chats
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3.16k
| meta
dict |
---|---|---|
[
[
"国策の線に添ってというのだね",
"だから、着物の縫い直しや新調にこの頃は一日中大変よ",
"はははははは、一人で忙がしがってら、だがね、断って置くが、銀ぶらなぞに出かけるとき、俺は和服なんか着ないよ"
],
[
"また例の通り長湯ですね。そんなに叮嚀に洗うなら一日置きだってもいいでしょう",
"でもお湯に行くと足がほてって、よく眠れますもの"
],
[
"随分長くいたつもりでしたが四十分しかかかりませんもの",
"そりゃお湯のほかに何処かへ廻るんじゃないかい",
"ですからゆうべは陸郎に後をつけさせたんですよ。そしたらお湯に入ったというんですがねえ、その陸郎が当てになりませんのよ。様子を見に行ったついでに、友達の家へ寄って十二時近くまで遊んで来るのですから",
"ふーん"
],
[
"道子宛ての手紙だけですよ。お友達からですがねえ、この頃の道子の様子では手紙まで気になります。これを一つ中を調べて見ましょうか",
"そうだね、上手に開けられたらね"
],
[
"まあ待ちなさい。あれとしてはこの寒い冬の晩に、人の目のないところでランニングをするなんて、よくよく屈托したからなんだろう。俺だって毎日遅くまで会社の年末整理に忙殺されてると、何か突飛なことがしたくなるからね。それより俺は、娘の友達が言ってるように、自分の娘が月光の中で走るところを見たくなったよ…………俺の分身がね、そんなところで走ってるのをね",
"まあ、あんたまで変に好奇心を持ってしまって。でも万一のことでもあったらどうします",
"そこだよ、場合によったら弟の準二を連れて行かせたら",
"そりゃ準二が可哀そうですわ",
"兎も角、明日月夜だったら道子の様子を見に行く",
"呆れた方ね、そいじゃ私も一緒に行きますわ",
"お前もか"
],
[
"これでも一生懸命だもんで、家からここまで一度も休まずに駈けて来たんですからね",
"俺達は案外まだ若いんだね",
"おほほほほほほほほほほ",
"あはははははははははは"
]
] | 底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「老妓抄」中央公論社
1939(昭和14)年3月18日発行
初出:「令女界」
1938(昭和13)年12月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年2月6日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "050618",
"作品名": "快走",
"作品名読み": "かいそう",
"ソート用読み": "かいそう",
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"原題": "",
"初出": "「令女界」1938(昭和13)年12月号",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2010-03-23T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card50618.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集5",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年8月24日",
"入力に使用した版1": "1993(平成5)年8月24日第1刷",
"校正に使用した版1": "1993(平成5)年8月24日第1刷",
"底本の親本名1": "老妓抄",
"底本の親本出版社名1": "中央公論社",
"底本の親本初版発行年1": "1939(昭和14)年3月18日",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"アテチヨコですの?",
"お好き?",
"えゝ。でも、レストラントでなくて素人のおうちでかういふお料理珍しいと思ふわ",
"素人ぢやございませんわ。店の司厨長を呼び寄せて、みな下で作らして居ますのよ",
"わざ〳〵、まあ、恐れ入りました",
"私、最近に下町で瀟洒なレストラントを始めようと思つて、店や料理人を用意してありますのよ"
],
[
"まあ、あなたがお料理屋を、どうして",
"――何かして紛らしてゐなければ――独身女はしじゆう焦々しますのよ"
],
[
"あなた方ご兄弟は将来どうするお積り",
"父が生きてゐるうちは今の財産を使つちまつても、父の恩給で米代ぐらゐはありますが、父が死んだらこんな道具類でもぽつ〳〵売つて喰つて行くより手はありません。それにしても贋物が多くて",
"持参金附きのお嫁さんでもお貰ひになつたらいかゞ。ご兄弟とも美男子だしお家柄はよし"
],
[
"だめですよ。第一僕等に学歴はなし、それにかう見えて、僕は女に対してうんと贅沢な好みを持つてゐるんです",
"弟さんは",
"あれは父と同じに女嫌ひらしいです"
],
[
"君、裸を垣根から通る人に見られるぢやないか",
"かまふもんか"
]
] | 底本:「日本幻想文学集成10 岡本かの子」国書刊行会
1992(平成4)年1月23日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第三巻 小説」冬樹社
1974(昭和49)年4月30日
初出:「文芸」
1937(昭和12)年7月
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:門田裕志
校正:湯地光弘
2016年1月16日修正
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "004175",
"作品名": "過去世",
"作品名読み": "かこぜ",
"ソート用読み": "かこせ",
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"原題": "",
"初出": "「文芸」1937(昭和12)年7月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2004-02-24T00:00:00",
"最終更新日": "2016-01-16T00:00:00",
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"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "日本幻想文学集成10 岡本かの子",
"底本出版社名1": "国書刊行会",
"底本初版発行年1": "1992(平成4)年1月23日",
"入力に使用した版1": "1992(平成4)年1月23日第1刷",
"校正に使用した版1": "1992(平成4)年1月23日第1刷",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第三巻 小説",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"そいじゃ、私が死ぬようなときは叔母さんも死ぬんですか",
"ええ、あんた死なせるもんですか。でもね、きっと癒りますから、安心して元気になりなさい"
],
[
"ゆうべ先生の夢を見たわ",
"どんな夢だった"
],
[
"先生、もう少しお話してやって下さい。段々よくなってますね",
"ええ、もう二三ヶ月じっとしておれば、起きられるようになりましょう"
],
[
"さあ、もう先生をお帰し申すのだよ。先生は他にまだ沢山苦しんでいるご病人をお持ちだからね",
"他の病人なんか華岡先生じゃなくて、他のお医者様を頼めばいいわ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年7月22日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集」冬樹社
1974(昭和49)年3月~1978(昭和53)年3月
初出:「新女苑」
1937(昭和12)年12月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年3月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "050619",
"作品名": "勝ずば",
"作品名読み": "かたずば",
"ソート用読み": "かたすは",
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"初出": "「新女苑」1937(昭和12)年12月号",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2010-04-05T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集4",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年7月22日",
"入力に使用した版1": "1993(平成5)年7月22日第1刷",
"校正に使用した版1": "1993(平成5)年7月22日第1刷",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"あの人達は甘い。",
"あそこではいつも一所に出かける。",
"へんに仲が好い。"
],
[
"かんしんな同棲者達だ。",
"模範的な同棲者達だ。"
]
] | 底本:「愛よ、愛」パサージュ叢書、メタローグ
1999(平成11)年5月8日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十四卷」冬樹社
1977(昭和52)年5月15日初版第1刷発行
初出:「婦人画報」
1929(昭和4)年3月号
※「椽《えん》」「潜越《せんえつ》」の表記について、底本は、原文を尊重したとしています。
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2004年3月30日作成
2013年10月5日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "004551",
"作品名": "家庭愛増進術",
"作品名読み": "かていあいぞうしんじゅつ",
"ソート用読み": "かていあいそうしんしゆつ",
"副題": "――型でなしに",
"副題読み": "――かたでなしに",
"原題": "",
"初出": "「婦人画報」1929(昭和4)年3月号",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2004-04-26T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card4551.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "愛よ、愛",
"底本出版社名1": "パサージュ叢書、メタローグ",
"底本初版発行年1": "1999(平成11)年5月8日",
"入力に使用した版1": "1999(平成11)年5月8日第1刷",
"校正に使用した版1": "1999(平成11)年5月8日第1刷",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第十四卷",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
"底本の親本初版発行年1": "1977(昭和52)年5月15日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "土屋隆",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/4551_ruby_14920.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2013-10-05T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "1",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/4551_15432.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2013-10-05T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"子供のうち、私の考へてゐたことゝよく似てをりますな。",
"どう考へてゐたの。"
],
[
"さうよ、ね、何故筏師にならなかつた? 素晴らしいぢやないの、筋肉の隆々とした筏師なんか。",
"は、ですけど、どうせ筏師は海口へ向つて行くんです。それを思ふと嫌でした。",
"海、きらひ?",
"は、海は何だかあくどい感じがします"
],
[
"あんた、いま、この川をどう感じて",
"――お嬢さまのお伴してゐると、川とお嬢さまと、感じが入り混つてしまつて、とても言ひ現し切れません。お嬢さまは。",
"さあ、――今は、上品な格幅のいゝ老人かも知れないわね。"
],
[
"うちの総領娘が、かう弱くては困るな。",
"体格はいゝのですから、食べものさへ食べて呉れたら、何でもないのですがね。",
"直助に旨い川魚でも探させろ。"
],
[
"白鮠のこれんぱかしのは無いかい。",
"石斑魚のこれんぱかしのは無いかい。",
"岩魚のこれんぱかしのは無いかい。",
"川鯊のこれんぱかしのは無いかい。"
],
[
"いやだと言ふのに、直助。生臭いおさかななんかは。",
"でも、ご覧になるだけでも……。"
],
[
"男の癖に、直助どうして、こんなお料理知つてんの。",
"川の近くに育つたものは、必要に応じてなにかと川から教はるものです。"
],
[
"川はどう?",
"こゝのところ川は痩せてをります。"
]
] | 底本:「日本幻想文学集成10 岡本かの子」国書刊行会
1992(平成4)年1月23日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第二巻 小説」冬樹社
1974(昭和49)年6月30日
初出:「新女苑」
1937(昭和12)年5月
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:門田裕志
校正:湯地光弘
2005年2月22日作成
2016年1月16日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "004190",
"作品名": "川",
"作品名読み": "かわ",
"ソート用読み": "かわ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「新女苑」1937(昭和12)年5月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2005-03-24T00:00:00",
"最終更新日": "2016-01-16T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card4190.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "日本幻想文学集成10 岡本かの子",
"底本出版社名1": "国書刊行会",
"底本初版発行年1": "1992(平成4)年1月23日",
"入力に使用した版1": "1992(平成4)年1月23日初版第1刷",
"校正に使用した版1": "1992(平成4)年1月23日初版第1刷",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第二巻 小説",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
"底本の親本初版発行年1": "1974(昭和49)年6月30日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "湯地光弘",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/4190_ruby_17894.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2016-01-16T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "2",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/4190_17923.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2016-01-16T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "2"
} |
[
[
"他所へお出になることがあって",
"滅多に、でも、お買ものの時や、お店のお交際いには時たまお出かけになります",
"お店のお交際いというと……"
],
[
"ですが、こちらさんにこんなお話お聞かせして好いんですか",
"ええ、ええ"
],
[
"いえ、あれで、から駄目なのでございます。少し体を使うと、その使ったところから痛み出して、そりゃ酷いのですわ",
"まあ、それじゃ、今日のおもてなしも、体のご無理になりゃしませんこと",
"なに、関わないのでございますよ。あなたさまには、いろいろお話し申したいことがあると云って、張切って居るんでございますから"
],
[
"あの上野の三枚橋の傍に、忍川という料理屋がありましたが、あの近所にそんな名の川がありましたの、気がつきませんでしたわ",
"川にも運命があると見えまして、あの忍川なぞは可哀想な川でございます。あなたさまは、王子の滝ノ川をご存じでいらっしゃいましょう"
],
[
"あすこの家へ行くと、すっかり分別臭い年寄りにされて仕舞うから……",
"だから、なおのこと行きなさいよ。面白いじゃないか、そういう家の内情なんて、小説なんかには持って来いじゃありませんか"
],
[
"叔母さんなんかには、私の気持ち判りません",
"あんたなんかには、世の中のこと判りません"
],
[
"…………",
"…………"
],
[
"いつ頃、これを慥えなさって?",
"三年まえ……"
],
[
"どう",
"いいですわね",
"いいですって……どういうふうにいいの",
"そうねえ……ここに一生住んで、自分のお墓を建てたいくらい"
],
[
"やっとるね",
"うん、やっとるね"
],
[
"今考えてみれば、僕は僻みながらも僕の心の底では娘が可哀想で、いじらしくてならなかったのです",
"僕はこの二重の矛盾に堪え切れないで、娘に辛く当ったり、娘をはぐらかして見たり、軽蔑してみたり、あらゆるいじけた情熱の吐き方をしたものです。そうしたあとでは、無垢な、か弱いものを惨忍に踏み躙った悔いが、ひしひしと身を攻めて来て、もしやこのことのために娘の性情が壊れて仕舞ったら、どうしたらいいだろう……"
]
] | 底本:「昭和文学全集 第5巻」小学館
1986(昭和61)年12月1日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第四卷」冬樹社
1974(昭和49)年3月18日初版第1刷発行
初出:「中央公論」
1939(昭和14)年4月号
※疑問箇所の確認にあたっては、底本の親本を参照しました。
※「木下はなお南洋の海に就《つ》いて語り続ける。」は、底本でも、底本の親本でも改行天付きになっています。
入力:阿部良子
校正:松永正敏
2004年1月30日作成
2013年10月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "001284",
"作品名": "河明り",
"作品名読み": "かわあかり",
"ソート用読み": "かわあかり",
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"原題": "",
"初出": "「中央公論」1939(昭和14)年4月号",
"分類番号": "NDC 913 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
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"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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"底本名1": "昭和文学全集 第5巻",
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"底本初版発行年1": "1986(昭和61)年12月1日",
"入力に使用した版1": "1986(昭和61)年12月1日初版第1刷",
"校正に使用した版1": "1986(昭和61)年12月1日初版第1刷",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第四卷",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "3"
} |
[
[
"おまえは、今日体操の時間に、男の先生に脇の下から手を入れてもらってお腰巻のずったのを上へ上げてもらったろう。男の先生にさ――けがらわしい奴だ",
"おまえは、今日鼻血を出した男の子に駆けてって紙を二枚もやったろう。あやしいぞ"
],
[
"もう少し気の利いたものになりたいんですが、事情が許しそうもないのです",
"張合のないことおっしゃるのね。あたしがあなたなら嬉んで金魚屋さんになりますわ"
],
[
"あたしですの。あたしは多少美しい娘かも知れないけれども、平凡な女よ。いずれ二三年のうちに普通に結婚して、順当に母になって行くんでしょう",
"……結婚ってそんな無雑作なもんじゃないでしょう",
"でも世界中を調べるわけに行かないし、考え通りの結婚なんてやたらにそこらに在るもんじゃないでしょう。思うままにはならない。どうせ人間は不自由ですわね"
],
[
"あら、寝てらっしゃるの",
"………",
"寝てんの?"
],
[
"うちの船が二三艘帰って来て、あなたが一人でもくもくへ月見にモーターで入らしってるというのよ。だから押しかけて来たわ",
"それはいい。僕は君にとても会いたかった"
],
[
"なにを寝言いってらっしゃるの。そんないやがらせ云ったって、素直に私帰りませんけれど、もし寝言のふりしてあたしを胡麻化すつもりなら、はっきりお断りしときますが、どうせあたしはね。東京の磨いたお嬢さんとは全然較べものにはならない田舎の漁師の娘の……",
"馬鹿、黙りたまえ!"
],
[
"ボートへ入ってもいいの",
"……うん……"
],
[
"だめですね。詩を作るものに田を作れというようなもんです。そればかりでなく、お願いしておきますが、僕には最高級の金魚を作る専門の方をやらせて下さい。これなら、命と取り換えっこのつもりでやりますから",
"僕は家内も要らなければ、子孫を遺す気もありません。素晴らしく豊麗な金魚の新種を創り出す――これが僕の終生の望みです。見込み違いのものに金をつぎ込んだと思われたら、非常にお気の毒ですが"
],
[
"ええ。苦労しましたからね",
"そう。でも苦労するのは薬ですってよ"
],
[
"お婿さん、どうです",
"別に"
],
[
"ときどきものを送って下さって有難う",
"これは湖のそばで出来た陶ものです"
],
[
"何も悪いってことありませんけど、谷窪の家の人達から見えるでしょう。あの人まだ独身なんですもの",
"金魚の技師の復一君のことかね",
"そうです"
],
[
"四五年前にあなたがバロックに凝ったさえ、わたしは内心あんまり人工的過ぎると思って賛成しなかったのよ。まして、ロココに進むなんて一層人工的ですよ。趣味として滅亡の一歩前の美じゃなくって",
"でも、どうしてもそうしたくって仕方がないのよ",
"真佐子さん、あなたは変ってるわね",
"そうかしら。あたしはあなたがいつかわたしのことおっしゃったように、実際、蒼空と雲を眺めていて、それが海と島に思えると云った性質でしょうね"
]
] | 底本:「ちくま日本文学全集 岡本かの子」筑摩書房
1992年(平成4)2月20日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第三巻」冬樹社
1974(昭和49)年
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:大石純子
校正:門田裕志
2003年2月27日作成
2011年2月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "001279",
"作品名": "金魚撩乱",
"作品名読み": "きんぎょりょうらん",
"ソート用読み": "きんきよりようらん",
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"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"姓読みソート用": "おかもと",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
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"没年月日": "1939-02-18",
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"底本名1": "ちくま日本文学全集 岡本かの子",
"底本出版社名1": "筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1992(平成4)年2月20日",
"入力に使用した版1": "1992(平成4)年2月20日第1刷",
"校正に使用した版1": "",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第三巻",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
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"入力者": "大石純子",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "2"
} |
[
[
"可哀そうなんだよ。その家の主婦が、お嬢さん育ちの癖に貧乏して仕舞って、こどもを一人抱えてるんだ。うっちゃっときゃ、まあ母子心中か餓死なんです",
"ご主人は",
"主人は、僕の農芸大学の先輩に当る園芸家なんですが、天才肌でまるで家庭の面倒なんか見ないんです。酒とカーネーションの改良に浸り切っています",
"およしなさい。あなたには重荷の騎士気質なぞ出してさ。そんな家庭へ入り込んで、面倒なことにでもなるといけませんよ"
],
[
"でも、どうして千代重さんはそんなに女のことをよく知ってらっしゃるの、不思議だわ",
"ちょうどあなたと同じようなぼんやりの従姉が、僕にありましてね。小さいときから、しょっちゅう面倒を見てやらなきゃならなかったんです。僕だって男ですから、あんまりこんなこたあしたかありませんよ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集3」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年6月24日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 補卷」冬樹社
1977(昭和52)年11月30日初版第1刷
初出:「週刊朝日」
1937(昭和12)年8月2日
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年1月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "046929",
"作品名": "唇草",
"作品名読み": "くちびるそう",
"ソート用読み": "くちひるそう",
"副題": "",
"副題読み": "",
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"初出": "「週刊朝日」1937(昭和12)年8月2日",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2010-02-19T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集3",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年6月24日第1刷",
"入力に使用した版1": "1993(平成5)年6月24日第1刷",
"校正に使用した版1": "1993(平成5)年6月24日第1刷",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集 補卷",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
"底本の親本初版発行年1": "1977(昭和52)年11月30日",
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"入力者": "門田裕志",
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} |
[
[
"あしたこそ金を持って……を迎いに行ってやるんだ",
"おやどこかへ行っているの",
"スイスのホテルで着物を売っては男と食い継いでいるんだ",
"ちっと怒っておやんなさいな"
]
] | 底本:「岡本かの子全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年1月24日第1刷発行
底本の親本:「随筆 かの子抄」不二屋書房
1934(昭和9)年9月24日初版発行
初出:「中央公論」
1932(昭和7)年3月号
※表題は底本では、「食魔《グウルメ》に贈る」となっています。
※「ラルュウ」と「ラリュウ」、「オリーヴ油」と「オリーブ油」の混在は、底本通りです。
入力:門田裕志
校正:いとうおちゃ
2022年10月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "058377",
"作品名": "食魔に贈る",
"作品名読み": "ぐるめにおくる",
"ソート用読み": "くるめにおくる",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「中央公論」1932(昭和7)年3月号",
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"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2022-11-09T00:00:00",
"最終更新日": "2022-10-26T00:00:00",
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"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集1",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年1月24日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年1月24日第1刷",
"校正に使用した版1": "1994(平成6)年1月24日第1刷",
"底本の親本名1": "随筆 かの子抄",
"底本の親本出版社名1": "不二屋書房",
"底本の親本初版発行年1": "1934(昭和9)年9月24日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
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"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "いとうおちゃ",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/58377_ruby_76481.zip",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"お姉さま、お無心よ",
"なあに",
"お姉さまの、お胸の肉附のいいところを、あたくしに平手でぺちゃぺちゃと叩かして下さらない? どんなにいい気持ちでしょう"
]
] | 底本:「岡本かの子全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年2月24日第1刷発行
底本の親本:「丸の内草話」青年書房
1939(昭和14)年5月20日発行
初出:はつ湯「レッェンゾ」
1935(昭和10)年1月号
春の浜別荘「週刊朝日」
1935(昭和10)年3月31日
ゆき子へ「令女界」
1935(昭和10)年7月号
入力:門田裕志
校正:オサムラヒロ
2008年10月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "046927",
"作品名": "健康三題",
"作品名読み": "けんこうさんだい",
"ソート用読み": "けんこうさんたい",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "はつ湯「レッェンゾ」1935(昭和10)年1月号、春の浜別荘「週刊朝日」1935(昭和10)年3月31日、ゆき子へ「令女界」1935(昭和10)年7月号",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-11-05T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card46927.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集2",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年2月24日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年2月24日第1刷",
"校正に使用した版1": "1994(平成6)年2月24日第1刷",
"底本の親本名1": "丸の内草話",
"底本の親本出版社名1": "青年書房",
"底本の親本初版発行年1": "1939(昭和14)年5月20日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "オサムラヒロ",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/46927_ruby_33249.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2008-10-15T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "0",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/46927_33268.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2008-10-15T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"ばあやさんお酌の仕方がうまいなあ",
"むかし酒飲みの主人を持っておりましたからね"
],
[
"お嬢さまご退屈ですか、おやおや。じゃ一つ重光さんに唄でもうたって聴かして頂きましょう",
"いやな婆や"
],
[
"ばあや、もう眼の罨法をする時間じゃなくって",
"そうでございましたね。じゃ重光さん今晩はもう失礼ですが"
],
[
"いいところですね。草双紙の場面のよう",
"お気に入って結構です。きょうは悠っくり寛いで下さい。うちも同然の店ですから"
],
[
"あなた、お料理店の息子さん?",
"違います。だが、まあ、客商売というところは同じですね"
],
[
"判りませんわ。あなたのお家の商売――",
"さあ、云ってもいいが、云わない方が感じがいいでしょう。兎に角、女親とあとは殆ど女だけしかいないような家なのです"
],
[
"まあ――だけど、私、それ程あなたに何も云ってはさしあげませんでしたわ",
"沢山おっしゃらない中から、僕はちゃんと拾ってます……。あなたがいつぞや、何の気なしに話して下さった『地によって倒れるものは地によって立つ』という言葉は本当です。女性によって蝕ばまれたものは、女性によってのみ癒やされるんですね。僕は、あなたの病的に内気なところを懐しんで近づいて行ったのですが、不思議ですね。それは表面だけで、あなたの蘂には男を奮い起さすような明るい逞ましいものがあるんです",
"でもあなたは素焼の壺と素焼の壺が並んだような、あっさりした男女の交際が欲しいと仰ったでしょう",
"ああ、そうでしたね。あの時分僕は実はあの反対な――積極的な生命的な女性との接触を求めていながら、つい一方の蝕まれた性格が、ああいうことを云わしたんですね。僕はあんなことを云いながら、ぐんぐんあなたの積極的な処に牽かれて……こんな言葉を許して下さい……",
"でも私は積極的でしょうか",
"熱情があんまり清潔すぎて醗酵しないから、病的な内気の方へ折れ込んで仕舞うのでしょう。あなたの兄さんもそういう方だ",
"では兄におつき合いになっただけであなたはよかったではありませんか",
"兄さんともそれで仲好しでした。兄さんは僕の変に性の抜けたようなニヒリスチックなところが、鬱屈した性質を洗滌されるようで好きだったのだな",
"そう云いました。私にもだからおつき合いしてごらん、気持ちがさっぱりして薬になるよって、あなたを紹介して呉れました",
"あはは……お互に換気作用を計画しておつき合いし始めたんですか……あははは……近代人の科学的批判的意識が友情にまで、そこまで及べば徹底してますね",
"でも兄はあなたを『素焼の壺』のようなあっさりした方と云いましたけど……私はそれ以上あなたにお目にかかっていると、しんと寂しさが身に迫るようでした。時々堪らなく寒くなるような感じをうけます",
"男性と女性の相違ですよ。兄さんとあなたと僕に対する感じ方の違うというのは",
"何がですか",
"だから僕は女性でなくては……と云ったでしょう",
"…………"
],
[
"僕はやっぱり女性の敏感のなかに理解がしっとり緻密に溶け込んでいるのでなければ、淋しい男性にとってほんとうの喜びではないと思うんです。兄さんは僕を多少ニヒリストで素焼の壺程度にさらりとした人間と解釈したに過ぎないが、あなたはそれ以上、僕に鬱屈している孤独的な寂しさまで感じわけて下さったでしょう……女性の本当に濃かいデリケートな感受性へ理解されることが、僕の秘かな希望だったんだな……",
"でもあなたは素焼の壺が二つ並んだような男女の交際が欲しいと仰ったでしょう",
"またそれが出ましたね。どうも素焼の壺が頻々と出て来ますね。あれは僕自身も僕を素焼の壺程度に解釈していた時分云ったことですよ。僕は実は大変な鬱血漢でしたよ",
"割合いに刺戟的な方だと思うわ",
"ばあやのお喋りがはいらないんで、今日はあなたがよくお話しになる、僕の本望だな。あれはね、僕、今でもそう思ってますが――つまり、すぐ恋愛になるような、あり来りの男女の交際は嫌だと思ってましたから、それがああいう言葉で出たんですが……"
]
] | 底本:「岡本かの子全集3」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年6月24日第1刷発行
底本の親本:「老妓抄」中央公論社
1939(昭和14)年3月18日発行
初出:「むらさき」
1937(昭和12)年6月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年1月25日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "046928",
"作品名": "高原の太陽",
"作品名読み": "こうげんのたいよう",
"ソート用読み": "こうけんのたいよう",
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"初出": "「むらさき」1937(昭和12)年6月号",
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"姓読み": "おかもと",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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"生年月日": "1889-03-01",
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"底本名1": "岡本かの子全集3",
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"底本の親本名1": "老妓抄",
"底本の親本出版社名1": "中央公論社",
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[
"だらしがないわ皆三さん。着物の脊筋を、こんなに曲げて着てるつてないわ",
"まるで赤ン坊"
],
[
"なに、あれとは、ただ御近所のお友達といふだけで、それに皆三は、当分結婚の方は気が無いといふから",
"では、僕の方、お願ひしてみませうか"
],
[
"じつに、静かな夕方だな",
"さうでご座いますね"
],
[
"それはさうと、もう二三日でお盆の仕度にちよつと東京へ帰つて参らうと思ひます",
"そしたら序にどつかで金米糖を見つけて、買つて来て貰ひ度いね。この頃何だかああいふ少年の頃の喰べものを、また喰べ度くなつた"
]
] | 底本:「日本幻想文学集成10 岡本かの子」国書刊行会
1992(平成4)年1月23日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第四巻 小説」冬樹社
1974(昭和49)年3月18日
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:門田裕志
校正:湯地光弘
2005年2月22日作成
2016年1月16日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "004178",
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"作品名読み": "こうもり",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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"没年月日": "1939-02-18",
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"底本初版発行年1": "1992(平成4)年1月23日",
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[
[
"だらしがないわ皆三さん。着物の脊筋を、こんなに曲げて着てるってないわ",
"まるで赤ン坊"
],
[
"なに、あれとは、ただ御近所のお友達というだけで、それに皆三は、当分結婚の方は気が無いというから",
"では、僕の方、お願いしてみましょうか"
],
[
"じつに、静かな夕方だな",
"そうでご座いますね"
],
[
"それはそうと、もう二三日でお盆の仕度にちょっと東京へ帰って参ろうと思います",
"そしたら序にどっかで金米糖を見つけて、買って来て貰い度いね。この頃何だかああいう少年の頃の喰べものを、また喰べ度くなった"
]
] | 底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「巴里祭」青木書房
1938(昭和13)年11月25日
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2021年1月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "058299",
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"最終更新日": "2021-01-27T00:00:00",
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"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
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"底本名1": "岡本かの子全集5",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年8月24日",
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"校正に使用した版1": "1993(平成5)年8月24日第1刷",
"底本の親本名1": "巴里祭",
"底本の親本出版社名1": "青木書房",
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} |
[
[
"何です、たかゞ土でひねつた陶ものぢやありませんか、おまけにひゞの入つてゐる――",
"こんな虫喰ひ人形、どこがいゝんでせう"
],
[
"おいくつ?",
"十六",
"名前は",
"采女子"
],
[
"学校へは行かないのですか",
"東京の学校へ行つてましたが、あんまり目立ち過ぎるつて、家へ帰されましたの。つまんないつてないの"
],
[
"をぢさま、この土地の伝説をご存じない?",
"知りません",
"この土地は小野の小町の出生地の由縁から、代々一人はきつと美しい女の子が生れるんですつて。けれどもその女の子は、小町の嫉みできつと夭死するんですつて",
"ほゝう⁉"
],
[
"?",
"をぢさま、人間ていふものは、死ぬにしても何か一つなつかしいものをこの世に残して置き度がるものね。けども、あたしにはそれがないのよ"
]
] | 底本:「花の名随筆6 六月の花」作品社
1999(平成11)年5月10日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第一巻」冬樹社
1974(昭和49)年9月第1刷発行
※「良実」と「良真」の混在は、底本通りです。
入力:門田裕志
校正:林 幸雄
2002年4月24日作成
2014年6月16日修正
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "004061",
"作品名": "小町の芍薬",
"作品名読み": "こまちのしゃくやく",
"ソート用読み": "こまちのしやくやく",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2002-05-23T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card4061.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "花の名随筆6 六月の花",
"底本出版社名1": "作品社",
"底本初版発行年1": "1999(平成11)年5月10日",
"入力に使用した版1": "1999(平成11)年5月10日初版第1刷",
"校正に使用した版1": "",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第一巻",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
"底本の親本初版発行年1": "1974(昭和49)年9月",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
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"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "林幸雄",
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"テキストファイル最終更新日": "2014-06-16T00:00:00",
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"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"確かだわ。今晩は夕立ち、明日から四五日お天気は大丈夫よ",
"まあ、そんなところですなあ。遠泳会はうまく行くね"
],
[
"私ですよ。少し遅くなりましたが、街へ踊りに出かけましょう。出ていらっしゃいませんか",
"なぜ、裏梯子から上っていらっしゃらないの",
"薄荷水をピストルで眼の中へ弾き込まれちゃかないませんからなあ"
],
[
"でも、いま時分、こんなに遅く、いいのかしらん",
"なに、ちっとばかり、資金を廻してある家なので、自由が利くんです"
],
[
"あたし、何にも知らないけれど、あんた、この頃でもうちの父に、何かお金のことで面倒を見ているの",
"いや、金はもう、老先生には鐚一文出しません。失くなすのは判っているんだから。それに老先生だって、一度あたしが保証の印を捺して、いまでもどんなに迷惑しているか、まさか忘れもしなさらないと見え、その後何にもいい出しなさりはしませんがね"
],
[
"若いときはしました。しかし、今の家内を貰ってから、福沢宗になりましてね、堅蔵ですよ",
"お金をたくさん持って面白い",
"何とか有効に使わなくちゃならないと考えて来るようになっちゃ、もう面白くありませんな",
"そう"
],
[
"貝原さん、子供が欲しいなんて云わずに真直ぐに私が欲しいと云ったらどうですの",
"ああ。そうですか。でもあんまり失礼だと思いまして"
],
[
"ちっとも苦しんでるように見えないわ",
"この間、水の中で君に…………、こんなに腫れた"
],
[
"あら、それで怒ってるの",
"違う――君はとても強い。なまじっかなこと云い出せないもの"
],
[
"なに、云ってるの",
"機械のベルトの音"
],
[
"きゅう、きれきれきれきれきれ。これは機械鋸が木を挽く音",
"ふざけるの、よしよ。真面目な相談だよ。僕は知ってる",
"知ってる? 何を",
"どうせ貝原に買われて行くんでしょう",
"誰が、どこへ",
"知ってる。みんな",
"そんなこと、誰が云った",
"誰も云わない。だけど、僕、その位なこと、わかる男だ"
],
[
"許す?",
"許すも許さないもありゃあしない",
"薫さん、ついてお出でよ。東京の真中で大びらに恋をしよう、ね"
],
[
"そりゃ、貝原さんはいい人さ、小初先生と僕のことだって大目に見ての上で世話する気かも知れませんさ。だけど、僕あ嫌いです。いくら、僕、中学出たての小僧だって、僕あそんな意気地無しにあ、なれません",
"じゃあ、どうすればいいの",
"どうも出来ません。僕あ、どうせ来月から貧乏な老朽親爺に代って場末のエナ会社の書記にならなけりゃならないし、小初先生は東京の真中で贅沢に暮らさなけりゃならない人なんだもの"
],
[
"薫さん、だけど薫さん、遠泳会にはきっと来てね。精いっぱい泳ぎっこね。それでお訣れならお訣れとしようよ",
"うん",
"きっとよ、ね、きっと",
"うん、うん"
]
] | 底本:「ちくま日本文学全集 岡本かの子」筑摩書房
1992(平成4)年2月20日第1刷発行
1998(平成10)年3月15日第2刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集」冬樹社
1974(昭和49)年~1978(昭和53)年
初出:「文芸」
1936(昭和11)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年8月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "001278",
"作品名": "渾沌未分",
"作品名読み": "こんとんみぶん",
"ソート用読み": "こんとんみふん",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「文芸」1936(昭和11)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2007-11-04T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card1278.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "ちくま日本文学全集 岡本かの子",
"底本出版社名1": "筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1992(平成4)年2月20日",
"入力に使用した版1": "1998(平成10)年3月15日第2刷",
"校正に使用した版1": "1992(平成4)年2月20日第1刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "土屋隆",
"校正者": "小林繁雄、門田裕志",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/1278_ruby_28098.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2007-08-29T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "0",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/1278_28154.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-08-29T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"島吉つぁん、学校に行ってるの",
"尋常のしまいだけで止めた",
"何に、なり度いの"
],
[
"飛行機乗りになりたいんだがおやじが許さないんだ",
"それで",
"だから、もう何にもなり度くないんだ。やっぱりこの庭の番人になるんだ",
"だけど、お友達なんかなくって淋しかないの",
"うん、あるよ、時々外から来るよ。ここへ来りゃ、みんな僕のけらいさ"
],
[
