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# [B14] デジタル$\cdot$アーカイブがもたらす「博物館資料」×「引用先学術成果情報」間のクロスリファレンスの可能性:自然史博物館標本の事例から 大西 亘 1$)$ 1)神奈川県立生命の星・地球博物館,〒250-0031 神奈川県小田原市入生田 499 E-mail: [email protected] ## Possibilities of Cross-Reference between museum specimens $\times$ study results provided by digital archives: Cases from natural history museum specimens. OHNISHI Wataru1) 1) Kanagawa Prefectural Museum of Natural History, 499 Iryuda, Odawara, Kanagawa 2500031, Japan ## 【発表概要】 自然史博物館に収蔵される自然史標本は、研究成果の証拠標本として引用明示されることで、自然科学研究の再検証可能性を担保する。近年、自然科学研究の文献情報は、その引用・被引用関係も含め、インターネットを通じて広く閲覧・参照可能となっている。また、自然史博物館の収蔵標本についても、目録や標本画像のインターネット公開が進み、参照・引用への障壁が取り除かれつつある。こうした状況下において、「博物館資料」×「引用先文献情報」間のクロスリファレンスシステムは、博物館における学術情報の流通と博物館資料の利活用を推進する仕組みとして期待される。この仕組みの現状と課題について、自然史標本のうち、生物のタイプ(基準標本)の事例に着目すると、国際的な情報基盤が整いつつある一方で、国内の博物館における、進行途上のデジタル・アーカイブについての課題と、従来からある資料管理上の課題が浮かび上がる。 ## 1. はじめに 博物館の役割は、対象とする資料を「収集 - 管理」「調査 - 研究」「教育 - 普及 - 展示」することにある。デジタル・アーカイブに関する博物館の動向においては、従来の博物館における機能拡張に加え、観光、レクリエーション、コンテンツ産業への寄与も含めた「教育・普及・展示」の役割の発展に注目が集まっている。一方、博物館の役割のうち 「収集・管理」「調査・研究」に対しても、デジタル・アーカイブによって発展が期待される。本稿では、博物館の役割のうち「調查・研究」に対するデジタル・アーカイブの寄与について、今後実装と運用が期待される「博物館資料」×「引用先文献情報」間のクロスリファレンスシステムを念頭に、自然史博物館資料、中でも生物のタイプ(基準標本)における現状と課題を論ずる。 ## 2. 自然史標本とタイプの状況 ## 2.1 自然史標本の意義 自然史博物館資料の中心となる自然史標本は、「時間」と「空間」を超えて、自然界の様々な事象の一部を採取もしくは記録したものである。自然科学研究において、研究に用いられた自然史標本はその再現性(再検証可能性)を担保する証拠物件としての意義を持つ。そのため、研究成果の発信媒体である研究論文においては、その証拠となる自然史標本の所在や識別情報を明示する形で、論文中への標本引用が行われてきた。そして、自然史博物館は、その「収蔵標本」を通じて、自然界の様々な事象と、それに由来する「自然科学研究成果」を再検証可能な形で結びつける役割を担ってきた。 近年、学術文献データベースの発達と普及に よって、研究論文へのアクセスが容易となり、 さらに、ある文献がどの文献を引用し、またどの文献に引用されているのかといった、引用・被引用の関係性も含めた情報へのアクセスも可能となっている。これにより、学術情報の体系を把握しつつ、個々の研究成果たる文献を参照することが学術研究上の情報基盤として整いつつある。また、自然史博物館では、収蔵標本データベースの内容や標本画像をインターネット公開する動きが進み、誰もが容易に収蔵標本の情報を参照・引用できるようになりつつある。 ## 2.2 生物標本のタイプとその公開 生物分類学におけるタイプシステムは、一般的に自然界からの再サンプリングが可能である自然科学上の証拠標本からすると、やや特殊な仕組みである。生物の名(=学名)は、原則として唯一のタイプ(基準標本)に基づいて定義することが国際的に定められており、新しい生物として新学名を学術論文等で発表する際には、同時にタイプを指定することが求められる。そして、学名が定義された生物の分類学研究では、タイプを参照・引用して議論がなされ、また過去に正しく指定されたタイプは学問的合意に変更が生じても、そのタイプとしての意味は消滅しない。そのため、 図 1. 証拠標本の標本番号の記述例世界中でユニークな一意の識別記号として記述する。(末尾のカッコ内のアルファベットは、植物標本庫の国際的な機関略号 Index Herbariorum 登録略号)証拠標本であるタイプが、「どの研究機関/博物館にある」「どの標本か」を示す情報は恒久的に重要であり、発表時に明示されることが望ましい。現在では、論文発表に先立って証拠標本を博物館等へ収め、論文中には証拠標本の標本番号を、ユニークな一意の識別記号として「機関略号(+コレクション種別)+整理番号」で明示することが合意事項となりつつある (図 1)。 同時に、タイプを収蔵する博物館等は、自機関がどのタイプを保有しているのかを明らかにする必要がある。そのため、例えば、維管束植物(シダ植物+種子植物)標本の場合、世界的標本収蔵機関であるパリ自然史博物館 [1]や英国王立キュー植物園[2]はそれぞれ自前のデータベースを構築し、タイプを含むほとんどの標本のメタデータと高精細な標本画像を CC-BY ライセンスの下で公開している (図 2)。国内でも、国立科学博物館(科博) はオープンライセンスの付与はないものの、 タイプ標本データベース[3]において標本情報と画像の公開を実施している。また、各機関の標本情報を統合して公開しているデータべ ースシステムもある。Global Plants on JSTOR[4]はタイプ標本画像を中心とて、世界中の機関に収蔵された標本情報と画像を公 図 2. パリ自然史博(MNHN)の維管束植物デ ータベースの表示例 開している(高精細画像の閲覧は有料)。なお、巨大自然史標本情報データベースとして度々例示される GBIF (地球規模生物多様性情報機構)[5]のデータにもタイプ情報を付記することができるが、実際の登録データを見る限り、現時点でタイプについては実用的な情報が集まっているとは言えない。この辺りは、 データ提供者側にとっても、利用者側にとっても、目的に特化したタイプ標本データベー スに利があるのかもしれない。とは言え、双方のデータベース間で、同一の標本情報を識別可能な ID が付与されていれば、データの相互補完は遠からず実現するだろう。 ところで、前述のように生物分類学では、過去に指定されたタイプ標本の再検討が不可久である。同時に、過去にタイプが指定された文献も度々参照する必要性が生ずる。だが、希少な古典文献の所蔵は限られており、過去には入手に苦労することも度々であった。近年では Biodiversity Heritage Library (BHL) [6]がしばしば利用される。これは、欧米の主要研究機関が所蔵する生物分類学分野の希少文献をデジタル・アーカイブ化したものである。これらの文献は古典ゆえに著作権が消滅しており、デジタル・アーカイブによってコンテンツ再活用がなされている好例でもある。 ## 3. 標本 $\times$ 引用先文献間のクロスリファレン スと解決すべき課題 学術文献データベースや収蔵標本データベ一スといった図書館あるいは博物館におけるデジタル・アーカイブの整備は、これらの統合もしくは連携データベース上において、「収蔵標本」と「引用先学術文献」間のクロスリファレンスを実現する(図 3)。これにより、博物館標本と引用研究成果に関わる学術情報を体系的に俯瞰することが可能となる。特に、従来標本もしくは学問分野に精通した専門家だけに可能だった体系的な俯瞰が、より普遍的な立場からも可能となるものと考えられる。学術面においては、より効率的かつ適切な先行研究や標本の参照と引用、あるいは学際的な科学的知見の蓄積に結び付くことが期待さ れる。また、博物館にとっては、収蔵標本の学問的意義づけを明確にし、博物館の役割を可視化することが期待できる。 図 3. 博物館標本 $\times$ 引用先文献間のクロスリファレンスによる学術情報循環のイメージ 実際に限定的ながら「生物標本」と「引用先学術文献」のクロスリファレンスを実現した運用事例として、文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)における Research Resource Circulation (RRC) [7]が挙げられる。NBRP は実験生物資源を主な対象としたデータベースであり、NBRP に登録された実験生物資源を利用した研究者が、論文出版時に RRC に利用資源と論文情報を登録する仕組みとなっている。なお、RRC は、博物館標本を含む GBIF のデータも収集対象としているが、2018 年 1 月 5 日現在で登録事例はない。 こうした「収蔵標本」と「引用先学術文献」間の相互参照データベースの実現には、機能の実装以前に、 (1)収蔵標本の目録化・グローバルユニー ク ID の付与・公開 (2) 研究成果である文献の目録化・公開 (3) 収蔵機関の標本と引用された証拠標本との照合 の整備が不可欠である。 具体的な課題として、再び維管束植物の夕イプ標本の事例に着目すると、国立科学博物館以外の国内の主要収蔵機関では、残念なが ら(1)のうち、そもそも「収蔵標本の目録化」 が実施されていない現状がある。当然ながら、 (3)も途上にある。 また、古典文献のアーカイブである BHL の事例を上に挙げたが、国内のやや古い文献では、旧帝大時代の紀要が、後身の各大学リポジトリで公開されておらず、また所蔵機関が少ないため、参照性が低い状況にある。 なお、これらの課題については、現在学術コミュニティレベルでの対応を進めている。 ## 4. おわりに 実際に標本 $\times$ 引用先文献間の相互参照デー タベースを運用する上では、標本を利用した研究成果情報をデータベースへフィードバックすることへの研究者のインセンティブの確立も必要である。ただ、タイプ標本に関しては、生物分類学では、既に発表された学名とその発表文献の引用と検証を必要とすることから、研究上のインセンティブが存在する。 一方、標本 $\times$ 引用先文献間の相互参照システムのような、デジタル・アーカイブの基盤整備や社会的拡張は、短期的な利益やインセンティブに基づく行動だけでは達成されそうにない。例えば、生物多様性に関する文献ア一カイブ BHL の整備によって直接的な恩恵を受けているのは、おそらく公開を実施している欧米の研究者ではなく、日本やその他の国々の研究者だろう。しかし、公開を実施している研究者らはおそらく、直接的な利益の有無にかかわらず、社会に必要な役割との意識の下で実施しているものと考えられる。 デジタル・アーカイブが博物館の「調査・研究」の役割の発展に与える最たるものは、「オープンサイエンス」の推進であろう。近年、世界的なオープンサイエンスの潮流がある中で、日本政府や関係諸機関の取組みも進められている[8]。他方、デジタル・アーカイブに関わる機関のオープンサイエンスへの取組みは、現在緒に就いたばかりである。坊農 [9]は、オープンサイエンスに向けた課題として「公表した成果をデータベースで公開し、科学の発展に役立てるところまで含めて研究である、という意識の徹底をどう実現するのか、これからの大きな課題の一つ。」と指摘する。「調查・研究」の面におけるデジタル・ア一カイブの持続可能性を検討する上でも、的を射た指摘と言えるのではないだろうか。 ## 引用文献 [1] パリ自然史博物館維管束標本データベー ス https://science.mnhn.fr/institution/mnh $\mathrm{n} /$ collection/p/ (閲覧 2017/12/28). [2] 英国王立キュー植物園 Kew Herbarium Catalogue http://apps.kew.org/herbcat/navi gator.do(閲覧 2017/12/28). [3] National Museum of Nature and Scie nce TYPE SPECIMEN DATABASE http:// www.type.kahaku.go.jp/TypeDB/(閲覧 201 $8 / 1 / 5)$. [4] Global Plants on JSTOR https://plants. jstor.org/ (閲覧 2017/12/28). [5] GBIF | Global Biodiversity Informatio n Facility https://www.gbif.org/ (閲覧 20 17/12/28). [6] Biodiversity Heritage Library (BHL) $\mathrm{h}$ ttps://www.biodiversitylibrary.org/ (閲覧 2 017/12/28). [7] Research Resource Circulation (RRC) https://rrc.nbrp.jp/ (閲覧 2018/1/5) [8] 我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について〜サイエンスの新たな飛躍の時代の幕開け〜. 内閣府. 2015, http://ww w8.cao.go.jp/cstp/sonota/openscience/ (閲覧 2018/1/5) [9] 坊農秀雅. ライフサイエンス分野におけるオープンサイエンスへの課題〜データインフラ整備だけでなく、研究者の意識改革に向けた議論へ〜. SciREX クォータリー. 2016, 3, p.14-15. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 企画パネル ## くデジタルアーカイブ機関の評価手法を考える \\ 国立歴史民俗博物館後藤真東京国立博物館田良島哲 デジタルアーカイブを今後広く展開していくためには、それぞれのアーカイブ機関が、「デジタル化をする意義」 を認識し、組織内での理解を得ていく必要がある。また、デジタルアーカイブを適切に公開し、様々な形で利用可能なものとしている機関を広く認知してもらい、グッドプラクティスを多くの機関と共有することも重要である。 そのためには、アーカイブ機関の適切な評価を行うことが重要となる。現在、デジタルアーカイブの共通の評価手法としては、アクセス数などしかなく、巨大な機関や優品、もしくは広報に強く長けた機関のみに視点が集中してしまい、地域に密着したアーカイブなどが高く評価されにくいという現状がある。 そこで、本企画セッションでは、デジタルアーカイブ機関の適切な評価手法について、議論のスタート地点を作ることを試みたい。アンカンファレンス形式で、多くの皆様の意見をいただき、広く今後の論点を作っていき、今後の議論へとつなげていきたい。 ## 資料発掘と利活用 ーアーカイブサミット 2017in 京都へのリプライー 京都府立図書館 福島幸宏 国際日本文化研究センター 江上敏哲 2017 年 9 月に開催し、300 名以上の市民や専門家の参加があった「アーカイブサミット 2017 in 京都」。「社会のアーカイブ化」「アーカイブの社会化」をテーマに、状況レビュー、6つのセッション(「災害とアーカイブ」「空間情報とデジタルアーカイブ」「文化資源をつなげるジャパンサーチ構想」「京都におけるアーカイブの現状と課題」「デジタルアーカイブの情報技術」「デジタルアーカイブ学会の未来」)、セッションの全体レビュー、2つのミニシンポジウム(「届く、使うデジタルアーカイブ」「クールジャパンの資源化について」)、基調講演、シンポジウム「社会化するアーカイブ」という内容で開催した。 このパネルでは、サミットでの議論を振り返りつつ、そこで出された課題へのリプライを行う。特に資料発掘の段階の重要性と、多様な利活用の可能性、ジャパンサーチに代表される"ディスカバラビリティ"や、社会との橋渡しができる人材について力点を置く。 そして、これらの検討を通じて、デジタルアーカイブを社会のインフラとして位置付けるために、どのような構図をひくことが可能か、構想する。是非ご参加いただき、フロアから積極的にご発言いただきたい。
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# [B13] ウェブブラウザでの 3D データ資料表示 :立体資料閲覧の可能性と課題 ○屋紳一 早稲田大学演劇博物館,〒162-8050 東京都新宿区西早稲田 1-6-1 E-mail: [email protected] ## Viewing 3D data materials from web browser.: Possibilities and issues of 3D materials viewing. TSUCHIYA Shinichi Theatre Museum,Waseda University, Nishiwaseda 1-6-1, Shinjuku-ku, Tokyo, 162-8050 Japan ## 【発表概要】 早稲田大学演劇博物館では、2015 年 4 月に立体資料の 3D データをWebGL[1]技術によってブラウザのみで閲覧を可能としたシステムを公開した。立体資料の $3 \mathrm{D}$ データは、画像・音声・動画とは異なり、表示をするためのパラメータが非常に多い。さらに、3D データを操作するためのインターフェイスなどを作成しなくてはならず、公開までのハードルが高い。しかし今後、 $3 \mathrm{D}$ プリンタの普及や $\mathrm{VR} \cdot \mathrm{AR}$ 技術の進歩などを考慮すると、かつてないほどの $3 \mathrm{D}$ データ活用が広がるとみられる。課題と向き合いながら公開資料数を増加させ続けているのは、将来のデジタルアーカイブにとって、重要な役割を担うと考えているからだ。当館が立体資料の公開において重視してきた、表示のパラメータと操作のためのインターフェイス、効率的かつ高精度の 3D データ化の事例報告と、現在も解決できていない課題を発表する。 ## 1. はじめに 3D データをウェブブラウザで表示が可能となる WebGL が近年デフォルトで有効化され、特別なプラグインなど必要なく表示できるようになった。さらに three.js[2]というライブラリから利用することで、 Javascript の知識があればプログラムも簡素化され、敷居が低くなった。PC だけでなく、スマートフオンのウェブブラウザにも対応しているため、公開以来新たな研究へのアプローチを提示できるだけでなく、幅広いユーザが興味を持って閲覧している。資料の裏側が見られるといらインパクトと、インタラクティブな操作で、 シミュレーションすることも可能であり、通常の展示では体験できなことが高評価の要因だと思われる。さらに昨今の VR の普及もあり、3D データの一般化による、関心の高まりもあると考えられる。デジタルアーカイブは、研究者以外の利活用の促進や就学者の学習補助という役割としても機能することで、多くの人に恒久的に利用されることを目指す必要もある。3D データの公開はこうした対象にとって、デジタルアーカイブへの興味創出として寄与できると考えられる。しかし、公開して 3 年経つが、国内では普及しているとは言いがたい状況にある。それには幾つか克服しなければならない課題があり、解決案も提示する。 ## 2. 3D 資料データのウェブ閲覧 ## 2.1 閲覧ビューワ 画像や映像と同じ環境で閲覧できるビュー ワも存在する[3]が、現状は専用の 3D ビュー ワを利用しているケースがほとんどである。 早稲田大学演劇博物館では、独自のビュー ワを開発した $[4]$ 。特に演劇関連資料の公開ということもあり、特徴を生かしたビューワの開発を行った。PC 閲覧用とモバイル端末閲覧用の、2 種類のビューワを用意している。 3 年前の公開当初は、WebGL の対応端末やブラウザが限定されていたため、PDF データをダウンロードし、Acrobat Reader からの $3 \mathrm{D}$ 閲覧も可能としていた。近年の環境の変化は著しく、ブラウザは標準で有効化され、 モバイル端末でもほとんどが閲覧可能となっている。 世界で先行して公開した公的機関は、スミソニアン博物館である。AUTODESK の協力で非常に詳細な設定が可能な、Smithsonian X 3D Explorer[5]というビューワを開発した。 しかし、64 点の公開から近年は増えていない。大英博物館は、公開当初は 14 点のみだったが、現在は 240 点まで増加した。 Sketchfab[6] という外部のウェブサービスを利用している。独自ではなく、外部のサービスを活用していることは、コストなどの導入に関するハードルは低くなるが、お互いが利用条件を受け入れられなければ、公開を続けられない問題がある。Google も 2015 年に Google Cultural Institute での $3 \mathrm{D}$ データの閲覧が可能となっていた。ある機関は 200 点以上が公開されていたが、現在では閲覧ができない[7]。こうした企業との連携は何かしらの問題が起こり、長期にわたり公開を続けられないケースを想定しなければならない。 Europeana では、MEDIA で 3D を選択した時に 3461 件の検索結果が出る[8]。しかし、 3D をブラウザで閲覧するというよりも、デ ータのダウンロード、PDF での閲覧程度である。Jpeg 画像を公開しているのみのものも多い。 こうした現状を考えると、3D データの公開に関しては、データ変換を含めた公開までのプロセスが簡便であり、利用条件が受け入れやすい環境がない状況が、普及の妨げとなっているといって良い。 ## 2. 2 環境設定パラメータ $3 \mathrm{D}$ データには、設定しなければならない項目が非常に多い。例えば、光源を設定しなければ、真っ暗になり、凸凸すら見ることができない。カメラの位置や画角も設定する必要がある。演劇関連の資料では、照明の場所や光の色などの演出を想定して制作されているものがある。代表的なものとして仮面が挙げられる。当ビューワは、光源の位置や色を変えることで、日中での光(図 1)や松明での下からの光(図 2)などをシミュレートできるようになっている。光の色も変えること ができ、背景の明るさや色も変えられる(図 3 )。写真であれば、照明は一種類しか閲覧者に提供ができない。しかし、3D データによる利点として、任意で照明の位置を変えられることで、仮面の表情が大きく変わることが理解できる。また、自然光か松明の光で見ることを想定して制作されたかをシミュレートできる。 図 1. 日中の光をシミュレート 図 2. 松明の光をシミュレート 現状は立体としてあるデータを平面のモニタで閲覧をせざるをえない。擬似的な立体視の状態を補うには、影による陰影が重要であると考えている。現実世界でも、凹凸を見る ときに照明の位置を変えて確認することはある。立体資料を閲覧するという意味では、陰影によって確認困難である傾斜がわかりやすくなるのは、写真での閲覧との比較に限ったことではない。現物を展示する際にも、固定の照明位置で、見る角度が制限された展示ケ一スに入っている状態よりも大きな利点があると言える。 マウスのドラッグやタッチパネルで自由に向きを変えるなどの基本動作は、直感的に操作でき共通している。設定が增えると、ビュ一ワ各々で独自の操作形態になっている。当館の光源の位置を変える方法は 3 つのボールを移動することで可能としている。また光源の色温度や、背景色を変えるものは、スライドバーで調整が可能になっている。光源は、太陽光から火の光までを表す、ケルビン温度を基準にしており、劇中の演出で使われる多彩な色は、利便性を優先し設定しなかった。 図 3. スライドバー 光源や背景を自由に変えるだけで、印象は大きく変わる。図 $1 、 2$ を見比べるだけでも状況設定が理解できる。照明の種類も本来であれば設定が可能であり、スポットライトのように光をあてる設定も可能である。また、被写体の反射率を変更もできるため、金属のように光沢があるような設定も可能である。 さらに平行投影法・透視投影法のような、資料の遠近感を大きく変えることも可能である。 これらは、CG 映像制作では必須の項目といえるが、資料のウェブ閲覧では、項目がありすぎるため、どこまでユーザが設定変更を必要としているかを調査する必要がある。そして、ビューワがどこまで対応すべきか、どの部分を重視してインターフェイスを設計すべきかなどを検討し、デジタルアーカイブにとって有効な設定のガイドライン作成が、今後の普及のためには必要である。 ## 3. 3D 資料データ化の課題 3. 1 3D データ化の機材 すでに資料の $3 \mathrm{D}$ データ化は、長い実績がある。CT スキャナを使い、非破壊で内部までもデータ化することができるため、文化財研究のために利用されてきた。対象物が大きくなれば、それらをカバーするための機材も大きくなり、作成コストは高騰する。 1 点の制作費用が高価であるためか、展示で見ることはあっても、ウェブブラウザで一般公開しているケースは国内では確認できなかった。近年 3D プリンタなどの技術の一般化により、 コンテンツとしての $3 \mathrm{D}$ データの需要が急速に増した。そのためデータ化することも低コスト化が進み、3D スキャナや写真測量という技術が広く普及してきた。巨額の投資を必要とせず、表面のみであれば測量が容易になった。3D スキャナは、専用機器が必要となるが、一般ユーザにはもっとも扱いやすいため需要が高く、かなり低価格化が進んだ。テクスチャを同時に取り込める機器もある。写真測量という方法は、複数の写真から $3 \mathrm{D}$ デ一タを作成するため、設備投資が低く、テクスチャの作成も高精細で作成が可能である。 データ化する技術も航空撮影から立体画像を作成するなど、地図アプリの一部にも利用されているため、技術開発が進んでいる。しかし、撮影する技術やレンダリングなどは、技術が必要になるため、本格的に導入するには難しい面もある。 現状は過渡期ということもあり、何がスタンダードになるかは分からないが、当館が採用したのは、写真測量方式である。テクスチヤが同時に取り込めることもあるが、データはあくまで写真であり、3D 化するためのアルゴリズムに頼る部分が大きい。そのため、 アルゴリズム開発が進めば、数年後に再レンダリングを行えば、再現が不可能だった部分も正確に再現できる可能性があると考えた。 ## 3. 2 不得意とする対象 $3 \mathrm{D}$ データ化の選択肢が増え、低コスト化により、世界中で公開が増えてきているが、 $3 \mathrm{D}$ スキャナと写真測量は、すべての資料に対してデータ化ができる訳ではない。不得意な素材がある。 1. 鏡のような反射率の高いもの 2. マット調で黒く反射率の引くもの 3. ガラスのように透明度が高いもの 4. 髪の毛のような細い線とその塊 1 と 2 は、残念ながら正確にレンダリングができないため、データ化は見送ってきた。 3 と 4 は、透明部分は無いものとして認識されるが、形状に変化がない場合はそのまま採用することもある。髪の毛のようなものも大きな塊として認識は可能であり、ふさふさした本来の髪の毛のような再現は厳しいが、髪の毛であることは認識できるため、データ化を行った。現状はこうした問題を理解した上で対象を選定しなければならない。今後、技術革新により、改善される可能性は十分あると考えられる。 ## 4. おわりに $3 \mathrm{D}$ データのウェブ閲覧は、今後のデジタルアーカイブにとって必須の項目であると言える。しかし、事例の少なさから標準化には至っていない。利活用や一般ユーザの関心から考えると、データサーバと閲覧ビューワの共通プラットフォームを開発さえすれば、閲覧数は確実に増える。それに伴い登録数が増えるものと考えられる。今後のVR 関連の技術は飛躍的に成長することは明白で、デバイスの革新も起こりうる。そうした潮流にも対応するように、オープンデータ化をすれば、 さらにエコシステムにも期待ができるだろう。 ## 参考文献 [1] WebGL Working Group のウェブサイト.ht tps://www.khronos.org/webgl/(閲覧 2018/1/2). [2] three.js のウェブサイト.https://threejs.or $\mathrm{g} /$ (閲覧 2018/1/2). [3] 画像や 3D も閲覧できるビューワ.https:// github.com/UniversalViewer(閲覧 2018/1/ 2). [4] 早稲田大学文化資源データベース $3 \mathrm{D}$ デ ータベース.http://archive.waseda.jp/archive/ subDB-top.html?arg=\{\%22item_per_page $\% 2$ $2: 20, \% 22$ sortby $\% 22:[\% 221398 a \% 22, \% 22 \mathrm{AS}$ C\%22],\%22view $\% 22: \% 22$ display-simple $\% 2$ $2, \% 22$ subDB_id $\% 22: \% 2258 \% 22\} \& l a n g=j p($ 閲覧 2018/1/2). [5] Smithsonian X 3D Explorer のウェブサイト.https://3D.si.edu/(閲覧 2018/1/2). [6] Sketchfab のウェブサイト.https://sketchf ab.com/(閲覧 2018/1/2). [7] Google がオンライン3D 博物館を公開したと報じるウェブサイト. http://japanese.eng adget.com/2015/04/10/google-3D-3D/ (閲覧 2018/1/2). [8] Europeana で MEDIA から 3D を選択した結果.https://www.europeana.eu/portal/en/sea rch?f\%5BMEDIA\%5D\%5B $\% 5 \mathrm{D}=$ true\&f $\% 5 \mathrm{~B}$ TYPE\%5D\%5B\%5D=3D(閲覧 2018/1/2). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B12] 江戸時代の歌舞伎興行に関する資料デジタルアーカ イブの充実を目指して ○木村涼 1) } 1) 岐阜女子大学, $\bar{\top} 501-2592$ 岐阜市太郎丸 80 E-mail: [email protected] ## Building a Rich Digital Archive of Edo-Period Kabuki KIMURA Ryo1) 1) Gifu Women's University, 80 Taromaru,Gifu, 501-2592 Japan ## 【発表概要】 演劇に関連する資料を所蔵している代表的な博物館として早稲田大学坪内博士記念演劇博物館が知られている。 江戸時代の歌舞伎についてみれば、錦絵、台本、芝居番付をはじめとする所蔵資料のデジタルアーカイブは充実をみせている。特に、三都(江戸・京都・大坂)で開催された芝居興行関連資料は豊富である。したがって、三都の歌舞伎研究はより取り組み易い状況となっている。 一方、歌舞伎役者の地方興行研究に目を移せば、各地域にはそれぞれ独自性があり、それを捉えることが重要である。ところが、芝居番付や台本、木戸銭覚などの興行関係資料は多く所蔵されているにも関わらず、デジタルアーカイブという点において進展をみせていない。 本報告では、演劇博物館のデジタル・アーカイブコレクションとコミュニティ(地域)アーカイブコレクションの結びつきが歌舞伎役者の地方興行研究へ及ぼす有効性について検討する。 ## 1. はじめに 演劇博物館(以下演博と表記)は、日本の古典演劇をはじめとして、西洋、東洋、近代、現代の演劇分野において膨大な資料を所蔵している。 この所蔵資料のうち、芝居番付、台帳、錦絵などは歌舞伎研究にとって、必須の資料群である。演博では、演劇関係資料において 2001 年からデジタルアーカイブが進んでいる。 今回は、演博のデジタル・アーカイブコレクションの中から江戸時代の芝居番付資料を中心に取り上げていく。 江戸時代の芝居番付は、三都や名古屋以外に岐阜、伊勢、堺、富山などの地域でも板行されている。芝居番付は、興行を触れ知らせる目的のもので、原則的に、興行が開催される時には板行される。現在、歌舞伎役者の地方興行研究は、十分な進展をみせていない。目下この課題が、焦眉の急である。 各地に残されている芝居番付は、課題究明のために重要な資料である。しかし、それぞれの地域の機関に所蔵されている興行資料は、必ずしもデジタルアーカイブとして充実しているとは言い難い現状である。 本報告では、コミュニティ(地域)アーカ イブの充実化が、歌舞伎役者の地方興行研究へどれほど有効性をもたらすか検討していく。 ## 2. 演劇博物館所蔵の芝居番付 2. 1 江戸 演博所蔵の芝居番付のデジタルアーカイブは、『特別資料目録 1 芝居番付近世篇 (一)』 『『特別資料目録 4 芝居番付近世篇 (四)』など演博所蔵の歌舞伎興行の上演番付をデータベース化したものである。本デー タベースは、芝居番付 (顔見世、辻、役割、絵本、絵尽等)を集約したものである。 江戸における芝居番付は、(1)顔見世番付 (毎年の 11 月の顔見世興行の時に出される一種の辻番付) 、(2)辻番付 (各興行前に、辻々や湯屋、床屋など人の集まる場所に張り出したり、役者、芝居茶屋などから、貣屓先に配った宣伝用の番付)、(3)役割番付(歌舞伎の上演に際して出す、劇場名・演目・配役などを記した刷り物)、(4)絵本番付(上演中の芝居の主要場面を絵にして、簡単なあらすじ・配役・ せりふなどを書き入れた 10 丁程度の小冊子)に分けられる。 上方には、絵本番付の称として絵尽しがある。元禄期(1688~1704)の絵入狂言本の流 れを汲んで、ページの上部に芝居のあらすじを書き、その下に挿絵を描いた「絵尽狂言本」が現れた。そして、享保 21 年 (1736)頃には、画中に場面説明の文章を書き入れた歌舞伎絵尽しの形式が整う。鼠色の厚紙表紙の中央に、狂言外題の書かれた題簽を貼った半紙本で、芝居の一場面を色晳りにした包紙にくるんで売った。安永末から天明期(1781 〜89)になると、包紙ではなく、表紙を共紙で合羽摺にしたものが出版されるようになる。演博の芝居番付データベースの検索項目は、登録No、、西暦、和暦、月日、劇場、地域、種別、座などである。 演博所蔵の芝居番付は 54,145 点 (重複年代も含む)で、その内画像が公開されているのは、 52,533 点である。(2018 年 1 月 4 日時点) 江戸時代(1603~1867 年まで)に限ってみれば、年代が不明確なもの、重複もあり正確な点数を示すのは難しいが、和暦検索では、 およそ 30,752 点ある。以下は、和暦検索での結果をもとにしたものである。 地域を江戸に限ってみれば、顔見世番付が 418 点で、その内画像が公開されているのは、 403 点である。 辻番付は 3,077 点で、その内画像が公開されているのは、 3,014 点である。役割番付は 1,948 点で、その内画像が公開されているのは、 1,887 点である。絵本番付は 3,094 点で、その内画像が公開されているのは、 3,085 点である。 ## 2.2 諸地域 演博の江戸時代における芝居番付は、三都及び名古屋以外の地域のものについても広範囲にわたり所蔵している。以下は、和暦検索で得たデータからまとめた数值である。 堺(顔見世 1、辻 4、役割 305、俄 1)をはじめとして伊勢(辻 0、役割 253)、金沢(辻 0 、役割 260 ) 、兵庫(辻 0 、役割 60 、絵尽 0 )、三河(辻 0 、役割 30 )、岐阜(辻 0 、役割 21)、尾張(辻 0 、役割 21 )、奈良(辻 0 、役割 10 )、岩代(辻 1 、役割 9 )、讃岐(辻 0 、役割 8 )、若山 (辻 0 、役割 9 )、二本松 (辻 0 、役割 10) 、和泉 (辻 0 、役割 8 )、津(辻 0 、役割 2)、安芸 (辻 0 、役割 6 ) 、備中 (辻 0 、役割 6) 、肥前 (辻 0 、役割 4 ) 、伊丹 (辻 0 、役割 4)、仙台 (辻 1 、役割 2 ) 、池田 (辻 0 、役割 4)、福島 (辻 0 、役割 2 ) 、近江 (辻 0 、役割 2)、長門(辻 0 、役割 2 )、阿波 (辻 0 、役割 1)、会津伊達郡(辻 0 、役割 1 )、越中(辻 0 、役割 1)、会津周辺 (辻 0 、役割 1 )、郡山 (辻 0、役割 1) 、志摩 (辻 0 、役割 1 )、会津松城 (辻 0 、役割 1 )、水戸 (辻 0 、役割 1 )、相模 (辻 0、役割 1)、磐城(辻 0 、役割 1)などが確認できた。各地域で芝居興行をする時には、辻番付より役割番付が板行されることが圧倒的に多い。 このようにデジタルアーカイブの充実で、各地域にどれだけの芝居番付が板行されていたのかが把握できる。 次節では、岐阜地域を例にあげ、コミュニティア一カイブの重要性について述べていきたい。 ## 3. 岐阜の芝居番付 岐阜は、もともと芝居興行が盛んな地域である。江戸歌舞伎役者も来演している足跡が見受けられる。こうした来演が、地芝居にも影響を与えていることは想像に難くない。 なかでも、伊奈波神社は美濃地域第一の神社で、大晦日や年始、夏のみそぎ神事などの時は毎年多くの参詣客で賑わう。また、伊奈波神社一帯は、岐阜町周辺の最大の媅楽の場であり、江戸や上方の役者が来訪して歌舞伎を上演し、「因幡(稲葉)芝居」とも呼ばれた。 図 1. 伊奈波神社外観 伊奈波神社境内では文化 3 年(1806)10 月 に三代目中村歌右衛門が、嘉永 3 年 (1850)正月には、七代目市川團十郎(当時は五代目市川海老蔵)が来演し、因幡芝居を開催している。両者とも、江戸歌舞伎、上方歌舞伎を代表する歌舞伎役者である。 両者の興行は、歌舞伎役者の地方興行研究を進展させるために非常に貴重な事例である。 歌右衛門の役割番付は演博に所蔵されており、海老蔵に関する役割番付は御園座演劇図書館に所蔵されていることが確認できている。御園座では、江戸時代の歌舞伎関係の所蔵資料についてデジタルアーカイブとして公開していない。したがって、どのような史資料が所蔵されているのか、その全貌も把握できないままである。なお、演博では因幡芝居の役割番付は 17 点所蔵されている。 また、名古屋の御園座に因幡芝居関係資料が残されているといら事実は、岐阜地域の博物館等にも残されている可能性があると考えられる。岐阜県歴史資料館では、2017 年 12 月 26 日にデジタルアーカイブを新設している。始まったばかりだが、今後の進展に期待したい。 ## 4. おわりに 岐阜地域は、江戸時代、因幡芝居の隆盛もあり、地芝居が栄えた地域である。ところが、今は、役者、師匠、義太夫、裏方、大道具などの各分野に後継者、指導者の不足といら難しい状況に直面している。それでも、地域独自の伝統芸能を後世に伝えようと努力している。 現在、岐阜地域では、垂井曳保存会 (不破郡垂井町)、常盤座歌舞伎保存会(中津川市)、東濃歌舞伎中津川保存会 (中津川市)、美濃歌舞伎相生座 (瑞浪市) 、鳳)凰座歌舞伎保存会 (下呂市)などが着実な活動を行っている。 一例であるが、美濃歌舞伎博物館相生座では、江戸時代から地芝居に用いられた歌舞伎衣装やかつら等、4500 点以上を所蔵する。し かし、公開されている史資料はわずかである。 デジタルアーカイブとしては、まだまだこれからである。 今回は、岐阜の事例を上げてきたが、各地域において大学機関をはじめ、郷土資料館や博物館、美術館、図書館などでもデジタルア一カイブの重要性が際立ってくる。 それぞれが所蔵する歌舞伎興行関連資料のコミュニティ(地域)アーカイブが発展し、 その地域に残存する史資料が公開されていけば、コミュニティ(地域)アーカイブコレクションと演博のデジタル・アーカイブコレクションが両輪となり、立ち遅れている歌舞伎役者の地方興行研究や地域の歴史を紐解く上で十分、その有効性を示すと考えられる。 ## 参考文献 [1] 『特別資料目録 1 芝居番付近世篇 (一)』(演劇博物館、1992 年)、『特別資料目録 2 芝居番付近世篇 (二)』(演劇博物館、1993 年)、『特別資料目録 3 芝居番付近世篇 (三)』(演劇博物館、1994 年)、『特別資料目録 4 芝居番付近世篇 (四)』(演劇博物館、1994 年) [2] 富澤慶秀・藤田洋監修『最新歌舞伎大事典』(柏書房、2012 年) [3] 早稲田大学文化資源データベース近世芝居番付データベース http://archive.waseda.jp/archive/subDB-to p.html?arg=\{\%22item_per_page $\% 22: 20, \%$ 22 sortby $\% 22:[\% 22 \% 22, \% 22$ ASC $\% 22], \% 22$ view $\% 22: \% 22$ display-simple $\% 22, \% 22$ sub DB_id\%22:\%2279\%22\}\&lang=jp (閲覧 2018/1/3) [4] 木村涼「五代目市川海老蔵と美濃国伊奈波神社境内興行」(岐阜女子大学『文化情報研究』Vol. No.1、2016 年 12 月) [5] 全国地芝居連絡協議会. http://www.jfpaa. jp/kyougikai/kyougikai.html(閲覧 2018/1/3) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [B11] 自然史標本データベース「サイエンス・ミュージアムネ ットの現状と課題 ○細矢剛 1), 神保宇嗣 2), 中江雅典 2), 海老原淳 ${ }^{3}$, , 水沼登志恵 ${ }^{1)}$ 1) 国立科学博物館 標本資料センター, 〒 305-0005 茨城県つくば市天久保 4-1-1 2) 国立科学博物館 動物研究部, 国立科学博物館 植物研究部 E-mail: [email protected] ## The current status and challenges of the natural historical collection database "Science Museum Net" HOSOYA Tsuyoshi ${ }^{1}$, , JINBO Utsugi ${ }^{2}$, NAKAE Masanori ${ }^{2}$, EBIHARA Atsushi ${ }^{2}$, MIZUNUMA Toshie ${ }^{1)}$ 1) Collection Center, National Museum of Nature and Science, 1-1-1 Amakubo, Tsukuba, Ibaraki, 305-0005 Japan 2) Department of Zoology, National Museum of Nature and Science, ${ }^{3)}$ Department of Botany, National Museum of Nature and Science ## 【発表概要】 気候変動解析や保全政策などのためには、どこにどのような生物がいたかというオカレンスデ一夕(在データ)は重要であり、多数のデータを集積して利用するという活動が必要となる。 GBIF(地球規模生物多様性情報機構)はこの目的で 2001 年に設立された。この活動のため、日本の機関から生物系の自然史データを収集し、国内利用のためにデータを公開しているのがサイエンス・ミュージアムネットである。S-Net は、国立科学博物館が運営する標本情報の公開サイトであり、現在 80 を超える日本全国の協力機関から収集された 450 万件の自然史標本データが公開されており、検索・ダウンロードの他、検索結果を地図に表示することができる。これらのデータは、チェックリストの作成や、分布域の予想などに利用されている。S-Net から公開されているデータの大部分は動物および植物であり、菌類のデータ数は限られている。また、デー 夕は日本全域をカバーしてはいるが、数は全国で一定ではない、などの課題も多い。 ## 1. はじめに 気候変動解析や保全政策などのためには、 どこにどのような生物がいたかというオカレンスデータ(在データ)は重要である。オカレンスデータは、観察・文献な[3]。しかし、標本のもつデータは多くの場合、デジタル化されていない。また、環境評価などの目的のためには、限られた数のデータではなく、多数のデータを集積して利用することが必要で、多数のオカレンスデータを世界中から収集し、利用するという活動が必要となる。本講演では、この目的のために活動を展開する GBIF (地球規模生物多様性情報機構)および、 GBIF に提供されているデータの国内利用を目的に設けられたサイエンス・ミュージアムネットについて述べ、後者の現状と課題について議論する。 ## 2. 自然史情報の共有 ## 2. 1 GBIF と S-Net GBIF はインターネットを通じて生物多様性情報(いつ、どこに、どんな生物がいたのか、それが何を根拠とするか)をどこでもだれでも利用できることを実現するため、2001 年に設立されたもので、我が国もメンバーとして参加している [2]。 GBIF のウェブサイトからは、世界各国から収集された 9.6 億件ものデータが公開されており、自由にダウンロード可能となっている。 これらのデータは、現在年間 700 件を越える論文に引用され、分類・生態学的研究、とりわけ保全生物学的な研究には久くことができないものになっている。この活動のため、日本では複数の博物館から標本データを収集し、提供しているが、国際的な活動なため、日本 語情報が落ちてしまう。そこで、日本語情報を使えるようにしてデータを公開しているのが国立科学博物館が運営する標本情報と自然史系研究員・学芸員の情報の公開サイトであるサイエンス・ミュージアムネット(S-Net、 http://science-net.kahaku.go.jp/) である。当初、S-Net には、自然史系博物館における展示情報を横串検索し、提示する機能も備えられていた。しかし、Google などの検索機能向上により、この機能は現在では停止され、現在のような形になった(図 1)。 図 1. S-Net のホームページ(2018.12.30.) ## 2. $2 \mathrm{~S-\mathrm{Net}$ の現状と課題} S-Net では、現在、北海道から沖縄までの広範囲にある 80 を超える日本全国の協力機関から収集された 450 万件の自然史標本デー タが公開されている。その大部分は、自然史系博物館(含、大学博物館)の標本に由来するが、公立の研究所や大学なども含まれる。提供されたデータは、検索・ダウンロードしたりできる他、検索結果を地図にプロットして表示することができる。これらの集積されたデータは、チェックリストの作成、分布地図の作成などの自然史や分類・生態学の基盤情報として用いられる他、分布域の予想などの応用面でも利用されている。より具体的な利用例としては、 「県内産の維管束植物の分布状況の整理のため」、「特定の動植物の分布状況を調べる際になど」、「都道府県レベルで生物の分布を調べる時など」、「インベントリー調查の基礎資料として」、「生物分布から地域の特徴を見出すのに利用」、「特定の生物種の標本の収蔵状況の把握」などである。残念ながら、現時点で S-Net に収められている標本情報の多くは最近のものが多く、GBIF のデー タによってなされているような過去の長期にわたる出現傾向の分析に適用するには限界があると思われる。 S-Net でのデータ公開により、データ提供機関は、自前のサーバーを準備することなく、自館のデータを公開でき、これを教育・普及のための材料として利用できる。また、他機関のデータと連携することによって、データを地域の生物目録(チェックリスト)の作成などにも利用でき、保全行政などの意思決定の材料を提供できる。 S-Net には、絶滅危惧種のデータも含まれている。しかし、これらについては、詳細地名は公開していない(原則として市町村までのみ公開。どこまで隠すかはデータ提供館の判断に従っており、種ごとに細かい指示がある場合もある。絶滅危惧種によらず、一律市町村までの非公開、という機関もある)。この結果、保全生物学上重要な生物については、産地情報の管理には機関による差異が生じている。しかしながら、GBIF のデータと同様、 S-Net も Darwin Core と呼ばれる生物多様性情報データの標準的な記述にほぼ準拠している。そのため、他の自然史系データセットとの互換性はよい。ここで、DarwinCore (DwC) とは、TDWG (Taxonomic Data Working Group。現在では Biodiversity Information Standards と改名したが、相変わらず、TDWG で通じることが多い)が提唱した生物多様性情報を記述するための用語 (データベースフィールド) である。 $\mathrm{DwC}$ には現在 180 を越える用語が提唱されており、 さらに拡張することによって、生態学的なデ一タへの適用が図られている。DwC に従って標本情報を記述することによって、自然史系の標本情報は共通のプラットフォームで記述されることになり、世界的な規模で互換性が保証される[1]。 また、GBIF に提供されるデータは、デー タセットごとに Creative Commons (CC) ライセンスが設定されているため(CC0 あるいは CC BY が推奖されている)、S-Netデータもこれに準ずるものとして提出時に意向を調査している。現在のところ CC BY がもっとも多く(82\%)、ついで CC BY-NC(17\%)、 $\mathrm{CC0}$ (1\%) となっている。 2016 年 4 月から 2017 年 3 月での調查では、 S-Net は毎月平均 30.3 回のアクセス(最小 3 ,最大 781 回/日)と 22.1 回のデータダウンロード(最小 1 ,最大 289 回/日)をカウントしており、博物館関係の研究者ばかりでなく、行政関係からも利用されている(図 2)。 図 2.S-Net の検索・ダウロード頻度 (2016.4.-2017.3.) S-Net から公開されているデータの大部分は動物および植物であり、菌類のデータ数は限られている(図 3)。また、現時点では、化石など、古生物分野のデータを入力することはできない。さらに、学名の誤りに対する修正機能は限られており、分類学的知見の増加にともなって、最新の学名が使用されていないなど、データの品質に関しても問題がないわけではない。また、データは日本全域をカバーしてはいるが、数は全国で一定ではない(データが多い県と少ない県がある)、などの課題も多い。 GBIF は 5 年を 1 期として中期計画を持っており、2017-2021 は 1)科学および社会で必要とされているデータを提供する;2)デー タの質を向上する;3)データのギャップを埋める;4)インフラ整備を推進する;5)国際的ネットワークへ注力する、の 5 点が掲げられている。これに対応して、GBIF の日本ノ一ド(支部に相当する)[4]も中期計画をもつており、S-Net 関連では、上記の 1)に関連して、(1)データの利用者・提供者の両方に教育普及を推進すること、(2)データの使用例を収集し、データ活用を推進することなどが、 3)のデータ品質に関しては、(1)エラー低減の方策を検討する、(2)精度向上のための情報基盤(辞書・ツールなど)を整備する、(3)現場担当者の能力開発と支援を推進することが、 4)に関連しては、S-Net のガバナンスと実施体制を強化することなどが求められ、課題となっている ## 3. 今後の展望 S-Net からのデータ公開は 10 年を超え、相当数のデータを保有し、知名度も上がってきた。日本国内での利用を考えると、日本語環境での利用ニーズへの対応は極めて重要である。また、2018 年 4 月より、S-Net は受注業者が変更となったため、これを機会に、さらにシステムの使い勝手の向上や新しい運営体制に適応することが必要である。新規なシステムでは、従来扱うことができなかった化石にも対応する予定である(本予稿準備中に、 フィールドの設計が行われている)。 S-Net で取り扱われているデータセットは 200 を超え、広範囲(多種類)かつ多数のデ一タを取扱うため、運営体制も安定したものである必要がある。現在のところ、これはナショナルバイオリソースプロジェクト (NBRP)からの補助金によって可能となっており、今後も安定した資金提供が望まれる。 ## 4. おわりに 自然史は、自然科学の基盤となる分野で、 さまざまな事象を記載し、共有することを使命としている。その際、客観性と再現性を担保するためには物的標本の存在は極めて重要である。自然史系博物館は、この目的のための物的証拠を集積・保存するためのアーカイブ機関と考えられ、文化財などのアーカイブと決して無縁ではない。自然史系資料の多くは、単独ではなく、多数が集まることによって、価値を発揮する。より存在感をもって自然史系アーカイブが機能するためには、よりいっそうの連携が求められる。その基本となるのは、自分のデータ提供が、人を利すると ともに、自分も利することになるという「オ ープンマインドな精神」である[5]。個々のデ一タをまとめ、再利用することによって、力を生むという情報の拡大再生産がよりいっそう求められる。 ## 参考文献 [1]. 大澤剛士、戸津久美子. 2017,保全生態学研究 22 , p. 371-381. [2] 細矢剛. 地球規模生物多様性情報機構 GB IF の働きと役割. 2016, 日本生態学会誌 66 , p. 209-214. [3] 細矢剛. 生物多様性情報学の時代(1)標本の情報を集める意味. 2015 ,グリーンパワ 一. 5 , p. 28. [4] 細矢剛. 生物多様性情報学の時代(3)情報提供を担う JBIF. 2015,グリーンパワー. 7, p. 28. [5] 細矢剛. 生物多様性情報学の時代 (3) オ ープンマインドでいこう. 2015,グリーンパワー. 12, p. 28. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A43] 服飾分野における機関横断型デジタルアーカイブ構築に向けて: ○金井光代, 中村弥生, 田中直人, 近藤尚子 ## Study for Fashion Digital Archive KANAI Mitsuyo, NAKAMURA Yayoi, TANAKA Naoto, KONDO Takako Bunka Gakuen University, 3-22-1 Yoyogi,Shibuyaku,Tokyo, 151-8523 Japan ## 【発表概要】 本事業では、服飾分野における機関横断型デジタルアーカイブの構築に向けて、服飾資料収蔵機関への訪問調查を行うとともに、服飾資料収蔵機関・有識者・先進的取り組みを行っている機関との連携構築に向けてのネットワークづくり、情報収集に努めてきた。 その結果、データベースを一般公開している機関は約半数にとどまることが明らかになった。各機関とも、公開に意欲はあるものの、構築・継続的公開のための人員、予算、ノウハウがなく、実際に公開するには至っていない。また、公開の目的、想定利用者が各館で異なることが分かった。横断検索システム構築には、共通の目的、利用者を設定することが重要であるため、その先導役、取りまとめ役を担う拠点の存在が必要不可欠であることも明らかになった。本報告では、機関横断型デジタルアーカイブ実現に向けて取り組んできたこれまでの活動を報告すると共に、今後の展望についても言及する。 ## 1. はじめに 文化学園大学和装文化研究所では、2015 年から文化庁より委託を受け「アーカイブ中核拠点形成モデル事業」を推進してきた。 本事業は、文化庁が多岐にわたるデザイン資料の中から、プロダクト・デザイン分野を武蔵野美術大学美術館・図書館に、グラフィック・デザイン分野を京都工芸繊維大学美術工芸資料館に、ファッション・デザイン分野を文化学園大学和装文化研究所にそれぞれ拠点として委託し、各分野の現状調査、分析、課題の共有及び解決へのネットワークづくり等を目的として始まった事業である。 本報告では、本学が担当したフアッション・デザイン分野の機関横断型アーカイブ構築に向けて取り組んできた中で見えてきた現状と課題を明らかにした上で、今後の展望についても触れてみたい。 我が国が、昨今デジタルアーカイブの構築とその利活用を推進している現状は多くの人が知るところである。内閣府知的財産戦略本部が公表している『知的財産推進計画 2016』『知的財産推進計画 2017』にも、横断型アー カイブの重要性が語られており、(1)分野横断的な連携を可能とする基盤(統合ポータル)の構築を始めとする「アーカイブ間の連携・横断の促進」(2)分野ごとのつなぎ役を中心とした「分野ごとの取組の促進」、(3)保存や利活用に係る制度面での対応等の「アーカイブ利活用に向けた基盤整備」という総合的な取り組みの推進案が示されている ${ }^{[1],[2]}$ この中でも、我々が取り組んでいるのは(2)分野ごとのつなぎ役を中心とした「分野ごとの取組の促進」に該当する、「服飾分野における機関横断型デジタルアーカイブ」の構築に向けての取り組みである。 服飾資料収蔵機関への訪問調查を主として、人的ネットワークづくり、服飾分野に適したアーカイブ構築手法、実現に向けてのアーカイブ構想について検討した。 ## 2.調査概要 ## 2.1 対象資料について 服飾分野における機関横断型デジタルアー カイブ構築を検討するにあたり、対象資料の範囲を明らかにしなければならないと考えた。 しかし、何を以て服飾資料とするかという問題は単純なようで難しい。各機関はそれぞれ収集方針を掲げ、その方針に即して資料収集を行っているが、機関横断化を推進する本事業においては、提供者、利用者双方が納得する形で対象資料範囲を示さなければならないが、その形は未だはっきりと見えてはいない。 そこで、本事業においては、今後の調査・研究の進展により内容が変化することも考慮しつつ、服飾資料の大朹を以下のように暫定的に整理した。 A. 被服または、過去に被服であったもの (装身具も含む) B. 美しいもの なお、実物資料に加えて、これらの制作に関わるデザイン帳、見本帳および文書類(注文書など)も含む。 上記の条件を満たした場合、これを服飾資料と暫定的に定義する。 しかし、上記の条件に合致する資料は広範にわたるため、機関横断型デジタルアーカイブのモデル形成のため対象を限定して、進めることにした。服飾資料の中でも、資料数・収蔵機関数が多く、学術的にも、データベー ス(以下 DB とする)構築の面でも情報の蓄積がある「和服」を当面の対象とすることにした。 ## 2.2 調査概要について 調査手法:アンケート調査および、ヒヤリング調査 調查期間 : 2015 年 10 月 2017 年 11 月 調查対象機関:全国のファッション資料収蔵機関 24 館 主な調查内容 : ・収蔵資料について - DB の整備、公開状況について - DB 運営に関わる人員や予算について - 資料画像の取り扱いについて -DB の利活用状況について - 資料分類と台帳項目について - 現在運用されている DB の問題点など ## 3. 結果と考察 ## 3. 1 調査結果 まずは、各館の DB の整備・公開状況について述べることにする。 デジタル DB の有無については、 24 機関中 21 館が紙台帳からデジタルデータへの移行を進めているが、 3 館は紙台帳のみでデジタルデータは持っていないという結果であった。 DB の公開状況については、デジタルデータ化を進めている 21 館のうち、10 館は自館の HPで DBを公開しているが、残りの 11 館の 図1. 自館のDBの公開$\cdot$非公開の別 (24館) 図2. 公開$\cdot$非公開の資料数 (23館)図3. 公開資料の補助金受給割合 (10館) データは非公開であることが明らかになった (図 1 参照)。つまり、今回の対象機関 24 館中、 10 館 $(42 \%)$ DB は HP 上で公開されている 開であることがわかった。 次に資料数からデータ公開の割合を見てみたい。23 館(未回答館を除く)の服飾資料の収蔵数を合計すると約 16 万点である。そのうち、インターネット上にデータが公開されている資料は約 1.2 万点 $(7.6 \%)$ 、館内でのみデ一夕閲覧が可能な資料は約 1.3 万点 (8.4\%) とごくわずかである(図 2 参照)。 資料情報がどのような経緯で公開に至ったかを調べた結果、補助金受給の有無が大きなポイントになっていることが明らかになった。 インターネット上での公開と館内のみでの公開資料約 2.5 万点のうち、 $88 \%$ の資料情報が公開を前提とした補助金の受給を受けて公開に至っていることが明らかになった(図 3 参照)。 以上のアンケート結果から、ファッション資料のデータ公開の現状は、いまだ緒に就いたばかりと言えるのではないだろうか。 なぜこのようにデータ公開が進まないのか、 その理由をヒヤリング調査から探ってみたところ、多くの館が公開に前向きな姿勢を示した。その理由として最も多かったのは、「館蔵品を広く知ってもらいたい」というものだった。しかし、現実にはデータ公開は遅々として進んでいない。その理由として最も多かったのは、「構築・継続的公開のための人員・予算・ノウハウがない」というものである。また、「データベース公開は緊急性がなく、業務の中でも後回しになりがち」という意見も聞かれた。 このように、データベース公開は、学芸業務の中では、優先順位があまり高くないため、人員削減等により多忙を極めている学芸員は、手が回らないのが現状である。前述したように、公開を前提としたデータベース整備のための補助金を獲得できれば、その優先順位は一気に上昇し、公開に向けて館全体が動き出すが、自助努力のみで公開まで進められる機関は多くはない。 続く質問では他館のデータベースの利用状況を聞いたところ、「他館のデータベースは使わない、使えない」という回答を複数の館から得た。その理由のひとつが「名称や項目に統一基準がない」というものである。データベース構築の主目的は、いずれの館も「業務利便性向上のための紙台帳のデジタルデータ化」であり、項目などは紙台帳のものがそのまま採用されている。つまりは、内部資料のデジタルデータ化である。それは即ち、内部の人間には使い慣れた利便性の高い資料であるが、外部の人間の利便性は考慮されていない資料といえる。内部のみで使用する資料であればこのような資料でも問題はないのである。しかし、時代の流れにより、データ公開の動きが博物館・美術館でも活発になってきたため、各館は業務用として利用していた DB の一般公開に踏み切り始めたのだが、各館の DB はあくまで館内業務用のものであり、外部利用者向けに作られたものではないため、検索方法も外部の者にはわかりづらい。さらに、名称、項目など、全ての情報が各館オリジナルであり、同分野内であっても統一基準はないため、同分野の学芸員でも他館の DB は使えないということになってしまうのである。 では、研究者はどのように資料の所在を確認しているかというと、図録が一番便利で確実という声を聞く。また、東京国立博物館のように資料館が併設されている博物館は直接訪問することもできるがそのような機関は多くはない。あとは、研究者個人のネットワー クによる情報収集という状況である。インタ一ネットで様々な情報を入手できるこの時代において、もっとも早く、もっとも確実な情報の入手経路はアナログな手段であるという事実を目の当たりにした。 ## 3. 2 考察 では、利便性の高い DB とはいったいどういうものか。第一に利用者視点が重要なのは言うまでもない。しかし、現在公開されてい る DB はこの点について改善の余地がある。 それは前述した通り、現在公開されている DB の多くが業務用の DB の転用でしかないからである。 では、利用者はどのような DB を求めているのだろうか。それは「より多くの資料の中から簡便な手法で検索可能」なことであろう。 それを実現できるのが機関横断型デジタルア一カイブではないだろうか。横断化によって、一つの窓口から複数館の資料検索が可能になれば、一度に検索できる資料数が飛躍的に増加する。その際に、利用者が簡便に利用できる検索手法を採用することも重要なことである。 そこで重要になってくるのが、分野ごとの束ね役であるアグリゲーター(つなぎ役)の存在と、共通目的・共通ルールの設定である。 前述したように各館は長年の経験と知見の蓄積を土台にし、独自のカルチャーをもって DB を構築している。それは同分野内であっても、各館によって性質が大きく異なるものなのである。それを単にシステム的に連結させるだけでは、利便性の高い横断型デジタルアーカイブにはならないのである。横断化するにあたっては、「利用者が使いやすいデジタルアーカイブ」という共通目的のもと、項目や検索手法などの共通ルールを掲げて再構築する必要があると考えている。 また、複数の機関が連携していくには、その事業を主導的に進める拠点の存在が必要不可欠である。それがいわゆるアグリゲーター (つなぎ役)である。アグリゲーターの主な役割は、資料のデジタルデータの収集と提供であり、それは拠点の核となる活動ではあるが、資料収蔵機関に一方的にデータの提供を求めるだけでは、協力を得にくいだけでなく、長期的、継続的に発展していくことは難しいと考えている。そこで、収蔵機関同士の交流の場、服飾研究分野の人材育成 - 交流の場ともなり得る、服飾資料における機関横断型デジタルアーカイブ拠点を構想している。拠点と各機関との連携構築を進めるだけでなく、機関同士、機関と利用者の相互連携を支援し、学術研究の利便性を高めていきたい。そして将来的には、ファッション業界全体の底上げにも貢献できる拠点を目指していきたいと考えている。 ## 4. おわりに 本事業は、 2 年半の取り組みの中で以下の 3 点を中心に調查検討を行ってきた。 (1) 服飾資料収蔵機関とのネットワーク構築 (2) 服飾資料の DB の現状把握と課題の抽出 (3) 服飾分野における機関横断型デジタルア ーカイブ構築に向けての構想 我々の活動は、服飾分野における機関横断型デジタルアーカイブ構築に向けて動き出したばかりであり、今後実現に向けてさらに発展していきたいと考えている。そのためには、拠点の強化、さらなるネットワークの拡大に加え、各専門分野の有識者との連携をさらに強固なものにして発展し、服飾分野における機関横断型デジタルアーカイブ実現に向けて歩を進めていきたい。 ## 参考文献 [1] 内閣府知的財産戦略本部. 『知的財産推進計画 2016』https://www.kantei.go.jp/jp/singi /titeki2/kettei/chizaikeikaku20160509.pdf (閲覧 2017/11/7). [2] 内閣府知的財産戦略本部. 『知的財産推進計画 2017』https://www.kantei.go.jp/jp/singi /titeki2/kettei/chizaikeikaku20170516.pdf (閲覧 2017/11/7) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A42] アーカイブズの語源アルケイオンをオンライン・ソース で調べてみる ○筒井弥生 アーキビスト E-mail: [email protected] ## Search "archeion", the etymology of archives, with online sources \\ TSUTSUI Yayoi \\ Certified Archivist by Academy of Certified Archivists ## 【発表概要】 デジタルアーカイブは語られる場や人々によって意味するところが多様である。アーカイブということばの意味を共有することで、整理されていく部分もあるのだろうか。そもそもギリシアでは、という大昔に遡って、アーカイブズとは、を調べるのに、様々な WWW 上の資源やデー タベースの恩恵に浴してきた。本発表では、例えば、米国タフツ大学のペルセウス・デジタル・ ライブラリーでアーカイブズの語源とされる archeion を検索して得られる結果をどう解釈し、 ライブラリー内をどう移動するかを示したい。あわせて、アテネのアゴラ発掘サイトやへレニック・コスモス・文化センター、碑文や愨絵のデータベースも紹介し、アーカイブについて考えてみたい。 ## 1. はじめに ICA 国際文書館評議会のホームページ[1]に 2016 年の総会から「アーカイブズとは」あるいは「アーキビストとは」が記述されている。 それ以前は、「世界アーカイブ宣言」であり、 あるいは民主主義の基盤という言いまわしがあった。ICA のマルチリンガル・アーカイバル・ターミノロジーによると、アーカイブズの第一義は「業務遂行の過程で個人又は組織により作成・収受されて蓄積され、並びにその持続的価値ゆえに保存された文書」であり、「アーカイブズを保存し、閲覧利用できるようにする建物又は建物の一部‥」、「アーカイブズを選別、取得、保存、提供することに責任をもつ機関又はプログラム‥」とある。つまり資料と施設の二重の意味がある。デジタルアーカイブの文脈ではアーカイブ機関を 「公文書館等に限らず広い意味での記録機関全般を指すものとし、社会・文化・学術情報資源である資料・作品等のコンテンツを収集し、その資源を整理(組織化)。、保存し、提供する機能を持つ機関・団体をいう…」とし[2]、所謂メモリー・インスティチューションより広義の定義づけをしている。なお、ウイキペディアのデジタルアーカイブの項から英語版にいくと見出し語はDigital Preservation[3]とある。 さて、アーカイブズの語源は、フランス語のアルシーブにあり、それはラテン語のアルキウム、古代ギリシア語のアルケイオンにある、という。近代的公文書館の誕生はフランスが革命期に国立公文書館を構想し、それをアルシーブ・ナショナルと名付けたことに由来する。この命名は、おそらく、すでにヨー ロッパ社会に記録保管所としての用法があつたと考えられる。その元となったのは、『ロー マ法大全』で知られるユスティアヌス帝の布告とされるが、紙媒体から「勅令彙纂 1.4. 30. $2 」$ の「未成年保護の制〔531 年 7 月 28 日]」に archivis とあるのを見出したが、果たしてこれがそれほどまで影響力があったのかは、検討の余地がある。 ## 2. アルケイオンをペルセウスで調ベる ## 2.1 希羅古典辞典(仮訳). ペルセウス・デジタル・ライブラリー[4]については、すでに『人文情報学月報』で吉川斉によって詳しく紹介されている[5]。ここでは、実際にこれを使って検索してみる。 まず、検索密に「archeion」と入れる。こ れは英語として認識される。すると、検索結果は 1 件がヒットする。1890 年に刊行された A Dictionary of Greek and Roman Antiquities 第三版の見出し語である。 アス、クセノフォン),はクロス・レファレンスとなっている。例えばへロドトスの部分をクリックすると英文テキストの当該箇所にいくが、向かって右側の Greekをクリックすればギリシア語のテキストに行きつける。これらも含めて青い文字の部分はギリシア語も、ペルセウス・デジタル・ライブラリー内のテキストにリンクしている。報告者がペルセルスを利用しはじめたのは 2000 年のことで、そのころはギリシア文字は使われていなかった。日本語訳と引用箇所については、「アーカイブズの語源アルケイオンについての一考察」が機 青い文字の entry archeion-cn をクリックする。その本文は以下のようである。 any public place belonging to the magistrates, whether among barbarians (Hdt.4.62). or Greeks (Xen.Hell. 5.4.58; [Dem.] iv. Phil. p. 145.53). At Athens the name was more particularly applied to the archive office, where the decrees of the people and other state documents were preserved. This office is sometimes called merely tò Snuóorov (Dem. de Cor. p.275.142). (Dem. de Cor. p. 275.142). The archives were kept in the temple of the mother of the gods ( $\mu \eta \rho \tilde{\omega} o v)$, and the charge of it was entrusted to the president (غ்потa'rns). of the senate of the Five Hundred. (Dem. de Fals.Leg.p.381.129; Lycurg. c. Leocr. § 66; Paus. 1.3.4; Athen. 5.214 e; Plut. Vit. x. Oratt. p. 842 e; Curtius, Das Metroon in Athen, 1868.). [W.S] [W.W] A Dictionary of Greek and Roman Antiquities. William Smith, LLD. William Wayte. G. E. Marindin. Albemarle Street, London. John Murray. 1890. 青い太文字の部分 (ヘロドトス、パウサニ関レポジトリで公開[6]されているので、そちリシア文字で表されている $\alpha$ ax クする。 ápXع̃̃ov town-hall, residence, (Show lexicon entry in LSJ Middle Liddell). (search). と表示され、その下には同じ表記の変化形 (名詞 - 単数 - 中性 - 呼格、名詞 - 単数 - 中性・主格、名詞 - 単数 - 中性 - 対格).と\%がリストになっている。見出し語なのだから、 は対格が $40.9 \%$ とある。投票制と吉川が述べていたが、ここでは利用者の投票は行われてはいないようだ。それにしても、テキスト中の単語毎に、品詞、動詞であれば、人称・時制・法・態が、形容詞であれば、単数か双数か複数か、男性か女性か中性か、あるいは格は何かなど、㱝切に示しているのは驚嘆に値する。 向かって右側には Search 窓があり、a). rxei=on をギリシア語に探すことを指示している。アクセント記号や気息記号を/・)。・= などの記号を用い、文字もコードとしてアルファベットと対応させて表示している。 ## 2. 2 LSJ ápXẽov に戻ると、その横には、代表的意 味、(日本語では市庁舎、住居の意)。が書かれている。そして辞書へのリンクがある。 LSJ とは Henry George Liddell と Robert Scott による A Greek-English Lexicon で Sir Henry Stuart Jones が改訂している古典学習者のほとんどが学ぶ大辞典であり、ペルセウスには 1940 年 Oxford $の$ Clarendon Press 版が収録されている。Middle Liddell はその中辞典・簡約版である。LSJ をクリックするとそこにはこうある。 II). :一形容詞アルケイオスの中性形が名詞化したもので、アルケイオスというのはアルケ一の II 番目の意味の形容詞であることが示されている。つまり、はじまり、根源、原理などではなく、第二義の第一の、権威の、という意味、それに属するもの、つまり最高官の執務所を指し、役所の意味となった。ちなみに第一義のアルケーの形容詞はアルカイオスとなる。 次に、左下 XML の上にある Word frequency statistics をクリックする。するとこの語の様々なテキストに出現する頻度のリストが現れ、項目毎で並べ替えも可能である。 このリストによってこの語がどのように用いられているかを知ることが可能になる。 そのようにして、ふたつの辞典や用例から、 アルケイオンが支配者に属することがみてとれるが、アテネは民主政の摇籃と言われる。最初にみたように、アーカイブズが民主政の基盤であるのなら、アテネにもそのようなものがあるのではないか。 2.1 によると、アテネでは単にデモシオンと呼ばれた、とある。デモクラシーはデモスの力、デモスに属するものという名の建物に法律や国家の文書が保管されていたという。 その建物は母神の神殿となり、メトロオンと呼ばれ、紀元 2 世紀頃まで古文書を保存する建物として存続していた。 ## 3. そのほかのオンライン・リソース 3. 1 アテネの発掘 デモシオンやメトロオンのことを知るため には、在アテネ・アメリカ西洋古典学研究所 [7]の活動が役立つ。1881 年創立以来の研究成果が蓄積され、近年ではデジタル・リソー スとして公開されている。論文は JSTOR でも検索可能である。さらにアゴラの発掘の特別サイト (http://www.agathe.gr/).もある。 これにより、メトロオンはかつてデモシオンで、そのデモシオンは旧ブーレウテリオンであった。ブーレウテリオンとはブーレ(五百人会).に属する建物であったことがわかる。 ブーレは、 10 のデモスから 50 人ずつが選出され、民会の議題を選ぶなど実際の政務にあたる。月替わりで当番にあたり、その際日替わりで代表者を選んでいた。ブーレの機能とメトロオンの所蔵資料は結びついている。 ヘレニック・コスモス・文化センター[8]は、 ヘレニック・ワールド財団が運営するミュー ジアム施設であり、来館者にバーチャル・リアリティ・ツアーを提供し、古代アテネを再現して見せている。財団では地中海地域のブ ーレウテリオンをデモクシー誕生の地としているデータベースも提供している。 ## 3.2 碑文、パピルス、壹絵 2 で辞典をみて、ペルセウス内にリンクのない用例もあった。そのうち碑文については、 ペルセウスでも検索できるようになってきたが、ここでは、パッカード人文学研究所 (http://epigraphy.packhum.org/). 、ハイデルベルグ科学アカデミー (http://edh- www.adw.uni-heidelberg.de/home)、、碑文英訳サイト .を挙げる。 パピルスについてもオンライン・ソースはいくつかある。カリフォルニア州立大学バー クレー校のバンクロフト・ライブラリーのワニのミイラに詰められていたパピルスを含むテブトゥニス・パピルス・コレクション (http://www.lib.berkeley.edu/libraries/bancro ft-library/tebtunis-papyr). とオックスフォー ド大学のパピスル関連プロジェクト (http://www.papyrology.ox.ac.uk/Ancient_Liv es/)を挙げる。同大学には壼絵データベース (http://www.beazley.ox.ac.uk/pottery/default. htm),もある。また、アテネの民主政についての重要な参考文献であるアリストテレスの 『アテナイ人の国制』のパピルスは大英図書館が所蔵している[9]。 また 2 にあるスーダ辞典のオンライン英訳版もストア・コンソーシアムによって提供されている[10]。 ## 4. おわりに ICA はアーカイブズを長期的価值ゆえ、残されてきた人間の活動記録で、真正性、信頼性、完全性、利用性が担保されていなければならない、としている。アーキビストは、ア一カイブズ資料の編成・記述にあたり、その出所や原秩序を尊重し、コンテクストを重んじる。近代のアーカイブズ制度においては、組織共有文書の発生からアーカイブズでの長期保存まで、とぎれなく管理されていることが求められる。このような狭義なアーカイブズに対し、個人や家族の記録もアーカイブズとし、媒体も紙に限らず、録音、録画、電子ファイルなど多様で幅広くアーカイブズとするようになってきた。古代ギリシアのアーカイブズがアーカイブズといえるのか、というのも実は議論のあるところではあるが、古典古代というのは、欧米では教養の源、その研究の厚みとデジタル化の勢いは、目を見張るものがあり、古代ギリシアのアーカイブズを調べるため用いたオンライン・リソースの多くは、“デジタルアーカイブ”として以前からあって、なおかつ更新を重ね、最先端をいくものである。今後の展望として、ひとつは、 ミュージアムの語源とされるムーセイオン、 ライブラリーの語源とされるビブリオテーケ一について同様の探索を行いたい。アーカイブズ制度については、米国に共同研究者を得たので、アナグラフェウスやブーレウテリオンを軸に調査を進めて行きたい。 なお、調査結果については、2015 年の「ア ーカイブズの語源アルケイオンについての一考察」 (一橋大学大学教育研究開発センター 『人文・自然研究』9 号). 及び 2016 年 ICA 国際文書館評議会のポスター発表“The foundation of democracy : Learning from ancient Greece”などで報告している。 ## 参考文献 [1] International Council of Archives, https://www.ica.org/en (閲覧 2018/1/4). [2] デジタルアーカイブの連携に関する関係 省庁等連絡会・実務書協議会「我が国におけ るデジタルアーカイブス推進の方向性」(平成 29 年 4 月). p.1, 註 $2 \mathrm{http}: / / w w w . k a n t e i . g o . j p / \mathrm{jp} /$ singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/houkokusho. pdf (閲覧 2018/1/4). [3] WIKIPEDIA, https://en.wikipedia.org/wiki/D igital_preservation(閲覧 2018/1/4). [4] Perseus Digital Library, http://www.perseus.tufts.edu/hopper/ (閲覧 2018/1/4). [5] 吉川斉「デジタル学術資料の現況からペルセルス・デジタル・ライブラリーのご紹 介」 (1). (3). 『人文情報学月報』32 号 34 号 https://www.dhii.jp/DHM/dhm32-1, https://www.dhii.jp/DHM/dhm33-1, https://www.dhii.jp/DHM/dhm34-1 (閲覧 2018/1/4). [6] http://doi.org/10.15057/27152 (閲覧 2018/1/4). [7] The American School of Classical Studies at Athens, http://www.ascsa.edu.gr/ (閲覧 2018/1/5). [8] Hellenic Cosmos Cultural Centre, http://www.fhw.gr/cosmos/ (閲覧 2018/1/5). [9] British Library Collection guides, https://www.bl.uk/collection-guides/papyri (閲覧 2018/1/5). [10] Suda On Line: byzantine Lexicography, http://www.stoa.org/sol/ (閲覧 2018/1/5). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます (http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 『地域文化とデジタルアーカイブ』 岐阜女子大学 デジタルアーカイブ研究所編出版社:樹村房 2017年11月177ページB5判 ISBN 978-4-88367-288-2 本体 2,000 円 + 税 ## 1. はじめに 本書は、もともとデジタルアーキビストの講義テキストとして編集されたものを改訂したものである。地域の伝統文化やオーラルヒストリーなどをデジタルアーカイブした実例を解説しており、実際にデジタルアーカイブを作成するにあたっての参考書となることを目的に執筆されている。 ## 2. 本書の構成と内容について 本書は 11 章で構成されている。章立てと内容については次のとおりである。第 1 章「地域文化とデジタルアーカイブ」では、祭礼や年中行事、図書や古文書、 オーラルヒストリーなどといった地域文化をデジタルアーカイブし、メディアミックスなどについて言及している。その一例としてデジタルアーカイブを用いた地域資料情報の発信例である「沖縄おうらい」をとりあげている。「沖縄おうらい」はもともと修学旅行向けに作られたデジタルアーカイブであるが、沖縄の地域文化発信に役立っている。第 2 章「一つの資料を基点として形成される文化」では、実例として「長良川水文化デジタルアーカイブを取り上げている。これは長良川をとりまく自然・社会・文化を国土交通省、岐阜県、岐阜女子大学、文溪堂などが連携し完成させたものである。コンテンツ数は 167 に及び、さまざまな機関で複合的なデジタルアーカイブを作成する際の参考になる事例である。第 3 章「複数の資料・地域間で形成される文化」では、複数の地域に伝わる伝統文化のデジタルアーカイブを作成した事例を取り上げている。複数の地域に伝わる伝統文化を比較するにはデジタルアーカイブが有用で、文化の伝承、同時代に各地に広がった文化を比較検討することができると指摘している。第 4 章「地域の民俗・文化」では、地域の民俗芸能の歴史的背景と資料調相と記録、慣習に配慮した撮影方法、多地点からの撮影などの注意点を実例で示し、撮影計画の立案の重要性を説いている。第 5 章「地域のオーラルヒストリー」では、沖縄戦を体験した話者の戦中・戦後のオーラルヒストリーを実例として示している。話者の表情の記録と音声の明暸性、差別用語や公表できない話の対処、選定評価項目を用いた全体の検討の重要性を指摘し、個人情報やプライバシーに配慮した公開可能なアーカイブの作成を説いている。第 6 章「地域の伝統・文化遺産」では、歴史的背景に配慮した撮影記録についてふれ、資料一つ一つに必要な情報を付加することの重要性を示している。第 7 章「博物館(野外博物館)・図書館」では、資料の正確な撮影記録、地域の人々の作品のデジタルアー カイブ化や地域資料のオーラルヒストリーの収集も積極的にする必要性を説いている。第 8 章「地域の産業・生活文化」では、身近な鉄道や匠の技をアーカイブ化し、メディアミックスを念頭に置きつつ、知的財産処理を行うことの重要性を指摘している。第9章「撮影記録の基礎」では、さまざまな撮影方法や機材の解説がなされている。3 Dスキャナや多地点撮影、 ドローン撮影、オーラルヒストリーの記録撮影など撮影記録の方法や注意点について書かれている。ここで書かれていることは撮影の基本ともいうべきことが書かれているので、熟読を打勧めしたい。第 10 章「地域文化資料の選定評価項目」では、デジタルアーカイブの保管流通利用目的、慣習や権利(著作権など)、利益、社会的背景、文化的内容の適否、利用者の状況、利用環境保管の安全上の課題などを考慮した評価のあり方を説いている。第 11 章「地域文化資料の保存(保管)と利用」では、資料の長期保管、短期保管、メ夕デー夕、資料検索のための自然語や統制語のシソーラ スについて解説している。 ## 3. おわりに 地域文化をデジタルアーカイブ すること 地域文化をデジタルアーカイブすることはデジタル技術の飛躍的な進歩により大量の写真撮影や多方向同時撮影などが可能になったことにより実現できたものである。デジタルアーカイブを作成するにあたっては綿密な撮影計画の立案が不可欠であり、撮影後には大量に撮影された写真の取捨選択、著作権の確認などす べきことが格段に増えたことも事実である。また、デジタルアーカイブの保管場所の更新や複製の作成などデジタルアーカイブを作成した後の管理も常に考えておかなければならない重要な課題である。 本書はデジタルアーカイブの初学者を対象にした導入的なものである。実例をとおして学べることは多く、 デジタルアーカイブを作成するにあたって参考書とし て手元に置いておきたい 1 冊である。 粕谷亜矢子(豊田市史資料調査会専門員)
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# [A41] コミュニティアーカイブの現状と課題 坂井知志 1$)$ 1) 常磐大学総合政策学部総合政策学科, 〒 310-8585 水戸市見和 1 丁目 430-1 E-mail:[email protected] ## Present state and problems of Community Digital Archive \\ SAKAI Tomoji ${ ^{1)}$ \\ 1) Tokiwa University , 430-1, 1-Chome, Miwa, Mito-shi, 310-8585 Japan} ## 【発表概要】 デジタルアーカイブの現状と課題を分析するためには、デジタルアーカイブの必要条件を明確にすることが欠かせない。そこで、(1)文化継承というコンセプト(2)デジタルデータの特性の理解 (3)マイグレーション計画性(4)利用しやすさ(5)メタデータの有無と内容(6)適切な権利処理の 6 点からデジタルアーカイブの必要条件を述べ、そのことを踏まえて現状と課題を今後のコミュニティアーカイブの構築という視点から言及する。 ## 1. はじめに デジタルアーカイブの取り組みは、学会が設立され、その後の研究会などで幅広い分野の研究者や実践家等が交流し、議論を重放、新たな可能性を探っている。政府の知的戦略本部にデジタルアーカイブ推進委員会が設立され、第 1 回の委員会が平成 29 年 9 月に開催された。その会議資料 1 でデジタルアーカイブ現状と課題について分野ごとの取り組みを総括し「分野を横断した文化的資産の蓄積・活用を可能とするアーカイブ間連携を進め、目録・所在等情報(メタデータ)の整備・公開やデジタルコンテンツの提供」に取り組む必要性を指摘している。そして、最後に「分野・地域を超えて日本の知を集約、検索できるデジタルアー カイブの構築により、学術研究、教育、防災、観光ビジネスや映像、出版等のコンテンツビジネスなどにおける知的資産の利活用の取り組みを活性化し、加えて海外発信機能の強化を通じて、インバウンドの促進や海外における日本研究の深化にも活用することが可能である」との見解を示している。この指摘を実現するだけでなく、国立国会図書館のジャパンサーチは、林立するデジタルアーカイブを統合的に利用するだけではない側面を持っている。それは、研究等の画期的な改革である。「知」と「知」を重ねるという新たな可能性を秘めている。 しかし、コミュニティデジタルアーカイブの現状は単なるホームぺージと変わらないと見える取り組みが多数存在する。ホームペー ジとデジタルアーカイブの何が異なるのかについて今後とも議論をしなければならないが その議論を根拠のあるものとするためには、両者を定量的に分析してはじめて差異が明確となる。そこで、定量的分析の基礎となるデジタルアーカイブについての必要条件のポイントを明確にし、その後、コミュニティアー カイブの現状を概観し課題を明確にする。 ## 2. デジタルア一カイブの必要条件 2.1 文化継承という基本コンセプト 現在のデジタルアーカイブ研究者は、自らの専門性を尊重するとともに他の専門分野の成果を横断的に利用して多角的 - 重層的な結論を得る新たな学問的・学際的研究方法を見据えている。さらに、統計的手法を前提とした科学的研究に疑問を持つ研究者は、統計デ一夕を図や表にする方法論から研究論文自体にデジタルアーカイブを構築し、生データを読み解ける可能性を探っている。デジタルア一カイブは引用方法を明示することではなく原資料に直接案内することが可能な機能を備えている。画期的な研究法を手に入れられる時代に入りつつある。 また、デジタルアーキビストの教育関係者は、教科を超えて学ぶことで真の「知」とは何かに迫ろうとしている。一つの結論を素早く理解し記憶するという学習ではなく、他者の一つの考えを検証し自らの考察を見出す自発的学習知を教育の基本にできないかについて議論を重ねている。デジタルアーキビストの企業関係者は、国や文系・理系の分野を超えた広く文化を人々が享受する方法や自分史・家族史・SNS 等の個人的な呟きにも価值を見出しデジタルアーカイブの可能性を開拓 しつつある。そして、全てのデジタルアーキビストは、人間が築き上げてきた有形・無形の成果をデジタルデータとして現在の私たちが利用することだけでなく、未来に遺すことを呼び掛けている。それは、誰かが突出するのではなく、多くの人々との共同作業として取り組むことを認識の基本としている。広い意味での文化という概念の中で孤独とは正反対の連帯感のような感覚も共有している。特に、今の時代の文化を理解し、活用しつつ未来に遺し伝えることができるのは私たちこの時代に生きている者たちだけができることである。そのような歴史観を持つことが、共通のコンセプトである。従って、今の文化を今だけ享受をするというコンセプトは、デジタルアーカイブではなく、ホームページである。単なるホームページに意味がないわけではないが、それは、継承を前提としたデジタルア一カイブとはいえないということである。 ## 2. 2 デジタルデータの特性の理解 デジタルは、パーソナルな技術であり、特別な人が扱うものではない。私たち一人一人が利用できるものである。利用しやすさは日々向上している。時間と空間の障壁を超えるメリットを多くの人々に感じさせている。 その汎用性の側面はデジタルアーカイブにも備わらせる必要があるが、汎用性を支える専門性も確立させなければならない。写真の著作者を exif に自動的に記録させることは、汎用性のなかで議論をし、その技術開発には専門性が求められる。著作権法の改正の議論も誰にでも理解される部分と専門的に深める部分とが共存できるように進めるというバランス感覚が重要である。さらに、技術の進化はメリットとデメリットの両面がある。デジタル技術の急速な変化は、定期的なマイグレー ションやエミュレーションを必要とする。アナログデータをデジタルデータに変換して恒久的に安心できるということは現状ではあり得ない。そのことは、日本においても平成 16 年度に国会図書館が指摘している。「電子情報の長期的保存とアクセス手段の確保のための調査報告書」ではマイグレーションとエミユレーションの必要性とともに困難さも報告されている。また、東日本大震災の総務省の 「震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン」 2013 年 3 月でもデジタルデ一タの長期保存の章で同様のことが記述されている。これは、デジタル社会である今の時代が、今の文化情報を後世に伝えられなくなる恐れがあることを意味している。 8 ミリテ ープやフロッピーディスク等々様々なメディアに記録されたデータを容易に再現できる環境を持ち得ていないことが何を意味するのかについて思慮しなければならない。そして、現在のデジタルデータを容易に再現することが後世の時代にも可能な社会であったらどのような恩恵を人々にもたらせることができるのかについても考察しなければならない。 指導者の歴史を学ぶことから指導者だけでなく庶民の歴史も学ぶ意味を考えると、現在の私たちがどのような思想信条を持っているのかについて書物などの文字ベースではなく、音声と画像から読み解くことが可能となるということの意味を明確にする必要がある。徳川家康が何を選択したのかについては学ぶべきことは実に多いが、自らの祖父や祖母が何を考えどのように生きてきたのかを歴史としてとらえることが多くの人々は出来得ていない。将来への伝言がテキストデータだけではなく、映像と音声も含めて遺せることの意味とパーソナルなメディアとしてのデジタルデ一タの力が何をもたらすのかをイメージとして持つことが可能となっている。テキストを基本とした統計的な研究手法も画像と音声検索が開発されることにより、研究したものの結論を受け入れるだけの論文から読み解いた読者が新たな視点で異なる結論を見出せるものと変わるのかもしれない。そのためには、 デジタルデータのメリットを活かしデメリッ卜を超えていかなければならない。 ## 2. 3 マイグレーションの計画性 現在、マイグレーションの方法論は確立されていない。画像とテキスト、音声を同時に行う方法は現在のところ困難と思われるが、 その必要性がより多くの人々のニーズになれば劇的な方法が開発されるかもしれない。しかし、それまでは、マイグレーションのし易さでデータを整理しなければならない。 ## 2. 4 利用しやすいエ夫が施されている。大量のデータをどのように利用するのかに ついての方法論は未だ確立されていない。「東日本大震災アーカイブ宮城」は 40 万件 を超えるデジタルデータを学校教育でどのように利用しやすくするのかについて議論を進め、検索方法についても工夫を施した。また、 NHK アーカイブスは「ティーチャーズ・ライブラリー」を設け、学習の展開例などの工夫を施している。利用者のニーズを踏まえ、 デジタルアーカイブ構築関係者がデータを抽出して、利用方法も示したうえで利用されることを想定している取り組みも散見される。 それを学校教育のような画一的な手法で利用される場合でも大量のデータと向き合う必然性をどのように理解させるのかはデジタルア一カイブの存在意義を主張するためにも必要なことである。それも利用しやすさを前提としなければならない。今後、画像・音声検索の進展も視野に入れつつワークシート等の開発とその結果の共有をどのようにするのかは、利用という観点から欠かせない。 ## 2. 5 メタデータの有無と内容 メタデータ項目の重要性はいうまでもないが、そのデータが持つ意味・内容を継承させる方法についても検証しなければならない。撮影と同時に付される写真の exif のような方法が望ましいが、専門的に求められる項目にも共通化が求められる。位置情報もメタデー 夕のなかで議論することが望ましいが、項目だけでなく記載内容の統一も重要である。 ## 2. 6 権利処理がその時代に適合している。 (1)著作権の契約書を作成(口頭了解も含む)し、権利者の許諾を得ている。 (2) 肖像権・個人情報・慣習などの権利も処理されている。 (3)クリエイティブコモンズなどの権利者の意思表示が示されている。 以上のことが現在の基準と思われるが、これは時代ともに変化することが予想される。 その時代の基準を将来認める方法も見出さなければならない。 ## 3. デジタルアーカイブの現状と課題 3. 1 長期保存体制の未整備 大規模なデジタルアーカイブにおいても 2 で述べた必要条件を全て満たしているものは少ない。特に、マイグレーションの計画と予算措置が施されている例は国内では極めて特異な取り組みとなっている。マイグレーションの計画立案と予算確保が早急に求められる。 ## 3. 2 個人情報の基準が統一されていない 「ひなぎく」を利用すると、個別のデジタルアーカイブにおいて異なる基準が存在することに気がつく。個人を特定させないためのマスキングの基準は一律ではない。統一基準は不要であるのかも含め検討しなければならないが、その具体的基準を公開しているサイトは皆無であり詳細な知見が深められる状況とはなっていない。各デジタルアーカイブは、 マスキング基準を公開し、研究を深められる状況を実現させることが求められている。 ## 3. 3 著作権意思表示の意味が不明 常磐大学の学生 105 名対象にホームページのサイトポリシーアクセス経験を質問したところアクセス経験者は 0 人であった。多くの人々はデジタルアーカイブにおいても同様の行動をとるであろう。また、著作権については多くの組織がホームページのトップページに意思表示を示している。一番多くの組織が採用している表記が、「All Rights Reserved」である。(日本の中央省庁 $60 \%$超)続いて多いのが、組織名を英文で表記しているものであるが、大英図書館は、「All text is British Library and is available under Creative Commons Attribution Licence except where otherwise stated $\rfloor と$ クリエイティブコモンズマークを採用している。この表記の問題では、個別のデジタルデ一タを利用者がコピーを繰り返すことにより意思表示が不明確になることが予想される。利用規約と異なる場合も見受けられる。その矛盾を避ける意味からも意思表示は個別のデジタルデータに著作権等の意思表示を付することが必要である。例えば、写真の exif 項目に意思表示を付することである。Exif は横断検索にむかないが、多くのデジタルカメラに採用されている。Exif は、富士フィルムが開発し、当時の日本電子工業振興協会で企画化されたものである。また、デジタルカメラの日本の世界シェアは $90 \%$ を超えている。 (GfK Consumer Choices / The NPD Group, Retail Tracking Service)事実上デジタルカメラのメタデータは exif が世界標準となっている。しかし、デジタルアーカイブの分野で合理的であるのかに ついては IPTC も視野に入れ議論することが久かせない。 ## 3. 4 個別のデータに意思表示を付する 文化庁が推奨している自由利用マークは教育関係者に情報共有をするため検討されたものであり、当初から国際標準を目指したものではない。デジタルアーカイブの分野は国際標準を基本とする必要があるため、これを採用するわけにはいかない。クリエイティブコモンズは、国際的に利用が進められつつあるので、現在はこの意思表示を普及させることが合理的である。しかし、著作権以外の肖像権や個人情報、慣習などの意思表示ではないことや著作者の意思が変更されることには対応できていない。そのため、2016.2.10 日本教育情報学会のデジタル・アーカイブ研究会で「デジタルアーカイブにおける権利処理のシステム化に関する新たな提案」を坂井知志・井上透・水野裕子が次の意思表示を発表している。一行目は、連絡先二行目の最初は、所属組織の個人番号、Ⓒ以下、著作物作成年と職業分類や肖像権 - 個人情報 - 慣習の意思。最後に位置情報など。 [email protected] jdaaap008C2015f190.f-f-f 10-35.5505334,139.4591274,17.05 このような意思表示が国際標準に適合するのかを含め学会等での議論が必要である。 ## 4. おわりに 福井健策が指摘するように知の独占とデジタルアーカイブはどのような関係するのか。 また、デジタルアーカイブが民主主義の発展にどのような関係性を持つのか。オープンサイエンスにデジタルアーカイブの発展がもたらせられるものは何か。 研究の方法論を身に着け論文を発表することについて研究者は疑問を持つことができる時 である。論文から引用された原著に容易に辿り着き新たな「知」を示すなどが重層的に行われることは、研究論文の結論を受動的に受け入れることから反論や別の研究を進める等能動的なものとし得ることが予想できる。歴史的な知見についても指導者の歴史ではなく、全ての人々の想いを知り得ることが歴史となるのではないか。第二次世界大戦で日本人が 50 万人以上死亡したフィリピンで、フィリピン人が 110 万人死亡したことを知る日本人は少数である。さらに、サンフランシスコ講和条約の吉田首相やダレスアメリカ特使についての演説の全文は散見できるが、フィリピン代表ロムロ外相の演説の全文はインターネッ卜上には見つけことができない。当時のキリノフィリピン大統領はマニラ市街戦で妻や 3 人の子どもを亡くしている。日本兵により殺害されたとされている。それにも関わらず、戦犯 105 人の恩赦・特赦を与えたのかを知る者はさらに少数である。また、フィリピン国民 110 万人の死者の想いを遺すこと。 70 年後に私たち一人一人の想いを伝える可能性をデジタルアーカイブは持っている。 ## 参考文献 [1]東日本大震災アーカイブ宮城 https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/syougaku /archive-miyagi.html (参照 2108-1-4) [2] 総務省. “震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン (2013 年 3 月)".http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/i ctseisaku/ictriyou/02ryutsu02_03000114.ht $\mathrm{ml}$ (参照 2017-5-30). [2] 岩手県. “いわて震災津波アーカイブ〜希望 ”.http://iwate-archive.pref.iwate.jp/ (参照 2017-5-30). [3] 町英朋,塩雅之,坂井知志. “個人のデジタルアーカイブとメタデータに関する考察”.日本教育情報学会第 31 回年会論文集. 2015, p. 114-117. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし, 複製, 改変はもちろん, 営利目的での二次利用も許可されています。
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# # 1. はじめに ネットワーク環境の整備やコンピューター処理速度 の向上に伴ってあらゆる分野で急速に IT 化が進行し、情報のデジタル化が加速している。動画・静止画など のコンテンツ制作の分野に目を向けると、長らく IT・デジタル化は一部にとどまっていた。これはコン テンッのデータサイズが大きく、ネットワーク上でス トレスなくやりとりすることが難しかったからであ る。IT 技術の進歩によりこうした課題も次第に克服 されつつある。 放送業界においては、4Kなど高解像度映像による 付加価値の高いコンテンツ制作とその保存が普及し始 めている。また、これまで長期保管されてきた膨大な 放送・業務用テープ(VTR)のデジタル化が促進され ている。視聴者のライフスタイルが多様化し、過去の 映像を利活用することで、新しい形態でのコンテンツ ビジネスの可能性が広がるため、デジタルデータ資産 の保存は重要な役割を担う。 ここでは、コンテンツのデジタル化で課題となる 「データの長期保存」について着目し、この課題を解決 できる手段の 1 つとして、業務用途を想定した「光ディ スク」の新技術や運用のメリットについて解説する。 ## 2. データ保存における課題 デジタルデータの保存にむけて、多くの企業や自治体は、運用形態や予算にあわせ、マイクロフィルム、 ハードディスク(HDD)、テープ、光ディスクといった記録メディアを選択する。メディアの選択とデータ保存において、以下の 4 つがデー夕保存における課題とされている。 1 つ目はデータの大容量化である。高画質カメラで撮影した動画や静止画は解像度が高く、付加価値の高いデータはデータサイズが大きくなる傾向にある。例 えば、放送業界で利用される $4 \mathrm{~K}$ 放送フォーマットは $\mathrm{HD}$ 放送フォーマットの約 12 倍となる。また、特にコンテンツ資産は常時保存するコールドデータとして、増加する一方となる傾向にある。 2 つ目はデー夕保存の長期化である。大容量ストレージメディアは、従来「バックアップ(数日 10 年程度の短期保存)」での利用が一般的だった。デジタルデータが「コンテンツ資産」となることでデータの整理や削除判断が難しく、半永久的に長期保存する傾向にある。そのため、記録メディア自体が長期保存可能か、長期的に存続するか、という点も検討課題となる。 3つ目は、所有コストである。データ保存の長期化によって、保存にかかるコストは増加する。デジタルデータの蓄積には、保存するストレージ設備コストと、設備および記録メディアなどを維持するための人件費、電力量などランニングコストがかかる。また、例えばLTO では同一フォーマットであっても世代間での再生互換に制限があり世代間の引き継ぎにかかるコストも意識しておく必要がある。これらをあわせて総所有コスト $=$ TCO (Total Cost of Ownership) と呼ぶが、 ストレージ設備やメディアの種類によって採用メリットが異なり、いかに低 $\mathrm{TCO}=$ 低コストで管理できるかが課題と捉えられている。 4つ目は、地球環境問題である。データセンターにおいては、爆発的なデー夕量の増加に耐える設備を構築する為、消費電力量は年々増加傾向にある。この消費電力量の増加は年率約 $16 \%$ 程度とされており、 $\mathrm{CO}_{2}$ 排出につながることから、デー夕量の増加は環境問題に直結する。データセンターではグリーンデータセンター化を目指し、冷却システムの改善、リソースの効率化や消費電力量低減が検討されている。 ## 3. 光ディスクのメリット 大容量デー夕を利用する放送業界や、大容量デー夕を保有する大手 SNS 企業が保存メディアとして光ディスクを採用するなど、長期保存の一手として注目され始めている。また、前項に挙げたデータ保存における課題についても、光ディスクが課題解決できる可能性を持っている。 ## 3.1 長期保存性 光ディスクは長期保存性に優れたメディアである。業務用 Blu-ray デイスクは 50 年以上の保存寿命、業務用次世代光ディスク ${ }^{[1]}$ では 100 年以上の保存寿命があり、高い保存信頼性があると評価されている ${ }^{[2]}$ ## 3.2 低消費電力 光ディスクはハードディスクのように記録メディアを常時通電することなく、無通電で保管することができる。また、温湿度変化に強い特性によって、保管環境構築においても空調コストを下げるなど、低消費電力化に貢献できる。この特長は運用コスト削減だけでなく、 $\mathrm{CO}_{2}$ 排出の抑制にも貢献すると考えられる。 ## 3.3 メディア堅牢性 温度湿度環境に対しては-10~ $55^{\circ} \mathrm{C}$ 、湿度 3 90\% の耐性を有する。データはレーザでカバー層を介して非接触に読み出すため、倉庫に長期保管した際に付着する塵・埃や、環境変化による結露などの影響を受けにくい。したがって、接触してデータを読み出すメディアと比較し安全性が高いといえる。また、災害にも強い特性があり、2005 年 8 月に米国で発生した八リケーンカトリーナにおいては、ある医療機関では水没した記憶媒体の中で光デイスクだけがデー夕読み出し可能だったという事例が報告されている。 ## 3.4 メディアマイグレーションが不要 1982 年に発売を開始した Compact Disc (CD) ${ }^{\mathrm{TM}}$ は、現在も Blu-ray ${ }^{\mathrm{TM}}$ 規格の光学ドライブ装置でデータを読み出すことができる。光ディスク技術は後方互換が実現されており、メディアマイグレーション頻度を大幅に削減することができる。この特徴は低コスト・低 TCO でのデータ管理を実現する。図 1 に示す通り、一般的にデータテープは $7 \sim 10$ 年程度、HDDでは 3 ~ 5 年程度でのメデイアマイグレーションが必要となるが、移行コストやリソース確保・管理コストが課題となり、メディア選択においては将来のコストも検討する必要がある。 図1メディアマイグレーション比較 ${ }^{[3]}$ ## 3.5 ランダムアクセス性能 近年、高速データ処理が要求されるデー夕は、HDD に加元、大容量化、低価格化が進んでいるフラッシュストレージに保存されるようになってきている。しかしながら、長期保存が要求されるデータは長期保存性に優れるデータテープや光ディスクが保存されている。光ディスクはレーザを用い非接触でデータを読み出すため、データテープに比べるとランダムアクセス性に優れる。特に転送開始までのアクセス速度にメリットがあり、実運用の中では使い勝手の点で、二次利用の即時性向上と待ち時間に対するストレス軽減が期待される。 ## 4. 光ディスクの課題 一方で光ディスクにも課題がある。すでにデータ保存で利用されるデータテープは大容量で低価格なストレージメディアとして利用されている。このデータテープとの記憶容量の比較では、テープメディアが 1 巻 $2.5 \mathrm{~TB}$ (LTO6)に対し、Blu-ray 4 層メディアは 1 枚 128 GB と小容量であり、1メディアあたりの容量単価は高い。また、1メディア単位の大容量化は保存スペース効率を高めることができる一方で、光ディスクは保存枚数増加による管理件数の増加が懸念される。データ転送速度については、データテープは複数のヘッドで同時に読み書きを行い、シーケンシャルな高速転送が可能であるが、従来の光ディスクは一つのレーザでデータを読み書きする為、デー夕転送の高速化が課題となっている。光ディスクはアクセス性のメリットがあるものの、大容量データの保存時には完了までに時間を要する。 ## 5. 光ディスクの新技術 前述の課題を克服する為、光デイスクの新技術が開発されている。その 1 つがソニーとパナソニックが共同開発を行う、業務用次世代光ディスク「Archival Disc」、そして、各システムで高速化を実現する「ドライブ技術」である。Archival Disc はソニー Optical Disc Archive やパナソニック光ディスクアーカイブストレージシステムなど、幅広い分野にむけて商品が発 売されている。本内容ではソニーの Optical Disc Archive を参考に説明する。 ## 5.1 Archival Discについてて[2] ソニー株式会社とパナソニック株式会社は 2013 年 7 月に共同開発について基本合意し、2014年 3 月、業務用次世代光ディスク規格として「Archival Disc(アー カイバル・デイスク)」を策定した。この Archival Disc はデジタルデータの長期保存を目的とし、光ディスクの特長を生かしながら、大容量化、高速化、そして、長期保存を実現するための堅牢性を有する業務用光ディスクである。従来の片面ディスクから、3 層積層構造の両面化を実現し、両面を同時記録再生することが可能である。また、記録材料を保護膜で挟んだシンプルな 3 層積層構造となっている。(図 2)記録にはランド\&グルーブ記録方式を採用、狭トラックピッチを実現することでディスクの記録密度を向上し、課題とされていた大容量化を実現した。2015 年に Archival Disc 第 1 世代の開発を完了し、2016 年より Archival Disc の製造が開始されている。また、レーザ仕様は Blu-ray Disc 同様の青紫色レーザが仕様となっており、後方互換性の維持が容易なフォーマットである。(図 3 および図 4) Archival Disc 図2 Archival Disc ロードマップ 図3 ランド\&グルーブ記録方式[3] 図4 Archival Disc主な仕様 ${ }^{[3]}$ ## 5.2 ドライブ高速化技術について Archival Disc の開発にあわせ、ソニーは同時に8チャンネルのレーザでデータを読み書きする光学ドライブを開発した。(図 5)従来 1 レーザで記録再生が行われるが、同時に8つのレーザで読み書きすることで、最大 $250 \mathrm{MB} / \mathrm{s}$ の高速転送を実現する。この高速化により、 $4 \mathrm{~K} 、 8 \mathrm{~K}$ など超高解像度映像、RAW 画像の保存、大容量化するデータなどのデー夕転送に高い効果を発揮する。また、光デイスクのランダムアクセス性が相乗効果を生み、長期保存向けのアーカイブメディアながら、二次利用の高速化を実現する。その他の高速化技術として、光ディスクを複数の光学ドライブで並列処理を行う技術などが開発されており、データ転送の高速化に向けた光ディスクの技術開発が様々な方法で検討されている。 図5 新開発ドライブ構造 ## 6. Optical Disc Archive ソニーは、上記光デイスクのメリットや新技術を生かし、Optical Disc Archive(オプティカルディスク・ アーカイブ)として商品を提供する(図 6)。Optical Disc Archive は、保有デー夕を長期的に、低価格で、安全に保存することを目的に開発された。複数枚のディスクが 1 カートリッジに緥められており、1ボリュームで最大 $3.3 \mathrm{~TB}$ の記憶容量で運用可能な光ディスクストレージである。ドライブ高速化技術で紹介した8チャンネルレーザを搭載した光学ドライブを開発し、HDDストレージにも迫る高速転送を実現した。 カートリッジメディアは無通電で管理できることから、PetaSite 拡張型ライブラリーシステム(オートロー ダ装置)を利用し、最大 1.7 PB のオンラインストレー ジをわずか $700 \mathrm{~W}$ 程度(管理サーバー含む)の圧倒的低消費電力で管理することが可能となる。また光 図6 Optical Disc Archive ドライブ ディスクの保存特性を生かしたオフライン棚管理にも適する。映像メディアとしての利用を皮切りに、静止画像、音声デー夕、研究・開発デー夕や医療情報の保存など、幅広いシーンで利用されている。 ## 7. おわりに 光ディスクは 1982 年の CD 発売以来、DVD、Blurayなど、民生用途から業務用途まで利用され続けている。新技術の Archival Disc やドライブ高速化技術は、光ディスクの可能性を拡げ、デジタルデータ保存の課題とされる「大容量化」「長期保存」「低コスト化」「環境問題」を解決する手段の 1 つとして、大きく貢献できるものと考える。 (註・参考文献) [1] ソニー、パナソニック:White Paper「Archival Disc Technology」 (2015) <http://www.sony.jp/oda/about/J_White_Paper_Archival_ Disc_Technology_Ver100_20150702.pdf(2017年6月27日現在) [2]この保存寿命はISO16963に準拠し、アレニウスの式を用いた弊社での加速試験結果による推定 [3] ソニーHP : <http://www.sony.jp/oda/> および<http://prosony. $\mathrm{com} / \mathrm{bbsc} / \mathrm{ssr} / \mathrm{cat}$-datastorage/cat-opticaldiscarchive/resource.latest. bbsccms-assets-cat-datastorage-solutions-odaarchiving.shtml>(2017年 6月27日現在)
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# [A32] デジタルアーカイブに関する評価方法の検討:「インパクト評価」に着目して 西川開 1) 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科 ${ }^{1)}$ , 305-8577 茨城県つくば市天王台 1-1-1 E-mail: [email protected] ## Consideration for how to evaluate "digital archives": Focusing on "impact assessment" NISHIKAWA Kai1) Graduate School of Library, Information and Media Studies, University of Tsukuba1), 1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki 305-8577 ## 【発表概要】 公的助成金の減額や財政基盤の脆弱性を背景として、図書館・博物館・美術館・文書館などの文化機関におけるデジタルアーカイブ関連事業の持続可能性が問題となっている。そこで当該事業の価值を適切に把握し、その課題点を明らかにし、その成果を社会にアピールするための評価方法として、「インパクト評価」と呼ばれる一連の方法論が注目を集めている。 一方でインパクト評価は困難かつ複雑な領域であるとも言われ、英国を始めとする先進的な地域においても理論・実践ともに発展の途上にあり、国内においてはほとんど受容されていないというのが現状であろう。そこで本発表では「デジタルアーカイブ」を念頭に「インパクト評価」 と国内外におけるその諸動向を概観し、国内のデジタルアーカイブ関連事業の評価方法としてインパクト評価を導入する場合の諸課題について整理・検討を行い、今後の議論の素地を提供することを目的とする。 ## 1. はじめに 公的助成金の減額や財政基盤の脆弱性を背景として、図書館・博物館・美術館・文書館などの文化機関におけるデジタルアーカイブ関連事業の持続可能性が問題となっている。そこで当該事業の価値を適切に把握し、その課題点を明らかにし、その成果を社会にアピールするための評価方法として、「インパクト評価」と呼ばれる一連の方法論が注目を集めている。 一方でインパクト評価は困難かつ複雑な領域であるとも言われ、英国を始めとする先進的な地域においても理論・実践ともに発展の途上にあり、国内においてはほとんど受容されていないというのが現状であろう。そこで本発表では 「デジタルアーカイブ」を念頭に「インパクト評価」と国内外におけるその諸動向を概観し、国内のデジタルアーカイブ関連事業の評価方法としてインパクト評価を導入する場合の諸課題について整理・検討を行い、今後の議論の素地を提供することを目的とする。 ## 2. インパクト評価とは ## 2.1 概要と展開 International Association of Impact Assessment によると「インパクト評価 (Impact Assessment)」は「現行ないし予定されているアクションの将来的な結果を特定するプロセス」であり、評価の対象となる 「インパクト」は「当該アクションに付随して起こることと当該アクションなしで起こることとの違い」として簡単に定義される[1]。 以上の定義は包括的なものであるが、「インパクト評価」は様々な領域において実施・研究されている評価方法であるため、実際には多くの定義・具体的な手法が存在する。 インパクト評価の起源は 1969 年に米国で策定された国家環境政策法(National Environmental Policy Act: NEPA)であり、元は環境分野において発達した評価の方法論である。その後、公衆衛生や社会福祉事業などの分野に波及し発展してきた。文化を対象とするインパクト評価 (Cultural Impact Assessment: CIA) は 2002 年以降に提唱・実施されるようになる。しかし CIA はインパクト評価の諸領域の中では未だ確立の途上にあるとされ、社会的インパクト評価 (Social Impact Assessment: SIA)や環境インパクト評価の下位領域として捉えられることもある $[2]$ ## 2.2 インパクト評価の意義 インパクト評価は多様な領域において実施されるが、その導入目的・意義にはある程度の共通要素を見出すこともできる。大別すると、(1)説明責任の履行、(2)当該事業プロセスの改善、(3)当該事業のアピール(資金調達の促進)である。 また、上記目的を果たすため、データ収集 - 分析の両段階において定性 - 定量両手法の併用ないし統合が志向されることが多いことも共通点として挙げられよう。 ## 2.3 フレームワーク インパクト評価においては評価をどの様な考え方・手順で行うかを定めるために「フレ一ムワーク」を設定することがある。フレー ムワークとは、恣意的な評価となることを避けて有効性のある評価結果を得るために評価の実施前に各概念を整理しそれをステークホルダー間で共有できるようまとめたものを指す[3]。インパクト評価ではまずフレームワー クを策定し、それに準拠しつつ具体的な指標の設定やデータ収集・分析を実施するという段階を踏むこともある。 ## 3. インパクト評価の動向 ## 3. 1 CIA の動向 当初 CIA は土着のコミュニティーに対する開発事業のインパクトを把握することを主目的として提唱された。ほかに CIA の主要な対象としては文化遺産が挙げられる。文化機関を対象とするものとしては、2006 年ごろより図書館を対象とするインパクト評価の標準化が進められ、2014 年には ISO 16439: 2014 (図書館インパクト評価のための手順と方法)として制定されているほか、博物館分野においてもインパクト評価導入の意義が論じられている[4]。 ## 3.2 「デジタル」に関する動向 一方で、デジタル化された文化情報資源を対象とするインパクト評価の先行事例は極めて少ない。具体的な方法論にまで言及したものとしては、オンラインにおける「成功」の測定方法を提起した事例[5]や、Tanner (2012) が開発した、文化機関やその助成団体を利用者として想定し、文化資源のデジタル化事業およびデジタル化された資源の持つ価值(インパクト)を評価するための汎用的な概念モデル Balanced Value Impact Model (以下 BVIM)が挙げられる[6]。 BVIM では評価全体のフローを提案しているほか、データ収集・分析のための具体的な手法もリスト化している。「デジタル」への対応を念頭に置いた BVIM の特徴は、デジタル化文化資源を「エコシステム」(当該資源とそのステークホルダー、関連技術、法的事項などの各変数とそれらの関係を総称する概念) の内にあるものと捉え、当該エコシステムの分析を重視している点にあると言える。 ## 3. 3 国内の動向 日本では内閣府のもと社会的インパクト評価検討ワーキング・グループが発足し、『社会的インパクト評価の推進に向けて:社会的課題解決に向けた社会的インパクト評価の基本的概念と今後の対応策について』において、社会的インパクト評価普及のための制度整備を進めていくことが示されている[7]。 ## 4. Europeana Impact Playbook ## 4. 1 概要 Europeana Impact Playbook(以下プレイブック)は BVIM を基にして Europeana により開発・公開されたインパクト評価のための手引書である[8]。プレイブックは Europeana のみならず欧州各域の個々の文化機関が独自に利用することも想定されており、実務レベルにおける具体的な評価実施手順が詳細に解説されている。 プレイブックでは評価の手順を 1 .「デザイ (Design)」、2.「查定 (Assess)」、3.「物語 (Narrate)」、4.「価值評価(Evaluate)」 の 4 段階に大別しており、各段階に対応する形でプレイブックも 4 部構成である。2017 年 12 月時点では「デザイン」に相当する第一部 のみが公開されている。 「デザイン」は前述の「フレームワーク」 の導入段階であり、各組織において実務レべルでフレームワークを構築するための手順を 6 ステップで示している。各ステップの解説は極めて具体的かつ詳細なものであるが、同時にすべての指示に従う必要はなくあくまで各組織においてインパクト評価を導入する際の参考資料として利用する旨が強調されている。 ## 4.2 フレームワークの重要概念 「デザイン」の根幹を成す概念は(1)変化の経路(The Change Pathway)」(2)「戦略的視点 (The Strategic Perspective)」(3)「バリュ ー・レンズ (The Value Lenses)」である。 「変化の経路」は、当該活動がその最終目標に到達するまでの論理的な経路を検討するためのツールであり、評価学における「ロジックモデル」を応用したものである。「変化の経路」のもと、プレイブックにおいて「インパクト」は「(当該組織が責任を負う)活動の結果としてステークホルダーや社会に生じる変化」と定義される。この定義はアウトプットや短期・長期のアウトカムをも包含するものである。 「戦略的視点」は当該活動のインパクトが何であるかを考えるためのツールであり、「社会的インパクト」「経済的インパクト」「イノベーションインパクト」「業務的インパクト」 の 4 点から当該デジタルアーカイブを評価することを提案している。ただしどの視点を採用するかは任意である。 「バリュー・レンズ」は、特定の「戦略的視点」の下、さらに価値を具体化して考えるためのツールであり、「有用性レンズ」「存在レンズ」「遺産レンズ」「学習レンズ」「コミュニティーレンズ」の 5 種類が設定されている。一つの「戦略的視点」のもと異なるレンズを使い分けることでより効率的にデータを収集・解釈する助けとなるという。 ## 4. 3 「共通言語」として プレイブックは、多様な価値を様々な組織が各々の見方で評価し、かつその評価結果を他者と共有できる様にするための「共通言語」であるという。これは英国で推進される "Shared Measurement"に相当する発想であ ると考えられる。 Shared Measurement とは「複数の組織や一定のセクター内で測定手法や指標を共有することで、組織間の連携を深め、課題認識の深化、解決手法の発展、コストの聥減等を図り、セクター全体としての課題解決能力の向上を図ろうとする考え方」[7]である。 メリットとしては、評価方法が洗練化されること、評価方法の共有(実質的な標準化) により評価結果が比較可能となること、コストやスキル等の問題で独力ではインパクト評価を実施することができない個々の組織においても評価が可能となること、等が挙げられる[9]。 ## 5.「インパクト評価」導入に関する検討 5. 1 「インパクト評価」の批判$\cdot$弱点 インパクト評価の批判・弱点として、実施 が高コストであること、先行事例が少なくあ っても低品質のものが多いこと、諸領域間で 実施されるインパクト評価の定義・方法論等 の関係性が不明瞭であること、手法の過度な 専門化と分野横断的な実践の欠如等が指摘さ れている[10][11]。 ## 5.2 理論的課題 インパクト評価全般に関する理論的・学術的課題として、(1) 評価の「有効性 (effectiveness)」に関する理論構築、(2)分化・複雑化した方法論の統合・単純化、が必要である[10]。 「デジタルアーカイブ」もその対象として含みうる文化的インパクト評価(CIA)の研究は端緒についたばかりであり、(1)近接領域も対象として含むレビュー、(2)評価実施結果に関する知見のレビュー、が当面の課題であるとされる[2]。 ## 5. 3 導入に際しての実践的課題 日本国内における SIA の普及に向けた課題点として、(1)意義や必要性に対する理解の不足、(2)手法に対する理解の不足、(3)手段(ツ一ル)の不足、(4)基礎的な情報の未整備、資料の不足、(5)評価人材の不足、(6)評価コストの負担や支援の在り方、が挙げられており、上記のための対応として学会の発足やSIA の諸用語・基本文献の邦訳、評価ツールの作成、 上述の Shared Measurement の推進等が示されている[7]。 以上は SIA に関する議論であるが、国内のデジタルアーカイブ関連事業ひいては文化機関の評価としてインパクト評価 (CIA) を検討する際にも、CIA と SIA は近接領域である点[2]、インパクト評価全体の統合・整理の重要性が指摘されている点[11]等から鑑みるに、参考となる要素は多いと考えられる。 ## 6. おわりに 欧州の文化機関においては、デジタルアー カイブ関連事業はその有効性にも関わらず財政基盤が脆弱であることが指摘され、当該事業の持続可能性に資する手段として CIA が注目されている。日本においてもデジタルアー カイブの推進を本格化させるためには評価方法が重要な課題となるであろう。 本発表では「デジタルアーカイブ」を念頭に「インパクト評価」の中でも CIA と呼ばれる領域の諸動向の概説を試みた。わずかにその輪郭をなぞったにすぎないが、今後本学会で評価方法に関する議論を重ねていく切っ掛けとなれば幸いである。 ## 参考文献 [1] International Association of Impact As sessment (IAIA). What Is Impact Assess ment? Ghana Conference Proceedings. 20 09, p. 1-4. http://www.iaia.org/uploads/pdf/ What_is_IA_web.pdf,(閲覧 2018/01/02). [2] Partal, Adriana, Dunphy, Kim. Cultur al impact assessment: a systematic literat ure review of current methods and practi ce around the world. Impact Assessment and Project Appraisal. 2016, vol. 34, no. 1, p. 1-13. http://cercles.diba.cat/document sdigitals/pdf/E160056.pdf,(閲覧 2018/01/0 2). [3] 小関隆志, 馬場英朗、インパクト評価の概念的整理と SROI の意義. ノンプロフィッ ト・レビュー. 2016 , vol. 16 , no. 1, p. 5- 1 4. http://kuir.jm.kansai-u.ac.jp/dspace/bitstr eam/10112/10306/2/KU-1100-20160600-00.p df,(閲覧 2018/01/02). [4] Sara Selwood Associates. Making a di fference: the cultural impact of museums, 2010. [5] Finnis, Jane. et al. Let's Get Real: Ho w to Evaluate Online Success? 2011, p. 1 -40 . [6] Tanner, Simon. Measuring the impact of digital resources: the balanced value i mpact model. 2012, p. 3. https://www.kdl. kcl.ac.uk/fileadmin/documents/pubs/Balance dValueImpactModel_SimonTanner_October 2012.pdf,(閲覧 2018/01/02). [7] 社会的インパクト評価検討ワーキング・ グループ. 社会的インパクト評価の推進に向けて:社会的課題解決に向けた社会的インパクト評価の基本的概念と今後の対応策について. 2016, 1-42p. https://www.npo-homepag e.go.jp/uploads/social-impact-hyouka-houko ku.pdf,(閲覧 2018/01/02). [8] Verwayen, Harry. et al. Impact Playbo ok: for museums, libraries, archives and galleries. 2017. [9] Inspiring Impact. The future of share $\mathrm{d}$ measurement: A guide to assessing indi vidual sector readiness. 2014. [10] Pope, Jenny. et al. Advancing the th eory and practice of impact assessment: Setting the research agenda. Environment al Impact Assessment Review. 2013, vol. 41, p. 1-9. http://dx.doi.org/10.1016/j.eiar. 2 013.01.008,(閲覧 2018/01/02). [11] Morrison-Saunders, Angus. et al. Str engthening impact assessment: a call for integration and focus. Impact Assessment and Project Appraisal. 2014, vol. 32, no. 1, p. 2-8. https://search.proquest.com/docv iew/1501609733? accountid=25225,(閲覧 20 18/01/02). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 人材養成部会「ウィキペディアタ ウンin岐阜」実施報告 ## 【概要】 主催:岐阜女子大学、デジタルアーカイブ学会人材育成部会、日本教育情報学会デジタルアーカイブ研究会、協力岐阜市立図書館 日時:2017年11月23日(木・祝日)9:15 16:00 会場:岐阜女子大学文化情報研究センター 講師:青木和人氏(あおきGIS・オープンデータ研究所・オープンデータ京都実践会)、Miya.m氏 2017 年 11 月 23 日、岐阜県ではじめての「ウィキペディアタウン」を、デジタルアーカイブ学会人材養成部会事業の一環として、岐阜女子大学文化情報研究センターにおいて行った。オープンデータ京都実践会の青木和人氏とウィキペディアンの Miya.m 氏を講師に迎え、地域文化資源のデジタルアーカイブ化による発信を体験することを目的に実施した。参加者は 14 名であった。 午前中は、講師によるウイキペディアの概要説明の後、フィードワークと撮影を行った。午後は、執筆項目「弥八地蔵」と「岐阜女子大学デジタルミュー ジアム」を担当する 2 グループに分かれ、それぞれ執筆分担を決め、講師の指導をあおぎながらウイキペディアの記事を作成した。記事執筆に欠かせない参考文献の準備には岐阜市立図書館に全面的にご協力いただいた。 ほとんどの参加者がウイキペディアの記事執筆がはじめてであったのにもかかわらず、充実した内容の新規 2 項目を完成させた。コンテンツを作るだけでなく、 その場でウィキペディアタウンにアップする体験 ワークショップを通じて、地域文化資源発信の在り方を学ぶことができた。 石原眞理(岐阜女子大学)
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# 第3回定例研究会を津聴して ## 【研究会概要】 日時:2017年9月16日(土)午後2時 $\sim 5$ 時 場所:東京大学工学部2号館9階93B ## 【テーマ1】デジタルアーカイブに関わる肖像権を60 分で学ぶ ## 講師:福井健策氏(骨董通り法律事務所) デジタル化社会の進歩に比べ法制度の整備が遅れていることが叫ばれて久しい。知的資産を一過性のもので終わらせず確実に蓄積し、そして人類発展のために流通・活用していかなければならないにも関わらず、権利処理の煩雑さとその作業負荷、そしてリスク回避ゆえに断念することが多い。社会の営みを円滑にしていくための法律が逆に足かせとなってしまっている。 そんな中、福井健策氏は法制度の改善に向け果敢に活動されている。本定例研究会においても利活用を促進するためのガイドラインが明確に提示された。主な点は以下のとおりである。作品の利用類型を 1 . 複製、 2. 上演・演奏・上映、3. 放送・有線放送、4. ネット配信、 5. 現物展示、6. 貸与 (レンタル) に分け、著作権と著作隣接権、肖像権についての禁止権が整理された。肖像権の判断要素について 4 点 (被写体の地位、撮影の活動内容、場所、態様、目的)に分けて整理された。 また、利用の可否判断について 6つの QA 方式で明示された。今後の法制度整備に向けた更なる取組みに注目している。【テーマ2】アニメーションアーカイブのサバイブ方法講師:山川道子氏(株)プロダクション・アイジー) 営利を目的とした制作会社ゆえに、無駄のない研ぎ澄まされたアーカイブ・エコシステムを紹介いただいた。大半の制作会社は制作過程で発生する大量の中間制作物を作品完成後、幾年か経過すると廃棄してしまっている。ところが、山川道子氏が所属する株式会社プロダクション・アイジーでは選別・メタデータ・保管分量・保管場所・保管メディア・廃棄・配分コス卜などで様々な基準を設定し的確にアーカイブすることにより、新たな収益を生む宝物に仕立て上げている。「アーカイブグループ」という組織が専属化され攻めの経営が展開されている。 まさに必要は発明の母である。というか、必要かそうでないかの目利きがすばらしい。アンテナを常に磨き世の中の動きを敏感にキャッチすることを意識されており、そのためには監督はじめ現場スタッフや他部署とのコミュニケーションを重視しているとのことだった。アニメーション分野以外でもアーカイブを的確に活用し収益の拡大につなげていける企業がもっと増えていくべきである。勤勉、繊細、匠の技、組織力といった日本の特性を蓄積し途切れることなく次世代につなげていけるアーカイブ基盤の必要性を改めて感じながら拝聴した。 前沢克俊 (東京大学大学院情報学環)
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# 第1回定例研究会参加報告 ## 【研究会概要】 日時:2017年7月1日(土)午後2時~4時 場所:東京大学本郷キャンパス山上会館201・202会議室 【テーマ1】デジタルアーカイブと法制度 報告:生貝直人氏(東京大学客員准教授) 生貝氏からは著作権を中心に最近おこなわれた法制度的な改正と、デジタルアーカイブ推進に向けた政府の動向について解説があった。 まず著作権については 31 条による複製の解釈が広がったこと、国立国会図書館での複製や送信が可能となったことなど、デジタルアーカイブをおこなう上での可能性が広がったことが指摘され、また現在「柔軟な権利制限規定」の検討がおこなわれていることが紹介された。生貝氏の論点としては絶版作品の利用促進のための著作権法の改正や解釈が今後必要であるとのことであった。 政府における動きとしては、知的財産戦略本部で 2015 年 9 月に「デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁連絡会・実務者協議会」が設置され、その報告書「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」 と「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」が 2017 年 4 月に公表されたことが重要である。前者により、いわゆる「ナショナル・デジダルアーカイブ」の構想が明らかにされた。またガイドラインでは、公共の資金で製作されたデジタルアーカイブ・コンテンツとそのメタデータについて、オープン化の方向を提唱したことが重要である。なおこれらについてはこの「学会誌」の創刊号に詳細が記述されている ${ }^{[1]}$ 。 ## 【テーマ2】 脚本アーカイブズにおけるデジタル化報告:石橋映里氏(日本脚本アーカイブズ推進コン ソーシアム事務局代表) 脚本デジタルアーカイブズは 2003 年に脚本家市川森一氏が「放送台本の資料館を設立してほしい」と提言 したことをきっかけに、2005 年に文化庁の人材育成助成事業に採択され、「日本脚本アーカイブズ準備室」が出来て調査と収集を開始した。調査では、テレビ放送開始から 2005 年までに作られた脚本は 250 万冊を超えると推定され、これらすべての収集は不可能なので、ビデオが存在しなかった、あるいはビデオテープが上書き使用されていた 1980 年以前のものを優先収集することとした。収集した台本には、スタッフたちのカキコミがあるが、これも当時の様子を知る貴重な資料である。なお「準備室」は 2012 年に一般社団法人「日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム」に発展している。 2010 年に文化庁と国立国会図書館の「我が国の貴重な資料の次世代への確実な継承に関する協定」により、収集した脚本を国立国会図書館での保存する検討が開始され、最終的に約 5 万点の脚本が国立国会図書館 (1980 年以前のもの 27,000 冊 ) と川崎市市民ミュージアムとその他の館 (1981 年以降のもの約 53,000 冊) に移管された。所在調査によれば、まだ諸機関や個人が所有している脚本数は 180,000 冊とみられ、そのうち 35,000 冊は収集したが、まだ相当数残っている。 収集したものの利用を図るため、「脚本データベース」 を国立情報学研究所高野明彦教授の協力で構築した。 これについては高野教授が直接デモをされた。 写真は左から高野氏、石橋氏、生貝氏 [1] 生貝直人. デジタルアーカイブに関連する法政策の状況と今後の論点. デジタルアーカイブ学会誌. 2017, 1(1), 32-34. 時実象一 (東京大学大学院情報学環)
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# [A31] オープンサイエンス政策と研究データ同盟 (RDA) が進める研究データ共有と、デジタルアーカイブの接点に関 する一考察: 新しい研究パラダイムの構築に向けて ○林 和弘 文部科学省科学技術・学術政策研究所,〒100-0013 東京都千代田区霞が関 3-2-2 中央合同庁舎 第 7 号館東館 $16 \mathrm{~F$ E-mail: [email protected] ## A Consideration of Points in Common between Digital Archive and Research Data Sharing Enhanced by Open Science Policy and RDA: Towards New Research Paradigm \\ HAYASHI Kazuhiro National Institute of Science and Technology Policy, 3-2-2, Kasumigaseki, Chiyoda, Tokyo Japan 100-0013 ## 【発表概要】 デジタルアーカイブの目的には ICT を活用して文化財等を保存することだけでなく、その利活用を促進することが含まれており、人文社会学系研究において、これまでになかった新しい研究スタイルと社会への波及効果を生み出し始めている。 一方、オープンサイエンス政策は、科学技術系を中心に論文のオープンアクセス化から始まったが、現在では、研究データを中心とした幅広い研究成果をできる限り広く共有しイノベーションを加速する政策に拡張し、文理を問わない新しい研究パラダイムの構築を前提とした、研究活動の変容を志向している。 今回世界のオープンサイエンス政策の現状とその実践の一つとして世界をリードする研究デー 夕同盟(RDA)が取り組むデータ共有活動を紹介し、文化財を中心としたデジタルアーカイブに関する活動の接点を考察しながら、オープンサイエンス時代の科学技術・学術研究のスタイルを展望し、変容のキーとなる相互通用性のあるデータフォーマットの重要性を述べる。 ## 1. はじめに デジタルアーカイブの定義は、図書館情報学用語辞典によると、「有形・無形の文化財をデジタル情報として記録し, 劣化なく永久保存するとともに,ネットワークなどを用いて提供すること。最初からデジタル情報として生産された文化財も対象となる。となっている。ICT (Information and Communication Technology)を活用することで、文化財の保存(アーカイブ)に加えてその利用も効率化されることとなった。そして、その利活用は、 みんなで翻刻 1)や、江戸料理レシピ 2)など、新しい人文社会学の研究スタイルを生み出しており、社会への波及効果をも生み出してい る。 一方、世界の科学技術・学術政策 (Science Policy)は、オープンサイエンスのキーワー ドのもと、様々な取組が始まっているが、その根底にある考え方は、これまでの電子ジャ一ナル、論文、被引用数で構成されるものとは根本的に異なる、ICT を活用したデジタルネイティブな研究活動を志向しており、さらに連動する産業を生み出すことも念頭に置いている。本稿は、国立国会図書館で行われた研究データとデジタルアーカイブの交流を目指したイベントにおける著者の報告 3)をもとに、デジタルアーカイブとオープンサイエンスの接点について考察するものである。 2. オープンサイエンス政策と研究データ連盟 (RDA) の取組 ## 2. 1 新しい研究パラダイムを志向するオ一 プンサイエンス政策 世界のオープンサイエンス政策 4)は 2013 年の G8 ロンドン・サミットでオープンデータの議論が始まったことを端緒に始まった。 2016 年のつくば(日本)で開かれた科学技術大臣会合で初めてオープンサイエンスが議題に挙がり、オープンサイエンスの作業部会が設置された。その結果は 2017 年のトリノ (イタリア)にて報告され、作業部会は引き続き継続することとなった。そのトリノ会合での報告書(コミュニケ)においては、オー プンサイエンスは、新しい研究パラダイムへの変容を志向していることが述べられている。 また、欧州連合(EC)を中心にトップダウンの政策と、研究データ基盤整備など、その実装が検討されている。 ## 2.2 オープンサイエンスの実践と試行錯誤の場である RDA RDA (Research Data Alliance : 研究デー 夕同盟)5は、先に述べた 2013 年にロンドンで開かれた G8 科学技術大臣会合の共同声明を受ける形で 2013 年 3 月に「障壁なき研究データ共有」をスローガンとして結成され、 オープンサイエンス政策の実践の先頭に立つ組織である。設立メンバーは EC (欧州委員会)、NSF(米国国立科学財団)、NIST(米国国立標準技術研究所)、ANDS(オーストラリア国立データサービス)、オーストラリアイノベーション省である。当初は欧米とオーストラリアでの活動が中心であったが、2016 年 3 月にアジアとしては初めてである日本(東京) で第 7 回総会が開かれた。 RDA の特徴は、研究者を中心とした科学の発展のための具体的な事例に基づくデータ利活用の議論に加えて、データ出版、データ引用と研究評価、データの質の保証の仕方や、 データの相互運用性を法律的にどう担保していくかなど、研究データ基盤の運用や研究者のキャリアパス形成を含めて、研究活動全体 (エコシステム)の改善や研究評価を含む研究者社会の発展に関する議論も数多く行われていることである。この目的のため、研究者に加えて出版者や図書館、研究助成団体など多様なステークホルダーが参画し、実地べー ス、運用ベースで議論と実践を進めている。実践をより重視しているため、セッションは興味を持った人が集まる BoF(Bird of Feather)に始まり、IG(Interest Group)、 WG(Working Group)の都合三段階の成熟過程を経る構造となっている。そして、WG になったセッションは一定期間(18 ヶ月)内に提言を出すことが義務づけられている。 RDA の活動は、多様なステークホルダーが自発的に集まり、研究データの共有に関する個々の問題を解決する、あるいは、新しい研究パラダイムに移行するために必要な課題そのものを見出すためのボトムアップ組織であると言える。 ## 2. 3 FAIR データ科学を目指すオープンサ イエンス政策と RDA トップダウンのオープンサイエンス政策とボトムアップによる RDA の活動が当面目指しているのは、研究データとその基盤(プラットフォーム) を念頭においた新しい研究活動の開発と、そのプラットフォームが報酬 (研究費)、昇進、名誉と連動する新しい研究文化づくりである。それは、現在の学術ジャ ーナルが論文という形態とともに 17 世紀から 350 年ほどかけて培ってきた研究文化を再構成するものである。研究データと一ロに言っても様々な議論がある中、現在は FAIR 原則(Findable:見つけやすい, Accessible: アクセスし易い, Interoperable:相互通用性がある, Reusable:再利用可能である)に従った研究データを中心とした研究活動基盤の構築を目指しており、FAIR データ科学とも言える枠組みを模索している。そして、どのように信頼のあるデータ流通サービスを実現できるかが日々検討されており、例えば、データリポジトリの認証なども始まっている。 ## 3. オープンサイエンスとデジタルアーカイ ブの違いと接点 3. 1 フローを意識する研究データとストックを意識するデジタルアーカイブ RDA とデジタルアーカイブの活動はそれぞれ独立しているように見えるが、その理由の一つとしてデジタル化の対象の違いが挙げられる。デジタルアーカイブは、冒頭述べた定義の通り主に文化財のデジタル化に主眼を置いたものであり、元々文化財として時に 1000 年を越えて蓄積(ストック)された情報を扱っている。一方、RDA が主な対象としているのは、研究者が日々の活動で扱うデータ(フロー)であり、保存の議論も数年から数十年レベルであることが多い。 また、研究成果発信媒体の違いもある。理工医学系が学術ジャーナルの論文を中心とすることに対して、人文社会学系はモノグラフに重きを置く分野も多い。この成果発信スタイルを支えて来たのが紙に情報を印刷する仕組みと、それを郵送する手段である ## 3. 2 相互通用性のあるデータフォーマット の重要性 前項で述べた、ストックとフローの違いや成果発信メディアの違いを認識しながらも、 ひとたびデジタル化された情報を扱い、何らかの研究成果をもって研究者が日々進歩している ICT を活用してコミュニケーションを取り始めるとしたときを想定する。 そもそも、学術ジャーナルの論文やモノグラフ自身も研究成果としての研究データの一フォーマットとすれば、現在もっとも相互通用性の高いフォーマットと言える。従って ICT を活用した研究データの流通に従った新しいフォーマットが開発され、時間をかけて研究者コミュニティに受け入れられることは想像に難くない。 データフォーマットがすでに研究データの流通と共有の文化作りに役立っている例もある。理工系では結晶学の X 線構造解析データフォーマットである CIF (Crystallographic Information File)がある。CIF は国際結晶学連盟(International Union of Crystallography: IUCr)にて 1990 年代に開発されたものであり、結晶構造データに加えて実験・計算条件なども含めることができる。 さらに、新たな記載事項が生じた際も簡単に追加出来る柔軟性・拡張性が高いデータフォ一マットである 6)。この CIF ファイルは結晶学に限らず周辺の領域にある分野の論文においても標準として使われ、ケンブリッジ結晶学センターには、多くの CIF ファイルが蓄積されている。 また、デジタルアーカイブにおいても、画像へのアクセスを標準化し相互運用性を確保するための国際的なコミュニティ活動である IIIF (International Image Interoperability Framework)7)を用いた研究活動に注目が集まっており、CIF ファイルと同様に、画像情報だけでなく、研究活動に役立つ情報も取り込まれようとしている。 ## 4. オープンサイエンス時代の新しい研究 パラダイムに向けて デジタル大辞泉によると「文化財」の定義は以下とされている。 1 文化活動の結果として生み出されたもので、文化的価値を有するもの。 2 文化財保護法で、保護の対象とされるもの。有形文化財 - 無形文化財 - 民俗文化財記念物・文化的景観 - 伝統的建造物群の 6 種がある。 科学技術においても、例えば、鈴木梅太郎自身が作成したオリザニン(ビタミン B1)の標本を保存することを契機に始まった化学遺産 8)のように、科学技術で生み出された成果も広い意味で文化財として捉えるならば、研究データの利活用という意味において、人文社会学と理工医学系の研究が目指す将来に本質的な差はない。オープンサイエンス政策が志向する新しい研究パラダイムに向けて、文理融合が加速し、デジタルネイティブの研究基盤と、その基盤で行う研究文化作りが進展 することになるであろう。そのためには、将来ビジョンと戦略を持ち、信頼された手法や信頼された組織に基づく、研究データ流通年一ビスの試行錯誤が今しばらく繰り返されることになり、また、その過程において、研究者、出版者、図書館、研究助成団体などのマルチステークホルダーによる既存の枠組みを超えた対話と試行の繰り返しが求められる。 ## 参考文献 [1] みんなで翻刻 https://honkoku.org(閲覧 2018/1/5). [2] 江戸の文化を現代に取り込む「江戸料理レシピデータセット」を整備〜江戸時代の料理本を「レシピ化」し、クックパッドでも公開~http://www.nii.ac.jp/news/release/2016/ 1124.html (閲覧 2018/1/5). [3] 報告会「「デジタルアーカイブ」と「研究デー夕」の出会いシンポジウム〜データの保存と活用へ,ライブラリアンとアーキビストの挑戦」http://current.ndl.go.jp/e1983 (閲覧 2018/1/5). [4] 林和弘. オープンサイエンスの進展と日本の動向. 専門図書館. 2017. 286, p. 2-8. http://www.jsla.or.jp/publication/bulletin/no2 86/no286-1/ (閲覧 2018/1/5). [5] RDA https://www.rd-alliance.org/ (閲覧 2018/1/5) [6] 松下能孝. 結晶構造データベースと結晶学共通データフォーマット CIF について $2 . J$ ournal of Surface Analysis Vol.21, No. 2 (2014) p. 71-81. [7] IIIF を用いた高品質/高精細の画像公開と利用事例 http://codh.rois.ac.jp/iiif/(閲覧 2 018/1/5) [8] 公益社団法人日本化学会化学遺産 $h$ ttp://www.chemistry.or.jp/know/inheritance/ (閲覧 2018/1/5).
