタル、データベース Keywords: Lion Corporation, Digitization, Database ## 1. はじめに ライオン株式会社は、1891 年(明治 24 年)石鹸およびマッチ(燐寸)の原材料取次ぎ業「小林富次郎商店」として創業以来、人々の幸福と生活の向上に寄与するため、口腔衛生や暮らしの清潔に役立つ製品の提供とともに、多様な啓発活動を通じ、人々のより良い生活習慣づくりに取り組んでいる ${ }^{[1]}$ その中でライオンアーカイブズの歴史は、社史編纂室の名称で昭和初期から社内報に記述があり、1935 (昭和 10)年に最初の社史である「歯磨の歴史」を発行。以来、社史編纂室(~1992 年)、年史センター (1993~2004 年)、史料センター(2005~2009 年)、社史資料室(2010~2019年)、LIONアーカイブズ(2020 年)と名称を変えながら活動を継続して来ている。 今回、その中で、私自身が担当した 20152019 年におけるデジタル化への取組みを中心に、これまでの経緯について3 期に分けて振り返る。 ## 2. デジタル化開始前(~2006 年) ## 2.1 情報の整理と台帳化 保管されてきた文書や紙資料を個別フォルダに整理し、特に製品関連資料は発売当時の営業資料や販促物、社内報の記事等を製品別に個別に封筒にまとめ、それ ぞれ管理番号を付与、一覧表に整理する作業が地道に進められていた。 これらの現物資料の整理にあたることから得られた情報と知識の集約は、「仮想ライオン企業博物館」(1997 年 1 月 1999 年 8 月) ${ }^{[2]}$ として月に 1 度社内に配布され、また「ライオン今昔物語」(2005 年 1 月〜2009 年 12 月)として社内報の裏表紙への定期掲載を行った。 また、社内の史料展示コーナーや受付ロビーを活用しての企画展示、企業 web サイトへの揭載等を行った (図 1)。 この時期に整理された資料とその一覧表が、その後のデジタル化への取組みの土台となる貴重な情報源となった。 ## 3. デジタル化への取組み開始(2007〜2013 年) 3.1 扱いやすいデータベースの整理 この時期に最も注力したのは、誰でも使いやすいデータベースの構築である。それまで使用していたデータベースを ACCESS から Excelへ変更し、分類方法を年次別から製品部門別に変更してより利便性を高め、史料の形状から「物品」「書籍」「新聞広告、ポスター」「映像」「文書類」等に分けて一覧表化し、出来るだけ多くのメタデータを記載して検索時の精度をよ I 第五展示室プロ野球とライオン 丁口野球 (戦同編) 図1 企業サイトへの掲載例 り高めることに注力した。 Excelに変更した理由は、その扱いやすさとシンプルな一覧表形式にすることで、ソフトに慣れない新担当者でも理解し易く、検索結果の周辺情報にも目配りできる点と考えている。 この時期に構築された一覧表が、手を加えられながら現在まで引き継がれ、情報量も充実し、様々な依頼への対応に対し非常に役立つ利用価値の高いものとなっている。 しかしながら、数多くのメタデータと共にデー夕ベース化するという事は現物をしっかり調査、観察なくてはならず、先人達の苦労と業績を知るとともに、 その継続には多くの時間と手間を要することも事実である。 ## 3.2 写真・紙面情報のデジタル画像化 加えて、製品および物品類のデジタル写真撮影による画像データ化に着手した。これは、物品史料等の内容を机上の PC 画面で確認できるようにすることが目的で、担当者がデジタルカメラで撮影し、また 2006 年にフラットベッドスキャナー[3] を購入し、それまでの販売資料用の製品写真(紙情報)等の画像デー夕化を開始した。 更に、2007年に A-1 版まで印刷できる大型プリンター[4]を購入し、デジタル化された資料を基にポスターを作成して、本社史料コーナーにて企画展示を開催した。 また、その際の展示パンフレットや、社内展示コー ナーにて配布している小冊子「ライオン製品の歴史」 (図 2)の作成等にも、多くの製品資料がデジタル化されていたことで編集作業が進め易くなった。 ## 4. デジタル化取組みの拡大(2014 年〜現在) \\ 4.1 目的の明確化〜後世への保管・伝承のためのデジ タル化 まず、“知りたいなら自分達で確かめる”を合言葉に、物品類とポスターの写真撮影、社内報等のスキャニングに積極的に取り組んだ。 過去の看板や記念品等の物品類は、Excel データベー ス上には文字での記述に留まり、実物がイメージしにくい状態であった。そこで改めて全ての物品史料類について実物確認とデジタルカメラ撮影を行い、Excelデー タベース上に画像データのリンクを張ることとした。 また、ポスター類についても、現物を活用できる状態で保存しながら、画像データはそのポスターがどんなものかが分かれば十分と割り切り、事務所の壁にポスターを張り付け、実物を確認しながら自分達で写真撮影を行ったが、撮影時のカメラの距離や角度などから映像の縦横比が合わず、調整に苦労した。 尚、物品類の撮影に際しては、以前から社内で使っていた撮影セット ${ }^{[5]}$ に加え、史料保管倉庫でも手軽に撮影ができるよう撮影用の簡易スタジオ[6] を購入。看板などの大型の史料は撮影用の背景スクリーンを倉庫内に簡易設置して撮影。更に旗や横断幕など大き過ぎて広げることが出来なかったものは、その全体がイメージできるよう数枚に分けて撮影するなど、苦労しながらも保管されている、ほぼ全ての物品類について、 確認と写真撮影を行った。 尚、これらの画像については、画質の確保用には tif 形式、閲覧用には jpg 形式で社内の共通ストレージに[7] 保管しており、1つの個別資料として管理番号を付けて保管する場合は DVD 化し、日頃の作業には外付けHDD を用いて作業の利便性を保っている。 レコードやカセットテープ等の音声データについては、録音の質にはこだわらず、「どんな歌なのか?」 の確認のため、自宅のステレオレコーダーにてデジタル化を行った。 また、昭和 2 年から発行されてきた社内報や、お得意様向けに配布してきた情報誌等、合わせて約 1500 冊の社内制作の冊子が存在したが、複数の保管があるものはページを分解して文書用の高速スキャナー[8] で読み取り、その際に OCR 処理をすることで中身の検索も可能なライブラリとしてまとめることができた。それにより、様々な問い合わせへの対応においてその時代背景等も調べやすくなり、当時の社員の息遣いが感じ取ることができる貴重な資料として大いに役立っている。 一方、自分たちでは対応できなかったものの例として、映画フィルムやビデオテープ等の映像資料、明治期からの新聞広告等紙の傷みのひどいものや大型のポスター等、素人では困難が伴うものは、費用の許す範囲内で社外の専門業者へ委託した。 また、当社の創業者初代小林富次郎が愛用した「聖書」が残されており、その殆ど全てのページに富次郎自身のメモ書きが残され、創業者の人柄や考えが推察されるライオン DNAの原点ともいえる貴重な資料である。この聖書については痛みが激しくぺージ数も多かったことから、外部の業者に委託をしてデジタル化を行い、原本は専用の保存箱を特注し厳重に保管・管理することとした。 ## 4.2 デジタル化から得られた情報、経験 この様な一連の活動から得られた新たな発見としていくつか例を紹介する。 まずポスターについては、第二次世界大戦中や戦後に当社が発売していたマーガリンや奨油のポスターを発見、これまで社史ではたったひとつの単語でしか残っていなかった製品の姿が明らかとなった。また現在では事業から撤退し、当時の担当者も残っていない生理用品関連の問い合わせに関しても迅速にその関連ポスターと情報を提供することが出来、企業アーキビストとしての存在価値が示せる一件となった。 音声資料においても、ライオンが主催していた学童歯磨き訓練大会時に歯磨体操の歌として使用されていた「くまの子りすの子」や「ライオン小夜曲」等について室員全員が確認でき、その後の社外からの史料調査依頼に対し、多くのメタデータと共に正確に情報提供することができた。 一方、映像資料に関しては、資料一覧表上のタイトル名やメタデータの記載の不足や誤りという問題が発覚した。外部からの依頼で講演をする際に提出した映像フィルムを確認すると、タイトルと全く異なる映像が収録されていた。一方、その映像の中には、これまで使い方や使用場面が分からなかった歯みがき指導ツールが実際に使用されている映像が収められており、長年の疑問が解ける思わぬ収穫につながった。それらは、改めて史資料を自らの目で確認することの重要性を再認識すると共に、デジタル化することで手軽に確認出来ることの価値を実感する機会となった。 このように、文書資料や画像、映像、音声等を、社内的価值、保存状態、利用頻度等の観点からデジタル化手段を分け、出来ることは自分たちで対応することで、資料としての閲覧性、活用性を高め、生きた情報として活用することが可能となり、同時に資料現物に人が触れることによる棄損リスクを減らし、史料の安全な保存にも有効となった。 尚、現在デジタル化されている史資料の数量は表 1 の通りとなっている。 表1 保管資料点数(2021年2月時点 58,385点) ## 5. 目的別のデータベースシステムの使い分け ここまで、どのような資料をどのようにデジタル化 し、どのように活用できたか、を紹介した。ここでは、情報の活用性を高めるために、どの様なシステムを活用しているかを紹介する。 ## 5.1 「業務年史資料」収集・保管業務 「業務年史資料」とは、社内各部署の前年の活動内 容をトピックスとして翌年に報告してもらう情報である。将来の会社の正史を編纂する際、情報の骨子を支える一次資料になることを想定した業務資料であり、「ライオン 120 年史」を発行した 2014 年度分から開始した。 その手順としては、 1 月:前年の業務年史資料の提出依頼を社内発信 2月:各部署から提出資料を回収 3 月以降:情報入力・保管、写真等付帯資料の取り纏めとなる。そして集まった情報は、情報の管理・活用に特化しデータベースシステム ${ }^{[9]}$ に登録保管している(図 3)。 図3業務年史資料用のデータベース画面イメージ (大日本印刷株)「デュアルシーブ」) また、登録した情報の中から社内の主な出来事をダイジェストとして表にまとめ、将来年史編纂をする際の年表の材料として準備をしている。 ## 5.2 画像資料データベースの活用 保管した製品や物品、ポスター、広告等の画像デー 夕活用の度合いを高めるべく、2014 年には画像デー夕管理に実用的なデータベースシステム $[10]$ を導入した。 これは、キーワード検索することにより登録した画像データを、製品・物品・ポスター・販促資料等を含め横断的に付帯情報と共に画面表示できるシステムであり、画像資料を軸として視覚的に情報を把握しやすく、より幅の広い活用を目指して導入したものである。例えば「ライポン $\mathrm{F}\rfloor$ で検索すると、このように製品・ ポスター・販促史料・関連史料等を一度に確認することができる(図 4)。 システムは現在もデータを蓄積中で、今後さらなる利用拡大が期待される。 ## 6. データから情報提供へ(活用事例) 以下に代表的なデジタル情報の活用場面を紹介する。 図4 画像資料データベース画面イメージ (株堀内カラー「スマート画像データベース」) ## 6.1 史料展示コーナーでの活用 デジタル化された写真や新聞広告、ポスター等の画像デー夕は本社 1 階にある社史展示コーナーにて開催する「企画展示」等において、A-1 サイズのカラー印刷が可能な大型プリンターでポスターや展示パネルを作成し、展示の際に活用している。 ## 6.2 企業サイト、イントラネット等での活用 ライオンの企業サイト上では歴史資料を公開し、イントラネットでは社内教育プログラムとして「ライオンの歴史」等複数の講座を提供する等の活用を図って いる。特に、社内教育プログラムは多くの社員の方に受講され好評を得ることができた。 ## 7. おわりに 上記の通り、ライオン(株)のアーカイブズ業務におけるデジタル化は、アーキビストが活用するための基礎作りとして「ビジュアルで確認しやすく、検索しやすい保管管理」を目的として進めた。 今回改めて振返ってみると、その活動は諸先輩達の地道な資料整理が土台となり、それらを出来る限り自分たちの目、手足で確認し、吸収することで、会社の歴史、文化、風土を受け継いで行こうという努力であり、そのことが会社の DNAを伝承していく上で企業アーキビストが果たせる大切な役割なのではないか、 という想いを強くした。 今後は、デジタル情報の活用に向けて進化させるフェーズへの展開が期待されており、次のステップとしては、コーポレートブランディングやインナーブランディングへ、「ライオン DNA 継承ストーリー」として発信していくことが期待されていると聞く。そのため、ライオンでは本年度組織の変更を行い、従来は総務部門に置かれていたアーカイブ担当部署を情報発信の更なる精度アップと質の向上を目指して広報部門に位置づけを変えることとなった ${ }^{[11]}$ また、ライオン侏は 2023 年度に本社移転を計画中であり、その際にはペーパーレス化も一層推進され、 ボーンデジタル情報のアーカイブも迫られてくる。今後も更に進んでゆくデジタル化の技術やツールを、活用側の目線でよく吟味し、地に足のついた活用を検討 し、歴史の保存、発信、伝承をしてゆけるよう、ライオンの企業アーカイブが継承されることを期待する。 ## 付記 本報告は、企業史料協議会の主催する第 24 回ビジネスアーキビスト研修講座において報告した内容を基に、現状のデータに改め、一部内容を加筆したものである。 ## 謝辞 本稿執筆にあたり、多大なるご協力を頂きましたライオン(株)コーポレートコミュニケーションセンター アーカイブズ室の皆様に、心より感謝申し上げます。 ## 註・参考文献 [1] https://www.lion.co.jp/ja/life-love/history/ (参照 2021-03-29). [2] 社内報に挿入されたライオンの歴史を解説した冊子 (1997.1-1999.832話、2001.3-2003.9“16話が掲載された) [3] EPSON Offirio ES-10000G [4] Canon iPF6100 [5] 堀内カラーPQスタジオ及びライトスタンド [6] 簡易スタジオ写真ボックス ottostyle.jp [7] 各部署に割り振られている社内オンラインストレージに加え、現在400GBの拡張を行いスキャニングしたデー夕等を保管。 [8] 富士通 ScanSnap iX500C [9] 大日本印刷(株)「デュアルシーブ」 [10] (株堀内カラー「スマート画像データベース」 [11] ライオン, 組織改正 (2021年1月1日付). 週刊粧業. 2020.12.9. https://www.syogyo.jp/news/2020/12/post_029423 (参照 2021-03-25).
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# Activities to proceed digital archiving in Yamaha Motor Co., Ltd. \author{ 和田 \\ 一美 \\ WADA Hitomi \\ ヤマハ発動機株式会社 } 抄録:ヤマハ発動機(株)が取り組んでいる、企業のデジタルアーカイブ活動は、これまで一般的であった企業の創設 100 年など単発の周年事業ではなく、社内で抱えていた広報・記録の写真や映像などの素材管理、利活用に関する課題解決が契機であった。デ ジタルアーカイブ開発に際し、継続的な写真や映像など素材管理に関する社内ルールの制定し業務の標準化を行い、全社的な活用 を図るための啓発活動を実施し、現在・過去の歴史的な映像素材のデジタル化推進し、併せて全世界で活用可能なアクセシビリ ティとユーザビリティの実現に向けたデータベースシステムの改訂を行うことによって、業務効率を上げ生産性を向上させた。 Abstract: Yamaha Motor Co., Ltd has started digital archiving activities as counter measure of assets management problem and less assets utilization among head office and subsidiaries. They proceeded standardization of assets management and new internal rule was set. They also cultivated the rule and instructed how to manage assets. Digitalization of historical assets were proceeded and archived to their database system. The database system was also improved to realize worldwide accessibility and usability, it helps to progress their productivity and their job efficiency. キーワード : 企業デジタルアーカイブ、ヤマハ発動機、映像管理業務標準化、ブランディング Keywords: Company Digital Archive, Yamaha Motor Co., Ltd., Standardization of assets management, Branding # # 1. ヤマハ発動機の概要 「ヤマハ」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか? ピアノや管楽器といった楽器を思い浮かべる人もいれ ば、オートバイや電動アシスト自転車といった乗り物 を思い浮かべる人もいるであろう。元々は「ヤマハ」 のブランド名の由来にもなった、山葉寅楠(やまはと らくす) が 1897 年に創業した 1 つの会社であったが、現在は楽器・音響を中心とした事業を展開する「ヤマ 八株式会社」(図1)と乗り物を中心とした事業を展開する「ヤマハ発動機株式会社」(図2)という2つ の別会社である。私は後者のヤマハ発動機株式会社に 属しており、今回はヤマハ発動機株式会社のデジタル アーカイブ活動を紹介させていただく。 ## * YAMAHA 図1 ヤマハ株式会社のロゴ ## (4AMAHA ヤマハ発動機株式会社は 1955 年にヤマハ株式会社、当時の日本楽器製造株式会社から独立し誕生した。主力のオートバイで培った技術を組み合わせ、当社の事業、製品は多様なかたちで拡がっていった。現在は、前述のオートバイ、電動アシスト自転車以外にも、マリンエンジン、ボート、四輪バギーやスノーモビルなどの乗り物から、産業用無人へリコプター、産業用機械ロボットなどの業務用の製品まで、15の事業を展開しており(図 3)、180を超える国と地域で販売している。製品は、使用される場所、市場において、開発・製造・販売するという基本方針にもとづき、世界各地に生産拠点、販売拠点を持っている[1]。 図3ヤマハ発動機株式会社の15の事業軸 ## 2. デジタルアーカイブ活動開始の契機 企業がデジタルアーカイブ活動に取り組む契機で最も多いのは周年事業と耳にしているが、当社の場合、業務改善の一貫としてのデータベースの改善であった。筆者が製品写真を中心とした写真や映像をアーカイブするためのデータベースシステムの担当になり、本社や販売拠点への展開を任された当時、主に3つの課題を抱えていた。 ## 2.1 システムを使用する事業、使用する拠点の少なさ 世界中からアクセス可能なシステムであるにも関わらず、一部の事業、一部の販売拠点で撮影された写真や映像のみがアーカイブされているだけであり、ほとんどの事業、販売拠点では自分達で準備した写真や映像をそれぞれ個別管理している状態であった。拠点内の共通ドライブで管理されていても、担当者の変更と共に引き継がれることのないまま、写真や映像の内容がわからなくなり、使えなくなる例があった。また管理を業者に委託していたものの、業者内での曖昧な管理により写真や映像が使えなかった例もあった。 ## 2.2 重複する写真準備費用 全く同じ色、型式のモデルが複数の販売拠点で撮影されており、製品写真制作費用が重複して発生していた。創業者の顔写真や創業当時の建屋の写真など、全く同じ紙焼き写真が、使用するたびに何度も電子デー 夕化されていた。電子データ化されたものは管理されることなく放置されていた。 ## 2.3 データベースシステムの使い勝手の悪さ キーワードは完全一致でないとヒットしなかった。海外のシステムで英語環境のため、メタデータが英語入力のみ、日本語は英語に訳して入力、もしくはロー マ字読みでの入力のため、日本語独自のキーワードは特にヒットしにくかった。また、メタデータ項目も少なく、ルールもなく、入力上の制御もないために、情報のゆれが大きい事も検索性の悪さの一因となっていた。使用者每にIDを払い出しており、業務上、写真や映像を使用したい人は ID を登録してからでないと検索できず、また ID はデータベースシステム固有のものであるため、個人に管理を委ねており、ID や PW 忘れでアクセスを諦める人も続出した。 ## 3. 課題解決のための取り組み システムはあるが知られていない、知られていないためほとんど使用されない、中身が薄い、システムを使用しようとしても、使い勝手が悪い、このような状態であった。 これらの課題を解決するため、当社は 2017 年初頭頃から3つの活動に取り組んだ。 ## 3.1 社内ルールの制定、社内ルールの啓発活動推進 事業や拠点の広報・宣伝の担当者は新しいモデルの発売にあわせ、製品写真やイメージ映像を準備し、使用する。担当者は自分の目的で準備し使用するので、 その後、管理しても管理しなくても全く困らない。一部の意識の高い担当者のみそれぞれの管理方法で管理をする。会社資産でもある写真や映像の管理を個人の裁量に委ねてはならず、適切に管理するにはどうしたよいか考えた。社内の正式なルールとすれば、担当者はルールに従い決められた通りに管理するのではないか、と考え、写真や映像を管理するためのルールを社内で正式に制定し業務の標準化を図った。担当は当方 1 人のみであり、かつ他の業務も抱える中で対応した。制定までには上層部への説明も含め、約 1 年かかつた。当社は多数の事業軸、拠点を抱えており、同じ枠に当てはめる事が事実上困難であったため、管理対象とする写真や映像を細かく規定するのではなく、何を管理対象とするか、事業や拠点に委ねる形とした。管理対象電子データ化し既存のデータベースシステムにアーカイブする事とし、これらの業務を確実に遂行するため、各事業や拠点毎に責任者と担当者を設定する形とした。ルールを正式に制定した後は、すべての事業の長と拠点長に、新しく制定した社内ルールの説明をし、自事業、自拠点内で管理責任者と担当者を設定してもらうよう依頼した。管理責任者と担当者が設定されると、それぞれに対し説明会を実施し、何を管理対象とするか、どのようなタイミングでアーカイブしていくか考え、一緒に取り組んでいった。説明会は制定後 1 年間で 100 回以上行った。 会社のルールであるため、担当者手間はかかるが、実際にアーカイブ化まで実施をすると、写真や映像の個別管理をする必要がなくなり、かつ、写真や映像の要望を受けた際の対応の効率化につながる事、ひいては担当者の業務効率化につながる事が少しずつ理解されはじめ、写真や映像のアーカイブ化が進んでいった。 データベースシステムによるデータの中身が充実してくると、写真や映像が必要な場合はデータベースシステムを検索して入手する、という運用が少しずつ社内に浸透していった。全く同じ色や型式のモデルの製品写真が重複して準備されることもなくなった。 ## 3.2 歴史素材のデジタル化推進 2005 年、当社の 50 周年を記念し記念誌が発行された。その際、プロジェクトチームが発足し、歴史的価值のある写真や冊子などが各地から集められ、記念誌に使用された。ところが、記念誌発行後は、写真や冊子などの整理、管理保管の重要性が認識されていたにも関わらず、プロジェクトチームは解散、その後、作業担当者が設定されることもなく、集めれられた資料類は手つかずのままとなり、必要な時必要なものを都度選び、デジタル化している状態となり、かつ、デジタルデータは管理されず放置されていた。 歴史素材のデジタル化推進のため、最初に歴史的観点から使用頻度の高いこれらの資料類を整理しデジタル化を進め、デジタルデータになった素材はデータベースシステムにアーカイブした(図 4)。同時に、本社の広報・宣伝部門や各事業や各拠点に対し、事務所の奥で眠っているデジタル化されていない資料類の提供を呼びかけた。各事業や各拠点から提供された資料類は、資料の種類、製品、年代、等、区分をし、リスト化を進めた。リスト化後は、各事業や各拠点の担当者と相談しながら、どれを優先的にデジタル化するか判断し、デジタルアーカイブを進めるようにした。 図4 第1回浅間火山レース(1955年11月) また業務を進めるにあたり、デジタルアーカイブの基礎を学ぶため、中心メンバーの3人は全員、日本デジタル・アーキビスト資格認定機構の講習会を受講し、準デジタルアーキビスト資格もしくはデジタルアーキビスト資格を取得した。 作業を進める中で、効率化が課題となった。デジタル化作業はすでに専門業者に依頼していたが、それ以外の作業、資料の整理、リスト化、電子データ化後のメタデータ付与、システムへのアップロード作業、これを社内人員で対応しょうとすると、作業がほとんど進まなかったため下記の分業化を進めた。 ・資料を整理、区分しリスト化 ※ ・デジタル化 $※$ ・メタデータ情報の準備 . 単純入力作業 $※$ 社内の歴史に精通していないと作業が難しい社内資料を検索してのメタデータ情報集めを社内の人員で対応し、社外に委託することが可能な作業(※のもの) は社外の業者に委託する形とした。 古い写真や映像であるが故に、社内に情報が全く残っていないものも多くあった。選別の判断のつかないものもでてきた。そこで、当時対象の事業に実際に携わった当社 OB に協力を依頼し、情報を付与してもらう活動を開始した。 ## 3.3 データベースシステムの変更 最初、既存のデータベースシステムを改訂する形を検討したが、海外のシステムをべースとしているため、改訂には限界があった。そこで、当社のシステムへの要望をまとめ、いくつかのシステム業者に検討依頼し、結果、当社の要望に最も近いシステム業者のシステムをべースにカスタマイズを行った。キーワード検索は部分一致でもヒットするようにした。メタデータは 2 倍になるが、日本語、英語併用とし、日本語固有のキーワードでヒット率を高めた。データをダウンロー ドした際、そのデータがどんな代物かを判別可能にし、必須入力項目を満たすために、ファイル名をルール化した。必須入力項目はリスト選択を基本とし、入力情報が同じであれば同一の単語で表現されるようにした。著作権保持者情報や使用エリア、使用期限等を入力できるようにし、誰が担当となっても、使用許諾の判断ができるようにした。システムはクラウド環境を使用したものとし、インターネット環境さえあれば、世界中どこからでもアクセス可能なものとした。ID は社内で使用している社員判別のための ID と同一とし、写真や映像などを探している社員が直接ログインし、直接検索をすることができるようにした。データベースシステムの変更後、システムログイン数は変更前の約 3 倍になった。 ## 3.4 現在までの成果 これら 3 つの活動は発案から実行まで約 3 年かかっており、現在も継続中である。これらの活動を実施することにより、当社での写真や映像などの一元管理が一気に進んだ。過去から現在、そして未来に渡って写真や映像を始めとしたデジタルデータが蓄積され、情報と共に次世代引き継がれる形を整えることができ た。本社のみならず、国内外の拠点から直接検索し、 データをダウンロードすることができるようになった。製品写真をはじめとして、準備されたものが効率的に複数の拠点で活用されるようになった。担当者レベルでは非常に感謝されているが、会社全体でみると、残念ながら非常に評価されにくい活動でもある。会社の利益に直接貢献する形が見えにくいからである。今後も継続的に活動が続けられるよう、本活動の成果を目に見える形に、具体的にはデジタルアーカイブしたものの活用を促進することにも力を入れていかなければならないと感じている。最後に昨年のデジタルアー カイブの活用例を紹介させていただきたいと思う。 ## 4. YamahaDay 当社では数年前より YamahaDay という社内イベントを実施している。ヤマハ株式会社との合同イベントであり、7月 1 日の当社創立記念日には当社にてイべントを企画し実施、10月 12 日のヤマハ株式会社の設立記念日にはヤマハ株式会社でイベントを企画し実施し、両社の従業員がそれぞれ、ヤマハブランドに思いを馳せる取り組みを行っている。昨年も、年初から Heritage というテーマのもと、様々な社内イベントを企画し、準備を進めていた。ところが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響下、社内のリアルイベントがことごとく中止となった。そんな中、各拠点では、急遽デジタルアーカイブしていた歴史素材を活用し、動画を作成し社内公開し、各拠点の歴史がわかる資料を作成、拠点内に配布した。また本社の事務局では当社の歩みが簡単に学ベるイノベーションマップ (図 5) 図5 イノベーションマップ を作成し、本社内はもとより、各拠点に配布した。各拠点では事務所や工場の壁に展示し、高評価を得た。 デジタルアーカイブを進めていたからこそ、急な変更にも迅速に対応ができたのであり、今まで埋もれていた情報も社内に公開することができたのだと考えている。 新型コロナウィルス感染症により、人々の生活様式が一変した。この状況下だからこそ、今まで以上に企業に求められるブランド価値、ブランドの表現が必要になってきている。かつ、社内でも社員 1 人 1 人が自社への誇りを持ち、モチベーションを持って働くことが必要になってきている。社内、社外のブランディング活動に寄与できるデジタルアーカイブ活動を今後も自信を持って継続していきたい。 ## 参考文献 [1] ヤマハ発動機株式会社企業サイト. https://global.yamaha-motor.com/jp/ (参照 2021-04-03).
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# 米国コカ・コーラ社と フォード・モーター社での アーカイブ・システム構築の経験 Development of archive systems at Coca-Cola Company and Ford Motor Company テッド・ライアン Ted RYAN フォード自動車 時実象一訳 } 抄録 : 筆者はコカ・コーラ社においてマーケティングに活用する広告素材の管理・配信システム、テレビ広告のデジタル管理シス テム、広告全般のアーカイブ・システムなどを開発した。このアーカイブは 25,000 件のテレビ広告、 10,000 件のラジオ広告、 10,000 件の印刷体広告を収容している。次にフォード・モーター社に移り、新車デザイン資料のアーカイブに始まり、歴史的資産 のデジタル管理システムを開発した。このアーカイブには現在 25,000 件の写真、 300 件のビデオ、1,000 件のスキャン文書がある。 このシステムを基礎にして一般ユーザが閲覧できるシステムの開発も進んでいる。 Abstract: At the Coca-Cola Company, the author developed a system for managing and distributing advertising materials used in marketing, a digital management system for television advertising, and an archive system for all advertise-related materials. Next, the author moved to Ford Motor Company, where he developed a digital management system for historical assets, starting with an archive of new car design materials. Based on this system, he is now developing a system that can be viewed by the general public. キーワード:コカ・コーラ、フォード、広告素材、テレビ広告、デジタル資産管理、配信、展示、クレイモデル Keywords: Coca-Cola, Ford, ad materials, TV ads, digital asset management, distribution, exhibition, cray model 私は幸運にも、コカ・コーラ社とフォード・モー ター社という 2 つのアメリカの大企業のアーカイブプ ログラムを担当することができました。この2つの大企業での 24 年間のキャリアの中で、私は企業アーカ イブにおけるデジタル化の成長と重要性を目の当たり にしてきました。以下のページでは、長年にわたる変化、活性化の方法、デジタル資産の利用爆発的な拡大 について述べたいと思います。 ## 1. コカ・コーラ社での仕事 私はまず、コカ・コーラ社のアーカイブズについてお話します。私は 1997 年 6 月にコカ・コーラ社に入社し、デジタル資産管理システムを構築して、同社にあるアナログ資産の大規模なデジタル化を開始する、 というプログラムを主導することになりました。コカ・コーラ社のアーカイブは、広告に使われた何千枚もの絵画、1886 年から今日までに作成された何十万枚もの印刷広告物、そして製品パッケージや $3 \mathrm{D}$ の記念品コレクションなど、コカ・コーラの歴史のあらゆる側面を網羅する広範囲にわたっています。さらに、 コカ・コーラ社はラジオとテレビの両方に最初に広告を出した企業のひとつであり、全世界で 25,000 以上のテレビ広告を出していました。このように、ブランディングやイメージを大切にしてきたコカ・コーラ社ですが、世界中のマーケティングやコミュニケーション担当者との間でアーカイブの豊富なイメージを電子的に共有するシステムは、それまで存在していませんでした。 ## 1.1 コカ・コーラ社最初のシステム その後 20 年以上にわたり、技術やネットワーク機能の向上に伴い、4つの異なるシステムを導入しました。さらに、年を追うごとに、ビジネス環境の変化に合わせてシステムの目標も進化していきました。最初のシステムを立ち上げたとき、ビジネスの推進力として掲げられていたのは、ライセンスおよびマーケティ ングチームが低解像度の画像を利用できるようにすることであり、デジタル化の対象となるのは、権利がなく再利用が可能な画像に限られていました。例えば、有名なコカ・コーラ社のサンタクロースは、1931 年にハッドン・サンドブロムによって初めて描かれ、 1960 年代までサンドブロムが毎年新しいイメージを描き続けたことで、世界中の文化的アイコンとなりました。コカ・コーラ社のサンタは、大衆文化における事実上のサンタのイメージとなりました(図 1、2)。 これらの絵画や広告は、コカ・コーラ社のマーケティング担当者やライセンス機関からの需要が高かったのです。最初のシステムでは、これら(およびその他の需要の高いアートワーク)を世界中で閲覧・注文 図1 サンドブロムが描いたオリジナルのサンタ できる万法を作ったのです。ファイルサイズやネットワークの制限があるため、高解像度の資産を届けるには、画像の入ったハードディスクを発送する必要がありました。今となっては笑い話ですが、初期のシステム(IBM Lotus Notesをべースにしたもの)には、9,999 個以上のアセットを読み达めないという制限が組み込まれていて、10,000 個になるとシステムが壊れてしまうのです。 ## 1.2 デジタル資産管理(DAM)システムの開発 1999 年にコカ・コーラ社はこれまでに制作した全世界のテレビ広告をデジタル化して米国議会図書館に寄贈することを決定しました ${ }^{[1]}$ 。この決定は、低解像度の画像を提供するたけでなく、より野心的な目標を揭げた新しいデジタル資産管理(Digital Asset Management: 図2 雑誌の表紙になったサンドブロムのサンタ (1934) 図3 コカ・コーラ社のDAMシステムの検索画面 DAM)システムを開発する機会となりました。このプロジェクトの結果、コカ・コーラ社は 25,000 点以上のテレビ広告(日本の 1,700 点以上の広告を含む)、 10,000 点のラジオ広告、 10,000 点の印刷広告を修復し、保存用デジタル版を作成することができました。 これらのデジタル化された資産を収容し、共有するための DAM システムは、IBM の Content Manager プログラムと、コカ・コーラ社内の IT チームが共同で開発しました。このシステムはマーケティングと共同で作成され、「Creative Xchange」と名付けられました。 このシステムは、マーケティング担当者と代理店担当者が、過去と現在のデジタル化された広告を探すための単一の情報源となるように設計されました(図3)。 1993 年の初代北極ぐま広告 ${ }^{[2]}$ から最新のクリスマスのスポット広告まで、すべてを一か所で見ることができます。 アーカイブ部門にとって、アーカイブとマーケティングの共同システムにはさらなるメリットがありました。まず、マーケティング部門と連携することで、 アーカイブ部門の知名度が上がりました。認知度の低さは、多くの企業のアーカイブ部門に共通する問題です。また、マーケティングや広告は、コカ・コーラのようなブランドベースのビジネスの生命線であり、これらの資産へのアクセスはビジネス上の必須事項であるため、システムの開発にはより多くの予算をかけることができました。最後に、広告のライフサイクルが終了した後、アーカイブに移行させるためのワークフローを合理化、自動化することができました。 今回のシステム更新で最も大きく変わったのは、 アーカイブスの博物館管理システムとしてのバックエンドです。これによりコレクションのアイテムを追跡することができるようになりました。例えば、コカ・ コーラアーカイブスには、アメリカの著名なイラストレーター、ノーマン・ロックウェルが描いた「裸足の少年」と呼ばれる原画があります(図4)。この絵は、 1931 年に描かれたとき、トレイやカレンダーなど、多くの広告作品に使用されました(図5)。アーカイブスは、原画と広告作品の両方を所蔵しており、展示や博物館への貸し出しなどに使用していました。この絵画と関連する広告の記念品はどちらもコレクター市場で価値があるため、アイテムがどこにあるのか、どのような状態なのかを追跡するために Creative Xchange システムを利用しました。 ## 1.3 自社システムへの移行 Creative Xchange を使い始めて数年後、コカ・コーラ 図4 ノーマン・ロックウェルが描いた「裸足の少年」 図5 ノーマン・ロックウェルの「裸足の少年」を用いたトレイ 社のIT部門は、IBMが開発したソフトウェア・プラットフォームから、自社で書いてコーディングしたものに移行することを決定しました。マーケテイングとの連携などシステムの中核部分はそのままに、この移行により、安全な電子メールリンクを介した高解像度コンテンツの配信を機能の一部として追加することができました。DAM システムは、 10 年前に最初のシステムを立ち上げたときには不可能だった、高解像度のデジタル化された資産の閲覧、検索、注文、配信を、世界中のどこでも行えるようになったのです。 ソーシャルメディアの台頭によりフォーマットの変更が必要になるなど、ビジネ久環境が変化したため、 2017 年、アーカイブス部門とマーケティング部門は、相互に連携しない新しいシステムへの移行を決定しました。この機会にアーカイブズ部門は、 1 億ドル以上の価値があるコレクションを追跡するための機能を強化するため、より博物館べースのシステムに焦点を当てることになりました。検索や配信の機能はそのままに、コカ・コーラ社のボトル 100 周年の東京イベント [3] のような巡回展示用の貸出モジュールを組み达んだのです。 ## 2. フォード・モーター社での仕事 ## 2.1 自動車会社のアーカイブの特徴 コカ・コーラ社で約 21 年間勤務した後、私は仕事を変え、2018 年 5 月にフォード・モーター社のアー カイブ・遺産ブランド・マネジャーの職を引き受けました。そこでは、フォード・モーター社初のオンライン・アーカイブDAMを立ち上げることが仕事であり、 いろい万な意味で再出発でした。絵画や工芸品の卓越したコレクションがアーカイブ保有の強みであったコカ・コーラ社とは異なり、フォード・モーター社のアーカイブの強みは、写真とフィルムのコレクションです。 150 万枚以上の写真があり、会社の歴史上のほぼすべての車両や活動を記録しています。ヘンリー・ フォードは工場での作業をすべて記録することを信条としており、一時期、フォードは世界最大の映画制作スタジオを持っていました。 自動車の開発には、写真が欠かせません。新車開発のライフサイクルには何年もかかりますが、そのすべての工程がスタイリング・ネガティブ・コレクションとして写真に記録されています。1 日の終わりには、 スタイリング研究室で行われたすべての作業が写真ネガで記録されます。例えば、ほとんどの車の設計はスケッチから始まりますが、立体感を出すために、すぐに粘土でモデルを製作します。図 6 は、1962 年 8 月 16 日にフォード・デザイン・センターの中庭で検討されていたクレイモデルを示しています。これらの車はすべて、ベニヤ板の枠に粘土を型取りし、塗装を施して最終的なクルマの姿を表現したものです。この写真は、後に世界的に有名なマスタングとなる車のコンぺの際のものです。 図6 後にフォード・マスタングとなる車のクレイモデル写真 ## 2.2 Archives Online 2020 年 11 月には、歴史的資産を対象とした初の DAM システム「Archives Online」を立ち上げました。 このシステムは、MINISIS MINT オンライン・ソフトウェアをべースにしており、博物館や図書館の管理たけでなく、MINISIS Trusted Digital Repository (TDR) ソリューションによるデジタルファイルの保存も可能です。TDRは、デジタルファイルを保管し、定期的に更新することで、ファイル形式の陳腐化を防ぐことができます。MINTソフトウェアはアーカイブ・チームがコレクションのカタログ化と管理に使用していますが、MINISISには、従業員がコレクションから画像やビデオを検索してダウンロードするためのオンラインポータルも作成してもらいました。 このシステムは、コミュニケーション・チームとマーケティング・チームのみに公開され、フォード・ モーター社の 118 年の歴史を表す 25,000 枚の写真、 300 本のビデオファイル、1,000 点以上のスキャン文書が収録されています。また、このシステムのトップページには、1966年にル・マンで優勝し、映画「フォードvsフェラーリ」にも登場したGT40など、人気が高くリクエストの多いトピックについて、あらかじめ6つの検索条件を設定しました(図 7、8)。このシステムに対する初期のフィードバックは良好でした。2021年の第 1 四半期の早い段階で、フォード. モーター社の全従業員にこのシステムを提供する予定です。 2021 年の第 3 四半期には、一般ユーザーが利用できる第 2 の OPAC (Online Public Access Catalog) を立ち上げる予定です。このシステムでは、当社の製品パンフレット (14,000 点以上 ! )、印刷広告、製品写真を中心としています。目標は、フォード・モーター社が米国で生産したすべての車について、少なくとも 1 つのパンフレット、広告、写真を備えた検索可能なシステムを作ることです。将来的には、世界各国のグルー プが生産した車も登載する予定です。このサイトは、 フォード・モーター社製品のファンにとって究極の場所として提供される予定です。 ある意味、この未来のサイトは、企業におけるアー カイブズの役割の核心に迫るものです。フォード・ モーター社の遺産を保存することで、社内外にフォー ド・モーター社のストーリーを伝えるための豊富な資料を手に入れることができます。どのような資産をデジタル化してファンや愛好家に提供するかを選択するキュレーションは、ストーリーテリングの機会を生み出します。オリジナルの資料を保存する作業と、私のスタッフの主題に関する専門知識により、デジタル化を実施し、当社の目標を推進する目的地サイトを構築することができました。 図7 ル・マンで優勝したフォードGT40の検索結果 図8 フォードGT40のル・マンでの写真 ## 3. 企業内アーカイブのチャレンジ これまで、私が経験したコカ・コーラ社やフォー ド・モーター社で導入したシステムの変化について説明してきましたが、企業におけるデジタルアーカイブの役割については、より一般的なテーマがいくつかあります。 ## 3.1 デジタル・トランスフォーメーション 企業のアーカイブが直面している最大の課題の 1 つは、「ボーン・デジタル」コミュニケーションへの転換です。アナログフォーマットの紙、フィルム、ビデオ、写真のコレクションは、新しい技術に置き換えられ、消えていきます。私には2つの重要な例があります。1つ目は、コカ・コーラ社が、全米の独立したコカ・コーラ社のボトラーに向けて、今後のマーケティングやプロモーションの詳細を記したメールを毎週作成していたことです。このボトラーメールは、1923 年から 2004 年に廃止されるまで毎週送られていました。この郵送物は、コカ・コーラ社のマーケティングの歴史を時系列で知ることができる、非常に貴重な情報源でした。2004 年に郵送物がウェブサイトに移行したことで、資料を簡単に保存することができなくなってしまいました。 2つ目の例は、フォード・モーター社が新型ピックアップトラック F-150の取扱説明書を印刷せず、オンラインアプリで提供することを発表したことです。環境に配慮したこの決定は、印刷や資源の使用を節約することができますが、時間の経過とともにフォーマットや配信方法が変化する中で、この情報をどのように保存するかという課題を私たちのチームに突きつけました。単純な例ですが、フィルムプロジェクターがなければ $35 \mathrm{~mm}$ フィルムを映すことはできません。 2020 年に開発されたアプリが 2040 年にも動作することをどうやって知ることができますか?印刷されたマニュアルがまだ読めることはわかっていますが。このことがファイル形式の将来に向けてのマイグレーションを提供する、信頼できるデジタルリポジトリ(Trusted Digital Repository)を持つ MINSIS を選んだ理由の一つでもあります。 ## 3.2 ボーン・デジタル資料のサイズと量の増加 企業内のアーカイブが直面するもう一つの問題は、「ボーン・デジタル」資料のサイズと量が急速に増加していることです。デジタル一眼レフカメラでは、 1 枚の写真を撮るのと同じように、1万枚の写真を撮ることも簡単です。ネガを使った旧来の方法と比較すれば、鑑定すべき資料の量は指数関数的に増加しています。 さらに、映像制作は撮影も編集もすべてデジタル化されているため、完成品のバージョンが非常に豊富になっています。テレビ・コマーシャル 1 本につき、グラフィック、サウンド、エンドラインの長さなど、 100 種類ものバリエーションがあると言われています。企業のアーキビストの役割の一つは、どの資料を永久に保存し、どの資料を破棄すべきかという非常に難しい判断を下すことです。膨大な数の選択肢があることが、この仕事をより困難にしています。 ## 3.3 企業内アーカイブの責任と目標 結論としていえることは、企業内のアーカイブには複数の責任と目標があるということです。最終的な機能は、企業の継続的なビジネスを記録した資料を保存することですが、それらの資料を、企業の価値を高め、 あるいは価値を生み出すような方法で、社内外で利用できるようにする方法を常に模索する必要があります。世界とビジネスの両方がデジタルの未来に向かって進む中、企業のアーキビストはその変化に適応し、 デジタルのフォーマット、システム、そして刻々と変化する技術に精通しなけれげなりません。それをうまくやってのけた人だけが、企業に最も役立つような形で自分の地位を確立できるのです。 ## 参考文献 [1] Library of Congress. The Coca-Cola Company Donates 50 Years of Television Commercials Reflecting World Culture To the Library of Congress. https://www.loc.gov/item/prn-00-184/the-coca-colacompany-donates-50-years-of-television-commercials-reflectingworld-culture-to-the-library-of-congress/2000-11-29/ (参照 2021-04-05). [2] The Coca-Cola Company. Q\&A With the Digital Artist Behind the Coca-Cola Polar Bears. https://www.coca-colacompany.com/ news/interview-with-digital-artist-behind-coca-cola-polar-bears (参照 2021-04-05). [3] マリリンやエルビスも飲んだ「コカ・コーラ」ボトル誕生 100周年“サイコー!”キャンペーン.電通報. 2015/1/27. https://dentsu-ho.com/articles/2130 (参照 2021-05-06).
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# 企業におけるデジタルアーカイブ Digital Archive in Corporate Environment 時実 象一 TOKIZANE Soichi 東京大学大学院情報学環 } 抄録 : 特集「企業におけるデジタルアーカイブ」の背景について解説し、また各記事について紹介した。 Abstract: The background of the special feature, "Digital Archives in Corporations" was explained and each article was introduced. キーワード : 企業、デジタルアーカイブ、マーケティング、企業ブランド、企業の歴史、企業活動、熟練技術 Keywords: Corporate, Digital Archive, Marketing, Corporate Brand, Corporate History, Corporate Activities, Skilled Technology 企業がデジタルアーカイブに関わるには 2 つのケー スがある。ひとつはデジタルアーカイブのコンテンツ や技術をビジネスにする場合で、これについては最近出版された『デジタルアーカイブ・ベーシックス 5:新しい産業創造へ』で詳しく論じられている[1]。もう ひとつは、自社内の各種資産をデジタル化しアーカイ ブ化する場合である。今回の特集はそのような企業内 アーカイブに焦点を当ててみた。な打企業資史料協議会というところでは、このような企業のアーカイブ担当者のために研究会、見学会、研修講座をおこなって いる ${ }^{[2]}$ 。 企業内アーカイブは近年極めて関心の高い分野であ る。筆者が別途紹介したように ${ }^{[3]}$ 、企業アーカイブの 分野は大きく4つに分かれる。 ## 1. 企業ブランド構築のためのアーカイブ デジタルアーカイブはしばしば企業イメージの構築や改善に役立つ。消費者をマーケティング・ターゲッ卜とする企業は、多数の広告、コマーシャル・ビデオ、 リーフレット、写真などを保有している。公益財団法人吉田秀雄記念事業財団が運営しているアドミュージアム東京では、江戸時代から現代までの約 32 万点の広告資料を所蔵しており、ポスターや新聞広告などデジタルアーカイブも構築している[4]。ただし権利の関係で、館外からの閲覧はできないのが残念である。個々の企業でも自社の事業に関連する資料を収集して公開しているところがあり、よく知られているものとしては「2018 年度デジタルアーカイブ産業賞」の貢献賞を受賞したポーラ文化研究所の「化粧文化データ ベース」[5] や「資生堂企業資料館」[6]、「トヨタ博物館」[7] などがある。 ## 2. 企業の歴史資料のアーカイブ 歴史のある企業の多くは社史を編纂している。そのための資料収集をきっかけにデジタルアーカイブを手掛ける企業は多いようである。国立国会図書館サーチで「社史」と検索すると、13,397 件ヒットし、その中でデジタル化されているものも 1,236 件ある。また神奈川県立川崎図書館は社史のコレクションが有名であり、約 20,000 冊を所蔵している $[8]$ 。このような社史編纂自体も貴重なアーカイブ活動ということができるが、多くの担当者は、 10 年毎に行われるプロジェクトに単発で配置されるため、アーカイブ活動という意識を持てず、せっかく収集した写真等の資料も社史発行後は散逸することもあると聞いている。 ## 3. 企業活動を支えるアーカイブ パソコンや関連製品、家電製品の企業サイトには、必ずマニュアルや説明書のアーカイブが登載され、すでに生産中止している製品の資料もダウンロードできるようになっている。こうしたマニュアル類を制作し、 アーカイブすることは重要な企業活動である。また研究所や開発部を持つ企業では、研究・技術開発報告が蓄積されている。企業の研究・開発ターゲットは日々変化するが、これら過去の報告をデジタル化し、テキスト検索できるようにすれば、現在の開発のヒントが見つかる可能性がある。大企業においては、特に汎用性の高い成果を技術ジャーナルとして公開していると ころがあり、これらの多くは現在デジタルで刊行されている。かってはこのような技術ジャーナルの編集者が経験を交換する場があったが[9]、残念ながら最近は休止状態のようである。 ## 4. 熟練技術の継承のためのデジタルアーカイブ空調設備の大手ダイキンでは、日立のIoT プラット フォーム「Lumada」を活用して、熟練ノウハウのデ ジタル化を進めている[10]。また建設大手の淺沼組は、熟練技能者のワザやノウハウをデジタルデータとして アーカイブし、次世代の建設生産管理に生かすことを 目指した「Ai-MAP SYSTEM」の構築に取り組んでい るとの報告がある ${ }^{111]}$ 。この分野は単に紙などの資料 だけでなく、動画やAR/VRなど最新の技術を取り入 れる方向に進んでいる[12]。 現実の企業アーカイブは上記のどれかのカテゴリー にぴったり収まるわけではなく、多様な目的と用途に奉仕している。本特集では実際の例として、「ヤマハ発動機におけるデジタルアーカイブ」(ヤマハ発動機和田一美氏) [14]、「ライオン株式会社におけるデジ夕ルアーカイブ」(元ライオン株式会社松村伸彦氏) [15] そして「米国コカ・コーラ社とフォード・モーター社でのアーカイブ構築の経験」(米国フォード・モーター 社デッド・ライアン氏) [16]、に各論を打願いした。またまとめとして株式会社堀内カラーアーカイブサポー トセンターの肥田康氏に「企業デジタルアーカイブの動向」[17]を書いていただいた。 「ライオン株式会社におけるアーカイブズのデジタル化の取り組み」で紹介された同社は 1935 年に最初の社史を編纂して以来の資料収集の長い歴史がある。 2007 年から物品類、ポスターの写真撮影、社内報等のスキャニングなどを始め、現在では撮影用の簡易スタジオも所有して自社でデジタル化を進めているという例であり、活用事例も紹介されている。 「ヤマハ発動機におけるデジタルアーカイブ」は業務改善の一貫としてオートバイなどの製品情報のアー カイブ・データベース化と利活用促進に始まり、企業の歴史資料、とりわけ映像素材のデジタルアーカイブを進めたものである。特筆すべきは、業務を進めるにあたり、中心メンバーが日本デジタル・アーキビスト資格認定機構[13] の資格を取得したことである。 「米国コカ・コーラ社とフォード・モーター社でのアーカイブ・システム構築の経験」では、誰でも見たことがあるコカ・コーラのイラストやコマーシャルビデオなどのコンテンツ、あるいは販促グッズを歴史的に集積したアーカイブ・システム構築の経験、および社内向けである自動車設計の記録 (写真・ビデオ) だけでなく、ファンのために歴史的な自社ラインアップの閲覧サイトを構築しようとしている例が紹介されている。 歴史的な「企業デジタルアーカイブの動向」では、花王、キッコーマン、キリンホールデイングス、ファンケル、サンケイビルなど、筆者が業務として携わった企業デジタルアーカイブの事例を紹介するとともに、 そこから分かった問題点や意義について論じている。 これらさまざまな事例と教訓は、そのままでは読者に適用できないかも知れないが、かならず何かしら心に留まるものがあると信ずる。最後に、テッド・ライアン氏の結語をあらためてここで紹介したい。 結論としていえることは、企業内のアーカイブには複数の責任と目標があるということです。最終的な機能は、企業の継続的なビジネ久を記録した資料を保存することですが、それらの資料を、企業の価値を高め、あるいは価値を生み出すような方法で、社内外で利用できるようにする方法を常に模索する必要があります。世界とビジネスの両方がデジタルの未来に向かって進む中、企業のアーキビストはその変化に適応し、デジタルのフォーマット、システム、そして刻々と変化する技術に精通しなければなりません。それをうまくやってのけた人だが、企業に最も役立つような形で自分の地位を確立できるのです。 ## 参考文献 [1] 時実象一監修, 久永一郎責任編集.『デジタルアーカイブ・ ベーシックス 5 :新しい産業創造へ』. 勉誠出版. 2021/5. 238 p. [2] 企業史料協議会. https://www.baa.gr.jp/newst.asp (参照 2021-05-24). [3] 時実象一. スマートワーク推進\&ワークスタイル変革・コラム. 企業の知的資産をデジタルアーカイブに. https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/ss/smartwork/ column/12/ (参照 2021-05-24). [4] アドミュージアム東京. https://www.admt.jp/ (参照 2021-05-24). [5] ポーラ文化研究所. 化粧文化データベース. https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/data/ (参照 2021-05-24). [6] 資生堂企業資料館. https://corp.shiseido.com/corporate-museum/jp/preservation/ (参照 2021-05-24). [7] トヨタ博物館. https://global.toyota/jp/downloadable-assets/ corporate-archives/toyota-museum/ (参照 2021-05-24). [8] 神奈川県立の図書館. 社史コレクション. https://www.klnet. pref.kanagawa.jp/find-books/kawasaki/shashi-shiryo/ (参照 2021-05-24). [9] 技術ジャーナル部会. 専門部会(SIG):技術ジャーナル部会の活動(<特集>OUG/SIGの活動紹介). 情報の科学と技術. 2010, 60(5), 185-189. [10] デジタルソリューション最前線. 練技術者ノウハウをデジタル化し技能の底上げとグローバル人財育成を加速ダイキン工業株式会社. https://www.hitachi.co.jp/products/it/magazine/ hitac/document/2017/12/1712g.pdf (参照 2021-05-24). [11] 匠の技能をアーカイブ?技術継承をデジタル技術で実現する, 淺沼組の挑戦. https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/1905/ 28/news054.html (参照 2021-05-24). [12] 熟練工の技術を動画でマニュアル化する技術継承ソリュー ション. https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1808/31/ news016.html (参照 2021-05-24). [13] 特定非営利活動法人日本デジタル・アーキビスト資格認定機構. https://jdaa.jp/ (参照 2021-05-24) [14] 和田一美. ヤマハ発動機に打けるデジタルアーカイブ.デジタルアーカイブ学会誌. 2021, 5(3), 184-187. [15] 松村伸彦. ライオン株式会社におけるデジタルアーカイブ. デジタルアーカイブ学会誌. 2021, 5(3), 188-192 [16] テッド・ライアン. 米国コカ・コーラ社とフォード・モー ター社でのアーカイブ・システム構築の経験.デジタルアーカイブ学会誌. 2021,5(3), 178-183. [17] 肥田康. 企業デジタルアーカイブの動向. デジタルアーカイブ学会誌. 2021, 5(3), 193-197.
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# 企画セッション(5)「「肖像権ガイド ライン」の正式公開と今後の展望」 開催日:2021 年 4 月 26 日(月)(オンライン) 登壇者: 吉見 俊哉 (東京大学大学院情報学環教授、当学会会長) 福井 健策(并護士、法制度部会長) 内田 朋子(共同通信社) 佐藤竜一郎(世界文化ホールディングス) 持家学(ゲッティイメージズジャパン) 司 会: 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) デジタルアーカイブ学会は、2021 年4月、「肖像権 ガイドライン」の学会公認バージョンを公開した。本 セッションでは、吉見氏、福井氏と筆者 4 名が登壇し、 ガイドラインの今後の活用のあり方等について議論し た。事務局は、法制度部会の大高崇氏と城田晴栄氏が 担当した。 序盤では、福井氏がデジタルアーカイブにおける 「肖像権の壁」を説明した上で、ガイドラインを「羅針盤」として使ってほしいと述べた。次に数藤が、ガ イドラインの学会公認バージョンが作られるまでの経緯と、ガイドラインの内容、実際の利用例(朝日放送、神戸大学附属図書館、佐賀県伊万里市)を報告した。 続いて中盤では、「ガイドラインの課題・期待・活用案」とのテーマで、内田、佐藤、持家が順に報告を 行った。内田は報道機関の立場から、コロナ禍の渋谷 のスクランブル交差点の写真などを紹介しつつ、ガイ ドラインは写真の公開に前向きになれる内容であり、 デジタル配信の基準としても実用性が高いので、これ からメディア関係者にも浸透させる必要があると述べ た。佐藤は出版社の立場から、美術館の観客を撮った 写真などを紹介しつつ、撮影現場でもガイドラインと 同じような要素の判断を行ってきたことに触れ、ガイ ドラインは撮影時と異なる目的での利用や商用利用の際にも有効であると述べた。持家はフォトアーカイブ の立場から、ベルリンの壁崩壊時の写真などを紹介し つつ、ガイドラインは広告業界でもクライアントを説得する材料になるが、利用にあたっては広告業界向け のカスタマイズやスポンサーシップとの切り分けが必要であると述べた。 終盤では、登壇者全員で意見交換がなされた。論点 は多岐にわたったが、主な点として、(1)ガイドライン がメディアリテラシー教育の材料にもなること、(2)ガ イドラインの点数配分や項目のあてはめについて今後 も検証を続けるべきであること、(3)報道分野は報道の 公益性から公開のハードルを下げるアレンジが考えら れ、出版や広告は営利事業ゆ之公開のハードルを上げ るアレンジが考えられること、(4)日本マスコミュニ ケーション学会等の他の学会においても問題提起が望 ましいことについて、活発なやりとりがあった。 視聴者の質問は、外部サービス「Slido」を使って募集したところ、計 9 件のコメントが寄せられた。特に、「ガイドラインの利用にあたっては文化規範の歴史的変化も考慮すべき」という趣旨のコメントに対しては、吉見氏から、「昔と今で社会規範や文化規範の違いを 相対化することは重要で、ガイドラインの利用は過去 に対する問いにもなる」との応答がなされた。最後に吉見氏から、学会活動を通じた「社会への問題提起」の重要性があらためて強調され、セッション は幕を閉じた。 平日の午後にもかかわらず、 80 名超と多くの視聴者に恵まれた。ガイドラインはひとまずの改訂作業を 終え、今後は学会の内・外でガイドラインが実際に使 われるフェーズになる。セッション視聴者打よび本記事の読者においても、ガイドラインの積極的な利活用 と拡散を打願いしたい。
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# 企画セッション(4)「アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジ タルアーカイブ」 \author{ 水島 久光 \\ MIZUSHIMA Hisamitsu \\ 東海大学 開催日:2021年 4 月 29 日(木)(オンライン) 司会・基調報告: 水島 久光 $($ 東海大学) 事例報告: 小山 元孝 (NPO 法人 TEAM 旦波、京丹後市役所)富田三紗子(大磯町郷土資料館) メタデータスキーマ提案: 椋本輔(学習院大) 上松 大輝(国立情報学研究所) 本セッションでは、昨年 10 月に立ち上がった SIG 「戦争関連資料に関する研究会」のプロジェクトの中間報告と浮かび上がった課題について報告・討議を 行った。 体験者がそれぞれの「記憶」を、「語る」という行為を介して次世代につなぐ「継承の時代」から、様々 な「記録」にアクセスすることによって認識を深める 「共有の時代」へ——戦後 75 年は、その大きな節目で あるとともに、「記録」の保全・継承自体を支える環境が未整備である現実を我々に突き付けた。SIGはそ の課題に対して、複数のプレ調査を重ね合わせ、全国 に遍在する「資料」の所在と扱う「主体」間の関係の 可視化を試みるとともに、各主体がメタデータスキー マを共有することによって実現する仮想的デジタル アーカイブ(連携〜支援策)の思考実験に着手した。今回は、その構想の概要をSIGの主査を務める水島 が報告、作業過程において重要な示唆を与えた事例と、「目録」に注目する現段階のメタデータスキーマの仮説を各登壇者が紹介し、デイスカッションを行った。 2004 年に 6 町の合併によって誕生した京丹後市の 市史編纂事業の事例では、失われたと思われていた公文書群から、狭義の「兵事」資料の範疇を超えて、銃後の地域社会に関わる多くの「戦争関連資料」を発見。大量の「簿冊」からの資料抽出〜史料集『史料集総動員体制と村』(2013)刊行と展覧会の開催に至る一連 のプロセスが開示された。また大規模な空襲に見舞わ れた平塚市に隣接し多くの史跡も残る大磯町の郷土資料館の事例では、2021 年 10 12 月に予定されている 企画展「資料と証言に見る大磯と戦争」の準備を通じ て見えた、資料館を構成する4つの基本分野(歴史/民俗/考古/自然)を横断して存在する「戦争関連資料」の扱いの難しさと、この種のテーマから見えてく る「付されるべき情報」の要件について提示された。後半では、事例やプレ調査から得られた知見を踏ま え、「メタデータによって資料の存在や資料に関する コミユニケーションを共有する」プロジェクト自体の 自己言及的性格が語られた。その上で資料の「マテリ アル」「管理主体」およびそれに与える「意味」、さら にはデジタルデータ化のレベル等の様々な状態の「目録」を許容する(ダークアーカイブや語彙の多様性に も対応する)システムの構想(Dublin Coreをべース に Linked Data の構造を適用する)が説明された。 今後プロジェクトは、NHKと共同で実施している 網羅的調査の分析と、データ作成テストのステップに 入る。適宜報告の機会を設け、ディスカッションの輪 を広げていきたい。
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# 企画セッション(3)「ハンズオンワーク ショップジャパンサーチの可能性を 引き出す」 TOKIZANE Soichi 東京大学大学院 開催日:2021 年 4 月 22 日(木)(オンライン)企画趣旨 2020 年 8 月に正式公開されたジャパンサーチを実 際に使って見るワークショップ 登壇者: (1)学校教育とジャパンサーチ 大井 将生 (東京大学大学院学際情報学府) (2) 科学博物館とジャパンサーチ 大西 亘 (神奈川県立生命の星 - 地球博物館) (3)ウィキペディア・タウンとジャパンサーチ 伊達 深雪 (京都府立久美浜高等学校兼京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎) ファシリテータ: 福島 幸宏(慶應義塾大学文学部) SIG「ジャパンサーチ研究会」では、昨年 (2020 年) の図書館総合展の企画として「正式公開となった ジャパンサーチを使ってみる」(2020/11/6) を開催し た。そこではジャパンサーチの新機能「ワークスペー ス」を使って、自分で好きなコンテンツを集めてギヤ ラリーを作るワークショップをおこない、大変好評を いただいた。「ワークスペース」では図のように自分 が選んだテーマのもとにジャパンサーチで探してきた コンテンツや、ウェブにあるコンテンツをまとめて ギャラリーを作ることができる。 今回研究大会のワークショップでは、こうした機能 が学校教育、博物館・美術館、コミュニティで活用で きるのではないかという問題意識から、それぞれの場所でご活躍の方々から実践経験をうかがい、その後で ハンズオンのワークショップを実施した。当日だけで ## (i) JAPAN SEARCH Input search keyword $\quad$ Intal not ## 日金山矂空的士山圆 olyo National Museum 도으) NHK Archives たきしん地场化化回 Uulkan Fudschijama, davor Landschaft 図ワークスペースで制作したギャラリー一覧(左)とテーマ「山と雲」のコンテンツ(右) は機能に慣れる前に時間が来てしまう恐れがあったので、前の週に「事前ワークショップ」を開催し(4月 16日(金))、時間の取れる人には練習をしてもらった。開催後のアンケートでは、「具体事例と実際に自分で操作できたので楽しかったです」、「ジャパンサーチと博物館、ウィキペデイアタウン、地域との関係が見えて、将来の方向性が少し見えて大変興味深かったです」、「教育現場の実践的な話が面白かった。子供の探究心が大人の予想を上回るのは驚き」、「博物館・美術館学芸員に対してジャパンサーチの活用事例を学べる機会の提供が今後もあるとよい」などのコメントが見られ、企画は成功であったと感じている。デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会のご好意で、SIG「ジャパンサーチ研究会」としての 「ワークスペース」のアカウントを頂いたので、「ワー クスペース」を使える人材を増やし、こうした企画を今後も発展させていきたい。 今回の企画の成功には各講師の方々の素晴らしいご発表に加え、SIGのメンバーの方々のサポートの力が大きかった。厚く御礼申し上げます。
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# 企画セッション(2)「『ビヨンドブック』 の可能性:書籍、電子書籍を超える もの」 柳 与志夫 YANAGI Yoshio 東京大学大学院情報学環 } 開催日:2021 年 4 月 28 日(水)(オンライン) セッションの構成: (1)電子書籍等デジタルコンテンツ提供に係る出版界の 動向と方向性(報告): 吉羽 治(講談社取締役) (2)ビヨンドブック(BB)のプロトタイプ(報告): $\mathrm{BB}$ 制作タスクフォース 柳 与志夫 (東京大学特任教授):研究代表者 野見山真人 (Creative Technologist / Technical Artist) 美馬 秀樹(京都大学特定教授) 中澤 敏明 (東京大学客員研究員) 中村 覚 (東京大学助教) 谷川 智洋 (東京大学特任教授) : 発表順 (3)報告者と聴講者を交えた質疑応答・意見交換 ## 開催の趣旨 東京大学情報学環 DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座では、書籍・電子書籍のようなパッケージ型ではなく、デジタルコンテンツ本来の特性・メリットを生かしたネットワーク型・オープン型の知的構成物 (「ビヨンドブック」略して BB)の研究開発に取り組んでおり、その最初の成果としてプロダクトデザイン (名称:Knowellノーウェル)がまとまった。本セッションは、その成果を披露したうえで、様々な分野の参加者からご意見をいただき、今後の改善の参考にす ることを目的に開催した。また、出版界が担ってきた書籍・電子書籍・Web 情報の制作・流通の中で、BB が今後どのような新たな役割を果たせるかを明らかにするために、出版社からのご報告を打願いした。 ○参加者からの質問・意見(抜粋) ・子どもの学習に最適ではないか。但し年齢の幅が広いので対応が難しい。 ・BBでどのように、ネット情報にない「信頼性・永続性」が担保されるのか説明がほしい。 ・さらにゲーム・エンタメ要素を加える余地はあるか。 ・電子書籍とウェブ情報の利点を生かしたプラットフォームという認識でいいか。 ・今回の実験対象コンテンッは 4 冊だけだが、これが何万点となった時に、検索・表示においてかなり困難が生じるのではないか。 ## ○今後の展開について 今回の発表をもって基礎研究レベルは終了し、参加者からの貴重なご意見もなるべく反映した形で基礎開発の段階に進めていきたいと考えている。そのための開発スタッフ・予算確保等もしながら、3 年後の商品化(サービス化)をめざしたいが、部分的な形で順次サービス化し、その成果も反映させて全体のプロダクトデザインを完成させたい。
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# 企画セッション(1)「都市における 文化資源のアーカイビング」 中村 雄祐 NAKAMURA Yusuke 東京文化資源会議/東京大学 } 開催日:2021 年 4 月 25 日(日)(オンライン) 構成\&登壇者 企画説明「都市における文化資源のアーカイビング 地図、記憶、映像における取り組みから考える」中村雄祐(東京文化資源会議幹事/東京大学) 報告 1 「東京文化資源会議・地図ファブプロジェクト チームの活動:地図のアーカイブ方法の検討とその 活用実践」真鍋陸太郎 (東京文化資源会議 - 地図 ファブ $\mathrm{PT}$ /東京大学)&鈴木親彦(東京文化資源会議・地図ファブ PT/ROIS-DS 人文学オープン データ共同利用センター) 報告 2 「文京区本郷における銭湯・旅館・喫茶店等で の具体的な取り組みについて」栗生はるか(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 $\mathrm{PT}$ /文京建築会 ユース代表)&三文字昌也(東京文化資源会議・本郷のキオクの未来 $\mathrm{PT} /$ 東京大学大学院) 報告 3 「空間 $3 \mathrm{D}$ スキャンとその利活用について」松尾遼(東京ケーブルネットワーク) 討論「デジタル化の可能性と限界、アーカイビングの 粒度、アーカイブシステムの持続可能性」 ## 企画趣旨 都市では、住民、企業、NPO、宗教団体、行政機関などの多様なステークホルダーが互いに関係性を持って日々活動し、衣食住等の生活様式、生活・活動の場を提供するインフラや建築物、催し事や祝祭などを生み出してきた。これらは次の展開のための文化資源となるが、状況によっては再構成が困難なまでに消去されることも稀ではない。特に、都市は都市ゆえに常に開発の強い圧力にさらされ続けており、とりわけ、市街地が変化しやすい制度的環境にある我が国においては、文化資源がその価値が顧みられる余裕もないままに失われる危険に晒されている。それゆ立、都市の文化資源のアーカイブ活動(アーカイビング)におい ては、文化資源の生成流転を冷静に見極めつつ適切な方法の検討を続けていく必要がある。 本ワークショップでは、東京都心部でデジタル技術を使った文化資源のアーカイビングを行う複数の団体による事例報告を行い、デジタル化の可能性と限界、 アーカイビングの粒度、アーカイブシステムの持続可能性の3つの視点から、互いに参照し合えるようなオープンなモデルの提示を目指して議論する。 セッションはすべてオンラインで行われた。報告では、それぞれの活動におけるウェブアプリ、ドローン映像、3D スキャン、VR 等の活用、また、地域住民の交流イベントや廃棄された道具類の保存と活用など、文化資源のデジタル/アナログ両方のアーカイビングの取り組みが紹介された。 討論では、チャットへのコメントや質問を踏まえ、 まず、東京都心部と他の地域との違いについて意見交換が行われた。人口減少地域での活動の難しさが指摘されたが、どの地域においてもボランティアのマンパワー不足が共通する課題であることも確認された。また、肖像権や著作権への対処方法について、時実象一企画セッション担当理事より本学会法制度部会の会員向け無料法律相談が紹介され、事例から発信してほしいとの助言があった。このほか、アーカイビング促進のためにもメタデータの規格のさらなる標準化が求められること、今後は VRや AR がさらに普及すると予想され、関連する技術やビジネスモデルの変化にも注目することの必要性などが議論された。 なお、本セッションの関連情報は、東京文化資源会議・地図ファブの以下のページに揭載されている。 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会企画セッション(サテライト・プログラム)「都市における文化資源のアーカイビング」実施報告 https://tcha.jp/pts/mapfab/da20210425/
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# 特集:第 6 回研究大会 一般発表 ## 座長が推すべスト発表 2021 年 4 月 23 日、24 日 (オンライン) 各座長の方に、特に良かったと感じた発表を挙げていたたいた。(カッコ内は推薦した座長、敬称略) ## セッション 1 [16] 組織内映像アーカイブのためのメタデータ構築, 中部大学放送研究会番組映像の保存と利活用 (安永知加子, 中部大学) セッション 1 では画像・映像だけでなく時空間情報、 VR、AI など先端的なテーマを扱った研究発表が多く見られた。その中で、本発表では大学における学生主体の放送研究会のアーカイブを対象として、メタデー 夕の検討内容とその背景に関する調査の報告が行われた。約 20 年に渡って作成された映像コンテンツの整理やデジタル化を行う過程で、関連団体の議事録から研究会を取り巻く関係性の変遷を分析するとともに、時期ごとの制度ならびに権利意識の変化に伴い利活用が困難なコンテンツの存在を確認するなど、多面的な調査からデジタルアーカイブの構築時に考慮すべき種々の課題を指摘している。今後、これらの情報をメタデータとして記述し、適正な条件の下で過去の映像を視聴するためのシステムの実現が期待される。メタデータを検討する作業自体がコミュニティの歴史を明らかにする好例としてべスト発表に選定したい。(大向一輝) 図1組織に関するポリシーの変化 図2 社会に関するポリシーの変化 ## セッション 2 [24] 鑑賞者参加型展示による地域写真の調査手法:写真展『どこコレ?一教えてください昭和のセンダイ』の事例 (小川直人, せんだいメディアテーク) 宮城県仙台市にある複合文化施設せんだいメディアテークにて行われた、場所・年代等が不明の館蔵写真や映像に対して、来館者の記憶を用いて特定していく試みが紹介された。来館者は展示写真や映像の周辺に、あらかじめ用意された付䇝を使って情報を添付していく。この行為を通して展示の鑑賞者から当事者になっていく。 試みは成功し、館は意図した以上に詳細不明の収蔵品の情報を得ることができ、施設は世代を超えたコミュニケーションが取れる場となっていたとのことであった。小川氏は、アナログ手法を用いた企画の発表が許されたことを不思議がっておられたが、私は本発表には今後のデジタルアーカイブを活用する際の重要なヒントが多くあったと感じている。 展示された写真に写る時代をリアルタイムで生きている方々の記憶を呼び起こすのには、当時の写真が残っていることが何より重要だ。そもそも資料が残らねばこうした取り組みも議論も行うことができない。 かつてはフィルム等のアナログ記録だったものが現在 図どこコレ?の写真例 ではデジタルに置き換わっている。媒体が変わっても、資料を残すこととそれがどこの何であったのか記録することの重要性は全く変わらない。 会場では映像も流しており、そちらへのコメントは写真に比べて少なかったとのことであったが、モニターで自動的に流れてしまうと、見る側は受け身となってしまい当事者意識が持ちづらい、撮影地の特定に繋がるシーンをじっくり見たいのに一瞬で流れてしまって記憶が繋がらない、というのは映像利用の難しさの一つである。 当事者意識の点では、映画館では会場を暗くすることで映像と視聴者の間に一対一の関係を作って没入する仕組みを作っている。じっくり見るという点では、動画サイトだと自由に一時停止ができる。だが、ともにオープンな場では難しい。 この展示を元にマニュアルを作って公開したとのことだったが、同様の取り組みが広まることで、展示物に写り込んでいる人々の肖像権問題も予想される。この点は本学会で進む肖像権ガイドラインの議論が後押しになると期待できる。 今後は人間が情報を認知しやすいメディアに出力すること、出力に必要なデータを作ることがデジタルアーカイブの重要な役割の一つになると感じさせる発表だった。 貴重な気づきに繋がる経験を共有してくださった小川氏に感謝したい。(山川道子) ## セッション 3 [33] クライシス・ニュース・アーカイブをどう読むか ?, 台風, 東日本大震災, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の比較(北本朝展, ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター/国立情報学研究所) デジタルアーカイブも含め、従来アーカイブズは過去の記録をエビデンスとして歴史分析の中で活かされることが多い。本報告ではデジタルアーカイブの可能性を、現在からみた「後向き分析」の素材としての役割だけに留まらず、不確実な未来に対し「前向き予測」 のためのアクショナブルな情報を取り出すことの可能性を論点として提示した点において、大変興味深い報告であった。 本報告では Yahoo!ニュースに対して、固定キー ワードで定期的に検索し、検索結果に表示される記事をクロールしてきた情報を通じて、台風、東日本大震災、COVID-19のニュース・アーカイブの比較を試みている。東日本大震災が初期から徐々に記事数が低下していくのに対し、COVID-19は感染者数の波とも連動しつつ記事数が収束していかない傾向があること、 COVID-19が肺炎から「コロナ」へ報道が変化することのデータ提示等は印象的であった。こうしたクライシスと社会の変化には一定の傾向があるとし、クライシスが社会に負荷を与え、圧力によって社会が変容し、新しい仕組みが生まれる、という流れは、クライシスごとに類似した過程をたどるのではないか、と報告者は仮定しており、今後の研究のさらなる進展が期待される。(加藤諭) 図コロナコーパスにおける「新型肺炎」と「新型コロナ」の出現記事数の推移 ## セッション 4 [42] ジャパンサーチのワークスペース機能を活用したキュレーション授業, 探究学習における「問い」と資料を接続するデジタルアーカイブの活用法 (大井将生, 東京大学大学院学際情報学府) 本発表は、ジャパンサーチを活用して行われた教育実践事例についての報告である。コロナ禍のオンライン学習という困難な状況のなかで行われた小中学校でのこのキュレーション学習は、その設計の綿密さもさることながら、児童生徒が主体的にアーカイブを使いこなしている様子を伺い知ることができた。 とりわけ、教科書での学習をさらに深めるために、様々な機能を持つジャパンサーチのワークスペース機能をフル活用することで、児童生徒の学習への関心と主体性をさらに引き出すものような高度な学習として実装されており、教育におけるデジタル・アーカイブの潜在的な有用性について大きな示唆を与えるものであった。 オーディエンスの反響も大きく、コロナ禍のDXに伴い GIGAスクール構想も進むなか、今後が期待される研究である。(坂田邦子) 図教科書、講義型授業を活かしつつ、年間カリキュラムに則ってキュレー ション授業を実施 ## セッション 5 [54] 大学の授業における電子書籍サブスクリプションモデルの試み (井関貴博, 東京大学) 本発表は、大学の授業の電子教科書の利用促進とビジネスモデルの構築に果敢に挑戦したものである。 COVID-19 下、大学教育のオンライン対応はすでに必 なくなったと言って良い状況下、体系的な知識を教育するという意味において、教科書が果たす役割は依然大きい。しかしながら、講師、生徒共に教科書離れが起きており、また、教科書出版社側も難しいこととはい立、結果的にオンラインの特性に即したサービスやビジネスモデルを確立できていないのが現状である。本発表は、教科書・参考書(電子版)をサブスクリプション方式で利用を試みた実験についてのもので、「カスタムメイド型」の良質なコンテンッ提供、適切な利用料の設定を既存の出版社のコンテンツを活かす形で行い、質の高い教育に取り組んだものである。詳紐は予稿やスライドを御覽いただきたいが、発表当日 図大学市場における商業出版物の販売先 において、この試みが一過性で終わらず、一部の講義では教師側から 2 年目の採用も決まったという報告があった。このような電子サービス実証実験に打いては、実験的に行ってみたものの、ごく初期で収束していった例がたくさんある中で、事業継続性の可能性を実績として示せた点が大きく、COVID-19 対応によるニー ズの高まりも踏まえて今回ピックアップした。今後の継続による、事業の安定化と、教育効果の検証ならびにオンラインネイテイブな教科書のあり方が望まれる。 (林和弘) ## セッション 6 [64] 舞台芸術分野における公演情報のアーカイブの意義と課題 : 「Japan Digital Theatre Archives」を題材にして (中西智範, 早稲田大学演劇博物館) 舞台芸術分野は、私自身としてはかなり遠い存在とは言えるが、本発表で紹介されたデジタルアーカイブは、舞台芸術の存在がとても魅力的に感じ、舞台を観覧したいと思わせる存在であった。 舞台芸術の複雑かつ様々な権利処理を実現したことは注目する点でもあるが、制作期間が4个月あまり短期間で構成要素の整理からメタデータの設計、語彙定義、閱覧者に配慮したUI/UXの設計などを実現したことである。特に、エンティテイ定義に関しては、一般的に何気なく使われている「公演」「上演」の違いなど数多くのなど舞台芸術の各分野の特性によって配慮しなくてはいけないことや「上演作品」は出演者だけでなく演出に関わるすべての関係者であることなど、専門であるから気つけける点である。また、それらは、閲覧者のみならず、舞台芸術を作り上げている関係者への配慮にも㨻がると言える。本発表の知見は、様々なデジタルアーカイブの発展にも寄与するものと考える。(柴山明宽) 図トップページ