"嫁かい、ふ ふ ふ ふ、今に見せてやるよ",
"まあ、もう、あるの",
"ふ ふ ふ ふ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年7月22日第1刷発行
底本の親本:「丸の内草話」青年書房
1939(昭和14)年5月発行
初出:「旅」
1938(昭和13)年2月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年3月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "050621",
"作品名": "酋長",
"作品名読み": "しゅうちょう",
"ソート用読み": "しゆうちよう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「旅」1938(昭和13)年2月号",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2010-04-05T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card50621.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集4",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年7月22日",
"入力に使用した版1": "1993(平成5)年7月22日第1刷",
"校正に使用した版1": "1993(平成5)年7月22日第1刷",
"底本の親本名1": "丸の内草話",
"底本の親本出版社名1": "青年書房",
"底本の親本初版発行年1": "1939(昭和14)年5月",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "noriko saito",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/50621_ruby_37528.zip",
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} |
[
[
"これ、おまえ一人で考えて書いたのか",
"あゝ、そうだよ、おじさん"
],
[
"まだ、食べてるのかい。あの子は",
"はあ",
"食ものにがつ〳〵してるね。他の子に対しても見っともないじゃないか",
"でも",
"お里を出すね、やっぱり"
],
[
"さあ、今度はたいしたもんだぞ、木質は天竺、檀特山から得ました伽羅の名木と来るかな。わが朝は仏縁深重の地とあって、伊勢ノ国阿漕ヶ浦に流れ寄り、夜な夜な発する霊光。こゝに行基菩薩という方は東国化導のみぎり、この浦を通りかゝられましてと来るかな",
"競り方、だいぶ苦しいと見えて、名文句の間に、来るかなが多過ぎるぞ"
],
[
"いつまでも、こういうお友だちでいるんですね",
"えゝ、いつまでも"
],
[
"少しまだ寒いのね",
"あ、あ、少しまだ寒い"
],
[
"そう、鱈",
"僕は鰊"
],
[
"なんだか、まわり全体が香水の朝風呂に入っているようだね",
"あんたの眼はとても腫れぼったくてよ、毎晩、お酒あんなに飲まない方がいゝと思うんだけど"
],
[
"じゃ言うがね。先月の始めに、学園からも愈々人を派して先生の様子や心持を糺すという話を聞いたものだから、後れては悪るいと思って、それを知らしながら、先生との最後の膝詰談判をするつもりで僕は出かけて行ったのだ。先生は上越線の八木原駅からじき近くの実家の農家の古い座敷で勉強していた。なるほど赤城の山がよく見えた",
"先生、どんな工合でいらっしゃるの",
"愕いた。先生は、今度の事件に就ては何もかも自然の成行きに任せる。と前の手紙とはまるで違った返事だ。そしてあなたはあなたの好きなようになさればいゝ。たゞ、わたくしは、どうしても学園へは帰る気はしませんと、こういう風になっていたのだ",
"何も愕くことはないじゃないの。いくら先生だって、結局はそうするより仕方がないじゃありませんか"
],
[
"まあ、嚇かすのよしてよ。先生、自殺の準備をなさるんじゃない",
"さ、それを聴いたとき僕もひやりとして、直ぐ先生に、露骨にそう訊いたもんだ。すると先生は心から、おかしそうに笑って、死を研究すると言ったって、死を目的としての研究ではない。生を深めるためのその死の研究なのです。物の影を黒めれば黒めるほど、その物の存在がいよ〳〵くっきり浮き出されて来るように、死の深まりを知らないで生の歓びの高さは突き止められない。こういうことを言われた",
"それで安心したわ。先生は大丈夫ね",
"だが、あのとき先生が笑われた笑いくらい先生が心の底から笑われたのを僕は見たことがない。それは何だか、もう僕たちがじくざくしている世界から一段高いところで笑っている声のようにも響いた。そこで僕はやっぱり先生は偉いなと思って、正直にいろ〳〵の悩みをうち開けて訊いてみた。すると先生も、やさしくそれ等のことの性質に就て、手を取るようにして教えて下すった"
],
[
"たぶん、そんなことになるらしいとは思っていた",
"あんた、それでもいゝの",
"――仕方ない",
"莫迦、意気地なし"
],
[
"夫婦ということにしといたよ。こういうところでは却ってその方が面倒でなくていゝのだから",
"そんなこと誰に習ったのよ"
],
[
"それよか、先生は?",
"養蚕の季に入ったので家の中がうるさいって、赤城の上へ勉強しに行かれたそうだ"
],
[
"蝶子さんが先に――",
"どうして、私が山にいると知ったの。うちへ寄って訊いた",
"えゝ、おうちへ行ってみたところが、先生は赤城だと伺ったので――"
],
[
"うちでは誰に会いましたの、みんなに",
"いえ、皆さんはお留守で、弟さんとかいう方にお目にかゝりました"
],
[
"なるほど、あんたの言ったように、先生はずいぶん変っているわね",
"だろう、それ御覧。こちらからはもう何も言い出せはしまい。だが、実を言うと、この前、僕が先生の実家で会ったときから見ると、先生はまた変っているな",
"へえ、そうなの。じゃ、どう変ったの",
"まず言えないよ",
"どうして",
"だって、言えば君は嫉くか、怒るかするんだもの",
"ばか仰っしゃい。今更こんな雪の山の中へ来て",
"じゃ言ってみようか",
"あゝ",
"この前、会ったときの先生は、気高くはなっていたが、まあいわば、おふくろさんかおばさんの感じだった。ところが茲で会ってみると今度は、おかしな言葉だが妙に艶っぽくなってる。大きな声じゃ言えないがね――"
],
[
"ね、もう、そこに大きく氷の割目の痕が出来ているでしょう。この辺ではこれをえみと言っていますが、近いうちに湖の氷は割れ出しますね。暖い南の風が吹いて来たら――",
"それ、氷のところ〴〵にうす蒼黒く、まだらがあるでしょう。氷が薄くなったので底の湧き水の在所が透けて見えるのですよ――"
],
[
"仕方のないことだ",
"仕様もないわね"
],
[
"男らしくないから男らしくないと言ったのよ。わけも言わずに拗ねるなんて",
"誰が拗ねたか",
"あら、それが拗ねてないなんて誰に言えるの。いくら名人の振附師だって素直な気持であんたの今やったそんな断末魔の所作はとても振り附けられやしないことよ",
"断末魔の所作とは何だ。人を莫迦にして",
"それでお気に召さなかったら、お給金が上らないので膳椀にあたり散らす雇人みたいだと言ってあげたらいゝの。兎も角も下品ね"
],
[
"擦れっ枯らし――君がこんな擦れっ枯らしとは思わなかった。僕はもう交際えんよ",
"交際えなかったらどうする気"
],
[
"えー、えー行き度いなら勝手に行っちまいなさいとも、安宅先生といいこの頃は勝手に一人で行くことが流行るらしいわ",
"よし、行く"
],
[
"じゃ、あたしは随分あんたの娘さんに御厄介をかけたということになるのね",
"早い話が、まあ、そういったわけです"
],
[
"いや、あんたがそう仰しゃるなら、実は私も正直なところを言いますと、私の見込みもまずその辺のところですな。失礼ですが、あんたは私の逃げた嬶に似てなさって、とても尋常では一人の亭主を護ってる柄でないようにおありなさる",
"いやあね、そんな予言は。しかし、ともかくあたし、いっそ、やめちまおうかしらとおもう――",
"もし、おやめになるなら、なんじゃござんせんか、今度の事件が丁度よいきっかけじゃござんせんか。この機会なら私が間に立って壊すにも穏に壊し易うござんすし――"
],
[
"お酒の美容術ね。女の化粧下地よりも丁寧だわ",
"米の脂は鶯の糞より私には肌に合いますな"
],
[
"それで出来ることなら、やってごらんなさいだが、僕はあの娘さんを始めて見たときから直ぐ判ったのだが、あの娘さんは牛の性と匕口の性とを持ってる女ですよ。ぐずに見えるが一たん腹に決めたらそりゃ凄い女ですよ",
"そりゃ、どういうわけさ",
"めすという字にも此偏にフルトリと書く字もあれば牛偏に匕首の匕の字を書くのもある。このフルトリの方の女は、はたからどうでもなるが、牛と匕口の方はとても手に終えない。そりゃおっかさんでも手に終えない"
],
[
"だけどねえ、嘉六さん。お店からはこの六月で手当は貰えなくなるし、その上、あの娘にこの先き気随気儘にされてうっちゃられたら、あたしゃ喰べられなくなるよ。冗談じゃない",
"だから、わたしが生活費は持ってあげると言ってるじゃないか",
"そりゃ結構な話にや違いないが、だが断って置きますよ。お囲いとか夫婦とかそんな因縁つきの関係はご免だよ。ただ、これからさき、頼みになり合うだけのさっぱりした交際にして貰いますよ。浄瑠璃の三味線ぐらいは幾らでも弾いてあげるがね"
],
[
"まあ〳〵、お気の毒なことですわ。女中衆でもお使いになればいゝのに",
"そんな贅沢なことを言ってられる身分じゃないと思って来ましたわ。この頃ではあんたのおとうさまのご飯のお給仕でもなんでもしますのよ",
"まあ、ほんとに恐れ入りますのね"
],
[
"あんな皮肉な遊びの仕方はないね。みんなぶつ〳〵言いながら出発したよ",
"おまいさんもその時分には身体に色気があったろうから、そりゃ辛かったろう",
"その通り"
],
[
"こうやって傍でみると、まだお前さん、娘のようだね。眼鼻立ちだって、万更、不揃いでもないのに、どうして、こんな不仕合せな片輪者に生れついたのかねえ――と言ったところで聞えもしまいが",
"あーあー",
"酷いことを言うようだが、あたしゃおまえさんを見かけてから、これで、いくらか世の中が諦め易くなったのだよ。世の中にはこれほど不仕合せに運り合せた女の子もいるのだ。そう思えばあたしなんかまだ〳〵贅沢な慾を出してる部かも知れないとね。――どうもじれったいね、おまえさん全く判らないのかよ",
"あーあー"
],
[
"可哀そうねえ。で、ご亭主の方はどうしているの",
"あいつは全くの白痴だ。かみさんの死骸に向って、おい起ねえかよ、起ねえかよというだけよ"
],
[
"文公――、バカ――",
"そんなに河のまん中へ出ちゃ、洲から外れて深いところへ落っこっちゃうぞ"
],
[
"どうだろう。文公は泳ぎを知ってるか知らん",
"なに、トックリさ",
"あすこで一つ滑ったら土左衛門だぜ",
"もっとも、あいつは土左衛門には前に一度なりかゝったことがある。試験済みだ"
],
[
"土左衛門じゃない。心中の仕損こないよ",
"心中じゃない。救けに入って自分もぶく〳〵になったのよ"
],
[
"これ子供たち、誰か貸船屋のお秀のところへ行って、そう言ってやれ、文公が川へ入ってるって",
"うん、そう言ってやろ"
],
[
"ともかく",
"で",
"それで",
"それでよろしい",
"まず、それでよろしい",
"つまり"
],
[
"何か鳥の飛ぶ軌道には散漫なように見えて一羽と他の鳥との間には定まった確定率があるんじゃないかな。それで弾を漫然と抛り込んだのではどれにもあたらずに、隙を抜けてしまう。一羽を狙えば距離に同率のものがあって他にもあたるちゅう趣向かな",
"それには鳥の飛び方ばかりでなく、散弾の展開度との関係も調べなくちゃ。とにかく何羽も一度にと慾張ったら滅多にあたらないで、一羽ずつと地道に稼ぐつもりだと思わぬ獲ものがある。こりゃ何か処世訓になりそうだね"
],
[
"あれっ、横着なやつ。もう射つ時間が切れると思って帰って来やがったのかしら――啓司君、頼むから射ってくれよ。あいつ〳〵〳〵",
"射ってやってもいゝが、大丈夫かい。あれほんとうに食える烏かい",
"大丈夫、確に山烏だ。嘴が華奢で羽色が紫色に光っている"
],
[
"君の追っかけようは真剣なものだ。ふだん君にない高度の速力が出る",
"ばかにしちゃ困る。食いたい一心だ。乞食が食いものにかけたらそりゃ誰でも凄くなるぜ"
],
[
"ろくに乳も出ませんが、あんまり泣くので乳首を含ましてやると、この歯で噛むんでごぜえます。はあ",
"歯の生え際には歯茎が痒ゆいんだって言うことよ"
],
[
"この頃、野鼠が河を渡って来たんだとよ。野鼠は唐辛子でも食うとよ",
"仕方がない、山椒の葉を摘んで来よう"
],
[
"やあ、眼鏡の花田か",
"折角、当てにしていた山椒の芽を誰かにきれいに摘まれてしまった"
],
[
"仕方がない。製紙場の社宅の方へ行こう",
"俺らも行こう。楽屋番のおっさんに見つかると、また、どやされるから",
"なにしろ、腹が減ってしょうがない",
"腹か、そうか、ちょっと待ちな"
],
[
"返事ばかりじゃなかろうな――",
"あはははゝゝゝゝ大丈夫"
],
[
"繁司兄さんもこの頃、いら〳〵してるらしいぜ。会社の方はまるで喰い違ってるし、砂利は世間が不景気でコンクリ建築が少ねえから売れねえし、乗車賃が高価過ぎるといってバスは客が乗らねえし――",
"そんなことになってるのか"
],
[
"嫌だわ、知ってたの。じゃ、かなりおかしかったでしょう",
"そりゃおかしかった"
],
[
"僕の今までのすべての失敗の原因は、合理性なるものを人間のいのちに結び付けなかったことだ",
"それ〳〵その理窟がすでに合理性をいのちに結び付けてない証拠じゃないの",
"違いない。じゃどうすりゃいゝんだ",
"しらふで夢中になれたらいゝわ",
"ふーむ。君を花田はウール・ムッター(根の母)の性がある女だといったが、体験とカンでそんなことも判るんだな"
],
[
"この中に生きたもの沢山いるのかい",
"そうよ、沢山",
"その生きたもの死んだら、どこへ埋めるの"
]
] | 底本:「生々流転」講談社学芸文庫、講談社
1993(平成5)年4月10日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第六巻」冬樹社
1975(昭和50)年3月刊
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※「莟」と「蕾」の混在は、底本通りです。
※表題は底本では、「生々《しょうじょう》流転」となっています。
入力:kompass
校正:酒井裕二
2018年1月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
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"作品名": "生々流転",
"作品名読み": "しょうじょうるてん",
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"姓読み": "おかもと",
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[
[
"あらッ!",
"料理だって音楽的のものさ、同じうまみがそう晩までも続くものか、刹那に充実し刹那に消える。そこに料理は最高の芸術だといえる性質があるのだ"
],
[
"寄ってらっしゃいたって、僕が食うようなものはありやしまいじゃないか",
"そりゃどうせ、しがない垂簾の食もの屋ですからねえ"
],
[
"ビールを取っといたかと訊くんだ",
"はいはい"
],
[
"しかしそれでいて、私どもにはあとで、嘗めこくられて、扱い廻されたという、後口に少し嫌なものが残されました。",
"面と向って、お褒めするのも気まりが悪うございますから、あんまり申しませんが、そういっちゃ何ですが、今日の御料理には、ちぐはぐのところがございますけれど、まことというものが徹しているような気がいたしました。"
]
] | 底本:「昭和文学全集 第5巻」小学館
1986(昭和61)年12月1日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第五卷」冬樹社
1974(昭和49)年12月10日初版第1刷発行
※疑問箇所の確認にあたっては、底本の親本を参照しました。
入力:阿部良子
校正:松永正敏
2004年1月30日作成
2013年10月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "001281",
"作品名": "食魔",
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[
[
"おとっさん狡いぜ、ひとりでこっそりこんな旨いものを拵えて食うなんて――",
"へえ、さんまも、こうして食うとまるで違うね"
],
[
"なにしろあたしたちは、銭のかかる贅沢はできないからね",
"おとっさん、なぜこれを、店に出さないんだ",
"冗談いっちゃ、いけない、これを出した日にゃ、他の鮨が蹴押されて売れなくなっちまわ。第一、さんまじゃ、いくらも値段がとれないからね",
"おとッつあん、なかなか商売を知っている"
],
[
"じゃ、それを握って貰おう",
"はい"
],
[
"先生ってば",
"ほう、ともちゃんか、珍らしいな、表で逢うなんて"
],
[
"先生のおうち、この近所",
"いまは、この先のアパートにいる。だが、いつ越すかわからないよ"
],
[
"まさか、こんなものを下げて銀座へも出かけられんし",
"ううん、銀座なんかへ行かなくっても、どこかその辺の空地で休んで行きましょうよ"
],
[
"あなた、お鮨、本当にお好きなの",
"さあ",
"じゃ何故来て食べるの",
"好きでないことはないさ、けど、さほど喰べたくない時でも、鮨を喰べるということが僕の慰みになるんだよ",
"なぜ"
],
[
"ああ判った。それで先生は鮨がお好きなのね",
"いや、大人になってからは、そんなに好きでもなくなったのだが、近頃、年をとったせいか、しきりに母親のことを想い出すのでね。鮨までなつかしくなるんだよ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「第六創作集 老妓抄」中央公論社
1939(昭和14)年3月18日
初出:「文芸」
1939(昭和14)年1月号
入力・校正:鈴木厚司
1999年3月8日公開
2013年4月26日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "001016",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
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"底本初版発行年1": "1993(平成5)年8月24日",
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[
[
"よくお越し下されました。随分お久しぶりにお目にかかります",
"田舎へ入って仕舞ってどちらへも御無沙汰ばかりです。だが、あなたは相変らずで結構ですな",
"はい、有難う御座います。お蔭さまをもちまして………あのお宅さまでは奥様も御機嫌およろしゅう御座いますか",
"先ごろから少々わずらって居ますがさしたることもありません。大方なれない田舎棲いでいくらかこころが鬱したからででもありましょう",
"ちと都の方へもお出向き遊ばすよう御言伝えて下さりませ",
"懇なお心づかい有難う、とくと申伝えてつかわしましょう"
],
[
"荘先生はお変りになりました。もと洛邑にお居での時は私のたわ言など、こんなに真面目に聞き入っては下さいませんでした。何か鋭いまぜ返しを仰るか、ほかのお方とお話をなさるかでした",
"まあ、そうむきにならなくとも宜い。先生は田舎へ退隠なされてからずっと渋くおなりなされたのです",
"そう仰ればもとはあんなにお美しかったお顔も鉛色におくすみなされて………して、その先生が何故わたくしなどをお招びになり馬鹿らしい所作にさもさも感に堪えたような御様子をなさいますのやら"
],
[
"先生はな………実はな………あんたの我儘が見度くて来られたのです",
"え、わたくしの我儘が?",
"そうだ、あんたの天下第一の我儘がしきりに見度いと仰しゃって私に案内をさせなされた",
"まあ私の我儘を今更何で先生が………"
],
[
"奥様は何か水仕事でもなさって居らっしゃいましたか、お加減がお悪いとか伺いましたのに",
"いえ、大したことも御座いませんのでお天気を幸、洗濯ものをいたして居りました",
"奥様が洗濯までなさるような御不自由なお暮らしにおなりなさいましたか………いやいや長くはそうおさせ申して置きません、遠からずくっきょうな手助けのはしためをお傍におつけいたすようお取はからい申しましょう",
"いえ、どういたしまして、加減が悪いと申して大したことも御座いません、わずかなすすぎ洗たく位、この頃の夫のことを思いますれば却ってこうした私の暮らしが似合ってよろしゅう御座います",
"そう仰れば今日は荘先生には如何なされましたな",
"ほ、ほ、ほ、まだお気づきになりませぬか、あれ、あの裏庭の方から聞える斧の音………あれは夫が薪割りをいたして居る音で御座います",
"なに荘先生が薪割り?………それはまた何とした物好きなことを始められましたことです",
"いつぞや洛邑から帰りまして………そう申せばあの折は、大層なおもてなしを頂きまして有難う存じました………あれから暫くの間考え込んで居りましたがふと思いついてあのようなことを始めましてから夫の日々が追々晴やかになりまして、あのものぐさが跣で庭の草取りはする、肥料汲みから薪割り迄………とりわけ薪割は大好きだと申しまして………無心で打ち降す斧が調子よく枯れた木体をからっと割る時の気持ちの好さは無いなど申しまして",
"昼間がそれで、読書や書きものなど夜にでもなさるとしたら………お疲れでも出なければ宜いがな"
],
[
"いくら夫をおひいきのあなた様にでもこのようなこと申し難いので御座いますが………実は夫は此頃読書も書きものも殆ど致さなくなりました。先夜なども、今まで読んで居た本が却って目ざわりだと云って、さっさと片づけにかかりましてその代りの夜なべ仕事に近所の百姓達を呼びまして豚飼いの相談を始めました。豚を飼って、ことによったら豚小屋へ寝る夜もあるか知れないなど申し、豚の種類の調べや豚小屋の設計まで始め、自分で板を割ったり屋根葺きを手伝ったり………",
"うむ"
],
[
"夫が参りましたようですが初手からあまり夫の此頃をよく御存じのような御様子をなるべくなさいませんように、追々お話をほぐして頂き度う御座います。でないとまたとんだつむじを曲げまいものでも御座いませんので",
"はい承知いたしました"
],
[
"あなたは薪を割って愉快な日頃をお過しですが洛邑では不興が起りました",
"え、それは何ですか遜さん",
"麗姫がな、あれからすっかり変りました",
"なに麗姫が? 麗姫が何とかしましたか"
]
] | 底本:「岡本かの子全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年2月24日第1刷発行
底本の親本:「鶴は病みき」信正社
1936(昭和11)年10月20日発行
初出:「三田文学」
1935(昭和10)年12月号
入力:門田裕志
校正:オサムラヒロ
2008年10月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "046930",
"作品名": "荘子",
"作品名読み": "そうし",
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"底本の親本名1": "鶴は病みき",
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[
[
"時に御主人、われ等ここへ斯う参って、御家族にお目にかかり懇な御給仕に預るのも何かの因縁です。折角の機会ですから娘御たちに三帰を授けてあげましょう。私の唱える通り、みなさんも合掌して唱えなさるがよい",
"それがいいそれがいい"
],
[
"さて、帰ろう。御主人勘定はいくらですか",
"いえ、御出家からは頂戴致しません",
"ほほう、それは奇特な事ですな"
]
] | 底本:「岡本かの子全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年2月24日第1刷発行
底本の親本:「老妓抄」中央公論社
1939(昭和14)年3月18日発行
初出:「禅の生活」
1935(昭和10)年6月号
入力:門田裕志
校正:オサムラヒロ
2008年10月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "046931",
"作品名": "茶屋知らず物語",
"作品名読み": "ちゃやしらずものがたり",
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"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年2月24日",
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"底本の親本名1": "老妓抄",
"底本の親本出版社名1": "中央公論社",
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[
[
"ぢや、この蔦の芽をちよぎつたのは誰だ。え、そいつてごらん。え、誰だよ、そら言へまい",
"あら、言へてよ。けど言はないわ。言へばをばさんに叱られるの判つてゐるでせう。叱られること判つてゐながら言ふなんて、いくら子供だつて不人情だわ"
],
[
"ばあや、どうしたの",
"まあ、奥さま、ご覧遊ばせ。憎らしいつたらございません。ひろ子が餓鬼大将で蔦の芽をこんなにしてしまつたのでございます。わたくし、親の家へ怒鳴り込んでやらうと思つてゐるんでございます"
],
[
"これより上へ短くは摘み取るまいよ。そしてそのうちには子供だから摘むのにもぢき飽きるだらうよ",
"でも",
"まあ、いゝから……"
],
[
"いつもあんなに沢山の買物をしてやるぢやないか。常顧客さまだよ。一度ぐらゐ少ない買物だつて、お茶を出すもんですよ",
"わからないのね、をばさんは。いつもは二十銭以上のお買物だから出すけど、今日は茶滓漉しの土瓶の口金一つ七銭のお買物だからお茶は出せないぢやないの",
"お茶は四五日前に買ひに来たのを知つてるだろ。まだ、うちに沢山あるから買はないんだよ。今度、無くなつたらまた沢山買ひに来ます。お茶を出しなさい",
"そんなこと、をばさんいくら云つても、うちのお店の規則ですから、七銭のお買物のお客さまにはお茶出せないわ",
"なんて因業な娘つ子だらう"
]
] | 底本:「日本幻想文学集成10 岡本かの子」国書刊行会
1992(平成4)年1月23日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第三巻 小説」冬樹社
1974(昭和49)年4月30日
初出:「むらさき」
1938(昭和13)年1月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:門田裕志
校正:湯地光弘
2005年2月22日作成
2016年1月16日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "004194",
"作品名": "蔦の門",
"作品名読み": "つたのもん",
"ソート用読み": "つたのもん",
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"原題": "",
"初出": "「むらさき」1938(昭和13)年1月",
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"文字遣い種別": "新字旧仮名",
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"公開日": "2005-03-24T00:00:00",
"最終更新日": "2016-01-16T00:00:00",
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"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "日本幻想文学集成10 岡本かの子",
"底本出版社名1": "国書刊行会",
"底本初版発行年1": "1992(平成4)年1月23日",
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"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第三巻 小説",
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} |
[
[
"鎌倉時代に、私はもっと素直な気持で、あなたにおつき合いすれば好かったと思ってました。",
"僕も。",
"ゆっくりお打ち合せして、近いうちにお目にかかりましょうね。",
"是非そうして下さい。旅からお帰りなったら、お宅へいつ頃伺って好いか、お知らせ下さい。是非。"
]
] | 底本:「昭和文学全集 第5巻」小学館
1986(昭和61)年12月1日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十三卷」冬樹社
1976(昭和51)年11月30日初版第1刷発行
初出:「文学界」
1936(昭和11)年6月号
※「計画」と「計劃」の混在は、底本通りです。
入力:阿部良子
校正:松永正敏
2001年4月3日公開
2017年05月19日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "001283",
"作品名": "鶴は病みき",
"作品名読み": "つるはやみき",
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"初出": "「文学界」1936(昭和11)年6月号",
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"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "昭和文学全集 第5巻",
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"底本初版発行年1": "1986(昭和61)年12月1日",
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"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第十三卷",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
"底本の親本初版発行年1": "1976(昭和51)年11月30日",
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"入力者": "阿部良子",
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} |
[
[
"むかしの遊女はよく貞操的な恋愛をしたんですわね",
"みんなが、みんなそうでもあるまいが、――その時分に貴賓の前に出るような遊女になると相当生活の独立性が保てたし、一つは年齢の若い遊女にそういうロマンスが多いですね",
"じゃ、千手もまだ重衡の薄倖な運命に同情できるみずみずしい情緒のある年頃だったというわけね",
"それにね、当時の鎌倉というものは新興都市には違いないが、何といっても田舎で文化に就ては何かと京都をあこがれている。三代の実朝時代になってもまだそんなふうだったから、この時代の鎌倉の千手の前が都会風の洗練された若い公達に会って参ったのだろうし、多少はそういう公達を恋の目標にすることに自分自身誇りを感じたのじゃないでしょうか"
],
[
"いよう、珍らしいところで逢った",
"や、作楽井さんか、まだこの辺にいたのかね。もっとも、さっき丸子では峠にかかっているとは聞いたが"
],
[
"東海道遍歴体小説の古いものの一つに竹斎物語というのがあるんだよ。竹斎というのは小説の主人公の藪医者の名さ。それを芭蕉が使って吟じたのだな。確か芭蕉だと思った",
"では私たちは男竹斎に女竹斎ですか",
"まあ、そんなところだろう"
],
[
"ありたけの魂をすっかり投げ出して、どうでもして下さいと言いたくなるような寂しさですね",
"この底に、ある力強いものがあるんだが、まあ君は女だからね"
],
[
"すると作楽井さんは、もうお歿くなりになりましたか。それはそれは。だが、年齢から言ってもだいぶにおなりだったでしょうからな",
"はあ、生きておれば七十を越えますが、一昨年歿くなりました。七八年前まで元気でおりまして、相変らず東海道を往来しておりましたが、神経痛が出ましたので流石の父も、我を折って私の家へ落着きました"
]
] | 底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「第六創作集『老妓抄』」中央公論社
1939(昭和14)年3月18日
初出:「新日本」
1938(昭和13)年8月号
入力:佐藤洋之
校正:高橋真也
1999年2月6日公開
2005年9月27日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000448",
"作品名": "東海道五十三次",
"作品名読み": "とうかいどうごじゅうさんつぎ",
"ソート用読み": "とうかいとうこしゆうさんつき",
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"初出": "",
"分類番号": "NDC 914 915",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-02-06T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集5",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年8月24日",
"入力に使用した版1": "1993(平成5)年8月24日第1刷",
"校正に使用した版1": "1993(平成5)年8月24日第1刷",
"底本の親本名1": "第六創作集 老妓抄",
"底本の親本出版社名1": "中央公論社",
"底本の親本初版発行年1": "1939(昭和14)年3月18日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "佐藤洋之",
"校正者": "高橋真也",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/448_ruby_19597.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2005-09-27T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
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"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"お祖父さん。あなたは、死んだお祖父さんではありませんか",
"ハハハハハハ死んだお祖父さんなんて云うか、トシオ! わしは決して死になんぞせないのに"
],
[
"ハハハハハハどうじゃトシオ、わしは死んでは居ない証拠に、ちゃんと斯うしてお前の眼の前に、腰かけて居るではないか",
"ええ、それはそうです。ですけれど僕、たしかに五年前に、僕の家から死んで行って仕舞ったお祖父さんのこと、覚えて居るんですもの。僕にあ、お祖父さんの生きてることが、信じられないのです"
],
[
"それはお前達の棲む世の中の、人も獣も木も草も、鳥も虫もみんなそこから生れて、またかならずそこへ帰って行く国なのだ",
"そおお、そしてその国には、王様があるの",
"あるとも、たった一人の立派な王様がある",
"それはどんな、何という名の王様ですか",
"神様だ。神様は、凡ての者の王様なのだ。そしてお前達の生きて居る世界の王様でもあられるのだ",
"だってお祖父さん。僕たちの世界には、どの国にだって、ちゃんと一人の王様が、いらっしゃるのですよ"
],
[
"それは直ぐに、お前達の棲む世界の隣にあるのだ",
"それでどうして僕達には、それが見え無いのですか",
"それはお前達の眼のせいなのだ。お前達の世界の人達は、あんまり長く神様を見ようとしなかったので、すっかり瞳が曇って仕舞ったのだ"
],
[
"お祖父さんの瞳は、神様を見ることが出来たので、それでそんなにすきとおって来たのですか",
"ああ、そうだ",
"そしてお祖父さんはいつでもその神様の国でそんなに、長い着物を着て、銀の杖をついて居るんですか",
"いいや、いつでもというわけもない。わしは時には、白い気体となって飛んで居たり、黒い土となって居たり、様々な形や色に変って居るが、しかし、どんな時でも、何に変っても私は私なのじゃ。その国ではな、一つの魂が、いつも同じ一つの形で居なければならないと云う様な不自由なことは無いのだ",
"ではお祖父さん。今日はお祖父さんの形が、人間になる日に当るんですか",
"なに、今日がその日ともかぎらないのだよ。だが、人間のお前に逢いに来るには、人間の形でなければいけないからな",
"じゃあお祖父さん。あなたはわざわざ僕に逢いに入らっしったんですか。僕に何か用でもあってですか"
],
[
"さ、トシオ、これをしばらくのぞくのだよ。これをのぞけばお前はきっと、神様を見ることが出来るのだからね",
"そうですか。随分不思議な眼鏡なんですねお祖父さん",
"いや不思議でもなんでも無い。この眼鏡のなかには、人間が始めて神様につくられた時のありさまを、すっかり、フイルムに仕立てて仕舞ってあるのだからな",
"お祖父さん。これ、どこから持っていらしった?",
"これはお前に見せる為に、神様からわざわざわしが拝借して来たのだよ"
],
[
"いいや、赤い",
"なに、黒いのだ",
"白いものとも",
"青いばかりだ"
],
[
"私とて同じこと、どこまで行っても真白でふわふわと、頼り無い白雲のなかに、眼も体もやすめようとする所もなく、疲れはてて仕舞った時、ひとりでに私の首が下を向き、翼をやすめるに屈竟な黒く落ち付いた土の底が、はっきり見えましたので、急いで茲まで降りて参りました。すると、(どこまで掘っても土は真っ黒。あやうく息もつまり相で)とあえぎあえぎ昇って来た、黒い小鳥さんに逢いました",
"そうして、皆が一所にこうして、揃ったのでございます"
],
[
"よく分った。では、どうだろう。折かく皆で仲よくなったのだから、もう、どの小鳥も、どこへも行かずに、四つの小鳥の、四つの特色を交ぜて、何か一つの合作をやっては",
"まったく私たちは、一つの色ばかりが、尊いと思われなくなりました。皆の色を調和させて、何を作ったら宜しいでしょう"
],
[
"黒い小鳥は何になる",
"はい私は、希望に光る黒髪と、しっかりした、足の力になりましょう",
"青い小鳥は?",
"神様。私は、青く澄んだ青い瞳と、広い額の蔭にかくれた、豊な智慧になりましょう"
],
[
"トシオ。いま見たフイルムで、お前達の遠い先祖が神様の子の小鳥達につくられたことが分ったろうな。そして、まったくお前達の一番最初の親が、一人の神様であることもな",
"ええ。僕、すっかり、神様のこと、分りましたとも。そしてお祖父さん。あのフイルムのなかの人間は、神様にお別れしてから、どうしたの",
"まあお聞き。それもわしはすっかり、神様からうかがったのだよ。あの男と女とは、神様に別れてから、勇んで人間の世界に行ったのだ。其処にちゃんと、神様の仰しゃったとおりの用意がしてあった。人間は嬉んでそこへ棲み始めた。そのうちに、だんだんお腹がすき出したので、男は早速、神様の仰ゃったことを思い出し、空を仰いでお祈りを始めた。女もまた、地の上に伏して、お祈りした。すると神様は、直ぐにお聞きとどけになり、人間達の喰べ物として、海に魚を殖やしたり、野に穀物を植付けたり、それからまた、疲れた時には、樹立をつくり、草を茂らせて休ませたり、花を咲かせて慰さめたり、風を送って涼ませたり、その上、人間の欲しがるままに、いろいろな鳥や獣や虫の類まで、人間の友達として、備えて、おやりになった。人間は随分、幸福に平和に満ち、神様に感謝することを一刻も忘れずに、世界のあらゆるものと仲よくし乍ら、せっせと働いて棲み合ったため、運命の種子はいつも二つの甕のなかに、みずみずしく育って居た",
"お祖父さんその頃でも、綺麗な花が、汚ない土から、咲き出して居たのですか?",
"汚い? とんでもない。土が何で汚いものか、いまもフイルムで見た通り、土も立派に神様から戴いたものだ。汚いなどとその頃の人間は、決して思いはしなかった",
"では、そのころ、人間と仲の好かった獣達が、なぜ今は、山の奥などへ、立てこもって、人間に、歯向かったりするのですか",
"人間は、その後追々たくさんの子孫をふやした。それでもう、人間以外の友だちがいらなくなったばかりか、ただ声の美しい虫や、自分達の働きを、助けさせる獣や、姿のきれいな鳥などばかりとって、ほかのは、みんな除けたり軽蔑してしまったのだよ。それで、蛇はひがんで、のたのた這い廻るし、蛙はがあがあ騒ぐのだし、蜂はぶんぶん腹立ちまぎれに螫しに来るし、狼や獅子は、鋭い牙を研ぎ出したのだよ。もうその時分から、人間は、神様の御恩も、四つの小鳥のことも、大かた忘れてしまったのだよ。そして仕舞には、人間同志でさえ、敵だの味方だのって、喧嘩をする様になっちまったのだ。せっかく神様から戴いた運命の壺まですっかり、投げ出しといてな",
"だって喧嘩なんて、人間を悪魔がどこかで、けしかけてやらせるんだって、僕、誰かに聞きましたよ",
"いいや、神様は悪魔なんて、余計なもの、人間の為にならないものなんか、御自分のつくった大切な世界へ、一つだって、お置きになりはしないのだよ。悪魔とは神様の御恩を忘れたばかりでなく、お互いにあやめ合ったり、傷け合ったりする時の、人間の心をさして云うものなのだよ"
],
[
"それから人間は、せっかく四つの小鳥たちが合作した、大切な体を、だんだん粗末にするようになって仕舞った。神様は、それを改めさせるために、時々人間に病気をお与えなさる。だから病気の時は、おとなしく病気に随って、養生するのが、いちばん自分の体の為によいことであり、神様にも素直なのだ。また、人間の死というのは、神様が、時々人間の魂をお傍へ呼んで、修業させ、しばらくしてまた人間の世界へ、お出しになるのだ。その時、前に、人間の世界で驕ったものは、かならず貧しい家に生れさせられ、前の世界で働いた者は、必ず富んだ家の人として生れさせられるのだ、それが因縁という、神様が人間にお与えになる正しい賞罰なのだ。だから、わしの様に、お前の家のお祖父さんで居た時分、あんなにむだなお金を使ったり、遊んでなまけて居たものは、今度ずいぶん、貧しい家に生れ変ることだろうよ。でもわしは、歎かないつもりだ。そこでわしが、不平を云わずによく働けば、かならずまた、次の世界には、富んだ家の者になれるのだからな",
"ありがとう。お祖父さん、僕なにもかも、すっかり分って仕舞いました",
"そうか。よかった。おお! お前の眼が、エメラルドの様に澄んで来た",
"この瞳には、いつも神様が、うつっているのですね",
"そうだ。その瞳にうつれば、お前の世界の何ひとつ、もう疑いでも不平でもなくなるのだ。そして、何もかも、皆、よろこんで、愛することが出来るのだ。ありがたいだろう? 愉快じゃないか、行って、お前の世界の人達に、お前の見たものを、すっかり話しておやりなさい。さ、わしの役目も、もう済んだぞ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年1月24日第1刷発行
底本の親本:「朝日新聞」
1921(大正10)年4月21日~30日
初出:「朝日新聞」
1921(大正10)年4月21日~30日
※「仰《おっし》ゃ」と「仰《おっしゃ》」の混在は、底本通りです。
入力:門田裕志
校正:いとうおちゃ
2023年1月10日作成
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"作品名": "トシオの見たもの",
"作品名読み": "トシオのみたもの",
"ソート用読み": "としおのみたもの",
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"初出": "「朝日新聞」1921(大正10)年4月21日~30日",
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[
[
"あの時、珪次君がじーッと眼を据えて、唇を噛み、顔が鉛色にでもなるようだったら、監視も要し兼ねないでしょうが、ああいう風に即座にタップのステップでも踏んでしまうように興奮して仕舞えば、総てが発散して、却ってあとには残らんでしょう",
"どうしてそんなことを……",
"僕は自分で苦しんだ体験に無いことは、自分で信じもせず、また人にも云えぬようになっていますね"
]
] | 底本:「岡本かの子全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年7月22日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集」冬樹社
1974(昭和49)年3月~1978(昭和53)年3月
初出:「新女苑」
1938(昭和13)年2月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年3月2日作成
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[
[
"あの子は近頃どうしてゐるかね",
"あの子かね。は、は、は、あの子は少し退屈してゐるやうだね。僕が少し詰めて工房へ入り切りだからね。"
],
[
"有難う。でも――",
"懸念なさることありませんよ。",
"でも",
"あんたのお兄さんは僕を知つてられる筈ですよ。兄さんは僕の学校の先輩です。"
],
[
"私の特異性つてものがございませうか。",
"あなたの特異性を強調していふなら、あなたは純潔な処女のまゝ受胎せよといつたら、その気になる方らしいですかな……はははは……。",
"…………。"
]
] | 底本:「日本幻想文学集成10 岡本かの子」国書刊行会
1992(平成4)年1月23日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第三巻 小説」冬樹社
1974(昭和49)年4月30日
初出:「文芸」
1937(昭和12)年7月
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:門田裕志
校正:湯地光弘
2005年2月22日作成
2016年1月16日修正
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"作品ID": "004184",
"作品名": "夏の夜の夢",
"作品名読み": "なつのよのゆめ",
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"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
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"底本名1": "日本幻想文学集成10 岡本かの子",
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[
[
"おい、亂暴するな。俺は一郎だぞ",
"一郎って私の大きい兄さんの名よ",
"そうだ、俺はお前の兄さんだ"
],
[
"いたずらするな。僕は二郎だ",
"つばなが二郎さんてあるもんですか私の兄さんつばなじゃないわ",
"いいや、つばなだ、僕は二郎だ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年1月24日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 補卷」冬樹社
1977(昭和52)年11月30日初版第1刷発行
初出:「週刊朝日」
1924(大正13)年9月28日
入力:門田裕志
校正:持田和踏
2022年7月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "058363",
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"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
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[
[
"どんな主観や思想なの",
"さういつたら君自身だつて驚くだらう。つまり、かうなんだ――私はどこまでも絵を生きた花で描き度うございます。絵の具ではどうしても物足りません――僕が二十で君が確か二十二のときだつたね。君が初めて想像で描いて来た理想画を僕がうつかり罵つたら、君が二三日欝ぎ込んで考へてゐたが、突然Y先生の前へ行つて、私は絵を生きた花で描き度うございます、絵の具では物足りません。さう云ひ切つてパレツトを割つて仕舞つた"
],
[
"私いち〳〵そんなことを意識して絵葉書送らなかつたわ",
"ならいゝかい。ところ〴〵読んでみようか。そらこゝに前衛派的な芸術論がちよつと書いてあり――それから、この芸術理論は私の活花芸術にも立派に応用されるのです。とにかく、私は私で私の理論性でも感情性でも凡て私の全生命を表現しなければなりません――ね、それ歴々たるものだ"
],
[
"それはそれとして、あなたの容態はどうなの今日は",
"うむ、今度は腹の方へ来たね。目出度いことだ"
],
[
"いつ庭をかへたの。せん子は何とも云ひませんでしたよ",
"十日ばかり前に。どうせ僕も長くないと判つたから、植木屋を呼んで三日ばかりで急いで慥へて貰つたのさ。この部屋とこの庭は、あなたより他誰も入れたくない。死ぬまで僕一人で満喫する積りだ"
],
[
"せん子、なぜ上らないの",
"あの、そこまで小布施さんのお買物に来ましたの……"
],
[
"君が最初に描いた画は牡丹の絵だつた。僕はそれを見て、単なる画では現はし切れない不思議なものが欝勃としてゐるのにびつくりした。そこにはカンヴアスの上の絵画を越えた野心が、はげしい気魄となつて画面に羽搏つてゐた。そこで僕は思はずこれは画ぢやないと怒鳴つた",
"さう、花が青ざめて燃えてゐるやうな白牡丹の絵でしたね"
]
] | 定本:「岡本かの子作品集」沖積舎
1990(平成2)年7月20日初版発行
1993(平成5)年6月30日新装版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:松下哲也
校正:門田裕志、小林繁雄
2004年12月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "043035",
"作品名": "花は勁し",
"作品名読み": "はなはつよし",
"ソート用読み": "はなはつよし",
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"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
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"公開日": "2005-01-05T00:00:00",
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"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子作品集",
"底本出版社名1": "沖積舎",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年7月20日、1993(平成5)年6月30日新装版",
"入力に使用した版1": "1993(平成5)年6月30日新装版",
"校正に使用した版1": "1993(平成5)年6月30日新装版",
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"底本の親本名2": "",
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"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "松下哲也",
"校正者": "小林繁雄、門田裕志",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"飴を塗った胡桃の串刺しはいかが?",
"燻製鮭のサンドウイッチ、キァビヤ。――それから焙玉子にアンチョビの……。"
],
[
"巴里の消防署長が、火事のときに消防夫に給与する白葡萄酒を今度から廃めるそうですよ。",
"へえ、やっぱり節約からでしょうか。",
"いえ、あれを二本飲むと眠るものが出来て困るからだそうです。"
],
[
"いま巴里中であたしが一ばん不幸な女だろうと思うの。",
"なぜさ、なぜさ。",
"だって、お便通剤が一向利かないんですもの――。",
"ああ、またおまえのバレた冗談が、はじまったのか。"
]
] | 底本:「世界紀行文学全集 第二巻 フランス編2[#「2」はローマ数字、1-13-22]」修道社
1959(昭和34)年2月20日発行
入力:門田裕志
校正:田中敬三
2006年3月23日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "043086",
"作品名": "巴里のキャフェ",
"作品名読み": "パリのキャフェ",
"ソート用読み": "はりのきやふえ",
"副題": "",
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"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 915 293",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-04-30T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
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"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "世界紀行文学全集 第二巻 フランス編Ⅱ",
"底本出版社名1": "修道社",
"底本初版発行年1": "1959(昭和34)年2月20日",
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[
[
"僕におくれ",
"あたしに頂戴",
"いやだ!",
"いやよ!"