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# 登壇者プロフィール ## 基調講演:コンテンツ産業とデジタルアーカイブ ( 仮題 ) ## (株)KADOKAWA 取締役会長 \\ 角川歴彦 \\ (かどかわ つぐひこ) 株式会社 KADOKAWA 取締役会長、カドカワ株式会社取締役会長。 1966 年角川書店入社。情報誌「ザテレビジョン」「東京ウォーカー」、 ライトノベル「電撃文庫」「角川スニーカー文庫」など新規事業を立ち上げ、メディアミックスと呼ばれる手法で日本のサブカルチャー文化を牽引する一方、電子書籍ストア「BOOKれ WALKER」 を開設する等、デジタル事業にも積極的に取り組む。 日本雑誌協会理事長、日本映像ソフト協会(J V A )会長、コンテンツ海外流通促進機構 (CODA) 代表幹事、東京国際映画祭チェアマン、内閣官房知的財産戦略本部本部員等を歴任。 現在、東京大学大学院情報学環特任教授、財団法人角川文化振興財団理事長、一般社団法人アニメツーリズム協会理事長なども務める。 著書に『クラウド時代と〈クール革命〉』(角川 one テーマ 21、 2010 年)、『グーグル、アップルに負けない著作権法』(角川 EPUB 選書、2013 年)、『躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア』(毎日新聞出版、2017 年)がある。 寺田倉庫メディアグループリーダー 緒方靖引(おがたやすひろ) 1976 年東京生まれ。1999 年駒澤大学経済学部卒業。同年寺田倉庫入社。企画本部にて文書保管センターなどの立ち上げ、BPO 事業部にて文書・書籍の保管、電子化、検索システムの提案営業を行い、2012 年より映像・音楽媒体の保管、デジタイズ、映像データのストレージ及び動画検索システムの提供などを行うメディアグループを担当。 株式会社スタジオ・ポット社長沢辺均 (さわべひとし) 1956 年、東京生まれ。ポット出版(株式会社スタジオ・ポット)代表、版元ドットコム役員、openBD プロジェクト呼びかけ人、JPO 出版情報登録センター管理委員、東京文化資源会議幹事。2000 年版元ドットコムを 6 出版社で設立して、書誌・書影情報のデータベース化、収集、発信・利用の取組みをはじめる。以降、出版情報登録センター、openBD プロジェクトを通じて、本のメタデータとしての書誌・書影情報のDB 化・利用環境改善に取組んでいる。 ## 国立情報学研究所 教授高野 明彦 (たかのあきひこ) (デジタルアーカイブ学会技術部会会長) 1956 年生まれ。東京大学数学科卒業。博士 (理学)。( 株 ) 日立製作所に 20 年間勤務の後、2001 年より現職。現在は東京大学大学院コンピュータ科学専攻教授、国立民族学博物館特別客員教授を併任。またNPO 法人連想出版理事長屯務める。専門分野は関数プログラミング、プログラム変換、連想情報学。研究成果の連想検索エンジンは「新書マップ」「想・IMAGINE」「Webcat Plus」「文化遺産オンライン」など数々のサービスに応用されている。著書に 『311 情報学一メディアは何をどう伝えたか』(共著、岩波書店、2012 年)、『検索の新地平(角川インターネット講座第 8 巻)』(監修、KADOKAWA/ 角川学芸出版、2015 年) ほか。 ## グーグル合同会社執行役員 法務部長 ## 野口祐子 (のぐぁうて) 東京大学法学部卒業。森・濱田松本法律事務所にて 2013 年まで勤務(2008 年より知的財産部門パートナー)。 2013 年 12 月より現職。法律事務所在職中にスタンフォード・ロー・スクールに留学、デジタル著作権政策の研究で博士号取得。自由な著作物の流通を支えるライセンス活動であるクリエイティブ・コモンズ・ジャパン(NPO) にも参画。知的財産戦略本部、文化庁、経済産業省をはじめ、審議会の委員経験も多数。著書に『デジタル時代の著作権(ちくま新書)』(2010)。
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# 光ディスクによるデジタルデータ資産の長期保存と自然災害対策 永野信広 NAGANO Nobuhiro } ソニーストレージメディアソリューションズ株式会社 ## 1. はじめに 近年デジタルデータは単なるバックアップ時代から利活用の為のアーカイブ時代へと移行し、あらゆる分野でデータ資産価值が上昇していく中で、デー夕長期保存における地震や津波、大雨による洪水といった自然災害対策が課題となっている。 2011 年 3 月の東日本大震災では、死者・行方不明者が合計 1 万 8,433 人 ${ }^{[1]}$ に上り、計 6 県が津波被害を受けた。特に海岸沿いの工業地帯では建屋の損壊が激しく、ソニーの仙台テクノロジーセンターも大きな被害を受けた工場の一つである。当時 $2 \mathrm{~m}$ 級の津波が工場を襲い、工場内建屋の 1 階部分は全て水没した。 1 階に設置した生産設備も大きな被害を受け、同時に生産活動に必要なデー夕も損失した。また、このデー夕損失はその後の復旧活動にも大きな障害となった。著者自身、この経験で貴重なデー夕を災害から守ることが復旧時間を短縮する重要な要素であると身を持って体験したのである。 本稿では、デジタルデータ資産の「長期保存と自然災害対策」について着目し、この課題を解決できる手段の 1 つとして、光ディスクの堅牢性と運用メリットについて解説する。 ## 2. 災害に対するデータ保存の課題 デジタルデータを長期保存する為のストレージシステムを考える上で、災害時において次の 3 つの課題を解決する必要がある。 1 つ目はストレージシステムの水没リスクである。東日本大震災以降、地震発生時の災害対策検討項目の一つとして津波被害が挙げられるようになった。また、近年は地球温暖化による気象変化で、局地的な大雨が洪水に発展するケースが少なくない。建物への浸水によってサーバーやハードデイスクはショートして復旧不可能となりデータ損失してしまう。洪水は川や山沿いで発生する為、沿岸部だけでなく内陸部においても水没リスクを意識しておく必要がある。 2つ目は温湿度変化リスクである。例えば、夏季に災害が発生して電力供給が停止した場合、空調設備が止まりストレージ設備や保存メデイアは極度の高温・多湿環境に晒される事となる。大規模なデータセンターでは潤沢な予備電源を確保しているが、通常の才フィス環境では充分に確保するのは難しい。こういった温湿度変化によって、磁気テープの張り付きやハー ドディスクのショートなどが発生し、データ損失リスクが格段と上がってしまう。そのため、記録メディア自体の堅牢性も重要な検討課題となってくる。 3つ目はデータ保存コストである。データを長期保存する為には、ストレージシステムコスト、記録义ディアコスト、設備および記録メディアを管理・維持するための人件費、電力費などのランニングコストがかかる。また、災害対策については「3-2-1 バックアップルール」という考え方で、データの正副コピーやオンプレミスとクラウドの併用など、一つのデー夕に対して複数のメディアコストや物件費をかけることが理想とされている。このように、データを長期間保存する上で様々なコストが発生する。「万が一」に対する備えに大規模な予算をかけられないなかで、メディア容量、保存寿命、消費電力、世代間互換性といった久トレージシステムの特長と採用メリットのバランスを検討する必要がある。 ## 3. 光ディスクのメリット 光ディスクはデータ資産の長期保存の一手として注目され始めている。 $4 \mathrm{~K} / 8 \mathrm{~K}$ の大容量映像データを利用する放送業界やゲノム解析の RAW データを取り扱う医療業界、他にも海外大手 SNS 企業などが保存メディ アとして光デイスクを採用している。前項に挙げた災害対策における課題に対しても、光デイスクは課題解決できる可能性を持っている。 ## 3.1 水没に対する耐久性 光ディスクはデータ記録層が剛性の高いポリカーボネート基板とカバー層で完全に覆われている構造を有し、記録層への水分の侵入を防いでいる。これにより高い耐水性能を有する。例えば、2005 年 8 月に米国で発生したハリケーンカトリーナにおいては、ある医療機関では水没した記録媒体の中で光ディスクだけがデータ読み出し可能だったという事例 ${ }^{[2]}$ が報告されている。 また、ソニーでは自社工場の被災経験をもとに顧客の被災リスクに対する配慮から、自社製品「Optical Disc Archive(オプティカルディスク・アーカイブ)」 (図1)のメディアカートリッジを海水に水没させる実験 ${ }^{[3]}$ を行っている(図 2)。この実験では、実際に海から汲み上げた海水を使用して、カートリッジの水没・乾燥、ディスクの取り出し・洗浄を行い、水没したディスクを新しいカートリッジに入れ替えてデータが読み込めるかを検証した(使用カートリッジ: ODC-3300R、使用ドライブ:ODS-D280U\#1000097 (F/ W version 1.160)、水没時間: 3 週間、乾燥時間: 1 週間、検証カートリッジ数:計 4 巻 (Archival Disc 44 枚)。)。結果、水没前に記録されていたデータを全て読み出す事に成功した。 図1 Optical Disc Archiveロゴマークと製品 図2 Optical Disc Archiveメディア海水実験 このように光ディスクは他のメディアに比べて水の影響を受けにくい構造となっている。万が一津波や洪水で浸水した場合でも、光ディスクであればより多くのデータを救済できる可能性を高める事ができると言える。 ## 3.2 高いメディア堅牢性 光ディスクはその頑丈な基板と耐水性能により、広範囲な温湿度環境の変化にも耐えうる性質も有している。ソニーとパナソニックが共同で開発した次世代光ディスク「Archival Disc」は 100 年以上の保存寿命 ${ }^{[4]}$ が期待でき、デー夕保存性が高い記録メデイアだと評価されている。これは高温・多湿環境におけるディスクの再生データエラーレートから推定される保存寿命であり、光ディスク特有の高い堅牢性によって実現している。 ソニーの Optical Disc Archive は、この Archival Disc を搭載し、最大で温度 $-10 \sim 55{ }^{\circ} \mathrm{C} \cdot$ 湿度 $3 \sim 90 \%{ }^{[5]}$ といった環境でのメデイア保管性能を有する。また、光ディスクは Blu-ray ${ }^{\mathrm{TM}}$ 規格以降、記録層の材料が有機色素材料から無機材料に変わったことで、紫外線に対しても高い耐久性を有している。震災で建物が損壊した場合や記録媒体を屋外に出さなければならない状況下でもデータ損失リスクを最小限に抑えることができるのである。 ## 3.3 低コスト運用 光ディスクはメデイアマイグレーションが不要で低消費電力であるため、長期間の運用コストを抑える事ができる。1982 年に発売した Compact Disc (CD) ${ }^{\mathrm{TM}}$ が現在も Blu-ray ${ }^{\mathrm{TM}}$ 規格の光学ドライブ装置でデー夕読み出しできるように、光ディスク技術は後方互換が実現されており、メデイアマイグレーション頻度を大幅に削減する事ができる。パナソニック(2017) ${ }^{[6]}$ によると、20 年間 Archival Disc でデータを保有した場合、高級なハードディスクの約三分の一、LTO の約半分の費用しかかからない。これは、光ディスクはハードディスクのようにメディアを常時通電する必要がなく、温湿度変化に強い特性から保管環境を構築する上で空調コストを下げることができるからである。 ## 4. 採用事例:東北大学「みちのく震録伝」 これまで述べてきた光ディスクのメリット生かし、 データ資産の長期保存を目的として光ディスクを導入した事例がある。 2011 年 9 月、東北大学災害科学国際研究所にて発 足した震災記録プロジェクト「みちのく震録伝」(図 3) において、ソニーの Optical Disc Archive が採用された。当プロジェクトは、「すべての震災記録を 100 年先、 500 年先であっても残さなけれげ意味をなさない。それは、現在の科学では解明できないことが、今後数十年、数百年先の科学の発展で解明できる可能性があるからである ${ }^{[7]}$ という考えのもと、東日本大震贸の際に収集された映像や報道情報などの多岐に渡るデータを保存・管理している。最終目標は、みちのく震録伝のビッグデータと AI やセンシング技術を組み合わせたシステムを構築し、過去の被災経験を災害直後の早期復旧や減災対策に役立てることである。プロジェク卜を遂行する上で、保存メディアの長期保存性や堅牢性、加えて大容量メディアによる低コスト運用が条件であり、ソニーの Optical Disc Archive が選ばれた。このように、当プロジェクトは光ディスクの特長を最大限に活用した代表事例だと言える。 図3 「みちのく震録伝」システム概念図(東北大学防災科学研究所提供) ## 5. おわりに 未来の社会やビジネスの発展に向けてデジタルデー 夕資産を長期間保存する為には、災害時のデータ破損・消失リスクを最小化できる記録メディアを選ぶ必要がある。光ディスクの長期保存性や堅牢性はそういったリスクを大幅に低減し、低い運用コストでデー 夕資産を長期間保存することができる。今後は、こういった長期保存メディアに対する再生環境の維持・確保、新しいファイルフォーマットへの変換などが課題となってくるであろう。 (註・参考文献) [1] 警察庁緊急災害警備本部. 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の警察措置と被害状況. 2018/6/8. https://www. npa.go.jp/news/other/earthquake2011/pdf/higaijokyo.pdf (2018/7/21アクセス). [2] Alliance Storage Technologies Inc. "CASE STUDY". http://www.alliancestoragetechnologies.com/images/media/pdfs/ casestudies/CS00101KatrinaCaseStudy.pdf (2018/8/21アクセス). [3] 当実験は、ソニー独自で検証の為に実施したものであり、水没後の製品やデー夕の復旧が保証されるものではありません。専門エンジニア立会いのもと社内の特別な環境下で実施されています。 [4] ソニー株式会社・パナソニック株式会社(2018)「Archival Disc White Paper 2nd Edition」. https://www.sony.jp/oda/about/J_White_Paper_Archival_Disc_ Technology_Ver200_20180731.pdf (2018/8/21 アクセス), [5] ソニー株式会社(2018)「ODA総合カタログ」. https://www. sony.jp/oda/pdf/ODA_SOUGOU_1806.pdf (2018/8/21アクセス). [6] パナソニック株式会社(2017)「パナソニックの新たな挑戦とは?」. https://panasonic.biz/cns/archiver/pdf/magazine_ nikkeicomputer_20170831.pdf (2018/8/7 アクセス). [7] 柴山明寛(2014)「ノー・モア”想定外”一東日本大震災の膨大な記録をアーカイブする『みちのく震録伝』」. https://www.mugendai-web.jp/archives/735 (2018/8/3アクセス) .
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# 「ドローン研究会 in 岐阜」実施報告 ドローン研究会 IN 岐阜 日時:2018年 6 月 22 日(金)13時 30 分 16 時 会場:岐阜女子大学本校(太郎丸キャンパス)グラウ ンド 参加者 : 約 30 名(建設会社、映像関連会社、カメラ マン、大学生など) 主催:岐阜女子大学 デジタルアーカイブ専攻 株式会社システムファイブ デジタルアーカイブ学会 人材養成部会 講師 : 二木 洋(株式会社システムファイブ ドローン 担当) 本研究会は、デジタルアーカイブ化の資料収集への ドローンを活用について検討することを目的に、岐阜女子大学、デジタルアーカイブ学会、株式会社システ ムファイブの主催で行った。講師は、株式会社システ ムファイブの二木洋氏にお願いした。 ドローンでの空撮に着目されているデジタルアーカ イブ学会の会員の皆様、中部地区の企業の方、教育関係者の方、プロカメラマンの方など約 30 名にご参加い ただいた。また、岐阜女子大学 デジタルアーカイブ 専攻の学生もデモフライト見学をさせていただいた。 ドローンの構造や法令規則などの基礎知識について の 30 分程度の座学を受けた後、野外に移動し、DJI 社のドローンである、「Spark」「Mavic Air」「Mavic Pro Platinumç」「Inspire 2」「Matrice210 RTK」の二木氏に よるデモフライトを行っていただた。 まずは、手の平に乗る小さなドローン「Spark」や ジェスチャーで操作できる「Mavic Air」のデモが行わ れ、学生からは可愛い、欲しいという声が上がった。 「Inspire 2」のデモフライトでは、二木講師の華麗な ドローンのフライトテクニックに歓声があがった。特に、ドローンのフライト経験のある学生ほど、操作の難しさも分かっていることから感嘆の声があ がった。 産業用ドローン「Matrice210 RTK」のデモフライト も行われ、赤外線カメラの映像や、ズーム映像を見 せていただき、その映像の綺麗さに驚くとともに、 ドローンで撮影できる映像のデジタルアーカイブへ の活用の可能性を実感した。この産業用のドローン のデモフライトについては、多く参加者から、初め て実機を見ることができてよかったとのご意見をい ただいた。 その後、参加者による「Phantom 4 Pro」のフライト 体験を行った。初めてドローンのリモコンを触る方も 二木氏がサブのリモコンですぐにフォローできる体制 であり安心して、楽しく体験に挑むことができた。 最後に、トラブル時に自動的に指定したポイントに 機体を着陸させる「リターン・トゥ・ホーム」機能の デモを体験し会を終了した。 今回の研究会では、ドローンがどういうものである か、主な機能を理解し、体験することができた。また、様々なタイプの実機のデモフライトを一度に見ること ができる貴重な会となった。 梅雨の晴れ間の開催で野外での実習はとても暑かっ たが、時間があっという間に過ぎ、楽しい研究会と なった。 筆者のチームでは、岐阜県輪之内町の輪中地帯デジ タルアーカイブにおいて、ドローンによる空撮をおこ なっている。輪中地帯では、集落を水害から守るため、集落を囲むように堤防が造られているのだが、空撮で は、地上からの撮影では捉えられない自然堤防が集落 を囲む様子を撮影する事ができた。この結果は今後発表していく予定である。 このような映像を、手軽に撮影できるようになる事 が、ドローンをデジタルアーカイブの撮影に導入する 利点の1つではないかと考えている。また、今回の研究会で紹介された赤外線カメラなどの導入を検討する ことで、益々ドローンの活用の幅が広がるのではない かと考える。 林 知代(岐阜女子大学)
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# 第 5 回定例研究会 参加記 デジタルアーカイブ学会第 5 回定例研究会 日時:2018 年 5 月 26 日(土)13:30 16:10 場所: 東京大学情報学学環ダイワユビキタス学術研究館 2 階講義室 [テーマ1]命の軌跡は訴える〜被災地の新聞社とデ ジタルアーカイブ 報告:鹿糠敏和氏(岩手日報社) 鹿糠(カヌカ)氏は、大船渡支局長の時に震災に 遭った。支局から車で移動したが大渋滞にあい、高台 で取材することになった。その日は、救助と取材で一晚過ごし、翌日夜に支局に原稿出稿。その時から 1 週間の記憶がとんでいる。 震災 1 年後の 2012 年 3 月 11 日から、亡くなった方 のうち遺族のご了解が得られた方をひとりひとり紹介 する追悼企画「忘れない」を開始した。すでに 3400 人余りの方をご紹介し、現在も継続中である。 震災 5 年に際して、「忘れない」で取材した遺族の 方に面会し、どのようにして被災されたかの聞き取り を行った。その行動記録を首都東京大学の渡辺英徳先生 (現東京大学) にご相談し、可視化することにした。地方紙は地域の情報は豊富で、読者への発信力はあ るが、県外への発信は弱く、紙面以外の見せ方が弱い が、デジタルアーカイブにすることによりコンテンツ の可能性が一気に広がった。 震災後に生まれた子供が小学生になった今、「命の 軌跡=あの人遺訓」生きたかった人がいる。生きて いくのがあいになる、とのコメントが印象的なご発表 であった。 鹿糠敏和氏 中澤敏明氏 [テーマ2]自動翻訳の可能性とデジタルアーカイブ への活用 報告:中澤敏明氏(東京大学) 冒頭、データが大事!データの保存の重要性を広め てほしいとデジタルアーカイブ学会へ要望された。自動化(翻訳)は元となるデータが重要である。 機械翻訳には、語彙のずれ、語順の違い、構造の違 い、報道のずれ、明示する表現の違い(英米、単・複数、冠詞等)が問題となり、翻訳は、背景や文化がわ からないとできない。 人工知能とは人間の知能を使ってすることで、強い $\mathrm{AI}$ (汎用型) と弱い AI (特化型) があり、弱い AI(画像で認識:ディープラーニング)は、ほぼできている。以下、多彩な事例を紹介していただいた。 2016 年 3 月 AlphaGO ゼロがプロの棋士に勝利した が、この時未知の手で勝っている。棋譜を解析するの ではなく、ルールを与えるだけで自分で学習して強く なった。実際問題として、飛行機が飛ぶ原理や全身麻酔か効く原理、カーリングのストーンが曲がる原理は よくわかっていないが、説明できる必要があるのか?説明ではなく、問題が解決してくれればいいという考 えが今の AIである。 ニューラル翻訳 (Neural Machine Translation (NMT)) の特徴は、統計翻訳より平均的に高精度、流暢だが、抜けがあることがある。NMT はここ数年で急激に発展、さらに進化する。優れた翻訳のためには、翻訳先 の文化を知ることが重要だが、まだニューラル翻訳で は無理なのではないかとのご意見であった。 吉野敬子
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# EuropeanaTech 2018参加報告 Attending EuropeanaTech 2018 抄録:EuropeanaTech は Europeana に参加する各国の文化機関、研究機関、企業などの技術者・開発者が集まり、最新の成果や技術 の進展方向を共有するための会議である。オランダのロッテルダムで開かれた今年の会議では、IIIF, Wikidata, AI(人工知能)など が主なトピックであった。また翻刻や手書き OCRに関する発表もいくつか見られた。 Abstract: EuropeanaTech is a meeting for engineers and developers from cultural institutions, research institutes, companies etc. participating in Europeana to share their latest development and achievement. At this year's meeting in Rotterdam, the Netherlands, the main topics were IIIF, Wikidata, and AI (artificial intelligence). Several presentations on transcription and OCR for manuscripts were also seen. キーワード : Europeana、国際会議、デジタルアーカイブ Keywords: Europeana, international meeting, digital archive ## 1. EuropeanaTechとは EuropeanaTech は Europeana に参加する各国の文化機関、研究機関、企業などの技術者・開発者が集まり、最新の成果や技術の進展方向を共有するための会議である ${ }^{[1]}$ 。前回は 2015 年に開催されており ${ }^{[2]} 、$ 日本からは国立情報学研究所の高野明彦教授が講演者として参加している。今回は 2018 年 5 月 15~16 日にかけて、 オランダの港町、ロッテルダムで開催した。また5月 14 日にはハーグ市のオランダ国立図書館(Europeana 本部がある)にてプレ・コンフェレンス・セミナが行われた。会議では欧米の技術者が開発した成果や開発中のシステム等、多くは国際的な朹組みにおいて取り組まれているものを持ち寄り議論した。 ## 2. 参加者 登録された参加者は229名で、その他、5/14に開催されたプレ・コンフェレンス・セミナ参加者で本会議に参加していない人もある程度いるようである。日本からはデジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON)の参加者 3名(筆者)であった。国別の内訳は図 1 のとおりである。地元オランダ(NL)の参加者が半数近いのは当然であろう。残りはドイツ (DE)、英国 (GB)、ベルギー (BE)、エストニア (ES)、 フランス (FR)、スウェーデン (SE)、米国 (US) などであった。 図1 EuropeanaTech 2018参加者の国別内訳(参加者名簿から筆者が作成)。 ## 3. 概要 今回のセッションのカテゴリーは「データの連携に関わる技術」、「コンテンツの提供と検索技術」、「多言語デー夕」などであるが、内容的に見ると、IIIF、 Wikidata、AIが主要なテーマであったと感じた。な扒、会議に先駆けておこなわれたプレ・コンフェレンス・ セミナのテーマは IIIF と Wikidataであった。 ## 3.1 基調講演 (1) コレクションはどれも雪のひとひら(ジョージ・ オーツ) ${ }^{[3]}$ (メタデータのクリーニングについての経験。) (2)カッコウの巣の上で(ルーベン・フェルボロ $)^{[4]}$ (デジタルアーカイブの運用は集中化より分散化が望ましい。) (3)大声で叫ぼう:LOUD(ロブ・サンダーソン) ${ }^{[5]}$ (LOD (Linked Open Data) でなく、LOUD (Linked Open Usable Data) でなくてはならない。) (4)未来への覚書:永続性のある保存(ヘルベルト・ ファン・ド・ソンペル) ${ }^{[6]}$ (ウェブの保存など、世代があるコンテンツの保存には工夫が必要である。) (5)世界の文化遺産を最終的に統合しよう(ベン・ フェルシュボウ) ${ }^{[7]}$ (LODである Wikidataはウェブコンテンツの中核となる。) (6)驚くべき冒険、またはなぜオキシトシンが文化遺産を推進するか(エッポ・ファン・ニスペン・ トット・セベネール) ${ }^{[8]}($ オランダの映像研究所所長としての経験。) (7)オランダの傑作絵画と新技術(エミール・ゴールデンカー:マウリッハイス美術館) ${ }^{[9]}$ (フェルメー ルの「真珠の耳飾りの少女」で有名な Mauritshuis 美術館のデジタル提供の経験。) ## 3.2 パネルディスカッション (1) アグリゲーションの問題点 (2) 構造化データの多言語性 (3)リンクト・オープン・データ、LOUD、を作る (4)ユーザと機関が作る翻刻プロジェクト (5)摩擦のないデザイン、アンチ・テク (6)論争:分散と集中:各モデルの利点 3.3 並行セッション (グレ一部分が参加したセッション) ## 4. 主な発表 プレ・コンフェレンス・セミナを含めた 3 日間の発表のうち、興味深かった発表について簡単に紹介する。 たたし筆者らはすべてのセッションに参加したわけではないので、偏っていることをお断りしたい。今回の発表の一部のスライドは EuropeanaTech のホームペー ジに掲載されている ${ }^{[10]}$ ## 4.1 IIIF関係 IIIFについては、5月14日のプレ・コンフェレンス・セミナのテーマの1つでもあったので、合わせて報告する。 (1)IIIFの紹介(ロブ・サンダーソン(J・ポール・ ゲッティ財団)) IIIF は複数のサイトの画像を比較して表示することができる。また、詳細なメタデータを表示したり、アノテーションをつけることができる。アノテーションは画像の特定の部位を指定して付与できる。IIIF Consortium(49 機関参加)には、日本から京都大学、東京大学、関西大学が参加している。 (2)IIIFコミュニティ(グレン・ロブソン(IIIF技術コーディネーター)) IIIF のコミュニティ・グループと技術グループを紹介。 ## (3)ブリル社におけるIIIFの活用(エティエンヌ・ポ スツムス (ブリル社)) ブリル者はライデンに本社があり、270 以上の雑誌を出版している中堅出版社であるが、所蔵している 表1 EuropeanaTech 2018の並行セッション一覧 & & \\ 874,000 画像を IIIFを利用して商用と非商用の提供を開始している。中解像度のものは自由に閲覧できるが、高解像度の画像は購読方式で提供している。 (4)図書館におけるIIIFの活用(ドリース・モリール (ゲント大学)) ゲント大学では、IIIFを使ったアノテーション・ ツール(SCTA Reading Room)により、ラテン語の古書籍の読解や校訂をおこなっている。 (5)国立公文書館におけるIIIF(エルビン・デクスネ (オランダ国立公文書館)) 国立公文書館(NA)では、公文書、写真や地図、 マニュアル、書籍などの公開のためにIIIFを採用した。将来はリンクト・オープン・データ(LOD)化を検討している。 (6)楽しい IIIF (トリスタン・ロディス (コギャップ社)) IIIF を使った楽しいサイトの紹介があった(表 2)。 IIIFをもちいることにより、表現に厚みが加わったり、利用者の興味を引きやすくなる。 ## 4.2 Wikidata/Wikimedia関係 Wikidata とはウイキメディア財団(ウィキペディアの運営母体)がウィキペディアの記事からファクト・ データを抽出して構築した参加型のデータベースで、 リンクト・オープン・データ(LOD)である。さまざ まな事象に対して、複数の情報を並列的に収録し、出典にリンクする形になっている。Europeana、DPLA などのデジタル・アーカイブ機関の関心が高まっている。 ## (1)世界の文化遺産を結合する(ベン・フェルシュボ ウ (ウィキメディア財団))[r] これは基調講演として報告された。現在 \#WIKIMEDIA2030 プロジェクトに携わっている。これは 2030 年には Wikimedia が自由な知識のエコシステムの中核になっている、という構想である。そこでは Wikedataが中心的な役割を果たすと考えられる。 Wikidata はすでに 4600 万件の項目、41 億件のステー トメント、90 億件の参照を持っている。 Wikidata は図書館、博物館、アーカイブで使われている。Wikidataは 2700 以上の他のデータ集とリンクしており、専門語彙のハブとなっている。たとえば Wikidataを使うと、世界の絵画のカタログが作成できる。 ## (2) Wikimedia Commonsの構造化データ(サンド ラ・フォーコニエ (ウィキメディア財団)) Wikimedia Commons は 4600 万件のメディアファイル (写真、動画) のコレクションである。各ファイルには CCなどの著作権の記述が明記されており、その範囲で自由に使用できる。これらコンテンツのメ夕データを構造化するプロジェクトが進行中(20172019)である。その際Wikidata からデー夕を抽出する場合もある。 表2 IIIFを使った楽しいサイト & タイルの組み合わせゲーム & http://puzzle.mikeapps.me/ \\ (3) GLAM (Galleries, Libraries, Archives, and Museums)におけるWikidata(ジェイソン・エバンス (ウェールズ国立図書館)) ウェールズ国立図書館では、画像にメタデータを付与する際にWikidataを活用している。 図2 ウェールズ国立図書館では、Wididataを使って、絵にメタデータを付与している (IIIF利用) (4)典拠データとしてのWikidata(エマニュエル・ ベルメ (フランス国立図書館)) フランス国立図書館(BnF)では、約 400,000 件の Wikidata 項目に BnF のIDを付与した。これにより、 Wikidata から Gallica(BnFのデジタルアーカイブ)にリンクできる。 ## 4.3 Al関係 (1)デジタル図書館におけるハイブリッド画像検索 (ジャン・フィリップ・モロー(フランス国立図書館)) フランス国立図書館(BnF)では、 $\mathrm{AI}$ 技術を活用して印刷物の自動検索を試みている。たとえば、「ジョルジュ・クレメンソーのカリカチュアか漫画が見たい」というと、それらしいものを検索してくれることを目指している。さまざまな手法を試している。 図3BnFのテスト検索結果。「ジョルジュ・クレメンソー」の写真や漫画が検索されている。 (2)種の分類にAlを活用(ローレンス・ホグヴェーグ (自然多様化センター)) ファン・グラネンデール・クリーガー・コレクションにはインド・オーストラリア地方のチョウの標本 500,000 点があり、そのうち 50,000 点がデジタル化され、7,500 点については種が特定されている。しかし、種を特定できる専門家の数が減っており、そのために $\mathrm{AI}$ の導入を試験した。 (3)人が介在するディープ・ラーニング(ナター シャ・ソーフォー (アテネ大学)) 文化遺産コンテンツにメタデータを自動付与することを検討している。CNN (Convolutional Neural Network:たたみこみニューラルネットワーク)のフローに人の関与を組み込むこととし、実験をおこなった。楽器の音から楽器を判別する実験では、テスト・ データでは一定の成果があったが、Europeanaの実デー タではあまりうまくいかなかった。 ## 4.4 翻刻 (1) Crowd Wales(ポール・マッキャン(ウェールズ国立図書館)) ウェールズ国立図書館では、Crowd Walesというツー ルで住民の協力を得てコンテンツを集めている。このツールはOmekaを使って構築し、IIIFを利用している。最近クラウドでの翻刻を始めた。対象は Welsh Book of Remembrance (過去帳) で、手書きで書かれた名前などを翻刻する。 (2)芝居のビラの翻刻プロジェクト(ミア・リッジ (大英図書館)) 大英図書館では、芝居のビラ(Playbill)を 230,000 枚 (1000 巻) 所有している。これらビラ一枚ずつに対して、メタデータをクラウドで付与する Playbills in the Spotlight プロジェクトを開始した。 (3) Transkriubs (フランク・ドラウシュケ (Europeana)) Transcribathon.euでは、第一次世界大戦中の手紙、日記などの翻刻プロジェクトを捋こなっている。ゲー ム方式で、学校などで生徒・学生に競わせ、表彰する。 (ドラウシュケ氏は 2018 年 2 月 23 日にデジタルアー カイブ学会技術部会の剆談会で同趣旨の報告をおこなっている ${ }^{[11]}$ ) (4) Transcribatho.eu (ギュンター・ミュールベルガー(インスブルック大学)) Transkriubs は、古文書のデジタル化、翻刻、解釈、検索などをおこなう READ プロジェクトのインフラストラクチャで、AIを用いた自動翻刻ができる。 (5)翻刻メタデータからへブライ語を取り出す(アー ロン・クリスチャンソン (フランクフルト大学)) 図書館のカタログではへブライ語が翻字されているが、これを正しいへブライ語に戻すのは簡単でない。 ## 5. おわりに Europeanaに関連する技術の動向、とりわけ IIIF と Wikidata について良く理解できた。また会議期間中多数の参加者と知り合元、今後の情報交換に役立つと思われる。なお、次回は 2 年後に開催される見达みである。 なお、今回メインの会議が行われたのはロッテルダムの川岸に係留されているかつての豪華客船 SS ロッテルダム号であった(写真 1)。ここは現在ホテルや会議場として活用されている。 写真1SSロッテルダム号と筆者(左から前沢、緒方) また、この会議の様子は YouTube に登載されている (写真 2) ${ }^{[12]}$ 。 写真2 EuropeanaTech 2018並行セッションの様子[12] 会議で大変印象に残ったのはキャッチ・ボックスという名前の四角いソフト・ボックスに入ったマイクで、発言者がいると、これを放り投げて使う(写真3)。会場担当者がマイクを持って走り回る必要もなく、会場の雾囲気も柔らかくなる。 最後に本稿執筆においては、一般財団法人人文情報学研究所永崎研宣主席研究員に多くの助言・コメントをいただいたのでここで御礼を申し上げる。 写真3 キャッチ・ボックスを投げているところ ${ }^{[12]}$ (参考文献) [1] EuropeanaTech Conference 2018. https://pro.europeana.eu/event/ europeanatech-conference-2018(閲覧. 2018/6/18) [2] EuropeanaTech Conference 2015. https://pro.europeana.eu/files/ Europeana_Professional/Event_documentation/EuropeanaTech/ Europeana-Tech-Conference-2015-Agenda1.pdf (閲覧. 2018/9/9). [3] George Oates: 'Every Collection is a Snowflake'. https://www. youtube.com/watch?v=c03LzV6L2Vk(閲覧. 2018/6/18). [4] Ruben Verborgh: One Flew Over The Cuckoo's Nest. https://www. youtube.com/watch?v=oT8sf3YM54(閲覧. 2018/6/18). [5] Rob Sanderson: Shout It Out: LOUD. https://www.youtube.com/ watch?v=r4afi8mGVAY (閲覧. 2018/6/18). [6] Herbert van de Sompel: Perseverance on Persistence. https://www. youtube.com/watch?v=7-NgdEqIjrI(閲覧. 2018/6/18). [7] Ben Vershbow: Let's Finally Connect All The World's Heritage. https:// www.youtube.com/watch?v=yVdOnM1mDZQ (閲覧. 2018/6/18). [8] Eppo van Nispen tot Sevenaer. EuropeanaTech 2018 Keynote. https://www.youtube.com/watch?v=7djfxzD9R10 (閲覧. 2018/6/18). [9] Emilie Gordenker: Dutch Old Masters and New Technologies. https://www.youtube.com/watch?v=euE6obcJlek (閲覧. 2018/6/18). [10] EuropeanaTech Conference 2018 Presentations. https://www. slideshare.net/search/slideshow?searchfrom=header\&q=europeanate $\mathrm{ch}+2018$ (閲覧. 2018/6/18). [11] 高久雅生.「Europeanaの翻刻プロジェクトと日本の翻刻プロジェクト」に参加して. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, 2 (3), 298-299. [12] EuropeanaTech 2018. https://www.youtube.com/watch?v=_ vMpBZoXwJc(閲覧. 2018/6/18).
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# \\ 1 岐阜女子大学 〒501-2592 岐阜県岐阜市太郎丸80 \\ Email: [email protected] \\ 1 Gifu Women's University} \author{ 松家 鮎美 ${ }^{1}$ \\ MATSUKA Ayumi ${ }^{1}$ } (受付日: 2017年11月19日、採択日: 2018年5月9日) 抄録:デジタルアーカイブは知識基盤社会を支える重要な役割を果たすものと期待されているが、課題も多く存在する。そうした 課題の中で、本論では、デジタルアーカイブの開発・管理・活用を担う人材育成にテーマを絞り考察した。大学や NPO 法人日本 デジタル・アーキビスト資格認定機構が進めてきたデジタル・アーキビスト育成教育の事例と英語圈(米・加・英・豪)における 教育の事例を概観する中で、大学や協会による専門職としての質保証を伴う教育や再教育が必要であることが明らかになった。ま た、デジタルアーカイブを運用する現場での情報を教育にフィードバックすることにより、採用や待遇改善等キャリアパスの形成 につなげていくことが重要であると結論付けた。 Abstract: Digital Archives are expected to play an important role in supporting the knowledge-based society but there are numerous issues that need to be considered. This paper discusses educating digital archives specialists who must develop, manage or use digital archives materials. The paper reviews how universities and Japanese Certification Board for Digital Archivist have educated digital archivists and also looks at specific cases in Western countries (United States, Canada, United Kingdom and Australia). The paper shows that education at universities or in-service training undertaken by related institutions and associations are necessary to ensure the quality of digital archives specialists. It also underlines the importance of expanding career paths such as hiring and improving labor conditions for digital archivists by obtaining feedback from places where digital archives are managed and utilized. キーワード : デジタルアーカイブ、人材育成、デジタル・アーキビスト、専門職、質保証、再教育、知識基盤社会 Keywords: Digital Archives, Developing Human Resources, Digital Archivists, Specialists, Quality Assurance, In-Service Training, Knowledge-based Society # # 1. はじめに 2017 年 4 月デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会が取りまとめた「我が 国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」 ${ }^{[1]}$ いて、以下のような方向性が示された。(1)「様々なコ ンテンツをデジタルアーカイブ化していくことは文化 の保存・継承・発展の基盤となる。」(2)デジタルアー カイブは「場所や時間を超えて」情報にアクセスする ことを可能とし、「分野横断で関連情報の連携・共有 を容易にし、新たな活用の創出を可能とするものであ る。」(3)デジタルアーカイブの活用対象は幅広く、「観光、教育、学術、防災などの様々な目的が考えられ」多様な分野での活用が期待されている。 つまり、デジタルアーカイブは、日本の目指す知識基盤社会を支えるプラットフォームになる可能性を 持っている。デジタルアーカイブは、図書館、博物館、文書館の所蔵する文化遺産中心の提示活用から、企業、自治体など社会の全領域にその活用範囲が広がるとと もに、創造的な知的生産やナレッジマネジメントに活用できると期待されている。加えて、周辺部分のイン ターフェイス、横断的ネットワークなどの提示・活用環境の整備が急がれる。 ## 1.1 デジタルアーカイブの課題〜深刻な人材不足〜一方、デジタルアーカイブには課題も多く存在する。膨大なデータが 2 次利用可能なクリエイティブコモン ズ CC0(パブリックドメイン)で提供されている Europeana やDPLA(米国デジタル公共図書館)と比べ、我が国のデジタルアーカイブは、圧倒的なコンテンツ の不足に加え、メタデータの整備、各機関の連携を担 うアグリゲータやデータプロバイダの存在、デジタル 情報資源のオープンデータ化促進、制度、人的・財政的リソース、組織基盤、専任職員等の点で大きく遅れ を取っている。 中でも人材不足は深刻である。デジタルアーカイブの構築・連携を担う人材育成には、対象分野の理解、 デジタルアーカイブ化の技術、関連法令と倫理の理解、 デジタルアーカイブを開発するプロデュース力、コミュニケーション力等が求められる。また、活用者の視点に立ってユニバーサルデザインを実現し、ニーズ 分析、資料の選定、メディアの選定、ナレッジマネジメントの促進、市民参加型データ収集等に関わる各種能力が求められる。残念ながら、デジタルアーカイブ化が拡大している各分野で、これらの能力を有し開発・運用・活用の担い手になる人材は不足しており、人材育成は契緊の課題である。 本論では上記のニーズに対応した人材育成のあり方を考察するため、我が国に打けるデジタル・アーキビスト教育の現状と、海外におけるデジタルアーカイブ関連の人材教育プログラムの調査を行ったので以下に述べる。 ## 2. 我が国におけるデジタル・アーキビスト育成教育の事例と課題 \\ 2.1 先行研究 まず、先行研究について概観する。デジタルアーカイブを担う人材育成という視点から記された先行研究の主なものは以下の通りである。 博物館・図書館など社会教育施設の視点から述べられた研究論文は、井上 $\left(2005^{[2]} 、 2016^{[3]}\right)$ 、田中 $\left(2015^{[4]}\right)$ 、皆川ら $\left(2009^{[5]}\right)$ 、石川ら $\left(2015^{[6]}\right)$ がある。学校教育や教材の視点から述べられた研究論文には、片桐ら $\left(2006^{[7]}\right)$ 、田中ら $\left(2015^{[8]}\right)$ 、加藤ら $\left(2015^{[0]}\right)$ 、佐藤ら $\left(2015^{[10]}\right)$ がある。知識循環型社会の視点から述べられた研究論文には吉見、 $\left(2013^{[11]} 、 2015^{[12]}\right)$ 、三宅ら $\left(2017^{[13]}\right)$ がある。 デジタルアーカイブを担う人材育成というテーマに関しては、博物館・図書館といった社会教育施設、あるいは学校教育、教材といった視点からの研究が多く、 デジタルアーカイブの多様性に答えられる十分な研究がなされていないことがわかった。 また、デジタル・アーキビスト教育カリキュラムの視点から記された先行研究の主なものは以下の通りである。 教員養成や教師教育の視点から述べられた研究論文には、後藤 $\left(2004^{[14]}\right)$ 、谷ら $\left(2011^{[15]}\right)$ 、斎藤ら $\left(2017^{[16]}\right)$ がある。博物館・図書館の視点から述べられた研究論文には、佐藤ら $\left(2011^{[17]}\right)$ 、谷 $\left(2015^{[18]}\right)$ 、楓ら $\left(2006^{[19]}\right)$ がある。大学や社会人を対象とした養成カリキュラムやe-learningのカリキュラム、大学院に打ける上級デジタル・アーキビスト養成カリキュラムの視点から述べられた研究論文には、後藤ら $\left(2004^{[20]} 、 2005^{[21]}\right)$ 、谷口ら $\left(2005^{[22]}\right)$ 、廣田ら $\left(2007^{[23]}\right)$ 橋詰ら $\left(2007^{[24]} 、\right.$ $\left.2009^{[25]}\right)$ 三宅ら $\left(2008^{[26]} 、 2009^{[27]} 、 2012^{[28]}\right)$ 、谷ら、 $\left(2010^{[29]}\right)$ がある。 デジタル・アーキビスト教育カリキュラムのテーマ については、社会教育、学校教育、といった視点に加えカリキュラム開発そのものに関する研究が目立つ。 以上から、吉見や三宅らの研究は知識基盤社会におけるデジタル・アーキビストの役割という、従来の研究よりは広い意味でのデジタルアーカイブと人材育成に言及されているものの、他の多くの研究は、博物館や図書館といった社会教育、或いは学校教育、教材開発といったテーマが中心となっている。また、大学や大学院におけるカリキュラム開発そのものに関する言及が多い。しかし、近年、デジタルアーカイブは初期の展示やウェブ公開など図書館、博物館、文書館の所蔵する文化遺産を中心とした提示や活用から、企業などを含む社会の広い領域にその活用範囲が広がってきた。また、創造的な知的生産やナレッジマネジメントへの活用が求められている。したがって、人材育成教育に関しても、デジタルアーカイブの多様性に対応した研究がさらに必要である。 ## 2.2 カリキュラム 次に、デジタル・アーキビストのカリキュラムについて、具体的な事例を見ていく。デジタル・アーキビス卜資格を認定している NPO 法人日本デジタル。 アーキビスト資格認定機構が定めている授業内容は、以下の通りである。 ## ■必要単位 34 単位: 必須科目 10 単位 + 選択科目 2 単位以上 + 選択分野 22 単位以上 ## 【必須科目】 デジタルアーカイブ文化論、デジタルアーカイブメディア論、計画と資料の収集、デジタルアーカイブ選定評価、保存とメタデータ ## 【選択科目 I】 デジタルアーカイブ実践、デジタルアーカイブ活用と評価 ## 【選択分野 II】 デジタルアーカイブと教育、デジタルアーカイブと博物館、デジタルアーカイブと図書館、デジタルアーカイブ活用と観光、デジタルアーカイブと提示、デジタルアーカイブと収集 (NPO 法人日本デジタル・アーキビスト資格認定機構より) ${ }^{[30]}$ 認定機構に登録している大学等認定養成機関は 10 機関、そのうち、デジタル・アーキビストを養成している機関は岐阜女子大学、NPO 法人日本アーカイブ 協会、常磐大学、東京家政学院の 4 機関である。この 4 の認定機関で開講している授業科目は、おおよそ共通しており、以下のとおりである。 \\ (岐阜女子大学便覽2018より) ${ }^{[31]}$ この一覧表からは授業科目の具体的な内容はわからないが、応用分野のタイトルを見ると、観光という視点があるものの、他は博物館や図書館、教育、文化遺産に偏っているのがわかる。認定機関により特色を持たせることができるのがこの応用分野であるため、観光以外にも、企業、建築、食物、衣服、スポーツ、芸術、農業、行政、防災その他多様な分野での応用の視点が必要である。また、対象分野の理解、デジタル化の技術、関連法と倫理、プロデュース力やコミュニケーションカ、ニーズ分析、資料の選定、メディアの選定、ナレッジマネジメントの促進、市民参加型デー 夕収集などといった各種能力を育成する具体的なカリキュラムが必要である。 こうしたカリキュラムを充実させることが、専門職としてのデジタル・アーキビストの質を保証し、採用、待遇改善、キャリアパスの形成につながるであろう。 そこで、今後のカリキュラム改善の方向性について考察するため、海外におけるデジタルアーカイブ関連の人材育成教育の調査を行ったので、次にそれについて述べる。 ## 3. 海外のデジタル・アーキビスト育成の動向 海外では、欧米を中心にアーキビスト育成への取り組みが広がりつつある。その取り組みでは、新たに アーキビストを育成する教育と社会人アーキビストの資格再認定のための教育がある。前者は大学で、後者は主に関連協会で行われている。いずれの教育においても、近年は最新のデジタル技術の利活用を学ばせており、デジタル・アーキビストの育成を指向している。 こうしたアーキビスト人材の育成で先行する大学と関連協会の取り組みについて、アメリカに焦点を当てながら、カナダ、イギリス、オーストラリアにおける最近の動向を紹介する。 ## 3.1 アメリカにおける教育 2016 年のアメリカの国勢調查によると、アーキビストに認定されて各機関で働いている人口は 5,760人である ${ }^{[57]}$ 。自営アーキビストを加えると、アーカイブズ関連の仕事をしている者は 6,000 人を超えると思われる。主な職場でみれば、表 1 に示すように、学校、産業界、政府での活動が多く、それぞれにおける待遇 (平均値)も悪くない。地域別に見ると、人口が多いニューヨーク州やカリフォルニア州、ワシントン DC 等の都市部の教育機関や公的機関での雇用が多い ${ }^{[57]}$ アーキビストの仕事は、社会の文化遺産を保護するだけでなく、個人の権利を保証する等、多様な役割を担いつつある。アメリカ国立公文書館によれば、国民が政府の記録にアクセスできることで行政に関する説明や責任を求めることができ、これが健全な民主主義を強くするのだという ${ }^{[42]}$ 。今日では様々な記録の保存と活用において、利便性に優れたデジタル化が進行し、デジタル関連の知識を持ったアーキビストの必要性が高まっている。その人材育成のため、デジタルに重きを置く教育機関がアメリカでは増えてきた。 (1) 大学における教育 大学におけるアーキビストの育成は、図書館情報学や歴史学を教える部門で行われ、社会に出て専門職として働くには、修士課程以上の大学院での学修が求められている。その必要性は、伝統あるアメリカアーキビスト協会 (Society of American Archivists, SAA、1936 年設立)公認のアーキビスト資格取得に必要な教育を行うためとされている。このSAA は、アーキビストの質保証のために 1977 年以来複数回に渡りアーキビスト教育のカリキュラムのガイドラインを策定しており、各大学はこのガイドラインに沿ったカリキュラムを展開している ${ }^{[48]}$ 現在のガイドラインによると、大学院のプログラムでは、学修者がアーカイブズに必要な技術力を高めることに加え、倫理や記録管理の本質についても知識を身につけるべきだという ${ }^{[4]}$ 。それは、アーカイブズ 資料の作成と利活用の責任が、所属する組織や職に対してだけではなく、一般国民に対しても及ぶからである。その上でSAAは、人材育成において学ぶべき次の3つの柱を揭げている ${ }^{[49]}$ 。 (1)アーカイブズの理論・方法論 (2)アーキビストという専門職とアーカイブズ進展の歴史 (3)どんな記録を管理、保存すべきかの知識 アメリカの各大学は、このガイドラインに沿ったカリキュラムを設定している。ただし、その設定はSAA の認定を必要とせず、大学は各々の裁量でカリキュラムを自由に組み立てている。それが、歴史学に明るいアーキビストや図書館情報学に明るいアーキビスト等、多様な人材を生み出してきた。 SAA がアーキビスト教育機関としてリストアップしているのは、ミシガン大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、ジョンズホプキンス大学等の 45 校である ${ }^{[46]}$ 。中でも、ミシガン大学情報学部は歴史的に古く、 1926 年より図書館で働く人材の育成を行い、1948 年には早くも大学院課程を開設している。現在の開講科目には、「Understanding Records and Archives: Principles and Practices:記録とアーカイブズの理解-原理と実践」「Digital Preservation:デジタル保存」「Appraisal of Archives:アーカイブズの評価」等で、どんな記録を残すべきかを理解するカリキュラムがあり、それに加えて「Privacy in Information Technology:情報技術におけるプライバシー」や「Ethics and Information Technology:倫理と情報技術」というアーキビストとして身に付けるべき情報管理と倫理、さらにコンピュータやインターネットの始まりからいかに社会が形作られてきたかを学ぶ「History of Computers and the Internet:コンピュータとインターネットの歴史」などの教科が組み达まれている。その他、ソーシャルメディアやサイバーサイエンス、アプリケーション、ウェブアーカイブズを扱う科目や、起業に関する科目もあり、総じて現代社会のニーズを反映したものとなっている ${ }^{[5]}$ 。ちなみにこの大学は、雑誌『USニュース』の「アーカイブズと保存」部門で 2017 年に「最も良い大学院」 として選ばれている ${ }^{[58]}$ 最近の就職サイトでは、「デジタル・アーキビスト」 を求める 79 ものポジションが示されているが、応募要件の多くに大学院レべルの学位や、図書館や博物館、 アーカイブズ関連の職場で 1 年以上の職務経験のあることが求められている ${ }^{[40]}$ そのため、SAAのガイドラインには、大学院でのプログラムに実習やインターンシップのような実践的な経験を組み込むべきだと明記されている ${ }^{[48]}$ 。実際、多くの大学では在学中のインターンシップを可能にし、マサチューセッツ州のシモンズカレッジのように大学院初年度のインターンシップを必須科目としている場合もある ${ }^{[44]}$ 。さらに、選択科目「Archives Field Study:アーカイブズ・フィールドスタディ」にて 130 時間のインターン経験を積むことで単位を取得できる。この 130 時間の達成には、フルタイム勤務で 3 週間超、半日勤務にすれば、1.5ヶ月余も要するので、学期内での勤務時間の積算値が 130 時間を充たせばよいことになっている。 (2)協会等による質保証への再教育 デジタル社会の急速な発展に応ずるため、アーキビストの認証資格の有効期限は 5 年間と定められ、現役のアーキビストはその資格更新のために再教育を受けて5 年毎の再認定が必要とされている。 それの再教育機関には、前出のアメリカアーキビス卜協会(SAA)があり、そこから発したアーキビスト認定協会 (The Academy of Certified Archivists, ACA) がある。また、一部の大学でも再教育が行われている。 SAA には現在 6,200 人ものアーキビスト認定者が登録され ${ }^{[50]} 、$ 表 1 に示したような各種職場で活躍している。そうした現役アーキビスト再教育のために、 SAA では対面研修やオンラインによる遠隔授業を常時開講している。その中に、近年のデジタル化の動向に応じた「デジタル・アーキビストスペシャリスト (Digital Archivist Specialist, DAS)」を認定するカリキュラムがあり、例えば「Copyright Issues for Digital Archives:デジタルアーカイブズの著作権問題」や 「Standards for Digital Archives:デジタルアーカイブズの基準」等の科目が開設されている ${ }^{[45]}$ 。これらの科目履修後に受ける資格再認定試験は、年 3 回アメリカ各地で行われている。試験では過去の受験科目を選択できないという制約が設けられ、アーキビストは常に新しい科目を学んで受験に臨まねばならない。この巧みな制度によって、古参のアーキビストのスキルアップとリフレッシュが図られている。 もう一つの協会、ACA はアーキビストの認定プログラムを啓発するために 1989 年に SAA の会議で設立されたものである。ここでの資格認定は、SAAよりも厳しく、受験申达資格として、アーカイブズ関連の修士号の取得とアーキビストの職務経験が 1 年以上あることを求めている。また、修士号をアーカイブズ関連以外で取得している場合は、職務経験が 2 年必要と定 アーキビストの登録者は、現在 1,000 人を超えている。 SAA の登録者に比べてかなり少数であり、アーキビストの質保全に努めてきたことが窥える。ちなみに、 ACA の受験料は 50 ドル、合格者の認定料は 150 ドルである。しかし、一度合格をすれば資格が永久に保証されるのではなく、SAA と同様に 5 年ごとに更新する制度になっている。その更新は再認定試験をクリアするか、オンラインセミナーや研修への出席による必要な単位の取得で可能となる ${ }^{[32]}$ 。 他方、大学にも現役のアーキビストへの再教育を行うところがある。たとえば、アリゾナ大学の情報学部は、教育プログラムの中に「デジタル記録管理の必要性の高まりを受け、アーカイブズ関連の職に就いている人に継続的な教育を提供する」と明記して、再教育に向けた科目を開講している ${ }^{[51]}$ このようにアメリカは、アーキビスト専門職に対して継続的な学びの場を提供し、常時のスキルアップを促している。こうした質保証への取組みは、専門職としてアーキビストの果たす役割の重要性がアメリカでは広く認知されていることを示唆している。 表1 アメリカにおけるアーキビストの職域別構成 & 1,300 & $\$ 26.50$ & $\$ 55,120$ \\ (国勢調査 2016年5月) ## 3.2 カナダ、イギリス、オーストラリアにおける教育 アメリカと同様に、カナダ、イギリス、オーストラリアにおけるアーキビストの資格認定は、関連協会で行われ、大学は協会と連携しつつ資格取得のための教育を行っている。いずれの国も近年は、主として国家や自治体などの公的機関が記録の作成 $\cdot$ 管理 - 利活用の重要性を認めており、それを専門に扱えるデジタル・アーキビストの育成と再教育に力を入れるようになってきた。 これら各国の取組みは概ねアメリカに準じている。 しかし、それぞれにも特徴があるので、以下にその辺をかいつまんで紹介する。 ## 3.2.1 カナダの取り組み (1) 大学における教育 カナダアーキビスト協会 (Association of Canadian Archivists, ACA)のホームページによれば、アーキビストの人材育成を行っている大学は現在のところ 7 校である。協会によると、アーキビストになるには修士課程を修了していることが一般的たといい、提供されている科目も、記録管理やアーカイブズの公共サービス等従来の科目の他にデジタルに関する科目が増えつつある ${ }^{[35]}$ 。 たとえば、ブリティッシュ・コロンビア大学では、 「The Preservation of Digital Records:デジタル記録の保存」や「Records Systems in the Digital Environment:デジタル環境における記録システム」等 ${ }^{[52] 、 マキ ゙ ル大 ~}$学では「Digital Curation:デジタルキュレーション」 や「Digital Libraries:デジタルライブラリー」等 ${ }^{[41]}$ が開講され、マニトバ大学では、ACAのガイドラインに沿って修士課程初年度に「Archiving in the Digital Age:デジタル時代におけるアーカイブズ」を必修科目としている ${ }^{[55]}$ さらに、このマギル大学はインター ンシップも必修とし、アメリカの大学と同様に、実践を重視した教育を行っている ${ }^{[41]}$ 。 (2)アーキビスト関連協会の取り組み カナダアーキビスト協会(ACA)は、アメリカのようにアーキビスト資格に有効期限を設けていない ${ }^{[35]}$ しかし、会員のスキルアップのために、年一回の定例会議の際、参加者を対象にした研修を行っている。それは中級から上級者向けで、期間は半日、一日、二日間の各コースがある。学べる内容はアーカイブズ理論等の他、デジタル保存やアクセスについて等のIT 関連科目が含まれている ${ }^{[36]}$ この他、ブリティッシュ・コロンビア・アーカイブズ協会 (Archives Association of British Columbia, AABC) でも、アーキビスト向けの対面研修や通信教育を受けることができる ${ }^{[34]}$ 。使用テキストが英語以外でも作られており、他言語で履修できる点がこの協会の特徴である。「Managing Archival Photographs : アーカイブズ画像の管理」や「Oral History:オーラルヒストリー」、「Introduction to Managing a Digitization Program : デジタルプログラム管理入門」等、履修できる科目が多いので、アーキビストは現職に必要な科目を選んで学修できる。 ## 3.2.2イギリスの取り組み (1) 大学における教育 イギリスのアーカイブズ記録協会(The Archives and Records Association, ARA)」は、アーキビスト資格取得志望者に対して、7つの認定校の大学院コースの学位 (修士号) や履修証明書の取得を推奨している ${ }^{[33]}$ 。そのため、ARA はこれらの大学に対して、学術的な知識に加え、実践的なスキルを併せ持つように、バランスの取れたカリキュラムの設定を求めている。大学には対面授業の他、遠隔授業で学べるコースもあり、受講者への門戸は幅広く開かれている。 各大学での学修プログラムでは、従来のアーカイブズ関連科目に加えて、最近ではデジタル関連の科目が増えつつある。例えばグラスゴー大学では、「Archives and Records Information Management:アーカイブズと記録情報の管理」や「Management, Curation and Preservation of Digital Materials : デジタル素材の管理・キュレーション・保存」等のコースが開講されている ${ }^{[54]}$ 。ユニバー シティ・カレッジ・ロンドンでも、「Access and Use of Archives and Records:アーカイブズ記録のアクセスと使用」や「Information Governance:情報ガバナンス」、「Database Systems and Design:データベースシステムとデザイン」等の科目が設けられている ${ }^{[53]}$ (2)アーキビスト関連協会の取り組み アーカイブズ記録協会(ARA)が行っている研修では、従来型のアーカイブズ関連科目と最近のデジタル関連科目の他に、ボランティアとしてアーカイブズの活動をするための科目もある。しかし、一度認定した資格にはアメリカのような有効期限は設けていない。 それゆえ、アーキビストの質保証に向けて、イギリスの国立公文書館は、アーカイブズの専門家を目指す者には、学士号取得後に大学院での修士号を取ること、既成のアーキビストには協会の研修で新しい関連プログラムを学修するように促している ${ }^{[43]}$ 。 ちなみに、イギリスのアーキビストの内訳は、 $71 \%$ は公的機関で $29 \%$ が民間のアーキビストとして勤務している。また、全体の $70 \%$ が女性であり、女性が活躍する職業となっている ${ }^{[39]}$ ## 3.2.3 オーストラリアの取り組み (1) 大学における教育 $ \text { オーストラリアにも、オーストラリア・アーキビス } $ 卜協会 (Australian Society of Archivists, ASA) という組織があり、アーキビストを目指す学生向けに、ホームページ上でASAの認定する大学を掲載している。現在、協会から認定を受けている大学は5つである ${ }^{[37]}$ 。その認定期間は概ね 5 年であるが、ただ一つエディス. コーワン大学が 10 年の認定を受けている。 この大学では、修士以上の課程に受け入れる学生は アーカイブズの学修経験者のみと規定し、カリキュラムのグレードアップを図っている。たとえば、デジタル記録の保存やセキュリティについてのコースがあり、ハッキングや IT 犯罪、ワイヤレス環境での安全面についても学修でき、現代社会のニーズに対応できる取り組みになっている。 (2)アーキビスト関連協会の取り組み ASA も認定資格に有効期限を設けていないが、アー カイブズに関する教育は行っている。それは主に $\mathrm{e}$ ラーニングで、6 種類のコースがある ${ }^{[38]}$ 「Introduction to Records and Archives:記録とアーカイブズ入門」や 「Appraisal:評価」の他「Digital Records and Archives: デジタル記録とアーカイブズ」というコースも設置されている。このコースでは、デジタル化に伴う記録管理の変遷やデジタル記録への移行、デジタル保存の概念等について学ぶことができる。これらは、現役のアーキビストも学生も履修することができ、学びの門戸は他国と同様に幅広く開かれている。 ## 3.3 まとめ 海外、特に欧米先進国では、将来のアーキビストを育成するのみならず、既にアーキビストとして活躍している人材を更に成長させ専門家としての能力を伸ばす取り組みも多くなった。社会におけるアーカイブズ化の理解が進み、様々な企業、NPO、政府機関、学校等でも組織の文書をデジタル化して保存する動きも進んでいる。 一方、現状では、個々の育成の取り組みについて、 そのアウトカムを定量することは難しい。しかし、 SAA では、アメリカ・カナダの 380 余の企業や組織が自身のアーカイブズ状況を公開するようになり、それぞれ、多くのアーキビストや司書を担当者として置いている ${ }^{[4]}$ 。これは、アーキビスト教育が広がっていることの表れと言えよう。また、表 1 から分かるように、公的機関を初め多くの場所でアーキビストの活躍の場が増えていることも、大学や関連機関で教育が行われた結果と言える。また、イギリスでは、アーキビストの育成が女性の活躍の場を増やして来たことも注目に値する。 こうした業務では、膨大なデータを取り扱うため、 より信頼性の高い情報の集約と保存ならびに有効利用のためのアクセスの容易化が強く求められている。このニーズに応じ、欧米先進国では情報処理に精通したデジタル・アーキビストの育成がますます盛んになる動向にある。 ## 4. デジタル・アーキビストの増加に向けて 2006 年に始められた NPO 法人日本デジタル・アー キビスト資格認定機構による人材育成制度では、現在、準デジタル・アーキビスト、デジタル・アーキビスト、上級デジタル・アーキビストなど約 4,500 人の有資格者が養成されている。しかし、資格取得のための研修会実施は岐阜女子大学、常磐大学、東京家政学院、島根大学、東北文教大学短期大学部、別府大学、沖縄女子短期大学、上田女子短期大学、札幌学院大学の全国 9 大学と NPO 日本アーカイブ協会に限られており、 さらに、一般向けの講座は東京、大阪、岐阜に集中す るなど学習機会の提供が限られており養成者数拡大に は課題が多い。さらに、デジタルアーカイブの理論・技術は大きく変化しており、デジタルアーカイブ学会等の関係学会から得られる知見を反映した人材育成が 必要になってくるだろう。また、総務省では、情報通信技術(ICT)を地域の課題解決に活用する取組に対 して、ICT の知見・ノウハウを有する専門家を派遣す る「地域情報化アドバイザー派遣制度」を実施してお り、制度の趣旨に沿う場合には、これを利用した養成方法も考えられる。 アグリゲータの行う人材育成についての活動事例として、国立科学博物館が中心となったサイエンス 学が参加し、日本から 450 万件のデータを生物多様性情報機構 GBIF(分散型データベースにより約 10 億件が全世界で流通)に提供している。2006 年 8 月から稼働を開始したが、その後も、参加機関の学芸員や研究者のコミュニティーを維持するため、絶滅危惧種レッドリストの提供やメタデータ検討、最新技術や活用方法、知的財産権処理のミーティングを年 2 回開催している。このように国の援助や各分野でのナショナルセンターの行う人材養成機能が、デジタルアーカイブコンテンツの充実には極めて重要である。 また、東日本大震災に関する記憶の風化を防ぎ、防災・減災対策や防災教育等に関する効果的な利活用を図る目的で開発された宮城県の「東日本大震災アーカ ニケーションズとビクターアドバンストメデイアを中心とした企業連合は、常磐大学坂井知志氏のコンサルティングにより作業開始前に 12 人を対象に日本デジタル・アーキビスト資格認定機構の準デジタル・アー キビスト資格取得講習会を実施した。その基礎の上に約 5 万件の権利処理を行い、公開することが出来た。 これらの組織的取り組みに比較して、地域・コミュニティーアーカイブの充実における人材育成には課題 が多い。都道府県のセンター機能を持つデジタルアー カイブ関係機関が、アグリゲータ機能の一環として、図書館、文書館、博物館、自治体、大学など各分野で開発を担う人材に対するサポート制度を構築することがデジタルアーカイブ開発に不可欠ではなからうか。 ## 5. おわりに 現在、博物館、図書館、文書館、大学、自治体のもつ多様な情報・メデイアがデジタル化され横溢しているにあって、図書館を除けば各機関別に所在情報や、 どのように利用できるのかが不明である。さらに、全てを統合し横断的に検索し調查・活用することが極めて困難である。このことは、知識基盤社会を目指す日本にとって極めて大きな課題と言わざるを得ない。これらを解決するためにデジタルアーカイブを企画・開発・運用するデジタル・アーキビストの養成が必要ではなか万うか。しかし、欧米と比較してスペシャリストとして採用、待遇が成立しておらずキャリデザインが出来ない状況下にある。デジタルアーカイブやデジタル・アーキビストの社会的認知度を上げる努力とともに、図書館、博物館、文書館、大学、企業、自治体等各現場での実践的な開発・運用を人材養成プログラムにフィードバックするなどにより、社会での利活用を進め現在の担当者の評価を高め、キャリアパスを形成していくごとが人材育成に繋がるのではなかろうか。 ## (註・参考文献) [1] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」内閣府知的財産戦略推進事務局, 2017 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/ houkokusho.pdf [accessed 2017-5-26] [2] 国立科学博物館におけるデジタル・アーカイブスの活用と課題(教育情報の流通著作権と情報倫理, 日本教育情報学会第21回年会), 井上透, 年会論文集 (21), 52-55, 2005 [3] 社会教育施設に打けるデジタルアーキビストの役割:地域の文化資源を社会基盤化し共有・発信する人材育成(特集デジタルアーカイブと社会教育施設), 井上透, 社会教育= Social education 71(9), 14-19, 2016-09 [4]博物館データベースとデジタル・アーカイブ:博物館に打けるデータベース活用の一考察(デジタルアーカイブ,一般研究, 教育情報と人材育成〜未来を育む子供たちのために ), 田中博昭, 年会論文集 (31), 226-227, 2015 [5] 学芸員課程におけるコンピュータ利活用教育--デジタル. 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cc-by-4.0
Japan Society for Digital Archive
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# ヒロシマ・アーカイブにおける非専門家による参加型デ ジタルアーカイブズの構築 Construction of Participatory Digital Archives by Non-experts in the Hiroshima Archive 田村 賢哉 ${ }^{1, *}$ TAMURA Kenya ${ }^{1, *}$ 秦 那実 $^{1}$ HATA Nanomi ${ }^{1}$ 井上 洋希 INOUE Hiroki ${ }^{1}$ 渡邊 英徳 ${ }^{2, * 2}$ WATANAVE Hidenori, ${ }^{2}$ 1 首都大学東京大学院システムデザイン研究科 Email: [email protected] 2 首都大学東京システムデザイン学部 1 Graduate School of System Design, Tokyo Metropolitan University 2 Faculty of System Design, Tokyo Metropolitan University } (受付日: 2017年9月1日、採択日: 2018年8月6日) 抄録 :「デジタルアーカイブ」の多様化により、これまで利用側であった非専門家である市民が積極的にアーカイブズに取り組む 可能性を有している。そうした背景から本稿では、デジタルアーカイブにおける市民参加の新しいアプローチとして、ヒロシマ・ アーカイブなどの「多元的デジタルアーカイブズ」の複数の活動の特徴を述ベ、それらの有機的な制作環境の実態について言及し た。そうした実践からデジタルアーカイブの社会に及ぼす影響について考察を行い、デジタルアーカイブの新しい研究領域として 「参加型デジタルアーカイブズ」を述べている。 Abstract: Due to the diversification of "digital archive", there is a possibility that non-expert citizens who used to be on the user side will tackle archiving positively. In this paper, we describe the characteristics of "multi-dimensional digital archives" such as Hiroshima Archive, and also their organic production environment as a new approach to citizen participation in digital archiving. We discuss the impact of digital archives on the society from the practices, and propose "participatory digital archives" as a new research area of digital archive. キーワード : 参加型デジタルアーカイブズ、多元的デジタルアーカイブズ、地理空間情報、ワークショップ Keywords: Participatory digital archive, Multi-dimensional digital archives, Geospatial Information, workshop ## 1. はじめに 近年、デジタルアーカイブが普及し、アーカイブズ学の分野だけでなく、社会学や建築学、デザイン工学など広範な学問分野にて研究・実践が見られる。こうした状況のなかで、「デジタルアーカイブ」のありようは、アーカイブズ学の定義にもとづく「アーカイブ」 の本質・意義に限定されず、それぞれの学問領域における多様さをみせている。 アーカイブズ学における記録保存は、専門職であるアーキビストによって定められた厳密な手続きによってきた。そのため、厳密なアーカイブズには、ある一定の専門的な知識と技術、認識を必要とする。初期のデジタルアーカイブでも、アーカイブズの専門知識に加え、プログラミング言語に関する知識や情報リテラシーなど多様な知識が必要とされるばかりでなく、デジタル化の進歩にも常に対応しなければならないという難しさがあった ${ }^{[1]}$ 。そうしたことから、従来のデジタルアーカイブと市民の関係性は、コンテンツとその使用者という関係である。それがデジタルアーカイブ ## 現所属 ${ }^{*}{ }^{1}$ 東京大学大学院学際情報学府 *2 東京大学大学院情報学環 として説明される事象が多様になり、これまで使用側であった非専門家である市民が積極的にアーカイブズに取り組めるようになりつつある。 戦後 70 年以上経過し戦争体験者が高齢化する中、公的記録では描ききれない戦争体験者の記憶を残していくオーラル・ヒストリーに関心が高まっている ${ }^{[2]}$筆者らは、広島原爆の被爆者へのインタビューを進め、 その証言をデジタルアースにマッピングし、「ヒロシマ・アーカイブ $\left.{ }^{[3]}\right.\rfloor$ として公開してきた。さらにそれらの活動を通して、「記憶のコミュニティ」という概念を提唱している(図1)。渡邊 ${ }^{[4]}$ は、「記憶のコミュニティ」を被爆者と地元の若者を中心にアーカイブを育み、記憶の継承を目指した運動体と定義している。 ヒロシマ・アーカイブは、過去の出来事の実相を伝えるためのデジタルアーカイブであり、その開発には記憶のコミュニティによる一般市民が参加している(図 1)。現在、ヒロシマ・アーカイブの記憶のコミュニティは戦争体験者の証言収集だけでなく、視覚障害者向けヒロシマ・アーカイブの制作や日米高校生平和会議の開催など幅広い活動を展開している。これらの活動を、従来にはなかった市民参加型のデジタルアーカイブとして解釈することができる。本稿ではこれを 「参加型デジタルアーカイブズ」と呼ぶ。 本稿では、デジタルアーカイブにおける市民参加の新しいアプローチとして、ヒロシマ・アーカイブの活動を述べ、その有機的な制作環境の実態の分析をもとにして、市民参加の手法とその在り方を整理する。 図1ヒロシマ・アーカイブ ## 2. デジタルアーカイブにおける従来の市民参加手法 デジタルアーカイブの多様化に伴い市民によるデジタルアーカイブ制作ワークショップが報告されている。それらの目的は「a) 資料の一元化」と「b) 記憶継承」に大別される。 「a) 資料の一元化」は、散らばっている無数の資料を収集し、整理して一元化を目指している。特に多くの東日本大震災に関するデジタルアーカイブのプロジェクトは、ネットの力を利用して散逸した資料の収集を目的に実践されている。これらは、インターネットを通したコンテンツの投稿型となり、多くの市民参加が可能である ${ }^{[5]}$ 。 一方、「b)記憶継承」は、公的な歴史資料でなく、 オーラル・ヒストリーとして関係者の体験談を聞き取り、非体験者に語り継いでいくことを目指している ${ }^{[6}$ 。日本では戦争体験者が高齢化しており、そうした戦争体験の語りの継承としてデジタルアーカイブの制作が進められている。 また坂田 ${ }^{[7]}$ は、コミュニティ主体のアーカイブ活動が抱える主な課題に、資金不足、人材不足、知識不足の面からみた持続可能性の乏しさについて指摘し、 デジタルアーカイブの継続のためにコミュニティ同士の連携の必要性を述べている。こうした課題は、「資料の一元化」と「語りの継承」のどちらの目的のデジタルアーカイブでも当てはまる。そのうち、「b)記憶継承」を目的としたデジタルアーカイブは、市民の当事者としての意識付けが必要となるため、制作者側のコミュニティが蛸壼型になる可能性がある。 こうしたことから、市民参加型のデジタルアーカイ ブにおいて、持続可能性が求められていることがわかる。筆者らは、ヒロシマ・アーカイブ ${ }^{[3]}$ の制作を通して、市民参加型デジタルアーカイブに持続可能性を持たせるための要件として、以下の 3 点を重視して実践を展開してきた。 (i) 制作:市民によるデジタルアーカイブ制作 (ii) 活用:デジタルアーカイブの活用 (iii) 連携:市民コミュニティの連携 本稿では、持続可能性を備えた市民参加型デジタルアーカイブの実践手法について、非専門家である高校生を対象としたワークショップ実践の解説を通して述べる。 ## 3. 制作 : 市民によるデジタルアーカイブ制作 まず、(i) 制作について、デジタルアーカイブの制作を目的にしたワークショップを開催している。これは特に専門的スキルを有していない広島女学院高等学校の高校生がデジタルアーカイブの制作スキルの習得を目指すものである。ヒロシマ・アーカイブでは、被爆証言の収集を高校生が担っている。それらを編集して、ヒロシマ・アーカイブに掲載するまでの一連の流れを、デジタルアーカイブ制作ワークショップに組み达んでいる。 高校生によるヒロシマ・アーカイブの制作活動については、既に渡邊により具体的な方法論が報告されている ${ }^{[8]}$ 。高校生によるヒロシマ・アーカイブの制作ワークショップは、被爆者の証言収録活動を行い、被爆地を基準に証言をデジタル地図上にマッピングする。高校生は、2011 年から現在にかけて制作ワークショップを継続しており、新規に収録した被爆証言をヒロシマ・アーカイブに掲載してきている。 ## 4. 活用 : デジタルアーカイブの活用 次いで (ii) 活用について、(i)で制作したデジタルアーカイブの活用を目的にしたワークショップを開催している。これは高校生がデジタルアーカイブの活用を目指して、そのための取り組みを検討し実践を目指したワークショップである。次節では、ワークショップの詳細を説明する。 ## 4.1 ワークショップの背景及び目的 2012 年より広島女学院高等学校の生徒とヒロシマ. アーカイブの制作ワークショップを実施してきた。 2015 年より、生徒たちから「本当に多くの人達に被爆者の証言を提供できているのか?」という疑問の声があがった。実際、ヒロシマ・アーカイブでは 3 次元のデジタ ル地球儀に証言がマッピングされているため、利用者にある程度の操作スキルを必要とする。例えば、高齢者にとってスマートフォンや PCでの操作は必ずしも慣れておらず、また中学生以下はインターネットを用いて被爆資料を閲覧するきっかけが少ない。したがってヒロシマ・アーカイブには、提供にあたり弱者ともいえるユーザーが一定数存在していると考えられる。 そうしたことから、ヒロシマ・アーカイブの制作活動は継続しつつ、ヒロシマ・アーカイブ利活用を促進するためのワークショップを開催した。 ## 4.2 ワークショップの実施 広島女学院高校にて2015年6月20日~6月21日と、 7 月 19 日にワークショップを開催した。参加者は、高校生 20 名、大学生 8 名の合計 28 名である。大学生のうち 1 名はファシリテーター、7名はサポート役を務めた。スケジュールは図 2 に示す通りで、合計 20 時間である。そのうち、6時間は広島市街地のフィー ルドワークを展開した。 を応用した。スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所は、デザイン思考のメソッドとして(1)共感、(2)問題定義、(3)アイデア創造、(4) プロトタイピング、(5)テスト検証の5つのステップで構成されたユーザー中心の設計プロセスを公開している ${ }^{[9]}$ 。今回のワークショップではこの手法を応用し、「広島を訪問した人がヒロシマ・アーカイブを使うには?」という課題で6名のユーザー像を提示し、それ を1グループにつき1ユーザーを取り組むこととした。 そして、それらのユーザーが抱えるヒロシマ・アーカイブの課題を抽出し、その解決策(アイデア)を数多く創出していく。それらの解決策を整理して、プロトタイプに落とし、街にでてテスト検証を行った。 例えば、修学旅行生を対象としたヒロシマ・アーカイブの利用法を検討したチームにおいては、「雾囲気を明るくし、より多くの人が利用しやすくすべき」「ゲーム性を付加すれば、より使ってくれるようになるのでは」といった意見が得られた。このチームはその後、ヒロシマ・アーカイブのコンテンツと併用する 「ワークブック」の制作に取り掛かっている(図 3)。 また、視覚障害者向けのヒロシマ・アーカイブの利用法を検討したチームはその後、ヒロシマ・アーカイブを模型で表現し、触覚べースで情報を提示するプロジェクトを開始し、継続して取り組んでいる。 ## 4.3 結果(1): 記憶継承活動の目的への集中 このワークショップにおいて、高校生はヒロシマ・ アーカイブの潜在的なユーザーを理解し、ユーザーのニーズを満たす創造的なアイデアを見つけることができた。生徒たちの活動のそもそもの目的は「次世代に証言をつなぐ」ことであり、当初、目的に据えられていた「デジタルアーカイブの制作」は、そのための手段である。この気づきをもとに、ヒロシマ・アーカイブの利活用を意識するようになった。筆者らは、その解決手段としてデザイン思考メソッドを導入し、ワー クショップを実施した。その後も(4)プロトタイピング、(5)テスト検証のステップを反復しながら、最初のアイデアをブラッシュアップし続けている。 図3 修学旅行向けのヒロシマ・アーカイブワークブック(制作:広島女学院高等学校署名実行委員・首都大学東京大学院秦那実) ## 5. 連携:記憶のコミュニティの連携 さらに (iii) 連携について、ヒロシマ・アーカイブと同様の技術基盤を共有している記憶のコミュニティ間の連携ワークショップを開催している。これは何かしらの記憶継承を目的とする記憶のコミュニティがお互いの活動を知り、連携を図ることでより活動の強化を目指したワークショップである。次節では、ワークショップの詳細を説明する。 ## 5.1 ワークショップの背景及び目的 ヒロシマ・アーカイブと同様の手法で、「ナガサキ。 アーカイブ」 $]^{[10]}$ や東京五輪アーカイブ」 ${ }^{[1]}$ などが制作されてきた。その結果、各アーカイブと連携する、記憶のコミュニティが存在する。しかし、これまで各々のコミュニティは個別に活動しており、共に活動する機会は設けられてこなかった。とはいえ、それぞれの記憶のコミュニティの活動は「記憶継承」という目的において一致しているため、連携は可能なはずである。そこで筆者らは、2017年 5 月のオバマ合衆国大統領の広島訪問を契機として、記憶のコミュニティ同士の連携を始めた。 ## 5.2 ワークショップの実施 筆者らは、記憶のコミュニティの連携の試行として、日米の高校生が記憶継承のありかたについて検討する 「日米高校生平和会議 ${ }^{[12]}$ 」開催した。 初日(2016年 9 月 18 日)はハーバード大学サイエンスセンター、二日目(9月19日)はボストン公共図書館にて、それぞれワークショップを実施した。このワークショップには、日本から 7 名(広島 4 名、東京 2 名、長崎 1 名)、アメリカから 45 名、計 52 名の高校生が参加した。加えて、大学生 6 名がサポート役を務めた。スケジュールを図 4 に示す。 初日は 3 部構成とした。まず記憶のコミュニティ間で活動目的、活動内容といった情報の共有が必須である。第 1 部では、アメリカ在住の被爆者の講演を聞く場を設けた。次いで第 2 部では、日本の生徒たちによる活動プレゼンテーション、ウィルミントン大学平和資料センターによる、二国間の原爆についての認識と平和教育の違いについての講演を実施した。そして第 3 部では、日米の高校生が混在する7つのグループを編成し、「平和に向けて私たちに何ができるか」をテー マとしたアイデアの創出をワークとして課した。ワー クに打ては、まず生徒たちが各々の平和活動の内容を再共有し、それに基づくアクションプランについて考えた。ここでは、まずアイデアを発散したのち、 図4 日米高校生平和会議のスケジュール ワークシートにアイデアを整理するよう指示した。整理においては、活動の目標、目的、手段の3つを観点に据えた(図 5)。参加者からは、「日米の高校生が共同でワークブックを制作する」「日米の共同で核廃絶に向けた署名活動を行う」といったアクションプランが創出された。二日目は、初日に創出されたアクションプランを、ボストン市民に向けてプレゼンテーションする場とした。 ## 5.3 結果(2): ヒロシマ・アーカイブとナガサキ・アーカイブ、それぞれにおける記憶のコミュニティの様相は異なっている。例えば、ヒロシマ・アーカイブは高校生が主体としたコミュニティになっているが、ナガサキ・アー カイブは大人が主体となっている。それでも、オバマ大統領の広島訪問を契機に、2つの記憶のコミュニティにて同時多発的にアメリカでの活動展開の提案があり、それぞれのアイデアを集約する形で日米高校生平和会議の開催することが決まった。そして、日米高校生平和会議には、ヒロシマ・アーカイブから4名、 ナガサキ・アーカイブから 1 名の高校生に加え、東京五輪アーカイブから 2 名の高校生が参加した。 こうしたことから、記憶のコミュニティのテーマは異なっても、「次世代への継承」という目的と技術基盤が一致していることで、異なる様相のコミュニティ間での連携が可能であった。 図5日米高校生平和会議のアクティビティプランシート ## 6. 考察 ## 6.1 ヒロシマ・アーカイブにおける記憶継承 図 6 の (a) にヒロシマ・アーカイブが存在する前の記憶のコミュニティの実態を図式として示す。広島ではヒロシマ・アーカイブを制作する以前から、記憶継承を目的とした被爆者の証言収集を展開している。しかし、従来の証言収集での記憶は、基本的に第三者へ共有する手段は紙資料や口伝であった。そのため、コミュニティ外への拡散力が弱く、被爆者の証言が高校生自身の記憶として内在化していた。 図6参加型デジタルアーカイブの構成 それに対して、図6の(b)に筆者らのヒロシマ・アー カイブを導入後の記憶のコミュニティの実態を図式と して示す。ヒロシマ・アーカイブは、証言を聞いた高校生の記憶をデジタルアース上で外在化する。デジタルアーカイブは証言の可視化ツールであり、市民によるインターネットでの公開を基本とする。ヒロシマ・ アーカイブの可視化手法によって、被爆者と高校生は、次世代への記憶継承を強く意識することができる。その「記憶継承」という目的は、高校生と被爆者だけで共有されているものではなく、インターネット公開による証言の閲覧のしやすさから直接被爆者から証言を聞くことのない人でも伝わる。またインターネットは発信者、受信者間を双方向につなぐコミュニケーションを誘発する。したがって、ヒロシマ・アーカイブは記憶のコミュニティの拡大を発生させ、記憶継承という目的の疎通を可能にしている。 ## 6.2 ヒロシマ・アーカイブにおける媒介物の副次的作用 インターネットでの公開は必ずしも必要な人に届けられる手段にならない。そうしたことから、第 4 章で説明した通り、ヒロシマ・アーカイブでは、修学旅行向けのワークブックや視覚障害者向けのコンテンツの制作が進められており、これらは他県の中高校生や視覚障害者の記憶へのアクセスをより円滑にする。利活用についてコミュニティで検討をするということは、「ユーザーの多様性」を作り出す取り組みである。 また、第 5 章で説明した通り、日米高校生平和会議は、異なるコミュニティを繋げ「ネットワーク化」を実現した。同会議において「次世代への記憶継承」という目的感とデジタルアーカイブの基盤技術の手法が伝播されたことで、新しいデジタルアーカイブズが制作されている。日米高校生平和会議に参加したボストンの高校生有志はヒロシマ・アーカイブやナガサキ . アーカイブの取り組みを知り、シリアを題材にしたデジタルアーカイブを自主制作している ${ }^{[13]}$ 。また、同会議に参加したウィルミントン大学ピースリソースセンターでもデジタルアーカイブの制作を進めている ${ }^{[14]}$ このように記憶のコミュニティのネットワーク化によって、技術基盤と目的感が共有され、それぞれが記憶継承の活動に影響を与えられたことによって、各々のデジタルアーカイブの価値が高まりつつある。 ## 7. おわりに 本稿では、筆者らの実践の解説を通して、持続可能な「参加型デジタルアーカイブズ」の有機的な制作環境について検討した。持続可能な市民参加型のデジタルアーカイブはインターネット公開を前提とすること で、次世代やコミュニティ外の人への媒介物として記憶を繋ぐ役割を担う。デジタルアーカイブが媒介物として機能することによって、「記憶のコミュニティ」は、本来の目的である「記憶継承」に沿った活動を進められているという実感を得られる。 実際に、ヒロシマ・アーカイブは媒介物として機能し、記憶継承を目的にした市民による継続的な制作活動が展開された。そして、市民によるデジタルアーカイブの制作の継続が「媒介物の副次的作用」を作り出す。媒介物の副次的作用とは、デジタルアーカイブの制作の継続によって生み出された活動を言う。本実践では「ユーザーの多様性」と「ネットワーク化」の 2 つの副次的作用としての活動がみられた。 ヒロシマ・アーカイブの実践では、市民参加型の視点から整理すると従来の利用者と提供者という関係でのデジタルアーカイブにない現象が見られた。今後、 デジタルアーカイブとその技術の普及に伴い、より市民主体のデジタルアーカイブが現れることが予想される。そのことからデジタルアーカイブの社会に及ぼす影響を巡って議論を深めて行く必要がある。 本稿では、これまでの実践をもとに、デジタルアー カイブの新しいアプローチである「参加型デジタルアーカイブズ」について論じた。今後は、参加型デジタルアーカイブズの諸理論とそれらの市民参加手法を体系化し、市民参加のデジタルアーカイブの持続可能性を追求していきたい。 ## 謝辞 本稿作成にあたって、東京大学経済学部の比嘉将大氏には貴重な助言を賜りわりました。また、ワークショップの運営に当たって、広島女学院高等学校、長崎活水高等学校、工学院大学附属高等学校の先生方に多大なご協力を頂きました。ここに厚く御礼を申し上げます。 (参考文献) [1] 久世均. 高等学校におけるデジタル・アーキビストの養成.教育情報研究. 2005, vol.21, no.3, p.33-41. [2] 小川明子. 実践報告:負の記憶を記録することの可能性と困難一二つのデジタル・ストーリーテリングワークショップをめぐる覚書. メディアと社会. 2017, vol.9, p.71-86. [3] 渡邊英徳. "ヒロシマ・アーカイブのトップページ".「ヒロシマ・アーカイブ」.http://hiroshima.mapping.jp/index_en.html, (参照 2017-08-31). [4] 渡邊英徳. 多元的デジタルアーカイブズと「記憶のコミュニティ」. 人工知能. 2016, vol.31, no.6, p.800-805. [5] 今村文彦, 柴山明寛, 佐藤翔輔. 東日本大震災記録のアーカイブの現状と課題. 情報の科学と技術. 2014, vol.64, no.9, p.338-342. [6] 外池智. 継承的アーカイブの活用と「次世代平和教育の展開」ーヒロシマ平和教育プログラム」の実践-. 秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要. 2016, vol.38, p.1-12. [7] 坂田邦子. 地域コミュニティにおける震災アーカイブ. 情報の科学と技術. 2014, vol.64, no.9, p.347-351. [8] 渡邊英徳.「災いのオーラル・ランドスケープ」.ランドスケープ研究. 2017, vol.81, no.1, p. 26-29. [9] スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所. スタンフォード・デザイン・ガイドデザイン思考 5 つのステップ. 一般社団法人デザイン思考研究所. 2012, pp.10. 柏野尊徳, 中村珠希訳. https://designthinking.or.jp/swfu/ d/5steps.pdf, (参照 2017-08-14). [10] 渡邊英徳. "ナガサキ・アーカイブのトップページ". ナガサキ・アーカイブ. http://nagasaki.mapping.jp/p/nagasaki-archive. html, (参照 2017-08-31). [11] 渡邊英徳. "東京五輪アーカイブのトップページ". 東京五輪アーカイブ. http://1964.mapping.jp/, (参照 2017-08-31). [12] 日米高校生平和会議, “Top page of Technologies of Peace". Technologies of Peace: U.S.-Japan Youth Summit for Peace. http:// peacecon.mapping.jp/, (参照 2018-08-10). [13] Boston Latin School, "Top page of the Human Maps of Syria". Human Maps of Syria. http://humanmapsofsyria.com/, (参照 201708-14). [14] Wilmington College, "PRC Enlists Japanese Digital Mapping Experts to Teach Archival Process". Wilmington College NEWS \& EVENTS. https://www.wilmington.edu/news/prc-enlists-japanesedigital-mapping-experts-teach-archival-process/(参照 2017-08-31).
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# Europeana Network Association 年次総会参加報告 時実 象一 TOKIZANE Soichi 東京大学大学院情報学環 日時:2017年 12 月 6 日 場所:イタリア ミラノ市(レオナルド・ダ・ヴィン 千記念国立科学技術博物館) } European は欧州委員会 (European Commission) が推進 する欧州のデジタルアーカイブ・ネットワークであ る。Europeana の運営は Europeana Foundation が担当し ている ${ }^{[1]}$ 。Europeana の理事会は、設立団体 (2)、EU 加盟国代表 (3)、コンテンツ提供者代表 (4)、運営理事 (6)、各分野の専門家 (4) の合計 19 名からなる (カッコ内の 数字は人数) が、運営理事 6 名は Europeana Network Association (ENA) から選出される ${ }^{[2]}$ 。この ENA は主と して各国のアグリゲータなどの個人からなる協議会で ある。現在 8 タスクフォース、6ワーキング・グルー プが活動している。今回新しいタスクフォース、 Migration Commiunity、Impact 2.0 が新設された。 ENA は毎年年次総会を開催しているが、今回これ に参加する機会を得たので報告する。 写真1 Europeana Network Association総会の様子 ## 1. 基調報告 「文化の価値」ピエール・ルイジ・サッコ、ミラノ大学文化経済学教授 Sacco 氏によれば、Culture 1.0 (Patronage) は文化が好事家のサポートで成り立っていた時代である。この時代には博物館が知識の寺院となっていた。文化遺産は専門家のためのものであった。 一方 Culture 2.0 (CCIs) は文化資源が著作権で守られ、娛楽が主流となり、商業化した時代である。利用者の反応と収益性が一番重要となる。博物館は娛楽の機械になる。文化遺産は顧客のためのものである。 現在の Culture 3.0 (Open communities of practice) は制作者と利用者の境目があいまいになり、文化が集合的なネットワークになった時代である。これは技術の発展に支えられている。博物館は参加のためのプラットフォームとなる。文化遺産がコミュニティによって作成され、保存され、活用される時代となった。 「Playbookの使い方」ハリー・フェアウェイアン、 Europeana事務局次長 現在 Europeana では Europeana Playbookというパンフレットを作成し、協力機関が Europeana の有用性を測定することを支援している。有用性を証明することは、各機関が予算を獲得するために必須である。 「Culturaltalia」サラ・ジョルジオ CulturaItalia はイタリアの国家アグリゲータである。 2008 年に開発、広い分野をカバーしている。現在 37 パートナーと 98 博物館・美術館、115 図書館、190 文書館から 320 万件のメタデータを収集している。同時に、MuseiD-Italiaを通じて 6250 博物館・美術館の 638 コレクション、95000 デジタル・コンテンツを統合している。そこから Europeana に 280 万メタデー夕提供 している。 ## 2. 現場からの報告 以下のような報告があった。 (1) CineRicordi、イタリア 1950 年代のイタリアの映画の歴史を知るためのサイ トで、 150 件のビデオ・インタビューを収録している。 (2) Platsminnen、スウェーデン Platsminnen は認知症の患者に昔の写真を見せることにより、記憶を取り戻させるための iPadアプリである。データとしては Europeana その他のデータを使うほか、自分の写真も追加できる。 (3) Smart Square、ドイツ ハンブルグ市の見捨てられた地域を地域の人を巻き迄み、Digital Cultural Storytelling で再活性化するプロジェクトである。 (4) Transcribathon、ドイツ 手紙など手書きの文書を翻刻するプロジェクトで、参加者が一か所に集まって一斉におこなう。さまざまな場所で行われているが、ルーマニアでは、Dumitru Nistor という第一次世界大戦の兵士の日記を、4カ所、 22 チーム、66 人の参加により、1 週間で 100 万文字を翻刻し、出版にまでこぎつけた。 図1Transcribathonが実施された場所 (5) Yum! The impact of digitized medieval manuscripts、才ランダ オランダのライデン大学 Scaliger Institute では、中世の文書をデジタル化し、これを教育に使うことを試みている。Erik Kwakkel 教授はツイッターにより、広い範囲の関心を獲得している。 (6) Square Museum、オランダ Square Museum は街の広場に置く電話ボックスのような箱で、そこでさまざまな文化遺産を液晶モニター で表示する。複数の町に置かれた Smart Square はネットワークで結合しており、インタラクティブにお互いの情報を交換できる。 (7) Young Heritage Studio、ドイツ Young Heritage Studio は文化に関心を持たない若者 を文化に親しませる試みである。具体的には、研究、学生の調査、ソーシャルメディアの利用、などである。 (8) Joe Petrosino Museum、Italy Joe Petrosino は米国のイタリアからの移民で、ギャングを取り締まる警官となった。その博物館ではマルチメディアで彼の生涯を紹介している。 (9) ArtBay, the Netherlands ArtBay はネットから美術品を集めるゲームで、自分のコレクションを作成するほか、他の参加者とコンテンツを交換したりすることができる。 (10) Musebooks、ベルギー Musebooks は美術画集などを見るための電子書籍である。画像中心のレイアウトを提供する。MoMA、国立故宮博物館などと協力している。教育・研究用に MusebooksPro も開発中。 Edgar Degas 図2 Musebooksのページ例 (11)The Time Traveller's Memory、オランダ 自分が生まれ育ったスロベニアの町 Maribor の昔と今の写真を比較することにより、町の再興に生かそうとした。そのためのゲーム、ウェブサイト、モバイル・アプリなどを開発した。 これらのうち、(6)、(9)、(10)はデジタルアーカイブ・コンテンツを商業的に活用しようというものであり、興味深い。 ## 3. 大会議事 この会議に参加するには ENA の会員になる必要がある。参加すると、投票権が発生する。現在会員は 1900 名程度、当日の参加者は名簿に寄れば 195 名であった。活動報告、決算、予算を承認した。理事の選任は別途ウェブ投票でおこなう。 なお、今年の ENAの年次総会はECが主催する European Culture Forum 2017 (2017年 12 月 7 日-8日) に合わせて開かれ、ENA 参加者の多くはこの会合にも参加した。ECでは 2018 年は European Year of Cultural Heritage ( 欧州文化遺産年) を予定して、さまざまな行事を計画している。この会合はそのキックオフの催しであり、欧州議会議長、欧州委員会委員、ミラノ市長など多数のVIP が挨拶しており、テレビ取材も行われていた。Europeana はこの文化遺産年を実施する上でのデジタル・プラットフォームとして位置づけられているようであった。 写真2 European Culture Forum 2017の様子 ## 4. 終わりに Europeana は来年 10 周年を迎え、現在安定期に入っているといえる。こうした会議に参加すると、 Europeana は単なる検索プラットフォームではなく各参加国のデジタルアーカイブを毫引・統合する運動体であるとの感を強く持った。また、参加国と参加者の多様性には驚くばかりである。特に小国の方が自分たちの存在感を示すための努力をしていると感じた。日本としては、Europeana 全体の運営に目を向けるだけでなく、参加各国の多様なデジタルアーカイブモデルからも学ぶ必要がある。 ## (参考文献) [1] 時実象一. 欧州の文化遺産を統合するEuropeana. カレントアウェアネス. 2015/12/20. CA1863 [2] Europeana Pro. Governing Board. https://pro.europeana.eu/ourmission/foundation-governing-board (閲覧. 2017/12/12).
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# Advantages and challenges of the earthquake disaster archives implemented by the prefecture 日比 遼太 HIBI Ryota 宮城県図書館 } \begin{abstract} 抄録:平成 27 年 6 月 15 日、宮城県図書館は、県内の全自治体と連携・協力して震焱デジタルアーカイブである「東日本大震災アー カイブ宮城」を公開した。アーカイブ宮城は、宮城県の担当所属である宮城県図書館がサイトの運営に係る庶務の統括を担ってお り、協同して運営を担う連携自治体についても、総務、防災、広報、生涯学習など様々な所属によって構成されている。本稿では、 アーカイブ宮城の構築経緯や手法の一端を交えながら、県が実施したことについての特有の利点と、構築から現在までの運営状況 や環境の変化の中で生じた課題等を述べる。 Abstract: On 15th June 2015, the Miyagi Prefectural Library opened "Great East Japan Earthquake Archive Miyagi" which is a digital archive of the earthquake disaster in cooperation with all the municipalities in the prefecture. Archive Miyagi is responsible for the general affairs related to the operation of the site by the Miyagi Prefecture Library, and also cooperative local governments that cooperate with the administration, such as general affairs, disaster prevention, public relations, lifelong learning, etc. It consists of affiliation. In this paper, we describe the specific advantages of what the prefecture did, and the problems that occurred in the management situation and the change of the environment from the construction to the present, with a part of the architectural background and method of the Archive Miyagi. \end{abstract} キーワード : 東日本大震災、宮城県、図書館、デジタルアーカイブ、災害、自治体 Keywords: Great East Japan earthquake, Miyagi Prefecture, Library, Digital archive, Disaster, Municipality ## 1. はじめに 東日本大震災 ${ }^{[1]}$ 発生時から現在に至るまで、その被災状況及びその後の復興過程に関する膨大な記録については、企業、報道機関、研究機関、国の機関や地方公共団体等、様々な主体によって収集され、また、 それらの記録をデジタル化、データベース化し、震災デジタルアーカイブとして web 上で公開している例も多い。 宮城県図書館においても、県内の全自治体と連携$\cdot$協力して構築した震災デジタルアーカイブ「東日本大震焱アーカイブ宮城」(以下「アーカイブ宮城」)を平成 27 年 6 月 15 日から公開している。 アーカイブ宮城の構築、運営の実施主体が行政機関であることや、図書館が中心的な役割を担ったことによって特有の利点がある一方、構築から現在までの運営状況の変化や震災記録の伝承に関わる県の計画・施策の中においてのアーカイブ宮城の位置づけ等、内部的、外部的な環境の変化により、様々な課題も生じてきたところである。 ## 2. 「東日本大震災アーカイブ宮城」とは 2.1 概要 宮城県図書館及び連携自治体は、東日本大震災の関連資料を収集し、web 上に公開することにより、震災の記憶の風化を防ぎ、防災・減災対策や防災教育などに活用することを目的に、アーカイブ宮城を構築した。構築にあたっては、総務省の「被災地域情報化推進事業 (情報通信技術利活用事業費補助金)」のうち、「被災地域記録デジタル化推進事業」を活用し、平成 26 年度(補助金申請及び採択は平成 25 年度)より事業を開始しており、公開資料(コンテンツ)数は約 22 万件(平成 30 年 6 月 1 日現在)、写真・動画のほか、行政資料や震災関連チラシ・ポスター類、オンライン資料等、様々なコンテンツを閲覧することができる。 また、「国立国会図書館東日本大震災アーカイブ (ひなぎく) $]^{[2]}$ と連携しており、「ひなぎく」からアーカイブ宮城のコンテンツを検索することも可能である。 サイトの構成としては、アーカイブ宮城のトップページから各自治体個別のサイト(ページ)への移動が可能であり、各自治体は自らのサイト内において、 図1「東日本大震災アーカイブ宮城」トップページ コンテンッの登録や、記事の編集、更新することができるような仕組みとなっており、トップページ及び各自治体サイトには web サイト構築の専門的な知識がなくとも記事やコンテンツを管理することができる CMS(Contents Management System)を導入しているため、一定の制約はあるものの、比較的容易に編集等を行うことができる。 連携・協力自治体の内訳であるが、県内 35 自治体のうち、33自治体について連携、2 自治体について協力という体制を採用している。 ただし、上述のようにアーカイブ宮城内に各自治体サイトを有する自治体のほか、アーカイブ宮城とは別に震災デジタルアーカイブを独自で構築した自治体も存在しているため、後者については API 連携を行なうことにより、アーカイブ宮城内での横断検索に対応している。 連携の様態をまとめると、それぞれ以下のような構造となっている。 (1)アーカイブ宮城内に自治体サイトを有する自治体 $\cdot$ 31 自治体 (このうち、アーカイブ宮城内に自治体サイトを有するほか、自治体独自で構築した震災デジタルアーカイブとの API 連携を行なっている自治体 $\cdot 1$ 自治体(仙台市:「3がつ 11 にちをわすれないためにセンター $\left.」^{[3]}\right)$ ) (2) アーカイブ宮城と自治体独自で構築した震災デジタルアーカイブとの API 連携を行なっている自治体 . 2 自治体 (多賀城市:「史都・多賀城・防災・減災アーカイブスたがじょう見聞憶 $\left.\rfloor^{[4]}\right)$ (気仙沼市:「気仙沼市震災記録資料集けせんぬまアーカイブ」 $\left.{ }^{[5]}\right)$ また、協力の様態については、大和町が資料提供の協力、東松島市は、横断検索には対応していないもの 図2 各自治体サイトトップページ (石巻市) の、独自で構築した震災アーカイブ「ICT 地域の絆保存プロジェクト」向へのリンクによってアーカイブ宮城からサイトを閲覧することができる。 ## 2.2 特徴 アーカイブ宮城は、利用規約の範囲内であれば、コンテンツのダウンロード及び二次利用を自由に行うことができるという特徴があり、利用規約については、大筋では統一されているものの、自治体サイトは各々別個に存在しており、自治体サイトの名称や二次利用時の出所の明示(クレジット表記)方法もそれぞれ異なっている。 一般利用者は各自治体サイトの利用規約に沿って利用する必要があり、連携自治体も、原則として問い合わせや照会に関して個別に対応にあたることになる。 ## 2.3 「東日本大震災アーカイブ宮城」管理運営協議会 このように、連携自治体において個別に対応しなければならない事案が生じることや、サイト全体の統一的な運営方針の策定や日頃の業務を行う中で生じた懸念事項等についての協議の場を設ける必要があるため、宮城県図書館と連携自治体は平成 27 年 5 月 14 日から下記の事項の推進を図るため「東日本大震災アー カイブ宮城」管理運営協議会 (以下「協議会」)を設置している。 ・一般利用者及び権利者等からの問合せ、苦情、意見、要望等への適切な対応 ・県及び連携自治体の統一的なアーカイブの利活用の促進、コンテンツの充実 ・システム管理、運営等に係る課題解決に向けた県及び連携自治体間の総合的な調整 協議会の所掌事務は管理運営に係る方針・計画等の策定に関することのほか、広報活動等の利活用促進に関すること、一般利用者や権利者等からの問合せ対応 など多岐にわたり、個別の事案については、利活用・ コンテンツ管理・リスク管理の 3 つの専門部会を設置し、各専門部会に分かれ、課題等について情報共有や議題の策定にあたっている。 ## 3. 県と県内の自治体が協同して運営する震災 アーカイブの利点 ## 3.1 実施主体が行政機関であることの利点 行政機関の担当職員が被災状況やその後の復興状況等を記録すること、関連資料を作成・保存することは、 その職務に関わる場合、当然に行われている。それら行政機関が作成した内部的あるいは外部に公開した記録や資料を効率的に収集するためには、行政機関相互の内部的な調整が必要不可欠であり、当然のことながら、自治体が主体となって実施する利点の第一に挙げられる。 また、庁舎内に限らず地方機関や関係機関、たとえば公立病院や小中学校等への働きかけについても、担当部署から中央組織(公立病院であれば医師会など)への内部的な協力要請を行うことができる。アー カイブ宮城構築時にも、連携自治体や関係機関相互の調整及び協力により、当初の資料収集計画で想定していた資料収集数を大幅に上回る結果となったが、限られた期間内で効率的に収集活動を行うためには、構築時の実情に応じた制度や手法を設置・採用する必要があった。 その一つとして、具体的な資料収集作業や資料収集後の資料へのメタデータ(資料情報)の整理に関して、多くの連携自治体から人的な支援を求められたことに応じる形で設置した「自治体コーディネーター」制度がある。自治体コーディネーターは連携自治体の担当職員の補助的な業務支援を行うことを基本とし、具体の業務の一例としては下記のようなものを想定した。 . 資料収集の仲介 ・地域情報に関するキーワードの付与 ・連携自治体の状況を概観し、収集及び整理作業の進渉管理を補助すること ・著作権権利処理及び関連補助作業 ・システムの構築に必要な検討項目についての意見調整 また、求められていた人材としては下記のような者であった。 ・その自治体の地理情報や歴史等に詳しい者 (写真等の収集資料を見て、どこの山であるとかどこの地区の商店街であるとかを判別できる者。) ・各地域で活動している NPO、ボランティア団体、町内会等で活躍している者 (地域の情報提供を呼びかけやすいため、より多くの資料が集まる可能性があるため。) これら自治体コーディネーターの設置により、連携自治体の職員の負担軽減と円滑な資料収集活動を図ることを可能とした。 また、資料収集目標を達成できた大きな要因の一つとして、「行政機関相互の包括的一括処理」を行ったことが挙げられる。 これは、提供を受けた数十万点の資料について、一点一点に対して利用許諾処理を行うことは現実的に困難であったため、この処理に関して行政機関相互の負担軽减と効率化を図る必要性があったこと、構築及び公開後の継続的な資料収集を含め県と連携市町村間及び連携市町村相互の連携・協力のもとに利活用の促進を図る必要性があったことから、行政機関相互で締結した同意事項である。 具体的には、下記の内容について同意したものである。 (1)利用許諾の包括的一括処理 資料ごとの個別的な利用許諾ではなく、資料収集自治体あるいは機関単位で作成された「包括処理対象資料リスト」によって包括的かつ一括して許諾すること。 (2) 県内行政機関間の相互利用等 県関係機関と連携市町村間及び連携市町村間の震災関連資料の相互利用を可能とすること。 (3)公開に際しての処理 提供を受けた資料を複製し、デジタル化したデータを作成・保存するとともに、インターネットその他の媒体によって広く一般に公開すること。 (4)利用方法と範囲 提供を受けたデジタル化されたデータの複製、公衆送信、出版、加工等を行うこと。 利用の目的が事業の目的に反しないことを条件に第三者がデジタル化したデータを営利・非営利問わず利用すること。 提供を受けた資料及びデジタル化したデータの公表及び利用に際してその資料等の提供者を明示すること。 (5)個人情報の保護 個人を特定又は容易に推定できる情報等が含まれているデータへのマスキング処理等を行うこと。 (6)構築年度以降の処理 構築年度以降は随時資料の提供を受け公開に向けた処理を行うこと等。 これによって、権利処理や許諾手続きにかかる負担 が大幅に軽減され、相互利用による利活用の促進、情報発信等の積極的な事業展開を可能としたことで構築年度以降の資料収集処理及び利活用の効率化が可能となった。 ## 3.2 図書館が中心的な役割を担うことについて 全国的に見るとデジタルアーカイブ事業を活発に推進している公共図書館が少なからず存在しており ${ }^{[7]} 、$図書館がデジタルアーカイブを構築すること自体も一般化されつつある。 加えて、予算の縮小や担当する部署の変更はあるものの、図書館自体は形を変えながらも永続的に存在していく可能性が高いことを考えると、組織再編やそれに伴う廃止によって事業規模等に大きく影響を受けやすい他の行政機関と比較して災害アーカイブの理念を担保することができるともいえる。 宮城県図書館独自の動きとしては、アーカイブ宮城の公開に先立って、平成 24 年 7 月に、震災の記憶を風化させることなく、後世に長く引き継ぐため「東日本大震災文庫」(以下「震災文庫」) の開設を行っており、震災文庫に所蔵がある震災関連資料の一部については、デジタル化されてアーカイブ宮城で公開されているものもある。 この震災文庫の開設自体が、アーカイブ宮城の構築にどのように、またはどの程度作用していたかについては、分析が進んでいないが、同じ理念、同じアーカイブであることに変わりはなく、この意味で宮城県図書館としてもデジタルアーカイブ構築の土壤が備わっていたといえる。 ## 3.3 県と県内の自治体の協同構築・運営体制について 県と県内の自治体が協同して構築・運営していくことにより、それぞれが統一された理念や方向性をもって震災記録の伝承活動や震災アーカイブの運営に臨めるということは、大きな利点の一つである。 県内の各自治体が独自にアーカイブを構築し、運営する場合、多大な経費や、規模によっては人員をも必要とされるため、アーカイブ宮城への連携という形での参加をもってその必要が無くなった自治体のことを考えれば、県全体として経費削減の効果や、構築後に経費等の関係で中途半端な形で活動を終了させてしまう危険性もある程度は回避できたものと思われる。これは特に沿岸地域と比較して被害程度が少なかった内陸地域において想定されるものであるが、独自構築の必要性が少なく、予算等の制約もある中で、アーカイブ宮城への参加により震災の経験と教訓の継承活動の大きな部分を網羅することができるため、本体制による効果は大きかったものと思われる。 なお、自治体の財政状況や内部的な事情に関わらず積極的に資料収集活動を行えるよう、アーカイブ宮城の運営に係る経費については、現在まで県の全額負担としている。 そのほか、全体的なことでは、以下のような効果を想定している。 $\cdot$ 各自治体における震災後の復旧・復興事業を資料面から可視化することで、全国へ復旧・復興状況とその情報を提供することができる。 $\cdot$各自治体の防災計画、復興計画等への情報提供、教育分野(とりわけ防災教育)に打ける利活用が可能となる。 ・デジタル化、アーカイブ化により、震災関連資料の一元的な管理を可能とし、自治体内で情報共有することができる。 - 今後想定される大規模自然災害に対する、想定地域への情報提供を行うことができる。 また、とりわけ被害の大きかった沿岸地域については、以下のような効果を想定している。 ・防災、減災のための施策に関する情報を全国に提供することで、災害に強固な町づくりを行っていることについての広報効果 $\cdot$ 避難所や仮設住宅などでの被災住民への行政サービスなど、被災地の行政サービスの検討材料を提供 また、利活用以外の効果としては、以下のような効果を想定している。 ・それぞれの自治体の震災資料を一元管理することによって、人事異動等に伴う引継ぎ作業を軽減できる。 ・長期間の保存及び発信をすることができるため、情報の新しい古いに関わらず情報提供し続けることができる、すなわち復興状況を継続して発信することにより、支援の裙野を広げることができる。 ## 4. 課題 ## 4.1 県においてのアーカイブ宮城の位置づけ 同じ被焱県である岩手県では、平成 27 年 8 月に「岩手県震災津波関連資料収集活用有識者会議 $\rfloor^{[8]}$ が設置され、これを受けて平成 28 年 4 月に収集範囲や権利処理等について詳細に定められた「震災津波関連資料の収集・活用等に係るガイドライン」 $]^{[9]}$ 策定した。 平成 29 年 3 月に公開された「いわて震災津波ア一カイブ〜希望〜 $\rfloor^{[10]}$ はこれらに基づいて構築され、県 主導の下、順当な道筋を辿って公開までに至っている。宮城県では、その後、平成 29 年 8 月 10 日に第 1 回「東日本大震災の記憶・教訓伝承のあり方検討有識者会議」 $\rfloor^{[1]}$ が開催されており、平成 30 年 3 月に会議意見取りまとめが公表されている ${ }^{[11]}$ 。その中においては、アーカイブ宮城が県のアーカイブとして明記されているが、アーカイブ宮城が県の機関として初めて県内の全自治体と協同して構築したデジタルアーカイブであるということを考えれば、他の機関との連携などについて明確な道筋が見えていないということについて、運営主体としては危惧しなければならない。 また、平成 27 年 1 月に報告された「宮城県震災遺構有識者会議報告書 $\rfloor^{[12]}$ の中では、デジタルアーカイブ等での情報発信の重要性が明記されているところ、震災遺構との関わりについても大きな課題となることが予想され、アーカイブ宮城が県の震災アーカイブとして中心的な役割を果たすために、今よりも更に関係機関に能動的に働きかけ、利活用を推進していかなければならないと考える。 ## 4.2 運営体制 協議会を通したアーカイブ宮城の運営体制については、構築後の様々な環境の変化によって、連携自治体でアーカイブ宮城の運営や資料収集活動になかなか時間を割くことができない事情が生じてきている。 また、連携自治体の担当者がこれらの活動に携われない以上、統括する立場である県、宮城県図書館において連携自治体に対してある程度運営方針案や業務フロー等を示す必要があるが、これらについて必ずしも整理し切れていない部分があるため、県と連携自治体双方が思うように活動をすることができないという課題がある。今後は、各連携自治体の実情を加味したうえで、無理のない運営体制を構築し、同時にアーカイブ宮城としての活動を縮小することがないような方策を考えなければならない。 ## 4.3 事務引継ぎ 自治体は多様な行政サービスを提供しているため、所属部署間の業務の相違が大きく、自治体によってペースはそれぞれではあるものの、通常 2 年から 3 年の人事異動により、それまでとは全く別の分野や業務に携わることになる職員も珍しくない。 アーカイブ宮城は、その理念と性質上、継続的に行われるべき重要かつ大規模な事業に該当するため、適切かつ効率的な事務引継ぎなくしては人の流れの速さにより事業が停滞してしまう危険性がある。こ の場合、業務上必要である基礎的な知識の向上を図ることは当然であるとして、構築時からの業務の流れや決裁事項の確認が不可欠であるが、実際筆者も複数部署間において関係書類の散逸を目の当たりにし、書類が整理されていないことにより苦慮することがしばしばあった。 よって、将来的に担当者や内部での担当部署に変更が生じた場合でもスムーズに事務引継ぎを行うことができるよう、下記に留意して業務を行うことが必要と考える。 $\cdot$ 初期構築時の書類を整理し、既に決定された運営方針等をまとめあげること(また、以後決定された事項についても同様) $\cdot$ 将来構想、将来に向けた申し送り事項を作成すること ・定期的に業務の振り返りを行い、懸案事項等を所属内及び関係機関内で共有すること(また、協議経過を含めてそれらを整理すること) $\cdot$ 定例の業務についてはフローを作成すること ・ドキュメント類の所在を明確にすること ## 5. おわりに アーカイブ宮城を公開してから間もなく3 年が経過しようとしている。東日本大震災という未曽有の大災害の記憶と記録を未来へ伝えるという理念を揭げ、日々運営業務や広報活動を行い、利活用の方策等を検討しているが、一方でこれまで述べてきたような多数の課題も生じてきている。 様々な動機によってサイトを訪れ、利用して頂いている全世界の人々のためにも、アーカイブ宮城を構築したメンバーや資料を寄贈していただいた全ての方々のためにも、これら課題の解決を早期に図り、震災記録の伝承活動の火を絶やさぬよう、これからも変わらぬ熱意を持って業務に邁進していきたい。 (参考文献) (web参照日は全て、2018年5月27日です) [1] 地震の名称は「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」 であり、平成23年4月1日にこの地震を「東日本大震焱」と呼称することが閣議決定された。 http://www.jma.go.jp/jma/menu/jishin-portal.html http://www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201104/01kaiken.html [2] 国立国会図書館東日本大震災アーカイブひなぎく http://kn.ndl.go.jp [3] 3がつ11にちをわすれないためにセンター http://recorder311.smt.jp [4] 史都・多賀城・防災・減災アーカイブスたがじょう見聞憶 http://tagajo.irides.tohoku.ac.jp [5]気仙沼市震災記録資料集けせんぬまアーカイブ http://kesennuma-da.jp [6] ICT地域の絆保存プロジェクト http://www.lib-city-hm.jp/lib/2012ICT/shinsai2012.html [7] “公共図書館におけるデジタルアーカイブ推進会議” http://www.ndl.go.jp/jp/dlib/cooperation/working_group.html [8] “岩手県震災津波関連資料収集活用有識者会議について”. 岩手県ウェブサイト http://www.pref.iwate.jp/fukkoukeikaku/38398/038412.html [9] “震災津波関連資料の収集・活用等に係るガイドライン策定のお知らせ”, 岩手県ウェブサイト http://www.pref.iwate.jp/fukkoukeikaku/38398/044702.html [10]いわて震災津波アーカイブ〜希望〜 http://iwate-archive.pref.iwate.jp [11] “東日本大震災の記憶・教訓伝承のあり方検討有識者会議”.宮城県ウェブサイト https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/fukusui/densyou-yuusikisyakaigi. html [12] “宮城県震災遺構有識者会議報告書”.宮城県ウェブサイト http://www.pref.miyagi.jp/site/hukkousien/ikoukaigi.html
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Japan Society for Digital Archive
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# [A24] 自然災害により被災した動的映像資料の災害対策:〜映画フィルム・ビデオテープ$\cdot$光学ディスクの事例〜 ○鈴木伸和 ${ }^{13)}$, 中川望 $\left.{ }^{2}{ }^{3}})$ 株式会社東京光音 ${ }^{1)}$, コガタ社 ${ }^{2}$, NPO 法人映画保存協会災害対策部 ${ }^{3}$ 〒151-0061 東京都渋谷区初台 1-47-1 小田急西新宿ビル 1 階 E-mail:[email protected] ## Disaster Planning for Moving Image Materials Devastated by a Natural Disaster: The Cases of Film, Videotape and Optical Disk SUZUKI Nobukazu1) 3), NAKAGAWA Nozomi2) 3) 1) Tokyo Ko-on ${ }^{1)}$, 1F Odakyu-Nishi-Shinjyuku Bldg., 1-47-1, Hatsudai, Shibuya-ku, Tokyo, 151-0061 Japan Kogata-sya ${ }^{2)}$, Film Preservation Society, Tokyo ${ }^{3)}$ ## 【発表概要】 東日本大震災から 3 日後の 2011 年 3 月 14 日、NPO 法人映画保存協会は、株式会社東京光音、株式会社吉岡映像と三者合同で「災害対策部」を立ち上げた。主な活動は、自然災害により被災した動的映像資料の「防災に関する情報提供」「救済支援」「簡易洗浄」である。これまでに映画フィルム 150 本以上、ビデオテープ 200 本以上、光学ディスク 100 枚以上を被災地の個人・団体から受け入れ、洗浄やデジタル化を行った経験がある。被災した動的映像資料を専門に扱う団体は、日本国内では災害対策部以外にみられない。本稿ではこれまでの経験を踏まえて、動的映像資料の中でも映画フィルム・ビデオテープ・光学ディスクを中心に、救済方法と災害対策について考察する。 ## 1. はじめに ## 1.1 災害対策部の活動 東京を拠点とする NPO 法人映画保存協会[1]内に災害対策部[2](以下、FSP)を設立させてから約 7 年が経つ。表 1 は、これまでに FSP が受け入れた被荻した動的映像資料の一部である。依頼があれば全て洗浄し、できる限りデジタル化を行い、所有者に返却してきた。2016 年度になってようやく受け入れ点数はゼロになったが、表 1 の他に、映画保存協会以外の 2 者が個別に受け入れた被災した動的映像資料もある。例えば、2016 年に陸前高田市「思い出の品」事業から救済依頼があつた被災した光学ディスク 70 枚以上などであ 表 1 FPS が受け入れた動的映像資料 & 計 \\ る。FSP は東日本大震災で被災した動的映像資料の救済のために急遽設立した団体であるが、将来の自然災害に対応するためにも維持し続けている。FSP 2012 年に株式会社ラツシュジャパンと赤い羽根共同募金から支援金・助成金を取得できたことにより、洗浄・ デジタル化に必要な資材・機材を補充することができたが、現在は全てボランティアであり、今後必要な物資があれば寄贈に依存するだろう。FSP では被災した動的映像資料を取り扱うための洗浄ワークショップなどをこれまで年 1 回程度開催している。 ## 1.2 海外の先行事例 FSP を設立させた時に最初に行ったことは、海外の先行事例を調査、日本語訳し、映画保存協会のウェブサイトで公表することであった。現在、 8 点のテキストを読むことができる。特に重要なテキストは、オーストラリア国立フィルム\&サウンドアーカイブのウエブサイトに掲載されている「洪水や津波の被害を受けた視聴覚メディアの応急処置」[3] であった。なぜ重要かというと、一つは 2005 年にアメリカ南東部を襲ったハリケーン・カトリーナでの応急処置など実際の経験を踏まえている点と、もう一つはフィルム、磁気テ ープ (音声テープやビデオテープなど)、ディスク(レコード、光学ディスクなど)という視聴覚メディア全般の応急処置と災害対策について簡潔にまとめられているからである。例えば、津波で海水に濡れ、污損した動的映像資料をどのように扱えばいいのかについ て、実際の経験に則った情報は FPS にとって最も貴重であった。FSP もこれにならい、経験から編み出したフィルム、ビデオテープの簡易洗浄法の動画を制作し、ウェブサイトで公開している。動画に英語字幕を挿入している理由は、海外の専門家と情報を共有するためでもある。 ## 2. 被災した動的映像資料の特徴 FSP では被災した視聴覚メディア全般の相談を請け負っている。特に応急処置依頼が多かった、映画フィルム、ビデオテープ、光学ディスクについて報告する。 ## 2. 1 映画フィルム FSP では映画フィルム全般の災害対策について情報発信しているが、実際に洗浄依頼があったのは家庭用に製造された 8 ミリフィルムのみである。被災した劇場用の 35 ミリフイルムや 16 ミリフィルムに関する情報は東日本大震災被災地から得られていない。8 ミリフィルム(通称:ダブル 8 )は 1932 年から日本でも販売され、市井の目線で地域、家族などを動く映像として記録した歴史資料でもある。1965 年から販売されたスーパー8 やシングル 8 という 8 ミリフィルムもあり、 1980 年代初頭のビデオカメラが普及するまで一般家庭でも広く利用された。そのため、被災地の主に個人から 8 ミリフィルムの洗浄依頼をいただいた。8ミリフィルムのデジタル化は映写機と動画撮影ができる機器さえあれば難しい作業ではない。 ## 2.2 ビデオテープ 磁気で記録するビデオテープには様々なフオーマットがあり、洗浄して応急処置を施しても再生機器がなければ視聴や複製ができない。そのため、洗浄と複製を同時に行わなければ被災した資料を救済することができず、災害対策では再生機器の維持、確保が重要となる。家庭用に普及したフォーマットは VHS、Hi8、miniDV などであるが、後年に普及した miniDV の方が再生機の入手は困難であり、かつ高額である場合が多い。磁気テ ープメディアはいずれのフォーマットであっ ても長期保存は難しく、被災してもしなくてもマイグレーションは必須である。2010 年代は、日本ではまだ家庭用ビデオテープの再生機を入手することは可能であるが、今後は再生機不足により救済が難しくなるだろう。洗浄は水さえあればそれほど難しい作業ではないが、磁性体表面の潤滑剤がなくなり、再生機の読み取り部分でうまく滑らなくなるステイッキー・シンドロームという現象が発生することもある。 図 2 被災したビデオテープの中 図 3 洗浄したビデオテープ ## 2. 3 光学ディスク 被災した光学ディスクで再生が困難となる事例は、CD-R では記録層の色素の滲みやバクテリアの発生が原因であった。一方、 DVD-R では多くの場合、記録面の傷が原因となることが多かった。BD-R は 2011 年時点ではそれほど普及していなかったため洗浄依頼は数点のみであったため、事例はあまり得られていない。光学ディスクでは記録容量の増加に伴い、記録層を保護するコーティング層が CD-R(約 $1.2 \mathrm{~mm}$ )、DVD-R(約 $0.6 \mathrm{~mm}$ )、BD-R(約 $0.1 \mathrm{~mm}$ )と逆に薄くなるため、新規格ほど薄い傷でも複製ができな くなる傾向にある。記録面を研磨することも可能であるが、記録層まで傷が達している場合はデータの読み取りが難しくなる。傷が薄い場合は手動式研磨装置を用いれば読从取りが可能になることが多い[4]。光学ディスクは基本的に下位互換性があり、それぞれ見た目似ているが、記録されているデータ形式は様々である。Mpeg2、mp3、Jpeg などのデー 夕形式のほか、各種ビデオ形式もあるため、洗浄、複製して返却する場合は同じ形式のまま複製しても所有者の手元で再生できないこともある。そのため、複製と同時にデータ形式の変換作業が必要となる。 ## 2. 4 アナログとデジタルの相違点 映画フィルムは全てアナログであり、ビデオテープにはアナログとデジタルの両方があり、光学ディスクはデジタルデータのみを記録する媒体である。例えば 2015 年度に洗浄した資料の内、アナログ信号で記録された VHS は被災から 5 年近く経っているにもかかわらず 11 本中全て再生が可能となり、VHS$\mathrm{C}$ は 27 本中 26 本が再生できた。一方、デジタルデータで記録されている miniDV は 58 本中 33 本しか再生することができなかった。これらは同じ場所で被災した資料であるが、アナログとデジタルの復旧率には顕著な差が現れる。原因は様々考えられるが、デジタルデータの場合、一部分が読み取れなければ全て再生ができなくなる現象が起因していると考えられる。映画フィルムであれば、ベ一ス素材(アセテートやポリエスター)が壊れない限り、記録層 (乳剤) がたとえ溶解して失われたとしても視聴が可能である[5]。これまでの経験から、アナログ媒体よりデジタル媒体の方が救済は難しいといえる。 ## 3.災害対策の課題 これまでの活動から得た課題について考察する。 ## A. 組織 概要でも述べたが、被災した動的映像資料を専門に扱う団体は FSP 以外にみられない。 もし将来、被災した動的映像資料を救済したいと誰かが思った時、この日本でどこに相談 すればいいのだろうか。専門組織がない場合は、写真資料や歴史資料など、他分野と協力して動的映像資料を扱う必要があり、そのための協力関係を平時から構築する必要がある。 ## B. 専門知識 FSP がこれまでに取り扱った動的映像資料の多くは一般家庭にもある身近な媒体であつたが、救済するためにはある程度の専門知識が必要であった。そのための知識・技術・経験を専門家同士で広く共有する必要があるだ万う。 ## C. 機材 動的映像資料に記録されている情報を目で見るには、道具や機材が必要となるため、被災した動的映像資料は誰でも簡単に取り扱えるとは言い難い。応急処置は洗浄が基本であるが、洗浄だけで複製せずに所有者に返却しても視聴できない場合が多い。動的映像資料の災害対策には、再生機の動態保存が必要である。 ## D. 視聴覚資料 FSP はこれまで動的映像資料を対象に活動してきたため、レコードやカセットテープなどの音声資料の相談を積極的に受け付けていなかった。これからは、音声資料を含めた視聴覚資料全般の災害対策も考える必要がある。 ## E. 個人情報 震災アーカイブとよばれる多数のウェブサイトの中でも、被災した動的映像資料を応急処置し、複製、公開、活用している例は確認できない $[6]$ 。動的映像資料は写真に比べて膨大な個人情報が含まれており、個人所有の資料は公開することが稀である。例えば被災地の無形文化遺産(祭事、舞踊など)を記録した動的映像資料を FSP は受け入れたが、返却後の利活用はほとんどされていない。利用のための法的課題を整理する必要がある。 ## 4. おわりに 将来、大規模な自然災害で個人や地域の動的映像資料が被災した場合、その多くがデジタル媒体になることが予想される。例えば、 ブルーレイディスクやフラッシュメモリ、ハ一ドディスクドライブである。個人ができる災害対策は、データの分散保管やクラウド保存などが考えられる。「デジタルアーカイブ」 の定義は様々あるが、そこに「資料の保存」 という意味をもし込めるのであれば、災害対策も必要になるだろう。これまでの経験から、動的映像資料は被災してもしなくても多くが失われることは間違いないと思われる。 しかし、被災した動的映像資料を誰かが救いたいと思った時、相談できる窓口が一つでもある、というのは大きな違いではないだろうか。 ## 参考文献 [1] NPO 法人映画保存協会. http://filmpres.o rg (閲覧 2018/1/5). [2] NPO 法人映画保存協会災害対策部. htt p://filmpres.org/project/sos(閲覧 2018/1/5). [3] オーストラリア国立フィルム\&サウンドア ーカイブ. https://www.nfsa.gov.au/preservat ion/guide/home/first-aid-water(閲覧 2018/1 /5). [4] 株式会社ケンマック.DVD ケンマくん H OME. http://www.kenmac3.co.jp/kmdk2.ht ml (閲覧 2018/1/5). [5]「岩手県大船渡市『風景と心の修景および創景事業』」(2015). http://alps-pictures.jp/f ilm_archive/ofunato(閲覧 2018/1/5). [6] 近年の震災アーカイブの変遷と今後の自然災害アーカイブのあり方について. http://w ww.jstage.jst.go.jp/article/jsda/1/Pre/1_13/_a rticle/-char/ja(閲覧 2018/1/5). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0 /)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# コミュニティアーカイブとしての東日本大震災アーカイブーオープン データ連携による利用性の向上 Digital Archives of Great East Japan Earthquake as a Community Archive - Enhancing Usability through the Linking of Archives in Open Data Environments 抄録 : 東日本大震災に関する記録を集めたデジタルアーカイブが多く作られ、国立国会図書館はそれらのポータルとして東日本大震災アーカイブひなぎくを提供している。現在、こうしたデジタルアーカイブの利活用性の向上が求められている。本稿では、筆者等がこれまでの研究から得た知見に基づきメタデータの視点から東日本大震災アーカイブにおける利活用性の課題に触れ、さら に、オープンデータ環境を利用したアーカイブ内ならびにアーカイブ間でのコンテンツ集約による利活用性の向上について述ベる。最後に、アーカイブのコンテンツを結ぶことによる利活用性向上について考察する。 Abstract: There exist many digital archives for disasters caused by Great East Japan Earthquake, and Japan's National Diet Library (NDL) provides a central portal for these archives named Hinagiku. The aim of this paper is to discuss issues regarding the improved usability of the digital archives. This paper first discusses usability issues based on the authors' experiences in their research projects mainly from the viewpoint of metadata in Open Data Environments. Then, it presents a few experimental results from the aggregation of archived contents within an archive as well as across archives. Lastly, it discusses the importance of the linking and aggregation of archived contents in order to improve the usability of the digital archives of disaster resources. キーワード:震災記録デジタルアーカイブ、Linked Open Data、アーカイブ間連携、メタデータ集約、地域指向アーカイブ、コミュ ニティの記憶 Keywords: Digital Archives of Disaster Records, Linked Open Data, Collaboration across Archives, Metadata Aggregation, Regional Archives, Community Memory ## 1. はじめに 東日本大震災の発災後、震災記録資料を集めたデジタルアーカイブ(以下、震災アーカイブと記す)が多数作られた。これらの提供組織は、地方自治体、大学、報道機関、情報産業等の企業、そして地域の NPO 等さまざまである。また、震災アーカイブには、発災から復旧、復興過程の写真や文書等の原資料を収集提供するもの、それらの上に何らかのテーマでまとめたコンテンツを提供するもの、被菼地の震災以前の写真等を収集提供するものなど、様々なものがある。国立国会図書館(NDL)による東日本大震災アーカイブポー タル「ひなぎく」によりそれらの横断的な検索が可能になっている ${ }^{[1]}$ 。ひなぎくからは、震災アーカイブ以外に、震災関連資料として震災に関連する記録や論文等を含むデータベース等も参照されている。震災につ いて知るうえでこれらはいずれも重要な資料である。個々の震災アーカイブには、記録資料の探しやすさと使いやすさといった課題、そしてアーカイブ間にまたがった利用による付加価値といった課題がある。前者の解決は、個別のアーカイブの機能の向上によるところが大きく、後者の解決には震災アーカイブ間の連携だけでなく、それらの朹組みを超えていろい万なアーカイブや他の資料を Web 上で結びつける機能が必要とされる。 筆者等は、震災アーカイブに関するこうした課題に関してメタデータの視点から研究活動を進めてきた。 この研究過程において、青森震災アーカイブ(青森県八戸市、三沢市、おいらせ町、階上町)、久慈野田譜代震災アーカイブ(岩手県久慈市、野田村、普代村)、 みちのく震録伝 (東北大学災害科学国際研究所)、郡 山震災アーカイブ(福島県郡山市)を中心にメタデー 夕の分析等を行った。本稿では、そうした活動から得た知見を基礎として、メタデータと Linked Open Data (LOD)の視点から、震災アーカイブの利用性を向上するための課題について述べる。 ## 2. デジタルアーカイブとメタデータ 2.1 メタデータに関するいくつかの基本概念 ここではメタデータに関してあまりなじみがない読者のために、いくつかの基本概念についてごく簡単に説明する。 メタデータの基本的な定義は「データに関するデー 夕」であり、「何らかの対象に関する記述」である。震災アーカイブのメタデータと言った場合には、震災アーカイブに収集蓄積された記録資料に関する記述 (たとえば、記録資料の目録データ)である。メタデー 夕記述の際に、主題や分類等を表すためにあらかじめ定められた語彙(統制語彙、Controlled Vocabulary)を用いることがある。これらも何らかの概念に関する記述であり、広い意味でのメタデータである。 メタデータは、ごく簡単には、記述対象の属性を表す語と属性値の対の集合として実現される。属性は Attribute、Property あるいは Element(記述項目)といった語で示される。Web 上でのメタデータの流通性・相互運用性のために目的に応じたメタデータ標準が作られている。そうした標準の中で、ネット上の情報資源 (リソース)に関する基本的な属性集合を決める Dublin Core、人や組織等を表すための FOAF(Friend of a Friend)のように広い領域で用いられるものもある。 NDL は Dublin Core を基礎として DC-NDLを定めている。ひなぎくでは、震災アーカイブ開発のために定められたガイドライン ${ }^{[2]}$ に基づき、DC-NDLを基礎として定めたメタデータ記述項目を利用している ${ }^{[3]}$ 。一方、World Wide Webコンソーシアムは、Web 上でのメタデータ交換のために実体関連モデル(EntityRelationship model)に基づくデータモデルとそのテキスト表現形式の標準 Resource Description Framework (RDF)を定め、そのテキスト表現のためにXML 形式、 JSON 他の形式を定めている。また、ひなぎくでは、 OAI-PMH (Open Archives Initiative - Protocol for Metadata Harvesting)と呼ばれるメタデータ収集の標準を利用して、多数の震災アーカイブからメタデータを収集し、 アーカイブ横断的な検索機能を実現している。 LOD は、Web 上で公開されたデータをリンクづけることで、データの価値を高める取り組みとして広く知られている。デー夕同士を結びつけるには、属性と属性値の対応関係を陽に定められるメタデータが重要な役割を果たす。震災アーカイブの場合、ひなぎくのメタデータ記述項目の範囲でのメタデータの横断的な利用は行いやすい。一方、属性值がプレーンテキストで記述される場合が多く、属性值による結び付けにはそれなりの処理が求められる。また、アーカイブ資料と Wikipedia の記事や Web ページを結びつける場合には、異なる規則の下に作られたメタデータ間でのマッピングが必要になる。 ## 2.2 東日本大震災アーカイブとそのメタデータ 個々の震災アーカイブには写真を中心とする多様な資料が蓄積されている。震災アーカイブ開発のガイドラインでは、単純な構造のメタデータによるアーカイブ構築を前提としている。震災アーカイブ構築においては、大量の資料に対し、厳しい時間的かつ予算的制約の中でメタデータを作成することが求められた。こうした環境下で作られたメタデータの記述品質は必ずしも高いとはいえない。たとえば、写真の内容を表すタイトルをつけることは第三者にとっては容易ではない。また、1点の資料ごとにメタデータを付与することを原則とするので、1 枚の写真、1 件の文書毎にメタデータが付与される。写真の場合、1 か所で撮影された連続した写真であっても、それらの関連性は必ずしも陽に記述されていない。写真のメタデータが緯度経度、撮影時刻等の時空間データをそれなりの精度で持っている場合は写真間の関連性が推定可能である。 しかしながら、そうした時空間データがメタデータに含まれているとは限らない。このように、いろい万な問題があることが容易に理解できる。 デジタルアーカイブとしての利用性を高めるには、高品質なメタデータを用意することが重要であるが、 コストを考えると現実には容易ではない。また、画像解析や認識技術、テキスト分析技術等の高度化によって原資料から機械的にメタデータを作り出すことが期待されるが、写真が撮られた場所や撮影目的といった資料のコンテキストに依存する情報や資料作成の意図といった意味的情報を扱うための技術の蓄積は十分とは言えず、そうした課題を解決する技術の研究開発が求められる。 ## 2.3 コミュニティの記憶としてのアーカイブ 震災アーカイブでは、地理的、時間的、内容的に資料収集の範囲が自ずと定められる。その一方、地域コミュニテイは震災以前からあり、震災後も将来に向かって存在し続ける。コミュニティのアーカイブという視 点から見た場合、震災アーカイブは、東日本大震災という歴史的大災害によって定まる時間的、地理的、内容的な窓を介してコミュニティを記録するものであるといえる。「未来へのキオク」 ${ }^{[4]}$ は、震災以前の地域の風景等を提供してくれている。津波にかかわる過去の報告書や学術的な記録を収集する「津波ディジタルラ まれている。こうしたいろいろなアーカイブ資料や地域コミュニティにかかわる Web ページ等を、震災アー カイブと結び付けることができれば、時間的、地理的により広い範囲でコミュニティの記録を見ることができるようになり、コミュニティの記憶と呼ぶことのできる意味的な資料の結びつけを得ることができる。 ## 2.4 コミュニティアーカイブの基盤としてのオープン ## データ環境 どのようなアーカイブであれ、それ一つだけでコミュニティの全ての記録をカバーすることはできない。また、アーカイブ毎にコンテンツ収集や組織化の方針は異なり、そして利用者のニーズはさまざまである。そのため、アーカイブをオープンなものとし、複数のアーカイブを結んでニーズに応じたいろいろな機能を実現できるようにすることが求められる。 LOD 環境に適合する形式でアーカイブや Web ペー ジ、並びにそれらのメタデータが提供されることが望まれる。ひなぎくに結ばれるアーカイブでは、メタデータが標準化され、LOD 環境に適合するように提供されているため、データの形式上の横断的利用は行いやすくなっている。しかしながら、記述内容に基づく意味的な結び付けにはそれなりの処理が必要であり、解決しなければならない課題が多くある。 ## 3. 震災アーカイブの利用性向上を目指して 3.1 ひなぎくと震災アーカイブのメタデータに関して本稿を書くにあたって、ひなぎくで「多賀城市 八幡神社被害」をキーワードとして検索してみた。結果として、2011 年 3 月から 2015 年 6 月までの資料 87 件(内、写真 85 件、文書資料 2 件)を得た。少の中 には、多賀城市の広報公㯖係による 2011 年 4 月 20 日作成の写真が 7 件含まれていた。この内の 1 件からの リンクをたどり、写真の提供元である「たがじょう見聞憶」にアクセスすると、これらは一連の写真として 揭載されており、ひとまとまりのものであることがわ かった。一方、この構造をひなぎくの検索インタ フェースだけから知ることは難しく、撮影時刻と場所 からこれらが一連のものであることを想像するしかな い。また、検索結果には、複数のアーカイブに収集された 2011 年から 2015 年までに作られた資料が含まれていることから、多賀城市の八幡神社とその近辺の被災から復興に至る過程を見ることができるのではないかということが想像できる。実際に内容をチェックすると、被災直後の写真、復旧作業にかかわる神社周辺の木の伐採作業とその後の神社の修理の写真、そして、鎮守の森復活への植樹に関する新聞記事までが検索結果に含まれており、時系列として並べれば八幡神社とその周りで起きたことを知ることができる。こうした点は、複数のアーカイブを横断的に利用できることの利点である。その一方、資料 1 点毎のメタデータの内容を理解した上で資料間をつないで見ることをしなければ、こうしたつながりを見つけることはむつかしい。 ## 3.2 アーカイブの利活用性向上を目指したコンテンツ 集約 ## 3.2.1 単一アーカイブの中でのコンテンツ集約 デジタルカメラがどこにでもあるという時代になり、非常に多数の写真が記録資料として得られるようになった。このことはアーカイブする記録資料が豊富になるという良い面を持つ一方、多数の写真をどう組織化するかといった問題の原因となる。先に述べたように、限られた人的、予算的資源の中でのメタデータ作成においては、関連する写真同士の関連性や、写真の撮影理由や目的を反映するようなタイトルをつけることは現実性にそしい。その結果、検索結果表示が単なる写真の羅列となってしまい、使いやすさの低下の原因になると考えられる。 この課題に対し、メタデータを利用して関連する資料をひとまとめにすること、すなわち複数の資料をひとまとまりの資料として集約することが一つの解決方法として考えられる。 ## 3.2.2 アーカイブ間にまたがるコンテンツ集約 Europeanaでは、多数の参加館から収集したイメー ジデータ等を集約するためのデータモデルを定めている ${ }^{[6}$ 。ジャパンサーチ構想でもメタデータの集約が重要なトピックになっている ${ }^{[7]}$ 。ひなぎくは多くの震災アーカイブからメタデータを収集し、横断的利用を可能にしている。こうした複数のアーカイブからメ夕データを集めるための基盤の上で、さらに内容に応じた集約が求められる。 コミュニティの記録は複数のアーカイブや Web ページに残されていると考えるのが自然であり、それらをつなぐことでコミュニティの記録を有機的につな げ、コミュニティの記憶を残すことにつながる。一方、 アーカイブ間にまたがるコンテンツ集約には、越えねばならない壁がいくつもある。たとえば、タイトルやキーワードの作り方はアーカイブ毎にポリシーが異なると考える必要がある。また、地名のようにアーカイブによる差が少ないように思えるものであっても、記述の粒度の違いや地域独特の呼び方といった問題がある。異種アーカイブとの連携には、解決すべき問題がさらに多くある。たとえば、明治期や昭和初期の三陸大津波の記録と震災アーカイブを結ぶには、市町村合併等による地名の変更、時代や地域による表現の違いなどいろいろな課題があり、そうした課題を解決するための地名辞書等のデー夕資源を別途必要とする。 ## 3.3 時空間情報、主題情報による集約 筆者等は、青森震災アーカイブ、久慈野田譜代震災アーカイブを中心にメタデータに書かれたキーワードの分析を行った。その結果から、主題語の出現頻度、写真が占める割合の高さとメタデータ記述品質等に関する基礎的知見からメタデータによるコンテンツ集約の必要性を認識し、下記の視点からの研究を進めた。 (1) キーワードの共起関係を利用した資料の集約作成 ${ }^{[8]}$ (2)時間情報、地理情報(緯度経度)を利用した写真を中心とする資料の集約作成 ${ }^{[9]}$ (1)に関しては、出現頻度がメタデータから取り出したキーワード(主題語)をクラスタリングし、キー ワードクラスタに含まれる語を持つメタデータの集合を、各クラスタに対応するメタデータ集約とした。(2) に関しては、緯度経度と作成日時、および作成者情報を利用し、同一作成者が連続して撮影したと判定できる写真の集合をひとつの集約とした。被災地調査やお祭りなどのイベントで連続して撮影された写真をひとまとめにするのには効果的な方法であるといえる。こうした手法によって作成した集約を 1 件のコンテンツとするために集約に対して適切なメタデータを機械的に生成すること、集約として適切なサイズ(集約中に含まれる個別資料の数)をどのようにとらえるべきかといった課題が残されている。 ## 3.4 LOD環境でのアーカイブ間連携のための基盤 アーカイブ内もしくはアーカイブ間で資料を意味的関係の下に結びつけることを目的として、地域指向のオントロジーと市町村等の地名の変遷を表す辞書の開発を進めた。 前者では、記録資料のタイトルや内容記述から固有名詞を集め、それを施設や組織の分類と組み合わせて オントロジーを試作した ${ }^{[10]}$ 。図 1 に一例を示す。東日本大震災アーカイブには津波被害関連資料が多く蓄積されていることから、港湾や漁業、水産関連の施設や組織の名前がメタデー夕に現れることが多い。一方、 その施設や組織がどういう役割のものであるかは多くの場合メタデータだけではわからない。このオントロジーに含まれる組織や施設の種類を表す用語は地域に限定されるものではなく、アーカイブをまたぐ意味的なメタデータ集約には有用であると考えている。 「どのような災害が同じ場所で過去にあったのか」、「災害の前はどのような場所であったのか」といったことを知りたいといった利用ニーズを満たすには、種々のアーカイブをまたいで資料を探す必要がある。先述のように、そこでは地名が重要な役割を果たす。 しかしながら、長い時間がたつ間に地名は変化する。近代以降に限定しても、市町村名が自治体の合併等によって変化することはまれではない。そこで、筆者等は、LOD 環境で利用可能な地名変遷辞書の開発を進めた ${ }^{[1]}$ 。表 $\mathbf{1}$ に地名変遷の種類の一覧を示す。 表1地名の変遷種别 \\ ## 4. 「つなぐ」ことの大切さ どのようなアーカイブであれ、地域コミュニティにおきた災害の全てを網羅的に収集することは不可能である。加えて、メタデータの記述は与えられた人的・予算的資源の範囲内で、ガイドラインに従って進めることになるので、自ずと記述内容には制約が生じる。ひ なぎくが持つ網羅的な横断検索はカバーする範囲を広げてくれる半面、より深い内容や特定のトピックでの探索には別の視点を必要とする。そうした別の視点を与えてくれるものに、Wikipedia やボランティアによる地域情報のサイト、地域の自治体サイトとそのアーカイブ、さらには津波デイジタルライブラリィのような学術的サイトがある。こうしたサイトと震災アーカイブをつないで利用できるようにすることが重要である。また、先に示した多賀城市の八幡神社の例のように、複数の震災アーカイブを横断的に利用することで単独のアーカイブからは得られない情報を得ることができる。 こうした機能を積極的にサポートすることも震災アー カイブをより深く利用するための重要な視点であらう。 個別のアーカイブは個別の目的のもとに作られる。他方、利用者は多様な目的でアーカイブを利用するので、個別のアーカイブで利用者の情報ニーズを十分に満たせないことが生じるのはごく自然なことである。利用者ニーズを満たすには複数のアーカイブや種々の情報資源を結ぶ付加価値サービスの実現が重要である。 LOD 技術は、そうした付加価値サービスの実現のための有効な手段であると思われる。ジャパンサーチをはじめとして LOD 技術を基盤とするプロジェクトが進められているのは、そうした期待の表れであろう。一方、 LOD 技術を利用して、有機的にアーカイブを結ぶには、 アーカイブのメタデータに関する情報の共有はもとより、先に示した地名の変遷を表す辞書のようにアーカイブに特化した用語の意味やそれらのつながりを表すデータ資源が必要とされる。こうした資源は意味的な記述が求められるので、その作成には現時点ではどうしても人的努力が必要となるが、将来的にはそうしたデー夕資源作成の自動化が進んでいくのであろう。 ## 5. おわりに 本稿では、震焱アーカイブの利活用性を高める観点から、アーカイブ内、アーカイブ間でのメタデータの集約と、それに基づくアーカイブ連携について触れた。 メタデータ集約によるアーカイブ連携は、災害アーカイブだけではなく、文化的資源のアーカイブでも必要である。それらに共通することは、何らかのつながりを持つコンテンツを見出し、それらを結びつけて利用者に提供することであり、個別のコンテンツだけでは見逃しがちな内容を分かりやすく提供すること、そして、アーカイブを利用して新たに創られるコンテンツも含め利用者により豊富な内容を提供することである と考えている。 東日本大震災アーカイブには大量のデジタル写真が蓄積されており、これは阪神淡路大震災等の以前の災害アーカイブとの大きな違いであると感じる。また、 ツイートや道路情報等、インターネットから得られた情報が災害の状況を知り復旧に役立てられたことも記憶には新しく、そうしたものも含めてデジタル情報をいかにアーカイブし、将来に渡る利用を可能にするかといったことの検討を進めなければならないと感じる。 なお、本稿では、コンテンツに関する権利管理やデジタルアーカイブそのものの長期利用性に関しては述べていない。デジタルアーカイブの発展には、こうした観点も含めた研究開発を続けることが必要である。 ## 謝辞 震災アーカイブに関する研究活動に貢献してくれた本研究室の学生諸君に感謝の意を表します。なお、ここで述べた研究は一部科研費基盤研究A(16H01754)による。 (参考文献) (web参照日は全て2018年6月18日です) [1] 国立国会図書館. 国立国会図書館東日本大震災アーカイブひなぎく. https://kn.ndl.go.jp/ [2] 総務省. “震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン(2013年3月)”. http://www.soumu.go.jp/menu_ seisaku/ictseisaku/ictriyou/02ryutsu02_03000114.html [3] 国立国会図書館. 国立国会図書館東日本大震災アーカイブメタデータスキーマ. https://kn.ndl.go.jp/static/metadata [4] Google. 未来へのキオク.https://www.miraikioku.com/ [5] 津波ディジタルライブラリィ作成委員会. 津波ディジタルライブラリイ, http://tsunami-dl.jp/ [6] Isaac, Antione. “Europeana Data Model Primer”. 2013. https://pro. europeana.eu/files/Europeana_Professional/Share_your_data/ Technical_requirements/EDM_Documentation/EDM_ Primer_130714.pdf [7] 実務者検討委員会(内閣府知的財産戦略推進事務局)。第一次中間取りまとめ”. https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/2017/torimatome.pdf [8] 積佑典. “リソース集約を用いた東日本大震災ディジタルアーカイブの利活用性向上に関する研究”. 筑波大学図書館情報メディア研究科修士論文, 2018, 46p, 修士論文. [9] 横山雄哉ほか. “シンプルなメタデータが付与された東日本大震災アーカイブの写真資料のための時空間情報を利用したコンテンツ集約手法”. 情報処理学会第79回全国大会, 1ZF-02, 2017. [10] 武田侑季ほか. “東日本大震災アーカイブのメタデータ集約を指向したオントロジーの開発”. 研究報告人文科学とコンピュータ (CH), 2018, vol. 2018-CH-116, no. 9, pp.1-7. [11] 松井慧ほか. “震災関連資料のリンキングを目的とした地理的名称トレースのためのLODデータセットの開発”. 研究報告人文科学とコンピュータ (CH), 2018, 2018-CH-116, 11, pp.1-6.