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# 対談「災後の時代を迎えて一東日本大震災から10年ー」 ## 2021年 4 月23日 第 6 回研究大会(オンライン)講演 \author{ 吉見俊哉 \\ YOSHIMI Shunya \\ デジタルアーカイブ学会 \\ 会長 } ○今村御厨先生、大変ありがとうございました。この 40 分の中で我々経験している 10 年、これの振り返りをしていただきましたけれども、非常に歴史的に重要な時であると。特に人の流れですね。今まで物理的に我々はコミュニケーション、また、サポート、協力していたわけなんですが、それがコロナで断ち切れてしまう。しかし、新たなつながりというのも今、始まろうとしている。非常にすばらしいお話をいただきまして、ありがとうございます。 これをまさに受けて、今度は吉見会長と大変限られた時間ではございますが、ぜひこのお話の後、対談し、災後のまたさらにこの 10 年の先であったり、また新たに日本だけでないグローバルな視点での御意見もいただきたいと思います。 それでは、吉見先生、よろしくお願いいたします。 ○吉見御厨先生、ありがとうございました。すばらしいお話で、しかもさすがなのは、ぴったり 40 分、短くも長くもなく、完璧な時間でした。本当にお見事なお話でございました。 特に、復興構想会議のお話は初めて聞いた話が多く、 そうだったのかと目からうろこでしたね。多くの聴衆の皆さんも、同じように感じられたんじゃないかと思います。 とても新鮮でしたので、そのあたりから対談を始めたいのですが、復興構想会議では、そもそも復興とは何かという議論はなされたのでしょうか。なされたとしたら、それはどんな議論だったのでしょうか。 ○御厨これが普通の審議会でしたら、そのとき、そのときにちゃんとまとめを作って、そのまとめが残っていますから、こうこう、こうとまとめて言えるんですけれども、今の吉見さんの御質問にすぐ答えるとす ると、そこが混乱したんです。 つまり 1 つつの問題に入る前に大ざっぱな形で復興とは何か、そういう議論がいっぱい出ました。復興は復旧ではない。しかも、その復興の在り方も今までのような復興の在り方では絶対ないんだ。つまり、みんなやっぱりあの津波による災害というのが物すごく頭に残っていて、間違いなく阪神・淡路の被害は要するにビルが倒れる、火災が起きる、火事によるという被害なんですけれども、そうではなくて水によって人がさらわれていくという、その場面をみんなが思い出すものですから、そこですごい勢いでみんな、じゃあ、 これまでにないい万んなことをやらなくちゃいけない。鎮魂の森を作るのが先であるとか、あるいは堤防をとんでもなく高く建てるのが先であるとか、そういうような話があちこちから飛び交って、しかも、これは本当にすさまじかったと思うのは、誰かがちょっと長くしゃべっていると、それを怒鳴りつける人がまた出てくるんです。「いつまでしゃべっているんだおまえ。いい加減にしろ。ここはおまえだけの会議じゃない。俺もしゃべりたいんだ」と。また、じゃあといってその人に当てると、これがまた全然違うことを言うという、学級崩壊に近いような状態なんです。 たた、それぞれみんないいことは言うんですよ。だけれども、それはちょんちょんといいことを言って、全体としては嘆き悲しんで、しかも、根本的にこれはもう 1 つ言っておきますと、あの民主党政権というものを誰もが信用していない。信用していないから、要するに菅さんが来ると、みんな菅さんに対して物すごい勢いでみんな何かものを言う。「あなた、答えなさい」とか何か言う人がいて、菅さんは立ち上がって 「私がものを言わないほうがいいような気がする」と か何とか言って、もうめちゃくちゃ。だから、申し訳ない。それが実態でありまして、それぞれ皆さん何か言いたい思いはあるんだけれども、それが全部怒号によってかき消され、そして、そのまますごい勢いで進んでいくという状態でした。 たから、復興劇場というふうにみんな官僚の諸君は呼んでいて、今日は誰が主役だろうとか何か言われて、物すごいものですよ。しかも、またそれだけではなくて、それぞれの委員の中には、またその後ろにいろんな人たちがくっついているものですから、予習をしてくるわけです。予習をしてくると、彼らの目は今度は自分が率いている集団に向けて、これだけは言わなきゃならないということになって、何でもかんでも手を挙げて言うわけですよ。とんでもない。それで、そうじゃないと帰ってから、後ろにいる集団に怒られるわけね。だんだんそれが分かってきた、見ていると。 これは無視していいというふうになったときには、 もう完全に無視して、だから、短冊を作り出したときにようやく復興とは何かみたいな話が出てくるんだけれども、ただ、さっき言ったように短冊にして作ると実に貧弱なボキャブラリーで、貧弱なことしか言っていないわけです。 そうすると、彼らは怒って、これは事務局が勝手に作ったんだろう、とんでもないという話になってというふうな話で、本会議ではほとんど意味のある議論というのはあまりないまま過ぎていった。だから、さっき言った検討部会というのは飯尾君が部会長をやった、あそこで実務はやるということで、あそこに随分委ねましたから、そこではやっぱり一番大きかったのは住宅の話じゃないでしょうか。復興住宅の話がやっぱり一番大きくて、一転してもうとにかく同じ水に沈んじゃったところには住めませんから、そうじゃなくて移転して新しい住宅を作るという、あそこが多分一番復興の中では大きく取り上げられたところで、それ以外は、あとは包括ケアをするとかというソフトの面では包括ケアの問題だし、ハードの面では復興住宅をどうするかという話であって、税金の問題はこれを言うとまた物すごい問題になってひっくり返りますから、税金はなるべく言わないという話にして、どれを解決していくかと。たた、これは確かに各省と綿密に打合せをしてやりましたから、できないものは作らなかったということではあります。 ○吉見本当にご苦労がしのばれますね。大変だったんだなと率直に思います。検討会議のほうは、今村先生も委員をされていましたね。 ○御厨そうです。やっておられましたね。 ○吉見これは私見ですけれども、近代日本において、復興という概念は、後藤新平の帝都復興のあたりで変わっているんじゃないかと思うのですね。つまり、明治から大正中期ぐらいまでは、復興というと基本的には文芸復興ですね。岡倉天心や九鬼隆一は最初、古学復興と言っていました。文芸復興は、高山榜牛です。復興という概念は、王政復古としての明治維新と関係があって、このへん先生が大変お詳しいですね。明治維新は、復古ですよね。 ○御厨復古ですね、確かに。 ○吉見古代の復活ですね、明治維新は。ですから、古代の律令制国家をもう 1 回、近代に蘇らせようという思惑があった。文芸復興は古典古代のルネッサンスですから、古代を蘇らせるんですね。つまり、復興概念には、もともと何かいにしえのもの、かつてこの土地にあったもの、かつてこの国にあったものが失われてしまった、それをもう 1 回取り戻そう、もう 1 回復活させようという意味が、復興という言葉にはそもそもあると思うのです。 ところが、後藤新平は帝都復興で、要するに関東大震災からの復興のときに、ある種の成長主義といいますか、都市を近代化していく、帝都として拡大していく、大日本帝国の冠たる帝都を作っていくという近代主義的なビジョンを持ち达んだ。そこで、復興概念にパラダイム・チェンジが起きたんじゃないかと思うのです。 そうすると、戦災復興でも、その後の震災からの復興、災害からの復興でも、どこか、つまり復興した後は昔より良くならなくちゃいけない。たくさん道路ができて、たくさん建物も良くなって、何か改善されなくちゃいけないという思考というか、通念ができてきちゃったんじゃないか。だけれども、それは本当にそうなのかという疑問があるのですね。 復興という言葉の中には、どこかより良いもの、より成長するもの、より近代的なものというというのとは違うべクトル、つまり過去への回帰というべクトルを、復興という概念そのものが含んじゃっているんじゃないかという気がするんです。 ○御厨そうですね。今、まさに後藤新平はおつしゃったとおりで、後藤はとにかく東京市長もやっていましたから、自分がやっぱり作りたいという都市のモデルがあって、だから、アメリカからすぐにビーアドを呼ぶわけですからね。ビーアドを呼んでやろうというのは、そもそも前のと打りやるという気は毛頭なくて、とんでもない額の予算を入れるという前提で東京を全く変えようという話で、それはおっしゃるよう に戦後復興のときにもそこに引きずられます。結局、そんなにはできなかったんだけれども、たた、前より良くする。まさにあなたがおっしゃったように、悪かった部分はこれで潰しちゃう。それで全部良くなる。たた、その良くなるのがどういうふうに良くなるのか、誰が良くなったということを感じるのかというそこは論じないんですよ。 何となくすばらしい都市ができたみたいな、未来都市構想みたいなのがどーんと出て、それを追いかけていくと。道も広くしようね、それから、どんどん道路の車道と歩道とちゃんと区別したようなものにしようねみたいなところは行くんだけれども、何となく人間味があまり感じられないような。 ○吉見そこに復興概念が引きずられてしまうことが、震災復興とか戦災復興とか、様々な復興プロジェクトが結局、では誰のための復興なんだという根本の話が出てきてしまう、その根本中の根本の問題の根っこがあるような気がするのですね。 ○御厨おつしゃるとおりです。 ○吉見先生はすごく早い時点で「戦後」から「災後」 へ、つまり「災後」という概念をお出しになられました。それで、私たちも先生がご提示になった問いにそれぞれ影響を受け、災後ということを考え始めたと思うのです。けれども、先ほどもおっしゃられたように、 あのときは戦後にピリオドを打たれたかと思ったのですが、本当にそう言えたのか。災後いまだ来たらずという思いを、実は今も持っていらっしゃる面があるんじゃないか。ところが、今の復興のありようは、戦後の延長線上という面がある。ピリオドは打たれたとお考えになられていますか。なかなか微妙な問いなんですけれども…... ○御厨微妙ですね。 ○吉見「災後」いまだ来たらずというあたりの、現時点における先生のお考えをお聞かせいただけないでしょうか。 ○御厨確かに僕は災後というのは、ある種、「絶対化」から「相対化」されたという言い方もしましたけれども、「相対化」されることによって割ともう復興というのは、とにかくこの一番、これをやらなきゃいけないという話ではなくて、どんどん似たようなことが起きてくると、それに合うようなモデルがどんどんできていくと「復興モデル」ができちゃって、それで、今度は「災後の時代」というのは「復興モデル」を当てはめていけばいいんだよみたいな、そっちへやっぱり流れていったという感じがすごくしていて、たから、自然焱害が来てもみんなもう怖くない。これのモデル だからこれで行きましょうみたいな話が来ちゃっているわけです。それが、それでは駄目ですよと言われたのが僕はコロナだと思うんだね。 コロナはそういうふうにはいかないんたと。ある一部の地域だけをみんなが眺めて、自分たちはその地域とは違うからよかったね、ああいうふうにはならないで、みたいなことじゃなくて、誰にも降ってきて、しかも、さっきも言ったように人と人をつなぐかと思ったらどんどん切り離してという。 だから、私は「災後の時代」というのはいわゆるコロナ災害の後にまた来るんだと思いますけれども、このコロナ災害のことを考えると、要するにある種、モデル化されていきそうになった復興がやっぱりそこでやめるというか、つまり誰のための復興かというのをまさに吉見さんが言われたように、ここで初めて考え始める。どうも万人にとっての復興はなさそうだと。 だとすると、何をどうやって復興していったらいいのか考え直そうよという、そういう感じじゃないですか。 ○吉見おっしゃられる通りだと思いますね。先生の問題提起はアフターコロナ、ポストコロナの状況にまで当てはまると私も思います。そして、先生がおっしゃられた戦後というこの言葉ですけれども、戦後というのは基本的には成長の時代だった。それが 21 世紀の初頭までに限界に達しているということを、私もご挨拶のなかで申し上げました。 戦後は成長の時代であった。その成長の時代が決定的に終わったことを我々はまだ十分に認識していない。けれども、本当は 2011 年の東日本大震災のときにそこをもっと深く気がつくべきであったし、それに気がついた人々もいた。 だら、災後は何を意味するかというと、先生のお考えですけれども、その成長の時代としての戦後が終わった、その先の時代が災後。そういうことでよろしゅうございますか。 ○御厨それでいいと思います。だから、僕も時々言っていますけれども、あの 3.11 の後にそれぞれの地域が作った都市モデルというのは、全部要するに人口がそんなに減らない、現状維持、あるいは増える、 そういう成長型モデルで作っていたというのが象徴的なんですよ。でも、それをやりながら、最近、いろんな市長さんたちの話を聞いていると、現実にそれはできないということが分かってきて、やっぱり市民の中にもそれが浸透してきて、じゃあ、そうじゃないモデル、つまり低成長型の身の丈モデルというのは一体どうやって作っていくのかというところにかじを切らざるを得ないというところに 10 年たって来たのかなと いう、そういう思いはありますけれどもね。 ○吉見そうでございますよね。だから、さっきの話に戻ってしまえば、後藤新平が帝都復興といったときには、日本はまだ成長過程にありましたから、だから、 まだまだ工業力は伸びていく。当時は軍事力だって伸びていったわけですね。そして、その後、戦災のときは確かに廃墟になりましたけれども、しかし、人口はまだ増えていたわけですね。 若年人口はべビーブームだとかで物すごく若い人がどんどん生まれていましたから、これからまだ人口学的にも成長期に入っていくという時期、そういうふうなマクロな構造では、むしろこれから成長していく時代だった。今は全く違うのですね。 ○吉見そうすると、この成長モデルを前提にした戦後、あるいはそれを前提にした復興ということは、実はもうあり得ないということになる。 ○御厨あり得ない、おっしゃるとおりです。 ○吉見だけれども、復興というときには、その成長モデルを前提にしない復興とは一体何なのか。私は、 いにしえに戻る、いにしえの記憶をよみがえらせるというか、いにしえの町、いにしえの社会というもののもう 1 回その価値を見直すという、そういう含意が復興という言葉の中にはそもそもあるんじゃないかと思う。実際、東北も、日本全体も、江戸時代の終わりぐらいとか明治ぐらいの人口は 8,000 万、9,000 万、 1 億にいっていないですよね。 ○御厨そんなものですね。 ○吉見いずれ 2040 年代の日本の総人口は 1 億を切ると考えられている。それが 8,000 万、7,000万までいっちゃうのか分かりませんけれども、どこかで 1 億は切るんたと思うのですね。そうすると、これはもう増えていく時代とは違うんですね、未来モデルが。 むしろ逆に、江戸が唯一の解だとは思いませんけれども、しかしかつていい時代も結構あっただろう。だから、その様々な良き時代の記憶をもう 1 回よみがえらせることも、我々の未来のビジョンとしてあり得るだろうと私は思うのです。 ○御厨おっしゃるとおりです。地域でずっと復興を今でも続けていますけれども、その中で地域の歴史を考えて、前はこうだったよなみたいな話は、今、結構出てきているでしょう。やっぱりそれが身の丈に合うということなんだと思うんですよ。江戸時代に戻るというわけではないけれども、やっぱり近代化の中で見えなくなってきた部分をどうやって見るかといったら、もう歴史を見るしかないわけで、その中で見てい くという。 だか、歴史に返る、つまり「復古」ということの意味を、「復興」ということの意味を歴史に返ってもう一遍考えてみるというある種の深さを伴った、そういう思考なんじゃないですかね。 ○吉見同感ですね。だからこそ今日はデジタルアー カイブ学会、そこで基調講演を先生にしていただいたわけですけれども、その意味でアーカイブの重要性がある。過去を蓄積し、記録を蓄積し、記憶をよみがえらせていく、そのことの重要性というのは、まさに今、議論した意味での復興ということと直結しているんじゃないかという気がいたします。 ○御厨そう思いますね。だら、7つの復興の原則の最初にあれを挙げたというのは、何か今になってみると当たりという感じがします。あのときは本当に非難されましたよ。なんで最初にそんな記憶のなんて、 お前、何もできないからだろうなんて言われましたけれども、そうじゃないんですよ。やっぱり記憶というものはすぐに消えるだ万うという感じが僕はしましたもの。 現実には震災に関しての公文書というのはどんどんなくなっている時期でもありましたし、だから、これは残さないと駄目だと。そうじゃないとまた結局、元に戻っちゃう。だから、今後もそうですよ。やっぱり、 どうやってアーカイブしていくか、それから、アーカイブしているものはさっき言ったみたいに道端に転がっては困るわけで、それをどうやって常にリシャッフルしていくかということ、これはやっぱり大事だと思いますね。 ○吉見高度成長期みたいに、放っておいてもみんなが同じ方向に向かって成長していく。それでハッピー な時代だったら、過去を常に振り返れるようにしておくことは、我々学者にとってそれはいつも必要ですけれども、普通の人にとって必ずしも必要じゃないと思われてきたでしょう。未来の方向ははっきりしており、 そこに向かってみんなが頑張る。でも、そんなやり方ではもう駄目だということが、阪神・淡路大震災、東日本大震姼、そしてこのコロナ禍、長い困難な時代を通じて多くの人がもう分かってきたはずなのですね。 そうすると、もう過去は過去で捨ててしまって、未来に向かってどんどん走っていけばいいんだという、 この考えは根本的に間違いだという、そういうことをやっぱりデジタルアーカイブにかかわる我々は提起していかなければならない。 ○御厨と思いますね。だから、過去を平面で捉えるんじゃなくて、過去を立体化していく。過去を立体化 していくのに、多分、デジタルアーカイブの思想というか、デジタルアーカイブの技術というか、それはやっぱり大いに資するんじゃないでしょうかね。 ○吉見そうですね。たた、先ほど先生が打っしゃられたように、江戸時代との違いということで言えば、江戸時代にオンラインはありませんでしたから、江戸時代にコロナが襲ってきていたら、もう本当に実際、 コロリは襲ってきていたわけで、安政の大地震の前後ですね。コレラが大英帝国のネットワークでペリー来航のすぐ後に入ってきて、いっぱい死んでいるわけです。だから、似てはいるのですが、そこではどうすることもできなかったわけですね。 我々は今、ワクチンとオンラインがあるということで、ステイホームしながらも、何とかぎりぎりつながっているわけです。でも、このテクノロジーの進化を別にすれば、こういう非常に危機的な状況で、実は似たことはいっぱいあって、幕末も草莽の志士といいますか、脱藩志士が行き交っていた。先生が扐っしゃっていたように、人々は今、動いているというか、流れ始めている。志を持った人々が列島を流れ始めている。これは同じ、似ていますよね。 ○御厨そうそう。もう志士がとにかく藩の藩境を越えて、日本地図でものを考えるようになるという、そういう時代です。だから、近いと思いますよ。今度だって、結局、そうですよ。今、都道府県の知事さんたちの発言がいろい万あるけれども、全国紙で取り上げられるようになった時代というのは今が初めてですから。それで、またみんないろんなことを思うわけですよ。 ○吉見逆に言えば、中央がめちゃくちゃ弱まっているというか、ほとんど崩壊している。 ○御厨いやいや、中央はやっぱり現場を持っていない弱みというのが出てくる。つまり現場についての感覚が何か変なんですよ、中央は。変なのはしょうがない。だって手足がないんだもの。手足はみんな都道府県だと思って、その手足に頑張れ、頑張れと言っているうちに、手足のほうに反乱を起こされて、中央が言っているとおりにやっていたらこれは䭾目だと分かってきたという状況でしょう。 ○吉見そうですね。ですから、災後の時代、中央集権的あるいは東京集中的な体制がどこかで壊れる。つまり、それは明治維新から近代化をずっと進めてきて、震災や戦争はあったけれども、その後、高度成長で成長の時代を続けてきた。その限界が来たときに戦後が終わるということは、単に豊かな時代が終わるということではなく、中央集権型、あるいは東京中心の近代化、そういうふうな大きな近代の日本の歴史が終わつていく。その終わっていくときに、その前にあったようないろんな志を持った当時の志士たちですけれども、それが当時の藩境を越えてつながっていった。現在、もう 1 回、い万んなところで人々につながりが出てくる。そこの同時性というか、類似性が一方であり、 しかし、今は、このつながりはデジタルであり、オンラインであり、テクノロジーは全然違うわけですね。 ○御厨違います。 ○吉見そうすると、新しいテクノロジー、あるいは新しい情報やプラットフォームの状況の中で、メディアの状況の中で、もう一度国づくりといいますか、国の在り方をもう 1 回やり直す時期に来ていると。 ○御厨そう、リシャッフルする時期なんですよ。たから、国があって、都道府県があって、市町村があって、何となくこれで日本ですという話ではなくて、そこの関係性を崩していく、あるいはもう崩れているものをやっぱり認めようよというのでもいいかもしれない。それを前提にやっぱりこの国を変えていくということじゃないですかね。 ○吉見これは、デジタルアーカイブ学会は大変なことをやろうとしているという、そういうふうになるかもしれませんね。ですから、単純にアーカイブはいろんなものを記憶し、記録を残しておく、これは出発点ですけれども、残していく。そして、その活用の方法を様々に案出し、実装していく、これはもち万ん出発点ですけれども、その先にあるのは、やっぱり新たなる復興といいますか、成長主義的な概念にとらわれない復興といいますか、もう1つの復興を可能にしていくような、そういうビジョンなんじゃないでしょうか。 ○御厨だと思いますね。 ○吉見多分、あと $2 、 3$ 分ですね。 今村そうですね、2、3分で。 ○吉見今村先生、復興構想の検討会議にご参加を先生もされていましたが、そのときの感想を今村先生からも一言、お聞きしたと思っていました。一言、お願いできますか。 今村今日の御厨先生の裏話的なもの(背景)は、間接的に伺っていたのですけれども、本日の基調講演と対談で体系的に理解できました。 その時の考えをいま整理して、見直すことが大切であります。1つキーワードとしては多重防御というのがあって、 1 つの機能だけではいろい万対応できない、政体も含めていろんな機能と役割を様々な目的で対応すべきであるという点も思い出しました。 ○吉見い万い万謎が、今日、解けたんじゃないで しょうか。御厨先生の小話を聞いて。 今村本当にそうです。 ○吉見当時の議論全体のアーカイブ化が必要ですね。 ○今村あと、やはり被災地のほうは、直後、まさに復興計画をするために本当にいろんな議論があって、迷いがありました。 実は今、 10 年たって、また新たな迷いとか、新たな議論が始まっています。そこが今日御議論いただいた成長モデルではない、何かやっぱり自分たちで、住はできた、インフラはできたんだけれども、中身はまだじゃないか。そこで改めて地域の特色・強さというんでしょうか、地域の改めてどういう町だったかというのを振り返っている議論があります。今日のお話と大変重なるのかなと思っております。 ○吉見ありがとうございました。 最後に御厨先生、最後に今日すばらしい基調講演で感銘を受けましたが、この対談の最後に一言いたたききたいと思います。 ○御厨分かりました。デジタルアーカイブ学会はずっと今まで外から眺めていたんですけれども、今年になってからいろい万と発言をさせていただくチャンスが増えました。同じ学会のところでしゃべるのは楽なんですよ。でも、そうでない人たちがいる、しかも、 デジタルアーカイブというのは、僕は半分ぐらい、何かちんぷんかんぷんな感覚でしゃべらざるをえなくて、そうですね外国に来てしゃべっているような気分があったんですけれども、たた、今、お二人の先生に助けていただいて、やっぱりこれはどこへ行っても普遍的なものは普遍的なんだなということを強く感じましたので、これからまた時折、お邪魔させていただくかもしれません。どうもありがとうございました。 ○吉見ぜひ、時折と言わずに、しょっちゅうおいでいただきたいと思いますし、もともとこのデジタルアーカイブ学会ができる背景の 1 つは、御厨先生と一緒に震災アーカイブをちゃんと作らなきゃいけないといろいろ努力したことでした。 ○御厨そうそう、やっていましたよね。 ○吉見あれが背景になっておりますので、ぜひ、今後もおいでいただきたいと思います。 今日、震災 10 年ということで、これは単にメモリアルということではなくて、東日本大震災と福島原発の事故が投げかけた問いというのはとても大きい。 それは日本の近代、あるいは日本の戦後はもち万んですけれども、近代そのものの核心を突く出来事であったし、そこで復興とは何かを考えることは、これはデジタルアーカイブで我々がやろうとしている問いに直結するものだと思っている次第です。そんなことを御厨先生の打話を聞きながら改めて確信させていただきました。 以上をもちまして、御厨先生と私の対談は終わりにさせていただきたいと存じます。 ○今村ありがとうございました。改めて御厨先生からの基調講演、また、吉見会長との対談、今後の本当にアーカイブ学会の役割、さらには国づくりという話が出ましたので、本当に将来の我々の在り方、役割というのをまさに議論を始めさせていただいたと思っております。改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。 ○御厨ありがとうございました。 ○村それでは、今から休想を挟みまして、研究大会のほうに進みたいと思います。御参加いただいた皆様に感謝申し上げます。
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# “フロー”を“ストック”する: COVID-19とデジタルアーカイブ Turning "flow" into "stock": COVID-19 and Digital Archives 渡邊 英徳 WATANAVE Hidenori } 東京大学 大学院情報学環 抄録 : 今回の COVID-19 感染症を巡る社会の動きに、過去の疫病の教訓が十分に生かされているとは、必ずしも言えない。厳重に 管理され、社会に“ストック”されるはずの新型コロナウイルス対策専門家会議の議事録が残されず、公文書の存在意義が摇らぐよ うな状況も生まれている。筆者は、こうした状況を踏まえ、歴史に残るであろう現在の社会のありよう=“フロー”を、仔細に記録 =“ストック”していくことの重要さを改めて主張したい。本特集では、筆者が主査を務める「SIG COVID-19」のメンバーをはじ めとして、各地でアーカイブの実践に取り組んでいる方々の、リアルタイムなアーカイブ活動を網羅することを企図した。これら の取り組みの成果が、現在進行系の、そして近未来・遠未来に確実に起きるであろう、あらたなパンデミックに活かされることを 願っている。 Abstract: The lessons learned from past epidemics have not necessarily been fully applied to the social developments surrounding COVID-19 pandemic. In addition, the minutes of the experts' meeting on the new coronaviruses, which are supposed to be strictly controlled and "stocked" by society, have not been preserved, and the significance of public records is undermined. In view of this situation, the author would like to reiterate the importance of keeping a detailed record, or "stock", of the situation of our society today, a "flow" that will likely remain in history. This report is intended to cover the real-time archiving activities of the members of SIG COVID-19 and others who are engaged in the practice of archiving in various places. I hope that the results of these efforts will be applied to the new pandemics that are now in progress and are sure to occur in the near and distant future. キーワード : フロー、ストック、COVID-19、アーカイブ、活動、実践 Keywords: Flow, Stock, COVID-19, Archives, Activity, Practice ## 1. “フロー”を“ストック”する 現在、新型コロナウイルス感染症の影響により、社会の各層でさまざまな取り組みが行われている。あらゆる点において、最も尊重されるのは人命であり、人命を守る医療の維持であることは言うまでもない。ただし、こうした状況と向き合うためには、感染症の実相や社会のありさまを正確に記録することも欠かせない。 冒頭に掲げた図 1、2 は、過去のパンデミック「スペインかぜ」「アジアかぜ」当時の写真を、筆者が $\mathrm{AI}$技術をもちいてカラー化し、ツイート ${ }^{[1][2] したもの ~}$ である。いずれも大きな反響があり、本稿執筆時点で、 1500 リツイート・2800イイネされ、40万インプレッションを超えている。また、図 $3 、 4$ に示すように、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、こうした過去のパンデミックの類似点・相違点を指摘するリプライも多数みられ、過去の感染症の記録・記憶にまつわる対話が創発することが示された。 これらの例では、アーカイブ化された記録写真をカラー化してソーシャルメディアに投稿し、現在の時間 図1「スペインかぜ」のカラー化写真ツイート の流れに合流させることにより、過去に学び、未来に活かす動きが生まれている。つまり「“ストック”された資料の“フロー”化による記憶の継承」が起きている。これは、筆者らが取り組んできた「記憶の解凍」 図2「アジアかぜ」のカラー化写真ツイート プロジェクト ${ }^{[3]}$ のコンセプトである。こうした“フロー”は、“ストック”されてきた記録があってこそ、生まれ得るものであろう。しかし、今回の COVID-19 を巡る社会の動きに、“ストック”された過去の疫病の教訓が十分に生かされているとは、必ずしも言えない。私たちは、日々“フロー”として流れくるCOVID-19 関連の報道に一喜一憂するばかりで、“ストック”された過去の知見に学ぶゆとりを㙗っている。さらに、本特集でも報告されているように、厳重に管理され、社会に“ストック”されるはずの新型コロナウイルス対策専門家会議の議事録が残されず、公文書の存在意義が摇らぐような状況も生まれている[4]。これを「アー カイブの危機」ということもできよう。筆者は、こうした状況を踏まえ、歴史に残るであろう現在の社会のありよう=“フロー”を、仔細に記録=“ストック”していくことの重要さを改めて主張したい。 ## 2. SIG COVID-19 の活動 たとえば、私が主査を務めるデジタルアーカイブ学会「新型コロナウイルス感染症に関するデジタルアー カイブ研究会 ${ }^{[5]}$ 」は、図書館・博物館・自治体・文書館・大学・産業など、社会状況の記録に関心を持つみなさんに向けて、いま社会が直面しているコロナウイルス感染症に関する「アーカイブ活動の推進」を提案 @Cyobinosuke Replying to @hwtnv NYセントラルパークに設置された野外病院も、今はこんな感じなんでしょうかね。 目に見えるサイズではないウイルスや細菌に対して、人間は無力だな、と思います。 Translate Tweet 10:51 AM $\cdot$ Apr 23, 2020 - Twitter for Android 図3Twitterユーザのリプライ例1 ## としお @palpop Replying to @hwtnv 8月までビッグサイト,幕張メッセが使用制限という事は, これらの場所が写真のようになるという事かもしれません. 恐ろしや Translate Tweet 1:52 PM $\cdot$ Apr 22, $2020 \cdot$ Mobile Web (M2) 図4 Twitterユーザのリプライ例2 している[6]。具体的には、次のような取り組みが考元られるだろう。 1. 市民による情報の収集活動を、十分に安全を確保することに留意したうえで、可能な範囲で支援すること 2. メディア報道や各種情報発信の内容をアーカイブすること 3. 自らの組織(たとえば自治体であれば対策本部等)や地域の記録をアーカイブすること アーカイブの手段については、デジタル・アナログを問わない。また、以上に示したものはあくまで例に過ぎない。私たちは、コロナウイルス感染症に関するアーカイブ活動が本来地域の情報集積のハブである図書館・博物館等を中心として実施されることをイメー ジしている。本研究会としても活動への協力を惜しまない。アーカイブ活動に関するご相談をお気軽にお寄せいただきたい。 この研究会は、デジタルアーカイブ学会の一研究会としてスタートした。今後は、コロナウイルス感染症に関するアーカイブ活動に資する様々な情報交換・共有を、国内外の関係者と幅広く進めていこうとしている。 本特集では、この「SIG COVID-19」のメンバーをはじめとして、各地でアーカイブの実践に取り組んでいる方々の、リアルタイムなアーカイブ活動を網羅することを企図した。これらの取り組みの成果が、現在進行系の、そして近未来・遠未来に確実に起きるであろう、あらたなパンデミックに活かされることを願っている。 ## 3. 本特集の内容 以降、各稿の要旨を列記する。 ## 3.1 デジタルパブリックヒストリーの実践としての「コロナアーカイブ@関西大学」 本稿は、筆者を含め、関西大学アジア・オープン・ リサーチセンター(以下、KU-ORCAS)の研究者を中心とした学内の共同プロジェクトとして実施している 「コロナアーカイブ@関西大学」について論じている。 コロナアーカイブ@関西大学は、ユーザ参加型のコミュニティアーカイブの手法を用いて、COVID-19の流行という歴史的転換期における関西大学の関係者の記録と記憶を収集している、デジタルパブリックヒストリーの実践プロジェクトである。本稿では、パブリックヒストリーという研究動向の紹介を踏まえたうえで、世界的な動向におけるコロナアーカイブ@関西大学の位置付けやその特徴、そして収集している資料の性格等について論じる。 ## 3.2 文化施設と COVID-19 アーカイブ コロナ禍は図書館や博物館にも、他の分野と同様に大きな打撃を与えた。その影響をどのように対処し、 さらにそれをどのように受け止め、また次の段階にどのようにつなげていくか、デジタルアーカイブの観点からその動向を紹介した。コロナ禍への直接の対処、日常活動をコロナ状況下でどのように行うか、このコロナ禍事態をどう記録するか、という諸段階を設定して検討した結果、この状況に即座に対応できたのは、地域資料・情報の収集に日常から積極的であった文化施設である、という推論に到達した。一方で、この間に収集した資料や作成したコンテンツを今後どのように扱うのか、今後の大きな課題となる。 ## 3.3 COVID-19 で図書館が直面した課題と可能性 COVID-19を受け、その多くが施設としての休館館に追い达まれた図書館の実情を整理するとともに、その結果、露になった図書館の課題を説明する。それらを受けて、これから図書館に求められる役割を論じる。特に課題として日本の図書館は来館利用型のサービスに偏してきた点を、脆弱性と片面性としてとらえ、従来からすでに存在した潜在的な課題が顕在化したことを指摘する。こうした課題に対する対処として、 saveMLAK や、「図書館」(仮称)リ・デザイン会議の活動を紹介したうえで、さらに図書館として取り組むべき活動として COVID-19のアーカイブ活動への貢献を挙げる。 ## 3.4 新型コロナウィルスとメディア 新型コロナウィルスによって社会は混乱し、私たちは大きく行動を変容させた。それは日々触れるメディアが発するニュースや様々な情報がきっかけになっていないだ万うか。では、その内容は正しいものだったのか、その伝え方はどうだったであろうか。感染者や集団感染を出した医療施設などが誹謗中傷を受けるようになり、真偽不明の情報がさらにマスメディアで伝えられたことでトイレットペーパーの買いだめに走る人々も出た。メディアがコロナにどう向き合ったのかを振り返ることで、今後起こりうるエピデミックの際の情報の伝え方の最適解を探ることはできるのではないか。そのためにメディアの記録を収集、蓄積して分析ができる環境ができれば、その最適解を探る仕組みとして社会実装することを考えたい。 ## 3.5 吹田市立博物館における新型コロナ資料の収集と 展示 吹田市立博物館では、新型コロナに関連する資料の収集を行っている。こうした資料は、次世代の人々が感染拡大の実態を知る上で貴重な歴史資料となる。同館ではまた、新型コロナに関連したミニ展示を開催した。収集資料の一部を展示することで、次なる収集につなげることとともに、コロナ禍が日本や地域社会に何をもたらしたのか、また私たちに何を託したのか、来館者一人一人が、これからの日本のあり方、みずからの生き方を考えるきっかけとしてもらうことを目的としていた。モノからコトへ、というように博物館の社会的役割が変化する時代の中で、モノとともに市民による新型コロナ体験の証言を収集・アーカイブする活動が重要となろう。 ## 3.6 世界の COVID-19(新型コロナウィルス感染症)関連デジタルアーカイブ 世界および日本の COVID-19(新型コロナウィルス感染症)による外出禁止や学校閉鎖の中での生活を収集するデジタルアーカイブについて、収集対象ごとに事例を紹介する。 ## 3.7 コロナ関係資料からみえてくるもの 新型コロナウイルス感染症が地域社会へ及ぼした影響を示す資料を「コロナ関係資料」と呼ぶ。コロナ関係資料の多くは、一過性の配付物や揭示物などのエフェメラであり、感染拡大の渦中にあるうちに収集しなければ、すぐに世の中から消え去ってしまう。しかしこれらは、感染症下で人々の暮らしを知る上で、有 益な情報を与えてくれる歴史資料的な価値がある。 いっぽう、コロナ社会を象徴する物としてマスクがある。浦幌町立博物館では、手づくりのマスクに着目した展覧会を開催し、コロナ時代におけるマスクの意味について考えた。コロナ関係資料の収集は、非常事態下における資料収集と地域の記録化という博物館の現状分析であり、博物館資料論上の課題ともいえる。 ## 3.8 「議事概要」は、「議事録」に似て非なるもの 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の拡大防止に関する国の対応が、公文書管理法に基づき初の 「歴史的緊急事態」に指定された (2020 年 3 月 10 日)。記録の作成・保存が義務づけられたが、医学的見地から政府に助言などを行う感染症対策専門家会議の議事録は作られていなかった。東日本大震災に関連して政府が主催した主要な会議で議事録が作られなかった事態の改善策として 2012 年 6 月、公文書管理ガイドラインを改正したことがそもそもの始まりだ。だが、その後に起きた政権交代、第二次安倍政権による特定秘密保護法制定など様々な政治的要因が作用した結果、発言者や発言内容を具体的に記した議事録ではなく議事概要にとどめる運用が横行することになった。 ## 註・参考文献 [1] Twitterユーザのリプライ例1 https://twitter.com/hwtnv/status/1252775136635191296 (参照 2020-10-31). [2] Twitterユーザのリプライ例2 https://twitter.com/hwtnv/status/1253461478578941953 (参照 2020-10-31). [3] Anju Niwata; Hidenori Watanave. "Rebooting Memories": Creating "Flow" and Inheriting Memories from Colorized Photographs. Proceedings of SIGGRAPH ASIA 2019 Art Gallery/ Art Papers. 2019. Article No. 4, p.1-12. https://doi.org/10.1145/3354918.3361904 (参照 2020-10-31). [4] 中日新聞. 専門家会議の議事録見送り政府, 概要に発言者名記載へ. 2020年 6 月 8 日. [5] デジタルアーカイブ学会. SIG「新型コロナウイルス感染症に関するデジタルアーカイブ研究会」.2020年 5 月10日. http://digitalarchivejapan.org/bukai/sig/covid19 (参照 2020-10-31). [6] デジタルアーカイブ学会SIG-COVID19.「COVID-19に関するアーカイブ活動の呼びかけ」.2020年 5 月10日. http://digitalarchivejapan.org/bukai/sig/covid19/call (参照 2020-10-31).
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# 基調講演「災後の時代を迎えて 一東日本大震災から 10 年一」 ## 2021年 4 月23日 第 6 回研究大会(オンライン)講演 東京大学名誉教授 講師プロフィール - 東京大学名誉教授 - 東京大学先端科学技術研究センターフェロー - 放送大学客員教授 ・サントリー・ホールディングス株式会社取締役 復興構想会議議長代理を務めた。政治家など当事者から体験を聞き取る「オーラル・ヒストリー」の第一人者。主な著書に「『戦後』が終わり、『災後』が始まる。」「権力の館を歩く」など。 今回の基調講演のテーマは、「災後」である。御厨貴氏は、震災の 2 週間後にはある新聞に「津波による水没と原子力災害という『戦時』以来の共通体験により、『戦後』が終わり、『災後』が始まる」という趣旨の文章を寄せた。それは高度成長型の政治・経済・文化の突然の終焉(しゅうえん)を意味していた。 御厨でございます。ただいま過分な御紹介をいただきました。 今日は今、十年一昔と申しますけれども、その十年一昔、あるいはたかが 10 年されど 10 年というふうにも申しますけれども、あっという間にこの 10 年がたったなと、そういう認識の下にこの 10 年間、ちょっと私自身を含めて振り返ってみたいと思います。その振り返りの後を皆様にお話をしたいというふうに思っております。 ## 1. 東日本大震災に遭遇して 最初なんですけれども、実はあのときのことを思い出すに当たって、私は 10 年ぶりに自分の日記を開い てみました。何をあのとき書いたのかなということで日記を開いて見まして、ちょうど 3.11 、あの日の午後のところからちょっと抜き読みをしてみたいと思います。私、東大のまさに先端研、東大の駒場の研究室におりました。読んでみますと、「2 時から 2 時 15 分、中野所長と会う。しかる後、大変。 2 時 45 分に 3 階、助手の手塚の部屋の廊下にいたとき、摇れる、摇れる。大地震だ。回る、回る、ぐるぐる回る。来た、来たという感じだ。不思議と落ち着いてはいた。今でもスローモーションビデオのように目に焼きついている。 ごーっという地鳴りだ。摇り返しもある。天井の蛍光灯がぐらぐら。落ちるかしら。でも、そのとき、これで菅政権は持つ。民主党は運を拾ったと即座に思う。政治学者の悲しい性である。 10 分後、直ちに等々力の自宅に電話。奇跡的に通じ、我が連れ合いも大のモモタロウも無事と分かる。その後、我がiPad を駆使していろいろな人の安否を確かめる。何と我がゼミの OB のアメリカ組の 2 人から安否を気遣うメールが。 そのうち、広場に集合。多くの仲間と会う」というふうに書いてあります。 地震直後の緊迫した状況の中で、「これで菅政権は持つ」などと間の抜けた感想が浮かんだ自分自身が打かしいんですけれども、その後であります。「余震、続く。交通全て駄目と分かり、先端研籠城を決める。助手の手塚、また同じ。5 時過ぎ、近くのそば屋にて夕食。先端研前の通り、自宅へ急ぐ人々の集団通過現象。コンビニであれこれ買い込む。帰りがけにナンパしている若い会社員発見。皆、妙に明るい。大会議室にてテレビつけっぱなし。飲食を取りながら、テレビ、 iPad、携带を駆使し、深夜までぐだ゙たた過ごす。テレビに映る津波の素人の映像にはっと息をのむ。本当に 大変。ついにまたと思う。天変地異が政治を規定する。 2 時過ぎ、仮眠。 4 時半、また地震。長野と新潟だ。 エリアメールにどんどん入る」というふうに書いてあります。これは翌日、私が書いたものでありまして、翌日は家に帰れました。 恐らく、復興会議のメンバーとして記憶と記録のアーカイブ化というものを復興 7 原則というもののトップに揭げたのは、この 3.11 夜の途絶えることのない津波被害を伝えたテレビの映像のせい、これが物すごく私の頭の中に残ったということが影響しているのではないかというふうに思っているところであります。 その 3.11 が過ぎまして、2週間もたたない 3 月 24 日の読売新聞に私は次のような文章を書きました。ここもちょっと引用いたしますので、気分を思い出しながらということでありますが、「3.11 は日本を、そして、世界を変える。大地震による大津波とそれによる原発事故という未曽有の天災と人災の複合型災害は、 この国をとことん打ちのめした。3.11はこれまでの日本近代を唱える文脈に激しい変動を及ぼした。まずはこれで長い、あまりにも長かった戦後にようやくピリオドが打たれる。第2次世界大戦で負の刻印を押され、 その後は戦争体験がないため、内外ともに日本近代を区切る節目となった戦後、今やその戦後からの暴力的開放が生じた。共通体験が訪れない。ましてや平和憲法で戦後立国した日本に戦争体験の再来はあり得ない。皆がそう思い达んできたところに 3.11 の到来である。大地震と原発災害という強烈な共通体験に刻印された日本は、「災後の時代」、いわゆる震災の後と書きます。「災後の時代」を歩み始めている。戦後から災後へ、それは日本が戦後ずっと追求し実現してきた高度成長とその後の社会、終わるべきと何度となく叫びながら、そこからついに脱出できなかった高度成長型の政治、経済、文化の突然の終えんにほかならない」 というふうに書きました。つまり大いなる戦後の価値観から新しい戦後の価値観、災後の価値観に変わるのだということを私は言ったわけであります。 最近になって、私、気がついたのでありますけれども、東日本大震災から5 日後の3 月 16 日、平成の天皇のビデオメッセージが既に日本全国に流されておりました。このメッセージについては、また後で詳しく申しますが、簡単に言っておきますと、このメッセー ジの文章には天皇として被災者たちにどう呼びかけたらいいのかということを相当、天皇が打考えになり、被災者の状況をいかにして好転させたらいいか、あるいは大災害を乗り越えて生き抜いていこうとしている被災者にどう寄り添えばいいのかということが書かれ ているわけであります。そして、様々な形で被災者の心持ちを分かち合い、復興への道のりを考えなければならないと言われたわけでありまして、この 2011 年のビデオメッセージというもの、これが後に申しますように 2016年の天皇の退位のメッセージにつながっていく、その文脈の始まりであるというふうに捉えておいていただきたいと思います。 ## 2. 震災復興会議に呼ばれて 私は震災の後、先ほども名前が出ておりましたけれども、五百旗頭眞さんと一緒に復興構想会議に呼ばれて、そこで議長代理を務めました。4月14日にその会議は開かれたというふうに今でも思っております。 さて、一般にそうでありますけれども、今のコロナの状況をちょっと考えていただいて分かりますけれども、時の政府というのは大きな課題というものが持ち上がりますと、しばしば有識者会議というものを設けます。新型コロナウイルスの場合の新型コロナ対策分科会などがこれに当たるわけですね。 早 10 年前の話になりましたけれども、 2011 年 3 月 11 日の東日本大震災に対応したのが 4 月 14 日一先ほど申しました一から開かれた東日本大震災復興構想会議でありました。これから後は復興会議というふうに呼びますけれども、議長代理を引き受けた私はいかにも自民党政権時代の前例踏襲を嫌がる民主党政権らしいというふうにそのとき思いました。何を思ったか。 例えば委員会や有識者会議では、トップを委員長とか座長と称するのが普通でありますけれども、なぜ議長としたのでありましょうか。さらに、議長代理がこのときは 2 人もおりました。さらには、定数外の特別顧問、括弧して名誉議長と書いてありますが、これもいるわけですね。一見して頭でっかちな組織だなというふうに思いました。往々にして社会党系の組織はこういう頭でっかちなものが多いんですけれども、それを真似したのかなというふうにも思いました。 復興会議の下には検討部会も1つ置かれました。追々、検討部会は枝分かれして、複数の専門分科会が横並びになるというふうに考えていたように思いますけれども、結果はそうではありませんでした。そうはならなかった。 震災当時の菅直人首相は、外国人献金問題で苦境に立たされており、震災の勃発で、先ほど運がよかったというふうに私は日記に書いていましたけれども、退陣は免れたものの、強力なリーダーシップの発揮は到底期待できません。野党の自民党、公明両党は終始冷ややかな態度を取ったわけであります。そんな中で発 足した復興会議のメンバーは、これまた通常の審議会とは違う、後にも先にもない、非常に異色の人材が集まっていたというふうに今では思います。 私はなぜこの会議に参加したのだ万うか。実は震災が起きてからボランティアの精神から、実にひょうひょうと軽く使命感なんか表に出さずに現地入りする若者たち、これに非常に私は感動を覚えておりました。間もなく復興会議の議長代理を何のためらいもなく受けたのは、若者のように現地でボランティアをすることは到底無理である。しかし、復興への貢献に少しでもなればという思いから、ある種のボランティア精神の発揮によって私はこの会議に参加をしたわけであります。 しかし、この会議に参加してみますと、私だけではないなということを後で感じるようになります。つまり復興会議に集まった十数人のメンバーもそうした気分に実は満ち満ちていたのであります。「災後日本をどう復興させるか」という課題に臨むメンバーは、危機意識から参加意識が極限にまで高揚したという状況にありました。それはあたかも幕末のペリー来航のときに開国要求にどう対応するかを幕府が諮問する、その際に上は大名から下は平民まで参加意欲が高まって、あれこれいろんなことを口走った、そういう状況と非常に似ていたわけであります。 しかしながら、参加意欲の向上というものは一時混乱を極めます。例えば 4 月の第 1 回会議の際に特別顧問になった梅原猛さんは、これは文明災だと。文明の災害だと言って、こぶしで机をたたき、感涙にむせび、 そして、天を仰いだわけです。混乱が議場を支配し、誰の統制もそれから効かなくなったという状況でありました。 私の近くにいました当時の官房副長官は非常に驚いて、この会議は一体どうなるんだ万うと。最初の段階で顧問が立ち上がって、とにかく机をがんがんたたいて涙したわけでありますから、もう騒然たる状況がそれからしばらく続きまして、一体これはどうなるのかということ。つまり、ありていに言って普通のこういう有識者会議や委員会で見るような結論が見えない、結論に至るようなまた人材が入っているとも思えないという状況になったわけでありまして、私はこの折に石原信雄さん、有名な官房副長官経験者でありますが、 この石原信雄さんに電話でこう言われました。「この審議会はどこに着地するのかが分からない。危険だから、なるべく早くあなたは辞めたほうがいい」というアドバイスを受けたほどだったわけであります。確かに素人集団の会議は、海図なき航海に出帆するや、た ちまち「会議は踊る、されど進まず」を地で行く展開となった。まさに「踊る」という表現がぴったり来る状況になったわけであります。 もう少しその辺について御説明をしますと、首相官邸の大会議室で毎回この会議は開かれました。各委員は長々と自説を論じ、会議は時として5 時間を超えたのであります。この 5 時間を超えるというのは通常ないことで、後であそこの官邸の担当者に聞きましたら、 どんなに長い会議でも今まで 2 時間を超えたことがない。この会議はもう本当に驚いたと。 5 時間。 5 時間もやったおかげでどうなったかというと、4時間たつたところでマイクロフォンの電源が切れるんです。もうそこまでしか準備していなかったというので、慌ててそこからまた電源を入れ直すというようなこともやりました。議長団の制止というのはほとんどみんな聞かない。委員の怒号が飛び交う「戦場」と化したわけであります。 しかも、この民主党政権下、さらに我々が苦労したのは、官僚が委員との直接的な接触をするということをこの政権は禁止していました。したがって、個々の説得工作も我々議長団が行うということで、大変な苦労をすることになったというのが実情であります。この会議はいつ潰れるのかというようなことがまことしやかに言われたわけでありました。 ## 3. 復興 7 原則へ そんな中で我々が考えたのは、5月の連休明け、 4 月に始まりましたから、5月の連休明けに何とか少し方向性を見いださないとこの会議は間違いなく潰れるということで、議長団と事務局で「復興構想 7 原則」 というものを作りました。目玉はその原則の 1 番目、一番最初に命への追悼と鎮魂ということをうたって、大震災の記録の保有、それから、分析の結果を教訓として次世代に伝承するということをはっきり書き加えたその点にあるわけです。 要はアーカイブ化、つまり記録と、それから、記憶というものをとにかく次世代に伝えるという、まだ復興も始まっていないのに何を言うかというふうに思われた方も多かったかと思いますけれども、大事なのはむしろそこの先だ万うというふうに我々は思って、この燃えたぎるメンバー、とにかく騷ぎ立てるこのメンバーたちに一定方向でそれが寄り添う姿勢という形で示されたというふうに私はそのとき思いました。 7 原則の先にそういうものを設けたのはいろんな理由があったんですけれども、たた、先ほど、私が言いましたように、そこで思ったのは、あの一晚中テレビ やiPadで津波の映像を見て、その恐ろしさというものを十二分に追体験した。その後も市民が撮った映像というものが時々私は目に入りました。こういう記録はいずれどこかに紛れる。残さないと駄目だというふうに思ったのも事実でありまして、したがって、1番目にこれを持ってくるという構想、これに私はイの一番に賛成をしたということがございました。 しかも、その中で現実にアーカイブの発想が重要だというふうに思いましたのが、津波経験の多い東北地方では、江戸時代から津波の恐ろしさを伝承する碑文、 これを至るところに建立していた。それが至るところにあったわけですね。しかし、何百年もたちますと、 それと分からなくなり、教訓にもならないまま被災地にそれが地震とともに転がり落ちている。道のところに落っこちている。これはなんでこんなところに落っこちているんだなんて地元の人が言っている、そういう状況を私も何度も目にいたしました。 アーカイブは常に現代化の工夫をしないといけないんだなというふうにつくづく思ったわけですね。たとえ未曽有の何十メートルもの津波が来ても、残し方によってはせっかく残しても忘却のかなたに追いやられるということをこの過程の中で勉強していたということがございました。 そういう中でお話をまた復興会議のほうに戻します。復興会議の議論が空転するうちに私たちが分かってきたのは、その委員の多くが東北への思いというものを形にしたいと思っているということがだんだん分かってきたわけであります。東北への思い、しかも、実務的なことをあまり得意とする方でない人たちが集まっている。その中では、やはり東北にゆかりのある万が多いということもだんだん見えてきた。 そうすると、そことどうやって提携をしていくのかということがございますので、そこからその思いというものをどうやって我々が吸収していったらいいのかということを随分シミュレーションしたわけであります。実は阪神・淡路復興委員会の委員長でありました下河辺淳、この下河辺さんに私は同時的なオーラルヒストリーをやったわけでありますけれども、そのオーラルヒストリーの中で下河辺さんが常に私に言っていたのは、実務家だけの委員会では絶対駄目だと。そこに地域への思いを語る人がいないと、結局はまとまらない。 下河辺委員会では、そういう意味で一番ヶ瀬康子さんがそこに入られたわけですけれども、今回はお一人ではない。それがむしろ多数を占める委員会の中でどうしたらいいのか。思いを形にするのは極めて難しいわけです。形にならないものが思いですから。そこで我々議長団は、事務局のマンパワーを動員して委員の思いの丈を短冊にいたしました。 これは官僚の諸君が得意でありますけれども、い万い万出てきた議論をそのままにして放っておくのではなくて、全部それぞれ短冊の形に小さくまとめていく。要するに、まず、小さくそろえていくわけですね。これを同じものは同じもので寄せていく。短冊化して、 そして、平台に乗せて方向性を見いだすということを繰り返します。 普通の審議会なら言いっぱなしで終わらせるようなことも丁寧にこれを吸い上げていくということをやりました。その結果が 6 月 25 日に1つの結果として現れるわけですけれども、妥協点が出てくる。つまり東北への思いというものを明確化するという作業をそこで進めていくことになりました。 ただ、それもそう簡単ではありませんでした。その短冊に並べたものを現実にまた委員の人に読んでもらうと、委員の人たちは怒るわけですね。「俺たちはこんなことを言った覚えはない。こんなばかみたいなことを俺たちは言った覚えがない。」仕方がありませんから、そこで私は立ち上がって、「これはうそでも何でもありません。前回、録音しておりますから、その録音どおりあなた方がしゃべったことを全部切り刻んで、そして、まとめるとこういう意見になるので、もしあなた方がこれを『こんなことを言った覚えがない』 とか何とか言うのは天に唾するものである」というふうに言いましたら、みんなしーんとなりましたけれども、そういう中でまとめていく作業というのを最終的にやらなければならない段階に来ました。 6月に入りますと、もう当時の総理大臣でありました菅直人さんは早くまとめてくれと。これも最初は違ったんですよ。最初は 12 月までにまとめてくれと悠長なことを言っていたんですけれども、6月に中間報告と言って、やがては菅さんはあまり復興そのものには興味がなくなって、再生エネルギーだの何だのというふうに気が向いたものですから、もう6月25日でこれは切りますよというふうに逆に言われて、それから大慌てで最終的なまとめを作るという作業に我々は入ったというふうに言うことができると思います。 残された問題は起草委員の選出でありまして、大体、 その起草委員が全体性を決めるということで、梅原さんは人文学者じゃないとこの提言は絶対に書けないというふうに譲らないわけであります。五百旗頭さんはそれでも私を指名したわけでありますけれども、梅原さんは最終的に自分がそれを見る、自分がそれを查定すると。查定権を自分は確保するということになりま して、ですから、私は查定される課題作文を書くことになると。私も社会科学者の端くれでありますけれども、御承知のようにそんな人文学のようなことを書いたことは小学校の作文以来ありませんから、さあ、どうしようということになったわけです。 そのときひらめいたのは、私が今でも仲良くしておりますが、当時仲良くしておりました詩人の佐々木幹郎さんの詩に学ぶことだったわけであります。震災直後に開かれた作家の大竹昭子さんが主催した朗読会で聞いた佐々木さんの鎮魂歌というものが私の頭の中に鳴り響いて、その佐々木さんの詩はこういうふうに始まっている。「人は摇れ、大地は摇れ、あらゆるもの陸の奥深くへ流れ达む」、こういう一節で始まる詩の文章、これしかないと決意して詩のリズムを要所要所に取り达むということに成功した。成功したかどうか分かりません。それでとにかく作り上げていくということをやったわけであります。ですから、出来上がったものはやや前文の冒頭に時代がかった言葉がちりばめられ、そこからスタートするような文章になりました。結局のところ、この「復興への提言〜悲惨のなかの希望」は各論は検討部会が各省と調整して作り上げた具体案で全部埋められたわけでありますが、今申し上げた前文から各論の序や結びの部分は全体として詩のリズムと劇的セリフで満たされた雾囲気に仕上げたわけであります。国の提言としては空前絶後のことだ万うと思いました。東北への思いを口にする委員の多数派と議長団が辛うじて歩み寄ったというのがこの形であります。 では、具体的にどういうふうに書かれているのか、 これもちょっと読んでみたいと思います。こういうふうに書きました。「破壊は前触れもなくやってきた。平成 23 年(2011 年) 3 月 11 日午後 2 時 46 分のこと。大地は摇れ、海はうねり、人々は逃げ惑った。地震と津波の二段階にわたる波状攻撃の前に、この国の形状と景観は大きく歪んだ。そして、続けて第三の崩落がこの国を襲う。言うまでもない。原発事故だ。一瞬の恐怖が去った後に、収束の機を持たぬ恐怖が訪れる。 かってない事態の発生だ。かくてこの国の「戦後」をずっと支えていた何かが、音を立てて崩れ落ちた」。 この文章の 1 つのポイントは、さらに続いてその真ん中に出てまいります。「未曽有の震災体験を通じて改めて認識し直したことは何か。我々がこの身近な体験から要するにそれを解く解法に向かう、これにしかないということに気がついた。我々は誰に支えられて生きてきたのかを自覚化することによって、今度は誰を支えるべきかを震災体験は問うているはずだ。その内なる声に耳を澄ませてみよう。恐らくそれは自らを何かにつなぐ行為によって見えてくる。人と人をつなぐ、地域と地域をつなぐ、企業と企業をつなぐ、市町村と国や県をつなぐ」、ここでつなぐ実例というのがずっと出ている。「大なり小なりつなぐことで支えることの実態が発見され、そこに復興への光が差してくる」。扮かりのようにつなぐという言葉がこの提言のキーワードであったということは、つくづくそこで感じたことでありました。 この文章が外に出たときに、はっきり言って実務家の人たちからは私のこの提言のところは完全に無視をされました。それ以外の人たちは一体なんでこんな情緒たっぷりの文章を書くのか、これはもう自己陶酔ではないか、自意識過剩ではないかというお叱りを受けた。しかも、政治学者が議長と議長代理をやっていながら、一体なんでこんなものを書いたんだ。事情を知らない人はみんなそういうふうに言うのは当然であったかというふうに思います。 しかしながら、これをやったことによって変な話ですけれども、查定というものはなくなりました。梅原さんをはじめとする東北思い派のメンバーは拒否権を発動しないで、結局は参加意欲の高揚のあまり混迷を極めた議場は、この文章を出すことによって収まったというのが、こういう実態であったということを、これはあまり言われていないことなんですけれども、もう 10 年たちましたので、はっきり申し上げておきます。大変な会議であって、しかも、これは今だから言えますけれども、当時、この混乱する会議を実際に何回か見に来た菅総理は、はっきり独り言ですけれども、言ったのを私は覚えています。菅さんは「この会議は崩壊するんじゃないか、持たないんじゃないか。もう一遍作り直さなくちゃいけないんじゃないか。」そんなことを会議の途中で人に聞こえるように漏らす総理も総理ですけれども、でも、実態はまさにそういうものであったと。 ですから、そういう点でいうと内向きの解決ですけれども、これが 1 つ妥当な解決方策になった。 10 年後の今、もし同じような提言をしたならば、多分、我々は SNS を含むメディアにこの我々の復興議事録というのは徹底的にたたかれたんじゃないかなという気がしますけれども、当時はまだそういうことはなくて、なんでこんなものをとは言われましたけれども、 それを実務派の人たちは各論を見ることによって抑えていくという、そういうことがそのときに行われたんだというふうに私は思いました。 ## 4. 災後の時代 そうして、「災後の時代」ということを申しましたけれども、次に「災後の時代」というのは、実はどういうふうに展開をしていったのだ万うかということが問題になります。 一言で言えば「災後いまだ来たらず」ということでありました。つまり $1 、 2$ 年が過ぎた段階では「災後いまだ来たらず」という感を私は強くしました。例えば 2012 年 9 月にもう当時、復興会議は復興推進委員会というふうになっておりましたけれども、さらに、 その中間報告の冒頭に私はこう記しています。 「あのとき皆に共有された皮膚感覚はいつの間にか遠いものとなった。明日にも我が身に降りかかるかもしれぬと恐れおののいた災害の切迫性の自覚は、いつしか日常性のかなたに追いやられている。風化を封じ达めようという願いはむなしかった」というふうにはっきりと政府の文書の中に私は書き达みました。 そして、さらにそれは客観的にも証明されることになりました。実はこの「災後」という言葉、ずっと使いながらなかなかやってこないという形で過ぎ去っていくんですけれども、さらに翌年の 2013 年 11 月、日本経済新聞に次のような記事が載りました。これも私にとっては相当印象的だったものであります。「東日本大震災の直後、この国難は新時代の出発点になると説いたのは、政治学者の御厨貴だった。巨大地震と原子力災害、強烈な共通体験を持った日本は転換期を迎え、新しい価値観の社会が生まれるという指摘である。災後なる言葉はさほど広がらず、戦後的な様々なシステムは命脈を保っている。御厨の期待は裏切られたのかもしれない」。災後 2 年ぐらいたった状況について、 これだけ客観的に見解を語っている文書はほかにない。巻き戻しの感覚が 2 年たったところで、そこで既に出ているなというふうに私は思いました。 結局、反転現象が起こって、復興の実態も見えてきたし、それから、「災後の時代」という言い方の中で時代が一歩進んだなと思ったのは、さらに5年たった、 2016 年のあの熊本の大震災、熊本の震災が起こったことによって、実は「災後」というものが東日本大震災に「絶対化」されるのではなくて、「相対化」されていくという、そういう1つのきっかけを持つことになりました。これが相対化をされるということの中で私は、それ以後の復興の事態というものが変わってきているなというふうに思ったのを今でも感じています。私は熊本の「復旧・復興有識者会議」にも招かれました。そこで見えたのは何かというと、「つなぐ」ということを最初に申し上げましたけれども、「つなぐ人材というものが日本列島の中を流れ始めたな」ということを私は熊本の震災のときに感じたわけですね。 では、その時感じた実態というのは何であったのかといいますと、阪神・淡路のときのいわゆる復興経験者がそのままボランティアの精神を発揮して、実は東日本大震災に流れ、その 2 つ、ないしはその後者の人たちが今度は熊本の震災の言わばボランティアに行って流れていく。 つまりそういう形で人が流れ、それは単にボランティアだけではなくて、いわゆる地方の役所からも同じょうに「人材が流れていく」ことによって、この国の中を震災を経験した人たちが回り始めることによって流れを作る。その人の流れが一種つながることによって、震災の今後、つまり先ほど吉見さんが言われたようにこれから後、とにかくやたらと自然災害や危機がやってくるという状況の中で、人がぐるぐると中を回り始める。 もっと言えば、たまたま東北地方に行っていますと、若い副市長さんがいる、そういう市が、聞いてみるとその副市長さんはもともと中央の官庁の官僚だったんだけれども、地域担当をしているうちに我慢できずに飛び出している。要するに国にいたのでは何もできないというので、現場に行って、現場の副市長になって陣頭指揮を執る。彼らは国のこともよく知っていますから、どうやったら予算がうまく回るかみたいなことも分かる、そういう人材が来ているという実例が 1 つや2つではない。結構数が出てきている。 ですから、そういう感じで官も民も回っていく、そういう状況がこの 16 年から後にはっきり見えてきたというのが、やはり随分時代は変わってきたんだ、何だかんだ言いながら、そういう蓄積ができて、「つなぐ」 ということがさっきは言葉の上だけでしたけれども、「現実に流れを作って人がつながっていく状況」が出てきたんだというふうに私は思いました。 そこで、同時に先ほどちらっと述べたことで申し上げておかなくてはいけないのは、3.11を受けて直ちに行動を起こされたいわゆる天皇陛下の二度目のメッセージというものが実はここで出てくる。2016年 8 月の天皇退位のメッセージであります。このメッセー ジの冒頭で、陛下は「戦後 70 年という大きな節目を過ぎ、 2 年後には平成 30 年を迎えます」というふうに語りかけておられます。 戦後の節目を過ぎ、平成は 30 年で終わりにしたいという陛下の御意思がここに伺えるわけです。社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか、陛下は語られて、そして、 天皇の務めとしていわゆる自然災害が起きるたびに被災地を訪孔て祈り、被災者を見舞われる。被災者に、 そして、国民に寄り添うということが「象徴としての務め」であったということをここではっきりと確認されるということになりました。 時代の変わり目を意識して、陛下は二度のメッセー ジによって被災者、国民に寄り添うことを「象徵としての務め」であることを伝えて、こうして東日本大震災を機とする「災後の時代」の到来にあって、平成の天皇は祈り寄り添う行為によってその務めを明確化させ、次の世代に引き継いでいくということをここではっきりとさせたということが言えるのではないかというふうに思っております。 そうしますと、熊本地震をはじめとして出てきたいろいろな災害の中で、私はやっぱり「災後の時代」というものが、今、言ったように「絶対化」されないで 「相対化」される、そして、天皇の退位のメッセージの中に明らかに「戦後を相対化して戦後を終わらせよう」という意思が出てきている。そういう中でこの 10 年がやってきたんだというふうに思います。 多様な人の流れということを私は申しましたけれども、これで見ると、被災地と外部の「人の流れ」あるいは避難者と今度は原発なんかでのいわゆる原発であの地域を出ちゃった人の帰還者、戻ってくる人、戻ってはこないけれども、戻万うと考えている人、こういう人の流れもどんどん作られていく。その被災地の現状が非常にそこで明らかになっていく。日本列島全体を俯瞰するまなざしがここに出てきたわけです。残念ながら、そこにもう1つ、今度はウイルスの災害、つまりコロナ禍というのがやってくる。去年からであります。このコロナ禍が我々に示したのは、その自然災害でみんな盛り上がってきた人と人をつないで、そして、みんながつないだ人材の中で、その流れの中で国を良くしていこうという方向性が絶たれるわけです。つまりコロナ禍というのは、人と人がつながってはいけない。ソーシャルディスタンスをとりなさい、なるべくならば行くのをやめなさいという話ですから、逆転現象がそこでまた今起こっている。 ただ、そこに先ほども吉見さんが言っていましたけれども、出てきたのは何かというと、いわゆるオンラインで結んでいくということ、つまり新しいオンラインというものと、従来からの人をつなぐという話が対立するのではなくて、「オンラインによって人がまたつながれていく」という新しい現象が去年から今年にかけて出てきている。だから、長期的には具体的にリアルでは今は人はなかなか行きにくいんですけれども、でも、そうであっても今度はオンラインや何かを使いながら、「災後の時代」に生じたこのコロナ禍をどうやって生きていくかというところで、また新しいつなぎ方を示していく。その新しいつなぎ方を示していくということにやっぱり意味があるのだというふうに思いました。 ですから、最初の東日本大震災の地震があって、そして、熊本の地震が来て、自然災害が増えて、そして、 コロナが来て、3.11 以来、この 10 年、そのたびごとに訪れる「災後の時代」というのは人の流れを最終的には多様化し、そして、輻輳化して、そうして新しいつなぎ方を示す、あるいはそこで人間の在り方というものをもう一遍考えさせる、そういう時代であったんだなというふうに私は今考えている次第であります。 以上、ちょうど時間でございますので、 40 分、お話を申し上げました。以上であります。
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# # # 第 6 回研究大会 デジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会は、東日本大震災から 10 年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、大規模災害としての震災と感染症そして戦争 (経験と教訓の記録)、をテーマに東北大学での開催と なった。ただし、 4 月時点でのコロナ感染状況によりオンサイトでの対面開催は難しく、第 1 部 (オンライン 2021/4/23 24) と第 2 部 (2021 年秋、日時未定) に分けて開催することになった。 $\Delta$ 日時 第 1 部: 2021 年 4 月 23 日 (金)-24日 (土) オンラインで実施 なおサテライト・プログラムを前後に実施 第 2 部 : 2021 年秋に東北大学災害科学国際研究所にて実施予定 $\checkmark$ 主催 $ \text { デジタルアーカイブ学会 } $ 協賛 デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON) 一般財団法人デジタル文化財創出機構 後援 アート・ドキュメンテーション学会、記録管理学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、情報知識学会、情報保存研究会、情報メディア学会、東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、 日本出版学会、日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 第 1 部プログラム ・メイン・プログラム ・ 2021 年 4 月 23 日 (金) ・開会プログラム $13: 00$ 〜 14:20 開会あいさつ 基調講演: 御厨貴 (東京大学名誉教授) 対談 御厨貴 + 吉見俊哉 ・一般研究発表 (予稿は「デジタルアーカイブ学会誌」第 5 巻 S1 号で公開 (J-STAGE))一般研究発表 1 (6件) $14: 35 \sim 16: 05$ 一般研究発表 2 (5 件) $16: 20 \sim 17: 35$ - 学会賞授賞式・受賞者挨拶 17:45 19:15 ・2021年 4 月 24 日 (土) - 一般研究発表 一般研究発表 3 (5 件) $10: 00 \sim 11: 15$ 一般研究発表 4 (5 件) $12: 45 \sim 14: 00$ 一般研究発表 5 (5 件) $14: 15 \sim 15: 30$ 一般研究発表 6 (5 件) 15:45 17:00 ラップアップ $17: 00 \sim 17: 10$ ・製品・サービス紹介 $11: 15 \sim 11: 45$ ・サテライト・プログラム (1) 都市における文化資源のアーカイビング (2021/4/25 ( 日 ) 10:00~12:00) (2) ビヨンドブックの可能性:書籍、電子書籍を超える (2021/4/28 ( 水 ) 13:00~15:00) (3) ハンズオンワークショップ ジャパンサーチの可能性を引き出す (2021/4/22 (木) 18:00 19:30) (4) アジア太平洋戦争関連資料の保全・継承とデジタルアーカイブ (2021/4/29 (木・休) 15:00~17:00) (5)「肖像権ガイドライン」の正式公開とこれから (仮) (2021/4/26 (月 ) 14:30~16:00) ## $\Delta$ 実行委員会 委員長今村文彦東北大学災害科学国際研究所長,教授副委員長柴山明寛東北大学災害科学国際研究所,准教授 委員 安倍樹(あべ・たつる)河北新報社デジタル推進 蝦名裕一東北大学災害科学国際研究所,准教授 加藤諭東北大学学術資源研究公開センター史料館, 准教授 ゲルスタユリア東北大学災害科学国際研究所, 助教 菊地芳朗福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長,地域復興支援部門,教授 坂田邦子東北大学情報科学研究科, 講師 時実象一東京大学大学院情報学環, 高等客員研究員 中川政治公益社団法人 3.11 みらいサポート ボレーセバスチャン東北大学災害科学国際研究所,准教授 南正昭岩手大学理工学部,教授 柳与志夫東京大学大学院情報学環,特任教授 製品・サービス紹介発表者 株式会社東京光音 TRC-ADEAC 株式会社 勉誠出版株式会社 富士フイルム株式会社 株式会社 IMAGICA Lab. 株式会社国際マイクロ写真工業社 日本総合システム株式会社 立命館大学アートリサーチセンター デジタルアーカイブ学会法制度部会
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# # 受賞のことば ## $\checkmark$ 功労賞 アンドルー・ゴードン氏(ハーバード大学教授) この度は、第 3 回デジタルアーカイブ学会功労賞を賜り、誠に光栄に存じます。「日本災害 DIGITAL アーカイブ」の立ち上げから 10 年の間、この共同プロジェクトに携わってきた多くのハーバード大学の関係者、日本の個人や団体の方々に感謝を申し上げると共に、 この度はそれらの方々の代表として、この栄えある賞を受け取りたいと存じます。また多くのライシャワー研究所の学生、スタッフ、教員に携わって頂き、資金面に招いてもライシャワー研究所から支援を頂きました。過去の災害から学び、将来起こりうる災害に備えるため、同アーカイブが日本、そして世界の人々にとって貴重なリソースであり続けられるよう、決意を新たに取り組んで参る所存です。(Andrew Gordon) # $\checkmark$ 実践賞大網白里市教育委員会 この度はたいへん権威のある賞をいただき、ありがとうございます。大網白里市デジタル博物館は、「館を持たない自治体が提案する本格的デジタル博物館」をコンセプトとして、2018 年に公開しました。どこの市町村も行っていない事業でしたので、不安な状況で進めましたが、公開から丸二年で美術品、歴史・民俗資料などが揃い、本市ならではのデジタル博物館ができたと感じています。コロナ禍においても、自宅で学習できるコンテンツがあったことから、 学校教育でも利用され、また市民団体の継続的な活動にも利用されています。 今後は、全国の市町村の手本となり、「大網白里モデル」 と言われるように、コンテンツ追加と学校教育・地域活動での活用に尽力していきます。(大網白里市教育委員会武田剛朗) ## 沖縄アーカイブ研究所 アーカイブってなんだ!と言う以前に、埋もれた 8 ミリ映画が見たい!見せたい! という願望が走り出した私たちの活動を「実践」という視点で評価してもらえたことがたいへん嬉しく思います。 活動も 5 年目ですが、デジタルアーカイブと言う本拠地を置くことが、上映会はもちろん、テレビや活字べースのメディア、芸大の授業での二次創作への挑戦など、新たな可能性を広げることができました。 今回の受賞に後押しされつつ、これまでの活動を発展継続させるともに、孤児作品や、地域間の連携など、新たな課題に向き合っていくつもりですので、これからもよろしくお願いいたします。(沖縄アーカイブ研究所真喜屋力) ## 久米川正好氏(NPO 法人科学映像館を支え る会) 大きな役割をはたしたフィルム作品は死蔵化の道を辿っている。私たちは貴重なフィルム作品を企業の高度な技術によりデジタル復元して保管、さらに Webで国内外に広く提供しようと、2007 年 4 月サイト「NPO 法人科学映像館」を創設し、以来、毎週少なくとも 1 作品以上を精度の高いメタデータを付して公開 (1,100 作品)してきた。 その間、当館作品は国立国会図書デジタルコレクションに登録され、データベース検索と施設内閲覧を可能となった。また You Tube「NPO 法人科学映像館」に作品を公開、 これらは 3,400万回再生され、国内外で活用されている。今回の実践賞の受賞は、今後、 さらなる活動への激励と理解し、この活動を続ける覚悟である。皆様のご支援を願いしたい。 ## チーム カルチュラル・ジャパン この度はカルチュラル・ジャパンの開発チーム6名に対して、実践賞をいただき大変光栄です。ジャパンサーチにより日本国内のデジタル情報が一気に整理されたことを背景に、カルチュラル・ジャパンは、 Europeana やDPLA、さらには独自発信する主要ミュージアムを加えた世界中の情報源から、日本文化に関するビジュアルな情報を集約する目的で構想されました。単なる画像検索サービスではなく、メタデー タの共通化や翻訳、IIIF データの中継など、電子的に利用しやすい形でデジタル情報を提供しています。世界に分在するデジタル情報から IIIF コレクションを作成して、それを仮想的な 3D ミュージアムで眺める機能も提供しています。今後も情報源の拡充や LOD の精緻化を進めます。(チームカルチュラル・ジャパン高野明彦) ## 東京大学学術資産アーカイブ化推進室 この度はデジタルアーカイブ学会第 3 回学会賞(実践賞)に打選びいただき、ありがとうございます。東京大学デジタルアーカイブズ構築事業のため 2017 年度に附属図書館内に設置された推進室では、学内の学部や研究所にある学術資産のデジタル化やデータ公開支援、 オープンデータ化の促進などの諸活動を行っています。今回は特にピラネージ画像データベースの再構築・再公開の取組を評価いただきましたが、これはひとえにピラネージ画像DB の初期構築に携わられた皆様の、再公開に向けたご理解とご協力あってのことと心より感謝申し上げます。 今後も本学の学術資産のデジタル化やデータ活用等に関する支援は もちろん、広くデジタルアーカイブの普及に寄与する活動を行っていければと考えておりますので、一層のご指導・ご鞭撻のほどよろしく打願いいたします。(東京大学学術資産アーカイブ化推進室一同) ## 中村覚氏(東京大学史料編纂所) この度は実践賞に選出いただき、誠にありがとうございます。本賞をいただけたのは、これまでご指導・ご協力いただいた関係皆様の打かげです。恩師てある東京大学名誉教授・大和裕幸先生、チーム・カルチュラルジャパンの皆さまおよび東京大学の教職員の方々をはじめ、関係皆様にこの場を借りて御礼を申し上げます。 私はデジタルアーカイブの構築と活用を支援する情報システムの研究開発に取り組んでいます。今回の受賞を励みとして、皆様のデジタルアーカイブに関連する活動に役立ち得る手法やシステムの開発に、引き続き取り組んで参ります。今後ともご指導で鞭撻のほどよろしく打願い申し上げます。 ## $\checkmark$ 学術賞 (研究論文)機械学習のための資料レイアウトデータ セットの構築と公開 青池亨,木下貴文,里見航,川島隆徳。 じんもんこん 2019 論文集 . 2019, 115-120. このたびは、デジタルアーカイブ学会第 3 回学会賞(学術賞)をお授け頂き、 ありがとうございます。 本論文は、国立国会図書館のデジタル化資料に対して機械学習(AI)利用目的に活用しやすいよう加工したデータセットを、開発した関連ツールも含めて自由なライセンスで公開した過程を解説したものです 本データセットを利用して開発した機能(類似した挿絵の検索機能等)は、当館の実験サービス上で検証した上で、ジャパンサーチの機能に取り込まれて おり、現在開発中の国立国会図書館デジタルコレクションの次期システムにも 実装予定です。 これを励みに、当館の保有データを題材にした研究開発的なアプローチの成果や知見を広く共有すること、頂いたご意見を当館の事業に還元することを継続して参ります。(国立国会図書館青池亨, 木下貴文,里見航, 川島隆徳) ## ジャパンサーチを活用した小中高でのキュ レーション授業デザイン:デジタルアーカ イブの教育活用意義と可能性 大井将生,渡邊英徳 デジタルアーカイブ学会誌 . 2020, 4(4), 352-359. この度は素晴らしい賞を賜り、身に余る光栄でございます。長尾真先生、吉見俊哉先生をはじめ、関係の諸先生方に感謝申し上げます。また、渡邊英徳先生をはじめ、実践校の先生方及び児童生徒の皆さん、国立国会図書館の皆様など、多くの方のご支援をいただきました。そして、貴重な文化資源のデジタルアーカイブ化を推進していただきました皆様のご尽力なくしては、 本研究は成り立ちませんでした。この場を打借りして、厚く御礼申し上げます。本研究論文は、ジャパンサーチを活用し、児童生徒の「問い」に基づいて、多様な資料をキュレーションする授業の開発と実践を通して、デジタルアー カイブの活用のあり方について議論したものです。情報化や多様性が進展する時代の変化に加え、此度のコロナ禍により、学びの変革が求められています。本研究を通して、デジタルアーカイブは、物理的に分断された社会の障壁を乗り越え、未来を担う览童生徒の学びを支援する重要な基盤となり得ると感じております。今後も、多様な資料を児童生徒の学びや考えと共に、未来に継承するデジタルアーカイブのあり方を模索していきたいと考えております。引き続きご指導ご鞭撻のほど、よろしく打願い申し上げます。(大井将生) ## 学術賞 (著書) ## 『デジタル学術空間の作り方 仏教学から提起す る次世代人文学のモデル』 下田正弘・永㟝研宣編.文学通信 . 2019-12. このたびは、貴重な賞をいただきまして、まことにありがたく思っております。本書は 16 人の研究者によって執筆されたものであり、その皆が表彰されたものと受け止めております。さらに、本書はデジタル化が幅広く深く推進される仏教学の国際的なネットワー クの一端が紹介されたものでもあり、今回はそのような世界の仏教学研究者が評価されたことでもあると受け止めておりまして、その意味でも深く感謝しております。 本書は、1994 年に始まる日本での仏教学からのデジタル技術への取組みをまとめつつ、科学研究費基盤研究 (S) の成果として、さらに、その先の展開についての議論も含むものです。文学通信のご協力により、オープンな知識基盤の構築に資するべくオープンアクセス出版とするとともに出版物として市場にも流通できるものとなりました。 本書が目指したことの一つは、学術研究プロジェクトがデジタル学術空間を形成する アーカイブを学術利用可能なものとする上で必要になることを提示しようとすることでした。「国際的」あるいは「グローバル」であることとローカルな文化の一側面としての仏教を研究するということをどのように整合させるか、ということについての、理論的な思索や実践の現場が、様々な視点から紹介されています。 本書がみなさまのご活動・ご研究のお役に立つことがありましたら幸いです。このたびはまことにありがとうございました。(永崎研宣) ## 『デジタルアーカイブの理論と政策』 柳与志夫著. 勁草書房 . 2020-01. 「デジタルアーカイブ」の言葉が近年急速に人口に膾采し、また実際に様々なデジタルアーカイブが構築・活用されだしている今こそ、学会の役割としては基礎的な理論固めや制度構築に関わる研究が必要と感じていたので、その点を評価して学会賞をいただけることは大変うれしく思います。ありがとうございます。 ## 学会賞選考委員および作業部会委員学会賞選考委員会 (50 音順) 青柳正規 (東京大学名誉教授・デジタルアーカイブ推進コンソーシアム会長) 長尾真 (デジタルアーカイブ学会会長 : 委員長) 御厨貴 (東京大学名誉教授) 吉羽治 (講談社取締役 (IT 戦略企画室担当)) 吉見俊哉 (東京大学情報学環教授・デジタルアーカイブ学会会長代行:作業部会長) ## 学会賞選考委員会作業部会 (50 音順) 生貝直人 (理事、法制度副部会長) 井上透 (理事、人材養成部会長) 嘉村哲郎 龟田尭宙 北本朝展(理事) 坂井知志 (理事) 高野明彦(理事、技術部会長) 時実象一 (理事、学会誌副編集長) 永崎研宣 長丁光則 (デジタルアーカイブ推進コンソーシアム事務局長、評議員) 原田隆史(理事、関西支部長) 福島幸宏(評議員) 宮本聖二(理事、コミュニティアーカイブ部会長) 柳与志夫 (理事、総務担当) 吉見俊哉 (東京大学情報学環教授・デジタルアーカイブ学会会長代行 : 作業部会長) ## 学会賞の創設及び選考委員会の設置について (2018/8/6) ## 1. 趣旨 デジタルアーカイブ及び学会活動に寄与した活動を称揚することによって、デジタルアーカイブ及びデジタルアーカイブ学会 (JSDA) への社会的関心を高めるとともに、我が国におけるデジタルアーカイブの振興と学会活動の発展に資する。 各年度で選考し、研究大会開催時に発表・授賞式を行う(第 3 回大会からの実施を想定)。 ## 2. 学会賞の種類 ○学術賞:前年度に発表されたデジタルアーカイブに関する優れた著書、論文(DA 学会誌掲載の有無は問わない)等を対象とする。対象は学会員とし、複数の選定可。 実践賞 : デジタルアーカイブの構築・運用・普及・継続発展等に優れた貢献をした個人・機関・団体を対象とする。選考対象とする期間は過去 5 年以内を目途とする。複数選出可。対象は学会員であることを要しない。 功労賞 : デジタルアーカイブ及び JSDA の発展に大きく寄与した個人または団体を対象とする。複数選出可。学会員であることを要しない。 受賞者には記念品を授与する。合わせて最優秀学術賞に対しては賞金を付与する。 ## 3. 選考方法 学会内に選考委員会を設置する。選考委員長は学会長とする。選考委員は若干名とし、学会員以外の外部有識者も可とする。 選考委員会のもとに作業部会を置き、候補となる個人・団体の調査・リストアップを行う。 ## 4. 当面の取り組み 早急に選考委員会及び作業部会を立ち上げる。 2018 年度は実践賞と功労賞の授与を先行し、学術賞を含めた 3 賞すべての選考は、2019 年度に行う。 2018 年度の授賞式は第 3 回研究大会で行う。
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# デジタルアーカイブ学会 第3 回学会賞受賞者発 ## 学会賞の趣旨 デジタルアーカイブ及び学会活動に寄与した活動を称揚することによって、デジタルアーカイ ブ及びデジタルアーカイブ学会 (JSDA) への社会的関心を高めるとともに、学会活動の発展に 資する。 ## 功労賞 ๑アンドルー・ゴードン氏 (ハーバード大学教授) ## 実践賞 大網白里市教育委員会 ○沖縄アーカイブ研究所 ○久米川正好氏 (NPO 法人科学映像館を支える会) ○チームカルチュラル・ジャパン ○東京大学学術資産アーカイブ化推進室 ○中村覚氏(東京大学史料編纂所) ## 学術賞 (研究論文) ○機械学習のための資料レイアウトデータセットの構築と公開. 青池亨, 木下貴文, 里見航, 川島隆德。 じんもんこん 2019 論文集. 2019,115-120. のジャパンサーチを活用した小中高でのキュレーション授業デザイン: デジタルアーカイブの 教育活用意義と可能性. 大井将生, 渡邊英徳。 デジタルアーカイブ学会誌 . 2020, 4(4), 352-359. ## 学術賞 (著書) ○デジタル学術空間の作り方仏教学から提起する次世代人文学のモデル 下田正弘・永㟝研宣編 文学通信.2019-12. のデジタルアーカイブの理論と政策。 柳与志夫著 勁草書房 . 2020-01. ## 授賞理由 ## 功労賞 ## アンドルー・ゴードン氏(ハーバード 大学教授) アンドルー・ゴードン氏は日本近代史の研究で大きな成果をあげる一方、ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所において、日本関係資料の収集を長年扔こない、web アーカイブの実績も多い。特に 2011 年の東日本大震災の初期段階で「東日本大震災ア一カイブ」(現「日本災害 DIGITAL アーカイブ」)をいち早く立ち上げ、日本国内では対応しきれない情報も含め、震災に関するネットの情報を広く収集して公開し、わが国の震災アーカイブに大きな影響を与えてきた。 その業績は極めて大きく、デジタルアーカイブ学会功労賞を授与するのにあまりあるものである。 ## $\checkmark$ 実践賞大網白里市教育委員会 「館を持たない自治体が提案する本格的デジタル博物館」として 2018 年にスタートした大網白里市デジタルミュージアムが全国でもまれな事例として注目される。デジタルならではの特長を活かして、町史の成果をはじめ、美術品や博物資料を広く公開している。コロナ禍においても、学校と連携して提供領域を拡大するなど地域アーカイブのモデル的存在と言える。 行政運営のデジタルアーカイブとして突出している上、教育や地域創生との連携も評価でき、将来のモデルになると考えられるため、実践賞を授与する。 ## 沖縄アーカイブ研究所 自からのアイデンティティたる文化資源の発信のために、沖縄県内のデジタルアーカイブをまとめていく必要性から出発した取組みである。 8 ミリフィルム映像を収集してデジタル化と公開を行っていくなかで、沖縄の戦後史を市民の目線による撮影で再現するプロジェクトを展開している。映像を分析して時期や場所を特定するなど、新たな事実も浮かび上がらせている。地域アーカイブの観点から公開性を担保しつつ、放送局との連携で市民からのフィードバックをうける仕組みも確立している。 コミュニティでの回想法という言うべき意欲的な取り組みと積み上げであり、他地域での取組みに大きな参考になる点も含め、実践賞に値すると考える。 ## 久米川正好氏(NPO 法人 科学映像館を支える会) 久米川氏は 2007 年に「NPO 法人科学映像館を支える会」の設立以来、同会の理事長として、科学映画を中心とする記録映画を収集・ デジタル化する「科学映像館」の運営をささえている。同サイトでは、現在、すでに 1100 本を超える戦後初期から高度成長期を中心とした貴重な記録映画を無料で公開している。これらの映像の評価は高く、報道機関や教育現場などでも広く活用されている。 この間、久米川氏は資金の調達、会の運営を中心となって、長年にわたり多大な貢献をされてきた。その業績を高く評価し、実践賞を授与する。 ## チーム カルチュラル・ジャパン 阿辺川武氏(国立情報学研究所)-石山星亜良氏・植田禎子氏・神崎正英氏 (ゼノン・リミテッド・パートナーズ)・高野明彦氏(国立情報学研究所)・中村覚氏 (東京大学) の 6 名からなる、「チームカルチュラル・ジャパン」は、国内外の日本関係コンテンツを統合的に検索することを可能とした、画期的なシステムを開発し、2020 年 8 月にカルチュラル・ジャパンとして公開した。 世界中の美術館、博物館、図書館などで公開されている日本文化に関連するコンテンツを集約して共通のフォーマットに変換し、利用しやすい形で提供することによって、電子的に利用可能なデジタル文化資源の幅を広げたことを高く評価し、実践賞を授与する。 ## 東京大学学術資産アーカイブ化推進室 「東京大学総合図書館所蔵亀井文庫ピラネージ画像データベース (拡張版)」は、かつて COE プロジェクト「象形文化の継承と創成に関する研究」により提供されていたデータベースを再構築し公開したものである。IIIF をはじめとする現代的な規格によりながらも、公開時に近いユーザ体験までも復活させている。研究プロジェクトから大学図書館へと主体を変えつつ、公開時の意義を調査して再現したことは、 デジタルアーカイブの持続可能性を新たに提示したデジタルアーカイブレスキューの好例と評価できる。 同推進室は、この他にも非常に活発な活動を行っており、大学におけるデジタルアーカイブを牽引する存在となっている。そのため、ここに実践賞を授賞する。 ## 中村覚氏(東京大学史料編纂所) 中村覚氏は、Linked Dataをはじめとする情報技術を用いたデジタルアーカイブの構築と活用に関する研究などを行っている。その一方、国際標準規格やそれに基づくツールの活用を早期から導入し、「平賀譲デジタルアーカイブ」「デジタル源氏物語」「カルチュラル・ジャパン」 など、数々の模範的なデジタルアーカイブの構築運用において顕著な貢献があった。 氏の活動は、この間注目を集めている様々なデジタルアーカイブに梁く関わるものであり、個人の活動として、デジタルアーカイブ学会の実践賞にふさわしく、ここに授与するものである。 ## 学術賞(研究論文)機械学習のための資料レイアウトデー タセットの構築と公開。 青池亨,木下貴文,里見航,川島隆徳。 じんもんこん 2019 論文集 . 2019, 115-120. 本論考は大規模デジタルアーカイブを効率的に扱えるようにするための基礎を形成するための取り組みの一環である。国立国会図書館デジタルコレクション由来の NDL-DocL データセット (資料画像レイアウトデータセット ) を対象に、先行する他機関のデータセットとの相違点を確認しつつその特徴を述べ、あわせて構築過程における検討事項や開発したツールの紹介も行っている。データセットを公開して基盤形成に資した点にも注目し、学術賞(研究論文)を授与する。 また、論文自体の評価に加え、大学等ではない場で厳しい条件のなか、研究機能を維持・発揮している点も注目される。 ## ジャパンサーチを活用した小中高での キュレーション授業デザイン:デジタ ルアーカイブの教育活用意義と可能性.大井将生,渡邊英徳。 デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4(4), 352-359. ジャパンサーチの教育活用について実践をともなった検討を行うことを通じて、デジタルアーカイブの新たな利活用について論じたものである。対象者が自ら立てた問いに基づいて学びを展開することで、多面的・多角的な視座を育む学習デザインの一例を示している。 ジャパンサーチのみならずデジタルアーカイブー般に適応できる教育活用の実例と課題を示したこと、さらにコロナ禍の今年度にこの研究が公表されたこともあわせ、高く評価し、学術賞(研究論文)を授与する。 ## $\checkmark$ 学術賞 (著書) \\ 『デジタル学術空間の作り方 仏教学か ら提起する次世代人文学のモデル』 下田正弘・永㟝研宣編.文学通信. 2019-12. 本書は、仏教学におけるデジタルアーカイブの構築から利活用まての状況を長年のプロジェクトをもとにとりまとめたものである。中世くずし字写本の OCR や国際的なオンライン研究会における利用など、デジタルアーカイブの利活用を考える上で貴重な情報が含まれている。これらは、仏教学の知の体系化の伝統を現代的に受け継いだものとも言えよう。また、オープンアクセスでの公開を行う一方で、書籍としても刊行することで市場流通にも対応している。 これらをあわせ、学術賞(著書)を授与するにふさわしいと評価できる。 ## 『デジタルアーカイブの理論と政策』柳与志夫著. 勁草書房 . 2020-01. 著者の長年にわたる検討をまとめたもの。デジタルアーカイブに関して、このような論文集が編まれること自体が評価できる。また、デジタルアーカイブの基本的機能や社会的意味に関して、共通認識を形成するために、デジタルアーカイブ構築・利用の改善のための基礎理論を提示し、政策の方向性について考察が行われている。慎重な書きぶりながら大きな問題提起があり、また、各段階に応じて検討された内容が通覧できることに意義がある。 その内容とともに、デジタルアーカイブの理論に関わる議論喚起の素材になることを期待して、学術賞(著書)を授与する。