]
] | 底本:「岡本かの子全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年1月24日第1刷発行
底本の親本:「良友」コドモ社
1920(大正9)年4月号
初出:「良友」コドモ社
1920(大正9)年4月号
入力:門田裕志
校正:いとうおちゃ
2022年5月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "058362",
"作品名": "ひばりの子",
"作品名読み": "ひばりのこ",
"ソート用読み": "ひはりのこ",
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"初出": "「良友」コドモ社、1920(大正9)年4月号",
"分類番号": "NDC K913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2022-06-21T00:00:00",
"最終更新日": "2022-05-27T00:00:00",
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"姓": "岡本",
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"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
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"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集1",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年1月24日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年1月24日第1刷",
"校正に使用した版1": "1994(平成6)年1月24日第1刷",
"底本の親本名1": "良友",
"底本の親本出版社名1": "コドモ社",
"底本の親本初版発行年1": "1920(大正9)年4月号",
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"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
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} |
[
[
"あんたがあんまりおとなしいものだからよ。口説いたのよ。ここのうちの青熊が",
"青熊というのはここのうちの主人ですね。よろしい"
],
[
"あたしが一番よ",
"あたしが一番よ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集2」ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年2月24日第1刷発行
底本の親本:「鶴は病みき」信正社
1936(昭和11)年10月20日発行
初出:「三田文学」
1934(昭和9)年11月号
入力:門田裕志
校正:オサムラヒロ
2008年10月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "046938",
"作品名": "百喩経",
"作品名読み": "ひゃくゆきょう",
"ソート用読み": "ひやくゆきよう",
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"副題読み": "",
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"初出": "「三田文学」1934(昭和9)年11月号",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-11-12T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card46938.html",
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"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集2",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年2月24日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年2月24日第1刷",
"校正に使用した版1": "1994(平成6)年2月24日第1刷",
"底本の親本名1": "鶴は病みき",
"底本の親本出版社名1": "信正社",
"底本の親本初版発行年1": "1936(昭和11)年10月20日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
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"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "オサムラヒロ",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/46938_ruby_33258.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2008-10-15T00:00:00",
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} |
[
[
"寂しいんだよ",
"では、どうして差上げたらよろしいのでございましょう",
"どんな端っこでもいい、おまえの家へ泊めとくれよ"
],
[
"あなたが、わたくしを思い捨てなさるほど、わたくしはあなたに親しい愛娘になりましょう。その反対に、あなたが一筋でも低い肉親の血をわたくしにおつなぎのつもりがあったら、それは却ってわたくしから遠ざかりなさることになるのです。お判りになりませんか",
"わしが、おまえを東国へ思い捨てた歳からいま娘になるまでの歳月を数えてみるのに、いくら山の神々の歳月は人間の歳月と違うにしろ、数えて額が知れている。それを何十万年何百万年の生い立ちの話をするなんて、あんまり親をばかにし過ぎるぞ。……いくらこの山の座り幅が広いたって、三国か四国に亙っているに過ぎまい。それを海山遠く取入れた話をするなんて、あんまり大袈裟だぞ。女の癖に"
],
[
"まあまあ、そんなお話、どうでもいいじゃございませんか",
"それよりかまだ山の中でおとうさまがお見残しのとこもございましょう。幸いよい天気でございますから、あなたご案内して差上げたら"
],
[
"それは何よりでございました。姉さんもお歓びでございましたでしょう",
"ところが生憎と祭の日だったのでね。泊めて貰うこともできなかったよ"
],
[
"あの方は、いのち、いのちというが、ああ、いのちは、健康であるときにのみ有意義なのだ、この病める姿の醜さ。昼も夜もそのための尽きぬ嘆きに、ああ、わたしは、わたしに残れる僅かないのちの重味にさえ堪え兼ねている",
"この堪えられない程、烈しい息切れと、苦しい動悸のする身体。つくづく情無さを感ずる。呼吸を吸い込むと胸の中に枯枝か屑のようなものがつかえ、咽喉はいらいらと虫けらが這うように痒い。その不快さ。咳、濁って煤けた咳。六つも七つも続けさまに出る。胸から咽喉へかけて意地悪い痩せこけて骨張った手が捏ねくり廻しているようだ。辛い。わたしは顔をしかめる。思わず口を醜く開く。さぞ醜いさまだろう。この辛さ醜くさを続けてまで、いつまであの方はいのちを担って行けといわれるのだろうか",
"こんなに痩せ細ってしまって、この先どうするのだろう。私はともかくこうして二十七まで生きたんだから、もう死んでもいいのだと思うのだが。一日々々と醜く苦しませないで早く死なせて貰いたい。丈夫な時には、希望も、歓楽も、恋もあったが、病気になってみれば何にもない。死ねばどうなるのか私はそれを知らない。病が苦しいから死のうと思うだけだ",
"蛙の声が穴の中まで聞えて来る。外は春なのだなあ。蛙よ、唄ってくれ唄ってくれ。私はお前の唄に聞き惚れつつ、さまざまな思い出の中に眠るのが今はたった一つの楽しみなのだ。死というものの状態に似ているらしい眠りに就くことが……"
],
[
"あの山を越す哀しい鳥の数も数え尽した",
"もう、いいわ、じゃ、ね"
]
] | 底本:「岡本かの子全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年9月22日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第五卷」冬樹社
1974(昭和49)年12月10日初版第1刷発行
初出:「文芸」
1940(昭和15)年11月号~1941(昭和16)年4月号
入力:穂井田卓志
校正:高橋由宜
1999年10月14日公開
2013年10月5日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000440",
"作品名": "富士",
"作品名読み": "ふじ",
"ソート用読み": "ふし",
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"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「文芸」1940(昭和15)年11月号~1941(昭和16)年4月号",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-10-14T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集6",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年9月22日",
"入力に使用した版1": "1993(平成5)年9月22日第1刷",
"校正に使用した版1": "",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第五卷",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
"底本の親本初版発行年1": "1974(昭和49)年12月10日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "穂井田卓志",
"校正者": "高橋由宜",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/440_ruby_2581.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2013-10-05T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "2",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/440_14483.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2013-10-05T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "2"
} |
[
[
"まあ、そう泣いてばかりいないで、理由を話しなさい。何かね、やっぱり御主人との仲がしっくり行かないかね",
"いいえ、主人は大層良くしてくれますので有難い幸福なことだと思っております。しかし、前の先妻の遺して行かれた娘さんが一人、どうにも私に懐かないのでございます",
"ふーむ。どういうふうに懐かないんだね",
"わたくしが全く実の母親の気持ちになり切って、世話をしてやりますのに、振り切って、わざとよそよそしくするのでございます。まるで面当てがましいような素振りさえするのでございます",
"どんなふうにだね",
"今日のお昼に、わたくしが、親身のような愛情を示そうと、試しに娘の食べかけの残したお菜に箸をつけようとしますと、娘はその皿を急に引ったくりまして、お母様、これは私の食べかけでございます。汚のうございます。お母様のは、そちらにちゃんとございますと言って、その食べかけのお菜を猫にやってしまいました。これでは、まるでわたくしに恥を掻かせるようなものではございませんか。その前にも、わたくしは、わたくしの少し派手過ぎた着物を娘に仕立て直してやりましょうとしますと、どうしても断って仕立て直させません。これでは全く継母扱いをまざまざ鼻の先に見せつけられるようなものでございます。わたくしはもう堪りません。それで御相談に参ったのでございます"
]
] | 底本:「仏教人生読本」中公文庫、中央公論新社
2001(平成13)年7月25日初版発行
底本の親本:「佛教讀本」大東出版社
1934(昭和9)年11月25日発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2013年11月5日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "052342",
"作品名": "仏教人生読本",
"作品名読み": "ぶっきょうじんせいとくほん",
"ソート用読み": "ふつきようしんせいとくほん",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 180",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2013-12-31T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-16T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card52342.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "仏教人生読本",
"底本出版社名1": "中公文庫、中央公論新社",
"底本初版発行年1": "2001(平成13)年7月25日",
"入力に使用した版1": "2001(平成13)年7月25日初版",
"校正に使用した版1": "2001(平成13)年7月25日初版",
"底本の親本名1": "佛教讀本",
"底本の親本出版社名1": "大東出版社",
"底本の親本初版発行年1": "1934(昭和9)年11月25日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "仙酔ゑびす",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/52342_ruby_51755.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2013-11-05T00:00:00",
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"テキストファイル修正回数": "0",
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"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"それはヘロドトスの古希臘伝説中の朴野な噴水からアグリッパの拵えた羅馬市中百五つの豪壮な噴水、中世の僧院の捏怪な噴水、清寂な文芸復興期の噴水、バロッコ時代の技巧的な噴水――どれもみな目に見えぬものを水によって見ようとする人間の非望を現わしたものではないでしょうか",
"これも理想を追求する人間意慾の現れと見るときには、あまりに雛型過ぎて笑止なおもちゃじみた事柄ですが"
],
[
"あなたがいくら巧者なことを仰っしゃっても駄目ですわ、この噴水には水の仙女が一人も現れていませんわ",
"そらまた始まった"
]
] | 底本:「岡本かの子全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年9月22日第1刷発行
底本の親本:「丸の内草話」青年書房
1939(昭和14)年5月発行
入力:門田裕志
校正:石井一成
2013年10月6日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "050625",
"作品名": "噴水物語",
"作品名読み": "ふんすいものがたり",
"ソート用読み": "ふんすいものかたり",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2013-11-22T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-16T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card50625.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
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[
[
"つまり、これがですな。性質があんまり感情的なんで、却って性質とまるで反対な哲学なんて、理智的な方向のものを求めたんでしょうなあ。つまり、女の本能の無意識な自衛的手段でしょうなあ",
"ははあ、そして、それは、何年前位から始めなさった"
],
[
"僕等が、昭和四年に洋行するとき、連れて行ったまま、残して来たんです",
"まだ、お年若でしょうに。中学は出られましたかな"
],
[
"中学も立派に卒業されて、美術学校へ入られた……ほほう、そして美術学校の途中から外国へ出られたというんですな。しかし、何しろ洋画はあちらが本場だから仕方がない",
"学校の先生方も、基礎教育だけは日本でしろとずいぶん止められたんですが、どうにもこれ(かの女を指して)が置いて行けなかったんで"
],
[
"割合に、みんな、よくして呉れるらしいわね",
"僕あ、すぐ、この辺を牛耳っちゃうよ",
"いくら馴染みになっても決して借を拵えちゃいけませんよ、嫌がられますよ"
],
[
"夏になったらこれで、じょきんじょきんやるんだね。植木鉢を買って来て",
"まあ、どこからそんなものを。お見せよ",
"友達のフランス人が蚤の市で見付けて来て、自慢そうに僕に呉れたんだよ。おかしな奴さ"
],
[
"イチロ、イチロ",
"イチロ"
],
[
"おかあさん、何してるんです、どうせあいつら、あとで僕たちの席へ遊びに来ますよ",
"あんた、とても、大胆ね、こんな人中で、よく平気であんな冗談云えるのね"
],
[
"怯えなくとも好い……何でもないです。誰でも同じ人間です",
"すると、あの中の女たちは、やっぱり遊び女",
"遊び女もいますし、芸術家もいます。中には、ひどい悪党もいます"
],
[
"どうして笑うのよ",
"おかあさん、どうして笑うんです",
"あんたがいつか言ったこと想い出したからよ",
"どんなことです",
"あんた、いつか、こういったわね。僕、おかあさんにそっくりな小さい妹を一人得られたら、ぐいぐい引張り廻して僕の思う通りにリードしてやるって、あれをよ",
"ふんそんなことか。けど僕やめにしますよ。なにしろ、おかあさんという人はスローモーションで、どうにも振り廻しにくいですからねえ"
],
[
"パパ、今晩は、トレ・コンタンでしょう。支那めしが喰べられて",
"久し振りに日本の方と会って大いに談じてますよ",
"パパもいいが独逸の話だけはして呉れないといいなあ、ベルリンのことを平気でペルリン、ペルリンというんだもの、傍で気がさしちまう",
"おなかじゃベルリンと承知してて、あれ口先だけの癖よ"
],
[
"お邪魔じゃなくって",
"いいでしょう、おかあさん、この女"
],
[
"あなた、ママンに何てあたしを紹介したのです?",
"よく捨てられる女って"
],
[
"こんなこといってますがね。この女は決して一ぺんでも自分から男を捨てた事はないんですよ。惚れた男はみんなきっと事情が出来て巴里から引上げなくちゃならなくなるんです",
"どうしてなんだろう",
"どうしてですかね"
],
[
"ママン、万歳!",
"この男はアルトゥールと云って、独逸が混ってるフランス人ですがね"
],
[
"いい思いつきを持ってる店頭建築の意匠家ですがね。何か感激したものを持たないと決して仕事をしないのです。つまり恋なのですが、随分七難かしい恋愛を求めてるんです。僕のみるところでは、姉とか母とかの愛のようなものを恋愛によそえて求めてるようなのですが、当人は飽くまでもただの恋愛だといって頑張ってるんです。西洋人の中には随分独断の奴が多いのです。自分の考えていることを一々実際にやってみて、行き詰って額をぶつけてからでないと承知しないのです。このアルトゥールもその一人ですが、そんな理ですから、また、この男くらい恋愛を簡単に女に投げかけてみて、そして深刻に失敗した奴も少いでしょう。つまり、こいつぐらい恋愛の場数を踏みながら、まだ恋愛の一年生にとまっている奴も少いでしょう",
"じゃ、一郎はもう卒業生なの",
"まあ、黙って。そこで、おかしい事があるんです。このアルトゥールがどこで女に失敗するかというと、その熱心さがあんまり気狂い染みているというんです。ここにいるロザリもエレンも、一度はその気狂い染みた恋愛の相手になったのですが、女たちの話を訊くと、甘えて卑り下ってしようがないというんです。恋人を実際生活の上でほんとの女神扱いにするんだそうです。希臘神話に出て来るようなへんな着物を拵えて女に着せて、バラの冠を頭に巻かして自分はその傍に重々しく坐っている。まあ、そんな調子です",
"それから奇抜なのは、そういう恋愛を得た時、この男のインスピレーションは高められて、しっしと、引受けた店頭建築の意匠を捗らせて見事な仕事をするのですが、出来上った店頭装飾建築には、一々そのときの恋人の名前をつけるんです。エレンのポーチとか、ロザリのアーチとか。そして、その完成祝いには恋人の女神を連れて来て初入店の式をさせるのです。その希臘神話風の服装で",
"女は、殊に西洋人の女は、決してそういう扱いを嫌いなわけではありません。大好きです。それで、暫時は有頂天になっていますが、結局は空虚の感じに堪えられなくなるというんです。なぜでしょう"
],
[
"そうでしょうか、そうかも知れませんね",
"パパとアルトゥールとまるっきり違うけど……私思い出したわ。ほらあんた子供のとき、パパと新しく出来た船のお客に二人だけで呼ばれてって、二三日ママと訣れてたことがあったでしょう。帰って来て、矢庭にママにぶら下がって泣き出したね。何故だか人中でパパと暮すと、とても寂しくてやり切れないって……"
],
[
"あの青年はどういう育ちの人",
"さあ、そいつはまだ聞きませんでしたが、ときどき打っても叩いても自分の本当の気持は吐かないという依估地なところを見せることがありますよ。そして僕がそれをそういってやっても、はっきりは判らないらしいんです。つまり単純な天才なんですね。そこへ行くとパパは話せる。あんな天才生活時代の前生涯と、今のプライヴェート生活のような親密な性情と両面持っている……"
],
[
"白のニッケル、マホガニー材、蝋色の大理石、これだけあれば、俺はどんな感情でも形に纏めてみせるね。どんな繊細な感情でもだぞ",
"恋愛はその限りに非ずか"
],
[
"やあ",
"よう!",
"うまくやってる",
"どうしたん?",
"しばらく"
],
[
"パパ、一郎が……ううん、あの男の児が……そっくりなの一郎に……パパ……",
"うん、うん",
"あの子にすこし、随いてって好い?",
"うん",
"パパも来て……",
"うん"
],
[
"僕は父のように甘い虫の好い考えは持っていませんが……然し知識慾や感情の発達盛り、働き盛りの僕達の歳として、そう学校にばかりへばりついて行ってても仕方がありませんからね",
"でも大学は時間も少いし呑気じゃありませんか",
"それが僕にはそうは行かないんです。僕という奴は、学校へ行き出せば学校の方へ絶対忠実にこびりつかなけりゃいられないような性分なんです。僕自身の性格は比較的複雑で横着にもかなり陰影がある癖に、一ヶ所変な幼稚な優等生型の部分があって……嫌んなっちゃうんで"
],
[
"あなたが逢って呉れないものですから、僕のような生意気な人間でも、あんな通俗的な手法を使わなくっちゃならなくなったんですね",
"ははあ",
"嫌だ。今ごろあんなことでからかっちゃ。だけれどあなただって、婦人雑誌なんかで、よく、どうしてあなたはあなたのお子さんを教育なさいましたか、なんて問題に答えていらっしゃるじゃありませんか。僕はあれを覚えてていざとなったら母もだしにつかいかねなかった……",
"そんなに私に逢わなけりゃならなかったの",
"嫌だ。そんなこと、そんなにくどく云っちゃ"
],
[
"かりによ。あの時、ではお母さんとご一緒にお出下さい、是非お母さんと……と、私がどうしてもお母さんと一緒でなければお逢いしないと云って上げたらどう?",
"事態がそうなら僕は母と一緒に伺ったかも知れないな",
"そして子供の教育法をお母さんに訊かれるとしたら、規矩男さんの教育係みたいに私はなったのね"
],
[
"それも面白かったなあ、わははははあ",
"何ですよ、この人は……そんな大声で笑って"
],
[
"だけど運命の趨勢はそうはさせませんね。僕は世の中は大たい妥当に出来上っていると思うんです",
"では妥当であなたと私とはこんなに仲好しになったの",
"そうですとも。僕だってあなただから近づいて来たかったんです……誰が……誰が……あなたでない、よそのお母さんみたいな人に銀座でなんかあとからつけて来られて……およそ気味の悪いばかりだったでしょうよ。或いはぶんなぐってたかもしれやしねえ",
"おやおや、まるで不良青年みたいだ",
"自分だって不良少女のように男のあとなんかつけたくせに",
"じゃあ、私不良少女として不良青年に見込まれた妥当性で、あなたと仲好しにされたわけなのね"
],
[
"ええ、判る人ですとも",
"あなた先生を随分尊敬していらっしゃるようですね",
"ええ、尊敬していますとも",
"先生は見たところだけでも随分僕には好感が持てますね……僕、先生が感じ悪い方だったら、あなたもこんなに(と云って規矩男はまた赫くなった)好きになれなかったか知れませんね",
"ではうちの先生も、あなたが私と仲好しになった妥当性の仲間入りね",
"序にむす子さんも",
"まあ、ぜいたくな人!",
"ええ、僕あ、ぜいたくな人間……ぜいたくな人間て云われるの嬉しいな。どんなに僕の好きな顔や美しい情感や卓越した理智をあなたが持ってたって、嫌な夫や馬鹿な子供なんかの生活構成のなかで出来上っているあなただったら、或いは僕は……"
],
[
"僕あんまり云い過ぎました?",
"ううん、云い過ぎたから好かったの、あははははは"
],
[
"いや、いまにきっと逢せます。然し、僕はあなたに母を逢せる前に聞いて頂きたいことがあるんですけれど……僕が云い出すまで待ってて下さい",
"そう? 優等生型の身辺事情には、いろいろ順序が立っているでしょうからねえ",
"からかわれる張り合いもないような事なんです"
],
[
"感じのいいお家じゃなくって",
"古いのが好いだけです。いまにご案内します"
],
[
"と云うと?",
"僕の積極性は、母の育て方で三分の一はマイナスにされてますから"
],
[
"喰ものでも変っているのね、あなたは",
"酸っぱいものだけが、僕のマイナスの部分を刺戟するロマンチックな味です"
],
[
"なぜ云い当てたんです",
"だってあなたくらい、ませた人、この年までラブ・アフェヤーのない筈はないもの。それを、今まで私に話さなかったもの。あなたの事情という事情は大がい聞いたあとに、残っているのはそればかりでしょう。しかも一番重大なことだからあとに残したってような、逆順序にしたんでしょう",
"やり切れないな。だがまあ、そうしときましょう。処でその事あんまり貧弱なんで僕恥しいんです"
],
[
"なまじいオリジナリティなんかあるのは自分ながら邪魔ですよ",
"そうだ。あなたはご自分の天分でもなんでも、一応は否定して見る癖があるんだな……癖か性質かな。それがあなたをいつも苦しめてるんでしょう。けどそれが図破抜けたあなたの知性やロマン性やオリジナリティに陰影をもたせて、むしろ効果を挙げているのではありませんか",
"でもうちの先生は、それが私にどれ程損だかって、いつも云っているのよ",
"先生は実は一番あなたのその内気な処を愛していらっしゃるんじゃないですか……むす子さんも……"
],
[
"つまり僕のあれは――始めは親達が決めて、あとで恋人同志のような気持になり、今はまた恋がなくなって(僕の方だけで)普通の許嫁と思ってるんですけれど――その女はオリジナリティも熱情もないくせに、内気な所も皆目なくって、その上熱情がある振りをしたがるという風な女です。唯取柄なのは、家庭や団体なんかが牛耳れそうな精力的なところなんですが……僕あそんなもの欲しくないんです",
"そうお。だけど誰のどんな取柄だって、よく見てれば好いものでしょう",
"でも、そう云ってたらきりもありません。人間の好きも嫌いもなくなっちまう",
"まあそれはそうだけど"
],
[
"何? インスピレーション採っているの? 歌のですか",
"ふふふふ、歌のよ"
],
[
"僕はあなたの歌を一昨夜母から見せられましたよ",
"あなたお母さんに私の事話しましたか",
"話しました",
"どうして知り合いになったって?",
"そんなこと気にかけないで下さい。僕だって文学青年だったこともあるもの、何も不思議がりはしませんよ。母はむしろ嬉んでいる様子でした。二三ヶ月前の雑誌から目つかったあなたの歌なんか僕に見せるくらいですもの。或はそれとなく心がけて見つけたんじゃないかな",
"…………",
"やっぱり巴里のむす子さんへの歌だったな。『稚な母』って題で連作でしたよ",
"…………",
"沢山あった歌のなかで一つだけ覚えてて僕暗記してます――鏡のなかに童顔写るこのわれがあはれ子を恋ふる母かと泣かゆ――ねえ、そうでしたね"
],
[
"規矩男さんは、ご主人に似ていらっしゃいますこと",
"規矩男は主人に似てるといっても形だけなんでございますよ。あれはとても主人のようにはなれますまい"
],
[
"だけどあなたは随分読書家なんでしょう",
"まあね"
],
[
"それだけに堪らなく嫌になって、幾日も密閉して、書物の面見るのも嫌になるんですよ。今はその時期です",
"人間にもそんなんじゃない",
"まあそんな傾向がないとは云えませんがね。しかし、人間に対しちゃ責任があるもの、いくら僕だってそんな露骨なことしやしません",
"だって一度恋人だったものがただの許嫁に戻ったりして……",
"あのことですか、だって僕は女性がまだあの頃判らなかったし、ただちょっと珍しかったからですよ",
"では、今は珍しくなくって、そして女性が判って来たとでもいうのですか",
"そんなこと云われると、僕はあれのこと打ち明けなければ好かったと思いますよ。あなたは偉いようでも女だなあ。何も人間の判る判らないのに、順序や年代があると決らないでしょう。本を読んだり年を取ったり、体が育ったりするだけでも、その人の感情や嗜好や興味は変って来るでしょう",
"それはそうね。でもその人を貫く大たいの情勢とか嗜好とかの性質は、そう変らないでしょう",
"そうです。それだけに大たいを貫くものにぶっ突からないものは、じきはずれて行くんです",
"それで判ったわ",
"ほんとうですか。書物にだってそうです。自分がその中に書いてあることにむしろ悩まされながら、執着したりかかずらわずにはいられない書物があるでしょう",
"近頃そんな書物に逢って?",
"シェストフですね。シェストフの虚無を随分苦しみながら噛み締めました。だが、西洋人の虚無は、すでに『否定』という定義的な相手があっての上の虚無です。ですから感情的で痛快ですが、徹底した理智的なものとは云えません。と云って東洋人の虚無は、自然よりずっと冷い虚無です。石か木かに持たすべき思想です。そこで僕等は『何処へ行くべき』です",
"あなたの云うそれは、東洋の老荘思想の虚無よ。大乗哲学でいう『空』とか『無』とかはまるで違うのよ。あらゆるものを認めてそれを一たん無の価値にまで返し、其処から自由性を引き出す流通無碍なものということなのよ。それこそ素晴しく闊達に其処からすべての生命が輝き出すということなの。ところが青年というものは、とかく否定好きなものなのよ。肯定は古くて否定は何か新鮮なように思うのね。生命の豊富な資源を使い分けるよりも、否定に片付いている方がむしろ単純で楽なんじゃない?",
"そう云われれば、僕なんか嫌でやり切れないくせに、シェストフの著書に引っぱられているわけが自分でも判るんです"
],
[
"ええ、読んでよ",
"あの母は感心というより可愛ゆいな",
"ほんとう。母が始めから子供の理論を理解して共鳴したりしない処がむしろ可愛ゆいわね。子供に神様を取り上げられて悄気ながらも、子供の愛と同時にあの思想に引き入れられちまったのね",
"それはそうと、あなたはむす子さんのいいつけ通りの着物の色や柄を買って着ると仰有ったね。その襟の赤と黒の色の取り合せも?",
"ええ",
"ふーむ、ユニークな母子叙情の表現法だなあ"
],
[
"きみい(君)、規矩男君の許嫁や僕に済まないと思わないで、一郎にばかり済まないって面白いなあ……ははは……",
"……その済まなさも私の何処かに漠然と潜んでいたには違いないのよ。でもそれは単なる道徳上の済まなさになるんだから、そんなに強いもんじゃないでしょう。こっちはしんからびりびりッと本能の皮膚にさわって来たのよ、もっともこの問題はむす子を仲介にして始まったんですから、むす子への済まなさが中心になったのがあたり前でしょうけど"
],
[
"で、その方達をどうしたのよ",
"よく運転手にそう云ってTホテルへお送りさしときました。只今、ご主人も奥さまもお留守のことをよく申し上げて"
],
[
"兎に角今夜は銀座でも見せてあげて、日本食を上げましょう。直ぐホテルへ電話かけてあげて下さい",
"よし、君は新夫人に花でも持って行ってあげたらいい"
],
[
"おかあさんもなるべく昔のことを忘れて、新しく出発するんですね",
"出発するってどんな風によ",
"おとうさんをご覧なさい。根が悧巧だから、おかあさんのいのちを食って、今までの仕事をしました。今度はおかあさんの番ですよ。おとうさんのいい所を摂って成長しなきゃ",
"たとえばどんなところよ",
"あのぬけぬけとしたところなど。おかあさんやこれからの僕には是非必要ですね",
"あたしはおとうさんにどんなところを与えたろうか",
"あれっ! 知らないんですか。おとうさんのあの気位だとか、純情だとかいうものは、みなおかあさんのいのちから汲み出したものじゃありませんか。うまく摂ってるからちょっと判らないが",
"おまえさんは鋭い子だねえ",
"そんなことをむす子の前で感心するのが、まだお嬢さんが抜けない証拠です。僕は賛成しませんね"
],
[
"まあ、誰が買いましたの",
"今夜の汽車でお発ちの方だそうですが、是非自分で持って行き度いと、そう仰しゃるものですから、もう閉場間際だし、包んでお渡ししました。たった今。この方です"
]
] | 底本:「昭和文学全集 第5巻」小学館
1986(昭和61)年12月1日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第二卷」冬樹社
1974(昭和49)年6月30日初版第1刷発行
初出:「文学界」
1937(昭和12)年3月号
※「躙」と「躪」の混在は、底本通りです。
入力:阿部良子
校正:松永正敏
2001年5月7日公開
2017年6月4日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"…………"
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"僕はどうしたって駄目なんです。こうやって荷造りなんかしたっても、あなたに離れて行くことなんか、とても出来ない",
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"ね、も一度、おもい返して呉れない。そして兄さんに僕を置いて下さるようにって、頼んで呉れない?",
"思い返すも返さないも……もう、いくら考え抜いて斯うなったんだか分りゃしないのに……"
]
] | 底本:「岡本かの子全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年9月22日第1刷発行
底本の親本:「雛妓」新潮文庫、新潮社
1940(昭和15)年3月刊
入力:門田裕志
校正:石井一成
2015年12月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"どうしてだ",
"お嫁に行くということは私が向うの人のものになってしまうのだから、その人が承知してくれないじゃ、一緒に行けないのよ",
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],
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"これなんだね",
"鉄道馬車",
"これなんだね",
"お勤め人、洋服を着て鞄持って"
],
[
"どこでよ、どうしてよ",
"そして、悧巧になって、お蘭さ嫁に貰いに来るだよ"
]
] | 底本:「ちくま日本文学全集 岡本かの子」筑摩書房
1992(平成4)年2月20日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第四卷」冬樹社
1974(昭和49)年3月18日
初出:「雄弁」
1938(昭和13)年9月
入力:さぶ
校正:しず
1999年3月20日公開
2016年2月3日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"初出": "「雄弁」1938(昭和13)年9月",
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"姓読み": "おかもと",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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"入力に使用した版1": "1992(平成4)年2月20日第1刷",
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"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第四卷",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"あれは、どこか素性のいい家に生れた白痴なのだ",
"そう言えば、上品だ"
],
[
"どうしてだ",
"お嫁に行くということは私が向うの人のものになってしまうのだから、その人が承知して呉れないじゃ、一緒に行けないのよ",
"お蘭さが誰かのものになるというだかね",
"そうよ",
"ふーむ"
],
[
"お蘭さ、嫁に行っちゃいけねえ",
"そんなこと無理よ"
],
[
"これなんだね",
"鉄道馬車",
"これなんだね",
"お勤め人、洋服を着て鞄持って"
],
[
"どこでよ、どうしてよ",
"そして、悧巧になって、お蘭さ嫁に貰いに来るだよ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「巴里祭」青木書店
1938(昭和13)年11月25日発行
初出:「雄弁」
1938(昭和13)年9月号
※初出時の表題は「四郎馬鹿」です。
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2020年9月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "058428",
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"ソート用読み": "みちのく",
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"初出": "「雄弁」1938(昭和13)年9月号",
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"公開日": "2020-10-24T00:00:00",
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} |
[
[
"姉ちゃん、お見舞いに来たよ。おもちゃ持って来てやったぞ",
"いま、階下へ降りて行きます、上って来ないでよ――"
],
[
"蓑ちゃんは可笑しい。姉ちゃんはもう、とっくに風邪なおって起きちまってるのに見舞いに来るなんて",
"でも、来てやったんだい"
],
[
"それ、姉ちゃんのお見舞いに呉れたのね、自分で買って来たの",
"ああ",
"それを買うおあし、お母さんにいくら貰ったの",
"二円だい"
],
[
"蓑ちゃん、長命寺のさくら餅屋知ってる",
"ああ知ってるよ。向う河岸の公園出てすぐだろ",
"じゃ、一人で白鬚の渡し渡って買ってらっしゃい。行ける?"