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# National Diet Library Great East Japan Earthquake Archive (HINAGIKU): 'The Portal site for records and reports of earthquake disasters' \author{ 伊東 敦子 \\ ITO Atsuko \\ 国立国会図書館電子情報部 } 抄録:国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(愛称:ひなぎく)は、東日本大震災に関する記録等を包括的に検索できるポータ ルサイトである。東日本大震竾の記録等を国全体として収集・保存・提供するために、様々な機関と連携・協力して国のアーカイ ブとしての役割を担っている。現在、国内外の 47 アーカイブと連携しており、検索対象メタデータ数は約 376 万件となった。震災から 7 年が経過し、様々な機関との連携を進めると同時に防災学習等にも力を入れている。本稿では、ひなぎくの特色ある記録等の収集を俯瞰するともに、見えてきた課題等を紹介する。 Abstract: HINAGIKU is a portal site enables comprehensive search of records and reports of the Great East Japan Earthquake disaster. In cooperation and collaboration with various organizations, HINAGIKU acts as a national archive to collect, preserve and share the information of the earthquake. It is connected with 47 archives both in Japan and overseas, and enables users to search and access metadata of approximately 3.8 million records. During the seven years that followed the earthquake, HINAGIKU has been promoting collaboration with various agencies while also focusing on disaster prevention learning etc. This article presents overview of the acquisition of distinctive records for HINAGIKU and describes the issues coming to light. キーワード : 東日本大震災、デジタルアーカイブ、国立国会図書館、ポータルサイト、震災アーカイブ Keywords: Great East Japan Earthquake, Digital Archive, National Diet Library, potal site, disaster archive # # 1. はじめに 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(愛称:ひ なぎく)(以下、「ひなぎく」という)は、東日本大震災に関する記録等を一元的に検索できるポータルサイ トである。 国立国会図書館(以下、「NDL」という)は、政府 の「復興構想 7 原則 $\rfloor^{[1]}$ 、「東日本大震災からの復興の 基本方針 $\rfloor^{[2]}$ に基づき、地震・津波災害、原子力災害 の記録・教訓の収集・保存・公開体制の整備を国全体 として実現するために、東日本大震災、原子力災害、過去に発生した地震・津波災害の記録・教訓(以下「震災の記録等」という)を網羅的に収集すると共に、国内外を問わず、誰もが一元的にアクセス可能な仕組 みを構築することを目的として、総務省と連携してひ なぎくを開発し、平成 25 年 3 月 7 日に公開した。 図1ひなぎくトップページhttp://kn.ndl.go.jp/ NDL は、「国立国会図書館東日本大震災アーカイブ 構築プロジェクトの基本的な方針」 ${ }^{[3]}$ 策定し、「震災 に関するあらゆる記録・教訓を、次の世代へ」をコン セプトに、(1)東日本大震災の記録等を、国全体として 収集・保存・提供すること、(2)関係する官民の機関が、 それぞれの強みを活かし分担・連携・協力し、全体と して国の震災アーカイブとして機能すること、(3)東日本大震災の記録等を国内外に発信するとともに後世に 永続的に伝え、被災地の復興事業、今後の防災・減災対策、学術研究、教育等への活用に資すること、の三 つを基本理念として推進してきた。 公開から 5 年が経過した現在、連携するアーカイブ は 47、検索対象メタデータ数は約 376 万件となった。 表1 連携の推移 & 239 万 & 256 万 & 288 万 & 318 万 & 349 万 & 376 万 \\ ## 2. ひなぎくで検索できる震災の記録等 東日本大震災は、大津波と原子力発電所事故が併発した未曽有の大災害であった。そのため、ひなぎくは、地震 - 津波災害に加之、原子力発電所事故関係の記録等も収集の対象としている。また、今後の防災対策等に活用することを目指し、東日本大震災の被災状況だけでなく、震災以前の記録、震災後の復興の記録も含んでいる。国や自治体等の公的機関はもち万んのこと、民間も含めた様々な機関・団体等による記録等を対象としている。形式は、図書や雑誌等の刊行物及びそのデジタル化資料、官民のウェブサイト、写真、動画、音声、ファクトデータ等多岐にわたる。 ひなぎくで検索できる震災の記録等は大きく三つに分けることができる。(1) NDLとして収集する震災の記録等、(2)各アーカイブと連携して収集したメタデー 夕、(3)ひなぎくで独自に収集したデジタルコンテンツ、 である。 ## 2.1 NDLとして収集する震災の記録等 NDL の制度的収集は、震災の記録等の収集に大きな役割を果たしている。国内で出版された紙の資料や $\mathrm{CD} 、 \mathrm{DVD}$ 等の媒体の電子資料は納本制度によって網羅的に収集されて、ひなぎくで検索可能となり、将来にわたって保存される。さらに、紙の資料は、NDL の資料デジタル化基本計画に沿ってデジタル化され、将来的にはインターネット経由で利用できることが見达まれる。国や自治体のウェブサイト等のインター ネット資料は、「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」(WARP)(以下、「WARP」という。) により収集している。東日本大震災発災後、国 32 機関及び被災自治体 105 機関の合計 137 機関のウェブサイトを通常より高い頻度で収集し、震災関連情報の収集体制を強化した。また、企業やボランティア団体等の制度収集対象外の団体のウェブサイトは、個別に依頼して許諾を得ることで収集に努めている。 ## 2.2 各アーカイブと連携して収集したメタデータ 各機関のアーカイブとの連携は、メタデータを収集する形で実現している。連携方法は、2 通りある。一つ目は、コンテンッがインターネット公開されているアーカイブとの連携である。利用者は、ひなぎくの検索結果から、連携機関のアーカイブのコンテンツ閲覧画面へ移動してコンテンツを閲覧できる。メタデータの収集は、連携先の API (Application Programming Interface)を使用する方法と連携先からメタデータの一覧が記載された表形式ファイル等を送付される方法のいずれかで行っている。二つ目は、図書、雑誌などの紙資料を保存する機関のメタデータ(書誌)を対象に連携する場合で、コンテンツの所在情報のみを知ることができる連携である。図書館等の OPAC デー夕、被災地域の図書館が積極的に収集している震災関連の記録等のデータがある。 さらに、一元的な検索結果には反映されないが、ひなぎくで入力した同じ検索語を引き継いで、外部デー タベースを再検索する形で連携している例もある。電子政府の総合密口「e-Gov」の行政文書ファイル管理簿 (の検索機能 $)^{[4]}$ 等とはこの方法で連携している。 なお、このような外部データベース再検索の連携は、 ひなぎくの「連携データベース」47には含めていない。 ## 2.3 ひなぎくで独自に収集したデジタルコンテンツ ひなぎくでは、他機関から提供された一次資料を保管する電子書庫機能を有している。現在までに、52 機関から提供を受けた。政府による追悼式典の記録や震災発生日以降の国会審議中継動画の一部、原子力規制委員会や復興庁の広報動画といった公的機関が公開している動画に加元、法人・企業等による支援活動の写真や記録動画等がある。中でも、国土地理院や航空写真撮影各社から提供された空中写真は、被災状況だけでなく復興の過程を示しており、貴重な記録と言える。また、東京電力福島第一原子力発電所事故に関する記者会見やホームページ等で公開された資料を原子力規制委員会がアーカイブした「東京電力福島第一原子力発電所事故情報に係るアーカイブ ${ }^{[5]}$ も、特色のある記録と言える。 ## 3. 連携の意義 ## 3.1 ひなぎくを介した情報提供 ひなぎくは、連携先の震災の記録等を一度に検索し、検索結果表示を一覧することができるほか、第三者への再配布の許諾を得た 15 機関のメタデータを、国立国会図書館東日本大震災アーカイブメタデータスキー マ(以下、「震災メタデータスキーマ」という。)の形式で、APIを通じて配布している。震災メタデータスキーマは、震災の記録等になじむよう、国立国会図書館グブリンコアメタデータ記述(DC-NDL) ${ }^{[6} を$ 拡張したものである。このようにメタデータを一元的に再配布することは、震災の記録等の利活用に結びつくと考えている。 ## 3.2 ウェブアーカイブの活用(WARPで収集した記録等の活用) NDL は、WARP で収集したウェブサイトに掲載されている報告書などの図書・逐次刊行物に相当するものをオンライン資料收集制度により、国立国会図書館デジタルコレクションへ、震災関連の写真や動画等をひなぎくの電子書庫へメタデータを付して格納する取組を行っている。こうすることで、膨大なウェブアー カイブの中から求めるコンテンツを効率的に検索できるようになる。さらに、ウェブサイトに掲載されている震災関連情報のページを対象にメタデータを付与して、ひなぎくで検索できるような取組を行っている。例えば、内閣府 (防災) のウェブページにある「一日前プロジェクト $]^{[7]} の$ 、地震・津波に関するエピソー ドに対して、タイトル(見出し)や災害名で検索ができるようにメタデータを付与した事例がある。 また、WARPのコンテンツを活用している例として、連携アーカイブの一つである「福島原子力事故関連情報アーカイブ(FNAA)」豆要がある。FNAAは、東京電力福島第一原子力発電所事故に関するインターネット情報及び学会口頭発表情報を検索・閲覧することができるアーカイブであるが、インターネット情報は WARP のコンテンツを活用している。具体的には、 WARP から、福島第一原子力発電所事故関係のコンテンツを抽出し、そのコンテンツに専門的で詳細なメ夕データを付与している。当該メタデータには WARP で保存されているコンテンツに直接リンクが貼られており、永続的なアクセスを保証している。このように、 NDLがこれまで蓄積してきたウェブアーカイブの情報が活用され、詳細な情報が付与されて NDL と連携されることは意義深い。 ## 3.3 震災アーカイブと連携するメリット ひなぎくの連携先となっているデータベースとその運営機関を一覧に示す。 表2 ひなぎく連携先一覧 } & 青森震災アーカイブ & \\ } & & ヤフー株式会社 \\ ※上記の表からは国立国会図書館のデータベースは除いている。 このように、ひなぎくが連携する 47 のアーカイブの分野は多岐にわたっている。地域のアーカイブ、専門研究機関のアーカイブ、企業のアーカイブ等、各機関が作成し、整理し、保存する記録等は、各々が専門性を持つ重要なものである。それらがひなぎくで一元的に検索できることで、個々のアーカイブだけを検索していてはたどり着くことができない情報と結びつくこともあるだろう。 東日本大震災の被災地域では、多くの自治体がアー カイブを構築した。例えば宮城県の「東日本大震災アーカイブ宮城」は、県庁内の文書及び県内の市町村の記録等を取りまとめることで、県のポータルサイトの役割を果たしている。県が取りまとめることで、直接県民からその地域ならではの記録を収集し、地域に根付いたメタデータを付与している。また、アーカイブのコンテンツを県の観光や防災活動に活用する等の取組も充実している。こうして構築された県域のアー カイブは、各地域の復興事業の記録がきめ細かく保存されている。このように地域に密着したアーカイブとの連携は、ひなぎくにとって今後一層重要となるだ万う。 また、福島県立医科大学や日本原子力研究開発機構等、大学・研究機関等との連携においては、それぞれの機関の特性に応じた記録等が収集されており、専門性の高い資料群が構築されている。報道各社、とりわけ新聞社の新聞記事等のアーカイブは、地域のイベン卜等が記事に取り上げられていることから、主な行事や活動の記録の情報源としての価値が大きく、他アー カイブの写真や動画等と突き合わせることにより、対象としているイベントの活動内容がよりわかりやすくなることがある。企業やボランティア団体の記録は、被災者の生活状況の記録等が、各種活動を切り口にし て記録されており、重要な記録となっている。 東日本大震災は、発災時刻が平日の日中であったことから、多くの人が発災時にスマートフォン等の記録手段を携帯していた。このため、個人が撮影した多数のデジタル形態の動画や写真が多く残され、貴重な記録となった。これは、阪神淡路大震災当時との大きな違いである。このため、東日本大震災の発災後は動画や写真を投稿するサイトが発足して数多くの記録を集めていった。NDLは、個人の方からの写真や画像等の寄贈は直接受け付けていないが、これらの投稿サイ卜等と連携することで、個人の方が撮影した記録等を検索できるようになっている。いくつかの投稿サイト 震災の記録を保存している場合には、投稿していたたきたい。投稿することで記録として保存され、ひなぎくからも閲覧することが可能になる。 このように官民の機関と連携し、それぞれの強みを活かし分担・連携・協力することは、国の震災のポー タルサイトとしての機能を充実させるためには必須である。 ## 4. アーカイブ連携の課題とNDLの取組 震災から 7 年、ひなぎく公開から 5 年以上が経過し、震災の記録等のポータルサイトとしての運営も軌道に乗っている。 一方で、課題が明らかになってきた。ひなぎくで検索できる震災関連の記録等が増加したことによる検索上の課題、アーカイブごとに異なる二次利用の対応、複製が容易なデジタル情報ゆえに複雑化する著作権の課題、インターネット公開により深刻化する肖像権・ プライバシー権の課題、悲惨な被害状況等を公開することに関する倫理上の課題、コンテンッのデジタル化やメタデータ作成に掛かるコストの課題、そして、長期的なシステム維持経費の課題等々、アーカイブの構築では必ず直面する課題である。本稿では、アーカイブ連携による課題を三つ紹介したい。 ## 4.1 検索に関する課題 コンテンツの増加や連携の拡張が進むにつれ、必要な記録等にたどり着くのが難しいという意見がでるようになった。これは、利用者が記録等にたどり着くためには、検索語を入力して検索しなければならないことが一番の原因と考えられる。また、コンテンツのメタデータには、具体的な固有名詞ではないものや、コンテンツに関する情報量が不足しているものがあることに加え、類似の写真や類似のメタデータが増加した こと、同一のコンテンツが異なるアーカイブから提供されるようになったこと等が要因と考えられる。甚大な被災地域や場所の写真等は、多くの人が記録を残しているため、各アーカイブに存在することが多い。各アーカイブでは、それぞれの基準に則ってメタデータを付与しているため各アーカイブのみで利用する限りは問題とならないが、ひなぎくで一元的に検索すると、似たようなタイトルの検索結果が列挙される事態が生じ、タイトルだけでは、目的のコンテンツなのかを識別することが困難となっている。カテゴリ検索等の検索語以外の検索方法が連携先アーカイブにあった場合でも、ひなぎく側にそれに対応する機能がなければ、 ひなぎくで使用することはできない。例えば、連携先アーカイブでどのカテゴリに登録されているかの情報が仮にメタデータとしてひなぎくに収録されていたとしても、ひなぎくが連携先と同様のカテゴリ機能を持っていなければ、カテゴリ検索を使用できない。 また、数は少ないが、同一の記録が異なるコンテンツとして表示される事態も生じている。今後、アーカイブ利用者による利活用も視野に入れて、震災の記録等を教訓として伝承していくためには、震災の記録には、いつ、どこで、誰が作成した記録なのかを明確に残しておくことが重要である。このため、震災記録には、可能な限り識別できる番号を付与し、同一の写真であれば同一の識別番号を付与することが必要ではないかと考える。震災の記録等を未来へ伝えるためには、永続的で、国際的な識別子を付与することが望ましい。例えば、デジタルオブジェクト識別子 (Digital Object Identifier: DOI)の付与等が適しているのではないだ万うか。DOI は学術論文や研究デー夕、映像デー夕等、様々なデジタルデータに付与されている識別子である。もし、アーカイブの運営機関が変更になり、デジタルデータに対する URLが変更されても、所定の手続きを経ることでリダイレクトされ、アクセスを保障する仕組みである。 ## 4.2 システムの維持の課題 アーカイブは構築したら終わりではない。システムを維持するためには、システム保守、サーバ管理等が必要である。通常、サーバ等のハードウェアは 5 年で入れ替わる。このため、システムの維持を含めたアー カイブの維持が難しいという話を聞くようになった。 ひなぎくにおいても、平成 28 年度に国立国会図書館サーチと国立国会図書館デジタルコレクションの既存のシステムと機能を共有することで、経費削減を図っている。 また、現在連携するアーカイブでも、システム更新、 セキュリティ強化、メタデータ項目の見直し等により、 システム改修が発生している。システム改修は、どちらか一方のシステム改修のみで終わることは少なく、双方に費用負担が発生することが多い。このため、予算確保が追い付かずすぐに対応ができないこともある。迅速な対応をするためには改修の予定をお互いに事前連絡し合うことが必須である。 ## 4.3 閉鎖されるアーカイブと権利処理の課題 ひなぎくと連携するアーカイブの統合や閉鎖は、これまでにもあった。NDLは、アーカイブ活動が維持困難となり、かつ後継となる機関等が存在しない場合には、当該アーカイブ機関が収集した記録等を受け入れることとしている。アーカイブが閉鎖される場合には、その情報を速やかに把握し、閉鎖予定機関と連絡をしながらコンテンツの散逸を防ぐ必要がある。まずは、閉鎖アーカイブのコンテンツを、NDLが受け入れるか、他に受け入れる機関があるかを確認し、検討して調整を行う。NDLが引き継ぐこととなった場合には、著作権をはじめとするコンテンツの権利処理の状況を確認し、必要に応じて追加の権利処理を行う。 これまで、連携先のアーカイブが統合された事例としては、「青森震災アーカイブ」に「あおもりデジタルアーカイブシステム」が統合された事例等がある。 また、閉鎖されたアーカイブを NDLが承継した例としては、「陸前高田震災アーカイブ NAVI」の一部のコンテンツがある。継承した際には、コンテンツ毎に著作権等を確認したうえで、改めて許諾を得るという手順を踏んだ。 このように閉鎖アーカイブのコンテンッの承継には、改めて権利処理を行う必要がある場合がある。震災から年月が経つにつれて、権利者が不明又は連絡が取れない等の理由で許諾が得られないことが増えることが予測される。このためにNDLでは、閉鎖アーカイブの発生前に、引き継ぐための権利処理、プライバシー対応の指針を定めておくことが必須であると考之、平成 29 年 3 月に「東日本大震災関係電子情報提供等契約に基づく電子情報の利用制限措置に関する事務取扱要領」 ${ }^{[10]}$ 策定した。これは、被記録者の肖像その他利用に配慮を要すると認められる内容について、明示的な許諾の有無を確認していない資料群がひなぎくに提供された場合を想定している。具体的には、被記録者の権利を保護するために、ひなぎくでの公開前に肖像の遮蔽等の措置を講じ、さらに申出に基づいた利用制限措置を実施する仕組みである。策定後該当 する事例は未だ発生していないが、この手続きを経て公開するためには、大きな時間と労力を要することが判明しており、さらなる課題となると予測される。 ## 5. おわりに ひなぎくは、今年 3 月に熊本県が運営する「熊本地震デジタルアーカイブ」と連携を開始した。熊本地震発災後に作成される東日本大震災を主題とする記録に、熊本地震で得られた知見も盛り达まれるようになってきており、また、熊本地震を主題とする記録には、東日本大震災で得られた知見を前提に作成されることが予想される。このため、東日本大震災の教訓を生かすためには、熊本地震等との比較検討が必須であると考えられる。このように、今後、震災等が発災した場合には、その主題等を確認しながら連携を進め、記録等の収集に努めていくことになる。 散逸しやすい資料や情報の収集は一段落し、また収集のルートも確立した。これからは、この震災の記録等を利活用するフェーズに入っている。新しく構築されるアーカイブには、ひなぎくをはじめとする既存のデジタルアーカイブの課題を最初から考慮して構築されているものがある。例えば、「いわて震災津波アー カイブ〜希望〜」は、カテゴリ分けをして活用しやすい取組を設けている。また、「熊本地震デジタルアー カイブ」は、コンテンッの二次利用を見据えて構築されている。ひなぎくは今後、今あるコンテンツの紹介 コーナーを拡充し、魅力あるコンテンツを紹介するページを設ける等の工夫をする予定である。また、防災学習等に役立てるための活動も実施していく。 今後、震災アーカイブの構築を検討する機関には、 メタデータは震災メタデータスキーマで作成し、メ夕データの公開・配布までを視野に入れていただきたい。ひなぎくでは総務省が作成した「震災関連デジ夕ルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン」 $\rfloor^{[1]} を$公開している。是非参考にしていただき、震災の記録等の一元的な保存と検索のためにひなぎくとの連携を目指してほしい。 (註・参考文献) (URL 参照日は全て 2018 年 6 月 14 日) [1] 平成 23 年 5 月 10 日東日本大震災復興構想会議決定 [2] 平成23年7月29日決定、8月11日改訂東日本大震災復興対策本部 [3] http://kn2.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8556385_po_ NDL\%28DI\%291204273.pdf?contentNo=1\&alternativeNo [4] http://files.e-gov.go.jp/servlet/Fsearch [5] 旧原子力安全・保安院等が所有していた公表済資料のうち、東日本大震災発災後約1年分。 [6] http://www.ndl.go.jp/jp/dlib/standards/meta/index.html [7] http://www.bousai.go.jp/kyoiku/keigen/ichinitimae/index.html [8] http://f-archive.jaea.go.jp/index.php?locale=jpn [9] http://kn.ndl.go.jp/static/collection/cooperation?language=ja [10] http://kn2.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11052066_po_ NDL\%28DI\%291703021.pdf?contentNo=1\&alternativeNo= [11] http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ ictriyou/02ryutsu02_03000114.html
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Japan Society for Digital Archive
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# 日本災害DIGITALアーカイブの展開 と展望 ## Japan Disasters Digital Archive: Its Evolution and Future Prospects \author{ ゴードンアンドルー \\ ハーバード大学歴史学部 } \author{ 森本涼 \\ MORIMOTO Ryo \\ プリンストン大学人類学部 } \begin{abstract} 抄録:この論文では、2011 年より7 年目を迎えた日本焱害 DIGITALアーカイブ (JDA) の進化を紹介すると同時に、日本焱害 DIGITAL アーカイブが進めてきた、連携・参加型デジタルアーカイブの意義と、災害デジタルアーカイブ全般の発展への役割を議論する。独自に開発してきた利用者の参加を促す機能を説明しながら、現在の利活用促進へのアウトリーチ活動の経過報告と幾つかの実証例を紹介し、デジタル災害資料の利用価値を産む、参加型アーカイブの形を提案する。また、日本国外の日本災害アーカイブとしての独自の視点で得た、震災後急激に発展した国内でのデジタルアーカブズ分野の共通課題と、デジタルアーカイブ学会への展望を論ずる。 Abstract: This article details the evolution of the Japan Disasters Digital Archive (JDA) at the Edwin O. Reischauer Institute of Japanese Studies (JDA). Since its inception in March 2011, JDA has pursued the innovation of a collaborative and participatory disaster digital archive. In discussing this concept, we offer perspectives on the role the JDA model might play in further developing disaster archives in Japan. In addition, we report on our past and ongoing outreach activities aimed at creating and cultivating user communities in and outside of Japan, and ways our unique participatory features encourage users to discover and use existing digital records of the disasters as well as to generate new value by adding materials and interpretations to the archive. We conclude with thoughts on the challenges of disaster archiving in Japan and hopes for the Japan Society of Digital Archive. \end{abstract} キーワード : 災害、デジタルアーカイブ、メタデータ、デジタル資料、利活用、権利処理 Keywords: Disaster, Digital Archive, Metadata, Digital Record, Rights Issues, Use and Application ## 1. はじめに 東日本大震災は、世界的なデジタルアーカイブ時代の黎明期に偶然重なった。日本では、2011 年を『デジタルアーカイブ元年』と呼ぶのが相応しいだろう。大震災による災害の記録と記憶のデジタルリポジトリを作成する事が、デジタルアーカイブの重要性と潜在性、そして防災・減災の認識を広める上で中心的な役割を果たしてきたと言える。 震災発生後の間も無く、ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所(以下、研究所)を含む数多くの団体が、前例のない複合災害に対して、 ほぼ同時期にデジタルアーカイブの構築を開始した。我々の初動の速さは、皮肉にも拠点(アメリカ、ケンブリッジ)が被災地より遠く離れており、被害を受けず、移転や再建の必要も無いと言う「距離」の利点があった。同時に、日本からの留学生や大学教職員、日本と関係を持つ学生とスタッフは、「何かをする」という衝動に駆られた。資金集めや啓蒙の為のシンポジウムの開催に加え、震災から数日後には既に、教職員 や学生がデジタルの災害記録の収集等の活動を通じて長期的な貢献方法の可能性について話し合っていた。研究所では、2005 年に日本の憲法改正問題に関するウェブアーカイブプロジェクトを開始していた ${ }^{[1]}$ 。本プロジェクトは、21世紀に公的問題に関する多くの議論が仮想空間 (ウェブサイト等) で行われている事、 そのウェブサイトは頻繁に更新されている事の 2 つの前提があった。ウェブサイトが変更または消失する前に、体系的な保存の努力がなければ、重要な論争の歴史を追求したい将来の研究者達が露頭に迷う事はわかっていた。 本経験を踏まえ、「日本災害 DIGITAL アーカイブ $\left.{ }^{[2]}\right.\rfloor$ (図 1、以下、JDA)は、ウェブサイトとオンライン揭示板を中心に開始をした。本計画を広く周知した際に、大学院生や学部生からややデジタル社会に疎い教員達に対して「ウェブサイトは重要だが、デジタルアーカイブはその集合体以上でなければならないと」 と提案がなされた。直ちにウェブサイトやSNS、画像、映像、新聞記事・見出し、証言、文書など、多様な種 類の記録を保存することを開始した。これを起点に、様々な課題に対して試行錯誤を繰り返し、日本の協力機関との深い関係を通して JDA は進化していくこととなった。 JDA は、震災から数か月後に関係機関と連携する体制を確立していた。これは、震災が非常に広範囲であり、一つの機関が網羅的に記録の収集・公開するなどが不可能だったためである。日本では、複数プロジェクトが開始していることを知り、2011 年の夏に関係機関の有志と定期的に意見交換を開始した。同年秋までに、これらのプロジェクト実施機関とより強勒な協力関係を築き始めるにつれて、JDAが離れた場所からでも貢献ができる方法を模索した。その結果、個々のプロジェクトができるたけ滞りなく繋がる『連携型アーカイブ』となり、その後、利用者が菼害記録を集めて協力する『参加型アーカイブ』として発展した。参加型アーカイブへの最初の兆しは、少数スタッフではウェブ上の情報を収集・保存する作業が不可能であったため、ウェブサイトの選定・投稿をボランティアで行うクラウドソーシング体制に繋がった。 図1日本災害DIGITALアーカイブホームページ (jdarchive.org) 2011 年秋から、独自プラットフォームを開発しながら、日本の協力機関との関係構築をした。著者(ゴー ドン)は、2011 年秋から翌年末までに 6 回の日本訪問を行い、その中でも 2011 年 10 月の岩手県遠野市で開催された「東日本大震災の記録とその活用〜3.11まるごとアーカイブズの目指すもの〜」は、重要であった。 さらに、2012 年 1 月の東日本大震災アーカイブ国際シンポジウムでは、グローバルパートナーシップセンターの助成により東北大との共催で実現した ${ }^{[3]}$ 。日本からの寞大な寄付金から成る研究所の運営費やセンターからの支援が糧となり、私達は恩返しの精神で迅速に対応することができた。2012年 3 月には、JDAの最初のサイトを公開した。当初のサイトは、非常に原始的で不安定であったが、試行錯誤を続け、また多くの関係機関の協力を頂き、より安定したアーカイブサイトを構築することができた。2016 年からは、2016年熊本地震の対応など範囲を広げて活動している。 以下に、『連携・参加型アーカイブ』の主な特徴や機能および課題ついて説明する。 ## 2. JDAとその基本原則 ## 『保存』・発見』・連携』・渗加』 この4つの親密に関連する言葉は、プロジェクトの初期から続くJDA の基本原則である。JDA は、4つの基本原則を土台に、他のプロジェクトとの協力体制で行う連携型アーカイブを推進し、世界中の利用者の参加によって成長する参加型アーカイブサイトを運用している。JDA は、東日本以外の幅広い利用者、つまり、世界中の利用者が、協力機関によって収集された記録をJDA 内で簡便に発見し、利活用をできるようにする事を目的としている。 ## 2.1 協力機関との連携 東北大の柴山らは、震災デジタルアーカイブを「コンテンツフォルダ型」と「横断検索型」の 2 種類に分類している ${ }^{[4]}$ 。彼らの評価では、日本の震災アーカイブのほとんどは前者に属し、プロジェクト毎に震災関連記録の収集から保存、管理、公開までを一貫して行なっている。一方、国立国会図書館の「ひなぎく」や JDA などの「横断検索型」には、コンテンツフォルダ型と連携してポータルサイトとして機能し、異なるプロジェクトのコンテンツを横断的に検索することが可能である。実際にJDA で扱っている大半は、日米の 15 以上の協力機関が収集した資料であり、JDAのインターフェイスで一元的に検索、表示することができる(図 2)。 図2 JDA連携概念図 協力機関との連携方法は、協力機関が用意する API を使用している他、FTP 又はRSS で連携している。 その他、Internet Archive と連携協力を行っているが、専門スタッフによるキュレーションが必要不可欠である。JDAスタッフは、利用者が探し出し投稿したウェブ情報 (ニュース記事、PDF、YouTube、写真など)を、 Internet Archive の Archive-It サービスを用いて、一つ一つ内容を確認しながら保存する作業を行っている ${ }^{[5]}$ 2018 年 5 月現在、JDA 内で発見可能なコンテンツ総数は、 160 万件を超えており、独自コンテンツは全体の 66,000(4.1\%)を少し上回る。 JDAのインターフェイスは、ボストンの地元企業 (ADK Group) が Drupal をカスタマイズし貴重な記録の発見を可能にしている。さらに、コロンビアにあるデジタルマッピングコンサルティング会社の Terranodo によって開発されたヒートマップにより、コンテンツを地図上で画期的なかたちで視覚化することができる。本プロジェクトは、全世界の協力者によって成り立っているオープンソースプロジェクトで ${ }^{[6]}$ デジタル時代の共同連携作業の象徴である。 ## 2.2 参加型アーカイブ JDA は、災害アーカイブのポータルサイト以上の役割を果す事ができる ${ }^{[7]}$ 。JDAの機能には、利用者が積極的に参加する事で記録の追加や記録の利活用を促進することができる。これは、多様な背景を持つ個々の利用者が記録に対して新しい価値や意味、想像力、解釈を共に生み出し、記録に付加価値を付けることができる ${ }^{[8]}$ 。これは、次世代に伝える活動の支援する革新的な環境である。さらに、利用者がキュレーターや研究者、過去の災害のオブザーバーを同時になれる機能を持っており、「貢献」機能、「マイ・コレクション」機能、「プレゼンテーション」機能などがある。以下に機能の説明をする。 ## 2.3 「貢献」機能について JDA で目的とするものが見つからない場合は、「貢献」機能でその問題を解決する。「貢献」機能は、利用者自身が収集した資料 (ウェブサイトや画像、文章、映像、音声データなど)を JDA に投稿や共有することができる他、震災経験した方の個人的な思いや記憶を「証言・物語」として共有することもできる。 しかしながら、利用者自身が収集したウェブ上のボーンデジタル記録は、急速に消えてしまう問題 ${ }^{[9]}$ がある。さらに、ウェブコンテンツをアーカイブサイ卜等に保存するには、複雑な作業が必要である。そのために「JDAブックマークレット」というブラウザツールを作成した。ツールは、ウェブのタイトルや URL、内容などを半自動的に抽出し、JDAのサイトに登録することができる。現段階では、すべての情報が抽出できるのではなく、ウェブサイトの公開日やサイトの特徴を示すキーワード、位置情報などを自分で入力の必要性があるため、ツールの改善を現在も続けている。震焱から 7 年間で「貢献」機能を用いた資料の提供は、65,000を超える。 その他、「貢献」機能には、利用者が JDA 内で参照できる全ての記録のメタデータに対して追記が可能である。例えば、利用者が既存の記録のタイトルやキー ワードなどを他の言語での追加ができ、他の利用者のアクセシビリティを向上することができる。本機能で利用者がアーキビストになり、資料整理活動に参加することができる。 ## 2.4 「マイ・コレクション」機能と「プレゼンテーション」機能 「マイ・コレクション」機能は、最も重要でユニー クな JDAの独自機能である。現在、参照可能なコレクションは 400 以上、プライベートコレクションも 500 以上がある。本機能は、サイトアカウントを持つ利用者が、自身の興味あるテーマや場所、時間など、様々な条件を基に資料を整理して、自身のコレクションを作成することができる。さらに、「ノート」機能を使うことで、その資料群に関する個人的なメモや感想などを付け加える事もできる。利用者自身が作成したコレクションは、公開もでき、他の利用者が閲覧することができる。本機能により、様々な利用者の視点でまとめられた資料同士の新たな繋がりや新たな価值を見出し、他の利用者へ新たな角度からの提案や発見を促すことができる。 「マイ・コレクション」機能は、アーカイブとして革新的な機能たが、最近まで、簡潔かつダイナミックにプレゼンテーションするツールを持っていなかった。この問題を改善するために、2017年3月に「プレゼンテーション」機能を追加した。本機能により、「マイ・コレクション」の情報からプレゼンテーションを自動的に作成することが可能になった。さらに、 すべての利用者は、他の公開されているコレクションでも本機能を利用できる。本機能は、他のプレゼンテーションツールとは異なり、IFrameを使用して、 ウェブコンテンツをできるだけオリジナルに近い状態で表示できるようにしている。本機能により、ウェブサイトの全ページの表示やスクロールが可能であり、 さらに、埋め込まれた YouTube のビデオを再生することができる。上記の各機能を組み合わせることで、協力機関が収集した記録や利用者が投稿した記録を活用して、ダイナミックなマルチメディアプレゼンテー ションを作成することができる。 ## 3. 利用者のコミュニティと利活用の例 本プロジェクトを開始時、研究者や教育者、政府関係者、NPO、一般市民、被災者などの多様な利用者に利用されることを想定した。以下に、JDAの様々な試みについて説明する。 ## 3.1 JDAを利用した教育活動 JDA は、防災教育目的で開発した。現在、ハーバー ド大 (デジタル方法論、人類学、日本史)、エモリー 大 (環境学)、スミスカレッジ(日本史)、東北大 (災害研究、グローバルセーフティー) などの大学機関で定期的に教育利用されている。大学では、学生達がマイ・コレクション機能を用いて自身の研究を発表している。その中で、2015 年からハーバード大と東北大の両学生が、互いの観点から東日本大震災を教え合う試みを行なっている。この試みを通じ、JDA が国や国籍、場所を選ばず、日本の過去の災害記憶から知見を生み出し、世界各地の学生を繋ぐきっかけになれることが証明することができた。 2016 年から Showa Boston Institute of Language and Culture の学生達は、アカウントを共有して JDA の資料にメタデータの追記するボランティア活動を行っている。学生は、災害記録に触れる機会を作るだけでなく、記録がどのように作成・整理され、インターネッ卜上に流通しているかを学ぶことができる。本試みは、 JDA で災害を学ぶこと以外にも、デジタルリテラシー を効果的に学ぶことができる教育的価値があることを示した。 ## 3.2 JDAを利用した研究活動 JDA は、定量分析のためのプラットフォームとも成り得る。JDA に実装されているエクスポート AP ${ }^{[10]}$ を使用すると、JDA内の項目を抽出して定量分析する事ができる。例えば、アムステルダムの Digital Method Initiative(以下、DMI)は、Hypercities $の 80$ 万件以上の震災直後のツイートを分析した。ツイートの位置情報を利用する事で、人々が緊急時にどのような情報を広め、どのようなハッシュタグが頻繁に使用され、特定のツイートがどのような場所で誰に対してリツイー トされたかが示された。 上記の研究では、1つのデータタイプのみに焦点を当てた研究だが、それはJDAの更なる定量分析分野での利用価値があることを示している。今後、DMI のような高度な技術を持った利用者は、JDA 内の様々な種類の資料がどのように関連しているか、専門家と一般利用者が同じ資料に対してどのような傾向が見ら れるのかなど、ビックデータ分析に用いることを願っている。 ## 3.3 JDAアウトリーチ活動と新たな利用者コミュニ ティの開拓 JDAの新たな試みとして、被災地域での利用者コミュニティの育成について考えている。以下に $3 つの$試みについて説明する。 一つ目の福島県福島工業高等専門学校は、2018 年 4 月から英語授業にJDAを組み达んでいる。生徒は、両親や親戚に東日本大震災の経験の聞き取りと震災時に撮影した写真等を収集し、英語の説明文を加えて JDA に投稿をする。次に、JDA のプレゼンテーション機能を用いて、生徒自身が震災後の福島での生活の経験や考えについて資料を作成し、国内外の人々に自身の言葉で伝える試みである。 二つ目の宮城県多賀城高等学校災害科学科では、東北大と連携して 2018 年夏に実施する。生徒は、学校から生徒一人一人に配布されているタブレット端末を用いて、震災資料や自身の活動内容等を JDA に投稿することや JDA 内の震災資料に対してメタデータの追加を行うことを予定している。本授業は、生徒に対して、今後の被災地域における活動や防災観光、ボランティア、コミュニティーアーカイブなどの場面で、 JDA の利用価値を探るのに役立つと考えている ${ }^{[11]}$ 三つ目の可能性として、「マイ・コレクション」機能を「マイ・アーカイブ」と捉えたJDA の利活用があると考える。貢献機能を中心として JDAを利用する事で、自家製のアーカイブを開発する事なく、誰でも簡単にアーカイブを作り発信する事が可能だ。災害時やその後を記録するために自治体、NPO、企業または個人が積極的に JDAを使い、迅速にデジタル資料を保存するために利活用してもらいたい。 様々な利用者コミュニテイに出向いて多くの利活用事例を探求し、その他のコミュニティに対して JDA の利活用モデルを提供して行きたいと考えている。東日本大震災から 8 年目に入り、デジタル黎明期も次の段階となっている。今後、JDAの連携・参加型アーカイブが標準アーカイブになることを願っている。そして「アーカイブ」と言う言葉が指すものが、保守的な記録庫では無く[12]、オープンでダイナミックな「記憶と記録の場」になることを期待している ${ }^{[13][14]}$ 。 ## 4. 海外から見たデジタルアーカイブの課題 JDA は、直面している多くの課題があるが、他の災害関連アーカイブやデジタルアーカイブ全体にも共通 していると考えている。当然、日本の複数の組織や研究者はこれらの課題の詳細な分析を行い、思慮深い提案をしている。2018 年 2 月の「大規模自然災害情報の収集・保存・活用方策に関する調查会」 ${ }^{[15]}$ の報告書には、JDAが現在進行形で直面しているほぼ全ての課題について触れられている。著者らの問題提起は、 おそらく重複するかもしれないが、海外からの視点で以下の 4 つ課題を示す。 ## 4.1 今後のアーカイブプロジェクトの継続の課題 アーカイブは、デジタルや紙媒体に関係なく、最も基本的な作業は資料を保存することである。しかし、連携型アーカイブには、他のアーカイブプロジェクトに記録の保存の活動に依存している。そのため、プロジェクトが終了した場合、そこに保管されていた記録がサイトから消え、連携が維持できない課題がある。国立国会図書館も取り組んでいる 1 つ解決方法は、 サイト自体が消滅する前にデジタル資料を引き継ぎ、他のサイトとの連携を維持することである。JDA は、必要であれば同様の役割を果たしたいと考えるが、依頼される可能性は低い。ほとんどの場合は、プロジェクトの維持が困難になると、おそらく国立国会図書館に資料を移すことを望むであらう。なぜなら、複雑な権利問題を多く含んでいるためである。 ## 4.2 個人の権利と社会の記録継承のバランス 災害アーカイブが直面する最大の課題は、個人の倫理及び法的権利を守る必要性と将来のために過去の災害記録をできるだけ広く伝える社会的必要性の 2 つのバランスを保つことである。連携型アーカイブは、無責任にも複雑な日本国内の権利問題を各連携先のプロジェクトに一任する事ができる。責任放棄に見えるが、JDAなどの日本以外のプロジェクトでは、日本とは全く異なる法律の下で運営されており、日本の問題には介入ができないのが現実である。JDAがすべきことは、JDAが権利処理などの困難な課題に向き合う用意と意欲のあるプロジェクトとの協力体制を構築することである。現在、日本では、アーカイブ資料の利活用や二次利用許可を提供者に求める標準的な枠組みを構築する努力が行われているが $[1]$ 、権利処理や許諾に関する問題は、障壁も多く長期的な課題になると思われる ${ }^{[17]}$ 。 ## 4.3 メタデータの一貫性と標準化 第 3 の課題は、メタデータの内容に一貫性が必要性であることである。これは、技術的かつ費用的な課題 とも言える。本課題は、司書や学芸員等による伝統的なアーカイブでも、クラウドソーシングに頼る参加型アーカイブでも難しい課題である。例えば、JDAには、 スタッフが収集したある程度の一貫性があるウェブサイトや、世界中の多くの利用者が独自の観点から提供された資料(特にプロジェクトの初期段階)がある。著者らが、ウェブサイトの主要なキュレーターであったとしても、メタデータに一貫性を持たせることは至難の技である。そのため、連携型アーカイブでは、プロジェクト間のメタデータの標準化・統一化は回避不能の課題である。メタデータに一貫性がなければ、利用者が探したい資料や関連資料を百数万コンテンツから発見できる可能性が低い。しかし、各プロジェクトが意欲的に活動し続けている限り、メタデータ基準を定義する共同作業が、中・長期的には何かしらの成果を上げる可能性がある。また、IT 分野の進歩により、既存のメタデータを解析し、シソーラス辞書を作り、 $\mathrm{AI}$ どを使った資料解析を通じ、標準化されたメ夕データを自動付加することもいずれ可能になる。さらに、現在進行形で進化している全文検索により、メ夕データ不整合の問題をある程度は克服可能と考える。 ## 4.4 利用者コミュニティの構築と維持 最後の課題は、他の災害アーカイブにも共通しており、報告書にも述べられている。これは、利用者コミュニティを構築し、継続して維持する課題である。災害アーカイブの性質上、過去のトラウマや負の感情を喚起する可能性がある。特に災害直後では、多くの利用者は災害アーカイブから距離を置くと思われる。 しかし、災害発生現場より遠く離れた場所で、利用者らの「参加」を最も重要な特徴とする JDAでは利用者コミュニティを構築することが最重要目標である。 「誰が JDAの利用者になるのか?」と質問された時、 プロジェクトの初期段階では、その答えに筆者(ゴー ドン)は自身が好きな「Field of Dreams」の映画の場面を引用していた。この映画は、農場の真ん中に野球場を作る無謀なプロジェクトの話である。主人公の妻による「誰がこれを使うのか」との言及への主人公の答えは、「作れば、来る」だった。今振り返ってみると、 この答えは、深刻な課題に対する世間知らずな反応であった。利用者コミュニティは、魔法のように突然現れることはなく、その開拓には多くの労力が必要になると考えるようになった。 JDA は、本課題に対して2つの方法で解決することを考えている。まず、3章で説明したようにアーカイブの利用と参加を促すためにできるだけ魅力的で価値 のあるツールを提供することである。そして、日米両国や世界中の協力機関と連携して、講演やワークショップ、ソーシャルメディアなどを通じて、潜在的な利用者コミュニティに積極的にアプローチし、研究、教育、そして、地域コミュニティの強化のために、デジタルアーカイブが持つ可能性や価值を実証することである。 まだ、議論がなされていない1つの可能性は、デジタルアーカイブと物理的な場所(被焱地等)とを連携させること、震災追悼式や防災教育等で利活用を促進することである。被災者は、被災場所を再訪することは避けたいかもしれないが、被災を経験していない人には、学びや発見を生む重要な場所と考える。東日本の被災地やその他の被災地では、被焱地の観光の取り組みがみられる。これらは、「ダークツーリズム $\left.{ }^{[18]}\right.\rfloor$ とも呼ばれている。1990 年代に英国の学者が提唱した用語は、日本で国立広島原爆死没者追悼平和祈念館から足尾銅山などに至るまで、過去に大きな事故または災害が起こった場所への訪問することを指し ${ }^{[19]} 、$現在では三陸沿岸様々な場所などがそれに当たる。位置情報がある資料の場合、訪問者がその特定の場所に関連する資料へのアクセスが出来るサービスの提供は、困難なことではないと考える。この種のデジタルアーカイブと物理的な場とを連携することは、未知の可能性を秘めている。 この可能性や上記の他の方法で利用者コミュニティを開拓する取り組みを追求して行く上で、デジタルアーカイブ学会の今後の活動と学会員のアイデアやサポートをおおいに期待している。 ## (註・参考文献) [1] ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所「憲法9条改正研究プロジェクト」https://projects.iq.harvard. edu/crrp [Last Accessed May 31, 2018] [2] プロジェクト開始時から2016年までは「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ」という名称で活動をしていた。 [3] 東日本大震災アーカイブ国際合同シンポジウム<報告> http://current.ndl.go.jp/e1258 [Last Accessed May 31, 2018] [4] 柴山明寛, 北村美和子, ボレー・セバスチャン, 今村文彦.「近年の震災アーカイブの変遷と今後の自然災害アーカイブのあり方について」『デジタルアーカイブ学会』,1巻 (2017) Pre号 pp.13-16. [5] プロジェクト開始当初、バージニア工業大学が開始した 「Crisis, Tragedy, and Recovery Network “Japan Earthquake” 」というInternet Archive Archive-It のアカウントを利用させていただいたが、2016年度より JDA独自のアカウント「“Japan Disaster Archive” 」を使いキュレーション活動を続けている。 [6] JDAのコードベースはこちらのURLよりアクセス可能: https://bitbucket.org/adkgroup/japan-disasters-archive-drupal/ overview [7] 坂井知志.「コミュニティーアーカイブの現状と課題」『デジタルアーカイブ学会誌』Vol. 2 (2018), No.2, pp.48-51. [8] Parry, Kyle."Generative Assembly After Katrina.” Critical Inquiry, 44 (2018), p.554-581. [9] エリック・ディンモア,アンドルー・ゴードン「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ」『みすぶ』 2012 pp.6-10 www.msz.co.jp/book/magazine/201206.html [Last Accessed May 20, 2018] [10] http://jdarchive.org/api/items/search?type=Website,Document,Text $\&$ limit $=500 \&$ page $=1$. [11] 北村美和子, 林尾修, 柴山明寛.「東日本大震災後のコミュニティーアーカイブ活動:仙台荒浜地区を一例とした報告」『デジタルアーカイブ学会誌』Vol. 2 (2018) No. 2 pp.12-15. [12] 吉見俊哉.「なぜ、デジタルアーカイブなのか?知識循環型社会の歴史認識」『デジタルアーカイブ学会誌』Vol. 1 (2017), Issue. 1 pp.11-20. [13] 佐藤和久, 甲斐賢治, 北野央.『「コミュニティ・アーカイブを作ろう!」せんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」奮闘記』2018, 晶文社. [14] 田村賢哉, 井上洋希, 秦郡実, 渡邊英徳.「市民とデジタルアーカイブの関係性構築 : ヒロシマ・アーカイブにおける非専門家による参加型デジタルアーカイブズの構築」『デジタルアーカイブ学会誌』Vol. 2 (2018) No. 2 pp.128-131. [15] 内閣府防災担当大規模災害情報の収集・保存・活用方策に関する検討会「大規模自然災害情報の収集 - 保存・活用方策の方向性について(報告)(平成30年2月27日公表)」 http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/daikibosaigai_jyouhou/ pdf/houkoku.pdf [Last Accessed May 30, 2018] [16] 柴山明寛, Sebastien Penmellen Boret.「震災アーカイブを利活用するための権利処理のあり方について」『東北地域災害研究』第52巻(2016) pp.241-244. [17] 生貝直人.「デジタルアーカイブに関連する法政策の状況と今後の論点」『デジタルアーカイブ学会誌』Vol. 1 (2017) Issue. 1 pp.32-34. [18] John Lennon and Malcolm Foley, Dark Tourism: The attraction of death and disaster, (Cengage Learning: 2000) offers a good introduction to this field. [19] 井出明.「渡良瀬川上流と下流の記憶」, ダークツーリズム・ジャパン (2016) pp.10-17.
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Japan Society for Digital Archive
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# 東日本大震災アーカイブの概要と ## 総論 ## An Overview of the Digital Archives of the Great East Japan Earthquake \author{ 柴山明寛 \\ SHIBAYAMA Akihiro } 東北大学災害科学国際研究所 \author{ ボレー セバスチャン } BORET Sebastien Penmellen 東北大学災害科学国際研究所 \begin{abstract} 抄録:2011 年 3 月 11 日発生した東日本大震災は、震災から 7 年が経過し、数十の震災デジタルアーカイブが構築された。過去の地震焱害においても震災デジタルアーカイブが構築はされたが、同時多発的に複数の団体が震災デジタルアーカイブを構築した事例は、東日本大震災以外、全世界的に見ても存在しない。本総論では、東日本大震災の概要及び 7 年目の復旧・復興の状況、そして、 特集号で執筆されている国立国会図書館や宮城県図書館、ハーバード大学、筑波大学について概要を説明する。 Abstract: Seven years after the Great East Japan Earthquake, dozens of earthquake digital archives have been built. If archives had already been crated for past disasters, it is the first time that we see multiple groups building disaster digital archive for a single disaster. In principle, this article outlines the process of the Great East Japan Earthquake, the evolution during the seven years of restoration and reconstruction, and the construction of the earthquake disaster digital archive of the Great East Japan Earthquake. To discuss the issues surrounding digital archives, it presents the cases presented by the National Diet Library, Miyagi Prefecture Library, Harvard University, the University of Tsukuba, all of which are examined in this special issue. キーワード : 東日本大震災、デジタルアーカイブ、メタデータ \end{abstract} Keywords: The Great East Japan Earthquake, Digital Archive, Metadata ## 1. はじめに 2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分に日本観測史上最大のマグニチュード9の東北地方太平洋沖地震が発生した。東北地域を中心に大きな摇れとなり、遠く離れた九州地方でも震度 1 から 2 を観測するほど、日本全国が本地震で摇れた。地震発生から数十分後には、東北の各地に大津波が押し寄せ、沿岸部の市町村では、多くの住民が津波から避難したものの人的そして建築物に対して甚大な被害をもたらした。また、福島県双葉郡大熊町と双葉町に立地する福島第一原子力発電所にも津波が襲い、施設に甚大な被害が発生し、メルトダウンと最悪の結果となった。翌日の朝から原子力発電所の隣接する市町村で広域避難が開始され、震災から 7 年が経過した現在でも、かつて住み慣れた土地に帰れない人々もいる。 震災から半月後の 2011 年 4 月 1 日に閣議了解で、東北地方太平洋沖地震による贸害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害を「東日本大震焱」と呼称することとなった。東日本大震災による犠牲者は 19,620 人、行方不明者も 2,569 人(総務省消防庁、平成 30 年 3 月 1 日現在)と尊い命が失われた災害 となった。震贸から 7 年が経過した現在でも東北の各沿岸地域では、月命日に行方不明者の捜索が行われている。 未曾有の大災害となった東日本大震災では、震焱直後から東北の被災地並びに国内外で同時多発的に震焱前後の記録を残す伝承の動きが見られた。それは、「津波によって失われた文化を後世に継承するために」「多くの犠牲者を二度と出さないために震災で行った事実を残すために」「震妆苂の経験を他の枋害でも生かすために」復旧・復興の記録を後世に残すために」など、個人や団体の様々な目的が震焱直後から考えられていた。2011 年 5 月 10 日東日本大震災復興構想会議において復興構想 7 原則の提言が発表され、原則 1 には、「大震災の記録を永遠に残し、広く学術関係者により科学的に分析し、その教訓を次世代に伝承し、国内外に発信する」との提言が発信され、その後、震焱デジタルアーカイブの構想や伝承施設、震災遺構の計画等がなされるようになった。 震災から 7 年が経過した現在、東日本大震災関連の震災デジタルアーカイブが数十の構築がなされ、震災遺構や震災伝承施設が開館し始めている。本総論では、 東日本大震災の概要及び 7 年目の復旧・復興の状況、 そして、東日本大震災の震災デジタルアーカイブついて概説する。さらに、震災デジタルアーカイブの課題について説明するとともに、本特集号で執筆されている国立国会図書館や宮城県図書館、ハーバード大学、筑波大学について概要を説明する。 ## 2. 東日本大震災から7年の現状 震災から 7 年の月日の経過は、人によっては長いように感じられるが、被災地で自治体対応などを行っている著者に取っては、もう7年も経過していたとは思えないくらい短い月日であった。また、被災市町村の住民も短く感じられる人は多いのではないかと思われる。 東日本大震災では、「東日本大震災からの復興の基本方針(平成 23 年 7 月 29 日東日本大震災復興対策本部決定)」において、復興期間 10 年と定め、 5 年間を集中復興期間とし、「平成 28 年度以降の復旧・復興事業について (平成 27 年 6 月 24 日復興推進会議決定)」 において、復興期間の後期 5 年を「復興・創生期間」 と位置付けている。2018年 5 月現在は、復興・創生期間に位置し、被災地の自立につながり、地方創生のモデルとなるような復興を実現していくこととなっている。 現在の東日本の復興状況は、被災者への住宅・生活再建支援としての災害公営住宅(自治体によっては復興公営住宅とも呼称する)は、9割強が完成し、医療施設や学校施設の復旧は 100 \%に近い状況になっている。しかしながら、7 年が経過した現在でも避難住民が約 6.5 万人にもおり、防潮堤などの海岸対策や復興道路などのインフラ関係の復興については約 5 割の完成に止まっている。さらに原発の影響で、順次帰宅困難区域から解除がなされているものの、 7 町村がまた帰宅困難区域であり、解除がなされた市町村では住民がすべて戻っていない現実がある。東日本大震災の被害額推計は、約 16.9 兆円 (平成 28 年防災白書より)、復興予算は、復興 10 年間で約 32 兆円と政府が試算しており、被害額の倍の額が復興には必要となっている。さらに、復興予算は、 1 年間の国家予算の3 分の 1 にも当たるほどの莫大な費用がかかっている。被害額に比べて 2 倍ほどの復興予算が投じられている理由は、津波への防災対策として、防潮堤の整備や避難道路の整備、津波域からの集団移転などの費用、原発からの復興などの費用、心の復興や分断されたコミュニティーの再生などに投じられる費用など多岐に渡る。目に見える復興は、着実に進んでいるといえるが、今後、コミユニティー が再生され、心からの復興が終わるのは、復興期間の 10 年というは短いかもしれない。 ## 3. 東日本大震災の記憶・教訓の伝承と震災デ ジタルアーカイブの関係性 東日本大震災の記憶・教訓の伝承は、震災から復旧までの記録から正しい教訓を導き出すことで、今後の災害を最小限にすることができる。さらに、様々な問題を解決しながら進めた復旧から復興までの記録は、一般社会でも活用が可能な気づきとなると考える。 東日本大震災の記憶・教訓の伝承と聞くと、即座に東日本の沿岸部等で活動している語り部を思い浮かべる方が多いと思う。語り部以外にも記憶・記録の伝承は行われており、例えば、一般の方に数多く目に触れる震災関連の書籍や震災を題材とした映画・芸能などがある。その他にも、時系列に整理された新聞記事、小中高等の学校で使用される教科書や副読本、仙台市のせんだい 3.11 メリアル交流館などの震災伝承施設、仙台市立荒浜小学校などの震災遺構、津波関連の石碑やモニュメント、震災関連イベントなどもある。一般にはあまり目に触れることは少ないが、国や自治体等の公文書や記録誌、専門家が震災を分析した結果を載せる学術論文などの記憶や教訓の伝承もある。これら様々な震災の記憶・教訓の伝承が数多く存在するが、これらのものを作り上げるためには、すべてに対して元になるものが存在する。それは、実際に震災を経験した証言記録やメモ、写真や動画など現場の記録などである。例えば、記録誌を作る際に、現場で起きた時系列の流れを整理するために証言記録や対応記録のメモ等を参考にしながら作成すると思う。さらに、現場で起きていた内容をまとめるにも証言記録が必要となると思う。また、記録誌は、文章だけでは伝わらないので、挿絵として震災当時の写真や映像を挿入することもあると思う。このように、あるものを制作するには、すべてに対して元データが存在する。この元データとなるものを専門用語で Raw デー夕(一次データもしくはローデータと言う。以下ローデータと示す) と言い、生の記録という意味である。従来、震災のローデータは、大学等の研究機関や国・自治体等が保有していることが大多数であり、一般の方に目に触れることはほとんどなかった。過去の災害等の一部のローデータについては、インターネット上に公開がなされてきたが、大量かつ検索可能な状態になってきたのは、1995 年阪神淡路大震災からで ある。2011 年東日本大震災では、大規模かつ複数の団体がローデータの公開を始め、震災デジタルアー カイブの名前が広がったのはこの頃からである。 震災デジタルアーカイブの定義は、震災アーカイブと震災デジタルアーカイブに分けて説明する必要がある。震災アーカイブは、震災関連資料の収集から整理、保存、利活用などの行為を総称しての言葉で使用されることが多く、震災デジタルアーカイブは、震災関連資料の書誌情報等がデータベース化され、コンピュー 夕上で検索や閲覧などができるものを指すことが多い。また、震災デジタルアーカイブの中にも書誌情報のみが閲覧できるものと、資料そのものを閲覧できるものとに分けられる。前者は、図書館等が行っている蔵書検索に近く、著作権等の関係で資料そのものを見せることができない時に用いられる。後者は、資料の著作権等の処理が完了した時に用いられる。東日本大震災で構築された震災デジタルアーカイブの多くは後者ではあるが、肖像権や倫理上の配慮の関係で書誌情報のみを公開し、資料の存在だけを知らしている場合もある。 ## 4. 東日本大震災デジタルアーカイブについて 2011 年東日本大震災が発生した以降、自治体や研究機関、防災関係機関、企業、図書館など多種多様な団体が同時多発的に震災デジタルアーカイブを立ち上げている。現在までに数十のウェブサイトが立ち上がっているが、正確な数字まで把握ができない現状がある。理由としては、自治体や研究機関等の公的機関が行っているものに関しては把握することは可能ではあるが、その他の市民団体等が行っているものは数多くあり把握が困難である。それだけ数多くの震災デジタルアーカイブが存在するとも言える。 震災デジタルアーカイブと言っても多種多様である。例えば、ニュース映像や証言記録映像等をまとめた日本放送協会による「NHK東日本大震災アーカイブス」年やFNNによる「3.11 忘れない〜 FNN 東日本大震災アーカイブ〜 」[2]がある。自社で発行している新聞記事をまとめた河北新報社による「河北新報震災アーカイブ」每などもある。企業が行っているものとしては、 Yahoo! Japan による「東日本大震災写真保存プロジェクト ${ }^{[4]}$ や Google による「未来へのキオク」 ${ }^{[5]}$ などがある。自治体としては、市町村が単独で構築している宮城県多賀城市「たがじょう見聞憶」每や岩手県大槌町「震災アーカイブつむぎ」㚏などがある。また、市町村が合同で構築している事例もあり、青森県の八戸市や三沢市、おいらせ町、階上町の青森県 4 市町村合同の「青森震災アーカイブ」 $]^{[8]}$ や、岩手県の久慈市や野田村、普代村の 3 市村合同で「久慈・野田・普代震災アーカイ イブ」 ${ }^{[10]}$ では、郡山市以外の双葉町、富岡町、川内村の 3 市町村の記録も合わせて公開をしている事例もある。県レベルでは、本特集で寄稿していただいている宮城県図書館の「東日本大震災アーカイブ宮城 $\rfloor^{[1]}$ や岩手県による「いわて震災津波アーカイブ〜希望~」 ${ }^{[12]}$ がある。国レベルでは、本特集で寄稿していただいている国立国会図書館による東日本大震災アーカイブ「愛称:ひなぎく $\rfloor^{[13]}$ がある。研究機関では、日本原子力研究開発機構による「福島原子力事故関連情報アーカイブ」 ${ }^{[14]}$ や著者が行っている東北大学による「みちのく震録伝」年、本特集で寄稿していたたいているハー バード大学による「日本災害アーカイブ」 ${ }^{[16]}$ などがある。 その他にも日本赤十字社による「赤十字原子力災害情報センター」」11]] などもある。それぞれの機関が独自の目的で震災デジタルアーカイブを構築しており、地域の震災状況を詳細に知りたい場合は、自治体の震災アーカイブを閲覧し、原子力災害のことを中心に調べたい場合は、「福島原子力事故関連情報アーカイブ」や 「赤十字原子力災害情報センター」を閲覧することで目的のものが見つかる。 数多くの震災デジタルアーカイブから全体を網羅的に検索し、目的のものを見つけたいという考えがあると思う。それを可能にしているのが、国立国会図書館のひなぎくである。現在までに 47 機関との震災アー カイブとの連携を行っており、300万点を超えるコンテンツを検索することができる。現在、東日本大震災デジタルアーカイブのポータルサイトとして運用を行っている。詳細の内容や課題、ひなぎくのその他の活動については、国立国会図書館の寄稿文を読んでいただきたい。 ## 5. 震災デジタルアーカイブの課題について 5.1 震災デジタルアーカイブの構築時の課題 自治体等の震災デジタルアーカイブの構築には、数千万円から数億円かけて構築されている。公開点数と構築までの費用を割り算した場合、 1 点を公開するまでには、約 1,500 円の費用が必要になることが著者の調べでわかっている。費用は、資料収集のための調査費用、資料の受け取り、資料に対する公開や二次利用の権利などを取得するための権利処理、膨大な資料分類と整理、書誌情報(メタデータ)の作成、紙資料等のデジタル化、データベースへの登録、コンテンツを公開するためのシステムの構築費用、運 用費用などが含まれている。上記の費用の中で最も費用がかかるのが、膨大な資料を分類し、整理すること、そして、書誌情報(メタデータ)を付与することである。例を示すと、 1 枚の沿岸部で撮影した津波来襲後の街中の写真があるとする。そこには、被災した建物や津波によって押し流された船、多くの瓦磁、懸命に捜索活動を行っている消防団員が映し出されている。写真のローデータには、撮影した日時などが記載されているが、場所などは、GPS 付きデジタルカメラやスマートフォン等ではないと位置情報を記録することができない。そのため、位置の特定から始めることになる。様変わりした津波被災地で場所を特定することは困難を極め、多くの時間を要してしまう。次に、写真を検索できるようにメタデータにキーワードを付与する作業に入る。写真からわかる情報として、被災建物や船、瓦磁、消防団等のキーワードを付ける。また、撮影者がわかる場合は、その所属や目的などもキーワードに付ける場合がある。このように 1 枚の写真にメタデータを付与するだけでも 5 10分程度が必要となる。さらに、正しくキーワードが付与されているか確認するために、ダブルチェックやトリプルチェックを行わなくてはいけない。そのため、倍の時間が必要となる。 これらは、人手によって確認作業をすることになり、 1 枚の写真をデジタルアーカイブに揭載するだけでも多くの人件費が必要となる。 震災デジタルアーカイブの構築には、それぞれの機関でも苦悩がある。その中でも宮城県図書館は、宮城県内の市町村をまとめた震災デジタルアーカイブを構築している。宮城県内では独自に震災デジタルアーカイブを構築している市町村や震災記録の収集を一から始めた市町村がある。その複雑な事情がある中で構築する震災デジタルアーカイブの課題や解決方法、さらに後年運用の問題点など宮城県図書館の寄稿文を読んでいただきたい。 ## 5.2 震災デジタルアーカイブの利活用の課題 震災アーカイブを絵具に例えるとわかりやすいかもしれない。震災のコンテンツの一つ一つが絵具の各色だと思ってください。一つの絵を描くためには、様々な色を使います。それぞれの色がキャンパスに配置されてやっと一つの絵となります。一つの色たけで、描きたい絵を表現することに限界があると思います。これは、震災アーカイブにも同じことが言え、一つのコンテンツだけで震災のことはわかると思いますが、教訓がなんであったかを理解するには多くのコンテンツ を組み合わせないとわかりません。例えば「津波が目の前まで迫ってきたを見て、即座に高い建物に避難した」との証言があったとする。本証言自体には問題は見当たらないが、それを受け取る側がそのまま理解し、近くに高い建物があれば、津波来襲ぎりぎりまでその場に入れるのだと勘違いしてしまう可能性がある。東日本大震災では、建物自体が津波の浮力等に負けて横転してしまう事例や4階までは津波は来ないだ万うと思って避難したがそれ以上の津波が来て被害に遭った事例などもある。絵具も震災アーカイブのコンテンツも様々組み合わせて初めてわかる内容もあるということです。 さらに、有名な画家ならば、誰もが感動する絵を作成することができるかもしれませんが、絵の手ほどきを受けていない人が一生懸命に絵を描いたとしても誰もが感動する絵ができない可能性があります。 これは、震災アーカイブにも同様な問題点があります。研究者や防災関係者が震災アーカイブを利用することで、表現したい目的のものを作成することや新たな教訓を生み出すことはできると思います。しかしながら、東日本大震災をまるっきり知らない方がコンテンツを組み合わせて、目的のものを作り出すことや新たな教訓を生み出すことまでは難しいかもしれません。 現状、震災アーカイブは数百万点のコンテンツが存在します。その一つ一つを読み解くにはある程度の防災知識が必要不可欠です。そのため、現在の震災アー カイブは、有用なデータが多数埋もれているにも関わらず、利活用が進んでいないのが現実です。解決策としては、いくつか考えられます。例えば、図書館の司書的な役割を持つ人材の育成となります。図書館の司書は、利用者から目的の情報を取得して、その情報から目的に合う図書を選んでくれます。その図書も利用者の知識レベルに合わせて、入門編の図書から専門的な専門図書まで幅広く提供していただけると思います。このように図書を選しで提供していただけると同じ役目を持つ方を震災デジタルアーカイブでも同様に育成しなくてはならないと考えております。著者が考える適材な人材としては、防災士や地域の防災リー ダー等の防災知識を有している方が適しており、その知識をべースに震災アーカイブの利用知識を持ち合わせた人材が育成できれば、利活用が進んでいくかもしれない。 別の方法で利活用を促進するための方策を行っているのが、ハーバード大学と筑波大学である。ハー バード大学では、利用者が震災アーカイブを積極的 に利活用できる参加型アーカイブの活動を行っている。ウェブシステムに特徴があり、利用者独自のコレクションを作成することができ、プライベートで利用することも可能である。また、それを幅広く他の利用者に公開することもできる。これは、一つ一つのコンテンツを利用者が独自の視点と目的で結びつけ、他の利用者にコンテンツが意味するものの理解を促進させ、さらに、新たな発見に繋がるものである。筑波大学では、別のアプローチで利活用の向上を模索している。現行の震災デジタルアーカイブは、コンテンツ同士がある意味を持って繋がっているとは言いがたい。そこで、アーカイブ内のコンテンツならびにアーカイブ間でのコンテンツをある程度の集合体に集約をする方法論を研究している。さらに、震災デジタルアーカイブだけコンテンツだけなく、様々なオープンデータと組み合わせることで利活用が向上する試みを行っている。ハーバード大学と筑波大学の詳細については、それぞれの寄稿文を読んでいただきたい。 ## 6. まとめ 東日本大震災デジタルアーカイブは、震災から 7 年が経過した現在、ある程度のかたちをなしてきた。しかしながら、今後の防災・減災対応や対策、防災教育に震災デジタルアーカイブを利活用するまでには数多くの課題が残されている。今後、震災から 10 年を迎え、東日本大震災デジタルアーカイブはある程度の収束方向に進むと考えられるが、復興は 10 年では終わらず、今後も長い年月がかかると予想される。その記録を今後も残して行かなくてはならない。今後、様々な震災アーカイブを構築している団体と協力そして情報共有しながら、課題解決を行ってきたいと考えている。 最後に、震災アーカイブの特集号を組んでいただいたデジタルアーカイブ学会に感謝するとともに、今後起こるであろう大規模自然災害に対して、記録をいかに残し、それを後世に利活用していくのか、本特集の内容からヒントを得ていただきたいと考えている。 (註・参考文献) (web 参照日はすべて 2018 年 6 月 29 日) [1] https://www9.nhk.or.jp/archives/311shogen/ [2] http://fnnne.ws/311/articles/201103120086.html [3] http://kahoku-archive.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/ [4] https://archive-shinsai.yahoo.co.jp/ [5] https://www.miraikioku.com/ [6] http://tagajo.irides.tohoku.ac.jp/ [7] https://archive.town.otsuchi.iwate.jp/ [8] http://archive.city.hachinohe.aomori.jp/ [9] http://knf-archive.city.kuji.iwate.jp/ [10] http://shinsai.koriyama-archive.jp/ [11] https://kioku.library.pref.miyagi.jp/ [12] http://iwate-archive.pref.iwate.jp/ [13] http://kn.ndl.go.jp/ [14] https://-archive.jaea.go.jp/ [15] http://search.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/ [16] http://jdarchive.org/ [17] http://ndrc.jrc.or.jp/
digital_archive
cc-by-4.0
Japan Society for Digital Archive
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# コミュニティアーカイブのマッピング Mapping of Community Archives 町 英朋 MACHI Hidetomo 常磐大学 } 抄録:本稿では、コミュニティアーカイブのマッピングを取り上げる。コミュニティアーカイブはコミュニティによるアーカイブ もしくはコミュニティを対象にしたアーカイブである。それぞれにコンテンツをデジタルデータとしてデータベース化しているコ ミュニティアーカイブを地理情報ツール上に視覚的に表現するにあたり、データベースのデータベースであるコミュニティアーカ イブの位置を、それらが保有するコンテンツの位置情報を利用してどのように表現が可能か考察する。 Abstract: The author attempt to show methods for mapping of community archives, which are digital archives for community or by community or both. Community archives have own database of digital contents, so a mapping community archives to geographic information system (GIS), such as Google Maps, is considered graphical representation of database of database. This article indicates how express the position of community archives on GIS, using location information of each digital contents of community archives. キーワード : デジタルアーカイブ、コミュニティアーカイブ、マッピング、位置情報、メタデータ Keywords: digital archive, community archive, mapping, location information, metadata ## 1. はじめに デジタルアーカイブを広義に捉えて、メタデータの整備やファイル管理を気にすることなくとりあえずデジタルデータが蓄えられることとすると、今日では誰もがデジタルアーカイブを行っているといえる。専門家が行うデジタルアーカイブはもとより、専門家ではない一般の人々も、自分のデジタルカメラやスマートフォンなどで様々なものを撮影記録し、用途に応じて SNS にアップロードして公開している。自ら公開用のサーバを用意してデジタルアーカイブサイトを構築せずとも、SNS のサービスをアーカイブと公開のプラットホームと位置づけてそこでコンテンツを管理することにより、自分のデジタルアーカイブを形成しているのである。コンピュー タ、インターネット、スマートフォン、SNS、これらの普及と発展がデジタルアーカイブの専門性という殼を破り、デジタルアーカイブの市民性へとその門戸を大きく開けたと言っても過言ではない。 一般の人々が様々な情報資源をデジタルデータの形で残すことが出来るようになった情報社会を背景に、東日本大震災のような自然災害の爪痕やそこからの復興を遺すデジタルアーカイブ、地方創生といった地域の文化資源を活用した地域振興のためのデジタルアー カイブ、ライフログと呼ばれる個人の日々の記録あるいは家族のデジタルアーカイブなど、多岐にわたるデジタルアーカイブが作られるようになった。本学会のコミュニティアーカイブ部会では、専門性が高く規模も大きいデジタルアーカイブよりもむしろ、草の根的な活動の中で作成される小規模のデジタルアーカイブを対象に研究活動を行っており、活動の一つにコミュニティアーカイブマッピングの作成を揭げている ${ }^{[1]}$ 。本稿では、デジタルアーカイブと地理情報ツールとの連携に目を向けて、デジタルアーカイブにおける位置情報とコミュニティアーカイブのマッピングについて考えてみたい。 ## 2. コミュニティアーカイブ コミュニティアーカイブという言葉が、一つのデジタルアーカイブとして認識されるようになった転換点的なものに東日本大震災がある。デジタルカメラやスマートフォンなどの撮影機器、メモリカードや光ディスクなどの記録媒体、WebやSNS といったインターネット上の公開スペースは、震災時には既に身近なものであり日常の一部になっていた。デジタルアーカイブとして欠けていたものは「記録する」「遺す」といった意識と、そして埋もれていたデータを「掘り起こす」行動であった。欠けていたそれらが少しずつ埋まっていき、その結果、個々のデジタル情報資源を集め、公開するデジタルアーカイブサイトが構築され、集約型. ボトムアップ型のデジタルアーカイブが形成された。震災を機に、被災地では被災時の様子や復興の過程を デジタルアーカイブとして遺すこと、また被災地ではなかった地域では、来るべき災害に備え現在をデジタルアーカイブすることの必要性をそれぞれ認識した。 一方、地域の文化資源をデジタルアーカイブし、コンテンツとして公開することにより魅力を発信し、地域を振興しようとする動きも見られる。例えば、本学会の第 2 回研究大会では、地域の生活文化を掘り起こした地域雑誌をデジタルアーカイブしたものの公開や取り組みが報告された ${ }^{[2]}$ 。また、地域文化資源のデジタルアーカイブのプラットホームとしてウイキペディアを活用した「ウイキぺデイアタウン」の取り組みも各地で行われている ${ }^{[3]}$ 佐藤ら(2018)によれば、「コミュニティ・アーカイブ」とは、 (1)(人びとの集団として)コミュニティについてのアーカイブ (2) コミュニティ的なプロセスによってつくられるアーカイブ (3) その両方 である ${ }^{[4]}$ 。この区別は、コミュニテイの視点が内容なのか、あるいは過程なのかということとされている。例えば、(1)の内容としてのコミュニティアーカイブについては、地域振興のために作成した地域文化資源のデジタルアーカイブがまさしく該当する。また、自治体の観光・広報が行うアーカイブ活動も当てはまるたろう。自治体というやや規模の大きくまた組織的な活動ではなく、小規模・少人数コミュニティの活動状況それ自体のアーカイブもあるだろう。一方、(2)の過程としてのコミュニティアーカイブについては、「住民参加型デジタルアーカイブ」や「市民参加型デジタルアーカイブ」と呼ばれるアーカイブの構築が該当する。何のデジタルアーカイブかというよりは、デジタルアーカイブを構築するまでにどのように市民住民が集まって構築に関わっているかに焦点を当てた考え方である。これは前述のウイキペディアタウンもそうだが、多くのコミュニティアーカイブが個人の参加によって作られていると言えるわけで、予算や時間が限られているコミュニティアーカイブにおいては、参加型デジタルアーカイブという構造およびプロセスは非常に重要な基盤となっている。 災害に関連するデジタルアーカイブであっても地域振興に関するデジタルアーカイブであっても、コンテンツの基となるデジタルデータは市民住民がそれぞれに撮影記録していたデータであることが多い。東日本大震災に関連するデジタルアーカイブでは、多数のデータが一般の人々から提供された。それらのデータ は提供先のそれぞれのデジタルアーカイブに集約され、そしてデジタルアーカイブたちは「ひなぎく」 $\rfloor^{[5]}$ のようなポータルサイトで結び付けられることにより、自身の存在と、自身が保有するコンテンツを広く世に知らしめる機会を得た。コミュニティのための、 もしくはコミュニティ的プロセスによって作成されたデジタルデータそしてデジタルアーカイブは、今後のデジタルアーカイブ分野において重要な位置づけになることと思われる。 ## 3. デジタルアーカイブと位置情報 本稿ではマッピングがキーワードになっている。一つのデジタルアーカイブとしてのコミュニティアーカイブを考える前に、デジタルアーカイブそのものとマッピングに必要となる位置情報(または地理情報・空間情報とも)について少しだけ触れておく。 今日の情報社会ではビッグデータが様々な用途に活用されているが、位置情報に基づいたデー夕を利用したサービスは広がりを見せるばかりである。位置情報のデータは通信キャリアの基地局や GPS 機能を内蔵した機器などにより取得され、地理情報ツール、交通案内や経路案内、あるいは位置情報と重なる店舗のサービスなど様々な場面で使用されている。位置情報を媒介としたサービスの授受について、スマートフォンが果たしている役割が大きいことは言うまでもない。スマートフォンは既に日常生活に欠かせないツー ルの一つになっている。デジタルカメラを携帯するとき、そこには撮影する意気込みが必要であるが、スマートフォンは普段持ち歩いているため、その気になればいつでも撮影できる。そのような手軽さもあったのだろうか、デジタルカメラで撮影された画像だけではなく、スマートフォンにより撮影された画像も震災に関連したデジタルアーカイブのコンテンツとして多く提供されたと考えられる。 デジタルアーカイブにおける画像データには位置情報が付加されていることがある。位置情報は、その情報資源を撮影した場所もしくはデジタルデータが作成された場所や撮影対象の場所を表している。デジタルアーカイブでは位置情報をメタデータとして付与し、管理している。例えば、デジタルアーカイブ関連のガイドラインの一つである総務省の「震災関連デジタルアーカイブの構築・運用のためのガイドライン $\rfloor^{[6]} て ゙$ は、推奖される 14 個のメタデータ項目の中で空間.範囲に関する情報として、 No. 9 撮影場所、作成場所(地名) No. 10 撮影場所、作成場所 (緯度経度) が示されている。また、国立国会図書館の「NDL 東日本大震災アーカイブメタデータスキーマ (2016 年 10 月版) 」7]では、以下のようにより細かくメタデー 夕の項目を揭げている。 表1空間情報に関するメタデータ \\ (引用元を一部抜粋し著者作成) 画像ファイルを開いて表示される画像から、その画像がどこで撮影記録されたかを推し量るのは困難を伴うことが多く、デジタルアーカイブを構築するにあたっては、静止画として撮影する際に位置情報を確保しておくのが望ましい。緯度や経度を記録する場合、 デジタルカメラやスマートフォンでの撮影では、機器の設定で GPS を有効にしていれば位置情報が自動的に画像ファイルの Exifに記録される。また、GPS 機能を記録機器が有していない場合は、専用の GPS 機器を撮影時に併用することで位置情報を記録しておき、後ほど入力することができる。緯度や経度を記録する手段がない場合は、撮影地点の地名や周りの建物を含む風景を確認しておくことで、後からインター ネット上の地理情報ツールを使用してある程度の位置情報を割り出すことも可能である。 ## 4. コミュニティアーカイブのマッピング 渡邊(2013)は「多元的デジタルアーカイブズ」という名称を用い、別々に存在する資料群を各々の関連性とともにその内容を知ることのできる手段を示している (図 1 ${ }^{[8]}$ 。 ここで「多元的」は、提供元が異なるために別々に存在していることと定義されている。つまり、多元的デジタルアーカイブズとは、ある一つのテーマに対して様々な資料を収集・整理し、その関連性をフラットな視点で俯瞰できるようした仕組みといえる。した (引用元より著者作成) 図1 多元的デジタルアーカイブス がって、図 1 においてデジタルアーカイブAなどは、構築が完了して公開されているような完結したデジタルアーカイブというよりはむしろ、各々の提供元の情報資源をデジタル化して得られた各々のデジタル資料群である。それをふまえると、コミュニティアーカイブ部会で掲げているコミュニティアーカイブのマッピングは、多元的デジタルアーカイブズと似たような構造を持ち得ながらも、中身は様々なコミュニティアー カイブを統合し、データベース化したもの、つまりメタデータベース (データベース・オブ・データベース) を俯瞰的に示したものになると考えることができる。 コミュニティアーカイブをマッピングする場合、地図上にコミュニティアーカイブを示すマーカーを表示するという方法が一般的だろう。渡邊はグーグルアー スをプラットホームにし、デジタル化した資料一つ一つをマーカーとして配置したものをデジタルアーカイブとして公開したが、これは同次元の資料を俯瞰的に認識することを可能にしたデータベースである。したがって、メタデータベースとして 1 次元高次のコミュニティアーカイブに対しては、そのまま同じように扱うことは難しい。しかし、比較的容易に使ってみることができる地理情報ツールの使い方としては十分に参考になる。一方、グーグルアースで表現される立体的な画像とアーカイブしたデジタルデータとの親和性を求めるのではなく、あくまで地理上の所在を重視したデジタルアーカイブとして、グーグルマップのマイマップ機能を利用することも考えられる。グーグルマイマップを使えば、個々のオリジナルのマーカー群による位置情報を主眼として構成したデジタルアーカイブが作成可能である。 $ \text { グーグルアースやグーグルマイマップのように地図 } $ 上に位置情報を用いてコンテンツを示せると、どこに何があるかが一望できる。また、地図の縮尺を変更すればどのあたりに集まっているかその分布も視覚的に わかる。したがって、マップ上のマーカーをコミュニティアーカイブと見立てたものを作成すれば、マップを俯瞰してどこにコミュニティアーカイブが存在するかを知ることができる。 しかし、位置情報はコンテンツのデジタルデータに格納されていて、その撮影場所や情報資源の場所を表しているものであり、コンテンッの集合体としてのコミュニティアーカイブに特定の位置情報を直接的に与えることは容易なことではない。つまり、地理情報ツールでコミュニティアーカイブを表現するためには、コミュニティアーカイブに対する位置情報の扱いを定める必要がある。そして、位置情報を格納しているデジタルデータの集合体であるコミュニティアーカイブに位置情報・空間情報を紐付けるにあたっては、以下の方法が考えられそうである。 (1) コミュニティアーカイブをデータベース化する際のメタデータに、NDL 東日本大震災アーカイブメタデータスキーマのような、内容として例えば 「活動拠点」のようなものを用意し、都道府県や市町村などを入力する。 (2) (1)のようにメタデータの項目を設定することはせずに、単純にキーワードに地名を含めるか、もしくは説明文に地名を含む文章を入力する。 (3) コミュニティアーカイブが保有するコンテンッのデジタルデータ内メタデータの位置情報(緯度経度)を基に分布を分析し、対応させることが可能な都道府県市町村または地点を導き出す。 (1)では、メタデータベースとしてコミュニティアー カイブをデータベース化する際に、マッピング対応できるようにメタデータを設計するというものである。 コミュニティアーカイブのデータベースを構築するにあたり、地理情報ツールへの活用を念頭に置いた設計をしておくことで、データベースと地理情報ツールとをシームレスに連携させることが可能になる。メ夕データスキーマの内容としては「活動拠点(都道府県) 」、「活動拠点 (市町村)」、「活動拠点 (町又は字) 」 のような階層構造が考えられる。緯度や経度などの情報ではなく、地名を情報として扱うことで、コミュニティアーカイブのマッピングが可能になろう。 (2)は(1)と同じようにメタデータに入力された情報を利用するが、(1)のようにメタデータに専用のものを用意するのではなく、基本的な記述系のメタデータに地名を含む情報を入力するという点が異なる。例えば、地域の名前をデジタルアーカイブサイトのタイトルにつけたり、説明文もしくは紹介文の中に地名を挿入したりする。そして、それらの情報を活用してマッピン グにつなげる。ただし、マッピングのデータとして扱うためには、タイトルや説明文などから地名を抽出し、解析や照合などをする工程が必要となってくる。 (3)については、各コミュニティアーカイブが保有するコンテンツの緯度経度の位置情報から距離空間の近傍を考え、その中心点を位置情報もしくは地点名として使用するというものである。各コンテンツの緯度経度を基にマーキングした際に、そのマーカーを含む円を考えて、その中心をコミュニティアーカイブの座標マーカーとして使うというものである。この際、全てのコンテンツを含む円でなければならないかどうかについては、もう少し考えなくてはならない。例えば、 あるコンテンツが密集している他のコンテンツとはかなりの距離に位置情報的にあったとすると、全てのコンテンツを含む円の中心座標は、密集しているところから飛び出してしまうことになる。その結果、密集しているところの中心部にコミュニテイアーカイブとしてのマーカーが出現するのではなく、実際にはかなり外れたところにマーカーが出現することになり得る。 以上、コミュニティアーカイブのマッピングについて、 コミュニティアーカイブが保有するコンテンツにメ夕データとして位置情報が格納されている場合に考えられそうな方法を挙げた。これらのような手段により、 グーグルマップなどの地理情報ツールにコミュニティアーカイブをマーカー的に示すことができそうである。 一方、プラットホームとして自分で使用可能なグー グルマイマップやグーグルアースとは異なるが、 Yahoo!JAPANの「東日本大震災写真保存プロジェクト $\rfloor^{[9]}$ の地図機能もデジタルアーカイブのマッピングとして興味深い。このデジタルアーカイブでは、一般の人々から投稿された写真の画像データを市区町村および都道府県単位で整理し、地図上では階層構造で表示できるようしている。サイトのトップページにアクセ久すると、都道府県ごとにグルーピングされたマー カーが表示される(第 1 階層、図 2)。都道府県をクリックすると、地図はズームインし、市区町村ごとの同じようなマーカーが出現する(第 2 階層、図 3)。 そして市区町村をクリックすると、地図は更にズームインし、投稿された写真を示すマーカーがその位置情報に基づいて表示される(第3 階層、図 4)。 このようなプラットホームであれば、前述の(1)と(2) のようにコミュニティアーカイブを示す地点がコミュニティアーカイブデータベースから得ることができる場合には、写真保存プロジェクトの地図のように階層構造を活用したマッピングもできそうである。ただし、 (3)のように保有するコンテンッの位置情報からマッピ 図2 地図第1階層 図3 地図第2階層 図4 地図第3階層 ングする場合は、第 3 階層にコミュニティアーカイブの保有コンテンツを配置して地図上に表示できたとしても、その上位の層である第 2 階層でどのようにコミュニティアーカイブとしてマーカー化するか、あるいは第 1 階層ではどのように表示するかなどの対応が必要になるだろう。 ## 5. おわりに 国内各地で様々なコミュニティアーカイブが作成されていると思われるが、その存在は情報社会の今日でさえ広く知れ渡っているとは言えない。本稿では、コミュニティアーカイブのマッピングについて、その実現のための方策を考えてみた。デジタルアーカイブが保有するコンテンツがもつ位置情報と、メタデータベースとしてのコミュニティアーカイブの位置情報との考え方の違いを述べた。地理情報ツールとしてはグーグルマップやグーグルアースが自分で編集できるツールとして身近にあるが、予算を確保した上で尃用のツールを開発することも考えられなくはないだろう。コミュニティアーカイブをデータベース化して地理情報ツールと連携するか、あるいは上手く直接的に地理情報ツールにコミュニティアーカイブを示すか、様々な方法が考えられそうであるが、大事なことはコミュニティアーカイブをどのようにして広く知らしめることができるかということである。本学会の研究大会や学会誌、そして諸部会の活動を通して、コミュニティアーカイブの情報の収集、そして地理情報ツールを活用した情報発信の在り方など、活発な議論をコミュニティアーカイブ部会として期待したい。 (参考文献) [1] 坂井知志.「コミュニティアーカイブ部会」について. デジタルアーカイブ学会誌. 2017, vol.1, no.1, p. 30 [2] 宮本隆史, 片桐由希子, 中村覚. 地域文化資源デジタルアー カイブの方法論:地域雑誌『谷中・根津・千駄木』のデジタルアーカイブ化を事例として. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, vol.2, no.2, p.28-31 [3] 日下九八. 地域資料をアーカイブする手法としてのウィキペディアタウン、またはウィキペディアとウィキぺディア・コモンズ.デジタルアーカイブ学会誌. 2018, vol.2, no.2, p.120-123 [4] 佐藤知久, 甲斐賢治, 北野央. コミュニティ・アーカイブをつくろう!。晶文社, 2008 [5] 国立国会図書館. “国立国会図書館東日本大震災アーカイブ”. http://kn.ndl.go.jp, (accessed 2018-07-30) [6] 総務省。“震災関連デジタルアーカイブの構築・運用のためのガイドライン” http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ ictriyou/02ryutsu02_03000114.html, (accessed 2018-07-30) [7] 国立国会図書. “国立国会図書館東日本大震災アーカイブメタデータスキーマ(2016年10月版)”, http://kn.ndl.go.jp/static/files/ndlkn_schema_Ja201610.pdf, (accessed 2018-07-30) [8] 渡邊英德.データを紡いで社会につなぐ.講談社, 2013 [9] Yahoo!Japan. “東日本大震咨写真保存プロジェクト”. https://archive-shinsai.yahoo.co.jp/, (accessed 2018-07-30)
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Japan Society for Digital Archive
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# 特集:コミュニティ・アーカイブ ## 朝日新聞フォトアーカイブ 一写真 のデジタル化と外販事業について一 The Asahi Shimbun Photoarchives -Digitalization of photos and external sales business- \author{ 吉田耕一郎 \\ YOSHIDA Koichiro } 朝日新聞社朝日新聞フォトアーカイブ 抄録:朝日新聞フォトアーカイブは、朝日新聞社が所蔵する約 2,000 万枚の写真をデジタル化し、社内外での利用を進めるため、 2010 年に発足した。写真の提供は有償。テレビ局や教科書会社、出版社などが主な取引先となっている。最近は、周年企業の社史、都道府県や市町村の歴史年表などでの利用に加え、海外メディアで使われるケースも増えている。写真のデジタル化と書誌編集作業には、膨大な手間とコストがかかる。写真を死蔵することなく、広く活用してもらうためにも、事業としての発展性が重要になる。古い写真に加え、最新のニュース写真、図表なども扱い、ここ数年は動画の利用が伸びている。 Abstract: The Asahi Shimbun photo archives launched in 2010 to digitize about 20 million photos taken by the Asahi Shimbun and to promote the usage inside and outside the company. Television stations, textbook companies, publishers, etc. are the main business partners. As well as those domestic editorial usage, recently the pictures are used in corporate history publications, history chronology of prefectures and municipalities, and overseas media. Because digitization of photographs and bibliographic captioning require enormous labor and cost, expansion and development as a project become more important in order to continue the process. It syndicates the latest news photos and charts and the usage of video has also been growing over the last few years. キーワード : 朝日新聞フォトアーカイブ、歴史写真、デジタル化、写真のデジタル化、ニュース写真、動画 Keywords: The Asahi Shimbun Photoarchives, Historical photos, digitalization, digitalization of photos, News Photos, video ## 1. はじめに 朝日新聞フォトアーカイブは 2010 年に発足した。朝日新聞社が所蔵する明治時代以降の歴史的写真約 2,000 万枚をデジタル化する作業を進めている。最新のデジタル写真と合わせて、現在の公開枚数は約 320 万枚超。日本国内の新聞社が運営する写真データベー スとしては最大級となっている。 写真1 1936年ニ・二六事件料亭「幸楽」を出て、平河町方面に向かう反乱部隊 テレビ局、出版社などの法人や、地方自治体などを主な顧客とし、写真をデジタルデータで提供している。組織発足前は、新聞に揭載された写真を提供する 「フォトサービス」という部門があったが、主に新聞に掲載された写真をプリント販売し、主な顧客は個人 だった。外販のためのデータベースは整備されていなかった。近年の映像コンテンツの需要の高まりに応える形で、新しい組織として生まれ変わった。現在は、営業チームがデジタル・イノベーション本部、構築チームが編集局に所属している。2018 年 5 月には、 サイトがリニューアルされ、動画も同一サイトで販売できるようになった。最新動画に加え、朝日新聞社が制作した戦前の動画なども公開している。 ## 2. 写真のデジタル化 \\ 2.1 発足当時の取り組み 朝日新聞社内には、明治時代からの写真が、フィルムや紙焼きの状態で約 2,000 万枚保存されている。 フォトアーカイブ発足前、それらを社内外で活用するためには、その都度デジタル化し、システムに入力する必要があった。教科書会社やテレビ局などを中心に歴史的写真の需要が高まっており、早急に対応する必要があった。 フォトアーカイブでは、サイトでの外部公開を前提にデジタル化作業を開始した。紙焼きの状態で残されている写真を写真部 OB や大学の写真学科の学生アルバイトらが、 1 枚 1 枚スキャン。記者経験のある社員やOBらが、写真説明を付け、点検を行った。2011 年に 40 万枚だった公開枚数は、 2012 年 6 月には 100 万枚、2014 年 10 月には 200 万枚を超元、現在 320 万枚超となっている。2018 年度は、朝日新聞社創刊 140 周年事業として人員を増強し、年 15 万枚のペースでデジタル化と公開を進めている。 ## 2.2 写真の書誌編集と確認 紙焼きやフィルムからのデジタル化で一番苦労するのが、写真の書誌編集と確認作業た。写真の裏面やネガのカバーにメモ書きされた情報、保存日時のスタンプなどを頼りに、紙面データベースで揭載情報を調べるなどして、写真の撮影日、撮影場所、撮影された内容などを 1 枚 1 枚確認する。書誌として記入する項目は、見出し、写真説明、撮影場所、著作権者、撮影日、補助キーワード、備考などとなっている。このうち外部に公開するのは、見出し、写真説明、撮影場所、撮影日。撮影日などは確認できないこともあり、撮影年でとどまる時もある。 書誌項目の中で工夫が必要なのは補助キーワードだ。たとえば「バブル経済」という言葉は、バブルの最盛期には記事や写真説明の中には使われておらず、補助キーワードとして加える必要がある。バブル期にあったタクシー待ちの行列、デイスコでの乱舞、マン モス入社式などに「バブル経済」のキーワードを補うことで、この時代を象徴する写真を検索することができるようになる。「石油ショック (オイルショック)」 なども同様だ。 写真31973年第4次中東戦争のあおりでオイルショックが発生。洗剤売り場に長い行列ができた 書誌情報はフォトアーカイブの生命線と考えており、事実関係の確認には時間をかけている。時には地図での場所の照合、関係者への取材などを積み重ね、場所や内容の特定をすることもある。 ## 2.3 ガラス乾板からのデジタル化 写真フィルムが登場する前に、感光材料として、透明なガラスの板に写真乳剤を塗ったガラス乾板があった。ガラス乾板は感光面が大きく高精細で階調が豊かなのが特徴。1935 年(昭和 10 年)に国宝保存事業の一つとして法隆寺金堂壁画を撮影した写真ガラス原板が、近年、国の重要文化財に指定されるなど、文化財としての価値が認められつつある。朝日新聞社でも多くのガラス乾板を保存している。2015年には大阪本社の所蔵庫から昭和初期の関西を中心とした建物や祭り風俗などの写真約 740 枚が見つかり、デジタル化。大阪市内の空撮や、昭和初期の道頓堀、通天閣の様子、京都、奈良などの街並みなどを写した貴重な写真もあった。デジタル化された写真は、フォトアーカイブのWebサイトで紹介し、報道だけでなく、あらゆる分野での利用が可能になった。 ## 2.4 写真原版の保存 朝日新聞社が保存しているネガフィルムなどの写真原板は、経年劣化が進み、一部は「ビネガーシンドローム」といわれる現象で画像が消滅するなど、深刻な状況になっている。創刊 140 周年事業では、デジ夕ルデータへの変換を急ぐとともに、特に貴重なものに 写真4 ガラス乾板 写真5 昭和初期京都の舞妓さん 写真6 昭和初期の富士山 ついては低温・低湿の保存環境への移行に取り組んでいる。包材の取り換えやリスト作成など、デジタル化と並行しての作業となるが、歴史の証言者としての写真原板を守っていくことは新聞社の責務と考えて、今年度事業の大きな柱として進めていく。 ## 3. テーマ別のデジタル化と公表 3.1 戦前の沖縄 2014 年、朝日新聞大阪本社の倉庫から、戦前の 1935年 (昭和 10 年) に沖縄で撮影されたネガが見つかった。 フォトアーカイブの部員がたまたま手にした小箱の中に、丸まった状態のネガが入っていた。撮影したのは大阪朝日新聞のカメラマン藤本護氏。社会部記者とともに沖縄を訪れ、糸満や名護の漁業、暮らしなどを撮影し、朝日新聞紙面での「海洋にっぽん」と題した連載やアサヒグラフなどに掲載した写真だった。 残されていた戦前の沖縄のネガは、藤本氏の写真部の先輩が戦後、自宅に持ち帰り保存していた。その後、朝日新聞社が引き取ったが、特に中身は検証されず、 ネガが入った小箱は、地下倉庫の段ボール箱の中に置かれたままだった。 フォトアーカイブでは、残されていた277コマを全てデジタル化。傷やカビを修復すると、戦前の沖縄の暮らしの様子がよみがえった。ネガには漁業の様子たけでなく、にぎわう那覇市の市場や、古謝(現・沖縄市)のサトウキビ作り、軌道馬車や人力車などの移動手段を含む当時の生活の様子が写っており、貴重な写真であることが分かった。 写真には説明メモが添えられていたが、被写体や撮影内容が分からない部分があり、地元紙の沖縄タイムスに写真を提供して取材を依頼。タイムスの取材により、多くの写真の撮影場所が特定され、詳しい状況が分かった。その後、沖縄タイムスと朝日新聞の共同企画として紙面やデジタル版で紹介。フォトギャラリー で紹介した朝日新聞デジタルでは、史上最高の PVを記録するなど話題となった。2017年には那覇市、糸満市や古謝公民館などでも写真が展示された。写真展で開催されたギャラリートークで、糸満市出身の女性は「子供の頃の記憶が間違いではなかった。忘れかけていた風景を見せてくれてありがとう」と語った。さらに 2018 年に横浜の日本新聞博物館で開かれた写真展には、約 1 万 6 千人が詰めかけた。AIを使ったカラー化の試みも好評だった。 写真7 小箱に入っていた戦前の沖縄のネガ 写真81935年沖縄・糸満カツオを運ぶ子ども漁師 写真9 那覇市の市場 ## 3.2 被爆直後の広島の写真 フォトアーカイブでは 2015 年、広島に原爆が投下された直後に現地入りした朝日新聞社のカメラマンが撮影した写真を見直し、高精細スキャナーでスキャンした後、キズなどを取り除く修復作業に取り組んだ。 朝日新聞大阪本社には、元朝日新聞大阪本社カメラマンの宮武甫氏(故人)が撮影した原爆投下直後の広島市内を記録したネガフィルムが保存されている。宮武氏が撮影した写真は 119 カットだが、ネガフィルムで残るのは 113 カット。残りは紙焼きとして残っている。1945年8月9日から12日にかけて撮影された写真。終戦を迎え、占領軍のプレスコードが厳しくなり、上司からフィルムの焼却を命じられたが自宅の縁の下に隠して守り通した貴重なフィルムだ。撮影から 70 年がたちネガの污れやキズが目立つため、社内にある高精細スキャナーを使ってデジタル化。Photoshop でキズや污れの部分をデジタル処理し修復した。修復した写真は、現在リニューアルが進んでいる広島平和記念資料館に提供し、展示されている。 写真10 原爆投下の数日後、救護所から帰る父母と娘 ## 4. 外販事業について ## 4.1 外販専用Webサイトでの写真、動画の販売 デジタル化作業を終え書誌を確認した歴史的写真と、日々撮影される最新のデジタル写真、動画、図版などは、ID 登録した人が見ることが出来る法人向け外販専用サイト「朝日新聞フォトアーカイブ」で公開している。[1] その一部は、だれでも見られる形で公開する場合もあるが、写真利用の際は ID 登録が必要になる。キー ワード、撮影日などで検索できるほか、話題の写真や動画を特集の形で掲示することもできる。2018 年 5 月にはサイトリニューアルにより、動画も同一サイトで販売している。動画の中には、テレビ局が開局する前の戦前に撮影された貴重なニュース映画も含まれる。スマホやタブレットなど、画面によって表示を最適化する「レスポンシブルデザイン」も採用し、より使い易いサイトを目指している。 写真11 フォトアーカイブ外販サイトトップ画面 ## 4.2 写真の利用状況・営業活動 朝日新聞フォトアーカイブでよく利用される写真は、明治期から昭和にかけての歴史的写真たが、最近 は、平成に入ってからの写真の利用も増えてきた。 2019 年の天皇陛下の退位により元号が変わることで、昭和に加立、平成の写真も、一つの時代を振り返る手がかりとして使われるようになったようた。新聞社の特徴として、各地の空撮、事件事故に加え、各地で開かれるお祭りなど生活・風俗の写真・動画も充実しており、地方自治体や周年企業の社史などで活用されている。また、教育関係では、防災意識の高まりにより、災害・防災関係の写真や動画の注文が急増。副読本の付属 DVD になどに使う素材として、動画が注文されるケースも増えている。2018 年夏には、甲子園の全国高校野球選手権が第 100 回大会を迎え、第 1 回からの名勝負や有名選手の写真への需要も高かった。 フォトアーカイブでは、これらの需要に対応するため営業部門がテーマごとの資料を作り、出版社、テレビ局、その他の企業を回っている。また、注文に応じた検索サービスなども充実させている。写真は世の中で使われ、多くの人の目に触れることが大切であり、利用先の拡大を目指し、日々営業活動を続けている。写真エージェンシーの Getty Images を通じて海外にも発信しており、BBC News、The Guardian、ブルームバー グなどでも頻繁に利用されるようになっている。 写真12 ガーディアンでの西日本豪雨写真使用例 ## 4.3 動画の利用状況 朝日新聞には、戦前の 1935 年から 40 年にかけて撮影された「朝日世界ニュース」、1904 年から 1980 年まで制作された「朝日短編作品集」、戦前の高校野球動画など、歴史的動画が数百本ある。この中には、大正時代に撮影された全国中等学校優勝野球大会(現在の全国高校野球選手権大会)をはじめ、過去のオリンピック、国際連盟脱退の際の松岡洋右首席全権、南極で 1 年間生き延びていた樺太犬夕ロ・ジロなど、貴重な映像が多い。1933年に東北を襲った三陸沖地震の動画も所蔵している。 ${ }^{[2]}$今後、電子教科書や教材など、教育関係での新たな需要が見达まれている。また、朝日新聞社では、2010 年前後から、記者やカメラマンが写真撮影の際に動画も撮影しており、他社に比べて多くの最新動画が揃つているのも特徴だ。空撮動画は、テレビ局も使用している防振装置付きの機器で撮影しており、良好な画質でさまざまな活用が期待されている。2020 年の東京五輪関連施設や日本各地の名所、地理の教科書に使える教育用のドローン動画などの撮影も始めている。 ${ }^{[3]}$ 火山の噴火や地震、水害、豪雪など、災害、防災関係の動画は、各種の教材にも採用されるなど需要が拡大しつつある。防災教育に力を入れるという政府の方針とも重なる。自社の航空機やへリコプターからの空撮も新聞社の強みで、2018 年 7 月の西日本豪雨でも、岡山県倉敷市真備町の水没の状況をいち早く伝えた。海外で航空取材することもあり、特に世界各地の温暖化の状況をルポした「地球異変」シリーズで撮影した南太平洋のツバルの空撮などは人気が高い。全国に配置された総支局から送られてくる各地の打祭りや動物などの動画もあり、ラインアップは豊富だ。 ニュース素材としての動画は、今後、アーカイブ事業のもう一つの柱となる可能性を秘めている。 ## 5. デジタル化のその先・活用事例 5.1 デジタルツールの活用 デジタル化された写真の用途を広げる方法として、最新のデジタルツールの活用を模索している。首都大学東京との共同研究で立ち上げた「東京五輪アーカイブ 1964 2020」では、デジタル地図の上に位置情報をつけた写真や記事などをマッピング。過去の写真を現在の地形や建物の画像と組み合わせることで、この半世紀における日本の暮らしや日本の街並の変遷をた 写真131963年東京五輪を控え、日本橋にかかる高速道路の建設工事 写真14 名神高速道路の開通式後のパレードと試運転中の東海道新幹線 どることに挑戦した。2020 年の東京五輪で、東京や日本各地を訪孔る外国人向けのデジタルッールとしても開発を進めたい。 ${ }^{[4]}$ 朝日フォトアーカイブでは、2018 年度に行う朝日新聞社創刊 140 周年事業の中で、撮影場所の地図を添えて保管されている戦前〜昭和 50 年代の東京・横浜などの写真約 8000 枚に位置情報を付与する事業を進めており、これらの写真も、デジタルツールを使って商品化する方針だ。 ## 5.2 教材としての発信 フォトアーカイブでは、小・中・高校の歴史授業に特化した教材写真のデータベース「歴史授業キット」 を制作。2018 年度中に発売開始する予定だ。 幕末から現代にかけての貴重な写真の中から、教材製作で定評のある「学研」が教科書の単元に関連した写真を厳選。2・26 事件、日中戦争、戦後復興、高度成長期、バブル期などの近現代の写真を項目ごとに整理し並べ直した。写真説明や検索用のキーワードも学習指導要領に対応させ、教育現場での使い勝手をとことん追求した。写真の印刷、ダウンロードができ、電 写真15 歴史授業キットトップ画面 子黒板やタブレットを使った授業、先生が作成する教材など教室内で幅広く利用できる。 写真をデジタル化して単品で公開するだけでなく、授業で利用しやすい形の商品にすることで、教育関係者のニーズに応えることを目指している。 ## 5.3 地方自治体への発信 新聞社のアーカイブの特徴として、日本全国のできごとを網羅しているという点が上げられる。朝日新聞社は現在、全国に43の総局、227の支局を有しており、日々のニュースが届けられる。加えて、過去から積み上げた写真のアーカイブは、全都道府県で起きた事件事故、災害に加え、生活風俗などもカバーしている。地方の空撮写真などもある。東京五輪関係では、1964 年当時の全都道府県の聖火リレーの写真をデジタル化し、サイトで紹介している。 これらを組み合わせて、各地方自治体の広報誌などで活用してもらう方法を考えている。2017年には、各地の祭りをまとめた PR 動画も制作した。各自治体の要望に応じて、その土地に合わせた写真、動画を検索し、提示するサービスも始めるつもりた。 写真181964年原爆ドーム前を走る聖火 ## 6. おわりに 写真は文化であり、それらを残し、公表し、社会に還元することは、新聞社アーカイブ部門の責任だと感じている。新聞本紙に写真が初めて掲載された 1904 年の日露戦争や日中戦争、太平洋戦争、戦後の復興など、蓄積されてきた写真は 2,000 万枚。それらをデジタル化し公開する作業は、今も、日々続いている。写真のデジタル化や書誌整備には打金も人手もかかる。写真の利用の際、適正な利用料をいただき、その収益でさらにデジタル化作業を進めるというサイクルは、事業体として継続していくために必要なことだと考え ている。著作権の保護期間が満了した写真、動画についても、デー夕提供が必要な場合は、デー夕提供料という形で料金をいただいている。 デジタル化によって、初めて日の目を見て、社会に認識される写真は数多くある。戦前の沖縄の写真も、倉庫の奥深く眠っているままでは、誰にも気づかれず、当時の様子も分からないままだった。過去の災害の生々しい映像が、防災の取り組みに役立つこともある。日本が戦争へ向かう時代の世相から、今こそ学ぶべきことも多い。保存写真の中から、貴重な歴史的資料が発見される可能性もある。 新聞社を始め、写真を多く保存していても、採算面などからデジタル化を断念した企業も多いと聞く。歴史の証人として、時代を映した貴重な写真を後世に伝えるため、どんな方法があるのか。新聞写真のデジタル化を通して培ったノウハウを、他社とも共有して、写真文化を守っていく事も考えていきたい。 (註・参考文献) (web 参照日はすべて 2018.7.30) [1] 朝日新聞フォトアーカイブ https://photoarchives.asahi.com/ [2] フォトアーカイブ歴史的動画特集 https://photoarchives.asahi.com/special/?id= 20180716142200862599 [3] フォトアーカイブドローン・空撮動画特集 https://photoarchives.asahi.com/special/?id= 20180515115428126932 [4] 東京五輪アーカイブ http://www.asahi.com/special/tokyo1964/
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# ADEACの取り組み Some efforts to make development of a digital archive system - ADEAC TRC-ADEAC株式会社 \begin{abstract} 抄録:ADEAC(A System of Digitalization and Exhibition for Archive Collections)は、2008 年 10 月から、TRC-ADEAC(株)において運用を開始したプラットフォームシステムです。現在、図書館・大学等の 88 機関が所蔵する多様な史資料が、ADEACを介し利用に 供されています。インターネット・ユーザーは、無償で、例えば高精細画像データを閲覧、またADEAC内の全てのテキストデー 夕を横断検索できます。当技報において、現在進めているインターフェイス、検索精度の向上等の改善と IIIF、ウェブアクセシビ リティ等への対応の検討状況について概説し、特徴的な 5 機関の利用事例を紹介します。 Abstract: ADEAC (A System of Digitalization and Exhibition for Archive Collections) is a platform system that will began operations in October 2008 by the TRC-ADEAC Inc. Currently, 88 institutions, such as libraries and universities, provide various historical materials through ADEAC. For example, Internet users can browse high-quality image data, and cross-retrieve for all text data on ADEAC for free. In this technical report, we will outline the improvement of the current ADEAC, not only Interface and accuracy retrieval functions but also IIIF and web accessibility, and introduce the case of the five representative institutions. \end{abstract} キーワード:デジタルアーカイブ、ADEAC、プラットフォームシステム、歴史資料、高精細画像データ、横断検索システム、フル テキスト検索 Keywords: digital archive, ADEAC, a platform system, historical materials, high-quality image data, cross-retrieval system, full-text retrieval ## 1. はじめに デジタルアーカイブシステム ADEAC(アデアッ ク : A System of Digitalization and Exhibition for Archive Collections)は、地域の文化資源をデジタル化し公開するためのクラウド型プラットフォームシステムである。その原点は 2010 年度から 3 年間、東京大学史料編纂所社会連携研究部門において、石川徹也教授(当時。現 TRC-ADEAC 株式会社会長)が主宰し、大日本印刷株式会社、丸善株式会社 (現在丸善雄松堂株式会社)、株式会社雄松堂書店(同)、コンテンツ株式会社、株式会社図書館流通センターの 5 社が参加した産学連携研究の成果システムである。 ${ }^{[1]}$ このシステムのコンセプトは、自治体史(県史・市史等)本文の横断的フルテキスト検索と引用史資料の高精細画像閲覧を可能とすることにあった。従って通常のメタデータの検索だけではなく、当初から史資料本文のフルテキスト検索が実装されていたところに最大の特徴がある。 この研究成果を事業化するため 2012 年 10 月、 TRC-ADEAC 株式会社を設立し現在に至っている。設立の経緯についての詳細は『DHjp No. 1 新しい知の創造』(2014. 勉誠出版 $)^{[2]}$ を参照いただきたい。こ こでは ADEAC の最新の状況について報告させていただく。 ## 2. ADEACの現状 ## 2.1 概況 ADEAC のビジネスモデルは、図書館や博物館、大学等のコンテンツホルダーに働きかけ、資料をデジタル化し公開する一連のプロセスで利益を得る仕組みである。クラウドによる共同利用方式により、デジタルアーカイブを始めることへの予算的かつ心理的ハードルを相当レベルで下げていると自負している。各利用機関(発信者)と相談しながら、インターネット利用者に楽しく効果的に活用いただける゙ジタルアーカイブを構築し、ネット上に便利な地域資料のデータベー スが出来上がりつつある。 2018 年 7 月現在、88 の機関(一部非公開・準備中を含む)が ADEAC を使ってデジタルアーカイブの構築を行っている。保有コンテンツ数は、メタデータの数で 58,406 件、うち画像があるものは 24,113 件(動画・音声を含む)となっている。直近 1 年間の月平均アクセス件数は約 170 万 PV という状況である。この 1 年での利用機関の伸び率が $30 \%$ 程度なのに対して、 アクセス数の伸びは $250 \%$ を超えている。数字的にはかなり認知度が高まったようにも見えるが、実際のところは、一般の人のみならず図書館員にもほとんど知られていないというのが実感である。「地域の歴史的なことを調べるなら“ADEAC”」と言われるようになりたいものだが、まだまだ道は遠そうである。 ## 2.2 システム関連 ADEACでは昨年 1 年かけて、システムの全面リニューアルを行ってきた。前述のようにもともとの ADEAC は自治体史および引用資料(いわゆる古文書) に特化して開発されたシステムであったため、実際に図書館や博物館で使うとなると扱う資料が多岐にわたり、社内の制作現場ではかなり強引に応用して使っていた。また研究べースのシステムが高尚過ぎて、自動制御部分等却って使いづらい点も多々あった。これらを見直して作業の効率化とユーザビリティの向上を企図し、具体的には、(1)メタデー夕の改善、(2)検索機能の強化、(3)検索結果表示の改善、(4)多様なコンテンツへの対応、(5)他システムとの連携、(6)所蔵管理機能の搭載、(7)デザインの見直し、(8コスト削減という 8 つの目標を掲げ開発に取り組んだ。 2017 年 6 月の第 1 次バージョンアップでは、デー タセンターの移行とそれにともなうサーバーおよびクラウド環境の変更、検索エンジンの変更、OAI-PMH の実装など、 12 月の第 2 次バージョンアップでは主に画面周りの全面改修、所蔵管理機能の構築等を行った。さらに今年 3 月には、ウェブアクセシビリティおよびパーマリンクへの対応等積み残しの部分のリリー スを行い、現時点(2018年7月)でADEAC は当初とは相当違うシステムに生まれ変わっている。五月雨式の移行で目立たなかったが、ぜひこの機会にご確認いただけると幸いである。 ## 2.3 外部連携 2018年3月から国立国会図書館サーチ (NDLサーチ) との OAI-PMHによる API 連携が始まった。NDL サー チとの連携は昨年 4 月から行われていたが、API 連携の開始により週次でメタデー夕の提供が可能となり、 ADEAC で公開しているすべてのコンテンツが、NDL サーチの検索対象となり、高精細画像までたどり着けるようになった。NDLサーチの全体量からすればごく少量ではあるが、利用者にとっては便利になったのではないかと思っている。NDLサーチで「デジタル資料」で絞り达んでお試しいただきたい。図 1 は織田信長の楽市令「安土山下町中掟書」をNDLサーチで検索した書誌詳細画面 ${ }^{[3]}$ であるが、最終行 (丸枠) か 張られているので、さらに利便性が高くなっている。 図1NDLサーチ「安土山下町中掟書」書誌詳細 図2 ADEAC 近江八幡市歴史浪漫デジタルアーカイブ 「安土山下町中掟書」翻刻テキスト NDLのほかにも、EBSCO Discovery Service(米国) との連携協定もすでに成立しており、近いうちにデー 夕提供が開始される見込みである。海外での認知度アップにつながることを期待している。 ## 3. デジタルアーカイブの実際 ADEAC は前述のとおりクラウド型プラットフォー ムシステムなので、各機関の利用の仕方はさまざまで実に面白い。ここでは紙幅の都合、新しくかつ話題性がある 5 機関を厳選して紹介する。 ## (1) 浜松市立中央図書館「浜松市文化遺産デジタルアー カイブ」[5] 直近 1 年間の平均アクセス件数が ADEAC で一番のデジタルアーカイブで、7月にリニューアルを終えたばかりある。揭載資料は、『浜松市史』全 5 巻 (4、5 巻は最新刊)および合併旧市町村史(10点・22 冊) と歴史資料(321 点)であるが、最大の特徴は、図書館・博物館・美術館・その他機関の資料をテーマ別に混載している点にある。 とくに2017年はNHK大河ドラマ「おんな城主直虎」 の放映があり、その関係資料(寺社所蔵)を 1 年以上も前からデジタル化し公開してきた。放送期間中、市内の観光地で配布していた小冊子の資料写真に「浜松市文化遺産デジタルアーカイブ」への誘導情報が入っていた。当事者である図書館の手を離れ、別の部署が活用しているという理想の事例である。 同様に「わが町文化誌」というコンテンツは、中区役所から図書館への持ち込み企画である。かつて公民館単位で制作した地域資料 10 冊を一緒に検索・閲覧できるようにしたいということで実現したが、これが意外にもひじょうに利用が多い。今年度は東区と西区にも波及し、各区が予算を確保し10月の公開を目指し準備している。公開が次の公開を産むデジタルアー カイブの好循環事例と言える。 ## (2)船橋市西図書館「船橋市デジタルミュージアム」[6]図書館所蔵の浮世絵を中心に 1000 点を超える貴重資料を公開しており、ADEACを代表するデジタル アーカイブの一つである。郷土資料館・市所蔵の美術品も加え、文字どおり市のデジタルミュージアムとし て機能している。 図3ADEAC 船橋市デジタルミュージアム船橋市西図書館トップページ こちらで特筆すべきことは、トップページのアニメーションに象徴される市民への PR 精神だろう。市の公式キャラクター「目利き番頭船えもん」(図 3 ${ }^{[7]}$ を自分の好きな浮世絵の中に隠そうという企画をネットで展開したり、館内ギャラリーを使ってデジタルと現物を融合した展示を行ったり、ユニークな視点で新たな利用者の掘り起こしを図っている。貴重資料の画像をネット上に置いておくだけではなく、資料提供と いう図書館の根幹の活動として取り込んでいる点がたいへん参考になり、今後も新たな企画に目を離せない機関である。 ## (3)大網白里市 (千葉県)「大網白里市デジタル博物館」[8] こちらのトップページには、「大網白里市は、博物館や資料館、美術館などの文化施設を有していないため、文化資源に気軽に親しんでいただく環境が整っていませんでした。そこで、いつでも・どこでも・無料で文化資源に親しんでいたたくことのできる施策としてインターネット上での公開を企画しました。「館を持たない自治体が提案する本格的デジタル博物館」をコンセプトとして、全国でも稀な事例として、平成 30 年 2 月 1 日にオープンしました。デジタルならではの特長を活かして、大網白里市に関する文化資源を順次公開していきます。」とある。これ以上の余計な説明は要らないのだが、強いて挙げるなら、市役所の HP の表紙画像に採用されこちらにリンクが張られていること、市の公式キャラクター「マリン」を各所に登場させていることの 2 点。まさに市を挙げての取り組みとなっているのである。図 4 は大網白里市役所 クすると、ADEAC「大網白里市デジタル博物館」のトップページ(図5)に遷移する。 ## (4)瑞穂町図書館(東京都)「温故知新 一 瑞穂町を旅 する地域資料」 $[10]$ 町の刊行物のテキストデータ化 + 英訳に始まり、町内各所 (自然景観や建造物) の解説・写真・音源のデジタル化、さらには伝統産業、方言、昔話等々、さまざまなものをデジタル化し、地域の文化資源情報デー タベースを構築している。折しも瑞穂町では 2017 年度から「ふるさと学習『みずほ学』」をスタートさせ、 図4 大網白里市役所トップページ 図5ADEAC 大網白里市デジタル博物館トップページ 特色ある教育活動を展開しており、そうした教育の場で使えるデータベースに成長しつつある。デジタルアーカイブと言えば貴重な資料というイメージが先行するが、こちらのように地域のちょっとした文化資源情報を集積させることで、有用な地域学習の情報デー タベースができていくのである。図書館と郷土資料館を融合させたこの取り組みは、各自治体のこれからの生涯学習活動の参考になる好事例である。 ## (5)常総市「デジタルミュージアム」 ${ ^{[1]}$} 常総市のサイトで目を引くのは、重要文化財坂野家住宅の $3 \mathrm{D}$ パノラマビューだが、重要なのはそこから展示資料の高精細画像やメタデータ、さらには解説ページにインタラクティブにリンクが張られていることである。とくに資料の解説については、市が包括的な官学連携協定を結んでいる筑波大学の協力のもとに進んでいる。この結果きわめてクオリティの高いデジタルアーカイブができつつある。現在国立大学のみならず私立大学でも地域連携が重要ミッションとなっているが、地域資料のデジタルアーカイブの共同構築はとてもうまくマッチするという事例である。 ## 4. 考察 ## 4.1 他機関との連携 前段の事例でも明らかなように、他機関との連携が一つの成功パターンと言える。表 1 は ADEAC 利用機関の内訳とその連携関係をまとめたものである(2018 年 7 月現在)。図書館・博物館の連携先に上位組織の自治体を置いているのはいささか違和感があるかも知れないが、ここで言っているのは通常業務の範囲を超えた連携(例えば図書館と文化財課等)と理解いただきたい。主体機関が自治体 (本庁)というケースは、文化財行政掠よび博物館・図書館を所管する教育委員会が大半で、自治体史編纂または公文書管理を担う総務系の部署の場合もある。教育委員会が主体の場合、自治体内の博物館施設との連携になることが多い。 この表で興味深いのは、博物館(以下、とくに断りがない限り郷土資料館等を含む)主体の場合はすべて単独で進めているのに対して、図書館主体の場合は他機関との連携事例が多いということである。これは両館の資料と機能の違いを如実に物語っている。博物館の場合、公開すべき所蔵資料が大量にあるのでまずはそれが優先され、他機関との連携は二次的な課題となる。一方図書館では資料自体が著作権の対象範囲のものが大半なので、自館で貴重資料を所蔵していない限り、その対象は外部資料に向く。図書館は地域住民に必要な情報を収集・整理し、提供することがミッションなので、当然の帰結と言えよう。 こうした両館の特性をミックスすることで相乗効果が生まれている。博物館は収集・調查・研究・展示、図書館は集客・情報整理(データベースの構築)・レファレンスというように、それぞれの得意分野を合わせれば、地域の文化資源のデジタル公開はもっと容易に進められるはずである。さらに前述のとおり常総市ではこれに大学との連携も加わっている。それぞれの自治体の事情はあると思うが、とにかくデジタルアー カイブには壁がないので、いかにうまく一元化できるかが今後の課題であろう。そして前段の紹介事例のようにシティプロモーションを意識して取り組み、自治体を挙げたデジタルアーカイブに育てていくことが成功の秘訣だと思う。 表1 ADEAC利用機関の内訳 ## 4.2 使われるためのヒント 各機関の取り組みで共通するのは、単純に貴重資料をデジタル化してインターネットで公開するという従来のデジタルアーカイブのイメージを大きく踏み越えていることであろう。このことが意味するのは、各機関とも利用者に使ってもらうことに腐心しているということである。いくら貴重な資料をネットに出しても、見てもらえなければ意味がないし、使われないものに継続した予算は付かない。よほど話題性があるお宝でもない限り(これとて時間とともに飽きられるのだが)、何もせずに勝手に見に来てくれるものではない。 そのために最低限必要なことは、コンテンツを追加・更新することである。更新しないと利用者から飽きられてしまうのは自明の理であるにも関わらず、従来は構築してそれっきりというパターンがいかに多かったことか。デジタル化することだけに全精力を使い果たして、使うことを考えていなかったのである。 デジタルアーカイブの目的は、資料をデジタル化することではなく、資料を地域住民に提供することにある。 さらに言えば、具体的に資料を紹介し、その使い方のヒントを提案するところまで進めることが重要である。 船橋市では手を変え品を変えそれを実践しているのは前述のと打りだが、その企画の案内にチラシとポスターという旧来の媒体を利用していることにも注目したい。また展示会や講演会というイベントから導くのも効果的である。要するにデジタルアーカイブそのものではなく別の媒体や違う場所での案内がないと、見つけてもらえないのである。 この点で最も効果を発揮するのはやはりSNS だと思う。資料紹介とSNS の相性はすこぶるよいので、 デジタルアーカイブを始めた機関は、今後大いに力を注いでほしい分野である。 ## 5. 新しい技術・課題への対応 $5.1 \mathrm{IIIFCCCライセンス$} 新しい技術という点で現下最大の話題は IIIF(トリプル・アイ・エフ)であろう。ご多分に漏れず ADEAC でも大急ぎでシステム開発を済ませ対応可能となっているが、問題はこの新しい技術をどう利用者目線で活かしていけるかである。まだ具体的方向性は見出せていないが、今後実務べースの試行錯誤の中で経験値を積んでいけたらと思っている。 CC(クリエイティブ・コモンズ)ライセンスも思いのほか速い流れである。この仕事を始めたころは、 ダウンロードなど以ってのほか、プリントアウトの制御まで強いられていたのだか、今やまったく天地逆転 の状況である。「ADEAC はJPEG のダウンロードができないのでけしからん」とSNS でささやかれているようだが、これは大いなる誤解で、あくまでも利用機関とコンテンツホルダー側の選択の問題である。今年度になって岐阜女子大学と山口県立山口図書館が CCBY の表示を始めたので多少誤解は払拭できるだ万う。今後の採用に拍車が掛かることを期待している。図 6 は山口県立山口図書館・山口県文書館「WEB 版明治維新資料室」の「留魂録」(吉田松陰著) ${ }^{[12]}$ である。 フッター部分に CCBY のアイコンが表示されている。 図6 ADEAC 山口県立山口図書館・山口県文書館 WEB版明治維新資料室「留魂録」ビューア ## 5.2 その他の課題 多言語対応は世界に発信が可能なデジタルアーカイブ共通の大いなる課題であると認識している。 ADEAC では各機関のトップページは機械翻訳を可能にしているもののコストの関係で全ページ対応はできていない。今後の AI 技術の進展とコストダウンに期待するところ大である。 個別のコンテンツ制作の場面では、多言語対応を積極的に勧めているので少しは進んでいるが、これもコストの問題でかなり厳しい。ひとつの解決策としては市民参加が考えられるが、いまだ実践レベルには至っていないのが現状である。 翻訳のみならず、参加型のコンテンツ制作やデータベース構築はますます盛んになってくると思われる。 すでに所蔵管理システムが完成し、利用機関側からのオペレーションも可能になりつつある。今後現場の多様な要望に応じ磨きをかけていきたいところである。 このほかにも AIを駆使した翻刻支援システムの実験、DOI の付与、ウェブアクセシビリティのさらなる充実等及、多くの課題に挑んでいるが、これらの説明はまた別の機会としたい。 ## 6. おわりに 以上 ADEAC の現状について洗いざらいオープンにしてみた。あらためて読み返してみると、日々試行錯誤の連続であり、今もそれは変わらず課題山積である。何と言っても最大の問題は、まだまだデジタルアーカイブなどどこ吹く風という機関が大半であることだろう。まあそんな中、なんとか少しずつ打役に立てるデータベースができつつある。ADEAC のトップペー ジの検索窓に適当に文字を入れると、何某かの資料が出てくるようになった。6月からは西尾市岩瀬文庫の古地図資料 844 点の高精細画像と詳細メタデータが搭載されている ${ }^{[13]}$ 。これなどはとくに使える資料と言えるだろう。話のネ夕に困ったらぜひご利用いただきたい。 地図つながりでもう一点。これはまったくの宣伝になるが、現在河出書房新社と「デジタル伊能図」の WEB 版を開発中である。「伊能大図」214 枚を閲覧できるのみならず、国土地理院の現代地図との重ね合わせ、側線・宿泊地の表示、測量日記(フルテキスト・原本画像)との連携等々、GIS を活用した豪華機能満載の有料コンテンツを今秋リリース予定で進めている。上手くいくかどうかはわからないが、こういうものが一般市民に当たり前のように普及していけば、デジタルアーカイブへの理解も広がるはずである。世界中の人に有効に使ってもらえる資料の提供。デジタルアーカイブは今までになかったまったく新しい方法での資料提供手段であるということを、図書館・博物館・その他すべてのコンテンツホルダーのみなさんにあらためて訴えたいと思う。 (註・参考文献) [1] 石川徹也, 梅田千尋. 2010年度-2012年度東京大学史料編纂所社会連携研究部門研究成果報告書, 2013, 116p. (東京大学史料編纂所研究成果報告2012-3) [2] 田山健二, 石川徹也. “TRC-ADEAC(アデアック)の挑戦”. DHjp No. 1 新しい知の創造. 勉誠出版, 2014, p.40-43. [3] NDLサーチ. 安土山下町中掟書. http://iss.ndl.go.jp/books/R100000094-1000036466-00(参照201807-30) [4] ADEAC. 近江八幡市. 近江八幡市歴史浪漫デジタルアーカイブ. 安土山下町中掟書 (翻刻) https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11E0/WJJS06U/ 2520405100/2520405100200010/ht000010(参照2018-07-30) [5] ADEAC. 浜松市中央図書館. 浜松市文化遺産デジタルアー カイブ. https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/2213005100(参照 2018-07-21) [6] ADEAC. 船橋市西図書館. 船橋市デジタルミュージアム. https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/1220415100(参照 2018-07-21) [7] ADEAC. 船橋市西図書館. 船橋市デジタルミュージアム, 西図書館トップページ。 https://trc-adeac.trc.co.jp/Html/Home/1220415100/topg/west. html (参照2018-07-21) [8] ADEAC. 大網白里市. 大網白里市デジタル博物館. https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/1223905100(参照 2018-07-21) [9] 大網白里市役所トップページ。 http://www.city.oamishirasato.lg.jp/ (参照2018-07-21) [10] ADEAC. 瑞穂町図書館. 温故知新一瑞穂町を旅する地域資料. https://trc-adeac.trc.co.jp/Html/Usr/1330310100/index.html(参照2018-07-21) [11] ADEAC. 常総市. デジタルミュージアム. https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/0821105100(参照 2018-07-21) [12] ADEAC. 山口県立山口図書館・山口県文書館. WEB版明治維新資料室. 留魂録 (原本画像). https://trc-adeac.trc.co.jp/Html/ImageVi ew/3500115100/3500115100200010/1000746427/(参照201807-21) [13] ADEAC. 西尾市岩瀬文庫. 古典籍書誌データベース. https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/2321315100(参照 2018-07-21)