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# # 「関西支部」紹介 関西支部は、現段階で本学会に設置される唯一の地方支部です。その意味では、特に関西エリアに限定と いうことだけではなく、諸機能や活動が集中する関東、東京エリアに対してもう一つの場になる会所(かい しょ)として活動していくことが求められていると考 えています。 また、関西以西には、アーカイブの語源が有する 2 つの意味合いの内「始まり」として位置づけられる要素を持つ資源や資料が数多く存在し、かつその多くが アナログの状態において現場に埋め达まれていること が想定されます。それらは、文化的な資源のみならず、広く歴史的、社会的、制度的なものであるとともに、非常に古いものから最近のものまで、長い時間的な幅 を持つ包括的な対象であることも想像できます。 関西支部は、そのような対象について関心を持ち、極めてアナログなものをデジタル知識基盤に寄与しう る資源として整備していくにはどうしたら良いだろう か、あるいはローカルな資源ではあるがそこに潜む普遍的な重要性を明らかにしていくことはできるだ万う か、といった問題意識を持つ方々を含めて、幅広くデ ジタルアーカイブの研究、実務に携わる会員の皆様の 良き会所となることを目指したいと考えています。 デジタルアーカイブ学会では、会員の自主的な研究活動と交流を促すことを目的として、研究会 (SIG, Special Interest Group)制度を設けています。会員であ ればどなたでも、理事会に活動計画書を提出して承認 を受けることで、新たな研究会を設置することができ ます。 研究会設置の承認を受けると、公開研究会などの活動においてデジタルアーカイブ学会 SIG(研究会)の 名称を対外的に使用できる他、ホームページやメール、学会誌等を通じて研究会の活動を広報することも可能 です。研究会には主査 1 名以上を置く必要がある他、原則 1 年間の活動期間(延長可能)終了時までに、活動報告書を提出して頂いています。 これまですでに、「理論研究会」、「デジタル化承諾書・契約書検討ミニ研究会」、「ジャパンサーチ研究会」、「新型コロナウィルス感染症に関するデジタル アーカイブ研究会」、「戦争関連資料に関する研究会」 などが設置され、活発な活動を行ってきています。 各研究会の概要や、研究会設置方法の詳細などにつ いては、学会ホームぺージ (http://digitalarchivejapan. org/bukai/sig)をご覧ください。会員の皆様からの活発なご連絡をお待ちしております。
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# # 「関西支部」紹介 関西支部は、現段階で本学会に設置される唯一の地方支部です。その意味では、特に関西エリアに限定と いうことだけではなく、諸機能や活動が集中する関東、東京エリアに対してもう一つの場になる会所(かい しょ)として活動していくことが求められていると考 えています。 また、関西以西には、アーカイブの語源が有する 2 つの意味合いの内「始まり」として位置づけられる要素を持つ資源や資料が数多く存在し、かつその多くが アナログの状態において現場に埋め达まれていること が想定されます。それらは、文化的な資源のみならず、広く歴史的、社会的、制度的なものであるとともに、非常に古いものから最近のものまで、長い時間的な幅 を持つ包括的な対象であることも想像できます。 関西支部は、そのような対象について関心を持ち、極めてアナログなものをデジタル知識基盤に寄与しう る資源として整備していくにはどうしたら良いだろう か、あるいはローカルな資源ではあるがそこに潜む普遍的な重要性を明らかにしていくことはできるだ万う か、といった問題意識を持つ方々を含めて、幅広くデ ジタルアーカイブの研究、実務に携わる会員の皆様の 良き会所となることを目指したいと考えています。 デジタルアーカイブ学会では、会員の自主的な研究活動と交流を促すことを目的として、研究会 (SIG, Special Interest Group)制度を設けています。会員であ ればどなたでも、理事会に活動計画書を提出して承認 を受けることで、新たな研究会を設置することができ ます。 研究会設置の承認を受けると、公開研究会などの活動においてデジタルアーカイブ学会 SIG(研究会)の 名称を対外的に使用できる他、ホームページやメール、学会誌等を通じて研究会の活動を広報することも可能 です。研究会には主査 1 名以上を置く必要がある他、原則 1 年間の活動期間(延長可能)終了時までに、活動報告書を提出して頂いています。 これまですでに、「理論研究会」、「デジタル化承諾書・契約書検討ミニ研究会」、「ジャパンサーチ研究会」、「新型コロナウィルス感染症に関するデジタル アーカイブ研究会」、「戦争関連資料に関する研究会」 などが設置され、活発な活動を行ってきています。 各研究会の概要や、研究会設置方法の詳細などにつ いては、学会ホームぺージ (http://digitalarchivejapan. org/bukai/sig)をご覧ください。会員の皆様からの活発なご連絡をお待ちしております。
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# 「地域アーカイブ部会」紹介 \author{ 宮本 聖二 \\ MIYAMOTO Seiji \\ 地域アーカイブ部会長/ }立教大学大学院/ヤフー株式会社 コロナ禍の去年の春、東京都の広報誌にこんな見出 しがありました。「家で過ごす時間に“デジタルアー カイブ”を活用してみませんか?」。「東京アルバム」、「東京都公文書館」、「江戸・東京デジタルミュージア ム」などが紹介されて緊急事態宣言下の巣ごもりでの 利用を呼びかけていました。デジタルアーカイブとい う言葉が普及しつつあること、すでに様々なジャンル でデジタルアーカイブが地域で構築されていることが 改めて印象付けられました。 デジタルアーカイブの営みは日本各地でどのように 行われているでしょうか。各地の “アーカイブ” 機関 (博物館、美術館、図書館、公文書館や資料館など)が、保有するコンテンツに関していまどのようにデジタル 化が進もうとしているのか、何が課題のか。まずはそ んなことを確認したいと思うのです。 その上で、これから取り組もうという機関や人々の ためのサポートや人材育成の手伝いをしたいと思って います。また、既に動き出しているデジタルアーカイブ については、その内容や仕組みを確認させていただき、横や縦につなぐことのお手伝いをしたいと考えます。 例えば、去年の学会賞を受賞した沖縄県公文書館、今年受賞した沖縄アーカイブ研究所。沖縄には成り立 ちも運営する組織も大きく異なる優れたデジタルアー カイブがあります。こうした機関や運営している人々 が沖縄全体のデジタルアーカイブのリーダーになり、私たちが加わって地域の図書館や博物館、平和資料館 などのデジタル化をサポートしたり、これら MLAの 横連携を押し進めたりできたらと思っています。沖縄 を事例に上げましたが、一つの地域でこうしたパイ ロット事業を行い、そこで得られた知見を広く共有し ていたたく、その上で地域のアーカイブが全国、ある いは世界でも利用されるようになる、それが理想です。 ぜひ、関心をお持ちいただけたらこの活動に加わって ください。 具橋 視夫 KUROHASHI Sadao 産業とデータ・コンテンツ部会長/京都大学大学院情報学研究科 今年度より「産業とデータ・コンテンツ部会」を新設します。デジタルアーカイブ学会が主として扱う文化・芸術・学術に関連するデータのアーカイブと利活用について、社会からの大きな期待に答えるためには、産業界との議論を深め、産業的に魅力あるエコシステ ムを構築していくことが必要です。デジタルアーカイ ブ学会はこれまでにもデジタルアーカイブ推進コン ソーシアム(DAPCON)との連携をはかってきまし たが、産学連携の取り組みを一層促進するために本部会を設立します。具体的には以下のような活動を視野 に入れています。 デジタルコンテンツの生成、管理、流通、利用の 各フェーズに渡る課題の調査および研究開発 $\cdot$デジタルアーカイブ産業育成に係る助言、技術開発支援、人材養成等 $\cdot$デジタルアーカイブに係る企業および各種団体等関係者の交流の場の提供 今年度はまずセミクローズの研究会を数回開催し、部会活動の見取り図を明確にするとともに、特にデジ タルデータ流通のモデル化、さらにはどうすれば「価値あるデジタル商品」が生成され流通するのかについ て議論を開始する予定です。会員の皆様からも広く、本部会の進め方等にご意見を頂けましたら幸いです。
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# 「地域アーカイブ部会」紹介 \author{ 宮本 聖二 \\ MIYAMOTO Seiji \\ 地域アーカイブ部会長/ }立教大学大学院/ヤフー株式会社 コロナ禍の去年の春、東京都の広報誌にこんな見出 しがありました。「家で過ごす時間に“デジタルアー カイブ”を活用してみませんか?」。「東京アルバム」、「東京都公文書館」、「江戸・東京デジタルミュージア ム」などが紹介されて緊急事態宣言下の巣ごもりでの 利用を呼びかけていました。デジタルアーカイブとい う言葉が普及しつつあること、すでに様々なジャンル でデジタルアーカイブが地域で構築されていることが 改めて印象付けられました。 デジタルアーカイブの営みは日本各地でどのように 行われているでしょうか。各地の “アーカイブ” 機関 (博物館、美術館、図書館、公文書館や資料館など)が、保有するコンテンツに関していまどのようにデジタル 化が進もうとしているのか、何が課題のか。まずはそ んなことを確認したいと思うのです。 その上で、これから取り組もうという機関や人々の ためのサポートや人材育成の手伝いをしたいと思って います。また、既に動き出しているデジタルアーカイブ については、その内容や仕組みを確認させていただき、横や縦につなぐことのお手伝いをしたいと考えます。 例えば、去年の学会賞を受賞した沖縄県公文書館、今年受賞した沖縄アーカイブ研究所。沖縄には成り立 ちも運営する組織も大きく異なる優れたデジタルアー カイブがあります。こうした機関や運営している人々 が沖縄全体のデジタルアーカイブのリーダーになり、私たちが加わって地域の図書館や博物館、平和資料館 などのデジタル化をサポートしたり、これら MLAの 横連携を押し進めたりできたらと思っています。沖縄 を事例に上げましたが、一つの地域でこうしたパイ ロット事業を行い、そこで得られた知見を広く共有し ていたたく、その上で地域のアーカイブが全国、ある いは世界でも利用されるようになる、それが理想です。 ぜひ、関心をお持ちいただけたらこの活動に加わって ください。 具橋 視夫 KUROHASHI Sadao 産業とデータ・コンテンツ部会長/京都大学大学院情報学研究科 今年度より「産業とデータ・コンテンツ部会」を新設します。デジタルアーカイブ学会が主として扱う文化・芸術・学術に関連するデータのアーカイブと利活用について、社会からの大きな期待に答えるためには、産業界との議論を深め、産業的に魅力あるエコシステ ムを構築していくことが必要です。デジタルアーカイ ブ学会はこれまでにもデジタルアーカイブ推進コン ソーシアム(DAPCON)との連携をはかってきまし たが、産学連携の取り組みを一層促進するために本部会を設立します。具体的には以下のような活動を視野 に入れています。 デジタルコンテンツの生成、管理、流通、利用の 各フェーズに渡る課題の調査および研究開発 $\cdot$デジタルアーカイブ産業育成に係る助言、技術開発支援、人材養成等 $\cdot$デジタルアーカイブに係る企業および各種団体等関係者の交流の場の提供 今年度はまずセミクローズの研究会を数回開催し、部会活動の見取り図を明確にするとともに、特にデジ タルデータ流通のモデル化、さらにはどうすれば「価値あるデジタル商品」が生成され流通するのかについ て議論を開始する予定です。会員の皆様からも広く、本部会の進め方等にご意見を頂けましたら幸いです。
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# # 「法制度部会」紹介 法制度部会は、現在部会員 30 名、毎月定例会合を おこない、幾つかの PTに分かれて活動している、と ても活発な部会です。メンバーは、弁護士・并理士な どの法実務家、各ジャンルの研究者、著名なクリエイ ター、企業や業界団体の第一線で活躍する方など多彩 です。PT は現在、肖像権 PT、デジタル著作権 PT、法律相談 PT、個人情報 PT、そして新設・期待のメ ディア展開 PTがあります。 肖像権 PT は、権利の範囲が曖昧で常にアーカイブ 現場を悩ませる肖像権について、裁判例などを解析し た「肖像権ガイドライン」の検討・作成を進め、先日学会としての公式版が公開されました。また、メディ ア・大学などでガイドラインを用いて公開可能な過去 の写真を選別する取り組みも進んでいます。デジタル 著作権 PT は、過去の作品の大部分を占める「既に商業流通していない作品」を中心に、過去の著作物の利活用を進める「デジタル著作権提案」の検討、法制化 に向けた議論を進めています。法律相談 PT はアーカ イブの現場で生まれる法律的な悩みについて、無料の 法律相談を企画し、メンバーがこれに応じています。個人情報 PT はアーカイブ活動にも影響が大きい個人情報保護法についてパブリックコメントを提出するな ど、重要な活動を続けています。こうした PT の活動 や業界動向を全メンバーが論じ合う全体部会は、ほと んどの部会員が参加する非常に刺激的で、楽しい会合 です。 ## 「技術部会」紹介 本学会会員の多くは、各分野のデジタルアーカイブ構築・活用を実践している研究者や実務者である。その中で技術部会が果たすべき役割は、個々のアーカイブ対象分野や既存の研究コミュニティーに捉われず、広く共通に利用可能な情報技術について、最新の知見を持ち寄って分野横断的な情報交換のフォーラムを提供することである。そのため本部会では、本学会以外の情報技術分野の研究集会を共催するなど、アーカイブに興味のある情報技術研究者との交流を図ってきた。その結果、ジャパンサーチや IIIF Curation Platform、 みんなで翻刻や Cultural Japan など、デジタルアーカイブの分野横断的なプラットホーム構築や様々な活用システムを実現した情報技術者の参画を得ている。 今後はこの情報技術者コミュニティの強みを生かして、関連情報技術の国際規格や OSS について最新動向をウォッチして、相互に情報交換できるフォーラム作りを目指す。具体的には、IIIF、RDF、SPARQL、 Omeka、Elasticsearch などの基礎技術について、チュー トリアルや実践報告を集めたセミナーを企画する。また、ジャパンサーチ、みんなで翻刻、IIIF Curation Platform などの開発技術者本人による専門家向けセミナーも開催する。さらに、学会員が誰でも参加できるフォーラムを Slack や GitHub 上に立ち上げて、デジタルアーカイブを巡る情報技術について、何でも気楽に議論できる場所を提供する。技術部会らしく、新しい方法でのオンラインコミュニティ育成に挑戦する。
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# # 「法制度部会」紹介 法制度部会は、現在部会員 30 名、毎月定例会合を おこない、幾つかの PTに分かれて活動している、と ても活発な部会です。メンバーは、弁護士・并理士な どの法実務家、各ジャンルの研究者、著名なクリエイ ター、企業や業界団体の第一線で活躍する方など多彩 です。PT は現在、肖像権 PT、デジタル著作権 PT、法律相談 PT、個人情報 PT、そして新設・期待のメ ディア展開 PTがあります。 肖像権 PT は、権利の範囲が曖昧で常にアーカイブ 現場を悩ませる肖像権について、裁判例などを解析し た「肖像権ガイドライン」の検討・作成を進め、先日学会としての公式版が公開されました。また、メディ ア・大学などでガイドラインを用いて公開可能な過去 の写真を選別する取り組みも進んでいます。デジタル 著作権 PT は、過去の作品の大部分を占める「既に商業流通していない作品」を中心に、過去の著作物の利活用を進める「デジタル著作権提案」の検討、法制化 に向けた議論を進めています。法律相談 PT はアーカ イブの現場で生まれる法律的な悩みについて、無料の 法律相談を企画し、メンバーがこれに応じています。個人情報 PT はアーカイブ活動にも影響が大きい個人情報保護法についてパブリックコメントを提出するな ど、重要な活動を続けています。こうした PT の活動 や業界動向を全メンバーが論じ合う全体部会は、ほと んどの部会員が参加する非常に刺激的で、楽しい会合 です。 ## 「技術部会」紹介 本学会会員の多くは、各分野のデジタルアーカイブ構築・活用を実践している研究者や実務者である。その中で技術部会が果たすべき役割は、個々のアーカイブ対象分野や既存の研究コミュニティーに捉われず、広く共通に利用可能な情報技術について、最新の知見を持ち寄って分野横断的な情報交換のフォーラムを提供することである。そのため本部会では、本学会以外の情報技術分野の研究集会を共催するなど、アーカイブに興味のある情報技術研究者との交流を図ってきた。その結果、ジャパンサーチや IIIF Curation Platform、 みんなで翻刻や Cultural Japan など、デジタルアーカイブの分野横断的なプラットホーム構築や様々な活用システムを実現した情報技術者の参画を得ている。 今後はこの情報技術者コミュニティの強みを生かして、関連情報技術の国際規格や OSS について最新動向をウォッチして、相互に情報交換できるフォーラム作りを目指す。具体的には、IIIF、RDF、SPARQL、 Omeka、Elasticsearch などの基礎技術について、チュー トリアルや実践報告を集めたセミナーを企画する。また、ジャパンサーチ、みんなで翻刻、IIIF Curation Platform などの開発技術者本人による専門家向けセミナーも開催する。さらに、学会員が誰でも参加できるフォーラムを Slack や GitHub 上に立ち上げて、デジタルアーカイブを巡る情報技術について、何でも気楽に議論できる場所を提供する。技術部会らしく、新しい方法でのオンラインコミュニティ育成に挑戦する。
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# # 「学会誌編集委員会」紹介 杉本 重雄 SUGIMOTO Shigeo 学会誌編集委員会委員長/ 筑波大学名誉教授 ## 「人材養成・活用検討委員会 紹介 井上透 INOUE Toru 人材養成・活用検討委員会委員長/ 岐阜女子大学 デジタルアーカイブを巡る状況は日々変化しています。デジタルアーカイブの振興には、社会の変化に対応した人材養成と活用の検討が求められます。これまで人材養成部会は活用のフィールドであるコミュニティアーカイブ部会と連携して、実践的な人材育成を目指して活動を行っていました。しかし、学会活動全般へのエンジンとしては脆弱であることから、多様なデジタルアーカイブ振興を促進するために大学、企業、博物館、図書館、文書館、弁護士、分野横断型統合ポー タル関係者など様々な分野から参画いただいた委員による人材養成・活用検討委員会活動へシフトすることとなりました。 理事会で示された活動の方向性としては、人材養成の視点から、デジタルアーキビストまたはそれに類するデジタルアーカイブ専門職の養成と雇用確保の在り方について検討すること、上記専門職の国家資格認定について検討すること、日本デジタルアーキビスト資格認定機構との連携に配慮することがあります。 活用検討の視点からは、多様な活用・実践事例を発掘しながら、法的・技術的側面を中心に、すでにある知見を共有していくこと、様々な規模や状況に対応した活用に資する啓発普及活動を行うことがあります。 学会内外の意見を拝聴し、オープンな姿勢で議論を行い、広範な分野で多様な方々のデジタルアーカイブ開発・運用活動で得られた知見を、オープンかつシェアを可能にし、活用いただけるような学会環境の醸成を目指して活動したいと思います。
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# デジタルアーカイブ学会 会長 このほど、初代学会長の長尾真先生の後を継ぎ、学会長を引き受けさせていただくことになりました。長尾先生のような知的巨人の後を継ぐのは、大変光栄で あると共に、十分に役が果たせるか心許ない面もあり ますが、本学会の立ち上げに関与した一人として、引 き続き会員のみなさまの協力を仰ぎつつ、精一杯の努力をさせていただきたいと思います。 まず、「なぜ、デジタルアーカイブ学会か」という 問いに立ち返ってみることにしましょう。この問いは、私たちがどのような時代を生きているのかという時代認識と、そのなかでデジタルアーカイブは何をすべき なのかという使命についての認識と不可分です。 言うまでもなく、私たちは今日、数百年に一度とい うパラダイム転換の時代を生きています。もちろん、変化の主因の 1 つは紙からデジタルへの転換です。イ ンターネットからデジタルアーカイブまで、水平的な フローとしても、時間を超えるストックとしても、こ の転換のなかで情報は乗数的に爆発し、その爆発した 情報を最も効果的に処理して未来を予測するために AI 技術に関心が集まります。要するに、これは DX(デ ジタルトランスフォーメーション) の世界で、私たち は今、今後数百年は続く変化の入口にいます。 しかし、爆発的に広がるデジタル世界は、決して閉 じた自律的な世界としてあるのではありません。DX も AI も、ビッグデータも、すべて社会のなかで起き ていることです。つまり、すべては法制度や経済活動、日常生活や地域社会、国や民族、境界線上の記憶や感情と結びつきながら広がっています。そのような日々接するデジタル情報の内外に広がる社会を見失うと、私たちはいわゆるフィルターバブルの内に取り込まれ てバブルから外に出れなくなってしまいます。ですか らここで、私たちは単純な技術決定論やイノベーショ ン信仰に陥らないようにすることが肝要です。新しい 技術と社会制度、法規範や経済の仕組み、文化秩序や 学びがいかに結びついていくべきか、またいかなるリ スクを回避しなければならないかを考えることが決定的に重要なのです。 本学会は、まさにそのような問題意識から、デジタ ルアーカイブに関するテクノロジーと法制度、産業的 な仕組み、アーキビスト教育の仕組みや資格、アーカ イブ関連機関の連携体制、地域コミュニティのなかで の記憶のアーカイビング等々、要するにデジタルと アーカイブと社会のトライアッドな関係のなかに生じ るあらゆる課題に挑戦してきました。 時代の要請もあり、長尾会長の下で本学会はこれま で順調に発展してきました。設立からまだ 4 年しか 経っていませんが、会員数はすでに 600 人を超えてい ます。すでにいくつもの部会や研究会が設立され、そ の活動の広がりには目を見張るものがあります。それ ら活動の個々の成果も続々と出ていますし、本学会が 基盤となって叢書『デジタルアーカイブ・ベーシック ス』(勉誠出版)も4巻が刊行され、大変好評です。 このシリーズは、私たちの学会の学問的基盤を広く世 に問うものとなっていくと確信しています。 この 4 月に長尾会長から会長職を私が引き継がせて いただき、これから本学会はいわば第 2 ステージに入 ります。そこで解決すべき具体的な課題がいくつかあ ります。第 1 は、全国の大学大学院で学んでいたり、 アーカイブ機関や研究機関に就職して仕事を始めてい たりするような若手研究者の学会員をもっと拡大させ ていくことです。現在、学会では、若手・中堅を中心 にSIGとして理論研究会が活動しており、デジタル アーカイブ分野の理論的基礎に挑戦していますが、こ のような活動をもっと深めてデジタルアーカイブ研究 をアカデミックなフィールドとして確立していく必要 があります。 第 2 に、学会員の広がりを、より本格的に日本全国化していく必要があります。現在、本学会には北海道 から沖縄まで、全国でデジタルアーカイブに関与する 研究者や実務家の方々が参加してくださっています が、それでもまだ東京圈に偏っています。これは、人口や研究教育機関、情報産業が圧倒的に東京一極集中 になっている日本の現状を反映したものでもあるので すが、デジタルアーカイブの重要な使命の 1 つは、日本列島に無数に点在する町々、村々、地域の記憶を保存し、再生させ、活用することで、あまりにも東京に 一極化しすぎた社会をリバランスしていくことでもあ ると、私は考えています。東京圈以外の地域での研究 や実践を促進していくことに、本学会もまた注力して いくべきでしょう。 第3 に、産業界の実務家の方々との連携をさらに発展させ、そこから様々なビジネスや社会貢献的事業が 生まれてくる仕組みを整備する必要があります。すで に本学会には、多くのデジタルアーカイブ関連企業か ら実務家のみなさんが参加してくださり、最先端の知 の実践的な交流の場が生まれてきました。これをさら に発展させ、国から地域までにとって価値ある実践的 な成果が生まれてくる場に本学会をしていきたいと思 います。 そして最後に、大きく残されているもうひとつの課題に、本学会の国際化があります。言うまでもなく、 デジタルアーカイブの発展や研究の深まりは全世界的 な流れで、欧米では多くの理論や実験、実践が展開さ れ、学会的なネットワークも樹立されきました。その ようなデジタルアーカイブに関する国際的な学術ネッ トワークの日本におけるハブとして、本学会を対外的 にも位置づけていくべきです。そのためには、学会の 多言語化を進めつつ、海外の研究者や研究機関との交流や連携をもっと強めていく必要があるでしょう。 以上の 4 つの課題の他にも、本学会が取り組むべき 課題は多々存在するでしょう。ここでは触れませんで したが、ジェンダーバランスや若手人材のキャリアパ スの問題も非常に重要で、これらは本学会に限らず、今日の日本のほぼすべての学術分野が抱える課題で す。本学会のこれまでは、スタートアップから飛躍へ の 4 年でした。これからの数年間は、諸々の課題を視野に入れながら、学会の基盤を確たるものとし、深め、広めていく段階だと思います。どうか、学会員のみな さまの自由闊達なご協力を心からお願いいたします。
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# 長尾真先生ので逝去を悼む 誠に悲しいお知らせを、学会員のみなさまにしなけ ればなりません。 元京都大学総長、元国立国会図書館長、そして本デ ジタルアーカイブ学会初代会長の長尾真先生が、かね てより病気療養中のところ、2021 年 5 月 23 日にご逝去されました。 いうまでもなく、長尾先生の存在なくしてはデジタ ルアーカイブ学会の誕生はあり得ませんでした。長尾先生は、もち万ん自然言語処理や人工知能の分野での 多くの先駆的なご業績や世界の第一線に立つ研究者の 育成から、京都大学総長としての国立大学全体への多大なご貢献、国立国会図書館長としての図書館デジ夕 ル化への先導的な取り組みと、その人生を通じて他の 何人も成し得ない偉大な達成をなしてこられました。 そして、私たちにとって誠に有難かったのは、長尾先生が 2012 年に国会図書館長を退任されてから、デ ジタルアーカイブ分野で私たちに力を貸してくださっ たことです。 私どもデジタルアーカイブ学会は、長尾先生の導き を得ることで、学会を順調にスタートさせ、これを発展軌道に乗せていくことができました。多様な分野の 多士済々が結集することができたのも、長尾先生とい う偉大な柱があり、その長尾先生を深く尊敬する点に おいて、すべての学会員の気持ちは一つであったから です。 長尾先生は、2018 年に文化勲章を受けられました が、その際、私は学会誌で、私たち学会員の多くが長尾先生の後万姿を見ながらデジタルアーカイブの重要性に気づき、この学会設立へと導かれてきたことに触 れました。1990 年代から長尾先生が示されていた「電子図書館アリアドネ」構想は、その後の電子図書館、 そしてデジタルアーカイブが進むべき道をいち早く指 し示していました。今日、デジタルアーカイブ学会が 依って立つ潮流は、こうして長尾先生が作ってきてく ださったものです。そんなすべての感謝の思いを込め て、この春に私どもは、長尾先生を本学会の名誉会長 とさせていただいたばかりでした。 長尾先生は一昨年、『楽天知命』というご本を出さ れました。「楽天知命」とは易経にある言葉で、修練 に励み、自分の天命を知り、天職を得れば、すべてを 楽しむことができるようになるということだそうで す。この本の中で、長尾先生は、中学生の頃に思い悩 むことがあり、その精神的危機を越える中で、自分を 無にし、空にし、自他のない世界を生きることが大切 という結論に達したと書かれています。そこから先は、 まったく迷わなくなり、電子工学から自然言語処理、電子図書館へと向かっていく道程を歩まれました。 長尾先生はもともと神職の家にお生まれになられて いますので、たしかにこうした言葉がぴったりくると ころがございました。先生は、まさに天命(あなたは こういう風に生きなさいという天からの命令のこと) を知り、天職を全うされた方だと思います。 敬愛する先生の訃報に接し、デジタルアーカイブ学会員一同、深い悲しみでいっぱいですが、長尾先生の これまでのご指導、ご支援に心からお礼をし上げる とともに、謹んで哀悼の意を表します。
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# 『デジタルアーカイブ・ベーシックス4 アートシーンを支える』 \author{ 高野明彦監修/嘉村哲郎 責任編集 \\ 出版社:勉誠出版 \\ 2020年11月 312ページ A5判 \\ ISBN 978-4-585-20284-4 \\ 本体2,500円+税 } 評者の個人的感慨から話を始めるが、「アートとデ ジタルアーカイブ」について強く印象に残っているの は、米国フロリダ州のダリ美術館での “Dali Lives” で ある 。これは画家ダ リ自身の生前の語録や視聴覚記録等の蓄積に基づき、 その大規模デジタル化と AI 技術を駆使して、ダリを 現代によみがえらせた、双方向的な動画展示である。 この最後には動画上のダリが鑑賞者に「セルフィー撮影」を求め、またそれが可能な仕掛けまであり驚くし かないが、評者はこの “Dali Lives” のプロモーション (あいにく現地では未鑑賞)を思い起こしつつ、本書 を読み進めた。要は、アーカイブとデジタル技術をも とにした新たなアートシーンと、それにまつわる法・倫理・美学などのさまざまな課題(例:“Dali Lives”に 対するダリの遺族からの承認はどのように得られた か)が、この展示から想起され、本書の内容にも通じ る、ということである。 さて本書は、美術研究・ミュージアム運営・文化行政といった多分野にわたり日本を主導されてきた青柳正規氏へのインタビューを導入とし、さまざまな立場 から日本内外のアートシーンとアーカイブないしデジ タルアーカイブとのかかわりについて述べた、全 15 章の論考からなる論集である。そのトピックや論点は きわめて多岐にわたり、評者の関心と規定の字数の限 りでいくつか挙げると以下の通りとなる。各々の時代の先端的な情報技術を活用したメディアアートを継続して提示する試みと、その中での法的および美学的課題(例:真正性のゆくえ)。アートの創造の過程 と成果について長期的利用を保障するアーカイブと、 そこから生まれる新たな芸術的・学術的成果。日本国内において比較的長期にわたり運営を続けつつ新機軸を取り入れてきたもの、あるいは最近になり公開を 開始したもの、それぞれのデジタルアーカイブないし データベースが示す成果・可能性と課題。こうした 実践を支える標準や方法論。ブロックチェーンや Linked Open Data といった、アート作品に価値や意味 を付与する新たな技術がもつ可能性と課題。 おそらく、読者にとっても、本書全体を通読する中 で、上記以外の点も含め、さまざまな気づき・発見の 契機を得るものと思う。本書の刊行を機に、評者が何 より願うのは、既存の学会等の活性化も含め、アート とアーカイブをめぐる多様な関係者どうしをつないで 支え合う、幅広いコミュニティの構築である。加えて、 “Dali Lives” や本書紹介分など耳目を引くデジタルアー カイブや展示を支える、アート関連の資料・情報や知識を整理する方法論と実践を解説した著作(例:特集,美術に関する知の蓄積と共有化に向けて,美術フォー ラム 21. 2017, vol. 35, p.20-134.)も、本書とあわせて 参照いたたききたい。 (天理大学人間学部 古賀 崇)
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# 本書は、映画、テレビ、インターネットなど、メディ ア変革の中で映像資料のもつ意義や活用の可能性が変化してきたことを受け、映像アーカイブに求められる 機能や意義について明らかにするという目的を持って いる。また同時に映像アーカイブが文書館、博物館、図書館などの伝統的なアーカイブとは異なる特性を持 つことについて論じている。 映像資料の収集・保存と調査・利用、コンテンツ制作などの場面において、映像アーカイブがどのように 機能されるべきかという考察や、保存と利用が、車に おける両輪としての役割をもち、映像アーカイブの機能を十全に発揮させる補完関係にあると捉えた考察な ど、示唆に富む内容になっている。以下はその章構成 である。 第 1 章「映像アーカイブの意義と多様性」 第 2 章「映像アーカイブの生成と類型」 第 3 章「映像アーカイブにおける資料の特性」 第 4 章「映像資料の利用とコンテンツの再生産」 第 5 章「映像資料の情報記述」 第 6 章「映像資料に関わる諸権利」 第 7 章「映像リサーチャーの機能」 第 8 章「映像アーカイブの進化と課題」 著者の明快な分析によってコンパクトに纏められて おり、「世界の映像アーカイブ」と題したコラムが加 えられるなど、読み物としても楽しめる内容になって いる。コンテンツ制作やメタデータ、権利関係、映像 リサーチャーなどを含み、映像アーカイブの主要テー マが広く扱われていることも特徴である。 本書は、これから映像アーカイブを学ぼうとする学生や研究者などの方には、まず手にとっていただいき たいガイド本としておすすめしたい。また、文書館、博物館、図書館などでアーカイブの実務にあたる方々 にとっては、映像アーカイブと他分野との特性の違い を捉え直すことの良い機会になるはずである。映像 アーカイブの多様性が、他のアーカイブ分野の発展の ために多くの知恵を与えてくれるだろう。 付け加えたい点があるとすれば、映像アーカイブに おけるコスト(金銭・人的要素含む)の課題について である。例えば、内容視聴の度に、映画フィルムを映写機で再生するなど、資料を劣化に晒すことは避ける べきであり、保存と閲覧の両観点においてはマイグ レーションや再フォーマットは必須となる。また、近年のデジタル技術の進展は、取り扱うファイルサイズ やデータ量の増加、フォーマットの多様化など、直接的に映像アーカイブの活動に影響を及ぼしている。こ のように、映像アーカイブでは、コストの観点で辛抱強く継続的な管理が求められるという特徴を持ってい る。デジタルアーカイブの推進においては、映像アー カイブに限らずとも重要な問題でもあるため、本学会 でも積極的に取り上げるべき課題であろう。 (早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 中西 智範)
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# 特集:第 5 回研究大会 一般発表 ## 莝奉が推すべス人発表表 2020 年 10 月 17 日、18 日 (オンライン) 各座長の方に、特に良かったと感じた発表を挙げていただいた。(カッコ内は推薦された座長、敬称略) [12] インディペンデントで自発的な調査体:鳥類学者オリヴァー・L・オースティンコレクションの写真調査. 佐藤洋一 (早稲田大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s5 本発表で紹介されたのは、戦後間もない時期に滞日した鳥類学者が残した、稀少なカラー写真コレクションをめぐって行われている、楽しくも意義深い実践の数々である。 発表者自身を含む既知の数名から始まった活動は、 SNS を専らのプラットフォームとしてゆるやかに輪を広げ、公開された写真を同定する職人的な作業から、 その根拠を共有し、検証しあう段階を経て資料に厚みを与えていく。成果は雑誌や展示を通じて、さらには被写体に関係した当事者へと還元されることになるが、なおすばらしいのは、そうしたフィードバックの過程で出会った人々を巻き込みながら、また新たな事実や関心が生まれる構造である。 資料の価値を高めながら、多層的な空間での蓄積と拡がりが同時に実現される佐藤氏の報告は、わくわくするような可能性に満ちており、参加者からも多くの反響があった。(柴野京子) 図オリヴァー・L・オースティンコレクションのウェブページ [24] 国立科学博物館附属自然教育園における植生管理手法のデジタルアーカイブ化に向けた取り組みについて. 遠藤拓洋(国立科学博物館),下田彰子(国立科学博物館), 齊藤有里加 (東京農工大学), 山田博之(筑波大学), 小川義和(国立科学博物館) このセッションでは、新聞デジタルアーカイブ、災害情報の収集・クローリング、管理手法のデジタルアーカイブ化、メタデータスキーマと多種多様な発表が続いた。これら全く違う内容の発表を比較するというのは困難であるが、植生管理手法をデジタルアーカイブ化するという取り組み自身の面白さを買い、この発表を選ぶこととした。 野外博物館である自然教育園のような組織では、生育し続ける植物などの手入れを常時し続けていかなければならないことは自明であるが、各植栽管理の詳細な手法は明文化されていないという。これらの明文化されていない部分をデジタルアーカイブの手法によって可視化するというのはユニークな試みであり、多くの機関にも適用可能なアイディアであると感じる。さらに、作成したデジタルアーカイブを環境教育に関主る Webコンテンツとしても利用するというアイディアも面白い。たた、可視化の試みと教育コンテンツとでは目的が異なるようにも思われ、両立が難しいケー スも考えられよう。このあたりをどのように解決していかれるのかなども含め今後の展開を楽しみにしている。(原田隆史) 図水辺のハンノキ伐採(作業遠景) [33] オープンアクセス画像の構造化データベー スとしてのウィキメディア・コモンズの活用 : WMFによる画像インポートに関わる法的な整理例とデータ整備の試みの紹介.東修作(合同会社Georepublic Japan) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s37 世界中の GLAM 機関により所蔵作品のデジタル公開が進められているが、本発表ではウィキメディア・ コモンズにおけるこうしたデータの法的取り扱い基準が説明された。また、こうしたオープンアクセス画像を有効活用するために現在進められている、メタデー 夕の構造化記述の取り組みについても紹介された。 絵画など芸術作品のメタデータを、統制語彙を用いて構造化して記述するには細心の注意が必要で、この作業がコミュニティベースでおこなわれた事例を、筆者は寞聞にして知らない。このためウィキメディア・ コモンズの取り組みが期待通り進むかどうか、大変に気になるところである。もしこの取り組みを通じて高品質な構造化メタデータが得られれば、それは GLAM 機関のオープンアクセスデータの利活用について新しい可能性を提示するものになるだろう。そうした意味で今後の動向が気になる取り組みであり、今後も定期的な報告をお願いしたい。(橋本雄太) 図構造化サーチ [41] 横断的ダンスアーカイヴシステムの構築と公開 : 大野一雄デジタルアーカイヴを例に.呉宮百合香 (早稲田大学/NPO法人ダンスアーカイヴ構想) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s45 ダンスアーカイブを「ひと」「こと」「もの」の視点から情報を整理し、公演記録を主としたアーカイブを目指したことが説明されたが、そのコンセプトのシンプルさは、研究者などに利用者を限定することなく、広く利用されることへの価值を追求した結果であろう。ダンスアーカイブの構築にあたって、Omeka など近年国内でも広く利用されているオープンソースの CMS を選択視野に入れながらも、あえて独自開発の路線をとったという点は、本発表において印象的な内容だった。比較的小規模な組織におけるデジタルアー カイブの実践事例として、セキュリティ対策や将来的なコスト負担のしくみ、持続可能な取り組みなど、今後の活動や進展におおいに注目したい。 また、発表の中では舞台芸術の国内他分野とのアー カイブシステムとの共有・共通化や、横断的なしくみなどの課題について言及された。本発表での問題提起をきっかけに、国内のアーカイブ組織間の連携や、 ネットワーク構築などの取り組みに繋がることが期待される。(中西智範) 図関連コンテンツの表示 [53]【第4回大会発表】IIIFを利用した科学者資料の電子展示システムの試験開発:「矢田部良吉デジタルアーカイブ」を事例として.有賀暢迪(国立科学博物館) https://doi.org/10.24506/jsda.4.2_162 セッション5で行われた発表は、いずれもデジタルアーカイブと他の実践的活動をつなぐ重要な報告であった。本発表は国立科学博物館におけるインター ネット展示という具体的な課題からスタートしながらも、その結果として広く応用可能な手法を構築しつつあり、特に期待が寄せられる内容であった。 中心となった植物学者・矢田部良吉(1851-1899) の資料そのものも興味深かったが、それ以上に、IIIF の相互運用性を活かしつつ、「借用」「キャプション」 という博物館における展示の視点を用いたことの意義が大きいと考える。IIIF 画像の提供者側が付している情報に加えて、展示としてのストーリーを組み立てるために複数の資料をまたいた情報をさらに追加するという考え方は、利用者側による新たな活用の幅をもたらすものである。 例えば(我田引水で申し訳ないが)先行する IIIF の活用例、ROIS-DS 人文学オープンデータ共同利用センターによる IIIF Curation Platform と「キュレーション」の手法と組み合わせることで、インターネット展示・教育活動・私的な収集などでデジタルアーカイブの活用を後押しすることになるだろう。(鈴木親彦) 図電子展示の表示画面の例(開発中のもの) [62] ジャパンサーチを利用した大学博物館所蔵の学術資料公開:蚕糸学術資料「蚕織錦絵コレクション」を事例として. 齊藤有里加 (東京農工大学科学博物館) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s77 本報告では、東京農工大学科学博物館におけるデジタルコレクションの構築とジャパンサーチとの連携プロセスについて紹介された。IIIF とオープンソースの CMS を用いたデジタルコレクション構築、およびジャパンサーチを活用した資料発信の強化に関する取り組みが述べられ、今後のデジタルアーカイブ構築における一つのモデルを示す発表であると感じた。どちらの点に対しても参加者から高い関心が寄せられ、デジタル展示の可能性、テーマ別検索等のジャパンサーチ提供機能との連携の可能性、および連携前後のアクセス傾向の変化など、様々な質問が寄せられ、活発な議論がなされた。今回のような実践事例の共有が、他のプロジェクトにおいて参照され、国全体のデジタルアー カイブの発展につながることを期待する。(中村覚) 図蚕織錦絵コレクション 『かいこやしないの図』 広重
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# Europeana 2000 (オンライン)参加記 Report of Europeana 2000 (Online) 時実 象一 TOKIZANE Soichi 東京大学大学院情報学環 } 抄録:Europeana 2020 は欧州のデジタルアーカイブ実践の発表の場であるが、本年度はオンラインで開催された。主要な実践報告、特に博物館・美術館のデジタル展示、教育活用、その他について紹介した。 Abstract: Europeana 2020 is a forum for the presentation of digital archive practices in Europe. This year's conference was held online. Major reports were presented, especially on digital exhibitions in museums, educational applications, and others. キーワード:Europeana、博物館、美術館、教育活用、AI、IIIF、3D、翻刻 Keywords: Europeana, museum, educational application, AI, IIIF, 3D, transcription ## 1. はじめに Europeana の歴史と仕組み ${ }^{[1]} 、$ Europeana 2017[2] Europeana 2019 ${ }^{[3]} 、$ および関連集会 EutopeanaTech ${ }^{[4]}$ についてはそれぞれ筆者の記事を参照されたい。また初期の動向については古山氏の記事がある[5]。 Europeana 20xx は Europeana の支持団体である Europeana Network Association(ENA)の総会として毎年暮れに開催されていたが、2020 年は新型コロナウィルス感染の拡大にともない全面的にオンラインで実施され、1,600 名が参加したと報告されている[6]。の Europeana 2020 のウェブサイトには多くのセッションの完全動画が掲載されており、本稿もこれを参考としている。 ## 2. 概要 2020 年 11 月 11 日から 13 日の 3 日間にわたったプログラム[7]では 4 件の基調講演 + パネルディスカッションと 35 件の分散セッションが行われた。分散セッションの多くはスライド発表であったが、中にはブレイクアウトで参加者のオンライン討論をおこなうものもあった。ツールは Zoom であったが、Sched という会議管理ツールでアクセス URL を管理して行われたので、開始直前までアクセスの案内がなく、ちょっととまどった。会議中は Mentimeterという投票ツールで、参加者のアンケートも行われた。 ## 2.1 Europeana からの基調報告 Europeana 事務局長 Harry Verwayen からの基調報告では、Europeana は文化遺産機関のデジタル・トランスフォーメーションを支援する旨が述べられた。 ## 3. 分散セッションの主な発表 基調講演 + パネルディスカッションは大きなテーマについて語られ、具体的な議論は少なかったので、ここでは分散セッションの主な内容について、「博物館・美術館のデジタル展示」、「教育活用」、「その他の実践」にわけい以下に紹介する。分散セッションの一覧はJ-STAGE Data に登載の予定である。 3.1 博物館・美術館のデジタル展示 (1)デジタル・フロンティアーズ:Covid-19 の期間中、自宅からキュレーション・コンテンツを作成する (Digital Frontiers: creating curatorial content from home during Covid-19. Anna Lowe, Smartify, 他) 英国のワッツ・ギャラリーでは、ロックダウン中にギャラリーのツアー・コンテンツ(スマホ用)を開発して公開した ${ }^{[8]}$ (図 1)。ツールは Smartify ${ }^{[9]}$ を使用。 図1ワッツ・ギャラリーのデジタル展示アプリ(Smartify) 図2 DigAMus賞受章サイトの一覧 (2) デジタルミュージアムプロジェクトのための DigAMus 賞(The DigAMus-Award for digital museum projects. Andrea Geipel, Deutsches Museum, 他) DigAMus デジタル・ミュージアム賞が募集され、 129 件の候補から 7 つのサイトが受賞した ${ }^{[10]}$ (図 2)。 また、この授賞発表会ではアバターを使ったオンライン会議システムが使われていた ${ }^{[11]}$ (3)アーカイブで「私」を提示する未来のアーカイブを提示する (Presenting "the I" in Archive. Guido Jansen, DEN) Covid-19下で舞台芸術の公演機会がなくなる中、芸術家が自分の舞台をネットで配信する例が出ている。 Clus Guy and Roni - Swan Lake ${ }^{[13]}$, Only the room Imagines a Little - Sofiko Nachkebiya ${ }^{[14]}$ が紹介された。 Swan Lake は有料のサイトである。 ## (4) Past for Future イタリアの国立考古学博物館が開発した Past for Future はスマホのロール・プレイング・ゲームで博物 (5) A Picture of Change for a World in Constant Motion ニューヨーク・タイムス紙が作成したこのサイト[16] は、左側のテキスト部分をスクロールすること ## MOTUS MORI IN QUARANTINE 2: PRESERVING MOVEMENT Language: English How can we preserve movement? How to preserve the most immaterial, most mortal heritage of 図3 Motus Mori in Quarantaineの画面 図4イタリアの国立考古学博物館のスマホゲームPast for Future 図5 A Picuture of Change for a World in Constant Motionの画面 により、右の画面の絵が連動してフォーカスしたり、拡大・縮小するようになっている(図5)。 ## 3.3 教育活用 (1)世界遺産での e ラーニングカリキュラムの開発 (Developing E-learning curricula at World Heritage (Ping Kong, Heritage \& Education Consulting $\mathrm{GmbH}$, 他) ドイツにあるユネスコの世界遺産エルツ山地鉱山について、学生にその理解を深めてもらうための教育力リキュラムを作成した。たとえば図 6 では、鉱山での作業に使う道具を選ぶクイズ形式になっている。 図6 ユネスコの世界遺産エルツ山地鉱山について学習するツール 図7 FromThePageを用いた翻刻の画面 (2)IIIF を使った教育と学習(Teaching and Learning with IIIF. Meg O'Hearn, IIIF Consortium, 他) 14 世紀のピサの記録 (ラテン語) を FromThePage ${ }^{[17]}$ という IIIF のツールで学生に翻刻をさせた(図 7)。最初は抵抗があるが、課題を少しづつ与えることによってうまくいった。また複数の図書館にある同一文書の異なる版を翻刻する La Sfera Challenge ${ }^{[18]}$ も紹介された。 (3)ベオグラードの冒険(Belgrade adventure. Lidija Zupanic Suica, Education for the 21.Century)学生がベオグラードの多文化的歴史を調査してウェブサイトを構築した ${ }^{[19]}$ (図 8)。トピックは「中世のベオグラード」「オスマントルコ支配下のベオグラー 図8 Belgrade Adventureの写真 (Instagram) 図9 パブリック・ドメイン画像を使って自由に作成したステッカー (スタンプ) ド」、「ベオグラードのユダヤ人」、「王政下のべオグラード」などで、その内容は文化遺産、モニュメントの紹介、歴史の紹介、個人的なアーカイブや物語などである。 (4)文化遺産を使ったチャット!パブリックドメインの画像を使って Whatsapp、iMessage、Telegram 用のステッカーを作成する (Chatting with heritage! Create stickers for Whatsapp, iMessage and Telegram with Public Domain images. Friederike Fankhänel, Museum für Kunst und Gewerbe Hamburg) ハンブルク美術工芸博物館(MK\&G)が公開しているパブリック・ドメインの画像を使ってステッカー (スタンプ)を作るワークショップ(図9)。ツールは Sticker.ly $[20]$ 。 ## 3.4 その他の実践 (1)エコー・チェンバーを突破する。クラウドソーシングの開始から終了まで (Breaking through the echo chambers: Crowdsourcing from start to finish. Simone da Silva, DIG IT UP) DIG IT UP ${ }^{[21]}$ はオランダ・ロッテルダムが伝統を 打ち破った運動についての資料をクラウドソーシングで集めた。写真だけでなく、スニーカー、音楽レコー ド、衣服なども収集した。毎週金曜日に場所を決めて受付をおこなった。現在展示されているトピックには、 オランダ・ポップ・フェスティバル、子供用のペダル自動車(図 10)、ブレーク・ダンス、などがある。 (2) AIへの人間中心のアプローチ(Human centred approach to AI) このセッションではいくつかの発表があったが、その中で Alessio Del Bue 氏が取り組んでいる MEMEXはイタリア、フラスン、ポルトガル、その他の国にまた して、文化遺産に関する情報を整理して提供するツー ルである。たとえば図 11 では、利用者がこの塔にスマホを向けると、ナレッジグラフを用いて利用者の位置や目的とする文化遺産を同定し、適切な情報を提供することができる。用いているデータベースは Wikidata, OpenStreetMap, Mapillary, Europeana などである。 図10DIG IT UPの「ペダル自動車」の画像 図11 MEMEXの概念図 図12 スロベニアの村Velika Planinaの3Dモデル構築の概念図 (3) Covid-19 前後における文化遺産のデジタル・イノベーション。スロベニアからの舞台裏(Digital Innovation of cultural heritage during and post Covid-19: Behind the scenes from Slovenia. Matevz Straus, Dejan Suc, Arctur Ltd.) フォトグラメトリを活用して、スロベニアの村 Velika Planina 全体と家屋の 3D モデル[23](図 12)や、Prem Castle という城、Chapel of Our Lady of the Snows という教会の 3D モデルを構築、インタラクティブに提供している。Simonov Zalivのローマ時代の村の遺跡では、発掘された遺跡の床のモザイクまで詳細に $3 \mathrm{D}$ 化した。 ## 4. おわりに 前述の各種発表の他、アクセシビリティー、デジタル・デバイド、スタッフの教育、著作権、地球温暖化への対応、などのセッションがあったが割愛する。才ンラインによる会議は参加しやすい点は良いが、時差の問題や、疑問があってもなかなか質問しにくいことがある。何よりも新しい知己を得ることができないのは大変残念であった。来年はリアルで開催されることを祈る。 ## 参考文献 [1] 時実象一. 欧州の文化遺産を統合するEuropeana. カレントアウェアネス. 2015-12-20. CA1863. [2] 時実象一. Europeana Network Association 年次総会参加報告. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, 2(1), 37-39. [3] 時実象一. Europeanaネットワーク協議会の総会(Europeana 2019)参加記. デジタルアーカイブ学会誌. 2020, 4(3), 300304. [4] 時実象一, 前沢克俊, 緒方靖弘. EuropeanaTech 2018参加報告. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, 2(4), 385-389. [5] 古山俊介. Europeanaの動向:「欧州アイデンティテイ」および「創造性」の観点から. カレントアウェアネス. 201212-20. CA1785. [6] Europeana 2020. https://pro.europeana.eu/page/conference (参照 2021-01-07). [7] Europeana 2020 Program. https://europeana2020.sched.com/ (参照 2021-01-07) [8] Watts at Home. https://smartify.org/tours/watts-at-home (参照 2021-01-15). [9] Smartify. https://smartify.org/ (参照 2021-01-15). [10] DigAMus. https://digamus-award.de/digamus-die-gewinner/ (参照 2021-01-15). [11] DigAMus Award 2020. https://www.youtube.com/watch?v= clXq7QbliZo (参照 2021-01-15). [12] Motus Mori in Quarantaine. http://www.motusmori.com/motusmori-in-quarantine-1/ (参照 2021-01-15). [13] NTT/Clus Guy and Roni - Swan Lake. https://clubguyandroni. $\mathrm{nl} /$ ?targetgroup=premiere (参照 2021-01-15). [14] Only the room Imagines a Little - Sofiko Nachkebiya. https://evgeniiashalimova.com/theatre/brodsky/ (参照 2021-01-15). [15] Past for Futue. https://www.pastforfuture.it/ (参照 2021-01-15). [16] A Picture of Change for a World in Constant Motion. https://www.nytimes.com/interactive/2020/08/07/arts/design/ hokusai-fuji.html (参照 2021-01-15). [17] FromThePage. https://fromthepage.com/ (参照 2021-01-15). [18] La Sfera Challenge. https://lasferachallenge.wordpress.com/ (参照 2021-01-15). [19] BEOgradska avanTURA. https://beotura.edukacija21.com/ (参照 2021-01-15). [20] Sticker.ly. http://sticker.ly./ (参照 2021-01-15). [21] DIG IT UP. https://digitup.nl/ (参照 2021-01-15). [22] MEMEX: MEMories and EXperiences for inclusive digital storytelling. https://www.memexproject.eu/en/ (参照 2021-01-15). [23] Velika Planina. https://sketchfab.com/3d-models/velika-planina50d5455eea344ec7adf0843c410dc7c7 (閲覧 2021-01-15).
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# COVID-19が与えた影響による人々の生活意識に関する 国際調査 : パンデミック時の国際的な集合知のアーカイブ を目指して ## International Survey and Analysis of People's lifestyle considerations and personal values Due to the Impact of COVID-19: Towards achieving international intelligence during a pandemic 大井将生 ${ }^{1,2}$ Ol Masao ${ }^{1,2}$ 季高駿士 ${ }^{2,3}$ SUETAKA Shunji $i^{2,3}$ 松井晋2,3 MATSUI Shin ${ }^{2,3}$中川亮2,3 NAKAGAWA Ryo ${ }^{2,3}$ 趙誼 $^{2,3}$ CHAO Yi, ${ }^{2,3}$ Steven Braun ${ }^{5}$岑天霞 ${ }^{1,2}$ SHIN Tenka ${ }^{1,2}$ 朴美熙2,3 張宇傑 ${ }^{2,3}$ PARK Mihui, ${ }^{2,3} \quad$ Zhang Yujie ${ }^{2,3}$ 渡邊英徳6 WATANAVE Hidenori ${ }^{6}$ 1 東京大学大学院学際情報学府 2 東京大学大学院博士課程リーディングプログラム:多文化共生・統合人間学プログラムIHS 3 東京大学大学院総合文化研究科 4 東京大学大学院情報学環渡邊英徳研究室インターン 5 東京大学ノースイースタン大学芸術メディアデザイン学部 6 東京大学大学院情報学環 1 The University of Tokyo Graduate School of Interdisciplinary Information Studies 2 The University of Tokyo Integrated Human Sciences Program for Cultural Diversity 3 The University of Tokyo Graduate School of Arts and Sciences 4 The University of Tokyo Interfaculty Initiative in Information Studies WATANAVE Hidenori Laboratory intern 5 Visiting Assistant Professor, Northeastern University College of Arts, Media, and Design 6 The University of Tokyo Interfaculty Initiative in Information Studies (受付日:2020年11月8日、採択日:2021年1月26日) (Received: November 08, 2020, Accepted: January 26, 2021) 抄録:本調査の目的は、COVID-19禍における国内及び国外の地域に暮らす人々の生活意識を記録することである。そのための手法として、生活実態や意識をはかるアンケートを作成し、スノーボールサンプリング方式で国内外からデータを収集した。収集したデータに対してワードクラウド・グラフを用いて可視化を行い、回答全体の傾向を考察した。また、回答者数の多かった言語・地域については比較分析を行った。その結果、COVID-19の影響によって意識・考え方が「変化し続けている」と感じている回答者が多いことが明らかになった。また、政治及び情報元への信頼性に関するトピックにおいて、人々の意識・考え方に、回答者の居住地域や使用言語属性による差異があることが示唆された。 Abstract: The purpose of this study is to leave a record of people's lifestyle considerations and personal values during the COVID-19 pandemic both in Japan and internationally. This was achieved through data collection via a questionnaire using the snowball sampling method and designed to capture the thoughts of people both at home and abroad. We visualized the collected data via rudimentary methods such as word cloud, recorded the overall trends, and performed comparative analysis on the responses from the regions or languages with the highest number of respondents. As a result, it emerged that many respondents felt that their way of life and way of thinking were continuously evolving due to the influence of the COVID- 19 pandemic. In addition, when it came to topics related to politics and credibility of information sources, the data suggests that people's awareness and way of thinking differ depending on their geographic region and language. キーワード : COVID-19、デジタルアーカイブ、国際調査、集合知、記憶の記録、可視化 Keywords: COVID-19, Digital archive, International survey, Collective intelligence, Memory record, Visualization ## 1. はじめに 2020 年、パンデミックが、私たちの日常生活を大きく変えた。内閣府が 2020 年 6 月に実施した調査 ${ }^{[1]}$ によれば、日本人の生活や仕事、社会とのつながりに関する満足度は、新型コロナウイルス感染症(以下 COVID-19 と呼ぶ)の感染拡大以前と比べて低下している。COVID-19が日常生活に与えた影響をより深く知るには、[1]のような多岐選択式の質問紙調査に加え、より細かい質問項目や自由記述を含むアンケート調査を実施することが望まれる。また、国内の調査からは、他国の人々の生活や意識にどのような影響を及ぼしたかということは見えづらい。さらに、こうしたパンデミックによる影響の実態は、時間の経過とともに忘れられていく。したがって、パンデミックによる国内及び国外の実態と人々の記憶は、風化する前に記録し、今後、活用可能にすることが望ましい。 そこで筆者らは、COVID-19 禍における国内外の人々の生活意識を記録することを目的として調査を実施した。 ## 2. 先行研究と本調査の位置付け ## 2.1 人々の記憶を記録することについて ジャック・デリダ(2010)はアーカイブの原理について、「権威や法規範によって記録・保管される行為」 であるだけではなく、「物事が始まるところ」であり、「記号を集めながら共に署名する行為」であると指摘した ${ }^{[2]}$ 。こうしたアーカイブの両面性に加えて吉見 (2017)は、人々の記憶が集積する「記憶の場所」さらにはその深層にある集合的無意識の次元まで含めたアーカイブを考えなくてはいけない、と述べている[3]。 そうしたアーカイブの多層性や多元性に関しては、ある出来事に関して生成された「痕跡」が捕捉-多元化される「レコード・コンティニュアム」年] が広く認知されるなど、概念化の議論も進んでいる。また、アー カイブの主体のあり方も近年変化しており、レコードキーピングにおいては「専門家」の能動的な活動が重要であるとされている[5]。こうしたアーカイブをめぐる理論化や専門家による積極的な記録は、知の蓄積の体系化を促進するだろう。 一方で、吉見が主張するような「非専門家」が織りなす集合的無意識は、未だ知の循環の中に記録されず、消失していく傾向にある。しかしながらそうした集合的無意識の記録は、エリック・ケテラール(2019)が主張するように、未来において権力に対抗する際に活用可能な社会的財産となり得るもの ${ }^{[6]}$ であるため、積極的な記録が望まれる。 このような個人の経験や視点、想いを重視する観点から、ポール・トンプソン(2002)は、幅広い属性の人々を対象とした歴史継承機会の重要性を主張した[7]。また、小川(2017)は、ストーリーテリングワー クショップの実践を通じて、「負の記憶」を記録することで他者の経験から他者を理解する機会を創出できることを示唆した $[8]$ 。このように、アーカイブズ学や歴史学の文脈においては、市井の人々の多様な記憶を記録する取り組みが行われてきた。 また、こうした「非専門家」の記憶を記録する取り組みは、デジタル技術の発展によって新たな局面を迎えている。たとえば田村らは(2018)は、デジタルアー カイブが次世代への媒介物として記憶を繋ぐにあたって、市民参加型の視点が重要であるとした ${ }^{[9]}$ 。しかしながら、明確な継承の意志を持たないコミュニティや、 コミュニティ化されていない人々のある事象への集合知は、多くの場合はデジタルアーカイブ化される以前に、失われていく。したがって、COVID-19をめぐる人々の継承の意志を持たない記憶についても、収集し、記録することで、未来に継承する取り組みが必要である。災害など有事にあたって、人々の表象されづらい記憶を記録する試みはこれまでも行われてきた。堀 (2019)は、自然災害が起きた際、女性の災害経験が公的な記録には残りにくいことを指摘し、アンケートや聞き取りによる記録活動の意義を主張した ${ }^{[10]}$ 。また、渡邊(2016)は、震災犠牲者の地震発生から津波到達に至る避難行動を可視化したデジタルアーカイブを制作した[11][12]。これにより、犠牲者の声なき声を可視化し、震災の教訓として後世に残していくことの重要性が示唆された。 ## 2.2 COVID-19 に関する記憶の収集について COVID-19をめぐる人々の声を収集する活動も、様々な団体によって行われている。例えば、菊池ら (2020)は、パブリックヒストリーの実践として、 COVID-19禍における関西大学関係者の日常の記録を、 ユーザからの投稿によって収集する活動を行った[13]。 また、医学生有志団体 Do Our Bit 学生プロジェクト (2020)は、日本人学生を対象として危機意識や行動変容を明らかにする調査を行った ${ }^{[14]}$ 。一方で、勝間 (2020)は、日本における調查について、質問項目が日本語で書かれており、質問内容が日本人を想定したものになっているため、外国人の回答を得られにくい点を指摘している[15]。 実際に、パンデミック禍において諸外国の市井の人々の声が国内に届くことは少ない。移動が制限され、物理的に分断された世界だからこそ、国内外の多様な記憶に目を向け、グローバルなスケールでの人々の記憶を収集し、未来に継承していく必要があるのではないだろうか。 以上の議論を踏まえ本調查では、パンデミック時において表象されづらい市井の人々の記憶を、グローバルな集合知の一部として記録する。具体的には、 COVID-19禍における国内外の地域に暮らす人々の記憶として、生活・教育・政治・情報・衛生に関する意識をアンケート調查によって収集する。 ## 3. 調査の手法と概要 本調查は、無記名アンケート方式で行った。アンケートは、生活・教育・政治・情報・衛生に関する行動と意識の変容を問う 30 問(多岐選択式および短答式自由記述)から成り、インターネット上でSNSを活用し、スノーボールサンプリング方式で散布した。 アンケートは日本語で作成し、韓国・朝鮮語、中国語 (簡体字/繁体字)、英語、フランス語による翻訳も用意した。本稿では、2020 年 6 月 20 日 7 月 20 日の期 間に回答のあった 273 件に対して分析を行う。回答者の年齢は 1070 代で、その $43 \%$ が 20 代、居住地域はアジアが打々 $68 \%$ であった。なお、居住国に関して回答のあった国は、以下の 40 か国である。 アメリカ、アンティグア・バーブーダ、インドネシア、ウクライナ、エジプト、オランダ、カザフスタン、カタール、カナダ、ガーナ、韓国、キルギスタン、グレナダ、クロアチア、ケニア、コソボ、サウジアラビア、ジンバブエ、スーダン、セントヴィンセント及びグレナディーン諸島、ソマリア、中国、 デンマーク、ドイツ、トーゴ、トリニダード・トバコ、 トルコ、日本、ネパール、バハマ、フィリピン、ブー タン、ブルガリア、ベナン、ペルー、マダガスカル、 マレーシア、南アフリカ、リトアニア、レバノン このように本調查では、多様な国や地域からの人々の声を収集することができた。しかしながら、回答者数が少ない国も多く、データの欠損もあり居住国不明の回答も多い。そこで本稿では、以下のように居住地域の大州と回答言語で分類し、回答数の多かったグループについて重点的に分析する。回答者の言語と居住地域グループの回答者数順は、以下の通りであった。 1.アジア居住の中国語(簡体字)回答者 $(21.2 \%)$ 、 2. アジア居住の日本語回答者 $(20.9 \%)$ 、 3. アジア居住の英語回答者 $(17.9 \%)$ 、 4.アフリカ居住の英語回答者 $(8.8 \%)$ 、 5. ヨーロッパ居住の英語回答者 $(8.4 \%)$ 、 6. 北米居住の英語回答者 $(5.5 \%)$ 、 7.アジア居住の韓国・朝鮮語回答者 $(5.1 \%)$ 、 また、上記カテゴリーに年齢を加味したグループに分けた場合の回答者数順は、以下の通りであった。 1.アジア居住 20 歳代英語回答者 $(12.8 \%)$ 、 2. アジア居住 20 歳代日本語回答者 $(9.5 \%)$ 、 3.アジア居住 20 歳代中国語(簡体字)回答者 (6.6\%)、 4. ヨーロッパ居住 20 歳代英語回答者 $(6.2 \%)$ 、 5. アジア居住 40 歳代中国語 (簡体字) 回答者 $(5.1 \%$ )、 6. アジア居住 30 歳代中国語(簡体字)回答者 (4.8\%)、 7. アフリカ居住で 30 歳代の英語回答者 $(4.4 \%)$ このように、アジア居住、20歳代に回答者数が多く、調查対象者属性に偏りがある点が本調查の特徴であり、限界である。そのことを踏まえつつ、以下では、 アンケート結果から回答者の生活・情報・政治に関する行動と意識を分析する。 ## 4. アンケート調査の結果と分析 アンケート項目及びその結果の全容は、WEB 上で閲覧できるようにした[16]-[18]。なお、3. 調查の手法 と概要で述べたように、回答者の属性は、年齢は 20 代が $43 \%$ 、居住地域はアジアが $68 \%$ を占めている。 こうした回答数の偏りは、スノーボールサンプリング方式において、調査実施者らの SNS 上における知人の多くがアジア圈の学生であったことに起因すると考えられる。以下では質問項目より、生活・情報・政治のトピックを抽出し、結果を示す。 ## 4.1 COVID-19 による生活・意識・行動の変化について質問項目「COVID-19による生活への意識や考え方 の「変化」は、時間の経過とともにどのように変化し ていますか?」に対する回答では、「ますます変化し ている」と回答する者が過半数を越え、最も多かった (図1)。 このことより、本調查時期において多くの回答者の意識や考え方が、COVID-19の影響によって日々変化し続けていたことがうかがえる。 図1 質問項目「COVID-19による生活への意識や考え方の「変化」は、時間の経過とともにどのように変化していますか?」に対する回答 また、質問項目「COVID-19による自粛生活の中であなたが行っていたことや心がけていたことは何ですか?」に対しては、「健康への配慮」を挙げる回答が $40.7 \%$ と最多であった。一方で、質問項目「COVID-19 によって、あなたの生活で変わったと思うことは何ですか?」に対しては、「衛生環境に対する習慣」を挙げる回答は 7.7\% と少なかった。このことから、COVID-19 禍において衛生管理に関する不安や感染対策の必要性が認識されつつも、それが行動習慣を変化させるまでには至らなかったケースが多いことが示唆された。これは、従来とは異なる生活の在り方への適応が困難であることのあらわれの一つであると考えられる。 ## 4.2 COVID-19 に関連する「情報」について 4.2.1 COVID-19 に関連する情報取得頻度と情報源 COVID-19に関する情報を他のトピックよりも高い 頻度で取得する傾向は、すべての地域で観察された。回答者の約 $80 \%$ が COVID-19 関連情報に「かなり頻繁に」または「ある程度」触れていると回答したのに対し、「あまり触れていない」または「全く触れていない」と回答したのは $5 \%$ であった。 また、回答者の COVID-19 関連の情報取得先メディアが多様であることが明らかになった。その内訳を見ると、回答者の約 $60 \%$ がインターネット、SNS、YouTube などのオンラインメデイアから情報を取得し、約 $30 \%$ がテレビ、新聞、ラジオといった伝統的なメディアを主な情報入手メディアとしている(図2)。さらに、多くの回答者が、複数の情報源および新旧メディアを組み合わせて情報を得ていることが分かった。 図2 質問項目「COVID-19に関する情報を主にどこから入手していますか」への回答 ## 4.2.2 最も重要だと考える COVID-19 関連情報 質問項目「COVID-19について、特に必要だと思うのはどのような情報ですか」への自由記述回答では、英語及び日本語回答者は「感染者数」や「感染予防」 を挙げる者が多く、中国語(簡体字)回答者は「公式または正確な情報」を挙げる者が多かった(図 3)。 図3 質問項目「COVID-19関連の情報について、特に必要だと思うのはどのような情報ですか」への回答 ## 4.2.3 政府から提供された COVID-19 情報への信頼度 質問項目「COVID-19に関してあなたの国の政府が発表する情報をどの程度信用していますか?」への回答では、約 $70 \%$ の回答者が、自国の政府が発表している公式情報を「かなり」あるいは「ある程度」信頼していることが示された。ただし、回答を言語別に分類すると、政府からの情報に対する信頼度に違いがあることが示唆された。図 4 より、中国語回答者の政府提供情報への信頼度は、日本語回答者の信頼度よりも高い数値を示していることが分かる。 21.COVID-19に閲してあなたの国の政府が発表する情報をどの程度信用していますか? 図4質問項目「COVID-19に関してあなたの国や政府が発表する情報をどの程度信用していますか」に対する回答 ## 4.2.4 COVID-19 への対応に関する政治意識の日中比較本項では、質問項目「COVID-19によって、政治に 対するあなたの考え方はどのように変わりました か?」の自由記述回答を分析するために可視化を行う。 そのためにまず、「ユーザーローカルテキストマイニ ング」[19]を活用し、TF-IDF 法によって単語の重要度 を算出する。TF-IDF 法とは、文書中に含まれる単語 の重要度を評価する手法の 1 つであり、主に情報検索 やトピック分析などの分野で用いられている。単語の 重要度を評価するために、単語の出現頻度たけでなく、単語の特徴度に基づいた値を加味し、単語の大きさを 変え、ワードクラウドとして表現する。また、単語の 品詞を視覚化するために、名詞を青色、動詞を赤色、形容詞を緑色で表している。 図 5 ・6 にその結果を示す。 中国語回答者からは「変化なし」または自国の政治に対してポジティブな回答が多く示されたことに対して、日本語回答者からはネガティブな意見が多く示された。中国語回答では、緊急時対応における「社会主義制度の優位性(社会主义制度优越性体现)」を主張している回答などから、中国語回答者の「祖国・社会 図5 質問項目「COVID-19によって、政治に対するあなたの考え方はどのように変わりましたか?」への日本語回答のワードクラウド 図6 質問項目「COVID-19によって、政治に対するあなたの考え方はどのように変わりましたか?」への中国語回答のワードクラウド 主義制度・共産党」に対する信頼感が高いことがうかがえる。一方で、日本語回答では、「PCR 検査数の信頼性について政府に不信感を抱いた」、「政治的立場の人間の発言力、引率力、統率力の弱さを実感した」などの意見が見られ、日本政府及びその対応に対する不信感がうかがえる。 ## 5. おわりに(本研究の意義と課題及び今後の 展望) 本稿では、COVID-19禍における人々の生活意識を記録することを目的とした国際アンケート調查の結果を述べた。本調査では、回答者属性に偏りがあるものの、世界中の多様な地域から回答を得ることができた。 これにより、COVID-19にまつわる国内外の人々の記憶を収集し、集合知の一部として記録を行うことができた。 アンケート結果より、COVID-19の影響によって生活への意識・考え方が変化し続けていると感じている回答者が多いことが明らかになった。また、政治及び情報源への信頼性に関するトピックにおいて、人々の意識・考え方に、回答者の居住地域や使用言語属性によって差異があることが示唆された。 もち万ん、こうした結果は各国・地域における感染拡大状況や、政府の対策の違い、あるいは回答者の属 (累計 82,078 人) 図7 2020年 1 月16日から 9 月24日時点までの日本国内新規感染者数 ${ }^{[20]}$ withコロナの生活があとどれくらい続くと思いますか? ■すでに落ち着いている ■あと数ヶ月曰あと1年曰少なくとも1年以上曰その他 図8 質問項目「with コロナの生活があとどれくらい続くと思いますか」 に対する回答 性を加味し、より詳細な分析を行うことで補完されなければならない。また、本調査のデータを取得した時期が 2020 年 6 月 20 日から 7 月 20 日の期間であることにも留意しなければならないだろう。本調査期間は、日本においては緊急事態宣言による約 2ケ月の「ステイホーム」から約 1ヶ月が経過し、人の動きが戻りつつある中で COVID-19の第二波が到来し、感染者数が増大した時期である(図7)。一方で、中国ではこうした感染拡大からロックダウン、その解除への流扎が2ケ月以上早かった。こうした状況の差異が、アンケートの結果に表象している可能性があることは否めない。しかしながら、特定の期間において各回答者が持っていた意識や考え方の傾向を明らかにできたことには、一定の意義があると考える。 現在もまだ、COVID-19は収束に至っておらず、人々の意識もさらに変容していくことが予想される。図 8 より、本調査期間における回答者の「with コロナがどれくらい続くか」に対する考えは「あと数ヶ月」、「あと 1 年」「少なくとも 1 年以上」に分散している。 これより、COVID-19 及びこれに関する諸課題の解決について、人々が多様な見通しを抱いていることが分かる。また、そうした考えも、感染の拡大状況や政治・経済・社会的な状況に応じて、世界的に、あるいは国や地域ごとに、今もなお「変化し続けている」た ろう。したがって今後も、本調查のような記憶の収集活動を継続的に行うとともに、対象地域や対象者属性を拡張していくことで、今後 COVID-19が与えた影響を包括的に評価する際に活用可能性の広がる記録を蓄積することが望まれる。 筆者らは今後、本調査を発展させ、メディアの言説や社会情勢を表すデータと人々の記憶を複合的に可視化し、未来に継承するアーカイブデザインの検討を進める予定である。 ## 謝辞 アンケートにご協力いただいた皆様に深く感謝申し上げます。 ## 註・参考文献 [1] 内閣府. 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査. 2020年6月. https://www5. cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo2.pdf (参照 2020-09-25). [2] ジャック・デリダ. 福本修訳. アーカイブの病. 法政大学出版局. 2010. [3] 吉見俊哉. なぜ, デジタルアーカイブなのか? - 知識循環型社会の歴史意識. デジタルアーカイブ学会誌. 2017, Vol. 1, No. 1, p.11-20. [4] Frank Upward. Structuring the Records Continuum, Part Two: Structuration Theory and Recordkeeping. Archives \& Manuscripts. 1997, Vol. 25, No. 1, p.10-35. [5] Sue Mckemmis. 安藤正人訳. 痕跡ドキュメント,レコード, アーカイブ, アーカイブズ. アーカイブズ論記録の力と現代社会, CHAPTER1. 明石書店. 2019. [6] Eric Ketelaar. 安藤正人訳. レコードキーピングと社会的なカ.アーカイブズ論記録の力と現代社会. CHAPTER 6. 明石書店. 2019. [7] ポール・トンプソン. 酒井順子訳. 記憶から歴史へオーラルヒストリーの世界. 青木書店. 2002. [8] 小川明子. 実践報告:負の記憶を記録することの可能性と困難-二つのデジタル・ストーリーテリングワークショップをめぐる覚書. メディアと社会. 2017, Vol. 9, p.71-86. [9] 田村賢哉, 秦那実, 井上洋希, 渡邊英徳. ヒロシマ・アーカイブにおける非専門家による参加型デジタルアーカイブズの構築. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, Vol. 2, No. 4, p.370375. [10] 堀久美. 女性の災害経験を記録する活動の意義ーアンケー トや聞き取りによる記録活動を中心に- 現代行動科学会誌. 2019, 35号, p.1-10. [11] 渡邊英徳, 岩手日報社. 忘れない〜震災犠牲者の行動記録. 2016. http://iwate.mapping.jp/index_jp.html (参照 2020-09-27). [12] 渡邊英徳. 多元的ディジタルアーカイブズと記憶のコミュニティ. 人工知能. 2016, 31 巻, 6 号, p.800-805. [13] 菊池信彦, 内田慶市, 岡田忠克, 林武文, 藤高夫, 二ノ宮聡, 宮川創. デジタルパブリックヒストリーの実践としての「コロナアーカイブ@関西大学」.デジタルアーカイブ学会誌. 2020, Vol. 4, No. S1, p.s17-s20. [14] Do Our Bit 学生プロジェクト, 西原麻里子, 太田悠希子, 田口美奈, 高橋里奈, 国分杏奈, 柳ジェイン, 兵藤壮亮, 藤橋明日香, 杉下智彦. 強制か自肃か? COVID-19における日本人大学生の意識調查結果. Journal of International Health. 2020, Vol. 35, No. 2, p.93-95. [15] 勝間靖. COVID-19の大学生への影響:日本における外国人学生を中心に. Journal of International Health. 2020, Vol. 35, No. 2, p.89-91. [16] 本調査結果全容の可視化1. 2020. https://www.fluidencodings. com/projects/covid-jishuku/bar/index.html (参照 2020-02-19). [17] 本調査結果全容の可視化2. 2020. https://www.fluidencodings. com/projects/covid-jishuku/parcoord/index.html (参照 2020-11-06). [18] 本調査結果全容の可視化3. 2020. https://www.fluidencodings. com/projects/covid-jishuku/scrolly/index.html (参照 2020-11-06). [19] ユーザーローカルテキストマイニング. https://textmining. userlocal.jp/ (参照 2020-09-30). [20] 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症について-国内の発生状況. 2020年9月. https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/ kokunainohasseijoukyou.html (参照 2020-09-30).