],
[
"何分にも、お立派過ぎると、あちらは申すんで――",
"立派すぎるなんて、そんな断りようがあるか"
]
] | 底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「老妓抄」中央公論社
1939(昭和14)年3月18日発行
初出:「婦人公論」
1939(昭和14)年1月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年2月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "050629",
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"作品名読み": "むすめ",
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"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
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"入力に使用した版1": "1993(平成5)年8月24日第1刷",
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"底本の親本名1": "老妓抄",
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} |
[
[
"ああいう能力に自信のある女はえて物好きなことをするものだ",
"男女の親和力というものは別ですわ。夫婦になるのは美学のためじゃあるまいし"
],
[
"あなたね。行き合う人がみんなあなたを見返るのよ。",
"…………",
"あなたのお洋服が好くお体に似合うからよ",
"…………"
],
[
"智子、僕そんなにおかしく見えるか。",
"何云っていらっしゃるの、あなたは、めったにない程お立派ですわ",
"何故人が見る",
"あら先刻私が云ったこと間違ってとってらっしゃるの、何も皮肉じゃないのよ。本当にお立派だから人が振り返るのよ。私、実に好い服地と服屋をあなたに見つけたと思って自慢しようと思って云ったのよ",
"…………"
],
[
"ね、あなたも智子も素晴らしいんだわ、画や彫刻のモデルにされたって素晴らしいんだわ",
"うん、うん"
]
] | 底本:「岡本かの子全集3」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年6月24日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第二卷」冬樹社
1974(昭和49)年6月30日初版第1刷
初出:「むらさき」
1937(昭和12)年1月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年1月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "046939",
"作品名": "明暗",
"作品名読み": "めいあん",
"ソート用読み": "めいあん",
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"副題読み": "",
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"初出": "「むらさき」1937(昭和12)年1月号",
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"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"公開日": "2010-02-19T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
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"姓読みソート用": "おかもと",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集3",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年6月24日第1刷",
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"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第二卷",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
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} |
[
[
"病気して、お金にでも困っているのね",
"そうよ、窮したら外に言って行くところも無い人だもの。家だって、千歳さんが慶四郎さんとは一番遠慮なくしてたんだから",
"でも、お父さまが、どう仰有るかしら",
"それは、私がとりなしとくわ"
],
[
"じゃ、まあ、行ってみるわ",
"そうなさい、そうしてよ"
],
[
"あら、病気だなんて……電報うったくせに",
"嘘じゃなかったけど、もう直った",
"まあ……"
],
[
"先生は",
"丈夫よ",
"お姉さまは",
"丈夫よ",
"塾の凡庸な音楽家の卵たちは",
"相変らず口が悪いのね、みんな丈夫"
],
[
"ねえ、どうして、あんた病気だなんて私を呼んだ",
"そのことはもう言いっこなし",
"だって……変だわね、私、お金少し持って来たのに",
"そんな話、もうやめてお呉れ",
"変な人ね",
"ああ僕は昔から変な奴さ"
],
[
"それ訊きたいわ",
"何でもないさ、東京近くのこの温泉なら先生の弟子だといってちょっと楽器を掴んでみせれば、座敷や家庭教師の口はいくらでもある。まあこのくらいな横着は先生にも大目に見て頂くさ"
],
[
"破門されたため湯治が出来るなんて、仕合せな破門じゃないの",
"そうでもない。やっぱり、東京の演奏会の燭光はなつかしいものだ"
],
[
"いいとこね。まるで古い油絵を剥してもって来たようね",
"気に入ったかい、まあ、ここにかけ給え"
],
[
"そら、また慶四郎さんの夢が始まった……だが、こんどのはどんな夢",
"つまり、こういうんだ。あんたを一度この村へ連れて来て、このきれいな水で遊ばしてみたい。こんどの夢とはこれさ"
],
[
"東京へ帰らないで、これから僕と一緒に何処までも行ってお呉れ、千歳さん",
"まあ、何故",
"僕、今度、またすばらしい夢を思いついたんだよ"
],
[
"姉さんは、僕にたった一つの夢しか与えなかった。あなたは僕に取って無限の夢の供給者だ",
"でも……",
"姉さんには気の毒だ。でも、芸の道は心弱くては行かれない道だ……それに千歳さんだって僕を嫌いではない筈だ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「丸の内草話」青年書房
1939(昭和14)年5月20日発行
初出:「令女界」
1938(昭和13)年8月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年2月6日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "050628",
"作品名": "呼ばれし乙女",
"作品名読み": "よばれしおとめ",
"ソート用読み": "よはれしおとめ",
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"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「令女界」1938(昭和13)年8月号",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2010-03-23T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card50628.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本かの子全集5",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年8月24日",
"入力に使用した版1": "1993(平成5)年8月24日第1刷",
"校正に使用した版1": "1993(平成5)年8月24日第1刷",
"底本の親本名1": "丸の内草話",
"底本の親本出版社名1": "青年書房",
"底本の親本初版発行年1": "1939(昭和14)年5月20日",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "門田裕志",
"校正者": "noriko saito",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/50628_ruby_37418.zip",
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} |
[
[
"どうもこの頃、昭沙弥は、生飯をやると言っちゃ日に五六遍も、そわそわ川へ行く。あんまり鯉に馴染がつき過ぎて鯉に魅せられたのではないか",
"その癖、淵の鯉は、斎の鐘を聴いてもこの頃は集って来んようだ。わしは気を付けて行って見るが確かにそうだ"
],
[
"昭沙弥じゃないか",
"水中でおなごと戯れとる",
"いやはや言語道断な仕儀だ"
],
[
"仏子、仏域を穢すときいかに",
"鯉魚",
"そもさんか、出頭、没溺火坑深裏",
"鯉魚"
],
[
"鯉魚",
"ほとんど腐肉蠅を来す",
"鯉魚"
]
] | 底本:「ちくま日本文学全集 岡本かの子」筑摩書房
1992(平成4)年2月20日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集」冬樹社
入力:ゆいみ
校正:岩田とも子
1999年9月7日公開
2005年11月30日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000446",
"作品名": "鯉魚",
"作品名読み": "りぎょ",
"ソート用読み": "りきよ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "1999-09-07T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card446.html",
"人物ID": "000076",
"姓": "岡本",
"名": "かの子",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "かのこ",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "かのこ",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "ちくま日本文学全集 岡本かの子",
"底本出版社名1": "筑摩書房",
"底本初版発行年1": "1992(平成4)年2月20日",
"入力に使用した版1": "",
"校正に使用した版1": "1992(平成4)年2月20日初版",
"底本の親本名1": "岡本かの子全集",
"底本の親本出版社名1": "冬樹社",
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"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
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"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "ゆいみ",
"校正者": "岩田とも子",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/446_ruby_20629.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2005-12-01T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
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"テキストファイル修正回数": "2",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/files/446_20630.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2005-12-01T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"そりゃそうさ、こんなつまらない仕事は、パッションが起らないからねえ",
"パッションて何だい",
"パッションかい、ははは、そうさなあ、君たちの社会の言葉でいうなら、うん、そうだ、いろ気が起らないということだ"
],
[
"やればいいじゃないかって、そう事が簡単に……(柚木はここで舌打をした)だから君たちは遊び女といわれるんだ",
"いやそうでないね。こう云い出したからには、こっちに相談に乗ろうという腹があるからだよ。食べる方は引受けるから、君、思う存分にやってみちゃどうだね"
],
[
"あんたは若い人にしちゃ世話のかからない人だね。いつも家の中はきちんとしているし、よごれ物一つ溜めてないね",
"そりゃそうさ。母親が早く亡くなっちゃったから、あかんぼのうちから襁褓を自分で洗濯して、自分で当てがった"
],
[
"でも、男があんまり細かいことに気のつくのは偉くなれない性分じゃないのかい",
"僕だって、根からこんな性分でもなさ相だが、自然と慣らされてしまったのだね。ちっとでも自分にだらしがないところが眼につくと、自分で不安なのだ",
"何だか知らないが、欲しいものがあったら、遠慮なくいくらでもそうお云いよ"
],
[
"結婚適齢期にしちゃあ、情操のカンカンが足りないね",
"そんなことはなくってよ。学校で操行点はAだったわよ"
],
[
"フランスレビュウの大立物の女優で、ミスタンゲットというのがあるがね",
"ああそんなら知ってるよ。レコードで……あの節廻しはたいしたもんだね",
"あのお婆さんは体中の皺を足の裏へ、括って溜めているという評判だが、あんたなんかまだその必要はなさそうだなあ"
],
[
"駄目だな、僕は、何も世の中にいろ気がなくなったよ。いや、ひょっとしたら始めからない生れつきだったかも知れない",
"そんなこともなかろうが、しかし、もしそうだったら困ったものだね。君は見違えるほど体など肥って来たようだがね"
],
[
"いつ死のうかと逢う度毎に相談しながら、のびのびになっているうちに、ある日川の向うに心中態の土左衛門が流れて来たのだよ。人だかりの間から熟々眺めて来て男は云ったのさ。心中ってものも、あれはざまの悪いものだ、やめようって",
"あたしは死んで仕舞ったら、この男にはよかろうが、あとに残る旦那が可哀想だという気がして来てね。どんな身の毛のよだつような男にしろ、嫉妬をあれほど妬かれるとあとに心が残るものさ"
]
] | 底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「老妓抄」中央公論社
1939(昭和14)年3月18日
初出:「中央公論」
1938(昭和13)年11月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2020年1月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "058431",
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} |
[
[
"そりゃそうさ、こんなつまらない仕事は。パッションが起らないからねえ",
"パッションって何だい",
"パッションかい。ははは、そうさなあ、君たちの社会の言葉でいうなら、うん、そうだ、いろ気が起らないということだ"
],
[
"やればいいじゃないかって、そう事が簡単に……(柚木はここで舌打をした)だから君たちは遊び女といわれるんだ",
"いやそうでないね。こう云い出したからには、こっちに相談に乗ろうという腹があるからだよ。食べる方は引受けるから、君、思う存分にやってみちゃどうだね"
],
[
"あんたは若い人にしちゃ世話のかからない人だね。いつも家の中はきちんとしているし、よごれ物一つ溜めてないね",
"そりゃそうさ。母親が早く亡くなっちゃったから、あかんぼのうちから襁褓を自分で洗濯して、自分で当てがった"
],
[
"でも、男があんまり細かいことに気のつくのは偉くなれない性分じゃないのかい",
"僕だって、根からこんな性分でもなさそうだが、自然と慣らされてしまったのだね。ちっとでも自分にだらしがないところが眼につくと、自分で不安なのだ",
"何だか知らないが、欲しいものがあったら、遠慮なくいくらでもそうお云いよ"
],
[
"結婚適齢期にしちゃあ、情操のカンカンが足りないね",
"そんなことはなくってよ、学校で操行点はAだったわよ"
],
[
"フランスレビュウの大立者の女優で、ミスタンゲットというのがあるがね",
"ああそんなら知ってるよ。レコードで……あの節廻しはたいしたもんだね",
"あのお婆さんは体中の皺を足の裏へ、括って溜めているという評判だが、あんたなんかまだその必要はなさそうだなあ"
],
[
"駄目だな、僕は、何も世の中にいろ気がなくなったよ。いや、ひょっとしたら始めからない生れつきだったかも知れない",
"そんなこともなかろうが、しかし、もしそうだったら困ったものだね。君は見違えるほど体など肥って来たようだがね"
],
[
"いつ死のうかと逢う度毎に相談しながら、のびのびになっているうちに、ある日川の向うに心中態の土左衛門が流れて来たのだよ。人だかりの間から熟々眺めて来て男は云ったのさ。心中ってものも、あれはざまの悪いものだ。やめようって",
"あたしは死んでしまったら、この男にはよかろうが、あとに残る旦那が可哀想だという気がして来てね。どんな身の毛のよだつような男にしろ、嫉妬をあれほど妬かれるとあとに心が残るものさ"
]
] | 底本:「老妓抄」新潮文庫、新潮社
1950(昭和25)年4月30日発行
1968(昭和43)年3月20日17刷改版
1998(平成10)年1月15日52刷
入力:佐藤律子
校正:大野晋
1999年5月5日公開
2005年9月27日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000447",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kanoko",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1889-03-01",
"没年月日": "1939-02-18",
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[
[
"旦那様、泰松寺にまた、御普請でも始まりますか",
"いや何にもない"
],
[
"さうで御座いませうかなあ。私が剛情者といふことは自分でもはつきり判ります。が、それでまたあの身代をこしらへましたので、剛情も別に悪いことゝは思ひませんでしたが",
"ではあなたは、なぜあの身代だけで満足しなさらぬな、娘衆がどうならうと、妻女がその為めに死になさらうと……"
],
[
"では、御老師、私はどういたしたらその業とやらが果せませうか",
"さあ、眼にも見ず、形の上でも犯さぬ業ならば、やつぱり心の上で、徐々に返すよりほかはあるまい――まづこの呪文を暇のある毎に唱へなさい。心からこれを唱へれば、懺悔の心がいつか自分の過去現在未来に渡つて泌み入り、悪業が自然と滅して行く"
]
] | 底本:「日本幻想文学集成10 岡本かの子」国書刊行会
1992(平成4)年1月23日初版第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第四巻 小説」冬樹社
1974(昭和49)年3月18日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:門田裕志
校正:湯地光弘
2005年2月22日作成
2016年1月16日修正
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "004181",
"作品名": "老主の一時期",
"作品名読み": "ろうしゅのいちじき",
"ソート用読み": "ろうしゆのいちしき",
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"文字遣い種別": "新字旧仮名",
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"公開日": "2005-03-24T00:00:00",
"最終更新日": "2016-01-16T00:00:00",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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"底本の親本名1": "岡本かの子全集 第四巻 小説",
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} |
[
[
"この頃はここらに可怪なことが始まりましてね。労働者がみんな逃げ腰になって困るんですよ。",
"おかしなこと……。どんなことが始まったんです。"
],
[
"どうしたんでしょう。",
"判りません。なんでも四、五年前にもそんなことが続いたので、今までここに在住していたオランダ人はみんな立退いてしまって、しばらく無人島のようになっていた所へ、我れわれが三年まえから移って来て、今まで無事に事業をつづけていたんです。勿論、来た当座は十分に警戒していましたが、別に変ったこともないので、みんなも安心していました。原住民たちも一時は隣りの島へ立退いていたんですが、これもだんだんに戻って来て、今ではこうして我れわれと一緒に働いています。ところが、先月の末、二十五日の晩でした。この小屋の近所に住んでいる原住民の女が突然に行くえ不明になったんです。どこへ行ったのか判りません。結局は河縁へ水を汲みに行って、滑り落ちて海の方へ押流されて、鱶にでも食われたんだろうという事になってしまいました。するとそれから三日ばかり経って、またひとりの原住民が見えなくなったんです。こうなると、騒ぎがいよいよ大きくなって、これはどうも唯事ではない。むかしの禍いがまた繰返されるのではないかという恐怖に襲われて、気の弱い、迷信の強い原住民たちはそろそろ逃げ支度に取りかかるのを、わたくしが無理におさえて、まあ五、六日は無事に済んだのですが、今月にはいって四日ほど経つと、またひとりの原住民が見えなくなる。つづいて二日目にまた一人、都合四人も消えてなくなったんですから、わたしも実に驚きました。まして原住民たちはもう生きている空もないようにふるえあがって、仕事もろくろく手につかないという始末で、わたしも弱り切っていますと、いい塩梅に小半月ばかりは何事もないので、少し安心する間もなく、六日前にまた一人、今度は日本人が行くえ不明になったんです。"
],
[
"いや、それがまた不思議なんです。ひとりで寝ていたのならば、まだしもの事ですけれども、日本人は大抵七、八人ずつ一軒の小屋に枕をならべて寝ているんです。まして原住民は十人も二十人も土間にアンペラを敷いて、一緒にかたまって転寝をしているんですから、かりに猛獣が来ても、野蛮人が来ても、ほかの者に覚られないようにそっと一人をさらって行くということは、よほど困難の仕事で、誰か気のつく者がある筈です。ねえ、そうじゃありませんか。しかし人間が理屈なしに消えてなくなる訳のものでありませんから、私はまずこれを猿の仕業と鑑定しました。",
"ごもっともです。",
"あなたも御同感ですか。",
"私もそれよりほかに考えはありません。さっきからお話を聞いているうちに、私はドイルの小説を思い出しました。"
],
[
"どうかそうしてください。あなたも一緒にいて下されば、我れわれも大いに気丈夫です。あなたの御助力で、どうかこの怪物の正体を確かめたいものです。どうでお構い申すことは出来ませんが、あなたの寝道具ぐらいはありますから。",
"どうで徹夜の考えですから、寝道具などはいりません。夜がふけると冷えるでしょうから、毛布が一枚あれば結構です。しかし私がいつまでも帰らないと、船の者が心配するでしょうから、誰か私の手紙をとどけてくれる者はありますまいか。"
],
[
"この雨では怪物も出られますまい。",
"そうです。ことに雷がこう激しく鳴っては、大抵の怪物も恐れて出ないかも知れません。"
],
[
"弥坂君……勇造君……。",
"勇造……弥坂……。"
],
[
"ありがとうございます。そんなら御機嫌よろしゅう。",
"あなたも御機嫌よろしゅう。"
]
] | 底本:「鷲」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年8月20日初版1刷発行
初出:「慈悲心鳥」国文堂書店
1920(大正9)年9月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年10月31日作成
2007年9月25日修正
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "045478",
"作品名": "麻畑の一夜",
"作品名読み": "あさばたけのいちや",
"ソート用読み": "あさはたけのいちや",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「慈悲心鳥」国文堂書店、1920(大正9)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-12-06T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45478.html",
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"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "鷲",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年8月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
"校正者": "松永正敏",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45478_ruby_24508.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2007-09-25T00:00:00",
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} |
[
[
"どうなすったか判りませんでしたが、ひと月ほども前に、その奥さんがふらりと尋ねておいでになりまして、なんでも今までは上総の方とかにおいでになったというお話でした。そうして、わたしの家には誰が住んでいるとお聞きになりましたから、矢橋さんという方がお住まいになっていると申しましたら、そうかといってお帰りになりました。",
"その奥さんは今どこにいるのだろう。",
"やはり同区内で、芝の片門前にいるとかいうことでした。",
"どんなふうをしていたね。"
],
[
"奥さんは幾つぐらいだね。",
"瓦解の時はまだお若かったのですから、三十五ぐらいにおなりでしょうか。",
"子供はないのですかね。",
"お嬢さんが一人、それは上総の御親戚にあずけてあるとかいうことでした。",
"片門前はどの辺か判らないかね。",
"さき様でも隠しておいでのようでしたから、わたくしの方でも押し返しては伺いませんでした。"
]
] | 底本:「蜘蛛の夢」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年4月20日初版1刷
初出:「写真報知」
1925(大正14)年9月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:花田泰治郎
2006年5月7日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045500",
"作品名": "穴",
"作品名読み": "あな",
"ソート用読み": "あな",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「写真報知」1925(大正14)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-06-25T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45500.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "蜘蛛の夢",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
"校正者": "花田泰治郎",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45500_ruby_23134.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2006-05-07T00:00:00",
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"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
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"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"ねえ、お前。どうしたんだろうね。",
"どうしたんでしょう。"
],
[
"いっそ引っ返そうかねえ。",
"あとへ戻るんですか。",
"だって、お前。気味が悪くって行かれないじゃあないか。"
],
[
"あたし、もうみんなと遊ばないのよ。",
"どうして。"
],
[
"なんだ、そうぞうしい。行儀のわるい奴だ。女の児が日の暮れるまで表に出ていることがあるものか。",
"でも、お父さん、怖かったわ。",
"なにが怖い。"
],
[
"ねえ、お前。お兼ちゃんはもうみんなと遊ばないよって言ったんだね。",
"そうよ。"
]
] | 底本:「影を踏まれた女」光文社文庫、光文社
1988(昭和63)年10月20日初版1刷発行
2001(平成13)年9月5日3刷
初出:
新牡丹燈記「写真報知」
1924(大正13)年6月
寺町の竹藪「写真報知」
1924(大正13)年9月
龍を見た話「週刊朝日」
1924(大正13)年10月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:hongming
2006年1月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045479",
"作品名": "異妖編",
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"初出": "新牡丹燈記「写真報知」1924(大正13)年6月、寺町の竹藪「写真報知」1924(大正13)年9月、龍を見た話「週刊朝日」1924(大正13)年10月",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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} |
[
[
"どうかこれは御内分にねがいます。",
"まあ、それはちっとも存じませんでした。一体いつごろからでしょう。"
],
[
"お筆は身でも投げたのでしょうか。",
"さあ、ふたりの男の死んだのを見て、お筆はそこを抜け出して、築地から芝浦あたりで身を投げた。そうして、帯のあいだか袂にでも入れてあった状袋が流れ出して、かの鯔の口にはいった――と、想像されないこともありません。あるいは単に不用の状袋を引裂いて川に投げ込んだのを、鯔がうっかり呑み込んだ――と、思われないこともありません。警察でも築地河岸から芝浦、品川沖のあたりまでも捜索してくれたのですが、それらしい死体は勿論、何かの手がかりになりそうな品も見付かりませんでした。お筆は死んだのか、生きているのか、それも結局判らずに終ったわけです。警察から静岡の方へも照会してくれましたが、そこには今でも久住弥太郎という士族が住んでいて、その家来の箕部五兵衛は先年病死、五兵衛の娘のお筆というのは親類をたずねて東京へ出たっきりで、その後の便りを聞かない。久住の屋敷は番町のしかじかというところだということで、総てがいちいち符合していますから、お筆の身許に嘘はないようです。してみると、お筆という女は自分の故郷に帰って来て、しかも自分の生れた家のなかでいろいろの事件を仕出来して、そのまま生死不明になってしまったので、まったく不思議な女です。"
]
] | 底本:「蜘蛛の夢」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年4月20日初版1刷発行
初出:「文藝倶楽部」
1925(大正14)年8月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:花田泰治郎
2006年5月7日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "045501",
"作品名": "有喜世新聞の話",
"作品名読み": "うきよしんぶんのはなし",
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} |
[
[
"そこで、相成るべくは新年にちなんだようなものを願いたいので……。",
"いろいろの注文を出すね。いや、ある、ある。牛と新年と芸妓と……。こういう三題話のような一件があるが、それじゃあどうだな。",
"結構です。聴かせてください。",
"どうで私の話だから昔のことだよ。そのつもりで聴いて貰わなけりゃあならないが……。江戸時代の天保三年、これは丑年じゃあない辰年で、例の鼠小僧次郎吉が召捕りになった年だが、その正月二日の朝の出来事だ。"
],
[
"なるほど大変な騒ぎでしたね。定めて怪我人も出来たでしょう。",
"ふだんと違って人通りが多いのと、こんにちと違って道幅が狭いので、往来の人たちは身をかわす余地がない。出会いがしらに突き当る者がある、逃げようとして転ぶ者がある。なんでも十五六人の怪我人が出来てしまった。中でもひどいのは通油町の京屋という菓子屋の娘、年は十七、お正月だから精々お化粧をして、店さきの往来で羽根を突いているところへ一匹の牛が飛んで来た。きゃっといって逃げようとしたが、もう遅い。牛は娘の内股を両角にかけて、大地へどうと投げ出したので、可哀そうにその娘は二、三日後に死んだそうだ。そんなわけだから、始末に負えない。二匹の牛は大伝馬町から通旅籠町、通油町、通塩町、横山町と、北をさしてまっしぐらに駈けて行く。火消たちも追って行く。だんだんに弥次馬も加わって、大勢がわあわあ言いながら追って行く。そうして、とうとう両国の広小路へ出ると、なんと思ったか一匹の牛は左へ切れて、柳原の通りを筋違の方角へ駆けて行って、昌平橋のきわでどうやらこうやら取押えられた。",
"もう一匹はどうしました。"
],
[
"小雛も柳橋の芸者だから、家根船に乗るくらいの心得はあったのだろうが、はずみというものは仕方のないもので、どう転んだのか、船から川へざんぶりという始末。これも一旦は沈んだが、また浮き上がると、その鼻のさきへ牛の頭……。こうなれば藁でもつかむ場合だから、牛でも馬でも構わない。小雛は夢中で牛の角にしがみついた。もう疲れ切っているところへ、人間ひとりに取付かれては、牛もずいぶん弱ったろうと思われるが、それでもどうにかこうにか向う河岸まで泳ぎ着いて、百本杭の浅い所でぐたりと坐ってしまった。小雛は牛の角を掴んだままで半死半生だ。そこへ旦那の船が漕ぎ着けて、すぐに小雛を引揚げて介抱する。櫛や笄はみんな落してしまい、春着はめちゃめちゃで、帯までが解けて流れてしまったが、幸いに命だけは無事に助かったので、大難が小難と皆んなが喜んだ。命に別条が無かったとはいいながら、あんまり小難でもなかったのさ。",
"その牛はどうしました。",
"牛も半死半生、もう暴れる元気もなく、おとなしく引摺られて行った。なにしろ大伝馬町の川口屋も災難、自分の店の初荷からこんな事件を仕出来して、春早々から世間をさわがしたので、それがために随分の金を使ったという噂だ。さもないと、どんなお咎めを受けるかも知れないからな。自分の軒に立てかけてある材木が倒れて人を殺しても、下手人にとられる時代だ。これだけの騒動を起した以上、牛の罪ばかりでは済まされない。殊にこっちが大家では猶更のことだ。",
"そうですか。成程これで、牛と新年と芸者と……。三題話は揃いました。いや、有難うございました。",
"まあ、待ちなさい。それでおしまいじゃあない。",
"まだあるんですか。"
],
[
"芝居ならば暗転というところですね。",
"まあ、そうだ。その九月の十四日か十五日の夜も更けたころ、男と女の二人づれが、世を忍ぶ身のあとやさき、人目をつつむ頬かむり……。",
"隠せど色香梅川が……。",
"まぜっ返しちゃあいけない。その二人づれが千住の大橋へさしかかった。",
"わかりました。その女は小雛でしょう。"
],
[
"そうすると、四年前の牛の一件が小雛の頭に強く沁み込んでいたので、この危急の場合に一種の幻覚を起したのでしょうね。",
"まあ、そうだろうな。今の人はそんな理屈であっさり片づけてしまうのだが、むかしの人はいろいろの因縁をつけて、ひどく不思議がったものさ。これで小雛が丑年の生れだと、いよいよ因縁話になるのだが、実録はそう都合よくゆかない。"
]
] | 底本:「鎧櫃の血」光文社文庫、光文社
1988(昭和63)年5月20日初版1刷発行
1988(昭和63)年5月30日2刷
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年6月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "045484",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
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} |
[
[
"蛙がよく啼きますね。",
"はあ。それでも以前から見ますと、よほど少なくなりました。以前はずいぶんそうぞうしくて、水の音よりも蛙の声の方が邪魔になるぐらいでございました。"
],
[
"松島君ももう全快したのですが、十日ほど遅れて帰京することになります。ついては、君がひと足さきへ帰るならば、田宮さんを一度おたずね申して、先日のお礼をよくいって置いてくれと頼まれました。",
"それは御丁寧に恐れ入ります。"
],
[
"あんまり大きいのもいないようだね。",
"あなたも去年お釣りになって……。",
"むむ。二、三度釣ったことがあるよ。"
],
[
"あなたその鰻をどうなすって……。",
"小さな鰻だもの、仕様がない。そのまま川へ抛り込んでしまったのさ。",
"一ぴきぐらいは食べたでしょう。",
"いや、食わない。",
"いいえ、食べたでしょう。生きたままで……。",
"冗談いっちゃいけない。"
]
] | 底本:「鷲」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年8月20日初版1刷発行
底本の親本:「異妖新篇―綺堂読物集第六巻」春陽堂
1933(昭和8)年2月
初出:「オール讀物」
1931(昭和6)年10月
※表題は底本では、「鰻《うなぎ》に呪《のろ》われた男《おとこ》」となっています。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年10月31日作成
2020年1月19日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045480",
"作品名": "鰻に呪われた男",
"作品名読み": "うなぎにのろわれたおとこ",
"ソート用読み": "うなきにのろわれたおとこ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「オール讀物」1931(昭和6)年10月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-12-06T00:00:00",
"最終更新日": "2020-01-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45480.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "鷲",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年8月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
"底本の親本名1": "異妖新篇—綺堂読物集第六巻",
"底本の親本出版社名1": "春陽堂",
"底本の親本初版発行年1": "1933(昭和8)年2月",
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"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
"校正者": "松永正敏",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45480_ruby_70102.zip",
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} |
[
[
"目撃した……、君は妹の臨終に立会ってくれたのかね。",
"君は美智子さんが、どうして死んだのか……。それをまだ知らないのか。"
],
[
"たしかに人の顔に見えたのか。",
"むむ。人の顔……。美智子さんのいう通りだ。"
]
] | 底本:「異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二」原書房
1999(平成11)年7月2日第1刷
初出:「日の出」
1934(昭和9)年8月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:網迫、土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "043542",
"作品名": "海亀",
"作品名読み": "うみがめ",
"ソート用読み": "うみかめ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「日の出」1934(昭和9)年8月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2005-08-18T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card43542.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二",
"底本出版社名1": "原書房",
"底本初版発行年1": "1999(平成11)年7月2日",
"入力に使用した版1": "1999(平成11)年7月2日第1刷",
"校正に使用した版1": "1999(平成11)年7月2日第1刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "網迫、土屋隆",
"校正者": "小林繁雄、門田裕志",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/43542_ruby_18789.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2005-06-26T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "0",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/43542_18865.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2005-06-26T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"まあ、静かにしても判るだろう。",
"ええ、判らないからこうするのだ。ええ、うるさい。お放しというのに……。"
],
[
"でも、おまえの怪我はどうだえ。痛むだろう。",
"なに、大したこともありません。多寡が打傷ですから。",
"じゃあ、まあ、あしたになっての様子にしよう。なにしろお前は少し横になっていたらいいだろう。"
],
[
"旦那も大かたそのつもりでしょう。",
"そうだろうねえ。"
],
[
"おまえはちっと道楽をするそうだが、近所の三十間堀の喜多屋という船宿を知っているだろう。",
"存じております。",
"おれも知っている。あすこにお安という小綺麗な女がいる……。いや、早合点するな。おれに取持ってくれというのではない。あの女のからだを借りたいのだ。"
],
[
"これほど言って聞かせても判らなければ、勝手にしろ。",
"勝手にします。あたしは死にます。"
],
[
"来るかも知れません。",
"こうと知ったら江の島なんぞへ来るのじゃあなかったねえ。",
"お安の叔母が藤沢にいるとは聞いてもいましたが、今じゃあすっかり忘れてしまって、うっかり来たのが間違いでした。",
"あしたは早朝にここを発って、鎌倉をまわって帰ろうよ。"
],
[
"お前さん、わたしと代って乗って御覧よ。ほんとうにいい心持だよ。",
"じゃあ、少し代らせてもらいましょうか。"
],
[
"ゆうべの雨で路はどうだ。",
"雨が強かったせいか、路は悪かあねえ。",
"それじゃあ牛も大助かりだ。"
],
[
"そりゃ困ったな。あの雨のふるのにどこへ行ったのだろう。",
"それを詮議しても素直に言わねえ。江戸の客を追っかけて江の島へ行ったらしいのだが……。",
"なにしろ大事にしろよ。",
"おお。"
],
[
"おまえの家はどこだ。",
"藤沢ですよ。少し遠いが、商売だから仕方がねえ。朝早くから牛を牽いて、鎌倉まで出て来ましたのさ。",
"おまえの姪は茶店でも出しているのかえ。",
"そうですよ。よく知っていなさるね。"
]
] | 底本:「蜘蛛の夢」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年4月20日初版1刷発行
初出:「富士」
1934(昭和9)年10月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:花田泰治郎
2006年5月7日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045502",
"作品名": "恨みの蠑螺",
"作品名読み": "うらみのさざえ",
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"初出": "「富士」1934(昭和9)年10月",
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"公開日": "2006-07-02T00:00:00",
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[
[
"案内は誰じゃ。",
"これは都の者でござりまする。御庵主に是非にお目にかからいでは叶わぬ用事ばしござりまして……。ここお明け下され。"
],
[
"お暇は取らせませぬ。およそ一晌、それもかなわずば半晌でも……。まげて御対面を折り入って頼みまする。御庵主、あるじの御坊……。",
"なんの用か知らぬが、ここは世捨てびとの庵じゃ。女子などのたずねて来るべき宿ではござらぬ。"
],
[
"それほどの用ばしあらば、その門はとざしてない筈じゃ。勝手にあけて通られい。",
"では、ごめんくだされ。"
],
[
"初対面の御坊の前で、まず我が身の身分苗字を名乗りませいではならぬ筈でござりまするが、しばらくお免し下さりませ。わたくしは都に屋敷を構えておりまする某武家の娘、少しくお願いの儀がござりまして……。",
"ほう。して、その願いとは……。和歌の添削でも乞わるるのかな。"
],
[
"御坊の筆ずさみとて、このごろ専ら世に持て囃さるる徒然草という草紙、わたくしもかねて拝見しておりまする。",
"つれづれなるままに、そこはかとなく書きつけた筆のすさびが、いつともなしに世に洩れて、諸人の眼にも触れ耳にも伝えられ、何やかやと物珍らしげに言い囃さるるは、近ごろ面目もない儀でござるよ。はははははは。",
"就きましては、かの草紙のうちに説かれましたる一、二ヵ条、おろかの者にも会得のまいるように委しくお説き明かしを願いたさに、かように推して参上つかまつりました。"
],
[
"くどくも言う通り、つれづれなるままの筆すさび、もとより人に見しょうとて書き留めたものでもなければ、あらためて説き明かすほどの理屈も法もござらぬが、ともかくも、わざわざ尋ねてまいられたからは、われらもおのれが知るだけのことはお話し申そう。して、御不審の条々は……。",
"まず御坊が、かの徒然草に書かれましたる中に『よろずにいみじくとも、色好まざらん男はいと騒騒しく、玉の巵のそこなき心地ぞすべき』と仰せられました。また『世の人の心まどわすこと色慾にしかず、人の心は愚なるものかな』と仰せられたを見ますれば、この道の余儀ないことは疾うに御存知かとも存じられまする。まだそればかりでなく『女の髪すじをよれる綱には大象もよく繋がれ、女のはける足駄にて作れる笛には秋の鹿も寄る』とも記されました。して見ますれば、われわれ有情の凡夫が色に狂い、恋に迷うも、まことに是非ない儀でござりましょうか。"
],
[
"甚だ見苦しいものじゃと存じ申すよ。さればかの草紙の中にも『四十歳にもあまりぬる人の色めきたるかた、おのずから忍びてあらんは如何はせん。言に打ち出でて男女のこと、人の上をも言い戯るるこそ、似げなく見苦しけれ』と書き申したわ。",
"その見苦しいをよく弁えながらも、心の駒の怪しゅう狂い乱れて、われと手綱を引きしめん術もなく、あやめも分かず迷う者の上には、老いも若きも差別はござりますまい。それを救うに良き方便がござりましょうか。"
],
[
"いえ、お前さまにはいと易いこと、文を書いてくださりませ。",
"文を書け、どのような文を書くのじゃ。",
"恋文でござりまする。",
"ほう、恋文……。それならばお身、自身にはなぜ書かれぬ。",
"わたくしの恋ではござりませぬ。"
],
[
"御坊は頓阿、浄弁、慶運の人々と相列んで、和歌の四天王と当世に申し囃さるるばかりか、文書くことは大うつ童、馬追う男も御坊日本一と申しておりまする。その御坊がつい一と筆さらさらとはしらするは、なんの雑作もないことでござりましょうに、ならぬと情のう仰せられまするか。",
"ならぬとは言わぬが、お身はそもいかなる人で、その文はいかようの趣意のものか。それを聞いた上ならでは……。",
"ごもっともでござりまする。さらばわたくしの身分、文の趣意をつつまず申し上げましたら、きっとお聞き済み下されまするか。",
"そりゃまだ判らぬ。ともかくも聞いた上のことじゃ。餌を投げいで魚を釣り寄せようとしても、そりゃ無理じゃ。試しに餌を下ろして見られい。"
],
[
"ほほう、敵にも味方にも鬼神のように恐れられている武蔵守殿が恋の病い、さりとは珍しいことじゃ。まして相手が人妻とあっては、当の御仁の悩み、はたの人々の心づかい、いかにもお察し申すよのう。就いてはお身、この兼好に恋文を書かせて、塩冶の内室に贈らしょうと思い立たれたのか。",
"さようでござりまする。それよりほかには父の病いを救う術もあるまいと存じまして……。初対面から押し付けがましゅうはござりまするが、父も哀れ、わたくしも不憫と思召されて、何とぞ快うお聞き済みのほどを、幾重にもお願い申しまする。"
],
[
"よい、よい。兼好たしかに頼まれ申した。われらもなま若い昔には人並に恋歌も詠んだ、恋文も書いた。しかし世捨てびとの今となって、なまめかしい恋文は手が硬張って能うは書かれまい。はははははは。それも折角のお頼みじゃで、われらも一度は書いて進ぜる。但し二度は無用じゃ。一度の文で相手の返しがあれば重畳、たといそれが梨の礫であろうとも、かさねて頼みには参られなよ。うき世のことが煩ささに、こうして隠れ栖んでいる身の上じゃ。二度が三度とたびかさなって、うき世のことにわずらわさるるは迷惑。それは最初から断わって置きまするぞ。よいか。",
"御迷惑は万々お察し申しておりますれば、かさねて御無理をお願い申しにはまいりませぬ。これは今度かぎり、一生に一度のお願いでござりまする。",
"では、すぐに書いて進ぜよう。然るべき料紙を持たれたか。"
],
[
"いずれ改めてお礼ながら、この歌の返しの有りや無しやもお知らせ申しにまいりまする。",
"いや、いや、それには及ばぬ。その返しがあればとて無ければとて、われらに取ってはなんの痛み痒みもないことじゃ。父の殿の御病気、せいぜい気をつけて御介抱なされい。"