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# [A23] 伝統技術継承者によるデジタルアーカイブ化の実例 と課題: -「竹筬(たけおさ)」という機道具の復元製作を例に- ○金城弥生 ${ ^{1}$ ), 井上透 2) 1) 日本織物文化研究会 2) 岐阜女子大学,〒500-8813 岐阜市明德町 10 E-mail: [email protected] ${ }^{1)}$ [email protected] ${ }^{2)}$ ## Current status and Issues of creating digital archives by traditional craftsman: A case of the restoration of "Bamboo Reed" weaving tools KINJO Yayoi ${ }^{11}$, INOUE Toru' 1) Japan Fabric Culture Society 2) Gifu Women's University, 10 Meitoku-cho, Gifu, 500-8813 Japan ## 【発表概要】 デジタル機器やインターネットの発達により、誰もがデジタルアーカイブを製作し発信する環境を持つことが可能となった今、技術継承者や職人、または継続が困難となりつつある地域芸能の担い手などが、自らの技術や技を記録することには大きな意義がある。この研究はデジタルア一キビストなど「第三者による」デジタルアーカイブ化ではなく、職人や技術者といった「技術継承の当事者による」デジタルアーカイブ化を目的としている。ここでは「竹筬(たけおさ)」 という機道具の復元製作を例にあげ、口伝や伝承と共に、正しい情報を後世へ残すためのアーカイブ製作に関する課題や問題点を精査し、そのモデルケースとして報告する。 ## 1. はじめに 機道具のひとつに、織物の密度や幅を決める「竹筬(たけおさ)」という道具がある。 1996 年に日本で最後の竹筬職人と言われた国指定重要無形文化財保持者の北岡高一氏が亡くなり、その後、入手が困難となった。奈良県を中心に、民俗文化財の観点から地域に残る機道具の実測調査や復元製作活動を実施してきた山田和夫らと金城は、2001 年から竹筬に関する文献調査や全国レベルでの聞き取り調査を行い、復元製作を続けている。 この竹筬復元活動の一環で実施した調査や製作に関する記録とアーカイブ化の課題についての考察は金城が担当し、技術者本人らによるデジタルアーカイブ製作の理論的な分析と問題点についての考察は井上が担当した。 ## 2. 竹筬復元製作と記録への過程 ## 2.1 竹筬製作の現状について 竹筬は、古来より織物の幅と密度を決める重要な道具として使用されてきた。1996 年に北岡氏が亡くなり、竹製の筬に代わって、ステンレスやアルミ製のいわゆる「金筬(かね おさ)」が使用されているが、「静電気が発生する」「織り上がった布帛の風合いが異なる」 などの理由から、特に伝統織物に携わる人の間では今でも竹筬が好まれ使用されている。 図 1 復元製作した竹筬 図 2 竹筬の部材名称 ## 2.2 竹筬の構造と原材料について 竹筬の製作には 30 以上の工程がある。主に真竹が使われ、編み糸には木綿または絹、仕上げに和紙が使われる(図 $1 \cdot 2$ )。質が高い筬の製造には精度が高い筬羽が必要となるが、この筬羽製造会社が 2003 年に営業を停止したこともまた、竹筬が作られなくなった大きな要因のひとつとなった。 ## 2.3 アーカイブ製作へ至った経緯 2001 年から山田らの活動に参加した金城は復元製作した「天科腰機」を使い、自身で績み繋いだ糸で麻布を織る際、ステンレスの金筬の重みで経糸が切れ、織り進むことができないことをきっかけに竹筬製作を始めた。竹筬以外の全ての機道具は山田氏が中心となり現物資料を実測復元したものであったため、竹筬についても伝統的な工法による復元製作を目指し、(1)文献調查、(2)現物資料の実測調查、(3)聞き取り調査を実施し試作を行った。 これらの調査、特に職人の体験談や製作に関する聞き取りを行いながら、貴重な技術や経験を持った職人がいるという情報を、調查者個人のものとするのではなく、その地域や公的機関にも残寸必要があるのではないか、 そのためには質の高い記録が必要であると感じたことが 2011 年から本格的にデジタルア一カイブの研究を始めたきっかけであった。 ## 3. 竹筬復元製作に向けた調査の実施 3. 1 文献調查 まず竹筬に関する報告書や書籍の収集から開始した。2001 年当時は主に図書館や博物館紀要などの文献リストを参照し、その後はインターネット検索も行った。一番大きな収穫だったのは江戸後期に黒羽藩主大関増業が書かせた止戈枢要のうち「機織彙編(きしょくい几ん)」の手書き本(栃木県指定文化財)の 「筬拵え方」の存在を知ったことで、この文献と北岡高一氏宅に残っていた道具などの現物資料を参考に、復元製作を開始した。 ## 3.2 実測調査 今までに全国の 20 を超える民俗博物館や歴史資料館を訪問し、1000 点以上の竹筬の実測調査を行ってきた。収蔵資料の多くは江戸後期以降のものだと思われるが、実際に使用 されてきた道具を観察すると、その製作方法や使用痕跡が、文献または聞き取り調査の内容と一致することもあった。手間は掛かるが、実測してデータ化すること、そして「現物に触れること」は非常に重要であると考える。 ## 3. 3 聞き取り調査 竹筬職人、またその家族からの聞き取り調査も実施した。故北岡高一夫人の綾子氏へは 3 回の調查を行った。北岡氏が使う編み糸作りを担当していたという綾子氏から当時の筬の製作風景や糸の撚り加減についてなど細かい話を聞くことができた。 この頃、インターネット検索などにより高齢の竹筬職人が筬の組み直しなどの作業を続けていることを知った。そこで群馬・埼玉・福岡・熊本・鹿児島などの現役、又は元竹筬職人へ調查依頼を行った。どの方からも最初はいい返事はいただけなかったが、これは竹筬がないことに困った多くの染織関係者が、自分で調べ試作する事なく「教えて欲しい」 と気軽に問合せを行い、その対応に困ったことが原因のようであった。そこで我々の調査報告や、試作した竹筬の写真を送付、又は持参するなどして成果を見ていただくと、少しずつ話を聞かせて頂けるようになった。 ## 3.4 過去の調査での失敗例と対策 これまでの調査で多くの失敗も経験した。個人的な活動であるため、撮影も聞き取りも自身で行う必要がある。活動を始めた当初は動画撮影中に雑談の声が入ってしまったり、動画がぶれてしまったりすることもあった。 また訪問先は山間部が多く、インターネットや電話回線が繋がらず準備したデータを取り扱えないことも経験した。 また東北や九州、沖縄での調査の際には特に高齢の方々の方言が解らず困ることがあつた。この経験から地域の学芸員やボランティアに同席を依頼することもある。 更に技術者の中にはあまり多くを語らない人もいる。しかしそれに動じずに「解らなければその場で聞いて解決する」ということも学んだ。職人の技術にはそれぞれの工夫がありひとつひとつの作業に意味がある。職人の技術はそれぞれの財産であるとは言われるが、疑問に思うことは納得がいくまで現場で 確認し理解することが、技術に関する聞き取り調査をする際の基本であるように思う。 ## 3.5 作業手順を確認するためのエ夫 復元した道具を持参することで聞き取りが円滑に進んだ例もある。熊本県山鹿市の上野一雄氏から竹筬の製作方法を伺った際、既に 50 年前に製作を辞めていたことから、道具の形状や作業に関する記憶が曖昧な点も見受けられた。そこで 2 度目の訪問の際には、 1 回目の調査から推測して製作した道具を持参し、竹筬を組む作業を試みて戴いた。その結果、少し道具を触っただけで上野氏の手が勝手に動くように作業が始まり、細かい部分まで明確に説明戴くことができた。このように聞き取った内容を実際に道具として製作したり、図示化することも思った以上の効果が得られることがある。 ## 4. 竹筬製作の記録 ## 4. 1 真竹の選定と伐採 先にも述べたが竹筬の製作には 30 以上の工程があり、大きく筬羽作り・編み糸作り・筬編み・仕上げの 4 工程に別れる。使用するのは $2 \sim 3$ 年程度生育した真竹で、伐採から $3 \sim 10$ 年ねかせたものである。伐採時期は 9 12 月頃が最適で水を吸いあげる春先などに伐採した竹は虫が入りやすく加工には適さない。 ## 4. 2 筬羽製作工程 竹片の厚さは「厚引き台(または正直台)」、幅は 「幅引き台」で加工する。これらの道具は竹筬以外の竹細工の加工にも使われているようである。 厚引き台と幅引き台で正確に寸法を決めた後、筬羽を裁断機で切断する。裁断した羽は傍面の角が立っていると経糸を通した時に糸を切ってしまう可能性があるため面取りを行う。また羽の小口の角も専用の道具を使って面取りする。 ## 4. 3 編み糸と和紙について 竹筬の羽間は羽の厚さと編み糸の太さの比率で決まると言われるほど、編み糸の選定は重要である。この比率は 4 対 6 が良いとされ、機織彙編にも同様の記述が見られる。各調查の結果から密度が粗い筬には木綿糸、 20 羽/cm 間以上の細かい筬には絹系を使用している。以前は聞き取り調查を元に糸も手撚りしていたが、現在は編みや すい撚り加減の糸を特別に発注し使用している。 ## 4. 4 筬編み工程 竹筬製作を開始した当初は、機織彙編の「筬編み台」を復元して使用していたが、作業の効率や使いやすさの観点から、群馬県伊勢崎市の平井文雄氏や北岡氏が使っていたものと同様の「編み型」を使うようになった。 「カイズル」を編み型に固定し編み始める。編み方には 2 種類あり、括らず巻きつける方法と、一回ずつ括り締める方法がある。古い手組みの筬の多くは括り目があり、実際に自分で組んでみると括りながら編む方が作業し易い。一方、機械編みの筬に括り目は見られない。 また機織彙編に「竹の皮付之方を耳の方へ向けて、真中腹合に両方あミ也」と記述があり、各地域の現物資料にも、筬の中央を境に筬羽の皮側を外に向けた筬が見られた。機織彙編の編み台を使う場合は必然的に中央から編み始めることになるが、それ以外にも機織り道具の多くが左右対称に作られていること、経糸への負担が左右均一になるなど、理由は幾つかあげられるように思う。 ## 4.5 仕上げエ程 編み終わると両端に「チキリ」を取りつけ、カイズルを切断し、編み糸の処理を行う。その後、四角い木桘で筬羽の両木口を叨き、筬の上下が乱れなく並ぶように整える。経糸が編糸に直接当たつて傷まないように、「ヤライ(糸摺り)」を取りつけ、編み糸にも膠を塗って固める。次に筬の両耳部分に和紙を貼り、レンガ鏨を使って筬が鏡のように光るよう面仕上げを行う。和紙に筬羽数と密度、製作年月を記入し、屋号の焼き印を押して完成である。完成後は使用した部材や素材、筬羽などの情報を一覧表に記入し、修理の際などの参考デ一夕としている。特に、編み糸の太さと羽厚の比率は貴重な製作データとなる。 ## 5. アーカイブ製作とその課題 ## 5.1 職人の技術の記録の意義 竹筬に限らず、職人や技術者はその技を 「見て覚える」よう弟子や後輩に指導する傾向がある。しかしその後継者が居なくなった技については積極的に記録を残すことをしなければ、その技が次の世代へ伝わることなく消えてしまう可能性がある。なくなった技術を復活させることは、簡単なことではない。 ## 5.2 個人製作アーカイブの保存場所 製作したアーカイブを、誰が何処に保存するかは今後の課題であるように思う。個人で製作したアーカイブを博物館や資料館に保存するのか、図書館に保存するのか、また職人自身が第三者が見て理解できるほどのレベルの記録とアーカイブ化が可能であるのか。これは地域のアーキビストや学芸員などが積極的に支援する必要があるように感じる。 ## 5. 3 利用する機器 2001 年にはまだフィルムカメラを使用していたが、2003 年からデジタルカメラへ移行した。2018 年現在はフィルムカメラで撮影したデータも JPEG一変換してデジタルデータとして活用し、フィルムも別に保管している。現在主に使用している媒体としては、(1)デジタル一眼レフ、(2)コンパクトデジタルカメラ、(3)ノートパソコン、(4)タブレット端末、 (5)スマートフォンなどである。調査先は都会から離れた郊外や山間部も多いため、インタ一ネット通信やクラウド管理に頼りすぎずに対応できるよう、容量が大きい端末や USB メモリを利用するなどの工夫をしている。 ## 5. 4 データ管理と活用 収集した動画や静止画、文献資料、調査デ ータを如何に保存するかという点はデジタルアーカイブ研究以前からの課題であった。一時は Microsoft Access や FileMaker の使用を試みたが、個人的にデータ管理を行うのであればシンプルにフォルダ保管を行い、必要なデータのみ Microsoft の OneNote や Google の Evernote などといったメモアプリで取り扱うことが単純で使い勝手が良いように思う。また、共同研究者とのデータ共有が必要な場合はクラウド共有などを利用している。 技術者や職人にとって、データの取扱いに時間が掛かり過ぎることは自分の本来の仕事に使う時間を削るという意味でもあるため、 シンプルな環境作りがいいように思う。 ## 6. おわりに 竹筬職人、元職人一の聞き取り調査は、 2001 年から 2010 年がギリギリのタイミングであったように思う。そして竹筬を含めた様々な手仕事について、2018 年から先の数年は、技術者本人や、その家族、地域の人々から話を聞き、実際に使われてきた道具や写真、映像とその話を関連づけて聞くことができる重要な期間となるだろう。 小さい道具ひとつの供給が止まることで、伝統工芸や産業の全ての工程が止まってしまう、または工法を変更せざるを得なくなることへの危機感を持ち、伝統工芸品などの販売商品だけでなく、 その工程に必要な道具や素材、原料、そして人材の確保、保護、記録にも努める必要がある。 また、職人や伝統産業、工芸品などの「技」の生きた記録を行うためには、その技術への深い理解と技術者との信頼関係、そして記録するアーキビストの技術が不可欠であることを理解し、著作権の管理やデータ発信に関するモラルと知識などについても、育成していく必要性を感じている。 ## 参考文献 [1] 大関増業. 止戈枢要/巻 128 機織彙編/巻 5 (手書本、杤木県大田原市所蔵) 文政 12 年 [2] 角山幸洋. 古墳時代の筬とその機能[竹と民具].日本民具学会 1991 [3] 加藤忠一.金筬および筬屋.ブイツーソリュー ション 2007 [4] 山田和夫金城弥生. 竹筬製作に関する資料と製作の試み.奈良県立民俗博物館研究紀要第 20 号 2004 [5] 物故者記事. 東京文化財研究所 HP http://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/ 10526.html (閲覧 2017/12/27) [6] 金城弥生. 竹筬製作のデジタル記録保存と伝承の可能性を探る - 職人の技術の記録保存のケ ーススタディと課題の検証-岐阜女子大学大学院文化創造学研究科修士論文 2014
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# 特集:コミュニティ・アーカイブ ## デジタルアーカイブ・地域映像・コ ミュニティ Digital Archive $\cdot$ Regional Representation $\cdot$ Community \author{ 水島久光 \\ MIZUSHIMA Hisamitsu } 東海大学文化社会学部広報メディア学科 \begin{abstract} 抄録:それは「誰の」「何の」ための取組みなのか——デジタルアーカイブに関する議論において、忘れてはならない問いである。放送史との関わりで見れば、デジタル化はその公共的機能を支えてきた時空間秩序を摇るがすものと言える。デジタルアーカイブには、その新しい社会の集合性の再構築を助ける役割が期待されていると言うことができよう。本稿では、それを裏付けるために 「地域」と「映像」という、テレビの要素概念を検討する。テレビにおける『紀行番組』の成立、北海道夕張市・東北の津波被焱地の現状などをケーススタディとしながら、人々が生きられる環境を「地域の肖像権」の行使を通じて取り戻す、運動としてのアー カイブ論を提示する。 Abstract: "Is this project to contribute to who and what ?" - That is a question to remember in the discussion on digital archives. According to the history of broadcasting, digitalization is shaking the space-time order that supports the public function. On the other hand, digital archives are expected to be useful for reconstructing the collectiveness of new society. In this paper, we will examine the element concept of television "region" and "visual expression" to support it. And then, we try to restore the environment where people can live through "Request for regional portrait rights", as an exercise archive theory through establishment of "travelogue tv program", case study of present Hokkaido Yubari city and Tohoku Tsunami stricken area. \end{abstract} キーワード : 公共圏、紀行番組、風景、地域の肖像権、運動としてのアーカイブ論 Keywords: Public sphere, Travelogue tv program, Landscape, Regional portrait rights, Archive theory as exercise ## 1.「デジタルアーカイブ問題」とは何か これまで何度となく「デジタルアーカイブに関する議論」に参加を重ねてなお、筆者には拭いきれずにいる違和感がある。様々な事例の紹介を受けるたびに、 いったいそれは「誰の」「何の」ための取組みなのかという疑問が湧き上がってくるのだ。言うまでもなくデジタル技術の社会への浸透は、止めることのできない流れである。またそれが、旧来のアーカイブズ学の概念を拡張したことについても否定すまい。しかしたからと言って、なんでもかんでも無邪気に「デジタルアーカイブ化」を目指す必要はない。そしてそこで議論されるべき「デジタルアーカイブのかたち」は、決して一様ではありえない。 「記録」の重要性についても、一般論の域を踏み出せているとは言い難い。むしろ逆に、ボーン・デジタルなデータが巷に溢れかえるようになって以降の方が、「記録」に対する扱いがぞんざいになっているのではないか。あるいは、標準化や網羅性、規模の追求等を自明化し、計画倒れに終わった巨大プロジェクトの累々たる屍から、目を背けてきてはいないか。その一方で、資料の改竄の横行や、歴史修正主義者が大手を振って歩いていることについて、「デジタルアーカイブ研究」は何を発言してきたというのだ万うか。もどかしさは募るばかりである。 核心は、デジタル技術の見かけの汎用性にある。確かにメディアの世界では、デジタルデータが流通する共通のプラットフォームを受け入れたことで、ビークルの垣根はほぼなくなり、ネットワークをべースに産業構造改革は急ピッチで進みつつある。しかしその現場にすぐ隣接する「インターフェイス上」には、認識論的、存在論的、コミュニケーション論的問題、すなわち主体たる人間の生をめぐる切実な問題がある。このことに対して、これまであまりにアーカイブ関係者は、軽率に振舞ってはいなかったか。「デジタルアー カイブ問題」は、過去を顧みずに失敗を繰り返す経済政策と同じ次元に矮小化してはいけない。 本稿は、その背景に見え隠れする「デジタルアーカイブ推進論」のトップダウン傾向に対するアンチテー ゼである。同時にそれは、筆者がどのような観点から 「地域」と「映像」のアーカイブ運動に関わってきたかを示す試みでもある。 ## 2. 導入として : 放送とアーカイブの関係の再考 筆者は、テレビ放送研究を出発点にしてアーカイブ概念に出会った。NHKアーカイブス事業が本格的にスタートした 2003 年は、地上デジタル放送の開始年である。デジタル化のムーブメントは、放送がコンテンツの保存と活用への取り組みを本格化し始める契機となったのだ。これまで「放送」は、送信の同時性と一方向性がナショナル・スケールの共通認識を人々に与えうるという一点において公共メディアたりえてきた ${ }^{[1]}$ 。それにデジタル技術が加わることで、いかなるイノベーションが実現されるか——アーカイブには、 そのイマジネーションを喚起する役割が期待されていたはずだった。 しかしそれから 15 年が経過しても、一向にその形は見えてこない。むしろ今日、社会全体を覆うデジタル化は、放送という巨大メディアの覇権を切り崩し、 パーソナルなコミユニケーションが丸腰のままパブリックな時空間に分け入るといった混沌をそこここに出現させている。近代史が築き上げてきた様々な価値観に対するバックラッシュは「もしかしたらマスメディアがこの 100 年間見せてきた世界観自体が、一種のバブルだったのではないか」という疑いさえも生じさせ、我々を思考停止に追い込んでいる。 このもつれを解くためにも、我々は「放送とデジタル技術」のそもそもの関係に立ち戻る必要がある。我々はどこで見誤ったのだ万うか——ずデジタルは、マスメディアとしての放送の延長線上に追加される機能ではなく、その既存メカニズムを解体するものだったのではないか、という問いを立ててみよう。実際、浸透著しいソーシャル・メディアには、テレビとは原理的に異なる時空間が構築されている。時系列を無視して選択的に表示されるタイムライン。不可視の距離から交話機能(ヤコブソン)をスキップして飛び达几でくるアノニマスな声 ${ }^{[2]}$ 。これらによるプロクセミックス(ホール)の破壊は ${ }^{[3]}$ 、放送がよって立つ社会的コミュニケーションの前提を摇るがしている。 かつての放送では、大多数の受け手から特権的送り手への信頼を前提に、リニアな時間と同心円的空間が築かれ、情報に秩序が与えられていた。人々はこの構図を受け入れることで、意味論さらには語用論的に相互理解の関係を結ぶことができたのである——これをナショナル・スケールでコミュニケーションが機能する「マスメディアの原理」とする一方で、任意の情報をつなぐデジタル技術の汎記号性が、人々をネットワーク状に接続していくことでどのような関係を築くかについては、まだ十分見通せていない。 ここにデジタルアーカイブの議論の重要性を位置づけることができる。相互理解(「わかりあう」こと) の前提には、個々人の「記憶心像」が存在しているが、 それがデジタル技術によってどのように他者に橋渡しされるようになるのかについて、考える必要があるのだ ${ }^{[4]}$ 「「わかる」ということは、「記憶」と「秩序」の関係に支えられているが、テレビ放送がその「記憶」 の集合的な編成機能を有していたとするならば、まさしくその時代には、視聴集団(家族〜地域)の時空間 =社会「秩序」が再帰的に組み上げられていく様相を重ね見することができる ${ }^{[5]}$ 。デジタル技術は、その形成のメカニズム自体を危うくしている。 デジタル化は、さらに「記憶」とそれを補うべき「記録」との関係をも変化させている。アクセス・ログのように「記憶」を経由せずに自動生成されるボーン。 デジタルな「記録」量の増大は、「記憶」自体の確からしさを摇るがす脅威となる ${ }^{[6]}$ 。すなわちデジタルアーカイブは、ポスト・テレビ放送時代の集合性 $=$ 互いに理解しあう他者との関係構築はどのように行われうるかという課題、言い換えれば「デジタル時代の公共圏」のデザイン問題と直接的に関わるのである。 ## 3. 方法論として:紀行番組における地域表象 の分析 テレビ研究を出自とする筆者が、ことデジタルアー カイブを問う際に「地域」と「映像」というフレームに拘るのは、これらがテレビ放送というメディア表象の手前にある要素概念だからだ。言うまでもなくテレビが届けるものは「映像」である。しかしその本質は、 コンテンツの評価よりも、全国津々浦々にそれを届ける行為にあった。黎明期の技術的な貧しさが払拭されたのちにおいても、その価値に摇らぎがなかったのは、視聴率に基づくビジネスモデルが 60 年に亘り堅持されたことにも表れている。 デジタルアーカイブのアンビバレンツは、それが、 ポスト・テレビ的時空間秩序を創造するデジタル技術と、逆にそれよって損なわれるものを補う記憶装置たるアーカイブの合成語であるという点に集約されている。今日、アーカイブは単なる資料保存庫ではない。 それはデジタル社会が苛む「記憶」と「記録」の関係を結び直すシステムとして、公共圏の再構築への道を拓くのである——地上デジタル放送がアーカイブ事業へ踏み出す本来的な意味はまずはこの点にある ${ }^{[7]}$ 「地域」は、一人ひとりの心に刻まれた「記憶」を、 コミュナルな次元に編み上げていくプロセスに出現する空間である。かつて自他間に生まれるミニマムな相 互理解は、家族や親しい人々との関係に広がり、それは具体的な時空間秩序の中で「生活の場」の再生産を繰り返し、「かたち」を成してきた。オギュスタン・ ベルクを引くならば、その「かたち」は「風土」ともいうべき「ひと」が生きられる環境世界であり ${ }^{[8]} 、$ 認識論的に言うならば、それは「風景」というゲシュ夕ルトとして現れる。 これまでテレビ・モニターにも、「風景」は数多く映し出されてきた——してその「映像」は紀行番組というジャンルを生み出した。テレビがナンバーワン・メディアの地位に駆け上がった 1960 年代初頭、 NHK にシリーズとしての紀行番組が誕生する。その名も『日本風土記』(1960 年 4 月 61 年 3 月)。当初は民俗学的文脈が強く表れていたが、翌 61 年 4 月からの『日本縦断』(62 年 7 月まで) で、放送の時空間編制を全面に表した展開が始まる。鹿児島を皮切りに日本海側を北上し、北海道を折り返し点にして、今度は太平洋に沿って沖縄に至る全 50 回は、空撮をふんだんに取り入れ、まさに番組名の通りこの国を構成する各地の自然、生活、産業を美しくかつ「俯瞰的」に描くことを狙いとしていた ${ }^{[9]}$ 。ここにおいて視聴者たる我々は日本地図(列島)をイメージ化することに成功する。すなわちテレビは、戦後社会の新しい集合的認識=一つの国土像を描きはじめたのだ。 全都道府県を網羅することが目標だった『日本縦断』 は好評のうちに終了。その続編(『続日本縦断』)を経て、後継番組としてスタートしたのが歴史に名を刻んだ『新日本紀行』である。1963年 10 月にスタートし、 1982 年 3 月までの 18 年半、計 793 本が制作されたこの超ロングラン・シリーズの背景には、高度経済成長があった。全国土を甜めるように辿る『日本縦断』に対して、『新日本紀行』のコンセプトには明示的に「中央」と「地方 (周縁)」のコントラストがあった——国土は、情報発信基地たる東京を中心に同心円的に広がるナショナルな空間に再編成される。 その空間は地図的距離差を表象するに止まらない。『新日本紀行』の担当部署は報道局社会番組部であった。そのことによって、おのずとこの新番組にはジャー ナリスティックな眼差しが注がれるようになる ${ }^{[10]}$ 。「美しい映像を求めながらも、カメラは神の目ではなく、取材者と被取材者のかかわり方をも映像化しようとしていた。ディレクターは、ナレーションを天の声ではなく、いわば地の声にしょうと努めていた $]^{[11]}$ 。視線が徐々に目の高さに下りるにつれ、日本という国の過去、現在、未来という時間軸が織り达まれるようになって $\omega<$ 。 シリーズ初期は大雑把な地域の括りのもとに網羅的にトピックを拾っていた番組も、 60 年代後半、カラー 映像(67 年)、冨田勲によるテーマ曲(69 年)の導入の頃から「テーマ主義」的な作りがなされるようになっていった。それと同時に地域イメージのステレオタイプが生み出される。「厳しく美しい自然 (北海道)」「雪に閉ざされたみちのく (東北)」等々—そこに新しい政治経済が入っていく。やがてオイルショックを経験し、この国はグローバリズムのレギュレーションを無視しきれなくなる。気がつけば、かつての風景は失われていた。『新日本紀行』の終わり—それはまた放送史的には、フィルム編集からビデオ収録へのシステムの転換期でもあった。 それから9年を経て、新たな紀行番組『新日本探訪』 が放送開始となる(1991 年 4 月〜)。しかしそのトー ンは『新日本紀行』とは大きく異なるものだった。「バブルが崩壞し、大きく変貌していく日本のなかで、見落とされがちな地域の現実を見つめ、改めて家族や故郷の持つ意味や重みを記録し続けた」(NHKクロニクルより)。番組は中央と周縁の空間的対照を捨て、むしろ積極的に東京をはじめとした大都市を映すようになり、風景の中に佇む人の姿を追うようになる。社会問題を透視するようなパースペクティブはなく、過去を懐かしむように内面(記憶心像)に入っていくカメラワーク。それは、登場人物の眼差し越しに戦後を浮かび上がらせた『ある人生』に近いアプローチだった ${ }^{[12]}$ 2000 年 3 月までの 9 年間に計 322 番組が制作され、『新日本探訪』は『新日本紀行』に次ぐロングランとなった。しかしそこでフォーカスされたのは、産業社会の構造変化に翻弄され、阪神大震災や台風災害などで傷つき、高齢化社会の中で生きることを強いられた人々である。時代はまた一つまがり角を通り過ぎた。 NHK の紀行番組はその後、短い空白のあと 2005 年から『新日本紀行ふたたび』がスタートを切る。折しも 2003 年、NHKアーカイブスが埼玉県川口市にオープン。デジタル時代の幕開けである。 ところでこうした番組群についても、他のジャンルと同様、公開されているものはごく一部に過ぎない。「地域」を映し出した「映像」が、地域からアクセスできないという矛盾。放送とアーカイブの出会いの公共的意義を踏まえると、ここはまず先んじて考えるべき課題であろう。 ## 4. ケーススタディ:風景の亡失と「地域の肖像権」 そこで浮かび上がったのが、「地域の肖像権」というコンセプトである。よく知られているように「肖像権」とは、成文法によって明示されない、判例によって積み上げられてきた権利概念であり、クローズアップされたきっかけは、映像が「記録」化され公開されることへの拒否権として争点化されたことによる。しかし本来、民主主義社会において権利は、守られるとともに積極的に請求されるべきものであり、その点においてこれは十分な論議を経て確立された概念とは言い難い側面をもつ。 「肖像」は、自他の「見る/見られる」関係の中に置かれる。それはコミュニケーション・プロセスにおいてはプラグマティックな環境を成す重要なファクターを成す。さらに記憶の集合性という観点でいえば、「肖像」は複数形で存在しうる対象であり、(モナリザを見ればわかるように)背景たる「風景」と一体になって映し出されるものである。「地域の肖像権」とは、 こうした前提に基づき、「風景」に対しても集合的・相互的認知対象として(地域の人々が「懷かしい」眼差しを傾ける「鏡」として)「人称性」を持たせ得るとの企図から発想された概念である。 このインスピレーションは、筆者と北海道夕張市との出会いから生まれた。この旧産炭地を初めて訪問したのは 2007 年。市民メディア全国交流集会札幌大会のエクスカーションだった。折しも前年に財政破綻が発覚し、この町の多くの「記憶」資産が危機に瀕していた。筆者はそこで出会った元石炭博物館長・青木隆夫氏とともに博物館に残された約 500 本の VHS テー プをデジタルダビングし、この地域の再興に資する 「映像資料」としての活用を目指すプロジェクトに着手することになった。活動は、その後発見された市の広報資料映像も加元、分析研究と、公開 (ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、市民講座等)、ワークショップなどに広がっていった ${ }^{[13]}$ 。 夕張市は炭鉱事故と閉山そして観光事業を中心とした街づくりへと舵を切った 1980~90 年代に続き、今回の財政破綻と、地域を支える産業構造の行き詰まりとともに二度にわたってその「風景」を失うという経験をした。廃墟化する町なみ越しに自然に帰り、市れ」「そこ」「あの時」といった指示詞を用いて「記憶」を語ることが徐々に困難になる環境の中で、筆者たちには映像がもつ力は強く印象づけられた。しかし旧石炭博物館に残された VHS の約三分の二は私的に録画された放送番組。自由に利用することはできない。そこ で「地域の肖像権」は、そのハードルを乗り越えるための、地域からナショナルな放送アーカイブへ働きかける請求権として発案された。 3 年後の 2011 年、東日本大震災が起こる。筆者は津波被災地を訪ねる中で、地域の人々の、夕張で出会ったものと同じような声を数多く聞いた。災害ア一カイブの課題は、被害の実相や復興のプロセスを記録するだけではない。その土地で暮らす人々にとっては、津波が押し流したものは、物理的な建物やインフラよりも、コミュニティの記憶だったのだ。折しもNHK は、アーカイブされた映像を学術目的に限って利用可能とするトライアル研究事業をスタートさせていた。筆者は津波被災地の被災前の記憶をテーマに映像研究を行う計画を申請し採択された ${ }^{[14]}$ 。 その目的は当然、学術利用に閉じたものではない。放送というナショナルな眼差しが捉えた「地域」を精緻に分析研究することで、制作者が意識した、あるいは無意識の中で「映像」の中に刻み达んだ地域の成立要因、すなわち人々が「その土地に暮らす理由」に迫ることにある一そそは、生活の場を失った人々が自らの立ち位置を定める出発点となる。筆者はその研究を「東北の津波被災地(気仙沼・石巻)」と「財政破綻の町ゆうばり」を重ね合わせることから始め、そしていくつかの知見を得た ${ }^{[15]}$ 。 それは人々が「生きていく」「生態系」として地域を考えるという視座である。実は、いずれもが産業の問題(夕張:産炭地、気仙沼・石巻:水産基地)に帰っていくのだが、決してマクロかつグローバルなエコノミーに回収されえないものの存在が、映像から徐々に見えてくるのだ。特に名指しされない地域の人々のフレーミング、あるいはシーンをつなぐインサートショットの中に捉えられたオブジェクトは、繰り返されることで象徴性を帯び、時に顕名の出演者に匹敵するくらいの意味を発し、地域の相互性にもとづくエコロジー=解釈循環を促す記号として機能しはじめる。 それは、ブルーノ・ラトゥールが唱えた「アクター・ネットワーク理論」とも重なる認識経験ではないか ${ }^{[16]}$ この、従来「単なるオブジェクト」として捉えられていたモノたちにも関係に参与する主体性を見出す「ニュートラルな思考」によって、我々は、映像の中にまるで発話するヒトであるかのように表象されるそれら一例えば産炭地に征えるズリ山、港に体を休める漁船たちを発見し、「ともに生きる」存在として認める柔軟な眼差しを獲得する。「地域」とは、行政によって暴力的に線引きされた地図上の平面を意 味するものではない。そこに「世界内存在」(ハイデガー)として住まうものが共生しうる環境(時空間) の謂いである。それに気づかせてくれることが、映像の潜在力である。 しかも記録映像は、視覚体験を生み出すものとしてのみそこにあるわけではない。そこに映し出されたものは、現実の写像、あるいは少なくとも痕跡である。観る主体と映し出された像の対応関係は、模倣の対象として、日常生活の所作を取り戻す契機を指し示す。映像との向き合いの中に、「生活の場」を失った人々が過去との連続性を意識するチャンスが生まれる一一筆者はこうした場面に何度も出会ってきた。人々が集う中で「上映」し、語り合う行為。 これは「放送の時代」に「茶の間」として想定された空間の拡張態である。映像はコミュニケーションを喚起し、それは繰り返されることでコミュニティへと形づくられていくのた——「地域の肖像権」とはそれを導く権利なのである。 こうしたダイナミズムを創造する可能性を有した映像群が、現在のところナショナルな「放送アーカイブ」 の中に封じ达められている。放送だけではない。多くの資料は、未だ産業社会のイデオロギーたる「所有の概念」のもとに括られ、閉じた箱の中に、トップダウンの指示のもとに息をひそめている。果たしてアーカイブは「誰の」「何の」ためにあるのか。「地域」と「映像」からその議論の突破口を開くにはどうしたらよいのか。 ## 5. 展望 : コミュニティの位置、アーカイブの 連携と連動 我々が「ゆうばりアーカイブ」と呼ぶものは、未だ物理的・システム的にアーカイブの体を成しているとはいえない。実態は大量のDVDディスクと外付け HDのいくつかでしかなく、せいぜい分野別に ID ナンバーが振られたエクセルのリストがあるだけである。しかし「風景の亡失という地域の危機は、かたちを整える余裕(時間・人員・金銭の)を与えてくれなかった」と言っても愚痴でしかない。仮に遅々たる歩みであっても前に向かうべきであろう。ここでは、その留意点を挙げておく。 夕張市に残されたVHS 資料群には、先に述べた放送番組の録画に加え、元は $35 \mathrm{~mm} 、 16 \mathrm{~mm} 、 9.5 \mathrm{~mm}$ 、 $8 \mathrm{~mm}$ といったフィルムから複写されたもの、個人の愛好者や企業・自治体といった組織が撮った記録あるいは PR 映像など多種多様な素材がある。放送番組の中には夕張に限らず、空知の他地域や九州をはじめ日本全国の産炭地の映像もある。「ゆうばりアーカイブ」 のバリエーションは、小さな地域映像のコレクションでありながら、他の様々なアーカイブとの潜在的重なりを指し示している ${ }^{[17]}$ 特にナショナルな「放送アーカイブ」との連携は、地域映像アーカイブの存在意義自体に関わる課題である。「紀行番組」が有する外部から地域に与えてきた意味づけは、内観たる「そこに住まう」個人や自治体、地元企業の眼差しとのコントラストのもとに、映像「群」としてのイメージの立体化を促す。そのとき改めて我々には、エコロジカルな「地域」の認識が可能になる ${ }^{[18]}$ 。まだ「かたち」は整ってはいないが、夕張にはその潜在性があると考えている。その環境とは言うまでもなく、たた資料がしっかり保存・管理されるたけに止まらず、映像自体にそれが地域づくりの 「アクター」として機能するような仕組みが伴わねばならない。そこではまず、担い手の存在が問われるべきだろう。 東北の津波被災地では、これまでデジタルアーカイブに関わる様々な取組みが行われてきたが、その中でも注目すべきは仙台市沿岸地域(宮城野区蒲生地区、若林区荒浜地区等) で展開されてきた「3.11オモイデアーカイブ」の活動である。この活動にもまだ、旧来の観念にもとづけば集積体としてのアーカイブの実体は乏しい。これまではむしろ、写真や映像等の資料をもとに、定点観測などのフィールドワークや、様々なイベント・ワークショップを中心に、人々が集い、語る場を作り、記憶と記録の関係を更新していくことに主題が置かれてきた ${ }^{[19]}$ しかし、この活動を支えている一見ゆるい人的組織は、既存の秩序を摇るがすデジタル技術の普及以降のコミュニティのあり方について、一つの重要な示唆を与えてくれる。それは思い切っていうならば、かつての物理的時空間によって枠づけられた居住圈としての 「地域」ではなく、「各々の関与のレべルと他者への寛容をべースに、ヒトは共に生きる空間を得ることができるのか」を問う実験場のようにも見える ${ }^{[20]}$ 。我々はこのような草の根の「災害ユートピア」の延長線にある活動に、どこまで期待を傾けることが可能なのたろうか——タ張では、現実問題として、「担い手集団の刃こぼれ」が、喫緊の課題となっている。 筆者を含め、デジタルアーカイブに関心を抱く者たちが心掛けねばならないことは、まずこのような取組み事例を研究の素材として列挙・紹介することに止まらず、その具体的な成果の連携を図るために力を合わせることであろう。それは一つには資料群のオーバー ラップ状況を把握し、相互に参照可能な関係を築くことであり、もう一つはそれを可能にする人的交流、組織交流を進めることである。その点でいえば、資料を中心に置いた上で、それを囲むアーキビストとキュレーター、ワークショップを動かすファシリテーター の職責を明確に定義し、その機能を向上させていくプログラムがまずは求められる。 繰り返すが、ポスト大衆社会においてコミュニティベースの活動は、かつて「放送」がその期待を一身に担っていた公共圏の実現というミッションを引き継ぐ、現代社会の構成原理の要諦なのである。デジタルアーカイブのファンクションは、第一にその目的に奉仕するものでないとするならば、いったい他にどんな意味があるのだろうか ${ }^{[21] 。}$ ## (註・参考文献) [1] 放送法には「公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信の送信」(第二条1)と定義されている。 [2] 言語学者ロマン・ヤコブソンが提示したコミュニケーションの六機能式の一要素。「もしもし」「ねえ」など相手の注意をひき、会話の回路を開き持続させる機能。 [3] 人類学者エドワード・T・ホールが提唱した人間を取り巻くコミユニケーションには4つの距離が区別できるという概念。密接距離(intimate distance; $45 \mathrm{~cm}$ 以内)、個人距離 (personal distance;45 120cm)、社会距離 (social distance;120 $\sim 360 \mathrm{~cm}$ )、公共距離 (public distance; $360 \mathrm{~cm}$ 以上)。 [4] 山鳥重.「わかる」とはどういうことか』.ちくま新書. 2002, p. 57. [5] 水島久光. テレビと集合的記憶のメカニズムーメディアと 「過去」の位置づけに関する学際的探究の試み. 東海大学紀要文学部. 2013, 第99輯, pp.51-64. [6] 水島久光. 「記録」と「記憶」と「約束ごと」ーデジタル映像アーカイブをめぐる規範と権利一. NPO知的資源イニシアティブ編.アーカイブのつくりかた一構築と活用入門. 勉誠出版, 2012, p.175-188 [7] 現実の放送業界は、コンテンツの利用拡大といったビジネスレイヤーでのみ、デジタルアーカイブの可能性を捉えているに過ぎない。本来の意味で言えば、NHKオンデマンドは受信料によって運用されねばならないし、公開ライブラリーの対象番組比率の低さがここまで放置されていること自体がありえないことなのだ。 [8] オギュスタン・ベルクは、和辻哲郎の『風土』に強く影響を受けたことが知られているが、『風土学』を構築するにあたって、20世紀欧米の哲学の動向、特に「アフォーダンス」「オートポイエーシス」などの生態学的知見を数多く参照している。オギュスタン・ベルク. 風土学序説. 中山元訳. 筑摩書房. 2002, 23節・26節・31節など。 [9] NHKクロニクル「日本縦断」 https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/ [10] 社会番組とは別の観点から地方を描いたカテゴリーとして 「明るい農村」(1968~)等の農事放送番組があった。 [11] NHKアーカイブス「NHK名作選」番組エピソード・新日本紀行 https://www.nhk.or.jp/archives/search/special/detail/?d=travel000 [12]『ある人生』は、日本のテレビ・ドキュメンタリーの嚆矢たる『日本の素顔』を継承し、1964年11月~1971年4月まで放送された。同時期に放送された『現代の映像』とともに、「ドキュメンタリーの時代」をかたちづくった。桜井均。 アーカイブ研究:『ある人生』の彼方へ〜初期テレビ・ドキュメンタリーの底流を探る. 放送研究と調査. 2017-11, p.62-79. [13] 水島久光.「ゆうばりアーカイブ」がつなぐもの一地域映像アーカイブの構築と活用に関する課題一. 原田健一・水島久光編著. 手と足と眼と耳一地域と映像アーカイブをめぐる実践と研究. 学文社, 2018, p.54-69. [14] NHK番組アーカイブス学術利用トライアル「これまでの成果」(第三期)「三陸の津波被災地の風景の消失を考える一「景観史」として還元される地域の肖像一」 https://www.nhk.or.jp/archives/academic/results/index.html\#02 [15] 水島久光. テレビ番組における風景の位相一映像アーカイブと日常の亡失に関する一考察(前後編). 東海大学紀要文学部. 第96輯. 2012, p.98-117, 第97輯. 2012, p.53-93. [16] Bruno Latour, 2005, Reassembling the Social: An Introduction to Actor-Network-Theory, Oxford University Press. 地理学への応用については、野尻亘. アクター・ネットワーク理論と経済地理学. 桃山学院大学学経済経営論集. 2015, 第57巻第2 号, p.1-43など。 [17] 水島久光. アーカイブとアーカイブをつなげる一連携の諸相・その必然性一. 原田健一・石井仁志著. 懐かしさは未来とともにやってくる一地域映像アーカイブの理論と実践.学文社. 2013, p.247-266. [18] 水島久光. 映像アーカイブ研究の方法一ミクロストリアの概念援用をめぐる覚書. 東海大学紀要文学部. 第101輯. 2014, p.59-78. [19] 3.11オモイデアーカイブ編. 3.11オモイデアーカイブ. ([READY FOR 海水浴場行きバスを再び!「3.11オモイデツアー」の継続へ—プロジェクトのの成果として刊行) 2018. https://readyfor.jp/projects/311omoide [20] 災害危険区域に定められ、同じ土地における集落の再興が不可能になった蒲生、荒浜では、旧住民と来訪者の協働による新たなコミュニティづくりが試みられている。 [21] ここでいう「コミュニティベース」の活動とは、必ずしも 「地域」に絡めとられたものに限定されない。ただ一つ言えることは、仮に大規模なデジタルアーカイブが構想し得たとしても、その構成原理は自律的なコミュニティ単位のオペレーションとそのネットワークで実現されるものでなければならないと考える。
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Japan Society for Digital Archive
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# Television Archives in Japan ## 立教大学大学院 21 世紀社会デザイン研究科 抄録:テレビの放送が始まって 65 年、各テレビ局と「放送番組センター」は大量の番組や映像素材を積み上げてきた。それらの番組や映像は、私たちの社会の移り変わりを記録してきた貴重な公共資産と言える。また、ビデオテープやフィルムからのデジタル化も進められている。そのアーカイブコンテンツの保管から、公開、利用、活用について NHK、民放、放送番組センターがどんな取り組みを進めているのか調査した。筆者は、様々な方法で放送コンテンツの公開や利活用が積極的に進められるべきだと考えるが実際には思ったように実現していない。保存や公開の現状と、アーカイブコンテンツの公開性を確保するためにどんな課題あるのかを報告する。 Abstract: TV stations and Broadcast Library have preserved a large quantity of programs and audiovisual materials. Those programs and materials are invaluable assets which record various events worldwide. Now digitizations from a videotape and a film are being pushed forward. I report archives of NHK(Japan Broadcast Corporation), TBS(Tokyo Broadcasting Systems) and Broadcast Library to examples what is being performed about an exhibition, the use, utilization from the preservation of the archive contents. I report it to secure preservation and the open present conditions and the public nature of archive contents what is a problem. キーワード : 放送、アーカイブ、メディア、教育、研究 Keywords: Broadcast, Digital Archive, Educational Use, Research ## 1. はじめに 日本でラジオ放送が始まって93 年、テレビ放送は 65 年になる。これらのメディアは、登場して瞬く間に、情報を知る、伝える手段として欠かせないものとなった。そして放送された番組には、私たちの社会、暮らし、時代が様々な形で記録されていった。そのため、放送後時間が経過すると、番組は放送された時の主題とは別の要素や情報を未来に受け渡すことができる。ドキュメンタリーを例にあげると、1960 年代の水俣病など公害問題を取り上げたドキュメンタリー群は、放送時点ではその課題があることを提起したが、放送から時間が経過して、未来の視聴者がその番組を見れば、 すでに解明された事実を傍らに置きながら、その時メディアがどのような姿勢で課題に向き合ったのかを番組から導き出したり、あるいは公害を引き起こした企業と国や時代との関係でどんな問題があったのかをより詳細につかみ取ったりすることができる。あるいは、 ドラマからは、その時代の人々の意識や恋愛観、家族観を知ることができるし、映像の中の服装や暮らしぶり、建物などからその時代の流行や風俗を見て取ることができる。映像から伝わる情報ははかりしれないほ ど多い。特にテレビ番組は、時代の変化を知るためのアーカイブコンテンツとしてきわめて重要である。 では、そうした放送番組のアーカイブは現状どうなっているのか。多くの人々が、過去から積み上げてきた莫大な番組がどこに存在しているのかわからないまま、アクセスしたくてもできない状況がなかなか改善されない。過去の番組アーカイブの利活用を進めるに当たって何が課題なのか、番組を保管している NHK、民放、放送番組センターについて現状と取り組みを報告し、みなさんと課題を共有、その解決に向けて少しでも前に進めればと思う。 ## 2. 放送局のアーカイブ 2.1 NHKアーカイブス 筆者は、1981 年に NHK に入社し報道番組などの制作に当たった後、アーカイブ部門でデジタルアーカイブ開発に当たってきた。そのため、この放送コンテンツのデジタルアーカイブに関する報告では、他の機関に比してNHKでの取り組みについてより詳細に述べさせていただく。 NHK がラジオの放送を始めたのは 1925 年のことで ある。ラジオ時代の放送番組は一部が SP 盤レコードで残されている。例えば、昭和 16 年 12 月 8 日、日本陸海軍がマレー半島への上陸作戦とハワイへの奇襲攻撃を行ったことを多くの国民が知った後、正午に当時の首相・東条英機が「大詔を拝し奉りて」と題して行ったラジオ演説がある。この音声は筆者が開発に当たった「NHK 戦争証言アーカイブス」で聞くことができる(日本ニュース 79 号「対米英宣戦布告」で東条の演説する姿が動画で見られる)。 ${ }^{[1]}$ 東条は、緊張感漂う抑揚で「平和を願う日本はあらゆる努力を傾けたが、アメリカは全く譲らず、日本に一方的な譲歩を求めた。自存自衛を全うするため立ち上がった」という趣旨の演説を行った。その内容と東條の声からは、 この戦争の開戦から敗戦までが明らかになったいま聞けば、迫害意識と自己憐憫にまみれた虚構の大義を語るものであることがありありと感じ取れる。アーカイブされた映像・音声のコンテンツと文字化された演説を合わせて見ることで歴史的事実を確認できる。 図1 開戦の日演説する東条英機首相(日本ニュース79号) ## 2.2 NHKにおける保存とデジタル化 テレビ放送はまずNHKで 1953 年にスタートした。当時フィルムで撮影されていたニュースやドキュメンタリーは保存されているものがあるが、生放送の番組は保存されることはほとんどなく、ビデオテープが導入されても、テープ自体が非常に高価だったこともあって、放送したテレビ番組をすべて保存することはできなかった。ビデオテープは、番組放送後は次の番組のために使い回しせざるを得なかったからだ。 NHKとして一元的にテレビ番組やニュースを保存するようになったのは 1981 年のことである。テレビ放送が始まってから 28 年がたっていた。ようやくこの時点で、これまでの放送番組を資産としてとらえるようになったのだ。時代を写し取った歴史として将来に伝えて行くべきものだという考え方が確立されたと言える。 さらに 1985 年、「放送番組総合情報システム」の運用を始め、放送番組やニュースがデータベース化され、 コンピューターで映像を検索することも可能になつた。そして、2003年、埼玉県川口市に大規模な保管施設「NHKアーカイブス」が作られた。これで、 NHKで日々放送されている番組やニュースの映像、音声や関連する資料を、すべて保存・管理する形が整った。 2014 年からは、NHK の放送システム全体が、ビデオテープからファイルによる送出に切り替わった。 ファイル化以前は、テレビ番組はテープで完成させ、 そのテープで放送、そして再放送などが一段落するとテープをトラックで川口のアーカイブス保管庫に移すという流れだったが、現在は、番組はファイルベースで完成させ、放送されると同時に、ファイルがアーカイブスのシステムに転送、保存されるという仕組みになっている。 ## 2.3 NHKにおけるアーカイブの「利用」 NHKで番組を体系的にアーカイブする最も大きな目的は、蓄積してきた映像を次の番組制作に生かして行くことで、まずは内部での利用が最優先である。海外の映像や滅多に撮影できないよう自然現象、著名人のインタビューなど、撮影に手間や費用がかかるのならば、アーカイブから素材を入手すれば良い。データベースの仕組みが整備されたアーカイブが生まれたことで、蓄積されてきた映像の再利用は大きく進んだ。今、番組制作を進める上では、過去の映像をオフイスのパソコンから検索し、必要な映像を発注して、記録媒体で受け取り、新たな番組に使うという仕組みになっている。NHKの番組制作者は、こうしてほぼ全員がアーカイブの映像を使っている。 民放などの制作者も番組を作る上でアーカイブの映像が欠かせなくなっている。自社になければ日本最大の映像アーカイブであるNHKを頼ることになる。 NHKアーカイブに保管されている番組や映像素材の民放など外部への提供については、有償であるが、関連会社である NHK エンタープライズを密口に行っている。 ## 3. アーカイブの「公開」 ## 3.1 NHK 保管している番組を再放送するあるいは配信する、 それはアーカイブのもっとも重要な役割である。 NHKには、「あの日あの時あの番組」(総合テレビ) や「プレミアムカフェ」(BSプレミアム) といった番 組枠があって定期的に過去の名作番組を放送しているが、限られた放送朹なので放送できる番組数は限られる。一方、アーカイブ番組 (ここでは、過去に放送され年月が経過した番組)は、オンデマンドなどネット配信で探して見てみたいと希望する人は多い。そうした要望に対して有料サービスの NHK オンデマンドの 「特選ライブラリー」としておよそ 6000 本の過去の番組を配信している。また、NHKの各放送局などにある端末視聴の「番組公開ライブラリー」では、 10,000 本の番組が見られる。しかし、NHKアーカイブが保管する番組数は 2018 年 3 月現在でおよそ 969,000 本、 ということはそのうちの $1 \%$ しか公開されていないことになる。 ## 3.2 民放、TBSの取り組み 民放各社は、オンデマンドサービスの配信をスター トさせているが、新作が中心で過去のアーカイブ番組の本数は少ない。権利処理の手間と費用を考えると収益が上がらないからだ。そうした中で、東京放送 (TBS)が独自のユニークな取り組みで過去の名作番組に光を当てている。この取り組みは、過去の番組群は広く見られるべき文化資産であると考える、一人の報道人に拠るところが大きい。TBS で長年報道番組を制作してきた秋山浩之氏(55 歳)である。秋山氏は、 アーカイブ番組の中でも 1960 年代から 70 年代のドキュメンタリーに注目した。この時代は、ドキュメンタリーにおいては草創期で、当時としては実験的な制作・演出手法で番組が作られていた。特にTBSには村木良彦、萩元晴彦、宝官正章などの鋝々たる制作者が競うように新たな表現を追求していたのだ。これらの番組群は、放送後は伝説として語られてきたが容易に見ることはできなかった。そうした中、20 年前秋山氏は CS 放送で「名作ドキュメンタリー」という枠を提案し、60 年代から 70 年代に制作されたドキュメンタリー100本についてすでに退社した制作者などに連絡を取り了解を得て一気に放送したのだ。 秋山氏は、アーカイブ番組についての「活用」には、三段階あると言う。まず、最初の段階はアーカイブ番組をそのまま放送すること。次の段階は、アーカイブ番組を再評価する番組を作り、よりその価値を伝えることだという。それが、2008年に放送した「ドキュメンタリーの時代」である。過去の名作番組の制作者を訪ね歩き、インタビューを重ね、過去の番組とともにその制作の過程や時代を制作者に語ってもらうもの。 テレビドキュメンタリーのいわば自叙伝と言える番組た。そしてアーカイブ番組活用の第三段階は、それら 図2 TBS 秋山浩之氏 過去の番組を素材にして「新たなオリジナル番組」を生み出すことだという。TBSでは月に 2 回の「報道の魂」 (現在は「ザ・フォーカス」) の枠で、時折、アーカイブを活かしたオリジナル番組を制作・放送してきた。 しかし、この秋山氏のようなアーカイブ番組の価値を大切にして、更に新たな番組を作万うという制作者は多くはいない。筆者は、アーカイブ番組の価値を、組織としてあるいは組織を越えて、共有しできるだけ多くの放送局が、保有する過去の番組を活かすべきだと思う。しかし、アーカイブ番組がよりオープンになるには、放送事業者だけではなく、社会全体がアーカイブされた放送コンテンツについての意識を変える必要があるだ万う。過去の放送番組はわたしたちの生きた歴史を刻み、伝えてくれる公共財であると言う意識にだ。 ## 4. ネット時代のデジタルアーカイブ 4.1 「NHK戦争証言アーカイブス」 NHK は、2009 年インターネットのウェブサイトで様々なコンテンツを視聴できる「NHKデジタルアーカイブス」をスタートさせた。番組を公開するだけではなく、ネットブラウザでの視聴に合わせて編集した映像クリップにして視聴できる無料のサービス(後に、スマホにも最適化して視聴できるようになった) である。 その最初の取り組みとして公開したのが「NHK 戦争証言アーカイブス」(2009 年 8 月) である。 ${ }^{[2]}$ そ後、「クリエイティブ・ライブラリー」、「NHK 映像マップみちしる」、「NHK 東日本大震災アーカイブス」などを公 管する番組やその素材からネット用の動画を作り、 ウェブブラウザの特性を生かした検索機能を備えてインターネットで公開するというものだ。 その中で、筆者が制作に当たった「戦争証言アーカイブス」で放送のデジタルアーカイブについて述べる。 このデジタルアーカイブは、戦争体験者が戦場で何を経験し何を見てきたのかを語る動画をアーカイブしたもの。シリーズ番組「証言記録・兵士たちの戦争」や 「NHKスペシャル」の制作を通じて取材したインタビュー素材から、編集した動画を、テキスト情報や関連情報を付加して公開した。この取り組みの特徵は、素材から新しくインターネットのためだけの動画コンテンツを作って公開したという点である。NHKでも初めての取り組みだった。通常、撮影した素材は、番組を制作する過程での編集作業を通じて、絞り达まれて行く。本来、取材した「素材」を保管するのは非常に限られた番組だけで取材に使ったテープは使い回しされる。しかし、戦争体験のインタビューを記録したビデオテープは、戦争体験者が次第に少なくなってきて、番組で使用する部分以外も貴重な話が多く含まれていることから、そのテープからネット公開用の証言の動画クリップを作ってアーカイブすることにしたのだ。 ネット配信するデジタルアーカイブで公開する事で、放送では大きな制約だった時間の長さをあまり気にせず、コンテンツを公開できるようになった。これによって一人一人の戦場での体験だけでな、戦前はどのように暮らしていたのか、開戦をどこでどう受け止めたか、経験した各戦場や戦闘について、終戦の時はどうしていたか、戦後はどのように暮らしを再建したのか、など、証言者の半生いわゆる「オーラルヒストリー」を積み上げることとなった。放送だけでは伝えきれなかったことも、ネットを通じて感じ取ってもらう可能性が広がったのだ。 戦後 73 年、リアルな戦争への想像力が及ばなくなつていると言われている。このサイトは、直接体験した人の言葉とニュース映画の映像、あるいは音声資料と合わせることで、あの戦争の実態に少しでも迫れたら 図3 NHK戦争証言アーカイブス と、アーカイブコンテンツから戦争に関係した関連したものを選んで組み上げた。放送のため取材、制作してきたコンテンツをもとに、インターネットを通じて新しい形の「公開」を実現できたのではないか。2009 年に公開を始めて以降、2018 年で戦争体験の動画はおよそ 1,400 人になる。戦争体験者が高齢化して、いずれまもなく直接の体験者がいなくなる日がくる、そのときにこのデジタルアーカイブが戦争体験を未来に伝える重要な役割を果たすはずだ。 ## 4.2 デジタルアーカイブが広げる可能性 「戦争証言アーカイブス」の手法を援用して、NHK は、2012 年インターネットで「NHK 東日本大震災アー カイブス」を公開した。 ${ }^{[4]}$ 筆者が制作を担当した。 地震津波の被災、原発事故による避難体験などを語る証言や発焱時の地震の摇れや津波から復興につながるニュースをアーカイブして一般に広く公開した。 こうしたネットでアーカイブコンテンツを公開する最大の利点は、ネットをつなげる場所であれば、どこでも誰でも、時間的な制約もなく、自由に視㯖できるということだ。この「東日本大震災アーカイブス」では、地域や学校での防災の学びに使われている。その学びの様子をさらに取材・撮影しこのサイトで公開する事で、同様の取り組みが循環していくようにした。単なる視聴に留まらず、実用的な学びに生かされるようになっている。 ## 5. アーカイブ機関としての「放送番組セン ター」 ## 5.1 NHK・民放番組の唯一の保存・公開機関 NHK と民放と、放送局の朹を超えて、番組のアー カイブに取り組んでいるのが横浜市にある「放送番組センター」である。 放送法第 167 条に基づいて、放送番組・番組情報を収集、保存、公開する事業を行なっている。1968 年に民放テレビの教育・教養番組の充実に貢献することを目的に、民放テレビと NHK とが共同で設立したもので、設立当初は番組の保管はその事業の中になかったが、1985 年から「文化財としての番組保存事業」 を行うことになり、1991 年からは放送法の指定を受け放送ライブラリー事業を開始した。たた、放送番組センターが保管するのは一部の番組に限られる。センターに設けられた「番組保存委員会」(NHKと民放の役職員からなる) で、保存番組が選定される。収集保存する番組の基準は、受賞したもの、高視聴率などで話題になった番組、様々なジャンルにおいて記録とし て価値があるとされる番組、また各社がセンターでの保存が望ましいと判断した番組などである。テレビ番組以外では、ラジオ、CM も保存される。保存番組数は、2018 年 7 月現在でテレビ番組 23,714 本 (うち 16,438 本公開)、ラジオ番組 4,984 本 (うち4,420 本公開)である。他、CM は、テレビが、7,627 本、ラジ才は 3,444 本が公開されている。ニュース映画は、 1956年から 1970 年までの「毎日世界ニュース」749巻、 2,683 項目が公開されている。これらの映像と音声コンテンツは、横浜情報文化センタービルの 8 階に設けられた「放送ライブラリー」の 60 ある端末のブースで視聴できる。施設の年間来館者は、2017年度 100,479 人で、 1 日平均の利用者は 327 人となる。 図4放送ライブラリーの視聴端末(横浜市) ## 5.2 動き始めた外部への提供 「放送ライブラリー」の番組は、2013 年から IP 伝送を利用して全国の図書館や資料館、大学の授業等で視聴できるようになった。「サテライト・ライブラリー」と名付けられたこの取り組みは、まず、広島平和記念資料館、長崎原爆資料館で、「被爆 - 平和」に関連した番組を上映している。大学では、授業内での上映だけでなく、事前に学生が個別に視聴できるようにもなっている。これまで、東京大学、上智大学、長崎県立大学などで授業に活用されており、ドキュメンタリーやドラマから戦後の日本について学ぶ (東大)、番組から表現手法を分析し、映像の可能性を見出す (長崎県立大)、あるいは、テレビ番組の映像のメ夕データを制作する実習(上智大)など、様々な目的で利用されている。授業に利用した教員は、その教育的効果が高いことを報告している。2018 年度後期には、 さらに早稲田大学、皇學館大学、愛知大学での利用が予定されている。 ## 5.3 NHKアーカイブの教育・研究利用 NHK のコンテンツの教育活用においての取り組みには、「NHK for School」というプラットフォームがある ${ }^{[5]}$ 。ここに、放送コンテンツから切り出された 7000 本の動画クリップがデジタルアーカイブされている。これら動画は、学習指導要領に基づいて分類され、教員が授業で利用しやすいよう整理されている。 ICT 活用による授業、特に動画の利用ではほかにこれたけけの質と量を持つものはない。 一方、放送番組まるごとの教育現場での利用については、小・中・高校を対象に番組のDVDを貸し出す事業「NHKティーチャーズ・ライブラリー」を行っている。しかし、まだ番組数は 230 タイトルと限られる。一方、高等教育での番組利用だが、このティー チャーズ・ライブラリーから借り出す大学が一部あるものの、大学の授業の目的にふさわしい作品を選ぶだけの数多くの番組群はまだ用意できていないのが現状だ。な打、NHK放送文化研究所が、大学での番組視聴のプラットフォーム (「番組 eテキスト」と名付けられている)の実証実験を行っているが、配信のための著作権処理などがハードルとなって本格的な事業化は未定だ。 また、NHKでは、「放送番組センター」の研究者利用と同様の、アーカイブ番組を視聴して論文を執筆する「NHK番組アーカイブス学術利用トライアル研究」事業を行っているが、視㯖端末が東京・愛宕山の NHK 放送博物館と大阪放送局にしかない上に、利用できる研究者は委員会の審査を経なければならず、限られている。 ## 6. おわりに アーカイブされている番組や映像は、その存在が検索によって確認され、再び放送・公開される、あるいは利用されて初めて活きることになる。そのために必要なのが “権利処理”である。 ドラマであれば、出演者、脚本、原作、使用した音楽、登場した著作物など様々なものが対象になる。そして、著作権、著作隣接権などを有する権利者に対し、許諾を得て取材、撮影し、放送にこぎつけるのだが、放送後のインターネットで配信する場合は、再度許諾を得なければならない。また配信に対する一定の対価を支払う必要も出てくる。 特に、ネット配信の場合、常に見ることができることになるため、放送のように、「いつ、何回放送するのか」という条件の設定ができない、配信先が国内なのか世界なのかといった条件設定も必要になる。こう した権利処理に関わる複雑な交渉を乗り越えて、ようやく配信が可能になる。 また、放送から時間がたてばたつほど、この作業のハードルは高くなる。出演者や使用音楽の記録も、番組が古いものならいい加減なものしかないか、存在しない。ある番組を公開しようと考えた場合、番組を精査し、権利者を特定、連絡先を探し、許諾を求める作業をしなければならず、これまで公開にこぎつけたアーカイブ番組の背後には、こうした膨大な作業が隠れている。 権利処理の簡素化については社会全体で放送アーカイブの利用価値を確認しながら議論を重ね、権利者団体などの理解を得ながら関連する法律の見直しを進めなければならない。しかし、これを乗り越えてアーカイブス番組の公開と流通促進をできる限り実現したい。誰もが利活用できる放送のデジタル・アーカイブが整備されれば、新たな知を生み出すための重要な基盤になるのは間違いないからだ。 (註・参考文献) (Web参照日は全て2018年8月15日) [1] 日本ニュース, 1945年, 79号 [2] NHK戦争証言アーカイブス https://www.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/ [3] NHKデジタルアーカイブスサービス https://www.nhk.or.jp/archives/digital/ [4] NHK東日本大震災アーカイブス https://www.nhk.or.jp/archives/311shogen/ [5] NHK for School http://www.nhk.or.jp/school/
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# コミュニティアーカイブの構築と 坂井 知志 SAKAI Tomoji 常磐大学総合政策学部/コミュニティアーカイブ部会長 ## はじめに コミュニティアーカイブ構築を目指す時、個人の意欲や拘りではなく仕組みを整備することが地域の取り組みを支える。仕組みの基本は国際標準である。 今回は、コミュニティアーカイブ部会で当面議論を繰り返し、各部会の協力を得て、学会全体として議論を積み重ね、方向性を打ち出さなければならない諸課題について記述する。議論に参加されたい方々は、コミュニティ部会の研究会に参加していただきたい。当面、ZOOM 会議を導入するので、無料のソフトをパソコンやスマホなどにダウンロードをしていただければ、どこにいても参加が可能である。 多様な立場の方々の意見を集約することが良い成果を得ることにつながるので積極的な参加を求めたい。 ## 1. デジタルアーカイブの概念の整理 現在、日本においてはナショナルアーカイブセンター をどのように整備・運営するのかについて議論が深められている。早急に実現すべきであるが、ヨーロッピアーナは一国でデジタルアーカイブの構築を考えていない。当然、ボローニャプロセスなどヨーロッパの教育圈構想とも深い関係がある。その取り組みはデジタルという特性を考えれば当然の帰結といえる。日本のナショナルアーカイブ構想は着地点でないことを示す概念の整理が求められている。文化の交流の歴史がある近隣諸国との関係の中で我が国のデジタルアーカイブが確立されていくイメージ化も示されなければならない。人材養成に資するまで収れんできることを目標としたい。 ## 2. デジタルアーカイブ保険(仮称)の創設 著作権・肖像権・個人情報・慣習などを扱うデジタルアーカイブは、いわゆるデジタルアーカイブに関する個別法や著作権法の改正を着実に進めることで画期的に進渉しそうである。しかし、コミュニティアーカイブの取り組みでは、グレーゾーンを含めて判断に不安を感じていることは多い。地方自治体などでは、デジタルアー カイブについてはじめて聞く上司に向かってその意義を唱えてみても、リスクなどに議論はすり替えられ、地域にどのようなことが必要なのかについての内容が深まらない。また、法務担当の公務員からは、自治会やボランティア組織で作成した資料は、会長名では有効でないとの指摘を受ける。人格なき社団の取り扱いである。資料の権利の譲渡や利用許諾の権限の問題がここには存在する。このような問題の全てを成文法の日本において書き加えていくという方向性には無理がある。欧州における個人情報の取り扱いには、その議論の方向性のヒントがある。その方向性が一つの結論を得たとしても、具体的な取り組みには必ずリスクは存在する。組織管理という視点からトラブルへの対応が不備であることは、好ましいとはいえない。現在、公務員が住民訴訟等の個人に関する訴訟費用や損害賠償費用などに対応した保険は整備されている。同様の保険は教職員対象のものにも存在する。そのような現状を踏まえると、国家賠償法等組織的な賠償以外の個人の責任が問われることへの備えがない業界は迂闊との誹りを受けざるを得ない。 教員で良い授業を進めるためにデジタルデータを学級通信などで違法性を認識しつつも利用している。他者の著作物を厳密に法の中で利用するよう教育委員会は指導を強化している。そのため、訴訟になれげ教育 委員会は教員に著作権を遵守するよう指導しているとの立場をとることが考えられ、結果、個人の問題であるという方向が予測できる。 そこで、デジタルアーカイブ関係者だけでなく、教職員も含めたデジタル化に特化した権利侵害に関する個人の責任が追及された場合の備えを整備しなければならない。広くデジタル化に関わる全ての人が加入できる、保険制度の創設が可能であるのかについて議論を積み重ねて行きたい。 ## 3. デジタルアーカイブ倫理検証委員会の創設 映画は映画倫理委員会 (映倫)、放送は放送倫理検証委員会(BPO)が自主的な組織として機能しているが、デジタルアーカイブに関する組織は現在のところ存在しない。まとまった映像には業界の自主規制的な機能を持った組織が必要である。 そこで、デジタルアーカイブ学会がどのような組織をどこに創設するのが適切であるのかについて検討する時期ではないか。デジタルアーカイブを公開する前に業界の自主的な組織が認定する。その方法などについては、文部科学省が行っているデジタルコンテンツの表彰制度が参考になるものと思われる。一定の審査を受けて公開することや問題を指摘されたときの第三者機関の設置などについても議論が必要である。 ## 4. 法整備とガイドライン デジタルアーカイブ整備・促進のための基本法は関係者が熱望するが、日本は成文法の国である。著作権法や個人情報関係の法律にどのような書き达みが必要であるのかは重要なことである。しかし、デジタル技術の進捗は、法律の改正の速度を上回っている。 そのため、基本法を受けたガイドラインを作成して、それに沿ったものであれば法的な問題がないという仕組みを根付かせないと具体的な取り組みは促進しない。EUの個人情報の方向性と方法論を学びつつ議論を重ねたい。 ## 5. 全ての権利情報を含めた新たな「意思表示シ ステム」 文化庁の「自由利用マーク」は、文化庁の文化審議会のなかで学校教育関係者が作成したコンテンツ利用がしやすくするために創設されたものであり、国際標準を目指したものでもない。 クリエイティブコモンズは、世界標準を視野に入れたものであり、現在のところこの方法を普及させるこ とが合理的な判断である。しかし、この方法では、一枚の写真のなかに人々が写り达んでいた場合にはその権利を示してはいない。つまり、肖像権や個人情報、慣習などを示すことはできない。 そこで、コミュニティ部会では、既に学会や権利団体などが提唱している方法について検討する。 ## 6. マイグレーション デジタルデータの長期保存についての警鐘は、国立国会図書館の平成 16 年の報告など様々な機関から指摘されているが、残念ながらその対応策がとられている日本の組織はあまりにも少ないといえる。 そこで、三菱総合研究所で 2015 年に報告されている米国(NARA)の報告をもとに受け入れの段階から考察し、最終的にはマイグレーションの方法と予算の目安を明確にしたい。それは、デジタルアーカイブが単なるホームぺージやデジタルデータベースとの違いが分かりやすくなることにもつながる。 ## 7. コミュニティアーカイブとナショナルアー カイブ 最後に、1の概念にも関係するが、コミュニティアーカイブは、ヨーロッピアーナ同様アジア全体で取り組まれることが可能かどうかである。 最近、サンフランシスコ講和条約でフィリピンの全権大使であった、ロムロ外務大臣の演説の資料を調查していた。外務省の「日本外交文書デジタルアーカイブ」に翻訳があるが、フィリピン側の資料との関係性が見られない。戦後処理を担当したキリノ大統領が妻や 3 人の子どもを日本人の手により亡くしながらも戦犯 105 人の恩赦を与えるに至るまでの経緯にはつながらない。遠藤周作の「ルーアンの丘」でマニラ港に入港したが上陸できないほどの反日感情があったこと。それが、安倍首相夫妻が何故大歓迎を受けたのか。 70 年間に何があったのかは、見えてこない。データが孤立している。そこにデジタルアーキビストの専門性が存在するはずである。 ## まとめ コミュニティアーカイブが小規模な取り組みからアジアまで視野に入れつつ仕組みを議論することは、具体的な取り組みの促進につながる。上記以外にも「識別子」等の問題が山積している。関心をお持ちである会員と議論を重ねたい。
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# デジタルアーカイブ推進コンソー シアム(DAPCON)のご紹介 長丁 光則 NAGACHO Mitsunori 事務局長/東京大学情報学環特任教授 ## [コンソーシアム設立] 「デジタルアーカイブ推進コンソーシアム (DAPCON)」が平成 29 年 4 月 1 日、デジタルアーカイブ産業分野初めての業界団体として正式に発足した。 それに先立つ平成 28 年 12 月 16 日、東京神保町の学士会館において設立総会が執り行われ、会長など役員ポストとコンソーシアムの規約などが決定した。 総会には林芳正現文部科学大臣、馳浩前文部科学大臣、株式会社 KADOKAWA の角川歴彦取締役会長を来賓としてお迎えし、ご挨拶をいただいた。 また本コンソーシアムの呼びかけ人として前文化庁長官の青柳正規東京大学名誉教授、中山信弘東京大学名誉教授、原島博東京大学名誉教授にもご出席いただいた。 本会においてコンソーシアム会長に青柳正規先生の就任が決定し、併せて副会長に株式会社 NTT データの臼井紳一執行役員と大日本印刷株式会社の北島元治常務取締役の就任が決まった。 さらに当日はご欠席であったが、京都大学名誉教授・元国立国会図書館長の長尾真先生、東京大学名誉教授の御厨貴先生、中山先生、原島先生の合わせて 4 人の先生方が顧問にご就任された。 国の機関としては内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省などの省庁の関係者も多く陪席した。 [組織構成] 会長青柳正規東大名誉教授 副会長臼井紳一 NTTデータ執行役員 " 北島元治大日本印刷常務取締役 顧問長尾真京大名誉教授 中山信弘東大名誉教授 原島博東大名誉教授 御厨貴東大名誉教授 事務局長長丁光則東大特任教授 幹事会員株式会社 IMAJICA 株式会社 NTT デー夕 Oracle Corporation ( 米国 ) 大日本印刷株式会社 寺田倉庫株式会社 日本ユニシス株式会社 株式会社日立製作所 富士フイルム株式会社 ヤフー株式会社 以上 9 社 一般会員株式会社インプレスホールデイングス 株式会社ヴィアックス NTT ラーニングシステムズ株式会社 株式会社 KADOKAWA カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 株式会社紀伊国屋書店 キヤノン株式会社 TRC-ADEAC 株式会社 株式会社電通 日本出版販売株式会社 株式会社博報堂 パンチ工業株式会社 株式会社ブックスキャン 方正株式会社 丸善雄松堂株式会社 以上 15 社 ## [コンソーシアムの目的] 我が国の産業・学術の振興、文化・教育の発展、教育の向上、ひいては日常生活充実まで、あらゆる場面においてデジタル知識基盤の開発・活用は国家振興のために不可欠の要因である。 この状況の中、欧米は言うに及ばず、中国、韓国などのアジア主要国と比べても、我が国におけるデジタルアーカイブ整備は緒についたばかりであり、その促進に向けた急速な取り組みが必要となっている。 こうした現実を受けて、デジタルコンテンツの流通・利用とそれを支えるデジタルアーカイブの構築に関わる諸団体が連携し、その促進のための共通の課題解決に向けて取り組むために本団体を設立した。 ## 活制碍事 当面は産業活動の基盤となる、デジタルコンテンツ振興とデジタルアーカイブ利活用促進に係る基本法の制定および関連諸施策の推進を、国会はじめ関係諸方面に働きかけることに重点的に取り組むこととしている。 ## [活動概要] 定常会議として幹事会社 9 社による幹事会を月一回実施しており、活動内容 (実施テーマ) の検討、予算管理、対外活動などについて素案を策定し、四半期に 1 回程度実施する総会において議案として審議決定することとしている。また半期に 1 回会員会社の関係者を招いて「シンポジウム」を開催している。 第 1 回平成 29 年 4 月 25 日 (東大山上会館)東大名誉教授中山信弘先生 「デジタルアーカイブをめぐる法的諸問題」 第 2 回平成 29 年 9 月 29 日 (学士会館) 東大名誉教授原島博先生 「情報メディア技術の変容とデジタルアーカイブへの期待」 また会員企業のデジタルアーカイブ担当者の育成のため、本年 9 月から来春まで月 1 回、「デジタルアー カイブ連続セミナー」を東大本郷キャンパスにて継続実施している。 ## [今後の計画一パイロット事業] デジタルアーカイブ推進コンソーシアムでは、「デジタルアーカイブによる地方再生」をテーマに「地域文化観光資源」の基盤構築を推進していくパイロット事業を検討中である。 ## 本事業案の意義 わが国では地方のデジタルアーカイブ化事業において、国の予算がつきにくく、予算がつく場合でも単発的であり、多くが点の施策で終わっている。その為、面の施策になっておらず、産業化していく糸口がなかなか見つからないのが現実である。 そこで点の施策を面にする為、本コンソーシアムが地方のデジタルアーカイブ化事業の基盤構築を推進していければと考えている。国が推進する地方創生・観光立国をキーワードとする産業モデルを構築することを目指したいと考えている。 事業化のメリット 1)デジタルアーカイブ関連事業者にとって、共通のプラットフォームと業務フローが適用できるため、効率よく品質の高いサービスを提供できるようになる。 2)国にとって地域文化資源を掘り起こし、観光資源化することにより、地方創生を加速化できるようになる。 3)地方自治体にとって予算のつきにくいデジタル化事業を標準的な方法で効率よく実行できる。また、 デジタルアーカイブ学会の協力により地域の人材発掘と育成が可能になる。 4) ユーザ(コンテンツ利用者)にとって自治体単独でなく全国規模の事業ゆえに、「日本の地域文化観光資源」を網羅的に利用できるようになる。(多角的閲覧が可能 ) 本パイロット事業を推進するため、現在機能別ワー キンググループを立ち上げ、また国の関係する省庁機関との折衝も進めている。 ## [最後に] 本コンソーシアムは産官学の連携も重要な目的としている。そのため、研究機関・大学をメインとして昨年 (平成 28 年) 6 月に発足した「デジタルアーカイブ研究機関連絡会」および本年 5 月に設立された「デジタルアーカイブ学会」との連携も進め、これら二団体とともに我が国のデジタルアーカイブ事業の発展に貢献するべく活動を強力に進めている。 コンソーシアム事務局は、デジタルコンテンツに関する産学連携の一環として東京大学に設立された大日本印刷株式会社の寄付講座「DNP 学術電子コンテンツ研究寄付講座」に置き、コンソーシアムの運営事務全般を担っていただいている。 以上デジタルアーカイブ推進コンソーシアムの設立から現在の活動状況までをまとめてみた。本コンソー シアムに関する問い合わせは事務局長の私まで打願いします。 [email protected]
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# デジタルアーカイブは日本の危機を 救えるか? \author{ 吉見 俊哉 \\ YOSHIMI Shunya \\ 東京大学大学院情報学環 教授 } 世界の知的現場での日本の存在感の低下が著しい。 ハーバードで教える中で出会った日本人学生は僅か で、溢れ返る中国人学生数に比べようもないだけでな く、人口規模では日本よりも小さい韓国人留学生より もずっと少ない。しかも日本からの留学で一般的な傾向は、トップレベルの学生で留学するケースが少ない ことだ。現状では、留学すると 4 年で卒業できなくな り、それが就職に不利と思われている。エリート校の 学生たちは、早く卒業して安定的な就職をすることを 優先させる。 国際学会でも同様の傾向があり、中韓からの研究者 の発表のほうが、語学だけでなく内容でも、国際動向に 敏感である。彼らの多くは博士学位を米国大学で得て おり、欧米の学問世界でなされる議論のモードに適応し ている。このモードが、日本国内で支配的なモードと著 しく異なるのだ。このずれに無自覚だと、どんなに精密 な議論の英訳を音読してもアピールしないのである。 これらのことは、早晚、重大なダメージを日本に与え る。学問や文化から政治、経済まで、世界標準の地平 で欧米のみならずアジアとも真っ当に渡り合える知的人材の母集団がすっかり小さくなっているのだ。日本人の 若者たちが英語の勉強をしていないわけではない。受験で英語が占める割合は大きく、親たちは小さい頃か ら子どもを英語教室に通わせている。それにもかかわら ず、世界の中での日本人の存在感の減衰は止まらない。 この危機は一気に解消されない。しかしここでは、当面の対策として、デジタルアーカイブが状況打開に 幾ばくかの貢献をし得ることを指摘しておきたい。 すなわち、日本に眠る資産の再活用である。近代を 通じて日本の知識人が生み出してきた知的資産は世界水準のもので、これまで海外に紹介されてきたのはそ のごく一部にすぎない。デジタル技術は膨大な知的資産を一気に世界に開くことを可能にする。だから過去 に出版された知的資産の大半を、デジタル形式で世界 のどこからでもアクセス可能なものとする。必ずしも 英語への翻訳は必須でない。日本語のままで構わない から、まず海外で日本に関心を持つ人々に莫大な知的蓄積にアクセスしてもらうべきなのだ。 第二は、地域文化アーカイブの英語化である。最近 では、地域の伝統や観光スポットを伝える様々なウェブ サイトが作られているが、概して英語版は貧弱である。 いくら政府が「インバウンド」と言っても、地域レベル の英語対応ができなければ、それらはかけ声倒れであ る。欧米では、近代を通じて多くの文化資産が博物館化されてきたから、「ヨーロピアーナ」のような統合デ ジタルアーカイブが強力な意味を持つ。しかし日本では、各地の最も価値ある風景や伝統、技が地域自体に埋蔵 されている場合が少なくない。そこでは地域アーカイブ の広域的な連合化と英語化が非常に重要なのである。 第三に、私たち自身が英語で知的情報を発信する主体となっていくトレーニングをする体制が必要だ。今日、ネット上の英語サイトに動画を含めてアクセスす ることは飛躍的に容易になった。だから少なくとも高校、大学の英語教育は、「正しく読む」ことから、「間違ってもいいから発信する」ことへ主眼を移すべきで ある。生徒は必ず授業前に、TED や MOOCs の同じ 英語映像を見て、授業ではそれについて英語で議論す る。その先で、自分たちで同様の英語映像を作成して いくといった授業を重ねれば、数年で日本人学生の英語での討議力は格段に向上するはずだ。 だが、デジタルは手段であって目的ではない。日本 の国際的な存在感のみじめな沈没を止めるには、大学 の教育体制から卒業後のキャリアまでの抜本的対策が 必要である。
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# デジタルアーカイブ学会第 2 回研究大会会場 (1) 基調講演・パネルディスカッション(2018 年 3 月 9 日 ( 金 ) 14:00-17:30)医学部教育研究棟 $14 \mathrm{~F}$ (鉄門講堂) (2) 口頭発表、ポスター発表、企業展示(2018 年 3 月 10 日 (土 ) 10:00-18:00)法学政治学系総合教育棟 (ガラス棟)
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# 「Europeana の翻刻プロジェクトと 日本の翻刻フロロシェェト小に参加して [㮣談会] Europeana の翻刻プロジェクトと日本の翻刻プロジェクト 主催 日時:2018年 2 月 23 日(金) 15:00-17:00 会場 : 東京大学情報学環本館 6F 会議室 主催 : デジタルアーカイブ学会技術部会 共催 : 一般財団法人人文情報学研究所 参加者数 : 14 名 [話題提供] 飯倉洋一 (大阪大学大学院文学研究科) 「クラウドソーシング翻刻のための基盤形成 : 日本古典籍の場合」(逐次通訳付き) Frank Drauschke 氏 共通の歴史を市民の手で - Europeana 1914-1918 と翻刻 (逐次通訳付き) デジタルアーカイブ学会技術部会が主催した標題剆談会に参加した。参加者は 20 名弱と少数であったが、濃密な議論を堪能した。 懇談会では、まず大阪大学の飯倉洋一先生から、く ずし字学習アプリ KuLA と、クラウドソーシング型の 翻刻サービス「みんなで翻刻」が紹介された。くずし 字学習を促進するアプローチとコミュニティ機能を活用することによって、翻刻サービスへの参加が増え、当初予想の 10 倍の速度で翻刻が進んでおり、翻刻対象 となる古文書を探してきて追加する必要が出てくるな ど、うれしい悲鳴があがっているとの報告は興味深 かった。次の展開としては、IIIF 対応と国文研オープ ンデータ文書への対応などを挙げられた。 続いて、ドイツの Frank Drauschke 氏から、Europeana での歴史文書収集と電子化に市民参加型のアプローチ も用いたプロジェクト「Europeana 1914-1918」について の紹介があった。第 1 次世界大戦から 100 周年を期し てヨーロッパで行われた市民参加型イベントとそのデ ジタル化資料収集の枓組みが紹介された。この市民参加型プロジェクトは、ヨーロッパ各地でイベントを開催して、地元のひとに第 1 次大戦ゆかりの品を持ち 寄ってもらい、その場で電子化とインタビュー、著作 くずし字学習支援アプリ「KuLA」 - Kuzushiji Learning Application 概要 字形学習・読解訓練・コミュニティ機能を備えた 〈ずし子学習の総合支援モバイルアフリケーショ 2016年2月18日に iOS/Android 版同時公開 2017年1月末現在系計97,000超ダウンロード Androidランキング (新着・教育) で1位にラン クインしたこともあり。 期待される社会的影響海外における日本研究の進展自然科学分野における古典籍の活用若年層が古典籍を利月する障壁の解消 権処理などを行って、オーラルヒストリーとデジタル 資料収集を行ってしまうというプロジェクトであり、 ヨーロッパ各地で 20 か国超、18,000 名以上の参加者を 得て、21万点超の資料を集めたとのことであった。さ らに、単なる電子化にとどまらず、その後の資料内容 の翻刻、タグ付け等を市民の力を借りて、行っている 様子も示された。また、日本に関連する資料として、当時のルーマニア人の戦時捕虜の方の絵日記資料が示 され、追加の夕グ付けなどから、地理的情報などが補記されて、資料のアクセス可能性が増しているとの事例も示された。 剆談会を通じてもっとも印象的だったことは、コ ミュニティやプロジェクトの対象が異なるにもかかわ らず、日欧それぞれのプロジェクトのいずれにおいて も、市民を巻き达んで実行するときには、その多様な モチベーションへの配慮、話題トピックの選び方がカ ギとなるとの言葉が共通して挙げられたことであった。人と人をつなぐコミュニティ、資料コンテンツ、技術 をつなぐことが現在のデジタルアーカイブ/デジタル アーキビストに求められる役割であり、これらをうま く調和させる知見を、どのようにデジタルアーカイブ の推進と活用につなげていくかが今後ますます重要と なってくると思われる。本䬶談会における議論は、今後のデジタルアーカイブの構築と利活用の両側面に向 けた新しいモデルとして大変に参考になると感じた。高久雅生(筑波大学図書館情報メディア系)
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# 「デジタルアーカイブin北海道\&岐阜」報告 主催:デジタルアーカイブ学会人材養成部会、コミュ ニティーアーカイブ部会、日本教育情報学会デ ジタルアーカイブ研究会 期日:2018年 2 月 8 日 会場:午前中は北海道博物館見学。午後は札幌学院大学大学 B201 教室に移動し、岐阜女子大学文化情報研究センターと接続し開催した。 副会場:常磐大学、東京大学情報学環、岐阜女子大学沖縄サテライト校 参加者: 北海道博物館見学 13 名、研究会 34 名(札幌学院大学 14 名、岐阜女子大学 13 名、東京大学情報学環 3 名、常磐大学 2 名、岐阜女子大学沖縄サテライト校 2 名)述べ参加者数 47 名 概要 : 地域・コミュニティーアーカイブの振興、その 過程での人材養成のための理論などについて、北海道博物館、及び札幌学院大学を会場に研修会&研究会を開催した。また、研究会は zoom を使い岐阜女子大学会場と同時開催し、常磐大学、東京大学情報学環、岐阜女子大学沖縄サテライト校とも接続し遠隔研究会を開催した。 ## 1. 北海道博物館ツアー 近年、いくつかの博物館に導入されているミュージアム展示ガイドアプリ「ポケット学芸員」の説明があった。解説コンテンツのアーカイブ化による提供に参加者は興味を持った。その後、博物館資料の DB 化の現状説明、アイヌ語アーカイブに関する講話があった。特に「許諾書」の事例説明などがあり、質問を集めた。終了後、学芸員の案内によるバックヤードツアー・収蔵庫の見学を行った。 2. 札幌学院大学と岐阜女子大学文化情報研究センターとリンクした研究会 岐阜女子大学後藤忠彦学長の開会挨拶が岐阜会場からあり、北海道から皆川雅章先生(札幌学院大学副学長・教授)による基調講演「北海道のデジタルアーカイブについて」が行われた。その後、研究会に入り地域アーカイブ・コミュニティーアーカイブ関係として 「東日本大震災アーカイブ宮城」の権利処理について」、「地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための実践的研究」、『沖縄㧍うらい』の印刷メディアとデジタルメディアの連携について」、「飛騨匠の技デジタルアーカイブ開発」の発表があった。 岐阜会場から「大学図書館司書に必要なデジタルアーカイブ教育の新しいカリキュラムの提案」発表があったのち、「企業におけるデジタルアーカイブ」、「デジタルアーカイブの対象メディアと開発プロセスの課題」が北海道よりあった。 ## 遠隔研究会実施の有効性と課題 1. ネット会議システム zoom は、常磐大学の塩先生のコントロールにより遠隔研究会に活用することができた。多地点接続、画質、プレゼン資料の解像度は実用に耐えられるものであり、今後、多くの学会イベントに活用できる可能性を持っている。経費についても今回は札幌学院大学と岐阜女子大学の協力により会場費が無料であり、遠隔会システムの経費も無料であったことから、参加費無しで実施することができた。今後、ネット環境が許せば研究大会や定例研究会での活用も期待できる。 写真 zoomを使った会議風景(札幌学院大学B201教室) 2. トラブルとしては、最後の発表中に PPT がフリーズしたこと、発表中に副会場の音声を拾う場合があつたことである。PPTのフリーズについては原因不明であるが、音に関しては他会場をミュートするなど、 システム運用側の習熟が必要となる。今後、接続す る副会場が増加すれば事前の打ち合わせ、操作訓練がさらに必要になるだ万う。今回は 5 会場接続であったが、どこまでシステム参加を広げるかは、実験を重ね研究し可能な限り参加会場を増やしたい。井上透 (岐阜女子大学)
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# 第4 回定例研究会参加報告 デジタルアーカイブ学会第 4 回定例研究会 日時:2018年 2 月 9 日(金)16時 19 時 会場:東京大学本郷キャンパス工学部 2 号館 9 階 92B 教室 発表 : 産業日本語研究会の活動と今後の方向 井佐原均(豊橋技術科学大学) 服飾分野におけるデジタルアーカイブ構築に向けての 現状と課題 田中直人 (文化学園大学) ## 【発表1】産業日本語研究会の活動と今後の活動(豊橋技術科学大学 井佐原均氏) 井佐原氏からは、産業日本語研究会による研究成果と活動の報告があった。「産業日本語」とは、技術情報を人が理解しやすく、かつ、コンピュータも処理しやすく表現するための日本語を研究する分野である ${ }^{[1]}$ 。技術情報が人に分かりやすいことのメリットは明白たろう。産業機械等の操作マニュアルが曖昧では、人によって異なった解釈がなされ、大事故に繋がりかねない。法律のように難解になりすぎず、解釈にズレを起こさない表現は、技術の習得のみならず運用の場面で有用である。 標準化された表現は、日本語を機械翻訳する際にも役立つ。今日の産業競争力は、知的財産の保持に依拠しているといっても過言ではない。グローバル化の進んだ昨今において、知的財産を守るための特許は国内だけでなく、世界各国へ申請される。その際、人力で時間をかけて翻訳していては、他者に先行されかねない。機械翻訳によって国際特許の申請を省力化することが、産業競争力に直結する。産業日本語研究会では、 こうした文書作成の実務を支援するために、特許ライティングマニュアルを発行している ${ }^{[2]}$ 機械翻訳のしやすさは、マニュアルの多言語化にも適用できる。商品を世界展開するためには、商品説明書の多言語対応は必須である。また、生産工場が海外に移される中で、技術マニュアル等の多言語化も生産現場においては契緊の課題であろう。このように、産業日本語は日本語文書の規格化を通じて、あらゆる場面で生産性向上に資する研究である。 筆者は今回の報告で、初めて産業日本語なる研究分野があることを知った。かつて、機械翻訳はソフトの売り切りというビジネスモデルであったが、現在では、産業プロセスの一部となっているという説明には得心した。今後は、表現の摇らぎを吸収する人工知能の技術とも併せて、チャットボットによる窓口業務の効率化等、サービス分野にも応用を期待したい。 【発表2】服飾分野におけるデジタルアーカイブ構築に向けての現状と課題 (文化学園大学田中直人氏) 本発表は、文化学園大学和装文化研究所他による文化庁委託事業「アーカイブ中核拠点形成モデル事業ファッション・デザイン分野 ${ }^{[3]}$ の概要と事業を通じて得られた知見の報告である。詳細は公開された最終報告書に譲るが、ここでは発表を通じて見えてきた服飾分野におけるデジタルアーカイブの課題を中心に共有したい。 当該事業では、まだ方法論が確立していない服飾分野における横断的デジタルアーカイブを構築するための基礎として、収蔵機関への訪問調查を通じたネットワークの構築、アーカイブ手法の検討、データベースの管理運用と利活用の3つを活動の柱としている。 各機関への訪問を通じて見えてきた課題は「とにかく現場の手が回っていない」とのことであった。いずれの現場も日常の業務が忙しく、アーカイブに係る活動まで時間をかけることが難しい状況だという。こうした状況を打開するためには、アーカイブ活動が仕事に直接役に立つインセンティブの設計が必要である。 そこで、アーカイブの手法として示されたのが「機関横断性」と「概報性」である。 服飾分野においてはメタデータが標準化されているわけではないため、機関ごとにデータベースの構造やスタイルが異なる。そこで、各データベースの構造には手を加えず黄断検索を実現するために、最低限の必須項目を定め収集するとともに類語辞典(シソーラス) の整備を検討し、機関横断性を確保するという。 また各機関では、内部資料としてある程度のデータベースは整備されていても、公開できるほど完全ではないと判断して公開に至っていないものもあるという。そうした心理的ハードルを下げるためには、不完 井佐原均氏 全な形であってもその意義を認め公開を促す必要がある。実際、海外のアーカイブを調査した所、メタデー 夕構造は非常にシンプルで、揭載写真もラフなものが少なくないという。ある種、大雑把でも分かればいい」 という割り切り(概報性)がデータベースの公開を促進している。 他にも、服飾分野に限らず全ての博物資料を所蔵する機関が抱える問題であるが、所蔵スペースが限られる中で、保存対象とする資料の選別が必要で、その選び方や評価基準の策定が難しいとのことだった。また服飾アーカイブにおいては生地等の素材を実際に触れたり手元で風合いを確認したりできる「実見」スペー スの重要性が強調された。デジタル化だけで全てが解決するわけではないことも理解する必要があるだ万う。 最後に、過去に撮影された衣服やデザインの写真に関する著作権の問題も示された。カメラマンの許諾状 田中直人氏 況が不明という孤坚著作物だけでなく、法的には問題がないにもかかわらず、写っている衣服のデザイナー の権利に配慮して公開が躊躇われることもあるという。 こうした孤览著作権や擬似著作権の問題ついて会場からは、デジタルアーカイブ学会が分野ごとにガイドラインを策定するなどして、アーカイブ機関が公開の可否を判断できる仕組みを作る必要性があるとの意見があった。 眞籠聖(まごめ・たかし)(国立国会図書館) (参考資料) [1] https://doi.org/10.1241/johokanri.57.387 [2] https://www.tech-jpn.jp/tokkyo-writing-manual/ [3] http://www.d-archive.jp/wp-content/uploads/2018/03/ finalreport2017.pdf
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# 抄録:フランスの国立デジタルアーカイブ機関のうち、フランス国立図書館(BnF)とフランス国立視聴覚研究所(INA)に訪問調查をおこなった。BnFの Gallicaプロジェクトでは年約 10 億円の予算で蔵書のデジタル化を進めており、すでに新聞・雑誌 210 万号、画像 120 万点、書籍 55 万冊を公開している。BnF は Europeana の創設メンバーであり、今も強力に推進している。INA はテレビ・ ラジオ番組の法定納入機関として、1400万時間の番組を収集し、INAthèqueを通じて学術研究者に公開している。また、商業利用 できる番組 200 万時間分を INAmediapro を通じて世界に販売している。その一部は ina.fr から一般公開している。 Abstract: The author visited French National Digital Archive Organization, French National Library (BnF) and France National Institute of AudioVisual Research (INA) for research. BnF's Gallica project is digitizing books and periodicals at a budget of about 3 billion yen a year, and has already made 2.1 million newspapers and magazines, 1.2 million images and 550,000 books available online. $\mathrm{BnF}$ is a founding member of Europeana and is still driving it strongly. INA collects 14 million hours of TV programs as a legal deposit agency for television and radio programs and makes them available to academic researchers through INAthèque. In addition, it makes 2,000,000 hours of programs commercially available to the world through INAmediapro. Part of the video is open to the public through ina.fr. # # 1. フランスのデジタルアーカイブ機関の概要 フランスには表 1 のようにいくつかの国立デジタ ルアーカイブ機関がある。 & テレビ、ラジオ \\ このうち、BnFと INAについて 2017 年 12 月に訪問調査をおこなったので報告する。 ## 2. BnF と Gallica ## 2.1 BnF フランス国立図書館(Bibliothèque nationale de France: BnF)は Bibliothèque de France と Bibliothèque nationale が 1994 年に合併して現在の名前になった。現在 1400 万冊の書籍と出版物を収蔵している。フランス国立図書館には現在表 2 のように次の4つの建物がある ${ }^{[1]}$表 $2 \mathrm{BnF}$ の主な建物 & 1996 & 新館・本館 \\ 今回訪問したのはセーヌ川上流の河岸に建てられた新館(フランソワ・ミッテラン図書館)である。外観 (写真 1)からは分かりにくいが、模型(写真 2)にあるように、中央に広い植生があり、その四隅を L 字型のビルが囲んでいる形をしている。 今回はこの図書館がおこなっているデジタルアーカイブ事業 Gallica について Sophie Bertrand(写真 3右)氏に、Europeana との協力について Elisabeth Freyre(写真 3 左)氏に話を伺った。 ## 2.2 Gallica ## 2.2.1 Gallica の歴史 同図書館の電子図書館 Gallica ${ }^{[2]}$ は 1997 年 10 月に開設された。その当時のデジタル化計画については杉本氏が紹介している ${ }^{[3]}$ 。当初の計画では、1999 年末までに 100,000 冊の書籍、300,000 点の画像をデジタル 写真1セーヌ川対岸から見たBnF新館 写真2 BnF新館の模型 写真3 BnFのSophie Bertrand(右)氏とElisabeth Freyre(左)氏、中央は筆者 化する計画であったが、実際は 2004 年末までかかり、大幅に遅れている状況であった。ところが 2005 年に、 Google Books プロジェクトに脅威を感じたジャン・ノエル・ジャンヌネー館長の記事がきっかけとなって、当時のシラク大統領が Europeana の母体となった欧州デジタル図書館の構想を推進することとなった。その結果、Gallica においては、2006 年以降年 100,000 冊のデジタル化が義務化され ${ }^{[4]} 、$ 事業が大幅に進展するこ ととなった。 デジタル化のための予算は書籍について現在 3 年間で 2000 万ユーロ(約 30 億円)である。Googleに対抗するために大きな予算がついているといえる。これは BnFの予算の $10 \%$ 弱であたるが、デジタル化の写真撮影だけでなく、公開システムや人件費などいろい万な経費にも充当される。現在 Gallica のスタッフは 15 名である。 な扔、フランスでは、コンテンッの法定納入は表 3 のように分担して進められている ${ }^{[5]}$ \\ ## 2.2.2 Gallica のコンテンツ Gallica の現在 $(2017 / 12 / 4)$ の収録データは合計 4,606,919 件で、その内訳は図 1 のとおり ${ }^{[7]}$ * 新聞雑誌記事は号数 Gallicaでは、基本的に著作権の切孔た 1947 年以前のものをデジタル化している。それ以降 2000 年までのものも出版社の了解を得たものは電子化している。 OCR 化を進めているがまだ全部がテキスト化されてはいない ("text mode"で検索してみると279,157 件ヒットした)。肖像権や忘れられる権利に関しては、公開後にクレームがあった場合、削除が必要とされれば削除する個別オプトアウト方式で対応している。 Gallicaの電子化の詳細については、Gallica Digital Roadmap を参照されたい ${ }^{[8]}$ Gallica の協力機関は 350 機関ある。当初はメタデー 夕を提供してもらうだけであったが、最近は各機関でのアーカイブの維持が大変なため、コンテンツも Gallica で預かるケースが増加している。 ## 2.2.3 Gallica の利用 Gallica では、利用統計は 3 年毎に公開している。 Xitiという内部システムで利用データを収集している。 1 日 4000 件の利用がある。利用を増やすため、さまざまな試みをおこなっている。たとえば参加図書館と協力して Gallica の宣伝の日 Rendez-vous Gallica を設けている。 検索はキーワード(日本語も可)でできるほか、分野・テーマでブラウズもできる。OCR でテキスト化した記事では、検索結果の左にテキスト画面が表示される(図 2)。画像のズームなどの機能がある。 BnF は当初から IIIFの推進メンバーであり、近く全面的に IIIF を採用する予定である。 図 2 Gallica のテキスト化データ(左のウィンドウにテキストが表示されている) またコンテンツを編集したものをオンライン展示、 LA SÉLECTIONとして利用を促進している。展示は資料の種類、テーマ、地理、に分かれており、たとえばアジアの項にはフランス - 中国」「フランス - 日本」 などの展示がある。「フランス - 日本」の展示では、 フランスと日本の歴史的友好関係を紹介するページで、日本の絵やビゴーの絵などを展示している。 利用者との協力も進めている。特に大学研究者や大学図書館と協力している。フォーカス・グループを設けてさまざまな意見を取り入れている。 Gallica Studio は利用者が Gallica のコンテンツを活用するためのラボであり、ハッカソンも開催している。 テキストマイニングのためのコーパスについては今開発中である。Gallica と図書館カタログを統合したものになる。検索のための API は最近公開した ${ }^{[9]}$ 。 Gallica のコンテンツはパブリック・ドメインであるが、その利用はフランス政府のオープン政府推進組織 $\mathrm{Etalab}^{[10]}$ の指針に従う。したがって商用利用は認めていない。Europeana で提供されているコンテンツも同様である。 ## 2.3 Europeana との協力 BnF は Europeana 創設からのメンバーである。 Europeana がフランスのシラク大統領の提案から設立された ${ }^{[11]}$ こと考えれば当然である。Europeana ができる前にプロトタイプも開発にも加わっており、EC からのプロジェクト予算も受け取っている。現在、次の3つの役割がある。 (1)メタデータの提供 Gallica のメタデータはすべて Europeana に提供している。Dublin Core レベルの内容で、コンテンツの説明データは提供していない。ただし、Europeana Music などの録音データプロジェクトではより詳しいデータも提供している。Europeana の EDM も Gallica に採用する方向である。 (2) Europeana の利用 Europeana で開発されたさまざまな技術(ハーベスト技術など)や規格 (rights management) などを Gallica で利用している。 (3)Europeana 運営への参加 フランスからの Europeana データ提供は Gallica と culture.fr(フランス文化省)の2か所で分担している。 Gallicaは図書館のアグリゲータの役割もしている。 Elisabeth Freyre 氏は 2018 年度の Europeana Governing Board のオブザーバに就任している ${ }^{[12]}$ ## 3. INA ## 3.1 INA とは フランス国立視聴覚研究所 (Institut national de l'audiovisuel: INA) ${ }^{[13]}$ はフランスのラジオとテレビのアーカイブである。INAについては、NHKの長井氏が詳しく紹介している ${ }^{[14-16]}$ 他、いくつかの記事がある ${ }^{[17-20]}$ 。 INA はパリの東側に位置し、郊外の住宅地に挟まれた工業団地内にある。パリの中心からタクシーで小一時間かかる。写真 4 は INAの外観、写真 5 はい万い万案内していただいた国際部の Delphine Wibaux 氏と、法務部の Jean-Francois Debarnot 氏である。 INAの誕生は、1974年に遡る。フランス公共ラジオ・ テレビ(ORTF)が分割され、3つのテレビ局(TF1、 Antenne2、fr3)、と、フランス公共ラジオ (Radio-France)、制作会社 (Société française de production)、ネットワークを整備する組織(Télédiffusion de France)という6つの新しい組織が生まれた。その際、7番目の、アーカイ 写真4 INAの外観 写真5Delphine Wibaux氏と、法務部のJean-Francois Debarnot氏 ブ部門、創造的・研究的制作部門、育成部門を引き受ける組織として 1975 年に設立された ${ }^{[15]}$ 。その後 1992 年に、テレビとラジオの法定納入が開始されたので、 INAがその受け皿となったのがアーカイブの始まりである ${ }^{[17]}$ 。1998 年 10 月には法定納入された番組の公共への提供が、BnFのフランソワ・ミッテラン館において開始された。法定納入は 2002 年にケーブルテレビと衛星テレビに拡張され、さらに 2005 年にはデジタル・ テレビも含むことになった。 INA という機関は上記の歴史を背負っているため非常に分かりにくい。INA は文化省の下にある。INAにはアーカイブ部門、育成 (教育) 部門、研究部門、製作部門、という 4 月の部門があり ${ }^{[15]} 、$ 仕事の内容はそれぞれかなり独立している。 INAの収入のおよそ $1 / 3$ が受信料からの配分(約 3\%)である。2016 年度の収支は、受信料からの収入が 8440 万ユーロ、販売収入が 3720 万ユーロ、であった ${ }^{[21]}$ 。 2017 年 11 月現在、職員数は972、年に3250の学生・教員その他を訓練している。サイトのアクセス数は 32,400 万件 / 年、閲覧数は 15,670 万件 / 年。所有して表4 INAの部門[15] \\ いるテレビ・ラジオ番組は 1600 時間で、多くはデジタル化済である。 ## 3.2 INA のアーカイブ INA の視聴覚コンテンツの種類とその公開は表 5 のように整理できる。 表 5 INA の視聴覚コンテンツと公開サイト & INAmediapro & ina.fr \\ ## 3.2.1 法定納入 ## (1)法定納入の歴史 フランスは法定納入の歴史が古い。表 6 に歴史を示した。 表 6 のとおり、INAへのテレビ番組法定納入は 1995 年に始まった。フランスのテレビ局 102 局をカバーしているが、局数は全体で 300 あると思われ、網羅的ではない。現在は海外の 4 局(CNN、アルジャジーラ、 BBC、)も収集している。ラジオは 44 局収集している。現在 168 チャンネルを 24 時間 / 毎日キャプチャー している。収集は主としてINA 本社で行っているが、 表6 法定納入の歴史 $[15][17]$ \\ 地方の番組は、リヨン、マルセーユなどに置かれた地方支部で収集している。現在 80 年分の番組(テレビは 70 年分)を収集している。 デジタル化は 1999 年に計画(PSN)が作成され、 2015 年に終了することになっていたが、現在も進行中で、2021 年に延期されている。 法定納入は公共放送(FranceTV)だげてなく商用放送にも適用される。これらを保管、デジタル化している。合意のあるものについては商用利用も取り扱っている。フランスでは France TVが7チャンネル(+ 地域局)、多数の商用放送がある。公共放送もコマーシャルがあるが、現在 TVは夕方はコマーシャルが禁止されている。また各局が運営しているウェブサイトも収集の対象となっている。 法定納入された番組は 1400 万時間ある。これは 102 テレビ局、66ラジオ局が対象である。これらは学術・研究利用のみであるが、ニュース番組や、公共テレビ局が独自(または共同)製作した番組はINAが商用提供できる。法定納入された番組は、学術・研究のほか、政府なども利用できる。たとえば選挙の報道の公平性の検証や、裁判の証拠などに用いることができる。現在これらを学術・研究用に低解像度でダウンロードする機能も検討中である。 ## (2)法定納入の仕組み 当初はbetaなどのテープ納品だったが、これが DITA テープ、LTO となり、アナログからデジタルになり、今は直接のキャプチャとなっている。最初はニュースについては最低 1 日 1 回の納入義務付けられていた。またコマーシャルなども除いていた。今もその制度は生きているが、手間を考えて、今は 24 時間キャプチャーしている。これを 1 時間単位でファイルにしている。番組は光ファイバー、サテライトなどを経由して入ってくる。写真 6 はキャプチャー中のテレビ番組が流杴るモニター画面である。 ラジオ放送はいまだにアナログであるが、これをデジタルでキャプチャしている。形式は非圧縮のWAV、 $48 \mathrm{KHz}$ である。22ラジオ局の番組をデジタル化しているが、今後これを地方局にも拡張する計画である。 ## 3.2.2 INAthèque 法定納入の番組は一般のアクセスはできず、学術・研究用にINAthèque から利用できる。INAthèque は $\mathrm{BnF}$ (新館) その他の施設でアクセスできる。現在大学・図書館など 32 施設と INA の支部(7カ所)が対象となっている。海外からの閲覧は法律で想定されてい 写真6 テレビ番組キャプチャーのモニター画面 ないが、スイスの2大学がアクセスを計画している。 番組は閲覧はできるがダウンロードはできない。収集番組には独自にカタログし、索引をつけている。保存テープは現在 40 ペタバイト、 $130 \mathrm{~km}$ の長さの書架を占めている(これは別の場所にある)。 長井氏の調查によると、利用者は学生が $61 \%$ 、視聴覚産業の専門家が $24 \%$ 、教授・研究者が $9 \%$ 、その他が 6\%となっている。専門分野は歷史 $24 \%$ 、情報、 コミュニケーション $19 \%$ 、文学 $15 \%$ 、映画・オーデイオビジュアル $14 \%$ などである ${ }^{[15]}$ 。 ## 3.2.3 商用提供と INAmediapro.com INA は法定納入が始まる前に公共放送局が制作・放送していたテレビ・ラジオ番組についての権利があり、商用提供することができる ${ }^{[15]}$ 。法定納入されたコンテンツでも、ニュース番組や、公共テレビ局が独自(または共同)製作した番組は INA が商用提供できる。また個別契約(4-5 年)によって商用提供用のコンテンツを集めている ${ }^{[17]}$ 商用提供は 1999 年から始めているが、2004年に INAmediapro.comを公開した。INAmediapro.comは商用利用者が利用できる検索サイトで、番組をキーワー ドで検索、日時、人物、ジャンルなどで絞り込める。自分で各番組の低解像度場面集(footage)を作成し、 ダウンロードできる。分野は Art、Economy、History、 Meida、Politics、Science and Environment、Sports、など。 これらは各テレビ局その他 (AFT、Olhympic、 UNESCO など)との契約により、利用可能となっている。 場面集を作成したら「買い物カゴ」に入れて購入となる。内容は法務部がチェックして、希望する利用 (対象地域、提供期間、その他)が可能かどうかを判定する(14人の弁護士がいる)。一部のコンテンッでは音楽など提供できない部分もある。その後見積もり を作成して契約に入る。提供用の高解像度コンテンツは ftp で提供する。海外の機関も利用可能で、NHK、朝日放送など日本でも利用されている。 商用提供は MPEG4、H. 264 である。ブラウズ用には低解像度を用いている。各番組にはメタデータのほか要約、場面情報、などが追加されている。メタデー 夕の一部は購入している(毎日の番組表など)。 各コンテンツには指紋を書き达んでおり、不正利用が検出できるようにしている ${ }^{[22]}$ 。不正利用は相当ある。かっては YouTube が無法地帯であったが、裁判の結果、YouTube との契約により、不正利用は削除できるようになった。YouTube 等の SNS は常時モニターしている。 ## 3.2.4 ina.fr 2006 年には ina.fr を提供開始、商用コンテンツの低解像度画像を一般提供している(番組の一部のみ)。 ina.frには有料コンテンツと無料コンテンツの両方があり、レンタルも可である。VOD(Video On Demand) サービスも開始している。1 枚99ユーロ程度である。 ## 3.2 .5 メディア変換 さまざまな形式に対応する機器をそろえている(写真 7)。民生用 VHS も用意しているが、使った例はほとんどない。ビデオディスク装置もある。テープがくつついているときは、加熱してはがし、そのあと読み取りを試みる。日本や米国の規格である NTS-C も変換することができる。 古いビデオや損傷しているビデオなどを読むために手作りの装置を作成している(写真 8)。 ## 3.2.6 デジタル化 INA ではすべてのコンテンツのデジタル化を進めている。当初 2015 年に作業完了の予定 ${ }^{[15]}$ であったが、 まだ完了しておらず、2021 年を目指している。 アーカイブでは、さまざまな形式のメディアで収集されているので、これらを変換する必要がある。これまで扱ってきたメディアは $16 \mathrm{~mm}$, videos, $35 \mathrm{~mm}$, Beta, U-matic, $6.25 \mathrm{~mm}$ など多種多様である。べータのデジタル化は 500 時間 / 日のスピードでおこなっている。保存形式はJPEG2000を採用している。現在 18 ぺ夕バイトのデータがあるが、60ペタバイトまでは保存できる。以前はデジタルベータにダビングしたが、今は macHDに保存しLTOに書き出している。基本は元の局の形式で保存する。現在 SD、HD は対応しているが、 $4 \mathrm{~K} 、 8 \mathrm{~K} は今$ 後の課題である。たたし、 写真7 さまざまなテープ・リーダー 写真8 古いビデオや損傷しているビデオなどを読むための装置 INAthèque で提供する画質は低解像度にしている。 ## 3.2.7 ウェブページやツイッターの収集 ウェブ収集は $\mathrm{BnF}$ が.fr, .com の収集をおこなっており (100万サイト)、INAはメディア関係のページ (14,000 サイト)を収集している。収集頻度については、BNF は 1 回/年程度だが、INA はサイトが更新されるたびに収集している。またINAではウェブサイトの動画も収集している。 ウェブの保存は HTML ゚゚ージだけでなく、java script、CSS も保存している。動画の保存には特別のソフトを開発ている。17,000 サイトの6,410 万ページをキャプチャしている。 またツイッターについては、投稿者のメタデータを中心に保存しており、ツイートをすべて保存しているわけではない。2014 年から始めている。フランスの投稿者かどうかいつも判定できるわけではないが、言 語やIPアドレスなどで判断している。ツイッターの傾向を分析できるようなツールも開発している。 ## 3.3 まとめ INA は放送番組の法定納入機関として明確な役割が規定されていると同時に、コンテンツの学術研究利用と商業販売に非常に力をいれている。これは経営の安定化と同時に、蓄積したコンテンツの有効活用も重要な使命と考えていると見られる。デジタルアーカイブは活用されなければその役割の半分しか果たせないということであろう。 ## 4. 終わりに わが国とフランスでは、制度や国情が違うので、単純に比較はできないが、今後わが国でナショナル・デジタルアーカイブ・センターを構想していく際、 Europeana や DPLA のような、ネットワークにだけ注目するのでなく、それを支える国単位のデジタルアー カイブ機関からもっと学ぶ必要があるのではないかと感じたことであった。 ## (参考文献) [1] フランス国立図書館(BnF)へようこそ.http://www.bnf.fr/fr/ outils/a.bienvenue_a_la_bnf_ja.html (閲覧 2018/4/6). 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Japan Society for Digital Archive
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# The State and Visions of Disaster Archives as seen from The Great East Japan Earthquake 柴山 明寛 ${ }^{1}$ SHIBAYAMA Akihiro ${ }^{1}$ 北村 美和子 ${ }^{2}$ ボレー・セバスチャン' KITAMURA Miwako² BORET Sebastien Penmellen ${ }^{1}$ 今村 文彦 ${ }^{1}$ IMAMURA Fumihiko' } 1 東北大学 災害科学国際研究所 $\overline{9} 980-0845$ 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉468-1 Email: [email protected] 2 東北大学大学院 工学研究科都市・建築学専攻 1 International Research Institute of Disaster Science, Tohoku University Aoba 468-1, Aramaki, Aoba-ku, Sendai 980-0845 JAPAN 2 Architecture and Building Science, Graduate School of Engineering, Tohoku University (受付日: 2017年12月14日、採択日: 2018年5月9日) \begin{abstract} 抄録:東日本大震災関連のデジタルアーカイブは、震災直後から様々な機関や団体により自然発生的に構築が始まり、震災から 6 年半が経過した現在数十の構築がなされ、数百万点の記録の公開がなされている。本論文では、東日本大震災で様々な機関・団体 が構築した震災デジタルアーカイブの事例と変遷についてまとめると共に、自治体に拈ける震災デジタルアーカイブの公開内容や 構成要素を明らかにする。さらに、東日本大震災の震災デジタルアーカイブの全体を通して課題を明らかにし、今後の震災デジタ ルアーカイブのあり方について論じる。 Abstract: Digital archives related to the Great East Japan Earthquake started to be constructed spontaneously by various organizations immediately after the disaster occurred, and several dozen have been created in the six and a half years since the earthquake, with millions of records open to the public. In this paper, we will summarize the cases and transitions of earthquake digital archives constructed by various organizations after the Great East Japan Earthquake, and clarify the contents and components of digital archives of the earthquake disaster of local governments. Furthermore, we will clarify the challenges related to earthquake disaster digital archives of the Great East Japan Earthquake and discuss the future of earthquake digital archives. \end{abstract} キーワード : 東日本大震災、震災アーカイブ、デジタルアーカイブ、メタデータ Keywords: The Great East Japan Earthquake, Disaster Archive, Digital Archive, Metadata ## 1. はじめに 2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分に国内観測史上最大の M9.0 の東北地方太平洋沖地震が発生し、地震動と津波によって死者 19,575 人、行方不明者 2,577 人にも打よぶ多大なる犠牲と甚大な被害をもたらした ${ }^{[1]}$ 。また、被害は、直接的な被害だけで無く、間接的な被害も日本全域に影響し、さらに海外まで影響を及ぼした。 2011 年 4 月 1 日の閣議了解により、東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う原子力発電所事故による災害を「東日本大震災」と呼称することとなった ${ }^{[2]}$ 。以後、ほとんどの媒体で、東日本大震災の名称が使われるようになった。 この未曾有の大災害による甚大な被害を二度と繰り返さないためにも、様々な教訓を後世まで残し、今後の防災・減災に繋げて行くことが重要と考えられ、震災直後から自然発生的に記録を残す震災アーカイブの気運が高まり、様々な機関・団体で震災デジタルアー カイブの構築の動きが見られた。さらに、2011 年 5 月 10 日東日本大震災復興構想会議において復興構想 7 原則の提言が発表され、原則 1 には、「大震災の記録を永遠に残し、広く学術関係者により科学的に分析し、その教訓を次世代に伝承し、国内外に発信する」 ${ }^{[3]}$ との提言が発信され、震災デジタルアーカイブの構築の動きがさらに加速することとなった。 本論文では、東日本大震災で様々な機関・団体が構築した震災デジタルアーカイブの事例と変遷についてまとめると共に、自治体における震災デジタルアーカイブの構成要素を明らかにし、東日本大震災の震災デジタルアーカイブの課題について論じる。 ## 2. 東日本大震災アーカイブの定義と変遷 ## 2.1 震災アーカイブの由来と定義 国内で「震災アーカイブ」という言葉を使われるようになったのは、1995 年阪神・淡路大震焱の記録のアーカイブを行った神戸大学附属図書館の「震災文庫」 のデジタルアーカイブ構築に携わった渡邊氏 ${ }^{[4]}$ からだと思われる。2004 年新潟県中越地震では、長岡市立中央図書館が「災害アーカイブス」を、中越防災安全推進機構が「中越災害アーカイブ」を共に 2008 年に公開し、災害アーカイブという言葉が使われた。そ の後、東日本大震災以降から震災アーカイブが広く使われるようになり、中越メモリアル回廊の一つである 「長岡震災アーカイブセンター〜きおくみらい〜」 (2011 年 10 月開館)でも使用されている。震災という言葉は、 1 章でも述べている通り、気象庁の地震名と閣議で了解された名称の違いがあり、各地で起こった地震に対して全てに震災という名称は付かない。過去に震災という名称は、1923 年関東大震災と阪神淡路大震災と東日本大震災の3つである。ただし、新潟県中越地震は、新潟県で決められた中越大震災という呼称として使用されている。 震災アーカイブの定義としては、震災アーカイブと震災デジタルアーカイブに分けて説明する必要がある。震災アーカイブは、震災関連資料の収集から整理、保存、利活用などの行為を総称しての言葉で使用されることが多く、震災デジタルアーカイブは、震災関連資料の書誌情報等がデータベース化され、コンピュータ上で検索や閲覧などができるものを指すことが多い。 また、震災デジタルアーカイブの中にも書誌情報のみが閲覧できるものと、資料そのものを閲覧できるものとに分けられる。前者は、図書館等が行っている蔵書検索に近く、著作権等の関係で資料そのものを見せることができない時に用いられる。後者は、資料の著作権等の処理が完了した時に用いられる。東日本大震災で構築された震災デジタルアーカイブの多くは後者ではあるが、肖像権や倫理上の配慮の関係で書誌情報のみを公開し、資料の存在だけを知らしている場合もある。 ## 2.2 東日本大震災デジタルアーカイブの変遷 東日本大震災が発生した以降、防災関係機関や新聞メデイアから被害情報や被害写真がウェブ上に公開された。発災から1ヶ月後には、Yahoo! Japanによる「東日本大震災写真保存プロジェクト」が立ち上がり、一般市民からの写真の募集が開始され、2011 年 6 月からウェブ上で公開が行われた。同月、Google において、震災直後から震災前後の衛星写真の公開を始め、「未来へのキオク」を開始し、一般市民からの提供された写真等の公開が始まった。宮城県仙台市生涯学習施設のせんだいメディアテークでは、「3がつ 11 にちをわすれないためにセンター」が立ち上がり、震災記録の収集や映像編集の支援などが開始した。発災から半年後には、著者らが中心となって立ち上げた東北大学の「みちのく震録伝」が開始している。 発災から 1 年が経過し、メディア関係で初めて日本放送協会が「NHK 東日本大震災アーカイブス」で証言記録が公開され、その半年後に FNNが「3.11 忘れ ない〜FNN 東日本大震災アーカイブ〜」が公開した。 ハーバード大学エドウィン・O$\cdot$ライシャワー日本研究所では、2012 年 3 月に「2011 年東日本大震災デジタルアーカイブ」(以下、JDA)の公開がなされた(その後、日本災害 DIGITALアーカイブに名称を変更)。 2012 年 9 月からは、総務省の「東日本大震災アーカイブ」基盤構築プロジェクト ${ }^{[5]}$ が開始し、5つの実証実験が行われ、「あおもりデジタルアーカイブシステム(その後、青森震災アーカイブと統合)」「陸前高田震災アーカイブNAVI(その後、国立国会図書館に移管) 、東北大学「みちのく震録伝」の検索システム、河北新報社「河北新報震災アーカイブ」、東日本大震災アーカイブFukusima」が2013年3月に公開された。 プロジェクトでは、自治体の協力で震災記録の収集等がなされているが、運営自体は大学や協議会等で行われていた。また、同プロジェクトで国立国会図書館の東日本大震災アーカイブ「愛称:ひなぎく」が公開し、国内で初めて様々なアーカイブ団体を結ぶ横断検索が開始された。 自治体が主体となって震災デジタルアーカイブを構築し、ウェブ上で公開されたのは、2014年 3 月に宮城県多賀城市「たがじょう見聞憶」が最初となる。ただし、 2012 年 12 月に宮城県仙台市「フォトアーカイブ東日本大震災一仙台復興のキセキ」や 2013 年 3 月から宮城県東松島市「ICT 地域の絆保存プロジェクト」なども、2015 年 3 月にいち早く震災記録をウェブ公開がされている。ただし、両自治体ともにデータベース化まではされていなかった (東松島市は、その後にデー夕ベース化された)。総務省「被災地域情報化推進事業 (情報通信技術利活用事業費補助金) $\rfloor^{[6]}$ 利用して、 2014 年 4 月に「青森震災アーカイブ」(八戸市、三沢市、 おいらせ町、階上町の青森県 4 市町村合同で構築)、 2015 年 3 月に久慈・野田・普代震災アーカイブ(岩手県 3 市町村合同で構築)、2015 年 4 月に福島県郡山市「郡山震災アーカイブ」(郡山市、双葉町、富岡町、川内村の 4 市町村の記録公開)、2015 年 6 月には、宮城県の「東日本大震災アーカイブ宮城」、2015 年 7 月に千葉県浦安市「浦安震災アーカイブ」を公開した。岩手県は、構築の前に有識者会議を開き、「震災津波関連資料の収集・活用等に係るガイドライン」年を 2016 年 4 月に策定した。 1 年後の 2017 年 3 月に「いわて震災津波アーカイブ〜希望〜」が公開された。福島県については、2017年 6 月に「アーカイブ拠点施設 (仮称) に関する資料収集ガイドライン $]^{[8]}$ が策定され、現在、震災関連記録の収集が行われている。 発災直後から企業やメディア、研究機関が震災アー カイブの構築を始めているのに対して、自治体は、発災から 2 年が経過してから着手している。この理由としては、自治体は、早い段階から記録の伝承の重要性を認知していたが、被災者の生活再建と被災地の復旧・復興を優先したためである。震災関連資料の公開点数としては、最も多いのが「いわて震災津波アーカイブ」の約 23 万点、続いて「東日本大震災アーカイブ宮城」の約 22 万点であった。ガイドラインに関しては、 2013 年 3 月に総務省「震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン $]^{[9]}$ (以降、総務省ガイドライン)が策定され、公開以降は、自治体が構築する震災アーカイブの指針となっている。青森震災アー カイブなどは、総務省ガイドラインを参考とし、独自で決めたガイドライン等の公開はしていない。岩手県では、総務省ガイドラインを参考にしつつ、県が市町村等と連携し、資料の収集・活用等の取組を進めていく上で必要と思われる事項について独自にガイドラインを作成している。福島県については、アーカイブ拠点施設の展示・公開の中心としたガイドラインであり、総務省ガイドラインの関係性には言及されていない。 ## 2.3 東日本大震災デジタルアーカイブの種類 本節では、震災デジタルアーカイブで書誌情報や震災関連資料をウェブ上に公開しているウェブサイトの種類について説明する。ウェブサイトには、(1)震災関連資料の書誌情報のみが閲覧できるウェブサイト、(2)書誌情報とともに震災関連資料を閲覧ができるウェブサイト、(3)(2)の機能を持ちつつ、それに加えて様々な震災デジタルアーカイブを結び横断的に検索できるウェブサイト、の大きく 3 種類に分けられる。 (1)は、図書館等の震災関連資料の所蔵検索に該当し、 (2)、2 章 2 節で説明した震災デジタルアーカイブのほとんどが該当する。(3)は、国立国会図書館の「ひなぎく」やハーバード大学の「JDA」などが該当する。11、 (2)には、(3)などの外部アーカイブ団体と連携するための API(Application Programming Interface)を実装しているウェブサイトも存在するが、すべての震災デジタルアーカイブが該当するわけではない。APIを持っていないウェブサイトについては、メタデータをエクセル等に出力して(3)に提供している場合もある。 ## 3. 各県の震災デジタルアーカイブの比較 青森震災アーカイブ(以下、青森)及び、いわて震災津波アーカイブ (以下、岩手)、東日本大震災アー カイブ宮城 (以下、宮城) の 3 県について比較を行った。岩手については、API 連携がなされている久慈・野田・普代震災アーカイブについては除外した。福島県は、県での震災デジタルアーカイブが構築されていないため除外することとした。本集計は、2017 年 5 月時点のデータである。 図 1 に各県で公開されている震災関連資料の種別の割合を示す。各県において、震災関連資料全体の写真資料の占める割合が約 8 割と高い割合であった。これは、震災デジタルアーカイブを構築している市町村でも同様なことが言元、震災関連資料の割合として文章資料より写真資料が多い傾向にある。写真資料が多い理由としては、被災現場や復興記録を逐次撮影していることと、携帯電話やデジタルカメラが普及していたこと、デジタル化により大量保存が可能になったこと、行政機関が発災時の当時の記録として保存していたこと、などが各アーカイブの運用の担当者(以下、担当者)からの回答が得られた。文章資料については、各県と比較して宮城が最も多く全体の 2 割を占めていた。宮城については、文書資料の約 8 割が新聞等の記事の切り抜きであり、行政関係文章などは 1 割程度であった。各県の新聞記事等を抜いた行政関係文章の点数だけを比較した場合、岩手が最も多く約2万 4000 点、青森が約 1 万 2000 点、宮城が約 9000 点となった。動画・音声などは、各県とも少なく数パーセントに留まっている。これは、震災関連資料の中で収集できた動画や音声の絶対数が少ないことが影響していることなど、担当者からの回答が得られた。 表 1 に各県の資料がどの時期の資料なのかを発災当日から 2015 年 3 月までを集計したものを示す。本集計は、公開している資料のみの集計である。発災から 1 週間の資料総数を比較した場合、宮城が最も多く、青森、岩手の順に少なくなっている。岩手県と宮城県の被災規模と比較して被災規模が小さい青森と資料総数が同程度というのは、絶対的に資料数が少ないと言える。理由としては、岩手の久慈・野田・普代の震災 表1 各自治体の資料数の時系列比較 アーカイブを除外していることなどのいくつか考えられる。その他として、道路の寸断等による外部からの応援が入れなかったことなど、様々な要因の推察まではできるが詳細な把握まで至っていないことが担当者からの見解が得られた。次に、発災当日から 1 年間の資料総数から全体の資料総数の割合を比較した。その結果、青森は 77 パーセント、岩手は 42 パーセント、宮城は 74 パーセントであり、震災 1 年目については、青森や宮城に比べて岩手の公開されている資料数が少なかったことがわかった。また、青森や宮城では、発災当日から6 月月間の資料数が全体の資料総数の半分を占めていることがわかった。青森や宮城に関しては、 2013 年以降の復興記録の資料数が少なくなる傾向となり、岩手については、前年と変わらない数の資料数であった。青森や宮城に関しては、震災アーカイブの構築が終了した時点からの資料の公開件数が減っていることがわかる。理由としては、事業終了後から広報等も実施しているが、事業期間と同程度の積極な収集までは至っていないことなどの要因があることなど、担当者からの見解が得られた。 表 2 に岩手及び宮城の市町村別の資料総数を示す。市町村が提供している資料数は、市町村の規模や被災規模等の相関は見られない。ただし、岩手県大棺町の 1 つのみというのは、2017年度に町独自の新たな震災アーカイブが構築されるため提供数が少なくなっている。次に、市町村の提供した資料と他機関から提供された資料を該当する市町村に振り分けて集計した場合、資料数が少ない市町村を補っていることがわかる。 しかしながら、宮城では、岩手のように市町村以外の他機関から震災関連資料が提供されておらず、宮城では市町村の資料数のみで占めている。さらに、岩手県の市町村を見ると被災程度が大きい市町村が他機関から提供されている割合が高いことがわかる。市町村の資料数を見た場合、被災規模が大きければ復旧・復興工事等の件数が多くなり、必然的に資料数は増えると考えられるが、調查時点では資料数が少ない市町村も表2 岩手及び宮城の市町村別の資料総数 & & \\ ※1 市町村の提供した資料と他機関から提供された資料を該当する市町村に振り分けて集計した資料総数 ※2 多賀城市がマイナスになっているのは, 多賀城市が提供した資料の中に他の市町村に該当する資料があったこと, 及び他の市町村から多賀城市に該当する資料が少なかったためマイナスとなっている 見られる。理由としては、資料収集ができていない可能性があることや公開のための許諾が得られておらず公開保留となっている点数も数多く存在することなどが要因と考えられるが、詳細の把握まで至っていないとの担当者からの見解が得られた。 ## 4. 震災デジタルアーカイブの課題 総務省ガイドラインが 2013 年 3 月に策定された。 しかしながら、震災から 6 年半が経過した現在ではガイドラインでは網羅できていない課題が散見される。 ## 4.1 メタデータの品質の問題 数多くのアーカイブ機関及び団体は、国立国会図書館のメタデータスキーマに準拠、もしくは独自のメタデータスキーマを設計している。メタデータの項目は、震災関連資料がどのような資料であるかを示すために、タイトルやキーワード、作成日時、資料分類などを設けている。その中で、検索キーもしくは分類として必要となるキーワード付けが重要となる。キーワー ドの付け方は、総務省ガイドラインでも事例が示されているが、どのような語彙をキーワードに用いるかまでは規定がなされていない。そのため、文章以外の写真や映像などのキーワード付けに様々な問題が発生す る。例えば、海岸浸食等を防ぐために「消波ブロック」 は、「波消しブロック」、「消波根固ブロック」など別名も存在し、また、世間が一般に幅広く知られている名称も存在する。これらは、単語は、同じものを指しているが、キーワードを付ける作業者の知識度合いによって付ける単語が異なることがある。これは、シソーラス辞書によってある程度の語彙の統制は可能である。しかしながら、様々な商品名があるものなどは統一するのが困難である。 次に、同じ被写体で類似している写真でも機関によって異なるキーワード付けがされる場合がある。例えば、石巻市の旧門脇小学校は、津波からの避難が的確で多くの生徒や住民が助かった学校である。この学校は、津波によって火災が発生し、その跡も残っている。火災の跡は写真の解像度や角度などで建物の污れに見えてしまうことがある。そのため、ある機関の写真には、「火災跡」のキーワードが付与されているが、別の機関では「火災跡」のキーワードが付与されないことがある。被写体に対しての知識によってキーワー ドの付与が左右されてしまうことがある。 その他にも、同一名称同一機関であっても時期によって場所が異なる問題、ある目標物を撮影しても撮影場所が離れている場合の位置情報の取扱の問題、新聞記事など複数の地名が含まれている場合の取扱の問題、資料の作成日がはっきりしない場合の作成日の決め方の問題、メタデータ連携する場合のマッピングの問題、などがある。 ## 4.2 提供元が複数のアーカイブに提供した場合の問題 提供者が個人や市町村を超えた広域機関の場合、同じ震災関連資料を複数の震災デジタルアーカイブに提供する場合の問題である。ここで問題になるのは、横断検索が可能なウェブサイトである。例えば、Aのアー カイブと B のアーカイブがあり、そこに 1 枚の同じ写真を提供した場合、Aのアーカイブと B のアーカイブの個々のウェブサイト上で目的に合った見せ方をすることができる。しかしながら、Aのアーカイブと B のアーカイブを横断検索で連携しているウェブサイトは、自らの横断検索のサイトで別々のメタデータを付加された 2 枚の同一の写真が閲覧できる状態になってしまう。これは、同じ写真でもメタデータの内容が異なれば、機械的に同一のものと判断ができない。また、ユー ザも同じ写真なのに、付加情報が異なることで混乱を期する場合がある。現在、著者らは、この現象が起きていることは発見できていないが、いずれ起こる可能性がある。この現象を防ぐためには、提供者に他団体 への提供の有無の確認や AI などを利用した同一資料の判別、DOI 化などの方策を講じる必要性がある。 ## 5. おわりに 東日本大震災のデジタルアーカイブは、震災 6 年半が経過した現在、福島県を除く、ほとんどの地域で震災関連資料の収集が行われた。しかしながら、収集範囲のカバー率は、高いものの発災当時から復興記録を満遍なく収集ができているとは言いがたい現状がある。また、収集された震災関連資料は、デジタルアー カイブとして公開がなされているが、課題も山積し、 また、ユーザが利活用し易い状況まで至っていないのが現状である。今後、ガイドラインの見直しや利活用促進のためのメタデータの見直しが必要と考える。 なお本論文はデジタルアーカイブ学会第 1 回研究大会(2017 年 7 月 22 日、岐阜女子大学)で発表を行ったもの ${ }^{[10]}$ を、新たな知見を加えて論文として仕上げたものである。 ## 謝辞 本論文をまとめるにあたり、青森震災アーカイブ (青森県八戸市)及び、いわて震災津波アーカイブ(岩手県) 、東日本大震災アーカイブ宮城(宮城県図書館) の各担当者にご協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表す。 (参考文献) [1] 総務省消防庁. 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震 (東日本大震災)について(156報). 2017.9 [2] 内閣府. 平成24年度版防災白書. p3. 2012.6.19 [3] 内閣官房. 2011年5月10日東日本大震災復興構想会議. http:// www.cas.go.jp/jp/fukkou/ [accessed 2017-12-1] [4] 渡邊隆弘.震災アーカイブにおけるメタデータの設計. じんもんこん2000論文集. 17. p89-96. 2000.12 [5] 総務省.「東日本大震災アーカイブ」基盤構築プロジェクト. http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ ictriyou/02ryutsu02_03000092.html [accessed 2017-12-1] [6] 総務省. 被災地域情報化推進事業(情報通信技術利活用事業費補助金). http://www.soumu.go.jp/shinsai/ict_fukkou_shien. html [accessed 2017-12-1] [7] 岩手県復興局. 震災津波関連資料の収集・活用等に係るガイドライン. 2016.3 [8] 福島県文化スポーツ局生涯学習課. アーカイブ拠点施設 (仮称)に関する資料収集ガイドライン. 2017.6 [9] 総務省. 震災関連デジタルアーカイブ構築・運用のためのガイドライン. 2013.3 [10] 柴山明寛, 北村美和子, ボレー・セバスチャン, 今村文彦. 近年の震災アーカイブの変遷と今後の自然災害アーカイブのあり方について. デジタルアーカイブ学会第1回研究大会 (2017/7/22, 岐阜女子大学) 予稿. デジタルアーカイブ学会誌. 2017, 1(Pre), 13-16.