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# 〈長坂俊成教授インタビュー>「地域でごちゃまぜのデジタルアー カイブをどうつくる?」 Interview with Professor Toshinari Nagasaka: How to Create a Mixed-up Digital Archive in the Community? \begin{abstract} 本記事は、東京文化資源会議 ${ }^{[1]}$ が地域文化資源の デジタルアーカイブ化をどのように進めるべきか、識者の意見を集める趣旨でおこなったインタビューを整理したものである。インタビューアは東京文化資源会議の幹事であるポット出版の沢辺均氏。 \end{abstract} 一-長坂さんは、『311まるごとアーカイブス』(正式名称:「東日本大震災・公民協働焱害復興まるごとデジ タルアーカイブス」)[2]をはじめ、さまざまなデジタ ルアーカイブに取り組まれていますね。最近の活動に ついて教えてください。 【長坂俊成】2019年 12 月から、『web ラヂオちよた』[3] というインターネット放送局を始めました。東京都千代田区神田にスタジオを扮き、千代田区内の地域ア一 カイブを作成しようというものです。スマートフォン のアプリで、音声をフックにしつつ、映像も含めて配信しアーカイブします。 --地元の方によって語られる千代田区に関する昔の 話、いわゆるオーラルヒストリーを音声もしくは動画 で聴きつつアーカイブしていこうという試みですね。 【長坂】はい。インターネット放送局はグローバルメ ディアであるため、誰でも、いつでも、どこでも聴く ことができます。また、通常のラジオ放送では番組は アーカイブされませんが、web ラジオでは音声デー夕 を残せます。それをそのままコミュニティのローカル なオーラルヒストリーのアーカイブにしましょうとい うコンセプトです。 --具体的には、どんな手順で聞けるのでしょう?【長坂】まずはスマートフォンで『web ラヂオちよた』』 のアプリをダウンロードします。アプリ上に表示され ている「LIVE」は、現在放送中の番組で、「タイムフ リー」はLIVEで放送された過去二週間くらいの番組。聞き逃しに対応します。「アーカイブコーナー」は過去に放送されたものです。 一-放送した内容は最終的にどのくらいの割合でアーカ イブに残るのですか。 【長坂】対談やインタビュー番組といったオーラルヒ ストリー以外にも、たとえば役所からの広報やイベン 卜告知があります。それらを含めデータベース上はす ベてアーカイブされています。しかし、研究者や歴史家でない限り、過去のお知らせを検索してもう一回聴 きたいというニーズや情報価値はありません。そのた め表に見える「アーカイブコーナー」からは、お知ら せ的なものを除いています。また、アイドルが出演し た回など、著作権の関係で再放送が禁止されている場合、その番組はアーカイブからは落とします。地域で 活動したものなのに、勿体ないのですけどね。 --アーカイブされたデータの中から、自分の見たい動画にどうやってたどり着けばいいのかについてお聞き します。例えば日付検索ならば、ファイル名に自動的 に日付がつくため簡単だと思います。しかし、「神田」 や「一ツ橋」といった地域から選びたい、「神社仏閣」 や「若者の歌」などの“こと”から選びたいというニー ズも、当然ありますよね。 【長坂】実は、まさにそれが悩みの種でして。通常デ ジタルアーカイブには、あらかじめ検索時の手がかり となる「タグ」を集めたもの、いわゆる「メタデータ」 をつけるのが常套手段です。しかし『web ラヂオちよ た』ではメタデータをつけられる人員がいなかったた め、「この番組は○年○月○日に、どこで第一回とし て放送したものです。昭和二十三年当時の神田駅前の 写真を用いて、神田駅開業百周年について語っていた だきました」というように、番組概要をそのまま掲載 しているんです。 - - 通常であれば、「何年放送」「第一回放送」「昭和二十三年」「神田駅」「神田駅開業百周年」「昔の写真」「インタビュー」などのタグを集めてメタデータを作 ればいい。でも、このような夕グとなるキーワードを 抽出できる人員がいないため、番組概要を全文検索さ せることでメタデータの代わりにしているということ ですね。 【長坂】はい。メタデータは未だに悩みの種ですね。問題は大きく分けて二つあります。 ## ゚メタデータについての問題(1) ## 誰がメタデータを作るのか 【長坂】ラジオで放送する音源の録音や撮影は、その時には少し人手が必要になりますが、さほど大変ではありません。しかし、録音・撮影したものに対して 「これはどういうものなのか」という解説を付ける作業は、おっしゃるとおりタグとなるキーワードを抽出できる人員が必要です。ですから草の根レベルで作るアーカイブでは、出演者本人がメタデータをつけてくれることは稀ですね。本人に代わってメタデータをつけてくれる人を探すのが大きな悩みになります。 一-しかし、視聴者はそのような解説がなければ探すことができない。 【長坂】はい。なので、話して下さった方ご本人に「番組概要を何か書いていただけませんか。200 字でも結構です」とお願いしたこともあります。ですが「忙しいし、面倒なのでできません」などと断られることがあります。メタデータをきちんと書いてくださった方は三パーセントもいないです。インタビュアーが、出演者本人に代わって音源を聴きながら概要を文字に起こしてメタデータをアップロードするしかありません。インタビュアーにとって、メタデータをつける作業は負担になります。 --他者が話した内容を全部聞き、頭の中で理解し直した上でタグを付ける、メタデータを作るというのは、話者自身がそれを行う場合に比べて十倍、百倍は大変 だと思います。 【長坂】ただ、話者自身がメタデータを作ることが良いかというと、必ずしもそうではありません。自分が話した内容についてタグを五つ書き出したとして、それが話の核心をついているかというと、そうでもないのです。 --話の中に潜んでいる本当のキーワードを引き出せるか、ということですよね。 【長坂】はい。本に例えるなら、著者の伝えたいエッセンスを抜き出して広告や本の帯を作る、編集者の視点とでも言えげいいでしょうか。編集者と全く同じスキルやノウハウ、センスが必要になるかどうかはわかりませんが、専門の教育を受けていない普通の人々が、他者にシェアする際のキーワードを引き出し、意味付けできるようにする。そのためには、企画・編集・夕グづけといったものをどのように考えれば良いのか、 あらためて捉え直す。こういったチャレンジが社会的にはあっても良いと思います。 --専門家としてのアーカイブの知識よりも、作り手となる市井の人々が、常識 $+\alpha$ のような、一種のアーカイブリテラシーを身に付ける必要があるということでしょうか。 【長坂】Web ラヂオちよだの話からは横に逸れますが、例えば「認定 NPO 法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン $]^{[4]}$ では、癌のサバイバーの方々の語りがネット上でアーカイブされています。癌のサバイバーには色々な人がいて、例えば「乳癌」という病名は共通していても、年齢や家族構成によって状況は変わります。お子さんや夫がいて、仕事もしていて、サバイブして仕事に戻れたのだけれど、なかなか周りの理解が得られないといった状況の人もいます。同じ状況を共有している人でないと、声をかけられても共感し合えないという方々も結構いらっしゃるのです。 一そうなると、「乳癌」という病名だけでは自分が求めている情報に辿りつけない。 【長坂】例えば、治療課程で夫婦の性生活がうまくいかなくなって悩んでいる方は、医師や看護師、カウンセラー等の医療看護職の方から医学的な説明を受けても悩みは解決しない場合があります。専門家の助言よりは、同じ経験をしたサバイバーのナラティブを共有 し共感し合いたいという気持ちに寄り添うピアサポー トの仕組みやオーラルヒストリーのアーカイブが求められます。だからこそ医学的なものと違う情報の意味付けの仕方、タグ付けの仕方が求められているのだと思います。専門家や研究者ではない人たちが、自分たちの日々の暮らしや、それぞれの仕事の営み、社会的生活を送る上で感じたものを表現していく。その表現を他者にシェアするためには、時代や文脈が変わっても情報を引き出せる最低限の意味付けやタグ付けが必要で、ではそれを満たすメタデータというのは一体何なのかということを、もう一度問い直していかないといけないと思います。 ## ヘメタデータについての問題(2) ## 音声データのテキスト化 【長坂】一方、2つ目の問題というのは、デジタル処理的な課題です。テキスト $\rightarrow$ 音声データへの変換は、多言語でもかなりできるようになってきましたが、音声一テキストデータへの変換は、まだ精度が高まっていません。技術的には過渡期と思われますが、音声のテキスト化は人が半分関わっていく、つまり、人とシステムの人馬一体的な取り組みが必要たと思います。 タグをつけなくてもテキスト化できれば全文検索もできますし、利用した人がタグで意味づけするなどと組み合わせることで、全部を機械に頼らなくても鍵となる概念の傾向をある程度つかんでいくことができるのではないかと思います。 ## ○地域コミュニティにおける、デジタルアーカ イブの難しさ 一-メタデータや音声のテキスト化など各論の深いところまでいきなりいってしまったのですが、もう一度戻って、そもそも地域のコミュニティレベルでデジタルアーカイブを構築する場合に、長坂さんが持っている課題や困難、注意点を教えてください。 【長坂】まずは場をどう設定するかということです。 そもそもアーカイブとは何なのか。この地域にアーカイブは必要なのか。資料館や博物館に行けば良いのではないか。行政がやることなのか。趣味で集める人もいるし、それで十分ではないのか。まずはそうした疑問や反論に対して、コミュニティにおけるアーカイブとは何であるのかを説明し、合意をとることが必要ですが、なかなかスタートできませんでした。そこで私が最初に行なったのは、地域の方にとって関心の強いコンテンツを用意してシェアすることから始めました。例えば神田駅構内に特設の駅ナカスタジオを開設 し、神田駅開設 100 周年の記念日に開設当時の神田駅周辺の風景写真をポスターにして自治会関係者に無料提供しました。ポスターをもらいに来た方々に戦後の神田を語っていただき、番組をつくりことができました。また、地域の方々の新年会や飲み会に参加させていただき、お酒が入ると、「この映像はデータをコピー してもらえないのか?」「うちにも映像が残ってないか、探してくるよ」と言ってくれたりしました。 一-地元の方のツボにはまるキラーコンテンツがあると、関心のある人が集まってくるということなんですね。 【長坂】しかし、現場は課題と困難だらけです。 ## 直面した課題(1) ## アーカイブに伴うプライバシー問題 【長坂】60歳台の自治会長さんにインタビューしたときの話です。小学五・六年生のころ、駅前にはキャバレーがあった。そのあたりで「だるまさん転んだ」をやっていたら、キャバレーから出てきた女性がサラリーマン風の男性にいきなりビンタした。呆気に取られていたら「てめえ、こっち見んじゃねえ!」と言われた……という話を滔々と語ってくださいました。その時代のまちの情緒や、ある種の風俗が見えてくるいい話だったのですが、その後、「ちょっと待て、しゃベりすぎた。近所の手前もあるし、俺が一回チェックしてダメなところ外す」と言われてしまい、一番いきいきとした語りが削除され使わせていただけないということがありました。 コミュニティの中でコミュニティについて語っていただくというのは、一般論であれば良いのですが、具体的な「あそこに住んでいる○○さん」の話になってしまうと、それだけで「近所に聞かれたらまずい」となり、シェアできなくなってしまうのです。 先ほどの乳癌患者の方の性生活の話もそうですが、 そうそう人に聞けないことや相談できないこと、あるいは日常に根ざした泥臭い話、その中でこそ見える人の心の様相や社会のかかわりが、ただ面白いということを通り超して、名もなき市井の方々の生きた証として大きな意味があるのですが、それをアーカイブしていくことは難しいですね。 --プライバシーに関する問題、あるいは恥ずかしい過去の問題のようなものの解決策としては、例えば 50 年後や、ご本人の死後に公開するといった方法はあるのではないでしょうか。 【長坂】内容によっては 50 年後に公開するといったことがあって良いと思います。ただ、今 60 歳・ 70 歳くらいの方の小学生時代の体験について、プライバシー 保護の必要性がどこまであるのかという問題があります。本人が公開してほしくないため公開しない、と安易にしてしまうと、公開できない情報がますます増えるだけに終わります。 また、死後公開とすると、その方が有名人ならば絶えずインターネットでチェックすればわかるのですが、一般の方についてはいつ亡くなったかを追いかけることができません。個人の手帳などについても、ご本人からは「死後であれば公開しても良いです」と言われたとしても、遺族に相続されると所有権が移転しますので、生前の契約がどこまで評価されるのかといった問題が出てきます。 ## ○直面した課題(2) ## 地域内の序列問題 【長坂】これもまた、限られたコミュニティ内ならではの問題になりますが、地域内の打年寄りに順繰りにインタビューをしたときには、「最初の一人目は $\bigcirc \bigcirc$ さん。その次は $\triangle \triangle$ さんじゃなければいけない」という問題が出てきて、それを相談するのに一か月半かかってしまいました。私からすると、誰から始めたって良いのではないかと思うのですが、一人のインタビュー が終わったと思うとまた滔々と順番決めが始まり、その度にインタビューが頓挫してしまいます。結局、このコミュニティでは数名のインタビューをとるだけで半年が過ぎてしまい、ほとんど進みませんでした。 町内会の問題もありますね。一つの町内会であれば解決するものが、連合町会になると解決しないというケースもありました。 一-地域コミュニティのデジタルアーカイブ化における村社会問題、あるいはコミュニケーション問題といったところでしょうか。 【長坂】ある地域のコミュニティ活動でインタビュー させていただいた方が地方議員の方でした。会場関係者から、「長坂さん。申し訳ないのだけれど、彼は議員なので彼のインタビューは利用しない方がいいですよ。」と助言をいただいたことがあります。コミュニティでの市民活動に地方議員が参加する場合がありますが、何でも政治活動に結びつけて考えてしまうなど、周りの人間が少し配慮し過ぎているとも思います。 ## ○直面した課題(3) ## 行政の関与 【長坂】これは『311まるごとアーカイブス』の活動の中で、被災した地域でガソリンスタンドの行列の交通整理をしていた自治体職員の方に、その経験を語つていただいたときの話です。 職員は事前に用意してあった体験談の原稿には、「住民がガソリンスタンドの列に割り达んで殴り合いが起こりそうになり、仲裁に入り自分も巻き达まれそうになりました。」という内容がそのまま赤裸々に書かれていました。しかし収録の際はその部分をスキップして読み上げられたのです。これではもはや、証言でも、 オーラルヒストリーでもありませんね。 東日本大震災に関する行政職員の証言はそういった傾向がありましたね。語る内容について原稿を起こし上司の事前チェックを受けないと外部に出せないのでしょう。とにかく「日本人は素晴らしい」「暴動も起こさず、行政が厳しく管理しなくても言うことを聞く」 といった言説になってしまうのです。 コミュニテイアーカイブに行政が関与すると、ある種の出来上がった世界観の中で辻褄を合わせていくこととなり、行政の趣旨に合わないものは許容してもらえないことがあります。 --『311まるごとアーカイブス』は、阪神淡路大震災のときの経験を元に立ち上げたそうですね。 【長坂】はい。阪神淡路大震災の当時、研究者が被災者への聞き取りを行なったのですが、その際、「あなたの被災体験を語ってください。原則 30 年間非公開ですので安心して語ってください」と言って、関係者やプライバシーに配慮しつつオーラルヒストリーを既得していました。証言を記録した研究者は 30 年を経ずに個人が特定されないように分析して論文を発表していました。被災された方や自治体の方にしてみれば、一度誰かに話をしたことですっきりしてしまう。あるいはそう何度もむやみに自分の体験を語りたくないという方もいます。震災から 18 年後に、研究者が記録した証言の記録を見せてくださいとお願いしたのですが、「原則 30 年間は非公開」ということで断られてしまいました。 ## 一部の人たちの間で、情報の囲い込みがおき ている 【長坂】コミュニティの知が外部者にもっていかれて封印され、「もう話したことだから」という理由で当事者や地元関係者からは二度と語ってもらえない。被 災された方のせっかくの証言を社会で共有できない。当時の教訓が、 30 年待たないとコミュニティの防災や実務に活かせない。そんなことはありえないだろうと言って闘ったのですが、うまくいきませんでした。 したがって、我々は原則オープンですよということで、東日本大震災の記録と当事者の記憶を、誰もが見られるかたちでネット上に公開する『311まるごとアーカイブス』を始めたんです。 ## ○資金の調達方法 --『web ラヂオちよだ』でも、『311まるごとアーカイブス』でも良いのですが、資金調達はどうしているのですか。 【長坂】『311まるごとアーカイブス』は、私の方で企業等から寄付を集めてシステムを作りました。被災した若い人たちをスタッフに臨時雇用して、資料集めやメタデータの作成、インタビューの聞き手になってもらいました。震災から五年ほど経ち、だんだん寄付も集まらなくなってきました。震災アーカイブに関する国の補助金はもらわなかったため、岩手県大船渡市と宮城県気仙沼市では、復興交付金で震災のアーカイブづくりを打手伝いしました。 --どちらも『311まるごとアーカイブス』の対象地域として、活動拠点にしていた市ですね。 【長坂】私が代表を務めていた非営利の一般社団法人が被災自治体からアーカイブ構築業務を受託しました。自治体からの費用の支払いは年度末一括となり、資金繰りのために気仙沼信用金庫から借り入れし、毎月、被災した若者の賃金を支払いアーカイブの活動に取り組みました。 『茨城県東日本大震災デジタルアーカイブ』については、同団体が県からアーカイブシステムのサーバー 構築を受託し、茨城県が県内市町から権利処理済みの写真とメタデータの提供を受けて、県の臨時職員の方がそれらのメタデータを確認しながらアーカイブシステムにデータを登録するという。 『web ラヂオちよだ』については立教大学と一般社団法人協働プラットフォームが共同開発したWeb ラジオシステムの社会実験として社団の非営利活動として自主財源で活動しています。 -ということは、主に企業からの寄付と行政の補助金、行政の委託でデジタルアーカイブを作ってこられたということですね。【長坂】そうですね。『webラヂオちよだ』では、年会費二千円のサポーター制度や年会費 5 万円の賛助法人会員制度もつくりました。今の時代、サーバー代は殆どかからないですし、システムも我々が独自開発しておりソフトウェアの利用料もかかりません。二千円払って自分がインタビュアーになったり、参加型で自分で番組を編集してアップロードしたりしてくれれば、維持管理費は限りなく少なく活動を継続することができます。 ## 年額二千円の会費で、個人でも応援ができる 【長坂】大きなシステムをべンダーからレンタルしたりクラウドで借りたりすると、とてつもない打金がかかりますが、手作りの独自のアーカイブシステムや Webラジオのアプリケーションでしたら驚くほど安いお金で運営できますからね。ようやくそういう時代がやってきました。 ## 地元との連携 --最初は、神田駅の中に『Web ラヂオちよだ』のス夕ジオも設置されたとか。 【長坂】はい。一般社団法人神田駅周辺エリアマネジメント協議会の協力を得て、神田駅構内のインフォメーションの隣に駅ナカスタジオを設置しました。同協議会は、神田駅周辺の自治会と商店街が参加して地域の魅力を高める団体です。駅ナカスタジオは木造でできていました。ところがスタジオ設置後に、消防上問題があるとの指摘を受けたため、140万円もかけてスタジオを作ったのですが、ほとんど使わない状態で、解体撤去されました。 --せっかく地元の人にも分かりやすい、みんなが親しみを持てる場所に設置したのに。 【長坂】現在は収録スタジオを神田西口商店街に移転しました。スタジオのある建物は築 60 年の木造戸建て住宅をリノベーションしたもので、一階部分をコミュニティのスタジオ兼事務所として賃貸し、一部は地域の方にも無料開放しています。時折、好きな食べ物や飲み物を持ち寄り、アーカイブの映像を上映するなど、楽しみながら Web ラジオの番組づくりとアー カイブを継続しています。 ー-アーカイブを運営しようとすると、地域の町内会や商店街、行政、議員、あるいは企業や大学へ積極的に働きかけるしかないということですね。 【長坂】千代田区内の大学に、Web ラジオの番組づくりやレポーターへの参加を呼びかけました。区内にある五つの大学は、「地域と連携して学ぶ」をモットー に連合体をつくっています。大学の職員の方が学生に呼びかけて教室も貸してくださったのですが、いざ説明会に行ったら、大きな教室に学生は三人くらいでした。別の大学に「元 NHK のアナウンサーが講師となって、インタビューや番組編集を体験できる無料講座に参加しませんか」という告知をしてくださいと依頼したところ、「区の後援や名義がないと、大学としては紹介できません」と断わられてしまいました。 一-難しいですね。行政の後援などを取ると制約が出てくるし、自分たちで提案して活動していこうとすると、 よそ者扱いされたり怪しまれたりしてしまう。 【長坂】その一方で、人と人とのつながりが実を結ぶというケースも少しずつ増えてきています。スタジオを借りるときにお世話になった不動産屋さんから神田に事務所を構える弁護士さんを紹介していただきました。并護士さんに Web ラヂオちよだの活動についてお話したところ、その方は以前ラジオ局で番組をもつていたそうで「昼間は忙しいから難しいけれど夜なら活動できる」ということで、夜に法律相談の番組を担当してくださることになりました。さらに、法人会員としてご支援いただくこととなりました。 あとは、神田鍛治町町内会に小唄の師匠さんがいらっしゃるのですが、素人がその方に弟子入りしだんだんと上手になっていく過程をラジオの番組にしたいと打願いし、番組を一本やっていただきました。アー カイブを主にするのではなく、参加型のラジオの番組づくりのニーズはあるのかもしれませんね。 たた、、その後、新型コロナウィルスのため、残念ながら法律相談と小唄教室の番組は中断しています。 ## ○プラットフォーム --『Web ラヂオちよだ』はスマートフォンアプリでの配信であることはすでにお話いただきましたが、あらためてアプリの動作環境、いわゆるプラットフォームについて詳しく教えてください。 【長坂】『web ラヂオちよだ』は、一般社団法人協働プラットフォームと立教大学社会デザイン研究所が共同で開発した「クレバーメディア」というシステムを利用しています。番組配信サーバーソフトと、ラジオ番組を聞くためのスマートフォン用のアプリから構成されています。多チャンネル、多言語で、音声とテキス トと説明用のサムネイル的な写真が配信できます。動画はリンクから閲覧できます。チャンネルや瞿日、何時を指定して番組配信をスケジューリングできます。 --web ブラウザでは見られないのでしょうか? 【長坂】見られません。スマホアプリをダウンロードしていただき、アプリを開くと番組が聞けるというわけです。 --YouTubeなどの一般的なプラットフォームではなく、独自のプラットフォームにした理由は何でしょう? 【長坂】YouTubeですと音声だけでも動画とほぼ同じデータ量が発生しますし、メタデータが十分つけられないといったことがあります。また、YouTube は広告を含め、他の動画が勝手におすすめに上がってきてしまいます。リコメンドもうっとうしいときがありますね。ということで、まずは音声だけのプラットフォー ムにしました。たた、音声と言ってもその説明に文章も必要ですし、写真も欲しいですし、動画のリンクの時は YouTubeでも良いと割り切りました。動画配信はコンテンッの制作も大変ですし、サーバーの運営費用がかかります。音のプラットフォームだと、個人のポケットマネーで地域の Web ラジオ局を開設し無理なく維持管理ができるのです。音声の語りなどコアなコンテンツは非常にシンプルで軽い音源で作り、そこに文章を少し付け加えるだけですと、レンタルサーバー の費用も抑えられます。 一-今は千代田区に限定されていますが、ゆくゆくは全国に拡大できたら扫もしろいですよね。 【長坂】全くその通りで、電波放送であれば総務省の電波の割り当ての制約を受けますが、Web ラジオでしたら、無限にラジオ局を作ることができます。また、一つの Web ラジオ局の中に複数のチャネルを開設できます。『web ラヂオちよた』』の中にも『総合チャンネル』や、『神田チャンネル』、『秋葉原チャンネル』、『English Channel』があります。また、今ちょうど陸前高田で Webラジオ局の開設を準備していますが、Web ラヂオちよだの番組アーカイブを陸前高田の Web ラジオ局でシェアして配信することもできます。 電波放送の番組もスマホのアプリ「ラジコ」で聞くことができます。ただし、タイムシフトして聞くことはできますが、著作音源などの著作権の関係でほとんど番組をアーカイブすることはできません。 全国の Web ラジオの番組コンテンツを著作権処理し、API で各地の Web ラジオ局の番組アーカイブを公開することで、全国で番組をシェアできます。 --今、『web ラヂオちよた』』の番組アーカイブは、昔のものを一生懸命デジタル化してアーカイブするということではなく、むしろ、今の情報を配信し結果的にアーカイブできるような形でオーラルヒストリーを記録していこうということなのですね。 【長坂】そうですね。今の千代田、神田のナラティブやオーラルヒストリーを番組として記録し配信することを続けることで、結果的に未来に向けて膨大なアー カイブが成長してゆきます。 ## ○おわりに 一-最後に、地域におけるデジタルアーカイブについての、今の長坂さんの思いを教えてください。 【長坂】「ストーリー・コープス (StoryCorps)」というアメリカのオーラルヒストリーをアーカイブする NPO の活動があります。ストーリー・コープスは、 ニューヨークのグランドセントラル駅 (Grand Central Terminal)の中に録音ボックスを作り、「あなたの人生がこの後 40 分でなくなるとしたら、最後の 40 分間に大事な人に残しておきたいものはありますか、それを音声で語ってください」といったアーカイブ活動を始めました。父から子へ、夫から妻へ、マイノリティのカップルが互いに語り合うことを収録しアーカイブしています。音声データはメタデータつきの音声ファイルとして整理され、米国の議会図書館 (Library of Congress)にすべて永年保管されています。また、べトナムの帰還兵のオーラルヒストリーを集めているアーカイブや、マイノリティの方々の語りを集めているアーカイブとも合流して永年保管ができる関係を構築しています。 私が最初に神田駅構内に『Web ラヂオちよだ』の収録スタジオを設置したのは、ストーリー・コープスの取り組みに感銘を受けたからです。まさに日本でもこうした取り組みができないたろうかと思って始めたのですが、一人でインタビューし家に帰り夜中に番組を編集したりメタデータを整理していると、「機械化できないだろうか」「誰か手伝ってくれないだろうか」 という気持ちになってしまうことは、正直なところあ ります。やはり一人でやるのは難しいのでチームを作ってとも思うのですが、千代田区は夜間人口が少なく、昼間千代田区で働いている方は、あまり千代田区に関心をもっていないようです。ボランティアを募集していますが、なかなか集まりません。企業市民ともいわれますが、区内の企業にプロボノとしての協力を提案しても、なかなか協力は得られません。米国と日本ではオーラルヒストリーやアーカイブに対する思いや文化が異なるのでしょうか。 オーラルヒストリーやアーカイブについて関心がある万々は、その理論や方法について強い意見をお持ちの方です。経験や体験の語りを記録する行為は、ライフヒストリーやオーラルヒストリー、ナラティブなどと呼ばれますが、社会学や政治学、文化人類学等、それぞれの学術分野で聞き方や分析法論についての考え方が異なります。しかし、そういった学術的な厳密性に縛られる従来の考え方がナンセンスになってくるのが、これからのアーカイブスだと私は思います。 政治家や著名人などのエリートの証言を記録に残すことも大切ですが、市井の人々が語る人類史を肉声で記録し、それを聞いた人の心が動かされる。共感から新たな関りが生み出される。当事者の語りが癒しとなるピアサポートとしてのアーカイブもあります。証言内容は語り手の世界観から構成されたものかもしれません。聞き手と語り手との相互作用や関係性の中で表出された語り、地元の人の体験談や証言が、地域の暮らしやその地域の特色に活かされることもある。在宅ホスピスのベットの上で Web ラジオからもれ聞こえてくる生まれ故郷のお寺の梵鐘の音。50 年前に渡せなかったラブレターの代読。ヤングケアラーやダブルケアラーの当事者の追い詰められた声などなど。このように、ごちゃまぜの番組づくりと音と声のアーカイブスを通じて、誰も排除しない地域づくりと地域を越えた共生社会の実現に貢献したいと思います。 ## 参考文献 [1] 東京文化資源会議. https://tcha.jp/ (参照 2021-01-29). [2] 311まるごとアーカイブス. http://311archives.jp/ (参照 2021-01-29). [3] webラヂオちよだ. https://chiyolab.jp/archives/4835 (参照 2021-01-29). [4] 認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン. https://www.dipex-j.org/ (参照 2021-01-29). [5] StoryCorps. https://storycorps.org/ (参照 2021-01-29).
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# 2020 年 7 月 5 日(オンライン) } 各座長の方に、特に良かったと感じた発表を挙げていただいた。(カッコ内は推薦された座長、敬称略) [A24] 参加型コミュニティ・アーカイブのデザ イン:デジタル・ストーリーテリングや参加型まちづくりの融合. 真鍋陸太郎(東京大学大学院) https://doi.org/10.24506/jsda.4.2_113 本セッションでは、情報技術を使った文化継承、そ れを背景にした地域コミュニティの存続と継承の話題、そしてデジタルアーカイブを取り巻く技術論と法整備という4つの報告があった。そのなかで、ここで 取り上げる真鍋ほかの報告「参加型コミュニティ・ アーカイブのデザイン:デジタル・ストーリーテリン グや参加型まちづくりの融合」は、「参加型コミュニ ティ・アーカイブ」を、コミュニティ情報を持続可能 な地域・コミュニティに必要不可欠なものと位置付 け、その情報の収集・蓄積・活用と相互作用を含む一連のプロセスとして位置づけている点に特徴がある。 そして、そのために 2 種類の異なる実践をこれまで積 み重ねてきたところに、本報告の強みがあると評価で きる。そのことは、「参加型コミュニティ・アーカイ ブのデザインとしては、多種多様な収集方法を組み合 わせて実践することが望ましい姿の1つであると言え る」という自己評価にも表れているだろう。今後は、 より「総合的なデザイン」を描かれていくことを、大 いに期待したい。(菊池信彦) 図 あなたの名所ものがたり [A32] 写真の里帰り: 米国所在の戦後日本の写真を地域へ還元するプロセスとその課題.佐藤洋一 (早稲田大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.2_120 本報告は、占領期に日本で撮影され、現在は米国に 所在する写真史料について、現地調査と整理を踏まえ、日本側にどのように還元することができるかを論じた ものである。ここで整理されている還元のあり方はデ ジタルアーカイブにとどまることなく、出版、ウェブ サイト、公開コレクション等のように幅広い。加え て、今後の展開として提示された「ストックされた写真の公開」「複数のコレクションの横断」等はデジタ ルアーカイブの特性を活かすものでもある。中でも 「地域資源として地域へ戻す」というあり方の提示は、写真をはじめ地域資料がその地域にもたらすことがで きる、文化資源の“価値”、そしてそれを活かすことの できる地域の “力量”のようなものを信じたくなるも のだった。いずれもデジタルアーカイブの構築それ自体が目的化しているわけではなく、我々は何のために デジタルアーカイブを構築しようとしているのか、そ れによって何を為そうとしているのかということを、再認識できる発表であったと思う。持ち時間が短いこ とを踏まえて、あらかじめ発表動画を録画して用意い ただけたことも、進行としてはありがたい配慮だった。 (江上敏哲) [B13] デジタルコンテンツと持続性:明治大正期書画家番付データベースを例に. 小山田智寛 (東京文化財研究所) https://doi.org/10.24506/jsda.4.2_154 デジタルアーカイブの持続性に関する議論は、その 当初から行われてきた。周辺環境の更新とともに、マ イグレーションが必要ということは従前から指摘され ていたが、実践例はなかなか蓄積されなかった。本報告は、2004 年に作成され、その後、公開が停止して いたデータベースを 2018 年にリニューアルした取組 みを事例に、デジタルコンテンツを持続させるための 課題を検討したものである。報告と討論から、マイグ レーションの技術的な課題が明らかになるとともに、構築時から継承しやすい環境の整備が重要なこと、属人化を一種前提にしつつ人的な関係を構築することで その問題を回避する手法があること、などの今後につ ながる重要な論点が確認できた。今後もこのような データレスキューの事例が多様に蓄積されることが重要と考え、ベスト発表に選定する。(福島幸宏) 図 古今名家書画景況一覧_807106(部分) [C22] 多面的・多角的な視座を育むデジタル アーカイブ活用授業の提案 : ジャパンサー チの教育活用. 大井将生 (東京大学大学院学際情報学府) https://doi.org/10.24506/jsda.4.2_207 デジタルアーカイブの構築にかかる研究発表が多い 中で、本発表は学校教育にデジタルアーカイブを活用 した実践報告であった。試験運用中のジャパンサーチ に実装されたノート機能を用いて、収録作品のキュ レーションを主軸とした探究学習実践を、小学校と中学校で実施した成果である。キュレーションという行為が、学びの「問い」に対する議論のきっかけになっ たり、作成されたノートがそのまま発表資料になった りするなど、ジャパンサーチと学びの親和性が見出さ れていた。そして、現状のデジタルアーカイブに求め る、教育的メタデータを付与すべきという提言は重要 である。今後のオンライン授業の充実にとって、必須 の要素になるに違いない。この効果として、児童や生徒にとっては教科書にとどまらない幅広い情報からの 学びが可能になり、教師にとっては授業準備において 効率的な教材研究が可能になると予想される。 ジャパンサーチが正式公開となったので、今後、実践研究が積み重なり、その成果をもとにデジタルアー カイブを活用した授業が数多くの教育現場で実施され ていくことを期待する。(阿坚雄之) 図 第 2 回授業のキュレーション風景 タブレットでジャパンサーチを活用した
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# 地域デジタルアーカイブ構築の意義と 効用一岐阜女子大学の実践活動から一 Significance and Effectiveness of Developing a Regional Digital Archive - From the Practice of Gifu Women's University 井上 透 INOUE Toru 岐阜女子大学 } 1. 地域デジタルアーカイブへの取り組み 地域文化・産業資料デジタルアーカイブの開発に、岐阜女子大学は 2000 年から本格的に着手した。その 対象は、地域の建築物や町並みの様子、祭などの年中行事、図書や古文書、オーラルヒストリーなど幅広い。残念ながら、多くのデジタルアーカイブがOS の変更、 プラグインソフトの改変・廃止等処理システムの変更、著作権、肖像権、プライバシー、社会的、経済的 な事情で十分な利用が実現できない状況であった。そ のため、2010 年頃から利用環境を整備し、情報資源 としての活用を進めた ${ }^{[1]}$ 。さらに、デジタルアーカイ ブを、地域社会や教育上の課題解決に利用することを 始めた。 2. 協働利用へのメタデータ、シソーラス等の 整備 地域だけでなく、県内、国内、世界でデジタルアー カイブを利用するためには、利用者の探索・検索する 際に利用する、キーワードやカテゴリー・分類に対応 した情報を、個々の資料データ(デジタルコンテンッ) に関するデータ(メタデータ)として付与する必要が ある。 また、メタデータは、単一デジタルアーカイブ内で の検索上の混乱を防ぐため、利用頻度や論理的な整合性に配慮するなど統制された用語を使う必要がある。 このために、デジタルアーカイブ開発に着手した時点 では地域の各分野、領域で分類群、キーワードの統制 から開始し、最終的には同義語、関連語、広義語、狭義語、アイデンティティファイア (国名、県・市町村名、法律、社名、商品名、用具名)を調整したシソー ラスの開発が望ましい。本学のデジタルアーカイブの 特色は、データ活用をスムーズにする自然言語処理に よる開発を前提にしており、そのため、取材、既存資料のデジタル化における地域の特色を残したメタデー 夕を充実させたことにある。 3. 多様なデジタルアーカイブの開発と提供 3.1 デジタルアーカイブの直接利用(地域の建築物、文化活動等) $[2]$ デジタルアーカイブとして収集保管された資料を検索し、直接利用する従来の利用方法である。 (1)伝統的建造物等のデジタルアーカイブ(白川郷、菅沼合掌造り集落、南宮大社等)、(2)民話、オーラル ヒストリー等の口頭伝承、(3)踊り・舞などの伝統文化活動(郡上踊り,白山神社延年の舞、平敷屋青年エイ サーの夕べ等)、(4)展示資料・文書等を行った。 3.2 多様なメディアを使ったデジタルアーカイブの利用 (メディアミックス) 地域文化資料のデジタルアーカイブにおける各メ ディアの利用について、利用者のニーズを想定して取材を行い、利用目的に適した組み合わせによりメディ アを提供することを重視している。名古屋鉄道 (名鉄) の岐阜路面電車の廃線直前に全線を撮影してデジタル アーカイブとして保管し[3]、廃線から 10 年後に印刷 メデイア (岐阜新聞)、放送メディア (岐阜放送)、通 信メディア(岐阜新聞電子版)へのデータの提供を開始した。 ## 3.3 利用者のニーズを反映したデジタルアーカイブ開発と活用 本学は沖縄にサテライト校があることから、沖縄の地域文化資料約 2 万件のデータを活用してデジタルアーカイブを開発し、さらに、それらを活用した冊子体「沖縄修学旅行おうらい」(観光資料) ${ }^{[4]}$ を作成し、高校生の沖縄修学旅行教材として毎年 1 万数千人に配布している。「おうらい」とは初等教育用教科書に相当する往来物に由来する。 特色は、下記の地域の文化・自然・産業資源を多様に含んでおり、QRコード(二次元バーコード)を入り口にデジタルアーカイブを活用し、詳細な情報を簡単に得ることを可能にした。 コンテンッは、(1)平和への願いつひめゆりの塔・ ひめゆり平和祈念資料館、○当時の子どもの視点からの戦中・戦後のオーラルヒストリー、(2)沖縄の世界遺産 $\bigcirc$ 首里城跡 [国営沖縄記念公園 (首里城公園) ] (3)沖縄の生活文化 $\bigcirc$ 食 (料理/レシピ)、○住(中村家住宅/沖縄の住まい)、(4)沖縄の自然○大石林山(だいせきりんざん)、○八重山諸島、(5)沖縄の伝統文化 ○組踊(くみおどり)、○沖縄空手、(6)沖縄の産業 ○三線、○農業、○染物・織物などである。 ## 3.4 「飛騨おうらい」の開発と公開 「沖縄修学旅行デジタルアーカイブ」のコンセプトを岐阜県高山市・飛騨市に適用し、飛騨地域文化デジタルアーカイブ「飛騨扔うらい」を開発した ${ }^{[5]}$ 。さらに、日本語版と英語版である「HIDA OURAI」の冊子をあわせて開発した。 「HIDA OURAI」は、観光案内カタログ(冊子)とデジタルアーカイブを連携させており、テキストの各項目に QRコードを付与し、本学の飛騨地域文化デジタルアーカイブを利用したコンテンツへ簡単にアクセスすることができる。地域の観光目的に開発されたデジタルアーカイブは、海外からの観光客増加に対応するため、外国語(英語など多言語)への対応も今後ますます必要になるであろう。 ## 3.5 「和田家おうらい」の開発と公開 ユネスコの世界遺産に登録された白川郷の中心的な存在である、国の重要文化材の和田家に関する多くのデジタル資料を本学は収集している。集積したデータを活用し、「和田家おうらい」として日本語と英語を併記したガイドブックを 2017 年に制作・出版した ${ }^{[6]}$ 。 このデータをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの CC-BYで公開するため、和田正人氏およびご家族の協力により再度権利処理を行い、2018 年 4 月 TRCADEAC (株が運用するデジタルアーカイブを検索・閲覧するためのクラウド型プラットフォームシステムであるADEAC から、日本語と英語による「和田家おうらい」の提供を開始した。その後、中国語(簡体字繁体字)、夕イ語、韓国語の多言語化を行い 11 月 3 日に4言語を追加した。 さらに、ADEACは国立国会図書館サーチ(NDL Search)やジャパンサーチ(Japan Search)とメタデー 夕連携を行っており、国内外に情報を提供することとなった。 ## 3.6 地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成 のための基盤整備事業 本事業は、飛騨高山匠の技、郡上白山文化遺産を対象に、伝統的な生活・文化の資料を広く収集しデジタルアーカイブ化を進め、高山、郡上、本学を知の拠点にすることを目的に、文部科学省より私立大学研究ブランディング事業の補助金を得て 2019 年まで実施した。(1)飛騨高山匠の技コンテンツ数:79,166 点、(2)郡上白山文化遺産コンテンツ数:72,025 点のデジタルアーカイブ化を行った[7]。 また、本事業はデジタルアーカイブ推進コンソーシアム $(\mathrm{DAPCON})^{[8]}$ のパイロット事業「デジタルアー カイブを通じた地方創生」と連携して、デジタルアー カイブの提供や飛騨一位一刀彫の 3D 計測を行い新たなコンテンツ開発を目指している。 ## 4. 地域デジタルアーカイブの協働利用へ 地域文化・産業資料を利用して対象を理解する、あるいは課題解決を行う際、多元的に関連資料を活用する必要性が生じる。例えば、獅子舞について調べるとき、獅子、狛犬、シーサーなどとの関係や地域間のつながりを知るため、国内外のデジタルアーカイブの調查が必要になる。このため、地域、国、あるいは他の分野の多様なデジタルアーカイブがアクセスできるオープンデータ化による分野横断型統合ポータルが必要である。 さらに、提供者・データプロバイダー間の調整を行い、管理・流通を支える機関(EU の Europeana における“アグリゲータ”、アメリカの DPLA における“ハブ”など)の存在と関連機関との連携が地域アーカイブを促進するためには必要になる。 また、それらの資料の共同利用を促進するためには、 スムーズな画像提供とユーザが使い慣れたビュアーを利用できる国際的な画像規格 IIIF にデータを対応させることが必要である。さらに、資料の多くがクリエイティブ・コモンズ・ライセンスやライトステートメントなど採用により、パブリックドメイン(CC0)など利用のライセンス表示が普及すれば世界中で利用が進み、新しい文化の創造、技術革新が期待できる。 したがって、これまで地域で蓄積された「知」である地域デジタルアーカイブを単独のサイトで提供する事は社会的損失であり、国内では分野横断型統合ポー タルであるジャパンサーチが繋いでいる分野ごとのポータルのアグリゲータと連携して、地域デジタルアーカイブを公開しオープンデータ化することが極めて有益になる。 このことは、地域の博物館が所蔵する自然科学関係データも同様である。国立科学博物館が中心となって運営しているサイエンス・ミュージアム・ネット (S-net) ${ }^{[9]}$ は、各地の自然史系博物館が不統一なフォー マットで蓄積した地域資料である生物多様性デー夕 (種名、発見・最終日時、地理情報等)を、標準フォー マットに変換・マッピングするソフトを提供することで 600 万件(2020/12/11 現在)のデータを収集し、提供している。さらに、コペンハーゲンに本部を持つ生物多様性情報機構 (GBIF:Global Biodiversity Information Facility) [10] に分散型データベース・オープンデータとして提供されており、全世界で約 16 億件(2020/12/11現在)の一部として、自然保護、環境保全、感染症対策、地球温暖化対策の基盤データとして活用されている。このように、今後、グローバルな視点での活用を意識した地域デジタルアーカイブ開発が求められるのではなかろうか。 ## 参考文献 [1] 岐阜女子大学デジタルミュージアム. http://dac.gijodai.jp/ (参照 2021-01-29). [2]岐阜女子大学デジタルミュージアム. 地域文化. http://dac.gijodai.jp/museum/local.html (参照 2021-01-29). [3] 林知代. 時間的な要素をもつ資料の記録:名鉄岐阜市内線のデジタルアーカイブ化. アーカイブ Data Report. No. 36. https://www.npo-nak.com/files/20200901ArchiveDataReport_ NO.36.pdf (参照 2021-01-29). [4] 岐阜女子大学沖縄サテライト校. 沖縄修学旅行おうらいデジタル・アーカイブ. http://dac.gijodai.ac.jp/ohrai/l (参照 2021-01-29). [5] 岐阜女子大学.デジタルアーカイブ飛騨打うらい. http://dac.gijodai.ac.jp/hida/hp/l (参照 2021-01-29). [6] 岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所/和田家おうらい. https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/21201551001 (参照 2021-01-29). [7] 岐阜女子大学. 地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備事業. http://digitalarchiveproject.jp/en/ (参照 2021-01-29). [8] デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(DAPCON). https://dapcon.jp/ (参照 2021-01-29). [9] サイエンス・ミュージアム・ネット(S-net). http://science-net.kahaku.go.jp/ (参照 2021-01-29). [10] GBIF: Global Biodiversity Information Facility. https://www.gbif.org/ja/ (参照 2021-01-29).
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# 「ミニ特集 $:$ 地域デジタルアーカイブ を考える」について 次の 2 つの記事は東京文化資源会議が、地域文化資源のデジタルアーカイブ化をどのように進めるべきか、識者の意見を集めるためにお二人の専門家にお願いしたものですが、デジタルアーカイブや地域文化資源に関わる 多くの方のご参考になる内容と考え、「デジタルアーカイブ学会誌」に揭載していただくことになりました。 井上透先生には長年デジタルアーカイブ活動を精力的に行なってきた岐阜女子大学の経験を地域デジタルアー カイブの観点からまとめていただきました。 また、長坂俊成先生には、『311まるごとアーカイブス』や『web ラヂオちよた』』ど独自の地域デジタルアー カイブの実践について、東京文化資源会議の幹事であるポット出版の沢辺均さんからインタビューをさせていた だきました。 これらの実践経験が多くの方の打役にたつことを期待します。 東京文化資源会議事務局長 柳 与志夫(東京大学) ## [東京文化資源会議について] https://tcha.jp/ 2015 年 4 月に、大学、民間研究機関、企業、関連府省等さまざまな分野の専門家有志が集まり設立した任意団体。東京都千代田区 $\cdot$ 文京区 - 台東区等を中心として、上野、湯島、本郷、谷根千、神保町、秋葉原、神田等の特色ある文化資源を保有する地域を対象に、江戸時代から現代までに育まれてきたソフト、ハードあわせた多様で豊富な文化資源を活かしたプロジェクトを進めていくことで、2020 年以降の新たな東京の都市像をつくつていくことを目的にしています。
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# ワークショップ(6)「デジタルデータ の保存・管理-現場視点からの共有課題を考える」報告 \author{ 中村 覚 \\ NAKAMURA Satoru \\ 東京大学史料編纂所 } 開催日:2020 年 10 月 24 日 (土)(オンライン)企画責任者・司会:中西智範(早稲田大学)第 2 部モデレーター:中村 覚 (東京大学 史料編纂所)事例報告 : 本間友(慶應義塾大学アート・センター)、岡本直佐(国立映画アーカイブ/現:国立美術館)、飛田ちづる(国立近現代建築資料館)、吉田敏也 (国立公文書館)、木下貴文(国立国会図書館)、村田良二(東京国立博物館)、中村美里(東京大学附属図書館)、中西智範(早稲田大学演劇博物館) 本ワークショップは、本学会ではこれまで取り上が る機会がほとんどなかったデジタルデータの保存と管理がテーマである。図書館をはじめ、博物館・美術館・文書館などの実務者が中心となり、有志の会とし て2019年 3 月より活動している『デジタルデータ管理勉強会 (仮)』(以下、勉強会とする) で蓄積された、組織共通の課題意識を広く共有することにより、国内 での問題解決に向けた議論や活動のきっかけとなるこ とを期待し企画したものである。(勉強会では、各組織 が保有するデジタルデータの適切な保存や管理方法に ついての具体的な対策アクションなどを検討している。) ワークショップは 2 部構成で実施した。第1 部では、勉強会で検討されたくデジタルデータの保存と管理> が対象とみなすフォーカスエリアの図解をもちいて、本ワークショップのテーマが基調とする考えを共有し た。その後、国内ではデジタル・プリザベーションに関する議論の場が少ない状況にあるため、広く問題意識の共有の必要性があることや、現場作業者の協力体制構築の必要性について問題提起を行なった。続く事例報告では、勉強会メンバ各機関における(1)組織の ミッション(2)具体的な対策(3)コストと人員(4)困ってい ることについて、ウイークポイントも交えながらの報告がされた (中西智範)。 第 2 部では、ヒト・モノ(技術含む)・コストの観点に着目し、参加者を交えたディスカッションを行 なった。デジタルデータの保存と管理において、より 具体的なレベルでの対策を可能とするためのツールの 紹介や、対策には組織的な対応が求められるため、各種ガイドラインやモデルの活用が重要となる点などが 共有された。参加者からは、保存媒体やデータスト レージなどの技術的要素についての質問が相対的に多 かったものの、人や組織・コストのマネジメントにつ いての質問も多く寄せられた。事前に受け付けた QA では「本学会でようやくデジタル・プリザベーション が話題にあがることに感謝」というコメントが非常に 印象的だった。同意見を持つ者が他に多くいたかは定 かではないが、寄せられた質問の数や内容からは、参加者の高い熱量が感じられた。問題提起した協力体制 の構築や、コミュニティ形成についての議論は、今後、学会内外の場でディスカッションの機会に恵まれるこ とを期待したい (中村 覚)。
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# ワークショップ(5)「自然史・理工系 デジタルアーカイブの現状と課題」報告 中村 覚 NAKAMURA Satoru } 東京大学 史料編纂所 開催日:2020 年 10 月 16 日(金)(オンライン) 登壇者:河原大輔(早稲田大学) 玉澤春史(京都大学) 細矢 剛(国立科学博物館) 企画者: 井上 透(岐阜女子大学) 黒橋禎夫(京都大学) 中村 覚 (東京大学) 本セッションを企画した背景には、自然史・理工系 デジタルアーカイブの現状は人文系に比較して認知度 が低い、という課題意識があった。自然史・理工系デ ジタルアーカイブが、本学会が編集に協力しているデ ジタルアーカイブベーシックシリーズの第 3 巻[1] の テーマになるなど、その現状を明らかにすることが課題になっている。さらに、他分野デジタルアーカイブ との連携協力を図るためにも、自然史・理工系デジタ ルアーカイブの現状と課題を共有することの必要性を 鑑みて、本セッション「自然史・理工系デジタルアー カイブの現状と課題」を企画した。 この目的の実現にあたり、国立科学博物館の細矢剛氏、京都大学の玉澤春史氏、早稲田大学の河原大輔氏 にご登壇いただいた。自然史・天文学・情報学という、自然史・理工学系分野の多岐に渡る領域からの話題提供・事例共有をいただいた。自然史、特に菌類がご専門の細矢氏からは、自然史打よびそれに関連した活動 によって得られるデー夕、およびそれら自然史情報の デジタルアーカイブとその応用についてご発表いただ いた。ダーウィンコアのような標準化の重要性、 GBIF やサイエンスミュージアムネットなどのデー夕 プラットフォーム、斑竹のような菌が元になった文化財を例とした人文系デジタルアーカイブとの連携の可能性など、多岐に渡る話題をご提供いただいた。玉澤氏からは、オープンサイエンスの諸所の先行例と言わ れる天文学を中心に、宇宙関連学問分野のデジタル アーカイブについてご発表いただいた。プレプリント サーバである arXiv、データプラットフォームである ヴァーチャル天文台、市民科学の天文学における先行成功例である Galaxy Zoo など、オープンサイエンスに 関わるさまざまな事例をご説明いただいた。また、文理融合研究の一例として、歴史文献の記述から過去の 太陽活動を調べるオーロラ $4 \mathrm{D}$ プロジェクトなどにつ いてもご紹介いただいた。河原氏からは、ご専門の自然言語処理分野におけるデジタルアーカイブ、コーパ スを中心にご紹介いただいた。注种付与コーパスと いったコーパスの種類や作成方法、そのコーパスを活用した自然言語処理技術の基礎技術 (例: 形態素解析) や応用技術(例:機械翻訳)などについてご発表いた だいた。加えて、GitHub 等を用いたデータ共有方法 の現状、データの統合検索のためのプラットフォーム の必要性、などについて話題提供いただいた。いずれ のご発表も、データの利活用に関する話題が多く取り 上げられていた点が印象的であった。 フロアを交えたディスカッションでは、国立情報学研究所の南山泰之氏から、海外事例を含む、研究デー 夕管理・オープンサイエンスに関する最新動向につい ても情報共有いただき、その後さまざまな議論がなさ れた。特に、自然史・理工学系デジタルアーカイブと 人文系デジタルアーカイブの共通点や相違点、文理融合研究の可能性などについての議論がなされ、本企画 セッションの目的を十分に達成することができたと感 じている。一方、今回取り上げることができた自然史・理工系デジタルアーカイブの事例はほんの一部で あり、またディスカッションの時間も限られていたた め、さらなるディスカッションが期待される。今後は、本企画セッションを第一歩として、本テーマを題材と した議論・情報共有の場を継続して開いていきたい。 ## 参考文献 [1] 井上透監修/中村覚責任編集, 自然史・理工系研究デー夕の活用 (デジタルアーカイブ・ベーシックス3), 勉誠出版, 2020/04/20
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# ワークショップ(4)「アートシーンの データ流通とコンテンツツ活用、報告 東京藝術大学 芸術情報センター 助教 開催日:2020 年 10 月 16 日(金)(オンライン) 講演者: 太下義之 (同志社大学 経済学部 教授) 小林巌生(有限会社スコレックス 代表取締役) 施井泰平(スタートバーン株式会社代表取締役)司会 嘉村哲郎 (東京藝術大学 芸術情報センター 助教)参加者:130 名 本セッションでは、アートに関するデジタルアーカ イブを広義に捉え、情報通信技術がより高度化する現代において、アートシーンの情報流通とデー夕活用に 関する議論を行った。 はじめに、太下氏からは『デジタルアーカイブはど のようにしてアートの振興に貢献するか』という題目 で、デジタルアーカイブの現状を俯瞰するにふさわし い多様な事例報告頂いた。そして、今後検討すべき課題として、(1)パフォーミングアーツのデジタルアーカ イブ、(2)アートプロジェクトやイベント等自体を記録 するプロジェクトのアーカイブ、(3)技術の進歩がもた らすコンテンツへの弊害について、問題を提起された。 とりわけ、(3)はかつては問題無く表示されていたある 単語が、現代では差別語に当たるために表示されなく なったという事例から、文字だけで無く図像や音声。映像表現の類も対象になりうる内容であり、これまで のデジタルアーカイブでは深く扱われてこなかった課題の一つであろう。 次に、小林氏からは地域情報とミュージアム情報の 統合とデータ活用について横浜市の事例報告があつ た。活動拠点の公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 では、地域の芸術文化に関する情報を収集し、リンク ト・オープン・データで公開している。扱うデータの種類はコレクションや作家データのみならず、イベン 卜情報や会場やホールなどの場所情報にまで及ぶ。今後は、これらの情報を扱うにあたって、作家の作品と 作品データのアーカイブ、ボージデジタル作品のデー タをデータライフサイクルというこれからの時代に則 したデー夕管理の考え方を取り入れていく必要がある と方向性を示された。 最後に、施井氏からはアート関連情報をブロック チェーン技術で扱う情報基盤「Startrail」による情報管理と活用について説明があった。「Startrail」は、アー 卜作品の二次流通時に作家がその恩恵を受けられる仕組みを持つが、ブロックチェーン上に登録した情報の 耐改竄や履歴の追跡等に利用できるため、モノやデー タの移動が活発な文化施設のデジタルアーカイブと親和性が高く、作品やモノ資料を管理するこれらの施設 での利用も想定しているという。 講演後、参加者からあった幾つかの質問うち、ジャ パンサーチのようなパブリックな情報と Startrail が対象とするマーケットのデータをどのような関係として 扱うかという内容があった。 この質問に対し、講演者からは次の様な回答を頂いた。 ・ブロックチェーン技術の情報管理はマーケットに 限ったサービスではなく、アーカイブとはどこか で紐付くものであり、互いに情報を価値付けして いく、あるいは価值付けされたモノを使っていく ことになる。 ・公開して使える情報は、それぞれのメタデータを リンクさせていけばよいだろう。 ・マーケットとアーカイブ、双方のデータが連動で きるようになれば、これらのデータをマネタイズ していく必要がある。 ・デジタルアーカイブの活用という観点では、マー ケットとパブリックな情報を分けて扱うことを考 える必要は無く、デー夕活用の特性を考えると、 もはやどこまでがマーケットでアーカイブなのか という境界が無くなってきた雾囲気がある。 いくつものシーンから構成されるアートのデジタル アーカイブは、そもそもの源であるアートを創造する 表現者がいなくては、その世界は成り立たない。2020 年は、表現者が現実空間で表現する機会が大幅に失わ れた年である。しかし、これを逆説的に捉え、すべて のモノ・コトが情報通信技術でつながる社会が進む中 で、デジタル技術による新たなアートの始まりである と感じた次第である。 アートシーンに打りデジタルアーカイブとは、単 にモノやコトを保存・蓄積する活動を表すキーワード ではなく、これからの日本のアートシーンを新たな次元 に進めるための手段で有り、仕組みであるといえよう。
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# ワークショップ(3)「デジタルアー カイフ論構筑」報告 東京大学 文書館 開催日:2020年 10 月 10 日(土)(オンライン) 登壇者 : 生貝直人 (東洋大学) 加藤 諭 (東北大学) 谷川智洋 (東京大学) 司会 : 宮本隆史(東京大学) 2019年4月から本格的に活動しているデジタルアー カイブ学会理論研究会 (SIG)では、若手・中堅の研究者らが中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論構築の枠組みに向け、月に 一回程度のペースで活発な研究会活動を続けてきた。目下のところ、「アーカイブ」という概念がどのよう な多数の源流を持ち、それが合流することで現在の アーカイブ及びデジタルアーカイブ概念をつくりだし てきたかを、歴史的・メディア論的に解き明かす作業 を進めているところである。本セッションでは、同プ ロジェクトの概要と主要な論点について登壇者が紹介 し、今後の更なるデジタルアーカイブの理論研究の深化について論じた。 まず最初に、司会の宮本が「デジタルアーカイブ論構築序論」と題して、研究会の概要を紹介した。デ ジタル技術が社会基盤となった現代において、「アー カイブ」と呼ばれる制度や営みが生活に浸透しさまざ まな局面で、「アーカイブ」が語られるようになって きている。しかし、この「アーカイブ」なるものは、自明の実体などでは決してなく、歴史的・社会的に構築されてきたものだというのが研究会の議論の前提で ある。デジタル時代の今日において「アーカイブ」と 呼ばれるものの系譜・概念・社会への作用といったこ とについて議論を行なうべきことを示した。そのうえ で、現在用いられる「アーカイブ」という概念がどの ような複数の源流を持ち、それが合流することで現在 のアーカイブ及びデジタルアーカイブの概念をいかに つくりだしてきたのかを歴史的・メディア論的に解き 明かすという課題を提示した。 つづいて、生貝報告「デジタルアーカイブの政策史」 は、日本のデジタルアーカイブ政策が、どのようなア クターによって、何を目的として行われ、それはなぜ、 どのように変遷してきたのかということを問題意識と して提示したうえで、2000 年以来の 20 年間の政策史 を示した。特に、IT 本部および知財本部を中心とす る IT 政策・知財政策枠組におけるデジタルアーカイ ブの位置付けを手掛かりに、政策策定の主要目的や主要アクターの変遷、その要因を辿った。この時期の政策の特徵を 4 期に区分する見取り図を示した。すなわ ち、教育・公共文化情報化政策としてのデジタルアー カイブ政策(2000~)、コンテンツ政策としてのデジ タルアーカイブ政策 (2004 ) 、知的資産・情報通信政策としてのデジタルアーカイブ政策(2010~)、国 の統合ポータル構築とデジタルアーカイブの再利用が 中心となる現在のデジタルアーカイブ政策(2014~) である。そのうえで、今後の展開の可能性を示した。 加藤報告「デジタルアーカイブの文脈」は、 1990 年代後半から 2010 年代にかけてのデジタルアーカイ ブに関する研究において、デジタルアーカイブの定義 がいかに語られてきたのかを整理し論点を抽出した。特に、日本における伝統的なアーカイブズ学とデジタ ルアーカイブとの関係に注目した点が特徴である。 1990 年代後半から 2000 年代前半にかけては、デジ夕 ルアーカイブがアーカイブズ学との関係から語られる ことはあまりなかった。2000 年代後半から 2010 年代前半にかけては、アーカイブズ学の議論とデジタル アーカイブの議論が交差し、デジタルアーカイブの定義の読み替えに関して論が交わされた。2010 年代半 ばからの議論は、東日本大震災以降のアーカイブとい う具体的な課題から、それまでのアーカイブズ学の知見をデジタルアーカイブに適用しようとする議論に対 して、より多様な視点からアーカイブの効用について 語られる傾向が強まっている。 谷川報告「デジタルアーカイブとメディア」では、情報の集積・共有とデジタルメディア技術の関わりを 論じた。デジタル時代以前のアーカイブは媒体である モノの集積の上に成り立っていたとしたうえで、デジ タル時代のアーカイブはモノの集積としてのアーカイ ブの単なる代替にはならないとした。それは、モノに対するコトの浮上、時間的・空間的制約からの解放、 ユーザの参加などといったデジタルメディアの特性に よる。さらに、利活用の促進に関する議論の裏には、利用されないデー夕は存在しないと同然であると評価 される可能性があり、それがデジタルアーカイブの構築・運用に打けるプレイヤーにとっての制約となって いることを指摘する。そうした状況において、有用性、行動誘発の仕組み、持続可能性といった「規範」が作用し、あるいはガバナンスの構造が立ち現れることを 示した。
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# SUDO Masahiko 弁護士 日本放送協会放送文化研究所川野 智弘 KAWANO Tomohiro 弁護士城田 晴栄 SHIROTA Harue 弁理士開催日:2020 年 10 月 18 日(日)(オンライン) 登壇者:数藤雅彦(弁護士) 大高 崇(日本放送協会放送文化研究所) 川野智弘(并護士) 城田晴栄(并理士) デジタルアーカイブ学会法制度部会では、2020 年 4 月に公表した「肖像権ガイドライン ver.3」をもとに、大学、図書館、博物館等において同ガイドラインを用 いた実証実験を進めてきた。本ワークショップでは、実証実験の概要を報告し、ガイドラインの改訂に向け ての論点を議論した。 はじめに数藤から、「肖像権ガイドライン ver.3」に 至る経緯として、過去に行った肖像権ガイドライン円卓会議の概要と、ガイドラインの要旨を報告した。 続いて、大高、川野、城田もコメントに加わり、実証実験の報告を行った。まずはガイドラインのポイント計算を独自に実践した例として、朝日放送テレビによる 「阪神淡路大震災 激震の記録 1995 取材映像アーカ イブ」を紹介した。さらに、法制度部会のメンバーが 関与した実証実験として、新潟大学「にいがた地域映像アーカイブ」(協力:原田健一氏)、関西大学「コロ ナアーカイブ」(協力:菊池信彦氏)、愛知川図書館「あ いしょうデジタルライブラリー」(協力 : 三浦寛二氏)、神奈川県立歴史博物館(協力:千葉毅氏、武田周一郎氏)、NHKアーカイブス・データベースの写真を用い たポイント計算の結果を報告した。加えて、実際の裁判例にガイドラインを適用した検証結果を報告した。 その上で、今後の展開として、当学会ホームぺージ にてパブリック・コメントの募集を行うこと (2021 年 $1 \sim 2$ 月に実施)、その結果をふまえて当学会公認 バージョンのガイドラインを公表予定であること (2021 年春予定)を報告した。 上記の実証実験から得られた、ガイドライン改訂へ の主な検討事項としては、(1) “one size fits all” のガイド ラインは困難かつ不適切であること(利用機関ごとの アレンジの可能性)、(2)子どもの写真の取扱い(保護者や施設管理者の同意がある場合の取扱い)、(3)被写体とカメラマンの関係性への配慮(プロカメラマンが 被写体との関係性を構築していた場合の考慮)、(4)大昔(たとえば 100 年前)の写真の取扱い、(5いわゆる 「黒歷史」の考慮方法(例えば泥酔、喧嘩、悲嘆等の 一般的に羞恥心をおぼえる状況として類型化するこ と)、(6)公開目的と関連性の低い写真を対象外とする こと等が挙げられた。 以上の検討をふまえ、最後に質疑応答を行った。質問は、ワークショップの進行中に外部サービス「Slido」 を使って募集したところ、最終的に 35 のコメントが 寄せられた。多くの視聴者の支持を得たコメントとし ては、「100 年以上経過した写真はより公開しゃすく 点数設定すべき」、「公開の文脈を考えることが重要」、「公共の利益に基づく場合の加点設定を望む」、公開時にシェア機能を設けないことは考慮に値する」等が あった(な打、登壇者が発表用スライドに描いたイラ ストに多くの賛辞を頂いたのは嬉しい誤算であった)。日曜日の午前中にもかかわらず、同時視聴者数は最高で 138 名と盛況に終わった。終了後のアンケート回答は 47 件で、「実証結果がとても参考になった」、「肖像権をめぐる動きがよくわかった」、「らり幅広い現場 でのガイドライン運用にも期待する」等の好意的な意見が集まった。本ワークショップの結果をふまえ、ガ イドラインの一層の充実を目指していきたい。
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# デジタルアーカイブ学会 第 2 回学会賞受賞者䈉 ## 学会賞の趣旨 デジタルアーカイブ及び学会活動に寄与した活動を称揚することによって、デジタルアーカイ ブ及びデジタルアーカイブ学会 (JSDA) への社会的関心を高めるとともに、学会活動の発展に 資する。 ## 功労賞 松浦啓一氏(国立科学博物館名誉研究員) ## 実践賞 国立公文書館アジア歴史資料センター 沖縄県及び(公財)沖縄県文化振興会(沖縄県公文書館) 小城藩日記データベース ○神崎正英氏(ゼノン・リミテッド・パートナーズ代表) 日本ラグビーフットボール協会 ## 学術賞 (研究論文) 東日本大震災の事例から見えてくる震災アーカイブの現状と課題 柴山明寛,北村美和子,ボレーセバスチャン,今村文彦 デジタルアーカイブ学会誌, 2018 年 2 巻 3 号 , p. 282-286 くずし字認識のための Kaggle 機械学習コンペティションの経過と成果 北本朝展,カラーヌワットタリン, Alex Lamb, Mikel Bober-Irizar じんもんこん 2019 論文集,2019,223-230 ## 学術賞 (著書) 【最優秀賞】『コミュニティ・アーカイブをつくろう! : せんだいメディアテーク「3 がつ 11 にちをわすれないためにセンター」奮闘記』 佐藤知久,甲斐賢治,北野央著.晶文社,2018.1 『権利処理と法の実務』 福井健策監修、数藤雅彦責任編集 ( デジタルアーカイブ・ベーシックス,1). 勉誠出版,2019.3 『、ネット文化資源の読み方・作り方:図書館・自治体・研究者必携ガイド』 岡田一祐著.文学通信, 2019.8 『『日本の文化をデジタル世界に伝える』 京都大学人文科学研究所・共同研究班「人文学研究資料にとっての Web の可能性を再探する」 編;永㟝研宣著 . 樹村房,2019.9 ## 授賞理由功労賞 ## 松浦啓一氏(国立科学博物館 名誉研究員) 松浦啓一氏は、地球規模の生物多様性関連データを各国ならびに各機関で分散的に収集し、インターネットを通じてデータ利用を可能にした GBIF(Global Biodiversity Information Facility)の設立当初より深く関わってきた。さらに、国内では GBIF 日本ノードやサイエンスミュージアムネット(S-Net)を、多くの自然史博物館や大学と連携して構築し、当該研究分野の発展に大いに寄与した。インターネット公開したデータベースの正確性とデータ共有、標準化データ採用に至る手法や考え方等、GBIF 等における各種活動は、今後活発化する様々な分野のデジタルアーカイブ構築において先駆的な研究事例として大いに参考になるであろう。また、日本における自然史系最大のデジタルアーカイブであり、市民参加型でもある魚類写真資料データベースの構築も注目に値する。 これら、生物多様性関連情報の理解促進のため、デジタルアーカイブの構築・活用に努められた松浦啓一氏にデジタルアーカイブ学会功労賞を授与する。 ## 実践賞国立公文書館アジア歴史資料センター アジア歴史資料センターは、国立公文書館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所戦史研究センターから、デジタル化されたアジア歴史資料の提供を受け、デジタルアーカイブを構築して公開している。 1995 年に設立の提言があり、2001 年から開設されたデジタルアー カイブの老舗である。早い時期から引用ルールを公開し、また公文書を対象とするという特性を活かして、内容欄には頭書から 300 文字を入力してフリーワード検索に対応するなど、今にも通じる発想が取り入れられている。さらに「インターネット特別展」や「アジ歴地名・人名$\cdot$出来事事典」の充実、さらにナビゲーション機能「アジ歴グロッサリー」を開設するなど、利活用についての工夫を積極的に行っている点も評価できる。 日本のデジタルアーカイブの展開に重要な役目を果たし、現在も活動を続けている点を評価し、デジタルアーカイブ学会実践賞を授与する。 ## 沖縄県及び(公財)沖縄県文化振興会 (沖縄県公文書) 沖縄県公文書館は、日本の自治体立の公文書館のなかでも特にデジタルによる資料収集と提供に力を入れている。群島によって構成される県のために、県民サービスという意味合いも強い。さらに沖縄の歴史性にも規定され、その対象範囲もアメリカ公文書館所蔵資料や政治家の日記、さらに地域資料などに及ぶ。また 2013 年度から開始された、沖縄県公文書館が所蔵する琉球政府文書を対象にした「琉球政府文書デジタル・アーカイブズ推進事業」によって、大量の行政文書がデジタル化され公開されていることは、特筆に値する。 長年の蓄積によって、日本の公文書館のデジタルアーカイブの先鞭をつけた点を評価し、デジタルアーカイブ学会実践賞を授与する。 ## 小城藩日記データベース 本デジタルアーカイブは佐賀大学附属図書館に所蔵されている小城鍋島家の「日記目録」の記事を対象としたものである。資料の性質上、藩政のみならず、地域の動向を一定の視点から長期にわたり記録していることがその特徴となっている。また、各種機関との連携の上に構築されたデジタルアーカイブは、利用規約等の明示、検索機能の充実、 LOD IIIF への対応、非常に多様なデータセットの充実、参考文献の充実、など現在考えられるデジタルアーカイブの要素を適切に構成したものとして高く評価できる。 地域に根差したデジタルアーカイブ構築の模範例として評価できるため、デジタルアーカイブ学会実践賞を授与する。 ## 神崎正英氏(ゼノン・リミテッド・パー トナーズ代表) 神崎氏は、今やデジタルアーカイブの基幹技術となったセマンティック Web・RDF について基礎的な書籍をいち早く刊行するとともに 10 年以上にわたってウェブでの関連情報発信を継続してきた。同氏のウェブサイトは研究者からプログラマに至るまで幅広い人々に参照されている。そうした普及活動の一方で、IIIFにおける AVメディアへの対応などデジタルアーカイブに関わる仕様の策定にも貢献している。さらに、近年は、そうした活動を背景としてジャパンサーチの設計にも関与し、日本のデジタルアーカイブの基礎を文字通り構築した。 これら、デジタルアーカイブの重要な技術仕様に関する策定、普及及び実装への多大な貢献に対し、デジタルアーカイブ学会実践賞を授与する。 ## 日本ラグビーフットボール協会 2019 年に行われた 2019 ラグビーワールドカップ日本大会で日本代表はべスト 8 を獲得した。その背景には、練習や試合の状況を記録した膨大な映像やデータを適切に分析し、チームに適切にフィードバックすることで、選手の特性把握やより効率的な練習プログラムの作成、 さらに実践に打けるプレー予測や試合中での戦術変更に活かすなど、 アーカイブされたデジタルデータの適切な活用がある。また、大会への準備過程のなかで、貴重な書籍や雑誌、写真、新聞スクラップなどの資料を整理し、「日本ラグビー・デジタルミュージアム」を構築して、日本ラグビーのこれまでの道のりを世界へ発信した。 これらの活動は、デジタルアーカイブの新しい展開として注目される事例と言えるため、デジタルアーカイブ学会実践賞を授与する。 ## 学術賞(研究論文)東日本大震災の事例から見えてくる震災アーカイブの現状と課題 柴山明寛,北村美和子,ボレーセバスチャン,今村文彦 デジタルアーカイブ学会誌, 2018 年 2 巻 3 号, p. 282-286 2011 年に発災した東日本大震災はデジタルアーカイブを巡る議論にも大きなインパクトを与えた。当該論考は、様々な機関・団体が構築したデジタルアーカイブのについてまとめると共に、自治体における震災デジタルアーカイブの課題を明らかにしたものである。発災後数年が経過した段階での状況をまとめた論考として貴重であるとともに、指摘されている収集範囲や利活用へのハードルなどは、震災デジタルアーカイブのみならず、デジタルアーカイブ全体の状況への指摘としても正着なものといえる。 デジタルアーカイブの学術的検討をより推し進める重要な論考と思慮されるため、デジタルアーカイブ学会学術賞 (研究論文) を授与する。 ## くずし字認識のための Kaggle 機械学習コンペティションの経過と成果 北本朝展,カラーヌワットタリン, Alex Lamb, Mikel Bober-Irizar じんもんこん 2019 論文集,2019,223-230 デジタルアーカイブの技術発展において、機械学習用データセットの公開は実装に必要な資源の提供となるとともに、実装の比較をするための基盤として重要な役割を果たしてきた。本論文は、さらに、期間限定で機械学習モデルを提案しあうコンペティションである「Kaggle 機械学習コンペティション」を活用することでコンペティション参加者による技術発展をもたらすという新たな手法について、くずし字の認識をテーマとした実践を元に、その具体的な手順や注意点を紹介している。 デジタルアーカイブの利活用に関わる技術発展を促進する、新たな試みの報告として重要な論考と思慮されるため、デジタルアーカイブ学会学術賞(研究論文)を授与する。 ## 学術賞 (著書) 【最優秀賞】『コミュニティ・アーカイブをつくろう!:せんだいメディアテー ク「3 がつ 11 にちをわすれないためにセンター」奮闘記』 佐藤知久,甲斐賢治,北野央著。晶文社, 2018.1 東日本大震災の直後にせんだいメディアテークに設置された「3がつ 11 にちをわすれないためにセンター」の「中間報告」としてまとめられたのが本書である。デジタル技術の進展による記憶のあり方の変化を前提に、記録の作成過程とアーカイブズ構築の過程が示されている。発災前から行われてきた活動がどのように活かされたかが整理されるとともに、多様な映像の作成過程を丁寧に描き、さらに利活用の工夫を跡付け、それらを通してアーカイブは誰のものか、を考察している。それにより、大震災後という危機的状況のみならず、日常にも通じる形でコミュニティ・アーカイブの意義を問うている。実践的、 また理論的にデジタルアーカイブ構築の過程を記述した特筆すべき成果と考える。 以上から、デジタルアーカイブ学会学術賞(著書)を授与する。 ## 『権利処理と法の実務』 福井健策監修、数藤雅彦責任編集 (デジタルアーカイブ・ベーシックス,1). 勉誠出版, 2019.3 デジタルアーカイブ学会による「デジタルアーカイブ・ベーシックス」シリーズの第 1 巻である。知財関係の研究者や弁護士、さらに様々な機関等の担当者からの、デジタルアーカイブにまつわる諸権利に関する論考がまとめられている。権利問題の概観からはじまり、理論的には保護期間満了の判断基準や肖像・プライバシーなどの課題を論じ、実践としては国立公立機関のデジタルアーカイブ構築や、アニメアー カイブ構築の課題点などについて論じている。いままでそれぞれに蓄積があった法学的追求と現場知をつなぎ、デジタルアーカイブ全体の発展に大いに寄与するものと思慮される。まえがきにある「俯瞰図とガイドラインを目指した」という目的を達し、活用価値の高い書籍と言えよう。 以上から、デジタルアーカイブ学会学術賞(著書)を授与する。『ネット文化資源の読み方・作り方:図書館・自治体・研究者必携ガイド』 岡田一祐著. 文学通信, 2019.8 インターネット環境をはじめとする情報技術の進歩と発展は著しく、文化資源を扱う施設や学術分野では、これらの技術を用いたデジタルアーカイブや関連研究が世界規模で活発化している。本書は,インター ネットメールマガジン『人文情報学月報』の 2015 年 4 月から 2018 年 12 月までに掲載された記事をもとに編集された書籍であるが、その時々で注目されたデジタルアーカイブに関連する技術や方法論、取組み等を幅広く概評し、これらの出来事を時系列順に読み進めることができる。 また『ネット文化資源の読み方・作り方』という挑戦的な書名に見られるように、その内容は文化資源とデジタルアーカイブを取巻く環境を俯瞰するための手引書にふさわしい。 よって、デジタルアーカイブ学会学術賞(著書)を授与する。 ## 『日本の文化をデジタル世界に伝え る』 京都大学人文科学研究所・共同研究班「人文学研究資料にとっての Web の可能性を再探する」編;永㟝研宣著. 樹村房, 2019.9 日本に打いて文化資料に関わる専門家が、Web やデジタル技術を用いてこれらの資料を扱いたいときに知っておくべき、または知っておいた方が良い情報技術とはどのようなものか、この疑問に対する回答の一つに本書が挙げられる。本書は、古典籍を中心とする紙媒体で共有されてきた文化情報を対象に、デジタルで情報を伝えるための意識や考え方から具体的な情報技術を用いた実践、そして、デジタルに移行した後にすべきことが具体的に示されている。特に、デジタルアーカイブで見過ごしがちなユーザーニーズへの対応とデジタルに対する評価の問題を論じており、本内容はデジタルアーカイブ学会でも深く議論されるべき点であると考える。 よって、デジタルアーカイブ学会学術賞(著書)を授与する。
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# 第 5 回研究大会 ワークショップ講演スライド (スライドはJ-STAGE Data に登載されます) ## $1.8 \mathrm{~mm$ 動的映像のもつ資料価値を採掘する:その現状と展望} ## ○企画趣旨 動的映像にはまだ採掘されていない多くの資料的価值がねむっていると考えられます。その価値の採掘にデジタルアーカイブも積極的に寄与できる可能性があると信じますが、本企画ではこれまでアーカイブを行ってきた現場、その価値を改めて探る現場から、現状の問題と将来の展望について検討・討議をしたいと思います。 具体的にはアナログ $8 \mathrm{~mm}$ フィルム映像 (以下、フィルム) について、1. 触れられる資料展示を特長とする大学博物館でフィルム資料を 20 年間所蔵してきた現場、2.1. 所蔵フィルムに新たなアプローチからアーカイブ活動をリブートさせようとする現場、3. 地域に眠るフィルムを収集しながら映像製作を通じ開かれた動的映像の活用を試みている現場から、それぞれ報告を上げてもらい、これらの試みが有機的につながる可能性を探ります。 ## 登壇者 登壇者 1 黒澤浩(南山大学人文学部人類文化学科) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88a (J-STAGE Data あり [ 講演 1-1]) 登壇者 2 藤岡洋(東京大学東洋文化研究所) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88b (J-STAGE Data あり [ 講演 1-2]) 登壇者 3: 石山友美(秋田公立美術大学准教授、映画監督) コメンテーター:鈴木昭夫(元東京大学文学部) コメンテーター:村山英世(記録映画保存センター 事務局長) ## 2. 肖像権ガイドライン実証実験の報告と今後の展開 ## ○企画趣旨 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、2020 年 4 月に公表した「肖像権ガイドライン」第 3 版をもとに、大学、図書館、博物館等に打いて同ガイドラインを用いた実証実験を行ってきた。本ワークショップでは、実証実験の概要を報告し、そこから得られたガイドラインの改訂に向けての論点を議論したい。 ## 登壇者 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 大高崇(日本放送協会放送文化研究所メディア研究部、法制度部会員) 川野智弘(弁護士、法制度部会員) 城田晴栄(弁理士、法制度部会員) ## 3. デジタルアーカイブ論構築 ## 企画趣旨 2019 年 4 月から本格的に活動しているデジタルアーカイブ学会理論研究会 (SIG) では、若手・中堅の研究者らが中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論枠組の構築に向け、月に一回程度のペースで活発な研究会活動を続けている。特に現在は、現在用いられる「アー カイブ」という概念がどのような複数の源流を持ち、それが合流することで現在のアーカイブ及びデジタルアーカイブの概念をつくりだしてきたかを、歴史的・メディア論的に解き明かす作業を進め、2021 年の書籍出版に向けたプロジェクトを進めている。本セッションでは、同プロジェクトの概要と主要パートについて担当者が報告を行い、デジタルアーカイブ理論研究の今後のあり方について論じる ## 登壇者 生貝直人 (東洋大学)、加藤諭(東北大学)、谷川智洋(東京大学) 宮本隆史(東京大学、司会) ## 4.アートシーンのデータ流通とコンテンツ活用 ## 企画趣旨 アートシーンとは、美術館・博物館だけではなく、作品の制作や表現を行うアーティストをはじめ、作品を販売・流通するギャラリーや関連企業、展覧会の企画・開催、コレクションを収集する美術館や博物館、アートを学術的に研究する研究機関や批評・評論家、アート活動を支える財団やパトロン行政、そして芸術を趣味として楽しむ一般の人など、アートに関わるすべての組織や人々の活動における各々の場面(シー ン) である。 本企画では、アートに関する DA を広義に捉元、情報通信技術がより高度化する現代において、これらのシーンに関する情報流通やデジタルデータの活用とそれらを支える基盤に関する議論を深める。太下氏からは、デジタルアーカイブはどのようにしてアートの振興に貢献するのか、国内外の事例からデジタルアーカイブとアートの現況をご報告頂く。小林氏からは、横浜芸術振興財団が運営する各美術館・博物館のデータを活用した地域情報とミュージアム情報の統合とデー 夕活用の方法と現状を報告頂く。そして、近年注目を集めているデータ基盤としてブロックチェーン技術を、アート情報のインフラ活用を進めているスタートバーン株式会社の施井氏よりデジタルアーカイブへの活用の可能性について講演を 頂く。 ## 登壇者および司会 司会:嘉村哲郎(東京藝術大学芸術情報センター 助教) 太下義之(同志社大学教授・国立美術館理事) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88c (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1] ) 小林巌生(ヨコハマ・アート・LOD プロジェクト,有限会社スコレックス代表取締役,特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ副理事長) 施井泰平 (スタートバーン株式会社代表取締役) ## 5. 自然史・理工系デジタル アーカイブの現状と課題企画趣旨 自然史、理工系デジタルアーカイブの現状は人文系に比較して認知度は低いと言わざるを得ない。そのため、学会が編集に協力しているデジタルアーカイブベーシックシリーズの第 3 巻のテーマになるなど、その現状を明らかにすることが課題になっている。さらに、他分野デジタルアー カイブとの連携協力を図るためにも、この企画セッションにおいて自然史、理工系デジタルアーカイブの現状と課題を多様な分野の方々と検討したい。 ## ○登壇者 自然言語処理におけるアーカイブの現状と課題.河原大輔 (早稲田大学理工学術院) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88d (J-STAGE Data あり [ 講演 5-1] ) アーカイブの利用 : 天文学の場合.玉澤春史(京都市立芸術大学,京都大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88e (J-STAGE Data あり [ 講演 5-2] ) 自然史・理工系デジタルアーカイブの現状と課 題 . 細矢剛 (国立科学博物館標本資料センター) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88f (J-STAGE Data あり [ 講演 5-3] ) 6. デジタルデータの保存・ 管理一現場視点からの共 有課題を考える 企画趣旨 文化・知識資源を長きにわたり保存する使命をもつ(長期保存、長期利用保証の観点を含む)、図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等は、デジタルデータの保存・管理・活用にあたり、様々な課題に直面している。国内では、 MLA などをキーワードに、利用者サービスの面など、活用に関する連携協力は盛んに議論されるものの、ビットプリザベーションやマイグレーションなど、デジタルアーカイブの基礎となるデジタルデータそのものの保存や管理については、各組織で多くの問題を抱え、個別に対応がなされている状況であろう。2019 年 3 月、このデジタルデータの保存や管理の課題に着目し、図書館・博物館・美術館・文書館などの業務従事者や、有識者で構成されるワーキンググループ『デジタルデータ管理勉強会 (仮)』が早稲田大学演劇博物館の呼びかけをきっかけに、活動をスタートした (現在ではおよそ 10 機関・約 20 名で構成される)。本企画では、ワーキンググループの立ち上げの経緯やこれまでの活動の中で議論された保存・管理のための議論などを紹介 (第一部)するとともに、ヒト・モノ・コストの不足といった組織共通の課題に着目し、今後の展望や連携協力の意義などについて、フロアの参加者を交えながら、シンポジウム形式のディスカッション (第二部)を行う。 ## 登壇者 全体の司会進行:中西智範(早稲田大学坪内博士演劇博物館) デジタルデータの保存・管理一現場視点からの共通課題を考える https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88g (J-STAGE Data あり [ 講演 6-1] ) 第二部モデレータ: 中村覚(東京大学情報基盤センター)
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# 第 5 回研究大会 ワークショップ講演スライド (スライドはJ-STAGE Data に登載されます) ## $1.8 \mathrm{~mm$ 動的映像のもつ資料価値を採掘する:その現状と展望} ## ○企画趣旨 動的映像にはまだ採掘されていない多くの資料的価值がねむっていると考えられます。その価値の採掘にデジタルアーカイブも積極的に寄与できる可能性があると信じますが、本企画ではこれまでアーカイブを行ってきた現場、その価値を改めて探る現場から、現状の問題と将来の展望について検討・討議をしたいと思います。 具体的にはアナログ $8 \mathrm{~mm}$ フィルム映像 (以下、フィルム) について、1. 触れられる資料展示を特長とする大学博物館でフィルム資料を 20 年間所蔵してきた現場、2.1. 所蔵フィルムに新たなアプローチからアーカイブ活動をリブートさせようとする現場、3. 地域に眠るフィルムを収集しながら映像製作を通じ開かれた動的映像の活用を試みている現場から、それぞれ報告を上げてもらい、これらの試みが有機的につながる可能性を探ります。 ## 登壇者 登壇者 1 黒澤浩(南山大学人文学部人類文化学科) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88a (J-STAGE Data あり [ 講演 1-1]) 登壇者 2 藤岡洋(東京大学東洋文化研究所) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88b (J-STAGE Data あり [ 講演 1-2]) 登壇者 3: 石山友美(秋田公立美術大学准教授、映画監督) コメンテーター:鈴木昭夫(元東京大学文学部) コメンテーター:村山英世(記録映画保存センター 事務局長) ## 2. 肖像権ガイドライン実証実験の報告と今後の展開 ## ○企画趣旨 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、2020 年 4 月に公表した「肖像権ガイドライン」第 3 版をもとに、大学、図書館、博物館等に打いて同ガイドラインを用いた実証実験を行ってきた。本ワークショップでは、実証実験の概要を報告し、そこから得られたガイドラインの改訂に向けての論点を議論したい。 ## 登壇者 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 大高崇(日本放送協会放送文化研究所メディア研究部、法制度部会員) 川野智弘(弁護士、法制度部会員) 城田晴栄(弁理士、法制度部会員) ## 3. デジタルアーカイブ論構築 ## 企画趣旨 2019 年 4 月から本格的に活動しているデジタルアーカイブ学会理論研究会 (SIG) では、若手・中堅の研究者らが中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論枠組の構築に向け、月に一回程度のペースで活発な研究会活動を続けている。特に現在は、現在用いられる「アー カイブ」という概念がどのような複数の源流を持ち、それが合流することで現在のアーカイブ及びデジタルアーカイブの概念をつくりだしてきたかを、歴史的・メディア論的に解き明かす作業を進め、2021 年の書籍出版に向けたプロジェクトを進めている。本セッションでは、同プロジェクトの概要と主要パートについて担当者が報告を行い、デジタルアーカイブ理論研究の今後のあり方について論じる ## 登壇者 生貝直人 (東洋大学)、加藤諭(東北大学)、谷川智洋(東京大学) 宮本隆史(東京大学、司会) ## 4.アートシーンのデータ流通とコンテンツ活用 ## 企画趣旨 アートシーンとは、美術館・博物館だけではなく、作品の制作や表現を行うアーティストをはじめ、作品を販売・流通するギャラリーや関連企業、展覧会の企画・開催、コレクションを収集する美術館や博物館、アートを学術的に研究する研究機関や批評・評論家、アート活動を支える財団やパトロン行政、そして芸術を趣味として楽しむ一般の人など、アートに関わるすべての組織や人々の活動における各々の場面(シー ン) である。 本企画では、アートに関する DA を広義に捉元、情報通信技術がより高度化する現代において、これらのシーンに関する情報流通やデジタルデータの活用とそれらを支える基盤に関する議論を深める。太下氏からは、デジタルアーカイブはどのようにしてアートの振興に貢献するのか、国内外の事例からデジタルアーカイブとアートの現況をご報告頂く。小林氏からは、横浜芸術振興財団が運営する各美術館・博物館のデータを活用した地域情報とミュージアム情報の統合とデー 夕活用の方法と現状を報告頂く。そして、近年注目を集めているデータ基盤としてブロックチェーン技術を、アート情報のインフラ活用を進めているスタートバーン株式会社の施井氏よりデジタルアーカイブへの活用の可能性について講演を 頂く。 ## 登壇者および司会 司会:嘉村哲郎(東京藝術大学芸術情報センター 助教) 太下義之(同志社大学教授・国立美術館理事) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88c (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1] ) 小林巌生(ヨコハマ・アート・LOD プロジェクト,有限会社スコレックス代表取締役,特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ副理事長) 施井泰平 (スタートバーン株式会社代表取締役) ## 5. 自然史・理工系デジタル アーカイブの現状と課題企画趣旨 自然史、理工系デジタルアーカイブの現状は人文系に比較して認知度は低いと言わざるを得ない。そのため、学会が編集に協力しているデジタルアーカイブベーシックシリーズの第 3 巻のテーマになるなど、その現状を明らかにすることが課題になっている。さらに、他分野デジタルアー カイブとの連携協力を図るためにも、この企画セッションにおいて自然史、理工系デジタルアーカイブの現状と課題を多様な分野の方々と検討したい。 ## ○登壇者 自然言語処理におけるアーカイブの現状と課題.河原大輔 (早稲田大学理工学術院) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88d (J-STAGE Data あり [ 講演 5-1] ) アーカイブの利用 : 天文学の場合.玉澤春史(京都市立芸術大学,京都大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88e (J-STAGE Data あり [ 講演 5-2] ) 自然史・理工系デジタルアーカイブの現状と課 題 . 細矢剛 (国立科学博物館標本資料センター) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88f (J-STAGE Data あり [ 講演 5-3] ) 6. デジタルデータの保存・ 管理一現場視点からの共 有課題を考える 企画趣旨 文化・知識資源を長きにわたり保存する使命をもつ(長期保存、長期利用保証の観点を含む)、図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等は、デジタルデータの保存・管理・活用にあたり、様々な課題に直面している。国内では、 MLA などをキーワードに、利用者サービスの面など、活用に関する連携協力は盛んに議論されるものの、ビットプリザベーションやマイグレーションなど、デジタルアーカイブの基礎となるデジタルデータそのものの保存や管理については、各組織で多くの問題を抱え、個別に対応がなされている状況であろう。2019 年 3 月、このデジタルデータの保存や管理の課題に着目し、図書館・博物館・美術館・文書館などの業務従事者や、有識者で構成されるワーキンググループ『デジタルデータ管理勉強会 (仮)』が早稲田大学演劇博物館の呼びかけをきっかけに、活動をスタートした (現在ではおよそ 10 機関・約 20 名で構成される)。本企画では、ワーキンググループの立ち上げの経緯やこれまでの活動の中で議論された保存・管理のための議論などを紹介 (第一部)するとともに、ヒト・モノ・コストの不足といった組織共通の課題に着目し、今後の展望や連携協力の意義などについて、フロアの参加者を交えながら、シンポジウム形式のディスカッション (第二部)を行う。 ## 登壇者 全体の司会進行:中西智範(早稲田大学坪内博士演劇博物館) デジタルデータの保存・管理一現場視点からの共通課題を考える https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88g (J-STAGE Data あり [ 講演 6-1] ) 第二部モデレータ: 中村覚(東京大学情報基盤センター)
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# 第 5 回研究大会 ワークショップ講演スライド (スライドはJ-STAGE Data に登載されます) ## $1.8 \mathrm{~mm$ 動的映像のもつ資料価値を採掘する:その現状と展望} ## ○企画趣旨 動的映像にはまだ採掘されていない多くの資料的価值がねむっていると考えられます。その価値の採掘にデジタルアーカイブも積極的に寄与できる可能性があると信じますが、本企画ではこれまでアーカイブを行ってきた現場、その価値を改めて探る現場から、現状の問題と将来の展望について検討・討議をしたいと思います。 具体的にはアナログ $8 \mathrm{~mm}$ フィルム映像 (以下、フィルム) について、1. 触れられる資料展示を特長とする大学博物館でフィルム資料を 20 年間所蔵してきた現場、2.1. 所蔵フィルムに新たなアプローチからアーカイブ活動をリブートさせようとする現場、3. 地域に眠るフィルムを収集しながら映像製作を通じ開かれた動的映像の活用を試みている現場から、それぞれ報告を上げてもらい、これらの試みが有機的につながる可能性を探ります。 ## 登壇者 登壇者 1 黒澤浩(南山大学人文学部人類文化学科) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88a (J-STAGE Data あり [ 講演 1-1]) 登壇者 2 藤岡洋(東京大学東洋文化研究所) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88b (J-STAGE Data あり [ 講演 1-2]) 登壇者 3: 石山友美(秋田公立美術大学准教授、映画監督) コメンテーター:鈴木昭夫(元東京大学文学部) コメンテーター:村山英世(記録映画保存センター 事務局長) ## 2. 肖像権ガイドライン実証実験の報告と今後の展開 ## ○企画趣旨 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、2020 年 4 月に公表した「肖像権ガイドライン」第 3 版をもとに、大学、図書館、博物館等に打いて同ガイドラインを用いた実証実験を行ってきた。本ワークショップでは、実証実験の概要を報告し、そこから得られたガイドラインの改訂に向けての論点を議論したい。 ## 登壇者 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 大高崇(日本放送協会放送文化研究所メディア研究部、法制度部会員) 川野智弘(弁護士、法制度部会員) 城田晴栄(弁理士、法制度部会員) ## 3. デジタルアーカイブ論構築 ## 企画趣旨 2019 年 4 月から本格的に活動しているデジタルアーカイブ学会理論研究会 (SIG) では、若手・中堅の研究者らが中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論枠組の構築に向け、月に一回程度のペースで活発な研究会活動を続けている。特に現在は、現在用いられる「アー カイブ」という概念がどのような複数の源流を持ち、それが合流することで現在のアーカイブ及びデジタルアーカイブの概念をつくりだしてきたかを、歴史的・メディア論的に解き明かす作業を進め、2021 年の書籍出版に向けたプロジェクトを進めている。本セッションでは、同プロジェクトの概要と主要パートについて担当者が報告を行い、デジタルアーカイブ理論研究の今後のあり方について論じる ## 登壇者 生貝直人 (東洋大学)、加藤諭(東北大学)、谷川智洋(東京大学) 宮本隆史(東京大学、司会) ## 4.アートシーンのデータ流通とコンテンツ活用 ## 企画趣旨 アートシーンとは、美術館・博物館だけではなく、作品の制作や表現を行うアーティストをはじめ、作品を販売・流通するギャラリーや関連企業、展覧会の企画・開催、コレクションを収集する美術館や博物館、アートを学術的に研究する研究機関や批評・評論家、アート活動を支える財団やパトロン行政、そして芸術を趣味として楽しむ一般の人など、アートに関わるすべての組織や人々の活動における各々の場面(シー ン) である。 本企画では、アートに関する DA を広義に捉元、情報通信技術がより高度化する現代において、これらのシーンに関する情報流通やデジタルデータの活用とそれらを支える基盤に関する議論を深める。太下氏からは、デジタルアーカイブはどのようにしてアートの振興に貢献するのか、国内外の事例からデジタルアーカイブとアートの現況をご報告頂く。小林氏からは、横浜芸術振興財団が運営する各美術館・博物館のデータを活用した地域情報とミュージアム情報の統合とデー 夕活用の方法と現状を報告頂く。そして、近年注目を集めているデータ基盤としてブロックチェーン技術を、アート情報のインフラ活用を進めているスタートバーン株式会社の施井氏よりデジタルアーカイブへの活用の可能性について講演を 頂く。 ## 登壇者および司会 司会:嘉村哲郎(東京藝術大学芸術情報センター 助教) 太下義之(同志社大学教授・国立美術館理事) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88c (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1] ) 小林巌生(ヨコハマ・アート・LOD プロジェクト,有限会社スコレックス代表取締役,特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ副理事長) 施井泰平 (スタートバーン株式会社代表取締役) ## 5. 自然史・理工系デジタル アーカイブの現状と課題企画趣旨 自然史、理工系デジタルアーカイブの現状は人文系に比較して認知度は低いと言わざるを得ない。そのため、学会が編集に協力しているデジタルアーカイブベーシックシリーズの第 3 巻のテーマになるなど、その現状を明らかにすることが課題になっている。さらに、他分野デジタルアー カイブとの連携協力を図るためにも、この企画セッションにおいて自然史、理工系デジタルアーカイブの現状と課題を多様な分野の方々と検討したい。 ## ○登壇者 自然言語処理におけるアーカイブの現状と課題.河原大輔 (早稲田大学理工学術院) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88d (J-STAGE Data あり [ 講演 5-1] ) アーカイブの利用 : 天文学の場合.玉澤春史(京都市立芸術大学,京都大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88e (J-STAGE Data あり [ 講演 5-2] ) 自然史・理工系デジタルアーカイブの現状と課 題 . 細矢剛 (国立科学博物館標本資料センター) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88f (J-STAGE Data あり [ 講演 5-3] ) 6. デジタルデータの保存・ 管理一現場視点からの共 有課題を考える 企画趣旨 文化・知識資源を長きにわたり保存する使命をもつ(長期保存、長期利用保証の観点を含む)、図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等は、デジタルデータの保存・管理・活用にあたり、様々な課題に直面している。国内では、 MLA などをキーワードに、利用者サービスの面など、活用に関する連携協力は盛んに議論されるものの、ビットプリザベーションやマイグレーションなど、デジタルアーカイブの基礎となるデジタルデータそのものの保存や管理については、各組織で多くの問題を抱え、個別に対応がなされている状況であろう。2019 年 3 月、このデジタルデータの保存や管理の課題に着目し、図書館・博物館・美術館・文書館などの業務従事者や、有識者で構成されるワーキンググループ『デジタルデータ管理勉強会 (仮)』が早稲田大学演劇博物館の呼びかけをきっかけに、活動をスタートした (現在ではおよそ 10 機関・約 20 名で構成される)。本企画では、ワーキンググループの立ち上げの経緯やこれまでの活動の中で議論された保存・管理のための議論などを紹介 (第一部)するとともに、ヒト・モノ・コストの不足といった組織共通の課題に着目し、今後の展望や連携協力の意義などについて、フロアの参加者を交えながら、シンポジウム形式のディスカッション (第二部)を行う。 ## 登壇者 全体の司会進行:中西智範(早稲田大学坪内博士演劇博物館) デジタルデータの保存・管理一現場視点からの共通課題を考える https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88g (J-STAGE Data あり [ 講演 6-1] ) 第二部モデレータ: 中村覚(東京大学情報基盤センター)