],
[
"別に用もない。通りがかりに立ち寄られたのじゃ。して、お身はその女子のゆくえを尋ねてござったのか。",
"それがしは都の某武家の侍じゃ。主人の姫が誰にも知らさずに、二晌ほど前から屋敷を忍び出て、今に戻られぬ、忍びの物詣でかとも存ずれど、なんとやら不安に思われる節もあるので、それがしお跡をたずねて参ったところ、そのような風俗の上﨟が双ヶ岡の方角へ笠を深うして行かれたと教ゆる者がござったので、取りあえずこちらへ辿ってまいった。して、その姫はここへ立ち寄って、道を問われたか、但しは水か薬の所望か。どうでござった。",
"いや、そのようなことではない。",
"では、何しにまいられた。"
],
[
"して、姫はここを出ていずかたへ行かれた。",
"知れたことじゃ。京の方へ……。"
],
[
"一人で見えられたか。但しはほかに道連れでも……。",
"連れはない。その姫という人が戻られると、やがてあとから若い侍がたずねて来た。"
],
[
"今も言う通り、別々じゃ。姫はさき、侍はあと、唯それだけのことじゃよ。",
"しかと左様かな。",
"はて、入り代り立ち代り煩さいことじゃ。日は暮るる、京までは余ほどの路のりはある。もうよい程にして帰られい。"
],
[
"御坊、万一それが偽りであると知れたら、それがし重ねて詮議にまいるぞ。よいか。",
"よい、よい。いつまでもまいられい。"
],
[
"采女。迎いに来てたもったか。",
"姫のお行くえが俄かに知れぬとて、お館ではうろたえ騒いで、殿は密々に八方へ手分けして……。"
],
[
"そうじゃ。そなたには判らぬか。",
"判りませぬ。わたくしはお前さまのような博学の歌よみではござりませぬ。"
],
[
"それは迷惑。では、兼好にもならず、時頼にもならず、やはり今までの本庄采女で、いつまでも御奉公いたしまする。",
"それじゃ。それで無うては男の約束が反古になる。忘れまいぞ。"
],
[
"はっ。しかしこうしてお迎いにまいりしからは、道中の御警固つかまつりませいでは……。",
"いや、わたしの道連れは采女一人でよい。そなたは騎馬じゃ。足弱と連れ立っては迷惑であろう。ひと鞭あてて京へ急ぎゃれ。"
],
[
"いや、怖ろしいよりも憎うござる。弓矢を取っては怖ろしい奴ではござりませぬが、佞弁利口の小才覚者、何事を巧もうも知れませぬ。",
"ほほ、何を巧む。謀叛かの。",
"それほどの大胆者ではござりませぬ。ただ懸念なはお前さまを……。",
"わたしを……。わたしに恋か。ほほほほほほ。"
],
[
"いや、それほどの愚か者でもござりませぬ。",
"なりゃ、わたしに恋するは愚か者か。もう一度たしかに言うて見やれ。"
],
[
"おお、苦しゅうない。お身は優美の生まれ立ちじゃで、婿は公家かな。",
"いえ、そうではござりませぬ。",
"やはり武家か。では、桃井、山名、細川、まずはそこらかな。",
"違いまする。",
"はて、親をじらすな。悪い奴め。師直は気が短い。早う言え。"
],
[
"おお、いかにも朝夕は俄かに冷えて来たようじゃ。都の冬も近づいたわ。その冬空にむかって北国の南朝方が又もや頭をもたげたとかいうので、きのうも今日もその注進で忙がしい。したがってお見舞にも得参らぬが、父上はどうじゃ。",
"は、やはりいつもの通り……。"
],
[
"若殿、それがしが今日推参つかまつりましたは、ちと密々にお耳に入れ申したい儀がござりまして……。余の儀ではござりませぬ。姫上のおん身に就きまして……。",
"姫がなんとした。"
],
[
"大殿の思召しは存じませぬが……。",
"なりゃ、姫か。姫が不得心と申すことを其方たしかに聞いたか。",
"勿論、姫上の思召しを我々が直きじきに承わろう筈はござりませぬが、唯それがしが見とどけましたるところでは……。",
"むむ、何を見た。"
],
[
"かようの讒口めいたること、甚だ心苦しゅうござりまするが、一旦それがしの眼に止まりましたる以上、いたずらに見過ごしまするは却って不忠かとも存じますれば……。して、山名殿とは、しかとお約束なされましたか。",
"おお、わしはしかと約束した。和泉介はわしとも日ごろ仲好しじゃで、妹をくりょうと約束した。いや、和泉介ばかりでない、彼の父伊豆守にも言い聞かせたよ。",
"伊豆守も承知でござりまするか。"
],
[
"本庄采女……。どのような奴であったかのう。おお、思い出した。都落ちの平家の公達を見るような、なま白けた面の若侍であろうが……。かやつが妹と不義している……。たしかにそうか、相違ないな。",
"ひが眼かは存じませぬが、それがしは確かにそう見ました。"
],
[
"さりとて、積もっても見やれ。高武蔵守の娘、高三河守の妹を、氏も系図もない若侍にむざむざと呉れてやらりょうか。不憫でも無慈悲でも是非がない。姫を叱って……いや、とくと理解を加えて思い切らするまでじゃ。",
"して、采女は……。",
"成敗か。勘当か、二つに一つじゃが、まずは勘当かな。命を取るもあまりに無慈悲じゃ。いずれにしても権右衛門。よう教えてくれた。礼をいうぞ。但し今しばらくは父上の耳に入るるな。師冬が自分で埓をあくるわ。",
"然るびょうお願い申しまする。"
],
[
"お身にちと訊きたいことがある。さりとてこの廊下で立ち話もなるまい。お庭口まで出てたもらぬか。",
"なんの御用でござります。",
"はて、判らぬ人じゃ。ここでは話もならぬというに……。暇は取らせぬ。つい其処まで歩んでおくりゃれ。"
],
[
"聞けば異国の人のそうな。お身はまことに大明の生まれか。して、何のために此の国へは渡ってまいられた。",
"わたくしはまことに大明の人、福建というところで生まれました。わたくしは燕京の使いと一緒に日本へまいりました。"
],
[
"さりとは解せぬことじゃ。異国に生まれたお身が何のためにわたしをたずねてまいられた。",
"神のお告げでござる。"
],
[
"さりとは是非ない儀。実は御不在の間に大殿の御気色俄かにあしゅうならせられて……。",
"や、御病気が募られてか。",
"いや、御病気とはお見受け申されまぬが、何やら御機嫌が散々にならせられて、俄かに武者ぞろえの御用意を仰せ出されました。若殿へもそのお使いにまいりまする。"
],
[
"そ、それでござりまする。",
"それが何とした。"
],
[
"小坂部。遅かったぞ。兼好めは何と申した。",
"あいにくに不在でござりました。"
],
[
"又まいったとは……。誰が……。",
"さきほど途中で行き違いました異国の眇目の男が……。"
],
[
"なんという。あの異国の……あの眇目の男が……。ここの館へたずねて来たと……。",
"たずねて来たというでもござりますまいが、さっきから御門前をうろうろとさまようて、内を窺うているところを、お使いから戻られた采女どのが見咎めて……。"
],
[
"この事をわたくしが洩らしたなど、必ず仰せ下されますな。今の折り柄、どのようなお祟りを受きょうも知れません。",
"それはわたしも心得ています。"
],
[
"しかしその敵は……。",
"お身たちの知らぬことじゃ……。"
],
[
"もうよい。なんにも言うな。師冬の心も、おのれの心もみな判った。甥とはいいながら師冬は養い子じゃが、おのれは現在の生みの子で、兄と一致して父に刃向うとは……。おのれも勘当されたいか。",
"現在の娘なればこそ親の罪を救おうとて……。"
],
[
"どなたでござる。",
"それがしらは執事殿の館からまいった者。夜中の推参、憚りありとは存ずれど、何を申すも火急の用事じゃ。奥方に窃とお逢い申したい。これにあるは殿の御息女じゃ。"
],
[
"姫上。お怪我はござりませぬか。",
"そなたも無事か。"
],
[
"なんじゃ。あの物音は……。",
"塩冶の館へ討っ手かと存じまする。"
],
[
"あれほど申し聞けて置いたに、父上のおそばにいる者共、迂濶に立ち騒ぐとは何たることじゃ。就いては小坂部。いつまでもここに長居もなるまい。家来どもに申し付けて館まで送らしょうか。",
"いえ、それには及びませぬ。",
"いや、采女一人ではおぼつかない。四、五人の供を連れてゆけ。先刻のような狼藉者が再び襲いかかろうも知れん。"
],
[
"御用心なされませ。一大事でござりまするぞ。",
"塩冶どのへ討っ手のことか。",
"いえ、そればかりではござりませぬ。"
],
[
"汲んで来てたもるか。",
"すぐにまいりまする。"
],
[
"わたしも一緒に行きまする。",
"お身はあぶない。それがしが汲んで来るのを待っておいやれ。",
"いえ、その岸で汲みまする。"
],
[
"素直に別れて行くであろうか。",
"あくまでも執念く付きまとうて来ますれば、もう是非がござまりませぬ。不憫ながら討ち果たすまでのことでござりまする。"
],
[
"どうでもあの男と別れるならば、いっそ今の間に……。",
"それがよろしゅうござりまする。では、少しも早く……。"
],
[
"して、これからいずれへ……。",
"それは言うまい。どこへ行こうとわたしの勝手じゃ。さあ、邪魔せずにそこを退きゃれ。"
],
[
"では、どうでも御帰館のおん供を権右衛門に仰せ付け下さりませぬか。",
"くどいことを……。ならぬ言うに……。采女、来やれ。"
],
[
"清い水か。",
"はい。あちらの村から汲んでまいりました。",
"それはかたじけない。"
],
[
"水はまだ少しある。どなたかお飲みなされぬか。",
"おお、わしにくれ。"
],
[
"おお、いつの間にか播磨路まで……して、采女は……。",
"亡き人を伴うては道中の難儀、かしこに埋めてまいりました。",
"かしことは……。",
"采女殿の討たれた場所から程遠からぬ丘の上、古い社の池のほとりに……。",
"その時、わたしはなんにも知らなんだであろうか。",
"ただ夢見る人のようでござりました。"
],
[
"いや、京までは戻りませぬ。今も言うた采女の死に場所、その亡骸を埋めたところまで……。",
"戻ってなんとせられます。",
"戻って……ともかくも一度戻った上で……。"
],
[
"はは、くどくも言うようじゃが、お前たちの運命はわが手のうちじゃ。いかに燥っても狂うても、及ばぬ、及ばぬ。お身はその懐剣に手をかけてなんとする。お身はわれらの味方でないか。",
"なんの、味方……。"
],
[
"味方にならねばその身はほろぶる。侍従や采女がよい手本じゃ。",
"さてはお身が采女を殺したか。",
"わが手では殺さぬ。おのずと亡びゆく運命に導いたのじゃ。お身の父も叔父も兄弟も家来も、遅かれ速かれ皆それじゃ。お身は日頃から賢いに似合わず、なぜその道理が判らぬぞ。われらに一度魅まれて、眼に見えぬ糸につながれたが最後、いかにもがいても狂うても所詮かなわぬということがまだ覚られぬか。覚ったら速かに心をひるがえして我々の味方になられい。"
],
[
"お身はそれで満足かも知れぬが、親に叛き、夫と離れて、わたしに何の幸福があろう。お身にそれほどの大きい力があらば、死んだ采女は生かして返しゃれ。",
"ほう、安いこと。采女を生かして戻せば、お身はまことに味方になるか。"
],
[
"姫上……。",
"そなたもここに棲んでいるのか。",
"お前さまがお呼びなされば、いつでもまいりまする。",
"そばへは寄れぬか。",
"今はかないませぬ。それもやがては……。",
"やがてはそばへも寄らるるか。",
"お前さまの御修業一つで……。",
"修業とはなんの修業じゃ。",
"悪魔の業をお積みなされ。"
],
[
"それじゃ。それよりほかに逃がるる途もござるまい。しかし家来どもは何と申そうか。",
"勿論それには異論もあろう。さりとて今の場合じゃ。一時の方便にこの頭を剃り丸めたとて何があろう。時節が来れば再び還俗するまでじゃ。"
],
[
"われらはお身の息女に頼まれた。",
"息女……とは誰じゃ。",
"小坂部どのじゃ。"
],
[
"そのような奴にお構いなさるな。時刻が移れば、かの用意を……。",
"むむ。"
],
[
"なんと判りましたか。わたしも昔の小坂部ではござりませぬ。幾年の修業を積んで、今は人間ならぬ世界に棲んでいれば、世の盛衰、人の栄枯、手に取るように見えまする。殊にお前さまはわれわれに呪われている身の上、なんとしても逃がるる運ではござりませぬ。ただ潔よく今宵のうちに……。",
"どうでも師直に死ねというか。",
"どうでも死なねばなりませぬ。",
"それをおのれらが祈っているのか。"
],
[
"のう、小坂部。父と叔父とが大事な際じゃ。むかしの恨みは捨て置いて、今度だけは……。わしも共々に頼む。肯いてくりゃれ。",
"なりませぬ。"
],
[
"さらばお身、どうでもここを立ち去らぬというか。あくまでもこの城を我が物にしようと言うか。",
"勿論のことじゃ。わが弓矢の力で切り取ったこの国に、わが居城を築くがなんの不思議じゃ。今までここに棲んでいた主人というに免じて、おのれの命だけは助けてやる。それでも執念くさまよい居らば、おのれ生け捕って正体を見あらわしてくるるぞ。"
],
[
"して、おのれは何者じゃ。",
"はて、くどい。わたしは小坂部というものじゃ。"
]
] | 底本:「伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集」学研M文庫、学習研究社
2002(平成14)年3月29日初版発行
初出:「婦人公論」
1920(大正9)年10月号~
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:門田裕志
2011年12月4日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "048035",
"作品名": "小坂部姫",
"作品名読み": "おさかべひめ",
"ソート用読み": "おさかへひめ",
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"初出": "「婦人公論」1920(大正9)年10月号~",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2012-01-28T00:00:00",
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"名読み": "きどう",
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"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
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"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集",
"底本出版社名1": "学研M文庫、学習研究社",
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"矢田さん。",
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"あすこに何かいるようですね。"
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"おい、黙っていては判らない。君は土地の者かね。",
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"はい。"
],
[
"いいえ。",
"では、夜ふけにあすこへ行って、何をしていたのかな。"
],
[
"君はゆうべもあの池へ行ったかね。",
"いいえ。",
"なんでも正直に言ってくれないと困る。さもないと、わたしは職務上、君を引致しなければならないことになる。それは私も好まないことであるから、正直に話してくれ給え。ゆうべはともあれ、おとといの晩は何をしに行ったのだね。"
],
[
"あなたは今、冬坡君を何か調べておいでになったのですか。",
"うむ、少し訊きたいことがあって……。君にも訊きたいことがあるのだが、今夜わたしの家へ来てくれないか。",
"まいります。"
],
[
"降って来ました。今度はちっと積もるでしょう。",
"さっきの芸妓はなんという女だね。"
],
[
"そこで、結局どういうことになったのだね。",
"染吉とお照は一方に冬坡をいじめながら、一方には神信心をはじめました。殊にああいう社会の女たちですから、毎晩かの弁天さまへ夜詣りをして、恋の勝利を祈っていたのです。そのうちに誰が教えたか知りませんが、弁天さまは嫉妬深いから、そんな願掛けはきいてくれないばかりか、かえって祟りがあると言ったので、染吉はこの廿日ごろから夜詣りをやめました。お照も廿三四日頃からやはり参詣を見合せたそうです。すると、この廿五日の巳の日の晩に、二人がおなじ夢を見たのです。",
"夢をみた……。"
],
[
"お照は掘りに来なかったのだね。",
"お照がなぜすぐに来なかったのか、その子細はわかりません。商売が商売ですから、その晩はどうしても出られなかったのかも知れません。それでも次の日、すなわち昨日の夕方に冬坡を呼び出して、やはり一緒に行ってくれと言ったそうですが、冬坡はゆうべに懲りているので、夢なんぞはあてになるものではないからやめた方がいいと言って、とうとう断ってしまいました。それでもお照は思い切れないで、自分ひとりで弁天の祠へ行って、二本目の柳の下から鏡を掘出したのです。"
],
[
"染吉はそう言っているそうです。御承知の通り、岸の氷は厚いのですから、ただ突き落しただけでは溺死する筈はありません。まんなか辺まで引摺って行って突き落すか。それとも染吉が立去ったあとで、お照は水でも飲むつもりで真ん中まで這い出して行って、氷が薄いために思わず滑り込んだのか。あるいは大切な鏡を奪い取られたために、一途に悲観して自殺する気になったのか。それらの事情はよく判らないのですが、いずれにしても自分がお照を殺したも同然だといって、染吉は覚悟しているそうです。",
"覚悟している……。それでは自首するつもりかね。"
],
[
"冬坡はどこにいるね。",
"今はわたくしの家の奥座敷に置いてあるのです。うっかりした所にいると、染吉が付きまとって来て何をするか判りませんから。",
"よろしい。それではすぐに女を引挙げることにしよう。君の留守に、冬坡が又ぬけ出しでもすると困るから、早く帰って保護していてくれ給え。"
]
] | 底本:「異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二」原書房
1999(平成11)年7月2日第1刷
初出:「新青年」
1928(昭和3)年10月
入力:網迫、土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品名読み": "おしどりかがみ",
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"初出": "「新青年」1928(昭和3)年10月",
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[
[
"その姿は見えないのですが……。",
"一体どうしたというのだ。"
]
] | 底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年10月16日第1刷発行
2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「猫やなぎ」岡倉書房
1934(昭和9)年4月初版発行
初出:「朝日新聞」
1931(昭和6)年7月23~27日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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} |
[
[
"どうです。用がなければ、私の座敷へ遊びに来ませんか。",
"はあ。お邪魔に出ます。"
],
[
"ははあ。では、鹿児島本線視察というような訳ですな。",
"まあまあ、そんなわけです。",
"九州は初めてですか。",
"博多までは知っていますが、それから先は初旅です。"
],
[
"Sという旅館です。停車場からは少し遠い町はずれにあるが、土地では旧家だということで……。その次男は東京に出ていて、わたしと同じ学校にいたのです。",
"その次男という人は国へ帰っているのですか。",
"わたしと同時に卒業して、東京の雑誌社などに勤めていたのですが、家庭の事情で帰郷することになって、今では家の商売の手伝いをしています。",
"いつごろ帰郷したのですか。"
],
[
"あなたはS旅館の次男という人から何か聴いたことがありますか、あの旅館にからんだ不思議な話を……。",
"聴きません。S旅館の次男――名は芳雄といって、私とは非常に親しくしていましたが、自分の家について不思議な話なぞをかつて聴かせたことはありませんでした。一体それはどういう話です。",
"わたしも科学者の一人でありながら、真面目でこんなことを話すのもいささかお恥かしい次第であるが、とにかくこれは嘘偽りでない、わたしが眼のあたりに見た不思議の話です。S旅館も客商売であるから、こんなことが世間に伝わっては定めて迷惑するだろうと思って、これまで誰にも話したことは無かったのですが、あなたがその次男の親友とあれば、お話をしても差支えは無かろうかと思います。今もいう通り、それは不思議の話――まあ、一種の怪談といってもいいでしょう。お聴きになりますか。"
],
[
"普請の出来あがる前までは、ちっともおかしなことは無かったのですな。",
"御承知の通り、あすこの兄さんは手堅い一方のいい人です。娘たちもそれと同じように、子供の時からおとなしい、行儀のいい生れ付きであったのですから、本来ならば姉妹ともに今頃は相当のところへ縁付いて、立派なお嫁さんでいられる筈なのですが……。貧乏人の娘なら、いっそ酌婦にでも出してしまうでしょうが、あれだけの家では世間の手前、まさかにそんな事も出来ず、もちろん嫁に貰う人もなし、あんなことをしていて今にどうなるのか。考えれば考えるほど気の毒です。昔から魔がさすというのは、あの娘たちのようなのを言うのでしょうよ。"
],
[
"西山というのは此の土地の職人ですか。",
"鹿児島から出て来て、一年ほど前から親方の厄介になっていたんですが、曽田屋の普請が済むと、親方にも無断でふらりと立去ってしまって、それぎり音も沙汰もないそうです。たぶん鹿児島へでも帰ったんでしょう。",
"朝鮮だとか琉球だとかいうには、何か確かな証拠でもあるのですか。",
"さあ。証拠があるか無いか知りませんが、職人伸間ではみんなそう言っていたそうですから、何か訳があるんだろうと思います。"
],
[
"わたしは医者でないから確かなことは言えないが、素人が見て病気でないと思うような人間でも、専門の医者が見ると立派な病人であるという例もしばしばあるから、主人とも相談して念のために医者によく診察して貰ったらいいだろうと思うが……。",
"はい。"
],
[
"二つの人形は何を彫ったのですか。",
"それがまた怪奇なもので、どちらも若い女と怪獣の姿です。",
"怪獣……。",
"怪獣……。むかしの神話にも見当らないような怪獣……。むしろ妖怪といった方が、いいかも知れません。その怪獣と若い女……。こんな彫刻を写真に撮って、あなたの新聞にでも掲載してごらんなさい。たちまち叱られます。それで大抵はお察しくださいと言うのほかはありません。実に奇怪を極めたものです。そこで当然の問題は、いったい誰がこんな怪しからん物をこしらえて、この天井裏に隠して置いたかということですが……。あなたは誰の仕業だと鑑定します。"
],
[
"娘たちには隠して置こうとしたのですが、何分にも大勢が不思議がって騒ぎ立てるので、とうとう娘たちにも知れました。しかしその話を聴いただけで、別にその人形を見せてくれとも言わず、急に気分が悪いと言い出して、寝込んでしまいました。ふだんならば格別、あらしの被害で大手入れの最中、ふたりの病人が枕をならべて寝ていては困るので、ひとまず町の病院へ入れることにしましたが、姉妹ともに素直に送られて行きました。番頭や女中たちの話によると、半分眠っているようであったといいます。",
"その人形はどう処分しました。",
"家でも人形の処分に困って、いろいろ相談の結果、町はずれの菩提寺へ持って行って、僧侶にお経を読んでもらった上で、寺の庭先で焼いてしまうことにしたのです。それは娘たちが入院してから三日目のことで、この日も初秋らしい風が吹いて空は青々と晴れていました。読経が型の如くに済んで、一対の人形がようやく灰になった時に、病院から使いがあわただしく駈けて来て、姉妹は眠るように息を引取ったと言いました。",
"先生……。"
]
] | 底本:「鷲」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年8月20日初版1刷発行
初出:「オール讀物」
1934(昭和9)年7月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年10月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品名": "怪獣",
"作品名読み": "かいじゅう",
"ソート用読み": "かいしゆう",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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[
[
"お角さん……。お角さん……。",
"余一郎さん……。"
]
] | 底本:「綺堂随筆 江戸のことば」河出文庫、河出書房新社
2003(平成15)年6月20日初版発行
初出:「日曜報知 第百四十六號」
1933(昭和8)年3月12日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※「申候」と「申し候」の混在は、底本通りです。
入力:江村秀之
校正:noriko saito
2019年9月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネツトの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "056462",
"作品名": "怪談一夜草紙",
"作品名読み": "かいだんいちやぞうし",
"ソート用読み": "かいたんいちやそうし",
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"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
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"底本名1": "綺堂随筆 江戸のことば",
"底本出版社名1": "河出文庫、河出書房新社",
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} |
[
[
"誰に踏まれたの。",
"宇田川町を通ると、影や道陸神の子供達があたしの影を踏んで……。"
],
[
"馬鹿を言わずに早く奥へ行け。",
"詰まらないことを気におしでないよ。"
],
[
"風はないが、なかなか寒い。",
"寒うござんすね。",
"おせきちゃん、御覧よ。月がよく冴えている。"
],
[
"おまえさん、早く追って……。",
"畜生。叱っ、叱っ。"
],
[
"それは狐使いだということだ。あんな奴に祈祷を頼むと、かえって狐を憑けられる。",
"いや、その行者はそんなのではない。大抵の気ちがいでも一度祈祷をしてもらえば癒るそうだ。"
],
[
"え、骸骨の影が……。見違いじゃあるまいね。",
"あんまり不思議ですからよく見つめていたんですけれど、確かにそれが骸骨に相違ないので、わたしはだんだんに怖くなりました。わたしばかりでなく、うちの人の眼にも見えたというのですから、嘘じゃありません。"
]
] | 底本:「岡本綺堂 怪談選集」小学館文庫、小学館
2009(平成21)年7月12日初版第1刷発行
初出:「講談倶楽部」
1925(大正14)年9月
※「子供」と「子ども」の混在は、底本通りです。
※表題は底本では、「影《かげ》を踏《ふ》まれた女《おんな》」となっています。
※誤植を疑った箇所を、「近代異妖篇(綺堂読物集乃三)」春陽堂、1926(大正15)年10月25日発行の表記にそって、あらためました。
入力:江村秀之
校正:岡村和彦
2017年9月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "056160",
"作品名": "影を踏まれた女",
"作品名読み": "かげをふまれたおんな",
"ソート用読み": "かけをふまれたおんな",
"副題": "",
"副題読み": "",
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"初出": "「講談倶楽部」1925(大正14年)9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2017-10-15T00:00:00",
"最終更新日": "2017-09-24T00:00:00",
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"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "岡本綺堂 怪談選集",
"底本出版社名1": "小学館文庫、小学館",
"底本初版発行年1": "2009(平成21)年7月12日",
"入力に使用した版1": "2009(平成21)年7月12日初版第1刷",
"校正に使用した版1": "2009(平成21)年7月12日初版第1刷",
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"入力者": "江村秀之",
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[
[
"誰に踏まれたの。",
"宇田川町を通ると、影や道陸神の子供達があたしの影を踏んで……。"
],
[
"馬鹿をいはずに早く奥へ行け。",
"詰らないことを気におしでないよ。"
],
[
"風はないが、なか〳〵寒い。",
"寒うござんすね。",
"おせきちやん、御覧よ。月がよく冴えてゐる。"
],
[
"おまへさん、早く追つて……",
"畜生。叱つ、叱つ。"
],
[
"あれは狐使ひだと云ふことだ。あんな奴に祈祷を頼むと、却つて狐を憑けられる。",
"いや、その行者はそんなのではない。大抵の気ちがひでも一度御祈祷をして貰へば癒るさうだ。"
],
[
"え、骸骨の影が……。見違ひぢやあるまいね。",
"あんまり不思議ですから好く見つめてゐたんですけれど、確にそれが骸骨に相違ないので、わたしはだん〳〵に怖くなりました。わたしばかりでなく、内の人の眼にもさう見えたといふのですから、嘘ぢやありません。"
]
] | 底本:「日本幻想文学集成23 岡本綺堂 猿の眼 種村季弘編」国書刊行会
1993(平成5)年9月20日初版第1刷発行
底本の親本:「綺堂読物集・三」春陽堂
1926(大正15)年
入力:林田清明
校正:ちはる
2000年12月30日公開
2005年12月1日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "001308",
"作品名": "影を踏まれた女",
"作品名読み": "かげをふまれたおんな",
"ソート用読み": "かけをふまれたおんな",
"副題": "近代異妖編",
"副題読み": "きんだいいようへん",
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"初出": "「講談倶楽部」1925(大正14年)9月号",
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} |
[
[
"旦那さま。今のは栄之丞でねえかね",
"むむ。丁度ここで逢ったのも不思議だ",
"わしがゆうべ、あんなことを言ったから、この往来なかで喧嘩でもおっ始めるのじゃあねえかと思って内々心配していたが、だいぶ仲がよさそうに別れたね"
],
[
"いや、こっちはわたしひとりでもどうにかなる。結構な主人といったところで、どうで奉公、楽なわけにも行くまい。まあ辛抱しろ",
"それで、いつから参るのでございます",
"さあ、いつと決めて来たわけでもないが、むこうも歳暮から正月にかけて人出入りも多かろうし、なるべく一日も早いがいいだろう。お前の支度さえよければ、あしたにでも目見得に連れて行こう"
],
[
"いや、それにも及ぶまい。わたしからそのうちに知らせてやる。廓の者は無考えだから、お前の奉公さきへ返事などをよこされると迷惑だ。まあ止した方がよかろう",
"そうでございますねえ"
],
[
"嘘をつきなんし",
"隠すと、抓りんすによ"
],
[
"お話はよく判りました。出来ることやら出来ないことやら確かには判りませんが、身請けの儀は早速相談いたして見ましょう。但しその余分の金は、いかほどであろうとも手前が頂戴いたすわけには参りませんから、それは前もってお断わり申しておきます",
"ごもっともでございます。それはその時に又あらためて御相談をいたしましょう。まことに我儘なことばかり申し上げて相済みません"
],
[
"さっきもいう通り、来年の三月には国へ帰って身請けの金を持って来る",
"ほんとうざますか",
"嘘はつかない"
],
[
"兄さま。いいところへ……。もう少し前からお店の旦那さまがお出でになりまして……",
"そうか。それは丁度いい。兄がまいりましたと取次いでくれ"
],
[
"旦那がどうした",
"わたくしに暇を出すようにと、お内儀さんに言っているようで……"
],
[
"でも、兄さま。そのお金は……",
"心配するな。なんとかするから"
],
[
"もし兄さまからお話しがなさりにくければ、わたくしから手紙でもあげましょうか",
"それにも及ぶまい。どっちにしても何とか埒をあけるからくよくよするな。胸に屈託があると粗匇をする。奉公を専一に気をつけろ"
],
[
"愛想がつきたというじゃあないが、あんまり近寄るとお互いのためになるまいと思うからだ",
"なぜお互いのためになりんせんえ",
"身請けの相談などが始まろうという時に、私たちがしげしげ逢うのはよくない",
"嘘をつきなんし。その相談の始まらない遠い昔から、ちっとも寄り付かないじゃありいせんか。ぬしにはたんと恨みがおざんす"
],
[
"久しくたよりを聞きなんせんが、妹御さんはお達者でおすかえ",
"お光は橋場の方へ奉公にやった",
"奉公に……。さぞ辛いこっておざんしょうに……。よく辛抱していなんすね"
],
[
"いや、お言葉ではございますが、当節のわたくしに何百両という金の才覚の届こう筈はございません。それは八橋もよく知っております。金の出どころ、身請け人の身許を正直に打明けませんでは、とても得心いたすまいと存じまして……",
"それはよろしい。判っています。身請けの相手が次郎左衛門ということを隠して下さるには及ばない。しかし次郎左衛門の身代の潰れたことまでは……。いや、それもどうで遅かれ早かれ知れることで、秘し隠しにしようとするのは卑怯というもの。わたしが自身の口からは言いにくいことを、いっそあなたが打明けて下されば却って仕合せかも知れません。今のは言い過ぎで、どうぞ悪しからず思ってください"
],
[
"さような御無体を申し掛けられましては……",
"よし、よし。もうなんにも言うことはねえ。こっちでももう聴かねえから、黙ってけえれ。ただひとこと言って聞かして置くが、八橋はもう貴様の起請を灰にしてしまったぞ"
],
[
"この頃もやっぱり八橋さんのところへお出でにならないのですか",
"むむ。行こうとは思っているが……。行ってもおもしろくないから"
],
[
"この頃はどうなされたかとお噂ばかり致しておりました。浮橋さんの噂では、ひょっとするとお国へお帰りなすったのかなど申しておりましたが、やはりまだ御逗留でござりましたか。八橋さんの花魁もさぞお待ちかねでござりましょう。まあどうぞお二階へ……",
"いや、急に暖かくなったせいか、駕籠にゆられてなんだか頭痛がする。少しここで休ませてもらおうか"
],
[
"あ、これ、わたしは少し都合があって、今夜はここで帰るかも知れないから、八橋をここへ呼んでくれまいか",
"まあ、そんなことを仰しゃりますな。茶屋で帰るという法はござりますまい"
]
] | 底本:「江戸情話集」光文社時代小説文庫、光文社
1993(平成5)年12月20日初版1刷発行
入力:tatsuki
校正:かとうかおり
2000年6月12日公開
2008年10月3日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "000476",
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"作品名読み": "かごつるべ",
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} |
[
[
"河鹿がどうしたんだ。何かその河鹿に就いて一種の思い出があるとかいうわけなんだね。",
"まあ、そうだ。実はその河鹿が直接にどうしたという訳でもないんだがね。僕がやっぱりここの宿へ来て、河鹿の声を聞いた晩に起った出来事なんだ。僕は箱根の中でもここが一番好きだから、もうこれで八年ほどつづけて来ている。大抵は七八月の夏場か十月十一月の紅葉の頃だが、五年前にたった一度、六月の梅雨頃にここへ来たことがある。いつでもこの頃は閑な時季だが、とりわけてその年は、どこの宿屋も閑散だとかいうことで、僕の泊っていたこの宿も滞在客は僕ひとりという訳さ。お寂しうございましょうなどと宿の者はいっていたが僕はむしろ寂しいのを愛する方だから、ちっとも驚ろかない。奥二階の八畳の座敷に陣取って、雨に烟る青葉を毎日ながめながら、のんびりした気持で河鹿の声を聞いたのさ。いや、実をいうと、僕はそれまで河鹿の声などというものに対して特別の注意を払っていなかった。毎日聞いていれば、別にめずらしくもないからね。ところが、僕よりも一週間ほどおくれて、三人づれの女客がここの宿へ入込んで来た。ほかに滞在客は無し、女ばかりでは寂しいというのでわざわざ僕の隣を選んで六畳と四畳半の二間を借りることになったのだ。",
"みんな若いのかい。",
"むむ、二人は若かった。ひとりは女中らしい二十歳ばかりの女で、一人は十六ぐらいのお嬢さん、もう一人はこの阿母さんらしい四十前後の上品な奥さんで、みんな寡言なつつましやかな人達だから、僕の隣りにいるとはいうものの、廊下や風呂場で出会ったときにただ簡単な挨拶をするだけのことで、となり同士なんの交渉もなかった。",
"交渉があっちゃあ大変だ。"
]
] | 底本:「怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集 青蛙堂奇談」ちくま文庫、筑摩書房
2001(平成13)年2月7日第1刷発行
2001(平成13)年3月10日第2刷発行
底本の親本:「岡本綺堂読物選集第2巻 木曽の旅人」東京ライフ社
1956(昭和31)年
初出:「婦人公論」
1921(大正10)年7月号
※初出時の表題は「隣座敷の声」です。
入力:江村秀之
校正:持田和踏
2022年9月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "056161",
"作品名": "河鹿",
"作品名読み": "かじか",
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"初出": "「婦人公論」1921(大正10)年7月号",
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"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"姓読み": "おかもと",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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"底本名1": "怪奇探偵小説傑作選1 岡本綺堂集 青蛙堂奇談",
"底本出版社名1": "ちくま文庫、筑摩書房",
"底本初版発行年1": "2001(平成13)年2月7日第1刷",
"入力に使用した版1": "2001(平成13)年3月10日第2刷",
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"底本の親本名1": "岡本綺堂読物選集第2巻 木曽の旅人",
"底本の親本出版社名1": "東京ライフ社",
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} |
[
[
"大事の御用だ。一生懸命に仕つれ。",
"かしこまりました。"
],
[
"相違ござりませぬ。",
"深い淵の底にはいろいろのものが棲んでいる。よもや大きい魚や亀などを見あやまったのではあるまいな。",
"いえ、相違ござりませぬ。"
],
[
"では、おれひとりで行って来る。",
"どうしても今夜行くのか。",
"むむ、どうしても行く。"
]
] | 底本:「異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二」原書房
1999(平成11)年7月2日第1刷
初出:「みつこし」
1925(大正14)年2月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:網迫、土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "043544",
"作品名": "鐘ヶ淵",
"作品名読み": "かねがふち",
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"初出": "「みつこし」1925(大正14)年2月",
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"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二",
"底本出版社名1": "原書房",
"底本初版発行年1": "1999(平成11)年7月2日",
"入力に使用した版1": "1999(平成11)年7月2日第1刷",
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"入力者": "網迫、土屋隆",
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[
[
"死にました。なにしろ倒れているのを往来の者が見付けたんですから、どうして殺されたのか判りませんが、時節柄のことですからやっぱり辻斬りでしょう。ふだんから正直な奴でしたが、可哀そうなことをしましたよ。それはまあ災難としても、ここに不思議な事というのは、その善吉も兜をかかえて死んでいたんです。",
"おまえはその兜を見たか。"
],
[
"それが今になると思い当ることがあるんです。御成道の道具屋の女房はこの七月に霍乱で死にました。",
"それは暑さに中ったのだろう。",
"暑さにあたって死ぬというのが、やっぱり何かの祟りですよ。"
],
[
"なんの商売をしている。",
"ひと仕事などを致しております。"
],
[
"それでは甚だ勝手がましゅうございますが、お金の代りにおねだり申したい物がございますが……。",
"大小は格別、そめほかの物ならばなんでも望め。",
"あのお兜をいただきたいのでございます。"
],
[
"ああ、あれか。あれは途中で拾って来たのだ。",
"どこでお拾いなさいました。",
"根岸の路ばたに落ちていたのだ。どういう料簡で拾って来たのか、自分にもわからない。"
],
[
"その兜は一度わたしの家にあった物だ。それがどうしてか往来に落ちていたので、つい拾って来たのだが、あんなものを持ち歩いていられるものではない。欲しければ置いて行くぞ。",
"ありがとうございます。"
]
] | 底本:「鷲」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年8月20日初版1刷発行
初出:「週刊朝日」
1928(昭和3)年7月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年10月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "045482",
"作品名": "兜",
"作品名読み": "かぶと",
"ソート用読み": "かふと",
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"初出": "「週刊朝日」1928(昭和3)年7月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-12-06T00:00:00",
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"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
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"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
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"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年8月20日",
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"校正に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
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"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
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[
[
"向田大尉がゆうべ火薬庫のそばで殺されたそうだ。",
"いや、大尉じゃない。狐だそうだ。"
],
[
"狐が大尉殿に化けたのですか。",
"そうであります。司令部にかつぎ込んだ時には、たしかに大尉殿であったのです。それがいつの間にか狐に変ってしまったのです。"
],
[
"なぜです。",
"悪い弟を持ったんでね。"
]
] | 底本:「蜘蛛の夢」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年4月20日初版1刷発行
初出:「子供役者の死」隆文館
1921(大正10)年3月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:花田泰治郎
2006年5月7日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045503",
"作品名": "火薬庫",
"作品名読み": "かやくこ",
"ソート用読み": "かやくこ",
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"原題": "",
"初出": "「子供役者の死」隆文館、1921(大正10)年3月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-06-23T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45503.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "蜘蛛の夢",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
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"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
"校正者": "花田泰治郎",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"なにが怖い。お父さんはここにいるから大丈夫だ。",
"だって、怖いよ。お父さん。"
],
[
"いいえ、そうじゃないよ。怖い、怖い。",
"ええ、うるさい野郎だ。そんな意気地なしで、こんなところに住んでいられるか。そんな弱虫で男になれるか。"
],
[
"お前さんはどっちの方から来なすった。",
"福島の方から。",
"これからどっちへ……。",
"御嶽を越して飛騨の方へ……。"
],
[
"酒ですか。飲みますとも……。大好きですが、こういう世の中にいちゃ不自由ですよ。",
"それじゃあ、ここにこんなものがあります。"
],
[
"どうです。寒さしのぎに一杯やったら……。",
"結構です。すぐに燗をしましょう。ええ、邪魔だ。退かねえか。"
],
[
"やあ、酒の御馳走があるのか。なるほど運がいいのう、旦那、どうも有難うごぜえます。",
"いや、お礼を言われるほどにたくさんもないのですが、まあ寒さしのぎに飲んでください。食い残りで失礼ですけれど、これでも肴にして……。"
],
[
"仕様がねえ。弥七、お前はもう犬を引っ張って帰れよう。",
"むむ、長居をするとかえってお邪魔だ。"
],
[
"今の鉄砲の音はなんですか。",
"猟師が嚇しに撃ったんですよ。",
"嚇しに……。"
],
[
"えてものとは何です。猿ですか。",
"そうでしょうよ。いくら甲羅経たって人間にゃかないませんや。"
],
[
"折角ですが、それはどうも……。",
"いけませんか。"
],
[
"では、福島の方へ引っ返しましょう。そしてあしたは強力を雇って登りましょう。",
"そうなさい。それが無事ですよ。",
"どうもお邪魔をしました。"
],
[
"あの人、きっとお化けだよ。人間じゃないよ。",
"どうしてお化けだと判った。"
],
[
"今ここへ二十四五の洋服を着た男は来なかったかね。",
"まいりました。",
"どっちへ行った。"
],
[
"すると、あとから来た筒袖の男がその探偵なんですね。",
"そうです。前の洋服がその女殺しの犯人だったのです。とうとう追いつめられて、ピストルで探偵を二発撃ったがあたらないので、もうこれまでと思ったらしく、今度は自分の喉を撃って死んでしまったのです。"
]
] | 底本:「異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二」原書房
1999(平成11)年7月2日第1刷
初出:「文藝倶樂部」
1897(明治30)年
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:網迫、土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "043574",
"作品名": "木曽の旅人",
"作品名読み": "きそのたびびと",
"ソート用読み": "きそのたひひと",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「文藝倶樂部」1897(明治30)年",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2005-08-21T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二",
"底本出版社名1": "原書房",
"底本初版発行年1": "1999(平成11)年7月2日",
"入力に使用した版1": "1999(平成11)年7月2日第1刷",
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} |
[
[
"旦那、徳がとうとう死にましたよ。",
"徳さん……。左官屋の徳さんが……。",
"ええ、けさ死んだそうで、今あの書生さんから聞きましたから、これからすぐに行ってやろうと思っているんです。なにしろ、別に親類というようなものも無いんですから、みんなが寄りあつまって何とか始末してやらなけりゃあなりますまいよ。運のわるい男でしてね。"
],
[
"ええ、けさ七時頃に……。",
"あなたのところの先生に療治して貰っていたんですか。",
"そうです。慢性の腎臓炎でした。わたしのところへ診察を受けに来たのは先月からでしたが、何でもよっぽど前から悪かったらしいんですね。先生も最初からむずかしいと云っていたんですが、おととい頃から急に悪くなりました。",
"そうですか。気の毒でしたね。",
"なにしろ、気の毒でしたよ。"
],
[
"うまいねえ。",
"上手だねえ。",
"そりゃほんとの役者だもの。"
],
[
"ええ、気ちがいがまたあばれ出したんですよ。急に暑くなったんで逆上せたんでしょう。",
"お玉さんですか。",
"もう五、六年まえから可怪いんですよ。"
],
[
"お玉は病院へ行ってから、からだはますます丈夫になって、まるで大道臼のように肥ってしまいましたよ。",
"病気の方はどうなんです。"
],
[
"なにしろ貸座敷が無くなったので、すっかり寂れてしまいましたよ。",
"そうかねえ。"
],
[
"その頃は町もたいそう賑やかだったと、年寄りが云いますよ。",
"つまり筑波の町のような工合だね。",
"まあ、そうでしょうよ。"
],
[
"旦那、気をおつけなさい。こういう陰った日には山蛭が出ます。",
"蛭が出る。"
],
[
"旦那は妙義神社の前に田沼神官の碑というのが建っているのをご覧でしたろう。あの人は可哀そうに斬り殺されたんです。明治三十一年の一月二十一日に……。",
"どうして斬られたんだね。",
"相手はまあ狂人ですね。神官のほかに六人も斬ったんですもの。それは大変な騒ぎでしたよ。"
],
[
"やあ、あなたもですか。",
"これはいい道連れが出来ました。"
],
[