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# [A22] 地域文化資源デジタルアーカイブの方法論:地域雑誌『谷中$\cdot$根津$\cdot$千駄木』のデジタルアーカイブ化を事例として ○宮本隆史 1),片桐由希子 2),中村覚 1) 1) 東京大学, 〒113-8654 東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学文書館 2) 首都大学東京 E-mail:[email protected] ## Towards an Approach to Local Communities Digital Cultural Resources Archive: ## A Case Study of Yanaka Nezu Sendagi Digital Archive MIYAMOTO Takashi ${ }^{11}$, KATAGIRI Yukikon ${ }^{2}$, NAKAMURA Satoru ${ }^{1)}$ 1) The University of Tokyo, The University of Tokyo Archives, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8654, Japan ${ }^{2)}$ Tokyo Metropolitan University ## 【発表概要】 本発表の目的は、東京文化資源会議の地域文化資源デジタルアーカイブ・プロジェクトの活動を事例として紹介し、地域に根づいた学術的・文化的活動の基盤となるウェブ上のシステムを構築・活用する方法を整理し課題と可能性を考察することにある。このプロジェクトでは、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を対象としたデジタルアーカイブの構築を実験的に行なっている [1]。 ## 1. はじめに 本発表の目的は、地域の歴史や引き継がれてきた知識、生活習慣といった文化資源(以下、地域文化資源)を対象とするデジタルア一カイブを構築することを通じて、地域における多様な学術的・文化的活動を促進する方法について考察することにある。そのために、 まずデジタルアーカイブ運営の方法を類型として整理し(2)、地域文化資源を対象とするデジタルアーカイブの問題設定を確認したうえで (3)、本発表の主要な事例である谷根千デジタルアーカイブの構築プロジェクトについて紹介し (4)、今後の課題と展望を整理する (5)。 ## 2. デジタルアーカイブ運営の類型 デジタルアーカイブの運営における一般的な問題のひとつは、公共財としてのデジタル文化資源をいかに継続的に供給するかにある。 ネットワーク経由で提供され複製可能なデジタル情報は、供給に際して排除性がなく消費における競合性もない公共財といえる。情報の供給に排除性はないため費用負担をしない者も利用することができる。一方で、アナログ資料のデジタル化や目録作成、通信料やサ一バ環境整備、急速に変化するウェブ関連の技術への対応など、デジタル資源の提供には当然費用が発生する。つまり、デジタルアー カイブの運営の問題とは、デジタル化された文化資源の流通を市場化困難な環境において、情報発信にかかる費用をどのように賄うかに関する問題として理解できる。 アプローチのひとつは、デジタルアーカイブを公共サービスとして提供するという古典的な解決方法である。デジタルアーカイブを市民が利用する代わりに、公的資金で情報発信の費用をまかなう。前提となるサービスを充実させるために、情報の供給側に投資が行なわれる。近年、博物館、図書館、文書館などの制度化された資料保存機関はデジタルア一カイブを数多く公開し、さらにそれらを横断的に連携させるために、Europeana [2] や Digital Public Library of America [3] のようなネットワークの構築が進められている。しかし、利用者の選好は明らかではなく、デジタル資源は非対称情報のもとで提供せざるをえないため、効率的な資源配分が実現できない可能性がある。実際に、デジタルアーカイブ上の情報の活用が伸び悩んでいることが明確な課題として広く認識されている。対策と して、インターネットの利用者に閲覧してもらうために「キュレーション」が必要であることが強調されるようになってきている。こうした、キュレーションを担うのは、主に公的な教育研究機関に属する専門家としての研究者となる。公的機関による供給側を重視するデジタルアーカイブの問題設定においては、基本的に公的機関が供給する情報を、非専門家である利用者が消費するという関係が想定されることが多い。 もうひとつのアプローチは、コミュニティによる自主管理を指向するものである。典型的には、研究者のコミュニティが、必要とするデジタル情報を、インターネットを通じて共有し共同研究を行なう場としてデジタルア一カイブを構築するものが多い。人文学関連で例をあげると、刑罰の歴史研究における The Digital Panopticon [4] や、日本の仏教学における大蔵経データベース [5] などがあげられる。これらは、アカデミアに属する研究者たちが中心となっているものであり、公的資金を基盤としているものも多いが、政府の介入というアプローチとの大きな違いは、 デジタル資源に対する需要に牽引されてデジタルアーカイブが構築されている点にある。 Wikimedia Commons [6] のように共通の目的をもったコミュニティが構築し発展させているものも存在する。需要側に重心を置くデジタルアーカイブにおいては情報発信と活用の主たる行為主体が重なっており、専門性が低いと想定される利用者に対してキュレーションを積極的に行なうといったことは、デジタルアーカイブの問題としては前景化しない。 ## 3. 地域文化資源デジタルア一カイブの問題設定 では、地域の文化資源を対象とするデジタルアーカイブを運営するにあたって、採用しうるアプローチはいかなるものであろうか。 まず公共サービスとして運営する可能性について考える。地域で継承されてきた歴史的文化資源の多くは、公的な資料保存機関によって保存対象として選択されてこなかったも のが多い。それにもかかわらず地域コミュニティにおいて重要とみなされた文化資源が、在野の個人や郷土史会・史談会などによって継承されてきたのである。こうした行為主体は、大学や学会を中心に制度化されたアカデミアからは傍流に位置づけられながらも、郷土史などの在野の研究伝統を形成した。そうした研究とそのための資料収集は、それぞれの地域における社会政治的力学のなかで行なわれてきたものであり、地域の歴史認識の形成に寄与してきたのであった。いわば、地域の文化資源とは、制度化された資料保存機関が担保してきたナショナル・ヒストリーなどの公的な物語に対して、オルタナティブな歴史観を提示しうる可能性として継承されてきたともいえる。ただし、地域の中で共有されてきた文化資源が、広く公共的に有用性があるという合意を形成するためには費用がかかる可能性がある。また、公的な資料保存機関が、私的に所有されてきた資料の寄贈を受け入れるに十分な予算を持てなくなっている場合も多い。地域コミュニティが継承してきた文化資源を対象とするデジタルアーカイブを公共サービスとして位置づけ、情報の供給側の充実させることは容易ではない。 つぎに、コミュニティの自主管理というモデルは現実的だろうか。デジタルアーカイブを維持しつづけるためには、その情報を継続的に需要するコミュニティの存在が前提となる。地域の歴史的文化資源を継承してきた在野の研究者たちが、そうしたコミュニティを形成しデジタルアーカイブを運営する主体となれるかが問題となる。1990 年代後半、急速に社会に広まりつつあったワールド・ワイド・ウェブは、確かに新たな発信の方法として一部の在野の研究者たちの関心をひくことになった。コーエンとローゼンツヴァイクが記録しているように、新たなウェブ関連技術は、制度化されたアカデミアとも競争できるかもしれないという希望を在野の研究者たちに与える場合もあった [7]。しかし、現在の日本においては、郷土史会・史談会などは、高齢化と地方コミュニティの縮小により存続 の危機にあるものも多い。地域文化資源のウェブ上での発信は、個人や小規模のグループの努力によって維持されているものが多いのが実情である。つまり、現状では共有財を管理するコミュニティの存在を前提することが難しい場合がある。 以上のように、地域文化資源のデジタルア ーカイブの運営を実現するためには、公共サ ービスとして供給側へ梃入れを行なうことは難しく、既存のコミュニティをデジタル資源を継続的に需要するコミュニティとして容易に前提することもできない。 ## 4. 谷根千デジタルアーカイブの事例 こうした課題をふまえて、地域で継承されてきた公共財としての文化資源を供給するにあたっての具体的な課題と方法を明らかにするために、実際にデジタルアーカイブを運営する実験を行なうこととした。 実験の主体は、東京文化資源会議の地域文化資源デジタルアーカイブ・プロジェクトであり、本発表の 3 名の報告者も構成員となっている。このプロジェクトは、地域の研究・活動に関するデジタルアーカイブの構築の手法を提示し、そのアーカイブを地域における活動の継続と展開に活用するための手法について検討することを目標として掲げている。 プロジェクトにおける実験として、作家の森まゆみ氏との協力により、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』と関連資料のデジタルア一カイブ化を行なっている。『谷中・根津・千駄木』は、仰木ひろみ、森まゆみ、山崎範子による谷根千工房が 1984-2009 年にかけて刊 図 1:地域文化資源デジタルアーカイブ (http://lda.tcha.jp/)行した雑誌である。東京の文京区と台東区にまたがる谷中・根津・千駄木をひとつの地域ととらえ、そこで展開した生活文化を掘り起こそうとするものであった。この地域には、作家や芸術家が多く暮らした屋敷町や近世以来の寺町がある一方で、住民の生活の場として路地や商店街が歴史的に形成されてきた。谷根千工房は、既存の郷土史とは一線を画す叙述スタイルを確立して、地域雑誌というかたちで市場にのせ、この地域のマイクロ・ヒストリーを 26 年間にわたって叙述し発信しつづけることに成功した。また、「谷根千」という呼称をこの地域に与えることになり、外部効果をも生み出した。 同誌の制作にあたって作成・収集された膨大な資料(インタビュー時のメモ、草稿、チラシ、ポスター、写真、引用文献等)は、谷根千工房が管理している記憶の蔵と呼ばれる施設に保存されている。デジタルアーカイブの技術論のレベルでも、制作物としての雑誌とそのために収集した原資料同士の関係のネットワークをデジタル技術を活用して描くことができるという意味で興味深い事例である。 この資料群に注目し、『谷中・根津・千駄木』全 94 号のうち 1-10 号とその原資料を対象としたデジタルアーカイブを構築した [図 1]。 このデジタルアーカイブの活用の試みとして、展示「はじまりの谷根千一地域雑誌『谷中・根津・千駄木』とローカルメディアのこれから一」(2017 年 11 月 8-25 日、会場: HAGISO)を開催し、雑誌そのものとアーカイブ化対象の資料の展示を行なった $[8]$ 。さらに、コミュニティが運用することを念頭に 図 2: デジタルアーカイブの情報を使ったアプリケーションの実験 置いたアプリケーションを実験的に構築している。Linked Data への対応、画像共有のための新たな国際標準 IIIF(http://iiif.io/)への対応、地理情報を用いて地図へマッピングするためのアプリケーションの漼備などを進めている [図 2]。 ## 5. おわりに 本発表で紹介した谷根千アーカイブの事例は、継続中のプロジェクトの中間報告であり、 いまだ実験の結論を出せる段階ではない。これまでの実践を通じた暫定的な課題を整理して本発表を閉じたい。 本プロジェクト自体は、デジタルアーカイブを維持するコミュニティの形成を意図して開始したものではあるが、現在のところはデジタル資源の供給側への介入にとどまっていることはいなめない。情報の需要側に働きかけるためには、地域における情報の流通の実態を明らかにする必要がある。そのためには、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』から視野を広げ、地域において誰が情報を発信しそれを誰が何のために活用してきたのかという、地域文化資源をとりまく多様な行為主体のインセンティブ構造の分析が有効となろう。どのような環境においていかなる経路を通じて地域文化資源が現在まで伝えられ、どのように活用されることが期待されてきたのかを実証的に明らかにするのである。こうした地域における情報流通の歴史制度分析の方法論を構築するためにも、特定の地域に注目することは効果的だと考える。 こうした分析によって、地域で継承されてきた文化資源の特性と活用方法を明らかにす ることで、地域コミュニティがデジタルアー カイブに求める機能要件が明らかになると期待できる。そのうえで、デジタルアーカイブの自主管理を担うコミュニティの形成のモデルを構築することを将来的な展望としたい。 ## 謝辞 本報告で紹介した、地域文化資源デジタルアーカイブ・プロジェクトは、東京文化資源会議のプロジェクトのひとつである。本プロジェクトの柳与志夫 (座長)、眞籠聖、椎原晶子、井出竜郎の各氏に謝意を表したい。本報告は、このプロジェクトにおける議論に多くを負っているが、その内容の責任は著者にある。 ## 註 [1] http://lda.tcha.jp/ (閲覧 2018-01-05). システムの基盤としては、NTTデータ社が開発する AMLAD (http://www.amlad.jp/) を活用している。 [2] www.europeana.eu/(閲覧 2018-01-05) [3] https://dp.la/ (閲覧 2018-01-05) [4] https://www.digitalpanopticon.org/ (閲覧 2018-01-05) [5] http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/ (閲覧 2 018-01-05) [6] https://commons.wikimedia.org/(閲覧 2 018-01-05) [7] Cohen, Daniel J. \& Roy Rosenzweig. 2006. Digital History: A Guide to Gatheri ng, Preserving, and Presenting the Past o $n$ the Web. Philadelphia: University of $\mathrm{Pe}$ nnsylvania Press. [8] http://hagiso.jp/art/2017_yanesenten/ (閲覧 2018-01-05) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 知る、使う、つくる一一学部授業におけるデジタルアーカ イブの実践的理解 ## Learn, Use, and Create --- Undestanding of Digital Archive through Pracitce at the Undergraduate Level \author{ 柴野京子 ${ }^{1}$ \\ SHIBANO Kyoko ${ }^{1}$ \\ 1 上智大学文学部新聞学科 〒102-8554 東京都千代田区紀尾井町7-1 \\ Email: [email protected] \\ 1 Department of Journalism, Sophia University \\ 7-1 Kioi-cho, Chiyoda-ku, Tokyo, 102-8554 } (受付日: 2018年3月6日、採択日: 2018年5月26日) \begin{abstract} 抄録 : 本報告は、上智大学で 2016 年度より開講している「デジタルアーカイブ論」の概要を紹介するものである。同授業は、アー カイブの理解、利用、構築の 3 要素から成り、それぞれのプロセスを実践的に経験することによって、資料のよみ方、利活用、およびデジタルアーカイブの現状・重要性・課題への理解等において、著しい教育的効果がみられている。今後は、学部レべルでのデジタル・ヒューマニティーズおよびデジタルアーキビスト育成、また既存アーカイブ機関との連携によるサービスラーニングの展開に寄与することがめざされる。 Abstract: This report introduces the outline of the "digital archive theory" lecture which has been running in Sophia University since fiscal 2016. The lecture consists of three elements, understanding, utilization, and construction of archive, and by experiencing each process in a practical manner, it was proved to that this method was extensively effective in teaching students how to read and use digital archive, as well as understand the current status, importance, and issues of digital archive. From now on, we aim to contribute to the development of digital humanities and training of digital archivists at the undergraduate level, as well as to improve service learning by cooperation with existing archive institutions. \end{abstract} キーワード:映像アーカイブ、テレビ番組、メタデータ作成、大学教育、アーキビスト教育、放送番組センター Keywords: Moving image archive, TV programs, metadata creation, university education, archivist training, Broadcast Programming Center of Japan ## 1. はじめに デジタルネイティブを迎えた大学の学部教育において、インターネット上のアーカイブ利活用に関わるリテラシーはきわめて重要なテーマである。グーグルのようにフラットな構造を「情報インフラ」とする世代にとって、知識の組織的構造への意識は年々希薄になっている。 「デジタルアーカイブ論」は、こうした問題意識から 2016 年度に開講した授業である。後述のとおり、 プログラムは知る、使う、つくる、の3 要素で構成し、後半に資料のメタデータ採取によるアーカイブ構築を組み入れている。本稿ではこの取り組みを紹介することで、学部教育におけるデジタル・ヒューマニティー ズのありかた、アーキビスト育成にかかわるプログラムを考える契機としたい。 ## 2. デジタルアーカイブ論の概要 ## 2.1 受講対象と環境 デジタルアーカイブ論は、上智大学文学部新聞学科がセメスター(90 分 15 回相当)で開講する選択専門科目である。対象は 2 年次以上、定員を 20 名としている。全席でインターネット接続できる PC 教室を使 図1授業の様子(放送番組メタデータ作成作業) 用し、教卓にもスクリーン、プロジェクタがある。近くにはオンデマンドプリンタが設置されている。 ## 2.2 プログラム構成 プログラムは、(1)アーカイブ資料をよむ、(2)デジタルアーカイブの利用(プレゼンテーション作成)、(3)放送番組のたメタデータ作成実習の 3 パートで、各作業のほか修了時にレポート提出が義務づけられている。評価はこれらを総合して行う。 表1「デジタルアーカイブ論」スケジュール ## 3. 授業の実際 ## 3.1 アーカイブ資料をよむ 第 1 パートでは、画像・映像アーカイブが含まれる動画を用いて、資料の使われ方やよみ方を学習する。教材には MOOC のプラットフォーム edx で 2014 年秋に東京大学が提供した Visualizing Postwar Tokyo Part $1^{[1]}$ の Module3 The Olympic Cityを使用した。このプログラムは、もともとデジタルアーカイブの教育研究利用を目的に製作されたものである。 Module3 1964 年の東京オリンピック開催に伴う都市の再開発をテーマに、 10 分ほどの動画 9 本で構成されており、授業では $1 、 8 、 9$ の 3 本を利用した。受講者には予めよく見ておくよう注意喚起しておき、視聴後に使われていた画像や映像を答えさせて共有する。次に、キャプチャしておいた画像をスクリーンに投影して、さらに詳細を検討した。図 2 の画像であれば、場所を特定できる情報がないか尋ね、人々の服装や持ち物から連想できること、電話ボックス、車両等のディテールに着目させる。ここでは正解を出すことよりも、写真のよみ方に導くことを目的とし、写真につけられているクレジットにも言及した。 続いて、投影した全キャプチャの簡易プリントを学 図2 開催決定後の東京 (東京アルバム/都政記録写真ギャラリー) http://www.koho.metro.tokyo.jp/PHOTO/contents/ t3/1900/ol.html生に配布し(授業後回収)、手元の PCを使って関連情報を自由に検索させた。検索速度には個人差があるが、早い学生では 5 分程度でリソースのひとつを探しあてる。ゲーム的な要素もあるので、受講者は競ってさまざまな情報を発見し、それを全員に伝えていくのが教員の役目となる。 Module3/movie1 で使われている写真の多くは、東京都政記録のデジタルアーカイブに収録されている。そこでは元の写真につけられたキャプションで情報を補足したり、動画に使われなかった他の写真を見たりすることになる。組織的に集められた資料の存在に気づくのも大きなポイントで、受講者は資料の奥行きとあわせて、デジタルアーカイブを使用した動画の構造を学習する。 ## 3.2 デジタルアーカイブを利用したプレゼンテーション 第 2 パートでは、自分たちで 10 分程度のプレゼンテーションを作成する。4名のグループでテーマは自由、デジタルアーカイブだけでなく、図書その他の資料も使ってよい。 表2 プレゼンテーションのテーマ 一例を紹介すれば、「日本の素顔ガード下の東京」 は、NHKアーカイブ (http://www.nhk.or.jp/archives/) で一部公開されている同名のドキュメンタリーを素材としたもので、映像に登場する列車の特徴的な車両について、現在の新橋駅ガード周辺の様子、ショッピングモー ルや保育施設といった最近のガード下活用事例などを、 ウェブ上のデータベースやプロジェクト資料、打よびフィールドワークで集めた情報を使って説明した。 ほかにも機関アーカイブのほか、グーグルアースのアーカイブ機能を使って博覧会場の開発・復元の経緯を示したり、新聞記事データベースからディズニーランド開園日の全面広告を比較するなど、それぞれにアイデアがみられた。資料については必要に応じて教員がアドバイスを行うが、利用が制限されている、違法にアップロードされている(がほかにリソースがない)、出典が明らかでない (同前) などの資料は、そのことを批判的に明示して発表させた。 最終レポートでは「いろいろなデジタルアーカイブを使打うと張り切ったが、使える資料は限られていた」 という感想もみられた。プレゼンテーションの作成は、 ネット上に存在する資料、しない資料を知ると同時に、不足を補い、ツールを工夫して活用するリテラシーにつながっている。 ## 3.3 放送番組を利用したメタデータ作成 ## 3.3.1 放送番組センターの協力 以上のプロセスを経て、第 3 パートでは「ない資料」 を「ある資料」にするための作業として、メタデータ作成を行った。この実習では公益財団法人放送番組センターの協力のもと、同センターが著作権を所有する未公開番組を利用している。授業で作成したデー夕は同センターに戻し、放送ライブラリーでの番組公開用として実際に活用される。 選定した対象番組は、期間限定でオンライン視聴できるよう手続きを行い、ログイン画面は学内でオフィシャルに利用している教育用プラットフォーム moodle にリンクを置いて、専用パスワードでアクセスできるようにした。またアドバイザーとして、同センターOB で設立当初からアーカイブ事業に携わって打られた筧昌一氏を迎え、台本等の事前準備、第 7 回目のレクチャー、第 8 回目以降の実習指導と帳票チェックを打願いしている。 表3 メタデータ作成対象番組の例 ## 3.3.2 メタデータ作成の手順 作業手順は次の通りである。 【用意するもの】 $\cdot$ 番組リス下 $\cdot$ 台本のコピー(担当番組について人数分) ・帳票類 (プリント配布、原票は moodle から DLも可) ## 【手順】 担当番組を視聴 番組を前半・後半に分け、 2 人 1 組で台本と照合しながら下記の著作権関連項目を確認 登場人物(出演者、被取材者、ナレーター等) 場所(地名、施設名:博物館、企業、学校、研究所等) 引用・貸借物(資料映像・写真・新聞記事、美術・工芸、文芸作品等) ・番組情報記入シート作成…(A) $\cdot$ 保存番組記録表作成...(B) 著作権関連項目・番組の概要(あらすじ) ・番組紹介用の静止画キャプチャ3点‥(C) ・前後半のペアを替えて作業内容をダブルチェック ・上記 (A)(B)(C) の3 ファイルを moodle にアップロー ドし教員およびアドバイザーのチェックを受ける。 ## 3.3.3 作業のポイントと問題点 【番組情報記入シート (A)】 図3番組情報記入シート アウトプット帳票類のうち、(B) は実際に放送番組センターで使っているものをそのまま用いているが、 (A) 番組情報記入シートはこの授業用に新たにフォー マットしたものである。センターではここまで細かいデータは採っていないが、映像資料の調査においてシーン表整理は基本的な作業であり、授業の運営上も一定の作業量を確保できることから行うこととした。下記のレポートに明らかなように、映像資料を見慣れていていない学生にとっては、このプロセスを踏ませることで、より深くていねいに作品と向き合うことになった。 番組を視聴しながら台本と照らし合わせ、台本には書かれていないことは逐一メモしつつ番組の内容を見 ていったが、台本だけでは得られない情報が多いことに驚いた。秒数ごとに映像がどう切り替わったか、いつ誰が登場したか、テロップやナレーションの秒数を数え、映像資料や出てくる作品の出所を調べたり、地名や施設名も探したりと、作業数が多いので 1 つも見落とさないようにするのが大変だった。(受講者レポー トより、2 年女) 【保存番組記録表 (B) ・静止画】 (B) の保存番組記録表においては、番組概要の文章化や、ポイントとなる静止画像の選定に苦労する学生が少なくなかった。受講者はメディアに関心があり、比較的コンテンツに対するリテラシーの高い学生であるが、番組の読解力にはまだ不足がみられた。 図4 保存番組記録表 たとえば『名作のふるさと』は、高峰秀子ほか著名な女優が旅人となって、朗読等のパフォーマンスやインタビューを交えながら作品ゆかりの地を訪ねる文学紀行シリーズであるが、(1)このような構成の番組に慣れていない、(2)登場人物がわからない(女優の著名度を判断できない)、(3)近代文学に関する知識に乏しく、作家・作品を知らない、といった理由から、適切なアウトプットができないケースがしばしばあった。近過去の資料を扱う際も、関連知識を助言できるアドバイザーが必要である。 だが他方、クレジットや説明のない建物、当該作品の出版元、人物の所属事務所など、できるだけ多くの情報を積極的に調査しようとする傾向は顕著である。初年度に行った山本周五郎「青べか物語」では、作品のモデルとなった船宿が今も営業していることが判明し、公式ウェブサイトの URLを番組概要に加える、 といった展開もあった。細部を見落とさずに調べ、有用なデータを加えて蓄積していく態度は、前半の 2 パートを通じて会得したものであり、確実な教育効果といえるたろう。 その他、授業運営上の問題として、グループによる作業進渉のばらつきに留意する必要がある。全員がほぼ同時に終われば残り時間を使って作品の視聴などもできるが、実際には難しく、早く終わった者はレポー 卜執筆にあてるなどして調整している。 ## 4. 効果と今後の課題 \\ 4.1 教育の効果 2 回を実施した限りにおいて、本授業での脱落者はなく、受講者はおおむね熱心に取り組んでいる。理由を尋ねると、実習型の授業で、自由に PCが使える環境が学生に合っていることや、自分たちの作成したデータが放送ライブラリーで公開されることへの責任感、緊張感を挙げる受講者が目立った。授業を通して考えたこととして、期末レポートの中から主な論点を項目に分けて記しておきたい。 【過去のビジュアル資料への関心】 ・全員で検討することで多角的な視点が得られた ・繰り返し見ることによる新たな発見があった ・ 1 シーンから読み取れる情報の多さに気づいた $\cdot$構成および画質、音質、編集など技術面での相違点 ・過去の問題意識を未来の位置から検証できる 【デジタルアーカイブの現状について】 ・必要な資料の入手が意外に難しい ・分野によってアーカイブの現状に大きな差がある ・情報源が明確なアーカイブが必要 【メタデータ作成作業】 $\cdot$関わる人の多さ、クレジット・権利関係の複雑さから、様々な要素で番組が構成されていることを理解した $\cdot$ 場所やその歴史を特定することで、何となくそのシーンを使っているのではなく意味があることを知った ・ナレーションにどのような画があてられているのか、シーンの切り替えなど、普段のテレビ番組を見ていても意識するようになった ・著作権処理のプロセス、プライバシーや個人情報保護に関心をもつようになった 【アーカイブの意義と理解】 ・他の授業を通してコンテンツを「つくる人」になったことはあるが、過去の資料を正しく「のこす人」になることの意味と面白さを知った ・メタデータの採取と管理は地道で神経を使う仕事であるが欠かせない ・番組の公開にあたっては、新たに情報を調べなおすこと、番組全体のメッセージを読み取ること、 利用者が求めている情報、検索ワードを考えることが必要 ・アーカイブは事件・災害報道における過去の類例、時代の世相や文化の理解に役立つ。インターネットによって過去と現在をつなげることができる ## 4.2 課題と展望 以上のように、この授業においては概ね当初のねらいどおりの効果をあげることができている。今後の課題としては、(1)体験的理解のプロセスをさらにブラッシュアップして人数や回数を増やすこと、(2)学内アー カイブなど他の資料体の対象化、(3)より高度な学習スタイルの開発、が考えられよう。デジタルアーキビス卜的な思考は、どのような進路においても確実に求められる資質であり、より広範囲の教育研究に組み达んでいきたい。 なお、本論文の内容の一部は Sophia Open Research Weeks 2017 で口頭発表している ${ }^{[3]}$ 。 (註・参考文献) [1] Yoshimi, Shunya. Visualizing Postwar Tokyo Part1. UTokyoX. 2014. https://www.edx.org/ [accessed 2014-11-04]. 受講期間が過ぎているため、当該期間に受講登録していない限り視聴はできない。 [2] 東京アルバム/都政記録写真ギャラリー オリンピックと東京〜あの日 http://www.koho.metro.tokyo.jp/PHOTO/contents/t3/1900/ ol.html [accessed 2018-03-05]. [3]「知る、使う、つくる一テレビ番組のメタデータ作成授業による実践的理解」公開セミナー『大学における映像アー カイブ活用と新たな展開(Sophia Open Research Weeks 2017, 2017年11月17日, 上智大学, 予稿集なし)。
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Japan Society for Digital Archive
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# パネルディスカッション 「これか らどう取り組めばいいのか」 2017年12月5日 第1回公開シンポジウム (小学館本社)「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の 新たな課題解決にむけて」 [パネリスト $]$ 太下義之 三菱 UFJリサーチ\&コンサルティング芸術・文化政策センター長 瀬尾太一 日本写真著作権協会常務理事 福井健策 骨董通り法律事務所パートナー并護士:司会山川道子プロダクション・アイジー アーカイブグ ループリーダー ○パネラー紹介と各発表の総括 福井:まず、パネルに出演の皆様から、本日のそれぞ れのプレゼンを聞いて、概括的なコメントを 3 分ずつ いただいて、話のスタートとしたいと思います。最初 は、文化政策の第一人者であり、日本に 3 人しかない 独立行政法人国立美術館の理事ということで、太下義之さんです。 太下:本業は、民間の総合シンクタンクで文化政策を 研究しています。また、2017 年 4 月から国立美術館 の理事も拝命しております。事例報告の中で、映像 フィルム全体の話として、所有権が大きな壁となって、寄贈を阻んでいるという話がありました。一方で、国立のフィルムセンターは実は汲々となっている状態で す。せっかくフィルムをご寄贈いただいても、実際に 作業に取りかかるのに、 1 年か 2 年経ってしまうとい うのが実態です。なぜかというと、法制度の以前の問題として、国の予算や国民の理解の問題があるからで す。すなわち、国民全般がアーカイブや文化資産を未来継承していくことに理解があ枕、それに関連する 予算も増えることになります。そして、フィルムセン ターに関わる記録・保存のための人材の人件費を含 め、体制が充実し、この分野の事業が進んでいくこと になります。というわけで、国民の理解をすすめるた めにも、デジタルアーカイブに関する法整備を揭げて、 これが非常に大きな問題であると示していくことは極 めて重要だと考えています。後で時間があれば、教育 の問題についても話をさせていただきます。 福井:続いて、プロダクションアイジーのアーカイブ グループリーダーの山川道子さんに概括コメントをい ただきたいと思います。日本のアニメ会社で珍しい、 アーカイブ専任者・リーダーというお㧊事に就かれて います。 山川:そもそもアニメーションは何かというと、マン ガでもゲームでもなく、連続して動かす映像です。そ の映像を、フィルムに焼きつけて保存する場合もあれ ば、デジタルデータで保存しているものもあります。物とデータの両方があります。所有権の問題としては、 そのマスターを誰が所有しているのか、という問題が あります。著作権の問題としては、製作委員会という 複数の会社が合同でチームつくって映像に出資するた め、著作権者が大量に発生する事態が起こっています。普通に映像を使うだけでも、使いづらい状況が起きて います。私は、会社の資料を保管して、会社のスタッ フたちに使ってもらうことが仕事のメインです。さら に、スタッフの向こう側には、皆様のような、雑誌で 見る方、テレビで見る方、そういう一般のユーザーが いらっしゃるわけです。会社の中のアーカイブだけで はなくて、今後使う人たちが使いやすいような準備を する必要があるわけです。所有権や著作権など、複数 の理由で使えない問題は、アニメ分野も他と同じよう に抱えています。今回のシンポジウムでは、権利者で ありますけれどもユーザーに対して一番近い権利者と して、何か扮役に立てればいいかなと思っています。福井:次に、日本写真著作権協会常務理事であり、権利者側での議論を先導されている瀬尾太一さんから、概括コメントをいただきたいと思います。 瀬尾:写真分野でこのような問題に興味ある方という のはたくさんいて、実は私たちはかなり積極的に取り 組んでいます。例えば疑似著作権の解消については、奈良・京都のお寺さんに何年も通いました。本当にご 挨拶だけで寄り、お土産一つを渡して、茶飲み話をし て、10 分ぐらいで帰るとか。その結果、東大寺さんは、 いま、教育に関する利用の許可は、写真著作権協会に 任せてくれています。他に孤览著作物やビネガーシン ドロームという言葉は、今の写真界では旬な話題です。写真家って死ぬと、遺族はフィルムなんて全然興味な くて、茶箱にいれられて、だいたい腐ってパリパリに なっています。これをなんとかとっておこうと、日本写真保存センターを立ち上げました。写真は、テクノ ロジーの進歩によって、その時代の影響を受けている。 それに対して、われわれもいろいろな対応をしてきま した。データベースをつくり、著作権 IDを振りまし た。そして今、AIの時代の入り口にいます。写真家 の仕事はどうなるのかとか、どう表現するのか、非常 に真剣に時代に立ち向かっている状態にある。社会の 中で期待されるような写真家像や、写真というジャン ルを目指さなければいけない。アーカイブは、AIが 実現する時代の絶対の基礎です。デジタルアーカイブ 社会を実現するためには、写真分野も尽力していきた いと思っています。 福井:本日は、短い時間の中で充実したご発表をいた だいております。最初に総括的なお話がありました。所有者の著作権に類似する権利について現場からのレ ポート。記録映画の散逸や腐食から救おうとする活動 や、フィルムの所有者探し。震災アーカイブにおける 肖像権という難しい問題もありました。私からは、所有者不明問題、疑似著作権、肖像権について、現状と 解決策を自分なりに提示しました。文化庁長官の裁定制度の改善についての取り組みの発表もありました。 これを踏まえて、次のような話をできればよいと 思っています。最初は、所有権です。こう悩んだとい う話をしたい。二番目は、肖像権の悩みとか実態の話 について。三番目は、今日の本丸で、解決策について。 みんなで思い切った提案をしてみようじゃないか。太下さんには、権利問題以外の課題についても伝えてい ただければ。最後に会場の質疑応答と思っています。 まずは、所有者との権利の調整問題について。はい、山川さん。 疑似著作権としての所有権 山川:アイジーは、下請けの会社として長らくアニメ をつくってきたので、実は作品のほとんどの権利を 持っていないのです。過去の事例ですがクライアント の方で、マスターテープを紛失しているとか保管場所 が分からないことがました。しかし、アイジーアーカ イブにはマスターテープが残っておりました。著作権的な収入が得られる話ではないのですけども、手数料 を払うので貸出して欲しいと言われました。私の人件費を請求して、原本をお貸し出ししました。その原本 は戻ってきますので、いまはまたアイジーアーカイブ が保管をしています。「さすがアイジーのアーカイブ だね」って言ってもらえることがアーカイブの存続理由になっていきます。権利がなくても所有しているこ とに価値が出てきています。 瀬尾: 所有権に関しては、私が思っていることは二つ あって、一つは持っている人が、所有権をどこまで拡張しているかという話と、もう一つは所有者がわから ない場合。後者について思うのは、著作権という権利 があるから使えないわけでしょう。権利者も、利用者 も、世の中の誰も損害を受けないけれども、権利があ るから使えないという事例がいっぱいあるわけです よ。これを解決していかないとアーカイブは成り立た ない。いまはコンプライアンスっていっているけど、逆にみんなが尻込みしてしまう。ガイドラインや社会的コンセンサスなど、法律じゃない部分で、使っても いいよっていう機運を醸成していく。訴えられたら訴 えられた方が、みんなで協力して何とかやると。判決 で本当にだめだっていわれたらだめになるし、OKに なれば広がる。ちょっとアメリカチックな感じで、私 はそういう方向を奨励したくないけれど、制度のため にできないことが多すぎる社会は、たぶん発展しなく なる。 福井: 著作権についてはガイドラインっぽいものとか 基本書とかけっこうあるけども、例えば写真について の所有権のガイドラインなどは存在しないでしょう。瀬尾: 写真が公表されることによって、所有している 価値が減じたり変容したりする場合はあります。前提 として、契約でそれぞれの写真は縛られているはず。契約によって従えばいい。契約がない場合は、著作権 と所有権というのは、全く別。お寺さんの場合は対話 が重要。文化財を現在まで保存をして、かつ我々が表現の対象と思っているけど、実は信仰の対象でもある。対話をして敬意の対象としてお支払いするべき。所有 しているから、払っているということでない。 瀬尾:お寺さんを京都で無視して、公表した例があっ て、一週間か二週間で京都全ての社寺に出入り禁止に なりました。二週間で全部がその件を知っていて、あ んたはうちのもの一切撮らせないし、敷地内で撮影す ることはまかりなりませんとなった。 福井:立ち入り禁止について、并護士の仕事をしてい ると、出版社やテレビ局の方はよくいわれます。うち の会社は大きいから、ここで踏み切ったとして、ほか の今後のプロジェクトがどう影響を受けるだ万う。新 たな立ち入りを断られるかもしれない。まさに江戸の 敵を京都でとられてしまうかもしれないから、言うこ とをきくというのですね。 瀬尾:お寺さんの写真使うときは絶対にお寺さんに聞 きますよ。それはお寺さんとの信頼関係だから。だか ら撮らせてもらえるわけ。こいつはちゃんとするから 撮らせようとか。それを裏切るというのは、いわゆる契約ではないにしてもね。我々は被写体となる物とか 人との信頼関係で写真が撮れている。他の所有権と社寺仏閣は全く別。 福井:相手の思いとか現場のシステムに配慮しなけれ ばいけないというのは一方では上くわかる。一方では、 たとえは悪いですが総会屋に金を払っていた頃の日本企業の言い分を聞いているような気もしないではな い。みんながそれをやっている間は仕方がないと思っ ているけれど、みんなが扔かしいねっていいだすと考 えてみたら扔かしいね、っていう話のように聞こえな くてもない。 太下:お寺と神社をめぐる法律に文化財保護法があ り、来年度の改正に向けて準備をしているところです。改正の大きなポイントは、文化財というものは保全が 当然大事ですけれども、保全するだけでなくてより活用していこうという点です。この動きの仕掛け人は、 デービッド・アトキンソンさんです。日本にはたく さんお宝があります、たた国の財政はこれから厳しく なるし、檀家だって減っていくから、お寺さんに余裕 がなくなってきて、これを支えていくためには、打寺 の持っているお宝をちゃんと活用して経済的な循環を 新たに作っていかないと保全できないのではないです か、というのが彼の主張です。確かに社寺仏閣の宝を もうちょっと利活用していく方向に持っていかない と、保全も大変ではないかと思っています。そういう 考え方をべースにした文化財保護法の改正が、今、文化庁のワーキングチームで進められています。その ワーキングの検討の中で、デジタルアーカイブという 論点も揭げられています。 瀬尾:この問題は解決策が見えていない。どんな法律 を作ってもあんまり意味ないし、お寺は聞かない。一番いいのは、ある地域のお寺さん同士のコミュニケー ションがあって、京都だったら京都の打寺さんの集ま りがあって、非常に強力です。文化庁に音頭を取って もらって、そういうところを全国的に集める。こうい う場合には共通でこういうふうにして使うっていう ルールを決めたのを公にして、決めていくことをすれ ば、右へならえで従います。私はそれしかないと思う。 ○不明所有権 福井:所有者との調整、山川さんの方ではいかがで しょうか。 山川:アニメを作っていく中で、キャラクターデザイ ンというのがあります。そのキャラクターを使ってた くさんの人たちで絵を描きます。そのキャラクターデ ザインの原紙をデザイナー本人にお戻しする場合があ ります。展示会で原紙を使いたいとなると、持ち主の 方に措りして、展示をするわけです。そうなるとた だで貸すのかという話になります。いままでは、長年 の関係があるので、無料で貸出していただている場合が多いです。一方で、 30 年前のデザインを誰が書 いたのかは記録が残っていないケースもあり、わから ないものがあります。そうすると、結局使えないとい う問題があります。 福井: 不明所有権者に移していただいてちょうど良 かったと思います。どの現場にもある問題だと思いま す。他に、持ち主が見つからない苦労というのはどう ですか。 山川:スタジオを整理していると、何か発掘されるも のですけれども。アイジー新潟というスタジオでは、 フィルムが出てきました。ビネガーシンドロームが起 きた状態の、たぶんテレビアニメと思われる 16 ミリの フィルムです。タイトルを検索しても出てきません。何のためにつくられて、なぜアイジーに残っているの かわかりません。どうやって調べたらいいのだろう、 これからやらなくてはいけない問題だと思っています。福井:関係者や著名な作家の方が亡くなったという と、ご遺族を訪れて捨てないでみたいな。 山川:そういう活動している団体もありまして、アニ メ業界の資料を保管しようと活動されています。ただ、 アイジーはあくまでアイジーに関わったものを収集す るということが前提にありまして、お声掛けいただけ ればお預かりしますけれども、その個人の自宅までと いうとこは難しい段階ですね。 福井:瀬尾さん、写真は所有者不明で困るってことは あまりないのでしょうか。すでに手元にきている写真 も含めて。 頼尾: 所有者が分かんないっていうのはいっぱいあり ますけれど、著作権が分かんないっていう方が厄介で すね。 福井: 所有権は、記録映画のように、アーカイブが引き とってくれない時の問題が大きいわけですね。写真の保存センターの場合は、引きとっているから、所有者不明 の問題はある程度解消されているのですよね。著作権者がはっきりしているときは、なんとなく素材の所有権 の問題がそこに吸収されがちで、著作権者がいいって いっているからいいだううというのはありますよね。 ## 肖像権 福井:まだまだ所有権も奥深いのですけれども、肖像権にいってみたいと思います。肖像権でのご苦労はどうでしょうか。瀬尾:個人情報保護法を過度に意識したころは、写真家が街を撮った作品に、人っ子一人誰もいなかった。私が考えていることをいうと、肖像というのはコミュニケーションだと思っている。人の顔はコミュニケー ションの源泉だと思っています。顔のその財産的権利を言う前に、顔とはアイコンでありコミュニケーションの源泉であるから、そこに立ち止まることで、この権利意識で凝り方まっちゃったいわゆる肖像権問題を引き戻って解決する手段があるじゃないかな。 福井:なるほどね、権利対象である前に君は人間だろうと。 瀬尾:あとはコミュニケーション。顔を見る、顔を見ないコミュニケーションはまた違いますよね。アイコンを写せないとか使えないのは、その社会がコミュニケーション不全に陥る。その前兆になる。いまの個人情報保護法と、それの利活用の中で問題が起きているのは、実は利用を妨げているだけじゃなくて、社会がコミユニケーション不全に陥ってきていることが最大の問題なので、そっちからほぐしていくと利用についてはもっと取り組みやすいというのがある。 福井: 写真家の方って、肖像権と戦う姿勢のようなものが目立っている気もします。例えば丹野章さんのご本だったかな、「目に見えるものは撮ってもいいはずた」というご趣旨のものを読んだ記憶があります。この間、アサヒカメラで、私もインタビュー受けたのですけど、確か「肖像権アレルギーをぶっとばせ」的な特集を組んでいた。 瀬尾:写真家がこの問題を解決するときに、ともかく撮る、発表する時に考える。そうしないと時代の記録がなくなっちゃう。ただし、撮るときにもコミュニケー ションが不足していたら、単純に不快感を与えるとか、報道目的以外で暴いていくようなことについては、非常に慎重にならなけれげいけないけれど、私なんかは通常の町とか人が写っていても普通に撮ります。 福井:ダークアーカイブ的な考え方ですね。了承をと れなくても、これはいいだろうというものは公表しますか。ゲッティイメージズは、すべての被写体の人物に了承とることがガイドラインに載っています。瀬尾:了承なんて関係ない。街で撮っていて、全員に了承って、いちいちすみませんなんていって撮らないですよね。そのガイドラインは、単純に顔を売り物たと思っているから。売り物なのに買ってもいないのに、人の顔を使うのは無断で人の財産を使っているっていう考えに基づいていっている。パブリシティ権はその通りだけど、一般的な場合には私は違う方を持っている。 瀬尾 : 文化政策の観点からすると、こういう議論をする中で、アーティストによる自主規制になってしまうと残念だなと、表現が委縮しちゃうわけですからね。 それは文化の振興と文化の発展のという意味ではすごいマイナスですよね。 福井:肖像権ってちょっと拡張・強調されすぎているなっていう印象はお持ちですか。 太下:そうですね。 福井:会場にも伺ってみましょうかね。現在、肖像権というのはちょっと強調されすぎているんじゃないか、印象をお持ちの方ってどれぐらいいますかね。約 200 名ですね。肖像権は全般的にいうと、むしろまたまだ無視されている、もうちょっとちゃんと尊重された方がいという印象の方はどのくらいいますか。(挙手をしてもらう)やっぱり強調されすぎって意見が圧倒的に多いような感じですね。 瀬尾:強調されすぎっていうよりかは、個人情報保護法と肖像とかプライバシーの権利というのが、いびつなかたちでなんか急に導入されちゃった印象が私にはある。通常の利用の中で、例えば人が写っていたら、 これは肖像権の侵害に当たる可能性があるとか、まずそう考えてしまう社会の風潮が嫌ですね。 福井:ある意味でフィットしていないと。もう一つ、 その基準が分かりづらい。肖像権はいま基準の分かりにくさが群を抜いているなと思いますね。山川さん、肖像権とアイジーって関係はどうですか。 山川:メイキングビデオとか作りますと、当時いたスタッフたちや、座席や私物とか全部映り込みます。われわれ権利者としては、作品をどうみせるかの方が重要で、もちろんそこにいる人たちには、今日カメラが入りますよという話をしています。それはそのとき DVD で発売したその時たけの許可です。後でブルー レイを出すという時にもメイキングを入れたりするので、本来は各個人に確認を取る必要があります。アニ义業界の情報の少なさで、そのスタッフがいまどこに いるかが分からないということが多く、発売してから問い合わせがあれば、その時にご説明しようという状態です。 福井:肖像権の問題として、誰に聞いたらいいかわからない。肖像権者の包括団体はありませんよね。著作権の権利者団体は、ときどき間違ったこともいいますよね、保護期間を伸ばそうとか。それでも、権利者団体がいることで進む話もあるじゃないですか。ところが、肖像権はそれがない。どこへ持っていけばいいのか。私さっきガイドラインの話をしたけれど、でも肖像権を代表する団体なんてないよな、と思っていました。 ## 解決策 福井:そろそろ解決策の話に行きますか。所有者不明とか所有者による過剰な主張、いや過剰でなくてもっともな主張もあるかもしれない、この問題。それから肖像権。これも基準がよくわからないとか、肖像権を持っている人がどこにいるかわからないとか。つまるところは、あいまいさにかなり集約される問題だなっていう気もします。この著作権以上にやっかいな肖像権や所有権を、たとえばオーファン問題とか権利処理全体の問題をどう解決していきましょうか。 瀬尾:肖像権はさっき言ったようにコミュニケーションだから、通常社会生活をしていているべきところにいるとか、通常の状態であれば、それについては肖像権の主張があるというのは一般的に考えてありえないとあると思う。コミュニケーション以上に何らかのものを暴いていくこと、そこに境はあって、ガイドラインとか何らかのものを、できるだけ大きい枠組みで作っていくべきだと思う。例えばデジタルアーカイブとか肖像権やっている肖像権パブリシティ機構とかもある。そこでガイドラインを公表して、使ってもいいという風潮を出す。そして、肖像権とか所有権とか著作権トラブルに対して、ぜんぶ保険を作ってもらってはどうか。自分がいいと思って使ったけど、アウトになった場合に、保険金が払われる。ガイドラインと保険を組み合わせるスキームでかなり回避できるというのが私の解決策。 福井:ガイドラインは一気に解決するための公的なものというよりは、まずは考え方を打ち出していって、 カルチャーを作っていこうと。ハードルを低くしてもいいじゃないか。ある意味、相方の肖像権者団体はなくていいじゃないか。どこかがつくって吅台として発表する。そういうことでちょっとずつ議論を柔らかくして行けばいいじゃないか。こんな風に聞こえて、 これはとってもいいなあと。実をいうと、デジタルアー カイブ学会で皆さんと一緒にやっている法制度部会でも、考えなきゃなという議論が出ているくらいです。 もう一つは保険ですね。実はそういう保険の種類はあります。欧米では、E\&O(エラーズ・アンド・オミッション)保険といいます。これは権利侵害をカバーするための保険。高くて、受けてくれない部分とかがどうしても出てきます。やっぱりやっかいだからリスクの大きさが計りにくい。でも確かに存在する。山川:むしろ使ってもらって構わないという人をどう表明してもらうかも気になります。私は Facebook に顔写真をアップしています。フリーで見られるものなので、あれをどこで使われようが構わないと思っています。そういう構わないっていう人たちの声を登録できる場所があった方がいいと思います。 あと、たぶん理解者を増やさないといけないから、勉強してもらう必要がありますが、それは大学や高校では遅いと思います。そうすると、中学でスマホをもって写真が撮れる、いま小学生がゲーム機で写真を撮れますので、そういうものに触れる段階から、権利の話を簡単なわかりやすい言葉で教えるって事に入れていかないと。 福井:これはね、非常に面白い指摘がでたなと思います。いわゆる意思表示システムっていうものですね。 ちょうど会場には、クリエイティブコモンズのフェローの生貝直人さんがいらっしゃっていたはずだから、あとでご発言いただけたらいいなと思うのだけれども、私は聞いていて、肖像権クリエイティブコモンズというものが生まれればいいなと思った。肖像権のクリエイティブコモンズね。私のこの顔写真は、例えば CC-NCですよ、要するに非営利だったら使っていいですよ、そういう意思表示とかあってもいいなと思いましたね。そうすることですぐ解決になるというより、瀬尾さんのお話と似ていて、使わせるという文化が生まれているのかな。もう一つは教育の話ですね。初等中等教育から、肖像権の教育、あるいは著作権の教育を始めて、大学でもう少し深堀したところを教えることになるかなと。 ## 教育と権利以外の課題 太下:小さいときからの教育が、すごく大事だと思います。イギリスの NPO でファーストライトっていう組織があり、子供たちを対象とした映像リテラシー教育を担っています。その活動は、子供たちに一度クリエーターとなる経験してもらうというものです。権利者になれば、権利をどう考えたらいいのか、ということがリアルにわかるわけです。たとえば、中東の紛争 を撮った映像があったとしても、アルジャジーラと CNNではそれぞれの表現は絶対に違ってきます。それは、それぞれの映像に作り手の意図が迄妨訳ているからです。子供たちも、一度作る側になれば、そこに必ず作り手の意図が达められていることがわかります。映像があふれている時代ですから、小さい頃からコンテンツ・リテラシーを学んでおかないと、むしろ危険でもあると思います。 瀬尾:教育に関していうと、著作権法の教育に関する部分が改正されるかもしれないと予定されています。私が権利者側の立場でお話ししたことは、教員免許更新のときに、著作権の単位を必修にする。子供たちに教える前に先生に分かってないといけないから。 もう一つはやっぱり、AIの時代に今までの教育方法だと、AIに代替されてしまう仕事っていっぱいあるわけですよね。大きな部分で現在の 5 歳ぐらいの子供が大学出るころにシンギュラリティがくるかもしれない。その時に社会が変わっている。人は何をすべきで何を考えるかっていうときに、AIにできなさそうなところ、人間がやんなきゃいけないところに、絞っていくことが必要で、そのために、例えばさっき言った肖像権みたいな権利がコミュニケーションの邪魔しているかもしれない。 福井:今まで触れてないところで、肖像権版や所有権版の裁定制度を作るのはどうでしょう、という話に関してはいかがでしょうか。 瀬尾:簡単にいってしまうと。誰がやるかが難しいから、正直いって。主体が難しい。決めている間に事態が進行しちゃう気がする。あまり肯定的じゃない。 山川:結局、アーカイブができてないから、どこにあるかわからなくて受け皿がありません。ジャパンサー チに大変期待しているのは、持っている方のあぶりだしというか、報告する窓口もはっきりすれば、それが正しいかどうかを調べにいくことも簡単になると思います。そのアーカイブって何があるのかを調査して、目録を作って、そのリストを基にして、次どうするか。使う方たちに委ねてしまうことが大事かなと思います。福井:まずいきなり裁定制度とかという前に、アーカイブの一環としては当然メタデー夕、権利情報のデー タベースがなきゃいけなくて、それ自体が、単に著作権だけじゃなくて、所有権や肖像権のメタデータ。 データベースになっているというご指摘ですね。 山川:データベースを作るときに、これからいろんな業界にお願いがいくと思いますが、なんのためにやるの、自分の利益があるのという話に絶対になります。結局、それは持っているものの価値を上げることでも あるし、所有権の問題をクリアにすることや、いろんな問題をクリアにすることが重要です。今は議論がおこなわれるときに集まる人が、ちょっと少ない気がします。みんなに関わることだけれども、当事者意識が薄い。自分のことたと思って聞いてみると、自分に利益があるとわかってくるのではないでしょうか。そこの啓蒙活動も大事かなと思います。 福井:アーカイブされれば、権利が不明にならずに、 その後活用できるという視点ですよね。全くおっしゃる通りだと思います。太下さん、権利問題以外のアー カイブの課題などもしよかったらお話をいただければ。太下:アーカイブは社会にとってすごく役に立つということをきちんと見せていかないと、デジタルアーカイブへの取り組みが大きな流れになってはいかないと思います。デジタル・アーカイブと社会・経済との接続が必要です。ここで、仮にミュージアムのアーカイブを作ると考えます。そこに営利ビジネスが参入することも考えられます。、例えば海外から若冲を愛好するビジネスパーソンが東京にきたときに、アーカイブで若冲を検索します。いまどこの美術館で若冲が見られるかという情報がわかったら、必ず行きますよね。 あわせて、周辺の飲食店舗の情報とか出てきたら。さらに有益です。このサービスの延長線で時間指定のチケットも売ったらいいと思います。この例のように、 アーカイブあってってよかったねというところを、民間ビジネスと接続して見せていくことがこれからの課題だと思います。 次は中期的な課題です。2012 年の段階で、Google が YouTube から猫の画像を認識したという記事がありました。この記事の凄いところは、猫の画像を探してよと依頼したわけではなく、AIが「これが猫ですね」、 ているということです。 また、TSUTAYA の音楽のジャンルとビデオ部門の分野の比較をご覧ください。音楽のジャンルと映像のジャンルというものは、根本的に哲学が違うということに気づかれた方がいるかもしれません。音楽のジヤンルは、例えば、へビメ夕、レゲエ、スカなど、音楽表現そのもののジャンル分けです。映像のジャンルはどうでしょう。アクション、ラブストーリー、文芸。 これはストーリーによるジャンル分けです。なぜジャンル分けの考え方が違うのでしょうか。おそらく音楽と人類はずっと長い間付き合ってきたので、われわれは音楽リテラシーが相当に高いのです。だから分野の違いが把握できるわけです。だけど、映像との付き合いは、実は 100 年ちょっとで、人類はまだ映像リテラ シーはそれほど高くないのでしょう。映像はその前の形態である戯曲ないしは文学と同じようなストーリー による分野でしかまだ把握できてないのです。言い換えると、映像表現そのものでわれわれ映像を認識していない。だけど、きっと AI は映像表現そのもので、 ジャンルを分けることできます。デジタルネイテイブで小さいころから映像をずっと見ている子供たちも、 $\mathrm{AI}$ の分類をなるほどね、とわかるかもしれない。こうした変化が中期的には起こっていきます。 最後に長期的な課題は、別の角度からの法的な問題かもしれません。デジタルアーカイブが完璧にできてきたときに、ここに表現の自由と規制の問題がでてくるのです。いずれ、AIによって、もはや我々のうかがい知れないところで、勝手に表現が規制されてしまうとになります。この線引きをだれがどう判断していくのか。今から考えとかないと、非常に危険な問題がある。これは単にポルノとか、そういう表現上の問題だけでなく、思想上の問題も含みます。誰かが線引きしていかないと、ある種の新しい表現は、世の中に存在しなくなっちゃうかもしれません。 福井:短いパネルですけども、ずいぶん多くことをお話しいただきました。ガイドライン。あるいは、保険。権利侵害保険を作ることで社会の空気を変えていこう。同じことは意思表示も。クリエイティブコモンズみたいな意思表示をすることで社会の空気を変えていこう。皆さんが共通でおっしゃった教育ですね。様々な視点からの教育の充実。権利情報のデータベース。 アーカイブそのものが権利情報のデータベースであり。それが孤坚問題の解決になる。 それでは、会場からの質疑応答に移りたいと思います。 ## 質疑応答 A:元公務員です。今日の各権利の話について逆のことを考えると、所有権は所有しちゃいけないものとかってあるわけですよね、人を所有しちゃいけないとか、犯罪にかかわるものを所有してはいけないとか。 著作権、著作してはいけないものとかっていうと検閲になっちゃうけど、やっぱり両面ある。まして、肖像権は、逆の面からも考えて、むし万肖像を出せる権利がわれわれあるといった方面からもそれぞれの権利を考えてみる必要があると思います。 生貝:デジタルアーカイブ学会の理事を務めている生貝と申します。肖像権処理の文脈で、プライバシーや個人情報に関して、クリエイティブコモンズのような定型的意思表示を用いるアイディアについてのお話がありましたが、そのような仕組みを用いた場合、自分の情報がこれから先にどのように使われるか分からなくなるという問題があります。 一度個人に関わる情報がインターネットに公開されると、無限に流通し、悪用されるなどの恐れもある。 アーカイブの側が過度に萎縮するべきではないですけれども、公開に際しては真剣に考えなければないといけない場合がある。 制度的施策としては、例えば著作権法 31 条の適用を受けるためには司書の資格を持った人が必要で、つまり著作権に関してある程度の教育を受け、適切な判断ができる人を置きましょうとなっています。 デジタルアーキビストは、プライバシー、肖像権、個人情報についても、適切に判断できる人が担う、といったような制度設計をすることが一つの筋なのかなと、思ったところです。 B:大学文書館に所属しています。デジタルアーカイブ構築や地域文化資源のデジタルアーカイブの仕事をしています。今日、教育であるとか制度の構築であるとか、課題とされていましたが、もうひとつ研究も含まれると思います。私のいる文書館は、教授会の議事録を所蔵していますが、情報公開法の前後で密度が変わります。法制度や技術的なアーキテクチャとか、そういうふうなものによって、私たちは確実に情報を保存する戦略を変えています。少しメタな視点から考えていくことをしたいと思いつつ、私はできていません。 ぜひ同じような志を持っている万がいらっしゃいましたら、一緒にやっていきたいなと思います。 C:出版社の編集をしています。著作権以外の話では、地図の測量法の話が今日はぜんぜん出ていなかったけれど、それはあるかなと。公文書とか国有財産は、話が別にして、ある程度権利制限して公開して使用を自由化するみたいな方向は考えられるのではと。肖像権については、少なくともセルフポートレートについては、例えば CC と組み合わせる形で、流通させる本人意思があればいいやっていうふうなかたちである程度対応できる。Wikipediaではそういう風な感じで運用されてきたと思います。後から何とかするというのは、 いわゆるプライバシー的な肖像権については一回出たら終わりみたいなところはある程度あるので、そこはちょっと慎重しないといけないと思いました。ひとつ質問です。この写真を自由に使えるようにするために、事前に許諾をちゃんと得る時に、著作権の譲渡みたいなかたちにすると、そこのギャラの関係がいきなりはねあがるとも思います。例えば職務著作物扱いになるとか、なんとなく話はついているという状況は、特に写真とかってよくあると思います。実例があったら、写真とアニメとその他、教えていただけると嬉しいなと思います。 山川:そういう事例はアニメでは聞いたことがないですね。一度世に出たら権利行使は難しいのではないかという論点については、YouTube に自社の画像を事前に渡しておくと、その映像とおなじものは先方が削除してくれるという仕組みがあります。将来的に、このデータは今後一切使わないでくれというふうに登録すると、AIが勝手に消してくれる時代が来ると思います。逆にいうとそこまで来ないと、一回出してしまったら、もうどこまでも広がってしまうという時代の中では、後から削除するのは非常に難しいと思います。瀬尾:実務で話しますと、著作権を譲渡するのではなくて、独占的にかつ一定期間の使用権を与える、人格権についても一定のところを明記する、そういう契約をすることによって、実質上使えようになると思います。 D:大学教員です。例えば Googleがアーカイブしたもの、つまり、僕が、場所と時間と僕とっていうのが紐づけられたデータ、世界中のそういうデータをビジネスにされていいのかっていう問題もあるし、時にはそれを公安が利用していいのかっていう問題に対して、肖像権はどんどんオープンにしようっていう方向たけでは、やはりその懸念がでるのではないかなと思っています。 福井:当然ながら、そのバランスを測ったようなガイドラインでなければいけないはずですものね。これぜひ、また会を改めてやりたいなあというふうに思いますね。 E:アートドキュメンテーション学会のデジタルアー カイブサロンの者です。インスタグラムとかユー チューブの話があまり出てこなかった。それらに写真がごまんとある、ビデオがごまんとあるという状態で、 これからの世の中がどんなふうに変わるのかな、なんか影響するのか。ご意見とかがありましたら。 福井:これは本当に語るべき問題ですよね。われわれは国の法律のあり方や、民間がどういうふうに対処していくかっていう話をしてきたのだけど、一つしなかったのは、国の法律に代替するものとしてのプラットフォーム上のルールについてです。例えばインスタグラムあるいはユーチューブは、もち万ん著作権とか肖像権にも配慮しつつも、いちばん大きいのは彼らの利用規約であり彼らのプロトコルです。それが嫌だったら最初からアカウント作れないし、コンテンツをアップできません。しかし、ある意味問題の解決はぐっとシンプルになっているともいえるわけです。例えば、自動判別で分けていますよ、引っかかったものは全部削除されますというふうに。ひょっとすると我々の触れるべき表現というものが事前にフィルタリングされちゃう社会につながる考え方かもしれないし、今日ここで話してきたような立法ルールに代替するルールメーカーは、出現しつつある、というかもう出現したのかもしれない。とても大きな話たと思いました。 F:日本アーカイブズ学会の登録アーキビストです。個人所有とか社寺の情報を公開することが、盗難等のリスクにつながる恐れがあるということは、あわせてご検討いただきたいところでございます。もう一つは、価値が定まる前の文書や本を保存することについてです。企業のアーカイブズでは、とっておいて課税されるのではないかという恐れがあったりすると残せないことにもなります。税金で安全な施設の中に物のデジタルアーカイブと、それ以外の物は少し意識を変えながら、議論する必要があるのではないかと思いました。 福井:ありがとうございました。さて、クロージングコメントの時間は残しておりませんので、これで終了といたします。現在の状況の整理、さまざまな権利問題を中心とした、解決の方策を議論してきました。い万い万なことがまさに実行フェイズに移っているのかなということを感じさせる、シンポジウムになっていたかと思います。本日は大変長い時間、どうもありがとうございました。
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# シンポジウム「著作権だけではない!」 ## オーファンワークス処理の現在 2017年12月5日第1回公開シンポジウム (小学館本社) 「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の 新たな課題解決にむけて」講演 2015 年に権利者団体があつまってオーファンワー クス勉強会を立ち上げ、著作物の流通を促進するための実証事業を開始した。第一回実証事業(2016/10~ 2017/3)では裁定制度が使いにくいとの声が多いので、 この改善方策を検討した。対象分野は、文藝、脚本、写真、美術、グラフイックデザイン、漫画、音楽、などであり、JASRAC も参加している。具体的には権利者団体が権利者探索を支援する。 第二回実証事業(2017/9~2018/3)では、権利者団体の負荷を軽減し、継続的な処理が可能になり、実用化できるような改善を提案したい。 裁定制度については、これまではどうしても使いた い人が最後の手段として使うという考え方であったが、著作者不明著作物の利用についての社会的ニーズが高まっているので、今後は「まず利用を促進し」、一方、「権利者が発見された場合に支払いが行える」 ような制度が望まれている。これについて権利者主導でハードルを設計することにより、非常識な利用を防ぐことができる。 法制度の改革は効果があるが時間がかかる。個別契約ではなんでもできるが、面倒である。この中間に集中処理や拡張裁定制度があると考えている。 著作権保護期間を 70 年と仮定すると、 70 年後には相続者は 100 人近くとなり、これら全員から許諾をとるのは不可能に近い。また、ほとんどの場合、亡くなった時点で権利者が不明になり、オーファンになるのが実態である。 オーファンワークが公開されることによって、被害をこうむる権利者はほとんどいないと思われる。これに対して、著作物の流通により経済価値が出ることは、権利者の利益につながる可能性が高い。 拡張裁定制度は、探索を権利者が負担することを想定している。このために権利所在データベースを作ることを考えている。これによってオーファンの判断が容易になるだろう。 この事業には、多くの関係者が参加し、弁護士や行政書士の協力を得て実施している。 このように、権利者も利用を促進するために努力しているので、今後は権利者と利用者が丸テーブルについて法律とスキームについて話し合っていくことが肝要である。
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# 権利問題の全体見取り図 ## 2017年12月5日 第1回公開シンポジウム (小学館本社) 「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の 新たな課題解決にむけて」講演 ## 福井 健策 FUKUI Kensaku 骨董通り法律事務所パートナー弁護士(JSDA理事・法制度部会長) 今日は肖像権・所有権など著作権とは別の権利について概観する予定であるが、著作権だけでも十分やっかいな問題がある。たとえば映像のような作品には、多数の著作権や著作隣接権などが詰まっている。これをデジタル化するとなると大変面倒になる。図は、著作物のさまざまな利用の際にどのような権利が働くかをマトリックスで示したものである。 図でアステリスクがついているところは大きな権利処理団体があるのでそこにコンタクトすればいいが、権利者団体が存在しない分野もあるし、団体に属していない権利者もいる。そのような場合に多数の権利者を探し出して交涉するのは容易でない。また約半数の著作物は探しても結局権利者が見つからないオーファン作品、つまり孤児著作物である。これについては文化庁の利用裁定制度があり、最近だいぶ使いやすく なった。 所有権、肖像権、プライバシー権、パブリシティー 権など著作権以外の権利についても、それぞれ権利者も異なり、別の場合に働く。さらに肖像権・プライバシー権は、 $\triangle($ ケースバイケース) が多い点に特徴がある。この点も問題を難しくする。 (1)所有権について まず所有者不明問題について問題提起したい。たとえば現像所が寄託されているフィルムをアーカイブに寄贈・移管をしようとしても、所有権がハッキリしないとフィルムの受入ができない。映像を現像所が 20 年以上所有しているので、時効取得ではないか、という議論もあるが、預かっているのでなく自分のものとして占有していることが時効成立の前提である。また 寄託が終了したものとして競売にかけることはできる、などの議論もあったが、実現していない。 また、そもそも権利がないと考えられるのに、権利を主張する例がある。神社仏閣が既存の古い写真について、その後の利用を制限するなどが例。顔真卿事件など、最高裁の判例では、所有権は外観イメージの支配には及ばないとしている。ただし、撮影の為の立入許可の「契約」に利用条件が定められている場合は恐らく有効である。楽譜のレンタル条件もこれに似ている。過去に撮影された画像で、特に契約などは残っていない場合、これについて被写体の所有者が権利を主張したり、代金を要求することは無理がある。このような権利主張を「疑似著作権」とよんでいる。また、有効といっても過剩な契約条件や要求にどう対応するかも考えていかなくてはならない。 龍馬切手販売中止のケースがある。坂本龍馬が写っている写真が残っているが、これを使って切手を発行しようとした。写真の著作権はもちろん切れている。妻のおりょうさんの写真は現存 2 枚しかなく、若いときの写真は 1 枚だけである。画像デー夕はあるが、元の古写真の所有者の方が反対して発行中止となった。 ## (2) 肖像権について 肖像権については2005年に最高裁判例 (「林真須美」判決)がある。その要素は、(1) 被撮影者の社会的地位、(2) 撮影された活動内容、(3) 撮影場所、(4) 撮影目的、(5) 撮影の態様、(6) 必要性を総合考慮して、受忍限度を超える利用なら肖像権侵害となる、としている。 たとえば祭りの写真が肖像権侵害となって、このように顔をマスキングされると、状況がよくわからない。 そこで具体的には (1)被写体の地位が公的人物か、一般人か、未成年か (2) 活動内容が公的行事か、被災時・負傷時、病気療養時か、露出度が高いか (3) 撮影場所は公共空間か、私的空間か (4) 撮影様態は黙示の同意があるか、隠し撮りか、群衆の中の顔か、大写しか などの条件に分けて評価し、プラス・マイナスの点数をつけて合計し、一定点数以上なら公開してよいなどの自主的なガイドラインをつくるのはどうか、と話し合っている。 解決のためには、(1)権利・契約についての教育の普及と関係者との対話、(2) 現行法の柔軟・現実的な解釈、(3)準公的なガイドライン(たとえばデジタルアーカイブ学会による)の策定と共同規制、(4)権利者不明な場合へのオプトアウト的制度の導入、などが考えられる。オプトアウトとしては「肖像権裁定制度」 や「所有者不明文化財裁定制度」などが考えられる。 デジタルアーカイブ推進法制の議論と合わせて進むことを期待する。
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# 震災アーカイブの公開(肖像権) 2017年12月5日 第1回公開シンポジウム (小学館本社) 「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の 新たな課題解決にむけて」事例報告 \author{ 長坂 俊成 \\ NAGASAKA Toshinari \\ 立教大学教授 } 3/11の直後から被災地の記録のデジタルアーカイ ブについて、市町村から相談を受けて支援させていた だいてきた。公開ポリシーは被災自治体によって考え の差が大きい。被災地では、被焱映像だけではなく被災前のまちなみやコミュニティ活動やくらしの記録も デジタル化し公開したいという希望もある。基本的に は市町村が主体的にアーカイブに取り組んでいるが、宮城県や岩手県などでは県の図書館が市町村からコン テンツの提供を受けてアーカイブの公開を代行してい る場合もある。その際、公開や提供の判断基準の調整 が市町村と県との間で求められる。またネット上での 公開について、非公開、限定公開、一般公開、モザイ クなどを付して公開するなど、一般公開といっても 2 次利用の可能性も含め幅がある。 公開を巡り人格権についての判断が分かれることが 多い。顔のアップ、正面からの写真はだめというケー スがある。鼻毛がでているからダメという笑い話のよ うな話がある。子どもの場合、親の許可をとるという ことになると、まず公開が不可能である。知的障害者 の場合、親族や成年後見人、施設管理者などが障害者 に代わって許諾できるかということも議論が別れる。 報道機関ではアップの顔も無許可で報道している が、自治体で二次利用するとなると法規担当から反対 されるケースもあった。自衛隊から自治体に提供され た被災者支援活動の写真は、自衛隊は職務なので公開 してかまわないが、被災者が写っている部分は自治体 で判断してほしいということになるで、被災者の映り 方によっては公開が困難となる映像もある。 パブリシティー権も問題になる。被災地に慰問に来 た芸能人が被災者と共に映っている写真を被災自治体 が公開する場合、プロダクションに問い合わせると断 られる例がある。 個人情報の問題もある。名札がついている学校の制服を着て顔が写っていると個人が特定され、犯罪に使 われる、とまじめに議論されている。また写真やビデ オにご遺体が写りこんでいると、被災者にショックを あたえる映像として非公開にすべきとの議論がある。
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# 記録映画フィルムの移管(所有権) 2017年12月5日 第1回公開シンポジウム (小学館本社) 「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の 新たな課題解決にむけて」事例報告 浜崎 友子 HAMASAKI Yuko 記録映画保存センター 記録映画保存センターは、一般社団法人として活動 を始め今年で 10 年目となる。私たちはこれまで映画 フィルムの原版 10,000 缶以上をフィルムセンターへ 寄贈してきた。映画フィルムは高温多湿に弱く、常温保管では徐々に劣化が進行しいずれ映写できなくなる 可能性が高い。そのためフィルムセンターのような フィルム専用の収蔵庫での保存が望まれる。 しかし現像所が抱える返却先不明フィルム(オー ファンフィルム)は、フィルムセンターへの寄贈がで きない。かつては現像所がオリジナル原版を無償で保管し、映画製作会社から発注があると映写用プリント の複製を行なっていた。しかし、ビデオ化、デジタル 化にともない発注は減少し、保管料の負担ばかりが大 きくなっていった。そのため、ある時期から各現像所 は製作会社への原版返却業務を開始するが、製作会社 の倒産等により返却先が不明となるケースが出てきて しまった。それらオーファンとなったフィルムについ ては「所有権」が壁となり、フィルムセンターも今現在受け入れることができない。この問題を解決するた め映画保存法等の法制化も検討してきたが、所有権の ハードルは高く中々前へ進めずにいた。 そんな中、ある現像所では返却先の調査が進み、 オーファンフィルムの数が 8600 缶から 1000 缶へと大幅に減少した。それにより文化庁からは、この数量で あれば法制化を考えなくともフィルムセンターの制度 を変更することでオーファンフィルムの受け入れを可能にできるかもしれないと言われ、その調整を数年間待ち続けたまま今日に至っている。 またフィルムセンターは、人員数の問題からフィル ムの受け入れに数年待ちという状態が長く続いてお り、フィルムの保存活動を行う上でも支障となってい る。この点についても早急な対策を講じて欲しい。 * 東京国立近代美術館フィルムセンターは、2018 年 4 月、国立映画アーカイブとなる。
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# 日本美術全集のデジタル活用 (疑似著作権) 2017年12月5日 第1回公開シンポジウム (小学館本社)「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の 新たな課題解決にむけて」事例報告 小学館出版局チーフプロデューサー 編集という立場から事例報告をしたい。2012 年から 2016 年にかけて刊行した『日本美術全集』全 20 巻は、火炎式土器から現代美術まで、編年体でまとめた全集 である。小学館でも、日本美術の大型全集は 50 年ぶ りの企画であった。「紙による美術全集の最後」とい う意識で取り組んだ。実際の作品に近い色再現も最新 の印刷技術で実現したと自負している。ここに収録し た作品は国宝・重文が多く、旧い時代の作品なので著作権は関係ないはずであるが、そう簡単ではない。小学館では、過去の編集作業で新撮したり、拝借し た作品画像のフィルムを大量に保存しているが、それ を再使用するとなると、所蔵元に使用目的を明記して、掲載願いを申請して、対価を払い、再度許可をいただ かないと書物に収載できない。また、寺の責任者が変 わって、過去には収載がでたものが今回は許可されな いという事例もあった。国宝第一号といわれている仏像が今回の全集には収載できなかった。こうした文化遺産は広く国民のもので、個人のものではないと思う が、こうした事例はとても残念である。パブリックド メインという概念がいきわたっていないと感じる。 日本の美術作品は紙や絹に描かれていて、非常にも ろく、顔料も耐光性に弱く、劣化の恐れが強い。これ らはデジタル化することにより、疑似体験ではあるが、好きなときに鑑賞ができるようになるのではないかと 思う。紙の全集は図書館等で鑑賞してもらえるが、や はり紙での普及・鑑賞には限界があるので、デジタル 化を手掛けていきたいと思っている。現物に触れるこ とは展覧会を待たねばならず、作品の性質上、長期の 展示も叶わない美術作品は、デジタル化により、文化財に親しむ機会が増えると考えられる。 たとえば絶大な人気の伊藤若冲の『動植綵絵』が並 ぶ展覧会が昨年(2016 年)あったが、全 30 幅が一堂 に会する展覧会は 2000 年代に入ってから増えたとは いえ、3回しかなかったことからも、デジタル化の必要性がわかる。しかし、よく知られた美術作品の画像 をネット上で調べてみると、公的な画像はほとんどな く、大抵が個人によってなされた図録のスキャンでし かないのが日本の現状である。背景には、デジタル化 をしたいと所蔵元に相談しても、ネット上で公開され て永遠に頒布されるということについて、嫌悪感、ほ とんどアレルギーに近い拒否感があり、博物館・美術館も例外でない。 デジタルで鑑賞するためには、作品画像の解像度が そろっていることも肝要だと思う。せっかく美術全集 のための画像データを集積したので、これをデジタル 公開出来ないかと考えている。デジタル時代には、全集とはいえ、作品を選定するという編集作業は不要、 とにかく全作品を見せればよいという意見もあるが、美術作品については編集という作業を伴うひとつの指針があってもよいと考える。たた、美術全集のデジタ ル化も含めて、一企業で手掛けられることには経済的 にも、人的にも限界がある。将来的には、ナショナ ル・デジタル・ミュージアムのようなものができると よいとも思っている。
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# 問題提起 ## 2017年12月5日 第1回公開シンポジウム (小学館本社) \\ 「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の \\ 新たな課題解決にむけて」問題提起 (青柳会長のご講演を編集事務局でまとめさせていただきました) 私は文系の人間であるが、大変な危機感を持っている。 20 年ぐらい前は日本はサイバー空間で存在感があったが、今や日本はかなり遅れているのではないか。 われわれの世界はイノベーションによって現在まで発展してきた。イノベーションは単に自然科学だけではなく、社会科学、人文系の学問の知恵にも拠っている。生のデータから情報になり、知識になり、知恵になり、 ソリューションを創出するというサイクルを守っていく必要がある。情報から知識の部分を長期にわたって保存するというのが、デジタルアーカイブの役割である。いままで文化財といっていたのを文化遺産 (Heritage) というようになったのは、過去の資産を将来への活用へ橋渡しとするという意味で遺産といっている。デジタルアーカイブも文化遺産と非常に似た性格を持っている。 われわれは現在を見て、将来はどうなるか、という見通しを作りたいのだが、そのためには過去から現在に投影し、それを未来に投影することにより、おぼろげながら未来が見えてくるというやり方しか方法がない。単なるデータの垂れ流しでは将来は見えてこない。 これまでは情報が少なく、非常に細い情報の軸しかなかったが、今は巨大な情報が得られるので、しっかり とした復元ができ、将来への見通しも確実性が高くなる。その意味でデジタルアーカイブは重要な役割を果たすのではないか。 これまではアナログ形態の資料のデジタル化が中心であったが、今は初めからのデジタル資料が増えていることにも注目したい。 いままで、落書き・金石碑文、古文書、書籍・文献についてはそれぞれ資料学と保存整理学が確立しているが、デジタル資料についてはまったく学問が確立していない。たとえば、文字資料については、調查、目録作成、保存など活用にいたるプロセスが決まっているが、デジタル資料についてはそうなっていない。 また、書籍についていえば、年間 8 万点の出版物の保存のための面積や、 5 億円と想定できる人件費を社会が負担している。デジタル資料については、そうしたサポート体制がない。ユーロピアーナやグーグルがやっていることに比べればないに等しい。たとえば、 ウィキペディアでも、ちょつとした専門的な項目については日本語情報がないことがある。中国版の方が、情報が多かったりする。インターネット上にある情報は世界中の図書館が持つ情報の約 6,000 倍という意見もある。このような時代に対応するには、人材育成、国の中長期政策、保存のための資金確保、IIIF の普及、法制度整備など、多面的に進めていく必要がある。
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# 第1回公開シンポジウム 「著作権だけではない! デジタルアーカイブと法制度の 新たな課題解決にむけて」 主催 : デジタルアーカイブ学会 (JSDA) 共催 : デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(DAPCON) 共催 : 小学館 日時:2017年12月5日(火)午後3時~6時 場所 : 小学館本社ビル2階講堂 ## [プログラム] 司会柳与志夫(デジタルアーカイブ学会総務担当理事) 問題提起(15:00-15:10) 青柳正規DAPCON 会長(前文化庁長官) ○来賓ご挨拶(10 分)(15:10-15:20) 馳浩衆議院議員(自民党デジタルアーカイブジャパン構想推進議員連盟事務局長)(途中退席)永山裕二内閣府知的財産戦略推進事務局次長 事例報告(15:20-15:35) 日本美術全集のデジタル活用(疑似著作権): 清水芳郎小学館出版局チーフプロデューサー 記録映画フィルムの移管(所有権): 浜崎友子記録映画保存センター 震災アーカイブの公開(肖像権):長坂俊成立教大学教授 ○法的問題の全体見取り図 (15:35-16:05) 福井健策骨董通り法律事務所パートナー弁護士(JSDA 理事・法制度部会長) ๑オーファンワークス処理の現在(16:05-16:20) 瀬尾太一日本写真著作権協会常務理事. ○パネルディスカッション「これからどう取り組めばいいのか」(16:30-18:00) 〈パネリスト> 太下義之三菱 UFJリサーチ\&コンサルティング芸術・文化政策センター長 瀬尾太一日本写真著作権協会常務理事. 福井健策骨董通り法律事務所パートナー弁護士:司会 山川道子プロダクション・アイジーアーカイブグループリーダー ○閉会のご挨拶:長尾真デジタルアーカイブ学会(JSDA)会長
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# 座長が推すべスト発表 ## 2018年3月9日 第2回研究大会(東京大学) 各座長の方に、特に良かったと感じた発表を挙げていただいた。(カッコ内は推薦された座長、敬称略) [A11] Webラジオによる社会デザインとソー シャルイノベーションの可能性. 長坂俊成 (立教大学) Web ラジオ「クレバーメディア」とは 【発信局ができること】】(㻜害時) - 自治体から住民への緊急情報通知(番組中断$\cdot$強制通知) - 地域・グループ$\cdot$団体等、対象者限定した避難情報の配信(多言語) - 安否確梕通知: 强制通知飞安否の返信 (GPS位置情報・個人情報) 【GIS(ハザートマッフ、、被吉想定等)による要救助者の場所の特定と危険度判断 - 住民から自治体への情報提供(写真、音声、文字) - 地域外の広域避奞者への)情報提供 - 避難生活時における福祉、子育てチャ采儿等きめ細やが双方向の情報提供$\cdot$相談支援 - 支援者ヘの)情報提供(受援力の向上) この論文は、デジタルデイバイドや新たな知を創作していくための著作権等の問題を基本的な認識として持ち、新たな社会デザインを示唆する興味ある発表であった。 ラジオは発表者が指摘するように平常時と大規模災害において極めて大きな役割を果たすことが期待されるメディアにも関わらず、現在の制度や仕組みが発展と可能性を制限している。本来、既存の制度と仕組みは制度を維持するものと改革するものとの争いをしていくのではなく、双方が今後の社会でどのような役割を果たせるのかを共同で構築すべきものである。そのような実験場としても今回の提案は魅力あるものといえる。 論文では、Web ラジオの開発コンセプトとプラットフォームの今後の方向性は示されているが、詳細な記述は今後の取り組みにゆだねている。 Web ラジオをどのようにデジタルアーカイブ化するのか。権利や既存の仕組みとどのように調整していくのか等々、次回の発表が期待させる内容であり、且つ社会的な問題を内包している。インターネット社会のガバナンスを考えるためには注視する論文であった。 (坂井知志) [A23] 伝統技術継承者によるデジタルアーカイブ化の事例と課題. 金城弥生(日本織物文化研究会) 文化財のデジタルアーカイブ化にあっては、これまで第 3 者である大学等研究機関によるデジタルアーカイブ化が中心であった。しかし、継承されてきた無形文化財や無形民俗文化財、文化財の保存技術者は、これまでの撮影の対象者としての存在から、自身が自発的にデジタルアーカイブ化を行う存在への転換することが技術的に可能となってきた。その結果、伝統的な文化・技術の継承者自身が、暗黙知をデジタルアーカイブ化による形式知として文化継承を行う、いわゆるポスト構造主義的な視点による新たな知の発見と継承を可能にしたことが金城氏の論考の味増である。特に、伝統技術の肝・核心を撮影する側が持っているか、把握しているかどうかで、文化継承に活用できるアーカイブとしての質の差が歴然と違うことを思い知らされる発表である。 なお、「地域文化資源デジタルアーカイブの方法論」 は、継続中のプロジェクトではあるが、最終的に取りまとめが終了した場合は、論文として提出いただきたい。(井上透) [A43] 服飾分野における機関横断型デジタルアー カイブに向けて. 金井光代 (文化学園大学) 服飾という定性化しにくい対象のコンテンツをデジタルアーカイブするというテーマは興味深い。メ夕データの振り方や辞書構築に苦労しているようであるが、服の種類、色、形、時代、目的といった定量的項目に加え、触感、美、艶など定性的、感覚的項目の情報化に、次世代メタデータ構築のヒントがあると思われる。ジャパンサーチとの連携も視野にいれているようであるが、ジャパンサーチでのデー夕定義付けとは矛盾する可能性も見え隠れしており、今後の展開に期待したい筋のいい研究に思える。(長丁光則) [B12] 江戸時代の歌舞伎興行に関する資料デジタルアーカイブの充実をめざして. 木村涼 (岐阜女子大学) ## 早稲田大学演劇博物館 出典: https://natalie.mu/stage/news/244143 日本の伝統的な文化事象の歴史的研究は、多くの場合、京都や江戸といった文化的な中心に伝わった史料 を素材に行われてきた。無論、京都や江戸で作られた情報は厐大で、それが現在まで残ってきたという側面は大きいが、たとえば芸能のような個々の分野に関する史料が各地域にあったとしても、なかなかその情報が広く流通してこなかったという問題もあるだ万う。 この報告は、そのような現状の一例を示している。デジタルアーカイブの構築と普及は、その課題に見通しを与える一つの方策になることは確かである。そのためにも演劇博物館のような既存の蓄積のある専門機関が、「ジャパンサーチ (仮称)」が提案しているところの「つなぎ役」となって、各地の史料保存先との連携を進めてゆくことを期待したい。(田良島哲) [B24] 日本語デジタルテキストの「正書法」を探求した青空文庫:日本語(による/のための) マークアップの誕生とルールの発展、活用、テキストの品質管理. 大久保ゆう(青空文庫 / 本の未来基金) 20 年に及ぶパブリックドメインの書籍を電子化する「青空文庫」の地道なボランティアの取り組みには敬意を表する。本発表では、テキストファイル化する際のルール化についての報告である。書籍を電子的に再現するためには、ルビや傍点注記、外字注記などのマークアップの標準化をはじめ、レイアウト情報、見出し、文字下げ、協調、改ぺージ、画像、割り注など、底本を再現する組版注記などのルール化が求められる。書籍のテキストで表現される情報的な価値以外に、出版人との協働により制作された作家性の高い文学作品の図書などについては、著者の思いを再現する貴重な取り組みであり、今後の活動が期待される。(長坂俊成) [B32] Cyberforest: 原生自然の環境感性情報の配信とアーカイブの利用. 下徳大祐 (東京大学新領域創成科学研究科) ## Cyberforest の実践 秩父(鉄塔)ステーション 1995年から運用商用電力・ネットワークな太陽電池・衛星回線で運用 長期アーカイブは世界的に見ても皏 本研究では、電源やネットワーク環境のない森林での環境音の記録・配信プロジェクトで得られたデー夕の分析を行うために、可聴音よりも低い周波数帯の音声信号を触覚信号に変換するデバイスの開発や、機械学習を活用した鳥類の鳴き声の検出の試みについて報告がなされた。いずれの取り組みも専門家だけでなく一般の非専門家との協働によって新たな発見や観測対象の拡大を目指している。このような市民科学型のアプローチは他の分野でも応用が可能であると思われる。手法の洗練化を含めて今後の展開に期待したい。 (大向一輝) [C22] 地域資料をアーカイブする手法としてのウィキペディアタウン、またはウィキペディアとウィキメディア・コモンズ. 日下九八 (東京ウィキメディアン会) この発表は、Wikipediaを利用することにより、人的 - 経済的基盤が弱い地方の小規模自治体や、教育機関などが、その地域の歴史を物語るデジタルアーカイブを構築できる可能性を示している。地域の歴史は、 そこに住む人々のさまざまな記憶や視点から物語ることができるが、貴重・希少資料を扱う場合とは異なり、記録対象が身近であるが故に「いま、意識的に記録しなければ消えていく」運命にある。そのような記録のためのデジタルアーカイブを構築する場合、人的資源と並ぶ大きな課題は、アーカイブサイト構築と維持のための手間と費用である。この発表は、Wikipediaが、 そのような課題の解決手段となりうることを例示している。今後は学校教育の現場においても活用が進むことを期待したい。(皆川雅章) [P01] わが国における地方紙のデジタル化状況に関する調査報告. 平野桃子(東京大学大学院情報学環) ## 非公開のイメージデータについて 图.未公開データーイメーシ 袕 約6割近くの地方紙が紙面、記事単位のイメージをデータ化済み。 私自身、地方紙の記者たちと協働でコンテンツを制作しています。そこでは過去の紙面や記事、写真を利用していますが、その際にはデジタルアーカイブ化がなされていることが重要です。アーカイブとして整備されていれば、どこにどんな記事や写真があるのか、著作権や肖像権はどうなっているのか、二次使用の条件は何かなどを一覧で見られ、より利用しやすく、外部への提供も容易になります。 今回、初めての網羅的な調査で大変に参考になりました。同時に、新聞各社は、手間と費用をかけてデジタル化するのか悩み立ちすくんでいることがわかりました。採算性を確保できるのかという課題を抱えていることが可視化されたのです。読者あるいは研究者も様々な利用の方法を新聞社と手を携えて考えて行く必要があるでしょう。(宮本聖二)
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# 企画セッション (2)用 ーアーカイブサミット 2017 in 京都へのリプライー」報告 ## 2018年3月9日 第2回研究大会(東京大学) 「資料発掘と利活用:アーカイブサミット 2017 in 京都へのリプライ」では、前年(2017 年)9月に開催されたアーカイブサミット 2017 in 京都への“リプライ” というかたちで、参加者全体での議論をおこなった。 2017 年 9 月 9 日・10日におこなわれたアーカイブサミット 2017 in 京都では、「社会のアーカイブ化、 アーカイブの社会化」をテーマとして数多くのセッション、シンポジウム等がおこなわれ、 300 人以上の参加者があった。大学や図書館、企業等に属する人、寺社や文化機関の資料を実際に扱う人、テクノロジー や地域連携によってアーカイブを支える人など、幅広い分野・業種の専門家や市民のみなさんに集まっていただき、活発な議論が打こなわれた。今回のこの“リプライ”企画では、9月のサミットをふりかえったうえで、足りなかったところをさらに深めるかたちでの議論をおこなった。 前半は、司会およびコメンテーターの 2 人から、9 月のサミット当日の議論を打掠まかにレ゙ューし、参加者全体での問題意識の共有をおこなった。その際、 フロアに居合わせたサミット参加者や関係者のみなさまにご協力いただき、事前に特段の打ち合わせがなかったにも関わらず、当日の様子を手際よくかつ多様な視点から説明していただいた。この場を借りてあらためて感謝申し上げたい。 その後、リプライとして議論するべきトピックスを、司会から 4 点、参加者からも 2 点挙げ、フロアに集まった参加者全体による議論をおこなった。挙げられたトピックスは以下の通りである。(1)資料発掘、整理と選択、(2)デジタルアーカイブの利活用、民主化とユーザの自己決定権、(3)ジャパンサーチとディスカバラビリティ、(4)人材育成と社会への還元・橋渡し、(5)現在資料のアーカイブとレコードマネジメントについて、(6) グローバリゼーションとインターカルチュラリズムへのデジタルアーカイブの役割。 特に熱を帯びたのは、(5)現在資料についての議論であった。公文書のデジタル化が進んでいないことに始まり、アニメ資料の発掘の仕組み、オープンサイエンスのためのデー夕保存の仕組み、正確性の担保等について発言があった。保存・利用のための制度作りの重要さと、日常的な活動の中でそれがどう実現できるかがカギとなるだろうことが、確認された。 このほか、青空文庫の活動について、問題解決のために運営が外部へ拡張し、人材育成にもつながった例が紹介された。またジャパンサーチとアーカイブの利活用に関連して、早稲田大学演劇博物館 web サイトにおけるキュレーション機能も紹介された。 すべてのトピックスについて議論を尽くす時間は残念ながらなかったものの、さまざまな分野の視点からの発言が多く飛び交い、デジタルアーカイブ学会の学際性と多様性をあらためて認識するパネルとなった。 なお、当日はグラフィックレコーディングを導入し、議論の様子をリアルタイムで可視化させた。写真はその一部である。
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# 企画セッション (1)「デジタルアーカ イブ機関の評価手法を考える」報告 2018年3月9日 第2回研究大会(東京大学) 2 日目の午後の企画セッションにおいて「デジタル アーカイブ機関の評価手法を考える」を実施した。こ の企画セッションを行うにいたった動機は以下のとお りである。 一つ目は、デジタルアーカイブを広く進めていく必要がある状況にありつつも、それらの行為に対してイ ンセンティブがなく、機関としてやるべき意義を説明 しにくい状況が存在した。そのため、これらの重要性 を理解している担当者が、機関内で説得の材料を持ち にくいという課題があった。また、デジタルアーカイ ブを作ったあとに、どのようにそれらを位置づけてい くかという点で、現時点では単にアクセス数ぐらいし かその根拠がないという点も課題である。アクセス数 に観点を絞ると、必然的に有名なもの、目立つものに 視点が行きがちで、地域における重要な資料などをデ ジタル化するインセンティブが働きにくいという問題 が生じる。そのため、単なるアクセス数とは質の異な る評価を行い、デジタルアーカイブが、単なる優品主義に陥らず、広く地域社会に広がる必要がある。さら にいえば、それらの地域社会の文化資源をデジタル化 し、国際的に発信していくことは、地域のさまざまな 情報を広く海外に知らせ、「日本では知られていなく ても海外の人が新たな価値を見出すもの」を伝達する 可能性をもたらすのである。 このような課題を解決すべく、新たな評価手法を検討する必要性があると考えた。しかし、実際には、デジ タルアーカイブの評価は、誰が、誰に対して、どのよう に、行うかという方向性が明確に定まっているわけでは ない。そこで、本セッションでは、その方向性を定める ベく、まずは論点出しを中心に行うこととした。 発表内容は下記の通りであった。 1. 趣旨説明と大学・内閣府知的財産事務局資料に ついて (後藤) 2. 海外事例と図書館の事例について(奥田倫子氏) 3. 博物館の現状と課題(田良島哲氏) 4. 自治体の機関について(菊池信彦氏) なお、下記の説明は筆者からの視点であり、発表者 の意図と完全に一致しない可能性があることは、あら かじめお断りしておく。 後藤からは趣旨説明ののちに大学と内閣府知的財産戦略本部に置かれたデジタルアーカイブジャパン実務者検討委員会の資料について説明を行った。大学のデ ジタルアーカイブは特に教育という点を重視し、そこ にどのように用いられたかという点で重視される現状 があるとの説明を行った。結果としてデータの長期保存の困難性を指摘した。 実務者検討委員会の資料については、2017 年 4 月 に出された「デジタルアーカイブの構築・共有・活用 のガイドライン」をべースにしたものであり、可能な 限り多くに機関で用いられる最大公約数的なものであ ることを指摘した。さらに、本資料は検討中のもので あることを指摘した。(なお本稿執筆現在において、 2018 年 4 月に中間まとめとともに、Ver1.00を出す方向で検討が進んでいる。) 奥田氏からは特に海外の基準等について説明が行わ れた。奥田氏は評価の目的によって、その項目が変わ ることを海外事例等を引きつつ述べた。これらの評価 は単館・連携事業、長期保存等の目的でも変わるもの であり、それらのスコープを明確にすることで、はじ めて評価が可能になるというものであった。特に、保存と利活用促進では、求めるスコープが変わるもので もあり、日本では、どのようにそれらを受け入れるべ きかが重要な論点となる。 海外事例としては、TRAC と DRAMBORA(http://www.dcc.ac.uk/resources/repositoryaudit-and-assessment/drambora)について、筆者としては 重要なものと感じた。いずれも、長期保存に関わる監查制度であるが、TRACが、一定の基準への適合とい う、外的な要素を持つ者に対して、DRAMBORA は、内部監査支援ツールとして機能しているという紹介が あった。この両者の関係は、日本でまずどのような整理が必要なのかということを示すのに示唆的なもので あったと考える。 田良島氏からは、特に博物館の事例について紹介が 行われた。博物館資料は、その特殊性から業界の内部 における評価と機関の内部における評価、そして完全 に外部の評価の三つについて、様相が異なる点が指摘 された。とりわけ、博物館の外で得られた評価が、博物館業界において認知されず、結果的に組織のプラス になりにくい可能性がある点が指摘された。 菊池氏からは、自治体の事例について説明が行われ た。京都府立京都学・歴彩館がもつ「東寺百合文書 WEB」は、ライブラリーオブザイヤーを受賞するなど、高い評価を得る一方で、同じような基準 (CC BY 準拠) で作成されている「京の記憶アーカイブ」はあまり外部での評価を得ることがないという状況がある。実際 には館内においてどのように位置づけてよいのか、い まだに明確にしかねる部分があるのも事実であるとい うことが報告された。 そのうえで、アクセス数とは異なる観点で、地域資料のデジタルアーカイブについては資料の「レア度」 の評価、SNS 等での引用などの評価を検討してほしい との提言が行われた。 その後、短時間ではあるが討論が行われた。大きくは以下のような論点である。 1. Altmetricsのような評価をどのように位置づけるか。 この点においては、特に予測できない側面もあり、評価の軸にどのように入れるか課題となる部分があ る。そのため、評価のもっとも基本に据えるのは望ま しくないのではないかといった指摘があった。一方で、利活用をはかるためには極めて重要でもあり、アウト リーチ活動を位置づけるために重要な論点といえる。 2. 評価リスクをどのように考えるか デジタルアーカイブ機関をめぐっては、そもそもス テークホルダーが多くおり、それらの違いも重要であ ると指摘された。それぞれのステークホルダーに理解 を得るための評価項目を作っていく必要がある。 3. コンテンッの「内容」をどのように評価するか 渋沢栄一記念財団の茂原暢氏も発言され、言及して いたが、コンテンツの永続性等について、どのように 理解すべきかの議論が行われた。この点は奥田氏の報告と関連する形で議論が行われている。それ以外にも 菊池氏の出した「Web上におけるコンテンツの希少性」 をどのように理解するかも重要なものであるとの議論 が行われた。一方で、単に優品=希少というわけでは なく、地域にとって、重要なものなどの視点が必要で あ万うということが指摘されている。 写真 セッションの登壇者、左から菊池信彦 (京都学・歴彩館 (当時))、奥田倫子 (国立国会図書館)、田良島哲 (東京国立博物館)、後藤 真(国立歴史民俗博物館)、橋本雄太(国立歴史民俗博物館)各氏 4. 評価の位置をどのように考えるか 評価そのものは、組織としてのプリンシプルや達成度合いを見るものであり、絶対値を見てはならないと いうものである。特に過去からどこまで進むことがで きたかを見ることが重要であるとの指摘がなされた。 以上が、セッションの概要である。司会でもあった 筆者の力不足により、消化不十分な部分も多かったが、 さまざまな論点が出てきた点は、発表者および討論者 に感謝を心より申し上げたい。 デジタルアーカイブ機関の評価(アセスメント)は、筆者の報告でも触れた通り、内閣府知的財産戦略本部 におかれたデジタルアーカイブジャパン実務者検討委員会で議論が行われている。これは、日本におけるデ ジタルアーカイブ機関の評価としては、嗃矢となるも のであろう。この「評価」をどのようにとらえ、今後発展させていくかが重要なカギになると考えられる。特に、これが固定化された絶対值評価となるわけでは なく、目的に応じて派生し、ブラッシュアップされる ものであり、今後の達成に向けたものとして位置付け られることこそが重要であると考える。 デジタルアーカイブは、その技術の進展とともに、理解のされ方も大きく変わると考えられる。それに応 じて、これらの評価も変化していくものであろう。そ して、なにより、これらの評価はデジタルアーカイブ という行為を促進させるものでなければならない。今後も、学会等の議論を通じて、これらの評価につ いて検討を行えれば幸いである。
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# 第2回研究大会 ## パネルディスカッション 「デジタ ルアーカイブ産業の未来を拓く」 2018年3月9日第2回研究大会(東京大学) パネリスト 緒方靖弘(寺田倉庫メディアグループリーダー) 沢辺均(株式会社スタジオ・ポット社長) 高野明彦 (国立情報学研究所教授)(モデレーター) 野口祐子(グーグル合同会社法務部長) ○高野モデレーター 国立情報学研究所の高野です。「デジタルアーカイブ産業の未来を拓く」という大きなテーマで 3 名の方々を扔招きして、ディスカッションをしたいと思います。私は国立情報学研究所で、本の書誌の検索、Webcat Plus、あるいは新書マップとか、神保町の「Book Town じんぼう」そういうサービスをやっていましたが、震災の後、僕たちがやってきたメ夕情報だけ集めているというサービスは、ほとんど人の役に立たないなという実感がちょっとあります。もう少しワイルドに、まちの記録、記憶とか、人に䌟わって貯められているアーカイブなどにも携わって、それらをもう一回大きなメタデー 夕につないでいくということを議論しています。知財戦略本部での委員会も少し携わっていますが、そちらでも国全体としてそういうスキームができないかなという議論をしています。 それでは、トップバッター、よろしくお願いいたします。 ○緒方寺田倉庫の緒方と申します。寺田倉庫の自己紹介ですけれども、保管、保存事業というのをべー スにして、高付加価値をつけてお客様に寄与するとい うのを事業領域としてやらせていただいております。 1950 年に創業でございますので、 68 歳の会社でございます。 個人向けにはワインセラー、絵画の保管、それから企業向けにはメディアの保管、あとはイベントスペー スを運営したりさせていただいております。 メディアの保管でございますけれども、映画のフィルム、テープなど映像、音楽が中心です。徹底した湿度管理、在庫管理をしております。 東京国立近代美術館フィルムセンターさん(編集注:2018 年 4 月 1 日より、国立映画アーカイブ)が提供されているような TAC(トリアセチルセルロー ス)ベースフィルムの専用保管庫も民間では唯一持っております。 フィルムの劣化も進んでいきますので、デー夕化もいたします。 35 ミリのフィルムであれば $4 \mathrm{~K}$ と同じポテンシャルを持っているので、 $4 \mathrm{~K}$ スキャンして、残していく。そのためには原本の補修、デー夕化後のレストア、リペアも行います。 データ化した動画をプレビューできるような検索システムも提供します。 7テラというのは当たり前になっています。今は皆さんご家庭で視聴されているようなハイビジョンの映像であれば 1 時間 100 ギガぐらいですから、 100 ギガの データのストリーミング再生は容易でないので、我々が大きめのストレージを持って、シェアリングしていたたきき、自社開発のプレビューシステムで閲覧して頂くようなサービス提供もさせていただいています。 映像のデジタル化は非常にお金がかかります。例えば Readyfor さんと提携させていただいて、市場から資金調達をするお手伝いもさせていたたいています。さらに映像として売るためのマーケット基盤も提供しております。 「デジタルアーカイブ」でググッてみると、一番上にウィキペディア、次にコトバンクが出てきまして、 3 番目は、総務省の 2012 年のガイドラインが出てきました。私が携わっている動画系、番組とか音楽系というものの情報が何か少ない。MLAが中心ということになっていました。国民が見たいものとデジタル化が積極的に行われているもののギャップがあるなと感じました。ウィキペディア、コトバンクでも、デジタルアーカイブの対象の説明には少し疑問があるなと思いました。 説明の中では、デジタイズするメリットというのが書いてあります。新しい表現が実現できるとか、さまざまな角度から資料検索できるとか書いてあるんですけれども、要するにデジタイズとは、デジタルアーカイブとは、言語のままでは劣化してしまうものを共有性を向上させる一手段であるということを仮説として持っているところでございます。 ○高野モデレーター どうもありがとうございました。一応、学会の名誉のために言っておくと、ログインせずにググると、ウィキペディアが 1 番、2番目が公文書館のデジタルアーカイブ、3 番目がデジタルアーカイブ学会という順番です。 ○野口グーグルで法務をしております野口祐子と申します。デジタルアーカイブというものの定義を考えるとき、ウィキペディアなどに記載されているように、文化資源をデジタル化すること、というとらえ方が一般的かもしれません。 けれども非常に広く考えると、情報を、どんな形であっても体系化して、使えるようにするという行為がアーカイブであると考えることもできるかもしれません。そうだとするならば、検索サービスそのものがアーカイブサービスと言えるのではないか。そうしますと、グーグルがやっていることはほとんど全て、デジタルアーカイブに入ります。 これは皆さんよくご存じかと思いますけれども、 グーグルの使命として「世界中の情報を整理して、人々にアクセスしやすくする」を表明しています。こちらがグーグルの一番最初のころ、18 年くらい前の検索ページです。 そこから、サービスはどんどん進化しておりまして、例えばニュース検索を追加したり、天気を見やすくしたり、フライトサーチがあったりと、それぞれ知りたいことの目的に特化した機能等を加えています。例えばグーグル・ブックスは本のアーカイブですし、ストリートビューも世の中の町並みをアーカイブするアプローチと捉えることができるかもしれません。それが個人の予定であれば、Google カレンダーが扱う情報になりますし、写真ならばグーグルフォトと、様々な形での広がりがあります。 皆様もご案内のとおり、弊社の基本的な収益モデルは、今でも大きな部分が広告収入です。例えば私が検索で、ナイキのランニングシューズとキーワードを入力すれば、その人はランニングシューズを買いたいのだろう、という推測のもとに、買いたい人と売りたい人をマッチングする。その発想に至ったことが会社の経済的基盤を築く上で非常に大きな出来事たっったと言われております。 そのようにして得られた収入を使って行っている、非営利のアーカイブサービスを 2 つ紹介させていただきますと、1つが Arts \& Culture です。2011年 2 月から小さな社内プロジェクトとして始まりました。世界 70 力国、1,500 以上の施設と協力し、美術品や歴史的資料の画像・ビデオにアクセスすることができます。最近ですと 360 度カメラで撮影し、携帯電話を使って見ると、3D 画像で表示され、その世界に行ったような体験ができる VR のコンテンツもあります。 美術館内画像は、美術館の休館日などにお伺いをさせていただいて、360度カメラで撮影するという方法をとっております。そのときに、ストリートビューで培った技術を転用しておりまして、360度カメラを手動のトロリーに載せて、美術館の中をコロコロと押して撮っております。作品や資料の多くは所蔵施設が Arts \& Culture のサイトにアップロードしていますが、一部の作品については、Googleが協力する形で超高解像度で撮影をしております。日本でも美術館と幾つか提携しております。あとは美術館だけではなくて、最近は無形文化財についても工芸の世界等を記録して皆さんにお見せするというようなこともしております。 2つ目のアーカイブサービスですが、東日本大震災の際、パーソンファインダーという、この人を探しています、この人は無事ですという情報をマッチングするサービスを、震災発災後 2 時間で提供開始しました。 また、最近では、ストリートビューで被災地や震災遺構を撮影して、記憶の風化を防止するというような取り組みを始めました。そうしているうちに、過去と未来をつなぎたいというお話もあって、「未来へのキオク」というサイトでは、震災の前に皆さんがバラバラに持っていた写真を、全て承諾を得てアップロードしていただいて日本地図上にマッピングしております。 普通のストリートビューでは、町の移り変わりに合わせて数年くらいで新しいストリートビュー画像に差し替えていましたが、震災後に「震災前の画像を消さないでほしい」というリクエストを頂いたことから、全世界的に過去のストリートビュー画像もご覧いただけるように製品を改善しました。一部の被災地においては、昨年夏の様子等も公開されていますので、時系列で比較してご覧いただけます。 〈福島県浪江町撮影の様子〉 ・ ストリートビュー技術を 用いて被災地域の撮影: 現状の記録と発信 - 福島原発周辺、警戒区域 での撮影。2013年3月公 開スタート。 震災風化防止・地域活性化のための情報発信 ○高野モデレーター ありがとうございました。それでは、引き続き沢辺さん、お願いします。 ○沢辺沢辺です。ポット出版という、1989年に 1 冊目を出して以降 28 年くらいになる出版社をやっています。2000 年に仲間の 5、6社の出版社と一緒に「版元ドットコム」という団体を作りました。2000 年の発足は 33 社でしたが、今は 265 社くらいの会員になっています。 これは出版社が自分たちのつくった本の書誌情報、書影をインターネット上に保存してかつ公開しょうという取組でした。会員出版社の書誌情報は、中小零細が多いので 5 万 3,000 タイトルしかありませんが、この 5、6 年前から出版業界全体の書誌情報の収集をしており、今日、116万タイトルの書誌情報を持つようになりました。 ちょっと手前みそですけれども、ポット出版では 2014年、『アーカイブ立国宣言』という本を今日の参加者の皆さんや登壇者の皆さんともなじみの深い方たち、長尾先生も含めて書いていただて出版しています。 もう一つは、 1 年ほど前から OpenBD という取組を始めました。先ほど116万タイトルのうち書影はこのうち5、60万だと思いますけれども、版元ドットコムの会員社プラス先ほど登壇された KADOKAW さんも含めて、小学館、講談社などの出版社の書誌情報を含めて全部収集するようにしまして、この書誌情報と書影を誰でもAPIでとれるようにする取組を始めました。 OpenBD、BD というのはブックデータという、なんじゃこれというぐらいのネーミングです。 今、図書館現場では、OPAC といって、ウェブサイトでそこの本の蔵書を調べたり、貸出申达みができる と思いますが、そこで書影を揭載することがまだ難しいことになっています。例えばアマゾンの書影はアマゾンサイトでの販売画面への誘導を条件として使わせることになっていて、図書館などではその書影を使うことが現在できない。そこで、図書館検索のサービスをやっているカーリル社と共同して、OpneDB を使った書影提供サービスを始めています。さらに、出版社側がつくった内容紹介を図書館の本の紹介にも使っていただくというようなサービスも始めました。 デジタルアーカイブとは何ぞやということですけれども、まず先にアーカイブから言うと、保存された記録資料で、何をどう保存するのか。誰がそれを決めるのかという問題は僕の気になるところです。 先ほどのグーグルの例で言えば、世界の美術館などとの提携というのは、グーグルが決めて、グーグルが自分の資金で、あるいは契約をしてやっているわけです。そういう意味では僕はある意味でグーグルもマニアかオタクか何か、そのうちの1つだと思っているんですけれども、それは非常によいことで、この世界、 マニアかオタクこそがアーカイブを担っているのではないかと僕は勝手に思っております。 それをどう保存するのかという議論は、デジタル化への困難とか、さまざまなことが語られていますが、 でもこれはもうどうしょうもなくその時代でできるこ ジェクターでないと駄目だと言われましたけれども、 回っていくと思いますから、そのとき目指してある程度息の長いことを考えていけばいいのではないか。 以前、国会図書館の書庫の中を見学させてもらったときに、国会図書館の本の所蔵というのはどうやら力バーを外して、カバーを捨てて保存されているようなんです。今もそうかどうかは最近確かめてないのでわからないですけれども。だけど、そこに段ボールが置いてあったんですよ。その段ボールに何があったかというと、外されたカバーがひたすら積んであったんですよ。これなんでやっているんですか、と言ったら、 いや、昔いた職員でそういうのが好きなやつがいて、段ボールに入れて取っておいたんですと。これこそいいことだなと思ったんです。 さまざまな人間のそうした営み、営みというとカッコいいけれども、そうした味付けというか、仕事に対する味付け、そういうものがアーカイブの根本を支えているのではないかなという気がして、多分、グーグルもオタクなんじゃないかな。僕は記録資料を誰がどういうふうに保存するかということについては、オタクを最大限尊重した上で、さまざまな機関で何ができるのかということを考えたほうがいいではないかというふうに思っています。 もう一つ、デジタルについてなんですけれども、 アーカイブで一番必要なのは、僕はメタデータではないかなというふうに思うわけなのであります。 デジタルの形式とか技術とかはその時代、その時代で可能なものしか選択できません。今から 5 年くらい前ですか、出版物の電子化を推進する経済産業省の補助金事業で、「コンテンツ緊急電子化事業」というのがありました。それに僕は関わっていたんですけれども、そのときに当然テキスト化した、フロー形式の電子書籍と、それから紙面をスキャニングするだけのフィックス形式の電子書籍と 2 つのパターンをつくらざるを得ませんでした。フィックス型の解像度でいろい万議論がありました。最終的には TIFF の 600 を元データとしてそこから電子書籍をつくる形にしました。できれば本当は 1200 欲しかったがコスト的にできなかった。でも今年やるんだったら 1200 と主張しても誰も文句言わなくなっているのではないかという気がします。そういう意味では時代的な技術の制約がある。 一方、画像編集やAI とかは、どんどん進化しているようでして、今まで苦労していたことが簡単に解決する。例えば、先ほどの OpenBD で、内容紹介を書いているのはその本を出した出版社の人間がやるんです。果たしてこのようにしなければいけないことか、 テキストデータを食わせると、主な内容が紹介されるなどということはあとほんの 1 桁年でできるんじゃないでしょうか。 僕はデジタルアーカイブの催しにときどき参加すると、いかにデジタル化しますかという、そういう話に、 ですけれども、僕はそれらが活かされるためには、『羅生門』という映画が何年に誰がつくられてという記録が今デジタルアーカイブの世界では本当は求められるような気がしています。アマゾンというネットサイト がやはり一番整理しようとしているのは、この本がどういう本であり、書影がこうであり、幾らでありというメタ情報の収集だと思います。僕はやはりメタデー タこそまず最初に取り組むべき大きな課題ではないかという問題提起をさせていただきました。 ○高野モデレーター お三方、どうもありがとうございました。緒方さんがリアルな倉庫にものがある、 そこに置いておくだけではもったいないので、デジタル化しましょうという説明でしたけれども、よく考えるとワインにメタデータをつけるとか、フイルムもデジタル化をすることによって、フィルム上映装置がないところでも、ちゃんと上映できるような形にメディア変換されてきた。図書館でも昔は本と書棚だけだったのに、カードをつくり、図書カードと本、さらに図書カードや書棚が電子化されてきた。これらはいずれもアーカイブするという目的は同じで、使われるメディアのブレンドが連続的に変わってきていると考えられる。 リアルからデジタル化された情報だけを分離してデジタルアーカイブというと、何かすごく誤解を招く。 なになにが揃ってないとアーカイブじゃないなどという議論になると思うんです。 ○緒方倉庫に置いておくのは在庫とかで、一般的には必要悪だと思われがちなんです。しかし、ワインとか絵画とか、保存されて価値が上がる可能性がある。映像も過去のものはリメイクされたりして使われるので、そういったものというのは大切にお預かりすることで利活用ということにつながっていきます。 もったいないからデジタル化をするという場合もありますが、多くの場合はもっと切実で、フィルムは見えなくなる、酸っぱいにおいがしてきて、べタべタしてきて見られなくなる。書籍でもそうだと思います。変色して貼りついてしまうとか。そういうフィジカルの保存の限界を迎えて、必要に迫られてコストをかけてデジタル化をしなけれげいけないということが、ご依頼をいただくお客様のほとんどです。 あと沢辺さんの、メタデータづけのところが楽しいお話だったのですけれども、メタデータも 2 種類私の中でテーマがあって、検索に影響するメタデータとかき集めたいメタデータみたいなものがある。書籍であればOCRをかけてデータが取れる、映像なら『羅生門』の映像を見ながらどんどん引っ張ってくるデータもあると思うんです。これは検索をするときに、デー 夕量が多すぎるとまたこれが邪魔になるというのがあると思います。黒沢明と入れたら、1万件くらいヒットして、結局探し出せないというのは困るので、検索 をするために必要なものは人手で入れる。もっと範囲を広げてこういうときには、全部を拾ってくるみたいな感じで、使い分けるというのが肝要なところだなと思っています。 ○高野モデレーター 野口さんにちょっと聞きたかったんですけど、グーグルのストリートビューにしろ、ストリートビュー技術を使ったアートインスティチュートにしろ、リアルとデジタルをゆるくつなぎたいわけですよね、その貼り合わせる行為、マッピングはものすごく役に立つ。 それは素晴らしいと思うんだけど、それをグーグルが全部持ってしまうというのは、ヨーロッパも怖いと思っているし、我々も怖いと思っている。そこに一種の公共化というか、オープンにしてこの範囲については共有しよう、ここから先はビジネスでやらせてくれとか、そういういい仕切りがあってもしかるべきだと思うんですよね。 ○野口近頃、グーグルというとデータ巨人でデー 夕を独占しようとしている、というようなことをよく言われますけれども、実は、企業の中では相当オープンな企業だと思っています。先ほど AI の話も出ていましたけれども、Google は最先端の研究者たちが開発に力を入れている AI、いわゆる機械学習ですが、 この機械学習モデルを作るためのツールを TensorFlow という形でみんなにオープンソースで出しています。 コミュニティ・ビルディングもしていますし、トレー ニング用のデータ等も用意して公開しています。マップも基本的に API で打使いいただけるように用意していますので、利用量に従って企業様には打金をもらっていますけれども、非営利の法人には無償で幾つかのサービスを打使いいただけるような Google for NonProfit というプログラムもやっています。そういう意味でデータの共有はかなりオープンにやっているほうだと思います。 グーグルがすごい怖い存在だ、というイメージを持たれているということについては、おそらく弊社の側での努力が足らない面もあるのかもしれません。ストリートビューの写真も、Googleの利用規約に従い、権利帰属が明確に表示されていれば、用途に応じて、 Google マップ、Google Earth、ストリートビューの画像を自由にお使いいただけます。。 ○沢辺出版をやっていると、最近の巨人はアマゾンで、グーグルは 10 年前ですものね。あのときはすごいもう業界あげてグーグル憎しでした。僕はあの当時は、それに関しては、是々非々でしたね。 産業化との話との関連でいきますと、講談社の人に 2 週間くらい前に会ったんですけど、緊デジのとき 『のらくろ』とかそういう漫画を倉庫の中に 3 冊ずつくらいパウチして永久保存版というのを持っていたんです。それをビリビリと破いて、電子スキャンしたりした。それを今度、漫画だけでなく、文字ものを月に 100 冊くらい古いのを遡って電子化し、OCRにかける事業を始めたらしいですね。これは言いたいことが 2つあって、今はその OCR 化がなぜできるかというと、緊デジのときにある大手印刷会社が OCR を効率的にやっていくという手法を開発した。そうした積み重ねがあったもので、OCR 化の精度がよくなりコストが下がった。多分 1 冊 10 万円前後、月に 1,000 万円くらい。そこまで価格が下がってきたことの执かげで、講談社では以前から発行していた古い本を EPUB にして、それで売っていこうという事業化という展望ができてきた。デジタルアーカイブの話、特に産業化という話になると、いつ金になるんだよみたいな話になるんだけど、 1 年でペイしようと思ったら、とてもじゃないと無理だけど、だんだん技術などによってできてくるような世の中になっているような気がしています。 ○野口グーグル・ブックスは沢山の議論を呼んで、最終的にアメリカでは訴訟がありましたが、長い時間をかけて最後はフェア・ユースだということで決着しました。グーグル・ブックスも、書籍内の記述が検索できることで、思いもよらなかった本との出会いを生み出したり、さらに結果画面には書籍を購入できる書店や所定のサイトにリンクをして、お買い求めくださいとユーザーを誘導している。本文も、著作権者の指定にはよりますが、全文は表示しないので、そういう意味では最後は権利者とユーザーとが win-win になる形をつくっていると思います。 ○高野モデレーター 本を読むのが 1 つの景色を眺めるのだとすると、ストリートビューと同じ発想ですよね。どういう景色がこの本棚の奥には眠っているかをとりあえず全部デジタル化して精度は悪いかもしれないけれども探せるようにする。このようにリアルとデジタルのハイブリタイゼーションというか、オー バーラップさせることを、中国では最近 Online Merges Offline(OMO)とか言うらしいですけれども。 例えば、リアルのある種の状態を、ずっとデジタル的にトラックできれば、中国で始まっているように、店で品物をポンととって、パッと外に出たら、もう会計が裏でもう済んでいるという世界を容易に実現できるわけです。だから、リアルにデジタルを貼り合わせ ることによって、リアルな世界の使い勝手が変わる。 そうするとそこでのビジネスの形が変わるし、人々の行動が大きく変わるかもしれない。デジタルアーカイブの本質は、そういうハイブリッドな情報に変換していくことだとすると、そこに一番の可能性があるんじゃないかと思います。 だから、デジタル化して一つのデータベースを作ればすぐ金になるとか、それが売れることはほぼなくて、 サービスの形が大きく変わり得る可能性がそこに秘められていると考えるのが適切だと思います。野口さんが指摘されたように、ここは無料、ここも無料でやっているんだけど、実はこれらがうまく組み合わさると、 ものすごく有効なビジネスのスキームが生まれることがある。そここそ僕たちが目指すべきなんじゃないでしょうか。 ○緒方実は、デジタイズをして急に儲かったみたいな話はすごくレアだと思うんですよね。後万向きに聞こえたら大変申しわけないですけれども、結構必要に迫られてやる方が多いので、それが売れるものとかというのは逆に言うともうすぐやっちゃうしという、できなくて売れなくて、でもとっておかなくちゃいけないものは圧倒的に多くて、そこら辺が寺田倉庫が社業として成り立っている最大の要因なのかもしれません。 我々、書類とかそういうものを打預かりして、スキャニングとかをして、デジタイズします、この費用はサービスとしてやるんですけれども、これには 10 年分ぐらいの保管料相当分が一気かかります。利活用でその活路を見出さなけれげいけないですけど、特に動画作品を中心に、権利がガチガチなので、利活用はすごくしづらい、権利とかもう少し緩くしてもらって、利活用がしやすくなってくるとマネタイズもしやすくなるのかな、映像関係で言えば 500 社ぐらいのお客様も預けていただいていますし、書類も 1,000 社くらいの打客様が預けていただいていて、そういう方の声はそうなのかなと、そういう感じがします。 ○高野モデレーター 例えば海外の倉庫業で、寺田よりもうまくやっているとか、あそこの国はこういうところを踏まえた法律があるので、あんなことまでできるんだというような例があるのでしょうか。 ○緒方例えばアメリカですと、製作したタイミングから保存、保管をするところまでが予算化されているという印象があります。日本でも例えば映画とかも製作委員会方式でつくるときは一生懸命つくります。 お金をみんな出します。例えばアカデミー賞をとりました。しかし、保存するためには倉庫代、それをデジタイズすれば大きいデータなので、グーグルさんのク ラウドでもそこそこの月額がかかりますと。この費用を誰が負担するのかというところ、そういうところが結構置き去りなんです。 ○高野モデレーター 野口さん、日本の個別の事情と世界の事情の違いでご苦労された体験談があればお聞かせくたさい。 ○野口日本はデジタル・ビジネスの市場の状況が、アメリカやヨーロッパに比べると数年遅れているように感じるときがあります。パッケージのメディアがまだこんなに大きいマーケットで残っている国はほかに余りないですよね。たとえば、音楽業界もまだ CD の売上が大きいので、デジタルに行くということについて、まだそんなにプラスに感じていないという面があるのかもしれません。YouTube でもコンテンツ ID というシステムを早い段階に導入しています。基本的には権利者さんから映像を登録していただいて、同じような映像が YouTube にアップロードされた場合「これはあなたのものじゃないですか」とマッチングをして権利者にお知らせします。そのときに、権利者 3つの選択肢から対応を決めることができます。1つ目は、その映像はブロックして見せないようにする。 2つ目は何もしないで、視聴回数等をトラッキングしてモニターする。3つ目がマネタイズする、という3 つです。仮に権利者の映像を無断でアップロードした人が広告をつけたとしても、その広告収入はアップロードした人ではなくて権利者のほうに入っていくという仕組みで、このマネタイズの仕組みは、海外では人気なオプションです。 非常にわりきった考え方をすると、自分のコンテンツをほかの人がどんどん宣伝してくれて、お金は自分に入ってくる、ということで、収入の半分くらいがそ ういう第三者がアップロードしているものの広告収入で成り立っているという権利者さんも海外には結構いらっしゃいます。日本はそこを潔しとしないところがまだまだ強いかなと思います。 ○高野モデレーター 沢辺さんは出版業として、海外の出版社をうらやましいと思ったことはありますか。 ○沢辺世界の話はよくわからないですけど、たたちょっと今の話と少しだけ関連するのかなということで言うと、本はISBNという、International Standard Book Numberがあり、それをつけないと日本の本屋さんでは取り扱えない。もう 1980 年くらいから行われているから、これはすごいいいことなんですよ。たた、、図書館の人たちには、ISBNなんて信用ならない、うそばっかり、同じものが何度も使われていたり、ものすごく評判が悪い。出版業界の中には、チェックデジットを枝番号に使っていたり、その 1、その2、その3みたいな例も聞いたことがあるんですよ。この間違えてつけることというのは、日本の自由さ、だらしなさとも言えることなんだけど。 ○沢辺野口さんに質問ですが、グーグル図書館はその後どうなったんですかね。 ○野口アメリカでは非常に使われているサービスですね。先ほど、最終的には裁判でフェア・ユー スという判断が下った、という話もしましたけれども、10 年以上裁判で争ったり和解を試みたり等して、最後には、おおすじ、書籍の特定・発見などを可能とすることにより、社会全体に利益を与えているから合法だ、というような認定が下りました。すなわち世の中のためになっている、さらに書籍に特定 $\cdot$発見に貢献する結果、商業的なところにも貢献しているのであれば、それはフェアユースでしょうとい うことになっています。 ○高野モデレーター 多分、ヨーロッパが警戒したのもそれが原因でしたよね。そういう意味では、非常にアメリカ的な大きい実験で、それはアメリカ社会にはちゃんと受け入れられたというふうに見るのが正しいかもしれませんね。グーグルを受け入れ、グーグルの協力者でもあった大学の図書館のリーグがハーティトラスト(HathiTrust)という団体を作ってもうちょっと深くやろうというプロジェクトを進めていますが、 これもずっと続いていますので、ある意味で非常に大きい文化的な運動になったんだろうなと思います。 ○緒方例えば、ワインセラーの打客様に「ワインマニア」の方に向けてこんな素晴らしいセラーをつくりましたと言うと怒られます。「ワインラバー」と呼びなさいとか。ワイン 1,000 本を 10 万円以上の部屋に打預けになる方は資力もあるのでしょうけれども、 やはりそこはある種のマニアックな方で、寺田倉庫はそういう意味では基本的にとんがったサービスだけをやる。非製品で、世の中 1 点限り、これがなくなっちゃったらみんな泣いちゃうみたいなものを大切にお預かりするということをやっているので、基本的にお客様は皆さんマニアな人しかいません。 ○沢辺デジタルアーカイブというとついつい本とか映画とか、絵画とかそんな話ばっかりなんだけど、 でも例えば漫画がそういうように、誰にも文化としては見向きもされなかったのが変わってきたりするわけたから、そのマニアさんが最初目につけていたわけじゃない。結構、マニアって大切なんじゃないかという気がしているんだけど。 ○緒方 To-beビジネスの中で音楽系の会社さんはほぼマニアだと言っていいと思います。例えば、2インチのマルチテープ、レコーディングスタジオでとった、相当に分厚いものがあるんですけれども、これはほぼ再生に使わないです。ここから CD マスターで一回コピーとるんですよ。CDマスターで一遍コピーとったものから CDを重版していくんですね。この原版を再生したら音が少しずつ悪くなるというのを本当に信じられています。これをデジタル化すれば同じ音が聞こえるはずなんですけど、音が丸くなっちゃうから駄目だ、ということを打つしる方たちがいらっしゃる。 そういう方たちが寺田倉庫を支えてくださっている。 ○高野モデレーター どうもありがとうございました。それでは、まだ 30 分間、議論の時間があります。 ○質問教育とデジタルアーカイブの産業化ということを、関連して考えられないか。日本アニメーショ ン映画クラシックスというサイトは結構ニーズが多くて、しかも北米の日本のことを勉強しようとしているそういった学生が見たがっている。ただし、日本語だけだとやはり理解がでないので、メタデータとか概要だけでも英語をつけてくれとの希望がある。 ○高野モデレーター 今、紹介いただいた日本アニメーション映画クラシックスは、フィルムセンター (現国立映画アーカイブ)と私の研究グループが共同でつくったもので、その名誉のために言うと、今では全て英語字幕つきになっています。 ○沢辺今日もテーマが産業化ということで与えられていて、もうそんなことあるわけないじゃん、なのにこれで舞台の上でしゃべらなきゃいけないんだよとずっと思っていたので、いくら教育とか何とか言っても多分今後無理なんじゃないですかと思っているんですけど。 ○野口グーグルでもデジタルアーカイブ化したものを教育に活かすということはたくさんやっているんですけれども、それを教育産業にまでという意味で言うとなかなか難しいですね。基本的には社会貢献の 1 つとしてやっていたりすると思うので。 ○質問ブロックチェーンという仕組みを使って、隣接権だとか、著作権のようなものをネットワークの中で管理する仕組みができないか。 ○野口ブロックチェーン技術自体はポテンシャルもあって、概念的には実現可能なんだと思います。先ほど緒方さんが抽しゃったように、すごくたくさんのデジタル化された貴重な資源があって、でもそれを活用しょうと思ったら、映像会社が全部権利を持っているわけではないので、権利者全員から承諾をとる、 というところがボトルネックになっていると言う現実はあると思います。データベースをつくってリアルとデジタルのマッピングが全部済めば、権利者のところにメールが飛んできて、この人はこういうふうに使いたいと思っています。承諾をいただける場合はここをクリックしてください、みたいなシステムは、概念的には可能だと思いますけれども、マッピングのコストが現実的にどうなのか、そこは高野先生のご意見をぜひお伺いしたいと思います。 ○高野モデレーター 電流協という団体主催のセミナーに昨日行ったんですけれども、ブロックチェーンの技術が権利処理にポテンシャルを持っているという話はかなりリアリティーを持って語られています。 ただし、全ての出版物をそれで扱えるという大風呂敷を広げてもなかなか前に進まない。映画の製作委員 会をつくったりしたときに、それを応援してくれる人が投資をしたら、その人たちにブロックチェーンのお金を渡しておく。それをICOするというような形で、応援した人たちが正確にとらえられて、その権利を譲渡することもできる、そういう目的には、ブロックチェーンは非常に向いている。 ○沢辺アーカイブの話になると、つい昔につくったものをどうするかみたいな話になるんだけど、昔にさかのぼってやるのは大変なんですよ。でも、今、つくっているものを例えばメ夕情報的にはこういうふうにとか、あるいは権利者情報をこういうふうに整理しておこうとか。4Kの話だって、今、編集は大変かもしれないけど撮影器具で $4 \mathrm{~K}$ のカメラなんかそれほど大した金じゃないと思うから、 $4 \mathrm{~K} て ゙$ 撮っておこうとか、今やっていることをどうするのかということを考えることが実際将来のアーカイブにとって、すごくいいことのような気がします。 ○緒方権利者が複数いるコンテンツ、たとえば動画の世界になっていくと、管理者がたくさんいて、権利者の団体もいろい万あって、権利も複雑で、結局集約できないということがあって、二次利用ができない。 しかし二次利用して収益が上がったら、その上がった収益を分配されたいと思っている出演者も多分いると思います。ある出演者の保護のためにその他のたくさんの方がもう一回二次利用で上げられる収益のチャンスをつぶす権利がそこにあるのか。やはり保護と再利用のための規制緩和のバランスとか、そういうところだと思うんですよね。 ## ○質問 デジタルアーカイブにおいて、国として収集の仕組みを整えていくというのは大事だと思うが、海外における事例があるか。 ○高野モデレーター それぞれの国や地域の著作権法に基づいて収集したり共有することは行われているのだと了解しています。 グーグルのアートプロジェクトやグーグルサーチは明らかにアメリカ的やり方で、ヨーロッパでは自分たちの文化が巻き取られていくという意識があったんですね。それに対抗する手段として、生貝さんが一番詳しいですけれども、EU 指令というのを発行して、著作権がまだ切れてないものでも、非営利の文化機関であれば、スキャンしていいとか、デジタル化して構わない、非営利であれば共有してもいいでしょうという形で、EU の底上げを図ろうとしている。それの集めたものの全体を束ねるプロジェクトとしてヨーロピアーナが発想されています。 ○沢辺グーグルというやんちゃ坊主が、いろいろ引っかき回してくれたおかげで EU 指令が出る形で、重たい腰が上がっているということもある。 だから、ねじれたり、大変な権利関係とかいろい万なことと、中央集権でバタンとやるのではなくて、 やっちゃ坊主のそういう取組をどんとん増やすことによって、俺も権利となんとか言ってたらまずいかな、 みたいな、そういう方向に社会がうまく着地していく。 ○野口私も昔かなり著作権をやっていた人間として、著作権の中にフレキシビリティが重要だということを昔から言っています。やっぱりアメリカのフェア・ユースは、そこの解釈自体がすごく多義的たかか、 そこまでやっていいのか、いやいけないんだという議論の中で、少なくとも、最初の一歩を踏み出すだけの幅の広さがある。 今、日本でも著作権法の改正で柔軟な規定を入れようということで、この間、閣議決定されたので法文案を見たのですけれども、その一歩は、アメリカのフェアユースが一歩だとすると、多分零点何歩か、小さい一歩です。 中には、軽微な利用を認めるという条文もありますが、いろい万な類型が今後出てくるだろうから、今見えている軽微な利用は規定がありますけれども、今後でてくるかもしれないものについては、その類型は今後、政令で定める、となっている。しかし、すごく真面目な日本の文化の中では、政令では定められてないけれども、とりあえずやってみよう、ということはなかなかできないじゃないですか。だからこそ、いろい万な多義的に解釈できる規定にすることがイノベー ションとして重要だという話がさんざんあったのに、最後の最後で、やっぱり政令で指定になっちゃうのか、 というところがちょっと残念です。もち万ん、それの他に、著作物に表現された思想・感情を享受しない利用については、政令の指定などなく利用できる、というような規定も追加されましたので、もち万ん、重要な一歩ではあると思いますが。 ○質問 YouTube に上がっているもののほとんどはデジタルネイティブだと思うが、そういったものの可能性とか産業化の可能性はどうか。 ○緒方実は、ボーンデジタルのもののほうが産業化がしやすくて、もっと流通していくのかなと思います。そのときに余り政令とかで定められるよりも、圧縮方式とかどういうフォーマットなどのように、市場でプレーヤーが賛同を得られたよいものが淘汰されて残っていると、ルールもそういうふうになっていった ほうが本当は健全、活性化にもなってくると思います。 ○沢辺数年前に村上龍さんが『歌うクジラ』という音楽を流したり、字が雨になったりというような形の電子書籍をつくった。僕はボーンデジタルのものをあえて書籍というジャンルに入れなくてよくて、広くコンテンツというんですか、メディア・コンスティテュートなコンテンツとするならば、ユーチューブに載っている動画だってコンテンツだし、さまざまなコンテンツがあって、それは決して本の延長線上にあると規定されなくても全く構わないようなところに来ているのではないかと。 ## ○質問 アーカイブと称される情報とか記憶のかた まりの寿命、ライフは何年くらいを想定するか。 ○沢辺僕は忘れることのほうに興味があって、本も国会図書館に全部なくても捨てられちゃってもいいんじゃないか。いかに捨てるかという議論が、実はどこかでやりたいなというふうに思っている。 ○野口私は目的によって違うのではないかと思っています。新しい情報が求められる検索的なサービスであれば、最新のウェブ情報を出すことが使命なわけだから、何年ですかと言われると多分、数時間から数カ月くらいまでですが、本当に永久保存版的なことをしたいという目的であれば、検索できる情報の時間軸 はより広くなければいけないでしょう。 たた、世の中にあるデータ量の推移を見ると、過去 数年以内で、世の中のデータの $80 \%$ くらいがつくられている。すごい量の情報が日々つくられていて、そしていろい万なところで個人的にアーカイブされています。それらをこれからどう捨てていくのかも含めて体系化していくのかというのは多分どこにもまだ答えが出てないんじゃないかと思います。 ○緒方作った方が捨てるといわない限り、すべてアーカイブとして残っていくのではないか。途方もない情報量が世の中にあふれていく。検索では時間軸で制限することもできる。製作者が意図しない限り、なるべくならい万んなものを取っておくのがいいのではないか。 ○高野モデレーター 目的に応じて、社会の要請に応じて、どれだけの期間保存するというのはどんどん変わっていく。 80 年代のプログラマーの間では、このままプログラムの需要が増えると、国民全員がプログラマーにならないと対応できないと言われたが、そんなことは起きなかった。デジタルアーカイブの社会における役割も変わるだ万うと思います。 今日は多様なテーマで興味深いお話しを沢山うかがうことができました。最後にパネリストの皆さんに拍手をお願いいたします。