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# 第 5 回研究大会 ワークショップ講演スライド (スライドはJ-STAGE Data に登載されます) ## $1.8 \mathrm{~mm$ 動的映像のもつ資料価値を採掘する:その現状と展望} ## ○企画趣旨 動的映像にはまだ採掘されていない多くの資料的価值がねむっていると考えられます。その価値の採掘にデジタルアーカイブも積極的に寄与できる可能性があると信じますが、本企画ではこれまでアーカイブを行ってきた現場、その価値を改めて探る現場から、現状の問題と将来の展望について検討・討議をしたいと思います。 具体的にはアナログ $8 \mathrm{~mm}$ フィルム映像 (以下、フィルム) について、1. 触れられる資料展示を特長とする大学博物館でフィルム資料を 20 年間所蔵してきた現場、2.1. 所蔵フィルムに新たなアプローチからアーカイブ活動をリブートさせようとする現場、3. 地域に眠るフィルムを収集しながら映像製作を通じ開かれた動的映像の活用を試みている現場から、それぞれ報告を上げてもらい、これらの試みが有機的につながる可能性を探ります。 ## 登壇者 登壇者 1 黒澤浩(南山大学人文学部人類文化学科) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88a (J-STAGE Data あり [ 講演 1-1]) 登壇者 2 藤岡洋(東京大学東洋文化研究所) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88b (J-STAGE Data あり [ 講演 1-2]) 登壇者 3: 石山友美(秋田公立美術大学准教授、映画監督) コメンテーター:鈴木昭夫(元東京大学文学部) コメンテーター:村山英世(記録映画保存センター 事務局長) ## 2. 肖像権ガイドライン実証実験の報告と今後の展開 ## ○企画趣旨 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、2020 年 4 月に公表した「肖像権ガイドライン」第 3 版をもとに、大学、図書館、博物館等に打いて同ガイドラインを用いた実証実験を行ってきた。本ワークショップでは、実証実験の概要を報告し、そこから得られたガイドラインの改訂に向けての論点を議論したい。 ## 登壇者 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 大高崇(日本放送協会放送文化研究所メディア研究部、法制度部会員) 川野智弘(弁護士、法制度部会員) 城田晴栄(弁理士、法制度部会員) ## 3. デジタルアーカイブ論構築 ## 企画趣旨 2019 年 4 月から本格的に活動しているデジタルアーカイブ学会理論研究会 (SIG) では、若手・中堅の研究者らが中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論枠組の構築に向け、月に一回程度のペースで活発な研究会活動を続けている。特に現在は、現在用いられる「アー カイブ」という概念がどのような複数の源流を持ち、それが合流することで現在のアーカイブ及びデジタルアーカイブの概念をつくりだしてきたかを、歴史的・メディア論的に解き明かす作業を進め、2021 年の書籍出版に向けたプロジェクトを進めている。本セッションでは、同プロジェクトの概要と主要パートについて担当者が報告を行い、デジタルアーカイブ理論研究の今後のあり方について論じる ## 登壇者 生貝直人 (東洋大学)、加藤諭(東北大学)、谷川智洋(東京大学) 宮本隆史(東京大学、司会) ## 4.アートシーンのデータ流通とコンテンツ活用 ## 企画趣旨 アートシーンとは、美術館・博物館だけではなく、作品の制作や表現を行うアーティストをはじめ、作品を販売・流通するギャラリーや関連企業、展覧会の企画・開催、コレクションを収集する美術館や博物館、アートを学術的に研究する研究機関や批評・評論家、アート活動を支える財団やパトロン行政、そして芸術を趣味として楽しむ一般の人など、アートに関わるすべての組織や人々の活動における各々の場面(シー ン) である。 本企画では、アートに関する DA を広義に捉元、情報通信技術がより高度化する現代において、これらのシーンに関する情報流通やデジタルデータの活用とそれらを支える基盤に関する議論を深める。太下氏からは、デジタルアーカイブはどのようにしてアートの振興に貢献するのか、国内外の事例からデジタルアーカイブとアートの現況をご報告頂く。小林氏からは、横浜芸術振興財団が運営する各美術館・博物館のデータを活用した地域情報とミュージアム情報の統合とデー 夕活用の方法と現状を報告頂く。そして、近年注目を集めているデータ基盤としてブロックチェーン技術を、アート情報のインフラ活用を進めているスタートバーン株式会社の施井氏よりデジタルアーカイブへの活用の可能性について講演を 頂く。 ## 登壇者および司会 司会:嘉村哲郎(東京藝術大学芸術情報センター 助教) 太下義之(同志社大学教授・国立美術館理事) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88c (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1] ) 小林巌生(ヨコハマ・アート・LOD プロジェクト,有限会社スコレックス代表取締役,特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ副理事長) 施井泰平 (スタートバーン株式会社代表取締役) ## 5. 自然史・理工系デジタル アーカイブの現状と課題企画趣旨 自然史、理工系デジタルアーカイブの現状は人文系に比較して認知度は低いと言わざるを得ない。そのため、学会が編集に協力しているデジタルアーカイブベーシックシリーズの第 3 巻のテーマになるなど、その現状を明らかにすることが課題になっている。さらに、他分野デジタルアー カイブとの連携協力を図るためにも、この企画セッションにおいて自然史、理工系デジタルアーカイブの現状と課題を多様な分野の方々と検討したい。 ## ○登壇者 自然言語処理におけるアーカイブの現状と課題.河原大輔 (早稲田大学理工学術院) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88d (J-STAGE Data あり [ 講演 5-1] ) アーカイブの利用 : 天文学の場合.玉澤春史(京都市立芸術大学,京都大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88e (J-STAGE Data あり [ 講演 5-2] ) 自然史・理工系デジタルアーカイブの現状と課 題 . 細矢剛 (国立科学博物館標本資料センター) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88f (J-STAGE Data あり [ 講演 5-3] ) 6. デジタルデータの保存・ 管理一現場視点からの共 有課題を考える 企画趣旨 文化・知識資源を長きにわたり保存する使命をもつ(長期保存、長期利用保証の観点を含む)、図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等は、デジタルデータの保存・管理・活用にあたり、様々な課題に直面している。国内では、 MLA などをキーワードに、利用者サービスの面など、活用に関する連携協力は盛んに議論されるものの、ビットプリザベーションやマイグレーションなど、デジタルアーカイブの基礎となるデジタルデータそのものの保存や管理については、各組織で多くの問題を抱え、個別に対応がなされている状況であろう。2019 年 3 月、このデジタルデータの保存や管理の課題に着目し、図書館・博物館・美術館・文書館などの業務従事者や、有識者で構成されるワーキンググループ『デジタルデータ管理勉強会 (仮)』が早稲田大学演劇博物館の呼びかけをきっかけに、活動をスタートした (現在ではおよそ 10 機関・約 20 名で構成される)。本企画では、ワーキンググループの立ち上げの経緯やこれまでの活動の中で議論された保存・管理のための議論などを紹介 (第一部)するとともに、ヒト・モノ・コストの不足といった組織共通の課題に着目し、今後の展望や連携協力の意義などについて、フロアの参加者を交えながら、シンポジウム形式のディスカッション (第二部)を行う。 ## 登壇者 全体の司会進行:中西智範(早稲田大学坪内博士演劇博物館) デジタルデータの保存・管理一現場視点からの共通課題を考える https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88g (J-STAGE Data あり [ 講演 6-1] ) 第二部モデレータ: 中村覚(東京大学情報基盤センター)
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# 第 5 回研究大会 ワークショップ講演スライド (スライドはJ-STAGE Data に登載されます) ## $1.8 \mathrm{~mm$ 動的映像のもつ資料価値を採掘する:その現状と展望} ## ○企画趣旨 動的映像にはまだ採掘されていない多くの資料的価值がねむっていると考えられます。その価値の採掘にデジタルアーカイブも積極的に寄与できる可能性があると信じますが、本企画ではこれまでアーカイブを行ってきた現場、その価値を改めて探る現場から、現状の問題と将来の展望について検討・討議をしたいと思います。 具体的にはアナログ $8 \mathrm{~mm}$ フィルム映像 (以下、フィルム) について、1. 触れられる資料展示を特長とする大学博物館でフィルム資料を 20 年間所蔵してきた現場、2.1. 所蔵フィルムに新たなアプローチからアーカイブ活動をリブートさせようとする現場、3. 地域に眠るフィルムを収集しながら映像製作を通じ開かれた動的映像の活用を試みている現場から、それぞれ報告を上げてもらい、これらの試みが有機的につながる可能性を探ります。 ## 登壇者 登壇者 1 黒澤浩(南山大学人文学部人類文化学科) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88a (J-STAGE Data あり [ 講演 1-1]) 登壇者 2 藤岡洋(東京大学東洋文化研究所) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88b (J-STAGE Data あり [ 講演 1-2]) 登壇者 3: 石山友美(秋田公立美術大学准教授、映画監督) コメンテーター:鈴木昭夫(元東京大学文学部) コメンテーター:村山英世(記録映画保存センター 事務局長) ## 2. 肖像権ガイドライン実証実験の報告と今後の展開 ## ○企画趣旨 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、2020 年 4 月に公表した「肖像権ガイドライン」第 3 版をもとに、大学、図書館、博物館等に打いて同ガイドラインを用いた実証実験を行ってきた。本ワークショップでは、実証実験の概要を報告し、そこから得られたガイドラインの改訂に向けての論点を議論したい。 ## 登壇者 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 大高崇(日本放送協会放送文化研究所メディア研究部、法制度部会員) 川野智弘(弁護士、法制度部会員) 城田晴栄(弁理士、法制度部会員) ## 3. デジタルアーカイブ論構築 ## 企画趣旨 2019 年 4 月から本格的に活動しているデジタルアーカイブ学会理論研究会 (SIG) では、若手・中堅の研究者らが中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論枠組の構築に向け、月に一回程度のペースで活発な研究会活動を続けている。特に現在は、現在用いられる「アー カイブ」という概念がどのような複数の源流を持ち、それが合流することで現在のアーカイブ及びデジタルアーカイブの概念をつくりだしてきたかを、歴史的・メディア論的に解き明かす作業を進め、2021 年の書籍出版に向けたプロジェクトを進めている。本セッションでは、同プロジェクトの概要と主要パートについて担当者が報告を行い、デジタルアーカイブ理論研究の今後のあり方について論じる ## 登壇者 生貝直人 (東洋大学)、加藤諭(東北大学)、谷川智洋(東京大学) 宮本隆史(東京大学、司会) ## 4.アートシーンのデータ流通とコンテンツ活用 ## 企画趣旨 アートシーンとは、美術館・博物館だけではなく、作品の制作や表現を行うアーティストをはじめ、作品を販売・流通するギャラリーや関連企業、展覧会の企画・開催、コレクションを収集する美術館や博物館、アートを学術的に研究する研究機関や批評・評論家、アート活動を支える財団やパトロン行政、そして芸術を趣味として楽しむ一般の人など、アートに関わるすべての組織や人々の活動における各々の場面(シー ン) である。 本企画では、アートに関する DA を広義に捉元、情報通信技術がより高度化する現代において、これらのシーンに関する情報流通やデジタルデータの活用とそれらを支える基盤に関する議論を深める。太下氏からは、デジタルアーカイブはどのようにしてアートの振興に貢献するのか、国内外の事例からデジタルアーカイブとアートの現況をご報告頂く。小林氏からは、横浜芸術振興財団が運営する各美術館・博物館のデータを活用した地域情報とミュージアム情報の統合とデー 夕活用の方法と現状を報告頂く。そして、近年注目を集めているデータ基盤としてブロックチェーン技術を、アート情報のインフラ活用を進めているスタートバーン株式会社の施井氏よりデジタルアーカイブへの活用の可能性について講演を 頂く。 ## 登壇者および司会 司会:嘉村哲郎(東京藝術大学芸術情報センター 助教) 太下義之(同志社大学教授・国立美術館理事) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88c (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1] ) 小林巌生(ヨコハマ・アート・LOD プロジェクト,有限会社スコレックス代表取締役,特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ副理事長) 施井泰平 (スタートバーン株式会社代表取締役) ## 5. 自然史・理工系デジタル アーカイブの現状と課題企画趣旨 自然史、理工系デジタルアーカイブの現状は人文系に比較して認知度は低いと言わざるを得ない。そのため、学会が編集に協力しているデジタルアーカイブベーシックシリーズの第 3 巻のテーマになるなど、その現状を明らかにすることが課題になっている。さらに、他分野デジタルアー カイブとの連携協力を図るためにも、この企画セッションにおいて自然史、理工系デジタルアーカイブの現状と課題を多様な分野の方々と検討したい。 ## ○登壇者 自然言語処理におけるアーカイブの現状と課題.河原大輔 (早稲田大学理工学術院) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88d (J-STAGE Data あり [ 講演 5-1] ) アーカイブの利用 : 天文学の場合.玉澤春史(京都市立芸術大学,京都大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88e (J-STAGE Data あり [ 講演 5-2] ) 自然史・理工系デジタルアーカイブの現状と課 題 . 細矢剛 (国立科学博物館標本資料センター) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88f (J-STAGE Data あり [ 講演 5-3] ) 6. デジタルデータの保存・ 管理一現場視点からの共 有課題を考える 企画趣旨 文化・知識資源を長きにわたり保存する使命をもつ(長期保存、長期利用保証の観点を含む)、図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等は、デジタルデータの保存・管理・活用にあたり、様々な課題に直面している。国内では、 MLA などをキーワードに、利用者サービスの面など、活用に関する連携協力は盛んに議論されるものの、ビットプリザベーションやマイグレーションなど、デジタルアーカイブの基礎となるデジタルデータそのものの保存や管理については、各組織で多くの問題を抱え、個別に対応がなされている状況であろう。2019 年 3 月、このデジタルデータの保存や管理の課題に着目し、図書館・博物館・美術館・文書館などの業務従事者や、有識者で構成されるワーキンググループ『デジタルデータ管理勉強会 (仮)』が早稲田大学演劇博物館の呼びかけをきっかけに、活動をスタートした (現在ではおよそ 10 機関・約 20 名で構成される)。本企画では、ワーキンググループの立ち上げの経緯やこれまでの活動の中で議論された保存・管理のための議論などを紹介 (第一部)するとともに、ヒト・モノ・コストの不足といった組織共通の課題に着目し、今後の展望や連携協力の意義などについて、フロアの参加者を交えながら、シンポジウム形式のディスカッション (第二部)を行う。 ## 登壇者 全体の司会進行:中西智範(早稲田大学坪内博士演劇博物館) デジタルデータの保存・管理一現場視点からの共通課題を考える https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88g (J-STAGE Data あり [ 講演 6-1] ) 第二部モデレータ: 中村覚(東京大学情報基盤センター)
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# 第 5 回研究大会 ワークショップ講演スライド (スライドはJ-STAGE Data に登載されます) ## $1.8 \mathrm{~mm$ 動的映像のもつ資料価値を採掘する:その現状と展望} ## ○企画趣旨 動的映像にはまだ採掘されていない多くの資料的価值がねむっていると考えられます。その価値の採掘にデジタルアーカイブも積極的に寄与できる可能性があると信じますが、本企画ではこれまでアーカイブを行ってきた現場、その価値を改めて探る現場から、現状の問題と将来の展望について検討・討議をしたいと思います。 具体的にはアナログ $8 \mathrm{~mm}$ フィルム映像 (以下、フィルム) について、1. 触れられる資料展示を特長とする大学博物館でフィルム資料を 20 年間所蔵してきた現場、2.1. 所蔵フィルムに新たなアプローチからアーカイブ活動をリブートさせようとする現場、3. 地域に眠るフィルムを収集しながら映像製作を通じ開かれた動的映像の活用を試みている現場から、それぞれ報告を上げてもらい、これらの試みが有機的につながる可能性を探ります。 ## 登壇者 登壇者 1 黒澤浩(南山大学人文学部人類文化学科) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88a (J-STAGE Data あり [ 講演 1-1]) 登壇者 2 藤岡洋(東京大学東洋文化研究所) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88b (J-STAGE Data あり [ 講演 1-2]) 登壇者 3: 石山友美(秋田公立美術大学准教授、映画監督) コメンテーター:鈴木昭夫(元東京大学文学部) コメンテーター:村山英世(記録映画保存センター 事務局長) ## 2. 肖像権ガイドライン実証実験の報告と今後の展開 ## ○企画趣旨 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、2020 年 4 月に公表した「肖像権ガイドライン」第 3 版をもとに、大学、図書館、博物館等に打いて同ガイドラインを用いた実証実験を行ってきた。本ワークショップでは、実証実験の概要を報告し、そこから得られたガイドラインの改訂に向けての論点を議論したい。 ## 登壇者 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 大高崇(日本放送協会放送文化研究所メディア研究部、法制度部会員) 川野智弘(弁護士、法制度部会員) 城田晴栄(弁理士、法制度部会員) ## 3. デジタルアーカイブ論構築 ## 企画趣旨 2019 年 4 月から本格的に活動しているデジタルアーカイブ学会理論研究会 (SIG) では、若手・中堅の研究者らが中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論枠組の構築に向け、月に一回程度のペースで活発な研究会活動を続けている。特に現在は、現在用いられる「アー カイブ」という概念がどのような複数の源流を持ち、それが合流することで現在のアーカイブ及びデジタルアーカイブの概念をつくりだしてきたかを、歴史的・メディア論的に解き明かす作業を進め、2021 年の書籍出版に向けたプロジェクトを進めている。本セッションでは、同プロジェクトの概要と主要パートについて担当者が報告を行い、デジタルアーカイブ理論研究の今後のあり方について論じる ## 登壇者 生貝直人 (東洋大学)、加藤諭(東北大学)、谷川智洋(東京大学) 宮本隆史(東京大学、司会) ## 4.アートシーンのデータ流通とコンテンツ活用 ## 企画趣旨 アートシーンとは、美術館・博物館だけではなく、作品の制作や表現を行うアーティストをはじめ、作品を販売・流通するギャラリーや関連企業、展覧会の企画・開催、コレクションを収集する美術館や博物館、アートを学術的に研究する研究機関や批評・評論家、アート活動を支える財団やパトロン行政、そして芸術を趣味として楽しむ一般の人など、アートに関わるすべての組織や人々の活動における各々の場面(シー ン) である。 本企画では、アートに関する DA を広義に捉元、情報通信技術がより高度化する現代において、これらのシーンに関する情報流通やデジタルデータの活用とそれらを支える基盤に関する議論を深める。太下氏からは、デジタルアーカイブはどのようにしてアートの振興に貢献するのか、国内外の事例からデジタルアーカイブとアートの現況をご報告頂く。小林氏からは、横浜芸術振興財団が運営する各美術館・博物館のデータを活用した地域情報とミュージアム情報の統合とデー 夕活用の方法と現状を報告頂く。そして、近年注目を集めているデータ基盤としてブロックチェーン技術を、アート情報のインフラ活用を進めているスタートバーン株式会社の施井氏よりデジタルアーカイブへの活用の可能性について講演を 頂く。 ## 登壇者および司会 司会:嘉村哲郎(東京藝術大学芸術情報センター 助教) 太下義之(同志社大学教授・国立美術館理事) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88c (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1] ) 小林巌生(ヨコハマ・アート・LOD プロジェクト,有限会社スコレックス代表取締役,特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ副理事長) 施井泰平 (スタートバーン株式会社代表取締役) ## 5. 自然史・理工系デジタル アーカイブの現状と課題企画趣旨 自然史、理工系デジタルアーカイブの現状は人文系に比較して認知度は低いと言わざるを得ない。そのため、学会が編集に協力しているデジタルアーカイブベーシックシリーズの第 3 巻のテーマになるなど、その現状を明らかにすることが課題になっている。さらに、他分野デジタルアー カイブとの連携協力を図るためにも、この企画セッションにおいて自然史、理工系デジタルアーカイブの現状と課題を多様な分野の方々と検討したい。 ## ○登壇者 自然言語処理におけるアーカイブの現状と課題.河原大輔 (早稲田大学理工学術院) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88d (J-STAGE Data あり [ 講演 5-1] ) アーカイブの利用 : 天文学の場合.玉澤春史(京都市立芸術大学,京都大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88e (J-STAGE Data あり [ 講演 5-2] ) 自然史・理工系デジタルアーカイブの現状と課 題 . 細矢剛 (国立科学博物館標本資料センター) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88f (J-STAGE Data あり [ 講演 5-3] ) 6. デジタルデータの保存・ 管理一現場視点からの共 有課題を考える 企画趣旨 文化・知識資源を長きにわたり保存する使命をもつ(長期保存、長期利用保証の観点を含む)、図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等は、デジタルデータの保存・管理・活用にあたり、様々な課題に直面している。国内では、 MLA などをキーワードに、利用者サービスの面など、活用に関する連携協力は盛んに議論されるものの、ビットプリザベーションやマイグレーションなど、デジタルアーカイブの基礎となるデジタルデータそのものの保存や管理については、各組織で多くの問題を抱え、個別に対応がなされている状況であろう。2019 年 3 月、このデジタルデータの保存や管理の課題に着目し、図書館・博物館・美術館・文書館などの業務従事者や、有識者で構成されるワーキンググループ『デジタルデータ管理勉強会 (仮)』が早稲田大学演劇博物館の呼びかけをきっかけに、活動をスタートした (現在ではおよそ 10 機関・約 20 名で構成される)。本企画では、ワーキンググループの立ち上げの経緯やこれまでの活動の中で議論された保存・管理のための議論などを紹介 (第一部)するとともに、ヒト・モノ・コストの不足といった組織共通の課題に着目し、今後の展望や連携協力の意義などについて、フロアの参加者を交えながら、シンポジウム形式のディスカッション (第二部)を行う。 ## 登壇者 全体の司会進行:中西智範(早稲田大学坪内博士演劇博物館) デジタルデータの保存・管理一現場視点からの共通課題を考える https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88g (J-STAGE Data あり [ 講演 6-1] ) 第二部モデレータ: 中村覚(東京大学情報基盤センター)
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# 第 5 回研究大会 ワークショップ講演スライド (スライドはJ-STAGE Data に登載されます) ## $1.8 \mathrm{~mm$ 動的映像のもつ資料価値を採掘する:その現状と展望} ## ○企画趣旨 動的映像にはまだ採掘されていない多くの資料的価值がねむっていると考えられます。その価値の採掘にデジタルアーカイブも積極的に寄与できる可能性があると信じますが、本企画ではこれまでアーカイブを行ってきた現場、その価値を改めて探る現場から、現状の問題と将来の展望について検討・討議をしたいと思います。 具体的にはアナログ $8 \mathrm{~mm}$ フィルム映像 (以下、フィルム) について、1. 触れられる資料展示を特長とする大学博物館でフィルム資料を 20 年間所蔵してきた現場、2.1. 所蔵フィルムに新たなアプローチからアーカイブ活動をリブートさせようとする現場、3. 地域に眠るフィルムを収集しながら映像製作を通じ開かれた動的映像の活用を試みている現場から、それぞれ報告を上げてもらい、これらの試みが有機的につながる可能性を探ります。 ## 登壇者 登壇者 1 黒澤浩(南山大学人文学部人類文化学科) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88a (J-STAGE Data あり [ 講演 1-1]) 登壇者 2 藤岡洋(東京大学東洋文化研究所) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88b (J-STAGE Data あり [ 講演 1-2]) 登壇者 3: 石山友美(秋田公立美術大学准教授、映画監督) コメンテーター:鈴木昭夫(元東京大学文学部) コメンテーター:村山英世(記録映画保存センター 事務局長) ## 2. 肖像権ガイドライン実証実験の報告と今後の展開 ## ○企画趣旨 デジタルアーカイブ学会法制度部会では、2020 年 4 月に公表した「肖像権ガイドライン」第 3 版をもとに、大学、図書館、博物館等に打いて同ガイドラインを用いた実証実験を行ってきた。本ワークショップでは、実証実験の概要を報告し、そこから得られたガイドラインの改訂に向けての論点を議論したい。 ## 登壇者 数藤雅彦(弁護士、法制度部会副部会長) 大高崇(日本放送協会放送文化研究所メディア研究部、法制度部会員) 川野智弘(弁護士、法制度部会員) 城田晴栄(弁理士、法制度部会員) ## 3. デジタルアーカイブ論構築 ## 企画趣旨 2019 年 4 月から本格的に活動しているデジタルアーカイブ学会理論研究会 (SIG) では、若手・中堅の研究者らが中心となり、デジタルアーカイブに関わる研究と実践の基礎となる理論枠組の構築に向け、月に一回程度のペースで活発な研究会活動を続けている。特に現在は、現在用いられる「アー カイブ」という概念がどのような複数の源流を持ち、それが合流することで現在のアーカイブ及びデジタルアーカイブの概念をつくりだしてきたかを、歴史的・メディア論的に解き明かす作業を進め、2021 年の書籍出版に向けたプロジェクトを進めている。本セッションでは、同プロジェクトの概要と主要パートについて担当者が報告を行い、デジタルアーカイブ理論研究の今後のあり方について論じる ## 登壇者 生貝直人 (東洋大学)、加藤諭(東北大学)、谷川智洋(東京大学) 宮本隆史(東京大学、司会) ## 4.アートシーンのデータ流通とコンテンツ活用 ## 企画趣旨 アートシーンとは、美術館・博物館だけではなく、作品の制作や表現を行うアーティストをはじめ、作品を販売・流通するギャラリーや関連企業、展覧会の企画・開催、コレクションを収集する美術館や博物館、アートを学術的に研究する研究機関や批評・評論家、アート活動を支える財団やパトロン行政、そして芸術を趣味として楽しむ一般の人など、アートに関わるすべての組織や人々の活動における各々の場面(シー ン) である。 本企画では、アートに関する DA を広義に捉元、情報通信技術がより高度化する現代において、これらのシーンに関する情報流通やデジタルデータの活用とそれらを支える基盤に関する議論を深める。太下氏からは、デジタルアーカイブはどのようにしてアートの振興に貢献するのか、国内外の事例からデジタルアーカイブとアートの現況をご報告頂く。小林氏からは、横浜芸術振興財団が運営する各美術館・博物館のデータを活用した地域情報とミュージアム情報の統合とデー 夕活用の方法と現状を報告頂く。そして、近年注目を集めているデータ基盤としてブロックチェーン技術を、アート情報のインフラ活用を進めているスタートバーン株式会社の施井氏よりデジタルアーカイブへの活用の可能性について講演を 頂く。 ## 登壇者および司会 司会:嘉村哲郎(東京藝術大学芸術情報センター 助教) 太下義之(同志社大学教授・国立美術館理事) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88c (J-STAGE Data あり [ 講演 4-1] ) 小林巌生(ヨコハマ・アート・LOD プロジェクト,有限会社スコレックス代表取締役,特定非営利活動法人リンクト・オープン・データ・イニシアティブ副理事長) 施井泰平 (スタートバーン株式会社代表取締役) ## 5. 自然史・理工系デジタル アーカイブの現状と課題企画趣旨 自然史、理工系デジタルアーカイブの現状は人文系に比較して認知度は低いと言わざるを得ない。そのため、学会が編集に協力しているデジタルアーカイブベーシックシリーズの第 3 巻のテーマになるなど、その現状を明らかにすることが課題になっている。さらに、他分野デジタルアー カイブとの連携協力を図るためにも、この企画セッションにおいて自然史、理工系デジタルアーカイブの現状と課題を多様な分野の方々と検討したい。 ## ○登壇者 自然言語処理におけるアーカイブの現状と課題.河原大輔 (早稲田大学理工学術院) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88d (J-STAGE Data あり [ 講演 5-1] ) アーカイブの利用 : 天文学の場合.玉澤春史(京都市立芸術大学,京都大学) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88e (J-STAGE Data あり [ 講演 5-2] ) 自然史・理工系デジタルアーカイブの現状と課 題 . 細矢剛 (国立科学博物館標本資料センター) https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88f (J-STAGE Data あり [ 講演 5-3] ) 6. デジタルデータの保存・ 管理一現場視点からの共 有課題を考える 企画趣旨 文化・知識資源を長きにわたり保存する使命をもつ(長期保存、長期利用保証の観点を含む)、図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等は、デジタルデータの保存・管理・活用にあたり、様々な課題に直面している。国内では、 MLA などをキーワードに、利用者サービスの面など、活用に関する連携協力は盛んに議論されるものの、ビットプリザベーションやマイグレーションなど、デジタルアーカイブの基礎となるデジタルデータそのものの保存や管理については、各組織で多くの問題を抱え、個別に対応がなされている状況であろう。2019 年 3 月、このデジタルデータの保存や管理の課題に着目し、図書館・博物館・美術館・文書館などの業務従事者や、有識者で構成されるワーキンググループ『デジタルデータ管理勉強会 (仮)』が早稲田大学演劇博物館の呼びかけをきっかけに、活動をスタートした (現在ではおよそ 10 機関・約 20 名で構成される)。本企画では、ワーキンググループの立ち上げの経緯やこれまでの活動の中で議論された保存・管理のための議論などを紹介 (第一部)するとともに、ヒト・モノ・コストの不足といった組織共通の課題に着目し、今後の展望や連携協力の意義などについて、フロアの参加者を交えながら、シンポジウム形式のディスカッション (第二部)を行う。 ## 登壇者 全体の司会進行:中西智範(早稲田大学坪内博士演劇博物館) デジタルデータの保存・管理一現場視点からの共通課題を考える https://doi.org/10.24506/jsda.4.s1_s88g (J-STAGE Data あり [ 講演 6-1] ) 第二部モデレータ: 中村覚(東京大学情報基盤センター)
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# [13] 地域文化財のデジタルアーカイブ化とオープンデータ 化による活用の試み:「南北海道の文化財」の事例 ○奥野拓 1 ) 1) 公立はこだて未来大学,〒041-8655 函館市龟田中野町 116-2 E-mail: [email protected] ## An Attempt to Utilize Local Cultural Properties through Digital Archiving and Open Data: An Example of "Cultural Properties of Southern Hokkaido" OKUNO Taku1) \\ 1) Future University Hakodate, 116-2 Kamedanakano-cho, Hakodate, 041-8655 Japan ## 【発表概要】 道南地域の文化財の情報を蓄積・公開し、オープンデータ化により活用することを目指して、道南ブロック博物館施設等連絡協議会と公立はこだて未来大学の連携により、ウェブサイト「南北海道の文化財」を 2017 年度より開設している。本発表では、最初に、本取り組みの背景と、 オープンデータ化による文化財情報の活用を含めた全体構想について述べる。その後、構築したウェブサイトの概要と、3 年間の運用におけるアクセスの傾向について述べる。本取り組みでは、蓄積された文化財情報を観光・教育などの分野において活用することを目指し、検証を目的としたアプリケーションを構築している。本発表では、テーマの自動生成による文化財巡りルートマップアプリケーション、地域教材作成支援を目的とした地域史アーカイブ横断曖昧検索アプリケ ーションについて述べる。 ## 1. はじめに 近年、デジタルアーカイブを観光や教育に活用しようという活動が多く見られるようになってきている。特に、地域デジタルアーカイブを地域の観光振興や地域学習教材として用いる試みが各地で行われている。本発表では、そのような試みの一つとして、道南地域において文化財情報のアーカイブ化とオープンデータ化による活用を目指した取り組みについて報告する。最初に、取り組みの背景と全体構想を述べ、本取り組みで構築した「南北海道の文化財」ウェブサイトの概要と 3 年間の運用におけるアクセスの傾向について述べる。そして、蓄積された文化財情報の活用可能性を検証するために構築した二つのアプリケーションを紹介する。 ## 2. 取り組みの背景と全体構想 道南地域では、函館博物館や文化・芸術施設の学芸員による情報発信や、地域との連携活動が継続的に行われてきている。活動推進の主体となっているのが、道南地域の学芸員 による組織である「道南ブロック博物館施設等連絡協議会」(以下、道南ブロック)である。道南ブロックでは、2010 年 3 月より、道南ブロック博物館施設等連絡協議会ブログを開設し、道南の文化財にまつわるエピソードやイベント情報などを紹介している。ブログ中の企画として、郷土学講座などのイベントに向けて、特定のテーマについて学芸員がリレー 形式でコラムを書く「アドベントカレンダー」 を実施するなど、活発な情報発信を行っている。 一方、ブログにより発信された情報は、一覧性や検索性に乏しく、恒久的な価值を持つ文化財情報コンテンツを十分に活用できているとは言い難い。この状況を踏まえ、道南ブロック情報戦略担当部会より「文化財ウェブマップ」構想が提案された。この構想では、道南の文化財と博物館の情報をウェブマップに集約し、市民との連携やフィールドワークのプラットフォームとして活用することが謳われている。この構想は、発表者らがこれまでに推進してきた、地域情報のオープンデー タ化による活用アプローチ[1] と整合する。そこで、文化財ウェブマップの開発と運用、および蓄積された文化財情報コンテンツのオー プンデータ化による二次利用の促進に向けて、道南ブロックと発表者らによる連携を進めることになった。 ## 3. 南北海道の文化財ウェブサイト ## 3. 1 サイトの概要 文化財ウェブマップのアプリケーション基盤として、オープンソースのブログソフトウェアである WordPress を採用した。これは、運用環境として一般的なウェブサイト向けホスティングサーバ(レンタルサーバ)を用いること、文化財情報を入力・編集してウェブサイトとして公開するシステムを低開発コストで実現できること、オープンデータの公開に適していることなどの理由による。 図 1. 南北海道の文化財 (トップページ) WordPress では、カスタムフィールドを用いてコンテンツのメタデータを追加することにより、投稿者や投稿日時のような既存のメタデータと同様に扱うことが可能である。この機能により、メタデータを利用したコンテンツの絞り込みなどの機能を容易に実装できる。また、テンプレートと組み合わせることで、コンテンツから RDFデータなどを生成する機能の実装も容易である。 文化財ウェブマップの主コンテンツは文化財の説明文と写真(複数可)であり、メタデ一タとして、文化財名、文化財名の読み、大エリア(市町村)、小エリア(函館市の区域)、所在地、制作年代、主題年代、カテゴリ、位置情報(緯度・経度)を採用した。 文化財の位置を地図表示するトップページ (図 1)には、文化財を効率的に探索する目的で、「大エリア」と「カテゴリ」による絞り込み機能を実装している。ボタンのラベルにデータ数を併記することにより、道南地域の市町構成と市町ごとの登録文化財数、および、 カテゴリ構成とカテゴリごとの登録文化財数を可視化している。このようなアーカイブの統計情報の可視化は、コンテンツを二次利用するサービスを設計する際に重要な情報となる[2]。 2015 年 10 月より各地域の学芸員による文化財情報の登録作業を開始し、2017 年 3 月 1 日に正式名称を「南北海道の文化財」として一般公開を開始した[3]。サイトには、文化財に加えて、博物館等の施設、函館市が設置している観光説明板と坂名説名標柱の説明文が登録されている。2020 年 8 月 15 日時点の登録件数は 635 件である。 同時点で 111 件がオープンデータ (CC BY) として公開されている。他の文化財についても今後オープンデータ化を進めていく。併せて、CSV、GeoJSON、RDF などの形式によるデータセット公開の準備も進める。 ## 3. 2 アクセスの傾向 Google アナリティクスを利用して取得した 2019 年度末時点のアクセス統計情報によると、 の公開開始からの総ユーザ数 20,359 人、閲覧 数は 46,800 ページビューである。前年度比増加率は、2018 年度がユーザ数 59\%増、閲覧数 17\%増、2019 年度がユーザ数 34\%増、閲覧数 11\%増である。約 $80 \%$ が検索エンジン経由であり、文化財の名称や説明文中の人名や地名、歴史的な出来事などから偶発的にアクセスしている。 アクセス元の地域については、国外が約 8\% を占めている。サイトのユーザインタフェー スは外国語対応していないが、文化財コンテンツのうち、函館市の観光説明板と坂名説名標柱については、名称と説明文に英訳が併記されていることが要因の一つであると考えられる。 公開以来の一貫した傾向として、「土方・啄木浪漫館」や「碧血碑」など、観光スポットとして知名度が高い文化財へのアクセスが多く見られる一方で、知名度の点ではアクセス数の多さが説明できないような特定の文化財への多数のアクセスが見られるということがある。後者の例として、「東本願寺函館別院船見支院」、「天下の号外屋翁の墓」、「もりたの池碑」が挙げられる。これらは、公開以降継続的にアクセス数が上位となっている。 これらの文化財の共通点は、知名度が低い故に他のウェブサイトには掲載され難いということである。結果として、文化財名あるいはキーワードによる検索により「南北海道の文化財」が上位にヒットすることになる。 知名度の低い文化財に一時的に多くのアクセスが発生するケースについては、マスメディアにおける記事や投稿(フロー情報)を契機として多数のキーワード検索が行われたという可能性も考えられる。しかし、複数年にわたってアクセス数が上位となっている文化財については、このようなケースには該当しないため、他のウェブサイトのコンテンツなど(ストック情報)を契機とするキーワード検索が要因として考えられる。 以上のように、知名度が低い文化財であっても、それについて知りたいという需要が一定数あるという事実は、網羅的に地域の文化財の情報を収集・蓄積し、ウェブ公開し続け ることの意義を示している。 ## 4. 文化財コンテンツを活用するアプリケー ションの構築 ## 4. 1 文化財巡りルートマップアプリケーショ 之 観光客が文化財に興味を持ち、新たな文化財との出会いを促進することを目的として、文化財巡りルートマップアプリケーションを構築している $[4]$ 。このアプリケーションでは、観光ルートのテーマと文化財を、文化財の説明文から自動生成し、ユーザに提示する。これにより、従来の固定的なテーマではない多様性のある観光ルートの設定が可能となる。 テーマ選択画面(図 2 左)でテーマを選択すると、文化財選択画面(図 2 右)に遷移する。この画面では、スライダーによりテーマと候補となる文化財の関連の強さを調節し、 リストされる文化財の数を増減させることができる。コースに含める文化財を複数選択し、「コース開始」ボタンを押すと、自動生成された観光ルートが地図上に表示される。 テーマと文化財は以下の手順で生成する。文化財の説明文から抽出した特徵語を意味的な近さに基づいてクラスタリングし、各クラスタに含まれる特徴語の上位概念をテーマとする。そして、文化財の説明文からテーマの 図 2. 文化財巡りルートマップアプリケーション 図 3. 地域史アーカイブ横断曖昧検索アプリケーション 手掛かりとなる名詞を抽出し、それらの説明文中の出現頻度に基づいて各テーマの観光ル一トに含める文化財の優先順を決定する。 ## 4. 2 地域史ア一カイブ横断曖昧検索アプリ ケーション 初等教育における地域学習は、一般に地域副読本に基づいて行われるが、地域史アーカイブなどを活用することにより効果的な学びを与えることができる。しかし、複数の地域史アーカイブから着目する人物や出来事に関連する資料を収集し、教材としてまとめる作業は負荷が高い。そこで、そのような作業を支援する取り組みの一つとして、複数の地域史アーカイブを対象として横断的に関連する資料を探す支援を行うアプリケーションを構築している[5]。 検索画面(図 3 左)でキーワードを入力すると、チェックボックスで選択した複数の地域史アーカイブを横断して曖昧検索した結果が表示される。検索結果リストから選択すると、詳細画面(図 3 右)に遷移し、詳細情報とともに、関連する資料を提示する。横断検索では、類義語や表記ゆれに対応した検索を可能にするために、検索キーワードとの類似度が高い名詞を検索結果に含める。関連資料の提示では、資料のタイトルと説明文から特徴語を抽出し、共通する特徴語を含む資料を関連資料として提示する。 ## 5. おわりに 地域デジタルアーカイブの運用においては、継続的にコンテンツを拡充していくとともに、 ユーザビリティの向上や二次利用の促進を図ることも重要である。前者については、現在の大エリアとカテゴリによる絞り込みに加えて、より詳細な条件で絞り込めるようなユー ザインタフェースの実装を検討している。後者については、現在は実験的なアプリケーションのプロトタイプ実装に留まっているが、現地で利用可能なモバイルアプリケーションなど、シンプルで実用性の高い応用を検討している。 ## 参考文献 [1] 奥野拓,高橋正輝,山田亜美,川嶋稔夫.地域デジタルアーカイブ CMS の構築と歴史資料の LOD 化による活用. 情報処理学会じんもんこん 2014 論文集. 2014, p.199-206. [2] 奥野拓. 観光情報 LOD. 工知能学会誌. 2016, Vol.31, No.6, p.825-832. [3] 南北海道の文化財. http://donan-museums.jp (参照 2020-08-15). [4] 宮井和輝,奥野拓. 文化財巡りルートマップの自動生成による観光支援システムの構築.第 16 回観光情報学会研究発表会講演論文集. 2017, p.17-20. [5] 相川健太,奥野拓. 地域史資料を活用した地域教材作成支援システムの構築. 情報処理学会第 82 回全国大会講演論文集. 2020, Vol.4, p.555-556.
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# [64] ASEANにおける文化遺産の地域横断型統合デジタ ルアーカイブ基盤の構築 $\bigcirc$ 川窵健一 ${ }^{1)}$ ,長谷部旭陽 1 ), 阿部拓馬 1 1) 1) 株式会社 NTT データ,〒135-6033 東京都江東区豊洲 3-3-3 E-mail: [email protected] ## Construction of Cross-Regional Integrated Digital Archive Platform for Cultural Heritage in ASEAN KAWASHIMA Kenichi ${ }^{1}$, HASEBE Aasahi ${ }^{11}$, ABE Takuma ${ }^{1)}$ 1) NTT DATA Corporation, 3-3-3 Toyosu, Koto-ku, Tokyo, 135-6033 Japan ## 【発表概要】 ASEAN 地域における文化遺産の保全、域外への発信、および域内における相互理解を目的として、各国における文化遺産の地域横断的な統合デジタルアーカイブ基盤を構築した。このデジタルアーカイブ基盤に求められる要件は、ASEAN 域内の様々な文化機関が保有する、多様な文化遺産の、画像、音声動画、 $3 \mathrm{D}$ モデル等多様なデジタルデータを統合してアーカイブすること、そして、これらのデジタルデータの長期的保存と、ウェブを通じた提供の両立である。本稿では構築したデジタルアーカイブ基盤の特徴と、合わせて実施した文化遺産の電子化およびデジタルアーカイブ基盤への登録、公開について報告する。 ## 1. はじめに ASEAN (Association of South-East Asian Nations:東南アジア諸国連合)は、域内の文化遺産の保全、域外几の文化的豊かさの発信、 および域内における相互理解という課題に対し、域内各国が同じく利用できる共通的なオンライン基盤の必要性について議論を進めていた。これに対して 2018 年 6 月より、ASEAN Cultural Heritage Digital Archive プロジェクトが開始され、株式会社 NTT データがデジタルア一カイブ基盤の構築と、域内各国における文化遺産の電子化を含む、プロジェクト全体の遂行を担務した。その第一フェーズにはインドネシア、ベトナム、マレーシアの三か国の文化機関が参画し、2020 年 2 月にはデジタルアーカイブ基盤の提供サービスがウェブに公開され、約 160 点の電子化された文化遺産を閲覧することができる $[1]$ 。本稿では構築したデジタルアーカイブ基盤の特徴と、第一フェ一ズ参加各国における文化遺産の電子化の概要について報告する。なお本プロジェクトは、 ASEAN 統合推進を支援することを目的として設立された、日・ASEAN 統合基金(JAIF)によって実施される。 ## 2. 要求定義 本プロジェクトで必要となるデジタルアー カイブ基盤への要求としては、図書館、博物館、美術館等様々な参加機関の想定、そしてアーカイブの対象として、書籍、文書、絵画、立体造形物などの有形文化財のみならず、例えば演劇などの無形文化財も含む、多種多様なコンテンツデータを想定する必要がある。 またアーカイブ対象とする文化財の保全に資するための、その電子化によるデジタルデー タの長期的な保存と、ウェブを通じた提供の両立を図る必要がある。 複数の文化機関が参加する地域横断型デジタルアーカイブとしては、ヨーロピアーナ[2] および米国 DPLA (Digital Public Library of America)[3]があり、これらはメタデータの収集による一元的な検索ポータルサービスを実現する。本プロジェクトでは ASEAN におけるメタデータの収集を視野に入れつつも、 デジタルコンテンツデータそのものを格納し、公開するアーカイブ基盤を構築した。 ## 3. 統合デジタルアーカイブ基盤の特徵 3.1 基本データモデル デジタルアーカイブ基盤のアプリケーショ ンソフトウェアで採用した基本データモデルを図 1 に示す。各参加国 (AMS:ASEAN Member State)を頂点として各参加機関、およびその保有コレクションの配下に、創作物の抽象的な実体として「アイテム」を定義した。そしてこのアイテムに、デジタルデータファイルである「コンテンツ」と、アイテムに関する記述的なテキストデータである「メタデータ」を定義した。多様な文化遺産に対応するため基本データモデルは必要最低限なものを定義し、コンテンツ種別に特有の構造はメタデータに記述することで吸収する。 図 1. 基本データモデル ## 3. 2 デジタルデータの保全と提供の両立 本デジタルアーカイブ基盤は、電子化されたデジタルデータの長期的保存と、その提供の 2 つのミッションを持つ。コンテンツ種別に依らず、長期的保存用データは高精細かつ安定したフォーマットが望ましく、提供用は軽量でウェブブラウザ対応したフォーマットとする必要がある。また著作権管理の観点からも、静止画像や $3 \mathrm{D}$ モデルへのウォーター マークの埋め込みが、提供用データに対してのみ必要となることがある。またこのように考えると中長期的には、提供用データは閲覧技術の動向や権利処理の必要に応じ、保存用データを基点として再生成できることが望ましい。このため本デジタルアーカイブ基盤は電子化したままのフォーマットなどアーカイブ登録前のデータ、長期保存用の原本データ、提供用のデータの 3 つのフェーズを定義し、 フェーズ間の変換プログラムを必要に応じて組み合わせることのできるアーキテクチャを採用した。(図 2)また、静止画像における各フェーズのファイル仕様の例を表 1 に示す。 図 2. アーキテクチャ概要 & & \\ なお図 2 に示すアーキテクチヤは、デジタルデータの長期保存を目的として策定された、 OAIS (Open Archival Information System) 参照モデル[4]で既定される、概念レベルの機能モデルを採用したもので、そのアプリケーシヨンレイヤの制御はデジタルアーカイブソリユーション AMALD[5]が実現している。 ## 3. 3 多様なフォーマットへの対応 先述の通り、本デジタルアーカイブ基盤では多種多様な文化遺産を電子化された、多様なデータフォーマットを取り扱う必要がある。 プロジェクトは電子化事業も含んでいるが、 すでに過去に電子化されたコンテンツの統合も想定され、従ってアーカイブできるファイルフォーマットに制約をかけるのは難しい。一方デジタルデータの長期保存の観点からはファイルフォーマットはデジタルデータのビット列のコード化とデコードの方法を示す情報(Representation Information)であり、 これを同定してメタデータとして保存することが重要である。本デジタルアーカイブ基盤ではコンテンツファイル登録時に複数の解析ツールを組み合わせて用いることで効率的にフォーマットの同定を図り、保存メタデータとして自動的に記録する機能を備えた。 またウェブ上へのデジタルコンテンツ公開 に関する課題として、ユーザビリティ向上のためには、クライアント PC 上でコンテンツの閲覧に必要となるソフトウェアを最低限のウェブブラウザのみとすることが望ましい。 そこで本デジタルアーカイブ基盤に登録されるコンテンツファイルの多様性を考慮して、高精細画像ファイル、PDF 文書ファイル、音声・動画ファイル、および $3 \mathrm{D}$ モデルコンテンツファイルについては、ウェブブラウザ上で動作する統一されたユーザインタフェースにより閲覧可能な、統合コンテンツビューアを開発した。その画面表示事例を図 3 に示す。 図 3. 統合コンテンツビューア (3D モデルの場合) この統合コンテンツビューアでは、高精細静止画像については JPEG2000 フォーマットを前提としたタイル化による逐次表示を実施し、閲覧要求に対する体感上のレスポンスを向上する基本機能を備える。また立体造形物の閲覧に有効な $3 \mathrm{D}$ コンテンツ閲覧では glTF を前提としているが、未だその解析ライブラリに対応していないウェブブラウザも利用されている。よって統合ビューアは 3D コンテンツが閲覧できない場合はこれを認識し、代替コンテンツとしてあらかじめ登録された静止画像を表示させる機能を備えた。 ## 4. 文化遺産の電子化とデジタルアーカイブ基盤 への登録および公開 プロジェクトでは文化遺産の電子化、およびそのデジタルアーカイブ基盤への登録を実施した。2020 年 8 月現在で登録、公開されているアイテムの数を、保有文化機関とコンテンツ種別ごとに表 2 に示す。(※音声/動画フ アイルの 1 点は既存の電子ファイルを登録) 表 2. 登録アイテム数 } \\ 電子化においては、本プロジェクトの目的に照らし、対象の文化遺産ごとにコンテンツ種別の検討を行い、場合によっては複数の手段を組み合わせて用いた。基本的には立体造形物を $3 \mathrm{D}$ モデル、手稿本や絵画などを静止画像とした。ただし立体造形物であっても、光沢、形状の複雑さ、不安定さ(摇れ動くもの)、およびスキャンし難い大きさなど、3D モデル化が困難、もしくは高コストとなる特徴を持つものは、静止画像とした。逆に表面の凹凸や額縁も含めて記録すべきと判断し、 $3 \mathrm{D}$ モデル化した絵画の例もある[6]。また手稿本の例では、各ページの静止画像と合わせて、その外観を記録するための $3 \mathrm{D}$ モデル化を実施したものもある[7]。 無形文化財の電子化事例としては、伝統的儀式を含む演劇である Makyung をアーカイブした。マレーシア National Department of Culture and Arts による現在の演劇の動画をはじめ、そこで使われる楽器、衣装、演者による特徵的なポーズを $3 \mathrm{D}$ モデル化、もしくは静止画像化したものをデジタルアーカイブ基盤上で 1 つのコレクションとして統合し、公開している[8]。(図 4) ## 5. おわりに 本デジタルアーカイブ基盤の提供サービス公開にあたって開催された記者発表では、 ASEAN の社会文化共同体 (Socio-Cultural Community)の長であるクン・ポワック事務次長は本プロジェクトについて「この地域の 図 4. Makyung に関するアイテムのリスト 豊かで多様な文化遺産に対し、人々の理解と鑑賞を高めるという ASEAN の主要目的の重要なステップになる」としており、「ASEAN アイデンティティ育成の努力をする中、私達はこのウェブサイトを使用する ASEAN 市民が、共有の文化遺産をよりよく理解し、より大きな地域への帰属意識を持つことを願う」 と述べ、更なる発展への期待を寄せた $[9]$ 。また本プロジェクトは、COVID-19 の影響により世界各地の図書館、美術館、博物館が来館サービスの制限を余儀なくされる中で、これら文化機関の新たな情報発信手段としても捉えられている[10][11]。プロジェクトではこれらの評価を踏まえつつ、参加国、参加機関の拡大と、メタデータ収集によるポータルサー ビスの統合を、次フェーズの課題とする。 ## 謝辞 本プロジェクトのパートナーである ASEAN 事務局の Jonathan Tan Ghee Tiong 氏、インドネシア共和国の Khanifudin Malik 氏、タイ王国の Wirayar Chamnanpol 氏、マレーシアの MOHD ZAMZURI BIN AB GHANI 氏をはじめとした各機関の職員の皆様、および電子化を協業いただいた株式会社ケイズデザインラボの内田麻子取締役と社員の皆様、株式会社サビアの奥村幸司代表取締役と社員の皆様に、深く御礼申し上げます。 ## 参考文献 [1] ASEAN Cultural Heritage Digital Archive, https://heritage.asean.org/ (参照 2020-08-01). [2] Europeana. https://www.europeana.eu/ (参照 2020-08-01). [3] DPLA. https://dp.la/ (参照 2020-08-01). [4] The Consultative Committee for Space Data System Reference Model for an Open Archival Information System (OAIS) Recommended Practice Magenta Book. 2012 [5] NTT データ, AMLAD (Advanced Museum Library Archives Deposit). http://www.amlad.jp/ (参照 2020-08-01). [6] Membeli Belah di Kampung, ASEAN Cultural Heritage Digital Archive https://heritage.asean.org/view/NAG/NAG _1995.011 (参照 2020-08-01). [7] Panji Jayakusuma Collection of Natio nal Library of Republic of Indonesia, ASEAN Cultural Heritage Digital Archive. https://heritage.asean.org/view/NLI/NLI_ KBG139 (参照 2020-08-01). [8] National Department for Culture and Arts, ASEAN Cultural Heritage Digital Archive. https://heritage.asean.org/collection/NDC A_MAKYUNG/list?kw=\&st=S (参照 2020-08-01). [9] ASEAN launches digital archive of re gion's cultural heritage, https://asean.or g/asean-launches-digital-archive-regions-c ultural-heritage/ (参照 2020-08-01). [10] The ASEAN Magazine 1 May 2020, https://asean.org/storage/2017/09/The-AS EAN-Magazine-Issue-1-May-2020.pdf (参照 2020-08-01). [11] Going Digital During COVID-19: A N ew Dawn for Museums? https://forms.gl e/4NoVvGXXcswttdy69(参照 2020-08-0 1 ). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [63] EAST ASIA DIGITAL LIBRARY:東アジアにおける国際共同プロジェクトの一事例 ○福林靖博 1), 奥田倫子 1), 中川紗央里 1) 1)国立国会図書館,〒100-8924 千代田区永田町 1-10-1 E-mail:[email protected] ## EAST ASIA DIGITAL LIBRARY: An example of an international joint project in East Asia FUKUBAYASHI Yasuhiro ${ }^{1)}$, OKUDA Tomoko ${ }^{11}$, NAKAGAWA Saori ${ }^{1)}$ 1) National Diet Library, 1-10-1 Nagata-cho, Chiyoda-ku, Tokyo, 100-8924 Japan ## 【発表概要】 国立国会図書館は、2020 年内に公開を予定している「EAST ASIA DIGITAL LIBRARY (EADL)」構築プロジェクトに参画している。EADL は、漢籍など東アジア諸言語で記されたパブリックドメインの書籍等のデジタル化データ(画像データ及びメタデータ等)のコンテンツの検索・閲覧を可能とするポータルサイトである。本プロジェクトは、2010 年に国立国会図書館、韓国国立中央図書館及び中国国家図書館との間で締結された「日中韓電子図書館イニシアチブ」の下、 3 か国共同で開発を進めてきたものであるが、現在は日韓 2 か国でプロジェクトを進めている。本発表では、機能やコンテンツといった概要の紹介だけでなく、構築に至る背景や構築のプロセス、今後の展望等についても報告する。 ## 1. はじめに 国立国会図書館(NDL)は、2020 年内に公開を予定している「EAST ASIA DIGITAL LIBRARY (EADL)」構築プロジェクトに参画している。EADL は、漢籍など東アジア諸言語で記されたパブリックドメインの書籍等デジタル化データ(デジタル化資料の画像デ一タ及びメタデータ等)の検索・閲覧を可能とするポータルサイトである。本稿では、 EADL の構築に至る背景、システム概要及び構築・運用体制、今後の展望について報告する。なお、本稿の内容は 2020 年 8 月現在の開発状況に基づいており、公開時までに一部変更等の可能性があることをお断りしておく。 ## 2. 構築の背景及び経緯 EADL 構築の背景には、2010 年 8 月に締結された日中韓電子図書館イニシアチブ (CJKDLI)がある。CJKDLI は、NDL、韓国国立中央図書館(NLK)及び中国国家図書館(NLC)の間で行われている、日中韓の文化・学術遺産をインターネット上で統合的に検索し、利用できる電子図書館サービスの実現を目指す 3 か国の国立図書館による連携協力事業である。事業立ち上げ当初から将来的な 3 か国の統合ポータルサイトの構築を視野に入れて、3 か国持ち回りで開催される年次会合において検討を行ってきた。 統合ポータルサイト構築について 3 か国で合意したのは 2013 年の第 3 回会合においてであるが、具体化されたのは、2014 年の第 4 回会合においてである。ここで、NLK からは Europeana をモデルとするメタデータ集約型のポータルサイトが、NLC からは World Digital Library をモデルとした、各国の貴重本・古典籍等のデジタル資料を相互に提供しあらデータベースがそれぞれ提案された。議論の結果、NLK が 2014 年から独自にパイロット版の構築に取り組んでいたという背景もあり、NLK が中心となって、メタデータと画像データの双方を集約するポータルサイトの開発を、2017 年 9 月の公開を目指し、3 か国共同で進めていくこととなった。NDL は、 2016 年から 2017 年にかけて、後述するデー 夕構築のほか、システムレビューや公開ドキユメントの作成等において精力的に協力した。 また、公開後の三機関の役割分担等を定めた覚書の準備を進めた。 しかし、同年 11 月以降、中国の国内事情に より CJKDLI の活動が事実上停止となり、それに伴い 3 か国ポータルの公開も見送りとなった。その後、NDL と NLK とで検討を継続 図 1.トップページ 図 3. EADL デジタルコレクション ## 3. EADL の概要 ## 3. 1 機能及びコンテンツ EADL には、現在、NDL 及び NLK がデジタル化した資料約 6,000 点のメタデータおよび約 140 点のデジタル画像が収録されており、 トップページからのキーワード検索の他、資料のタイトル、作成者、件名による詳細検索が可能である。各資料の書誌情報のページには、各館が提供しているデジタル資料検索・閲覧サービスへのリンクがあり、それぞれのサイトに遷移して本文画像を閲覧できる(図 1、図 2)。 し、NLC の了解の下、CJKDLI の協定と切り離して日韓2か国でポータル、すなわちEADL を構築することとなった。 図 2. 検索結果詳細 また、各館の資料を、テーマ、機関、時間、年代別に分け、日本語、英語、韓国語の 3 か国語で解説した「EADL デジタルコレクション」のページも設けている(図 3 )。デジタルコレクションのテーマとして、現在、NDLから「古活字版」、「古刊本」、「本草学と博物誌」、「その他」の 4 種、NLK からは「朝鮮の女性」、「タクチ本(朝鮮旧活字小説)」「朝鮮王室資料」、「朝鮮通信使」、「美術」「仏教」の 6 種が設定されている。 収録データは、今後も拡大していく予定である。 ## 3. 2 データ構築 これらの機能を実現するため、EADL のデ一タ構築を次のように行った。 まず、メタデータは、NLK の開発チームから提示されたデータモデル(図4)に基づき、「コレクション」、「オブジェクト」、「デジタル化オブジェクト」、「画像オブジェクト」について、表 1 に示す情報を整備した。 また、画像データの交換は、ブルーレイデイスクの郵送により行った。資料解説は各館で翻訳を行った。 表 1. EADL の記述対象 & 名称、説明、代表画像など \\ ## 3. 3 二次利用 EADL 全体としてのサイトポリシーは現在、最終調整中である。ただし、現在両館が EADL に本文画像を提供している資料はすべて著作権保護期間が満了した資料であり、デジタル化画像の転載にあたり、許諾申請等の手続きは必要ない。一方で、解説には個別に著作権があるため、所蔵館への問い合わせが必要である。メタデータは、EADL が提供する SPARQL エンドポイントから利用可能である。 ## 3.4 体制 CJKDL の構築過程においては、効率よく作業を進めるため、各館で共通の体制を整えた。意思決定を行うプロジェクト委員会のもとに、全体の取りまとめや広報を担当する全体総括班、技術に関する調查・研究を担当する技術班、目録、メタデータ、デジタル画像等の開発を担当するリソース班の 3 つのワー キンググループを設け、各館とも班員を 2 名ずつ配置した。また NDL と NLC においてはシステム開発を遂行するNLKとの間に連絡担当を 1 名配置した。この体制は EADL の構築においても継続された。 EADLの開設にあたっては、2020年 3 月 25 日に両館長名で「MEMORANDUM OF UNDERSTANDING ON THE OPERATION OF THE EAST ASIA DIGITAL LIBRARY (EADL の運営に関する覚書)」を手交した。覚書では EADL のサービス内容、共有する情報資源、各館の役割分担、知的財産や個人情報の扱い、サービス閉鎖時の手続きを定めている。現在、EADL の運営は、運営館である NLK と参加館である NDL によって担われている。運営館は、システムの開発、運用、管理の責任を負い、また連携拡大のための契約締結を行うことができる。一方、参加館はデジタルコレクションのテーマ選定やメタデー タと画像データの提供義務を負うほか、運営館によるサービスの運営に積極的な支援を行うこととされている。 ## 4. おわりに EADL は「東アジア」というキーワードにより、大学図書館等も含めて参加館を拡大していく構想を持っている。今後の展開にも期待していただきたい。 国際プロジェクトの推進においては、良くも悪くも参加国の国内事情や国際関係の変化等の影響を避けることができない。それは CJKDLI から EADL に至る過程においても同様であることは、これまでに述べたとおりである。しかし、そうであるからこそ、国際理解・国際交流のシンボルともなり得る EADL のような文化プロジェクトは、粘り強く進め ていく必要があると考えている。 参考文献(url 参照日は全て 2020/8/4) [1] 木目沢司 - 小澤弘太・福山樹里 - 大山聡.第 4 回日中韓電子図書館イニシアチブ (CJKDLI)会議 $<$ 報告 $>$. カレントアウェアネス-E. No274. 2015.01.22. https://current.ndl.go.jp/e1647 [2] 原田久義. 第 5 回日中韓電子図書館イニシアチブ(CJKDLI)会議<報告 $>$. カレントアウェアネス-E. No.297. 2016.02.04. https://current.ndl.go.jp/e1762 [3] 小澤弘太・橋詰秋子・町屋大地・木下雅弘. 第 6 回日中韓電子図書館イニシアチブ (CJKDLI)会議 $<$ 報告 $>$. カレントアウェアネス-E. No319. 2017.02.09. https://current.ndl.go.jp/e1885 イセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [62] ジャパンサーチを利用した大学博物館所蔵の学術資料 公開: ## 〜蚕糸学術資料「蚕織錦絵コレクション」を事例として〜 $\bigcirc$ 齊藤有里加 ${ }^{1)}$, 堀井洋 ${ }^{2}$, 堀井美里 ${ }^{2}$, 小川歩美 ${ }^{2}$ 1) 東京農工大学科学博物館, $\overline{\mathrm{T}} 184-8588$ 東京都小金井市中町 2-24-16 2) 合同会社 AMANE, $\bar{\top} 923-1241$ 石川県能美市山田町口 8 E-mail: [email protected] ## Opening Academic Materials in University Museums through Japan Search As an example of sericulture academic material "Sericulture Nishikie Collection" \author{ SAITO Yurika ${ }^{1)}$, HORII Hiroshi2), HORII Misato ${ }^{2)}$, OGAWA Ayumi ${ }^{2}$ \\ 1) Nature and Science Museum, Tokyo University of Agriculture and Technology, \\ 2-24-16 Naka-cho, Koganei-shi, Tokyo Japan 184-8588 \\ 2) AMANE.LLC, Ro8, Yamada, Nomi, Ishikawa Japan 923-1241 } ## 【発表概要】 東京農工大学科学博物館は大学所縁の学術コレクションを収集・保存を行なっている。このような教育・研究機関が内包する「学術資料」は、組織統合などの変遷により資料が埋没化しやすい。特に虫系科学領域は、自然科学資料でありながら人文学科学側面を持つ領域横断的な特殊性を持っており、資料の可視化により多分野での研究進展が期待される。一方で 2020 年夏季に本公開となる「ジャパンサーチ」は人文科学、自然科学領域を超えた横断型検索による資料発信手法を提案するものである。本発表では、所蔵の虫糸学術コレクション群のうち、錦絵資料「全織錦絵コレクション」を対象に、ジャパンサーチへの公開プロセスを紹介すると共に、進行上明らかになった学術資料の可視化の上での課題と対応を例示する。 ## 1. はじめに 教育・研究機関が内包する「学術資料」は、組織統合などの変遷により資料が埋没化しやすく、単独での資料公開には発信に限界がある。一方で 2020 年夏季に本公開となる「ジャパンサーチ」は人文科学、自然科学領域を超えた横断型検索による幅広い資料発信手法を提案するものである[1]。東京農工大学工学部は日本初の官営虫糸教育機関(虫業講習所) を由来に持つため、収蔵庫内には近代掻系関連の学術資料が残されている。これらの資料を可視化することで国内有数の日本の近代化を支えた蚕系技術資料を国際的に発信することが可能となる $[2]$ 。現在、東京農工大学科学博物館 5 か年計画において、これらのデジタルデータを博物館内外において閲覧公開できるシステムを構築することにより、展示スペ一ス、資料保存の課題を超えた資料の提示手法を模索しており、“蛋糸学術コレクション” として、ジャパンサーチへと連動させる予定であり、国際的な発信力の強化を本デジタルアーカイブ構築の大きな目標としている。 本研究では、養虫・製系技術史上資料価值の高い虫糸学術コレクション群のうち「虫織錦絵コレクション」を事例にジャパンサーチへの公開とプロセスを紹介すると共に、進行上明らかになった学術資料の可視化の上での課題と対応を例示したい。 図 1. 蚕織錦絵コレクション 『かいこやしないの図』広重 ## 2. 忝織錦絵コレクションの選定と抽出 東京農工大学所蔵「蚕織錦絵コレクション」 は故鈴木三郎名誉教授による寄贈資料と当館前身の旧繊維博物館時代の追加購入資料からなる、養虫から機織までの姿を現した刷物群である。今回の公開における資料は、江戸期〜明治期にかかる浮世絵・錦絵の刷り物で 「養蚕」「製糸(含む真綿)」「製織」の作業が描かれているものとした。また機械製系場の錦絵についても含めることとした。また、同じ刷り物が複数ある場合、刷り物資料の特性として複数掲載することとした。一方、収蔵資料として含まれる、周辺テーマの資料、鈴木氏が研究に用いる際に刷られた印刷機での白黒コピー、布地にプリントされた浮世絵モチーフなどは、今回はカテゴリから除外し別項目として扱うこととした。 ## 3. ジャパンサ一チとの連携 本デジタルアーカイブは、Omeka S[3]および IIIF 規格に基づいた画像公開環境(イメージサーバ)については IIPImage Server[4]を用いて構築した。資料アイテム画面の外観を図 1 に示す。ジャパンサーチとの連携に際しては、ジャパンサーチ側へメタデータを提供 (アップロード)し、提供機関が独自に設定した「個別項目ラベル」とジャパンサーチ側で公開する「共通項目ラベル」との対応付けを提供機関側が行う。本デジタルアーカイブでは、タイトルや大きさ・作者・年代・公開条件など、基礎的な項目のみを公開する予定であるが、ジャパンサーチへのメタデータ提供では、それらに加えてアイテム単位のURI やIIIF マニフェストURIが必要となる。これらは、利用者がジャパンサーチから本デジタルアーカイブヘアクセスし、さらに外部のサイトにおいて資料情報が共有・活用されるために必要な情報であることから、システム改変や資料情報の修正等に影響されない継続的な URI の維持が重要である。 養虫関連資料公開におけるジャパンサーチとの連携のメリットとしては、他機関所蔵の虫糸資料群との横断検索が挙げられる。ジャパンサーチからのアクセスにより、これまで館の専門性により蚕糸科学もしくは産業技術史領域からの限定的な研究利用が多かった本資料が、近代史や、民俗など多方面の研究者の目に触れる機会が増加すると考えられる。 また、浮世絵資料においては、膨大な国内外の資料群との連携が可能になるため、美術資料としても利用されることが期待できる。 $\because$ $\cos (x)$ man $\cdots$ $\sin$ , ma- $\cdots$ m. crovens mons crar. 図 2. デジタルアーカイブ外観 ## 4. 資料公開と今後の活用 本研究では、「虫織錦絵コレクション」を事例にデジタルアーカイブ公開とジャパンサー チへの連携を実施した。前述したとおり、ジヤパンサーチへの資料情報提供・公開は、他機関・研究者へのアピール・連携の面から大学博物館にとって、非常にメリットが大きいことは明らかである。一方、登録する情報の 内容や粒度の統一や博物館側のアーカイブへのアクセス経路の固定・確保など、考慮すべき事項も存在する。今後は、ウェブ上での展示企画など、コンテンツ化を強化し、ウェブ上のアクセス数や、閲覧傾向を解析することで、資料利用者の傾向を把握していきたい。公開するコレクションの拡充とともに、それら運用面での課題についても取り組んでいく所存である。 ## 参考文献 [1] ジャパンサーチ https://jpsearch.go.jp (参照 2020-08-20). [2] 大学博物館における学術資料のデジタル化と活用 : 虫織錦絵コレクションの IIIF 対応による国際的発信デジタルアーカイブ学会誌.2020, vol. 4.2, p. 158-161 [3] omeka https://omeka.org (参照 2020-0820). [4] IIPImage Server https://iipimage.sourceforge.io (参照 202008-20).
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# [61] デジタルアーカイブにおけるテキスト検索を考える: みんなで翻刻サーチの構築を手がかりとして ○永崎研宣 1 1) 1) 一般財団法人人文情報学研究所,〒113-0033 文京区本郷 5-26-4-11F E-mail: [email protected] ## Full Text Search for Japanese Texts in Digital Archives: A Case Study on Minna de Honkoku Search NAGASAKI Kiyonori1) 1) International Institute for Digital Humanities, 5-26-4-11F, Hongo, Bunkyo, 1130033 Japan ## 【発表概要】 デジタルアーカイブのコンテンツに非常に多く含まれる前近代の日本語文字資料は、全文テキス卜検索によって有用性を高めることができる。Web API を経由することで「みんなで翻刻」 の外部に構築された全文検索システムである「みんなで翻刻サーチ」は、その種の全文テキスト検索において生じる課題に取り組み、現時点で比較的容易に実現可能な解決方法を採用した。本発表ではそれについて検討している。 ## 1. はじめに デジタルアーカイブの構築により、膨大な資料を Web 上で閲覧できるようになってきている。多くの場合、そこから欲しい情報を探し出すには、付与されたメタデータを検索して、内容に目を通すしかない。資料のタイトルや執筆者名など、メタデータに含まれる情報によって探し出せる資料であれば問題なく利用できるが、そうでない場合はそれほど容易ではない。特に文字資料の場合、求めている人名や地名、あるいは表現などが、タイトル等の基本的なメタデータに十分に含まれていることはあまり多くない。一方全文テキス卜検索はすべての問題を解決できるわけではないが、少なくとも、求める情報にたどり着く可能性を大きく高めてくれることは間違いない。そこで、本稿では、デジタルアーカイブにおける全文テキスト検索の課題について、特に前近代の文字資料を念頭に置きつつ、筆者が作成公開している「みんなで翻刻サーチ」 を手がかりとしてその現状と今後の見通しについて検討する。 ## 2. 全文テキスト作成の状況 この課題に取り組むに際してまず確認すべきことは、全文テキストの作成にまつわる事情である。デジタル編集で作成された資料に関してはそれなりに対応できるが、そうでない資料に関しては、テキストデータを人の手 で入力するか、OCR で自動文字認識をするか、 といった形でテキストデータを作成しなければならない。 これについては様々な取り組みが進められており、本稿の主題に関連する「みんなで翻刻」によるクラウドソーシング翻刻[1]だけでなく、ディープラーニング技術を活用した 「くずし字OCR」[2]も現在注目に值するだろう。他にも大規模 OCR プロジェクトが進められていると聞している。海外を見ても、 Transcribe Bentham や米国 NARA における Citizen Archivist をはじめとするクラウドソ ーシング翻刻、HathiTrust 等、OCR で作成したテキストによる大規模テキスト分析が行なわれていたり、TCP (Text Creation Partnership) による EEBO (Early English Books Online)の全文テキストデータ公開が行なわれるなど、着々と取り組みが進められている。文字認識に関しては、版本のみならず、手書き文字認識(HWR, HTR)についても、 Transkribus 等のソフトウェアが開発・公開され、広く取り組まれるようになっている。 ## 3. 前近代日本語資料全文検索の課題 全文テキストが得られたなら、次はそれを検索するということになる。現代日本語であれば、検索にはそれほどの苦労は要しないが、現在、デジタルアーカイブにおいて全文テキスト化が進められているものは著作権保護期間が過ぎたものが多く、仮名遣いや文字が現 代的でないものが多い。また、日本で書かれた漢文資料も相当数含まれている。そのような場合、現代日本語の検索に比して、いくつかの困難が生じることが想定される。 まず、いわゆる新字と旧字の使い分けの問題がある。これは翻刻時のポリシーによって様々であり、工夫せずに検索システムを構築してしまうと、ユーザが検索する際に全文テキスト中の新字旧字等の区別に配慮しながら検索しなければならないことがあり、面倒である上に検索漏れも生じやすい。 通常の現代日本語検索の場合、たとえば 「京都」を検索した時に「東京都」がヒットしないように、検索インデックスを作成する際に形態素解析を行なう。これにより、「京都」 「東京都」の区別だけでなく、人名や地名のみを対象とした絞り込み検索や、動詞を原形で検索できるようにするなど様々な工夫も可能になる。しかし、前近代の日本語テキストの場合、時代によって文法が異なっている上に、日本で書かれた漢文テキストも入ってくる。検索対象とする資料の時代や文体などをかなり限定できるなら、国立国語研究所が配布している Unidic[3]を用いることで、近代文語等のいくつかのカテゴリにおいてはある程度可能になるものの、現代日本語ほどの精度は期待できない。漢文については、漢文の形態素解析の研究は進められているものの、日本で書かれた漢文にまで対応できるような状況ではなさそうである。 また、もう一つの課題として、現在作成されつつある OCRテキストや翻刻テキストでは、紙媒体の改行をそのまま反映してしまうこともあり、行や頁をまたぐ単語やフレーズの検索が難しい場合がある。これは現代日本語であれば句読点を手がかりとしてデータの区切り方を変えることである程度対応可能である。 しかしながら、古典籍等の古い資史料のなかには句読点が書かれていないものもあり、この場合、句読点を入れることが一つの解釈を示すことになってしまう [4]。汎用的な知のプラットフォームとしてのデジタルアーカイブを目指すなら、様々な利用者のニーズに広く対応できるものにすることが望ましく、特定の解釈に依拠しなければ検索できないという状況は可能な限り避けたいところである。 以上のような課題について、前近代の資料を全文テキスト検索する際には配慮する必要がある。完全な解決策は現在のところ存在せず、資料の性質や全文検索の目的に応じて対処を検討することになる。以下、「みんなで翻刻サーチ」において筆者が取り組んだ一つの解決策について検討する。 ## 4.「みんなで翻刻サ一チ」での取り組み みんなで翻刻サーチは、日本発の縦書き対応クラウドソーシング翻刻プラットフォーム「みんなで翻刻」の Web API を通じて取得したテキストデータを全文検索できるようにしたシステムであり、 プロジェクトごと・コレクションごと・資料ごと等に絞り込み検索をしたり、直前・直後の数文字をグループ化したりすることで、テキスト群の簡易な分析をするといった機能も提供している。30 分おきに更新データを取得して検索対象に加える仕組みになっている。 (図 1)「みんなで翻刻」自体も検索機能を備えているが、「みんなで翻刻サーチ」は、上述の課題に対する比較的現実的な解決手法を適用しつつ、Web API を通じてより容易に任意の資料群の検索結果を簡単に取得できるようにするために開発したものである。本稿では、このシステムにおけるアプローチを紹介する。 図 1 データの流れ このシステムで利用しているソフトウェアとしては、データの取得と検索データの整形・追加・更新には PHP を用い、集めたデー タの検索には Apache Solr、これを操作するインターフェイスは Python3 のモジュール Flask と Javascript のライブラリ jQueryを組み合わせて作成している。現在このシステムはサーバ上で稼働しているが、検索システムについては Java と Python3 が動作すればスタンドアロンのパソコンでも利用可能である。検索システムのソースコードは GitHub に公開している。 システム自体を再利用しやすくするために、 データ取得についても Python3 で動作するように書き換えることを計画している。 このシステムにおいて、前近代テキスト全文検索の課題にいかにして取り組んだか、という点を以下に見ていこう。 ## 4. 1 テキストの性質 「みんなで翻刻」に含まれる資料には、漢字仮名交じりのくずし字で書かれたものから漢文まで、様々なものが含まれている。「みんなで翻刻」自体は翻刻対象とする資料の種類を特に限定しておらず、今後も多様化していくことが予想される。資料の掲載は「プロジェクト」「コレクション」という単位で行なわれるものの、各プロジェクト内での資料の分類の仕方は特にルール化されていないようである。したがって、「みんなで翻刻」のテキスト全体を対象とした検索システムを構築しようとする場合、前近代のあらゆる資料を想定しておく必要がある。以下の取り組みはそのような前提のもとに行なわれた。 ## 4. 2 新字旧字等の文字の使い分け 新字旧字等の文字の使い分けに関しては、 Apache Solr では、検索インデックスを作成する際に文字対応表を設定しておくことで、新字旧字等をまとめて検索できる仕組みが提供されている。ここではそれを採用した。この種の文字対応表については、東京大学史料編纂所や国立情報學研究所が提供するものもあるが、ここでは、chise.org が提供する文字才ントロジー[5]のデータを用いている。 なお、Apache Solr のこの機能では、文字対応表を更新しても既存の検索インデックスには適用されないため、文字対応表を更新した場合、検索インデックスをすべて作成し直さなければならない。データが少ないらちはそれほど問題にならないが、いずれ検討を要することになるだろう。 ## 4. 3 単語区切りの問題 形態素解析による検索精度の向上については、ここでは断念した。上述の課題を包括的に解決する手法が今のところ存在していないためである。Apache Solr では、文字単位での n-grram 検索インデックスを作成できるため、 これを用いた。一方、Apache Solr でこの種の検索インデックスを作成すると、検索文字列の值をダブルクオーテーションで囲まない限り、「検索文字列に含まれる文字を含むドキユメント」がヒットしてしまい、検索ノイズが非常に大きくなってしまう。これを避けるため、デフォルトでダブルクオーテーションが付与されるようにした。 ## 4. 4. 行$\cdot$頁またぎの問題 行・頁をまたぐ単語やフレーズの検索を行えるようにするためには、自動処理する手法の開発や人カマークアップなどの方法があり得るが、いずれも、すぐに目の前のデータに適用できるわけではなく、また、継続的に増え続ける多様なテキストに包括的に対応させるのは容易ではない。現状で比較的低コストに採用できる手法としては、テキストをすべてつないだ上で、n-gram 検索インデックスを使用するのが現実的である。しかしながら、 あまりに多くのテキストをつないでしまうと、検索結果としての有用性が下がってしまうため、何らかの粒度を設定する必要がある。ここでは、その粒度の設定も容易ではないと思われたため、頁またぎの検索については諦めて、行またぎのみに対応することとした。あるいは、アドホックな解決策としては、改頁の前(もしくは後でもよいが)にある程度の長さのテキストを前頁と重複する形で追加して、もし検索時に前頁と当該頁が重複箇所のみでヒットしてしまった前頁のみを検索結果として表示するような仕組みを用意するという手はあるが、今回は採用しなかった。 ## 4.5. その他のエ夫 全文テキスト検索は、検索対象の絞り込みと適切な検索語の使用によって、目的の資料にたどり着くことが容易になる。本検索システムでは、みんなで翻刻が用いている「プロジェクト」「コレクション」「資料」という単位で絞り込み検索できるようにしている。 また、有用な検索語の検討を支援するために、検索した単語の前後 $n$ 文字を取り出して同一文字列の件数を多いものから順にリストする機能を開発した。たとえば「洪水」で検索した後にその前 4 文字を取り出すと図 2 のようになる。ユーザ自らの事前知識では「洪水」 から「千曲川」を連想できなくとも、ここから「千曲川」につながり、さらに探索していくことが可能となる。これも全文検索が可能とした有用性と言えるだろう。 ## 5. 終わりに 本稿では Apache Solr を扱ったが、検索ソフトウェアとして同じ Apache Lucene を使用するソフトウェア、たとえば Elasticserch でも状況はほぼ同様であると思われる。 ここでは、前近代の日本語テキストの全文検索の利便性を少しでも高めるための工夫を提示した。他にも様々な手法があり得るはずである。今後、デジタルアーカイブに関わる人達の間で、最新技術でなくとも低コストで着実に、よりよく課題を解決できるような情報が、より広く共有されるようになることを期待している。 ## 謝辞 本研究は「みんなで翻刻」に関わる皆様のおかげで成り立っているものであり、深く感謝したい。なお、本研究は JSPS 科研費 JP19H00516 の助成を受けたものである。 ## 参考文献 [1] 加納靖之, 橋本雄太. 2018. 『『みんなで翻刻』による翻刻テキストの分析の試み」。じんもんこん 2018 論文集, 2018:147-152. [2] 北本朝展, カラーヌワットタリン, Lamb Alex と Bober-Irizar Mikel. 2019. 「くずし字認識のための Kaggle 機械学習コンペティションの経過と成果」. じんもんこん 2019 論文集, 2019:223-230. [3] 小木曽智信他. 2010. 「中古和文を対象とした形態素解析辞書の開発」. 情報処理学会研究報告. 人文科学とコンピュータ研究会報告 85 (2月): D1-8. [4] 三上悠紀夫. 1959.「古典校訂本の句点は信用できるか」. 計量国語学 9 (6月): 22-24. [5] 守岡知彦. 2009.「CHISE に基づくグリフ・オントロジーの試み」。じんもんこん 2009 論文集 2009 (16): 9-14. 図 2 「洪水」の前 4 文字を集約した例
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# [52] ジャパンサーチを活用したハイブリッド型キュレーション授業:遠隔教育の課題を解決するデジタルアーカイブの活用 ○大井将生 1), 渡邊英徳 2) 1)東京大学大学院学際情報学府, 〒 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 2)東京大学大学院情報学環 E-Mail : [email protected] ## Curation class in Hybrid learning: Issues of online class and Possibility of Digital Archive OI Masao ${ }^{1)}$, WATANAVE Hidenori ${ }^{2}$ 1) The University of Tokyo Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033 Japan 2) The University of Tokyo Interfaculty Initiative in Information Studies ## 【発表概要】 本稿の目的は、初等中等教育におけるデジタルアーカイブを活用したハイブリッド型学習のあり方を提示することである。そのために、遠隔オンライン授業をめぐる社会的背景とこれまでの動向を整理し、遠隔オンライン授業の課題について議論する。本研究ではその課題を解決するための学習デザインとして、デジタルアーカイブを活用した遠隔オンデマンド型授業と対面授業の組み合わせによる、探究的キュレーション授業を提案する。デザインした授業で 2020 年 4 月より小学校と中学校で年度を通して授業実践を行い、児童生徒の認識変容を検証する。この手法により、学習指導要領で掲げられた ICT・MLA 資料の活用や探究的な学びを実現するとともに、休校という社会的要請が生じる感染症や災害等の不測の事態、地方と都市の教育格差、不登校による学習機会の喪失など、社会的諸課題の解決にも寄与することができると考える。 ## 1.はじめに 本研究ではこれまで、児童生徒が自ら探究的にキュレーションする (=情報や資料を収集・整理した上で新たな意味や価値を見出す)授業をデザインし、小・中・高の各校種でジヤパンサーチを活用した実践を行ってきた。 これにより、学びの中でセレンディピティ (=予期せぬ出会いや驚き)を創発し、多面的・多角的に考えるきっかけをつくる学習デザイン例を示すことができた ${ }^{[1]}$ 。そうした中、昨年度末より COVID-19 が猛威を振るい、多くの初等中等教育は数ヶ月に渡って機能停止に陥った。これにより、児童生徒の学習機会が表失したことが世界的な問題となった。そこで本研究では、これまでのデジタルアーカイブを活用した研究手法を応用し、2020 年 4 月より休校中は遠隔オンデマンド型授業、学校再開後は対面授業とオンラインを組み合わせたハイブリッド型授業を実践した。本稿ではまず遠隔教育をめぐる諸課題を整理し、次にそれらの課題を解決する手法としてデジタルア ーカイブを活用した学習デザインを提案する。 ## 2. 背景 ## 2. 1 遠隔教育の必要性の高まり 近年、不登校览童生徒への学習支援、教育の階層差や地域間格差、災害など不測の事態における学校の機能不全問題などをめぐり、多様な教育機会の提供と公正で公平な教育の保障のための議論が行われてきた。こうした諸課題を解決するための手法として、遠隔教育による学びの形態が模索されており、国をあげて推進活動が行われている ${ }^{[2]}$ 。さらに COVID-19 禍では児童生徒の学びの場が喪失し、遠隔オンライン教育を含む新しい学習環境の構築が喫緊の課題となった ${ }^{[3]}$ 。 ## 2.2 遠隔教育をめぐる様々な障壁 宮川 (2005)は、E-learning が失敗しやすい要因について、ソフトウェアの動作・予算 ・開発チームのコミュニケーション・普及の観点から課題をあげた ${ }^{[4]}$ 。とりわけ普及の問題に関しては、情報工学と教育実践学を架橋した議論を重ねることが重要となるだろう。 ## 2.3 高等教育における遠隔教育の動向高等教育では $\mathrm{MOOC}$ (大規模公開オンライ ン講座)が世界的に普及し、多様なコンテンツ による実践が行われている。一方で、MOOC は修了率の低さが課題とされており、その要因には一方向的な学習形式が指摘されている [5]。この課題に対しては、修了率の改善や分析方法の共通化を目指寸研究 ${ }^{[6]}$ も行われている。このように高等教育では、遠隔教育に関する発展的な議論や実践が行われている。 ## 2.4 初等中等教育における遠隔教育の動向 しかしながら、中等教育以下における遠隔教育に関する議論は十分に行われていない。 とりわけ教科教育を対象とした遠隔学習環境の構築は進展しているとは言い難い。わが国は学校における ICT 活用時間が極めて短く、 $\mathrm{OECD}$ 加盟国の中でも最下位である ${ }^{[7]}$ 。遠隔教育の前提となる ICT 環境の整備も十分には進んでおらず、教育用コンピュータ 1 台当たりの児童生徒数は 5.4 人/台である ${ }^{[8]}$ 。この論点に関しては、Society5.0 社会を掲げる国の GIGA スクール構想の柱である「 1 人 1 台端末」に向けた環境整備 ${ }^{[9]}$ 動向に注目したい。 ## 2. 5 遠隔教育めぐる権利関係の課題 児玉 (2014) は、遠隔教育における著作権などの問題に関して、総合的な知的財産権管理をめぐる課題を解決するためには、わが国の社会制度との関係が明らかにされなければならないと主張した ${ }^{[10]}$ 。社会制度や慣習と文化財データの関係については例えば、日本の美術館は画像利用に書面申請を要するなど画像利用に慎重な姿勢をとる館も多い[11-12]。また、わが国で一次資料を利活用したいと考えた時、国内のデジタルアーカイブサイトにおいては必ずしも明確な権利や利用条件が示されていないという課題がある ${ }^{[12]}$ 。こうした状況は、授業の準備をする時間が足りないという悩みを抱え ${ }^{[13]}$ 、自身の ICT スキルに不安を持っている ${ }^{[14]}$ 現場の教員にとっては大きな負担となる。これらの問題は、野口 (2010)が 「重要なのは、情報は本来どこまで自由であるべきなのか、文化の発展はどのように支えるべきなのか、ということを問い直して議論すること」 ${ }^{[15]}$ と述べているように、今後前向きな議論の上で改善が望まれる。 ## 2.6 緊急事態宣下の実態と課題 COVID-19 禍で文化庁は、遠隔授業等の需要に対応するために授業目的公衆送信補償金制度の早期施行を決定した ${ }^{[16]}$ 。しかしながら、著作権等の複雑な権利問題をめぐる社会的課題は解決したとは言い難く、遠隔オンラ イン学習の障壁となっている。また、初等中等教育においては臨時休校措置を受け、様々な教材が WEB 上で公開された。しかしながら、多くの教材提供サイトでは学習指導要領に則った「主体的・対話的で深い学び」に繋がる教材開発や授業設計は十分に示されていない。したがって、良いコンテンツが公開されても、教師や児童生徒はそれを実際の学習に活用しづらいという課題がある。 ## 3. 研究手法の検討と本研究の提案 3. 1 遠隔教育の類型 遠隔教育の学習デザインを検討するにあたって、まずは遠隔教育の類型を整理する。これまで遠隔教育に関してはいくつかの類型が定義されてきた。たとえば文部科学省は、 (1)同時双方向型-(2)オンデマンド型という手法的観点からの類型 ${ }^{[17]}$ と、(1)合同授業型-(2)教師支援型-(3)教科・科目充実型という目的の観点からの類型を示した ${ }^{[18]}$ 。また、オンラインと対面を組み合わせたブレンド型学習や、 その一形態としての反転授業も行われてきた [19]。そして今日、国は with コロナの社会状況をふまえ、ICTを活用して対面指導と同時双方向型授業・オンデマンド型授業とを組み合わせ、協働的・探究的な学びを展開する学習の「ハイブリッド化」の方針を提示した ${ }^{[20]}$ 。 ## 3.2 遠隔教育に関する先行事例 同時双方向型授業に関する先行研究としては、遠隔地との交流を目的とした実践などが行われてきた。たとえば、水村 (2000)は、国際理解の観点から日豪の生徒でオンライン議論を行う授業を実践し、生徒の歴史認識に予期せぬ視点をもたらした ${ }^{[21]}$ 。しかしながら、同時双方向型授業は時間的制約や ICT 環境の課題があり、中等教育以下において同時双方向型授業のみで遠隔教育をデザインする事は現状では難しい。遠隔教育の必要性が急激に高まった COVID-19禍においても、2020 年 4 月 16 日時点での臨時休業を実施する設置者 (自治体)のうち「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」を課す方針であると 反転授業は時間的制約を解消し授業で応用力を身につける効果が期待されており、日本史授業における MOOC と自作の動画教材を用いた実践 ${ }^{[23]}$ など、オンライン教材を活用した反 転学習の導入が進んでいる。しかしながら、先行研究では歴史学習で欠かせない一次資料を扱っていないという点に課題がある。 ## 3. 3 本研究の提案 ここまでの議論をふまえ、本研究では遠隔教育をめぐる諸課題を解決するために、デジタルアーカイブを活用した授業を提案する。具体的には、遠隔オンデマンド型授業と対面授業を組み合わせたハイブリッド型学習における探究的キュレーション授業の教材を開発し、ジャパンサーチを活用した実践を行う。 表 1 遠隔教育の課題に対する本研究の提案手法 & \\ ## 4. 小-中での年間を通じてのハイブリッド ## 実践 緊急事態宣言下の 2020 年 4 月より、小学校と中学校を対象に、まずは遠隔オンデマンド型での実践を行った。年度はじめであったことに加えて、長期休校措置により対面での細やかな支援ができなかったこと、ICT 環境が万全でなかったことから、以下のような授業展開上の工夫を行った。 i . 教材の第一弾では NHKアーカイブスを活 用し、動画資料から各自の興味関心に沿っ て「問い」を立てる授業をデザインした。 ii . 教材の第二弾ではジャパンサーチを活用し、上記i.で立てた「問い」に基づき探究的にキュレーションする授業をデザインした。 iii. YouTube 動画を制作し、キュレーション、メディアリテラシー、ジャパンサーチの使い方等を楽しく学べるようにした [図 $1]$ 。 iv.ジャパンサーチの共同編集機能を活用し、 キュレーション作品を提出できるようにした。これにより、休校中に児童生徒の学習状況や学習進捗を把握できないという教員側の課題も解決することができた。 休校あけ 7 月からは、対面と遠隔を組み合わせたハイブリッド型授業で地理と歴史分野のキュレーション学習を展開している[図 2]。 図 1 制作した YouTube 動画教材 ${ }^{[25]}$ 図 2 ハイブリッド型授業での発表風景 ## 5. おわりに 本実践を通して、デジタルアーカイブを活用したハイブリッド型の学習デザインは、遠隔教育の需要が高まる昨今の社会情勢に答え、多様な教育機会の創出に寄与できる可能性があることが明らかになった。実践の評価手法や分析結果についても機を改めて報告する。 ## 註 -参考文献 [1] 大井将生, 渡邊英徳. ジャパンサーチを活用した小中高でのキュレーション授業デザイン。 デジタルアーカイブ学会誌,2020,Vol.4,No.4, (in press). [2]文部科学省. 遠隔教育の推進について. 2018.https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo /chukyo3/siryo/_icsFiles/afieldfile/2018/11/21/1411 291-9_1.pdf(参照 2020-08-16). [3]文部科学省. 新型コロナウイルス感染症を踏まえた、初等中等教育におけるこれからの学びの在り方について. 2020. https://www. mext.go.jp/content/20200708-mxt_koukou01-00000 7806_12.pdf (参照 2020-08-17). [4]宮川繁. なぜ E-Learning プロジェクトは失敗することが多いのか. 日本教育工学学会. 2005,29(3), p.181-185. [5]森秀樹, Jeffrey Scott CROSS. MOOC を用いた工学教育の現状. 工学教育, 2018, 66(5), p. $5 \_3-5 \_6$. [6] 藤本徹, 荒優, 山内祐平. 大規模公開オンライン講座(MOOC)におけるラーニング・アナリティクス研究の動向. 日本教育工学学会論文誌, 2018, 41(3), p.305-313. [7]文部科学省 - 国立教育政策研究所. OECD 生徒の学習到達度調査 2018 年調(PISA2018) のポイント. https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/ pdf/2018/01_point.pdf (参照 2020-08-15). [8]文部科学省. 平成 30 年度学校における教育の情報化の実態等に関する調查結果. 2019. https://www.mext.go.jp/content/20191224-mxt_jogai 01-100013287_048.pdf(参照 2020-08-19). [9]文部科学省. GIGA スクール構想の実現について. 2020. https://www.mext.go.jp/a_menu/ other/index_00001.htm (参照 2020-08-12). [10]児玉晴男. オンライン講義の公開に関する知的財産権管理. 情報通信学会誌, 2014, $32(1)$, p.13-23. [11]朝日新聞.シェアに向けて全国美術館アンケートから:下. https://www.asahi.com/articl es/DA3S12922560.html (参照 2020-07-10). [12]時実象一.デジタルアーカイブの公開に関わる問題点: 権利の表記. デジタルアーカイブ学会誌, 2017, 1(Pre), p.76-79. [13] HATO プロジェクト. 教員の仕事と意識に関する調查. 愛知教育大学, ベネッセ教育総合研究所.2016, p.6-7,13. [14]ベネッセ教育総合研究所. ICT を活用した学びのあり方に関する調査報告書. 2014, p. 13 . [15] 野口祐子. デジタル時代の著作権. 筑摩書房. 2010, p.249-276. [16] 文化庁. 授業目的公衆送信補償金制度の早期施行について. https://www.bunka.go.jp/seisak $\mathrm{u} /$ chosakuken/92169601.html (参照 2020-07-20). [17] 文部科学省. 高等学校における遠隔教育の在り方について.2014. https://www.mext.go.jp /b_menu/shingi/chousa/shotou/104/ houkoku/135418 2.htm (参照 2020-06-02). [18] 文部科学省. 遠隔教育の推進に向けた施策方針.遠隔教育の推進に向けたタスクフォー ス. 2018.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zy ouhou/detail/1409323.htm (参照 2020-07-07). [19] ジョナサン・バーグマン,アーロン・サムズ. 上原裕美子訳. 山内裕平,大浦弘樹監修.反転授業. Odyssey Communications. 2014. [20] 文部科学省.これからの遠隔・オンライン教育等の在り方について.2020. https://www. mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/083/siryo /1422644_00008.htm (参照 2020-08-10). [21] 水村裕. インターネットで語り合う平和と人権一世界水準のディスコースをめざして。国際理(31), 2000, p.85-94. [22] 文部科学省. 新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について. 2020-4-16. https://www.mext.go.jp /a_menu/corona virus/mext_00007.html (参照 2020-7-21). [23] 山本良太, 池尻良平, 仲谷佳恵, 安斎勇樹,伏木田稚子, 山内祐平. 高校での反転授業導入の留意点とその手立てに関する研究. 日本教育工学会論文誌, 2019, 43(1), p.65-78. [24] JAPAN SEARCH(B E T A 版). 2020 年 7 月時点で $20,126,677$ 件のメタデータを集約. https://jpsearch.go.jp/stats (参照 2020-07-25). [25] 大井将生,宮田諭志. デジタルアーカイブスで歴史探訪 1-2. 2020. https://www.youtube.c om/watch?v=AOp4k3ACs0w , https://www.youtub e.com/watch? $v=f E u u 9 r U \_h 8 M$ (参照 2020-08-15).