"その姿は見えないのですが……。",
"一体どうしたというのだ。"
],
[
"あなたは酒を飲みませんか。",
"飲みません。",
"わたくしも若いときには少し飲みましたが、年を取っては一向いけません。この徳利も退屈しのぎに列べてあるだけで……。",
"ふだんはともあれ、花見の時に下戸はいけませんね。"
],
[
"ああ、いい天気だ。こんな花見日和は珍らしい。わたくしはこれから向島へ廻ろうと思うのですが、御迷惑でなければ一緒にお出でになりませんか。たまには年寄りのお附合いもするものですよ。",
"はあ、お供しましょう。"
],
[
"さあ、入相がボーンと来る。これからがあなたがたの世界でしょう。年寄りはここでお別れ申します。",
"いいえ、わたしも真直ぐに帰ります。"
]
] | 底本:「綺堂むかし語り」光文社時代小説文庫、光文社
1995(平成7)年8月20日初版1刷発行
※「纏」と「纒」の混在は、底本通りです。
入力:tatsuki、『鳩よ!』編集部(「ゆず湯」のみ)
校正:松永正敏
2001年10月15日公開
2011年10月8日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "001306",
"作品名": "綺堂むかし語り",
"作品名読み": "きどうむかしがたり",
"ソート用読み": "きとうむかしかたり",
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"初出": "",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"公開日": "2001-10-15T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
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"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "綺堂むかし語り",
"底本出版社名1": "光文社時代小説文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1995(平成7)年8月20日",
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} |
[
[
"はい。",
"まことに無理なことだけれどもね。お前、後生だから承知しておくれでないか。定めて怖ろしい女だと思うかもしれないが、妾の身にもなっておくれ。お前も大抵知っているだろうが忠七と妾との仲を引き分けて、気に染まない婿を無理に取らせたのは、皆阿母さんが悪い。ここの家へお嫁に来てから足掛け三十年の間に、仕度三昧の道楽や贅沢をして、阿母さんは白子屋の身上を皆な亡くして了った。その身上を立直す為に、妾はとうとう人身御供にあげられて忌な婿を取らなければならないことになった。思えば思うほど阿母さんが怨めしい、憎らしい。世間には親の病気を癒す為に身を売る娘もあるそうだが、寧そその方が優であったろう。"
],
[
"判りました。よろしゅうございます。",
"え。それでは聞いてくれるの。"
]
] | 底本:「文藝別冊[総特集]岡本綺堂」河出書房新社
2004(平成16)年1月30日発行
初出:「婦人公論」
1917(大正6)年6月号
※誤植を疑った箇所を、初出を底本としている「三浦老人昔話 ――岡本綺堂読物集一」中公文庫、中央公論新社、2012(平成24)年6月25日発行の表記にそって、あらためました。
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年5月9日作成
2020年1月15日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "048030",
"作品名": "黄八丈の小袖",
"作品名読み": "きはちじょうのこそで",
"ソート用読み": "きはちしようのこそて",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「婦人公論」1917(大正6)年6月号",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-06-02T00:00:00",
"最終更新日": "2020-01-15T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card48030.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "文藝別冊[総特集]岡本綺堂",
"底本出版社名1": "河出書房新社",
"底本初版発行年1": "2004(平成16)年1月30日",
"入力に使用した版1": "2004(平成16)年1月30日",
"校正に使用した版1": "2004(平成16)年1月30日",
"底本の親本名1": "",
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"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "川山隆",
"校正者": "noriko saito",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/48030_ruby_70094.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2020-01-15T00:00:00",
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"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "1",
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"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"はい。鮫洲までまいります。",
"鮫洲か。じゃあ、もう直ぐそこだ。"
],
[
"杖はないのだね。",
"包みを抱えておりますので、杖は邪魔だと思いまして……。"
],
[
"それにしても、なぜ私たちのあとを追っかけて来るのだ。ひとりでは寂しいのかえ。",
"はい。日が暮れると、ここらは不用心でございます。わたくしは少々大事な物をかかえておりますので……。"
],
[
"姉さん。このおめでたい矢先に、こんなことを申上げるのもどうかと思いますけれど、少し変なことを聞き込みましたので……。",
"変な事とは……。"
],
[
"ところが、まったく二代は続いていないのです。井戸屋の家には子育てがない。子供が生れてもみんな死んでしまうので、いつも養子に継がせているそうです。それですから、井戸屋の家はあの通り立派に続いているけれども、代々の相続人はみな他人で、おなじ血筋が二代続いていないのです。",
"そんなら身内から養子を貰えばいいじゃありませんか。そうすれば、血筋が断える筈がないのに……。"
],
[
"変だねえ。",
"変ですよ。",
"そのばあさんというのが祟っているのかしら。",
"まあ、そういう噂ですがね。"
],
[
"唯ちょいと行ってみたいのです。決して御心配をかけるような事はありません。",
"それじゃあわたしも一緒に行くが、いいかえ。"
],
[
"だって、お医者も取揚げ婆さんもそう言うのに、おまえ一人がどうして明日と決めているの。",
"ええ、あしたです。きっとあしたの日暮れ方です。",
"あしたの日暮れ方……。",
"おっ母さんはおととしの事を忘れましたか。あしたは九月の二十四日ですよ。"
],
[
"実は私にも同じことを言いました。医者も取揚げ婆さんも今月の末頃だというのに、当人はどうしても、あしたの日暮れ方だと言い張っているのは、何だかおかしいように思われますが……。",
"そうですねえ。"
]
] | 底本:「鷲」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年8月20日初版1刷発行
初出:「富士」
1934(昭和9)年10月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくってい ます。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年10月31日作成
2007年9月5日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045483",
"作品名": "経帷子の秘密",
"作品名読み": "きょうかたびらのひみつ",
"ソート用読み": "きようかたひらのひみつ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-12-06T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45483.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "鷲",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年8月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
"校正者": "松永正敏",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45483_ruby_24512.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2007-09-05T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "1",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45483_24686.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2007-09-05T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"どうして蜿り込んだか知らねえが、大層な目方でせうね。",
"おれは永年この商売をしてゐるが、こんなのを見たことがねえ。どこかの沼の主かも知れねえ。"
]
] | 底本:「日本の名随筆 別巻64 怪談」作品社
1996(平成8)年6月25日第1刷発行
底本の親本:「綺堂随筆」青蛙房
1956(昭和31)年7月
入力:土屋隆
校正:門田裕志
2006年3月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"作品ID": "001313",
"作品名": "魚妖",
"作品名読み": "ぎょよう",
"ソート用読み": "きよよう",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字旧仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-04-05T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card1313.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "日本の名随筆 別巻64 怪談",
"底本出版社名1": "作品社",
"底本初版発行年1": "1996(平成8)年6月25日",
"入力に使用した版1": "1996(平成8)年6月25日第1刷",
"校正に使用した版1": "1996(平成8)年6月25日第1刷",
"底本の親本名1": "綺堂随筆",
"底本の親本出版社名1": "青蛙房",
"底本の親本初版発行年1": "1956(昭和31)年7月",
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"底本初版発行年2": "",
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"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "土屋隆",
"校正者": "門田裕志",
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"テキストファイル最終更新日": "2006-03-20T00:00:00",
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"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"どうして蜿り込んだか知らねえが、大層な目方でしょうね。",
"おれは永年この商売をしているが、こんなのを見たことがねえ。どこかの沼の主かも知れねえ。"
]
] | 底本:「鎧櫃の血」光文社文庫、光文社
1988(昭和63)年5月20日初版1刷発行
1988(昭和63)年5月30日2刷
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年6月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045496",
"作品名": "魚妖",
"作品名読み": "ぎょよう",
"ソート用読み": "きよよう",
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"公開日": "2006-07-04T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
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"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
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"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "鎧櫃の血",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1988(昭和63)年5月20日",
"入力に使用した版1": "1988(昭和63)年5月30日2刷",
"校正に使用した版1": "1988(昭和63)年5月20日初版1刷",
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"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"そうかえ。叔父さんがそんな女と一緒に……。家へは寄って行かなかったよ。",
"じゃあ、阿母さんは知らないの。",
"ちっとも知らなかったよ。"
],
[
"おまえ、叔母さんの話をきいていたかえ。",
"声はきこえても、何を話しているのか判りませんでした。"
],
[
"家のおっかさんがゆうべお前さんのとこへ行ったでしょう。",
"ええ、来てよ。",
"どんな話をして……。"
],
[
"会津屋のさあちゃんが何処へか行ってしまったとさ。",
"あら、さあちゃんが……。どうして……。"
],
[
"さあちゃんは何処かの若い人と仲よくしていたかしら。おまえ、知らないかえ。",
"そんなことは……。あたし知りませんわ。",
"ほんとうに知らないかえ。"
],
[
"今、帰る途中で聞いたらば、さっきの死骸は自身番へ運んで行ったが、まだ御検視が済まないそうだよ。",
"どこの人でしょうねえ。"
],
[
"それにしても、まさかに叔父さんがその相手じゃあるまい。",
"そうでしょうねえ。"
],
[
"叔母さんはどうして……。",
"叔母さんは市ヶ谷から帰って来たけれど……。いよいよぼんやりしてしまって、本当に気の毒でならない。今度は叔母さんが気でも違やあしないかと思うと、心配だよ。"
],
[
"まあちゃん、お前さんにまで心配をかけて済みませんね。叔父さんは帰って来ないし、さあちゃんも行くえが知れないし、おまけにあんな奴が呶鳴り込んで来るし、わたしももうどうしていいか判らないんだよ。",
"あの人はどこの人です。",
"あれは新宿のよい辰というんだとさ。よいよいの言う事だからよく判らないけれど、内の叔父さんがその娘のお春というのを引っ張り出して、それがためにお春が石切横町で雷に撃たれて死んだというので、ここの家へ文句を言いに来たんだが、わたしはなんにも知らない事だし、相手がかみなり様じゃあどうにもならないじゃあないか。",
"そうですねえ。"
]
] | 底本:「蜘蛛の夢」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年4月20日初版1刷発行
初出:「文藝倶楽部」
1927(昭和2)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:花田泰治郎
2006年5月7日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045504",
"作品名": "蜘蛛の夢",
"作品名読み": "くものゆめ",
"ソート用読み": "くものゆめ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「文藝倶楽部」1927(昭和2)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-06-23T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45504.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "蜘蛛の夢",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
"底本の親本名1": "",
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"底本出版社名2": "",
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"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
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"テキストファイル最終更新日": "2006-05-07T00:00:00",
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} |
[
[
"この通りの山奥で、朝夕はずいぶん冷えます。それでもまだこの頃はよろしいが、十一月十二月には雪がなかなか深くなって、土地なれぬ人にはとても歩かれぬようになります。",
"雪はどのくらい積もります。",
"年によると、一丈も積もることがあります。"
],
[
"さようでございます。",
"わたしもお江戸へは三度出たことがありましたが、実に繁昌の地でござりますな。",
"三度も江戸へお下りになったのでございますか。"
],
[
"では、鎌倉へは御修業にお出でなされたのでございますか。",
"わたしが十一のときに、やはり大垣から越前を越えてゆくという旅の出家が一夜の宿をかりました。その出家がわたしの顔をつくづく見て、おまえも出家になるべき相がある。いや、どうしても出家にならなければならぬ運命があらわれている。わたしと一緒に鎌倉へ行って、仏門の修業をやる気はないかと言われたのでござります。わたしはまだ子供で世間の恋しい時でもあり、かねて名を聞いている鎌倉というところへ行ってみたさに、その出家に連れて行ってもらうことにしました。親たちもまたこんな山奥に一生を送らせるよりも、京鎌倉へ出してやった方が当人の行く末のためでもあろう。たとい氏素姓のない者でも、修業次第であっぱれな名僧智識にならぬとも限らぬと、そんな心から承知してわたしを手離すことになったのでした。あとで知ったのですが、その出家は鎌倉でも五山の一つという名高い寺のお住持で、京登りをした帰り路に、山越えをして北陸道を下らるる途中であったのです。お師匠さま――わたしはそのあくる日からお弟子になったのです――は私をつれて、越前から加賀、能登、越中、越後を経て、上州路からお江戸へ出まして……。いや、こんなことはくだくだしく申上げるまでもありませぬ。わたしはその時に初めてお江戸を見物しまして、七日あまり逗留の後に鎌倉へ帰り着きました。それからその寺で足掛け十六年、わたしが二十六の年まで修業を積みまして、生来鈍根の人間もまず一人並の出家になり済ましたのでござります。"
],
[
"ここから一里半ほども手前に一軒家がありまして、そこに泊めてもらいました。",
"坊さまひとりで住んでいる家か。"
],
[
"あの声は、……。あの忌な声はいったいなんですね。",
"まったく忌な声だ。あの声のために親子三人が命を取られたのだからな。"
],
[
"妹のことも知っていなさるのか。では、坊さまは何もかも話したかな。",
"いいえ、ほかにはなんにも話しませんでしたが……。してみると、あの声には何か深い訳があるのですね。",
"まあ、まあ、そうだ。"
],
[
"知りません。",
"その黒ん坊が話の種だ。"
],
[
"おれはこの蔓を腰に巻き付けるから、お前たちは上から吊りおろしてくれ。",
"どこへ降りるのだ。",
"谷へ降りて、あの骸骨めを叩き落してしまうのだ。",
"あぶないから止せよ。木の枝が折れたら大変だぞ。",
"なに、大丈夫だ。女房の仇、娘のかたきだ。あの骸骨をあのままにして置く事はならねえ。"
]
] | 底本:「鷲」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年8月20日初版1刷発行
底本の親本:「異妖新篇―綺堂読物集第六巻」春陽堂
1933(昭和8)年2月
初出:「文藝倶楽部」
1925(大正14)年7月
※表題は底本では、「くろん坊《ぼう》」となっています。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年10月31日作成
2020年1月20日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045485",
"作品名": "くろん坊",
"作品名読み": "くろんぼう",
"ソート用読み": "くろんほう",
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"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「文藝倶楽部」1925(大正14)年7月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-12-06T00:00:00",
"最終更新日": "2020-01-20T00:00:00",
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"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "鷲",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年8月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年8月20日初版1刷",
"底本の親本名1": "異妖新篇—綺堂読物集第六巻",
"底本の親本出版社名1": "春陽堂",
"底本の親本初版発行年1": "1933(昭和8)年2月",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
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"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
"校正者": "松永正敏",
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"テキストファイル最終更新日": "2020-01-20T00:00:00",
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"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
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"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"あなた、その鯉をどうするの。",
"おお、師匠か。どうするものか、料って食うのよ。",
"そんな大きいの、うまいかしら。",
"うまいよ。おれが請合う。"
],
[
"和泉屋か。なぜ留める。",
"それほどの物をむざむざお料理はあまりに殺生でござります。",
"なに、殺生だ。",
"きょうはわたくしの志す仏の命日でござります。どうぞわたくしに免じて放生会をなにぶんお願い申します。"
],
[
"おめえは常磐津の師匠か。文字友、弥三郎はここにいるのか。",
"いいえ。",
"ええ、隠すな。御用だ。"
]
] | 底本:「鎧櫃の血」光文社文庫、光文社
1988(昭和63)年5月20日初版1刷発行
1988(昭和63)年5月30日2刷
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年6月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045486",
"作品名": "鯉",
"作品名読み": "こい",
"ソート用読み": "こい",
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"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-07-04T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card45486.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "鎧櫃の血",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1988(昭和63)年5月20日",
"入力に使用した版1": "1988(昭和63)年5月30日2刷",
"校正に使用した版1": "1988(昭和63)年5月20日初版1刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
"校正者": "松永正敏",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45486_ruby_19298.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2006-06-02T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "0",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/45486_23367.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2006-06-02T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"そうかも知れない。",
"丁度ゆうべの時刻だぜ。田宮が湯のなかで女の首を見たというのは……。"
],
[
"田宮を起こして、今夜も嚇かしてやろうじゃないか。",
"よせ、よせ。可哀そうによく寝ているようだ。"
],
[
"ははあ、わたしは近ごろ転任して来たので、一向に知りませんがねえ。",
"御参考までに申し上げて置くのです。",
"いや、判りました。"
],
[
"実はかつて一度、帝劇の廊下で見かけたことがある。それが偶然に伊豆でめぐり逢ったんだ。",
"そこで、君はあの女をなんとか思っていたのか。"
]
] | 底本:「伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集」学研M文庫、学習研究社
2002(平成14)年3月29日初版発行
入力:川山隆
校正:門田裕志
2008年9月23日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "048027",
"作品名": "五色蟹",
"作品名読み": "ごしきがに",
"ソート用読み": "こしきかに",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2008-10-16T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-21T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card48027.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集",
"底本出版社名1": "学研M文庫、学習研究社",
"底本初版発行年1": "2002(平成14)年3月29日",
"入力に使用した版1": "2002(平成14)年3月29日初版",
"校正に使用した版1": "2002(平成14)年3月29日初版",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "川山隆",
"校正者": "門田裕志",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/48027_ruby_32235.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2008-09-23T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
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"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/48027_33015.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2008-09-23T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"おれはよく知らないが、何かそんなことをいって騒いでいるようだよ。はじめは蛇か蛙のたぐいだといい、次には梟か何かだろうといい、のちには獣だろうといい、何がなんだか見当は付かないらしい。またこの頃では石が啼くのだろうと言い出した者もある。",
"ははあ、夜啼石ですね。"
],
[
"いや、どうしまして……。まるで見当が付きません。",
"いったい、ほんとうでしょうか。",
"ほんとうかも知れません。"
],
[
"わたくしも最初は全然問題にしていなかったのですが、ここへ来てみると、なんだかそんな事もありそうに思われて来ました。",
"あなたの御鑑定では、その啼声はなんだろうとお思いですか。",
"それはわかりません。なにしろその声を一度も聞いたことがないのですから。"
],
[
"きょうは天気になったので、村の青年団は大挙して探険に繰出すそうだ。おまえも一緒に出かけちゃあどうだ。",
"いや、もう行って来ましたよ。明神跡もひどく荒れましたね。"
],
[
"どうして死んだのですか。",
"それが判らない。ゆうべの九時過ぎに、青年団が小袋ヶ岡へ登って行くと、明神跡の石の上に腰をかけている男がある。洋服を着て、ただ黙って俯向いているので、だんだん近寄って調べてみると、それはかの中学教員で、からだはもう冷たくなっている。それから大騒ぎになっていろいろ介抱してみたが、どうしても生き返らないので、もう探険どころじゃあない。その死骸を町へ運ぶやら、医師を呼ぶやら、なかなかの騒ぎであったそうだが、おれの家では前夜の疲れでよく寝込んでしまって、そんなことはちっとも知らなかった。"
],
[
"それで、その教員はとうとう死んでしまったのですね。",
"むむ、どうしても助からなかったそうだ。その死因はよく判らない。おそらく脳貧血ではないかというのだが、どうも確かなことは判らないらしい。なぜ小袋ヶ岡へ行ったのか、それもはっきりとは判らないが、理科の教師だから多分探険に出かけたのだろうということだ。"
],
[
"明神跡の石に腰かけて……。",
"むむう。"
]
] | 底本:「異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二」原書房
1999(平成11)年7月2日第1刷
初出:「現代」
1925(大正14)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:網迫、土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "043545",
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"作品名読み": "こまいぬ",
"ソート用読み": "こまいぬ",
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"初出": "「現代」1925(大正14)年11月",
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[
[
"そうなると、生き残った女学生が第一の嫌疑者ですね。",
"そうです。服部近子という女、彼女が第一の嫌疑者です。それから遠山という学生は死んだ女学生の亀井兼子とおかしいのですよ。なんでも往来なかで行き違ったときに、両方で花を投げ合ってふざけていたといいますからね。",
"もう一人の学生はどうです。"
],
[
"どういうことに解決したんです。",
"あなたのお座敷へ行ってゆっくり話しましょう。"
],
[
"わたしの鑑定は半分あたって半分はずれましたよ。二人の女学生の死んだ原因はやはり沢桔梗でした。亀井兼子が遠山と関係のあったのも事実でした。それだけはみな当たったのですが、肝腎の犯人は生き残った服部近子でなく、兼子と一緒に死んだ藤田みね子であったのです。それが実に意外でした。彼女がなぜ自分の親友を毒殺したかというと、やはりかの遠山という学生のためだということが判ったのです。",
"では、みね子も遠山に関係があったんですか。",
"なにぶんにも死人に口なしで、二人の関係がどの程度まで進んでいたかということははっきり判りませんが、とにかくみね子が遠山に恋していたのは事実です。ところが、兼子も遠山に恋していて、両者の関係がだんだん濃厚になって来るので、表面は姉妹同様に睦まじくしていても、みね子はひそかに兼子を呪っていたらしい。それでもまさかに彼女を殺そうとも思っていなかったでしょうが、あいにくにこの旅行さきで遠山に偶然出逢ったのが間違いのもとで、兼子はなんにも知らないから、遠山にここで出逢ったのを喜んで、みね子の見ている前でも随分遠慮なしにふざけたらしい。そこでみね子はかっとなって急におそろしい料簡――それも恐らく沢桔梗を毒草と知った一刹那――むらむらとそんな料簡が起こったのでしょう。ゆう飯の食い物のなかにその毒草の汁をしぼり込んで、兼子を殺そうと企てたのです。"
],
[
"そこが問題です。警察の方でもいろいろ取り調べた結果、これだけの事情は判明したのです。その晩、宿の女中が三人の膳を運んでくると、みね子はわざわざ座敷の入口まで立って来て、女中の手からその膳をうけ取って、めいめいの前へ順々に列べたそうです。その間になにか手妻をつかって、彼女はその毒をそそぎ入れたものと想像されるのです。給仕に出た女中の話によると、三人が膳の前に坐っていざ食いはじめるという時に、みね子はついと起って便所へ行ったそうです。それから帰って来て、再び自分の膳の前に坐った時に、あたかもその隣りにいた近子が平の椀に箸をつけようとすると、みね子はその椀のなかを覗いて見て、あなたのお椀のなかにはなんだか虫のようなものがいるから、わたしのと取り換えてあげましょうといって、その椀と自分の椀とを膳の上におきかえてしまったという。それらの事情から考えると、恋がたきの兼子ひとりを殺しては人の疑いをひくおそれがあるので、罪もない近子までも一緒にほろぼして、なにかの中毒と思わせる計画であったらしい。女はおそろしいものですよ。",
"そうですね。"
]
] | 底本:「文藝別冊[総特集]岡本綺堂」河出書房新社
2004(平成16)年1月30日発行
底本の親本:「岡本綺堂読物選集 6 探偵編」青蛙房
1969(昭和44)年10月10日
初出:「綺堂読物集第五卷 今古探偵十話」春陽堂
1928(昭和3)年8月
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年4月15日作成
2014年10月2日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "048026",
"作品名": "山椒魚",
"作品名読み": "さんしょううお",
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"初出": "「綺堂読物集第五卷 今古探偵十話」春陽堂、1928(昭和3)年8月",
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"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
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"生年月日": "1872-11-15",
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"底本名1": "文藝別冊[総特集]岡本綺堂",
"底本出版社名1": "河出書房新社",
"底本初版発行年1": "2004(平成16)年1月30日",
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"校正に使用した版1": "2004(平成16)年1月30日",
"底本の親本名1": "岡本綺堂読物選集 6 探偵編",
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} |
[
[
"久しぶりで猪苗代から会津の方へ行ってみようと思っている。途中で宇都宮の友達をたずねて、それから……。",
"日光へでも廻るか。"
],
[
"ひどく見限ったね。日光はそれほど悪いところじゃあるまいと思うが……。",
"無論、日光の土地が悪いというわけじゃ決してない。僕も紅葉の時節になると、また行ってみたいような気になることもあるが、やはりどうも足が向かない。なんだか暗いような気分に誘い出されてね。"
],
[
"先生はもう行きましたか。",
"はあ。",
"僕はもう少しお邪魔をしていますよ。"
]
] | 底本:「蜘蛛の夢」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年4月20日初版1刷発行
初出:「慈悲心鳥」国文堂
1920(大正9)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※表題は底本では、「慈悲心鳥《じひしんちょう》」となっています。
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:花田泰治郎
2006年5月7日作成
2019年12月26日修正
青空文庫作成ファイル:
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"作品ID": "045506",
"作品名": "慈悲心鳥",
"作品名読み": "じひしんちょう",
"ソート用読み": "しひしんちよう",
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"初出": "「慈悲心鳥」国文堂、1920(大正9)年9月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"公開日": "2006-06-28T00:00:00",
"最終更新日": "2019-12-29T00:00:00",
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"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "蜘蛛の夢",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"観たよ。シナの芝居も最初はすこし勝手違いのようだが、たびたび観ていると自然におもしろくなるよ。",
"それは結構だ。僕は退屈しのぎに行ってみようかと思うこともあるが、最初の二、三度で懲りてしまったせいか、どうも足が進まない。"
],
[
"日本でも地方の芝居小屋には怪談が往々伝えられるものだ。どこの小屋ではなんの狂言を上演するのは禁物で、それを上演すると何かの不思議があるとか、どこの小屋の楽屋には誰かの幽霊が出るとか、いろいろの怪しい伝説があるものだが、シナは怪談の本場だけに、田舎の劇場などにはやはりこのたぐいの怪談がたくさんあるらしいよ。",
"そうだろうな。"
],
[
"そうだ。どうも幽霊らしいのだ。それが判ると、包孝粛も何もあったものじゃない。その俳優はあっと驚いて逃げ出してしまった。観客の眼には何も見えないのだが、唯ならぬ舞台の様子におどろかされて、これも一緒に騒ぎ出した。その騒動があたりにきこえて、県署から役人が出張して取調べると、右の一件だ。しかしその幽霊らしい者の姿はもう見えない。役人は引っ返してそれから県令に報告すると、県令はその俳優を呼出して更に取調べた上で、お前はもう一度、包孝粛の扮装をして舞台に出てみろ、そうして、その幽霊のようなものが再び現れたらば、ここの役所へ連れて来いと命令した。",
"幽霊を連れて来いは、無理だね。"
],
[
"それだから少しおかしい。県令はすぐに王家の主人を呼出して取調べたが、なんにも心当りはないと答えたので、本人立会いの上でその墓を発掘してみると、土の下から果して一人の男の死体があらわれて、顔色生けるが如くにみえたので、県令はさてこそという気色でいよいよ厳重に吟味したが、王はなかなか服罪しない。自分は決して他人の死骸などを埋めた覚えはない。自分の家は人に知られた旧家であるから、母の葬式には数百人が会葬している。その大勢のみる前で母の柩に土をかけたのであるから、他人の死骸なぞを一緒に埋めれば、誰かの口から世間に洩れる筈である。まだお疑いがあるならば、近所の者をいちいちお調べくださいというのだ。",
"しかしその葬式が済んだあとで、誰かがまたその死骸を埋めたかも知れないじゃないか。"
],
[
"こうなると、幽霊もありがたいね。",
"まったくありがたい。おまけにそれが評判になって、包孝粛の芝居は大入りというのだから、李香は実に大当りさ。李香の包孝粛がその人物を写し得て、いかにも真に迫ればこそ、冤鬼も訴えに来たのだろうということになると、彼の技芸にも箔が付くわけで、万事が好都合、李香にとっては幽霊さまさまと拝み奉ってもよいくらいだ。彼はここで一ヵ月ほども包孝粛を打ちつづけて、懐ろをすっかり膨らせて立去った――と、ここまでの事しか土地の者も知らないらしく、今でもその噂が炉畔の夜話に残っているそうだが、さてその後談だ。それから李香はやはり包孝粛を売物にして、各地を巡業してあるくと、広東の一件がそれからそれへと伝わって――もちろん、本人も大いに宣伝したに相違ないが、到るところ大評判で興行成績も頗るいい。今までは余り名の売れていない一個の旅役者に過ぎなかった彼が、その名声も俄かにあがって、李香が包孝粛を出しさえすれば大入りはきっと受合いということになったのだから偉いものさ。こうして三、四年を送るあいだに、彼は少からぬ財産をこしらえてしまった。なにしろ金はある。人気はある。かれは飛ぶ鳥も落しそうな勢いでこの杭州へ乗込んで来ると、ここの芝居もすばらしい景気だ。しかし、人間はあまりトントン拍子にいくと、とかくに魔がさすもので、李香はこの杭州にいるあいだに不思議な死に方をしてしまった。",
"李香は死んだのか。",
"それがどうも不思議なのだ。李香はこの西湖のほとりの、我れわれがさっき参詣して来た蘇小小の墓の前に倒れて死んでいたのだ。からだには何の傷のあともない。ただ眠るが如く死んでいるのだ。さあ、大騒ぎになったのだが、彼がなぜこんなところへ来て死んでしまったのか、一向に判らない。なにしろ人気役者が不思議な死に方をしたのだから、世間の噂はまちまちで、種々さまざまの想像説も伝えられたが、もとより取留めた証拠がある訳ではない。しかしその前日の夜ふけに、彼が凄いほど美しい女と手をたずさえて、月の明かるい湖畔をさまよっていたのを見た者がある。それはこの西湖の画舫の船頭で、十日ほど前に李香は一座の者五、六人とここへ来て、誰もがするように画舫に乗って、湖水のなかを乗りまわした。人気商売であるから、船頭にも余分の祝儀をくれた。殊にそれが当時評判の高い李香であるというので、船頭もよくその顔をおぼえていたのだ。その李香が美しい女と夜ふけに湖畔を徘徊している――どこでも人気役者には有勝ちのことだから、船頭も深く怪しみもしないで摺れちがってしまったのだが、さて、こういうことになると、それが船頭の口から洩れて、種々のうたがいがその美人の上にかかって来た。",
"それは当りまえだ。そこで、その美人は何者だね。"
],
[
"むむ。それを言い忘れたが、なんでも春のなかばで、そこらの桃の花が真っ赤に咲いて、おいおい踏青が始まろうという頃だった。そうだ、シナ人の詩にあるじゃないか――孤憤何関児女事、踏青争上岳王墳――丁度まあその頃で、場面は西湖、時候は春で月明の夜というのだから、美人と共に逍遥するにはおあつらえむきさ。しかしその美人に殺されたらしいのだから怖ろしい。勿論、殺したという証拠があるわけでもなし、死体に傷のあともないのだから、確かなことはいえた筈ではないのだが、誰がいうともなしに李香はその女に殺されたのだという噂が立った。いや、まだおかしいのは、その女は生きた人間ではない。蘇小小の霊だというのだ。",
"また幽霊か。"
],
[
"二人の捕吏が蘇小小の墓のあたりに潜伏していると、果してそこへ二つの黒い影があらわれた。宵闇ではあるが、星あかりと水あかりで大抵の見当は付く。その影はふたりの女と判ったが、その話し声は低くてきこえない。やがて二つの影は離れてしまいそうになったので、隠れていた捕吏は不意に飛出して取押えようとすると、ひとりの女はなかなか強い。忽ちに大の男ふたりを投げ倒して、闇のなかへ姿を隠してしまったが、逃げおくれた一人の女はその場で押えられた。よく見ると、それは十五、六歳の少女で、前にいった崔英という女であることが判ったので、捕吏はよろこび勇んで役所へ引揚げた。こうなると、少女でも容赦はない。拷問して白状させるという意気込みで厳重に吟味すると、崔英は恐れ入って逐一白状した。まずこの少女の申立てによると、かの広東における舞台の幽霊一件は、まったく李香のお芝居であったそうだ。",
"幽霊の一件は嘘か。",
"李がなぜそんな嘘を考え出したかというと、崔の父の旅商人というのは、さきに旅人をぶち殺してその銀嚢を奪い取った土工の群れの一人であったのだ。彼は分け前の銀をうけ取ると共に、娘を連れてその郷里を立去って、その銀を元手に旅商人になったが、比較的正直な人間とみえて、昔の罪に悩まされてその後はどうもよい心持がしない。からだもだんだん弱って来て、とうとう旅の空で死ぬようになった。その時かの李香が相宿のよしみで親切に看病してくれたので、彼は死にぎわに自分の秘密を残らず懺悔して、自分は罪のふかい身の上であるから、こうして穏かに死ぬことが出来れば仕合せである。ただ心がかりは娘のことで、父をうしなって路頭に迷うであろうから、素姓の知れない捨子を拾ったとおもって面倒をみて、成長の後は下女にでも使ってくれと頼んだ。李はこころよく引受けて、孤児の娘をひき取り、父の死体の埋葬も型のごとくに済ませてやったが、ここでふと思い付いたのが舞台の幽霊一件だ。崔の父から詳しくその秘密を聞いたのを種にして、かれは俳優だけにひと狂言書こうと思い立ったらしい。王の家をたずねて、お前の母の塚には他人の死骸が合葬してあると教えてやったところで、幾らかの謝礼を貰うに過ぎない。むしろそれを巧みに利用して、自分の商売の広告にした方がましだと考えたので、今までは関羽を売りものにしていた彼が俄かに包孝粛の狂言を上演することにした。そうして広東の三水県へ来て、その狂言中に幽霊が出たといい、またその幽霊が墓のありかを教えたといい、細工は流々、この狂言は大当りに当って、予想以上の好結果を得たというわけだ。さっきも話した通り、かの幽霊は李香の眼にみえるばかりで、余人の眼にはちっとも見えなかったというのも、あとで考えれば成程とうなずかれるが、その時はみんな見事に一杯食わされたのだ。そこで、彼は県令から御褒美を貰い、王家から謝礼を貰い、それから俄かに人気を得て、万事がおもう壺に嵌ったのだが、やはり因果応報とでもいうか、彼は崔の父によってその運命をひらいたと共に、崔のために身をほろぼすことになってしまったのだ。"
],
[
"もちろん恩人には相違ないが、李も独身者だ。崔の娘がまだ十三、四のころから関係をつけてしまって、妾のようにしていたのだ。崔も自分の恩人ではあり、李に離れては路頭に迷うわけでもあるから、おとなしく彼にもてあそばれていたのだが、その一座に周という少年俳優がある。これも孤児で旅先から拾われて来たものだが、容貌がよいので年の割には重く用いられていた。崔と周とは同じような境遇で、おなじような年頃であるから、自然双方が親密になって、そのあいだに恋愛関係が生じて来ると、眼のさとい李は忽ちにそれを看破して、揃いも揃った恩知らずめ、義理知らずめと、彼はまず周に対して残虐な仕置を加えた。彼は崔の見る前で周を赤裸にして、しかも両手を縛りあげて、ほとんど口にすべからざる暴行をくり返した。それが幾晩もつづいたので、美少年の周は半病人のようにやつれ果ててしまったが、それでも舞台を休むことを許されなかった。それを見せつけられている崔は悲しかった。自分もやがては周とおなじような残虐な仕置を加えられるかと思うと、それも怖ろしかった。",
"なるほど、そこで李を殺す気になったのだね。",
"いや、それでも崔は少女だ。さすがに李を殺そうという気にはなれなかったらしい。さりとてこの儘にしていれば、周は責め殺されてしまうかも知れないので、彼女は思いあまって一通の手紙をかいた。すなわち自分の罪を深く詫びた上で、その申訳に命を捨てるから、どうぞ周さんをゆるしてくれ。周さんが悪いのではない、何事もわたしの罪であるというような、男をかばった書置を残して崔はある夜そっと旅館をぬけ出した。そのゆく先はこの西湖で、彼女は月を仰いで暫く泣いた後に、あわや身を投げ込もうとするところへ、不意にあらわれて来たのが、かの蘇小小の霊といわれる美人だ。美人は崔をひきとめて身投げの子細をきく。それがいかにも優しく親切であるので、年のわかい崔はその女の腕に抱かれながら一切の事情を打明けた。それが今度の問題ばかりでなく、過去の秘密いっさいをも語ってしまったらしい。それを聞いて、女はその美しい眉をあげた。そうして、崔にむかって決して死ぬには及ばない。わたしが必ずおまえさん達を救ってやるから、今夜は無事に宿へ帰ってこの後の成行きを見ていろと誓うように言った。それが嘘らしくも思われないので、崔は死ぬのを思いとどまって素直にそのまま帰ってくると、その翌日、かの女は李の芝居を見物に来て、楽屋へ何かの贈り物をした。それが縁になって、どういう風に話が付いたのか、李はかの女に誘い出されて、二度までも西湖のほとりへ行ったらしい。三度目に行ったときに、おそらく何かの眠り薬でも与えられたのだろう、蘇小小の墓の前に眠ったままで、再び醒めないことになってしまったのだ。そういう訳だから、崔はその下手人を大抵察しているものの、役人たちの調べに対して、なんにも知らない顔をしていると、その日の夕方、誰が送ったとも知れない一通の手紙が崔のところへ届いて、蘇小小の墓の前へ今夜そっと来てくれとあるので、崔はその人を察して出て行くと、果してかの女が待っていた。",
"その女は何者だね。",
"それは判らない。女は崔にむかって、わたしも蔭ながら成行きを窺っていたが、李の一件もこれで一段落で、もうこの上の詮議はあるまい。座頭の李が死んだ以上、おまえの一座も解散のほかはあるまいから、これを機会に周にも俳優をやめさせて、二人が夫婦になって何か新しい職業を求める方がよかろう。わたしもここを立去るつもりだから、もうお前にも逢えまいと言った。崔は名残り惜しく思ったが、今更ひき留めるわけにもいかない。せめてあなたの名を覚えて置きたいといったが、女は教えなかった。わたしは世間で言いふらす通り、蘇小小の霊だと思っていてくれればいいと、女は笑って別れようとする途端に、かの捕吏があらわれて来た……。これで一切の事情は明白になったのだが、崔が果して李香殺しに何の関係もないのか、あるいはかの女と共謀であるのか、本人の片口だけではまだ疑うべき余地があるので、崔はすぐに釈放されなかった。すると、ある朝のことだ。係りの役人が眼をさますと、その枕もとに短い剣と一通の手紙が置いてあって、崔の無罪は明白で、その申立てに一点の詐りもないのであるから、すぐ釈放してくれと認めてあった。何者がいつ忍び込んだのか勿論わからないが、その剣をみて、役人はぞっとした。ぐずぐずしていれば、おまえの寝首を掻くぞという一種の威嚇に相違ない。ここまで話せば、その後のことは君にも大抵の想像はつくだろう。李の一座はここで解散した。崔と周とは手に手をとってどこへか立去った。",