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Japan Society for Digital Archive
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# [A21] 労働史オーラルヒストリー$\cdot$プロジェクト 多面的デジタルアーカイブ構築の試み ○谷合佳代子 エル・ライブラリー (大阪産業労働資料館),〒540-0031 大阪市中央区北浜東 3-14 公益財団法人大阪社会運動協会 E-mail: [email protected] ## A Labor Oral History Archive Project Attempt to construct multifaceted digital archive TANIAI Kayoko Osaka Labor Archive, 3-14 Kitahamahigashi, Chuo-ku,Osaka, 540-0031 Japan ## 【発表概要】 梅崎修を研究代表とする労働史オーラルヒストリー研究チームは、エル・ライブラリーとの連携により、2011 年度からオーラルの動画に反訳文字情報を加えたものを「労働史オーラルヒストリー・プロジェクト」として 2015 年 12 月よりエル・ライブラリーの Web サイトで公開している。これは近年増加しているオーラルヒストリーのデジタルアーカイブの事例であるが、そのコンテンツの一つである「辻保治コレクション」をめぐるオーラルが既知のものと異なる点は、 (1)動画を無編集で公開している、(2)関連資料リストを作成し、エル・ライブラリーの OPAC にリンクを張っている、(3)記録資料をめぐるオーラルである、という 3 点があげられる。また、ア一カイブ機関と研究者との連携プロジェクトである点が、MALUI 連携の事例として他機関の参考となるであろう。 ## 1. はじめに 「労働史オーラルヒストリー・プロジェク卜」は労働史の分野におけるオーラルヒストリーを収集、整理、保存することを目的として、2015 年 12 月にエル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の WEB サイト上で公開された。これはまた科学研究費基盤研究 (B)「戦後労働史研究におけるオーラルヒストリ一・アーカイブ化の基礎的研究」の成果でもある。 プロジェクト参加メンバーは梅崎修(法政大学キャリアデザイン学部教授) を代表とする科研費プロジェクトの研究者 7 名と、エル・ライブラリーのスタッフ 3 名に加えて、 ボランティア学芸員 1 名の計 11 名である。 2000 年からオーラルヒストリー研究を進めていた梅崎らは、動画コンテンツを作成・公開することを目指してその具体的方法を模索すると同時に、労働アーカイブ機関との連携を求めていた。 いっぽう、労働関係の一次資料 (文書・音声記録と博物資料)を所蔵する MLA 融合型図書館であるエル・ライブラリーは、2008 年に橋下徹知事(当時)によって補助金を全廃され、極度の財政難に立ち至っていたが、未整理資料の組織化と公開を模索し、外部資金の導入を検討していた。 その両者が出会って始まったのがこのプロジェクトである。2011 年以来、資料整理とオ ーラル動画の作成並びに研究が進められ、 2015 年に至ってようやく WEB での公開が実現した。 本報告ではその経過を紹介し、資料保存機関が行うオーラルヒストリーのデジタルアー カイブに固有の成果と課題を提示する。 なお、予稿を執筆中の 2017 年 1 月現在ではまだ辻コレクションの資料一覧ならびに 「編成と記述」が公開できていないが、本発表当日までに公開予定である。 ## 2. プロジェクトのコンテンツ概要 本プロジェクトサイト内では、労働史を研究する人々や自らの仕事史を振り返りたい人々に向けて、オーラルヒストリーとオーラ ルヒストリーの文献目録を提供している。労働史については幅広く捉え、関連領域を含めたオーラルヒストリーのアーカイブを目指している。コンテンツ概要は以下の通り。 ・このプロジェクトについて ・ビデオアーカイブ ・文献リスト ・お知らせと最新情報 ・関連リンク ・お問い合わせ 図 1.プロジェクトのトップページ このうち、実質的なコンテンツは「ビデオアーカイブ」と「文献リスト」である。 「ビデオアーカイブ」には 2017 年末現在、 5 本 (2018 年 3 月までに 1 本、夏までにさらに 1 本追加予定)の映像が公開されており、動画のページにはさらに「経歴」「関連文献」 のサブページを作成している。 「経歴」にはインタビュイーの職歴などを記載している。「関連文献」はエル・ライブラリーが所蔵するオーラルヒストリー関連資料リストであり、タイトルなどの書誌情報をクリックすると当館の OPAC にリンクしているので、所蔵情報もリアルタイムに把握できるようになっている。 映像リストは次の 5 本で、(1)~(3)が近江絹糸争議関連のオーラルヒストリーであり、辻保治コレクションの資料整理に伴って作成さ れたインタビュー映像である。 (1)小林忠男氏(元近江絹糸労働組合) (2)辻保治コレクション座談会 (3)中村幸男氏(元近江絹系労働組合) (4)久野治氏(元三菱電機労働組合中央副執行委員長) (5)石原利昭氏(元連合大阪会長) これらの動画の右側には反訳の文字情報を添えている。手早く内容を把握するには文字情報を読めばよいし、語り手の表情や言いよどみも含めて観察する必要があるならば、動画を閲覧すればよい。 このように、労働史オーラルヒストリー・ プロジェクトが「多面的デジタルアーカイブ」であるというのは、動画・文字・文献の三位一体で WEB 公開していることを指す。 さらに今後は辻コレクションのらち、著作権処理が可能なものは順次 Web で公開していきたい。 ## 3. 辻保治コレクションの概要 辻保治コレクションは、「人権争議」として名高い 1954 年の近江絹糸争議を主導した一人である辻保治氏(1935~98 年)の所蔵資料であり、その死後まもなく大阪社会運動協会(エル・ライブラリーを設置運営する法人。当時はまだライブラリーは存在していない) の資料室に寄贈された。段ボール箱 $(38 \times 52$ $\times 26 \mathrm{~cm}) 4$ 函分の資料は大部分が 1953 年から 9 年間、辻氏が近江絹系彦根工場に在籍していた時期のものであるが、その後大阪で詩人として活動した時期の資料も含まれる。最も新しいものは 1970 年代のものである。 その内容は、(1)会社発行物、(2)労働組合発行物、(3)地域や職場の文芸サークルの刊行物、 (4)辻氏個人のメモや草稿など創作関係手稿、 の 4 つに分類できる。(1)を除く多くの資料が手書きの謄写版印刷物であり、劣化も激しい。 だが、間違いなくこれらの資料は、当時の労働者の心性を物語り、組合活動や職場の労働条件が判明する一次資料の数々である。 2011 年、梅崎ら研究者とエル・ライブラリ 一、そしてボランティア学芸員下久保恵子は、 受贈以来 10 年以上未整理であった辻コレクションの組織化を開始し、さらに関係者からのインタビューを行って、資料の公開をめざすこととなった。 ## 4. オ一ラルの実施と公開 口述による記憶の再現であるオーラルヒストリーと文書記録はしばしば対立するもののように思われがちだが、本プロジェクトのメンバーはそのように考えない。両者は歴史を記述再現するために相互補完するものと考えるべきである。 今回は、「辻コレクション」という個人アー カイブズを当館が所蔵していたために、わたしたちは「資料をめぐるオーラルヒストリ一」の作成を企画した。すなわち、《オーラルヒストリーを補完する証拠としての記録》という位置づけではなく、《残された記録が想起させる記憶を当事者たちに語ってもらう》という手法をとったのである。 さらには、その語りを録画し、編集を加えることなくWE Bで公開するということを試みた。 反訳であれば、文字に起こされたものに手を加えて修正することは比較的容易である。 しかし、映像を修正することはほぼ不可能であり、修正ではなく削除しかありえない。つまり、映像はそのまま公開されることがはばかられる部分についてはその映像を削除する以外に方法はないのである。 幸い、辻コレクションをめぐるオーラル 2 件については趣旨を理解されたインタビュイ一たちによって、大きな修正なく動画と文字情報を公開することが可能となった。 現在、わたしたちのプロジェクトのなかで未公開となっているオーラルヒストリーには、録画した内容と文字起こしをした情報とのあまりも大きな異同が障壁となって公開が延びているケースがある。 わたしたちは、反訳された文字情報について、「明らかな誤りを修正する。固有名詞に漢字を当てはめる」という程度の修正を口述者本人に求めたのであるが、実際には戻って来 た原稿は真っ赤に修正されていた。 このまま動画を公開できるかどうかの瀬戸際を迎えたわけである。 この問題の解決法は未だ見えない。むしろ、動画と文字との違いを注意深く観察する研究者がいれば、その差異にこそ語り手の記憶と体験の重要な心性や政治的配慮が隠されていると看破し、新たな研究課題を浮き彫りにするのではないか、とも思える。 デジタルアーカイブの大きな課題の一つが著作権処理であることは言を俟たない。オー ラルヒストリーの動画が公開しづらいのは、著作権者の許諾を取るのが容易ではないことに原因がある。 なんどもインタビューを受けることによって心を許したインタビュイーが語ったオーラルヒストリーも、いざ文字になったものを確認する段階になると、公開拒否ということになりかねない。文字であれば修正可能でも、動画はそうではないとなると、公開に難色を示される場合が頻出することもやむを得ない。 なお、資料の污破損が案じられる辻コレクションの電子化については、本プロジェクトとは別のプロジェクトにおいて実施され、コレクションの半数以上の資料をデジタルすることができた。労働史の資料にとどまらない、 1950 年代の貴重な文化運動資料を含む同コレクションの公開は、資料活用への大きな一歩となるに違いない。 ## 5. おわりに ML A 機関は地域の記憶の場として、所蔵資料をデジタルアーカイブとして公開すると同時に、新たにオーラルヒストリーを作成・收集して、地域の記憶を掘り起こし、自らがコンテンツ作成者となって資料提供・研究に従事する重要な役割を持つ。 さまざまな困難や課題が待ち受けるが、労働史オーラルヒストリー・プロジェクトの成果と課題を教訓として、多くのオーラルヒストリー動画がデジタルアーカイブとして公開されることを期待している。当館もまた資料を研究者のみならず多くの市民が活用できる 図 2. ビデオアーカイブのページ。 ように、デジタル化とメタデータの公開を進めていきたい。 ## 参考文献 [1] 梅崎修. “プロジェクトの目的”. 労働史オー ラルヒストリープロジェクト http://shaunkyo.jp/oralhistory/index.html (閲覧 2017/1/4). [2] 島西智輝,梅崎修, 下久保恵子, 谷合佳代子,南雲智映.エル・ライブラリー所蔵の近江絹糸人権争議資料:辻コレクションについて. 大原社会問題研究所雑誌. 2014, (668), p.63-74. http://repo.lib.hosei.ac.jp/bitstream/10114/9 499/1/668shimanishi-other.pdf (閲覧 2017/1/4). [3] 梅崎修. 労働史オーラルヒストリー・アー カイブの試み:映像化の取り組みと資料の利用可能性を中心に(<小特集>調查研究における映像資料利用 $の$ 可能性と課題). 社会政策. 2016, 7(3), p.102-112. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 角川 KADOKAWA Tsuguhiko (株)KADOKAWA 取締役会長 角川でございます。こんにちは。私も第 1 回のデ ジタルアーカイブ学会にも出席させていただきまし た。これからデジタルアーカイブ学会はどうなって いくのかと一つのご参考のお話になればありがたい と思います。 ## (1)アーカイブの難しさ 今日では、出版社の話ですけれども 2 割の新刊で 8 割を売上げる、逆に言えば残り 8 割の在庫は 2 割の売上げしかないのが現実です。 アーカイブというのは、過去の遺産でしかないということ。過去の遺産にいつ抒呼びがかかるかといって待っていても、声がかからないで、そして在庫が倉庫に眠っているという、そういった存在であります。 KADOKAWA の場合には実はアーカイブである部分は角川文化振興財団という財団をつくりまして、そこの財団が管理・保存するという形をとっております。私は KADOKAWA の会長であると同時に、角川文化振興財団の理事長としての立場でこういう話をさせていただきたいと思います。 コンテンツ事業に携わっている者は日本の文化の創造こそが自分たちの仕事の本分であると考えますが、 その中で、この創造、保護、活用という3 要素のサイクルが原則であることを念頭に置いていただきたい。 これは 2002 年小泉内閣のもとで知的財産戦略会議というのが内閣府にできたときの基本的な考え方です。当時は文化庁の予算というのは保護、創造に偏っていました。ですから、そういう点では振興という言葉はなかったわけですけれども、この保護をしていく、維持をしていくためにはコンテンツの活用という部分がなければ、ただ保護していく、ただ維持していくと いうのは大変至難なわけです。活用があったればの保存であり、創造あったれげの保存であるというふうに思うと、私は良心的なコンテンツ事業者ほどアーカイブの、維持に苦しんでいるということを明言してよろしいと思います。 企業がアーカイブを維持するということは大変な体力、財政的な安定が必要です。そのためには、私は結論を先に言うわけではありませんが、ぜひこの学会がアーカイブデジタル保存減税構想というのをまとめていただきたいと思います。 その中には、これからデジタルアーカイブ、 $4 \mathrm{~K} て ゙$保存する、これまた至難なことも入ってまいります。 $4 \mathrm{~K}$ 保存のためのシステム設計、システム維持、それも減税の対象になっていくことが必要なのではないかと思います。 グーグルからは KADOKAWA の在庫を使って PDF を作成するのでそれを活用したらどうかという話がありました。しかし、結局グーグルが我々の在庫を自分のために使うということだと考えて断りました。断ることができるということは、基盤がしっかりしている会社だけができることです。 イタリアのバチカン図書館にも、グーグルから申达みがあったとバチカン関係者から聞いております。バチカンでは納得できないということで断った後に、 NTTデータが指名されて、電子書籍化を推進しております。 このアーカイブの対象としては、アニメ、音楽、書籍、それらのコンテンツが含まれていますが、特にゲームに課題が多いということが言えると思います。 1883 年にスーパーファミコンが任天堂さんから出されて、日本のゲーム産業というのが大変勃興しました。 その後、ソニーのプレステーション、日本のメーカー はハードに関しては世界的なインフラをつくることに大きな貢献をしました。しかしながらゲームソフトについてはほとんど保存ということがされていません。 デジタルゲームというのは、ある日突然消えてしまうという、デジタル保存の問題点です。デジタルデー タがどのくらい保存されるかという科学的な実証はほとんどされてないと聞いております。ですから、そういう点で、任天堂さんのファミコンの保存状況がどうなっているかは聞いておりません、ソニーさんからも聞いておりませんが、手つかずに残っていると大きな問題たと思っております。 ## (2)映像のデジタル化 今、映像のアーカイブに関してはイノベーションが起こっています。コンテンツ産業に起こっているデジタル革命は、このアーカイブについても大きな影響を与えています。 僕などは 1990 年後半に、映像の DVD が出たときに本当に衝撃を受けました。DVDというものは全く劣化しないで非常に鮮明です。VHS の事業者から見れば、ビデオというのはアナログで劣化していき、劣化することによって、また需要が生まれるというビジネスモデルをつくっていたものですから、劣化しないということは大変な衝撃たっったのを昨日のように覚えております。 今のシネマコンプレックスというのは、100パーセントフィルム上映ができない映画館です。それまでのフィルムで保存していた映画のアーカイブというのは今のシネコンでは見ることができない。 KADOKAWAは、1975年に映画分野に進出しました。私の代になってから、『失楽園』だとか『リング』という映画をつくってきたわけですが、そういう中で、着実に映画、アーカイブというものは積み重なってきております。 さらに大映作品を KADOKAWA が買収したので、新角川映画のアーカイブには大映作品が多く含まれております。そして、また 2004 年にはドリームワークスというアメリカのメジャーとも契約して、ドリームワー クスの作品を KADOKAWA が公開するとともに、契約が切れるまではアーカイブとしてそれを受け入れておりましたし、へミスフィアファンドというファンドをつくって、ハリウッド映画の大きな作品へ出資をすることによって、アーカイブも増やしてきております。 大映作品を徳間さんから KADOKAWAに移管したとき、徳間書店はほとんど住友銀行の管理下に入っていたわけですけれども、住友銀行と交涉の結果、 KADOKAWA が大映作品を、当時 1,600 本購入しました。大映のスタジオ、大映に所属していた社員、アー カイブ、この 3 点を全部 KADOKAWA で引き取るという中で、大映作品を角川がアーカイブ化することになったわけです。 } \\ そのときにはKADOKAWA は上場しており、角川の株価が下がりました。大映作品を買ったからといって、どういうビジネスになるのかということに対する投資家の疑問が起こったわけです。これがアーカイブに対する当時の評価だったというふうに思います。 恐らく現在でも、その評価、あり方というのはそう変わらないと思います。先ほど申した創造、保護、活用、 この 3 原則、その活用という部分に問いかけていかなければこのフィルム、アーカイブというものは維持できない。その維持することが不可能になる、障害があるということを繰り返して申し上げたいと思います。 KADOKAWA 1,600 本のフィルムを平成 16 年から 20 年にかけて洗浄するという仕事をしました。 $\mathrm{ABC}$ というジャンル、A はどんなことがあっても将来に残さなければいけない作品、Bはその費用によって検討する、Cは既にフィルムが溶けてしまっているから洗浄しても始まらない。そのような分類で、名作品の分類をしました。そして当時、これを洗浄できる のは職人的な技の持ち主だけですので、職人が元気なうちに実行しようということでこの洗浄活動に入りました。 1,600 本を洗浄するに当たっては 5 億 6,000万円かかりました。洗浄し終わったものは今東京国立近代美術館フィルムセンター(編集注:2018年 4 月 1 日より、国立映画アーカイブ)で保管しております。KADOKAWA はこのフィルムセンターができたときに、いの一番にセンターに保管してもらうことでお願いしました。 このフィルムセンターというのは、それ以上の劣化をさせないために預ってもらう、温度の調整、などをするために通常の倉庫に比べるとはるかにいい環境で保管ができる。フィルムセンターに入れたからフィルムがよくなるわけではないわけです。ですから、フィルムセンターに預けるということは、次にどうやってその劣化を食い止めて再生させるかという問題を残したままです。 今回、デジタルの名前を冠した、デジタルアーカイブという名前に変わってこれから映像のアーカイブをどういうふうにしていくかということが今問われていて、その運営についてもこの学会の成果を国に反映させていかなければいけないのが 1 つ役目、皆さんのミッションだというふうに私は考えております。ぜひ私どもも一緒になって協力して推進していきたいと思います。 KADOKAWA グループの保有する映画作品は、この大映作品を含み、1,900 本になっております。その中でデジタル化という形で残っているのが 900 本、それから $4 \mathrm{~K}$ は 27 作品、 $8 \mathrm{~K}$ はゼロです。非常に僣越な言い方ですけれども、恐らく最先端だと思います。 $4 \mathrm{~K}$ の作品、『蘇る金狼』、周防監督の『Shall we ダンス?』、溝口健二監督の『雨月物語』、『山椒太夫』、『近松物語』、こういった芸術映画として国際的に評価の高い作品も選んでおります。 ## (3)書籍のデジタル化 先ほどからコンテンツのアーカイブということを申し上げておりますが、書籍では今 8 万点を抱えております。日夜、電子化を進めておりますが、なかなか全点というところにいくのはまだまだ至難なところにあります。また、角川文化振興財団が所有している芸術作品についても、これも今、アーカイブ化しようとしております。財団が所有している書籍のアーカイブの中には、角川源義氏研究した成果全て、東大史料編纂所の竹内理三先生の図書、それから外間守善先生、これは沖縄関係ですが、そういう蔵書も財団が預って管理・保管しております。 図書の好きな人が大きな書庫を持っていらっしゃることが多いかと思います。元気なうちはどんなに場所をとっても自分の手の届くところに置きたいという方々です。その方が亡くなると遺族が大変困ってしまって、それがブックオフに流れるということがほとんどたと思います。 国会図書館やいろい万な図書館に持っていっても、 きっと困った顔をされて受け付けてもらえない。そういった問題もぜひこの学会で検討していただきたいと思います。今現在、個人所有されている貴重な図書、 その方の死と共にどこかに流れて散乱してしまう状況にあると思います。 ## (4)「羅生門」 デジタル化というのは非常に難しいなと思うことの 1 つに、ハイビジョンということがあります。私のところで『天と地と』という、時代劇の大型作品を NHKの当時のハイビジョンで劇場公開したことがあります。そのときに私は非常に失望したことを覚えています。ハイビジョンで上映されれば当然ながら鮮明な画像で見られるものだと、当時普通の人は思っていたはずです。現実には NHKのハイビジョンというのは、フィルムで上映されるレベルと比べると劣るわけ ルムの情報量と同じレベルになるということですので、 $4 \mathrm{~K}$ 保存がこれからのデジタル化の大きなテーマだと思います。 それでは、 27 作品の $4 \mathrm{~K}$ 化という中で経験したことを申し上げますと、この $4 \mathrm{~K}$ でのデジタルアーカイブというのは非常に多くの費用がかかります。4Kでデジタルマスターをつくるためには、4Kでスキャンして、4Kで修復しなければいけない。そして、4Kで保存できる状況にして、4Kで上映されなければいけない。つまり $4 \mathrm{~K}$ デジタル復元というのは、スキャニング、デジタル映像化、デジタル修復、そしてデジタルマスター、そして上映の一気通貫がなされて初めて 当たり前のことですが、これをしなければならない。 これを $4 \mathrm{~K}$ で一気通貫すると 1 作品当たり 3,500 万円から 4,000 万円、これが 1 本の映画の実際の経費です。これはもちろん公表されている金額はあるでしょうが、実際に私が『羅生門』という黒沢明さんの名作にかけた費用は 4,000万円でした。 『羅生門』を $4 \mathrm{~K}$ 化するに当たって、KADOKAWAには恵まれたことがありました。それはアメリカのハリ ロフル4Kデジタル復元 上記、工程の間に「素材選定」「フィルムの物理修復」「欠損部分の補完」「ノイズの除去」等の様々な作業がはいり 4Kフル復元、一作品あたり3500~4000万円 ウッドから、『沈黙』という映画を撮られたマーティン・スコセッシ監督が黒沢明をリスペクトして、アカデミ一協会の費用で $4 \mathrm{~K}$ 化したいという申出がありました。そのときに私は東映や松竹の皆さんにこんな話があるけど、と意見を聞いたときに、角川さん、これは本当に名誉なことだから受けるべきではないかということで、気持ちょくマーティン・スコセッシ監督の提案を受け入れました。 このプロジェクト全体を実現したときには、6,000 修復し、スキャンして、デジタルマスターをつくったことは非常に貴重な経験となりました。 実は、フィルムの状況でオリジナル作品を残せるというのは映画の場合ほとんどあり得ません。みんなコピーしてそれを映画館で流すわけですから、どれがオリジナルフィルムかはわかりません。黒沢明監督の 『羅生門』に関しても良質なコピーが残っているというのをもとにして復元されるということでございます。映画の中で巫女が語り始めるシーンがあります。 それは黒沢明監督が完成した後につくり直して、非常にクオリティの低い結果になってしまったということがあります。復元される前のフィルムで上映しますと、 そこだけやたらに雨が降っていて、あたかも雨が降っている中で、巫女が出てきたような感じがしますが、実はそれはフィルムの雨で、本当の雨ではなかったのです。 そういう状況の中で、今回、アカデミー協会の申出によって、デジタル復元した結果、非常に鮮度の高いものに戻すことができました。『羅生門』という作品、国境を越えて保存するべきだという、そういう映画人としての理想が一緒になって実現したという非常に稀な幸せな作品だったというふうに今でも思います。私は、2008 年 9 月 18 日にビバリーヒルズのアカデミー 劇場、サミュエル・ゴールドウィン・シアターというところで、アカデミー協会会員満席のもとで、再上映されたとき感動を共有することができました。 ## (5) $4 \mathrm{~K$ 化} このようなことで、私が今まで $4 \mathrm{~K}$ 化を推進していくためにいろい万な方の協力を得ることができました。その後もマーティン・スコセッシ監督からは引き続きほかの作品の支援も受け、最近で言えば、『近松物語』、『山椒太夫』などについてもこのデジタル化を果たすことができました。こうして『炎上』や『おとうと』、あるいは『雪之丞変化』もデジタル復元できました。また、国際交流基金からのこのような協力を得ることができました。 光の当たらない作品の中に価値がなかったかと言うと決してそんなことはないわけです。できれば KADOKAWA の持っている 1,900 という作品も全て 4K、デジタル化したいと希望しているわけです。その費用を考えるとその膨大さに立ち止まってしまうということであります。 そして、今新たに、先ほど映画館がデジタル化されたというお話をしました、そのデジタル化されたシネコンの中ではフィルム上映はもはやできないというお話をしました。ところが、今またハリウッドから、 $4 \mathrm{~K} という$ 形で制作したからそれを上映してほしいという要望が来ております。今のデジタルシネコンはさらに新たな投資をして $4 \mathrm{~K}$ に対応しなければいけないということが起こってまいります。現状の映画館、シネコンでは $4 \mathrm{~K}$ の品質での上映はできないという問題点を抱えております。 先ほど、近代美術館フィルムセンターの話を申し上げましたが、今回、国立映画アーカイブとして生まれ変わることになりまして、この国立映画アーカイブがリーダーシップをとり、修復、保存、活用を $4 \mathrm{~K} て ゙$ 推進してもらうことを祈りたいわけです。 現状、知的財産推進計画の中で、2015 年暮れだと思いますが、私はその会に出たときに、4Kフォーマットでデジタルアーカイブをしようと提案しましたが、残念ながら $4 \mathrm{~K}$ という言葉は今日に至るも、推進計画の中ではうたわれていません。ですから、今の国のアーカイブ化は、従来のハイビジョンレベルのデジタル化を念頭に置いていると思います。 しかし、それでは $4 \mathrm{~K}$ 上映可能な映画館があっても上映できない、それからまた国宝とかいわれる寺社仏 フィルムで撮ったほうがましではないかということにもなるわけです。フィルムで撮ったほうがましだと言われると、何のためのデジタル化なのだろうということにもなるわけです。 もち万ん、皆さんは専門家ですから、冒頭に私が申 し上げたように、デジタル化というのはいつ消失・劣化するかわからない。だから、フィルムを色の 3 原色に従って、それぞれの色で3つ持たないといけないという話もありますが、これもまた一企業にとっては本当に至難なことです。 改めて私の話の最後として申し上げると、映像のアーカイブ化にはイノベーションが起きているということが第一です。そして、2番目はフィルムからフィルムレスへ、アナログからデジタル化へということが進んでいるようです。そして、3番目には単なるデジタル化ではすまない。そして、そこではやはり知財の知的サイクル、創造、保護、活用というこの3つの立場で、その3つの視点を持ちながら保護に当たらなければいけないということです。 そしてまた税制等の支援なども含めてこのデジタルアーカイブをこれからも推進していくことが必要であり、その中でぜひ皆さんも長尾先生がおっしゃったようなデジタルアーカイブのポータルをつくっていくという大きな目標に向かって推進されることを祈念して、私の拙いお話にかえさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
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# デジタルアーカイブ学会第 2 回研究大会概要 ## 開催趣旨 デジタルアーカイブ学会は、 21 世紀日本のデジタル知識基盤構築のために昨年 4 月 15 日に生まれました。関係者の経験と技術を交流・共有し、一層の発展を目指し、人材の育成、技術研究の促進、メタデータを含む標準化に取り組んでおります。 さらに、国と自治体、市民、企業の連携、オープンサイエンスの基盤となる公共的デジタルアー カイブの構築、地域のデジタルアーカイブ構築を支援し、これらの諸方策の根幹をなすデジタル知識基盤社会の法制度がいかにあるべきかについても検討をおこなっています。 ## - 2018 年 3 月 9 日 (金) 東京大学本郷キャンパス・医学部教育研究棟 $14 \mathrm{~F}$ (鉄門講堂) 基調講演 「コンテンツ事業者のデジタルアーカイブ取組の課題」 角川歴彦 ((株) KADOKAWA 取締役会長) パネルディスカッション「デジタルアーカイブ産業の未来を拓く」 緒方靖弘 ( 寺田倉庫メディアグループリーダー) 沢辺均 (株式会社スタジオ・ポット社長) 高野明彦 (国立情報学研究所教授)( モデレーター) 野口祐子 (グーグル合同会社執行役員法務部長) ## - 2018 年 3 月 10 日 (土) 東京大学本郷キャンパス・法学政治学系総合教育棟 ( ガラス棟) 1,2F 口頭・ポスター発表、企画パネル、企業展示 ## 協替 一般財団法人角川文化振興財団 デジタルアーカイブ推進コンソーシアム 一般財団法人デジタル文化財創出機構 ## 後援 記録管理学会、情報知識学会、情報保存研究会、情報メディア学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、日本出版学会 日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 ## 実行委員会 委員長高野明彦 (国立情報学研究所教授) 委員井上透 (岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所所長・教授) 坂井知志 (常磐大学・大学院教授) 数藤雅彦 (五常法律会計事務所) 時実象一 (東京大学大学院情報学環高等客員研究員) 東由美子(東京大学大学院情報学環特任講師) 総務担当理事柳与志夫 (東京大学大学院情報学環特任教授) ## 第 2 回研究大会 (2018/3/9-10) 写真 基調講演をされる角川歴彦 (株) KADOKAWA 取締役会長と基調講演の様子 挨拶をする長尾真会長 司会 : 柳与志夫総務担当理事、井上透理事 パネルディスカツションの様子 ロ頭セツション会場の様子 ラップアップセッションで司会する高野明彦実行委員長 懇親会で挨挨する吉見俊哉会長代行 ポスターセッション会場の様子
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# 「アーカイブサミット2017 in 京都」に 関わって一狙い・実態・成果一 FUKUSIMA Yukihiro 福島 幸宏 京都府立図書館 ## 1. はじめに 2017 年 9 月 9 日から 10 日まで、京都市左京区の教養教育共同化施設「稲盛記念会館」(京都府立大学下鴨キャンパス内)および京都府立京都学・歴彩館において、アーカイブサミット組織委員会の主催、京都府・京都市・京都府立大学・京都文化力プロジェクト実行委員会の共催、株式会社アーイメージ・株式会社カーリル・京セラコミュニケーションシステム株式会社・株式会社 Stroly・デジタルアーカイブ推進コンソーシアム・凸版印刷株式会社の協賛により、「アー カイブサミット 2017 in 京都」が行われた。 アーカイブサミット組織委員会の委員長はデジタルアーカイブ学会会長でもある長尾真京都府公立大学法人理事長、アーカイブサミット 2017 事務局長はマンガ研究の第一人者、吉村和真京都精華大学副学長である。本稿ではアーカイブサミット 2017 事務局の幹事的役割を果たした立場から、しかし、ごくごく個人的な観点で、その狙いと運営の実態、その成果について述べる。なお、福島幸宏・小村愛美 2017「E1973 - アー カイブサミット 2017 in 京都<報告>」 (http://current. ndl.go.jp/e1973)(2017 年 12 月 17 日確認)を下敷きにしていること、また報告書の刊行を 2018 年 6 月ごろに予定しており、そこで組織委員会として正式な開催報告と評価を行うことを事前に断っておく。 ## 2. 概要 「アーカイブサミット」とは、産官学民を横断するアーカイブ関係者による集まりで、2015 年、2016 年は東京で開催された。「アーカイブ」と銘打っているが、 フォーカスしているのはデジタルアーカイブである。 その主題をごく簡単にまとめれば、2015 年はデジタルアーカイブ関連の諸問題の剔出を広範に行い、2016 年はアーカイブ政策と著作権の問題に絞って開催され ている。いまから振り返れば、デジタルアーカイブ学会の創立へと結実した動向のひとつとして位置づけられよう。 さて、2017年はこれらを引き継ぎ、その成果の上に、独自の狙いを持って企画した。当日はアーカイブに関する専門家や市民 334 名が参加したが、まずはプログラムと概要を以下に紹介しておく。 【9月9日(土) テーマ「社会のアーカイブ化」 (1) デジタルアーカイブの状況レビュー 13:00-14:00 レビュアー 吉見俊哉 (東京大学教授)/生貝直人 (東京大学客員准教授)/古賀崇 (天理大学教授) 前回のサミットから今回のサミットまでの 1 年間の動向をレビューし、参加者に共通認識を持ってもらうもの。 (2) セッション 14:00-17:00 (カッコ内はコーディネーター) 3 会場に分かれた2ターン制の分科会形式で個別課題を議論した。 1-1「災害とアーカイブ」 (松岡弘之 (尼崎市立地域研究史料館員)) 1-2「空間情報とデジタルアーカイブ」 (青木和人 (あ执き GIS・オープンデータ研究所代表)) 1-3「文化資源をつなげるジャパンサーチ構想」 ( 原田隆史(同志社大学教授)) 2-1「京都におけるアーカイブの現状と課題」 (上杉和央 (京都府立大学准教授)) 2-2「デジタルアーカイブの情報技術」 (橋本雄太(国立歴史民俗博物館助教)) 2-3「デジタルアーカイブ学会の未来」 ( 柳与志夫(東京大学特任教授)) (3) セッションレビュー 17:00-18:20 司会江上敏哲 (国際日本文化研究センター)/福島幸宏 (京都府立図書館) 6つのセッションの内容をレビューし、参加者全員でそのエッセンスを共有できるようにした。 図1 セッションレビュー 9月10日(日) テーマ「アーカイブの社会化」 (1) ミニシンポジウム 10:30-12:00 1「届く、使うデジタルアーカイブ」 登壇者梅林秀行(京都高低差崖会崖長)/沢辺均 (openBD プロジェクト・版元ドットコム・ポット出版代表)/松田法子 (京都府立大学講師) 司会福島幸宏 (京都府立図書館) ユーザ視点からのアーカイブ利用について議論した。 2「クールジャパンの資源化について」 登壇者佐藤守弘 (京都精華大学教授) (司会) /細井浩一(立命館大学教授、アー ト・リサーチセンター長)/森川嘉一郎 (明治大学准教授) /吉田力雄(日本動画協会副理事長、トムス・エンタテインメント特別顧問) マンガ・アニメ・ゲームなどのコンテンツについて議論した。 (2) 挨拶 13:00-13:10 主催者挨拶長尾真(アーカイブサミット組織委員長、京都府公立大学法人理事長) 来賓挨拶山田啓二 (京都府知事) (山内修一副知事代読) 来賓挨拶門川大作(京都市長) (3) 基調講演 13:10-14:00 「アーカイブの視点から見ると世界が変わる」 御厨貴(東京大学名誉教授) (4) シンポジウム「社会化するアーカイブ」 14:00-16:00 登壇者梅林秀行 (京都高低差崖会崖長)/河西秀哉 (神戸女学院大学准教授)/竹宮惠子 (京都精華大学学長) / 福井健策 (并護士、日本大学・神戸大学客員教授) 司会江上敏哲 (国際日本文化研究センター) ## (5) 閉会 16:00 挨拶柳与志夫(東京大学特任教授) ロデジタルアーカイブに関する展示 9月9日(土)$\cdot$ 10日(日) 株式会社カーリル・京セラコミュニケーションシステム株式会社・京都府・株式会社サビア・株式会社 Stroly ・凸版印刷株式会社・奈良文化財研究所 図2 御厨貴氏の基調講演 図3 シンポジウム「社会化するアーカイブ」 ## 3. 狙い 2015 年、2016 年のアーカイブサミット、またそれにとどまらないアーカイブをめぐる議論を観測し、さらに京都で開催するという意義を念頭に置いたとき、今回は以下を特に意識した。デジタルアーカイブを徹底的に使っている利用者の視点を投入すること、現物資料の調査・保存の過程とデジタルアーカイブの議論をつなぐこと、関西で活発な地理情報システム (GIS) と歴史資料をつないだ空間のアーカイブとマンガ・アニメ・ゲームという新しいメディアをテーマにすること、である。 さらに、多業種多分野の専門家・専門組織が隣接している京都という土地で行う以上は、立場を超えた極カフラットな、ひとつの「広場」が生じるように、プログラムや会場設定・進行で工夫しょうとした。 これらは、少しく政策や大規模アーカイブなどに偏 る傾向があり、従来型の狭義のアーカイブズの世界との架橋をあまり意識しない(アーカイブズとデジタルアーカイブの出自が異なる、という指摘もあるように、 この戦略が段階論としては間違っている訳ではない)、 これまでのデジタルアーカイブ周りの企画との差別化を意識し、そこに関西独自の背景を付け加えることを意識したものである。その意味では、『デジタルアー カイブ学会誌』創刊号で示した「関西支部の狙い」と共通の側面がある。 さらに、運営面での新しい試みとしては、ファシリテーショングラフィックを大規模に導入したことであ万う。ファシリテーショングラフィックとは、会議や討論をキーワードを軸に図示するなどして可視化する仕掛けで、地域おこし系のイベントなどで馴染みのある手法である。今回は、9日のセッションが3会場で並行して行われることから、成果を参加者全員で、その日のうちに共有するために必要と考え、2ターン 6 セッションすべてに導入した。そして、9日タ方のセッション全体のレビューの際に、各セッションで作成されたグラフィックを会場前方に順に貼り出し、各セッションのコーディネーターを壇上に呼び达んで、司会とともにグラフイックを検討しながら討論内容を振り返る、という構成にすることによって、参加者全員への内容の周知と共有を図った。それぞれの多様な専門のバックボーンを持つ参加者を得て、これまた多岐にわたる課題をテーマにする分科会を立てた今回のサミットにとって、非常にふさわしい道具立てになったと自負している。また、学会的な性格をもつ企画の設計にとって、ひとつの新機軸を打ち出したものと考えている。 ## 4. 実態 前提として、事務局は完全に有志のボランティアで運営した。当日は、アルバイトや一般参加者にも協力を依頼して、事務局資料のタイムラインには 27 人の名前が並んだが、準備段階から継続的にかかわったのは 6 人から 8 人のコアメンバーであった。このメンバーで、構成・内容の検討、登壇者との連絡、共催者・協賛者との調整、会計・受付の管理、会場・展示の設定、広報・当日資料の作成を行った。幹事役の力量不足により、報告者や関係先にはいろい万とご不便をおかけした。しかし、各方面に相談しながらも、コアスタッフが組織を背負わずに議論を交わし、自由に企画・運営ができ、上記のような狙いを達成できたのは、この事務局体制によることが大きい。なお、脆弱な基盤のなか、非常に多岐にわたる検討と工夫を行っ たことによって、種々の困難な条件を打開し、無事開催することができたことを記録しておく。 なお、京都での開催を検討できないか、という話は 2015 年の最初のアーカイブサミットの際からあったが、実際に持ち掛けられて準備を開始したのは 2016 年 8 月からであった。いまから考えると、この段階で考えた問題意識や企画の大枠を大事に育てたことが、成功に結び付いたといえる。専門家向けセッションのテーマとして揭げた「社会のアーカイブ化」、一般向け企画のテーマとして揭げた「アーカイブの社会化」や、何人かのキーパーソンの登壇、そして前述のファシリテーショングラフィックの導入などがそれである。 準備のための会合は、当初は月に 1 度程度、2017 年 6 月 27 日からは、進渉を確実に確認するために、毎週月曜日の 19:00から 21:00 まで京都市内で会合を持った。この定例事務局会議は、直前の9月4日まで合計 10 回を数えた。 な扮、紹介した各企画とも重要かつ熱のこもった議論が展開されたが、以下では特に 3 つの企画に触れたい。まず、9日のセッション「文化資源をつなげるジャパンサーチ構想」では、現在、国立国会図書館(NDL) などを中心に進められている新しい分野横断統合ポー タル「ジャパンサーチ (仮称)」について構想段階での発表が行われた。多様なコンテンツのメタデータを統合的に検索可能にして日本国内の文化的・学術的資源を、まさにつないでいこうという非常に重要な試みについて熱い議論の場となり、翌日まで様々な意見が聞かれた。会員諸氏にもこの構想に直接間接にかかわっている方が多いが、今後の日本のデジタルアーカイブの展開に大きな影響を与える試みがこのアーカイブサミットにおいても議論され、大きな注目を集めたことになる。 2つ目は、10日のミニシンポジウム「届く、使うデジタルアーカイブ」である。ここではデジタルアーカイブを、絵図と写真を中心に加工し、街歩きの資料として存分に利用している梅林秀行氏 (京都高低差崖会崖長)を中心に、現在のデジタルアーカイブについて、利用規約・アーカイブが生み出される研究過程との接続・利用者側の振舞いなどから、運用者の課題がえぐり出された。従来、デジタルアーカイブをめぐる議論には、システムの運用者、コンテンツの提供者が登壇することがほとんどだったため、その状況を打破するためのセッティングであった。「ともかく自由に使わせてくれ」「利用者の自己実現という観点が制度設計に繰り达まれていない」という梅林氏の現状のデジタルアーカイブに関する鋭い指摘は、今後必ず参照され るべき論点であると確信する。 3つ目は、同じく10日のシンポジウム「社会化するアーカイブ」である。登壇者は、前述の梅林氏に加え、日本近現代史が専門の河西秀哉氏(神戸女学院大学准教授) ・漫画家で貴重な原画の保存・公開の活動も行っている竹宮惠子氏 (京都精華大学学長) ・著作権に詳しい福井健策氏(弁護士)の計 4 人、司会は江上敏哲氏(国際日本文化研究センター)であった。ここではアーカイブが社会にもたらす可能性と、アーカイブが社会に根付くために何が必要か、がそれぞれから報告された。 予想以上の報告内容の充実と司会の判断もあり、フロアとの往復の時間は十分に取らなかったが、前述の梅林氏による利用者の視点の徹底、河西氏によるアー カイブの運営の一種の恣意性の指摘、竹宮氏によるマンガ原画という特殊な資料の保存の困難さ、福井氏による著作を法制度のなかでどこまで使い切るか、という観点は、それぞれ広く共有されていくものであろう。 なお、デジタルアーカイブ学会のお披露目の場となった、9日午後のセッション 2-3「デジタルアーカイブ学会の未来」の報告については、本誌の別稿に譲ることとする。 ## 5. 成果 10 日のシンポジウムの最後に司会から、この場での議論の続きは、参加者が各業界や各職場に帰ってからそれぞれで周囲と議論して欲しい、との発言があった。この種のイベントを、一過性の、急に立ち現れ立ち消えた一種の祝祭空間にとどめずに、考え続けるきっかけを参加者が共有することになれば、それこそが目的が達成されたことになろう。 実際に、3月 10 日のデジタルアーカイブ学会研究大会で、このアーカイブサミットのフォローを企図したパネルを行う予定である。そこでもやはり、アーカイブズとデジタルアーカイブの関係性と利用者の視点、という 2 つが中心的課題となるだうう。特に利用者の視点という課題は、早急かつ十分に深めておきたい論点である。アーカイブサミットを報じた記事の見出しにも「活用できるアーカイブへ」(2017 年 9 月 18 日付、京都新聞朝刊)という大きな見出しが付されたように、社会の関心もここにあるのである。私自身も含め、運営者側が、無意識にコップの中の議論を繰り返していないか、この点には十分に留意したい。 また、これまで述べてきたことに付け加える大きな成果としては、今回掲げた「アーカイブの社会化」というテーマについて、「社会化」には「発達」という意味内容があるとの指摘を受けたことである。デジタルアーカイブの構築・再構築は、たとえば「デジタル遷宮」というタームで語られることがあったが、ここではそれと異なる次元の議論が想定できる。つまり、「社会システムとしてのデジタルアーカイブ」という課題が成立するとしたとき、われわれは今まさにその発生段階に立ち合い、発達過程を皆で作っているのである。 再度、掲げたスローガンに戻れば、「アーカイブの社会化」より一歩進んで、われわれには、「アーカイブ【が】社会化」するため、どう行動するかが問われている。 アーカイブという概念の外縁を、最大限に広く取り、知を切り出し、蓄積し、循環する仕組みを、まだ見ぬ形で想像し、そこにむかって議論して、社会的・システム的に実装していくことに少しでも貢献できれば、事務局の労苦も報われることとなる。
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# [A14] 地域新聞からみる地域特有のメタデータ:一大韓航空機撃榡事件を事例に- O石橋豊之 $^{1)}$, 柊和佑 ${ }^{2}$, 河正彦 ${ }^{3}$ ,安藤友晴 ${ }^{1)}$ 1) 稚内北星学園大学, $\overline{\mathrm{T}} 097-0013$ 稚内市若葉台 1-2200-28 2) 中部大学, ${ }^{3)}$ 筑波大学 E-mail: [email protected] ## Area specific metadata from local newspaper.: In case of Korean Air Lines Flight 007. ISHIBASHI Toyoyuki1), HIIRAGI Wasuke ${ }^{2}$, MIKAWA Masahiko(3), ANDOH Tomoharu' ${ }^{1 \text { ) }}$ ${ }^{1)}$ Wakkanai Hokusei Gakuen University 1), 1-2290-28Wakabadai, Wakkanai, 097-0013 Japan ${ }^{2)}$ Tubu Unisversity ${ }^{2}$, ${ }^{3)}$ University of Tsukuba, ## 【発表概要】 本研究では「地域の記憶」をアーカイブする際、市民の持っている情報を引き出し、蓄積するシステムの構築を目指し、稚内市において実験を行ってきた。実験では、引き出す際の「核」となる地域情報を用意し、それを閲覧した地域住民が単一のテーマについて会話をするようにした。 その情報をオーラルヒストリーと位置付けて収集する実験を続けて行い、その「核」となるより良い地域情報の検討を進めており、新たな「核」として地域新聞とその記事に着目した。そこで、地域新聞に対応した地域新聞情報資源メタデータスキーマを検討し、地域での利活用を目指す。 本発表では、本研究全体の概要を示した上で、地域情報として 1983 年稚内近郊で起きた『大韓航空機撃限事件』に関する記事を分析したデータの解説を行い、本研究が目指す地域新聞情報資源メタデータについて、その意義とオーラルヒストリー収集システムへの応用方法について総合的に解説する。 ## 1. 過疎地域のためのデジタルアーカイブ 近年、インターネットの発展とともに、 MLA 連携について模索が進んでいる。また、 デジタルコンテンツのワンストップサービス的な提供が求められている。その中で、国立国会図書館の近代デジタルライブラリや Google のアートプロジェクトなどが先進的なコンテンツの展開を行なっている。これらのサービスにより、従来は埋もれていたデジタルコンテンツが注目され、研究者が詳しい時代背景などのコンテンツの情報を調べることで研究を進めるようになった。 しかし、地方特有の情報はコンテンツ内で使われている語彙が独特であるため、単純なコンテンツ提供を含むアーカイブだけでは意味をなさい。独特な語彙とは、その地域の地名、略称、愛称、文脈から読み取れる意味といったものである。実際、一地域のみで刊行されている新聞では、これらの独特な語彙が前情報なしに出現する。実際、新聞記事は地域新聞に限らずその情報を正確に取得するためには周辺知識が必要になる。これは、新聞が時事情報を記事にしているためである。その周辺知識は記事本文だけではなく、写真や新聞漫画にも及んでおり、研究者は新聞記事を利用する際に社会的背景を加味して検討する必要がある。 今後、日本は人口減が予測されている。都市部はまだ余裕があるが、過疎地域にとってはすでに厳しい状況が続いている。実際、子供の減少により小中学校が無くなる自治体もある。 新聞は、日本経済が成長する中で重要な位置を占めており、今後は過疎地域、特に限界状態に陥っている地域の将来的な研究に利用するためにデジタルアーカイブにしておく必要がある。しかし、その地域独特の語彙を記録せずに正確な情報として新聞を残すことは、特性上困難であり、場合によっては間違った情報になりかねない。そこで、筆者らはこのような情報を将来的に利用できる形で残すこ とが、「地域の記憶」を残す上で重要なことであり、デジタルアーカイブの今後の課題であると考えた。 ## 2. 本研究の目的 本研究は、「地域の記憶」を記録するために、 その周辺情報として地域住民、コミュニティ構成員の持つ情報をデジタルアーカイブに蓄積し、利活用できるメタデータを付与することを目的としている。この際、厳密にメタデ一タを付与することで、意味を保管することが理想ではあるが、現実問題として全過疎地域で収集しなければならない膨大な情報にメタデータをつけることは困難である。そこで、本研究では住民主導で、後世に分析するためのメタデータを残すための簡便な手法の確立を目指している。 本稿では、本研究がメタデータとして残すべき地域特有の語彙をどのように抽出するか、 その一手法を解説する。 ## 3. 宗谷地域研究所のプロジェクトの概要 本研究は稚内で行われている「宗谷地域研究所のプロジェクト」で収集される情報に、後世で使うためのメタデータを地域住民のオ ーラルヒストリーから地域住民自身が選別し、追加、蓄積する計画である。このプロジェクトは大学主導でオホーツク海沿いの雑多な情報が収集されるものであり、その収集、蓄積、提供全てに大学および MLA 連携的側面もつたものになっている。 また、データ収集は筑波大学三河研究室ともに構築中の半自立移動体を用いた収集装置を用い、祭りや地域の中心となる商業施設、公共施設で行う。そのため、いわゆるロボッ卜的な外見と UI を備えている装置で収集可能な情報を利用する。これは、地域情報収集の問題として、人手の不足があげられ、その解決のために人間が不在でも遠隔操作で情報を収集する必要があるからである。これらのシステムすでに 2017 年に稚内でおいて実験を行っており、本研究で得られた知見をフィ ードバックしながら進められている。中心となるプロジェクトである宗谷地域研究所の「“宗谷本線、天北線のヒストリー\& ストーリー” 可視化プロジェクト」は、JR 北海道の宗谷本線とすでに廃線となっている天北線の路線の変遷や人口動態などを可視化するものである[1]。 また、それだけに留まらず、関連資料の収集及びデジタル化、オーラルヒストリーを行う予定となっている。本研究で得た知見についてはこちらのプロジェクトにも随時反映し、応用していきたいと考えている。 ## 4. 本研究のアプローチ 現在の日本は、現実問題として地方の過疎を止めることはできない。そこで、本研究で収集される地域新聞のためのメタデータは 50 年後に利活用できる必要がある。一般的に、使われないシステムは急速に廃れるため、地域住民や地方自治体が積極的に運用できるシステムである必要がある。そのため、現場で利用できる情報のカスタマイズ性を考慮し、 ダブリンコアを中心に設計する予定である。 また、メタデータスキーマについてはアプリケーションプロファイルの概念を用い、一般に公開するとともに、本システムを利用した収集事業を進めるためのガイドライン作成も視野に入れている。 本研究では広範な新聞記事を「核」として用いることで、地域住民からテーマ的にまとまった情報を引き出すことを考えている。これは、前述した稚内での研究において、具体的な写真を見せながら情報を集めると、地域住民がその写真についてロボットインタフェ一スを介した我々に「教えようとする」ことから着想したものである。 本稿は、地域住民から「教えてもらう」ことを目標に、その「核」となる新聞記事の何について教えてもらわなければならいのか、 そのための「地域特有の語彙」を抽出するための一手法について解説する。 ## 5. 対象となる新聞の概要 \\ 5. 1 対象となるデータ 今回分析を行った記事は、宗谷総合振興局内で発行されている『日刊宗谷』に掲載されたものである。『日刊宗谷』は 1948 年に創刊し、現在まで発行を続けている地域新聞である。なお、本発表における”地域新聞”とは、全国紙で取り上げられるような記事よりも、 その地域特有の記事を優先し掲載する新聞のことを指す。 対象とする記事は、1983 年 9 月 1 日に稚内近郊で起きた「大韓航空機撃墜事件」である。本事件は、民間機がソ連(当時)の軍用機に撃墜された事件であり、稚内だけではなく、国際的にも問題となり全国紙でも大々的に報じられた。 本発表の収集する記事の対象期間は、事件が報じられた 9 月 2 日から 9 月 9 日までで (3 日 $\sim 5$ 日は対象の新聞社が社員研修旅行で臨時休刊)、全部で 33 記事となった。また、比較のため同じ日程の朝日新聞全国版の記事の分析も実施した $(9$ 月 2 日、 6 日、 7 日の全 46 記事)。 ## 5. 2 記事の分析 対象となった記事は、すべて手動でテキス卜化し、KH Coder[2]を用いてテキストマイニングを実施した。『日刊宗谷』『朝日新聞』 ともに、上位頻出語は同様のものが散見された (大韓航空、ソ連など)。同様の上位頻出語は、どの地域でも使う言葉であるため、本研究のメタデータには採用されないとする。 『朝日新聞』の上位頻出語 150 と『日刊宗谷』の上位頻出語 150 を比較し『日刊宗谷』 で重複しなかった名詞で 10 回以上用いられていた単語は下記の 14 語であった。 表 1 『日刊宗谷』の頻出語 この 14 語が『日刊宗谷』における「大韓航空機撃墜事件」の特徴的な語彙と考えられる。 これらの単語は、記事全体でみたものである。そのため「大韓航空機撃墜事件」におけるメタデータとしては使えるが、一方で「大韓航空機撃墜事件」の 1 記事に対するメタデ一タとして使えるわけではない。 1 記事の特徴語を抽出するのであれば TF-IDF などを用いることが望ましい。実際に TF-IDF で算出できる各記事の上位にくる単語を見ると、上記 14 語のらちどれも該当しない記事の方が多い。 つまり、これらの語彙は稚内で大韓航空機撃墜事件を調べる上で必要な暗黙の前提知識になっていると言える。これにより、この時期の新聞記事を理解する上で、これらの語彙について地域住民から「教えてもらう」必要があるとわかる。 次に、これらの語を稚内と関係ない実験参加者に見せ、意味のわからない語彙にだけにする。具体的には、「大韓航空機撃墜事件時の ○」として具体的にイメージがわくかを尋ねる。この段階で、「海」と「北緯」が語彙から外れることになった。これにより、地域住民に聞いておかなければならない語彙 12 語が確定する。 ## 6. メタデータスキーマ実装への課題 上記の単語を記事のメタデータに組み込む。 ただし、これらの単語のみだと検索においてうまく機能しない。例えば、大韓航空機が撃墜された場所の近くにある島が「海馬島」である。しかし、「海馬島」のみだと宗谷総合振興局内だけでも礼文町と猿払村近辺にも同名の島があるため同定できない。そのため、こうしたメタデータ同士も他の地理情報といった要素と結びつかせる必要が本来はある。捉え方によってはその逆も考えうる。そうすると同じ「海馬島」でも「大韓航空機撃墜事件」が起きたのは樺太近辺の「海馬島」であり、1939 年にインディギルカ号が座礁した猿払村の「海馬島」と使い分けることが可能となる。また、この点は逆も考えうる。「大韓航空機撃墜事件」と「海馬島」とを組み合わせることによってどの「海馬島」(地理情報)かを判断することが可能となる。実際に地域住民が「海馬島」を使う際にも『○○が起きた 海馬島』というように別の要素が加わることで判定している場合が散見される。 新聞に適用されるメタデータとしては IPTC が標準化と管理を行っている NewsML[3] Europeana Newspapers プロジェクトの ENMAP (Europeana Newspapers METS ALTO Profile) [4]などある。しかし、今回は、ダブリンコアを基本としながら作成する。また、それで補えない部分については、Web 上において構造化データを作成するために開発された共通語彙である Schema.org のものを用いる[5]。 ## 7. 今後の展開 宗谷総合振興局内の自治体のように、過疎化が進んでいる地域であり、地域新聞を発行している自治体は他にも存在する。本研究をそうした自治体へ応用していくためには下記の点を改善していく必要がある。 まず、いかにコストを減らしつつ、地域特有の語彙を入手するかである。今回のように、全国紙と比較できる事件であれば良いが、前述したように地域新聞は地域独自のネタを掲載することの方が多い。そうした内容にも対応できる方法を今後も考えていく。そのためにも更に多くの情報を入手し分析を実施していくことが求められる。より多くのデータを収集することでメタデータスキーマの深化も図れる。同時に、データ量が増加すると、既存のメタデータスキーマでは対応できない語彙も増えていくことが考えられる。それらに対応できるメタデータスキーマを構築しなければならない。 ## 謝辞 本研究は JSPS 科研費 $17 \mathrm{~K} 12793$ の助成を受 けたものである。 ## 参考文献 [1] 稚内北星学園大学. “稚内北星学園大学宗谷地域研究所「“宗谷本線、天北線のヒストリ一\&ストーリー” 可視化プロジェクト」”. 稚内北星学園大学. http://www.wakhok.ac.jp/tii ki_kenkyuu.html,(accessed 2017-12-31). [2] テキスト型 (文章型) データを統計的に分析するためのフリーソフトウェアである。樋口耕一. 社会調査のための計量テキスト分析:内容分析の継承と発展を目指して. ナカニシヤ出版, 2014, 235p. [3] International Press Telecommunication s Council. "NewsML-G2". International Pr ess Telecommunications Council. https://ip tc.org/standards/newsml-g2/, (accessed 201 7-12-31). [4] 時実象一. 欧州における新聞デジタル・ア一カイブ Europeana Newspapers. 情報の科学と技術. 2017, 67(1), p.34-37. [5] 兼岩憲. セマンティック web とリンクトデータ. コロナ社, 2017, 229p. 参照部分は、 p.138-139. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# Geovisualization of Hierarchical Time Series Inter-Municipality Transaction 有本 昂平 ${ }^{1,2}$ 渡邊 英徳 $^{3}$ ARIMOTO Kohei ${ }^{1,2}$ WATANAVE Hidenori ${ }^{3}$ 1 首都大学東京大学院システムデザイン研究科 〒191-0065東京都日野市旭が丘6-6 Email: [email protected] 2 株式会社帝国データバンク 産業調査部 〒107-8680 東京都港区南青山2-5-20 3 首都大学東京システムデザイン学部 191-0065東京都日野市旭が丘6-6 1 Graduate School of System Design, Tokyo Metropolitan University 6-6, Asahigaoka, Hino-shi, Tokyo 191-0065 2 TEIKOKU DATABANK, LTD. Industrial Survey Department 2-5-20, Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo 107-8680 3 Faculity of System Design, Tokyo Metropolitan University 6-6, Asahigaoka, Hino-shi, Tokyo 191-0065 } (受付日: 2017年9月16日、採択日: 2017年11月19日) \begin{abstract} 抄録:本論文では 3 次元デジタルアース上に取引クラスタをグラフを用いて可視化し、描画するエッジの始点と終点の高度を変化 させることで階層を表現した。またタイムスライダを用いて時系列で存在する取引クラスタの可視化を動的なアプリケーションと して構築し、各エッジの取引量の変化に応じて描画するエッジの色を変化させた。本提案手法によって取引クラス夕における始点 と終点のノードの位置情報、各ノードの階層、時系列の4つの要素を同時に把握することが可能となり、同一条件で抽出した取引 クラスタは時系列で変化することを把握できたことから、頂点企業の戦略により企業の取引が刻一刻と変化していることがわかっ た。したがって、本提案手法はデータ分析スキルの高低に関わらず企業間取引ネットワークから取引構造や時系列変化についての 知見を得ることが可能な手法である。 Abstract: We visualized transaction clusters on 3-dimensional digital earth using graph drawings, expressing their hierarchy by changing the altitude of the starting and ending points of the edges to be drawn. In addition, transaction clusters existing in chronological order were dynamically visualized using time slider application, and the color of edge to be drawn was changed according to the transaction amount of each edge. By the proposed method, it becomes possible to simultaneously grasp the position information of the nodes of the start and end nodes in the transaction cluster, the hierarchy of each node and the chronology. As the transaction clusters extracted under the same condition change in time, showing the change of transaction reflecing the strategy of the top companies. Therefore, the proposed method is proved useful in obtaining knowledge about transaction structure and chronology change from inter-firm transaction network regardless of the level of data analysis skill. \end{abstract} キーワード : ジオビジュアライゼーション、階層、時系列 Keywords: geovisualization, hierarchy, time series ## 1. はじめに 2007 年に新潟県を震源とした新潟県中越沖地震が発生した。この地震の影響で自動車部品を製造する株式会社リケン(以下、リケン)の工場は被災し、自動車部品の生産機能が停止した。 ${ }^{[1]}$ リンと取引を行っていた大手自動車メーカは自動車の生産に必要な一部の部品に関する取引が寸断されたため、自動車製造ラインの停止を余儀なくされた。また 2011 年に発生した東日本大震焱では、多くの自動車メーカは部品調達難となり、国内工場は軒並み操業停止に追い达まれた。 ${ }^{[2]}$ 自動車産業におけるサプライチェーンは自動車メーカを頂点として、1次サプライヤから4 次、5 次サプライヤまでピラミッド構造でつながっているため、自然災害によりサプライチェーンの一部が寸断されることでピラミッド構造全体の生産ラインが停止し、多くの企業の生産活動に影響を及ぼす。そのため企業は地域を分散させて取引先を確保するなど、事業継続のため安定したサプライチェーンを構築する必要がある。 地域特有の産業や産業集積が存在するように、企業活動は地理的情報と密接に関係している。そこで安定したサプライチェーンの構築には日本経済全体を俯瞰し、企業のネットワーク構造と地理的情報をマッシュアップさせ、取引でつながった企業のネットワーク構造の把握が必要となる。そこで企業調査の情報をもとに構築された企業ビッグデータの活用が注目され、取引関係のデータをつなぎ合わせることで企業間取引ネットワークとして捉えることができる。しかしながら企業ビッグデータのデー夕量は大規模であるため、 データ分析によるビッグデータの全体構造の把握のためには統計学など専門的な知識を必要とする。そこで近年ビッグデータの全体構造を把握するための手段と してデータビジュアライゼーションが注目されている。 ${ }^{[3] \sim[5]}$ データビジュアライゼーションは莫大な量の情報を整理して可視化することで、ユーザは既知の情報をデータに基づいて再確認することが可能になり、 またアプリケーションとしての可視化を探索することで新たな知見を発見することが可能となる。しかしながら企業間取引ネットワークなどの複雑ネットワークの可視化はノード数が大規模であり、エッジが複雑につながり合っていることから、そのままでは解釈や把握が困難である。 企業間取引ネットワークを階層ごとに時系列で変化する様子を地理的情報とマッシュアップさせて把握するには、取引関係の発注側企業の位置情報、受注側企業の位置情報、階層、時系列の4つの要素をビジュアライゼーションする必要がある。そこで本研究では 3 次元のデジタルアース上に階層を有する取引クラスタを時系列でジオビジュアライゼーションさせる可視化手法を提案する。第 2 章では企業ビッグデータの関連研究を挙げ、第 3 章ではデータビジュアライゼーションの関連研究を挙げる。そして第 4 章では本論文に用いるデータマートと筆者らが提案するビジュアライゼーション手法について述べる。第 5 章では結果と考察について挙げ、第 6 章では本稿のまとめを述べる。 ## 2. 企業ビッグデータの関連研究 これまでにサプライチェーンや産業構造、地域の特徵的な産業を分析した研究は多く行われている。これらの研究では Web 上に公開しているデータや有価証券報告書などの上場企業を中心とした企業デー夕を分析に用いている。しかしながら杉山ら ${ }^{[G}$ が分析の対象としている企業数は上場企業を中心とした約 3,700 社であり、日本国内に存在する企業と比較すると企業規模に偏りがあり網羅性が低いため、日本経済全体を俯瞰した分析とは言い難い。 帝国データバンクなどの信用調査会社では、日本国内の企業を対象に企業と企業が取引を行う際に取引相手の事業内容や資金繰りを把握するための信用調査を行っている。これらの信用調査で収集した各企業の業種や従業員数、売上高などの企業の属性情報や、取引関係や資本関係などのつながりの情報は、企業単位でデータ化され企業ビッグデータとして構築されている。 表 1 に帝国データバンクが保有する企業ビッグデー 夕と経済産業省が発表している経済センサスの企業数と売上高の比較をまとめた表を示す。それぞれのデー タベースに収録されている企業数は経済センサスが約 386 万社、企業ビッグデータが約 144 万社であり、企表1 企業数と売上高の比較 業ビッグデータにおける企業数の収録率は経済センサスと比較して $37.3 \%$ に留まっている。一方売上高合計は経済センサスが約 1,375 兆円、企業ビッグデー夕が約 1,283 兆円であり、企業ビッグデー夕における売上高合計は経済センサスと比較して $93.3 \%$ である。企業ビッグデータにおける企業数の収録率が低いのは、個人商店など小規模事業者への信用調査が少ないことが要因と考えられる。しかし売上高の網羅率をみると企業ビッグデータと経済センサスではほぼ同規模のお金の動きを把握していることがわかる。このことから企業ビッグデータは企業の取引活動をみる上で十分なデータベースであると考えられる。 企業ビッグデー夕の取引関係のデータから、図 1 の (a) に示すように企業間の取引関係は企業をノード、取引による打金の流れをエッジとした企業間取引デー 夕として捉えることができる。そして企業間取引デー 夕のノードとエッジをつなぎ合わせることで図 1 の (b)に示すような複雑ネットワークの一種である企業間取引ネットワークを構築することができる。高安ら [7] は経済物理学のアプローチから企業間取引ネットワークのスモールワールド性やスケールフリー性などのネットワーク構造を解明した。複雑ネットワークの一種である企業間取引ネットワークを用いてサプライチェーンや産業構造、地域の特徵的な産業を分析するためには、ビッグデータの全体構造を把握しながらデータの詳細にブレイクダウンするように、データをマクロからミクロに行き来して分析する必要がある。 しかしこれまでの企業ビッグデータを用いた研究は、 ノード同士のつながりから企業間取引ネットワーク全体の構造的特徴を解明したものであり、サプライチェーンや産業構造、地域の特徵的な産業を分析したものはない。そこで企業間取引ネットワーク内に存在する任意の企業から複数の次数でつながる企業と取引関係を取引クラスタとして定義する。本論文では自動車メーカにおける仕入の取引構造を可視化の対象とし、図 1 の (c)のように自動車完成車メーカから 2 次の仕入取引によるつながりを取引クラスタとして抽出し、産業分析が促進される可視化手法を提案する。詳細なデータマート構築とビジュアライゼーション手法は第 4 章で述べる。 (a) (b) (c) ## 3. データビジュアライゼーションの関連研究 複雑ネットワークの中には、企業間取引ネットワー クや交通ネットワークなど始点や終点のノードが地理情報を有するものがある。これらの地理情報を有する複雑ネットワークは多くの場合地理的特徴がネットワーク構造と密接に関係している。そこで近年地理情報を有する複雑ネットワークを 2 次元や 3 次元の地図上にグラフを用いて可視化するジオビジュアライゼー ションの研究がいくつかなされている。 Chiricota ら ${ }^{[8]}$ はフランス国内における通勤者の自宅と企業が立地する地点をノードとした移動ネットワークを2次元の地図上にグラフを用いて可視化した。 この可視化より移動ネットワークの地点間のつながりの有無を地理情報と重ね合わせて読み取ることができ、通勤者の移動範囲の把握が可能である。また takram design engineering (以下、Takram) ${ }^{[9]}$ は企業間取引ネットワークにおける企業をノード、取引関係をエッジとして 3 次元の地図上に取引関係を可視化したシステムを構築した。この可視化より地域間での取引関係の有無や、異なる地域間でのつながりの強さを把握することが可能である。しかしながら Chiricota らやTakramの手法はいずれもノード間のつながりを示すエッジの始点と終点が同一平面上に描画されている。そのため通勤者の移動ネットワークにおける移動方向や企業間取引ネットワークにおけるお金の流扎を判別することができない。 自動車産業を代表とするサプライチェーンは原材料や部品の調達から製造・販売まで複数の階層による企業間の取引関係で構築されている。自動車産業では自動車メーカを頂点とし下請け企業が紐付く複数階層のピラミッド構造で構築されている。階層を区別して企業間取引ネットワークを把握することは取引関係において仕入側企業と販売側企業の企業には力関係が存在しているため重要である。伏見ら ${ }^{[10]}$ はノードを業種、取引関係を業種間取引とした業種間取引ネットワークを 2 次元平面上に階層ごとに区別してノードをプロットした可視化手法を提案した。業種間取引ネットワー クを階層を区別して可視化することで、ネットワーク内における各ノードの取引階層ごとに区別した把握が可能になる。しかしながらこの手法は 2 次元平面上に取引階層とエッジの重み付けで描画する座標を決定しているため、地理情報を重ね合わせた可視化には不向きである。筆者ら ${ }^{[1]}$ は企業間取引ネットワークにおけるエッジの始点と終点を3 次元のデジタルアース上から高度を変化させて描画させることで階層を区別して把握できる可視化手法を提案した。この可視化から企業間取引における仕入側企業と販売側企業を判別することが可能である。しかしながら描画されているエッジ数が膨大であるため、取引の有無以外の情報を把握することが困難である。 渡邊ら ${ }^{[12]}$ は日本全国にいる天気予報アプリケー ションのユーザが投稿した天気情報を 3 次元のデジタルアース上に可視化したシステムを構築した。ひとつずつの情報は投稿された位置情報に基づいてアイコンとして地図上にプロットされている。またアプリケー ション上に描画する時系列を指定することが可能な夕イムスライダの機能を付与した。タイムスライダを用いることでアプリケーションに搭載された異なる時系列のデータを整理して俯瞰することが可能となる。 企業間取引ネットワークを階層ごとに時系列で変化する様子を把握するには、取引関係の発注側企業の位置情報、受注側企業の位置情報、階層、時系列の 4 つの要素をビジュアライゼーションする必要がある。そこで筆者らは企業間取引ネットワークにおける発注側企業と受注側企業をノードの始点・終点とし、取引関係をエッジとし、デジタルアース上にグラフ表現を用いて可視化した。また企業間取引ネットワークにおける各ノードの階層を区別するため地図上から垂直方向に高度を変化させてノードをプロットさせることで取引における階層を区別する。そして複数の時間軸にまたがる企業間取引ネットワークを同一画面上で可視化するために、タイムスライダを用いて異なる時間軸のデータを整理して可視化する動的なアプリケーションを構築する。 (a) (b) ## 4. 提案手法 ## 4.1 データマート構築 階層を有する取引クラスタが時系列で変化する様子を可視化するため、2 章で述べた帝国データバンクが保有する企業ビッグデータから構築した企業間取引ネットワークを用い、特定の企業を中心とした複数の次数でつながった取引クラスタを構築する。本論文では日本の基幹産業であり、複数の階層で構築されたピラミッド構造のサプライチェーンをもつ自動車産業を可視化の対象とする。自動車産業におけるサプライチェーン構造を企業間取引ネットワークから構築するため、自動車の完成車メーカを頂点企業(以下、 tier0)とし、tier0 と直接の仕入取引でつながる企業を 1 次仕入先(以下、tier1)として抽出する。2 次仕入先(以下、tier2)として tier1 と直接の仕入取引でつながる企業を抽出した場合、tier1 と tier2 の間で交わされている 2 次取引は tier0 と tier1 の間で交わされている 1 次取引に直接関係を有する取引かどうかは断定できない。現実社会の自動車産業のサプライチェーンに可能な限り近づけるため、tier1、tier2 の各企業が主力として製造している製品が自動車製造に関連すると仮定し、本論文において 2 次取引は tier1 または tier2 が主力取引であると認識している取引のみを抽出する。また企業間取引ネットワークを構成するそれぞれの企業間取引データは企業への信用調査の日時により取引の有無を確認した年月が異なる。そこで取引クラスタは 3 年以内に各企業間取引データの取引実態を確認したもののみで構築し、 3 年を超える企業間取引データは取引クラスタから除外する。そして取引クラス夕の時系列推移による変化を可視化するため、上述の手法により複数時点の取引クラスタを抽出する。本論文では2011年から2016年までを可視化の対象とし、各年 1 月時点の取引クラスタを抽出する。 取引クラスタにおける時系列推移による取引数の変化を可視化するため、地理的距離が近いノード同士をクラスタリングし、始点と終点のノードの組み合わせ が同じエッジを束化する。図 2 の (a) に任意の企業であるノード Xと a、b、c、dの4つのカテゴリに属するノードとのつながりを示した企業間取引ネットワークを示す。本論文ではノードの属する市区町村を集計単位とし、取引クラスタに属する同一の市区町村に属するノードをクラスタリングする。また束化したエッジの重み付けには各カテゴリに属するノード数とする。 ## 4.2 ビジュアライゼーション手法 前述の手法により抽出した取引クラスタを用いて取引クラスタ内の tier0 からの各ノードの次数に応じて描画するエッジ端の高度を変化させ、時系列の推移によるエッジの重み付けの変化に応じて描画するエッジの色を変化させる。本論文ではユーザがアプリケー ションを探索し新たな知見を発見するため、ズームイン・ズームアウトが可能で、また時系列の動的な変化が可能なジオビジュアライゼーションを構築する。 筆者らは取引クラスタ内の tier0 からの各ノードの次数に応じて描画するエッジ端の高度を変化させる手法を提案した。図3の(a)に示すように、本論文でも筆者らの提案した手法を用いて取引クラスタを可視化する。各エッジをプロットする地図上の経度と緯度は市区町村の役場が立地する座標とする。また描画する各エッジ端の高度は tier0 を 800,000[m]、tier1を 400,000[m]、tier2を $0[\mathrm{~m}]$ とする。 本論文で用いる取引クラスタは図 3 の (b) に示すように 2011 年から 2016 年まで時系列で存在する。時系列による各エッジの重み付けの変化をみるため、前年との重み付けの数値を比較し描画するエッジの色を変化させる。図3の(c)に重み付けの変化と描画するエッジの色の対応を示す。重み付けが増加したエッジは青色で描画し、減少したエッジは赤色で描画する。また前年との変化がない取引は白色で描画し、前年は存在せず対象年に新規に発生したエッジは緑色で描画する。 そして各時点における取引クラスタを同一のアプリケーションで表現するため、タイムスライダを用いる。 (a) 201120122013201420152016 (c) 図3 (a) 階層によりエッジ端の高度を変化させるビジュアライゼーション手法、(b)時系列で存在する取引クラスタ、(c)重み付けの変化と描画するエッジの色の対応 ## 5. 結果・結論 図 4 の (a) に提案手法を用いて可視化した 2013 年の取引クラスタを表示させたアプリケーションを示す。アプリケーション左上のタイムスライダをスライドさせることで、取引クラスタの時系列での変化する様子を表示させることが可能である。ビジュアライゼーションから取引クラスタ内には青色、赤色、緑色のエッジが混在していることが読み取れる。複数色のエッジの混在は取引クラスタにおけるエッジの重み付けの変化や張り代わりを示しており、企業の取引関係は全国規模で年々変化していることがわかる。 図4 の(b) に 2011 年から 2013 年における tier1 の時系列でのエッジの色の変化を示す。 2011 年と 2013 年は青色のエッジが多く、2012 年では赤色のエッジが多く存在する様子が読み取れることから、各年ごとに描画された取引クラスタのエッジの集合体の色に傾向があることが読み取れる。これは 2011 年に発生した東日本大震災の影響により、自動車産業の取引は 2012 年に一時的に減少したが、2013 年には取引クラス夕におけるつながりが再構築されていると推測される。 図4 の(c)に2012 年から 2014 年における宮城県周 図4(a)2013年の取引クラスタのビジュアライゼーションを表示させたアプリケーションの全体像、(b) 2011年から2013年におけるtier1 の時系列でのエッジの色の変化、(c) 2012年から2014年における宮城県周辺での取引伝搬のメカニズム 辺での取引クラスタの変化を示す。 2012 年は tier1、 tier2 とともに緑色のエッジが多く描画されていることから、新たな取引が創出されていることがわかる。 2013 年には tier1 は青色のエッジが描画され、tier2 は前年と比較し緑色のエッジがさらに増加している。したがって 2012 年と比較すると取引クラスタにおける宮城県の 1 次取引は増加し、 2 次取引は新規取引が増加していることがわかる。そして 2014年には tier1 は変化が無いが、tier2 は青色や緑色のエッジが混在している。2012 年、2013 年と比較し 2014 年における取引クラスタは宮城県周辺での取引が拡大していることが推測される。このように新たな地域での取引が生じる場合、まず 1 次取引と 2 次取引が同時に生成され、時間が経過すると 1 次取引数が増加し、その後 2 次取引数が増加していくことがわかる。 このように前の時点とのエッジ数の変化に応じてエッジの色を変化させて描画する手法は、大規模な取引クラスタ内のエッジ数の変化を把握するのに効果的な手法といえる。また提案する可視化手法を用いることで取引クラスタにおける新規取引が創出される時の時系列での取引数変化のメカニズムを見出すことができた。 ## 6. おわりに 本研究の目的は取引クラスタの時系列での変化を把握するための可視化手法を提案することであり、そのために始点と終点のノードの位置情報、各ノードの階層、時系列の4つの要素を同時に表現し、ユーザがインタラクティブに可視化の操作を可能にする必要があった。そこで本論文では 3 次元のデジタルアース上に取引クラスタをグラフを用いて可視化し、描画するエッジの始点と終点の高度を変化させることで階層を表現した。またタイムスライダを用いて時系列で存在する取引クラスタの可視化を動的なアプリケーションとして構築し、時系列における各エッジの取引量の変化に応じて描画するエッジの色を変化させた。この可視化から取引クラスタを俯瞰することで、取引クラス夕を構成するエッジの色の変化が読み取れたことから、同一条件で抽出した取引クラス夕は時系列で変化することを把握できた。また時系列の推移とともに取引クラスタ内の取引変化が 1 次取引から 2 次取引へと伝搬していることから、頂点企業の戦略により企業の取引が刻一刻と変化していることがわかった。したがって本提案手法によって取引クラスタにおける始点と終点のノードの位置情報、各ノードの階層、時系列の4つの要素を同時に把握することが可能となり、 データ分析スキルの高低に関わらず企業間取引ネットワークから取引構造や時系列変化についての知見を得ることが可能となった。 本研究の意義は大規模な取引クラスタ内のエッジ数の変化を把握し、時系列での取引構造の変化のメカニズムの発見である。これにより特定の企業を中心とした取引クラスタの構造的特徴を可視化から把握することができ、自治体や企業の施策立案においてデータに基づいた意思決定を支援することが可能になる。今後の展望として他のビッグデータと企業間ネットワークをマッシュアップさせ、より複数の情報が把握できる可視化手法を構築したいと考えている。 (註・参考文献) [1] “部品メーカー連鎖休業, 自動車 12 社拠点一時休止(中越沖地震その時企業は), 日本経済新聞, 2007-07-21, 朝刊, pp. 11. [2] “自動車, 操業停止延長相次ぐ-回復シナリオに影(中越沖地震その時企業は) ”, 日本経済新聞, 2014-03-24, 朝刊, pp. 13. [3] D. Holten: "Hierarchical Edge Bundles: Visualization of Adjacency Relations in Hierarchical Data", IEEE Transactions on visualization and computer graphics, 12, 5, pp. 741-748, 2006. [4] D. Holten and J.J. Van Wijk: "Force - Directed Edge Bundling for Graph Visualization”, Computer graphics forum, 28, 3, pp. 983990, 2009. [5] B. C. Coutinho, S. Hong, K. Albrecht, A. Dey, A. L. Barabsi, P. Torrey, M. Vogelsberger, L. Hernquist: "The Network Behind the Cosmic Web”, arXiv preprint arXiv:1604.03236, 2016. [6] K. Sugiyama, O. Honda, H. Ohsaki, M. Imase "Application of network analysis techniques for Japanese corporate transaction network", Proceedings of 6th Asia-Pacific Symposium on Information and Telecommunication Technologies(APSITT 2005), 9- 10, pp. 387-392, 2005. [7] M. Takayasu, S. Sameshima, T. Ohnishi, Y. Ikeda, H. Takayasu, K. Watanabe: "Massive Economics Data Analysis by Econophysics Methods-The case of companies' network structure”, Annual Report of the Earth Simulator Center April, 2008, pp. 237-242, 2007. [8] Y. Chiricota, G. Melancon, T. T. P. Quang, P. Tissandier: "Visual Exploration of (French) Commuter Networks", Geovisualization of Dynamics, Movement, and Change AGILE’08 Satellite Workshop, 2008. [9] takram design engineering: "RESAS Prototype", https://www.takram. com/projects/resas-prototype/?lang=en. (Accessed 10th July 2017) [10] 伏見卓恭, 斉藤和巳, 郷古浩道:“Zスコアを用いた階層性を有するカテゴリ間関係の効果的可視化法”, 情報処理学会論文誌, 7, 2, pp. 93-103, 2014. [11] 有本昂平, 渡邊英徳:“デジタルアースを用いた階層を有する自動車産業における取引構造のビジュアライゼーション”, 映像情報メディア学会誌, 70, 4, pp. J88-J93, 2016. [12] H. Watanave: “台風リアルタイム・ウォッチャー”, https:// typhoon. mapping.jp/.(Accessed 10th July 2017)
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# デジタルアーカイブ学会第 2 回研究大会概要 ## 開催趣旨 デジタルアーカイブ学会は、 21 世紀日本のデジタル知識基盤構築のために昨年 4 月 15 日に生まれました。関係者の経験と技術を交流・共有し、一層の発展を目指し、人材の育成、技術研究の促進、メタデータを含む標準化に取り組んでおります。 さらに、国と自治体、市民、企業の連携、オープンサイエンスの基盤となる公共的デジタルアー カイブの構築、地域のデジタルアーカイブ構築を支援し、これらの諸方策の根幹をなすデジタル知識基盤社会の法制度がいかにあるべきかについても検討をおこなっています。 ## - 2018 年 3 月 9 日 (金) 東京大学本郷キャンパス・医学部教育研究棟 $14 \mathrm{~F}$ (鉄門講堂) 基調講演 「 コンテンツ産業とデジタルアーカイブ」(仮題) 角川歴彦 (( 株) KADOKAWA 取締役会長) パネルディスカッション「デジタルアーカイブ産業の未来を拓く」 緒方靖弘 ( 寺田倉庫メディアグループリーダー) 沢辺均 (株式会社スタジオ・ポット社長) 高野明彦 (国立情報学研究所教授)(モデレーター) 野口祐子 (グーグル合同会社執行役員法務部長) ## - 2018 年 3 月 10 日 (土) 東京大学本郷キャンパス・法学政治学系総合教育棟 (ガラス棟) 1,2F 口頭・ポスター発表、企画パネル、企業展示 ## 協賛 一般財団法人角川文化振興財団 デジタルアーカイブ推進コンソーシアム 一般財団法人デジタル文化財創出機構 ## 後援 記録管理学会、情報知識学会、情報保存研究会、情報メディア学会、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会東京文化資源会議、日本アーカイブズ学会、日本教育情報学会、日本出版学会 日本デジタル・ヒューマニティーズ学会、文化資源学会、本の未来基金 ## 実行委員会 委員長高野明彦 (国立情報学研究所教授) 委員井上透 (岐阜女子大学デジタルアーカイブ研究所所長・教授) 坂井知志 (常磐大学・大学院教授) 数藤雅彦 (五常法律会計事務所) 時実象一 (東京大学大学院情報学環高等客員研究員) 東由美子 (東京大学大学院情報学環特任講師) 総務担当理事柳与志夫(東京大学大学院情報学環特任教授)
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# 『入門 まなぶ \\ デジタルアーカイ つくる・つかう』 柳与志夫 責任編集出版社:勉誠出版 2017年12月200ページ A5判 ISBN 978-4-585-20060-4 本体2,500円+税 本書は、同出版社から刊行された『デジタル・アー カイブとは何か:理論と実践』(2015 年)等のデジタ ルアーカイブ関連の一連の書籍に関わってきた編者ら によって、「一般的な入門書」を目指して編纂された。全体は 3 部から構成されている。第I 部は「デジタ ルアーカイブをまなぶ」と題され、多様なデジタル アーカイブの種別の整理やデジタル化等の工程を概説 しつつ、ボーンデジタル情報を扱うウェブアーカイブ やデータアーカイブにも触れている。 続く第II部「デジタルアーカイブをつくる」は、コ スト面を含めた運営に加え、対象に応じたデジタル化 の技術や、著作権を中心とした法律面にも目配りした、 デジタルアーカイブ構築・運営に必要な事項に関する 解説となっている。IIIF やクラウドファンディング等 の比較的新しいトピックについてもコラム形式で紹介 されている。 第政「デジタルアーカイブをつかう」では、災害 に関するデジタルアーカイブ等、様々な実例を紹介し つつ、地域や教育現場での活用について課題も含めて 論じられている。 一般的な入門書を目指しただけあって、全体を通覧 することで、デジタルアーカイブが何故必要であり、 どう構築・運営し、どのように活用するのか、基本的 な情報を得ることができるよう工夫されている。デジ タルアーカイブを構築する側の実務者を主なターゲッ トにしているためだと思われるが、特に第 II 部の技術面や法律面に関する記載が詳細で、具体的な構築・運用コストの試算を人件費も含めて示す、意欲的な試み もなされている。 その一方で、デジタルアーカイブの企画立案に必要 な政策論や、アドボカシー(日本的に言えばむしろ 「関係者・有力者根回し」か)の材料という面ではや や記述が薄いといえるかもしれない。 こうした点を補っているのが、弁護士の福井健策氏 と、NHKアーカイブスに関わり現在ヤフー株式会社 に所属する宮本聖二氏へのインタビューである。 福井氏のインタビューは第II 部の法律問題の解説の 末尾に置かれ、権利面の課題についても言及している。 しかし、その内容は、むしろデジタルアーカイブ政策論というべきで、欧米の状況を踏まえた上で、日本に おける立法措置を含めた政策的対応の必要性を論じた ものである。 宮本氏のインタビューは、第红部冒頭に置かれ、デ ジタルアーカイブの利活用に関する議論が中心であ る。しかし、そこでは、「記録することで次の時代を つくる」というデジタルアーカイブが社会において果 たすべき役割の本質が論じられている。 この二つのインタビューの提示する広い視野を踏ま えることで、本書における個々の解説をより有効に活用することができるだろう。 なお、具体的記述を旨とする実務的入門書の宿命と して、既に最新動向からのずれが生じ始めている。著作権保護期間延長問題に関し、TPP については紹介さ れているが、日 EU 経済連携協定(EPA)については、刊行時期的に当然ではあるが言及がない。あえて注文 をつけるなら、最新の状況や技術動向を把握するため の情報源に関する案内的なコラムがあっても良かった のではないだろうか。 大場利康(国立国会図書館)
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# [P11] デジタルアーカイブと併用する学び手志向の平和学習教材の制作 秦那実 ${ }^{1)}$, 渡邊英徳 1 1) 1) 首都大学東京大学院システムデザイン研究科,〒191-0065 日野市旭が丘 6-6 E-mail:[email protected] ## Production of user-oriented peace learning materials combined with digital archive HATA Nanomi ${ }^{1}$, WATANAVE Hidenori1) ${ }^{1)}$ Graduate School of System Design, Tokyo Metropolitan University, 6-6 Asahigaoka, HinoCity, Tokyo, 191-0065 Japan ## 【発表概要】 本発表では、多元的デジタルアーカイブ「ヒロシマ・アーカイブ」の活用方法として、AR(拡張現実)アプリを用いた高校生向けの平和学習教材の制作状況について報告する. 発表者らは、修学旅行生を対象とし、ARアプリを補助教材として使用する平和学習を企画しており、そのナビゲーションのための「ワークブック」を、地元の高校生と共同制作している. フィールドワー クと学習の内容は高校生の親しみやすさを配慮したデザイン施して、ワークブックのプロトタイプを制作する.このプロトタイプを元にして、リーンスタートアップ手法に基づく制作・検証を繰り返し、完成度を高めている。随時、実際の修学旅行生にテストしてもらい、フィードバックを反映していくことによって、学び手にとって親しみやすい平和学習教材の制作手法を確立できると考える。 ## 1. はじめに ヒロシマを題材とした平和学習として、被爆者講話や広島平和記念資料館見学など様々なものがあるが、近年では継承的アーカイブを利用した平和学習の実践も行われている [1]。本発表では、多元的デジタルアーカイブ 「ヒロシマ・アーカイブ」の活用方法として、 AR(拡張現実)アプリを用いた高校生向けの平和学習教材の制作状況について報告する。 ## 2. 制作 広島を訪れる修学旅行生を対象とし、AR アプリを補助教材として使用する平和学習を企画しており、そのナビゲーションのための 「ワークブック」を、地元の高校生と共同制作している(図 1 )。 具体的な学習内容として AR アプリを用いたフィールドワークを企画しており、地元の高校生の目線で知りたいと思うヒロシマの実情だけでなく、観光情報など県外から訪れる高校生が興味を持ちやすい広島の町に関連する要素を含んだ学習を考案している[2]。 またデザイン面において、従来の平和学習教材に多く見られる暗い色を多用したイメー 図 1. 高校生と共同で制作したワークブック ジを払拭し、水色を中心として明るい色を使うことで、高校生が自主的に手に取りやすく、且つ戦争と平和を学ぶ教材として相応しい印 象になるようなデザインを施している。 また、ワークブック内の記述欄に方眼罡を使用し、教材としての使い勝手を高める配慮を行っている。 学び手である高校生の意見を積極的に取り入れることで、平和学習に対する敷居を下げ、親しみやすいワークブックのプロトタイプを制作する。 ## 3. 検証方法 制作したプロトタイプを元にして、リーンスタートアップ手法に基づく制作・検証を繰り返し、平和学習教材としての完成度を高めている(図 2,3 )。 修学旅行で広島を訪れる広島県外の高校等の協力のもと、実際の修学旅行生にテストしてもらい、フィードバックを反映することで学び手目線の改善点が加わり、より学び手に寄り添ったワークブックの完成が期待できる。 図 3. 修学旅行生によるプロトタイプの使用の様子 ## 4. おわりに 制作と検証を繰り返し、ユーザである修学旅行生から使いやすく理解しやすいという意見が得られれば、本研究は学び手にとって親しみやすい平和学習教材の制作手法を確立できると考える。また本手法は、修学旅行生以外のユーザを想定した平和学習に関する紙媒体制作にも応用できると考えている。 ## 参考文献 [1] 外池智. 継承的アーカイブの活用と「次世代の平和教育」の展開 - 広島「平和教育プログラム」の実践 - : 秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要. Vol.38, pp.1-12 (2008). [2] 土屋祐子,川上隆史. 他者と自己による広島イメージ - メディアリテラシー実践「ロー カルの不思議」からの一考察 - : 広島経済大学研究論集. Vol.33, No.1, pp.45-56 (2010). 図 2. 地元の高校生とのワークショップの様子 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P10] 戦争を日中両国の視点から捉えるためのデジタルア 一カイブ 一一日中の戦争映画と反戦映画の比較鑑賞ツール ○岑 天霞 首都大学東京システムデザイン, 渡邊研究室 E-mail: tenka。sin@gmail。com ## Learn Japanese and Chinese views of war through movies by digital archive \\ Tool to compare war movies and anti-war movies of Japan and China Tianxia Cen Tokyo Metropolitan University, wtnv Laboratories ## 【発表概要】 本研究では、平和教育における日中間お互いの平和観についての理解を促進させる手法について検討する。そのために、グーグルアースを使って日中戦争と反戦映画のデジタルアーカイブを開発した。現在日本と中国お互いに対する「親近感の低さ」について、これまで日中間情報源の研究は主に「教科書」や、「ニュースメディア」についての比較であり、平和教育の役割を担っている戦争や反戦映画という点については、十分に検討されていない。そこで本研究では、日中反戦や戦争映画の題材や主旨などによってデジタルアーカイブを作り、縦方向で映画評価の高さを、横方向で映画の背景となる地域を表現する。こうして、日中両国の視点から戦争や平和についての価値観をデジタルアーカイブで可視化する。そして日中反戦映画の全体像を把握した上に、両国の主流価値観を表す高評価の作品をピックアップして徹底的に比較する。 ## 1. はじめに 筆者は母国の中国において、小学校から授業と課外活動を通じて「愛国教育」を受けてきた。愛国を題材にした唱歌を歌い、「抗日」を題材とした映画を鑑賞し、様々な抗日記念館を見学してきた。日本の一部の評論家は、日中関係が悪化した原因は、中国で実施されているこうした「愛国教育」にあると主張している。一方中国においては、日本の原爆をテーマとした「平和教育」について「自作自演の弁解」であると批判されている。 このように、歴史観・平和観の相違とコミユニケーションの不足がもたらす誤解が、日中両国における国民感情の悪化をもたらしていると言えよう。こうした状況を改善し、両国民が平和に対話できる状況をつくりだすためには、お互いの歴史観・平和観を相互に知り、理解しあうことが重要だと考えられる。 ## 2. 映画から見る日中歴史認識の壁 2. 1 日中歴史認識現在においては中国と日本の関係は周知の 通りであり、歴史認識問題をはじめとした靖国問題、尖閣諸島問題など両国家のけん制が 続いている。 解決すべき歴史問題として、日本人は「中国の反日教育や教科書」を問題視する人が 7 割を超えているが、日本自体の問題を選択する人も 3 割程度みられる。中国人では、日本側の歴史認識を問題視し、その改善を求めている人が多く、その割合も昨年から増加している。 以上のことからわかるように、中国人も日本人も歴史問題は日中関係の障害とだと考えているが、それぞれの国の価值基準に基づいて歴史認識が形成されているため、価値基準が異なる他者の歴史教育の内容や方法を無意識に批判的になりがちである。 ## 2.2 戦争映画の役割 確かに、このような歴史教育によって、日中間歴史認識の相違がますます大きくなると考える。しかし、教室で行う授業よりも、テレビや映画の方がより印象強い。戦後生まれ 中国と日本 図 1. 年代別作られた「日中戦争」を題材とした映画(単位 : 本) の中国人が日本に対して抱いているイメージは、戦争経験者の証言や、学校での歴史教育に加え、そのかなりの部分が映像によって形成されている。 「抗日映画」は満州事変直後の一九三○年代初頭から現在にいたるまで綿々として作られてきた中国映画のメジャーなジャンルであり、現代中国人の歴史観の形成は、これらの 「抗日映画」を抜きにして語れない(劉 2013)。一方日本では、日中戦争を扱った映画もいくつかがあるが、戦争映画と言えば一九五○年以降の作品の大多数が太平洋戦争を扱っている。なぜなら、佐藤(2001)によると、日中戦争は弁明の余地のない侵略戦争であり、污い戦争の日本軍のヒーローたちなど、日本人はもう思い出したくないであると述べる。 ## 3. 戦争映画デジタルアーカイブ ## 3.1 日中戦争映画の全体像 現在において日中両国における戦争映画の実態を把握するために、日本国内検索エンジンシェア 1 位の Google と中国検索エンジンシェア 1 位の Baidu で調べ、整理した。戦後中国の総数 197 本の戦争映画の中、 143 本の題材は「日中戦争」である。そして、「国共内戦」を題材とした映画も 41 本がある。他には、三国時代の「赤壁の戦い」を題材とした『レッドクリフ』などの古代戦争を題材とした映画は 13 本。また、戦後日本における 133 戦争映画の中、「日中戦争」を題材とした映画は僅か 18 である。そして 88 本は太平洋戦争を題材とし、その他 26 本は架空の戦争を扱ったものや時代劇などである。 また、年代別でいうと、中国では高度経済成長期の 90 年代から、海外の媅楽映画への模倣を通じて「抗日」をテーマとした映画を作り始め、そして 2000 年以降、ハリウッド的抗日映画が多く製作された。近年、中国における「抗日映画」の数は指数関数的に成長している。(図 1) ## 3. 2 デジタルアーカイブの作成 「日中戦争映画デジタルアーカイブ」制作の流れを説明する。(図 2) (1)情報収集 図 2. デジタルアーカイブの開発プロセス 検索エンジンと映画情報サイトから必要な写真データやテキスト(文章)などを収集する。現在において日中両国における戦争映画の実態を把握するために、日本国内検索エンジンシェア 1 位の「Google」と中国検索エンジンシェア 1 位の「Baidu」で調べて得たデータを利用して、「日中戦争映画デジタルアーカイブ」制作する。さらに、日本と中国映画鑑賞者の意見を明らかにするために、両国の有名な映画情報サイト日本の「Yahoo! 映画」 と中国の「豆瓣电影」から映画のレビュー情報を収集する。 ## (2)データ整理 (1)で収集した素材を元に Excel を使って表を作成する。行の項目は、映画名・上映時間・評価・ロケ地や舞台となった地域 4 つである。また、可能な限り定量的に分析した上に、グーグルのスプレッドシートでグラフを作成する。詳しくは本章で後ほど述べる。 (3)地図制作 Google のデータベースサービス Google Fusion Tables に(2)で整理したデータを登録し、地域情報を Location と認識させ、表のデータを Google Map でマッピングする。そして、Google Map から KML をダウンロー ドし、ローカルで編集できるようにする。 (4)視覚化 (3)でダウンロードした KML ファイルを Google Earth と Sublime Text で編集する。映画のレビュー情報、公開時期、舞台となつた地域にあわせてデジタルアースにマッピングして視覚的に表現する。縦方向で映画評価の高さを、横方向で映画のロケ地や舞台となった地域を表現する。こうして、日中両国の視点から戦争や平和についての価値観をデジタルアーカイブで可視し、日中反戦映画の全体像を把握した上に、両国の主流価値観を表す高評価の作品をピックアップして徹底的に比較できる。 本研究で制作した日中両国の戦争映画デジタルアーカイブでは、日中戦争を扱った中国の 106 本、日本の 17 本、計 123 本の映画をマッピングした。(図 12 )アイコンは映画のポスターで、縦方向の高さは映画ユーザー レビューの評価であり、戦争映画の全体像を一目で伝える。 ## 4。おわりに 本研究は、日中戦争を両国の視点から捉えなおすために、両国における「戦争映画」と 「反戦映画」の比較研究を行ない、それに基づくデジタルコンテンツを制作してきた。映画の公開時期、レビューの情報を、舞台となった地域にあわせてデジタルアースにマッピングすることで、以下の 4 点が明らかになった。(1)すべて、戦争における自国の被害を表現した作品であること。(2)歴史・社会環境の変化につれて、映画のメッセージが変わってきたこと。(3)作品をレビューにおいて価値観の一部は共通しているとはいえ、両国民が日 図 3.「戦争映画デジタルアーカイブ」における映画情報 中戦争の歴史を相対化することは困難であること。(4)幾つかの要因によって、日本において得られる中国の映画作品に関する情報は少ないこと。 本研究の貢献は、戦争をテーマにした映画の比較・分析によって、日中両国の歴史認識にある「壁」を明らかにしたことである。さらにデジタルアーカイブ化することによって、論文に加えて、わかりやすいかたちでその 「壁」を可視化することができた。 ## 参考文献 [1]言論 NPO(2017)「第 13 回日中共同世論調査」言論 NPO、http://www.genron- npo.net/world/archives/6837.html [2]久留島幹夫(1987)「中国の平和教育一ー 戦争・平和認識における日中の落差」(『広島平和科学』第 15 号、pp.125-144) [3] 笠原祥士郎(2003)「日本と中国の歴史教育についてーー近現代史を中心として」(『北陸大学紀要』第 27 号, pp. 201-213) [4] 佐藤忠男. 映画で読み解く「世界の戦争」一昂揚、反戦から和解への道. ベスト新書. 2001, 11p. [5] 劉文兵(2013)『中国抗日映画・ドラマの世界』(祥伝社新書) [6] 佐藤忠男(2001)『映画で読み解く「世界の戦争」一昂揚, 反戦から和解への道』(ベスト新書) [7]Yahoo! 映画(2017 年 12 月 23 日)「日本の映画情報サイト」 https://movies.yahoo.co.jp(参照日:2017 年 12 月 23 日) [8]豆瓣电影(2017 年 12 月 23 日)「中国の映画情報サイト」 https://movie.douban.com(参照日:2017 年 12 月 23 日) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4。0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons。org/licenses/by/4。0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A13] 地方大学の歩みを記録するデジタルアーカイブ:札幌学院大学を例として ○皆川雅章 札幌学院大学法学部, $\bar{\top 069-8555$ 江別市文京台 11 E-mail: [email protected] ## Digital Archive of History of Regional Universities: An Example of Sapporo Gakuin University. \author{ MINAGAWA Masaaki } Sapporo Gakuin University, 11 Bunkyodai, Ebetsu, 069-8555 Japan ## 【発表概要】 札幌学院大学学園創立 70 周年記念事業の一環として大学の歴史のデジタルアーカイブ化を行ない 2017 年 4 月から公開を始めた。当初対象とした資料は、卒業生寄贈による昭和 20 年代からの各種学内展示資料および刊行物等であり、その後も資料収集が行われている。このデジタルア一カイブ化を行う目的は、(1)遠方の卒業生が展示資料を見ることを容易にする、(2)学生が自学の歴史を身近に学ぶ機会をつくる、(3)刊行物のデジタル化を通じて学内資料の収集・整理を行い、数十年後に向けた歴史資料として保存する機会とする、である。地方大学の歩みの記録を次の世代に残していこうとする取り組みを報告する。 ## 1. はじめに 国内の各大学が所蔵する貴重な学術資料等のデジタルアーカイブは多数存在しており、 その調査もすでに行われている(1)が、他方で自校の設置から現在に至るまでの記録をデジタル化するという観点からのデジタルアーカイブはまだ少ないように見受けられる。著者が Web サイトを検索した限りでは散見される程度(2),(3),(4),(5)であった。札幌学院大学(以下、本学)では、学園創立 70 周年記念事業の一環として大学の歴史資料のデジタルアーカイブ化を進め、2017 年 4 月から公開を開始している。対象資料は、本学卒業生から寄贈された昭和 20 年代からの各種資料で、その一部が本学建学記念館の資料室に展示されている。閲覧者は、創立期から現在に至る幅広い年代の卒業生・在学生を想定している。 本学において、このデジタルアーカイブ化を行う主な目的は、次の 3 点である。 目的 1 : 資料をデジタル化し、大学の Web サイトで閲覧可能にすることにより、遠方の卒業生が記念館展示資料を見ることを容易にする。 目的 2 : 在学生が本学の歴史を身近に学ぶ機会をつくる。 目的 3 : 寄贈資料を含む定期刊行物をデジタル化することを通じて学内に分散している資料の整理を行い、数十年後に向けた歴史資料 として保存する機会とする。 それぞれの大学は、その設置の趣旨・形態が異なり、それぞれが地域の教育需要と密接な関係を持っている。このことは本学の近隣大学の歴史・沿革を概観するだけでも、前身が女学校(6)、受験のための私塾(7)、酪農義塾(8)、自動車運転技能教授所(9)などがあることからも伺い知ることができる。筆者は、それぞれの大学の歩みの記録を、デジタルアーカイブを介して集約することが、地域の発展の歴史を記録し、次の世代に伝える 1 つ手段となると考えている。本稿では、本学におけるデジタルアーカイブ構築事例を通じて、そのような記録へのアプローチ例を示す。 ## 2. デジタルア一カイブ化の方針 当初、デジタルアーカイブ化の対象としていたのは、本学の建学記念館 (1987 年に創立 40 周年を記念して建設)資料展示室に収蔵されている資料である。事前調査では、展示品の総数は概算で約 600 件となっている。主な資料の種類には、(1)各種印刷物、(2)レコード $\cdot$ カセットテープ・ビデオテープ・映像フィルム・写真などアナログ媒体での記録、(3)看板、時計、帽子、帽章、バッジなど立体物がある。(1)および(2)については、媒体が劣化して復元不可能になる前に、記録内容をデジタル化しておく。 大学の歴史については、パネルに写真と文章で説明が行われている。展示室は資料が太陽光に晒されないようになっているが、このパネルには裉色、損傷が観察される。また、建物の老朽化の問題が今後顕在化することを想定しておく。 この展示室は本学敷地内にあるが、訪れる学生は少ない。また、北海道内に居住する卒業生であっても遠方からの来訪が難しく、学園創立当時の卒業生については高齢となりつつある。 以上のことから、今回のデジタルアーカイブ化を進める上での基本的な考え方は 「卒業生・在学生がアクセス容易な自校の歴史資料の提供」、「教育機関としての大学の過去・現在の記録のデジタル化」、そして 「その先の未来に向けた記録の収集・整理・継承」である。 従って、資料の選定方法に始まり、システム構築、運用に至るまで「貴重な学術資料等のデジタルアーカイブ」とは異なるアプロー チが必要となる。 ## 3. 資料の選定 本学は 1946(昭和 21) 年に創立された札幌文科専門学院にはじまり、1950(昭和 25)年に札幌短期大学、1968(昭和 43)年に札幌商科大学、 そして 1984(昭和 59)年に札幌学院大学と学校名称を変えてきた。図 1、図 2 に示すように、校舎についても移転等を行い、大きく様変わりをしているため、「懐かしい学び舎」は卒業年次によって異なる。このような変遷をふまえた上で資料の選定を行う。 図 1 札幌短期大学校舎 図 2 札幌学院大学校舎 まず、大学の歴史年表を掲載し、本学が開学以来歩んで来た歴史を一覧できるようにする。また、入学式・卒業式(学位記授与式) で歌われる校歌は、上記の校名変更に伴い、新たに作られおり、以下のように 3 つの校歌が存在する。校舎同様、卒業年次によって慣れ親しんだ校歌が異なる。 (1)札幌文科専門学院校歌 (2)札幌短期大学校歌 (3)札幌学院大学校歌 (札幌商科大学校歌) 定期刊行物は、校名変更の影響を受けにくい対象であり、内容的にも連続性を持っている。当初、収録対象としたのは (1)同空会誌 (2)後援会報 (3)学生だより (4)札幌学院評論 (5)学園広報 (6)入学案内 である。これらの資料は開学当初から、これまでに本学とともに歩んできた学生・教職員の様子を知ることが出来る貴重な資料となりうる。資料を整理する課程で、保管されていた印刷物が発見され、15 件の刊行物を追加で収録した。 上記以外に、周年行事の一環として刊行された写真集などの記念刊行物に関しても、この機会にデジタル化する。 ## 4. デジタルアーカイブシステム 今回構築したデジタルアーカイブシステム用のソフトウェアは、上記の選定資料の保存・公開が可能となるように新規に委託開発している。メタデータは Dublin Core メタデ一夕との対応付けを行っている。 年代的に広範囲の卒業生による閲覧を想定 しているため、親近感のある画像や表現を用い、メニューのナビゲーションに従うことで目的のコンテンツに容易にたどりつくことができるようなインタフェースを検討した。 図 3 に Web サイトのトップページを示す。検索空の下にあるのが、「刊行物」、「歴史」、「校歌」のページへのリンクである。 ここで参照される刊行物は、前述の定期刊行物であり、年代・発行番号順に pdf 形式で保存する。歴史は、ページスクロールをして閲覧できるようになっている。校歌は音声、歌詞、楽譜から構成されている。 図 3 Web サイトのトップページ トップページの下部にあるのが、校名別リンクである。文科専門学院、札幌短期大学、札幌商科大学、札幌学院大学と、創立時からの年代順に校舎の画像が並べてある。このようにすることで卒業生が自分の卒業年次(在学時の校名)をもとに、閲覧するコンテンツを容易に選択できるようにした。各校名ごとに、詳細情報へのリンクページが表示される。詳細情報は「行事$\cdot$出来事」、「学校生活」、 「設備・環境」、「資料. 刊行物」、「課外活動」、「思い出の品」のほか、今後の継続的・双方向的な運用を想定して「卒業生・修了生」、「同窓会・講演会」、「教職員」の 3つの項目を追加している。各項目を選択すると閲覧画像選択画面が表示される。 ## 5. 閲覧状況 以下、GoogleAnalytics ${ }^{(10)}$ の出力結果を用いて閲覧状況を示す。対象期間は 2017 年 4 月 1 日から 12 月 31 日までである。図 4 は同期間に本サイトへのアクセスがあった地域の大きさはアクセス数に比例する)を地図上に図示したものである。北海道の地方都市からの閲覧があることを確認できる。 図 4 Web サイトへのアクセス状況 総アクセス数は 3102 件で、上位 10 都道府県は以下の通りである。 (1)北海道 1770 (2)東京 569 (3)神奈川県 214 (4)大阪府 106 (5)愛知県 89 (6)宮城県 32 (7)埼玉県 31 (8)栃木県 23 (9)兵庫県 23 (10)京都府 19 上位 5 位は地元の北海道と、卒業生が多数就職し居住しているであろう関東、中部、関西地域であった。閲覧者の居住地の広がりもあり、西日本の一部の県を除き殆どの県からアクセスがあった。閲覧者の属性は確認できていないが、新規閲覧者 2010 名のうち約 6 割が複数ページへのアクセスを行っているので、本学卒業生を含め、約 1200 名がこのサイトに関心を持っていると推測している。 ## 6. おわりに 冒頭で記した、 3 つの目的に沿って本事例の考察を行なう。 目的 1 : 前述の閲覧状況に基づけば、ほぼ全国各地に閲覧者が存在している。閲覧者の属性は確認できないが、このアーカイブサイトに関心を持つ閲覧者が卒業生が主であることを想定すると、成果が出つつあると判断している。目的 2 : 北海道内の閲覧者に含まれる本学学生数については確認できていない。今後、自校教育の教材に使用しながら、この点を検証してい <。目的 3 : 各刊行物の一部が展示され、それ以外は人目につかない場所に保管されていた。デジタル化によって、これまで展示されていなかった刊行物を公開することが可能となった。また、学内各部署に分散・重複して保管されていた資料を収集・整理する機会となった。これらの資料については今後、紙とデジタルの両媒体で保存していく予定である。 冒頭で記したように、本学の近隣大学を例にとっても、各大学は地域の教育需要を反映させて多様な歩みを行っている。筆者は、 それぞれの地方大学の歩みの記録を、デジタルアーカイブを介して集約することが、地域の発展の歴史を記録し、次の世代に伝える 1 つの手段となると考えている。 上述のように数十年後を見据えるには、卒業生および社会にとって有益な情報発信を行 っていくことが求められる。そのためには今後、継続的なコンテンツの収集・蓄積を行っていくために、ソーシャルメディアの活用による双方向型の情報発信・共有を検討する。 ## 参考文献 [1] 日本の大学デジタルアーカイブ一覧 (2009/3)(鈴木良徳作成)(ときざねそういちの小 ームページ)(2010/8 更新) http://tokizane.jp/Shiryo/DigitalArchives.ht $\mathrm{ml}($ 閲覧 2017/2/4) [2] お茶の水女子大学デジタルアーカイブズ 〜先駆的女性研究者データベース〜 http://archives.cf.ocha.ac.jp/(閲覧 2017/2/4) [3] 津田塾大学デジタルアーカイブ http://lib.tsuda.ac.jp/DigitalArchive/(閲覧 2017/2/4) [4] 芝浦工業大学デジタルアーカイブ http://www.gakujoken.or.jp/Sibaura/SIT/hist ory/souritu.html(閲覧 2017/2/4) [5] 奈良女子大学所蔵資料電子画像集「奈良女子大学校史関係資料」 http://www.lib.nara-wu.ac.jp/kousi/(閲覧 2017/2/4) [6] 歴史・沿革-北星学園大学 http://www.hokusei.ac.jp/about/history/ (閲 覧 2018/1/5) [7] 北海学園大学の沿革 http://hgu.jp/guide/purpose03/ (閲覧 2018/1/5) [8] 沿革|酪農学園大学|獣医学群・農食環境学群 http://www.rakuno.ac.jp/outline/about/devel opment.html (閲覧 2018/1/5) [9] 沿革 $\mid$ 北海道科学大学 http://www.hus.ac.jp/info/university/history. html (閲覧 2018/1/5) [10] Google Analytics https://ja.wikipedia.org/wiki/Google_Analyti cs (閲覧 2018/1/5) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P09] デジタルアースを用いたドローンマップ\&アーカイブ による風景資産の活用: ○渡邊康太 ${ }^{1)}$, 渡邊英徳 11 1) 首都大学東京システムデザイン学部 インダストリアルアートコース, 〒191-0065 東京都日野市旭が 丘 6-6 E-mail: [email protected] ## Utilization of Landscape Assets by Digital-Earth-Based Drone Map \& Archive: WATANABE Kota1), WATANAVE Hidenori ${ }^{11}$ 1) Tokyo Metropolitan University Faculty of System Design Division of Industrial Art 1), 6-6 Asahigaoka, Hino-City, Tokyo, 191-0065 Japan ## 【発表概要】 本研究は,デジタルアースを用いたドローンマップ\&アーカイブによる風景資産の活用法を提案する。対象地域は徳島県におけるドローン特区としての町おこしを実践している徳島県那賀町である。まず,那賀町が発行しているドローンの飛行可能空域マップを基に,デジタルアースを用いたドローンマップ\&アーカイブを作成し, 空撮スポットの地形と風景資産を視覚化する. 次いで, 作成したコンテンツについてのアンケートを実施し, その有用性を検証する. 本研究の成果は,対象地域以外において広く活用できると考える。 ## 1. はじめに 法律上, $200 \mathrm{~g}$ 以上のドローンは人口密集地域での飛行が禁止されており, 関東圈での飛行可能空域は限られている. [1]一方, 徳島県那賀町は人口減少を逆手に取り, 交流人口増加を目的としたドローンによる町おこしを実践している。[2]また, 滝や山などの自然に囲まれており, 空撮に適した風景資産を豊富に持つ. 交流人口増加に繋げるためには, 風景資産を外部に発信しつつ, ドローンユーザが空撮しやすい情報を提供する必要がある.空撮データを位置情報と共に発信することで,対象地域への関心を集められると考える。 ## 2. 目的 本研究では, ドローンマップ\&アーカイブによる風景資産の活用法を検討する。発信する情報は那賀町が発行している「那賀町ドロ ーンマップ」を基にする. 飛行スポットの空撮データやドローン操縦に必要な情報が紙媒体のマップに掲載されている。対象地域から風景資産を発信すると共に, ドローンユーザ個人による風景資産の保存,発信を促す。そのために, 空撮データと空撮スポットの情報を兼ねそろえたコンテンツを制作する。 ## 3. 手法 ## 3. 1 デジタルアースの利用 デジタルアースを用いることで, 高度を含めた位置情報, 飛行可能空域の地形をユーザに示す.また,デジタルアース上にオブジェクトを配置することでドローンに関する情報を提示する. 図 1.コンテンツ全体像 ## 3.2 全天球画像 「那賀町ドローンマップ」に掲載されている飛行スポットは計 26 箇所である. 昨年にそれら飛行スポットの一部を訪問し, 全天球力メラを用いて撮影している. 図 2 では撮影デ一夕を球体に貼り付け, 実際の飛行スポット と同じ地点に配置している。これにより,ドローンユーザは事前に飛行可能空域の状況を全方位で確認することができる. 図 2.全天球画像の事例 ## 3. 3 飛行可能空域 「那賀町ドローンマップ」では飛行可能空域を線によって図示している. 図 2 では, 飛行可能空域を地形とともに壁で囲む形で示している. 図 3.飛行可能空域の事例 ## 3. 4 地形強調 那賀町は起伏に富んだ地域に位置している。 ドローンを安全に操縦するためには,地形に対する理解が必要となる. Cesium の地形強調機能を活用することで,地形の特徴をより捉えやすくする. ## 3.5 高度を伴うデータ配置 本コンテンツは,ドローンから撮影した空撮写真のデジタルアーカイブとして機能する。高度に応じて空撮写真を配置し,ドローンによる撮影状況をユーザに提供する。 ## 4. おわりに コンテンツの利便性, 獲得できる情報についてアンケートを作成し, ドローンユーザに回答してもらうことで検証する。 検証の結果,高評価を得られれば,ドロー ンマップ\&アーカイブによる風景資産の活用法として本コンテンツが有用であると判断できる.また, 本研究の対象地域以外における活用が期待できる. ## 参考文献 [1] 国土交通省ホームページ <http://www.mlit.go.jp/koku/koku_fr10_0000 40.html>. (閲覧 2018/01/05) [2] 徳島県那賀町まち・ひと・しごと戦略課ドローン推進室 <http://nakadrone.com/>. (閲覧 2018/01/05) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P08] 米国大学に所蔵されている対日文化政策に関する 占領期資料のデジタル化及び公開 ○小泉真理子 ${ }^{11}$ ,上條由紀子 2), 寺田遊 3) 1) 京都精華大学, $\overline{\mathrm{T}} 606-8588$ 京都府京都市左京区岩倉木野町 137 2) 金沢工業大学大学院, 3) 株式会社シュヴァン E-mail: [email protected] ## Digitization and Publication of Japanese Materials Related to the Cultural Policies Toward Japan Under the Post-WWII Allied Occupation Sourced from U.S. University KOIZUMI Marikon', KAMIJO Yukiko2), TERADA Yu ${ }^{3}$ ) 1) Kyoto Seika University, 137 Kino-cho, Iwakura, Sakyo-ku, Kyoto 606-8588 Japan 2) Kanazawa Institue of Technology, ${ }^{3)}$ Schwan Inc. ## 【発表概要】 2000 年以降、経済や外交において文化の影響力が注目されている。その中で、戦後直後に現在の日本文化の基礎がいかに築かれたかを探究することは必須である。しかしながら、国内において当時の関係資料の多くは失われている。本研究では、米国大学所蔵の貴重な文化資料を、国内外で誰もが閲覧可能にすることを目的とし、グローバルな産学の連携により、デジタル化と公開作業を実施している。具体的には、ハワイ大学マノア校図書館の、連合国最高司令官総司令部が 1945 年から 4 年間に日本において検閲した歌舞伎脚本の英語版原本 (“Stanley Kaizawa Kabuki Collection”) をデジタル化・テキスト化し、一部をインターネットで公開予定である。今後は資料の背景をヒアリング調査等により明らかにする。本研究が、占領期の日本における表現活動の実態を多面的に明らかにすることに寄与し、日本文化史の欠落を補う一助となるとともに、米国の対日文化政策等の関連研究を誘発することが期待される。 ## 1. 研究の背景 戦後日本が、米国の占領政策により政治・ 経済・教育において大きな変貌を遂げたこと は、人々に広く認識され記録の入手も比較的容易である。しかし、同じように変貌した文化に関しては、占領期に日本人がどのような環境でどのような表現活動を行い、現在の基礎を築いたのか、十分に認識されておらず、研究も少ない。一方、創造経済やソフトパワ一といった言葉が表すように、2000 年以降は経済や外交においても文化の影響力が世界中で注目されている。このため、戦後日本の文化の基礎形成に関する探究は必須といえる。 占領期の日本における表現活動に関して、認識が低い一つの理由は、国内に関係資料が少ないためである。占領期は連合国最高司令官総司令部(GHQ)の民間情報教育局 (CIE)や民間検閲支隊(CCD)の指導や検閲が行われたこと、物資の不足や劣悪な素材 で資料が作成されたこともあり、関係資料の多くは破棄、散逸、劣化し失われた。しかし、当時日本から海外へ流出した資料が、近年になって海外で発見されている。例えば、GHQ が検閲用に収集した出版物であるゴードン・ W・プランゲ文庫のコピーが 1990 年過ぎから日本に持ち帰られ、社会史、文化史等の研究が触発された。その結果、戦後直後の困難な状況において、文芸人や一般人が活発に表現活動を行っていたことが明らかとなった。 さらに出版物に加えて、本研究では、写真やイラストといった視覚的に当時を伝える資料等が海外で散逸して保管されていることを確認した。そこで本研究では、それらの資料を少しでも多く突き止め、日本を含む世界から誰もが閲覧できる環境を提供することを目指している。 ## 2. 研究の内容 本研究では、米国大学が所蔵する日本に関する貴重な文化資料を、国内外で閲覧可能にするため、グローバルな産学の連携により、 デジタル化と公開作業を進めている。 ## 2. 1 研究の対象資料 ハワイ大学マノア校図書館には $\mathrm{GHQ}$ が 1945 年から 4 年間に日本において検閲した歌舞伎脚本の英語版原本 ( “Stanley Kaizawa Kabuki Collection”) が所蔵されている。米国は、占領政策の実施にあたって、日本語ができるハワイ出身の日系人を動員した。日系二世で検閲官であったスタンリー・カイザワ氏が、2000 年に寄託した当該資料は、135 本の脚本 ( 3,350 ページ)から構成され、検閲官による書き込みが残されている。脚本以外にも、カイザワ氏が進駐した当時の写真 (369 枚) や、ハワイ大学 James Brandon 元教授がカイザワ氏にインタビューした音声データ等、多様な素材が含まれる。当該資料から当時の検閲方針を分析できるため、歴史的価値は極めて高い。 ## 2.2 研究の体制 本研究は、科学研究費補助金の助成を受けて、日本側のメンバーは大学の研究者、著作権や電子出版の実務家、米国側は大学図書館司書により構成されており、グローバルな産学の連携を通じて推進している。 ## 2.3 デジタル化 資料の劣化が激しいため、現在迅速にデジタル化を進めている。2016 年 10 月よりハワイ大学マノア校にて実作業を開始した。脚本及びインタビューデータはデジタル化及びテキスト化し、写真はデジタル化するとともに、 メタデータを作成した。 ## 3. 資料の公開と今後の課題 デジタル化が完了した資料は、一部をハワイ大学マノア校のリポジトリより公開予定である。さらに、資料の素材が多岐に亘るため、公開手段によるアクセスの利便性、権利処理方法等の観点から、最適な公開方法を検討中である。 今後は、当該資料の背景を明らかにするために、占領期の駐日米兵等、関係者へのヒアリング調查を行う。関係者が高齢で調査可能な期間が限られるため緊要な課題と捉えている。本研究が占領期の表現活動を多面的に明らかにすることに寄与し、日本文化史の欠落を補う一助となるとともに、米国の対日文化政策等の関連研究を誘発することが期待される。 デジタル技術の進歩と普及により、情報を収集、蓄積、発信するプラットフォームを誰もが利用できるようになった。しかしその活用においては、費用、法制度等の課題も多い。本研究は当該プラットフォームの新たな活用の一事例として、文化が社会に与える影響が大きい現在、文化の情報をデジタル化して活用する示唆となれば幸いである。貴重資料のデジタル化を起点として、それまで接点がなかった、多様な分野の研究者や実務家がつながり、我々にとって重要な普遍的事実を見出寸協力体制を、本研究では築くことができた。 ## 参考文献 [1] 浜野保樹. 偽りの民主主義 GHQ - 映画・歌舞伎の戦後秘史. 角川書店. 2008. [2] 山本武利. GHQ の検閲 - 諜報 - 宣伝工作.岩波書店. 2013. [3] Brandon, James, 鈴木雅恵訳. 歌舞伎を救ったのは誰か?--アメリカ占領軍による歌舞伎検閲の実態. 演劇学論集 : 日本演劇学会紀要. 2004,42 , p.145-197.