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# [51] 環境教育実践に利する水俣学アーカイブの構築 ○井上ゆかり 1), 花田昌宣 ${ }^{2}$, 矢野治世美 2), 田尻雅美 ${ }^{1}$ 1) 熊本学園大学水俣学研究センター, 〒 $862-8680$ 熊本市中央区大江 2-5-1 2) 熊本学園大学社会福祉学部 E-mail: [email protected] ## Minamata Studies Archive for Environmental Education Practice. INOUE Yukari' ${ }^{12}$, HANADA Masanori2), YANO Chiyomi2), TAJIRI Masami ${ }^{12}$ 1) Open Research Center for Minamata Studies of Kumamoto Gakuen University, 2-5-1 Oe Chuo-ku Kumamoto 862-8680 Japan. 2) Social Welfare Department of Kumamoto Gakuen University. ## 【発表概要】 いまだ水俣病をめぐる差別事件があとをたたず、水俣病を中心に据えた地域づくりを模索している熊本県において、学校や一般社会における公害教育は必要不可欠である。水俣病公式確認から 64 年が経過するなかで、「公害水俣病」に対して多角的視点から取り組める人材が求められている。そこで本研究では、熊本学園大学学生、小中学校教員、市民を対象として、独自に制作した「水俣学アーカイブ」という集積されたデータを活用し、公害教育のモデル化を行い、多様な分野の知識や考え方を持ち合わせた人材を育成し、最終的には公害教育のプラットフォームを形成することで、水俣病事件を理論的・実践的に研究する社会基盤を構築することを目的としている。このことを通して、人類が初めて経験した水俣の知的資源を世界に解放する素地を形成する。ここでは、水俣学独自のアーカイブの進捗過程と課題、これを環境教育に利活用する試案を報告する。 ## 1. はじめに 本研究の目的は、多様な専門分野を持つ研究者がグループ毎に水俣学アーカイブを教材として、「身体的な病」としての水俣病だけでなく、社会的な病である「公害水俣病」を総体的に理解する実践的な授業の手法開発を研究者が提示し、大学教育、小中学校教員、被害当事者、市民を対象とした公害教育モデルを形成することにある。つまり、アーカイブを活用できる人材育成とヒトとモノをマッチングする学習指導案の提示である。すでに体系化されている環境教育のカリキュラムを援用し、水俣学アーカイブを教育へ効果的に活か寸手法開発を通して環境教育の地域間・学校間の温度差を解消し、「公害水俣病」に関わる多様な知識や考え方を持つ人材の育成を図ることにある。 ここでは、水俣学アーカイブが被害当事者や市民らと独自に制作してきた進捗過程と課題を提示し、環境教育に活かすための実践的な学習指導案をどのように検討しているかを提示してみたい。 ## 2. 熊本県下の環境教育 日本では、環境教育の一層の推進を図ることを目的として「環境教育等による環境保全の取り組みの促進に関する法律」(2011 年 6 月改正)が定められている。しかし、2000 年代に入り環境教育において「持続可能な社会の実現」という目的は共有されたものの教育現場においては環境教育実践率に学校や地域間での格差が生じている。熊本県では 2011 年から「水俣に学ぶ肥後っ子教室」として県下全ての小学 5 年生が水俣市を訪れる環境教育が位置付いている。にもかかわらず、熊本市での球技大会において水俣の中学生に向かって熊本市内の中学生が「水俣病、触るな」と発言する差別事件が発生し、その後も差別事 件はあとをたたない。 地元教職員らで公害教育研究に取り組む団体「水俣芦北公害研究サークル」らととともに当該の差別発言をした児童の参与観察を行ってきた。そのなかで、日本における環境教育が低迷化している原因に公害教育が単に現地を視察し、語り部の話を受動的に聞くのみで終始しているため「自ら考え想像する力」 まで育成できず差別事件が繰り返されていることを明らかにしてきた。 一方、小中の学校教育においては、第 1 に公害被害の実態学習・被害者の声に学び・映像やドキュメント資料の学習をする、第 2 に公害の原因を探るとして原因企業の行動や被害住民に対する態度やなぜ公害を引き起こしてしまったかを学び、第 3 に将来に向けての教訓を考え自分たちの暮らしを問い直すという 3 つのステップで組み立てられている。しかし実際には、教育現場では教材研究をするゆとりがないままノウ八ウも枯渴しつつある。 2019 年 3 月、水俣市内に病名変更を求める看板が一部の市民によって張り出され、同年 7 月には熊本県水俣市議会の議会運営委員会が、水俣病問題を審議する「公害環境特別委員会」の名称から「公害」を外す議案を可決した。患者団体からは水俣病事件の終息にも至っていない状況のなかで、審議する委員会の冠をとることはおかしいとして抗議が巻き起こった。一部の水俣市市議会議員は「いつまでも『公害』を掲げていては、街のイメー ジに関わる」と発言している。このような中で、公害教育・自然体験教育・持続可能な開発のための教育 (Education for Sustainable Development: ESD)を行うためには、今の地域課題を視野に入れた公害教育が求められている。しかし、地域資源を活用した参加型調査や地域社会連携を環境教育のなかに位置づけた実践的研究は行われてこなかった。 ## 3. 水俣学アーカイブ 本研究の特徴として、被害当事者・市民・様々な専門分野の研究者が独自に制作してきた「水俣学アーカイブ」という集積した水俣病事件のデータを公害教育実践に活用することにある。この水俣学アーカイブは、各種競争的資金の関係で便宜上、文献資料からなる 「水俣学研究センター所蔵資料データベース」 (以下、水俣学データベース) と視覚的に水俣を理解してもらう「水俣学アーカイブ」で構成している。 ## 3.1 水俣学データベース 「水俣学データベース」は、2009 年から当センターのホームページ上で公開を開始した (http://www3.kumagaku.ac.jp/minamata/dat abase/)。現在までに下記の資料を公開している。 (1) 新日本窒素労働組合旧蔵資料:水俣病の原因企業であるチッソ株式会社の労働組合で被害当事者支援を行った資料 (2)水俣病研究会蒐集資料:チッソに対する訴訟で原告・弁護団を支援する目的で結成され、訴えの論拠と裏付けを提示するために一次資料の蒐集を行った資料 (3) 松本勉旧蔵資料:元水俣市職員で水俣病市民会議事務局長当時の資料 (4)宮澤信雄旧蔵資料:ジャーナリストでありながら被害当事者を支援し水俣病事件研究を続けた資料 (5)水俣教組旧蔵資料:水俣市教職員組合が収集した資料 (6)最首悟旧蔵資料:不知火海総合学術調査団に参加し漁業の変遷を一次資料から研究した資料 (7)浜元二徳旧蔵資料:水俣病一次訴訟原告として水俣病問題を社会化した資料 (8)鰐㴊健之旧蔵資料:1959 年厚生省食品衛生調查会水俣食中毒特別部会の委員を務めていた当時の資料 文献目録には、一部資料画像のマスキングを行い(マスキング基準有)公開している。 さらにカセットテープなどの音源資料は、デジタル音源に変換し、目録上で視聴できるよ ## う工夫を加えた。 写真資料は、水俣病事件のただなかを生きてきた元新日本窒素労働組合員の協力を仰ぎ、写真 1 枚に(1)フィルム番号、(2)コマ番号、(3)現像日、(4)夕イトル、(5)撮影地、(6)人物、 (7)主題別荣引、(8)備考を記載する「写真資料カード」を作成し、写真 1 枚が水俣病事件を知らない若い世代にまで語り続けていける情報を盛り込んだ。こうした地域の人材とモノをマッチングし後世に資料を受け継ぐことこそが研究基盤を構築するのみならず、水俣病事件を中心とした教訓の発信につながるといえよう。なお、写真画像は目録上で順次公開している。2016 年熊本地震でこれらの資料も被災し、なかでも文書箱に保存していなかった水俣病研究会菟集資料が飛散したため、再整理を 3 年かけて終え、再公開している。 2020 年 9 月には、すでに公開した資料を横断的に検索が可能となる機能を搭載し活用の促進に努めている。 ## 3.2 水俣学ア一カイブ 水俣学アーカイブは、資料と映像をリンクしたアーカイブで、今の水俣を研究者以外にも理解が容易になるよう、閲覧システムをホ ームページ上に構築し 2014 年に公開した (http://www3.kumagaku.ac.jp/minamata/ma rchives/)。背景には、第 1 に、水俣病第 1 次訴訟を経験した初期の被害当事者の年齢も 90 歳代となり、歴史の証人が存在しない危機的状況が到来する局面を迎えていること、2つ目には、これまでのテレビ映像が伝えてきた急性劇症型水俣病の映像が多くの人びとに 「あれが水俣病」という記憶を植え付けているがために、患者実相との間に距離が生まれていること、 3 つ目には、水俣市内及び周辺地域には、水俣病の歴史を記す案内看板は百間排水口や親水護岸にしかなく、水俣湾は埋め立てられ、地元においてさえ水俣病事件の記憶を辿ることが難しくなっていること、さらに水俣病の教訓を活かすには、水俣病が発生する以前から現在にかけての土地の歴史を知ってもらう必要があった。コンテンツは次のように構成した。 (1)証言:「患者証言」を動画で配信(ショート版とロング版で構成) (2)歴史:「水俣今昔」水俣市街写真の昔と今を地図上にキャプションつきでマッピング、「時空でたどる新日窒労組」安定賃金闘争時代において組合がどのような闘いを行ったかを写真とキャプションで辿る、「水俣病事件史略年表」 (3)自然:「海辺の物語」みなまた地域研究会の生物写真とキャプションを地図上にマッピング、キャプションは生物学者監修 (4)教育: セミナーや授業の紹介、水俣芦北公害研究サークルの教材資料紹介と教員の証言 (5)記録:新日窒労組 8 ミリグループ映像 (6)未来:水俣病事件の教訓を活かした町づくりプロジェクトの紹介 「患者証言」は、録画を当センターが編集し運営委員会で議論し、本人に確認してもらい承諾書をもらったうえで公開している。 2016 年にはアーカイブの英語版を公開したことで海外からの閲覧も増えている。 ## 4. 熊本学園大学での環境教育の現状 熊本学園大学では、環境教育として学部講義に福祉環境学入門 - 水俣学講義 - 福祉環境論特講水俣現地研修・環境マネジメント論をカリキュラムとして置き(表 1)、大学院修士課程に福祉環境学専攻を設置し、人類の負の遺産としての公害・水俣病の経験を将来に活かす取り組みを行っている。それにともない 表 1 社会福祉学部の公害教育カリキュラム & 福祉環境論特講 & 水俣学講義 & 環境マネジメント論 \\ 専門家主義の反省をふまえて学際的な研究の上にたち、水俣学の教育研究を行い研究者の育成に努めている。 一方、水俣学研究センターでは、学部講義や大学院教育との連携だけでなく、水俣市民向けに公開講座、また広い分野の研究者や市民が参加する水俣病事件研究交流集会で研究の深化を図っている。さらには、水俣芦北公害研究サークルと連携し、地元教職員を対象として、セミナーを開催している。水俣病公式確認から 64 年が経過するなかで、患者と対話することで公害という経験を追体験し、水俣病多発地帯である漁村を歩く経験を経て、環境教育に携わる教員は熊本県においても少ないからにほかならない。このほか、全国から研究者などが参加するセミナーを開催し ESD を実践している。しかし、水俣学アーカイブを活用するには至っておらず、県下の小・中・高等学校へ環境教育に活かす実践例を提示するには至っていなかった。 ## 5. 環境教育に活かす取り組み 本研究では、水俣病を理解するらえで必須となる「生業・文化」、「被害-福祉」、環境$\cdot$街創生」、「水俣学アーカイブ」の 4 つの調查教育を研究の柱とし、研究分担者の専門性、連携支援組織を活かした環境教育に益する研究を進めている。なお本研究は、文部科学省科学研究費基盤研究 (B)「公害教育実践に利する水俣学アーカイブの構築とその外延」に採択され、本年が 1 年目となる。そのため各グループでは、教育事例の収集につとめ、必要に応じて遠隔で研究会を開催している。 <生業・文化調查教育グループ>では、水俣病発生以前の不知火海沿岸の人々の生活を生業と文化形成の視点から理解し、水俣病事件が人々の暮らし、地域そのものに与えた影響を考える教育手法を検討している。 <被害・福祉調查教育グループ>では、水俣病公式確認から半世紀が過ぎた今も被害の全容が解明されていないなかで社会的な病としての水俣病の被害構造を経済学・障害学・社会福祉学の視点から捉える教育の検討を行っている。さらに、被害当事者の福祉的課題を核家族化で高齢者と接したことのない人々にも理解してもらいやすい教育手法を検討している。 <環境・街創生調查教育グループ〉では、水俣湾埋立地、八幡残椬プールなど環境リスクマネジメント、負の遺産である水俣病の経験を街づくりに活かすことを学生や市民らとともに考える教育手法を検討している。 く水俣学アーカイブ調查教育グループ>は、上記 3 つのグループの調查研究を包括する。従来の水俣学アーカイブは水俣病事件資料の保全・保管・公開の機能しかもたなかった。 しかし本研究では、資料と教育をつなげ教育モデルを構築するため、先進的取り組みを行う韓国の明知大学校人間と記憶アーカイブ研究所と連携し、アーカイブそのもののあり方の検討をはじめた。 ## 6. おわりに 水俣の実相を国際的に発信することで、なぜ水俣病事件史は終わることができないのかを多くの人びとに考えていただく一助にしたい。水俣学アーカイブを環境教育に活かすことはその模索のはじまりである。 ## 参考文献 [1] 『水俣病・授業実践のために』水俣芦北公害研究サークル,2016,p88. [2] 宇井純『新装版合本公害原論』亜紀書房,1971.3.1, p 270. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [45] $360^{\circ$ ビューモーフィング: 2 枚のパノラマ写真によるウ オークスルー可能な空間のアーカイブ } ○田中美苗 ${ }^{1)}$, 河合直樹 ${ }^{1)}$ ,近藤孝夫 ${ }^{11}$ 1) 大日本印刷株式会社マーケテイング本部アーカイブ事業推進ユニット事業開発第 3 部ビジュアルイン タラクション開発グループ,〒162-8001 東京都新宿区市谷加賀町 $1-1-1$ E-mail: [email protected] ## $360^{\circ$ View Morphing: Archive of walkthrough space generated from two panoramic photographs} TANAKA Mina ${ }^{1)}$, KAWAI Naoki ${ }^{1)}$, KONDOU Takao ${ }^{1)}$ 1) Dai Nippon Printing Co, Ltd.(DNP), 1-1-1, Ichigaya-Kagacho, Shinjuku-ku, Tokyo, 162- 8001 Japan ## 【発表概要】 $360^{\circ}$ ビューモーフィングは、ひとつの空間の中の 2 地点で撮影したパノラマ写真を合成して VR 空間を生成する技術である。この技術では、 2 つ撮影地点間をウォークスルーするように移動したり、任意の地点で立ち止まって周囲を見回したりするような没入感の高い体験が Web ブラウザ上で可能である。パノラマ写真 2 枚から生成可能なため、制作負荷が低く、手軽に空間をアーカイブすることができる。本発表では、この技術の概要と歴史的建造物や展覧会での使用事例を紹介すると共に空間アーカイブの意義と課題についても触れる。 ## 1. はじめに これまで歴史的建造物などの室内空間を写真や映像でアーカイブする様々な取り組みが行われてきた。パノラマ写真の利用もそのひとつで、Google Street View などでの取り組みが広く知られている。これらの手法では、 ひとつのパノラマ撮影地点と次の撮影地点の間をジャンプするように視線を移動させるのが一般的であるが、ユーザが意図した地点とは異なる地点で視線の移動と静止を繰り返すため、ユーザ自身が自然にウォークスルーをしている感覚が得られにくい。また、ユーザが任意の地点で周囲を見回すような体験も困難である。一方コンピュータグラフィックス (CG)で制作されたコンテンツでは、自然な視線の移動や任意の地点で見回すことが可能であるが、制作コストや写実性に課題がある。 我々は、ひとつの空間の中の 2 地点でパノラマ写真を撮影し、それらを合成して VR 空間を生成する技術「 $360^{\circ}$ ビューモーフィング」を開発した。この技術では、 2 つの撮影地点間をウォークスルーするように移動したり、任意の地点で立ち止まって周囲を見回したりするような没入感の高い体験が Web ブラ ウザ上で可能である(図 1)。 図 1. $360^{\circ}$ ビューモーフィングの特徴 ## 2. $360^{\circ$ ビューモーフィングについて} ## 2.1 技術概要 ビューモーフィングは、 2 地点で撮影された 2 枚の画像から、その中間での視点のビュ一を生成する手法で、Seitz らによって提案されている[1]。この手法では、運動視差による像の移動がエピポーラ線上に限定されることを利用して中間ビューを生成する。また、 McMillan らは、2つのパノラマ画像におけるエピポーラ線の性質を明らかにし、円筒図法上でビューモーフィングを施すことで、任意視点でのパノラマビューを生成する手法を提案しているが、この手法では被写体に歪みが 生じる[2]。 パノラマ画像の投影法には様々なものがあるが、代表的なものに円筒図法、正距円筒図法、キューブマップが挙げられる。ビューモ ーフィングに利用すると、円筒図法では、表現できない領域があり、直線が曲線として投影されてモーフィング像に歪みが生じる。正距円筒図法では全方位を表現できるが、歪みが生じる。キューブマップでは全方位を表現でき、歪みもないが、画像が立方体の 6 面に分割されるため、境界をまたぐ被写体の対応付けやレンダリング処理が複雑になる。 そこでこれらを改善し、被写体の直線性と画像の連続性を両立した投影法として管状のマップ(Tubemap)を考案した。Tubemap では、投影面を横長の 4 領域から構成される 1 枚の画像となるようにし、前後方向には蓋をするような形で該当するテクスチャを貼り付ける。このようにしてTubemapでは被写体の直線性が維持され、かつ、境界が無く全方位を連続して表現できるようになっている [3][4]。 ## 2. 2 撮影と制作 まずひとつの室内空間の中で、撮影する 2 地点を決定する。基本的には、空間の中央を通る直線上に壁から等距離の地点を 2 地点設定して撮影する(図 2)。360 度映り込むため、三脚を使用し、撮影者は室外や物陰に隠孔てリモートで撮影する。隅々まで映り込むものへの配慮が必要であるが、基本的に通常のスチール撮影と同じように撮影する。現在は価格や撮影の手軽さを重視し、撮影には市販の 360 度カメラを使用している。 次に撮影したパノラマ写真の垂直、水平方向の向きを合わせる。三脚を使用してもわずかな傾きが出るため、正確に上下が垂直になるように補正し(図 3)、2 枚のパノラマの方位を合わせた後 Tubemap形式に変換する(図 4)。次いで 2 枚の Tubemap 中に写っている被写体の位置による視差を対応づけし(図 5)、独自形式のポリゴンデータを生成する。これら一連の作業を軽量化するため、制作ツール を用意している。 図2. 撮影地点 図3. 傾きの補正 図4. 方位合わせ 図 5. 視差対応づけ ## 3. 空間ア一カイブの事例 $360^{\circ}$ ビューモーフィングを使用した 3 つの事例を紹介する。 ## 3. 1 歴史的建造物 最初に歴史的建造物の事例として、応挙館を紹介する。応挙館は、東京国立博物館本館北側の庭園に配された 5 棟の茶室のひとつである。東京国立博物館のウェブサイトによると[5]、尾張国(現在の愛知県大治町)の天台宗寺院、明眼院の書院として宽保 2 年 (1742) に建てられ、その後東京都内に移築された後、昭和 8 年 (1933) 同館に寄贈され、現在の位置に移された。室内に描かれている墨画は、天明 4 年 $(1784)$ 、円山応挙 $(1733 \sim 1795)$ が明眼院に眼病で逗留していた際に描いたものと伝えられている。墨画は保存上の理由から収蔵庫で保管されているが、2007 年に最新のデジタル画像処理と印刷技術による複製の障壁画が設置され、応挙揮毫当時の絵画空間が再現されている。 図 6. 応挙館(東京国立博物館)室内の様子とウォークスルーのイメージ ## 3. 2 美術館 次に美術館での事例として、ギンザ・グラフィック・ギャラリー (ggg) で 2020 年 6 月 29 日から 8 月 29 日まで開催された「TDC $2020 」$展を紹介する。「TDC 展」は、東京タイプデイレクターズクラブ(東京 TDC)が主催し、 タイポグラフィ中心の国際アニュアルコンペティション「東京 TDC 賞」の受賞作品、ノミネート作品などを展示する企画展で、毎年開催されている。 2020 年も 4 月から開催予定で会場が設営されたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、6 月末まで開催が延期された。そこで展示会場は完成したものの閉館を余儀なくされた ggg での展示の様子をバーチャルに体験できるコンテンツとして、ggg のウェブサイト上で公開された。[6] 図 7. TDC2020 展(ggg)会場の様子とウォー クスルーのイメージ ## 3. 3 企業展示会 最後に企業展示会の事例として、福音館書店の「あけてみようかがくのとびら展」を紹介する。同展は、福音館の月刊科学絵本「かがくのとも」が創刊 50 周年を迎えるのを記念して開催された展示会で、2019 年 8 月 23 日から 9 月 8 日にかけてアーツ千代田 3331 で開催された。自然、体、食べ物、乗り物の 4 つ の切り口から、これまでに出版された絵本やその原画と共に科学の楽しさを伝える様々な展示やイベントが行われた。 この「あけてみようかがくのとびら展」開催を告知、PRするホームページにて、会場の様子を紹介する VR として公開された。[7] 図 8. あけてみようかがくのとびら展会場の様子とウォークスルーのイメージ ## 4. おわりに これまで紹介していきたように、 $360^{\circ}$ ビユーモーフィングでは、市販の 360 度カメラを使用して撮影したパノラマ写真 2 枚から写実的な VR 空間を生成する。大がかりな $3 \mathrm{D}$ 計測やモデリングを行わずに VR 空間を作成できるので、手軽に室内空間などの雾囲気を体験できるコンテンツを提供可能である。 空間そのものをアーカイブし、その中で視線を自由に移動できるようにすることは、その空間がなくなった後にもそれを往時のままに体験できるという利点がある。写真や映像でもその様子を伝えることはできるが、自由 に見まわしたり、視線を移動したりすることで、臨場感を高めることができる。しかしながら、空間のアーカイブという概念がまだ普及しておらず、映像との違いを理解してもらうことが難しいところがある。また手軽にできるとはいえ、新しい概念のものに費用を捻出するのが困難なことや、撮影された作品の権利関係などが課題になっている。 ## 参考文献 [1] Seitz, Steven M and Dyer, Charles R : View morphing, Proceedings of the 23rd annual conference on Computer graphics and interactive techniques, pp. 21-30, 1996. [2] McMillan, Leonard and Bishop, Gary : Plenoptic modeling: An image-based rendering system, Proceedings of the 22nd annual conference on Computer graphics and interactive techniques, pp. 39-46, 1995. [3] 河合直樹, ウォークスルーに好適な全方位画像表現の提案. 第 24 回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集, 3C-05, 2019. [4] Kawai N, Kondo T and Tanaka M :Tubemap:A projection for omnidirectional view interpolation, SIGGRAPH2020:ACM SIGGRAPH 2020 Poters, Article No.: 27, 2020. [5] 東京国立博物館来館案内構内マップ庭園・茶室応挙館. https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.ph $\mathrm{p} ? \mathrm{id}=121$ (参照 2020-08-19) [6] ギンザ・グラフィック・ギャラリー お知らせ【ggg】TDC2020 展:展覧会動画・VR 公開. 2020/6/1 http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/tdc2020pvr/gggT DC_B1F.html (参照 2020-08-19) http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/tdc2020pvr/gggT DC2 B1F.html (参照 2020-08-19) [7] 福音館書店あけてみようかがくのとびら. https://www.fukuinkan.co.jp/kagakunotomo50/eve nt/ (参照 2020-08-19)
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# [44] 360 度パノラマ画像を用いた書道展のデジタルアーカイ ブ化 O林知代 ${ }^{1)}$, 梶原麻世 1) 1) 岐阜女子大学,〒 $501-2592$ 岐阜市太郎丸80 E-mail: [email protected] ## Using 360 degree panoramic image Digital archive of calligraphy exhibition \author{ HAYASHI Tomoyo ${ }^{1)}$, KAJIWARA Mayo¹) \\ 1) Gifu Women's University, 80 Taroumaru Gifu, 501-2592 Japan } ## 【発表概要】 本稿では、書作品の鑑賞における展示会の意義をアンケート調査により明らかにし、360 度パノラマ画像による展示会のデジタルアーカイブ化による書道鑑賞の充実を試みた。 書道を学ぶ学生へのアンケート調査の結果、書作品の鑑賞は書道展が重要な役割を果たしており、書作品の雾囲気、構成、書き振りが感じられるデジタルアーカイブが必要であることが明らかになった。360 度パノラマ画像の記録し、VR コンテンツを制作し、検証したとこと、展示会の雾囲気を味合うことはできたが、作品の雾囲気を味合までには達することができなかった。詳細なデータ記録をすることで、VR 技術を用いた書作品の鑑賞を現実的なものとすることができると考える。 ## 1. はじめに 書作品の鑑賞方法として、今のところもつとも親和性が高いと考えられるのは、図書館や博物館に所蔵されている書跡・典籍書のデジタルアーカイブの活用である。国立国会図書館デジタルコレクション[1]や e-国宝[2]等の WEBサイトでは、歴史的な古典籍を鑑賞することができ、愛好家や書道を学ぶ人の眼を楽しませているし、書道学習の基本とされている古典臨書の手本や創作活動のヒントとしても役立っていると考えられる。 デジタルアーカイブの構築の方法についても、平面資料が主であることから、デジタルカメラやスキャン技術による静止画像としてのデジタル化の方法や IIIF 等を活用した提示方法の標準化 $[3,4]$ が行われてきており、デジタルアーカイブ化が進んでいる分野と言える。 しかし、書作品は古典籍ばかりではなく、日々新しい作品が書道家や書道を学ぶ人、教育活動の一貫として日常的に生み出されおり、 それらの鑑賞には、従来行われてきた展示会や作品集の鑑賞が主流であると考えられる。本学においても、書道・国語専修書道教育コ一スの学生による、学内展示や書道展が定期的に行われている。 一方、美術館や博物館での鑑賞活動の VR 化一の期待についてはかねてから言及されており [5,6]、国立科学博物館のおうちで体験科博 VR[7]が公開されるなど、VR 技術を用いてコンテンツ化された展示を鑑賞することは、現実的なものとなってきている。 そこで、本稿では、書道を学ぶ学生を対象に、どのように書道作品の鑑賞を行なっているかを調查するとともに、「平成 30 年度岐阜女子大学・大学院書法展」をモデルに、360 度パノラマ画像を用いた書道展のデジタルア ーカイブ化について検討したので報告する。 ## 2.書作品の鑑賞についてのアンケート調査 2.1 調査の方法 書道に関わりがあり、書作品を鑑賞する機会が多いと思われる岐阜女子大学の文化創造学部、文化創造学科、文化創造学専攻、書道・国語専修、書道教育コース 1 年生から 4 年生の 62 名を対象に、令和 2 年 6 月 1 日 19 日の期間で、Google 社の提供する Google Foam を使ったアンケート調查を実施した。 質問項目は、1)学年 2)書作品を鑑賞することが多い媒体(展示会・作品集(パンフレットを含む)・インターネット・その他より選択)とその理由(自由記述)3)書作品の鑑賞で重要視する点(自由記述)4)目的別の媒体((展示会・作品集(パンフレットを含む)・インターネット)選択。 本稿では、2)書作品を鑑賞することが多い媒体 3)書作品の鑑賞で重要視する点の結果ついてのみ報告する。 ## 2. 2 調査の結果 「書作品を鑑賞することが多い媒体」については、展示会 36 名、作品集 (パンフレット含む) 15 名、インターネット 9 名、その他 2名の結果となった。(図 1) 図 1. 書作品を鑑賞することが多い媒体アンケート結果 この結果から、半数以上が展示会での鑑賞方法を主に利用していることがわかった。 また、展示会と答えた 36 名の自由記述には、「実物を実際に目で見て、大きさや迫力などを感じられるから。」といった鑑賞を楽しむ記述や「自分が出品する関係で展覧会に行くことが多いから。」といった展示会が身近なものと感じられているとわかる記述が多くあつた。 「書作品の鑑賞で重要視する点」の自由記述では、「全体の雾囲気」「まずは第一印象」 といった、書作品の雾囲気を重視する記述が多くみられた。次に「全体のバランス」「余白」 といった書作品の構成を重視する記述、「墨色」「筆の動き」「かすれ具合」など文字の書き振りを重視する記述が多くみられた。その他「表装も気になる」「何をもとにしているのか」 などの記述も少数だがみられた。 これらの結果から、書道を学ぶ学生は、展示会を重視しており、鑑賞には、書作品の書作品の雾囲気、構成、書き振りが重要視されていることがわかった。 ## 3. 360 度パノラマ画像を用いた書道展の デジタルアーカイブ化 \\ 3.1 実践の概要 令和 2 年 2 月 28 日(金) 3 月 1 日(日)に岐阜市民会館 2 階展示フロアーで行なった「令和元年度岐阜女子大学・大学院書法展」を対象に、360 度パノラマ画像を用いたデジタルアーカイブ化を試みた。 撮影には RICOH 社の 360 度全天球カメラ 「RICOH THETA S」、コンテンツ作成には、 360 度パノラマ画像のバーチャルツアー制作できる Garden Gnome Software 社の 「Pano2VR 6pro」を使用した。 ## 3. 2 撮影の様子 今回の展示会における書作品の展示は、 7 部屋とロビー廊下を利用して行われ、施設常設の壁面に額装や表装された作品が並ぶ。 ライティングについても施設の常設の状態であり、部屋によって光源の色や明るさが異なつていた。作品の展示位置は、作品の大きさがそれぞれ異なるため、目線の高さを考慮しつつ、周辺の作品と作品の中心位置が揃うように展示しているとのことであった。計測したところ $110 \mathrm{~cm} \sim 140 \mathrm{~cm}$ の高さに作品の中心位置があるものが多かった。キャプションの高さは $140 \mathrm{~cm}$ で統一されていた。作品と作品の間隔を約 $20 \mathrm{~cm}$ 開けて展示されていた。 撮影の位置について今回の記録では、部屋全体の様子を記録するため、各部屋の中心位置での撮影を心がけ 14 箇所で撮影した。(図 2) 撮影カメラの高さについては、数パターン試行した結果、 $140 \mathrm{~cm}$ とした。 図 2. 書道展会場見取り図 図 3 は(10)の撮影の様子である。 図 3. 撮影の様子 また、 4 年生の作品については、一人 3 作品程度でコーナーを形成していたので、一人一人のコーナーの真ん中の位置で、高さ $140 \mathrm{~cm}$ 、作品から $138 \mathrm{~cm}$ の距離で撮影した。 ## 3. 3 コンテツ化 今回の撮影データから、書道展の全体像を体感できる「書法展バーチャルツアー」、4 年生の作品を鑑賞できる「 4 年生作品鑑賞ツア一」を試作した。 「書法展バーチャルツアー」は、見取り図で位置を選択するか、画面上の矢印を選択していくことにより、展示室を移動して、展示の様子を 360 度回転させながら見ることができるようにした。(図 4) その結果、展示会の雾囲気は掴めるが、書作品は平面であるため、部屋の中心で撮影した 360 度パノラマ画像では作品が湾曲して写っているため、個々の作品の雰囲気を味わう までには到達できないことがわかった。 $「 4$ 年生作品鑑賞ツアー」については、個人名を選択することによって、選択した人のコーナーに移動し、その人の作品を見ることができるようにした。 4 年生の作品については、表装前に接写した静止画も活用し、静止画の表示機能を加えた。(図 5)(図 6) 図 4.「書法展バーチャルツアー」画面 図 5.「4 年生作品鑑賞ツアー」画面 図 6.「4 年生作品鑑賞ツアー」画面静止画表示時 こちらは、中心写っている作品については、 湾曲が少なく、作品の雰囲気や表装についても鑑賞できるものとなった。さらに静止画での鑑賞機能を追加することで、満足感の感じられる提示となった。 しかし、中心でない作品については、やはり湾曲してしまうため、作品の雾囲気を味わうには、難しいように感じられた。 ## 4. おわりに 本稿では、書作品の鑑賞における書道展の意義をアンケート調査により明らかにし、 360 度パノラマ画像による展示会のデジタルアーカイブ化による書道鑑賞の充実を試みた実践を報告した。 アンケート調査の結果、書作品の鑑賞には展示会が重要な役割を果たしており、書作品の雾囲気、構成、書き振りが感じられるデジタルアーカイブが必要であることが明らかになった。 また、360 度パノラマ画像の記録では、全体像を捉えられることが特徴であると考え、撮影場所の中心位置で撮影を行なったが、そのような映像のままでは、場所の雾囲気を記録・提示することは可能だが、実際の鑑賞活動と同等の情報を記録・提示するには、デー タとして足りないことがわかった。 しかし、このことを踏まえて、今後、対象に近づいた詳細なデータの記録を行なったり、高画質な記録を行い加工することで、360 度パノラマ画像を用いたデジタルアーカイブの可能性を広げることができると考える。 また、本稿でのコンテンツの評価は、制作者の主観によるものであるため、HMD を使 つて鑑賞した場合なども含め、今後、成果物についての評価についての研究が、今後必要であると考える。 それらを進めることにより、VR技術を用いてコンテンツ化された展示による書道鑑賞の充実が、現実的なものとなると考える。 ## 参考文献 [1]国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/ (参照 2020-08-10). [2]e-国宝 https://dl.ndl.go.jp/ (参照 2020-08-10). [3]国立国会図書館資料デジタル化の手引 (平成 29 年 4 月作成). 国立国会図書館 https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/ guide.html (参照 2020-08-10). [4]文化資源のデジタル化に関するハンドブック(2011 年).東京大学大学院情報学環・凸版印刷共同研究プロジェク. 2011.3 https://www.center.iii.u- tokyo.ac.jp/publications/handbook/ (参照 2020-08-10). [5]鳴海拓志.ディジタルミュージアムにおける VR/AR の利用 (特集人工知能と歴史).人工 知能学会誌 31(6), 794-799, 2016-11 [6]武邑光裕. VR とデジタルアーカイブ : 文化の記憶と文脈から. 日本バーチャルリアリテ个学会誌 8(1), 23-27, 2003-03-25 [7]おうちで体験科博 VR. 国立科学博物館 https://www.kahaku.go.jp/VR/ (参照 2020-08-10). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [43] 海外博物館彫像資料の 3 次元デジタルアーカイブ化の 試み: イタリア共和国オスティア・アンティカ遺跡博物館での取り組みを事例として ○江添誠 ${ }^{1)}$, 豊田浩志 2$)$ 1)神奈川大学 国際日本学部 〒221-8686 神奈川県横浜市神奈川区六角橋 3-27-1 2) 上智大学名誉教授 E-mail: [email protected] ## An attempt to create 3D digital archives of statues in the overseas museum: A case study of efforts in the museum of Ostia Antica, Italy EZOE Makoto ${ }^{1)}$, TOYOTA Koji2 1) Kanagawa University, Faculty of Cross-Cultural and Japanese Studies 3-27-1 Rokkakubashi, Kanagawa-ku, Yokohama-shi, Kanagawa, 221-8686 JAPAN 2) Sophia University, Professor Emeritus ## 【発表概要】 本研究は、2017 年より上智大学豊田浩志名誉教授を研究代表者とする科学研究費助成事業 (基盤研究(B))(研究課題名「先端光学機器によるオスティア・アンティカ遺跡・遺物の文字情報調査」、課題番号 17H02410)の助成を受けて、研究分担者として発表者がオスティア・アンティカ遺跡博物館で取り組んできた展示彫像群の 3 次元デジタルモデル生成プロジェクトを実例として、研究データや展示資料としての 3 次元デジタルモデルの有用性を検討するとともに、それらをアーカイブ化して活用する方法を、大英博物館など海外の事例などを比較しつつ考察してみたい。 ## 1. はじめに 海外の博物館ないし考古局などに収蔵されている資料の多くは、ほとんどの場合 2 次元の写真と図面でしかその存在を確認することができず、一般の人々はもちろんのこと、研究者であっても現地にて展示されたものを見る機会を得られない限りは、それらを立体物として確認することはできない。また展示されているものよりもはるかに多い収蔵庫に収められている資料は特別の許可を得られない限り、その存在すら確認できないことが多い。実際の収蔵資料に直接触れることができる研究者が極めて限定的であるという博物館資料の持つ根本的な学問上の問題は容易に解決できるものではないが、収蔵資料をデジタル写真測量し、質感も伴う形で 3 次元デジタルモデル(以下 $3 \mathrm{DDM}$ )を生成し、それらをアー カイブ化し、共有できる環境を構築していければ、収蔵資料を直接見ることのできない研究者にも実物を観察したのと同様の研究ができる可能性が生まれてくる。 本研究は科学研究費の助成を受けて、発表者が 2017 年度よりオスティア・アンティカ遺跡内の博物館において考古公園局のスタッフの協力の下で行ってきた $3 \mathrm{DDM}$ 生成プロジェクトの概要を実例として紹介しつつ、写真測量による $3 \mathrm{DDM}$ 生成の留意点や考古学や美術史学の研究データや博物館における展示資料としての有用性をこれまでの 2 次元の遺物デ一タと比較して検討を行いたい。 また、これらの $3 \mathrm{DDM}$ データをアーカイブ化し、ウェッブ上で公開していく方法について、海外の事例を踏まえて考察してみたい。 ## 2. オスティア・アンティカ遺跡の出土遺物 に関するデータベースの現状 2017 年夏期に行ったオスティア・アンティア遺跡の出土遺物データの整理活用に関する聞き取り調查で、考古公園局が作成しているデータベースは遺物管理用で、文字情報のみのものであり、一般公開はおろか研究者に対しても公開できるような状態でなく、その使用についても ID で管理された考古公園局のスタッフ以外はアクセスできない状況であるこ とが判明した。また、博物館の展示資料についても公式なカタログはなく、収蔵品のリス卜も外部には公開されていない状況であった。 こういった状況の一方で、首都ローマから電車で 30 分弱の立地であるにも関わらず観光客の来園数が伸び悩んでおり、遺跡の認知度を上げるためのイベントやワークショップの開催やホームページの充実が急務であるとの要望を受けた。 このような状況を鑑みて、2018 年夏期にデジタル写真測量による博物館内の彫像群の 3DDM を生成し、一般公開可能な形でアーカイブ化して利活用するプロジェクトを提案し、博物館収蔵品の管理責任者であるパオラ・ジエルモーニ女史の賛同を受けて、プロジェクトを開始することとなった。 現在、急ピッチでホームページ[1]のリニュ ーアルが進められているが、出土遺物に関するデータについてはまだ掲載されていない。 ## 3. オスティア・アンティカ遺跡博物館内に おける撮影作業 ## 3.1 撮影作業における留意点 開館している博物館内での撮影作業において最も重要なことは来館者の動線を可能な限り妨げないことである。従って、足場を設置したり、照明器具を多用したりすることは極力避ける必要がある。また、作業に関わる人数も多くて二人までで、可能であれば一人で作業できることが好ましい。これらの点を考慮して機材を選定し、原則発表者一人で作業を行った。 ## 3. 2 用いた撮影機材 2018 年夏期の作業に用いた撮影機材は以下のものである。 撮影カメラ:FUJIFILM 社製 ミラーレス一眼レフカメラ X-T2 撮影レンズ:FUJIFILM 社製フジノンレンズ XF23mmF2 R WR 三脚:VANGUARD 社製 Alta Pro 264AB 100 三脚用キャスター:YUNTENG 製 折り畳み式ドリー レリーズ:SHOOT 社製 RR-90 これらの機材について、まずカメラは高画素の一眼レフカメラであり、軽量で、撮影時のシャッター音を完全に無くすことができること、レンズは広角かつ歪みの少ない単焦点レンズであることを条件として選定した。三脚は雲台の自由度が高く、本体部分も角度、高さの調節が自在であることから選定し、撮影地点の移動を細かく簡便に行うためにキャスターを取り付けた。 2019 年夏期の作業では上記の機材にリモー 卜撮影用の機材として 撮影カメラ:FUJIFILM 社製 $28 \mathrm{~mm}$ 単焦点デジタルカメラ XF10 一脚:Velbon 社製 ポールポッド EX ボールヘッド SIM フリースマートフォン : ## HUAWEI 社製 P20 lite を加えた。一脚を三脚と組み合わせて用いることにより、 $3 \mathrm{~m}$ 以上の高さにカメラを据えることが可能となり、XF10と P20 liteをワイヤレス通信で接続してリモート撮影させることにより、脚立などを用いずに高所からの撮影を可能にすることができた(図 1 )。 図 1.ワイヤレス通信を利用したリモート撮影 ## 3. 3 撮影方法 今回のテストではカメラそのものに可能な限り特別な設定は行わず、絞り值のみ $\mathrm{f} 11$ に設定した以外は、シャッタースピードと ISO 感度はオートの設定で、三脚とレリーズを用いて撮影を行った。撮影モードは Fine モード (6000X4000 ピクセル)で、一枚の画像のデ 一夕量は 10~12MBであった。 キャスター付の三脚で同じ高さで彫像の周囲を少しずつ移動しながら、一周する毎に高さを変えて、彫像全体を取り囲むように撮影を行った。 2018 年夏期はサビーナの立像以外は比較的撮影の行い易い頭像や胸像であったため、カメラの液晶モニターを目視できる範囲で撮影を行うことができた。全部で 12 体の彫像を、撮影枚数を変えながら撮影を行い、撮影枚数と処理時間と精度の関係について確認するためのテストを行った。 2019 年夏期は、大型の彫像 2 体、小型の立像 2 体、石棺 1 基の 3DDM を生成してほしいとの依頼があり、これらに浮彫が施された墓碑 1 基を加えた計 5 点の撮影を行った。大型彫像のイシス=ファリアの立像とポプリコラの立像は高さがそれぞれ $3 \mathrm{~m}$ ほどであったため、液晶モニターを目視しての撮影は不可能であったため、リモートでの撮影となった。撮影対象が大型であったこともあるが、すべて 500 枚以上撮影を行い、ムーサの石棺に至っては 1400 枚を超えるものとなった。 ## 4. SfM ソフトウェアを用いた $3 \mathrm{DDM$ 生成} 2000 年代初頭にデジタルカメラの普及とともにトプコン社の Image Master Pro といった $3 \mathrm{D}$ 画像計測統合ソフトウェアが登場し、考古学の現場でも写真測量が行われ始めるようになったが、カメラのキャリブレーションの設定や手動によるタイポイントのマッチングなど煩雑で時間を要する作業が必要であった。 しかし近年の SfM ソフトウェアの発達で、デジタル写真測量がほぼ全自動で簡易かつ精度よく行うことができるようになったことよって、3DDM の生成は、考古学・地理学の分野で多用されるようになってきた。しかし、ロ一マ時代の彫像の 3DDM を生成する際に、画像データの質と量がどのように $3 \mathrm{DDM}$ の精度と関係しているのかという具体的な事例がないため、撮影方法や撮影枚数によって $3 \mathrm{DDM}$ にどのような違いが発生するのかのテストを しつつ、3DDM 生成の作業を行った。 今回、3DDM 生成のために用いた SfM ソフトウェアは Agisoft 社製 Metashape (64bit)である。3DDM 生成のワークフローは以下のとおりである。 (1)撮影した写真データをワークスペースに読み込ませる。 (2)写真のアライメント (写真の撮影位置を自動的に解析し、並べなおす作業)を行う。 (3)メッシュ(3D ポリゴンモデル)を構築するために高密度点群を生成する(高密度クラウド構築)。 (4)メッシュを構築する。 (5)テクスチャーを構築する (写真画像から切り出しして色データなどをモデルに張り付ける)。 細かいテストデータについては紙面の関係で割愛するが、3DDM に発生する主なエラーとしては頭頂部などでホワイトバランスがオーバー気味になると測点が検出しづらくなって穴が開いてしまうようなエラーや指や足の間などでピントが甘くなる部分で癒着してしまうようなエラーがある。これらのエラーは高密度点群を生成した際に、手動にてエラーとなりそうな点群を削除することで回避される場合もあるが、精緻な 3DDM 生成のためには露出はアンダー気味で、被写界深度は深く、ピントがシャープになることを留意して撮影することが重要である。 ## 5. 3DDM の研究データとしての有用性 $3 \mathrm{DDM}$ の有用性は 2 次元のデータと異なり、 360 度あらゆる方向からの観察が可能になる ことである。例えば、アウグストゥスの頭像 (inv.18)は、正面からと左右 45 度までは普通の彫像に見えるが、後頭部が大きく欠けて いることが画面上で観察できる。したがって、 この彫像は後ろや上から見られることを想定 しておらず、目線より高い壁弇などに設置さ れていたと推定することができる(図 2)。ま た、ファウスティナの頭像も頭頂部に固定す るための四角い穴が設けられていることから、 アウグストゥスの頭像と同様、目線よりも高 い位置に設置されていたと考えることができ、立像の頭部である可能性が高いと考えられる。 図 2.3DDM によるアウグストゥスの頭像の観察 出土遺物の報告書において掲載される彫像の写真は、報告者が意図的に報告しない限り、正面と側面から撮影した写真しか掲載されないことが多い。2 次元のデータは写真の撮る方向によって、すでに報告者による情報の取捨選択が起こっており、報告者の目線でしか、彫像のデータを確認することができないが、 $3 D D M$ では、報告者以外の目線で、彫像を観察することが可能になり、髪型や角度による表情の違いなど新たな視点での研究を行う土台となることができる。 ## 6. 3Dデジタルアーカイブの活用 $3 \mathrm{D}$ データのウェッブ上での閲覧などの問題についてはすでに土屋氏が第 2 回研究大会にて発表しているが[2]、早稲田大学演劇博物館のように独自のビューワを導入できる環境をオスティアの考古公園局は有していない。現行で考えうる現実的な選択はやはり大英博物館が採用している Sketchfab を用いた公開であろう[3]。ホームページのトップのサムネー ルのリストから閲覧したい $3 \mathrm{D}$ データをクリックするとマウスで自由に回転させることのできる 3DDM が見られるようになり、URL のリンクにて大英博物館の解説ページに飛ぶことができるように工夫がなされており、収蔵品によっては音声による解説が流れるものもある。また、発表者が別のプロジェクトで共同研究を行っているイスラエル国ハイファ大学のツィンマン考古学研究所は、発掘調查を進めているヒッポス遺跡の出土遺構の $3 \mathrm{D}$ データを Sketchfab にリンクする形で公開し ている[4]。 オスティアの収蔵品の中で貸出要請の多いものはクピドとプシュケ像(inv. SBAO 180) であるが、他館に貸し出しを行うと観覧できるものと思っていた来館者を失望させることとなる。このような場面でも 3DDM のデータがあれば、Hololens などの HMD を使用して、 MR の形で疑似的な閲覧ができるだけでなく、細部を拡大して観察することも可能になり、来館者に付加的な楽しみを与えることができるようになる。 ## 7. おわりに 大英博物館のみならず、3DDM データを公開する試みは増えてきている。国立科学博物館の骨格標本の $3 \mathrm{DDM}$ をクラウドファンディングで資金を集めて製作している組織も出てきたりしている [5]。各博物館が収蔵品を $3 D D M$ データとして取得することが普及していけば、相互にそれらを共有して空間を超えて VR 展示を行うことも可能となるであろう。 そのためには少ない労力や資金で $3 \mathrm{DDM}$ を生成していく技術が不可欠であり、写真測量による $3 \mathrm{DDM}$ 生成はその有力な選択肢であるといえよう。 ## 参考文献 [1] オスティア・アンティカ遺跡公園 HP https://www.ostiaantica.beniculturali.it/en/h ome/ (参照 2020-08-20). [2] 土屋紳一. ウェブブラウザでの $3 \mathrm{D}$ デー 夕資料表示: 立体資料閲覧の可能性と課題. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, Vol.2, No.2, p.67-70. [3] The British Museum Sketchfab HP https://sketchfab.com/britishmuseum (参照 2020-08-20). [4] http://hippos.haifa.ac.il/index.php/gallery (参照 2020-08-20). [5] 一般社団法人路上博物館 https://rojohaku.com/ (参照 2020-08-20). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [12] インディペンデントで自発的な調査体: 鳥類学者オリヴァー$\cdot$L$\cdot$オースティンコレクションの写真調査 ○佐藤洋一 ${ }^{11}$ 1)早稲田大学社会科学総合学術院, $\overline{\text { T }} 168-8050$ 新宿区西早稲田 1-6-1 E-mail: [email protected] ## Independent and voluntary research organisations: A Survey of the Ornithologist Oliver L. Austin Photographic Collection SATO Yoichi ${ }^{1}$ 1) Waseda University, 1-6-1 Nishiwaseda, Shinjuku, 169-8050 Japan ## 【発表概要】 本稿で焦点を当てるのは、デジタルアーカイブコレクションの存在を機に 2016 年 6 月に発生し、現在まで活動を続けているインディペンデントで自発的なゆるやかな調査体の様態である。 デジタル化された米国所蔵のアーカイブ写真を通じて知り合った人々が、SNS 上のコミュニケー ションをもとに連携し、撮影地の同定調查を軸にした活動過程を記述する。主体となった人々の関心と動機、活動の範囲、成果の範囲を確認しながら、この種の方法による可能性を考えたい。 ## 1. 本稿の背景と目的 インターネット上に公開されたデジタルア一カイブは、時空間条件に縛られず、居住地や立場の異なる人々の活動を緩やかに連携させる。SNS 等で紹介された画像を巡り、サイバー空間上で不特定の人々がコメントをし合う現象[1]は「デジタルアーカイブは誰が使うのか」という問いに対する一つの可能性を示している。しかしながら、これらの現象は一過性のもので、利用主体の姿は見えにくく、記述や分析の対象となることは少ない。 本稿はこうした活動を考える試みとして、 ソーシャルラーニングやハイアマチュアの活動に着目した研究[2]を参照しつつ、フロリダ州立大学の研究所 (the Institute on World War II and the Human Experience, Florida State University、以下 IWH)が所蔵し、インターネット上で公開しているデジタルアー カイブ “ THE OLIVER L. AUSTIN PHOTOGRAPHIC COLLECTION" [3] を知り、SNS 上で集まった人々による自発的な調查活動を取り上げる。 ## 2. 調査対象 ## 2.1 分析対象 本稿での分析の中心は、2016 年 6 月に設置された Facebook 上のグループ (Oliver L. Austin Photo Collection Working Group 、以下「グループ」と表記)での投稿とコメントである。2020 年 8 月 10 日現在、投稿数 891 、付されたコメント数は 3,960 である。写真が Twitter で紹介された[4]のを機に関心を持った 3 人が開設時のメンバーで、 2020 年 8 月現在 18 名で構成されている。なお、筆者もこのグループの一員であり、本稿を作成するにあたってはメンバーからのヒアリング等を行なっているが、文責は筆者にある。 ## 2.2 コレクションの概要と twitter での紹介 "THE OLIVER L. AUSTIN PHOTOGRAPHIC COLLECTION” は、占領期に滞日した鳥類学者オリヴァー・L・オースティンのコレクション中の写真で、原史料は 1947-50 年に全国各地で撮影された 1,000 点程度のカラーポジフィルムである。IWH によってインターネッ卜上で 2015 年にデジタルデータが公開された。 コレクションはパーソナルな写真が中心だが、サイト上では多様なイメージに出会うことができ、戦後早い時期のカラーイメージは人々の関心を掻き立て、当時様々な人々による tweet が続いた[1]。その租上に上がったのは、東京の各地の写真が主であったが、他にも代々木大山町の住居内部や家族の写真、鳥類調査で訪れた日本各地の写真や日本の鳥類学者との交流がわかる写真などが含まれてい 表 1. コアになっているメンバーのプロフィール & \\ ることも特徴的である。 このグループの他にも東京・下北沢でも写真の撮影場所を調查する地元の愛好家グルー プが成果をまとめている[5]。 ## 3. 活動の展開 ## 3.1 活動の端緒とメンバー 端緒は先の tweet を機にコレクションを知り、先行して存在していた Facebook上のグル ープ (「映像考古学」) で、コレクション内の写真の撮影場所の同定について話題にしていた A,B,Cの 3 名がスピンオフする形で本研究グループを作ったことである。直後に A の tweet を通じて知り合った D が加入し、この 4 名をコアにして活動が続いた。コアメンバ一4 名のプロフィールを表 1 に示す。 4 名のバックグラウンドは異なるが、撮影場所を詳細に検討して「その写真はいつどこで撮られたのか」という問いを共有している。 この問いに対する答えを探究すること、探究のための手法を考えること、そのための情報を共有することが活動の軸となっており、次項で示す投稿の枠組みを作っている。 ## 3. 2 投稿分類と推移 表 2 に投稿分類を、図 $1 、 2$ に月別の投稿数の推移を示す。投稿分類は本稿執筆に際し、筆者が作った事後解釈的なものである。 カテゴリーに着目すると、(1)の写真そのものを示して検討する投稿がもつとも多く、グループ設置当初はこのカテゴリーの占める割合が大きかったが、次第に(2)~(5)の写真のコンテクストに関する投稿の割合が大きくなっていった。これは容易に読み取りうる写真が少なくなり、解読の難易度が上がっていったことを示している。図 1、2 の投稿数は 2018 年を境に減少してきているが、これは読み解ける写真が限られてきたことを示している。活動のアウトリーチに関わる投稿数は、そのメ切時期などと連動しており、図 $1 、 2$ で見える増加の時期はこれと連動している。 ## 3.3 同定のためのクリティーク 活動を進めるうちにあるアクションが形成された。それはグループ活動の軸となる写真の撮影場所や時期、人物の同定や推定に関するクリティークである。写真を示して検討する投稿 (表 2 中の(1)のタイプ) の場合、同定や推定のプロセスを提示する。一例をあげると 図1月別の投稿数の推移と主な出来事(その1) 表 2. 投稿のカテゴリーと投稿数 } & (2)コンテクスト 1 占領期と写真 & 占領期の時代背景や当時の占領軍の事情、写真事情などについての投稿 & \multirow{4}{*}{438} & 182 \\ $\mathrm{D}$ が投稿した当該写真の撮影地が不忍池だと思われる説の場合、その説の根拠 (この場合は当時の航空写真など)を示し、撮影地点を詳細に提示する。と同時にその説の弱点も示している。他のメンバーはその説の妥当性に関してコメントしたり、関連資料を提示したりして、議論が行われる。疑義がある場合は、 その旨を指摘する。最終的に誰がみても疑義がないもののみが確定とされ、マッピングされることになる。 ## 4. 考察 ## 4. 1 活動が継続した要因 アマチュア写真家のネットワークを分析した杉山(2020)が活動を継続していく要因として提示した「刺激的な隣人」「文化仲介者」 「不特定の観客」といった概念をもとに考えてみる。 1)メンバーの組み合わせ 主要なメンバー各自の関心は微妙に重なりながらも、バックグラウンドに違いがあり、互いの関心を理解することもでき、クリティ一クなどを通じて互いが「刺激的な隣人」として機能しつつ、自分の守備範囲も守られることで、のびのびと活動する余地があった。 2)活動の基盤 A には「文化仲介者」的役割もある。地図とリストという活動の基盤整備をした。 4 年経過した現在も A が設定した基盤の上に活動している。所蔵元のIWHにおいて、原史料写真にIDが付されておらず、渡米した際に原史料の付番と web 上の写真との紐付けを行った C もまた同様の役割を持っていた。 3)成果発表や還元の機会 グループ設立当初にあった雑誌『東京人』 への成果掲載[6]に始まり、昭和館での展示 [7] の協力、トークイベントの実施などの発表を通じて出会う「不特定の観客」から得るフィ ードバックは、趣味としての「自分の楽しみ」 という以上の意味を見出す機会となった。発表の機会と前後し、当該媒体関係者も緩やかにグループに入ることで、「刺激的な隣人」の層が厚みを増していった。またヒアリングやフィールドワークを通じて被写体である場所や関係者に直接写真を還元することができた。 グループ自身が「文化仲介者」となることで関係者から感謝され、やるべきことができたという実感を持てた。 4)学びや関心の深まり 各自が学びや関心を深めることで自然に活動が継続した。その結果各自の「ソロ活動」 も展開し始めている。B は個人名で地元の自 図2月別の投稿数の推移と主な出来事(その2) 治体やメディアでの発表の機会を得つつあり、 D は並行して進めてきた自分のコレクションのリサーチをもとに、様々な場所での講演なども行いつつある。 ## 4. 2 活動の成果とは何か グループでは以下のような様々な「有形無形のモノ」(渡辺ら(2016))を生み出した。 1)社会に還元した成果 雑誌『東京人』への掲載、昭和館での展覧会への展示コンテンツ制作の協力、所蔵元 IWH の website への地図提供は、作業の蓄積を共有すべく社会に還元した成果である。 2)グループ独自の成果 詳細が不明な写真も、見るべき人(当事者や関連情報に詳しい人)が見れば、場所も人物も一目瞭然である。つまり同定とは発見ではなく事実確認である。写真の同定それ自体は、グループ固有の成果とは言えまい。 したがってグループの独自の成果とは、(1)資料を探し、同定へ至るまでのプロセスそのものと、その結果(2)戻るべき場所や人へ写真を還元させたことである。 (1)のプロセスはグループの実践で繰り返し検討され、共有された複雑な知的行為である。 グループ内に止まっている手法や知見は形式化することで大きな成果となるだろう。(2)の還元は、写真の被写体である場所、会社、商店、人物の関係者へ連絡できたことでこれも成果の一つと言ってよいだろう。 3)関連の情報やデータ 調查の過程で得られた写真のコンテクストに関する資料やデータ類は多岐にわたるが、同定作業をバックアップする上で必要不可欠なものである。これらを「リサーチプロファイル」として形式化できれば、これも成果の一部になりうるだろう。「楽しみ」ながら「学びと関心」を深めるインディペンデントなグループでは、狭義の研究成果のみ取り出さず、活動がもたらした手法や活動が生んだ文化的ネットワークやメンバーの活動の広がりなども含め、広義の効果を捉え、評価していくべきであろう。 ## 注$\cdot$参考文献 [1] 例えばオースティンコレクションに関して「鳥類学者オリバー・L・オースティンが撮影した占領下の日本」のまとめ。」を参照。 https://togetter.com/li/977622 [2]渡辺ら(2016)は各地で発生した自発的な超小型衛星開発をフィールドワークし、各自が有形無形のモノを生み出した過程を捉えた。杉山ら(2020)は、アマチュア写真家たちの緩やかなネットワークに着目し、各自の興味の深まりの過程を詳細に分析し、「刺激的な隣人」「不特定の観客」との交流が興味の深まりを後押しすることを明らかにした。渡辺謙仁ら(2016)「野火的な「プロジェクト」と学び:メディアとしての超小型衛星開発プロジェクトにおけるフィールドワークを通して」認知科学, $23(3), 255-269,2016$ 杉山昂平ら (2020)「アマチュア写真家の興味の深まりにおける実践ネットワークの関与」日本教育工学会論文誌 43(4), 381-396, 2020 [3] https://austin.as.fsu.edu/ (参照 2020-0820) [4] Eによる 2016 年 5 月 19 日の tweet は、 https://twitter.com/koganeist/status/7332482 18440437760 (参照 2020-08-20) [5]『下北沢の戦後アルバム』北沢川文化遺産保存の会, 2018 [6] 「鼎談オリバー・L・オースティンが撮った総天然色の東京」『東京人』2016 年 9 月号, $38-47$ [7]「希望を追いかけて 〜フロリダ州立大学所蔵写真展 」 2018 年 3 月 10 日 5 月 6 日 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます (http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [42] ネット時代における3Dバーチャルによる盆踊りの継承の 試み: ## 岐阜県本巣市旧根尾村の盆踊りを事例として ○金山智子 1), 小林孝浩 1), 伏田昌弘 2), 津坂真有 3) 1) 情報科学芸術大学院大学, 〒503-0006 大垣市加賀野 4-1-7 2) 株式会社東京コンピュータサービス, 3) 株式会社リ・インベンション E-mail: [email protected] ## Inheriting the Bon Dance through 3D Virtual in the Net Era: A case study of the Bon dance in the former village of Neo, Motosu City, Gifu Prefecture KANAYAMA Tomoko ${ }^{1)}$, KOBAYASHI Takahiro ${ }^{1)}$, FUSHIDA Masahiro ${ }^{2)}$, TSUSAKA Mayu ${ }^{3)}$ 1) Institute of Advanced Media Arts and Sciences, 4-1-7 Kagano, Ogaki-city, Gifu 500-0006 Japan 2) TOKYO COMPUTER SERVICE CO., LTD, ${ }^{3)}$ Re-Invention Inc. ## 【発表概要】 近年、渋谷や新宿、六本木など都心では夏のイベントとして盆踊りが開催され、若者たちに人気を博している。また各地の盆踊りを行脚する者もおり、岐阜県郡上市の郡上おどりのように全国から若者たちが集まる盆踊りもある。盆踊りがイベントとして盛り上がる一方、地元スタッフの高齢化や若者の参加者の減少など、多くの地域では盆踊り大会が縮小傾向にある。このような状況下、本来、孟蘭盆に精霊を迎え送る風習から生まれた伝統芸能としての盆踊りをいかに次世代へと継承していくのかが一つの課題となっている。本研究では、岐阜県本巣市旧根尾村の各集落にて毎年盆に拝殿で行われる盆踊りを映像撮影し、これをもとにアバターを用いた $3 \mathrm{D}$ のバー チャルな盆踊りを制作、ネット配信を試みる。YouTube 世代の子どもや若者に向け、また、新型コロナウィルス感染防止で人が集まることが難しい状況下、自宅で楽しみながら盆踊りを学ぶことの可能性について考察し、報告する。 ## 1. はじめに 能や狂言、盆踊りのような日本の文化は、各地で独特な様式を育み、代々受け継がれてきた。本研究のメンバーが調査対象としている本巣市根尾地区の各集落においても、各集落に独特な舞踊の文化が根付いている。例えば、室町時代以前から存在していたとされる能狂言は、一つの集落が世襲的に継承し、毎年 4 月に神事芸能として奉納される。また、 700 年前に源氏の武士たちが出陣のときに八幡神社で戦勝と武運長久を祈願して、太鼓踊りを奉納したのが始まりとされる雨乞い踊りも毎年 9 月に奉納される。後述するが、本研究が対象としている盆踊りも、かなり古くから存在していると伝えられている。 しかし、昨今の人口減少により伝承困難な地域が増加しつつあり、「門外不出」の慣習を変更してまでも、近隣集落から踊り手を招き入れるなど継承の努力が事例から伺える。[1] このような努力にも関わらず、こういった地域芸能などの文化が継承できなくなってしまうことが推測される。そこで本研究は、伝承とは別の視点に立ち、若い世代に向けた継承を目的として、デジタル技術を用いて伝統文化をアーカイブし、それをもとに新たな表現方法によって発信していくことを試みた。 ## 2. 根尾の盆踊りの継承問題 ## 2. 1 根尾の盆踊り 根尾の盆踊りは、各集落の神社拝殿にあがり下駄で床を踏み、床踏音に調子を合わせ、掛け唄をのせて踊る(図 1)。どの盆踊り唄も 40 にもなるほど多くの節があり、皆がそれぞれ覚えている節を唄い続けることで踊りが続けられる。[2] 図 1. 拝殿で踊る根尾盆踊り 根尾村史によれば、根尾の盆踊りの始まりは、今から 1400 年以上前、継体天皇が都に向けて出立するのを名残惜しんだ村人たちが踊ったことが始まりとする説と、旧盆に先祖の精霊を迎えなぐさめる行事として踊られ始めたとする説など諸説あるが、盆踊りに関しては記録がないため口承により諸説が存在するようになったとされる。 終戦後にすたれかけていた盆踊りは保存会などの力で復活したが、ラジオやテレビなどマスメディアの普及により下火となった。近年、若者たちの盆踊りブームや文化遺産としての見直しから盆踊りをまちづくりに活用する地域が増えている。根尾でも、樽見駅前に櫓を立てその周りを踊る盆踊りが花火大会や神舆まつりなどと統合した夏のイベントとして毎年開催されている。一方、集落の拝殿で盆踊りを行なっているのは、現在四つの集落のみとなった。 ## 2.2 地元の継承問題 数年前からは、全国の盆踊りを踊り巡る東京の若者グループが郡上おどりへの参加をきっかけに、根尾の盆踊りを知り、以降、毎年根尾の盆踊りに参加するようになった。彼らは、ダムで沈んだ旧徳山村の盆踊りにも関心をもち、2019 年の夏には、十数年ぶりに徳山踊りの復活に貢献し、旧徳山村と旧根尾村の盆踊り保存会の人たちの交流にもつながった。根尾盆踊り保存会による練習には、誰もが参加可能であるが、実際には高齢の住民らによって細々と続けられている状況で、このように地域外の若者たちが関心をもち、根尾まで来て練習や盆踊りに参加し、継承に貢献し ていることは評価されている(図 2)。 本来は根尾の人たちが盆踊りを積極的に継承していくことが望ましいが、ポリリズムのような踊りと生の掛け歌を覚えるには、かなり練習が必要であり、それを支援していく別の取り組みが求められているといえよう。 図 2. 東京の若者たちとの練習 ## 3. デジタルアーカイブの実践 根尾の盆踊りについては、保存会により唄と映像の資料が冊子や CD、DVD として作られている。本研究では、これらを利用しつつも、近年、廉価化、高性能化しているデジタル技術を用いて、現代の社会状況に合ったア一カイブ手法を模索、実践した。以下、その具体的手法や問題点を時系列に解説する。 ## 3.1 撮影初回 2019 年 10 月に予備実験を兼ね、保存会の練習を撮影した。Kinect v2 を使用し、unity にて踊りの動きを記録した。Kinect は、カメラから対象までの距離を実時間で動画像として取得できるセンサであり、人物の骨格を抽出し姿勢を推定することができる。もともとはゲームの入力装置(コントローラ)として販売され、プレーヤーの体の動きを検出する目的に使用された。unity はゲーム開発環境であり、3DCG 空間でのモーション生成が可能である。Kinect による撮影は同時に一人でなければならないため、会場の一角にて単独で踊ってもらった。盆踊りはその場からの移動を伴う振り付けも多いが、撮影用にできるだけカメラの正面で踊ってもらえるよう指示した。全体の雰囲気や音声の記録として、通常のビデオカメラでも記録を行った。 後日、記録したモーションデータを使い、 CGによるアバターを振り付けた(図 3)とこ ろ、人物の前後方向を誤判定することが発生した。これは、撮影した踊り(輪島)にその場で回転する動作が含まれていたためである。不具合がありつつも、手法の可能性を見せるべく、2020 年 2 月の本学のプロジェクト研究報告会(IAMAS2020)にて一般公開した。 図 3. $\mathrm{CG}$ による振り付け再現(初回撮影) ## 3.2 撮影二回目 2020 年 7 月に二回目の撮影を行った。初回同様、保存会の練習に参加した。ここでは、 より新しいセンサである Azure Kinect を使用した。加えて、ビデオカメラにて、正面および斜め前側の 2 台で撮影した (図 4 。もう一台のカメラは向かって右側から撮影)。 図 4. 盆踊り練習会での撮影の様子 これは、動画像から動きを $\mathrm{AI}$ にって推定する技術の精度が良くなってきており、unity で簡単に使えるようになっていたためである。 また今後の技術開発を想定し、腕などに隠れが生じた場合にも角度の異なる映像から補正できるよう、複数カメラの構成とした。 踊りを公開する一手法として、VTuberの協力を得て CGによる盆踊りを生成し、 YouTube 等で公開する方針とした。VTuber からキャラクター(アバター)のデータを借り、unityにて振り付けした。背景等には、根尾の神社で拝殿を撮影したものを使用した (図 5、図6)。 図 5. $\mathrm{CG}$ による踊り再現の様子(しっこのさい) 図 6. $\mathrm{CG}$ による踊り再現の様子(おわら) 現在までに、3つの踊りについて $\mathrm{CG}$ 生成を行った。生成する CG 映像は、いずれも次のようなシーケンスとした。すなわち、踊りを覚えやすいように、数ターンは正面からの固定カメラ (6090秒)、その後カメラを切り替え、ズームするなど変化をつける。全体で 200 秒程度とし、最初にタイトルを入れ、歌詞を踊りに合わせて流す。 センサの精度向上もあり、最初に生成した踊り(しつこのさい)については、違和感なくそのまま使えるほどであった。二つ目に生成した踊り(おわら)では、ごく稀にアバタ一のおかしな挙動が目についた。腕や脚の小さな不具合は、シーンの切り替え (CG 中カメラの撮影位置の切り替え)をすることで、映らなくするなどした。それでも目につくような大きな不具合は、映像編集レベルで加工した。そのような編集を要したのは踊り全体で 3 力所ほどであった。三つ目の踊り(さのさ)は、Kinect でのデータに多くの不具合が 見られたため、カメラ映像からの姿勢推定を行った。使用した映像は正面からのカメラで、 Kinect とほぼ同じ方向から撮影したものである。これによる見た目の問題は見つからず、 $\mathrm{CG}$ 生成の目的として十分に使用できるレべルと判断した(図 7)。 なお、本研究で制作した「CGによる踊り」 はお盆から月末まで 2 週間ほど、地元ケーブルテレビにて放送された。放送内で YouTube チャンネルの紹介を行い、同時期に YouTube での公開をしたところ、[4] 公開から 10 日間で延べ 250 の視聴回数となった。 図 7. $\mathrm{CG}$ による踊り再現の様子(さのさ) ## 3. 3 考察 昨年の実践にて、CG のアバターによる盆踊りを展示した際、好意的な評価を得たことから、今年は VTuber の協力を得てキャラクターが踊る内容とし、YouTube にて公開した。地元ケーブルテレビと連動して公開したため、比較的多くの視聴回数を得たものと考える。 Facebook や Twitter での配信では、地元の人たちや今年 COVID-19 で根尾に来られなかった東京グループメンバーなどから、「今年はどこも盆踊り中止。これを聞いて過ごそう」「素晴らしい教材ができましたね」、「見てるだけで踊りたくなってくるな〜!!」と好意的な反応があつた。 今回ゲーム用コントローラ (Kinect) を主に使用したが、通常のビデオカメラからでも十分に動きを検出することが可能であることがわかった。本手法では、3 次元的に動作を捕えられているため、あとから自由なカメラ位置での再現が可能であった。踊りを背後から見せるなどの工夫も可能である。一方で、問題として、Kinect での動きデータ取得の際、一部で 0.5 秒ほど、データが欠損することがあった。踊りをよく知らない場合は、気づかない可能性があるなど、CG 生成の際には注意が必要である。 ## 4. おわりに 本研究では、デジタルテクノロジーを用い、 また、VTuber の協力のもと、YouTube で配信するなど、伝統芸能の継承をテーマとしつつ、若者や子どもたちが関心をもつようなアーカイブのあり方に取り組んできた。技術的な課題はあるが、今後は、「ウェブに動画をアップロードして、キャラクターを選択すると、 $\mathrm{CG}$ の動画が自動に生成される」など記録操作を簡単にしていくことについての実験や、地元のメディアのレギュラー番組化や自治体などの「オープンデータ」としての公的な公開など、より多くの人たちに活用される方法についても検討していく必要があるだろう。 ## 謝辞 本研究は、公益財団法人小川科学技術財団の助成を受けた研究成果の一部である。 ## 参考文献 [1] 金山智子. コミュニティ・レジリエンスからみる地域の伝統文化の継承: 旧根尾村を事例として. 地域活性学会第 11 回研究大会. 20 19.9 . [2] 根尾盆踊り保存会. 根尾盆踊り唄. 岐阜県本单郡根尾村. 1998 . [3] 中川源洋,笹垣信明.民俗芸能 3D データアーカイブの活用による継承支援. デジタルアーカイブ学会誌 2019, Vol.3, No. 2 [4] YouTube チャンネル「IAMAS 地域文化アーカイブ研究会」 https://www.youtube.com/channel/UC6URDc5M KuNZDKCF76XfLXA (参照 2020-08-21) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [41] 横断的ダンスアーカイヴシステムの構築と公開:大野一雄デジタルアーカイヴを例に 呉宮百合香 1) 2), 溝端俊夫 1), 及川英貴 3), 松尾邦彦 3) 1) NPO 法人ダンスアーカイヴ構想,〒140-0004 東京都品川区南品川 5-11-19 2) 早稲田大学文学研究科, 3) 株式会社ヒトヒトプロモーション E-mail: [email protected] ## Construction of Digital Dance Archives System: The Kazuo Ohno Digital Archive KUREMIYA Yurika ${ }^{1)}{ }^{2)}$, MIZOHATA Toshio ${ }^{1)}$, OIKAWA Hideki ${ }^{3}$, MATSUO Kunihiko ${ }^{3)}$ 1) NPO Dance Archive Network, 5-11-19 Minamishinagawa, Shinagawa, 140-0004 Japan 2) Waseda University Graduate School of Letters, Arts and Sciences, ${ }^{3)}$ HITO+HITO promotion Co. Ltd. ## 【発表概要】 NPO 法人ダンスアーカイヴ構想は、舞踏家大野一雄と大野慶人が創設した大野一雄舞踏研究所のアーカイヴ活動を引き継ぐために 2016 年に設立された。日本独自のダンス形式として海外で高く評価されている舞踏(Butoh)を中心に、広く日本洋舞史の資料を収集保存し、積極的な公開と活用を通じてダンスアーカイヴの社会的認知向上に取り組んでいる。また、公的機関に対するアーカイヴ設立の提言と並行して、現存するアーカイヴ間のネットワーク構築に取り組み、上演と同時に消失する舞踊芸術におけるアーカイヴのあり方を共に模索することを目指している。本発表では、今秋に試験版を公開する大野一雄デジタルアーカイヴを例に、ボトムアップ型の横断的アーカイヴ構築の提言を行う。 ## 1. はじめに 大野一雄アーカイヴは、舞踏の名を世界に広めたダンサー大野一雄(1906~2010)の資料を収集・保存・管理することを目的に、大野の活動の最盛期である 1990 年代半ばに活動を開始した。公演周辺資料を中心に約 25,000 点を有し、それらを活用したイベントの企画制作や研究創作支援、出版等を国内外で展開してきた (図 1)。2016 年からは NPO 法人ダンスアーカイヴ構想がその管理運営を担っている。しかし小規模な民間のアーカイヴであるため基盤が脆弱で、恒常的に資料を展示公開できる施設を持たないことが課題であった。 2017 年度より 3 年間、アーツカウンシル東京の長期助成を得て、株式会社ヒトヒトプロモーションと共同でデジタルアーカイヴシステムの開発を進めた。まずは大野一雄の資料群を対象に、これまで FileMaker Pro で管理してきたデータベースを順次オンライン化しており、2020 年 10 月に試験版を公開する。 図 1.一部の資料は、2002 年にボローニヤ大学に開設された大野一雄アーカイヴにも収められている。 ## 2. 開発の背景と目的 日本のダンスアーカイヴの課題は、大きく 3 つあると考えられる。第一に、歴史的資料の保存と公開に取り組む文化・教育機関の数が限られており、散逸・消失の危険と隣り合わせのなか個人が資料を保管している場合が少なくない点。第二に、文化デジタルライブラリー、早稲田大学演劇博物館、慶應義塾大学アート・センター等、いくつかの先行事例はあるが、それぞれ独自に開発したシステムを用いており、共有性に欠けていた点。第三 に、個人アーカイヴが多く、ダンスという文化事象、とりわけ 20 世紀以降のダンスを横断的に扱うアーカイヴの構築はいまだ実現されていない点である。 個別のアーカイヴ活動は行われていながらも横の連携が不足している問題を解決するにあたり、開発したデジタルアーカイヴシステムを積極的に公開・共有していくことは有効な方策であると考える。データベースのオンライン公開は、施設を持たない小規模なアー カイヴにとって公開性を担保する一手段ではあるが、単独で導入するには負担が大きく、 これまであまり進められてこなかった。システムの共有により、導入に際する資金面・技術面のハードルを下げることは、既存の取り組みを後押しし、その効果を最大化するだけでなく、システムを介して横断的な情報ネットワークを形成し、従来の縦割り的なあり方を乗り越えることにつながりうる。 このため本開発では、将来的に複数の個人・団体でシステムを共有することを視野に、汎用性の高いアーカイヴシステムを構築することを目的とした。 ## 3. 本アーカイヴシステムの特色 今回独自に開発したのは、IIIF 対応のデジタルアーカイヴCMSである。国際的なメタデ一夕基準である Dublin Core に準拠し、外部との連携を想定した開かれた作りとなっている。 ## 3. 1 独自開発の理由 Omeka 等、既存のオープンソースのデジタルアーカイヴ CMS の使用も検討したが、次に挙げる 3 つの理由から独自開発に踏み切った。 第一に、物的資料ベースの設計が無形の文化遺産を扱うダンスアーカイヴに適さなかったためである。ダンス作品は主として実演芸術であるため、作品そのものは上演と同時に消失し、後にはポスター、衣装、創作ノート、写真といった大量の周辺資料が残される。そしてそれらの資料は多くの場合、作品情報や公演記録等と紐づいてこそ意味を持つ。この点は、昭和音楽大学の「バレェアーカイブ」 や日本バレエ協会の「舞踊年鑑公演データベ ース」が公演記録に特化している事実からも明らかである。それゆえ、有形のコンテンツを主対象とするアーカイヴシステムは適当でないと判断した。 第二に、オープンソースソフトウェアのカスタマイズと独自 CMS 開発との間に、コスト面での大きな差が見られなかったためである。同程度のコストであれば、独自開発の方が分野固有の技術的課題に柔軟に対応できると判断した。 関連して第三に、ウェブ制作の専門知識がない入力作業者でも扱いやすい管理画面を目指したためである。舞台芸術に特化して設計することで、操作性をより一層高めることができると判断した。 ## 3.2 有機的に資料が紐づく設計 本システムの特徼を、以下に詳述する。 (1) CMS の利用による相互参照の容易化 CMS 化により、コンテンツ登録・管理業務を簡易化した。さらにコンテンツの相互参照を容易にし、入力作業の負担を軽減すると同時に、資料間のつながりを多彩に表現することを実現した。たとえば、ある作品の写真・映像資料が既にデータベースに登録済みの場合、作品ページに当該の資料を引用することができる(図 2)。人物ぺージにおける写真についても同様である。また、各コンテンツの閲覧ページの下部には、関連する資料や記事の情報を自動で収集して表示する(図 3)。 図 3. 管理画面作品登録ページ(開発中) 図 3. 関連コンテンツの表示(開発中) (2)柔軟性の高い分類方法 先述の通り、ダンスアーカイヴには有形無形の多岐にわたるコンテンツを受け入れる柔軟性が求められる。そこで、第一次の分類を 「ひと」「こと」「もの」の大きく 3 つに設定した。検索結果もこのカテゴリごとにソートされる。「ひと」には人物・組織情報を、「こと」には出来事の情報を、「もの」には物的資料を種別ごとに登録する(表 1 )。 表 1. コンテンツ分類表 \\ さらなる下位分類は、カスタマイズが可能となっている。このゆるやかな分類により、性質の異なるコンテンツを同時に扱うことが可能になった。 (3)汎用性の高いミニマムなメタデータ メタデータは、資料現物へと導くトリガー と位置付け、分野の固有性を反映させつつも項目を簡素化し、汎用性を高めた。加えてキ ーワードを自由に登録することにより、情報の補完と拡張を行う。 また、権利処理の円滑化のため、管理画面上に著作権者名、使用音楽、被写体名等の情報の記載欄を設けた。写真資料については公私の別を記載し、権利処理と公開の際の判断要素とする。加えて権利関係が複雑な場合に対応するため、記述式の入力欄を設けた。 ## 3. 3 新たな創作に寄与するアーカイヴへ 「未来のダンスアーカイヴは、舞踊文化の継承と創造に積極的に寄与すべき機関」[1] という団体理念から、開発にあたっては以下の点をとりわけ重視した。 (1)非専門家でも使いやすいインタフェイスアーカイヴは活用されてこそ意義があるという観点から、利用者側と管理者側、双方にとって直感的に把握しやすく、専門的な知識や技術を有さずとも使いやすいインタフェイスを目指した。検索システムには、フリーワ ード検索と分類ごとの絞り込み検索の 2 種を設けている(図 4)。一部の専門家だけでなく、幅広い層が気軽にアクセスできるようにすることで、利活用を促進したい。 図 4. 利用者用検索画面(開発中) (2)現在進行形のプロジェクトとの連動アーカイヴコンテンツを自由に引用し、記事を作成できる機能を設けた。これにより、特定のテーマや視点に基づいてキュレーションを行い、個別の資料を見ているだけでは読み取りづらいコンテンツ間の有機的な連関を表現することが可能になった(図 4)。また、 とりわけ現在進行形の事象を扱う場合においては、アーカイヴは広報の役割も果たす。イベントの広報の際にもアーカイヴを活用することで資料に新たな光を当て、死蔵化を防ぐ。 このように積極的なアウトプットを行なっていくことにより、単なる資料室には留まらない、運動体としてのアーカイヴを実現していく。 ## 4. おわりに 世界初のダンスアーカイヴである「国際ダンスアーカイヴ(AID)」(1931-1952)は、創設者ロルフ・ドゥ・マレが率いていたバレエ・スエドワの資料を核にしながらも、それだけに留まらず、古今東西のダンスを取り扱う博物館・研究機関となることを自らの使命とした [2]。出版・公演・レクチャー・展示等活発な活動を行い、映像ライブラリー実現のために、主催した振付コンクールでは発表作品の撮影権と所有権を初めから規定に盛り込んで確保するなど[3]、その先駆的な取り組みには今なお学ぶべき点が多い。 アーカイヴは新たな文化や価値を生み出す基盤であり、文化遺産として保存継承に努めるとともに、その有効な活用によって新たな創造へとつなげていくことが求められる。広く情報を集約する国レベルのダンスセンター が存在しない今の日本においては、資料を所有する個人や民間団体の取り組みに負うところが大きく、その支援は急務と言える。 デジタルアーカイヴシステムの共有は、運営・資金面の脆弱さから公開性への課題を抱える運営主体を支援する一手段となりうる。資料所有者やその近親者による主体的なアー カイヴ活動が促進されていけば、整理・公開作業の点でも一層の円滑化が見込まれよう。 アーティストの死後にアーカイヴを整備することは、各コンテンツの価値判断の面からも権利処理の面からも、困難が伴う。作品上演と同時にアーカイヴ化することかサイクルとしては理想的であり、将来的な連携を見据えた共通フォーマットの整備と提供はその実現 への一助となるのではないだろうか。 本発表では、個人や小規模団体によるアー カイヴ活動を支援し資源の公共性を高めていく、ボトムアップ型のひとつの試みを紹介した。まだ試験版の段階であり、今後は登録コンテンツの拡充と並行して、専門家及び一般利用者からのフィードバックを得ながらシステムの改良と機能の追加を図っていきたいと考えている。一方で、権利者が多数に渡る映像コンテンツの公開には課題が残る。また、 $3 \mathrm{D}$ の動作・形状データ等、新たな形式の資料の保存公開方法の検討や、管理画面の多言語化といった点についても、引き続き検討していきたい。 ## 参考文献 [1] ダンスアーカイヴ構想ウェブサイト http://www.dance-archive.net/ (参照 202008-20) [2] Baxmann, Inge; Rousier, Claire; Veroli, Patrizia, eds. Les archives internationales de la danse (1931-1952). Centre national de la danse. 2006, 245p. [3] Règlements des concours. Archives internationales de la danse. 1932 , no. 0, p. 4. http://mediatheque.cnd.fr/spip.php?page=ar chives-internationales-de-la-danse [4] 舞台芸術における著作権の課題:文化資源の有効利用にむけた情報共有. 東京, 201912-02. 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館, 2020, 37p. http://www.waseda.jp/prj-stagefilm/activity/2019_1202.html (閲覧 2020-0819) [5] 森下隆. ダンス・アーカイヴの実験 : 土方巽アーカイヴの活動報告. 舞踊年鑑 2018. 2018, p. 12-19. [6] 阿部崇, 佐藤守弘, 田口かおり, 土屋紳一. アーカイヴと表象文化論の現在. REPRE : 表象文化論学会ニューズレター. 2018, vol. 33. https://www.repre.org/repre/vol33/special/ro undtable-archive/ (参照 2020-08-19) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [34]著作権法50 周年に諸外国の改正動向について考える ○城所岩生 ${ }^{1)}$ 1)国際大学グローバルコミュニケーションセンター E-mail: [email protected] ## Think about Copyright Reform in Other Countries on the 50th Anniversary of Japanese Copyright Law KIDOKORO Iwao ${ ^{11}$} 1) Center for Global Communications, International University of Japan ## 【発表概要】 今年は現行著作権法制定 50 周年にあたる。50 年間の著作権法を取り巻く最大の環境変化はデ ジタル化の進展だが、欧米ではデジタルアーカイブ化が着実に進んでいる。2004 年、グーグルは出版社や図書館から提供してもらった書籍をデジタル化して検索可能にする電子図書館構想を発表。欧州は 05 年に各国の文化遺産をオンラインで提供する欧州デジタル図書館計画、ヨーロピアーナを立ち上げた。法制面でも孤坚著作物を利用しやすくするため、 08 年に孤坚著作物指令、 19 年にはデジタル単一市場における著作権指令を制定。後者では拡大集中許諾制度(ECL)を導入した。米国でも ECL 導入の動きはあったが、グーグルの電子図書館に対する訴訟でフェアユ一スが認められたため不要とする意見が多く見送られた。孤肾著作物対策に積極的に取り組む韓国では、ECL の導入を含む著作権法の全面改正の検討が始まっている。諸外国に比べると牛歩の観が否めない日本の対応策を模索する。 ## 1. はじめに デジタル化の進展がもたらす著作権法上の課題の一つに博物館・美術館・図書館などが所蔵する資料のデジタルアーカイブ化の問題がある。デジタルアーカイブ化する際の大きな障害が孤坚著作物 (Orphan Works) 問題。デジタル化するには著作権者の許諾を得なければならないが、著作権者がわからなくては許諾も取れない。年月とともに劣化する収蔵品をデジタル化によって保存できないと、貴重な文化資産が消滅する危機に瀕することになる。 著作権はベルヌ条約により、権利の発生に登録などの様式行為を必要としない無方式主義を採用している。長らく方式主義を貫いた米国もベルヌ条約加盟時に無方式主義に転換した。1998 年には保護期間を著作権者の死後 50 年から欧州並みの死後 70 年に延長した。この二つの法改正が孤児著作物を大幅に増やした反省から、2000 年代に二度にわたって、孤児著作物を利用しやすくする法案が議会に提案したが日の目を見なかった。 その間隙をついたのが私企業のグーグルだった。2004 年、グーグルは図書館や出版社から提供してもらった書籍をデジタル化し、全文を検索して、利用者の興味にあった書籍を見つけ出すサービスを開始。このサービスのうち、図書館から書籍を提供してもらう「図書館プロジェクト」(以下、「グーグルブッ クス」)に対しては早速訴訟も提起されたが、後記 3 のとおりフェアユースが認められた。 ## 2. グーグルに対抗した欧州 ## 2.1 ヨーロピアーナ 米国の一民間企業が立ち上げた電子図書館構想は、グーグルショックとよばれたように全世界の著作権者を震撼とさせた。フランス国立図書館長のジャンーノエル・ジャンヌネ一氏は、2005 年 1 月、ルモンド紙に寄稿し、 グーグルブックスが持つ公共財の商業的利用や英語資料優先の電子化が行われることに対する懸念を表明。これが当時のシラク仏大統領の目にとまり、大統領は文化相とジャンヌネー氏に、フランスを含むヨーロッパの図書館蔵書が、より広くかつより迅速にネットで公開できるようにする施策の検討を命じた。 これを受けて欧州委員会は 2005 年、各国の文化遺産をオンラインで提供する欧州デジタル図書館計画を発表、2008 年には書籍だけでなく新聞・雑誌の記事、写真、博物館の所蔵品やアーカイブ文書、録音物まで含む壮大なデジタル図書館プロジェクト、ヨーロピアー ナを発表した。書籍だけを対象としたグーグルブックスと異なり、書籍以外の膨大な歴史的資産をデジタル化し、ネットを通じてアクセス可能にしている。それ自体がアーカイブではなく、ヨーロッパ中のデシタルアーカイブをネットワーク化したポータルサイトに過ぎないが、すでに欧州 35 ヶ国、3,000 以上の 図書館・美術館・博物館・文書館等が参加、 5,642 万点の文化資源デジタルアーカイブが一括で横断検索できる。 ## 2.2 欧州孤児著作物指令 2008 年、EU は孤坚著作物指令を発表した。図書館などの文化施設が所蔵する書籍などについて、権利者についての入念な調查 (diligent search) を行っても所在が確認できない場合には「孤児著作物状態」と認定され、利用できるようにした。この指令によって、それまでパブリックドメインのものがほとんどだったヨーロピアーナの公開コンテンツに、孤览著作物も加わることになった。 ## 2.3 デジタル単一市場における著作権指令 2.3.1 目的 2019 年、EU はデジタル単一市場における著作権指令を公布、施行した 。デジタルコンテンツが域内で国境を越えて自由に流通する「デジタル単一市場 (Digital Single Market: DSM)」をめざして、加盟国間の著作権制度の差異をなくし、オンラインコンテンツへのより広いアクセスを可能にする指令。 デジタル単一市場における著作権指令(以 下、「DSM 著作権指令」)にも、デジタルア一カイブ化促進に貢献する意欲的な改革が含まれている。 孤览著作物指令やヨーロピアーナは、グーグルブックスに対抗して欧州のデジタルアーカイブ化を促進しようとする動きだったのに対して、DSM 著作権指令はグーグルニュースに代表されるプラットフォーマーによるコンテンツのただ乗りへの対抗策。 DSM 著作権指令の構成を表 1 に示したが、第 4 編がそうした対策で、その代表例は報道出版社に 2 年間の著作隣接権を与えた条文(第 15 条)。これによりサービスプロバイダーがニユースなどの報道出版物をオンラインで利用する場合、報道出版社の許諾が必要になった。デジタル単一市場を達成するための条文も当然、含まれている。デジタル化促進のための権利制限規定について定めた第 2 編、孤児著作物の利用促進するための規定について定めた第 3 編の条文である。 ## 2.3.2 デジタルアーカイブ関連条文 加盟国に以下を義務づけた。文化遺産機関が保存目的で複製するための権利制限規定を表 1 DSM著作権指令の構成 \\ 設けること(第 6 条)、文化遺産機関がライセンスを得やすくするための制度や権利制限規定を設けること(第 8 条)。加盟国が拡大集中許諾制度を活用しやすくするための仕組みづくりについても定めた(第 12 条)。 ## 2.3.3 拡大集中許諾制度 集中許諾制度は日本では、「著作権に関する仲介業務に関する法律」によって設立された、日本音楽著作権協会 (JASRAC) のような権利集中管理団体が、著作権者に代わって著作権を管理する、具体的には著作権使用料を利用者から徴収し、著作権者に分配する制度。集中許諾制度は音楽など著作物の分野ごとに設立された集中管理団体の構成員のみが対象だが、これを構成員以外にも拡大するのが拡大集中許諾制度 (Extended Collective Licensing、以下、” ECL”)。 非構成員には当然、集中管理を望まない著作権者もいるはず。