"その結末はたいてい想像されるが、その女は何者だか判らないじゃないか。"
]
] | 底本:「蜘蛛の夢」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年4月20日初版1刷発行
初出:「現代」
1927(昭和2)年8月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:花田泰治郎
2006年5月7日作成
2007年5月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "045507",
"作品名": "女侠伝",
"作品名読み": "じょきょうでん",
"ソート用読み": "しよきようてん",
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"初出": "「現代」1927(昭和2)年8月",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "1"
} |
[
[
"わたくしは盗賊に相違ありませんが、まったく彼の我来也ではありません。しかしこうなったら何の道無事に助からないことは覚悟していますから、どうかまあ勦わって下さい。そのお礼としてお前さんに差上げるものがあります。あの宝叔塔の幾階目に白金が少しばかり隠してありますから、どうぞ取出して御勝手にお使いください。",
"それはありがたい。"
],
[
"あすこは真昼間ゆくに限ります。あなたの家の人が竹籠へ洗濯物を入れて行って、橋の下で洗っている振りをしながら、窃とその甕を探し出して籠に入れる。そうして、その上に洗濯の着物をかぶせて抱えて帰る。そうすれば誰も気がつきますまい。",
"なるほど、お前は悪智慧があるな。"
],
[
"飛んでもない。そんなことが出来るものか。",
"いや、決して御心配には及びません。夜のあけるまでには屹と帰って来ます。あなたが何うしても承知してくれなければ、わたくしにも料簡があります。わたくしにも口がありますから、お白洲へ出て何をしゃべるか判りません。そう思っていてください。"
]
] | 底本:「綺堂随筆 江戸の思い出」河出文庫、河出書房新社
2002(平成14)年10月20日初版発行
底本の親本:「綺堂劇団」青蛙房
1956(昭和31)年2月
初出:「演劇画報」
1925(大正14)年5月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:江村秀之
校正:川山隆
2014年1月18日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "056510",
"作品名": "自来也の話",
"作品名読み": "じらいやのはなし",
"ソート用読み": "しらいやのはなし",
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"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「演劇画報」1925(大正14)年5月",
"分類番号": "NDC 914",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2014-02-20T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-16T00:00:00",
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"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "綺堂随筆 江戸の思い出",
"底本出版社名1": "河出文庫、河出書房新社",
"底本初版発行年1": "2002(平成14)年10月20日",
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"底本の親本名1": "綺堂劇団",
"底本の親本出版社名1": "青蛙房",
"底本の親本初版発行年1": "1956(昭和31)年2月",
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"校正者": "川山隆",
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} |
[
[
"伊兵衛でござります。",
"なに、伊兵衛……。貴様は一体どこにいるのだ。おれの前へ出て来い。"
],
[
"それでも、おれの言う声はきこえたろう。",
"旦那さまの仰しゃったことはよく存じております。初めに誰だといって、それから又、伊兵衛と仰しゃりました。",
"むむ。"
],
[
"それは少しあべこべのようだが、そんなことが無いともいえねえ。いったいその助蔵というのはどんな奴だ。",
"助蔵は生れ付きの百姓で、薄ぼんやりしたような奴ですが、女房のおきよというのはなかなかのしっかり者で、十八の年に助蔵のところへ嫁に来て、そのあくる年に伊兵衛を生んで、今年ちょうど四十になるそうです。ところで、御承知かも知れませんが、伊兵衛は総領で、その下に伊八という弟があります。伊八は兄貴と二つ違いで、ことし二十歳になります。",
"むむ。"
],
[
"おふくろのおきよは、今もいう通りのしたたか者ですから、今さら甚吉を下手人にして見たところで、死んだ伜が生き返るわけでもないので、慾にころんで仇の味方になって、甚吉は人違いであるということを世間へ吹聴すれば、それが自然に上の耳にもはいると思って、偽幽霊の狂言をかいたらしいのです。無論それには甚吉の親たちから纒まった物を受取ったに相違ありますまい。弟の伊八という奴も、兄貴と同じような道楽者で、小博奕なども打つといいますから、兄貴の死んだのを幸いに、おふくろと一緒になってどんな芝居でもやりかねません。近所の者の話によると、伊兵衛と伊八は兄弟だけに顔付きも声柄もよく似ているということです。",
"それからお園という女も調べたか。",
"天神橋の亀屋へ行って、お園のことを訊いてみると、お園は伊兵衛が殺されても、甚吉が挙げられても、一向平気ではしゃいでいるそうです。もちろん一応は取調べてみましたが、今度の一件に就いてはまったく何にも知らないらしく、甚吉も伊兵衛も座敷だけの顔馴染みで、ほかに係合いはないと澄ましていましたが、それは嘘で、どっちにも係合いのあったことは、亀屋の家も、みんな知っていました。一体だらしのない女で、ほかにもまだ係合いの客があるとかいう噂です。年は二十二だといいますから、甚吉や伊兵衛と同い年で、容貌はまんざらでもない女でした。"
],
[
"あとで考えると、それがまったく不思議です。そのときには男と女のうしろ姿が暗いなかにぼんやりと浮き出したように見えたのです。",
"ほんとうに見えたのか。",
"たしかに見えました。"
],
[
"そういわれると、一言もないのですが、まさかにわたくしが……。",
"貴様は酒に酔っていたので、狐にやられたのだ。江戸っ子が柳島まで行って、狐に化かされりゃあ世話はねえ。あきれ返った間抜け野郎だ。ざまあ見ろ。"
]
] | 底本:「蜘蛛の夢」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年4月20日初版1刷発行
初出:「朝日グラフ」
1928(昭和3)年6月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:花田泰治郎
2006年5月7日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "045505",
"作品名": "真鬼偽鬼",
"作品名読み": "しんきぎき",
"ソート用読み": "しんききき",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「朝日グラフ」1928(昭和3)年6月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2006-07-02T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "蜘蛛の夢",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1990(平成2)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1990(平成2)年4月20日初版1刷",
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"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "小林繁雄、門田裕志",
"校正者": "花田泰治郎",
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"テキストファイル最終更新日": "2006-05-07T00:00:00",
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} |
[
[
"お前は大工の六三郎さんではござりませぬか",
"はい。わたしは六三郎でござります"
],
[
"大坂じゅうに隠れのない噂、わたしは残らず聞きました。それでもお前の身に何の祟りもなかったのが、せめてもの仕合せというもの。そうして、親方の首尾はどうでござんすえ",
"いつもいう通り、親方は親切な人。いよいよ私をいとしがってくれる。それにちっとも苦労はない"
],
[
"では、親方さん。いよいよ江戸へ行くことにいたします",
"それがいい。なに、多寡が二年か三年の辛抱じゃ。いい時分には俺の方から呼び戻してやる。せいぜい腕を磨いて、大坂者を驚かすような立派な職人になって帰って来い。人間は腕次第じゃ。お前がいい腕をもっていれば、今までお前を悪う言った者も、向うから頭をさげて頼んで来るようにもなる"
],
[
"朝の六つ半に八軒屋から淀の川舟に乗って行く。あしたは旅立ちよしという日と聞いているから、大抵の雨ならば思い切って発つつもりで、親方も兄弟子たちも八軒屋まで送ってやると言うていた",
"ほんに長い旅でござんすから、暦のよい日をえらむのが肝腎。わたしもその刻限には北を向いて、蔭ながら見送ります。この頃の天気癖で、あしたもどうやら晴れそうもないが、さして強いこともござんすまい"
],
[
"お前、江戸の女子と心安うしなさんすな、よいかえ",
"なんの、阿房らしい"
]
] | 底本:「江戸情話集」光文社時代小説文庫、光文社
1993(平成5)年12月20日初版1刷発行
入力:tatsuki
校正:かとうかおり
2000年6月10日公開
2008年10月3日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "000479",
"作品名": "心中浪華の春雨",
"作品名読み": "しんじゅうなにわのはるさめ",
"ソート用読み": "しんしゆうなにわのはるさめ",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2000-06-10T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-17T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card479.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "江戸情話集",
"底本出版社名1": "光文社時代小説文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1993(平成5)年12月20日",
"入力に使用した版1": "",
"校正に使用した版1": "",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "tatsuki",
"校正者": "かとうかおり",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/479_ruby_33085.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2008-10-04T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "0",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/479_33086.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2008-10-04T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"おまえの持っているものは何だ。",
"これは西瓜でござります。",
"あけて見せろ。"
],
[
"おまえは一体どこの者だ。",
"本所の者でござります。",
"武家奉公をする者か。"
],
[
"主人の手紙でも持っているか。",
"御親類のことでござりますから、別にお手紙はござりません。ただ口上だけでござります。",
"その西瓜というのはお前も検めて来たのか。"
],
[
"おや、伊平か。早かったね。",
"はい。",
"なんだか息を切っているようだが、途中でどうかしたのかえ。"
],
[
"実はこの西瓜が……。",
"その西瓜がどうしたの。",
"はい。"
],
[
"そうして、湯島へ行って来たの。",
"いえ、湯島のお屋敷へは参りませんでした。",
"なぜ行かないんだえ。"
],
[
"どうした、どうした。",
"伊平が人間の生首を持って帰りました。"
],
[
"君はただ笑っているけれども、考えると不思議じゃないか。女の生首が中間ひとりの眼にみえたというならば格別、辻番の三人にも見え、稲城の家の細君にも見えたというのだから、どうもおかしいよ。",
"おかしくないね。",
"じゃあ、君にその説明がつくのかね。"
],
[
"だからさ。今も言う通り、それが中間ひとりの眼で見たのでないから……。",
"ひとりでも大勢でも同じことだよ。君は『群衆妄覚』ということを知らないのか。群衆心理を認めながら、群衆妄覚を認めないということがあるものか。僕はその事件をこう解釈するね。まあ、聴きたまえ。その中間は江戸馴れない田舎者だというから、何となくその様子がおかしくって、挙動不審にも見えたのだろう。おまけにその抱えている品が西瓜ときているので、辻番の奴等はもしや首ではないかと思ったのだろう。いや、三人の辻番のうちで、その一人は一途に首だと思い込んでしまったに相違ない。そこで、彼の眼には、中間のかかえている風呂敷から生血がしたたっているように見えたのだ。西瓜をつつんで来たのだから、その風呂敷はぬれてでもいたのかも知れない。なにしろ怪しく見えたので、呼びとめて詮議をうけることになって、その風呂敷をあけると、生首がみえた。――その男には生首のように見えたのだ。あッ、首だというと、他の二人――これももしや首ではないかと内々疑っていたのであるから、一人が首だというのを聞かされると、一種の暗示を受けたような形で、これも首のように見えてしまった。それがいわゆる群衆妄覚だ。こうなると、もう仕方がない。三人の侍が首だ首だと騒ぎ立てると、田舎生れの正直者の中間は面食らって、異常の恐怖と狼狽とのために、これも妄覚の仲間入りをしてしまって、その西瓜が生首のように見えたのだ。それだから彼等がだんだんに落ち着いて、もう一度あらためて見ることになると、西瓜は依然たる西瓜で、だれの眼にも人間の首とは見えなくなったというわけさ。こう考えれば、別に不思議はあるまい。",
"なるほど辻番所の一件は、まずそれで一応の解釈が付くとして、その中間が自分の家へ帰った時にも再び西瓜が首になったというじゃあないか。主人の細君がなんにも知らずに風呂敷をあけて見たらば、やっぱり女の首が出たというのはどういうわけだろう。",
"その随筆には、細君がなんにも知らずにあけたように書いてあるが、おそらく事実はそうではあるまい。その風呂敷をあける前に、中間はまず辻番所の一件を報告したのだろうと思う。武家の女房といっても細君は女だ。そんな馬鹿なことがあるものかと言いながらも、内心一種の不安をいだきながらあけて見たに相違ない。その時はもう日が暮れている。行燈の灯のよく届かない縁先のうす暗いところで、怖々のぞいて見たのだから、その西瓜が再び女の首に見えたのだろう。中間の眼にも勿論そう見えたろう。それも所詮は一時の錯覚で、みんなが落ち着いてよく見ると、元の通りの西瓜になってしまった。詰まりそれだけの事さ。むかしの人はしばしばそんなことに驚かされたのだな。その西瓜をたち割ってみると、青い蛙が出たとか、髪の毛が出たとかいうのは、単に一種のお景物に過ぎないことで、瓜や唐茄子からは蛇の出ることもある。蛙の出ることもある。その時代の本所や柳島辺には蛇も蛙もたくさんに棲んでいたろうじゃないか。丁度そんな暗合があったものだから、いよいよ怪談の色彩が濃厚になったのだね。"
],
[
"そうは言うものの、僕の家にも奇妙な伝説があって、西瓜を食わないことになっていたのだ。勿論、この話とは無関係だが……。",
"君は西瓜を食うじゃないか。",
"僕は食うさ。唯ここの家にそういう伝説があるというだけの話だ。"
],
[
"なんでも二百年も昔の話だそうだが……。ある夏のことで、ここらに畑荒らしがはやったそうだ。断って置くが、それは江戸の全盛時代であるから、僕らの先祖は江戸に住んでいて、別に何のかかり合いがあったわけではない。その頃ここには又左衛門とかいう百姓が住んでいて、相当に大きく暮らしている旧家であったということだ。そこで今も言った通り、畑あらしが無暗にはやるので、又左衛門の家でも雇人らに言いつけて毎晩厳重に警戒させていると、ある暗い晩に西瓜畑へ忍び込んだ奴があるのを見つけたので、大勢が駈け集まって撲り付けた。相手は一人、こっちは大勢だから、無事に取押えて詮議すれば好かったのだが、なにしろ若い者が大勢あつまっていたので、この泥坊めというが否や、鋤や鍬でめちゃめちゃに撲り付けて、とうとう息の根を留めてしまった。主人もそれを聞いて、とんだ事をしたと思ったろうが、今更どうにもならない。殺されたのは男でなく、もう六十以上の婆さんで、乞食のような穢い装をして、死んでも大きい眼をあいていたそうだが、どこの者だか判らない。その時代のことだから、相手が乞食同様の人間で、しかも畑あらしを働いたのだから、撲り殺しても差したる問題にもならなかったらしく、夜の明けないうちに近所の寺へ投げ込み同様に葬って、まず無事に済んでしまったのだが、その以来、その西瓜畑に婆さんの姿が時々にあらわれるという噂が立った。これは何処にもありそうな怪談で、別に不思議なことでもなかったが、もう一つ『その以来』という事件は、又左衛門の家の者がその畑の西瓜を食うと、みんな何かの病気に罹って死んでしまうのだ。主人の又左衛門が真っ先に死ぬ、つづいて女房が死ぬ、伜が死ぬという始末で、ここの家では娘に婿を取ると同時に、その畑をつぶしてしまった。それでも西瓜が祟るとみえて、その婿も出先で西瓜を食って死んだので、又左衛門の家は結局西瓜のために亡びてしまうことになったのだ。もちろん一種の神経作用に相違ないが、その後もここに住むものはやはり西瓜に祟られるというのだ。",
"持主が変っても祟られるのか。",
"まあそうなのだ。又左衛門の家はほろびて、他の持主がここに住むようになっても、やはり西瓜を食うと命があぶない。そういうわけで、持主が幾度も変って、僕の一家が明治の初年にここへ移住して来たときには、空家同様になっていたということだ。"
],
[
"都合によると、僕はステーションへ迎いに出ていないかも知れないから、真っ直ぐにここへ来ることにしてくれたまえ。いいかい。廿九日だよ。なるべく午前に来てもらいたいな。",
"むむ、暑い時分だから、夜行の列車で京都を立つと、午前十一時ごろにはここへ着くことになるだろう。"
],
[
"それ、あすこに立っているじゃあないか。君には見えないか。",
"見えない、誰も見えないね。"
],
[
"たぶん間違いはあるまいと思っていましたが、それでもあなたの顔が見えるまでは内々心配していました。早速ですが、きょうは午後二時から倉沢家の葬式で……。",
"葬式……。誰が亡くなったのですか。",
"倉沢小一郎君が……。"
]
] | 底本:「異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二」原書房
1999(平成11)年7月2日第1刷
初出:「文學時代」
1932(昭和7)年2月
入力:網迫、土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "043575",
"作品名": "西瓜",
"作品名読み": "すいか",
"ソート用読み": "すいか",
"副題": "",
"副題読み": "",
"原題": "",
"初出": "「文學時代」1932(昭和7)年2月",
"分類番号": "NDC 913",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2005-08-23T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card43575.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
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[
[
"すずきが相変らず釣れますか。退屈しのぎに来たのだからどうでもいいようなものの、やっぱり釣れないと面白くありませんね。",
"そりゃそうですとも……。"
],
[
"虫を……。",
"近所の子供にもやり、自分の家にも飼おうと思って、きりぎりすを捕りに来たんです。まあ、半分は涼みがてらに……。あなたの釣りと同じことですよ。"
],
[
"あなたは勝田の妹さんですか。",
"そうでございます。"
],
[
"あなたはこれから町の方へお帰りでございますか。",
"はあ。これから家へ帰ります。"
],
[
"わたくしはこれから警察へ行くんですよ。",
"なにしに行くんです。",
"だって、あなた。人間ひとりを殺して平気でもいられますまい。"
]
] | 底本:「異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二」原書房
1999(平成11)年7月2日第1刷
初出:「講談倶樂部」
1924(大正13)年9月
入力:網迫、土屋隆
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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[
[
"それはあなたのおっしゃる通り、将軍は別に悪意があってなされた事ではなく、たくさんのなかですから、きっとお書き落しになったに相違ありません。あとで気がつけば取換えて下さるでしょう。いいえ、きっと取換えてくださいます。",
"しかし気がつくかしら。",
"なにかの機に思い出すことがないとも限りません。それについて、もし将軍から何かお尋ねでもありましたら、そのときには遠慮なく、正直にお答えをなさる方がようございます。",
"むむ。"
],
[
"それだから、わたくしが言ったのです。将軍はなかなか物覚えのいいかたですから。",
"そうだ、まったく物覚えがいい。大勢のなかで、どうして白扇がおれの手にはいったことを知っていたのかな。"
],
[
"それは将軍が一々あらためて渡したわけでもないでしょうから、あとで気がつけばきっと取換えて下さるでしょう。",
"そうかも知れないな。いつかの扇子の例もあるから。"
],
[
"おまえの家では何かの神を祭っているか。",
"いえ、一向に不信心でございまして、なんの神ほとけも祭っておりません。",
"どうも不思議だな。"
],
[
"まったく不思議でございます。よく詮議をいたしてみましょう。",
"いずれにしても鎧は換えてやる。これを持ってゆけ。"
],
[
"どうだ。例のがまはまだ出て来るか。",
"いや、江を渡ってからは消えるように見えなくなった。"
],
[
"そんな弱いことを言ってはいけない。もう少し持ちこたえれば陽気もきっと春めいて来る。暖かにさえなれば、お前さんのからだも、自然に癒るにきまっている。せいぜい今月いっぱいの辛抱だよ。",
"いえ、なんと言って下すっても、わたしの寿命はもう尽きています。しょせん癒るはずはありません。どういう御縁か、お前さんにはいろいろのお世話になりました。つきましては、わたしの死にぎわに少し聴いておいてもらいたいことがあるのですが……。",
"まあ、待ちなさい。薬がもう出来た時分だ。これを飲んでからゆっくり話しなさい。"
],
[
"それからどうしなすった。",
"にわか盲にされて放逐されて、わたしは城下の親類の家へ引渡されました。命には別条なく、疵の療治も済みましたが、にわか盲ではどうすることも出来ません。宇都宮に知りびとがあるので、そこへ頼って行って按摩の弟子になりまして、それからまた江戸へ出て、ある検校の弟子になりました。二十二の春から三十一の年まで足かけ十年、そのあいだに一日でも仇のことを忘れたことはありませんでした。仇は元の主人の野村彦右衛門。いっそ一と思いに成敗するならば格別、こんなむごたらしい仕置をして、人間ひとりを一生の不具者にしたかと思うと、どうしてもその仇を取らなければならない。といって、相手は立派な侍で、武芸も人並以上にすぐれていることを知っていますから、眼のみえない私が仇を取るにはどうしたらよいか、いろいろ考え抜いた揚句に、思いついたのが針でした。宇都宮でも江戸でも針の稽古をしていましたから、その針の太いのをこしらえておいて、不意に飛びかかってその眼玉を突く。そう決めてから、暇さえあれば針で物を突く稽古をしていると、人の一心はおそろしいもので、しまいには一本の松葉でさえも狙いをはずさずに突き刺すようになりましたが、さて今度はその相手に近寄る手だてに困りました。彦右衛門は屋敷の用向きで江戸と国許のあいだをたびたび往復することを知っていましたので、この渡し場に待っていて、船に乗るか、船から降りるか、そこを狙って本意を遂げようと、師匠の検校には国へ帰るといって暇を貰いまして、ここへ来ましてから足かけ五年、毎日根気よく渡し場へ出て行って、上り下りの旅人を一々にあらためていましたが、野村とも彦右衛門ともいう者にどうしても出逢わないうちに、自分の命が終ることになりました。いや、こんなことは自分の胸ひとつに納めておけばよいのですが、誰かに一度は話しておきたいような気もしましたので、とんだ長話をしてしまいました。かえすがえすもお前さんには御世話になりました。あらためてお礼を申します。"
],
[
"やあ。",
"やあ。"
],
[
"内田はいくつぐらいの男ですか。",
"二十八九です。"
],
[
"失礼ながらおいくらでございますか。",
"いえ、いくらでもよろしゅうございます。"
],
[
"このお面は古くからお持ち伝えになっているのでございますか。",
"さあ、いつの頃に手に入れたものか判りません。実はこんなものが手前方に伝わっていることも存じませんでしたが、御覧の通りに零落して、それからそれへと家財を売払いますときに、古長持の底から見つけ出したのです。",
"箱にでもはいっておりましたか。",
"箱はありません。ただ欝金のきれに包んでありました。少し不思議に思われたのは、猿の両眼を白い布で掩って、その布の両端をうしろで結んで、ちょうど眼隠しをしたような形になっていることです。いつの頃に誰がそんなことをしておいたのか、別になんにも言い伝えがないので、ちっとも判りません。一体それが二歩三歩の値のあるものかどうだか、それすらも手前には判らないのです。"
],
[
"井田さんも若いな。何かあの座敷に化物が出たというのだ。冗談じゃあない。",
"まあ、どうしたんでしょう。"
],
[
"お話はこれだけでございます。その猿の眼には何か薬でも塗ってあったのではないかと言う人もありましたが、それにしても、その仮面が消えたり出たりしたのが判りません。井田さんの髪の毛を掻きむしったり、母の髻を掴んだりしたのも、何者の仕業だか判りません。いかがなものでしょう。",
"まったく判りませんな。"
],
[
"きっと貰うかどうかは判らないが、あの吉次郎が嫁を探しているのだ。",
"はあ、あの蛇吉ですか。"
],
[
"どこでもいい。重助と一緒に行け。いつまでもおれを苦しませるな。",
"じゃあ、行きますよ。"
],
[
"どんな女だろう。まだ若いんだぜ。",
"一体なんの病気だろう。",
"婦人病だと困るぜ。そんな薬は誰も用意して来なかったからな。",
"悪くすると肺病だぜ。支那では癆とかいうのだそうだ。"
],
[
"それにしても、娘は遅いな。",
"支那の女はめったに外人に顔をみせないというから、出て来るのを渋っているのかも知れない。",
"ことに相手が我れわれでは、いよいよ渋っているのだろう。"
],
[
"では、その子細は御承知ないのですね。",
"彼はしきりにしゃべるのですが、僕たちは支那語が不十分の上に、相手は満洲なまりが強いと来ているので、なにを言っているのか一向わからないのです。要するに、ここの家には何か怪しいことがあるから泊るなと言うらしいのですが……。"
],
[
"その蟹は台所の人たちにも食わせてはならぬ。みなお取捨てなさい。",
"かしこまりました。"
],
[
"お店からはどなたがお出でになりましたな。",
"番頭の久右衛門に店の者五、六人を付けて出しました。"
],
[
"文阿先生が……。",
"え、文阿先生が……。"
],
[
"生れたところは。",
"知りません。",
"両親の名は。",
"知りません。"
],
[
"なんでもきのうの夕方、もう薄暗くなった時分に、どこからかむじなが……。もっとも小さい子だそうですが、庭先へひょろひょろ這い出して来たのを、御新造がみつけて、ばあやさんとお仲さんに早く捉まえろと言うので、よんどころなしに捉まえると、御新造は草刈鎌を持ち出して来て、力まかせにその子むじなの首を斬り落してしまったそうで……。お仲さんはまたぞっとしたということです。全くあの御新造はどうかしているんですね。どうしても唯事じゃありませんよ。",
"そうかも知れないねえ。"
],
[
"飯田さんの御新造がとうとうコレラになりました。ゆうべの夜半から吐いたり下したりして……。嘘じゃありません。警察や役場の人たちが来て大騒ぎです。",
"まあ。大変……。"
],
[
"まことにつたない調べで、お恥かしゅうござります。",
"いや、そうでない。せんこくから聴くところ、なかなか稽古を積んだものと相見える。勝手ながらその笛をみせてくれまいか。",
"わたくし共のもてあそびに吹くものでござります。とてもお前さま方の御覧に入るるようなものではござりませぬ。"
],
[
"おまえはいつ頃からここに来ている。",
"半月ほど前からまいりました。"
],
[
"絶えず苦しめられる……。",
"それは余人にはお話のならぬこと。またお話し申しても、所詮まこととは思われますまい。"
],
[
"どうもこの近所には写真の題になるようないい景色のところもありません。しかし折角おいでになったのですから、何か変ったところへ御案内したい。これから五里半以上、やがて六里ほどもはいったところに龍馬の池というのがあります。少し遠方ですが、途中までは乗合馬車がかよっていますから、歩くところはまず半分ぐらいでしょう。どうです、一度行って御覧になりませんか。",
"わたしは旅行馴れていますから、少しぐらい遠いのは驚きません。そこで、その龍馬の池というのは景色のいいところなんですか。",
"景色がいいというよりも、大きい木が一面に繁っていて、なんだか薄暗いような、物凄いところです。昔は非常に大きい池だったそうですが、今ではまあ東京の不忍池よりも少し広いくらいでしょう。遠い昔には龍が棲んでいた。――おそらく大きい蛇か、山椒の魚でも棲んでいたのでしょうが、ともかくも龍が棲んでいたというので、昔は龍の池と呼んでいたそうですが、それが中ごろから転じて龍馬の池ということになったのです。それについて一種奇怪の伝説が残っています。今度あなたを御案内したいというのも、実はそのためなのですが……。あなたはお疲れでお眠くはありませんか。"
],
[
"いや、それが残念ながら不成功です。六、七回も行ってみましたが、いつも失敗を繰返すので、わたくしはもう諦めているのですが、あなたのお出でになったのは幸いです。あしたは是非お供しましょう。",
"はあ、ぜひ御案内をねがいましょう。"
],
[
"どうしたのでしょう。",
"どうしましたか。"
]
] | 底本:「影を踏まれた女 岡本綺堂怪談集」光文社時代小説文庫、光文社
1988(昭和63)年10月20日初版第1刷発行
初出:青蛙神「苦楽」1924(大正13)年12月
利根の渡「苦楽」1925(大正14)年2月
兄妹の魂、不詳
猿の眼「苦楽」1925(大正14)年7月
蛇精「苦楽」1925(大正14)年5月
清水の井「写真報知」1924(大正13)年7月
窯変「苦楽」1925(大正14)年6月
蟹「苦楽」1925(大正14)年4月
一本足の女「苦楽」1925(大正14)年3月
黄いろい紙「苦楽」1925(大正14)年9月
笛塚「苦楽」1925(大正14)年1月
龍馬の池「苦楽」1925(大正14)年8月
※「不便」と「不憫」の混在は、底本通りです。
入力:和井府清十郎
校正:原田頌子
2002年3月25日公開
2014年6月9日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "001307",
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"底本名1": "影を踏まれた女 岡本綺堂怪談集",
"底本出版社名1": "光文社時代小説文庫、光文社",
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[
[
"のう、藻",
"おお、千枝まよ"
],
[
"もうやがて半年じゃ。どうなることやら、心細いでのう",
"医師はなんと言わしゃれた"
],
[
"なんとも言いはせぬ。ただ黙って聴いていたばかりじゃ",
"重ねてそのようなことを言うたら、すぐわしに知らしてくれ、あの婆めが店さきへ石塊なと打ち込んで、新しい壺の三つ四つも微塵に打ち砕いてくるるわ"
],
[
"きっと誘いに来てくだされ",
"おお、受け合うた"
],
[
"歌が詠めたらどうするのじゃ",
"このような晴れやかな景色を見ても、わしにはなんとも歌うことが出来ぬ。藻、お前は歌を詠むのじゃな",
"父さまに習うたけれど、わたしも不器用な生まれで、ようは詠まれぬ。はて、詠まれいでも大事ない。歌など詠んで面白そうに暮らすのは、上臈や公家殿上人のすることじゃ"
],
[
"水の底で火を焚くというのと同じことじゃ",
"木にのぼって魚を捕るというのと同じことじゃ"
],
[
"婆に逢いたい。あけてくれ",
"日が暮れてからうるさい。用があるならあす出直して来やれ"
],
[
"言え。となりの藻をどこへやった",
"なんの、阿呆らしい。藻の詮議なら隣りへ行きゃれ。ここへ来るのは門ちがいじゃ"
],
[
"爺さま。狐の穴はどこじゃ",
"まあ、急くな。野良狐めが巣を食っているところはこのあたりにたくさんある。まず手近の森から探してみようよ"
],
[
"お前も知っていよう。あの森のあたりで時どきに狐火が飛ぶわ",
"ほんにそうじゃ"
],
[
"じゃが、もう少し探してみたい。爺さま、ここらに狐の穴はないか",
"はて、執念い和郎じゃ。そうよのう"
],
[
"これ、悪いことは言わぬ。昔から魔所のように恐れられているところへ、夜ふけに押して行こうとは余りに大胆じゃ。やめい、やめい",
"いや、やめられぬ。爺さまがおそろしくば、わし一人でゆく"
],
[
"どうじゃ。心持に変わることはないか",
"どうしてこんなところに迷いこんだのじゃ"
],
[
"かなわぬと申すではないが、まずおのれの身分を名乗って、それから改めて披露を頼むというがひと通りの筋道じゃ。父の名は申されぬか",
"はい"
],
[
"それもそうじゃが、なぜ親の名をいわれぬかのう",
"申し上げられませぬ。わたくしはこれでお暇申し上げまする"
],
[
"殿。あの乙女の宿は知れました",
"おお、見とどけて参ったか",
"京の東、山科郷の者でござりました。あたりの者に問いましたら、父はそのむかし北面の武士で坂部庄司なにがしとか申す者じゃと教えてくれました"
],
[
"では、その乙女をきょう召されましたか",
"大納言のことばによれば、世にたぐいないかとも思わるるほどの美しい乙女じゃそうな。一度逢うて見たいと思うて、きょう呼び寄せた。もうやがて参るであろうよ"
],
[
"わしは少納言信西じゃ",
"遠慮はない。おもてをあげて見せい"
],
[
"十四歳に相成りまする",
"ほう、十四になるか。才ある生まれだけに、年よりまして見ゆる。歌は幾つの頃から誰に習うた"
],
[
"そんならわしを、さかなの眼となぜ言やった",
"そのように見ゆるから言うたのじゃ"
],
[
"おお、藻。戻ったか",
"お前、隣りの家で何かいさかいでもしていたのか。阿呆の、疫病のと、そのような憎て口は言わぬものじゃ"
],
[
"あの婆どのもお前がいうように悪い人でもない。わたしが髑髏を持っているところを、婆どのは確かに見たのであろう。その訳はこうじゃ。このあいだの晩、わたしが枕にしていた白い髑髏はどこの誰の形見か知らぬが、わたしの身に触れたというも何かの因縁じゃ。回向してやりたいと思うて持ち帰って、仏壇にそっと祀って置いたを父さまにいつか見付けられて、このような穢れたものを家へ置いてはならぬ。もとのところへ戻して来いと叱られたが、あの森へは怖ろしゅうて二度とは行かれぬ。おまえに頼もうと思うても、あいにくにお前は見えぬ。よんどころなしにあの川べりへ持って行って普門品を唱えて沈めて来た。となりの婆どのは丁度そこへ通りあわせて、わたしが髑髏を押し頂いているところを見たのであろう。訳を知らぬ人が見たら不思議に思うも無理はない。婆どのはお前をなぶろうとしたのではない。ほんのことを正直に話したのじゃ",
"そうかのう"
],
[
"そりゃ御奉公しようとも思わぬ昔のことじゃ",
"その昔を忘れては済むまい"
],
[
"お身ほどの者でも、人を頼まいでは恋はならぬか。恋はなかなかにむずかしいものじゃな",
"身にあまる望みでござりますれば……"
],
[
"頼もしいと見らるるも、頼もしからぬと見らるるも、お身さまのお心一つでござりまする",
"はて、謎なぞのようなことは言わぬものじゃ。いかようにすれば頼長は世に頼もしい男とならるるのじゃ。打ち付けに言え、あらわに申せ"
],
[
"おお、判った。して、お身はその恋の取り持ちをたしかに兼輔に頼んだか",
"まだ打ち明けては頼まぬ間に……",
"頼長がまいって邪魔したか、それは結句仕合わせじゃ。兼輔はおろか、関白殿、信西入道、あらゆる人びとのなかだちでも、この恋は所詮ならぬと思え",
"なりませぬか",
"ならぬ、ならぬ。お身たちが恋を語るには兼輔などの柔弱者がよい相手じゃ"
],
[
"そりゃ人違いであろう。われらは昼間からこの座を一寸も動いたことはござらぬ",
"いや、そりゃ嘘じゃ"
],
[
"まことに怖ろしい嵐でござりまする。どこもかしこも真の闇になり申した",
"暗うてはどうもならぬ。早う燈火を持て",
"はあ"
],
[
"わたくしの堪忍はどのようにも致しまする。ただ、左大臣殿が、かりにも上を凌ぐようなおん企てを懐かせられまするようなれば……",
"いや、その懸念は無用じゃ。彼は予を文弱と侮っているとか申すが、忠通は藤原氏の長者じゃ。忠通は関白じゃ。彼らがいかにあせり狂うたとて、予を傾けようなどとは及ばぬことじゃ。なんの彼らが……"
],
[
"唯今も申す通り、わたくしの堪忍はどのようにも致しまするが……",
"もう言うな。予のことは予に思案がある。その懸念には及ばぬことじゃ"
],
[
"但しこのことを余人に洩らすなよ",
"はあ"
],
[
"早速じゃが、入道。頼長はこの頃もお身のもとへ出入りするかな",
"折りおりに見られまする",
"学問はいよいよ上達するか",
"驚くばかりの御上達で、この頃ではいずれが師匠やら弟子やら、信西甚だ面目もござりませぬ"
],
[
"仰せ一いち御道理にうけたまわり申した。それがしよりもよくよく御意見申そうなれど、あれほど御執心の学問をやめいとは……",
"申されぬか"
],
[
"証人は玉藻じゃ。彼はきのう玉藻に猥りがましゅう戯れて、あまつさえそのようなことを憚りもなしに口走ったのじゃ",
"ほう、玉藻が……"
],
[
"いかに口賢う言うても、ならぬと思え。面会無用じゃとその女子に言え",
"叔父さまはその女子を御存じない故に、世間の女子と一つに見て蛇のようにも忌み嫌わるるが、かの玉藻と申すは……",
"いや、聞かいでも大方は知っている。世にも稀なる才女じゃそうな。才女でも賢女でも我らの眼から見たら所詮は唯の女子とかわりはない。逢うても益ない。逢わぬが優しじゃ"
],
[
"それが定ならばどのように嬉しかろう。その嬉しさにつけても又一つの心がかりは、数ならぬわたくしゆえにお身さまに由ない禍いを着しょうかと……",
"由ない禍い……。とはなんじゃ"
],
[
"じゃによって訊いている。その禍いの影とはなんじゃ。禍いの源はいずこの誰じゃ",
"少将どのじゃ"
],
[
"そのお師匠さまはなんというお人じゃ",
"陰陽師の播磨守泰親どのじゃ",
"おお、安倍泰親どのか"
],
[
"それは仕合わせなこと。おまえは堅い生まれ付きじゃで、よいお師匠をもたれたら、行く末の出世は見るようじゃ。して、お前も男になって、今もむかしの名を呼ばれてござるのか",
"千枝松という名はあまりに稚げじゃと仰せられて、お師匠さまが千枝太郎と呼びかえて下された。しかも泰親の一字を分けて、元服の朝から泰清と呼ばるるのじゃ"
],
[
"おそろしいのでない。まことに尊いのじゃ。わしもせいぜい修業して、せめてはお師匠さまの一の弟子になろうと念じている",
"それもよかろう。じゃが……"
],
[
"就いては、少将実雅があらためてお身に訊きたいことがある。お身が実雅の恋をきかぬ以上、あだし男に心をかよわすことはならぬ。もしその約束を破ったら、その男を生けては置かぬと……",
"それもよう覚えております"
],
[
"なんのいつわりを言いましょう。神かけて……",
"よし。思案がある"
],
[
"ええ、なにが無体……。おのれは舌がやわらかなるままに、口から出るに任せてさまざまの雑言をならべ、この実雅を塵あくたのように言いおとしめたことを、おれはみな知っている。ええ、今さら卑怯に言い抜けようとして、おれには確かな証人があるぞ",
"そのような喚讒を誰が言うた",
"おお、玉藻が言うた。おのれは今宵も無理無体に玉藻をここへ誘い出して、法性寺へ行こうでな。憎い奴め"
],
[
"お身、藻を見やったか",
"藻……。藻がきょうもここへ見えたか"
],
[
"頼長かな",
"そうなりましたら、左大臣殿は思う壺でござりましょう。現に殿がお引き籠りの後は、かのお人がなにもかも一人で取り仕切って、殿上を我が物顔に押し廻していらるるとやら。今ですらその通り、殿が御隠居遊ばされたら、その後の御威勢は思いやられまする"
],
[
"就きましては、わたくしお願いがござりまするが……",
"あらためてなんの願いじゃ",
"殿の御推挙で采女に召さるるように……",
"ほう、お宮仕えが致したいと申すか"
],
[
"いえ、その左大臣殿と見事に張り合うて見せます",
"頼長と張り合うか"
],
[
"隠さずに言や。なにを見た",
"なんにも……見ませぬ"
],
[
"神ほとけに奇特がないと仰せられまするか",
"論より証拠じゃ。いかに祈ってもひと粒の雨さえ落ちぬわ",
"それは神ほとけに奇特が無いのでない。人の誠が足らぬからかと存じまする"
],
[
"おお、殊勝な願いじゃ。忠通が許す。早くその祈祷をはじめい",
"では、一七日のあいだ身を浄めまして、加茂の河原に壇を築かせ、雨乞いの祈祷を試みまする"
],
[
"やがてふた晌にもなろうに、雲一つ動きそうにも見えぬではないか",
"祈祷は午の刻までじゃという。それまで待たいでは奇特の有無はわかるまいぞ"
],
[
"もう詮ない、時刻が来た",
"いかに神がみを頼んでも、降らぬ雨は降らぬに決まったか",
"いや、まだ力を落とすまい。午を過ぎたら玉藻の前の祈りじゃというぞ",
"播磨守殿すらにも及ばぬものを、女子の力でどうあろうかのう",
"かの御は知恵も容貌も世にすぐれたお人で、やがては采女に召さりょうも知れぬという噂がある。その祈祷じゃ。神も感応ましまそうも知れまい"
],
[
"さてはお身、この泰親の祈祷を調伏と見られたか。して、その祈らるる当の相手を誰と見られた",
"問うまでもないこと。雨乞いならば八大龍王を頼みまいらすべきに、壇の四方に幣をささげて、南に男山の正八幡大菩薩、北には加茂大明神、天満天神、西東には稲荷、祇園、松尾、大原野の神々を勧請し奉ること、まさしく国家鎮護悪魔調伏の祈祷と見ました。して、その祈らるる当の相手はこの玉藻でござりましょう"
],
[
"お身はここへ登ると言うか",
"おお、登りまする。お身たちが調伏の壇の上までも、恐れげもなしに踏み登るというが、玉藻の身に陰りのない第一の証拠じゃ。午の刻を過ぎたらもうお身に用はない筈。わたくしが代って祈りまする。退かれい、退かれい。退かれませ"
],
[
"千枝太郎、きょうは朝から誰も見えぬか",
"誰も見えませぬ",
"関白殿よりお使いもないか",
"はい"
],
[
"いかようのお役目でも、わたくしきっと承りまする",
"まずは過分じゃ。幸いに日も暮れた。いま一晌ほどしたら屋敷をぬけ出して、少納言殿屋敷までそっと走ってくりゃれ"
],
[
"千枝太郎どの、なぜ逃げる。つれない人じゃ",
"いや、わしは急ぎの用がある"
],
[
"おお、さもあろうよ。一度は仕損じても、身命をなげうって二度の祈祷を心がくる――泰親としてはさもあるべきことじゃ。信西もそうありたいと願うていた。左大臣殿もおそらく同じ心であろう。あすにも直ぐに宇治へまいって、播磨守の願意は確かにそれがしが取次いでやる。さものうてもこのたびの仕損じに就いて、播磨守一人に罪を負わすは我々も甚だ快うないことじゃで、なんとか穏便の沙汰をと工夫しておったる折りからじゃ。彼が二度の祈祷を願うとあれば猶更のこと、なんとかして彼を救わねばなるまい。して、関白殿よりは今になんの沙汰もないか",
"なんの御沙汰もござりませぬ",
"それは重畳。関白殿も本来は賢い御仁じゃで、無道の御沙汰もあるまいと存ずるが、なにをいうても今は悪魔に魅られているので、いかようの御沙汰もあろうかと、それがしも内ない懸念しておったが、今になんの御沙汰もなくば、存外穏便に済もうも知れぬ。いずれにしても信西が引き受けた。播磨守にも安心せいと伝えてくりゃれ"
],
[
"関白殿のお屋形には犬を飼うておられぬか",
"わたしは犬が大嫌いじゃで、殿に願うて一匹も残さず追い払うてしもうた"
],
[
"おお、誰にも言うまい。このようなことがひとに知れたら、わしも叱らるるわ",
"お師匠さまにか"
],
[
"実は昨夜、泰親の使いとして、弟子の一人がそれがしの許へ忍んでまいりました",
"赦免の訴えか",
"いや、今一度、降魔の祈祷を……"
],
[
"入道、兄弟牆にせめげども、外その侮りを禦ぐという。今や稀代の悪魔がこの日本に禍いして、世を暗闇の底におとそうとする危急の時節に、兄はとかくに弟を妬んで、ややもすれば敵対の色目を見する。浅ましいことじゃ",
"それも関白殿のたましいに、悪魔めが食い入ったがためかとも存じ申す。われわれがとこう申すは恐れあれど、殿下この頃の御行状は……"
],
[
"玉藻の御があすは三井寺参詣とうけたまわりました",
"玉藻が三井寺に参詣するか"
],
[
"なり申さぬ。われわれここを固めている間は、ひと足も門内へは……",
"ならぬと言わるるか",
"くどいこと。なり申さぬ"
],
[
"ではござりましょうが、今しばらくの御勘弁を……",
"又しても止むるか。仇を庇うか……",
"庇うのではござりませぬ。たといかの人びとが如何ようにわたくしどもを亡ぼそうと巧まれましても、邪は正に勝たずの例で、正しいものには必ず神ほとけの守りがござります。現にさきの日の雨乞いを御覧なされませ。われに誠の心があれば、神も仏も奇特を見せられまする",
"さればとてもう堪忍の緒が切れた。堪忍にも慈悲にも程度がある。頼長と忠通とは前の世からのかたき同士であろう。弟を仆すか、兄が仆るるか、しょせん二人が列んでゆくことは出来ぬ定めじゃ"
],
[
"勿論のことじゃ",
"して、お味方は……"
],
[
"千枝まよ。なにを思案している。叔父御や叔母御もお前が戻ったので喜んでいよう。むかし馴染みが帰って来てわしも嬉しい。これからは今までのように遊びに来ておくりゃれ。よいか。あれ、お見やれ。となりの門の柿の実は年ごとに粒が大きくなって、この秋も定めて美事に熟れることであろうよ",
"そうであろうのう"
],
[
"不思議じゃのう",
"不思議というよりも怖ろしい。お前も心してその祟りに逢わぬようにおしやれ。婆や弥五六がよい手本じゃ"
],
[
"それがしはこのごろ上った者じゃで、都の案内はよう存ぜぬが、見るところ烏帽子折りであろう。頼まれてくれぬか",
"心得ました"
],
[
"三浦介殿……。では衣笠の三浦介殿でござりますな",
"よう存じておる。唯今まいられたのがその三浦介殿じゃ"
],
[
"上下二十人で、ほかに衣笠殿と附き添いの侍女が二人じゃ",
"二十人の御家来衆とあれば、烏帽子の御用もござりましょう。して、お宿は……",
"七条じゃ。時どきに来て見やれ",
"その折りにはよろしく願いまする"
],
[
"ならぬことじゃ。くどくもいう通り、塚の祟りがおそろしいとは思わぬか",
"いや、それを見とどけたらわしも出世する。翁にも莫大の御褒美を貰うてやる。どうじゃ、それでも頼まれてくれぬか",
"はて、出世も御褒美も命があっての上のことじゃ。ましてわしも人づてに聞いたばかりで、詳しいことはなんにも知らねば、いくら頼まれてもその案内が出来ようぞ。どんな出世になるか知らぬが、お身もやめい。あのような所へは行くものではないぞ"
],
[
"して、あの車のぬしは何者でござりましょう",
"お身の眼にはなんと見えた。あれは紛れもない玉藻じゃ",
"玉藻でござりましょうか"
],
[
"もう夜が明けたぞ。泰忠は早く支度して宇治へまいれ。早う行け",
"心得ました"
],
[
"素焼の壺……",
"打ち砕いて検めましたら、そのなかにはひとたばの長い黒髪が秘めてござりました",
"女子のか",
"勿論のことでござりまする。泰親はその黒髪を火に焼いて、さらに秘密の祈祷を試みました"
],
[
"お身はまだ知らぬか。衣笠どのはおとといの夜にむなしくなられた",
"衣笠どのが亡せられた……"
],
[
"それは定か。まことの事か",
"なんでいつわりを言おうぞ。わしはあの地を通り過ぎて、土地の人から詳しゅう聞いて来たのじゃ。石は殺生石と恐れられて、誰も近寄ろうとはせぬほどに、そのあたりには人の死屍や、獣の骨や鳥の翅や、それがうず高く積み重なって、まるで怖ろしい墓場の有様じゃという。お身も陸奥へ旅するならば、心して那須野ヶ原を通られい。忘れてもその殺生石のほとりへ近寄ってはならぬぞ"
]
] | 底本:「修禅寺物語」光文社文庫、光文社
1992(平成4)年3月20日初版1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2000年3月30日公開
2012年1月24日修正
青空文庫作成ファイル:
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"向田大尉がゆうべ火薬庫のそばで殺されたそうだ。",
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"なぜです。",
"悪い弟を持ったんでね。"
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[
"それはね、アメリカへ行ったときに買って来たのだ。それでも、外国では風流な人が持つのだそうだ。",
"一体なんでございます。",
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],
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"ねえ、福原さん。あれは何でしょうね。",
"さあ、けものの角か、さかなの歯か、何かそんなものらしいね。",
"あんな長い歯や口ばしがあるでしょうか。",
"そりゃないとも限らない。ウニコールもあるからね。",
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"僕のじゃない。",
"じゃあ、あの水沢さんのに違いない。あなたも海岸へ行くなら同じ道でしょう。途中で逢ったら届けてあげて下さいな。"
],
[
"あのハンケチを届けて下すって……。",
"いや、追いつかないので止めたよ。",
"追いつかないので……。水沢さんはどこへ行ったんです。",
"海の方へ行ったよ。小舟に乗って……。",
"一人……。",
"むむ、一人で漕いで行ったよ。",
"まあ、漕げるんでしょうか。",
"そうらしいね。"
],
[
"だって、ハンケチを水沢さんに届けてくれとあなたに頼んだら、舟に乗って行ってしまったなんていって、届けてくれなかったというじゃありませんか。",
"ほんとうに舟に乗って行ったんだよ。",
"ほんとうですか。",
"うそじゃない。帰って来たらきいて見たまえ、僕は確かに見たんだから。"
],
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"それとも大漁かな。",
"そうかも知れません。"
],
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"人が殺された。喧嘩でもしたのか。",
"芸妓が舟のなかで殺されたんですって。"
],
[
"なんという芸妓が誰に殺されたんだ。",
"そこまでは聞いて来ませんでしたが……。"