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# [P07] 若年層の地域理解を促進するためのシリアスゲーム ## の提案: デジタルアースアーカイブの構築体験を通した創造的思考の育成モデル ○山浦徹也 ${ }^{11}$, 保阪太一 2 ), 斎藤秀樹 2), 渡邊英徳 1) 1) 首都大学東京システムデザイン研究科, 〒 191-0065 東京都日野市旭が丘 6-6 2) 南アルプス市教育委員会文化財課 E-mail: [email protected] ## Proposal of a serious game to promote regional understanding of young people: Development model of creative thinking through a building experience of digital earth archives YAMAURA Tetsuya ${ }^{1)}$, HOSAKA Taichi2), SAITO Hideki ${ }^{2}$, WATANAVE Hhidenori ${ }^{11}$ ${ }^{1)}$ Graduate School of System Design, Tokyo Metropolitan University, 6-6 Asahigaoka, Hino- City, Tokyo, 191-0065 Japan 2) South-Alps City Municipal Board of Education Cultural Properties Division ## 【発表概要】 本研究は、若年層が地域に愛着を持ち、能動的に地域学習ができるシリアスゲームの実践について報告する。山梨県南アルプス市の文化財課は小学校と連携し、地域学習のための郷土資料ア一カイブを制作している。発表者らは、アーカイブの制作プロセスにシリアスゲームを組み込み、览童の情報整理能力と創造的思考を育むことを企図している。ゲームにおいては、各チームが予め設定したテーマに対して発見・理解・発信の三段階のゲームを通して、アーカイブを制作していく。ゲームは以下のプロセスで進行する。 1. 発見 : 郷土資料を元にしたクロスワードゲーム 2. 理解 : 史跡でのフォトロゲイニング 3. 発信 : 集めた情報をまとめたアーカイブを制作 上記のプロセスを、シリアスゲームの評価指標「RETAIN」モデルに基づいて評価する。この手法は、地域への理解を促進する参加型デジタルアーカイブのモデルになると期待する。 ## 1. はじめに シリアスゲームは、重要な学習項目を強調した学習体験の提供・学習に対するモチベー ションの喚起・維持効果がある[1]。近年、シリアスゲームは地域学習に用いられている。 また、教育分野では、創造的思考能力の育成を視野に入れた方法論が求められている[2]。一方で、デジタルアースアーカイブの制作プロセスに、位置情報の紐づけによる知識定着の促進・ビジュアライズによる情報整理能力と創造的思考の育成効果があると期待する。 2. 目的 本研究では、アーカイブの制作プロセスに シリアスゲームを組み込み、肾童の情報整理能力と創造的思考を育むことを企図している。山梨県南アルプス市の文化財課は小学校と連携し、地域学習のための郷土資料アーカイブを制作しているため、対象地域とする。 ## 3. 制作 ゲームの内容と制作するアーカイブの検討のため、文化財課と共にワークショップを行なった(図 1)。 図 1.ワークショップの様子 ゲーム内容は、各チームが予め設定したテー マに対して発見・理解・発信の三段階のゲー ムを通して、アーカイブを制作していく形式に決定した(図 2)。ゲーム進行プロセスは対象地域の地域学習のカリキュラムである事前学習・現地学習・発表に準じ、今後は以下のような日程で進行する(図 3)。 (1)クロスワードゲームによる基本情報の収集 (2)フォトロゲによる位置情報と詳細情報の収集 (3)集めた情報を活用したアーカイブの構築と発表 図 2.シリアスゲーム全体の流れ 図 3.進行日程 ## 4. 検証 シリアスゲームの評価指標である「RETAIN モデル [3](図 4)」に基づいて、総合得点と共に各要素の得点を計測し、ゲーム全体の効果と狙った学習効果が得られているか測定する。 図 4. RETAIN モデルの項目と得点内訳 ## 5. おわりに 学習意欲、知識定着、創造的思考育成について高評価になれば、本研究の手法は、地域への理解を促進する参加型デジタルアーカイブのモデルになると期待する。 ## 参考文献 [1] 藤本徹. シリアスゲーム教育・社会に役立つデジタルゲーム. 東京電機大学出版局. 2 007, 2, p. 6. [2] おおたとしまさ. 2017/6/14. 「子供の学力の新観点「思考コード」を知っていますか?」.<https://www.syutoken-mosi.co.jp/co lumn/entry/entry000668.php>. (閲覧 2017/ 12/30). [3] Glenda A. Gunter. Robert F. Kenny. E rik H. Vick. 2007/10/6. 「Taking educatio nal games seriously: using the RETAIN model to design endogenous fantasy into standalone educational games $\rfloor$. <https://l ink.springer.com/content/pdf/10.1007\%2Fs1 1423-007-9073-2.pdf>. (閲覧 2017/12/30). この記事の著作権は著者に属します.この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).出典を表示することを主な条件とし,複製,改変はもちろん,営利目的での二次利用も許可されています.
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# [P06] デジタルアーカイブに対する DOI 活用の可能性: ○住本研一 ${ }^{1}$, 余頃祐介 1 ) 1)国立研究開発法人科学技術振興機構 知識基盤情報部, $\overline{1}$ 102-8666 東京都千代田区四番町 5-3 E-mail: [email protected] ## Possibility of using DOI for Digital Archive: SUMIMOTO Kenichi1), YOGORO Yusuke1) 1) Japan Science and Technology Agency, 5-3 Yonbancho, Chiyoda-ku, Tokyo 102-8666 Japan ## 【発表概要】 科学技術基本計画[1]にもオープンサイエンスの重要性が明記され、論文のオープンアクセス化、研究データのオープン化への動きが活発になっている。また、オープンサイエンスの基盤としてのデジタルアーカイブの重要性も増している。 このように多くの情報が行き交うようになると、コンテンツの特定や識別が重要になる。今回ジャーナル論文では一般的になった国際的永続識別子 DOI を紹介する。DOI は、論文だけで無く登録対象コンテンツを最近増やしており、今回国内での古典籍への適用事例や海外でのデジタルコンテンツへの適用事例等を紹介したい。当日はそれらの事例を踏まえて、デジタルアーカイブに搭載されたコンテンツへの DOI 適用の可能性を議論させて頂きたいと考えている。 ## 1. はじめに オープンサイエンスの重要性が叫ばれ、論文のみならず、研究データや研究機器などの様々な研究リソースについても公開が求められるようになってきている。そのような中で我が国の文化遺産や様々な研究試料の情報を持っているデジタルアーカイブの重要性も増してきている。 大量のデータが流通する際には、識別が必要となる。特に古典や版画、絵画には様々な版があり、微妙に表現が異なることが多い。単にタイトルを決定しただけでは、著者と読者が異なるものを対象として話がかみ合わないこともあり得る。そのほか翻訳作品の扱いなどもあり、何について話しているかを確実にする識別子はデジタルアーカイブのコンテンツに対して重要性を増していると考える。 現状、電子コンテンツの所在を示すには URL を使うことが多いが、国立国会図書館の調查[2]によると府省の Web サイトにおいては 5 年を経過すると $60 \%$ が存在しなくなると示されており、永続性を保証する DOI の仕組みが注目されている。今回、国内外における DOI の適用事例を紹介したい。 ## 2. DOI と JaLC の紹介 DOI (Digital Object Identifier) とは、 1998 年創設の国際 DOI 財団(IDF)が管理する国際的な永続的識別子である。登録は IDF が認定した世界に 11 ある登録機関のみが可能である。我が国においては、科学技術振興機構 (JST) 、物質 - 材料研究機構 (NIMS) 、国立情報学研究所 (NII)、国立国会図書館(NDL)の 4 機関で運営するジャパンリンクセンター (JaLC) が唯一の登録機関となっている。 JaLC 会員は電子化されたコンテンツに対して、コンテンツの所在情報(URL)やメタデータをつけて JaLC に送付すると DOI が登録される。その後 URL が変更された場合、 会員はDOI に紐付いている URL を新たな URL に変更することで、同じ DOI を使っても新たな URL に引き続き飛べ、リンク切れが発生しない。 このように Handle システムを使い、会員がコンテンツへのアクセス維持に協力することで、リンクの永続性が保たれ情報流通に貢献する仕組みである。(図 1) 図 1.DOIによる永続性確保の仕組み ## 3. 国内の適用コンテンツの拡大 元々、DOI はジャーナル論文に対して使われてきたが、その後、研究データや書籍、elearning 教材などと登録の対象を拡大してきている。 例えば、研究データに対しては 2014~ 2015 年度に研究データを扱っている機関が分野を超えて集まり「研究データへのDOI 登録実験プロジェクト」を実施、課題を検討した結果をガイドラインとしてまとめた[3]。 また、国文学研究資料館においては、所有する古典籍画像に対して DOI 登録を進めている。版によって違いが出てくる古典籍について DOI を登録することで、どのコンテンツに基づいて論文や研究発表を行っているかが明確になり検証が行いやすくなるというメリットが生まれている[4]。 そのほかにも、博物館資料などにも付与が進められている。 ## 4. 海外における映像コンテンツへの DOI 付与事例 DOI の登録機関の一つにEntertainment Identifier Registry (EIDR)[5]という機関がある。この機関の主な DOI 登録対象は、映画、 $\mathrm{TV}$ 番組等の映像や音声コンテンツである。 特徴として、翻訳作品や短縮版、あるいは脚本等のコンテンツ相互間の関係管理がある。例えば、各コンテンツに図 2 のような派生や製品化などの関係がある場合、それぞれを IsEditOf などの定まった関係表現(リレー 夕)で関連づけて登録を行っており、整理しやすくなっている。 図 2. EIDR におけるコンテンツの関係例 ## 5. おわりに 今回、本学会で初めて DOI について紹介させて頂いた。実際にやってみると様々な課題が出てくる可能性もあるが、これを機会にデジタルアーカイブに入っているコンテンツの識別や特定に DOI を活用できるか検討頂ければ幸いである。 ## 参考文献 [1] 第 5 期科学技術基本計画(平成 28 年 1 月 22 日閣議決定)P32. http://www8.cao.go.jp/c stp/kihonkeikaku/5honbun.pdf [2] 日本の府省 Web サイトの残存率 : WARP による調查カレントアウェアネスーE1757. http://current.ndl.go.jp/e1757 [3] 研究データへの DOI 登録ガイドライン. https://doi.org/10.11502/rd_guideline_ja [4] 山本和明人間文化研究機構国文学研究資料館 ”Leaflet on Digital Object Identifie r (DOI)". http://id.nii.ac.jp/1283/00003167/ [5] Raymond Drewry “海外の DOI 登録機関によるユースケースの紹介「EIDR」”DOI O utreach Meeting 2015 in Tokyo (2015 年 12 月 3 日開催). https://japanlinkce nter.org/top/doc/151203_s2_2_EIDR.pdf この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P05] マンガ$\cdot$アニメ$\cdot$ゲーム作品の横断的アーカイブのた めの作品間関係 LOD データセット開発 ○大石康介 ${ }^{1)}$, 豊田将平 2), 吉岡孝祐 ${ }^{2}$ , 三原鉄也 ${ }^{3}$ ),永森光晴 ${ }^{3}$ ),杉本重雄 ${ }^{3}$ ) 1) 筑波大学情報学群情報メディア創成学類, 〒305-8550 茨城県つくば市春日 1-2 2) 筑波大学図書館情報メディア研究科, 3) 筑波大学図書館情報メディア系 E-mail: [email protected] ## A LOD Dataset of Relationships for Linking Manga, Animation and Game OISHI Kosuke1), TOYOTA Shohei2), YOSHIOKA Kosuke ${ }^{2}$, MIHARA Tetsuya ${ }^{3}$, , NAGAMORI Mitsuharu $^{3}$ and SUGIMOTO Shigeo ${ }^{3}$ ) 1) College of Media Arts, Science and Technology, the University of Tsukuba, 1-2 Kasuga, Tsukuba, Ibaraki, 305-8550 Japan 2) Graduate School of Library, Information and Media Studies, University of Tsukuba, 3) Faculty of Library, Information and Media Science, University of Tsukuba ## 【発表概要】 近年、マンガ・アニメ・ゲーム作品のアーカイブにおけるデータベース整備の取り組みが始まっている。本研究では、これらの横断的なデータベースに求められる、複数の作品が物語や登場人物を共有することで持つ関係を記述するデータセットの開発を行った。Wikipedia の記事及び構造情報を用いたデータセット作成手法を開発することで、それぞれ約 12000 件、5000 件、 30000 件のマンガ、アニメ、ゲーム作品を対象にしたデータを作成した。 ## 1. はじめに近年、アーカイブ組織ではマンガ・アニ メ・ゲーム作品の作品資料の散逸や劣化、死蔵などを防ぐために作品の体系的な収集や保存の取り組みが行われている。そして作品情報や所蔵情報に関するデータベースがあらゆ る組織で整備されている。このデータベース は資料を利用者に公開したり、ある作品に関 する展示を行う際に活用されたりすることが 望まれる。マンガ・アニメ・ゲーム作品では 作品がシリーズ化や異なる媒体でメディアミ ックス展開される場合が多く見られる。その ため複数の作品同士で物語や登場人物が共通 する特徴を持つ。しかし多くのデータベース には実物の書誌情報(タイトル, 著者等)を集め たものがほとんどである。そのため既存の記述項目だけでは、作品をシリーズやメディア を超えて探索することが困難である。 そこで本研究では、マンガ・アニメ・ゲー ム作品に関する Wikipedia の記事に含まれる記事や構造から、この複数の作品を関係づける実体(以下、作品実体と呼ぶ)を識別し、 それらを Linked Open Data に則ったデータセットとして作成した。本稿ではこの手法及び作成結果について述べる。 ## 2. Linked Open Data によるマンガ・アニ メ.ゲーム作品の横断的なデータセット整備 Linked Open Data(LOD)とは、Web 上の情報資源とそれらの意味的な関連を計算機での処理が容易なデータとして公開・提供するための技術である。現在、Web 上にはアーカイブ機関のデータだけでなく流通データやニュ一ス記事など、マンガ・アニメ・ゲーム作品に関するデータは大量に存在する。LOD を用いてこのような様々な情報源の情報を、作品実体を元に関連付けすることで、新たな価值を持ったデータを作ることができる。 また、マンガ・アニメ・ゲーム作品に関する作品実体に関して典拠として利用可能な整備されたデータといえるものは存在しない。 さらにマンガ・アニメ・ゲーム作品の個別の作品は既に大量に存在し、今後も作られ続けることが想像できる。そのためデータを一から人手で作成するのは現実的ではなく、デー 夕を機械的に作成することが求められる。 LOD はこうした機械的なデータ処理にも適している。 ## 3. 関連研究 マンガ・アニメ・ゲーム作品を対象とした LOD データセットに DBpedia[2]がある。これは Wikipedia の構造化情報を抽出して構築したものである。 個別のメディアに対してタイトルや DBpedia の情報から部分的な作品実体の同定を行ったものがある[3][4]。先行研究では DBpedia でのマンガ・アニメ・ゲーム作品分野のプロパティの整備が不十分であり、作品データの構造化に課題が残った。 そこで本研究では Wikipedia[5]からマンガ・アニメ・ゲーム作品の横断的な作品実体を機械的に同定し、カテゴリに基づく作品実体情報を利用しLOD データセットを開発した。 ## 4. LOD データセット作成手法 Wikipedia はユーザー参加型の Web 百科辞典辞典である。作品実体を記述したサイトの多くは個人のファンサイトなどが多く作品ごとに散逸している。その中で Wikipediaでは作品を網羅的に掲載されているだけでなく、複数のファンサイトなどでもリンクされるセミオ ーソリティとしての役割を果たしている。そのため複数のデータセットの連携を考えてこのデータセットを採用した。 初めに Wikipedia の「日本のテレビアニメ作品一覧」、「日本のアニメ映画作品一覧(年代別)」、「Category:ゲーム機別ゲームタイトル一覧」、「Category:漫画作品(五十音別)」から個別作品のタイトルや公開日等の基本情報及び個別の作品記事へのリンクを抽出する。次に各作品記事に含まれるカテゴリの情報を用いて作品実体を抽出する。しかし、カテゴリは記事の分類のためにユーザーによって付与されているものであるため、必ずしも作品実体に該当するとは限らない。本手法では物語や登場人物等の共通性による分類と考えられる「Category: 作品のカテゴリ」「Category:シリーズ作品」、「Category:メデイアミックス作品」及びそれらの子カテゴリのみを作品実体を示すものとして用いた。また、関連する作品実体が複数存在する場合があるため個別作品名、作品記事名を利用してカテゴリ名の編集距離の值が最も高いものを該当する作品実体とする。また作品実体と同定されたカテゴリの親カテゴリに対しても同様の処理を行う。 ## 5. データセット作成結果 提案手法によるデータセットの作成結果を表 1 に示す。 表 1. 手法適応結果 } & マンガ・アニメ・ゲーム & 441 \\ ## 6. おわりに 今後は他のデータセットを用いることにより、さらに関連づけることで不足した作品デ一夕の拡充が期待される。 ## 参考文献 [1] ディア芸術データベース. https://mediaarts-db.bunka.go.jp. [2] DBpedia. http://www.ja.dbpedia.org. [3] カブンリン,三原鉄也,永森光晴,杉本重雄. DBpediaを利用したマンガの書誌デー タからのworkの同定.ディジタル図書館. 2013, no.44,p.11-19. [4] 濱田唯,三原鉄也,永森光晴,杉本重雄. Web リソースを用いたゲームにおけるWork実体の同定手法.情報処理学会第79回全国大会講演論文集. 2016. [5] Wikipedia. https://ja.wikipedia.org この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P04] 半世紀前の岩波科学教育映画を現代に活かす 生徒と市民のための科学教育へ $\bigcirc$ 長谷川智子 ${ }^{11}$, 櫻井順子 ${ }^{11}$, 須崎正美 ${ }^{11}$, 山本美知 ${ }^{1)}$, 長島豊太 ${ }^{11}$ 1)映像と科学教育の研究会,〒110-0013 東京都台東区入谷 1-4-3-601 E-mail:[email protected] ## A Trial to Apply the Half Century Ago Iwanami Science Movies to Modern Education \\ for Students and citizens HASEGAWA Tomoko ${ }^{1)}$, SAKURAI Jyunko ${ }^{1)}$, SUZAKI Masami'), YAMAMOTO Michi1), NAGASHIMA Toyota ${ }^{1)}$ Study group on video and science education, LM\#601 Iriya 1-4-3, Taito-ku, Tokyo,110-0013 Japan ## 【発表概要】 科学がわかるたのしさを伝えてくれる岩波科学教育映画は, 制作後 50 年を経ても学校および市民のための科学教育に力を発揮してくれる。科学の原理や基本法則は, 時代を経ても変わらない。それを初学者に教えるとき、科学の方法(仮説・実験)を取り入れ,視聴者を惹きつけるストーリーでできた科学教育映画は, 現代の科学教育の課題への道を開く手段となりうる。映像と科学教育の研究会では, $16 \mathrm{~mm}$ フィルムで制作された映画をデジタル化し, 活用への道を開いてきた。さらに映像と視聴者とをつなぐコミュニケーションの工夫を重ね成果をあげている。 ## 1. はじめに 岩波映画製作所(1950-1998)が,1950-80 年代に制作した科学教育映画 $(16 \mathrm{~mm}$ フィル么)は,仮説・実験という「科学の方法」を基本とし, 科学的な考え方を教えることを目指して作られてきた。そのため, 不思議に思える現象に対し,なぜそれが可能なのか,たのしい実験やモデルによる説明を駆使し,なるほどそういうことかと思わせてくれる。たとえば,「たのしい科学シリーズ」の〈飛行機 (1)(1959)では,水の流れで流体力学の実験を見せ,なぜ揚力が生じるのかその原理を教えてくれる。また, 科学教育映画体系の作品 (22 作品,1966-1973) は, 物理・化学分野での原理や基本法則をわかりやすく教え, 生徒の科学への興味を育ててきた。 ところでこれらの映像は, $16 \mathrm{~mm}$ フィルムで制作されたため, 保存媒体の急激な変化のなかで取り残され, 一部はVHS ビデオに変換されたが,フィルムのまま取り残されていた作品が多かった。映像と科学教育の研究会 (理科教員中心の有志)では,故牧衷(元岩波映画製作所)を代表とし,これらの映像を DVD 岩波「たのしい科学教育映画シリーズ」 としてデジタル復刻した $(2004,2009$ 岩波映像, 仮説社)。また, 劣化が進行していた $16 \mathrm{~m}$ mフィルムの「たのしい科学シリーズ」 186 作品を岩波映像の協力によりデジタル保存した(図 1, 2016)。 さらにこれらの映画を理科授業・特別支援学級で活用するため, プリント, 掲示用チャ一ト, 生徒実験を工夫し, 生徒の反応がよいことを確認してきた。また,地域の科学クラブや科学映画講座(子ども-大人対象)でも市民のための科学教育に取り組んでいる。 図1. 岩波「たのしい科学シリーズ」フィルムと復刻 DVD ## 2. 学校教育での活用 ## 2.1 中学理科 (力学) 中学生にとって, 力学分野は概念理解が難しい。しかし岩波科学映画〈力のおよぼしあい〉(1966)〈力のたし算〉(1971)は,仮説実験授業の教育理論(予想・実験)を取り入れて制作されているため,これらの映画による 授業を受けた生徒たちは,作用反作用・抗力 - 力の平行四辺形といった静力学の基本をよく理解して学ぶ。長谷川が実施した授業で 90\%以上の生徒が「授業がたのしかった」と答えた。また〈力のおよぼしあい〉では,抗力に関する問題で,事前テストの正答率 $30 \%$未満に対し, 事後テスト正答率は, $80 \%$ 以上であった $(2015,2016)$ 。 ## 2.2 高校理科(生物) 高校生物は用語が多く, 暗記科目のイメー ジがある。そのなかで,櫻井は岩波科学映画〈もんしろちょう〉(1968)が,「チョウの行動を観察し,雄は何を手掛かりに雌を探すか」 という課題に,仮説を立てて考え解き明かす内容なので,生徒に考えさせる授業が可能と考えた。次々に登場する実験と, そこから何がわかったかを繰り返すことで,科学的な見方の追体験ができる。授業後, 約 $80 \%$ の生徒 (偏差值 40 前後)が「授業が楽しかった」と答え, モンシロチョウの配偶行動を扱った問題(大学入試センター試験 1999 年)に対し,正答率は 75\%(2017)であった。 ## 2.3 特別支援学級(理科) 「たのしい科学シリーズ」の〈水の表面〉 (1961)は,白黒のコントラスを生かした映像で,ふだん見慣れた水面や水滴がとても新鮮に感じられる作品である。水の表面張力や付着力などを様々な角度から捕らえた実験が登場し, 須崎が実施した特別支援学級の授業で,生徒たちが最後まで食いついて視聴していた。画面を一時停止し, 画面に出てくる実験の予想立てながら,視聴をした。特に水の表面張力についてとても分かりやすい実験を交えて説明されており, $100 \%$ 近くの生徒が 「授業がたのしかった」, $80 \%$ 以上の生徒が 「よく分かった」と答えた(2017)。 ## 3. 市民のための科学教育 ## 3. 1 新座たのしい科学映画の会の活動 山本は,地域で科学映画の会(子ども,大人, シルバー対象, 年 6 回, 毎回 12,3 人参加)を立ち上げ 8 年になる。講座の運営は, (1)途中で止めて解説とメモ, (2)関連した簡単な実験, もの作りの実施, (3)昔の映画なので現在どうなっているか。(4)最後にもう 1 回見て感想, といった講座の進め方を工夫している。園坚,低学年览と父母のファミリー参加も増え, 「知らないことを知るのは楽しいですね!」 などの感想がうれしい。 ## 3. 2 小学生対象の理科教室 自治体主催の「理科教室」(三郷市,年 3 回)で,長島は,科学映画上映のあと,映画に登場したものの工作を実施している。〈風に向かって走るヨット〉 (1987, 岩波)上映後,風で走るランドョットを製作したところ,作品づくりに集中する子どもがいる一方,感想で映画が取り上げる原理や科学史に関する内容を書く小学生もいて, 感想文に励まされている。 6 年生の感想「ヨット作りをやってョットがどのようなしくみかがわかりました。 あとヨットはどのようにして前にすすむのかがわかりました。来年もやってください」 (2015)。 ## 4. おわりに 岩波科学教育映画は,視聴者に合わせた映像の進め方を新たに工夫することで,現在も科学教育の教材として大きな力を発揮している。さらなる活用と普及に努めて行きたい。 ## 参考文献 [1] 草壁久四郎.映像をつくる人と企業.みずうみ書房.1980, p.130-137. [2] 丹羽美之,吉見俊哉編.岩波映画の 1 億フレ一ム.東大出版.1012, p169-202. [3] DVD 岩波「たのしい科学教育映画シリー ズ」 1 集 2004,2 集 2009. 岩波映像 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし, 複製, 改変はもちろん, 営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P03] 自然史博物館で動画をアーカイブする際に想定され る課題: 研究者アンケートからの考察 ○石田 惣 ${ ^{1)}$, 中田兼介 ${ }^{2)}$, 西 浩孝 ${ }^{3}$, 藪田慎司 4) 2) 京都女子大学, 3) 豊橋市自然史博物館, 4) 帝京科学大学 E-mail: [email protected] ## Problems of managing the archives of movies in natural history museum: consideration from the questionnaire of biologists. ISHIDA So ${ }^{1)}$, NAKATA Kensuke ${ }^{2)}$, NISHI Hirotaka ${ }^{3}$, YABUTA Shinji4) 1) Osaka Museum of Natural History ${ }^{1}$, 1-23 Nagai Park, Osaka, 546-0034 Japan 2) Kyoto Women's University, ${ }^{3)}$ Toyohashi Museum of Natural History, ${ }^{4)}$ Teikyo University of Science ## 【発表概要】 自然史博物館が生物学研究に関連する動画データのアーカイブを立ち上げようとする場合、権利処理や保管・公開方法等に課題が想定される。本研究では動画を研究データとして用いる生物学研究者にアンケート調査を行い、その課題の抽出を試みた。その結果、教育目的での利用可能性という点では、動画アーカイブには資料提供者・利用者双方のニーズがある。ただ、ウェブ公開や営利目的利用、目的が予想できない利用に対しては資料提供者側の抵抗感が強いことも示唆された。 ## 1. はじめに 自然史博物館が扱う一分野に生物学がある。収集する資料は生物の実物標本が主だが、その周辺資料である写真や動画も收集対象となりうる。特に動画は生物の生態や行動を記録するうえで有効な手段の一つであり、撮影装置の普及や高性能化に伴い、動画を研究デー タとして用いる生物学者は急速に増えている。生物学者が撮影した動画をアーカイブできれば、研究資源として活用できる可能性があるとともに、教育活動でも利用価値があるだろう。 博物館がこのような動画を収集、保存し、利用公開寸るには、権利処理や保管 - 公開方法などに課題が想定される。そこで、研究過程で動画を用いる生物学研究者にアンケート調查を行い、課題の抽出を試みた。 ## 2. 調査方法 調査対象は動画を一次データとして用いた生物学分野の論文を 1 報以上発表したことがある研究者とした。今回対象としたのは主に生態学・動物行動学分野である。質問・回答 はアンケート用紙を用い、記名式により行った(ただし回答者名が特定される形での回答内容の公表はしないという条件による)。一部の回答者については面接しヒアリングにより回答を得た。有効回答数は 45 名で、年齢層は 20 代 80 代、平均研究年数は 23 年(最長 58 年、最短 4 年) だった。 アンケートでは研究データとして所有している動画の記録媒体・分量、アナログデータのデジタル化率、動画データアーカイブの利用に対する関心、アーカイブに提供した自身の動画を第三者が利用する場合に許諾できる条件、別の人が撮影した動画の利用経験や利用可能性、アーカイブに必要なメタデータ項目、等について尋ねた。 ## 3. 結果 本稿では主に動画データアーカイブの利用に対する関心と、所有動画の第三者への許諾条件に関する結果を紹介する。 他者が撮影した動画を教育目的(例えば講 義など)で利用した経験がある研究者は $56 \%$ で、研究目的での利用経験は $20 \%$ だった。自身の持つ動画を博物館にアーカイブするしくみは $93 \%$ が利用したい(条件付きを含む)とし、その理由として研究以外の目的(教育等)で役に立つ機会が増えるから、が最も多かった。 動画を博物館に提供した場合に第三者に許諾できる利用形態と要件(事後連絡、または事前連絡・相談の要否)を尋ねると、博物館での展示や教育目的利用には比較的寛容だが、 ネット公開、営利目的、目的が予想できない利用には個別判断とするか、許諾しないとする割合が増えた(図 1)。自由記述のコメントでは、意図しない編集や改変を伴う利用への懸念が見られた。 ## 4. 考察 教育目的での利用可能性という点では、動画アーカイブには資料提供者・利用者双方のニーズがある。利用機会を増やすには許諾条件の拡充が欠かせないが、資料提供者側には利用目的により許諾を判断したいとする意向があるほか、データが意図しない解釈を伴って拡散することへの懸念もあると考えられる。研究成果である論文に比べると、データに対するオープンアクセス化に対しては抵抗感が強いという傾向は、より広範な研究分野を対象とした科学者アンケートによる先行研究でも指摘されている[1]。 もっとも、著者らのアンケート調査ではオ ープンデータのプラットフォームとして動画アーカイブを位置づけるべきとした回答者もいた。オープンデータは世界的な潮流であり、逆行は考えにくい。その確立と浸透は時間が解決するという見方も可能である。動画アー カイブのしくみ作りはユーザーニーズを踏まえつつも、オープンデータの動向を見据えたデザインが求められるだろう。 ## 参考文献 [1] 池内有為, 林和弘, 赤池伸一. 研究デ一タ公開と論文のオープンアクセスに関する実態調査. NISTEP RESEARCH MATERIA $L$, No.268, 文部科学省科学技術 - 学術政策研究所. http://doi.org/10.15108/rm268 ## 謝辞 本研究は JSPS 科研費 JP15H02955 により行われた。 図 1.自身が提供した動画を博物館が第三者に利用許諾するとした場合に、想定される利用形態ごとの許諾の可否とその要件 (事後連絡、または事前連絡・相談の要否)について、それぞれ選択回答した人の割合。バーの数值は回答人数。本設問の回答者数は 42 名。 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P02] 日本古典籍に関する総合データベースの構築と展 ## 開: 唯一の日本古典籍ポータルサイトとしての「新日本古典籍総合データベース」 ○岡田一祐, 山本和明, 松田訓典 国文学研究資料館古典籍共同研究事業センター,〒190-0014 東京都立川市緑町 10-3 E-mail: [email protected] ## Constructing an integrated database of pre-modern Japanese works and its future: ## The Database of Pre-Modern Japanese Works as the sole specialised portal OKADA Kazuhiro, YAMAMOTO Kazuaki, MATSUDA Kuninori Center for Collaborative Research on Pre-Modern Japanese Texts, National Institute of Japanese Literature. 10-3 Midori-cho, Tachikawa, Tokyo 190-0014 Japan ## 【発表概要】 本発表は, 日本語の歴史的典籍(明治時代以前の書物)の情報基盤とすべく構築された新日本古典籍総合データベースに関する知見について議論する. 国文学研究資料館では,2017 年 10 月に新日本古典籍総合データベースを公開した。これは,日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画の一環で進められた古典籍のデジタル画像化,およびその利活用の基盤として作られたものである. 新日本古典籍総合データベースは,古典籍に関する総合ポータルたるべく,書誌データのみならず,画像タグなどの画像アノテーションや,全文テキストへの検索機能を通じて, 多角的な視点からの古典籍へのアクセスを可能としている.このほかにも, 資料へのアクセスの永続性を確保するために,多機関に分散する資料のデジタル画像をデータベースで一元管理し,またデジタルオブジェクト識別子(DOI)を個々の資料に附与するなどして,利用に関する安定性を確保すべく努めている. ## 1. はじめに 国文学研究資料館(国文研)は,現在,大規模学術フロンティア促進事業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(2014 年 23 年度)を中心機関として推進している。この事業は, 日本語の歴史的典籍(明治時代以前の日本語で書かれた書物) をデジタル化することでかつは有事の備えとし,かつはひろく一般のものとして利用・研究を国際的に進めようとするものである. その目指すところは, [1]に詳しい. 本稿では, そこでデジタル化されたデータを公開すべく公開された「新日本古典籍総合データベース」 の概略を紹介しようとするものである. 人文情報学的な側面の紹介は[2]を参照のこと。 2. データベースの背景: “More is different" このデータベースは, 2017 年 4 月 27 日に試験公開され,10月 27 日に正式公開されたものである. 国文研がその事業としてこれまで各地の古典籍収蔵機関で撮影してきた古典籍のマイクロフィルム写真, およびカラーデジタル画像を公開し, 活用するためのプラットフォームとなることが期待されている. このような大規模データベースの意義は,量によって既存の知を塗り替えられるところにある。[3]において本事業のアドバイザー (当時)である伊藤公孝氏が物理学者の著名な言を引いて述べるように,量が多くなることで,それまでと違ったことが起きてくるものなのである. ## 3.「唯一の日本古典籍ポータルサイト」 新日本古典籍総合データベースは, 「唯一の日本古典籍ポータルサイト」を自称している. これは, 日本古典籍を見られる唯一のサイトという意味では決してなく, 国文研が日本古典籍に関する総合目録を築き上げてきたうえに本データベースが成り立っていることによる. 単に画像が見られるだけではない,まさに,古典籍の世界への門なのである. 本データベースでは, IIIF (International Image Interoperability Framework) を採用して画像をフレクシブルに公開するとともに,書誌データだけに留まらない検索を主としてひとつに限定されないアクセスを実現させようとしている. 図 1 にホーム画面部分を示す. ここでは,書誌情報に加え,画像に与えられたタグ(アノテーション)や全文テキストから検索ができるようになっている.タグ検索のほか,画像の類似に基づくくずし字の検索,注目資料の提示など,利用者がデータベースや収録資料を知悉していなくとも利用しやすい環境を目指して模索しているところである. 図 1. データベース・ホーム画面 2018 年 1 月現在, 75,030 件の画像が公開されている。内容は, 日本文学などひとつに偏るものではなく,古典籍の多様なジャンルを反映したものである。今後も各機関の協力のもと, さらに多くの古典籍の画像を提示できるようにしていく. 現在,国文研所蔵資料および若干の理解を得られた機関の所蔵する資料の画像については, Creative Commons (CC) ライセンスを附与することによって, 適切な出典表示のみで自由な利用ができるようにしている。 また,各資料について DOI (Digital Object Identifier)を附加することで,安定した利用を可能にしている.前記 CC ライセンスのもとでの利用に際しては,このDOI を示す出典表示を推奨している. ## 4. おわりに 新日本古典籍総合データベースでは, 今後とも,国文研がこれまで培ってきた基盤のうえに,近年の人文情報学の動向を反映して,日本語歴史的典籍の利用 - 研究の深化の基盤として発展をさせていきたいと考えている。 それによって,これまでにない取り組みが多数生まれることが願いである. ## 参考文献 [1] 増井ゆう子,山本和明. 特集,古典籍資料の最前線:国文学研究資料館 - 日本語の歴史的典籍のデータベース構築について. 情報の科学と技術. 2015, vol. 65 , no. 4 , p. 169-175. [2]松田訓典, 岡田一祐, 山本和明. “「新日本古典籍総合データベース」にかかわる取り組みと課題”. じんもんこん 2017 論文集. 大阪, 2017-12-16/17, 情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会, 2017, p. 219-224. [3] 伊藤公孝. 「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」の“More is different”.ふみ. 2016, no. 7, p. 1-3. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P01] 我が国における地方紙のデジタル化状況に関する調査報告 ○平野桃子,東由美子,時実象一,柳与志夫 東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ寄付講座,〒113-0033 東京都文京区本郷 73-1 ## A Research on the Status of Digitization of Regional Newspaper in Japan HIRANO Momoko, YANAGI Yoshio, TOKIZANE Soichi, HIGASHI Yumiko Interfaculty Initiative in Information Studies, the University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyoku,Tokyo 113-0033, Japan ## 【発表概要】 欧米で進んでいる古い新聞のデジタル化とその活用に対し、我が国では全国紙は別として、デジタル編集導入以前の過去に発行された地方新聞のデジタルデータの公開とその活用は、ほとんど進んでいないのが現状である。しかし、古い新聞原紙の劣化の進行、地方紙の地域における役割の重要性等に鑑みて、過去の地方紙のデジタル化は、今後の我が国のデジタルコンテンツ形成、及びデジタルアーカイブ構築にとって極めて重要な課題となっている。 このような問題意識のもと、筆者らは、2017 年 2 月から 5 月にかけて、日本新聞協会の協力を得て、協会に加盟する地方新聞社 73 社に対し、デジタル化に関するアンケート調查をおこなった(回収率 $64.4 \%$ )。 調査内容は、(1)各社における原紙・縮刷版・マイクロフィルム・DVD・CD での保存状況、 (2) オンライン上で公開されたデジタルデータに関する状況、(3)非公開の形でのデジタルデータに関する状況、(4)デジタルデータの公開基準(フリーアンサー形式)の4項目であった。 本稿では、それらの概要について報告をおこない、地方紙のデジタル化やデータの公開に関する課題、問題点等を検討する。 ## 1. はじめに 欧米で進んでいる古い新聞のデジタル化とその活用に対し、我が国では全国紙は別として、デジタル編集導入以前の過去に発行された地方新聞のデジタルデータの公開とその活用は、ほとんど進んでいないのが現状である。 しかし、古い新聞原紙の劣化の進行、地方紙の地域における役割の重要性等に鑑みて、過去の地方紙のデジタル化は、今後の我が国のデジタルコンテンツ形成、及びデジタルアー カイブ構築にとって極めて重要な課題となっている。 このような状況のもと、新しい学術電子コンテンツ構築とデジタルアーカイブのあり方に関する研究開発を目的とし、東京大学新聞研究所の流れを継ぐ情報学環に設置された東京大学大学院情報学環 DNP 学術電子コンテンツ寄付講座(以下、DNP 講座)では、2017 年 2 月から 5 月にかけて、日本新聞協会(以下、協会)の協力を得て、協会に加盟する地方新聞社に対し、デジタル化に関するアンケ一ト調査を実施した。また、アンケート調查の際におこなったヒアリングや、数回の口頭発表での議論によって、知り得た情報もある。本稿では、それらの概要について報告をおこない、地方紙のデジタル化やデータの公開に関する課題や問題点等を検討したい。 ## 2. 新聞電子化の歴史について 新聞電子化の歴史において、活字を使わず、フィルムに印字する写真植字機「コールド・タイプ・システム (CTS)」の導入によって新聞の電子化が開始されたといえる。 この電子化は日本では 1968 年に佐賀新聞が先鞭を切り、朝日新聞(1972 年)と日本経済新聞(1971 年)は IBM と組んで大型システムを構築した。しかし最終校正はフィルムの切り貼りでおこなわれるため、確定原稿の印刷データが保存されることはなかった(以上、奥田 1972) 1980 年代になり、パソコンによるワード・ プロセッサが普及するにつれ、記者自身が記 事入力や割り付け作業や校正も画面上でできるようになった。その結果、校正後の確定原稿をデータベースに保存することが可能となった。(以上、松尾・神尾 1993:877)。 ## 3. 調査概要 ## 3.1 調査の準備状況 筆者らが所属する DNP 講座では、2016 年 12 月に「地方紙デジタル化活用プロジェクト全体プログラム策定委員会」を設置し、調査票に掲載する質問の大枠を、以下の 4 つの大項目に決定した。 (1)各社における原紙、縮刷版、マイクロフィルム、DVD、CD での保存状況 (2)オンライン上で公開されたデジタルデータに関する状況 (3)非公開の形でのデジタルデータに関する状況 (4)デジタルデータの公開基準(フリーアンサー 形式) 上記の項目は協会の修正と確認を経た上で、調査票に掲載し、質問はすべて各紙の創刊号から 2016 年 12 月末日までの状況とした。 ## 3.2 調査対象、調查期間、回収率等 調査対象は、協会に加盟している県紙相当 の地方新聞社全 73 社の発行する 73 紙である。調査票は、2017 年 2 月に協会からメール添付で各社の担当部署宛に送付し、2017 年 5 月までに 47 紙からメールか郵送で直接回答を得た(回答率 $64.4 \%$ 、表 3-2 参照)。 表 3-2. アンケート回答状況 返送されてきた調查票には無回答の箇所、複数回答の箇所もあり、以下に掲載しているグラフでは、各項目の値が 47 に満たない部分や 47 を超える数值を示している部分がある。 ## 4. 調査結果 4. 1 各社における原紙、縮刷版、マイクロフィルム、DVD、CD での保存状況 原紙、縮刷版、マイクロフィルム、DVD、 $\mathrm{CD}$ に関する社内での保存とその期間について尋ねた。これをグラフ化したのが図 4-1 である。 原紙については、1980~2016 年までの 36 年間は 32~41 社が保存しており、各社とも原紙保存への意識の高さがうかがわれた。保存されている最も古い原紙は 1873 年のものであ 図 4-1. 地方新聞各社における原紙・縮刷版・マイクロフィルム・CD・DVD での保存状況 つた。 原紙以外では、マイクロフィルムの形態が比較的多く選択されている。1942 年以降はマイクロでの保存よりも原紙での保存が増えていくが、1941 年を境として、1940 年以前は、原紙での保存よりもマイクロフィルムでの保存の方が多かった。この原因については、戦災や震災等で、原紙が相当数欠落したことが関係しているという。 縮刷版は 1915 年から 1965 年にかけて若干作られているが、約 4 倍の数になったのは 1966 年以降のことである。 DVD や CD は制作年代によっては、使用するパソコンの機種次第で読み込みができなくなること、耐久性や保存状態の悪さがもたらすデータ破損の危険性などの問題がある。 ## 4. 2 オンライン上で公開されたデジタルデ 一夕に関する状況 オンライン上でコンテンツ検索や閲覧が可能な状態になっているか尋ねた。 データが公開されている場合、自社データベース以外のポータルサイトとして、日経テレコンやG-Search と連携する新聞社が多かつた。この状況をまとめたのが表 4-2である。 日経テレコンでは、テキストデータ、およびイメージデータが 1987 年から有料で公開さ れている。1987 年当時、テキストデータを 1 紙、イメージデータを 2 紙が公開していたが、 2016 年の段階では、テキストデータは 40 紙、 イメージデータは 22 紙が公開するようになっている。G-Searchについても 1987 年当時、 テキストデータを 1 紙、イメージデータを 2 紙が公開していたが、2016 年には、テキストデータは 35 紙、イメージデータは 20 紙と増加している。 この他、Factiva、スカラコミュニケーショ ンズ、ELNET、ニューズウォッチ、全国新聞ネット(47NEWS)、niftyといった機関と連携している新聞社もあった。 表 4-2. オンライン公開状況紙数(2016 年末日時点) 4. 3 非公開の形でのデジタルデータに関する状況 検索・閲覧が可能な、非公開のデジタルデ一タが存在するかどうかについて、イメージデータ、テキスト、写真ごとに尋ねた。 図. 未公開データーイメージ 図 4-3-1. イメージデータ化状況(未公開) ## 4. 3.1 イメージデータについて 紙面、記事単位のイメージデータについては、図 4.3-1 に見られるように、約 6 割近くの地方紙がデータ化を終了していることがわかった。また、ほとんどの新聞社は、原紙からではなくマイクロフィルムからデジタル化をおこなっているという。 デジタル化にあたっては、記事のジャンルや続報の有無、見出しの大きさで重要度を判断しているとのことであった。 ## 4. 3.2 文字部分のテキスト化 1873 年から 1940 年にかけての古い時代の記事のテキスト化は全くされておらず、1941 年から 1984 年までの間も、数件を除きほとんどおこなわれていなかった。件数が増えてくるのは 1985 年以降のことであり、飛躍的にテキスト化が進むのは 2000 年前後のことである。 また、スキャンデータに OCR 処理を施したものの、データは未校閲のままになっているというコメントがあった。 ## 4. 3.3 写真のデジタル化 デジタルカメラの急速な普及により、2011 年以降、全ての写真がデジタル化されている。 それ以前の写真のデジタル化数について、 1987 年以前は 5 紙以下であった。 また、調查結果のみで判断できない事情もある。たとえば、「年次に関係なく、重要な写真から順次デジタル化している」「現在作業中」との回答があった。未使用の古い写真やネガが大量に残されており、詳細を把握し切れていないとの回答もあった。 ## 4. 4 デジタルデータの公開基準と問題点各社のデジタルデータの公開基準、ないし は非公開基準について、フリーアンサー形式 で尋ねたところ、各社とも著作権や肖像権、人権などの権利事項を挙げた。 著作権を保有している記事や写真、著作権者からの了承が得られた寄稿文については、公開していると答えた新聞社が多かった。た だし、顔写真、戦前戦後の風景写真、自社に著作権がない図表などについては非公開とする社も多かった。 外部データベースには、ネットで公開されている記事のみ提供するとの回答もあった。 事件・事故に関する記事は、原則非公開か、見出しのみ公開とした社が多い。また、記事ごとに人権のチェックをおこない、掲載期間等について各社ごとに配慮していた。 上述のように、データの公開に際しては、著作権、肖像権、人権などの権利関係への配慮が不可欠となる。 ## 5. おわりに 各紙のイメージデータ化に限定するならば、 それは非公開ながらも、当初の予想以上に進んでいたことが判明した。ただし、それらのデータの公開・維持に際しては、メタデータの付与やシステムの構築など、人手と予算の確保が急務となる。 このような巨額の予算をかけて制作したデジタルデータは、利用者をどの程度確保できるのかが未知数である。採算性も、地方新聞社にとって不可避の重い課題となっている。 ## 参考文献 [1] 奥田教久.ミニ解説新聞の電算写植システ么.電気学会雑誌.vol.92,no.7, p.23-26, 1972. [2] 小野寺林治.地方新聞の実態調査河北、福民、信毎、上毛の四紙について.朝日新聞調査研究室報告社内用 53.1955 . [3] 鎌田慧.地方紙の研究.潮出版社. 2002. 神尾達夫.新聞記事データベースの最新動向.情報システム,vol.18,no.3,p.1-10,1988. [4] 畑仲哲雄,林香里.「地域ジャーナリズム」 という事業:SNS に取り組んだ地方紙 7 社への調查加.国立民族学博物館調查報告, vol. 10 6,p.147-177,2012. [5] 松尾光,神尾達夫.日本における新聞記事デ一タベースの現状と今後の動向.情報管理. vo 1.35,no.10.p.871-883, 1993. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C32] 飛騨高山匠の技デジタルアーカイブを活用した地域課題の解決手法の実践的研究 ○久世均 岐阜女子大学,〒501-2592 岐阜市太郎丸 80 E-mail: [email protected] ## Hida Takayama Takumi's technique digital archive utilizing local issues methods of practical research KUZE Hitoshi Gifu Women's University, 80 Taroumaru, Gifu, 501-2592 Japan 飛騨高山匠の技の歴史は古く, 古代の律令制度下では, 匠丁(木工技術者)として徴用され,多くの神社仏閣の建立に関わり,平城京・平安京の造営においても活躍したと伝えられている。 しかし, 現在の匠の技術や製品についても, これら伝統文化産業における後継者の問題や海外への展開,地域アイデンティティの復活など匠の技を取り巻く解が見えない課題が山積している。 本研究では, 知識基盤社会におけるデジタルアーカイブを有効的に活用し, 新たな知を創造するという本学独自の「知の増殖型サイクル」の手法により, これらの地域課題に実践的な解決方法を確立するために,「知的創造サイクル」をデジタルアーカイブに応用して飛騨高山の匠の技に関する総合的な地域文化の創造を進めるデジタルアーカイブの新たな評価指標ついて試案をまとめたので報告する。 ## 1. はじめに 知的創造サイクル専門調査会は, 2006 年 2 月に「知的創造サイクルに関する重点課題の推進方策」を策定し, 知的創造サイクルの戦略的な展開のための具体的方策を提言した。 図 1 知的創造サイクル この「知的創造サイクル」は, 図 1 に示す記録一活用一創造という循環サイクルのことをいい,これをデジタルアーカイブのサイクルとしてとして捉えると, 収集・保存した情報を活用・評価することにより,新たな情報を創り出すというサイクルとして捉えることができる。そこで,この知的創造サイクルをデジタルアーカイブに捉え直して, 知的創造サイクルとして提案しているのが「知の増殖型サイクルである。 この「知の増殖型サイクル」を具体的に飛騨高山匠の技デジタルアーカイブ(以下,飛騨高山匠の技 DA と呼ぶ)に適用し, 知の増殖型サイクルとしての大学や地域資料デジタルアーカイブの効果測定モデルの開発を試みた。このことにより,飛騨高山匠の技 DA を構築し,その地域資源デジタルアーカイブのオープン化と共にそのデータを有効的に活用し, 新たな知を創造する本学独自の「知の増殖型サイクル」を生かして地域課題を探求し,深化させ課題の本質を探り実践的な解決方法を導き出す手法を確立する。 ## 2.「知の増殖型サイクル」への適応 飛騨高山の匠の技に関する総合的な地域文化の創造を進めるデジタルアーカイブでは,産業技術, 観光, 教育, 歴史等で新しい「知の増殖型サイクル」を目的とした総合的なデジタルアーカイブとして捉えている。そこで, これらの飛騨高山匠の技 DA を「知の増殖型サイクル」として適用すると図 2 のような構成になる。 飛騨高山匠の技の代表的な産業でもある木工家具は, 伝統的な産業として国内および海 図 2. 知の増殖型サイクル 外でも高級家具としてよく知られているが, それ以外の飛騨春慶塗を始め一位一刀彫りなどは,飛騨高山の匠の技の伝統産業とされているものの販売も芳しくないのが実情である。 そのために,匠の技を受け継ぐ後継者が不足している状況であり,そのために飛騨高山の匠の技やこころが次の世代に伝承することが困難となってきている。 そこで,まず飛騨高山匠の技 DA として, 図 3. 社会的価値の評価手法 文化資源として時代順に次のような 33 項目を抽出しデジタルアーカイブ化した。 (1)両面宿儺 (2)桜山八幡宮 (3)月ヶ瀬村匠の碑 (4)飛鳥大仏 (5)法隆寺(6)寿楽寺 (7)平城京 (8)飛騨町 (9)唐招提寺講堂 (10)朱雀門 (11)大極殿東塔 (12)西隆寺 (13)西大寺 (14)飛騨支路 (15)水無神社 (16)国分寺 (17)国分尼寺 (18)匠神社 (19)安国寺経蔵 (20)小萱の薬師堂 (21)熊野神社本殿 (22)荒城神社 (23)阿多由多神社 (24)千鳥格子御堂 (25)高山陣屋 (26)高山祭春山王祭 (27)高山祭秋八幡祭 (28)飛騨春慶塗 (29)一位一刀彫 (30)高山市三町伝統的建造物群保存地区 (31)高山市下二之町・ 大新町伝統的建造物群保存地区 (32)吉島家・日下部民藝館 (33)飛騨木工家具 ## 3. 地域課題の解決手法 地域の伝統文化産業を支える財源確保のためのエビデンスの整備は喫緊の課題であり, また,税金だけでなく,社会的投資等外部資金の確保のためにも地域伝統文化産業への投資効果を明らかにすることが求められつつある。また, デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会が平成 29 年 4 月に提言した「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」においても,評価指標の見直しを提言している。こうした状況を踏まえて, 本研究では『飛騨高山匠の技 DA』を取り上げ,それぞれの伝統文化活動の社会経済的効果及び意識的効果を構造的に且つ定量的に分析することで,地域の伝統文化政策立案,財源確保への有効なモデルとなる。一般に, 社会的価值の評価手法には, 図 3 に示す私的財としての価値と公共財としての価值並びに文化財としての価值がある。私的財としては,例えば,産業技術を考えたときに,これらの売り上げや商品開発などがそれにあたる。一方,伝統文化のような技術を考えるときには,私的財より公共財・文化財としての価値がある。例えば,将来世代のために維持したいとする遺贈価値,または,地域のアイデンティティや誇りとしての威信価值, その他, 地域の雇用の創出や所得としての経済的価値がそれにあたる。 本研究では,地域振興に有効な伝統文化的事業の効果を検証するために,社会経済的効果と意識的効果の測定手法の併用による項目関連構造分析手法で定量的に分析した。これによって,事業の効果を事前・事後にシミュレーションできるようになるとともに,効果の予測や効果が出なかった場合の検証ができるようになり,当該事業を継続させるために必要な財源確保に有効な論理的根拠の導出が可能になる。 ## 3. 1 新しい評価指標 この新しい評価指標の開発のために,ここでは教育情報の構造分析の一つである項目関連構造分析である I R S 分析 (Item Relational Structure Analysis)を地域資源情報に適応し, 地域資源情報の構造分析を試みた。このI R S 分析を行うために, 表 1 のような住民R(Resident)-地域資源 L (Local Resources)認知度診断表を作成した。 この認知度診断表は, 次のようなプロセスで作成する。 (1)アンケート調查の $\mathrm{n}$ 個の項目の一つ一つを評価して,よく知っている(又は、行ったことがある)には得点 “1”を与え,知らない(行ったことがない)には得点“0”を与えて得た $\mathrm{N}$ 人の地域住民の項目得点を集め $\tau, \mathrm{N}(人) \times \mathrm{n}$ (項目)の項目得点表を作成する。 (2)項目の採点において, 無答(未解答)には得点としては知らない場合と同じ “1”を与えるが, 知らないと無回答は地域の地域資源認知度診断を行ううえで意味が異なるから無答を B (Blank) と入力する。次に, 得点の高い順に,項目・住民を並び替える。すると表の左ほど得点の高い項目(よく知っている項目)が並び,上の方ほど合計得点の高い住民(認知度が高い住民)が位置する。 (3)これに次の二つのグラフを書き入れる。まず, 各々の住民について, 認知度表の左からそれぞれの住民の点数(よく知っている割合)だけマス目を数えたところに区切り線を書き入れる。そして,全住民の区切り線を この R 曲線を見れば,各住民の達成度,グループの達成度の分布や平均的水準が一目で分かる。 (4)次に, 各々の項目について, 得点表の上からそれぞれの項目の“1”の数だけマス目を数えたところに区切り線を書き入れた後,全ての区切り線を点線で結ぶと認知度の分布曲線が表される。これを $\mathrm{L}$ 曲線と呼ぶ。 この L曲線を見れば,各々の項目の認知度とその分布を一目で読み取ることができる。 このように,行と列を,それぞれの住民の得点の大きい順に, 項目の “1” の大きい順に並び替えた項目得点表の中に, $\mathrm{R}$ 曲線と $\mathrm{L}$ 曲線を書き入れたものを $\mathrm{R}$ - $\mathrm{L}$ 表と呼ぶ。 (5) R-L表は,アンケートの得点を図表的に表したもので, 各住民の項目の認知度を表示すると同時に,アンケートの二つの統計グラフ( $\mathrm{R}$ 曲線と $\mathrm{L}$ 曲線)を表して,住民グルー プの達成度の水準や傾向に一人ひとりの住民の認知度のパタンを照らして読み取ることができるようにした表となる。 これらの $\mathrm{R} \cdot \mathrm{L}$ 曲線からは, $\mathrm{R}$ 曲線の左側の面積や L曲線の上側の面積からは, 認知度や知名度の平均が表され, $\mathrm{R}$ 曲線の左上にある“0”は,単なる間違いであることが多く,右下にある“0”は,内容が理解されていないことに原因がある。ここから,「認知度が高い住民が知らないのに認知度が低い住民が知つている」や「知名度が高いのに知らない住民」を抽出することができる。これを数值で表したのを注意係数と呼ぶ。また,このR・ L曲線から次のようなことを推定することが 表 1 住民 R(Resident)-地域資源 L(Local Resources)認知度診断表 & $n \leq$ & 1 & 1 & 1 & 15 & 0.00 \\ 結ぶ。この得点分布曲線を $\mathrm{R}$ 曲線と呼ぶ。できる。 (1) $\mathrm{R}$ ・ 曲線の位置からは,分布の平均点を示しており, この曲線の位置により認知度や知名度の平均正答率が推定できる。 (2) R・L曲線の傾きは,分布の分散を示している。すなわち $\mathrm{R} \cdot \mathrm{L}$ 曲線が立っているときには, 得点分布の広がりが小さいことを意味し, 逆に横になった状態は, 得点分布の広がりが大きいことを示している。 (3) $\mathrm{R} \cdot \mathrm{L}$ 曲線の傾きの変化については, 通常正規分布する場合には, 左右対称となる。 このように、左右の非対称度を示す歪度の大きさが、回答の分布の歪を表している。 ## 3.2 注意係数(C) 表 1 において,住民Aのように,知名度が高い順に認知している反応パタンを完全版のパタンといい,住民 Bのように,“1”, “ 0 ” が混在した反応パタンの差異を定量化したのを注意係数と呼ぶ。すなわち, 注意係数は,住民や地域資源の異質の程度を数値化して示すもので,完全反応パタンを基準に次のように定義される。 ## 実際の反応パタンの完全反応 パタンからの差異 注意係数 $(\mathrm{C})=$ 完全反応パタンからの最大の差異 この注意係数により, 個々の住民の認知度の課題を抽出することができる。 ## 3.3 差異係数(D) $\mathrm{R}$ 曲線と $\mathrm{L}$ 曲線がどの程度ずれていると良いのか,また悪いのかというと,それは一概にはいえない。しかし, 日常の経験を通じて,利用する側に基準ができるはずで, その基準と比較して吟味することできる。この $\mathrm{R}$ 曲線と L曲線のずれを定量化したのが差異係数である。この差異係数は,年齢別など対象別のグループにおける $\mathrm{R} \cdot \mathrm{L}$ 曲線を作成することにより,グループ間のずれを把握検討するこ とにより地域の課題を抽出することが可能になる。 ## 実際の R-L 表における R・L 両曲線のずれ 差異係数 $\mathrm{D}^{*}=$ エントロピー最大の $\mathrm{R}-\mathrm{L}$ 表における R$\cdot$L 両曲線のずれ この差異係数は,各グループにおいて,地域資源に関する知名度と認知度の不整合を表し, Web や冊子における広報の体系化や構造化をするために必要な指標となる。 このように,新しい評価指標として R-L曲線を作成し, その表より, 注意係数や差異係数をもとめることにより, アンケートから得られた二つの統計(R曲線, L 曲線)を表して世代ごとにおける認知度の水準や傾向をもとに,今後飛騨高山の匠の技を継承していくための広報,展開の方法を一項目ごとに検証,提案するための指標とすることができる。 ## 4. おわりに 地域の伝統文化としての飛騨高山匠の技デジタルアーカイブを「知の増殖型サイクル」 を可能にするために,ロジックモデルをもとに,ステークフォルダを調査し,インプットとアウトプットの関係性をもとに評価指標のモデルの開発を行う実践的研究である。今回,本研究が平成 29 年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業に「地域資源デジタルアーカイブによる知の拠点形成のための基盤整備事業」で採択され,今後 5 年間継続して研究を進める予定である。 ## 参考文献 [1] 竹谷誠. 新・テスト理論. 早稲田大学出版部. 1991,4, p.77-151.
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# [C31] 地方自治体が公開する例規集アーカイブの構築と横断検索システムの構築 ○原田隆史 ${ }^{1)}$, 川島隆徳 2) 1) 同志社大学免許資格課程センター・同志社大学大学院総合政策科学研究科, $\overline{\mathrm{T}} 602-8580$ 京都府京都市上京区新町通今出川上ル 2) 国立国会図書館 E-mail: [email protected] ## Developing web archive system which contains the municipal laws HARADA Takashi ${ }^{1)}$, KAWASHIMA Takanori ${ }^{2}$ 1) Doshisha University, Shinmachi-Dori, Imadegawa Agaru, Kamigyo-ku, Kyoto, 602-8580 Japan ${ }^{2)}$ National Diet Library ## 【発表概要】 地方自治体の 95.7\%が例規集を Web 上で公開しているが,その多くは自治体の Web ページ内で閲覧ができるのみであり,複数自治体の例規を横断検索することは困難である。また, $4.3 \%$ の自治体の例規はオンラインで検索ができない。本研究では Web 上で例規集を公開している 1,712 自治体のデータを自動収集するとともに, Web では公開していない自治体にも協力を依頼して本文のデジタル化およびメタデータの作成を行い,1,739 自治体(全 1,788 自治体中の 97.3\%)の例規集を横断で全文検索できるデジタルアーカイブシステムを開発した。本システムでは, 現行の例規に対する横断検索を行うことができるほか, 自治体種別, 語句の出現場所, 制定年などを指定した詳細検索も行うことができる。また,改定されたり廃止された例規についても保存して検索することができるアーカイブ機能も備えている。 ## 1. Web 上での例規集公開 ## 1. 1 Webで例規集を公開している自治体 地方自治体は,従来からその制定した例規を紙媒体で提供してきた。しかし 21 世紀以降状況は大きく変化し,各地方自治体の Web サイト上で例規集を公開する自治体が増加している。このように地方自治体が Web サイト上で例規集を公開する意義としては,1)例規集へのアクセスが容易になること,2)例規集利用の際の利便性の向上,3)例規集作成・公開コストの削減,4)例規集公開までのタイムラグの短縮などが指摘されてきた[1]。 日本全国の 1,788 の地方自治体(東京都特別区を含む)のうち,1,712(95.7\%)が Web 例規集を公開している。その自治体種別ごとの内訳を,2014 年 10 月まで全国の地方自治体が Web ページ上で公開する例規集へのリンク集を更新していた『洋々亭』[2]の過去のページをインターネットアーカイブ[3]から取得して集計した結果とともに,まとめて表 1 に示す。内訳は, 都道府県 $47(100 \%)$, 市および東京都特別区 $812(99.9 \%)$, 町村 837 (90.2\%)であり, いずれの種別においても $90 \%$ 超える自治体が Web 上で例規集を公開していた。 2017 年 7 月の数値が本研究での調査結果, 2001 年 8 月から 2014 年 10 月までが『洋々 表 1. 地方自治体の Web 公開例規集の年次変化 亭』で公開されていたリストを元に著者が集計した結果である。表 1 に示すように,例規集をWeb サイト上で公開している自治体数は 2001 年から 2003 年にかけて急速に増加している。現在, Web サイト上で例規集を公開していない自治体は 1 市, 34 町, 41 村の合計 76 自治体となっている。 ## 1.2 例規集公開システム 規集をWeb 上で公開している自治体の多くは, システム作成業者が作成した例規集公開システムを購入して提供している。なかでも, (株)ぎょうせい,第一法規(株)および(株)クレステックのシステムを採用している自治体が多く, それぞれ 1,054 自治体(61.6\%), 533 自治体(31.1\%), 116 自治体(6.8\%)であった。この比率は 2005 年と大きくは変わっていなかった[1]。この 3 社以外のシステムとしては, (株)フューチャーインのシステムが 2 つの自治体で導入されている以外に, 7 つの自治体が独自のシステムを用いていた。 4 つの自治体は例規集を PDF 化したものを公開しており, うち 2 つの自治体は文字選択可能, 2 つは文字選択ができない PDF であった。 公開される例規集検索システムの表示画面は,システムが標準で用意しているものをそ のまま採用している自治体が多く,特別に力スタマイズをした上で表示している自治体は, (株)ぎょうせいのシステムを導入している自治体で 1,054 自治体中の 3 自治体 $(0.3 \%)$, 第一法規(株)のシステムを導入している自治体で 533 自治体中の 2 自治体 $(0.4 \%)$ だけであった。(株)クレステックのシステムについては全て標準のインタフェースを使用していた。 ## 2. 例規横断検索システム 今回構築した条例 Web アーカイブシステム (http://jorei.slis.doshisha.ac.jp)[4]のシステムは,収集ロボットは Java で作成された自作のロボット, 検索システムとしては国立国会図書館の NDL ラボサーチを基にした上で, これを大幅に改造する形で作成した検索システムを用いている。検索画面の例を図 1 , 検索結果画面を図 2 に示す。 図 1(右)に示すように,詳細検索画面では例規名や見出しといった語の出現箇所のほか,自治体名,自治体種別や制定年などで絞り込んだ検索が可能である。また,収集時期を指定した検索も可能となっている。 さらに検索結果画面では右サイドに該当する例規をリスト形式で表示するとともに,左 条例Webアーカイブデータベース全国 1739 自治体の $1,270,134$ 例規を検索 図 1. 検索画面の例(左が簡易検索画面, 右が詳細検索画面) & \multirow{2}{*}{ } & \\ 図 2. 検索結果画面の例 サイドに検索結果をグループ化したタグを表示している。これは, 近年の図書館蔵書検索などで多く採用されているファセット表示で,検索結果をワンクリックで絞り込むことを容易にするものである。自治体の地域, 自治体名, 自治体種別, 例機種別などによる絞り込みのほか, 棒グラフで表示した制定年表示範囲を指定した絞り込みや, 日本地図上に例規の数を円の大きさで表示するなどの工夫も行っている。 2017 年 7 月現在の収録件数は 1,739 自治体の $1,270,134$ 例規である。自治体数からもわかるように,例規集としてWeb 上に公開されているものだけではなく, Web 上で公開されていない自治体の例規についても, 市役所,町役場, 村役場から情報を提供してもらって収録している。また, 条例および規則だけではなく, 公示, 訓令, 規程なども含まれる。 ## 3. 2005 年当時との検索結果の比較 2017 年 7 月現在の収録データを対象として,原田らが 2005 年に行ったのと同じキーワー ドを用いて検索した結果[1]を表 2 に示す。本システムの収録例規数は 2005 年 12 月時点で は約 14.5 万件であったが,2017 年度には約 127 万件と約 9 倍のデータ量となっている。収録例規集に対する各検索語についての検査結果の割合としては,「農業」が若干低くなり,「大学」と「改正」が多くなった以外は 2005 年度とあまり変化なかった。 表 2. 検索結果の比較(2005 年と 2017 年) ## 4. 例規集横断検索システムの今後 例規は地域適応性があり当該地域の住民や企業・機関にとって非常に重要であり [5],また先駆性・先導性を持つものとして行政学や行政法の研究者にとって非常に重要な研究対象でもある[6]。そのため, 例規集の横断検索 についても必要とされる局面は少なくない。 たとえば,条例の制定に関わる議員および職員にとっては, 過去に制定された他の自治体の条例を多数調べ, その共通点や相違点などを調べることは必須ともいえる。その際,条例を検索するために使用することが考えられる。実際に, 大阪維新の会大阪市会議員団が 2017 年 5 月 17 日に行った「犬猫の理由なき殺処分ゼロに向けた提言」では, 多くの自治体の条例や条例施行規則などが比較されており [7],これらを探すためのツールとして条例 Web アーカイブシステムが使われている。 このような例は企業活動などでも見られる。 たとえば, 企業が ISO9001 や ISO14001 などの ISO 認証を全社的に得ようとする場合には関係する支店の所在地全ての条例・規則等を調べ,それらへの対応が求められる。特に全国規模で展開する企業にとっては, 包括的な検索とともに各自治体の例規の共通点や相違点を効率的に探すシステムが求められている。さらに, ISO 認証を更新する場合には過去の例規と現在の例規との差分を知ることも必要となる。また, 企業が新たな地域展開をする場合や新たな事業(特に環境に関わるような新たな事業)を行おうとする場合には,新たな地域展開の候補となる多くの自治体の条例を横断して調查したいという要望は強い。 しかし, 各自治体が公開する例規集は横断することを前提に作成されてはおらず, Google などの検索エンジンでも効果的に検索することは困難である。その意味で,著者らが開発したシステムは一般の人々にも公開している例規集横断検索システムとして有効であると考えることができる。特に, 過去の例規についても収集断面による指定(一定の日時を指定して,その時点で収集されている例規を対象とした検索を行う仕組み)が可能となっ ている点は, 例規の作成者や研究者にとつて新しい切り口での評価を行うことを可能にすると考えられる。 ## 参考文献 [1] 原田隆史・野首貴嗣 - 伊勢路真吾(2006) 「Webで公開されている条例を対象としたデジタルアーカイブ」『情報処理学会情報学基礎研究会報告』2006-FI-82(7), 47-54. [2] 洋々亭(2014)「自治体 Web 例規集へのリンク集」洋々亭の法務ページ(2017 年 6 月 19 日取得, http://www.hi-ho.ne.jp/tomita/reikid b/reikilink.htm). [3] Internet Archive(2017) 「WayBack Mac hine」インターネットアーカイブホームペー ジ(2017 年 6 月 20 日取得, https://web.archi ve.org). [4] 条例 Web アーカイブデータベース作成委員会(2017)「条例 Web アーカイブデータベー ス」条例 Web アーカイブデータベースホームページ(2017 年 6 月 20 日取得, http://jorei.sl is.doshisha.ac.jp). [5] 下井康史(2002)「法科大学院教育と全国条例データベース」『法律時報』74(3),23-25。原田隆史・野首貴嗣・伊勢路真吾(2006)「We bで公開されている条例を対象としたデジタルアーカイブ」『情報処理学会情報学基礎研究会報告』2006-FI-82(7), 47-54. [6]松永邦男(2003)「1 自治立法権の意義」『条例と規則』1-20, ぎょうせい. [7] 大阪維新の会司会議員団(2017)「犬猫の理由なき殺処分ゼロに向けた提言鄭玄氏よ参考資料 2 」猫の理由なき殺処分ゼロに向けた提言ホームぺージ(2017 年 6 月 20 日取得, http://ishinnokai-osakashikai.jp/wordpress/ wp-content/uploads/file/pdf/20170517\%E6\% 8F\%90\%Е8\%A8\%80\%E6\%9B\%B8\%E5\%8 F\%82\%E8\%80\%83\%E8\%B3\%87\%E6\%96\%9 $9 \% \mathrm{EF} \% \mathrm{BC} \% 92$. pdf).
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# [C24] 市民とデジタルアーカイブの関係性構築: ヒロシマ$\cdot$アーカイブにおける非専門家による参加型デジタルアーカイブズの 構築 田村賢哉 ${ }^{1)}$, 井上洋希 ${ }^{1)}$, 秦那実 ${ }^{1)}$, 渡邊英徳 2) 1) 首都大学東京大学院システムデザイン研究科, 〒191-0065 東京都日野市旭が丘6丁目6 2) 首都大学東京システムデザイン学部 E-mail: [email protected] ## Establish Relationship Between Citizen and Digital Archive: Construction of Participatory Digital Archives by Nonexperts in the Hiroshima Archive TAMURA Kenya ${ }^{1)}$, INOUE Hiroki ${ }^{11}$, HATA Nanomi ${ }^{11}$, WATANAVE Hidenori ${ }^{11}$ 1) Tokyo Metropolitan University, 6-6 Asahigaoka, Hino-shi, Tokyo, Japan 191-0065 「デジタルアーカイブ」の多様化により,これまで利用側であった非専門家である市民が積極的にアーカイブズに取り組む可能性を有している。 そうした背景から本発表では,デジタルアー カイブにおける市民参加の新しいアプローチとして, ヒロシマ・アーカイブなどの「多元的デジタルアーカイブ」の複数の活動の特徴を述べ, それらの有機的な制作環境の実態について言及した. そうした実践からデジタルアーカイブの社会に及ぼす影響について考察を行い,デジタルア一カイブの新しい研究領域として「参加型デジタルアーカイブズ」を述べる. ## 1. はじめに 「デジタルアーカイブ」の多様化により, これまで利用側であった非専門家である市民が積極的にアーカイブズに取り組む可能性を有している。近年のコンピュータの性能の向上とインターネットの高速化に伴い「デジタルアーカイブ」の普及が進み, 2010 年以降, アーカイブズ学の分野だけでなく, 社会学や建築学, デザイン工学など広範な学問分野にて研究・実践が見られる。それにより,「デジタルアーカイブ」はアーカイブズ学がこれまで定義してきたアーカイブの本質や意義に必ずしも沿っておらず,それぞれの学問領域で多様化している. アーカイブズ学では, 個人あるいは組織の活動によって生じた資料・情報を厳密な手続き記録保存し,その「かたまり」をアーカイブズとして研究対象にしてきた。そのため,厳密なアーカイブズには,ある一定の専門的な知識と技術, 認識を必要とする。初期のデジタルアーカイブでも, アーカイブズの専門知識に加え, プログラミング言語に関する知識や情報リテラシーなど多様な知識が必要とされるばかりでなく, デジタル化の進歩にも常に対応しなければならないという難しさが ルアーカイブと市民の関係性は,「コンテンツ及びその利用者」という関係であった。 デジタルアーカイブと社会との接点として 「参加型デジタルアーカイブズ」のアプロー チが可能になりつつある。渡邊[2]は,「ヒロシマ・アーカイブ[3]」をはじめとする過去の出来事の実相を伝えるための多元的デジタルア一カイブズの開発を進め, その開発には「記憶のコミュニティ」による一般市民の参加が可能であることを明らかにしている(図 1),戦後 70 年以上経過し戦争体験者が高齢化する中,公的記録では描ききれない戦争体験者の記憶を残していくオーラル・ヒストリーに関心が 高まっている[4],そうした背景から,ヒロシマ・アーカイブは「記憶のコミュニティ」により戦争体験者へのインタビューが進められ, その証言をデジタルアーカイブとしてデジタルアースにマッシュアップしてきた. 現在, ヒロシマ・アーカイブの「記憶のコミュニティ」は戦争体験者の証言収集だけでなく, 視覚障害者向けヒロシマ・アーカイブの制作や日米高校生平和会議の開催など幅広い活動を展開している. これまで戦争体験者の証言収集を基本とした「記憶のコミュニテイ」に関する報告があるが,デジタルアーカイブの学問領域として市民参加手法や在り方について整理していなかった. 本報告では, デジタルアーカイブにおける市民参加の新しいアプローチとして, ヒロシマ・アーカイブにおける複数の活動の特徴を述べ, それらの有機的な制作環境の実態について述べる. ## 2. ヒロシマ$\cdot$アーカイブの市民参加手法の 概観 ヒロシマ・アーカイブでは,「記憶のコミュニティ」が主体となり複数のワークショップを開催している。それらのワークショップを以下の 3 つの観点から整理した. (1)デジタルアーカイブ制作ワークショップ (制作) (2)デジタルアーカイブ活用ワークショップ (活用) (3)他の記憶のコミュニティとの連携ワークショップ(連携・創造) まず,(1)デジタルアーカイブ制作ワークショップは,特に専門的スキルを有していないコミュニティによるデジタルアーカイブの制作を目的にしたワークショップである.ヒロシマ・アーカイブでは, 被爆証言の収集を高校生が担っている。それらを編集して,ヒロシマ・アーカイブに掲載するまでの一連の流れをデジタルアーカイブ制作ワークショップにて取り扱う。これらのワークショップ手法は既に渡邊によって報告がある。 次に,(2)デジタルアーカイブ活用ワークシヨップ(活用)は,ヒロシマ・アーカイブの制作に留まらず, デジタルアーカイブの幅広い利活用を促すアイデアを検討している。具体的には, 視覚障害者向けのヒロシマ・アー カイブや修学旅行向けのヒロシマ・アーカイブワークブックの制作を進めている。ここでのワークショップは,一般的にデザイン思考と呼ばれる手法を利用して, 制作されたデジタルアーカイブの潜在的な課題の所在を参加者間で明らかにする.このデザイン思考を利用したワークショップにより, ヒロシマ・ア一カイブが視覚障害者や若者などにコンテンツを提供できていない現状が明らかになり, そういったユーザー層への利活用を促進するための新たな活動を生み出した。 最後に, (3)他の記憶のコミュニティとの連携ワークショップでは,ナガサキ・アーカイブ[5]や沖縄戦デジタル・アーカイブ[6], 東京五輪アーカイブ[7]といった姉妹デジタルアー カイブの記憶コミュニティとの連携を展開した. 2015 年 11 月にはヒロシマ・アーカイブを取り組む高校生と,東京五輪アーカイブを取り組屯高校生の交流ワークショップを開催, 2016 年 9 月には日米高校生平和会議をアメリカ・ニューヨークで開催し, アメリカ視点からのデジタルアーカイブ制作の気運が高まった. その関連で, 2017 年 7 月にはウィルミントン大学ピースリソースセンターにて, 同研究センターが収集してきた原爆関連の資料をデジタルアーカイブにする取り組みが開始されている。そうした記憶のコミュニティ同士のネットワーク化は, 新しい記憶のコミュニティ創出にもつながり, 多展開な取り組み一と発展している. (1)デジタルアーカイブ制作ワークショップ (制作)は既に渡邊[8]によって具体的な方法論が報告されている。本発表では,(2)デジタルアーカイブ活用ワークショップ(活用)と (3)他の記憶のコミュニティとの連携ワークショップ(連携・創造)に関して具体的な手法について述べる. ## 3. 考察 3. 1 参加型デジタルアーカイブズにおける 図 6 継承を目的にしたアプローチにおける参加型デジタルアーカイブズの概念図 ## 記憶継承 従来の証言収集も, 記憶継承の目的は共有されていた(図 6). 高校生が主体的に被爆者の話を聞くことによって, 証言が記憶として若者たちの中により強く刻み込まれる。つまり,実相を伝える活動及び記憶のコミュニティはデジタルアーカイブ以前から存在していた。 しかし, 従来の証言収集だと, 記憶は, 基本的に第三者へ共有する手段を持っておらず,高校生の価値観として内在化していた。 参加型デジタルアーカイブズは,証言ついての記憶を外在化する. 多元的ジタルアーカイブズは証言の可視化ツールであり,インタ一ネットでの公開を基本とする. 多元的デジタルアーカイブズによって可視化されることで,被爆者も,高校生も次世代への記憶継承を強く意識できる.それは高校生と被爆者だけで共有されているものでなく, 周囲にも 「目的感」として影響している. そのため,参加型デジタルアーカイブズの記憶の外在化は,記憶のコミュニティの拡大を発生させ,直接被爆者から証言を聞くことのない人でも,記憶継承という目的の疎通を可能にしている. そうしたことから,継承を目的としたアプロ一チの参加型デジタルアーカイブズは, 可視化ツールとしての多元的デジタルアーカイブズと記憶のコミュニティの拡大によって構成されている. ## 3.2 参加型デジタルアーカイブにおける媒介物の副次的作用 今回の 2 つの実践は,参加型デジタルアー カイブズの副次的作用として生まれた活動と言える。 まず、ヒロシマ・アーカイブの活用ワークショップは,「アクセスの多様性」を作り出す取り組みである、インターネット上には既に無数のコンテンツが存在している中で, ただコンテンツをインターネット上にアップロー ドすればアクセスが増える時代ではない。また,インターネットという媒体は全ての人が使いやすい手段ではない。そうしたことから, ヒロシマ・アーカイブでは, 修学旅行向けのワークブックや視覚障害者向けのコンテンツの制作が進められており, これらは他県の中高校生や視覚障害者の記憶へのアクセスをより円滑にする. 利活用を改めて「記憶のコミユニティ」で検討をするということは,デジタルアーカイブへのアクセスの多様化が作られるということである. また, 他の記憶のコミュニティとの連携ワ ークショップは,記憶のコミュニティのネットワーク化による活動の強化である. 日米高校生平和会議は, 異なるアーカイブの「記憶のコミュニティ」を繋げた取り組みである。 そして, 同会議において「次世代への記憶継承」という目的と「記憶の外在化」の手法が伝播されたことで, 新しい多元的デジタルア一カイブズが制作された. 日米高校生平和会議では,ボストンの高校生有志がヒロシマ・ アーカイブやナガサキ・アーカイブの取り組みを知ることでシリアを題材にしたデジタルアーカイブを自主制作した ${ }^{[9]}$.また, 同会議に参加したウィルミントン大学ピースリソー スセンターでも同様のデジタルアーカイブの制作を進めている ${ }^{[10]}$ 。「記憶のコミュニティ」 のネットワーク化は, 目的感と技術基盤の共有が可能であり,それぞれが記憶継承の活動に影響を与え, 多元的デジタルアーカイブズの価値を高める。 ## 4. おわりに 本発表では,デジタルアーカイブの近年の動向から広く研究対象を捉え,筆者の実践に 基づいて参加型デジタルアーカイブズとして市民参加手法を整理した。まず,参加型デジタルアーカイブズには,「収集を目的にしたアプローチ」と「継承を目的にしたアプローチ」 の市民参加の制作手法がある. その上で,ヒロシマ・アーカイブは,「継承を目的にしたアプローチ」として市民参加の実践が進められている。この「継承を目的にしたアプローチ」 として,2 つワークショップを報告した. そして, 参加型デジタルアーカイブは, 市民が参加することによって,「媒介物の副次的作用」 を作り出す。本実践では 2 つの副次的作用のある取り組みがみられた。媒介物の副次的作用は, 従来の利用者と提供者という関係でのデジタルアーカイブでは見られない現象である. デジタルアーカイブとその応用技術の普及に伴い,市民性の高いデジタルアーカイブが現れている。そのことからデジタルアーカイブの社会に及ぼす影響を巡って議論を深めて行く必要がある。今回,これまでの実践からデジタルアーカイブの新しいアプローチとして「参加型デジタルアーカイブズ」を述べた。 しかし, デジタルアーカイブの理論体系において, 参加型デジタルアーカイブズは必ずしも位置付けられていない。今後, デジタルア一カイブと社会との接点として, 参加型デジタルアーカイブズの諸理論とそれらの市民参加手法について評価を確立し, 市民参加のデジタルアーカイブの可能性を追求していきたい. ## 註$\cdot$参考文献 [1] 久世均. 高等学校におけるデジタル・ア ーキビストの養成. 教育情報研究. 2005, vol.21, no.3, p.33-41. [2] 渡邊英徳. 多元的デジタルアーカイブズと記憶のコミュニティ. 人工知能. 2016 , vol.31, no.6, p.800-805. [3] 渡邊英徳. “ヒロシマ・アーカイブのトップページ” . ヒロシマ・アーカイブ. http://hiroshima.mapping.jp/index_en.h tml, (参照 2017-08-31). [4] 小川明子. 実践報告 :負の記憶を記録することの可能性と困難一二つのデジタル・ストーリーテリングワークショップをめぐる覚書. メディアと社会. 2017 , vol.9, p.71-86. [5] 渡邊英徳. “ナガサキ・アーカイブのトップページ” . ナガサキ・アーカイブ. http://nagasaki.mapping.jp/p/nagasakiarchive.html, (参照 2017-08-31). [6] 渡邊英徳. “沖縄戦デジタル・アーカイブのトップページ” . 沖縄戦デジタル・ア ーカイブ. http://okinawa.mapping.jp/, (参照 2017-08-31). [7] 渡邊英徳. “東京五輪アーカイブのトップページ”.東京五輪アーカイブ. http://1964.mapping.jp/, (参照 2017-0831). [8] 渡邊英徳. 「災いのオーラル・ランドスケープ」.ランドスケープ研究. 2017, vol.81, no.1, p. 26-29. [9] Boston Latin School, "Top page of the Human Maps of Syria” . Human Maps of Syria. http://humanmapsofsyria.com/, (参照 2017-08-14). [10] Wilmington College, "PRC Enlists Japanese Digital Mapping Experts to Teach Archival Process" . Wilmington College NEWS \& EVENTS. https://www.wilmington.edu/news/prcenlists-japanese-digital-mappingexperts-teach-archival-process/, (参照 2017-08-31) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています
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# [C22] 地域資料をアーカイブする手法としてのウィキペディ アタウン、またはウィキペディアとウィキメディア・コモンズ ○下九八 1),2) 1) 東京ウィキメディアン会, 2) OpenGLAM Japan E-mail:[email protected] ## Wikipedia town, Wikipedia and Wikimedia Commons as a means of archiving regional materials KUSAKA Kyuhachi ${ }^{1,2)}$ 1) The Wikimedian Society of Tokyo, 2) OpenGLAM Japan ## 【発表概要】 初回の企画立ち上げから、各地のウィキペディアタウンをサポートし、またファシリテーター 養成講座や甲州エディットソンなど関連イベントにも関わってきた経験から、各事例を報告し、 ウィキペディアタウンに期待されるもの、得られるものを、デジタルアーカイビングの観点から整理する。 ## 1. はじめに 2013 年、インターナショナル・オープン・ データ・デイに最初に試みられた「ウィキぺディアタウン」は、「公共オープンデータ」への取り組みが動き出すなか、街歩きと地域資源活用が結びつき、オープンライセンスを採用しているウィキペディアを市民自らが編集する、つまりは自らオープンデータを作ることを企図してはじまった。以後、北は札幌から南は福岡県福智町まで、図書館、大学、シビックハックほか市民グループなど多様な母体が主催をし、120 回を越えて開催されるまでに広がり、2017 年の Library of the Year 優秀賞を受けるだけの評価を得た。 近年は図書館からの注目を集めることが増えたが、ここではデジタルアーカイブの観点から、ウィキペディアおよびウィキメディア・コモンズの概要を示すとともに、ウィキペディアタウンの取り組みを紹介・検討する。 ## 2. ウィキペディアとウィキペディアコモンズ 2. 1 ウィキペディア ウィキペディア日本語版の「ウィキペディア」の項目は、ウィキペディアのことを ウィキペディア (英: Wikipedia) は、ウイキメディア財団が運営しているインターネット百科事典である。コピーレフトなライセ ンスのもと、サイトにアクセス可能な誰もが無料で自由に編集に参加できる。世界の各言語で展開されている。 と説明する。ウィキメディア財団はウィキペディアのほかに辞書や教科書、ニュースなどを扱うプロジェクトも運営している。サイト全体は mediawiki というソフトで構築される。記事の内容、運営上の方針やガイドラインなどについては、相当程度を各プロジェク卜、各言語のコミュニティに委ねられている。 それらについての議論は、投稿者のアカウントやタイムスタンプと共に各ページに紐づけられて記録されており、編集の経緯や古い議論を追うこともが可能である。ページの編集履歴やアカウントの投稿履歴は一覧でき、古い議論などはリンクによって辿るように編集される。 それぞれの項目には、見出し語の解説があり、ウィキペディアの方針として、その内容には情報源を合わせて記述することが求められている。本文中に現れる他の項目の見出し語はそれぞれの項目へのリンクとなっており、 ウィキペディア内の関連項目、企業記事における公式サイトなどウィキペディア外の有用な外部リンクが末尾に付される。このほか力テゴリ、他言語版と繋ぐウィキデータなども紐づけられている。主要な事項をまとめたテンプレートが置かれる記事も多く、このテン プレートは DBpedia Japanese を介してリンクトオープンデータとして転用される。 ## 2. 2 ウィキメディア$\cdot$コモンズ ウィキペディアに用いられている写真の多くは、ウィキメディア・コモンズというプロジェクトのサイトに置かれている。ウィキメディア・コモンズはウィキメディア財団のプロジェクトの一つであり、パブリック・ドメインやフリー・ライセンスの、教育的なメデイア資料(画像、音声、動画等)の集積場として、世界中のボランティアによって維持・運営されている。なお、マイクロソフトのワ ードやェクセルの文書をはじめ、MP3、AAC WMA、MPEG、AVI、Flash などアクセスするために有料のプログラム(または特許権に係るコーデック)を必要とするものは、禁止 図 1. ウィキメディア・コモンズの写真掲載ページ される。ウィキメディア・コモンズは言語ごとのプロジェクトではなく、単一のプロジェクト内での多言語化がなされている。ウィキペディア同様、コモンズにおける方針やガイドラインなどはコミュニティ内で議論される。 各ファイルには個別のページが割り当てられており、ファイルの編集履歴とぺージの編集履歴はウィキペディア同様に記録される。 ファイルに与えられたページには、解説、原典、作者、派生版へのリンク、ライセンスが書き込まれており、カテゴリが付与されるほか、使用されているウィキメディア・プロジエクトの各ページへのリンク、撮影時やスキヤン時に付与されるメタデータも表示される。 ファイルの説明や情報の記述方法は利便性のためのテンプレートも使われるが、比較的自由である。このほか、都市や生物種、人物、芸術作品などについては、簡単な案内となる 「ギャラリー」ページがある。 ## 3. ウィキペディアタウン ## 3.1 あゆみ 2012 年にイギリス・ウェールズのモンマス で行われたプロジェクト「モンマスペディア」 を参考にしつつ、「ウィキペディアタウン」という試みは、2013 年、「インターナショナルオープンデータデイ」の日に、横浜市で「分科会 3」としてはじまった。その後、2014 年末までに二子玉川、京都、山中湖、奈良で、 2015 年初頭には岡山県笠岡市北木島、北海道森町、長野県伊那市と全国に広がっていった。前述の通り、2017 年 11 月末の時点で 130 回を超える開催がある。開催の母体は、各地の Code for X をはじめとするシビックテック (IT による地域課題の解決活動)のグループ、図書館(国会、県立・市町村立、大学、専門)、自治体など多様である。図書館司書を対象とした研修として、また大学での司書課程や学芸員課程、あるいは高校などでの実践例もあるが、基本的には広く参加者を募る。同様に参加者も多様である。地域の住人が中心となるが、他地域でウィキペディアタウンを開催しようとしている図書館員、情報や観光、ま ちおこしなどを担当する自治体職員や大学教員らの参加も少なくない。 ## 3.2 当日の実践 横浜で行われた初回のウィキペディアタウンの構造、すなわち、街歩きと撮影、資料の探索と調查、そして執筆というパッケージは、以後のウィキぺディアタウンでも継承されている。ウィキペディアは百科事典であることと、「検証可能性」などの方針の解説、最低限の記法など、ウィキペディアの執筆の基礎的な解説は、街歩きにかかる時間や昼食時間との兼ね合いで前後するが、執筆をはじめるまでのどこかにさしはさまれる。 街歩きでは、執筆対象となる史跡などを観察し、写真を撮影する。資料館や博物館の学芸員、郷土史家、あるいは執筆対象となる寺の住職らが解説をすることもあれば、地元の人たちが説明することもある。通常、執筆対象は、主催者によって街歩きできる範囲の地域の歴史や地理、産業に関わるものが選ばれるが、街歩きを省略し、地域の過去の災害などを取り上げる事例や、現代美術などのテー マを掲げて開催される例もある。 資料の探索と調查は、ほとんどの場合、図書館を活用することになる。資料を事前に用意するか、参加者が自ら資料を探すかは、館の貸出の制度などを踏まえ主催者の判断に委ねられる。郷土資料が中心となるが、観光や旅行のためのムックやパンフレット、過去の新聞、デジタルアーカイブやオンラインデータベースを活用する場面もある。 執筆の段階に進むと、参加者は、百科事典の記事として、自らまとめ、発信するにあたって、信頼性を担保するためにはどうするか、情報源にあることを中立的にまとめるにはどう書けばよいか、情報源をどう評価するか、 といったことに悩むこととなる。なんとか記事が完成し、投稿し、それが反映されたときには各テーブルで歓声が巻き起こる。世界に発信したことの達成感と、書ききれなかった残念な思いが、継続的な執筆への動機となる。 ウィキペディアタウンは、ウィキペディア側から見れば、執筆者の増加、記事の充実が見込める。図書館視点では、図書館に足を運 図 2.「ウィキペディアキャンパス in 北大」 では北海道大学敷地内の歴史的建造物の記事を編集した んでもらう機会であり、その機能を知り、郷土資料を活用する機会となる。また、参加者としては、地域情報を広く発信する機会となるとともに、情報リテラシーやアカデミック・ライティング、著作権やライセンスの基礎を学ぶ機会ともなる。 ## 4. 事例紹介: 写真の収集$\cdot$活用を中心に 4.1 二子玉川 二子玉川で 2013 年 6 月 22 日に開催された 「二子玉川を Wikipedia タウンにしよう!」 は、クリエイティブ・シティ・コンソーシアムの主催で開催された。「駒澤給水所」「砧下浄水場」を対象とし、駒沢給水塔風景資産保存会の協力によるフィールドワークを経て、記事の執筆とオープンストリートマップでの地図の作成が行われた。この時は、かつての工事現場監督から提供された古写真のアップロードもなされている。以後、二子玉川商店街振興会「写真でひもとく玉川」と連携し、写真の提供を求め、展示をし、写真にまつわるエピソードの収集を行っている。 ## 4. 2 東京工業大学博物館 東京工業大学で 2016 年 3 月 21 日に第 7 回 OpenGLAM JAPAN シンポジウム「博物館をひらく一東京工業大学博物館編」は、もともと館内での撮影が自由であり、アクティブ・ ラーニング・コモンズ/インフォメーション・コモンズとして活用できる 1 階部分のリニューアルにより共同編集のための環境が整ったことを生かした開催と言える。当日編集した記事は 4 項目、撮影された写真は 87 点。 図 3.「博物館をひらく-東京工業大学博物館編」で撮影した所蔵品の写真は ”Category: Museum and Centennial Hall, the Tokyo Institute of Technology”にまとめられている ## 4. 3 福井 福井県立図書館では 2017 年 11 月 18 日に 「福井ウィキペディアタウン in 福井市東郷」 を開催、その前日には公共図書館職員を対象にウィキペディアの編集を行う研修会が行われた。研修会で編集対象となった「五六豪雪」「だるま屋少女歌劇部」については、参加した文書館職員から「福井県文書館・図書館・ ふるさと文学館デジタルアーカイブ」で「作成者等」として「当館/広報」がクレジットされているものの提供許可を受け、ウィキメデイア・コモンズにアップロードを行った。 ## 5. おわりに デジタルアーカイビングの視点からウィキペディアタウンを見るならば、参加者は自ら地域情報のアーカイブを作成することの意義、情報の整理やメタデータの重要性、そしてデジタルアーカイブそのものの価値を体感できる。これらの経験は、デジタルアーカイブを作成・保有・運営する機関および専門家の周辺でサポートする人材を育むことにつながるであろう。また、ウィキぺディアタウンをデジタル化、コンテンツ整理の機会とすることも可能であり、特に小規模の機関にとってはデジタル化とアーカイビングの労力を削減することが可能となる。誰でも編集でき、 多言語展開を行い、オープンライセンスを採用しているため、そのコストの担い手や情報の利活用者は、ウィキペディアタウン参加者に限らない。なお、こうしたウィキペディア /ウィキメディア・コミュニティと GLAM 関係機関との連携は GLAM-WIKI と呼ばれ、各国で様々な取り組みがなされている。 「GLAM - Outreach Wiki」 を参照されたい。 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし, 複製, 改変はもちろん, 営利目的での二次利用も許可されています。
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# [A12] 東日本大震災後のコミュニティアーカイブの活動:仙台市荒浜地区を一例とした報告 ○北村美和子 1), 村尾修 2), 柴山明宽 2) 1)東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻, $\overline{9} 980-0845$ 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 468-1 2) 東北大学災害科学国際研究所 E-mail: [email protected] ## Activities of community archive after the Great East Japan Earthquake A report on Sendai City Arahama area as an example KITAMURA Miwakon', MURAO Osamu²), SHIBAYAMA Akihiro²) 1) Department of Architecture and Building Science, Graduate School of Engineering, Tohoku University, 468-1 Aramaki, Aoba, Aobaku, Sendai, Miyagi, 980-0845, Japan 2) International Research Institute of Disaster Science of Tohoku University2) ## 【発表概要】 東日本大震災後、国や地方自治体が災害デジタルアーカイブを構築したが、一方で、被災者が構築した小規模な災害デジタルアーカイブも点在している。本報告では、宮城県仙台市荒浜地区における被災者主体の災害デジタルアーカイブの取り組みについてまとめる。震災からの復興に関するコミュニティ活動やコミュニティアーカイブなどの被災者主体の活動は、シビックプライドの向上に効果的な役割を担っている。 ## 1. はじめに 東日本大震災後、復興政策として災害デジタルアーカイブの構築が始められた。国や地方自治体が構築した災害デジタルアー カイブには被災写真、津波のシミュレーション動画、音声データ、災害に関する統計情報、検証報告書等の多種多様なデジタルビックデータが収集された。一方で、被災者の人々が構築した小規模な災害デジタルアーカイブも点在している。 本稿では、東日本大震災の津波で大きな被害を受け、宮城県仙台市の条例で 2012 年 2 月に「災害危険区域」[1]に指定された宮城県仙台市荒浜地区に注目した。荒浜地区では、条例により住居等の新築・増築が規制されたため、住民は他の地域への転居を余儀なくされ、震災前のコミュニティは消滅している。しかし、現在では「3.11 オモイデアーカイブ」[2]や「海辺の図書館」[3] といったコミュニティ活動が行われ、デジタルアーカイブが活用されている。 ## 2. コミュニティアーカイブの定義 英国のコミュニティアーカイブ \&へリテ ージグループ[4]では、コミュニティアーカイブと呼ぶアーカイブの要件について、多くの例示をしている。本稿においては、その中で特に以下の 3 点のいずれかに該当するようなものをコミュニティアーカイブであると広く定義する。 ・特定のグループや地方の歴史を記録した文書、写真、口頭でのヒストリーなどの資料を収集、保存、作成することによって、より包括的で多様な地方資源の保存に貴重な貢献をするもの。 ・コミュニティのアーカイブと関連プロジェクトは、活動に参加する人、コレクタ一、ボランティア、ユーザー、訪問者の生活を豊かにする記録であること。 ・コミュニティのアーカイブは、学習と有用なスキルの獲得を支援し、異なる年齢や背景の人々を集めて社会参加を促し、 コミュニティのアイデンティティを向上させ、異文化間の相互理解を促進するもの。 荒浜地区では、アーカイブのコンテンツである震災前の地図や写真をスクリーンに映写し、地域住民が語り合い思い出を共有するイベント等が実施されている。地域の伝統や歴史について住民が語り合うことで、地域への理解やシビックプライド (civic pride ; 住民が地域に対して持つ自負と愛着う郷土愛)の向上が図られるものであり、 コミュニティアーカイブの要件を十分に満たしている。 ## 3. 荒浜地区のコミュニティアーカイブ 荒浜地区でコミュニティ活動を行う団体へのインタビュー調查を中心に、次の 3 点を調查・研究する。(1)「3.11オモイデアー カイブ」主宰の佐藤正実氏にコミュニティアーカイブへの取組みについてインタビュ一調査を行い、また、当該団体の活動を調べる。(2)「海辺の図書館」の創設者、庄司隆弘氏一荒浜地区でのコミュニティ活動に関するインタビュー調査を行い、また、当該団体の具体的な活動を調べる。(3)「東日本大震災アーカイブ宮城」[5]において、フリーワード検索を行い、荒浜地区のコミュニティアーカイブとの連携状況等について考察する。 ## 3.1 「3.11 オモイデアーカイブ」について NPO 法人「20 世紀アーカイブ仙台」[6] は、2009 年に設立し、宮城県仙台市の地域の伝統や文化の記録をアーカイブしている。同法人が保有するコンテンツ数は、約 5 万点に及ぶ。 アーカイブを利用した代表的な活動としては、「3 月 12 日はじまりのごはん一いつ、 どこで、なにたべた?一」がある。これは、「炊き出し、買い物、食卓の風景など、震災時の「ごはん」にまつわる写真を展示し、 それらの写真を見て思い出したことや当時の暮らしぶりなどを、来場者に自由にふせ几紙に書いてもらう参加型展示」[7]である。一般的な証言記録の収集は、証言者の思い出しから始めるものであるが、これは、断片的な証言になりがちである。一方で、題材を言葉や文字等で提示しても、当時の証言が出にくい。しかしながら、この参加型展示では、複数の写真から自分の曖昧な記憶と近いものを選び出し、それを元に当時の記憶を思い出すことができる。また、写真に付けられた他の来場者のコメントを見ることで、記憶の呼び起こしに役立ったり、同じ境遇を感じたり、経験していないことを発見したりと様々な効果がある。 「3.11 オモイデアーカイブ」は、2016 年に「20 世紀アーカイブ仙台」の震災アーカイブ部門から独立し、3.11 オモイデツアー を引き継いでいる。 3.11 オモイデツアーは、継続的に多数回実施されており、日本各地から訪れたツアーの参加者と、元住民が一体となって、荒浜地区で海岸清掃、餅つき、天体観測などのイベントを楽しみながら、 かつての荒浜地区の日常生活についての話を聞いたり、思い出の場所を訪れたりする住民参加型の被災地ツアーである。他の地域での被災地ツアーは、震災時の悲惨な状況について語り部から話を聞くというようなスタイルが多く、3.11 オモイデツアーのように、被災地の地域住民とツアー参加者が共にイベントを楽しむようなツアーはあまりみられない。 3.11 オモイデツアーの参加者は荒浜地区の元住民と一緒に行動した体験を SNS で発信し、荒浜地区に関する新たなアーカイブが構築されている。 3.11 オモイデツアーの継続によって、多くの荒浜地区の元住民とツアー参加者がコミュニティアーカイブの構築・運営に参加し、当事者意識を持つことになる。これは、地域住民の生活だけでなく、活動に参加する人や訪問者の生活を豊かにしており、コミュニティアーカイブとしての存続価値が高いと言える。 「3.11 オモイデアーカイブ」の佐藤正実氏は以下のように述べている。 1 枚の写真から様々な人々の人生の物語のアーカイブができる。被災地の人々必要なのは、「東日本大震災の被災そのも のの話」だけではなく、思い出を語り合うことだ。 荒浜地区では、「災害危険区域」に指定されたこともあり、かつてと同じ日常を回復することは不可能である。コミュニティアーカイブの存在により、かつての暮らしの写真を皆で鑑賞しながら思い出を語り合う「場」を提供することが可能となる。震災前の写真を見ながら、多くの人々とかつての日々を語ることは、現在は戻る事ができなくなった「場」に自らが存在したと言うアイデンティティの確立につながり、災害からのレジリエンス力となる。 ## 3.2 「海辺の図書館」の活動 「海辺の図書館」とは、荒浜地区の元住民であり、宮城県内の図書館業務などに関わってきた庄司隆弘氏が中心となり活動を行っているコミュニティアーカイブ活動である。「海辺の図書館」は通常の図書館とは異なり、避難区域となった荒浜地区を図書館に見立て、荒浜地区で生きてきた人々の記憶を「生きた本」とし、震災後、荒浜地区に関わるようになった人々の体験も新たな「生きた本」とし、これらの「生きた本」 を収集して行くといったアーカイブ活動である。 表 1 に「海辺の図書館」が関わってきた活動をまとめた。例えば、里海荒浜ロッジでは、荒浜地区の元住民や震災後に荒浜地区に興味を持った人々が集い自由に過ごせる「場」を提供し、この「場」で起きることも、荒浜地区の新たな記憶としてアーカイブしている。 庄司氏は震災の伝承についてこのように述べている。 震災を伝承するためには、津波の恐ろしさだけでなく、地域の魅力を再発見し継続記録していくことが重要である。そのため荒浜地区をテーマにした写真展・海辺の能楽なども行いアーカイブしている。このような活動が自然と防災意識に撃がるのではないかと考える。住民主体のコミュニティア一カイブの継続を可能するための体制づくりが今後の課題である。 表 1 海辺の図書館が関わったコミュニテイ活動抜粋 (海辺の図書館庄司隆弘氏からの提供資料を元に筆者が作成) \\ ## 3.3 東日本大震災ア一カイブ宮城とコミュ ニティアーカイブの有機的連携 宮城県による災害デジタルアーカイブ 「東日本大震災アーカイブ宮城」のうち、仙台市のコンテンツ数は図 1 のように仙台圈全体のうちの $8 \%$ (4,479 件)である。 「オモイデッアー」をキーワードとして検索した場合のコンテンツ数は 2 件、「海辺の図書館」では 0 件である(2018 年 1 月アクセス)。「東日本大震災アーカイブ宮城」 には、荒浜地区のコミュニティアーカイブ が連携されていない。 図 1 東日本大震災アーカイブ宮城仙台圏全体に占めるコンテンツ数の市町村別の割合(2017/11/21アクセス) 「東日本大震災アーカイブ宮城」では、宮城県内の全市町村から災害資料を収集している。そのため災害復興情報や復興計画の政策情報、災害資料等を容易に確認することができる。県の災害アーカイブと荒浜地区などのコミュニティアーカイブとでは異なった役割があるものの、相互に有機的に連携したならば、多様性に富んだコンテンツを保持することが可能となる。また、相互の連携は、コミュニティアーカイブの持続可能性を高めると考えられる。 ## 4. まとめ コミュニティアーカイブの持続可能性を高める方策として考えられることの一つめは、国や自治体が構築した災害デジタルア一カイブとの有機的な連携を実現することである。 二つめの方策は、地域住民のさらなる参加により、コミュニティアーカイブの存続価値を高めることである。地域住民のコミュニティアーカイブへの積極的な関与は、災害の伝承のみならず、自らの地域の良さや歴史を知ることになる。これは、荒浜地区の例では、シビックプライドを高めており、災害に対するレジリエンス力を強めていると考えられる。 ## 謝辞 インタビューや資料提供など、多大なご協力を頂いた「3.11 オモイデアーカイブ」佐藤正実様、「海辺の図書館」庄司隆弘様に深く御礼申し上げます。 ## 参考文献 [1] 仙台市,「仙台市災害危険区域条例の改正及び沿岸部の災害危険区域の指定につい $\tau 」$. http://www.city.sendai.jp/kenchikush ido-kanri/jigyosha/taisaku/kenchiku/gyose/ oshirase/saigai.html (閲覧 2018/1/5) [2] 3.11 オモイデアーカイブ. http://sendaicity.net/omoide/category/cooperate/(閲覧 2018/1/5) [3] 海辺の図書館荒浜フューチャーセンタ一. http://umibe.org/(閲覧 2018/1/5) [4] Latimer Jack 「What is a community archive?」,http://www.communityarchive s.org.uk/index.php(閲覧 2018/1/5). [5] 宮城県, 「東日本大震災アーカイブ宮城」. https://kioku.library.pref.miyagi.jp (閲覧 2018/1/5) [6] NPO 法人 20 世紀アーカイブ仙台. http: //20thcas.or.jp/(閲覧 2018/1/5) [7] 3 がつ 11 にちをわすれないためにセンタ一,「3 月 12 日はじまりのごはん一いつ、どこで、なにたべた?一」. http://recorder311.smt.jp/blog/42724/ (閲覧 2018/1/5) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的の二次利用も許可されています。
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# [C14] 国際的な画像共有の枠組み IIIF の課題と展望 ○永崎研宣 ${ }^{11}$ 1) 一般財団法人人文情報学研究所,〒 113-0033 東京都文京区本郷 5-26-4 E-mail:[email protected] ## Issues and Prospects of the International Image Interoperability Framework from a viewpoint of a Japanese Practitioner Kiyonori Nagasaki1) 1) International Institute for Digital Humanities, 5-26-4, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan ## 【発表概要】 国際的な画像共有の枠組み IIIF は世界的に大きな広まりをみせつつ、日本でも徐々に普及が進みつつある。IIIF にはいくつかの課題があるものの、コミュニティによって解決へと進められつつある。一方、IIIF に限らず、高精細画像の公開・共有につきものの課題もあるが、これが IIIF の課題と混同される例もある。そこで、本発表では、高精細画像の公開・共有における課題と IIIF における技術面・運用面での課題とを切り分けてそれぞれに提示するとともに、その解決方法について検討する。 ## 0. はじめに IIIF(トリプル・アイ・エフ International Image Interoperability Framework) は、 Web 上のデジタルコンテンツを効果的効率的に公開・共有するための仕組みとしてデジタルコンテンツ公開機関の間で国際的に急速に広まってきている。IIIF の技術的な内容やメリットについてはすでに論じてきているが、 ここでは特に、IIIF の導入にあたって留意すべきいくつかの課題について検討してみたい。 ## 1. 画像配信にまつわる課題 IIIF は Web コンテンツ全般を対象とするものだが、現在のところでは、その名が示すとおり、画像配信が中心となっている。この画像配信に際しては、いくつかの留意すべき課題がある。これらは、IIIF の課題というよりはむしろ高精細画像の公開における一般的な課題として捉えた方がよい事柄がほとんどであるように思われるが、それを踏まえつつ以下に検討してみたい。 ## 1. 1. タイル画像のサイズ IIIF では、高精細画像を配信する際に、複数種類のサイズを用意しておき、クライアントである Web ブラウザからの要求に応じて適切なサイズの画像を配信し、さらに、一定程度以上に大きな画像については分割(タイル画像化)して必要なタイルのみを配信するという仕組みが用意されている。 この仕組みに対応するには、IIIF の画像配信ルール IIIF Image API に対応してアクセス毎に画像サイズを変更したり必要に応じてタイル画像を生成したりするタイプの IIIF 対応画像サーバソフトが必要となる。すでにフリーソフトで様々なタイプのものが公開されているため、ソフトウェアの導入にかかるコストは最小限で済む。通常の Jpeg 画像をそのまま IIIF 配信用に利用することも可能である。ただし、サーバ・ネットワークの環境にもよるが、筆者の経験からすると、 1 枚あたり $3 \mathrm{MB}$ 以上の容量の画像を配信しようとする場合、事前にタイル化した画像を配信するタイプのサーバソフトの方が利用者のストレスを高めずに済みそうである。ただし、このタイプのサーバソフトの場合、事前にタイル化された複数サイズの画像を用意することになるため、ストレージの容量を多く必要とすることになる点には留意しておく必要がある。画像をタイル化して保持しておく場合には、 Pyramid Tiled Tiff 形式か、Jpeg2000 形式、 あるいは、タイル画像化した個々のファイルをファイルとして保存する Deep Zoom 形式 などが用いられることになる。ただし、IIIF にフル対応しようとすると、今のところ前 2 者が一般的である。さらに言えば、Pyramid Tiled Tiff の場合には、一般的な画像処理用のフリーソフトウェアを用いて十分な速度で処理できるため、IIIF 用の高精細画像フォーマットとしては、IIP Image Server を画像配信サーバとしつつ比較的広く用いられている。 画像のタイル化に際して問題となることの一つは、タイル画像のサイズである。画像を含めたあらゆる Web コンテンツは、Web サ一バから配信すると、1 ファイルを配信するごとにサーバとクライアントの間で色々なやりとりがオーバーヘッドとして発生する。夕イルが小さければ小さいほど、1 タイルあたりの配信は確かに速くなるが、やりとりされるタイルの数が増える分だけ、オーバーヘッドも大きくなってしまうので、結果的に遅くなってしまう上に、オーバーヘッドの大きさは、単にクライアントに対して負担を大きくするだけでなく、ネットワーク経路への負荷もそれなりに大きくなってしまうことになる。一度に大勢が利用するような場合には特に配慮が必要となる。したがって、タイルを小さくしすぎないことにも留意する必要がある。筆者の場合にはとりあえず 256x256 のタイルサイズで作成しているが、たとえば以下のように、512x512 のタイルで配信しているサイトもある。 https://open.library.ubc.ca/collections/toku gawa/items/1.0227946 https://iiif.library.ubc.ca/presentation/cdm .tokugawa.1-0227946/manife (IIIF manifest) https://iif.library.ubc.ca/image/cdm.tokug awa.1-0227946.0000/info.json (info.json) さらに、大きな地図を公開している例では 2147x1434 とか 2142x1756 のようなかなり大きなサイズのタイルにしているところもある。 2147x1434 の例 : https://searchworks.stanford.edu/view/112 98997 https://purl.stanford.edu/hs631zg4177/iiif/ manifest (IIIF manifest) https://stacks.stanford.edu/image/iiif/hs63 1zg4177\%252Fhs631zg4177_00_0001/info.js on (info.json) 特に、現在ほとんどの Web サイトで使われている HTTP1.1 では、一度に配信する数が多い場合、オーバーへッドがかなり大きくなってしまう。大きな画像を閲覧している際にはじからはじまでさっと移動させると、それだけで膨大な数のタイル画像の転送をサーバ側に要求することになってしまい、画像配信がものすごく遅くなってしまうことがある。 そのような場合には、タイル画像のサイズを大きめにして、転送数を減らすという方向も有力な選択肢となり得るだろう。 ## 1. 2. タイル画像の大量同時配信 詳しい技術的な解説には踏み込まないが、基本的に、Web のコンテンツ配信で用いられているプロトコル HTTP/HTTPS は、大量のファイルを一度にサーバから送出するという使い方に適したものであるとは言いがたい。特に、現在広く使われている Web サーバソフ卜環境では、HTTP1.1が使われていることが多いが、これは、KeepAlive の設定を On にしておかないと、たくさんのファイルを配信したときに転送数制限に引っかかってしまい、 たとえば IIIF 画像を閲覧しているとタイル画像やサムネイル画像の読み込みが途中で止まってしまうことになる。最近の Linux OS に同梱されている Web サーバソフトではこの点は問題ないが、Redhat6 やentOS6 の Apache では、KeepAlive がデフォルトでは On になっていないため、最新版のサーバ OS でない場合には注意が必要だろう。 また、KeepAlive の設定を On にしていたとしても、やはりどうしても、配信ファイル数が多くなる場合のオーバーヘッドの大きさという問題は残る。それをよりうまく解決 する方法として、従来広く使われてきた HTTP1.1 ではなく HTTP/2 を採用するという選択肢がある。たとえば、筆者がシステム構築を行った万暦版大蔵経デジタル版1では、画像配信に $\mathrm{HTTP} / 2$ を採用しており、タイル画像配信における問題がかなり解消されている。サーバ用途でよく用いられる CentOS でもバージョン 7.4 から HTTP/2 に対応しており、ユーザビリティを高めるための選択肢として検討すべき事項の一つである。 ## 1. 3. 画像配信サーバソフトの導入 画像配信サーバソフトのインストールや設定に関しては、作業自体はそれほど難しいわけではない。いくつかの解説サイトを見て手順通りに作業すれば十分である。ただし、 (1) Python か ruby の CGI を動してよいか、 (2)C++のソフトを CGI として動かしてよいか、(3)Tomcat サーバを動かしてよいか、といった点について、サーバ運用に関する組織のポリシー、特にネットワーク運用ポリシー やセキュリティポリシーとのすりあわせを行う必要がある。いずれもダメということになった場合には、IIIF Image API をフル機能で導入することはやや難しくなる。この点は、 たとえば、同じ高精細画像配信であっても Open Seadragon の Deep Zoom 形式であれば、画像配信用サーバソフトがなくてもタイル化された Jpeg 画像を所定の Web ディレクトリに置いておくだけで利用可能であることに比べると、状況によっては割と大きな障壁となる場合がある。また、費用面に関しても、導入費用だけでなく保守費用も高くなる可能性があることは念頭に入れておく必要がある。 また、言い方を変えると、画像配信サーバソフトのインストールがネットワーク・サーバの運用ポリシーに抵触しないのであれば、導入自体は容易であると言うこともできる。 ## 1. 4. タイル画像化する場合の留意点 上述のように、タイル画像化することで大容量の高精細画像を比較的高速に配信するこ ^{1}$ https://dzkimgs.l.u-tokyo.ac.jp/kkz/ } とができるが、ストレージの容量を多く必要とすることになる。さらにもう一つの問題として、画像を Pyramid Tiled Tiff に事前変換する場合に、フリーソフトウェアで簡単に一括変換をすることは可能だが、処理にそれなりの時間がかかってしまうという点も留意しておきたい。たとえば、万暦版大蔵経デジタル版では、画像処理専用マシンではないにせよ、 4 台のサーバマシンの余力をそれぞれ利用し、 8000 万画素で撮影した 19 万枚の TIFF 画像(1 枚女たり 250MB)からの変換には、あわせて 1 ケ月ほどを要した。IIIF での高精細画像の公開を準備する際にはこれにかかる時間も見積もって計画を立てる必要がある。 ## 2. 他の機関に画像を持って行かれるよう にみえる/公開機関の存在感がなくなる この問題については、「デジタル文化資料の国際化に向けて」という論考 2 の p. 65 の 「IIIF の導入に伴う公開の在り方の変化」という節で述べているが、これもう少し付け加えるなら、「デジタルアーカイブ」の利活用を広げ、デジタル時代の知識流通基盤を確かなものにしていくためには IIIF のような利用のされ方が必要にならざるを得ず、しかもそのためには、各「デジタルアーカイブ」で共通のルールが用いられる必要があることから、現時点では、デジタル化文化資料の高精細画像を共有する機能に関しては IIIF の仕様を採用するより他に良い選択肢はないだろう。あるいは、その選択肢を採らないとしたら、そうした世界から敢えて距離を置くことになるのであり、それについての整合的な説明をできるようにしておく必要があるだろう。 なお、IIIF manifest ではライセンス情報の記述が必須となっているが、Image API 単独での利用においても、画像毎にライセンス情報を付与できる仕様が Image API には用意されている。状況によっては、これを活用することも考慮するとよいかもしれない。 ^{2}$ https://doi.org/10.18919/jkg.67.2_61 } ## 3. IIIF Manifest ファイルのサイズ IIIF Manifestファイルは、JSON-LD 形式で資料の情報を記述するものだが、状況によっては数 MB になってしまうこともある。ビユーワによっては、これをすべて読み込んでからでなければ画像アクセスが始まらない場合もあり、IIIF Manifestファイルを速く読み込むことは利便性を高めるための重要なポイントである。対策としては、Web サーバ側で JSON ファイル配信時に gzip 圧縮を行う設定をするという方法がある。たとえば Apache の場合には、mod_deflate で.json に圧縮がかかるようにすることになる。テキストデータである IIIF Manifest の場合、 gzip 圧縮の効果は大きく、筆者のケースでは体感的にも十分な効果があった。 ## 4. HTTPS 問題 近年、認証を必要とするシステムでは、 HTTPS に対応することが求められるようになってきている。そして、IIIF が依拠する仕組みでは、HTTPS のサイトに IIIF コンテンツを読み込ませようとすると、IIIF コンテンツも HTTPS 対応していなければならない。 これは、Web ブラウザの仕様による制限であって、IIIF の問題ではないが、とにかく、 HTTP で公開しているコンテンツは、HTTPS で運用されることの多い一般的な Web コラボレーションシステムのようなものでは取り込めなくなってしまうことが多い。したがって、 IIIF コンテンツを HTTPS で公開することは必須になりつつあります。そのためには SSL の証明書が必要になります。最近は、Let' s encrypt というフリーの SSL 証明書取得サー ビスが広まっているので、これを利用して HTTPS 対応するという選択肢が出てきてい る。とりあえずはこれを利用しておくという手もあるだろう。 ## 5. 仕様のアップデート IIIF の API の仕様は他の仕様と同様に、情報技術やその周辺環境の発展にあわせてそれなりの頻度でアップデートされる。HTML の例に見られるように、デザインやビューワなど、進歩とともにそれにあわせた改良の必要も出てくるだろう。仕様がアップデートされた後、ソフトウェア環境や周辺環境がそれに対応していくには若干のタイムラグがあり、最新を追い求めなければならないわけではない。むしろ、最新を追い求めるとソフトウェア環境や周辺環境が対応できないため、周囲の状況を確認しながら対応していくことになる。とは言え、しかし、日本の多くの機関の発注の手続きでは、導入の計画を立てた後に実際に使えるようになるまでにかなりのタイムラグが生じるため、状況の安定を見届けてからアップデート版の計画を始めるとなるとやや遅きに失する感もある。なるべく適切なタイミングを見極められるようにするために、何らかの情報共有の枠組みなども今後整備していく必要があるだろう。 ## 6. 終わりに IIIF の導入には、少なくとも技術的にはそれほど大きな課題はなく、ここまで見てきた課題の中には、IIIF の課題というよりはむしろ、高精細画像を Web 上で公開する際の一般的な課題として捉えるべきものも少なくない。広がりつつある国際的な大きな潮流にうまく対応することで、日本のデジタルアーカイブがその利活用の幅をより大きく広げていくことを筆者としては願っている。 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C13] 地域学習を遍く支援する分散型デジタルコモンズの 概念: 信州デジタルコモンズ『わたしたちの信州、創成モデル ○前川道博 長野大学企業情報学部, $\bar{\top} 386-1298$ 長野県上田市下之郷 658-1 E-mail:[email protected] ## Concept of Distributed Digital Commons for Area-Based Learning: The Shinshu Digital Commons: "Our Shinshu" Model MAEKAWA Michihiro Nagano University, 658-1 Shimonogo, Ueda, 386-1298 Japan ## 【発表概要】 地域デジタルコモンズは、地域デジタル知識基盤プラットフォームのコアとなる知識・データの共有地である。デジタルコモンズの実現に向けては、学習者の立場に立ち、一人一人の知的生産の支援、生産された知識の共有・利用促進を図ることが必要である。 新しい地域学はデジタル資料も活用をし、自らが主体的に地域社会とふれあい、記録し、発信して学びを成就していく学びである。学習者自身のインタレストに発し、デジタル知識基盤のオ ープンな資料、情報源を活用し能動的に学びを楽しむ。自身の学びが他者への知識・データの提供という形で知的なインタラクションへと誘う学びに転じることが可能である。 本論では地域デジタルコモンズを分散型の学習支援環境概念として定義する。実アーカイブサイト「わたしたちの信州」で実際にデジタルコモンズ構築が可能であることを例証する。 ## 1. これまでの地域学と新しい地域学 デジタル知識基盤の時代、地域の知の再編が問われるようになってきた。 地域学は、歴史、地理、文化、自然、経済、産業などのあらゆる分野の学際的視点から地域を総合的に研究する学問である。 地域を学ぶことは個人が主体的な学び・自己開発を成就していくことにつながる。またその学びのため、学問分野のそれぞれの専門的な知識や地域に関するさまざまな資料へのアクセスができることも大切な条件である。主体的な学びの支援、知識・社会への接触機能を増大させるための学習環境の整備がなされる必要がある。 これまでの地域学に対する新しい地域学はデジタル資料も活用をし、自らが主体的に地域社会とふれあい、記録し、発信して学びを成就していくスタイルの学びである。自身のインタレストに発し、デジタル知識基盤のオ ープンな資料、情報源に接し、協働学習型の学びも活かしながら、能動的に学びを楽しむ。自身の学びが他者への知識・データの提供という形で知的なインタラクションへと誘う学びに転じることが可能である。 ## 2. 地域デジタルコモンズの概念 ## 2. 1 知識-情報の網目としてのデジタルコ ## モンズ 地域デジタルアーカイブは、地域の個人や団体・機関などを主体とするより具体的で縦割り的なアーカイブ群、著しく自律分散的な特性を持つアーカイブ群である。ここでは仮に「信州デジタルコモンズ」というものをモデル的に想定し、その構想を描いてみたい。 「信州デジタルコモンズ」(図 1)は、信州(長野県)をモデル地域とし、各地域の市町村 - 図書館 - 博物館 - 公文書館 - 公民館などの施設・大学・学校・企業(産業界)・市民グループ・個人などが自律分散的に知識の源泉となるデータを生産・集積しながら、それらを横断的・包摂的に検索・閲覧・活用で きる、開かれたデジタル情報基盤である。誰もがここに参加し、お互いに知識・データを持ち寄りながら、その発信主体を県域に広げていくことにより、自律分散型で広域な地域のデジタルアーカイブを構築することができる。 図 1. 信州デジタルコモンズ ## 2.2 群小の地域デジタルアーカイブ=ポー トフォリオ 本来的に知識は、研究者・学習者の個人に発するものである。この観点からは、それぞれの研究者・学習者の個別の成果物 (ポートフォリオ)を蓄積し公開して行くこと、また、知識形成に役立つ関連の資料・データの品揃えを増やして行くこと、これらの包摂・横断、 さらにそれらの相互関係を可視化する情報の網目の組成(関連性のリンク付け)を行っていくことがデジタルアーカイブの目指寸方向であることが了解されよう。 『信州デジタルコモンズ』では、ポートフオリオを信州学の学 (知識) と学び(学習プロセス)の知識やデータを載せ合える「ネット上の本棚」と例えてみることにする(図 2)。 図 2. デジタルコモンズはネット上の本棚 自分用の本棚がそこにあり、自分のデータを そこに載せると自分自身がいつでもどこでも取り出すことができる。また、ネット上の本棚にデータが蓄積されているので、他の人にとっても参照したり、再利用したりするなどの利便性が向上する。 ## 2.3 主体的な学びプロセスの支援 端山貢明は、現代社会における旧来の「教育」の概念を改め、現代の要請に対応する新しい体系である「自己開発・学習支援」の機能の重要性を説いている。「自己開発・学習は常に発見的プロセス(heuristics)であり、多様な対象と遭遇することにより常に新しい発見に基づく新しい対応の体系を自らのうちに生成し続けるものである。」[1] デジタルアーカイブに本来的に自己開発・学習支援の機能が内包されていることは、これまでデジタルアーカイブの論考では欠落しがちであった。この点をここでは問題提起しておきたい。自己学習には、自ら書き込むスペースとその蓄積が必要である。自らのデジタルアーカイブをデジタルコモンズに載せることで、デジタルアーカイブが自らのポートフォリオになると同時に、他の人々のポートフォリオ(デジタルアーカイブ)を参照しながら、自身のポートフォリオも作成していくことができる。 ## 2.4 学習プロセス=制作プロセス デジタルデータは実世界(地域の様子を記録した画像・映像、地域資料など)を写像したデータである。つまりデータである以前に実世界のサンプルである。これらを整理し、学習した成果をまとめるためには、未整理な素材をグループ化したり、タイトルを付けたりしながら、全体をほどよく構造化することにより、地域に対する理解や関心を引き出す事ができる。 しかし既成のデジタルアーカイブシステムは、データをアーカイブシステムに登録するためのツールに留まっているものがほとんどである。文書データや画像などの素材に対してメタデータを付加する機能、デジタルデー タを閲覧するビュアー機能は通常は備えているが、学習者がそれらのデータと対話し、そこから対象世界を理解したり、自身の学習成果となるコンテンツを編集したりする思考プロセスを支援することは驚くほどに想定されていない。 ## 2. 5 非定型ドキュメントの記述$\cdot$定義法 知識の記述は基本的に非定型である。ダブリンコアでは非定型ドキュメントの構造記述ができない。従って、それを補完するための非定型ドキュメントの記述・定義法が必要となる。 当初、私はこの知識記述の課題に直面した際に、Web ページの自動生成を意識しつつ、 デジタルアーカイブデータがデータベース管理されることを想定し、「データベースのスキ一マとデータオブジェクト (レコード)」仕様を定義した[2]。これらは後述するアーカイブ構築支援ツール PopCorn/PushCorn により編集とウェブサイトの自動生成を可能とした[3]。 図 3 はアーカイブコンテンツ「小諸まちあるき 2015」をカテゴリとし、まちあるきの過程でサンプリングした画像 753 点を見学先のポイントごとに表題化し 38 件のトピックに集約したものである $[4]$ 。 図 3. 非定型ドキュメント生成例 ## 3. 地域デジタルコモンズ「わたしたちの信州」のデザイン ## 3-1 信州デジタルコモンズの概念 地域デジタルコモンズは地域の誰もが地域の知識・データの編纂ができるネット上の本棚である。地域の活動、学校での学び、個人の地域学習など、それぞれは単位も主体もばらばらなものである。またいずれも小規模なものである。しかし、それらはそれぞれが主体的に自己開発・学習を進めるものである。場合によっては文字通り数十年の生涯にわたる学習に成長する可能性がある。その可能性を保証することが、これからのデジタルアー カイブには求められよう。 図 4 に示すようにデジタルコモンズのサー ビスを市民グループ、学校、図書館、博物館、個人などが分散的に利用する輪が広がる事により、それはシンプルでありながら、全県的規模の大きなデジタルコモンズとなる。 図 4. デジタルコモンズの利用参加イメージ ## 3-2 地域学実践モデル「立科町探検隊」 以上の考え方、方法を地域学実践モデル 「蓼科学/立科町探検隊」に適用した [5]。この実践は学校でデジタルコモンズを活用したアクティブラーニングによる地域学習のモデルとなることを想定している。 多くの教員が地域学習を指導できずに困っている現実がある。教員が地域に対する基礎理解が不足しているために尻込みしがちであることに一つの要因がある。しかしアクティブラーニングはその指導法さえ理解できれば、知識の程度を問わず実施可能なものである。 そのためのガイドラインを示すことが、その普及啓発には大切である。 「蓼科学」では、8回の授業「地元から地域を学ぶ『立科町探検隊』』をアクティブラー ニング型の授業として実施した。 当該授業では、生徒が主体となって探検隊 (地域への取材活動)を行うこと、結果を持ち帰ることを支援することに重点を置いた。 記録する手段にはデジカメとビデオカメラが最も適している。画像と映像(話の記録) を記録として持ち帰る事ができるからである。当該授業の成果は、YouTube と PushCorn によりアーカイブサイトに公開した他、地域開放型の発表会を実施した[5]。 「立科町探検隊」は毎年実施されることに より、立科町の産業、行政、歴史、文化など多様な視点から多様な人々を記録することになる。それにより、立科町の生きたデジタルアーカイブが実体をなすことになる。 各地域で同様の取り組みがなされていけげ、 どの学校でも地域学習が実行可能な取り組みとして、地域全域に広げていく契機になる。 ## 3-3 群小化に対応したプログラム適用 デジタルアーカイブは大規模なものである必要はない。データセットは極めてシンプルに構成することができる(図 5)。 図 5. ミニマムなデータのセット どんな大規模なデジタルアーカイブであっても、メタデータは画像等のデータファイルとセットになっており、データの管理さえできれば、デジタルアーカイブサイトの生成処理が可能である(図 6)。これらの処理は平易なプログラムで運営できる。 図 6. アーカイブ運営の処理モデル この方式のメリットは、(1)地域デジタルコモンズの群小で多様なアーカイブに柔軟にプ ログラムを適応させることが容易なこと、(2)開発コスト・工数が最小に抑えられること、 (3)プログラムの差し替えがしやすいためデー 夕の保全継承を保証しやすいこと、(4)平易なプログラミングで対応できるため、プログラミング学習者の成果を害稼働システムに取り込みやすくすることが挙げられる。 平易なプログラム開発は地域の有志が地域デジタルコモンズの運営に参加する機会を増大させる。大学等におけるプログラミング教育、地域課題解決のためのハッカソンなどとの連結がしやすい。技術に不得手な人々に対してはデジタルアーカイブの仕組みをそのホワイトボックス化から学ぶ効果も期待できる。 ## 4. 今後に向けて 地域デジタルコモンズは、群小で多様な地域デジタルアーカイブのプラットフォームとしての普及が期待される。それと共に各自の自己開発・学習が地域デジタルコモンズの源泉となって、その輪が広がることを願いたい。 ## 参考文献 [1]端山貢明. ネット・ムセイオンを目指して I . 東北芸術工科大学紀要 No.7. 2000, p.104127. [2]前川道博. WWW 指向 MMDB の概念と実装法. 映像学 59 号. 1997, p. 104-120. [3] PopCorn ワーキンググループ. "PopCorn”. http://www.mmdb.net/popcorn/(参照 2017$12-25$ ) [4]前川道博.“ミッチーのほぼ日記/小諸まちあるき. $2015 ”$ https://www.mmdb.net/usr/mae/hobo/cat/ko moro2015.html(参照 2017-12-25) [5]前川道博(編).“地域学習アーカイブ“. https://www.mmdb.net/usr/oraho11/chiiki-a/ (参照 2017-12-25) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C12] 佐賀デジタルミュージアムの構築: 〜佐賀の遺産を後世に伝えるために〜 ○河道威 1), 古賀崇朗 1), 永溪晃二 ${ }^{11}$, 穗屋下茂 1), 梅崎卓哉 2), 田代雅美 2) 1) 佐賀大学全学教育機構, $\overline{9} 840-8502$ 佐賀市本庄町1番地 2) 佐賀大学クリエイティブ・ラーニングセンター E-mail:[email protected] ## Construction of "Saga Digital Museum": \\ - In Order to Hand Down the Heritage of Saga to Posterity - KAWAMICHI Takeshi1), KOGA Takaaki ${ }^{11}$, NAGATANI Kouji1), HOYASHITA Shigeru ${ }^{11}$, UMEZAKI Takuya ${ }^{2}$, TASHIRO Masami ${ }^{2}$ 1) Saga University Organization for General Education, 1 Honjyo-machi, Saga, 840-8502 Japan 2) Saga University Creative Learning Center ## 【発表概要】 佐賀大学では、これまでに佐賀県内の伝統工芸や伝承芸能などの歴史的・文化的な資産や資料を映像として記録し、デジタルコンテンツ化及び e ラーニングコンテンツ化を行ってきた。それらのデジタルコンテンツをアーカイブし、誰でも Web 上で閲覧できるようにするため、2014 年に「佐賀デジタルミュージアム」を構築した。システムとしては、ポータルとしての役割を担う WordPress、収蔵品の管理・検索・展示を行う Omeka、e ラーニングのプラットフォームとして Moodle(Modular Object-Oriented Dynamic Learning Environment)を用いて構成している。公開当初は 15 項目の収蔵品でスタートしたが、現在は、徐々にではあるが収蔵品の数を増やしている段階である。本稿では、佐賀デジタルミュージアムの概要とその収蔵品の収集・制作の現状とこれからの課題について報告する。 ## 1. はじめに 近年では、日本国内においてもデジタルア一カイブの重要度が高まってきている。各地域に存在する史跡や有形、無形の文化財、自然遺産などをデジタルデータとして記録、保存、継承することが注目されてきている。また、博物館や美術館などの展示施設においてもデジタルアーカイブを活用した展示なども増加している。 佐賀大学では、2001 年に e ラーニングスタジオを設置し、多種多様な e ラーニングコンテンツを独自に開発してきた。その中には、地域の伝統工芸や伝統芸能を記録したコンテンツがあり、本学の e ラーニングコンテンツの特徴ともなっている。そこで、これらのコンテンツを活用してアーカイブし、多くの人に閲覧して頂けるように、Web 上で閲覧できる「佐賀デジタルミュージアム[1]」(以降、本ミュージアムと記す。)を構築し、2014 年末に公開した。 ## 2. システム構成 本ミュージアムは、ポータルサイトと収蔵コンテンツ管理システム、e ラーニング教材配信サイトの 3 つから構成されている。本ミュージアムの構成図を図 1 に示す。 図1. 本ミュージアムの構成図 ## 2. 1 ポータルサイト ポータルサイトでは、「概要」や「新着情報」、「お問い合わせ」などの情報を提供している。このポータルサイトは、ブログや $\mathrm{CMS}$ (Contents Management System) のプラットフォームとして利用されている WordPress を用いて構成している。機能拡張のプラグインも豊富にあり、カスタマイズが比較的容易であるため採用した ${ }^{[2]}$ 。ポータルサイトのトップページを図 2 に示す。 図 2.ポータルサイトのトップページ ## 2.2 収蔵コンテンツ 収蔵コンテンツは、主に静止画と動画及び文字情報による解説で構成している。静止画は JPEG 形式で、各項目につき 1 枚〜複数枚を掲載している。動画の形式は MP4 あるいは WebM 形式で配信している。動画の長さは、 1 分 $\sim 5$ 分程度とし、各項目につき 1 本掲載している。項目によっては、静止画のみ、動画のみの掲載している場合もある。 収蔵コンテンツの管理システムには、 Omeka を用いている。Omeka は、図書館や美術館などの学術資料等の展示に適している Web パブリッシングのプラットフォームである。展示コンテンツのメタデータ管理機能を標準で有していることもあり本ミュージアムに採用した ${ }^{[1]}$ 。収蔵コンテンツページを図 3 に示す。 図 3. 収蔵コンテンツページ ## 2. 3 e ラーニング e ラーニング教材配信サイトでは、一部の収蔵コンテンツに関連した長編の学習教材を配信している。本学ではこれまでに、「ネット授業 ${ }^{[3]}$ 等で使用する e ラーニング教材として、地域の歴史や文化について学習する「伝統工芸と匠」や「吉野ヶ里学」、「有田焼入門」などの地域密着型コンテンツを多数制作してきた。それらのコンテンツを本ミュージアムでも e ラーニング教材として利用している。e ラーニングサイトは、自己登録制としており、利用希望者は、氏名やメールアドレス等の情報を登録してサイトにログインし、希望の e ラーニング教材を聴講することが出来る。また、収蔵コンテンツページに e ラー ニングサイトのリンクを表示し、興味を持った利用者が関連する e ラーニング教材にアクセスしやすいようにしている。 教材の配信には、オープンソースの LMS (Learning Management System) である $\lceil$ Moodle (Modular Object-Oriented Dynamic Learning Environment)」を用いている。また、学習教材は、SCORM 2004 規格に基づいて VOD コンテンツとして作成している。学習教材画面を図 4 に示す。 図 4. 学習教材画面 ## 3. 収蔵コンテンツ ## 3.1 収蔵コンテンツのカテゴリ 本ミュージアムの収蔵コンテンツは、「伝統工芸」「伝統芸能」「遺跡・史跡」「建築物」 「自然・風景」「その他」の 6 つのカテゴリに分類している。 「伝統工芸」カテゴリでは、焼き物を中心として佐賀県内に多数継承されている伝統工芸品と、それらに携わる職人の方々を取り上げている。「伝承芸能」カテゴリでは、佐賀県各地で伝承されている神事芸能やそれに伴う祭りを取り上げている。佐賀県は、基幹産業が農業であり、豊作や五穀豊穣を神に願う神事芸能が盛んな地域である。「遺跡・史跡」カテゴリでは、国や県の史跡等に指定されている歴史的に重要なものを取り上げている。「建築物」カテゴリでは、佐賀県の歴史上重要な建築物を取り上げている。既に取り壊され形が残っていないようなものについては、 3DCG による復元も行っている。「自然・風景」カテゴリでは、国の名勝や天然記念物に指定されているものや後世に残したい風景等を取り上げている。「その他」カテゴリには、上記のカテゴリに属さないものや、別途制作した佐賀県の歴史に関する動画コンテンツを掲載している。また、文化財や史跡指定等はないものの、様々な原因で将来的に消滅する可能性が高いものについて、特に積極的に取り上げるようにしている。 本ミュージアム公開時の収蔵コンテンツ数は 15 項目であったが、2017 年 12 月時点では、28 項目である。収蔵コンテンツ一覧を表 1 に示す。表 1. 収蔵コンテンツ一覧 \\ ## 3.2 収蔵コンテンツの制作 本ミュージアムの収蔵コンテンツは、静止画に加えて動画コンテンツを掲載していることが大きな特幑である。静止画だけなく動画コンテンツも掲載することで、より多くの情報を伝えることができる。特に伝統芸能や伝統工芸など、人間の動きを伴うものでは、動画のほうがより詳細な内容を伝えることができ、且つ利用者もイメージが湧きやすいという利点がある。 1 分 5 分程度の短い動画の中で、それぞれの詳細や内容が視聴者に伝わるように、なるべく要点をまとめて編集を行っている。更に、動画には解説用のテロップを付けることで、より理解を深めることができるようにしている。また、記述内容に誤りが無いよう、関連資料等を十分に検討した上で制作している。 本学でこれまで制作してきたコンテンツを再利用する場合は、長編の動画を本ミュージアムでの展示用に短く再編集している。また、随時、撮影・編集を行い、新規の収蔵コンテンツも追加している。動画コンテンツの画面を図 5 に示す。 尚、本ミュージアムへの掲載に際して、コンテンツ制作にご協力頂いた方々に、掲載承諾書の提出をお願いしている。 図 5.動画コンテンツ画面 ## 3.3 収蔵コンテンツのメタデータ それぞれの収蔵コンテンツには、静止画と動画に加え、閲覧情報としてメタデータを登録している。登録するメタデータは、「タイトル」「よみ」「説明」「指定文化財等」「キーワード」「作成者」「撮影日」「場所」「タイプ」「関連サイト」「地図(位置情報)」「登録日」「権利」など、全 19 種類で、該当データがある項目のみ表示される。 これらの登録されたメタデータを利用することで、「キーワード」や「タイプ」、「位置情報」などから収蔵コンテンツを検索や絞り込み、閲覧できるようになっている。 ## 4.これからの課題 これからの本ミュージアムの大きな課題としては、収蔵コンテンツの充実と、本ミュージアム閲覧者の増加の 2 点である。 ## 4. 1 課題 1 :収蔵コンテンツの充実 収蔵コンテンツの制作については、取材・撮影を担当できる人員が少なく、定常的に収蔵コンテンツを追加することが困難である。 また、なるべく動画コンテンツを収蔵することを目標としており、撮影と編集に時間がかかる。特に伝統工芸では、取材対象の工程に合わせて何度も撮影に行く必要があるものや、伝統芸能のように日程が限定されているものもあり、年間を通して数多くの取材・撮影を行うことが難しい。また、正確な情報掲載のため、資料収集等に時間がかかる場合もある。 しかしながら、収蔵コンテンツの質を保つことも重要であるため、制作スピードとのバランスを上手く取りながらコンテンツの制作を進めなければならない。そのためには、コンテンツ制作に従事する人材の確保も重要である。地域コンテンツ制作に興味のある学生との協同制作等も検討していく必要がある。 ## 4.2 課題 2 :閲覧者数の増加 2014 年末に公開して以来、本ミュージアムの認知度は低く、周知が上手く行っているとは言い難い。また、e ラーニングサイトへの登録者も少ない。まずは、収蔵コンテンツ数を増やし、内容を充実させるとともに、佐賀県内の各自治体や文化財管理団体等への周知を図っていきたい。また、既存の SNS (Social Networking Service) を活用し、本ミュージアムの公式アカウントで収蔵コンテンツの写真を共有するなどし、それを起点に本ミュージアムのサイトへの誘導を図ることも試していきたい。 ## 5. おわりに 地域の歴史や文化、また祭りや芸能など地域の活動の様子を記録し後世に残すために、本ミュージアムの果たす役割は非常に大きいものと考える。また、地元の大学が取り組んでいることへの地域の方々の期待は大きい。取材先でも本ミュージアムへの期待の言葉を頂く。そのような声に答えるためにも、細やかな取材や検証による高品質なコンテンツを収蔵したミュージアムの充実を目指したい。 最後に、本ミュージアムは日本財団の支援を受けて構築されたものであり、収蔵品コンテンツ制作の際には、多くの団体・個人の皆さまに多大なる協力を頂いた。この場を借りて感謝申し上げる。また、本ミュージアム構築においてワーキンググループの中心的役割を担って頂いた田口知子氏にも、この場を借りて改めて感謝の意を表す。 ## 参考文献 [1] 佐賀デジタルミュージアム http://www.saga-els.com/sdm/(2018 年 1 月 3 日参照) [2] 古賀崇朗.田代雅美.米満潔.河道威.永溪晃二.梅﨑卓哉.中村隆敏.角和博.高﨑光浩.穗屋下茂:地域の歴史や文化を保存・継承・発信する佐賀デジタルミュージアムの構築.佐賀大学全学教育機構紀要,第 4 号,2016,165-173 [3] 佐賀大学ネット授業 http://netwalkers.pd.saga-u.ac.jp/(2018 年 1 月 3 日参照) この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 新年を迎えて ## 柳 与志夫 YANAGI Yoshio 総務担当理事/東京大学大学院情報学環特任教授 明けましておめでとうございます。 昨年(2017 年)5月に発足したデジタルアーカイブ学会ですが、昨年末までの 8 か月で、第 1 回研究大会 (岐阜) 3 回の定例研究会 - 第 1 回公開シンポジウムの開催、学会誌発刊(すでに 2 号を発行済み)など目覚ましい展開を見せ、学生会員を含む個人会員数もすでに 284 人 (2017 年 12 月 18 日現在) となっています。 また、設置された四つの部会と関西支部においても、 デジタルアーカイブ法制度の検討や研究会の開催等活動が活発化しています。これも会員の皆様の積極的なご参加の賜物です。 2017 年は本学会の設立以外にも、デジタルアーカイブ推進コンソーシアムの設立 (4月)、「知的財産推進計画 2017」におけるデジタルアーカイブ推進の政策化(5月)、自民党デジタルアーカイブジャパン構想推進議員連盟発足 (6月)、「第 3 回アーカイブサミッ卜 in 京都」開催(9月)など、産官学民政のすべてのセクターでデジタルアーカイブ振興に向けての全国的レベルの取り組みが目立った年となりました。そして、こうした一連の動きの中で、デジタルアーカイブ学会が果たす役割も明確になってきたように思います。それは吉見会長代行が第 1 回研究大会の冒頭報告でも提唱した、「デジタル知識基盤社会構築のための草の根から政府までを縦横につなぐ政策形成のプラッ トフォーム」の役割です。その第一歩を昨年は踏み出すことができたのではないでしょうか。 2018 年はこうした方向性を意識したうえで、着実に学会活動を進展させていきたいと考えます。具体的には、第 2 回研究大会の開催 (3月)、年 4 回程度の定例研究会、シンポジウム等公開イベントの開催、学会誌の発行(年 4 回を目標)を基軸に、むしろ五つの部会・支部や自主的な研究会の活動が学会の実質的中心となっていくことが重要です。また、デジタルアー カイブ推進コンソーシアムを始めとする産官学民政の諸団体・機関との連携事業や研究会組織化等に積極的に取り組み、我が国におけるデジタルアーカイブの発展に貢献することも本学会の大事な役割です。その一方で、「デジタルアーカイブ」の概念、範囲、機能、役割等についての学術的検討や社会的合意形成はまたこれからの課題です。いわば「デジタルアーカイブ基礎論」の地道な探求も学会として欠かすことはできません。 本学会はその性質上、様々な研究分野・社会活動に携わる会員が集まっています。多様な背景を持つ人々が集い、自由に議論する場として本学会が十分機能することができるよう、本年も学会員の皆様の積極的なご参加を期待しています。