そういう権利者には対象から外してもらうオプトアウトの道を用意する。その代わりにオプトアウトしない作品の利用を集中管理団体が利用者に認める。 第三者機関が権利者に代わって利用を認める制度としては、ECL のほかに強制許諾制度もある。日本の裁定制度も採用している強制許諾制度の ECL との相違は、使用料や使用条件を決めるのは強制許諾制度では政府だが、 ECL では利用者と集中管理団体である点。利用者は ECL によって権利者を探し出す手間が省けるので、権利者の身元あるいは所在が不明な孤肾著作物問題の有効な解決策にもなる。 ECL は表 2 のとおり、北欧諸国が 1960 年代から採用していたが、グーグルブックス訴訟をきっかけに有力な孤览著作物対策である点 に注目が集まり、仏、独、英も相次いで導入。 \\ ## 3. フェアユースで対応した米国 グーグルブックスに対する訴訟の過程では一時和解が試みられた。和解案は裁判所が認めなかったため陽の目を見なかったが、ECL の考え方にヒントを得ていた。和解案が裁判所に認められなかったため、復活した裁判ではグーグルのフェアユースが認められた。フエアユースは公正な目的であれば、著作権者の許諾なしに著作物の利用を認める米著作権法の規定。 和解案が採用したECLには議会図書館著作権局も着目した。孤坚著作物対策でグーグルに先行され、「官の失敗」という批判まで浴びた著作権局が、2015年に「孤览著作物と大規模デジタル化」と題する報告書を発表した。報告書はECLを創設するパイロットプログラムを提案し、パブコメを募集。結果は表3のとおり、反対が賛成の 5 倍近くに上り、反対の半数がフェアユースで対応できることなどを理由にあげたため、著作権局は立法を断念した。 表3 ECLパイロットプログラムに対する賛否 注 : 反対のカッコ内は、反対理由を「大規模デジタル化はフェアユースで十分対応可能である」「ECL によってフェアユ一スが狭められるおそれがある」などとするもの。出典: ソフトウェア情報センター「拡大集中許諾制度に係る諸外国基礎調査報告者」(2016年3月)をもとに筆者作成。 ## 4. 孤児著作物対策に積極的に取り組む 韓国 制定当時、日本法の影響を受けたとされる著作権法を持つ韓国は、デジタル化への対応に関しては日本に先行していて、以前からデジタル著作権取引所で孤坚著作物の著作権者探しと法定利用許諾等を行っている。2011 年の改正ではフェアユース規定を導入したが、 2020 年 7 月には拡大集中許諾制度の導入を含 む著作権法の全面改正の検討を始めると発表した。 ## 5. 後追いの日本 ## 5.1 裁定制度 わが国が孤坚著作物対策として採用する裁定制度は強制許諾制度である。裁定制度は 1970 年の現行著作権法制定時に規定されたが、2009 年度までの 38 年間の裁定件数は年間平均 1 件強にすぎない。 1 件で複数の作品を申請するケースが多いが、それでも年間平均 2,389 作品にすぎない(表 4 参照)。このため、2009 年度と 2018 年度に使い勝手をよくするための改正が行われ、2010 年度から 2016 年度までの 7 年間の平均で、作品数は 33 倍の 77,754 点に急増したが、累計でも約 32 万点にすぎず、 5600 万点を超えるヨーロピア一ナのような大規模デジタル化対策には向かない制度であることが判明する。 ## 表4 裁定制度の利用実績 注 : かっこ内は年平均の数字 出典:「著作権制度及び関連瀬策について」文化庁著作権課 30 年 4 月 24 日、規制改革推進会議第 25 回投資等 WG 資料をもとに筆者作成。 米国の「孤览著作物および大規模デジタル化報告書」も強制許諾制度について検討。著作権局は 2006 年にもこの制度を検討したが、高度に非効率であると結論づけた。今回もこの結論を踏襲。強制許諾制度を採用している 5 力国で今日までに下りた許諾は 1000 件に満たないことも、この結論の正しさを裏付けているとした。 欧州も 2008 年の孤览著作物指令採択時に強制許諾制度についても検討。政府がお墨付きを与える制度なので、法的安定性は高いが非効率であるとして採用しなかった。 ## 5. 2 ジャパンサーチ 2020 年 8 月に公開されたジャパンサーチもメタデータ数は 1990 万点に上るが、ネットで公開されているのは 127 万点にすぎず、 5600 万点を超えるヨーロピアーナに及ばない。 ## 5. 3 国会図書館の蔵書検索データベース グーグルブックスで筆者の名前を検索すると、国会図書館の蔵書検索データベース NDL- OPAC で検索した場合の数十倍の件数がヒット寸る。日本語の書籍ですら母国語の国立図書館の検索サービスが、米国の一民間企業のサービスに劣るという事態は国の文化政策上も問題である。 ## 6. おわりに コロナ禍は日本のデジタル化の遅れを露呈した。デジタルアーカイブ関連でも蔵書のネット公開が遅れ、図書館に足を運ばないと資料が閲覧できない問題が図書館の閉鎖によって顕在化した。コロナ禍でかってないほど落ち込んだ経済を立て直すにもデジタル化の遅れを取り戻す施策が必要である。このため、欧米にならって ECL および日本版フェアユー スの導入を提案したい。ECLについては2.3で紹介したので、以下、日本版フェアユースについて説明する。 フェアユースはアメリカではベンチャー企業の資本金ともよばれるぐらいグーグルをはじめとした IT 企業の躍進に貢献した。このため、今世紀に入ってから導入する国が相次いでいる。これら諸国の経済成長率は表 5 のとおり日本より高い。 日本でも「知財推進計画」の 2 度にわたる提案を受けて、日本版フェアユースが検討されたが、2012 年と 2018 年の 2 度にわたる改正を経ても、未だに道半ばなので、まず日本版フェースの実現を提言したい。 表 5 ではフェアユース導入国の著作権法の所管官庁も比較した。それによると、米国と韓国以外は産業財産権法を所管する官庁が著作権法も所管していることが判明する。日本ではたとえば、クールジャパン戦略推進を掲げて久しいが、パロディも未だに合法化されていない。所管官庁が異なる縦割り行政の弊害といえる。このため、知的財産庁の設立についても提言したい。 以上、ECL、日本版フェアユースとも現行著作権法のオプトイン(原則許諾)方式に風穴を開け、オプトアウト(原則自由)方式を導入寸る改正だけに難航が予想される。しかし、コロナ危機を乗り切るためにはそのぐらいの荒療治は必要だろう。今こそ関係者は小異を捨てて大同につくべき時である。 ## 参考文献 [1] 濱野恵、EU デジタル単一市場における著作権指令、外国の立法 2019 年 11 月号、 p.10-13. [2]松田政行,増田雅史、Google Books 裁判資料の分析とその評価、商事法務, 2016。 [3] 城所岩生、フェアユースは経済を救う、 インプレス R\&D, 2016. [4] 城所岩生編、中山信弘ほか著、これでいいのか!2018 年改正著作権法、インプレス R\&D, 2019. 表5 フェアユース導入国のGDP成長率・著作権法担当官庁 出典: GDP成長率 : 世界経済のネタ帳」http://ecodb.net/ranking/imf_ngdp_rpch.html (参照 2020-08-21) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [33] オープンアクセス画像の構造化データベースとしての ウィキメディア・コモンズの活用: WMFによる画像インポートに関 わる法的な整理例とデータ整備の試みの紹介 ○東修作 1) 1) 合同会社 Georepublic Japan, 〒 100-0013 千代田区霞ヶ関 1-4-1 E-mail: [email protected] ## Wikimedia Commons as a structured database of open access images: An example of legal arrangements related to image import and attempts of data maintenance by WMF HIGASHI Shusaku ${ }^{11}$ 1) Georepublix Japan LLC., 1-4-1 Kasumigaseki, Chiyoda Ward 100-0013 Tokyo, JAPAN ## 【発表概要】 博物館や美術館等のいわゆる GLAM 機関が所蔵する作品のデジタルコピーを公開するオープンアクセスの動きが国内外で広がりつつある一方で、国内におけるその利用は進展しているとは言い難い状況である。その理由のひとつにはスムーズに利用するための法的、技術的な手順等が分かりづらいことが挙げられる。 本稿では、コミュニティによるオープンなメディアファイルの集積データベースであるウィキメディア・コモンズにおける、GLAM 機関のオープンアクセス画像に関する法的な取り扱い基準の例と、活用推進のための構造化データベース構築の取り組みについて紹介する。 ## 1. はじめに デジタルアーカイブの利活用にはコンテンツを網羅的に探しやすい仕組みの提供が不可久であり、国内での代表的なものとしてジャパンサーチや Cultural Japan が挙げられる。 ここでは同様の仕組みをコミュニティ型で提供しようとするウィキメディア・コモンズ (以下コモンズとする)の試みを紹介する。 ## 2. 法的な視点 ## 2. 1 著作権とライセンスのせめぎ合い 著作物の著作権とその一般利用に関する許諾、即ちパブリック・ライセンス(以下ライセンスとする)は著作権者と利用者との間で取り交わされる規約であり、これにより著作権のあるコンテンツであっても利用者はいちいち著作権者に断らなくても予め許諾されている範囲で自由に利用することができる。 著作権の保護範囲を巡っては法域による違いもあって複雑で白黒つけがたい事例も多く、判例が参考にされるもののグレーゾーンについては最終的には法律家の判断を待つことになる。これをインターネットで閲覧、二次利用しようとする不特定多数の利用者側で正確 に判断することは難しく混乱を招きかねないため、どの範囲なら個別の許諾なしに利用できるかを明記したものがライセンスであり、代表的なものがクリエイティブ・コモンズ (以下 CC とする)のライセンスである。 ライセンスにも様々なものがあるが、いわゆるオープンデータとして自由に利用できるものとみなされるライセンスは、クレジット表記やライセンスの継承を求める程度までであり、CC で云えば $\mathrm{CC} 0, \mathrm{CC} \mathrm{BY}, \mathrm{CC}$ BY-SA くらいまでである。 ところが、コンテンツ提供者が付与するこうしたライセンスの中には、本来の権利の範囲を越えて許諾条件が付与されるものがあり、仮に利用者側がグレーな条件だと感じても個人でそれを覆すことは困難である。 他方、ボランタリーな、いわゆるコミュニティ活動としてデジタルなコンテンツやデー 夕を登録・共有・提供するプロジェクトとして OpenStreetMap やウィキメディア財団によるウィキペディア、コモンズ、ウィキデー タなど一連のプロジェクトが挙げられる。これらのプロジェクトではそれぞれのコンテン ツやデータに対してオープンなライセンスを付与しており、登録して良いコンテンツやデ一夕の判断基準や、利用する際の許諾範囲や注意事項などに関するガイドラインを定めている。ガイドラインは各国の法令も踏まえつつ参加者の合意を取って決められていくため、通常は厳格な方に寄った慎重な結論となりがちである。プロジェクトによっては「白より白く(whiter than white)」という主張が行われることもある。しかしながら、次のように例外的に緩める方向に踏み込んだケースがある。 ## 2. 2 ウィキメディア財団による作品のデジタル コピーに対する公式方針 いわゆるパブリック・ドメイン(以下 PD とする)の著作物を写真撮影あるいはスキャンしたデジタルコピーに関するウィキメディア財団の立場は以下の通りである。 「現地の法律にかかわらず、ウィキメディア財団(以下 $W M F$ と表記)の見解は以下のとおりです。 端的に言うと、忠実な複製またはパブリック・ドメインの 2 次元の芸術作品はパブリック・ドメインであるという $W M F$ の主張は不変であり、対して、それはパブリック・ドメインの規定そのものに反するという立場です。著作権や複製ばかりか、美術館や画廊に画像を複製する機能へのアクセスまで制約されるなら(写真撮影の禁止他)、合法的にパブリック・ドメインにある重要な歴史的作品は、 ゲートキーパーを介なければ、広く一般の人がアクセスできないように制限できます。 $W M F$ は立場を明確にし、強硬に法的な苦情の申し立てがない場合であっても、パブリック・ドメイン作品に対するそのような著作権主張の尊重は、良い考えではないとしています。(後略)」[1] これをより具体的に解釈すると、例えば PD にある二次元の絵画作品の場合、それを忠実に再現した写真やスキャンには著作権を主張できないという判断の下、たとえ利用条件その他で制限をしていようとも、インターネッ卜等で一般公開されている画像については PD相当とみなしてコモンズにアップロードすることができる、ということである。 法令遵守を大前提として参加者の合意を得ながら物事を決めていくコミュニティ活動としては、こうした踏み込んだ判断を示すのは極めて異例のことであり、本来自由に利用できるべきものに余計な条件が課せられることへの強い危機感の現れであるといえる。 この方針に沿って、本来主張できない権利を排した例として大英博物館のコレクションが挙げられる。2020/4 月に 190 万点の画像を新たに CC ライセンスで公開したというニュ一ス[2]が流れたが、具体的には CC BY-NCSA4.0 が適用されている[3]。かいつまんでいえば利用に際してはクレジット表記が必要、商用利用は不可、派生作品にはライセンスの継承が必要、ということである。このライセンスを鵜吞みにすれば、現在 CC0, CC BY, CC BY-SA のいずれかしか受け入れていないコモンズとはライセンスの侵害を起こしてしまうため、アップロードすることはできない。しかしながら、前述の WMF の公式方針に基づけば、著作権保護期間が満了した絵画や版画など二次元の作品の忠実なデジタルコピーであれば、参加者は PD 相当と判断した上でそれを示すタグ $\{$ PD-scan $\}\} を$ 付けてアップロー ドできる。 図 1.PD-scan タグによる PD 表記 一般の利用者側は普通に PD 画像の扱いで自由に利用できる。実際、大英博物館のこうした画像は既にかなりの数がコモンズにアップロードされている[4]。 これは WMF の公式方針であるため、法的な問題が発生した場合は WMF が密口として対応にあたることとなる。公式方針に沿って アップロードした個々の参加者が直接的な責任を負うリスクはゼロではないとしても低い。ただし、法域により判断が異なる可能性があるため、各国での専門家に助言を求めることが推奨されている。GLAM 機関側からすると何らかの事情により利用条件を付加している場合があるかもしれないが、WMF としては二次元の PD 作品の忠実なデジタルコピ一には主張できる権利は発生しないとの立場である。このあたりの権利の整理についてはコンセンサスを醸成するための丁寧な議論も必要であろう。 ## 3. 技術的な視点 ## 3. 1 コモンズ構造化プロジェクト コモンズはウィキペディアと同じソフトウェア MediaWiki で動作しているが、そのメインコンテンツは文章ではなく画像などのメデイアである。MediaWiki の標準的な検索機能は文字列やカテゴリによるもので、多言語の機構も単純に列挙するだけの仕組みであり、世界中の多様なメディアを効率的に検索するのにはあまり適していない状態であった。 これに対してウィキデータと同じ Wikibase という拡張をコモンズに導入し、構造化したメタデータを付与し、様々な言語で機械が検索しやすい形にすることを目指しているのがコモンズ構造化プロジェクトである。 ## 3.2 構造化データの内容 対象物のキャプション、描かれた題材及び属性(プロパティ、例えば「作者」)と値(項目、例えば「歌川国芳」)から成る文を構造化データとして登録して行く。中でも題材については目的の画像を検索する際の重要な手がかりである。機械でもある程度ヒト、建物といった抽象的なレベルでの判別は可能であるが、その名前など、具体的な事物との自動的な関連付けは充分な教師データ無しでは困難であり、人間の判断が必要である。こうした画像を見て題材を読み取る作業はクラウドソ一シング的なコミュニティによる作業が適しており、その結果は教師データにも成り得る。 なお、プロパティと項目はウィキデータのものを共有・参照することで二重登録の手間を避けている。ウィキデータが芸術作品などの原本に対応するデータであるのに対して、 コモンズ構造化データは原本のデジタルコピ一に対応するデータであり、使用するプロパティの範囲は多少異なる。 図 2.構造化データの登録例 ## 3.3 検索 検索機能は MediaWiki の拡張 [5] として用意されており、これを使って例えば”構造化サ ーチ”[6]という検索ツールが開発されている。 図3.構造化サーチ 構造化データは対象物の属性などを意味ごとに区別して保持できるため、目的に応じて柔軟な検索が可能である。例えば浮世絵の中でも「歌川国芳」が作者であるものと、題材として描かれているものとを区別できる。 他方、検索方法を生で記述する SPARQL クエリーはなかなか一般には馴染みにくいため、 このツールのように使いやすい検索インタフエースの提供が重要である。 ## 3. 4 クエリーサービス WCQS ウィキデータのクエリーサービス WDQS と同じインタフェースで SPARQL クェリー記述及び結果の可視化サービス WCQS[7]がベータ版として提供されている。 図 4. WCQS の画面 ## 4. おわりに ## 4. 1 今後の課題 法的な面では著作権にまつわる判断基準を個々の参加者や利用者ではなく、法的な実体として専門家の助言等も踏まえて表明する WMF のような存在や、ある程度コンセンサスを得られた分かりやすいガイドライン等の周知がデジタルコピー/アーカイブの利活用推進のひとつの鍵であろう。 元々は著作権者自身が利用することが想定されているライセンスだけでは誤用を生みかねない面があることから、作品の所蔵館などが単に権利の有無を記載するための rights statements の動きも出てきている。少なくとも公的機関が所蔵する作品については、国民あるいは人類の共有財産として、本来存在しない権利を主張しないことについての社会的な合意形成が進展することを願うものである。 技術面ではコモンズ構造化プロジェクトはようやくインフラが整った段階で、実際のデ一夕整備や検索性の向上はまだこれからの段階である。より便利な環境の整備には GLAM 機関からの PD 作品公開の推進と併せ、コミ ユニティ側の活動の広がりも不可欠である。浮世絵、絵画など、分野ごとのコンテンツとデータを充実させることが利活用の広がりにつながる。研究や興味の対象物について、誰でも利用できるコモンズの活用を検討頂ければ幸いである。 ## 参考文献 [1] ウィキメディア財団の立場 https://commons.wikimedia.org/wiki/Commons:W hen to use the PD- Art_tag/ja\#\%E3\% $\% 2 \%$ A6\%E3\%82\%A3\%E3\%82 $\%$ AD $\% \mathrm{E} 3 \% 83 \% A 1 \% \mathrm{E} 3 \% 83 \% 87 \%$ E3\%82\%A3\% Е3\%82\%A2\%Е8\%B2\%A1\%Е5\%9B\%A3\%E3\%8 $1 \% \mathrm{AE} \% \mathrm{E} 7 \% \mathrm{AB} \% 8 \mathrm{~B} \% \mathrm{E} 5 \% \mathrm{~A} 0 \% \mathrm{~B} 4$ (参照 2020 - 08-19) [2] ianVisits, "British Museum makes 1.9 million images available for free" https://www.ianvisits.co.uk/blog/2020/04/28/britis h-museum-makes-1-9-million-images-availablefor-free/ (参照 2020-08-19) [3] British Museum, Copyright and permissions https://www.britishmuseum.org/termsuse/copyright-and-permissions (参照 2020-08- 19) [4] Category:Collections of the British Mu seum by object type https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Col lections_of_the_British_Museum_by_object_type (参照 $20 \overline{2} 0-\overline{0}-19$ ) [5] WikibaseCirrusSearch https://www.mediawiki.org/wiki/Help:Extension: WikibaseCirrusSearch/ja(参照 2020-08-19) [6] 構造化サーチ(Structured Search) https://hay.toolforge.org/sdsearch/\# (参照 2020-08-19) [7] WCQS https://wcqs-beta.wmflabs.org/ (参照 2020-08-1 9) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [32] デフレーミング戦略による展覧会デザインの提案 原翔子 1) 1) 東京大学大学院学際情報学府, 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: [email protected] ## Designing Exhibition through Deframing Strategy HARA Shoko ${ }^{1}$ 1) The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-0033 Japan ## 【発表概要】 近年ではデジタルアーカイブの拡充によって世界中の博物館や美術館がオンラインでコレクシヨンを展示するようになった。そこで,博物館における展覧会と鑑賞者との間には、物理的な空間における鑑賞だけでなくオンライン展示の利用という場面においても相互作用があるべきだとされている。オンライン展示が抱える現状の問題点は、個人へのパーソナライズと鑑賞前後体験の補助という場面から認識することができる。特に前者について、高木(2019)によるデフレーミング戦略は親和性が高く、経済学の概念でありながら展覧会への応用可能性が大きい。本稿ではデフレーミングを援用し、オンライン展示に留まらない展覧会デザインを提案する。 ## 1. はじめに COVID-19 以降、特に感染拡大が懸念され ていた期間中、世界中の博物館が一時的に展示空間の閉鎖を余儀なくされた。日本の博物館も例に漏れず、再開後は日時指定入場券のはじめとする入場規制を実施し混雑緩和に努めているほか、自宅で楽しむことのできるサ一ビスの公開にも注力するようになった。 各々の取り組みについては、代表的なものを美術手帖が「ギャラリートークからパフォー マンスまで。YouTube で楽しむ美術館・博物館のオンラインコンテンツまとめ」として公開している[1]。 原 (2020)は文化継承の場として博物館を想定し、情報技術の応用可能性が博物館内のみならず鑑賞後にも大いに見出せるとして、博物館内における現状の情報技術応用実態を確認したうえで、主に展覧会図録のデジタル化、 オンライン化が有用ではないかと提案した[2]。本稿では、博物館がウェブ上で公開しているデジタルアーカイブによるオンライン展示に焦点を当て、博物館における鑑賞の前後体験の拡充を図る。際して海外先行研究を参照しながら、デフレーミング戦略のオンライン展示への応用可能性を示す。 ## 2. 展覧会とデフレーミングの親和性 2. 1 オンライン展示 展覧会の中でもオンライン展示は、物理的な博物館空間における鑑賞を補助する重要なサービスである。これは博物館の役割が変化 してきた過程を追うことでも理解できる。博物館の伝統的な役割は 17 世紀から 18 世紀にかけて確立されたコレクション中心の「保存と研究」から、20 世紀以降は一般市民を対象とした「教育的役割」にまで拡充し、現在ではコレクションと一般市民との間にある関係性が重要になっている[3]。すなわち、博物館の提供するコレクションとそれを鑑賞する一般市民との間に相互作用が生まれる必要がある。 ## 2.2 デフレーミング戦略 「デフレーミング」とは高木(2019)[4]が提唱された概念であり、枠が崩壊するという意味の造語である。これは伝統的なサービスや組織の枠組みを超えて、内部要素を組み合わせたり、カスタマイズしたりすることで、ユ ーザーのニーズに応えるサービスを提供するという経済学および経営学における考え方である。デフレーミングは「分解と組み換え」 「個別最適化」、「個人化」という 3 要素で構成されている。本研究においては、作品のデジタルアーカイブデータを活用し、展覧会という場において「作品群の分解と組み換え」、「鑑賞者 1 人 1 人への最適化」、「展覧会構成主体の個人化」という観点からデフレーミングを実践することができるだろう。 新たな時代の展覧会デザインを提案するべく、本稿では海外先行研究論文を参照しながら才ンライン展示の現状を把握するとともに、問題点をいかに克服しうるかを探るにあたってデフレーミングを援用する。 ## 3. 来館者行動 オンライン展示における博物館と利用者の相互作用を考える前に、博物館は情報技術を応用して来館者行動をどのような形で把握しているのかについて、 2 つの研究例を挙げる。 来館者の鑑賞スタイルは個々に異なるため、鑑賞する箇所の順番や数、経路の長さも異なることから Yoshimura et al. (2019)は、来館者に空間的・時間的な選択肢が与えられると、来館者の入口から出口までの動きはよりランダムになるのだろうかという研究質問のもとで、ルーブル美術館を舞台に、来館者の連続的な動きとそのパターンを考察した。その結果、短期滞在者の方が長期滞在者よりも強いパターンを示し、短期滞在者の方が長期滞在者よりも鑑賞スタイルの選択性が高いことを確認した[5]。空間構造は来館者に移動の選択肢を提供し、来館者がどのような順序で見るのかをフレーミングすると指摘し、主要展示物以外の展示物を中心に二次的なメッセージを作成することがより効果的であり、おそらく短期滞在の来館者よりも長期滞在の来館者の方がよりよく受け取ることができるだろうという結論が得られた。その上で美術館内だけでなく、特定の作品ごとに来館者の経路や滞在時間を考慮することで美術館の施設を最適化することができると主張している。 Botta et al.(2020)はオンラインサービスの広範な利用によって生成されたデータは、より迅速な洞察を提供するのに役立つのだろうかという研究質問のもとで、検索データが文化と芸術の領域における政策立案者にとって価値のある行動的洞察を提供できるかを調查した[6]。その結果、Google 検索で美術館やギヤラリーを検索したデータから来館者数の推定値を作成できることが示された。具体的には、博物館やギャラリーを訪れたいと思っている人は、博物館やギャラリーを訪孔るときにそれらに関する情報を Google 検索する可能性が高いのではないかという仮説が支持された。 これらの研究から、オンライン展示は(i)来館者個人へのパーソナライズと、(ii)博物館における実際の鑑賞前後の情報収集及び補助体験という点で大きく貢献しうることが考えられる。 ## 4. パーソナライズ Agostino et al.(2020)は COVID-19によるロックダウンの間、イタリアの州立博物館でソ ーシャルメディア・プラットフォームが果たした役割を調査したところ、博物館の物理的なサイトが閉鎖されているのにもかかわらずオンラインで活動的であり続けたいという強い願望を持っているという事実を浮き彫りにした[7]。ここでは、インタラクションの増加があまり顕著ではないことがわかったという点が興味深い。デジタル化された鑑賞モデルについて、より余裕のある、よりターゲットを絞られ、よりパーソナライズされた鑑賞が期待されるとし、デジタルと物理的な体験の重なりに着目していきたいと主張した。 しかし Marty(2011)によると、実際、博物館におけるパーソナルデジタルコレクションシステムは開発されたものの、提供者と利用者の間にはいくつか認識の不一致があるようだ[8]。例えば博物館はパーソナルデジタルコレクションシステムによって、博物館のデジタルリソースから自分の個人的なコレクションを作成したり、博物館のコレクションから自分の個人的な利用のために画像をコピーしたり、博物館のコレクションや展示品について自分の解釈をオンラインで作成し共有したりすることを利用者に積極的に奨励している一方で、利用者の動機は単に画像のコレクシヨンを作成したいという欲求に留まっており、博物館の提供する多くの機能は望まれていないことがわかった。また、コレクションを作成した人が何も考えずにコレクションを放棄してしまうことが多いことも確認された。 そこで Marty(2011)は、オンライン展示を博物館にとっての増幅器とするには、デジタルメディアの特異性と可能性を探求し、活用する必要があると前置きしたうえで、「21 世紀のユーザーに最も適したオンライン展示とは、伝統的な行程に従って利用者を直線的に案内し、課題やゲームを提案することで単なる物理的な展示の複製ではないものにする、付随的な物語性のある提案をうまく組み合わせたものであると考えているとまとめた。 ## 5. 鑑賞前後体験の補助 Walsh et al. (2020)は来館後のサポートのためのテクノロジーの活用の例として、訪問 者が自分の携帯電話を使って自分の興味を表現するキーワードを含むテキストメッセージを送信すると、帰宅後にパーソナライズされたウェブサイトを利用することができるというサービス [9]を挙げた。Mateos-Rusillo\& Gifreu-Castells(2017)はより多くの人々が実際に博物館を訪れる前に訪問の準備に時間を費やし、博物館を訪れた後で見たものや見逃したものを振り返って関連情報を探すようになることが期待されているなかで、来館者を引き留めるためには、博物館のウェブサイト (オンライン)と物理的な博物館空間(オンサイト)を組み合わせた没入型の博物館環境を採用しなければならないと主張した[10]。近年、博物館の目的は単にコレクションの静的な情報を提供することから、来館者の個人的な特徴、目標、課題、行動に応じた方法で、世界中の様々な来館者にパーソナライズされたサ一ビスを提供することへと変化していることから博物館は、パーソナルデジタルコレクシヨンシステムのように、利用者が自分自身の学芸員になるためのツールを提供しているが、 Mateos-Rusillo\& Gifreu-Castells(2017)はその際にオンラインとオンサイトの鑑賞を集中的かつ長期的に結び付けるアプローチを提案している。 しかし、美術館のオンラインコレクションの利用者には、 10 秒以内に 1 から 2 ページしか見ずに離脱してしまう者が多い[11]というのが現状である。Bowen\&Bernier(2003)はリバプール博物館ウェブサイトの大規模な利用者調査を実施した。その結果、これまで「学術関係者」、「博物館関係者」、「学生」、 「専門家」などアクセスしやすい利用者に焦点を当てた調査が大半を占めていたものの、 利用者全体の約 $76 \%$ を占めているのは「一般利用者」や「非専門家」であることが明らかとなった。すぐに離脱してしまう利用者は 「一般利用者」および「非専門家」に属している可能性が高いという。関連して MacDonald(2015)は「美術館はコレクションをウェブ経由で利用可能にすることを目指しているため、ユーザーエクスペリエンス(UX) を向上させるように設計されていることが不可欠である」という観点から、オンラインミユージアムコレクションの UX 評価ルーブリックを作成し、検証した[12]。ルーブリックの品質は 4 名の専門家(UX の専門家 2 名と美術館の専門家 2 名)によって確認され、アクセシビリティを高めたり美術館以外の専門家にアピールしたりするためのいくつかの改善が必要であることが示唆された。 ## 6. オンライン展示以外での相互作用 ここで補足的に、オンライン展示ではない場面での博物館と来館者の中でもオンラインサービスを利用する者との間における相互作用にも言及する。相互作用という点では直接的な意見交換が最も単純な手段ではある。 Mulholland\&Zdrahal(2005) はオンラインフオーラムが博物館にうまく統合されていないことを指摘し、ディスカッションフォーラム機能の実験的な実装について議論した[13]。 ほかにも、博物館がディスカッションフォー ラムの利用を発展させる可能性が説かれている[14]。 ## 7. デフレーミング戦略の援用 ## 7. 1 分解と組み換え 展覧会において、作品群は学芸員やキュレ一ターが策定した章立てに従って展示される。 これは、鑑賞前の予習と鑑賞後の復習に役立つものの、そもそも全員が同一の鑑賞体験を経るわけではないので、自由度には久ける。画一的に構成された作品群を分解し、個人の鑑賞スタイルに合う形で新しく組み替えられた作品群が提示されると、事前事後のオンライン展示への関心強度が増すのではないだろうか。 ## 7.2 個別最適化 鑑賞者 1 人 1 人への最適化について、既存のパーソナライズされたオンライン展示は、利用者の主体性に委被られる点が多くある。 その結果、非専門家や一般の利用者の関心を長期にわたって惹きつけることが困難になっている。したがって、オンラインのショッピングサイト等のプラットフォームサービスのような、個人への作品群提案であれば、個人が望むものが提供されるだけでなく、時と場合に応じた選出が可能になる。すでに実装されている個人でコレクションする形式では、作品数の増加とともに、蓄積に伴う情報の整理の難易度が上がり把握しきれなくなりうるが、これが解消されると期待される。 ## 7. 3 個人化 先行研究から、専門知識を持たない利用者が自ら作品を選定し自分自身にとっての学芸員となることには、大きな負担があることがわかった。それでも個人の主体性を促すにあたっては、専門知識を持たない一般人という利用者層をより詳細に解明する必要がある。現状では学術及び博物館関係者のみが区分されて理解されているが、大半を占める非専門家層を個人として捉えたアプローチが求められる。 ## 8. おわりに デジタルアーカイブの拡充とともに、意義を共有するためにはその利用もますます活発化しなければならない。利用促進という点では、経済学や経営学分野の知見からノウハウを援用することで、専門知識がなくて万人が個人の選好に従ってデジタルな文化資源に触れることができるようになるだろう。 ## 参考文献 [1] 美術手帖ホームページ内. 2020-04-25. https://bijutsutecho.com/magazine/insight/2 1740 (参照 2020-08-21). [2] 原翔子. [C44] 文化継承の場における情報技術の在り方. デジタルアーカイブ学会誌, 2020, 4(2), p.245-248. [3] Marty, P. F. My lost museum: User expectations and motivations for creating personal digital collections on museum websites. Library \& information science research, 2011, 33(3), p.211-219. [4] 高木聡一郎. デフレーミング戦略アフター・プラットフォーム時代のデジタル経済の原則. 翔泳社. 2019, p. 276. [5] Yoshimura, Y., Sinatra, R., Krebs, A., \& Ratti, C. Analysis of visitors' mobility patterns through random walk in the Louvre Museum. Journal of Ambient Intelligence and Humanized Computing, 2019, p.1-16. [6] Botta, F., Preis, T., \& Moat, H. S. In search of art: rapid estimates of gallery a nd museum visits using Google Trends. E PJ Data Science, 2020, 9(14). [7] Agostino, D., Arnaboldi, M., \& Lampi $\mathrm{s}$, A. Italian state museums during the $\mathrm{C}$ OVID-19 crisis: from onsite closure to onl ine openness. Museum Management and Curatorship, 2020, p.1-11. [8] Marty, P. F. My lost museum: User ex pectations and motivations for creating $\mathrm{p}$ ersonal digital collections on museum we bsites. Library \& information science rese arch, 33(3), 2011, p.211-219. [9] Walsh, D., Hall, M. M., Clough, P., \& Foster, J. Characterising online museum users: a study of the National Museums Liverpool museum website. International Journal on Digital Libraries, 21(1), 2020, p.75-87. [10] Mateos-Rusillo, S. M., \& Gifreu-Cast ells, A. Museums and online exhibitions: a model for analysing and charting existi ng types. Museum Management and Cura torship, 32(1), 2017, p.40-49. [11] Bowen, J. P., Houghton, M., \& Berni er, R. Online Museum Discussion Forum s; What do we have? What do we need? In Proc. MW2003: Museums and the We b. 2003. [12] MacDonald, C. Assessing the user ex perience (UX) of onlinemuseum collection $s$ : Perspectives from design and museum professionals. In Museums and the Web (Vol. 2015). 2015. [13] Mulholland, P., Collins, T., \& Zdraha l, Z. Bletchley Park Text: Using mobile a nd semantic web technologies to support the post-visit use of online museum resou rces. Journal of Interactive Media in Edu cation, 24(Specia). 2005. [14] Wang, Y., Stash, N., Sambeek, R., Sc huurmans, Y., Aroyo, L., Schreiber, G., \& Gorgels, P. Cultivating personalized muse um tours online and on-site. Interdiscipli nary science reviews, $34(2-3)$, 2009, 139-1 53 .
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# [31] Covid-19 ウイルスのため大船渡で無観客開催された 震災メモリアルイベントの事例研究 ○北村美和子 1 ) E-mail: [email protected] ## A no-show event in Ofunato due to the Covid-19 virus "Case study of memorial events for the earthquake" KITAMURA Miwako ${ }^{1)}$ 1) Graduate School of Engineering,Tohoku University, 6-6 Aramaki Aoba,Sendai-City,Miyagi, 980-8579 Japan ## 【発表概要】 2020 年発生したウイルス Covid-19 の影響のため多くの災害メモリアルイベントの自肃要請が行われた。震災から 9 年経た 2020 年岩手県大船渡では震災を伝えるための語り継ぎイベントが初めて岩手県で開催される予定であった。しかしこのイベントもパンデミックを抑えるために観客無しで行うことになった。このような緊急時のイベント開催であった。語り継ぎイベントを主宰した東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)では「みちのく震録伝」の活動により災害情報のデジタル化や震災イベントの動画中継などを行なっていた。このため、今回のパンデミックによる緊急事態への備えも充分にできていた。本研究では災害アーカイブのデジタル化による有効な活用方法や記録継続の必要性や無観客イベントのストリーミングの重要性について述べる。 ## 1. はじめに 2020 年 1 月に Covid-19 ウイルスは中国で初めて感染が確認された後、急速に世界に拡散していった。そして、地理的、経済関係など中国と近しい関係にある日本にも Covid-19 の感染の影響はまたたく間に及んだ。その結果、日常生活、観光、エンターテイメント、貿易などカスケード式に感染影響は拡散していった。 東日本大震災が 3 月 11 日に発生したことから被災地にとって 3 月は被災地のみならず多くの人々にとって重要な月であり、様々な震災関連のイベントが予定されていた。しかし、 これらの追悼行事は Covid-19 の感染予防のために自肃状況となった。本研究はこのような状況のなか無観客で行われた東日本大震災の語り部イベントに着目し、デジタル災害アー カイブの重要性を示唆する。 ## 2. 先行研究 パンデミックを含む自然災害が経済に及ぼ寸影響について経産省は国際的な影響や国内に及ぶ影響について、マクロデータを用いて長期的、短期的な影響について包括的な予測 を行なった。この調查によると世界経済は長期間低迷するとの厳しい現状を理解することができた。しかし、このような状況においても震災の記憶を伝えるイベントなどは重要である。特に、東日本大震災のように甚大な被害のあった災害の教訓を継承するためのメモリアル行事の意義については継続することが大切である。災害の記録を継承することの重要性について経済や文化に関して多くの議論がなされているが Covid-19 の感染拡大により影響をうけた東日本大震災のメモリアルイベントについての研究はまだ十分に行われていない。 ## 3. 研究方法 2020 年 3 月 7 日大船渡リアスホールで開催された東日本大震災語り継ぎイベントを研究対象とし、開催までの経緯を説明する。そして、個々の証言記録が語り継ぎと言う過程を経て個人的な災害記録がストリームを通じ多くの人々の集合的記憶となることついて、デジタルアーカイブがどのように寄与しているかを検証する。 ## 4. 語り継ぎイベントの概要 東日本震災の伝承を後世に残すために様々な試みがなされている。東北大学みちのく震録伝[1]が東日本大震災の直後からおこなっている語り継ぎのイベントもその一環である。 IRIDeSが構築している東日本大震災の記録デジタルアーカイブ「みちのく震録伝」で収集をおこなった証言記録を、「詩」へ編集し、俳優の竹下景子さんがクラシック音楽とともに朗読を行う企画である。このイベントを継続的に行うことにより、多くの方に、東日本大震災の実際の体験が語り継がれ、今後の防災、減災教育に役立てられるとともに、震災にまつわる物語の『語り部』育成へとつながることを期待し、被災地復興に向けた様々な取り組みを紹介する場の提供もおこなっている。 ## 5. Covid-19 感染拡大とイベントの開催 令和 2 年 3 月 7 日(土)岩手県大船渡市民文化会館リアスホールにおいて公演を予定していた東日本大震災語りベシンポジウム「かたりつぎ〜朗読と音楽の集い〜」が Covid-19 感染症対策についての政府要請に従い、動画中継のみの無観客で実施された $[2]$ 。また、本催事はインターネット中継を行っていたが、中継が止まるなどのトラブル報告があったことから、録画したイベントについて動画サイトである YouTube で配信を行った[3]。2020 年 8 月 21 日現在 836 回もの再生がおこなわれている。 また主催側として参加した筆者は、本イベントの証言者の方々からヒアリング調査なども行った。そして、震災イベントの大きな意義について以下の点などをあきらかにした。 震災のイベントは 〉 被災者方々が震災で亡くなった方々を偲ぶ心のよりどころであること > 被災者が自らの体験を再度試みる場震災から 9 年を経てみずから語ることにより、当時の状況を俯瞰することができる。こ のようなイベントは被災者にとって震災を再度疑似体験する貴重な場にもなっていることが理解できた。 ## まとめ このように Covid-19 の感染の危険の可能性がある状況下においても、震災のイベント事態をキャンセルすることなく開催することの重要性が明らかになった。そして、みちのく震録伝のように、証言記録などについて継続的に記録を行い、デジタル化しておくことや東日本大震災のメモリアルイベントを定期的に開催していた経緯があったからこそ、今回のような不測の事態があったとしても緊急対応が可能であった。 このように多くの人々にイベントを通じ災害の記録を伝えることによって、被災者に心のケアや震災という事象が多くの人々の集合的記憶へ繋がっていく。 前述したように、災害の記録を個人や組織的な範囲だけではなく、地域の集合的記憶とするためには、持続可能なデジタルアーカイブ、さらには震災イベント、ミュージアムなどの多様性のある災害記録を構築し、それらを地域防災などに活用することが望まれる。 ## 参考文献 [1]みちのく震録伝(2011). http://www.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp (参照 2020-08-20) [2]新型コロナウイルスの影響を踏まえた経済産業政策の在り方について(2020). https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/ sokai/pdf/026_02_00.pdf (参照 2020-08-20) [3]かたりつぎ〜朗読と音楽の集い〜 https://www.youtube.com/watch?v=PtTAeDi dJ2Y\&feature=youtu.be (参照 2020-08-20)
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# [25] コミュニティアーカイブ連携のためのメタデータスキー マについて ○水島久光 ${ }^{1)}$, 椋本輔 ${ }^{2}$, 上松大輝 $\left.{ }^{3}})$ 1) 東海大学文化社会学部, $\bar{T}$ 259-1292 平塚市北金目 4-1-1 2) 学習院大学 / 鶴見大学, 3) 国立情報学研究所/専修大学 E-mail: [email protected] ## Metadata Schema for Community Archive Cooperation MIZUSHIMA Hisamitsu ${ }^{1)}$, MUKUMOTO Tasuku ${ }^{2}$, UEMATSU Hiroki ${ }^{3}$ ) 1) Tokai University, 4-1-1 Kitakaname, Hiratsuka, Kanagawa,259-1292 Japan 2) GAKUSHUIN University/TSURUMI University, ${ }^{3}$ NII/SENSHU University ## 【発表概要】 東海大学水島研究室は 10 年以上に亘り、コミュニティアーカイブの構築と連携をテーマに草の根の活動情報を収集し、時には実践者と共同で上映や研究会、ワークショップ、フィールドワ一クなどを行ってきた(原田・水島,2018)。こうした研究を通じて入手・蓄積または寄託された資料群の保全・管理という課題には、権利、物性、その他活動に即した困難さがある。しかしそれらにはオリジナル資料の喪失あるいは損傷をうけたときのバックアップ機能(ダークアーカイブ)や、アクセスの道を開くための目録的側面もあり、コミュニティアーカイブ構築と連携のボトムアップ的性格を定義づける積極的意味が見出せる。今回、研究室の環境整備の機会を捉え、その課題を基礎づけるメタデータスキーマの策定を行った。それはダブリン・コア 15 項目中の Contributor(寄与者)の概念の振舞いに注目した体系化の試みであり、メタデータスキー マを巡る議論を再考し、データマネジメントの実践課題に対しても新たな提案となるものと考える。 ## 1.はじめに一一禍転じて、実践と為す。 「コロナ禍」の長期化は、コミュニティア ーカイブの構築と連携を研究する立場には厳しい環境となった。しかし地域に赴き資料を涉猟できない代わりに思考実験の精度を高める時間が得られた結果、現在のデジタルアー カイブのステータスを、メディア史と技術論の間に定位させることに挑戦できた。 特に「メタデータスキーマ」に焦点化したことで、デジタルアーカイブの標準化志向の再考に踏み出せた意味は大きい。これまでトップダウンの文化政策の動向および機械処理技術による合理化の進展と同期してきたその議論は、実は 2000 年前後以降は収束し、包括的な指針が見失われた状況にあったのだ。 その背景にはヨーロピアナやジャパンサー チなど、国家・超国家プロジェクトが実装の段階に入ったことがあろう。しかしその反面、 ますますコミュニティアーカイブの構築を目指すモチベーションとの乘離は深刻化していった。遍在する草の根の運営者たちの多くは、一次資料とデジタル環境の間に挟まれ、真剣 にソリューションを求めていたのである。本発表ではこうした現状に鑑み、「メタデー タスキーマ」の目標とされる標準化のロジックを、ボトムアップの連携を促す手がかりに解釈を広げるアプローチとして提案する。それは、コミュニティの運動としての側面を支える「主体」と「場」と「資料」の関係を定義づけていく試みとなるであろう。 ## 2. メタデータスキーマの「メディア史」 ## 2. 1 図書館からワールド.ワイド.ウェブへ 本研究において再考し、新たな用法を提案するメタデータの「スキーマ(概念構造)」をめぐる現状は、デジタルコンピューターでの機械処理を前提にした、二つの歴史的背景から見ていくことができる。その一つは、19 世紀以来の十進分類法をはじめとする図書分類法や 1960 年代から機械可読目録=MARC (MAchine-Readable Cataloging) についての議論・整備を積み重ねてきた図書館/図書館(情報)学の系譜であり、そしてもう一つは、1990 年代を端緒とするインターネットと りわけワールド・ワイド・ウェブ(WWW) という形式でコミュニケーションと情報の記録と整理が同時的に行われる状況の一般化の認識である。 今日そのスキーマの代表として語られるダブリン・コアも、まさに前者の統語論的、統制語彙の世界観を背景に、後者の言語行為論的、語用論的な語彙の世界観に対応するための方法として、1994年のWWW の国際会議、 1995 年のワークショップを通じて誕生した。 同時に、ハイパーテキストという言葉に象徵されるように、初期の WWW も多分に図書・書物の世界観の延長に有った。ゆえにその普及に合わせて、2000 年代の前半頃には、 MARC について積み重ねられてきた議論と結びつき、ダブリン・コアをべースとした概念定義・記述の精緻化の試みなどが盛んに行われていたことが確認できる。[注 1] ## 2. 2 トップダウンかボトムアップか しかし、その後のメタデータスキーマをめぐる議論や技術システム的実践では、当初のトップダウン的な概念体系整備を指向する方向性が薄れていく。代わって、セマンティック・ウェブやフォークソノミーといった提唱に象徴されるように、我々二人々が日常的なメディアとなったインターネット・WWW を使う中で、可能な範囲で機械処理に親和的な情報——各種のタグなどの「メタデータの素材」一一の付与を促していく、「人間機械複合系」(西垣,2008)的な方向性が盛んになった。但しそうした状況の中でも、ダブリン・コアは、最大公約数的な共通のスキーマとして活用・参照され続けてきた。 しかし、そこでは最終的に、我々が日常的・無意識的に付与した「素材(記号素)」から、機械処理によってメタデータやメタデー タスキーマ、オントロジーを自動的に構築・交換していく可能性が指向されている。いわば「自動的な機械処理によるボトムアップな概念体系」である。そうした観点では、第二次と第三次人工知能ブームの狭間に有ったセマンティック・ウェブのような議論と、その後の深層学習などの技術的新機軸による自動学習と推論が前景化した第三次ブーム下の新たな状況は、連続的に捉えられるだろう。 それに対して本研究は、自動的機械処理のみによるボトムアップでもなく、トップダウンの概念体系に具体的な資料や主体をただ当て嵌めていくのでもない、デジタルアーカイブをめぐる人々ニコミュニティの関係性に具体的な問題意識を置くものと位置づけられる。 それは、実践が生み出す意味論的な環境からのダブリン・コアの「読み直し」を試みるものである。 ## 3. ダブリン・コアを組み替える ## 3. 1 フラットな並列関係から構造的配置へ これまで述べてきたように、今日に至るまでダブリン・コアがメタデータスキーマの雛形として果たしてきた役割は小さくない。しかし実用化におけるハードルは、様々な場面で指摘されていた。それは定義に直接従った要素の拾い出しでは、意味論的な階層性が捨象され、資料属性がフラットに配置する機械処理的過程の下に解釈されていたことによる。 その形式合理性に対し本研究では、積極的に「メタデータスキーマ」をコミュニティア一カイブ連携の「道具」として見なす。そのためにはダブリン・コアの 15 項目相互を、並列関係ではなく、収集・整理および利活用の状況を反映した「構造を有するもの」として扱う必要があると考えた。 そうしたときに、果たしてどの項目が他の項目を従えるハブとして前景化するだろうか ——まず我々はこれまで調査してきた多くのコミュニティアーカイブを参照し、実践者の主体性に鍵があることを見出した。草の根のアーカイブ実践は、悪く言えば「属人的」、ポジティブに見れば情熱をもって取り組むパー ソナリティ(およびその集団・組織)によって支えられている。コミュニティアーカイブのメタデータは、まずはその行動に紐づいていなければならない。 ## 3. 2 [contributor] と [coverage]を核に 据えた定義試案 ダブリン・コアの項目のうち主体性に関わるものは 3 つある。Creator、Contributor、 Publisherである。まずCreator はリソースそのものの産出者を指す点において疑問の余地はないが、Contributor (寄与者)、Publisher (公開者)の 2 項目には相当な解釈の幅が想定される。しかしアーカイブ実践がイコール公開にはならないケースがあることを踏まえると、 Contributor の方が先の実践者の様態に近い。 Contribute A to B の構文の辞書的意味に従うなら Contributor はそのリソースを持ってアーカイブの総体に「寄与する」ということになる。一方 Publisher は、アーカイブ以前にそのリソースはいかに「発表・周知」されたか、 その媒介行動に関わる項目となる。それは保存・蓄積を前提としていないメディアであっても可能である。そこに両者の違いがある。 Contributor がそのリソースをアーカイブに供する万法、なぜ保存すべきとしたかを記述する重要な項目が Coverageである。ここでは具体的なアーカイブの輪郭、あるいはリソ ースをアーカイビングする契機となったテクスト、展示会、ワークショップなどユーザー との接点となった機会 (時空間) が想定される。 Relation (関係)、Source(出処)は逆に Coverage の外部との関係性、すなわち Contributor ではなくC Creator やPublisher を介した他のリソース (群) との関係が示される。 また Rights (権利管理) ではユーザーとの関係 (利用範囲)、そして Identifier (資源識別子) にはアーカイブ内の位置情報が記される一これらは全てリソースの特定に関わる。 Contributor はリソースの $\mathrm{n}$ 次利用者である。ゆえに Date 、Type 、Format 、 Language は当該アーカイブにおける様態との関係で複数の情報を持ち、Creator(オリジナル)、Publisher(メディア掲載等)をどこまで明示するかは Coverage に依存する。 Subject と Description はリソースの内容に関わる項目である。前者は階層化された属性、後者は自由記述を可能にすれば様々な状況に対応できるだろう。 このように Title 以外の 14 項目を構造的に配置することによって、Contributor に対する Creator と Publisher、あるいは Relation やSource が連携のノードとして機能し、ネットワーク的な意味連関を形づくるようになる。 図ダブリン・コアの構造的配置(案) ## 4. メタデータの実装と、技術的留意点 4. 1 メタデータによる連携 これまでコミュニティアーカイブの構築は、 デジタル複写データの作成とその保存環境の整備が優先課題とされてきた。しかし、このように複数の同じような目的をもった運営主体が共通の構造をもつメタデータスキーマを採用すれば、現物(一次資料)保有者が構築に先立って目録整備を進めておくことも可能になる。そしてその実践を介し、他のコレクションとの参照関係が築ければ、相互に指し示すことによって意味解釈を深める循環的連携の動きが生まれることになる。 本研究では、ダブリン・コアを含むメタデ一夕は RDF や HTML 文書等に記述し、Web 上のリソースとして記録されることを想定している。ここで重要なのは、現物(一次資料) の在り処である。本来、現物がデジタルアー カイブされ、そのメタデータは、現物含め Web 上の参照可能な URI を持つことになるが、 もちろん、まだアーカイブされておらず、メタデータが記述されていない場合もある。 一次資料をデジタルアーカイブ化可能な場合、リソースに対し URI を定義し、 $\mathrm{n}$ 次利用の Contributor が参照することで、データを もとに Contributor の活動が連携することになる。一方一次資料がデジタルアーカイブ化されないときも、Contributor が複数の $\mathrm{n}$ 次利用を記述すればメタデータができあがる。 現物の複製は存在しないが、メタデータの複製が存在していることも考えられる。ここではメタデータの URI や Contributor の値は異なるが一次資料は同一なので、title や description、creatorは同一となるはずである。即ち同一のリソースを用いて開催されたイベント等で Contribute した活動から、一次資料の形が浮かび上がってくるはずである。 ## 4. 2 Contributor の役割と範囲 Contributor は、アーカイブすべきと判断した現物(一次資料)に対しての寄与者であると同時に、そのアーカイブの Creator や Publisher にもなり得る。また、現物を活用して寄与した内容に応じて、授業やイベント、書籍等のCreator やPublisher ともなり得る。 前節にて、 $\mathrm{n}$ 次資料の Contribute をたどることで一次資料の形を明らかにすると述べたが、Coverage や Relation に記載される展示会やワークショップおよびそこに供される具体物については、ダブリン・コアに限らず、 より詳細にイベント(機会)情報を記述するなどの工夫が必要である。 ある title の資料の Contributor たちが、この資料連携を利用して実施された機会を抽出し、そこで使われた痕跡が一次資料の在処を遡及的に明らかにする実践も想定される。また、一次資料が何らかの理由で消失している場合も、 $\mathrm{n}$ 次資料を適切に記述し、 $\mathrm{n}+1$ 次利用者に貢献していくことも可能になる。 このように Contributor は、単にメタデー タスキーマ上のハブに止まらず、実践の中核の役割でもありうる。そう考えるとデジタルアーカイブには、そのデータ空間と実空間を媒介する機能を果たす役割が期待されるのだ。 ## 5. 終わりに——ミュニティとアーカイブ連携の使命 コミュニティは実世界における解釈の共有によって形成される。その原則を踏まえるならばその草の根のアーカイブには、手の届く一次資料との接点が担保されたリソースの意味論的なまとまりの記述が求められねばならない。そこでメタデータはそのインデックスとして働く重要な機能として位置づけられる。本年度は戦後 75 年、東日本大震災から 10 年というメモリアルイヤーに当たり、それらに関わる一次資料や証言の伝承の「危機」が、既にメディア等でも多く取り上げられている。 これらの資料を扱う機関はいずれも零細であり、実践主体の情熱に依存して運営されてきたことはこれまで述べてきたとおりだ。 本研究の提案は、この「危機」を乗り越える仕組みの端緒となるはずだ。コミュニティを支える主体が自らを Contributor (資料解釈への寄与者) として意識し、意味連関を可視化させる技術がそれに伴えば、新たな歴史の編み方の学習環境ができる。その点においても我々は、時代の節目に立っているのである。 ## 注 [1]Rebecca S. Guenther, 鹿島みづき(訳), 酒井由紀子(翻訳協力), MODS: メタデータオブジエクトディスクリプションスキーマ, 2003 年 https://www2.aasa.ac.jp/org/lib/j/netresource_j/gue nther0306/3.1 guenther_j.pdf (参照 2020-08-21). ## 参考文献 [1] 杉本重雄, 解説 Dublin Core について第 1 回 - 第 2 回,情報管理 45 巻 4 号 - 5 号, 国立研究開発法人科学技術振興機構, 2002 年 [2] 西垣通, 『続基礎情報学:「生命的組 織」のために』NTT 出版, 2008 年 [3] 原田健一・水島久光 (編), 『手と足と眼と耳:地域と映像アーカイブをめぐる実践と研究』学文社, 2018 年 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [23]新型コロナウイルス感染症下での“災害時避難”に関 する情報の収集$\cdot$整理$\cdot$発信: 情報を「集める」から情報が「集まる」に向けての成果と課題 ○三浦伸也 1), 千葉洋平 1), 佐野浩彬 1 ), 前田佐知子 1 ), 池田千春 1), 田中亜紀子 ${ }^{1)}$, 高橋美佐 ${ }^{1)}$, 半田信之 1), 臼田裕一郎 ${ }^{1)}$ 1) 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 総合防災情報センター 自然災害情報室,〒305-0006 茨城県つくば市天王台 3-1 E-mail: [email protected] ## Collecting, organizing, and transmitting information on "disaster evacuation and sheltering" with COVID-19 infection: Accomplishments and challenges from "gathering information" about disasters to "information is gathering" MIURA Shinya ${ }^{11}$, CHIBA Yohei ${ }^{1)}$, SANO Hiroaki1 ${ }^{1)}$, MAEDA Sachiko ${ }^{11}$, IKEDA Chiharu ${ }^{11}$, TANAKA Akiko ${ }^{1}$, TAKAHASHI Misa ${ }^{1}$, HANDA Nobuyuki1), USUDA Yuichiro ${ }^{1)}$ 1) National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience, 3-1, Ten'nohdai, Tsukuba, Ibaraki, 305-0006, Japan ## 【発表概要】 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)下では密閉空間・密集場所・密接場面の 3 つ密を避けることが推奨されている。発表者らは出水期や風水害等に向けて、都道府県や市区町村といった自治体が COVID-19 下において、内閣府防災等が提示した通達をどのように活かし、自然災害への備えを行っているかを網羅的かつ俯瞰的に把握するため、日本全国の都道府県および自治体の Web サイトを検索し、COVID-19 下における「避難」もしくは「避難所」等に関する情報 (以下、「COVID-19×災害時避難に関する情報」)の発信を行っている事例を網羅的に収集した。 この情報収集の過程で、ツイッター、ネットニュース、新聞などのメディアが情報収集をどのように促進し、情報を「集める」から情報が「集まる」兆しを感じさせたのか。情報収集、ひいてはアーカイブ構築と本来の目的以外のメディアでの情報発信などをどのように捉え、メディアと協働し、アーカイブを構築していくのが望ましいのかについて議論したい。 ## 1. はじめに 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)下では密閉空間・密集場所・密接場面の 3 つの密を避けることが推奨されている。防災科学技術研究所自然災害情報室では、国・都道府県・自治体が相互に COVID19x災害時避難に関する取り組みを参照し、それぞれが有益な情報を入手して活用できることを目的として、出水期や風水害等に向けて、都道府県や市区町村といった自治体が COVID-19 下において、自然災害への備えをどのように行っているかを網羅的かつ俯瞰的に把握するため、日本全国の都道府県および自治体の Web サイトを検索し、「避難」もしくは「避難所」等に関する情報(以下、「COVID-19×災害時避難に関する情報」)の発信を行っている事例を収集・整理し、発信した。近年、弊所は防災に関する情報を集めるだけでなく、情報が集まるようにできないかと考えており、そのためには一定程度の情報の集積をもち、あそこにアクセスすれば、防災に関する情報はほとんど取得できる(あるいは、あそこになければ他にはないだろう)という認識をもってもらえるところまで情報を集積、発信すれば、ある時点から情報が集まるようになるのではないかという仮説を立てていた。また、どのくらい情報が集積されれば、情報が集まってくるのかを知りたいと考えていた。 今回の情報収集の過程で、ツイッター、ネットニュース、新聞などのメディアが、この情報収集とその目的にどのような影響を与え、情報を「集める」から情報が「集まる」にどの程度変えたのかについて発表する。 ## 2. 網羅的な収集-整理と地図での俯瞰 \\ 「COVID-19×災害時避難に関する情報」 は、ウェブサイトによる新型コロナウィルス感染症(COVID-19) 下における災害時避難情報について把握するために、リンク情報として「コロナ AND(避難 $\mathrm{OR}$ 避難所 $)$ 」のキーワ ードで検索した情報を収集・整理した。また、都道府県名、市区町村名の検索条件を加え、 COVID-19 下における災害時避難に関する情報集約サイトとして 5 月 25 日に公開した(図 1)。当初は、リンク集、都道府県別、市区町村別の地図による情報を提供していたが、それらの情報のエッセンスを集約したサマリー レポートを 5 月 29 日から提供した。 また、初期の時点では、新型コロナウィルス感染症下における災害時避難情報を発信している都道府県数、自治体数と、その内容を、 たとえば「2020 年 6 月 12 日現在、都道府県 では 37 道府県(感染症等に関する関連情報の発信を含む場合は 41 道府県)での情報発信を確認できた。また、市区町村では 1,741 自治体のうち、666 自治体(感染症等に関する関連情報の発信を含む場合は 736 自治体)で 「COVID-19×災害時避難に関する情報」発信が確認できた」と発信していた。なお、6 月 12 日以降は各自治体の災害時避難情報の内容のみを発信することにしたことについては後述する。 なお、内閣府防災・消防庁・厚生労働省では自然災害に備えることを目的として、都道府県や保健所設置市・特別区等に対して「避難所における新型コロナウィルス感染症への対応について」(2020 年 4 月 1 日および 4 月 7 日)の通達を出している。この通達では、「災害が発生し避難所を開設する場合には、 COVID-19 の状況を踏まえ、感染症対策に万全を期することが重要」(4月 1 日通達)であるとされており、「平時の事前準備及び災害時の対応の参考」として 9 項目の留意事項を提示(4月 7 日通達)している。本サイトでは、各自治体の取組がこの 9 項目に沿って行われているのかを把握できるようにサマリー レポートに整理した。 図 1 COVID-19x災害時避難に関する情報発信(市区町村別) ## 3. メディアの影響 5 月 25 日からの「COVID-19×災害時避難に関する情報」による情報発信に対して、研究所や自然災害情報室のツイッターでさらに発信したところ、5月 26 日以降、元防災大臣の国会議員のツイッターやリスクや防災についての情報を発信しているウェブサイト(リスク対策.com、防災プラス)で紹介され、5 月 25 日に約 100 程度のアクセスであったアクセス数は 26 日には約 1800 となった。その後、読売新聞から取材を受け、 6 月 2 日の記事となり、アクセス数は 300 程度となった。 さらに内閣府(普及啓発)が主催する TEAM 防災ジャパンのサイトに掲載された 6 月 3 日も 300 程のアクセスがあり、その後は 10 日過ぎまで 100 から 200、その後 50 前後のアクセスである(図 2)。これらのメディアによる情報の拡散および報道により、その後都道府県や市区町村から「COVID-19x災害時避難に関する情報」発信が行われた際に、関連する情報の連絡が入るようになった。これらの反応は、地図で可視化され、俯瞰できるようにして発信したことで、自らの自治体が新型コロナ感染症に対しての対策を立てているか否かが一目で認識できるようになったことによるものと考えられる。 図 2 ウェブサイトへのアクセス数の推移 このサイトは前述したとおり、国・都道府県・自治体が相互にCOVID19×災害時避難に関する取り組みを参照し、それぞれが有益な情報を入手して活用できることを目的としており、全体のなかでどれくらいの自治体が対策づくりを行っており、近くの自治体や自自治体の参考になる対策づくりをしているところがあれば、参考にして対策を立てて欲しいと考えて情報を発信したものである。 本サイトがメディアに取り上げられ、アクセス数が増加し、このサイトを公開した意味があったと感じられた一方で、メディアは対策がどの程度進んでいるのかを示すために、対策を立てている自治体数を取り上げた。その結果、多くの自治体で対策が進んでいないことが記事となった。客観的な事実に基づく記事であるが、対策を立てていない自治体にとっては、良くも悪くもプレッシャーとなっていると考えられた。本サイトの目的から考えると、対策を立てていない自治体が、対策を立てるにあたって参考となる情報を提供しようと考えてサイトを公開したのであり、対策を立てていない自治体のプレッシャーになることは考えていなかった。 このようなサイトを公開した場合、数字だけが一人歩きを始めることを予想し、公開時より目的に鑑み、熟慮したうえで、対策を立てた自治体数を表示するのか否かを検討しておかねばならなかったのではないかと、現在考えている。本来の目的と異なったメッセー ジを利用者である自治体が受け取り、この情報収集・整理・発信に対してネガティブな印象を持たれ、今後協力が得られないことも懸念されたため、6 月中旬以降、対策を立てた自治体数は表示しないことにした。このことや公開から一定時間が経過したことなどにより、その後のアクセス数は 50 前後である。 図 3 COVID-19x災害時避難に関する情報発信 (市区町村別:サイト公開当初) ## 4. おわりに COVID-19x災害時避難に関する情報は、今回初めて収集された情報であり、収集した情報をどのように整理し、発信していくのか、何度も議論しながら取り組んできた。もちろ几、発表者らはこれまで「災害発生時の災害・防災情報の収集・保存・整理・発信についての研究」などで、防災 Web クローラーを使った災害情報の収集は行っていた。しかしながら、今回取り組んだ COVID-19x災害時避難に関しては、これまでどの自治体も取り組んだことのない対策であり、そもそもどの部署が取り組むのかも定かではなかった。このようななかで、全国 1741 自治体のウェブサイトにアクセスし、COVID-19x災害時避難に関する情報がないのか、一つずつ自治体のサイトをチェックしていき、その成果を 5 月 25 日に公開した。 その後、6 月の出水期を迎宇、COVID-19x 災害時避難に関する情報を発信する自治体が増加するのに伴い、ウェブサイトチェックの巡回頻度をあげ、 1 週間に 1 度程度全国の自治体サイトを巡回し、新たな情報が発信されていないかを確認していった。このような取組により、COVID-19×災害時避難に関する情報の一定程度の集積ができ、メディアに取り上げられたと考えられる。仮説として提示していた「一定程度の情報の集積をもち、あそこにアクセスすれば、防災に関する情報はほとんど取得できる(あるいは、あそこになければ他にはないだろう)という認識をもつてもらえるところまで情報を集積し発信すれば、ある時点から情報が集まるようになる」 の条件にあたる部分は満たしつつあると考えているが、「ある時点から情報が集まるようになる」という結果部分については、その兆しが感じられたところである。今回、情報を収集・整理・発信した場合、当初の目的と異なった意味で情報が流通し、目的と逆の作用を生む危険性があることが認識された。一方で、メディアによる情報拡散や報道は、このような情報発信にとって不可久である。本来のウェブサイトの目的と、メディアによって発信された情報のメッセージとの岨䀦を最少にする情報発信がウェブサイ卜には求められているのではないだろらか。 また、情報の量的な分析のみならず、質的な情報の分析を通して、なにが自治体の対策に欠落しているのかを分析することが、わたしたち、そしてメディアに求められているのではないかと考えている。 最後に、本ウェブサイトの構築を含めた取り組みはまだ途上段階にあり、こうした取り組みの事例の収集・蓄積を通じて、他の地域で活用できる事例やエッセンスを抽出し、ポジティブに日本全体で COVID-19 下における災害時避難のあり方や対策の実践につながる情報提供を実現していきたいと考えている。 ## 参考文献 [1] 三浦伸也,前田佐知子, 池田千春, 佐野浩彬,池田真幸.「災害発生時の災害・防災情報の収集・保存・整理・発信についての研究: 防災 Web クローラーによる災害情報タイムラインの自動作成に向けて」,デジタルアーカイブ学会誌 4 (2) $132-135,2020$. [2] 内山庄一郎, 堀田弥生, 折中新, 半田信之, 田口仁, 鈴木比奈子, 臼田裕一郎.「災害時における情報の統合と発信一防災科研クライシスレスポンス Web サイトの取り組み一」, 2016 年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集, 2016,P017, https://doi.org/10.14866/ajg.2016s.0_100231 (参照 2020-08-17)
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# [21] インドの新聞デジタルアーカイブシステムとその日本の 地方紙デジタルアーカイブシステムへの応用可能性 および地方新聞デジタルアーカイブ開発における公共図書館の役割について ○山口 学 1) 1)苫小牧駒澤大学, $\overline{\mathrm{T}} 059-1266$ 苫小牧市錦西町 3-2-1 E-mail:[email protected] ## A Glimpse of Indian Newspaper Digital Archive Systems and The Possibilities on Implementation of Their Applications to Japanese Local Newspapers Digital Archive Systems and The Role of Public Libraries on Developing Local Newspaper Digital Archive Systems YAMAGUCHI Gaku1) 1)Tomakomai Komazawa University, Kinsei-cho 3-2-1,Tomakomai-shi Hokkaido 059-1266 Japan ## 【発表概要】 2017 年の地方新聞社に対するデジタル化情報の調查の分析報告によると、多額の予算をかけてデジタルデータ化を進めたとしても、利用者をどの程度確保できるかの見通しがつかないため、採算性の確保が地方新聞社にとって重い課題となっている。またデータの公開や保存、維持については、メタデータの付与やシステム構築の問題がある。インドは英語とヒンデイー語の公用語のほか、22 の指定言語がある多言語・多民族国家であり、新聞は中国に次ぎ世界第二の規模を持つ。インドの図書館や公共機関では Greenstone,Dspaceなどのオープンソースソフトを使用した低コストの新聞デジタルアーカイブの開発が行われている。本稿ではインドのシステムを概観し、こうしたシステムが地方紙のデジタルアーカイブシステム開発に適用可能か考える。地域資料の収集主体である公共図書館の地方紙のデジタルアーカイブ開発の貢献可能性についてもインドと比較し考察する。 1. はじめに厳しさをます地方紙の経営 2017 年に実施されたデジタル化に関するアンケートを分析した平野桃子等の報告[1]によると、約 6 割近くの地方紙が紙面、記事単位のイメージをデータ化済みであるが、データの公開は進んでいない。(1)これには、(1)法制度的・倫理的、(2)社会的、(3)技術的、(4)経済的・制度的などいくつかの課題があるが、 やはり経済的課題が大きいと思われる。日本新聞協会によると 2019 年の新聞の発行部数は、 $37,801,249$ 部で、 2 年間で 400 万部減少している[2]。この現象は、全国紙だけでなく地方紙にも共通している。部数減少は地方人口の減少や経済の低迷も影響しているが、SNS の発達で、独占的に地方の情報を提供できてい た基盤が摇らいでいることも見逃せない。 部数減は広告収入の減少をもたらし、地方紙の経営基盤は一段と厳しさを増している。常陽新聞のように廃刊に追い込まれる例もある。多額の予算をかけてデジタルデータ化を進めたとしても、利用者をどの程度確保できるかの見通しがつかないため、消極的にならざるを得ないのである。 ## 2. 地方紙のデジタル化を阻む要因 ## 2.1 公的援助の欠如 経営が苦しい地方紙が自力でデジタル化に乗り出すことは困難である。しかし現在のところ、地方紙のデジタル化は各新聞社の自助努力に任せられており、公的な資金援助はほ とんどない。 下野新聞のように日経テレコンのシステムに加入して 2001 年以降のデジタル化に成功した例もある[3]。しかし創刊号以来のデータをすべて公開するには至っていない。 ## 2. 2 標準的なシステムの不在 地方紙のデジタル化が進展しないのは、自前で独自のシステムを開発するのは巨額な費用を必要とするのに、地方紙デジタル化のための標準的なシステムが存在しないことも一因である。下野のように中央紙のシステムに加入するのも一つであるが、すべての地方紙が加入できるわけではない。システム開発においても、公的な援助が不可欠である。 ## 3. インドの新聞業界とデジタルアーカイブ インドは 2 の公用語と 22 の指定語が使用されている多言語・他民族国家であり、日本新聞協会によると、2017 年の新聞の発行部数は $371,458,000$ 部で、発行紙数は 2016 年に 8,905 を数え、中国に次ぎ世界第二の規模を誇る。インドはデジタル化が進展しているにもかかわらず、紙媒体の発行も伸びている。 インドの新聞デジタルアーカイブの発達には、図書館が重要な役割を果たしてきた。ジャワハルラールネルー大学 (JNU) 図書館は、 1974 年から新聞切り抜き記事サービスを開始しているが、これをデータベース化して提供している。その他議会図書館をはじめとするいくつかの図書館は新聞切り抜きサービスを提供しており、その多くはデータベース化されている[4]。オープンソースソフトを使用した低コストのデジタルアーカイブシステムの研究も盛んである。その一例として、パンジ ヤブ州のババファリッド大学では、ユネスコのオープンソフト Greenstoneを使用した新聞切り抜きデータベースを開発している[5]。 ## 4. おわりに インドは近年経済成長が目覚ましいが、それまでは開発途上国として位置づけられ、図書館の財政基盤は決して豊かではなかった。 しかし日本と違って公的機関の図書館が新聞記事のデータベース化にいち早く乗り出し、 IT 技術の進展とともにデジタルアーカイブ化にも着手している。インド政府は新聞に対し補助金を拠出しており、民主主義の根本である新聞情報の重要性に関しての認識は見習うべきものがあるのではないか。 ## 参考文献 [1] 我が国における地方紙のデジタル化状況に関する調查報告デジタルアーカイブ学会誌 3(1), 35-40, 2019 [2] 黒薮哲哉の「メディア黒書」 http://www.kokusyo.jp/oshigami/14683/ (参照 2020-08-25) [3] 下野新聞社データベース plus 日経テレコン. http://telecom.nikkei.co.jp/public/guide/shim otsuke/case/ (参照 2020-08-25) [4] Online Newspaper clippings \& News Services for Libraries: Experiences in Indian Libraries. IFLA WLIC 2013 [5] Development of Digital Newspaper Cli ppings Service Using GSDL: A Case Study of University Library of Bfuhs, Faridkot. SRELS Journal of Information Management Volume 50. Issue 2, April 2013 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています
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# [15] デジタルパブリックヒストリーの実践としての「コロナア 一カイブ@関西大学」 ○菊池信彦 ${ }^{1)}$, 内田慶市 ${ }^{1)}$, 岡田忠克 ${ }^{2}$, 林武文 ${ }^{3}$, 藤田高夫 ${ }^{1)}$, 二 $/$ 宮聡 ${ }^{1)}$, 宮川創 1) 1) 関西大学アジア・オープン・リサーチセンター, 〒564-8680 吹田市山手町 3-3-35 2) 関西大学人間健康学部, 3) 関西大学総合情報学部 E-mail:[email protected] ## " Corona Archive @ Kansai University" as a Practice of Digital Public History KIKUCHI Nobuhiko ${ }^{1)}$, UCHIDA Keiichi1), OKADA Tadakatsu ${ }^{2}$, HAYASHI Takefumi ${ }^{3}$, FUJITA Takao ${ }^{1)}$, NINOMIYA Satoru ${ }^{1)}$, MIYAGAWA So ${ }^{1)}$ 1) Kansai University Asia Open Research Center, 3-3-35 Yamate-cho, Suita-shi, Osaka 5648680, Japan 2) Kansai University, Faculty of Health and Well-being, 3) Kansai University, Faculty of Informatics. ## 【発表概要】 関西大学アジア・オープン・リサーチセンター(KU-ORCAS)は、2020 年 4 月に、「コロナアーカイブ@関西大学」の運用を開始した。コロナアーカイブ@ 関西大学は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下における関西大学関係者の日常の記録や記憶を、ユーザからの投稿によって収集するコミュニティアーカイブプロジェクトである。KU-ORCAS では、コロナアーカイブ@関西大学を、昨今の歴史学の一つの潮流ともなっているパブリックヒストリーの実践として位置づけることで、収集の結果として蓄積されるアーカイブ資料だけでなく、アーカイブするという行為そのものも重視している。本報告では、コロナアーカイブ@ 関西大学のデジタルアーカイブシステムの構築とともに、資料収集の現状、そしてデジタルパブリックヒストリー としての実践について、今後の展望を交えて報告する。 ## 1. はじめに 2019 年末、中国で発生した新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)は、瞬く間に世界へと広まった。本稿執筆中の 2020 年 8 月現在、第二波と目される感染者急増の事態にさらされており、COVID-19 の流行の終わりはいまだ見通せない。 この危機的な状況下において、人々が経験している急激な世界の変化を記録し、そこで感じた日常の思いを次世代へと伝えていくことは、パブリックヒストリーの役割の一つである。パブリックヒストリーとは、「専門的な歴史学者が非専門的な普通の人びと、すなわち『公衆 (the public)』と交わり、その歴史や歴史の考え方に意識的、能動的に関与する研究や実践」を意味する[1]。本報告では、関西大学アジア・オープン・リサーチセンター (以下、KU-ORCAS)の研究者を中心とした学内の共同プロジェクトとして実施している「コロナアーカイブ@関西大学」について論じる。コロナアーカイブ @ 関西大学は、ユー ザ参加型のコミュニティアーカイブの手法を用いて、COVID-19 の流行という歴史的転換期における関西大学の関係者の記録と記憶を収集している、デジタルパブリックヒストリ一の実践プロジェクトである。 ## 2. 先行研究上のコロナアーカイブ@関西大学とその意義 COVID-19 に関するアーカイブ活動については、国際パブリックヒストリー連盟らが情報収集を行っており、それによると 446 件が登録されている(2020 年 8 月 7 日現在)[2]。諸外国においてすでに幅広く行われているものの、国内での実施例は数点にとどまっており、特にデジタルアーカイブを利用して、ユ一ザから投稿を求めるコミュニティアーカイブとなると、管見の限り、コロナアーカイブ @ 関西大学以外には認められない[3]。 したがって、コロナアーカイブ@関西大学は、日本における COVID-19 流行に関するコミュニティアーカイブの数少ないケーススタディであり、将来起こりうる危機的状況下における同種のプロジェクトの実践を考えるうえでの重要な参照事例になりうるものである。 ## 3. コロナアーカイブ@関西大学の概要と その特徴 コロナアーカイブ @関西大学を構築するにあたり特に検討を行ったのは、次節以下の 4 項目である。これらを取り上げることで、コロナアーカイブ @関西大学の概要と特徴を明らかにしたい。 ## 3. 1 ユーザ参加型の採用と投稿資格 開発にあたっては、すでに先行して公開されていたルクセンブルク大学による“COVID19 memories"と、ドイツ・ハンブルク大学等による“coronarchiv”を参照した。いずれも一般市民からの投稿によって資料収集を行っているデジタルアーカイブである。 一方で、コロナアーカイブ @ 関西大学での資料収集を考えた際、なにより\#StayHome が叫ばれていた最中に外出することは難しく、 また、ユーザによる投稿によって「記憶が寸断される現状に抗して歴史意識の涵養を促すことを意図」したことからも[4]、ユーザ参加型を選択した。 参照した二事例はいずれも一般市民に投稿資格を与えていたが、コロナアーカイブ@関西大学では一般市民からの投稿を受け付けるには管理運用が難しいと判断した。そのため、 デジタルアーカイブの投稿資格を、関西大学の関係者(留学生を含む学生、教職員、その家族、校友、併設校関係者)のみと定めた。 ただ、この投稿資格については、後述する課題にもつながっており、現在見直しを検討している。 ## 3. 2 システム構築と収集対象資料 コロナアーカイブ@関西大学の開発は、すでに COVID-19 が流行している最中に行ったので、簡易かつ早急に構築・公開できること をシステムの要件とした。この要件に合致するものとして、オープンソースソフトウェアである Omeka Classic を選択した[5]。これにより、約 1 週間という短い開発期間で公開できた。 また、ユーザがテキストデータだけでなく、画像・音声・動画も投稿できるようにすること、投稿する情報を地図上にマッピングできるようにする必要があることから、Omeka Classic のプラグインを利用し、これらの機能を実装している。 ## 3.3 権利処理のための規約と体制 著作権処理のために、一律、クリエイティブコモンズライセンス $\mathrm{CC} \mathrm{BY-NC} 4.0$ を付与している。これについては、投稿に際して同条件での公開に同意することを利用規約上で求めている。 また、肖像権やプライバシー権への配慮も必要である。投稿者に対しては、人物が写っている場合にはその人物から投稿許可を得たものかどうかの確認を求めている。加えて、 デジタルアーカイブ学会法制度部会の「肖像権ガイドライン(案)(第 3 版)」[6]の実証実験に参加し処理を進めている。その他、ユーザ自身も投稿データを非公開で投稿する意思表示ができるようにしている。 ## 3. 4 長期保存体制の確保 KU-ORCAS は 2021 年度で終了するプロジエクトであるため、関西大学博物館および年史編纂室の協力を得ることで、収集したデー タの長期保存体制を確保している。 ## 4. コロナアーカイブ@関西大学による資料収集の状況 コロナアーカイブ @関西大学は、4 月 17 日に公開し、ユーザの投稿受付を開始した。対面での広報活動が憚られるなか、KU-ORCAS のウェブサイトおよび SNS、インフォメーシヨンシステムと呼ばれる学内サイトで広報を行った。 8 月 7 日現在の資料点数は 54 点であり、こ の状況は決して芳しいとは言えない。また、投稿されている資料は、ほぼすべてが写真デ一タとなっている。 ユーザは投稿時に資料に対して 1 つ以上のタグを付与することができる。 8 月 7 日現在、 表 1 : コロナアーカイブ@関西大学のタグとその件数 全 81 件のタグがあり、重複分を数えると全 145 件となり、一資料あたり 2、3 件のタグが付与されていることになる(表 1 参照)。 タグ全体を見ると、「コロナ対策に関するもの」、「行事に関するもの」が多く、その他に「学内・キャンパス周辺の様子」や「家族の様子」におおよそ大別することができる。 最も多く利用されているタグは「コロナ対策」(13,カッコ内は件数。以下同じ。)であり、関連するタグとして「マスク」(5)「八ンドジェル」(4)「ソーシャルディスタンス」(2)「フェイスシールド」(2)等がある。 また、「Zoom」(4)や「遠隔授業」(3)といったタグも「新しい日常」に対応するための 「コロナ対策」と言えるだろう。次いで多い [7]「式典取りやめ」(7)は、関西大学の 2019 年度卒業式と 2020 年度入学式に関するものである。COVID-19 が年度替わりに本格化した時期を反映した資料と言える。 これまでのコミュニティアーカイブの事例では「地域」に焦点をあてた「地域文化資源」や「地域住民・地域環境に志向した情報」の収集が専らであった [8]。コロナアー カイブ@関西大学は「大学コミュニティ」を対象にしていることから、先行事例とは性格の異なる資料群が構築されつつあると評価できる。 一方で、コロナアーカイブ@関西大学の資料には、COVID-19 の罹患者や医療従事者に関するものが登録されていない。後者は関西大学に医学部が存在しないためであるが、前者は、広報不足や、現時点で罹患者が多くはないという事実のほか、罹患者に対する差別が生じている現状を逆説的に反映した結果とも考えられる。 ## 5. おわりに: 課題と今後の展開 コロナアーカイブ@関西大学の抱える課題は多いが、とりわけ資料点数の少なさが問題であると認識している。この理由は、なにより投稿資格を関大の関係者に限定している点が挙げられる。また、ソーシャルディスタンスが求められている中での資料収集イベント の開催が困難であるということも理由として挙げられる。 この課題を克服するため、現在、近隣の博物館等と連携することで資料収集のチャンネルを増やし、それに伴い投稿資格を拡大することを検討している。また、COVID-19 だけでなく、各家庭に眠るスペイン・インフルエンザに関する資料を持参してもらいその場でデジタル化する“The History Harvest”の実施も検討している。 これらの取り組みを進めることで、関西大学関係者だけでなくより広範な笠民が、 COVID-19 のみならずスペイン・インフルエンザの記録と記憶をアーカイブするという行為を通じて、100 年前と現在を歴史的に捉えることにつながるだろう。資料の投稿によつて「歴史をつくる行動への参画」[9]を促すデジタルパブリックヒストリーの実践はいまだ端緒についたばかりである。 ## 謝辞 本研究は、関西大学による 2020 年度「新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の克服に関する研究課題 (教育研究緊急支援経費)」 に採択された「『コロナアーカイブ @関西大学』を核とした新型コロナウイルス感染症およびスペイン風邪の記録と記憶の収集発信プロジェクト」の研究成果の一部である。 ## 参考文献 [1] 菅豊, 北條勝貴編. パブリックヒストリー 入門 : 開かれた歴史学への挑戦. 勉誠出版. 2019. p.8. [2] "Mapping Public History Projects about COVID 19", The International Federation for Public History. https://ifph.hypotheses.org/3225 (参照 2020-08-06.) [3]豊田市郷土資料館もユーザに投稿を求めるサイトを開設しているが、デジタルアーカイブとの連携は行われていない。 コロナの中の暮らしの記憶 $2020 \Rightarrow 2120$ プロ ジェクト. 豊田市郷土資料館. https://koronakioku.net/ (参照 : 2020-08-06.) [4] 菊池信彦. コロナアーカイブ @ 関西大学の開設経緯, 特徴とその意図. カレントアウェアネス-E. https://current.ndl.go.jp/e2282 (参照 : 2020-08-06.) [5] Omeka Classic. https://omeka.org/classic_ (参照 2020-08-06.) なお、コロナアーカイブ@関西大学は、公開当初から「関西大学デジタルアーカイブ ANNEX」のなかの一コレクションという位置づけで運用しているが、本稿執筆現在、システムを Omeka Sへと移行し、「関西大学デジタルアーカイブ ANNEX」との切り離しの準備を進めている。 [6] 肖像権ガイドライン(案)(第 3 版). http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal/shozoken -guideline (参照 : 2020-08-06.) [7]「初等部」の7 件も次点で多いが、これは投稿資格を関西大学の関係者としていることから、大学以外を表すものとして意識的にそのタグが付与されていると考えられる。 [8] 例えば以下がある。 佐藤知久,甲斐賢治,北野央. コミュニティ・ アーカイブをつくろう!- せんだいメディアテ ーク「3がつ 11 にちをわすれないためにセンター」奮闘記. 晶文社. 2018. 真鍋陸太郎, 水越伸, 宮田雅子, 田中克明, 溝尻真也,栗原大介.参加型コミュニティ・アー カイブのデザイン : デジタル・ストーリーテリングや参加型まちづくりの融合. デジタルアーカイブ学会誌. 4(2), 2020, pp.113-116.中村覚,宮本隆史,片桐由希子. コミュニテイ・アーカイブの方法論の構築に向けて : 千代田区におけるデジタルアーカイブ・ワークショップの事例より. デジタルアーカイブ学会誌. 4(2), 2020, pp.109-112. [9] 佐藤知久,甲斐賢治,北野央. コミュニテイ・アーカイブをつくろう!- せんだいメディアテーク「3がつ 11 にちをわすれないためにセンター」奮闘記. 晶文社. 2018. p.21.