],
[
"あなた、水沢さんはほんとうに舟に乗って行ったんですか。",
"ほんとうさ。",
"一人でしたか。"
],
[
"あなた、浜へ見に行くんですか。",
"むむ、行って見る。",
"一緒に行きましょう。"
],
[
"あの芸妓はどうして殺されたんでしょう。",
"さあ。"
],
[
"なにを黙っているんだ。",
"水沢さんと一緒に舟に乗ったことを……。",
"言っちゃ悪いか。",
"おがみますから、言わないでください。"
],
[
"別になんにも関係はありませんけれど……。",
"ただ、水沢さんが可愛いからか。",
"察してください。",
"なんでもない人に、それほど実を尽くすのか。",
"それがあたしの性分ですから。それがために東京にもいられなくなって、上総三界までうろ付いているんですから。"
],
[
"そうかも知れない。それにしても、あのステッキはどうしたろう。",
"あなた、見ませんでしたか。巡査があのステッキの折れたのを持っていたのを……。船の中に落ちていたんですって……。何でもところどころに血が付いていたそうですよ。",
"そうすると、芸妓の方では櫂を持って、二人で叩き合ったんだね。",
"そうかも知れませんねえ。"
],
[
"あの、水沢さんが帰って来ましたよ。",
"帰って来た。どんな様子で……。",
"帳場はもう寝てしまったんですけど、あたしは何だか気になりますから、始終表に気をつけていると、誰か表のところへ来てばったり倒れた人があるらしいんです。それからそっと出てみると、水沢さんはびしょ濡れになって倒れていましたから、介抱して座敷へ連れ込んだのですが、なんだかきょときょとしているばかりで碌に口もきかないんです。どうしたんでしょう。",
"まあ、そっと寝かして置くより仕方がない。ここで騒ぐと藪蛇だよ。あしたになったら気が確かになるだろう。",
"そうでしょうか。"
],
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"水沢さんが殺したというのかい。",
"なんだか知りませんけれど、けさ早く巡査が来て、水沢さんの寝ているところをすぐに拘引して行ったんです。水沢さんはゆうべいつごろ帰って来たのか、わたくし共はちっとも知りませんでしたが、なんでも夜なかにそっと帰って来たのを、お島さんが戸をあけて入れてやったらしいんです。",
"お島さんはどうしている。",
"お島さんも調べられていました。",
"調べられただけで、やっぱり家にいるのか。"
],
[
"そういうわけがあるんですもの、まず第一に水沢さんに疑いのかかるのも無理はありませんわ。おまけに水沢さんはその時刻に丁度どこへか行っていたんですもの。",
"なるほど、そうだ。"
],
[
"二人はその晩に心中の相談をしたらしいんです。そうして、きのうの夕方、あなたが浜辺で見つけたという時に、二人はそこに落ち合って、それから小舟に乗って沖へ出たんです。いいえ、確かにそうなんです。さっきも警察の人が来て、水沢さんの座敷を調べたら、あの芸妓からよこした手紙が見付かったんです。そりゃ何でもだらしのないことがたくさん書いてあって、つまり一緒に死ぬとか生きるとかいう……。なにしろそういう証拠があるんですから仕様がありませんわ。水沢さんは心中するつもりで、最初に女を殺したんでしょうけれど、急に怖くなって海へ飛び込んで、泳いで逃げて来たに相違ないんです。",
"それにしては、女がどうして櫂を両手に持っていたんだろう。",
"水沢さんが刀でもぬくあいだ、女が手代りに櫂を持っていたのかも知れません。なにしろ心中には相違ないんですよ。それにあのステッキの一件、あれが動かない証拠で、警察でも水沢さんに眼をつけているんです。けさもステッキの折れたのを持って来て、これに見覚えがあるかといって帳場の人に訊いていましたから、あたしがそばから啄を出して、たしかに見覚えがある、それは水沢さんのステッキに相違ないと言ってやりました。"
],
[
"なぜさ。",
"なぜって……。ともかくも女と心中する約束をして置きながら、女の死んだのを見て急に気が変わるなんて、あんまり薄情じゃありませんか。あたし、あんな人大嫌いですわ。ちっともかばってやろうなんて思やしません。ですから、福原さん、あなたお願いですからこれから警察へ行って、ゆうべあの二人が舟に乗って出たところを確かにみたと言ってください。そうすれば、水沢さんだって、もう一言もないでしょう。"
],
[
"いや、僕は御免こうむる。水沢さんがすでに警察にあげられた以上は、警察の方で何とかするだろう。僕が横合いから出て行って余計なおしゃべりをする必要はないよ。心中の手紙もあり、ステッキの折れたのもあるんだから、証拠はもうそろっている。別に証人を探すことはないよ。",
"そうでしょうかねえ。"
],
[
"水沢さんという人もずいぶん卑怯じゃありませんか。どうしても芸妓を殺した覚えはないと強情を張っているんですもの。",
"水沢さんは気が確かになったのか。"
],
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"どんな嘘をついたの。",
"だって、こんなことを言うんですもの。二人が舟に乗って沖へ出ると、急に浪があらくなって、なんだか得体の知れない怖ろしい魚が不意に出て来て、舟を目がけて飛びあがって、剣のようなくちばしで芸妓の横腹を突いたんですって……。あんまり嘘らしいじゃありませんか。",
"それからどうした。",
"水沢さんはびっくりして、あわてて海のなかへ飛び込んで、夢中で泳いで逃げたんですって。",
"そうかも知れない。警察ではその申し立てを信用したのかね。",
"そんなことを言ったって、むやみに信用するもんですか。けれども、丁度に変な魚が流れ付いたもんですから、警察の方でも少し迷っているらしいんです。なんでも東京から博士を呼んで、その魚をしらべて貰うんだとか言っていました。あなたはその魚を御覧でしたか。",
"むむ、見た。水沢さんのステッキは確かにあの魚のくちばしだよ。",
"そのくちばしを取り返しに来たんでしょうか。",
"まさかそうでもあるまいが、とにかく水沢さんの申し立てはほんとうらしいよ。僕はどうもほんとうだろうと思う。不思議な物に突然襲われてあんまりびっくりしたので、一時はぼんやりしてしまったが、だんだん気が落ち着くにしたがって、その怖ろしい出来事の記憶が呼び起こされたのだろう。その魚が飛んで来て、芸妓の横っ腹を突いたもんだから、芸妓もきっと死に物狂いになって、そこにある櫂を取って無茶苦茶に相手を撲ったに相違ない。そこで、魚はくちばしを叩き折られる。眼だまを突きつぶされる。そうしてとうとう死んでしまったんだろう。つまり芸妓とその魚と相討ちになったわけだね。",
"あの芸妓にそんな怖ろしい魚が殺せるでしょうか。",
"今もいう通り、こっちも死に物狂いだもの、眼だまか何かの急所をひどく突かれたので、さすがに魚も参ってしまったんだろう。そんなことがないとも言えない。",
"なんだか嘘のようですねえ。"
],
[
"でも、その魚さえ流れ着かなければ、水沢さんが殺したことになってしまったんでしょうね。",
"そうかも知れない。",
"そうでしょうねえ。"
],
[
"そうです。この女のために先の細君は身を投げるようなことになったのです。相原医師も、もちろん悪い人ではありませんから自分の罪を非常に後悔して、それがために低能児となった我が子を可愛がっていたのです。しかしおげんとの関係はその後も長く継続していて、世間の人にはちっとも気付かれないようによほど秘密に往来していたらしいのです。それでも与助や雇婆のお百はうすうす承知していたらしく、与助はともかくも、お百はおそらく口留めされていたのでしょう。そうしているうちに、おげんは死んでしまったのですが、その父の五兵衛はむかしの関係を頼ってその後も相原医師のところへ時々無心に出入りしていたそうです。おげんが死んでしまって見れば、相原医師もいつもいつも好い顔をして五兵衛の無心をきいているわけにも行きません。月日の経つに従ってだんだん冷淡になるのも自然の人情でしょう。五兵衛の方は博奕でも打つ奴ですから、その後も無頓着に無心を言いに来る。相原医師の方はだんだん冷淡になる。その結果がこの怖ろしい悲劇の動機となって、相原医師に相当の蓄財のあること知っている五兵衛は、雨のふる晩に手斧を持って相原家へ忍び込み、主人と雇婆を惨殺したのです。",
"やはり与助が酒を買いに行った留守ですか。",
"そうです。与助も無論殺してしまうつもりであったのです。主人と雇婆とを殺して、それから金のありかを探そうとするところへ、ちょうど与助が酒を買って帰って来たので、ついでに殺してしまおうかと思って手斧をふりあげると、与助が怖い眼をして睨んだそうです。それが遠いむかしに与助を負って身を投げた相原の先妻の顔にそっくりであったので、五兵衛も思わず身の毛がよだって、なんにも取らずに逃げ出してしまったそうです。"
],
[
"五兵衛は手拭で顔を深く包んでいたそうですけれど、与助はちゃんとひと目で睨んでしまったらしいのです。あの馬鹿にはきっと死んだおふくろが乗りうつったに相違ありませんと、五兵衛は警察でふるえながら白状しました。",
"与助はその後どうしました。"
],
[
"聞くのがいやならあっちへ行きたまえ。僕はこの先生にお話をするんだから。いや、君もここにいてくれた方がいい。僕の忘れたところは君に教えてもらうから。",
"あら、いやですわ。"
],
[
"安井さん、もうお止しなさいよ。",
"馬鹿。これからが大事のところだ。夜があけると、郊外の椰子の林のなかに倒れている女があるのを土人が発見して、だんだん調べてみると、それが小鉄だということが判ったんです。医師の検案によると、小鉄の死因は頭を強く打たれたので……。髪も着物もぐしょ濡れになっているのを見ると、きのうのシャワーが降ってくる前か、あるいは降っている最中かに、そこで変死を遂げたらしいんです。相手の英国人はどうしたか判らない。なにしろ、大事の稼ぎ人を殺したんですから、抱え主は気違いのようになって騒ぐ。町じゅうの評判もまた大変で、流行妓のこてちゃんが死んだことについていろいろの想像説が尾鰭をつけて言い触らされる。"
],
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"もう十一時頃でしたわ。",
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],
[
"猿です。土人と猿とが殺られたんです。これは疑う余地もない他殺で、人間も猿もピストルで撃たれたんです。それが今もいう通り、小鉄とおなじ死に場所だからおかしいじゃありませんか。あなたはそれをどう解釈します。",
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],
[
"支那人とダルトンとは従来なんの関係もない人間であったんですが、ダルトンがこの土地へ渡って来てから一種の関係が繋がったんです。この二人を継ぎ合わせる楔子はかの小鉄で、小鉄はダルトンの娘であるという事実が判った時にはわれわれも意外に思いました。小鉄を混血児だなんていったのは、あながちに人の悪口ばかりでもありません。小鉄は実際英国人と日本人とのあいだに生まれた女であったんです。ダルトンが横浜に住んでいた時に、小鉄のおふくろを妾同様にしていて、そのあいだに小鉄が生まれた。そうして、小鉄が七つか八つのときに、ダルトンは本国へ一旦帰ることになって、相当の金を渡して別れたんですが、小鉄のおふくろというのはあまり身持のよろしくない女で、二、三年のうちにその金を煙にしてしまって、小鉄が小学校を卒業すると同時に、横浜のある芸妓屋へ半玉にやった。小鉄もこのおふくろのためには随分苦しめられたらしいんですが、おふくろが死んでから間もなく、このシンガポールへ住み替えに出て、まあいい塩梅に売れていたんです。それでおとなしく辛抱していれば無事だったんですが、厄介者のおふくろがいなくなって、本人の気にもゆるみが出る。商売の方も繁昌する。こうなると、とかく魔がさすもので、小鉄はいつの間にか梁福という若い支那人と関係を付けるようになったんです。",
"その支那人は何者ですか。"
],
[
"考えてみると気の毒です。なにしろ久しく逢わないので、娘がどんな人間に変わっているか判らない。ダルトンは小鉄ばかりでなく、もう一人の芸妓――この花吉です――をよんで、なにげなく遊んでいながら、小鉄の身許やその人間をよそながら探ってみると、たしかに自分のむすめに相違ない。人間も悪く変わっていないらしい。ダルトンは喜んで安心して、その晩はそのまま別れてしまって、あくる日さらに出直して小鉄をよんだ。そうして、あらためて親子の名乗りをすると、小鉄も今まで忘れていた父親の顔をはっきり思い出して、これも大変に喜んで……。いや、人間の運命はわからないもので、小鉄はここで生みの親にめぐり逢わなかったら、不幸の死を招くようなことも出来しなかったかも知れなかったんですが、どうも仕方がありません。あいにくその日は南風楼が非常に繁昌して、となり座敷では三味線をひいてじゃかじゃか騒ぎ立てる。どうも落ち着いていろいろの話をするわけにもいかないので、ゴム園見物ということで、ここを出て、閑静な場所で今後のこともゆっくり相談しようと約束して、すぐに自動車を呼んで二人が乗り出して、その途中で自動車を帰して、なるべく人の眼に立たないような椰子の林のなかへはいり込んで、何かひそひそ話しているところへ、かの梁福が突然に出て来たんです。",
"二人のあとを尾けて来たんですか。",
"そうです。小鉄が途中から自動車を帰して、ダルトンと仲好くならんで歩き出すところへ、梁福がちょうど通りかかって遠目にそれを見つけたんです。かれは非常に嫉妬深い男なので、老人とはいえダルトンが小鉄に手をひかれて、睦まじそうに歩いて行くのを見て、急にむらむらとなって、すぐに二人のあとを追って行って、椰子林のなかへ駈け込んでダルトンに喧嘩を吹っかけたんです。その剣幕があまり激しいので、相手も少しおどろいた。もう一つには、かれが小鉄と深い関係のあるらしいのを覚って、ダルトンは逆らわずに一旦そこを立ち去ってしまった。ここでダルトンがなにもかも正直に打ち明けたら、梁福もあるいはおとなしく得心したのかも知れませんが、相手が支那人であるのと、その人物もあまりよろしくないように見えたのとで、ダルトンは黙ってその場を外してしまったんです。そのあとで、梁福は小鉄をつかまえて、何かいろいろのことをきびしく詮議して、なぜ途中から自動車を帰して二人がこんなところへはいり込んだのだという。小鉄もその事情を打ち明けるのを憚って、なにかあいまいなことを言っているので、相手の方ではいよいよ疑って、いよいよ厳しく責め立てる。結局、小鉄も切羽つまって、ダルトンと自分との関係を明かしたが、梁福はまだ素直に信用しない。その悶着の最中に、椰子の梢でがさがさという音がして、大きい一つの実が小鉄の頭の上に……。なにしろ不意のことでもあり、こっちの悶着に気をとられていたので、とても避ける暇などはありません。",
"小鉄はすぐに殺られてしまったのですね。"
],
[
"ところが、自然でない。木の上には猿がいたんです。",
"猿が……。"
],
[
"それで、その支那人は警察へも訴えなかったのですね。",
"勿論、訴えれば子細はなかったんですが、梁福はどうも警察へ出ることを好まない。というのは、かれが常に賭博に耽っているのと、まだほかにもなにか後ろ暗いことのあるのを、警察でも薄々さとっているらしいので、脛に疵持つかれは、こういう問題について警察へ顔を出すことを恐れている。その結果、かれはなんにも知らない振りをして自分の家へ帰ってしまったんだといいます。いや、かれの申し立てはまずこうなんですけれど、まだそのほかにも何か思慮があったらしく、かれはその以来、ダルトンのありかをひそかに探していたんです。ダルトンはまた警察へ行って、かの支那人のことを早く訴えたら、すぐに手がかりが付いたかも知れなかったんですが、これも警察沙汰にすると、小鉄と自分との秘密が暴露するのを憚って、慌てて宿を換えてしまったんです。こういうわけで、両方が努めて秘密主義を取っていたので、小鉄の死因にも疑惑が残っていたわけです。しかし梁福の身になると、その猿めが憎くってならない。自分の大事な女をむごたらしく殺した畜生を、どうしてもそのままにはしておかれないので、ピストルを懐中して例の椰子の林へ忍んで行くと、猿はその日も木の上に登っていたので、そっと近寄ってただ一発で撃ち落とすと、きょうは猿ばかりでなく、番人もその近所にいたもんだから、すぐに駈けて来てかれを取りおさえようとする。こっちは嚇し半分にまた一発撃つと、それが番人の胸にあたってその場に倒れる。こっちはいよいようろたえて、あとをも見ないで逃げてしまった。その場に落ちていた二つの椰子の実は、やはり猿が投げたものらしい。これで人間ひとりと猿一匹の死因も判ったでしょう。",
"判りました。"
],
[
"わざわざお出迎えで恐れ入りました。おことばにあまえてお邪魔に出ました。",
"どうぞごゆっくり御逗留なすってください。田舎も田舎、そりゃ大変な山奥のようなところですけれど、折角いらしって下すったもんですから、ひと月でも二月でも……。あなたが帰ると仰しゃっても、わたくしの方で無理にお引き留め申しますわ。"
],
[
"はあ。あすこらには余りたくさんいませんけれど、しもの方へ行くとずいぶん捕れます。",
"やはりここらまで売りに来るのですか。"
],
[
"わたくしもここへ来てからもう三年になります。山林生活にはすっかり馴れてしまいましたから、別に寂しいとも不自由とも思いませんけれど、一つ所に長くいるといけません。そのうちに、どこへか転勤しようと思っています。どうで猿か熊のように山から山を伝ってあるくのですが、どうも一つ所はいけません。又ほかの山を探そうと思っています。",
"一つ所に長くいらっしゃると、随分お飽きになりましょうが、しかし又、違ったところへお出でになると、当分は何かと御不自由なこともございましょう。"
],
[
"わたくしはなんにも存じませんけれど、御用はなかなかお忙がしいのでございますか。",
"なに、ここらは比較的に閑な方です。土地の人気が一体におだやかですから、盗伐などという問題もめったに起こりません。ただ時々に山窩が桐の木を盗むぐらいのことです。"
],
[
"その女の児というのは幾歳ぐらいでした。",
"そうでございますね。わたくしにもよく判りませんでしたけれど、なんだか十三四ぐらいのように見えました。それとも、もう少し大きいかも知れません。色の白い、顔立ちは悪くない児でございました。",
"なんにも声をかけませんでしたか。",
"はあ。"
],
[
"関井さんもそんなことを仰しゃっておいででした。",
"主人もあなたにそう申しましたか……。まったくここには忌なことがあるもんですから……。",
"山窩とかいうものがたくさん棲んでいるそうでございますね。"
],
[
"主人が山窩のことをお話し申しましたか。",
"はあ、悪いことをして困るとかいうことで……。"
],
[
"いいえ。わたくしもこういう静かなところが大好きでございますから、十日や半月では決して飽きるようなことはございません。お天気のいい日にはこうして散歩でもしていますし、雨でも降った日には久し振りであなたのピアノでも伺いますから。",
"ピアノは折角持って来ましたけれど……。こちらへ来た当座は五、六たび弾いてみたこともありますけれど……。あんなものを弾くと、猿や狼があつまって来ていけませんから、この頃はただ飾って置くだけです。"
],
[
"ああ、郵便でございますか。よろしゅうございます。たしかにお預かり申しました。",
"どうぞ願います。葉書と封書と両方で五通ありますから。"
],
[
"やっぱり山窩とかいうんですか。",
"そうですよ。ここらの山の中にはあんな者が棲んでいて、時々に村へ降りて行っていろいろの悪さをして困りますよ。",
"山女を売りに来たんですか。",
"なに、売りに来たんじゃありません。ああして自分の捕ったのを持って来てくれるんですよ。"
],
[
"なにか食べ物をやることもありますが……。毎日のようにうるさく来るので、この頃は相手にならずに追い返してしまうんです。考えてみりゃあ可哀そうのようでもありますけれど……。",
"まったく可哀そうですわね。",
"毎日ああして山女を捕って来てくれるんですからね。まったく涙が出るように可哀そうなこともありますけれども、どうにもこうにも仕様がありません。あんな者のことですから、そのうちには又どうにかなりますよ。"
],
[
"あの児はなんという名です。",
"名なんか知りませんよ。たびたびここへ来ますけれど、名前なんか訊いてみたこともありません。当人も知らないかも知れません。",
"いくつぐらい、もう十三四でしょうね。",
"いや、もう十六七かも知れませんよ。あんな奴等はみんな猿のように、からだが小そうございますからね。ええ、そうです。どうしても十六ぐらいにはなっていましょうよ。",
"そうですかねえ。まるで子供のように見えますけれど、もうそんなになるんですかねえ。あの娘はここへ来て、別に何も悪いことをするんじゃないでしょう。"
],
[
"お嬢さん。あなたは奥さんから何かお聞きでございましたか。",
"いいえ、別に……。けれども、何だかそんなような気がしてならないんです。ほんとうにそうじゃありませんかしら。"
],
[
"どうも失礼。まことにすみません。",
"いや、どうしまして。"
],
[
"あなたお一人ですか。",
"はあ。"
],
[
"はあ。",
"あなたはこの土地の人ですか。",
"いいえ。"
],
[
"お一人で御退屈ならわたしの座敷へお遊びにいらっしゃい。あなたとお話の合いそうな女もおりますから。",
"ありがとうございます。"
],
[
"そこで、その上原という人は何時頃に出て行ったんです。",
"五時過ぎでしたろう。"
],
[
"ヒステリーだろう。",
"だって、男が帰って来たらいいじゃありませんか。"
],
[
"あなた、ちょいと顔を貸してくれませんか。",
"はい。"
],
[
"すると、あの男と女は心中でもしそうな関係になっているんですね。",
"まあ、そうらしいんです。わたくしも意見してやろうと思っているうちに、つい酔っ払って寝込んでしまって……。"
],
[
"御鑑定の通りです。あの女はどうもヒステリー患者だろうと思われます。",
"そうでしょう。"
],
[
"それが嵩じて、ここでも上原に武者ぶり付いたんだろう。もとより殺す気じゃなかったんだろうが、夢中で絞め付けるはずみに相手の息を止めてしまったんだろう。え、そうだろう。正直に言わないじゃいけない。",
"そんなことはありません。",
"だって、ほかに誰もいない以上は、お前が手を出したと認めるよりほかはない。お前はどうしても知らないと強情を張るのか。",
"知りません。"
],
[
"どうかこれは御内分にねがいます。",
"まあ、それはちっとも存じませんでした。一体いつ頃からでしょう。"
],
[
"お筆は身でも投げたのでしょうか。",
"さあ、ふたりの男の死んだのを見て、お筆はそこをぬけ出して、築地か芝浦あたりで身を投げた。そうして、帯のあいだか袂にでも入れてあった状袋が流れ出して、かの鯔の口にはいった――と、想像されないこともありません。あるいは単に不用の状袋をひき裂いて川に投げ込んだのを、鯔がうっかり呑み込んだ――と、思われないこともありません。警察でも築地河岸から芝浦、品川沖のあたりまでも捜索してくれたのですが、それらしい死体は勿論、何かの手がかりになりそうな品も見付かりませんでした。お筆は死んだのか、生きているのか、それも結局判らずに終ったわけです。警察から静岡の方へも照会してくれましたが、そこには今でも久住弥太郎という士族が住んでいて、その家来の箕部五兵衛は先年病死、五兵衛の娘のお筆というのは親類をたずねて東京へ出たっきりで、その後の便りを聞かない。久住の屋敷は番町のしかじかというところだということで、総てがいちいち符号していますから、お筆の身許に嘘はないようです。してみると、お筆という女は自分の故郷に帰って来て、しかも自分の生まれた家のなかでいろいろの事件をしでかして、そのまま生死不明になってしまったので、まったく不思議な女です。"
],
[
"じゃあ、なぜ堀江屋へ行かないで、ここの家にいつまでも奉公しているのだ。",
"同じ町内でそんなことも出来ませんから。",
"お前はきのうの朝、堀江屋の娘と往来でなにを話していた。"
],
[
"いつもの話とはなんだ。",
"なんでもありません。ただ、時候の挨拶をしていたんです。"
],
[
"芝居の表にかざって置きましたが、今は休みですから下の座敷に持って来てあります。",
"そうですか、一緒に来てください。"
],
[
"お春さんも無論知らない。富子さんも知らないで、うっかりとその花環をいじくっているうちに、いつかその毒虫に刺されたんです。こう判ってみれば何でもありませんけれど、前の事情があるからどうしてもお春さんを疑うようにもなりますわね。その男の人というのは、その町の中学の理科の教師だそうでした。",
"お春とは関係があったんですね。"
],
[
"しかしもう一つ疑えば、お春が男の知恵をかりて、台湾蝶を花環の中へわざと入れてよこしたんじゃないかしら。",
"あなたも疑いぶかい。そんなことをいえば際限がありませんわ。病気の原因が判ったので、富子さんはその手当てをして、その後間もなく癒りました。"
],
[
"どうなすったか判りませんでしたが、ひと月ほども前に、その奥さんがふらりと尋ねておいでになりまして、なんでも今までは上総の方とかにお出でになったというお話でした。そうして、わたしの家には誰が住んでいるとお聞きになりましたから、矢橋さんという方がお住まいになっていると申しましたら、そうかといってお帰りになりました。",
"その奥さんは今どこにいるのだろう。",
"やはり同区内で、芝の片門前にいるとかいうことでした。",
"どんなふうをしていたね。"
],
[
"奥さんは幾つぐらいだね。",
"瓦解の時はまだお若かったのですから、三十五ぐらいにおなりでしょうか。",
"子供はないのですかね。",
"お嬢さんが一人、それは上総の御親類にあずけてあるとかいうことでした。",
"片門前はどの辺か判らないかね。",
"さき様でも隠しておいでのようでしたから、わたくしの方でも押し返しては伺いませんでした。"
],
[
"きょうはまったく冷えます。今晩はちっと白いものが降るかも知れません。",
"それでもここらは積もっていませんね。",
"へえ。積もるほども降りませんが、なにしろ名物の空っ風で……。"
],
[
"いえ、どういたしまして……。お連れさんは御一緒じゃないんですか。",
"いえ、連れと申す訳でもございませんので……。越後の宿屋で懇意になりましただけのことでございます。丁度おなじ汽車に乗り合わせるようになりまして、途中まで一緒にまいったのですけれど、あんまり煩さいのでわたくしはここで降りてしまいました。",
"そうでしたか。それは御迷惑でしたろう。"
],
[
"この膝掛けは奥さんのでございますね。",
"はあ。いえ、なに、それはわたしが自分で持っていきます。"
],
[
"滞在は一人もないの。",
"はあ、お寒い時分はまるで閑でございます。ここらはどうしても三月の末からでなければ、滞在はめったにございません。"
],
[
"ちっとお寂しいかも知れません。十一番さんは御存じの方じゃないんですか。",
"いや、知らない。休憩所から一緒になったんだ。"
],
[
"実は私、すこし紛失物がございますのですが……。",
"なにがなくなったんです。",
"膝掛けがなくなりましたので……。",
"ああ、あの毛皮の……。",
"さようでございます。狸の皮の……。"
],
[
"そんなに皆さんをお騒がせ申しては済みません。なに、ほかに類のないという品じゃありませんから、そんなに御詮議をなすって下さらないでもよろしゅうございます。",
"いえ、あなたの方ではそう仰しゃっても、手前の方では十分に取り調べをいたします。"
],
[
"お午前の汽車でお連れさんがお出でになりまして、一緒にお午の御飯を召し上がって、一時間ほど前にどこへかお出掛けになりました。",
"連れというのはどんな人だい。"
],
[
"雪はやんだの。",
"はあ、さっきから小降りになりました。"
],
[
"いや、同類じゃない。それは高崎のやはり糸商人で、小間使のように見えた若い女は彼の妾であったようだ。汽車のなかで丁度となりに席を占めていたので、狸の皮の方からなにか魔術を施したらしい。そうして、すきを見てその紙入れを掏り取ってしまった。男は高崎の家へ帰ってからそれを発見して、すぐに警察へ告訴すればいいものを、狸の皮が下車した駅を知っているので、そのあとを追って温泉場へ探しに来た。と、まずこう判断するのだが、死人に口なしでその辺はよく判らない。あるいは狸の皮の魔術に魅せられて、紙入れの詮議以外になにかの目的を懐いて、雪のふる中をわざわざ引っ返して来たのかも知れない。どっちにしても、自分自身で詮議に来るくらいだから、狸の皮にうまく丸められて、遂にそこに居すわることになってしまったのだ。",
"で、その男も劇薬をのまされたのか。"
],
[
"きっと他言してくださるな。",
"ようごぜえます。なんにも言いません。"
],
[
"どうしたの、お寺に何かあったのですか。",
"この頃、お寺の墓場で毎晩のように犬の吠える声が聞こえるのでございます。それがゆうべは取り分けて激しいので、お住持がそっと起きて行ってみると、一匹の小さい狸が野良犬に咬み殺されて死んでいました。狸は爪のさきで新仏の墓土を掘り返そうとしているところを、犬に咬まれて死んでしまったのでございます。唯それだけならば、狸めのいたずらで事が済むのですが、その墓が尼さんの……。"
],
[
"そうして、その金はどうなった。",
"いつもの通り、四つ(午後十時)に大戸をおろしましたが、けさ起きて見ると、袋も金もなくなっておりました。"
]
] | 底本:「岡本綺堂読物選集 6 探偵編」青蛙房
1969(昭和44)年10月10日
底本の親本:「綺堂読物集第四卷 探偵夜話」春陽堂
1927(昭和2)年5月20日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:和井府清十郎
校正:門田裕志
2012年7月10日作成
2014年10月2日修正
青空文庫作成ファイル:
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[
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],
[
"その怪物というのは、どんな形でした",
"兎のような形で、二つの眼が鏡のように晃っていました",
"では、ちょいと振り返ってごらんなさい"
],
[
"どんな病気で死ぬのだ",
"兵器で死ぬのだ"
],
[
"王はおまえの首に千金の賞をかけているそうだから、おまえの首とその剣とをわたしに譲れば、きっと仇を報いてあげるが、どうだ",
"よろしい。お頼み申す"
],
[
"しかし文公がいつまでも強情にやっていたら、仕舞いにはどうする",
"どうするものか。根くらべだ",
"そう言っても、もし相手の方で三百人の人間を散らし髪にして、赭い着物をきせて、朱い糸でこの樹を巻かせて、斧を入れた切り口へ灰をかけさせたら、お前はどうする"
],
[
"わたしの羽衣はどこに隠してあるか、おまえ達は知らないかえ",
"知りません",
"それではお父さんに訊いておくれよ"
],
[
"貴公はよく人に鬼を見せるというが、今わたしの眼の前へその姿をはっきりと見せてくれ。それが出来なければ刑戮を加えるから覚悟しなさい",
"それは訳もないことです"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:もりみつじゅんじ
2003年7月31日作成
2007年7月15日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"それでは、あなたの姓名はなんというのですか",
"おれの名をきいてどうするのだ",
"ぜひ教えてください",
"忌だ、いやだ"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日初版1刷発行
初出:「支那怪奇小説集」サイレン社
1935(昭和10)年11月20日発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
※表題は底本では、「捜神後記《そうじんこうき》」となっています。
入力:tatsuki
校正:もりみつじゅんじ
2003年7月31日作成
2022年1月23日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "2"
} |
[
[
"いや、飛んでもない男だ。今も相変らずそんな悪事を働いているのか",
"もう唯今は決して致しません。それだから正直に申し上げたのでございます。御承知の通り、大抵の盗賊は墓あらしをやります。わたくしもその墓荒しを思い立って、大勢の徒党を連れて、さきごろこの近所の古塚をあばきに出かけました。塚はこの庄から十里(六丁一里)ほどの西に在って、非常に高く、大きく築かれているのを見ると、よほど由緒のあるものに相違ありません。松林をはいって二百歩ほども進んでゆくと、その塚の前に出ました。生い茂った草のなかに大きい碑が倒れていましたが、その碑はもう磨滅していて、なんと彫ってあるのか判りませんでした。ともかくも五、六十丈ほども深く掘って行くと、一つの石門がありまして、その周囲は鉄汁をもって厳重に鋳固めてありました",
"それをどうして開いた"
],
[
"子供だましのような事を言ってはいけない。なんにも筆を入れないで、あの画を直すことが出来る筈がないではないか",
"いや、それが出来るのだ",
"出来るものか"
],
[
"妻を娶るならば、洛神のような女が欲しいものだ",
"あなたは水神を好んで、わたしをお嫌いなさるが、わたしとても神になれないことはありません"
],
[
"おまえ達は人間ではないか。なんでおれを欺すのだ",
"いや、われわれは鬼である"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "001299",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "05 酉陽雑爼(唐)",
"副題読み": "05 ゆうようざっそ(とう)",
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"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
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"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年4月20日初版1刷",
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} |
[
[
"あの七人はほんとうに画を描いているのかしら",
"なんだかおかしいな。なにかの化け物がおれ達をだまして、とうに消えてしまったのではないかな"
],
[
"何百匹という鼠の群れが門の外にあつまって、なにか嬉しそうに前足をあげて叩いて居ります",
"それは不思議だ。見て来よう"
],
[
"いいか。気をつけてくれ。それを見付けられたら大変だぞ。韓の家の子供にはまだ名がないのか",
"まだ名を付けないのだ。名が決まれば、すぐに名簿に記入して置く",
"あしたの晩もまた来いよ",
"むむ"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日初版1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "001300",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "06 宣室志(唐)",
"副題読み": "06 せんしつし(とう)",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-18T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card1300.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1999(平成11)年11月5日3刷",
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"底本の親本初版発行年2": "",
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} |
[
[
"あしたの朝出発のときに、点心を頼みます……",
"はい、はい。間違いなく……。どうぞごゆるりとおやすみください"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "001301",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "07 白猿伝・其他(唐)",
"副題読み": "07 はくえんでん・そのた(とう)",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-21T00:00:00",
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"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
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"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"おまえの姓はなんというのだ",
"王といいます",
"王か。名は同じだが、姓が違っている"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
※「※[#「土+已」、159-2]橋《ひきょう》の老人」には、「※[#「土+巳」、第3水準1-15-36]橋《いきょう》の老人」の誤りを疑いましたが、初出の「支那怪奇小説集」サイレン社、1935(昭和10)年11月24日発行でも異同がなかったので、底本通りとしました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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| {
"作品ID": "001302",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "08 録異記(五代)",
"副題読み": "08 ろくいき(ごだい)",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-21T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card1302.html",
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"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1999(平成11)年11月5日3刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "tatsuki",
"校正者": "小林繁雄",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/1302_ruby_8663.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2003-08-04T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
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"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/1302_11898.html",
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"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"わたしはここから五、六里のところにある別荘に住んでいる者です。明日一度お遊びにお出で下さいませんか",
"ありがとうございます"
],
[
"その蛇はどこにいるのだ",
"いるではありませんか。これが見えないのですか"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "002236",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "09 稽神録(宋)",
"副題読み": "09 けいしんろく(そう)",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-21T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card2236.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1999(平成11)年11月5日3刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "tatsuki",
"校正者": "小林繁雄",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/2236_ruby_8664.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2003-07-31T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "0",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/2236_11899.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2003-07-31T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"おれ達も随分ここの家に長くいたから、そろそろ立ち去ろうではないか。いっそこの舟に乗って行ってはどうだな",
"これは漁師の舟だ。おまけにほか土地の人間だからいけない。あしたになると、東南の方角から大きい船が来る。その船には二つの紅い食器と、五つ六つの酒瓶を乗せているはずだから、それに乗り込んで行くとしよう。その家はここの親類で、なかなか金持らしいから、あすこへ転げ込めば間違いなしだ",
"そうだ、そうだ"
],
[
"お前はこんなものを好んでどうするのだ",
"いつもむしゃくしゃしてなりません。これを見ると、胸が少し落ちつくのです",
"それならば城内の薬屋に活きた虎が飼ってあるのを知っているのか",
"まだ知りません。どうぞ連れて行って一度見せてください"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日初版1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "002238",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "11 異聞総録・其他(宋)",
"副題読み": "11 いぶんそうろく・そのた(そう)",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-24T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card2238.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1999(平成11)年11月5日3刷",
"底本の親本名1": "",
"底本の親本出版社名1": "",
"底本の親本初版発行年1": "",
"底本名2": "",
"底本出版社名2": "",
"底本初版発行年2": "",
"入力に使用した版2": "",
"校正に使用した版2": "",
"底本の親本名2": "",
"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "tatsuki",
"校正者": "小林繁雄",
"テキストファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/2238_ruby_10193.zip",
"テキストファイル最終更新日": "2003-07-31T00:00:00",
"テキストファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"テキストファイル文字集合": "JIS X 0208",
"テキストファイル修正回数": "0",
"XHTML/HTMLファイルURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/2238_11901.html",
"XHTML/HTMLファイル最終更新日": "2003-07-31T00:00:00",
"XHTML/HTMLファイル符号化方式": "ShiftJIS",
"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"わたしはどの人も強いとは思わない。そんなことは誰にでも出来るのだ。論より証拠で、わたしは日が暮れてから閭山の廟へ行って、廟のなかを一周してみせる",
"ほんとうに行くか",
"おお、いつでも行く",
"行ったという証拠をみせるか"
],
[
"あれはなんだ",
"馬絆です",
"馬絆とはなんだ"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "002239",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "12 続夷堅志・其他(金・元)",
"副題読み": "12 ぞくいけんし・そのた(きん・げん)",
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"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-24T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card2239.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
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"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
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} |
[
[
"おまえは医者というからは、人の療治が出来るのだろうな",
"勿論、それがわたくしの商売でございます"
],
[
"あなたは実に神のようなお人です。その長生きの仙薬というのをどうぞ我々にもお恵みください",
"よろしい。おまえらにも分けてあげよう"
],
[
"猿は申に属します。それで、かれらが勝手にそんな名を付けたので、もとからの地名ではございません",
"おまえらがここへ帰り住むようになったらば、おれに出口を教えてくれ、礼物などは貰うに及ばない。ただこの娘たちを救って出られればいいのだ",
"それはたやすいことでございます。半時のあいだ眼を閉じておいでなされば、自然にお望みが遂げられます"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "002241",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "14 剪灯新話(明)",
"副題読み": "14 せんとうしんわ(みん)",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-27T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card2241.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
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"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1999(平成11)年11月5日3刷",
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"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "tatsuki",
"校正者": "小林繁雄",
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"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
"XHTML/HTMLファイル修正回数": "0"
} |
[
[
"あなたの失った金は幾らです",
"三千金です",
"それならば大抵こころ当りがあります。わたしと一緒においでなさい"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "002242",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "15 池北偶談(清)",
"副題読み": "15 ちほくぐうだん(しん)",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-27T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
"図書カードURL": "https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/card2242.html",
"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
"入力に使用した版1": "1994(平成6)年4月20日初版1刷",
"校正に使用した版1": "1999(平成11)年11月5日3刷",
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"底本の親本出版社名2": "",
"底本の親本初版発行年2": "",
"入力者": "tatsuki",
"校正者": "小林繁雄",
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"テキストファイル最終更新日": "2003-07-31T00:00:00",
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"XHTML/HTMLファイル文字集合": "JIS X 0208",
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} |
[
[
"それではおれをあの楼に泊めてくれ",
"お泊まりになりますか",
"なんの怖いことがあるものか。おれの威名を聞けば、大抵の化け物は向うから退却してしまうに決まっているのだ"
],
[
"お前は今から数年前の何月何日の夜に、門を叩かれたことを覚えているか",
"おぼえて居ります",
"現在の夫はまことの夫ではない。年を経たる黒魚(鱧の種類)の精である。おまえの夫はかの夜すでに黒魚のために食われてしまったのであるぞ"
]
] | 底本:「中国怪奇小説集」光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日初版1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
| {
"作品ID": "002243",
"作品名": "中国怪奇小説集",
"作品名読み": "ちゅうごくかいきしょうせつしゅう",
"ソート用読み": "ちゆうこくかいきしようせつしゆう",
"副題": "16 子不語(清)",
"副題読み": "16 しふご(しん)",
"原題": "",
"初出": "",
"分類番号": "NDC 913 923",
"文字遣い種別": "新字新仮名",
"作品著作権フラグ": "なし",
"公開日": "2003-09-30T00:00:00",
"最終更新日": "2014-09-18T00:00:00",
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"人物ID": "000082",
"姓": "岡本",
"名": "綺堂",
"姓読み": "おかもと",
"名読み": "きどう",
"姓読みソート用": "おかもと",
"名読みソート用": "きとう",
"姓ローマ字": "Okamoto",
"名ローマ字": "Kido",
"役割フラグ": "著者",
"生年月日": "1872-11-15",
"没年月日": "1939-03-01",
"人物著作権フラグ": "なし",
"底本名1": "中国怪奇小説集",
"底本出版社名1": "光文社文庫、光文社",
"底本初版発行年1": "1994(平成6)年4月20日",
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"校正に使用した版1": "1999(平成11)年11月5日3刷",
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} |