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# [P07] 地域映像アーカイブの構築と活用に関する課題: 北海道$\cdot$夕張市の事例から 水島久光 東海大学文学部 〒259-1292 平塚市北金目 4-1-1 E-mail: [email protected] ## Issues on construction and utilization of regional video archives: From the case of Yubari city in Hokkaido MIZUSHIMA Hisamitsu Tokai University 4-1-1 Kitakaname, Hiratsuka, Kanagawa, 259-1292 Japan ## 【発表概要】 北海道夕張市の財政破綻から 10 年、発表者の現地における「映像アーカイブ・プロジェク ト」のスタートからも 10 年になる。その意義は、「過去の痕跡」たる資料群から、地域再生の手掛かりを見出し、市民の建設的コミュニケーションに資することにある。しかし、ローカル・コミュニティにおけるアーカイブの構築には、ナショナルかつトップダウンで行われるプロジェクトとは異質な壁、ハードルが多数存在している。本発表ではそれらを正視し、アーカイブ・プロジェクトが公共性の実現に寄与するための課題に迫ることを目標にしている。特にここで提起したい問題は、「ダークアーカイブ」の重要性と、「地域の肖像権」というコンセプトの妥当性である。夕張市の事例からそれらの問題に切り込む入り口を探りたい。 ## 1.はじめに:財政破綻と映像アーカイブ 2006 年 6 月 20 日、北海道夕張市の財政破綻のニュースが流れた。標準財政規模の 14 倍にもなる 632 億円の巨大な負債の存在が明らかになり、(最終的には、病院事業会計、観光事業会計などの廃止によって、実質的に解消すべき赤字額 353 億円、返済期間は 18 年となる)、翌 2007 年 3 月から同市は財政再建団体と認定された。 それから 10 年、夕張市は自治体としての多くの機能を失った。「再生」のための建設的予算はほぼなく、人口減少は加速、廃墟だらけの集落は徐々に森林に帰っていった。しかしそうした窮状の中でも、町に留まり将来を展望する人々はいた。元石炭博物館館長の青木隆夫もその一人である。青木は私的に「夕張地域史研究資料調查室」を立ち上げ「地域の記憶の消失」へ細やかな抵抗姿勢を示していた。 2007 年夏、夕張を訪ねた発表者(水島)は、青木から博物館に数多くの映像資料が残されていることを聞かされる(第一次資料)。青木 は $35 \mathrm{~mm} 、 16 \mathrm{~mm} 、 9.5 \mathrm{~mm} 、 8 \mathrm{~mm}$ といったフィルム映像、夕張をはじめとする全国の産炭地を映したテレビ映像等を VHS テープに保存していた。これらを「破綻の町・夕張」の再生の検討資料として活用することには意味がある。そうした考えから、2008 年〜9 年にかけて、デジタルダビングを行った——これが 「ゆうばりアーカイブ」の出発点である。映像資料の中で最も古いものは 1916 年三井八郎右衛門が三井登川・北炭夕張の両炭鉱事業地を視察したものである。その他、戦前の採炭や土木工事、戦後の産出の最盛期の様子を経て、事故・閉山、政策転換から破綻に至るまで、その総数は重複を除き 413 タイトル。この「人々の視線の痕跡」群の社会史的価値が小さくないことは言うまでもない。 青木と水島はこれらの資料をベースに地域史の研究を進める一方で、2009 年、リスター トした「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」において上映会を企画、2017 年まで継続的に開催している。しかしそれらが言葉の本来の意味で「アーカイブ」として機能するには、未だに多くの壁が立ちはだかっている。 ## 2. ゆうばりアーカイブの課題 ## 2.1 私的コレクションの「アーカイブ化」 そもそも「私的」に収集されたコレクションとアーカイブとを隔てるものとは何か。記録管理の連続性を唱える「レコード・コンテイニュアム」の図式に従えば、アーカイブは 「組織や個人の記録の総体」を指し、ドキュ 一カイブ(組織化)ーアーカイブズ(多元化)に至る「第三次元」に置かれている[1]。 これを前提にするならば、その資料を組織化する作業自体がまずなされねばならない。 一見文字資料などに較べると「とつつきやすく」「理解しやすい」ように思える「映像」。しかしその保存媒体には「パッケージから内容が把握できない」「再生機器が限定される」「再生時間が膨大である」など、その資料価値に目が届く手前の調査に物理的なハードルが多く、それが対象群を集合体として扱う行為を阻害する。「デジタル化」は、何よりまずそれを取り除く手続きと言える。 青木が集めた夕張市のコレクションは、とりあえず VHS という形態に統一されていた点においては、作業に着手しやすい状態にあった。しかしダビングには 500 近いタイトルの再生総時間がそのまま必要となる。2008~ 9 年の第一次作業は水島の研究休暇と必要な協力者が得られたため可能となった、しかしその後 2015 年に旧市立図書館から運び出された第二次資料群(市民会館の映像資料室に保管されていた広報映像群 141 タイトル)の調査作業は未だ進んでいない。と同時に、もう一つの阻害要因——このコレクションが 「私的に録画された番組」や「視聴用に譲渡された映像」を多く含むが故の、作業委託における権利上の壁が明らかになってきたのだ。 ## 2. 2 「ダークアーカイブ」問題としての側面資料の性質ゆえに作業が困難に陥るという、 こうした状況は、いわゆる「ダークアーカイ ブ」(保存を優先し、当面公開をしないアーカ イブ)が抱える問題と重なる点が多い。「ダークアーカイブ」という概念は、電子書籍の課題とともに認識が広がりつつあるが [2]、そこにおいては主に「バックアップ」と しての役割が期待されている。しかし突き詰 めればそこからは「アーカイブの構築主体」 の問題、すなわち「『著作物の権利保有者、あ るいはそれを代理しうる者がアーカイブを成 す責任があるという』物言いは果たして自明 のものなのであろうか」という問いが提起さ れざるをえない。 納本制度や、それに範をとるフランスの I $\mathrm{NA}$ 等の映像アーカイブの考え方は、まずは 「ナショナル・セクターがその引き受け役となるべき」という原則に立つ。保存されるものが著作物であるという前提で論じるならば、 それには一定の妥当性があるだろう。しかし、「映像」にはその認識には回収されきれない重要な側面がある。「肖像権」の問題である。 NHKアーカイブスの現状は、まさにこのパラドックスを体現している。ナショナル・ アーカイブとしてのNHKアーカイブスは、 2003 年以降全ての全国放送番組を保存し組織化しているが、しかし公開については未だに全体の $1 \%$ 至っていない。ここにおいては「著作権」よりも「肖像権」が大きな壁となっていることはよく知られている。 成文法に依拠しない「肖像権」は、拒否権としての判例の積み上げによって、皮肉にもそのパーソナルな利害と放送のナショナルな機能の遠さを浮き彫りにするに至っている。 それはマスメディアの宿命であると言えばそれまでであるが、仮にそうだとするなら、装置から切り離されたアーカイブ素材としての 「映像」には、別の論理が適用される余地もあろう。 ## 3.「地域」がブレークスル一の鍵を握る この問題は、いかにして「利用者」が「ア一カイブの構築主体」たることが可能かという問いと結びつく。「放送映像」の被写体としての個人が、制作・著作者である放送事業者 (及びそのナショナルな組織体)を迁回して、 自らの「肖像」の権利保全を求めるというのも、むしろ回りくどい話である。 元をただせば、マスメディアにおける「肖像」が、パブリシティ権を除けば、映像の中で主体性がはく奪されている(「姿が取り込まれている」=レコーディングされている)ものとして扱われていることに問題がある。ここにそもそもの「権利者」の利活用のフィー ルドを改めて措定しなければならない必然性がある一—その受け皿となる概念がコミュニティである。 とりわけ「地域」コミュニティは、被写体の日常生活のリアルを構成する環境を成している。オギュスタン・ベルクの「風土」概念を援用し、また日本国憲法第 13 条の幸福追求権に基づき、発表者はこの請求権としての 「肖像権」を「地域の肖像権」と呼ぶことを提唱してきた[3]。それは、映像と指し示すもの、認識主体と実在との近い距離(時空間) の中で、その「姿」を取り戻す実践(アクション)の根拠を成すのみならず、「地域」という集合性・組織性と、アーカイブの機能としての集合性・組織性とを重ね、意識化を促す契機となる。 またこの権利概念は、「私的コレクション」 に「アーカイブ」としての公共性を付与するという点で、地域の博物館・美術館、図書館、文書館等の施設が、資料に関する積極的な利用環境や条件を整え、「受け皿」として機能する可能性を拓く根拠ともなるだろう。 ## 4. おわりに:まず、アジェンダの提示を 夕張市の事例は、その目標に向けてステップを踏んでいくためのアジェンダを提示してくれる。現在「デジタル化」と並行して行われている第一次資料群、第二次資料群の分類 - 調查作業を通じて、NHKアーカイブスにおける映像の保存状況との対照関係はほぼ明らかになっては来た。が、ここから次の展開に踏み出すには、「地域」とNHKとの(あるいは放送業界全体との)、デジタル社会の公共性に関わるビジョンの共有と連携が欠かせないであろう。そのためにはまず、各地の「地域映像アーカイブ」同士の情報共有とネットワークの構築が不可欠となる。 それはダークアーカイブと完全な公開が前提とされた(理念形としての)ライトアーカイブの中間項としての「グレーアーカイブ」 の在り方を模索するアクションとなるだろう。 その際には「地域」を一つのエコ・システムとして捉える視座が重要となる。アーカイブ構築 $\Leftrightarrow$ 研究の蓄積 $\Leftrightarrow$ 市民参加による活用と実践の「循環(サーキュレーション)をデザイン寸ること一—「地域」が様々なアーカイブノアーカイブズ問題を乗り越えるためのキー ワードとなり得る理由はこの点に集約されている。 ## 参考文献 [1] E.Shepherd, G.Yeo, 森本祥子他編訳. V コード・マネジメント・ハンドブック。日外アソシェーツ. 2016, 31p. [2] 植村八潮. 既存の知的財産をいかにアーカイブしていくか. アーカイブ立国宣言.ポッ卜出版. 2014, 219p. [3] 水島久光. テレビ番組における風景の亡失 (前・後編) . 東海大学紀要文学部 $95 、 97$ 輯. 2011,2012.ほか この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P06] 大山の大綱引きのデジタルアーカイブについて 又吉斎 沖縄女子短期大学 〒901-1304 沖縄県島尻郡与那原町東浜 1 番地 E-mail: [email protected] ## Digital Archive of Oyama Giant Tug-of-War MATAYOSHI Itsuki Okinawa Women's Junior College Agarihama 1, Shimajiri, Okinawa, 901-1304, Japan ## 【発表概要】 国の定める文化財保護法において、「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」として選定されている沖縄の綱引きという地域文化をいかにデジタルアーカイブ化するかについて検討し、その構成内容・記録撮影の方法について解説した。具体的には、沖縄県宜野湾市大山に伝わる綱引きをテーマとし、大綱の制作工程、祭祀儀礼を含む一連の綱引き行事、及び撮影方法について、歴史的背景とともにアーカイブ化した。こうした地域文化情報のデジタルアーカイブ開発を通して、いかに地域文化の継承・発展に寄与し得るかという視点から、クリエイティブ・コモンズが提供する CC ライセンスの重要性について報告した。 はじめに稲作文化として発祥してきた綱引き行事の歴史を示す文化資料として、綱の材料となる稲葈の栽培環境(稲田)の様子や綱作り作業で用いられる脱穀機による葈鋤き作業とともに、大綱の形態が示す稲作文化としての儀礼的意味あいについて紹介した。 更に、稲作農耕と綱引き行事との結びつきを伝える綱引き前の一連の祭祀儀礼の様子についても、大山区民が継承してきた精神性を示す重要な文化情報の一つとしてアーカイブした。このほか、綱引き行事としては、綱を担いで集落を練り歩く道ジュネー(スネイ)にはじまり、綱引き本番前の示威行為とされる旗頭の上げ合い勝負のガーエーや両綱をぶつけ合うダイナミックなアギエーと呼ばれる勝負も、綱引き勝負と同様に大山綱引きの特徴を示す文化情報として記録した。 最後に、綱引き行事の撮影記録について、撮影者 10 人による多方向撮影(10 点)について解説した。 ## 1. 大山大綱引きと稲作文化 沖縄県宜野湾市大山区の綱引きは、戦後しばらく途絶えていたが、1965 年(昭和 40 年) に復活して以来、毎年旧暦 6 月 15 日 (ウマチーの日 $=$ 稲の豊年祭)に近い日曜日に開催されている。大山区のように、稲作の節日に行われる綱引きは、他の地域にも共通する沖縄綱引きの特徴である。このことから、沖縄の綱引きが、元来、稲作の豊穣を祈願する儀礼として発展してきた伝統行事であることがわかる。 こうした沖縄の綱引きと稲作文化との繋がりは、稲作が衰退した今なお、大綱の材料として稲䔔を他地域から購入し確保しているという強いこだわりにも見て取れる。また、綱作りでは、稲㩰を鋤く作業に用いられる脱穀機という古い農具も、沖縄の綱引きと稲作農耕との深い結びつきを今に伝える有形文化財 として地域に継承されている。 ## 2. 大綱の形態 大山の大綱引きと稲作文化との結びつきは、大綱の形態と綱の引き方にも読み取れる。先ず全長約 $40 \mathrm{~m}$ の稲葈で綯った大綱 2 本は、それぞれ雄綱・雌綱としての異なる性を表象する装飾技法によって特徴づけられている。綱引きの引き方としては、両綱の先端の輪(これを「カヌキ」と呼ぶ)を、カヌキ棒(貫棒 =ぬきぼう)と呼ばれる長さ約 8 尺 $(240 \mathrm{~cm})$ の松の丸太を貫いて結び、集落を前部落と後部落とに二分して引き合う勝負となっているが、このように雌雄の二本綱を結ぶ綱の引き方は、生殖行為の表象であり、従って綱引き行事が単なる噈楽ではなく、元来、稲作の豊 穣祈願としての意味合いを包含していると考えられている。 カヌキ棒で結ばれた雄綱と雌綱 ## 3. 綱引き行事 (祭祀儀礼から綱解体まで) 綱引き行事の一環として今なお続く、各聖地への参拝という祭祀儀礼も、地域の精神文化を今に伝える重要な文化情報と捉える。大山区では、綱引き行事の成功祈願としての意味だけでなく、かつて稲作が盛んであった当時から伝えられる豊穣祈願といった予祝儀礼のほか、地域住民の健康と発展を願う意味合いが込められているとされる。 その他、区内の災厄を鿆うといった意味合いから、かつては綱引き行事の終了後、綱を川へ流したり、焼き払うなどの処理を行ったとされるが、残念ながらこれを示す資料は現存していない。 ## 4. 大綱引きの撮影方法 大山綱引きの最大の見どころは、何と言つても綱引き本番の前に行われる「アギエー (上げ合い)」と呼ばれるダイナミックな一本勝負である。この大山伝統の一戦は、両綱を長さ 6 尺(約 $180 \mathrm{~cm}$ )の棒で頭上高く持ち上げてぶつけ合い、相手の綱を先に地につけた方が勝ちとなる、言わば大綱引きの前哨戦である。 特に迫力あるアギエー勝負の撮影方法としては、両綱の全体的なモーション映像を記録するため、撮影者 10 人による多方向 $(10$点)撮影を行った。今回、撮影協力者 4 人を高地ポイントに配置し、定点(固定)撮影を行った。残り 6 人は地上での自由配置として、 フリーショット撮影とした。ここでの撮影のねらいとしては、高いポジションから両綱全体の動きを捉えることと、地上からは両綱の迫力ある動きと行事参加者の表情を接近で捉えることであった。 ## 4. おわりに 綱引き行事における祭祀儀礼は、綱作りや綱引きと違って、自治会長を中心とする自治会役員の限られた関係者によって執り行われており、一般区民の多くは祈願行事の存在や意義、各拝所の位置等について知る機会がほとんどない。綱引き行事に見られるこうした神事の秘匿性は、長い歴史のなかで継承されてきた伝統文化の一部であり、重要な要素と言えるかもしれないが、このような民俗文化の閉鎖的な側面は、しばしば地域文化の継承や発展にとって大きな障壁と成り得るかもしれない。こうした点においては、綱引き行事に表象される精神性としての文化価値を示す方略として、一層、デジタルアーカイブ化の有用性が認められる。と同時に、伝統文化としての綱引き行事の継承、更なる発展を目指す上では、地域社会で共有できるオープンデ一タとしてのアーカイブ利用を可能にしていく必要があると言える。 ## 参考文献 [1] 宜野湾市教育委員会(編). 読んで知る・ ぎのわんの綱引き一市内民俗芸能調查報告書. 2005,pp.55-61, 121-164 [2]平敷令治.沖縄の祭祀と信仰。第一書房. 199 0 , pp.4-15 [3]萩尾俊章.沖縄本島の綱引き~大山の綱引きを中心に:うるまちゅら島琉球。九州国立博物館. 2006, pp.220-224. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P05] デジタルアーカイブにおける知的創造サイクルの実践的研究: 飛騨高山匠の技デジタルアーカイブに関する効果測定モデル ○久世均 ${ ^{1)}$, 林知代 ${ }^{2)}$ 岐阜女子大学文化創造学部 〒501-2592 岐阜市太郎丸 80 E-mail:[email protected] ## Practical study of the intellectual creation cycle in the digital archive.: Effect measurement model about the skill digital archive of Hidatakayama Takumi KUZE Hitoshi1),HAYASHI Tomoyo2) Gifu Women's University 80 Taroumaru, Gifu, 501-2592 Japan 飛騨高山匠の技の歴史は古く, 古代の律令制度下では, 匠丁(木工技術者)として徵用され,多くの神社仏閣の建立に関わり,平城京・平安京の造営においても活躍したと伝えられている。 しかし,現在の匠の技術や製品についても,これら伝統文化産業における後継者の問題や海外への展開,地域アイデンティティの復活など匠の技を取り巻く解が見えない課題が山積している。本研究では, 知識基盤社会におけるデジタルアーカイブを有効的に活用し, 新たな知を創造するという本学独自の「知の増殖型サイクル」の手法により, これらの地域課題に実践的な解決方法を確立するために,「知的創造サイクル」をデジタルアーカイブに応用して飛騨高山の匠の技に関する総合的な地域文化の創造を進めるデジタルアーカイブの効果測定モデルについて試案をまとめたので報告する。 ## 1. はじめに 知的創造サイクル専門調査会は, 2006 年 2 月に「知的創造サイクルに関する重点課題の推進方策」を策定し, 知的創造サイクルの戦略的な展開のための具体的方策を提言した。 この「知的創造サイクル」は, 図 1 に示す記録一活用 $\rightarrow$ 創造という循環サイクルのことをいい,これをデジタルアーカイブのサイクルとしてとして捉えると, 収集・保存した情報を活用することにより,新たな情報を創り出すというサイクルとして捉えることができる。そこで,この知的創造サイクルをデジタルアーカイブに捉え直して, 知的創造サイクルとして提案しているのが「知の増殖型サイクルである。 この「知の増殖型サイクル」を具体的に飛騨高山匠の技デジタルアーカイブ(以下,飛騨高山匠の技 DA と呼ぶ)に適用し, 知の増殖型サイクルとしての大学や地域資料デジタルアーカイブの効果測定モデルの開発を試みた。このことにより, 飛騨高山匠の技 DA を構築し,その地域資源デジタルアーカイブのオープン化と共にそのデータを有効的に活用し,新たな知を創造する本学独自の「知の増 図 1 知的創造サイクル 殖型サイクル」を生かして地域課題を探求し,深化させ課題の本質を探り実践的な解決方法を導き出す手法を確立する。 ## 2.「知の増殖型サイクル」への適応 飛騨高山の匠の技に関する総合的な地域文化の創造を進めるデジタルアーカイブでは,産業技術, 観光, 教育, 歴史等で新しい「知の増殖型サイクル」を目的とした総合的なデジタルアーカイブとして捉えている。そこで, 図 2 知の増殖型サイクル これらの飛騨高山匠の技 DA を「知の増殖型サイクル」として適用すると図 2 のような構成になる。 飛騨高山匠の技の代表でもある家具は,伝統的な産業として国内および海外でも高級家具としてよく知られているが,それ以外の飛騨春慶塗を始め一位一刀彫りなどは,飛騨高山の匠の技の伝統産業とされているものの販売も芳しくないのが実情である。そのために,匠の技を受け継ぐ後継者はきわめてまれな状況であり,飛騨高山の匠の技やこころが次の世代に伝承することが困難となってきている。 ## 3. 効果測定モデルと新しい評価指標 地域の伝統文化産業を支える財源確保のためのエビデンスの整備は喫緊の課題であり, また,税金だけでなく,社会的投資等外部資金の確保のためにも地域伝統文化産業への投資効果を明らかにすることが求められつつある。こうした状況を踏まえて, 本研究では 『飛騨高山匠の技 DA』を取り上げ,それぞれの伝統文化活動の社会経済的効果及び意識的効果を定量的に分析することで,地域の伝統文化政策立案,財源確保への有効なモデルとなる。 一般に, 社会的価値の評価手法には, 図 3 に示す私的財としての価值と公共財としての価値の二つがある。私的財としては,例えば,産業技術を考えたときに,これらの売り上げ や商品開発などがそれにあたる。一方,伝統文化のような技術を考えるときには,私的財より公共財としての価值がある。例えば,将来世代のために維持したいとする遺贈価值, または,地域のアイデンティティや誇りとしての威信価値, その他, 地域の雇用の創出や所得としての経済的価値がそれにあたる。 図 3 社会的価値の評価手法 本研究では,地域振興に有効な伝統文化的事業の効果を検証するために,社会経済的効果と意識的効果の測定手法の併用によるインパクト評価手法で定量的に分析することが必要となる。 これによって,事業の効果を事前・事後にシミュレーションできるようになるとともに,効果の予測や効果が出なかった場合の検証ができるようになり, 当該事業を継続させるために必要な財源確保に有効な論理的根拠の導出が可能になる。 ## 4. おわりに 本学では, 観光, 教育分野で知的創造サイクルの一環として,「知の増殖型サイクル」を可能にするデジタルアーカイブの試行に成功している。本研究では, 地域の伝統文化としての飛騨高山匠の技 DA を「知の増殖型サイクル」を可能にするために,ロジックモデルをもとに,各ステークフォルダーを調査し, インプットとアウトプットの関係性をもとに効果測定モデルを行う実践的研究である。 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P04]少数民族の情報を世界に発信するためのアクティビ ティの実践 ○パリハティグリズバ 渡邊 英徳 首都大学東京 システムデザイン学科 ネットワークデザインスタジオ 〒184-0004 東京都小金井市本町4丁目 6 番 3-40 小金井本町住宅 E-mail: [email protected] ## Practice of activities to disseminate minority ethnic information to the world PAIERHATI GULIZIBA HIDENORI WATANABE Tokyo Metropolitan University Department of System Design Koganei honcyo jyuutaku ,3-40 4cyoume 6ban koganeishi, Tokyo Japan 184-0004 ## 【発表概要】 本研究の目的は,少数民族の情報を世界に発信することである.特に,国際情勢等の情報と比べて埋もれがちな「少数民族の文化」についての情報を人々に伝えることを主眼に置く.そして筆者自身が少数民族のひとつウイグル族の出身であることから, 本研究ではウイグルの文化情報の発信をテーマとする. 本研究ではアンケートによる人々の意識調査と,ウェブデザインの傾向についての調查を行い,ウイグルの文化情報発信についての現状を把握する.次いでその結果に基づいてデジタル地球儀を応用した作品展示のアクティビティの実践をする. ## 1. はじめに 中国において, 少数民族は国の全人口の $6.7 \%$ を占めるに過ぎない. 新疆ウイグル自治区は,少数民族が集まった大省であり, 独特な民族分布や地理景観, 及び歴史の変遷を持っている. こうした文化の情報もまた, 十分に外部に発信・伝達されているとは言えないのではないか. ## 2. 少数民族の定義と文化情報発信状況 2. 1 少数民族の定義 菅原純の中国・新疆ウイグル自治区における文字と印刷・出版文化の歴史と現状 [1] で少数民族を以下のように定義している. 複数の民族によって構成される国において, 人口が少ない 図 1.ウイグルの工芸品と服装文化民族のことを指す. 多数派の民族とは, 言語・文字・文化・宗教において異なっており, そこには常に「ナショナル」つまり国家・国民という意識が伴っているような民族のことを指す. ## 2. 2 ウイグルの理解度についてのアンケー トの調査 本研究の目的に即して,インターネットの主要なユーザであると思われる, 日本人の若年層を対象とする「一般的な知識」と「文化的な知識」について設問を回答してもらう。 アンケートの結果から,日本人の若年層は,ウイグルの文化についての知識を十分に備えておらず,通念的なイメージが先行し,細かな文化のありようについて浸透していないことがわかった. 表 1. ウイグルの理解度のアンケート 次章ではこの結果を踏まえ,ウイグルの文化情報を伝えるための展示作品を制作する. ## 3. デジタル地球儀コンテンツの制作 3. 1 デジタル地球儀の利用 デジタル地球儀を用いることで,ウイグルの地理的な条件を示しつつ,その文化情報を同時に提示することができる. ## 3. 2 作品概要 日本に留学中のウイグル人 20 人の顔写真と,観光地の写真をデジタル地球儀にマッピングする. さらに実展示を行い,鑑賞者の感想を募る。 図 2.作品[ようこそウイグルへ]全体様子 図 3.観光地の事例 図 4.人の姿の事例 ## 3.3 展示 2014 年 2 月 19 日から 2 月 23 日までに渋谷ギヤラリールデコにて約 30 人の来場者には, 本作品の制作目的などを説明したのち, 展示を体験してもらった. その後, 感想を話してもらった. 図 5.展示様子 ## 4. 結論 鑑賞者の感想から, 本作品の展示を通して, ウイグルについて事前の知識を持たないユーザに文化情報を伝えられたことが分かった. ## 5. おわりに ここまでの活動を通して, 事前の知識を持たない人々にウイグルの文化情報を伝えることができた. 以上のことから, 本研究の目的は達成されたと考える. 本研究の成果は, ウイグル以外の, さまざまな少数民族の文化情報発信のための一助となり得る。 ## 参考文献 [1]平凡社: 世界大百科事典, 13 巻, p448,1988 年 [2]アフリカ中南米アジア少数民族民族衣装「アフリカへ行こう」[online] http://africa.travel.coocan.jp/ [3]若林敬子:「中国少数民族の人口序説」、 人口問題研究/国立社会保障 - 人口問題研究所、 p35 57,1940 年 [4]菅原純:翻弄された文字文化、『アジ研ワー ルド・トレンド』(アジア経済研究所)、p12-15、 2008 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# 設立総会 $(2017 / 4 / 15)$ 写真 長尾真 会長 吉見 俊哉 会長代行 柳与志夫 総務担当理事 井上透研究大会実行委員長 総会の会場風景
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# [A01] 関西大学日本ポピュラー音楽アーカイブ:ミュージア ムプロジェクト及びアーティストコモンズの活動について: 音楽映像を中心としたアーカイブ構築に関する諸課題とアーティスト ID の付番および共通 API の提供について ○浦文夫 関西大学社会学部メディア専攻 〒564-8680 大阪府吹田市山手町3-3-35 E-mail: [email protected] ## Kansai University Japanese Popular Music Archive Museum Project and Artists Commons Activity: Various Issues on Music Video Archiving, Numbering Artist ID, Providing Common API. MIURA Fumio Kansai University, Faculty of Sociology 3-3-35 Yamate-cho, Suita-shi, Osaka, 564-8680 Japan ## 【発表概要】 日本のポピュラー音楽を体系的に整理し、散逸しつつある映像、音源などを収集、蓄積している関西大学日本ポピュラー音楽アーカイブ・ミュージアムプロジェクトについて報告する。特に音楽映像に関しては 1970 年代から 80 年代を中心に既に約 8, 000 本の非圧縮データによるデジタル化を行っているが、活動資金、ストレージなど様々な課題に直面している。 一方、アーカイブを利活用するためにはアーティスト名、作品名などのメタデータの整備は不可欠である。特に表記の摇れが生じやすいアーティスト名に関してはユニークな ID が求められる。そこで、主要な音楽関連団体と推進しているアーティスト ID 付番及び異なるメディア・サ ービス間の連携を可能にする共通 API の提供を目的としてアーティストコモンズの活動を始めた。一方、音楽アーカイブの権利関係については権利者と目的に応じた許諾のあり方に関して丁寧に協議していくべきだと考えている。 ## 1. はじめに 2014 年 4 月、関西大学日本音楽アーカイブ・ミュージアムプロジェクトを立ち上げた。本プロジェクトは多様性に富む日本のポピュラー音楽の歴史をその社会的背景も含めて整理すると同時に、映像資料を中心としたデジタルアーカイブを構築している。さらに、それらを展示公開するポピュラー音楽ミュージアムのあり方を研究している。また、最先端のメディア技術によって産学共同で新しい音楽ビジネスが生まれるきっかけを創ることも目指している。 2. 音楽映像のデジタル化 当プロジェクトでは、ビデオテープの劣化、再生機器確保の問題から、1970 年代前半から 1990 年代までのテレビ番組、ライブ、プロモ ーションビデオなどの音楽映像の収集とデジタル化を優先して行なっている。 資料の収集については日本音楽制作者連盟などの音楽関連団体、テレビ神奈川、スペー スシャワーネットワーク、FM802 などのメデイアの協力を得ている。 ## 2.1 ビデオフォーマット 1970 年代には 2 インチのアナログビデオテ ープが登場し、テレビ番組の収録にも利用されていた。ただし、テープが高価だったため、収録放送後上書きして使用することが多く、 当時の映像はあまり残っていない。 1972 年に開局したテレビ神奈川は音楽番組制作に力を入れており、アーティスト、音楽業界関係者から信頼を得ていた。そのため、 通常テレビにあまり出演しないフォーク、ロック系のアーティストも番組内で数多くのライブを行った。テレビ神奈川はそうした番組を収録した 2 インチのビデオテープを残し、 1980 年代にテレビ収録の標準となったアナログベータカム (BETACAM) にダビングし収蔵していた。 1980 年代後半からはライブ映像に加えて、 プロモーションビデオ゙が登場する。プロモー ションビデオの記録媒体としては D2-VTR、デジタルベーターカム (Digital BETACAM)、ベ一タカム SX(BETACAM-SX)などが用いられた。 2000 年以降 HD 画像による制作が増え、HDCAM が主流となっていく。いずれのビデオフォー マットも SONY が開発したものだが、D2-VTR は既に生産終了となり、機器のサポートも 2016 年に終了した。このような再生機器確保、保守の問題も顕在化しつつある。 ## 2.2 冗長性とセキュリティ 当プロジェクトでは、関西大学千里山キャンパスにアーカイブ作業室(写真 1 )を設け、既に約 8,000 本の音楽映像のデジタル化 (2017 年 5 月時点)が終了している。それらは、全て非圧縮でデジタル化しているため SD 画像 ${ }^{3} 1$ 分間約 $1.8 \mathrm{~GB}$ と巨大なファイルになる。 デジタル化した非圧縮音楽映像ファイルは約 60TB に達している。それらは、関西大学内の Raid ディスクに蓄積されているが、貴重な文化資源の保全という意味でクラウドストレ ージの利用などによる冗長性の確保が課題である。一方で、インターネットへの流出防止などのセキュリティ対策が必要である。そこで、先進的なインターネット技術の開発、実証実験を進める産官学共同コンソーシアムであるサイバー関西プロジェクト、学術ネットワーク Sinet ${ }^{4} 、 \mathrm{JGN}-\mathrm{X}^{5}$ とアーカイブ作業室、同キャンパス内にある $4 \mathrm{~K}$ 映像とハイレゾ 6 立体音響(7.1.4) ${ }^{7}$ の再生が可能なソシオ音響スタジオと $10 \mathrm{Gbps}$ と高速回線で接続、閉域網を構築した。今後は兄長性とセキュリティのトレードオフ、閲覧、検索の UI/UX 8 についての研究を行っていく予定である。 (写真 1 )関西大学アーカイブ作業室 ## 3. アーティスト ID (ACID)の付番 映像素材のデジタル化を進めているが、それらを分類、蓄積するためのアーティスト名、楽曲名、ジャンルなどメタデータ付与の問題に直面している。音楽映像以外にも、雑誌、 ポスターなどのテキスト、画像、音楽関係者のインタビューの音源など様々な資料の収集、 デジタル化を行っているが、それらの関連性も明確に記述する必要がある。 視点によって様々な解釈が生じるポピュラ一音楽の資料については、従来の図書分類法的なスタティックな記述だけでは不十分である。そこで、多様な資料の関係性をダイナミックに記述するために、音源や印刷物などのモノではなくヒト(アーティスト名)を基準にするという発想に至った。なぜなら、全ての資料(コンテンツ)は特定のアーティストが関わっているからである。 ## 3. 1 アーティストコモンズ そこで、2014 年 10 月 1 日、共通のアーテイスト ID を発番管理する機関をめざし、下記の音楽、エンタテインメント、コンテンツ関連団体および研究機関によってアーティストコモンズ実証連絡会が設立された。 日本音楽事業者協会 (JAME) 日本音楽出版社協会 (MPA) 日本芸能実演家団体協議会(芸団協・CPRA) コンサートプロモーターズ協会 $(\mathrm{ACPC})$ 日本音楽制作者連盟 (FMPJ) 慶應義塾大学大学院メディアデザイン 研究科 (KMD) 関西大学日本音楽アーカイブ ミュージアムプロジェクト さらに、オブザーバーとして日本レコード協会、日本動画協会、著作権情報集中権利機構が参加している。代表には株式会社スペー スシャワーネットワーク相談役の中井猛、幹事に慶應義塾大学教授の中村伊知哉、関西大学社会学部教授の三浦文夫、事務局として慶應義塾大学特任准教授の菊池尚人が就いた。 アーティストコモンズは以下の設立趣意を掲げている。 アーティストの才能と魅力を広く知らしめ、 その付加価值を最大化することにより音楽産業振興、音楽文化振嬹・保全に貢献する。 アーティストコモンズの機能は以下の 4 点である。 (1)アーティスト ID(ACID)の発番管理 (2) コンテンツ ID 体系の整備 (3) 識別のための必要最低限の基本情報(写真プロフィール)の提供 (4) 様々なメディア、サービスの連携を可能にするハブ機能(共通 API)の提供 ## 3. 1 アーティストコモンズの機能 アーティストコモンズの基本的な機能は一意に識別可能なアーティスト ID (ACID) の発番管理である。ACID はコンテンツ、商品、サー ビスを繋ぐキーコード(persistent ID)として機能する。活動中のアーティストを中心に既に 1 万人以上の付番が終了している。今後は、タレント、芸人、デザイナー、カメラマンなど創造的な活動を行っている人々へと対象を広げていく予定である。 コンテンツ ID に関しては、直接アーティス トコモンズが付番するのではなく、たとえば radiko のようなメディアプラットフォームが管理する番組 ID 体系と ACID の連携についての検討を行っている。 識別のための基本情報、特にアーティスト写真については日本音楽事業者協会と日本音楽制作者連盟を中心に、使用についてのルー ル策定を協議している。 アーティストコモンズの実用的な機能としてはラジオ、テレビ、ネットメディア、音源販売、ライブ、ランキングなど様々なメディア、サービスの連携を、ACID をキーコードとすることによって可能にすることである。 そうした異なる Web サービス間のシステム連携を可能にする共通 API (Application Programming Interface)は既に開発している。 具体例としては、ラジオ番組で流れた楽曲のアーティストに関するプロフィール、ライブ情報、音源情報がスマートフォンに表示され、そこからチケットや音源の購入が直接可能になるというサービスの実現を目指している こうした産業面での利活用が進むことによって、様々なデジタルアーカイブが ACID をキ ーコードにして連携することが可能になる。 ## 4. 権利関係の課題 現状では構築されたアーカイブの利用は大学内の研究教育目的に限っているが、それを一般にも公開範囲を広げる場合、その楽曲の著作権(作詞、作曲)に加え、出演アーティストの著作隣接権(実演家)、また、一般に販売されている CD(商業用レコード)の音源を利用している場合は著作隣接権(レコード製作者)の許諾が必要である。さらに、映像の場合、出演しているアーティストの肖像権、 パブリシティ権、番組を収録した放送局の著作権(映画)など、様々な権利処理が必要になる。 教育に関しては大学など営利を目的としない機関に限り許諾なしに利用できるという著作権の制限規定(第 35 条)がある。けれども、 アーカイブの利用については、こうした制限規定を拡大していくという方向ではなく、権利者と目的に応じた許諾のあり方に関して丁寧に協議していくべきだと考える。ここで、 その目的について整理しておく。 (1) 教育 大学、専門学校などの授業での利用 次世代のアーティスト、エンタテインメン卜関連人材育成 (2)研究 ポピュラー文化研究、日本ポピュラー音楽史、メデイア史 (3)一定の条件での公開ネットワーク型ポピュラー音楽ミュージアム (4)ビジネス活用 放送利用、音源販売、ライブチケット販売などへの導線 ## 4. 運営体制と資金 これまでは学内資金、外部資金、機材提供など民間企業の協力などによってアーカイブの構築を行ってきた。音楽という貴重な文化資源とアーティストという人的資源を扱っている以上、継続性を担保するという社会的責任を果たさなければならない。けれども、単独の研究機関だけで推進していくことは体制、資金の面でも限界がある。 そこで、音楽文化を継承し未来の豊かな音楽を生み出す才能を育てる礎を築いていくとい うビジョンを掲げ、アーカイブだけでなく研究、教育さらにはアーティスト、エンジニア、 プロデューサーなど良質な音楽を生み出してきた人々が正当に評価される顕彰の創設など、大きな枠組みの文化事業として捉え、音楽産業、メディア、行政、協賛企業などによるフアンドおよび運営母体を作るべく関係者と協議を始めている。また、そうした運動に個人も参加できる仕組みも必要だろう。 さらに、文化事業だけでなくこれからの义ディア環境における音楽マーケットの拡大にも資する産業振興事業を行うことにより、継続的に資金を捻出することができる構造を創ることも重要だと考える。 この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。 $ の宣伝のために制作された映像、通常レコード音源を使用している、ミュー ジックビデオ、ビデオクリップとも呼ばれる ${ }^{2}$ High Definition 高精細解像度画素数は $1280 \times 720$ 約 92 万画素が一般的である ${ }^{3}$ Standard Definition 標準解像度画素数は $720 \times 480$ 約 35 万画素が一般的である ${ }^{4}$ Science Information NETwork、文部科学省系の国立情報学研究所 (NII:National Institute of Informatics)が運用する学術ネットワーク、2016 年度から Sinet5 が運用開始した 5 Japan Gigabit Network、総務省系の情報通信研究機構 (NICT:National Institute of Information and Communications Technology)運用する研究教育ネットワーク、現在 JGN-X が運用中 6量子化 24 ビット以上、サンプリング周波数 $96 \mathrm{KHz}$ 以上のリニア PCM 音源を指すことが多い 7 前後左右だけでなく上下も含めた立体的なサラウンド音響、平面に 7 個、天井に 4 個に低音部のスピーカーを配置している }^{8}$ User Interface, User Experience の略、画面上のデザインや操作性を意味する
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# [P03] Data Visualization of Rehabilitation and Reconstruction in Indonesia: Study Case of Housing Program in Aceh Jaya and Sabang Districts, Aceh Nurjanah $^{1)}$, Hidenori Watanave ${ }^{2}$ Tokyo Metropolitan University 6-6- Asahigaoka, Hino, Tokyo, 191-0065 Japan \begin{abstract} Data Visualization of Housing Project in Aceh 's Rehabilitation and Reconstruction using open source software is a good model to transfer knowledge and lesson learn on Disaster Risk Reduction. The distribution of information can be more accessible for community, government, and related institutions in the field. Housing Project to making Aceh Safer Through in Rehabilitation and Reconstruction was a project initiated by Germany Red Cross (GRC) to monitoring and evaluation for the program to know about 'Building capacity Know-How' and 'Culture of Safety' of the housing structure, and therefore it is necessary to know the end-line situation amongst the communities in the project areas. The most important learning of the study is, building houses used local approach is good, but selected materials to install on the area based on landscaping is more important. Regarding to the most frequently hazard in the area. \end{abstract ## 1. Background Housing Project of Germany Red Cross (GRC) had been implemented in Aceh. The selection`s criteria of study area is in the two city/district at high risk of disasters in Aceh Province. One is housing program inland, which is Calang Region, Aceh Jaya. And one is in the island, which is Sabang City, to compare differences between two programs. ## 2. Objectives The objectives of the study is (1) to develop Aceh disaster digital archive in order to facilitate sustainability transfer information and knowledge in relation; (2) to give an alternative media on DRR's Education; (3) to get the lesson from the past disaster: (4) to contribute for Disaster Risk Reduction effort in the future: (5) to function as global information for the world: (6) to create a handy tools of DRR. ## 3. Method There are two steps method of this research: (1) Qualitative research to collecting data. Using primary data for questionnaire, in depth interview and observation by purposive random sampling. Besides using secondary data from literatures. (2) Quantitative research to making archive. Using cesium as an open source data. Linked to the URL. Visualized data and connecting to social network service (SNS). ## 3. Discussion The percentages of the categories are variation in each village. By Visualization, the landscaping areas preserve better understanding the comparison between housing project inland and in the island. - Houses Occupied: in Aceh Jaya, majority houses are occupied by original beneficiaries. In Sabang, turned housing by new owners are up $13 \%$. - Reinforce Concrete Condition (RCC): Majority houses conditions in reinforce concrete \& structures are no damage visible. In Sabang District, the three villages confirmed from $67 \%$ to $87 \%$. In Aceh Jaya the three of villages confirmed from $95 \%$ to $100 \%$. - Walls: Study shows walls conditions are minor damage visible. in Sabang, the three villages confirmed from $47 \%$ to $78 \%$. In Aceh Jaya the three of villages confirmed from $36 \%$ to $100 \%$. - Roof In Sabang the three villages confirmed from $50 \%$ to $78 \%$. no damage visible in the roof condition. In Aceh Jaya the three of villages confirmed from $56 \%$ to $80 \%$. Figure 1. Gable and roof broken ## 4 Result ## 3. 5 Specific Finding Result After 5 years, there are some significant differences in each village in Aceh Jaya District. Finding specific result shows: (1) in Blang Village, $87 \%$ confirmed minor damage wells in this area, (2) in Dayah Baro Village, $31 \%$ confirmed minor damage toilet in this area, (3) in Ketapang Village, $69 \%$ confirmed major damage gable in this area, (4) during the earthquake 2012, housing conditions in the two districts confirmed $100 \%$ no damage due to strong construction and community awareness to evacuate to open space. Or higher land, (5) they are satisfied with the project. In Aceh Jaya the three villages confirmed could be improved in the project from $4 \%$ to $42 \%$, (6) in the three villages in Sabang Island, they had no worries in their house when the earthquake occurred, up to $62 \%$. Otherwise, beneficiaries in Aceh Jaya, beneficiaries had worries in their houses when the earthquake occurred, up to $70 \%$ and very worries up to $97 \%$, (7) base on in depth interview with head villages, in the planning of houses shows $50 \%$ satisfied, $33 \%$ acceptable and $17 \%$ very much accepted in the planning of houses in Sabang and Aceh Jaya, (8) and shows $50 \%$ satisfied with implementation the method of housing project in Sabang and Aceh Jaya, (9) beneficiaries self-initiative to extend the houses for economics, (10) Figure 2. Original Model in Aceh Jaya ## 4. Conclusion Characteristic of structure from Germany Red Cross Housing Project in Aceh Jaya has found that the building structure made Increase in community disaster preparedness from hydro-meteorological hazards (flood) because of houses in Second floor, and for geological hazards (earthquake). Characteristic of structure in Sabang has found that the building structure made Increase in community disaster preparedness from hydro-meteorological hazards (typhoon) because of permanent Gable in the structure. For geological hazards (earthquake). Structure of houses just one floor and there isn't drainage around, make houses risk from flooding in the raining season. Local's material approach for housing program is good, but, local identification by visualization landscaping is most important for mitigation of the secondary hazard and better housing program post disaster in the future. ## Reference [1] End Line Survey Housing Program of Germany Red Cross., Aceh District, Indon esia. 2013, [2] Tsunami Evaluation Coalition: The In ternational Community's Funding of theT sunami Emergency and Relief, Local Resp onse Study, June 2006. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P02] 大学図書館等のデジタルアーカイブ:現状調査報告 ○時実 象一1) 東京大学大学院情報学環 1 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: [email protected] ## Digital Arvhive at University Libraries: A Research \\ TOKIZANE Soichi1) \\ Interfaculty Initiative in Information Studies, the University of Tokyo ${ ^{1)}$ \\ 7-3-1 Hogo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan} ## 【発表概要】 大学図書館等で公開しているデジタルアーカイブを調査した、80 大学から 38 万件余りのコンテンツが公開されている。公開コンテンツ種類、対象資料種類、公開ファイル形式毎の点数をまとめた。 ## 1. はじめに 筆者は 2009 年に国内大学図書館におけるデジタルアーカイブの現状について報告した [1]。また翌年その追加調査もおこなった[2]。 この時よりかなり時間が経過しているので、再度網羅的に調查を行ったので、その結果の一部を報告する。 ## 2. 調査方法 前回の調查対象大学図書館に加え、新たにウェブ検索をおこなって候補を追加した。デジタルアーカイブを公開しているウェブサイトを見つけ、以下の点を調査した。 - アーカイブ名称 - コレクション名称 - 公開コンテンツ種類 (画像、電子書籍など) - 公開ファイル形式 (jpeg, pdf など) - 対象資料種類(貴重書、古文書など) - 点数 - 著作権、利用条件の表示 - OPAC $の$ 利用状況 - 備考 - URL なお、附置研究所研究室などが別途公開し ている研究用デジタルアーカイブについては、必ずしも網羅的な調查はおこなっていない。 また大学附置の博物館・美術館のデジタルア一カイブ(早稲田大学演劇博物館など)については、今回は調査対象としなかった。 コンテンツのうち、目録・データベースは調査対象から除いた。 ## 2. 調査結果 ## 2.1 大学数、図書館数 デジタルアーカイブを公開している大学は 80 大学に上った。複数の部署で公開している場合もあり、部署数では 93 となる。 ## 2.2 公開コンテンツ種類別の点数 点数はウェブページに表示があるものはそれを用い、表示のないものについては、検索結果を利用するか、あるいは直接数えた。複数の資料種類がある場合には、できるだけ個別に集計した。公開されているものを数えているが、非公開のデジタルコンテンツ数が示されている場合は、それも含めている場合がある。 電子化された貴重書などはページ単位で公開されている場合も多いが、ここでは書籍 1 冊を 1 点として数えた。また新聞雑誌も号単位で数えた。 & & & 総計 \\ 図 1. 公開コンテンツ種類別の点数 ## 2.3 対象資料種類別のコンテンツ点数 対象資料種類は極めて多彩であることと、 また複数の資料をまとめてコレクションとし ている場合も多いことから正確な集計は困難である。 ここでは主な資料種類について図 2 に点数を示した。 & & 総計 \\ 図 2. 対象資料種類別の点数 ## 2.4 公開ファイル形式別のコンテンツ点数 公開ファイル形式については、ダウンロー ドできる場合はそのファイル形式、できない場合は、使用しているツールの名称を記載した。ただしツールが特定できない場合もかなり存在した。主な形式について図 3 に示した。 & & 総計 \\ 図 3. 公開ファイル形式別の点数 これ以外のツールとしては、DjVu, Flaash, ガラスウィンドウ、Silverlight, ZOOMA Viewer, iPallet/Lime, ADEAC, Mediasite Player などがあった。 ## 4. おわりに OS やブラウザのバージョンアップにより、閲覧できないコンテンツもあった。また大学機関リポジトリは大学デジタルアーカイブの統合検索ツールとしての可能性がある。 ## 参考文献 [1] 鈴木良德,時実象一. 国内大学図書館におけるデジタルアーカイブの現状. 情報知識学会誌. 2009, 19(2), 63-69. [2] 葛谷瞳. 国内大学図書館が公開するデジタル情報資源. 愛知大学文学部図書館情報学専攻卒業論文. 2010/3. [3] Nicholas H. Steneck, 山崎茂明訳. ORI 研究倫理入門一責任ある研究者になるために.丸善. 2005, 163p. この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [P01] 学術デジタルアーカイブのエコシステムと IIIF の可能性 ○永崎研宣 ${ }^{11}$ 国際日本文化研究センター /一般財団法人人文情報学研究所 ${ }^{11}$ T113-0033 東京都文京区本郷 5-26-4-11F E-mail:[email protected] ## An Ecosystem of Scholarly Digital Resources and Potential of IIIF Kiyonori Nagasaki1) International Research Center for Japanese Studies / International Institute for Digital Humanities 1 ) 113-0033 5-26-4, Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, Japan ## 【発表概要】 本発表では、仏教学において形成されている学術デジタルアーカイブを一つの核としたエコシステムと呼び得る状況について検討する。そして、より高度な検証性確保の必要性から、今後 IIIF (International Image Interoperability Framework)が重要な役割を担うことを指摘する。 ## 1. はじめに 紙媒体の時代、学術資料や学術出版は、通常の出版物とは若干重なり合いつつも独特のエコシステムを形成してきた。デジタル媒体の時代に入ってからは、学術デジタルアーカイブ(以下、DA)を一つの核にしたエコシステムが形成されつつある。本発表では、仏教学における DA を事例とし、そのエコシステムとも呼び得る状況について検討する。そして、近年国際的に急速に普及しつつある国際的な Web 画像共有規格 IIIF (International Image Inter-operability Framework) がそこに果たし得る役割について提起したい。 ## 2. 学術デジタルアーカイブ ## 2. 1 仏教学のデジタルア一カイブ 仏教学においては、今で言うところの DA の構築と呼び得る活動が 1980 年代から連綿と続けられている。中でも 1994 年に始まった大正新脩大藏經のテキストデータベース構築は、SAT 大藏經テキストデータベース研究会 (代表: 東京大学大学院人文社会系研究科下田正弘教授)(以下、SAT プロジェクト) により古典中国語 - 日本語・悉量文字等から成る 1 億字超のコーパスとして 2007 年に完成し、全文検索機能とともに 2008 年には Web で無償公開され、仏教学のみならず、日本史・日本文学等、様々な分野から活用されている。この DA(以下、SAT DB)は、 2012 年、2015 年に大幅なアップデートを行い、世界各地で展開される他の関連 DA と連携しつつ、仏教学分野の活動において様々なステイクホルダーを結ぶエコシステムの核の一つとして機能するに至っている。 ## 2.2 デジタルアーカイブ連携 DA 連携においては、連携させるアイテムのID、そして、アイテム同士の対応情報が重要となる。仏教学では、紙媒体の時代から資料を同定する活動が連綿と行われてきており、 4 世紀の釋道安の手になる『綜理衆経目録』 がその淵源の一つとして挙げられる。明治以降にも盛んに大蔵経やその対照目録が刊行され、インドに始まるアジアの大部分の地域に至る様々な言語の仏典の対応付けが共有されることとなった。デジタルの時代には、こうした一連の情報をデジタル化することで、様々なアイテムの連携が比較的容易に実現可能となった。現在、SAT DB の古典中国語仏典とコロンビア大学の Buddhist Canons Research Database におけるチベット語仏典とは経典単位で相互参照できるが、これが 1934 年に刊行された対照目録[1]によって実現されたことは、その典型的な例と言えるだ ろう。新たな研究成果を反映させる必要はあるにせよ、基盤となる情報が紙媒体の時代から用意されてきていたことは仏教学の DA 連携において大きな役割を果たしている。 フルテキストデータベースの無償公開により、様々な Web 上のデジタルコンテンツとの動的な連携も実現されている。ほとんどの連携機能は経典の本文テキストのドラッグによつて起動する。たとえば、文章の一部をマウスでドラッグして選択するとその文章を単語分割して英語の電子仏教辞典と Japan Knowledge 仏教語大辞典を引いて意味を表示する。単語選択なら英語訳仏典のコーパスの対応訳も表示する。また、日本印度学仏教学会が作成する専門分野論文目録データベース INBUDS を検索でき、CiNii や J-Stage 等で論文 PDF が閲覧可能な場合はリンクが表示され、数クリックで関連する学術論文を読める。さらに、世界中の DA で公開されている仏典画像を同時に閲覧できる仕組みをも提供している。 ## 2. 3 エコシステム SAT DB では、こうした仕組みのためのデ一夕を作成する際に、それぞれの仕組みにあわせた Web コラボレーションシステムを開発・提供し、研究職の人だけでなく、これまでに仏教を研究したことのある世界中の人々が参加できる形を採っており [2]、最大時の参加者数は 180 名を超えている。この人々は同時に SAT DB の利用者でもあり、ここでは作成者が利用者でもあるという一つの円環が形成されている。そして、これを利用した研究成果は、論文等として学会で発表され $\mathrm{J}$ Stage に掲載されるとともにINBUDS にも搭載され SAT DB から参照可能となり、さらにそこから研究成果が新たに生み出されていくという連環も実現されている。より良いデジタル研究環境のためには、Unicode で符号化されていない漢字や悉曇文字の外字等の処理を効率化する必要もある。SAT プロジェクト は、情報規格調査会 SC2 委員会の協力の下でこれらを Unicode で符号化する仕事に取り組んでおり、すでに一定の成果が出ている。また、この種の文化資料のデジタル化に関わる国際的なガイドラインである TEI(Text Encoding Initiative) や IIIF 対応ビューワ Mirador に対しても日本の文化資料の固有性を反映させる活動を行ってきた。こうした活動もまた DA 構築の成果と言えるものであり、同時に、日本文化の固有性を国際的に認知させることで日本文化発信の基盤を形成しつつ、 この種の国際的な動向に対してグローバルな多様性を反映させるための基礎を提供するという枠組みの活動とも位置づけ得る。デジタルを完全に離れることが困難になりつつある現在、この活動は文化的な営為そのものにまで影響を与え得るものとなっている。このように、DA を介して様々な活動が展開され、 それがさらに DA の世界、引いては文化全体をも実り豊かにしていくという状況を、筆者はDAのエコシステムと呼称したい。 ## 3. IIIF の可能性 学術 DA において求められる重要な要素の一つとして、検証可能性がある。テキストデ一夕に加わらざるを得ない恣意性に配慮するなら、学術 DA のエコシステムが強固になればなるほど、テキストや図像等の高精細画像を証拠として閲覧できることが強く求められることになる。高精細画像を外部サイトからも様々な形で参照可能とする IIIF は、それを効果的に実現するために大きな役割を果たし、 このエコシステムをより確かなものにしていくだろう。 ## 参考文献 [1] 東北帝国大学法文学部編. 西蔵大蔵経総目録. 東北帝国大学法文学部. 1934 . [2] Kiyonori Nagasaki, Toru Tomabechi and Masahiro Shimoda. Towards a Digital Research Environment for Buddhist Studies. Literary and Linguistic Computing, (2013) 28(2). Oxford University Press, pp. 296-300.
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# [C06] 映像のデジタルアーカイブに関する法制度と改正動 向: 権利者不明著作物の利用のために ○数藤雅彦 弁護士、五常法律会計事務所 〒105-0004 東京都港区新橋 3-3-14 田村町ビル $4 \mathrm{~F}$ E-mail: [email protected] ## Legal System and the Trend of the Copyright Reform in Japan relating to the Digital Archives of Images: How to use Orphan Works in Japan? SUDO Masahiko Attorney at law, Gojo partners 3-3-14, Tamuracho Bld.4F, Shimbashi, Minato-ku, Tokyo, 105-0004, Japan ## 【発表概要】 映像のデジタルアーカイブを構築し、デジタル利用を実現するためには、著作権者から映像の利用許諾を受ける必要がある。しかしながら、権利者不明著作物(孤览著作物)の場合は、利用許諾を受けることは容易でなく、映像の死蔵リスクが生じ得る。本発表では、まず現行の日本の法制度下で、権利者不明著作物を適法に利用するための方法と限界を分析する。次に、権利者不明著作物の利用促進に向けた近時の法改正の動向を解説する。最後に、諸外国の事例も踏まえ、公的機関が映像のデジタルアーカイブを利用するために望ましい法制度のあり方を検討する。 ## 1. はじめに 映像のデジタルアーカイブは、芸術の記録、歴史の記録として重要な文化資源であると同時に、放送事業や配信事業、ソフト販売事業等のコンテンツビジネスの現場においても貴重な作品の供給源となるものであり、今日、 その重要性を増している。 このようなデジタルアーカイブを実現するためには、映像の収集や保存作業に加え、権利処理も欠かせない。例えば、記録媒体に収録された映像をデジタルアーカイブで利用する場合を想定すると、権利処理として通常問題となるのは、(1)記録媒体(テープ、フィル么等) それ自体の所有権、(2)映像の著作物の著作権、(3)映像に映った人物の肖像権の各処理である。本報告では、このうち(2)の著作権に関する法制度の分析を目的とする。 仮に著作権者が判明している場合であれば、 その者と交涉の上、将来のデジタルアーカイブでの利用を見越した複製権や公衆送信権等の利用許諾契約を締結することによって、映像作品を利用できる(著作権法 63 条 1 項・2 項。以下同法を「法」という)。 しかしながら、権利者が不明であるか、権利者と連絡することができない著作物(以下総称して「権利者不明著作物」という)の場合には、このような利用許諾契約による権利処理は困難であり、映像の死蔵リスクが生じ得る。 そこで本発表では、権利者不明著作物につき、現行の日本の法制度下で考えられる利用方法とその限界を分析する (2 章)。さらに、権利者不明著作物の利用促進に向けた近時の法改正の動向を解説する (3 章)。最後に、映像のデジタルアーカイブの実現のために望ましい法制度を検討する (4 章)。 ## 2. 著作権の権利処理 ## 2.1 総論 権利者不明著作物である映像をデジタルア一カイブで利用する際には、著作権の権利処理として、(1)保存のための複製、(2)著作物の 保護期間経過(いわゆるパブリック・ドメイン)、(3)国立国会図書館を通じた絶版等資料のデジタル配信、(4)裁定制度の 4 つの方法が検討に值する。 ## 2.2 保存のための複製 まず、昔の映像にはテープやフィルムの劣化リスクがあり、良好な状態で保存するために「複製」する必要が生じる。「複製」にも原則として権利者の許諾が必要となるが、「図書館等」の施設では、非営利目的の事業として、一定の場合に権利者の許諾なく、映像資料を保存するための複製が可能である(法 31 条 1 項 2 号)。この複製に関しては、近時の文化庁の審議会において、貴重な資料の損傷が始まる前に良好な状態のまま複製することも可能と解された[1]。多くの公的アーカイブ機関においては、この規定を用いることで、保存のための複製の問題は解決できる。 ## 2. 3 著作物の保護期間経過 著作物には保護期間があり、保護期間を経過した著作物の著作権は消滅する。映像作品 (「映画の著作物」)の保護期間は、現在では原則として公表後 70 年である(法 54 条 1 項)。しかしながら、保護期間の検討にあたっては、以下の 2 点に注意を要する。 まず、昔の劇映画や文化映画の中には、保護期間の終期を論理的に確定できない作品が存在し得る。1970 年以前に公開された映画の著作物には、旧著作権法 (昭和 45 年法律第 48 号による改正前のもの。以下「旧法」という)が適用され、著作者が自然人で、その者が著作者であることが実名で公表された劇映画等については、保護期間は公表後ではなく、「著作者」の死後 38 年となる (旧法 22 条) 3 - 3 条・ 52 条 1 項)。そして、判例において 「著作者」とは、映画の著作物の「全体的形成に創作的に寄与した者」を指すと解されているが(最判平成 21 年 10 月 8 日判時 2064 号 120 頁)、これは監督だけに限らない。例えば黒澤明監督の作品の保護期間が争われた事案では、裁判所は黒澤監督を「少なくとも著作者の一人である」と評価し(知財高判平成 20 年 7 月 30 日判夕 1301 号 280 頁)、谷口千吉監督、今井正監督、成瀬巳喜男監督の各作品の保護期間が争われた事案では、最高裁はこれらの監督を「映画の著作者の一人」 と評価した (最判平成 24 年 1 月 17 日判時 2144 号 115 頁)。判例の論理によると、監督以外にも「著作者」が存在する可能性がなお留保されている。そのため、アーカイブでの利用の際にも、監督以外にどのような「著作者」が存在し、保護期間の終期がいつまでなのかを論理的に確定できない問題が残る。 次に、映画の著作物の保護期間が経過した場合でも、立法担当者によると、映画音楽や美術の著作権は消滅しないと解されており、別途の権利処理が必要となる[2]。この見解には学説からの批判が強いものの、公的アーカイブ機関では立法担当者の見解を踏まえた処理が必要となるため、アーカイブでの利用に際して、映画音楽等には別途の権利処理コストが発生する点に留意が必要である。 ## 2. 4 国立国会図書館を通じた絶版等資料 のデジタル配信 国立国会図書館では、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手困難な図書館資料 (以下「絶版等資料」という)については、一定の場合に、権利者の許諾なく図書館等へデジタル配信することが可能である(法 31 条 3 項・同条 2 項)。そのため、例えば国立国会図書館をデジタルアーカイブの主要機関として想定し、そこから各図書館等に対して絶版等資料としての映像をデジタル配信することも、法文上は可能である。 もつとも、2016 年 3 月に、国立国会図書館関係者と映像業界の事業者等で組織された関係者協議会が、協議を踏まえた「合意事項」 を公表しており、そこでは図書館等への送信は「当面実施しない。実施する場合は別途協議する。」とされた[3]。そのため現時点では、上記の規定をアーカイブに用いるためには、 さらに関係者協議が進められる必要がある。 ## 2.5 裁定制度 以上に見てきた方法で権利処理が困難な場合には、裁定制度の利用が考えられる。裁定制度とは、著作権者が不明な場合等に、 著作権者と連絡するための措置として法令の定める一定の要件を満たして文化庁長官の裁定を受け、補償金を供託すれば、著作物の利用が可能となる制度である (法 67 条 1 項)。 裁定制度に関しては、所定の要件を満たせば権利者不明著作物でも利用可能になるという利点があり、デジタルアーカイブでの利用にも有益である。しかしながら、現状では権利者捜索の要件が厳しく、また補償金の前払いが必須なため、多くの利用者にとって負担が重い制度設計となっている。そのため、裁定制度は、現在、国立国会図書館等の一部の施設を除いては低調な利用状況にある。 ## 3. 改正動向 ## 3. 1 総論 著作権に関する法制度は、毎年のように改正が検討されている。近年の文化庁の審議動向や、最新の「知的財産推進計画 2017」の記載を踏まえると、権利者不明著作物の利用に関連する改正動向としては、裁定制度と拡大集中許諾制度の 2 つが挙げられる。 ## 3.2 裁定制度の改正動向 裁定制度については、以下の 2 点で改正が検討されている[4]。 まず、一定の場合に補償金供託の後払いを可能とすることにつき、速やかな法案提出に向けて必要な措置を講ずるとされた。ここで 「一定の場合」とは、権利者が現れたときに補償金の支払を行うことが担保されていると考えられる公的機関等を指す[5]。この改正が実現すれば、公的なアーカイブ機関では補償金の後払いが可能となり、裁定制度の利用促進が期待される。 また、利用者による権利者探索のコストを低減するため、文化庁が民間団体に委託して行った実証事業の結果を踏まえ、「引き続き必要な措置を講ずる」ともされている。ここで 「民間団体」とは、公益社団法人日本文藝家協会、一般社団法人日本写真著作権協会等の団体から成る「オーファンワークス実証事業実行委員会」を指す。本稿執筆時点で実証実験はなお継続中と報じられており(日本経済新聞平成 29 年 5 月 24 日付)、早急な改正が実現するかは明らかでないが、仮に実現した場合には、民間のアーカイブ機関においても裁定制度の利用促進が期待される。 ## 3.3 拡大集中許諾制度の導入動向 また、2014 年頃から、拡大集中許諾制度の導入が検討されている。拡大集中許諾 (Extended Collective License) 制度とは、北欧諸国で 1960 年代から運用されている制度であり、「法定された規定に基づき、著作物の利用者(または利用者団体)と、相当数の著作権者を代表する集中管理団体との間で自主的に行われた交涉を通じて締結された著作物利用許諾契約の効果を、当該集中管理団体に著作権の管理を委託していない著作権者 (非構成員)にまで拡張して及ぼすこと(拡張効果)を認める制度」を指す[6]。イギリスでも 2016 年から同制度の運用が開始され、 アメリカでも近時、米国著作権局により、導入に向けての提案がなされていた。 仮に同制度を日本にも導入した場合には、集中管理団体が権利処理の窓口として機能し、 かつ非構成員の著作物の許諾まで可能となるため、権利処理にかかる各種コストを削減できる。そのため、同制度は、権利者不明著作物のアーカイブ利用に際しても利便性の高い制度になることが期待される。 もつとも、現時点の改正動向としては、 $「 2015$ 年度及び 2016 年度に行った拡大集中許諾制度に係る調查研究の結果を踏まえ、具体的課題について検討を進める。」との段階に留まっている[7]。その理由としては、まず、権利者から委託を受けていない著作物まで権利者に代わって許諾し、使用料を収受することの法的正当性が解決されていない点が挙げられる。また、映像分野に関して見ると、映像業界の多数を代表するような集中管理団体を新たにどのように組織するか、同団体による利用料の設定・収受についてどのように透明性を確保するか等の課題も残されている。 ## 4. おわりに一望ましい法制度の在り方 以上見てきたように、現行の法制度下では、 権利者不明著作物である映像の権利処理にあたっては、利用者の制約になる部分も見受けられる。解決策としては、まずは 3.2 で上述した、公的なアーカイブ機関について裁定制度の補償金を後払いとする法改正が望まれる。 もつとも、デジタルアーカイブを実現するために望ましい法改正はこれに限らない。海外の例をみると、例えばイギリスのフィルムアーカイブ機関では、EU 孤览著作物指令に基づいて改正された国内の規則に従い、権利者についての入念な調査を踏まえた上で、事前の費用負担なく、数百の映像作品のデジタル利用を実現している[8]。また、オランダのフィルムアーカイブ機関では、法律家の関与の下、映像業界の事業者との契約を通じて、自発的(voluntary)な拡大集中許諾モデルを構築した例がある[9]。 法制度の構築にあたっては、法令の規定に加えて、裁判所、官公庁、業界団体等の様々なプレイヤーが関与し、判例、ガイドライン、協議、契約等により重層的な制度設計がなされる。すなわち、法制度を変える方法は、法令の改正以外にも様々に存在しており、それらの方法が併存することも認められる。現にイギリスでは、法令だけを見ても、国内法の権利制限規定、EU 孤览著作物指令を踏まえた規則の規定、拡大集中許諾制度等が併存し、 アーカイブ機関がより負担の少ない制度を選ぶことが可能となっている。 映像のデジタルアーカイブの実現に向けては、このような海外の法制度も参照しつつ、 アーカイブの公益性と存在意義を踏まえて、利用者側の過度な負担の軽減と、権利者側の利益を不当に害しないことの両面に配慮した制度設計が望ましい。アーカイブ関係者、権利者、法律家らを交えた議論がなお続けられる必要がある。 ## 参考文献 [1] 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会. 平成 26 年度法制・基本問題小委員会の審議の経過等について. http://www.bu nka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuk en/bunkakai/41/pdf/shiryo_3.pdf(閲覧 2017 /5/31). [2] 加戸守行. 著作権法逐条講義. 6 訂新版.著作権情報センター. 2013,413p. [3] 映像資料のデジタル化及び利用に係る関係者協議会. 国立国会図書館のデジタル化資料の図書館等への限定送信に関する合意事項. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/digitization /digitization_agreement02.pdf(閲覧 2017/5/ 31). [4] 知的財産戦略本部. 知的財産推進計画 201 7. http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ke ttei/chizaikeikaku20170516.pdf(閲覧 2017/ 5/31). [5] 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会. 文化審議会著作権分科会法制 - 基本問題小委員会中間まとめ. http://www.bunk a.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/ pdf/h2902_chukanmatome.pdf(閲覧 2017/5 /31). [6] 小嶋崇弘. 拡大集中許諾制度. コピライト. 2015, vol.649, p. 17 . [7] 前掲参考文献 4 . [8] 五常法律会計事務所. 映画の孤览著作物のデジタル利用に関する法制度報告書. http://w ww.momat.go.jp/fc/wp-content/uploads/sites/ 5/2017/05/NFC_BDCh28report_GojoPartner S_.pdf (閲覧 2017/5/31). [9] EYE FILM INSTITUTE NETHERLAN DS, VONDELPARK 3, 1071 AA AMSTER DAM, THE NETHERLANDS. http://ec.eur opa.eu/internal_market/consultations/2011/ audiovisual/non-registered-organisations/ey e-film-instituut-nederland_en.pdf(閲覧 201 7/5/31). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C05] デジタルアーカイブの公開に関わる問題点:権利の表記 ○時実 象一1) 東京大学大学院情報学環1) 〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 E-mail: [email protected] ## Presenting Digital Archive to the Public: Rights Statements TOKIZANE Soichi1) Interfaculty Initiative in Information Studies, the University of Tokyo ${ }^{1)}$ 7-3-1 Hogo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan ## 【発表概要】 著作権を始めとするコンテンツに対する権利は、デジタル化する際だけでなく、これを公開する際にも重要である。「デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会」 の「ガイドライン」、国内、海外の事例、Europeana/DPLA の開発による Rights Statements について調査したので報告する。 ## 1. デジタルア一カイブと権利 デジタルアーカイブのコンテンツに関わる権利は多様である。 まず、対象資料等がデジタルでない場合、 これらをデジタル化するためには著作権を始めとしてさまざまな権利をクリアする必要がある。権利者または関与者としては、著作権者、著作隣接権者、資料等所有者 - 管理者、資料に参照されている人物等がある。必要に応じて、これら関与者との合意または契約が必要となる。その場合にはデジタル化されたのちの公開に関する合意も含まれなくてはならない。 次に資料を公開する場合、特にオンラインで公開する場合には、利用者にどのような利用を認めるかを明確にする必要がある。ネット上のコンテンツについては、著作権法 30 条において、違法なコンテンツのダウンロー ドを禁止されているが、デジタルアーカイブ上のコンテンツは一般的な違法性はないと思われる。ネット上でアクセス制限がないコンテンツについては、日常的にダウンロードがおこなわれており、個人の研究や媅楽のための私的な複製(ダウンロード)について法的な問題は生じない。しかしそのコンテンツを自分のホームページに再掲載したり、出版物に収録したり、あるいは二次的著作物として利用する場合は問題が生ずる。許される利用 について、コンテンツ上、またはコンテンツが参照されているぺージ(ランディング・ペ一ジ)に明確に示されている必要がある。近年ビッグデータとしてのデジタルアーカイブの利用も進みつつあり、こうした記述は HTML におけるコンピュータ可読であることが強く推奨される。 内閣府知的財産戦略推進事務局による「デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会」の 2017 年 4 月の報告書[2]では、「(2) アーカイブの活用促進について」の項において、「メタデータのオー プン化の推進」とともに、「コンテンツの利用条件表示の推進」を提唱している。さらに同時に発表された「ガイドライン」では、「サムネイル/プレビューの望ましい利用条件」および「デジタルコンテンツの望ましい利用条件」として、公的機関のもの又は公的助成により生成されたデータについては Creative Commons による CC0 (著作権放棄)、CC-BY (出所明示のみで自由に使用できる)、または PDM(パブリック・ドメイン)を推奨している。 さらに留意点として、「二次元の作品を正面から撮影した場合や、三次元の作品であっても三面図的に記録した場合は、撮影者やデー 夕作成者の著作権は原則として認められない。」、デジタル化にあたって新たな著作権 が発生することを明確に否定している点が注目される。ただし「特定の角度、照明等により撮影者の芸術表現として撮影された写真等、撮影者の創作性が認められる場合は、撮影者の著作権の権利が発生する場合がある」ことにも触れている。加えて、著作権のほか、肖像権、パブリシティ権、プライバシー権 18 等の諸権利にも留意が必要であることについても触れている。 なお経済産業省は 2017 年 3 月 30 日に「デジタルアーカイブの利活用促進のための国際標準の検討が始まります」と題するニュースリリースを発表している[1]。そこでは、「現状の課題として、デジタルアーカイブの権利情報(データのコピーや転載等)について、通常ウェブサイトに記載されていますが、記載内容やその表示場所がウェブサイト毎に異なっており、二次利用者にとって探しづらく、 デジタルアーカイブの利用の弊害となっています。」とし、「どのような権利情報をどこに表示するか等の指針」を国際標準化機構 (International Standard Organization: ISO) において検討が始まったと報告している。ただし、この指針では、権利情報の内容については触れないと見られる。 ## 2. 事例 ## 2. 1 国内の事例 国内のデジタル・アーカイブのサイトにおいて、明確な権利や利用条件が示されていることは必ずしも多くない。多くのサイトでは、 ウェブサイトの標準的な著作権表示が示されているが、これがウェブページの著作権なのか、コンテンツ (多くはイメージ) の著作権なのか、明らかでない。おそらくサイト管理者は単に慣例でこれを示しているだけと思われる。 大学の研究的なデジタルアーカイブ・コンテンツの場合は、積極的に著作権を主張している例もみられる。 また利用の条件として、「学術研究的利用に限る」とか「非営利的利用に限る」などの表現も見られる。朝日新聞が全国国公立美術館 148 館にアンケートした結果を報告している[4]。回答 134 館のほぼすべての館で画像利用には書面で申請必要とされている。「館の望まない形で利用されたり、拡散されたりすることの懸念」からであるとされている。なおブログではあるが、「BEAYS (新装版)」氏が都道府県立図書館についてウェブ調查し、条件を満たせば申請不要 : 5 自治体、申請が必要 : 23 自治体、問い合わせが必要:6 自治体。不明:7 自治体との結果を得ている[5]。朝日新聞の記事では、独立行政法人国立美術館の年間 600 万円の貸し出し収入があるということである。 そのためのコストについてはり触れられていない。 その中で「東寺百合文書」の例は注目された。東寺百合文書(とうじひゃくごうもんじよ)は、京都の東寺に伝えられた日本中世の古文書で、 8 世紀から 18 世紀までの 2 万 5 千通に及ぶ古文書である。2015 年 10 月 10 日に世界記憶遺産に登録されている。このデジタルコンテンツが公開される際、CC-BY で公開されたことで話題となった[5]***********。類似の例として、大阪市立図書館でも「CCBY(クリエイティブ・コモンズ・ライセンス)の表示があるデジタルアーカイブのコンテンツについては、申請手続きは不要です。」 との方針を打ち出した[7]。 これらの動きは、デジタルコンテンツの利用を促進する上で大変評価できるし、各館のコスト削減にもなる。しかし前述の「ガイドライン」に照らせば、デジタル画像制作者に著作権が発生するものではなく、したがって CC-BY ではなく PDM が適当であると考えられる。 ## 2.2 海外の事例 (1)オランダ国立美術館 オランダ国立美術館(Rijksmuseum)は 2011 年末より、150,000 件の高解像度画像を公開している[8]。当初所内では CC-BY にしてほしいとの意見があったが、Wikimedia 財団や Open Knowledge 財団などの意見を聞 き、最終的にパブリック・ドメイン (PD) とする結論となった。 4500 x 4500 jpeg (2MB) は無料、マスター・ファイル (.tiff, 200MB) は $€ 40$ で出発し、それなりに収入はあったが、そのために必要な人件費などを考慮した結果、2013 年 10 月より完全無料で提供することになり、現在に至っている。 (2) 米国メトロポリタン美術館 ニューヨークのメトロポリタン美術館では、 2017 年 2 月 7 日に、 375,000 点の画像をパブリックドメイン (CCO) で公開することを発表した $[9]$ 。これからは、公開できないもの、著作権が有効なもの、著作権不明なもの、プライバシー・パブリシティ上問題のあるもの、他者が所蔵するもの、製作者、寄付者、所有者から何らかの制限が課されているものは除かれている(これらは Art Resource からライセンスされる)。 この公開には、Creative Commons, Wikimedia、Artstor, 米国デジタル公共図書館 (Digital Public Library of America: DPLA), Art Resource, Pinterest との協力でおこなわれている。コンテンツは CCSearch、 Pinterest、Artstor (IHAKA) から探すことができる。 ## 3. 権利情報表示の標準化 ## 3. 1 Rights Statements (権利表明) Rights Statements(権利表明)とは、デジタルアーカイブで公開されるコンテンツの権利状況を説明する標準的な分類である。 Rights Statements は図 1 に示される 3 種の基本的な分類からなり、各分類は必要に応じて図 2 のように細分化されている[11]。 図 1. Rights Statements のロゴ、左から In Copyright, No Copyright, Other である。 これは Europeana と DPLA が共同で開発したもので、 Creative Commons も支援している[10]。 Creative Commons は著作者が利用条件を表明するのに対し、 Rights Statements はコンテンツ提供者が確認できた利用条件を表明するものであり、相互に補完関係にあるといえる。 ## Rights Statements の採用は国際的に広がりつつあり、Trove (オーストラリア)、 インド国立デジタル図書館がすでに参加を表明し、ブラジルとニュージ ーランドも参加の予定である。 ## 3. 1 DPLA における Rights Statements の実施状況 2017 年 4 月 20-21 日に開催された DPLAfest 2017[12]において、DPLA のハブ、 The Minnesota Digital Library (MDL)、 Illinois Digital Heritage Hub、Digital Library of Georgia、University of Miami Libraries、Washington University (Minnesota)、PA Digital から Rights Statements の実施状況の報告があった。まだ調査段階のハブもあるが、University of Miami Libraries の場合、半分ほど処理した結果、InCopyright が $50.45 \%$ 、InCopyright Rightsholder Unknown が $18.52 \%$ 、 NoCopyright in US が $10.89 \%$ 、Unknown が $20.09 \%$ のうな結果を報告している。 ## 4. おわりに デジタルアーカイブを公開しているサイトの数は美術館・博物館だけでなく公共図書館で 85、大学図書館でも 87 と相当数に及んでいる。今後国単位のアーカイブ・ネットワー クを構想する際、権利関係を適切に定め、かつ表示することは極めて重要である。わが国でも Rights Statements を採用する方向で早急に検討が望まれる。同時に呮解に基づく不要な権利の主張は改めることが重要である。 ## 参考文献 [1] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. 我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性. 2017/4, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digi talarchive_kyougikai/houkokusho.pdf (閲覧 2017/5/25). [2] デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. デジタルアー カイブの構築・共有・活用ガイドライン. 201 7/4, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ digitalarchive_kyougikai/guideline.pdf (閲覧 2017/5/25). [3] 経済産業省.デジタルアーカイブの利活用促進のための国際標準の検討が始まります〜 デジタルアーカイブ「コピーして使っていいの?」に答える標準化〜. 2017/3/30. http://w ww.meti.go.jp/press/2016/03/20170330001/2 0170330001.html (閲覧 2017/5/25). [4] 朝日新聞. 2017/5/3 東京朝刊. シェアに向けて全国美術館アンケートから (上). [5] BEAYS(新装版). 都道府県図書館が構築したデジタルアーカイブの利用条件に係る一所感 $\sim \mathrm{PD}$ 作品の画像は誰のものか〜. htt p://bauchi13.hatenablog.jp/entry/2017/05/05/ 092529 (閲覧 2017/5/25). [6] 京都府立京都学・歴彩館. 東寺百合文書 Web 利用案内. http://hyakugo.kyoto.jp/guide (閲覧 2017/5/25). [7] 大阪市立図書館. 図書館所蔵の昔の写真絵はがき等画像をオープンデータ化. 2017/2/ 23. http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.ph p?key=jojeh77qp-510(閲覧 2017/5/25). [8] Democratising the Rijksmuseum http://pro.europeana.eu/files/Europeana_Pro fessional/Publications/Democratising\%20th e\%20Rijksmuseum.pdf (閲覧 2017/5/25). [9] The Met. The Met Makes Its Images of Public-Domain Artworks Freely Availab le through New Open Access Policy. 2017/ 2/7. http://www.metmuseum.org/press/news /2017/open-access(閲覧 2017/5/25). [10] Rightsstatements.org White Paper: $\mathrm{R}$ ecommendations for Standardized Interna tional Rights Statements. 2016/1. http://rightsstatements.org/files/160208rec ommendations_for_standardized_internatio nal_rights_statements_v1.1.pdf(閲覧 2017/ $5 / 25)$. [11] Rights Statements. http://rightsstate ments.org/en/ (閲覧 2017/5/25). [12] DPLAfest 2017 Agenda. https://dp.la/i nfo/get-involved/dplafest/april-2017/dplafest -2017-agenda/ (閲覧 2017/5/25). この記事の著作権は著者に属します。この記事は Creative Commons 4.0 に基づきライセンスされます(http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)。出典を表示することを主な条件とし、複製、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可されています。
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# [C04] Linked Data を用いた平賀譲デジタルアーカイブの 構築と活用 ○ 中村覚 ${ }^{1)}$, 大和裕幸 ${ }^{2}$, 稗方和夫 ${ }^{1)}$, 満行泰河 ${ }^{11}$ 東京大学 ${ }^{11}$, 海上$\cdot$港湾$\cdot$航空技術研究所 ${ }^{2}$ 〒113-8658 東京都文京区弥生 2-11-16 E-mail:[email protected] ## Development and Application of Yuzuru Hiraga Digital Archive with Linked Data NAKAMURA Satoru ${ }^{1}$, YAMATO Hiroyuki ${ }^{2}$, HIEKATA Kazuo ${ }^{1)}$, MITSUYUKI Taiga ${ }^{1)}$ The University of Tokyo ${ }^{1)}$, National Institute of Maritime, Port and Aviation Technology ${ }^{2}$ 2-11-16 Yayoi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8658 JAPAN ## 【発表概要】 歴史学研究は、歴史資料 (以下、資料) の目録データの作成や整理を行う「資料管理」、研究者が資料を用いて研究課題の解明に取り組む「資料研究」、資料や研究成果を広く一般に公開する「成果公開」の三つのプロセスに整理することができる。各々のプロセスは、取り扱うデータや活動主体の違いにより、独立して進められることが多い。本研究では、上述したプロセス間の有機的な連携を支援することを目的とし、各プロセス間で取り扱うデータをLinked Dataを用いて関連づけ、それらを相互に利用可能なシステムを提案する。また、海軍造船中将・第 13 代東京帝国大学総長であった平賀譲が遺した資料群『平賀譲文書』を対象とした適用事例を通じ、提案するシステムの有用性を評価する。 ## 1. はじめに 歴史学研究は、歴史資料(以下、資料)の目録データの作成や整理、提供を行う「資料管理」、研究者が資料を用いて研究課題の解明に取り組む「資料研究」、資料や研究成果を広く一般に公開する「成果公開」の三つのプロセスに整理することができる。筆者らはこれまで、「資料研究」プロセスの支援を目的とし、 デジタルアーカイブを活用した資料研究支援システムを構築してきた[1]。一方、歴史学研究の発展には、個々のプロセスの支援に加え、上述した三つのプロセスを相互補完的に進めることが求められる $[2]$ 。 本研究では、歴史学研究の発展に向け、上述したプロセス間の有機的な連携を支援することを目的とする。具体的には、プロセス間の成果物を Linked Dataを用いて関連づけ、 それらを相互に利用可能なシステムを提案する。また、海軍造船中将・第 13 代東京帝国大学総長であった平賀譲が遺した資料群『平賀譲文書』を対象とした適用事例を通じ、提案するシステムの有用性を評価する。 ## 2. 提案手法 ## 2.1 提案手法の全体像 Linked Data とは、分野やシステムを超えたデータの共有や再利用を支援することを目的とし、Web 上で機械可読な構造化データを公開する技術の総称である[3]。後藤[4]は Linked Data を活用し、複数のデータベースに対する横断検索システムを構築している。本手法では Linked Data を用いて、歴史学研究を構成する「資料管理」「資料研究」「成果公開」プロセスの成果物を統合的に管理する。提案手法の概要を図 1 に示す。RDF(Resource Description Framework)を格納する RDF ストアを Web 空間上に構築し、資料の目録情報をはじめとする「目録データ」、研究者が研究目的に応じて蓄積する「研究データ」、キャプションやキーワード等の資料展示に必要となる「展示データ」を一元的に管理する。さらにRDF ストアに対して API を介してアクセスするアプリケーションを構築し、データの利活用を行う。本研究では、このアプリケー ションの一つとしてデジタルアーカイブを位置づける。さらに、資料研究や展示による成果公開におけるデータ活用を支援する。 図 1. デジタルアーカイブ構築および活用手法の全体像 図 $2 . \mathrm{RDF}$ による各プロセスのデータ記述例 ## 2. 2 RDF によるデータ記述 ここでは図 2 に示す、RDF によるデータ記述について述べる。各資料に一意となる URI (Uniform Resource Identifier)を割り当て、先述した三種類のデータをそのメタデータとして記述する。以下、各々について説明する。 ## 2.2. 1 目録データ 目録データは、図 2 左部に示すような目録情報である。『平賀譲文書』では、表題や作成日などの一般的な目録情報に加え、「図面」 や「意見書」等を値として持つ「文書種類」、軍艦名や論文、写真等を値として持つ「カテゴリ」などのメタデータ項目を持つ。この目録データの RDF データ化における URI のマッ ピング例を表 1 に示す。表題や作成日等の一般的なメタデータ項目については、Dublin Core が提供する語彙を用いる。また、「文書種類」や「カテゴリ」等の既存語彙でのマッピングが困難な項目は、独自の接頭名詞空間を独自に定義して、マッピングを行う。 表 1.メタデータ項目と URI マッピング例 & 值の例 & URI \\ ## 2.2.2 研究データ 図 2 右上部に示す研究データは、研究者が各々の研究目的に応じて整理するデータである。これらの情報も上述した目録データと同様に、資料のメタデータとして管理する。この時、研究に必要となる情報は研究目的に応じて様々であるため、研究者が任意にメタデ一夕項目を定義し、必要な情報をその値として蓄積可能とする。図中では、図面資料から確認できる煙突本数や、計算資料や関連文献といった二次資料へのリンクを研究データとして記述した例を示す。 ## 2. 2.3 展示データ 最後に、図 2 右下部に示す展示データについて述べる。展示においては、歴史になじみのない一般の利用者が対象となり得る。このため、展示対象となる資料には一般的な目録データに加え、利用者の理解を補助するキャプションやキーワードの整理、地図や年表などを用いた多角的な情報提供が求められる。 これらの展示データを dcterms:abstract や dcterms:subject 等の Dublin Core の語彙を用いて、資料のメタデータとして記述することにより、目録データとは異なる観点での資料提供が可能となる。また、特にキーワードについては DBpedia が提供する URI を値として与える。これにより、対象キーワードの概要説明やサムネイル画像を機械的に利用することが可能となり、一般利用者への専門用語や背景知識に関する情報の補足を支援する。 ## 3. 適用事例 ここでは平賀譲が遺した艦艇計画の技術資料を中心とする 5,232 件の資料群『平賀譲文書』を対象とした適用事例について述べる。 ## 3.1 平賀譲デジタルアーカイブの構築 資料管理事例として、2.2.1 で述べた目録デ一タを活用する「平賀譲デジタルアーカイブ」 の構築事例について述べる。本システムは Web 空間上の RDF ストアで管理されている目録データに対し、API を介してアクセスする Web アプリケーションである。RDF ストアとしては「OpenLink Virtuoso」を使用した。 構築した平賀譲デジタルアーカイブの画面例を図 3 に示す。本画面は、各資料のメタデ一タの一覧を閲覧するための詳細インタフェ一スと、画像資料の拡大・縮小・回転が可能な閲覧インタフェースを示す。その他、表題や作成日等のメタデータによる検索が可能なインタフェースを提供する。 以下、この活用例として、「資料研究」 「成果公開」事例について述べる。 図 3. 平賀譲デジタルアーカイブの画面例 ## 3.2 資料研究事例への活用 資料研究事例として、平賀譲が基本計画を担当した戦艦の設計変更に関する原因分析を行った。彼が設計した戦艦「長門」と「加賀」 は近い時期に建造されたにも関わらず、煙突本数が前者は 2 本であったのに対し、後者は 1 本に変更された。この原因として、書籍『八八艦隊計画[5]』は、搭載汽缶数の減少による汽缶室面積の減少がその要因であると述べている。本事例ではこの原因分析について、「平賀譲デジタルアーカイブ」で公開されている一次資料を用いた検証を行った。 具体的には、あらかじめ分析対象とする戦艦の図面資料や技術報告書に対し、煙突や搭載汽缶に関する情報を図 2 右上部のような研究データとして付与した。そして、図 4 に示すように、煙突本数に関する情報に基づいて図面資料を時系列に並び替えることにより、 1917 年前後に設計図面上で煙突本数が 2 本から 1 本に減少したことがわかった。 図 4. 煙突本数の時系列変化の可視化例 $ \text { さらに、この年代と研究データとして付与 } $ した汽缶に関する情報を用いて報告書を絞り込むことにより、搭載汽缶数が長門 21 缶から加賀 12 缶に減少していることを確認した。また、収集した図面資料から汽缶室の面積を算出することにより、約 $260 \mathrm{~m}^{2}$ の面積の減少を確認した。これらの結果、一次資料を用いた戦艦の設計変更に関する原因分析の検証を実現した。 ## 3.3 成果公開事例への活用 活用例の二点目として、Web 上で資料の展示を行う成果公開事例について述べる。具体的には、過去の企画展示において整理された 『平賀譲文書』 188 点に関する展示データを用い、キャプションや年表等に関する情報を RDF データとして記述した。そして、目録デ一タと展示データに API を介してアクセスする Web アプリケーションを構築した。本アプリケーションのインタフェースの例を図 5 に示す。目録データである作成日を利用して資料をタイムライン形式で表示し、展示データとして整理したキャプションとともに画像資料を表示している。その他、キーワードと共に展示資料を一覧形式で表示するインタフェ一スを構築し、目録データによる資料公開を行うデジタルアーカイブとは異なる観点での資料提供を行うデジタル展示を実現した。 図 5. タイムライン形式による資料展示例 ## 4. 考察 適用事例を通じ、提案手法によって構築したデジタルアーカイブを「資料研究」や「成果公開」へ活用できることを確認した。これに加え、例えば「資料研究」事例で付与した煙突本数などの研究データや同定した年代情報を目録データに反映させ、「資料管理」プロセスにおけるデータの拡充や修正に活用した。また「成果公開」事例における年表を利用した資料の展示手法を検索手法の一つとして利用し、デジタルアーカイブの機能拡充に繋げた。これらは各プロセスの成果物を一元的に管理し、プロセス間での相互利用が可能になったことに起因する。この点から、提案するシステムが歴史学研究を構成するプロセス間の連携支援に寄与することを示した。 ## 5. 結論 本研究では、歴史学研究を構成する「資料管理」「資料研究」「成果公開」プロセスの成果物を Linked Data によって統合的に管理し、 プロセス間における成果物の相互利用を支援するシステムを提案した。また、提案するシステムを『平賀譲文書』を対象とした歴史学研究事例に適用し、プロセス間の有機的な連携支援に寄与することを確認した。 ## 参考文献 [1] Hiroyuki Yamato et al. Historical Desi gn Review based on the Digital Archive with the Semantic Web Approach, Proc. o $f$ the 11th International Marine Design $C$ onference, Vol.1, pp.457-464, 2012. [2] 国立歴史民俗博物館,重信幸彦,小池淳一編. 民俗表象の現在:博物館型研究統合の視座から, 岩田書院, 2015. [3] 嘉村哲郎, 大向一輝. 人文科学における $\mathrm{Li}$ nked Open Data の活用, 人工知能, Vol.32, No.3, pp.401-407, 2017. [4] 後藤真. 人文社会系大規模データベースヘの Linked Data の適用一推論による知識処理一, 情報知識学会誌, Vol.25, No.4, pp.291298, 2015. [5] 学研パブリッシング. 帝国海軍の礎八八艦隊計画, 学習研究社, p.96, 2011. での二次利用も許可されています。
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# [C03] メタデータの視点に基づくアーカイブとそのコンテンツ のモデル化 杉本重雄 筑波大学図書館情報メディア系 〒305-8550 つくば市春日 1-2 E-mail: [email protected] ## Modeling Archives and their Content Resources from Metadata-based Viewpoint: SUGIMOTO, Shigeo University of Tsukuba, Faculty of Library, Information and Media Science 1-2, Kasuga, Tsukuba, 305-8550 Japan ## 【発表概要】 現在の情報環境において利用者、特に一般利用者のためのアーカイブとそのコンテンツの利活用性を高めるには、アーカイブ横断的な検索機能に加え、Web 上のいろいろな資源を視野に入れたコンテンツの複合的な組織化によるアクセス性向上が必要である。本稿では、マンガ等のポップカルチャを含む文化的コンテンツのアーカイブと東日本大震災アーカイブに関し、筆者の研究室で進めてきた研究から得た知見を基礎にして、アーカイブとそのコンテンツへのアクセス性向上を目的としてメタデータのモデルについて述べる。以下、はじめにメタデータの視点からアー カイブとそのコンテンツのモデル化に関する基礎的な概念について述べ、その後、筆者の研究とそこから得た知見を示す。 ## 1. はじめに インターネット抜きに現代の社会生活を考えることは困難である。そうした情報環境の中で、図書館、博物館、美術館、文書館等 (MLA と記す)が提供する文化的・歴史的なディジタルコンテンツは高い品質と信頼性を持つ。また、長期に渡り貴重なコンテンツを保管し提供するアーカイブ機能は MLA の重要な機能として認められている。 ディジタルアーカイブを含む多様なアーカイブの利活用性を高めるために、アーカイブされたコンテンツへのアクセス性向上が重要であることは言うまでもない。コンテンツの書誌的情報、たとえばオンライン目録は個々のアーカイブのコンテンツへのアクセスの基盤である。一方、アーカイブサービスを一般利用者にとってより身近なものにするには才ンライン目録の提供だけでは不十分である。 こうした課題の解決のため、アーカイブ横断的な検索サービスやインターネット上の様々な情報資源を結び付けるサービスの重要性が広く認められている。World Wide Web コンソーシアム (W3C) による Linked Open Data (LOD)の取り組みは、まさにこうした要求に合致するものである。たとえば、 Europeanaでは、LOD 環境での標準規格であ る Resource Description Framework (RDF)を基盤技術として採用し、多様な参加機関からメタデータを収集し、横断的コンテンツアクセスを可能にしている。 こうした背景の下で、筆者の研究室では、 (1)東日本大震災アーカイブ、(2)マンガやアニメ、ゲーム等のポップカルチャのアーカイブ、 (3)無形文化財を含む文化遺産のアーカイブを対象として、メタデータとそのデータモデルを中心とした研究を進めている。以下、本稿では、これらの研究に共通するいくつかの义タデータの基本モデルについて述べた後、これらの研究から得た知見について述べる。 ## 2. メタデータの基本モデルについて 2. 1 Functional Requirements for Biblio-graphic Records (FRBR)や Bibframe の視点 FRBRは、IFLAが開発した書誌記述のモデルとして広く知られている。図書やそこに記された作品等の実体を表す第 1 グループには Work、Expression、Manifestation、Item が定義されている。米国議会図書館が開発を進める Bibframe (2.0) では、Work、Instance、 Item の 3 種の実体をとらえている。 こうした実体を明確化することは、メタデ ータを定義する上で本質的な問題である。後述の研究で筆者は、Manifestation と Item、 Work と Expression の間での明確な区別をせず、それぞれ具体物を表す実体、抽象物を表す実体として単純化してとらえるようにしている。これは、書誌情報的なメタデータと Wikipedia 等の Web 上の辞書的リソースを、 LOD 環境を利用して結びっける上で、書誌情報としての記述対象を細分化・明確化するよりも、具象実体と抽象実体の 2 種類に単純化し、一般利用者によりわかりやすくすることが有効であると考えているためである。 ## 2. 2 CIDOC-CRM と FRBRoo の視点 CIDOC-CRM はミュージアムにおけるメ夕データの概念的参照モデルとして、所蔵物 (所蔵資料) のクラスと属性の定義を与えている。FRBRoo は、CIDOC-CRM の上に FRBR と関連標準モデルを定義したものである。CIDOC-CRM と FRBRoo が決めるクラスと属性は、MLA が所蔵するモノや資料の種類とそれらの間の関係を定義したオントロジととらえることができる。 筆者は、CIDOC-CRM と FRBRooをメタデ一夕の記述対象のクラス定義の基盤として利用できると考えている。一方、多様な種類のコンテンツを扱う上で、属性までを含めた詳細な定義は、クラス定義そのものやクラス間の関係の複雑度が増し、それがモデルを考える上での制約になる可能性があるため、ここではコンテンツの種類を表すクラス概念のみの利用を考えている。 ## 2. 3 メタデータの集約(aggregation)の視点 複数のアーカイブからメタデータを収集し、 アーカイブ横断的な検索・アクセス機能を提供することが広く行われている。多数の参加機関を持つ Europeana では、Europeana Data Model (EDM)を定義し、メタデータのためのデータモデルを決めている[1]。たとえば、 1 点の文化財に対し、複数の画像を提供することや、複数機関が同一文化財の画像を提供することがあるといった課題に対し、 EDMは、対象文化財とそのディジタルコンテ ンツの関係を明確に示している。 筆者の研究室では、マンガやアニメ、ゲー ムといったメディアにまたがるメタデータの研究を進めている。そこでは、タイトルやキヤラクタ等の抽象度の高い Work レベルの実体が重要な役割を持つという視点から、Work レベル実体の同定のためのメタデータ集約の研究を進めている。他方、Work 概念を明確には持たない震災アーカイブの研究では、何らかの視点からメタデータを集約することで、 その視点から見える抽象的な実体をとらえることが可能になると考えている。たとえば、 あるイベントを撮影した多数の写真から、1 枚毎の写真のメタデータをまとめることでそのイベントを表すことが可能である。こうした対象の抽象度を上げた提示が利活用性向上につながると考えている。 ## 3. ディジタルアーカイブに関する研究紹介 3. 1 東日本大震災ア一カイブのメタデータ を利用した研究 国立国会図書館東日本大震災アーカイブひなぎくは多数のディジタルアーカイブから、 メタデータを収集し、アーカイブ横断的なコンテンツアクセス機能を提供している。本研究では、ひなぎくが提供するメタデータを利用したメタデータ集約の研究を進めている。具体的には、久慈野田譜代震災アーカイブ、青森震災アーカイブ、みちのく震録伝他の义タデータを利用して研究を進めている。 ひなぎくは、一枚の写真や一件の文書毎にメタデータを付与しており、個々のコンテンツを検索できる反面、関連するコンテンツがバラバラに表示されるといった問題がある。 また、震災アーカイブのメタデータは、限られた時間とコストの下で行われ、コンテンツの分類や記述品質のコントロールが難しいといった問題を持つ。こうした課題解決のためにコンテンツ集約が重要であると考えている。 これまでに、青森震災アーカイブ、久慈野田譜代震災アーカイブ、みちのく震録伝を対象として、時空間情報と作成者情報を組み合わせることによって連続的に撮影された写真のグループを生成する手法を適用した結果、 図 1 メタデータ集約の概念 あるイベントでの一連の写真や、移動中の車で連続的に撮影した写真の集約ができた。その概念を図 1 に示す。この手法に関する定量的な評価は未実施であるが、作成した集約に含まれる写真を目視で確かめた範囲では、関連性の強いものが集められていることは確認できた。これと並行して、主題語のクラスタリングやオントロジを用いて意味的視点からの集約作成手法についても研究を進めている。震災アーカイブのコンテンツは震災後のものがほとんどである。復旧復興に伴ってできあがる新しい環境を継続的に記録する必要がある。一方、震災前の街並み等、地域の様々な記録を集めることも必要である。過去から現在、そして将来へのつながりを示すことが求められている。それには震災アーカイブのコンテンツだけではなく Wikipedia 等の Web 上の情報資源も利用することが重要であると考えている。 ## 3.2 ポップカルチャコンテンツのためのメタ データモデルに関する研究 マンガ、アニメ、ゲーム等のポップカルチヤコンテンツのアーカイブの重要性は認められているが、MLA ではこうしたコンテンツに特化したメタデータ作成は行われて来なかつた。加えて商業的価値を持つものが多いことから、MLA でのこれらのディジタルアーカイブは未開拓領域である。文化庁のメディア芸術データベースは、マンガ、アニメ、ゲームに関し個別資料を基盤として信頼できるデー タを提供しており、また、メタデータのためのデータモデルに関する検討も進められている。他方、一般利用者にとって有用な情報資源である Wikipedia やファン作成の Web ペー ジは、一般に、個別資料ではなく作品レベルでの記述であり、またマンガ、アニメ、ゲー ム等のメディアの違いを越えて記述されてい ることも多い。本研究は、両者を結ぶことで個別資料レベルと作品レベルの情報を結ぶ新しいサービスのための取り組みである。 ポップカルチャコンテンツでは、一つのタイトルやキャラクタ名で示される実体がマンガ、アニメ、ゲームといった異種のメディアでしばしば共通に現れる。そうした実体(ある種の Work 実体)の典拠データがあれば多数の個別資料を結ぶために利用でき、ネット上での識別子の基盤として利用できることは明らかである。しかし、現実には広く認められた典拠データは存在しない。そこで、本研究では、Wikipedia を「集合知によってつくられた(疑似的な)典拠データ」ととらえ、実効的な典拠データとしての利用を考えている。 メディアやジャンルにまたがって用いられるタイトル等、作品を表す概念的実体を表すために、我々は、Superwork と呼ばれる概念を利用することにしている[2]。図 2 に、個別 Itemから集合としての Work(個別作品とは粒度の異なる作品単位)、さらに Superwork へのつながりを示す。こうした関係に基づいて、 メタデータの記述対象となる実体を明確化し、 それらをつなぐことでよりよいアクセス環境ができると考えている。 図 2 Item, Work, Superwork 概念間の関係 ## 3.3 有形$\cdot$無形文化財のためのメタデータ モデルに関する研究 多くの文化財ディジタルアーカイブは、ミユージアムに収蔵可能な有形文化財のディジタル化コンテンツ、収蔵不可能な有形文化財や無形文化財のビデオ等の記録物のディジタル化コンテンツを収集蓄積したものである。 EDM のように元資料とディジタル化コンテンツを明確に区別するモデルはあるが、ディジタルアーカイブの中で元の文化財とディジタル化コンテンツが明確に分離されているとは必ずしも言えない。加えて、文化財の価値を伝える記述がコンテンツにうまく結び付けら 図 3 ディジタルアーカイブ化の基本モデル れているとは言えないといった問題がある。筆者は、従来のディジタルアーカイブのメタデータが、目録データの延長線上にあるためであることがこの問題の原因と考えている。 無形文化財(芸能、技芸等)のディジタルアーカイブ作りでは、技能を有する人がその技能を実演した場をビデオやセンサ等で記録し、それをディジタル化して蓄積提供している。すなわち、技能の実演により有形物化したものの映像等の記録のディジタルアーカイブ化であり、MLA が所蔵するのは実演の記録である。他方、遺跡や自然遺産などのMLAが 「所蔵できない」有形文化財のディジタル化はこれと同様な性質を持っている。そのため、 それに適したデータモデルを必要としている。 このように文化財のディジタル化と一概に言っても、ディジタルアーカイブ作りの基礎となるデータモデルは対象によって異なる。筆者が考える基本モデルを図 3 に示す。原則的には、基本モデルに含まれる対象実体とメタデータを 1 対 1 にとらえるべきである。これらの対象には MLAの所蔵物もあればそうでないものもあり、無形物から有形物まで多様なものがある。さらに文化的価値の観点から実体間を関連づけることも重要である。そうした関連付けには、文化財の図録や専門図書・・ MLA のページや Wikipedia 等の情報資源が重要な役割を持っている。一般利用者にとってのアーカイブの利活用性向上のためには、こ うした資源と MLAの所蔵物、ディジタルアー カイブのコンテンツに関するメタデータをうまくつなぐことが必要である。 ## 4. おわりに ディジタルアーカイブの発展にとって、一般利用者の視点からの利活用性の向上は非常に重要な課題である。Google 経由での検索を可能にすることで利活用性向上を図ることがなされているが、筆者は書誌情報中心の視点だけでは、提供者目線から離れることができないと感じている。本稿で示した研究は、メタデータ集約によってコンテンツのまとまりを作り、それらをWikipedia 等の利用者に親しみやすい資源につなぐことを目指したものである。また、その基盤となるモデルを明確に定義することを目指したものである。 ディジタルアーカイブはネットワーク情報環境の中の知識基盤である[3]。LOD や相互運用性、長期保存といった話題はディジタルア一カイブにとって重要な要素であるが、紙面の制約のためここでは触れることはできなかった。また、詳細な記述や事例の提示、参考文献が不十分である点はご容赦願いたい。 ## 謝辞 本研究は、筑波大学図書館情報メディア系講師永森光晴、同研究員三原鉄也博士に加え Senan Kiryakos、Chiranthi Wijesundara 他の大学院生、学群生諸氏との共同による。諸氏に感謝の意を表したい。一部、科学研究費補助金基盤研究(A)(課題番号 16H01754)による。 ## 参考文献 [1] Europeana Data Modelについては、 http://pro.europeana.eu/page/edm-document ation に関連文書がある。(閲覧 2017/5/15) [2] Sevenonious, E. "The Intellectual Fou ndation of Information Organization", MI T Press, 2000 (38 ページに superwork) [3] 杉本重雄,デジタルアーカイブとは何か角川インターネット講座 (3)デジタル時代の知識創造, pp. 219-254, 角川学芸出版, 2015 での二次利用も許可されています。
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