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Japan Society for Digital Archive
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# [14] 北海道の民具分布マップの試作 皆川雅章 1$)$ 1) 札幌学院大学法学部, 〒069-8555 江別市文京台 11 E-mail:[email protected] A Location Map of Folk Materials in Hokkaido MINAGAWA Masaaki ${ }^{1}$ 1) Sapporo Gakuin University 11 Bunkyodai, Ebetsu, 069-8555 Japan ## 【発表概要】 北海道の面積は,千葉,茨城,神奈川などを含めた 12 の県の合計よりも大きく,そのような広い地域に 179 の市町村が点在している。この地で現在の北海道の礎を築いたのは, いまよりもはるかに厳しい自然を乗り越えて原生林を切り拓いた明治初期の屯田兵と呼ばれる人々を含む開拓者たちであり, これらの開拓者たちの苦闘の痕跡や生活の様子は各地に残っている。著者は, デジタルアーカイブ化を目的として北海道の郷土資料を撮影し,デジタルデータの蓄積を行っている。本報告では, 蓄積したデータをもとに, 民具の分布状況をマップ化し, 北海道における, かつての生活の様子を地理的に横断して眺めることを目的としたデータ可視化の結果を示す。 ## 1. はじめに 北海道には,厳しい自然を乗り越えて原生林を切り拓いた明治初期の屯田兵と呼ばれる人々を含む開拓者達の苦闘の痕跡や記録が各地に残っている。また, 北海道の鉄道網は農業, 水産業, 林業, 鉱業などの産業とともに発展したが, 人口変動や産業構造の変化の影響を受け衰退を余儀なくされた。北海道内各地の博物館・資料館に保存されている郷土資料は,人々の生活を通じて,そのような歴史を物語るものである。 報告者は,そのような資料のデジタルアー カイブ化を図り,記録を残していくために, 2018 年から北海道内の博物館, 資料館を訪問し, 郷土資料の公開状況を確認する作業を行っている。北海道には 179 の市町村があり,関連する施設の規模・運営形態, 公開資料の規模・種類が異なる。現在までに 31 施設を訪問した。地域によって, 発展の柱となってきた主な産業が, 農業, 林業, 水産業, 鉱業など異なる一方で, 農業や林業などでは, 使用された道具に共通点が見出されることなどが確認され,その様子を画像として記録してきた。 ここでは,このようにして集めた画像を集約し, 地域の特性, 地域間の共通点と差異な どの特徴を横断的・俯瞰的に見ることができるような公開方法の検討結果を報告する。本報告では, 資料が存在する施設の位置を地図上で可視化した結果を示している。 ## 2. 民具分布マップ ## 2.1 分布マップの作成 対象とした 31 の博物館・資料館の分布を図 1 に示している。各施設のサイトを閲覧するための URL は図中の番号と対応させて参考文献にまとめて載せている。 図1. 資料収集を行った地域 図中 $\mathrm{A}, \mathrm{B}, \mathrm{C}, \mathrm{D}$ のグループ化は便宜的に行っているが, A は内陸部のみ, B,C,D は沿岸部の地域を含んでいる。また,主な都市として $\mathrm{A}$ には札幌, B には小樽と室蘭, $\mathrm{C}$ には帯広と釧路,Dには紋別が含まれている。 資料の撮影は, その都度施設の許可を得ながら,特段に問題がない限り網羅的に行っている。農業と林業については, 使用されている道具がほぼ共通する傾向がみられる。他方で,漁業などは日本海側と太平洋側で,あるいは魚種によって地域差が見られる。 上記の資料収集を通じて,以下の項目(50 音順)が抽出された。 (1)アイヌ (2)医療 (3)記録(映像,音声) (4)開拓 (5)教育 (6)計量 (7)交通(鉄道,道路,海,河川) (8)鉱業 (9)商業 (10囚人労働 (12)寺社 (13)水産業 (漁業) (14)戦争 (15)生活 (16)通信 (17)屯田兵 (18)酪農, 牧畜 (19農業 (20)防荻 (21)林業 本報告では,農業,林業,漁業に関して, それぞれ以下のように,一般的な民具と推測される 5 つの資料を選択し, 3 点以上を所蔵・展示している施設を地図上に示した。 (個々の資料の説明は,本報告では省く。)農業 唐箕,プラウ,直播機,脱穀機,縄ない機林業 木挽のこ,とび,玉㮔,ガッチャ,ガンタ漁業 もつこ,刺子,浮子,たも網,漁網 このマップは,デジタルアーカイブシステムにおいて次のように検索され, 使用されるこ 図 2. 農業資料の分布 図 3. 林業資料の分布 図 4. 漁業資料の分布 とを想定している。 分布図の表示: 「分野別キーワード (例 : 農業)」 $\rightarrow$ 「資料 名/資料画像(例 : 唐箕)」 $\rightarrow$ 「分布図」 各施設の資料の表示 : 「分布図上の表示施設(マーカーによる)」 $\rightarrow$ 「資料一覧(テキスト/画像)」 ## 2.2 分布マップの利用方法 分布マップの利用方法として, ここでは 2 点を挙げる。第 1 点は, 北海道の歴史・文化を物語る資料群の俯瞰図としての利用である。分布マップから,以下のように,北海道の産業別資料の歴史的な分布を知ることができる。 これは,非専門家あるいは北海道への来訪者にとって,テキスト情報からは得ることが困難な統合的情報である。 (1)農業のみ (例 : 帯広) (2)漁業のみ (例 : 釧路) (3)農業十林業(例 : 紋別) (4)農業十林業 (例: 富良野) 施設の利用者(訪問者)は,このようなマップによって,資料の分布を横断的・俯瞰的に見ることにより, 北海道全域に渡ってほぼ共通して使用されていた民具と,地域に固有の民具を知ることができる。 第 2 点は,ツーリストマップとしての利用である。施設訪問者が訪問先以外の周辺地域も含めた情報を入手することができれば,視察するための巡回プランを目的に沿って無駄なく作成することが容易になる。例えば,「農業のみ (畑作)」,「農業(稲作)+林業」のように目的を設定し,この分布マップから,主たる訪問地(地域)を選択することが可能になる。特に,北海道のように他県に比べて面積が広い地域の場合には,施設間の距離が離れているため, 滞在時間が限定されている訪問者にとって,この分布マップによって地図と資料の情報を併せて見ることができることは有効と考えられる。 ## 3. おわりに 北海道の郷土資料の展示画像の蓄積を行いながらデジタルアーカイブ化に取り組んでいる。蓄積したデータをもとに,民具の分布状況をマップ化し,北海道における,かつての生活の様子を地理的に横断して眺めることを目的としたデータ可視化を行なっている。本報告では,農業,林業,漁業を対象とした民具資料分布マップを作成し,このような可視化によって歴史的な産業資料の分布を俯瞰できる可能性を示した。 現時点では, まだ調查施設数, 調査地域が限定的されている。項目別には,「アイヌ」, 「屯田兵」,「囚人労働」などについては対象を絞った調査が必要と考えている。また,閲覧者の利便性を考慮すると,地図上のマーカ一のサイズによって資料数, 色によって資料の種類を区別するなどの工夫が必要となる。今後の取組みの中で解決を図りたい。 ## 参考文献 [1] 厚岸海事記念館 http://edu.town.akkeshi.hokkaido.jp/kaiji/ (参照 2020-02-24) [2] 芦別市星の降る里百年記念館 https://www.city.ashibetsu.hokkaido.jp/shiga i/kinenkan/ (参照 2020-08-25) [3] 岩内町郷土館 http://www.iwanaikyoudokan.com/ (参照 2020-02-24) [4] 岩見沢郷土科学館 http://www.city.iwamizawa.hokkaido.jp/cont ent/detail/1506247/ (参照 2018-11-21) [5] 歌志内市郷土館 http://www.city.utashinai.hokkaido.jp/hotne ws/detail/00000820.html (参照 2020-08-25) [6] 浦河町立郷土博物館 https://www.town.urakawa.hokkaido.jp/spor ts-culture/museum/kyoudo-museum/shisetsu. html (参照 2019-02-09) [7] 恵庭市郷土資料館 https://www.city.eniwa.hokkaido.jp/kurashi/ kosodate_kyoiku/eniwashikyodoshiryokan/k yodoshiryokan/index.html (参照 2020-08-25) [8] 江別市郷土資料館 https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/site/kyo uiku/3022.html (参照 2018-11-21) [9] えりも町郷土資料館ほろいずみ水産の館 http://www.town.erimo.lg.jp/horoizumi/ (参照 2019-02-09) [10]遠軽町郷土館 https://engaru.jp/tourism/page.php?id=640 (参照 2020-08-25) [11]小樽市総合博物館運河館 https://www.city.otaru.lg.jp/simin/sisetu/mus eum/ungakan.html (参照 2020-08-25) [12] 帯広百年記念館 http://museum-obihiro.jp/occm/ (参照 2019-02-09) [13] 月形樺戸博物館 http://www.town.tsukigata.hokkaido.jp/5516 .htm (参照 2020-02-24) [14] 共和町かかし古里館 https://www.town.kyowa.hokkaido.jp/kanko u/spot/kakashifurusatokan.html (参照 2020-02-24) [15] 釧路市立博物館 https://www.city.kushiro.lg.jp/museum/ (参照 2020-02-24) [16]俱知安風土館 https://www.town.kutchan.hokkaido.jp/cultu re-sports/kucchan-huudokan/ (参照 2020-02-24) [17] 様似町立郷土館 http://www.apoi- geopark.jp/other/samani_kyoudokan.html (参照 2019-02-09) [18] 砂川市郷土資料室 https://www.city.sunagawa.hokkaido.jp/sosh iki_shigoto/kouminkan/kyoudoshiryoushitsu .html (参照 2018-11-21) [19] 太平洋炭鉱展示館 https://www.city.kushiro.lg.jp/sangyou/san_s hien/sekitann/00001_00001.html (参照 2020-02-24) [20]秩父別郷土館 https://www.town.chippubetsu.hokkaido.jp/c ategory/detail.html?category=tourism\&cont ent=291 (参照 2020-08-25) [21] 南幌町郷土文化資料室 http://www.ms11.or.jp/07nanp/b053-2.html (参照 2018-11-21) [22]鰊御殿とまり http://www.vill.tomari.hokkaido.jp/kankoeve $\mathrm{nt} / \mathrm{spot} / 3938 . \mathrm{html}$ (参照 2020-02-24) [23] 美唄市郷土史料館 http://www.city.bibai.hokkaido.jp/jyumin/doc $\mathrm{s} / 2015111800010$ / (参照 2018-11-21) [24] 深川市郷土資料館 https://www.city.fukagawa.lg.jp/kankou/pag es2/ne5dau000000055w.html (参照 2019-02-09) [25] 富良野市立博物館 http://furano.sub.jp (参照 2019-02-09) [26] 北海道博物館 http://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/ (参照 2018-11-21) [27] 三笠市立博物館 http://www.city.mikasa.hokkaido.jp/museum / (参照 2018-11-21) [28] 室蘭市民俗資料館(とんてん館) http://www.city.muroran.lg.jp/main/shisetsu/ minzoku.html (参照 2018-11-21) [29] 紋別市立博物館 https://mombetsu.jp/sisetu/bunkasisetu/hak ubutukan/ (参照 2020-02-24) [30]湧別町ふるさと館 J R Y http://www.town.yubetsu.lg.jp/st/jry/ (参照 2020-02-24) [31] 湧別町郷土館 http://www.town.yubetsu.lg.jp/st/jry/kannaikyoudo.html (参照 2020-02-24) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし, 複製, 改変はもちろん, 営利目的での二次利用も許可されています。
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# [11] 落語の寄席定席番組データの活用と課題 ○坂部裕美子 1 ) 1) 公益財団法人 統計情報研究開発センター, 〒 101-0051 千代田区神田神保町 3-6 能楽書林ビル 5 階 E-mail: [email protected] ## Utilization of Rakugo Yose-Joseki program data and problem to use the data SAKABE Yumiko ${ }^{11}$ 1) Statistical Information Institute for Consulting and Analysis, 5F Nogaku-Shorin Bldg. 3-6 Kanda-Jimbocho Chiyoda-ku, Tokyo 101-0051 Japan ## 【発表概要】 一年中落語を上演している寄席定席の番組(出演者一覧)データを集計用に整備すると、演者ごとの年間登場回数や、「初席出演者は年間登場回数が多い傾向がある」など、様々な要素との関連分析が可能になる、さらに、過去の番組データを使うと、観客が漠然と感じているような落語家の世代交代の発現も、数値で明示できる。寄席定席の最新の番組情報は HP で公開されておりデジタルデータの入手が容易だが、過去の番組のデジタルデータの公開には、個人情報の問題や公開コストの負担面で様々な障壁があり、一般公開には至っていない。また、「年間登場回数ランキング」のようなデータ集計自体が当事者にはあまり好意的に受け止められない、という事実も、障壁の一つと言える。事務局にはこれら以外にも各種の貴重な資料が保存されており、これらが散逸してしまう前に活用の道が開かれることを期待している。 ## 1. はじめに 「寄席定席」の定義は一義的ではないのだが、基本的に 1 年中落語を上演している演芸場は、東京に 4 軒(鈴本演芸場、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場)、関西に 2 軒 (天満天神繁昌亭、神戸新開地喜楽館)存在する。このうち東京の 4 軒は演芸場としての歴史が長く、また、「1 日の興行は昼夜 2 公演 (入れ替えがない場合もある)」「1月を 10 日ずっに分け、それぞれの興行を『上席』中席』『下席』と呼ぶ」「前座や二ツ目の口演から始まり、途中に色物 (落語以外の漫才や三味線演奏など)の出番や中入り休㗍をはさみながら番組が進み、最後は『トリ』が上がって終演となる」という共通の興行ルールがある。 この 4 軒には、「落語協会」(会長 : 柳亭市馬) と「落語芸術協会」(会長:春風亭昇太)という2つの業界団体のいずれかに所属する落語家が出演している。鈴本以外の演芸場の興行はこの 2 つの協会が交互に主催し、鈴本は落語協会の主催興行のみである。 各興行への出演者は、それぞれの協会の担当者と各寄席の「席亭」の協議で決まるのだが、寄席への出演枠は、実は各協会員に均等に分配されているわけではない。これを確認するには「カケブレ」(出演予定者一覧。これがほぼそのまま公演当日の「プログラム(=番組)」となる)をデータ化し、集計する必要がある。番組の最新情報は、各協会の HP に 「定席番組」(落語協会)、「公演スケジュール」 (落語芸術協会)としてWeb 公開されている。筆者は、落語協会興行に関しては、長期にわたりこの Web 公開データのコピーを保存しており、これを用いて各種の集計を行っている。今回はこの分析結果と、一連の「集計作業」を経て見えてきた「番組データ活用の課題」について報告する。 ## 2. 番組データの集計 ## 2.1 年間プログラム登場回数集計 ここで集計したいのは、「実際に高座に上がった回数」(全日出演すれば「10」)ではなく、「次回興行出演予定者として選ばれた回数」 なので、以降は「登場回数」と表記する。 集計のために、「番組の一部に存在する『交替』枠出演者は『1をその朹の交替出演者総数で割った値』を各々の演者の回数とする」 「前半と後半で出演者が変わるケースを含む初席(1 月上席をこう呼ぶ)の登場回数は、前半分と後半分の登場回数の合計を 2 で割った回数とする」「昇進や襲名などで年度途中で改名した場合は新しい名前にデータを集約する」などのルールを設定し、演者ごとに年間登場回数の合計を算出した。 2019 年の番組データを集計した結果が表 11 である。回数上位は数十回となっているが、下位には「交替枠に 1 回出演したのみ」(つまり 1 未満)が多数おり、非常に幅広い分布になっている。 表 1-1 年間登場回数(総計) 名前の欄に*がついているのは色物である。単純に演者ごとに回数を合算すると、相対的に色物が上位に来る。これは、番組の合間に一定数必要とされる「色物枠」の数に対し、実際の色物の演者の数が少ない、という事情からと考えられる。 落語家のみで見た場合の上位 10 名は、表 1 2 のとおりとなる。近年は 2000 年代に入ってから真打昇進した世代(菊之丞、一之輔、文菊など)が多数上位に入るようになっている。 ちなみに一朝と一之輔は林家彦六一門だが、市馬、さん喬、扇遊、小总ん、馬風は五代目柳家小さん一門である。一門ごとで回数を合計すると、この五代目小さん一門が最多とな表 1-2 年間登場回数(落語家のみ) る。 ## 2.2 初席出演と登場回数 この「年間登場回数」との関連を想起させるものとして「その年の初席に出演したか否か」がある。初席の高座は、新年の祝賀ムー ドの中、落語家は黒紋付きで高座に上がるなど「落語界の顔見世興行」という雾囲気で行われる。実際に落語家は、初席に上がれない年は一抹の寂しさを感じる、とも聞いた。 この、「初席に出演したか否か」でグループ分けをして、登場回数との関連を見た箱ひげ図が図 1 である。 図 1 初席出演と年間登場回数との関連 この図からは、初席に出なくても必ずしも年間登場回数が少なくなるわけではないが、総じて非出演者は回数が少ない方に偏っている、ということが分かる。 ## 2. 3 落語家の世代交代 かつて、文化庁の予算を用いて、過去の力ケブレデータの画像化作業が行われたことがある。筆者はこの画像データの使用許諾を受け、一部の落語協会の番組を Excel データ化して、過去のデータを用いた 2.1 の集計を行った。 その結果、回数上位メンバーに入れ替わりがあることが確認できた。昭和の終わりから平成初期にかけては五代目小さん一門の複数のベテラン(先代柳家小せん、柳家さん喬、柳家権太楼など)が長年上位を保っていたのだが、林家こぶ平が正蔵を襲名(2005 年)して以降は精力的に寄席に出るようになり(表 1-2の顔ぶれからも推察できるように、TV などで有名な落語家はほとんど寄席に出ないので、珍しい例と言える)、回数上位の常連になる。その後、一之輔が約 20 年ぶりとなる大抜擢で真打昇進(2012 年)すると、師匠の一朝とともに回数最上位を占めるようになる。 このように、番組データの活用によって、 観客が何となく「最近彼は寄席によく出ている」「あの落語家をあまり見かけなくなった」 などと感じ取っているであろう番組の時代変遷を、明確に描出することが可能になる。さらに、このデータを加工すれば、例えて言えば「重鎮係数」(登場回数に占めるトリ担当比率。実力者が偉くなると、寄席に出るのはトリを取れる時のみになる傾向がある)を算出したり、4 軒の寄席の番組構成の違い(浅草は開演時間が長く出演者も多いが、池袋は出演者が少なく個々の持ち時間が長め、など) を数值で表したりもできる。 ## 3. データ活用への課題 ## 3. 1 データ化のコスト負担 ## しかし、各協会の HP から情報を入手でき る「現在公演中の番組」と「今後 1 ヶ月程度 の予定番組」以外の過去のデータの利用は、若干ハードルが高い。落語協会に関しては、過去の番組情報は「東京かわら版」という雑誌のバックナンバーに掲載されたデータを閲覧せよ、というのが公式見解なのである。 落語協会の HP は、筆者の記憶にある 2005 年頃からで 2 回、大幅なリニューアルが行われているのだが、実は初めて閲覧した際のぺ一ジには、過去数年分の番組情報も確実に掲載されていた。この頃は所属の落語家が自ら HP を運営していたようなので、ページ開設当初からの番組データを「せっかく作ったから」ということで保存・公開していたものと思われる。しかし、総ページ容量の問題なのか、 1 度目のリニューアルから過去のデータへのリンクは消滅してしまった。 それであるならば、事務局にある先述の 「カケブレ画像化データ」の公開の可能性に期待したくなるのだが、カケブレには協会事務局から各落語家への定期連絡紙という側面があり、番組情報に加え、事務局からの注意事項や落語家の住居移転情報なども掲載されているので、現存データのままでの公開は難しいと思われる。さらに、協会事務局は職員が数名しかいないという零細企業そのものなので、アーカイブ公開に関する各種コストを追加負担できない、という事情も推測される。 この点は、興行を主催する松竹とは別個に、俳優の肖像権管理などを行っている日本俳優協会が公演データベースを作成できている歌舞伎とは対照的である。 ## 3.2 当事者の受け止め また、それぞれが「個人事業主」であり、 ライバル心も強い落語家に、このような「ランキング」などの集計はあまり好まれないらしい。実はこのテーマでの研究を始めたばかりの頃、当事者の反応を聞こうと、小さな落語会の終演後にある若手落語家を訪衩、集計結果の概要を伝えて感想を聞いてみたところ、「ご熱心に研究をされているのは分かりますが、所詮は人間のやっていることですから、 そういうことは数值では表せないんですよ」 と冷酷に全否定され、その後しばらく落ち込んだことがある。この経験からこのテーマの 「デリケートさ」を痛感し、その後は改めて知人に紹介してもらった落語評論家に相談さ せて頂きながら研究を進めることにしたのだが、寄席の出番の多䓖に関しては、「あいつがよく出るのはあそこの席亭に取り入ったからだ」というような考えを持っている人が存在する、というのも事実のようであり、今にして思えば、最初に話を聞きに行った落語家は当時の若手の中でも目立った有望株だったため、このような「あからさま」な研究が進むことで余計な軋繋を生みたくない、というような意識が働いていたのかも知れない。だが、 この時の経験を踏まえ、筆者は現在でもこの分野の報告に際しては、順位の上がり下がりや個々人の間の詳細な回数差などには極力触れないようにしている。 ## 4. おわりに ここまで「番組情報」のアーカイブ利用について述べてきたが、実は落語芸術協会事務局には「重宝帳」という芸人の住所録のバックナンバーや、デジタル化以前の時代の、初席のカケブレを毛筆で記したもの(初席については 2.2 でも触れたが、初席が他の番組より重視されていることはこの扱いからも推測できる)などの貴重な現物資料が保存されている。落語協会興行の過去の資料は、事務局の移転時にすべて廃棄され現存しない、とも聞き及んでおり、過去のカケブレ画像データ同様、単純な一般公開は難しそうなこれらの資料にも、散逸前に活用の道を見出したいものである。 ## 参考文献 [1] 坂部裕美子. 伝統芸能興行デー夕集計・その一里塚 $<32>$ 落語家の寄席定席への登場回数一2019 年データを用いて. ESTRELA. 2020, 5, p.29-32. を主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A14]「夕暮れ映像祭 2019」とコミュニティ実践: 地域ア一カイブ連携を支えるショーケースとシステムの構想 ○水島久光 ${ }^{1)}$, 椋本輔 2 ), 上松大輝 ${ }^{3}$ 1) 東海大学文化社会学部, $\bar{\top}$ 259-1292 平塚市北金目 4-1-1 2) 鶴見大学 /学習院大学, 3) 国立情報学研究所/専修大学 E-mail: [email protected] ## Sunset Film Festival. 2019.and community practice: Showcase and system concept supporting regional archive cooperation MIZUSHIMA Hisamitsu ${ }^{1)}$, MUKUMOTO Tasuku ${ }^{2}$, UEMATSU Hiroki3) 1) TOKAI University, 4-1-1 Kita-kaname, Hiratsuka, 259-1292 Japan ${ }^{2}$ TSURUMI University / GAKUSHUIN University, ${ }^{3)}$ NII / SENSHU University. ## 【発表概要】 全国各地で映像・写真を用いたコミュニティ実践が行われている。発表者はこれまでも、ボトムアップで試行錯誤が重ねられているこれらの取組みの多くに対し、様々な距離感をもって関与・支援し、時にそれらをつないで、アーカイブ構築に関する課題や知見の共有を図る活動を続けてきた。その数々の経験を踏まえ、2019 年 12 月 $2 、 3 、 5 、 6$ 日の 4 日間、神奈川県秦野市にて「夕暮れ映像祭 $2019 」$ というイベントを開催した。地域を題材にした映像上映を核に、各地のデジタルアーカイブのアクチュアルなコミュニティとの関係を問い、ショーケース化する試みである。本発表では、このイベントを契機に、各地のプロジェクトのネットワークハブとなるデ一タベース「学前ローカルイメージラボ」(バーチャル・ラボ)を立て、その公開と活用を介した循環的運動体としてアーカイブ連携を推進していく構想について報告する。 ## 1.はじめに一地域とア一カイブ実践 アーカイブを構築する際において、その目的と規模の設定は極めて重要である。ナショナル、あるいはグローバルなアーカイブについては、網羅性を追求するがゆえに検索機能とナビゲーションに重きが置かれることがほぼ自明とされるが、それとは対照的に、小規模あるいはプライベートコレクションを基点に構築されるアーカイブは、その利活用に即した、構造及び機能が強く要求されるからだ。 アーカイブの公共性を考えるならば、こうした小規模のアーカイブが数多く、いわばグラスルーツ的に育ち、ボトムアップで大規模あるいはトップダウンのアーカイブとの関係を築いていくことが望ましい。しかし往々にして小規模なコミュニティ・アーカイブは、運営が属人的環境に委ねられ、そもそもそこで得られる知見を他の類似プロジェクトと共有し発展させていく機会に恵まれていない。 とりわけ「地域」をテーマとしたアーカイブの場合、郷土史資料のデジタル化や街づくりとの関係で、その必要性が謳われる機会は少なくない。実際に、システム的にはそうした需要に対応するクラウド・サービス (ADEAC など※注 1)が開発・提供され始めている。しかし、システムはあくまでプラットフォームに止まるため、収集と整理(メタデータの付与)、活用の循環をどう生み出していくかという活動面の知見の共有は根源的な課題となっている。 東海大学水島研究室は、これまで北海道から沖縄に至る各地で行われている(未だシステム的な実態を持たないものも含む)アーカイブ実践プロジェクトと連携し、それらの相互交流を支援すると共に、共有すべき知見とは何かを探求してきた。この度、その成果を記録するため、各プロジェクトをつなぐバー チャル・ラボ=メタ・アーカイブの構想を立て、2019 年度「東海大学連合後援会研究助成 (地域連携部門)」を取得した。本大会ではその報告を行う。 ## 2. アーカイブと地域連携 2.1 地域同士が結びつく仕組み 近年の社会動向を振り返ると、多くの場面において、声高に叫ばれている「地方消滅」 への警鐘と「地方創生」への期待が空回りし、 うまく噛み合っていない状況を痛感する。その根本的な要因は、「地域(まち)」の存在意義・あるべき姿を、そこに生活する人々の目の高さから説明・理解し、課題を共有していく方法の欠如にあると考える。 20 世紀に発展したマスメディア・システムが、当時の経済成長のベクトルと同期していたことは言うまでもないが、その結果、都市部集中と地方の疲弊・格差に歯止めが効かなくなったことが、問題につながっていることもまた否定しがたい事実である。 こうした現状に対抗する具体的な方法論としては、東京、大阪といった大都市を介さず、地域同士がその歴史や課題の共通性を認識しあい、直接結びつく回路を持つことが考えられる。そしてデジタルアーカイブはなによりその基盤となりうる。中でも、映像・視覚資料を中心としたアーカイブ実践や市民メディア活動は、参加型ソーシャル・デザインの観点からも、「地域(まち)の存在意義」を可視化しうるという点から言っても、実効性の高い活動になることが期待できる。 ## 2.2 東海大学水島研究室の活動 東海大学水島研究室では、2008 年以降、平塚・伊勢原などの神奈川県内自治体をはじめ、北海道 (夕張、小樽等) 、宮城 (仙台沿岸、気仙地域)、新潟(新潟大との連携等)、福島 (奥会津、須賀川)、長野 (長野大、南信地域等) 、京都(京都市芸大)、兵庫(神戸大)、山陰 (米子市、日野町) 、広島 - 長崎 (原爆関係)、福岡(市立図書館)、鹿児島(大隅地域)、熊本 (阿蘇校舎) 、沖縄 (公文書館、ODAC) など全国の地域、および NHK アーカイブス、神戸映画資料館、記録映画保存センターほか、 アーカイブのハブ施設・組織との連携研究を行ってきた。 あるいは 2017 年度の市民メディア全国交流集会、2016 年から 3 年間に亘る「学前夕暮れシアター (TOKAI クロスクエア)」の運営実績があり、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、あきる野映画祭との交流も継続してきた。 ## 3.「学前ローカルイメージラボ(GLIL)」と「夕暮れ映像祭」 ## 3. 1 「夕暮れ映像祭 2019」 「夕暮れ映像祭 2019」は、水島研究室が 2016 年から 2018 年まで 3 年に亘り小田急線東海大学駅前のサテライトオフィス (TOKAI クロスクエア)で開催した「学前夕暮れシアター」のコンセプト「ここではない、どこかと映像でつながる」を継承し、全国の地域を扱った写真・映像資料の市民との共有・活用を考えるイベントである。 「上映」「トークセッション」「ワークショップ」「展示」の 4 企画で構成され、いずれもがこれまで交流してきたコミュニティ・アー カイブプロジェクトとの関係のもとに、築かれてきた知見を確認していく内容をもつ。「上映」は、アーカイブ・市民メディア活動への関心を喚起する作品を選び、「ワークショップ」では、写真アーカイブ、ローカルメディアのデータを用いて地域住民の参加を募った。 中でも「トークセッション」が、今回は将来のバーチャル・ラボの性格を見定める格好の機会となった。 4 つのセッションは各地で深い交流を持つプロジェクトの代表者と研究室の実践とを結びつけ、対話を通じ、地域映像アーカイブの構築と実践の要点を確認することができた。 図1.夕暮れ映像祭 「夕暮れ映像祭」は単なる一過性のイベントではなく、バーチャル・ラボである「学前 ローカルイメージラボ」のショーケースとなり、以下に示すデータベース構造の中に組み込まれ、運用・活用の具体例を蓄積していく手段として位置づけられた。 ## 3. 2 「学前ローカルイメージラボ(GLIL)」 「学前ローカルイメージラボ (GLIL)」は、 これまで水島研究室が各地域プロジェクトとの交流を通じて寄託をうけ・共有し・あるいは独自に収集し保管しているイメージデータ (写真、映像、メディア記事) を統合的に管理するサーバシステムと、それをもとに研究・実践・データ構築を循環させる活動群によって構成されるメタ・アーカイブである。 これらのデータを一括して扱うことの困難は、リソースのタイプ、保存の状態、所有関群「コレクション」をPublisher に、リソ一スの「地域」に関わる特性の階層記述 $=$「カテゴリー」を Subject に割り振り、「コレクション」×「カテゴリー」でリソースのバリエーションを一括管理することを可能にした。 ## 4. メタ$\cdot$アーカイブと実践の循環 ## 4. 1 ショ一ケースの役割 「夕暮れ映像祭」がショーケースとして機能するということは、具体的には各プログラムの記録が見本的な役割を果たす一つの「コレクション: Publisher」として、「GLIL」に収められることを意味する ※表 1。 例えば今回実施した 4 つの「トークセッション」のうち、(1)「まちづくりとアーカイ 表 1. システム概要 係のバリエーションが様々であることに起因している。それがバーチャル・ラボとして機能するよう、ここでは個別のリソースごとに記載されるメタデータ記述のボキャブラリを、収集・管理グループ(コレクション)を超えて、関係定義ができるように設定をした。 $ \text { メタデータ項目は基本的にダブリン・コア } $ ※注 2 に準拠して記述するが、 15 項目のうち、 Creator , Subject, Description, Publisher, Contributor の定義要件を「地域」連携を十分意識した上で明確にすることを意識した。 その中でも特に、全てのリソースが帰属する ブ」では、横浜寿町で進むアーカイブの構想と平塚市金目のエコミュージアム活動を対比させることから、市民活動を通じて「共生」 に資するリソースを発見できるという知見が得られ、また(4)「記憶を未来につなぐ」では、仙台市で東日本大震災後行われているプロジエクトと、熊本地震で被災した東海大学阿蘇校舎の同窓会アーカイブ構想を重ね、参加のデザインに関する知見が共有された。 「コレクション:Publisher」は上記のようにイベントや出版物など公開の機会が一つの単位となる。得られた知見は Description に 自由記述され、「カテゴリー:Subject」の選択、検証に用いられる。 以上のように、リソースの公開がデータの追加・生成とそこから得られる知見の醸成につながって、実践の循環を支えるプラットフオームとなるよう、このメタ・アーカイブは構想されていることがわかるであろう。 ## 4. 2 公開のレベル設定 先に記したように、「GLIL」はメタ・アー カイブであるため、そこに収められるリソー スには、一般的に公開には適さないもの(所謂ダークアーカイブ性の高い群)も含まれる。 しかしこうした研究用資料は、元々の「コレクション」の所有者: Publisher、権利者: Creator, Contributor との関係において一定の範囲・条件で共有・公開が認められる場合もある。本バーチャル・ラボにおいては、その公開設定のグラデーションを如何に行うかについても実験的に設計に織り込んでいる。具体的には、各コレクションに 1. 全公開、 2.認証公開(投稿・ダウンロード)、3.認証公開(公開のみ)、4.非公開(リストのみ)、5. リストも含め非公開の段階設定を行い、許諾条件を提示した上で、アクセス用 ID を付与する方式で運用する。結果、ID の被付与者は、実質的には「共同研究 (利用) 者」ということになる。よってそのコミュニティの広がりは、アーカイブを通じた公共性をどのように構築していくべきかを検討するフィールドとなる。 ## 5. 終わりに一展望 以上、「夕暮れ映像祭」と「学前ローカルイメージラボ (GLIL)」で構成される「アーカ イブ連携による循環的運動体」のイメージについて記してきたが、システム的な完成レべルとしては現段階でおよそ $50 \%$ 、収められるデータづくりとしてはまだ入り口に差し掛かったばかりと言わざるを得ない。 デジタルアーカイブの構築の最大のボトルネックは、ここからの作業負荷をどうするかという点にあることを実感する。そこ辺りのことも含めた、上記構想の妥当性、現実性について評価いただき、意見交換ができればと考えている。 「学前ローカルイメージラボ (GLIL)」 http://www.glil.u-tokai.ac.jp 「夕暮れ映像祭 2019」 http://fes.glil.u-tokai.ac.jp ## 注 1:ADEAC ADEAC ® (アデアック) は TRC-ADEAC 株式会社が制作・運営する、デジタルアーカイブの検索・閲覧を行うためのプラットフォ ームシステム。特に「地域」における産業、文化、教育資料のデジタル保存・活用のプラットフォームとして利用者を広げている。 https://trc-adeac.trc.co.jp/ ## 参考文献 [1] 水島久光. 「記録」と「記憶」と「約束ごと」ーデジタル映像アーカイブをめぐる規範と権利一. N P O知的資源イニシアティブ編. アーカイブのつくりかた一構築と活用入門. 勉誠出版. 2012, p.175-188. [2] 水島久光. 原田健一編. 手と足と眼と耳一地域と映像アーカイブをめぐる実践と研究.学文社. 2018 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A13] 北海道の郷土資料デジタルアーカイブ化: デジル資料の集約と公開方法の検討 皆川雅章 1) 1) 札幌学院大学法学部,〒069-8555 江別市文京台 11 E-mail:[email protected] ## Constructing Digital Archive of Folk Materials in Hokkaido: Aggregation and Publication of Digital Data MINAGAWA Masaaki ${ }^{1}$ ${ }^{1)}$ Sapporo Gakuin University 11 Bunkyodai, Ebetsu, 069-8555 Japan ## 【発表概要】 北海道の礎を築いた開拓者達の苦闘の痕跡や記録は各地に残っている。北海道の鉄道網は農業,水産業,林業,鉱業などの産業とともに発展したが,人口変動や産業構造の変化の影響を受け衰退した。北海道内各地の博物館・資料館に保存されている郷土資料は,人々の生活を通じて,そのような歴史を物語るものである。著者は,北海道の郷土資料の展示画像の蓄積を行いながらデジタルアーカイブ化に取り組んでいる。ここでは一般利用者の資料アクセスを容易にするデジタル資料の集約と公開方法を検討した結果を報告する。 ## 1. はじめに 北海道には,厳しい自然を乗り越えて原生林を切り拓いた明治初期の屯田兵と呼ばれる人々を含む開拓者達の苦闘の痕跡や記録が各地に残っている。また, 北海道の鉄道網は農業, 水産業,林業,鉱業などの産業とともに発展したが,人口変動や産業構造の変化の影響を受け衰退を余儀なくされた。北海道内各地の博物館・資料館に保存されている郷土資料は, 人々の生活を通じて, そのような歴史を物語るものである。 報告者は,そのような資料のデジタルアー カイブ化を図り,記録を残していくために, 2018 年から北海道内の博物館, 資料館を訪問し, 郷土資料の公開状況を確認する作業を行っている。北海道には 179 の市町村があり,関連する施設の規模・運営形態,公開資料の規模・種類が異なる。現在までに 31 施設を訪問した。地域によって, 発展の柱となってきた主な産業が,農業,林業,水産業,鉱業など異なる一方で,農業や林業などでは,使用された道具に共通点が見出されることなどが確認され,その様子を画像として記録してきた。 ここでは,このようにして集めた画像を集約し, 地域の特性, 地域間の共通点と差異などの特徴を横断的・俯瞰的に見ることができ るような公開方法の検討結果を報告する。 ## 2. 郷土資料画像の蓄積 ## 2. 1 資料収集状況 対象とした博物館・資料館は次の通りである。(各施設のサイトを閲覧するための URL は番号を対応させて参考文献にまとめて載せている。) (1) 厚岸海事記念館 (2) 芦別市星の降る里百年記念館 (3) 岩内町郷土館 (4) 岩見沢郷土科学館 (5) 歌志内市郷土館 (6) 浦河町立郷土博物館 (7) 恵庭市郷土資料館 (8) 江別市郷土資料館 (9) えりも町郷土資料館ほろいずみ水産の館 (10) 遠軽町郷土館 (11) 小樽市総合博物館運河館 (12) 帯広百年記念館 (13) 樺戸集治館 (14) 共和町かかし古里館 (15) 釧路市立博物館 (16) 俱知安風土館 (17) 様似町立郷土館 (18) 砂川市郷土資料室 (19) 太平洋炭鉱展示館 (20) 秩父別郷土館 (21) 南幌町郷土資料室 (22) 鰊御殿とまり (23) 美唄市郷土史料館 (24) 深川市郷土資料館 (25) 富良野市立博物館 (26) 北海道博物館 (27) 三笠市立博物館 (28) 室蘭市民俗資料館 (29) 紋別市立博物館 (31) 湧別町ふるさと館 J R Y (31) 湧別町郷土館 これらの博物館・資料館の地図上の分布を図 1 に示す。図中 $\mathrm{A}, \mathrm{B}, \mathrm{C}, \mathrm{D}$ のグループ化は便宜的に行っているが, A は内陸部のみ, B,C,D は沿岸部の地域を含んでいる。また,主な都市として A には札幌, B には小樽と室蘭,C には帯広と釧路,D には紋別が含まれている。 図 1 。資料収集を行った地域 資料の撮影は,その都度施設の許可を得ながら, 特段に問題がない限り網羅的に行っている。撮影画像の例を以下に示す。図 2 は雪国で雪上を歩くときに使用する「かんじき」,図 3 は石炭を燃料とする「石炭ストーブ」, 図 4 は搾乳した牛乳を集荷するときに使用する 「集乳缶」である。これらは, 北海道は一般的に使用されていたものである。農業と林業 についても, 使用されている道具がほぼ共通する傾向がみられる。他方で,漁業などは日本海側と太平洋側で,地域差が見られる。 図 2 . かんじき 図 3 . 石炭ストーブ 図 4 . 集乳缶 ## 2. 2 資料アクセス状況 上記の資料撮影と並行して,インターネット上での資料の公開状況を調査してきた。郷 土資料を公開していることが確認できた施設の件数は 228 あるが,インターネット上での情報提供の手段は一様ではない。独自のサイ卜を持ち, 展示室の様子, 資料のデジタル画像の公開, Wikipedia 上での情報提供を行っている施設を持つ自治体から, 関連施設の存在を確認できない自治体まで多様である。網羅的に検索を行って調査したが, 個々の郷土資料の画像をインターネット上で見ることのできる事例は少ない。また, 展示内容についても, デジタル画像の特性を生かして展示コ ーナーごとの画像を表示している施設は全体の 3 分の 1 程度である。 施設の存在は知ることができるが,展示内容にはたどり着けない,あるいはデジタル画像自体が準備されていない場合もある。 以上のことから,現行で閲覧可能な資料へのアクセスを促すためには, 集約サイトを構築し, 各施設の展示コーナーごとの画像と解説を付したコンテンツを提供するサイトの構築がが必要と考えている。 その場合, 一般の利用者が,資料へのアクセスすることを容易にするためには,博物館・資料館別の検索のほかに, 直観的に閲覧できる仕組みが必要である。上記の資料収集を通じて,以下の項目(50 音順)が抽出された。 (1)アイヌ (2)医療 (3)記録(映像、音声) (4)開拓 (5)教育 (6)計量 (7)交通(鉄道、道路、海、河川) (8)鉱業 (9)商業 (10)人労働 (12)寺社 (13)水産業 (14)戦争 (15)生活 (16)通信 (17)屯田兵 (18)酪農、牧畜 (19)農業 (20)防災 (21)林業 これらの項目をアイコン化して提示し, 飼料画像を提供するとともに,そこに関連する施設へのリンクを設定することにより,「どの施設において,どのような資料を見ることができるのか」を視覚的に知ることができる。 キーワードや資料名による検索機能は備えるべきだが,一般的には,その活用は専門家以外には容易ではない。並行して,ここに記すように,アイコンなどを介して誘導する仕組みを取り入れる必要がある。 このようなアプローチで展示資料のデジタル化および公開を図っていく。 ## 3. おわりに 北海道の郷土資料の展示画像の蓄積を行いながらデジタルアーカイブ化に取り組んでいる。一般利用者の資料アクセスを容易にするデジタル資料の集約と公開方法を検討した結果を報告した。なお, 上述の分類項目については,さらに実地調查を重ねて精緻化を図る。 ## 参考文献 [1] 厚岸海事記念館 http://edu.town.akkeshi.hokkaido.jp/kaiji/(2 020 年 2 月 24 参照) [2] 芦別市星の降る里百年記念館 http://www.city.ashibetsu.hokkaido.jp/hyaku nenkinenkan/hkanri/100kinen.html(2019 年 2 月 9 日参照) [3] 岩内町郷土館 http://www.iwanaikyoudokan.com/(2020 年 2 月 24 参照) [4] 岩見沢郷土科学館 http://www.city.iwamizawa.hokkaido.jp/cont ent/detail/1506247/(2018 年 11 月 21 参照) [5] 歌志内市郷土館 http://yumetsumugi.ec-net.jp/ (2018 年 11 月 21 参照) [6]浦河町立郷土博物館 https://www.town.urakawa.hokkaido.jp/spor ts-culture/museum/kyoudo- museum/shisetsu.htm (2019 年 2 月 9 日参照) [7] 恵庭市郷土資料館 http://www.city.eniwa.hokkaido.jp/www/genr e/0000000000000/1361414699783/index.htm $\mathrm{l}$ (2018 年 11 月 21 参照) [8] 江別市郷土資料館 https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/site/kyo uiku/3022.html(2018 年 11 月 21 参照) [9] えりも町郷土資料館ほろいずみ水産の館 http://www.town.erimo.lg.jp/horoizumi/(2019 年 2 月 9 日参照) [10]遠軽町郷土館 http://engaru.jp/asobu- manabu/21kyoutsu/bunka/kyoudokan/kyoud okan.html(2020 年 2 月 24 日参照) [11] 小樽市総合博物館運河館 https://www.city.otaru.lg.jp/simin/sisetu/mus eum/ungakan.html(2018 年 11 月 21 参照) [12] 帯広百年記念館 http://museum-obihiro.jp/occm/(2019 年 2 月 9 日参照) [13] 月形樺戸博物館 http://www.town.tsukigata.hokkaido.jp/5516 . $\mathrm{htm}(2020$ 年 2 月 24 日参照) [14] 共和町かかし古里館 https://www.town.kyowa.hokkaido.jp/kanko u/spot/kakashifurusatokan.html(2020 年 2 月 24 日参照) [15] 釧路市立博物館 https://www.city.kushiro.lg.jp/museum/(2020 年 2 月 24 日参照) [16] 俱知安風土館 https://www.town.kutchan.hokkaido.jp/cultu re-sports/kucchan-huudokan/(2020 年 2 月 24 日参照) [17] 様似町立郷土館 http://www.apoi- geopark.jp/other/samani_kyoudokan.html(2 019 年 2 月 9 日参照) [18] 砂川市郷土資料室 https://www.city.sunagawa.hokkaido.jp/sosh iki_shigoto/kouminkan/kyoudoshiryoushitsu .html(2018 年 11 月 21 参照) [19] 太平洋炭鉱展示館 https://www.city.kushiro.lg.jp/sangyou/san_s hien/sekitann/00001_00001.html(2020 年 2月 24 日参照) [20] 秩父別郷土館 http://www.town.chippubetsu.hokkaido.jp/in dex.php?id=111(2019 年 2 月 9 日参照) [21] 南幌町郷土文化資料室 http://www.ms11.or.jp/07nanp/b053-2.html [22]鰊御殿とまり http://www.vill.tomari.hokkaido.jp/kankoeve $\mathrm{nt} / \mathrm{spot} / 3938 . \mathrm{html}(2020$ 年 2 月 24 日参照) [23] 美唄市郷土史料館 http://www.city.bibai.hokkaido.jp/jyumin/doc $s / 2015111800010 /$ (2018 年 11 月 21 参照) [24]深川市郷土資料館 https://www.city.fukagawa.lg.jp/kankou/pag es2/ne5dau000000055w.html(2019 年 2 月 9 日参照) [25] 富良野市立博物館 http://furano.sub.jp(2019 年 2 月 9 日参照) [26] 北海道博物館 http://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/ (2018 年 11 月 21 参照) [27] 三笠市立博物館 http://www.city.mikasa.hokkaido.jp/museum / (2018 年 11 月 21 参照) [28] 室蘭市民俗資料館(とんてん館) http://www.city.muroran.lg.jp/main/shisetsu/ minzoku.html(2018 年 11 月 21 参照) [29] 紋別市立博物館 https://mombetsu.jp/sisetu/bunkasisetu/hak ubutukan/(2020 年 2 月 24 日参照) [30]湧別町ふるさと館 J R Y http://www.town.yubetsu.lg.jp/st/jry/(2020 年 2 月 24 日参照) [31] 湧別町郷土館 http://www.town.yubetsu.lg.jp/st/jry/kannaikyoudo.html(2020 年 2 月 24 日参照) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A12] 住民主体の地域デジタルアーカイブ構築と活用によ るシビックプライド向上の展望 : 沖縄県那覇市首里石嶺町の事例から ○島袋美由紀 1),三嶋啓二 ${ }^{2}$ 1)琉球大学国際地域創造学部,〒903-0213 沖縄県中頭郡西原町字千原 1 番地 2) NPO 法人 沖縄ある記 E-mail: [email protected] ## Prospects for improvement of "Civic Pride" by which building and utilizing of regional digital archives on resident-led: A Case Study of Shuri Ishimine-cho, Naha City, Okinawa SHIMABUKURO Miyuki), MISHIMA Keiji²) 1) Faculty of Global and Regional Studies, University of the Ryukyus, 1 Senbaru, Nishiharacho, Okinawa, 903-0213 Japan 2) NPO Okinawa Aruki ## 【発表概要】 沖縄には「ユイマール」(相互扶助)という言葉がある。他にも「肝心」(真心)や「イチヤリバチョーデー」(一度会ったら皆兄弟)などがあり、これらは沖縄の人々が培ってきた社会観を表象している。しかし、現在は、個人の価値観やライフスタイルの多様化に伴い、プライバシーやプライベートが重視され、固定的で干渉される人間関係は疎まれるようになってきた。その副次的な現象として、多くの自治体では地域活動を担う人材が確保できず、住民間の紐帯が希薄になってきている。しかし、在住地域は暮らしの基盤であり、最も身近な社会である。安心安全な地域社会は、主体である住民自ら築くことが望ましく、その原動力となるのがシビックプライド(愛着や誇り)ではないだろうか。 本稿では、地域デジタルアーカイブの構築と活用を支援する NPO の活動を紹介するとともに、被支援地域におけるシビックプライド調査について報告し、その課題について明らかにする。 ## 1. はじめに 全国的に少子高齢化が進むなか、首都圏への一極集中化が進み、地方からは社会資本の源泉となる人材が流出し続けている。そのため、文化、教育、防災、保健など基本的な社会機能が維持できない地域が増えている。 沖縄県は全国で最も出生率が高く、唯一、 人口の自然増加が続いている[1]。しかし、県内では人口の偏在現象が起きており、県庁所在地である那覇市や周辺地域は過密化が進む一方、沖縄島中北部や小さな離島では過疎化が問題となっている。 これまで、労働集約的な伝統祭祀や文化行事によって住民間の紐帯を維持してきた地域では、人手不足による影響を大きく受ける。 エイサー(盆踊り)などの祭祀や、村芝居の ような歀楽には、様々な役割を担う人材が必要であり、定期的に行われる清掃活動や募金活動では人海戦術が基本である。また、これらの活動には、住民同士の様子や安否を知る 「相互見守り」が含意されているため、住民自ら行うことに意義があるとされてきた。これまでは、このような地域活動に参加することで、住民同士が直接的あるいは間接的につながり、地域行事は、安定した地域社会を継続する安全弁として機能してきた。しかし、現在は個人の価値観が多様化したことで、それぞれの帰属社会も複層化してきた。現在は、受動的で固定的な血縁(家族)や地縁(地域)、能動的に選択した先で受動的に得られる職縁(職場)に加え、「第四の縁」といわれる知縁(知的好奇心の共有と共感の場)が 注目されている $[2]$ 。知縁は、自らの生活や人生に多様な価値観と行動の動機をもたらすだけでなく、他者への興味も喚起する。 今日のように IT 技術が発達する以前の知縁は、例えば、ゲートボール同好会や郷土史研究会など、地域内で趣味を同じくする仲間が集うなど、地縁の上に成り立っていた。しかし、現在はソーシャルメディアの発展により、知縁はインターネットを介して自由自在に結ばれるようになり、かつての知縁とは時空の異なる共同体の「場」が次々と創出されている。 このような社会の変遷を背景に、地縁を基盤にした新たな知縁を築く方法を開発するために結成されたのが NPO 法人地域文化支援ネットワーク「沖縄ある記」(以下、沖縄ある記)である。発足当初から、地域のヒト、コト、モノの記録や記憶を集め、住民とともに地域デジタルアーカイブをつくり、コミュニケーションツールに利用することを実践してきた。沖縄ある記では、住民が地域に対するシビックプライド(愛着や誇り)を持つことを大切にしている。そして、デジタルアーカイブを活用して地域内外に縁者を増やすことが、地域の活性化につながると考えている。 本稿では、現在、那覇市首里石嶺町が沖縄ある記の支援を受けて取り組んでいる活動を参与観察により、参加者の意識変化を調査し、 シビックプライドの向上について効果を検証した。 ## 2.「沖縄ある記」の理念と実践 \\ 2.1 活動の特徴 沖縄ある記は、地域活性化を支援する目的で 2011 年に結成した。地域固有の自然や歴史、文化を調査し、地域資源として活用することで文化力を高め、相互交流を推進しながら地域社会づくりに寄与する事業を展開している。名称が示すように「歩き」と「記録」を一対とする活動が特徴である。地域住民が自ら歩き、気づき、録り、伝えることで、個々のシビックプライドが醸成できると考えていることから、黒子的な立場で活動を支援している。地域デジタルアーカイブは、今日の情報化社会において、地域内外の知縁を結ぶ重要なメディアである。また、高齢者や肢体不自由者など運動機能にハンデを持つ人や、直接的に関わることが困難な状況にある人が地域とつながるためのコミュニケーションツールにも活用できる。 沖縄ある記は、出身地域で中心的な立場にいる者や、県外からの移住者など 10 名程度の小規模団体であるが、これまで沖縄県内の 80 ヶ所以上で、地域ある記を実践してきた。 ## 2.2 活動のモデル 沖縄ある記の活動モデルは、大まかに 6 段階のフェーズで構成されている。 (1)過去を知る:市町村史等の文献から地域に関わる情報を抽出し整理する。ユンタク会(座談会)や、住民宅の個別訪問で聞き取り調查を行う。 (2)現在を歩く:地元ガイドの案内で、住民参加によるフィールド調査を行う。風景や地域の習慣、暮らしの変遷に関する証言を記録する(図 1)。 図 1. 地元ガイドの案内によるフィールド調査 (3)記録を募る:各家庭に、公開可能な地域の風景や人物の写真の提供を呼びかける。写真を複写しながらその時のエピソードをインタビューし、記録する(図 2)。 (4)記録を残す:聞き取りや散策で得た記録や、複写した各家庭の写真を整理し、 Excel でデータベース化する。 図 2. 家庭のアルバムから提供写真を選ぶ様子 (5)記録の共有:調查データを元に地域マップを作り、散策ワークショップを実施する。収集した写真を出力し、公民館等でアルバム展を企画して公開する(図 3)。 図3.アルバム展の様子 (6)未来を描く:活動をふりかえりながら、今後の活用や保存方法について検討する。対話の場として公民館カフェを催し、地域の未来について語り合う。 ## 2. 3 活動の課題 沖縄ある記も、前述した労働集約的な生産活動スタイルであるため、慢性的な人手不足が課題である。そして、地域側も公民館役員を中心とした地縁組織の主要メンバーが活動を担うため、組織が弱体化している地域では企画自体が難しい。さらに、レクリエーション的な地域散策よりも、住民の意向を尊重した調查と記録活動に比重を置いているため、 ほとんどの物事がスムーズに決まらず運ばな い。しかし、住民同士が卑近の課題に寄り添い、対話を重ねることが、民主的な地域社会における健全な合意形成のプロセスであると考えていることから、今後も地道に地域デジタルアーカイブの支援を続けるという。 ## 3. 首里石嶺町の地域デジタルアーカイブ 3. 1 石嶺町 100 年のあゆみ 沖縄県那覇市首里の北側に位置する石嶺町は、廃藩置県後の 1920 (大正 9)年に西原間切 (現在の西原町) から分離され、琉球王国の首都があった首里区に編入された。もともと農業地域であったことから、首里士族の末裔だけでなく、代々住んでいる農家の子孫も多い。1945 年の沖縄戦後しばらくは近郊農業で栄え、近隣の市場に農産物を出荷していた。 しかし、次第に住宅やマンションが増え、ベッドタウン化したことから、現在ではほとんど農地は残っていない。2019 年には、沖縄都市モノレールの延長により駅が置かれ、さらに市街化が進んでいる。 ## 3. 2 デジタルアーカイブをつくる 石嶺町は、2020 年に首里区(現在の那覇市首里)編入 100 周年を迎える。様々な記念事業が検討されたが、ある住民からの発案で、地域デジタルアーカイブを作ることになった。石嶺町誕生から 100 年の歴史と先人たちの暮らしをふりかえり、その軌跡を多くの人と共有したいとのことだった。相談を受けた沖縄ある記が、これまでの事例や活動モデルを紹介したところ、まず「石嶺ある記」が企画され、住民 60 名以上の参加により実施された (図 4)。 ## 3. 3 デジタルアーカイブをつかう 石嶺町では、収集した情報を地域内外の人々と共有する取り組みとして「石嶺アルバ公展\&公民館カフェ」を開催した。展示された写真は、年配の人には懷かしく、若者や新住人にとっては新鮮に受け止められ、地域に魅力を感じるきっかけになったと思われる。 カフェに集った人たちは、それぞれの思い出 話に耳を傾けながら、100 周年記念誌の発行や、散策ワークショップなど、様々な活用アイデアを出し合っていた。 図 4. 石嶺ある記の様子 (2020.2.16 開催) ## 4. シビックプライド調査 ## 4. 1 シビックプライド シビックプライドは、当事者意識に基づく故郷あるいは在住地域への愛着や誇りのことである。 現在、日本は、人口減少により縮小社会へと向かっている。また、人々が暮らしやすさを求めて住む場所を選ぶ時代である。選ばれる地域には住みたくなる魅力があり、その根底には、住民が住みやすい環境づくりに関わっていることがあるのではないだろうか [3]。 ## 4. 2 方法 この調査は、定量調查と定性調査によりデ ータを収集した。「石嶺ある記」の参加者に対してはアンケート調査を行い、「石嶺アルバム展\&公民館カフェ」の参加者や、活動の中心メンバーに対しては、インタビュー調査を行った。 ## 4. 3 課題 今回の調查では、社会的インパクト評価に関して、著者の知識と知見が不十分であったことから、理論的な分析に及げず課題が残った。今後は、先達に学び、調查地に適した方法論と指標を考案したい。 ## 5. おわりに 地域によって抱える課題は様々あるが、定住人口の減少に加え、他所から訪れる交流人口や、関わる関係人口が少ないことも、地域が衰退する要因になっている。また、既住民と新住民が混然一体となっている地域では、住民意識の差が人間関係の煩わしさを生じさせている問題もある。 縮小社会と情報化社会で生きている我々にとって、緩やかな人々のつながりは暮らしのセーフティネットである。地域デジタルアー カイブは、人々の都合に合わせた多様なコミユニケーションを創造することができ、故郷や在住地域へのシビックプライドが醸成されることが期待できる。 ## 参考文献 [1] 総務省統計局 : 人口推計 (2018 年(平成 30 年) 10 月 1 日現在). https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2018np/in dex.html (閲覧 2020/2/10). [2]村田裕之. 「第四の縁」がシニアの街作りを促す一日本におけるリタイアメントコミュニティの今後一:スマートシニア・ビジネスレビュー. 2001, Vol.7. http://hiroyukimurata.jp/review/pdf/VOL7.p df (閲覧 2020/2/10). [3] シビックプライド研究会. シビックプライド一都市のコミュニケーションをデザインする. 宣伝会議. 2008, p.164-165. [4] 三好皓一. 地域資源とコミュニティ・デザイン. 晃洋書房. 2017. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A11]分散型デジタルコモンズの汎用モデル開発: ## 下諏訪町地域ア一カイブの構築を通して ○前川道博 長野大学企業情報学部, 〒386-1298 長野県上田市下之郷 658-1 E-mail: [email protected] ## Modeling and Development of Digital Commons Service: Constructinon of the "Shimosuwa Archive" MAEKAWA Michihiro Nagano University, 658-1 Shimonogo, Ueda, 386-1298 Japan ## 【発表概要】 デジタルコモンズの実現に向けては、利用者の立場に立ち、一人一人の知的生産の支援、生産された知識の共有・利用促進を図ることが必要である。本研究では、分散型デジタルコモンズを汎用的なクラウドサービスとして設計し実装するための基本モデルをとりまとめた。多様な諸地域、諸資源の状況に適応しつつ、柔軟に地域資料のメタデータ構造に適応できるデジタルアーカイブのクラウドサービスの汎用的なモデル・方式を設計し、下諏訪町地域デジタルアーカイブを構築した。 ## 1. はじめに 地域デジタルコモンズは、地域デジタル知識循環型プラットフォームのコアとなる知識・データの共有地である[1][2]。 デジタルコモンズはさまざまな知識や学びの成果をどの地域からでも、誰でもが載せ合えるクラウドサービス上の「ネット上の本棚」 (デジタルアーカイブ)、クラウドサービスとつながるリアルな社会(地域社会・企業・学校・個人など)を包摂した情報共有スペースと定義しておこう(図 1)。 図 1. 地域デジタルコモンズの概念 分散型デジタルコモンズは、分散型のアー カイブ構築支援サービス PopCorn/PushCorn の開発とそのアーカイブ構築への適用支援の実績を踏まえ、次世代型の分散型プラットフ オームとして提案できるようエンハンスしたモデルである $[3]$ 。 ## 2. 分散型デジタルコモンズサービスの概念 (1)分散的で不均一な地域資料の構造特性 地域資料の諸データは多様で不均一なメタ データ構造を持つデータの集合体である。また図書館、博物館、文書館(アーカイブ施設)学校、企業など多様な組織や個人がデジタルアーカイブの構築者となる。地域においては地域資料の体系やデジタルアーカイブに対する知識差も著しく異なる人々が遍く利用する。利用者間の ICT スキル差も大きい。個別のア一カイブは総じて小規模なものが多い。 こうした地域特性を所与の条件とし、単一のクラウドサービスが分散型で運用できるモデルを作り、地域資料の構造特性の違いを超えて同一サービスで対応できるようにする。 本研究は、長野県下諏訪町立図書館からの受託研究として設計開発した下諏訪町地域ア ーカイブ[4]をクラウドサービスモデルとして整理したものである。多様な地域の諸ケースに対応できる普遍的・不変的モデルがいかなるものであるか、それが多数の利用者を対象とし、永続的に運営可能な地域デジタルアー カイブに適用できる可能性を拓いていけるかに設計の主眼を置いた。こうした多様な諸地域、諸資源の状況に適応しつつ、柔軟に地域資料のメタデータ構造に適応できるデジタル アーカイブのクラウドサービスの汎用的なモデル・方式を設計した。 (2)デジタルアーカイブの全般的課題 世界中で、また、全国で数多くのデジタルアーカイブが構築され続けている。近年、 Japan Search に代表される国家的規模のデジタルアーカイブ構築の取り組みも行われるようになった。そうしたアーカイブは、重厚長大なものであるため、地域資料をデジタルア一カイブ化したい意思を持つ人々や機関が手軽に利用できない。構築に多大な費用を必要とすること、ユーザの立場に配慮がなされていないこと、特定システムの適用を前提とした選定を受け入れざるを得なくなること、などの弊害がある。 デジタルアーカイブの課題は、社会的ニー ズが熟せず、広がる気運すら見えない状況にあることである。大方の人々がデジタルアー カイブの必要性を感じていない。使ってすらいない。誰もが「地域アーカイブ活動」を始めたくなるような促しの具体策が求められる。 デジタルアーカイブのメタデータは極めてシンプルなものが基軸であってよい。デジタルアーカイブとは、構造化されたメタデータセットとエンティティデータを実体とするものであって、それを載せるサービスはどんなものであってもよい。むしろ平易に扱え、誰もが参加でき、プログラムも差替えが簡単にできる、あるいはそうした「敷居の低い対応」 を容易にする方式こそが求められている。この点を念頭におき、下諏訪町地域アーカイブ構築においては、利用者の立場に立った平易で運用しやすいシステムとすることに設計の主眼を置いた。 ## 3. 下諏訪町地域アーカイブの設計課題 (1)アーカイブサイトの概要 下諏訪町地域アーカイブ[4]は、下諏訪町立図書館が 2018 年度から 3 年間をかけて取り組んできた地域写真を収蔵したアーカイブである。地元の写真館、旅館、個人などが所蔵していた写真約 1500 点が収蔵されている(図 2)。一枚一枚それぞれが何を記録した写真であるのか、図書館職員が丹念に調查しメタデ ータを作成した。これらの初期収蔵写真を公開し、次年度以降、アーカイブサイトの構築・運営を地域の文化活動としてスタートさ せていく計画である。町民有志もデジタルア一カイブ活動に参加することができる。町民参加運営では、「文化・歴史」の他、「食」「温泉・観光」等のカテゴリを設けて多様な地域データを永続的に投稿・蓄積し続けることができるサイト運営を行う。 図 2. 下諏訪町地域アーカイブ (2)公共施設である地域図書館の新たな役割その地域のデジタルアーカイブを誰が主体になって運営するかは、極めて基本的な地域アーカイブの課題である。現実には MLA 連携、MALUI 連携が国などから声高に唱えられている一方で、さほど進んでいないのが実情である。補助金などにより獲得された予算を投じ、専門業者に開発・運営を委託している自治体等もあるが、下諏訪町立図書館の場合には、ミニマムな予算で町民参加の文化活動として地域デジタルアーカイブを始めることができている。 (3)参加型地域アーカイブのデザイン 参加型アーカイブの要諦は、アーカイブのコンセプトのわかりやすさ、操作の平易さにある。自分が撮った画像がスマホから手軽に投稿できるような操作の手軽さが求められる。 デジタルアーカイブは、複数の利用者が長年に渡り、利用者の入れ替わりなども想定しながら運営し続けることができることがサービス運営上の要件となる。 参加型アーカイブにおいて重要なことの一 つは利用者(町民)から見ての親しみやすさ、 わかりやすさ、操作のしやすさ等の良否である。クラウドサービスは幅広い利用者を想定した場合、嗜好性や価値観は大きく異なるものである。この点で、アーカイブサイトのデザインに対しては、若者層を代表する学生の目線、意見を反映させた。その結果として八ッシュタグ(任意キーワード)の活用、マスコットキャラクターの利用など、内容面の関心に誘う仕掛けや親しみやすさに配慮した。 ## 4. クラウドサービスの基本モデル設計 (1)群小化対応の複合スキーマ構造モデル 下諏訪町の写真データは予め以下の項目でメタデータが整理されている。 (1)通番(2)タイトル(3)~(7)件名 1 5(8)撮影場所(9)撮影西暦(10)撮影年月日(11)色調(12)大きさ(1)説明文(14)所蔵者(15)作業日(16)参考文献(17)著作権 地域アーカイブは要求仕様ごとにデータ構造は異なる。さらには同じアーカイブであっても内容によってデータ構造は異なる。不定形文書への対応も不可欠である。そのため、 アーカイブデータを管理するデータベースでは、異なるスキーマを同一サイトで併用可能な複合スキーマ構造モデルを採用した。 (2) 可搬的データとデータエクスチェンジ サービスモデルの設計では、アーカイブデ一タが異なるサービス間でもデータ互換(論理的構造変換)が可能なデータエクスチェンジ機能を設けること、ソーシャルメディア系の諸サービスとデータ入出力が図れるようにすることにも留意した。データがシステムの違いという壁を超えて可搬的に扱えることはアーカイブデータの永続的継承を保証する点からも久かせない。とりわけオープンデータでの公開が標準化される現代においては、デ一夕の可搬性はアーカイブサービス具備すべき条件である。 サービスを構成するプログラムは極力修正が容易な平易なプログラムとすることを旨として開発した。プログラムが平易であることはサービスの更新・プログラムの差替えをしやすくするメリットがある。適用システムに制約されることなく、データの継承・保全を保障した上で、プログラムが差替えられて技術の進化、社会の変化に対応し続けていくことができることは長期運用が前提のデジタルアーカイブにとっては必須要件である。 ## 5. 汎用モデルの適用実証 (1)上田市『西部地域デジタルマップ』 長野県上田市の住民自治組織「西部地域まちづくりの会」では、地域内の歴史・文化スポット、歴史文書などをデジタルマップ上で一元管理する「西部地域デジタルマップ」を構築する取組を進めている [5]。当初は OMEKA ベースのアーカイブサイト上にデー 夕投稿を行った。旧データベースから新デー タベースへの移行はデータの論理構造の変換プログラムの開発のみで対応が可能であった。 ## (2) 個人ポートフォリオサイト 「下諏訪」「西部地域」はいずれも特定地域で複数ユーザが協働的にアーカイブ構築を進めるタイプの参加型地域アーカイブである。 汎用モデルは、機関ユーザかどうかには関わりなく、群小の 1 個人ユーザであっても自分自身のアーカイブサイトを構築し、末長く運用し続けることができるものとしても設計をした。個人利用のケースで求められる要件はユーザがデータ構造の意識を特段持たなくても、また、アーカイブサービスをいきなりでもデータが投稿できるぐらいに使い方、仕掛けが平易であることである。 地域アーカイブを推進する上で常に大きな壁となるものは、地域住民の関心の持ちにくさである。学習は本来、自らが主体になり、自身のインタレストを引き出し育てていく活動に他ならない。そのため、個人が主体の生涯学習ツールとなることを想定したデジタルコモンズ適用の実践ケースとなる市民向け講座「デジタル旅れぽ」講座をモデル的に開催した[6]。「旅れぽ」実習に同クラウドサービスを適用した。そのねらいは、受講者に生涯学習活動として末長く「旅れぽ」(旅の記録のコンテンツ化)を進めていただくことにある。 「旅れぽ」では、試作した汎用モデルのサ ービスを個人利用に適合させる方策を取ることにより、個人運用ができるクラウドサービスに進化させることができた。 ## 6. 今後に向けた課題と方向性 (1) 他アーカイブサービスとの相互接続 分散型デジタルコモンズクラウドサービスのモデルを汎用化する上での課題の一つは不定形文書への対応の仕方である。筆者は、 1997 年以来、不定形文書を前提としたアーカイブ構築支援ツール PopCorn/PushCorn を開発し、実運用を続けてきた $[3]$ 。本サービスとの違いは、不定形データ記述の対応の有無である。PopCorn の場合、データ構造は共通部、個別部(可変部)の組み合わせで対処してきた。デジタルコモンズにおいては、前者はデ一タベースのスキーマ、後者はデータベースの 1 カラム(可変的個別部)の対応で可能である。データ構造を複合スキーマとしたことにより、この対応がさらにしやすくなった。現代におけるアーカイブデータは、支障ない限り、オープンデータとして扱うことを前提とする。言い換えるとデータを可搬的に扱いやすくするためのデータ入出力のサポート、他システムの間でのデータェクスチェンジ機能の実装が欠かせないものとなる。 その他の一般的ニーズとしては、社会的に広く利用されている SNS 系サービスとの連携 ・連動の実現課題がある。Twitter 、 Instagram、Flickr、YouTube、Facebook 等のサービスへの連動投稿、また逆方向でのデジタルコモンズへの自動移行は欠かせない機能であろう。これらの機能は次段階での実装を想定している。 (2)地域コミュニティ活動等への適合支援 デジタルコモンズクラウドサービスは、コミュニティ活動支援サービス、協働学習支援サービス、個人ポートフォリオ作成支援サー ビス等の多様な指向性を持つところに社会的有用性がある。 従来、デジタルアーカイブは特定の分野・目的で限定的に使われるものであった。デジタルコモンズは、コミュニティ活動等、多くの人々が個別に、あるいは協働して使って諸活動を持続的なものに、分断した世代間の交流、組織間の情報共有、コミュニケーションの交流促進などに役立つことが期待される。 一例を挙げれば、「下諏訪町地域アーカイブ」 は、町民図書館職員やアーカイブづくりに関わる市民有志ばかりでなく、小中学校における「地域学習」、行政からの統計データ等のオ ープンデータの提供、博物館等のデータの提供などが一体となり、分野・地域・世代で分離していた地域情報の出し合い・共有を進める契機となる。分散型デジタルコモンズは、 どの地域においてもほぼ同様の問題解決に役立つものとなることであろう。 ## 参考文献 [1] 前川道博. 地域の知の再編「地域デジタルコモンズ」の実現に向けて. 手と足と眼と耳.学文社. 2018, p.15-37. [2] 前川道博. 地域学習を遍く支援する分散型デジタルコモンズの概念. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, Vol.2, No.2, pp.107-111. [3] eメディア研究会. PopCorn/PushCorn. 19972020. https://www.mmdb.net/popcorn/ (参照 2020-02-25) [4] 下諏訪町立図書館. みんなでつくる下諏訪町デジタルアルバム. 2020. https://d-commons.net/shimosuwa/ (参照 2020-02-25) [5]上田市西部地域まちづくりの会. みんなでつくる西部地域デジタルマップ. 2020. https://d-commons.net/seibu/ (参照 2020-02-25) [6]長野大学前川研究室. デジタル旅れぽ講座 2020 . 2020. https://www.mmdb.net/tabi2020/ (参照 2020-02-25)
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# デジタルアーカイブ学会員及び第 4 回研究大会参加予定者各位 第 4 回研究大会の実質的延期について 4 月 25 日(土)・26 日(日)に開催予定の研究大会について、理事会及び実行委員会で は今般の社会状況の変化に対応して何とか実施すべく検討を重ねてまいりましたが、益々状況が厳しくなる中で、この日程で敢えて行なったとしても、研究大会本来の目的・機能が 果たせないとの判断に至り、実質的な延期の措置をとることといたしました。 ご参加や当日のご発表を楽しみにしていただいた方も多数いらっしゃると思いますが、事情をご賢察いただき、ご了解いただければ幸いです。延期した大会へのご参加を切に願う 次第です。 今後の具体的対応は以下のとおりです。 1. 研究大会の実施について 延期した研究大会は、10月 17 日 (土)・18日(日)に東京大学で開催いたします。 今回 (4月) の研究大会プログラムについては、10 月の大会を第 5 回研究大会と位置 づけて開催し、第 2 回学会賞授賞式等を含め原則としてそのまま移行します。ご登壇者 のご都合、会場確保等の理由により、ワークショップ構成、時間割等が変更される可能性 はあります。また、今回中止した㱝親会等の開催についても、改めて検討いたします。 一般発表については、4月の会誌(予稿集)発行(J-STAGE オンラインのみの発行と なります)をもって第 4 回研究大会における学会発表として扱います。そして第 5 回研究大会では、今回の発表者のうち、希望者については優先的に発表枠を設けることを検討 します。第 4 回研究大会の予稿集への掲載を望まない方、第 5 回研究大会で新たに発表 を希望される方についても対応させていただきます。 2. 第 4 回研究大会参加費と予稿集掲載の扱い すでにお振込みいただいた今回(4月)の参加費は、発表予定者の方を含めてすべて返金いたします。4月の会誌(予稿集)への論文掲載費は徵収いたしません。
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